迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

優先席の優先順位。

2023-08-17 20:25:00 | 浮世見聞記
電車の優先席で、目の前に高齢者が立ってゐても悠然とスマホを見てゐて席を譲らない若年者を、ちょくちょく見かける。が、私は今さらそのことに腹を立てる正義漢などではない。その若年者は、『ここは「自分が優先」の席』──さう解釈してゐるのだらう、と思ふだけである。もちろん、そんなのがそこまでアタマが回ってゐるなど、本氣で思ってはゐないが。前にも話してゐるが、忘日に路線バス内で、固辞するにも拘はらず席を譲らう . . . 本文を読む
コメント

越夏援歌。

2023-08-16 20:30:00 | 浮世見聞記
お盆のお墓参りをする。毎夏いちばんの行事を、午前中に済ませてサッと棲家に引き揚げる。まだお盆の期間中だからか、薹風の余波でみんなまだ帰省先で足留めを喰ってゐるからか、都心の驛はさほど混雑してゐない。しかし、近日中には環境公害でしかない支那の物見遊山どもが、チーパーチーパーと騒ぎながら押し寄せる云々、今の平穏も今だけのものでしかないのが、何とも癪ではある。 今日も局地的に雨が降ったり止んだりを繰り返 . . . 本文を読む
コメント

祈念に誦する蟬しぐれ。

2023-08-15 15:27:00 | 浮世見聞記
七十八回目の、終戰記念日。亡くなった人々への鎮魂と、いまの平和な日々を想ふ日。この日に聞く蟬は、いつもと違ふ聲に聞こえる。浮世のお盆休みを直撃したお騒がせ薹風七號は、關西圏に大きく逸れたために東京圏は午後から晴天となり、在京派としてはヤレヤレ。これだから、夏の行樂計画はキケンなのである。汗の心配がない季節に、とっておけ。 . . . 本文を読む
コメント

暑雨漏齎。

2023-08-14 22:13:00 | 浮世見聞記
薹風七號が西海から吹き飛ばしてくる雨雲が、何もしてゐなくてもジワーッと汗の溢れる蒸し暑さと、斷續的な強雨を午前中にもたらし、今日を本當に生きられるのかと不安にすらなる。とりあへず雨雲群が去って安堵してゐると、遠い昔の犬猿の仲が、ささやかな“出世”をすると知り、好惡の拘りなく純粋に「へぇ、よかったな」と思ふ。時間と距離と記憶がはるかに離れ、もふ二度と會ふはずもない相手であることが、氣持ちに解決をもた . . . 本文を読む
コメント

訓戒秀聲。

2023-08-13 09:30:00 | 浮世見聞記
昨年に人間國寶に認定された、シテ方寶生流の大坪喜美雄師を特集したラジオ放送を聴く。「柏崎」「江口」「百万」「羽衣」の、重厚にして明快なコトバとフシの運びに、これが玄人(プロ)の謠ひかと、ただ感じ入り聴き入る。そして、流儀の行き方として冩實な謠ひ方を戒める言葉に、分野は違ふが歌舞伎役者の初代中村吉右衛門が、「より冩實な心理表現の演技をしなければ、觀客が納得しないやうになった」と云った主旨の言葉を殘し . . . 本文を読む
コメント

タクシーが国立劇場のガラス扉破る運転手が負傷、救急搬送

2023-08-12 08:20:00 | 浮世見聞記
dmenuニュースよりhttp://topics.smt.docomo.ne.jp/article/mainichi/nation/mainichi-20230811k0000m040313000c?fm=d『11日午後7時15分ごろ、東京都千代田区隼町の国立劇場で「タクシーがガラス扉を破って入ってきた」と劇場関係者からA . . . 本文を読む
コメント

ニッポン徘徊──しながわ夏遺産

2023-08-11 23:37:00 | 浮世見聞記
品川區西五反田で、なにか曰わくありげな石柱を見かけたので傍に寄って見れば、經緯と海抜を彫った石標なり。新しく見えるが、昭和四十三年正月に個人が寄贈したものらしい。その經緯は、わからん。どこだか忘れた小さな公園の砂地に、綺麗に箒の筋目が入ってゐた。なんだか踏み入れるのが憚られるやうな。そして何となく、涼しさを覺ゆ。品川區東五反田の池田山公園では、僅かな時間ながら森緑の涼に身をおく。紅一點な百日紅も夏 . . . 本文を読む
コメント

