國立劇場で、“アヅマカブキ 2023”の、夜の部を觀る。
日本舞踊の吾妻流が、流派再興九十周年と、再興させた初代吾妻徳穂の二十七回忌追善とを兼ねた舞踊會云々、
その初代が1950年代に、弟子たちと息子でのちに中村富十郎の五代目となる坂東鶴之助を引き連れ、“THE AZUMA Kabuki ”と銘打ち欧米諸國を巡業した偉業を再現した企画云々、
日本舞踊を欧米人好みに短編化且つ迅速な運びに演出した、いはゆるレビュー形式が現地人にウケて各地で大好評を博す一方、関係者に収益を持ち逃げされる悲哀も味はった云々、
凱旋興行で當時の坂東鶴之助がのちに中村雀右衞門の四代目となる七代目大谷友右衞門と演じた「二人椀久」が大當りをとり、昭和歌舞伎の名作狂言に加えられて平成に至る“お土産”を残したと、私などは話しに聞くばかり、その両優の「二人椀久」は、私も學生時分に木挽町で一度だけ觀たことがあるが、
(❈五代目富十郎の椀屋久兵衞)
(❈四代目雀右衞門の松山太夫)
後半の早間な振りが“アヅマカブキ”の面影かと、ただ想像するばかりであった。
會主と客演の藤間流宗家による、前座にしては見事だった「将門」のあと、初代の生前の舞臺を記録した短編映像が上映され、そこで初めて、ごく断片ながら當時の“アヅマカブキ”の様子を知ることが出来たのが、今回いちばんの収穫だ。
それを目にしたあとでは、いよいよ本篇の「アヅマカブキ 2023∼恋し、愛し、儚し∼」も、イマドキなお浚ひ會じみて見劣りは否めないが、しかし第七景の「娘道成寺」だけは、
(❈二階ロビーに常設されてゐる、伊東深水の『娘道成寺を踊る吾妻徳穂』)
映像でしか知らない初代の藝の特徴を、よく冩し取ってゐるやうに見えた。
立方それぞれに技量の落差はあれど、今日の晴れ舞臺のために頑張ってきたと云ふ氣持ちだけは一致してゐることが窺へた、まずは樂しい日舞レヴューの三時間半。
國立劇場の建て替へまで一年を切った途端、俄かにここへ出かける用事が増へたが、それもおそらく、今回でおしまいのはずだ。