孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

LGBTを西側の価値観として否定する中ロ 米ではキリスト教福音派が否定の急先鋒 民間矯正施設も

2024-08-10 23:39:46 | ジェンダー

(映画「ある少年の告白」より 「神の教えに背く同性愛者」として矯正施設に送られた少年の実話に基づく映画)

【国連安保理でも取り上げられたパリ五輪ボクシング女子問題】
パリ・オリンピックでは熱戦が続いていますが、ジェンダーの観点で話題になったのがボクシング女子のイマネ・ケリフ選手(アルジェリア)。

彼女はよく女子スポーツで問題になるトランスジェンダーではなく、「長年、女子の試合で競技してきた。女性として生まれ、登録され、人生を生き、ボクシングをして、女性のパスポートを所持している」選手(IOC広報のマーク・アダムス氏)ですが、IBA(国際ボクシング協会)は2022年および2023年の世界選手権期間中に実施された2回の検査の結果、女子競技に参加するための条件を満たさなかったとしています。

相手選手が途中棄権したことで、ケリフ選手の「女性」としての資格が問題になりました。今回は同選手の資格問題自体を云々することが主旨ではありませんので、詳細は割愛します。

スポーツにおける「女性」としての資格に関連してひとつだけ感じることを言えば、そういう「資格」というのはそれほど自明のことではないようにも感じています。

例えば、染色体に男性的な特徴があるとか、男性ホルモンの値が高いので「女性」としての資格がない・・・といえば、「なるほど」と思いがちですが、「早く走れる」「早く泳げる」「体力がある」「高く跳べる」等々のスポーツ選手の「競技に向いた資質」というのは多分に遺伝子レベルの特徴にも関連していることが多いのでは。

かつてオリンピックで五つの金メダルを獲得したオーストラリアの水泳選手イアン・ソープ氏は絶対的な強さを誇っていましたが、同氏の足のサイズは35㎝もあるとか。多分に泳ぎにも影響するでしょう。

一般人より泳ぎに有利な体形を有していることは問題とされず、男性ホルモン値が高い「女性」は資格がないとされる・・・そこに、それほど自明の差があるのか・・・身体的な問題を「資格」としてつきつめていくと、そもそも「競技」が成り立つのか?・・・そういうことを最近よく思います。

なお、ケリフ選手は金メダルを獲得しましたが、「五輪の価値を守り、他者をいじめてはならない。これが私のメッセージだ。将来の五輪で二度とこうしたことが起きないことを願う」と試合後の記者会見で訴えたそうです。

話を戻します。イマネ・ケリフ選手の話を持ち出したのは、ジェンダー・LGBTの問題に象徴される価値観の違いが、従来の右・左といった古典的政治思想に代わって、国際政治あるいは国内政治における対立軸となりがちなためです。

ケリフ選手の問題は国連安保理の場にも持ち出されました。

****安保理、ボクシング女子騒動で対立 ロシアにアルジェリア反発****
国連安全保障理事会が女性と平和、安保にテーマに開いた7日の会合で、ロシアがパリ五輪ボクシング女子の性別適格性騒動に言及し、渦中の選手の出身国アルジェリアが強く反論する場面があった。

ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連次席大使は、西側諸国が五輪運営を独占していると主張。LGBT(性的少数者)を巡る政治的意図をその他諸国に無理矢理押し付け、女性の権利と尊厳を損なっていると非難した。

その上で、パリ五輪のボクシング女子に出場するイマネ・ヘリフ選手(アルジェリア)と林郁婷選手(台湾)の性別適格性を巡る問題を議論に持ち出し、「国際ボクシング協会(IBA)のホルモン検査で失格した選手ら、つまりIBAと常識によると男性だが、その選手によって女子選手が公然と暴力を受けている。全く忌まわしいことだ」と述べた。

これに対しアルジェリア上級外交官のトゥフィク・クードリ氏は強く反論し、「ヘリフさんは勇敢なボクサーで、女性として生まれ、女性として過ごしてきた」と指摘。「漠然とした政治的意図を持つ人たちは別にして、その点に一片の疑問もない」と強調した。

ヘリフ選手と林選手は昨年の世界選手権で性別適格性検査をクリアせず、IBAの規定違反で失格となった。ただ、IBAはガバナンス問題でボクシング統括団体としての地位を剥奪され、パリ五輪では国際オリンピック委員会(IOC)が競技を統括しているため、出場が認められていた。【8月8日 ロイター】
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【LGBT権利擁護を西側の価値観として排除するロシア・中国】
“LGBT(性的少数者)を巡る政治的意図をその他諸国に無理矢理押し付け、女性の権利と尊厳を損なっている・・・” ロシアがそういう主張をするのはある意味当然で、ロシアはロシア的価値観を重視し、欧米的価値観の象徴としてLGBTについて極めて厳しい対応をとっています。

****ロシア最高裁、LGBT活動を「過激派」認定 コミュニティーの不安募る****
ロシアの最高裁判所は11月30日、「国際的なLGBT(性的マイノリティー)市民運動」と呼ばれるものを過激派組織と断定し、全国での活動を禁止した。

このような組織は法人として存在しないにもかかわらず、判決は司法省からの申し立てによって下された。

ロシアではウラジーミル・プーチン大統領の下、保守的な考え方や「伝統的な家族観」が推進されている。こうしたなか、LGBTに関する活動は西側の価値観であり、ロシアに敵対するものとされている。LGBTコミュニティーへの抑圧も、ロシアの道徳を守る手段とみなされている。

3年前に改正された憲法では、婚姻が男女間のものを意味することが明確になった。同性婚は認められていない。

昨年には、同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法律も強化された。書籍や映画、オンラインなどで同性愛を流布することが違法とされ、違反者には重い罰則が科せられる。(後略)【2023年12月1日 BBC】
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LGBTの権利擁護を西側の価値観として、これを排除するということでは中国も同様です。

****中国で性的少数者への暴力横行 施設に送り「転向療法」で虐待****
世界で性の多様性への理解が進む中、中国でLGBTQなど性的少数者を施設に送り込み「転向療法」と称して殴打するなどの虐待が横行していることが11日、分かった。被害者らが暴力の実態を証言した。

保守的な考えに基づく偏見に加え、性的少数者の権利擁護を「西側の価値観」と警戒する習近平指導部の姿勢が性差別に拍車をかけている。  

被害者や支援者らによると、転向療法を行う病院や民間施設は、上海市や河北、湖北、四川各省などに100カ所近く点在。入所者の多くが家族に半強制的に連行された10~20代の若者だという。  

「おまえなど気持ち悪くて役立たずだ」。性的指向や性自認の「矯正」を行う施設で、指導官が入所者を殴打したり人前で裸にさせたりした。性的虐待の被害もあった。  

施設では外部との連絡を制限するためスマートフォンやパソコンを没収される。髪は短く切られ、軍隊のような厳しい訓練のほか「男性は働き女性は子を産む」といった伝統的な性別役割の授業を受けさせられる。【2月11日 共同】
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【アメリカ国内でLGBTを否定するキリスト教福音派】
では“西側”の盟主たるアメリカにおいてはLGBTの権利が擁護されているのか・・・

確かにアメリカのTVドラマなど観ていると、びっくりするぐらい普通にLGBTで溢れており、LGBTでない者の肩身が狭いぐらい・・・

その一方で、中絶をめぐる女性の権利と並んで、LGBTに関する見方は国を二分する対立の最前線となっており、大統領選挙を左右する問題です。

LGBTに否定的な考えの急先鋒が「キリスト教福音派」と呼ばれる人たちで、トランプ前大統領を熱烈に支持しています。

****トランプ前大統領を支持するキリスト教「福音派」(前編)…アメリカ政治を動かす宗教パワーとは****
(中略)
「福音派」とは、キリスト教プロテスタントの一部の宗派を指す。聖書を歴史的な書物ではなく、「御言葉(みことば)=神の言葉」だとして信じて、聖書に忠実な信仰生活をおくる人々だ。

聖書を絶対的なものとみなすため、性的少数者や人工中絶の権利について否定的な考えを持つ。具体的に聖書にはこう書かれている。

レビ記18章22節:「あなたは女と寝るように男と寝てはならない。これは憎むべきことである。」→同性愛、同性婚に否定的な立場
エレミヤ書1章5節:「あなたがまだ生まれないさきに、あなたを聖別し〜」→神は胎児もひとりの人間とみなすため、人工中絶は殺人と同じだとして、否定的な立場

ピュー研究所によると、「福音派」はアメリカの成人人口の4分の1を占めている。うち81%がトランプ氏に投票すると答えていて、選挙には大きな影響力を持っているのだ。(後略)【8月7日 日テレNEWS】
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****トランプ前大統領を支持するキリスト教「福音派」(後編)…「性的倒錯がアメリカを覆っている」****
(中略)
「性的倒錯がアメリカを覆っている」…米国の現状を嘆く福音派牧師
(中略)トランプ氏を支持するロック牧師は、今のアメリカの政治状況について「サタン(悪魔)が文化に影響を与えて、世界中のあらゆるモノがLGBTQを推進している」と嘆いた上でこう述べた。

ロック牧師:「性的倒錯がこの国を覆ってる。絶対に同性婚を覆すべきで、中絶を覆して、連邦政府として禁止して犯罪にすべきです」「聖書には神を忘れた国は呪いを受けて地獄になると書かれています」

保守的な「福音派」の恐れとは…アメリカ建国とキリスト教
元々アメリカは、宗教的な迫害から逃れてきたキリスト教徒が建国した国とされ、プロテスタントの価値観が浸透した"キリスト教国家"的な側面を持っていた。歴代大統領は就任式の時に聖書の上に手を置いて宣誓を行うし、公立学校では聖書朗読も行われていた。

しかし、時代が進むと共に価値観が多様化し、リベラルの影響が強くなり状況が変わる。1962年には公立学校での礼拝が違憲とされ、73年には中絶の権利が認められ、2015年には同性婚が認められる最高裁判決が出た。

聖書の記述は神の言葉としてとらえキリスト教原理主義的な側面を持つ「福音派」。彼らはリベラル的な考えがアメリカに浸透して国の形を変えていくと感じ、自分たちが守ってきた伝統的な価値観が覆されつつある状況に危機感を強めたのだ。(中略)

キリスト教価値観に反すように見えるトランプ氏をナゼ福音派は支持?
(中略)
グレグ・ロック牧師 「トランプ師を支持する最大の理由は、私が言うべきことを言わせてくれる人だからです。彼は歴史上最もアメリカに親しみ、言論の自由に親しんでいる大統領(候補)です」「誰だって失敗する。私は彼を見て、不倫したとか離婚したとか言うつもりはない。私は牧師を選ぼうとしているのではない。大統領を選ぼうとしているのです」

