※注意……かなり内容に触れています。
映画を見に行くときに、
配偶者や子供に(最近は孫からも)、
「何を見るの?」
と訊かれることがある。
このとき、言うのがちょっと恥ずかしくなる映画のタイトルというのがある。
昔(2009年)、映画『おっぱいバレー』を見に行ったときの悲喜劇を、
このブログに次のように綴った。
「ちょっと出掛けてくる」と私。
「あら、どこへ?」と配偶者。
「映画を見に行ってくる」
「ふ~ん」
会話はここで終わるかと思いきや、二女が口をはさむ。
「お父さん、何を見るの?」
と、訊かなくてもいいことを訊いてくる。
配偶者も私を見ている。
「『おっぱいバレー』を見ようかと……」
「おっぱいバレー?」
と配偶者と二女が口を揃える。
「なんか熱血教師と生徒の物語で、すごく感動する映画みたいなんだ」
と、しなくてもいい言い訳をする。
「おっぱいバレーが?」
と配偶者。
そこへ長女が連れてきた孫がハイハイをしながら近づいてきた。
配偶者は、孫を抱き上げながら、
「おじいちゃんは、おっぱいを見に行くんですって~ おかちいでちゅね~」
とのたまう。
「おいおい、孫に変なこと言うなよ」
私は、配偶者に抗議しながら、身支度もそこそこに急いで家を出る。
車で約30分で映画館に着く。
現在、佐賀県内には、良質なミニシアター系の作品を上映しているシアター・シエマ以外は、すべてシネコンになってしまった。
昔は、「大人1枚」の一声で買えたチケットも、シネコンでは質疑応答が繰り返されるので面倒だ。
チケット売場に並び、順番を待つ。
待つ間、聞き耳を立てていたが、『おっぱいバレー』のチケットを買った人はいなかったようだ。
いよいよ私の番になり、窓口に進む。
若いお嬢さんの笑顔が私を迎えてくれる。
「『おっぱいバレー』」
ときっぱり一言で片づける。
お嬢さんは、笑顔で、
「はい『おっぱいバレー』ですね。『おっぱいバレー』は次の回の上映時間のものでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「『おっぱいバレー』は、チケットは1枚でよろしいでしょうか?」
「はい、1枚でお願いします」
「『おっぱいバレー』の席はこのようになっていますが、どこをご希望ですか?」
お嬢さんは、座席表を見せながら質問してくる。
「真ん中辺りでお願いします」
「エッチ……」
(なんだよ~、いきなりエッチって……)
「H列の9番でよろしいでしょうか?」
「あっ、はい、それでお願いします」
料金を払い、ロビーに戻る。
上映15分前になると、館内放送で入場案内がある。
「ただ今より『おっぱいバレー』の入場を開始します。『おっぱいバレー』のチケットをお持ちの方は、入口の方までお越し下さい」
ロビーにいる人たちから注目されているようで、なかなか動き出せない。
一呼吸おく為にトイレに行き、それからさりげなく入口に向かう。
チケットを受け取ったお嬢さんは笑顔で、
「『おっぱいバレー』はスクリーン4になります。左に曲がってスグです」
こうして、私はやっと、映画館の座席に座れたのである。(全文はコチラから)
今では、ほとんどのシネコンが自動券売機になり、
チケット売場での会話はなくなったが、
小さなミニシアター系の映画館では、まだ自動券売機がないところもあり、
映画名を口にしなければならない場合もある。
『おっぱいバレー』の件から13年が経ち、
長女が連れてきたハイハイをしていた孫は、もう中学生になった。
その後、二女も結婚し、3人の子供を産み、長女の子供2人を合わせて、私には、
計5名(中学1人、小学生3人、もうすぐ1歳になる赤ちゃん)の孫がいる。
孫たちがいるときに映画に行こうとすると、
(もうすぐ1歳の赤ちゃんは別にして)この孫たちも必ず、
「ジイジ、何を見に行くの?」
と訊いてくる。
『ドライブ・マイ・カー』とか『偶然と想像』は言いやすいが、
『おっぱいバレー』とか『変態仮面』とかは言うのが恥ずかしい。
そういうときは、
「お前たちが解らない難しい映画を見に行ってくる」
とかなんとか言って誤魔化すのだが、
考えてみると、言うのが恥ずかしい映画のタイトルって、けっこうある。
『ウッディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』(1981年日本公開)
『人のセックスを笑うな』(2008年)
『風俗行ったら人生変わったwww』(2013年)
なんていうのはもちろん、
『僕は妹に恋をする』(2007年)
『君の膵臓をたべたい』(2017年)
『覚悟はいいかそこの女子』(2018年)
なんていうのも誤解を招きそうだし、
クレヨンしんちゃんシリーズにも、
『クレヨンしんちゃん雲黒斎(ウンコクサイ)の野望』(1995年)
『クレヨンしんちゃん、金矛(キンポコ)の勇者』(2008年)
なんてのもあった。(笑)
本日、紹介する映画も、人に言うのがちょっと恥ずかしいタイトルで、
『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日公開)。
変態の極みのようなタイトルであるし、(コラコラ)
私も普通なら見に行かない種類の映画なのであるが、(ほんまかいな?)
