孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ問題  人々・国家に「踏み絵」を迫る ウクライナ・ゼレンスキー大統領も問われる認識

2023-10-31 23:02:50 | パレスチナ

(【10月18日 BBC】)

【長期化するガザでの地上作戦 アメリカも制御できず】
パレスチナ・ガザ地区では国際社会が憂慮していたイスラエル軍の地上侵攻に実質的には近い大規模な地上作戦が続いており、今後長期に渡り更に激化・拡大する様相を呈しています。

****数週間は「忍耐必要」とイスラエル軍報道官****
イスラエル軍報道官は31日、パレスチナ自治区ガザで拡大している地上作戦に絡み、今後数週間は「忍耐が必要だ」と述べ、作戦が当面続くとの見通しを示した。【10月31日 共同】
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停戦を求める国連や多くの国の声はともかく、停戦をハマスのテロ攻撃への屈服と見なすイスラエル・ネタニヤフ政権をアメリカもこれまでのところは抑制できていません。

****バイデン米政権、イスラエル抑制できず 戦闘の「人道中断」不発 出口戦略に不安も****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの地上作戦を拡大させたことで、バイデン米政権が苦しい立場に置かれている。バイデン政権は人道的観点から「戦闘中断」を求めてきたが、イスラム原理主義組織ハマスの「壊滅」を掲げて攻撃を続けるイスラエルを抑制できないまま。ハマスの後ろ盾であるイランの介入を警戒しながら、慎重な外交を迫られている。(後略)【10月31日 産経】
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イスラエル国内でも人質救出を優先すべきとの声はありますが、ネタニヤフ首相は「確実とは言えないが、地上作戦は人質が解放される可能性を生む」【10月31日 TBS NEWS DIG】との論理で押し切る構えです。

ハマスの奇襲を許したことでネタニヤフ首相は国内的に強い批判に曝されており、地上作戦での「成果」でその政治的難局を乗り切る思惑のようです。

こうした状況で犠牲者はすでに1万人規模に膨らんでいますが、今後の戦闘激化で特にガザ地区において更に増加することが予想されます。

【「どちらにつくのだ?」と踏み絵を踏まされるような状態】
今回のパレスチナの状況は、イスラエルとパレスチナ、どちらを支持するのかという「選択」を人々にも、国家にも迫っています。

****議論が分かれる欧米 〜自衛権とヒューマニズムの根本的な矛盾****
飯田)アジアの方ではそうでもないかも知れませんが、ヨーロッパやアメリカの言論を見ていると、「どちらにつくのだ?」と踏み絵を踏まされるような状態です。

神保(国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙氏))アメリカ、ヨーロッパ、イスラエルを含む方々と議論したり、メーリングリストでやり取りしていますが、アメリカやヨーロッパでは、かつてないほど人々の価値観が揺さぶられているような感覚があります。(中略)

それは「自衛権とヒューマニズムの根本的な矛盾」だと思います。イスラエルを支持する人たちにとっては、あれだけの酷い事件が起きたのだから、自衛しなくてはいけない。それに対して「やってはいけません」と言う人を「人間として信用できない」というところもある。(中略)

逆に、アメリカのなかでもZ世代からすると、そもそも構造的な暴力が生じていたところに対する異議申し立ての延長に、あの声があるのだとすると、自分たちがやっていたことの反省なくして、軍事行動を正当化するのは何事かという意識がある。

この世界観の根本的矛盾が、意外と9.11のアメリカの価値観よりも、はるかに先鋭に出てきている感じです。

イスラエルを支持する人とパレスチナを支持する人の間で価値観の根本的矛盾が出ている
神保)この件でハーバードなどでは「旗幟を鮮明にしていない」として、イスラエル寄りの方が大学への寄付をやめる状況が起きています。(中略)

ウクライナ情勢に関しては、「ウクライナを支持する」と明確な形で「侵略反対」が出ましたが、今回はそう簡単に判断できないと考えている人が多いわけです。

学内では、いろいろな学生を中心にパレスチナ支持のデモが起きている。でも、イスラエル寄りの方々からすると「なぜ、そんな状態を放置しているのだ」となり、価値観の根本的矛盾が出ているのを感じます。(後略)
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アメリカの大学における割れる世論については以下のようにも。

****中東紛争観で対立 米エリート大学に寄付者が猛反発****
卒業生の大口寄付者の一部は大学の左傾化に失望感を募らせてきたが、イスラエル・ハマス紛争が決定打に

(中略)ハーバード大やペンシルベニア大などの一流大学は、ハマスによる攻撃とその被害に対する大学の反応に怒った卒業生から激しい反発を受けている。7日の攻撃後、大学が直ちに、そして断固たる態度でハマスと反ユダヤ主義を非難しなかったと卒業生は糾弾。また、学内の緊張が高まる中で、ユダヤ系学生を十分に保護していないと主張している。

中には、これまで大学の左傾化に失望感を募らせてきたが、これが決定打になったと言う人もいる。多くの大口寄付者が寄付をやめる計画を発表、あるいは再検討していると述べている。(後略)【10月25日 WSJ】
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****いまアメリカでこれだけパレスチナ支持が広がる深刻な理由****
<ハマスの奇襲攻撃はイスラエルにとっての「9.11」だった、はず......それなのに、イスラエル寄りのアメリカでパレスチナ支持が広がる背景とは>
(中略)寄付者たちは、大学当局が反ユダヤ主義を黙認し、テロを支持する主張を許容していると考えて、怒りをたぎらせているのだ。いわば「イスラエル版9.11テロ」のような出来事の後、野蛮な斬首やレイプ、赤ちゃんや高齢者の惨殺を正当化するなど言語道断だ、というわけだ。

しかし、学生たちの反応は意外なものではない。2001年の9.11テロ直後、パレスチナに共感する人は16%だったのに対し、イスラエルに共感する人はその3倍を超えていた。この点では、共和党支持者も民主党支持者も、無党派層も大きな違いがなかった。

ところが近年は、パレスチナに共感する人の割合は30%前後、民主党支持者の間では50%に迫っていた。どうして、このような変化が生まれたのだろうか。(後略)【10月26日 Newsweek】
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【ハマスのテロ行為ではなく、イスラエル建国時の問題を議論のスタートにすべき】
イスラエルの自衛権と、これまでのパレスチナが置かれてきた窮状・イスラエルの力による占領政策・膨大なパレスチナ側の犠牲のいずれを重視するかという話ではなかなか結論がでませんが、個人的にはやはりパレスチナ人の存在を無視したイスラエル建国時の問題を議論のスタートにすべきだと考えています。

****1948年以前のイスラエルとは バルフォア宣言とは****
中東でパレスチナと呼ばれる地域は長年、オスマン帝国が支配していた。第1次世界大戦でこのオスマン帝国が敗れると、パレスチナはイギリスが支配するようになった。

この土地には当時、ユダヤ人が少数派として、アラブ人が多数派として暮らしていた。ほかに、さらに少数の民族集団もいた。

ユダヤ人の「ナショナル・ホーム(民族的郷土)」をパレスチナに作るするよう、国際社会がイギリスにその役割を託したのを機に、ユダヤ人とアラブ人の緊張は高まった。

これは1917年の「バルフォア宣言」に端を発している。当時のアーサー・バルフォア英外相は、イギリスに住むユダヤ人の団体に対する書簡で、「パレスチナにおけるナショナル・ホームの設立」に賛成し、約束したのだった。

この宣言をもとにイギリスはパレスチナ統治を開始。イギリス委任統治領パレスチナは1922年設立の国際連盟で承認された。

ユダヤ人にとってパレスチナは先祖の土地だった。しかしパレスチナのアラブ人も、ここは自分たちの土地だと主張し、ユダヤ人の国をパレスチナに作ることに反対した。

1920年代から1940代にかけて、パレスチナ地域へ流入するユダヤ人は増え続けた。大勢が欧州での迫害、とりわけナチス・ドイツによるホロコーストを逃れて、パレスチナに入った。
ユダヤ人とアラブ人の間の暴力、そしてイギリスの支配に対する暴力も、増え続けた。

1947年になると国際連合の総会が、パレスチナを分割しアラブ人とユダヤ人の国をそれぞれ作り、エルサレムはそれとは別の国際都市にするという決議案を可決した。

ユダヤ人団体の指導者たちはこの国連総会決議を受け入れたが、アラブ側は拒否。この決議は実施されずに終わった。

イスラエル国家はなぜ、どのように作られたのか
問題が解決できないまま、イギリスは1948年にパレスチナから撤退した。ユダヤ人指導者たちはただちに、イスラエル建国を宣言した。

この新国家は、迫害を逃れるユダヤ人の安全な避難先となると同時に、ユダヤ人にとっての民族的郷土となるべきものとされた。

こうした中、すでにユダヤ人とアラブ人の軍事組織の戦闘は激化していた。イスラエルが建国を宣言した翌日、アラブ連盟に加盟するシリア、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトの5カ国がイスラエルを一斉攻撃した。

何十万人ものパレスチナ人が、自宅を追われるか逃げるかした。パレスチナの人たちはこれを「アル・ナクバ(大災厄)」と呼ぶ。

翌年に停戦が実現するまでの間に、イスラエルは領土のほとんどを支配するようになっていた。
ヨルダンは「ヨルダン川西岸」と呼ばれるようになった地域を支配し、ガザ地区はエジプトが支配した。
エルサレムは、イスラエル軍が西側を、ヨルダン軍が東側を支配した。

和平協定のないままの停戦だったため、この後も何十年にわたり戦争や戦闘が続いた。(後略)【10月18日 BBC「イスラエル・ガザ戦争 対立の歴史をさかのぼる」】
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パレスチナ人が多く暮らす土地にユダヤ人の国家をつくる、責任を有するはずのイギリスは撤退・・・こうした状況で生まれたイスラエル建国には無理があったと考えます。

いろんな立場の者の権利が考慮される現代であれば到底許されないやり方です。欧米がイスラエル建国を認めた背景には、長年のユダヤ人迫害、ナチス・ドイツのホロコーストに対する負い目みたいなものがあったのでは・・・。

でも昔は、一方的に建国する・・・そんなものでしょう。ごく当た前のこと。
ただ、何百年のも昔の話なら、「今更・・・」ということにもなりますが、イスラエル建国からはまだ数十年。しかもその間、4回の中東戦争や、ハマスなどとイスラエルの衝突、インティファーダ、イスラエルの「10倍返し」のような報復が続き、傷が癒える時間もなく、血が流れ続けています。

もちろん、今更イスラエル建国を取り消すことはできませんので、建国によって追い出されたパレスチナ難民の存在を第一に考えて、ユダヤ人とパレスチナ人共存の枠組みを構築する必要があります。

その点で、イスラエルのとってきた「ユダヤ人国家」への固執、入植地拡大、ガザ地区の封鎖、現政権の「二国家共存」否定姿勢などは問題を悪化させたばかりで支持できません。そうした姿勢が憎しみとテロリズムを生み育ててきたと考えます。

「何もない状況で急に起こったわけではない」「パレスチナの人々は56年間、息のつまる占領下に置かれてきた。自分たちの土地を入植によって少しずつ失い、暴力に苦しんできた。経済は抑圧されてきた。人々は家を追われ、破壊されてきた。そうした苦境を政治的に解決することへの希望は消えつつある」というグテレス国連事務総長の考えに同意します。

【イスラエル・パレスチナの問題への認識を問われているウクライナ・ゼレンスキー大統領】
日本は国連総会での「人道的休戦」を要求する決議案採択で「内容面でのバランス欠如のため」ということで棄権しましたが、イスラエル・パレスチナの問題への認識を問われている国のひとつがロシアの侵略に曝されているウクライナ・ゼレンスキー政権です。

****ウクライナ提唱の和平案を各国代表など協議も共同声明見送りに****
ウクライナが提唱するロシアとの和平案について話し合う協議が、66の国や国際機関の代表らが参加して地中海の島国マルタで開かれ、原子力と放射線の安全や食料の安全保障などの分野で連携強化を進めていくことを確認しました。

一方、今回の協議で、当初、ウクライナが目指した共同声明の発表が見送られたことがわかりました。
イスラエル・パレスチナ情勢をめぐる各国の立場の違いが表面化したことが理由で、緊迫する情勢がウクライナ支援に向けた議論に影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。

この協議は、ウクライナが提唱するロシアとの和平案について話し合うもので、ことし6月と8月に続いて3回目です。

28日から地中海の島国マルタで開かれた協議には、G7=主要7か国や新興国など、過去2回を上回る66の国や国際機関の代表らが参加しました。

ただ、前回参加した中国や中東のエジプト、UAE=アラブ首長国連邦などは欠席しました。(中略)

イスラエル・パレスチナ情勢影響「共同声明」は見送りに
一方、外交筋によりますと、協議では、当初、ウクライナは共同声明の発表を目指し、調整を進めてきました。

しかし、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐる各国の立場の違いが表面化し、インドやトルコの代表は「ガザ地区でも国際法を順守すべきだ」と述べ、ウクライナ侵攻を続けるロシアを非難する一方でイスラエルの立場を擁護するのは欧米側の二重基準だとする趣旨の意見を表明したということです。

こうしたことから各国の合意が必要な共同声明の発表は見送られ、共同議長をつとめたウクライナとマルタによる議長声明にとどまったことがわかりました。

イスラエル・パレスチナ情勢に関心が集まる中でウクライナ側は、60を超える国などの代表が一堂に会したことには意義があると強調するものの、緊迫する情勢がウクライナ支援に向けた議論に影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。【10月30日 NHK】
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上記記事では「欧米側の二重基準」が指摘されていますが、ウクライナ自身のイスラエル寄りの姿勢へのアラブ諸国などの反発を呼んでいる側面があります。

****ウクライナ支援に影響する「ハマスとイスラエルの軍事衝突」****
(中略)
ハマスとイスラエルの軍事衝突の影響 〜イスラエルの国防に親和的な姿勢を取るウクライナにアラブ諸国が反発
神保(国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙氏))かねてよりウクライナが提唱している10項目の和平案を国際社会でまとめていき、ゼレンスキー大統領はG7広島サミットのときから示していましたが、グローバルサウスを含めた多くの国々を和平案に抱き込みたかったのです。

この狙い自体は重要だと思います。つまり、グローバルサウスの国々はどっちつかずの態度を取ってきたけれど、やはり「和平は大事だ」と。しかも、和平案を推進するにあたってはウクライナの立場が大事ということで、積極的に外交を行ってきたけれど、実はここにもハマスとイスラエルの軍事衝突の影響が出ているのです。(中略)

ウクライナがイスラエルの国防に親和的な姿勢を取ったことに対して、アラブ諸国は反発を深めています。インドやトルコの代表も会議のなかで「ガザ地区でも国際法を遵守すべきだ」とし、エジプトやアラブ首長国連邦(UAE)などは欠席しています。中国も欠席しています。

グローバルなウクライナの立場への支援が、ガザとイスラエルの衝突によって揺らいでいる
神保)ウクライナの立場への支援が、ガザとイスラエルの衝突によって揺らいできてしまっています。ウクライナの和平協議も、もともと一筋縄ではいかないのですが、グローバルな世論形成にも暗雲が立ち込めているのです。(後略)【10月31日 ニッポン放送 NEWS ONLINE)】
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ゼレンスキー大統領は7日、ハマスによる越境攻撃の直後に「世界は結束と連帯のもとに立ち上がり、テロが二度と、生命を奪ったり壊したりすることがないようにしなければならない。イスラエルの自衛権は、疑う余地がない」とイスラエルとの「連帯」を示し、8日にはネタニヤフ首相と緊急の電話協議を行っています。

更に、イスラエルへの訪問を同国政府に要請したものの、イスラエル側が「今はその時ではない」と断ったとも報じられています。

ゼレンスキー大統領がイスラエル支持に走ったのは、軍事技術大国イスラエルからの今後の軍事支援の可能性を期待してのこととも見られています。

しかし、ロシアのウクライナへの侵攻を激しく非難しながら、ガザを侵攻しようとするイスラエルに「連帯」を示すゼレンスキー大統領の姿勢は多くの国の共感を得ることができなかったようです。

ゼレンスキー大統領もその後カタールやサウジ首脳と電話協議するなど軌道修正を図っているようですが、前出のようにマルタでの国際会議では共同声明を出せない結果ともなっています。

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台湾総統選挙  野党候補一本化を目論む中国の介入か 総統選挙と議会選挙の“ねじれ”予測も

2023-10-30 23:27:49 | 東アジア

(【5月17日 日経】)

【中国 台湾総統選挙で野党候補一本化を促す介入か】
こういう言い方は不謹慎かもしれませんが、日本の選挙でどの政党が政権についても、日本の外交政策なり、国際情勢における日本の立ち位置はそう大きくは変わりません。それよりは、アメリカの大統領選挙の行方の方が、日本の外交により大きな変化をもたらす可能性があります。

更に言えば、日本の外交政策のポイントは端的に言えば日米関係と日中関係ですが、その日中関係に大きく影響するのが台湾がどのような対中国政策をとるのか・・・ということでしょう。

****台湾で政権交代の可能性。対中包囲目指す日米の戦略が一夜にして瓦解する****
台湾の現副総統で与党・民主進歩党(民進党)の次期総統候補、頼清徳主席。2024年1月の総統選挙までは残り3カ月ほどだ。

「総統選挙で野党候補の一本化が実現すれば、47%が支持し、与党・民主進歩党(民進党)候補との差は15%に」

2024年1月予定の台湾総統選で、野党第一党の国民党と第三勢力の民衆党の選挙協力が実現すれば、政権交代に現実味が出るとの世論調査結果を、台湾有力紙の聯合報(9月27日付)が発表した。

民進党政権が退場して連立政権が誕生すると両岸関係が改善し、東アジアの緊張が緩和する可能性は高まり、バイデン政権が構築を進めてきた「日米台同盟」にとって危機的状況になる。(後略)【10月10日 岡田充氏 (ジャーナリスト) BUSINESS INSIDER】
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やや話が先走りましたが、話をスタート地点に戻すと、台湾では来年1月13日投開票で総統選が行われます。
現在、4人の候補が出馬を表明し、事実上の選挙戦を繰り広げています。

与党、民主進歩党の頼清徳氏(らい・せいとく)(64)(現在の副総統で、民主進歩党主席)は各種世論調査でリードを保ち、最大野党、中国国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)新北市長(66)、第三勢力・台湾民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)前台北市長(64)、無所属の実業家、郭台銘氏(73)が追う展開となっています。

台湾メディア、美麗島電子報が27日に発表した世論調査では、頼氏の支持率は33・0%、侯氏は20・8%、柯氏は20・2%、郭氏は6・3%となっています。【10月30日 産経より】

こうした台湾総統選挙に中国が介入を行っているとの見方があります。

無所属の実業家、郭台銘氏は鴻海科技・鴻海精密工業の創業者で、山西省をルーツに持つ外省人二世です。また、2018年の世界長者番付では総資産額で台湾一であった資産家でもあります。

郭台銘氏は国民党候補者を目指しましたが実現せず、無所属で立候補しています。同氏は鴻海のビジネスを通じて中国とのつながりが深く、有力候補4人の中で最も親中色が強く、国民党候補の侯氏が確保を見込んだ国民党の親中支持層を切り崩していますが、世論全体の郭氏の支持率は最下位に沈んでいます。

そうした親中派でもある郭台銘氏の事業の中国拠点に対して、中国当局が税務などの調査を行ったことが明らかになりました。

****中国 ホンハイ精密工業に税務調査 台湾総統選へ政治的背景か****
中国当局は台湾のホンハイ精密工業の中国にある拠点に対して税務などの調査を行ったことを認め、2024年1月の台湾の総統選挙を巡って政治的な背景がある可能性を示唆しました。