ロック牧師はこう述べた上で、「メディアは嘘をつくので、トランプ氏が過去に何をやったかなんてどうでも良い」と付け加えた。

またワシントンの政治集会で出会った福音派の女性は、「聖書に出てくるダビデも姦淫の罪を犯しました。神様は不完全な人を用いられるのです。しかし、私たちには罪を許す神様がいます。トランプ氏は自分の罪を告白して、神様に導かれているのです。だから私たちは許しているので彼に投票できます」との答えが返ってきた。(後略)【8月7日 日テレNEWS】
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【性的問題に関する民間矯正施設に全米で12万~20万人の未成年者が送り込まれる】
こうした価値観が成人人口の4分の1を占める「キリスト教福音派」にあることもあって、アメリカでは性的指向を矯正する民間矯正施設が1万か所もあって、12万~20万人の未成年者が本人の意思ではなく送り込まれているとか。ロシアや中国ではなく、アメリカで・・・

****「僕は真夜中に拉致されゲイ矯正施設に送られた」...床を引きずられ監禁状態に、全米に1万か所を超える施設が*****
<「最悪だったのは、金を出したのが僕の父親だったこと」──10カ月に渡る民間矯正施設での監禁生活から抜け出して、声なき人々の代わりに声を上げる>

15歳だったある日の真夜中、僕は2人の見知らぬ男たちに誘拐された。

恐ろしくて抵抗などできなかった。僕は飛行機に乗せられアメリカ大陸の反対側に連れて行かれ、10カ月後に脱出するまで監禁状態に置かれた。

あの日のことは忘れられない。2人の男の車は真っ黒に舗装された道を走った。行き先など分からない。窓からは煙のようにたなびく雲がかかったユタ州の山々が見えた。

たどり着いた先には、並んで立つ細長い2つの建物があった。「エレベーションズRTC」という表札が出ていて、焼けつく日差しの下でも暗い影をまとっていた。

僕は灰色の廊下を文字どおり引きずっていかれた。洋服は脱げて床に落ち、ヒリヒリと痛む肌に冷たい水が染みた。僕は裸で床に崩れ落ちた。内側から煮えたぎる怒りが噴き出してきた。3日間、僕はひたすら泣き続けた。

最悪だったのは、金を出してこんなことをさせていたのが僕の父親だったことだ。両親が離婚した後、僕は父に引き取られていた。とてもつらい日々だった。

あの頃ちょうど僕は、本当の自分を理解し、受け入れられるようになっていた。そして今後はゲイであることを公表して自分らしく生きたい、母と一緒に暮らしたいと父に話した矢先の出来事だった。

エレベーションズは営利目的で運営されている民間の矯正施設だ。問題を抱えたティーンエージャーの社会復帰を支援するとうたっているが、実際には金を払う人間の言うがままらしい。

担当のセラピストによれば、僕がここに送り込まれたのは父の期待に背いたからだった。

何カ月もの間、僕は施設の廊下を当てもなく歩き回った。監禁されていることにも施設の雰囲気にも息が詰まりそうだった。日記帳に僕は、旅する探検家が主人公の物語を書いた。物語の世界に入りたいと心底思った。

10カ月後に僕はようやく、母とラビ(ユダヤ教の聖職者)と弁護士のおかげで施設を出ることができた。

被害者の声を届けたい
同様の施設で、同じような目に遭った(遭っている)人は僕以外にもたくさんいる。「ストップ制度的児童虐待」という団体によれば、こうした施設に入れられている未成年者は全米で12万~20万人もいるという。

今年に入り、僕はエレベーションズと担当セラピスト、そして父に対し、僕が受けた虐待と苦痛への損害賠償を求める訴訟を起こした。

裁判所や議員たち、そして一般の人々に問題を知ってもらうことも目的の1つだ。またこれは、今も施設にいる多くの未成年者や、施設によって生涯にわたる傷を負わされた人々に代わり、僕が起こさなければならない行動だった。

こうした施設に入所させられた人々の間では、鬱や薬物依存になったり、虐待したりされたりする人間関係に陥ったり、果ては自殺するといった事例が非常に多いといわれる。全米に1万カ所以上あるといわれるこうした施設への規制強化を求めて、僕たちは力を合わせなければならない。

僕は18歳になり、この秋からはカリフォルニア州の大学に通う。1年前には考えられなかったことだ。声なき人々の代わりに声を上げ、社会に貢献する力を付けたいと思っている。僕は未来に向けて前進していく。【8月9日 Newsweek】
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社会の一般的価値観、あるいは宗教的価値観にそぐわない者を「矯正」の名のもとに強制的に施設に隔離収容するということは、19世紀、戦前までは珍しいことではありませんでしたが、現代アメリカでも・・・・というのが驚きでもあります。

アメリカでは1973年まで、同性愛は精神障害とみなされていました。WHOが「国際疾病分類」から同性愛を削除したのが1990年。

性的指向の矯正治療への専門家の批判、2014年にトランスジェンダー(17歳)が自殺した事件などを受けて、オバマ大統領が矯正治療の中止を訴える声明を発表。十数州で矯正治療を禁止する法律が成立しています。

1万か所、12万~20万人という数字の確かさについては知りません。
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東アフリカ・ウガンダの性的少数者迫害 そうした状況を認めない日本政府

2023-03-23 22:49:44 | ジェンダー

(ウガンダの国会議事堂で同性愛を批判する衣装を着てアピールする国会議員=首都カンパラで21日、ロイター【3月22日 毎日】)

【性的少数者の権利をより規制・制約する方向への動きも】
LGBTQなど性的少数者の権利、同性愛や同性婚の問題は近年日本でも意識されるようになっており、世の中の流れはそうした性的少数者の権利を擁護する方向にある・・・とのイメージがあります。

確かに欧米社会などではそうした流れにあるのでしょうが、一方で、そうした流れへのアンチ的な、性的少数者の権利をより規制・制約する方向への動きもあります。

ウクライナをめぐり欧米と対立し、プーチン体制のもとでロシア固有の価値観・文化を強調するロシアもそのひとつ。

****ロシア 同性愛の情報など規制する改正法成立 欧米の影響排除か****
ロシアで5日、同性愛に関する情報の拡散などを規制する改正法が成立し、プーチン大統領としては、欧米の影響力の排除や伝統的な価値観を一層強く打ち出すねらいがあるとみられます。
この改正法は5日、プーチン大統領の署名で成立しました。

法律は、ロシアが「非伝統的」と位置づける同性愛などについて関心を持たせるなどの目的で、出版やインターネットなどで情報を発信したり、公共の場で活動したりといった行為を「プロパガンダ」として規制するものです。

改正により規制範囲が拡大され、違反した場合の罰金も引き上げられました。

プーチン大統領は、ことし10月に行った演説の中で性的指向などをめぐり、「西側のエリートが、はやりの傾向を自国の国民や社会に根づかせるのはかまわないが、同調することを他人に要求する権利はない」と述べています。

プーチン大統領としては今回の法改正をとおして、欧米の影響力の排除や伝統的な価値観を一層強く打ち出すねらいがあるとみられます。

一方、独立系メディアは、ロシアで性的マイノリティーの人たちへの抑圧がさらに強まることが懸念されると伝えています。【2022年12月6日 NHK】
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【東アフリカ・ウガンダで死刑の可能性も含む「世界で最も過激な」反LGBTQ法案制定の動き】
アフリカでは54カ国中30カ国以上で同性愛が犯罪とされているとのことで、ケニアとコンゴにはさまれた位置にあるウガンダでも、同性愛者同士の性交渉は違法行為とされています。

そのウガンダでは更に規制が強化され、同性愛者だと自認しただけで「犯罪者」になり、性交渉をした場合には死刑になるおそれもある法案が国会で可決され、大統領署名を待つ段階にあります。

****ウガンダで反LGBTQ法案可決 禁錮刑も可 大統領判断が焦点****
アフリカ東部ウガンダの国会は21日、LGBTQなど性的少数者を取り締まり、禁錮刑を科すこともできる法案を賛成多数で可決した。ロイター通信などが報じた。

同国には同性間の性行為を禁止する法律があったが、今回は性行為の有無にかかわらず同性愛者そのものを取り締まる厳しい内容だ。

ウガンダでは伝統的な価値観が根強く、世論では性的少数者の権利擁護に批判的な意見が優勢とされる。ただ法案には国内外から批判の声が上がっており、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「もし成立すればいくつもの基本的な権利の侵害につながる」と指摘していた。

法案の成立には大統領の署名が必要で、今後はムセベニ大統領の判断が焦点となる。【3月22日 毎日】
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国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」HRWによると、同性愛者が性交渉をくり返したり、同性の障害者と性交渉を持ったりした場合には、「加重罪」が適用され、死刑になることも。

また、「助長罪」は20年以下の禁錮刑で、当事者だけでなく、記者や人権団体関係者、支援者や宿泊施設の管理者も、長期の服役となるおそれがあります。

同性愛者だと自認するだけでも、10年以下の禁錮刑。

トゥルク国連人権高等弁務官は声明で「これは『価値観』の問題ではない。その人が何者か、誰を愛しているかを理由に、暴力や差別を助長することは間違っている」と非難し、ムセベニ大統領に対して署名しないよう呼びかけています。

【2014年にも同様な動き 大統領署名後に最高裁が無効判決 同性愛者リスト公開や女性同性愛者レイプも】
ウガンダのこの種の問題が国際的に注目されるのは今回が初めてではありません。2013~2014年にも反同性愛法案が国会で可決され、欧米からの批判に抗して大統領署名もなされましたが、最高裁で議会での採決に不備があったとして無効にする判断が下されたことがあります。

****ウガンダ議会、反同性愛法案を圧倒的多数で可決****
ウガンダ議会は20日、反同性愛法案を圧倒的多数で可決した。同性愛への関与を繰り返した者に終身刑を科す内容で、国際的に激しい抗議の声にさらされている。しかし同国の議員らは、「悪」に対する勝利だとして可決を歓迎している。
ウガンダ議会が可決した反同性愛法案は、人権団体や各国の指導者たちから強く批判されており、バラク・オバマ米大統領はこの法案を「おぞましい」と表現したほか、南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教はアパルトヘイト(人種隔離政策)になぞらえている。
法案は今後、キリスト教福音派の敬虔(けいけん)な信者であるヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領の承認を経て発効する。法案を推進したウガンダのデービッド・バハティ議員は、最終的な法案からは死刑を定めた条項が削除された点を強調している。
バハティ議員はAFPに対し、「これはウガンダの勝利です。議会が『悪』に対抗する投票をしたことを嬉しく思います」と述べ、さらに、「ウガンダは神を恐れる国であり、われわれは全体論的な考え方で生命を重視しています。国外の世界の考えにかかわらず、議会はこうした価値観に基づいてこの法案を可決しました」と語った。
なお、ウガンダではこの前日、ポルノおよび性的に挑発的だと見なされるあらゆる服装を禁止する法案が可決されていた。この法案では、テレビで露出度の高い衣装を着た人のパフォーマンスを放送することが禁止されるほか、個人によるインターネットの閲覧も厳しく監視される。【2013年12月21日 AFP】
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2014年2月にはムセベニ大統領が署名して法案が成立
“ウガンダ大統領、反同性愛法案に署名 欧米の批判顧みず”【2014年02月25日 AFP】

