(【10月18日 BBC】)
【長期化するガザでの地上作戦 アメリカも制御できず】
パレスチナ・ガザ地区では国際社会が憂慮していたイスラエル軍の地上侵攻に実質的には近い大規模な地上作戦が続いており、今後長期に渡り更に激化・拡大する様相を呈しています。
****数週間は「忍耐必要」とイスラエル軍報道官****
イスラエル軍報道官は31日、パレスチナ自治区ガザで拡大している地上作戦に絡み、今後数週間は「忍耐が必要だ」と述べ、作戦が当面続くとの見通しを示した。【10月31日 共同】
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停戦を求める国連や多くの国の声はともかく、停戦をハマスのテロ攻撃への屈服と見なすイスラエル・ネタニヤフ政権をアメリカもこれまでのところは抑制できていません。
****バイデン米政権、イスラエル抑制できず 戦闘の「人道中断」不発 出口戦略に不安も****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの地上作戦を拡大させたことで、バイデン米政権が苦しい立場に置かれている。バイデン政権は人道的観点から「戦闘中断」を求めてきたが、イスラム原理主義組織ハマスの「壊滅」を掲げて攻撃を続けるイスラエルを抑制できないまま。ハマスの後ろ盾であるイランの介入を警戒しながら、慎重な外交を迫られている。(後略)【10月31日 産経】
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イスラエル国内でも人質救出を優先すべきとの声はありますが、ネタニヤフ首相は「確実とは言えないが、地上作戦は人質が解放される可能性を生む」【10月31日 TBS NEWS DIG】との論理で押し切る構えです。
ハマスの奇襲を許したことでネタニヤフ首相は国内的に強い批判に曝されており、地上作戦での「成果」でその政治的難局を乗り切る思惑のようです。
こうした状況で犠牲者はすでに1万人規模に膨らんでいますが、今後の戦闘激化で特にガザ地区において更に増加することが予想されます。
【「どちらにつくのだ?」と踏み絵を踏まされるような状態】
今回のパレスチナの状況は、イスラエルとパレスチナ、どちらを支持するのかという「選択」を人々にも、国家にも迫っています。
****議論が分かれる欧米 〜自衛権とヒューマニズムの根本的な矛盾****
飯田)アジアの方ではそうでもないかも知れませんが、ヨーロッパやアメリカの言論を見ていると、「どちらにつくのだ?」と踏み絵を踏まされるような状態です。
神保(国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙氏))アメリカ、ヨーロッパ、イスラエルを含む方々と議論したり、メーリングリストでやり取りしていますが、アメリカやヨーロッパでは、かつてないほど人々の価値観が揺さぶられているような感覚があります。(中略)
それは「自衛権とヒューマニズムの根本的な矛盾」だと思います。イスラエルを支持する人たちにとっては、あれだけの酷い事件が起きたのだから、自衛しなくてはいけない。それに対して「やってはいけません」と言う人を「人間として信用できない」というところもある。(中略)
逆に、アメリカのなかでもZ世代からすると、そもそも構造的な暴力が生じていたところに対する異議申し立ての延長に、あの声があるのだとすると、自分たちがやっていたことの反省なくして、軍事行動を正当化するのは何事かという意識がある。
この世界観の根本的矛盾が、意外と9.11のアメリカの価値観よりも、はるかに先鋭に出てきている感じです。
イスラエルを支持する人とパレスチナを支持する人の間で価値観の根本的矛盾が出ている
神保)この件でハーバードなどでは「旗幟を鮮明にしていない」として、イスラエル寄りの方が大学への寄付をやめる状況が起きています。(中略)
ウクライナ情勢に関しては、「ウクライナを支持する」と明確な形で「侵略反対」が出ましたが、今回はそう簡単に判断できないと考えている人が多いわけです。
学内では、いろいろな学生を中心にパレスチナ支持のデモが起きている。でも、イスラエル寄りの方々からすると「なぜ、そんな状態を放置しているのだ」となり、価値観の根本的矛盾が出ているのを感じます。(後略)
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アメリカの大学における割れる世論については以下のようにも。
****中東紛争観で対立 米エリート大学に寄付者が猛反発****
卒業生の大口寄付者の一部は大学の左傾化に失望感を募らせてきたが、イスラエル・ハマス紛争が決定打に
