孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  米のウクライナ停戦からの欧州排除・今後の欧州への関与逓減方針を受けて対応を協議

2025-02-17 23:31:07 | 欧州情勢

(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の終結に向けて、アメリカ・トランプ政権とヨーロッパ各国との立場の隔たりが浮き彫りになる中、ヨーロッパ各国の首脳がフランスに集まり緊急の協議を行うことになりました。【2月17日 NHK】 ちょうど今頃(日本時間 17日22時30分)会議が行われている時間でしょうか)

【トランプ政権 欧州から手を引いて対中国に専念する方針】
トランプ政権のウクライナ戦争停戦に向けた動きが加速しています。流れは基本的には米ロ主導で、ウクライナは基本線が定まった段階で参加、欧州は蚊帳の外・・・といったところ。

****ロシア・ウクライナ戦闘終結に向け トランプ政権「4月20日までに停戦目指す」方針****
ロシアとウクライナの戦闘終結に向けた交渉がサウジアラビアで始まる見通しの中、アメリカのトランプ政権が4月20日までに停戦を目指す方針であると報じられました。

ブルームバーグ通信は16日、トランプ政権がヨーロッパ諸国の政府関係者に対し、4月20日のイースター=復活祭までにウクライナでの停戦を目指す方針を説明したと報じました。

サウジアラビアで行われる戦闘終結に向けたアメリカとロシアの間の交渉は「18日に行われる」とロシアの新聞コメルサントが伝えていて、協議に参加するアメリカのウィットコフ中東担当特使は、「まずは信頼関係の構築をはかる」と話しています。

アメリカ トランプ大統領
「(Q.ゼレンスキー大統領も協議に関与していきますか)ええ。彼は関与していきます」

トランプ大統領は戦闘終結に向けた交渉に、ウクライナのゼレンスキー大統領も関与するとの考えを示しました。

自身とプーチン大統領のサウジアラビアでの首脳会談については、「日程は決まっていないが、すぐにでも行われるだろう」との見通しを示しています。(後略)【2月17日 TBS NEWS DIG】
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2月18日にはサウジアラビアで高官による協議、近いうちにトランプ・プーチン会談、その後ぐらいにトランプ・ゼレンスキー会談をはさんで4月20日(復活祭 イースター)で停戦。 あくまでもすんなりと事が運べば・・・ですが。

ロシア・プーチン大統領は80周年の節目にあたる5月9日の対独戦勝記念日で国内的に実質勝利宣言・・・といった流れでしょうか。

この流れで目立つのはトランプ政権のウクライナも含めた欧州軽視・・・というか無視。

****和平交渉、欧州に「席なし」 トランプ政権特使が明言****
トランプ米政権のウクライナ・ロシア担当特使ケロッグ氏は15日、トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と合意したロシアとウクライナの和平交渉開始を巡り、欧州は参加しないとの認識を示した。

交渉のテーブルに欧州の席はあるかと問われ「ない」と明言した。ロシアに有利な形で交渉が進むことへの欧州の懸念に拍車がかかりそうだ。(後略)【2月16日 共同】
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****米バンス副大統領 欧州は民主主義を損ねていると痛烈に批判「基本的価値観で後退」****
アメリカのバンス副大統領はSNSへの規制などを巡ってヨーロッパ各国が民主主義の価値を損ねていると痛烈に批判しました。

バンス副大統領
「ヨーロッパに関して、最も懸念しているのはロシアでも中国でもない。懸念すべきは内側にある脅威だ。ヨーロッパはアメリカと共有する最も基本的な価値観で後退している」

バンス副大統領は14日、ドイツで開催された安全保障の国際会議で演説し、ヨーロッパ各国で進むSNSへの規制などについて反対派を検閲した冷戦時代の共産主義体制を彷彿させると指摘し、民主主義の価値を損ねていると批判しました。

また、表現の自由について政治的に異なる意見を排除しなかったために「アメリカはトランプ氏を大統領に選出できた」と誇示しました。(後略)【2月15日 テレ朝news】
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欧州から手を引いて対中国に専念するというトランプ政権の基本的方向を端的に語ったのが、13日にブリュッセルで開催されたNATO国防相会合でのヘグセス米国防長官。

****ヘグセス米国防長官、ウクライナNATO加盟「非現実的」 平和維持へ米軍を派遣しない****
北大西洋条約機構(NATO)は13日、ブリュッセルで国防相会合を開いた。今回が初参加のヘグセス米国防長官は、ロシアに侵略されたウクライナのNATO加盟を否定する一方、ウクライナ支援でNATOの負担増を要求。

米国の戦略的資源を対中国に全面投入したい思惑からウクライナ戦争の幕引きと欧州安保からの離脱を急ぐトランプ米政権の下で、NATOの結束は早くも揺さぶられた。

NATOのルッテ事務総長は13日、米露首脳がウクライナ戦争の終結交渉の早期開始で合意したことに関し「交渉は恒久的な和平を実現させるものでなければならない」とした上で、ウクライナがより「強い立場」で交渉に臨めるようNATOによる支援継続の重要性を強調した。

また、交渉の過程では「ウクライナの密接な関与が不可欠だ」と指摘した。

一方、ヘグセス氏は同日、「ロシアの戦争機構に立ち向かうのは欧州の責任だ」と述べ、欧州の加盟国に国防費の大幅な増額を求めた。

ヘグセス氏は12日、ウクライナで停戦が実現した場合は同国への安全の保証が必要だと認めつつ、同国のNATO加盟は「非現実的だ」と一蹴。ウクライナの平和維持活動をNATO任務とせず、欧州を中心とする有志国が軍を展開すべきだとし、米軍を派遣しないとも明言した。

ルッテ氏によると、NATO加盟国によるウクライナに対する2024年の軍事支援の総額が500億ユーロ(約7兆8千億円)を超えた。支援額の半分以上は「欧州の加盟国とカナダからの拠出だ」としている。

ルッテ氏は「ウクライナへの軍事支援を平等化すべきだとするトランプ米大統領の主張に同意する」と強調しつつ、欧州の加盟国がウクライナ支援を既に実質的に牽引(けんいん)していることを訴えた。

NATOは昨年7月の首脳会議で、24年に400億ユーロ規模の軍事支援を供与すると表明。ルッテ氏は支援の規模を維持したい考えだが、ヘグセス氏は「米国の最優先課題は中国をインド太平洋地域で抑止することだ」とし、米国が欧州の安全保障への関与を減らす立場を明確に打ち出した。【2月13日 産経】
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【停戦後のウクライナにおける停戦監視維持は欧州に】
こうした基本認識のトランプ大統領にすれば、内容がロシア寄りだろうが何だろうが、「現実的」な線でとにかく早期に(中間選挙に向けて米国内にアピールできる)「停戦達成」という実績さえ作れればそれでよし、あとは米軍は派兵しないので欧州が自分の責任で好きにすればいい、・・・といったところかも。

****トランプ氏は「停戦でどちらが得しようが二の次」…中林美恵子教授が指摘****
(中略)米国防長官が米軍の派兵を否定したことについて、倉井氏は「米軍が衛星の情報や戦闘機を提供するということがないと、持続性のある合意は期待しがたい」との見方を示した。

(早稲田大学教授)中林氏は「トランプ大統領は、プロセスや大義以上に『とにかく停戦ができればいい、どちらが得をしようが損をしようが二の次』という立場が強い」と指摘した。【2月17日 読売】
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トランプ政権はウクライナのNATO加盟を「非現実的」と否定していますので(実際そうでしょう。ロシアは絶対認めませんし、欧州もロシアと火種がくすぶる状態でウクライナに加盟されても困るのが本音でしょう)、どうやって停戦を監視・維持し、ウクライナの安全を保証する枠組みを作っていくかが問題となります。

アメリカもさすがに「関係ない」とは言えませんが、あくまでも主体は欧州であるという立場から「アメリカに何をして欲しい?」と聞きつつ、「欧州はどこまでやる気ある? 何ができるの?」と問いかけ。

****「必要な米国の支援」意見募る=ウクライナ停戦、4月下旬目標か―米政府****
ロイター通信は16日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの安全を保証する枠組みに関し、米政府が欧州各国に外交文書を送付し、枠組みに参加する上で必要だと考えている米国の支援内容などを尋ねたと報じた。文書の全文を入手したとしている。

これに関連し、米ブルームバーグ通信は関係者の話として、トランプ政権が欧州側に4月20日のキリスト教のイースター(復活祭)までにウクライナでの停戦を実現したいと伝えたと報じた。

ただ、複数の当局者はこの目標について、非現実的とみられると指摘。ある関係者は年末までの解決というシナリオがより可能性が高いと述べた。

文書は先週送られ、設問は6項目。「短期・長期的にどういった米国の資源が必要になると考えているか」と質問した。また、安全保証の枠組みに参加可能と思われる国を挙げるよう要請し、「和平合意」の一環としてウクライナに部隊を派遣する意思があるかどうかも尋ねた。

派遣される欧州主導部隊の規模や展開方法・場所・期間なども打診。ウクライナの交渉力を高めるため同国に供与する用意がある追加の能力・装備を列挙することも求めた。【2月17日 時事】 
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ウクライナ・ゼレンスキー大統領は「欧州軍」創設を訴えています。

****ゼレンスキー大統領「ヨーロッパ軍」創設訴え****
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの脅威やアメリカの方針転換への懸念から、「ヨーロッパ軍」を創設すべきだと訴えました。

「多くの指導者たちがヨーロッパには独自の軍隊、つまりヨーロッパ軍が必要だと語ってきた。そして、私は本当にその時が来たと信じている」(ゼレンスキー大統領)

ゼレンスキー大統領は15日、ドイツのミュンヘンで開催されている安全保障会議で演説し、「ヨーロッパ軍」の創設を訴えました。ロシアの脅威に加えて、トランプ政権がヨーロッパの防衛に積極的に関与しない懸念が強まったことを理由としています。

ただ「ヨーロッパ軍」の具体的なあり方や、NATO(=北大西洋条約機構)との関連性については言及していません。【2月17日 ABEMA Times】
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「欧州軍」というきちんとしたものではなく、欧州有志国のウクライナへの派兵ということであれば、フランスのマクロン大統領が昨年2月に提案していますが、当時はマクロン大統領のスタンドプレーとも見られ、ショルツ独首相が派兵の可能性を即座に否定するということで、否定的な空気でした。

ただ、アメリカが欧州から手を引き、欧州のことは欧州に任せるという方針がはっきりしてきた今、改めて欧州各国のウクライナへの停戦維持部隊派遣が現実の問題となっています。

****マクロン仏大統領、ウクライナ問題で緊急欧州首脳会議を招集****
フランスのマクロン大統領は17日、英国の首相を含む欧州首脳を招き、ウクライナ紛争に関する緊急首脳会議を開催する。

仏大統領府によると、マクロン氏は16日に「協議」を呼びかけた。ウクライナに対する米国のアプローチの激変と、それに伴う欧州大陸の安全保障へのリスクについて話し合う。

首脳会議には他に、ドイツのショルツ首相、ポーランドのトゥスク首相、北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長、イタリアのメローニ首相、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員会委員長、コスタ欧州理事会議長(大統領)が出席する。(後略)【2月17日 ロイター】
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イギリス・スタマー首相は平和維持軍の一員としてウクライナに英軍を派遣する用意があると前向き姿勢です。

****スターマー英首相、戦後ウクライナへの平和維持軍派遣に前向き****
スターマー英首相は16日、戦争終結後の平和維持軍の一員としてウクライナに英軍を派遣する用意があると述べた。

英軍兵士を「危険な目に遭わせる」ことを軽々しく検討するわけではないとしつつ、ロシアのプーチン大統領のさらなる侵略を抑止するためには、ウクライナの恒久的な平和を確保することが不可欠と述べた。(中略)

スターマー氏はデイリー・テレグラフ紙に、ロシアとウクライナの戦争が終結しても、プーチンが再び攻撃を仕掛けてくるまでの一時的な小休止に終わってはならないと寄稿した。

ウクライナへの平和維持軍派遣を検討していると明言するのは初めて。これまでは、和平合意で役割を果たすことに前向きと述べるにとどめていた。【2月17日 ロイター】
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スウェーデンのマリア・マルメル・ステネルガード外相も2月17日、、ウクライナ戦争終結後に平和維持軍を派遣する可能性を排除しないと述べています。

ドイツは、財政的にも、兵員・装備の面でも、あるいは国民の意識の面でも、今以上の軍事面での負担増大は苦しい状況です。

****ドイツ国防「問題だらけ、解決策皆無」「ドローンは装備ない」 ウクライナ停戦実現すればNATOは...****
ドイツ連邦軍の現在の戦闘即応性は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年当時よりも低下している――。複数の軍当局者や議員、防衛専門家らがロイターに語った。

23日の総選挙後に誕生する次期政権が防衛支出を拡大したとしても、特に防空や砲兵部隊、兵員の不足はその後何年も足かせになりそうだという。

ドイツ連邦軍協会トップのアンドレ・ベストナー大佐はロイターのインタビューで「ロシアのウクライナ侵攻前、わが軍には即応性が約65%だった8個旅団があった」と説明した。

しかしベストナー氏は、その後ウクライナへの武器弾薬・装備供与やドイツ連邦軍自体の演習急増により、利用できる装備が逼迫(ひっぱく)したため「地上部隊の即応性は50%前後に下がってしまった」と嘆いた。

ショルツ首相はロシアのウクライナ侵攻後、弱体化したドイツの軍備を刷新すると宣言したが、それから3年を経ても事態は改善していない。それどころか今年と2027年までに約4万人の部隊を北大西洋条約機構(NATO)に提供するという約束は、非常に大きな逆風に直面している、というのが関係者の見方だ。

関係者が明かしたこのような状況は、トランプ米大統領の返り咲きによって欧州が地政学上の新たな時代を迎える中で、ドイツが危うい立場に置かれていることを浮き彫りにしている。

ロシアがNATOの東端部分に攻撃を仕掛けてきた場合、真っ先に反撃する地上部隊兵力の大部分を供出する役割を担うのがドイツとポーランドだ。

これを踏まえてショルツ氏が評した「時代の大転換」の下でのドイツ国防改革は、関係者によると国内の緊迫感の欠如や、調達システムの機能不全、資金難といった理由から今のところ進展していない。

関係者は、ドイツが今年初めまでに完全装備の部隊をNATOに提供できていないし、同部隊を支援する防空戦力も存在しないと指摘。27年までに提供を約束した部隊に至っては装備の充足率が20%程度に過ぎず、今から全てを発注しても期限までに整わないと、野党キリスト教民主同盟(CDU)議員で議会の予算委員会に属するインゴ・ゲデヒェン氏は解説した。

<トランプ氏の圧力>
トランプ氏は欧州に防衛費負担を増やすよう圧力をかけているほか、米政府内でウクライナの戦争終結交渉が話題になっているだけに、ドイツの軍備のぜい弱さはことさら注目を集める格好だ。またウクライナでの停戦が実現すれば、ドイツは停戦監視に必要な軍事面でのさらなる要求に直面するだろう。

ドイツの主要政党はいずれも、NATOが求める最低限の防衛支出である国内総生産(GDP)比2%を維持すると公約している。ただトランプ氏はNATOに支出を2倍以上に増やしてGDP比5%を目指してほしいと要望。NATO自体もGDP比3%への目標引き上げを検討中だ。

ドイツのピストリウス国防相は先月、連邦軍の即応態勢を確保するためにはGDP比3%の支出が必要になると述べたが、トランプ氏が呼びかけた5%はドイツ政府予算全体の4割を超えてしまうと訴えた。(中略)

<国民の意識が足かせ>
ロシアのプーチン大統領は軍が2方面の脅威に対応できるようにするため、総兵力を150万人に増強する取り組みを進めている。

一方ベストナー氏は、14年以降のロシア軍によるウクライナへの軍事力行使に対して欧州でドイツだけが鈍い反応をしたわけではないとしつつも「特に国民が『スヌーズ(アラームの一時停止)ボタン』を押した」と語り、防衛問題に対する国民の冷めた姿勢が改革の遅れに影響したと認めた。

実際1月に行われた世論調査では、次期政権にとって喫緊の課題としては国防よりも移民と経済が上位に挙げられた。

冷戦時代のドイツ(旧西ドイツ)の防衛支出はGDPの3-4.5%に上り、現役兵50万人と予備役80万人の態勢を維持していた。しかし現在の連邦軍は、18年に設定した20万3000人という目標兵力にいまだ到達しておらず、常設部隊では2万人ほど人員が不足しているという。

CDUのバデフル氏は、ドイツが戦闘即応性を備えるには現役兵25万人前後、予備役50万人が必要になるとみている。

最新の世論調査によると、総選挙後にはCDUと社会民主党(SPD)の連立政権が発足する公算が最も大きい。ただ極右や極左の政党が第3勢力の統一会派を組み、連邦軍への支出をするための新たな特別基金創設などに反対する可能性もある。【2月17日 Newsweek】
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ドイツでは2月23日に総選挙が行われます。事前の予測では極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が高い支持率を得ています。AfDは政権には参加しないと見られていますが、親トランプそしておそらく親ロシアの同党の躍進如何では、ドイツの決定に大きく影響してきます。
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ドイツ  物議を醸す移民規制をめぐる支持率トップ最大野党と極右の連携 総選挙への影響は?連立も?

