孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新疆ウイグル自治区  中国当局が推し進める「中国化」の実態

2023-08-31 23:04:25 | 中国

(新疆ウイグル自治区・カシュガル 市場の刃物は鎖で繋がれている【7月15日 TBS NEWS DIG】)

【新疆ウイグル自治区における「秩序」確立への中国当局の自信 更なる「中国化」を目指す習近平政権】
2009年のウイグル騒乱、2014年のウルムチ南駅爆弾事件など、中国政権にとっては共産党・漢族支配の秩序を揺るがす問題と認識されている新疆ウイグル自治区の状況に関しては、7月15日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区での“取材制限なし”が意味するもの”で、新疆ウイグル自治区における「中国化」が完了したこと、「秩序」を確立したことへの中国当局の自信とも言えるような変化を取り上げました。

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中国政府は外国メディアに新疆の現状を見せたくないのか、記者が新疆に入るとたちまち公安関係者に尾行され、取材を妨害される、という状況が続いていた。

しかし、今回私たちは取材を妨害されることもなく、行きたいところに行き、撮りたいものを撮影することができた。

観光地には大量の漢族の旅行客が押し寄せ、漢族の観光客相手にウイグル族の店員がにこやかに商売をしていた。そこに、民族間の緊張は感じられなかった。【7月15日 JNN北京支局カメラマン 室谷陽太氏 TBS NEWS DIG】
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習近平国家主席は新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで開かれた会議に出席し、今後更に少数民族ウイグル族への締め付けを強化する考えを示しています。

****ウイグル締め付け強化へ=習氏、2年連続現地入り―中国****
中国の習近平国家主席は26日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで開かれた会議で「社会の安定維持を最優先に位置付けなければならない」と述べ、イスラム教を信仰する少数民族ウイグル族への締め付けを強化する考えを示した。米国は人権弾圧を批判するが、習政権はテロ阻止を理由に治安強化を図る。

国営新華社通信によると、南アフリカでの新興5カ国(BRICS)首脳会議に出席した後にウルムチを訪れた習氏は、テロや独立運動を念頭に「イスラム教の中国化」で違法な宗教活動を封じ込めると強調。

「中華民族の共同体意識」を強めるため、「国家の共通言語・文字を使う能力を一歩一歩高める必要がある」として、少数民族への標準中国語教育を徹底するよう指示した。【8月27日 時事】
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習近平氏のウルムチ訪問は、8年ぶりだった昨年に続き2年連続。2014年には、訪問直後にウルムチ南駅で爆発事件が起きています。

【市場の刃物は鎖で繋がれ民家の玄関にはQRコード】
習近平政権が進める「イスラム教の中国化」 「中華民族の共同体意識」強化 「ウイグル族の漢族化」の実態は・・・

****失われる宗教、言葉、尊厳… 記者が見たウイグルで進む「漢族化」の実態  市場の刃物は鎖で繋がれ民家の玄関にはQRコードが…そのワケは?【news23】****
(中略)
市場では刃物に鎖 民家にQRコードのワケは?
新疆ウイグル自治区、カシュガル市。人口の9割をウイグル族が占める、ウイグルらしさが色濃く残る街です。厳しい移動制限を強いていたゼロコロナ政策が終わり、多くの観光客でにぎわっていました。観光客の多くは“漢族”です。

漢族の観光客(女性) 「ウイグルの人たちは、みんなとても親切でフレンドリーです」
漢族の観光客(男性) 「今は漢族とウイグル族の関係は、とても親密です。中国は少数民族と漢族との一体化を重視し、たくさん努力してきましたから」
漢族の観光客(女性) 「ますます民族が融合しています。ウイグル族の人たちも中国語が、だんだん喋れるようになっているし」

“ウイグル族とは、うまくいっている”と口をそろえる漢族の人々。(中略)平穏に見える人々の暮らし。しかし、そこで目に留まったのは・・・

「刃物に鎖がついています。テーブルに固定されていて、持ち出せないようになっています」 市場の全ての刃物が鎖やヒモで固定されていました。

ウイグル族の男性 ーーいつから鎖をつけるようになった? 「結構前からです。5、6年前かな」

2009年にウイグル族と漢族が衝突した「ウルムチ騒乱」以後、中国政府は「テロ対策」の名のもと、ウイグル族に対する監視を強化。刃物を鎖で固定するのもテロ対策の一環だということです。あるウイグル族の男性は、複雑な心境を明かします。

ウイグル族の男性 「鎖をつけられることで、心理的に抑圧されている気持ちになる。尊厳が奪われている」

監視の目は、ウイグル族の人々が暮らす住宅にも・・・
記者 「民家の玄関には、QRコードが貼ってあります。QRコードを読み込んでみると担当する警察官の電話番号と名前が書いてあります」

一軒一軒、住民を監視・管理する態勢が整っていることをうかがわせます。さらに、こうした抑圧政策は宗教にも・・・

破壊されたモスクも・・・ 「宗教の中国化」とは?
記者 「こちらはモスクだということですが、完全に壊されています」
イスラム教徒であるウイグル族にとって大切なモスク。その多くが、取り壊されたり閉鎖に追いやられていました。何が起きているのか?近所の人に尋ねても、皆、かたくなに口を閉ざします。

閉鎖されたモスクの近所に住む人 ーーモスクはありますか? 「ありません」 ーー見に行きたいのですが、ないですか? 「ありません」 

残された数少ないモスクも、様変わりしていました。2015年に撮影されたウルムチ市内の様子には、当時、ウイグル文字で書かれていた看板に、2023年には漢字表記が追加されています。別のモスクの壁には「愛国愛教」=「国と宗教を愛せ」の文字。こうした流れをつくっているのは、2015年に中国政府が打ち出した「宗教の中国化」です。

習近平国家主席 「我が国の宗教の中国化の方向を堅持し、宗教が社会主義社会に適応するよう積極的に導く」

信仰を中国共産党の指導のもとに置くというもので、以来、宗教活動に対する統制が強くなっています。そのため人々の姿にも変化が。

2015年に撮影されたウルムチ市内の様子には、宗教上の慣習に従って、女性たちはヒジャブで頭を覆っています。8年後の2023年は、ヒジャブをつけている女性は、ほとんどいません。ヒジャブは「過激派」のように見えるという理由で政府が許さないのだといいます。失われていたのは、宗教だけではありません。

学校の授業は中国語 進む「漢族化」の実態
子どもたちが暗唱しているのは、唐の時代の詩人「李白」の詩。学校では、中国語を使うようにという指導が徹底されていました。

ウイグル族の子ども ーー授業は全て中国語? 「そうです」 ーーウイグル語は? 「学校でウイグル語をしゃべっちゃいけないんだ」 ーーなんで? 「学校のルールだから。先生たちもウイグル語は使っちゃダメなんだよ」

ウイグル族の子ども ーー中国語を勉強するのは好き? 「好きじゃないけど勉強しなきゃいけないんだ」 ーーなんで好きじゃないの? 「難しいから」 ーーウイグル語の方が楽? 「そうだよ」

中国語ができないと、就職などが不利になるといいます。
漢族の女性 「今、就職するには中国語が必要です。ウイグル族も中国語が喋れないと仕事ができないんです」

伝統の街並がテーマパーク化 失われる宗教・言葉・尊厳
レストランを訪ねると・・・
記者 「レストランの入り口には、警備員がいて金属探知機が置かれています」

新疆では、どこの街にも金属探知機が置かれ、装甲車や警察官の姿が多くみられます。しかし、住民によると、これでも警備は数年前より緩くなったのだといいます。

今、中国政府は、新疆ウイグル自治区の経済発展、特に観光産業に力を入れています。伝統的なウイグルの街並みは壊され、代わりにテーマパークのような観光施設が登場していました。

新しく整備された民宿街。経営しているのは漢族です。政府の支援があるため、ビジネスはやりやすいと話します。(中略)

観光用に再開発された地区には「中国共産党に感謝」の看板。
漢族の男性 「インフラの建設に国が多くのお金を投資しています」 ーー発展の変化は大きいですか? 「ここの発展はとてもはやいです」

漢族の女性 ーーウイグルの人たちが流暢に中国語を話すのにびっくりしましたが? 「みんな中国人だから、標準語を喋るのはもちろんです」

当のウイグル族の人たちは、どう思っているのでしょうか。

ウイグル族の男性 ーーウイグル族の習慣や宗教に変化は、ありましたか? 「質問の意図がわかりません」

ウイグル族の女性 ーー話を聞いてはダメですか?敏感だからですか? 「・・・(手で振り払う)」

人々が本音を口にすることはありませんでした。

習近平国家主席 「中華民族共同体意識の強化を主軸とし、党の民族対策を強化し改善する。中華民族の偉大な復興を全面的に推進し団結奮闘しよう」

ウイグルで進んでいたのは、宗教活動を制限され中国語を使うことを強いられ、中華民族の一員として生きていくことを余儀なくされる「ウイグル族の漢族化」。

その流れを止めることはできないのか。「ウイグル族側に選択肢はない」ある住民はそっと打ち明けました。【7月15日 JNN北京支局カメラマン 室谷陽太氏 TBS NEWS DIG】
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【AIなどを駆使した「ハイテク警察国家」】
アメリカ国務省は世界各国の人権侵害についてまとめた2020年版の年次報告書において、新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族に対する「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と「人道に対する罪」があったと明記しています。
そして新疆においては、AI使用した監視システムがフル稼働しています。

****米が「ジェノサイド」認定した中国のウイグル弾圧 〜AI使用した監視システムとは〜****
欧米諸国が「ジェノサイド」と非難するウイグル弾圧。収容施設内で何が行われていたのか。AIを使った中国当局による監視態勢はどのようなものなのか。様々な証言や専門家の分析をもとに新疆ウイグル自治区でおきた人権侵害の実像にせまる。

●中国側が「職業訓練所」とする施設
こん棒を振りかざす警官とみられる人中国北西部の新疆ウイグル自治区にある収容施設内で撮影されたとする1枚の写真。同様の施設で働いていた人の証言によると、看守らがこん棒でウイグルの人々を殴るなどの暴力は日常茶飯事で、拷問や性的暴行なども行われていたという。国連は2017年以降にこうした収容所に入れられた人は100万人以上いると推計する。

●新疆ウイグル自治区とは
地図新疆ウイグル自治区には多くのイスラム教徒が住み、日本のおよそ4.5倍の面積を占める。また天然ガスなどの地下資源が豊富で、中国のエネルギー供給上大変重要な地域だといえる。

そして、この地域には冒頭の写真が撮影されたようなウイグルの人々が収容される施設、中国側が「職業訓練所」と呼ぶ場所が多く存在するとされる。

●「職業訓練所」の中では何が
施設で中国語教師をしていたケルビヌル・シディクさん2017年、9か月間ほど施設内で中国語を教えていたというウイグル自治区出身のケルビヌル・シディクさんに話を聞いた。

「拘束された人は電気が流れるタイガーチェアと呼ばれる鉄の椅子などで拷問を受けます」
「何の罪も無いのに強制的な取り調べで、罪を犯したように発言せざるを得ません」
「30人以上いる部屋では狭いので順番に寝て、中央のバケツをトイレとして使いました」
「部屋には鍵がかかり、自由に出入りはできません。手足に鎖をつながれ動物のように移動させられます」

劣悪な環境の施設内での拷問。さらに拷問だけではなく女性への性的暴行も多くあったという。
シディクさん自身も不妊手術を強制的に受けさせられたほか、看守による収容者への性的暴行も日常的にあったと証言する。

●「ハイテク警察国家」中国
ウイグル問題に詳しい専門家は施設に収容される人たちが、何か罪を犯したわけではなく、当局に日常生活を監視され「怪しい」とされ、と収容されるケースが多いと指摘する。その生活の監視に使われているのがAIだ。

2022年5月にネット上に流出した「新疆公安ファイル」と呼ばれる収容施設の内部写真などを含む資料の分析を進めるゼンツ博士は「ハイテク警察国家と化した(中国当局の)新疆での戦略は非常に広い範囲で情報を収集することにある」と指摘する。

ゼンツ博士によると、新疆ウイグル自治区には街のいたる所にAI搭載の監視カメラがあり最新の顔認証の技術で人物特定がされるという。さらに個人のスマートフォンからは、当局により入れさせられる監視アプリにより、電車や車での移動、家の出入りなど人々の動きを細かく追跡していると説明した。

例えば、私たちが話を聞くことができた新疆ウイグル自治区に住む男性は、「スマホに(別の)新しいアプリを入れるとすぐ当局から電話が掛かってきて使用目的をきかれた」とスマートフォンは常に監視されていると話した。

このようにスマホが監視のツールになるならば、スマホを使わないほうが安全なのだろうか。ゼンツ博士によると、スマホを急に使わなくなると当局からかえって「怪しい」と目を付けられるというのだ。

こうして不透明な基準でアプリで「怪しい行為」があると判断され、当局に通知が行き、施設に収容されるケースも少なくないという。

●宗教政策としての監視
中でも監視が厳しくなっているのがイスラム教徒が礼拝を行う「モスク」などでの信仰活動だという。これはモスクに設置された監視カメラの画像だが、ゼンツ博士はモスクの訪問や、スマホへのコーランの保存など個人の信仰活動も監視カメラやAIの顔認識機能を使い常時記録されているという。

●モスクの破壊
さらにモスクが破壊されるケースも指摘されていて、新疆ウイグル自治区での弾圧を長年調査しているオーストラリア戦略政策研究所は、2017年以降、1万6000以上のモスクが壊されるなどしたと推定している。

4つのモスクの衛星写真を比較すると、それぞれ2012年から2016年に撮影されたものにはドーム型の天井やミナレットと呼ばれる高い塔などイスラム建築の特徴を含む。しかし、2016年以降の写真では、4つのモスクのうち、3つが完全に取り壊され更地に。残りの1つもドーム型の天井や高い塔などイスラム建築の要素が取り払われている。

2016年以降というのは中国当局が宗教政策として、国家レベルで信仰表現への介入を強めた時期と重なり、モスクの破壊もイスラム教の建築物を排除することが目的だったとみられる。

こうした宗教的弾圧も含めたウイグルの状況について、アメリカ政府は2021年にウイグルの人たちに対する「ジェノサイド」(=大量虐殺)だと認定し非難している。

こうした厳しい人権弾圧が行われているとの指摘・証言が多くある中、中国政府は弾圧との指摘について「今世紀最大のデマ」、「数々の流出資料や証言も全てねつ造やウソだ」と主張している。さらに2019年には施設に収容されていた人たちは「全員卒業した」と述べ、施設の運用を終えたとしている。

しかし、ゼンツ博士は、収容施設に入れられた人で今にいたるまで行方が分からないままの人が大勢いると指摘する。

さらに、日本に住むウイグルの人の中には今でももなお、新疆にいる家族に連絡すると家族の身を危険にさらすことになると話す人もいる。

千葉県でレストランを営むローズさんは「(家族が)今も拘束されてるか分からない。自分の家族が生きているかも分からない」「ウイグル人みんなに電話したけど出ない、唯一出た人には「なぜ電話するの?死んで欲しいのか?」と言われた」と証言する。

日本ウイグル協会会長のアフメットさんは「いつ家に警察が入ってくるのかわからない世界になってる。いつでも自分が連れて行かれる危険性はあるという恐怖心の中で人々が生活をしている」とウイグルの人々の心境を語る。アフメットさんはまたこの問題の解決には「外部からの圧力」が不可欠だと訴えた。

●中国…“多数派工作”で批判封じ込め
しかし、去年10月には国連人権理事会でウイグルの人権弾圧を正式に議題として取り上げることを西側諸国が提案したが、否決された。これは中国に近いとされるアフリカや中東諸国が反対したためだ。

今や世界第2位の経済大国となった中国は、経済支援により途上国を中心に影響力を拡大している。これに伴い、中国が重要なポジションを務める国際機関では、中国の不利益になる問題は議題になりにくい側面もある。

●日本政府が示す「懸念」
2023年4月の日中外相会談で林外務大臣は、ウイグルの人権弾圧について、日本政府は「深刻な懸念を表明した」と述べた。日本政府はこの「深刻な懸念」という表現をここ数年繰り返している。

アフメットさんは、日本について「ウイグルの人々に対するジェノサイド(=大量虐殺)であると認定することなどさらに踏み込んだ圧力をかけてほしい」と強調した。【8月2日 日テレnews】
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アメリカでは、新疆ウイグル自治区からの輸入品が強制労働で生産されたものではないと企業が明白に証拠を示すことができない限り、同自治区が関与する産品輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法」が2022年6月21日から施行されました。

最近の話題としてはカナダ。

****カナダ人権機関、ラルフローレンを調査 ウイグル強制労働巡り****
カナダ企業の海外活動に関する人権侵害を調査する機関、「責任ある企業のためのカナダ・オンブズパーソン(CORE)」は15日、米高級衣料大手ラルフローレンのカナダ法人対する調査を開始したと発表した。同社のサプライチェーン(供給網)と中国における運営が、新疆ウイグル自治区での強制労働を利用したり、その恩恵を受けていたりする疑いがあるため。(後略)【8月16日 ロイター】
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欧州  難民受け入れの限界を訴える声 受け入れの分担で合意 反対国もあるなか、承認は今後

2023-08-30 23:06:30 | 難民・移民

(ベルギー・ブリュッセルで、テントで生活する亡命希望者(2023年3月2日撮影) 【8月30日 AFP】)

【EU内相理事会 難民受け入れの分担で、反対国はあるものの一応の合意】
「難民」の問題は、現代国際社会の大きな問題のひとつです。現在の「国」を前提にしたシステムではうまく処理できない問題のようにも見えます。

「難民」と言っても、その背景は様々。
紛争の戦火から逃れる難民、政治的迫害から逃れる難民、ギャングなど治安の悪化から逃れる難民、自国では食べていけないということで、よりよい生活を求めて移動する経済難民・・・等々

最後の経済難民については、単なる不法移民に過ぎないという考えもあるでしょうが、出国の必然性に関する線引きは難しいところもあります。

難民の数が増加すると、人道上の配慮の必要性はわかるものの、現実問題として受け入れ国側も対応に苦慮することになります。 
あるいは、「苦慮」するまでもなく難民を拒否する国もあります。


欧州各国はドイツなど難民への配慮を重視する国の存在もあって多くの難民を受入れてきましたが、そのことが大きな社会問題をも惹起し、難民・移民に否定的な世論の台頭を招くことにもなっています。

また、難民への対応についてドイツのような寛容な国がある一方で、中東欧諸国は一般に否定的であり、また、中東・北アフリカからの「玄関口」となっているギリシャ・イタリアなどとその他の国の違いもあって、欧州内部でも統一的対応が困難な問題となっています。

一方で、状況は悪化しています。

****地中海渡る移民が急増 今年だけで死者2153人 過去6年で最悪****
アフリカや中東から地中海などを通ってヨーロッパへと渡った移民の数が今年に入って急増していることが国連の調べで明らかになりました。

国連のIOM(国際移住機関)によりますと、今年上半期にボートに乗るなどしてヨーロッパへと渡った移民の数が去年の同時期に比べ50%余り増え、約9万5000人に上り、2018年以降では最多となりました。

そのほとんどが地中海を渡ってきたもので、装備が不十分なボートに定員オーバーで乗っている場合も多く、転覆などにより、今年だけでここ6年では最悪となる2153人の死亡が確認されています。