福音主義キリスト教の敬虔な信者であるムセベニ大統領は、“同性愛の男性がなぜ「美しい女性らには目もくれず、男に引かれる」のかが理解できないとして、「これは本当に深刻な問題だ。(同性愛者には)何か非常におかしいところがあるのだ」と語った。また、「同性愛者は実際のところ、金銭を目当てに働く者たちだ。異性愛者なのに、金のために同性愛者を名乗っている。金のために売春をする者たちだ」と断じた。”【同上】

法案成立後、大衆紙に同性愛者とされる200人の氏名が一部顔写真付きで掲載されるという事態にも。

****タブロイド紙が「同性愛者リスト」掲載 ウガンダ****
世界的にも極めて厳しい反同性愛法が成立したばかりのウガンダで25日、大衆紙が同性愛者とされる国民200人のリストを掲載した。ヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領は同法案への署名に際し、同性愛は「金目当ての売春行為」だと述べていた。
タブロイド紙レッドペッパー(Red Pepper)には、「発覚!ウガンダの同性愛者トップ200」との見出しが躍り、同紙が同性愛者とみなす人々の写真に加え、それぞれが及んだとされる同性愛行為が生々しく記述されている。
同国では2011年にも、別の新聞が同性愛者らの写真と名前、住所、さらに、「こいつらをつるし上げろ」という文言を加えた記事を一面に掲載し、同性愛者の人権活動家デービッド・カト氏が撲殺される事件が発生している。(中略)

同法案の署名に先立ち、欧米諸国や主要な援助国からは強い批判が集まっており、中でも米国のバラク・オバマ大統領はウガンダと米国の2国間関係が損なわれる恐れもあると警告していた。
米国式の福音主義キリスト教の信者が増加傾向にあるウガンダでは、同性愛嫌悪の風潮が広がっている。同国在住の同性愛者らは、嫌がらせや暴力行為の脅迫を頻繁に受けている。

また、人権活動家らは、同性愛の女性に対する「(同性愛の)矯正目的」と称するレイプの事例も複数報告している。【2014年02月25日 AFP】
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その後、ウガンダの憲法裁判所は8月、反同性愛法について、議会での採決に不備があったとして無効にする判断を下しました。

ただ、“反同性愛法は無効となったが、植民地時代の法を土台とする刑法が施行されるウガンダでは今後も、理論的には、外国籍の人や観光客を含む誰もが「自然の摂理に反した性行為」をした場合、投獄される可能性がある。

また、ウガンダの国会議員らは、一度は無効とされたより厳格な反同性愛法を再度成立させる方向で動いている。ここ18か月で、ウガンダ在住の英国人2人が同性愛行為に関連した「犯罪行為」を理由に国外追放された。”【2014年10月08日 AFP】という状況でもありました。

この2014年当時の動きと今回の反LGBTQ法案可決の間で、同性愛関連法案についてどのような動きがあったのかは知りません。

ただ、ウガンダでは今回の反LGBTQ法案は別にしても、同性婚を禁じる憲法があり、「自然の理に反する人間同士」の性行為をした人に終身刑を科す刑法もある状況です。

【そのウガンダから同性愛迫害を理由に日本へ逃れてきた女性に日本政府は「女性が同性愛者であることを理由に処罰されるおそれはない」と強制退去を命じる】
日本から遠く離れた東アフリカの性的少数者の権利・同性愛を規制する政治状況についてグダグダと書いてきたのは、このウガンダの状況が決して日本とも無関係でないからです。

****“同性愛者で迫害” ウガンダ人女性の難民認定命じる 大阪地裁****
同性愛者であることを理由に迫害を受けたと訴えて、日本に逃れてきたウガンダ国籍の女性が、難民認定を求めた裁判で、大阪地方裁判所は国に難民と認めるよう命じる判決を言い渡しました。

ウガンダ国籍で、現在、関西在住の30代の女性は、同性愛者であることを理由に現地の警察に逮捕され、暴行によって大けがをするなど迫害を受けたと訴え、3年前、日本に逃れてきました。

日本に入国後、難民として認められず、強制退去を命じられたことから、国に対して難民認定を求める裁判を起こしていました。

これに対して国は、ウガンダで同性愛者が拘束されたり処罰されたりしているという情報は信用性に欠けるとして、女性が同性愛者であることを理由に処罰されるおそれはなく、難民とは認められないなどと主張していました。

15日の判決で、大阪地方裁判所の森鍵一裁判長は「ウガンダでは同性愛者を処罰するに等しい刑法がある以上、処罰や身体拘束をされうると推認せざるをえない」などと指摘しました。

そのうえで「女性が帰国すれば同性愛者であることを理由に迫害を受けるおそれがある」として、国に難民と認めるよう命じました。

原告の女性「日本に住むことを受け入れてくれてありがとう」
判決を受けて原告の女性は弁護士とともに会見を開き、「日本に住むことを受け入れてくれてありがとうございます」と述べました。

そのうえで「これまではつらい状況でしたが、これからはすべてがうまくいくと期待しています。また、同じ境遇の人たちにも希望を失わないでと伝えたいです」と話していました。

川崎真陽弁護士は「同性愛を理由とする難民認定を裁判所が命じた判決は、私たちが認識する限りでは初めてです。彼女のような立場の人にとって光となる判決です」と話していました。

出入国在留管理庁「判決内容を精査し適切に対応」
 判決を受けて出入国在留管理庁は「判決の内容を十分に精査し、適切に対応したい」とコメントしました。【3月15日 NHK】
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今回の大阪地裁判断は、傷痕の写真などから、警察によって同性愛者であることを理由に暴行を受け、適切な治療を受けられないまま拘束されていたと認定し「同性愛者であることを理由に拷問を受ける恐れはない」などとする国側の主張を退けています。

また、近年の難民認定に際しての同性愛者の権利擁護に関しては、イギリスの場合、2015~20年、同性愛を理由にした難民申請は全体の5%前後を占めています。

難民認定率は22~48%で、不認定の場合も上訴の結果、半分近くが認められているとのことです。

ウガンダにおいて同性愛者が極めて厳しく危険な状況に置かれていることは、上記のように素人でもググればすぐにわかるところですが、膨大な情報を有する日本政府が“ウガンダで同性愛者が拘束されたり処罰されたりしているという情報は信用性に欠けるとして、女性が同性愛者であることを理由に処罰されるおそれはなく、難民とは認められない”というのはどういうことか?

日本が難民認定に関して異様に厳しいのは今更の話ですが、そこまで事実を捻じ曲げてでも難民を認めたくないのか?

あるいは、日本政府としてウガンダの人権侵害状況を認めると、同国との関係に支障をきたすと考えたのか?

こうした問題が一部報じられても、それ以上の動きには至らない日本社会の無関心も日本政府と同根でしょう。

いずれにしても、やれ“おもてなし”とか“絆”とかいった耳触りのいい言葉が飛び交う日本社会も、一皮むけば人権軽視(特に、ソトの人間の人権に関して)ではウガンダと五十歩百歩のように思えて残念です。

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同性婚の法制化 「関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです」

2023-02-04 23:02:46 | ジェンダー

(【2021年6月23日 エコノミスト】
日本の大手新聞社調査によれば、「同性婚を認めるべき」が2015年調査の41%から2021年調査では65%に増加、「認めるべきではない」は37%から22%に減少しています)

【「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ」】
報道されているように、同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜総理大臣秘書官について、岸田首相は、政権の方針と相いれない発言で言語道断だとして、更迭したことを明らかにしました。

****岸田首相 同性婚「見るのも嫌だ」などと発言の荒井秘書官 更迭****
(中略)荒井秘書官は3日夜、オフレコを前提にした記者団の取材に応じた際に、同性婚についての見解を問われ「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ。人権や価値観は尊重するが、認めたら、国を捨てる人が出てくる」などと発言しました。

しかし、発言への批判が相次いだことから改めて取材に応じ、不適切な発言だったとして撤回し、謝罪しました。

岸田総理大臣は、訪問先の福井県で記者団に「大変深刻に受け止めており、秘書官の職務を解く判断をした。本人からも辞意があった」と述べ、荒井秘書官を更迭したことを明らかにしました。

そして、荒井氏の後任には、経済産業省の伊藤禎則秘書課長の起用を決めたと説明しました。

その上で、荒井氏の発言について「今の内閣の考え方には全くそぐわない言語道断の発言だ。『性的指向』や『性自認』を理由とする不当な差別や偏見はあってはならない」と述べました。

また、みずからの任命責任を問われ「任命責任を感じているからこそ今申し上げた対応をとっている」と述べました。

荒井氏は、経済産業省出身で、岸田内閣が発足したおととし10月から総理大臣秘書官を務め、広報やメディア対応を担当し、岸田総理大臣の演説などの原稿の執筆役も担っていました。(後略)【2月4日 NHK】
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荒井秘書官は、「首相秘書官室全員に聞いても同じことを言っていた」とも発言。同時に「LGBT(の人)も好きでなっているわけじゃない。サポートしたり、救ってあげたりしないといけない」と語っていました。

荒井秘書官の発言は、岸田首相が2月1日の衆院予算委員会で同性婚に関し、「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」として慎重に対応する考えを示した答弁に関する記者の質問に対してなされたものです。

****岸田首相 夫婦別姓や同性婚「改正で家族観 価値観 社会が変わってしまう」****
岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正すると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを示しました。

岸田総理大臣は、2月1日の衆議院予算委員会で、児童手当をめぐって自民党が民主党政権時代に所得制限の導入を主張したことについて「この10年の間に子ども・子育て政策のニーズ自体も大きく変化し、より経済的な支援を重視してもらいたいと、求められる政策も変わってきた」と述べました。

そのうえで、与野党双方から所得制限の撤廃に加え18歳までの支給対象の拡大などを求める声が出ていることを踏まえ、政府として内容の具体化を進める考えを改めて示しました。(中略)

また岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正するということになると、家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題なので、社会全体の雰囲気のありようにしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを重ねて示しました。【2月1日 NHK】
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【急速に変化する社会】
十数年前、所得制限なしの子供手当支給に対し「愚か者めが」と罵声を浴びせた自民党でしたが、「ニーズも、求められる政策も変わってきた」との首相の認識です。 同性婚については?

