「働く人が少ない?じゃあ老人を死ぬまで働かせればいいじゃない!」という社会

2021-08-03 11:25:25 | 生活

少子高齢化によって生産年齢人口は減少する。また人口の減少は人口オーナスとも呼ばれるように、経済規模の縮小などを生み出す・・・

 

という状況については耳タコだと思われるが、こういう状況の解決策というのはもちろん色々考えられている。

1.AIなどの活用で生産性を向上させる

2.外国人労働者の呼び込み

などはその代表的なものだろう。

 

しかし実は、労働力を増やすもう一つの動きが存在する。それが「多くの老人が死ぬまで働く社会」へのシフトだ。この記事では日本人の1/3が貯金額ゼロであること、そして年金の受給年齢引き上げについて述べられている。これらの話と、私も属している就職氷河期世代の苦境などを思えば、まあここから20~30年の日本社会の趨勢は地球規模の天変地異でも起きない限りは、おおよそ予測のつくものとなる。

 

それは端的に言えば次のような状況だ。

(A) 金がない多くの老人は、死ぬまで働き続けることを余儀なくされる

(B) 企業は縮小する国内市場と売上に対応するためコストカットしなければならない

(C) 労働力の減少を補う必要がある

この悪魔的なボロメオの輪が完成した時、「金の必要な老人は賃金が安くても働き続けねばならない」・「企業は安価な老人を労働力として使役し続ける(その割合は増えていく)」という構造が完成するわけである(もちろんそうしない企業もそれなりの数は存在するだろうけど)。

 

こうして苦境を表面的にはしばらくの間乗り切ることになるだろうが、それによって1で述べたような生産性の向上を技術的に可能性にする動きはブレーキがかかる可能性が高く、また2の外国人労働者についてはそもそも日本の経済が相対的に衰退し、技能実習制度の悪評などもあって流入する人間の数が減り、結果として旧態依然とした仕組みを老人たちが回し続ける、というなかなかに世紀末な状況が生まれると思われる(中世のギルド=職人的社会経済ならば、高齢であることは必ずしもマイナスにならないと思うが、日々技術がアップデートされる中で、どれだけの高齢者がそれにキャッチアップできるだろうか)。

 

つまり、労働力の不足を老人で付け焼刃的に補ったとしても、働き続ける老人たちの労苦は言うまでもなく、それが社会経済の停滞を加速させる可能性も高いのである(もちろん、ご高齢でも極めて柔軟で優秀な方もいる。これはあくまで相対的な問題で、システム的に老人へ依存することが危険という話だ)。

 

ついでに言っておけば、この状況になると、たとえば外貨獲得の有効手段の一つとなりうるコンテンツ産業は、国内人口の縮小で国外市場で資金を調達することがより難しくなり、韓国のように海外市場や海外のコンテンツ産業を徹底的に分析して競合できるものを作れない多くの企業は死滅していくだろう(それより無料のYou Tubeやtiktok、あるいはちょっとお金出してネットフリックス見ようぜ!て話になるからで、オルタナティブはいくらでも存在する)。

 

もちろん豊かな才能を持った人間は今後も出てくるだろうが、日本国内に資金が枯渇してくれば、大金を動かせる海外企業によってヘッドハンティングされたりするケースも増えてきて、その力は外国企業を富ませることになったり、あるいはその技術が流出することにもつながるだろう(まあCG技術とかはもうすでに技術流出してしまってるけどね)。

 

というわけで、「貧すれば鈍する」とばかりに目玉産業も減っていき、イノベーションは(相対的にではあるが)大いに停滞し、さらにそれは変革の選択肢を減らすため、そこでシステム変更を忌避する日本社会は忍耐を選び、どんどん奈落の底へと落ちていくだろう、という話である(ちなみにこれは「滅びる」などという情緒的な話ではない。あえて言うなら、ゆるやかな衰弱と苦しみでどんどん身動きがとれなくなっていく社会だ)。

 

これで先の(A)~(C)に、「家族の承認が必要」という条件付き(=言い換えれば単身世帯なら自分だけで決めれる)の上で安楽死の解禁がなされれば、「黄金のカルテット」(もちろん皮肉だ)として完成形となるであろう(「孤独死を減らす」ことにも貢献するだろうからね)。

 

これは荒唐無稽な憶測に思われるかもしれないが、今でさえ自己責任論が喧しく唱えられる日本社会がさらに余裕を失っていけば、相模原障害者施設殺傷事件の如きものを(国際社会からなるだけ後ろ指を指されないやり方で)システム的に肯定するのではないかと私には思える、と述べつつこの稿を終えたい。


