孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カザフスタン  喧伝される中央アジア諸国の「ロシア離れ」 一方で「腐ってもロシア」の現実

2024-04-09 23:39:22 | 中央アジア

(【2023年11月9日 日経】 カザフスタンを訪問したプーチン大統領とカザフスタン・トカエフ大統領)

【ロシアと欧米のはざまでバランスをとる中央アジア】
かつて「ロシアの裏庭」と呼ばれたように、旧ソ連の中央アジア諸国はロシアの影響力が強い地域ですが、最近では中国の経済進出に加え、ロシアがウクライナで手一杯なこともあって、中央アジア諸国の「ロシア離れ」が指摘もされます。

もともとこれらの国々においては、カザフスタンやウズベキスタンで見られるように、ロシア・キリル文字の使用をラテン文字に変更しようするような動きなど、自国の文化的なアイデンティティを強めようとする動きは以前から見られたものでもあります。

圧倒的なロシアの存在感とアイデンティティ強化の動きがあるなかで、ウクライナをめぐるロシアと欧米の対立によって、“綱渡り”的なバランスが必要とされていることは事実でしょう。(“綱渡り”・・・あるいは“いいとこ取り”でしょうか)

欧米の対ロシア制裁にどこまで付き合うのか“揺らぎ”もありました。

****カザフ、対ロシア制裁による禁輸を否定****
カザフスタンの貿易省は19日夜、西側諸国の対ロシア制裁の一環として、軍事転用可能な民生品106品目について、ロシアへの輸出を禁止するとの貿易副大臣の発言を否定した。

現地メディアが同日、これに先立ち伝えたところによると、カイラト・トレバエフ貿易副大臣は、「ドローンとその電子部品、特殊装備、チップ」を含む106品目のロシアへの輸出を禁止すると述べていた。
 
だが、貿易省は夜になって、「正確ではない」として副大臣の発言内容を否定。
「対ロシア制裁に関連して、ロシア連邦へのいかなる品目の輸出も禁止されていない」「同時に、輸出規制の対象となっている『二重用途』品目の貿易に関しては、カザフスタンの国際義務に従って行われる」と発表した。

カザフは中央アジアに位置する旧ソ連構成国で、同地域に強い影響力を持つロシアと、西側諸国の間で綱渡りの外交を余儀なくされている。

ロシアは、ウクライナ侵攻に伴い、西側諸国に制裁を科されているにもかかわらず、いまだにカザフなどの第三国を介して必需品を輸入しているのではないかとの疑念を持たれている。 【2023年10月21日 AFP】
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中央アジア諸国の中にあっても地域大国カザフスタンは、ロシアとの歴史的関係、豊富な地下資源などで、ロシアにとっては特別な存在でもあります。

この機に乗じて、揺れる中央アジアに“手を突っ込もう”とするような動きも。

なお、マクロン大統領の中央アジア歴訪の一義的な狙いは、原発に使うウランの安定調達を図ることとされています。フランスはウランをカザフスタンやウズベキスタン、西アフリカの旧植民地ニジェールなどから調達してきたが、ニジェールでは昨年7月にクーデターが起き、先行きが不透明となっているためです。

****仏マクロン大統領が中央アジア歴訪 「ロシア離れ」を加速させたい考えか****
フランスのマクロン大統領が中央アジアを訪問しています。中央アジアの「ロシア離れ」を加速させたい考えです。

マクロン大統領は1日、中央アジアのカザフスタンを訪問し、トカエフ統領と会談しました。 フランスへのウランの供給拡大などが話し合われたとみられます。

ロシアメディアは、ヨーロッパとの関係強化により、中央アジアの国々のロシア離れを加速させたい考えだと報じています。

ロシア大統領府のペスコフ報道官はマクロン大統領の訪問について、「カザフスタンの問題だ」としてコメントを避けました。 マクロン大統領はこの後、ウズベキスタンを訪問します。

旧ソ連圏の中央アジアは石油や天然ガス、ウランなどの鉱物資源に恵まれていて、これまでロシアの勢力圏にありました。 カザフスタンのトカエフ大統領は、ロシアのウクライナ侵攻には支持を表明しないなど、ロシアと距離を置き始めています。【2023年11月2日 テレ朝news】
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“カザフスタンのトカエフ大統領は、ロシアのウクライナ侵攻には支持を表明しない”・・・開戦直後、トカエフ・カザフスタン大統領が、プーチン大統領の面前で、ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の「独立」を承認しない旨発言したことは西側では大きく取り上げられました。

ウクライナ侵攻に関して国連総会で行われてきたロシア非難の決議案についても何度も(反対ではなく)「棄権」を選択しています。

2022年1月、カザフスタンが内乱一歩手前の情勢になった時、ロシアはトカエフ大統領の要請に応えて、僅か数日で2000名を越える兵力を送ってトカレフ政権を支えたことがあります。

それだけに、上記のようなカザフスタンのロシアと距離を置く姿勢は、ロシアにとっては“恩をあだで返ような腹立たしいものにも受け取られ、後述のようなカザフスタンへの厳しい“脅迫”じみた言動にもなっています。

ただ、カザフスタンのこうした外交姿勢は、国連憲章の尊重、所謂「自称国家」は一切認めない立場、全方位外交という従来からの外交姿勢であり、これをもって直ちに「ロシア離れ」とするべきではないとの指摘もあります。(4月2日 田中佑真氏 新潮社フォーサイト“「中央アジアのロシア離れ」は本当か?――ロシア・ウクライナ戦争が浮彫りにする地域秩序の複雑性”)

一方、ロシアも「ロシア離れ」を食い止めようとしています。

****プーチン氏、カザフと結束確認 ロシア影響力低下の食い止め図る****
ロシアのプーチン大統領は9日、中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンを訪れ、同国のトカエフ大統領と会談した。

ロシアのウクライナ侵略に否定的な立場を示してきたトカエフ氏は今月、フランスのマクロン大統領ら外国首脳と相次いで会談し、協力推進で一致したばかり。中央アジアを自身の「勢力圏」とみなすロシアは地域大国カザフとの結束を確認し、同国が欧米側などに傾斜する事態を食い止める構えだ。

プーチン氏は会談後の記者発表で、トカエフ氏との会談を「生産的だった」と指摘。両国の軍事・経済協力などを協議したとし、「ロシアとカザフは最も緊密な同盟国だ」と満足感を示した。両首脳は二国間関係を今後も発展させるとした共同声明に署名した。(中略)

プーチン氏のカザフ訪問には、欧米やトルコ、中国が中央アジア諸国との関係強化を進める中、地域でのロシアの影響力を維持する思惑があるとみられる。(中略)

さらにカザフでは今月3日、チュルク系言語を共有するトルコや中央アジア3カ国などでつくる「チュルク諸国機構」の首脳会議が開かれ、トルコのエルドアン大統領やオブザーバー国ハンガリーのオルバン首相らが参加。両氏はトカエフ氏とも会談し、相互協力の拡大で一致した。

中国も巨大経済圏構想「一帯一路」の重要地域とする中央アジアへの投資を進めている。

ロシアはこれらの動きが中央アジアでの自国の影響力低下につながることを危惧。プーチン氏は今回のカザフ訪問で両国の結束を改めて誇示した形だ。【2023年11月10日 産経】
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【“西側諸国ににじり寄るカザフスタンのトカエフ政権”との指摘もあるが・・・・】
上記のような中央アジア・カザフスタンをめぐる情勢があるなかで、改めて、カザフスタンの「ロシア離れ」を指摘するのが下記記事。

*****ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクライナの次」に侵略すると脅される****
<かつて反政府デモの鎮圧を手助けして貰った「恩人」ロシアにも背を向け、西側諸国ににじり寄るカザフスタンのトカエフ政権>

ロシアとウクライナの戦争、および西側諸国との対立が続くなか、ロシアと旧ソ連構成国であるカザフスタンとの歴史的な結びつきにもほころびが生じつつあるようだ。ある大手営利団体によれば、カザフスタンで事業を展開するロシア企業が今、さまざまな問題に直面している。

ロシア中小企業の利益を代表する非政府組織Opora Rossii(オポラ・ロシア)のニコライ・ドゥナエフ副社長は、4月8日にロシアの有力紙イズベスチヤに対し、ロシアからカザフスタンへの送金処理に遅延が生じていると語った。カザフスタンの銀行がアメリカの二次制裁の対象になることを恐れて、ロシアとの取引に慎重になっているからだ。

ロシアからカザフスタンへの送金は、もう数週間にわたって処理が保留になっている。カザフスタンを本拠にキルギスタン、ジョージア、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンで事業を展開しているカザフスタンの商業銀行「ハルク・バンク」などの金融機関が、ロシアとつながりのある取引の処理を拒んでいるためだ。

ジョー・バイデン米大統領が2023年12月、対ロ制裁を強化する大統領令の中で米財務省に対して二次制裁を科す権限を与えたことを受けて、複数の国の銀行がロシア企業との取引にこれまで以上に慎重になっている。中国、トルコやアラブ首長国連邦などの国でも、ロシアの個人や企業との取引に問題が生じていることが報告されている。

親ロの中央アジア諸国に動揺
問題の背景には、2022年2月に始まったロシアとウクライナの戦争が続くなか、中央アジア諸国がロシアとの関係を見直していることがある。ロシアによるウクライナへの本格侵攻とそれに続く西側諸国による対ロ制裁を受け、これまでロシアと緊密な関係にあった中央アジア諸国の間に動揺が広がっているのだ。

カザフスタンはロシアがこの地域で最も信頼を寄せる同盟国の一つであり、2022年1月に大規模な反政府デモが起きた際には、カザフスタンの要請を受けたロシア治安部隊が暴動の鎮圧を手助けした。カザフスタンはロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)およびユーラシア経済同盟(EEU)にも加盟している。

しかしカザフスタンは、ウクライナ侵攻に関して国連総会で行われてきたロシア非難の決議案については何度も(反対ではなく)「棄権」を選択してきた。2022年9月には、ロシアによるウクライナ東部4州の一方的な併合を承認することを拒否した。

この翌月、カザフスタン政府のある高官はロイター通信に対して、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領がロシアとの二国間関係の見直しを行っていると述べていた。カザフスタンは一方で、欧州連合(EU)との経済協力の強化を目指して西側に接近する姿勢を見せている。

トカエフはまた、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とも数回にわたって会談を行い、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による動員令を逃れるために出国した大勢のロシア人を自国に受け入れてきた。

ロシアの戦争支持派の間では、カザフスタンがロシア支持に消極的だという怒りの声が上がっている。
たとえばロシアの前大統領で現首相のドミトリー・メドベージェフは、カザフスタンを「似非(えせ)国家」だと一蹴し、「スラブ人」の下にソビエト連邦を復活させるべきだと呼びかけた。

この週末には、カザフスタンがこのまま態度を変えなければロシアとして軍事行動で対応する可能性があると示唆するアンドレイ・グルリョフ議員の発言音声が流出した。

このような考え方は新しいものではなく、2022年11月には政治アナリストであるドミトリー・ドロブニツキーはロシア政府のプロパガンダ拡散役を担うテレビ司会者、ウラジーミル・ソロビヨフの番組に出演し、カザフスタンはロシアにとって脅威になり得ると述べていた。

ドロブニツキーは同番組の中で、ウクライナ政府はファシストだとするロシア政府の主張を引き合いに出し、「(ウクライナの)次の問題はカザフスタンだ。ウクライナで起きているのと同じナチ化が、カザフスタンでも始まる可能性があるからだ」と述べていた。

対ロ制裁の「抜け穴」
カザフスタンの国民もロシアの動きに注目している。2023年5月にカザフスタンの非政府組織「メディアネット」と「ペーパーラブ」が1100人を対象に行った調査では、ロシアがカザフスタンに侵攻する可能性があると考えている人の割合が前回調査の8.3%から15%に増加した。

しかしカザフスタンはロシアを見捨てた訳ではない。西側諸国が対ロ制裁を強化するなか、カザフスタンはロシアにとって、最先端兵器(マイクロチップやドローンなど)に必要な技術を入手するための制裁回避ルートの役割を果たしている。(中略)

カザフスタンのセリク・ジュマンガリン貿易・統合相は2023年夏、米政府が資金提供するメディア「自由欧州放送(RFE/RL)」に対して、全ての制裁対象品目の対ロ輸出を止めることはできないと説明。カザフスタンに提供されたリストには、「制裁対象として7000種類もの品目が記されていた」と述べた。
「西側諸国には、『全てを阻止または追跡することは不可能だ』と告げた」と、ジュマンガリンは語った。

2022年1月にロシア政府がカザフスタンのトカエフ政権を手助けして以降、ロシア・カザフスタン間では経済協力が強化されており、貿易額は2022年に260億ドル、2023年には270億ドルと過去最高を記録した。

英シンクタンク「王立国際問題研究所」のケイト・マリンソンは2月に、「カザフスタンは西側諸国による対ロ制裁を支持すると約束している。しかしカザフスタンの閣僚たちは米ワシントンを訪れて制裁について協議する一方で、ロシアを訪問してプーチンとの連携継続を約束している」と指摘した。【4月9日 Newsweek】
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【カザフスタンは対ロ制裁の「抜け穴」という現実も】
上記記事も指摘するように、カザフスタンは対ロ制裁の「抜け穴」的な存在になっているという面もあって、単純には「ロシア離れ」を云々することもできません。

最近では、ガソリン供給でもロシア・カザフスタンの連携が報じられています。

****ロシア、カザフからのガソリン供給を模索 不足に備え****
ロシアはカザフスタンに10万トンのガソリン供給の準備を依頼したもようだ。

ウクライナ軍のドローン(無人機)攻撃の影響で燃料不足が悪化した場合に備える。業界関係者3人がロイターに語った。このうち1人によると、カザフは備蓄をロシアに振り向けることで合意している。

一方、カザフのエネルギー相顧問は、エネルギー省はそうした要請は受けていないと話した。

ウクライナのドローン攻撃を受け、3月末時点でロシアは製油能力の約14%を失った。ロシア当局は現時点で国内燃料市場は安定し、在庫は潤沢だと報告している。通常ロシアは燃料の純輸出国だが、製油所の混乱で石油会社は輸入を余儀なくされている。

深刻な供給不足を回避するため、ロシアは3月1日から半年間のガソリン輸出禁止措置を導入した。
またカザフも、人道目的を除き、年末まで燃料輸出を制限している。【4月8日 ロイター】
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【「もしプーチンがウクライナで勝利したら」・・・・ないがしろにできない「腐ってもロシア」】
更に“ウクライナで手一杯のロシアに対し、中央アジア諸国が「ロシア離れ」を進めている”という話を難しくするのが、最近のウクライナ情勢。

ウクライナの反攻失敗でロシア優位の戦況ともなっており、「もしトラ」ではありませんが、ウクライナでプーチンが(戦術的な限られた意味合いではありますが)勝利する可能性も強まっています。

****5月に一斉攻撃か。攻撃準備を終えたロシアに滅ぼされるウクライナとプーチンに破壊される世界の安定***
(中略)
複数の分析を見てみると、5月ごろを目途にロシア軍は再度一斉攻勢をかける計画のようです。
(中略)5月のロシアによる大攻勢でウクライナが総崩れになれば、ロシアにとって非常に有利な状況が出来上がることになり、戦争で決着するか、それともロシアの条件に従った“停戦”を受け入れることで、実質的にウクライナが消える可能性が出てきてしまいます。

それを見て、恐怖を一気に高めているのがスタン系の国々です。ウクライナの反転攻勢が始まった頃は対ロで強気な発言や態度が目立ったスタン系ですが、このところ“プーチンを怒らせたら、後で必ず報復される”という恐怖が高まっているようです。

ウクライナ戦争の“おかげで”軍事介入はしばらくないと思われますが、ロシアは政治的な介入・情報工作を行ってスタン系の国内政情を荒らしてくるのではないかと戦々恐々としています。

特にロシアと7,600キロメートルにわたって国境線を接し、人口の2割強がロシア系である地域最大の資源国カザフスタンは、一時期、ロシアと距離を置くスタンスをとっていましたが、ロシアが戦況優位になると再接近して、プーチン大統領の逆鱗に触れて基盤を失わないように躍起になっています。

昨年11月にはプーチン大統領がカザフスタンを訪問しましたが、その際、プーチン大統領が「カザフスタンとロシアは最も親密な同盟国だ」と発言したのは、実は「ロシアに対する配慮を決して忘れるなよ」というカザフスタンのトカレフ大統領への警告だったのではないかと考えられます。

ロシア、そしてプーチン大統領が周辺、特に旧ソ連の国々に対して発する恐怖は、ウクライナが敗北してしまうと、一気にユーラシア大陸全体に向けられることになりかねません。(後略)【4月6日 島田久仁彦氏 MAG2NEWS】
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中央アジア諸国にとってロシアとの関係を変えることは容易なことではありません・

****中央アジアではロシアは「腐っても鯛」****
中央アジアも、西側メディアではロシア離れや対中傾斜、あるいは米国の進出などが喧伝される地域だ。しかし実際の事態はそれほど大きくは動かない。

中央アジアの諸国は海千山千で、大国の力、意図、関心度を十分見極めて動いては、いいとこ取りをする。  

そして北方に大きく覆いかぶさり、いつでも兵力を送ってこられるロシアは、腐っても鯛であることを、彼等はよく心得ている。

2022年1月、カザフスタンが内乱一歩手前の情勢になった時、ロシアはトカエフ大統領の要請に応えて、僅か数日で2000名を越える兵力を送ってきたのだ。  

米国は、兵站の難しい内陸の中央アジアに介入することを嫌うし、それだけの経済的・政治的利益も持っていない。中国は、演習を除いては海外に兵力を送ることをしていないし、その能力も未開発である。  

つまり中央アジア諸国にとってロシアは重要な存在だし、不可欠の外交・経済カードでもある。中央アジアをロシアから引きはがすのは難しいし、米欧、日本にとってそんなことをする意味もない。(後略)【3月20日 現代ビジネス“実は「ウクライナの次」は起きそうもない、あまりに分が悪いプーチンのロシアの対外関係”】
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キルギス  ロシア支配の象徴「キリル文字」を捨てきれない背景は? くすぶるタジキスタンとの紛争

2023-04-22 23:44:26 | 中央アジア

(【2022年12月13日 NHK】)

【ロシアとの絆を切るのは難しい? キリル文字からラテン文字への移行は「時期尚早」】
4月17日ブログでは、旧ソ連構成国アルメニアのロシア離れについて取り上げました。

