※ネタバレしています。
本作『サマーフィルムにのって』は、
時代劇オタクの女子高生が映画制作に挑む姿を、
元「乃木坂46」の伊藤万理華を主演に据え、
SF要素を織り交ぜながら描いた青春映画とのことで、
前評判は佐賀まで届いていた。
「青春」「夏」「映画制作」と、
私が見たい要素満載なので、
〈公開されたら絶対に見たい!〉
と思っていた。
ところが、
(2021年)8月6日に公開された作品であるが、
当初、佐賀での公開予定はなく、ガッカリし、ひどく落ち込んだ。
コロナ禍で、(他人はどうであろうと)今年は県外には出ないと決めていたので、
一旦は諦めたのだが、
しばらくして、佐賀でも、2ヶ月遅れで、
シアターシエマ(佐賀市)で10月1日から、
シアターエンヤ(唐津市)で10月8日から、
上映されることが決まり、
小躍りして喜んだ。
いずれも、1日1回の上映で、
なかなか私自身のスケジュールの都合がつかず、ヤキモキしていていたのだが、
10月8日にどうにか調整がつき、やっと見ることができたのだった。
勝新(勝新太郎)を愛する高校3年生ハダシ(伊藤万理華)は、
時代劇映画が大好きだが、
所属する映画部で作るのはキラキラとした青春映画ばかり。
自分の撮りたい時代劇がなかなか作れず、
くすぶっていたハダシの前に、
武士役にぴったりの理想的な男子、凛太郎(金子大地)が現れる。
彼との出会いに運命を感じたハダシは、
幼なじみのビート板(河合優実)と、
ブルーハワイ(祷キララ)を巻き込み、
個性豊かなスタッフを集めて映画制作に乗り出す。
「打倒ラブコメ!」を掲げ、
文化祭でのゲリラ上映を目指して順調に制作を進めていくハダシたち。
青春のすべてをかけた映画作りの中で、
ハダシは凛太郎へほのかな恋心を抱き始めるが、
実は、凛太郎の正体は、
未来からやってきたタイムトラベラーだった……
映画の序盤は快調で、
〈おっ、これは傑作かも?〉
と思いながら見ていた。
だが、中盤になると、序盤の勢いがなくなり、
ツッコミどころ満載のグダグダな展開となり、ちょっと眠くなった。
そして、終盤、
思いがけない(私にとってはそうでもなかったのだが)展開となり、
多くの人が絶賛するラストとなる。
ここに至り、私は「う~ん」と唸ってしまった。
感心の「う~ん」ではなく、
困ったときの「う~ん」であった。
映画を見てからレビューを書くまでに10日間も間が空いたのは、
その「う~ん」の所為だった。
映画『サマーフィルムにのって』は、
欠点というか、ツッコミどころが多すぎる作品であった。
まず、SF的な設定がユルすぎて、
〈それはないだろう!〉
と思わせるシーンが満載なのである。
凛太郎(金子大地)は未来からやってきたタイムトラベラーなのであるが、
未来ではすでに映画はなくなっていて、(?)
5秒の動画が主流で、1分ではもう長編なのだという。
この辺りは、
15秒から1分ほどの短い動画で表現するTikTokなどが主流となっている現代から、
さらに進化(?)した未来を思わせるが、
映画のない未来の世界で、はだしは(映画監督として)巨匠と呼ばれており、(?)
映画のない未来の世界で、凛太郎ははだしの作品を(デビュー作以外は)すべて見ているという。(?)