(中略)ハーバード大やペンシルベニア大などの一流大学は、ハマスによる攻撃とその被害に対する大学の反応に怒った卒業生から激しい反発を受けている。7日の攻撃後、大学が直ちに、そして断固たる態度でハマスと反ユダヤ主義を非難しなかったと卒業生は糾弾。また、学内の緊張が高まる中で、ユダヤ系学生を十分に保護していないと主張している。
中には、これまで大学の左傾化に失望感を募らせてきたが、これが決定打になったと言う人もいる。多くの大口寄付者が寄付をやめる計画を発表、あるいは再検討していると述べている。(後略)【10月25日 WSJ】
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****いまアメリカでこれだけパレスチナ支持が広がる深刻な理由****
<ハマスの奇襲攻撃はイスラエルにとっての「9.11」だった、はず......それなのに、イスラエル寄りのアメリカでパレスチナ支持が広がる背景とは>
(中略)寄付者たちは、大学当局が反ユダヤ主義を黙認し、テロを支持する主張を許容していると考えて、怒りをたぎらせているのだ。いわば「イスラエル版9.11テロ」のような出来事の後、野蛮な斬首やレイプ、赤ちゃんや高齢者の惨殺を正当化するなど言語道断だ、というわけだ。
しかし、学生たちの反応は意外なものではない。2001年の9.11テロ直後、パレスチナに共感する人は16%だったのに対し、イスラエルに共感する人はその3倍を超えていた。この点では、共和党支持者も民主党支持者も、無党派層も大きな違いがなかった。
ところが近年は、パレスチナに共感する人の割合は30%前後、民主党支持者の間では50%に迫っていた。どうして、このような変化が生まれたのだろうか。(後略)【10月26日 Newsweek】
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【ハマスのテロ行為ではなく、イスラエル建国時の問題を議論のスタートにすべき】
イスラエルの自衛権と、これまでのパレスチナが置かれてきた窮状・イスラエルの力による占領政策・膨大なパレスチナ側の犠牲のいずれを重視するかという話ではなかなか結論がでませんが、個人的にはやはりパレスチナ人の存在を無視したイスラエル建国時の問題を議論のスタートにすべきだと考えています。
****1948年以前のイスラエルとは バルフォア宣言とは****
中東でパレスチナと呼ばれる地域は長年、オスマン帝国が支配していた。第1次世界大戦でこのオスマン帝国が敗れると、パレスチナはイギリスが支配するようになった。
この土地には当時、ユダヤ人が少数派として、アラブ人が多数派として暮らしていた。ほかに、さらに少数の民族集団もいた。
ユダヤ人の「ナショナル・ホーム(民族的郷土)」をパレスチナに作るするよう、国際社会がイギリスにその役割を託したのを機に、ユダヤ人とアラブ人の緊張は高まった。
これは1917年の「バルフォア宣言」に端を発している。当時のアーサー・バルフォア英外相は、イギリスに住むユダヤ人の団体に対する書簡で、「パレスチナにおけるナショナル・ホームの設立」に賛成し、約束したのだった。
この宣言をもとにイギリスはパレスチナ統治を開始。イギリス委任統治領パレスチナは1922年設立の国際連盟で承認された。
ユダヤ人にとってパレスチナは先祖の土地だった。しかしパレスチナのアラブ人も、ここは自分たちの土地だと主張し、ユダヤ人の国をパレスチナに作ることに反対した。
1920年代から1940代にかけて、パレスチナ地域へ流入するユダヤ人は増え続けた。大勢が欧州での迫害、とりわけナチス・ドイツによるホロコーストを逃れて、パレスチナに入った。
ユダヤ人とアラブ人の間の暴力、そしてイギリスの支配に対する暴力も、増え続けた。
1947年になると国際連合の総会が、パレスチナを分割しアラブ人とユダヤ人の国をそれぞれ作り、エルサレムはそれとは別の国際都市にするという決議案を可決した。
ユダヤ人団体の指導者たちはこの国連総会決議を受け入れたが、アラブ側は拒否。この決議は実施されずに終わった。
イスラエル国家はなぜ、どのように作られたのか
問題が解決できないまま、イギリスは1948年にパレスチナから撤退した。ユダヤ人指導者たちはただちに、イスラエル建国を宣言した。
この新国家は、迫害を逃れるユダヤ人の安全な避難先となると同時に、ユダヤ人にとっての民族的郷土となるべきものとされた。
こうした中、すでにユダヤ人とアラブ人の軍事組織の戦闘は激化していた。イスラエルが建国を宣言した翌日、アラブ連盟に加盟するシリア、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトの5カ国がイスラエルを一斉攻撃した。
何十万人ものパレスチナ人が、自宅を追われるか逃げるかした。パレスチナの人たちはこれを「アル・ナクバ(大災厄)」と呼ぶ。