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2 コメント

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Unknown (木場)
2021-08-03 13:58:41
未来の世界もこれまで同様GDPは前年比プラスでなければならないという呪縛から逃れられていないのであれば、お説のとおり女性⇒外国人ときて次なる労働者市場のターゲットは高齢者となるだろうな。

一方で、ホワイトカラーの業務の中にはデヴィット・グレーバーのいう「ブルシットジョブ」も多く含まれている事実は看過できないと思う。
楽観的と言われるかもしれないが、資本主義という約400年間の「常識」がパラダイムシフトを起こす可能性は低くはないと見ており、もし定常型社会を良しとする社会が到来するならば、実は今までほどにも労働者は必要ないという結論が導かれる。
そしてそのような世界を肯定する立場から、そのようにシフトしていくために何が必要かということが今俺が着目しているテーマだな。
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正しい未来予測は可変性を担保しない (ムッカー)
2021-08-04 11:57:16
コメントどうもです。毒書会の時もこの話には大いに反論がありそうだったので、コメントがくるかもとは思っとりました(笑)。


コメントを見る限り、問題意識や未来予測はある程度似ている部分があると思う(もしそうでなければ、こちらから斎藤幸平の対談動画とかをわざわざシェアしたりはしないしね)。


例えば、末尾にある「そしてそのような世界を肯定する立場から、そのようにシフトしていくために何が必要かということ」などは、「社会は変化していくし、それに対応する施策やマインドセットが必要だ」と言い換えられると思うけど、この解釈が正しいなら全く同感。


じゃあその問題意識の上で俺がこの記事(と前の「空気に浮かれる日本・変えられない日本」)で言っているのは、「色々な事例を見るにつけ、日本は変われないか、変われるとしても大きく後れを取る」というもの。


その根拠として、記事とは別の根拠を挙げるなら、周回遅れの英語教育、乱立するコンビニと人手不足、リモートワークに対応できない日本の企業風土etcetc...という具合に、いくらでも提示することができる。


これのちょっと救いがたい部分は、それぞれのセクションや現場はそれなりの「善きもの」(そこは利権も込みで)を追求しているんだろうけど、それがシステムや社会状況との不整合によって混乱を生んだりして、結局元の鞘になってる、てところだね。


だから必ずしも、「頭がいい人間に挿げ替えればそれでOK」とはならない可能性が高い。なぜって、その「頭がいい人間」というものの構えが、セクショナリズム的な発想で部門の最善を目指すものであれば、それは社会全体にとっては害悪になるという話だからだ(ちなみに、これはラインで一度出た話だと記憶してるけど、リスクヘッジ厨の損得マシーンは、こういうメンタリティを免れうることはほぼない)。


とまあこれが俺の現状認識だね。だから、もう一回繰り返すと、「なるほど現状の問題点やそれに向けた未来の施策を考えることはいい。しかしそれで優れた展望を持てたとして、そこに向けて日本が変われるかというのは全く別問題だ」という話になるかな。


ちなみに、この後はちょっと違う話になるけど、木場氏と俺のスタンスの違いは、日本に対するスタンスの違いかもしれないね。


毒書会の時にも木場氏は日本の問題点をよく指摘しているから、それをよくよく分析してるんだとは思う。その上で、木場氏の端々から感じられるのは、「それでも日本を愛しているから何とかしたい・何とかならないのか」というモチベーションではないかと思う)。


では俺はどうかと言うと、基本的に「愚か者死すべし」(もちろん自分も含めて)というスタンスなので、そういうモチベーションは全くない。


ただしこれは「日本が嫌い」という雑駁な話ではなく、日本食や日本文化を愛しているし(そうじゃなければさすがに日本全国は回らない)、身近な人々や郷土への愛着もあるけど、それは「日本社会に可能性があると信じる」とか、「そのダメな日本社会を何とかしたいと考える」のとは別の話だよね、というのが俺のスタンス。


だから、未来ある若者と話すのならば、「いつでも日本から脱出できるようにはしといた方がいいよ」って平気で言うしね(少なくとも、それで外の世界にユートピアなどないと十分理解した上で、日本を何とかしたいと再帰的に戻ってくるのなら、その姿勢は賞賛したいが)。まあこれはこれで極めて「リスクヘッジ厨」的な言い回しなんだけど、同じリスクヘッジでも、泥船を唯一無二の場所だと考えてサル山の大将を必死に目指すよりは、世界規模でリスクマネージメントした方がマシでしょ、て話やね。


とまあ以上述べたようなスタンスの違いが、未来予測はある程度似通っていても、俺と木場氏に差異が生まれるポイントじゃないかな、と述べつつ返信とさせていただきます。
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