建物から出た途端、そばに立っていた男性が、
「地震だっ!」
と叫んだ。
その声によって、わたしはいま、地面が大きく揺れていることを、自覚した。
見れば、路肩に停車している路線バスが、どれも激しく横揺れしている。
交差点の角に建つビルなどは、いまにも横倒しになりそうだ。
揺れがおさまってから、わたしは自宅へと急いだ。
部屋のなかは、物が散乱していた。
それは同時に、わたしのこれまでの生活、そして価値観が、崩壊した瞬間でもあった-
それからわずか十日ばかりのち、わたしは地震の被害には遭わなかったある地方の町に、しばらく滞在することになった。
駅で出迎えたその人は、
「こちらはノープロブレムですわ」
と笑ったことに、わたしは内心で、微かな反感をおぼえた。
旅館のテレビを通して被災地の現状を見つめながら、生き延びたわたしは何をするべきなのか、本気で考える日が続いた。
持てる技術を生かして、慰問することも考えた。
そのためのチームを組もうと、わたしは滞在先の人々に、提案をしてみた。
しかし、スケジュール云々を言い訳に、誰もが無関心だった。
同じ天が下に住んでいても、自分たちが被害に遭わなければ、しょせん“対岸の火事”なのか-
わたしは暗然たる気持ちになった。
また、或る場所では、
「そういうのは、“売名行為”だよ!」
と決め付ける人もいた。
「本当に被災者をおもうのなら、“祈って”いるものだ」
、と。
しかしわたしは、その人がそういう素振りしている様子を、一度も見たことがない。
『“がんばれ”などと口で言われても、わたしたちにはなんの励ましにもならない』-
被災者の方々の声が、胸に重く響く。
折しも、誰がけしかけたのか、
『絆』
などという文字が、大流行した。
“人と人との結び付きの大切さを、教えられました”-
しかし現実には、誰もが自分(おのれ)だけは生き残るべく、スーパーマーケットへ食糧品の買い占めに、奔走した。
『絆』
人はただ、その字面の響きに、酔っ払っていただけにすぎない。
あの日から、今日で三年。
いま、日本国がやろうしているのは、
増税と、
物価の便乗値上げ。
国民から金を捲き上げることだけは、いつもながらどなたも、たいへんに手際がよろしい。
“明日のために、今日を生きない”
ある時代小説の主人公の生き様が、いまのわたしの気持ちに、近い。
合掌。
「地震だっ!」
と叫んだ。
その声によって、わたしはいま、地面が大きく揺れていることを、自覚した。
見れば、路肩に停車している路線バスが、どれも激しく横揺れしている。
交差点の角に建つビルなどは、いまにも横倒しになりそうだ。
揺れがおさまってから、わたしは自宅へと急いだ。
部屋のなかは、物が散乱していた。
それは同時に、わたしのこれまでの生活、そして価値観が、崩壊した瞬間でもあった-
それからわずか十日ばかりのち、わたしは地震の被害には遭わなかったある地方の町に、しばらく滞在することになった。
駅で出迎えたその人は、
「こちらはノープロブレムですわ」
と笑ったことに、わたしは内心で、微かな反感をおぼえた。
旅館のテレビを通して被災地の現状を見つめながら、生き延びたわたしは何をするべきなのか、本気で考える日が続いた。
持てる技術を生かして、慰問することも考えた。
そのためのチームを組もうと、わたしは滞在先の人々に、提案をしてみた。
しかし、スケジュール云々を言い訳に、誰もが無関心だった。
同じ天が下に住んでいても、自分たちが被害に遭わなければ、しょせん“対岸の火事”なのか-
わたしは暗然たる気持ちになった。
また、或る場所では、
「そういうのは、“売名行為”だよ!」
と決め付ける人もいた。
「本当に被災者をおもうのなら、“祈って”いるものだ」
、と。
しかしわたしは、その人がそういう素振りしている様子を、一度も見たことがない。
『“がんばれ”などと口で言われても、わたしたちにはなんの励ましにもならない』-
被災者の方々の声が、胸に重く響く。
折しも、誰がけしかけたのか、
『絆』
などという文字が、大流行した。
“人と人との結び付きの大切さを、教えられました”-
しかし現実には、誰もが自分(おのれ)だけは生き残るべく、スーパーマーケットへ食糧品の買い占めに、奔走した。
『絆』
人はただ、その字面の響きに、酔っ払っていただけにすぎない。
あの日から、今日で三年。
いま、日本国がやろうしているのは、
増税と、
物価の便乗値上げ。
国民から金を捲き上げることだけは、いつもながらどなたも、たいへんに手際がよろしい。
“明日のために、今日を生きない”
ある時代小説の主人公の生き様が、いまのわたしの気持ちに、近い。
合掌。