翌年に停戦が実現するまでの間に、イスラエルは領土のほとんどを支配するようになっていた。
ヨルダンは「ヨルダン川西岸」と呼ばれるようになった地域を支配し、ガザ地区はエジプトが支配した。
エルサレムは、イスラエル軍が西側を、ヨルダン軍が東側を支配した。
和平協定のないままの停戦だったため、この後も何十年にわたり戦争や戦闘が続いた。(後略)【10月18日 BBC「イスラエル・ガザ戦争 対立の歴史をさかのぼる」】
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パレスチナ人が多く暮らす土地にユダヤ人の国家をつくる、責任を有するはずのイギリスは撤退・・・こうした状況で生まれたイスラエル建国には無理があったと考えます。
いろんな立場の者の権利が考慮される現代であれば到底許されないやり方です。欧米がイスラエル建国を認めた背景には、長年のユダヤ人迫害、ナチス・ドイツのホロコーストに対する負い目みたいなものがあったのでは・・・。
でも昔は、一方的に建国する・・・そんなものでしょう。ごく当た前のこと。
ただ、何百年のも昔の話なら、「今更・・・」ということにもなりますが、イスラエル建国からはまだ数十年。しかもその間、4回の中東戦争や、ハマスなどとイスラエルの衝突、インティファーダ、イスラエルの「10倍返し」のような報復が続き、傷が癒える時間もなく、血が流れ続けています。
もちろん、今更イスラエル建国を取り消すことはできませんので、建国によって追い出されたパレスチナ難民の存在を第一に考えて、ユダヤ人とパレスチナ人共存の枠組みを構築する必要があります。
その点で、イスラエルのとってきた「ユダヤ人国家」への固執、入植地拡大、ガザ地区の封鎖、現政権の「二国家共存」否定姿勢などは問題を悪化させたばかりで支持できません。そうした姿勢が憎しみとテロリズムを生み育ててきたと考えます。
「何もない状況で急に起こったわけではない」「パレスチナの人々は56年間、息のつまる占領下に置かれてきた。自分たちの土地を入植によって少しずつ失い、暴力に苦しんできた。経済は抑圧されてきた。人々は家を追われ、破壊されてきた。そうした苦境を政治的に解決することへの希望は消えつつある」というグテレス国連事務総長の考えに同意します。
【イスラエル・パレスチナの問題への認識を問われているウクライナ・ゼレンスキー大統領】
日本は国連総会での「人道的休戦」を要求する決議案採択で「内容面でのバランス欠如のため」ということで棄権しましたが、イスラエル・パレスチナの問題への認識を問われている国のひとつがロシアの侵略に曝されているウクライナ・ゼレンスキー政権です。
****ウクライナ提唱の和平案を各国代表など協議も共同声明見送りに****
ウクライナが提唱するロシアとの和平案について話し合う協議が、66の国や国際機関の代表らが参加して地中海の島国マルタで開かれ、原子力と放射線の安全や食料の安全保障などの分野で連携強化を進めていくことを確認しました。
一方、今回の協議で、当初、ウクライナが目指した共同声明の発表が見送られたことがわかりました。
イスラエル・パレスチナ情勢をめぐる各国の立場の違いが表面化したことが理由で、緊迫する情勢がウクライナ支援に向けた議論に影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。
一方、今回の協議で、当初、ウクライナが目指した共同声明の発表が見送られたことがわかりました。
イスラエル・パレスチナ情勢をめぐる各国の立場の違いが表面化したことが理由で、緊迫する情勢がウクライナ支援に向けた議論に影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。
この協議は、ウクライナが提唱するロシアとの和平案について話し合うもので、ことし6月と8月に続いて3回目です。
28日から地中海の島国マルタで開かれた協議には、G7=主要7か国や新興国など、過去2回を上回る66の国や国際機関の代表らが参加しました。
ただ、前回参加した中国や中東のエジプト、UAE=アラブ首長国連邦などは欠席しました。(中略)
28日から地中海の島国マルタで開かれた協議には、G7=主要7か国や新興国など、過去2回を上回る66の国や国際機関の代表らが参加しました。
ただ、前回参加した中国や中東のエジプト、UAE=アラブ首長国連邦などは欠席しました。(中略)
イスラエル・パレスチナ情勢影響「共同声明」は見送りに
一方、外交筋によりますと、協議では、当初、ウクライナは共同声明の発表を目指し、調整を進めてきました。
