孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエルとイラン スーダンを舞台に神経戦を展開

2012-10-31 20:50:00 | イラン

(10月24日 爆発炎上するスーダン・ハルツームの軍需工場 イスラエルの空爆とも言われています。 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/8121186325/

【「われわれはイスラエルが空爆したと考えている」】
今月24日、スーダンの首都ハルツームにある軍需工場が爆発・炎上した事件について、スーダン政府はイスラエルの空爆と非難しています。

****軍需工場爆発はイスラエルによる空爆」、報復辞さない構え スーダン ****
スーダン政府は24日、首都ハルツームのヤルムク軍需工場で起きた爆発・火災について、イスラエルの空爆によるものという見方を示した。スーダンのアフメド・ビラル・オスマン文化・情報相は記者会見で「われわれはイスラエルが空爆したと考えている」「時と場所を選んで報復する権利を留保する」と述べた。

文化・情報相によると、24日午前0時(日本時間同6時)ごろ、レーダーに探知されにくい航空機4機が軍需工場を爆撃した。爆発物の残骸からイスラエルの関与を示す証拠が見つかったという。
イスラエルの軍部と外務省はコメントを出していない。イスラエルは、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの戦闘員に活動拠点を提供しているとしてスーダンを非難してきた。

スーダンは、2011年4月に同国南部のポート・スーダンで、イスラエルの攻撃ヘリコプターがミサイルと機関銃で車を攻撃した証拠を持っているとしている。
イスラエルはこの件についてコメントを拒否したが、イスラエル当局者はスーダンを経由した武器密輸への懸念を示していた。
2009年1月にも、スーダン東部で武器を積んでいたとされるトラックの車列が外国の航空機によって同様の攻撃を受けたことがある。【10月25日 AFP】
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イラン空爆の予行演習?】
これでもイスラエルはイラクやシリアの原子力施設を空爆したことがありますので、「さもありなん・・・」という感があります。
「さもありなん・・・」というだけでなく、何故今スーダンなのか?と考えると、イスラエルからすれば距離的にスーダン・ハルツームはイラン中部と同じぐらいの位置にありますので、素人考えでも「かねてよりイスラエルが標的としているイラン核施設を狙う作戦の予行演習ではないだろうか・・・」という印象がありました。

実際、そのような「予行演習」説の報道もなされています。
また、スーダンの軍需工場ではイランの指導でガザ地区ハマス向けの弾道ミサイル・シャハブが製造されていたとも報じてします。

イランの中距離弾道ミサイル・シャハブは北朝鮮のミサイル・ノドンがベースになっており、イランからイスラエル全土を射程距離に収めることができると言われています。
至近距離のガザ地区からイスラエルを狙うのであれば、そんな足の長いものは必要ないようにも思えますが(殆んど真上に打ち上げるのでしょうか?発射のための人員や装置も必要なのでは?)、手作りロケット弾でも苛立っているイスラエルにとっては、中距離弾道ミサイルなんてとんでもない話・・・ともなるでしょう。

現在イスラエルは周辺国からのミサイル攻撃に備えた防衛体制として、迎撃ミサイル・パトリオットの他、アメリカの援助で開発したアロー2ミサイル、更に、ミサイルだけでなくロケット弾をも撃ち落とせるというアイアンドームなどを配備していますが、相当の費用もかかっています。

****イスラエル:スーダン空爆は予行演習…対イラン想定 英紙****
スーダンの首都ハルツーム南部の軍需工場が爆撃された事件で英紙サンデー・タイムズは28日、西側軍事筋などの話として、作戦はイスラエル空軍がイランへの核施設攻撃の予行演習を兼ねて空爆したと報じた。

同紙によると、爆撃作戦は24日未明、イスラエル軍のF15戦闘機8機で行われた。うち4機が1トン爆弾を2発搭載、他の4機は護衛役だった。また、墜落など不測の事態に備えて、救出部隊としてイスラエル軍のCH53ヘリコプター2機が事前にスーダンの現場周辺で待機。そのほかスーダン防空レーダーに対し妨害電波を出すため空軍機1機、紅海上で燃料を供給するための給油機1機が作戦に加わった。
イスラエル南部の基地から出撃した戦闘機は、紅海を南下してエジプトの防空システムをすり抜ける形でスーダン領空に侵入し、ハルツーム南部に到達した。往復約3860キロ、計4時間の飛行だった。

この軍需工場では、イランが指導する形で、イランの弾道ミサイル・シャハブが製造され、パレスチナ自治区ガザに密輸される予定だったという。今回の作戦はガザへの武器密輸阻止のほか、将来、イランの核兵器開発が明確になった場合、イラン国内の核施設を空爆する電撃作戦の予行演習も兼ねていたと西側軍事筋は明かしている。イスラエルからイラン中部までの直線距離は、イスラエルからハルツームまでの距離とほぼ同じ。

ハルツームでの爆発では2人が死亡。スーダン政府は「イスラエル軍が実行した」と主張しているが、イスラエル軍はコメントしていない。【10月29日 毎日】
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スーダン空爆の報道で、“隣国エジプトはこの攻撃を知っていたのだろうか?ムバラク政権崩壊後、イスラエルとの距離をとりつつあるエジプト・モルシ政権が領空通過を認めるはずもないだろう・・・”とも思いましたが、“紅海を南下してエジプトの防空システムをすり抜ける形”をとったとのことです。
なお、イスラエルは南部港湾都市エイラートが唯一わずかに紅海・アカバ湾に臨んでいますから、エジプト・ヨルダン領空を通過せずに紅海に出ることが可能です。
それにしても、用意周到なイスラエルの作戦行動です。さすがと言うか、何と言うか・・・。

イラン:スーダンへの軍艦派遣でイスラエルを牽制
一方、10月6日にはレバノンのイスラム武装勢力ヒズボラがイスラエル内部まで無人機を侵入させることに成功した事件がありました。
“無人機はレーダーを逃れてイスラエル領空に約50キロ侵入し、イスラエル空軍が撃墜した。レバノンのシーア派組織ヒズボラの指導者ナスララ師は11日、無人機を飛ばしたことを認め「イランから部品を調達し、レバノンで組み立てた」と語っていた”【10月15日 毎日】

イランは、このときの無人機がイスラエルの核施設を撮影したと発表しています

****イランの無人機「イスラエル核施設の撮影成功*****
イラン政府は29日、同国が開発した無人機が、イスラエルの核施設の撮影に成功したと発表した。

イラン国会の国家安全保障・外交委員会によると、写真は、今月6日にイスラエル領空で撃墜されたレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの無人機「アイユーブ」が撮影。
アイユーブを開発したとするイランに、オンラインでデータが送付されていたという。写真は未公表だが、ヒズボラは「無人機は(イスラエル南部の)ディモナ核施設まで到達した」と主張していた。イスラエルは撮影を否定している。

イラン軍は昨年12月、米軍の最新鋭無人偵察機「RQ170」を撃墜し、製造情報の解析を進めていたとされる。今年9月には、2000キロの飛行能力を持つ国産無人偵察機「シャヘド129」の配備を発表。
11月1日には、ミサイル搭載が可能な武装型無人機の公表を予定している。
イランのバヒディ国防相は29日、「イランはあらゆる作戦を遂行できる無人機の保有に成功した」と語った。【10月30日 読売】
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更に、イラン海軍の艦船がスーダンに入港したとのことで、イランはイスラエル牽制を強めています。

****スーダン:イラン海軍の軍艦が入港 イスラエルをけん制か****
イラン海軍の軍艦2隻が29日、スーダン東部のポートスーダンに入港した。
スーダンでは24日未明、イランの関与が疑われる首都ハルツーム南部の軍需工場が爆撃を受け、イスラエルが空爆を実行したとの見方が広がっている。イランは軍艦派遣を通じてイスラエルをけん制する狙いがあるとみられ、スーダンを舞台に、両国が神経戦を繰り広げている。

イラン国営通信などによると、軍艦2隻は9月にイラン南部バンダルアバスを出発。入港目的について、イラン海軍は「近隣国として平和と友好のメッセージを伝えるため」などとし、爆撃との関連には触れていない。
爆撃事件では2人が死亡し、スーダン政府は事件直後からイスラエルを非難、国連安全保障理事会で取り上げるよう要請した。イラン政府も「空爆の実行犯はシオニスト政権(イスラエル)だ」と強く非難しているが、イスラエル政府は沈黙している。

イランとスーダンは近年、急速に関係を強化。イスラエルは、イランがスーダンを通じ、パレスチナ自治区ガザ地区に武器を提供しているとみている。
イスラエルはイランの核兵器開発を疑い、核施設への単独での攻撃も辞さないとしている。スーダン空爆も「イラン攻撃に向けた予行演習」との見方が出ており、イランが対抗姿勢を強めている。【10月30日 毎日】
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一時は、イスラエルはオバマ政権が反対しにくいアメリカ大統領選挙前にイラン攻撃にでるのでは・・・とのうわさもありましたが、どうやらそれはなさそうです。まだわかりませんが。
ただ、一触即発の緊張が続いているのは間違いないようです。
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中国  浙江省寧波市で起きた化学工場建設に反対する住民抗議活動に見る、中国政治システムの歪

2012-10-30 21:44:59 | 中国

(10月28日 浙江省寧波市での住民抗議行動 “flickr”より By gary Mao http://www.flickr.com/photos/tmaoone/8131306256/

社会安定を最優先、市政府は計画の撤回を表明
中国では、土地収用問題、地方政府・党幹部の不正、環境問題、警察当局の対応への不満などから、住民による抗議行動が日常茶飯事に頻発していることは周知のところです。

浙江省寧波市で起きた化学工場の建設に反対する住民の抗議活動もそのひとつです。
指導部の世代交代が行われる来月8日の共産党大会を控え、党内部の権力闘争もいろいろ取り沙汰される状況で、社会の安定に敏感になっている党指導部の意向もあって、市政府は住民の意向を受け入れる形で自体の収束を図る形となっています。

****中国:大規模デモ受け、化学工場計画撤回…寧波市政府****
化学工場の建設に反対する住民の抗議活動が続いていた中国浙江省寧波市で28日、約5000人の大規模な抗議デモが発生し、寧波市政府は同日夜、工場の建設計画の撤廃を発表した。

指導部の世代交代が進む共産党大会の開幕が11月8日に迫る中、社会安定を最優先にする中国当局は、計画の撤廃で中央政府への打撃を最小限に抑えたい狙いとみられる。ただ、高まる国民の権利意識は次期指導部にも重い課題を突きつけそうだ。

工場は毒性が高いパラキシレンの生産施設で、市内から約20キロ離れた工業地帯の鎮海(ちんかい)区に建設する計画。10月初旬から、健康被害が出るとして住民が計画撤廃を求め始めた。市政府は24日、環境保護などに36億元(約460億円)を投入するなどの対策を発表。「最も厳しい排出基準をとっている」と理解を求めたが、住民は受け入れを拒否していた。

抗議活動は22日から1週間連続で発生し、香港メディアによると、警察側の催涙弾の発射などで10人以上が負傷。多数が身柄を拘束されたが、住民の反発は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」などを通じて拡大し、28日も市政府庁舎前や市中心部で大規模なデモなどが繰り広げられた。
市政府庁舎前では28日深夜になっても多数のデモ隊が市長の辞任や拘束者の釈放を求めており、警官隊と小競り合いになるなど緊張状態が続いた。

寧波市政府が計画の撤廃に追いこまれた背景には、住民の批判が共産党にも向き始めたこともある。28日のデモでは、デモ隊の一部が「市長は辞めろ」などと連呼。微博には「市長の腕時計は13万元(165万円)もする。共産党は腐っている」などの声が次々と書き込まれていた。

パラキシレン工場をめぐっては、遼寧省大連で昨年8月、1万人以上が抗議活動を行い、大連市政府が工場の即時停止と移転を決断する事態に追い込まれた。今回の計画撤廃は、住民の環境汚染や健康被害に対する意識が高まる中、社会の不安定化につながる住民の声に当局が敏感にならざるを得なくなっていることを示している。
【10月28日 毎日】
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混乱のなかで、当局の取り締まりで死者がでたとの情報が広まり、警察に対する批判も高まっています。
また、市政府に対する不信感が強く、市政府による計画撤回後も抗議は続けられました

****計画撤回表明「信用できない*****
29日正午ごろ、寧波市の政府庁舎から車で30分ほどの場所に、約1千人の人だかりができていた。デモ参加者が警察から暴力をふるわれて亡くなったとして、追悼のために集まった。
住民が計画に反対しているのは、毒性の高いパラキシレン(PX)の生産施設。健康被害や環境汚染をもたらすとして、22日からデモが続いた。

寧波市政府は29日、51人を26日のデモで拘束したと発表しつつ、「悪質な事件は発生しておらず、死亡した人は絶対にいない」と否定。住民たちも誰が死亡したのか知らない。しかし、「警察が市民を乱暴に扱ったことに抗議したい」(38歳の女性)といった人たちが続々と訪れた。

午後1時半ごろ、突然、約3千人の警察官が隊列をつくって走ってきた。「ここから離れろ」。その場にいた人たちを排除し、道を真っ黒な制服姿で埋めた。警察との衝突などはなかったが、午後7時過ぎにも、約200人が同じ場所に集まった。

地元政府はこれに先立つ24日、反対の声の高まりを受け、新たな環境対策を示して収拾に動いたが、住民は納得しない。参加者によると、26、27両日のデモ隊は1万人以上にふくれあがり、警察は催涙弾も放った。28日になって、市政府は計画の撤回を表明した。

それでも、市政府庁舎前には反対する約2千人が夜遅くまで居残った。「市長が出てきて説明しないと信じられない。市民をだまそうとしているんじゃないか」(参加者の一人)と疑っているからだ。計画撤回だけでなく、警察の暴力に謝罪を求める声もあった。

