(【2月7日 Bloomberg】 チベット仏教最高指導者ダライ・ラマの言葉を引用してインスタグラムに掲載したことが中国共産党の反発を買い、謝罪に追い込まれたベンツのCM
もっとも、この件に関しては、中国の圧力に屈した云々以前に、「(その正当性は別にして)中国が激しく反発することは当たり前の話で、ベンツはそんなことも考えなかったのだろうか?欧州の中国への認識はその程度か?」というのが個人的印象)
【中国の対外投資への警戒感】
世界各国への中国の急速な進出は、軋轢・不安をも生んでいます。
中国のアフリカや南アジアなどでの融資が関係国の債務負担を増大させており、返済に窮した融資受入国に不利な、中国にとっては有利な結果を強いられている・・・という指摘がしばしばなされます。
当然ながら、中国は反論しています。
****中国の融資でアフリカ諸国の債務増大か、中国外相が反論****
中国の王毅外交部長(外相)は現地時間14日、アンゴラのアウグスト外相とルアンダで会談し、共同記者会見に臨んだ。新華網が伝えた。
アンゴラなどアフリカ諸国への中国の融資が関係国の債務負担を増大させているとの見方について、王部長は次のように答えた。
こうした見方は下心のあるもので、全くの偽りだ。近年、中国アフリカ協力が日増しに拡大・深化するにともない、中国側は確かに融資面でアフリカ諸国への支えを強化してきた。中国側はこの過程において、終始いくつかの基本原則に従っているということを強調する必要がある。
第1に、アフリカ自身の発展のニーズに応えること。(中略)
第2に、いかなる政治的条件もつけないこと。(中略)
第3に、互恵・ウィンウィンの原則を堅持すること。(中略)
現在のアフリカ諸国の債務は長期的蓄積の結果だ。債務問題解決の構想もすでに明確だ。つまり持続可能な発展の道を歩み、経済の多元的発展を実現することだ。中国側はこれを揺るぎなく支持し、かつアフリカの自力での発展能力の向上、経済・社会発展の好循環の実現のために努力したいと考えている。
われわれはアフリカ経済が去年すでに上昇に転じ、アフリカ諸国がいずれも持続可能な発展の重要性に気づいていることを喜ばしく思っている。【1月15日 Record china】
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中国資本の急速な流入は、途上国だけでなく、欧米・オーストラリアなどでも進行しています。
****中国、外国農地を「爆買い」 豪、米、欧州でも買収の動き****
中国国民14億人の高まる食の需要に追い付こうと、中国による外国農地の買収の動きが広がっている。
中国の民間および国有企業は2012年までに発展途上国の900万ヘクタールに及ぶ土地に投資してきたが、昨年にはフランスの広大な小麦畑が中国ファンドによって買収されるなど、近年はオーストラリア、米国、欧州の土地にも中国からの注目が集まっているという。
米シンクタンク、アメリカンエンタープライズ研究所とヘリテージ財団の統計によると、海外の農業への中国からの投資は2010年以降、少なくとも総額940億ドル(約10兆円)に上り、うちほぼ半分がここ2年での投資だという。
■オーストラリアの巨大牧場を買収
中国の不動産開発業者「上海CRED」は2016年、オーストラリアの鉱業会社と連携し、豪国内にある世界最大規模の巨大牧場を運営するS・キッドマンを買収。同社はオーストラリアの牧場運営大手で、畜牛18万5000頭を所有し、豪農地の2.5%を管理している。
オーストラリアでは、2012年にも中国の繊維メーカー大手・山東如意科技集団が豪最大の綿花栽培農場を買収しており、物議を醸している。
■ニュージーランドでは酪農場
ニュージーランドでは中国食品大手のブライトフード・グループ(光明食品集団)、乳製品メーカーの伊利、投資会社の上海鵬欣集団が地元農業経営者らの苦情をよそに、数十もの酪農場を買収。現在、中国市場で高く評価されている製品が同農場で生産されている。
■米国の豚肉加工大手も
中国の豚肉加工最大手、万洲国際は2013年、米豚肉加工大手のスミスフィールドフーズを47億ドル(約5000億円)で買収。スミスフィールドフーズの負債の引き受けを含め、買収総額は71億ドル(約7500億円)に上った。
■欧州の穀倉地帯、ウクライナでも
欧州の穀倉地帯とも呼ばれるウクライナでは2013年、国内300万ヘクタールの農地を中国企業に貸し出すとの報道があったが、これに世論が反発。最終的にこの報道は否定された。【2月26日 AFP】
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急激な進出は警戒感を強めるところともなっており、フランスでは海外投資家による農場買収の阻止に乗り出しています。