2025-02-03 23:07:59 | 欧州情勢

(ドイツ下院で発言するキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首(手前)を見るショルツ首相=29日、ベルリン(ロイター=共同)【1月30日 東京】)

【最大保守野党、「不法移民は追放」動議提出 「極右」連携で可決するも「タブー破り」の批判も】
再三取り上げてきたようにこれまで多くの移民・難民を受け入れてきた欧州では、近年移民・難民に対する反感も強まっています。

特に、2月23日に総選挙を控えたドイツでは、移民が絡んだ事件も多発していることもあり、社会の右傾化の流れに乗って移民排斥を主張する極右政党AfDが支持率で2位につける形にもなっており、移民・難民問題が総選挙の大きな争点になっています。

****ドイツで相次ぐ移民による犯罪****
ドイツはメルケル政権時代の2015年、シリア内戦で難民が欧州に押し寄せた際、「寛容な受け入れ」を主導。移民問題では常に、EUの連携を訴えてきた。だが、移民による犯罪が相次ぎ、世論は変わりつつある。

昨年8月には、西部ゾーリンゲンでシリア人の難民申請者が3人を刺殺。12月には東部マグデブルクのクリスマス市にサウジアラビア人の男が車で突っ込み、6人を死なせた。【1月31日 産経】

ドイツでは22日、南部アシャッフェンブルクの公園でアフガニスタン出身の男性が幼児らを刃物で襲い、2人が死亡する事件が発生した。【1月31日 毎日】
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当然のように各党は移民・難民への反感を強める世論にアピールしようとします。現在支持率でトップを行く保守系最大野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)はすべての不法移民を「国境で追い返せ」と求める動議を提出し可決されました。

しかし、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)と連携したことへの「タブー破りだ」(ショルツ首相)といった批判も高まっています。

****ドイツ「不法移民は追放」動議可決 最大保守野党、「極右」連携 メルケル氏が異例の批判****
ドイツ連邦議会は1月28日、すべての不法移民を「国境で追い返せ」と求める動議を採択した。2月の総選挙を前に、保守系最大野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が提出。

政界で極右扱いされる「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持を得て可決させた。「タブー破り」の右派連携に左派は反発し、CDUのメルケル元首相も異例の批判声明を出した。

CDUのメレツ党首は動議提出にあたり、「外国人、特に難民申請者の犯罪は深刻な問題だ。欧州連合(EU)は機能不全の状態にある」と発言。EUルールより、ドイツの安全確保を優先すべきだと訴えた。

EUは国際条約に沿って、「難民申請しようとする移民を追い返してはならない」という原則をとる。だが、動議は国内の治安にかかわる場合、例外が認められると正当化している。

ドイツでは22日、南部アシャッフェンブルクで難民資格を得られなかったアフガニスタン人の男が、刃物で2人を刺殺する事件が起きたばかり。

メルツ党首は中道左派、社会民主党(SPD)のショルツ首相の移民政策を「生ぬるい」と批判しており、強硬な動議で違いを示そうとした。CDU・CSUは現在、支持率30%で首位に立ち、メルツ氏は次期首相の最有力候補とみなされている。

AfDは移民排斥を訴え、SPD、CDUなど主要政党は連携を拒否してきた。今回の動議に拘束力はないが、連邦議会の決議でAfDが多数派に加わったのは初めて。「包囲網」崩壊への危機感が広がる。

ショルツ首相は、動議提出を「許しがたい行為」と批判。CDU内でも賛否は分かれ、メルケル元首相は声明で、AfDを多数派に引き込むのは「よくない」と明記した。

AfDは「ドイツにとって歴史的な日」と動議成立を歓迎した。

公共放送ARDによると、ベルリンのCDU本部前では30日、約6千人が抗議デモを行った。一方、世論調査では、動議に記されたように、不法移民の入国阻止を支持する意見が6割にのぼっている。(中略)

2月の総選挙では、CDU・CSUは単独で連邦議会の過半数議席を得られず、SPDか緑の党との連立政権を目指すと予想されている。今回の動議採択で保革の溝は深まり、連立交渉の行方に不安を残した。AfDの支持率は現在20%。SPDや緑の党を押さえ、2位となっている。【1月31日 産経】
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****ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 最大野党の方針転換が物議****
2月下旬に前倒しの総選挙を控えるドイツの連邦議会で29日、移民・難民政策の厳格化を政府に求める決議案が賛成多数で可決された。

(中略)法的拘束力はなく、政府方針への影響はないとみられるが、AfDとの協力を否定してきたCDU・CSUの方針転換が物議を醸している。

(中略)今回、CDU・CSUが提案した決議には、国境の持続的な管理▽入国許可証を持っていない人物の入国拒否▽国外退去の対象者の拘束――などが含まれる。

移民・難民対策の強化を公約に掲げるCDUのメルツ党首は24日、「誰が賛成するかにかかわらず(決議案を)出す」と述べ、AfDとの協力も辞さない姿勢を示していた。

ドイツでは、ナチス政権を生んだ反省から排外主義勢力への警戒感が強い。主要政党はAfDとの連立や政策協力を否定し、CDU・CSUも例外ではなかった。与党の中道左派・社会民主党などはメルツ氏の発言を強く批判し、採決でも反対した。

そもそも、欧州連合(EU)加盟国のドイツが国境管理を恒常化することは、EU域内の自由な移動を可能にする「シェンゲン協定」に反する。このため、今回の決議は実現可能性が低いとも指摘されている。

最近、CDU・CSUは世論調査での支持率が政党間で最も高く、現時点では、2月23日の前倒し総選挙後に第1党となる公算が大きい。メルツ氏は公約の実現に向けた強い姿勢をアピールした形だが、AfDに拒否感を持つ支持者からは不評を買うおそれもある。【1月31日 毎日】
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****メルケル前独首相、極右政党と協力した所属政党党首を批判****
ドイツ最大野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が29日、連邦議会(下院)で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持を得て移民対策厳格化の決議案を通したことについて、ドイツのメルケル前首相は30日、「間違っている」と述べて自身が所属するCDUのメルツ党首を批判した。

決議案は連邦政府に移民対策の厳格化を求めるもの。主要政党がAfDの助けを借りることは長くタブーとされており、ドイツでは抗議の声が広がっている。

メルケル氏が内政に干渉するのは異例。AfDではなく主要政党と組んで議会過半数を目指すと昨年11月に誓ったメルツ氏が、その約束を破ったと指摘した。

メルツ氏は、だれが支持しようが決議案は必要なものだったと述べ、自身がAfDに対する「ファイアーウォール」を破ったとの批判を一蹴した。メルツ氏は2月23日の総選挙を経て首相に就任することが最有力視されている。【1月31日 ロイター】
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【野党提出の移民対策厳格化の決議案 党内造反もあって否決】
移民対策厳格化の決議案が可決された流れを受けて、最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は移民の流入を規制するための法改正案を提出。

再び極右政党・AfDと同調することで可決されると予想されていましたが、極右勢力との連携に反対する造反者が野党内にも出て、法案は否決されました。

****ドイツ議会で「移民流入を規制する法改正案」否決 最大野党が提出も野党の一部が極右との同調に反対か****
ドイツの議会で野党が提出した移民を規制する法改正案の採決が行われ、否決されました。極右政党との同調に反対した野党の一部が投票しませんでした。

ドイツの連邦議会で先月31日、最大野党の保守「キリスト教民主・社会同盟」が提出した移民流入を規制する法改正案の採決が行われ、反対多数で否決されました。野党側は議席数では勝るものの、極右政党・AfDと同調することに反対した野党の一部が投票しませんでした。

連邦議会では2日前に、法的拘束力はないものの移民政策の厳格化を政府に求める決議案が可決されていて、今回も可決されるとみられていました。

今月23日に総選挙が控える中、移民政策をめぐり混迷を極めています。【2月1日 TBS NEWS DIG】
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CDUのメルツ党首が移民規制に拘るのは、放置すれば保守層をより強硬なAfDにとられてしまう・・・という思いもあって、法案提出で保守層の取り込みを図る狙いでしょう。

こうした議会の動きに対し、AfDと協力し、移民規制の法改正案可決を狙った「タブー破り」に対する抗議デモも行われています。

****ドイツ野党と「極右」協力に抗議 ベルリン、16万人以上がデモ****
3週間後に総選挙を控えるドイツの首都ベルリンで2日、政権復帰を目指す最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が「極右」と称される右派、ドイツのための選択肢(AfD)と協力し、移民規制の法改正案可決を狙った「タブー破り」に対する抗議デモがあった。16万人以上が集まり「歴史を繰り返すな」と訴えた。

ドイツでは戦後、ナチス・ドイツの過去から極右勢力との協力がタブーとされてきた。

直近の支持率ではCDU・CSUが約30%で首位を走り、移民排斥を掲げるAfDは約20%で2位。CDUのメルツ党首は次期首相の最有力候補とされるが、デモ参加者らは「恥を知れ」「ファシストの協力者はいらない」などのプラカードを掲げ、反発を示した。

CDU・CSUは1月29日、移民政策の厳格化を求める決議をAfDの支持を得て連邦議会(下院)で可決させ、移民規制の法改正案の可決も目指したが、31日否決された。【2月3日 共同】
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主催団体は全土で約70万人が抗議行動に参加したと発表しています。

しかし、CDU・CSUは強気の姿勢を崩していません。

****「極右と協力」に抗議デモ=保守野党、強気崩さず―独****
(中略)一方、CDUは強気の姿勢を崩していない。有力議員のシュパーン氏は2日、時事通信の取材に、不法移民対策の強化を図る党方針について「正しい」と強調。「反対の声はあるが、党にとって問題ではない」と述べた。【2月3日 時事】
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【ショルツ首相 最大野党と極右の連立を警告】
「タブー破り」で極右AfDと連携した最大野党CDU・CSUの移民規制強化の取組が、総選挙で吉と出るのか凶と出るのか・・・選挙後の連立工作において、再びAfDとの関係が問題となると思われます。

社民党ショルツ首相は“総選挙の後、CDUが他党と「形式的な」連立協議を行い、最終的にはAfDに頼る可能性もあり得るとの考えを示した。”

****ドイツ極右AfDが次期政権入りする恐れ ショルツ首相が警告****
ドイツのオラフ・ショルツ首相は1月31日、連邦議会(下院)で最大野党「キリスト教民主同盟(CDU)」が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と連携したことを受け、AfDが年内にも次期政権に参加する可能性があると警鐘を鳴らした。

CDUは1月29日、連邦議会でAfDの票の助けを借りて、政府に移民政策の厳格化を求める決議案を可決。他党からは、極右政党とのいかなる協力も禁じるという長年のタブーを破る行為だと非難された。

ショルツ氏は週刊紙ツァイト・オンライン版に対し、こうした策略を受けて、中道右派CDUの党首で、次期首相の最有力候補と目されているフリードリヒ・メルツ党首は「信用できないとの批判にさらされている」と語った。

メルツ氏がこれまで、極右には関わらないと明言してきたことを指摘し、AfDと連立を組むことはないという同氏の誓約にも疑問符が付くと主張。

さらに、オーストリアの政局を引き合いに出した。同国では昨秋の総選挙で極右・自由党(FPOe)が初めて第1党となり、今や保守・国民党(OeVP)と連立政権を組む寸前となっている

ショルツ氏は「OeVPでさえ『FPOe主導の政権は生まれない。FPOeとは連立しない』と主張していた」「(だが)今やFPOeとの連立政権が実現し、FPOe所属の首相さえ誕生するかもしれない」と警告。

ドイツで2月23日の総選挙の後、CDUが他党と「形式的な」連立協議を行い、最終的にはAfDに頼る可能性もあり得るとの考えを示した。

ドイツの選挙では連立協議が長引くのが通例だが、ショルツ氏はCDUとAfDの連立について「例えば10月にも実現する可能性がある」と述べた。

世論調査の政党支持率では、メルツ氏のCDUと姉妹政党の「キリスト教社会同盟(CSU)」による統一会派「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」が約30%で首位。AfDはわずかに数字を伸ばし、約21%で2位につけている。ショルツ首相の中道左派政党「社会民主党(SPD)」は約16%と低迷している。【2月1日 AFP】
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ショルツ首相としては、極右への国民の拒否感をバネにして劣勢を挽回したいところでしょう。

極右ルペン氏をめぐってフランスでも同じような問題がありますが、国民の極右への拒否感は以前ほど強くはなくなっている・・・という現実もあります。
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ウクライナ  トランプ大統領の仲介は? プーチン大統領との思惑のズレも

2025-01-31 23:24:02 | 欧州情勢

(【1月29日 NHK】 ロシア軍侵攻開始から3年弱 東部でロシア軍の支配を許しているとは言え、大国ロシア相手にウクライナはよく持ちこたえている・・・・という印象も。一方のロシアはこの間、北欧のNATO加盟、アルメニアなど同盟国の離反、シリア・アサド政権崩壊等々、世界戦略的に失ったものが大きいです。)

【トランプ大統領 「24時間で」云々からやや慎重姿勢に】
トランプ大統領就任で世界が注目している問題の一つが中国やカナダ・メキシコ、更には日本を含めたその他の国々へに対する関税の扱い・貿易戦争の行方。

これについては、トランプ大統領は不法移民や薬物の流入を理由として、明日2月1日からカナダ、メキシコからの輸入品に25%の関税を課すとしており、その成り行きが注目されています。

もう一つ、トランプ大統領就任で大きな動きがあるのでは・・・と思われていたのがウクライナ問題。大統領選挙中は「私なら24時間で停戦させる」と豪語していましたので。

もし、本当に早期決着させるというなら、ウクライナへの武器供与停止を圧力にして、ロシア側が望む内容を丸呑みさせるつもりでは・・・との懸念も。

ただ、就任前からトランプ氏にはやや慎重姿勢も見え始め、就任後の今現在も大きな動きは表には出てきていません。

そうした状況で、トランプ大統領側からプーチン大統領への交渉に向けた圧力も出ています。

****トランプ氏、ウクライナ早期停戦へ仲介外交始動 交渉拒否すれば追加制裁とロシアに圧力****
トランプ米大統領は就任2日目の21日、ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領が停戦に向けた交渉を拒否した場合、ロシアに追加制裁を科す可能性が高いと述べた。ロイター通信が伝えた。

プーチン氏との早期会談を目指す一方で、中国の習近平国家主席にも停戦へ協力を求めたという。侵略開始から丸3年となる2月を前に、圧力をちらつかせながら関係国に早期停戦を迫るトランプ仲介外交が始動した。

トランプ氏は「もうすぐプーチン氏と話す」とホワイトハウスで記者団に語った。追加制裁の詳細には言及しなかったが、トランプ氏に財務長官に指名されたベセント氏は、ロシアの石油産業を標的にしたものになる可能性を示している。

トランプ氏は同国に影響力をもつ中国に対しても、「(停戦への)取り組みが不十分だ」と習氏に直接圧力をかけたという。17日に習氏と電話会談している。

トランプ氏はまた、ウクライナに対する米国の武器支援の問題についても検討中だと指摘。武器支援を巡っては欧州連合(EU)がもっと努力すべきだと欧州にも注文を付けた。

当初、トランプ氏は昨年の米大統領選で、ウクライナ戦争について「私なら24時間で停戦させる」と豪語していた。これに対し、即時停戦はロシアによるウクライナの一部占領を固定化させるとの懸念が専門家から上がる中、今月7日になって「6カ月ほしい」と目標を修正。20日の就任演説でもウクライナについて言及しなかった。

ウクライナ戦争の長期化に伴うサプライチェーン(供給網)の混乱は、米国民が不満を募らせる物価高の一因で、来年に上下両院の中間選挙を控えるトランプ氏の懸念材料となっている。【1月22日 産経】
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【リークされた「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」なるもの】
トランプ大統領がどういう案を考えているのか・・・・“ウクライナにロシア側が望む内容を丸呑みさせる”のに等しいような「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」もリークされています。

****トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当ならロシアがほぼすべてを手に入れる****
<「停戦」だ「平和」だと言っても、トランプ2.0の世界では、やはり侵略者だけがトクをするのか>

ドナルド・トランプ米大統領がロシアとウクライナの戦争を100日で終結させるために検討中、とされる計画がリークされた。

1月26日、ウクライナの『Strana』紙が、数カ月で戦争を終結させるとする計画の詳細を発表し、ウクライナの「政治・外交界」で議論されてきたと書いた。

戦争終結に向けたトランプ大統領の100日計画とされるものをリークすれば、和平交渉の成功を危うくする可能性がある。ゼレンスキーかロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、交渉前から合意案の一部を拒否する可能性があるからだ。

トランプ大統領の「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」には、1月下旬〜2月上旬にプーチン大統領と電話会談を行い、2月か3月にプーチンとゼレンスキー両者と会談し、4月20日の復活祭までに停戦を宣言することが盛り込まれている。

その時点でウクライナ軍はロシア領のクルスクから撤退し、国連の国際平和会議(IPC)が戦争終結のための両国の仲介作業を開始する。

合意された戦争終結の条件に関する宣言は5月9日までに発表し、その後、ウクライナ政府には戒厳令の延長や動員を行わないよう要請する。

合意案はウクライナのNATO加盟を禁じ、中立を宣言すること、2030年までにウクライナがEUの一員となること、EUが戦後の復興を支援することなどが盛り込まれている。

ウクライナは自国の軍隊の規模を維持し、アメリカから軍事支援を受け続けることができる。さらに「ロシアによる占領地を奪還しようとする軍事的・外交的試みを放棄」し、「占領地に対するロシア連邦の主権を公式に承認」する。

西側の対ロ制裁の一部解除についても言及され、終戦協定の遵守状況によっては3年以内に解除される可能性もある。ロシアの石油・ガスのEUへの輸出制限は解除される代わりに特別関税を課し、その収入はウクライナの復興に充てられる。