警官に髪の毛をわしづかみにされ、引きずり倒された女性がいた。警察が市民を殴ったことに抗議したところ、暴行を受けたという。「何か間違ったことを言ったでしょうか」。女性は泣き出し、「警察には本当に失望した」と語った。(後略)【10月30日 朝日】
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【「生きていくためには声を上げないと政府に見殺しにされる」】
抗議行動の背景には、住民の環境・健康問題への意識の高まりがありますが、当局側は金銭による解決や情報統制で抑え込もうとしており、住民の意識に対応しきれていない当局側の姿勢も抗議行動頻発の大きな原因となっています。
そうした中で、市政府が対応策を発表しても信用されず、計画撤回を発表しても抗議行動が続けられるというように、住民の市政府への不信感は非常に強いものがあります。

****中国化学工場:抗議の住民「声上げないと見殺しにされる****
化学工場の建設に反対する住民の抗議活動が続く浙江省寧波市で28日、市政府が化学工場事業計画の撤廃に追い込まれた。抗議活動が1週間連続で発生する異例の事態となり、同日には約5000人規模に膨れ上がるなど市政府として抗しきれなくなったためだ。共産党大会開幕を11月8日に控える中、経済発展の「ひずみ」は次期指導部にも重い課題となりそうだ。

寧波市庁舎前では約2000人が集結し、「PX(パラキシレン)事業は寧波から出て行け」などと書いた横断幕を掲げて抗議。沿道の市民も加わり約3000人が市内中心部をデモ行進した。警察が横断幕を奪い取ると、デモ隊は「返せ」などと警察を罵倒し、デモの続行を容認させた。少なくとも2人が拘束された。

市庁舎前の抗議活動に参加した女性(24)は「中国メディアはこの問題をほとんど報じない。デモに参加するのは怖いが、自分たちが生きていくためには声を上げないと政府に見殺しにされる」と話した。

中国メディアによると、26日閉幕した全国人民代表大会(全人代)常務委員会では、環境汚染への抗議や暴動が96年以降、年平均29%のペースで増加していることが判明。司法で解決するのは1%以下という。
工場建設が地方都市でも進む中、環境問題や健康被害、政府の情報開示への住民意識の高まりが抗議デモの背景にある。

当局は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で「鎮海」や「PX」などの言葉を検索できなくし、計画同意書に署名した住民に現金を払うなど反対派切り崩しに躍起になったが、抗議活動を抑えきれなかった。

中国では▽昨年8月に遼寧(りょうねい)省でPX工場が停止・移転▽今年7月に四川(しせん)省で金属工場の建設が中止▽同7月に江蘇(こうそ)省で排水管建設計画が撤回−−など住民の反対で工場建設などを断念するケースが相次いでいる。【10月28日 毎日】
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【「市長は辞職せよ」】
今回の抗議行動では住民が公然と地元指導者退陣を求めており、その面では頻発する住民抗議行動にあっても異例の展開となっています。

****市長やめろ…中国・寧波デモ、地元指導者批判に****
石油化学工場建設への反対運動が続く寧波では28日、学生や住民5000人以上が参加して、7日連続となるデモが行われた。
市長辞職を叫んで行進する参加者も現れ、環境問題が発端のデモは、住民が公然と地元指導者退陣を求めるという、中国では異例の事態に発展している。

市庁舎前では、学生グループが「寧波を守れ、中国を守れ」と書いた横断幕を掲げ、「市長は辞職せよ」と叫んで気勢を上げた。
警官隊が横断幕を撤去し、抵抗した学生が連行されると、住民はペットボトルを投げつけて激しく抗議した。デモ行進には通行人も続々と加わり、幹線道路がたちまち埋め尽くされた。

参加者のうち、貿易会社勤務の男性(35)は「共産党は腐敗し、幹部は私欲をむさぼっている」と話し、共産党政権への不満をあらわにしていた。【10月28日 読売】
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【「街頭政治」(デモ政治)の横行
住民の抗議行動に屈する形で当局側が計画を変更した・・・という点では、住民の声が“勝利”したとも言えますが、本来は議会・行政・司法において解決されるべき問題であり、何か事あるたびに住民抗議行動が大規模に起こされるという“「街頭政治」(デモ政治)が横行する現実”は、政治システムとしては大きな問題を孕んでいます。こうした事態を憂慮する政府系新聞の見解も理解できる部分があります。

****デモ政治」に危機感=寧波抗議、民意勝利の一方で―安定優先で報道禁止・中国****
中国浙江省寧波市で石油化学工場の建設に反対する数千人規模の抗議行動が発生し、市政府は28日夜、毒性の強いパラキシレン(PX)生産事業の撤回を発表した。

ミニブログ「微博」(中国版ツイッター)には民意が政府の譲歩を生んだ「勝利」という歓喜の声が相次いだが、知識人らの間では、議会や司法が民主的に機能せず、混乱が大きくなるほど事態が動く「街頭政治」(デモ政治)が横行する現実に危機感も高まっている。

胡錦濤指導部は、11月8日の共産党大会開幕を控え何よりも安定を優先。メディア関係者によると、中国当局は国内の新聞・テレビなどに寧波デモを取材・報道しないよう指示、29日付の中国各紙はほぼ報じていない。抗議の拡大や飛び火による社会の不安定化を何より危惧した表れだ。

一方、社会的に敏感な問題を社説で取り上げ、中国当局の見解を代弁する共産党機関紙・人民日報系の国際問題紙「環球時報」(29日付)は「『勝利した』と言う人もいるが、広場や街頭の群衆が複雑な重化学工業プロジェクトの運命を決めるというモデルに勝者はいない。中国全体が敗者だろう」と指摘した。【10月29日 時事】 
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共産党一党支配体制の歪
住民の意識の高まりに対応できていない地方政府、住民の根深い不信感、直接行動で譲歩を引き出す「街頭政治」(デモ政治)の横行・・・結局のところ、国民の声が政治に反映されるシステムが機能していない、共産党一党支配体制の歪を示すものです。
こうした歪は国民の意識が高まるにつれて先鋭化し、経済格差の拡大に伴う国民の不満増大と相まって、中国新指導部にとって大きな課題となるものと思われます。

こうした不満や歪によって現行政治体制がすぐに崩壊するとは思いませんが、抑え込もうとすればするほど矛盾・問題は社会内部で拡大し、社会の重い足かせとなっていくことが想像されます
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ウガンダでマールブルグ病(出血熱)の発生  コンゴの“ブッシュミート”の実態

2012-10-29 22:35:47 | アフリカ

(違法な“ブッシュミート”を運ぶ男性 中央アフリカ “flickr”より By Middle Africa http://www.flickr.com/photos/61727647@N03/5950772009/

エボラ出血熱は終結、しかしマールブルグ病(出血熱)が発生
アフリカ・ウガンダで発生したエボラ出血熱については、8月1日ブログ「ウガンダ エボラ出血熱で14人死亡」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120801)で取り上げましたが、そのエボラ出血熱については、8月13日にはウガンダ保健省が感染拡大は食い止められたとみられると発表、9月3日にはWHOも今回の感染は終息したとみられると発表しています。

****ウガンダのエボラ出血熱が終息、死者17人 WHO発表font>****
ウガンダ西部で7月初めに発生したエボラ出血熱で、世界保健機関(WHO)は3日、新たな感染報告がここ1か月ないことから、今回の感染は終息したとみられると発表した。同国での死者は前回発表から1人増え、17人になった。

WHOは声明の中で、「ウガンダ・キバレ県でエボラ出血熱が新たに確認されたケースは2012年8月3日以降なく、感染拡大は終息へ向かっているとみられる」と述べた。
WHOによれば、これまでに報告された感染が確認された人や感染の疑いがある人は24人に上った。

エボラ出血熱が発生したウガンダ西部のキバレ県は、首都カンパラ(Kampala)から約200キロ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)との国境から50キロほどの距離にある。【9月4日 AFP】
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ただ、今度はエボラ出血熱によく類似したマールブルグ病(出血熱)の発生が報告されています。
下記は日本外務省の海外安全ホームページの記載です。
なお、マールブルグ病(出血熱)の致死率は80%ほどとも言われています。

****ウガンダ:マールブルグ病(出血熱)の発生 ****
2012年10月25日
1.ウガンダにおけるマールブルグ病(出血熱)の発生
在ウガンダ日本国大使館によれば,ウガンダ保健省は10月19日,ウガンダの首都カンパラ市の南西約410キロにあるカバレ県においてマールブルグ病(出血熱)が発生した旨発表し,10月22日現在, 確定例及び疑い例を含めた患者数が9名(うち確定例3名)報告されており,そのうち5名が死亡しています。
 現在,ウガンダ保健省はタスクフォースを立ち上げ,世界保健機関(WHO)と協力し,感染拡大防止対策をとっています。

つきましては,ウガンダに渡航・滞在を予定されている方におかれましては,報道や在ウガンダ日本国大使館等から最新の関連情報を入手すると共に,別途渡航情報(危険情報)も確認の上,安全対策に努めてください。

2.マールブルグ病(出血熱)について
マールブルグ病(出血熱)は,マールブルグウイルスが引き起こす,致死率が非常に高い極めて危険な感染症です。
患者の血液,分泌物,排泄物などに直接触れた際,皮膚の傷口などからウイルスが侵入することで感染します。感染の拡大は,家族や医療従事者が患者を看護する際,あるいは葬儀で遺体に接する際に引き起こされる例が報告されています。感染予防のため,ウガンダ保健省は不必要な集会等にも近づかないように推奨しています。

また,自然宿主はオオコウモリであるとされており,このウイルスに感染したサルなどの動物に触れたり,食べたりすることによっても感染しますので,野生動物に接触したり,洞窟に入ったりしないように注意してください。

予防のためのワクチンは存在せず,治療は対症療法のみとなります。潜伏期間は3日から10日で,発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・食欲不振などに始まり,嘔吐・下痢・腹痛などの症状があります。更に悪化すると,皮膚や口腔・鼻腔・消化管など全身に出血がみられる等し,死に至ります。【日本外務省 海外安全ホームページ】
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また、ウガンダのエボラ出血熱は終息しましたが、隣国コンゴでも発生しています。

****ウガンダの隣国コンゴでもエボラ出血熱発生、10人が死亡 WHO****
世界保健機関(WHO)は21日、アフリカのコンゴ(旧ザイール)でエボラ出血熱のため10人が死亡したと発表した。

WHOによれば、20日の時点で同国東部のオリエンタル州で2人の感染が確認され、13人に感染の疑いがあるとされていた。死者10人のうち8人は同州イシロ地区の患者で、うち3人を医療従事者が占めるという。
同国保健省は特別チームを立ち上げて感染対策に乗り出し、WHOや国連児童基金(ユニセフ)、国境なき医師団、米疾病対策センター(CDC)の協力を得て対応に当たっている。

オリエンタル州と国境を接する隣国のウガンダでは、7月初旬以来、24人がエボラ出血熱に感染または感染した疑いがあり、このうち16人が死亡。衛生当局が対応に乗り出し、WHOは同国と国境を接する各国に対して警戒を呼びかけていた。ウガンダで感染が確認されたのは、8月4日に隔離された患者が最後だという。

WHOによれば、コンゴとウガンダで発生したエボラ出血熱はそれぞれウイルス株が異なることから、関係はないとみられる。エボラ出血熱のウイルスには5種類の株が存在する。いずれも感染力が高く、体液などを通じて身体感染する。

エボラ出血熱のウイルスは1976年にコンゴで初めて見つかった。感染すると発熱、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛などの症状が出て、口腔部や消化管からの出血を伴うこともある。【8月22日 CNN】
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エボラ出血熱にしても、マールブルグ病(出血熱)にしても、感染ルートは確定はしていませんが、コウモリが自然宿主ではないかと推定されています。
コウモリから感染したサルを食べたりすることでも感染するようです。

増大する“ブッシュミート”需要
上記コンゴ民主共和国(旧ザイール)の隣国であるコンゴ共和国において、“ブッシュミート”(サル・ワニ・カメなどの野生動物の肉)が広範に食されている状況が報じられています。

****食い尽くされる、森の動物〈地球異変****
アフリカ中央部のコンゴ共和国。北部のヌアバレ・ヌドキ国立公園を中心に3カ国にまたがる熱帯林が7月、世界遺産に登録された。評価されたのはゴリラやゾウなど多くの野生動物が暮らす豊かな生態系だ。ところが、この豊かな森の動物が食い尽くされつつある。

■市場に並ぶ、ワニ・カメ・サル…
熱帯林が広がるこの国では、牧畜ができる土地はほとんどない。野生動物の肉は「ブッシュミート」と呼ばれ、昔からたんぱく源のひとつになってきた。だが、それは自家消費分だけ。動物の数のバランスが保たれ、持続可能な利用だった。それが2000年前後に一変した。

内戦が終わり人口が急増。この10年間で約100万人増えた。11年の人口は約410万人。木材を輸出するために熱帯林の伐採が進み、道路が奥地まで延びる。ブッシュミートがその道路を通って運ばれ、都市で大量消費されるようになった。

熱帯林の真ん中にある町ポコラの中央市場を訪れた。店先にはダイカー(ウシの仲間)やワニ、カメなど様々な野生動物が積まれていた。女性店主が刃渡り30センチを超す包丁を振るってさばく。中でも目に付くのはサルだ。サルの解体が始まるとあたりに独特の臭いが広がった。

