孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス海外県マヨットのサイクロン被害を大きくした不法移民問題 仏本国の政治情勢も大嵐状態

2024-12-28 23:46:22 | 欧州情勢

(【12月17日 ウェザーニュース】)

【フランス海外県マヨット サイクロンで甚大な被害】
かつて大英帝国に対抗する海外植民地を有したフランスは、現在でも様々な理由・事情でフランスに残存することを選択した海外県・海外領土を持っています・

****フランスの海外県・海外領土****
かつてのフランス植民地帝国時代に形成されたこれらの領土はアメリカ州、オセアニア、インド洋、太平洋、南極大陸にある。

脱植民地化後もさまざまな形でフランスの一部として残ることを選んだ地域である。これらの領土は、文化的、政治的にさまざまな現実があり、まったく異なる行政・法制度が適用されている。

総合計面積は120,369km2(フランスが領有権を主張する南極大陸のテール・アデリーを含めると552,528km2)、2019年の人口は220万人を超え、海外県・海外領土はフランスの国土面積の17.9%、人口の4%を占める。

フランス共和国憲法によれば、フランスの法律は国内全土に於いて施行される事となっているが、海外県・海外領土では国防・国際関係・貿易・貨幣・法廷・統治等の特殊な分野を除き、この原則に反して独自の法律を制定する事が許可され、実際に施行されている。

フランスの海外県・海外領土は、その地域が有する議会とフランス共和国会(国民議会・元老院)との二重統治体制である。 また、居住地域では共和国会に対する代表者を選出する事となっており、また実際に有しているため、欧州議会に対する投票権を有している。
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今年5月には「天国に一番近い島」ニューカレドニアで、現地に長期滞在するフランス人に地方参政権を与える憲法改革に対して独立派が強く反発し、暴動に発展しました。

また、10月3日ブログ“フランス  海外県マヨットで不法移民の強制送還 問題の本質は欧州・米の移民問題に共通”では不法移民問題を取り上げました。

移民に対し厳しい対応を求める極右・国民連合へのバルニエ内閣(当時)の配慮に加え、移民強硬派のルタイヨー内相自身の姿勢もあって、フランスは移民問題で強硬姿勢に舵を切っており、不法移民を大量に抱えるマヨットからの不法移民強制送還が命じられました。

インド洋のマヨット島はアフリカ東部モザンビークとマダガスカルの中間にあって、コモロ連合の島々に近接します。人口は約35万人。(マヨットにしても、コモロにしても馴染みがない地域なので、10月3日ブログでは「コモロ」のことを間違って「ロコモ」と連発していました。失礼しました。)

そのフランス海外県マヨットは12月14日、過去90年余りで最強クラスとされるサイクロンの襲撃を受け、大きな被害を出しています。

****90年ぶり大嵐、インド洋マヨット島10万人と連絡つかず****
前週末にアフリカ南部に近いインド洋島しょ部などを襲ったサイクロン「チド」の被害で、フランス当局は被害が最も深刻な海外県マヨットで死者数が数百か数千に上る可能性があると明らかにした。大統領府はマクロン大統領が19日に現地入りすると発表した。

マヨットはモザンビークの沖合に浮かぶ島。風速200キロの強風が吹き荒れた。今回ほどの大嵐は過去90年以上なかった。モザンビーク当局は17日、少なくとも34人が死亡したと発表した。マラウイでも7人が死亡した。

マヨット島は依然多くの地域に立ち入ることができない。レユニオン島から空輸で生活必需品が届けられ、医療関係者や技術者、警察官も空から現地入りした。チド犠牲者の一部は死亡を公的に記録する前に埋葬されており、被害の全容判明までには数日かかる可能性がある。

内務省によると、これまでにマヨット島で22人の死亡と1373人の負傷が確認された。現在病気の発生の報告はないという。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の広報担当ノラ・ピーター氏は「マヨット島は人口30万人の小さな島だが、サイクロンにより電気やインターネット、電話回線が途絶えており、依然として約10万人と連絡がつかない」と話し、犠牲者が急増しかねないとの見方を示した。

同島の正確な人口は分かっておらず、事態は一段と厳しさを増している。過去10年間に10万人が増加したと推定されているが、主に不法移民のためだ。【12月18日 ロイター】
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時速200キロ・・・日本で馴染みの秒速で言えば56m

マヨットの人口約32万人の半数近くを移民が占めていると推定されるような地域ですから、電気やインターネット、電話回線が途絶えて“10万人と連絡つかず”とは言っても、それがそのまま犠牲者・・・という訳でもありません。

ただ、死者数が数百か数千に上る可能性があるとなると、人口32万人の島にとっては未曽有の大災害には間違いないでしょう。

【被害を大きくした不法移民問題】
被害を大きくした要因に、サイクロンの規模だけでなく、不法移民問題があるようです。

****仏領サイクロン被害 不法移民の多くが取り締まり恐れ 避難所利用せず****
サイクロンが直撃し、数百人以上が死亡した恐れのあるインド洋のフランス領・マヨットでは、不法滞在の住民の多くが取り締まりを恐れて避難所を利用しなかったとみられます。(中略)

フランスメディアによりますと、マヨットの住民約32万人のうち、約10万人が不法滞在者とされていて、不法滞在の住民の多くは自治体が設置した避難所を「不法移民の取り締まりのための罠」だと思って利用しなかったということです。【12月17日 ABEMA Times】
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2週間たった今も電気・水は復旧していない様子。

****近隣の島国コモロ、懸命の支援 サイクロン直撃の仏領マヨットに****
アフリカ東部のインド洋に浮かぶフランス海外県マヨットを強力なサイクロンが直撃してから28日で2週間となった。「水も電気もなく生きられるのか」。人的交流が深い近隣の島しょ国コモロではマヨットを気遣う声が絶えず、物資搬送などの支援活動に懸命となっている。

島民同士の結婚や移住に加え、コモロからマヨットへの不法移民は約10万人とも言われる。サイクロンではこれらの人々の仮設住居が大きな被害を受けた。

27日にコモロの首都モロニで取材に応じた会社経営シティ・シハビディンさん(58)は「困った時に助けるのは当然だ」と強調する。2022年の1人当たり国民総所得が1610ドル(約25万円)のコモロで募金に着手し、既に約6万4千ドルが集まったという。

マヨットに住む親族数十人も被災し、義兄のアブ・シハビさんは約10日間音信不通になった。「直撃前の電話で『たいしたことはない』と話したので必死に避難を促した」。シハビディンさんは「まだ支援が足りない。世界は惨状を知るべきだ」と語気を強めた。【12月28日 共同】
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【マクロン大統領 現地視察も仏本国の政治情勢は大嵐状態】
フランス本国は何をしているのか・・・マクロン大統領も急遽、現地を視察しています。

****仏大統領 サイクロン直撃のマヨット視察 支援急ぐ方針****
フランスのマクロン大統領は19日、サイクロンが直撃したアフリカ東部のインド洋にあるマヨットを訪問し、「犠牲者の人数は大きく増えるだろう」と述べ、被災者への支援と被害の全容の把握を急ぐ方針を強調しました。

フランスの海外県、マヨットでは今月14日サイクロンが直撃し、フランス政府はこれまでに少なくとも31人が死亡したとする一方、地元当局は被災した人の捜索が難航し、死者の数は数百人にのぼるおそれがあるとしています。

マクロン大統領は19日、マヨットを訪れ、多くの建物が倒壊した地域や、病院などを視察しました。

視察の途中では、住民とみられる男性が大統領に詰め寄り、水などが十分に手に入らないと支援の遅れに不満を訴える様子も見られました。

そして、マクロン大統領は記者団に対し、飲料水と食料を届けることが喫緊の課題だとしたうえで、「犠牲者の人数は大きく増えるだろう」と述べ、被災者への支援と、被害の全容の把握を急ぐ方針を強調しました。【12月20日 NHK】
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大統領が災害現地を視察・・・当然のような話ですが、フランスの政治状況を考えると、おそらくマクロン大統領としてはマヨットどころではない・・・といった心境だったのでは。

フランスでは何回か取り上げたように、先の総選挙で、急進左派を中核とする左派勢力、マクロン与党、ルペン氏率いる極右勢力の三すくみ状態。少数与党で組閣したものの、左派と極右がともに反対すれば簡単に政権が潰れる状況です。極右は「政権は我々の監視下にある」と豪語。

実際にバルニエ内閣は発足から2か月半で総辞職へ。

****フランス・バルニエ内閣は発足から2か月半で総辞職へ 議会で内閣不信任案が賛成多数で可決***
フランスの議会で内閣不信任案が賛成多数で可決されました。バルニエ内閣は発足からわずか2か月半で総辞職することになります。

4日、フランスの下院にあたる国民議会で内閣不信任案の採決が行われ、議席数で上回る野党の賛成多数で可決されました。

議会ではバルニエ首相が2日に来年度予算案について、少数与党では賛成を得られないとして、下院での投票を経ずに採択できる特例の手続きを強行していました。

フランス バルニエ首相
「今回の予算で、たとえお金がなくても、私は物事や話し合いを円滑に進めるためにお金を分配したかった。この不信任決議はすべてをより深刻で困難なものにするだろう」

今回の内閣不信任案は、これに反発した最大勢力の野党・左派連合が提出したもので、極右政党も同調しました。

極右政党「国民連合」 ルペン氏
「この予算は単にフランスを攻撃するだけでなく、年金生活者や病人、そして、ワーキングプアなど、弱い立場のフランス国民を人質にしています」

9月に発足したバルニエ内閣は、わずか2か月半で総辞職することになります。予算案も廃案になり、予算が成立するまでは今年度の予算が引き継がれる見通しです。

マクロン大統領は新しい首相を任命する必要がありますが、野党側が納得する人選ができるのか難しい状況です。【12月5日 TBS NEWS DIG】
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予想された事態ではありますが、「発足から2か月半で総辞職」というのはマクロン大統領にとって厳しい現実です。

“フランスのマクロン大統領は13日、次期首相に中道政党「民主運動」のフランソワ・バイル元法相(73)を指名した。国民議会(下院)で4日、野党の賛成多数でバルニエ前内閣の不信任決議案が可決されるなど政局が混迷する中、極右、左派の両方と良好な関係を持つバイル氏が選出された。”【12月13日 毎日】

ただ、厳しい政治状況は変わっていません。“フランスでは憲法の規定で、解散総選挙から1年以内に議会を新たに解散することはできず、次回総選挙は最も早くて25年7月となる。”【同上】という制約の中で何とか凌ぐしかありません。

****仏新内閣発足、社会党系の元2首相起用 中道左派頼みに 政局不安続く 外相は留任****
フランス大統領府は23日、バイル首相が率いる新内閣の陣容を発表した。中道左派で社会党系の元首相2人が入閣した。バロ外相、ルコルニュ国防相は留任した。

バイル氏はマクロン大統領を支える中道与党の党首。今月13日、退任したバルニエ前首相の後継者に任命され、組閣までに10日を要した。

新内閣では、オランド前社会党政権のバルス元首相が海外領土相に就任。マクロン政権で今年1月まで首相を務めたボルヌ下院議員が国民教育相となった。

少数内閣による政権運営が続く中、バイル氏は2人の起用で中道左派に基盤を広げ、2025年予算案の可決を目指す構えとみられる。初入閣となるロンバール経済財務相も社会党に近く、政府の投資部門である預金供託公庫(CDC)のトップを務めてきた。

バイル氏は新内閣について「全国民と和解し、新たな信頼を得るための経験豊富な集団だ」とX(旧ツイッター)で発信した。

マクロン大統領の与党は下院議席の過半数を割っており、政局は不安が続く。バルニエ氏は保守系で今月5日、下院の不信任決議を受けて辞任。バイル氏は今年4人目の首相となった。【12月24日 産経】
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こうした本国政治が大嵐の渦中にある政治状況のでのマクロン大統領のマヨット現地視察・・・“マヨットどころではない・・・といった心境だったのでは”と推測した次第です。

マヨットの災害についいては、フランスも当面は人命第一で支援にあたるでしょうが、住民約32万人のうち、約10万人が不法滞在者とされているマヨットのその後は扱いは政治的には厄介でしょう。不法移民を結果的に支援しているということになれば、極右勢力や世論の反発も出るかも。
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モルドバ  大統領選挙は親欧米派現職勝利も、エネルギーのロシア依存で揺れる

2024-12-13 22:35:32 | 欧州情勢

(ロシアとの関係をめぐり路上で言い争う人々 モルドバ・オルヘイ【2023年6月15日 NHK】)

【大統領選挙決選投票 親欧米派現職勝利 ただ、物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も】
東欧の旧ソ連構成国でもある小国モルドバは「欧州最貧国」とも呼ばれる国家ですが、地政学的に見ると欧州・EUとロシアという大国の間で揺れ動き、どちらの勢力が勝るのかを示すバロメーターともなっています。

また、ウクライナやジョージアと同様に親露派勢力が実効支配する未承認国家を抱え、ロシアの介入を招きやすいという「危うさ」もあります。

そのモルドバで10月20日に大統領選挙、及び、「貴方は、モルドバ共和国のEU加盟を視野に入れた憲法改正を支持しますか?」というEU加盟の是非を問う国民投票が行われたこと。大統領選挙では現職親欧米路線サンドゥ大統領はトップには立ったものの過半数はえられず、決選投票へ。ロシア支持層が親ロシア候補で一本化すると決選投票は不透明に。更にロシアの選挙干渉も懸念される・・・といった結果になったこと。

“サンドゥ大統領は、EU加盟を阻止したいロシアが国民の1割以上に賄賂を贈り、買収を企てたと主張していて、警察当局もロシアからおよそ60億円が送金されたとしています。”【11月3日 日テレNEWS】
(事実かどうかは別にして、ロシアがその気になれば国民の1割以上に賄賂を贈れるあたりは、「小国」ならではのことです)

更にEU加盟の是非を問う住民投票では事前の加盟賛成圧勝予測にもかかわらず、結果は賛成50.38%で、薄氷での承認になったことなどは10月29日ブログ“モルドバ・ジョージア 欧米とロシアの間で揺れる両国の選挙 思った以上に根強い親ロシア的なもの”でも取り上げました。

その後の11月3日に行われた大統領選挙決選投票では、親欧米路線サンドゥ大統領が国外居住者の票を集める形で勝利しました。

****モルドバ大統領選、親欧米派の現職が当選確実 親露派候補を破る*****
東欧の旧ソ連構成国モルドバで3日、大統領選(任期4年)の決選投票が行われ、即日開票された。親欧米派の現職サンドゥ氏が親露派候補を破り、当選が確実な情勢となった。

10月にあった欧州連合(EU)加盟への賛否を問う国民投票に続いて親欧米路線が支持された形で、影響力を保ちたいロシアと現政権を支持する欧米の対立も激しくなると予想される。
 
中央選管によると、現地4日未明時点で開票率は98%以上で、サンドゥ氏は親露派政党の後押しを受けるストイアノグロ元検事総長に9ポイント以上の差を付けている。暫定投票率は約54%。サンドゥ氏はX(ツイッター)に「私たちは団結、民主主義、そして尊厳ある未来への決意の強さを共に示した」と投稿した。(中略)

2020年に発足したサンドゥ政権はロシアがウクライナに侵攻した直後の22年3月にEU加盟を申請。その後も親欧米路線を加速させていた。ストイアノグロ氏は、EUへの加盟自体は目指すものの、ロシアとの関係修復にも意欲を見せていた。

モルドバはウクライナとの国境沿いに親露派勢力が実効支配する未承認国家を抱える地政学上の要衝。ロシアが国民投票と大統領選に買収や偽情報の拡散で介入した疑いが持たれている一方で、欧米は経済支援を強化して対抗していた。

10月の投票について、サンドゥ氏はロシア側が人口の1割を超える30万人を買収しようとしたと非難していた。決選投票でも組織的な大規模動員などが疑われている。2期目に入ってもサンドゥ政権とロシアとの対立は先鋭化しそうだ。

これで親欧米派は国民投票と大統領選のいずれも制したことになるが、親欧米派の支持者が多い国外からの投票の貢献が大きかった。物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者もおり、来夏に予定される議会選挙で与党が過半数を維持できるかが次の焦点となる。【11月4日 毎日】
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“物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も”という事情に関しては以下のようにも

*****ロシアから離れたい?離れられない? なぜ揺れるモルドバ?****
(中略)
首都から北に40キロほど離れた町オルヘイ。
一部の市民がサンドゥ政権に対するデモに参加していたと聞いて、町を訪れ市民に話を聞いてみました。

「年金だけではやっていけない」、「EUとロシア、どちらと関係を深めるほうがいいかわからない」と話す高齢の女性たち。

以前ロシアの建設現場で働いていたという37歳の男性は「ロシアと一緒のほうがいい。昔はなんでもあった。物価も下がりはしなかったが、こんなに高くはならなかった。サンドゥ政権には期待しない」と不満を口にしていました。

取材をしていると、人々が突然、言い争いを始めました。
「資金面で支援をしてくれるのは誰だ?EU、ルーマニアだろう!ロシアが何をした?ガスの値段を高くしただけじゃないか!」
「面倒を見てくれたのはロシアでしょう!ルーマニアではない!」
「ロシアに面倒を見てもらうなんて、とんでもない!」

路上で言い争う人々ヨーロッパかロシアか。 市民の間で、意見が割れている実態を目の当たりにした瞬間でした。【2023年6月15日 NHK】
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【12月末でロシアのガス供給停止 表面化するエネルギーのロシア依存】
上記のような物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も多い実情から懸念されるのが、ガス供給をめぐる状況です。

ガスはこれまで、ロシア→ウクライナ→モルドバ→親ロシア未承認国家「沿ドニエストル共和国」という流れでしたが、ウクライナの戦争の影響でこの流れが停止する事態となっています。(ある意味では、これらの国々は互いに相争いながらも、経済関係では密接に繋がっているとも言えます。そこが「親ロシア派」が欧米で考える以上に根強い最大の理由でもあるでしょう」

*****モルドバが16日から60日間の非常事態宣言 ロシアのガス供給停止に備え****
モルドバ議会が16日から60日間の非常事態宣言を発令すると発表しました。今月末にロシア産ガスの供給が停止される懸念があり、迅速な対応ができるよう備えた形です。

