原題:『Le Jeune Ahmed』
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
撮影:ブノワ・デルヴォー
出演:イディル・ベン・アディ/オリヴィエ・ボノ―/ミリエム・アケディウ/クレール・ボドソン
2019年/ベルギー・フランス
洗脳される原因について
主人公の13歳のアメッドがイスラム原理主義の過激思想に感化されてしまった原因は様々考えられる。思春期であることや父親の不在や熱心にモスクに通う兄の影響や従兄の戦死にショックを受けたことや、そもそもアメッドが識字障害を患っていたことなど考えられるが、本作ではそのことに関しては具体的に指摘されることはない。
寧ろ本作の見所は、自身の恩人である担任教師のイネスを背教者として殺害を目論み、一度失敗して少年院に送られた後も、面会を求めるイネスに対する殺意が消えないアメッドがラストで改心する瞬間が、それまでずっとアメッドから目を離さなかった観客が、一瞬アメッドを見失った時だったことで、それは洗脳というものがされるときも抜け出るときも一種の「アクシデント」であるということをほのめかしているように思うのである。
「なかでもいい場面が、少年院での、アメッドとイネス先生との再会です。自分に襲いかかった少年と面会するんですから先生も勇気のある人ですが、何よりもアメッドが何を考えているのか観客にもわからない。で、面会室に入ると、イネス先生が泣き出し、泣いたまま面会室を出てしまう。アメッドの顔を見て、この子はまだ変わっていない、私を殺そうとしているんだと感じたからです。」と書いているのは東京大学教授の藤原帰一であるが(2020年6月21日付毎日新聞日曜くらぶ『映画愛』)、これはあくまでも藤原の「個人的見解」である。何故ならば面会室に入ったイネスが泣き出した時にはイネスの顔は映っておらず、「この子はまだ変わっていない、私を殺そうとしているんだと感じた」かどうかは観客からは窺い知ることは出来ず、イネスを殺そうとしていると感じたならば、それはアメッドが床で研いだ歯ブラシの柄の先で面会に来るイネスを殺すことを企んでいたことを私たち観客が既に知っているからである。
ベルギーのインデーズバンド「インターガラクティック・ラヴァーズ」の「ディレイ」を和訳しておく。
「Delay」 Intergalactic Lovers 日本語訳
どしゃ降りの雨の音に合わせて
動じないダンスをして数時間過ごした後
私は自分自身のために数曲選んで
また動き出そうと言い聞かせた
私はただ雨を滴らせておく
私はただずぶ濡れにさせておくつもり
私はただ雨を滴らせておく
私はただずぶ濡れにさせておくつもり
そのうち上手くいくようになる
それは私があなたに最初から言っていたこと
そのうちはっきりするようになる
それは昨夜天気の神様が言っていたこと
ちょうど良い頃合いに全てが合点する
私がまだ子供だった頃
父親が私に言った
「犬たちと一緒に寝なさい
そうすればおまえは絶対に退屈し
おまえがむずがればそれは俺の望むところで
おまえの図太さが俺を笑わせる」と彼は言った
私はもう少しとどまって
あなたを試してみようと思う
そのうち上手くいくようになる
それは私があなたに最初から言っていたこと
そのうちはっきりするようになる
それは昨夜天気の神様が言っていたこと
ちょうど良い頃合いに全てが合点する
Intergalactic Lovers - Delay (Official Video)