窓をあける。
町は静かだ。
休日の朝はいつも静かだが、
いつもの静かさとは違ふやうに感じるのは、気のせいだらう。
知事が俄か仕立てに発令した「外出自粛令」とは、関係あるまい。
國難が頭にあるから、さう意識してゐるだけだ。
静かでも、家々に人はいる。
姿の見えない人が確かにそこに密集してゐて、それで静かなことに、初めて気味悪さを覺える。
さういふ静けさを、初めて知ったやうな。
鳥の囀りは常の如し。
町を通る鐵道の音も常の如し。
季節の花も常の如し。
どこかで雨戸を開ける音がする。
どこかで誰かのクシャミが聞こえる。
確かに、人はゐる。
しかし、
息を潜めるわけでもなく、
町は静かだ。