市場に並ぶブッシュミートは違法だ。売買目的の狩猟は禁じられている。それでも密猟者は森の奥まで入って獲物を仕留め、市場へ運ぶ。政府やNGOはそれを次々と摘発。しかし、密猟は後を絶たない。ニシローランドゴリラやマルミミゾウなど絶滅危惧種の肉も並ぶ。

国連食糧農業機関(FAO)によると、周辺6カ国で消費されるブッシュミートは推定年間約500万トン。1990年代の4倍以上の量だ。アフリカの熱帯林での狩猟は、野生動物を絶滅に追い込まずに持続可能に利用できるレベルの6倍以上という。

国際NGO野生生物保護協会(WCS)のメンバーで、コンゴ北部で保護活動を率いる西原智昭さん(50)は警告する。「野生動物は木々の種を運ぶなど森にとっても重要。動物の減少は森そのものの存続の危機だ」
(中略)

■「牛肉はない 鶏肉は高い」
世界遺産の森を抱えるサンガ州の州都ウエッソの中央市場。市場の入り口に、ブッシュミートの売買を戒める巨大な啓発看板があった。だが、そんなことはお構いなし。ブッシュミートが山積みになった売り場には、通路をふさぐほどの人だかりができていた。

ブッシュミートは内臓からしっぽまでぶつ切りにされ、ひとつかみ250CFAフラン(約40円)で売られていた。場所にもよるが、ブッシュミートは1キロあたり1千CFAフラン(約160円)程度。輸入品の牛肉は1キロあたり約2千CFAフラン(約320円)と値段は約2倍だ。平均的な労働者の1カ月の所得は十数万CFAフラン(約2万円)。人々は安いブッシュミートを選ぶ。

森の奥地の村に行けば行くほど、牛肉や鶏肉の流通は減っていく。世界遺産エリアの中心のヌアバレ・ヌドキ国立公園に近いカボ村。メレリオン・コランティンさん(34)はここで夫と子供4人で暮らす。「村の市場で牛肉は見たことがない。鶏肉はたまに見かけるが高い。ブッシュミートを買うしかないのよ」

森の伐採が進むと、奥地には伐採会社の作業員の町ができる。そこでも新たに安い肉の需要が生まれる。ブッシュミートへの依存度は高まるばかりだ。

WCSが2011年、ヌドキ国立公園を中心とした熱帯林で野生動物の痕跡を調べた。ダイカーなどの有蹄(ゆうてい)類のふんなどは06年の調査と比べ、すべての地域で減少。とくに新たに伐採が始まった地域では4分の1に激減していた。

新たな問題も浮上している。隣国の中央アフリカやカメルーンからの密猟者だ。まだ野生動物が豊かなコンゴ共和国の森へ国境を越えてくる。エコガードのパトロールは追いついていけない。
国際的な流通も拍車をかける。国連環境計画(UNEP)のまとめでは、05年に英国の空港で乗客の荷物から2万5千個ものブッシュミートが押収された。08年のパリの空港での調査では、毎週5トンものブッシュミートが密輸されていると推定される。

このままでは世界遺産の森は、動物の姿の見えない「うつろな森」になってしまう。「ブッシュミートの問題は野生動物の保護だけでない」。アフリカ中央部の熱帯林で民俗学的調査を続けてきた市川光雄京都大名誉教授は指摘する。「そこで暮らす人々の代替たんぱく源をどうするかを考えなければ解決に向かわない」

インド・ハイデラバードで開催され、20日に閉幕した国連の生物多様性条約第11回締約国会議(COP11)でブッシュミート問題が取り上げられた。野生動物の持続可能な利用を促す勧告を採択し、国連食糧農業機関(FAO)などと協力して国際的に途上国を支援することを決めた。 【10月29日 朝日】
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こうした“ブッシュミート”の食習慣と、マールブルグ病(出血熱)やエボラ出血熱などの熱帯地域特有の疾病との関連についてはよく知りませんが、一般論としては、人間の活動エリア拡大によって野生動物との接触が濃密・広範囲になるにつれて、そうした野生動物が保持している疾病の人間への感染の危険性も増すのではないかと思われます。

注目されるのは、上記のような森林への人間活動の侵入、“ブッシュミート”大量消費といった事態の背景に、内戦終結による人口増加があるということです。

もちろん内戦終結は喜ばしいことですが、その結果として人口増加が森林破壊・野生動物乱獲をもたらし、一方で増大した人々の暮らしはなかなか改善されないという状況は憂慮すべきことです。
内戦終結はゴールではなく、国民生活改善のスタートにすぎないのですが、現実には権力争いや利権獲得に奔走して国民生活を顧みない(その余裕と能力がない)ような政権もあるように見えます。
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パキスタン  イスラム武装勢力に銃撃された少女、めざましい回復 脅威に口をつぐむ地元住民

2012-10-28 21:01:12 | アフガン・パキスタン

(10月13日 カラチ 少女襲撃を非難する抗議行動にマララさんの写真を持って参加する女子生徒 自発的に・・・という訳ではないでしょうが “flickr”より By multimediaimpre http://www.flickr.com/photos/79137904@N07/8087296932/

【「彼女は一時的に倒れたが、また立ち上がる」】
10月11日ブログ「パキスタン イスラム武装勢力批判の14歳「勇気ある少女」、「反道徳的」と銃撃受ける」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121011)で取り上げた、パキスタン北西部のスワート渓谷で10月9日、女子教育を否定するイスラム武装勢力におびえながら登校する日々をブログにつづり、女子教育の必要性や平和を訴えていた14歳の少女がそのイスラム武装勢力に銃撃され重傷を負った事件ですが、イギリスで治療中の被害にあった少女マララさんは奇跡的な回復を見せているようです。

****マララさん、家族と再会 父「娘はまた立ち上がる****
パキスタンで武装勢力に銃撃され、英国中部バーミンガムの病院で治療を受けている女子学生マララ・ユスフザイさん(15)が25日夜、病室で家族と再会した。父ジアウディンさんは「奇跡だ。神に感謝している」と娘の回復を喜んだ。

英BBCは、病室のベッドで両親、2人の弟に話しかけるマララさんの映像を放映した。26日に記者会見したジアウディンさんは、「彼女は一時的に倒れたが、また立ち上がる」と話し、マララさんを襲撃した反政府武装勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)の脅しには屈しないことを強調した。

さらに「彼女が倒れたとき、パキスタンと世界が立ち上がった」と支援に感謝を表明。身分や宗教を超えて祖国の人がマララさん擁護で結束したことを「(パキスタンにとっての)転換点だ」と話した。
ジアウディンさんは、マララさんが通っていた学校の創設者。マララさんが回復すれば祖国に戻す意向を示している。 【10月27日 朝日】
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犯人については、容疑者5名が逮捕されたとの報道がありました。
国内外に大きな衝撃を与えた事件だけに、また、ある意味、少女を“広告塔”的にパキスタン政府が利用してきた手前もありますので、パキスタン当局も迅速に行動したのかとも思いましたが、“首謀者は依然として逃亡中”との情報もあるとか。

****女性権利訴えた少女銃撃、5人逮捕…パキスタン****
女性が教育を受ける権利などを訴えていたマララ・ユスフザイさん(14)がパキスタン北西部で銃撃された事件で、地元メディアは13日、治安当局が事件に関与したとみられる容疑者5人を逮捕したと報じた。

容疑者の一部は事件が起きた北西部ミンゴラの出身とされ、事件後に犯行声明を出したイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の一員とみられている。ただ、5人の役割は明らかになっておらず、首謀者は依然として逃亡中との情報もある。

ユスフザイさんは現在も重体で、集中治療室で手当てを受けているという。事件に対して国内外から強い非難の声が上がる中、アシュラフ首相は12日、ユスフザイさんの入院先の病院を訪問した。首相は訪問後、記者団に「事件は人道に対する犯罪で、我々の価値観に対する挑戦だ」と述べ、過激派の撲滅に力を尽くすと強調した。【10月13日 読売】
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【「マララの次はヒナだ」】
一方で、イスラム武装勢力による脅迫は止んでいません。
****パキスタン イスラム武装勢力、別の少女も脅迫****
イスラム武装勢力を批判した少女が銃撃を受けたパキスタンで、同様の批判をしていた別の少女が武装勢力のメンバーとみられる人物から脅迫を受けていたことが23日、明らかになった。この少女は、銃撃を受けて英国で治療を受けているマララ・ユスフザイさん(15)と同郷で、北西部スワト地区出身の学生、ヒナ・カーンさん(17)。

カーンさんは2006年、家族とともに自由な教育を求めてイスラマバードに転居。その後、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が女子教育を妨害していることを記者会見で非難した。
今月のユスフザイさんへの銃撃事件後、自宅の門に赤いバツ印が付けられているのが見つかった。すぐに消したものの、再び同じものが書かれ、数日前には「マララの次はヒナだ」との電話を受けた。殺害や拉致を示唆する脅迫電話は今年8月以降、立て続けに受けているという。

カーンさんは産経新聞に「闇の力が自らの意思を押しつけ、私たちを石器時代に押し返そうとしている。脅しに屈することなく、これからも声を上げていきたい」と話した。【10月24日 産経】
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治安の悪化を避けたいザルダリ政権にとって、強攻策は取りにくい
銃撃や脅迫にくじけないマララさんやカーンさん、そのご家族の姿勢には頭が下がりますが、イスラム武装勢力の脅威の前で、パキスタン国内の現実には厳しいものもあるようです。

****マララさん地元、息ひそめる パキスタン少女銃撃事件*****
パキスタンで女子教育の権利を訴えていた少女が銃撃された現場一帯は、犯行声明を出した反政府武装勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)が3年前まで政府を追い出し、力ずくで支配した土地だ。世界中で沸き起こる少女への連帯の声をよそに、現地ではタリバーンの復活への恐怖が広がっている。

■通学路に兵士・見知らぬ人警戒
事件が起きた北西部スワート地区は2007年から09年にかけ、TTPが警察部隊を追い出し、全域を支配した。政府側が奪還した今も外国人記者の立ち入りが厳しく制限されている。
銃撃されたマララ・ユスフザイさん(15)が通っていた中心都市ミンゴラの学校を朝日新聞の現地助手が訪れると、午前7時半ごろから、民族衣装の制服を着た少女らが足早に登校してきた。入り口には警察官が立ち、通り沿いの建物の屋上には狙撃用の銃を構えた兵士の姿が見える。

学校は、マララさんの父ジアウディン・ユスフザイさんが1990年代半ばに設立し、運営してきた。女子教育を認めていないTTPは、マララさん同様、父も脅迫していた。一家は事件後、首都イスラマバードで政府に保護されている。

事件の3日後に学校は授業を再開したものの、当初は生徒の半分も登校しなかった。徐々に生徒は戻ったが、警備員のカリム・ウラさん(65)は「生徒も親も、誰もがタリバーンが戻ってきたと感じ、恐れている」と話す。
「マララさんの女子教育に対する情熱や勇気を思い、再び通わせることにしたが、大丈夫なのか心配だ」。娘2人を市内の学校に通わせる雑貨店主(42)は声を潜める。

事件後、地元当局は市内の全学校に対し、警備の強化と、スクールバスの運転手や警備員の身元調査を指示した。TTPはマララさんについて報じるメディア関係者の殺害も予告。当局は混乱防止を理由にマララさんの家族や生徒への取材自粛を求めている。

街で事件について尋ねてもほとんどの市民は「私は何も知らない」と口をつぐむ。地元紙記者ムハマド・ファヤズさん(37)は「みんなマララさんに共感しつつ、タリバーンへの恐怖心を募らせている。見知らぬ人を見かけると、タリバーンかと疑い、警戒するようになった」と話す。

内外からの批判にもかかわらずTTPの強硬姿勢に変化は見られない。マララさん同様、スワート地区でTTPによる女子教育への妨害を批判し、その後イスラマバードに移り住んでいた少女ヒナ・カーンさん(17)宅には数日前、電話があり、「マララの次はヒナだ」と脅迫されたと報じられている。

事件に対する国内外の怒りの声を受け、マリク内相は、TTPが拠点とするアフガニスタン国境の部族地域に対して「本格攻撃を検討している」と発言した。
ただ、これまでTTPに対する掃討作戦を行うたびに、首都近郊の陸軍総司令部や大都市のホテルで爆弾テロや攻撃が相次いだことから、新たな作戦が再び全土を報復テロに巻き込む可能性は否めない。来春までに実施される総選挙を控え、治安の悪化を避けたいザルダリ政権にとって、強攻策は取りにくいとみられている。【10月26日 朝日】
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TTPやハッカニ・ネットワークなどイスラム武装勢力が拠点とするアフガニスタン国境の部族地域については、8月にもアメリカ側から“パキスタン国軍が近く、掃討作戦に乗り出す”との発表がありましたが、その後の状況については知りません。

****アフガン国境のタリバン活動地域 パキスタン軍掃討作戦へ****
パネッタ米国防長官は14日までにAP通信のインタビューで、パキスタンのアフガニスタン国境に近い部族地域の北ワジリスタン地区で、パキスタン軍が同地域で活動するイスラム武装勢力に対する掃討作戦に近く乗り出すとの見通しを明らかにした。

パキスタンのキアニ陸軍参謀長がアフガンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)司令官で駐留米軍トップのアレン氏と最近、作戦の計画について議論したという。パネッタ長官は、「キアニ氏はパキスタン軍が(部族地域内の)ワジリスタン地区に入る計画を進めていることを示した」と述べ、「われわれの理解では、パキスタン軍は近い将来、手段を講じてくれるだろう」と明らかにした。(中略)