アフリカ北部のチュニジアやリビアが主な出発地となっていて、イタリアやギリシャを目指す事例が多いということです。

先月には700人余りを乗せてリビアを出発した船が転覆し、数百人が犠牲となった事故も起きています。

移民急増の原因については貧困問題に加え、ウクライナ侵攻による食糧事情の悪化、気候変動により広がる干ばつなどが影響しているものとみられています。【7月26日 テレ朝news】
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難民船事故増大を憂えるローマ教皇フランシスコは8月6日、砂漠に置き去りにされた難民らを念頭に、「地中海は墓場だが、最大の墓場は北アフリカだ」と懸念を表明しています。

EUでは今年6月、この各国の立場が異なる難民問題に関して、各国の分担ルールに関する“一応の”合意がなされました。

****EU内相、難民受け入れの分担で合意****
欧州連合(EU)は8日の内相理事会で、移民・難民受け入れの負担を分担することで合意した。

シリアの戦火を逃れた難民を中心に100万人以上が地中海から流入した2015年の移民危機以降、受け入れ問題で加盟国間の溝が深まっていたが、ようやく合意にこぎ着いた。

イタリアやギリシャなど地中海沿岸国は海から渡ってくる難民への対応で他の国々の支援を求めてきた。両国はこの日、12時間の交渉の末に合意を受け入れた。

具体的には各国が受け入れる移民・難民の人数枠を設けるが、受け入れを義務化せず、受け入れを拒否する国は代わりに、受け入れ国に1人当たり約2万ユーロの現金や資材、人材を提供すると定めた。

合意案は2024年のEU欧州議会選挙前に最終決定される見通し。【6月9日 ロイター】
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要するに、受け入れない国は難民一人当たり300万円ほどのカネを出せ・・・というものです。
ただ、“合意”とはいっても反対する国はあります。欧州議会での承認はこれからです。

****EUの難民受け入れ分担案「承服できない」 ハンガリー首相****
欧州連合(EU)の加盟国内相が合意した、難民と移民の受け入れに関する規則を改定し受け入れを分担する案について、ハンガリーのオルバン・ビクトル(Viktor Orban)首相は9日、「承服できない」と反発した。

オルバン氏はフェイスブック(Facebook)に「EUは権力を乱用している。ハンガリーに移民を強制移送しようとしている。承服できない。ハンガリーを無理やり移民国家に変えようとしている」と投稿した。

EU加盟国は過去数年にわたり、難民をめぐる方針で対立してきた。内相らは8日にルクセンブルクで開かれた会合で、難民らの受け入れの負担をより公平に分担することで合意した。合意案は今後、人口の合計がEU全人口の少なくとも65%に当たる国々の承認を受けなければならない。

加盟国間の相互支援を義務付けるこの案では、二つの選択肢のうち一つを選ぶことができるとしている。優先される選択肢は、主にEU圏の外側に位置するギリシャやイタリアにたどり着いた難民を分担して受け入れること。

受け入れを望まない国は、難民1人当たり2万ユーロ(約300万円)を、EUが運用する基金に納めるという二つ目の選択肢を選ぶこともできる。
  
ポーランドとハンガリーは同案に反対。ブルガリア、マルタ、リトアニア、スロバキアは棄権していた。【6月9日 AFP】
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【難民受け入れの限界を訴える国々】
反対はあるものの、難民受け入れの限界を訴える国も。

****亡命希望の単身男性、シェルター受け入れ一時停止 ベルギー****
ベルギー政府は29日、亡命希望の単身男性について、国内シェルターでの受け入れを一時的に停止すると発表した。シェルター不足を受けた措置。

ベルギーでは昨年から亡命希望者の流入が急増しており、すでに逼迫(ひっぱく)していた受け入れ制度の負担が深刻化している。

ニコール・デムーア難民・移民担当国務長官は今回の措置について、入国する家族や子どもの数が増えることが予想されるためと説明した。「子どもたちが路上で倒れるような事態は避けたい」としている。

また、欧州連合加盟国内での難民・移民の受け入れに関する負担が不平等だと指摘した。
「わが国は長年、相応以上の受け入れをしてきたが、これ以上続けるのは不可能だ。今年はこれまでに1万9000人以上の亡命希望者が登録している。一方、人口が同じぐらいのポルトガルの受け入れ人数は1500人だ」

EU加盟国は6月上旬、長らく停滞していた亡命希望者受け入れに関する規則の改正で合意した。亡命希望者の受け入れ負担をEU全体で分担し、受け入れを拒む国は受け入れ国に金銭を支払うことが盛り込まれている。

だが、改正案の採択をめぐり、加盟国間で激しい議論となっているほか、欧州議会による承認も必要となる。 【8月30日 AFP】
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****これ以上の治安悪化は国民が許さない…EU諸国がこれまでの「難民擁護」を見直しはじめたワケ「生活苦」で海を渡る人たちをどうするべきか****
甲板までぎっしりと人が埋まっていた
6月14日未明、地中海でリビアからイタリアへ向かおうとしている難民船が転覆し、500人超が死亡したとみられる。15日の段階で確認された死者は79人、救助されたのが100人ちょっと。(中略)

なぜ今回は大きく報道されなかったのか
ところが今回は、過去最悪レベルの事故となりそうなのに、人権を声高に叫ぶNGOのコメントもなく、事実を淡々と報道するにとどまっている。

その背景にあるのは、EU各国政府の難民政策の変化だ。そして、主要メディアはいつものごとく、政府に歩調を合わせているのだろう。あるいは、もう難民の悲劇は珍しくなく、ニュースの価値がないのかもしれない。(中略)

国境の管理というのは、主権国家の重要な仕事の一つであり、それが機能しないと、いったい自国に誰が何人住んでいるのかがわからず、国家の体をなさなくなるが、現在、EUはまさにその瀬戸際のところにいる。(中略)

大半の難民は、生命の危険があるからではなく…
(難民認定)審査に通れば一定期間の滞在が可能になる。ただし、母国の状況が好転すれば戻ることが前提だ。片や審査に通らなかった人たちは、本来ならば出国しなければならないが、現在はそれがほとんど機能していない。

なお、誰もが難民になれるわけではなく、現在、シリア、アフガニスタン、イラクなど、本当に生命の危険があるとされている国以外の難民はチャンスが少ない。単に「生活が苦しい」では難民申請はできない。

ところが実際には、チャンスが少ない国々の生活苦に苛まれた人たちが、命がけでEUに侵入してきて、さまざまな理由で申請を行うため、収拾がつかなくなっている。前述の遭難船の乗客も、エジプト人とパキスタン人が多かったというが、どちらも、本来なら難民申請が受理されにくい国だ。

前述の“EU各国の難民政策の変化”とは、主だったものを挙げると下記のようになる。
スウェーデンはこれまで半世紀近く、来る者はすべて受け入れ、難民と移民はほぼ同意語だったが、現在180度の方向転換中。理由は治安の劇的な悪化だ。特に銃を使った犯罪が急増している。そこで、移民・難民の8割減を目指し、来年からは原則として永住権は与えない。

また、犯罪者や麻薬常習者はもとより、売春に関わった者、過激派と接点のある者などは、すでに与えた滞在許可も剝奪。帰化は特に難しくする。なお、これまで多くの移民や難民を受け入れていたデンマークも、すでにスウェーデンと同じ方針だ。

行き場のない難民を押し付け合っている
一方、EUの外壁に位置するハンガリーはセルビアとの国境に、EUの南方の飛び地ともいえるギリシャはトルコとの国境に、それぞれ柵を造った。

ただ、ギリシャは海上でも、トルコ当局との間で、難民船の熾烈しれつな押し戻し合戦を展開している。それを一部のEU国が非人道的であると非難していたが、だからといってそれらの国々が積極的にその難民を手分けして引き受けるわけでもない。ギリシャにしてみれば、柵を造れないだけに、海からの難民は深刻な問題だ。

英国では法律が改正され、今後、不法入国者は難民申請ができないばかりか、見つかれば逮捕状なしに最大28日間拘束され、追放になるという(例外は18歳以下と病人など)。また、ドーバー海峡を越えて侵入する難民を防ぐため、フランスに5億4000万ユーロ(3年分)を提供し、厳重に監視してもらうことも決まった。

さらに、これまで中東やアフリカから一番多く難民が流れ着いているイタリアでは、現メローニ政権が難民そのものよりも、難民を運んで暴利を得ている組織の取り締まりを強化するという。ただ、彼らは国際的なプロの犯罪組織なので、そう簡単に尻尾を掴ませるかどうかは不明だ。

いずれにせよ、これまでドイツの主導もあり、難民の権利や人道を掲げ続けていたEUだが、今や受け入れ能力が限界を超え、治安が悪化し、国民の不満が膨張してきたことで、急速な仕切り直しが始まっている。

“入ってきた者勝ち”になっているドイツ
そんな中、今なおドイツだけが従来の方針を固持しており、それどころか、21年12月に社民党政権になって以来、難民擁護はさらにエスカレートしている。最近になって難民申請の条件も帰化の条件も緩和された上、審査中に殺人を犯した難民希望者でさえ、「母国に送り返すと死刑になるかもしれない」という理由で送還を拒否している状態だ。

ドイツは、政治的に迫害されている人を庇護するということを憲法に明記している唯一の国で、元々、難民には親切だったが、今ではまさに“入ってきた者勝ち”だ。

そんなわけで、これまでなかなか統一した難民・移民対策を編み出せなかったEUだったが、6月8日、ようやく各国の内相が集い、大筋の方針が合意を見た。結果を言うなら、今後、EUは難民受け入れにブレーキをかけることになる(これはドイツの影響力の低下とも無関係ではないだろう)。

新しい法案によれば、難民はこれまでEU域内のどこかに着地すれば、そこで難民申請ができたが、今後はEU国境が厳重に見張られ、難民(希望者)はEU域内に入る前に、国境のところに新設される施設に収容される。そして、脱走しないよう監視され、身元確認が行われ、難民として認められるチャンスがあるかどうかが審査される。

「人道的」では成り立たなくなっている
その結果、あるとみなされた人だけが難民申請に進み、その他の人はEUには入れず、もちろん申請もできない。現在、密航の多いチュニジア、モロッコ、エジプト、バングラデシュなどからの難民希望者のほとんどは、ここで門前払いになるだろう。

もちろん、この法案にドイツは最後まで反対した。現内相は社民党のフェーザー氏だが、氏は子連れの難民に限り、国境での収監と審査を免除するよう強く主張。子供は学校へ行くべきであり、国境で閉じ込められ、犯罪者扱いされるのは非人道的であるという理由だ。

ただ、EUは現在、まさにこの「人道」を行き過ぎであるとして、縮小しようとしており、フェーザー氏の主張はあっさりと却下。法案が欧州議会に回った時点で、若干の修正はあるかもしれないが、無制限に難民を入れ続けようとするドイツはすでに孤立している。

もっとも現実問題として、難民希望者や不法入国者の母国送還は簡単ではない。新しい規則ができたからといって、彼らが素直に祖国に戻るはずはないし、罪を犯した難民でさえ、彼らの母国が引き取らない限り送り返せないのが現在の国際法だ。

しかも実を言うと、国境のところに造るという施設も、EUの内側なのか、外側なのかさえ決まっていない。つまり、すべてが絵に描いた餅になる可能性もありうる。

そこで内相会議の3日後、EUは苦肉の策として、チュニジア政府に10億ユーロを援助し、その代わりに、チュニジア政府が海岸線を監視し、難民を出さないようにするという協定を結んだ。

「日本も難民受け入れを」という声もあるが…
(中略)そもそも彼らが危険を冒してまで国を離れる原因は、貧困である。だから、チュニジア政府にお金を積んで出航を阻止してもらったところで、抜本的な解決にはならない。

本来なら、現地の生産性を上げ、人々が出ていかなくても済むような援助が必要であることは、皆が百も承知だが、しかし欧米(日本も)とて戦後70年間、何もしなかったわけではない。特にアフリカには莫大な開発援助を注ぎ込んだが、それがいまだに実を結んでいないだけだ(それはアフリカだけのせいではないが)。

なお、日本はもっと難民を受け入れるべきだなどという声もあるが、ヨーロッパと同じ過ちを繰り返さなければならない理由はどこにもない。資金援助も、お金はどこかに蒸発してしまう可能性が高いので要注意だ。しかし、日本にできることもある。

その支援は、貧しい人々に行き届いているのか
例えば、経済発展を望んでいるアフリカ諸国に熱効率の良い火力発電所を建てること。電気は殖産興業に役立つばかりか、夜も灯りが確保でき、また、薪やら動物の糞でなく電気で調理ができるようになるだけで、人々の生活は画期的に向上する。

(中略)どこの国でも、電気があってこそ産業が発展し、インフラが整備され、教育が向上し、情報が行き届き、民主主義も進んでいく。火力発電所の建設は真の援助として、難民受け入れよりもずっと効果的で、素晴らしい方法だと思う。ところが、発展途上国が切望しているせっかくの火力プラントに対し、日本政府はCO2を排出するという理由で融資を止めてしまった。

CO2削減は先進国の理念が結集したものだが、そもそも世界で本当に困った人たちを助けていない。先進国の人々は無視しているが、薪で調理をしている人たちにとっては、煤すすの健康被害のほうがCO2よりも危急の問題であることすら、先進国の人々は無視している。

日本政府が途上国を応援するなら、現地のエリートたちの利益ではなく、貧しい人々が本当に必要としているものを提供すべきだ。そして、それこそが回り回って、間違いなく難民の命を救うことにもつながる。【6月27日 川口マーン 惠美氏 PRESIDENT Online】
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上記の川口マーン恵美氏はドイツ在住の日本人作家で、かねてより寛容なドイツの難民政策や脱原発政策を辛辣に批判している方ですので、その前提で読む必要があります。(自身が「外国人」として暮らす環境にありながら、何が彼女をそこまで外国人嫌いにさせるのかは不思議ではありますが)

日本の難民政策に関しても、これまで万単位で受入れてきた欧州各国と、ほとんど鎖国状態を貫いている日本を同列に扱うことには異論もあります。

さはさりながら、欧州各国で「限界」「パンク状態」の声が強くなっているのは事実でしょう。
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ニジェール  クーデターから1か月 長期化の様相 フランスに代わって影響力を増すロシア

2023-08-29 22:47:37 | アフリカ

(ECOWASが検討している軍事介入に抗議する人々(20日、ニジェール首都ニアメー)【8月23日 日経】 ロシア国旗が目立ちます)

【クーデターからひと月 「バズム大統領解放」も「軍事介入」もなく長期化の様相】
西アフリカ・ニジェールで7月26日に軍事クーデターが起きてから、ひと月余りが経過しましたが、事態に大きな変化は見られません。

軍事政権トップのチアニ将軍は「3年をかけず」民政移管を実施すると述べ、逆に言えば、当分の間は現状で居座る姿勢を見せています。

19日には、チアニ将軍と西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の代表団が首都ニアメーで会談、クーデターを既成事実化するチアニ将軍・軍事政権側のペースで進んでいるようにも見えます。

****「3年かけず民政移管」を表明 ニジェール軍政トップ****
クーデターを起こしたニジェール軍事政権トップのチアニ将軍は19日のテレビ演説で、「3年をかけず」民政移管を実施すると述べた。ロイター通信が伝えた。軍政を維持する意向を示したともいえ、バズム大統領への速やかな権力返還を求めている周辺国の反発は必至だ。

19日には西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の代表団が首都ニアメーを訪問し、チアニ氏らと会談した。ただ、演説により、政変前への状況回復を要求するECOWAS側と権力維持を図る軍政側の立場の隔たりが改めて露呈した形で、今後の交渉は難航が予想される。

代表団は、軍政が追放を宣言し監視下に置いているバズム氏とも面会した。代表団は今月上旬にもニアメーに入ったが、この際はチアニ、バズム両氏と会えなかった。

ECOWASはこれまで、軍事介入も辞さない構えで軍政に圧力をかけてきた。18日には安全保障を担当する委員会のムサ委員長が、軍事介入の「開始日を決めた」と発言。同時に交渉を優先する意向も強調し、軍政に態度軟化を促していた。【8月20日 共同】
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ナイジェリアなど周辺国でつくる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は当初からクーデターを認めず、拘束されたバズム大統領を解放しなければ軍事介入する・・・と迫っていましたが、今のところ「解放」も「軍事介入」もありません。

素人目には、ECOWASは「軍事介入」とは言っているものの、実際に軍事行動を行うのは難しいのでは・・・とも思えます。そのあたりを軍事政権側も見透かしているような・・・。

****「軍事介入」カード利かず ニジェール政変1カ月****
西アフリカ・ニジェールで軍部の一部がバズム大統領の追放を宣言したクーデターから26日で1カ月。西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は軍事介入のカードをちらつかせて軍事政権トップのチアニ将軍に権力放棄を求めるが、奏功しない。軍政の監視下にあるバズム氏解放のめどは立たず、手詰まり感も漂う。

「じらし作戦を仕掛けてきている」。ECOWASで軍事介入の検討を担う委員会のムサ委員長は17日、加盟国の軍首脳を前に、軍政に翻弄されている現状への怒りをぶちまけた。

軍政は交渉での解決に前向きな姿勢を表明した直後に、バズム氏を反逆罪で訴追する方針を表明。ECOWAS内の動揺を誘い、有利な条件で交渉に臨める機会を見極めたいとの思いが透ける。

軍政が強気なのは軍事介入のハードルが高いためだ。ロシアと親密なマリなどが、有事にはニジェール側で参戦すると宣言。

泥沼化を恐れるアフリカ連合(AU)の平和安全保障理事会は、軍事介入計画に「留意する」とのみ意思表示し、消極姿勢をにじませる。【8月25日 共同】
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今回ニジェールのクーデター同様に、イスラム過激派の対応への不満から軍がクーデターを起こし、それまで協力関係にあったフランスを追い出し、ロシア、より具体的には民間軍事会社ワグネルとの関係を強化したのが隣国のマリとブルキナファソ。

その両国は「ニジェール対する武力介入があれば、自国への宣戦布告と見なされる」という強い姿勢でニジェール軍事政権を支援しています。ニジェール軍事政権も両国支援を受入れ、軍事介入をちらつかせる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を牽制しています。

****ニジェール、マリ・ブルキナファソ軍に領内介入を許可 攻撃に備え****
西アフリカのニジェールは、自国が攻撃された場合に隣国のマリとブルキナファソの軍が領内に介入することを認めた。3カ国が24日に共同声明を発表した。

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はクーデターを起こしたニジェール軍事政権との交渉を試みているが、外交努力が失敗した場合は部隊を派遣する用意があるとしている。

ニジェール、マリ、ブルキナファソの3カ国外相は24日、ニジェールの首都ニアメーで会談し、安全保障など共通課題での協力強化を話し合ったと明らかにした。

外相らは共同声明で、ニジェール軍事政権トップのチアニ将軍が「攻撃された場合にブルキナファソとマリの国防・治安部隊にニジェール領への介入を許可」する命令に署名したことを歓迎すると表明。

ブルキナファソとマリの外相はニジェール国民に対する武力介入があれば宣戦布告と見なされるとし、そうした介入を拒否する立場を改めて示したという。【8月25日 ロイター】
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なお、アフリカ連合(AU)はニジェールを「全面活動停止」としてはいますが、具体的行動としては軍事行動ではなく「的を絞った制裁」にとどまるようです。