資料としてでも、はだしの作品を見ることができたなら、
まだ映画はなくなっていないし、映画のない世界ではない。
この辺りの言葉の使い方のいい加減さに呆れてしまう。
使われているタイムマシンがどういうものかも分らないし、
どうやって現代へ来て、どうやって未来へ帰っていくのかも分らない。
巨匠として尊敬しているはだしと会えたのに、
凛太郎のはだしに対する態度は大柄だし、リスペクトのかけらもない。
疑問点を挙げたらキリがないほど、
なにもかもが「?」ばかりなのである。
SF的設定以外にも「?」は多くて、
主人公のハダシ(伊藤万理華)は、
勝新(勝新太郎)を愛する高校生であるのだが、
〈勝新のファンというだけで、時代劇のファンではないのではないか……〉
という疑問というか疑念が、あらゆるシーンで生じてしまう。
ちなみに、私が時代劇を好きになるキッカケになった映画も、
勝新太郎主演の『不知火検校』(1960年)という作品で、
弱者のはずの盲人の按摩が悪事を重ねて地位を上げていくという、
盲人世界の中の悪漢物語で、
ある意味、座頭市シリーズの先駆けともなった作品である。
公開時はまだ6歳くらいなので、リアルタイムでは見ていないのだが、
中学生くらいの時にTVで放送されているのを見て衝撃を受けた。
この映画における中村玉緒がとにかく美しくて、
レンタルビデオ店が登場してからは何度も『不知火検校』を見ている。
はだしが勝新ファンであれば、当然見ていなければならない作品と言える。
はだし達が撮っている映画は『武士の青春』というタイトルなのだが、
そのタイトルであれば、時代劇ファンなら、
藤沢周平の『蝉しぐれ』や、
宮本昌孝の『藩校早春賦』『夏雲あがれ』などの物語をすぐに思い出すと思うのだが、
はだしが書いた脚本の映画は、
武士(どう見ても浪人にしか見えない)の若者二人(猪太郎と子之介)がチャンバラしているだけのチャンバラ映画なのである。
しかも、ストーリーはまったく分らない。
将来、巨匠と呼ばれるはだしの初監督作なので、
ある程度のクオリティを期待するのが自然だと思うが、
その内容が描かれないのではどうしようもない。
そして、本作のクライマックスは、
終盤の学園祭での『武士の青春』の上映会なのであるが、
その『武士の青春』が上映されている途中、
はだしは突然映画を止め、
〈私がやりたかったのは、こっちだ!〉
とばかりに、
自ら芝居(演劇)を始めてしまうのである。
アクロバティックな演劇的なラストとなるのだが、
この劇的な展開が珍しかったのか、
「超爽快で感動的なラスト」
「奇跡的なラストシーン」
「最高のラストシーン」
「青春映画史に残るラストショット」
など、多くの人々から絶賛されている。
鑑賞前に、このラストシーンを褒めるレビューを多く目にしていたので、
すれっからしの私は、ある心配をしていたのだが、
本作のラストシーンを見て、
その私の悪い予感が当たってしまったことを知った。
本作の脚本には、劇団ロロを主宰する三浦直之が参加していたので、
〈ラストに演劇的な仕掛けがあるのではないか……〉
と予測していた。
劇作家つかこうへいが自らが脚色した深作欣二監督作品『蒲田行進曲』(1982年)
井上ひさしの同名戯曲を黒木和雄監督が映画化した『父と暮せば』(2004年)
劇作家を目指す青年と、彼を支える恋人の日々を描いた行定勲監督作品『劇場』(2020年)
などの例を挙げるまでもなく、
演劇の映画化であったり、
演劇関係者が脚本を書いていたり、
題材そのものが演劇であった場合など、
この演劇的な仕掛けのあるラストにすることが少なからずあるからだ。
日頃、あまり映画を見ない人にとっては衝撃的なラストであったかもしれないが、
演劇関係者が繰り出すこのあまりにも“あざとい”仕掛けを見慣れている者にとっては、
それが成功作であっても、正直、
〈またか!〉
と思わざるを得ない。
なので、瑕疵の多い本作『サマーフィルムにのって』ではなおさらのこと、
「やっぱりね!」感が強く、ガッカリしてしまったのだ。
批判が多くなりそうなレビューは書かない主義なので、
〈本作のレビューも書かないでおこう……〉
と、最初は思ったのだが、
鑑賞後、10日間経っても、この作品のことが忘れられない自分がいた。
何が忘れられないのかというと、