北ワジリスタン地区ではアフガンでテロを繰り返しているイスラム原理主義勢力タリバンの一派、ハッカニ・ネットワークを含む複数のタリバン勢力が活動しており、米側は同地区での軍事作戦を要請していた。パキスタン政府を攻撃の標的にしていないハッカニ・ネットワークは、対象にはならない見通しだという。【8月15日 産経】
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この報道の直後、イスラム武装勢力側の先制攻撃とも見られるテロが起きています。
****パキスタン:基地攻撃に衝撃****
パキスタン北部のカムラ空軍基地内で起きた武装集団と治安当局との交戦は、発生から約4時間後の16日早朝、収束した。地元メディアによると、治安部隊は武装勢力の9人を殺害、負傷した1人を拘束した。
当局側は基地の警備員1人が死亡、空軍高官を含む4人が負傷した。武装勢力は基地内の輸送機1機を破壊した。国内の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が犯行声明を出した。

カムラ空軍基地は首都イスラマバードの北西約70キロにある国内最大の空軍基地で、中国と共同開発した戦闘機の製造施設もある。過去にも武装勢力が正門付近に自爆攻撃を仕掛けたり、敷地外からロケット弾を撃ち込んだりしたことはあったが、基地内に侵入し激しい交戦となったのは初めてで、当局側は衝撃を受けている。(中略)

パキスタン軍が近く、TTPが拠点とする北西部の北ワジリスタン管区で掃討作戦を行うといわれており、その警告として「先制攻撃」をした可能性がある。
パキスタン軍施設への武装勢力による攻撃は、昨年5月、国際テロリストのウサマ・ビンラディン容疑者殺害への「報復」として、南部カラチの海軍航空基地内で交戦となった事件以来。【8月16日 毎日】
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また9月に入ると、アメリカ総領事館の車両を狙った自爆テロも起きています。
****パキスタン:米公用車狙い自爆 2人死亡20人負傷****
パキスタン北西部ペシャワルで3日、米総領事館の車両が走行中に自爆攻撃を受け、通行人2人が死亡、総領事館勤務の米国人職員2人とパキスタン人職員2人を含む約20人が負傷した。自爆犯も死亡した。犯行声明は出ていないが、「パキスタン・タリバン運動」など武装勢力による攻撃とみられる。

ペシャワルや周辺では、パキスタン当局や一般住民を狙った武装勢力の攻撃が続いているが、厳しい警備の米総領事館が標的となるのは異例。
AP通信によると、米総領事館を出発した防弾仕様の車が住宅街を走行中、自爆犯の車が突っ込んできた。爆発で総領事館の車は大破し、周囲の車両や建物も被害を受けた。現場は、国連機関事務所などが集まり、多くの外国人が住む住宅街で、ペシャワル市内でも特に警備の厳しい地域。【9月3日 毎日】
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パキスタンはすでに“テロ地獄”の状況が長く続いています。
また、国軍の中にはイスラム過激派に共鳴する勢力があるとも言われています。
こうした状況で報復テロを誘発するTPPに対する大規模な掃討作戦が果たして実行されるのか・・・という話になると、懐疑的な見方が多いということのようです。

ザルダリ大統領は、自らの過去の汚職疑惑を巡る最高裁との対立で、それどころではないのでは・・・という感もありますし、国軍への指導力は有していません。
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アメリカ大統領選挙  強調される中間層へのアピール 増大する貧困・「食料難」世帯

2012-10-27 21:29:25 | アメリカ

(当然ながら失業率増減と、食糧補助制度であるフードスタンプ利用者数は連動する傾向にあります。ただ、失業率の方は足元で7.8%と改善していますが、フードスタンプ利用者数は“7月に約4668万人と最多を更新した”状況のようです。 “flickr”より By VoicesAC http://www.flickr.com/photos/voicesac/6348379898/

【「大統領の政策で中間層が押しつぶされているのです。」】
11月6日に投開票されるアメリカ大統領選挙の展開については、連日多くのメディアが取り上げているように、殆んど互角、調査によってはロムニー氏がリードしている・・・といった状況のようです。

一時はオバマ大統領に大きなリードを許し、絶望的とも言えるような状況にあったロムニー氏が息を吹き返し、逆にリードするという展開になったきっかけは、10月3日に行われた国内問題をテーマにしたTV討論会でした。

国内問題となると経済問題がメインとなりますが、オバマ大統領の「ロムニー候補は減税を行い規制緩和をすればいいというが、違うと思う」との主張に対し、ロムニー氏は「(オバマ大統領は)もっと支出し、もっと課税し、もっと規制すれば、政府が機能するというが、正しくない。」との主張です。
特に、中間層の利益をどちらが守るのか・・・という点で論戦が繰り広げられました。

****米大統領選挙 テレビ討論会****
中間層を大切にする姿勢をアピールしたいオバマ大統領。
対するロムニー候補は、経済政策を突破口に論戦を仕掛けます。

オバマ大統領
「ロムニー候補の打ち出している財政赤字削減策では、中間層の負担を増やさざるをえません。」
ロムニー候補
「オバマ政権の4年間、多くの中小企業は新規事業を起こせないと考えるようになりました。私が再び活気のあるアメリカを取り戻してみせます。」

膨らみ続ける財政赤字を、どう解決するのか。
増税で財源を生み出すとするオバマ大統領に対し、ロムニー候補は、それこそがアメリカ経済を支える中間層を苦しめることになると訴えました。

オバマ大統領
「ロムニー候補の計画では、減税5兆ドル分に、さらに1兆ドル減税と国防支出2兆ドルを加えています。
これら8兆ドルをまかなったうえで、さらに財政赤字を削減し投資するというなら、そのツケは必ず中間層に回ってきます。」
ロムニー候補
「大統領の言うような計画はありません。中間層の税負担を軽くすべきと言っているのです。苦しんでいるのは、中間層です。大統領の政策で中間層が押しつぶされているのです。」

「金持ち優遇」というこれまでの印象を払しょくしたいロムニー候補に、押され気味のオバマ大統領。
ロムニー候補は、持ち時間を超えて、なおも食い下がります。
ロムニー候補
「これだけは言わせて下さい。全労働者の4分の1を雇用する中小企業に増税することは人員削減につながる。
アメリカの中小企業の団体は、増税で70万人が失業すると指摘しています。
苦しむ失業者たちを、職場に戻してあげる事が一番重要なのです。」(後略)【10月4日 NHKonline http://www.nhk.or.jp/worldwave/marugoto/2012/10/1004.html
***********************

このTV討論会で世論の流れが変化したというのは、議論の中身というより、どちらが攻めの姿勢を示せたかとか、オバマ大統領がうつむいていることが多く精彩を欠いた・・・といった、多分にイメージ的なところが大きいかと思われますが、それはこれまでのアメリカ大統領選挙で常々見られてきたことであり、TV選挙の宿命でもあります。

果敢なロムニー氏の姿勢が、オバマ大統領の経済運営実績には不満があるものの、これまでの金持ち代表的なロムニー氏のイメージのためロムニー支持をためらっていた層に、ロムニー氏支持を思いきらせた効果があったのでしょう。

中間所得層の空洞化が今世紀に入って加速化
それはともかく、中間層をターゲットにした議論の背景として、中本悟氏(立命館大学経済学部教授)は、所得格差拡大による中間層空洞化の進展、そしてそのことがアメリカン・ドリームとアメリカン・デモクラシーを危うくする事態となっていることを指摘されています。

****アメリカの大統領選で問われる中間所得層問題 ****
中本 悟(立命館大学経済学部教授)
中間所得階層の空洞化
11月(10月の誤り 筆者注)3日、アメリカ大統領選のテレビ討論が行われた。
富裕者寄りの主張で劣勢に立っていた共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事は、中間所得層の減税に言及した。かねてから富裕者への増税を主張し、中小企業や勤労者世帯を重視していたオバマ民主党大統領の支持層に切り込んだ格好だ。中間所得層の票取り合戦が始まった。

中間所得層については、明確な定義があるわけではない。日本でも、かつてほとんどの人が自分を中流と考えていた「一億総中流」時代があった。
アメリカでも自分は中流と考える人は多いが、常識的に考えて、全世帯所得の年間総収入の中央値の75%〜150%程度の世帯所得の範囲内に属する人々が中間所得層であろう。

ところがまさに、この中間所得層の空洞化が今世紀に入って加速化している。ある研究者の推算では、1993年から2010年までに、所得最上位1%の階層の実質所得シェアは10%から24%に拡大し、またその実質所得は同期間に58%増加した。
他方、最上位1%を除く残りの99%の人々の実質所得の増加は同期間に6.4%の増加でしかなかった。その結果、最上位1%の階層は、この期間の実質所得の増加分の52%を占めたのであった。

このような所得格差は、報酬の格差だけでは生じるものではない。むしろもっと大きな要因は、金融資産や不動産による資産所得格差だ。
そして、報酬格差の背景には当然のことながら職の問題がある。中間所得層の中心であった製造業の雇用数が減少し、一方で低賃金かつ非正規雇用が多いサービス職種が増加した。また、資産所得の急増は、バブル期に生じるが、このバブルの背景には金融の規制緩和と証券化が作用している。

ウォール街占拠運動は、所得格差を加速した金融の規制緩和とバブル破たんのなかで大手の金融機関が救済されたことに対するプロテストであった。また、いまだ失業率は8%を超え、失業期間も失業手当の支給が切れる半年を過ぎた人々の比率が40%を超えるといった状況を背景にしたものだった。アメリカのような極度の所得格差は、さまざまな社会対立を生む土壌となり、社会統合を揺るがすものとなる。
 
所得格差の拡大とアメリカン・デモクラシー
中間所得層の縮小と所得格差の拡大は、もう一つの問題を引き起こしている。それは、「機会の平等」の喪失である。貧困家庭の子供は、低学歴で所得の高い職種に就けず、貧困が再生産されるという「貧困の罠」に陥りつつある。

フランスの政治思想家にして政治家でもあったトクヴィルは、1831年に建国後の若きアメリカを旅して、かの名著『アメリカの民主主義』を著した。その冒頭に、「合衆国滞在中、注意を惹かれた新規な事物のなかでも、境遇の平等ほど私の目を驚かせたものはなかった」と述べ、この若きアメリカの「境遇の平等」が民主主義を発展させ、政府と社会を動かす原動力になっていることを喝破したのだった。

この「境遇の平等」すなわち「機会の平等」は、長らくアメリカン・ドリームを実現してきた条件であった。貧困の固定化と社会的移動の低下は、アメリカン・ドリームとアメリカン・デモクラシーを危うくするものである。ドリームとデモクラーシーによって、アメリカは1930年代の大不況を乗り越え、福祉国家を誕生させた。また1960年代には、「福祉国家」によっても救済されなかったマイノリティを救済し、社会統合を進めてきた。

中間所得層問題は、中間所得者と自認する人々をめぐる有権者の票争いだけではない。いかにして、中間所得者層を再興し、アメリカン・ドリームとアメリカン・デモクラシーを蘇らせるのか、そのゆくえを象徴する問題なのだ。【10月8日 http://www.sekaikeizai.or.jp/active/article/1008nakamoto.html
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【「食べ物が底を突いても買えない」「食事を減らしたり、抜いたりした」】
こうした中間層再建をアピールする議論の一方で、低所得者層・貧困層の問題は、正面から議論されることが少ないようです。
しかし、現在のアメリカには、貧困による「食料難」世帯が全体の15%も存在するそうです。

****米家庭の「食料難」深刻に=貧困背景、全世帯の15%―支援団体、選挙後の対応懸念****
米国で収入不足から日々の食事が十分に取れない「食料難」世帯の問題が深刻化している。

農務省によると、こうした世帯は昨年は全体の14.9%、約1785万世帯に上り、調査を開始した1995年以降、最悪に。「フードスタンプ」と呼ばれる食料補助制度の利用者も7月に約4668万人と最多を更新した。大統領選で雇用・失業対策が争点となる中、生活困窮者の支援団体関係者は「中間層ばかり注目され、貧困層が置き去りにされている」と訴えている。

農務省が先月公表した調査によると、お金がなく「食べ物が底を突いても買えない」「食事を減らしたり、抜いたりした」などと回答した世帯は2008年の金融危機後に急増し、昨年は10年前の約1.5倍に。うち「何も食べない日があった」など深刻な状態の世帯は5.7%(約684万世帯)で、最悪だった08、09年に並んだ。女性の単身世帯や黒人世帯が特に深刻とされ、18歳未満の1割余も食料不足にあえいでいた。

国勢調査局によると、米国の貧困率は昨年15%で、1993年以降では最悪だった前年からほぼ横ばい。生活困窮者の状況は変わっておらず、「収入が減ると、家賃などの支払いが優先され、食費にしわ寄せがくる」(支援関係者)という。

失業、家賃負担などに耐えかねて、ホームレスになる人も少なくない。住宅都市開発省によると、全米のホームレスは約63万人。全体では減少傾向にあるが、都市部では増加し、ワシントンでは今年1月時点で6954人と前年比約6%増加した。ホームレス家族も増加し、緊急避難施設の不足が問題となっている。

ワシントンで生活困窮者に食事や施設を提供している民間団体「SOME」の担当者は選挙後について、「政府の事業や補助金はサービスの基盤。新たな政権によって緊縮財政が進めば、影響は計り知れない」と危機感を募らせた。【10月27日 時事】
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本来、こうした低所得層対策に重点を置くリベラルな傾向がある民主党で、実際“オバマケア”などで低所得層の医療問題へも切り込んできたオバマ大統領ですが、低所得者・貧困対策は不可避的に政府支出を増加させ、ロムニー陣営からの「大きな政府」批判を助長させるため、こうした面への言及をしにくい環境があるようにも思えます。

共和党の発想は、社会を牽引するのは一部の富裕層であり、この部分を活性化すれば経済全体が活性化し、ひいてはその他の社会階層にもその恩恵が及ぶ・・・というもので、正面から貧困層に向き合うものではないように思われます。

