一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『のんちゃんのり弁』 ……本気で生きることを選んだ女性の物語……

2009年11月22日 | 映画
雨の日曜日。
今日は、佐賀市内にあるシアター・シエマに、映画『のんちゃんのり弁』を見に行った。
映画を見る前に、佐賀県立図書館に寄った。
図書館で調べものをした後、映画の上映開始時間まで周辺を散策。
県庁前の桜並木の所まで行ってみる。
最近、水彩画家の或る女性から、
「桜の紅葉を見たことがありますか?」
と訊かれた。
〈桜の紅葉……あまり意識して見たことないな~〉
と思いながら、
「たぶん見たことあるとは思うけど……」
と自信なげに答える。
そう改まって訊かれると返答に困るほど、桜の紅葉を意識して見たことはなかったのだ。
公孫樹や楓や櫨などの紅葉は強く印象に残っているが、桜となると、いまいち印象が薄い。
その女性によると、「桜の紅葉ほど色彩豊かで美しいものはない」とのこと。
彼女は、この時期、好んで紅葉した桜の葉を描くのだとか。
「ピンクの葉もあるんですよ」とも。
お堀端の桜並木の下を歩く。


黄葉とも紅葉とも呼べないような不思議な色。
こうして見ると、確かに美しい。


葉を近くからよく観察すると、緑、黄、橙、赤など、いろんな色が混ざっている。
何色と特定できないほどだ。


こうして葉の裏側から透かして見ると、ほんのりピンクがかった色に……


桜の紅葉をこれほど意識してこれまで見たことがなかっただけに、この色彩には新鮮な驚きがあった。
「美とは、発見するものです」
いつか聞いた彼女の言葉が蘇ってきた。


市村記念体育館横の木々も、


県立図書館の庭の木々も、見事に色づいていた。


私がいつも腰掛けるベンチにも、落ち葉が舞い降りていた。


映画の上映時間が近づいてきたので、映画館に向かう。
松原川沿いも美しく紅葉していた。
シアター・シエマは、ここからすぐの場所にある。


さて、映画『のんちゃんのり弁』の話に移ろう。
この作品をなぜ見に来たかというと、緒方明監督作品だからだ。

【緒方明監督】
1959年、佐賀県に生まれる。
その後、長崎市で過ごす。
福岡大学在学中に石井聰亙監督と出会い、石井作品の助監督を務めるようになる。
1980年に監督した8ミリ自主制作映画『東京白菜関K者』で、1981年の第4回ぴあフィルムフェスティバルで入選。
その後は高橋伴明、大森一樹の助監督を経て、フリーのテレビディレクターとしてCM、ミュージック・ビデオ、ドラマ、ドキュメンタリーなどを多数演出。
2000年に『独立少年合唱団』で劇場映画デビューし、第50回ベルリン国際映画祭アルフレート・バウアー賞[新人監督賞]受賞。
2004年には、『いつか読書する日』でモントリオール世界映画祭審査員特別賞受賞。

そう、緒方明監督は、佐賀県出身。
ぜひとも応援したくなるではないか。
それだけではない、『独立少年合唱団』も『いつか読書する日』も、とても素晴らしい作品だった。
『いつか読書する日』(←クリック)に関しては、レビューを書いたノートが残っていたので今回新たにブログにアップした。2005年7月7日に福岡で、2005年11月04日に佐賀で、計2回見ている。佐賀での上映の時には、監督の舞台挨拶と質疑応答があった。)