アルメニアとアゼルバイジャンの紛争は、ロシアの対応が注目されることもあって、それなりにニュースなどでも取り上げられましたが、今日は更にマイナーな旧ソ連構成国でもある中央アジア・キルギスの話。

旧ソ連構成国からなる中央アジアは、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、そしてキルギス。(以前はキルギスタンと表記されていましたが、国名変更で日本語表記もキルギスに。なお、「~スタン」とは、ペルシア語で「~が多い場所」を意味する言葉だとか)

一般に中央アジア諸国は「権威主義体制」でロシアの影響力が強い・・・とされていますが、そういう中央アジア諸国の中にあっては、キルギスは“比較的”民主化が進んだ国とも評価されてきました。

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英Economist Intelligence Unitの民主化指数(Democracy Index) 2016年版では総合順位98位(全167国中。前年度93位)。他の中央アジア諸国は「権威主義体制」とされる中,唯一「混合体制」に分類されている。【在キルギス共和国日本国大使館】
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また、ロシアとの関係は維持しつつも、ロシア一辺倒ではなく“バランス外交”的側面も。

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ロシアと密接な関係を保ちつつ、中国や欧米、日本などともバランス外交を展開している。ロシア主導のユーラシア経済連合と集団安全保障条約に加盟している。

上海協力機構の加盟国でもあり、中国はキルギスを「一帯一路」の対象国の一つに位置付けている[22]。一方で、経済の過度な対中依存や中国人の流入などへの不満から反中デモも起きている。【ウィキペディア】
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中央アジア地域で中国の影響力が強まっているという話は、また別機会に。
アメリカとの関係で言えば、以前はキルギス国内に米軍が駐留していたこともありました。

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マナス国際空港内には、2001年12月に国際連合の承認に基づきアフガニスタンにおける対テロ戦争支援の拠点としてマナス米空軍基地が設置され、約千人の米軍部隊が駐留している。

キルギスの議会は2009年2月に今後米軍によるマナス空軍基地の使用を認めないことを可決したが、2009年6月に継続使用に合意した。しかしその後2014年に使用が停止され、米軍は撤退した。【ウィキペディア】
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そうしたキルギスに関する(ほとんど目立たない)ニュースを昨日目にしました。

****キリル文字からラテン文字への移行は「時期尚早」 キルギス大統領****
キルギスのサディル・ジャパロフ大統領は20日、キルギス語表記の(ロシアが使用する)キリル文字からラテン文字への変更について、時期尚早との見解を示した。背景には、トルコがテュルク語圏諸国で共通の言語空間を創ることを推進していることがある。

キルギスは旧ソ連構成国で、ロシアの同盟国でもある。

キルギス語はテュルク諸語の一つだが、旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンが強制したキリル文字を現在も使っている。

ラテン文字表記への変更はこれまでも繰り返し議論されてきたが、ロシアが昨年、ロシア語話者の保護を主張しウクライナに侵攻したことから、早急な議論が求められている。

ジャパロフ大統領は国語政策委員会の委員長に対して、「キルギス語のラテン文字への移行を議論するのは時期尚早」だとし、キリル文字の使用を継続すべきだと述べた。

ラテン文字を使用しているトルコは、テュルク語圏である中央アジアの旧ソ連構成国と共通の言語空間を創ろうとしている。

カザフスタンなど中央アジアの複数国は、すでにラテン文字表記への移行を進めている。ロシアによる支配の象徴と言える絆を断ち切ろうとしている国がある一方、移行に難航している国もある。 【4月21日 AFP】
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トルコは中央アジアのテュルク語圏諸国のリーダー的地位を目指していますが、「それだったら、中国・ウイグル族の問題に関して、中国に対してもっと毅然とした対応をとったら?」という話は、これも別機会に。

前述のようなキルギスの政治体制・バランス外交を考慮すれば、他の中央アジア諸国以上に“ロシア離れ”が進んでもよさそうに思えますが、「(ロシア離れを明確にする)ラテン文字への移行を議論するのは時期尚早」という大統領判断の背景に何があるのか?

【中央アジアで進む“ロシア離れ” ウクライナ侵攻で加速】
中央アジア諸国はこれまでも、“ロシア離れ”の独自性強調が進んでいましたが、特にロシアのウクライナ侵攻以降はその流れが加速していることは、2022年10月15日ブログ“旧ソ連諸国のロシア離れ プーチン大統領への苦言が相次いだロシアと中央アジア5カ国の首脳会議”でも取り上げました。

タジキスタンのラフモン大統領は昨年10月、カザフスタンの首都アスタナで開かれたロシアと中央アジア5カ国の首脳会議で、プーチン露大統領に対し、「旧ソ連時代のように中央アジア諸国を(属国のように)扱わないでほしい」と述べたと報じられています。

そうしたなかで、旧ソ連構成国ウクライナの状況は、中央アジア諸国の目には“明日は我が身”とも映ります。

****プーチン氏目算に狂い、中央アジア諸国冷ややか****
ウクライナ侵攻で対ロ関係見直し、米国などに接近

ロシアは今年初め、反政府デモが暴徒化していたカザフスタンに対して、2000人余りの部隊を派遣し鎮圧に当たらせた。その6週間後、ロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、カザフには侵攻への支持を表明してロシアに恩返しする機会が訪れた。 だが、カザフはそうしなかった。

カザフをはじめ、ロシア南部と国境を接する中央アジア諸国は、侵攻に対して中立な立場を維持。旧ソ連圏諸国でロシアへの全面的な支持を表明しているのはベラルーシのみだ。

カザフは西側の対ロシア制裁を履行すると確約。ロシアを迂回(うかい)したルート経由で欧州への石油輸出を拡大するとし、国防費の増強にも動いた。これに加え、カザフを自国の勢力圏に引き込みたい米国からの訪問団を受け入れた。

カザフがロシアと距離を置き始めたことは、ウラジーミル・プーチン露大統領にとって想定外の展開だ。(中略)

だが、カザフと共通点も多い旧ソ連のウクライナをロシアが侵攻したことで、その関係は変わりつつある。カザフは外交政策におけるロシア重視の姿勢を見直すとともに、米国やトルコ、中国などに接近している。現・旧カザフ当局者や議員、アナリストらへの取材で分かった。

こうした動向が鮮明になったのが、プーチン氏がサンクトペテルブルクで6月に開催した年次経済フォーラムだ。カザフのカシムジョマルト・トカエフ大統領はプーチン氏と共に出席した壇上で、親ロ派武装勢力が一方的に独立を宣言したウクライナ東部ドンバス地方の2地域を国家として認識しなかった。(中略)

カザフはロシアの怒りを買いかねない反戦デモを禁止する一方で、ロシアで戦争への支持を表明するシンボルとなった「Z」のサインを掲げることは違法とした。

カザフのサヤサト・ヌルベク国会議員は、友人同士であるシマリスとクマに関する童話を引き合いに出して、自国の立場を説明した。童話は、クマは機嫌が良い時にシマリスの背中をやさしくなでたが、爪で擦り傷が残り、それがシマリスのしま模様となって残ったという内容だ。

ヌルベク氏は「クマを友人に持つ場合、たとえ親友であっても、クマが上機嫌であっても、常に背後に注意せよというのがこの童話の教訓だ」と話す。(中略)

カザフとロシアの溝が深まりつつある最初の兆候が顕在化したのが、ロシアに侵攻の即時停止を求める3月初旬の国連決議案の採決だ。カザフは反対こそしなかったが、棄権した。その数日後には、ボーイング767型機でウクライナに28トン余りの医療支援物資を輸送するなど、何度か支援物資をウクライナに届けている。

中央アジア諸国で唯一、ロシアと国境を接するカザフでは、侵攻後にこうした脅しへの警戒がにわかに高まった。キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンはすべてカザフの南に位置する。そのいずれも侵攻を支持しておらず、ウズベキスタンは公の場で、親ロ派勢力が独立を宣言したドンバス地方の共和国は認めないと表明した。(中略)

西側諸国では、ウクライナ侵攻でロシア軍が「張り子の虎」であることが露呈したとの指摘も聞かれる。しかし、中央アジアのある国の高官は、ロシアの野心に対する恐怖は深まる一方だと明かす。

「ロシアが多くの国に対処し、東欧諸国やウクライナをいじめているうちは別だ」とした上で、その人物はこう語った。「虐待の相手としてウクライナが消えたらどうなるか想像してほしい。次はわれわれの番だろうか?」【2022年7月26日 WSJ】
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【繰り返すキルギス・タジキスタンの国境紛争 明らかになったロシアの影響力の限界】
こうした“ロシア離れ”の加速のなかで、キルギスにとってロシアとの関係が特に注目されたのは、アルメニア・アゼルバイジャンの紛争があった同時期、中央アジアでもキルギスとタジキスタンという旧ソ連構成国同士の紛争があったことによります。

****なぜ中国もロシアも手を出せない? 世界が知らぬうちに激化した中央アジア「戦争」の戦況****
<知られざるキルギスとタジキスタンの衝突。ソ連崩壊後の中央アジアで最大規模となった軍事衝突を止める方法は?>

中央アジアのキルギスとタジキスタンの国境地帯で9月半ば、両国の治安当局による武力衝突が起きた。一旦は停戦合意らしきものが結ばれたが、すぐに戦闘は再開した。

タジキスタン軍はキルギス南部のオシ州まで入り込み、橋や住宅地を爆撃したとされる。さらに隣のバトケン州にも踏み込み、地元の小学校を占拠し、タジキスタンの国旗を掲揚したとされる。バトケン州はキルギスの西端に位置し、北・西・南の三方をタジキスタンに囲まれている。

この衝突は、1991年のソ連崩壊で中央アジア諸国が独立を果たして以来、この地域で起きた最も大規模な国家間の武力衝突となった。キルギスでは市民を含む62人以上が死亡し、198人が負傷し、約13万6000人が避難する事態となった。タジキスタン側も、市民を含む41人の死亡が確認されたという。

キルギス側は、これはタジキスタンによる計画的な戦争行為だと非難し、タジキスタン側はキルギスによる侵略と人権侵害を主張している。

この衝突が起きたとき、バトケンから320キロ北西に位置するウズベキスタンの古都サマルカンドでは、中国とロシア主導の地域協力組織である上海協力機構(SCO)の首脳会議が開かれていた。

つまり、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領はもちろん、タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領と、キルギスのサディル・ジャパロフ大統領も同じ会議に出席していたのだ。

だがそこで両国の国境紛争が話題になることはなかった(ラフモンとジャパロフは別席で話し合いをしたとされる)。

SCOにもCSTOにも紛争解決の能力なし
なぜか。それはSCOの目的が、中央アジアにおける中国の安全保障上の利益(と一帯一路構想)を促進することであって、この地域諸国の対立を解決することではないからだ。

キルギスとタジキスタンは、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)にも参加しているが、CSTOも基本的には、加盟国間の紛争には介入しない。唯一、今年1月に燃料費高騰をきっかけとするデモ鎮圧を支援するため、カザフスタンにCSTOの平和維持部隊が派遣された。

今回のキルギスとタジキスタンの衝突を受け、CSTOは外交的仲介を申し出た。ロシアとしては、中央アジア諸国がロシアの庇護抜きで結束するのも困るが、お互いのいがみ合いが行きすぎて不安定の源泉になるのも困る。

タジキスタンのラフモンはロシア政府と親しい関係にあるから、CSTOはラフモンのキルギス侵攻に待ったをかけられない、との見方がキルギスでは強い。実際、プーチンはウクライナ侵攻後初の外遊先としてタジキスタンを選び、ラフモンと会談した。(中略)

キルギスでは、ロシアのウクライナ侵攻を明確に支持せず、中立の立場を維持してきたために、プーチンは助けてくれないのではないかと悲観する声もある。

キルギスとタジキスタンの国境地帯での緊張拡大は今に始まったことではない。小競り合いは日常的で、昨年4月には民間人40人余りが死亡、200人以上が負傷した。

こうした状況には多くの要因が働いている。ソ連時代、フェルガナ盆地(ウズベキスタン東部を中心にキルギスとタジキスタンにまたがる)の国境が未画定だった結果、地理が複雑に。タジキスタンとキルギスは約970キロにわたって国境を接しているが、画定しているのはその半分のみ。タジキスタンの飛び地2つがキルギスにあって両国間の緊張要因となっている。

国境問題を人気取りに利用する両国政府
だが真の問題は近代政治に起因する。キルギスでもタジキスタンでも政権が国境問題を内政に利用しているのだ。

タジキスタンは独裁政権、キルギスはポピュリスト政権と政治体制は大きく異なるが、どちらも国境問題に対しては交渉による平和共存を模索するのではなく、ポピュリスト的アプローチを取ってきた。

キルギスのジャパロフは昨年の大統領選に先立って支持を固めるために国境問題の解決を約束。一方タジキスタンのラフモンは政権を中心に国を結束させるために拡張主義のレトリックを用いている。(中略)

ラフモンは90年代の内戦以降30年近くタジキスタンを統治してきた。投獄や国外追放、殺害という形で反対勢力を一掃。近い将来、息子に権力を移譲する意向とも伝えられている。国境とタジク人を守るという名目でキルギスとの紛争をエスカレートさせれば、世襲に備えて軍と官僚に対する支配を強化するのに役立つ。
地域の不安定化は中ロとも望まない
一方、キルギスの政権は確立されたばかりでタジキスタンに比べ独裁色は薄い。ジャパロフ陣営はポピュリスト的政策を掲げて昨年の選挙で勝利。領土主権と国境警備を優先課題とし、トルコの軍用ドローンとロシアの装甲兵員輸送車を購入して軍事力のてこ入れを図った。

当事国が小国であっても、中央アジア情勢が不安定さを増すことはロシアも中国も望んでいない。だが強い経済的影響力を持つ両国でも中央アジアでの紛争は阻止できない。それどころか、キルギスとタジキスタンの衝突はSCOもCSTOも加盟国間の緊張を阻止できないことを露呈した。(中略)。【2022年10月12日Newsweek】
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【ロシアの力への期待も捨てきれない?】
キルギスもロシアに対する警戒はありますが、この地域の安定装置としてのロシアの力への期待もあります。
ロシアは、キルギスに空軍基地を、タジキスタンには数千人規模の部隊を置いています。

****キルギス、ロシアに支援要請 タジクとの国境紛争で****
中央アジア・キルギスのサディル・ジャパロフ大統領が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、隣国タジキスタンとの国境紛争解決に向け支援を要請した。キルギスの国営ラジオが17日、伝えた。

国家安全保障会議のマラット・イマンクロフ副議長は、キルギス、タジキスタン両国間での問題解決は難しいと説明。「大統領はプーチン氏に支援を訴えた」と語った。

両国ともに旧ソ連構成国で、970キロにわたって国境を接している。ソ連崩壊以降、その一部をめぐり係争が続いており、軍事衝突も頻発している。

先月にも国境沿いのキルギス南部バトケン州で衝突があり、両国の治安当局によると100人近くが死亡した。

イマンクロフ氏は、旧ソ連崩壊時に国境が画定されなかったことが原因だと指摘。「ソ連の継承国はロシアであり、当時の文書や地図はモスクワで保管されている」と述べた。

タジキスタンとキルギスは共に、ロシアが主導する集団安全保障条約機構に加盟している。プーチン氏は13日に行われたCSTO会合の際、両国首脳と会談。ロシアは「仲介の役割を果たすふりはしない」とした上で、文書や地図を見て解決策を探りたいと語っていた。 【2022年10月18日 AFP】
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衝突はその後は小康状態にありますが、特別事情が好転した訳でもなく“(キルギス)バトケン州内のタジキスタンの飛び地付近では、2022年4月、6月、9月と同州北部地域を中心に両国において激しい銃撃戦が発生しました。現在は小康状態を保っていますが、いつ再発するか予想がつきません。”【外務省 海外安全情報】といった状況。

最初に取り上げた、キルギス大統領の「キリル文字からラテン文字への移行は時期尚早」という認識は、ロシアに“介入”の口実を与えると同時に、タジキスタンとの不安定な状況にあって、ロシアの支援はあまり期待はできないものの、それでも今“ロシア離れ”を明確にするのは得策ではない・・・との考えではないかと思った次第です。

いずれにしても、ロシアがかつて「勢力圏」としていた地域において、地域紛争をコントロールできない現実、そのことが“ロシア離れ”を加速させていることは、アルメニアもキルギスも同様でしょう。

ただ、ロシアのこの地域における安全保障・軍事面での圧倒的な影響力、貿易・出稼ぎ労働者という経済面でのロシア依存を考えると、中央アジア諸国にとって“ロシア離れ”というのは単純・容易な話でもありません。
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旧ソ連諸国のロシア離れ プーチン大統領への苦言が相次いだロシアと中央アジア5カ国の首脳会議

2022-10-15 23:40:49 | 中央アジア
(ロシアのプーチン大統領(左)と話すタジキスタンのラフモン大統領=13日、カザフスタン・アスタナ(ロイター)【10月15日 産経】)

【タジキスタン大統領 プーチン大統領に「属国扱いやめよ」とストレートな苦言】
個人間でも、国家間でも、面と向かって苦言を呈することは非常に厄介でもあり、腹をくくる必要もありますが、その点で印象的だったのが、下記の中央アジア・旧ソ連タジキスタンのラフモン大統領のロシア・プーチン大統領への極めてストレートなもの言いです。

この発言からは、これまで「ロシアの裏庭」とも言われてきた中央アジアにおける力関係の変化、ロシアの威信の低下が明確に見て取れます。

****タジク大統領「属国扱いやめよ」 異例のロシア批判****
中央アジアの旧ソ連構成国、タジキスタンのラフモン大統領は14日、カザフスタンの首都アスタナで開かれたロシアと中央アジア5カ国の首脳会議で、プーチン露大統領に対し、「旧ソ連時代のように中央アジア諸国を扱わないでほしい」と述べ、タジクは属国扱いではない対等な国家関係を望んでいると表明した。会議の公開部分の発言をタジクメディアが伝えた。

ロシアが「勢力圏」とみなす旧ソ連諸国の首脳が、公の場でロシアに批判的な発言をするのは異例。ウクライナ侵略を受け、旧ソ連諸国の多くがロシアから一定の距離を置こうとする動きを強めており、ラフモン氏の発言はそうした傾向の表れである可能性がある。