東京都は昨年11月から同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始しました。

****東京都、同性パートナーを公認 「宣誓制度」の運用開始****
東京都は1日、都内に居住または勤務する同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始した。日本では同性婚が認められておらず、同制度の開始は待ち望まれていた。

LGBTなど性的少数者のカップルは、都から受理証明書を受け取ることで、住宅、医療、福祉などさまざまな公共サービスで結婚したカップルと同等の扱いを受けられる。これまでに少なくとも137組からの届け出があった。

東京都では2015年、渋谷区が国内初の同性パートナーシップ証明制度を導入。以降、全国200以上の自治体が同様の制度を設けている。結婚と同じ法的権利は保障されないが、性的少数者に対する差別の撲滅につながると期待されている。 【2022年11月2日】
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性的マイノリティーの権利を守る活動をする認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市)と渋谷区の共同調査によると、性的マイノリティーのカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」を導入している自治体は9府県を含めて239(2022年10月11日時点、人口でみると全国の55.6%を占めるとのことで、東京都の開始により、6割を超すのは確実な状況です。

アメリカでは、日本以上にドラスティックに変化しています。おそらく日本もスピードに差はあれ、同じような流れをたどるのではないかと想像されます。

****米 同性婚の権利を連邦レベルで保障する法律 大統領署名で成立****
アメリカで、同性どうしによる結婚の権利を連邦レベルで保障する法律が、バイデン大統領の署名で成立しました。
首都ワシントンのホワイトハウスでは13日、記念の式典が開かれ、バイデン大統領が、「平等と自由に向けて重要な一歩を踏み出す日だ」と述べたあと、法案に署名し法律が成立しました。(中略)

アメリカでは、2015年に連邦最高裁判所が同性婚を認める判断を示し、すべての州で事実上、合法化されていますが、保守派の判事が多数派を占めるようになった連邦最高裁が、同性婚についてのこれまでの判断を覆す可能性が指摘されています。

今回、成立した法律では、仮に連邦最高裁が判断を覆し、一部の州で同性婚が禁止されたとしても、同性婚が認められているほかの州から移動してきたカップルの権利は維持されることになっていて、法案を提出した民主党としては先手を打った形です。

アメリカの2020年の国勢調査によりますと、同性どうしのカップルの世帯数は全体の1.5%に当たる98万世帯となっていますが、同性婚を認めるか認めないかをめぐっては、保守層とリベラル層の間で長年対立が続いています。【2022年12月14日 NHK】
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世論の同性婚への賛否は、ここ10年でほぼ逆転しました。
ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、マサチューセッツ州が同性婚を初めて容認した2004年当時は同性婚支持が31%に対し、反対が60%でした。

しかし、2019年には支持が61%、反対が31%と逆転しています。


【「同性愛宣伝禁止法」のロシアメディア 「岸田首相が率いる保守の自民党議員の多くは認めることに反対している」】
荒井秘書官の更迭は、海外メディアでも報じられています。5月に広島市で主要7カ国首脳会議(G7サミット)を控えるなか、先進国のなかで同性婚を認めていない日本の異質性と合わせて取り上げられています。

一方、性的少数者(LGBTなど)の情報発信を事実上、禁止したロシアの国営タス通信は、荒井氏の発言を紹介し、「岸田首相が率いる保守の自民党議員の多くは認めることに反対している」と伝えています。

ロシアでは昨年12月、「同性愛宣伝禁止法」にプーチン大統領が署名して成立。性的少数者を小児性愛などとまとめて「非伝統的な性的関係」だとし、メディアや書籍を含めて情報発信をほぼ禁止。すでに違法とみなされる恐れのある本の公開を取りやめたほか、大手書店で販売を取りやめる事態となっています。

【「同性婚を認めても、関係ない人にはただ今まで通りの人生が続くだけ」】
同性婚への社会の理解・支持は変わりますが、同性婚を認めることで「家族観や社会が変わってしまう」のか?
その変化は忌避すべきものなのか?

****同性婚で社会が変わる?合法化から17年のスペインから見る同性婚の価値観****
同性婚の法制化をめぐって岸田総理が「家族観や社会が変わってしまう」と発言し、さらに首相秘書官がその発言について「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」とコメントをしたというニュースをSNSで目にしました。

国のトップやその秘書官がこう言った差別的な発言をしれっとしてしまうことに驚きを隠せませんが、今日はこれを機会にスペインでは同性婚を始め家族の多様性についてどのような動きがあるのかを紹介したいと思います。
  
同性婚は2005年から合法
スペインでは、2005年7月3日から同じ性を持つ2人の婚姻(同性婚)が法律で認められています。(中略)

この法が制定された時、当時のホセ・ルイス・サパテロ首相は演説でこう述べています。「皆さん、私たちは遠くにいる奇妙な人たちに向けて法制定をしているわけではありません。私たちは私たちの隣人、仕事仲間、友人、家族が幸せになる機会を広げるとともに、よりまともな国を構築しているのです。まともな社会というのは、国民たちを辱めることのない社会です。」

オランダ、ベルギーに続いて世界で3番目に同性婚を合法化したスペインでは、これまで4万組を超える同性カップルが法的に夫婦として認められてきました。

スペインに住んでいて同性カップルを見かけることは珍しくありませんし、同性カップルに対して冷たい視線を向ける人を見ることもありません。

同性カップルの存在はもはや当たり前の存在なので、同性婚に対して周りの友人に意見を聞いても「普通じゃない?好きな人と一緒にいたいなら勝手にすればいいと思うよ。自分たちには関係ないし。」と、特に男女のカップルと区別していないという印象を受けました。

家族観や価値観は他人の結婚で変わるものなのでしょうか。具体的にどう変わるのか私には想像がつきません。愛し合う2人が夫婦になることの何がいけないのでしょう。
  
16の家族の形を発表
同性婚を認めて17年。スペイン社会は多様性へ向けて年々変化しています。去年12月、社会権省のロネ・べララ大臣は新しい「家族法」を発表しました。

この法律には3歳未満の扶養児童1人につき月100ユーロの子育て支援、2親等以内の親族や同居人の世話(怪我・病気等)をするための年5日の有給介護休暇、子どもが8歳になるまで継続・中断可能な8週間の育児休暇などの内容が含まれています。そのほかに「父親・母親・子供」という従来の家族のステレオタイプを取り除き、多様性教育や補助金支給に役立てるために「16タイプの家族」というリストも今回の法で定められました。

リストには「片親家族」「同性婚家族」「養子縁組家族」「事実婚家族」から、「複数民族家族」「多国籍家族」「移民家族」「貧困家族」など16種類にわたる家族の形が記載されています。今後これらは学校の多様性教育にも組み込まれていくそうです。

社会は変わらなければいけない
今回はスペインの同性婚や家族の多様性について紹介しましたが、世界でこのような動きがどんどん進んでいます。2019年には隣国台湾が、2022年にはチリ、スイス、スロヴェニア、キューバが同性婚を合法化しているのです。

社会や世界の価値観がどんどん変化し前進している中で、それらの変化を恐れて古い当たり前にすがりつき立ち止まってしまうことは、世界からどんどん遅れをとっていくことを意味するでしょう。

「よそはよそ、うちはうち」と言われたらそれまでですが、それは日本が所詮それまでの国であることを認めることになるのではないでしょうか。私は日本も同性婚を法制化するべきだと思いますし、法制化をしないということは差別だと認識しています。(後略)【2月4日 松尾彩香氏 Newsweek】
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岸田首相の言うように、同性婚法制化によって社会の価値観の変化が後押しされるというのは事実でしょう。

ただ、一部の者を極度に抑圧する現状について、変わるべきものは変わらなければいけないし、それによって異性婚の者が不利益を被るものでも、価値観を強制されるものでもありませんので、その変化を恐れる必要もない・・・ということでしょう。

今回の「騒動」で、ニュージーランドの元議員のスピーチが改めて注目を集めています。2013年に当時議員だったモーリス・ウィリアムソン氏が、同性婚を認める法案の最終審議と採決の際に行ったものです。

****「同性婚を認めても、関係ない人にはただ今まで通りの人生が続くだけ」*****
(2013年に当時議員だったニュージーランドのモーリス・ウィリアムソン氏が、同性婚を認める法案の最終審議と採決の際に行ったスピーチ)

「『不自然なもの』を支援していると批判されました」
私の選挙区の有権者に、「同性婚を認める法案が通れば、その日からゲイによる総攻撃が始まるだろう」と言った聖職者がいました。 

ゲイの総攻撃って、どんなものでしょうね。大勢のゲイたちが軍隊となって高速道路を攻めてくるんでしょうか? それともガスか何かが流れてきて、私たちを選挙区に閉じ込めてしまうんでしょうか? 

カトリックの聖職者にも、私が『不自然なもの』を支援していると批判されました。面白いですね。だって、一生独身、禁欲の誓いを立てた人がそう言うんです。まぁ、私には禁欲がどんなものかはよくわかりませんけどね。 

『永遠に地獄の業火で焼かれるだろう』とも言われました。間違いです。私は物理学の学位を持っています。自分の体重や体水分率を測って、熱力学の式で計算しました。もし5000度の火で焼かれたら、たった2.1秒で燃え尽きます。これはとてもじゃないけど永遠とは言えないですよね。 

養子縁組についてひどい意見もありました。私には3人の素晴らしい養子がいます。養子縁組がどんなに素晴らしいか知っていますし、だから、そういう意見がくだらないものだとわかります。邪悪ないじめです。私は小学校の時から、いじめには屈しないと決めています。

「この法案が社会にどういう影響があるか、心配しているんでしょう。言わせてください」
反対する人の多くは、この法案が社会にどういう影響があるかということに関心があり、心配しているんでしょう。
その気持ちはわかります。自分の家族に起こるかもしれない「何か」が心配なんです。

 繰り返しになりますが、言わせてください。 今、私たちがやろうとしていることは「愛し合う二人の結婚を認めよう」。ただそれだけです。 

外国に核戦争をしかけるわけでも、農作物を一掃するウイルスをバラ撒こうとしているわけでもない。お金のためでもない。 

単に、愛し合う二人が結婚できるようにしようとしているのであり、この法案のどこが間違っているのか、本当に理解できません。なぜ、この法案に反対するのかが。自分と違う人を好きになれないのはわかります。それは構いません。みんなそのようなものです。

「関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです」
この法案に反対する人に私は約束しましょう。水も漏らさぬ約束です。 明日も太陽は昇るでしょうし、あなたの10代の娘はすべてを知ったような顔で反抗してくるでしょう。明日、住宅ローンが増えることはありませんし、皮膚病になったり、湿疹ができたりもしません。布団の中からカエルが現れたりもしません。 明日も世界はいつものように回り続けます。だから、大騒ぎするのはやめましょう。

この法案は関係がある人には素晴らしいものですが、関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです。 

最後になりますが、私のところに、この法案が干ばつを引き起こした、というメッセージが来たんです。この法案が干ばつの原因だと。

ええと、私のTwitterアカウントをフォローしている方はご存知かもしれませんが、パクランガでは今朝、雨が降ったんですよ。 そしたら、今まで見たことがないくらい、大きな虹が見えたんです。ゲイ・レインボーが。 

これは、しるしに違いありません。あなたがもし信じるならば、間違いなく、しるしです。 

結びとして、この法案を心配している全ての人のために、聖書を引用させて下さい。旧約聖書の申命記、1章29節です。 「恐れることなかれ」【2月2日 HUFFPOST】
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女性差別  男性にはわかりにくい意識に刷り込まれた差別意識も

2023-01-08 22:56:48 | ジェンダー
(【2022年8月7日 GINZA】振る舞いも含めた自然な対話を可能にすることを目指して開発された自律対話型アンドロイド「エリカ」)