ロムニー氏の問題となった「(オバマ氏を)支持する47%の人びとがいる。彼らは政府に依存し、自分たちを被害者だと信じ、政府には自分たちのケアをする義務があると信じ、医療保険や食料、住宅、その他なんでも貰う資格があると信じている」「この人たちは所得税をまったく払っていない。だから、われわれの減税のメッセージも届かない。私が彼らに対し、あなたたちは自己責任をとるべきであり、自分の生活は自分でケアしなければならないと説得できることはないだろう」といった発言からも、低所得者・貧困層対策というものはイメージできません。

そのロムニー氏が政権を獲得する可能性も大きくなった今、お金がなく「食べ物が底を突いても買えない」「食事を減らしたり、抜いたりした」といった人々が、今後のアメリカ社会でどのように対処されるのか気になるところです。

確かにアメリカ経済には回復の兆しがあり、失業率の好転も報じられています。
しかし、一方で政府支出削減の動きもあり、低所得者・貧困層対策の切り捨てもありうる状況です。「経済は回復した。後は自己責任で」と。
共和党副大統領候補のポール・ライアン氏は向こう10年間でフードスタンプ・プログラムの支出を現在の半分にするという案を下院に提出し、同案は下院を通過しています。

ロムニー氏が勝利すれば、すでに回復傾向にある経済の最終的な果実を、自分の政策の成果としてアピールすることができるという“ラッキー”な大統領ということになります。
オバマ大統領が勝利すれば、これだけの高失業率という逆風の中にありながら、相手候補の質の悪さに救われて政権を維持できたという“ラッキー”な大統領ということになります。
どちらが“ラッキー”な大統領になるのでしょうか。
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ミャンマー  西部ラカイン州でのロヒンギャ族と仏教徒の衝突が再燃拡大

2012-10-26 21:14:00 | ミャンマー

(ロヒンギャ族はミャンマー国民ではない・・・と主張する人々のようです。ミャンマー国内における反ロヒンギャ感情は根深いものがあります。 “flickr”より By Burma Democratic Concern (BDC)http://www.flickr.com/photos/bdcburma/7991557277/)

ミャンマー西部ラカイン州で、仏教徒とミャンマー国内では市民権が与えられていない“存在を否定された民族”ロヒンギャ族(イスラム教徒)の間で衝突が起き多数の死傷者がでていること、テイン・セイン政権及びスー・チー氏など民主化勢力にとっても、その対応がミャンマー民主化の試金石ともなっていること、国際的にもイスラム世界からの批判が強まっていることは、これまでも何回か取り上げてきました。
(8月19日ブログ「ミャンマー イスラム教徒ロヒンギャ族問題で強まる海外からの圧力」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120819 など)

テイン・セイン政権は非常事態宣言を出して事態鎮静化を図ってきましたが、今月21日から、両者の衝突が再燃していることが報じられています。

なお、下記記事では“宗教衝突”とありますが、ただ宗教が異なるだけでなく、ロヒンギャ族が“隣国バングラデシュから侵入してきたよそ者”として、ミャンマーにおいて被差別的な立場に置かれており、ロヒンギャ族と他の仏教徒との間には感情的憎悪が横たわっていることが問題を根深いものにしています。

このため、例えば、民主化運動を進めるスー・チー氏にしても、ロヒンギャ族に肩入れするとロヒンギャ族を嫌う一般国民の支持を失いかねず、その言動が制約されている・・・といったことも言われています。

6月以来の衝突は、仏教徒の女性がロヒンギャ族に暴行されたという事件をきっかけにしていますが、これまで軍政下で制限されていたそうした情報が、民主化の結果、多くのミャンマー人の耳に入り、反ロヒンギャ感情を増幅させているといった指摘もあります。

****宗教衝突再燃、飛び火 ミャンマー、7万人避難****
ミャンマー西部ラカイン州で今週に入り、仏教徒のラカイン族とイスラム教徒のロヒンギャ族が再び衝突し、各地に拡大している。25日までに死者は約180人にのぼるとの情報もあり、住民は続々と臨時キャンプに避難している。

現地からの情報によると衝突は21日から始まり、州都シットウェの北東にあるミャウー、ミンビヤや、州都から南へ約95キロの経済特別区チャウピュなど各地で発生。家屋1千軒以上が放火された。
シットウェの東方50キロのミェボンでは、イスラム教徒が仏教徒の家に放火し逃げようとしたが捕らえられ、暴行されたという。23日にはミンビヤで仏教徒がロヒンギャ族の村を襲撃し、170軒以上の家に放火、8人が死亡した。

大統領府関係者は「非常事態宣言が(6月から)続いているにもかかわらず、治安部隊は事態を掌握できていない」と、危機感を強めている。

チャウピュなど各地からはここ数日間で、イスラム教徒の住民1千人以上が臨時キャンプに避難した。24日はチャウピュからだけでも、イスラム教徒で埋め尽くされた約80艘(そう)のボートが、州都へ向かった。
6月に始まった断続的な衝突により7万人がキャンプなどに避難している。

テイン・セイン大統領は「避難民への食料支給などに1日1万ドル(約80万円)がかかっており、国際社会の人道支援が必要だ」と指摘、イスラム教徒への援助を受け入れるとしている。【10月26日 産経】
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こうした事態に、かねてからのイスラム社会からの批判だけでなく、国連・アメリカからも懸念が示されています。

****民族・宗教衝突、改革の脅威に=ミャンマー情勢で国連報告者****
国連人権理事会のキンタナ特別報告者(ミャンマー担当)は25日、国連総会第3委員会(人権)で行った報告で、ミャンマー西部ラカイン州で激化している仏教系住民とイスラム教徒のロヒンギャ族による衝突について、「改革プロセスを危険にさらしかねない人権上の懸案事項」だと指摘した。

キンタナ氏は、民族・宗教に根差したロヒンギャ族に対する差別意識が衝突の根本的な原因となっているとの見方を示した。その上でミャンマー政府に対し、差別の解消に向けた措置を講じるよう要請した。
ミャンマーは5000万人近い人口の9割が仏教徒で、イスラム教徒は4%にとどまる。民族的にも人口の7割を占めるビルマ民族に対し、ロヒンギャ族は少数派だ。【10月26日 時事】 
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****ミャンマーの住民衝突に懸念=米****
米国務省のヌーランド報道官は25日の記者会見で、ミャンマー西部のラカイン州で仏教系住民とイスラム教徒が衝突したとの報道について「深く懸念している。関係当事者に自制と暴力の即時停止を求める」と強調した。
報道官はこの中で、「(ミャンマーの)政府、民間・宗教指導者に対し、問題の地域への人道的なアクセスを認め、平和的な解決に向けて対話を始めるよう求める」と語った。【10月26日 時事】 
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治安当局がロヒンギャ族弾圧に加担しているとの指摘もあります。
“国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、治安部隊により、多くのロヒンギャ族が暴行、逮捕され、差別的に隔離されているとの報告を出した。国連のナビ・ピレー人権高等弁務官も、事態が「イスラム教徒・ロヒンギャ族に対する弾圧に変容する」ことへの懸念を表明した。
これに対し、ミャンマーのワン・マウン・ルウィン外相は「犠牲者はイスラム、仏教徒の双方であり、宗教的な迫害ではない。宗教問題として政治・国際問題化する動きは受け入れられない」と反論している”【8月2日 産経】

衝突が起きた地域では22日以降、夜間外出禁止令が発令されています。大統領府は25日、「軍や警察は法の支配や平穏を取り戻すため、必要な措置を講じる」と表明するなど、事態の沈静化を図っています。【10月26日 読売より】

ミャンマー民主化がその名に値するものであるために、テイン・セイン政権及び野党・民主化勢力の事態安定化のための一層の努力を期待します。
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ロシア  モスクワ劇場占拠事件から10年 強権姿勢を強めるプーチン政権

2012-10-25 22:13:46 | ロシア

(「モスクワ劇場占拠事件」で犠牲となった人質  “2011年12月21日 The Voice of Russia”より Photo: RIA Novosti)

最終的に人質129名が窒息死
今から10年前の2002年10月23日から10月26日にかけて、ロシア・モスクワで「モスクワ劇場占拠事件」と呼ばれる、チェチェン共和国の独立派武装勢力が起こしたテロ事件がありました。

“42名の武装勢力は、モスクワ中央部にある劇場ドブロフカ・ミュージアムで観客922名を人質に取り、第二次チェチェン紛争により進駐してきたロシア軍のチェチェン共和国からの撤退を要求した。これが受け入れられない場合は人質を殺害、自分達も爆弾を使って劇場ごと自爆すると警告。これに対し、ロシア当局は強硬な態度を示し、武装勢力の要求を事実上拒否して武装勢力は追い詰められた。

その後武装勢力は、10月26日朝までに自分達の要求が受け入れられなければ人質を殺害するという最後通告を行ったため、緊張が高まった。政府はこれに対し交渉を行うとの声明を出したが、実際は突入への準備が行われていたといわれる。26日の午前6時20分頃に特殊部隊が突入。スペツナズと呼ばれる、軍の精鋭部隊である。その際、特殊部隊は犯人を無力化するためにKOLOKOL-1と呼ばれる非致死性ガスを使用した。直後に異変に気付いた武装グループと特殊部隊との間で銃撃戦が発生したが、武装勢力側は全員死亡した。なお、突入の直前に犯行グループ側が人質を殺害したとの報道も流されたが、詳細は不明である。

ガスの使用については周囲に一切知らされておらず、解毒薬も特殊部隊の一部にしか与えられていなかったため、人質の救出と治療に問題が起き、最終的に人質129名が窒息死した。ロシア政府は当初、このガスの成分を一切公表しなかったが、後日ロシア保健相が麻酔薬であるフェンタニルを主成分にしたものであるとの発表を行った。しかし、詳細な成分については今なお不明である”【ウィキペディア】

プーチン氏が首相就任直後に起き、チェチェン侵攻のきっかけとなり、その強硬姿勢が国民に支持されプーチン氏を大統領押し上げることにもなった1999年のロシア高層アパート連続爆破事件について、ロシア連邦保安庁(FSB)の自作自演説があるように、モスクワ劇場占拠事件にもロシア情報機関の関与を疑う声もあります。

真偽のほどはわかりませんが、そうした疑惑がもたれるところが、ロシア、そしてプーチン政権の体質を物語っているとも言えます。
「9.11」にも陰謀説がありますから、気にかけるほどの話ではないのかもしれませんが。

使用された“KOLOKOL-1”は、曝露後1〜3秒以内に効果を発揮して2〜6時間意識不明にすると言われている合成オピオイド(アヘン類似物質)だそうですが、大勢の人質がいるなかで解毒剤を用意せず使用するというのは、なかなか信じ難いものがあります。

“人質129名が窒息死”ということになれば、当然に当局の責任問題となりそうですが、そうならずに、むしろテロ鎮圧の断固たる姿勢がアピールされるところが、これまたプーチン政権らしいところです。
プーチン大統領は翌2003年9月に、「犠牲者はガスのために亡くなったのではなく、脱水症状、持病、心理的ストレスなどの複合的要因で死亡した」と記者団に語っています。

【「人質はテロリストの手でなく、当局の過失によって死傷した」】
ただ、さすがに犠牲者遺族のなかには納得していない者も少なくないようで、ロシア当局側対応について欧州人権裁判所に提訴もされています。

****モスクワ劇場占拠事件 欧州人権裁判所 判決下す****
欧州人権裁判所は、モスクワ中心部ドゥブロフカの劇場で発生したテロの被害者および犠牲者の親族たちからの申し立てを聞き入れた。裁判所の判決では、ロシア連邦保安庁(FSB)が何らかのガスを使用した後、テロの犠牲者には必要な医療支援が施されなかったと指摘されている。その結果、テロリストだけでなく大勢の人質も命を落とした。欧州人権裁判所はロシアに対し、総額125万4000ユーロの支払いを命じた。

ドゥブロフカでの悲劇は、2002年秋に起こった。人気のミュージカル「ノルド・オスト」が上演されていた劇場へ、約40人の武装集団が侵入し、女性と子供を含む912人を人質に取った。それから約3日後、特殊部隊が突入し、テロリストのほぼ全員が殺害された。テロの結果、約130人の人質が死亡した。

欧州人権裁判所は、64人からなるグループが提出した訴えを8年7ヶ月にわたって審理し、精神的苦痛に対して、それぞれに8000-6万6000ユーロの損害賠償を命じる判決を下した。(中略)

特殊作戦の組織者は、ガス攻撃に関する情報が医師らに伝えられなかったことに対しても非難を受けている。医師らは、銃撃などで負傷した人々を治療するする心構えだった。
劇場周辺で「救急車」に乗って待機していた医師たちは、毒物学の医師ではなく外科医たちだった。彼らは使用されたガスについて、またそのガスの除毒方法について知らなかった。だが、状況を別の面から見たならば、特殊作戦は秘密裏に実行されるものだ。
ロシア法務省のマチュシキン次官は、今後3ヶ月の間に文書が調査され、裁判所の判決に異議を申し立てるか否かについて判断が下されると伝えた。【2011年12月21日 The Voice of Russia】
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この判決後の当局側対応については知りませんが、基本的には、過失を認めるとか、そういうことは行っていません。

*****モスクワ劇場占拠から10年=130人死亡、真相解明遠く****
2002年10月、ロシア・モスクワの劇場がチェチェン独立派武装勢力に占拠された事件の発生から23日で丸10年が経過した。事件では4日目に突入した特殊部隊が劇場内にまいた無力化ガスにより、人質130人が窒息死。ガスの成分など詳細はいまだ非公表で、元人質や遺族らが真相解明を求めている。