ゼレンスキーの事務所は、この和平案が合法的なものであることを否定している。ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマク室長はテレグラムで、メディアが報じた100日間の和平計画は「現実には存在しない」と書いた。また、このような報道はロシア人によって流布されたものであることが多いと付け加えた。【1月28日 Newsweek】
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占領地に対するロシア連邦の主権を公式に承認、ウクライナ軍はロシア領のクルスクから撤退、ウクライナのNATO加盟を禁じる・・・・ほぼロシアの望むところでしょう。

こうした内容の「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」なるものが本当に存在するのか、トランプ大統領がこうした内容での停戦を考えているのか・・・そこらはわかりませんが、これであればロシア側が交渉を拒むこともないように思えます。

あとは、ゼレンスキー大統領にどうやってこれをのませるか・・・だけ。

【長期的解決を図りたいプーチン大統領 とりあえずの停戦にしか関心がないトランプ大統領 思惑のズレも】
一方で、プーチン大統領はトランプ大統領との早期会談を望んでいるものの、問題の長期的解決を図りたいプーチン大統領と、とりあえずの停戦にしか関心がないトランプ大統領の間には認識・対応に差があるとの指摘も。

プーチン大統領にとってはシリア・アサド政権崩壊も大きく影響しているとも。

****トランプ氏との会談を切望するプーチン大統領のジレンマ すれ違う着地点と盟友の失脚****
(中略)盟友アサド氏の失脚はプーチン氏の心境を揺さぶり、激変する中東情勢は、ウクライナ侵攻をめぐるプーチン大統領とアメリカ・トランプ新政権との交渉にも影響を与えている。
  
トランプ氏は大統領就任直後にもプーチン氏との電話会談を行うと見られていたが、まだ実現していない。プーチン大統領は繰り返しラブコールを送るが、2人の間で目指す「停戦」のあり方は、決定的に食い違ったままだ。(ANN取材団)

■トランプ氏の停戦プランは「とりあえず止めるだけ」
「チャンスは一度きりだと思ってほしい。失敗は、より深刻なエスカレーションを招くことになる」
トランプ氏のアメリカ大統領就任を控えた1月初旬、ウクライナ問題についての協議にあたっていた ある米ロ外交筋はそうトランプ・チームに伝えた。

トランプ氏は、プーチン大統領を交渉のテーブルに着かせるため、ロシアに対してこれまでの西側諸国のスタンスから大幅に譲歩する姿勢を見せる。現在占領しているウクライナ東部の大部分の実効支配を認め、プーチン氏が神経をとがらせるウクライナのNATO=北大西洋条約機への加盟についても一定期間保留するなど、ロシアにとって悪くない条件を並べる。

ただ、ゼレンスキー大統領によれば、当初からプーチン氏が求めているのは、東部4州全域とウクライナのNATO非加盟の約束、ウクライナ軍の極端な削減、そしてゼレンスキー大統領の辞任などだから、トランプ氏の提案でさえもプーチン氏が納得できるものではない。

「細かい条件を詰めていくような煩雑な交渉にトランプ氏は、興味はない。互いの攻撃を止めたら、あとはロシアとウクライナや関係国で好きに話をまとめてくれという態度だ」
大統領就任前からトランプ・チームと接触を続けるクレムリンに近い関係者は、トランプ氏の姿勢をこう指摘する。

プーチン大統領を何としても交渉テーブルに着かせるためトランプ氏は、今度は経済制裁を強め、中国やインドなどロシアの下支えとなっている第三国からも停戦圧力をかける。まさしくアメとムチだ。

前述の関係者は続ける。
「トランプ氏は、『解決』を目指してはいない。とにかく互いの攻撃が止まれさえすればいいという考え方だ」
交渉の間、短期間でも戦闘が止まりさえすれば良いと考えているというのだ。

■プーチン大統領は対話を急ぐも目指すは「長期的解決」
プーチン大統領は盛んにトランプ氏に対話を呼びかける。
トランプ氏の就任式を数時間後に控えた1月20日には国家安全保障会議を開き、冒頭でわざわざトランプ氏を持ち上げた。

「新しいアメリカの大統領とそのチームは、前任者(バイデン氏)によって中断されたロシアと直接的な接触を回復したいという」
「この姿勢を歓迎し、次期大統領の就任を祝福します。私たちは、ウクライナの紛争に関してもアメリカの新政権との対話に前向きだ」

トランプ氏とウクライナを巡り協議したいと前のめりの発言をする一方で、プーチン大統領はトランプ氏が想定している「短期的な停戦」については、強い拒否感を示す。

「最も重要なのは根本的な危機の原因を排除することだ。何度も話してきたが、それが最も重要だ。私はもう一度強調したい。目標は、短期間の停戦や、その後の紛争継続を目的とした軍備再編のための一時的停戦ではなく、長期的な解決であるべきだ」
「我々はロシアとロシア国民の利益のために戦い続ける。それが『特別軍事作戦』の目的だ」

■トランプ氏の“方針転換”―アサド政権崩壊で「ロシアは弱っている」
当初、トランプ氏は大統領就任したらウクライナへの支援を止め、ロシアの主張を全面的に認め、制裁も解除するのではないか、トランプ氏の「停戦」とは事実上ロシアの勝利を意味するという楽観的な(ウクライナにとっては極めて悲観的な)見方さえ一部であった。

しかし、そうではないことが明確になりだしたのは昨年末あたりからだ。

去年12月7日、ロシアのプーチン大統領が後ろ盾となってきたシリアのアサド政権の崩壊を目の当たりにしたトランプ氏は翌日、「ロシアは弱っている」とSNSに投稿した。ウクライナへの侵攻で「ロシアの兵士60万人近くが死傷した」とも指摘していて、弱ったプーチン氏にもう一押しすれば「短期的な停戦」を受け入れざるを得ない絶好のチャンスだと直感したのだろう。

アサド政権の崩壊にはクレムリンに近い関係者も焦りを見せる。
「トルコは、シリアの『トルコ化』を進めている。それだけではない。周辺国への影響力もますます強めていて、ロシアは中東から押し出されている」
シリアにあるロシア軍基地の行方も懸念される。「フメイミム空軍基地」と「タルトゥース海軍基地」はロシアにとってアフリカへの重要な拠点だ。

(中略)ロシアとしては仮にウクライナ東部を占領できても、同時に中東とアフリカへの影響力を失えば、総合的にはマイナスだ。

経済面でも今年に入ってすぐに「ガスプロム」や「ズベルバンク」といったロシアで最大規模のエネルギー会社や銀行が大量解雇を始めている。

クレムリンに近い関係者によれば、今後の経済情勢を憂うエリート層の多くはウクライナについては早期の交渉を望んでいるという。プーチン大統領も条件次第では、少しでも早く停戦に持ち込みたいのが本音だろう。

■国家はもろい…若きプーチン氏のトラウマ
では、追い込まれているにもかかわらず、なぜプーチン氏は頑なに「短期的な停戦」拒否するのか。
最大の理由は、ウクライナ軍によるロシア西部クルスク州の一部占領だ。

欧米の情報によれば、ロシア軍は、大量の北朝鮮兵士を投入しているが、ウクライナが高台を制圧しているため、容易には奪還できないとみられている。

この状況で交渉テーブルに着き、前線を凍結することは、プーチン氏にとってリスクが大きい。第二次世界大戦以来80年間ではじめてロシア領を外国に軍事占拠されるという事態を固定化しかねない。土地を追われた住民たちも、「ロシアは私たちのために何をしているのか?」と連日声を上げ、不満は限界に達しつつある。

また、プーチン氏はある「トラウマ」を抱えている。
KGBのスパイだった1989年に赴任先の東ドイツで「ベルリンの壁」の崩壊を目の当たりにし、「東ドイツがなくなることなど想像もしていなかった」と当時を振り返っている。(中略)

プーチン氏にとって「国家」はかじ取りを誤ればすぐに崩壊してしまうもろい存在だ。アサド政権の崩壊は、このトラウマを再び呼び起こしたようだ。(中略)

改めてシリアの現状を目の当たりにしたプーチン氏が「中途半端な停戦は命取りになる」と考えたとしてもおかしくない。だからこそ「根本的な危機の原因を排除すること」が重要だと繰り返し、「短期的な停戦」に拒否反応を示す。(後略)【1月31日 テレ朝news】
*************************

上記記事の指摘があたっているなら、ウクライナ軍によるロシア西部クルスク州の一部占領は効果があったということにもなります。

ウクライナ軍のロシア領への侵攻当初、この作戦は非常に不評でした。「いったいいつまでウクライナが持ちこたえられるというのか?」「戦力分散でウクライナ国内の東部戦線が更に悪化するのでは?」と。私個人もそうした印象。

実際、後者の東部戦線は現在極めてウクライナ軍に不利になっています。
ロシア西部クルスク州の方は、自らの命を顧みない北朝鮮兵士の投入もありましたが、ロシア軍の奪還作戦で支配地を狭めながらもなんとか持ちこたえています。

このまま持ちこたえることができれば、ロシアとの今後の交渉で重要なカードにもなりえます。

プーチン大統領の「トラウマ」・・・そういう心の内、頭の中まではわかりません。シリア・アサド政権崩壊がロシアにとって手痛いものであるのは間違いないですが、「トラウマ」云々はどうでしょうか?

【本気でノーベル平和賞望む? そのためにはウクライナ停戦は必須】
ところで、オバマ元大統領への対抗意識もあって、トランプ大統領は本気でノーベル平和賞を欲しがっているようです。

パレスチナ・ガザ地区がとりあえずの停戦に至った今、次はウクライナ停戦。
実績を作るためには短期のとりあえずの停戦でも何でもかまわない・・・あとはロシア・ウクライナで話し合ってもらえば・・・といったところでしょうか。

****ノーベル平和賞を意識? トランプ大統領の「平和」への本気度は?****
23日、ダボス会議にオンラインで参加し、「ガザ地区の停戦は、我々なしには実現しなかった」と“自らの重要な役割”を強調したトランプ大統領。 

CNNによると、来月4日にホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相との会談が予定されているという。  これまで一貫してアメリカファーストを掲げてきたトランプ大統領だが、2期目を迎え、平和への意欲を見せ始めている。 

「非常に重要なことの一つはプーチン大統領とすぐに会って、(ウクライナとの)戦争を終わらせたいということ。それは経済やその他の観点からではなく、何百万人もの命が無駄になっているという観点からだ」(トランプ大統領) 

アメリカとロシアの間では核軍縮条約「新START」が結ばれていたが、2023年、ウクライナへの侵攻が長期化するなかでロシア側が履行停止を表明。2026年に失効を迎える中、トランプ大統領は「非核化が可能か見極めたい。十分可能だと思う」と意欲を見せている。  

一方、ロシアのプーチン大統領は24日、国営メディアのインタビューで、トランプ大統領とは「仕事上の事だけではなく信頼関係も築いてきた」と述べ、ウクライナ問題や経済問題などあらゆることを話したいと語っている。ノーベル平和賞を意識した動きではないかという声もある中、トランプ大統領の真剣さに注目が集まっている。  

アメリカ現代政治外交が専門の前嶋和弘教授はガザ地区の停戦について「『ガザ地区の停戦は“我々なし”には実現しなかった』というセリフは間違ってはいない。というのも、バイデン前大統領がお膳立てをして、その後、トランプ大統領の就任に合わせてネタニヤフ首相が停戦という“プレゼント”をしたからだ。とはいえ恒久的な停戦はなかなか難しいだろう」と説明。  

ロシアの思惑については「ロシアとしてはトランプ大統領とうまく話し合って、自分たちに有利なように進めたいのだろう。ゼレンスキー大統領のことは頭にないのでは」と分析した。  

核兵器削減については「中国がポイントになる」と指摘した。 「核兵器はアメリカ・ロシアが多いが、制限条約に入っていない中国が特に中型核兵器を増やしている。そのため、停止中の新STARTを戻し、さらに中距離核兵器の制限条約にも加入させる。これはぜひやってほしい」  

民主党政権では実現しなかったがトランプ大統領ならばできるのか? 「力技でやってほしい。ウクライナ侵攻でロシアとアメリカの関係は悪くなっているため難しいが、ウクライナがうまく動いていけば可能性はある。実はダボス会議ではウクライナと核の話がリンクしたのだ」  

トランプ大統領がノーベル平和賞を受賞する可能性については「ノーベル委員会はトランプ大統領のような人は大嫌いだが、核問題はどんどん進めてもらいたい。世界が平和になるのはすごく良いことなので、ノーベル平和賞でも何賞でもあげていい」と述べた。 【1月31日 ABEMA Times】
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ドイツ  負の遺産にどう向き合うか 極右AfD政治集会でマスク氏「独は過去の罪悪感にとらわれすぎ」

2025-01-27 22:34:08 | 欧州情勢

(解放から80年 アウシュビッツ強制収容所の囚人たちが銃によって処刑された、「死の壁」と呼ばれる場所で花をたむける追悼の催し【1月27日 NHK】)

【アウシュビッツ強制収容所解放から80年 進む生存者の高齢化 記憶をどう受け継ぐか】
今日1月27日は、80年前の1945年1月27日、旧ソビエト軍によってアウシュビッツ強制収容所は解放された日です。

ユダヤ人に対するナチス・ドイツの戦争犯罪ホロコーストが行われた場所として有名ですが、収容所そのものはポーランド領内に位置しています。

*****アウシュビッツ強制収容所とは*****
ホロコーストで中核的な役割
アウシュビッツ強制収容所はナチス・ドイツが、ポーランド南部に建設した最大規模の強制収容所です。収容所は3つの主要な施設で構成され、最初のものは1940年に建設されました。

ガス室を備えた「絶滅収容所」とも呼ばれ、ヨーロッパのユダヤ人の絶滅を目指したホロコーストの中核的な役割を担いました。

強制収容所にはヨーロッパ各地のユダヤ人が連行され、高齢者や病人、子連れの女性は到着してまもなくガス室で殺害されました。

ナチス・ドイツは、収容したユダヤ人にガス室で殺害された遺体から金歯などを取り除く作業や焼却処理も強制しました。

収容所の入り口にはドイツ語で「働けば自由になる」と書かれた看板が掲げられましたが、働けるとみなされた人は工場の建設などの強制労働に従事させられ、満足な食事もなく日常的に虐待を受け尊厳を奪われていきました。

犠牲者 約110万人 “死の行進”の犠牲も
アウシュビッツでの犠牲者はおよそ110万人に上り、そのうちおよそ100万人がユダヤ人です。

またナチス・ドイツは1945年の1月、旧ソビエト軍の進軍を受け、多くのユダヤ人をほかの収容所へ移動させます。移送の列車に乗るため数十キロ離れた街へは徒歩で移動させられ、真冬の行進から脱落した人はその場で銃殺されたことなどから「死の行進」と呼ばれています。

その後、1945年1月27日、旧ソビエト軍によってアウシュビッツ強制収容所は解放されました。当時、強制収容所にはおよそ7000人がいて、多くの人が衰弱してひん死の状態だったということです。

アウシュビッツ強制収容所は第2次世界大戦後は博物館となり、世界各地から大勢の人が見学に訪れています。博物館によりますと去年は183万人が訪れました。【1月27日 NHK】
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現地では欧州各国首脳も参加して記念式典が行われましたが、生き延びた人たちの高齢化が進んでいて、当時の記憶をどう受け継いでいくかが課題となっています。

****アウシュビッツ強制収容所 解放から80年 記憶の継承が課題*****
第2次世界大戦中、ナチス・ドイツがユダヤ人を中心におよそ110万人を虐殺したアウシュビッツ強制収容所が解放されてから27日で80年となりました。生き延びた人たちの高齢化が一段と進んでいて、当時の記憶をどう受け継いでいくかが課題となっています。(中略)

27日は、強制収容所の跡地で追悼式典が開かれる予定で、生き延びた人やその家族のほかドイツのシュタインマイヤー大統領、フランスのマクロン大統領、それにイギリスのチャールズ国王などおよそ50か国の代表が出席する予定です。

これに先立って、日本時間の27日午後5時すぎからは強制収容所の囚人たちが銃によって処刑された、「死の壁」と呼ばれる場所で花をたむける追悼の催しも行われました。

第2次世界大戦の終結からことしで80年となり、アウシュビッツ強制収容所などでのホロコーストを生き延びた人の平均年齢は、86歳と高齢化が一段と進んでいます。

強制収容所の跡地を管理する博物館は、今回の式典が生き延びた人たちが参加する最後の式典になりかねないとの見方も示していて、記憶をどう受け継いでいくかが課題となっています。

アウシュビッツ強制収容所の跡地には、ベルリン支局長・田中顕一記者がいます。田中さん、解放からきょうで80年。現地を取材して感じたことは?

