(ラクイラ・サミットでのメルケル独首相 “flickr”より By Downing Street
http://www.flickr.com/photos/downingstreet/3700680533/)
【オセロゲーム】
昨夜、民主党は、選挙前のマスコミ各社が予測していた勢いを保ったままの結果を手にしました。
自民党の“負けっぷりのよさ”には、外国メディアも関心を持ったようで、日本の政変について驚きをもって報じています。
****「天が変わった」中国各紙、日本の行方に関心******
中国各紙は31日、民主党が圧勝した衆院選結果を大々的に報じた。
1972年の日中国交正常化以来、ほぼ全期間を通じて「自民党の日本」を相手にしてきた中国は、その政権が一夜にして消滅した現実を驚きをもって受け止めたようだ。中国は民主党政権下の日本の行方にも大きな関心を抱いている。
「日本が『大王の旗』を変えた」「天が変わった」「民主党が歴史的大勝利」――。各紙は、政権交代を伝える大きな見出しを掲げ、分析付きで結果を詳報している。民主党の鳩山由紀夫代表については「日本のオバマ」「宇宙人」などとの評を紹介した。
今後の日中関係については、「(関係発展の)大きな流れは変わらないだろう」(国営新華社通信)との見方が強い。【8月31日 読売】
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事実上の共産党による一党独裁下の中国の一般国民が、今回のような選挙による政権交代のシステムをどのように見ているのか・・・個人的には、そっちのほうに関心が持たれます。
300:100という勢力比がほぼ反転したことには感慨もありますが、自民党大敗に繋がっても不思議ではないいろんな事柄をここ数年見せられてきたこともあって、それほどの“驚き”という感じはしません。
有権者にことさらの意識変化というほどのものはなくても、また、“多分民主党政権になっても・・・”という覚めた思いがあったにしても、有権者の“いい加減にしろよ・・・”程度の気持ちの揺らぎで、小選挙区制の選挙というのはときにこういうオセロゲームのような結果になるものなのでしょう。
【異例の現象】
いずれにしても、国内で身近に接している政治情勢への見方に比べると、外国から眺める政治情勢は相当に皮相的なものなってしまいます。それを承知で敢えて、ドイツの政治情勢の話。
ドイツでは、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(保守)と社会民主党(左派)の間で大連立が組まれていますが、9月27日に総選挙が行われます。
そのメルケル首相の個人的人気は相当なものがあるように報じられています。
*****独世論調査:80%が首相続投希望 大連立率いた手腕評価**********
9月27日投開票のドイツ総選挙まで2カ月に迫る中、メルケル首相の続投を望む有権者が80%に達している。首相対立候補のシュタインマイヤー副首相兼外相への期待は13%で戦術の再考を迫られる低迷ぶりだ。
世論調査では、メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟は第1勢力として政権にとどまる可能性が高く、同党を軸とした次期連立政権の組み合わせが焦点だ。
世論調査機関エムニトによると、メルケル首相への8割に上る期待は現職首相として過去数十年見られなかった異例の現象という。首相の人気は与野党で広く浸透し、シュタインマイヤー外相が所属する社民党支持者も84%が首相の続投を望んでいる。(後略)【7月26日 毎日】
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メルケル首相は05年11月の就任以来、年金改革法、養育施設拡充法、健康保険改革法など憲政史上最多と言われる489件の政府提出法案を成立させ、また、議会勢力の72%に及ぶ大連立与党を率いながら、調整型の主導スタイルで与党間の対立を表面化させなかったと言われています。
“社民党支持者も84%が(ライバル党の)メルケル首相の続投を望んでいる”というのは、事情のわからない外国人からすると“驚異的”です。
米経済誌フォーブス電子版が8月19日発表した「世界で最も影響力のある女性100人」でも、メルケル独首相は4年連続でトップに選ばれています。
巨大なドイツ市場を率いるたぐいまれな指導力と、9月の総選挙で再選まちがいなしとされる人気の高さが評価されたとか。【8月20日 AFP】
【「中道右派連合」を目指すメルケル首相】
そのメルケル首相は、総選挙後は社民党との大連立を解消し、経済政策でより共通項の多い自民党との「中道右派連合」による連立を目指す考えを示しています。