困ったことに、私が最近贔屓にしている女優が出演しているので、
見に行かないわけにはいかなかったのである。
その女優とは、河合優実。
『サマーフィルムにのって』(2021年8月6日公開)
で、河合優実に出逢い、
『由宇子の天秤』(2021年9月17日公開)
で、河合優実の演技に驚嘆し、
『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開)
で、河合優実の美しさに痺れ、
『愛なのに』(2022年2月25日公開)
で、河合優実の魅力に完全に取り憑かれてしまった。
なので、本作『女子高生に殺されたい』は、
「河合優実が出演している」ということで鑑賞を決めた作品であった。
原作は古屋兎丸(「ライチ☆光クラブ」「帝一の國」など)のによる同名コミックで、
『アルプススタンドのはしの方』や、先月見たばかりの傑作『愛なのに』(河合優実の出演作)の城定秀夫監督が、本作でも監督(&脚本)を務めているのも心強かった。
で、配偶者にも子供たちにも孫たちにも誰にも本作を見に行くことを告げずに、
コソッと映画館に行ったのだった。(笑)
女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人(田中圭)。
人気教師として日常を送りながらも“理想的な殺され方”の実現のため、
9年間も密かに綿密に、“これしかない完璧な計画”を練ってきた。
彼の理想の条件は二つ。
「完全犯罪であること」
「全力で殺されること」
条件を満たす唯一無二の女子高生を標的に、
練り上げたシナリオに沿って、
真帆(南沙良)、
あおい(河合優実)、
京子(莉子)、
愛佳(茅島みずき)
というタイプの異なる4人にアプローチしていく……
女子高生に殺されたい……という突拍子もない設定であったし、
主演が田中圭ということもあって、(コラコラ)
正直、内容にはあまり期待していなかった。
〈河合優実をスクリーンで見ることができればいいや……〉
くらいの気持ちで鑑賞していたのだが、
これがビックリするくらい面白くて、感心してしまった。
ちょっとネタバレすると、
〈女子高生に殺されたい……〉
という原因は、オートアサシノフィリアというもので、
【オートアサシノフィリア(Aoutoassassinophilia)】
自分が殺される状況に性的興奮を覚える性的嗜好の事。自殺願望や自傷行為とは異なるとされ、「自分が殺される事に対する欲求、妄想」がその対象。
そういう思いに至る過程もきちんと描かれており、説得力もあり、
緻密に練られた完全犯罪計画もよどみがなく、
サスペンス(アンモラル・スリラー)として見事に成立していた。
人に言えない性癖は誰しもあると思うんですよ。それがたまたま女子高生に殺されることだった。共感は難しくても、自分がこういう願望を持っていたらどうするかなと考えました。そして春人を、ただの変態ではない、そんなに悪人じゃないようにしたかった。自分の願望を、人に迷惑をかけずにかなえようと、一生懸命考える。女子高生を変な目で見てるんだけど、性的な、いやらしい目ではない。田中さんの清潔感あるキャラクターとあいまって、うまくいったんじゃないかな。(「ひとシネマ」インタビューより)
とは、城定秀夫監督の弁。
個性的過ぎない田中圭という俳優の“普通”さが、
特異な設定のストーリーを、そうと感じさせない“ありえる”物語にしているし、
結果的に、4人の女子高生の個性を際立たせることにもなっており、
刺激的な映像と相俟って、すっかり作品世界に魅了されてしまった。
〈さすが城定秀夫監督作品!〉
と思ったことであった。
佐々木真帆を演じた南沙良。
TVドラマ「ドラゴン桜」第2シリーズ(2021年4月25日~6月27日、TBS)で、
早瀬菜緒を好演していたのが強く印象に残っている。
