(【12月17日 ウェザーニュース】)
【フランス海外県マヨット サイクロンで甚大な被害】
かつて大英帝国に対抗する海外植民地を有したフランスは、現在でも様々な理由・事情でフランスに残存することを選択した海外県・海外領土を持っています・
****フランスの海外県・海外領土****
かつてのフランス植民地帝国時代に形成されたこれらの領土はアメリカ州、オセアニア、インド洋、太平洋、南極大陸にある。
脱植民地化後もさまざまな形でフランスの一部として残ることを選んだ地域である。これらの領土は、文化的、政治的にさまざまな現実があり、まったく異なる行政・法制度が適用されている。
総合計面積は120,369km2(フランスが領有権を主張する南極大陸のテール・アデリーを含めると552,528km2)、2019年の人口は220万人を超え、海外県・海外領土はフランスの国土面積の17.9%、人口の4%を占める。
フランス共和国憲法によれば、フランスの法律は国内全土に於いて施行される事となっているが、海外県・海外領土では国防・国際関係・貿易・貨幣・法廷・統治等の特殊な分野を除き、この原則に反して独自の法律を制定する事が許可され、実際に施行されている。
フランスの海外県・海外領土は、その地域が有する議会とフランス共和国会(国民議会・元老院)との二重統治体制である。 また、居住地域では共和国会に対する代表者を選出する事となっており、また実際に有しているため、欧州議会に対する投票権を有している。
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今年5月には「天国に一番近い島」ニューカレドニアで、現地に長期滞在するフランス人に地方参政権を与える憲法改革に対して独立派が強く反発し、暴動に発展しました。
移民に対し厳しい対応を求める極右・国民連合へのバルニエ内閣(当時)の配慮に加え、移民強硬派のルタイヨー内相自身の姿勢もあって、フランスは移民問題で強硬姿勢に舵を切っており、不法移民を大量に抱えるマヨットからの不法移民強制送還が命じられました。
インド洋のマヨット島はアフリカ東部モザンビークとマダガスカルの中間にあって、コモロ連合の島々に近接します。人口は約35万人。(マヨットにしても、コモロにしても馴染みがない地域なので、10月3日ブログでは「コモロ」のことを間違って「ロコモ」と連発していました。失礼しました。)
そのフランス海外県マヨットは12月14日、過去90年余りで最強クラスとされるサイクロンの襲撃を受け、大きな被害を出しています。
****90年ぶり大嵐、インド洋マヨット島10万人と連絡つかず****
前週末にアフリカ南部に近いインド洋島しょ部などを襲ったサイクロン「チド」の被害で、フランス当局は被害が最も深刻な海外県マヨットで死者数が数百か数千に上る可能性があると明らかにした。大統領府はマクロン大統領が19日に現地入りすると発表した。
マヨットはモザンビークの沖合に浮かぶ島。風速200キロの強風が吹き荒れた。今回ほどの大嵐は過去90年以上なかった。モザンビーク当局は17日、少なくとも34人が死亡したと発表した。マラウイでも7人が死亡した。
マヨット島は依然多くの地域に立ち入ることができない。レユニオン島から空輸で生活必需品が届けられ、医療関係者や技術者、警察官も空から現地入りした。チド犠牲者の一部は死亡を公的に記録する前に埋葬されており、被害の全容判明までには数日かかる可能性がある。
内務省によると、これまでにマヨット島で22人の死亡と1373人の負傷が確認された。現在病気の発生の報告はないという。
国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の広報担当ノラ・ピーター氏は「マヨット島は人口30万人の小さな島だが、サイクロンにより電気やインターネット、電話回線が途絶えており、依然として約10万人と連絡がつかない」と話し、犠牲者が急増しかねないとの見方を示した。
同島の正確な人口は分かっておらず、事態は一段と厳しさを増している。過去10年間に10万人が増加したと推定されているが、主に不法移民のためだ。【12月18日 ロイター】
マヨットはモザンビークの沖合に浮かぶ島。風速200キロの強風が吹き荒れた。今回ほどの大嵐は過去90年以上なかった。モザンビーク当局は17日、少なくとも34人が死亡したと発表した。マラウイでも7人が死亡した。
マヨット島は依然多くの地域に立ち入ることができない。レユニオン島から空輸で生活必需品が届けられ、医療関係者や技術者、警察官も空から現地入りした。チド犠牲者の一部は死亡を公的に記録する前に埋葬されており、被害の全容判明までには数日かかる可能性がある。
内務省によると、これまでにマヨット島で22人の死亡と1373人の負傷が確認された。現在病気の発生の報告はないという。
国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の広報担当ノラ・ピーター氏は「マヨット島は人口30万人の小さな島だが、サイクロンにより電気やインターネット、電話回線が途絶えており、依然として約10万人と連絡がつかない」と話し、犠牲者が急増しかねないとの見方を示した。