【パキスタンなどにおける“わかりやすい女性差別”】
アフガニスタン・タリバン政権の女性差別については何度も繰り返し取り上げていますが、こうした女性の人権を軽視した状況は、言うまでもなくアフガニスタンに限った話ではなく、世界中で、途上国でも、日本を含めた先進国でも、程度の差はあれごく普通に見られるものです。

特に、一部の国々では“あからさまな女性蔑視”が社会的に許容されている状況が未だ残存しており、例えばアフガニスタンの隣国パキスタンでも。

****「女子にも権利がある」──11歳で結婚した私が教育を諦めない理由****
<児童婚の風習が残るパキスタンで家族を説得。電気もない家から看護師を目指すまでの軌跡>

私は8人きょうだいの1人として生まれ、両親を含め10人家族の家庭で育った。パキスタン南部シンド州のケティ・バンダー郡で育ち、今もそこで暮らしている。自宅や近所には電気がほとんど通っておらず、住居は土壁造り。太陽光発電で料理や携帯電話の充電が多少できるぐらいだ。

小さい頃は村に学校がなかったが、叔父はある程度の教育を受けた人で、基本的なシンド語を教えてくれた。祖母にはコーランの教えを習った。

学校には6歳から通えた。非営利団体「シチズン財団」が村に学校を作ったのだ。開校当初は子供を通わせる家庭は少なく、女子生徒のほうが多かった。「女は5年生くらいまで通わせて、その後は結婚や家事をさせればいい」という雰囲気だったのだと思う。

私の母も通学に反対だった。女の子は嫁に行っても困らないように料理や伝統的ししゅう、裁縫、若いきょうだいの世話などの家事を学ぶべきだという立場だった。父は母の意見に従うと言うだけだったが、当時同居していて発言力の強かった祖父が学校行きを後押ししてくれた。

母が働きすぎなのは分かっていたので、手伝う気持ちと学校へ行きたい気持ちの板挟みになり、苦しかった。母の気持ちを静めるために、何日か学校を休んで家にいたこともある。そのときは学校に戻れるように、叔父が母を説得してくれた。でも家で教科書に夢中になって呼び掛けに答えず、激高した母に教科書を火にくべられたこともある。

結婚の後も毎年闘いが
5年生になると、両親は私の結婚相手を選び、ニカという婚姻の儀式の準備を始めた。相手は1歳下の私のいとこで学校の下級生。ニカは私が11歳のときに執り行われた。結婚については何も教わらなかった。

儀式が終わり、別の家族の一員になったと実感したけれど、夫の考えや行動がまだ幼いことが気になった。

結婚後も、教育は受け続けると決意していた。学年末ごとに家族からこれで学校はおしまいだと聞かされ、そのたびに校長のファルザナ先生がもう少し続けさせるよう両親を説得してくれた。

ルクサティと呼ばれる儀式を終え義理の家族と同居が始まったのは、私が14歳で、10年生が終わりを迎える頃だった。

その頃には自分の意見を主張するすべや、ある程度は妥協が必要なことも学んでいた。夫は最初はかたくなだったけど、叔父が私の教育を続けるべきだと家族を説得してくれたことは、とても幸運だった。

叔父は、夫や義理の家族の考えを少しは変えてくれた。それでも毎年が闘いだった。家族には教育の意義について、あの手この手で説明しなければならなかった。ただ、教員の助手として働いた少額の給料を家に入れることで、義母の態度も少し軟化した。

村の近くに大学進学を目指すための学校が作られ、私もそこに通うようになった。同時に、学士と教員資格を得るための通信教育プログラムも受け始めた。将来的には4年制の看護学校に通って医療の分野に進みたいと考えている。

義母と夫も、教育やキャリアを追い求めることを今では認めてくれている。女子教育に否定的な伝統に縛られず、教育を受ける権利があるはずの女性たちの模範となりたいと思う。(ニアズは現在22歳になり、シンド州で看護師の見習いをしている)【12月8日 Newsweek】
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アフガニスタン・タリバンの女子教育否定の考えの根底には、上記のようなこの地域に共通した女性観が存在することが想像されます。

****レイプ犯、被害者と結婚で釈放 パキスタン****
パキスタン北西部で、強姦(ごうかん)罪で有罪判決を受けた男が、長老会議の仲介した和解により被害者と結婚したことを受け、釈放された。男の弁護人が28日、明らかにした。権利活動家は、女性に対する性暴力を合法化する決定だと批判している。

ダウラット・カーン被告は今年5月、聴覚障害者の女性をレイプしたとして、カイバル・パクトゥンクワ(旧北西辺境)州ブネル地区の下級裁判所により終身刑を言い渡された。だがペシャワル高裁は、被害者の家族が裁判外の和解に同意したことを受け、カーン氏の釈放を命令。同氏は26日に自由の身となった。

弁護人のアムジェド・アリ氏がAFPに語ったところによると、カーン氏は被害者の女性と親戚関係にあった。未婚だったこの女性が今年出産した後に身柄を拘束され、親子鑑定により子どもの実父であることが確認された。

同国では、女性が二流市民扱いされることが多く、レイプ事件の刑事責任追及が極めて困難であることで知られている。被害者に対する偏見から、事件が通報されることはほとんどない。

裁判になった場合でも、警察や検察のずさんな対応や、裁判外の和解により、有罪判決が出ることはまれ。社会的弱者の女性に法的支援を提供している団体「アスマ・ジャハンギール法律扶助組織」によると、レイプ裁判の有罪率は3%に満たないという。 【12月29日 AFP】
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おそらく被害者家族が和解に応じたのは、“レイプされたあげく、未婚の母として生きていく”ことの伝統社会における困難さ、それよりは結婚という形で一定に保護された方が・・・・という考えでしょう。

日本的感覚では“あり得ない”話ですが、その地域にはいろんな事情もあるのでしょう。しかしながら、やっぱりおかしい!という感も。

【日本など先進国でも“意識”の問題が存在】
日本を含めた先進国では、上記のような“あからさまな女性蔑視”は許されないものとなってはいますが、未だ男性中心の社会であり、女性に大きな負荷がかかっていることは今更の話です。

日本や韓国などは、欧米に比べると、アフガニスタンやパキスタンに近い「男は仕事、女は家事」という意識が強く存在しています。

****家事分担を妨げる「男は仕事、女は家事」という日本のジェンダー意識****
<男性の労働時間が減っても、その分だけ家事をする時間が増えるとは限らない>

先週の記事「日本の男性の家事分担率は、相変わらず先進国で最低」で見たように、日本の男性の家事分担率は国際的に見て低い。OECDの統計によると、15~64歳男性の1日の家事等の平均時間は41分で、女性は224分(2016年)。男女の合算に占める男性の割合は15.4%でしかない。他国の同じ数値を計算すると、アメリカは37.9%、スウェーデンは43.7%にもなる。

日本の男性は、仕事時間がべらぼうに長いからではないか、という意見もあるだろう。同じくOECDの統計によると、日本の15~64歳男性の1日の平均仕事時間は452分で、アメリカの332分、スウェーデンの313分よりだいぶ長い。家事等の平均時間は順に41分、166分、171分と逆の傾向だ。(中略)

傾向としては、仕事時間が長いほど家事等の時間は短い、両者はトレードオフの関係にあると言えなくもない。
仕事時間が短ければ、自宅にいる時間も長くなり、家事や育児にも勤しむようになる。

いたって自然なことだ。政府の『男女共同参画白書』でも、男性が家事・育児・介護等に参画できるよう、長時間労働を是正する必要があると言及されている。
だが、事はそう単純ではない。定時に上がっても、自宅ではなく酒場に足が向く男性もいるだろう。コロナ禍以降、在宅勤務が増えているものの、夫が家事をしないのは相変わらずで、「大きな子どもが1人増えたようだ」という妻の嘆きもSNS上で散見される。仕事時間を減らせば万事解決となるかは分からない。(中略)

男性を見ると、仕事時間の多寡に応じて家事時間が大きく変わる傾向はない。小さな差はあるものの、どのグループも家事時間は週10時間未満が大半だ。対して女性は、仕事時間に関係なく、家事時間が週20時間以上の人が多い。(中略)

未婚化が止まらないが、結婚生活の負荷を女性が認識し出したこともあるだろう。2021年の国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』によると、女性が結婚相手に求める条件として最も多いのは「人柄」だが、それに次ぐのは「家事・育児への姿勢」だ。2015年との比較でいうと、この項目を重視する女性の割合が増えている(57.7%→70.2%)。対して、職業や経済力を重視するという回答は減っている。

女性の社会進出を促し、かつ未婚化・少子化に歯止めをかける上でも、男性の「家庭進出」が求められるが、長時間労働の是正だけでは足りない。意識の啓発も必要になってくる。家庭内での性別役割分業を子どもに見せることは、既存のジェンダー構造を次代にまで持ち越す恐れがあることをしっかりと自覚しなければならない。

また日本では、「男は仕事、女は家事」という性役割分業で社会が形成されてきた経緯があるので、家事に求められるレベルが高くなってしまっている(一汁三菜の食事、洗濯物は綺麗にたたむなど)。外国人が驚くところだ。これなども、男性の家事分担を妨げている。共稼ぎが主流になっている今、見直すべきだろう。【2022年10月26日 Newsweek】
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上記記事ではスウェーデンが取り上げられていますが、労働時間に関する男女差が一番少ないのはやはり北欧のようです。

****フィンランド、労働時間が初めて男女平等に****
フィンランド統計局は10日、国民が家事労働と有償労働に費やした時間の合計が、昨年初めて男女で等しくなったと発表した。

10歳以上の人口の有償労働と家事労働を合わせた1日の総労働時間はこれまで、女性の方が長かった。統計局は、男性の有償労働時間が減少し、家事労働時間が増加したと説明。特に男性が育児に費やす時間が大きく増えたとし、その要因としては文化の変化に加え、男性向け育児休暇制度の拡充があるとした。

ただ、有償労働の時間は依然として男性が女性よりも1日平均30分長かった。 【2022年11月11日 AFP】
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制度的なジェンダー格差は次第になくなってはいますが、状況の差を生むのは「男は仕事、女は家事」といった“意識”の問題。

【女性は文系?】
****「女子の文系バイアス」高1から強まる傾向に  数学点数に文理バイアスの形成も影響か IGS調べ****
Institution for a Global Society(以下、IGS)は、生徒の潜在的な文系・理系傾向などのバイアスを明らかにする診断ツール「Ai GROW(アイ・グロー)傾向チェックテスト」のデータをもとに、中学3年生~高校3年生(計3,325名)の文理傾向のバイアスの変化を男女別に分析し、結果を公表した。

同調査の結果、中学3年生の時点では男女ともに理系傾向であったにも関わらず、高校1~2年生にかけて、女子生徒は男子生徒よりも文系のバイアスが急激に強まっていることがわかったとのことだ。(中略)

小学4年生や中学2年生時点では数学点数に男女差はないが、高校3年生になると点数に男女差が出ている。このことから、文理選択を迫られる高校1年生の時期から2年生の時期に、「女子は文系」というバイアスが、環境(先生や保護者からの声掛けなど)等の要因で強まり、実際に高校3年生で点数に影響が出ている可能性があるとしている。 