ラフモン氏は「旧ソ連時代、中央アジアの小国は(ソ連指導部から)関心を向けられていなかった」と指摘。「ロシアはタジクを食糧面や貿易面で支援してくれているが、その半面、対等な態度も示していない」と述べた。「多額の資金援助はいらない。われわれを尊重してほしい」と語り、ロシアは旧ソ連時代のような小国軽視の政策をとるべきではないと訴えた。

会議ではカザフのトカエフ大統領も、旧ソ連圏での国境問題は「平和的手段で解決されるべきだ」と述べ、ウクライナ侵略に否定的な考えを示した。

ロシアと中央アジア5カ国の首脳会議は、14日にアスタナで開かれた旧ソ連構成国でつくる独立国家共同体(CIS)の首脳会議に合わせて実施された。【10月15日 産経】
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後述のようにウクライナ侵攻を機に“ロシア離れ”が進む中央アジア諸国にあって、タジキスタンはこれまでは比較的ロシアを支持する姿勢をとってきましたが、そのタジキスタン大統領が「属国扱いをやめて尊重して欲しい」・・・

互いの立場を考慮した玉虫色の発言、あるいは逆に非難の応酬等が多い外交関係で、これほどストレートな表現も珍しいのでは。プーチン大統領がどのような顔でこの発言を聞き、どのように答えたのか知りたいものです。

【プーチン大統領 国際的孤立化を食い止めるため旧ソ連諸国の結束を図ろうとするが・・・】
プーチン大統領にとって悩みの種は尽きませんが、苦戦が伝えられるウクライナでの戦局、それと平行して強まる(そこから生じると言うべきか)国内の部分動員体制の混乱などに加え、国際的な孤立もまた悩ましい問題です。

****国連総会、ロシアの「併合」非難決議を採択 賛成は143カ国に****
国連総会(加盟193カ国)は12日の緊急特別会合で、ロシアによるウクライナ東・南部4州の一方的な併合を「違法だ」として非難し、無効を宣言する決議案を143カ国の賛成多数で採択した。反対はロシアなど5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国だった。
 
国連総会は今年3月、ロシア軍の即時撤退を求める非難決議を採択した。141カ国が賛成し、反対は5カ国、棄権は35カ国だった。

その後の戦況が長期化の様相を呈し、アフリカ諸国など一部の加盟国には「ウクライナ疲れ」も指摘されていたが、賛成は3月の決議から2カ国増えた。

国連憲章が定める「領土の一体性と政治的独立」を武力で覆そうとするロシアの孤立ぶりが改めて浮き彫りになった形だ。(中略)

国連総会は2014年3月、今回と同様にロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合を認めない決議を賛成100、反対11、棄権58で採択している。今回の賛成はこれも大きく上回った。

決議案は欧州連合(EU)が作成を主導し、ウクライナが提出した。日本も共同提案国に名を連ねた。反対は他にベラルーシ、北朝鮮、ニカラグア、シリア。棄権は他に南アフリカやエチオピア、タイ、ベトナムなど。【10月13日 毎日】
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国際的な影響力を有する中国・インドが棄権していることや、今後アフリカ諸国など「グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)」で「ウクライナ疲れ」が表面化してくることも懸念されるなど、必ずしも欧米側が手放しで喜べる状況でもありませんが、ロシア・プーチン大統領に、ウクライナ侵攻・力づくの領土併合への風当たりがやはり非常に強いことを改めて認識させる結果でもありました。

そうした厳しい国際状況にあって、プーチン大統領が先ず頼るのは軍事・貿易・出稼ぎ労働者などで関係が深く、ロシアの影響力も強い「勢力圏」とも言える旧ソ連諸国です。

しかし、そこにあってもロシアの威信・影響力低下は顕著で、国連総会での数字より、「身内」「勢力圏」とロシアが見なしてきた地域での変化の方がプーチン大統領にとっては深刻かも。

今月7日には、プーチン大統領が70歳の誕生日を迎えたということで、旧ソ連圏の独立国家共同体(CIS)の非公式首脳会議として、故郷のサンクトペテルブルクに旧ソ連構成国の首脳を集めて異例の会議を開催しました。ウクライナ侵攻で深まる孤立イメージの払拭を狙ったとみられています。

“ベラルーシを除く各国はウクライナ侵攻を支持しておらず、ウクライナ4州の「併合」も認めないなど、「ロシア離れ」がじわりと広がっている。それだけに、「孤立イメージ」の回避を狙って強引に会議を開いた可能性もある。”【10月8日 日系メディア】とも。

そして同月14日には、カザフスタンの首都アスタナで正式な独立国家共同体(CIS)の首脳会議が開催されました。

****旧ソ連諸国に結束求める プーチン氏、孤立回避へ躍起****
ロシアのプーチン大統領は14日、カザフスタンの首都アスタナで、旧ソ連諸国で構成される独立国家共同体(CIS)の首脳会議に出席した。

プーチン氏は、第二次世界大戦終結から80年となる2025年に「ナチズムに対する団結」をCISが宣言するよう提案した。ウクライナ侵略について、ロシアは「勢力圏」とみなす旧ソ連諸国の大半から支持を得られていない。プーチン氏は旧ソ連諸国に結束を確認させ、ロシアの孤立化を防ぐ思惑だ。

プーチン氏は「旧ソ連の諸国民がナチスから人類を救った」と主張し、CISがその歴史的功績を再確認すべきだと述べた。プーチン氏の提案に各国も同意した。プーチン氏はウクライナ侵略を「ネオナチとの戦い」だとしており、ロシアから距離を置く各国に軍事行動への理解を求める意図もあるとみられる。

12日、ロシアのウクライナ4州併合を非難した国連総会の決議案採決では、CIS諸国で反対票を投じたのがロシアとベラルーシのみだった。モルドバは賛成し、その他は棄権した。

また、CIS内では9月、アゼルバイジャンとアルメニア、キルギスとタジキスタンの間で武力衝突も発生した。ロシアがウクライナ侵略に力をそがれ、求心力を低下させていることが背景にあるとみられる。

CIS首脳会議には、モルドバを除く加盟・準加盟9カ国の首脳が出席。テロ抑止策で各国の協力を深めるとした共同文書などが採択された。【10月14日 産経】
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【旧ソ連諸国同士の紛争をコントロールできないロシア 威信・影響力低下が明らかに】
ロシアが旧ソ連諸国をコントロールできなくなっていることを端的に示す事例が、9月に行われた中ロが主導する上海協力機構(SCO)首脳会議直前にアルメニアとアゼルバイジャン、キルギスとタジキスタンという参加国同士の国境紛争が起きたことです。

****上海協力機構、参加国間で紛争 ウクライナ侵攻でロシア影響力低下****
中ロが主導する上海協力機構(SCO)首脳会議は(9月)16日、ウズベキスタンの古都サマルカンドで2日間の日程を終えた。イランの正式加盟も決まり、採択された首脳宣言は「SCO拡大は地域安定に寄与する」と結束を強調した。

しかし、現実には開幕直前からアルメニアとアゼルバイジャン、キルギスとタジキスタンという参加国同士の国境紛争が起き、不安要素が残った。

「情勢悪化を非常に懸念している」。プーチン大統領は16日、サマルカンドで会談したアゼルバイジャンのアリエフ大統領に訴えた。SCO首脳会議を欠席したアルメニアのパシニャン首相とは事前に電話で協議しており、双方に自制を呼び掛けた形だ。

13日に再燃した両国の係争地ナゴルノカラバフの紛争は沈静化に向かったが、戦死者はアルメニア側135人、アゼルバイジャン側80人の計215人に上った。

キルギスとタジクは14日から国境地帯で交戦。相手による攻撃で始まったと非難し合った。ロシア紙コメルサントによると、衝突は「過去12年間で150件以上」と珍しくないが、SCO首脳会議に合わせてキルギスのジャパロフ、タジクのラフモン両大統領が急きょ会談する事態に。18日までにキルギス側46人、タジク側38人の計84人が死亡した。

衝突したのはいずれも旧ソ連構成国。ロシア軍は、ウクライナ侵攻が長期化し、戦闘による死傷者が「7万~8万人」(米国防総省)とも推計される。ロシアはナゴルノカラバフに派遣した平和維持部隊などからも兵士をかき集めていると言われ、それが地域の不安定化につながっているもようだ。

米シンクタンクの戦争研究所は15日、プーチン政権が2月に侵攻開始後、「旧ソ連圏に駐留するロシア軍部隊の大半が流出した」と指摘した。

ロシアは今も勢力圏と見なすアルメニアやキルギス、タジクなどに在外基地を置くが、戦争研究所は引き揚げの動きが「旧ソ連圏でロシアの影響力を低下させるとみられる」と分析した。【9月18日 時事】
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****旧ソ連諸国で衝突相次ぐ 背景にロシアの威信低下か****
南カフカス地方と中央アジアの旧ソ連構成国の間で9月中旬、相次いで大規模な衝突が発生した。旧ソ連圏の盟主を自任するロシアは地域の不安定化を危惧し、情勢の正常化を呼び掛けたが、緊張は現在も続く。ロシアがウクライナ侵攻に苦戦し、威信を低下させたことが相次ぐ衝突の要因となった可能性がある。(中略)

プーチン露大統領は、同時期のウズベキスタンでの上海協力機構(SCO)首脳会議などを通じ、衝突した4カ国の首脳と協議。対話での解決を求めつつも、中立的な立場に終始した。

ロシアは自身が主導する「集団安全保障条約機構」(CSTO)を通じてアルメニア、キルギス、タジクと同盟を結ぶ一方、アゼルバイジャンとも友好関係にある。紛争当事国の一方に肩入れするのは避けたいのが本音だ。ウクライナ侵攻に追われ、介入する余力にも乏しい。

事実、アルメニアは今回の衝突でCSTOに介入を求めたが、CSTOは事実上拒否した。タスによると、同国では18日、CSTO脱退を求めるデモが発生。ロシアの求心力の低下が浮き彫りになった。

一方、ブリンケン米国務長官は19日、アルメニア、アゼルバイジャン両外相とニューヨークで会談した。露メディアからは「米国はロシアの代わりに調停を主導し、ロシアの影響力をそごうとしている」と警戒する見方も出ている。【10月3日 産経】
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キルギスも隣国タジキスタンとの国境紛争をめぐり、9月にCSTOへ介入を要請しましたが、交渉での解決を提案されただけだったとのこと。

軍事介入に応じない(できない)、解決への指導力を発揮しない(できない)ロシアに対し、CSTO加盟国の不満も募っています。

【ロシアへの「借り」を返すことなく距離をおくカザフスタン 旧ソ連諸国にとっては「明日は我が身」】
そうした旧ソ連諸国・中央アジア諸国の中でもロシアにとってとりわけ重要な地域大国・資源大国がカザフスタン。

ロシア系民族が2割を占め、従来はロシア語など文化的つながりも強く、プーチン大統領とナザルバエフ前大統領の信頼関係も。

カザフスタンで燃料価格の値上げを機に年明けから大規模な抗議活動が起きて全土に拡大した際に、わずか数日でロシアが「平和維持部隊」の派遣を決めたのも、カザフスタンがロシアにとって「特別な存在」であるからとされています。 そのカザフスタンでもロシア離れが進んでいます。

****プーチン氏目算に狂い、中央アジア諸国冷ややか****
ウクライナ侵攻で対ロ関係見直し、米国などに接近

ロシアは今年初め、反政府デモが暴徒化していたカザフスタンに対して、2000人余りの部隊を派遣し鎮圧に当たらせた。その6週間後、ロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、カザフには侵攻への支持を表明してロシアに恩返しする機会が訪れた。 だが、カザフはそうしなかった。

カザフをはじめ、ロシア南部と国境を接する中央アジア諸国は、侵攻に対して中立な立場を維持。旧ソ連圏諸国でロシアへの全面的な支持を表明しているのはベラルーシのみだ。

カザフは西側の対ロシア制裁を履行すると確約。ロシアを迂回(うかい)したルート経由で欧州への石油輸出を拡大するとし、国防費の増強にも動いた。これに加え、カザフを自国の勢力圏に引き込みたい米国からの訪問団を受け入れた。

カザフがロシアと距離を置き始めたことは、ウラジーミル・プーチン露大統領にとって想定外の展開だ。旧ソ連崩壊以降、ロシアは長年にわたり、軍事・経済関係を通じて中央アジア全般で旧ソ連圏諸国への影響力を維持してきた。その最たる例が西欧よりも広い国土を持つ産油国のカザフだ。ロシアとカザフは4750マイル(約7600キロ)にわたって国境を接しており、その長さは米国・カナダに次ぐ世界第2位だ。

だが、カザフと共通点も多い旧ソ連のウクライナをロシアが侵攻したことで、その関係は変わりつつある。カザフは外交政策におけるロシア重視の姿勢を見直すとともに、米国やトルコ、中国などに接近している。現・旧カザフ当局者や議員、アナリストらへの取材で分かった。

こうした動向が鮮明になったのが、プーチン氏がサンクトペテルブルクで6月に開催した年次経済フォーラムだ。カザフのカシムジョマルト・トカエフ大統領はプーチン氏と共に出席した壇上で、親ロ派武装勢力が一方的に独立を宣言したウクライナ東部ドンバス地方の2地域を国家として認識しなかった。(中略)

トカエフ氏はロシア訪問時に出演した国営テレビで、カザフはロシアの制裁違反を手助けすることはしないが、ロシアの重要な同盟国にとどまるとの考えを強調。「カザフスタンが同盟国の義務を放棄することは決してない」と言明した。

これが極めて微妙なかじ取りであることは明らかだ。カザフはロシアの怒りを買いかねない反戦デモを禁止する一方で、ロシアで戦争への支持を表明するシンボルとなった「Z」のサインを掲げることは違法とした。

カザフのサヤサト・ヌルベク国会議員は、友人同士であるシマリスとクマに関する童話を引き合いに出して、自国の立場を説明した。童話は、クマは機嫌が良い時にシマリスの背中をやさしくなでたが、爪で擦り傷が残り、それがシマリスのしま模様となって残ったという内容だ。

ヌルベク氏は「クマを友人に持つ場合、たとえ親友であっても、クマが上機嫌であっても、常に背後に注意せよというのがこの童話の教訓だ」と話す。

カザフとロシアの溝が深まりつつある最初の兆候が顕在化したのが、ロシアに侵攻の即時停止を求める3月初旬の国連決議案の採決だ。カザフは反対こそしなかったが、棄権した。その数日後には、ボーイング767型機でウクライナに28トン余りの医療支援物資を輸送するなど、何度か支援物資をウクライナに届けている。

7月初旬には、カザフ財務省が西側の制裁措置をロシアへの輸出品の一部に適用する指示案を公表した。

ロシア国内では、1月の反政府デモ鎮圧に部隊を送った後だっただけに、カザフの冷遇に反発の声が上がった。
ロシア国営テレビの司会者、ティグラン・ケオサヤン氏は4月下旬、「カザフ人よ、この恩知らずな行為を何と呼ぶのか?」と問いかけている。「ウクライナで起こっていることを注視せよ(中略)このような狡猾(こうかつ)な行為が許され、自らの身に何も起こらないと考えているなら間違いだ」

カザフの人々は長らく、こうした脅しには慣れてきた。カザフ人口の約2割はロシア系民族で、ロシアの国家主義者はかねてカザフ北部をロシアの領土だと主張してきた。ロシアが2014年にウクライナからクリミア半島を併合すると、プーチン氏は旧ソ連が崩壊するまで、カザフに独立国家としての歴史はなかったと言い放った。

中央アジア諸国で唯一、ロシアと国境を接するカザフでは、侵攻後にこうした脅しへの警戒がにわかに高まった。キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンはすべてカザフの南に位置する。そのいずれも侵攻を支持しておらず、ウズベキスタンは公の場で、親ロ派勢力が独立を宣言したドンバス地方の共和国は認めないと表明した。

中央アジア諸国とロシアの間で隙間風が吹く状況は、米国にとって、存在感が薄くなっていた地域で再び影響力を強める好機となる。(中略)

西側諸国では、ウクライナ侵攻でロシア軍が「張り子の虎」であることが露呈したとの指摘も聞かれる。しかし、中央アジアのある国の高官は、ロシアの野心に対する恐怖は深まる一方だと明かす。「ロシアが多くの国に対処し、東欧諸国やウクライナをいじめているうちは別だ」とした上で、その人物はこう語った。「虐待の相手としてウクライナが消えたらどうなるか想像してほしい。次はわれわれの番だろうか?」【7月26日 WSJ】
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やはり軍事進攻して、一方的に領土を併合するという行為は、旧ソ連諸国のようなロシアと近い関係にある国にとっては、“近い”からこそ「明日は我が身」という不安を煽るもので、受け入れがたいようです。

****カザフ大統領が露に苦言 プーチン氏、孤立回避に躍起****
中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は14日、旧ソ連圏での国境に関する問題は「もっぱら平和的な手段で解決されるべきだ」と述べた。カザフの首都アスタナで行われたロシアと中央アジア5カ国の首脳会議での発言。トカエフ氏は、ウクライナ侵略を続けているプーチン露大統領に苦言を呈した形だ。

露国営タス通信によると、トカエフ氏は国境問題について、「友好と信頼の精神で、さらに国際法の原則と国連憲章の順守によって解決されねばならない」とも指摘した。(後略)【10月15日 産経】
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冒頭のタジキスタン・ラフモン大統領発言といい、14日のロシアと中央アジア5カ国の首脳会議はプーチン大統領にとっては「針の筵(むしろ)」だったようです。
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カザフスタン  ロシア主導のCSTO平和維持部隊介入でロシアとの微妙なバランスに変化の可能性

2022-01-07 22:51:12 | 中央アジア
(握手するカザフスタンのトカエフ現大統領(左)とプーチン氏(2019年11月)【1月7日 WSJ】)

【トカエフ大統領  強硬姿勢で秩序「基本的に回復」か】
昨日ブログ“カザフスタン 拡大する反政府デモ ロシア主導の軍事同盟が介入を発表 実力者の前大統領は失脚か”でも取り上げた、燃料費高騰に端を発するカザフスタンでの反政府行動は、トカエフ大統領の“警告なしの射殺”も許可する強硬な排除姿勢によって、デモ参加者に26名の死者を出しながらも一応の鎮静化の方向にあるようです。

****カザフスタン、デモ隊26人死亡 治安部隊が「特殊作戦」で一掃****
タス通信は7日、抗議デモが拡大した中央アジア・カザフスタンでデモ参加者26人が死亡したと報じた。地元メディアを引用して伝えた。デモ隊側の死者は数十人と伝えられていたが、具体的な人数が明らかになるのは初めて。
 