中国メディアの「環球時報」によりますと、台湾のホンハイ精密工業の子会社の中国各地にある複数の拠点が最近、中国当局によって、税務や土地の使用状況に関する調査を受けたということです。

これについて、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮 報道官は25日の記者会見で「大陸の関係部門が法律や規則に基づいて調査を行うことは正常な法執行だ」と述べ、中国当局による調査を認めました。

そのうえで「台湾企業が大陸で相応の社会的責任を引き受け、台湾海峡両岸の平和的発展のために前向きな役割を果たすべきだ」と強調しました。

また、朱報道官は2024年1月の台湾の総統選挙に与党・民進党から立候補する予定の頼清徳 副総統について、「平和の旗印のもと『台湾独立』という悪事を行っている。『台湾独立』は戦争を意味し、平和はありえない」と強く非難しました。【10月25日 NHK】
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中国からすると、中国と距離を置く与党・民進党候補に勝利することが第一で、そのためには野党候補一本化が必要で、たとえ親中派であっても勝ち目のない郭台銘氏に選挙戦からの撤退を促す意味合いがあると理解されています。

****台湾・総統選、野党系一本化へ中国介入か****
(中略)
台湾では、(ホンハイ精密工業への)調査は中国による総統選への露骨な介入だと指摘する声がある。台湾紙記者によると、中国当局は以前から票の分散を避けるために野党系3候補を一本化させる動きを見せている。今回の調査は、郭氏に「出馬断念を促す警告」との見方があるという。

無所属での出馬を目指す郭氏は現在、立候補に必要な署名を集めている最中だ。中国での税務調査について、郭氏は30日までにコメントしていない。

一方、頼氏は22日、南部、高雄市で講演した際に「選挙前に税務調査のような手段で台湾の企業家に圧力をかけるやり方は、本当によくない」と中国を批判した。

中国はこれまで台湾での選挙の際、一部の親中派候補に水面下で資金を支援したり偽情報で攪乱(かくらん)を行ったりするなどしてきた。台湾の立法院(国会に相当)は2019年末、中国による選挙干渉を防止するため「反浸透法」を成立させるなど対策を講じてきた。(中略)

このままでは(民進党)頼氏に勝てないと考えた国民、民衆両党は連携が必要だと認識し、今月から候補者を一本化するための協議を継続的に行っている。

だが、候補者の決定方法について、国民党は組織票が影響し同党に有利な「有権者による投票」、民衆党は候補者の人気が結果を左右する「電話世論調査」を主張して難航。30日には党首同士が直接会談したが、結論は出なかった。

近年の景気低迷で与党、民進党の支持率は決して高くない。昨年11月の統一地方選挙では惨敗したばかりだ。野党候補の一本化が実現すれば政権交代の可能性が高まるため、台湾メディアは協議の行方に注目している。【10月30日 産経】
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現在のところ、郭台銘氏は選挙戦を続けています。

****フォックスコン創業者、台湾総統選への意欲変わらず-中国で苦境でも****
来年1月投票の台湾総統選挙に立候補しているフォックスコン・テクノロジー・グループ創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)氏は、同社に対する中国当局の調査が公表されてから初の選挙遊説で、同調査についてコメントを控えた。

数日間、公の場から姿を消していた郭氏が再び登場したことは、フォックスコンの税務を監査し、中国での土地利用を調査している中国当局からの圧力に同氏が屈していないことを示しているようだ。(後略)【10月30日 Bloomberg】
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ただ、“そもそも郭氏の出馬理由については様々な憶測が飛び交っています。中には、民進党を当選させたい意向を固めたアメリカから「選挙を撹乱させよ」という密命を受けて立候補したなどという説もあります。

郭氏の目はアメリカではなく、むしろ中国に向いていると思います。現在の選挙活動は、中国側に対して自分の影響力を見せるいいパフォーマンスになります。

彼にとって当選するかどうかは二の次で、中国寄りの政策を並べて、ある程度の支持層を得られた、ということを中国側に見せつければ成功です。そうすることで、中国国内にある自身の巨大な企業資産を守り抜く。そこへ全神経を傾けていると見るべきです。”【10月26日 台北の私立大学・中国文化大学政治学科の鄭子真教授 新潮社Foresight】との指摘もある郭台銘氏にとって、出馬が裏目に出た感も。

【現状維持を求め、イデオロギー対立が崩れつつある世論の受け皿となっている第三勢力・台湾民衆党の柯文哲氏】
世論調査でトップを走り続ける与党・民進党の頼清徳氏は、以前は急進派としての動きが目立っていましたが、野党陣営が不祥事などで評判を落とす中、元々あった激しさは影をひそめて、安全運転で着実に地固めをしているように見えます。

“今年8月の訪米の際、独立を匂わせるような過激な主張を唱えないようにと、アメリカから釘を刺されたからではないでしょうか。”【同上】との指摘も。

一方、第三勢力・台湾民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)前台北市長は最大野党・国民党との選挙協力について、「国民党は大政党として、小規模な民衆党に『結婚』を強制している。」と批判的対応を示しています。

柯文哲氏は外国メディアとの記者会見で、現政権のもとで中国との対話がないことを批判し、「台湾の民主的で自由な政治体制と生活を守った上で、文化や経済面から中国との交流を再開していく必要がある」「台湾にとって現時点では中国との統一も独立も不可能だ。イデオロギー論争で多くの問題は解決できない」と語っています。

ただ、具体策については明示していません。

台湾世論の多くは中国との「統一」でも「独立」でもなく、「現状維持」を望んでおり、中国との交流も望んでいます。

第三勢力の柯文哲氏が最大野党・国民党候補に伍する支持を得ているのは、こうした世論の受け皿になっていることからと思われます。

****中国との関係「現状維持」が過去最高、「独立」は3.5ポイント減―台湾世論調査****
台湾の経済誌「遠見」と「遠見民意研究調査」が行った世論調査で、中国との関係について「現状維持」を望む人の割合が過去最高になった。台湾メディアの聯合報などが12日付で伝えた。

台湾の22市県で今年9月下旬に行われた調査の結果が同日発表された。それによると、「とりあえず現状維持」(31.9%)と「永遠に現状維持」(27.6%)を合わせた「現状維持」を望む人の割合が59.5%となり、2008年の調査開始以来最高となった。

「独立」を支持する人は22年の28.7%から25.2%と3.5ポイント減少し、「統一」を支持する人は22年の6.1%から8.5%に増加した。

支持政党別では、「独立支持」の割合は民進党支持者で46.3%、民衆党支持者で21.4%、国民党支持者で7.5%。「統一支持」の割合は国民党支持者で15.2%、民衆党支持者で10.6%、民進党支持者で3.8%となった。

戦争については、64.6%が「5年以内に開戦することはない」とし、「5年以内に開戦する」(23.5%)を大きく上回った。また、54.1%が「自分や家族を戦場に行かせたくない」とし、37.6%が「行きたい(行かせたい)」と回答した。20〜29歳では「行きたくない(行かせたくない)」が69%に上った。

一方、74.4%が「両岸(中台)は相互交流を増やすべき」と回答し、46.2%が「対話を保つべき」と回答。このほか、49.8%が「戦争への準備はできていない」と回答した。【10月12日 レコードチャイナ】
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“今までの総統選は、中国との友好か、台湾の主権独立かで真っ二つに分かれていました。しかし近年では、そういったイデオロギー対立の構図が崩れ始めており、柯候補は双方のイデオロギーの崩れた部分の受け皿になっている観があります。”【10月26日 台北の私立大学・中国文化大学政治学科の鄭子真教授 新潮社Foresight】

こうした選挙情勢を踏まえ、もし野党候補の一本化が実現すれば・・・ということで、冒頭の【BUSINESS INSIDER】記事の話になります。

【総統選挙は与党・民進党、議会選挙は与党過半数割れ・・・“ねじれ”の予測も】
選挙戦の方は今後まだ変化する余地がありますが、現時点では、(野党候補一本化が困難という状況で)総統選挙は与党・民進党の頼清徳氏の勝利するものの、同日に行われる立法委員(国会議員に相当)選は与党が過半数割れする可能性が高いと予測されています。

****台湾、総統は与党、議会は野党の可能性高まる 小笠原欣幸・東京外国語大名誉教授****
台湾の選挙もいよいよ大詰めの時期に入る。現時点では、総統選は与党、民主進歩党の頼清徳氏が勝つ公算が大きい一方、同日に行われる立法委員(国会議員に相当)選は与党が過半数割れする可能性が高い。

この1カ月、野党陣営が候補一本化交渉によって世論の注目を集める戦術をとり政権交代の議論を高めることに成功、頼氏のアピールは見えにくくなった。さらに現職立法委員の女性スキャンダルも飛び出し与党は受け身に回っている。

中台関係は大きな争点にはなっていない。野党2候補も訪米し米台関係の重要性を強調したので対米政策も争点でなくなった。与党の得意分野が目立たなくなっている。

とはいえ、頼氏の支持率は2位に一定の差をつけてリードを保ち、野党候補の一本化も困難で、総統選挙は頼氏が有利な状況にある。

野党両党は巧みなダメージコントロールを行い、総統候補の一本化ができなかった場合でも「決裂」とせず、野党協力を立法委員選に拡大し、選挙後の野党連合構想を打ち出して、野党支持者の期待を維持しつづけられるよう工夫している。このため、民進党と中国国民党が競っている選挙区では、国民党に有利な展開が見られる。

11月に入れば3党の比例区名簿、副総統候補が発表され、正式の立候補登録となる。そこから投票まではあっという間だ。このままいけば、民進党政権が継続するものの立法院(国会)では過半数割れとなり、選挙後は野党が政局を左右する可能性が高い。

ただし、行政と立法の「ねじれ」が望ましいのかどうかの議論が始まるのはこれからで、投票行動を変える有権者が出てくる可能性もある。中国の出方も不明だし、中東の戦禍が拡大すれば思わぬ形で台湾の選挙に影響を及ぼす可能性もある。まだまだ目が離せない。【10月30日 産経】
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“人々は効果的な経済刺激政策による、豊かで安心できる政治を望んでいます。民進党の基本的な政策スタンスは、中国の軍事的な圧力に対する防衛体制を強める一方、経済については現状維持志向です。

この8年間、与党が推進する政策で経済が目に見えてよくなった実感はありません。新型コロナウイルスの流行を初期段階で抑えた功績が、もはや何のプラス要因にもなっていないということは、前衛生福利部長の陳時中氏(実直なコロナ対策で一躍名を馳せた)が台北市長選で敗北したことでも明らかです。

蔡政権の8年に不満を持つ有権者は、期待も込めて、新進の民衆党にチャンスを与えようとする。国民党も2022年の地方選挙に勝利した余勢で得票数を伸ばす。結果、立法院の野党候補者の当選者数が増え、民進党にお灸をすえるわけです。”【10月26日 台北の私立大学・中国文化大学政治学科の鄭子真教授 新潮社Foresight】
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イスラエル・ハマス衝突をめぐる周辺国(ヨルダン、トルコ、エジプト、サウジ、シリア)の反応

2023-10-29 23:27:41 | 中東情勢

(トルコ議会で自らが率いる与党・公正発展党の議員を前に、イスラエルによるパレスチナ占領の経緯を記した地図を示すレジェプ・タイップ・エルドアン大統領(2023年10月11日撮影)【10月26日 AFP】)

【ヨルダン 連日の反イスラエルデモ ラーニア王妃の欧米批判】
パレスチナ問題の歴史的経緯、アラブ世界のパレスチナ周辺諸国でイスラエルと外交関係があるのはエジプトとヨルダンのみという国際政治事情などを含めて、パレスチナ問題に関して大きな影響力を有する“キーマン”的な存在が隣国ヨルダン。

ヨルダンの人口は1115万人(2021年)とのことですが、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が公開しているUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)管轄下のパレスチナ難民数のデータによると、2021年半ば時点で、ヨルダンでは約232万人のパレスチナ難民が暮らしている状況です。

(なお、パレスチナ難民以外にも、2023年3月時点、ヨルダンには約66万人のシリア難民がUNHCRに難民登録されていますが、未登録者を含めると約130万人とも言われています。)

また、“ヨルダンの国民の多くはパレスチナからの移住民の子孫とされている”【10月21日 ロイター】、“パレスチナ系の住民が7割近くを占める”【10月28日 テレ朝news】とも。こうなると、ヨルダンにとってパレスチナ問題は国内問題とも言えます。

こうしたパレスチナとの直接的つながりが強いヨルダンですから、今回のイスラエル・ハマスの衝突に関しては、当然に強いイスラエル批判が沸き起こっています。

****ヨルダンで“反イスラエルデモ” 約1万人集まる****
パレスチナ系の住民が7割近くを占めるヨルダンでは、“反イスラエルデモ”が連日起きていて、27日には集団礼拝後に1万人近くが集まりました。

ガザ地区での死者が7326人に上るなか、イスラエルの隣国ヨルダンでは抗議デモが連日開かれていて、27日にはアンマンの中心部に1万人近くが集まりました。(後略)【10月28日 テレ朝news】
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住民のデモ以上に国際的に注目されたのは、欧米ファッション雑誌にも取り上げられる国際的著名人でもあるラーニア王妃のイスラエルを支持する欧米批判でした。

****ガザへの砲撃続き異例の抗議 ラーニア王妃(53)“西側”批判****
中東情勢が泥沼化するなか、ヨルダンのラーニア王妃がイスラエルを支持する西側諸国の対応を批判しました。

■ガザへの砲撃続き…異例の抗議
(中略)CNNの記者と激しく言葉を交わすのは、イスラエルの隣国ヨルダンのラーニア王妃です。
ヨルダン ラーニア王妃:「銃を突き付けて家族全員を殺すのは間違いで、砲撃で死なせるのは問題ないというのでしょうか。これはダブルスタンダードです」

ラーニア王妃は元銀行員という経歴の持ち主で、1993年にアブドラ国王と結婚。現在53歳で4人の子どもの母親です。SNSを積極的に活用し、ロイヤルユーチューバーの先駆けともいわれています。(中略)

親善のため国王とともに各国を訪問するなど王妃としての役割を果たす一方で、ユニセフの子どものための大使として、世界中の子どもの支援に携わっています。注目すべきはその行動力。国民と一緒に抗議集会に参加したことも。

■「民間人の殺害非難」異例抗議
今回、イスラエルとハマスが衝突するとSNSのアイコンを真っ黒に変え、抗議の声を上げました。
ヨルダン ラーニア王妃:「私たちはパレスチナ人であってもイスラエル人であっても、民間人の殺害を強く非難します」

そして、停戦を要求しない西側諸国を批判。
ヨルダン ラーニア王妃:「世界は停戦を求める声さえ上げようとしません。例えイスラエルの同盟国であっても、何も考えずにただイスラエルを支持するのでは何の役にも立たないのです」
交渉のテーブルに着く以外に解決はあり得ないと訴えました。【10月25日 テレ朝news】
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ヨルダンのアブドラ国王はフランス・マクロン大統領との会談で、戦闘が長期化すれば「中東情勢の爆発」を招く可能性があると警告し、危機感を示しています。

****中東情勢「爆発」も=ヨルダン国王、仏大統領と会談****
中東歴訪中のマクロン・フランス大統領は25日、ヨルダンでアブドラ国王と会談した。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの紛争を政治的に解決する方策などを議論。ヨルダン側によると、国王は、戦闘が長期化すれば「中東情勢の爆発」を招く可能性があると警告した。

マクロン氏は24日、イスラエルでネタニヤフ首相、ヨルダン川西岸ラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長と相次ぎ会談。イスラエルで対ハマス有志連合の結成を提唱する一方、ラマラではパレスチナとイスラエルが共存する「2国家解決」以外に、中東の「持続的平和(を実現する道)はない」と強調した。【10月25日 時事】 
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国連総会が27日、「敵対行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案を採択した際に、アメリカ・イスラエルの反対に対し、フランスは賛成に回る(日本や多くの欧州諸国は棄権)など、マクロン大統領の対応も注目されるところですが、それはまた別機会に。

【トルコ エルドアン大統領がデモに参加し、「イスラエルは戦争犯罪国家だ」と非難】
アメリカ・欧州を含め世界各地で停戦を求める反イスラエルデモが行われていますが、ヨルダン同様に大規模な反イスラエルデモが起きているのがトルコ。特に、エルドアン大統領の激しいイスラエル批判が目だっています。

****トルコで大規模な反イスラエルデモ、エルドアン大統領「ガザで起きているのは大虐殺」*****
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザへの攻撃を強化する中、世界各地で28日、大規模な反イスラエルデモが開かれた。

トルコではタイップ・エルドアン大統領がデモに参加し、「イスラエルは戦争犯罪国家だ」と非難した。
AP通信によると、デモは米国や英国、フランス、インドネシア、パキスタンなどで行われた。

トルコ・イスタンブールでは約150万人(主催者発表)が詰めかけた。演説したエルドアン氏は「ガザで起きているのは大虐殺。イスラエルを止められない西側諸国にも責任がある」と強調した。イスラム主義組織ハマスについて、「テロ組織ではない」とも述べた。

エルドアン氏はイスラエルとハマスの戦闘が始まった当初、経済協力を期待して関係改善を進めていたイスラエルへの批判を抑えていた。停戦に向けた仲介にも意欲を示していたが、ガザの人道危機の深刻化を受け、反イスラエル姿勢を鮮明にした。(中略)

トルコは29日、世俗主義を国是に掲げて誕生した共和国の建国100周年を迎えたが、イスラム色の強いエルドアン政権はパレスチナとの連帯を優先し、記念行事を縮小したという。

一方、イスラエルのエリ・コーヘン外相は28日の声明で、駐トルコの外交団を帰国させ、トルコとの関係を見直すと明らかにした。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、28日のテレビ演説で、エルドアン氏の発言を念頭に「戦争犯罪だと非難する者は、倫理観の欠けた偽善的なうそつきだ」と反発しており、両国の関係悪化は避けられない状況だ。【10月29日 読売】
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9月段階では、トルコ・イスラエルの間では下記のような関係改善の動きが見られていましたが、それも吹き飛んだ形です。(イスラエル・サウジの関係改善がとん挫したように、イスラエルと中東諸国の接近を潰したという意味では、ハマスの攻撃は「成果」をあげています)

****関係改善進むイスラエル・トルコ首脳が直接会談****
イスラエルのネタニヤフ首相とトルコのエルドアン大統領が初めて会談し、関係改善の進む両国を象徴する場となりました。

ネタニヤフ首相は国連総会へ出席するため訪れているニューヨークで19日、エルドアン大統領との会談を持ちました。 双方とも長期間にわたって政権の座にありますが、イスラエルメディアによりますと、直接の会談は初めてだということです。(後略)【9月20日 テレ朝news】
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もっとも、ここ十数年はこの両国はむしろ「対立」が普通で、最近の接近が異例のことでもありました。

エルドアン大統領は、ハマスはテロ組織ではなく、パレスチナ人の土地のために戦う「解放者」だとの認識を表明し、イスラエルが27日夜からガザでの地上作戦を拡大したことについては「完全に狂気だ。戦争犯罪と宣言しよう」と非難しています。

こうしたエルドアン大統領のイスラエル批判は今の世界では目だちますが、以前の同氏のイスラエル批判に比べたら、まだマイルドなものです。以前はイスラエルをヒトラー呼ばわりしていましたので。

