迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

清祭吾妻鑑。

2024-09-20 20:13:00 | 浮世見聞記


大名跡のわりに普段は脇役ばかりに廻されてゐる坂東彦三郎が、「夏祭浪花鑑」の主役に起用されたことに興味を覺えて、新國立劇場中劇場の“國立劇場主催”歌舞伎公演を觀に行く。


制作發表の記者會見では、「人(主演者)に使はれてばかりでは、いつしかそれに慣らされた役者人生になってしまふ」と、かなり直球な表現で語ったと云ふ今回の主役起用の舞薹、生来が江戸役者のため上方物に求められるこってり感が無く、またどうしても主役の演技に慣れてゐない雰囲氣もチラチラするのは仕方がないが、しかしさうした持ち前の江戸前さが、魚屋稼業の俠客といふより根は善良で真面目な青年が“義理”とか云ふ運命のイタズラによって、心ならずも殺人を犯してしまふ悲劇が、直球に響く好演を生み出した。


(※十五代目市村羽左衞門の團七九郎兵衞)

なんといってもあの父親譲りの明瞭明解な声柄と手堅い演技力の持ち主である、あの魅力を活かせる芝居は、もっと他にあるのではないだらうか。

せっかく今回の主役起用だ、今回限りでは勿体なさすぎる。

一寸德兵衞に扮した實弟も、兄をよく扶けてゐた。


(※八代目松本幸四郎の團七九郎兵衞、初代中村吉之丞の三河屋義平次 昭和二十七年六月 明治座)

意外に目を惹いたのが老俠客の釣船三婦、演じるにはまだ年齢が早いやうに思はれたが、臺詞やドカッとした佇ひに名優だった亡父の面影が覗く一瞬があり、遺傳なのか年功なのか、面白いものだと思ふ。

その子息扮する色男は完全な段取り演技で感想以前だが、相手役の傾城に扮した若手が、着實に女形の“いろけ”を會得してゐて、これもまた面白く觀る。





なによりもカネ儲けが最優先する興行會社のために冷飯を喰はらされてゐる役者たちに技藝を育て活かす場を提供し續けることが、國立劇場歌舞伎の使命だ。

だからこそ、三宅坂のあの空き家、早う何とかせなアカンで……。
 









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