(分離壁の“向こう側”で遊ぶパレスチナ人の子供達 “flickr”より By severinelaville
http://www.flickr.com/photos/8596531@N07/522980639/)
【拡大する入植地】
パレスチナ情勢は、昨年末から今年1月に行われたイスラエルによるガザ空爆・進攻、その後のイスラエル右派ネタニヤフ政権の誕生、パレスチナ側で続くファタハ・アッバス議長とガザ地区を実効支配するハマスの内部対立・・・こうした情勢で、膠着状態が続いています。
6月17日に行われたクリントン米国務長官とリーベルマンイスラエル外相のワシントンD.C.での会談で、アメリカ側は和平の前提としてパレスチナ自治区へのユダヤ人入植地建設の凍結を強く求めましたが、イスラエル側は断固としてこれを拒否しています。
そうしたなかで、イスラエル入植地は拡大を続けています。
****ヨルダン川西岸のユダヤ人入植者、30万人超える*****
27日付のイスラエル紙ハーレツは、同国の占領下にあるヨルダン川西岸のユダヤ人入植者の人口が30万人を超えたと報じた。人口増加に伴う入植地拡大は、パレスチナとの2国家共存を目指す和平交渉の大きな阻害要因となっている。
同紙によると、西岸の入植者は6月末時点で30万4569人となり、半年間で2.3%増加した。【7月27日 時事】
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【“姿を見えなくてもパレスチナ人は壁の向こうに存在している”】
拡大する入植地とともに現在のヨルダン川西岸の実情を示すのが“分離壁”
「テロリストのイスラエルへの侵入を防ぐため」と称してヨルダン川西岸地区に建設されている“分離壁”(イスラエルとパレスチナの境界に建設されているのはでなく、90%以上がパレスチナの中に侵入してパレスチナ側の土地を奪いながら建設されています。)は、壁建設の中止と徹去を求める国連決議(2003年10月21日)や国際司法裁判所の勧告(2004年7月9 日)が出された後も建設が続けられ、パレスチナ人の土地と生活を分断しています。
その分離壁に関して、イスラエルで放映さているあるCM(携帯電話会社セルコム)が話題になっていることが、8月5日版Newsweek日本語版に紹介されています。
そのCMの概要は・・・イスラエル兵が分離壁に沿って車を走らせている。突然、壁の向こうからサッカーボールが飛んで来る。兵士たちはボールをパスし合った後、壁の向こうに蹴り返す。高さ6mの壁の反対側にいるのはサッカー好きのパレスチナの若者 CMメッセージ「何を求めているかって?ちょっとした楽しみさ」・・・といった内容です。
“このCMがイスラエルで論争を引き起こした。(中略)ヨルダン川西岸に分離壁やフェンスを設置して以来、イスラエル国民は自爆テロから守られていると感じてきた。だがセルコムのCMによって、姿を見えなくてもパレスチナ人は壁の向こうに存在しているし、彼等が平和共存のパートナーになる可能性がることをイスエル人は思い出した。「CMは国民の心を揺さぶり、パレスチナ人が消えることはないと思い知らせた」とイスラエルの国会議員ダニエル・ベンシモンは言う。・・・・”【8月5日版Newsweek日本語版】
もちろん激しい批判もあり、兵士がボールではなく催涙弾を壁の向こうに放り込む映像が動画サイトにアップされたとか。
また、イスラエルのアラブ系住民やパレスチナ人の反応も冷めたもので、「左派は、パレスチナ人に親切にすればうまくいくと言わんばかりだ。イスラエルによる占領という事実から目をそむけている」との声もあるようです。
ガザ侵攻直後というタイミングの問題はあったにせよ、先の総選挙で極右政治家リーベルマンや右派ネタニヤフを強く支持したイスラエル国民がこのCMで“心を揺さぶられた”とは俄かには信じがたいところがあります。
しかし、全ての戦争は“敵”も同じ人間であり、同じように生活があり、同じように家族や恋人がいるという簡単な事実を想像することができないイマジネーションの欠如から起きるものであり、今回CMが分離壁の向こう側で暮らす普通の人々への想像を惹起してくれたのであれば、それは価値があったと思われます。(セルコムの作成意図はわかりませんが。)
【トンネル密輸に依存するガザ地区】
一方、ガザ地区の方は、復興が進んでいません。
