私は決して、好き好んでその町へ出かけたわけではなかった。
そこはすでに、
川の向かふの、
よその「國」だったからだ。
しかし私は、その人に会ふことだけを今日の利点と考へ、
オトナと云ふお面をつけて、
川を越へた。
猿楽師はかつて、
旅藝人であった。
彼らは、
あらゆる國の堺を越へて、
猿楽を演じつづけた。
無駄なものはすべて削ぎ落とす知恵は、
その日々から生み出されたものであらう。
そして彼らは、
行く先々で見聞したことを、
おのれの藝に昇華させたことだらう。
川を越へる。
ときには、
河を越へる。
この先には、何を見るだらう。
思ひもしなかった出逢ひもあったはずだ。
ちゃうど、
今日の私のそれのやうに。
川は、
河は、
世界を見渡しながら、
越へるべし。
そこはすでに、
川の向かふの、
よその「國」だったからだ。
しかし私は、その人に会ふことだけを今日の利点と考へ、
オトナと云ふお面をつけて、
川を越へた。
猿楽師はかつて、
旅藝人であった。
彼らは、
あらゆる國の堺を越へて、
猿楽を演じつづけた。
無駄なものはすべて削ぎ落とす知恵は、
その日々から生み出されたものであらう。
そして彼らは、
行く先々で見聞したことを、
おのれの藝に昇華させたことだらう。
川を越へる。
ときには、
河を越へる。
この先には、何を見るだらう。
思ひもしなかった出逢ひもあったはずだ。
ちゃうど、
今日の私のそれのやうに。
川は、
河は、
世界を見渡しながら、
越へるべし。