モルドバ議会は13日、レチャン首相の要請を受けて、16日から60日間の非常事態宣言を発令することを決定しました。

ガスはウクライナ経由で供給されていますが、ウクライナは供給元のロシアの国営企業「ガスプロム」との12月末で終了する契約について延長しないと表明しています。

その場合、来年以降のエネルギー不足が懸念されるため、非常事態宣言は政府や議会などの迅速な対応を可能にすることを目的としているということです。

また、モルドバに供給されたロシア産ガスは親ロシア派の支配地域「沿ドニエストル共和国」にすべて供給される仕組みになっていて、契約の終了により「沿ドニエストル共和国」のガス不足も懸念されています。

地元メディアによりますと、レチャン首相は要請を前に「ロシアが沿ドニエストルの住民を人質にしていて、地域の不安定化を狙っている」とロシア側を批判しています。【12月13日 テレ朝news】
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“モルドバに供給されたロシア産ガスは親ロシア派の支配地域「沿ドニエストル共和国」にすべて供給される仕組み”という話なら、ガスに関してはモルドバは単なる通過国であり、ロシア産ガスが止まっても、モルドバ自身は困らないということにもなりますが、多分そういうことではなく、現実問題としてはモルドバ自身がロシア産ガスに頼ってもいる形になっているのでしょう。

更に、沿ドニエストルではロシア産のガスで発電を行い、モルドバは電力の大半(7~8割)をこの沿ドニエストルからの電力に依存しているという関係にもあります。沿ドニエストルへのガスが止まると、沿ドニエストルからモルドバへの電力も止まります

このあたりのエネルギーのロシア依存は以前から問題となっていた話であり、サンドゥ政権も脱却を目指してはいますが、未だ間に合っていないようです。

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サンドゥ政権はロシアによる政権転覆を警戒していることに加え、エネルギー面でのロシア依存からの脱却も課題となってきた。

天然ガスはロシアから供給されていたほか、国内の電力供給の7割を担う主力の発電所も沿ドニエストル共和国にある。このため米国の資金援助を受けながらガスの供給元の多様化や、隣国ルーマニアとの送電線整備を進めてきた。【5月30日 毎日】
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【兄弟国ルーマニアもロシアの選挙介入で揺れる】
これまでの引用記事の中にルーマニアの名前が出てきますが、モルドバとルーマニアは単に隣国というだけでなく、民族的にも同系統であり、互いに国家統合を目標としてきた関係にあります。

****ロシア帝国主義と大ルーマニア主義の角逐で生まれた小さな国****
さて、モルドバ共和国とは、どんな国だろうか? モルドバは、ウクライナとルーマニアに挟まれた内陸国である。かつて社会主義のソ連邦を形成した15共和国の一つが、1991年暮れのソ連崩壊に伴い、初めて独立国となった。
 
モルドバの所得水準は非常に低く、ウクライナと並んで、しばしば「欧州最貧国」と呼ばれる。農業・食品以外にはこれといった有力産業がないので、糧を得るために欧米やロシアなどに出稼ぎに出る市民が多い。最近では外国に定着するディアスポラが拡大し、モルドバ本国の人口が空洞化している。そして、実はこれが近年の選挙で死活的な要因に浮上している。
 
モルドバ人は民族・言語的にルーマニア人と同系統であり、スラブ人主体の東欧にあって「ラテンの孤島」となっている。言ってみれば、ルーマニアとモルドバは一種の「分断国家」である。

ただし、戦後に誕生した分断国家の多くは、東西ドイツ、南北朝鮮、南北ベトナム、台湾・中国など、資本主義VS共産主義の対立により成立した。

それに対し、ルーマニアとモルドバは、1980年代まではともに共産主義陣営で、1990年代以降はともに自由化したにもかかわらず、別々の国として存在してきた。
 
ずばり言えば、モルドバという存在は、歴史的にロシア帝国主義と大ルーマニア主義がこの地を巡ってせめぎ合ってきた結果として生まれ落ちたと言える。それが、今日ではプーチン・ロシアとEUによる影響圏の奪い合いに姿を変え、東欧の国際関係の火種となっているのだ。
 
なお、現時点でルーマニア側にもモルドバ側にも国家統一を求める意見はあるが、双方ともまだその機が熟しているとは言えない。

それでも、モルドバの場合には、単にEU加盟路線を採っているだけでなく、ルーマニアというEU加盟済みの長兄が存在している点が、ウクライナなどとは異なる要因である。【11月20日 服部倫卓氏 新潮社Foresight】
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ルーマニアとの国家統合の話は今回はパスします。“双方ともまだその機が熟しているとは言えない”と言うべきか、次第に熱が冷めていると言うべきか。関心の度合いは浮き沈みもあるようです。両国間で温度差もあります。

そのルーマニアも親欧米と親ロシアの間で揺さぶられています。

11月24日に行われた大統領選挙第1回投票では無名だった親ロシア派の極右泡沫候補がSNSを駆使した選挙戦略で一躍トップに躍り出たものの、ロシアの選挙介入疑惑があるとして憲法裁判所が選挙のやり直しを命じたことは12月8日ブログ“ルーマニア  大統領選挙 再投票へ  極右候補、違法なSNS利用 ロシア介入疑惑も 多くの者が彼に投票した事実も”でも取り上げました。
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ジョージア  政権のEU加盟交渉停止措置に対する抗議デモが続く 14日には大統領選挙で与党候補選出

2024-12-11 23:38:28 | 欧州情勢

(【12月4日 TOP WAR】 抗議デモ側が“花火”を撃ち込むといった記載をよく見ますが、通常の花火の他に上記のような手作り“バズーカ”花火もあるようです)


【親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束するなど、強硬姿勢を強める政権側】
旧ソ連構成国で、また、親ロシア勢力による未承認国家を抱えるジョージア(旧国名:グルジア)では、10月の議会選挙で勝利したと主張する政権与党「ジョージアの夢」が、11月28日にEUへの加盟交渉を4年間停止すると表明したことを受けて連日の抗議デモが行われています。抗議市民側は10月の選挙も不正があったとして認めていません。

政権与党「ジョージアの夢」はこれまではEU加盟を掲げてはいましたが、最近では「反スパイ法」とか「LGBT規制法」といったロシアに類似した法律を制定するなどロシアへの接近を強めています。

この政治混乱で、もし政権が崩壊するようなことになれば、かつてロシアを震撼させた民主化を求める市民による親ロシア政権が次々と崩壊した「カラー革命」、そしてウクライナ侵攻の背景ともなっている2014年にウクライナで起きた「マイダン革命」の再現とも。

12月14日は大統領選挙が予定されていますが、議員による間接選挙に変更されたため、与党側の候補の勝利が確実視されています。親欧米的な現在の大統領は10月の選挙に基づき発足した議会が非合法だと主張し、12月に大統領の任期が切れても職にとどまると宣言しています。

なお、ジョージアでは政治の主導権は大統領ではなく首相にあります。

このあたりの経緯・状況は12月1日ブログ“ジョージア EU加盟交渉を4年間停止決定で連日の抗議デモ 想起されるウクライナ「マイダン革命」”でもとりあげました。

その後の情勢ですが、シリアや韓国に関するニュースが溢れるなかで、ジョージア関連のニュースはほとんどみあたらず、どうなっているのかよくわかりません。

ひとつ動きが報じられているのは、政権側は親欧米派の野党指導者らを拘束するなど、露骨な力による対応を強めているようです

****「EU加盟」めぐり混乱続くジョージア 野党党首が殴られ意識失い拘束される****
EU=ヨーロッパ連合への加盟交渉をめぐりデモ隊と警察の衝突が続いているジョージアでは、野党の党首が警察に意識を失うまで殴られ、拘束される事態となりました。

ロシアの隣国ジョージアの最大野党「変革のための連合」の党首のニカ・グバラミア氏が3日、警察に拘束されたと報じられました。

野党系テレビ局が公開した動画には、意識を失ったグバラミア氏とみられる人物が数人の警察官によって車に引きずり込まれる様子が映っています。

ロシア寄りの立場を取る与党のコバヒゼ首相は、この件について「政府を打倒するためにデモでの暴力を煽った人物が対象」だと述べ、「弾圧というより予防措置だ」として警察の対応の正当性を主張しています。

首都トビリシでは、先月28日に首相が「EUへの加盟交渉を4年間停止する」と決定したことに対し、親EU派の市民が抗議デモを行い、警察との衝突が続いていました。

デモは6日間続いており、これまでに300人以上が拘束されたほか、けが人が100人以上出ているということです。【12月5日 TBS NEWS DIG】
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****東欧ジョージア、親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束 抗議行動続く****
東欧のジョージアでは、欧州連合(EU)加盟交渉を停止する政府決定に抗議する親欧米派の野党指導者らが警察によって相次いで身柄を拘束された。地元メディアが内務省の発表として伝えたところによると、「暴動を組織し、扇動した」として7人が逮捕された。抗議行動は4日で7日目を迎えた。 

最大野党「変化のための連合」は、指導者の1人であるニカ・グバラミア氏(48)が首都トビリシで警察によって暴行を受け、意識不明のまま手足をつかまれて拘束されたとして、その際の映像を「X」に投稿した。

ロイターはグバラミア氏が暴行を受けたかどうか独自に検証できなかった。ただ、同党が投稿した映像では、グバラミア氏は拘束された際に体を動かす様子が見られなかった。

警察は他の野党指導者も拘束しており、これまでに拘束された指導者は少なくとも6人に上っている。当局は指導者らの自宅を家宅捜索し、エアライフルや火器などを押収した。

政府がEU加盟交渉を突如打ち切ったことに対する抗議行動は数千人規模となっており、警察が放水銃や催涙ガスでデモ隊を排除している。

コバヒゼ首相は記者会見で、野党勢力に対する弾圧だとの声が上がっていることについて「弾圧ではなく阻止だ」と主張した。【12月5日 ロイター】
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【今も続く抗議行動 14日の大統領選挙を控え「今後何日かが正念場」】
上記は12月4頃の状況ですが、その後、政権側の力の行使が強まる中で抗議デモはどうなったのか? 続いているのか? あるいは政権によって鎮圧されたのか・・・・報道は多くはありませんが、その後もデモは続いているようです。

****ジョージア争乱、与党支持者がデモ隊を暴行か、警察の取り締まり激化***
◎デモ隊は与党「ジョージアの夢」がEU加盟交渉の中断を決めたことに憤慨し、国会周辺で抗議デモを続けている。

2024年12月8日/ジョージア、首都トビリシ、政府与党に抗議する人々(AP通信)ジョージアの首都トビリシで8日、政府与党に抗議するデモが行われ、数万人が参加した。トビリシでのデモはこれで11日連続となった。

警察は国会議事堂周辺にバリケードを設置し、デモを抑制するため、武力行使を強めている。
機動隊は連日、放水砲や催涙ガスを使用してデモ隊を解散させている。

AP通信によると、中央大通りにバリケードを設置した市民と機動隊が衝突し、数十人が逮捕されたという。

7日夜のデモでは地元テレビ局のレポーターと同僚が覆面をした集団に殴られた。その様子を記録した映像はSNSで拡散した。警察はコメントを出していない。

殴られたレポーターはAPの取材に対し、「与党の支持者とみられる覆面をした男たちがデモ参加者に暴力を振るうところを撮影した際、押し倒され、地面に叩きつけられた」と語った。

レポーターの同僚は頭を負傷。カメラを奪われたという。
このテレビ局は与党「ジョージアの夢」が機動隊と支持者による暴力を容認していると非難したが、政府はこの主張を否定した。

デモ隊はジョージアの夢がEU加盟交渉の中断を決めたことに憤慨し、国会周辺で抗議デモを続けている。
ジョージアの夢は10月26日の議会選(一院制、定数150)で過半数を獲得。野党とズラビシュヴィリ大統領は政府がロシアの協力を得て票を操作したと主張し、議会をボイコットした。

与党がEU加盟交渉の中断を決めて以来、抗議デモは激しさを増し、一部の暴徒と機動隊が衝突する事態となっている。

8日のデモ行進でも警察に向かって花火を撃ちこんだ男性が機動隊に殴られ、連行された。
APによると、少なくとも10人以上のカメラマンや記者が暴動に巻き込まれ、そのうち何人かは意識不明の状態で入院しているという。

7日夜にはジョージアの夢の事務所に入ろうとしたデモ参加者2人が正体不明の覆面をした男たちに殴られ、軽傷を負った。【12月9日2 KWP News】
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****グルジアの抗議行動は13日目の夜に入り、EUは「措置」を脅かす****
トビリシ (AFP) – 欧州連合(EU)がデモ参加者に対する当局を罰する可能性があると警告した後、火曜日、何千人もの親ヨーロッパ派の抗議者がグルジア政府に対して13日連続で反発した。

EUとグルジアの国旗を振り、大声でクラクションや笛を吹き鳴らしながら、デモ隊は議会の外に集まり、選挙が争われた後、EU加盟の推進を棚上げするという政府の決定に対する怒りを声に出した。(後略)【12月10日 FRANCE24からの自動翻訳】
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自動翻訳ですのでよくわからない点はありますが、少なくとも抗議行動が続いているようです。
14日は大統領選挙で、おそらく与党候補が間接選挙で選ばれると思われますので、混乱が拡大することも想定されます。

下記は11日掲載の記事で「今後何日かが正念場だ」とありますが、何日の状況をもとにしたものかは定かではありません。

****親ロシア与党vs親EUの市民...ジョージアはロシアの「衛星国」になるのか? 「西側の決断」が鍵を握る****
<不正が疑われる議会選挙後に、与党がEU離れを鮮明にして市民の怒りが爆発>
ジョージアは今、岐路に立たされている。不正選挙の疑いが指摘されている10月の議会選で勝利した与党「ジョージアの夢」がEU加盟交渉を中断すると発表。多くの市民がこれに反発し、大規模な抗議デモが全土に広がっている。

この状況は2014年にウクライナで起きた「マイダン革命」を想起させる。ウクライナでも当時のビクトル・ヤヌコビッチ大統領がEUに背を向け、ロシアに擦り寄ったことで市民の怒りが爆発した。

治安当局は治安部隊を投入し、放水砲や催涙ガスを使用。ジャーナリストや活動家を逮捕するなど強権的な手法でデモを抑え込もうとしている。

親ロシアの「ジョージアの夢」は、選挙戦中にはEU加盟を推進すると約束していた。前党首で首相のイラクリ・コバヒゼはなぜ突然、22年に始まったEU加盟交渉を28年末まで凍結する方針を打ち出したのか。

理由は不明だが、旧ソ連崩壊時の混乱に乗じて蓄財した資産家で、与党の創設者でもあるビジナ・イワニシビリの意向が働いているのは確かだろう。

交渉中断を発表した11月28日の声明で、コバヒゼは自国を脅迫したとしてEUを非難した。同日、欧州議会は10月に行われたジョージアの議会選の投票プロセスは「自由でも公正でもなかった」と結論付け、選挙結果を無効とする決議を採択した。

それにより12月にはEU側からジョージアとの加盟交渉が打ち切られる見通しとなり、コバヒゼは相手が言い出す前に「交渉お断り」を宣言したのかもしれない。

西側の決断が鍵を握る
あるいは意図的に市民を挑発し、デモの鎮圧を口実に反政府派を一掃しようとした可能性もある。だとすれば、その読みは甘かったようだ。抗議デモはジョージア史上最大規模の広がりを見せている。

市民は自主的にデモに参加。中心となる指導者や政党は不在だが、デモの波は首都トビリシだけでなく、他都市や村々にまで広がっている。草の根レベルの運動がここまで広がったことが、EU加盟を望むジョージアの人々の揺るぎない決意を物語る。

政府機関の内部にもデモを支持する動きがある。国防省、外務省、司法省などの官僚が相次いでEU加盟交渉の中断に抗議する書簡に署名。ジョージアの国連大使も辞任した。

ジョージアの国家元首であるサロメ・ズラビシビリ大統領はEU加盟を推進する立場で、市民のデモを支持。公正な選挙を実施して有権者の意思を反映した新政権を発足させようと国民統一評議会を立ち上げた。

だが大統領の権限は限定的で、この試みを成功させるにはEUと米政府が強力かつ迅速に後押しする必要がある。

今後何日かが正念場だ。コバヒゼ政権が力ずくでデモを抑え込めば、EU加盟の望みが断たれるばかりか、この国の民主主義が崩壊しかねない。

ロシアはルーマニア、ブルガリアに次いでジョージアと、近隣諸国に次々に自国寄りの政権を打ち立てようとしている。西側がこれを阻止するには、独自の戦略が必要だ。

目下のターゲットはジョージア。ここ数日の西側の決断次第で、ジョージアの民主主義が強化され、親EU色が一層強まるか、権威主義に急傾斜し、ロシアの「衛星国」となるかが決まる。【12月11日 Newsweek】
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前述のように上記記事が何日の状況をもとに「今後何日かが正念場だ」と言っているのかはわかりません。

ただ、繰り返しになりますが14日に大統領選挙が行われ、政治の主導権を持つ首相、その首相を支える議会に加えて大統領も与党側がおさえるという事態になれば、政権側の抗議活動に対する攻勢も強化され、政権の体制も堅固なものになると思われますので、今日11日においても「今後何日かが正念場だ」と言っていいと思われます。

なお、ロシアは常々、中東欧諸国の「民主化」は欧米の介入によるものだと主張していますが、“この試みを成功させるにはEUと米政府が強力かつ迅速に後押しする必要がある”とあるように、そうした欧米の介入は事実でしょう。

ただ、欧米の介入はあくまでも市民の自主的な動きを補助するもので、欧米が作り出したものではないでしょう・・・どうかな?