****中国による農地買収を規制へ、マクロン仏大統領が言明****
フランスで、中国企業が地価の安さと地方部の困窮に乗じて農地買収を進めているという懸念が広がっており、これを受けてエマニュエル・マクロン大統領は22日、海外投資家による農場買収の阻止につながる措置を講じる構えを示した。
マクロン大統領は、パリの大統領府を訪れた若い農業従事者らを前に、「フランスの農地はわが国の主権が関わる戦略的な投資だと私は考えている。よって購入の目的も把握しないまま、何百ヘクタールもの土地が外資によって買い上げられるのを許すわけにはいかない」と述べた。
マクロン大統領が念頭に置いているのは、中国ファンドが昨年、仏中部の穀物産地アリエ県で900ヘクタールの土地を購入、さらに、2016年にアンドル県で1700ヘクタールが買収されたという報道だ。(中略)
海外からの農地買収をめぐっては、オーストラリアが今月初めに新たな規制を発表。また中国資本の海外進出については、過去にアフリカやカナダからも懸念する声が上がっている。【2月23日 AFP】
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農地買収だけでなく、中国による企業や空港への投資への警戒感も広がっています。
****中国による欧州企業や空港への投資、独仏が警戒感****
欧州経済への中国の影響力に対して懸念が高まる中、欧州を代表する企業や空港への中国からの投資にフランスやドイツが警戒感を強めている。
仏政府筋が26日に明らかにしたところによると、同政府はハブ空港として急成長している南部トゥールーズの空港の株式10%を中国の企業連合(空港の株式49.99%を保有)へ売却せず、株式の過半数譲渡を阻止する方針だという。(中略)
また、ドイツ政府も同国経済への中国の影響に強い警戒感を示している。
メルセデス・ベンツを傘下に置く自動車大手ダイムラーは先週、中国自動車大手の吉利汽車の李書福会長がダイムラーの株式9.69%を72億ユーロ(約9500億円)で取得し、筆頭株主になったと明らかにした。
これを受けブリギッテ・ツィプリース独経済・エネルギー相は26日、日刊紙シュツットガルト新聞のインタビューに応じ、李氏の動きについて「非常に注意深く見守る必要がある」と語り、懸念を表明した。
またツィプリース氏は別のインタビューで、ドイツが「市場に沿ったものである限り、投資を歓迎する開かれた経済」であると述べた一方、それが「他国政策の利益のための手段として利用されてはならない」と強調した。【9月27日 AFP】
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個々の企業・施設だけでなく、中東欧諸国やギリシャが中国との経済・政治関係を強めている結果、これらの国々を代弁者とすることで、欧州・EU全体の意思決定に関し、「中国は単に欧州のドアをノックしているどころか、実はすでに中に入り込んでいる」との指摘も。
****中国人はドアをノックしているのではなく、すでに入ってきている****
2018年2月3日、ドイツ国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国が欧州連合(EU)の政策決定に対する影響力を日増しに強めているとする、ドイツ週刊誌の記事を伝えた。
5日発売のドイツ週刊誌デア・シュピーゲル最新号に掲載された記事によると、メルカトル中国研究所、ベルリングローバル公共政策研究所の最新研究結果から「中国は単に欧州のドアをノックしているどころか、実はすでに中に入り込んでいる」ことが明らかになったという。
記事は、「ロシアがフェイクニュースで欧州世論に影響を与えるのとは異なり、中国は暗中でEUの政策決定層に影響を与えることを試みている。今のところ、そのやり方はほとんど注目を浴びていない。メルカトル中国研究所の研究員は、ロシアよりも中国のやり方がよりクレバーであり、真剣に中国に対処すべきだと語った」と伝えている。
また、「中国の利益を守っているのは主にギリシャやハンガリーといった国であり、これらの国は中国による投資に依存しているか、中国の政治、経済の発展モデルにより賛同しているという背景がある」と紹介。
その例として、「中国共産党当局が獄中の弁護士を虐待している」というEUの批判書簡への署名をハンガリーが拒否し、中国の人権状況に関するEU共同声明の発表を阻止したことを挙げた。
記事は「中国が触角を伸ばしていることは、欧州理事会が置かれているドイツも感じている」とし、「昨年6月、投資活動の制限に関するEU決議がギリシャとチェコによって水を差された。メルケル独首相はこの決議の主な支持者であり、その内容は今後中国からの投資を含むEU域内の投資を、よりしっかり監督管理するためのものだったのだ」と伝えているという。【2月6日 Record china】