****封鎖解けず物資枯渇*****
ガザはイスラム原理主義組織ハマスによる07年6月の武力制圧以降、イスラエル、エジプト両境界を徹底封鎖されてきた。ガザの復興に封鎖解除が不可欠だが、「ハマス排除」をもくろむネタニヤフ・イスラエル政権にその用意はない。アッバス議長率いるパレスチナ自治政府もハマスのガザ支配を断つ力に欠ける。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、先月中にガザに運び込まれた物資はトラック計2583台分。ハマス支配前の約2割に過ぎない。物資の大半は食料品で、ガソリンやディーゼル燃料の搬入は病院向けなどの例外を除き、半年以上前から中断したまま。復興作業に必須のセメントも枯渇して、市価は10倍以上に高騰した。ガザ経済は結局、エジプト境界の地下に掘られたトンネル密輸に依存している。
国際社会は3月、約45億ドル(約4500億円)の復興支援を約束したが、ハマスがアッバス議長側と「和解」してガザ情勢を正常化するよう迫り、まだ実際の拠出はしていない。双方は協議を続けているが、権力争いも絡んで一筋縄でいかない。一方、イスラエルはガザに拘束されている自国兵が解放されない限り、封鎖の解除には応じない。ガザ復興はそれぞれの思惑に埋没し、後回しの状態だ。「停戦」後、強硬派のネタニヤフ首相が登場し、中東和平交渉は再開のめどが立っていない。パレスチナ側は、成果の見込めない交渉再開に応じない構えだ。
和平進展に意欲を見せるオバマ米大統領は現在、中東地域の包括和平を念頭に置いた独自案を構想中とされる。パレスチナ政策調査研究センターのハリル・シカキ代表は「米国の関与が事態打開のカギになる」と指摘。「オバマ政権が(イスラエル、パレスチナ双方への)『圧力源』になれるかどうかが試される」と解説した。【7月20日 毎日】
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【監獄からの脱出】
上記記事は、復興が一向に進まないガザ地区から「外の世界」への脱出を渇望する住民が増加している状況、また、査証(ビザ)取得を不法仲介する闇業者が暗躍している状況をも伝えています。
****パレスチナ:停戦半年 「ガザは監獄」募る脱出への思い 不法ビザにすがる住民****
「ビザの入手に重要なのは、その国を訪れる『正当な理由』をいかに見つけるかだ」
ガザ市のビルの一室で、闇業者の一人が打ち明けた。事務所には看板も何もないが、連日、人づてに聞いた客が集まる。以前は仕事にあぶれた若者が大半だったが、「停戦」後は年配者が目立つようになった。最近の来客数は月間約200人に上り、攻撃前の約7倍に急増しているという。
境界を閉ざされたガザは時に、「監獄」に例えられる。外国の病院で治療を受けるなど特別な理由がない限り、住民に越境の自由はない。イスラエル軍の攻撃中、外国籍の保持者が優先的に保護されるのを目の当たりにした。「外国籍は『保険』」(住民)。ビザを取って海外で亡命申請しようという意識が広まった。(中略)
「(欧州連合=EU=の加盟国間を自由に移動できる)シェンゲンビザなら3500ドル。アフリカなら旅券(パスポート)さえ2000ドルで手配できる国もある」。闇業者は料金表を見せ豪語した。
こうした商売が横行する中、代金をだまし取られるケースも続発している。「ガザは政治的、社会的に崩壊した」と公務員の男性(40)は話す。闇業者に3000ドルでビザ入手を依頼したが、渡されたのはパソコンで模造した偽物だった。金を取り戻すことは難しい。彼はそれでも「子供の将来が不安。人間らしい生活をしたいから」と言い、改めて別の業者に接触すると言い切った。(後略)【7月20日 毎日】
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【「たこ揚げ」のギネス世界記録】
暗いニュースが多い中で、少しはほっとする記事も。
****ガザの子ども6000人、たこ揚げギネス記録に挑戦*****
前年末-今年1月の戦闘で荒廃したパレスチナ自治区ガザ地区北部の海岸で30日、6000人以上の子どもたちが「たこ揚げ」のギネス世界記録に挑戦し、貴重な平和な一時を楽しんだ。
イベントは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がサマーキャンプ活動の一環として開催したもの。海岸上空には色とりどりのたこ3000枚以上が舞い上がった。世界ギネス協会の審査員は治安上の理由でガザ入りできなかったため、正式認定はまだ。これまでの「同じ場所で一度に揚がるたこの数」世界記録は、2008年にドイツで樹立された710枚という。
UNRWAのサマーキャンプには今年、24万人の子どもたちが参加している。イスラエル軍の大規模な軍事攻撃では子ども300人以上を含む1400人のパレスチナ人が犠牲となり、子どもたちの多くは受けた心の傷を今も癒せずにいる。【7月31日 AFP】
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