****トルコ首相、ヒトラーに例えイスラエルを痛烈批判****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン首相は19日、パレスチナ自治区ガザ地区)を攻撃しているイスラエルを改めて厳しく批判し、イスラエルの一部政治家はナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーと同じ精神構造を持っていると述べた。(後略)【2014年7月20日 AFP】
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“長年の対立関係”の背景には、ハマスの母体ともなったイスラム主義組織ムスリム同胞団をエルドアン大統領が支持していることに加え、同氏がイスラム世界のリーダーを目指して反イスラエル的なパフォーマンスを行ってきたこともあります。

当時トルコとイスラエルの関係がこれほど悪かった直接の契機は、2010年5月31日、イスラエルによって封鎖されているパレスチナ自治区ガザ地区へ支援物資や援助活動家らを運んでいたトルコの支援船団6隻のうちの少なくとも1隻がイスラエル特殊部隊の強襲を受け、イスラエル軍の発表によると少なくとも10人が死亡したという事件でした。

今も昔も、パレスチナ・ガザ地区の問題はエルドアン大統領にとってイスラム主義のアイデンティティにもかかわる譲れない一線のようです。

【エジプト  大量の難民流入 それに紛れたイスラム過激派の流入を警戒】
一方、イスラエルと国交を有するエジプト。

国民レベルでは反イスラエル・親パレスチナ感情が強まっており、抗議行動も起きていますが、イスラエルとの関係を重視するシシ政権は厳しい対応で臨んでいます。

****エジプト、先週のパレスチナ支持デモで約100人逮捕=弁護士****
エジプトで先週行われたパレスチナを支持する大規模集会の参加者のうち、約100人が逮捕されたことが24日、複数の弁護士の話で分かった。

エジプトでは20日、首都カイロを含む複数の場所でイスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザに対するイスラエルの攻撃に反対する集会が開かれた。これらの集会は政府が公認したものだったが、カイロで行われた集会では一部参加者が政府が集会を許可していなかったタハリール広場に入ったため、治安部隊が直ちに解散させる騒ぎになった。

タハリール広場は2011年の中東民主化運動「アラブの春」で長期独裁政権の打倒につながったデモが発生した象徴的な場所であるため、治安当局が厳重に監視している。

人権弁護士によると、カイロで約40人、アレクサンドリアで65人が逮捕された。少なくとも18人が24日に釈放されたという。この件に関して司法当局と内務省からはコメントを得られていない。【10月25日 ロイター】
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エジプト・シシ政権はガザ地区のイスラエル以外に開いた唯一の門戸「ラファ検問所」の対応で世界の注目を集めていましたが、極めて限定的な支援物資のガザ搬入は認めたものの、外国人のガザがらの脱出についてはまだ認めていません。外国人を認めていないぐらいですから、ガザ地区で行き場を失っているガザの一般住民の脱出は更に厳しい状況です。

****「とりあえず来ないでほしいのだが...」検問所を閉鎖するエジプトの「本音」と「建前」の中身とは?****
<公には「全てのアラブ人の大義」と言いつつ、シナイ半島への避難民の流入を避けたがる理由について>

(イスラエルは)ガザへの地上侵攻に踏み切るため10月12日には同地区北部のパレスチナ人住民約110万人を24時間以内に南部に退避させるよう国連に通告。

表向きは住民の安全のためだが、実のところはガザの人口のおよそ半分を長年暮らしてきた土地から追い出す行為にほかならない。ガザ住民の大脱出に備えガザとエジプトの境界にあるラファ検問所にはエジプトの治安部隊が結集していると、地元メディアが伝えた。

イスラエルとアメリカはガザと隣接するシナイ半島にガザからの避難民を一時的に受け入れるようエジプトに圧力をかけたが、エジプトはこれに抵抗し続けてきた。人口約200万人のガザ住民がどっとシナイ半島になだれ込む事態を恐れているからでもあるが、それだけではない。

シナイ半島には以前からイスラム過激派の諸勢力が潜み、エジプトは反乱の鎮圧に手を焼いてきた。避難民に紛れて侵入したハマスの残党がシナイ半島を拠点にイスラエルを攻撃するか、攻撃計画を練るだけでも、イスラエルがそれを口実にエジプトの領土であるシナイ半島で軍事作戦を展開する危険性がある。

エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領は18日、ガザ住民のシナイ半島への強制移送は許容できないと明言。移送を断行すればシナイ半島が過激なイスラム組織の拠点になると警告し、戦闘終結までガザ住民をイスラエル南部のネゲブ砂漠に避難させる手もあると述べた。

避難民の自国永住を恐れる
一方でエジプトは同日、アメリカの要請に応じ、ガザに人道支援物資を搬入するためラファ検問所の閉鎖解除に同意した。イスラエル国外に通じる唯一の検問所であるラファが開通すれば、ガザ在住の外国人と二重国籍を持つパレスチナ人はイスラエル出国を許可される見通しだ。(中略)

ハマスがガザを実効支配してからの16年間、イスラエルはガザへの人と物の出入りを徹底的に制限し、ガザを「天井のない監獄」と呼ばれる状態にしてきた。エジプトもこれに協力してラファの往来を制限した。(中略)

エジプトでは今、イスラエルが地上侵攻を開始すればガザ住民がこの半島に大量に押し寄せるとの懸念が広がっている。イスラエル駐在のエジプト大使アミラ・オロンは10月11日、「シナイ半島はエジプトの領土だ」とX(旧ツイッター)に投稿。イスラエル軍の作戦のためにこの半島を避難区域にするようなことは許さないとの意思を示した。

しかし、シナイ半島はガザ住民の一時的な避難区域どころか、恒久的な住みかとなる可能性もある。実際、過去のイスラエルとパレスチナの紛争で近隣のアラブ諸国に逃れたパレスチナ人の多くはその後も故郷に帰れなかった。(中略)

エジプトの「調停力」の重要性
シシ大統領はパレスチナの大義は「全てのアラブ人の大義」だと言い、「パレスチナ人が自分たちの土地に存在し続けることが重要だ」と主張している。要は「エジプトに来ないでくれ」と言いたいのだが、これはエジプトの宗教組織や多くの国民の本音でもある。

それでも最近、北シナイ県の知事が県内の市町村に「必要な場合、避難所として使える学校、集合住宅、空き地などのリスト」を作成するよう命じた。

この動きを見る限り、エジプトも一定数の避難民を受け入れるようだ。ただし、ガザ住民用の避難所は強制収容所並みに移動の自由が制限されるとの見方もある。シナイ半島北部で10年以上も過激派組織「イスラム国」(IS)系列の武装勢力と戦ってきたエジプト軍は、過激な分子の侵入を極度に警戒しているからだと、アナリストらは指摘する。

今年12月に大統領選を控えるシシにとって、難民の大量流入阻止は譲れない一線だ。当局の発表によれば、エジプトは既にスーダン難民30万人を受け入れている。これ以上難民が流入すれば、治安上のリスクに加え、国家財政がパンクしかねない。

ロシアのウクライナ侵攻のあおりでエジプトは目下、経済危機にあえいでいる。通貨の対ドル相場は大幅に下落、物価が高騰し、今年8月には40%近いインフレ率を記録した。

エジプトはもともと、中東においてはイスラエルとアラブ諸国の仲介でその国力以上に大きな役割を果たしてきた。経済が悪化した今も、イスラエルとハマスの戦闘開始でエジプトの「調停力」の重要性は一層高まっている。

イスラエルを支援しつつ、ガザ住民の安全を保障するためにアメリカはエジプトの協力を必要としている。この国が抱える人権問題に目をつぶってでも、今は関係強化を優先すべきだ。【10月27日 Newsweek】
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【サウジアラビア “アラブの盟主”としては発信は控え目】
パレスチナ対応で表だった発言があまりニュースとなっていないのが“アラブの盟主”を自任するサウジアラビア。

一応、“ムハンマド皇太子はパレスチナ自治政府のアッバス議長に対し、サウジがパレスチナへの支援を続け、自治区に平穏と安定を取り戻すための取り組みを惜しまないと述べた”【10月10日 ロイター】 
“サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国の外相は26日、イスラエルが激しい砲撃を続けているパレスチナ自治区ガザで民間人が標的にされ、「明白な国際法違反」が行われていると非難する声明を発表した”【10月27日 ロイター】 
“サウジアラビア外務省は28日、イスラエルによる地上作戦に対し、パレスチナ市民の生命を脅かし、彼らをさらなる危険と非人道的状況にさらす可能性があるとして非難した。”【10月29日 ARAB NEWS】ということで、パレスチナ支援の立場にはあります。

ただ、サウジ王室はハマスのようなイスラム過激派は嫌っていますので、そうしたこともあってか、あるいはこれまで関係改善を進めていたイスラエルに配慮してか、“アラブの盟主”としては控え目な発信状況にようにも思えます。

“サウジがおそれているのは、衝突がライバルである非アラブのシーア派大国イランを刺激し、地域全体を巻き込むような紛争に発展してしまうことだ。”【10月27日 日経】

沈黙しているのがシリア。
シリア領内のイラン関連施設などにはイスラエルの攻撃がなされていますが、シリア内戦をとおして、シリア・アサド政権とハマスの関係は悪化、一方でシリアはイスラエルの協力を受けるという関係もあって、シリアの立場は説明を要します。また別機会に。
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ウクライナ  国際支援に二つの懸念 スロバキア新政権とアメリカ新下院議長

2023-10-28 23:23:54 | 欧州情勢

(スロバキア・スラビンには第2次世界大戦においてスロバキア首都ブラチスラバ解放で倒れた6,278人のソビエト兵士が埋葬されています【英語版ウィキペディアより】)

【膠着状態のウクライナ戦局】
連日圧倒的な量の情報が報じられているパレスチナ情勢の一方で、先日までメディアの中心的な関心事であったウクライナ情勢に関しては目立った情報をめにしなくなりました。

それはメディアの関心がパレスチナに向いているということに加えて、東部でのロシア、南部でのウクライナ双方の攻勢が相手側の抵抗にあい、戦況が膠着状態にあるためでしょう。

****露軍の攻勢弱体化 損害拡大で再編成か 東部ドネツク州****
ロシアによるウクライナ侵略で激戦が続く東部ドネツク州アブデエフカを巡る攻防に関し、ウクライナ軍のシュトゥプン報道官は25日までに露軍の攻勢が弱まっていると報告した。

シュトゥプン氏はその理由を、露軍が過去1週間に同州だけで約3000人の死傷者を出し、部隊の再編成に着手したためだと指摘した。ウクライナメディアが伝えた。

ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は今月、同州の州都ドネツク近郊の都市アブデエフカへの攻勢を強化。露軍は同州バフムトの制圧後、周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデエフカの突破を狙っているとみられる。

ただ、米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデエフカ周辺でもウクライナ軍の抗戦に遭い、大きな損害を出して目立った前進を達成できていない。

一方のウクライナ軍も、反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面で8月下旬に集落ロボティネを奪還したものの、露軍の防衛線に直面。当面の奪還目標とする小都市トクマク方面に前進できておらず、戦局は南部・東部とも膠着(こうちゃく)の度を増している。【10月26日 産経】
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【スロバキア新政権はウクライナへの武器供与停止を発表】
戦況は膠着状態ですが、ウクライナにとって生命線である国際支援については懸念すべき材料も生じています。

ひとつは欧州にあって、スロバキアにおいてロシア寄りの主張を掲げて9月の総選挙を制した政権が誕生したこと。

****ウクライナ支援疲れ、浮き彫りに 東欧で足並み乱れ拡大も****
ウクライナの隣国スロバキアで9月30日実施の国民議会選挙で、ウクライナへの軍事支援停止を訴えた左派スメルが第1党になり、物価高騰などに直面する有権者の支援疲れが浮き彫りとなった。ポーランドでも10月、総選挙が予定され、東欧で支援を巡る足並みの乱れが拡大する可能性がある。

スロバキアはウクライナ支援では、旧ソ連製の戦闘機や旧ソ連時代に開発された地対空ミサイルシステムを供与するなど積極的だった。

一方、近年はコロナ感染拡大などの難局に直面。「ウクライナ人が優先されている」との不満が高まった可能性がある。スメルはこうした声を取り込んだとみられる。

ポーランドでは侵攻後、東欧経由の陸送拡大で通過する安価なウクライナ産穀物が自国内に流入。市場価格は侵攻前の3分の1に下落したとされ、農家が強く反発する。

総選挙を控え、政権を率いる保守与党は支持基盤である農家の保護優先を強調。モラウィエツキ首相は「自国の利益が最も重要だ」との主張を繰り返し、ウクライナへの武器供与停止にも言及している。【10月2日 共同】
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上記記事にあるポーランドに関しては、10月24日 ブログ“ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か”でも取り上げたように、EUと歩調を合わせる野党による政権ができる流れですが、スロバキアの方は早くもフィツォ新首相が「もうウクライナに武器は送らない」と明言しています。

****ウクライナへの武器供与停止=スロバキアが正式表明、人道支援は継続****
東欧スロバキアのフィツォ新首相は26日、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器供与を停止すると正式に表明した。AFP通信が伝えた。人道支援や財政的な援助は継続する方針。

フィツォ氏は国民議会の議員らに「もうウクライナに武器は送らない」と明言した。ロシア寄りの左派政党「スメル(道標)」を率いる同氏は、軍事支援の停止やウクライナ和平推進を訴えて9月の総選挙に勝利。今月25日に首相に就任した。【10月26日 時事】
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ポーランドは最近のウクライナ産穀物をめぐる問題、そこから派生するウクライナ支援に関する不協和音は別として、欧州でも最もロシアに対する警戒感が強い国で、従来からウクライナ支援では先頭に立つ国でした。
そのウクライナ支援・ロシア批判という点では、現政権も今後成立する新政権も基本的には同じでしょう。

ということは、ウクライナ支援に関して言えば、欧州はこれまでのハンガリーに加えてスロバキアという反対勢力が増えた形になります。そのあたりは早速表面化しています。

EU首脳会議は27日、ウクライナに対する「強力な財政的、経済的、人道的、軍事的、外交的支援を提供し続ける」ことで大筋合意しましたが、詳細を決定していくうえではハンガリー・スロバキアの抵抗が予想されます。

****EU、ウクライナ支援で亀裂 ハンガリーとスロバキアが難色****
欧州連合(EU)はウクライナに向こう4年間で500億ユーロ(530億ドル)を支援する案を大筋で支持したが、全会一致が必要となる12月の詳細合意を前にハンガリーとスロバキアが難色を示し、EU内に亀裂が生じていることが明らかになった。

EUはブリュッセルで開催された首脳会議2日目に「ウクライナとその国民に必要な限り、強力な財政・経済・人道・軍事・外交支援を提供し続ける」と明記する声明を採択した。EU欧州委員会は6月、2024─27年にウクライナに500億ユーロを支援することを提案している。

ドイツのショルツ首相は首脳会議後「ウクライナの財政安定のために必要なことが決定されると予想している」とし、「部分的に異なるアセスメントが決定に影響するとは考えていない」と述べた。

アイルランドのバラッカー首相は2日目の協議前「ウクライナに追加の資金が必要だという強い意見があり、その点はほぼ一致している」とした上で「ただ、資金をどこから捻出するかについては、効率性を除いてほとんど意見が一致していない。12月までに合意できると思う」と述べていた。【10月27日 ロイター】
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【スロバキアの親ロシア感情】
スロバキアの親ロシア感情については、“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”という歴史の一面(もちろん、チェンバレン、ヒトラー、スターリンにはそれぞれの思惑があっての「結果」ではありますが)が影響しているとの指摘も。

****共産党支配に苦しんだ国のはずなのに...スロバキアで体感した「親ロシア」の謎****
<旅行中に偶然居合わせたスロバキア総選挙では、親ロシアを掲げる政党が第1党に。旧ソ連兵を大事にまつり、欧米に反発するスロバキアの背後にある複雑な事情とは>

(中略)さらに偶然に、僕はブラチスラバ最初の朝を、大いに意味のある場所から始めていた。良い天気だったし外で朝食を取りたいと思った僕は、ホテル近くの丘の上に大きな緑地があることを地図で知った。スラビンというところだ。ここが1945年にブラチスラバを解放したソビエト赤軍の戦死者を称えた記念碑であることは、着いてから初めて知った。

その場所が完璧に維持管理されていて、街を一望できる目立つ場所にあり、そして「赤軍の犠牲への敬意」がそこかしこに記されている点に僕は驚いた。旧ソ連圏の国々のほとんどでは、ソ連時代の記念碑は破壊されるか軽視されるかしていた。あるいは少なくとも、共産主義支配の「罪」のほうも忘れないために、という狙いで残されていた。

でもスラビンの記念碑は汚れ一つないだけでなく、スターリンが事実上ヒトラーに代わって新たな占領者になっただけだという意味合いは全く匂わせず、2015年に改良工事まで行われていた。もちろん解放70周年記念の年ではあったのだが、ロシアがクリミア半島に侵攻した翌年でもあった。ロシア軍をあえて記念しようとするには奇妙なタイミングだ。(中略)

ヒトラーを倒すために多くの戦いを担い、多くの犠牲を生んだのはソ連軍兵士であったことは、西側にとってもきまりの悪い公然の秘密だ。人類の自由と国家の主権にとって、ソ連は恐ろしい敵だったという僕自身の考えはそのままに、彼らの犠牲には敬意を払うべきだと僕は感じた。

それでも、スロバキアの市民が彼ら「解放者」に感謝よりも怒りを感じないでいられるのは、理解し難かった。チェコスロバキア(当時)の発展は数十年も停滞した。スロバキアの共産党指導者アレクサンデル・ドゥプチェクが自由化を図ろうと「プラハの春」を進めると、ソ連はただもう単純に侵攻して自由化を阻止し、あらゆる反対派をつぶした(1968年)。

イギリスによって「売り渡された」歴史
(中略)僕はオーストリア国境に向かって、ブラチスラバ郊外の森の中へと足を踏み入れた。奥深くには、第1次大戦後にチェコスロバキアが成立した当時に建てられたバンカーが数多く残されていた。(中略)

重要なのは、これらが重大な要塞の数々だったのに、イギリス史上最も恥ずべき瞬間の一つである1938年のミュンヘン協定によって、その重要性が失われてしまったことだ。ヒトラーのドイツ(既にオーストリアを併合していた)はチェコスロバキアのいわゆる「ズデーテン地方」をドイツに割譲するよう求めていた。多くのドイツ系が居住していた地域だ。

戦争を回避するために、イギリスのネビル・チェンバレン首相は「協定」を交渉し、そのなかでチェコスロバキアはこの領土を割譲するよう強いられ、そのうえ戦わずして国境地帯の要塞を全て放棄しなければならなくなった。

その翌年、当然ながらヒトラーは無防備になったチェコスロバキアの残りの地域に軍を向かわせ、征服した。事実上イギリスは、ドイツとの戦争を回避しようとの無駄な努力によってチェコスロバキアの主権を売り渡したことになる。

明らかに、今のスロバキアにおける親ロシア政治には、歴史的背景以上の理由がある(LGBTの権利や移民問題など、ある種の「リベラルな価値観」への反発もあるだろう)。

でも僕は、イギリスが自らの保身のためチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ロシアが大きな犠牲を払ってヒトラーを追い出したと考えるのは理にかなっていると思う。だから「西側は善、東側は悪」という単純な物語は、スロバキア市民にとっては必ずしもそう単純ではないのだ。【10月12日 Newsweek】
***************

“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”といった認識を是とするかどうかは議論があるところでしょうが、西欧と中東欧では歴史も認識も異なるものがあるということは留意すべきことでしょう。

私のような年代の者にはチェコスロバキアと言えば東京オリンピック(1964年)で活躍した女子体操のチャスラフスカ、彼女も関与した「プラハの春」(1968年)が想起されますが、このソ連への抵抗と弾圧の「プラハの春」にしても、欧米的な理解とスロバキア国内での理解・評価にはズレもあるのかも・・・。