本作『女子高生に殺されたい』では、
どこかカゲのある正統派美少女を演じており、
幼少時に両親から虐待を受けたことで、
「カオリ」という別人格が姿を見せるようになる女子高生の役であったのだが、
難役であったにもかかわらず、それぞれの人格を見事に演じ分けており、感心させられた。
本作『女子高生に殺されたい』での実質的なヒロインは彼女(南沙良)であった。
小杉あおいを演じた河合優実。
真帆の親友で、
アスペルガー症候群(「自閉症スペクトラム」に分類される「臨機応変に人と接することが苦手で、自分の関心・やり方・ペースの維持を最優先させたいという志向が強いこと」を特徴とする発達障害)を患っており、地震などへの予知能力もある、保健室通いの美少女を演じている。
真帆とは気が合い、同性愛に近い感情も感じられる。
こちらも佐々木真帆(南沙良)と同様、難役であったが、
さすがの演技で魅せられた。
『サマーフィルムにのって』
『由宇子の天秤』
『ちょっと思い出しただけ』
『愛なのに』
『女子高生に殺されたい』
と、この半年ばかりの間に、河合優実の出演作を5本見たが、
それぞれがまったく違った役柄であり、
それぞれ別人かと思うほどの演じ分けをしており、
河合優実の凄みを感じさせられた。
極私的には、河合優実をスクリーンで見ることができただけで幸せであったのだが、
今年はまだ、
『冬薔薇(ふゆそうび)』(2022年6月3日公開予定、阪本順治監督)
『PLAN75』(2022年6月17日公開予定、早川千絵監督)
『ある男』(2022年秋公開予定、石川慶監督)
の公開も控えているので、楽しみでならない。
君島京子を演じた莉子。
2002年12月4日生まれ、神奈川県出身。
2018年よりPopteen専属モデルとなり、
同時期にTikTokを始めファッションアイコンとして同世代からの支持を得る。
現在SNS総フォロワー数は240万人を超える人気を誇る。
彼女(莉子)のことはあまり知らなかったのだが、
私の好きな女優・清原果耶が主演のTVドラマ「ファイトソング」((2022年1月11日~3月15日、TBS)で、木皿花枝(清原果耶)と同じ児童養護施設で暮らす高校生・松田穂香を演じていたが印象に残っている。
本作『女子高生に殺されたい』での君島京子の役は、
原作にはない、演劇部の快活なモテキャラなのだが、
莉子が演じることで、佐々木真帆(南沙良)や小杉あおい(河合優実)と同等の、
リアリティのある魅力的な女子高生になっていて、とても良かった。
沢木愛佳を演じた茅島みずき。
映画『青くて痛くて脆い』(2020年8月28日公開)のレビューで、
楓のバイト先の後輩で、「モアイ」に参加する女子大生・川原理沙を演じた茅島みずき。
2017年に芸能プロダクション「アミューズ」が開催したオーディション、
「アミューズ 全県全員面接オーディション2017 〜九州・沖縄編〜」で、
3224名の中からグランプリを獲得し、芸能界入りした逸材。
2019年3月30日に開催された「第28回 東京ガールズコレクション 2019 SPRING / SUMMER」でモデルデビュー。
2019年4月、ブレイク女優の登竜門としても注目される「ポカリスエット」のCMに起用される。
2004年7月6日生まれなので、現在16歳(2020年9月現在)
撮影時はまだ15歳くらいだったと思うのだが、
その年齢で女子大生を演じるということにも驚かされるが、
その大人びた風貌に魅了された。
本作が映画デビュー作ということで、
演技の方はまだこれからといった感じであったが、
存在感と目力が抜群で、森七菜に負けないほどの将来性が感じられた。
長崎県出身というのも(同じ長崎県出身の私としては)嬉しいし、
同じ長崎県出身の女優、原田知世、仲里依紗、川口春奈などと同様、
これからも応援していきたい。
と書いたのだが、