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ルーマニア  大統領選挙 再投票へ  極右候補、違法なSNS利用 ロシア介入疑惑も 多くの者が彼に投票した事実も

2024-12-08 23:50:30 | 欧州情勢
 
(ルーマニア大統領選の第1回投票で首位となったカリン・ジョルジェスク氏【11月29日 BBC】)

【SNS選挙で無名候補が一躍首位に】
ルーマニアでは11月24日に行われた大統領選挙で、それまで無名の泡沫候補だった親ロシア・極右候補者がSNSを駆使する選挙戦略で一躍第1回投票の首位に躍り出て、決選投票に進むという事態になりました。

****ルーマニア大統領選、「SNS戦略」成功でプーチン賛美の「極右」が予想外の首位...若年層の不満を代弁****
<ルーマニア大統領選第1回投票で、「ウクライナ戦争の背後で『帝国主義』軍産複合体が暗躍」と訴えるジョルジェスク候補が首位に>

ルーマニア大統領選の第1回投票が11月24日行われ、親露派で反北大西洋条約機構(NATO)の極右ナショナリスト候補カリン・ジョルジェスク氏が212万票(得票率22.9%)を超える予想外の大躍進を見せ、首位で12月8日の決選投票にコマを進めた。

ジョルジェスク氏はウラジーミル・プーチン露大統領を称え、ウクライナ戦争の背後で「帝国主義」軍産複合体が暗躍していると唱える。事前の世論調査では社会民主党(PSD)代表のマルチェル・チョラク首相が圧倒的にリードしており、ジョルジェスク氏は完全なダークホースだった。(中略)

ジョルジェスク氏は1962年ブカレスト生まれ。ブカレスト農業科学獣医学大学で博士号を取り、国連やローマクラブ欧州支援センター会長など持続可能な開発に関する役職を歴任。大統領選には無所属で立ち、農家支援、エネルギー・食料の自給志向、輸入依存からの脱却を唱えた

ホロコーストに加担した第二次大戦指導者を称賛
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に加担して銃殺刑になったルーマニアの第二次大戦指導者イオン・アントネスクや、欧州で最も暴力的な極右の反ユダヤ主義民族運動「鉄衛団」の創設者コルネリウ・コドレアヌを国民的英雄と呼ぶ極右ナショナリストだ。

政治スタンスは親露。ルーマニアのNATO加盟に反対する。NATOが加盟国を守る能力に懐疑的な一方、ルーマニアは外交的・戦略的判断を下す準備ができておらず 「ロシアの知恵」に従うべきだと主張する。しかし実際にロシアを支持するかどうかについては名言を避けている。

「私は不当な扱いを受けた人々のために投票した
ルーマニアはフランス率いるNATO多国籍戦闘部隊と米軍のミサイル防衛施設を受け入れており、ジョルジェスク氏は「外交の恥」と批判。ジョルジェスク氏の躍進は主流政党に対する広範な不満を反映しており、自らを社会や経済から取り残された人々の代弁者と位置づける。

投票後、フェイスブックに「私は不当な扱いを受けた人々、屈辱を受けた人々、この世で自分は重要でないと感じている人々のために投票した! 投票は国家への祈りだ」と投稿した。より多くの有権者にリーチするため動画共有サイトTikTokなどSNSを効果的に活用した。

新聞・テレビを上回るSNSや動画サイトの破壊力
幅広い視聴者、特に若い有権者の共感を呼ぶ短くて魅力的な動画を共有することで、ジョルジェスク氏は反体制的で民族主義的なメッセージを効果的に広めた。伝統的なメディアを回避し、主要政党を見放した有権者と直接つながり、知名度と支持を大幅に高めることに成功した。

NHKによると、日本でも自身のパワハラ疑惑などを巡る出直し兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事のユーチューブ公式チャンネルの総再生回数は約119万回。街頭演説を短くまとめた動画は少なくとも計2000万回再生された。SNSや動画サイトの破壊力は新聞・テレビを上回る。

米大統領選で返り咲いたドナルド・トランプ次期大統領を例に挙げるまでもなく、SNSや動画サイトの活用はポピュリスト政治家の常套手段。ジョルジェスク氏は若者に人気のTikTokで25万人のフォロワーを持ち、投稿したクリップのいくつかは300万回以上再生された。

ロシアの干渉を示す証拠は見つかっていない。ジョルジェスク氏が決選投票でも勝利すれば首相指名権、連立協議権、外交・安全保障政策に関する最終決定権を持つ役職に就くことになる。極右の暗雲がさらに広がり、NATOや欧州連合(EU)の結束が大きな音を立ててきしみ始めた。【11月26日 木村正人氏 Newsweek】
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【憲法裁判所 再集計を命じる】
驚愕とロシア介入への疑念が広がる中で、11月28日、ルーマニア憲法裁判所は中央選挙管理委員会に対し、大統領選の第1回投票結果の再集計を要求しました。

****ルーマニア大統領選、憲法裁が再集計命じる ロシア介入疑惑も****
ルーマニアの憲法裁判所は28日、大統領選挙の第1回投票の結果について再集計を命じた。

24日行われた大統領選挙は、事前の世論調査で支持率が1桁台だった北大西洋条約機構(NATO)懐疑派の極右カリン・ジョルジェスク氏が予想外に健闘し、選挙の公平性に疑問が生じている。

憲法裁判所は声明で「11月24日の大統領選挙の投票用紙の再検証と再集計を全会一致で命じた」と明らかにした。

一方、国内の最高安全保障機関である最高防衛会議は、選挙プロセスに影響を及ぼすことを目的としたサイバー攻撃の証拠があると発表した。

「大統領候補は、政治候補者としてラベル付けされず、選挙コンテンツにラベル付けするよう求められないというTikTok(ティックトック)のプラットフォームを通じて大規模な露出の恩恵を受けた」と説明。ルーマニアは「国家および非国家主体、特にロシア連邦による敵対行為」の主要標的となっていると指摘した。

ジョルジェスク氏は動画共有アプリのTikTokを中心に選挙戦を展開していた。【11月29日 ロイター】
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単に、想定外の躍進というだけでは再集計の理由になりませんが、ルーマニア憲法裁判所が具体的に何を懸念して再集計を求めたのかはよくわかりませんが、“落選した候補が選挙無効を訴え、憲法裁は28日、選管に再集計を命じた”【11月29日 共同】とのこと。

【議会選挙でも複数の極右政党で得票の3分の1を占める】
憲法裁判所が再集計結果について判断する前に議会選挙が12月1日に行われ、極右勢力がどの程度の議席を獲得するか注目されていました。結果は、連立与党の左派政党が第1党になるものの、複数の極右政党で得票の3分の1を占めることになり躍進しました。

****ルーマニア議会選 与党左派が第1党も極右が3分の1を得票 連立構図は不透明****
東ヨーロッパのルーマニアで議会選挙が実施されました。連立与党の左派政党が第1党になる見通しですが、複数の極右政党で得票の3分の1を占めるなど今後の連立の構図は不透明になりました。

ルーマニアの国営通信によりますと、1日に上下両院の議会選が実施され、開票率99%の時点で連立政権を率いる左派政党、社会民主党(PSD)が得票率約22%で第1党になる見通しですが、前回の2020年の選挙に比べて約7ポイント減っています。 社会民主党と連立を組む国民自由党も10ポイント程度減らし、約14%でした。

2位に付けたのはEU(ヨーロッパ連合)に懐疑的な姿勢を示す極右政党「ルーマニア人統一同盟」(AUR)で、約18%を獲得し、前回の選挙から約10ポイント増やしました。

現在の連立与党だけでは半数に届かず、また連立与党に批判的な極右系の政党などが両院で3分の1を獲得したと報じられていて、今後の連立の構図は不透明です。(後略)【12月2日 テレ朝news】
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“バベシュ・ボヨイ大学のセルジウ・ミシュコイウ教授(政治学)は、PSDが連立協議で中心的役割を果たす可能性が高いと指摘。一方で今回の結果は「1990年以降で政治的スペクトラムが最も分断されている」ことを示しており、欧州連合(EU)で最も貧しい地域のいくつかを抱えるルーマニアで社会的分裂が深まっていると分析した。”【12月2日 ロイター】とも。

ただ、極右政治家ジョルジェスク氏が大統領になった場合、極右勢力から首相を選ぶ可能性もあります。

大統領選挙第1回投票について再集計を命じていた憲法裁判所は12月2日、“大統領選第1回投票について結果は有効だと認め、今月8日に決選投票を行う日程を確定させた”との報道がありました。

****ルーマニア大統領選、8日決選投票へ 第1回投票は有効と憲法裁*****
ルーマニア憲法裁判所は2日、不正やロシアによる介入などの疑惑が浮上した11月24日の大統領選第1回投票について結果は有効だと認め、今月8日に決選投票を行う日程を確定させた。

第1回投票では、ほぼ無名だった親ロシア派の極右政治家ジョルジェスク氏の得票率が首位となった後、憲法裁判所が票の数え直しを要求。大統領選の行方に不透明感が漂っていた。

決選投票はジョルジェスク氏と、第1回で2位だった野党の中道右派「ルーマニア救国同盟」のラスコニ党首が争うことになる。

1日に公表された世論調査によると、ジョルジェスク氏に投票すると答えた人の割合が57.8%と、ラスコニ氏の42.2%を上回っている。

大統領選の結果次第で、親欧州連合(EU)でウクライナ支援を続けてきたルーマニアの外交方針が大きく転換する恐れがある。

1日に行われたルーマニア上下両院選挙では、チョクラ首相が属する中道左派「社会民主党」が第1党の地位を確保したものの、極右の「ルーマニア人統一同盟」が第2党に躍進。首相指名権は大統領にあるため、現時点では誰が首相になるかは読めない。

ある専門家は「極右政治家が大統領になれば、議会で親欧州派が連携して抵抗するのは非常に難しくなる」と指摘した。【12月3日 ロイター】
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【憲法裁判所 第1回投票の無効判断 やり直し選挙に】
EUの欧州委員会は“SNSを駆使した情報操作が行われた疑いがあるとして、TikTok(ティックトック)に関連データの保全命令を出したと発表した”【下記読売】と、懸念を深めています。

****SNSで情報操作行われた疑い」ルーマニア大統領選めぐり欧州委が調査、TikTokにデータ保全命令****
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は5日、11月下旬のルーマニア大統領選の1回目投票を巡り、SNSを駆使した情報操作が行われた疑いがあるとして、TikTok(ティックトック)に関連データの保全命令を出したと発表した。EUは本格的にSNS上の不正行為に対する調査に乗り出す。

11月24日の1回目投票では、親露派で急進的な右派勢力のカリン・ジョルジェスク氏が首位となった。SNSを駆使した選挙戦で、劣勢だった情勢をひっくり返した。

欧州委は「(右派を勝利させたい)ロシアの干渉があったとの情報もある」と指摘している。得票は過半数に届かず、12月8日に上位2人による決選投票が行われる。(後略)【12月6日 読売】
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しかし、上記【ロイター】報道が誤報だったのか、憲法裁判所が考えを変えたのは知りませんが、一転、憲法裁判所は6日、大統領選の第1回投票の結果を無効と決定しました。これにより選挙はやり直しとなります。

****ルーマニア大統領選挙で憲法審が投票結果無効の決定…SNSによる情報操作やロシアの介入指摘で****
ルーマニアの憲法裁判所は6日、11月24日に行われた大統領選の1回目投票の結果を無効にするとの決定を下した。今月8日の決選投票は中止となり、選挙の全過程がやり直しとなる。

1回目投票で首位だった極右のカリン・ジョルジェスク氏に有利となるSNSの情報操作などがあり、選挙の公平性が損なわれたと判断した。

憲法裁は6日、落選した候補の無効申し立てを受け、審議した。ルーマニア情報当局などは4日、ジョルジェスク氏のTikTok(ティックトック)に関する不正やロシアの介入を指摘する機密文書を公開しており、憲法裁は文書に基づき決定した。

ジョルジェスク氏のSNSがアルゴリズム(計算方法)の悪用によって他候補より積極的に宣伝されたり、選挙運動資金をゼロと申告しながら実際には多額の資金が費やされたりしていたという。

ジョルジェスク氏は声明で、無効の決定は「クーデターだ」と反発した。

クラウス・ヨハニス大統領は声明を発表し、憲法の規定に基づき21日の任期満了後も次期大統領の就任まで職務を続ける意向を示した。再選挙の日程は、1日の議会選挙を受けて発足する新内閣の下で決める。

ルーマニア検察当局も6日、大統領選でのコンピューター関連の犯罪捜査を始めたと発表した。【12月6日 読売】
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【SNS使用における違法性、あるいはロシアの介入という問題にとどまらず、多くの有権者が無名だった極右候補ジョルジェスク氏に一票を投じたという事実も】
このルーマニア大統領選挙の問題は、二つの視点を提起しています。
ひとつは、選挙運動におけるSNSの使われかた、及び、その影響力の大きさです。
もうひとつは、SNS使用の適正性に問題があるにしても、多くの有権者が無名だった極右候補ジョルジェスク氏に一票を投じたことは事実だという点です。

****「泡沫」急浮上、TikTok不正か ロシアの影、政治不信鮮明 ルーマニア大統領選****
東欧ルーマニアで、8日に決選投票を控えていた大統領選挙が、憲法裁判所の判断で急きょ中止され、候補者の届け出からやり直す異例の事態となっている。  

中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が不正利用されたもようで、先月行われた第1回投票では泡沫(ほうまつ)扱いされていた無所属候補が首位に立った。有権者に広がる深刻な政治不信も鮮明になり、混乱が続いている。  

渦中の候補はカリン・ジョルジェスク氏(62)。国連機関や環境省でキャリアを積んだ学識者とされ、選挙戦では伝統重視や「ルーマニア第一」を掲げた。新型コロナウイルスの存在を否定し、人類による月面着陸を「でっち上げ」と主張したこともある。  

10月までは多くの世論調査でジョルジェスク氏の支持率は1%に満たなかった。しかし、11月24日の第1回投票で、有力候補とされていたチョラク首相らを抑え、約23%の得票率でトップに躍り出た。

現地メディアも「ジョルジェスク氏とは誰か」と報じるサプライズだった。  

実態を調査したルーマニア当局は、ジョルジェスク氏の情報をTikTokで拡散したインフルエンサーらに計38万1000ドル(約5700万円)が支払われていたことを把握。約2万5000のTikTokアカウントを利用した大規模な選挙運動が展開されたと報告した。  

資金源を調べたところ、暗号資産事業を手掛ける男が容疑者として浮上。検察は今月7日、選挙違反やマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いで、男の関係先を家宅捜索した。男はジョルジェスク氏と面識はなく、理念に共感したと主張している。  

ジョルジェスク氏はロシアのプーチン大統領を「愛国者」と呼び、ロシアの侵攻を受けるウクライナ支援の停止を訴えていた。こうした経緯から「ロシアの関与」(チョラク氏)を疑う見方もある。  

一方、投票データが改ざんされた形跡はなく、多くの有権者がジョルジェスク氏に一票を投じたことは事実だ。今回の事態は政治への潜在的な不満が表れたともいえる。

ジョルジェスク氏は選挙のやり直しについて、民主主義を攻撃する「クーデター」だと訴え、支持者に当初の予定通り投票所に足を運ぶよう呼び掛けた。【12月8日 時事】
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****ルーマニアの憲法裁判所、大統領選第1回投票を無効と判断 勝利候補への影響工作が明るみに****
(中略)

「外国国家」作成のTikTokアカウントが活性化
(中略)
無所属の急進派であるジョルジェスク氏は、主にTikTokで選挙活動を行っていた。TikTokはこの疑惑を断固として否定していた。

こうしたなか、ヨハニス大統領は4日、国家防衛最高評議会の情報文書を機密解除した。
この文書は、2016年に「外国国家」によって作成された約800件のTikTokアカウントが先月、突然フル稼働し、ジョルジェスク氏を支持していたことを示唆した。

さらに、第1回投票の2週間前には、別の2万5000件のTikTokアカウントが活発化していたという。
ルーマニアの対外情報機関は、数万件のサイバー攻撃やその他の妨害行為を含むハイブリッド攻撃を行っていた「敵対国家」はロシアだと指摘した。

国内情報機関は、ジョルジェスク氏の突然の人気急上昇について、同一のメッセージやインフルエンサーを含む「高度に組織化された」ゲリラ的なSNSキャンペーンに起因するとした。

ジョルジェスク氏を宣伝するTikTok動画には選挙コンテンツとしての表示がなく、ルーマニアの法律に違反していたとされる。

アカウントの中には、ジョルジェスク氏のために1カ月で38万1000ドル(約570万円)をユーザーに支払っていたが、ジョルジェスク氏は自身の選挙活動に一切の支出をしていないと主張するものもあった。

ジョルジェスク氏は今週、BBCの取材の中で、自分はロシア政府の手先などではないと主張。ルーマニアの政治体制が自分の成功に対応できず、妨害しようとしていると主張していた。【12月7日BBC】
*******************

選挙運動におけるSNSの影響は大きな注意を払うべき問題ですし、ましてやロシアから資金が・・・となれば、明らかな選挙介入です。

ただ、それだけで終わる話ではなく、多くの有権者が無名だった極右候補ジョルジェスク氏に一票を投じたことは事実だという点を無視することはできません。

冒頭の【Newsweek】にあるように、“ジョルジェスク氏の躍進は主流政党に対する広範な不満を反映しており、自らを社会や経済から取り残された人々の代弁者と位置づける。

投票後、フェイスブックに「私は不当な扱いを受けた人々、屈辱を受けた人々、この世で自分は重要でないと感じている人々のために投票した! 投票は国家への祈りだ」と投稿した。”とも。

上記主張は、アメリカでトランプ氏が訴え、躍進した背景と重なります。ここに対応しない限り、“ジョルジェスク氏の躍進”を止めることはできません。

これまで世界の政治は、基本的には西欧的リベラリズムが牽引してきましたが、いま、ジョルジェスク氏と同様の訴えが各地で提起されています。

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ウクライナ  厳しい現状のゼレンスキー大統領、領土回復よりNATO加盟を優先させる方針に

2024-12-03 23:47:53 | 欧州情勢

(11月27日時点でのウクライナの戦況【12月2日 NHK】)

【多大な戦死者、脱走兵の増加など苦しい状況のウクライナ】
ウクライナへの欧米の支援は続いています。
“米、ウクライナに7.25億ドルの追加軍事支援 地雷も供与へ”【12月3日 ロイター】
“独首相がウクライナ訪問 防空システムなど約1000億円の追加軍事支援【12月3日 ABEMA Times】

