孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

レバノン  「薄氷の停戦」 イスラエル軍の南部からの撤退延期発表で更に不透明に

2025-01-25 23:15:53 | 中東情勢

(24日、イスラエル軍の攻撃を受けてレバノン南部で上がる煙(AFP時事)【1月25日 時事】)

【ヒズボラの弱体化、国内の圧力で「薄氷の停戦」】
19日に発効したパレスチナ・ガザ地区のイスラエル・ハマス停戦は2回目の人質・捕虜交換が行われ、解放人質が民間人ではなく女性兵士だったという問題はあるものの、今のところ停戦が維持されています。

一方、一足先の昨年11月27日に発効したレバノンのヒズボラとイスラエルの停戦合意は、イスラエル軍は60日以内にレバノン南部から撤収する。南部には代わってレバノン軍が展開するという内容でした。

一昨年10月以来の、特に昨年9月のイスラエル軍のレバノン南部への地上侵攻以来の戦闘によって指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害されるなどヒズボラは大きな打撃を受け、レバノン国軍より強力と言われる軍事力だけでなく、主要政党としての政治における影響力も低下しました。

“ある情報提供者は、ヒズボラが最大4000人の犠牲を被った可能性があると述べた。2006年に1カ月にわたってイスラエルと戦ったときの死亡者数の10倍を軽く上回る。レバノン当局は今のところ、今回の衝突での犠牲者を約3800人としており、戦闘員と市民の内訳は明らかにしてない。”【11月30日 ロイター】

大きな被害を受けたレバノン国内にはヒズボラに対する批判・不満も強まり、ヒズボラが停戦に応じたのはそうした世論があってのこととされています。

ただ、ヒズボラは「抵抗を続ける」としており、南部にイスラエル軍に代わって展開するレバノン軍の能力不足もあって、停戦合意は極めて不安定とも見られています。

****「パレスチナの代償払わされた」 レバノン停戦、住民には怒りも****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエル軍の停戦発効を受け、レバノン南部では27日、帰還する住民たちの車列ができた。だが、停戦合意違反があれば再びイスラエル軍が攻撃する恐れもあるだけに、住民からは双方に対して合意の順守を求める切実な声が上がった。(中略)

昨年(2023年)10月に始まった一連の戦闘では、レバノンで民間人ら3800人以上が死亡し、100万人以上の住民が自宅を追われた。首都ベイルートやレバノン北部など、地上戦の舞台から離れた場所でも激しい空爆が相次ぎ、多くのインフラや建物が破壊された。

ロイター通信のまとめでは、一連の戦闘で9万9000戸以上の住宅が損壊し、被害額は推定28億ドル(約4200億円)に上る。農業などの産業も打撃を受け、2024年の実質GDP(国内総生産)は戦闘により前年比5・7%減のマイナス成長と予想されている。

レバノンは今回の戦闘が始まる前から政治や経済の混乱が続き、通貨価値の暴落や物価高に苦しんでいた。国際社会の支援がなければ復興が滞り、国内の混乱が深まる可能性もある。

それだけに、住民には怒りの声も渦巻いている。ベイルートから郊外に避難したタクシー運転手、ナメル・タラブルシさん(50)はレバノンの戦闘のきっかけがパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘だったことに触れ、「レバノンが戦争に巻き込まれたことに怒りを感じる。パレスチナ解放のコストとしてレバノンが破壊され、多くの人が死に、避難民になった」と嘆いた。

南部出身の自営業、アフメド・アザムさん(45)も「生計手段や家や家族を失ったのに、イスラエルもレバノンもヒズボラも責任を取らない。我々は政治のために犠牲になった」と怒りをぶちまけた。【2024年11月27日 毎日】
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****レバノン、薄氷の停戦 ヒズボラは国内の圧力に配慮 レバノン軍の任務遂行能力に疑問符****
レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエルとの停戦に合意した背景には、攻撃で大きな損害を被った国内世論の圧力があったもようだ。

ヒズボラ自体も指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害され、多数の軍事施設も破壊された。当面は停戦に応じて態勢を立て直すのが得策だと判断したとみられる。