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【中国の対外投資、前年比で30%近く減少】
中国に対する警戒感の高まりもあって、中国の対外投資に急ブレーキがかかっているとのこと。
****中国の対外投資が急ブレーキ、3割減で初の前年割れ 米欧が警戒、中国自身の資本流出規制も追い打ち****
中国の対外投資に急ブレーキがかかっている。中国商務省のまとめで、中国企業が2017年に海外で行った直接投資(金融分野を除く)は総額1200億8000万ドル(約13兆円)と、前年を29.4%下回った。
中国の対外投資額で前年割れは03年の統計公表開始後、初めて。
安全保障上の理由などから、米欧で中国からの投資や買収に拒否反応を示すケースが増えていることに加え、海外への不正な資金流出を警戒する中国政府の規制強化も追い打ちをかけている。
習近平指導部が進めている現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関連し、スリランカやパキスタン、ジブチなどのプロジェクトで、中国による軍事転用の懸念が強まり、米欧が対中警戒をこれまで以上に強めた点が急ブレーキの背景にある。
中国の電子商取引大手アリババ集団の関連会社による米国の国際送金大手マネーグラム社の買収計画が昨年末までに事実上、拒否されたのが典型例だ。(中略)
ほかにも中国による買収計画で、米国の保険会社や証券取引所などの案件が相次ぎ拒否された。また、欧州連合(EU)欧州委員会は昨年9月、域外企業による欧州企業買収への審査強化策を打ち出した。インフラや軍事、宇宙などの分野で、ハイテクが海外の政府系企業に渡ることを防ぐ狙いがある。
他方、中国政府による規制強化も影を落とした。中国企業が対外投資を隠れみのに、国内で蓄積した資金の海外逃避を試みるケースが相次いだためだ。
このため16年末から、中国当局は不動産やスポーツ、ホテルなどの対外投資の審査を厳格化。結果的に対外投資の抑制につながっている。【2月28日 産経】
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対外投資額が前年比で30%近く減少、「資本純輸入国」に逆戻りして、国家戦略「走出去(外に打って出よ)」に影を落とす形になっていますが、投資の“質”も問題視されています。
****成果乏しかった対外投資戦略 チャイナマネー発言力にも影****
(中略)だが問題は「金額」にとどまらない。上海の中欧国際工商学院(大学院大学)の丁遠副院長は中国メディアに対し、中国の対外投資の成功率は10%にすぎず“学費”を払っている段階だとした上で、「(チャイナマネーの発言力を高めるという)政治目的と企業の利益追求という経済目的を混同している」として、対外投資に「質」が伴っていない問題を厳しく指摘した。【2月28日 産経】
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【中国という“大蛇”は、周辺をうろつくだけで自己検閲や微妙な行動の変化を引き起こす】
ただ、上記のような対外投資の停滞は“一時的”なものであり、“学費”を払っていれば次第に上達します。
今年に入ってマクロン仏大統領、メイ英首相が相次いで中国詣でして、“一帯一路”への協力姿勢を明らかにしているように、大枠としてはすでに中国経済に強く依存する世界経済になっています。
その影響は、中国の意あるところを忖度する政治姿勢にもつながります。
****中国の「心理的圧迫作戦」に屈する欧米の民主主義****
中国共産党が影響力を及ぼそうとする相手にとって、党は威圧的な存在だ。
中国問題の専門家、ペリー・リンク氏はかつて、共産党を「シャンデリアの大蛇」と呼んだ。
その蛇は、周辺をうろつくだけで、自己検閲や微妙な行動の変化を引き起こす。ただこれは、長らく中国国内での話だった。だが中国がますます外へと向かうのに伴い、欧米諸国の政財界、学界の有力者らも、神経をすり減らすような修正を余儀なくされている。
デービッド・キャメロン前英首相は分かっているはずだ。
キャメロン氏は2012年、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ氏と会談し、中国共産党から批判を浴びた。その後は、英中関係を「黄金時代」と呼ぶなど、中国から好意的な対応を取り戻すため、残りの任期を通じて懸命な努力を続けることになった。
これを共産党の心理的圧迫作戦の勝利と呼ぼう。
中国の不快感が臭わす報復への恐怖だけで、英政府の態度を変化させるのに十分だった。英国の首相が今後、チベット仏教の指導者と面会することはないだろう。
