旧新橋停車場 鉄道歴史展示室の企画展「走るレストラン~食堂車の物語~」展を観る。
私が鐵道旅行をはじめた頃には、食堂車と云ふものはほとんど姿を消した後だったので、日本におけるその風情を知らない。
その代はり、今は昔、佛國で一度だけ乗ったことがある。
あまりにくつろぎ過ぎて降車驛に到着したことに初めは気付かず、あとで慌てて飛び降りるといふ、ちょっぴり苦い思ひ出付きで……。
長距離鐵道旅行の樂しみと云へば、やはり食事だらう。
國鉄時代の旧型車のボックス席で、車窓風景を眺めながらの食事は、例へコンビニ辨当であってもその味は格別だった──ああ、愛しの113系よ!
昭和三十年代には寿司や蕎麦を提供する食堂車もあったが、職人の人員確保の問題などで短命に終はったさうで、高度成長期の日本の試行錯誤ぶりを示す話しとして、私には興味深い。
そして、開發されたばかりの東芝製電子レンジを昭和三十七年(1962年)に急行列車の厨房に取り入れたところ、その利便性が認められ、やがて新幹線の食堂車にも搭載されて電子レンジが日本に普及していったとは、今回初耳。
また気になったのが、第二次大戦末期の昭和十九年に食堂車が廢止されたのち、列車内での代用食として、乾燥野菜や乾燥させたミカンの皮、柿の皮、それに桑の葉や魚粉を混ぜてつくった「鐵道パン」を一個二十銭で売り出したところ、大人氣だった云ふ歴史。
人間にとって「食」とはいかなるものかをよく示してゐると同時に、當時の「鐵道パン」といふものを一度ぜひ再現してほしいと、私は思ふ。