台湾のヘビーメタル・バンド・Chthonic(ソニック、閃靈楽団)のCDアルバム「高砂軍」(Takasago Army)は、聴けば聴くほど想像力を掻き立てられる作品だ。
このアルバムの中に「KAORU(薫)」という曲がある。日本陸軍航空隊の特攻部隊である「薫空挺隊」を採り上げている。
この部隊には、軍に志願した台湾原住民の兵士も含まれていて、南方や沖縄戦線で数多くの犠牲者を出した。
「KAORU」のプロモーション・ビデオ(下記に添付)を見ると、「薫空挺隊」の訓練の様子を写したフィルムや天皇の姿、米軍艦に突入する特攻機の映像が挿入され、最後には和服を着た台湾原住民(日本統治時代には「高砂族」と総称され、このアルバムのタイトル「高砂軍」はそれに由来している)の女性が涙を浮かべる。しかも、その女性は、原住民固有の化粧(顔に黒い文様を彫る)しているので、何も知らずにこの映像を見た人は、不気味に感じたり、日本や日本人の罪科を責め立てられているように思うかもしれない。
事実、家人はこの曲を聴いて、日本を責め立てているのではないとしても、少なくとも皮肉っていると感じたようだった。
だが、ソニックの主張は、全く別のところにある。このバンドの女性ベーシストである、ドリス・イェ(Doris Ye 葉湘怡)の最新ツイッターには、馬英九と習近平による「中台首脳会談」の感想が次のように記されている。
「台灣不屬於一個中國。台灣就是台灣!Taiwan doesn't belong to China, Taiwan is Taiwan!」
(台湾はひとつの中国に属していない。台湾は台湾だ!)
Chthonicのベース奏者 ドリス・イェ (Doris Yeh = 葉湘怡)
この発言は、馬・習会談で一致をみたという「ひとつの中国」に対する痛烈な異議申し立てだ。
つまり、「ソニック」が「高砂軍」の中で、天皇の玉音放送を取り入れたり、高砂族の悲しみを表現するのは、日本や日本人を批判するためではない。原住民こそ台湾のために戦った勇敢な戦士であることを強調し、今の台湾人こそ独立の気概を持つべきだと主張しているのだ。
ロック・バンドである「ソニック」がここまで政治的に突出せざるをえないのは、台湾にとって良いことなのかどうかはわからない。ただ、形ばかりが「反体制」風の日本のバンドとは、全く異なる環境に置かれた切実さが伝わってくる。
「玉砕」(Broken Jade)の映像では、米軍艦船に「特攻」で体当たりしようとするゼロ戦が、被弾し、最後には天空に昇華し、不死鳥(フェニックス)に変身し消え去る。
こんな映像を、今の日本人が作れるはずはない。その理由は単純明快。戦争責任も帝国統治の責任も負わなかった人がいたからだ。たった一人の「皇祖皇統」を守るため、すべての戦争責任は曖昧にされ、日本人はあの戦争に「向き合って」考えることを避けてきた。
昭和天皇が心から謝罪すべき相手は、間違いなく台湾原住民であるに違いない。