ただ、交渉による戦争終結の可能性への言及も出てきています。
“英首相、交渉によるウクライナ戦争終結の可能性認める【12月3日 ロイター】

軍事的にウクライナがロシアの攻勢に苦戦していることはこれまでも何度か取り上げています。東部戦線ではロシア軍が占領地を拡大し、ウクライナがロシアに侵攻した地域もロシア軍の反撃で多くが奪還されています。

“23年に465平方キロのウクライナ領しか制圧できなかった露軍が今年は2700平方キロを制圧した”(英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)【12月3日 産経】

ウクライナ軍の戦死者も8万人を超えているとも報じられています。

****侵攻開始以降、100万人が死傷 ロシアとウクライナ****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は17日、2年半にわたるロシアのウクライナ侵攻による死傷者が推定で100万人を超えたと報じた。ロシアとウクライナは軍の損耗状況を公表しておらず、正確な死傷者数の把握は困難だ。

WSJが関係筋の話として伝えたところによると、ウクライナ側が今年行った極秘調査では、同国軍の累計の死者は8万人、負傷者は40万人。

ウクライナ側情報なので、戦死傷者数は実際より少なく計上されている可能性がある。一方、西側の一部情報機関は、ロシア側の死者数を20万人近く、負傷者を40万人前後と見積もっている。【9月18日 時事】
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ゼレンスキー大統領はこれを否定しています。

****戦死「8万人より大幅に少ない」 ウクライナ大統領、米報道を否定****
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日の共同通信との単独会見で、侵攻開始後のウクライナ側戦死者数について「8万人死亡との米国の報道があるが、実際は大幅に少ない」と主張した。詳細は公表しなかった。(後略)【12月2日 時事】
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開戦当時はロシア側の脱走兵が話題にもなりましたが、戦闘が長引けばウクライナ軍側も疲弊して戦意が低下してきます。

脱走兵の増加は、ただでさえ兵員が不足しているウクライナ軍にとっては大きな打撃になります。ゼレンスキー堕哀悼量は、脱走兵が軍に復帰すれば刑事責任を免除するとの対応も明らかにしています。

****ウクライナ軍、脱走兵が深刻化 数万〜20万人試算も 戦局悪化など要因、苦戦を加速****
ロシアによるウクライナ侵略で、欧米メディアが最近、ウクライナ軍で兵士の脱走問題が深刻化し、戦局の悪化を加速させていると相次いで報じた。

ウクライナ軍では30万〜35万人が戦闘任務に就いていると推計されてきたが、少なくとも数万人規模の脱走が起きているという。同国のゼレンスキー大統領は11月末、脱走兵の帰還を促す法律に署名したが、効果がどの程度出るかは不透明だ。

脱走者急増で戦況悪化
AP通信は11月29日、露軍との火力差や戦勝への希望の薄れ、部隊交代が行われないことによる疲弊や士気の低下などを背景に、ウクライナ軍内で前線の持ち場を離れたり、治療休暇の取得後に部隊に戻らなかったりする脱走兵が少なくとも数万人に上っていると報じた。軍の内情を知るウクライナ最高会議(議会)議員が「脱走兵は20万人に達する可能性がある」と明かしたとも伝えた。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)も12月1日、ウクライナ検察当局が今年1〜10月に脱走罪で兵士を訴追した件数が6万件に上り、露軍との戦闘が始まった2022年と23年を合わせた件数の約2倍に達していると報道。

23年に465平方キロのウクライナ領しか制圧できなかった露軍が今年は2700平方キロを制圧したとし、「脱走者の急増はウクライナにとって厳しい戦況をさらに悪化させている」と指摘した。

初回のみ軍復帰で刑事責任免除の法律も
ウクライナは4月以降、軍への動員に関する一連の法改正を実施。動員可能年齢を27歳から25歳に引き下げるなどし、兵力増強を進めようとした。

だが、APは「政府や軍の高官は(制度改正が)ほとんど失敗していると認めている」と指摘。FTも、ウクライナは今後3カ月で16万人を動員する計画だとしつつ、予定通り達成されることに懐疑的な見方を示した。

こうした中、ゼレンスキー氏は11月28日、初めての脱走者に限り、軍に復帰すれば刑事責任を免除し、各種の社会保障なども再開する法律に署名した。ただ、この法律でどこまで脱走者が帰還するかは不透明だ。

バイデン米政権は現在、ウクライナに動員年齢を18歳まで引き下げ、人員不足を補うよう働きかけているとされる。しかし、ウクライナは「足りないのは兵士ではなく兵器と弾薬だ」とし、動員年齢のさらなる引き下げには否定的だ。

国連によると、ウクライナの人口はロシアの侵略後、国外避難や戦闘での犠牲などにより侵略前の4300万人から800万人減少した。ウクライナが動員年齢の引き下げに否定的な背景には、多くの若者が戦死すれば将来的な国家運営が困難になることや、国民の強い反発を招くことへの危惧もあるとみられる。【12月3日 産経】
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“国外避難や戦闘での犠牲などにより侵略前の4300万人から800万人減少”・・・深刻という以上の状況です。

当然に経済的には多大な影響が想像されますが、不思議に最近のGDPはプラス成長が続いています。開戦時の2022年にマイナス28.8%と大きく落ち込んだので、そこからやや回復する状態にあるようです。

****第2四半期GDP、前年同期比3.7%でプラス成長続く****
ウクライナ国家統計局の発表(9月25日)によると、2024年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は前年同期比3.7%だった。

5期連続のプラス成長となり、前期比(季節調整済み)では0.2%だった。インフラ復旧のための建設需要の増大のほか、貨物海上輸送の安定的な運営が農業や冶金(やきん)、鉱業、鉄道輸送など各セクターの経済活動の回復を促した。(後略)【10月3日 JETRO】
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財政は厳しそう。国防費が予算の6割を占める状況・・・ということは、国防以外の施策にはほとんど手が回らないということにも。歳入面では「戦争税」の導入も

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一方、ウクライナでも11月28日、25年の予算が成立した。ロイター通信によると、全体の歳出3兆6000億フリブニャのうち、国防関連予算は約6割を占める。対GDP比では26%に達する。
 
今月から「戦争税」を導入し、個人所得税を1・5%から5%に引き上げ、銀行の利益に50%の税を課すなど金融機関に負担を求める。それでも歳入は2兆500億フリブニャにとどまる見通しだ。不足分は外国の財政支援が前提の「綱渡り」の予算となっている。【12月2日 読売】
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【ゼレンスキー大統領 領土回復よりNATO加盟を優先させる方針に転換 NATO加盟の実現は難しい状況も】
領土回復まで戦うとしてきたウクライナ・ゼレンスキー大統領ですが、上記のような状況を鑑みると、そろそろ停戦を考えないと・・・という状況にも。

何より来年にはウクライナ支援に消極的なトランプ氏が復権します。「戦争を1日で終わらせる」と豪語していますが、ということは多くを占領されている現状を前提にして、ウクライナ側に支援停止の圧力をかけて停戦案を承諾させる・・・ということになると思われます。

こうした状況でゼレンスキー大統領も領土回復よりNATO加盟を優先させる方針に変更しています。

****ゼレンスキー大統領、ロシアの占領地を「外交手段で取り戻す」…NATO加盟を優先****
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、英スカイニュースが29日に公開したインタビューで、ロシアとの戦闘激化を止めるには「ウクライナの保有領土を早急にNATO(北大西洋条約機構)傘下に入れる必要がある」と述べた。

ロシアの占領地は「外交的手段で取り戻せる」とし、NATO加盟を優先させる姿勢を示した。

戦闘の早期終結を公言してきたトランプ次期米大統領の就任を来年1月に控える中、今回の発言がウクライナの和平交渉の基本方針となる可能性がある。ただ、米独などはNATO加盟手続きの即時開始に慎重な姿勢を崩していない。

ゼレンスキー氏はインタビューで「(ロシアの)プーチン大統領(による侵略)の再来がないように保証するため」停戦が必要だと説明した。NATOへの加盟招待は「国際的な国境を基に行われるべきで、国の一部だけの加盟はあり得ない」と述べ、領土奪還も諦めない姿勢を見せた。

プーチン氏は6月、和平交渉開始の条件として、一方的に併合したウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退とNATO加盟の断念を挙げた。トランプ氏がウクライナ特使として起用するキース・ケロッグ氏も、過去にNATO加盟の長期間延期を提言している。【11月30日 読売】
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ただ、“ゼレンスキー大統領は、領土の放棄は憲法違反にあたるなどとしていて、実現の可能性は不透明”という話もあります。【11月30日 ABEMA Times】

何より現状でのNATO加盟はNATO側が認めないでしょう。ウクライナのNATO加盟となれば、ロシアも手を出せない、もし手を出すと対ウクライナではなく対NATOの世界戦争になってしまうということになりますが、NATO側としてもそんなリスクのある状況にはしたくないところでしょう。

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加盟へのハードルは高い。北大西洋条約第5条は、加盟国への攻撃をNATO全体への攻撃とみなし、集団的自衛権を行使して防衛すると規定している。

ウクライナがロシアとの交戦中に加盟すると、NATOは即座に戦争に巻き込まれることになる。これまで戦争状態にある国がNATOに加盟した例はなく、現在の戦争が終結しなければ道は開けない。

たとえ戦争が終結しても、加盟に必要な全32カ国の同意を得るのは困難だ。ロシアに近いハンガリーは既に反対を表明。それ以外にも戦争のリスクを高めるウクライナの加盟に反対する国が出る可能性はある。【7月12日 毎日】
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ウクライナの政治体制が、NATOが求める民主主義体制の基準を満たしていないという問題もあります。

ロシア・プーチン大統領にすれば、NATOの東方拡大・ウクライナのNATO加盟を阻止するために戦争をおこしたという事情がありますので、ウクライナのNATO加盟を認めては何のための戦争だったのか・・・という話にもなります。

ウクライナは、ウクライナが保有するソ連の核兵器を放棄する見返りに、米、英、ロシアがウクライナの「安全を保障」することとした30年前のブダペスト覚書を持ち出してその失敗を非難、改めて実効性のあるNATO加盟を訴えています。

****ウクライナ、NATO加盟改めて訴え ブダペスト覚書を非難****
ウクライナは3日、領土保全の保証を引き換えに核兵器を放棄した1994年締結の「ブダペスト覚書」を非難し、北大西洋条約機構(NATO)加盟の必要性を訴えた。

東部でロシアの激しい攻勢にあい、ウクライナ支援に消極的なトランプ氏の米大統領就任を控え、領土の保全が一段と重要かつ緊急性を増している。

ブダペスト覚書では、ウクライナが保有する核兵器を放棄する見返りに、米、英、ロシアがウクライナの「安全を保障」することとした。

ウクライナ外務省は、覚書締結から30年となる12月5日を前に出した声明で「ブダペスト覚書は、戦略的安全保障に関する近視眼的判断の記念碑」と指摘。覚書は「ウクライナの利益を考慮するのではなく、ウクライナの利益を犠牲にした欧州の安全保障体制構築は失敗に終わることを、北大西洋条約機構(NATO)の指導者らに思い起こさせるものであるべきだ」とした。

ウクライナは、東部で親ロシア派の分離独立派が蜂起し、ロシアがクリミアを一方的に併合した2014年以降、覚書を非難してきた。

東部紛争では、ウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスが「ミンスク合意」を締結したが、完全な和平は実現しなかった。ゼレンスキー大統領は「ブダペスト覚書はもうたくさんだ。ミンスク合意はもうたくさんだ。同じ罠に3度はまるわけにはいかない」と述べている。

ウクライナ外務省は、ブダペスト覚書の署名国の米英、フランス、中国に安全保障の提供を支持するよう求めた。

「われわれは、ウクライナNATO加盟こそが、ウクライナの安全保障に関する唯一の真の保証であり、ロシアのウクライナなどへのさらなる侵略に対する抑止となると確信している」と述べた。【12月3日 ロイター】
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【注目される「予測不可能性」のトランプ新大統領の対応】
現実問題としては、来年1月、トランプ新大統領がどのような判断をするのかが焦点になります。

****トランプ氏の出方に注目 ウクライナ情勢めぐり駆け引き活発化*****
ロシアとウクライナの早期停戦を目指すトランプ米次期政権の来年1月の発足を前に、当事者間の駆け引きが活発になっている。

ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟など、停戦後のロシアによる再度の侵攻を防ぐ方策が焦点の一つで、トランプ次期政権の出方に注目が集まっている。

「我々の支配下にあるウクライナの領土をNATOの傘の下に置く必要がある」。ウクライナのゼレンスキー大統領は、英民放スカイニューズ・テレビが11月29日に報じたインタビューで、停戦の条件を念頭にこう述べた。

自国領のうちロシアが実効支配する地域については、当面は返還されなくても、将来的に外交的な手段を通じて取り戻すとの考えも示した。

また、ウクライナメディアによると、ゼレンスキー氏は12月1日、NATO側がウクライナに対して加盟招請の手続きを行う場合には、あくまで「全土」を対象にすべきだと述べた。

ロシアとの停戦協議が始まるまでに、西側諸国の軍事支援で自国の立場を強化する重要性を強調した上で、停戦協議には欧州連合(EU)とNATOの代表者も参加するよう求めた。

ゼレンスキー氏は従来、戦闘による全領土の奪還にこだわってきた。だが、その実現の見通しが立たない中、ロシアによる一部領土の一時的な占領は受け入れた上で、安全の「保証」としてNATO加盟を重視する姿勢に転じた。

ただ、プーチン露大統領はウクライナのNATO入りを将来にわたって許容しない姿勢で、両者の隔たりは大きい。

こうした中、注目されるのがトランプ次期政権の対応だ。トランプ氏はこれまで大統領「就任前」や「就任後24時間以内」に戦争を終結させるなどと述べ、停戦の仲介に意欲を示してきた。

「トランプ氏は戦争を終わらせるという選挙公約にとても真剣だ。どうするのかは彼次第だ」。トランプ次期政権でウクライナ・ロシア担当特使として停戦協議を取り仕切るとみられているケロッグ氏は2日の米FOXニュースでこう述べた。

ケロッグ氏はかねて、トランプ氏の「予測不可能性」が、米国への敵対的な行動を抑制させてきたと主張していた経緯がある。2日も「彼が何を望んでいるのか言及するのは難しい」と強調した。

ただ、ケロッグ氏は今年4月に発表した提言で、プーチン氏を和平協議の席に着かせるために、ウクライナのNATO加盟の長期凍結を提案すべきだと指摘した。ウクライナに対しては、和平協議への参加を条件に、米国が軍事支援を継続するとの方針を訴えている。

米次期政権の動向を受けて、NATOのルッテ事務総長はロシアに有利な条件での和平合意実現への警戒感を示す。

2日報道の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、ルッテ氏は、ロシアの軍事産業を支援しているとされる中国や、兵士を派遣している北朝鮮、ミサイルを供給しているとされるイランに言及し、「(彼らが喜んで)ハイタッチするような状況は許されない。長期的には欧州だけでなく、米国にとっても深刻な脅威になる」と指摘した。ルッテ氏は11月22日に米南部フロリダ州でトランプ氏と会談した際、こうした考えを伝えたという。

ルッテ氏は、ロシアによるウクライナ領土の占領を容認した場合、中国が統一を目指す台湾の問題で、中国の習近平国家主席が武力の使用も検討する恐れがあるとの懸念を示している。【12月3日 毎日】
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“トランプ政権の和平案は、暫定的に休戦ラインを引く「朝鮮半島方式」に似た案になる可能性が指摘されている。”【11月29日 “トランプ政権のウクライナ和平案、暫定的に休戦ライン引く「朝鮮半島方式」に似た案浮上…双方に大幅な妥協が必要か” 読売】といった話もありますが、「予測不可能性」をウリにしているトランプ氏ですから・・・・どうでしょうか。

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ジョージア  EU加盟交渉を4年間停止決定で連日の抗議デモ 想起されるウクライナ「マイダン革命」

2024-12-01 22:08:50 | 欧州情勢

(【11月29日 BBC】 EU加盟交渉を4年間停止決定するとの政府決定に抗議するデモ隊に警察側は放水銃などで対応)

【10月議会選挙で親ロシア政策を強める与党勝利 野党側・親欧米大統領はこれを認めず】
旧ソ連構成国で、また、親ロシア勢力による未承認国家を抱えるジョージア(旧国名:グルジア)は2008年にはロシアと「南オセチア戦争(ロシア・グルジア戦争、5日間戦争)を戦った過去もありますが、ロシアとの関係は根深いものがあり、近年政権与党である「ジョージアの夢」は「反スパイ法」とか「LGBT規制法」といったロシアに類似した法律を制定するなどロシアへの接近を強めています。

そのジョージアで10月26日に総選挙が行われ、政権与党「ジョージアの夢」は勝利したとしていますが、親欧米路線の野党勢力は、選挙に不正があり、ロシアの介入があったとして抗議行動をとっている、また親欧米派のズラビシビリ大統領は「ロシアによる国の乗っ取りだ」と非難している・・・・といったあたりは、10月29日ブログ“モルドバ・ジョージア  欧米とロシアの間で揺れる両国の選挙 思った以上に根強い親ロシア的なもの”でも取り上げました。

****ジョージア議会選、親露・強権の与党が「勝利」*****
南カフカス地方の旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)で26日、議会選(定数150)が行われた。同国が親ロシア路線と親欧米路線のどちらに進むかを方向付ける重要選挙と位置付けられ、国際的関心を集めた。

中央選管の発表によると、親露色を強める与党「ジョージアの夢」が54%の得票率で勝利した。親欧米路線への回帰を訴えた野党側は開票不正が起きたとし、結果を認めず抗議活動を行うと表明した。

議会選は得票率に応じて各党に議席数が割り当てられる比例代表制で行われた。得票率5%未満だった党は議席割り当ての対象外となる。

中央選管の発表によると、開票率約99%の時点で、「夢」の得票率は54%。親欧米派の主要野党4党は計38%となった。投票率は約59%。

2008年にロシアの軍事侵攻を受けたジョージアは反露を一種の「国是」としてきた。「夢」も12年の政権獲得後、親欧米政策を進め、昨年12月にはジョージアの「欧州連合(EU)加盟候補国」の地位獲得を達成した。ただ、近年はウクライナ侵略に伴う対露制裁に参加しないなど、親露傾向も強めていた。