(中略)アウシュビッツは、差別や暴力が行きつく最も残虐な結末を今に伝える負の遺産です。

いま、アウシュビッツから生き延びた人たちは、ヨーロッパで排他的な主張を掲げる極右や右派政党がより過激化すれば、特定の人種や宗教への差別につながりかねないと不安を感じています。

生存者の1人は「忘れさせないために語り続ける必要がある。不正義や差別を目撃したら沈黙してはいけない」と訴えていました。

他者への寛容さ、そして、対立を対話で乗り越える重要性を忘れてはならないと感じます。

ゼレンスキー大統領「決して繰り返してはならない」
アウシュビッツ強制収容所が解放されてから80年となるのにあわせて、自身もユダヤ系であるウクライナのゼレンスキー大統領は27日、SNSにメッセージを投稿しました。

このなかでゼレンスキー大統領は「ホロコーストの犯罪は決して繰り返してはならないが悲しいことに、その記憶は徐々に薄れつつある。民族全体を破壊しようとする悪は、今もなお世界に存在する」と述べ、ロシアの侵攻を受けるウクライナの状況を念頭に、罪のない人々が犠牲になった歴史は過去のものではないと強調しました。

そのうえで「われわれは命を守るために戦わなくてはならず、無関心が悪の温床であることを忘れてはならない。われわれは、残虐な行為と殺人につながる憎しみを克服しなければならない。悪が勝利するのを防ぐために力を尽くすことは、すべての人々の使命だ」と訴えました。

ウクライナでは1941年、ナチス・ドイツの占領下にあった当時、首都キーウで女性や子どもを含むおよそ3万人のユダヤ人が殺害され、ゼレンスキー大統領は26日、キーウで開かれた追悼の式典に出席し、記念碑に、火をともしたろうそくをささげて、犠牲者を悼みました。【同上】
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【マスク氏「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎ」】
日本でも同じですが、自国の負の遺産に関しては、当時の記憶を受け継いで行こうという動きの一方で、そこから目をそむけたいという思い、「いつまで、そんなことを。もう昔の話」とか「過去に引きずられることなく“普通の国”になろう」といった声も出てきます。

欧米全体に広がる右傾化のながれにも乗って、2月23日に総選挙を控えたドイツでも極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持率で20%と2番手につけています。

極右政党AfD自体がナチス・ドイツの負の遺産に関しては距離を置く立場ですが、そこに更に「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎ」とのメッセージを送ったのが、このところAfDを強く支持し、また、イギリスなどでも物議を醸しているイーロン・マスク氏。

マスク氏はイギリスでは反移民を掲げる新興右派政党「リフォームUK」を支持し、スターマー首相を「犯罪の加担者」と激しく批難しています。

そしてドイツでは「ドイツを救えるのはAfDだけだ」と支援し、シュルツ首相を「無能なバカ」とも呼んでいます。

****マスク氏「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎ」と発言。極右政党AfDの集会で支持者を称賛****
ナチス式敬礼そっくりのポーズが物議を醸したイーロン・マスク氏が1月25日、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の政治集会で「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎだ」と発言した。

ドイツ東部の都市ハレで開かれた集会にオンラインで参加したマスク氏は、集まったAfD支持者に「あなた方はドイツの一番の希望だ。ドイツやドイツ人であることに誇りを持つことが重要だ」と語りかけた。

マスク氏は、「ドイツ文化やドイツの価値観を誇りに思うこと、そして、全てを薄めてしまう多文化主義の中でそれら(の誇り)を失わないことが大切だ」とも発言した。

また、「ドイツの人々は何千年も続く古代からの文化を持っている」と称賛した上で、「過去の罪悪感にとらわれなくていい」という考えを示した。

「率直に言って、ドイツは過去の罪悪感にあまりにもとらわれすぎていると思います。乗り越える必要があります。子どもたちは親、ましてや曽祖父母の罪に罪悪感を抱くべきではありません」

マスク氏は、「過去の罪悪感」が何かについては具体的には触れなかったものの、ドイツが戦後一貫して取り組み続けてきた、ナチスドイツ政権によるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」を指していると見られる。

マスク氏は1月20日に、ワシントンD.C.で開かれたトランプ米大統領の就任イベントで「ナチス式敬礼」とそっくりのポーズをとり、物議を醸した。

敬礼は大きな批判を招いたものの、マスク氏は「ありとあらゆる人を『ヒトラーだ』とする攻撃は、本当に飽き飽きする。もっとマシな卑劣な手段を考えた方がいい」とXで反論した。

ドイツでは2月23日に総選挙が行われる。移民排斥やEU離脱などの政策を掲げ、気候変動は人間の行動によるものという考えに懐疑的なAfDは現在、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)に次ぐ2番目に高い支持率を得ている。

マスク氏はAfDを積極的に支持しており、12月には「AfDだけがドイツを救える」とXに投稿している。1月25日の集会でも「AfDに投票することが大事だ」と発言した。

一方、AFPによると、25日にはドイツ各地でAfDに反対する抗議活動が行われた。【1月27日 HUFFPOST】
*********************

【マスク氏のナチス式敬礼そっくりのポーズに狂喜する極右】
ナチス式敬礼そっくりのポーズ(右手で左胸をたたいた後、真っすぐ突き出すジェスチャーを2回)については、マスク氏がどういう意図だったのか冷静に判断する必要もあるでしょう。ただ、アメリカの極右・白人至上主義者などは極右思想への支持表明として受けいれられているとのこと。

****極右、マスク氏敬礼に「狂喜乱舞」****
(中略)
憎悪と過激主義に対抗する団体「Global Project Against Hate and Extremism」の共同創設者、ハイディ・ベイリッヒ氏は、「白人至上主義者は、マスク氏がナチス式敬礼をしたと確信している」と指摘。

極右は「狂喜乱舞」し、「マスク氏が腕を上げたのは、極右思想への支持表明だと大半が思い込んでいる」と続けた。
バージニア大学で修辞学と過激主義を研究しているT・ケニー・ファウンテン氏はブルースカイへの投稿で、マスク氏の「意図も重要だが、受け止められ方も重要だ」と指摘。

「熱心な聴衆がこのジェスチャーを意味のある承認と解釈するなら、われわれは危険な領域にいる」「当然ながら、極右の多くはそのように解釈しているようだ」と続けた。

SNSのGabの創設者、アンドリュー・トーバ氏はマスク氏の写真を投稿し、「すでに信じられないことが起きている」と書き込んでいる。

ネオナチ団体「ブラッド・トライブ」のリーダー、クリストファー・ポールハウス氏はテレグラムで、ジェスチャーをしているマスク氏と、かぎ十字(ハーケンクロイツ)の旗を掲げてナチス式敬礼をしている覆面をかぶった同団体のメンバーを並べた動画を共有した。

これに対してフォロワーは、ナチス親衛隊の隊章を想起させる稲妻の絵文字を相次いで投稿した。

マスク氏が所有するX(旧ツイッター)では、ヒトラーの演説を最上部に固定表示している匿名のアカウントが、マスク氏のジェスチャーとヒトラーの動画を比較する別のマッシュアップ動画を投稿。「ジーク・ハイル?? つまり、われらの時代が再び?」とのコメントが添えられていた。この投稿の閲覧数は22日時点で既に400万回を超えている。 【1月22日 AFP】
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【「ドイツのための選択肢(AfD) ナチスのユダヤ人追放を想起させる選挙ビラ配布】
一方、「ドイツのための選択肢(AfD)」については、ナチスのユダヤ人追放を想起させる選挙ビラ配布も。

****ナチスのユダヤ人追放を想起させる選挙ビラ、ドイツ右派政党AfDが配布か…市長「一線越えた」****
2月に総選挙を控えるドイツで、急進右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、南西部カールスルーエの移民系世帯に「国外追放チケット」と称した選挙ビラを配布した疑いが浮上し、物議を醸している。

第2次世界大戦中のナチスによるユダヤ人国外追放を想起させるもので、警察が扇動の容疑で捜査を始めた。

公共放送ARDなどによると、ビラは航空券を模したもので、搭乗者名に「移民」、発着地に「ドイツ発、安全な出身国着」と書かれていた。AfDカールスルーエ支部のQRコードも載っていた。移民排斥を掲げるAfDはシリアのアサド政権崩壊後、シリア難民の強制送還を訴えている。

同地区選出のAfD議員はビラ配布を認めた。移民系だけではなく幅広い層を対象に自宅に投函とうかんしたと説明している。カールスルーエ市長は「恐怖を引き起こすもので、一線を越えている」とAfDの選挙活動を批判した。【1月15日 読売】
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移民による無差別殺傷事件が相次いでいるなかで、移民排斥を掲げるAfDがどこまで票をのばすのか注目されています。
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イギリス  二大政党政治を揺るがす勢いのファラージ氏率いる反移民・右派政党「リフォームUK」

2025-01-18 23:23:06 | 欧州情勢

(トランプ次期米大統領の私邸「マール・ア・ラーゴ」で昨年12月に会談した、英野党「リフォームUK」のファラージ党首(右)とイーロン・マスク氏 【1月6日 BBC】)

【労働党・保守党の二大政党政治を揺るがす勢いのファラージ氏率いる反移民・右派政党「リフォームUK」】
何が起きるか将来のことはわからないもので、イギリスのEU離脱の旗振り役として脚光を浴びたものの、離脱後は目的を失い活動も停止したファラージ氏率いる右派政党「ブレグジット党」でしたが、コロナ禍にロックダウンに反対する「リフォームUK」として再建し、反移民などの保守化の流れにも乗って、昨年7月の総選挙では「反移民」で14.29%の票と初めての議席を獲得。

7月総選挙で議席倍層という地滑り大勝利で政権交代を果たした労働党スターマー政権でしたが、景気を改善することができず支持率は急降下、それに反比例して「リフォームUK」はいまや党員数で最大野党保守党を上回り、支持率では政権与党である労働党にせまる勢いで、労働党・保守党の二大政党政治を揺るがす存在になっています。

****反移民の右派政党「リフォームUK」、党員数で保守党上回る 英****
反移民を掲げる英国の新興右派政党「リフォームUK」は26日、中道右派の最大野党・保守党を初めて党員数で上回ったと発表した。

英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を主導したナイジェル・ファラージ党首は、「歴史的な瞬間」とたたえた。

保守党が14年ぶりに下野した7月の下院(650議席)総選挙では、移民問題が主要な争点となった。(中略)

7月の下院総選挙でリフォームUKは約14%の得票率を獲得したが、獲得議席は650議席中5議席にとどまった。
主要選挙区でかつての保守党支持層の票がリフォームUKに流れ、右派の票が割れたことで、保守党は最大限の打撃を受け、総選挙は労働党の圧勝に終わった。

しかし、キア・スターマー首相は就任後の5か月間で多くの困難に直面している。
世論調査会社イプソスが今月実施した調査では、英国人の53%が労働党政権のこれまでの成果に「失望している」と回答した。(後略)【12月27日 AFP】
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****英の右派政党「リフォームUK」の支持率、与党・労働党に肉薄 2大政党制終焉か****
英国で欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を主導した大衆迎合政治家、ナイジェル・ファラージ氏率いる右派政党「リフォームUK」の支持率が与党の労働党に肉薄したことが最新の世論調査で分かった。

景気対策で成果を出せないスターマー労働党政権の人気低下が主因とみられる。こうした傾向が続けば、伝統的な保守党と労働党による2大政党制が終焉(しゅうえん)に向かう可能性もある。

調査会社ユーガブが今週公表した世論調査によると、「明日総選挙が行われたらどの党に投票するか」との設問に、労働党と答えた有権者は26%、リフォームUKは25%だった。野党第一党の保守党は22%にとどまった。
ユーガブによる政党支持率調査は昨年7月の総選挙後初めて。

労働党は同総選挙で地滑り的勝利を収め、14年ぶりに保守党から政権を奪還したものの、最大懸案の景気回復では目立った成果を上げられないでいる。昨年10月にはリーブス財務相が初の財政演説で、財政赤字の緩和に向けて400億ポンド(約8兆円)の大規模増税を発表し、有権者の反発を浴びた。

経済状況は景気後退の中で物価上昇が続くスタグフレーションの様相を呈し、経済専門家の間では英経済の「メルトダウン」への懸念も広がっている。

ユーガブによれば、2029年に予定される次回の総選挙で労働党に投票するとの回答は、24年の総選挙で労働党に投票した有権者の54%にとどまった。

これに対し、24年にリフォームUKに投票した有権者は、87%が29年も同党に投票すると答えた。

保守党は、24年総選挙でリフォームUKに流れた票を取り戻すため、同年11月の党首選で強硬保守派のケミ・ベーデノック氏を選出した。しかし、世論調査では24年に保守党に投票した有権者の15%が29年にはリフォームUKに投票すると回答するなど、保守党の求心力が逆に下がっている実情が浮き彫りとなった。

リフォームUKは24年総選挙で得票率約14%、約411万票を獲得。下院(定数650)では5議席を占め、今後も躍進を果たすかどうかが注目される。(後略)【1月17日 産経】
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得票率が14%にもかかわらず5議席というのは、小選挙区制度によるものです。

【コアなEU離脱支持派から支持される「リフォームUK」】
リフォームUKが躍進している要因のひとつは、世論全体としてはブレグジットを失敗とみなす流れが強まる中で、コアな離脱支持派からの支持を獲得していることがあるようです。

****イギリス総選挙 政権交代しても、お先真っ暗な英国の未来****
(中略)(昨年7月総選挙で)保守党大敗と労働党の政権奪還は予想通りとは言え、改革英国(リフォームUK)が複数の議席を獲得したことには驚きを禁じ得ない。二大政党制の母国・英国政治の多極化はさらに進んだ。

ファラージ氏は2016年の国民投票でEU離脱に投票した選挙区を固め、信じられないパフォーマンスだと自賛した。

「これからは労働党の票をターゲットにする」
ファラージ氏はイングランド東部エセックス州クラクトンの選挙区で保守党候補に8000票以上の差をつけて初当選し、「皆さんを驚かせる第一歩だ。これは保守党の終わりの始まりだ。これからは労働党の票をターゲットにする」と不敵な笑みを浮かべた。

元保守党副幹事長のリー・アンダーソン下院議員は今年2月、サディク・カーン・ロンドン市長(労働党)を「イスラム主義者」と結びつけて党員資格を停止され、改革英国に鞍替え。19年のEU離脱総選挙で保守党から初当選したアンダーソン氏は今回、改革英国として議席を得た。

ファラージ、アンダーソン両氏の選挙区では70%以上の人がEU離脱に投票した。英世論調査の権威ジョン・カーティス氏は英BBC放送で「改革英国は保守党地盤での保守党票の大幅減から恩恵を受けた。国民投票で離脱に投票した地域で最も前進した」と分析する。

次期首相「英国がEUに再加盟することはない」
直近の世論調査では、国民投票でEU離脱を選択したのは誤りという声は英国全体で56%、正しかったという回答は44%。EUに再加盟すべきだという意見は47%、戻らない方がいいが35%。再加盟派が離脱派を10ポイント前後上回っている。

EU離脱派は英国が再加盟に方針転換するのを防ぐため、改革英国に投票した。保守党はEU離脱派と残留派の股裂きにあい、壊滅した。

ファラージ氏が次の照準を労働党に合わせるのは「レッドウォール」と呼ばれるイングランド北部・中部のEU離脱支持地域を取り込むためだ。

次の首相となる労働党のキア・スターマー党首が「私が生きている間に英国がEU、単一市場、関税同盟のいずれにも再加盟することはない」と断言するのも再加盟を匂わせたとたん、リシ・スナク首相と同じ悲惨な運命が待ち受けていることを熟知しているからだ。

「英国は破産の瀬戸際に立たされている」
(中略)強硬なEU離脱派は英国の桎梏である。労働党政権になっても何一つ変わらない。金融コラムニストのマシュー・リン氏は英紙デーリー・テレグラフ(7月4日)に「誰も認めようとしていないが、英国は破産の瀬戸際に立たされている」と書く。

英シンクタンク「レゾリューション財団」によれば、政府債務残高の対国内総生産(GDP)比は100%に迫り、この16年間で3倍に膨れ上がった。税負担は27年度にGDPの38%近くに上昇。これは歴史上最も高い水準だ。

スナク首相だけでなく、スターマー新首相も「不都合な真実」に口を閉ざして選挙戦を戦った。高齢化が進み、生産性が低迷する先進国の誰もこの問題からは逃れられない。日本はその先頭を走っている。【2024年07月05日 Newsweek】
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【根深い反移民感情 昨年8月にもデマ情報で反移民暴動】
リフォームUK躍進のもう一つの要因は反移民。これは多分にコアなEU離脱支持層とも重なるものでしょう。

イギリスは移民が多い国です。

****英人口、過去最大1%増の6830万人 移民が押し上げ****
英国立統計局は8日、2023年半ば時点で同国の人口は、前年比1%、66万2400人増の約6830万人になったと発表した。増加幅は過去最大。

ONSは、2023年半ばまでの1年間で、英国を構成するイングランドとウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4地域全てで人口が増加し、主要因は移民の転入による社会増だと指摘。(後略)【2024年10月9日 AFP】
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多くの移民を受け入れるなかで、反移民感情も根強く、これまでも1981年、1985年、1990年、2001年に反移民暴動が起きています。

そんな反移民感情が爆発したのが、総選挙直後の8月に起きた反移民暴動でした。この暴動はネットで拡散した偽情報に煽られたという点でも注目されました。

****「移民を追い出せ」イギリスで極右が扇動する“移民排斥デモ”拡大 きっかけは“偽情報”の拡散****
イギリス各地で過激な「移民排斥デモ」が広がっています。きっかけは、ある事件をめぐりインターネット上で拡散された“偽情報”でした。(中略)

3日、イギリス中部リバプールで、極右集団が主導する移民へのヘイトデモと、それに反対するデモの参加者数千人がにらみ合う事態になりました。

発端となったのは、先月、リバプール近郊の町で17歳の少年がダンス教室に押し入って参加者を次々と刺し、子ども3人が亡くなった事件です。

少年は、アフリカのルワンダ出身の両親のもとイギリスで生まれ育ったということですが、インターネット上では事件直後から、「イスラム教徒」であり「小型ボートで入国した移民だ」とする“偽情報”が拡散されたのです。

その後、“偽情報”を利用した極右集団が移民やイスラム教徒へのヘイトデモを煽り、各地で暴動に発展。建物や車などが放火される事態に…。

ロンドンでは100人以上が逮捕されたほか、リバプールでも警察官2人が骨を折るなどしました。

ヘイトデモ参加者 「子どもが刺されたり、車で轢き殺されたり、そんなのはもうたくさんだ。彼らを追い出せ」(中略)