しかし、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐる各国の立場の違いが表面化し、インドやトルコの代表は「ガザ地区でも国際法を順守すべきだ」と述べ、ウクライナ侵攻を続けるロシアを非難する一方でイスラエルの立場を擁護するのは欧米側の二重基準だとする趣旨の意見を表明したということです。
こうしたことから各国の合意が必要な共同声明の発表は見送られ、共同議長をつとめたウクライナとマルタによる議長声明にとどまったことがわかりました。
イスラエル・パレスチナ情勢に関心が集まる中でウクライナ側は、60を超える国などの代表が一堂に会したことには意義があると強調するものの、緊迫する情勢がウクライナ支援に向けた議論に影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。【10月30日 NHK】
しかし、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐる各国の立場の違いが表面化し、インドやトルコの代表は「ガザ地区でも国際法を順守すべきだ」と述べ、ウクライナ侵攻を続けるロシアを非難する一方でイスラエルの立場を擁護するのは欧米側の二重基準だとする趣旨の意見を表明したということです。
こうしたことから各国の合意が必要な共同声明の発表は見送られ、共同議長をつとめたウクライナとマルタによる議長声明にとどまったことがわかりました。
イスラエル・パレスチナ情勢に関心が集まる中でウクライナ側は、60を超える国などの代表が一堂に会したことには意義があると強調するものの、緊迫する情勢がウクライナ支援に向けた議論に影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。【10月30日 NHK】
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上記記事では「欧米側の二重基準」が指摘されていますが、ウクライナ自身のイスラエル寄りの姿勢へのアラブ諸国などの反発を呼んでいる側面があります。
****ウクライナ支援に影響する「ハマスとイスラエルの軍事衝突」****
(中略)
ハマスとイスラエルの軍事衝突の影響 〜イスラエルの国防に親和的な姿勢を取るウクライナにアラブ諸国が反発
神保(国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙氏))かねてよりウクライナが提唱している10項目の和平案を国際社会でまとめていき、ゼレンスキー大統領はG7広島サミットのときから示していましたが、グローバルサウスを含めた多くの国々を和平案に抱き込みたかったのです。
この狙い自体は重要だと思います。つまり、グローバルサウスの国々はどっちつかずの態度を取ってきたけれど、やはり「和平は大事だ」と。しかも、和平案を推進するにあたってはウクライナの立場が大事ということで、積極的に外交を行ってきたけれど、実はここにもハマスとイスラエルの軍事衝突の影響が出ているのです。(中略)
ウクライナがイスラエルの国防に親和的な姿勢を取ったことに対して、アラブ諸国は反発を深めています。インドやトルコの代表も会議のなかで「ガザ地区でも国際法を遵守すべきだ」とし、エジプトやアラブ首長国連邦(UAE)などは欠席しています。中国も欠席しています。
グローバルなウクライナの立場への支援が、ガザとイスラエルの衝突によって揺らいでいる
神保)ウクライナの立場への支援が、ガザとイスラエルの衝突によって揺らいできてしまっています。ウクライナの和平協議も、もともと一筋縄ではいかないのですが、グローバルな世論形成にも暗雲が立ち込めているのです。(後略)【10月31日 ニッポン放送 NEWS ONLINE)】
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ゼレンスキー大統領は7日、ハマスによる越境攻撃の直後に「世界は結束と連帯のもとに立ち上がり、テロが二度と、生命を奪ったり壊したりすることがないようにしなければならない。イスラエルの自衛権は、疑う余地がない」とイスラエルとの「連帯」を示し、8日にはネタニヤフ首相と緊急の電話協議を行っています。
更に、イスラエルへの訪問を同国政府に要請したものの、イスラエル側が「今はその時ではない」と断ったとも報じられています。
ゼレンスキー大統領がイスラエル支持に走ったのは、軍事技術大国イスラエルからの今後の軍事支援の可能性を期待してのこととも見られています。
しかし、ロシアのウクライナへの侵攻を激しく非難しながら、ガザを侵攻しようとするイスラエルに「連帯」を示すゼレンスキー大統領の姿勢は多くの国の共感を得ることができなかったようです。
ゼレンスキー大統領もその後カタールやサウジ首脳と電話協議するなど軌道修正を図っているようですが、前出のようにマルタでの国際会議では共同声明を出せない結果ともなっています。