前回同じニュースを別のラジオ番組でどう報道しているかという視点にもとづき、複数の情報源の必要性を書いたが、今回は政党イメージ・政党支持・国民の動員という視点で二つの動画を掲載してみた。冒頭に転載したビデオニュースの動画は民進党代表選に出馬している枝野・前原の方向性の違いを今の日本社会の背景や今後の展望と併せて論じたものである。これを見て、私はその構成が非常に残念というか勿体ないと感じたのだが、それについて以下少し述べたい。
動画でコメントをしている神保・宮台の二人は、福祉のために財源が必要であるのは前提とした上で、消費増税の難しさについて述べている。要は、増税したとしてもその一部は国の借金返済に充てられるわけで、国民がその効果を実感するのが(少なくともしばらくは)難しく、ゆえに痛みばかりが感じられやすいため、施行にかなりの困難が伴うという話である。しかし結局は社会を持続可能なものにするためにはそのような変化が必要であると述べ、どこまで計算しているのかはわからないが、最後は辞任したスティーブ=バノンのインタビューに触れて終わっている。ここで残念なのは(視点としては大きく違うが)二つある。
1.なぜバノンの話を冒頭に持ってこなかったのか?
国の舵取りをする人物を選ぶ際に、目先の経済的な浮沈にばかり意識がいってそれ以外の部分を疎かにしていると、バノンのような「危ない」あるいは「おかしな」人物に政治を乗っ取られる危険性がある、と訴えたいようにも見えるが、それならそもそもバノンの話を番組の冒頭に持ってくるべきである。なぜなら、彼の行動のprincipleである白人至上主義、あるいはapocalyptic paranoiaには多くの日本人が(さすがに)違和感を持つはずで、ゆえに、彼を「イロモノ」・「際物」と見る人もそれなりにいるだろう。しかし彼は、そのような発言が民衆を釣るためのロジックで、民主党はそれを批判するという形でstuckさせていればそれでよく、真の狙いは経済戦争を経ての経済覇権であると言っているのは興味深い(ここでは、トランプがヒラリーに勝利した要因はrust beltからの支持であり、その際のアピールが民族的・経済的排外主義による生活向上だったことを想起したい)。
さて、自分の、あるいは自国の問題というものはバイアスがかかってなかなか気づきにくいものだが、他国を鏡として見れば様々な点に思い至る節があるはずだ(たとえば「日本は特殊な国だ」とさも誇るべきことのように言ったり、我が意を得たりと賛同する人もいるが、それはアメリカや中国、イギリスなどが同じことを言っても同様の反応ができるのか?)。特に二つ目の動画にあるように、40代以下の政党イメージ(革新か保守か)が大きく違うという現実、そして20代の安倍政権の支持率の高さ(右傾化というより就職率の高さが原因では?)を考えれば、バノンの話をてこにして、目先の経済の状況改善を理由に安倍政権を支持してよいのか、と問うべきではなかったか(周知のように、ナチスはその民族主義的主張のみではなく、実際に景気回復を成し遂げたが故に支持されたことも想起したい)。その上で、民進党はそれを踏まえてどういう政策を打ち出すのかを議論してくべきではなかったか。でなければ、「どっちにしろ同じ増税派でしょ?今消費増税のダメージからようやく回復してきて就職率も良くなってきた=社会が安定してきたのだから、わざわざ今方針を変える意味がわからない。また安倍政権に問題があるとは言っても、北朝鮮問題が継続しているわけで、リベラルな政権だと対応が腰砕けになるのではないかと不安。枝野を選べばまさにそうなるし、前原を選ぶのであればなぜわざわざ安倍から前原に乗り換えるのかわからん」と言われて終わりな気がするのだが。
要するに、届かせたい受け手をどこに設定していて、かつそれに届かせる努力(番組構成・論理構築)をきちんとしているようには見えないのである。
2.福祉に財源が必要だとして、その財源が消費税増税であるという議論そのものには何ら触れられていない
社会福祉(再配分)の重要性を語りながら、なぜ逆進性の高い消費税に着目するのかが不明。たとえばピケティの研究などにもとづいて、相続税の見直しであるとか、前に減税した法人税(企業は内部留保をため込んでいる)を元に戻すといった方策が議論にならないのはなぜなのか?大前提として、そもそもPBを軸にした財源の考え方は妥当なのか?といった議論もあるが、財源の必要性を認めたとして、その財源が消費税以外にほとんど表立って議論されないのが理解できない。消費税増税を否定するにしろ肯定するにしろ、増税したことによる+-双方の影響を過去のデータを元に語らないから、先送りするか痛みをもった変革を今するかという「清貧」にも似た「ムードの問題」にしかなっていないように思われる。
逆進性の高い税を採用した場合、若年層の支持は得にくくなるのが普通だ。なるほど民進党がこのまま投票のメインである高齢者層にのみフォーカスするのなら、それもいいだろう(ただ、その場合政権に返り咲けないのはおそろか、「二大政党制の一翼をになう最大野党(笑)」といった肩書が解党するまで定着することになろうが)。しかしここから支持層を広げていこうというのなら、消費増税の打ち出しは首が締まるだけで、何の益もないように思える。であれば、若年層への選挙参加の訴えとともに、福祉で大きな金を必要とする高齢者から税を取って財源に据える施策を訴える方が、新たな層の取り込みという点で重要なのではないか(とはいえ賢明な読者はお気づきのように、相続税は老人そのものだけでなくそれを引き継ぐ子≒中高年層にも関わってくるのであり、どういう変更をかけるのかは難しいところだが。また、このようなやり方は国民や世代間による分断を生むと危惧する方もいらっしゃるかもしれないが、そもそも北朝鮮情勢悪化の中でも国会は森友・加計問題というドメスティックな問題にほとんど終始している有様であって、それを見る限りとっくのとうに分断などされてしまっており、アメリカのサンダースやフランスのメランションのような人物が支持・台頭するまでになっていないだけのことだ。まあこれが解消するには、本土にミサイルが落ちるくらいしかないだろう。この見方が正しいなら、分断を危惧するのではなく、それを自明の前提とした上でbetterを目指す方策を考えるべきである)。
まあこの番組の趣旨は代表選に出る二人の子細な違いの検証ではないそうなので、どういう政策を打ち出せば支持層が拡大できるのかなど興味の埒外なのだろうが、何とも話が抽象論すぎて説得力を感じない内容となってしまっていると感じた。
というのが残念なところであった。ビデオニュースに関しては、木村草太が宮台の代わりをしていたぐらいに関わりが深いにもかかわらず、木村を鋭く批判している篠田英明が憲法の本を出した後、三週間程度で篠田をゲストとして呼んだところなどは(敵ー味方図式の問題ではなく、開かれた議論が必要であることを理解しているという意味で)さすがしっかりしていると思ったので、もう少し以上のような点を吟味をしてほしいと感じた次第である。
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