****アフリカ連合、ニジェールを全面活動停止に 制裁準備も****
アフリカ連合(AU)は22日、ニジェールで発生した軍事クーデターを受け、同国を全面活動停止としたほか、加盟国に対し同国軍事政権を正当化するような行動を避けるよう指示した。

またAU委員会に対し、軍事政権のメンバーとその支持者のリストを作成し、的を絞った制裁と「個別の懲罰的措置」を課すよう要請した。また、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が課している広範な制裁に対する支持を表明した。

これらの決議は、14日に開催された評議会で採択された。【8月22日 ロイター】
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“何としてもクーデターを阻止”・・・といったものでもないようです。アフリカ連合は脛に傷を持つ国が多いですから。

【元植民地の西アフリカで影響力を失うフランス】
ニジェール軍事政権はフランスとの対決姿勢を強めています。

****ニジェール、フランス大使を追放 「国益に反する行為」****
西アフリカのニジェールで、7月にクーデターを起こした軍部隊は25日、声明を発表し、旧宗主国フランスの大使に48時間以内の国外退去を命じたと明らかにした。仏外務省はコメントしていない。

追放理由について、仏政府による「ニジェールの国益に反する」行為に対する措置だと説明。軍部隊が新たに任命した外相との面会を大使が拒んだことも挙げた。

軍部隊が米国とドイツの大使にも退去を求めたとする声明がインターネット上に出回ったが、米国務省はニジェール側から公式の文書ではないと連絡があったとして、これを否定した。ニジェールの軍部隊筋も、追放対象は仏大使だけだと話している。【8月28日 ロイター】
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フランスがニジェールに大きな権益を有していることは、8月1日ブログ“ニジェール  これまでの欧米の拠点からロシア傾斜へ ウラン供給元で仏・EUのエネルギー政策に影響”でも取り上げました。

****ニジェール EU最大の原発ウラン供給元 フランス採掘にクーデターが暗雲****
西アフリカ・ニジェールの軍事クーデターで反仏感情が広がったのは、旧宗主国フランスが原発燃料ウランの鉱山開発を通じ、ニジェール経済に権益を維持してきたためだ。

欧州連合(EU)にとってニジェールは最大のウラン供給元で、クーデターはエネルギー計画を大きく揺さぶった。

フランスの原子力企業「オラノ」(旧アレバ)は7月28日、ニジェール情勢を受け、「首都ニアメーにある本部、アーリット鉱山での事業は続いている」とする声明を発表した。ニジェールには600人近いフランス人が在住するが、コロナ仏外相は30日、仏ラジオで「現時点で、退去の決定はない」と述べた。

フランスは電力供給の70%を原子力に依存。それを支えたのが旧植民地ニジェールのウランだった。仏紙ルモンドによると、2005〜20年、フランスのウラン輸入量の18%をニジェールが占めた。オラノは今年5月、40年までの採掘権延長をめぐって、ニジェール側と合意したばかりだ。

フランスにとって、ニジェールは、西アフリカにおける駐留仏軍の重要拠点でもある。マリやブルキナファソでの軍事クーデター発生により、相次いで駐留部隊の撤収を迫られたためだ。仏国営放送によると、ニジェールには現在、仏軍1500〜2000人が駐留する。

西アフリカではロシアの民間軍事会社「ワグネル」が影響力を広げ、反仏感情を煽(あお)ってきた。昨年、ブルキナファソで軍事クーデターが起きた際にも、ロシアの旗を振るデモ隊がフランス大使館を包囲、襲撃する騒ぎが起きた。ニジェールでの事件と重なる。

経済開発協力機構(OECD)原子力機関によると、ニジェールはウラン産出で世界5位。EUでは21年、ウラン供給の24%をニジェールが占めた。2位はカザフスタン(23%)で、3位はロシア(20%)だった。EUはロシアのウクライナ侵略を受け、露産エネルギー依存からの脱却を進めているさなか。ニジェールの軍事クーデターは、新たな打撃となった。【7月31日 産経】
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上記のような事情もあって、フランスとしてはおいそれとニジェールから撤退する訳にもいかない・・・ということで、マクロン大統領は仏大使追放命令に従わない意向です。

****仏大使はニジェール退去せず、マクロン氏表明 軍部隊が追放命令****
マクロン仏大統領は28日、 西アフリカのニジェールで7月にクーデターを起こした軍部隊が仏大使に国外退去を命じたことについて、大使はニジェールにとどまると表明した。外交官向けのスピーチで述べた。

軍部隊は25日、駐ニジェール仏大使に48時間以内の国外退去を命じたと明らかにした。追放理由について、フランス政府による「ニジェールの国益に反する」行為に対する措置と説明した。

マクロン氏は、追放されたニジェールのバズム大統領に対する支持を改めて強調。辞任を拒否しているバズム大統領の勇気や、非合法な当局による圧力にもかかわらず現地にとどまっている仏大使を称賛した。

また、欧米の一部からバズム大統領を見限るべきだとの声が上がっていることについて「われわれは暴動を実行した者たちを認めない。辞任を拒否している大統領を支持し、関与し続ける」との姿勢を示した。(後略)【8月29日 ロイター】
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フランスとニジェールの関りについては以下のようにも

****ニジェールのクーデターが欧州にとって大問題である理由****
実権を握った「祖国救済国家評議会」がすぐに行ったことは、現行憲法の停止と、旧宗主国であるフランスへの金とウランの輸出停止です。

ニジェールは世界第7位のウラン産出国で、日本も福島第一原子力発電所の事故が起こるまでは輸入していました。産出量の4分の1は欧州、中でもフランスへ多く輸出されています。フランスでは電力の75%が原子力発電で賄われているため、今後エネルギー価格の高騰が予想されます。

サヘル地域ではイスラム過激派が勢力を拡大し、治安の悪化が深刻化しています。2020年にニジェールが西側の国境を接するマリ、22年には南西のブルキナファソで、クーデターが起こりました。今回のニジェールのクーデターも、バズム大統領の治安維持対策に対する不満が理由に挙げられています。今後、アルカイダやボコハラムなどのイスラム過激派がウラン鉱山を手中に収めれば、核流出の危険が生じかねません。

イスラム過激派が勢力を伸ばしているのは、フランスの影響力が弱まり、権力の空白が生じているためです。フランスは「バルハン」と名付けた対テロ作戦に失敗し、昨年末に作戦終了を発表して5000人の隊員が退却しました。

サヘル地域はフランスにとって聖域であり、米国を含む他国を立ち入らせませんでした。金銭的な援助を続け、軍隊も派遣してきましたが、数は少なく治安を維持できなくなってしまったのです。

フランスがニジェールで影響力を失った2つの理由
フランスが影響力を失った理由の第一は、内政で手いっぱいだからです。今年1月、マクロン政権が年金の支給開始年齢を引き上げる改革案を発表すると、大規模な反対デモやストライキが発生。6月には、アルジェリア系の少年が警官に射殺された事件をきっかけに暴動が全土に広がり、3000人を超える逮捕者が出ました。

暴動の中心となったのは、旧植民地のアフリカ大陸からやって来た移民2世や3世の若者たちです。現在アフリカに住む人たちがこうしたニュースに接して、反仏感情を募らせただろうことは想像に難くありません。

もう一つの理由は、ウクライナ問題に手を出したことです。マクロン大統領はウクライナと距離を置きたい意向を持っていますが、結局は米国の国益に付き合わされている。それで、重要な“裏庭”であるニジェールを含むフランスの元植民地だった諸国への影響力を失いつつあるのです。【8月29日 佐藤優氏 “「プリゴジンの死」でワグネルに起きること…佐藤優も驚いた“深い関係”とは?”DIAMOND online】
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アメリカはソマリア内戦での失敗(1993年のモガディシュの戦闘)のトラウマもあってアフリカにはあまり関与したがらないので、今回も現地政権と事を起こしてまで何かするということはないのでは。仏軍に協力することはあっても。

【懸念されるイスラム過激派の勢力拡大】
上記のように、軍事政権側の強気姿勢は変わらず、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)も軍事介入にはハードルが高いという状況で、事態は長期化の様相を呈していますが、フランスやアメリカのイスラム過激派掃討作戦が困難になれば、イスラム過激派がこの地で勢力を拡大することも予想されます。

****ニジェール、イスラム過激派の勢力拡大に懸念 クーデターから1カ月****
西アフリカ・ニジェールでクーデターにより軍部が実権を掌握して1カ月が過ぎた。軍事政権は3年以内に民政移管する方針を示すなど事態は長期化の様相を呈している。

ニジェールは米国とフランスがイスラム過激派を監視する要衝で、ロシアの浸透や過激派の勢力伸長を警戒する見方も出ている。(中略)

仏紙ルモンドや米CNNテレビ(いずれも電子版)によると、ニジェール周辺では国際テロ組織アルカーイダやスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の傘下組織が活動し、旧宗主国フランスは過激派対策のため1500人前後の軍人を駐留させている。米軍も約1100人が駐留し、ドローン(無人機)などによる過激派の情報収集の拠点としてきた。

サハラ砂漠南縁部のサヘル地域では昨年、過激派関連の事件で推定8千人が死亡したとされるが、クーデターで米仏の活動継続が危ぶまれている。特に旧宗主国フランスへの反発が強く、仏軍の駐留拠点や仏大使館前では反仏デモが起きている。軍事政権は25日、フランスの駐ニジェール大使に国外退去を命じた。

米軍はコートジボワールなどに拠点を移すことも検討している。ただ、2年前に撤収したアフガニスタン同様、監視目標から遠ざかれば無人機での情報収集が困難になり、過激派が勢いづく恐れも指摘される。(後略)【8月28日 産経】
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【フランスの空白を埋めて拡大するロシアの影響力】
フランスの影響力が後退するなかで、その空白を積極的に埋めようとしているのがロシア、その先兵たるワグネルです。

軍事政権が期待しているワグネルも“プリゴジン氏の死”というイレギュラーな事態になって不透明化していますが、おそらくロシアが前面に出るかたちで西アフリカでの活動を継続するのでしょう。

****プリゴジン死亡で変わることは****
米AP通信は8月6日、ニジェールのクーデター部隊がワグネルに協力を要請したと報じました。ワグネルのアフリカでの活動拠点であるマリを訪れ、連絡を取ったといいます。クーデターで誕生したマリの軍事政権は、フランス軍と国連の平和維持部隊を追い出した後、ワグネルを迎え入れたのです。

8月21日には、メッセージアプリ「テレグラム」に反乱後初となるプリゴジン氏の動画が投稿され、「アフリカのある国から」とし、「ワグネルは偵察と捜索活動を行っている。ロシアをすべての大陸でより偉大にし、アフリカをさらに自由にする」と語っていました。

23日に、プリゴジン氏が搭乗していた自家用ジェット機が墜落し、乗客・乗員全員が死亡。機内で爆弾が爆発したのではないかなど、事故の原因を巡って臆測が飛び交っています。活動資金の供給源であったプリゴジン氏の死亡でワグネルが解散する可能性もあります。

しかし、プリゴジン氏亡き後も、アフリカとロシアの結びつきが弱まることはないでしょう。ワグネルの構成員は、GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)の傘下に組み入れられ、アフリカでの活動を続けるからです。

西側世界がウクライナに目を奪われている間に、ロシアは着々とアフリカで地歩を占めています。【8月29日 佐藤優氏 DIAMOND online】
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アフリカでロシアの影響力が強まっている背景には“アフリカの指導者たちにとっては、米国やフランス流の民主主義よりロシアの強権的な体制の方が親和性が高いのが実情です”【同上】ということも。


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北極海  氷の消失による利用価値増大 ウクライナ後の国際情勢を受けて“地政学的戦場”へ

2023-08-28 23:11:19 | 国際情勢

(世界最強の原子力砕氷船であり、LK-110Ya級原子力砕氷船の旗艦でもある「ロシア」の建造が、ロシア極東のズヴェズダ造船所で 6日、開始した。ルスアトムフロート(ロスアトムの子会社)が発表した。竣工は2027年を予定している。最大4メートルの氷の厚さにも対応し、北極海航路を通年航行可能な世界初の砕氷船となる。【2020年7月7日 SPUTNIK】 従来の砕氷船と異なり、随分スマートな外観です。)

【早ければ2030年代にも北極海の夏の氷が消失】
温暖化の進行によって北極海の氷が縮小し、航路や資源開発で北極海の重要性が国際的に注目されていることは以前からの話ですが、ロシア及びロシアと協調する中国と欧米の対立がウクライナをめぐり鮮明になるなかで、北極海をめぐるロシア・中国と欧米の対立もまた露わになり、おそらく今後ますますその緊張はたかまることが予想されます。

****北極海の氷、30年代に消失も 融解が加速、国際研究チーム分析****
地球温暖化によって北極海で氷の融解が加速し、夏に消失する事態が早ければ2030年代に起こる可能性があるとの分析を韓国・浦項工科大などの国際研究チームが6日、発表した。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新予測では、夏の海氷は50年までになくなる可能性が高いとされていたが、今回の分析は早期に消失する恐れを指摘した。

海氷に覆われなくなると熱を吸収しやすくなって温暖化がさらに進むほか、人の生活や生態系に被害が生じると懸念される。チームは「温室効果ガスの排出が北極に深刻な影響を与えている」と警告した。

北極海の氷の縮小はここ数十年間で急速に進み、今世紀に入り特にペースが速まっている。チームは今後の温暖化の進行度合いを4パターン想定し、北極海で氷がなくなる時期を分析した。

すると、温室ガスの排出を積極的に減らし産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える場合を含め、全てのパターンで、夏の海氷消失が30年代〜50年代に初めて起こるとの結果が得られた。【6月7日 共同】
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北極海の氷が縮小することで、真っ先に現実化するのが北極海航路の活用です。北極航路の活用は日本にとっても大きなメリットのある話です。

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ちなみに、これ(北極海の氷が早ければ30年代に消失)はあくまで夏の間の話であり、1年を通じて北極航路を安定的に使えるようになるのは、早くても今世紀末頃だと言われてきたが、この予想も早まるかもしれない。

北極航路が使用可能になること自体には大きなメリットがある。日本から欧州に至る南回り航路はスエズ運河経由で約2万1000キロメートルであり、欧州主要港へはコンテナ船で約30日以上かかる。

だが、北極航路はこれより30~40%短い約1万3000キロメートルであり、そうなれば、日数短縮のみならず船舶の温暖化ガス排出も削減できる。

ただ、問題もある。現在の北極航路は、概ねロシア沿岸に限られ、かつ、砕氷能力が必要だ。国際戦略研究所(IISS)によれば、砕氷船の数でロシアは他国に比べ群を抜いており、原子力船7隻とディーゼル船約30隻を保有している。

一方、米国、中国ではそれぞれディーゼル船2隻が就航しているに過ぎない。それもあり、北極航路を航行する商業船舶の多くはロシアの砕氷船による水先案内に頼っており、これはロシアにとって大きなメリットとなっている。【7月5日 WEDGE】
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【ウクライナ問題で北極海でも高まるロシア対NATOの緊張】
しかし、ウクライナを巡る緊張に伴って、ロシアと欧米の対立に加えて、北極海に面していない中国の関与強化もあって、北極海をめぐる緊張も高まっています。

****ロシアとNATOが対峙する北極 是々非々の協調は可能か****
6月5日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「北極の寒気;中露の浸透の恐れ」とのRichard Milne同紙北欧・バルト特派員の解説記事を掲げ、ウクライナを巡る緊張に乗じて、中国とロシアが北極・天然資源への影響力を強める恐れがあると指摘している。

西側諸国は、中露が北極を巡る地政学的緊張に乗じ、北極とその豊富な天然資源への影響力伸長を試みるのではないかと懸念している。

北極評議会の西側加盟国は、ロシアのウクライナ侵攻後、対露協力を停止してきた。北極評議会議長を5月にノルウェーに引き継いだロシアは、次の議長国の間にロシアが行事に招待されなければ脱退の可能性もあると発言した。

北極を巡って中露は伝統的には緊張関係にあったが、ロシアのウクライナ侵攻後、状況は変わりつつある。3月の習近平訪露の際、両国は「北極海航路」開発の共同機関創設を発表した。北極は最も急速に温暖化が進む地域で、各国は石油・ガスからレアアースに至る豊富な鉱物資源に注目している。

北極評議会メンバーは、地政学的摩擦が北極に影響を及ぼさないよう努め、全ての問題は共同でのみ解決されると強調してきた。しかし、ここ数年ロシアは北極での軍事的プレゼンスを強化し、デンマークやノルウェーなどは防衛施設構築で応じてきた。

中国は、北極地域に面しないが北極評議会にオブザーバーで参加している。2018年に北極シルクロード計画を発表し、北極への影響力を強めてきた。中国国営企業のグリーンランド空港建設計画は米国がデンマークに反対を働きかけ、2019年に中止された。(中略)

ノルウェーは、他の加盟国(米、カナダ、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、アイスランド)と共同で北極評議会活動を続けながら、ロシアの孤立化に努めている。しかし、ロシアの事実上の排除は明らかなジレンマで、一方で北極の40%を占めるロシアの参加なしには意味をなさないが、他方で今はロシアとは協力できない。

*   *   *
(中略)北極航路を航行する商業船舶の多くはロシアの砕氷船による水先案内に頼っており、これはロシアにとって大きなメリットとなっている。

環境問題が生じれば長期的影響も
もう一つの問題は環境問題だ。北極海は米国の約1.5倍という広大な海域だが、海水の外海との入れ替わりは限られると言われる。そうなると、何らかの理由で汚染が発生した場合には、その影響は長期にわたり北極海と沿岸国にとどまることになる。今後、今以上に資源開発が進むことになれば、リスクは一層重大だ。

更に、北極地域で特にロシアによる軍事利用増強が見られる。正に現在、北大西洋条約機構(NATO)を中心とした軍事演習が北極圏で行われているのも偶然ではない。北極沿岸の40%を占めるロシアは、こと北極に関しては、軍事基地の数などにおいてNATOに対し優位を持つ。

以上のように、最近世界的な注目を浴びている北極圏だが、今後の活用を考えれば、ロシア抜きの対応はやはり現実的ではないだろう。ロシアはロシアで、現在の北極評議会を脱退して他国と別の組織を作るとしても、意味のある協力相手は中国以外おらず、先の展望は限られている。

翻れば、ロシアと同室で議論し、実際、共同で対応している懸案も多々あるという現実に鑑みれば、困難な決断ではあるが、北極を巡る仁義なき闘いを招くのではなく、是々非々で可能な範囲で協調していくべきだろう。【7月5日 WEDGE】
*********************

ロシアは北極海における軍事面を強化しています。
“この10年間で、ロシアは北極圏で既存の軍事基地および飛行場の拡大や近代化を進めてきました。さらに、北極圏で少なくとも3つの基地を新設しています。 また、2021年1月1日から、ロシアの北方艦隊が軍管区に格上げされました。”(石原敬浩氏(海上自衛隊幹部学校教官)【8月12日 JBpress】