テロリスト壊滅を優先する「人質救出作戦」は、04年に北オセチア・ベスランの学校占拠時に銃撃戦で330人以上が死亡した事件と合わせ、プーチン政権の「暗部」として国民に不信感がある。被害者の心の傷も癒えない。

元人質らの弁護士は「人質はテロリストの手でなく、当局の過失によって死傷した」と指摘。今年に入っても関係者の処罰を含めて捜査を求めたが、捜査当局は取り合わなかった。一方、反プーチン政権デモで勢いづいた野党勢力は、人質が犠牲となった26日に劇場で追悼集会を催す意向だ。【10月24日 時事】
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KGB出身のプーチン氏が率いる政権の強権体質
さて、プーチン大統領は、その体質によるところなのか、このところ強権的な姿勢を強め、メドベージェフ首相を排して権限を一元化する動きも見られています。

****反プーチン指導者を拘束=「政治捜査」と批判も―ロシア****
ロシア捜査当局は17日、5月の大統領就任式前日に行われた大規模な反プーチン政権デモに絡み、野党勢力「左派戦線」の指導者セルゲイ・ウダリツォフ氏を拘束した。妻のアナスタシアさんがラジオ局「モスクワのこだま」に明らかにした。

政府系テレビ局NTVは今月、ウダリツォフ氏の盗撮映像を基に「グルジアやチェチェンの勢力と結託して政権転覆を企てている」と特番で放送。その直後に捜査が開始されたことから「政治的な捜査だ」(反政権ブロガーのナバリヌイ氏)と批判されている。【10月17日 時事】
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****プーチン氏、閣僚更迭 指導部の派閥対立激化も****
ロシアのプーチン大統領は17日、叱責を受けて職務不能の状態に陥っていたゴボルン地域発展相を更迭した。
後任にはスリュニャエフ・コストロマ州前知事を任命した。5月のプーチン大統領就任後に閣僚が更迭されるのは初めて。内閣を率いるメドベージェフ首相の権威失墜と指導部内の派閥対立に拍車がかかる可能性がある。

プーチン氏は先月19日、大統領令で命じた施策が次期予算案に反映されていないと激怒し、ゴボルン氏ら3閣僚を懲戒処分にした。報道によると、同氏はこれを受けて職務続行の意思をなくし、「発病」を理由に登庁していなかった。
問題の大統領令は、プーチン氏が3月の大統領選で約束した“バラマキ公約”の実現を命じる内容。【10月18日 産経】
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****露、国家反逆罪を拡大…民主化連携の遮断狙う****
ロシア下院(定数450)は23日、国の安全を脅かす重大な犯罪を摘発する「国家反逆罪」の適用対象を大幅に拡大することを柱とする刑法改正案を可決した。
プーチン政権は、この法改正で、外国政府と国内の民主化勢力の連携を断ち切ろうとしている。

この法案を提出したのは、ソ連時代に反体制派を弾圧し、諜報活動を担った国家保安委員会(KGB)が前身の連邦保安局(FSB)。採決では、与党・統一ロシアなどの賛成375に対し、反対は2にとどまった。政権寄りの中道左派・公正ロシアは棄権した。上院の承認とプーチン大統領の署名を経て近く成立する。

プーチン政権は5月の発足以降、民主派勢力への圧力を強めてきた。今回の法案は、KGB出身のプーチン氏が率いる政権の強権体質と、欧米への不信感が投影されているとの見方が広がっている。【10月24日 読売】
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組織的な反プーチン運動を進めるための新組織「調整評議会」】
ロシア国内では、プーチン大統領への信頼はまだ根強いものがあります。
先日の8年ぶりの知事選挙でも、与党「統一ロシア」が勝利しています。
下記記事にもあるような制度的制約や「不正」の話もありますが、プーチン支持基盤の底堅さを示すものでもあります。

****ロシア地方選、与党勝利 行政当局の「不正」指摘も****
ロシアで14日、プーチン大統領の5月の就任以降、初めての統一地方選が行われ、5つの知事選など主要選挙で与党「統一ロシア」が勝利した。ロシアで知事の直接選挙が行われるのは約8年ぶり。

モスクワなど大都市部の反政権機運が地方には波及していないことに加え、行政当局側によるさまざまな“不正”も指摘されている。与党候補は5つの知事選で64~78%を得票したほか、6つの地方議会選でも統一ロシアが第一党となっている。

2004年に廃止された知事など連邦構成体首長の直接選挙は、昨年末にモスクワで反政権デモが相次いだのを受けて復活された。ただ、候補者は地方議員の5~10%の署名を集めねばならないなど制約がある。

選挙監視団体「ゴロス」は今回の地方選について、「さまざまな口実による候補者の排除やメディアを使った(不正な)選挙運動など、与党側には『行政手段』の乱用が見られた」と指摘。1人が複数回投票する「回転木馬投票」を含め約850件の不正情報が寄せられたとしている。

極東ウラジオストク市議選の投票率が13%にとどまるなど、有権者には政治への倦怠(けんたい)感もみられる。【10月16日 産経】
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ロシア国内での政権批判は、強権的姿勢とか人権弾圧といった側面への批判というよりは、政権・社会の汚職・腐敗体質への批判が強いと言われています。
反プーチン勢力は組織的な活動を行うために、電子投票で指導層を選出する試みを行っています。

****反プーチン民主化組織、汚職追及ブロガーら結集****
ロシアで、「反プーチン政権」を掲げて民主化要求を行う勢力を束ねて組織的な運動を進めるための新組織「調整評議会」のメンバー45人の顔ぶれが決まった。

メンバーは、8万人以上が参加して20~22日に行われた電子投票で選出された。投票では、汚職追及で知られるブロガーのアレクセイ・ナワリヌイ氏が4万3000票以上を獲得し1位となった。チェスの元世界王者ガリ・カスパロフ氏や、政権批判で知られるジャーナリストらも評議会入りした。

プーチン政権は、反対派への締め付けを強化している。大統領直属の捜査委員会は、今年5月に行われた政権への抗議デモの呼びかけ人の一人であるセルゲイ・ウダリツォフ氏に対し、外国から援助を受け騒乱を画策した容疑での捜査を10月中旬に始めた。【10月24日 読売】
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セルゲイ・ウダリツォフ氏に関しては、前出【10月17日 時事】にあるように、「グルジアやチェチェンの勢力と結託して政権転覆を企てている」との嫌疑がかけられています。
強権姿勢を強めるプーチン政権のもとで、こうした反プーチン民主化組織がどれほど活動できるのか・・・やや不安でもあります。

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パレスチナ  地方議会選挙、主要都市でファタハ敗北 カタール首長ガザ地区訪問

2012-10-24 23:10:11 | パレスチナ

(投票した印のインクがついた指を誇らしげに示すパレスチナ女性 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/8104847171/

【「多くの有権者がファタハに罰を与えることを選び、独立系に投票した」】
パレスチナの地方議会選挙については、10月20日ブログ「パレスチナ 7年ぶりの地方選挙、ハマスはボイコット 止まらないイスラエルの入植地建設」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121020)で、7年ぶりの選挙実施ですが、自治政府のコントロールが効くヨルダン川西岸地区に限定されていること、自治政府を主導する穏健派ファタハに対抗する急進派ハマスが選挙をボイコットしており、ファタハの統治基盤を固める信任投票に近いものとなっていることなどを取り上げたところです。

ハマスが参加しない選挙ですから、住民からの不満も聞かれるファタハですが、一応は“勝利”の形にはなるのだろう・・・と思っていたのですが、ファタハへの不満は想像以上に強いらしく、主要都市でファタハが敗北する結果となっているようです。

****パレスチナ:地方議会選 主要都市でファタハ敗北****
パレスチナ中央選挙管理委員会は21日、ヨルダン川西岸で20日に行われた地方議会選の暫定開票結果を発表した。自治政府主流派組織ファタハはラマラやナブルス、ジェニンなど主要都市で独立系会派などに敗北した。対立するイスラム原理主義組織ハマスが選挙参加を拒否し、ファタハに対する事実上の信任投票となったが、有権者の不満が反映された形だ。

選管によると、投票率は55%で、04年から1年間、4回に分けて行われた最後の選挙の投票率(約73%)を大幅に下回った。ハマスの選挙ボイコットが原因とみられる。

住民は高失業率や不況、上下水道などインフラ整備の遅れに不満を募らせている。パレスチナのマアン通信は「ファタハは失敗した」と報道。ファタハのメンバーでないパレスチナ解放機構(PLO)幹部のハナン・アシュラウィ氏は同通信の取材に「多くの有権者がファタハに罰を与えることを選び、独立系に投票した」と述べた。【10月22日 毎日】
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“暫定開票結果”ということですが、上記報道以外にはその後も選挙結果を伝える報道を見ないので、“敗北”の具体的内容はわかりません。
直接には、ファタハへの不満は、対イスラエル交渉の問題というよりは、経済問題などが中心のようです。
別の言い方をすれば、対イスラエル交渉や国連戦略などが功を奏していれば、経済問題などへの不満も隠れたのでしょうが、外交的進展がないなかで内政に関する失政が問われたというところでしょうか。

“「信任」を得るはずだったアッバス議長には打撃になるとの見方も出ている”【10月23日 時事】とのことですが、ライバルのハマスがいない選挙でも勝てないとなると、ファタハ主導の自治政府がハマスとの合意を得て統一政府を形成し、対イスラエル交渉にあたるという図式はもは現実味がなくなったのか・・・・といった感もあります。

そもそも、対イスラエル姿勢を軸としたファタハ対ハマスといった構図自体が崩れて、新しい政治地図が描かれるのでしょうか?
少なくとも、こうした情勢では、自治政府・ファタハとしては、自治政府議長選や、国会に相当する評議会選実施は更に難しくなったと思われます。

ハマスはハマド首長のガザ訪問を外交的勝利と受け止めている
地方議会選挙敗北に加え、自治政府・アッバス議長にとっては厳しいニュースがもうひとつ報じられています。
急進派ハマスが実効支配し、経済的にだけでなく、政治的にも封鎖状態にあったガザ地区をカタール首長が訪問したというものです。

****カタールの首長がガザ地区訪問、ハマスとファタハに和解呼び掛け****
2012年10月24日 16:24 発信地:ガザ市/パレスチナ自治区
カタールのハマド・ビン・ハリファ・サーニ首長は23日、パレスチナ自治区ガザ地区を訪問した。イスラム原理主義組織ハマスがガザ地区を制圧した2007年以降、外国の国家元首がガザ地区を訪問したのは初めて。

欧米各国はファタハのマフムード・アッバス議長率いるパレスチナ自治政府を支援し、ハマスによるガザ地区統治の正当性を認めていない。このためハマスはハマド首長のガザ訪問を外交的勝利と受け止めている。ハマド首長は対立を続けるハマスとファタハの双方に、いさかいをやめて和解するように呼びかけた。

■カタール、ガザ地区の住宅プロジェクトに320億円
天然ガス収入で潤うカタールは前月、2008年12月末から22日間続いたイスラエルによる空爆で大きな被害を受けたガザの再建プロジェクトに2億5400万ドル(約203億円)の資金を出すと発表していた。

だが、ハマド首長とともにガザ地区南部ハンユニスで、カタールによる住宅建設プロジェクトの着工式に出席したハマス政権のイスマイル・ハニヤ首相は、ハマド首長が拠出金の増加を表明したため、プロジェクト予算は当初の2億5400万ドルから4億ドル(約320億円)に引き上げられ建築住宅数を当初の1000戸から3000戸に増やすことができたと発表。首長も自身の名を冠した同プロジェクト現場に礎石を置いた。

■パレスチナ自治政府、イスラエルは訪問に反発
一方、アッバス議長は21日、カタールのガザへの資金拠出を歓迎しつつも、「パレスチナ地区の統一を維持することが大事だ」とする声明を発表していた。
パレスチナ自治政府は、ガザ地区のハマス政権を承認するいかなる外交的な動きも、ファタハとハマスの亀裂を拡げるだけだとして反対しており、アッバス議長の声明はハマド首長のガザ地区訪問を遠回しに批判したものとみられている。

パレスチナ解放機構(PLO)執行委員会は22日、パレスチナ地区の分断はイスラエルを利するだけだとして、この分断を終わらせるためにあらゆる努力を払ってほしいとアラブ諸国に訴えた。
イスラエルも、ハマド首長のガザ訪問はカタールがパレスチナ自治政府よりもハマスを支持していることを意味するものだと批判している。【10月24日 AFP】
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豊富な天然ガスを武器に域内での存在感を強めるカタールという強力な後ろ盾の存在を内外に示したということで、今回訪問はハマスの外交的勝利とも受け止められています。
ハマスとファタハ・アッバス議長の外交的せめぎ合いとしては、8月30日からイラン・テヘランで開催された非同盟諸国会議(約120カ国・機構加盟)首脳会議もみられました。
このときは、当初ハマスのハニヤ最高幹部が出席を予定していたのですが、アッバス議長の強い反発を受けて、結局ハニヤ氏は出席断念に追い込まれています。

カタール、エジプトの思惑
カタールの思惑については、“ハマスはもともと、シリアのアサド政権や、同政権と盟友関係にあるイランの支援を受けてきたが、シリア内戦が激化する中、在外指導部をシリアからカタールに移転させていた。カタールには対ガザ投資を加速させ、ハマスを影響下に置く思惑もありそうだ”【10月24日 産経】と指摘されています。
“「今回の大規模支援はハマスがシリアを去った見返り」(外交筋)との声もある”【10月24日 朝日】とも。

今回のカタール首長ガザ訪問の実現には、隣国エジプトの変化が大きく影響しています。
“エジプトのムバラク前政権はイスラエルによるガザ封鎖に協力してきた。ハマスの母体であるムスリム同胞団出身のムルシ大統領が誕生したことで、ハマド氏はエジプト経由でガザ入りができた”【10月23日 朝日】