治安当局はデモ隊を一掃する「特殊作戦」を5日夜から実施した。カザフ内務省によると治安部隊側の死者は18人。
 
タスによると、治安当局は3千人以上を拘束し、デモ隊が占拠した行政庁舎など全ての建物を管理下に置いた。【1月7日 共同】
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****カザフ大統領、デモ隊は「テロリスト」 さらなる騒乱に射殺命令****
中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は7日、デモ参加者を「無法者」や「テロリスト」と呼んだ上で、さらなる騒乱が起きれば射殺するよう命じたと表明した。

燃料価格高に端を発した抗議デモが全国的に広がってから1週間が経過するなかテレビ演説し、最大2万人の「無法者」が主要都市アルマトイを襲い、国有財産を破壊したと述べた。

その上で、「対テロリスト」作戦の一環として、法執行機関と軍隊に「警告なしに射殺する」よう命じたと表明。「武装勢力は武器を捨てておらず、犯罪を継し続け、あるいは準備している。この勢力との戦いは最後まで続ける必要があり、投降しない者は誰であろうと粉砕する」と語った。

大統領はまた、デモ隊との話し合いを求める訴えを拒否。「愚かだ。犯罪者や殺人者とどのような話し合いができるというのか」と述べた。

さらに、ロシアのプーチン大統領をはじめ、中国、ウズベキスタン、トルコの首脳の支援に感謝の意を示した。【1月7日 ロイター】
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****カザフ大統領、秩序「基本的に回復」=デモ武力鎮圧****
中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は7日、反政府デモを治安当局が武力鎮圧している状況をめぐり、「全ての地域で憲法上の秩序が基本的に回復している」と表明した。治安当局幹部らが参加した会合で語った。
 
トカエフ氏は「法執行機関が懸命に働いている」と述べ、各地の機関が状況を掌握していると強調した。デモ隊を「テロリスト」と表現し、「依然として武器を使用し、市民の財産に損失をもたらしている」と非難。「武装した戦闘員が完全に排除されるまで対テロ措置を続けなければならない」と訴えた。

タス通信は7日、地元テレビを引用し、デモ参加者の26人が殺害され、拘束者が計3000人以上に達したと伝えた。デモ参加者の死者はこれまで「数十人」とされていた。

治安当局は6日に最大都市アルマトイでデモの武力鎮圧を進め、中心部の広場からデモ隊を排除した。しかし、アルマトイでは7日も銃撃戦が続いており、死者はさらに増える恐れがある。【1月7日 時事】 
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【ロシアが主導する軍事同盟の介入】
この過程で、ロシアが主導する軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)の平和維持部隊がトカエフ大統領からの支援要請を受けて派遣されました。

****ロシア軍事同盟がカザフスタン介入、平和維持部隊を派遣へ****
ガス価格の値上げを機に全土に抗議活動が広がり、非常事態宣言が発令された中央アジアのカザフスタン情勢で、アルメニアのパシニャン首相は5日、ロシアが主導する軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)が平和維持部隊をカザフスタンへ派遣すると発表した。

CSTOは旧ソ連構成国で組織するもので、現在の議長国はアルメニアとなっている。

同首相の声明によると、カザフスタンの国内情勢の安定化を図る平和維持部隊の派遣期間は限定されている。派遣は、カザフスタンのトカエフ大統領からの支援要請を受けた形となっている。(後略)【1月6日 CNN】
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****デモ参加者数十人死亡、ロシア軍事同盟は鎮圧支援を開始 カザフスタン****
燃料価格引き上げを機に全土に抗議活動が広がった中央アジア・カザフスタンで、最大都市アルマトイの警察当局者は6日、一連の衝突でデモ参加者数十人が死亡、数百人が負傷したと明らかにした。同国に派遣されたロシア主導の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)はデモ鎮圧を支援する作戦を開始している。(後略)【1月7日 CNN】
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このロシア空挺部隊を含む平和維持部隊が、どのくらいの規模で、どのような活動を現地で行っているのかについては、よく知りません。

サキ米大統領報道官は6日の会見で、カザフスタン政府によるロシア軍部隊の派遣要請が正当なものかどうかについて「疑問を持っている」と表明。現段階で判断できないとしつつ、人権侵害などが起きないか、国際社会はロシア軍の動向を警戒していると強調しました。

****米大統領報道官、ロシア主導部隊のカザフ派遣経緯に疑問****
 米ホワイトハウスのサキ報道官は6日の会見で、抗議デモで混乱する中央アジアのカザフスタンにロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が派遣されたという報告を注視していると述べた上で、CSTOが部隊派遣を決めた経緯には疑問があるとの考えを示した。

カザフの主要都市アルマトイで6日、燃料価格高に端を発する抗議デモの参加者が再び治安部隊と激しく衝突した。CSTOはデモ鎮圧への支援要請に応じ部隊派遣を決め、ロシアは空挺(くうてい)部隊を送り込んだ。

サキ氏は「(カザフによる)要請の性質や、正当な招請だったかどうかに疑問がある。現時点では不明だ」と述べた。

その上で、米政権は人権侵害やカザフ国内機関差し押さえにつながる恐れのあるあらゆる行動を注視すると説明した。

米国務省によると、ブリンケン国務長官は6日、カザフのトレウベルディ外相と会談。「米国はカザフスタンの憲法上の制度とメディアの自由を全面的に支持することを改めて伝えたほか、平和的かつ権利を尊重した危機の解決を提言した」という。【1月7日 ロイター】
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アメリカの“疑問”が何に基づくものかは知りませんが、今のところは、カザフスタンのトカエフ大統領からの支援要請を受けて派遣されたということに関する反証は報じられていません。

【ロシアに従順姿勢をとりながら、ロシアの影響を薄めるよう尽力してきたナザルバエフ前大統領 「トカエフ大統領は一夜にしてこれを損った」】
ただ、今回の混乱が短期的に封じ込まれたとしても、トカエフ大統領からの支援要請を受けてロシア軍が派遣されたということは、長い視点で見ると非常に大きな意味を持ちます。

失脚も報じられているナザルバエフ前大統領は強権的支配者ではありましたが、カザフ人のアイデンティティーを強化し、ロシアの歴史的な影響を薄めるよう尽力してきました。

トカエフ大統領の介入要請は、「トカエフ大統領は一夜にしてこれを損った」ことにもなります。
ナザルバエフ前大統領がこの件を了解していたのか・・・知りません。
反対したので安全保障理事会議長を解任されて失脚したのか・・・知りません。

ロシア軍の今後の動向次第では、カザフスタンの民族主義者を刺激する可能性もあります。
また、今後のカザフスタンとロシアの関係がどのように変化するのかも注目されます。

****カザフ暴動とロシアの介入、微妙な関係に亀裂も****
ロシアは軍部隊を派遣 情勢が一気に緊迫化する恐れも

ヌルスルタン・ナザルバエフ氏はカザフスタンの初代大統領に就任した1990年以降、両にらみの路線で国家運営を行ってきた。
 
国内では、カザフ人のアイデンティティーを強化し、ロシアの歴史的な影響を薄めるよう尽力してきた。しかしながら、外交・国防政策に関しては、ロシア政府に従順な姿勢を示し、カザフスタンは常に戦略的な同盟国であり続けるとロシアに確約した。
 
こうした微妙なかじ取りはカザフスタンにとって奏功していた――これまでは。

ロシアはカザフスタン内の複数の親ロシア派地域において、表だって分離・独立の動きを促進しようとしたことはない。これは他の旧ソ連圏の隣国に対して総じてみせている態度とは一線を画す。

カザフスタンは石油・ガス収入のおかげで、国民当たりの国内総生産(GDP)水準でマレーシアやメキシコにほぼ匹敵しており、国家として今後も安泰で、存続できるとの印象を強めていた。
 
ところが、ここ1週間に起こった流血の暴動により、従来のあらゆる前提が試される局面を迎えた。
 
ナザルバエフ氏は、2019年に大統領職を退いた後も、同国の安全保障理事会の議長として多大な影響力を維持してきたが、カシムジョマルト・トカエフ大統領によって今週、その要職から解任された。

トカエフ氏がまず着手した事柄の一つが、ロシアに対して平和維持部隊を派遣するよう依頼することだった。ウラジーミル・プーチン大統領は要請を快諾した。

暴徒化した市民の抗議デモが拡大し、カザフスタンが国家として予想外のぜい弱さを露呈する中、ロシアの軍事介入はこれまでにない重大な要素を今回の危機にもたらした。

地政学的な意味合いも宗教的な影響もない、単に燃料価格の引き上げに対する地元市民の反発が生んだ国内の衝突が、ここにきて一段と危険な事態へと発展する恐れが出てきたのだ。
 
政治リスクコンサルティング会社プリズム(ロンドン)の中央アジア担当アナリスト、ケート・マリンソン氏は「ナザルバエフ氏が権力を握っていた30年間に達成した偉大な功績の一つは、カザフスタンの国家主権を定着させたことだった」と指摘する。

「トカエフ大統領は一夜にしてこれを損ない、愛国的な傾向を強めるカザフ人を侮辱した。そのため、ロシア軍がカザフ人を攻撃する構えをみせれば、安保情勢が一気に緊迫する恐れがある」
 
カザフスタンが国家として独立した1991年、民族的なカザフ人は母国にありながら少数派だった。飢饉(ききん)の影響に加え、旧ソ連時代にロシア人をはじめ他民族が大量に入植してきた結果だ。

ナザルバエフ氏はロシア人が多く住む北部にカザフ人を移住させることに注力し、首都もアルマトイから北部のアスタナに移転。テュルク語族系のカザフ語を話すよう奨励した。現在でもカザフ北部・東部の複数の地域はロシア系が圧倒的に多いが、カザフの人口全体に占めるロシア系の比率は18%と、独立時から半減した。
 
こうした取り組みのすべてが、かねてロシアの国家主義者による標的となっていた。例えば、アルマトイ出身の扇動政治家であるウラジーミル・ジリノフスキー議員は常々、カザフスタンの大部分をロシアに併合するよう唱えている。

ところがプーチン氏は長らく、こうした主張を退けてきた。ウクライナに侵攻しクリミア半島を併合した直後の2014年8月、プーチン氏はカザフスタンで国家主義の機運が高まるリスクについて問われ、ナザルバエフ氏は賢明な判断を下しているとして、称賛する余裕を示してみせた。
 
一方で、不吉な予感のする「お世辞」も忘れなかった。プーチン氏は当時、ナザルバエフ氏は「非常にユニークなことをやってのけた――彼は独立国家の状態を一度も知らない領土に国家を構築したのだ」と述べていた。「カザフ人は一度も自ら国家を有したことがない」
 
15世紀に「黄金の大群(モンゴル帝国)」の分裂によって生まれ、約4世紀後にロシア帝国によって吸収されるまで続いたカザフ・ハン国の子孫であることを誇りに思うカザフ人にとって、今後の行方は明確だ。つまり、国家の独立と領土保全は、ナザルバエフ氏のようなロシアに忠実な指導者が実権を握る限りにおいてしか、保証されないというものだ。
 
前出のマリンソン氏は「カザフ人の頭上にはダモクレスの剣(迫る危機)がぶらさがっており、ロシアはいつでも兵士を送り込むことができると考えている」と述べる。
 
政権与党「統一ロシア」の議員はその点をあからさまに強調している。ビャチェスラフ・ニコノフ議員は2020年12月、国内テレビ局に対して「カザフスタンは一度も存在したことがない。カザフスタンの領土はロシアとソ連からの巨大な贈り物だ」と述べている。

今月には統一ロシアの別の議員、サルタン・ハムザエフ氏が「歴史的な母国ロシア」にカザフスタンを再統合するため、国民投票の実施を求めた。
 
シンクタンク、ロシア外交問題評議会のトップ、アンドレ・コルタノフ氏は、ロシア政府関係者で目下、カザフスタンの一部併合を望んでいる者はいないと話す。

ロシアの目的は、2020年のベラルーシ、2013年終盤のウクライナで起こった危機時のように、自国寄りの政権が確実に存続し、旧ソ連圏で民主化運動が政権を倒した「カラー革命」を回避することだという。
 
「ロシア指導部にとって、優先課題は安定性であり、親ロ派の政権が生き残ることだ」とコルタノフ氏は話す。「つまり、それがどう達成されるかは、ロシア指導部にとって重要ではない」
 
ベラルーシでは、少なくとも今のところ、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領によるデモ弾圧が成功している。ウクライナではビクトル・ヤヌコビッチ大統領が革命を阻止できず、2014年にロシアに逃亡した――これがプーチン氏にクリミア半島を併合し、ドンバス地方に侵攻する口実を与えた。

コルタノフ氏は「ここで問題となるのは、トカエフがルカシェンコと同じ道を選ぶだけの政治的な意思を有しているかどうかだ」と話す。
 
その上で、弱腰ぶりを露呈し、ウクライナのような政権崩壊がカザフスタンで起これば、ロシアのカザフスタンに対する戦略的な計算は違ってくるという。

「仮にカザフスタン情勢が変化し、過激な国家主義者が政権を握るようなことがあれば、ロシアの政策もこれに応じて変わる」というコルタノフ氏。「そうなれば問題であり、異なる方法で解決されることになるだろう」【1月7日 WSJ】
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これまでカザフスタンとロシアの関係はナザルバエフ前大統領の“非常にユニークな”手腕によって微妙なバランスを保ってきましたが、今回の混乱とロシアの軍事介入によって、カザフスタン内の民族主義台頭、それに対するロシアの反発といったことを含めて、このバランスが大きく動く可能性があります。

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カザフスタン  拡大する反政府デモ ロシア主導の軍事同盟が介入を発表 実力者の前大統領は失脚か

2022-01-06 22:05:43 | 中央アジア
(カザフスタン・アルマトイで燃料価格の高騰に抗議するデモ隊(2022年1月5日撮影)【1月6日 AFP】)

【燃料費高騰からの反政府デモ 警察が数十人を殺害】
中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンで燃料費高騰に端を発する抗議デモが全土に拡大、警察がデモ参加者数十人を殺害したと発表するなど、混乱が広がっています。

****カザフ反政府デモで数十人死亡=ナザルバエフ氏失脚―ロシア軍事介入、流血拡大も****
中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンのトカエフ大統領は5日、反政府デモが全土に広がって混乱する中、地元テレビを通じて国民向けに演説し、ナザルバエフ前大統領に代わって、自身が安全保障会議議長に就任すると発表した。ナザルバエフ氏が失脚したことを意味する。
 
報道によると、警察当局者は6日、最大都市の南部アルマトイでデモ参加者数十人を殺害したと語った。衝突で治安部隊も13人が死亡、300人以上が負傷。けが人は全土で計1000人以上に上ったという。デモ隊が治安部隊に殴打される映像も伝えられている。
 
トカエフ氏の要請に基づき、ロシア主導の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)は平和維持部隊の派遣を決めた。ロシアは精鋭部隊の空挺(くうてい)軍を展開。鎮圧を強化すれば、流血の事態が拡大する恐れがある。
 
エリートのソ連共産党政治局員だったナザルバエフ氏は30年近くカザフを統治。大統領の座を2019年にトカエフ氏に譲ってからも「国父」として影響力を保持してきたが、実力者の失脚により、中国とロシアに挟まれた地政学的な要衝でもある資源国は大きな転機を迎えた。【1月6日 時事】 
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発端となった燃料費については、以下のようにも。
“カザフスタンでは新年から市場経済拡大の一環で液化石油ガス(LPG)の価格が自由化され、販売価格が2倍になり、2日からカスピ海沿いの西部地域で始まった市民の抗議が全土に広がった。”【1月6日 朝日】

“カザフスタン人の多くは、LPGが低価格なことから、自家用車をLPGで走るように改造している”【1月6日 CNN】という事情があって、国民の不満が爆発したようです。

抗議デモの拡大を受けて、内閣は総辞職し、価格調整策が出されましたが、デモは収まりませんでした。

****カザフスタンの抗議活動、全土に拡大 デモ隊と衝突で警察ら8人死亡****
ガス価格の値上げを機に中央アジア・カザフスタンで抗議活動が全土に広がり、内務省は5日、デモ隊との衝突で警察官ら8人が死亡したと発表した。

地元からの報道によると、最大都市アルマトイで行政庁舎や空港などが襲撃を受けた。トカエフ大統領は沈静化のため非常事態宣言を全土に拡大し、ロシアなど旧ソ連6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)に支援を要請したと明らかにした。
 
トカエフ氏は5日深夜にテレビ中継された演説で自らが同国の安全保障会議議長に就任したことも明らかにした。同議長はこれまでソ連からの独立から2019年まで政権に就き、辞任後もトカエフ政権に影響力を行使してきたとされるナザルバエフ前大統領が就いていた。ナザルバエフ氏の今後の地位は明らかにされていない。(中略)
 
4日にはソ連からの独立時に首都だったアルマトイ中心部で警官隊との大規模衝突に発展。トカエフ氏は内閣の総辞職を受け入れ、期限付きでLPGなど燃料や食品に価格調整を許可する方針を示したが、抗議は収まらなかった。
一部で反ナザルバエフ氏のスローガンが叫ばれたとの情報もある。
 
トカエフ氏は5日深夜の演説でデモ隊について「武器が置かれた施設を占拠している」などと批判。アルマトイ郊外で軍の空挺(くうてい)部隊と戦闘になっているともし、「最大限に厳しく対応する」と述べた。
 
トカエフ氏は19年、ナザルバエフ氏の辞任を受けて大統領に就任。その後、首都の名称がそれまでのアスタナからナザルバエフ氏の名前であるヌルスルタンに変更された際には、アルマトイなどで抗議の動きも伝えられた。

地元メディアは5日朝、トカエフ氏が今回のデモの沈静化を図る中で治安機関幹部だったナザルバエフ氏のおいを解任したと伝えていた。【1月6日 朝日】
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【ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)が平和維持部隊を派遣】
今回の混乱で注目されるのは、上記記事にも“ロシアなど旧ソ連6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)に支援を要請した”とあるように、ロシアの今後の動きです。

****ロシア軍事同盟がカザフスタン介入、平和維持部隊を派遣へ****
ガス価格の値上げを機に全土に抗議活動が広がり、非常事態宣言が発令された中央アジアのカザフスタン情勢で、アルメニアのパシニャン首相は5日、ロシアが主導する軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)が平和維持部隊をカザフスタンへ派遣すると発表した。