【北極海への関与を強める中国 後追しするロシア】
“ロシアと是々非々で可能な範囲で協調していくべき”というのはもっともですが、現実問題としてはウクライナ問題に伴うフィンランド、スウェーデンのNATO加盟、ロシアと中国の関係強化によって、ロシア・中国対NATO・欧米という対立構図は先鋭化しつつあります。

****新たな“地政学的戦場”になろうとしている北極海 中国の野心を後押しするロシア****
米中対立や台湾有事、ウクライナ戦争など世界は再び大国同士が対立する時代に回帰している。そして、これまでその対象地域とは認知されてこなかった場所が新たな戦場となろうとしている。(中略)

周知のように、世界のあらゆる地域に先行して北極海は地球温暖化の影響を強く受け、海氷面積が著しく縮小し、ホッキョクグマが生活できる場所がなくなるなど北極の生態系が破壊されつつある。一方、それによって北極海航路の開拓、北極海に眠る資源へのアクセス(世界で未発見の石油の13%、天然ガスの30%があると言われる)が現実味を帯び始め、エネルギー資源欲しさに国家間の競争が激しくなっている。

冷戦以降、北極海の管理については1996年のオタワ宣言に基づき、その沿岸8カ国(米国、カナダ、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシア)が主体的な役割を担ってきた。

中国が台頭するにつれて北極海への関与を強めることに、沿岸国の間では懸念が拡がっていったが、そこには共同で北極海を管理しようという多国間協力があった。しかし、中国が2018年1月に初めて北極白書を発表し、その中で経済的利権を獲得するため「氷上のシルクロード」構想を打ち出すなど米中間の亀裂が深まり、ロシアがウクライナに侵攻したことで状況は一変した。

その後、ロシアは欧米諸国からの経済制裁に遭い、多くの欧米企業がロシアから撤退するなど、グローバルサウスの諸国が安価になったロシア産エネルギーを購入する動きが拡がっているが、ロシアの中国への経済依存は強まっている。

それは北極の資源が欲しい中国にとっては都合がいい話で、今後北極開拓を強化すべく、中国のロシアへの投資はいっそう拡大するだろう。両国は今年4月、北極海の沿岸警備で協力を強化することで合意し、最近では両国の艦船が米国アラスカ州のアリューシャン列島付近の海域で大規模な哨戒活動を行った。中国は経済と安全保障両面から北極海への関与を強めている。

ロシアが中国の北極海への関与を後押しすることになり、北極海は新たな地政学的戦場になろうとしている。これまで北極海の管理で主体的役割を担ってきた北極評議会は、既に機能不全に陥っている。それどころか、ウクライナ侵攻直後の昨年3月、ロシアを除く北極評議会の7カ国は、ロシアとの協力を停止することを発表した。

今年4月にはロシアと1000キロ以上にわたって国境を接するフィンランドがNATOに加盟したが、今後スウェーデンも加盟することから、それによって北極評議会ではロシア以外は全てNATO加盟国となる。

北極に眠る資源の獲得や航路開拓を巡って、中国の北極海への関与はいっそう強くなろう。しかし、それを巡って米国はこれまで以上に懸念を強めており、米中露を中心とする北極海を舞台とする地政学的戦いはいっそう激しくなるだろう。【8月26日 治安太郎氏 まいどなニュース】
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【ロシア 中東などグローバルサウスを北極海航路に引き込む動き】
ロシアは欧米の厳しい経済制裁に対して、中国との関係強化に加え、北極海とグローバルサウスの国々をむつびつけることで活路を見出そうとしています。

****ロシアの生存戦略 北極海とグローバルサウス****
北極海航路はアジアとヨーロッパを結ぶ最短航路で、スエズ運河周りのルートよりも30%以上距離が短くなります。北極圏で生産した液化天然ガスなどがこの航路ですでに運ばれています。

北極の氷が温暖化の中で減少する中で、ロシアは海洋国家としての未来を北極海航路の実現にかけています。ウクライナの軍事侵攻によって、ロシアとほかの北極海の沿岸国、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどとの対立は激化、しかしロシアは、北極海航路の実現を計画通り進めるとして、2035年までに輸送量を今の4倍以上の2億7千万トンにするとの強気の姿勢を崩していません。

その中核となっているのが、国営の原子力企業ロスアトムです。ロスアトムが北極海で担うのは、洋上船舶型の原子力発電所を配備するなどして沿岸のインフラを整備すること、将来的には15の洋上原子力発電所を北極海航路に沿って配備するとしています。

そしてもう一つは、原子力砕氷船の配備を特に氷の厚い東側で進め、北極海航路の通年運航を実現することです。今は7隻ですが2026年には9隻に、2030年代には13隻まで増強する計画です。

(中略)ロスアトムは世界最大の原子力企業で、ウランの濃縮から発電、再処理、そして核廃棄物の貯蔵まですべてを行う能力を持つ国営企業です。ソビエト時代は中型機械省といわれ核兵器の開発、生産にも深く関与しています。ロシアが占領したウクライナのザポリジェ原発の運営もロスアトムが行っています。

しかしロスアトムは企業としては、アメリカや日本などの制裁リストには入っていません。それは世界の原子力発電の原料である濃縮ウランの生産はロスアトムが世界の45%程度を占めていて、アメリカも含めて世界の原子力発電はロスアトムの濃縮ウランに依存しているからなのです。

アメリカは今もロシアから濃縮ウランの輸入を続け、十億ドルをロスアトムに支払っています。プーチン政権としては、北極海航路の主体となる企業をロスアトムとしているのは、欧米からの制裁を受けにくい体質を利用しようとしているのかもしれません。

今、ロシアとロスアトムが北極海航路に引き込もうとしているのは中東などいわゆるグローバルサウスの国々です。先月、プーチン大統領の故郷、サンクトペテルブルクで国際経済フォーラムが開催されました。かつてはエネルギーを中心にロシア市場への投資や参加を狙う欧米や日本の企業が大挙して参加していまいた。

しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻で欧米企業の姿は消えました。その会場で今年目立ったのは中東やアフリカなどグローバルサウスからの参加者です。中でも中東のUAE・アラブ首長国連邦はフォーラムのメインゲストとして大挙して代表団を派遣しました。

アラブ首長国連邦はほかの中東諸国と同様、ロシアに対する経済制裁には参加していません。欧米や日本の航空会社がロシアへの就航を取りやめる中で、首都アブダビはロシアと世界をいまだにつなぎ、人と物の行き来を支える拠点となっています。

ロスアトムは、UAEの政府系の世界的な貨物輸送会社・DPワールドと、経済フォーラムで北極海航路を利用した貨物輸送や投資で協力するという協定に調印しました。DPワールドは世界各地で貨物の輸送や港のターミナルの運営も行っており、アフリカにも拠点を拡大し、カスピ海を通じたロシアや中央アジアからインド洋にいたる南北の物流の拡大にも取り組んでいます。(中略)

DPワールドとしては、欧州とアジアを結ぶ最短ルートである北極海航路に早めに関与することで、将来的な競争力を高める思惑があるでしょう。

一方ロスアトムは、欧米との対立と厳しい制裁の中で、インドや東南アジア、中東、そしてアフリカなどグローバルサウスの国々へ主要な輸出品、エネルギーなど資源や食料の輸出を増やすとともに、北極海沿岸の開発を進めるためにも世界的なDPワールドのネットワークを利用して、グローバルサウスから北極海航路の開発に必要な物資や技術、資金を取り入れようという思惑があるものとみられます。

4日 上海協力機構の首脳会議がインドの議長で、オンラインで開催され、イランが正式加盟国となりました。イランの加盟には、北極海航路や中国の進める一帯一路など東西の回廊にロシアからカスピ海、中央アジア、イランを経由してインド洋にいたる南北の回廊を結び付けようという中ロの思惑もあるでしょう。

ただインドが初めての上海協力機構の議長国であるにもかかわらず、対面ではなく、オンラインにしたように、グローバルサウスの国々も欧米の対ロ制裁には同調しないもののどこまでロシアに関与するのか、ウクライナへの軍事侵攻が続く限り、その関与には限界があることを示したともいえるでしょう。

北極海航路は温暖化で北極海の氷の面積が減少したことが一つのきっかけとなっていますが、もう一つは冷戦が終結して、壁に閉ざされていた東西の物流が開かれたということも大きな契機となりました。しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、欧米とロシアが厳しく対立し、北極海航路の実現に強気の姿勢を示すロシアですが、北極海航路をめぐる地政学的な状況は厳しくなったといえるでしょう。
 
米ロの核兵器が最短距離で向かい合うのも北極海です。冷戦時代から氷に覆われた北極海は、米ソの原子力潜水艦がお互いに追尾しあう場です。今は氷が解けて、海上でもロシアとアメリカやカナダ、ノルウェーなどNATO加盟国の対立の最前線という軍事的な性格を強めています。

国際協力が必要な問題も話し合う場だった北極評議会はロシアとアメリカの対立の中で機能不全に陥っています。

微妙なバランスの上に成り立つ北極海の自然環境の保護や温暖化対策そして少数民族の保護など、国際協力が必要な問題は山積みしています。地球全体に影響を与える北極海を守るためにもどのようにロシアと対話を継続していくか、難しい課題となっています。【7月6日 石川一洋 専門解説委員 NHK】
********************

アメリカなど欧米とロシアの対立が深まる中で、“アメリカも含めて世界の原子力発電はロスアトムの濃縮ウランに依存している”というのは興味深い現実です。

温暖化の進行による北極海の利用価値の増大は、ウクライナ侵攻に伴う国際的対立によって、また厄介な問題を惹起しつつあります。

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キング牧師「私には夢がある」演説から60年 未だいたるところに、いろんな形で存在する差別

2023-08-27 22:49:32 | 人権 児童

(【HISTORY CHANNEL】)

【アメリカ公民権運動の記念碑「私には夢がある」演説から60年】
私が子供の頃、アメリカではまだ「有色人種はお断り」「白人専用」といった張り紙が公然と店に貼られている時代でした。

1963年8月28日、「ワシントン大行進」の一環として25万人近い人々がワシントンDCに集結し、ワシントン記念塔からリンカーン記念堂まで行進しました。

デモ参加者たちは、すべての社会階層の人々が公民権を得ること、皮膚の色や出身などに関係なくあらゆる市民が平等に保護されることを求めました。

この日最後の演説者となったのがマーティン・ルーサー・キング・ジュニア博士でした。キング牧師の行った「私には夢がある」(I Have a Dream)の演説にこめられた、あらゆる民族、あらゆる出身のすべての人々に自由と民主主義を求めるメッセージは、アメリカ公民権運動の中で記念碑的な言葉として記憶されることとなりました。【AMERICAN CENTER JAPANより】

****「私には夢がある」*****
1963年8月28日  マーティン・ルーサー・キング・ジュニア

今日私は、米国史の中で、自由を求める最も偉大なデモとして歴史に残ることになるこの集会に、皆さんと共に参加できることを嬉しく思う。

100年前、ある偉大な米国民が奴隷解放宣言に署名した。今われわれは、その人を象徴する坐像の前に立っている。この極めて重大な布告は、容赦のない不正義の炎に焼かれていた何百万もの黒人奴隷たちに、大きな希望の光明として訪れた。それは捕らわれの身にあった彼らの長い夜に終止符を打つ、喜びに満ちた夜明けとして訪れたのだった。

しかし100年を経た今日、黒人は依然として自由ではない。100年を経た今日、黒人の生活は悲しいことに依然として人種隔離の手かせと人種差別の鎖によって縛られている。

100年を経た今日、黒人は物質的繁栄という広大な海の真っ只中に浮かぶ、貧困という孤島に住んでいる。100年を経た今日、黒人は依然として米国社会の片隅で惨めな暮らしを送り、自国にいながら、まるで亡命者のような生活を送っている。

そこで私たちは今日、この恥ずべき状況を 劇的に訴えるために、ここに集まったのである。(中略)

1963年は、終わりではなく始まりである。黒人はたまっていた鬱憤を晴らす必要があっただけだから、もうこれで満足するだろうと期待する人々は、米国が元の状態に戻ったならば、たたき起こされることになるだろう。

黒人に公民権が与えられるまでは、米国には安息も平穏が訪れることはない。正義の明るい日が出現するまで、反乱の旋風はこの国の土台を揺るがし続けるだろう。

しかし私には、正義の殿堂の温かな入り口に立つ同胞たちに対して言わなければならないことがある。正当な居場所を確保する過程で、われわれは不正な行為を犯してはならない。

われわれは、敵意と憎悪の杯を干すことによって、自由への渇きをいやそうとしないようにしよう。われわれは、絶えず尊厳と規律の 高い次元での闘争を展開していかなければならない。

われわれの創造的な抗議を、肉体的暴力へ堕落させてはならない。われわれは、肉体的な力に魂の力で対抗するという荘厳な高みに、何度も繰り返し上がらなければならない。

信じがたい新たな闘志が黒人社会全体を包み込んでいるが、それがすべての白人に対する不信につながることがあってはならない。

なぜなら、われわれの白人の兄弟の多くは、今日彼らがここにいることからも証明されるように、彼らの運命がわれわれの運命と結び付いていることを認識するようになったからである。また、彼らの自由がわれわれの自由と分かち難く結びついていることを認識するようになった からである。

われわれは、たった一人で歩くことはできない。
そして、歩くからには、前進あるのみということを心に誓わなければならない。引き返すことはできないのである。公民権運動に献身する人々に対して、「あなたはいつになったら満足するのか」と聞く人たちもいる。

われわれは、黒人が警察の言語に絶する恐ろしい残虐行為の犠牲者である限りは、決して満足することはできない。われわれは、旅に疲れた重い体を、道路沿いのモーテルや町のホテルで休めることを許されない限り、決して満足することはできない。
われわれは、黒人の基本的な移動の範囲が、小さなゲットーから大きなゲットーまでである限り、満足することはできない。
われわれは、われわれの子どもたちが、「白人専用」という標識によって、人格をはぎとられ尊厳を奪われている限り、決して満足することはできない。

ミシシッピ州の黒人が投票できず、ニューヨーク州の黒人が投票に値する対象ではないと考えている限り、われわれは決して満足することはできない。

そうだ、決して、われわれは満足することはできないのだ。そして、正義が河水のように流れ下り、公正が力強い急流となって流れ落ちるまで、われわれは決して満足することはないだろう。(中略)

ミシシッピ州へ帰っていこう、アラバマ州へ帰っていこう、サウスカロライナ州へ帰っていこう、ジョージア州へ帰っていこう、ルイジアナ州へ帰っていこう、そして北部の都市のスラム街やゲットーへ帰っていこう。きっとこの状況は変えることができるし、変わるだろうということを信じて。

絶望の谷間でもがくことをやめよう。友よ、今日私は皆さんに言っておきたい。われわれは今日も明日も困難に直面するが、それでも私には夢がある。それは、アメリカの夢に深く根ざした夢である。

私には夢がある。それは、いつの日か、この国が立ち上がり、「すべての人間は平等に作られているということは、自明の真実であると考える」というこの国の信条を、真の意味で実現させるという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、不正と抑圧の炎熱で焼けつかんばかりのミシシッピ州でさえ、自由と正義のオアシスに変身するという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である。

今日、私には夢がある。
私には夢がある。それは、邪悪な人種差別主義者たちのいる、州権優位や連邦法実施拒否を主張する州知事のいるアラバマ州でさえも、いつの日か、そのアラバマでさえ、黒人の少年少女が白人の少年少女と兄弟姉妹として手をつなげるようになるという夢である。

今日、私には夢がある。
私には夢がある。それは、いつの日か、あらゆる谷が高められ、あらゆる丘と山は低められ、でこぼこした所は平らにならされ、曲がった道がまっすぐにされ、そして神の栄光が啓示され、生きとし生けるものがその栄光を共に見ることになるという夢である。

これがわれわれの希望である。この信念を抱いて、私は南部へ戻って行く。この信念があれば、われわれは、絶望の山から希望の石を切り出すことができるだろう。
この信念があれば、われわれは、この国の騒然たる不協和音を、兄弟愛の美しい交響曲に変えることができるだろう。
この信念があれば、われわれ は、いつの日か自由になると信じて、共に働き、共に祈り、共に闘い、共に牢獄に入り、共に自由のために立ち上がることができるだろう。

まさにその日にこそ、すべての神の子たちが、新しい意味を込めて、こう歌うことができるだろう。「わが国、それはそなたのもの。うるわしき自由の地よ。そなたのために、私は歌う。わが父祖たちの逝きし大地よ。巡礼者の誇れる大地よ。あらゆる山々から、自由の鐘を鳴り響かせよう。」

そして、米国が偉大な国家たらんとするならば、この歌が現実とならなければならない。
だからこそ、ニューハンプシャーの美しい丘の上から自由の鐘を鳴り響かせよう。
ニューヨークの雄大な山々から、自由の鐘を鳴り響かせよう。
ペンシルベニアのアレゲーニー山脈の高みから、自由の鐘を鳴り響かせよう。
コロラドの雪に覆われたロッキー山脈から、自由の鐘を鳴り響かせよう。カリフォルニアのなだらかで美しい山々から、自由の鐘を鳴り響かせよう。
だが、それだけではない。ジョージアのストーン・マウンテンからも、自由の鐘を鳴り響かせよう。
テネシーのルックアウト・マウンテンからも、自由の鐘を鳴り響かせよう。
ミシシッピのあらゆる丘と塚から、自由の鐘を鳴り響かせよう。そしてあらゆる山々から自由の鐘を鳴り響かせよう。

自由の鐘を鳴り響かせよう。これが実現する時、そして自由の鐘を鳴り響かせる時、すべての村やすべての集落、あらゆる州とあらゆる町から自由の鐘を鳴り響かせる時、われわれは神の子すべてが、黒人も白人も、ユダヤ教徒もユダヤ教徒以外も、プロテスタントもカトリック教徒も、共に手をとり合って、なつかしい黒人霊歌を歌うことのできる日の到来を早めることができるだろう。

「ついに自由になった!ついに自由になった!全能の神に感謝する。われわれはついに自由になったのだ!」【AMERICAN CENTER JAPAN】
*******************

言葉の持つ力を感じるスピーチです。
「われわれは決して満足することはできない」「私には夢がある」「自由の鐘を鳴り響かせよう」
繰り返される短いフレーズが、聴衆の心を波のように揺さぶり、高めていきます。

その後、“ジョンソン大統領による精力的な働きかけの結果、世論の高まりもあり議会も全面的に公民権法の制定に向け動き、1964年7月2日に公民権法(Civil Rights Act)が制定され、ここに長年アメリカで続いてきた法の上での人種差別は、ついに終わりを告げることになった。”【ウィキペディア】

しかし、キング牧師は1968年に暗殺され、“指導者の不在、そしてベトナム戦争下で混乱する国内情勢の影響を受けて、非暴力主義を貫いたキング牧師が代表する平和的・合法的な反差別運動から、暴力などの非合法的な手段を用いることを否定しない過激な運動(1965年に暗殺されたマルコムXの影響が強いとされる)が大きく支持を受けるなど変化していく。”【ウィキペディア】

【「この国は前進せずに後退している気がする」(キング牧師長男)】
****キング牧師演説から60年で行事 人種間融和の「夢」、道半ば****
米公民権運動の黒人指導者マーチン・ルーサー・キング牧師が1963年のワシントン大行進で行った歴史的演説から60周年を祝う行事が26日、首都ワシントンで開かれ、各地から数千人が集まった。