現地メディアは、この週末に30以上のヘイトデモが計画されていると報じています。【2024年8月4日 TBS NEWS DIG】
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Xを所有するアメリカの実業家イーロン・マスク氏も暴動に絡んだ偽情報の拡散に加担しました。

“BBCによりますと、マスク氏は「イギリス政府が暴動の参加者を収容するための強制収容所を建設予定だ」とする虚偽のニュース記事を拡散したということです。投稿は170万回以上、閲覧されましたが、マスク氏はその後、説明なく投稿を削除したということです。”【2024年8月10日 TBS NEWS DIG】

このときの暴動にはファラージ氏率いる右派政党「リフォームUK」の支持者らも合流していました。

****英極右デモ沈静化せず 「反差別」対抗デモも 発足1カ月のスターマー政権に厳しい試練****
(中略)
背景に移民政策への不満か
X(旧ツイッター)を所有する実業家イーロン・マスク氏は暴動に関し「内戦は不可避だ」と投稿。これに対し首相府報道官は声明で「不当な発言だ。連中は少数派のならず者で、英国の意見を何ら代弁していない」と反発した。

暴動をめぐっては、極右団体「イングランド防衛同盟」を創設した著名な反イスラム活動家のトミー・ロビンソン氏がXで暴力を扇動する投稿を繰り返していることが騒乱拡大の要因の一つに挙げられている。同氏のフォロワー数は100万人に迫る勢いで急増中で、投稿を野放しにしているXへの批判も強まっている。

ただ、暴動の背景には、スターマー政権の移民政策への不満があるとも指摘されている。政権は発足直後、保守党のスナク前政権が打ち出した不法移民をルワンダに強制移送する計画を撤廃し、国境警備の強化や密航業者の摘発に重点を置くと表明した。だが、移民流入を防ぐ方策は現時点で明確に示されていない。

暴徒には反移民を旗印とする大衆迎合政治家のファラージ下院議員率いる右派政党「リフォームUK」の支持者らも合流しているとみられている。

同党は7月の総選挙(下院、定数650)で5年前の前回総選挙比12・3ポイント増の得票率14・3%を記録したが、獲得議席数は二大政党に有利な小選挙区制のため5議席にとどまった。自身らの主張が国政に反映されないとの不満が同党支持者を暴力デモに駆り立てた可能性も否定できない。【2024年8月6日 産経】
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こうした反移民感情の存在を受けて、最大野党保守党では党内右派でナイジェリア系黒人女性ベーデノック前ビジネス貿易相(44)が党首となり、今後の右傾化は必至と見られています。

労働党・スターマー首相も流入する移民数を削減すると表明しています。

****英首相、移民流入を制度改革で削減すると表明****
英国のスターマー首相は28日、前保守党政権が導入したポイント制の移民制度を改革する計画を策定して同国へ流入する移民数を削減すると表明した。

英国立統計局(ONS)が同日発表した2023年6月末までの1年間に同国へ流入した正味の移民数は90万6000人となり、当初発表の74万人から上方改定されて過去最高を更新した。

これを受けてスターマー氏は記者会見を開き、移民の流入を減らす決意を表明した。同氏は移民数の増加について、前保守党政権の政策が原因だと非難した。(中略)

高水準の移民は英国で大きな問題となっている。有権者は、逼迫している公共サービスでは大量に流入する移民を処理できないと懸念する一方、ヘルスケアといった業種は外国の労働者なしでは事業を運営できないと訴えている。【2024年11月29日 ロイター】
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【これまで「リフォームUK」を支持してきたマスク氏、ファラージ氏と意見の相違? 党首交代要求】
ところで、昨年8月の反移民暴動でも名前があがった米富豪イーロン・マスク氏ですが、スターマー首相を「犯罪の加担者」「無能なバカ」と批難する一方で、「リフォームUK」に多額の寄付をするという噂が広まるなど支援を強めています。

****「犯罪の加担者」「無能なバカ」 マスク氏が欧州首脳を口撃****
X(ツイッター)オーナーの米実業家で、右派的な言動で知られるイーロン・マスク氏が、政治的信条を異にするスターマー英首相らへの露骨な批判を続けている。マスク氏はトランプ次期米政権で政府外助言機関「政府効率化省」を率いる予定で、米欧関係への影響も懸念されている。

「スターマーは辞任しなければならない」。マスク氏は3日、Xへの投稿でそう訴えた。その理由としてマスク氏は、スターマー氏が検察官時代、パキスタン系容疑者らによる白人少女らへの性的暴行事件を十分に捜査しなかったと主張した。そのうえで、「英国史上最悪の集団犯罪に加担した罪で告発されなければならない」と続けた。

マスク氏はこのほか、スターマー政権の別の高官も「刑務所に入るべきだ」などと攻撃している。

英紙フィナンシャル・タイムズは9日、マスク氏の狙いはスターマー氏が率いる中道左派・労働党の弱体化で、自らが支持する右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の勢力拡大を画策していると伝えた。
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ただ、「リフォームUK」を率いるファラージ氏とは、昨年8月反移民暴動でも盛んに煽った反イスラム活動家のトミー・ロビンソン氏に関して意見の対立があり、マスク氏は党首交代を求めています。

****マスク氏、英野党「リフォームUK」の党首交代を要求 極右活動家支持でファラージ氏と意見相違か****
米富豪イーロン・マスク氏は5日、英野党「リフォームUK」の党首をナイジェル・ファラージ氏をから交代させるべきだと主張した。マスク氏は数週間前に、同党への寄付を検討していると報じられていた。

マスク氏は所有するソーシャルメディア「X」への投稿で、ファラージ氏には党を率いる資質がないと述べたが、その理由は明らかにしなかった。

ファラージ氏はこれについて、マスク氏がイギリスの極右活動家トミー・ロビンソン(本名スティーヴン・ヤクスリー=レノン)受刑者を支持していることについて、自分たちの意見が食い違っていることが原因だと示唆している。(中略)

服役中の極右政治家を支持、ファラージ氏は距離を取る
マスク氏はかねてファラージ氏とリフォームUKの熱心な支持者で、昨年12月には「X」に「イギリスにはリフォームUKが絶対に必要だ」と投稿していた。

しかし今週、マスク氏がロビンソン受刑者を支持していることをめぐぐり亀裂が生じた。ロビンソン氏は現在、法廷侮辱罪で禁錮18カ月の刑に服している。

ロビンソン受刑者は昨年10月の裁判で、2021年の名誉毀損訴訟で敗訴した後、シリア難民に関する偽の主張を禁じる裁判所命令に違反したことを認めた。

マスク氏のコメントに対し、ファラージ氏はSNSに「イーロンは素晴らしい人物だが、この点については残念ながら意見が異なる」と投稿した。

「私の見解は変わらない。トミー・ロビンソンはリフォームUKにふさわしくない。そして私は決して、自分の信念を曲げたりしない」

ファラージ氏がこの声明を発表した数分後、マスク氏は「トミー・ロビンソンを今すぐ釈放しろ」と「X」に投稿した。(後略)【1月6日 BBC】
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ドイツ 2月総選挙で政権交代の予想 注目される年末のクリスマスマーケット襲撃事件の影響

2025-01-03 23:27:08 | 欧州情勢

(【12月27日 Bloomgerg】 右肩上がりの白が最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、赤が与党・中道左派の社会民主党(SPD) 青が極右・ドイツのための選択肢(AfD)) AfDの伸びは昨年中はストップしたようです。)

【最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は支持率トップも、単独過半数には届かない見込みで、連立交渉か】
ドイツでは異例の議会解散による総選挙が2月23日に行われます。

ショルツ首相率いる中道左派の社会民主党(SPD)と環境派の「緑の党」、そして中道の自由民主党(FDP)による3党連立政権は昨年11月、経済や財政政策の対立から自由民主党(FDP)が連立を離脱して少数政権となり政権運営に行き詰まりました。

ドイツは議会解散の頻発がナチス台頭をもたらした反省から、基本法(憲法)で解散を厳しく制限しているため、ショルツ首相が要請した信任投票が予定どおり反対多数で否決されて不信任となるという形を受け、ショルツ首相がシュタインマイヤー大統領に議会の解散を求め、大統領が議会を解散する・・・という流れになっています。

上記事情からドイツでは解散総選挙は異例で、2005年のシュレーダー政権以来となります。

****ドイツ大統領、連邦議会を解散 来年2月23日総選挙へ****
ドイツのシュタインマイヤー大統領は27日、連邦議会(下院)で信任投票が否決されたショルツ首相の提案を受け、下院を解散した。来年2月23日に総選挙を実施することも正式に発表した。解散総選挙は2005年以来、19年ぶり。
 
争点は経済問題や移民・難民政策、ウクライナ支援など。

世論調査では最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が支持率で首位を走り、排外主義の右派、ドイツのための選択肢(AfD)が2位。与党のショルツ氏の中道左派、社会民主党(SPD)と環境派の「緑の党」は低迷している。
 
21年12月に発足した3党連立政権は今年11月に崩壊した。【12月27日 共同】
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支持率ではトップの最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)も単独過半数には届かない見込みで、連立政権が現実的と考えられていますが、その連立交渉は難しそう。

****ドイツ総選挙、世論調査トップは中道右派 首相、信任案提出へ****
(中略)公共放送ZDFが12月6日に発表した世論調査によると、支持率が最も高いのは、メルケル前政権で与党だった中道右派の統一会派CDU・CSUで33%。次いで、地方選挙で躍進が続く排外主義的な右派、ドイツのための選択肢(AfD)が17%と続き、ショルツ氏が率いる社民党は15%にとどまる。緑の党は14%、自民党は4%だった。

現時点で次期首相に最も近い立場にいるCDUのメルツ党首は、社会福祉の削減や難民規制の強化など保守的な政策を打ち出し、厳しすぎる気候変動対策にも懐疑的とされる。メルツ氏が政権を率いることになれば、リベラル色の強かったショルツ政権からの方針転換となりそうだ。

ただ、現状では総選挙でCDU・CSUは単独過半数には届かない情勢だ。メルツ氏はAfDとの連立を否定しており、社民党か緑の党との連立が現実的となる。

メルツ氏は今月3日、独大衆紙ビルトに対し「外交と安全保障政策では緑の党と共通点が多い」と述べ、同党との連立交渉の可能性をにおわせた。

緑の党は、ショルツ氏が拒否する長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与を含む積極的なウクライナ支援を主張しており、メルツ氏の考えと近い。ただ、両党はその他の政策では相いれず、CDUの姉妹政党であるCSUのゼーダー党首は両党の連立に反対している。

一方、社民党と組めば、メルケル前政権以来となる2大政党による「大連立」となる。だがCDU・CSUは政治の混乱を招いたとして、ショルツ氏を厳しく批判してきた。「ショルツ氏なしの社民党ならチャンスがある」(ゼーダー氏)との声が上がるほどで、連立交渉は容易ではなさそうだ。

21年の前回の総選挙では、支持率トップだったCDUのラシェット党首(当時)が災害現場で笑ったことを批判され、社民党が10ポイント以上開けられていた差を逆転してショルツ政権発足につながった。今後の動きや出来事次第で、選挙情勢は大きく変わる可能性もある。【12月10日 毎日】
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【総選挙の争点の一つが移民・難民対策 注目される年末に起きたクリスマスマーケット襲撃事件の影響】
“今後の動きや出来事次第で、選挙情勢は大きく変わる”ということでは、東部マグデブルクで12月20日、サウジアラビア出身の医師がクリスマスマーケットに車で突っ込み、子供を含む5人が死亡、負傷者は200人を超えるという事件の移民・難民対策が争点となっている選挙への影響、特に支持率2位につけている移民排斥的なドイツのための選択肢(AfD)にどう影響するのかが注目されます。

****ドイツの車暴走、容疑者は「反イスラム」主義者…移民に対する憎悪に拍車の恐れ****
ドイツ東部マグデブルクで20日にクリスマスマーケットを襲撃した容疑者の男は、サウジアラビア出身の医師で、特異な経歴から動機に注目が集まっている。

来年2月に予定される独連邦議会選挙に向け、移民排斥を訴える右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が今回の事件を支持拡大に利用し、移民に対する憎悪をあおる可能性がある。

ドイツに2006年亡命
地元メディアによると、男は母国サウジでの迫害を理由に2006年にドイツに亡命した。更生施設で精神科医として働いていたが、最近「就労不適格」とされた。サウジ女性の国外亡命を長年支援していたという。

警察当局は20日夜、容疑者の取り調べを始めた。独紙ウェルトは、男が反イスラム主義の活動家で、寛容な移民政策を進めたドイツの「イスラム化」を懸念していたと報じた。男は今年5月、自身のSNSでイスラム教徒の入国を制限するべきだと主張し、AfDに共鳴していたという。

社会の分断、一層進む恐れ
AfDのアリス・ワイデル共同党首は20日、「衝撃的だ。この狂気はいつ終わるのか」とX(旧ツイッター)に投稿し、事件を非難した。

事件現場があるザクセン・アンハルト州を含む旧東独地域は、AfDの地盤でもある。今年6月に行われた同州の地方選挙で、AfDは州全体で最多の票を得るなど着実に支持を伸ばしている。シリアのアサド政権崩壊を受け、「もはや逃げる理由がない」(ワイデル氏)としてシリア人の早期帰還を求めるなどイスラム系住民への圧力を再び強め始めている。

今回の事件も含め、選挙戦では移民や難民を巡る議論も争点になると予想され、社会の分断が一層進む恐れがある。【12月22日 読売】
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****車突入事件の直後から移民・難民排斥デモ***
2015〜16年にやってきたシリア難民は100万人を超え、現在も大部分がドイツにとどまっている。

10年前は「シリア難民は人手不足に悩むドイツ経済の救世主となる」との期待があったが、肩すかしに終わってしまった。それどころか、「彼らのせいで国内の治安が悪化している」との非難が噴出している。

生活が厳しくなったドイツ人が最も怒っているのは、移民がドイツの社会福祉制度に依存していることだろう。独連邦雇用庁が昨年9月に発表したデータによれば、「市民金(生活保護と失業手当をひとまとめにしたもの)」の受給者の3分の2が移民の背景がある人たちだ。シリア難民の受給者は約50万人に上っている。

移民への風当たりが強まっている矢先に恐れていた事件が起きた。(中略)犯行直後からドイツ各地で「移民・難民の国外追放」を訴えるデモが相次いでいる。【12月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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サウジアラビア出身の医師(2006年にドイツに移り住み、永住権を取得 「元イスラム教徒」を自称する反イスラム主義活動家)による凶行と言う点では、移民・難民に厳しい目を向け始めている世論の反移民感情を加速させ、AfDも最大限に事件を活用するでしょう。

ただ、微妙なのは一部メディアが容疑者は移民排斥を掲げる極右政党「AfD」を支持していたと報じていること。

****5人死亡のクリスマスマーケット襲撃 極右政党「AfD」は関係を否定 サウジ出身の男が「支持していた」と地元メディア報じる****
ドイツのクリスマスマーケットに車が突っ込み5人が死亡した事件で、容疑者の男が支持していたと報じられた極右政党の地元幹部がJNNの取材に応じ、「支持者ではない」と話しました。

この事件で拘束されたサウジアラビア出身の男について、一部メディアは移民排斥を掲げる極右政党「AfD」を支持していたと報じています。

こうしたなか、AfDの地元幹部がJNNの取材に応じ、この報道を否定しました。

極右政党「AfD」 マクデブルク市議団団長
「男が(SNSで)ある種の投稿や共有をしたというのが理由にされています。しかし、本当のAfD支持者は、決して襲撃事件を起こしたりしません」(後略)【12月23日 TBS NEWS DIG】
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【主要政党の経済対策 「もっと大規模なものが求められる」との指摘も 軍需期待も】
2年連続でマイナス成長という状況で、経済対策では財政規律が争点になっています。

****独主要政党、2月総選挙控え公約発表 最大の争点は経済対策****
来年2月23日に総選挙が実施されるドイツで17日、主要政党が選挙公約を相次いで発表した。

最大の争点は低迷する経済への対策だ。ドイツの成長率は2年連続でマイナスに陥ろうとしており、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は外国メーカーとの厳しい競争に直面するなど課題は山積している。この日公表されたIFO経済研究所の12月業況指数も、市場予想を下回った。

こうした中で世論調査の支持率が最も高く、政権奪取が見込まれている保守のキリスト教民主同盟(CDU)は、所得税と法人税の減税や電気料金引き下げを通じて経済のてこ入れを図る方針を打ち出した。

これらの措置には財源の裏付けが不明確だとの批判もあるが、CDUは成長ペース加速による歳入増加や社会福祉予算を一定程度削減することで賄えると見積もっている。

一方、CDU党首で次期首相が最有力視されるフリードリヒ・メルツ氏はこれまでのところ、財政運営と歳出に一定の規律を持たせるために憲法が定めた「債務ブレーキ」を維持する意向を示している。

これに対してショルツ首相が率いる中道左派、社会民主党(SPD)や、SPDと連立を組む環境保護政党、緑の党は債務ブレーキを修正したい考え。

緑の党のハーベック経済相は、メルツ氏はドイツが突き付けられている現実に正面から向き合おうとしていないと批判。「われわれはインフラを根本から立て直さなければならない。老朽化したインフラの全面的な改修には今後10年で推定数千億ユーロかかり、債務ブレーキの改革が必要になってくる」と訴えた。

