「検察庁法改正案論争」という現象の分析

2020-05-15 11:27:55 | 感想など
最近は検察庁法改正に反対するとか、いやこれには正当性があるとかで話題・論争になっているようだが、両者の意見を煎じ詰めれば以下のように表すことができるだろう。
 
 
<改正賛成側>
検察庁(の暴走)を抑止する必要がある(内閣にはこの法改正をする権限がある)
 
<改正反対側>
政治介入を抑止する必要がある(検察庁/司法の独立性の維持)
 
 
このように図式化すると、対立点とそれが論争になるのもわかりやすい。要するに、「内閣と検察庁とどっちを(より)信用するのか」という話なわけだ。
 
 
改正反対側は、そもそも今これだけ内閣(行政府)のミスが多発している状況であるから、言いやすいし目にもつくということで行政府が司法の人事に介入するような法律は三権分立を脅かしてけしからん!とかまあそういうロジックだろう(ちなみに検察は行政にも深く関わる要素を持っている)。まあ話の流れとしてはわかりやすいし、理解はできる。
 
 
一方で改正賛成側はというと、「行政府の権限として認められている」・「行政府は民意が反映されるが、検察庁には民意が反映されない(最高裁判所長官は国民審査があるのでこの限りではない)」といったことを指摘している。確かに、そういった制度的な面もあるのだが、そもそも論として「検察庁の暴走」という点も重要である(あまりこれを強調した意見を聞かないように思うのは気のせいか?)。私は代用監獄制度を冤罪の温床としてしばしば批判してきたが、これには検察庁も深く関わっている。また捜査の独立的な権限については、小沢一郎の陸山会事件や最近のカルロス=ゴーンの事件など、著名なものでも検察庁の強引な捜査が横暴・暴走として批判されたケースが少なからずあるわけで、様々な問題を引き起こしているのも事実である(この点は、ライブドアと東芝が同じようなことをやったのにライブドアの堀江貴文は初犯で実刑、東芝はそういったお咎めなしという、司法の公平性が担保されていない問題もある)。つまり、こちら側の主張にもきちんとした根拠があると言えるだろう。
 
 
もちろん、平沼棋一郎と検察庁の成り立ち(が知られていない)、そもそも日本人の法意識の特性(「容疑者=犯人」図式で考えがちで推定無罪的思考が希薄→捕まった後のこと=司法制度の妥当性など気にしてない??)、あるいは「由らしむべし知らしむべからず」的な統治の仕方とその弊害など、今回の現象の背景としては様々な分析がなしうるわけだが、それでもcontroversialな問題とは言えるように思う。
 
 
これを踏まえると疑問になってくるのが、「なぜコロナ禍のこのタイミングで」・「強行採決という方法までとって」、この改正案を通そうとするのか?ということになる。改正反対が絶対的に正しいわけでもないし、改正賛成が絶対的に正しいわけでもない。とするならば、「様々論点があるしそれなりの妥当性もあるから議論・審議が必要である」という結論になるのが当然であろう(まあそもそもこの改正案自体は前々から存在していたらしいのだが)。賛成・反対とは関係なく、この点が最も解せないし、はっきり言えば批判すべき点であると考える。
 

さらに言えば、先の「行政と司法のどっちを信用するのか?」という図式で言えば、行政府が強い批判にさらされているこのタイミングで、「悪しき行政府が司法に介入しようとしている」という見方になりやすい&それを強化しやすい改正案を採決しようとするのは完全な悪手と見える。というのも、賛成・反対関係なく、「そんなことも見当をつけられずに愚かな動きをする政権=やはり終わっている」という見方が醸成されるし、さらに言えば、「いや、さすがにそこまで頭が悪くはないだろうから、そういったビハインドを背負ってもなお改正案を通したい理由があるに違いない」という陰謀論めいた発想から、例えば「6月にも広島地検が前法相夫妻を立件しようとしていることと関係があるのか?」といった「痛くもない腹」まで探られることになる。つまり、法案の詳細な中身以上に、時勢と手法が不信感を持たれる材料になっているのではないかと考えられる。
 
 
というわけで今回、検察庁法改正にまつわる論争とその背景について簡単に書いてみた。法改正の具体的な中身が論じられるのはわかるが、それだとこういった論争が噴出した背景は説明できないし、まして「反政府」「政権ベッタリ」みたいなレッテル貼りは不毛の極みだと思ったので今回やや引いた視点から現象分析を行った次第である。

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