CSTOは旧ソ連構成国で組織するもので、現在の議長国はアルメニアとなっている。
同首相の声明によると、カザフスタンの国内情勢の安定化を図る平和維持部隊の派遣期間は限定されている。派遣は、カザフスタンのトカエフ大統領からの支援要請を受けた形となっている。

カザフスタンの地元メディアは内務省の報道機関向け情報として、国内各地で起きた暴動で警官や警備関係者の8人が死亡したと伝えた。警官ら317人が負傷したとも報じた。

内務省の公式サイトに載った声明によると、アルマトイ、シムケント、タラズ各市では地元の行政施設が襲われ、窓やドアが破壊された。「暴徒は石、棒、油や火焔瓶を使っている」ともした。

トカエフ大統領は「テロリスト」がアルマトイの空港を占拠し、航空機5機も奪ったと非難。市外で軍兵士と衝突していると述べた。抗議活動の参加者は国家システムを弱体化しているとし、多くは海外で軍事訓練を受けた者だと主張した。

カザフスタンは豊富な石油資源を材料に外資を呼び込み、独立以降、堅調な経済成長を維持してきた。ただ、専制的な統治が国際社会の懸念を時には招き、抗議活動も過酷な手法で封じ込めていた。

ロシアとは密接な関係を築き、米中央情報局(CIA)の世界便覧によると国内の総人口約1900万人のうちの約20%はロシア系。カザフスタンのバイコヌール宇宙基地はロシアの宇宙開発の主要拠点ともなっている。【1月6日 CNN】
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“インタファクス通信によると、ロシア空軍を含む5カ国の部隊が現地に向かっているという。”【1月6日 毎日】ということで、すでに動きだしているようです。

カザフスタンは石油、天然ガス、ウランなど地下資源が極めて豊富な国です。ロシアにとっても重要な貿易相手国であり、またロシアの裏庭として、アフガニスタンや中東に近い安全保障上の要衝でもあります。

いつものように、混乱の背後にアメリカなどの外国勢力がいる・・・と主張するのでしょうか。(実際、かつてのウクライナなどのカラー革命ではアメリカCIAなどが動いたのでしょうが)

****資源大国、カザフスタン****
カザフスタンは石油、天然ガス、石炭、ウラン、銅、鉛、亜鉛などに恵まれた資源大国である。

金属鉱業はカザフスタンにおける重要な経済部門のひとつであり、GDPの約1割(石油・ガスは3割弱)を占め、石油・ガスを含む天然資源は、工業生産・輸出・国家歳入の約6割を支えている。

その埋蔵量は、アメリカ地質調査所(USGS)によるとウランが世界の18パーセント、クロムが同10パーセント、マンガンが同5パーセント、銅が同5パーセント、銀が同5パーセント、鉛が同9パーセント、亜鉛が同8パーセントであり、さらなる開発ポテンシャルを有している。

ウランは恒常的に生産量が増加しており、特に世界金融危機を経てからは伸びが著しく、2010年の間には1万7,803tU(金属ウラン重量トン)を産出して以降[、カザフスタンはウラン生産で世界第1位(1997年は13位)となった。

今後、炭化水素・クロム・鉄は50 - 80年、ウラン・石炭・マンガンは100年以上の生産が可能であると言われている。

一方、輸出の主要部分を占める非鉄金属および貴金属鉱山の開発・生産は12 - 15年程度で枯渇する可能性が指摘されている。

カザフスタンは資源に恵まれている一方、品位の低さなどから開発に至った鉱山は確認埋蔵量の35パーセントにすぎず、10種の鉱物(ダイヤモンド、錫、タングステン、タンタル、ニオブ、ニッケル、ボロン、マグネサイト、マグネシウム塩、カリウム塩)はいまだ開発されていない。

鉱床探査の不足により、近年は埋蔵量減少分が補填されず、質・量ともに低下していると指摘されており、地質調査部門の発展促進が課題となっている。【ウィキペディア】
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【“院政”を敷いてきた前大統領ナザルバエフ氏は失脚か 混乱の背景に同氏への不満も】
この“お宝”を利用して、カザフスタンを長年統治してきたのが「国父」とされるナザルバエフ前大統領であり、その「失脚」の可能性が、今回混乱の二つ目の注目点です。

“中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は5日、反政府デモが全土に拡大する中、地元テレビを通じて国民向けに演説し、ナザルバエフ前大統領に代わって、自身が安全保障会議議長に就任すると発表した。ナザルバエフ氏が失脚したことを意味する。”【1月6日 時事】

ナザルバエフ氏は2019年に退陣したものの、これまで“実力者”として影響力を保持しており、トカエフ大統領の統治はナザルバエフ氏による“院政”とも観られてきました。

ナザルバエフ前大統領の2019年の退陣は突然で、ウズベキスタンの政変などを反面教師として、将来的な影響力保持のための早め・余力を残した形での退陣でした。

****電撃辞任のカザフ前大統領の長女、上院議長に 後継への布石か****
中央アジア・カザフスタンの上院は20日、前日辞任を電撃発表したヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領の長女、ダリガ・ナザルバエワ氏を新議長に選出した。国営通信カズインフォルムが報じた。
 
ダリガ氏はナザルバエフ前大統領の3人の娘のうち政界で最も大きい存在感を示し、以前から父親の後継者になり得ると目されてきた。今回、上院議長に選出されたことにより、次期大統領候補の一人として注目される。ただしナザルバエフ氏は過去に、自分の娘を後継者とする考えを否定している。
 
カザフスタンでは30年近くにわたって政権を握ってきたナザルバエフ氏が19日、突然辞任を表明。これを受け、上院議長だったカシムジョマルト・トカエフ氏が20日、大統領代行に就任した。
 
ナザルバエフ氏の本来の任期だった来年4月までは、トカエフ氏が暫定政権を運営する見通しだが、大統領選が前倒しされる可能性もある。
 
また同日には議会が、長きにわたって同国を率いてきた前大統領をたたえ、首都名をアスタナからヌルスルタンに変更することも決定した。採決後にカズインフォルムが伝えた。 【2019年3月20日 AFP】AFPBB News
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****カザフ大統領退任、30年君臨 親族へ権力禅譲への動き****
(中略)同氏の突然の退任の理由としてまず、隣国ウズベキスタンで16年、独裁者だったカリモフ前大統領が在任中に死去したことが指摘されている。
 
後任のミルジヨエフ大統領はカリモフ時代の路線を否定し、カリモフ氏の親族に対する捜査・訴追も本格化させた。ナザルバエフ氏はこれ“反面教師”とし、自身が健康なうちに退任し、政策の継続性や一族の権益を確保するのが得策と考えたとみられる。
 
次に、石油など地下資源に依存するカザフ経済が、市況低迷で成長にかげりが見え始めたことだ。今年2月には貧困層などの間で反政権機運が高まり、初の内閣退陣に追い込まれた。(中略)

トカエフ氏はロシアの招待に応じ、大統領就任後初の外遊先としてモスクワを訪れ、今月3日にプーチン大統領と首脳会談を行った。両首脳は経済面や安全保障面で協力関係を強化していくことで合意した。
 
ロシアにとって、カザフは地下資源など重要な貿易相手国である上、アフガニスタンや中東に近い同地域は安全保障上の要衝だ。ロシアもカザフも、いずれも国境を接する中国を牽制(けんせい)する狙いもありそうだ。【2019年4月5日 産経】
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ナザルバエフ前大統領の跡を継ぐ形となったトカエフ大統領については、”外交筋は「トカエフ氏はあくまでつなぎだ」と述べ、ナザルバエフ氏周辺が最終的に(長女)ダリガ氏に権力継承するシナリオを描いていると指摘した。”【2019年4月9日 時事】とも指摘されていました。

“カザフスタンで暴動が拡大した背景には、燃料価格の引き上げに対する憤りだけではなく、ソ連末期から30年以上も実権を握り続けてきたナザルバエフ前大統領への鬱積した不満があるとみられる。(中略)ネット交流サービス(SNS)上では、ナザルバエフ氏の銅像にひもをかけて引き倒そうとする人々の映像や、破壊された銅像の写真が拡散した。”【1月6日 毎日】

そのナザルバエフ前大統領の目論みが今回混乱でついえた・・・ということでしょうか。
そうなると、2019年の早期退陣が裏目に出たということにも。

権力者がなかなか権力の座から身を引かないのは、“院政”だ、身内への権力移譲だと言っても、こういう不確実性があるからでしょう。

もっとも、ロシアの介入で、今後どのように展開するのかはわかりません。

【中国との微妙な関係】
なお、“ロシアの裏庭”とされた中央アジアで中国の存在感が強まっていますが、資源大国カザフスタンにも当然中国が進出しています。

ただ、その関係は微妙なところもあるようにも報じられていました。

****反中感情が高まるカザフスタン、外国人への土地売却を永久禁止に―仏メディア****
2021年5月14日、仏国際放送局RFIの中国語版ウェブサイトは、反中感情が高まっているカザフスタンで、外国人への土地売却が永久に禁止されることになったと報じた。

記事は、カザフスタン国内で反中感情が高まる中で、トカエフ大統領が13日、外国人への土地売却を禁止する法令を発布したと紹介。

同国では2016年より反中感情が高まり、政府が当時打ち出した外国人投資家への土地売却計画に反対するデモが頻発、同年に外国人への土地売却を一時停止する措置が取られており、今回発布された法令はこの措置を永久化するものであると伝えた。

そして、野党の責任者がフェイスブック上でこの法令発布を祝う一方で、15日にアルマトイで実施予定の抗議デモを実施することを呼びかけるとともに「われわれの土地を外国人に永遠に売り出さないよう当局に警告する。56件ある中国による投資プロジェクトにも反対だ」と記したことを紹介している。

報道によれば、野党は4月24日にもアルマトイで集会を開き、中国の提唱する「一帯一路」構想に乗れば自国が「債務の罠」に陥るとして政府に抗議を行ったが、「異例なことに、この集会は政府から許可が下りての開催だった」という。

記事は、カザフスタンが中国と良好な関係を保ち、「一帯一路」構想の重要なパートナーとされてきた一方で、国内では燃料や鉱石資源の豊富な国として中国の従属国になることを懸念する声が出ていると紹介。

また、新疆ウイグル自治区でウイグル族やカザフ族が迫害を受けているとして、市民の間で中国に対する反感が高まっているとも伝えた。【2021年5月14日 レコードチャイナ】
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今回混乱にあたり、もう一人のプレイヤー中国との関係にどう影響するのかも注目されます。
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キルギス  続く政治混乱、その背景と静観するロシアの事情

2020-10-13 22:31:38 | 中央アジア

(【10月13日 GLOBE+】)

【政治混乱続くキルギス】

旧ソ連のアゼルバイジャン、アルメニア両国の紛争をなんとか仲介して停戦を合意させたロシアですが、停戦がスタートする10日、係争地ナゴルノカラバフの主要都市ステパナケルトでは“10日午後11時半(日本時間11日午前4時半)ごろ大きな爆発音が7回あり、空襲サイレンが鳴り響いた。”【10月11日 AFP】という状況。

 

アゼルバイジャンを強硬に支援するトルコの対応もにらみながら、ロシアとしては停戦維持(実現?)に苦慮しているようです。

 

****アゼルとアルメニア、戦闘継続 ロシアは停戦順守訴え****

ロシア政府は12日、アゼルバイジャンとアルメニアに対し、係争地ナゴルノカラバフをめぐる停戦合意を即ちに順守するよう求めた。両国の間では同日、激しい戦闘が起きており、停戦合意には暗雲が立ち込めている。

 

アゼルバイジャンとアルメニアは10日、モスクワでの協議で、人道的停戦で合意したが、その後も現地では衝突が相次ぎ、合意は形骸化。両国は12日、互いの違反行為を非難した。

 

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はモスクワでアルメニアのゾフラブ・ムナツァカニャン外相と会談後、「われわれは、採択された決定が両国により順守されることを求めている」と述べた。

 

前線からほど近いアゼルバイジャンの町バルダのAFP特派員によると、現地では12日午前に砲撃音が鳴り響き、午後にはさらに激しさを増した。

 

砲撃を逃れた多数の住民が身を寄せているアゼルバイジャンの村オトゥジキレルで取材に応じた女性は、2週間前に自宅にロケット弾が撃ち込まれて以降、幼い子どもたち3人が夜眠れずに「起きては泣く。死んだ人たちが出てくる悪夢を見る」と語った。

 

ナゴルノカラバフの主要都市ステパナケルトのAFP写真記者は、ハドルトの方向から砲撃音が聞こえてきたと話している。 【10月13日 AFP】

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同じく旧ソ連ベラルーシではルカシェンコ大統領への市民の抗議が続いていますが、ロシアとしては当面。ルカシェンコ大統領の「剛腕」に任せた様子。

 

一方、これまた同じ旧ソ連のキルギスの混乱は相変わらず。

 

*****キルギス議会、新首相にジャパロフ氏を選出 大統領は辞任へ*****

中央アジアの旧ソ連構成国キルギスの議会は10日、ポピュリスト政治家で首相代行に任命されていたサドウイル・ジャパロフ氏を首相に選出した。緊急会合で議員の過半数が、ジャパロフ氏の立候補を支持した。

 

ジャパロフ氏は、ソオロンバイ・ジェエンベコフ大統領が「2〜3日以内に」辞任するとの見通しを示した。ジャパロフ氏によると、ジェエンベコフ氏はジャパロフ氏と面会した際、内閣と行政府を承認してから大統領を辞任する意向を示したという。

 

10日の緊急会合で議会の副議長は、ジェエンベコフ氏が辞任すればジャパロフ氏が大統領代行になるとの認識を明らかにした。議長は現時点で空席になっている。

 

首都ビシケクでは、ジャパロフ氏の支持者数百人が路上に出て首相選出を祝福した。

 

1週間前には4日の議員選の結果に反発した野党支持者らが街頭デモを行い、警察と衝突。少なくとも1人が死亡し、1000人超が負傷した。

 

頑固な国家主義者と評される元議員のジャパロフ氏と、アルマズベク・アタムバエフ前大統領は6日未明、野党支持者らによって他の有力政治家らとともに収監先から解放された。

 

ただ、アタムバエフ氏は10日、ビシケク郊外の拠点を捜索された後に警察と治安部隊によって再拘束された。国家保安当局は、大規模な騒乱を計画したとの新たな疑いでアタムバエフ氏を拘束したことを認めた。 【10月11日 AFP】

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****新首相選出、採決の「正当性」に異論噴出…キルギス首都に再び非常事態宣言*****

政情が緊迫する中央アジアのキルギスで、議会が10日、サディル・ジャパロフ元議員(51)を新首相に選出した採決の「正当性」に異論が噴出している。ソロンバイ・ジェエンベコフ大統領は12日、首都ビシケクへの非常事態宣言を再び発令した。情勢は混迷を深めている。

 

ニュースサイト「アキプレス」などによると、ジャパロフ氏は大統領の与党会派など61議員の賛成で新首相に選ばれた。1院制の議会の定数は120人で、憲法が規定する「過半数の賛成」をクリアした形だ。

 

だが、ジャパロフ氏を推さなかった野党系議員や法律学者は、61人のうち10人が賛成の意思表示を委任して欠席したため、「無効だ」と反発している。

 

ジャパロフ氏は、2013年の人質事件に絡んで服役中だったが、野党勢力による抗議行動に乗じて6日に解放された。こうした経歴が新首相の人選を巡る野党勢力の分裂を招いていた。【10月12日 読売】

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【「裏庭」でのキルギス混乱をロシアが静観している事情】

ただ、こうした混乱にもかかわらず、ロシアの表立った動きはなく静観の構え。

 

キルギスの混乱は多くの報道はなされるものの、混乱の背景などよくわかりませんでしたが、下記記事の解説でようやく事情が少しわかりました。

 

また、ロシアが静観している理由も。

 

****激動のキルギス情勢を読み解く3つの視点****

ユーラシアで相次ぐ大事件

(中略)そうした中で、中央アジアに位置するキルギスの政変は、ベラルーシとあまりにも対照的な展開を辿ったことから、注目を浴びました。

 

選挙の不正に憤って野党・市民らが立ち上がったという点では、両国とも同じでした。

しかし、キルギスではデモ隊が政府庁舎を占拠し、当局が議会選挙結果の無効を認めるとともに、内閣も交代するという事態にまで、一気に突き進みました。「ベラルーシでは10万人が2ヵ月かけてもできなかったことを、キルギスでは5,000人が一夜にしてやってのけた」などと言われています。(中略)

 

今後キーパーソンになっていきそうなジャパロフ氏は北部のイシククル州出身で、現在51歳。

 

これといった資源や産業のないキルギスにおいて、イシククル州にあるクムトル金鉱は唯一のドル箱企業となっているわけですが、ジャパロフ氏はその経営のあり方や環境破壊を批判し、国有化すべきだというのを持論としています。

 

このように、キルギス政変の「スピード感」は際立っているわけですが、当然のことながら、「キルギス国民は優秀でベラルーシ国民は駄目だ」などという単純な話ではありません。

 

キルギスでは過去15年で実に3度目とも4度目とも言われる「革命」であり、政変の敷居があまりに低いのです。今回の暴動でも政府庁舎があっさりと陥落しており、こうなるとむしろ、国家が国家の体を成しておらず、いわゆる「失敗国家」、「崩壊国家」の範疇に属すのではないかと考えてしまいます。

 

一方、ベラルーシではルカシェンコが周到に築き上げてきた権力構造と暴力装置があり、野党・市民がそれを実力で覆そうとするのはあまりに無謀です。

 

ベラルーシでは、デモ隊が一線を越えれば、直ちに治安部隊による殺戮が始まり、さらにはロシアの武力介入を招く公算も大きいので、市民側は平和的な抗議行動に徹してきたわけです。

 

キルギス情勢はきわめて流動的です。近くやり直しの議会選挙があるはずですし、場合によっては大統領選挙も前倒しで実施されるかもしれません。ですので、今回のコラムではキルギスの政情に関し、目先の動きを追うのではなく、情勢を読み解く上で鍵となる3つの視点について解説してみたいと思います。

 

第1の視点:北部と南部の相克

キルギスという国では、地縁、経済的利害などで結び付いたいくつかの「閥(クラン)」が割拠し、それらが合従連衡することが、権力闘争の基本となっています。

 