バイアスは無意識であり、本人や周囲も自覚することが難しいため、まずは文理傾向バイアスを定期的に可視化することが重要だという。

さらに、数学と身近な接点やつながりを実感できるようにするなど、将来やりたいことと直結するイメージを抱いてもらうような環境づくりや声掛けが必要だといえるとのことだ。

■「文理傾向バイアス」とは
自分は意識していないが、脳が潜在的に「自分は文系」「自分は理系」と捉えている、認知バイアス。
数学の点数が下がることで文系バイアスが強まる可能性もある一方で、同リリースの分析結果にもある通り、文系バイアスが強くなると数学の点数が下がるなどの影響が出る可能性もあるとしている。(後略)【2022年11月2日 AMP】
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【「美人顔」ヒト型ロボットは“ジェンダー不平等に対する危機感が根本的に欠けている”せいか?】
このあたりの“意識”の問題になると、世の中には溢れかえっています。そのため、一体何が女性差別に当たるのかよくわからない状況もあります。

京都大学がAIを使ったヒト型ロボットを開発したところ、そのロボットが若い女性の美人顔であることや、しゃべり方や声の高さに、“ルッキズム(外見至上主義)やジェンダーステレオタイプに対する意識が表れてはいないか”という批判が起きているとか。

****若く従順で美人顔──女性ロボットERICAの炎上は開発者個人だけの問題か****
<しゃべるアンドロイドに女性差別だと批判が。なぜ「媚びるように話す」「若い女性」なのか>

京都大学の研究グループが2022年9月、人間の笑い声に反応して、一緒に笑い声を出す機能を搭載したヒト型ロボット(ERICA)を開発した。このニュースをNHKがツイートしたところ、女性差別だと炎上する騒ぎが起こった。(中略)

問題の1つ目は、なぜこのヒト型ロボットが若い女性だったのか、ということだ。
これまでも、アップルのSiriやアマゾンのアレクサの声がジェンダーバイアスをはらんでいると言われてきた。どちらのAIも、なぜか女性の声と名前がデフォルトになっている。(中略)

大阪大学の研究ポータルサイトには、ERICA開発の研究成果のポイントとして「見た目は美人顔の特徴を参考にコンピューターで合成され......」と記載されている。日本を代表する国立大学の研究グループが女性アンドロイドを「美人顔」に作ったと堂々と記す──。「男ばかり」の環境で生きる研究グループの、ルッキズム(外見至上主義)やジェンダーステレオタイプに対する意識が表れてはいないか。

2つ目は、ERICAに従順さを印象付けるニュアンスのセリフを言わせたことだ。ERICAの動画を見ると、その言葉は「あははは、そうなんですね」「えへへへ、いいですね」「えへへへ、そうなんですか」「うふふふ、素敵ですね」だった。(中略)

ERICAの声の高さは(中略)全体的に高めと言える声だった。

人間の声の高さには体の大きさに比例する声帯の長さが関係している。小柄なアジア系女性の声はほかの人種よりも高くなる傾向があるが、日本人女性の声は先進国では一番高いと言われてきた。

山﨑氏によると、高い声は未成熟さや弱さ、幼さを示す。女性は高い声を発することで「守られなければ生きていけない存在」と無意識的に周囲に見せる。男性優位の社会ゆえに、女性は男性に従う弱く未成熟な存在であれという社会圧があり、そのような社会の価値観に合わせて無自覚のまま女性の声は高くなった──と山﨑氏は考えている。
(中略)

開発者個人の問題なのか
(中略)温泉地に行くと「今日こそは夜這いがあるかもとドキドキする」などと描かれたご当地温泉むすめキャラクターのポスターが貼られ、テレビをつければ年長男性のアシスタントをする声の高い若い女子アナウンサー、野球場へ行くとミニスカートの若いビアガール......。記号化された「若い女性」の象徴が日本の津々浦々に存在している。

なぜERICAが若い「美人顔」の女性で、従順と捉えられる言葉をしゃべらせたのか。(中略)これは開発者個人の問題ではなく、若い女性に「男性の助け」と「美しさ」を当然のごとく求める日本社会全体の価値観の問題なのだろう。

ジェンダーステレオタイプが刻み込まれ、ジェンダー不平等に対する危機感が根本的に欠けている。だからこそ、女性ロボットを「美人顔」で作ったとルッキズムを公言し、ロボットに「従順な」セリフを言わせることの問題に、AI開発の最先端を担う男性研究者が気付かない。

これが22年のグローバル・ジェンダーギャップ指数で146カ国中116位、先進国最低レベルの日本の現状なのである。【1月6日 此花わか氏 Newsweek】
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「美人顔」ロボットに“ジェンダー不平等に対する危機感が根本的に欠けている”と言われると、正直、普通の男性である私はとまどいます。エキセントリックな議論に違和感も。

ただ、“男女間賃金格差が世界各国に比べ大きい。OECD(経済協力開発機構)の2020年の調査によると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合、女性は77.5にとどまる。男女差は22.5ポイントで、韓国(31.5ポイント)、イスラエル(22.7ポイント)に次いで大きい。管理職に占める女性割合の水準も低く、内閣官房の調査(21年時点)によるとアメリカの41.4%に対し日本は13.2%しかない。”【同上】という現実があるのも事実です。

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ジェンダーに関する意識  アメリカ、スウェーデン、そして中国

2021-11-09 23:25:04 | ジェンダー
((スウェーデンのLGBTの人のためのシニアハウス)レインボーシニアハウスの入居者ら【11月9日 47NEWS】)

【当世アメリカ若者気質 LGBTQと自称するのが「無難でクール」】
いわゆるLGBTといった言葉であらわされる性的少数者の場合、差別の対象となるという面で問題となりますが、今時のアメリカの若者にあっては、“LGBTQと自称するのが「無難でクール」だ”という認識が生まれているとか。

****アメリカの若者の30%以上が「自分はLGBTQ」と認識していることが判明****
<ミレニアル世代の中でも最も若い「Z世代」に絞ると、39%がLGBTQを自認しているという>

米若年層の約3人に1人がLGBTQ(性的少数者)を自認することが、アリゾナクリスチャン大学などによる世論調査で分かった。

調査対象は1984~2002年生まれのミレニアル世代だ。彼らのうち、自分はLGBTQだとした人の割合は30%で、年長世代の3倍以上。ミレニアル世代の最年少層である18~24歳(Z世代)に絞ると、39%に達した。

彼らにとってLGBTQと自称するのが「無難でクール」だからだと調査担当者はみる。

一方、ギャラップは今年2月、全成人層を対象とした調査結果を発表。「異性愛者でない」と回答したのはわずか5.6%だった。

39%  アメリカのZ世代のうちLGBTQだと自己認識する人
30%  ミレニアル世代のうちLGBTQだと自己認識する人
5.6%  自分は異性愛者ではないとギャラップ調査で回答した人
【10月26日 Newsweek】
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全成人層を対象とした調査結果とは大きな差異があるようです。
ただ、ジェンダーに関する意識が、従来の「男らしさ」「女らしさ」という固定的なものから変わりつつあるのは事実でしょう。

****男女分けないおもちゃコーナーを。大手小売店に義務付ける法律成立 カリフォルニア州****
おもちゃや育児用品を、男女で分けずに陳列するコーナーを設けることを大手の小売店に義務付ける法律が、アメリカ・カリフォルニア州で成立した。BBCによると、同国で初の法律となる。

新法は、子ども向け商品の「ジェンダーバイアス」に対処することを目的としている。男女別のコーナーを設置すること自体を禁止するものではないが、性別で区別しない一角を設けなければいけないとしている。

対象は、500人以上の従業員がいる州内の大規模小売店。初回の違反には250ドル(約2万8000円)の罰金、それ以降は500ドル(約5万7000円)の罰金が科される。2024年に施行される見通しだ。

子どもの素朴な疑問で動いた
ロサンゼルス・タイムズによると、法案を提出した民主党のエヴァン・ロー議員は、スタッフの幼い娘が、母親に「どうして男の子のコーナーに行かないと、(ほしい)おもちゃが見つからないの」と尋ねたという話を聞いたことが、法案作成のきっかけになったという。

ロー議員は、「女の子がパトカーや消防車、周期表、恐竜のおもちゃなどを見つけられるようにすることが目的のひとつです」と明かす。「同じように、あなたが男の子で、芸術的な感性を持っていて、キラキラしたもので遊びたいと思った時、なぜそうしてはいけないのでしょうか?なぜスティグマ(間違った認識や根拠のない認識)を感じ、『ああ、これは恥ずかしいこと』と言って、別の場所に行かなければならないのでしょうか」と問題提起している。

「私は州としてダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(排除しない包括・包含)の価値を示すことが重要だと考えています」(ロー議員)

BBCによると、アメリカの小売業者の中には、ビジネスにおけるジェンダーの固定観念から脱却するための措置をすでに取っている企業もある。

ディスカウントストア大手のTarget社は2015年、店内においてジェンダーに基づく表示の一部の使用を止めることを発表している。【10月15日 HUFFPOST】
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【現実には選挙戦の争点ともなるダイバーシティとインクルージョン】
しかしながら、LGBTを社会的にどのように受け入れるかということでは様々な現実的問題も起きてきます。
その一つが学校などのトイレをどのように使うかという問題。

LGBTと言っても、その内容は様々。
いろんなケースを包摂しようとすると、略称の方もどんどん長くなります。

****「LGBT」から「LGBTQIA+」へ、言葉が長くなってきた理由****
(中略)レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア、クエスチョニング、インターセックス、アセクシャルなど、コミュニティーを表す言葉はとても幅広い。

多様な性自認やジェンダー表現に対する理解、認識、受容が進むにつれて、コミュニティーの頭文字を並べた言葉(アクロニム)も長くなってきた。(後略)【10月21日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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多様な性自認の一つがジェンダー・フルイド(gender-fluid)。
ジェンダー・フルイドとは、性自認(こころの性)が複数の性のあいだで揺れ動くことで、 不規則に変わることもあれば、場面や状況に応じて変化することもあります。

多くのメディアが報じているように、先日のバージニア州知事選における民主党候補敗北、共和党候補勝利はバイデン政権及び中間選挙を控えた民主党にとって大きな痛手となりましたが、ジェンダー・フルイドを自任する高校生が起こしたトイレでの暴行事件もその選挙戦に影響したようです。

****トランスジェンダー生徒の「トイレ問題」米州知事選の争点に 性的暴行を機に****
米国のジョー・バイデン政権の今後を占う試金石とみられているバージニア州知事選で、性自認が流動的である「ジェンダーフルイド」とされる高校生による校内女子トイレでの性的暴行事件が争点の一つとなっている。
 
バージニア州の少年裁判所は今週、ラウドン郡の15歳の高校生に対し、今年5月に校内の女子トイレで同級生に性的暴行をしたとして有罪判決を言い渡した。
 
被害者の父親は加害者がジェンダーフルイドだと地元メディアに語っているが、AFPは独自に検証できていない。米紙ワシントン・ポストによると、この問題は25日の公判では取り上げられなかった。
 