私の好きな女優・清原果耶が主演の朝ドラ「おかえりモネ」にも出演していたし、
順調に女優としての階段を上っている感じがして嬉しい。
本作『女子高生に殺されたい』では、
柔道に打ち込んでいる美少女という役柄で、
背も高く(身長170cm)、カッコイイ。
『サバカン SABAKAN』(2022年8月19日公開予定)という、
長崎県を舞台にした映画も控えているようなので、楽しみ。
深川五月を演じた大島優子。
臨床心理士で、春人の元恋人なのだが、
春人と別れてから数年後に、
彼が勤務する二鷹高校のスクールカウンセラーとして赴任するという役柄で、
本作で唯一、冷静な立場で俯瞰的に物事を見て判断を下すことのできる女性を演じている。
彼女がいることで、アンモラル・ミステリーが単なる変態譚に陥るのを防いでいるし、
禁断の狂気の物語を、常識と正気のこちら側に引き寄せることに成功している。
深川五月=大島優子が果たした役割は限りなく大きい。
河合優実の出演作でなかったならば、おそらく見なかった作品であるが、
鑑賞後は、
〈見て良かった!〉
と思った。
田中圭が、本作の舞台挨拶で、この作品の出来栄えを訊かれ、
自信作どころじゃないですよ。何を見せられてるんだろうと思う方もいるかもしれないが、日本映画として傑作になる。「最近面白い映画あった?」と聞かれたら、どう思っているか関係なく、この映画を言えばセンス良いなと言われます。
と答えていたが、
これほど映画として成立しにくい設定の物語を、面白い作品として提供できているのは、
私も「傑作」を冠してもいいのではないかと考えた。
サブタイトルを、本当は、
……河合優実、南沙良、莉子、茅島みずき、大島優子が素晴らしい城定秀夫監督の傑作……
としたかったが、字数の関係で、
……河合優実の凄みを感じた城定秀夫監督の傑作……
とした。
今後も、河合優実の出演作と、城定秀夫監督作品からは目が離せない!
※河合優実関連・ブログ「一日の王」掲載記事
映画『サマーフィルムにのって』……本作の欠点を葬り去るほどの伊藤万理華の魅力……
映画『由宇子の天秤』 ……代表作を次々と更新していく瀧内公美の新たな代表作……
第8回「一日の王」映画賞・日本映画(2021年公開作品)ベストテン(新人賞選出)
映画『ちょっと思い出しただけ』 ……路地裏に咲く名も知らぬ花のような恋……
映画『愛なのに』 ……河合優実、さとうほなみ、向里祐香が魅力的な傑作ラブコメ……
映画『女子高生に殺されたい』 ……河合優実の凄みを感じた城定秀夫監督の傑作……
映画『PLAN 75』 ……河合優実を見に行ったら、とんでもない傑作に出逢った……
NHK土曜ドラマ「17才の帝国」 ……河合優実、山田杏奈と、ロケ地の佐世保……
最近、驚いたこと⑭ ……山下達郎「LOVE'S ON FIRE」のMVに河合優実が……
映画『冬薔薇』 ……河合優実、和田光沙、余貴美子に逢いたくて……
最近、驚いたこと⑮ ……私の好きな女優・河合優実の映画初主演作が公開決定……
映画『百花』……菅田将暉と原田美枝子の演技が素晴らしい川村元気監督の秀作……
映画『線は、僕を描く』 ……清原果耶、河合優実、富田靖子に逢いたくて……
映画『ある男』……脚本(向井康介)と映像(近藤龍人)が秀逸な石川慶監督の傑作……
人生の一日(2023年1月13日)「批判する頭のよさより……」
第9回「一日の王」映画賞・日本映画(2022年公開作品)ベストテン(最優秀助演女優賞)
映画『少女は卒業しない』 ……河合優実の初主演作にして青春恋愛映画の傑作……
映画『ひとりぼっちじゃない』 ……河合優実の出演作だから見たのであるが……
最近、驚いたこと⑳ ……河合優実を知らな過ぎるにもほどがある!……
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