横浜都市発展記念館の「一枚の切符から昭和のあの頃へ」展を見る。
大正天皇即位の記念乗車券を黎明期に、昭和四十年代から五十年代にかけて全盛期を迎へた色々な「記念きっぷ」を中心に据へた企画展。
催事があるごとに発行してゐたそれら膨大な記念切符に、日本人のお祭り好きを見る。
この頃から国鉄は、全國鐵道網を武器に國民を旅行へと誘(いざな)ふ。
昭和四十二年に国鉄が発行した広報紙「トラベルフォトニュース」にある、
『戦後の苦労もいまは思い出に』
は、戦後日本の経済成長が國民に精神的な安定をもたらした事実を伝へる、なかなか上手いコピーと私は見る。
そんな旅情に溢れた記念切符の数々から、私はまだまだ伸びしろがあった頃の元気な日本を、目で訪ね歩く。
いつでも、切符は旅の玄関口。
あの「青春18きっぷ」が昭和五十六年当時は一枚¥2000だったことに、現在の物価狂昇を痛感せずにはいられない。
大赤字に喘ひでゐたにせよ、まだまだ地方路線網が充実してゐた当時は、「青春18きっぷ」を使った長旅も、また格別の味わひがあったらう。
それから元号が二度変はった現在では、それらローカル線の大半が姿を消し、幹線ですら主要都市圏以外では運転本数が年々減少し、それまでの旧車を置き換へた新型車は東京首都圏の通勤電車と同様のしろもの、そこへ誰がけしかけたものやら、“18きっぱー”などと揶揄されるまでに繁殖した都会モンが大挙して乗り込んで山手線なみの大混雑を演出し、地元利用客からは露骨にイヤな顔をされる──
都会の現実風景を脱して非日常に浸る旅のはずが、どこまでも都会風景が続くストレスばかり溜まる長距離移動に堕ちてしまったのが、現今の鐵道旅行だ。
だから私は元号が変わったのを機に、よほどの事情がない限りさうした旅行は止すことにした。
そして今夏に“18きっぱー”と訣別した旅行を試験的に実行し、予想以上の結果を得た。
旅は、
風情がなければ、
旅ではない。
一階のロビーでは、硬券の台紙にスタンプを捺して昔懐かしい往復切符を再現するワークショップが行はれてゐたので私も参加、
これは本の栞ださうだが、今日の記念切符としてはなかなか粋な一枚。
さう、浮世探訪といふ“旅”は、ここからまだまだ續くのである……。