松本清張の「赤い氷河期」(平成元年刊)を讀了する。
エイズが蔓延する2005年といふ、當時としては“近未来”に時間設定された長編小説で、平凡社刊の東洋文庫「流行性感冒」と併せて、ぜひこの時に讀みたかった一冊。
作中で謎の蔓延をみせるエイズと、いま現實世界で蔓延してゐる人災疫病と共通する問題点、また示唆とも取れる点があったのは、期待通りに興味深い。
が、物語の舞台が私には馴染みのない独國とあって名称のカタカナが讀みづらく、また原稿料稼ぎの枚数水増しかと疑ひたくなるやうな延々とした情景描写や、長講釈の頻発にはいささか閉口す。
そしてこの作家の長編には摑み所のない、少しイラッとさせられる性格の“相棒役”が類型的によく登場するが、この作品では謎の日本人“タシロ”がそれに當たり、大時代な王候貴族のコスプレで登場する大詰めはいささか失笑、しょせんは讀み物だなァと思ふ。
が、このコスプレ伯が冗長氣味な物語を上手に締めくくってくれたおかげで、讀後に裏切られた氣分にならずに済んだのは幸ひ。
さう、投げ出してはならぬ。
現實世界におけるこの“闘ひ”は、まだまだ續くのだから……。