政党も、政策理念というよりも、閥の利益を代表するために存在しているようなところがあります。(中略)

ルカシェンコが一元的な権力体制を築き、また国内の地域差なども比較的小さいベラルーシとは、似ても似つかないのです。

 

そして、キルギスの閥力学は、突き詰めて言えば、北部と南部の対立に集約されます。(中略)

 

北部と南部では、歴史的な遺恨もなきにしもあらずで、文化・風習・方言などの違いもあります。北部が工業化されロシア語化されているのに対し、南部は農業を主体とした伝統的な土地柄だと言われます。

 

したがって、北部の社会が個人主義的なのに対し、南部では人々の絆がより深いとされます。そして、普段はそれほど意識されていなくても、今回のような選挙、政変という緊張した局面になると、南北の対立構図がお決まりのように前面に出てくるようです。

 

キルギスの歴代大統領は、基本的に、南北いずれかの利益を代表していました。

 

初代のアカエフ(在位1990-2005)は学者出身であり、最初は中立的な存在としてトップに押し上げられたものの、北部に依拠するようになり、最後は南部の諸閥を主力とする連合勢力によって倒されます。その跡を襲ったバキエフ(在位2005-2010)は、南部の代表でしたが、結局は北部を主力とする広範な連合勢力に倒されました。

 

その後、オトゥンバエワ(在位2010-2011)という短い中継ぎ的な大統領を挟んで、バキエフ打倒の先頭に立った北部のアタンバエフ(在位2011-2017)が大統領に就任しました。

 

彼は6年の任期を務め上げたあと、当国では再選が禁止されているため、子飼いの南部人ジェエンベコフ(在位2017-)に大統領の座を禅譲しました。南北の融和を図りつつ、首相の権限を強化して、自らは首相に転身し、実質的に最高権力者に留まるつもりだったのです。

 

ところが、鈍重な田舎者だと思われていたジェエンベコフは、大統領に就任するや意外な権謀術数の才能を見せ、アタンバエフの首相就任を阻んだだけでなく、同氏を汚職および職権濫用のかどで逮捕してしまったのです。

 

ジェエンベコフ大統領はその後、政権の要職に南部の同郷人を次々と起用し、北部人の不満を招いていました。そこへ持ってきて、今回の議会選挙では、現政権寄りの政党ばかりが大勝する露骨な結果が出て、北部を中心にジェエンベコフ体制への反発が爆発したのでしょう。

 

その際に、首都ビシケクは北部なので、南部寄りの政権に反対するデモ参加者を動員しやすいという要因もあったようです。

 

キルギスにおける権力は、閥の利益のバランスの上に成り立っているため、特定の勢力が突出しすぎると、均衡を回復しようとする力が働き、それが南北対立という形になって表れます。

 

10月4日の議会選に端を発するキルギスの政変は、いくつかの要因が複合的に作用したものでしたが、やはり南北対立の要因は今回も重要だったと思われます。

 

第2の視点:貧困と社会問題

(中略)旧ソ連のユーラシア諸国では概して、所得水準が低い国ほど外国での出稼ぎ収入に依存する度合いが大きくなっています。その双璧がキルギスとタジキスタンであり、両国の出稼ぎ依存度は世界屈指の高さです。

 

上述のクムトルにおける金採掘を除くと、キルギスの経済活動で本格的に稼げるのは、中国から輸入した物資を他のロシア・ユーラシア諸国に転売するビジネスくらいです。

 

国内に良い働き口が少ないので、多くの国民はロシア(一部はカザフスタンも)での出稼ぎ労働に従事することになります。キルギスの労働人口は250万人ほどですが、普段はその3分の1近くがロシアで働いていると言われています。

 

しかし、本年は新型コロナウイルスの蔓延で、ロシアで働いていたキルギス人の多くが帰国を余儀なくされました。国内で仕事は見付からず、人々が政府に雇用創出を求めても、政府としても打つ手はなし。

 

一方、キルギスの医療は以前から問題を抱えており、コロナ禍にはまったく対処できませんでした。最新のデータでは、COVID-19感染確認数は約5万人、死亡者は約1,000人となっており、人口650万人の国なのに、日本とそれほど変わらない数字になっています。しかも、これらの数字は過少報告であるという疑いも指摘されています。

 

キルギスの政治評論家ノゴイバエワは、キルギス社会の矛盾が今回の暴動に繋がっていった経緯を、次のように論じています。

 

「それでなくても錯綜したキルギスの経済、政治情勢が、コロナによってさらに深刻化した。汚職は限度を超えるようになった。教育、経済、文化など、あらゆる活動に大きな打撃が生じている。

 

コロナがなければ社会はまだ我慢できたかもしれなかったが、コロナによって体制の様々な問題、たとえば医療問題などが露見した。ロックダウン後は、経済が抜き差しならない状態となった。非常事態があまりに長く続いている。人々はさらに貧しくなった。

 

そうした中、選挙戦が始まると、豊富な資金力のある正体不明のオリガルヒ政党が跋扈した。キルギスでは選挙は常に汚かったが、今回は特にあからさまな買収、不正が横行した。

 

ただ、パンデミックに際してのボランティア活動もあり、この間に青年の政治参加が活発化し、政党への参加もあった。事前の世論調査では、議席を獲得してもおかしくないリベラル政党がいくつかあった。ところが、蓋を開けてみると、露骨に買収をしていたオリガルヒ政党が上位に進出し、青年たちはショックを受けたのだ」

 

 

ロシアの政治評論家グラシチェンコフも、コロナ禍において、キルギス国民が「社会国家」を要請するようになったにもかかわらず、実際の政治のありようがその期待からかけ離れていることが、今回の大規模な抗議運動をもたらしたと指摘しています。

 

第3の視点:ロシアをはじめとする大国との関係は?

ウクライナやベラルーシは、ロシアと欧州連合(EU)の狭間に位置しているため、両国で政治変動が起きれば、国民の本来の思いとは別に、どうしても東西地政学の力学に巻き込まれてしまいます。

 

それに対し、中央アジアのキルギスはEUとは地理的に隔絶しており、政治・文化的にも欧州とは趣が異なるので、キルギスとEUが戦略的に提携するというのは考えにくいことです。

 

したがって、キルギス情勢に影響を及ぼす主要な外部勢力としては、まずロシアがあり、そして中国があり、さらにはアメリカもかかわってきます。

 

かつては、大国の利害の交錯が、キルギスの政権交代に影響したこともありました。(中略)

 

他方、近年では中国が一帯一路政策を引っ提げて中央アジアへの関与を強めており、キルギスでも中国への依存度が高まってきました。

 

キルギスもスリランカのように中国の「債務の罠」にはまりつつあるとの指摘があり、「このままでは中国への債務を領土で支払うはめになるのではないか」といった不安説もささやかれているようです。ちなみに、2020年6月時点で、キルギスの政府対外債務残高の43.2%が中国輸出入銀行に対するものでした。

 

そうした中、興味深いのは、キルギスのある専門家が、「我が国はユーラシア経済連合に加盟しているので、状況はスリランカなどとは異なる」と力説していることです。

 

ロシア主導のこの経済同盟については、(中略)経済統合の目覚ましい成果は見て取れません。ただ、貧しい小国キルギスにとっては、中国に飲み込まれないためにロシアの後ろ盾は死活的に重要であり、旗幟を鮮明にするためにもロシアの経済ブロックに加わっておくことは必須なのでしょう。

 

今回のキルギスの政変劇で、きわめて特徴的なのは、この国に小さからぬ利害関心を抱いているはずのロシアが、泰然と構えていることです。

 

かつては米軍基地の問題でバキエフ排除に加担したロシアですが、今回の政変劇でいずれかの勢力に与することはなかったようです。

 

その背景として、キルギスのロシアへの依存度はあまりに高く、どの勢力が政権に就こうと、必ずロシアとの友好関係を主軸とせざるをえないという確信が、ロシア側にはあるようです。

 

実際、ジャパロフ新首相も就任後に、「ロシアはこれからもキルギスの主要な戦略的パートナーであり続ける」と明言しています。【10月13日 GLOBE+】

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旧ソ連の国々のなかでもひときわ貧しく、ロシアへの出稼ぎ者の送金でなんとか生活しているような立場上、ロシアを離れることはあり得ない・・・ということで、ロシアはキルギスの混乱については「静観」の構えと言うことのようです。

 

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ウズベキスタン  前独裁政権と決別し、「改革」を進める現政権

2019-11-11 10:02:06 | 中央アジア

(ティムールの故郷にたつ銅像)

ここ数年のウズベキスタンの政治・社会を表すキーワードは「改革」でしょう。

その「改革」の出発点となったのが、独裁者カリモフ大統領の死亡でした。

 

****<ウズベキスタン>内政の不安定化懸念 カリモフ大統領死去****

ウズベキスタンで2日死去が発表されたイスラム・カリモフ大統領(78)の葬儀が3日、故郷の中部サマルカンドで営まれた。独裁体制を敷いた初代大統領の死去が内政の不安定化につながらないか懸念される。

 

国外の専門家らは、葬儀委員長に選ばれたミルジヨエフ首相(59)が最有力の後継者候補との見方を示している。(中略)

 

ロシアの中央アジア専門家、グロジン氏は「ウズベキスタンのエリートたちは体制維持を望んでおり、後継者問題を円満に解決できるだろう」とタス通信に語った。

 

カリモフ氏は技師出身で旧ソ連共産党員として出世し、ソ連ウズベク共和国党第1書記を経て1990年に共和国大統領になった。91年の直接選挙で独立後の初代大統領に選ばれ、昨年3月の選挙まで連続4選を重ねた。【2016年9月3日 毎日】

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“同国がソ連から独立した1991年をまたいで政権を握り続けたカリモフ氏の支配は拷問と強制労働に支えられていたと人権団体は主張している。カリモフ氏は国外から、一切の批判を容赦なく弾圧する「最も残酷な独裁者の一人」と呼ばれていた。”【2016年9月4日 AFP】

 

2016年12月4日に実施された大統領選で、首相のシャフカト・ミルジヨエフ大統領代行(59)が得票率88・61%で圧勝し、次期大統領に。

 

「ウズベキスタンのエリートたちは体制維持を望んでおり・・・」とのことですが、ミルジヨエフ大統領は政治・経済・社会の改革を急速に展開しています。

 

****シルク大国の夢再び 「インスタ映え」ウズベキスタン、ビザ免除で開放路線走る****

中央アジアに一体化の機運

グローバル化が進み、大陸内奥で山々に囲まれた中央アジア諸国もつながり、開いていく。ウズベキスタンでは養蚕・絹産業が復活、さらに地域大国として改革が進むことが期待され、中央アジアとしての一体感が出始めている。

 

■「新しいシルク時代の到来」

繭をゆでる生臭い湯気と、糸を紡ぐ機械音のなかで、女性たちは慣れた手つきで仕事をしていた。かつてシルクロードの要衝として栄えたウズベキスタンの古都ブハラにある製糸工場。社長のバフティヨル・ジュラエフ(39)は「忙しくて休みもなくなったが、新しいシルクの時代の到来だ」と笑顔で語った。

 

実は、ウズベキスタンは1000年を超える養蚕の歴史を持つ。ソ連時代は周辺国に繭や生糸を輸出していた。しかしソ連が崩壊し、独立すると政府の買い上げがなくなった。経済も停滞、中国産が台頭して養蚕業は衰退した。

 

約90年前に創業したジュラエフの会社も、この20年間に2度の倒産を経験した。

 

養蚕・絹産業の復活を試みた政府は、2009年から本格的に日本の技術的支援を受け始めた。さらに、経済改革を掲げて16年に就任した大統領ミルジヨエフ(61)が絹産業の振興方針を示したことが追い風になった。(中略)

 

従業員女性(39)は「給料が増え、夫は出稼ぎに行かなくても済むようになった」と話した。

 

■新大統領が走る開放路線 観光も活性化

1991年の独立以来、大統領職にあったカリモフが2016年に78歳で死去。後継のミルジヨエフは孤立主義的な外交、経済政策の転換に着手した。

 

ウズベキスタン出身で中央アジアの政治に詳しい筑波大大学院准教授のティムール・ダダバエフ(43)は「ミルジヨエフは改革を進めて、ウズベキスタンを国際物流における中央アジアの中心に位置づけたい考えだ。経済が活性化すれば、ウズベキスタンの地域大国としての地位も高まる」との見方を示した。

 

開放で観光も活性化している。昨年2月、日本や韓国など7カ国の観光客について30日以内の滞在であればビザ不要にした。7月には101カ国に対し、5日間のビザなし滞在を認める大統領令を出した。中央アジアの中でも世界遺産をはじめ見どころが多く、「インスタ映えする」と日本からの若い観光客も急増、前年比50%近い伸びだという。(中略)

 

■「ロシアは警察官、中国は銀行員」

隣国カザフスタンの政治評論家、ドスム・サトパエフ(44)は「中央アジアは地域としてまとまる意識が希薄だったが、最大の人口を擁するウズベキスタンの改革で一体感が芽生え始めている」と話す。

 

とはいえ、旧ソ連時代から強固な関係を持つロシアの中央アジアに対する軍事的・戦略的な「既得権益」への関心は高い。一方、経済的な中国のプレゼンスは日に日に高まっている。

 

カザフスタン戦略研究所の元所長で現在は国営放送局理事長のエルラン・カリン(42)は両国を「中央アジアにとってロシアは警察官、中国は銀行員」と表現した。【2月5日 GLOBE+】

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特に、カリモフ前大統領との決別を明確に示したのが、同氏親族の不正を追及し、逮捕した件でした。

 

“(カリモフ前大統領の娘で元歌手の)カリモワ被告は2017年、ウズベキスタンで詐欺と資金洗浄の罪で禁錮5年の有罪判決を受けて自宅軟禁下にあったが、ウズベキスタン当局は今週、軟禁条件に違反したとして同被告を収監したと明らかにしていた。”【3月8日 AFP】

 

カリモワ被告に関しては、アメリカ検察当局は3月7日、ロシア通信大手と共謀して総額8億6500万ドル(約960億円)を超える賄賂を受け取り、約10年にわたってマネーロンダリング(資金洗浄)を行っていたとして、「海外腐敗行為防止法」違反で起訴しています。

 

こうしたウズベキスタンの前大統領との決別は、中央アジアの他の独裁国にも影響を与えており、隣国カザフスタンで長期政権を維持してきたナザルバエフ大統領は3月19日、辞職を表明しています。

 

自身の政治力があるうちに「院政」を敷く形で、長女など親族への権力移譲を可能にする道筋をつけようとする目的に沿ったものと見られています。

 

ウズベキスタンで進む改革に、下記のような”熱い“期待も。

 

***** 中央アジアの隆盛が再び*****

中央アジアは、現在先進国に遅れ地政学的にも孤立気味なので世界から忘れられそうな存在になっている。

 

しかし、紀元前1000〜2000年前は、東西を結ぶシルクロードの中心のオアシス都市として栄え、東西の文物が行き交った文化・文明の中心地だった。青いモスクや美しい建物にその面影をはっきりと残している。

 

時代はいま日本や欧米の先進諸国に元気がなく、中国や東南アジア諸国などが成長を遂げて投資を集めている。

 

中央アジア地域も平均年齢が20〜30代で人口が急増し(20年前のウズベキスタンの人口は2200万人だったが、現在は3200万人)、2025年には1億人に達するとの予測もある。人口増大は成長の柱であることを考えると、21世紀半ばには再びウズベキスタンを中心とする中央アジアの時代がやってきそうな予感がする。【9月20日 嶌信彦氏 JAPAN In-depth】

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ほんの数日の観光旅行でも、ホテル・レストランの対応など、多くの課題が存在していることはすぐにわかりますが・・・・

 

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ウズベキスタン 消失したアラル海に復活の期待も 綿花栽培の労働環境は改善との報告

2019-11-10 08:52:29 | 中央アジア

(塩の大地を行くラクダ。ここはかつて、アラル海の底だった=カザフスタン・ボゲン村、川村直子撮影【2018812日 朝日】)

【縮小したアラル海に改善の希望?】

5日から中央アジア・ウズベキスタンを観光しています。

 

世界には、 陸の国境に囲まれていて、海岸線を持たない「内陸国」が48カ国あるそうですが、国境を接する全ての国が内陸国である内陸国のことを「二重内陸国」といいます。

 

つまり、二重内陸国では、に出るために少なくとも2つの国境を越えなければならないことになりますが、現在世界にある二重内陸国は、リヒテンシュタイン公国(侯国)ウズベキスタン2カ国のみです。

 

ただ、ウズベキスタンが「海」に縁がないかと言えば、そういう訳でもなく、かつては漁業も栄え、缶詰などの水産加工工場も多くありました。

 

というのは「内海」アラル海を擁していたからです。アラル海沿岸の「港町」には、遠くモスクワなどからやってきた船が多く係留されていたとか。

 

しかし、現在では漁村は消失し、水産加工工場は潰れ、多くの船が干上がった陸地にその残骸をさらす「船の墓場」ともなっています。

 

原因は、周知のアラル海の急速な縮小です。

 

****干上がったアラル海のいま 環境破壊、報いの現場を歩く****

中央アジアカザフスタンウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」。日本の東北地方とほぼ同じ広さの湖面積が、わずか半世紀で10分の1にまで干上がった。

 

漁村は荒廃し、乾いた湖底から吹き寄せられた塩混じりの砂が町村を襲う。ソ連時代の無謀な水資源計画のつけを、人々は今も払い続けている。

 

アラル海―20世紀最大の環境破壊

アラル海北部。カザフスタンのボゲン村。白い大地が見渡す限り続いていた。その上を家畜のラクダが村人に引かれて悠々と歩いていく。

 

雪の大地を行くようだが、白く見えているのは塩湖が干上がって析出した塩だ。かつてはアラル海に面した漁村だった。湖面は今やはるか10キロ先。漁業は衰退し、塩混じりの砂がたまって学校が移転する事態も起きた。

 

アラル海の湖面積は1960年ごろは6万8千平方キロだったが、近年は10分の1に。

 

干上がった原因は、ソ連が第2次大戦後に実施した大規模な灌漑(かんがい)政策だ。アラル海に注ぐ、2千キロ以上を流れるシルダリア川とアムダリア川の水を、流域の綿花と水稲の栽培拡大に使った。

 

国連環境計画によると、60年に約450万ヘクタールだった灌漑農業用地は、2012年には約800万ヘクタールへと増加。それと引き換えに、アラル海に注ぐ年間水量は5分の1以下になった。持続可能でない水利用は、アラル海の水量を保てる量をはるかに超えた。