ショルツ氏は、SPDが掲げる政策の目玉に雇用を挙げている。「最優先かつ最も大事なのは既存の雇用を守り、新規雇用創出の道を確保することだ」と強調した。

SPDは、特に国内生産とインフラ近代化に向けた民間投資にインセンティブを導入することも提案している。

ただ一部のエコノミストからは、こうした主要政党の政策でドイツ経済の大幅な変革が可能かどうかは疑問だとの声が聞かれた。

ハンブルク商業銀行のチーフエコノミスト、サイルス・デラルビア氏は「小粒の対策では効果がない。もっと大規模なものが求められる。(しかし)大半の選挙公約にそうした内容は見つけ出せない」と語った。【12月18日 ロイター】
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経済対策としては、「有事への備え」・軍拡の流れを受けての「軍需」という要素も。

****ドイツで「シェルター計画」と「新たな兵役モデル」 「2年連続マイナス成長」深刻な不景気への特効薬は軍拡なのか*****
(中略)
新たな地下壕計画、兵役モデルの施行
移民問題に加え、「有事への備え」もドイツ政治の中心テーマとなった感がある。

ドイツ政府は11月下旬、ロシアからの核攻撃に対処するため、避難シェルター(バンカー)のリスト化や設置の奨励などを含む新たなバンカー計画に取り組んでいる。ドイツにはかつて約2000カ所のシェルターがあったが、現在使えるのは579カ所のみ。約8400万人の人口に対し、48万人分に過ぎない。

ドイツ政府は軍の規模拡大に踏み切る構えもみせている。ピストリウス国防相は18日、兵士を現在の約18万人から最大23万人にまで増員する可能性があると明らかにした。北大西洋条約機構(NATO)の戦力増強の取り組みが背景にある。

だが、徴兵制が2011年に停止された後、軍は人員の確保に苦労しており、現時点では目標を約2万人下回っている。

ショルツ政権は6日、兵員確保に資する新たな兵役モデルを閣議決定し、来年5月の施行を目指している。新たなモデルでは、アンケートを元に4〜5万人を徴兵検査に呼び、そのうち5000人に少なくとも6カ月の基礎的な軍事訓練に従事するよう促す。参加者には最大で月額2000ユーロ(約32万6000円)を支給する予定だ。

自動車から防衛へ“鞍替え”も
政府の軍拡にドイツ産業界も反応し始めている。

電気自動車(EV)の需要低迷と、中国との競争激化で苦戦を強いられるドイツ自動車業界には、リストラの波が押し寄せている。そこに、特需に沸く防衛産業から救いの手が差し伸べられた。

例えば、ミュンヘンに拠点を置くレーダー・光電子工学メーカーのヘンゾルトは、軍事関連の受注急増に対応するため自動車部品企業2社からチームを丸ごと雇い入れる交渉を進めている(12月14日付ブルームバーグ)。

深刻な不景気への特効薬は軍需しかないのもしれない。(後略)【12月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【欧州政治にも関与(介入?)するイーロン・マスク氏】
上記のようなドイツ総選挙をめぐる状況に“参入”(介入?)しているのが極右AfDを支持するマスク氏。

****独政府、マスク氏の極右政党支持を非難 「選挙介入にあたる」****
ドイツ政府は30日、米起業家のイーロン・マスク氏が来年2月に行われるドイツの総選挙に影響を及ぼそうとしていると非難した。

マスク氏はトランプ次期米政権で要職に就く見通し。自身のソーシャルメディアXに「ドイツを救えるのは極右政党『ドイツのための選択肢(AfD)』だけだ」と投稿したほか、独紙ウェルト・アム・ゾンターク紙への寄稿でもAfDへの支持を改めて表明した。

独政府報道官はマスク氏のAfDへの支持について「国内情報機関が右翼過激主義の疑いで監視し、一部がすでに右翼過激主義と認定されている政党への投票を勧めるものだ」と指摘。「マスク氏がXへの投稿や寄稿を通して連邦選挙に影響を及ぼそうとしているのは事実だ」と述べた。

マスク氏には自身の意見を表明する自由があるとしながらも、表現の自由には「最大のナンセンス」も含まれるとした。

野党・キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は独紙フンケに対し、マスク氏のコメントは「押し付けがましく、傲慢(ごうまん)だ」と語った。メルツ氏は次期首相として有力視されている。【12月31日 ロイター】
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マスク氏の欧州選挙への参入はイギリスでも。

****マスク氏の極右支持が波紋 「選挙介入」、分断の火種に―独****
(中略)
マスク氏は独紙ウェルト日曜版にも寄稿し、AfDが掲げる規制緩和や反移民、原発再稼働などの方針を評価し、「政治的な現実主義だ。既存体制に無視されたと感じる人々の共感を呼んでいる」と称賛した。

マスク氏はベルリン近郊に巨大工場を持つ電気自動車(EV)大手テスラの最高経営責任者(CEO)。自社の利益の追求がAfDを支持する理由の一つとみられ、同党のワイデル共同党首の周辺と「定期的な連絡」(独メディア)を交わしているとされる。

AfDは反国家的活動家との近さから公安当局の監視下にあり、政界で異端視されている。排外主義や欧州連合(EU)からの離脱も辞さない姿勢は、産業界と相いれないとの見方が一般的。しかし、世界トップの実業家による「お墨付き」は追い風となっている。

総選挙に向けて劣勢を強いられている中道左派与党、社会民主党(SPD)のショルツ首相は、新年の国民向け演説で「ドイツのことを決めるのは国民だ。ソーシャルメディアのオーナーではない」とXを傘下に持つマスク氏への不快感をあらわにした。保守系野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を率い、次期首相の座に最も近いメルツCDU党首は「友好国に対するこのような選挙介入は記憶にない」と批判した。

マスク氏はドイツ以外の欧州の右派政治家とも交流を深めている。イタリアの極右政党「イタリアの同胞」党首のメローニ首相と密接な関係を構築。英国の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」に巨額献金を行うとの見方も強まっている。

トランプ次期米大統領の盟友であり、莫大(ばくだい)な資金を持つマスク氏の動向は今後、欧州政界で注目を集めそうだ。【1月2日 時事】
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“米電気自動車(EV)メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は英議会を解散し総選挙を実施するべきだと呼び掛けた。トランプ次期米政権がスターマー英政権に与える悩みの種が、また一つ増えた格好。”【1月3日 Bloomgerg】

実際に欧州政治にどれだけの影響力を持っているかは定かではありませんが、“影響力を持つ人物”というイメージを作り上げることでは成功しているようです。
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ロシア産ガスのウクライナ経由供給が停止 電力不足のモルドバ ウクライへの反発強めるスロバキア

2025-01-02 21:57:50 | 欧州情勢

(スロバキアのフィツォ首相(写真左)とロシアのプーチン大統領。12月22日、モスクワで代表撮影【12月30日 ロイター】)

【全欧州的なガス供給不足や著しいガス価格暴騰につながるリスクは小さいものの、中東欧諸国へ影響】
昨年12月13日ブログ“モルドバ 大統領選挙は親欧米派現職勝利も、エネルギーのロシア依存で揺れる”でも取り上げた、ロシアからのウクライナ経由の欧州への天然ガス供給が今年1月1日から、ロシア・ウクライナ間の契約が更新されないことによりストップしました。

****ウクライナ、自国経由するロシア産天然ガスの欧州輸送を停止 契約失効****
ロシア産の天然ガスをウクライナ経由で欧州にパイプライン輸送する契約が1日、失効した。これより前にウクライナは国家安全保障の観点からロシアとの契約を更新しない姿勢を示していた。

ベルギーのシンクタンク、ブリューゲルによると、ウクライナ経由は欧州連合(EU)の天然ガス輸入全体の約5%を占め、主にオーストリア、ハンガリー、スロバキアに供給されていた。今後ロシア産を欧州に送るパイプラインはトルコ経由のみとなる。

米調査会社ユーラシア・グループのエネルギー担当責任者によると、契約の失効でガス価格の上昇が予想されるという。

ただ、欧州は備えを進めてきており、加えて今冬の寒さがこれまでのところ厳しくないこともあり、以前ロシアが供給を削減した時のような値上がりにはならないと見ている。

ロイター通信が報じたところによると、ウクライナ経由で天然ガスを輸出していたロシア国営ガスプロムは昨年、欧州への輸出減が響き、69億ドル(約1兆800億円)の赤字を計上した。ウクライナは今回の契約失効で年約8億ドルの収入を、ガスプロムは50億ドル近くの売上を失うという。

オーストリアのエネルギー相は1日、契約の失効に入念に備えてきたことを明らかにし、エネルギー企業がロシア以外の国からの供給を模索してきたとも述べた。

だがスロバキアのフィツォ首相はウクライナ経由の輸入停止はロシアではなくEUに「極めて大きな」影響を及ぼすと述べたとロイターは報じた。

EUの行政執行機関である欧州委員会(EC)によると、欧州のロシア産天然ガスへの依存度は下がっており、パイプラインでの輸入は2021年に全体の40%超だったのが23年には約8%になった。【1月2日 CNN】
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以前よりウクライナは、ロシアの収入源を減らす必要があるとして、今年1月以降、自国を通過させるロシアとの契約を延長しない方針を示してきました。

ロシアからの欧州へのガス供給パイプラインで稼働しているのは、今回措置によりトルコ経由のみになります。
“ロシア産ガスを輸送するパイプラインで稼働しているのは、黒海を横断してトルコに至るトルコ・ストリームのみとなる。ベラルーシを経由するヤマル・ヨーロッパ・ストリームは停止しており、バルト海を経てドイツに至るノルド・ストリームは22年に破壊された。”【1月1日 ロイター】

上記記事にもあるように、欧州のロシア産天然ガスへの依存度はすでに下がっていること、ロシア以外からの調達に切り替える準備も行われてきたことなどで、今回措置が全欧州的なガス供給不足や著しいガス価格暴騰につながるリスクは小さいとみられていますが、ハンガリー、スロバキア、モルドバなど中東欧諸国ではガス供給の縮小や、価格上昇の影響が予想されています。

【「沿ドニエストル」地域ではガス供給停止 今後、モルドバの電力不足が懸念される】
最も影響が大きいとされているのがモルドバ。
モルドバでは、親ロシア系住民の分離独立派が支配する「沿ドニエストル」地域の住宅で1月1日から暖房が止まり、お茶も湧かせない事態になっています。

モルドバ政府の支配地域は、ガスに関しては主にルーマニアからガス供給を受けて現時点では問題ないとみられていますが、問題は電力。「沿ドニエストル」地域では、ロシアから送られた安価なガスを利用して発電、その電力がモルドバに送られるというエネルギー事情にあるため、今後はモルドバにおける電力不足が懸念されています。

ロシアからのガス供給は代替ルートでの供給も可能ですが、ロシア側はモルドバのガス料金支払いが滞り、7億9千万ドル(約1250億円)の債務があると主張し、ルート変更前の支払いを求めています。

****ロシア、来年初からモルドバ向けガス供給停止 深刻な電力不足懸念****
ロシア政府系天然ガス企業ガスプロムは28日、モルドバに対するガス供給を来年1月1日から停止すると発表した。未払い債務の存在を理由に挙げており、モルドバは深刻な電力不足に陥ることになる。

ガスプロムは、モルドバへのガス供給契約破棄も含めたいかなる手段を行使する権利を留保すると強気の姿勢だ。

ロシアはモルドバに年間約20億立方メートルのガスを供給。ウクライナを経由し、モルドバから事実上分離独立した「沿ドニエストル共和国」の火力発電所を通じて電力としてモルドバに送られてきた。

ウクライナ経由のガス供給はモルドバとロシアの通過契約が年末で期限を迎え、スロバキアやオーストリア、ハンガリー、イタリアなども影響を受けるが、モルドバの打撃が最も大きい。

モルドバで親欧米の立場を取るレチャン首相は、ロシアがエネルギーを政治的武器として利用していると非難。一方ロシア側はモルドバには7億0900万ドルの債務があると主張し、ガスプロムは代替ルートで供給する前にこの債務を支払うよう求めている。

ガス供給が止まれば、モルドバと沿ドニエストル共和国では大規模な停電が発生する恐れが出ている。【12月30日 ロイター】
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親欧米政権のモルドバ側は、ロシア側が主張する約7億900万ドル(約1100億円)の債務は存在しないと主張しています。これまでロシア、モルドバ、親ロシア「沿ドニエストル」の間の微妙な政治事情で曖昧に処理されてきたのでしょう。

【スロバキア・フィツォ首相とウクライナ・ゼレンスキー大統領のロシアをめぐる対立、改めて表面化】
一方、対ロシア姿勢の違いから政治問題化しているのがスロバキア。
かねてよりスロバキアのフィツォ首相は、左派民族主義の立場から、ハンガリーのオルバン首相同様にロシア、更には中国と接近し、反EU・ウクライナ的な姿勢をとってきました。

****スロバキア首相、ロシアのテレビに出演 ウクライナ巡りEU批判****
中欧スロバキアのフィツォ首相は30日、ロシア国営テレビ「ロシア1」に出演し、第二次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」に当たる来年5月9日にモスクワを訪問したいと語り、ウクライナ戦争への欧州連合(EU)のアプローチを批判した。これを受け、国内の野党から批判の声が上がった。

スロバキアのメディアによると、EU加盟国の首脳がロシアのテレビに出演するのは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降初めて。

フィツォ氏率いる左派の民族主義政権は1年前の発足直後にウクライナへの軍事物資の供給を停止し、武器の供給が紛争を長引かせていると主張してきた。

フィツォ氏はロシア大統領府支持派のテレビ解説者オルガ・スカベエワ氏とのインタビューで、来年の戦勝記念日に訪問したいと述べた。

また、ウクライナの和平計画はもはや実行不可能だとし、ロシア語に翻訳されたコメントで、「これはもう和平策ではなく、突然、勝利計画と呼ばれるようになった」などと指摘した。

最大野党のシメツカ党首は「国内でフィツォ氏のつぎはぎ行政は崩壊しつつある。医療は首相にとって議題ではないが、首相はロシアのプーチン大統領に奉仕する時間は見つけるだろう」と批判した。【2024年10月31日 ロイター】
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“中国、スロバキアとの緊密関係確認 EUと貿易対立下で”【2024年11月2日 ロイター】

こうした政治姿勢の違いから、今回のロシア産ガス供給停止問題でも、スロバキア・フィツォ首相とウクライナ・ゼレンスキー大統領の対立が表面化しています。

****スロバキア、ガス輸送巡り対抗措置警告 ウクライナ反発****
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、スロバキアのフィツォ首相がロシアの命令でウクライナに対し「第二のエネルギー戦線」を開いていると批判した。

スロバキアなど欧州数カ国はウクライナ経由でロシア産天然ガスの供給を受けているが、ウクライナはロシアの侵攻前に結んだ既存の輸送契約が今年末に期限切れとなった後は輸送を停止する見通しだ。

ロシアのプーチン大統領とモスクワで今月会談したフィツォ氏は(12月)27日、ウクライナが来年1月1日からガス輸送を停止した場合、スロバキアはウクライナに対し、予備電力の供給停止など対抗措置を検討すると述べた。

ゼレンスキー氏はこれについて「プーチンはスロバキア国民の利益を犠牲にしてウクライナに対し第二のエネルギー戦線を開くようフィツォ氏に命じたようだ」とXに書き込んだ。

ウクライナは電力網がロシアの攻撃の標的となる中、周辺国からの電力輸入を余儀なくされている。

ゼレンスキー氏はスロバキアが現在、ウクライナ電力輸入の19%を占めていると指摘。その上で、欧州連合(EU)と協力して供給強化に取り組んでいるとし、「スロバキアは欧州単一エネルギー市場の一部であり、フィツォ氏は欧州共通のルールを尊重しなければならない」と強調した。【12月30日 ロイター】
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ウクライナ・ゼレンスキー大統領からすれば、ロシア軍侵攻後もロシア産ガス依存姿勢を変えないスロバキアに問題があるという話にもなります。

****ゼレンスキー大統領、スロバキア首相のロシア産ガス依存姿勢を非難****
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、スロバキアのフィツォ首相がロシア産ガスへの依存を減らすことに消極的だと非難し、欧州にとって大きな安全保障の問題だと指摘した。

フィツォ氏は22日、ロシアのプーチン大統領と会談した。スロバキアはウクライナを経由して輸送される欧州向けロシア産ガスに依存しており、年末に期限が切れる輸送契約の延長を拒否したとしてゼレンスキー氏を批判する一方で、供給継続に向けた取り組みを強化している。

ゼレンスキー氏は、ウクライナがスロバキアの損失を補うための補償や代替のガス供給ルートを提供すると提案したにもかかわらず、フィツォ氏はそれを望まなかったと指摘した。

フィツォ氏がロシアとの関係を重視していると批判し、これがスロバキアと欧州全体の安全保障に関わる問題であると述べた。【12月24日 ロイター】
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“スロバキアは、代替輸送ルートを利用すればコストが大幅に増え、同国の輸送事業にも打撃となり、5億ユーロの損失を被ることになるとしている。”【12月30日 ロイター】

上記のような需要国にも大きな影響がでますが、供給国ロシアとしても、天然ガスという石油と並ぶ主要財源へのダメージが、欧米による制裁下でさらに加速することになります。
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フランス海外県マヨットのサイクロン被害を大きくした不法移民問題 仏本国の政治情勢も大嵐状態

2024-12-28 23:46:22 | 欧州情勢

(【12月17日 ウェザーニュース】)

【フランス海外県マヨット サイクロンで甚大な被害】
かつて大英帝国に対抗する海外植民地を有したフランスは、現在でも様々な理由・事情でフランスに残存することを選択した海外県・海外領土を持っています・

****フランスの海外県・海外領土****
かつてのフランス植民地帝国時代に形成されたこれらの領土はアメリカ州、オセアニア、インド洋、太平洋、南極大陸にある。

脱植民地化後もさまざまな形でフランスの一部として残ることを選んだ地域である。これらの領土は、文化的、政治的にさまざまな現実があり、まったく異なる行政・法制度が適用されている。