また、物資の流入が厳しく制約されているガザ地区でカタールが支援を申し出ている住宅建設プロジェクトなどが実現するかどうかも、エジプトの対応次第という面があります。
“ガザは境界封鎖で物資の輸出入を厳しく制限され、建設用の資材や原料が不足しているが、AP通信によると、カタールはエジプト経由の物資搬入を要請し、エジプトも協力する方針という。ただ、ガザへの武器流入を警戒するイスラエルが反発する可能性もあり、支援が完全に実現できるかどうかは流動的だ”【10月23日 毎日】

政変後の変革が目に見える形で出ていないと国民から批判を受けているエジプト・モルシ政権としては、ガザ地区復興を支援することで、国民へ変革をアピールしたいところでしょう。
ただ、イスラエル・アメリカの反発を天秤にかけながら・・・といったところでしょうが。

分断状態固定化の懸念
“ハマド首長は対立を続けるハマスとファタハの双方に、いさかいをやめて和解するように呼びかけた”とのことですが、地方議会選挙でも敗北したファタハと外交的勝利をアピールするハマスが“和解”に至るのは難しいのではないでしょうか。
ハマスのガザ支配の正当化によって、分断状態が固定化される危険が大きいように思えます。
ガザ地区でもファタハ対ハマスといった従来からの構図によらない、新しい政治的動きが出てきて、そうしたものを新たな軸にしてヨルダン川西岸・ガザ地区の統合が図られる・・・・ということであれば、また話は別ですが・・・。

ネタニヤフ氏が政権を維持する可能性が高い
一方、イスラエルでは、保守派ネタニヤフ首相が総選挙の前倒し実施を打ち出しています。
現在の情勢では、“ネタニヤフ首相率いる右派リクードが他党をリードしており、ネタニヤフ氏が政権を維持する可能性が高い”と見られています。

****イスラエル、首相地固め 国会解散、1月に総選挙前倒し****
イスラエル国会(定数120)は16日未明、次期総選挙の実施時期を、任期満了の来年10月から1月22日に前倒しするとの政府案を可決し解散した。世論調査ではネタニヤフ首相率いる右派リクードが他党をリードしており、ネタニヤフ氏が政権を維持する可能性が高い。その場合、核兵器開発が疑われるイランへの強硬姿勢は維持され、頓挫しているパレスチナとの和平交渉も停滞が続くとみられる。

国会で演説したネタニヤフ氏は「イランの核計画を軽視する者に、イスラエルを治める資格はない」などと語り、総選挙では外交・安全保障政策を主要争点に据える考えを示した。
イラン問題では、単独攻撃も辞さない構えをとるネタニヤフ氏と、自制を促すオバマ米政権との間でぎくしゃくした関係が続いており、イスラエル国内では政府の外交政策を疑問視する声も少なくない。ネタニヤフ氏としては、総選挙で政権基盤の強化を図るとともに、自身の強硬姿勢への国民の信任を取り付ける狙いもある。

与党側は総選挙前倒しの理由を、財政緊縮策をめぐる連立政権内の意見調整が難航し年末の期限までに予算を成立させる見通しが立たないためだと説明。世論調査が、連立政権を主導するリクードや「わが家イスラエル」、シャスなどの右派・宗教勢力の優勢を伝えていることも、解散を後押しした。

一方、イスラエルでは昨年、物価上昇や家賃高騰に抗議する大規模デモが発生するなど、政府の経済運営に対する不満も高まっている。しかし、野党勢力は政権側に対し明確な対抗軸を打ち出せずにいるのが実情だ。2009年の前回選で第一党となった中道カディマは、今年5月に連立政権に参加したものの右派・宗教勢力との溝が埋まらぬまま約2カ月で離脱。党内の路線対立も噴出し、次期総選挙では大幅な議席減が予想されている。

カディマ出身で、汚職疑惑により09年に退陣したオルメルト前首相のもと、中道・中道左派の結集を図る動きも出ているが、ネタニヤフ氏への対抗勢力となり得るかは不透明だ。【10月17日 産経】
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なお、イスラエル・ネタニヤフ政権の和平交渉に消極的な姿勢をカーター米元大統領が厳しく批判しています。

****カーター氏がエルサレム訪問、入植政策を批判****
カーター米元大統領が22日、エルサレムとヨルダン川西岸を訪問し、2010年秋以来交渉が中断しているパレスチナとイスラエルの和平プロセスについて、「危機的な段階に到達している」と強い懸念を示した。

カーター氏は、「過去のイスラエル首相はパレスチナと共存する2国家案を支持してきたが、今のイスラエルは放棄したようだ」と指摘。占領地のヨルダン川西岸や東エルサレムにユダヤ人入植を進めるネタニヤフ首相を批判した。【10月23日 読売】
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パレスチナの分断状態が改善されず、入植地建設を進めるイスラエル・ネタニヤフ政権が来年総選挙で勝利し・・・ということになると、パレスチナ和平交渉の進展は当分望めません。アメリカ大統領選挙でロムニー氏勝利とでもなれば、なおさらのことです。
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イタリア  地震予知失敗の科学者らに禁固6年の判決 世界の科学者からは批判も

2012-10-23 22:32:17 | 欧州情勢

(地震で被害を受けたラクイラ “flickr”より  By Le avventure di Giufà  http://www.flickr.com/photos/31097008@N05/3419392836/)

【「不完全で、的外れの、不適切で犯罪的に誤っていた」】
地震予知技術は現在のレベルでは実用化の域に達していないというのが一般的認識かと思います。
情報として意味があるためには、“いつ起きるのか”という時の特定が必要になりますが、そのためには広範な常時監視体制が整備されている必要があります。

日本の場合、「そのような体制が整っていて予知のできる可能性があるのは、現在のところ(場所)駿河湾付近からその沖合いを震源とする、(大きさ)マグニチュード8クラスのいわゆる「東海地震」だけです。それ以外の地震については直前に予知できるほど現在の科学技術が進んでいません」(気象庁ホームページ)という状況です。
その「東海地震」にしても、“予知のできる可能性がある”ということで、“予知できる”ということではありません。

2009年4月6日にイタリア中部で発生し、ラクイラなどで309人の犠牲者をだした地震について、その地震予知に失敗し、地震発生6日前に「危険はない」と公表、住民が逃げ遅れるなど甚大な被害を招いたとして、地震学者らが刑事責任を追及されるという裁判がイタリアで行われ注目されています。

****イタリア中部地震、地震学者ら7人に禁錮6年 求刑上回る判決****
2009年4月6日にイタリア中部で発生し309人が犠牲になった地震の危険性を過小評価したとして科学者6人と元政府職員1人が過失致死罪に問われていた裁判で、イタリア中部ラクイラの裁判所は22日、7被告に禁錮6年の判決を言い渡した。
裁判所は7被告に地震被災者に対する900万ユーロ(約9億4000万円)以上の損害賠償の支払いも命じた。

当時ラクイラでは数週間にわたって小規模な地震が続いていたため、国の委員会が2009年3月31日にラクイラで会合を開き、イタリアトップレベルの地震学者らが状況を分析した。会合が開かれたことで住民の間に不安が広がった上、住民の1人が地震を予言したために住民の不安は一層高まったが、会合後に民間防衛庁の副長官が記者会見で「地震活動はラクイラに危険を与えない」と発表していた。

しかし、会合の6日後に地震が発生し、ラクイラとその周辺の村落は中世の教会が倒壊するなどの被害を受け、約12万人が被災した。

■求刑を上回る厳しい判決に科学界から批判
検察側は専門家が「不完全で、的外れの、不適切で犯罪的に誤っていた」分析を提供したため、住民の多くは最初の揺れが起きたときに屋内にとどまったと主張し、住民に地震が起きる危険性を警告することを怠ったとして、各被告に禁錮4年を求刑していた。

弁護側は控訴する意向を示している。イタリアの司法制度では、上訴する2度の機会が尽きるまでは7被告が収監されることはない。

この裁判をめぐっては、専門家が裁判を恐れて自らが得た知見を公表しなくなる恐れがあると指摘されている。5000人を超える科学者がジョルジョ・ナポリターノ大統領にこの裁判は不当だとする公開書簡を送っていた。【10月23日 AFP】
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検察側主張については、“検察側は7人が「不完全かつ的外れで犯罪に値する誤った評価」を行ったとして責任を追及。地震予知ができたかどうかが問題ではなく、中世の歴史的建造物が残るラクイラが地震に弱く、住民へのリスク警告を怠った責任があると主張していた”【10月23日 時事】とのことです。
予知に失敗したことではなく、適切なリスク警告を怠ったことの責任を追及しているということです。

しかし、大規模地震が起きるかどうかわからない、市民の間では“予言”などで不安が高まっている・・・という状況で、パニックを防止するような発表がなされるというのは、わからないこともありません。

また、2009年4月6日以前の段階で仮に地震発生を警告できたとしても、「大きな地震がそのうち起きるかもしれない」といった、規模についても、時についても漠然とした類のものとしかなりえず、それによってどれほど地震発生時の住民の行動が変わったかは疑問です。

【「科学にとって悲しい日だ」】
当然ながら、世界の科学者からは、「科学を裁くことはできない」「専門家は責任追及を恐れ地震リスク評価に協力しなくなる」といった、判決に対する批判がなされています。

****イタリア:地震予知失敗「有罪」に疑問の声…海外の科学者****
09年4月のイタリア中部ラクイラの大地震で、直前の安全宣言が犠牲の拡大を招いたとして過失致死傷罪に問われた地震学者ら7人に22日、禁錮6年(求刑同4年)の有罪判決が下されたことに、海外の科学者らから「科学にとって悲しい日だ」などと判決の妥当性に疑問を投げかける声が出た。

判決を受けたのは、大規模災害のリスクを評価する委員会のメンバーだった地震学者や政府担当者ら7人。裁判では、技術的に困難とされる地震予知を巡り、科学者の刑事責任を問えるかが焦点となった。
被告の一人、イタリア国立地球物理学火山学研究所のエンゾ・ボスキ元所長は判決後、「無罪になると思っていた。意気消沈した」と語った。一方、地震犠牲者の遺族らは判決を歓迎した。

AP通信によると、米科学誌「サイエンス」のブルックス・ハンソン副編集長(物理科学担当)は「群発地震がその後、どうなるかは分からない」と指摘し、警報を乱発すれば誤報とパニックを招くと警告した。
また、英王立バークシャー病院のマルコム・スペリン医学物理学部長は英BBC放送に「科学者が間違った予知で罰せられれば、科学的探求は確実なことに限られ、得られる恩恵も限られる」と懸念を表明した。【10月23日 毎日】
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検察側求刑を上回る“禁固6年”という非常に厳しい判決を下した裁判所の判断内容の詳細はまだ公表されていません。
“リスク警告を怠った責任”があるとしても、禁錮6年というのはあまりにも厳しく、結果として科学を委縮させる、いささか踏み込み過ぎた判決のように思えます。

【「予知ができるという誤解を招いてきた」】
“イタリア政府は地震のあと、裁判とは別に世界9か国の専門家による国際委員会を設け、現状では地震の日時や場所、規模を特定する「地震予知」は実現が難しいため広く一般には地震の発生確率など、中長期的な可能性を示す「予測」の情報を伝えるべきだという報告書をまとめました。
こうした議論を受けて日本地震学会は今月、地震研究の現状を積極的に社会に伝え、「予知」と「予測」を明確に区別するという活動計画をまとめています”【10月23日 NHK】

****地震予知困難” 「予測」と使い分け ****
地震の研究者で作る日本地震学会は「現在の地震学では、時間と場所と大きさを特定する地震予知は非常に困難で、予知できるという誤解を与えないよう、予知と予測ということばを使い分けるよう努めていく」とする行動計画を発表しました。
日本地震学会は、北海道函館市で開かれている大会で17日、今後の学会としての行動計画を発表し、この中で「地震予知への取り組みを見直す」としています。

具体的には、去年3月の巨大地震をきっかけに、これまでの研究に多くの批判があったとして、地震が起きる場所と時間と大きさを特定する予知は現在の地震学では非常に困難だと位置づけました。

一方で、中長期的に地震が起きる場所や大きさなどの可能性を示す「予測」はできるとしたうえで、誤解を招かないよう、予知と予測ということばを使い分けるよう努めるべきだとしています。
そして、地震発生を予測する研究は今後も基礎研究として継続し、研究の現状を社会に対して丁寧に説明していく必要があるとしています。

学会内部の委員会の「地震予知検討委員会」は、誤解を招くとして名称を変更することにしています。
学会の会長で東京大学地震研究所の加藤照之教授は「広い意味で“予知”ということばを使ってきたが、予知ができるという誤解を招いてきた。現状の説明をするとともに、防災に貢献できる研究を続けたい」と話しています。

一方、国は「東海地震」を唯一、「予知できる可能性がある地震」と位置づけています。
東海地方の地震などの観測データを監視している気象庁地震予知情報課の土井恵治課長は、「地震の予知は難しく、東海地震は予知ができないまま起きてしまう可能性がある。地震に先立つ変化をとらえる可能性が少しでもあるなら、気象庁として、地震予知の情報を出せるよう取り組んでいくことが大事だと考えている」と話しています。【10月17日 NHK】
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今回発表された行動計画のなかでは、前兆現象をとらえ事前に地震発生を国民に警告する「予知研究計画」について、「阪神大震災や東日本大震災を事前に予測することはできず、現時点では実現の見込みはない」と総括されています。【10月17日 産経より】
一方で、学会員(研究者)らの中には「研究対象として(地震予知を)放棄すべきでない」とする意見もかなり多いとのことです。
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スペイン  バスク、カタルーニャで強まる自立を求める動き