同島の正確な人口は分かっておらず、事態は一段と厳しさを増している。過去10年間に10万人が増加したと推定されているが、主に不法移民のためだ。【12月18日 ロイター】
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時速200キロ・・・日本で馴染みの秒速で言えば56m
マヨットの人口約32万人の半数近くを移民が占めていると推定されるような地域ですから、電気やインターネット、電話回線が途絶えて“10万人と連絡つかず”とは言っても、それがそのまま犠牲者・・・という訳でもありません。
ただ、死者数が数百か数千に上る可能性があるとなると、人口32万人の島にとっては未曽有の大災害には間違いないでしょう。
【被害を大きくした不法移民問題】
被害を大きくした要因に、サイクロンの規模だけでなく、不法移民問題があるようです。
****仏領サイクロン被害 不法移民の多くが取り締まり恐れ 避難所利用せず****
サイクロンが直撃し、数百人以上が死亡した恐れのあるインド洋のフランス領・マヨットでは、不法滞在の住民の多くが取り締まりを恐れて避難所を利用しなかったとみられます。(中略)
フランスメディアによりますと、マヨットの住民約32万人のうち、約10万人が不法滞在者とされていて、不法滞在の住民の多くは自治体が設置した避難所を「不法移民の取り締まりのための罠」だと思って利用しなかったということです。【12月17日 ABEMA Times】
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2週間たった今も電気・水は復旧していない様子。
****近隣の島国コモロ、懸命の支援 サイクロン直撃の仏領マヨットに****
アフリカ東部のインド洋に浮かぶフランス海外県マヨットを強力なサイクロンが直撃してから28日で2週間となった。「水も電気もなく生きられるのか」。人的交流が深い近隣の島しょ国コモロではマヨットを気遣う声が絶えず、物資搬送などの支援活動に懸命となっている。
島民同士の結婚や移住に加え、コモロからマヨットへの不法移民は約10万人とも言われる。サイクロンではこれらの人々の仮設住居が大きな被害を受けた。
27日にコモロの首都モロニで取材に応じた会社経営シティ・シハビディンさん(58)は「困った時に助けるのは当然だ」と強調する。2022年の1人当たり国民総所得が1610ドル(約25万円)のコモロで募金に着手し、既に約6万4千ドルが集まったという。
マヨットに住む親族数十人も被災し、義兄のアブ・シハビさんは約10日間音信不通になった。「直撃前の電話で『たいしたことはない』と話したので必死に避難を促した」。シハビディンさんは「まだ支援が足りない。世界は惨状を知るべきだ」と語気を強めた。【12月28日 共同】
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【マクロン大統領 現地視察も仏本国の政治情勢は大嵐状態】
フランス本国は何をしているのか・・・マクロン大統領も急遽、現地を視察しています。
****仏大統領 サイクロン直撃のマヨット視察 支援急ぐ方針****
フランスのマクロン大統領は19日、サイクロンが直撃したアフリカ東部のインド洋にあるマヨットを訪問し、「犠牲者の人数は大きく増えるだろう」と述べ、被災者への支援と被害の全容の把握を急ぐ方針を強調しました。
フランスの海外県、マヨットでは今月14日サイクロンが直撃し、フランス政府はこれまでに少なくとも31人が死亡したとする一方、地元当局は被災した人の捜索が難航し、死者の数は数百人にのぼるおそれがあるとしています。
マクロン大統領は19日、マヨットを訪れ、多くの建物が倒壊した地域や、病院などを視察しました。
視察の途中では、住民とみられる男性が大統領に詰め寄り、水などが十分に手に入らないと支援の遅れに不満を訴える様子も見られました。
そして、マクロン大統領は記者団に対し、飲料水と食料を届けることが喫緊の課題だとしたうえで、「犠牲者の人数は大きく増えるだろう」と述べ、被災者への支援と、被害の全容の把握を急ぐ方針を強調しました。【12月20日 NHK】
マクロン大統領は19日、マヨットを訪れ、多くの建物が倒壊した地域や、病院などを視察しました。
視察の途中では、住民とみられる男性が大統領に詰め寄り、水などが十分に手に入らないと支援の遅れに不満を訴える様子も見られました。
そして、マクロン大統領は記者団に対し、飲料水と食料を届けることが喫緊の課題だとしたうえで、「犠牲者の人数は大きく増えるだろう」と述べ、被災者への支援と、被害の全容の把握を急ぐ方針を強調しました。【12月20日 NHK】
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大統領が災害現地を視察・・・当然のような話ですが、フランスの政治状況を考えると、おそらくマクロン大統領としてはマヨットどころではない・・・といった心境だったのでは。
フランスでは何回か取り上げたように、先の総選挙で、急進左派を中核とする左派勢力、マクロン与党、ルペン氏率いる極右勢力の三すくみ状態。少数与党で組閣したものの、左派と極右がともに反対すれば簡単に政権が潰れる状況です。極右は「政権は我々の監視下にある」と豪語。
実際にバルニエ内閣は発足から2か月半で総辞職へ。