「夢」のオーナーであるイワニシュビリ元首相はロシアで財を成した大富豪。同氏はジョージア国内の親露分離派地域、南オセチアとアブハジアを巡る領土問題の解決を視野に、対露関係の改善を図ろうとしているとの観測も出ている。

さらに、「夢」は議会選に先立ち、外国から資金提供を受けて活動する団体を規制する「反スパイ法」と、性的少数者(LGBTなど)の権利を制限する「LGBT規制法」を制定した。

両法は類似した法律がロシアで施行され、政治・言論弾圧の手段として使われている。EUは「夢」の強権化を批判し、加盟手続きの一時停止を発表。野党側も「『夢』が勝利すればEU加盟が不可能になる」と訴えていた。

議会選で「夢」が勝利したとの結果が発表されたことで、EUとジョージアは関係悪化が避けられず、同国のEU加盟はさらに不透明になる。

米シンクタンク「戦争研究所」は議会選に先立ち、「ロシアか欧米か」と題するリポートを公表。今回の議会選は「ジョージア独立以来、最も重要な選挙となる可能性が高い」と評価していた。「夢」が勝利した場合、ロシアと「夢」が接近し、ウクライナ侵略以降に欧米が進めてきたロシア孤立政策の打撃になるとも指摘していた。【10月27日 産経】
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【政権のEUへの加盟交渉を4年間停止決定で連日の抗議デモ、警官隊との衝突も】
混乱は今も続いています。親ロシア的な政権とEUとの関係も悪化し、コバヒゼ首相は11月28日、EUへの加盟交渉を4年間停止し、EUからのいかなる財政支援も拒否すると表明しました。

****ジョージア首相、EU加盟交渉を4年間停止表明****
(中略)
AP通信などによりますと、旧ソ連の構成国ジョージアのコバヒゼ首相は28日、EUへの加盟交渉を4年間停止し、EUからのいかなる財政支援も拒否すると表明しました。

ジョージアでは先月の総選挙でロシア寄りの与党が勝利しましたが、ヨーロッパ議会は選挙は公正ではなく、民主主義の後退が続いていると非難し、対立が深刻化していました。

ジョージアは去年12月にEUの加盟候補国となりましたが、その後、政権与党が、外国から資金提供を受ける団体を事実上のスパイとみなす法律を成立させるなど、ロシアに似た強権的な姿勢が目立ち、EU側は加盟交渉を事実上、凍結していました。【11月29日 日テレNEWS】
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****ジョージアでデモ隊と警察が衝突、政府のEU加盟交渉延期決定受け****
(中略)
EUは同党が権威主義的な政策を進め、親ロシア的な立場を取っていると批判しており、関係がここ数カ月で急速に悪化している。ジョージアの夢は自らの立場は親ロシアではないとし、民主主義や西側諸国との統合へのコミットメントをうたっている。

トビリシで警察はデモ隊に解散を命じたが、若い参加者が議会に押し入ろうしたため、催涙ガスや放水銃を使った。デモ隊は警察官に花火を投げつけた。

親米欧派のズラビシビリ大統領は、与党が「平和ではなく、自国民や自国の過去と未来に対し戦争を宣言した」と非難した。(後略)【11月29日 ロイター】
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首都トビリシなど各地で連日抗議の大規模デモが行われています。

****ジョージアで2日連続の大規模デモ 150人拘束 EU加盟交渉の停止表明受け****
親ロシア派が政権に就いたジョージアでは、EUの加盟交渉を巡って大規模なデモが続いています。 ジョージアの首都トビリシでは大規模なデモが続いていて、29日には107人が拘束されました。

デモは、先月の選挙で勝利した親ロシア派とされる政権与党「ジョージアの夢」が28日にEU=ヨーロッパ連合への加盟交渉を停止すると表明したことを受けて発生しました。

デモの参加者らはバリケードを築き、投石するなどして治安部隊と衝突しています。 一方、治安部隊は放水銃や催涙弾を使い、デモを鎮圧しています。 当局によりますと、2日間で150人が拘束されました。

独立系メディアによりますと、デモはトビリシにとどまらず、バトゥミなど各都市に広がっているということです。【11月30日 テレ朝news】
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【12月14日に議員による間接選挙で大統領選挙 親欧米のズラビシビリ大統領は離職を拒否】
与党「ジョージアの夢」が主導する議会は、12月14日に議員による間接選挙で大統領選挙を行うと発表しています。

****来月14日に新大統領選出=与党候補は元サッカー選手―ジョージア***
旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)議会は26日、親欧米派のズラビシビリ大統領の任期(6年)満了に伴う大統領選を12月14日に実施すると決めた。

ロシアに融和的な与党「ジョージアの夢」が主導した憲法改正で、今回から国民の直接選挙から議員による間接選挙に変更。与党が新大統領選出を強行する公算が大きい。

現地からの報道によると、ジョージアの夢は27日、与党系のカベラシビリ議員を大統領候補に指名した。カベラシビリ氏は、イングランドのマンチェスター・シティーに所属したこともある元サッカー選手。【11月27日 時事】 
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上記のように議員による間接選挙ですから、与党候補が勝利することになりますが、親欧米路線のズラビシビリ大統領は議会の正統性を否定し、離職を拒否しています。

****親欧米大統領「離職せず」と宣言 旧ソ連構成国ジョージア混乱続く****
旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)で親欧米の立場で知られるズラビシビリ大統領は11月30日、10月の選挙に基づき発足した議会が非合法だと主張し、12月に大統領の任期が切れても職にとどまると宣言した。ロイター通信などが報じた。(後略)【12月1日 共同】
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【想起される2014年ウクライナ「マイダン革命」 与党・ロシアも警戒】
EUとの関係を一つの対立軸とした一連の混乱から想起するのは2014年のウクライナでおきた「マイダン革命」です。

“ウクライナでは10年前、EUとの関係強化が進んでいましたが、当時のヤヌコビッチ大統領が突如、EUとの関係強化を棚上げしました。これに市民が反発し2014年に大規模デモ「マイダン革命」が行われ、親ロシア派のヤヌコビッチ政権の崩壊につながりました。”【12月1日 ABEMA Times】

これまでの経緯は非常に似通ってもいますが、与党側もそのあたりを意識して連日の抗議デモは欧州側の介入だと批判しています。

****親ロシア派政権、EU加盟交渉停止を宣言 ジョージアで大規模デモ続く****
ジョージアの首都トビリシでは30日夜、3日連続となる大規模なデモが行われています。

独立系メディアなどによりますと、市の中心部に数千人が集まりました。親ロシア派とされるコバヒゼ首相は30日、連日行われているデモはヨーロッパによる操作だと主張しました。コバヒゼ首相は「ジョージアを『ウクライナ化』できなかったヨーロッパの政治家たちが社会に対立を起こそうとしている」などとしています。(後略)【12月1日 ABEMA Times】
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ロシアも欧米の介入による政権交代といった事態を強く警戒しています。2014年ウクライナ「マイダン革命」はロシアにとっては「米欧の陰謀」の象徴でもあり、現在行われているロシアのウクライナ侵攻の背景ともなっています。

アメリカは与党「ジョージアの夢」がEU加盟交渉の停止を決定したことをめぐり「国民との約束を反故にした」と批判しています。

****ジョージア与党を米政府が非難 EU加盟交渉の停止「国民の約束を反故」「ロシアの影響下に置いた」****
旧ソ連のジョージア政府がEU=ヨーロッパ連合への加盟交渉の停止を決定したことをめぐり、アメリカ国務省は「国民との約束を反故にした」として、親ロシア派の与党を非難する声明を発表しました。

アメリカ国務省は声明で、ジョージアのEU加盟に向けた交渉の停止について「EUとNATO=北大西洋条約機構への完全な統合を目指すという国民との約束を反故にした」などと非難しました。

その上で、親ロシア派の与党「ジョージアの夢」について、交渉停止によって「ジョージアをロシアの影響下に置いた」と指摘。アメリカとジョージアとの「戦略的パートナーシップ」の中断を表明しました。【12月1日 TBSテレビ】
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ロシア及び欧米双方の、合法・非合法を含め、「介入」というのか「支援」というか、あるいは「影響力行使」というのか・・・そうしたものが行われているのは事実でしょう。

与党「ジョージアの夢」が力で批判を封じ込めるのか、あるいは、2014年ウクライナ「マイダン革命」の再現となるのか・・・12月14日に大統領選挙が予定されていますので、混乱は少なくともその選挙後までは続きそうです。

【親ロシア派地域「アブハジア共和国」においても政治混乱】
なお、ジョージアの混乱と直接の関係はないと思われますが、ジョージアにある未承認国家である親ロシア派地域「アブハジア共和国」においても政治混乱が起きています。

****ジョージアの親露派支配地域で「大統領」辞任 投資協定巡り対立****
ジョージア(グルジア)からの一方的な独立を宣言している親ロシア派地域「アブハジア共和国」のブジャニヤ大統領が19日、辞任した。

ロシアとの投資協定の批准に反対する野党支持者らが15日に中心都市スフミにある大統領府や議会に乱入して以降、緊張が高まっていた。タス通信などが報じた。

投資協定は、黒海周辺地域の不動産へのロシアの富裕層による投資を可能にする内容だった。野党側は、ロシアとの関係維持自体には反対しないが、ブジャニヤ氏が協定を利用して自身の体制を強めようとしているなどと批判し、退陣を要求していた。

ブジャニヤ氏は協定を撤回すると発表したが反発は収まらず、「安定と憲法上の秩序を維持するため」として辞任を決め、議会に承認された。 グンバ副大統領が大統領代行となる。次期大統領選の日程は今後、議会で決めるという。
アブハジアはソ連崩壊後の1992年、ジョージアからの独立を一方的に宣言。2008年にジョージアに侵攻したロシアは、国家として承認するとともに軍を駐留させて後ろ盾になっている。【11月20日 毎日】
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フランス  極右政党RNが倒閣も視野に圧力強化 ルペン氏は裁判結果次第では大統領選挙出馬不可

2024-11-28 23:24:48 | 欧州情勢

(裁判所に到着したマリーヌ・ルペン氏=13日、仏パリ【11月15日 CNN】)

【国民連合(RN) 「政府は監視下にある」と豪語】
フランスでは6月及び7月に行われた総選挙の結果、極左が中心の左派、マクロン大統領与党の中道、ルペン氏率いる極右の三すくみ状態となり、マクロン大統領は左派の切り崩しに失敗、中道右派の共和党と連立してバルニエ首相の少数内閣が発足しました。

左派と極右が内閣不信任案などで協調すれば直ちに内閣は倒れてしまう不安定な政局ですが、ルペン氏率いる極右・国民連合(RN)は直ちには倒閣には動かずしばらくは静観の構えをとりました。

****フランスの極右、倒閣に同調せず=左派は抗議デモ****
フランスの極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は7日、「民主主義の混乱にくみしたくない」と述べ、バルニエ新内閣の発足後直ちに倒閣を目指す構えの左派に同調しない考えを示した。新内閣は中道と中道右派による少数与党となる見込みで、不信任を回避できるかは極右に懸かっている。

民放テレビTF1のインタビューで語った。バルデラ氏は、RNが唱える治安強化や移民抑制などの政策が「尊重されることを望む」とした上で、5日に首相に任命されたバルニエ氏に「マクロン大統領の政治を続ければ、新内閣は頓挫する」と警告した。

7月の総選挙では左派4党連合が下院の最大勢力となったが、政党単位ではRNが初の第1党に躍り出た。バルデラ氏は7日、記者団に「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と訴えた。

バルニエ氏はこれに対し「私は全国民の監視下にある」と指摘。極右が新内閣に及ぼす影響力は限定的だと反論した。

一方、左派を率いる急進政党「不屈のフランス」は7日、政権批判の抗議行動を各地で展開し、支持者や学生運動の活動家らが参加。内務省によればデモ隊は約11万人(主催者発表30万人)に上った。【9月8日 時事】 
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国民連合(RN)党首バルデラ氏の「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」という発言が、フランスの政治情勢を表しています。

実際、10月に左派から出された内閣不信任案には国民連合(RN)は同調しませんでした。

****仏下院、内閣不信任案を否決=左派提出も極右賛成せず****
フランス国民議会(下院、定数577)は8日、先月発足したバルニエ内閣の不信任決議案を否決した。左派4党連合(193議席)が提出したが、第3勢力の極右(141議席)は賛成しなかった。

採決結果は賛成が197で、可決に必要な過半数(289)を大きく下回った。左派はバルニエ内閣が「総選挙の結果を否定する」存在だと主張。一方、極右は「混乱を招きたくない」と同調を拒否した。【10月9日 時事】
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【国民連合(RN) 倒閣も視野に政府への圧力を強める】
ただ、ここにきて予算案に関して国民連合(RN)は政府への圧力を強めています。
政府は国民会議)の採決なしで予算法案を成立させることは憲法規定で可能ですが、その場合内閣不信任案が出されるのは必至です。

****フランス極右政党RN、政府に独自予算案の受け入れ要求****
フランスの極右政党、国民連合(RN)のジョルダン・バルデラ党首は16日、政府が先週提出した2025年予算案に対抗してRNが策定した予算案の受け入れを政府に要求するとともに、拒否されれば発足したばかりのバルニエ首相率いる新内閣を不信任案で退陣に追い込む姿勢をちらつかせた。

政府の25年予算案には、膨張しつつある財政赤字に対処するため、歳出削減や富裕層と大企業に対する増税などによる600億ユーロ(656億8000万ドル)の収支改善策が盛り込まれた。

だが連立与党は国民議会の議席数が半数に満たないため、バルニエ氏は国民会議(下院)の採決なしで予算法案を成立させる憲法の規定を使わなければならなくなる公算が大きい。こうした措置が取られれば、内閣不信任案が提出されそうだ。

RNが16日提出した「対抗予算案」には、外国人に対する一部の社会福祉関連給付金の削減や、自社株買いと富裕層を対象とする増税などが盛り込まれた。RNはこれによりさらに150億ユーロ収支を改善できると主張している。

バルデラ氏はパリ自動車ショーの会場で記者団に「もしバルニエ氏がマクロン大統領の政策に追従し続けるなら、この政府は陥落するだろう」と述べ、RNは「大惨事をもたらすような」マクロン氏の財政政策に終止符を打つよう要求すると付け加えた。【10月17日 ロイター】
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国民連合(RN)が政府への圧力を強めている背景には、指導者マリーヌ・ルペン氏自身の裁判も絡んでいるとも。

****仏極右ルペン氏、政権に退陣要求も 生活費高騰に予算対応なしなら****
フランス極右政党、国民連合(RN)の指導者マリーヌ・ルペン氏は20日、政府予算案にRNの生活費高騰を巡る懸念が反映されない場合、バルニエ首相率いる内閣を不信任投票で退陣に追い込む考えだと警告した。

ルペン氏は、欧州連合(EU)欧州議会から資金を不正受給したとされる疑惑を巡る公判で、フランス検察から5年間の公職追放を求刑されている。同氏は疑惑を否定している。

裁判所が有罪と判断し、求刑通り公職追放を言い渡した場合、2027年の大統領選に出馬できなくなる。このため、現政権の退陣を早期に目指すのではないかと見方が出ている。

ルペン氏は「フランス国民の購買力が再び打撃を受けることは容認できない。このレッドライン(越えてはならない一線)を越えれば不信任投票を実施する」とRTLラジオに語った。

バルニエ氏は、分極化が深まる国民議会(下院)で、憲法の規定を使って採決なしで予算法案を成立させる可能性を示唆している。強行すればRNや左派勢力による不信任投票が必至となる。

ルペン氏はまた、家計や企業家、年金生活者への増税にRNは反対で、これまでのところ、この要求が予算案に反映されていないとした。

急進左派「不服従のフランス(LFI)」による年金改革撤回の提案にRNは賛成票を投じるとも語った。左派勢力は不信任案を提出する方針を明らかにしており、RNが棄権すればバルニエ氏は退陣を回避できる。【11月21日 ロイター】
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マクロン大統領は政権崩壊止む無しの予測を側近に語ったようですが、公式にはこの発言は否定されています。

****フランス大統領府、マクロン氏の「政権崩壊」発言を否定****
フランス紙パリジャンはミシェル・バルニエ政権について、極右の支持を取り付け不信任案が成立する結果、近く崩壊するだろうと、エマニュエル・マクロン大統領が語ったとする記事を掲載した。これを受け大統領府(エリゼ宮)は26日、報道内容を否定、火消しに躍起になっている。

同紙は、マクロン氏が25日、エリゼ宮の庭で側近に「政権は倒れるだろう。彼女(極右・国民連合のマリーヌ・ルペン前党首)はいずれ不信任動議に賛成票を投じ、(政権崩壊は)われわれの想定よりも早くなる」と語ったと報じた。

ルペン氏は同日、来年の予算案をめぐる対立を背景に、バルニエ政権の崩壊につながる可能性のある不信任動議を支持すると話していた。

報道を受け大統領府はX(旧ツイッター)の公式アカウント@Elyseeを使って、記事内容を否定するという極めて異例の動きに出た。

大統領府は「エリゼ宮はそのような発言があったことを否定する。大統領は時事問題の解説者ではない。政府は機能しており、国は安定を必要としている」と投稿した。

それに対し同紙のマリオン・ムルグ政治部長はXで、「記事は複数の情報源によって裏取りされている」とし、内容を支持する姿勢を示した。

今夏の総選挙後、少数与党連合から成る政権の首相に、マクロン氏に任命された中道右派のバルニエ氏が就任して以来続いている政治的緊張は、予算案をめぐりピークに達している。予算案は依然、議会承認されていない。 【11月27日 AFP】
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まあ、マクロン大統領の「本音」は当然のところでしょうが、公式には認める訳にはいきません。
それと、何とか予算案を通そうとしているバルニエ政権にしては、後ろから撃たれたような感もあるでしょう。

****バルニエ仏内閣が崩壊危機、来年予算案巡る議会との折衝難航で****
フランスのバルニエ首相が率いる内閣は2025年予算案の議会承認に向けた折衝で難航しており、前途が危ぶまれている。

複数の政界関係者の話では、極右政党の国民連合(RN)と左派連合のどちらも不信任案で賛成に回った場合、内閣がクリスマス前か、早ければ来週中にも崩壊する可能性がある。