差別の是正は一定程度進んだが、白人と黒人の経済格差は大きいままで、人種間融和という牧師の「夢」は道半ばだ。

黒人初の下院民主党トップ、ジェフリーズ院内総務はこの日、キング牧師が「私には夢がある」と訴えたリンカーン記念堂前で演説し「私たちは長い道のりを歩んできたが、すべきことはまだある」と述べ、差別解消に向け努力を続けなくてはならないと強調した。

白人警官による黒人への暴力行為が相次ぎ、共和党のトランプ前政権下で保守化した連邦最高裁が大学入学選考で黒人らを優遇する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を違憲と判断するなど逆風も吹いている。

牧師の長男で市民団体を率いるマーチン・ルーサー・キング3世は演説で「この国は前進せずに後退している気がする」と懸念を表明した。【8月27日 共同】
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この日を意識した犯行なのか・・・

****米フロリダ州で黒人3人が銃撃され死亡 白人の20代男の容疑者「黒人狙う」犯行声明 かぎ十字の銃も***
アメリカ南部フロリダ州の小売店で20代の白人の男が銃を乱射し、3人が死亡しました。犠牲者は3人とも黒人で、警察は「人種差別が動機」としています。

AP通信などによりますと、フロリダ州ジャクソンビルの小売チェーン店で現地26日午後、男が銃を乱射し、3人が死亡しました。現場は黒人が多く住む地域で、亡くなった3人はいずれも黒人です。

容疑者は20代前半の白人の男で、ナチス・ドイツのシンボルマーク「かぎ十字」が描かれたライフルと銃で武装していたということです。

男は、黒人への憎悪をもとに襲撃する旨を記した声明を残していて、犯行後、店内で銃を使って自殺しました。

事件があった26日は、公民権運動の黒人指導者マーチン・ルーサー・キング牧師による歴史的な演説の60周年を祝う行事が首都ワシントンであり、登壇者が有色人種に対するヘイトクライムが増加していると警鐘を鳴らしたばかりでした【8月27日 TBS NEWS DIG】
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このわずか半世紀あまりにおきた黒人やマイノリティーの権利を擁護するという大きな転換、そして今も加速する流れを考えれば、熱狂的トランプ支持者など、そうした変化を受け入れられない人々が多数出てくる・・・というのも、無理からぬところではあります。

【いたるところで、様々な形で存在する差別】
しかし、表の世界では大きな転換は起きているものの、依然として隠れた差別は存在します。
60年前、最前線で人種差別と闘っていた81歳になるジョアン・トランパウアーさんは・・・

****キング牧師「私には夢がある」演説から60年 “すべての人に対して敬意と愛を” 最前線で差別と闘った白人女性の思い****
あれから60年。キング牧師が夢見た理想の社会は実現したかを聞いてみると…

ジョアンさん
「私たちの世代で法的な差別は無くなりましたけど、隠れていた差別が今多く見られます。すべての人に対して敬意と愛を持たないといけませんね」【8月27日 TBS NEWS DIG】
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差別はアメリカだけでなく、人種間だけでなく、日本を含めた、自分自身の周囲を含めたいたるところで、様々な形で、ときに公然と、ときに隠れた形で存在します。

****タリバン、美しい湖連なる「バンデ・アミール国立公園」への女性の立ち入り禁じる****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバン暫定政権は26日、中部バーミヤン州にあるバンデ・アミール国立公園への女性の立ち入りを禁止すると発表した。本紙通信員によると、同州を訪れていたモハンマド・ハリド・ハナフィ勧善懲悪相が演説で明らかにした。

2021年8月に実権を掌握したタリバン暫定政権は、女性抑圧政策を次々と進めている。標高約3000メートルにあるバンデ・アミール国立公園は、美しい湖が連なり、アフガン人にも人気の観光地。

最近、国立公園で男女が一緒に楽しんでいる様子がインターネット上で紹介され、タリバンが問題視したという。【8月27日 読売】
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****小学校教師、教え子にイスラム教徒の男児をたたかせる インド****
インド当局は26日、小学校教師がイスラム教徒の男児を順番にたたくよう教え子に指示した事件を受け、捜査に乗り出した。事件の映像はインターネットで出回り、怒りの声が広がっている。

事件は24日、ウッタルプラデシュ州の私立小学校で発生。映像には、教師が表向きは掛け算を間違えたことを理由に、7歳の男子児童をたたくよう他の児童に指示する様子が映っている。

教師は泣きながら立つ男児を横目に他の児童に対し、「どうしてそんなに軽くたたくの? もっと強くたたいて」と命じた。
さらには「顔は赤くなっているから、代わりに腰をたたいて」と指示した。

警察のサティヤナラヤン・プラジャパット警視はソーシャルメディアに投稿した動画で、映像について検証済みだとして、この教師に対して当局が措置を講じると述べた。
治安判事によると、男児の父親がムザファルナガル地区の警察に告訴した。

この生々しい映像を受け、インターネット上では失望の声が広がった。野党・国民会議派のラフル・ガンジー氏は、がヒンズー教徒が多数派であるインドで、与党・インド人民党が宗教的不寛容をあおっていると非難した。

人権団体は、ヒンズー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相が2014年に就任して以降、少数派のイスラム教徒に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)や暴力が増加したと指摘している。 【8月27日 AFP】
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****イスラエル閣僚、入植者の権利主張し物議 首相は擁護****
イスラエルのイタマル・ベングビール公共治安相が占領地ヨルダン川西岸におけるユダヤ人入植者の権利を声高に主張し、物議を醸している。そうした中、25日にはベンヤミン・ネタニヤフ首相がベングビール氏に支持を表明し、火に油を注いだ格好となっている。

人種差別主義者のベングビール氏は23日、国営テレビで、「ユダヤ・サマリア地区(ヨルダン川西岸の意)の通りを私や妻子が行き来できる権利は、アラブ人の移動の自由よりも重要だ」と述べ、パレスチナ人を対象とした移動制限措置を正当化する立場を示した。

これを受け、パレスチナ系米国人のスーパーモデル、ベラ・ハディッドさんはインスタグラムに非難するコメントを投稿。ベングビール氏もXで、ハディッドさんは「イスラエル嫌い」だと反論した。

一方、ネタニヤフ首相は声明で「ユダヤ・サマリア地区における移動の自由についてはイスラエル人にもパレスチナ人にも最大限認めている」と指摘。「不幸なことにパレスチナ人テロリストがこうした移動の自由に付け込んでイスラエルの女性や子ども、その家族を殺害している」とし、ベングビール氏を擁護した。 【8月27日 AFP】
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インド  選挙を控えて国内価格安定重視からコメ禁輸 砂糖も? 混乱する国際市場

2023-08-26 23:08:44 | 食糧・飢餓

(【8月4日 日経】)

【ロシアの黒海穀物輸出合意離脱を受けて、ウクライナは新たな「穀物回廊」確保を模索】
国連とトルコが仲介した穀物輸出合意はロシアが更新に反対したことで7月17日に期限を迎え、黒海に面するウクライナの港はロシアによる封鎖状態が続いていました。

それから約1か月後の8月16日、ウクライナは黒海沿岸のオデーサ港を出航し、ルーマニア領海内を南進してトルコのイスタンブールに向かう暫定的に設定した航路「人道回廊」の運用を開始しています。

****「人道回廊」の運用開始、ウクライナ産穀物積んだ貨物船が出港…露の合意離脱後で初めて****
ウクライナ産の食料など3万トンを積んだ香港籍の貨物船が(8月)16日、南部オデーサ港からトルコのボスポラス海峡に向けて出港した。

ウクライナ政府は16日、黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出再開に向け、民間船舶が安全に航行できるよう暫定的に設定した航路「人道回廊」の運用が始まったと発表した。

オデーサ港からの貨物船出港は、ロシアが7月に黒海を経由したウクライナ産穀物の輸出合意を離脱して以降初めて。貨物船はロシアがウクライナ侵略を始める前日の昨年2月23日からオデーサ港に停泊していた。ロイター通信によると貨物船は17日中にもイスタンブールに到着する予定という。

ロシアはウクライナに向かう貨物船への臨検を実施してけん制している。穀物輸出拠点のあるオデーサ州の港への攻撃も繰り返している。人道回廊が安定的に機能するかどうか不透明だ。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日夜のビデオ演説で港への攻撃が1か月に7回あったとし、「世界の食料価格やアフリカとアジアの安定への打撃だ。共同して対抗する必要がある」と訴えた。

ロシアの合意復帰の見通しがないなか、ウクライナは新たなルートの確立を急いでいる。米欧も代替ルートの確保に取り組んでおり、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは15日、米国が、ウクライナやルーマニア、トルコなどと、ドナウ川を経由してルーマニアの港からウクライナ産穀物を輸出するルートについて協議していると報じた。

10月までにドナウ川経由で月400万トンの輸出を可能にすることを目指す計画で、米政府高官は「船舶保護のために軍事を含むあらゆる選択肢を検討している」と同紙に述べた。【8月18日 読売】
*********************

上記の香港籍の貨物船は無事イスタンブールに到着しましたが、今後も運行を容認するのかロシアの対応は不透明です。
新航路に関するその後の情報は目にしていませんが、量的にも従来の航路に比べると限定されたものになることが予想されます。

黒海沿岸に関しては、ウクライナの南がルーマニア、その南がブルガリア、そしてトルコ・イスタンブールになりますが、ウクライナ政府はブルガリアとの協議も初めています。

****ウクライナとブルガリア、黒海の「穀物回廊」確保に向け協議****
ウクライナとブルガリアの首脳が黒海での「穀物回廊」の確保に向けた両国の協力について話し合いを行っていることがわかった。黒海での穀物輸出に関する協定からロシアが離脱したことで、世界の食糧安全保障に対する懸念が拡大している。

トルコと国連が仲介した協定からロシアが離脱したことで、ウクライナの黒海に面した3カ所の港を利用する商船に委縮効果が表れている。これらの港から大部分の穀物が輸出されている。ロシアは、こうした港から出た船舶は攻撃の対象となる可能性があると警告している。

ウクライナは独自の回廊を設けているものの、黒海ではロシア海軍が優勢なため、こうした回廊の安全を確保できていない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ギリシャ首都アテネで開催されたバルカン諸国首脳らとの会議の機会を利用し、ブルガリアのデンコフ首相と回廊について協議した。

ウクライナ大統領府によれば、両首脳は、黒海における持続可能な安全保障を確保するための黒海諸国間の協力と、代替的な方法による「穀物回廊」の機能について協議した。(中略)

ウクライナ政府は、黒海の港を発着する船舶を対象とするため、保険会社の世界大手各社と協議を行っている。これは、世界中で不可欠な穀物輸出の完全な再開にとって重要な一歩となる。【8月23日 CNN】
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【コメ 最大輸出国インドの禁輸措置で価格急騰】
小麦の価格は22年2月のロシア軍ウクライナ侵攻で一気に高騰しましたが、その後は傾向としては下落しています。
7月のロシアの穀物合意離脱で上昇した価格も、その後は戻しています。
ただ、ロシア軍侵攻以前の2021年から上昇傾向にあって、それ以前の価格に比べると高値水準が続いているとも言えます。

一方、足元で急激な価格上昇が見られるのがコメ。

****世界のコメ価格が12年ぶりの高値に、「インドの輸出規制措置が原因」と中国メディア****
世界のコメ価格が12年ぶりの高値になっている。国際的なコメ価格はロシアによるウクライナ侵攻で昨年、小麦などの穀物価格が急騰したのに対し、比較的安定していた。中国メディアはロイター通信の報道を引用。「世界最大のコメ輸出国であるインドの輸出規制措置が原因」と伝えた。(中略)

中国網はロイター通信が「コメ価格急騰のきっかけは、世界最大のコメ輸出国であるインドの意思決定だと報じた」紹介。インド消費者行政・食品・公共分配部は7月20日、輸出増が国内のコメ高騰を招いたことを理由とし、「価格を抑え自国の消費を保証」するため、バスマティなどの高級品種以外の米の輸出を禁止すると発表した。

インド、タイ、ベトナム、カンボジア、パキスタンなどはコメの主要輸出国。中国、フィリピン、ベナン、セネガル、ナイジェリア、マレーシアなどはこの主要食糧品種の重要な輸入国だ。

タイの破砕率5%の白米のオフショア価格は7月27日までに、1トン当たり607.5ドル(約8万7000円)に高騰した。7月20日にインドがコメ禁輸を発表してから62.5ドル高騰(11.5%上昇)し、12年5月以来の高値を付けた。

インドの輸出規制措置はコメの需給に重大な影響を生んだ。米国農務省の統計によると、インドのコメ輸出量は22〜23年度に2250万トンに上り、世界市場の40%を占めた。インドに次ぐタイの同期の輸出量は850万トンのみだった。

さらに7年ぶりのエルニーニョ現象がコメ不作のリスクを拡大している。エルニーニョ現象が発生すると太平洋赤道海域の海面温度が異常に高くなり、主要生産地の東南アジアで雨不足による干ばつが発生する恐れがあるからだ。

コメと並ぶ主要食糧である小麦の供給にも変動が生じつつある。7月下旬、国際指標の米シカゴ商品取引所小麦先物の9月相場が1ブッシェル7.7ドルを付け、2月下旬以来の最高値となった。

現在は小麦とコメの供給逼迫(ひっぱく)が同時に発生している。この二つが不足すれば、安価な代替案を見つけることが困難になりそうだ。

中国網は「最も深刻な影響を受けるのは経済が低迷し食糧輸入への依存が強いアフリカなどの新興国だ」と指摘。「国際食糧価格が暴騰すれば、これらの国は外貨準備の不足により十分な食糧を調達できず、それにより国内の物価高が深刻化し、大規模な飢餓が生じる恐れもある」と警鐘を鳴らした。【8月12日 レコードチャイナ】
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インドに次ぐコメの輸出国タイは輸出停止はせず、高値になった状況を利用する方針と報じられています。

****タイ、コメの輸出停止せず インドの禁輸は追い風=商務相****
タイのジュリン商務相は7日、同国は輸出と国内消費用に十分な生産量を確保しているとして、コメの輸出を停止する理由はないと言明した。インドのコメ輸出停止によりタイは恩恵を受けているとも述べた。

インドは7月下旬、一部の種類を除いてコメの輸出を停止した。同国のコメ輸出はほぼ半減することになり、世界的な食料価格の上昇が懸念されている。

ジュリン氏は記者会見で、インドの禁輸はタイのコメ生産者に好機であり、特にアフリカはインド産のコメの消費量が多いと指摘した。

インド禁輸により市場に供給されるコメの量が減少し、国際価格が上昇するため、農家はより高い価格で売ることができると述べた。ただ、国際価格は不安定であり、政府は状況を注意深く監視していくと語った。【8月7日 ロイター】
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しかし、タイ当局も降雨量不足に伴う節水のために農家に対してコメの作付けを減らすよう提案しており、今後の生産量・輸出減少が予測されています。

****世界最大の米輸出国、インド・タイの「米の出荷が激減」…世界的脅威になる可能性****
世界的な米供給に対する新たな脅威
インドが国内における一部の米の出荷を禁止したことと、タイ当局が降雨量不足に伴う節水のために農家に対して米の作付けを減らすよう提案したことが、世界的な米供給に対する新たな脅威となっている。

タイ国家水資源局(ONWR)のスラスリ・キッティモントン事務局長は、「主要な中央平原地域の農家はすでに米のほとんどを作付けしたが、政府は水をあまり必要としない他の作物への転換を奨励している」と述べた。

世界第2位の米輸出国であるタイは、現在、エルニーニョ現象の影響で乾燥が進み、来年は干ばつに見舞われる可能性がある。

スラスリ氏によれば、中部地方におけるこれまでの累積降雨量は平年を約40%下回っており、米の作付けを抑制するのは、家庭で消費する水の供給を確保するためだという。「心配なのは、エルニーニョ現象が2025年まで続くかもしれないということです。私たちは全国的な水管理を慎重に計画しなければなりません」と彼は2日火曜日に語った。

これまでに、約1万7,600平方メートル以上で稲作が行われており、まだ作付けを開始していない農家には、計画を遅らせるか、より干ばつに強い植物に切り替えるよう促しているという。

過去3年以上の最高値を記録、止まらぬ価格高騰
インドは世界最大の米輸出国であるが、国内供給を確保し国内価格を抑制するために、非バスマティ米の輸出を禁止した。これにより、アジアの米価は先月、過去3年以上の最高値を記録している。世界市場でのさらなる価格上昇は、消費者に対してさらなるインフレ圧力をもたらす恐れがある。(中略)

政府は以前、エルニーニョ現象が異常な少雨をもたらす可能性があると警告し、農家に対して今年は通常の2作物ではなく1作物を栽培するよう勧告した。そして、タイからの不足分の一部は、ベトナムからの出荷量の増加によって相殺される可能性があり、ベトナムは今年の目標を大きく上回る可能性が高い。(中略)

米国農務省によれば、インドは世界最大の米輸出国で、世界貿易の40%を占め、タイは15%、ベトナムは14%である。(後略)【8月4日 THE GOLD ONLINE】
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また、インド禁輸を受けてタイのコメ市場が混乱しているとの情報もあります。

****タイ、コメ市場が混乱 インド禁輸受け供給逼迫、買い占めも発生****
世界最大のコメ輸出国であるインドが大幅な輸出制限を打ち出し、同2位のタイのコメ市場に混乱をもたらしている。流通量が逼迫して価格は高騰。一部業者が買いだめに走っていることで、輸出向けの価格が付けられない異常事態も起こっている。(後略)【8月25日 日経】
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【インドはコメに続いて砂糖も禁輸? 選挙前の国内価格安定を重視】
インドはコメに続いて砂糖の禁輸も行う可能性がある・・・とも報じられています。原因はやはり降水量不足。

****インドが10月から砂糖の輸出を禁止?世界が供給不足を懸念―中国メディア****
2023年8月25日、環球網は、インドが10月から砂糖の輸出を禁止する可能性があり、世界的な砂糖の供給不足が懸念されていると報じた。

記事はインドが10月から7年ぶりに砂糖の輸出を禁止する見通しだと英ロイターが報じたことを紹介。インド政府筋によると、現在の優先事項は国内の砂糖需要を満たし、残りのサトウキビでエタノールを生産することで、砂糖を輸出するために十分なサトウキビの生産量が見込めないと伝えた。

そして、気候変動による原料生産の減少が砂糖供給が逼迫している主な理由だとし、今年はインド有数のサトウキビ生産地であるマハラシュトラ州とカルナータカ州の雨季の降雨量が平年を50%下回っており、その影響は23〜24年のサトウキビ栽培シーズンだけでなく、24〜25年シーズンにも及ぶ可能性があると指摘した。

また、インドの国内砂糖価格が今週約2年ぶりの高水準に跳ね上がるなど食品インフレが懸念されており、砂糖価格の上昇が続けば砂糖輸出の可能性はますます低くなると伝えた。

記事によると、インドはブラジルに次いで世界2位の砂糖輸出国であり、砂糖輸出を巡っては16年にも海外販売抑制を目的として20%の関税を課したことがあったという。

記事は、インド政府が7月20日にパーボイルド米と香り米を除くコメの輸出禁止を発表し、今月19日にもタマネギの輸出に40%の関税を課すと発表したことを紹介。海外メディアの分析として、インド政府は24年の選挙前に食料価格を安定させ、食料インフレを抑制するため、さまざまな製品に輸出制限をかける動きを見せているとした。

