歌舞伎座地下の賣店街に、歌舞伎十八番の内「勸進帳」の中啓が展示されてゐるとのことで忘日、いまさらながらドレドレと見物に出掛ける。
(※冩真撮影可)
中啓(ちゅうけい)とは、「たたんでも半ば開いてゐるやうに見える扇」のことで、室町時代の頃に誕生云々、狂言「すゑひろかり」で太郎冠者が何のことか分からず大騒ぎになる原因の小道具でもある。
(※歌舞伎十八番の内「勸進帳」 七代目松本幸四郎の武藏坊辨慶、七代目澤村宗十郎の富樫左衞門、初代澤村宗之助の九郎判官義經 大正六年正月 帝國劇場)
それはさておき、「勸進帳」では辨慶、富樫、義經、その四天王がそれぞれ携へて登場するが、實際に舞薹上で開くのは辨慶だけなので、たしかに主要三役の中啓の實物がそろって開いて展示してあるのは、私も初見ではある。
原典の能で用ゐられる中啓は繊細なつくりだが、動きや使用が激しい歌舞伎劇のそれは、骨が厚手に仕立てられてゐるため、見た目からしてゴツゴツしてゐて、
しかも近年の仕立ては親骨の内側へさらに薄く削った骨を當てて補強してゐるため、わずかながらそのぶん厚味が増して、掌の収まりが惡い。
演者に訊いてみたわけでないが、大昔に手に取ってみた經験から、「好みではないな」と思った記憶を語ってみたまでである。