【アメリカ下院新議長 ウクライナへの追加支援に難色か】
ウクライナにとって、今後の支援に関し懸念すべきもうひとつの材料は、死活的に重要な最大の支援国アメリカの動向です。

周知のようにアメリカでは異例の大混乱の末、ようやく下院議長が決まりましたが、マイク・ジョンソン新議長はtトランプ前大統領に近く、これまでロシアの侵攻を受けるウクライナへの追加支援に反対するなどバイデン政権と対立してきた人物です。

“トランプ前大統領の周辺の人たちは、ウクライナ支援を続けることに反対の立場です。11月半ばにつなぎ予算が切れたあと、アメリカがどんな姿勢を示すかは、ウクライナ戦争の結果に大きな影響をもたらします。”【10月27日 ニッポン放送NEWS ONLINE】

****ウクライナとイスラエルの支援策を分割すべき=米下院新議長****
ジョンソン米下院新議長は26日、ウクライナとイスラエルへの支援策は別々に扱うべきだと述べ、バイデン大統領が要請している両国支援を盛り込んだ1060億ドル規模の予算案を支持しないことを示唆した。

議長はFOXニュースのインタビューで、大統領とこの日会談し、ホワイトハウス側に両国の問題を分ける必要があるというのが下院共和党のコンセンサスだと伝えたと語った。

ジョンソン氏は「ウクライナ(支援)での最終目的は何かを知りたい」とし、「ホワイトハウスはそれを示していない」と述べた。

バイデン氏は、予算案にイスラエルと移民への支援を含めることでウクライナへの追加支援に慎重な共和党下院議員を説得したい考えだ。

予算案にはイスラエル向け支援が143億ドル、ウクライナ向けが610億ドル盛り込まれている。【10月27日 ロイター】
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次期大統領選挙でバイデン大統領が敗れてトランプ前大統領が復活する事態になれば、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の命運も尽きる可能性が濃くなりますが、それ以前にジョンソン新下院議長という厄介を抱えることにもなっています。

ゼレンスキー大統領としては、欧州・アメリカの“ウクライナ支援疲れ”的な動きが表面化する前に戦況において大きな成果を得て、支援継続を確固たるものにしたかったところですが・・・思いどおりには行っていないようです。
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パレスチナ  国際世論はイスラエル大規模攻撃に厳しい風向き 米も抑制 米・イスラエルの国内世論

2023-10-27 23:30:02 | パレスチナ

(ロンドンを拠点にパレスチナの人々に医療物資の提供を行っている慈善団体の代表は、病院の発電機を動かすための燃料が届かなければ、ガザ地区にあるNICU=新生児集中治療室の赤ちゃんが48時間以内に命を落とすことになると訴えました。【10月25日 NHK】 報道がなされてから48時間が経過しましたが・・・)

【地上侵攻になかなか踏み切れないネタニヤフ首相】
イスラエルとハマスの戦争状態については連日山のような情報が流されており、取り上げていたらきりがありませんが、スペースが許す範囲でいくつか。

全体的な雰囲気としては、徹底したイスラエルの空爆に曝されて毎日多数の犠牲者を出し(1日で700人を超えるような数字の信ぴょう性についてはバイデン大統領は疑問を呈していますが)、水・食糧・燃料も事欠くガザ地区住民の惨状(燃料が尽きれば命も尽きる病院保育器の新生児、亡くなった際に身元だけは分かるように手に名前を書く子供など、かつて住み家を追われたパレスチナ難民が「もう二度と動きたくない。ここで死にたい」と避難を拒んでいる姿・・・など)が報じられるにつれて、従来に比べイスラエルの地上戦など今以上の軍事行動を諫め、停戦(あるいは人道的な一時休戦)を求める国際世論が強まっています。

****ガザで“最大の地上作戦” イスラエル国民や軍に対しての“ガス抜き”か…米・バイデン大統領「人質解放を優先するべき」****
イスラエル軍はガザの北部で、これまでで最大の地上作戦を行ったと発表した。
今回の作戦は、なかなか地上侵攻が始まらないことに疑問を抱いているイスラエル国民や、国防省や軍に対してのガス抜きのようにも思われる。

一方で、イスラエルによるガザ地区への空爆は続き、6547人が死亡。世界中で人道危機を懸念する声が上がっている。

これまでで最大の地上作戦を行う
(中略)イスラエルメディアによると、軍は数日前から大規模な地上侵攻をする前に、限定的な地上作戦を何回も行う方針を固めたという話もあり、今回の攻撃がその一環だったのでは、という話も出ている。

一方、地上侵攻を巡って、イスラエルの国民の多くは、ハマスのせん滅を目指す政府を支持しており、軍による地上侵攻への期待も大きいのは事実だ。 しかし、なかなか始まらない現状に疑問を抱いている。

また、イスラエル軍や国防省も、1週間以上前から地上侵攻の準備が整っているにもかかわらず、実行できていないことに不満をもっているとみられる。

そのため、ネタニヤフ首相に青信号、つまりGOサインを待っていると話していた。なかなか地上侵攻を決断しない首相に、明らかに決断するように迫っている形だ。

そこで今回、戦車を使ったこれまでで最大規模の地上作戦を行い、限定的ではあるもののハマスの拠点を直接攻撃したことは、国民のガス抜きだけではなく、国防省や軍に対してのガス抜きのようにもみえる。(中略)

まだ大規模な地上侵攻には至らず
(中略)こうした動きに先立って、アメリカのバイデン大統領は、日本時間26日朝の会見で、「人質が地上侵攻の前に安全に解放される可能性があるならば、『人質解放を優先するべきだ』」と発言した。

そして、イスラエルに自衛する権利があるとした上で、これ以上、民間人の被害が拡大しないよう「全力を尽くすべき」と要望した。(中略)
バイデン大統領は、イスラエルを支援する姿勢は崩していないが、バイデン大統領はガザ地区の人道状況の改善や人質解放の必要性を、これまでより踏み込んだ形で話している。

バイデン大統領と電話会談をした、イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエル軍のガザ地区への地上侵攻について「我々は準備している」としながらも、「いつ始めるかなど詳細は言えない」と話した。

ネタニヤフ首相のこの発言は、これまでと少し変化があるようにも感じられる。7日のハマスのテロ直後は、すぐにでも地上侵攻があるのでは、という観測も飛び交うような状況だったが、現在このトーンが少し変わってきている。

バイデン大統領は否定しているが、アメリカのウォールストリート・ジャーナルは、アメリカとイスラエルの政府当局者の話として、「イスラエルがアメリカからの要請に応じて、地上侵攻を遅らせることで合意した」などとも報じている。

ハマスのテロ攻撃から20日になろうとしているが、さまざまな交渉が行われ、大規模な地上侵攻には至っていない。
一方で、イスラエルによるガザ地区への空爆は続き、パレスチナ保健当局によると、6547人が死亡し、避難先と指定された南部地域での死者数が65%を占めている。

世界中で人道危機を懸念する声が上がる
ガザ地区の状況が悪化の一途をたどる中で、外交や政治レベルとは異なる重要人物からも、衝突と人道危機を懸念する声が上がり、世界の注目を集めている。

22日、バチカン市国で行われた、ローマ教皇フランシスコの水曜の定例謁見。多くの人々が集まる中、ローマ教皇・フランシスコは「私は常にパレスチナとイスラエルの悲惨な状況について考えている」と今の状況を憂慮し、ハマスにとらわれた人質解放と、ガザ地区の市民への援助物資の搬入を訴えた。(中略)

イスラエルの隣国、ヨルダンのラーニア王妃の発言も世界的なニュースになっている。
ラーニア王妃はアメリカCNNの番組に出演し、「パレスチナ人であってもイスラエル人であっても、民間人の殺害を強く非難する。たとえ、イスラエルの同盟国でも、ただ支持するのでは何の役にも立たない」などと、停戦を要求しない西側諸国を批判した。

(中略)ラーニア王妃は53歳だが、その華やかな外見などから、欧米のファッション誌などにも取り上げられる人物だ。「ユニセフ子どものための大使」でもある。ヨルダンは重要なポジションで、アラブ世界の周辺諸国でイスラエルと外交関係があるのはエジプトとヨルダンのみだ。そのため、キープレイヤーの国の1つともいえる。(後略)【10月27日 FNNプライムオンライン】
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【イスラエルの責任を問う国連グテレス事務総長】
国際世論の流れを受けるところもあってか、国連グテレス事務総長はイスラエルのパレスチナ占領政策の責任を問う、かなり踏み込んだイスラエル批判を行い、イスラエルは事務総長の辞任を求めるバトル状態にもなっています。

****国連事務総長、ガザ空爆非難 イスラエル猛反発し辞任要求****
国連のグテレス事務総長は24日の安全保障理事会で、イスラム原理主義組織ハマスのイスラエルへのテロ攻撃を非難する一方、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの人道危機に懸念を示し、イスラエル軍のガザ空爆を「国際法違反」と非難した。イスラエルは猛反発し、グテレス氏の辞任を求めた。

イスラエル軍によるガザ空爆では国連職員も死亡している。グテレス氏は遺族のためにも空爆を「非難する義務」があると訴えた。

グテレス氏はハマスのテロ攻撃についても「何もないところから突然起きたわけではない」と主張。「パレスチナの人々は56年間、(イスラエルの)息苦しい占領下に置かれてきた」と述べ、ハマスのテロ攻撃が起きた歴史的な背景を認識する必要があると強調した。

イスラエルのコーヘン外相はグテレス氏を指さして「あなたの下で国連は最悪な時期にある」と非難。イスラエルのエルダン国連大使は「グテレス氏が倫理観と公平性を失った」と語り、国連事務総長の辞任を求めた。

コーヘン氏の演説が始まると、アラブ諸国の外交官らが一斉に安保理議場から退席した。【10月25日 産経】
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グテレス事務総長はポルトガルの元首相ですが、社会主義インターナショナル議長を務めた左派系で、国際連合難民高等弁務官の経歴もあります。上記のような認識はそうした政治姿勢・経歴を反映したものでもあるようです。
反発するイスラエルは25日、国連職員への査証発行停止を決めています。

【イスラエルに抑制を求め始めたアメリカ 国内世論動向も影響か】
上記【FNNプライムオンライン】のように、アメリカ・バイデン大統領の言動も、従来のイスラエル支持一辺倒から、支持はするものの、イスラエルに抑制を求める姿勢にやや変化が見られます。

“「人質解放まで地上侵攻を控えるべき」バイデン大統領、イスラエルに伝達”【10月26日 ABEMA NEWS】

****西岸のユダヤ人入植者に懸念=米大統領、「火に油」と批判****
バイデン米大統領は25日、ホワイトハウスでの記者会見で、「ヨルダン川西岸でパレスチナ人を攻撃し、火に油を注いでいる過激派の入植者を警戒し続けている」と述べ、一部のユダヤ人入植者の行動に懸念を表明した。パレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃以来、バイデン氏が同国批判と受け取られる発言をするのは珍しい。

バイデン氏は「われわれはイスラエルがテロリストから身を守るために必要なものを確保する」と述べ、改めてイスラエル支援の方針を表明。一方で、「イスラエルは罪のない市民を守るために、困難ではあっても全力を尽くさなければならない」と民間人保護を訴えた。

ハマスとイスラエルの軍事衝突以降、中東では反イスラエル感情が高まっている。バイデン氏はこれを踏まえ、ユダヤ人入植者による攻撃を「今すぐ止めるべきだ」と求めた。【10月26日 時事】
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****アメリカからの「戦闘中断」要請に反発、イスラエルが国連職員へのビザ発行停止****
国連安全保障理事会は24日、イスラエルとイスラム主義組織ハマスが衝突するパレスチナ自治区ガザの情勢に関する閣僚級会合を開いた。米国のブリンケン国務長官はガザへの人道支援を優先すべきだと主張し、戦闘中断の検討を求めた。

米高官が公の場で、戦闘の中断に言及したのは初めて。ブリンケン氏は会合でハマスの攻撃を「野蛮なテロだ」と批判しつつ、「ガザの人々に食料や水などの必要な支援を届けなくてはいけない。人道的な中断を検討しなければならない」と述べた。

イスラエルの本格的な地上侵攻を支持する米国は、18日の安保理会合での戦闘中断を求める決議案採決の際、「イスラエルの自衛権が明記されていない」として拒否権を行使し、批判を浴びた。ブリンケン氏の今回の発言で米国はガザへの人道支援を重視する姿勢をより鮮明にし、これまでの外交姿勢を修正した。(後略)【10月25日 読売】
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アメリカの姿勢変化の背景には、世界で、特に中東において高まる停戦を求める声への配慮、イスラエルの軍事行動拡大でもたらされる中東混乱への懸念(中東から手を引き、対中国にシフトしたいアメリカにとっては、中東に引き戻される事態は避けたいところ)がありますが、イスラエル支持とされるアメリカ国内の世論も、確かにイスラエル支持が多数ではありますが、若者や政権基盤の民主党支持者の間ではパレスチナへ寄り添う声も強くあり、そうした国内世論動向も影響していると思われます。

****米国人の大多数がイスラエル報復支持、若者ほどパレスチナにも同情 最新世論調査****
イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム勢力ハマスの衝突をめぐり、米国人の大多数がイスラエル側に同情を寄せ、ハマスの攻撃に対するイスラエル軍の反応は正当化できると考えていることが、CNNの最新世論調査で分かった。(中略)

今回の衝突や米国の対応に対する考え方は、支持政党や年齢層によって大きな違いがあった。

ハマスの攻撃に対するイスラエル政府の軍事的対応については、50%が「完全に正当化できる」、20%が「部分的に正当化できる」と回答した。一方、「一切正当化できない」は8%にとどまり、「分からない」は21%だった。

支持政党別に見ると、「完全に正当化できる」は共和党が68%だったのに対し、支持政党なしは45%、民主党は38%にとどまった。

年齢別では65歳以上の81%が「完全に正当化できる」と答えたのに対し、50~64歳の層は56%、35~49歳は44%、18~34歳は27%のみだった。

7日のハマスの攻撃に関してイスラエルの人々に「大いに」同情を感じるという回答は71%に上るなど、96%がイスラエルに何らかの同情を示している。

一方、パレスチナの人々に対しても、87%が少なくともある程度の同情を示しているが、「大いに」同情するという回答は41%と少なかった。今も戦闘が続く中で、84%はイスラエルとパレスチナの双方に対し、少なくともある程度の同情を示している。

パレスチナに大いに同情するという回答は年齢が若いほど多かった。

今回の調査は今月12~13日にかけ、CNNがSSRSに委託して成人1003人を対象に、ショートメール経由で実施した。【10月16日 CNN】
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上記調査は12~13日に行われたものですが、その後の展開・報道を受けて、パレスチナへの同情的な声は更に増加していると思われます。

“バイデン政権が、イスラエルによる地上侵攻で多くの民間人が犠牲になる事態を避けようと奔走しているのは、国際社会の懸念の高まりに加え、こうした世論への配慮がある。”【10月20日 毎日】

【イスラエル世論は人質救出優先で、地上戦には慎重】
世論調査ということでは、イスラエルの調査も興味深いものがあります。「大規模地上攻撃に乗り出すべきか」との問い49%が待った方が良いと回答。人質救出を優先すべきとの声でしょう。

****ガザ侵攻延期、イスラエル国民49%が支持=世論調査****
イスラエル紙マーリブが27日掲載した世論調査によると、半数近くの国民がパレスチナ自治区ガザへの侵攻を遅らせることを支持した。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに対する反撃の次の段階を巡り支持が低下している可能性を示唆した。

イスラエル軍が直ちに大規模地上攻撃に乗り出すべきかとの問いに29%が賛同した一方、49%は待った方が良いと回答、22%はどちらとも言えないと答えた。

マーリブによると、今月19日の調査では65%が大規模地上攻撃を支持していた。

同紙は回答の内訳から、支持する政党や人口動態による相違はないと指摘し、最重要課題に浮上している人質問題の動向が世論の変化に影響したのはほぼ間違いないと分析した。

ハマスは過去1週間に人質4人を解放した。さらなる解放に向けた周辺国の仲介努力も行われている。【10月27日 ロイター】
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パレスチナから攻撃を受けたら“10倍返し”が当たり前のイスラエルにあって、冒頭【FNNプライムオンライン】記事にある“なかなか地上侵攻を決断しない首相”の背景には、こうした国内世論も大きく影響していると思われます。もし地上侵攻して多数の人質が犠牲になれば、ネタニヤフ首相は政治責任を問われかねません。

以上、総論的なところを取り上げてきました。
もう少し的を絞った論点、例えば、エジプトとの境界にあるラファ検問所からのパレスチナ人避難を認めないエジプトの思惑、欧州のなかでもイスラエル支持が強いドイツのユダヤ人への“負い目”、今回ハマスによって多くが殺害され、また、人質となっているイスラエルにおけるタイ労働者の問題・・・などを取り上げたいのですが、話が長くなるので、また別機会に。
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タイ  民意を否定するタクシン派・親軍勢力「大連立」の意味と今後のタイ政治動向

2023-10-26 23:28:16 | 東南アジア

(15年ぶりの帰国直後、国王夫妻の肖像に礼拝するタクシン元首相(2023年8月22日)【10月 青木(岡部)まき氏 IDE-JETRO】 “その姿は、タクシンが国王を支持する保守派のもとに下ったことを人々に印象づけた”【同上】とも)

【「大連立」で政権獲得とタクシン帰国を実現したタクシン派 体制批判的な前進党の今後の台頭にタクシン派との連携で備える親軍勢力・保守派】
タイでは5月14日に行われた総選挙で、王制改革や徴兵制廃止を掲げる前進党(ピター党首)が選挙直前に若者らを中心に急速に支持を伸ばし、それまで勝利が確信されていたタクシン元首相系の貢献党を抑えて下院(500議席)の第1党の座を獲得しました。

しかし、司法を含む保守・親軍勢力勢力の壁の前に前進党・ピター党首の首相就任は阻まれ、代わって連立交渉を主導したタクシン系の老舗政党であるタイ貢献党は前進党を切り捨て、仇敵であるはずの親軍勢力と手を結ぶ大連立でセター氏を首相として政権の座に。

前進党は連立与党から離脱して野党に。

そうした「大連立」の裏側で、タクシン元首相が帰国し、国王の恩赦で減刑されるという見え見えの筋書きも。軍部とタクシン派タイ貢献党の間で「大連立」の見返りとして「合意」されていたものと推測されます。(もっとも、タクシン氏が目論んだほどはスムーズに行っていないとの指摘も)

最近のタイ政治動向に関するニュースはあまり見ませんが、下記のようなものも。

****改憲の国民投票を求める動議 下院が反対多数で否決****
憲法改正の是非を問う国民投票の実施を内閣に求める動議について、下院で10月25日、採決が行われ、その結果、反対262賛成162で否決された。この動議は野党・前進党から提出されていたもので、下院では採決の前に4時間以上にわたり討論が行われたが、過半数の賛成を得ることはできなかった。

政権党・タイ貢献党のチャトゥロン議員は、「憲法改正は関係者全員が協力しないと達成できないため、我が党は前進党の動議に反対ではない。しかしながら、現行の国民投票法のもとでは、改憲案が国民投票を通過するのが非常に困難であることから、我が党としては、まず国民投票法を改正する必要があると考えている」と説明する。

同法では、国民投票を通過するためには、有権者の半数以上が投票し、賛成票が過半数となることが必要であるが、チャトゥロン議員らは、「これではハードルが高すぎて改憲案などが国民投票で承認されるのは難しい」と指摘している。【10月26日 バンコク週報】
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上記記事だけでは前進党が求める憲法改正の内容がわかりません。公約としていた王制改革・不敬罪の扱いに関するものでしょうか?