事件は「加害者が犯行当日にスカートをはいていた」という被害者の父親の主張を含め、全米で注目を集めている。
 
加害者は今月、公判中に転校先でも同級生を暴行したと伝えられており、転校させた教育委員会は激しい非難を浴びている。
 
ラウドン郡は今年8月、トランスジェンダーの生徒が学校で自認する性別のトイレを使用できるようにしたが、事件への反発からこの方針をめぐる議論が再燃した。
 
共和党候補のグレン・ヤンキン氏は、教育委員会に対する保護者の怒りを自身の選挙戦に利用している。
 
性別で分けられた空間を自身の性自認に合わせて使用できるようにするべきかについては、共和党と民主党は正反対の立場を取っている。
 
共和党の保守派は、トランスジェンダーの人々がトイレや更衣室を使用する際は生まれつきの身体的性別に従うべきであり、「男性」が女性用トイレに入るのを認めるのは危険だと主張している。
 
民主党は、そうした考えは根拠のない不安をあおり、罪のない人々が不当に攻撃されかねないと非難している。
 
ヤンキン氏は、先日の演説ではトランスジェンダーの人々に関する政策に言及しなかったものの、「リベラル急進派」が「私たちの学校制度に教育委員会に見せ掛けた政治工作員」を送り込んでいるとこき下ろし、トランスジェンダーの権利運動を急進的とみなす保守派にアピールした。 【10月30日 AFP】
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【北欧・スウェーデン 長年の当事者・支援者の活動を通じて性的少数者が社会に受け入れらる】
所変わって北欧・スウェーデン。
新聞記事や公的文書の中でも、ジェンダーをあえて区別をしない代名詞を使用するようになっているとか。

****ジェンダーニュートラルな社会、スウェーデン 三人称代名詞「hen」にも反映****
スウェーデンには「hen(ヘン)」というジェンダーニュートラルな三人称代名詞がある。英語の「she」や「he」のように男女を区別する代名詞はスウェーデン語にもあるが、あえて区別をしない代名詞がhenである。

この代名詞は2000年代ごろから新聞記事や公的文書の中でも利用されている。筆者自身も仕事で行政文書を作成する際、henを使っている。名前だけでは男性か女性かは分からない。だから代名詞を使うときは性的な区別をしないように気をつける。

スウェーデンでは50年以上かけて性的少数者が社会に受け入れられるようになった。その結果が言葉にも反映されたのである。(スウェーデン在住ジャーナリスト、共同通信特約=矢作ルンドベリ智恵子)

 ▽法制度の歩み
性的少数者の人権がしっかりと守られているスウェーデンでも、50年前には同性愛は病気だと診断されていた。当時、LGBTQであるとカミングアウトする人はほとんどいなかった。

その後、1970年代から勇気ある当事者たちの同性愛解放運動、デモ活動を通して彼らの人権が少しずつ社会に認められるようになった。

87年に企業や政府による同性愛者の差別が禁止され、95年には同性カップルのパートナーシップ法が成立した。2003年には同性カップルの養子縁組の権利も認定され、09年には同性婚が合法化された。

13年には法的性別の変更に関する法律から不妊手術の義務化が削除された。スウェーデンでは1972年に世界で初めて法的に性別変更が認められたが、その際は不妊手術を受けることが条件だった。現在は強制的に不妊手術を受けさせられたトランスジェンダーの人たちに賠償金が支払われている。

一方、日本では性別適合手術を受けないと戸籍の性別を変えることができない。これは人権侵害ともいえ、早急に法律を見直す必要がある。

 ▽支援団体と認証制度
スウェーデンでは法律が整備される上で、性的少数者全国組織(RFSL)の活動が大きな影響を与えてきた。この支援団体は1950年に発足し、会員は7000人を超える。

RSFLは政治的なロビー活動、広報活動、社会的な支援活動などを幅広く行っている。他にも政治家や行政機関、企業に向けて、人権尊重・差別禁止について教育プログラムを実施している。

傘下に25歳までの若者へのサポート組織もあり、自分自身の性や子供の性について悩んでいる人たちを支援している。

さらに、性的少数者の立場から職場環境を見直したり、性的少数者への理解を高めたりする教育プログラムを2008年から実施。終了した組織には「LGBTQI認定証」を発行している。病院、高齢者施設、図書館、就学前学校、学校など、これまでに550以上の団体や組織が認定証を受けている。(中略)

 ▽認証を受けたシニアハウス
LGBTQIの認定を受けた高齢者施設がスウェーデンには現在10カ所ほどある。勤務するスタッフも教育プログラムを受け、性的少数者への理解や配慮が行き届くよう励んでいる。

その一例として「レインボー(虹)」という名のシニアハウスがストックホルム市内にある。スウェーデンではおそらく一つしかない55歳以上のLGBTQの人のためのシニアハウスである。

子どもがおらず老後に不安を持っていた創立者たちが、同じように思っている人たちと共にこの施設をつくり上げた。彼らは「このような施設があるということ自体、実は悲しいことです。私たちの夢はどんな人でもどこでも受け入れられるようになることです」という。(後略)【11月9日 47NEWS】
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LGBTQの人のためのシニアハウス・・・日本ではそういう発想がまだありません。

代名詞について言えば、アメリカでも近年ジェンダーによらない「they」を単数形として使用するようになっているようです。

“ 「they」と言えば、「彼(女)ら」という複数の代名詞であると英語の授業で教えられてきましたが、近年、男女別の単数の代名詞「he(彼)」「she(彼女)」に換えて、「they」を単数形で使う動きが広がっています。これは、「ノンバイナリー(Xジェンダー)」の方たちに対して、『ワシントン・ポスト』紙が2015年に使い始め、AP通信も2017年に表記の仕方を取り決める「スタイルブック」に採用するなどして、認知が広がっています。”【PRIDE JAPAN】

【中国 メンズ美容市場が活況 「女性っぽい男性」を認めない習近平政権】
一方、中国では、習近平国家主席のもとで進む「文化大革命」的な社会・政治運動の一環として、「女性っぽい男性」を否定する指導・統制が行われています。

「女性っぽい男性」が必ずしもLGBT的な性自任を持っている訳でもありませんが、批判する側の「男らしさ、女らしさ」にこだわる姿勢は、LGBTへの批判と同根でしょう。

****「ニャンパオ」を許さない!中国政府が中性的イケメンを憎む理由****
「ニャンパオ」という中国語がある。漢字で「娘炮」と書くこの言葉には、「女性っぽい男性」という意味がある。

最近の中国の若者たちの間では、自由な自己表現につながるこの中性的な「ニャンパオ」を支持する声が強く、またイケメンのひとつの条件とも捉えられているようだ。だが中国政府はそれを許さない。ジェンダーギャップを乗り越えようとしている世界的な流れに逆行して、なぜ習近平政権は「男らしさ、女らしさ」にこだわるのだろうか。

20年前とは様変わりした若者像
「化粧をして、細い腰つきで、わざとらしい指づかいで、はにかんだように振る舞う・・・」

中国メディア「光明日報」は8月27日、「ニャンパオ」のイメージをこう表現した。中国では、歌手・俳優の鹿晗(ルー・ハン、1990年生まれ)や、歌手の蔡徐坤(ツァイ・シュークン、98年生まれ)などが“典型的なニャンパオ”だと受け止められている。

筆者は、ニャンパオを彷彿とさせるアイドル風の中国人男子に会ったことはない。だが、中国の男性が女性っぽくなっている現象については感じるところがあった。仕事柄、1990年代生まれ(90后)や2000年代生まれ(00后)の中国人留学生と接する機会が多いが、彼らを見ていると明らかに20年前の若者像とは様変わりしている。なによりも外見を気にする男子が増えた。

都内の私大教授は、研究室で受け入れている中国人留学生について、「いずれも一人っ子として親に大事に育てられてきた子たちです」と話す。彼らは、みんな顔つきが優しくて性格も大人しいという。彼らのような若者たちがいずれ中国の政治家になったら、「世間が思うような“怖い国”ではなくなるかもしれない」と漠然と思うこともあった。

化粧品をショッピングカートに
中国では今、メンズ美容市場が活況を呈している。調査会社の艾媒諮詢によると、アンケートに答えた65%の男性が外見の改善に関心があり、沿海部の大都市を中心にエステや審美治療(美しさを求める治療)のニーズが高まっているという。

人民日報海外版(2021年5月18日)は、2020年の「ダブルイレブン」(11月11日=独身の日)に、男性用の輸入化粧品の在庫が前年比で3000%増加したと報じた。「リキッドファンデーションを購入する00后男子は00后女子の2倍であり、アイライナーを購入する00后男子は00后女子の4倍となった」(同)という。(中略)

中国の動画やSNSでも、唇をピンクや紫の色に塗った男子がよく登場する。

ニャンパオ文化を助長したテレビ局
(中略)

必要とされているのは“マッチョな愛国男子”
習近平政権はなぜ、これほど「ニャンパオ」を毛嫌いするのか。
 
2020年5月には、中国人民政治協商会議常任委員会のメンバーの一人が、「中国の若者は弱々しく臆病だ」という理由で「男性の若者の女性化防止に関する提案」を提出している。

男性が女性化しては困るというのは、それが「中国の民族の復興」を遠ざけることになるからだろう。米中対立が激化し、台湾有事が現実のものになりかねない今、国家が必要とするのが、戦地に赴き勝鬨(かちどき)を上げる兵士だとすれば、「化粧を施した、華奢なイケメン」はその理想像に著しく反する。(中略)

中国の大学や専門学校では短期的な軍事訓練が行われるが、2011年に北京大学で3500人の学生が参加する2週間の軍事訓練を行ったところ、めまいで医務室を訪れた学生が延べ6000人を超えたという。学生たちが直立不動の体勢を長時間続けられないことも話題になった。(中略)

戦闘態勢に突入しようとする中国が今こそ欲しているのは“マッチョな愛国男子”だろう。ところが若者たちはアイドルを追いかけ、ニャンパオ文化に溺れている。

(中略)習近平政権はニャンパオの増加に兵士の質を維持することへの支障を懸念したのかもしれない。【11月9日 姫田 小夏氏】
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「多様性」を掲げる東京オリンピックに見るジェンダーの問題

2021-08-02 22:38:37 | ジェンダー
(ローレル・ハバード選手:コモンウェルスゲームズ ゴールドコースト2018【オリンピック公式サイト】)

【基準をクリアして参加した元男性重量挙げ女性選手に批判も】
オリンピックのようなスポーツの世界にも政治問題が絡んでくることは、7月30日ブログ“東京オリンピック・柔道試合に見る「変わらぬ中東」と「変わる中東」 新たな関係に動く中東情勢”でも取り上げました。

「世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする」ことを掲げる今大会にあって、今日はジェンダーに関する話題。