夏運招縁。

2023-08-10 19:41:00 | 浮世見聞記
先月末に神樂殿で現代手猿樂を舞はせてもらった上目黒氷川神社へ、やうやく御禮参りの機會を得る。“おまつり”の當日は雰囲氣がどうしても落ち着かないので、やはりお参りはかういふ静かな日に改めたはうがよい。ヒトのざわめきは煩くても、蟬の合唱は氣持ちに染み入るのだから、ニンゲンとは勝手だ。振り向けば、現實世界の騒景。私には“樂しみ”と云ふ味方がゐるから、あそこへも下 . . . 本文を読む
コメント

東洋交善。

2023-08-09 23:36:00 | 浮世見聞記
港區南青山の根津美術館にて、企画展「物語る絵画」を觀る。物語の挿繪であったものが、時代が進むにつれて掛け軸や屏風繪の題材へと發展し、やがて独立した美術群を確立する。女のもとに忍んで行く姿の構図が多い源氏物語モノより、私は平家物語モノのはうが、謠曲などでよく接するぶん馴染みがある。よって、原典である“物語”を知らないと逆に作品世界を深く味はへず、時節柄見るからにただガイドブックを見て何となく流れて来 . . . 本文を読む
コメント

不許心信。

2023-08-09 13:25:00 | 浮世見聞記
七十八年前、長崎にも原子爆彈が投下された日。第一標的は北九州小倉であったが、雲に遮られ、爆撃機に積んだ燃料も殘り少なくなった都合から、とにかく“どこかに”投下する必要に迫られ、結果としてナガサキが犠牲になったと聞く。ふざけるな、と思ふ。私は夷國人には表面(うはべ)ですらヘラヘラするものか──その氣持ちを、改めて確認する日。 . . . 本文を読む
コメント

才華連枝。

2023-08-08 20:30:00 | 浮世見聞記
川崎浮世繪ギャラリーの「国芳×芳幾×芳年」展を、前期後期通して觀る。歌川國芳の人柄に惚れて集った門人を約百名も擁したと云ふ大所帯一門から出た一人が、“月百姿”などの名連作で私もたびたび樂しんでゐる月岡芳年であり、その芳年の流れからは、先月に太田記念美術館で作品を樂しんだ佛人ポール・ジャグレーが出る。一人の才人から次の才人が生まれ、そこからまた新たな才能が芽生えて、連枝繁榮を築いていく──良いものに . . . 本文を読む
コメント

雲雷暑仰。

2023-08-07 21:54:00 | 浮世見聞記
九州に接近中の薹風六號の影響で、東京もイヤな厚雲が覆ってきたと思ったらザーッと雨が降り出し、降り出したと思ったらサッと上がる迷惑な天候に見舞はれる。 日が照り始めれば忽ち蒸し暑くなり、思考も行動も忽ち鈍くなる。あの炎暑下を、それらしい恰好をしてわざわざランニングしてゐるヒトの神經が、私には理解できぬ。多分にさういふ姿をヒトに見せたい、見せたがり根性が働いてゐるやうに映る。夕方になって . . . 本文を読む
コメント

訴情加減。

2023-08-06 12:40:00 | 浮世見聞記
廣島に原子爆彈が投下されて、七十八年となる。まだ生きてゐる米夷の當事者は、今なほ「さうしなければ、ニッポンは戰争をやめやうとしなかった」と、己れの正義を主張し、被爆者たちに一言も謝罪してゐない。先々代の米國大統領が、平和記念公園で被爆者の高齢者を抱擁してゐる冩真があるが、その心を私は現在(いま)も信用してゐない。數年前、學生時分に修學旅行で被爆地を訪れたと云ふ若い女性が、その時の印象を友人に話して . . . 本文を読む
コメント

炎中神撫。

2023-08-05 22:55:00 | 浮世見聞記
今年も、川崎の稲毛神社山王祭で奉納されたお神樂を觀に出かける。が、連日の酷暑下で長い時間はとても觀てゐられないので、はじめの一座だけを目に留めて、引き上げることにする。この白昼の異様な暑さに心身を崩しかねないなか、演者たちはさぞ大変だらうと心中を察する。昨夏は露店もヒトも多くて、賑やかと云ふよりウルサイくらゐだったが、今夏はどちらも少なめに見えるのは當然か . . . 本文を読む
コメント

趣意強唱。

2023-08-04 20:00:00 | 浮世見聞記
觀世流能樂師で、最晩年に宗家から許しを得て“祥雪”と號した関根祥六師追悼のラジオ番組を聴く。生前には現代の能樂を代表する名人であり、重鎮であり、有望株の息子に先立たれる悲運に見舞はれながらも、強い心を以て長命を保ち、最晩年まで現役を貫く。十年ほど前に渋谷區松濤にあった舞薹で一度だけ仕舞を觀たことがあり、大柄で安定感のある姿だったことを憶えてゐる。腹の底から絞り出すやうな聲柄は、今回放送された「安宅 . . . 本文を読む
コメント