迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

人のゐる静けさ。

2020-03-28 09:03:00 | 浮世見聞記
窓をあける。


町は静かだ。





休日の朝はいつも静かだが、

いつもの静かさとは違ふやうに感じるのは、気のせいだらう。

知事が俄か仕立てに発令した「外出自粛令」とは、関係あるまい。

國難が頭にあるから、さう意識してゐるだけだ。


静かでも、家々に人はいる。

姿の見えない人が確かにそこに密集してゐて、それで静かなことに、初めて気味悪さを覺える。


さういふ静けさを、初めて知ったやうな。



鳥の囀りは常の如し。

町を通る鐵道の音も常の如し。

季節の花も常の如し。



どこかで雨戸を開ける音がする。

どこかで誰かのクシャミが聞こえる。



確かに、人はゐる。



しかし、

息を潜めるわけでもなく、

町は静かだ。



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