英国の対中外交は一段と恭しいものとなった。批判的な向きはこれを「おべっか」だと呼んでいる。英当局者は人権問題を追及する姿勢も後退させた。
そして今、キャメロン氏は、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」担当の大使として再浮上している。
欧米型の民主主義にとって、高圧的に影響力の拡大を図る中国共産党の策略に対処することが唯一かつ最大の難題となる公算が大きい。(中略)
中国は経済や安全保障の面だけなく、価値観についても欧米と競っていると考えている。中国の長期的な戦略は、独裁的な発展モデルを推進することだ。目先の外交目標は、チベットや台湾、南シナ海などあらゆる問題について、海外から中国の立場に対する支持を得ることにある。
中国はその取り組みの一環として、信頼されている欧米の代弁者を取り込み、自らの立場を伝えさせようとしている。
民主主義諸国は何年も、冷戦後の時代は自由主義の秩序が必然的に勝利すると確信し、こうした活動に対して無邪気にも慢心しきっていた。
だがオーストラリアでは、中国の大物実業家の関係者から、2つの主要政党に献金が流れている。中国の国営メディアは、オーストラリア国内の中国語メディアが報道する内容ほぼすべてを掌握。また中国の外交官が中国人留学生を監視している。
中国によるこれらの取り組みは、オーストラリアの国家主権に対する挑戦だ。中国が国内問題に干渉しないよう外国政府に厳しく警告していることを踏まえると、ひどく皮肉に満ちている。
だが、オーストラリア政府は今ようやく、共産党の侵入に対して目を覚ましつつある。
マルコム・ターンブル豪首相の対抗措置――中国による豪政界への献金を制限する新法――で最も驚くべき点は、従来の制度が長い間、いかに操作されやすい状況にあったかを認めたことだ。(中略)
民主主義国家にとって、脅威の性質を認識することは、脅威に対抗する第一歩だ。その大蛇が司令塔から離れることはない。中国のメディア、学者、市民社会団体や民間、国有いずれの企業の周りにも大蛇が巻き付いている。
そしてこれらの組織が、欧米の通信社や大学、企業との協力に関する合意に影を落としている。
だが真の問題は、民主主義の欧米諸国がどの程度、自らの価値観を犠牲にしてまで、共産党を刺激しないよう努め、経済的な恩恵を受けようとするかだ。
中国の脅迫作戦は奏功している。欧米諸国の政府は、チベット問題など、中国政府にとってセンシティブな問題に言及することに二の足を踏んでいる。
中国の負の面を描いたハリウッド映画が制作されることはない。学者は自らの在留資格を脅かすような研究テーマは選ばない。メディア機関は批判の手を緩めたい衝動にかられる。
中国が世界最大の経済国になろうとする中、自由を守るために、中国に立ち向かうことで支払う代償は増えている。 ノルウェーは2010年、中国の反体制活動家、劉暁波氏にノーベル平和賞を与えたことで、中国政府による経済・外交関係の凍結を解除するのに6年を要した。
前述のペリー氏は2002年に執筆したエッセイで「通常、その大蛇が動くことはない。その必要はない」と綴っている。「継続的な沈黙は『あなたが自分で決めなさい』というメッセージなのだ」【1月10日 WSJ】
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経済・政治だけでなく、軍事面でも中国は軍近代化によって「2035年には、インド太平洋地域で陸海空、宇宙、サイバー、電磁波など、すべての戦力で米軍とその同盟国軍以上となる。米側の有事への対応は難しくなるだろう」(ランド研究所の上級研究員コーテズ・クーパー氏)【2月28日 JB Press「米国が危惧、中国軍の戦力が米軍を上回る日」】とも。
世界の多くの人も、こうした流れを感じ取っているようにも。
****世界の3割「中国が新たなリーダーに」、米国は過去最低****
2018年1月20日、参考消息網によると、米調査機関ギャラップがこのほど実施した世界134カ国を対象とした世論調査で、回答者の3割が「中国が世界の新たなリーダーになる」と回答した。「米国が世界のリーダーである」と答えた割合は、過去最低の3割にとどまった。
オーストリアメディアによると、「米国が世界のリーダーである」と答えた割合は、オバマ前大統領政権時の48%、クリントン元大統領政権時の49%を大きく下回り、歴代の大統領で最低となっている。134カ国中65カ国で10ポイント以上下げた。特に欧州、オーストラリア、中南米での下落が大きかった。
一方、「米国に代わって新たな世界のリーダーになる国」について、最も多かった回答は「ドイツ」で41%。次いで「中国」の31%、「ロシア」の27%だった。【1月22日 Record china】
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