****フランス・バルニエ内閣は発足から2か月半で総辞職へ 議会で内閣不信任案が賛成多数で可決***
フランスの議会で内閣不信任案が賛成多数で可決されました。バルニエ内閣は発足からわずか2か月半で総辞職することになります。
4日、フランスの下院にあたる国民議会で内閣不信任案の採決が行われ、議席数で上回る野党の賛成多数で可決されました。
議会ではバルニエ首相が2日に来年度予算案について、少数与党では賛成を得られないとして、下院での投票を経ずに採択できる特例の手続きを強行していました。
フランス バルニエ首相
「今回の予算で、たとえお金がなくても、私は物事や話し合いを円滑に進めるためにお金を分配したかった。この不信任決議はすべてをより深刻で困難なものにするだろう」
今回の内閣不信任案は、これに反発した最大勢力の野党・左派連合が提出したもので、極右政党も同調しました。
極右政党「国民連合」 ルペン氏
「この予算は単にフランスを攻撃するだけでなく、年金生活者や病人、そして、ワーキングプアなど、弱い立場のフランス国民を人質にしています」
9月に発足したバルニエ内閣は、わずか2か月半で総辞職することになります。予算案も廃案になり、予算が成立するまでは今年度の予算が引き継がれる見通しです。
マクロン大統領は新しい首相を任命する必要がありますが、野党側が納得する人選ができるのか難しい状況です。【12月5日 TBS NEWS DIG】
4日、フランスの下院にあたる国民議会で内閣不信任案の採決が行われ、議席数で上回る野党の賛成多数で可決されました。
議会ではバルニエ首相が2日に来年度予算案について、少数与党では賛成を得られないとして、下院での投票を経ずに採択できる特例の手続きを強行していました。
フランス バルニエ首相
「今回の予算で、たとえお金がなくても、私は物事や話し合いを円滑に進めるためにお金を分配したかった。この不信任決議はすべてをより深刻で困難なものにするだろう」
今回の内閣不信任案は、これに反発した最大勢力の野党・左派連合が提出したもので、極右政党も同調しました。
極右政党「国民連合」 ルペン氏
「この予算は単にフランスを攻撃するだけでなく、年金生活者や病人、そして、ワーキングプアなど、弱い立場のフランス国民を人質にしています」
9月に発足したバルニエ内閣は、わずか2か月半で総辞職することになります。予算案も廃案になり、予算が成立するまでは今年度の予算が引き継がれる見通しです。
マクロン大統領は新しい首相を任命する必要がありますが、野党側が納得する人選ができるのか難しい状況です。【12月5日 TBS NEWS DIG】
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予想された事態ではありますが、「発足から2か月半で総辞職」というのはマクロン大統領にとって厳しい現実です。
“フランスのマクロン大統領は13日、次期首相に中道政党「民主運動」のフランソワ・バイル元法相(73)を指名した。国民議会(下院)で4日、野党の賛成多数でバルニエ前内閣の不信任決議案が可決されるなど政局が混迷する中、極右、左派の両方と良好な関係を持つバイル氏が選出された。”【12月13日 毎日】
ただ、厳しい政治状況は変わっていません。“フランスでは憲法の規定で、解散総選挙から1年以内に議会を新たに解散することはできず、次回総選挙は最も早くて25年7月となる。”【同上】という制約の中で何とか凌ぐしかありません。
****仏新内閣発足、社会党系の元2首相起用 中道左派頼みに 政局不安続く 外相は留任****
フランス大統領府は23日、バイル首相が率いる新内閣の陣容を発表した。中道左派で社会党系の元首相2人が入閣した。バロ外相、ルコルニュ国防相は留任した。
バイル氏はマクロン大統領を支える中道与党の党首。今月13日、退任したバルニエ前首相の後継者に任命され、組閣までに10日を要した。
新内閣では、オランド前社会党政権のバルス元首相が海外領土相に就任。マクロン政権で今年1月まで首相を務めたボルヌ下院議員が国民教育相となった。
少数内閣による政権運営が続く中、バイル氏は2人の起用で中道左派に基盤を広げ、2025年予算案の可決を目指す構えとみられる。初入閣となるロンバール経済財務相も社会党に近く、政府の投資部門である預金供託公庫(CDC)のトップを務めてきた。
バイル氏は新内閣について「全国民と和解し、新たな信頼を得るための経験豊富な集団だ」とX(旧ツイッター)で発信した。
マクロン大統領の与党は下院議席の過半数を割っており、政局は不安が続く。バルニエ氏は保守系で今月5日、下院の不信任決議を受けて辞任。バイル氏は今年4人目の首相となった。【12月24日 産経】
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こうした本国政治が大嵐の渦中にある政治状況のでのマクロン大統領のマヨット現地視察・・・“マヨットどころではない・・・といった心境だったのでは”と推測した次第です。
マヨットの災害についいては、フランスも当面は人命第一で支援にあたるでしょうが、住民約32万人のうち、約10万人が不法滞在者とされているマヨットのその後は扱いは政治的には厄介でしょう。不法移民を結果的に支援しているということになれば、極右勢力や世論の反発も出るかも。