これらの関係者は、バルニエ首相が続投できるとしても、今のところ内閣を支持しているRNから要求されている歳出削減の取り組み圧縮を受け入れた場合に限られると指摘。そうすればフランスの財政基盤をさらに弱め、投資家にとってのフランスの魅力を低下させかねないとの見方を示した。

バルニエ内閣はフランスが半年前のような政治危機に再び陥るのを避けようと、RNや他の政治勢力と精力的な交渉を続けているものの情勢は流動的だ。

バルニエ首相は26日のテレビのインタビューで現在の状況について「極めて憂慮される」と語り、内閣が倒れれば金融市場で非常に深刻で荒れた事態が生じると警告した。

地元紙パリジャンは26日、マクロン大統領が側近に「内閣は崩壊する」と告げたと伝え、大統領府が慌てて否定する場面もあった。

市場ではフランス国債のリスクプレミアムが2012年のユーロ危機以来の大きさになり、銀行株が足を引っ張る形でCAC40指数が下落した。

600億ユーロ(628億5000万ドル)の増税と歳出削減を通じて財政赤字拡大に歯止めをかける措置が盛り込まれた来年予算案は,国民議会(下院)で否決された。現在は元老院(上院)で審議されている。

予算成立期限が12月半ばに迫る中で、バルニエ首相は憲法上の規定を用いて議会の採決を得ずに予算承認手続きを終える意向を示唆。ただ、これを強行すれば不信任案が提出されるのは確実だ。

RNを事実上率いるマリーヌ・ルペン氏と同氏の支持者は、家計や中小企業、年金受給者らの生活を守るためにRNが掲げている要求が通らなければ倒閣に動くとバルニエ氏に圧力をかけている。【11月28日 ロイター】
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まあ、遅かれ早かれ・・・という感も。極右政党・国民連合(RN)は「兵府は自分達の監視下にある」と豪語するような政権が長続きする訳がありません。

【ルペン氏 裁判結果では大統領選挙に出馬できない苦しい事情も】
上記のように倒閣も視野に政府に圧力をかける国民連合(RN)ですが、指導者マリーヌ・ルペン氏も自身の裁判で苦しい状況にあります。

マリーヌ・ルペン氏が公金を不正に受給したとされる疑惑を巡る公判が27日、パリの裁判所で結審しました。判決は来年3月31日に言い渡されますが、ルペン氏は公金不正流用罪で禁錮5年と5年間の公職追放などを求刑されており、判決次第では2027年の大統領選に出馬できない可能性があります。

****フランス極右指導者ルペン氏、5年間政治活動禁止の求刑 大統領選出馬に暗雲****
フランスの検察は、極右「国民連合(RN)」を率いるマリーヌ・ルペン氏に禁錮5年と5年間の政治活動禁止を求めた。判決次第で2027年の大統領選に出馬できなくなる可能性がある。

ルペン氏とRNおよび20人以上のRN党員は、フランスで実質的に同党のために働いていた職員への給与支払いに欧州議会の資金を流用したとされている。ルペン氏らは容疑を否認している。

パリの刑事裁判所での約6週間に及ぶ審理の後、検察は13日、ルペン氏に禁錮5年(執行猶予3年)と5年間の政治活動禁止を求刑すると発表した。

検察はRNに200万ユーロ(約3億3000万円)、ルペン氏に30万ユーロの罰金を科すことも求めている。
検察はさらに、不適格判決の「仮執行」を求めた。つまり判決は即時に執行され、判決に対する上訴を行ったとしても、ルペン氏は執行期間中、新たな選挙に立候補できないことになる。

ルペン氏は審理後、記者団に対し、これは民主主義への攻撃であり、検察が同氏を政治の場から締め出そうとする試みだと主張。検察はフランス人から投票したい人に投票する権利を奪おうとしていると訴えた。

ルペン氏はすでに大統領選に3回出馬しており、毎回得票率を伸ばしてきた。12年には3位で得票率は17.9%だったが、17年と22年はマクロン大統領に敗れたものの得票率はそれぞれ33.9%と41.5%だった。【11月15日 CNN】
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次回大統領選挙にはマクロン大統領は出馬できませんので、こんどこそ極右に対する壁を突き破って大統領に、そのために国民連合(RN)ぼ極右体質を薄めて一般国民にも支持される政党に変革してきた・・・・というルペン氏ですが、苦しい状況です。

何より「仮執行」により“判決は即時に執行され、判決に対する上訴を行ったとしても、ルペン氏は執行期間中、新たな選挙に立候補できない”というのがルペン氏にとっては痛い。

アメリカではこういう「仮執行」はないのか? あれば、有罪判決の出ていた「口止め料」訴訟(結局、量刑言い渡しが無期延期になり実質的にトランプ氏の勝利)でトランプ氏の立候補も阻止できたのでは?

まあ、トランプ氏は国民の現状不満の代弁者であり、そういう手段で国民の不満を封じ込めるのは悪手でしょう。

フランスでも司法によって政治家が封殺されるのをよしとしない政敵からも司法批判が。

****極右ルペン氏、政敵が擁護 大統領選出馬危機で―仏****
フランスの極右・国民連合(RN)が欧州連合(EU)から巨額の公金を横領したとされる事件の公判で、検察がRNを実質的に率いるルペン前党首(56)の被選挙権停止を求刑した。

判決次第では、2027年の次期大統領選に立候補できない可能性がある。出馬をうかがうライバルには好都合な事態のはずだが、聞こえてくるのは司法批判や、ルペン氏を擁護する声だ。

「出馬できなくなれば非常にショックだ」。マクロン大統領を支える中道政党「再生」所属のダルマナン前内相(42)は13日、SNSでルペン氏をかばう異例の投稿を行い、波紋を呼んだ。

ルペン氏は12年、17年、22年と過去3回連続で大統領選に出馬。全て敗北したが、マクロン氏と一騎打ちを演じた22年の決選投票では得票率が40%を超えた。RNは今年の総選挙で政権批判の受け皿となり、下院第1党に躍進。波に乗るルペン氏は次期大統領選で最有力候補の一人に数えられる。

一方のダルマナン氏は、今年のパリ五輪を万全の警備で成功に導き、名を上げた。大統領選への意欲は公然の秘密だ。SNSでは、政治家は選挙によって裁かれるべきだと主張。「エリートと大多数の市民の溝を深めてはいけない」とも記し、司法に世論との乖離(かいり)を警告した。

検察は13日の公判で、判決確定を待たず被選挙権を停止できるよう、仮執行の宣告を求めた。ルペン氏はこれが「政治的な死刑」の求刑に等しいと猛反発。死刑を仮執行すると取り返しがつかないと訴えた。EU側の弁護士すら、推定無罪の原則との兼ね合いから「一般論としては仮執行に反対だ」と述べた。

急進左派「不屈のフランス」を束ね、こちらも大統領選出馬を見据えるメランション氏(73)は、政治家に対する司直の裁きに世界中で「不信がある」と指摘。仮執行で被選挙権が停止されれば「政治危機は悪化し、社会に何の得もない」と強調し、犬猿の仲のルペン氏に塩を送った。【11月16日 時事】
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まあ、本音はわかりませんけどね。もし大統領選挙に出られれば、今度こそ極右ルペン大統領誕生の可能性も高く、フランスにとどまらずEU・欧州政治に極めて大きな変革をもたらします。
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中東欧で拡大する親ロシア・権威主義 ハンガリー、スロバキアに続いてルーマニアでも大統領選挙に異変

2024-11-27 23:17:58 | 欧州情勢

(ルーマニア大統領選挙で、SNSを駆使した選挙運動で一躍首位に躍り出た親ロシア・極右政治家カリン・ジョルジェスク氏)

【「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 「自国第一」でロシアの侵略を容認】
中東欧にあって親ロシア的で、移民受け入れに消極的で、西欧的民主主義のリベラル的価値観を否定した強権的政治、更に親トランプ・・・・と言えば、これまでも何度も取り上げたきたハンガリー・オルバン首相の名前があがります。

オルバン首相に限らず、「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつあり、アメリカのトランプ氏復権と共振しつつ、今後更に大きなうねりとなることが予想されます。

****「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 国際秩序に打撃のリスク 「トランプ2.0」の衝撃③****
米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領(78)が勝利を確定的にした6日、トランプ氏といち早く電話で言葉を交わした外国首脳の一人にハンガリーの強権指導者、オルバン首相(61)がいる。トランプ氏との親密さを誇示するように、X(旧ツイッター)に「私たちには未来に向けた大きな計画がある!」と投稿した。

2人が盟友関係にあることはよく知られる。トランプ氏は選挙演説で何度もオルバン氏を「強い指導者」「素晴らしい男」と絶賛した。オルバン氏も公然とトランプ氏を支持し、7月には米南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸に足を運んだ。

欧州連合(EU)内で批判され、異端視されることの多かったオルバン氏が、トランプ氏との近さゆえに存在感を増していく可能性がある。

オルバン氏が首相に返り咲いた2010年以降のハンガリーでは、報道の自由や司法の独立性、LGBT(性的少数者)の権利などへの制限が進んだ。自由民主主義の規範から逸脱していると批判を浴びるが、オルバン氏はむしろ、自分こそが来たるべき「非リベラル民主主義」時代の先駆けだと胸を張る。

盟友のオルバン氏、欧州難民危機が追い風に
オルバン氏が権力を盤石にする契機の一つとなったのは、中東・アフリカの難民らが欧州に押し寄せた15年の難民危機だった。「反移民・難民」の旗幟(きし)を鮮明にし、人道的対応を求めるEUのエリート官僚らへの攻撃を強めた。

そうした「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつある。

フランスの「国民連合」(RN)やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)といった右派勢力の台頭が典型だ。今年6月にEU各国で行われた欧州議会選では、フランスでRNが首位、ドイツでAfDが2位につけた。

トランプ氏も同じ系譜にある。初当選した16年大統領選では、不法移民流入を阻止する「国境の壁」建設や、反エスタブリッシュメント(既得権益層)を掲げた。これらの主張は、20年大統領選での落選を経てさらに先鋭化している。

今回の大統領選では、1100万人超とも2千万人超ともいわれる不法移民に「最大級の強制送還作戦」を行うと訴えた。民主党などのリベラル勢力を「内なる敵」と呼び、「州兵や米軍を使って排除する」とも語った。反エスタブリッシュメントの主張はしばしば、リベラル勢力から成る「ディープステート(闇の政府)」が米国を牛耳っているという陰謀論の色彩まで帯びる。

欧州の新興右派勢力には福祉政策の拡大を掲げているものが多く、トランプ氏もそうだ。
共和党の支持基盤である保守派では従来、連邦政府の支出や権限を縮小し、企業の自由競争を促す「小さな政府」論が支配的だった。

しかしトランプ氏は大統領選で、社会保障年金やメディケア(高齢者向け医療保険)の維持だけでなく、体外受精の費用を保険会社が負担するよう「義務付ける」と豪語するなど、民主党左派とみまがう主張を展開した。

こうしたこともあって、仏RNや独AfD、オルバン氏やトランプ氏らはポピュリズム(大衆迎合主義)勢力に分類されることが多い。

「自国第一」に由来する侵略国ロシアへの甘さ
その政策と人気に盲点はないか。最も懸念されるのは、この勢力に共通する「自国第一」の姿勢が、ウクライナを侵略するロシアへの甘い態度につながっていることである。

オルバン氏はプーチン露大統領と親しく、EUと北大西洋条約機構(NATO)内で最も親露的な立場をとる。ウクライナは「勝てない」と公言し、欧州各国は対ウクライナ支援を縮小して停戦圧力をかけるべきだとしてきた。

その主張は、ウクライナでの早期停戦を実現するとし、ロシアとのディール(取引)を志向するトランプ氏とも通じる。

仮にロシアに領土を割譲するような形でウクライナ侵略戦争が終われば、「一方的な領土変更は認めない」という第二次大戦後の国際秩序は根幹から揺らぐ。

また、世界で「自国第一」の傾向が強まり、米国主導の集団安全保障体制が弱体化することは、プーチン氏が強く願ってきたことにほかならない。

米右派の最大イベント「保守政治行動会議(CPAC)」では近年、オルバン氏ら欧州の右派政治家が大歓声で迎えられ、連帯を確かめ合うのが恒例の光景となっている。トランプ氏の当選確実が伝えられたとき、旧ソ連構成国のキルギスを訪問中だったオルバン氏はわがことのように喜び、「ウオッカで祝杯をあげた」という。

「反移民」「反エリート」が米欧で共振する現象は、世界に何をもたらすのだろうか。【11月10日 産経】
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【ルーマニア大統領選挙でSNSを駆使する親ロシア極右候補が首位に】
中東欧でまた一つ、ルーマニアにおいて親ロシアでウクライナ支援を否定する、西欧的リベラリズムと異なる極右政治家が大統領選挙で躍進しました。
同時に、日本の兵庫県知事選挙同様に、SNSを駆使して泡沫候補から一躍首位に躍り出た選挙手法も注目されます。

****ルーマニア大統領選、「SNS戦略」成功でプーチン賛美の「極右」が予想外の首位...若年層の不満を代弁****
<ルーマニア大統領選第1回投票で、「ウクライナ戦争の背後で『帝国主義』軍産複合体が暗躍」と訴えるジョルジェスク候補が首位に>
ルーマニア大統領選の第1回投票が11月24日行われ、親露派で反北大西洋条約機構(NATO)の極右ナショナリスト候補カリン・ジョルジェスク氏が212万票(得票率22.9%)を超える予想外の大躍進を見せ、首位で12月8日の決選投票にコマを進めた。

ジョルジェスク氏はウラジーミル・プーチン露大統領を称え、ウクライナ戦争の背後で「帝国主義」軍産複合体が暗躍していると唱える。事前の世論調査では社会民主党(PSD)代表のマルチェル・チョラク首相が圧倒的にリードしており、ジョルジェスク氏は完全なダークホースだった。(中略)

ホロコーストに加担した第二次大戦指導者を称賛
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に加担して銃殺刑になったルーマニアの第二次大戦指導者イオン・アントネスクや、欧州で最も暴力的な極右の反ユダヤ主義民族運動「鉄衛団」の創設者コルネリウ・コドレアヌを国民的英雄と呼ぶ極右ナショナリストだ。

政治スタンスは親露。ルーマニアのNATO加盟に反対する。NATOが加盟国を守る能力に懐疑的な一方、ルーマニアは外交的・戦略的判断を下す準備ができておらず 「ロシアの知恵 」に従うべきだと主張する。しかし実際にロシアを支持するかどうかについては名言を避けている。

「私は不当な扱いを受けた人々のために投票した」
ルーマニアはフランス率いるNATO多国籍戦闘部隊と米軍のミサイル防衛施設を受け入れており、ジョルジェスク氏は「外交の恥」と批判。

ジョルジェスク氏の躍進は主流政党に対する広範な不満を反映しており、自らを社会や経済から取り残された人々の代弁者と位置づける。

投票後、フェイスブックに「私は不当な扱いを受けた人々、屈辱を受けた人々、この世で自分は重要でないと感じている人々のために投票した! 投票は国家への祈りだ」と投稿した。

より多くの有権者にリーチするため動画共有サイトTikTokなどSNSを効果的に活用した。

新聞・テレビを上回るSNSや動画サイトの破壊力
幅広い視聴者、特に若い有権者の共感を呼ぶ短くて魅力的な動画を共有することで、ジョルジェスク氏は反体制的で民族主義的なメッセージを効果的に広めた。伝統的なメディアを回避し、主要政党を見放した有権者と直接つながり、知名度と支持を大幅に高めることに成功した。

NHKによると、日本でも自身のパワハラ疑惑などを巡る出直し兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事のユーチューブ公式チャンネルの総再生回数は約119万回。街頭演説を短くまとめた動画は少なくとも計2000万回再生された。SNSや動画サイトの破壊力は新聞・テレビを上回る。

米大統領選で返り咲いたドナルド・トランプ次期大統領を例に挙げるまでもなく、SNSや動画サイトの活用はポピュリスト政治家の常套手段。ジョルジェスク氏は若者に人気のTikTokで25万人のフォロワーを持ち、投稿したクリップのいくつかは300万回以上再生された。

ロシアの干渉を示す証拠は見つかっていない。ジョルジェスク氏が決選投票でも勝利すれば首相指名権、連立協議権、外交・安全保障政策に関する最終決定権を持つ役職に就くことになる。極右の暗雲がさらに広がり、NATOや欧州連合(EU)の結束が大きな音を立ててきしみ始めた。【11月26日 木村正人氏 Newsweek】
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ルーマニアでは首相が行政を指揮する一方、大統領は国防と外交の権限を持ちます。

第1回投票結果は、“ジョルジェスク氏が得票率約23%で首位に立った。野党の中道右派「ルーマニア救国同盟」党首でウクライナ支援継続を訴えるラスコニ氏が19%で続き、決選投票へ駒を進めた。中道左派、社会民主党の現職首相チョラク氏は3位で敗退した。ウクライナ支援や物価高対策などが争点となった。”【11月27日 毎日】

ジョルジェスク氏の支持率は“10月の世論調査では支持率1%未満と低迷し、11月に入って急速に支持を広げたが、それでも5%台だった。予想外の躍進といえる。”【同上】とのことで、その爆発的躍進に瞠目させられます。あるいは、世論調査と実際結果の乖離もまた。

「TikTok(ティックトック)」では乗馬をしたり、黒帯を締めて武道の稽古に励んだりする動画などを投稿し、26日現在で35万人のフォロワーを有するとも。

決選投票は12月8日に行われます。
また、12月1日には議会選も予定されています。“追い風を意識して、出身の超国家主義政党などが事後的にジョルジェスク氏への支持を表明した。「旋風」の成り行き次第では、ウクライナに対する欧州の多国間支援の枠組みが揺らぎかねない。”【同上】

【スロバキア・フィツォ首相 ハンガリー・オルバン首相と似た親ロシア・強権支配 大統領選挙も制する】
実は中東欧ではもう一つ、親ロシア・反ウクライナの強権支配的国家があります。それはスロバキア。
フィツォ首相がハンガリー・オルバン首相類似の強権政治を進めています。更に、大統領も支持勢力でおさえています。