その上で、インドが砂糖輸出を禁止する可能性がある中で、市場はブラジルに注目することになると伝えるとともに、「ブラジルのサトウキビの約半分は砂糖に、残りの半分は無水エタノールにしてガソリンに混ぜられるが、これは国際原油価格の動向次第だ。国際原油価格が高ければ、ブラジルは燃料用エタノールの生産を増やすことを選択し、原油価格が安ければ、ブラジルは砂糖の輸出を増やすだろう」とし、国際原油価格が高騰すれば砂糖の供給不足が深刻化する可能性を指摘した。【8月26日 レコードチャイナ】
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砂糖の価格は、国際原油価格の動向に影響されるというのは「なるほどね・・・」といったところ。

【露骨な「自国第一」では、拡大するBRICSにも限界】
“インド政府は24年の選挙前に食料価格を安定させ、食料インフレを抑制するため、さまざまな製品に輸出制限をかける動きを見せている”というのは、“「自国第一」なんだろうけど、自由貿易の原則とか国際的影響への配慮は?”といった感も。

インドもメンバー国であるBRICSの拡大が連日報じられています。
米欧と距離を置く国々が集まって対抗軸を形成するという点では国際政治への影響が大きいと言えますが、上記インドのように「自国第一」に終始する国、ロシア・中国のように他国侵略を厭わない国が集まっても、米欧への抵抗勢力とはなりえても、それ以上の戦略的共同歩調をとって国際社会をリードするというのは難しいようにも思えます。
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アルゼンチン  「物価1年で2倍」 市内では略奪増加 大統領選挙予備選で過激主張候補トップへ

2023-08-25 23:00:51 | ラテンアメリカ

(略奪される衣料品店 レジカウンターに身を隠す店員【8月25日 ロイター】)

(略奪暴徒にショットガンを放つ店員【8月25日 FNNプライムオンライン】

【6カ月連続インフレ100%超】
かつては豊かさを誇っていたのに、今では見る影もなく・・・という国が南米アルゼンチン。
その轍を踏むのではとも言われているのが日本。

****日本が「先進国脱落」の危機にある理由、衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?****
19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落したアルゼンチン。日本も同じ道を辿るのか

アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。

時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。(後略)【2022年2月7日 加谷珪一氏 ダイアモンド・オンライン】
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そんなアルゼンチンですから債務不履行(デフォルト)の危機を繰り返すなど、経済状態に関するネガティブな記事は毎度のことですが、昨年からインフレ・通貨下落が止まらない状況が続いています。

****デフォルト再来に警戒 物価1年で2倍、通貨急落―アルゼンチン****
南米アルゼンチンの経済が危機的状況に陥っている。物価が1年で2倍に高騰し、自国通貨ペソの急落と合わせ庶民の生活を直撃。国民の4割が貧困にあえぐ中、政府のデフォルト(債務不履行)という悪夢が再び迫りつつある。

最高額紙幣、価値は「560円」 アルゼンチンで流通開始
首都ブエノスアイレス郊外に住むマリア・コンティさん(56)は「稼ぐよりも出費が多い」と嘆く。コンティさんの子供2人のうち1人は独立したが、もう1人は学生。乗馬を教える本業だけでは足りず、ウーバーの運転手も務め家計を支える。好きな本業より稼げるのはウーバーで「ウーバーの時間を増やすかどうか」と頭を抱える。

新型コロナウイルス禍の影響が尾を引く中、干ばつが経済に追い打ちをかけた。小麦や大豆など国の経済を支える穀物の輸出は、1~3月期に約24億ドル(約3340億円)と前年同期からほぼ半減。供給不足でインフレにも拍車が掛かり、消費者物価の上昇率は4月まで3カ月連続で前年同月比100%を超えた。

輸出低迷により外貨不足の懸念に火が付き、通貨安を誘発。ペソの対ドル相場は年初から約35%下落し、ペソ安がさらなるインフレ高進をもたらす悪循環に陥っている。

状況の悪化を受けてS&Pグローバル・レーティングは3月、既に投機的水準としていたアルゼンチンの格付けを「CCCマイナス」と2段階引き下げた。「外貨建て債務の返済を巡るリスクが高まっている」と警告し、追加格下げも示唆した。

政府が2001年、1300億ドルを超える公的債務の返済を停止してデフォルト状態に陥った記憶がよみがえる。

中銀は今年5月、ペソ防衛などのため政策金利を97%に引き上げた。政府はドル需要を抑えようと、中国からの輸入品に対して人民元で支払う措置なども導入した。10月の大統領選を控えて混乱の回避に躍起となっている。【6月2日 時事】
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デフォルトを回避すべく国際通貨基金(IMF)は7月28日、アルゼンチンに約75億ドルの金融支援を実行することで事務レベルの合意に達したと発表しています。

しかし、「物価1年で2倍」「通貨下落」という状況は今も続いています。しかも、今後更に加速するとの見方が一般的です。

****アルゼンチン、6カ月連続インフレ100%超 通貨安続く****
アルゼンチンの経済苦境が深まっている。国家統計局(INDEC)が15日発表した2023年7月の消費者物価指数は、前年同月比113.4%上昇した。6カ月連続で100%を上回った。

13日の大統領選予備選挙で過激な主張の右派候補が首位となったことを受けて中央銀行は14日に通貨切り下げを実施しており、今後はさらにインフレが加速するとの見方が大半だ。(後略)【8月16日 日経】
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****7月の物価上昇率は前月比6.3%、8月以降は大幅な加速を懸念****
アルゼンチン国家統計センサス局(INDEC)は8月15日、7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は全国平均値で前月比6.3%だったと発表した。6月のCPI上昇率6.0%からわずかに加速しており、8月14日に自国通貨ペソが約2割切り下げられたため、8月と9月にはさらに大幅な加速が見込まれる。

前年同月比(年率)では113.4%と6カ月連続で100%を超えた。1~7月累計の物価上昇率は60.2%に達した。(中略)

8月以降のCPI上昇率の見通しは、7月下旬から続いているペソの下落によって大きく加速する、と多くの民間エコノミストらが予測している。

7月27日には非公式為替レートが1ドル=550ペソまで下落し、8月に入ってもペソの下落は続いた。大統領予備選挙(2023年8月15日記事参照)が実施された13日の2日前は1ドル=605ペソだったが、予備選挙翌日の14日には一時690ペソまで急落した。

また同日、中央銀行は政策金利を21ポイント引き上げて118%にするとともに、公定為替レートを約22%切り下げた。8月17日現在、並行為替レートも755ペソと大幅に下落している。

8月15日付現地紙「ラ・ナシオン」(電子版)によると、民間エコノミストらの見通しでは、8月の物価上昇率は10~12%、9月は9~10%で、2カ月間で最低でも22%上昇するという。(後略)【8月18日 JETRO】
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【カフェでおしゃべりに興じる市民・・・といった意外に平穏な一面も】
日本でも物価上昇が問題になっていますが、それでも3%前後。円安も続いていますがこれも数%~1割程度。
物価が昨年の2倍になる・・・通貨価値が2,3年で数分の一に下落するといった状況で、経済・市民生活がどうなるのか想像もできません。

ただ、楽天的なラテン気質もあってか、社会は案外落ち着いている・・・という報告“も”あります。

****超インフレ下の街並が平穏な理由 ブエノスアイレスで見つけた日本人が忘れかけているもの**** 
発行されたばかりの最高額紙幣の価値は560円―。日用品の購入にすら札束が飛び交い、銀行には現金がなく、現地通貨よりも米ドルが求められる。そんなハイパーインフレ下にあるアルゼンチンだが、デフォルト(債務不履行)を何度も経験して慣れっこになっているためか、首都ブエノスアイレスは意外にも比較的平穏だという。

その本当の理由は何なのか、値上げが続く日本の明日の姿かもしれない街の様子を現地在住のジャーナリスト・佐々木はる菜さんにリポートしてもらった。
◇  ◇  ◇
スーパーでも札束、日用品は1カ月単位で値上がり
インフレ年率100%越えというハイパーインフレのアルゼンチンに住み始めてはや4カ月。今ではスーパーマーケットでのちょっとした買い物で札束を出し、1カ月単位で身の回りのモノやサービスの値段が目に見えて上がっていくことにも驚かなくなりました。

銀行には現金がなく何軒回っても引き出せないなんて日常茶飯事でATMはガラガラ。価値が下がり続ける現地通貨のペソよりもドルを持つことが良しとされ、両替所でドルを換金しながら生活している人も多くいます。

先日、2000ペソ札が発行されたと世界的ニュースになっていましたが、その価値は500~600円しかないと言われており、流通していないのか私はまだ実物を見たことすらありません。

優雅な街並みと格差、大統領選への盛り上がり
ただ、「南米のパリ」「芸術の街」として名高いブエノスアイレス市内の雰囲気は驚くほど優雅。緑豊かで、歴史的な建築、劇場や美術館なども多く、街中にはさまざまなお店が軒を並べ、夜遅くまでにぎわっています。

しかし、現地の方に話を伺うと、実際は物価の高騰で食べていけないことも珍しくないといいます。貧富の格差は拡大する一方で身近にも汚職の話がはびこり、さらに治安の悪化が深刻で「経済以上に、早急に具体的な対策をしてほしいと望む人が多い」とため息をつきます。

だからこそ盛り上がっているのが、8月の予備選挙から始まる大統領選。
「これまで何十年も二つの政党が拮抗(きっこう)して、現政権の支持と不支持は常に五分五分。長らく政治も経済も混乱しているため、どちらの政権になってもどうせ好転しないという徒労感を持っている国民も多い。そんな中で昨年ごろから台頭してきたのが、若手の第三勢力です。これまでの二大政党に追い付く勢いで支持を集め、それが歴史的な奇跡として報道されました」(50代女性)(中略)

地球の反対側で見た、日本の懐かしき光景と「井戸端会議」
そんな中でも、街は不思議と平穏で活気も感じられます。

「ワンブロックに一つ以上カフェがある」と言われ、どのお店も1日を通してにぎわっているブエノスアイレス。さらに八百屋さん、肉屋さん、魚屋さんなど小さな商店が多く、街並みは全く違うのですが、なんだか昔の日本みたいで懐かしさを感じます。

それらの店先、公園、道端など至る所で、老若男女問わずおしゃべりで盛り上がっている様子も、私が子どもの頃に見ていたにぎやかな商店街のようで、久々に「井戸端会議」という言葉を思い出しました。

「アルゼンチン人の良い点は、誰かの力になってあげたいという思いが強いところで、その時に一番すぐできるのが“相手の話を聞いてあげること“。だから、家族や友達と集う時間が欠かせません。そもそもおしゃべり好きなので、暇ができると連絡を取り合い、もし困っている人がいたら無理やりにでも予定を空けて話を聞こうとします」(30代女性)

現地の方によるとアルゼンチン人にはそんな良き「おせっかい」さがあり、急きょ自分の家に寄ってもらい何時間も話し込むようなことも珍しくないそう。他にも、例えば誕生日パーティーなどは、当人同士だけでなく友人の家族まで招待し何十人単位で開催することも普通で、初めて会った相手ともすぐに打ち解け合うといいます。

さらに、最近は物価の高騰で気軽に外食できないという人も増えているため、日本の町内会のような団体が、比較的リーズナブルな食事会やイベントを開催し、地域の人で定期的に集まり会話や交流を楽しめるような場を作っていたり、就業後に同僚と集まりさまざまな話をする「アフターオフィス」という言葉が注目を集めたりしていることからも、「おしゃべり」が不可欠な習慣だということが伝わってきます。

「毎日暮らすだけで精いっぱいという人の方が多く、現実は厳しい。でもどんなに辛く苦しくても、誰かと話す時間を作ることは大切な習慣です。そうやって何気ないおしゃべりをすることに救われている人がたくさんいると感じています」(40代男性)(後略)【8月10日 佐々木はる菜氏 時事ドットコム】
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【増加する略奪・・・という現実も】
上記のような落ち着きも事実の一面ですが、別の面では、“略奪”に走るような、生きていくのに精一杯の人々の姿があるのも現実です。

****“略奪行為”したのは一般市民 スーパー店員は街中でショットガン発砲…原因は急激な物価高 アルゼンチン***
南米アルゼンチン・ブエノスアイレス州で、市民たちによる略奪行為が起こった。スーパーの店員たちが、市民に向けてショットガンを発砲する場面も見られた。

原因は急激なインフレ。物の値段が倍以上になり、各地で100人以上の市民が拘束されている。

市民たちによる略奪行為が発生
23日、南米アルゼンチンのブエノスアイレス州。大勢の警察官たちが立ち、厳重な警戒体制が敷かれている。何があったのだろうか。

街中でショットガンを連発するのは、スーパーマーケットの店員たち。銃口が向けられた先にいたのは、市民だ。

交差点を映す監視カメラには、ショッピングカートを押している人が強引に渡る姿が映されていた。出てきた建物は、スーパー。すると、次々とスーパーから人が出てきて、クモの子を散らすように走り去った。市民による略奪行為だ。その後も続々と商品を奪って逃走した。

原因は急激な物価高
多くの店をターゲットに、略奪行為をはたらく市民。そこには、やむにやまれぬ理由があった。それは、急激な物価高。年間100%以上のインフレ。つまり、物の値段が倍以上になっているのだ。生きるには略奪をするしかないと、市民が略奪行為をしていた。(後略)(「イット!」 8月24日放送より)【8月25日 FNNプライムオンライン】
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「略奪」行為の発生よりも、暴徒に対し店員がショットガンを発砲するという事の方が衝撃的です。「カフェでおしゃべりを楽しむ・・・」という状況とは別世界です。

****略奪が横行するアルゼンチン、背景に政治の緊迫化や高インフレ 年末までに190%との予想も****
南米アルゼンチンでは、このところ店舗の略奪が横行し、事業主の間には店の開店をためらう動きも出ている。

略奪増加の直接の原因は不明だが、10月の総選挙に向け国内情勢が緊迫していることに加え、インフレ率が113%に達し、生活に困窮する市民が増えていることなどが背景にあるとみられる。 

(中略)多数の逮捕者が出ているものの、店を開くことをためらう事業者も増えている。(後略)【8月25日 ロイター】
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【過激な主張の極右候補が大統領予備選挙で一躍トップに】
こうした経済状況、更には大統領を凌ぐ実力者でもあるクリスティナ・フェルナンデス副大統領(元大統領で、現大統領は彼女の傀儡とも)が汚職で有罪となる(不逮捕特権で職務は継続)ような政治腐敗・・・・13日に行われた大統領選挙の予備選挙はダークホースが二大政党候補者を凌ぐ、大荒れの展開でした。

****アルゼンチン大統領選、予備選で極右候補が予想外のトップ****
アルゼンチンで13日、大統領選挙の予備選が実施され、独立系で極右のリバタリアン(自由至上主義)経済学者であるハビエル・ミレイ氏が予想外にトップに躍り出た。

有権者が与党連合と主要野党連合にお灸を据えた形となった。

開票率約90%時点でミレイ氏の得票率は予想を大幅に上回る30.5%。保守系の主要野党連合は28%で2位、中道左派の与党連合は27%で3位。

同国ではインフレ率が116%に達し、生活費の高騰で国民の4割が貧困状態にある。既存政党に対する幻滅感が広がっており、ミレイ氏は支持者の集会でロックを歌うなど、特に若者の間で支持が高い。

同氏は中央銀行の廃止と経済のドル化を公約に掲げ、型破りなスタイルはトランプ米前大統領を彷彿とさせる。

ミレイ氏は予備選後、「われわれは真の野党だ。失敗を繰り返す古い勢力ではアルゼンチンを変えることはできない」と訴えた。

予備選はほとんどの成人に投票義務があり、事実上、10月22日の本選を控えた最終リハーサルと言える。大統領選で支持率の高い候補が浮き彫りになった形だ。

主要野党連合では、保守強硬派のパトリシア・ブルリッチ元治安相が穏健派のオラシオ・ラレタ・ブエノスアイレス市長を破った。

与党連合では、予想通りセルヒオ・マサ経済相が指名を獲得。今後、穏健派の支持をさらに集めれば、10月の本選で得票が増える可能性もある。

投票率は70%未満で、約10年前の予備選導入以降で最低だった。【8月14日 ロイター】
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同一政党から複数候補が立候補している場合、この予備選挙でトップの者に絞り込まれます。
10月の本選で当選するには45%以上の得票か、2位候補に少なくとも10ポイント差をつけて40%以上の票を得ることが条件。いずれの候補も満たさなければ、11月19日の決選投票に進みます。

一躍レーストップに躍り出たミレイ氏の主張は過激です。
中央銀行の廃止して通貨のドル化、気候変動は「フェイクだ」、臓器売買や銃所持の合法化、人工妊娠中絶の反対なども唱えているとか。

アメリカのトランプ前大統領、ブラジルのボルソナロ前大統領と同一系譜の人物のようです。

国会議員選挙の候補者を立てていなかった州があったこと、地方州においてミレイ氏政党の投票用紙が不足していたこと・・・などがあってのこの数字、もしそうした問題がなければもっと高い数字になったであろうとの指摘も。

しかし、仮に大統領になってもおそらく議会では少数与党になるので、公約実現は困難ですし、無理に大統領権限で強行しようとすれば議会による弾劾なども起こるかも。

国民、特に若年層の現状への不満がミレイ氏支持に流れた恰好ですが、いずれにしても予備選挙は前哨戦。これから本格化します。
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麻薬組織・ギャングに蝕まれる中南米諸国

2023-08-24 22:48:48 | ラテンアメリカ

(ハイチの首都ポルトープランスでギャングによる襲撃発生後、路上で燃やされる遺体の山を見る人々(2023年4月24日撮影)【4月25日 AFP】)

【南米エクアドル 麻薬組織進出で急速に治安悪化】
南米エクアドルでは8月9日、20日に行われる大統領選挙の候補者が選挙活動中に銃撃され死亡する事件がありました。

****エクアドル大統領候補が射殺される、選挙活動中に****
エクアドルのラソ大統領は、大統領選の候補で元議員のフェルナンド・ビジャビセンシオ氏が9日に銃で撃たれて死亡したと発表した。(中略)

大統領は短文投稿サイトのX(旧ツイッター)に「このような犯罪は必ず罰せられる」と投稿し、治安当局トップと緊急会合を開くことを明らかにした。

世論調査によると、ビジャビセンシオ氏の支持率は7.5%で、20日に投票が行われる大統領選の候補者の中で5位だった。【8月10日 ロイター】
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ジャーナリストだったビジャビセンシオ氏は麻薬組織の撲滅を訴えていて、犯罪グループから逆恨みで暗殺された可能性があると地元メディアが報じています。

麻薬組織に関する犯罪やギャングの横行等のニュースはメキシコ・コロンビア、中米諸国ではよく目にします。
そうした中南米にあってエクアドルは従来は比較的麻薬組織犯罪が少ない国でしたが、近年が急速に状況が悪化しているようです。