いずれにしても、印象的なのは与党・タイ貢献党の対応。
「我が党は前進党の動議に反対ではない」としながらも、いろんな理由をつけてこれを拒否。結果的に現行憲法を支持する保守・親軍勢力に意向に沿う形になっているように見えます。

こうしたタクシン派与党・タイ貢献党が王室・軍部にすり寄るようなタイ政治の構図に関する記事を3本。

****タクシン派と保守派が手を握ったタイ新政権 変容する対立の構図 政治の行方と民意は…識者に聞く****
タイ総選挙で第2党となったタクシン元首相派のタイ貢献党が過去に対立していた親軍政党と連立を組み、セター内閣が発足した。タイ政治に詳しい法政大国際政治学科の浅見靖仁教授に、連立政権の注目点や、野党となった第1党の前進党の行方を聞いた。

 ―貢献党は最終的に親軍政党と連立を組んだ。
「タクシン派対反タクシン派という従来の対立構図が、親軍派対反軍派、あるいは王室擁護派対王室改革要求派という対立軸に変わった。これまでは利権争いの側面が大きく、政策的な違いはほぼなかった。しかし新たな対立軸はイデオロギー争いの側面があり、政治的な混乱が広がるリスクが残った」

 ―新政権の特徴は。
「閣僚ポストを見れば、政界を引退したプラユット前首相を支持するタイ団結国家建設党(UTN)優遇の人事と分かる。新政権に影響力を残した親軍派が、国民国家の力党(PPRP)を率いるプラウィット前副首相ではなく、プラユット氏なのは予想外だ。PPRPが不人気であることや、ワチラロンコン国王が自身に忠実なプラユット氏を支持したためとみられる」

「貢献党にとっては、2014年に軍事クーデターを実行したプラユット氏より、タクシン氏と気脈を通じるプラウィット氏が望ましかったが、王室の影響力の強さが垣間見えた。タクシン氏が事実上、(保守派の)人質となっているのも大きいだろう」

 ―15年ぶりに帰国したタクシン氏は収監されたままだが、来年2月に釈放されるとの観測がある。
「予想より長く拘束されており、人質状態だ。タクシン氏は、(司法機関に影響力を持つ)保守派に根回しをし、帰国という人生最後の賭けに出た。今のところ完全失敗でもなく、完全成功でもない」

 ―前進党の今後は。
「憲法裁判所は、ピター前党首の議員資格を剝奪するだろう。前進党の解党を命じる可能性もある。新党首には人気の高いシリカンヤー副党首ではなく、チャイタワット幹事長が選出された。解党された場合、党首は公民権を停止され、政治活動を禁じられる恐れがあるためだ」

 ―次の総選挙の行方は。
「若い世代を中心に、王室改革や軍の政治関与縮小を求める世論が高まっており、前進党や(解党された場合の)後継政党はさらに議席数を伸ばす可能性が高い。前進党に選挙で対抗できるのは現状では貢献党しかない。このため保守派は、長年にわたり対立してきたタクシン派(貢献党)と手を握らざるを得ない」

「貢献党も利益誘導型の政治だが、他の政党より宣伝がうまい。前進党が貢献党との対立軸をどの程度打ち出し、人気を維持できるかが、今後の見どころだ」(後略)【10月11日 東京】
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タイ貢献党としては「大連立」により、政権獲得、更にタクシン氏の帰国・恩赦というメリットがありますが、保守派・親軍勢力としても、今後の前進党の台頭に対抗するために、選挙に強いタイ貢献党との「大連立」はメリットがあるとの指摘です。

【王室も体制維持・強化へ】
国王・王室も体制維持・強化に向けて動いているようです。

****再び軍部・王党派となったタイ 民主化は果たせないのか****
FA誌でコーネル大学のTamara Loos教授が、Foreign Affairsのウェブサイトの9月26日付けで掲載された論説‘The Thai Establishment Strikes Back’で、タイ貢献党が選挙公約に反して軍部・王党派と組んで組閣したことなど、最近のタイの政情を分析し、タイの若い世代は民主化を求めているので、いつまでも一部のエリートが国民を無視して密室で政治を決め続けられないだろう、と疑問を投げかけている。要旨は次の通り。

(中略)前進党を支持した進歩派は期待を裏切られた。つまり、選挙の結果とは関係無く、軍事政権は貢献党と取引する事で支配を継続することになった。

タイ貢献党は不敬罪の見直しを公約していたが、軍の指導者がタクシン元首相の帰国を条件に取引したことは想像に難くない。国王がタクシン元首相の懲役を8年から1年に減刑する恩赦を出したことは、王室もこの取引を支持していることを示唆する。

ここ数カ月間、タイの王室は、王室のイメージ向上に努めている。8月には、ワチラロンコン国王に勘当されていた2人の息子が帰国した。彼らは、次男と三男で国王の2人目の夫人との間の息子である。

国王は、1996年に2番目の夫人と離婚し、夫人とその息子達に王族の称号を使うことを禁じたが、今回の彼らの帰国は、国王が後継者問題について対応しようとしているとの憶測を招いた。国王が認知している唯一の王子は身体障害者であり、長女は、1年近く意識不明状態だ。

来年の7月に国王は72歳の誕生日を迎える。現在、タイは軍部と王制を支持するグループと民主主義を支持するグループとの間で二極化しているが、目に見える形での後継者候補の帰国は、王制への支持を増し、体制を強化するための計算された決定であった。

多くのタイの有権者達は、一連の出来事に失望している。5月の選挙は大きな変革を期待させたが、結果的に現状維持派が優勢となった。

タイの将来についての重要な決定は、エリートたちが密室で決める状態が続いている。しかし、軍部や王室が、誰がタイを支配するのかについて、タイ国民の意見表明を拒否し続けることはできないだろう。

世代交代は進んでおり、若いタイ人は、政治のより大きな透明性と言論の自由を制約する法律の改正を求めている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(中略)
選挙の結果、貢献党が初めて第一党の座を明け渡したのは、軍部や王制という既得権益を嫌っていた層が貢献党から前進党に鞍替えし、これまで既得権益を批判する勢力も惹きつけていたタイ貢献党が、国民に既得権益の一員であると見なされたことを意味する。  

勘当されていたワチラロンコン国王の2人の息子の帰国も興味深い。国王は、過去、4回結婚し、3回離婚している。論説に身障者である唯一の子息とあるのは、3人目の王妃との間で生まれたティパンコーンラッサミチョト王子(18歳)のこと思われる。彼は学習障害があると言われている。  

これまで、この王子が王位を継ぐ場合は長女のパチャラキティヤパー王女が摂政となるとか、そもそも王女が自ら王位を継承するのではないかとも言われていた。パチャラキティヤパー王女は、検事やオーストリア大使も務めた才媛だ。  しかし、昨年、犬の訓練中に突然倒れ、意識不明の重体となった。マイコプラズマへの感染と言われている。その結果、王位の継承について大きな不安が生じていた。

終わりの見えない民主化勢力対旧体制
しかし、勘当されていた2人の息子が復権し、いずれかが即位すれば問題は解決するかと言えば、簡単ではないように思われる。

とはいえ、軍部・王党派にすれば、自らの拠って立つ権威である王制が王位継承で混乱しては困るので、必死に何とかするのであろう。  

タイの民主化の問題は、古くて新しい問題である。過去にも血の日曜日事件(1973年)や暗黒の5月事件(1991年)のように民主化を求めた学生達が軍政と衝突し、弾圧されることは稀ではなかったし、タクシン首相がクーデターで追放された後、タクシン首相の復権と民主化を求めるタクシン派が軍部・王党派と度々流血の衝突を繰り返した。  

今回、民主化を求める層が貢献党から前進党に支持を移し、同党が第一党になることで、民主化勢力対旧体制という対立軸が明確化し、今後、民主化への動きが強まる可能性があるが、軍部・王党派もそう簡単には譲らず、そう簡単ではないであろう。【10月26日 WEDGE】
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【「大連立」で短期的な安定はあっても、真の「国民的和解」に基づく長期的安定への道は遠い】
これまで地方住民や低所得層を優遇することで多数派の支持を得たタクシン派と国軍・王室側近・司法や官僚、中・上層市民といった反タクシン勢力の対立、軍事クーデターによる「選挙民主主義をめぐる対立」という「対立」を繰り返してきたタイ政治ですが、近年は「現行の政治体制をめぐる対立」が表面化し、その流れを受けて躍進したのが現行政治体制を批判する前進党でした。

しかし、現実政治はその前進党を排除してタクシン派と親軍勢力の「大連立」で現行体制維持の方向へ。

これでタイ政治は「安定」するのか?  “短期的な安定はあっても、真の「国民的和解」に基づく長期的安定への道は遠いだろう”というのが下記記事の見方です。

****タクシン派連立政権の成立はタイ政治に安定をもたらすのか?****
タクシン派と反タクシン派の「大連立」成立
(中略)2006年のクーデタによるタクシン失脚以来、互いに不倶戴天の敵とみられてきたタクシン派と反タクシン派の「国民的和解」はどのようにして可能となったのか。この「和解」は、対立が続いたタイ政治についに安定をもたらすのだろうか。(中略)

政治対立の争点とその変化
「国民的和解」の意味するところを理解するため、ここではタイの政治対立でこれまで何が争点となってきたのかを把握しておく。

2000年代の政治対立は、①タクシンに対する賛否、②選挙民主主義に対する賛否、そして③クーデタを許容する体制への賛否という3つの争点が交差し、①から③へと重点を移すかたちで変遷してきた。(中略)

前進党躍進という番狂わせ
こうして迎えた5月14日の下院選挙では、タイ貢献党有利という事前の予想を覆し、前進党が第1党に躍進した。有権者はプラユットの続投や「大連立」より変革を選んだ(青木2023)。(中略)

今回の選挙でも圧倒的勝利をおさめ、有利な立場でPPRPら保守派政党と連立交渉を進めて「国民的和解」の大義の下で政権の座に返り咲く──タイ貢献党が描いたこの筋書きは、最終的に実現したといえよう。

しかし前進党躍進という「番狂わせ」がおきたことで、民意である選挙結果を否定する(「大連立」という)かたちで、強引に政権を掌握せざるをえなくなったのである。

2023年下院選挙がもたらしたもの、もたらさなかったもの
タイ貢献党連立政権は、PPRPなど軍政系政党を取り込んだことで、以前の民選政権に比べると軍事クーデタのリスクは低くなったと目される。

ただし、それは国軍など保守派の利害を脅かさない限りにおいての安定であろう。
タイ貢献党の選挙公約だった民主的憲法の制定、徴兵制廃止、国軍改革といった政治関連政策の先行きは不透明だ。

(中略)PPRPなど保守派は、タイ貢献党が王制改革や国軍の勢力削減につながる政策を推し進めれば連立離脱を示唆して揺さぶりをかけることが予想される。

また、選挙前に話題となった最低賃金引上げや大型インフラ投資計画などの経済政策についても、詳細はまだ公表されていない。タイ貢献党は政権の安定を優先し、各党の要望をすり合わせ、その合意の範囲内で政策を実施するものと思われる。

その様子は、中小政党が連立政権を形成し、政策よりも党利党略で離合集散を繰り返していた1990年代の政党政治を彷彿とさせる。1990年代、タイでは政党間対立による短命政権が続いたものの、政権交代は選挙を通じて安定的に行われていた。「国民的和解」を掲げ成立した連立政権のもと、タイ政治はかつての「安定期」に回帰するのだろうか。(中略)

国会内の政治が1990年代の状態に戻ったとしても、国会の外では2000年代の政治対立でタイ社会における権力格差に気づき、構造的問題としてその是正を求める声が消えたわけではない。

これに対して政権を取った保守派は、大規模な反政府運動が不在のなか、政治改革派に圧力をかけ続けている。セッター内閣成立後の9月末から10月初旬にかけては、2020年の反政府運動の主だった活動家や集会参加者に対し、コロナ下での非常事態令違反を理由に相次いで有罪の実刑判決が下されている。ピターをはじめ前進党に対する審理も継続中である。

タクシン派と保守派の「大連立」とは、保守派が第2党のタクシン派を取り込み、第1党である前進党を政権から排除するものであった。

一連の顛末で対立の争点は「政治改革の是非」に収斂し、革新派と保守派(タイ貢献党も今はこちらに含まれる)の分断は深まった。短期的な安定はあっても、真の「国民的和解」に基づく長期的安定への道は遠いだろう。【10月 青木(岡部)まき氏 IDE-JETRO】
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台湾  日本同様に外国人頼みの介護現場 激化する人材獲得競争 日本では実習生制度の見直しが進む

2023-10-25 22:35:05 | 日本の外国人労働者

(出入国在留管理庁によりますと、技能実習生は去年6月末時点でおよそ33万人で、5割以上がベトナム人です。(中略) 技能実習生は人材難が深刻な地方や中小企業でニーズが高い一方、違法な低賃金で長時間労働を強制されたり、実習先で暴力を受けたりするケースがあとを絶ちません。【4月10日 NHK“「技能実習制度を廃止 新制度へ移行を」政府の有識者会議”】)

【最近急増する日本で働くネパール人留学生】
明確な基本方針がないまま、人出不足解消のため“なし崩し的”に「移民大国」となりつつある日本では生活のあちこちで外国人をみかけることが多くなっていますが、ベトナム人やフィリピン人に加えて最近増加しているのがネパール人留学生のようです。

****四国の山中にヒマラヤ民謡?ネパール人労働者激増、12万人来日の背景は 川下りやホテル、空港、食肉処理まで…新たな裏方に【移民社会にっぽん】****
四国・徳島の吉野川上流。日本有数のラフティング(川下り)の名所でアジアののどかな民謡が響いていた。ゴムボートを操縦してヒマラヤの民謡を披露するガイドの男性はネパール人だ。よく見れば、インド亜大陸の風貌をした船頭が川のあちこちにいて日本人客とボートをこいでいる。

コンビニやファストフード店など日本各地で近年、ネパール人の労働者らを目にする機会が増えていないだろうか。少子高齢化と人手不足で、日本が移民や外国人労働に依存する社会に近づいている。中でも目立ってきたネパール人の背景を追ってみた。(中略)

厚生労働省によると、ネパール人労働者は2012年の約9千人から2022年の約12万人と13倍に急増している。ネパールの1人当たり国民総所得(GNI)は1230ドル(約18万円、2021年)で、日本の30分の1とまだまだ貧しい。(中略)

▽中間層の夢は日本留学
(中略)インドは伝統的な身分制度カーストの影響を受け就労先に制限がある人が多いが、ネパールは比較的緩やかだ。英領インドの強い影響力の中、貧しい山間地のため、雇い兵部隊の「グルカ兵」や、インド各地の飲食店などに出稼ぎに行くことが一般的になったとされる。

人口約3千万人のネパールは、中国とインドに挟まれた内陸国のため港がなく、輸出産業は不向きなのが実情だ。2015年の大地震では周辺国も含め約9千人が死亡し、復興のため海外出稼ぎの重要性は増した。

約300人が通う日本語学校の校長は「ネパールでは英語教育を受けた富裕層は欧米に留学し、貧困層は中東へ出稼ぎに行く」と指摘した。

貧しい人々の行き先はアラブ首長国連邦(UAE)やカタールの建築現場だ。2022年のサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会を機にネパール人ら外国人労働者の中東での厳しい労働環境が広く報じられた通り、重労働で亡くなる人もいるが、それでも母国より待遇はいい。

日本を目指すのは「150万円程度の準備金を用意できる中間層が中心」(校長)。日本側の規定で留学生には週28時間のアルバイトが認められているため、これくらいの資金があれば「学費や生活費を賄える」と考えているのだという。

▽インド料理店を次々開店
一方、日本側にも事情がある。東アジアの経済成長を背景に日本語学校に通う中国人・韓国人留学生が減少し、専門学校も少子化で留学生の受け入れが進んでいる。少子高齢化でサービス業界を中心に人手不足が続く。

ネパール人が働く東京都内のラーメン店の店長は「日本人バイトが集まらず、真面目でよく働くネパール人を雇っている」と話した。ネパールと日本、双方の思惑が一致した結果、ネパールで日本留学ブームが起きた。カトマンズには「日本での就労保証」などの看板を掲げる業者があちこちにあったほか、留学生を募集する日本人リクルーターの姿も見かけた。

ネパールの若者らはバイトをしながら日本語学校で学び、その後専門学校や大学に進学し、卒業後は日本語力を生かして日本企業への就職という夢を抱いた。

これに先立ち、日本ではインド料理店で働くネパール人が独立して料金の安いインド・ネパール料理店を次々と開店していた。新店を開けば、従業員として親族や知人らを招くことができ、仲介料の利益も生まれる。東京や名古屋など大都市ではネパール食材店も増加し、仲介業者など就労のネットワークが拡大した。(中略)

2022年の外国人労働者数でネパール人はベトナム、中国、フィリピン、ブラジルに続く5位となっており、存在感は高まるばかりだ。

▽料理上手の少数民族
ネパールは英語教育が盛んで、出稼ぎのために語学を磨く人が多い。(中略)新型コロナウイルス禍から回復基調にあるホテルや旅館でもネパール人スタッフを見かけるようになった。(中略)

珍しいところでは、料理上手の少数民族としてネパールで知られている「タカリ」も来日している。(中略)協会によると、日本には約500人のタカリが住み、うち100人ほどが東京で食肉処理業に従事している。あるタカリの男性は「最近は牛がどんどん大きくなっており、処理には特殊な技術が必要」と胸を張った。男性が働く食肉処理関連会社の従業員は9割が外国人だという。

コンビニや弁当製造工場、ファストフード店や居酒屋、ホテルの清掃などでもネパール人アルバイトが増えた。人材紹介をする日本人男性は「少子高齢化で深夜勤務を伴う職場は人手不足が続いている。時給が高いのでネパール人留学生に人気だ」と指摘した。

7月の週末に東京・中野で開かれたネパールフェスティバル。ネパール人にとって故郷の雰囲気が味わえる貴重な機会だが「留学生の参加は少ない。土日は(日本人の代わりに)彼らは働いている」との声が聞かれた。

▽就労規制の緩和求める声
在日ネパール人を巡っては、難民認定制度を利用した就労拡大が問題視され、国別の難民申請者でネパール人が最多となったこともある。法務省によると、2018年の国別で1位、約1700人が難民申請していた。

ただ最近は減少しており、2022年は10位で130人にとどまった。在ネパールの日本大使館は、難民申請に関し「必ずしも日本で働けることを意味しない」と注意喚起している。

多くのネパール人留学生が飲食店などでバイトしているが、就労拡大には壁もある。バイト先で評価され、上司が正社員としての採用を望んだとしても、専攻分野と異なる職場への就職では在留資格が取得しにくい。

例えば、専門学校で自動車技術を学んでいた留学生が焼き鳥店でアルバイトし、日本人経営者が学生の腕を見込んで卒業後の就職を求めても、専攻と就職先の関連性が低いと判断されれば在留資格が得られないという仕組みだ。

各国留学生に奨学金を支給してきた国際人材交流支援機構(東京)の小見山幸治理事長は「日本語が理解できるネパール人留学生をもっと活用できれば、日本の人手不足の解消になるはずだ」として規制緩和を訴えている。【10月7日 47リポーターズ】
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ネパールフェスティバルに土日は仕事で忙しいネパール人留学生が参加できない・・・というのはやや皮肉な感も。