****スロバキアの「ハンガリー化」に懸念 親ロシア姿勢、強権統治に批判****
東欧スロバキアのフィツォ政権に対し、強権統治を敷くハンガリーのオルバン政権と同様、欧州連合(EU)の結束を脅かしかねないとして懸念が広がっている。

25日で就任5カ月となるフィツォ首相は、ロシアによるウクライナ占領を認める形での停戦を主張。国内で進める司法改革も「法の支配」を弱めると批判を浴びている。(中略)

昨年10月に首相に返り咲いたフィツォ氏は、ウクライナへの武器供与停止を決定。今年1月にはロシア軍撤退は「非現実的だ」と述べ、ウクライナに領土奪還を断念するよう促した。ただ、スロバキアの民間企業による武器供給を容認するなど、西側諸国との過度な対立は避けている。

スロバキアで今月(3月)23日実施の大統領選は、フィツォ氏を支えるペレグリニ元首相と、野党の支持を受けるコルチョク元ス外相による事実上の一騎打ちで、フィツォ政権への評価が争点。いずれの候補も当選に必要な過半数に届かず、ペレグリニ、コルチョク両氏が来月6日の決選投票に進出する公算が大きい。

退任するチャプトバ大統領は、汚職罪の罰則軽減を含むフィツォ政権の司法改革にブレーキをかけてきた。ペレグリニ氏が後継に就任すれば、フィツォ氏に一段と権力が集中し「法の支配を巡って、EUとの衝突につながる」(ロンドン大キングスカレッジの研究者)と懸念する声もある。

同様に親ロシア姿勢が目立つハンガリーのオルバン政権に対して、EUは性的少数者の権利やメディアの独立性が侵害されていると憂慮。裁判官人事や汚職捜査への政治的介入を防ぐ対策が不十分で「法の支配」が損なわれているとして、資金供給の一部を凍結している。欧米メディアは「次はスロバキアかもしれない」と伝えている。【3月23日 時事】
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スロバキアでは政治・行政の主導権は首相にあるものの、大統領にも法案への拒否権など一定の権限があります。

4月6日に行われた大統領選挙決選投票で、フィツォ首相に近い左派HLAS(声)党首で国会議長のペレグリニ氏が当選し、フィツォ首相による親ロシアでウクライナ支援に消極的な政治、ハンガリー・オルバン政権的な強権政治が加速する可能性があります。

なお、5月15日にはフィツォ首相が狙撃され負傷する事件も。

【左右両方のポピュリスト政党が同時に台頭し、独裁政権がロシアとイデオロギーで連帯】
中東欧においては、ハンガリー・オルバン首相、スロバキア・フィツォ首相に続いて、前述のルーマニアの大統領選挙での極右ジョルジェスク氏の躍進・・・と親ロシア勢力の拡大が目立ちます。

****中東欧が「プーチン支持」に傾くのはなぜか?...世界秩序を揺るがす空想の「ソ連圏への郷愁」と「国民の不安」****
<ドイツ東部からスロバキア、ハンガリー、アゼルバイジャン、ロシアと戦火を交えたジョージアまで──なぜ、「ロシア寄り」の極右や極左が躍進しているのか>

ロシアがウクライナで都市部への空爆を続け、東部ドンバス地方の前線で進軍するなか、9月1日にドイツの東部2州で州議会選挙が行われ、極右と極左の政党が躍進した。
とりわけ憂慮されるのは、両党がウクライナ支援に反対し、ロシア寄りの立場を取っていることだ。

極右「ドイツのための選択肢(AfD)」も左派の新党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」も、ロシアを挑発したとして西側諸国に責任を転嫁し、ロシアとの全面的な軍事衝突を恐れる国民感情に付け込んでいる。

こうした見解や極右・極左政党の躍進はドイツ東部に限った話ではない。1989年までソ連の支配下にあった他の中東欧諸国でも同様の機運が高まり、特に顕著なのがEUとNATOの加盟国であるスロバキアとハンガリーだ。

アゼルバイジャンやジョージアなどの旧ソ連構成国でも、状況は同じ。不安と鬱憤と郷愁が入り交じった独特の国民感情を背景とするこの流れはソ連圏の復活を意味するものではないが、少なくとも中東欧の一部でイデオロギー的な結束が強まっていることを示唆する。(中略)

「空想のソ連圏」への郷愁
残酷な侵略戦争が2年半以上も続く状況で、侵略者のロシアがいま再び共感を呼ぶのはウクライナにも同盟国にとっても由々しき事態だ。

ドイツ東部、スロバキア、ハンガリー、アゼルバイジャン、ジョージアにおける権威主義の高まりはウクライナ侵攻が発端ではないが、ウクライナ侵攻の結果としてエスカレートしたのは間違いない。

これを推し進める指導者は国民感情に付け込み、世論を慎重に誘導する。そうした感情の1つは、ロシアとの戦争に引きずり込まれるのではないかという根強い不安だ。コロナ禍の影響やウクライナ侵攻が引き金となった物価高への対応をしくじった政府への恨みもある。

またソ連時代の保守的で強い指導者たちが強要した「秩序」とその後のリベラルな「混乱」を比べ、空想のソ連圏に郷愁を覚える人もいる。

一方、昨年チェコではNATO出身のペトル・パベルが大統領に就任し、ポーランド総選挙では反EU政権が敗北。旧ソ連圏で起きている民主主義の退行に歯止めをかけ、逆転させられる可能性を示した。

同様に、ロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約機構から今年6月にアルメニアが脱退を明言したことは、地政学的同盟関係が不動でないことを教えてくれる。

こうした変化は全て世界において安全保障の秩序が揺らいでいることを示唆する。ウクライナでの戦争がいつどのような形で終わるかが、新秩序の在り方を決めるだろう。

しかしながら左右両方のポピュリスト政党が同時に台頭し、独裁政権がロシアとイデオロギーで連帯する現状は強い警告を発している。この戦争に勝者がいるかどうかは分からない。だが誰が勝利するにせよ、自由主義的な秩序の再構築は決して保証されていないのだ。【9月10日 Newsweek】
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親ロシア、反ウクライナ、強権的権威主義、反移民・・・・従来の西欧的リベラリズムへの反発が中東欧、欧州で、更にはブラジル前政権やアルゼンチンなど世界で拡大しています。

西欧的リベラリズムへの反発が押し込まれていた箱の蓋をトランプ第1次政権が開け、第2次政権が箱から溢れ出たものの動きを加速させるように思われます。

「エリート」が主張するリベラリズムで顧みられれなかった人々の不満が西欧的リベラリズムへの反発となって噴き出しているようにも。

そういう点では一概にネガティブにとらえるべきではないのかもしれませんが、親ロシア、反ウクライナ、強権的権威主義、反移民といったその方向性には危ういものを感じます。
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アメリカ  ウクライナの米供与長射程兵器によるロシア領内軍事拠点攻撃容認

2024-11-18 23:10:54 | 欧州情勢

(長射程兵器ATACMS【11月18日 NHK】  最大射程約300キロ・・・名古屋から東京を狙えます)

【ウクライナに領土断念を迫るトランプ次期大統領 政権移行チーム「停戦案」 ウクライナ拒否】
昨日ブログではトランプ復権に向けた世界各国の動きをとりあげましたが、トランプ復権で最もドラスティックに変わる可能性があるのがウクライナの問題。トランプ氏は今年5月「自分がアメリカ大統領なら、24時間以内に戦争は解決する」と豪語しています。

24時間云々はともかく、トランプ氏がウクライナ支援に消極的であり、同氏を支持する人々も、ウクライナ支援ではなくアメリカ国内の自分たちの生活を守るためにカネを使うべきだとしていること、アメリカの支援がなければウクライナの戦争継続は極めて困難なことから、トランプ氏が早期結着に向けてその力を行使することが予想されています。

ただ、「早期決着」が可能になるのは現在戦局において優位な立場にあるロシアの賛同が得られる場合でしょう。
そうしたロシアの主張にほぼ沿う形でウクライナに停戦を迫ることが予想され、そのあたりは11月11日ブログ“ウクライナ  ルール・理念なき「力による平和」・ディールのトランプ流外交でどうなる?”でも取り上げたところです。

トランプ新政権が考える「停戦」の中身については、現在のロシア占領地域をそのままにした形での、政権移行チームによる以下のような案が報じられています。

****トランプ次期大統領 政権移行チーム ウクライナの戦闘凍結案を検討 約1290キロにわたる“非武装地帯”設ける案 米WSJ紙報道****
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、トランプ次期大統領の政権移行チームが非武装地帯を設けるなどの戦闘凍結案を検討していると報じられています。

これは、6日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」がトランプ次期大統領に近い複数の人物の話として報じたものです。

トランプ氏の政権移行チームは、ウクライナの前線を固定化して、およそ1290キロメートルにわたる非武装地帯を設ける戦闘凍結案を検討しているということです。事実上、ロシアがウクライナの国土のおよそ2割を占領し続けることになるため、ウクライナ側が受け入れる可能性は今のところ低いとみられます。

また、案では、ウクライナには少なくとも20年間、NATOに加盟しないことを約束させる代わりに、アメリカがウクライナに武器を供給し続け、ロシアを抑制するとしています。【11月12日 TBS NEWS DIG】
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この停戦案について、ウクライナ側は拒否の意向をアメリカに示しています。

****ウクライナ戦闘凍結「非現実的」 米次期政権案に拒否の意向示す****
ロシアに侵攻されるウクライナのポドリャク大統領府長官顧問はトランプ次期米大統領の政権移行チーム内で検討中とされる戦闘凍結案について「ウクライナが領土と主権を断念しなければならない。筋が通らず、非現実的だ」と述べ、拒否する意向を示した。共同通信と12日会見した。ポドリャク氏はゼレンスキー大統領の最側近の一人。

政権移行チーム内では前線を固定化して戦闘を凍結し、ウクライナが望むNATO加盟を棚上げする案が浮上したと報じられた。トランプ氏は選挙戦で、来年1月20日の就任前に戦争を解決するなどと豪語してきたが、終結の見通しは立たない。

ポドリャク氏はトランプ氏のウクライナ政策は公になっていないとした上で、凍結案は「ウクライナに犠牲を強いるだけで、ロシアに何も強制していない。侵略者を勢いづかせる」と批判し、ロシアに圧力をかけ譲歩を迫るべきだと主張した。

ポドリャク氏によると、ゼレンスキー氏は7日にトランプ氏と約30分間にわたって電話会談し、ウクライナの立場を説明した。【11月14日 共同】
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ただ、トランプ新政権が武器支援停止をチラつかせて圧力をかけてきた場合、ウクライナ側がアメリカの要請を断り切れるのか?もちろん支援がなくても戦うとはしていますが・・・・

【攻勢を強めるロシア】
一方、ロシアは攻勢を強めています。

****ロシア、ウクライナが奪還した東部要衝に攻撃 北東戦線で攻勢か****
当局によると、ロシアの小規模な突撃部隊が13日、ウクライナ東部ハリコフ州の都市クピャンスク郊外に短時間侵入した。北東戦線でロシアが攻勢を強めている可能性がある。

同市は重要な鉄道拠点で、2022年2月のロシアによる侵攻開始初期にロシア軍によって占領されたが、同年9月にウクライナが反撃して奪還していた。

ウクライナ軍によると、ロシア軍はウクライナ軍兵士に偽装するなどして波状攻撃を仕掛けた。ただ、ウクライナ軍はこれを撃退したという。

ロシア軍はクピャンスク戦線についてコメントしていないが、あるロシア当局者はロシア軍が同市郊外に足場を築きつつあると述べた。ロイターはこの証言を独自に検証することはできなかった。【11月15日 ロイター】
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また、ウクライナがロシア領内に侵攻した地域についても、北朝鮮兵士を含む5万人規模で攻勢をかけ奪還をめざしているようです。

更に、厳冬期を迎えるウクライナの電力インフラに対しても。

****ロシア軍がウクライナ全土に大規模攻撃、厳冬期を前に発電所など標的か…計画停電実施へ****
ロシア軍は17日、ウクライナの首都キーウを含む全土に大規模な攻撃を実施した。厳冬期を前に発電所などの重要インフラ施設を標的にしたとみられる。攻撃で南部ミコライウ州や西部リビウ州などで少なくとも7人が死亡。施設への被害は大きく、18日は計画停電が行われる見通しだ。

今回の攻撃は8月以来、3か月間で最大規模とされる。ウクライナ側によれば、露軍は極超音速ミサイル「キンジャル」や巡航ミサイルなど約120発のミサイルと無人機90機を発射。ウクライナ軍は、このうちミサイル104発、無人機42機を撃墜したという。

地元当局などによると、南部のオデーサ州やミコライウ州、西部のリビウ州で計5人が死亡。東部ドニプロペトロウシク州では鉄道の施設が被害を受け、鉄道会社職員2人が死亡した。

ロイター通信によれば、首都キーウでも市街地で爆発音が響いた。住民らは避難した地下鉄駅の構内で身を寄せ合っていたという。

ウクライナの国営電力会社「ウクルエネルゴ」は17日、攻撃による施設の被害の影響で、ウクライナ全土で18日午前6時から午後10時の間、計画停電を実施すると発表した。【11月18日 読売】
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【バイデン大統領 長射程兵器によるロシア領内軍事拠点攻撃容認 北朝鮮参戦で方針転換】
こうしたウクライナにとって厳しい情勢で報じられ、大きな注目を集めているのが、アメリカ・バイデン政権の長射程兵器を使ったロシア領内への攻撃を容認する方針転換です。

ウクライナを支援するバイデン政権としては、トランプ新政権への引継ぎまでに極力ウクライナを有利な立場にしたいこと、北朝鮮の参戦という新たな事態への対応があると見られています。

****バイデン大統領 長射程兵器露攻撃容認 北朝鮮参戦で方針転換 派兵停止圧力も****
米メディアは17日、ウクライナに米国が供与した長射程兵器を使ったロシア領内への攻撃を、バイデン大統領が容認したと報じた。ロシアのウクライナ侵略に北朝鮮が参戦したことを契機に政策転換した。

早期停戦を主張するトランプ次期大統領の大統領選勝利を受け露軍の攻勢強化も予想され、ウクライナ軍の反撃能力をテコ入れする。北朝鮮に派兵停止を迫る圧力も意識したとみられる。

米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、バイデン氏が容認に踏み切ったのは、米国が供与している射程300キロの地対地ミサイル「ATACMS」による露領内の軍事拠点への攻撃。ウクライナのゼレンスキー大統領は同日の声明で「われわれは言葉では攻撃しない。ミサイル自体が語るだろう」と述べ、使用に意欲を示した。

ゼレンスキー氏はATACMSによる対露攻撃を戦勝計画の柱に位置づけ容認を求めてきたが、バイデン氏はロシアの米欧への報復を懸念し拒んできた。しかし、北朝鮮がロシアの侵略を支援するため約1万人の部隊を派兵。一部は、ウクライナが今夏以降占拠を続ける露西部クルスク州に投じられた。

同州が露軍側に奪還され、戦況がウクライナに不利に傾く事態を回避するため、バイデン氏は14日からの南米訪問の直前に決断した。

ウクライナはATACMSで同州内の露軍や北朝鮮軍の集結地点などを直接攻撃するとみられ、米高官は同紙に対し「これ以上派兵すべきでないとのメッセージを北朝鮮に送る」と語った。

ロシアの侵略開始以降、バイデン氏はウクライナが勝利に必要と訴える兵器や能力の提供を迅速に許可しない対応を続けてきたが、北朝鮮参戦とトランプ氏の勝利で環境は一変し、残る任期中に自らの権限で最も効果的な決断に踏み切った形だ。長射程兵器を提供する英仏なども追随するとみられる。【11月18日 産経】
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欧州も同調する動き。

****EU製武器によるロシア領内攻撃、加盟国の合意を期待=ボレル氏****
 欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は18日、ウクライナがEU製の武器をロシア領内への攻撃に使用することについて、EU内で合意することへの期待を示した。

EU外相会議の前に、「ウクライナが矢を止めるだけでなく、射手を撃ち抜くためにも、われわれが提供した武器を使えるようにすべきと何度も訴えてきた」と述べた。

「これが行うべきことだと信じている。再び議論になると思うが、各国が同意することを願っている」と語った。【11月18日 ロイター】
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当然ながらロシアは反発しています。ロシアの反応が核兵器をチラつかせることもなく比較的穏当なのは、まだ政治発表がないせいでしょうか。

****米、ウクライナに長距離攻撃許可なら緊張高まる=ロシア大統領府****
ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領内を攻撃することを米政府が許可すれば、緊張が高まり、米国の紛争への関与が深まることになると述べた。

ロイターは17日、関係筋の話として、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領内を攻撃することをバイデン政権が許可したと報じた。

ペスコフ報道官は、退陣するバイデン政権が火に油を注ぎ、ウクライナ紛争をエスカレートさせることを望んでいると述べた。【11月18日 ロイター】
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ペスコフ報道官は「質的に新たな緊張の段階であり、米国の関与が新たな状況にあることを意味する」と語っていますが、“新たな緊張”ということでは、北朝鮮参戦という“新たな緊張”をもたらしたのはロシアの方です。

【トランプ氏周辺は猛反発 一枚岩でもない共和党内部】
アメリカ国内ではトランプ氏周辺は猛批判の様子。

****なぜ今さら長射程ミサイル解禁なのか、ウクライナ戦争をめぐるバイデン最後の賭け****
<ウクライナに米国製兵器でロシア領内を攻撃することを許可したバイデン政権に対して、戦争をエスカレートさせるのかとトランプ支持派がX上で猛烈な批判を展開している>

(中略)バイデン政権の決定はすぐに反発を招き、トランプ支持者の一部がX(旧ツイッター)で、戦争の早期終結という公約のトランプに対し、任期残り2カ月のバイデンがウクライナ戦争をエスカレートさせるようとしていると非難した。

ジョージア州選出の共和党議員のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、バイデンをこう非難した。「アメリカ国民は11月5日の大統領選投票日に、外国の戦争に資金を提供したり戦ったりすることを望まないという考えを明らかにした。われわれは自分たちの問題を解決したいのだ。もうたくさんだ。こんなことはやめなければならない」

