ラジオで、金剛流の「山姥」が放送される。
ラジオ放送ではスタジオ収録の素謠が基本だが、番組表を見ると今回は囃子方の名前もあり、番囃子とはずいぶん氣合が入ってゐるなぁ、と思ってゐたら何のことはない、過去に放送した舞台中繼映像の転用で、なんだタダの手抜きか、と納得。
金剛流と云っても、本来の宗家は昭和十年にニ十三世金剛右京の死去をもって絶家しており、翌年にもとは京都の謠師匠で江戸時代に幕府から金剛姓を許されたと云ふ、お弟子の野村家の末裔が宗家となり、現在に至る。
いまでは“舞金剛”の定評を得てゐるが、私が實見する限り舞臺の鍵を握る地謠方にいつも聲量が無いため音楽的に不明瞭で、今回の放送でもマイクを使ってゐてすら、相変はらずナニを謠ってゐるのかさっぱりわからない。
しかしわかりきったことに腹を立てるは無益、今回はせっかくなので囃子の調べを樂しむ。
かつて傅統藝能から離れやうとしてゐた私に、その素晴らしさを再認識させてくれた日本古来の音樂。
間違ひなく、西洋古来のそれと違って私の心にすっと入ってくる聲。
いつまた、舞臺で逢へるだらうか。