『のんちゃんのり弁』はどんな映画かというと――
永井小巻(小西真奈美)は、下町育ちの31歳。
真っ直ぐで強がりで、思い切りのよさは天下一品。
ある日、ダメ亭主・範朋(岡田義徳)に愛想を尽かし、娘・のんちゃん(佐々木りお)を連れて、実家の京島に出戻った。
心機一転、仕事の面接を受けまくるが、キャリアも資格もない小巻に社会は厳しかった。
かつての同級生であり、のんちゃんの幼稚園の先生でもある、玉川麗華(山口紗弥加)の紹介で時給2000円で水商売のバイトをはじめるも、早々にセクハラにあい、喧嘩の末に辞めてしまう。
なけなしの貯金も底をついてしまい、生活は苦しくなるばかり。
さらには範朋が現れて、離婚には絶対に応じないと主張。
小巻やのんちゃんの周りをうろつくようになる。
一方で小巻は、初恋の同級生・川口建夫(村上淳)と16年ぶりに再会し、互いに惹かれあっていく。
なにをやっても駄目な小巻の唯一の才能……それはお弁当作りだった。


娘のために作ったのり弁が評判をよび、


そして遂には、安くて美味しいお弁当屋を開くことを決意する。
なんとか自分で道を切り開きたい小巻は、以前立ち寄り、サバの味噌煮の味に大感激した小料理屋「ととや」の主人・戸谷(岸部一徳)に、自分を弟子にして欲しいと懇願する。
そして、食品衛生責任者免許も取得し、目標に向かって奮闘するのだった……。
(ストーリーは公式HPやパンフレットから引用し構成)

主演・小西真奈美。
彼女が主演する映画ということで見に行った部分も大きい。
2002年にスクリーン・デビューした『阿弥陀堂だより』(小泉堯史監督)で彼女を見たときの驚きは今も忘れられない。
演技力もさることながら、その透明感あふれる美しさに圧倒された。
この作品において高い評価を受け、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など多数の新人俳優賞を受賞。
その後、TVドラマ、映画、舞台にと大活躍。
この作品では、下町育ちの向こう見ずな子持ち女というはっちゃけキャラを見事に演じ、楽しませてくれた。


緒方明監督の前作『いつか読書する日』にも出ていた岸部一徳が、本作でもまたまた素晴らしい演技をしている。
私の大好きな男優なのだが、私が見たいと思う映画には必ずと言っていいほど出演しているから不思議。
これほど多くの機会に目にする俳優なのに、まったく飽きがこない。
一作一作、それぞれの役に見事になりきって、まったく違和感なく演じきれるとは、本当に驚嘆すべきことだ。


ダメ亭主を演じている岡田義徳も存在感のある素晴らしい演技をしていた。
昔はTVの学園ドラマなどでモテ役などを演じていたが、近年はシリアスからコメディまで様々なキャラクターを演じ分ける実力派俳優に成長し、活躍している。
彼のこの作品における役割は、とても大きいと思った。


その他、倍賞美津子や山口紗弥加の演技も光っていた。


『かもめ食堂』『めがね』などを担当したフードスタイリストの飯島奈美が本作の料理を手掛けているので、見終わったら無性に鯖のみそ煮や、


のり弁を食べたくなった。


作品全体の印象としては、原作がコミック(入江喜和・作『のんちゃんのり弁』)であったためか、過剰な演出が少し目についたこと。
演技にしても演出にしても、これほどリキを入れないでも良かったのでは……と思われる部分が多々あった。(特にアクションシーン)
下町の風景をしっかりと描き、ハートフルムービーとして完成度も高いので、その点だけが(ややバランスを崩していたので)惜しまれる。
とは言っても、見る価値は十分にある。
っていうか、ぜひ見てほしい作品。(特に女性に……)
今年の日本国内の映画賞レースの皮切りとなる「報知映画賞」の候補が発表され、『のんちゃんのり弁』が、
★作品賞
★主演女優賞(小西真奈美)
★助演男優賞(岸部一徳)
にノミネートされた。
受賞するかどうかはともかくとして、面白くて楽しい作品なので、佐賀県の映画ファンはぜひ映画館へ足を運んでほしい。
佐賀ではシアター・シエマで11月21日(土)から12月11日(金)まで公開中。
福岡や長崎などでは残念ながらもう公開は終了している。
DVDが出たら、ぜひぜひ……

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