迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

不反魂の賢識。

2022-12-11 09:35:00 | 浮世見聞記
ラジオ放送で、寶生流「竹雪」を聴く。


實父の留守中、降雪の屋外へ肌着一枚で締め出された少年は、繼母の命令で竹に積もった雪を拂ふうちに凍死するが、“竹林の七賢”の功力により蘇生する──

はっきりと幼児虐待が描かれるなど、曲趣としては決して今日的ではないが、しかしかつてはかうした“繼子イジメ物”が藝能や文藝で一大分野を成してゐたことは事實で、この曲では舞臺上の子方(子役)の幼氣(いたいけ)な演技に見物の涙を絞らせること、そして少年の蘇生が能では定番の佛力云々ではなく、古代支那にて堕落した浮世を離れ竹林で清談して過ごしたと云ふ七人の文人──いはゆる“竹林の七賢(建安の七子)”の力によってゐるところに、現在では不明となってゐる作者の工夫(ミソ)があったのだらう。



この“隠れシテ”とも云へる七賢人は實際には舞臺へ姿を見せず、聲のみが聞こえてくる趣向通り、謠のなかのみの登場で、しかも曲の締めはこの慶事を稱へて實父繼母邸を寺に改めると云ふ、なにもしなかった佛法に全て持って行かれる不可解な結末となってゐる。


なるほど、七人が俗世に嫌氣がさすわけだ。







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