【外国人頼みの台湾の介護現場 激化する外国人人材獲得競争】
製造業、農業、コンビニ・ホテル・飲食業のようなサービス業などとともに外国人の存在が高まっているのが介護施設。

介護現場の人材不足が深刻な中、外国人人材の雇用状況が活発化しています。独立行政法人・医療福祉機構(WAM)が貸付先法人の特養ホームを対象に行なった調査では、「雇用している」という施設が5割を超え、2020年調査から17ポイント上昇。人材確保が大きな問題になっています。【4月12日 ケアマネタイムスより】

介護が外国人頼みになってきているのは台湾も同じ。ただし、日本では介護施設が介護の中心なのに対し、台湾では個人宅への住み込みがメインという介護の形態に差があります。

台湾は日本にとっては、外国人人材獲得競争のライバルでもあります。

****台湾の介護も外国人頼み、激化が見込まれる人材獲得競争****
日本にとって台湾は、外国人労働者を獲得するうえでの最大のライバルだ。ベトナムやインドネシアといった労働者の供給国、また人材を求める職種においても共通する。とりわけ今後、日本と台湾ともにニーズが増えると見られる職種の一つが「介護」である。

すでに台湾は、日本にも増して多くの外国人介護士を受け入れている。台湾労働部によれば、その数は2022年6月時点で22万人を超え、外国人労働者の3割以上を占めるほどだ。99%以上は女性で、国籍ではインドネシアが約80%と最も多い。残りが12%のフィリピンと8%のベトナムだ。

この3カ国とは日本も「経済連携協定」(EPA)を結び、2000年代後半から介護士を受け入れ続けている。ただし、就労中のEPA介護士は今年1月1日時点で3257人(公益社団法人「国際厚生事業団」調べ)と多くない。

外国人介護士の在留資格で最も多いのが「特定技能」の2万1915人(今年6月末時点。出入国在留管理庁調べ)だ。そこに実習生、介護福祉士養成校への留学から「介護福祉士」となって働いている人などを加えても外国人介護士は約4万6000人と、台湾の2割程度に過ぎない。

台湾と日本の外国人介護士は、就労環境が大きく異なっている。日本での就労先は介護施設だが、台湾の場合は9割以上が個人宅に住み込んで働き、家事全般も任っている。台湾の外国人介護士たちは、なぜ「台灣」を選び、いかなる待遇のもと仕事をしているのか、

フィリピン南部の都市、ジェネラルサントス出身のエラさん(33歳)は、台北市内の高齢者の自宅で住み込み介護士をしている。台湾で働いて10年目になるベテランだ。

フィリピン人介護士のエラさんと陳さん 「フィリピンにいたときは、マニラのモールで働いていました。でも、給料は安くて……。だから海外へ出稼ぎに行こうと考えたのです」

フィリピンは国民の約1割が海外で働く出稼ぎ大国だ。フィリピン人は英語が得意なので、働き手を求める国々で人気が高い。女性の場合、介護士や看護師、メイドとして就労するケースが多い。

第一希望はカナダ
エラさんは当初、カナダでの就労を目指した。賃金が高く、永住の道も開けているからだ。しかし、「カナダ」は狭き門で、エラさんも選考に漏れてしまった。

カナダを諦めた後、「日本」へ行くことも考えた。その頃、日本はまだ介護分野で実習生を受け入れておらず、フィリピン人が介護士として働こうとすれば「EPA」しかなかった。ただし、EPAへの応募には「4年制大学の卒業生、もしくは看護師の有資格者」という条件があった。エラさんにはどちらの資格もない。「日本」という選択肢も消え、残ったのが「台湾」だった。

「カナダや日本と比べ、台湾に行くのは簡単でした。事前の準備としては、介護と語学の研修を2カ月ほど受けるだけだったんです」

台湾政府は外国人介護士の就労条件として、入国前に100時間の技能訓練を課している。一方、中国語に関する要件は設けておらず、エラさんもごく短期間勉強しただけで台湾にやってきた。

逆に語学力を重視しているのが日本である。EPAの場合、日本への入国前だけで半年間の語学研修を受けなければならない。2017年から受け入れ始めた実習生も、日本語能力試験「N4」レベルの語学力が就労条件になっている。「N4」は簡単な会話が成立する程度だが、日本語に馴染みのない外国人であれば数カ月の勉強が必要となる。

エラさんが言う。「わざわざ何カ月も日本語を勉強するのは大変です。しかも勉強したら、必ず日本に行けるわけでもない。だから日本で介護士をしようというフィリピン人は多くないのです」(中略)

現地の介護事情に詳しいコンサルタントの髙山善文氏が続ける。「日本と比べると、台湾の施設は質の点でかなりバラツキがあります。日本のような介護保険もないので、施設に入居すると費用も高い。外国人介護士を雇った方が安く済むんです。また、親を施設に入れることに抵抗感がある人も少なくない」

台湾にとって外国人の住み込み介護士は、金銭面でもありがたい存在だ。外国人労働者の中でも、住み込み介護士だけは最低賃金未満で雇うことが認められる。

現在、台湾の最低賃金は月収ベースで2万6400元(約12万3000円)だ。それが住み込み介護士の場合、政府が別途、最低保証額を月2万元(約9万3000円)に設定している。家賃が必要なく、食費なども雇い主の負担だからなのだという。

雇い主は賃金に加え、月2000元の「就業安定費」(雇用税)などを支払う必要はある。それでも施設に入るより費用は安い。

エラさんの月収は、手取りで2万4000元(約11万1000円)程度だ。週1日認められる休日を返上して働いた残業代を含めた金額である。エラさんのように、休日を取らずに働く住み込み介護士は多い。 彼女は2014年に台湾で働き始めて以降、一度もフィリピンに帰国していない。【10月21日 WEDGE】
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【ベトナム人を中心に台湾でも多い外国人労働者の失踪 理由は日本の実習生と同様に渡航前の借金】
ただ、日本同様に台湾でも外国人労働者の失踪が多いとか。特にベトナム人。その理由はこれも日本同様、渡航前の大きな借金。

****台湾で「年間4万人以上」の外国人労働者が失踪する理由****
近年、台湾では賃金上昇が著しい。蔡英文政権が発足した2016年当時は2万8台湾元だった月給ベースの最低賃金は現在2万6400元と、7年間で3割以上もアップした。来年からはさらに4・05%引き上げられ、2万7470元となる。

賃金上昇と合わせて進んだのが円安だ。16年当時、1元は3・4円ほどだった。それが現在は4・7円に迫る勢いだ。台湾の月収ベースの最低賃金を日本円に直すと、7年前の約6万9000円が来年には約12万8000円へとほぼ倍増する。このまま台湾の賃金上昇と円安が続けば、日本と台湾の賃金は遠からず逆転する。

台湾で就労する外国人労働者の賃金に関しては、最低賃金の伸びを上回る勢いで増えている。台湾労働部によれば、外国人労働者全体の6割以上が働く製造業の平均賃金は、22年6月までの2年間で4000元以上増加し、残業代を含めて3万2302元(約15万円)となっている。この金額は、日本で同様の仕事をしている実習生と変わらない。

「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、台湾は外国人労働者の新規入国を一時止めました。その結果、人手不足が深刻化し、外国人労働者の争奪戦が起きた。そんなこともあって賃金が急激に上がったのです」
そう解説してくれたのは、台北市内で人材派派遣会社を経営する呉家祥さん(60歳)さんだ。呉さんの会社では、インドネシアやフィリピン出身の外国人介護士を台湾人家庭に斡旋している。(中略)

呉さんの会社では「数百人」の介護士を斡旋している。かなりの規模だが、「儲かってはいませんよ」と苦笑する。台湾と日本の制度の違いが影響してのことだ。

日本の実習生の場合、就労先への仲介は「監理団体」が担い、民間の人材派遣会社は参入できない。一方、台湾では政府の認可を受けた派遣会社が仲介する。そしてもう一つ、日本との大きな違いが、仲介手数料の上限が法律で定めてあることだ。

その額は、外国人が就労した初年度は月1800元(約8400円)、2年目が月1700元(約7800円)、3年目以降が月1500元(約7000円)と次第に下がっていく。日本の監理団体が月3万〜5万円の「監理費」を徴収するのと比べるとずいぶん安い。だからといって、日本と台湾で仕事内容に大きな違いがあるわけでもない。

外国人労働者の借金
台湾の外国人労働者の賃金は上がり続け、仲介手数料も安い。一見、日本よりも恵まれているようだが、台灣にも日本と共通する問題がある。それは、ベトナム人労働者が入国時に背負う借金だ。  

日本にやってくるベトナム人実習生は、母国の送り出し業者に支払う手数料を借金で工面する。金額は100万円前後に達し、他国出身の実習生と比べて最も多い。来日後に働いて返済していくことになるが、実習生の賃金は高くない。だから手っ取り早く稼ごうと職場から逃げ、不法就労に走る実習生が現れる。

昨年1年間で失踪した実習生は9006人に上ったが、そのうち3分の2以上の6016人はベトナム人だった。  

台湾の状況も日本と似ている。現地で製造業の工場に外国人労働者を斡旋している業者幹部が言う。 「台湾の外国人労働者も、母国の送り出しブローカーへの手数料を借金して支払います。ベトナム人以外だと1000~2000ドル(約15万~30万円)程度ですが、ベトナム人に限っては5000ドル(約75万円)とずば抜けて高い」  

台湾では昨年1年間で4万人以上の外国人労働者が職場から失踪した。うち83%がベトナム人だ。ベトナム人は外国人労働者全体の35%なので、割合で見ても高い。日本の実習生と同様、やはり「借金」が影響していると見られる。  

現在、日本では技能実習制度の見直しが有識者会議で議論されている。同制度を廃止し、新たな制度をつくる案も出ているようだが、看板のすげ替えで終わっては意味がない。重要なポイントの一つが、ベトナム人を始めとする人材が、借金を背負わず来日できる仕組みをつくることである。借金問題に対し、実効性ある見直しがなされるのかどうか注目に値する。  

台湾を始め日本と人材の獲得を争う国々では、今後も賃金は上がり続けていく可能性が高い。為替相場の動向次第では、出稼ぎ先としての日本の魅力はいっそう低下する。そのとき人材を確保したいのなら、日本も賃金を上げていくしかない。  

それは日本人のためでもある。しかし産業界としては、低賃金で雇用できる外国人労働者が欲しい。日本が外国人の出稼ぎ先としての競争力を失う中、労働者の数を確保しようと、受け入れ条件の緩和を求める声が強まることも想定される。

その声に押され、政府が受け入れのハードルを下げれば、人材の質が悪化するだけでなく、肝心の賃金上昇が抑えられてしまう。  

そうなると日本人の働き手がさらに集まらず、外国人頼みがいっそう進む。台湾の住み込み介護のように「外国人しかやらない仕事」が日本でも生まれかねない。そして賃金が上がらない、という悪循環に陥ってしまうのだ。  

台湾は覚悟を決め、介護を外国人に任せた。結果、今のところは「低価格の住み込み介護サービス」を享受できている。しかし、台湾人が介護の仕事に戻ってくることは将来もないだろう。そんな仕事を日本でもつくるべきなのだろうか。【10月22日 WEDGE】
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【検討が進む技能実習制度廃止と新制度】
4月10日、政府の有識者会議は、外国人が働きながら技術を学ぶ技能実習制度を廃止すべきだとした上で、人材確保などを目的に中長期的な滞在を円滑にし、働く企業の変更も一定程度認めるよう緩和する新たな制度への移行を求めるたたき台を示しました。【4月10日 NHK】

****未熟練労働者、3年で特定技能 技能実習廃止へ最終案 有識者会議****
外国人技能実習制度の見直しを検討する政府の有識者会議(座長=田中明彦・国際協力機構理事長)は18日、同制度の廃止と、「人材確保」に主眼を置く新制度の創設を求める最終報告のたたき台をまとめた。 

未熟練労働者として受け入れた外国人を3年間で一定の知識・技能が必要な「特定技能1号」の水準に育成する方針を掲げた。外国人の中長期的な就労を促し、人手不足の解消につなげる。  

新制度は、未熟練労働者として受け入れる対象を、建設や農業など特定技能と同じ分野に限定。外国人が業務の中で習得すべき主な技能を定め、試験などで評価する仕組みを導入する。技能や日本語能力の試験に合格すれば、最長5年滞在できる「1号」への移行を可能とした。不合格でも再受験のため最長1年の在留継続を認める。【10月18日 時事】
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上記のような改正の方向で、現在の技能実習生制度の抱える問題が解決するのか、働く外国人と雇用する企業にとって改善となるのか・・・今後注視していきたいと思います。
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ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か

2023-10-24 22:30:34 | 欧州情勢

(ポーランドの野党連合「市民連立」を率いるドナルト・トゥスク氏【10月16日 BBC】 極右勢力、ポピュリズムの台頭に悩むEUにとっては、ポーランドでの親EU政権樹立は(まだ確定ではありませんが)珍しく明るい話題になりそうです)

【西欧的価値観に抗うEUの“異端児”ポーランドとハンガリー】
EUないにあって、ポーランドとハンガリーはいわゆる西欧的価値観とは異なる価値観を前面に出し、言論の自由への弾圧や司法への介入、移民受入れ・性的少数者の権利の問題での消極姿勢など、EUの方針に反対する“異端児”的な存在となっています。

****EU内部での価値をめぐる戦い****
(中略)冒頭で述べたとおり、ロシアへの対応をめぐりEU加盟国間の足並みの乱れがある。自国経済への影響を考慮したことが大きな理由の1つとされるが、EUの結束の乱れは経済的な理由だけに起因するものではない。

EU内部には民主主義や法の支配を中心とした価値観をめぐる相違が以前から根強く存在しており、現在も対立は続いている。

例えば、ハンガリーのオルバーン首相が「民主主義は必ずしもリベラルであるわけではない」と持論を述べた2014年の「非民主主義」演説は、欧州ではよく知られており悪名高い。

実際、政府に対して批判的な言論への統制は年々厳しさを増しており、今年行われた2022年4月のハンガリー議会選挙において、国営放送では野党に許された発言時間はわずかであった。

オルバーン派は、影響力のある独立系メディアの経営権を掌握する動きも同時に進めており、選挙が定期的に行われていると言うことはできても公平な選挙が行われているとは言えない状況である。

また、EU基金の不正利用や利益相反といった組織的な汚職疑惑が多いにもかかわらず、起訴率はほかのEU諸国と比べて低い水準にとどまっており、オルバーン首相とその周辺による公的資金の私物化が進められていると言える。

ポーランドも、政府にとって都合の悪い裁判官に対して定年引き下げや懲罰制度などを通じた介入を試みており、法の支配と司法の独立性が脅かされつつある。

EU内の現実を目にして、期待は失望に
民主主義と法の支配はともにEU憲法条約の第2条においてEUの基本的な価値と記されている。EU加盟の際には「コペンハーゲン基準」をクリアする必要があり、その条件の中には民主主義や法の支配も含まれているため、ポーランドやハンガリーでも導入が進められた。

しかし、加盟後はそうしたテコが使えず、代わりにEU憲法第7条を根拠としたEU基金の停止を新たなテコとして両国の状況改善を求めている。

それにもかかわらず、両国はEUの基本的な価値の書き換えに向けた試みを続けている。

EU加盟当初、ポーランドとハンガリーはEUのメンバーとなることで西欧諸国や中欧のオーストリアと同レベルの豊かさを享受できると期待していた。そうした期待は厳しい市場競争や経済格差というEU内の現実を目の当たりにして、EUへの失望に変わってしまった。

この失望は両国の保守派の間で、冷戦終結以後に推し進めてきた民主主義や法の支配の確立といった取り組みへの反発をもたらした。

さらには、両国はEUからの政治的な抑圧を受けており自律的な意思決定が妨げられているという、ドイツをはじめとした欧州の大国およびEUに対する不満も増大させた。

こうした反発や不満をもとに、ハンガリーのオルバーン政権やポーランドのモラヴィエツキ政権は、「自国ファースト」の政治を進めるとともに、EUの民主主義や法の支配を、人権への配慮などの要素を含んだ「厚い」理念ではなく、手続き的な意味だけに狭めた「薄い」理念に狭めようとしているのである。(後略)
【2022年11月21日 石川雄介氏 東洋経済オンライン「ポーランドとハンガリーの反発に映るEUの揺らぎ」】
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【ポーランド総選挙の結果、親EU野党への政権交代となる見込み】
そうした“異端児”の一画、ポーランドで政権交代が実現しそうです。(実際の政権確定は今後の議会内手続き後になりますが)

****ポーランドで総選挙、与党は過半数確保できず、政権交代の公算大****
ポーランド議会の総選挙(上院100議席、下院460議席)が10月15日に行われた。8年ぶりに政権交代する可能性がある。上下両院の投票率はそれぞれ74.31%と74.4%となり、ポーランドが民主主義へ体制転換した1989年以降、初めて70%を超えた。

国民選挙管理委員会(PKW)が10月17日に発表した最終集計結果によると、政権3期目を狙っていた保守与党「法と正義(PiS)」は下院で194議席を獲得した。

PiSが第1党となったが、欧州理事会(EU首脳会議)の前常任議長であるドナルド・トゥスク元ポーランド首相率いる「市民連立(KO)」が、中道の「第3の道」および「新左派」と合わせて248議席となり、野党勢力が多数派を形成できる見込み。

仮にPiSが18議席を獲得した極右野党「同盟」(注1)と連立を組んだとしても、過半数には届かない。

10月24~25日に、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領が、国民議会入りした各党の代表と個別に協議を行う予定だ。同大統領は選挙期間中にも、勝利した政党が支持する候補者に政権樹立の使命を託すことを示唆していたことから、地元メディアは、同大統領が(現与党)PiSのマテウシュ・モラビエツキ現首相に政権樹立を一任する予定だ、と非公式に報じている。

新首相は、任命の日から14日以内に活動計画を国民議会に提出し、信任投票を得る。現地メディアは、この投票はおそらく否決され、現野党が政権を樹立することになる、と予測している。

PiSは2015年に政権の座に就いて以来、「法の支配」や、移民、LGBTなど性的少数者の権利を巡ってEUと対立してきた。国内の経済専門家は、政権交代すれば、EUとの関係が改善し、「法の支配」などを巡って凍結されているEUの復興基金の拠出が開始されるという見通しを示している。

上院では、PiSは34議席しか獲得できず、野党が2023年2月に結んだ上院議員選挙協力協定、いわゆる「上院協定」(注2)「に圧倒的に敗北した。

国民投票の結果は拘束力を持たず
今回の議会選挙と同日に、国民投票も実施された。その内容は、(1)国家資産の外国企業への売却、(2)定年の年齢引き上げ、(3)ベラルーシ国境の壁の撤去、(4)不法移民の受け入れ、の4点の是非を問うものだった。

国民投票に参加した国民の大多数は、各議題に反対票を投じた。ただし、今回の投票率は40.9%で、ポーランドの憲法で定められている50%に達しなかったことから、拘束力を持たない結果となった。

議会選挙の投票率は過去最高を記録したものの、国民投票の投票率が低かったのは、野党が国民投票を「与党の政治ゲーム」とし、ボイコットを呼びかけた結果とみられる。

(注1)正式名称は「自由と独立同盟」。
(注2)「上院協定」とは、2023年2月に野党により締結された、2023年10月15日の議会選挙において上院議員統一候補を立てる協力協定のこと。(後略)【10月23日 JETRO】
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【対ハンガリー制裁決議に拒否権を発動してきたポーランドの政権交代はハンガリーやEU結束にも影響】
この政権交代は単にポーランドだけでなく、ポーランドと並んでEU方針に抵抗してきたハンガリーにも影響が及びます。そして当然にEUの結束にも。