 

ボゲン村のような光景はアラル海のいたる所で見られる。カザフスタン・クズルオルダ州政府の資料などから推測すると、漁場を求めたり砂に追われたりして移住を余儀なくされた環境移民は数万人規模に上るとみられる。「20世紀最大の環境破壊」とも言われる。

 

クズルオルダ州のクリムベク・クシェルバエフ知事(63)は「アラル海の危機は、自然に対する人間の無責任さの実例だ。綿花や米を栽培する必要があったしても、環境と人々の健康に回復不能な損害を与えていいことにはならない」と話す。【2018812日 朝日】

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アラル海の縮小によって漁業関連が壊滅しただけでなく、“最初は強制的な灌漑により耕作できた土地も、塩害の進行とともに放棄せざるを得なくなった”【ウィキペディア】とも。

 

さらに健康被害も。

 

****健康の悪化****

砂漠化した大地からは塩分や有害物質を大量に含む砂嵐が頻発するようになり、周辺住民は悪性腫瘍結核などの呼吸器疾患を患っている。

 

結核の蔓延には貧困による栄養不足などの複合的な原因があると言われている。

 

飲料水も問題であり、カルシウムマグネシウムナトリウム、微細な砂を含む飲料水を長期間飲み続けている住民は腎臓疾患を発症している。【ウィキペディア】

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上記のような惨憺たる状況はよく知られているところですが、今回の旅行の現地ガイド氏の話によると、今年1月にカスピ海からの水がアラル海に噴出していることが確認されたそうです。

 

カスピ海とアラル海の間は地下水脈でつながっていることは以前から知られていました。

では、なぜその水脈が止まってアラル海が縮小したのか、なぜまた復活したのか。

 

そのあたりは定かではありませんが、ガイド氏の話によれば、ソ連時代、カスピ海とアラル海の間には「爆弾の施設」(核兵器地下実験場のことでしょうか)があったことが、水脈の停止、そして現在の復活に関係しているのでは・・・・との説があるそうです。

 

いずれにても、この水脈がこのまま稼働すれば、やがてアラル海が復活する・・・・との期待も出てきているとか。

 

【綿花栽培における労働環境は改善したとのILO報告】

一方、ソ連時代からの綿花栽培の政策的拡大は、ゆがんだ農地・灌漑の拡大だけでなく、綿花収穫時などに大量の労働力を必要とします。

 

ウズベキスタンは、独立後もソ連的な統治スタイルを維持する傾向が強く、10年ぐらい前でしょうか、NHKTV番組で、独立後のウズベキスタンでソ連時代の「動員」による強制的な労働が綿花の摘み取り作業においてなされているといったことを報じていました。

 

しかし、そうしたウズベキスタンにおける綿花栽培の労働環境も改善されたとのILO報告があります。

 

****ウズベキスタンの綿花畑における、強制労働と児童労働問題の進展 ****

20194月、ILOは「ウズベキスタンにおける2018年の綿花収穫で、政府による組織的な児童労働や強制労働はなかった」とする報告書を公表した。

 

報告書によると、綿摘み労働者の賃金は上昇傾向にあることも明らかになった。

 

ウズベキスタンは世界第6位の綿花生産を誇り、人口の18%にあたる約250万人が綿摘み作業に従事している。同国では、かつて綿摘み期間中の強制労働や児童労働が深刻な問題となっていた。

 

ILO2013年以降、ウズベキスタンの綿花収穫における児童労働の監視を行ってきた。また2015年からは、世界銀行との協定によって強制労働も監視対象としている。

 

今回公表された報告書は、ILOの専門家及び現地の人権活動家が、ウズベキスタン国内の綿花収穫に携わる11,000人超に、単独かつ匿名でインタビューした結果をまとめたものである。

 

報告書では、93%の労働者は任意で作業に従事しており、組織的な強制労働は過去の話だとしている。

 

また回答者のうち、前年比で労働環境が大幅に改善(Significantly better)もしくは若干改善した(Slightly better)と回答した人が63%であり、悪化したと回答した人は2%のみであった。

 

ウズベキスタンのタンジラ・ナルバエワ副首相は「(綿花収穫の労働問題について)教育機関や地方政府機関向けに様々な意識喚起プログラムや生産能力強化プログラムが実施され、フィードバックのメカニズムも構築されている。今後もILO、世界銀行および市民社会と連携し、この分野で持続的な成果を上げられるよう取り組みたい」と述べる。

 

また報告書によると、2018年の綿摘み労働者の賃金は前年比で最大85%上昇した。綿摘み作業1人当たりの就労日数は年平均21日ほどで、その収入は個人の年収の39.9%に相当する。

 

ILOは自発的な就労者がより集まるよう、政府が継続的に賃金を引き上げるとともに、適正な労働・生活環境の確保を提言している。

 

賃金の引き上げは特に地方の女性に恩恵をもたらしている。ウズベキスタンでは年間115万人が綿花栽培の雑草処理作業に従事しており、うち6割の就労者は女性、かつ85%が地方に居住している。多くの女性にとって、綿摘みや雑草処理作業は重要な収入源であり、家庭環境の改善に役立っている。

 

一方、報告書は、政府レベルでの取り組みは功を奏しているものの、地域レベルでは多くの課題が残っていると指摘する。

 

ウズベキスタンの労働省と労働組合が運営する機関が、通報を受けた2,500を超える案件を調査したところ、206人の公務員と幹部職員が強制労働をめぐる違反で罰金、降格、解雇などの処分を受けた。

 

また、ハインツ・コラー(Heinz KollerILO欧州・中央アジア総局長は「2018年は、ウズベキスタンの綿花収穫において、児童労働と強制労働をめぐる改革の進捗とその撲滅に向けた取り組みの成果を示す重要な節目となった。

 

一方で、綿摘み作業を強制されたと回答した労働者もなお少数(全体の6.8%)いることもわかった。これは、17万人に相当する」と述べる。

 

ウズベキスタンの綿花収穫における労働問題の進展に対し、歓迎する姿勢を示す人権活動家も現れた。独立系の人権活動家で、ILOによる2018年度の監視活動にも参加したアザム・ファーマノヴ(Azam Farmanov)氏は、「ウズベキスタンでは真の変化が起きており、人々は違いを実感している。いまだ問題が解決していない地域が多くあるが、児童労働と強制労働が大きく改善されたことで、他の問題についても進展が見込まれると楽観視している」と述べる。【58日 EGS研究所】

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カザフスタン  ナザルバエフ大統領 電撃辞任後も微妙なロシア・中国との関係を主導

2019-04-08 23:34:25 | 中央アジア

(【2月5日 GLOBE+】より)

 

【独自のアイデンティティーづくりで、ゆっくりとだが変化する中央アジア】

同じアジアにありながら、日本にはあまり馴染みがない中央アジア諸国のイメージは、“旧ソ連圏”“(キルギスを除き)非民主的な独裁体制”といったところでしょうか。

 

そうした中央アジア諸国ですが、ロシアと中国という大国に挟まれ、その間でバランスをとりつつ、ロシア離れを進め、独自のアイデンティティーを確立する取り組みが進んでいるとも。

 

****中央アジアの国々はもはや「旧ソ連圏」ではない****

(中略)

民主主義や安定が課題

それでも「旧ソ連」という呼称は私たちの目を曇らせ誤解を生む。中央アジアは決して変化していないわけではない。特に国家建設に関しては、ゆっくりとだが変化してきた。

 

ソ連崩壊以降、中央アジア各国はそれぞれ独自のアイデンティティーづくりに取り組んできた。

 

中央アジア最大の国カザフスタンは「ユーラシア国家」を自負している。地理的にアジアとヨーロッパの中間にあることから、94年にナザルバエフ大統領が提唱した考えだ。

 

ナザルバエフは14年の演説で、カザフスタンは「ソ連の旧弊」からはるか遠くまで前進したと語り、ソ連的なアイデンティティーに逆戻りする可能性を一蹴。民主化はお粗末な状態とはいえ、自由貿易を受け入れ、市場経済に分類されている。

 

一方キルギスは「中央アジアにおける民主主義の孤島」と広く見なされ、10年4月のバキエフ政権崩壊後、中央アジアで初めて民主的な議会選挙を実現。

民主主義の質はまだ安定しているとは言えないが、ソ連時代の古い中央集権制度から大きく様変わりし、周辺国よりオープンになっている。

 

タジキスタンやトルクメニスタンでは文化面で「旧ソ連」離れが進む。中央アジアで唯一ペルシヤ語系住民が多数派を占めるタジキスタンは16年、タジク語式の姓を復活させるべくロシア語式の姓を法律で禁止。

 

一方トルクメニスタンではニヤゾフ初代大統領が自らを「トルクメニスタンの父」と称し、その威光によるアイデンティティー再建を目指した。ニヤゾフは06年に死去したが、個人崇拝モデルは今も健在だ。

 

中央アジア最大の人口を有するウズベキスタンでは、独立以降、政治的安定と民族間の融和が最大の懸案だ。そのため91年に初代大統領に就任したカリモフは野党と宗教団体に対し強硬策を取ったが16年に死去。ミルジョエフ現政権は相変わらず独裁体制とはいえ、経済の自由化に取り組んでおり、外交面でも開放的だ。

 

中央アジアをソ連時代の遺物扱いするのはもうやめよう。独自のアイデンティティーを持つ新興国家群と考えるべきだ。【2018124日号 Newsweek日本語版】

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【ウズベキスタン 独裁者死去で親族に対する捜査・訴追】

中央アジア諸国のなかでも国際的に影響力があるのは、カザフスタンとウズベキスタンでしょう。

 

ウズベキスタンは、上記記事では独裁的なカリモフ大統領の死後、“ミルジョエフ現政権は相変わらず独裁体制とはいえ、経済の自由化に取り組んでおり、外交面でも開放的だ”とのことで、アメリカとも協調して、カリモフ体制の残滓を清算する動きもあります。

 

****米当局、資金洗浄でウズベキスタン前大統領の娘を起訴 1兆円近く収賄****

米検察当局は7日、ロシア通信大手と共謀して総額86500万ドル(約960億円)を超える賄賂を受け取り、約10年にわたってマネーロンダリング(資金洗浄)を行っていたとして、ウズベキスタン前大統領の娘を「海外腐敗行為防止法」違反で起訴した。

 

ニューヨーク南部地区連邦地検は、FCPA違反で起訴された事例では過去最大級の事件だとしている。

 

起訴されたグルナラ・カリモワ被告は、1990年から2016年に死去するまで旧ソ連圏のウズベキスタンを統治した故イスラム・カリモフ前大統領の娘で、元歌手。ウズベキスタン政府の高官や国連大使を務めた経歴を持つ。

 

カリモワ被告は、ニューヨーク証券取引所に上場しているロシア通信大手MTSのウズベキスタン子会社の元最高責任者で同じく起訴されたベフゾド・アフメドフ被告と共謀し、20012012年にMTSのほか、ロシアで事業展開するオランダの通信大手ビンペルコム(現VEON)、スウェーデンのテリア、これら3社のウズベキスタン子会社から賄賂を受け取っていたとされる。(中略)

 

カリモワ被告は2017年、ウズベキスタンで詐欺と資金洗浄の罪で禁錮5年の有罪判決を受けて自宅軟禁下にあったが、ウズベキスタン当局は今週、軟禁条件に違反したとして同被告を収監したと明らかにしていた。(後略)【38日 AFP】

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【カザフスタンのナザルバエフ大統領 電撃辞任で後継体制づくりを主導】

(電撃辞任したナザルバエフ大統領)

昨日ブログで、北アフリカのアルジェリアやスーダンにおいて、生活苦が続く住民不満が長期独裁政権に対して高まっており、「アラブの春」再現の兆しも・・・という話題を取り上げましたが、状況は中央アジア諸国でも似ています。

 

カザフスタンもナザルバエフ大統領による独裁政治は生活困難に対する住民の不満の高まりに直面しており、その動向を危惧しています。

 

更に、ウズベキスタンで進む上記のような死去した前独裁者に対する清算の動きにも、“明日は我が身”の思いもあるようです。

 

そうした懸念から、ナザルバエフ大統領は先手をうって、自ら電撃的な辞任を発表し、その影響力を残す形で後継者政権を樹立するという対応をとっています。

 

****カザフ大統領退任、30年君臨 親族へ権力禅譲への動き****

中央アジアのカザフスタンで、3月に辞任したナザルバエフ前大統領(78)が、長女のダリガ上院議長(55)ら親族への権力禅譲を視野に入れた動きを強めている。

 

30年近く君臨してきたナザルバエフ氏は、強い権限を持つ安全保障会議議長と与党党首の職に留まった。上院議長から昇格したトカエフ新大統領(65)の任期が終わる来年4月まで院政を敷きながら、次世代の体制づくりを急ぐとみられる。

 

カザフは中央アジアの旧ソ連構成国。ナザルバエフ氏はソ連時代末期の1989年にカザフ共産党第1書記に就任。ソ連崩壊後に独立したカザフで91年から5度の大統領選で圧勝した。

 

2010年には「初代大統領−国家指導者」との特別な地位についた。同氏への侮辱は禁じられたほか、同氏と家族には免責特権も与えらている。

 

同氏の突然の退任の理由としてまず、隣国ウズベキスタンで16年、独裁者だったカリモフ前大統領が在任中に死去したことが指摘されている。

 

後任のミルジヨエフ大統領はカリモフ時代の路線を否定し、カリモフ氏の親族に対する捜査・訴追も本格化させた。ナザルバエフ氏はこれ“反面教師”とし、自身が健康なうちに退任し、政策の継続性や一族の権益を確保するのが得策と考えたとみられる。

 

次に、石油など地下資源に依存するカザフ経済が、市況低迷で成長にかげりが見え始めたことだ。今年2月には貧困層などの間で反政権機運が高まり、初の内閣退陣に追い込まれた。

 

最有力の権力禅譲先として、トカエフ氏の後任の上院議長に就任したナザルバエフ氏の長女ダリガ氏のほか、ナザルバエフ氏の娘婿で富豪のクリバエフ氏ら親族の名が挙がっている。マシモフ国家保安委員会議長ら、ナザルバエフ氏の側近も権力の一角に加わるとの見方もある。

 

大統領などとしてロシアを約20年間統治してきたプーチン氏も、最終任期が終わる24年には70歳を超える。複数の露専門家は「プーチン氏や(旧ソ連諸国の)他の長期指導者らが、退任後も実権を保持する手法として、ナザルバエフ氏とカザフの動向を注視している」と話している。

 

トカエフ氏はロシアの招待に応じ、大統領就任後初の外遊先としてモスクワを訪れ、今月3日にプーチン大統領と首脳会談を行った。両首脳は経済面や安全保障面で協力関係を強化していくことで合意した。

 

ロシアにとって、カザフは地下資源など重要な貿易相手国である上、アフガニスタンや中東に近い同地域は安全保障上の要衝だ。ロシアもカザフも、いずれも国境を接する中国を牽制(けんせい)する狙いもありそうだ。【45日 産経】

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独裁国とは言え、そこまでやるかな・・・という感を抱かせたのは、以下のニュース。

 

****前大統領たたえ首都名変更=カザフ****

カザフスタンのトカエフ大統領代行は20日、大統領を退任したナザルバエフ氏の功績をたたえ、首都の名称をアスタナからナザルバエフ氏のファーストネームである「ヌルスルタン」に変更するよう提案した。

 

カザフの国営通信社「カズインフォルム」は、議会が変更を承認し、「アスタナは公式にヌルスルタンに名称変更された」と報じた。【320日 時事】

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さすがに、“だが「巨額の費用がかかる」などとインターネット上で反対の署名運動が広がっている。”【322日 共同】といった動きもあるようですが・・・。

 

このような見え透いた“歯の浮くような”対応をされてナザルバエフ氏は嬉しいのでしょうか?

独裁者というのはそういうものなのでしょうか?

あるいは、自身への忠誠心を試す試みとして進めているのでしょうか?