****狙われた港湾都市 コカイン密輸の拠点に****
これまでエクアドルは南米の中では安全な国とされてきたが、ここ数年、治安が急速に悪化している。殺人の発生率は2016年に比べて6倍になった。特に危険な都市とされるのは同国最大の港湾都市グアヤキルで、今年上半期の暴力事件による死亡者数は1390人となり、すでに昨年1年間の数字とほぼ同じ水準になった。

新型コロナの感染拡大以降、刑務所内を犯罪組織のメンバーが支配するようになり、刑務所で暴動事件が頻発し、数百人単位で受刑者が死亡している。

治安悪化の背景には麻薬密売組織のエクアドルへの進出がある。コカインなどの密輸のためにメキシコやコロンビアの密売組織が、エクアドルの港を利用し始めた。これまで平穏だったため取り締まりが甘かったという盲点をつかれた。

地元の専門家はグアヤキルなどエクアドルの太平洋側の都市は、需要が増え続ける欧州やアジア向けのコカインを送り出す重要拠点になっていると話している。グアヤキルなどでは大量のバナナが世界に向けて船積みされるが、積み荷のバナナがコカインなど麻薬の隠れ蓑になるケースも多い。(後略)【8月23日 テレ朝news】
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20日に行われた大統領選挙の方は、本命と予想されていた反米左派の候補が1位(得票率33%)になったものの、これまでほとんど注目されていなかった中道右派のビジネスマンが想定外の得票(得票率24%)を得て2位につけ、両者は10月15日の決選投票に臨むことになりました。

****「バナナ王」長男が勝ち残り 麻薬組織に蝕まれるエクアドル 大統領選は決戦投票に****
スーパーに行くとエクアドル産のバナナを手にする機会が多い。日本は消費するバナナのほぼすべてを輸入に頼っているが、エクアドルはフィリピンに次いで2番目の輸入先だ。

エクアドル産のバナナは日本人に馴染み深い味だが、そのエクアドルの「バナナ王」の長男が、20日に行われたエクアドル大統領選で予想外の票を獲得し10月の決選投票に駒を進めた。

候補の1人が選挙運動中に射殺されるなど荒れる大統領選となっているが、泡沫とも言われた候補の大躍進に驚きの声があがっている。

■弾劾回避で前倒し 候補者は防弾チョッキで街頭に 
そもそも今回の大統領選自体が異例だった。国会から汚職疑惑を突き付けられた現職のラソ大統領が弾劾を避けるために5月に国会の解散を決めた。このため総選挙と同時に、大統領選が大幅な前倒しで実施された。

大統領選には8人(ラソ大統領は不出馬)が立候補したが、選挙期間中の今月9日には、政治腐敗の一掃を訴えていた男性候補が首都キトでの集会後に武装グループに射殺された。

メキシコの犯罪グループの関与が取りざたされているが、逮捕された6人はいずれもコロンビア人で、動機などは解明されていない。他にも銃撃や脅迫が相次ぎ、各候補は防弾チョッキを着用して街頭に立ち、投票日には10万人の警察官や兵士が投票所などに動員された。

エクアドルの選挙管理委員会によると20日の投票でトップに立ったのは反米左派のコレア元大統領が支持するルイサ・ゴンサレス氏(45)で約33%の票を獲得した。国会議員などを務めた女性政治家で、低所得層向けの政策を掲げて安定した戦いを見せた。

それでもコレア元大統領が汚職の罪で懲役8年の判決を受けながら、受刑を回避するためベルギーに亡命していることへの国民の批判は強く、思った以上に支持は広がらなかった。

■無名の政治家は米国で学ぶ 世論調査では支持率1桁
2位に入ったのは中道右派のビジネスマン、ダニエル・ノボア氏(35)だ。得票率は約24%だった。エクアドル大統領選は得票率が50%を上回るか、40%以上でもライバル候補を10ポイント以上引き離した場合は1回目の投票で大統領が決まるが、そうでない場合は決選投票が行われる。ゴンサレス氏とノボア氏はこのルールに基づき10月15日の決選投票に臨む。

ノボア氏はエクアドルの「バナナ王」として有名なアルバロ・ノボア氏の長男だ。事前の世論調査では支持率1桁台が続き、当選ラインにはほど遠い存在だった。このため、あまりニュースにも取り上げられなかったが、本番で驚きの数字を叩き出した。地元メディアは、若さに加えて、討論会などでの主張の明確さが有権者の心をつかんだと分析している。

2021年以降、国会議員を務めていたが、政治経験は浅い。父親のアルバロ・ノボア氏はバナナ産業に君臨する一方で、大統領選に5回立候補し、あと一歩のところで当選を逃し、政治的にも有名人ではあるが、エクアドルの有権者にとって長男のダニエル・ノボア氏は「無名」の政治家である。ニューヨーク大学など米国の大学で学び、18歳の時には会社を立ち上げていたという。(中略)

(麻薬組織絡みの犯罪が急激に増加している港湾都市)グアヤキルはノボア氏の故郷でもある。大統領選での最大の焦点は治安問題で、有権者はエクアドルの経済を支えるバナナを「食い物」にする麻薬組織に、2人の候補がどう向き合うのかを注視している。【同上】
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【犯罪組織と政治の癒着で進む腐敗】
麻薬組織・ギャングが横行する中南米にあっては、信じがたいほどの殺人事件件数が示すような治安の問題に加え、犯罪組織と政治が癒着する政治腐敗も大きな問題となっています。

****世界腐敗度ランキング、中南米諸国が軒並み過去最低に転落****
ベルリンに拠点を置く反汚職団体「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」が31日発表した2022年の「腐敗認識指数」ランキングで、グアテマラ、ニカラグア、キューバがそれぞれ過去最低の順位に転落した。公共機関による組織犯罪、政治・経済エリートによる人選、人権侵害の増加が背景という。

TIのデリラ・フェレイラ・ルビオ会長は「弱い政府は犯罪網や社会的葛藤、暴力を食い止めることができず、一部では治安対策に名を借りた権力集中により脅威が増大する事態が見られる」と述べた。

TIは同指数を毎年発表。世界の国・地域を対象に、財界幹部らによる腐敗レベルの認識度を0(「極めて腐敗している」)から100(「極めて清潔」)で数値化し、ランキングしている。

米州の平均は43。中南米では犯罪組織が公共機関に食い込んでいるベネズエラとニカラグアの清潔度が最も低かった。【2月1日 ロイター】
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ベネズエラの反米左派マドゥロ政権の失政・強権支配についてはこれまでも度々取り上げてきました。
中米ニカラグアでも反米左派のオルテガ政権が政権に批判的なメディアを停止し、カトリック司祭を起訴し、EU大使を追放するなど強権支配を続けています。アメリカは経済制裁で圧力をかけていますが、ベネズエラ同様に状況を変えるまでには至っていません。

【中米エルサルバドル 軍投入のギャング摘発で人口の1%を検挙 巨大刑務所オープン】
世界で最も治安が劣悪な国の一つとされる中米エルサルバドルでは、やはり強権支配のブケレ大統領がギャング摘発に軍を投入し、殺人件数は半減したとか。

****昨年の殺人が半減=「強権」大統領の強硬策奏功―エルサルバドル****
世界で最も治安が劣悪な国の一つとされる中米エルサルバドルで、2022年の殺人件数が前年の半分以下に減少したことが分かった。政府が6日までに発表した。

強権体質を指摘されるブケレ大統領は、昨年3月27日に非常事態宣言を発令。市民権を一部制限し、軍を投入して「マラス」と総称されるギャング組織の摘発に取り組み、6万1300人以上を検挙したという。【1月7日 時事】 
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6万1300人以上を検挙・・・人口の1%にあたります。日本なら120万人!!
大量摘発すれば、刑務所も必要になります。刑務所の過密状態は映画などでもお馴染みの光景。
そこで、4万人収容可能な「米州最大」(当局者)、東京ドーム35個分の巨大刑務所をオープンしました。

****地上の地獄──血まみれの土地に巨大刑務所開設、エルサルバドル****
中央アメリカ中部に位置するエルサルバドル。この国に、地上の地獄と言えそうな新しい刑務所ができた。
首都サンサルバドルの南にあるテコルカ市の農村地域に開設された「テロリスト監禁センター(CECOT)」は、アメリカ大陸において最大規模で、施設は8つの鉄筋コンクリートの建物から成る、最大で4万人を収容できる巨大刑務所だ。2月24日、最初の収容者2000人が移送された。

収容者は逮捕されたギャング達。丸刈りにされ、上半身裸の2000人もの男性が後ろ手に手錠をかけられ、足は鎖でつながれている。収容者のアイデンティティは剥奪される。収容者100 人に対して80のベッドしかないと、英デイリーメールは報じている。

「支配」を究極のレベルに
刑務所は受刑者の生活を支配し、自由を奪うように設計されるが、CECOTはそれを究極のレベルまで引き上げている。

エルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領は、同国の他の刑務所では受刑者が、売春婦を呼んだり、テレビ視聴、さらにプレイステーションを楽しみ、電話の使用ができてしまう環境だと主張している。こういった行為はCECOTでは、一切許されない。

外界との接触を不可能にするため、携帯電話の信号を遮断する電子スクランブラーを導入。脱走防止策として、頑丈な鋼鉄の独房、周囲を囲う壁、19の監視塔、 電気柵、パトロールエリアといった、7つの「壁」を作った。

ギャングへの強いメッセージ
エルサルバドル政府がここまで強烈な刑務所を作ったのは、国を悩ませてきた暴力的なギャング達の、暴力の応酬に終止符を打ちたいからだ。

約12年間続いた内戦は終わったものの、戦中に流出した武器が国内に大量に残されており、ギャングによる犯罪が横行している。経済状況は停滞し、貧困率も高く、治安は悪化の一途。米『グローバル・ファイナンス』が発表した「世界で最も治安の良い国ランキング」によると、エルサルバドルは105位だ。

ギャングの麻薬密売と恐喝は、エルサルバドルの日常の一部と化し、毎日10〜20人が殺されていたという。

2020年に政府は「領土管理計画」として知られる治安政策を打ちだし、独房への自然光をすべて遮断すること、家族の訪問を禁止すること、囚人を鎖でつなぐことを含む強硬策に出た。それでもギャングの勢いは止まらなかった。新型コロナウイルスによるパンデミックの間、犯罪はさらに増えた。

2022年3月に、わずか1日のうちにギャングによる殺人事件が62件発生した後、国会は非常事態を宣言。そして 12 月には、1万人の政府軍が首都のソヤパンゴ地区を包囲。すべての道路が封鎖され、特殊部隊が家々を回りギャングのメンバーを探した。

この「ギャングとの戦い」の最初の1ヶ月で、少なくとも1万7,000人が逮捕され、投獄された。最終的に逮捕者は 6万4,000人になった。エルサルバドルの人口 630 万人のほぼ1%に相当する数だ。

人権団体からの非難も出たが、ブケレ大統領のギャングに対する強硬姿勢は国民からの支持を集め、ある世論調査では90%の支持率が示された。そして、大統領の命令で、CECOTの建設が始まった。「目的は、ギャングを完全に消滅させることだ」と、ルネ・メリノ国防大臣は言った。

とはいえ忘れてはならないのは、残忍な扱いは残忍な人々を生み出す温床になるということ。最終的に、刑期を終えた罪人は解放される。家畜のような扱いを何年も受けた彼らは怒りに燃える可能性がある。エルサルバドルの冷酷な努力は、この血まみれの土地をより危険なものにするだけかもしれない。【3月2日 佐藤太郎氏 Newsweek】
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【中米ハイチ ギャング横行で国家機能破綻 自警団の暴力も問題化】
「麻薬戦争」ということで何度も取り上げたメキシコは相変わらずのようです。
“谷底から遺体入り袋45個発見 メキシコ”【6月2日 AFP】
“冷蔵庫から13人の遺体発見 メキシコ”【8月15日 AFP】

ギャングの横行で国家機能が破綻しているのが、地震(2010年)・ハリケーン(2016年)被害から復興できないハイチ。

****ハイチで殺人・レイプ・誘拐が横行 国連、「衝撃的」と警鐘****
国連は(4月)26日、中米ハイチでギャングによる暴力が急増しているとして、秩序回復に向け国際部隊の派遣を改めて呼び掛けた。

ハイチ問題に関する国連特使のマリア・イサベル・サルバドル氏は安全保障理事会で、首都ポルトープランスや周辺地域のかつて比較的安全とされていた地区で、過去3か月間に暴力犯罪が「衝撃的な」ペースで増加していると指摘した。

ハイチ警察と国連の統計によると、殺人、レイプ、誘拐、リンチなど暴力犯罪の件数は今年1〜3月は1647件と、前年同期(692件)の2倍以上になった。

同氏は、国連が行った聞き取り調査の結果、「ギャングが集団レイプを含む性的暴力を通じ、対抗勢力の支配地域の住民に恐怖と苦痛を与えている実態」も明らかになったと述べた。

凶悪犯罪の犠牲者には子どもも含まれ、教室で撃たれたり、学校への送迎の車から降りたところで誘拐されたりする事件も起きているという。(中略)

ハイチでは2021年7月、コロンビア人傭兵を中心とする武装集団によってジョブネル・モイーズ大統領が暗殺されたのをきっかけに、治安が悪化の一途をたどっている。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は数か月前から安保理に対し、秩序回復を支援する国際部隊の派遣を求めているが、主導しようとする国が見当たらない状況だ。

安保理に出席したハイチのジャン・ビクトル・ジェネウス外相は、過去48時間にも治安は一段と悪化しているとし、「手遅れになる前に迅速な行動を」と訴えた。 【4月27日 AFP】AFPBB News
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こうしたギャングの暴力に対し、住民は自警団を組織して対抗。その自警団の暴力も問題になっています。
“住民がギャングをリンチか、投石し生きたまま焼く ハイチ”【4月25日 AFP】

(ハイチ問題に関する国連特使)サルバドル氏は、警察がほとんど機能しない中、「自分たちの手で問題解決を図ろうとする」住民が現れ始めていると指摘。こうした動きは「地域全体に予測不能な結果をもたらし、社会基盤の崩壊につながる」恐れがあると警鐘を鳴らしています。

****ハイチ、ギャング絡みで今年すでに2400人超死亡 国連****
国連人権高等弁務官事務所は18日、ギャング絡みの暴力事件がまん延するハイチで、今年に入ってからの死者がすでに2400人以上に上ったと報告した。うち350人超が、地元住民や自警団のリンチ(私刑)による死者だという。

首都ポルトープランスでは、今週だけで住民30人が死亡、10人超が負傷した。

OHCHRのラビナ・シャムダサニ報道官はスイス・ジュネーブで行った記者会見で、「今年1月1日〜8月15日に、少なくとも2439人が殺害され、902人が負傷した。また、951人が拉致された」と明らかにした。

その上でシャムダサニ氏は、ギャングの暴力に対する怒りが膨れ上がり、私刑団や自警団が増え、さらなる暴力を生んでいると警告した。

同氏によると、「4月24日〜8月中旬に、地元住民や自警団のリンチを受けた人は350人超」で、うち310人がギャング構成員、1人は警察官で、それ以外は一般市民だった。

ポルトープランスでは、約80%がギャングの支配下に置かれている。拠点の一つとなっているカルフールフォイユ地区では、身代金目的の誘拐やカージャック、レイプ、武装強盗などが頻発しており、当局の話では、暴力から逃れるためここ数日で約5000人が避難したという。 【8月18日 AFP】
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まさに弱肉強食の暴力支配の社会です。

“国連のアントニオ・グテレス事務総長は(7月)1日、ポルトープランスを視察。「残忍なギャングがハイチの人々を完全に支配している」と述べた。警察を支援し、ギャング組織を「解体」するための部隊派遣を再度求めた。

部隊の派遣については、参加する意思を示した国もいくつかあるが、音頭を取る国はいない。ハイチではこれまで、何度も国際的介入が行われたが、すべて失敗に終わっている。”【7月7日 AFP】

大地震後に投入された国連平和維持(PKO)部隊によってコレラが持ち込まれ、1万人近くが死亡するという悲劇もあり、国連活動への住民感情も良くないと思われます。
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サウジアラビア  国境警備隊がエチオピアからの難民を銃撃・砲撃 数百人殺害と人権団体公表

2023-08-23 23:36:39 | 難民・移民

(イエメン側のサウジアラビアとの国境地帯で墓を掘る移民ら=2023年4月24日公開の動画から、ヒューマン・ライツ・ウォッチ提供・ロイター【8月23日 毎日】)

【再燃するエチオピアの内戦 今度はアムハラ州】
アフリカ東部エチオピアでは、ノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍と以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、更にオロモ人主体の反政府武装勢力なども加わって混乱を極めていましたが、昨年11月にはエチオピア政府とティグレ人勢力の間で政府側に有利な内容で和平合意が締結されました。

****一筋縄ではないエチオピア和平交渉の勝者と敗者****
11月2日、2年間に渡り数十万人の死者、数百万人の避難民と人道危機をもたらしたエチオピア内戦を終わらせる合意が、南アフリカのプレトリアにおいて、アフリカ連合の仲介の下、エチオピア政府とティグライ族代表の下で署名された。和平交渉の成り行きには悲観的な見方もあったため、この合意は驚きももって受け取られた。

合意は欧米を始めとする各国政府及び海外メデイアからは概ね歓迎されているが、ニューヨーク・タイムズ紙のナイロビ特派員のラティフは、11月3日付の解説記事‘Details in Ethiopia’s Peace Deal Reveal Clear Winners and Losers’で、合意内容がティグライ族に一方的な降伏を求めるようなものであるとして、現実に平和が回復されるのかを危ぶむ見方があることを紹介している。主要点は次の通り。

・専門家によれば、この合意は、戦争を始めたアビー首相にとっての決定的な勝利のように見え、ティグライ勢力指導者にとっては、配下のティグライ族の納得を得るのが難しいかもしれない。

・合意自体は、未だ公表されていないが、ティグライの部隊を30日以内に完全に武装解除することを求めており、両軍の司令官は5日以内に会合を開き、武装解除の方法を検討することになっている。

・この協定は、連邦政府軍が「迅速、円滑、平和的、かつ協調的」にティグライ州の州都メケルに進駐し、連邦治安部隊による州内のすべての空港、高速道路等を掌握することとされている。これらの部隊は過去2年間ティグライ人と戦ってきた兵士であり、一部は戦争犯罪に相当する残虐行為を行ったとして人権団体や国連から非難されている者もいる。

・アビー首相は3日、この合意を歓迎し、連邦軍の戦場での「歴史的勝利」が和平合意に道を開くことになったと称賛した。彼はティグライ人に流血を終わらせるよう呼びかけ、策略、悪事、妨害行為はこのあたりで止めるべきだと述べた。

・ティグライの指導者たちはコメントの求めに応じなかったが、専門家は、ティグライ軍に「2年間戦ってきた敵の前で自発的に武装解除する」よう説得することは、降伏と見なされ、「極めて議論を呼ぶ問題」となろうと述べた。

・アビーはティグライ勢力を打ち負かしたかもしれないが、国内の他の地域ではまだ不安を抱えている。ここ数カ月、オロミア地方とソマリア地方で民族間の攻撃が相次ぎ、すでに壊滅的な干ばつと感染症の発生に直面しているこの国は、さらに不安定化している。多くのエチオピア人は、この和平合意が切望されていた休息をもたらすことを期待している。

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2020年11月3日に勃発したエチオピア内戦は、アビーが、その権威に逆らった抵抗勢力であるティグライの指導者に対して支配力を行使しようとしたものである。

ティグライ民族の指導者たちは、エチオピアでは少数民族でありながら、30年近く政府の主要な権力を握っていたが、アビーは、18年に政権を獲得してすぐに彼らを追い出していた。(中略)

それでも懸念事項は山積
これらのことがその通り実施されれば大変結構なことであるが、ついこの間まで激烈な戦闘を繰り返していた、勇猛果敢で知られるティグライ人戦闘員らが、何らの保証もなしに素直に武装解除に応ずるのかは疑問であり、身柄の拘束や報復行為が行われないかといった不安もあるであろう。

平和維持や文民保護のために国連やアフリカ連合の国連平和維持活動(PKO)が介入する訳でもなく、合意事項の実現を監視し担保する仕組みが特にある訳でもなさそうである。

また、内戦中に行われた数々の非人道的な戦争犯罪がどう処理されるのかも不明である。特に、エチオピア政府を支援して軍事介入を行い、その部隊が戦争犯罪を行ったと非難されているエリトリア政府やティグライ州と領有権を巡る紛争地を持つアムハラ州や同州の武装グループがこの和平プロセスに参加していないことも、気掛かりである。

しかし、これまで和平交渉を拒否して来たティグライ側が、交渉に応じ、戦闘員の身の安全を連邦政府軍の善意に委ねることに合意した事実は重く、その背景には、軍事的にこれ以上の意味ある抵抗ができないくらいに追い詰められている状況があるものとみられる。

昨年、一時は、反乱軍側がアディスアベバに迫ろうという時期もあったが、戦況が逆転したのは、政府側がアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、イランから攻撃用ドローンを大量に入手し活用したことによる。その後も、ドローンは有力な兵器としてティグライ側を追い詰めることに有効であったようである。

いずれにせよ、オバサンジョ元ナイジェリア大統領がアフリカ連合を代表して「この合意で和平プロセスが完了したのではなく始まったばかりなのだ」と述べたのは正しい指摘である。

国連、アフリカ連合、及び米国を始めとする主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)等、国際社会は一致して今般の和平合意プロセスが確立し履行されエチオピアに平和と安定が戻る様、常に関与し圧力を継続する必要があろう。日本も和平プロセスに積極的に関与することが求められる。【2022年11月25日 WEDGE】
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ここでもドローンが戦況を決定づけたようです。(8月16日ブログ““ドローン戦争”の様相を呈する現代の戦争 日本の対応は?”)