主演の伊藤万理華の顔が忘れられないのであった。
とびっきりの美人というわけでもなく、(コラコラ)
とびっきり演技が上手いというわけでもないのに、(オイオイ)
存在感があり、勢いがあり、光っていたのだ。
どこにでもいそうな顔なのに、
どこにもいるとは思えない顔で、
一度見たら忘れられなくなる程のインパクトがあり、
不思議な魅力を持った女の子であった。
『サマーフィルムにのって』は、
大林宣彦監督の初期作品に似た部分があるのだが、
伊藤万理華の存在感は、
『HOUSE ハウス』(1977年)における池上季実子、大場久美子、
『ねらわれた学園』(1981年)における薬師丸ひろ子、
『転校生』(1982年)における小林聡美、
『時をかける少女』(1983年)における原田知世と、
同等のものがあり、
伊藤万理華の残像がいつまでも消えず、
何度も脳裏に蘇えり、
私の脳内を彼女が駆けまわるのだった。
そして、『サマーフィルムにのって』にまとわりついていた私の批判的な感情を浄化させ、
時間の経過と共に、『サマーフィルムにのって』のイメージをアップさせていくのであった。
〈それほど悪くない作品であったかも……〉
と、私を改心させるほどにまで、私を魅了し、
私が感じた様々な欠点、問題点すら、瑣末なことにしてしまうのだった。
久しぶりに感じた不思議な感覚であった。
【伊藤万理華】(いとう・まりか)
1996年大阪府生まれ、神奈川県育ち。
2011年から乃木坂46一期生メンバーとして活動し、
2017年に同グループを卒業。
現在は俳優としてドラマ、映画、舞台に出演する一方、
雑誌「装苑」での連載や、
PARCO展「伊藤万理華の脳内博覧会」(2017年)、
「HOMESICK」(2020年)を開催するなど、
クリエイターとしての才能を発揮。
映画『映画 賭ケグルイ』(2019年/英勉監督)や、
テレビドラマ「潤一」、
舞台『月刊「根本宗子」第17号「今、出来る、精一杯。」』、
『月刊「根本宗子」第18号「もっと大いなる愛へ」』、
LINE VISION「私たちも伊藤万理華ですが。」などに出演。
2021年はドラマ「夢中さ、君に。」(MBS)や、
舞台「DOORS」(倉持裕演出)に出演するなど多岐に渡って活動中。
乃木坂46の現メンバー(2021年10月現在)である、
生田絵梨花、齋藤飛鳥、高山一実、
元メンバーの、
市來玲奈、松井玲奈(SKE48の元メンバーでもある)、深川麻衣、生駒里奈、若月佑美、西野七瀬、白石麻衣、堀未央奈などは知っていたが、
伊藤万理華は本作を見るまで知らなかった。
それにしても、(こうして列記してみると)
〈乃木坂46からは多くの女優が輩出されているのだな~〉
と今さらながら驚かされる。
伊藤万理華の名も、
『サマーフィルムにのって』の一作のみで、私の脳にしっかり刻み込まれた。
『サマーフィルムにのって』の主演がもし伊藤万理華でなかったならば、
このレビューは書かなかっただろうし、
そういう意味では、
本作におけるマイナス部分を、
伊藤万理華という一人の女優の存在感がすべて葬り去ってしまったと言える。
本作を監督した松本壮史を褒めるとしたら、
「伊藤万理華を主演としてキャスティングしたこと」
のみに尽きる。(コラコラ)
突出した存在感の伊藤万理華が眩し過ぎて、
周囲があまり見えずにいた私であるが、(笑)
伊藤万理華の陰に隠れてはいたが、
ビート板役の河合優実の美少女ぶりや、
ブルーハワイ役の祷キララの剣道部員としての凛々しさは素敵だったし、
凛太郎を演じた金子大地の主役の伊藤万理華を目立たせる演技も悪くなかった。
部室で編集作業をしているシーンや、
古い映画館に映画を見に行くシーンなど、
前期高齢者にとって、どこか懐かしさを感じさせるシーンも多かったし、
伊藤万理華を中心にして本作を見直すと、
良い部分も浮き彫りになってきて、
当初感じた印象と違って、(秋に鑑賞したにもかかわらず)
さも自分が体験したかのような良き“夏の思い出”になっていたのだった。
私にとっても、2021年の夏は、きっと、
伊藤万理華がスクリーンを駆け抜けた夏として記憶されることであろう。
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