民主・社会同盟と自民党の「中道右派連合」への支持は、冒頭記事時点の世論調査では、50%をわずかに上回っています。ただ、メルケル首相への個人的人気がストレートに民主・社会同盟支持につながるものでもなく、このあたりはかなり微妙な情勢のようです。
****ドイツ:総選挙まで1カ月…「新連立」樹立が焦点*****
世論調査によると、大連立政権を組む2大勢力のうちメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟が第1党となる勢いで、野党・自由民主党との連立で中道右派政権を樹立できるのかが焦点になっている。
ただ、この連立で過半数議席を確保できない可能性もあり、その場合、民主・社会同盟と社会民主党が大連立継続に向け協議することになる。
世論調査機関フォルザの26日発表の調査によると民主・社会同盟の支持率は37%、社民党22%、自民党13%、緑の党12%、左派新党10%で、中道右派2党は計50%に達した。
だが、有権者は投票日の数日前に態度を決定する傾向が強く、前回総選挙は事前の世論調査と異なる結果が出た。フォルザのギュルナー代表は「社民党は5、6%上積みする可能性があり、その場合、中道右派連立は阻止される」と慎重な見方を崩していない。
与党の民主・社会同盟と社民党はいずれも大連立の解消を目指し、景気回復や雇用創出を焦点に選挙戦を展開している。(後略)【8月26日 毎日】
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支持率低迷に悩む社民党は、同党出身のシュミット保健相が休暇先のスペインで公用車を利用していた問題に「税金のムダ遣いだ」と批判が浴びせられていましたが、今度は、メルケル首相が昨年4月、ドイツ銀行のアッカーマン頭取の誕生日を祝うパーティーを首相府で公費を使って開いたことが「税の無駄遣いだ」と与野党から批判を招いています。
政治家の税の使途への感覚が問題とされるのは、日本やイギリスだではないようです。
【旧東独の独裁政党の流れをくむ「左派新党」が伸長】
最近注目されているのは、社民党から支持が流れている「左派新党」で、世論調査では10%前後を確保しています。
「左派新党」は、社民党の社会保障削減政策などに反発し離党したグループと、旧東独政権党・社会主義統一党の流れをくむ民主社会党が05年に合流した党で、「より平和で公正な社会」を求めて、失業手当の拡充や高所得者への課税強化、アフガニスタンへの派兵中止-などを訴えています。
民主社会党は、統一後の連邦議会選挙では、経済不振に喘ぐ旧東ドイツ地域住民の不満を代弁する形で一定の議席を保有していましたが、開かれた左翼政党に変革したとは言っても、旧西ドイツ地域では旧東独の独裁政党のイメージを強くもたれていたため支持が伸びていませんでした。
しかし、社民党離党グループと合同し「左派新党」になってからは、旧西ドイツ地域でも支持を伸ばし始め、各地の州議会選挙で議席を獲得しています。
この「左派新党」を、旧東独出身で独裁を経験しているメルケル首相は「赤い手」と呼んで、警戒感を示しています。
****独総選挙:独裁を経験した首相、左派新党の躍進を警戒*****
ドイツ総選挙(9月27日投開票)で、旧東独の独裁政党・社会主義統一党の流れをくむ「左派新党」が伸長している。世論調査での支持率が堅調なほか、最大の前哨戦となる3州議会選挙(30日投開票)のうち2州で州政権入りの可能性が浮上している。大連立政権に不満を持つ層が左派新党へと流れているとみられ、旧東独出身で独裁を経験しているメルケル首相は強い警戒感を示している。(中略)
社民党は州レベルでは、左派新党との政策の隔たりの大きい外交などは扱わないため、連立には柔軟だ。連邦レベルでの連立は「次期政権期間」に限定して否定している。
社民党、緑の党、左派新党の左派系3党の支持率の合計は45%程度と中道右派2党の合計に匹敵しており、中道右派政権樹立を狙うメルケル首相にとっては左派新党の伸長は潜在的脅威でもある
【8月28日 毎日】
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実際、30日の3州議会選挙で、ザールラント、テューリンゲン両州では、民主・社会同盟の得票が減少して左派連合が勢力を伸ばしており、民主・社会同盟が野党に転落する可能性があると報じられています。【8月31日 ロイター】
将来、旧東独の独裁政党・社会主義統一党の流れをくむ「左派新党」が連立与党になることがあれば、ベルリンの壁崩壊で旧西ドイツに飲み込まれた旧東ドイツの政治勢力が、統一ドイツの与党として復活する・・・という意味で興味深い流れです。