総合計面積は120,369km2(フランスが領有権を主張する南極大陸のテール・アデリーを含めると552,528km2)、2019年の人口は220万人を超え、海外県・海外領土はフランスの国土面積の17.9%、人口の4%を占める。

フランス共和国憲法によれば、フランスの法律は国内全土に於いて施行される事となっているが、海外県・海外領土では国防・国際関係・貿易・貨幣・法廷・統治等の特殊な分野を除き、この原則に反して独自の法律を制定する事が許可され、実際に施行されている。

フランスの海外県・海外領土は、その地域が有する議会とフランス共和国会(国民議会・元老院)との二重統治体制である。 また、居住地域では共和国会に対する代表者を選出する事となっており、また実際に有しているため、欧州議会に対する投票権を有している。
***********************

今年5月には「天国に一番近い島」ニューカレドニアで、現地に長期滞在するフランス人に地方参政権を与える憲法改革に対して独立派が強く反発し、暴動に発展しました。

また、10月3日ブログ“フランス  海外県マヨットで不法移民の強制送還 問題の本質は欧州・米の移民問題に共通”では不法移民問題を取り上げました。

移民に対し厳しい対応を求める極右・国民連合へのバルニエ内閣(当時)の配慮に加え、移民強硬派のルタイヨー内相自身の姿勢もあって、フランスは移民問題で強硬姿勢に舵を切っており、不法移民を大量に抱えるマヨットからの不法移民強制送還が命じられました。

インド洋のマヨット島はアフリカ東部モザンビークとマダガスカルの中間にあって、コモロ連合の島々に近接します。人口は約35万人。(マヨットにしても、コモロにしても馴染みがない地域なので、10月3日ブログでは「コモロ」のことを間違って「ロコモ」と連発していました。失礼しました。)

そのフランス海外県マヨットは12月14日、過去90年余りで最強クラスとされるサイクロンの襲撃を受け、大きな被害を出しています。

****90年ぶり大嵐、インド洋マヨット島10万人と連絡つかず****
前週末にアフリカ南部に近いインド洋島しょ部などを襲ったサイクロン「チド」の被害で、フランス当局は被害が最も深刻な海外県マヨットで死者数が数百か数千に上る可能性があると明らかにした。大統領府はマクロン大統領が19日に現地入りすると発表した。

マヨットはモザンビークの沖合に浮かぶ島。風速200キロの強風が吹き荒れた。今回ほどの大嵐は過去90年以上なかった。モザンビーク当局は17日、少なくとも34人が死亡したと発表した。マラウイでも7人が死亡した。

マヨット島は依然多くの地域に立ち入ることができない。レユニオン島から空輸で生活必需品が届けられ、医療関係者や技術者、警察官も空から現地入りした。チド犠牲者の一部は死亡を公的に記録する前に埋葬されており、被害の全容判明までには数日かかる可能性がある。

内務省によると、これまでにマヨット島で22人の死亡と1373人の負傷が確認された。現在病気の発生の報告はないという。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の広報担当ノラ・ピーター氏は「マヨット島は人口30万人の小さな島だが、サイクロンにより電気やインターネット、電話回線が途絶えており、依然として約10万人と連絡がつかない」と話し、犠牲者が急増しかねないとの見方を示した。

同島の正確な人口は分かっておらず、事態は一段と厳しさを増している。過去10年間に10万人が増加したと推定されているが、主に不法移民のためだ。【12月18日 ロイター】
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時速200キロ・・・日本で馴染みの秒速で言えば56m

マヨットの人口約32万人の半数近くを移民が占めていると推定されるような地域ですから、電気やインターネット、電話回線が途絶えて“10万人と連絡つかず”とは言っても、それがそのまま犠牲者・・・という訳でもありません。

ただ、死者数が数百か数千に上る可能性があるとなると、人口32万人の島にとっては未曽有の大災害には間違いないでしょう。

【被害を大きくした不法移民問題】
被害を大きくした要因に、サイクロンの規模だけでなく、不法移民問題があるようです。

****仏領サイクロン被害 不法移民の多くが取り締まり恐れ 避難所利用せず****
サイクロンが直撃し、数百人以上が死亡した恐れのあるインド洋のフランス領・マヨットでは、不法滞在の住民の多くが取り締まりを恐れて避難所を利用しなかったとみられます。(中略)

フランスメディアによりますと、マヨットの住民約32万人のうち、約10万人が不法滞在者とされていて、不法滞在の住民の多くは自治体が設置した避難所を「不法移民の取り締まりのための罠」だと思って利用しなかったということです。【12月17日 ABEMA Times】
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2週間たった今も電気・水は復旧していない様子。

****近隣の島国コモロ、懸命の支援 サイクロン直撃の仏領マヨットに****
アフリカ東部のインド洋に浮かぶフランス海外県マヨットを強力なサイクロンが直撃してから28日で2週間となった。「水も電気もなく生きられるのか」。人的交流が深い近隣の島しょ国コモロではマヨットを気遣う声が絶えず、物資搬送などの支援活動に懸命となっている。

島民同士の結婚や移住に加え、コモロからマヨットへの不法移民は約10万人とも言われる。サイクロンではこれらの人々の仮設住居が大きな被害を受けた。

27日にコモロの首都モロニで取材に応じた会社経営シティ・シハビディンさん(58)は「困った時に助けるのは当然だ」と強調する。2022年の1人当たり国民総所得が1610ドル(約25万円)のコモロで募金に着手し、既に約6万4千ドルが集まったという。

マヨットに住む親族数十人も被災し、義兄のアブ・シハビさんは約10日間音信不通になった。「直撃前の電話で『たいしたことはない』と話したので必死に避難を促した」。シハビディンさんは「まだ支援が足りない。世界は惨状を知るべきだ」と語気を強めた。【12月28日 共同】
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【マクロン大統領 現地視察も仏本国の政治情勢は大嵐状態】
フランス本国は何をしているのか・・・マクロン大統領も急遽、現地を視察しています。

****仏大統領 サイクロン直撃のマヨット視察 支援急ぐ方針****
フランスのマクロン大統領は19日、サイクロンが直撃したアフリカ東部のインド洋にあるマヨットを訪問し、「犠牲者の人数は大きく増えるだろう」と述べ、被災者への支援と被害の全容の把握を急ぐ方針を強調しました。

フランスの海外県、マヨットでは今月14日サイクロンが直撃し、フランス政府はこれまでに少なくとも31人が死亡したとする一方、地元当局は被災した人の捜索が難航し、死者の数は数百人にのぼるおそれがあるとしています。

マクロン大統領は19日、マヨットを訪れ、多くの建物が倒壊した地域や、病院などを視察しました。

視察の途中では、住民とみられる男性が大統領に詰め寄り、水などが十分に手に入らないと支援の遅れに不満を訴える様子も見られました。

そして、マクロン大統領は記者団に対し、飲料水と食料を届けることが喫緊の課題だとしたうえで、「犠牲者の人数は大きく増えるだろう」と述べ、被災者への支援と、被害の全容の把握を急ぐ方針を強調しました。【12月20日 NHK】
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大統領が災害現地を視察・・・当然のような話ですが、フランスの政治状況を考えると、おそらくマクロン大統領としてはマヨットどころではない・・・といった心境だったのでは。

フランスでは何回か取り上げたように、先の総選挙で、急進左派を中核とする左派勢力、マクロン与党、ルペン氏率いる極右勢力の三すくみ状態。少数与党で組閣したものの、左派と極右がともに反対すれば簡単に政権が潰れる状況です。極右は「政権は我々の監視下にある」と豪語。

実際にバルニエ内閣は発足から2か月半で総辞職へ。

****フランス・バルニエ内閣は発足から2か月半で総辞職へ 議会で内閣不信任案が賛成多数で可決***
フランスの議会で内閣不信任案が賛成多数で可決されました。バルニエ内閣は発足からわずか2か月半で総辞職することになります。

4日、フランスの下院にあたる国民議会で内閣不信任案の採決が行われ、議席数で上回る野党の賛成多数で可決されました。

議会ではバルニエ首相が2日に来年度予算案について、少数与党では賛成を得られないとして、下院での投票を経ずに採択できる特例の手続きを強行していました。

フランス バルニエ首相
「今回の予算で、たとえお金がなくても、私は物事や話し合いを円滑に進めるためにお金を分配したかった。この不信任決議はすべてをより深刻で困難なものにするだろう」

今回の内閣不信任案は、これに反発した最大勢力の野党・左派連合が提出したもので、極右政党も同調しました。

極右政党「国民連合」 ルペン氏
「この予算は単にフランスを攻撃するだけでなく、年金生活者や病人、そして、ワーキングプアなど、弱い立場のフランス国民を人質にしています」

9月に発足したバルニエ内閣は、わずか2か月半で総辞職することになります。予算案も廃案になり、予算が成立するまでは今年度の予算が引き継がれる見通しです。

マクロン大統領は新しい首相を任命する必要がありますが、野党側が納得する人選ができるのか難しい状況です。【12月5日 TBS NEWS DIG】
***********************

予想された事態ではありますが、「発足から2か月半で総辞職」というのはマクロン大統領にとって厳しい現実です。

“フランスのマクロン大統領は13日、次期首相に中道政党「民主運動」のフランソワ・バイル元法相(73)を指名した。国民議会(下院)で4日、野党の賛成多数でバルニエ前内閣の不信任決議案が可決されるなど政局が混迷する中、極右、左派の両方と良好な関係を持つバイル氏が選出された。”【12月13日 毎日】

ただ、厳しい政治状況は変わっていません。“フランスでは憲法の規定で、解散総選挙から1年以内に議会を新たに解散することはできず、次回総選挙は最も早くて25年7月となる。”【同上】という制約の中で何とか凌ぐしかありません。

****仏新内閣発足、社会党系の元2首相起用 中道左派頼みに 政局不安続く 外相は留任****
フランス大統領府は23日、バイル首相が率いる新内閣の陣容を発表した。中道左派で社会党系の元首相2人が入閣した。バロ外相、ルコルニュ国防相は留任した。

バイル氏はマクロン大統領を支える中道与党の党首。今月13日、退任したバルニエ前首相の後継者に任命され、組閣までに10日を要した。

新内閣では、オランド前社会党政権のバルス元首相が海外領土相に就任。マクロン政権で今年1月まで首相を務めたボルヌ下院議員が国民教育相となった。

少数内閣による政権運営が続く中、バイル氏は2人の起用で中道左派に基盤を広げ、2025年予算案の可決を目指す構えとみられる。初入閣となるロンバール経済財務相も社会党に近く、政府の投資部門である預金供託公庫(CDC)のトップを務めてきた。

バイル氏は新内閣について「全国民と和解し、新たな信頼を得るための経験豊富な集団だ」とX(旧ツイッター)で発信した。

マクロン大統領の与党は下院議席の過半数を割っており、政局は不安が続く。バルニエ氏は保守系で今月5日、下院の不信任決議を受けて辞任。バイル氏は今年4人目の首相となった。【12月24日 産経】
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こうした本国政治が大嵐の渦中にある政治状況のでのマクロン大統領のマヨット現地視察・・・“マヨットどころではない・・・といった心境だったのでは”と推測した次第です。

マヨットの災害についいては、フランスも当面は人命第一で支援にあたるでしょうが、住民約32万人のうち、約10万人が不法滞在者とされているマヨットのその後は扱いは政治的には厄介でしょう。不法移民を結果的に支援しているということになれば、極右勢力や世論の反発も出るかも。
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モルドバ  大統領選挙は親欧米派現職勝利も、エネルギーのロシア依存で揺れる

2024-12-13 22:35:32 | 欧州情勢

(ロシアとの関係をめぐり路上で言い争う人々 モルドバ・オルヘイ【2023年6月15日 NHK】)

【大統領選挙決選投票 親欧米派現職勝利 ただ、物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も】
東欧の旧ソ連構成国でもある小国モルドバは「欧州最貧国」とも呼ばれる国家ですが、地政学的に見ると欧州・EUとロシアという大国の間で揺れ動き、どちらの勢力が勝るのかを示すバロメーターともなっています。

また、ウクライナやジョージアと同様に親露派勢力が実効支配する未承認国家を抱え、ロシアの介入を招きやすいという「危うさ」もあります。

そのモルドバで10月20日に大統領選挙、及び、「貴方は、モルドバ共和国のEU加盟を視野に入れた憲法改正を支持しますか?」というEU加盟の是非を問う国民投票が行われたこと。大統領選挙では現職親欧米路線サンドゥ大統領はトップには立ったものの過半数はえられず、決選投票へ。ロシア支持層が親ロシア候補で一本化すると決選投票は不透明に。更にロシアの選挙干渉も懸念される・・・といった結果になったこと。

“サンドゥ大統領は、EU加盟を阻止したいロシアが国民の1割以上に賄賂を贈り、買収を企てたと主張していて、警察当局もロシアからおよそ60億円が送金されたとしています。”【11月3日 日テレNEWS】
(事実かどうかは別にして、ロシアがその気になれば国民の1割以上に賄賂を贈れるあたりは、「小国」ならではのことです)

更にEU加盟の是非を問う住民投票では事前の加盟賛成圧勝予測にもかかわらず、結果は賛成50.38%で、薄氷での承認になったことなどは10月29日ブログ“モルドバ・ジョージア 欧米とロシアの間で揺れる両国の選挙 思った以上に根強い親ロシア的なもの”でも取り上げました。

その後の11月3日に行われた大統領選挙決選投票では、親欧米路線サンドゥ大統領が国外居住者の票を集める形で勝利しました。

****モルドバ大統領選、親欧米派の現職が当選確実 親露派候補を破る*****
東欧の旧ソ連構成国モルドバで3日、大統領選(任期4年)の決選投票が行われ、即日開票された。親欧米派の現職サンドゥ氏が親露派候補を破り、当選が確実な情勢となった。

10月にあった欧州連合(EU)加盟への賛否を問う国民投票に続いて親欧米路線が支持された形で、影響力を保ちたいロシアと現政権を支持する欧米の対立も激しくなると予想される。
 
中央選管によると、現地4日未明時点で開票率は98%以上で、サンドゥ氏は親露派政党の後押しを受けるストイアノグロ元検事総長に9ポイント以上の差を付けている。暫定投票率は約54%。サンドゥ氏はX(ツイッター)に「私たちは団結、民主主義、そして尊厳ある未来への決意の強さを共に示した」と投稿した。(中略)

2020年に発足したサンドゥ政権はロシアがウクライナに侵攻した直後の22年3月にEU加盟を申請。その後も親欧米路線を加速させていた。ストイアノグロ氏は、EUへの加盟自体は目指すものの、ロシアとの関係修復にも意欲を見せていた。

モルドバはウクライナとの国境沿いに親露派勢力が実効支配する未承認国家を抱える地政学上の要衝。ロシアが国民投票と大統領選に買収や偽情報の拡散で介入した疑いが持たれている一方で、欧米は経済支援を強化して対抗していた。

10月の投票について、サンドゥ氏はロシア側が人口の1割を超える30万人を買収しようとしたと非難していた。決選投票でも組織的な大規模動員などが疑われている。2期目に入ってもサンドゥ政権とロシアとの対立は先鋭化しそうだ。

これで親欧米派は国民投票と大統領選のいずれも制したことになるが、親欧米派の支持者が多い国外からの投票の貢献が大きかった。物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者もおり、来夏に予定される議会選挙で与党が過半数を維持できるかが次の焦点となる。【11月4日 毎日】
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“物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も”という事情に関しては以下のようにも

*****ロシアから離れたい?離れられない? なぜ揺れるモルドバ?****
(中略)
首都から北に40キロほど離れた町オルヘイ。
一部の市民がサンドゥ政権に対するデモに参加していたと聞いて、町を訪れ市民に話を聞いてみました。

「年金だけではやっていけない」、「EUとロシア、どちらと関係を深めるほうがいいかわからない」と話す高齢の女性たち。

以前ロシアの建設現場で働いていたという37歳の男性は「ロシアと一緒のほうがいい。昔はなんでもあった。物価も下がりはしなかったが、こんなに高くはならなかった。サンドゥ政権には期待しない」と不満を口にしていました。

取材をしていると、人々が突然、言い争いを始めました。
「資金面で支援をしてくれるのは誰だ?EU、ルーマニアだろう!ロシアが何をした?ガスの値段を高くしただけじゃないか!」
「面倒を見てくれたのはロシアでしょう!ルーマニアではない!」
「ロシアに面倒を見てもらうなんて、とんでもない!」

路上で言い争う人々ヨーロッパかロシアか。 市民の間で、意見が割れている実態を目の当たりにした瞬間でした。【2023年6月15日 NHK】
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【12月末でロシアのガス供給停止 表面化するエネルギーのロシア依存】
上記のような物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も多い実情から懸念されるのが、ガス供給をめぐる状況です。

ガスはこれまで、ロシア→ウクライナ→モルドバ→親ロシア未承認国家「沿ドニエストル共和国」という流れでしたが、ウクライナの戦争の影響でこの流れが停止する事態となっています。(ある意味では、これらの国々は互いに相争いながらも、経済関係では密接に繋がっているとも言えます。そこが「親ロシア派」が欧米で考える以上に根強い最大の理由でもあるでしょう」

*****モルドバが16日から60日間の非常事態宣言 ロシアのガス供給停止に備え****
モルドバ議会が16日から60日間の非常事態宣言を発令すると発表しました。今月末にロシア産ガスの供給が停止される懸念があり、迅速な対応ができるよう備えた形です。