上記記事でも“ティグライ州と領有権を巡る紛争地を持つアムハラ州や同州の武装グループがこの和平プロセスに参加していないこと”への懸念が指摘されていましたが、実際、今月に入りアムハラ州での武力衝突激化が報じられています。

アムハラ州の民兵組織は北部ティグレ州での紛争時、独自のティグレ州との確執を背景に、政府に協力して反政府勢力ティグレ人民解放戦線(TPLF)と戦いましたが、停戦後に政府が正規軍以外の武装解除に乗り出したことに反発し、政府軍と敵対するようになっていました。

****エチオピア北部、6カ月の非常事態宣言 武力衝突が激化****
エチオピア政府は(8月)4日、北部アムハラ州で政府側と民兵組織との武力衝突が激化しているとして、同州を対象に非常事態宣言を発令した。

今週初めに起きた衝突は、アムハラ州に隣接するティグレ州で2020年11月に発生した紛争が昨年11月に停戦となって以降で最も深刻な治安危機をもたらしている。

非常事態宣言により政府は外出や集会禁止などを命じられるようになるほか、令状なしの身柄拘束や捜査を行う権限なども与えられる。【8月7日 ロイター】
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****空爆か、26人死亡 エチオピア北部****
エチオピア北部アムハラ州の町フィノテセラム中心部に13日、空爆とみられる攻撃があり、少なくとも26人が死亡した。ロイター通信が14日報じた。同州では政府軍と民兵組織との武力衝突が激化している。

攻撃実行者は明らかになっていないが、昨年11月に停戦した北部ティグレ州を中心とした紛争では、政府側によるとみられる空爆が頻発し、多くの住民が犠牲になった。【8月15日 共同】
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【干ばつによる飢餓も】
上記のような内戦に加え、エチオピアでは深刻な干ばつによる飢餓が広がっています。

****子ども500万人食料難に エチオピア、干ばつ被害****
アフリカ東部が過去数十年で最悪の干ばつ被害に見舞われている。国連児童基金(ユニセフ)エチオピア事務所の篭嶋真理子副代表が4日までに東京都内で共同通信のインタビューに応じ、エチオピアだけで500万人以上の子どもが食料難に直面していると明らかにした。

温室効果ガスをほとんど排出しない地域で今、気候変動により子どもが亡くなりかけている」と述べ、国際社会に早急な対応を訴えた。

干ばつは気候変動が一因とみられ、3年ほど前、隣国ソマリアとケニアを合わせた3カ国で始まった。農地が枯れ、住民の貴重な財産である多数の家畜も死んだ。今年に入り降雨が確認されたものの、十分なかんがい施設はなく一部地域で洪水が発生。コレラなどの感染症も流行している。

篭嶋さんによると、人口約1億2千万人のエチオピアでは、70万人ほどの乳幼児が重度の急性栄養失調の危機にさらされている。「家族が生き延びるため、幼い娘を結婚させるケースが増えている」と指摘。10歳ぐらいで児童婚を強いられる少女もいるという。【7月4日 共同】
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【サウジアラビア国境警備隊 エチオピアからの難民を銃撃 数百人殺害と人権団体が報告 サウジは否定】
こうした内戦の混乱、干ばつによる飢餓によって生活に困窮した者は難民となって国外に出る動きがあります。
難民に利用されているのが、アデン湾を渡り、イエメンを経由してサウジアラビアに至るルートです。

そのエチオピアからの不法移民(難民)にサウジアラビの国境警備隊が銃弾を浴びせるなどして、2022年3月~23年6月に「少なくとも数百人を殺害した」と国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」が発表しています。砲撃もあったとも。サウジ側は事実無根と否定しています。

****サウジ国境警備隊、エチオピア不法移民数百人を殺害 HRW報告****
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は21日、サウジアラビアの国境警備隊が昨年以降、イエメンから越境を試みたエチオピアの不法移民に「雨のように」銃弾を浴びせ、数百人を殺害したとの報告書を公開した。
サウジ政府筋はこれについて、「事実無根」だと否定している。

HRWがインタビューしたエチオピア・オロミア州出身の女性は、サウジの国境警備隊が当局に解放されたばかりの移民集団に向かって発砲したと証言した。
「(銃弾が)雨のように降ってきた。思い出すと涙が出る」「ある男性が、両足を撃たれ動けなくなり、助けを求め叫んでいたけれど、みんな自分の命を守るのに必死で助けられなかった」

HRWの調査員ナディア・ハードマン氏は声明で「サウジ当局は人里離れた国境地帯で、数百人もの移民・亡命希望者を殺害している」とし、「サウジはイメージ向上のためにゴルフの大会やサッカークラブ、エンターテインメントのイベント誘致に巨額の金を費やしているが、これらの恐ろしい犯罪から注意をそらすべきではない」と強調した。

サウジの長年の同盟国である米国も「徹底的かつ透明性のある調査」を行うよう求めた。
米国務省の報道官は、これらの疑惑についてサウジ政府に懸念を表明したとした上で、「サウジ当局には国際法に定められた義務を果たすよう強く求める」と述べた。

サウジ政府筋はAFPに対し、HRWの主張は「事実無根で、信頼に足る情報源に基づいていない」と述べた。

国連のステファン・ドゥジャリク事務総長報道官は、HRWの報告書は「非常に憂慮すべきもの」だが、疑惑の真偽を確かめるのは難しいと述べた。

HRWは、移民の殺害は「幅広く、組織的に」行われていると見られ、人道に対する罪に当たる恐れがあるとしている。

国連は昨年、サウジ南部とイエメン北部で2022年1〜4月に「移民約430人が、サウジの治安部隊による国境を越えた側への砲撃と発砲で殺害された」恐れがあると報告していた。

HRWによると、サウジ当局に書簡を送付したが、反応はなかった。

報告書は、イエメンからサウジに入国しようとしたエチオピア人移民38人へのインタビューをはじめ、衛星画像やソーシャルメディア、「他のソースから集めた」動画や画像を基にまとめられた。

それによると、調査対象者の証言から、砲撃を含む28件の「爆発する武器の使用」があったことが分かった。
近距離から攻撃されたとする証言もあった。エチオピア人移民に「手足のどこを撃たれたいか」と尋ねた国境警備隊もいたという。

さらに、レイプの強要や石や鉄棒での殴打があったと証言する人もいた。

HRWはサウジ政府に対し、移民や亡命希望者に向けて殺傷能力のある武器の使用する政策を撤廃するよう訴えた。また、国連に対しては、今回の件について調査を要請した。 【8月22日 AFP】
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****サウジ国境警備隊、エチオピア人移民を数百人殺害か 国際人権団体報告****
(中略)東アフリカのエチオピアでは20〜22年、北部ティグレ州を拠点とするティグレ人民解放戦線と政府軍の内戦があり、食料不足などの人道危機が深刻化。和平合意が結ばれたものの経済状況は厳しく、国外脱出を目指す人も少なくない。HRWの報告書によると、サウジでは約75万人のエチオピア人が働いているという。

サウジを目指すエチオピア人の多くは密航業者を通じ、隣国ジブチからボートでアデン湾を渡り、イエメンに入国。その後、北上してサウジへの越境を目指す。

イエメンでは15年から内戦が続いているうえ、サウジとの国境地帯には地雷が埋められている可能性もあり、極めて危険なルートとされる。移民には女性や子供も多く含まれているという。【8月23日 毎日】
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経由地イエメンの内戦、サウジ国境の地雷に加え、ボートでアデン湾を渡る際の“業者”に関して、利用者が追加料金を払わないと殴って海に捨てるなどの悪辣な行為が昔から絶えません。

そうした危険に加えて、サウジアラビア国境警備隊の銃弾・暴力・レイプ・・・

真相は未だ不明ですが、カショギ氏の暗殺事件や、東南アジア諸国からの出稼ぎメイドへの虐待など、サウジアラビアの人権意識には大きな疑問もありますので、「サウジアラビアならやりかねない・・・」という“憶測”も。

アメリカ・バイデン政権は、9.11へのサウジの関与やカショギ氏暗殺事件などへのアメリカ国内のサウジ批判を抑えて、国際政治上の利害から中東の地域大国サウジアラビア、その実力者ムハンマド皇太子との関係を改善しようとしてきましたが、こうした事件が表面化するとおいそれとサウジとの関係を強める訳にもいかなくなります。

エチオピアはサウジアラビアとの共同調査を開始すると発表しています。

****エチオピアとサウジアラビア、国境での銃撃事件を調査****
エチオピアはサウジアラビア当局と協力し、数百人のエチオピア人移民がサウジアラビアの国境警備隊に殺害されたとの人権団体の申し立てを調査すると、アディスアベバの外務省が火曜日発表した。(中略)

エチオピア外務省は次のように述べた: 「エチオピア政府は、サウジアラビア当局と連携し、速やかに事件を調査する。調査が完了するまでは、不必要な憶測をしないよう、最大限の自制をするよう強く勧告する」と述べた。

人権団体は、イエメン国境沿いに配置されたサウジアラビアの警備隊が、人里離れた山道を歩いて国境を越える移民を「広範かつ組織的に」攻撃していると非難した。

アフリカの角からアデン湾を渡り、イエメンを経由してサウジアラビアに至る移民ルートは、エチオピア移民にとってよく確立された通路である。2022年、サウジ当局は、サウジの国境警備隊が組織的に移民を殺害しているという国連の申し立てを強く否定した。

国際移住機関によると、サウジアラビアには約75万人のエチオピア人が住んでおり、そのうち少なくとも45万人は不法入国者であろう。エチオピア北部のティグライ地方では、2年にわたる内戦で数万人が避難した。【8月22日 ARAB NEWS】
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難民・移民の悲劇については、ボートの海難事故も頻繁に報じられていますが、地中海沿岸を襲っている熱波による山火事も・・・

****山火事が続くギリシャ北東部で18人の焼死体 トルコからの不法移民か****
乾燥した空気や強風などによってヨーロッパ各地で山火事が相次いでいます。ギリシャ北東部では、移民とみられる18人の焼死体が発見されました。

山火事が続くギリシャ北東部アレクサンドルポリスの近くで22日、18人の遺体が見つかったと消防当局が発表しました。隣のトルコからの不法移民の可能性があるとみて調べています。(後略)【8月23日 ABEMA TIMES】
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カンボジア  フン・セン氏長男が新首相に 政権丸ごと世襲でフン・セン院政 世代交代の側面も

2023-08-22 22:10:35 | 東南アジア

(新首相に就任したフン・マネット氏=プノンペンで2023年8月22日【8月22日 毎日】)

【「世襲」新政権はフン・セン氏ら「親世代」の監視下に 新首相は欧米留学経験も】
既定路線に沿った動きで特段の意外性もありませんが、カンボジアでは先の総選挙での圧勝を受けて(有力野党を排除しての選挙ですから当然の結果です)、38年間首相を勤め強権支配の色を濃くしているフン・セン首相(71)から長男フン・マネット氏(45)への政権引継ぎが行われました。

単に首相職だけでなく、閣僚についても有力者の世襲が行われるという、権力機構全体がまるごと世襲される形です。

****カンボジアで前首相長男の新政権が発足 内相ら主要閣僚も「世襲」****
カンボジア下院は22日、40年近く実権を握ってきたフン・セン前首相(71)の長男、フン・マネット氏(45)の首相就任を承認し、新政権が発足した。

7月23日に行われた下院総選挙で与党「人民党」から出馬し初当選。同党を率いるフン・セン氏は、総選挙前からフン・マネット氏を後継指名し、新内閣の人選にも強く関与したとされる。フン・セン氏は来年には上院議長に就くとみられており、今後も「院政」を敷いて影響力を維持する見通しだ。

新内閣の顔ぶれは40〜50代が中心で若返りが図られたが、首相だけでなく内相や国防相といった主要閣僚も「世襲」で選ばれた。新政権はフン・セン氏ら「親世代」の監視下に置かれることになり、前政権の方針を踏襲することになる。また、外交面でもこれまでの親中路線から大きく変わらないとみられる。

中国の王毅外相は13日にプノンペンで、首相就任前のフン・マネット氏といち早く会談した。中国はカンボジアを海洋戦略の重要拠点と位置づけており、経済支援と引き換えにフン・セン氏の親中政策の継承を確認したとみられる。

 ◇欧米諸国は関係改善を期待
一方、欧米諸国は米英両国に留学経験があるフン・マネット氏に関係改善を期待する。これまで強権的なフン・セン氏を非難し、厳しい制裁を科してきたが、今回の下院選をめぐっては、態度を少し軟化させた。

フン・マネット氏は9月以降、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議や国連総会への出席が予定されており、欧米諸国を意識してバランスを考慮するのかが注目される。

今後の政権運営について、新潟国際情報大の山田裕史准教授(カンボジア政治)は「閣僚ポストは親世代の間の権力関係で決まり、内戦とその後の国家再建といった共通の経験もない。子世代が親世代のように長期にわたって結束を維持できるかわからない」と指摘している。【8月22日 毎日】
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フン・セン首相は、ポルポトの恐怖政治・内戦というカンボジアの未曽有の悲劇を国民とともに経験してきた人物であり、その点では国民との一体感もあったのかも。

そういう国民との、そして有力政治家との共通体験を持たない「子世代」政権がどのように機能するのか注目されます。

10年ほどはフン・セン氏が上院議長職などにとどまり院政を敷くとされていますから、世代が変わると、おのずから政治姿勢にも変化が・・・・あって欲しいものですが、どうでしょうか?

“フン・マネット氏は45歳で、欧米で学んだ後は軍に入隊して陸軍司令官を務めましたが、政治経験はありません。”【8月22日 日テレNEWS】ということで、欧米的価値観も一定に認識しているのでは・・・という期待もあります。

もっとも、北朝鮮の金正恩氏もスイスで学んでいましたが・・・
ただ、米国の陸軍士官学校をカンボジア人として初めて卒業、さらに、米ニューヨーク大学で経済学の修士号、英ブリストル大学で博士号を取得と、軍務でも学問でもなかなかの才能のようです。

【親中国路線は継承】
当面は、前政権方針を引き継ぐ形でしょう。
【毎日】記事にもあるように、13日には“後ろ盾”中国の王毅共産党政治局員兼外相がカンボジアに乗り込んで、フン・マネット氏との会談を済ませています。

****カンボジア世襲後も中国と連携 次期首相が王毅氏と会談****
カンボジアの次期首相に指名されたフン・マネット氏(45)は13日、首都プノンペンで中国の王毅共産党政治局員兼外相と会談した。カンボジアの国営通信社などが伝えた。世襲による新内閣発足前に両国連携の維持と発展を確認したとみられる。

中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の下、高速道路や空港といったインフラ整備で巨額の支援を実施してきた。王毅氏は父親のフン・セン首相(71)とも13日会談し、カンボジアへの「継続的な支援と援助」を表明、新内閣への支持を示した。

40年近く権力の座を維持してきたカンボジアのフン・セン氏は近年、強権姿勢を強めており中国への傾斜を進める。【8月13日 共同】
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【閣僚のうち10人超がフン・セン氏や側近といった人民党有力者の子ども】
それにしても、“閣僚のうち10人超がフン・セン氏や側近といった人民党有力者の子ども”という“政権丸ごと世襲”というのも、「そこまでやるか?」という感じも。

****フン・マネット内閣を承認 私物化批判、カンボジア****
カンボジア下院は22日、40年近く首相を務めたフン・セン氏(71)の後継として長男フン・マネット氏(45)を選任し、世襲による新内閣を承認した。フン・セン氏一族らによる政権の私物化への批判は必至だ。22日午後にも王宮で宣誓就任し、新内閣が正式に発足する。

7月の下院選で有力野党が排除され、与党カンボジア人民党がほぼ全議席を独占した。人民党関係者によると、閣僚のうち10人超がフン・セン氏や側近といった人民党有力者の子どもだ。

フン・セン氏の三男フン・マニー氏(40)や、サイ・チュム上院議長の息子サイ・ソムオル氏(43)が入閣。内相や国防相ポストはそれぞれ世襲となり、世代交代は進んだ。フン・セン政権の閣僚は60代や70代が中心だった。

2006年に下院議長に就任したヘン・サムリン氏(89)の後任は、フン・セン氏一族に近いクオン・ソダリー氏(70)。初の女性議長だという。

閣僚を選んだのはフン・セン氏で、1年以上前から名簿作成に着手していた。【8月22日 共同】
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7月25日ブログ“カンボジア 静かに終わったフン・セン独裁・世襲を正当化するための「総選挙」 後退する民主主義”にも書いたように、“政権の私物化との批判は必至・・・・誰が批判するのか? 議会には野党勢力は実質的になく、社会全体にフン・セン首相の強権支配が及んでいます。 国内では批判が表面化しないところが一番の問題です。”といったところ。

とにもかくにも、フン・マネット新首相がどういう政治を行うのか・・・注目です。
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