****EUの未来を左右するポーランド総選挙 ~反EU政権が倒れ、親EU政権が誕生へ~****
(中略)
政権続投を目指した(現与党)PiSは、(野党指導者)トゥスク氏をベルリン(ドイツ政府)やブリュッセル(EU)の操り人形で、ポーランドの独立を脅かし、イスラム諸国からの大量の移民流入を招くと批判、影響力を持つ国有メディアを使って選挙戦を有利に進めようとした。

また、PiSの支持基盤が強固な地方の投票所や投票所に向かうバス路線を増やしたほか、総選挙と合わせて、退職年齢、ベラルーシとの国境管理、EUの移民受け入れ割り当て、国有企業の民営化を巡る4つの国民投票を実施し、与党支持者の投票率を高めようとした。

対する野党勢は、与党が司法やメディアを支配していると批判、与党政権の続投がポーランドのリベラル民主主義を脅かすと主張、今回の選挙が共産党体制崩壊後のポーランドにとって最も重要で、EUの未来を左右すると訴えた。与党のスキャンダル発覚や野党の主張がEU再接近を求める若者の投票率上昇につながり、逆転勝利につながった。(中略)

(野党指導者)トゥスク氏はEUとの関係改善、司法介入などを巡って凍結されている欧州復興基金の拠出開始を目指すとしている。また、現政権が進めた中絶反対を撤回する可能性も示唆している。

経済政策面では、個人所得の非課税枠の倍増、住宅の新規購入や改修時の補助金、3歳未満の子育て中の母親の職場復帰時の補助金、公共部門の20%の賃上げなどを主張しており、現政権以上に拡張的な財政運営を計画している。

なお、近年、ポーランドとともにEUとの対立を繰り返してきたハンガリーは、これまでポーランドの拒否権発動で重要な制裁決議などを免れてきた。ポーランドで親EU政権が誕生することで、ハンガリーとEUとの対立がどう展開するかにも注目が集まる。【10月16日 田中理氏 第一生命経済研究所】
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【ハンガリー・オルバン首相 「EUは旧ソ連のパロディ」】
一方、ハンガリー・オルバン政権には、多くの事案で全員一致を必要とするEUも手を焼いています。
ウクライナ支援に反対するハンガリーをなだめるべく補助金凍結の解除を検討しています。

****EU、対ハンガリー補助金凍結の解除を検討 ウクライナ支援模索****
欧州連合(EU)は、ウクライナのEU加盟協議開始を含むウクライナ支援に関してハンガリーの同意を得るため、ハンガリーへの補助金の凍結を解除することを検討している。複数のEU高官が明らかにした。

ハンガリーは他のEU諸国よりもロシアと緊密な関係を築いており、EU加盟27カ国の全会一致を必要とするウクライナの加盟協議を開始するかどうかの決定に関して反対する可能性が高いとみられている。

また、EUの行政執行機関である欧州委員会は、ウクライナ支援を拡大するため加盟国にEUへの拠出を増やすよう求めている。この決定にも全会一致が必要だ。

EU高官の1人はロイターに対し、ハンガリーの同意を得るために、EUはハンガリーの補助金の状況について検討するだろうと語った。ハンガリーへの補助金は現在、オルバン首相が裁判所の独立性を制限したとして、法の支配への懸念から凍結されている。この高官は「まず凍結された補助金に対する解決なしに、ハンガリーが同意するとは考えられない」と述べた。

もう1人の高官も、ハンガリーへの補助金交付と、加盟国拡大や予算協議など全会一致を必要とするEUの計画との間に関連性があることを認めた。

3人目のEU高官は、約130億ユーロ(136億ドル)が検討されていると述べた。

ただ関係者らは、結論は既定ではなく、国内の景気停滞と財政赤字の拡大に直面しているオルバン氏によるところがかなり大きいことも強調した。【10月4日 ロイター】
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こうしたハンガリー・オルバン政権の対応が、「パートナー」ポーランドの政権交代・親EU路線への変更で、どのように影響を受けるかは今後の話です。

そのハンガリー・オルバン首相のロシア接近にはNATOも懸念を示しています。

****NATO、ハンガリー・ロシア首脳会談に懸念****
北大西洋条約機構加盟国とスウェーデンの在ハンガリー大使は19日、同国の首都ブダペストでハンガリーがロシアとの関係を深めていることへの懸念が高まっていることについて協議した。在ハンガリー米大使館がAFPに明かした。

NATO加盟国であるハンガリーのオルバン・ビクトル首相は同日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国・北京で会談した。両首脳の対面での会談は、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻開始以降初めて。オルバン首相は、ウクライナ侵攻後もロシアとの緊密な関係を維持している。

米大使館の報道官によれば、協議の主要議題はこの首脳会談だった。
米国のデービッド・プレスマン駐ハンガリー大使は米国が出資するラジオ・フリー・ヨーロッパに対し、「ハンガリーがこのような形でプーチン氏と関わるのを選択したことは、憂慮すべきだ」と語った。

また「プーチン氏がウクライナに仕掛けた戦争を表現する際に、オルバン首相が使った言葉も同様だ。どちらも議論に値する」と批判。

「ロシアがウクライナに侵略戦争を仕掛けているさなかに、ハンガリーの首相がプーチン大統領と会談したことをわれわれ全員が懸念している」と強調し、「安全保障上の正当な懸念があれば、同盟国に伝え、真剣に受け止めてもらうことを期待する」と付け加えた。

一方、ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は放送局ATVに対し、「米大使にハンガリーの外交政策を決定する権限はない。それはハンガリー政府の仕事だからだ」と語った。 【10月20日 AFP】
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なお、オルバン首相はEUを旧ソ連の「パロディー」だと批判しています。

****EUはソ連の「パロディー」 ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は23日、旧ソ連軍の撤退を求めてハンガリー市民が蜂起した「ハンガリー動乱」の日に合わせて行った演説で、欧州連合を旧ソ連の「パロディー」だと批判した。

ハンガリーはEU加盟国だが、オルバン氏は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後も、ウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持している。

西部べスプレームで演説したオルバン氏は「歴史は時に繰り返す。幸いなのは、1度目は悲劇だったものが、2度目はせいぜい茶番に終わることだ」と発言。

その上で、「モスクワ(ソ連)は悲劇だったが、ブリュッセルはまずい現代版パロディーだ。モスクワが口笛を吹けば、われわれは踊らないわけにいかなかった。ブリュッセルも口笛を吹くが、われわれは好きなように踊ればいいし、躍りたくなければ踊らなくても済む」と述べた。

ただしオルバン氏は、EUは「まだ絶望的ではない」と補足。「モスクワは修復不能だったが、ブリュッセルとEUは修復が可能だ。欧州にはまだ選挙がある」と述べ、来年6月に予定されている欧州議会選挙に言及した。

オルバン氏は司法や報道の独立性、移民問題、性的少数者(LGBTなど)の権利をはじめ、さまざまな課題をめぐってEUと頻繁に対立しており、以前から欧州議会でポピュリスト政党が躍進し、EUに方針転換を迫ることを望むと語っている。 【10月24日 AFP】
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面白い批判ではありますが・・・旧ソ連とEUの決定的違いは、旧ソ連から勝手に抜けることはできませんが(反抗すればハンガリー動乱のようなことにもなります)、EUはイギリスのように抜けることができます。

「そんなにEUが嫌いなら、EUから出ていけばいいのに・・・」と思うのですが、出ていきません。
これまでハンガリーなど東欧諸国はEUから巨額の補助金を受け取っています。そのあたりの話でしょうか。

なお、多くの権威主義政治家がそうであるように、オルバン首相も、かつては“民主化の旗手”でした。

“1989年6月、ハンガリー動乱で失脚、処刑されたナジ・イムレの再埋葬式で、「共産主義と民主主義は併存し得ない」と社会主義政権打倒を訴える演説を行い、民主化の旗手として名を高めた。”【ウィキペディア】
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イラン  自身を紛争に巻き込むようなパレスチナでの大規模なエスカレーションは避けたい“綱渡り”

2023-10-23 23:30:40 | イラン

(パレスチナのイスラム組織ハマスの指導者ハニヤ氏と会談したイランのアブドラヒアン外相=14日、ドーハ アブドラヒアン外相はハマスが7日に実行したイスラエルへの奇襲を「歴史的勝利」と称賛。「パレスチナの人々が記録した新たな輝かしい歴史だ」と強調したとのことですが・・・・)

【ハマスの攻撃にイランは関与したのか?】
イスラエルとハマスの戦争において今後予想されているイスラエル軍の地上作戦や、懸念されているレバノンのイスラム武装勢力ヒズボラの参戦といった戦闘拡大の可能性について、イスラエルを支持する欧米も、ハマスを支持するイランも表向きの「支持」とは別に、本音では苦慮する面もあるようです。

欧米について言えば、犠牲を強いられているガザ住民に対し今でも同情論が少なからずありますが、今後地上作戦で犠牲が更に大きくなれば、そうした状況に反発する世論も更に強まります。

ロシアのウクライナ侵略による住民殺害を批判する一方で、イスラエルのガザ侵攻を支持することの二重基準も問題になってきます。

また、アメリカにはそうした事に加え、今後の中東戦略を考えた場合、イスラエル支持一辺倒でいいかという「国益」の問題も絡んでくるでしょう。

欧米のそうした問題はまた別機会に取り上げるとして、今回はイランの立場。
イランがイスラエルとハマスの戦争においてハマスを支持しているということ、これまでハマスをに軍事的に支援してきたことは間違いないですが、ハマスの今回の攻撃にどこまで関与していたのかは定かではないようです。

10月9日ブログ“ハマスのイスラエル攻撃 イラン革命防衛隊が計画に関与か 今後のヒズボラの動向は?”では、“イラン革命防衛隊が8月から作戦会議に参加、10月2日に攻撃を承認していた”とするWSJ記事をとりあげましたが、イラン指導部は攻撃を知らされていなかったという情報もありますし、アメリカもイランの関与を確認していません。

****イランはハマスのイスラエル攻撃に関与したのか****
(中略)
イランと米国・イスラエルが示す立場
まず、ハマスによるイスラエルに対する大規模攻撃を受けての各国の反応を確認しておきたい。

10月7日、イランのサファディ最高指導者付軍事顧問は、ハマスの作戦を称賛する立場を示した。キャナアーニー外務報道官も同日、今回の事件はイスラエルによる入植・占領に対するパレスチナ人民の自然な反応だと述べたことから、イランのハマス支持の立場は公式のものと考えてよかろう。

続く10日、ハーメネイー最高指導者は、今回の攻撃はパレスチナ人によって実行されたもので、「イランは関与していない」と疑惑を否定した。

イラン政府は、イスラエルによる地上侵攻をさまざまな形で牽制してもいる。アブドゥルラヒヤーン外相は12日、訪問先のベイルートで、イスラエルのガザ攻撃が続けば「抵抗の枢軸」が集団的に反撃するだろうと警告した。「アルジャジーラ放送」の取材に対しても15日、同外相は、もしイスラエルがガザ地区に進攻すれば、抵抗運動の指導者らが報復することになると警鐘を鳴らしている。

要するに、イランの今回の事案に対する主な反応は、(1)ハマスの作戦の称賛、(2)イランの関与の否定、(3)イスラエルの地上侵攻への警告の3点にまとめられる。

一方、米国とイスラエルは、イランの関与を疑っているものの、断定にまでは至ってない。

10月8日付『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、革命防衛隊がハマスに作戦の指示を下したとの一報を伝えた。しかし、米国のブリンケン国務長官は、「米国はイランが指示した、あるいは今回の攻撃の背後にいたとの証拠を見ていない」(9日)と述べるに留めている。バイデン大統領も、イランに「注意せよ」(11日)と牽制はしているが、イランが首謀者だとまでは断言していない。

イスラエル軍広報官も8日、イランが計画や訓練に関与したとは言えない、との立場を示しており、米国同様、断定を避けている状況だ。確証がない中での軍事行動は、国際法違反との批判を招く。現在の曖昧な現状は、イスラエルによるイラン攻撃を抑止している。

誤解の多いイランとハマスの関係性
では、実際のところ、ハマスが今回の攻撃を起こすに当たり、イランは背後から支援を与えたり、指示したりしていたのだろうか。  

結論からいうと、長い時間軸で見れば、イランがハマスの後ろ盾となり、軍事・財政支援を行ってきた形跡がある一方、今回の戦闘に限ってみれば、現時点でイランが指示した確証はない。  

そもそも、誤解が多いことではあるが、イランと非国家主体との関係は一様ではない。関与の程度にもばらつきがあるのである。  

非国家主体への支援を行うのは、イラン・イスラム革命防衛隊ゴドス部隊である。ゴドス部隊とは、革命直後の1979年5月に国軍のクーデター防止、および左派ゲリラへの対抗を目的として創設された革命防衛隊の諜報・対外工作を担う部隊である。  

ゴドスは、ペルシャ語でエルサレムを意味する。つまり、イランが「抑圧者」と見做すイスラエルと鋭く対立する組織である。  

ゴドス部隊は、「抵抗の枢軸」と呼ばれる代理勢力ネットワーク(俗に「シーア派の三日月」と他称される)を活用しつつ、イランの抑止力強化を図る。

他方で、一口に「支援」といっても、その内容は、政治的認知の付与、ヒト・モノ・カネ等の資源の供与、軍事訓練、助言、聖域の提供等、多岐にわたると考えられている。  

「代理勢力」とはいっても、革命防衛隊の指示を従順に待つだけの受け身の存在というわけではない。各々の非国家主体は、一部例外を除き、自己決定権を持つ独立した武装勢力で、両者間に何か同盟関係を示す文書やMoU(覚書)があるわけでもないのである。  

革命防衛隊ゴドス部隊の活動の実態はベールに覆われているが、近年、それを隠さなくなっていることも事実である。2020年1月、革命防衛隊のハージーザーデ空軍司令官が演説した際、その背後には複数の代理勢力の旗が並べられた。  

並べられたのは、レバノンのヒズボラ、イエメンのアンサール・アッラー(通称フーシー派)、イラクの人民動員、パレスチナのハマス、シリアで活動するファーテミユーン旅団(主にアフガニスタン人から成る)とザイナビユーン旅団(主にパキスタン人から成る)であった。  

イラン自らが誇示する通り、イランとハマスを含む非国家主体との間には長年の関係がある。ハーメネイー師自ら23年6月にハマスのハニーヤ政治局長とテヘランで会談したことも、こうした事実を傍証している。また、10月7日の攻撃以降、ライシ大統領がハニーヤ政治局長と電話会談(8日)した他、アブドゥルラヒヤーン外相が直接会談(14日)し、ハマスに寄り添う姿勢を鮮明にした。

ハマスはいかに周到な準備をしたのか
(中略)10月16日付「タスニーム通信」(革命防衛隊系)は、ハマスが4年前から演習を行うなど今回の攻撃を周到に準備していたと報じている。

準備期間を約2年とする憶測もあり、4年という数字が正しいか否かについては議論が分かれるところだが、充分な兵器(ロケットや小型小銃・弾薬等)を準備し、これだけ統制の取れた軍事作戦を実行するには、何者かから立案に関する助言と軍事資源の供与があったと考えるのは自然なことであろう。

(中略)もっとも、繰り返しになるがイランの関与があったのか、あったとすればその程度はどれ程だったのかは曖昧である。

過去にも、イエメンのフーシー派によるサウジアラムコ社の石油施設に対する攻撃(19年)、ロシアに対するイランのドローン供与疑惑(22年~)が取り沙汰されたが、結局証拠は見つからず懲罰は見送られてきた。つまり、公式に否定したとはいえ、イランが責任の所在を曖昧にする戦略を取っている可能性は残る。

戦線拡大の可能性は
今後の懸念は、現在はイスラエル・ハマス間に限定されている戦闘が、イランや近隣諸国、ひいては域外国をも巻き込んで拡大することである。

既に、レバノンのヒズボラは同国南部から、イスラエル北部に対する牽制や陽動を狙った軍事行動を起こしている。イランから発せられる累次の警告を踏まえると、このままイスラエルがガザ地区への地上軍派遣に踏み切った場合、イランから報復がなされる可能性がある。  

イランが具体的に何を講じるかは明らかでないが、アブドゥルラヒヤーン外相が「抵抗の枢軸」に言及していることから見て、イランがヒズボラ等の「抵抗の枢軸」を成す非国家主体と連動してイスラエル軍に攻勢を仕掛ける可能性が考えられる。その場合、イスラエル軍による反撃、並びに、米軍の介入も想定されることから、戦線が一挙に拡大することが危惧される。  

なお、米国は参戦することに対して消極的なようにも見えるため、介入に踏み切るか否かは、同国内政や兵隊の士気等を総合的に鑑みて決定されるだろう。  

イラン体制指導部にしてみると、今回の戦闘が勃発したことでイスラエル・サウジアラビア国交正常化交渉が頓挫し、結果的に利を得た状況である。昨秋以来のヒジャブ抗議デモを受けて体制批判の声が増えていた中、イスラエルという外患を抱えたことで、むしろ国内の結束も高まっている。  

イランへの直接被害が及ばない範囲での(代理勢力ネットワークを通じた)戦闘の長期化は、イスラエルの国力を消耗させる点に限れば、イランにとって悪くはないシナリオともいえる。  

とはいえ、レバノン等周辺諸国への戦線拡大は、イスラエルによるイラン本土への直接攻撃を誘発するかもしれず、イランにとって不利な状況を生むリスクもある。レバノン、エジプト、ヨルダン等近隣諸国の治安悪化も懸念事項だ。今後の情勢を過度に楽観視することは控え、予防策を早めに講じることが重要である。【10月20日 WEDGE】
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【戦争の激化・拡大でイランは苦境に立つことにも】
直接の関与は定かではないが、イスラエルとサウジアラビアの接近といった事態を当面停滞させ、イスラエルを不安定化させることにおいては、“イランにとって悪くはないシナリオ”ということですが、それも今後の戦闘の拡大状況次第でしょう。

イスラエルがガザに侵攻して激しい戦闘状態が続き、ハマス以上にイランとの関係が深いヒズボラも本格参戦するといったことになれば、ヒズボラやハマス、フーシ派といった「抵抗の枢軸」と呼ばれる代理勢力の後ろ盾となってきたイランとしても単なる口頭での「支持」だけでなく何らかの戦闘への関与を立場上求められます。

しかし、それはイラン自身へのイスラエルの攻撃、アメリカなどの制裁強化を伴います。今でもヒジャブ問題を機に国内で体制への不満が充満している状況で、イラン指導部にとっては更に厄介な事態ともなりかねません。
イランとして、そうしたリスクを考えつつ、どこまで関与していくのか・・・悩ましいところでしょう。

****軍事関与避けるイラン、ハマス支援との整合性に苦慮****
今月15日、イランは宿敵イスラエルに痛烈な最後通告を行った。パレスチナ自治区ガザへの猛攻撃を止めなければ、わが国も行動を起こさざるを得なくなる、と外相が警告を発したのだ。

そのわずか数時間後、イランの国連代表はタカ派的なトーンを和らげ、イスラエルがイランの利益や市民を攻撃しない限り、自国の軍隊は紛争に介入しないと世界に保証した。

イスラム組織ハマスを長年支援してきたイランは今、板挟みの状況に立たされている。そのことが、イラン指導部の考え方を直接知る同国高官9人への取材で分かった。

イスラエルによるガザ侵攻を傍観すれば、イランが40年以上追求してきた地域支配戦略が大きく後退することになると、これらの情報筋は言う。

しかし、米国が支援するイスラエルに大規模な攻撃を行えば、イランは大きな打撃を被る上に、既に経済危機に苦しむ国民の間で指導者への怒りに火がつく可能性がある。

イランは軍事、外交、国内の優先課題など、幅広い問題をてんびんに掛けていると情報筋らは説明した。

安全保障当局者3人によれば、イランの最高意思決定者の間では、当面のコンセンサスが以下のように形成されている。

一つ目は、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラによるイスラエルの軍事目標への限定的な越境攻撃および、地域の他の同盟組織による米国の軍事目標への小規模な攻撃に賛同すること。