今日(8月2日)の女子ウエイトリフティングに、元男性でトランスした選手が出場しますが、そのことに対し“不公平”との批判があります。

なお、国際オリンピック委員会(IOC)が定めるトランスジェンダー選手の参加基準によると、トランスジェンダーの選手が女子として出場する場合、大会前の少なくとも12カ月間、テストテトロンの血中濃度が1リットルあたり10ナノモールを下回っていなければならないとのこと。

出場するトランスジェンダー選手はこの基準をクリアしています。

****元男性が女子の重量挙げに出るのは不公平じゃないの? 五輪史上初のトランスジェンダー選手にくすぶる批判****
<重量挙げのローレン・ハバードは男子として国内ジュニア記録を打ち立てた選手。女性になってもその自分を自分らしく貫きたいだけ──しかし、それと戦わされる女子選手の人生や気持ちは?>

東京五輪には、男性から女性に性別変更したことを公表したトランスジェンダーの選手が史上初めて出場している。ニュージーランドの重量挙げ選手、ローレル・ハバード(43)だ。 

ハバードは8月2日、重量挙げ女子87キロ超級の予選に出場する。現在43歳で、今大会の重量挙げ競技に参加した選手の中で最年長でもある。 

ハバードは1978年2月、ニュージーランドのオークランドで生まれた。父は穀物会社の経営者で、2004~08年にはオークランド市長も務めた人物だ。 

重量挙げを始めたきっかけについてハバードは、自分は男だと自分に言い聞かせるために「いかにも男らしい」スポーツを選んだ、と語る。 「すごく男っぽいことに挑戦すれば、そうなれるのではないかという気持ちがたぶんあった」と、2017年に地元ラジオ局の取材に語っている。

「だが残念ながら、そうはならなかった。思惑通りにいけば、人生で最も暗かったあの時期が、多少なりとも過ごしやすくなるかもしれないと思ったのに」 

1998年、20歳の時に男子選手(105キロ超級)としてニュージーランドの国内ジュニア記録を打ち立てた。バーベルを床から一気に頭上まで持ち上げる「スナッチ」と、いったん肩の高さまで持ち上げてから頭上に持ち上げる「クリーン&ジャーク」のトータル300キロという記録だった。 

だが3年後の2001年、ハバードは競技から引退する。「私のような人間のために作られたわけではないに違いない世界に自分を合わせなければならないプレッシャーが大きすぎて、耐えられなくなった」 

<女子として世界ランキング7位に>
ハバードは2012年、35歳の時に男性から女性への性移行を始めた。その後、女子選手として重量挙げ競技に出場するようになる。 2017年には「ローレル・ハバード」の名で初めて国際大会に出た。

オーストラリアで行われた大会で女子の最も重い階級に出場し、スナッチ123キロ、クリーン&ジャーク145キロのトータル268キロで優勝。男子選手時代に出したジュニア記録の300キロを大きく下回っていたが、女子の2位の選手を19キロも上回った。 

現在、ハバードは国際ウェートリフティング連盟の女子87キロ超級の世界ランキング7位だ。 そして今年6月、ハバードは東京五輪のニュージーランド代表選手に正式に選ばれた。

国際オリンピック委員会(IOC)が定めるトランスジェンダー選手の参加基準をクリアしたからだ。 それによると、トランスジェンダーの選手が女子として出場する場合、大会前の少なくとも12カ月間、テストテトロンの血中濃度が1リットルあたり10ナノモールを下回っていなければならない。 

「これほど多くのニュージーランドの人々から頂いた優しさと支援に感謝するとともに恐縮している」とハバードはニュージーランド・オリンピック委員会(NZOC)を通してコメントしたと、AP通信は伝えた。

他の選手のチャンスを不当に奪う?
IOCは2015年、テストステロンの血中濃度が一定レベルより低ければ、トランスジェンダー選手でも女子として競技に出られるように規則を改正した。 

ハバードはIOCの定めた基準を全てクリアしているが、それでも五輪への参加には批判も聞かれる。 最近ではNFL(全米プロフットボールリーグ)のスター選手だったブレット・ファーブが、ハバードの出場に異議を唱えた。

ファーブは7月、ポッドキャストの番組で「男が女として競技していることになる」と語った。 「それはアンフェアだ。たとえその人が女性になりたいとか、(性移行を)せずにはいられないと感じているとしても、男がやるのはフェアじゃない。別の性別になりたいということ自体は構わない。私もそれに対して異議はない。だが競技に出るのはダメだ。男性が女性と戦うのはダメだ」 

「もし私が本物の女性で――変な言い方だけれど――重量挙げの試合に出てこの人に負けたら、逆上するだろう」 ベルギー代表として東京五輪に出場する同じ87キロ超級の重量挙げ選手アンナ・ファンベリンヘンは5月、こう述べた。 

「高いレベルで重量挙げの練習をしてきた人なら誰でも骨身に染みて分かっているはずだ。この特殊な状況は、競技に対しても選手に対してもアンフェアだ」 

<「自分らしく生きたいだけ」>
またファンベリンヘンはこうも述べた。「(ハバードが出場するせいで)メダルや五輪出場など人生の大きなチャンスを失う選手もいるというのに、私たちは無力だ」

2017年12月のインタビューでハバードはこう述べた。「目の前の課題に集中するしかない。そうしていれば道は開けるだろう。誰もが私を支持してくれるわけでないのは承知している。それでも心を閉ざさずに、もっと広い文脈で私の競技を見ていただきたいと思っている」 

「私にできるのは、自分自身であること、自分らしく行動することだけだ。もし人々が(そこから)インスピレーションを見つけてくれれば素晴らしいけれど、それを目指しているわけではない」とハバードは述べた。

「私は私。私は世界を変えるためにここにいるのではない。ただ自分自身でありたいし、私らしく行動したいと思っている」【8月2日 Newsweek】
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21時現在、試合は今も行われていますが、ローレル・ハバード選手はスナッチの3回の試技に全て失敗し、記録なしとなって失格。ジャークには進めませんでした。

体の丸みなどは、他の選手と違うような感もありましたが、それが問題かと言えば、そうも言えないでしょう。

アスリートではない、普通のトランスジェンダー(男性から女性へのMtFの方)のブログなどを拝見していると、ホルモン治療でテストテトロンを抑えると筋力がおちて、以前は持てたような重いものが持てなくなるようです。

その意味では、12カ月間、テストテトロンの血中濃度が一定値以下であれば・・・という基準は合理的なようにも思えます。(詳しくは知りませんが、筋肉の新陳代謝は相当に早いサイクルで行われるようですし)

ただ、元男性としての骨格はどうなのか?・・・とか、トランスが全く影響ないかどうかは私はわかりません。

敢えて言えば、そういう差異を言い出すと、「じゃ、足の形が泳ぐのに適した形をしている水泳選手はアウトなのか?」とか、極端に言えば「一流アスリートは皆、遺伝子的に競技に適したものを持っているのだろう。そういう遺伝子レベルの差異は不公平ではないのか?」とか、いろいろありそうです。

【性ホルモンに関する基準で本来種目(400m)に出場できなかった女性2選手が200mで決勝進出】
もう1件はトランスではなく、性分化疾患に関する基準の話。

テストテトロンなど性ホルモンの血中濃度が高い選手は一部種目で「女子」として競技できない規則があり、この規則によってメダル候補だった400mに出場できなかったナミビアの2選手が、出場可能な200mでは決勝に勝ち進んでいます。

以前は、800mで連覇していたキャスター・セメンヤ(南アフリカ)選手が話題になったことがありますが、彼女は今大会には出ていません。

****陸上400mに「女子」として出られなかった2人、200mは決勝へ****
(性ホルモンの血中濃度が高いため、メダル候補に挙げられていた女子400メートルに出られなかったクリスティン・エムボマ。女子200メートルに出場し、決勝進出を決めた=ロイター)

ナミビアのクリスティン・エムボマとベアトリス・マシリンギが、3日の女子200メートル決勝に勝ち進んだ。女性として生活していても、性ホルモンの血中濃度が高い選手は一部種目で「女子」として競技できない。

この「DSD規定」により、共に18歳の2人はメダル候補に挙げられていた女子400メートルに出られなかった。この規定が五輪に影響したのは東京五輪が初めて。女子400メートルで、エムボマ、マシリンギはメダル候補だった。
 
エムボマは2日午前の200メートルの予選で20歳以下世界記録となる22秒11をマークして1位通過。夜の準決勝では後半の逆転で2位となり決勝へ。21秒97は20歳以下世界記録を更新し、準決勝全体で2番目のタイム。マシリンギも予選、準決勝と自己ベストを更新し、それぞれの組で2位になり決勝に進んた。
 
ナミビア・オリンピック委員会は7月、血液検査で2人のテストステロン濃度が世界陸連の基準を超え、「DSD規定」がある女子400メートルの出場をあきらめ、規定が適用されない女子200メートルに出ると発表した。
 
DSDは性分化疾患の略称で、女性として生活しているが性ホルモンのテストステロンの血中濃度などが男性同様の場合がある。世界陸連は女子400メートル、同800メートル、同1500メートルなどで出場選手のテストステロン血中濃度の上限を設け、国際大会出場や記録認定を制限している。

リオデジャネイロ五輪女子800メートルのメダリスト3人はいずれも生まれつきテストステロン血中濃度が高く、DSD規定で同種目などに出場できなくなった。【8月2日 朝日】
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****「女性じゃないとは言わせない」 ナミビアの陸上選手、200メートル出場へ****
2日に行われる東京オリンピック・陸上女子200メートル準決勝に、ナミビアのベアトリス・マシリンギ選手が出場する。

しかし18歳のマシリンギ選手にとって、200メートルは第一希望ではなかった。同選手は400メートルへの出場を目指して練習を重ねてきた。今年に入ってからは49秒53と世界3位の記録を出しており、メダル候補と期待されていた。

だが世界陸連は先に、マシリンギ選手のテストステロン値が基準値よりも高いとして、同種目への出場を禁止した。
BBCスポーツ・アフリカの取材でマシリンギ選手は、「最初はとても落ち込んでいたけれど、今は誰にも、私は女性じゃないとは言わせない。本当にいらいらしたし神経にさわったけれど、これについては今は何もできないので」と語った。

「本当に残念だし、とても動揺した。ダイヤモンドリーグへの出場を楽しみにしていた時にこのことを知らされた」
「全員が同じで、同じ能力を持っているなんてありえないのに、本当に不公平だと思う。みんな違う能力を持って生まれていて、同じなどありえない。意味がわからない」【8月2日 BBC】
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決勝は明日の予定のようです。

400mには「DSD規定」が適用され、200mには適用されない理由は知りません。

リオ五輪800mメダリスト3人がいずれもDSD規定で出場できないとは・・・この基準の適用範囲を広げればもっと大きな影響がでるようにも予想されます。

ただ、そうした基準が妥当かどうかは、先述のように「そういう差異を言い出すと・・・・」という話で、よくわかりません。

「男と女」といった一見明確な区分も、性自任の問題、クラインフェルター症候群のように染色体レベルの問題など、いろいろ曖昧なものがあるのは今更の話です。

大多数にとっては「そんなもの・・・」といった話も、当事者にとっては大問題となります。

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