ベンチャーキャピタリストで政治経済の話題を配信するオールイン・ポッドキャストの共同ホストを務めるデービッド・サックスもXに投稿し、「トランプはウクライナでの戦争を終わらせる権限を勝ち取った。では、バイデンは任期最後の2カ月で何をしようというのか? 大規模な戦争拡大だ。彼の目的はトランプに最悪の状況をもたらすことだ」

ユタ州選出のマイク・リー上院議員(共和党)がXに投稿した「リベラルは戦争が大好き」「戦争は大きな政府を促進する」というコメントに対しては、実業家でトランプ政権に入る予定のイーロン・マスクが「これは真実だ」と返信した。

バイデンの決断についてトランプはまだ声明を出していないが、長男のドナルド・トランプ・ジュニアはXにこう書いている。「軍産複合体は、父が平和を創造し命を救うチャンスを得る前に、確実に第3次世界大戦を起こしたいようだ。何兆ドルもの資金を確保しなければならない。無駄に命が失われる! 愚か者め!」

保守系学生団体ターニングポイントUSAの創設者チャーリー・カークは、Xでこう主張した。「バイデンは第三次世界大戦を起こそうとしている。病的だし、完全に頭がおかしい。アメリカの兵器をロシアの内陸に撃ち込んだりするべきではない!ロシアがアメリカにミサイルを撃ち込むためにミサイルを供与するようなものだ」(後略)【11月18日 Newsweek】
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もっとも、“米共和党で安全保障政策に精通するターナー下院議員は「もっと早くゼレンスキー氏の嘆願に耳を傾けるべきだった」とバイデン氏の対応の遅さを批判した。”【11月18日 時事】ということで、共和党内部も浮くラナイ支援に関しては一枚岩ではないようです。

たしかに、政権最終盤の今になって・・・というのは中途半端な感も。やるなら「もっと早く・・・」という感も。

第1次トランプ政権時も、あと数日で・・・といった段階で、バイデン政権への置き土産のような施策もとられましたが・・・。

もっとも、「ATACMS」によるロシア領内の軍事拠点への攻撃がゲームチェンジャーになりうるかどうかは知りません。繰り返しになりますが、「もう少し早ければ・・・」

【中国企業 ロシア向け軍用ドローン生産】
ロシア支援の側では北朝鮮参戦以外にも。

****中国、ロシア向けドローン生産か EUが指摘と香港紙****
香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは18日までに、欧州連合(EU)が中国新疆ウイグル自治区でロシア軍のための軍用ドローン(無人機)が生産されている決定的な証拠を得たと報じた。複数の外交筋の証言としており、EUは中国に確認を求めている。

中国政府の承認を得たものかどうかは不明。ただ外交筋は中国で政府の許可なしに軍用品や兵器の生産は難しいとみている。

同紙によると、EU当局者の一人は、中国の工場で生産されたドローンがロシアに送られ、ウクライナでの戦争に使われたと語った。

EU当局者は中国当局がどの程度認識しているか確認する必要があるとの考えを示した。【11月18日 共同】
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中国政府は関与を否定するでしょうが、中国みたいな国で、政府の許可なくロシアに軍用ドローンを供与なんて話があったら、そっちがビックリでしょう。

外国メディアへの規制が厳しい新疆ウイグル自治区で・・・というのが、いかにも・・・と言う感も。
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ウクライナ  ルール・理念なき「力による平和」・ディールのトランプ流外交でどうなる?

2024-11-11 23:00:15 | 欧州情勢

(2019年、G20大阪サミットで撮影【11月11日 ロイター】 個人的には、ウクライナが両者の間でどのように扱われるかということもさることながら、強権的プーチン大統領と非常に親密とされるトランプ氏の「体質」が非常に懸念されます。)

【トランプ氏 「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指す】
復権が決まったトランプ氏は「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指しているとされています。

その実例が、かつてシリアにミサイルを撃ち込み、そのことを中国・習近平主席との会食で周氏に伝えたことがあげられます。シリアに明確な力を示すとともに、中国に対して「中国にも容赦しないぞ」みたいな圧力をかけた・・・・。

****第三次大戦前夜の世界 トランプ流「力による平和」の内実問われる 試金石はウクライナ 「トランプ2.0」の衝撃①****
米大統領に返り咲くトランプ前大統領は2期目の政権で、「力による平和」を外交・安全保障政策の柱に据えるとされる。敵対者を圧倒する軍事力で侵略を抑止し、無謀な戦争を回避して平和を実現する戦略である。

過去にはレーガン大統領が1981年に就任後、ソ連に対して「力による平和」を推進し、東西冷戦の勝利に導いた。

「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」。トランプ氏が訴え続けてきた危機意識だ。 

共和・民主両政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏は昨年9月、「米国がロシア、中国、北朝鮮、イランという4つの敵対国連合と同時に向きあう未曽有の事態」を米外交誌で警告した。 

中東では翌10月、イスラム原理主義組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃し、イスラエルとイランおよび親イラン勢力との紛争が拡大した。ロシアはウクライナ侵略の長期化に伴って中国、北朝鮮、イランと結託を深め、北朝鮮がロシアに派兵して参戦するに至った。 

米議会が設置した超党派専門家パネル「国防戦略委員会」も報告書で「近い将来、大規模な戦争が起きる可能性」を指摘した。

権威主義勢力に対する抑止が効かなかったバイデン政権への国民の不信は、民主党候補、ハリス副大統領への厳しい評価に直結した。有権者は「(自らの任期中に)大規模戦争は起きなかった」と誇示するトランプ氏にかじ取りを託した。 

シリアへの巡航ミサイル攻撃が実例
ペンス前副大統領の補佐官だったケロッグ退役陸軍中将は、トランプ氏には「力による平和」の実例があると語る。2017年にシリアのアサド政権が猛毒のサリンを民間人に使用したとして、シリアの空軍基地に対して行った巡航ミサイル攻撃だ。 

「米国が対処すれば大量破壊兵器の使用を容赦しないという明確なシグナルになるだろう。ロシアも北朝鮮もあなたの出方を見ている」。ケロッグ氏はこうトランプ氏らに進言したという。数時間後、トランプ氏はマティス国防長官が提示した基地への限定攻撃を指示した。 

「この行動で抑止の一線が確立された」とケロッグ氏は語り、力を行使する指導者の意思が抑止を形成するのだと強調する。

2期目のトランプ氏に「力による平和」の内実はあるのか。それがすぐに試されるのはウクライナだ。
トランプ氏はプーチン露大統領と即座に停戦交渉を開始するというが、具体的戦略は明言していない。

プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ。ウクライナが多大な譲歩を迫られるような交渉にトランプ氏は本気で動くのか。それとも、プーチン氏を慌てさせる「選択肢」を用意するのか。

■ウクライナには「変貌」期待する声も
(中略)
ウクライナの人々は、将来への不安感と重ね合わせて米大統領選の行方を注視した。男性によれば、発言が変わりやすく、プーチン露大統領との親密な関係を誇示するトランプ氏は「信用されていない」。ただ、「トランプ氏がロシアに強硬な態度へと変わることを期待する声も一部にある」という。

「トランプ氏は世界をかき乱す破壊力の持ち主だ」と語るのは国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏だ。トランプ氏の「予測不可能性」に期待する向きは多い。同盟国は予測困難なトランプ外交に何を期待するかより、自ら何ができるかを示すことが重要とミード氏は述べている。(後略)【11月7日 産経】
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【真相がわからない「トランプ・プーチン電話会談」報道】
そのウクライナに関して、トランプ氏がプーチン大統領と電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した・・・と、今日朝方報じられました。

****トランプ氏、プーチン氏にウクライナ戦争拡大しないよう忠告=米紙****
トランプ次期米大統領はロシアのプーチン大統領と7日に電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した。米紙ワシントン・ポストが10日、関係筋の話として報じた。

トランプ氏は選挙期間中にウクライナ戦争を1日で終結させる解決策を見つけると述べていた。

複数のメディア報道によると、トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領とも6日に話をしたという。【11月11日 ロイター】
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しかし、夕方になってこれをロシアが否定。

*****ロシア大統領府、プーチン氏とトランプ氏の電話会談を否定****
ロシア大統領府(クレムリン)は11日、ウラジーミル・プーチン大統領と米国のドナルド・トランプ次期大統領が先週、ウクライナ紛争について電話会談したとする米メディアの報道を否定した。(中略)

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者団に対し、「完全に虚偽の情報」だと述べ、電話会談が行われたというのは事実ではないと否定した。 【11月11日 AFP】FPBB News
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奇妙なのはトランプ氏側からの情報がないこと。
単なる偽情報なのか、偽情報だけどトランプ氏にとってはロシアに圧力をかける好ましいイメージなので放置したのか、実際に電話会議が行われたが、ロシアとしてはプーチン大統領がトランプ氏から指示・圧力を受けたようなイメージは好ましくないとして否定したのか・・・よくわかりません。

【国務長官候補はウクライナ支援否定】
ウクライナ支援をめぐっては各方面からトランプ氏へのいろんな要望・期待も。

バイデン大統領は支援継続を求めています。

****バイデン氏、トランプ氏にウクライナ支援から撤退しないよう要請へ****
サリバン米大統領補佐官は10日、バイデン大統領がトランプ次期大統領にウクライナ支援から手を引かないよう求める考えだと明らかにし、13日に予定する両氏の会談では国内外の政策上の優先事項について話し合うとの見通しを示した。(中略)

バイデン氏がトランプ氏就任までの70日間で「議会と次期政権に対し、米国がウクライナから手を引くべきではなく、ウクライナから手を引けば欧州のさらなる不安定化を招くと訴える」考えだとした。

議会にウクライナ追加支援の法案可決を求めるかどうかとの質問には明確な回答を避けた。

米政府監査院によると、バイデン政権下で議会は1740億ドル余りのウクライナ支援予算を承認してきた。

トランプ次期政権で国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はCBSのインタビューで、「米国民は他国の主権を守るために資金や資源を使う前に、ここ米国の主権が守られることを望んでいる」と述べ、ウクライナ支援を批判した。【11月11日 ロイター】
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上記記事にもあるように、国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はウクライナ支援に否定的です。

****次期トランプ政権で国務長官候補のハガティ前駐日大使 ウクライナ支援継続に反対姿勢****
アメリカの次期トランプ政権で国務長官など要職への起用が取り沙汰されている共和党・ハガティ上院議員がウクライナ支援よりもアメリカ国内の問題に焦点をあてるべきとして支援継続に強く反対する姿勢を示しました。

10日、CBSテレビに出演したハガティ上院議員はウクライナ支援について「膨大な金額が使われている。アメリカ国民は国境問題などの国内の問題に焦点をあてたいのだ」と支援継続に否定的な立場を強調しました。

また、自身を「ウクライナ支援に関して1セントからでも反対してきた数少ない上院議員だ」と評し、「アメリカ・ファースト」主義を徹底すべきだと強調しました。

また、日本などの同盟国については「各国がそれぞれの防衛力を強化すべき」と主張したうえで、日本の防衛費倍増は「前向きだ」として、トランプ次期政権下では日韓の連携がより緊密になるとの見方を示しています。

ハガティ上院議員は前回のトランプ政権時に駐日大使を務め、大統領選挙の際には副大統領候補の一人に名前が挙がっていました。【11月11日 テレ朝news】
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【焦りを募らせるウクライナ】
当事者のウクライナは、戦局的に劣勢にあり、領土をロシアに占領された状態でトランプ氏の停戦交渉が始まるとの状況に「焦り」を示しています。

****ウクライナ、トランプ和平案に焦り「安全保証のない停戦は危険だ」…米の支援停止に現実味****
米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、ウクライナへの軍事支援停止やウクライナに妥協を迫る停戦交渉が現実味を帯びてきた。トランプ氏とロシアのプーチン大統領が対話に前向きな姿勢を見せる中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は焦りを募らせている。

ゼレンスキー氏は7日、ハンガリーの首都ブダペストで行われた「欧州政治共同体」(EPC)首脳会議後の記者会見で、「信頼できる明確で現実的な安全の保証がない中で、停戦の話をするのは危険だ。ウクライナの占領を続け、独立と主権を破壊するための地ならしでしかない」と述べた。トランプ氏が意欲を示しているプーチン氏との交渉への警戒感をあらわにした。

ロシアに国土の約2割を占領されているウクライナは、占領の固定化につながる「戦闘の凍結」には反対だ。停戦後、ロシアの再侵攻を防ぐための「安全の保証」も米欧に求めている。

トランプ氏はウクライナへの軍事支援に否定的で、当選後すぐに和平を実現させると根拠なしに主張してきたが、具体案は語っていない。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは6日、トランプ氏の政権移行チームがウクライナの和平について、〈1〉現在の前線に沿って非武装地帯を設ける〈2〉ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を少なくとも20年間認めない代わりとして、米国は軍事支援を継続する――という案が検討されていると報じた。バンス次期副大統領も9月、非武装地帯の設定とウクライナの「中立化」を主張した。

こうした案は、ウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退やウクライナのNATO加盟断念を求めるロシアの主張に近い。

一方、新政権で再び閣僚に就く可能性が取りざたされているポンペオ前国務長官は、NATOへの早期加盟を支持する立場だ。欧州の負担を増やして支援を継続し、対露制裁を強化した上で交渉することを提案している。

トランプ氏が新政権で実際にどのような対応をとるかは見通せない。トランプ氏の当選後、ゼレンスキー氏らウクライナ政府高官はこぞって、トランプ氏が1期目に多用した「力による平和」という言葉を使い、トランプ政権への期待を示した。まずは良好な関係を築き、トランプ氏の翻意を促す狙いのようだ。

ただ、ウクライナ抜きの和平交渉はせず、必要な限り支援するとしてきたバイデン政権の方針は転換される公算が大きい。

ウクライナが侵略終結に向けて策定した「勝利計画」は、米国の支援が停止となれば前提条件が崩れる。ウクライナの野党議員は6日、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」とSNSで嘆いた。【11月9日 読売】
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【戦局は「膠着」からロシア攻勢に転換】
一方、ロシアは冒頭【産経】記事に“プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ”とあるように、東部戦線での占領地域を拡大するとともに、ウクライナがロシア領内に侵攻した地域についても奪還を目指しています。

膠着状態と言われてきた東部戦線は、ロシアの攻勢で動き始めています。

****ウクライナ軍が東部で劣勢、兵力不足で要衝陥落…情報機関「もはや膠着状態ではない」****
ロシアの侵略を受けるウクライナ東部では今年秋に入って要衝の陥落が相次いでおり、ウクライナ軍の劣勢が目立ち始めている。以前から課題となってきた兵力不足が大きな要因で、戦況は悪化している。

ウクライナ軍参謀本部は8日、東部ドネツク州の輸送拠点ポクロウシクの南方約40キロ・メートルのクラホベ方面で前日、50回の戦闘があったと発表した。露軍はポクロウシクを陥落させるため、周囲を包囲する作戦を取っているとみられる。

英誌エコノミストによると、ウクライナ軍が10月に失った領土は約620平方キロ・メートル。1か月に失った面積としては侵略開始以降、最大となる。ウクライナ軍総司令官は今月2日、SNSで「これまでで最も強力な攻勢の一つに耐えている」と述べた。

ウクライナ軍は、10月初めに同州ウフレダルから撤退した。下旬には同州セリドベを失ったとみられている。いずれも露軍との紛争が始まった2014年から防衛拠点としてきた要衝だ。

東部では露軍とウクライナ軍の戦力が拮抗きっこうする状況が続いてきた。だが、米紙ニューヨーク・タイムズは今月1日、米軍や情報機関が「もはや戦況は膠着こうちゃく状態ではない」と分析していると報じた。

ウクライナ軍が苦戦する最大の原因は、兵力不足とされる。同じ部隊が交代なしで戦い続け、疲労による戦力低下が指摘されている。

露西部クルスク州への越境攻撃で防衛がさらに手薄になったとの指摘もある。同州では露軍がウクライナ軍が制圧した地域の奪還を始めたほか、援軍で派遣された北朝鮮兵が参戦し、ウクライナ軍は守勢を余儀なくされている。【11月8日 読売】
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ウクライナがロシア領内に侵攻したロシア西部クルスク州についても、ロシアによる大規模な奪還作戦が予定されており、それには北朝鮮から「援軍」も含まれているとも報じられています。

****北朝鮮軍兵士5万人含む部隊がロシア西部で戦闘準備 近日中に攻撃開始か 米報道***
ウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州で、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊が戦闘準備に入ったとアメリカメディアが報じました。

ニューヨークタイムズは10日、アメリカとウクライナの当局者の話として、ロシア軍が、ウクライナ軍の越境攻撃が続くクルスク州で、反撃のため、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊を編成したと報じました。

ウクライナの当局者は、数日中に北朝鮮軍による攻撃が始まるとみています。

また、アメリカの評価として、ロシア軍は主戦場であるウクライナ東部の戦線から、兵士を撤退させることなく、兵力を集めていて、複数の戦線で同時に戦闘をすることが可能になっていると伝えています。

アメリカの当局者は、北朝鮮軍の兵士は砲撃や、基本的な歩兵戦術、塹壕を撤去する訓練を受けていて、ウクライナの陣地へ正面から投入されるとみているということです。【11月10日 テレ朝news】
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クルスク州への越境攻撃でウクライナは東部戦線で防衛がさらに手薄になって劣勢に立たされ、ロシアは東部戦線から兵士を撤退させることなくクルスク州奪還作戦を始める・・・となると、ウクライナの越境攻撃開始時に言われていたように「妥当な作戦だったのか?」という疑問を裏付ける形にもなります。

【この状況でロシア有利の停戦となれば、「ルール」より「力」が優先することにも】
いずれにしても、停戦交渉の場における立場の優劣を決めるのは戦局の状況。すでに多くの地域を占領され、その奪還が実現できず、更にロシア側の攻撃圧力にさらされ後退も余儀なくされているウクライナとしては、トランプ氏が停戦交渉に乗り出すと、非常に厳しい状況となります。

しかし、ロシアの「力による現状変更」を認めることになる停戦については、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」ということにもなり、「ルール」より「力」が優先することについて「それでいいのか?」という疑問も。

ディール(取引)に基づく国際秩序・・・・そこには理念もルールもありません。
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