2012-10-22 22:14:04 | 欧州情勢

(9月11日のカタルーニャ州都バルセロナでのデモ 州警察発表で参加者150万人、多くの報道では100万人以上、内閣府発表60万人、けが人・逮捕者はゼロ  100万人というのは、ちょっと想像がつかない規模です。 ただ、目指すところが「独立」なのか、自治権拡大なのか・・・という話はあろうかと思います。 “flickr”より By jibieltr  http://www.flickr.com/photos/79123372@N04/7977930766/

【「暮らしの好転は独立から」】
スペインでは、中央政府の財政危機に加え、不動産ブブルがはじけて巨額の不良債権を抱える銀行と財政赤字が膨らむ地方政府の問題もあって、厳しい経済運営が続いていますが、そうした経済危機が従前から存在する地方の分離独立を求める動きを加速させています。

“深刻な財政危機に陥っているスペインで、国からの分離独立を求める動きが地方で勢いづいている。バスクとカタルーニャ両自治州で近く行われる州議会選では、独立を掲げる地域政党が躍進する見通しだ。財政再建のために痛みを伴う改革を国民に求める政権与党が求心力を失うなか、地域政党の「暮らしの好転は独立から」という訴えが人々を引きつけている”【10月18日 朝日】

ETA:「武装活動の最終的な停止」】
バスクとカタルーニャはともに、イベリア半島の付け根部分に位置していますが、バスクは付け根部分の北部、カタルーニャは付け根部分の南部になります。

バスクは従前より、テロを繰り返した武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)による独立運動がよく知られています。40年以上に及ぶ闘争でテロによる800人以上の犠牲者を出していますが、ETAは昨年10月20日、「武装活動の最終的な停止」を宣言する声明文を発表しています。
これにより、分離独立運動の主軸は武装闘争から政治の場に移っています。

【「スペインの伝統である闘牛などいらない。我々はカタルーニャ人だ」】
カタルーニャについては、その州都、バルセロナの名前の方が、オリンピック開催や建築家ガウディ、あるいはサッカークラブのFCバルセロナなどでよく知られているでしょう。

歴史的には、1137年にアラゴン王国との同君連合が成立。1479年にはカスティーリャとバルセロナ=アラゴンが同君連合となった・・・・等々の経緯、1714年にはスペイン継承戦争でバルセロナ陥落、また、現代に飛ぶと、フランコ将軍によるスペイン内戦時の文化的弾圧などがあったようです。
極東の人間には欧州のそうした細かい話はよくわかりませんが、イングランドに対するスコットランドのように、文化的・言語的には独自のものを持っている地域です。

2006年6月には、自治権の拡大を問う自治憲章改定案への住民投票が行われ、74%の圧倒的多数の賛成で承認されています。この改定案は、独立ではなく地方分権を拡大するものです。

個人的には、バスクだけでなく、カタルーニャにも分離独立の動きがあることを知ったのは、闘牛禁止の件からです。

****カタルーニャは闘牛禁止に…スペイン伝統に背***
スペイン北東部カタルーニャ自治州議会は28日、州内での闘牛開催を2012年から禁ずる条例案を賛成68、反対55の賛成多数で可決した。
1000年以上の伝統を持つ闘牛は、大西洋のスペイン領カナリア諸島では禁止されているが、本土で禁止されるのは今回が初めて。

闘牛の起源はローマ時代にさかのぼり、貴族階級を通じて国民に広まり、スペインの国技と位置づけられたほか、南米などへも広まった。
だが、娯楽の多様化で若者を中心にファン離れが進み、2007年の世論調査では国民の4分の3が「関心がない」と回答。同自治州内の闘牛場は州都バルセロナの1か所にとどまり、年間会員も数百人に落ち込んでいた。
これを「禁止」に追い込んだ主役は動物愛護団体。18万人の署名を集め、条例制定を呼びかけてきた。

さらに、スペインの他の地域とは異なる独自の言語や文化を持つカタルーニャの独立を掲げる有力地域政党・カタルーニャ連合などが、「スペインの伝統である闘牛などいらない。我々はカタルーニャ人だ」と加勢し、条例を可決した。
闘牛の主催団体幹部は、「闘牛を見るも見ないも個人の自由。禁止されれば闘牛産業も打撃を受ける。自由と経済活動への攻撃だ」と反発している。【2010年7月30日】
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【「一国家となることを求める声が、カタルーニャ社会の大きな部分を占めている」】
もともと存在していた独自のアイデンティティーへのこだわり、民族主義を一気に強めたのが、最近の中央政府による緊縮財政への不満・反発でした。こうしたカタルーニャの人々の思いが噴き出したのが、9月11日に行われた100万人とも150万人とも言われる、「独立」あるいは自治権拡大を求める大規模デモでした。

****デモに100万人、自治権拡大求めるカタルーニャの人々****
8世紀のスペイン継承戦争でカタルーニャが陥落した「カタルーニャの日」にあたる11日、同州の州都バルセロナでは、経済危機にあえぐスペインからの「独立」や自治権拡大を求める大規模なデモに100万人以上が参加した。

独自の言語と文化を持つスペイン北東部のカタルーニャ自治州。経済規模はポルトガルよりも大きく、スペイン全体の5分の1を占める。しかし中央政府から搾取されているという長年の不満が、現在4人に1人が失業状態という同国全体の経済危機とそれを受けた緊縮財政に対する反発で、いつになく煽られている。バルセロナでのデモには100万人を超える住民が参加。スペインからの「独立と自由」を求めた。

デモから2日後の13日、スペインの首都マドリードで行われた経済フォーラムに出席したカタルーニャ自治州政府のアルトゥール・マス州首相は、同州の自治権拡大を求める姿勢を鮮明に打ち出した。

マス州首相はフォーラムの中で「北欧から南欧にかけて起きている状況について、スペインとカタルーニャの間には、ある平行線が生じている。カタルーニャとスペインの間には相互に倦怠感が生まれていると思う。カタルーニャは自分たちが可能だと思っている進歩をスペイン国家全体の中で遂げられないことにうんざりしており、スペイン政府も(彼らの要求に対する)カタルーニャの行動にうんざりしていることと思う」と述べた。

そして「独立」という言葉までは用いなかったが、カタルーニャは「移行期」にあり、「カタルーニャ人は自分たちを『国家』とみなすかどうか尋ねられる権利がある。一国家となることを求める声が、カタルーニャ社会の大きな部分を占めている」などと述べ、スペインからの独立を問う住民投票に積極的な姿勢を示唆した。
さらにマス州首相は、20日に予定されているマリアノ・ラホイ首相との会談で、カタルーニャ自治州の「財政的主権」を求めるつもりであることを明かした。【9月17日 AFP】1
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その後も、分離独立を掲げる動きは更に勢いを増しています。

****スペイン2州、独立論に熱 バスクとカタルーニャ****
■急進派政党、支持広げるバスク
「インデペンデンツィア」。1万人を超える聴衆で埋まったバスク州のビルバオ郊外にある見本市会場に、バスク語で「独立」を意味する言葉の連呼が響く。スペイン中央政府を標的にテロを繰り返した武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)の元メンバーで服役中の指導者の写真が大画面に映し出され、バスク語の肉声が流れた。

「まず、受刑者の釈放を実現しよう。次に、独立に向けた対話の場を要求しようではないか」。民族衣装に身を包んだ人々はバスクの旗を振りながら、「受刑者を家に戻せ」と声をあげた。
21日投票の州議会選挙を控えて総決起集会を開いたのは、新しい地域政党「ビルドゥ(バスク語で団結)」。ETAが昨年10月に「武装闘争の最終的停止」を一方的に宣言して以来、支持を大きく伸ばしている独立急進派だ。

フランスと国境を接するギプスコア県の議会では、過半数を握るビルドゥ党が先導する形で、バスク語を広める動きが先鋭化。県当局者の記者会見はスペイン語通訳はつけるとはいえ、すべてバスク語で行うことを決めた。また、県が定めた規則に従い、道路工事の応札業者にバスク語の有資格者がいなかったことが判明したとして、入札そのものを無効にした。

県の対応について中央政府は「バスク語の強要は違法の可能性がある」(ガジャルドン法相)との考えを示している。だが県当局は動じず、「マドリード(中央政府)は文化の多様性を認めない。経済覇権を握り続けるため、バスクの自治権を狭めようとしているだけ」(エチェブル・県バスク語部長)と反論する。

ビルドゥ党の集会があった同じ日、ETAに誘拐されて殺された町議の遺族を迎え、国政の与党・国民党が集会を開いた。ビルバオ入りしたラホイ首相は「深刻な経済危機に加え、政治危機を招いてはならない」と地域政党の台頭に焦りをあらわにした。(中略)

ETA問題に詳しいバスコ通信のフロレンシオ・ドミンゲス編集長は「ビルドゥ党はETA系以外の勢力も参加した連合体。テロを予防するために支持する有権者も多いが、ビルドゥ党に押し出され、(第1党の穏健派)バスク民族党も独立の訴えを強める予兆がある」と指摘する。

■住民投票へ動くカタルーニャ
スペイン最大の経済規模を誇る自治州カタルーニャ。国内総生産(GDP)の5分の1を担っている。ここでは、分離独立の是非を住民投票で決めようという動きが広がっている。

バルセロナから北へ車で約1時間。木材や金属の加工業が盛んなサンペラデトレリョーの町役場の玄関先で、カタルーニャを表す赤と黄の横じまに星を組み合わせた「独立旗」がはためく。
「スペイン国旗は用済みだ。役場内に国王の肖像画は1枚もない」。ジョルディ・ファブレガ町長は満面の笑みを浮かべた。
町議会は9月初め、「カタルーニャの独立宣言」を全会一致で採択した。カタルーニャ州議会に対し、国家主権を一方的に宣言し、独立の是非を問う住民投票の実施を促した内容だ。人口約2400人の町が火付け役となった運動は広がり、わずか1カ月足らずで州内約950市町村の1割以上が同調した。

背景には、中央政府に押され、カタルーニャ州政府が進めた緊縮策への不満があった。医療費削減などに反対するデモが各地で相次いだ。追い込まれたマス州首相は9月末、中央政府と徹底抗戦する姿勢を鮮明にし、州議会選を11月25日に前倒しして実施することを表明した。

第1党で独立穏健派のカタルーニャ連合をはじめ地域政党は今、「民主化以降で最大の独立実現のチャンス到来」(リュイス・コロミナス州議)とみる。カタルーニャは本来、経済的に豊かなはずなのに、中央政府に税収を吸い上げられているため、財政が厳しさを増している。それを打開する方策が独立だという主張に、独立に慎重だった人々も共鳴していると考えるからだ。

今月初め、住民投票を実施する権利を国から自治州へ移譲するよう求めた地域政党側の提案が採決にかけられ、2大政党などの圧倒的多数で否決された。それでも、提案者に名を連ねたアルフレッド・ボスク下院議員は「自治権拡大を求める二の矢を放つ」と意気込む。

独立の是非を問う住民投票の実施には国会で憲法を改正する必要があり、ハードルは高い。世論調査によると、「カタルーニャが欧州連合の新しい国家になることを望むか」との質問に「はい」と答えた人は74%にのぼる。地域政党は州議会での先行実施も辞さない構えだ。
     ◇
〈スペインの自治州〉 
スペインではフランコ独裁政権下で中央集権化が進んだが、1970年代後半からの民主化により自治州の権限が拡大。計17の自治州は独自の議会と政府を持ち、中央政府から移譲された税源をもとに、特に医療や教育の分野で独自の政策を展開できる。中央政府は外交や防衛、年金をはじめとする社会保障の分野で権限を持つ。

自治州のなかでもバスクとナバラについては「特別財政制度」があり、州内の各県が所得税や法人税を含む大半の税を徴収する権利を持ち、州警察で治安を担う。一方、輸出産業が盛んなカタルーニャでは、経済危機に伴いバスク並みの徴税権を求める声が高まっている。 【10月18日 朝日】
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バスク州議会選挙で独立急進派が躍進
バスクについては、21日の州議会選挙で、予想されたように分離独立派が躍進、中央政府からの分離独立を目指し、武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)の流れも含むビルドゥ連合が第2党となっています。

****首相の地元は与党過半数維持 スペイン州議会選****
スペイン政府が進める財政緊縮策に対する反発が強まるなか、二つの州で21日、州議会選があった。ラホイ首相の出身地、北西部ガリシア州では、与党国民党が単独過半数を保ち、地滑り的な求心力低下は回避した。(中略)

一方、北東部バスク州の議会選(定数75)では、スペインからの分離独立派が躍進した。独立急進派の新党ビルドゥからは、昨年10月に武装闘争の「最終的停止」を宣言した武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)の系列候補も立候補し、21議席を得て第2党になった。穏健派のバスク民族党は前回より3議席減らしたものの、27議席を獲得し第1党となった。改選前まで州議会の与党だったバスク社会党と国民党は、経済危機への対応が遅れたことへの批判から、ともに議席を減らした。【10月22日 朝日】
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バスク州議会で躍進したビルドゥ連合は第1党の穏健派のバスク民族党と連立政権を組む可能性があり、その場合、自治権拡大、独立要求の動きが強まるとの見方があります。【10月22日 毎日より】
同じく独立要求運動が盛り上がりを見せるカタルーニャ州議会選挙も11月に行われます。
スペインは経済危機だけでなく、地域民族主義の高まりという難しい問題も抱える事態となっています。

もっとも、分離独立と自治権拡大・徴税権獲得とは大きな差があります。
両州が今後どのような方向に進むのかは不透明です。
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