二つ目は、イラン自身を紛争に巻き込むような大規模なエスカレーションを防ぐことだ。

イランの国営メディアによると、議会・国家安全保障委員会のバヒド・ジャルザデ委員長は18日に「われわれは、友であるハマス、(ガザの過激派)イスラム聖戦、ヒズボラと連絡を取り合っている。彼らのスタンスは、われわれが軍事行動を起こすのを期待していないということだ」と述べた。

イラン外務省に今回の危機に対する対応についてコメントを求めたが、回答はなかった。イスラエル軍当局もコメントを控えた。

イランは綱渡り状態だ。

情報筋らによると、30年以上をかけ、ハマスとイスラム聖戦を通じて築いてきたガザの権力基盤を失うことは、イランにとってネットワーク構築に穴が開くことを意味する。

同国はヒズボラからイエメンの親イラン武装組織フーシ派まで、中東全域に代理武装組織の網を張り巡らせてきた。

3人の政府関係者によれば、イランが軍事行動を起こさなければ、こうした代理組織から弱腰と見なされかねない。また、イスラエルに対するパレスチナの大義を長年支持してきたイランの立場が損なわれる恐れもある。イランはイスラエルを国として認めず、邪悪な占領者と見なしている。

「イランは、ガザ地区にある武器を守るためにヒズボラを戦場に送るのか、それともこの武器を放棄して降参するのかというジレンマに直面している」と、イスラエルの元諜報高官、アビ・メラメド氏は語った。「これがイランの立ち位置だ。リスクを計算しているのだ」とも語った。

<国の存続を最優先>
軍事大国イスラエルは、核兵器を持っていると広く信じられている。同国はこれを肯定も否定もしていない。イスラエルはまた、米国の支持を得ており、米国はイランへの警告も兼ねて空母2隻と戦闘機を地中海東部に移動させた。

イランの外交高官は「イランの指導部、とりわけ最高指導者ハメネイ師にとって、最優先事項はイランの存続だ」と述べるとともに「だからこそ、イラン当局は攻撃開始以来、イスラエルに対して強い言い回しを用いながらも、少なくとも今のところ、直接的な軍事的関与を控えている」と解説した。

ハマスがイスラエルを攻撃した今月7日以来、ヒズボラはレバノン・イスラエル国境沿いでイスラエル軍と衝突し、ヒズボラの戦闘員14人が死亡した。

ヒズボラの考え方に詳しい情報筋2人によると、こうした低レベルの戦闘はイスラエル軍を忙殺させつつ、新たな主要戦線は開けないよう意図されたものだ。

イスラエルの安全保障に詳しい情報筋3人と西側の安全保障筋1人がロイターに語ったところによると、イスラエルはイランとの直接対決を望んでいない。また、イランはハマスを訓練し武器を供与してきたが、7日の攻撃を事前に知っていた形跡はないという。

最高指導者ハメネイ師は、ハマスがイスラエルに与えた損害を賞賛しつつも、イランによる攻撃への関与は否定している。

イスラエルと西側の安全保障筋は、イスラエルがイランを攻撃するのは、イラン軍に直接攻撃された場合だけだと語った。もっとも状況は不安定であり、ヒズボラや、シリアやイラクのイラン代理組織がイスラエルを攻撃し、多くの死傷者が出た場合には、状況は変わり得るとくぎを刺した。

<米国は軍事介入せず>
米政府高官らは米国の目的について、選択肢を開けておきつつも、紛争拡大を防ぎ、他国が米国の利益を攻撃するのを抑止することだと説明している。

バイデン米大統領は18日にイスラエルを訪問した帰り、ヒズボラが戦争を始めた場合、米軍はイスラエル軍と一緒に戦うとバイデン氏側近がイスラエルに示唆した、というイスラエルメディアの報道をきっぱりと否定した。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、紛争を封じ込めたいという米国の意向を改めて説明し「米軍を戦闘に投入する意図はない」と記者団に語った。

<イラン国内に蓄積する指導部への不満>
一方、今回の中東紛争にはイラン国民自身が一定の影響を及ぼすかもしれない。

高官2人によると、国内では経済危機と社会問題を背景に指導部への反感が強まっており、指導部はこれを鎮めながら直接紛争に関与する余裕はない。

昨年、スカーフの着用が不適切だとして当局に拘束された女性が死亡して以来、何カ月間も社会不安が続いている。国は着用規則を守らない国民への取り締まりを続けている。

経済的な苦境が続く中、多くのイラン国民は、中東におけるイランの影響力を拡大するため、数十年にわたり代理組織に資金を流してきた政府を批判するようになった。

イランの反政府デモでは何年も前から「ガザでもレバノンでもなく、私はイランのために命を捧げる」という言葉がスローガンとなっている。

元イラン高官は「イランの曖昧な立ち回りは、地域の利益と国内安定との間で微妙なバランスを採る必要性を浮き彫りにしている」と語った。【10月23日 ロイター】
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イスラエルに対し欧米が抑制的に働きかけ、ヒズボラに対しイランは「限定的な行動」に留めるように働きかける・・・という形で、イスラエルのガザ侵攻はあるにしても限定的なものにとどまり、戦線もそれ以上には拡大しない・・・人質をめぐる複雑な交渉が始まる・・・・というシナリオも考えられます。

ただ、イランとしてもハマスやヒズボラを完全にコントロールすることはできませんので、事態はイラン指導部の思惑を超えて、思わぬ方向に・・・ということも否定できませんが。
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中国をめぐり、豪は関係改善、フィリピンは対立激化、インドネシアは関係強化

2023-10-22 23:05:02 | 中国

(フィリピン沿岸警備隊の船(右)に、中国の船(左)が衝突。フィリピン政府提供【10月22日 日経】)

【オーストラリア 首相訪中を前に関係改善加速】
中国とオーストラリアの関係は3年前、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源について独立した調査が必要だと表明したことをきっかけに急速に悪化、米中対立が深まる中でオーストラリアの自由党・モリソン前政権が対中強硬姿勢を強め、中国側がオーストラリア側へ次々と貿易などの制限措置をかけるなどしてきました。

現在でも、米英との「AUKUS(オーカス)」の枠組みによる原子力潜水艦保有計画を進めるなど、オーストラリアは中国への安全保障分野での対抗姿勢は崩していません。

ただ、経済面ではオーストラリアにとって中国は最大の貿易相手であり、去年5月、労働党・アルバニージー政権が誕生して以降関係修復が進み、中国は石炭への輸入制限や大麦の制裁関税を相次いで撤廃しています。

****オーストラリア首相が中国を訪問へ コロナの「起源」めぐり悪化した関係の改善進む ASEANでも両国首脳が会談*****
中国政府は、オーストラリアのアルバニージー首相が中国を訪問すると発表しました。両国の関係は一時冷え込んでいましたが、アルバニージー政権誕生以降、中国が大麦の制裁関税を撤廃するなど関係改善が進みつつあります。

中国外務省 毛寧報道官
「中国はアルバニージー首相が李強首相の要請に応じて訪中することを歓迎する。オーストラリア側と共同で各種準備作業を共同で進めたい」

中国外務省の毛寧報道官は7日の記者会見でこのように述べた上で、「意見の食い違いを適切に処理し、両国の全面的戦略パートナーシップの改善と発展を推進したい」と強調しました。

これに先立ち、ASEAN=東南アジア諸国連合に関連する首脳会議が開催されたインドネシアでは、李強首相とアルバニージー首相の会談が行われ、中国国営の新華社通信によりますと、両首脳は関係強化の考えで一致したということです。

オーストラリアと中国の関係は一時、人権問題や新型コロナの起源をめぐって悪化していましたが、去年5月のアルバニージー政権誕生以降、中国が8月に大麦の制裁関税を解除するなど改善に向けた動きが進んでいます。【9月7日 TBS NEWS DIG】
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9月7日、北京では中断していた官民による対話の枠組みのハイレベル対話が再開、オーストラリアからはエマーソン元貿易相やビショップ元外相ら超党派の政界要人のほか、財界や学界などの代表ら18人が参加しました。

オーストラリア側の一行と会談した王毅(ワンイー)党政治局員兼外相は、「過去数年に起きた曲折は両国関係の本質とは言えないし、それによって両国の協力の歩みが阻害されてはならない。中豪は脅威ではなく、パートナーだ。第三国の影響や干渉を取り除く必要がある」などと呼びかけています。

11月に予定されているアルバニージ首相訪中に併せて、両国の関係改善も加速度を増しています。

中国との関係悪化を背景に、拠点港湾であるダーウィン港の中国企業へのリースについて見直し作業が行われていましたが、アルバニージ首相の中国訪問を前に、豪政府は「契約に問題はない」との結論を出しています。

****ダーウィン港 中国企業へのリース権破棄せず****
見直しが行われていたNT(ノーザンテリトリー)準州ダーウィン港の中国企業との99年リース権契約について、「破棄の必要はない」と判断されたことが分かった。連邦政府のアルバニージ首相が中国の習近平国家主席と会談するため北京を訪れるのを前に発表された。

ダーウィン港のリースをめぐっては、2015年にターンブル政権がNT準州と共同で中国共産党とのつながりが報告されている中国企業、ランドブリッジのオーストラリア子会社に5億600万ドルのリース権を付与していた。

首相・内閣府が実施した見直しによると、監視体制は「十分」であり重要なインフラに及ぶリスクを管理するための「強固な」規制システムが存在することが判明したという。20日午後に発表した声明の中では、「結果として、リースを変更したり取り消したりする必要はない」と説明した。

一方、VIC州選出の自由党上院議員、ジェームズ・パターソン氏はソーシャルメディア上で、「なぜ首相による過去の懸念が蒸発してしまったのか」と述べ、オーストラリア国民はこの決定について、明確な説明を受けるべきだと見解を述べた。

リース権契約の見直しは、2022年にアルバニージ政権が誕生した後に行われたもので、国防の専門家たちが国家安全保障を理由に、リース権契約を打ち切るよう求める声が続いたことを受けて行われていた。【10月21日 JAMS.TV】
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また、首相訪中発表に併せて、中国がオーストラリア産ワインに発動した制裁関税の見直しに着手することで両国が同意したことも発表されています。

****豪州首相が約7年ぶり訪中へ 豪産ワインの制裁見直し着手で合意****
オーストラリアのアルバニージー首相は22日、中国を11月4〜7日に訪問すると発表した。オーストラリアの首相による訪中は2016年以来、約7年ぶりとなる。

アルバニージー氏は、中国が豪州産ワインに発動した制裁関税の見直しに着手することで両国が同意したことも明らかにした。

アルバニージー氏は、北京で習近平国家主席や李強首相と会談するほか、上海を訪れて習政権が力を入れる大型見本市「中国国際輸入博覧会」に出席する予定だと説明している。

両国関係を巡っては、2020年にオーストラリアのモリソン前政権が新型コロナウイルスについて第三者による発生源の調査を求めたことに中国が反発し、中国側が事実上の報復措置として豪州産ワインに高関税を設定するなど経済的な圧力をかけた。昨年5月に誕生したアルバニージー政権は関税撤廃を目指し、中国側と交渉を重ねていた。
豪州産ワインへの制裁関税については、今後5カ月を掛けて見直す。アルバニージー氏は、中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国だと強調し、「安定的で生産的な関係を確実にするための重要な一歩として訪中を楽しみにしている」と表明した。【10月22日 産経】
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【フィリピン 南シナ海での緊張状態 ついに衝突事故】
一方、南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)周辺アユンギン礁をめぐる中国とフィリピンの対立はエスカレートしています。

「九段線(最近は台湾を含む十段線とも)」と称するラインで南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張する中国に対し、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、中国の主張には法的根拠がないと否定する判決を出していています。フィリピンが領有を主張するアユンギン礁の管轄権についても否定されましたが、中国は判決を受け入れず、フィリピン船への妨害活動を繰り返しています。

今月初めには、両国の艦船が「1m」まで接近。

****中国海警局船、比の巡視船を妨害 南シナ海、1mの至近距離に接近****
フィリピン沿岸警備隊は6日、南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)のフィリピン軍拠点に4日、補給物資を届ける任務を支援する際、中国の海警局と海上民兵の船9隻に妨害されたと発表した。

海警局の船がフィリピンの巡視船に対しわずか1メートルの至近距離まで接近するなど、8件の危険行為に直面したと非難した。

沿岸警備隊が公開した映像によると、中国海警局の船はフィリピン巡視船の進路の直前を横断。地元メディアによると、巡視船は衝突を避けるため、動力を逆回転させて急停止を強いられた。

沿岸警備隊は、中国海軍の軍艦1隻もフィリピンの巡視船から1キロ以内の距離に近づいたほか、中国軍機が監視飛行を行ったと指摘した。

フィリピンの巡視船には、マルコス大統領が「特別な懸念」に対応するため中国担当特使に任命したロクシン前外相が乗り込んでおり、妨害状況を目撃した。

アユンギン礁では、フィリピンが1999年に老朽艦をわざと座礁させて軍事拠点化。兵士を常駐させ、定期的に補給船団を送ってきた。【10月7日 共同】
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その後も緊迫した状況が続いていました。

****中国海警がフィリピンの艦艇を駆逐と発表も、フィリピン軍は反論―独メディア****
2023年10月10日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国海警が南シナ海でフィリピン戦を駆逐したと発表したことについて、フィリピン軍が「政治的ブロパガンダ」と批判したと報じた。

記事は、中国海警局の報道官が10日「フィリピン海軍の小型砲艦が再三の警告を無視してわが国の黄岩島近隣海域に意図的に侵入したため、然るべき措置を講じて駆逐した」と発表したことを紹介。

これに対してフィリピン軍武装部隊のロメオ・ブラウナー参謀長が同日「中国海警局は当時現場に姿を見せたが、海上パトロールを行っていたフィリピン海軍の船は駆逐されることなく航行を継続した」と中国側の駆逐情報を否定するとともに、「われわれは、中国による政治的プロパガンダだと認識している」と述べたことを伝えた。

そして、中国側の言う「黄岩島」について、南シナ海のスカボロー礁のことであり、主権や漁業権を巡る争いがアジアで最も活発な海域の一つであると説明。フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置するものの、中国が「争うべくもない主権」を主張し、12年以降は中国が実効支配していると紹介した。

また、南シナ海域を巡っては先月、中国がスカボロー礁に設置していた長さ300メートルのフローティングバリアをフィリピン沿岸警備隊が切断したこと、今月9日には中国側がフィリピンに対しセカンドトーマス礁(中国名・仁愛礁)での「挑発」をやめるよう警告していたことを紹介。

フィリピンで昨年マルコス政権が発足して以降両国の関係が悪化しており、同大統領が米国による台湾に近い地域を含む多くの軍事基地への進入を許可するなど米国との関係を深めていることを伝えた。【10月11日 レコードチャイナ】
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そして、ついに衝突。

****フィリピン政府 南シナ海で軍の船に中国海警局の船衝突と発表****
フィリピン政府は中国と領有権を争う南シナ海で、フィリピン軍の輸送船が中国海警局の船から危険な接近を繰り返された末に衝突されたと発表しました。

フィリピン側は「危険で無責任だ」と強く非難した一方、中国側は「責任はすべてフィリピン側にある」などと反論しました。

フィリピンの国家安全保障会議は南シナ海の南沙諸島、英語名スプラトリー諸島の海域で22日朝、フィリピン軍の輸送船が中国海警局の船から危険な接近を繰り返された末に衝突されたと発表しました。

フィリピン軍が公開した映像には、中国海警局の船の船首が軍の輸送船の後部にぶつかる様子がうつっています。

その後、現場海域では、軍の輸送船を警備していたフィリピン沿岸警備隊の巡視船にも中国の海上民兵の船が接触したということです。

フィリピン側の船はいずれも軍の拠点に補給に向かっていたところで、フィリピン側は声明で、中国側を「危険で無責任な違法行為だ」として強く非難しました。

これに対し、中国海警局は衝突時に撮影したとみられる映像などを公開したうえで、「フィリピン側の船は中国側の警告を無視し、危険な方法で中国側の船に接近し、衝突した。責任はすべてフィリピン側にある」などと反論しています。

フィリピン側は、今月4日にも中国海警局の船がフィリピンの巡視船に1メートルの距離にまで接近したと発表し、中国側がこれに反論するなど、南シナ海をめぐって両国が非難の応酬を続けています。【10月22日 NHK】
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【インドネシア 中国との全面的な戦略的協力の深化】
同じASEAN内でもインドネシア・ジョコ政権は中国との関係を強化しています。

****中国支援のインドネシア高速鉄道が開業 総工費膨張、需要も見通せず****
インドネシアで2日、中国の支援で建設された高速鉄道の開業式典が行われた。東南アジア初の高速鉄道だが、総工費は当初の計画から72億ドル(約1兆780億円)と約3割膨張。開業延期を繰り返し、予定より4年遅れでの開業となった。

高速鉄道は首都ジャカルタと西ジャワ州の都市バンドンの142キロを約40分で結ぶ。2日の開業式典でジョコ大統領は、高速鉄道の名称を「Whoosh(ウーシュ)」と明らかにした。インドネシア語の「時短、最適な運転、優れたシステム」の頭文字から取ったという。

高速鉄道は日本が安全性を重視した新幹線方式を売り込んだが、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の主要事業とするために入札に参入。ジョコ政権は2015年、インドネシアに公費負担を求めないとする中国案を採用した。

中国は当初、総工費55億ドルとしていたが、工期延長や土地収用の難航で膨張。最終的にインドネシアは公費投入に追い込まれた。また、既に同区間には在来線があって需要が見通せず、高速鉄道が利益を出すまでに「40年掛かる」との試算がある。【10月2日 産経】
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****中国・インドネシア、全面的な戦略的協力の深化に関する共同声明を発表****
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は習近平国家主席の招きに応じて、10月16日から18日まで中国を公式訪問して、第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムへの出席とその他の活動を行いました。

両国指導者は会談を通じて、中国・インドネシアの全面的な戦略的パートナーシップと運命共同体の建設を深化させつづけるとの重要な共通認識に達しました。

双方は今年、両国が全面的な戦略的パートナーシップを樹立して10周年を迎えたことを契機に、『中国・インドネシアの全面的な戦略的パートナーシップ強化行動計画(2022ー2026)』の全面的かつ効果的な実施を推進し、より力強く、多元的で質の高い、互恵的な二国間関係を構築することを決定しました。

双方はジョコ大統領の中国滞在期間中に、中国・インドネシア外相防衛相対話メカニズム、「一帯一路」共同建設の協力業務協調メカニズムの構築、発展協力の強化によるグローバル発展イニシアチブの実行推進、農村の発展と貧困削減での協力、持続可能な発展協力などの分野での協力文書を締結しました。【10月19日 レコードチャイナ】
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中国外交については、今回は取り上げませんでしたが、従来から中国の影響力の強いカンボジア・ラオスでの一帯一路事業も進行しています。もちろん、こうした周辺国との関係だけでなく、アメリカやロシアとの関係、イスラエル・パレスチナの中東情勢への対応等もあります。 

あっちと喧嘩したり、こっちと手を結んだり大忙し・・・・それだけ国際情勢における中国の存在感が強まっているということでしょう。
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