モルドバ議会は13日、レチャン首相の要請を受けて、16日から60日間の非常事態宣言を発令することを決定しました。

ガスはウクライナ経由で供給されていますが、ウクライナは供給元のロシアの国営企業「ガスプロム」との12月末で終了する契約について延長しないと表明しています。

その場合、来年以降のエネルギー不足が懸念されるため、非常事態宣言は政府や議会などの迅速な対応を可能にすることを目的としているということです。

また、モルドバに供給されたロシア産ガスは親ロシア派の支配地域「沿ドニエストル共和国」にすべて供給される仕組みになっていて、契約の終了により「沿ドニエストル共和国」のガス不足も懸念されています。

地元メディアによりますと、レチャン首相は要請を前に「ロシアが沿ドニエストルの住民を人質にしていて、地域の不安定化を狙っている」とロシア側を批判しています。【12月13日 テレ朝news】
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“モルドバに供給されたロシア産ガスは親ロシア派の支配地域「沿ドニエストル共和国」にすべて供給される仕組み”という話なら、ガスに関してはモルドバは単なる通過国であり、ロシア産ガスが止まっても、モルドバ自身は困らないということにもなりますが、多分そういうことではなく、現実問題としてはモルドバ自身がロシア産ガスに頼ってもいる形になっているのでしょう。

更に、沿ドニエストルではロシア産のガスで発電を行い、モルドバは電力の大半(7~8割)をこの沿ドニエストルからの電力に依存しているという関係にもあります。沿ドニエストルへのガスが止まると、沿ドニエストルからモルドバへの電力も止まります

このあたりのエネルギーのロシア依存は以前から問題となっていた話であり、サンドゥ政権も脱却を目指してはいますが、未だ間に合っていないようです。

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サンドゥ政権はロシアによる政権転覆を警戒していることに加え、エネルギー面でのロシア依存からの脱却も課題となってきた。

天然ガスはロシアから供給されていたほか、国内の電力供給の7割を担う主力の発電所も沿ドニエストル共和国にある。このため米国の資金援助を受けながらガスの供給元の多様化や、隣国ルーマニアとの送電線整備を進めてきた。【5月30日 毎日】
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【兄弟国ルーマニアもロシアの選挙介入で揺れる】
これまでの引用記事の中にルーマニアの名前が出てきますが、モルドバとルーマニアは単に隣国というだけでなく、民族的にも同系統であり、互いに国家統合を目標としてきた関係にあります。

****ロシア帝国主義と大ルーマニア主義の角逐で生まれた小さな国****
さて、モルドバ共和国とは、どんな国だろうか? モルドバは、ウクライナとルーマニアに挟まれた内陸国である。かつて社会主義のソ連邦を形成した15共和国の一つが、1991年暮れのソ連崩壊に伴い、初めて独立国となった。
 
モルドバの所得水準は非常に低く、ウクライナと並んで、しばしば「欧州最貧国」と呼ばれる。農業・食品以外にはこれといった有力産業がないので、糧を得るために欧米やロシアなどに出稼ぎに出る市民が多い。最近では外国に定着するディアスポラが拡大し、モルドバ本国の人口が空洞化している。そして、実はこれが近年の選挙で死活的な要因に浮上している。
 
モルドバ人は民族・言語的にルーマニア人と同系統であり、スラブ人主体の東欧にあって「ラテンの孤島」となっている。言ってみれば、ルーマニアとモルドバは一種の「分断国家」である。

ただし、戦後に誕生した分断国家の多くは、東西ドイツ、南北朝鮮、南北ベトナム、台湾・中国など、資本主義VS共産主義の対立により成立した。

それに対し、ルーマニアとモルドバは、1980年代まではともに共産主義陣営で、1990年代以降はともに自由化したにもかかわらず、別々の国として存在してきた。
 
ずばり言えば、モルドバという存在は、歴史的にロシア帝国主義と大ルーマニア主義がこの地を巡ってせめぎ合ってきた結果として生まれ落ちたと言える。それが、今日ではプーチン・ロシアとEUによる影響圏の奪い合いに姿を変え、東欧の国際関係の火種となっているのだ。
 
なお、現時点でルーマニア側にもモルドバ側にも国家統一を求める意見はあるが、双方ともまだその機が熟しているとは言えない。

それでも、モルドバの場合には、単にEU加盟路線を採っているだけでなく、ルーマニアというEU加盟済みの長兄が存在している点が、ウクライナなどとは異なる要因である。【11月20日 服部倫卓氏 新潮社Foresight】
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ルーマニアとの国家統合の話は今回はパスします。“双方ともまだその機が熟しているとは言えない”と言うべきか、次第に熱が冷めていると言うべきか。関心の度合いは浮き沈みもあるようです。両国間で温度差もあります。

そのルーマニアも親欧米と親ロシアの間で揺さぶられています。

11月24日に行われた大統領選挙第1回投票では無名だった親ロシア派の極右泡沫候補がSNSを駆使した選挙戦略で一躍トップに躍り出たものの、ロシアの選挙介入疑惑があるとして憲法裁判所が選挙のやり直しを命じたことは12月8日ブログ“ルーマニア  大統領選挙 再投票へ  極右候補、違法なSNS利用 ロシア介入疑惑も 多くの者が彼に投票した事実も”でも取り上げました。
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ジョージア  政権のEU加盟交渉停止措置に対する抗議デモが続く 14日には大統領選挙で与党候補選出

2024-12-11 23:38:28 | 欧州情勢

(【12月4日 TOP WAR】 抗議デモ側が“花火”を撃ち込むといった記載をよく見ますが、通常の花火の他に上記のような手作り“バズーカ”花火もあるようです)


【親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束するなど、強硬姿勢を強める政権側】
旧ソ連構成国で、また、親ロシア勢力による未承認国家を抱えるジョージア(旧国名:グルジア)では、10月の議会選挙で勝利したと主張する政権与党「ジョージアの夢」が、11月28日にEUへの加盟交渉を4年間停止すると表明したことを受けて連日の抗議デモが行われています。抗議市民側は10月の選挙も不正があったとして認めていません。

政権与党「ジョージアの夢」はこれまではEU加盟を掲げてはいましたが、最近では「反スパイ法」とか「LGBT規制法」といったロシアに類似した法律を制定するなどロシアへの接近を強めています。

この政治混乱で、もし政権が崩壊するようなことになれば、かつてロシアを震撼させた民主化を求める市民による親ロシア政権が次々と崩壊した「カラー革命」、そしてウクライナ侵攻の背景ともなっている2014年にウクライナで起きた「マイダン革命」の再現とも。

12月14日は大統領選挙が予定されていますが、議員による間接選挙に変更されたため、与党側の候補の勝利が確実視されています。親欧米的な現在の大統領は10月の選挙に基づき発足した議会が非合法だと主張し、12月に大統領の任期が切れても職にとどまると宣言しています。

なお、ジョージアでは政治の主導権は大統領ではなく首相にあります。

このあたりの経緯・状況は12月1日ブログ“ジョージア EU加盟交渉を4年間停止決定で連日の抗議デモ 想起されるウクライナ「マイダン革命」”でもとりあげました。

その後の情勢ですが、シリアや韓国に関するニュースが溢れるなかで、ジョージア関連のニュースはほとんどみあたらず、どうなっているのかよくわかりません。

ひとつ動きが報じられているのは、政権側は親欧米派の野党指導者らを拘束するなど、露骨な力による対応を強めているようです

****「EU加盟」めぐり混乱続くジョージア 野党党首が殴られ意識失い拘束される****
EU=ヨーロッパ連合への加盟交渉をめぐりデモ隊と警察の衝突が続いているジョージアでは、野党の党首が警察に意識を失うまで殴られ、拘束される事態となりました。

ロシアの隣国ジョージアの最大野党「変革のための連合」の党首のニカ・グバラミア氏が3日、警察に拘束されたと報じられました。

野党系テレビ局が公開した動画には、意識を失ったグバラミア氏とみられる人物が数人の警察官によって車に引きずり込まれる様子が映っています。

ロシア寄りの立場を取る与党のコバヒゼ首相は、この件について「政府を打倒するためにデモでの暴力を煽った人物が対象」だと述べ、「弾圧というより予防措置だ」として警察の対応の正当性を主張しています。

首都トビリシでは、先月28日に首相が「EUへの加盟交渉を4年間停止する」と決定したことに対し、親EU派の市民が抗議デモを行い、警察との衝突が続いていました。

デモは6日間続いており、これまでに300人以上が拘束されたほか、けが人が100人以上出ているということです。【12月5日 TBS NEWS DIG】
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****東欧ジョージア、親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束 抗議行動続く****
東欧のジョージアでは、欧州連合(EU)加盟交渉を停止する政府決定に抗議する親欧米派の野党指導者らが警察によって相次いで身柄を拘束された。地元メディアが内務省の発表として伝えたところによると、「暴動を組織し、扇動した」として7人が逮捕された。抗議行動は4日で7日目を迎えた。 

最大野党「変化のための連合」は、指導者の1人であるニカ・グバラミア氏(48)が首都トビリシで警察によって暴行を受け、意識不明のまま手足をつかまれて拘束されたとして、その際の映像を「X」に投稿した。

ロイターはグバラミア氏が暴行を受けたかどうか独自に検証できなかった。ただ、同党が投稿した映像では、グバラミア氏は拘束された際に体を動かす様子が見られなかった。

警察は他の野党指導者も拘束しており、これまでに拘束された指導者は少なくとも6人に上っている。当局は指導者らの自宅を家宅捜索し、エアライフルや火器などを押収した。

政府がEU加盟交渉を突如打ち切ったことに対する抗議行動は数千人規模となっており、警察が放水銃や催涙ガスでデモ隊を排除している。

コバヒゼ首相は記者会見で、野党勢力に対する弾圧だとの声が上がっていることについて「弾圧ではなく阻止だ」と主張した。【12月5日 ロイター】
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【今も続く抗議行動 14日の大統領選挙を控え「今後何日かが正念場」】
上記は12月4頃の状況ですが、その後、政権側の力の行使が強まる中で抗議デモはどうなったのか? 続いているのか? あるいは政権によって鎮圧されたのか・・・・報道は多くはありませんが、その後もデモは続いているようです。

****ジョージア争乱、与党支持者がデモ隊を暴行か、警察の取り締まり激化***
◎デモ隊は与党「ジョージアの夢」がEU加盟交渉の中断を決めたことに憤慨し、国会周辺で抗議デモを続けている。

2024年12月8日/ジョージア、首都トビリシ、政府与党に抗議する人々(AP通信)ジョージアの首都トビリシで8日、政府与党に抗議するデモが行われ、数万人が参加した。トビリシでのデモはこれで11日連続となった。

警察は国会議事堂周辺にバリケードを設置し、デモを抑制するため、武力行使を強めている。
機動隊は連日、放水砲や催涙ガスを使用してデモ隊を解散させている。

AP通信によると、中央大通りにバリケードを設置した市民と機動隊が衝突し、数十人が逮捕されたという。

7日夜のデモでは地元テレビ局のレポーターと同僚が覆面をした集団に殴られた。その様子を記録した映像はSNSで拡散した。警察はコメントを出していない。

殴られたレポーターはAPの取材に対し、「与党の支持者とみられる覆面をした男たちがデモ参加者に暴力を振るうところを撮影した際、押し倒され、地面に叩きつけられた」と語った。

レポーターの同僚は頭を負傷。カメラを奪われたという。
このテレビ局は与党「ジョージアの夢」が機動隊と支持者による暴力を容認していると非難したが、政府はこの主張を否定した。

デモ隊はジョージアの夢がEU加盟交渉の中断を決めたことに憤慨し、国会周辺で抗議デモを続けている。
ジョージアの夢は10月26日の議会選(一院制、定数150)で過半数を獲得。野党とズラビシュヴィリ大統領は政府がロシアの協力を得て票を操作したと主張し、議会をボイコットした。

与党がEU加盟交渉の中断を決めて以来、抗議デモは激しさを増し、一部の暴徒と機動隊が衝突する事態となっている。

8日のデモ行進でも警察に向かって花火を撃ちこんだ男性が機動隊に殴られ、連行された。
APによると、少なくとも10人以上のカメラマンや記者が暴動に巻き込まれ、そのうち何人かは意識不明の状態で入院しているという。

7日夜にはジョージアの夢の事務所に入ろうとしたデモ参加者2人が正体不明の覆面をした男たちに殴られ、軽傷を負った。【12月9日2 KWP News】
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****グルジアの抗議行動は13日目の夜に入り、EUは「措置」を脅かす****
トビリシ (AFP) – 欧州連合(EU)がデモ参加者に対する当局を罰する可能性があると警告した後、火曜日、何千人もの親ヨーロッパ派の抗議者がグルジア政府に対して13日連続で反発した。

EUとグルジアの国旗を振り、大声でクラクションや笛を吹き鳴らしながら、デモ隊は議会の外に集まり、選挙が争われた後、EU加盟の推進を棚上げするという政府の決定に対する怒りを声に出した。(後略)【12月10日 FRANCE24からの自動翻訳】
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自動翻訳ですのでよくわからない点はありますが、少なくとも抗議行動が続いているようです。
14日は大統領選挙で、おそらく与党候補が間接選挙で選ばれると思われますので、混乱が拡大することも想定されます。

下記は11日掲載の記事で「今後何日かが正念場だ」とありますが、何日の状況をもとにしたものかは定かではありません。

****親ロシア与党vs親EUの市民...ジョージアはロシアの「衛星国」になるのか? 「西側の決断」が鍵を握る****
<不正が疑われる議会選挙後に、与党がEU離れを鮮明にして市民の怒りが爆発>
ジョージアは今、岐路に立たされている。不正選挙の疑いが指摘されている10月の議会選で勝利した与党「ジョージアの夢」がEU加盟交渉を中断すると発表。多くの市民がこれに反発し、大規模な抗議デモが全土に広がっている。

この状況は2014年にウクライナで起きた「マイダン革命」を想起させる。ウクライナでも当時のビクトル・ヤヌコビッチ大統領がEUに背を向け、ロシアに擦り寄ったことで市民の怒りが爆発した。

治安当局は治安部隊を投入し、放水砲や催涙ガスを使用。ジャーナリストや活動家を逮捕するなど強権的な手法でデモを抑え込もうとしている。

親ロシアの「ジョージアの夢」は、選挙戦中にはEU加盟を推進すると約束していた。前党首で首相のイラクリ・コバヒゼはなぜ突然、22年に始まったEU加盟交渉を28年末まで凍結する方針を打ち出したのか。

理由は不明だが、旧ソ連崩壊時の混乱に乗じて蓄財した資産家で、与党の創設者でもあるビジナ・イワニシビリの意向が働いているのは確かだろう。

交渉中断を発表した11月28日の声明で、コバヒゼは自国を脅迫したとしてEUを非難した。同日、欧州議会は10月に行われたジョージアの議会選の投票プロセスは「自由でも公正でもなかった」と結論付け、選挙結果を無効とする決議を採択した。

それにより12月にはEU側からジョージアとの加盟交渉が打ち切られる見通しとなり、コバヒゼは相手が言い出す前に「交渉お断り」を宣言したのかもしれない。

西側の決断が鍵を握る
あるいは意図的に市民を挑発し、デモの鎮圧を口実に反政府派を一掃しようとした可能性もある。だとすれば、その読みは甘かったようだ。抗議デモはジョージア史上最大規模の広がりを見せている。

市民は自主的にデモに参加。中心となる指導者や政党は不在だが、デモの波は首都トビリシだけでなく、他都市や村々にまで広がっている。草の根レベルの運動がここまで広がったことが、EU加盟を望むジョージアの人々の揺るぎない決意を物語る。

政府機関の内部にもデモを支持する動きがある。国防省、外務省、司法省などの官僚が相次いでEU加盟交渉の中断に抗議する書簡に署名。ジョージアの国連大使も辞任した。

ジョージアの国家元首であるサロメ・ズラビシビリ大統領はEU加盟を推進する立場で、市民のデモを支持。公正な選挙を実施して有権者の意思を反映した新政権を発足させようと国民統一評議会を立ち上げた。

だが大統領の権限は限定的で、この試みを成功させるにはEUと米政府が強力かつ迅速に後押しする必要がある。

今後何日かが正念場だ。コバヒゼ政権が力ずくでデモを抑え込めば、EU加盟の望みが断たれるばかりか、この国の民主主義が崩壊しかねない。

ロシアはルーマニア、ブルガリアに次いでジョージアと、近隣諸国に次々に自国寄りの政権を打ち立てようとしている。西側がこれを阻止するには、独自の戦略が必要だ。

目下のターゲットはジョージア。ここ数日の西側の決断次第で、ジョージアの民主主義が強化され、親EU色が一層強まるか、権威主義に急傾斜し、ロシアの「衛星国」となるかが決まる。【12月11日 Newsweek】
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前述のように上記記事が何日の状況をもとに「今後何日かが正念場だ」と言っているのかはわかりません。

ただ、繰り返しになりますが14日に大統領選挙が行われ、政治の主導権を持つ首相、その首相を支える議会に加えて大統領も与党側がおさえるという事態になれば、政権側の抗議活動に対する攻勢も強化され、政権の体制も堅固なものになると思われますので、今日11日においても「今後何日かが正念場だ」と言っていいと思われます。

なお、ロシアは常々、中東欧諸国の「民主化」は欧米の介入によるものだと主張していますが、“この試みを成功させるにはEUと米政府が強力かつ迅速に後押しする必要がある”とあるように、そうした欧米の介入は事実でしょう。

ただ、欧米の介入はあくまでも市民の自主的な動きを補助するもので、欧米が作り出したものではないでしょう・・・どうかな?

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