 

【ロシア・中国との微妙な関係を維持しながら独自性を主張するという困難な仕事】

いずれにしても、これまでのナザルバエフ氏がそうであったように、後継者もロシア・中国という大国を相手に微妙なバランスをとる外交が求められています。

 

独裁者云々は別にして、ロシア・中国とのバランスをとる手綱さばきに関しては、ナザルバエフ氏は傑出した政治家ではありました。

 

****独裁者辞任は院政への第一歩****

30年君臨した大統領が電撃辞任 経済不振や政治腐敗への不満をかわし、実質的な権力を握り続けるための準備か

 

カザフスタンの初代かつ建国史上唯一の大統領ヌルスルタン・ナザルバエフが319日、辞任を発表した。人口1800万人の中央アジアの資源大国で、権力の不透明な移行プロセスが始まることになる。

 

(中略)「私の今後の仕事は、この国の改革を継続する新しい世代の指導者の出現を支えることだ」

要するに、大統領を辞しても権力を手放すっもりはない、ということだ。(中略)

 

旧ソ連時代末期の89年からカザフスタンを率いてきたナザルバエフは、国家の創始者を自負する。実際、ソ連崩壊に伴う経済と地政学の混乱を乗り切り、カザフスタンを国際社会の一員として認めさせてきた。

 

中国やロシア、アメリカといった超大国とのバランス感覚に優れた有能な政治家でもあり、国全体の生活水準を引き上げた。

 

しかし、突然の辞任の背景には、経済の停滞と、国内で独裁政権に対する不満が高まっているという現実がある。(中略)

 

その矛先をかわすかのように、ナザルバエフは2月21日、内閣を総辞職させる大統領令に署名して、経済政策の成果が上かっていないと批判した。

辞任発表にも、暗い将来に対する民衆の怒りの矢面から逃れようという意図が透けて見える。

 

後継者選びを主導する

(中略)自分のタイミングで辞任することによって後継者選びを舞台裏で主導でき、さまざまな権力を行使し続けることもできると、(英グラスゴー大学で中央アジア問題を研究するルアンチェスキは指摘する。つまり、カザフスタンの将来を導く上で、ナザルバエフは重要な役割を演じ続けるのだ。

 

特に外交では、ロシアのウラジーミループーチン大統領や中国の習近平国家主席など近隣の超大国の指導者との戦略的関係を、今後も維持するだろう。

 

米政府との関係も良好で、18年1月にはドナルド・トランプ米大統領の招きで訪米している。

 

「(カザフスタンの)政治体制が内側から改革できるとは思えない」と、アンチェスキは言う。「カザフスタンは、独裁制の衰退という避けられない段階を迎えている。エリート層は国の自由化や改革ではなく、権力を強化することしか頭にない」

 

羊飼いの息子として生まれたナザルバエフは旧ソ連時代の共産党で力を付け、80年代に政治家として頭角を現した。

 

91年に独立したカザフスタンの初代大統領として、生まれて問もない国を脅かす数々の難局を切り抜けてきた。カザフスタンは世界9位の広大な国土を持ち、豊富な石油埋蔵量を誇る。しかし一方で、旧ソ連の大量の核兵器を受け継いでいた。

 

ナザルバエフはアメリカなどの支援を受けて、全ての核兵器をロシアに移管。国際社会でカザフスタンの独立性を確保した。

 

さらに、米石油メジャーのシェブロンやエクソンモービルなど、欧米へのパイプライン建設に携わる企業と大型契約をまとめてみせた。

 

「振り返ってみれば、ソ連崩壊に伴って生まれた権力者の中で最も有能な指導者だった」と、米ランド研究所上級研究員で、9295年にアメリカの初代駐カザフスタン大使を務めたウィリアムーコートニーは言う。

 

「非化によって(権力の)正続性固めたことは、他国にカザフスタンの独立を尊重させる巧妙な手段でもあった」

 

後継の大統領にとって最優先の課題は、厳しい国際情勢の中での国の舵取りだ。誰が選ばれるにせよ、隣国との付き合いではナザルバエフに頼らざるを得ないだろう。 

 

(中略)カザフスタンはロシアが主導するユーラシア経済同盟と集団安全保障条約機構(CSTO)の一角を占める。さらに、習が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」の要衝の1つでもある。

 

中口との微妙な信頼関係

ロシアと中国は近年、報復主義的および国家主義的な外交政策を強めてぃるが、カザフスタンは両国と強固な関係を維持している。

 

(中略)ナザルバエフはロシアと緊密に連携しながら、その重圧に直面しても、折に触れて独立性を示してきた。ロシアによるクリミア併合に反対する国連総会の決議は棄権した。ユーラシア経済同盟を政治共同体に拡大しようというロシアの思惑にも抵抗している。

 

北京との関係も綱渡りの状態だ。新疆ウイグル自治区の「再教育施設」には数万人のカザフスタン系住民が収容されており、カザフスタン国内で反中感情が高まっている。カザフスタン当局は一部の収容者の解放を働き掛ける一方で、施設の実態を告発している活動家を拘束した。

 

(中略)ナザルバエフが辞任発表後に初めて電話会談を行った相手はプーチンだった。

「ナザルバエフは強力な隣国と信頼関係を築いてきた」と、ストロンスキは言う。「問題は、彼がいなくなった後のことだ」【42日号 Newsweek日本語版】

****************

 

ロシアと一線を画したアイデンティティー確立という面では、ナザルバエフ前大統領は、ロシア語と同じキリル文字を使ってきたカザフ語の表記をラテン文字に切り替える施策をとっています。

 

ロシアとの関係については、2015918日ブログ“カザフスタン ロシアとの微妙な関係 「ナザルバエフ後」の不安もでも取り上げた不安が、現実課題となっています。

 

“ナザルバエフ氏を含め、独立カザフスタンのエリート第一世代には、「旧ソ連諸国の再統合は是である」という基本的な価値観がありました。

 

しかし、ロシアのプーチン政権が、ユーラシア経済連合を自国の国益に沿って過度に政治化していることに対して、カザフスタン国民の不満は高まっているという指摘もあります。

 

カザフでは今日、1991年末のソ連崩壊後に生まれた人々が人口の多数派になろうとしており、今すぐにではないにしても、今後政策の重点がユーラシア統合から主権重視へとシフトしていく可能性もありそうです。”【48日 GLOBE+

 

中国との関係で、上記記事にある“施設の実態を告発している活動家を拘束した”というのは、新疆ウイグル自治区からカザフスタンに不法入国したカザフ系中国人のサイラグル・サウイトバイ(41)のことと思われます。

 

中国のカザフ系住民を含むイスラム教徒弾圧に抗議する世論の後押しを受けて、彼女の身柄を中国側に送還せず、亡命申請者として国内にとどまることを認める“異例”の判決が下されたました。

 

しかし、“その後の展開には不穏な空気が漂っている。サウイトバイの姉妹と友人が拘束されたことだけではない。判決の12日後から、サウイトバイは自身の弁護士によって報道陣を含むあらゆる人との接触を禁じられ、3カ月〜1年かかる難民申請が認められるまで誰も彼女に近づけないという。”【2018828日号 Newsweek

 

「一帯一路」戦略の恩恵にあずかるためには、中国と全面的に対立する訳にもいきません。

 

ナザルバエフ前大統領の後継者は、こうしたロシア・中国との間の微妙なバランスをとりながらカザフスタンの独自性をも主張するという困難な仕事を担う必要があります。

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中央アジア諸国  米中ロの草刈り場でもなく、「旧ソ連圏」でもなく、独自の国家建設への取り組み

2018-11-30 23:18:19 | 中央アジア


【「文明の十字路」中央アジア】
日頃、東南アジアや中国・インド方面へ観光旅行に行くことが多いのですが、さすがに4回目・5回目となると新鮮味という点では薄れてきます。

なるべく近場で、少し訪問先を広げて(フライト時間が10時間を超えるような遠方はちょっとしんどいので)・・・となると、中央アジアのいわゆる「スタン系」があります。

観光的に一番ポピュラーなのは、サマルカンドやブハラ、ヒワなどがあるウズベキスタンでしょう。ツアーも多数あります。逆に言えば、一般的ツアーではウズベキスタン以外はぐんと少なくなります。

ウズベキスタン観光などは、これまでもしばしば検討したことはあるのですが、イスラムのモスクみたいなものがメインになりがちなこと、乾燥した地域で東南アジアのような潤いには欠けることなどで、見送ってきました。

ただ、そういうのは偏見・独断・無知であり、中央アジアの観光資源としてはイスラム関係以外にも遺跡や風光明媚な山岳地帯とか、あるいは温泉があったりと、探せばいろいろと興味深いものがあるようです。なにせ、かつてのシルクロードにおける「文明の十字路」です。

来年あたりは、「スタン系」のどこかに足を運んでみようか・・・とも考えたのですが、3月末にパキスタンの北部フンザに行く予定で手配済みですので、中央アジアの「スタン系」と方面・イメージ的にかぶってしまうところが難点です。(行くとしたら、冬は寒いので夏ですが、そうなるとパキスタンと連続します)再来年かな・・・・。

【画一的イメージ、あるいは、米中ロといった大国の影響下の国というイメージで見られがちな中央アジア諸国】
国際ニュースで中央アジア関係のものを目にすることは、あまりありません。
最近では、タジキスタンの巨大ダムの話ぐらいでしょうか。

****世界最大級となる巨大ダムで発電開始 タジキスタン****
高さ7000メートル級の山々に囲まれた中央アジアのタジキスタンで、世界最大級になると見込まれる巨大なダムを利用した水力発電が始まり、周辺諸国を含めて安定した電力供給につながることが期待されています。

タジキスタン政府が建設を進めているログンダムは、完成すれば、ダムの底から堤防までの高さが335メートルと、世界最大級になることが見込まれています。

ダムに併設された水力発電所では16日、最初の発電機の稼働を祝う式典が開かれ、ラフモン大統領は「歴史的な出来事だ。ここで生み出された電力が国の隅々に届けられるだろう」と演説しました。

ログンダムは1970年代に建設が始まり、ソビエト崩壊に伴う混乱で中断していましたが、その後、2万人を超す労働者と3600台の建機を投入して建設が進められてきました。

タジキスタン政府は10年後の完成を目指すとともに、巨大なダムが生み出す余剰電力をウズベキスタンやアフガニスタンといった隣国に輸出したい考えで、周辺諸国を含め、安定した電力供給につながることが期待されています。【11月17日 NHK】
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タジキスタンには現在も、304mの堤防が高さにおいて世界最大であるヌレークダム(ソ連時代の1961年完成)がありますので、ログンダムが完成すれば高さでは1位、2位独占ということにもなります。

資金の出所は、「ロシアだろうか、それとも、また中国だろうか・・・?」と考えてしまうのですが、“ログンダム発電 所(発電設備能力3,600メガワット)の建設について、 14年6月に第三者機関である世界銀行から評価報告書が発表され、タジキスタン政府は16年7月、イタリアの建設大手サリーニ・イムプレジロと発電所建設に関する包括契約を締結。同年10月には起工式が行われた。”【JETRO エリアリポート 芝元英一氏】ということからすると、ロシア・中国ではなさそうです。

中央アジア諸国については、日本における情報が不足していることもあって、とかく「旧ソ連」とか、近年中国の進出が著しい地域といった画一的イメージ、あるいは、米中ロといった大国の影響に翻弄される国々というイメージで見てしまい、「スタン系」各国の独自の取り組み・動き、主体性といったものを見落としてしまいがちです。

【中央アジアを大国の草刈り場と見るのは誤りだ】
そうした傾向を戒めるような記事がたまたま2本ありましたので、並べて紹介します。

****イスラム勢力と中国が衝突?****
「世界を制する要衝」は米中ロの草刈り場にはならない

「地政学」なる怪しげな響きを持つ学問の大家にハルフォード・ジョン・マッキンダーというイギリスの学者がいた。

彼は20世紀初頭、「中央アジアを制する者がユーラシアを制し、ユーラシアを制する者が世界を制する」と提唱した。当時、中央アジアではインド洋を目指して南下を策すロシア帝国と、それに抵抗する大英帝国の問で「グレ
ートゲーム」と呼ばれる勢力争いが繰り広げられていた。
 
そして今、ソ連時代の勢力圏維持を図るロシア、世界のどこにでも割り込むアメリカ、「一帯一路」経済圏構想を掲げる中国の3大国間で、中央アジアを舞台にしたグレートゲームが再来・・・・との議論が定説化した。

かつて中央アジアに外交官として勤務した筆者には、大げさな話に思える。中央アジア5力国には十分な統治能力がある。特にウズベキスタンは十分な人口(3212万人)と経済力(GDP672億ドル)を持ち、カザフスタンは国家・官僚機構を整備して国際的なイニシアチブも取っている。

中央アジアを大国の草刈り場と見るのは誤りだ。
 
ロシアは二言目には、「アメリカが中央アジア進出を狙っている」と言う。確かに91年にソ連が崩壊して独立した中央アジア諸国に対して、アメリカは素早く連携を図ろうとした。

01年に9.11同時多発テロ事件が起きると、アメリカはアフガニスタンに進軍。補給のために中央アジアの数力所に基地を置き、積極的に経済援助を行った。
 
その後アフガン駐留米軍の縮小に伴い、14年までに中央アジアからも米軍は撤退した。筆者が接触する現地の米大使などアメリカ人専門家は皆「アメリカは中央アジアに死活的な関心がない」と言う。

石油・ガス資源はあるが、人目と経済力の面で巨大市場ではない。しかも中央アジアは内陸国で、軍事的な補給のためにはロシア、インド、中国などの領土を通らなければならない。

中国を警戒するカザフスタン
むしろ野心的なのはロシアのほうだ。19世紀に中央アジアを征服して以来、宗主国気分が抜けず、今も相互の経済関係は緊密だ。また、タジキスタンにロシア兵が5000人、キルギスには中隊規模の航空兵力が常駐するなど、ロシアは唯一の軍事的パートナーだ。
 
米ロに比べて、中国が中央アジアに積極的な進出をしたのはこの15年程度。タジキスタンではインフラ投資を一手に担い、首都ドゥシャンベに建築・建設ブームを起こした。

カザフスタンでは石油企業に大々的な資本参加をしている。中国はトルクメニスタンの輸出天然ガスもほぼ独占する。

ただカザフスタンでは中国警戒論が強まっており、トルクメニスタンは金払いが悪い中国に代わって、ロシアなどに天然ガス輸出を振り替えようとする動きがある。 

中国は一帯一路の旗印の下、中央アジアを横切る鉄道を現状の1路線に加えて何本も新設すると豪語していたが、まだ経路も確定していない。中国・ヨーロッパ間の鉄道輸送は運賃が海路の2倍かかる。大風呂敷を広げてみたが、採算面で二の足を踏んでいるようだ。
 
今、中央アジアでは地域大国のウズキスタンとカザフスタン主導で、ASEANのような諸国の団結強化の動きがある。

この2か国が自立姿勢を見せるたびにロシアは不快感を示し、なぜか両国でテロが起きる。またカザフスタン北部の工業地域に集住するロシア人の扱いをめぐって、ロシアが政治的・経済的圧力を強めるかもしれない。
 
ウズベキスタンでは16年に死去したイスラム・カリモフ大統領の後継者シヤフカト・ミルジョエフ大統領がいまだ権力確立の途上にある。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は78歳と高齢だが後継者の用意ができていない。

中央アジア南方に接するアフガニスタンからは、イスラム原理主義勢力タリバンの脅威が忍び寄る。 

こうした地域内の不安定が大規模紛争に発展するかどうかのカギは、大国の介入だ。その点で要注意なのが東方に隣接する中国新疆ウイグル自治区の動向。

対米貿易戦争で中国経済や統治能力が不安定化する可能性は否定できない。そうなればウイグル住民が多数流出し、中央アジアのイスラム勢力との連携を強めかねない。中国がウイグル人の後を追う形で軍事介入すれば、ユーラシアに激震が走るだろう。【河東哲夫氏 11月13日号 Newsweek日本語版】
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【もはや「旧ソ連圏」ではない 独自の国家建設に取り組む中央アジア各国】
“この2か国が自立姿勢を見せるたびにロシアは不快感を示し、なぜか両国でテロが起きる”・・・・表立っての言動はともかく、中央アジアでロシアに対する反感が強まっていることは想像に難くないところです。

****中央アジアの国々はもはや「旧ソ連圏」ではない****
時間が止まったイメージとは裏腹に、ソ連離れと独自の国家建設は着実に進んでいる

ソ連崩壊から30年近くたつのに、かつて植民地だった国々に対して「旧ソ連」という言葉を使うのは変だI。10月29日、ウクライナのジヤーナリストがツイッター上でそう批判した。
「私たちの現在のアイデンティティーを決めるのは植民地だった過去ではない」
 
91年のソ連崩壊から今年で27年。一部のジャーナリストや著述家はいまだに旧ソ連圏の国々とソ連の歴史をなかなか切り離せずにいる。

中央アジアについて論じる場合は特に顕著だ。カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5力国は、旧ソ連圏の他の国々とは違う。
 
第1に、バルト3国などではキリスト教徒とヨーロッパ系住民が多数派だが、中央アジアの国々ではイスラム教徒とテュルク語系住民(タジキスタンは除く)が圧倒的多数を占める。
 
第2に、中央アジアの国々は独立後の経緯も他の旧ソ連圏諸国とは比較的異なっている。他の国々が徐々に民主主義とリベラリズムを受け入れてきたのに対し、中央アジアの5力国は実質的には今も権威主義だ。
 
第3に、中央アジア各国は海のない内陸国。そのためロシア、インド、中国など大国の陰でかすみがちだ。

民主主義や安定が課題
それでも「旧ソ連」という呼称は私たちの目を曇らせ誤解を生む。中央アジアは決して変化していないわけではない。特に国家建設に関しては、ゆっくりとだが変化してきた。

ソ連崩壊以降、中央アジア各国はそれぞれ独自のアイデンティティーづくりに取り組んできた。
 
中央アジア最大の国カザフスタンは「ユーラシア国家」を自負している。地理的にアジアとヨーロッパの中間にあることから、94年にナザルバエフ大統領が提唱した考えだ。

ナザルバエフは14年の演説で、カザフスタンは「ソ連の旧弊」からはるか遠くまで前進したと語り、ソ連的なアイデンティティーに逆戻りする可能性を一蹴。民主化はお粗末な状態とはいえ、自由貿易を受け入れ、市場経済に分類されている。
 
一方キルギスは「中央アジアにおける民主主義の孤島」と広く見なされ、10年4月のバキエフ政権崩壊後、中央アジアで初めて民主的な議会選挙を実現。
民主主義の質はまだ安定しているとは言えないが、ソ連時代の古い中央集権制度から大きく様変わりし、周辺国よりオープンになっている。
 
タジキスタンやトルクメニスタンでは文化面で「旧ソ連」離れが進む。中央アジアで唯一ペルシヤ語系住民が多数派を占めるタジキスタンは16年、タジク語式の姓を復活させるべくロシア語式の姓を法律で禁止。

一方トルクメニスタンではニヤゾフ初代大統領が自らを「トルクメニスタンの父」と称し、その威光によるアイデンティティー再建を目指した。ニヤゾフは06年に死去したが、個人崇拝モデルは今も健在だ。
 
中央アジア最大の人口を有するウズベキスタンでは、独立以降、政治的安定と民族間の融和が最大の懸案だ。そのため91年に初代大統領に就任したカリモフは野党と宗教団体に対し強硬策を取ったが16年に死去。ミルジョエフ現政権は相変わらず独裁体制とはいえ、経済の自由化に取り組んでおり、外交面でも開放的だ。
 
中央アジアをソ連時代の遺物扱いするのはもうやめよう。独自のアイデンティティーを持つ新興国家群と考えるべきだ。【12月4日号 Newsweek日本語版】
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中央アジア各国において、(大国から支援を引き出しながら)それぞれ独自の国家建設の歩みがあり、また、独自の問題を抱えている(独裁・権威主義的という共通性はありますが)という、「当たり前」の話です。

中央アジア諸国が画一的なイメージで見られる原因として、「スタン」という国名の類似性も大きいように思われます。

周知のように「スタン」は、ペルシア語由来の言葉で、一般的に、その地方の多数派を占める民族の名称の語尾に接続して、地名を形成する語尾です。

当該国においても、この「スタン」イメージからの脱却の動きもあり、キルギスは93年にキルギスタンから国名を変更しています。

カザフスタンのナザルバエフ大統領も、「スタンの付く国が多い地域でカザフの知名度が埋没している」との認識で、国名を変更する考えを2014年に表明したことがありますが、その後は?

もちろん名前より中身が重要(特に、ソ連時代やロシアとは異なる民主主義を確立することが重要)・・・ではありますが、意気込みを名前で示すという考えもあります。
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