イスラエル軍は北部から避難している6万人の住民を帰還させるとし、9月以降はレバノン南部への地上侵攻を含めて攻撃を強化した。ヒズボラの支配地域である首都ベイルート南郊のダヒエなどで地下施設も狙える特殊貫通弾(バンカーバスター)も投入して爆撃し、民間人にも多数の犠牲者が出たとされる。

南部を中心にイスラエル軍による避難勧告も相次ぎ、国民生活が寸断された。「レバノンではヒズボラ支持者であっても停戦を求める声が出ている」(英BBC放送)という。民兵組織のほか有力政党も併せ持つヒズボラとしては、レバノンの政界や世論の支持は欠かせない。

当面は後ろ盾であるイランと連携しつつ軍事力の回復を目指す方針とみられ、いずれイスラエルと衝突する可能性は否定できない。

イスラエル軍の撤収に伴い、レバノン南部に展開して停戦監視に当たるレバノン軍の能力にも疑問符が付く。
2006年のイスラエル軍によるレバノン攻撃後に採択された国連安全保障理事会決議1701でも、レバノン軍は同様の任務を担ったが、ヒズボラはイスラエルとの国境に近い南部に浸透して勢力を広げた。

当時と同じ経過をたどらない保証はなく、ヒズボラがレバノン軍と衝突すると懸念する声もある。

停戦合意はイスラエルでも批判を浴びた。同国の有力紙ハーレツ(電子版)によると、ヒズボラの攻撃に悩まされた北部の行政当局者らが「ヒズボラに軍備再増強の機会を与えた」「住民を(帰還させるどころか)遠ざけるだけだ」などと不満を漏らしている。【2024年11月27日 産経】
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【2年ぶりに大統領就任】
ヒズボラの政治への影響力低下もあって、2022年10月から空席になっていた大統領も、今年1月ようやく選任されました。

****レバノン新大統領に軍司令官、米などが支援 ヒズボラ影響力低下****
レバノン国民議会は9日、レバノン軍のジョセフ・アウン司令官(60)を大統領に選出した。米国などが支援する司令官が大統領に就くことで、レバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラの影響力の低下が示された。

アウン氏は2017年に米国が支援するレバノン軍の司令官に就任。米国はレバノンの国家機関を支援することでヒズボラの影響力を抑制する政策を取ってきたが、アウン氏の下でレバノン軍に米国からの支援が行き渡っていた。

アウン氏は大統領選出後に初めて議会で行った演説で、国家のみが排他的に兵器を保有することに尽力すると表明した。

多数の宗教や宗派が混在するレバノンでは権力が分担されており、大統領はキリスト教マロン派から選出される。前大統領の任期が2022年10月に終了して以降、諸派閥の分断を背景に議会で十分な票を獲得できる候補者で合意できず、大統領職は空席になっていた。

レバノン関係筋によると、ヒズボラが支持する候補者が立候補を取り下げ、アウン氏への支持を表明したことで、8日になってアウン氏への支持が高まった。フランスとサウジアラビアの特使がベイルートを頻繁に訪問し、アウン氏の選出を働きかけていたという。

また、サウジアラビア関係筋によると、フランス、サウジ、米国の特使がヒズボラと近い関係にあるレバノン国民議会のベリ議長に対し、サウジなどからの財政支援はアウン氏の大統領選出にかかっていると伝えていた。

アウン氏の大統領選出は、イランとヒズボラが長年にわたり影響力を持っていたレバノンで、サウジの影響力が再び高まったことを示しているとの見方も出ている。

昨年11月に米仏の仲介で合意されたヒズボラとイスラエルの停戦の条件には、双方の部隊撤退に伴いレバノン軍が南レバノンに展開することが含まれている。アウン氏はこの停戦合意を強化に重要な役割を担っていくとみられる。【1月10日 ロイター】
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【イスラエル 「合意履行が不十分」レバノン南部からの撤退を延期 今後の情勢は?】
ようやく復興への足がかりが築けた・・・と言いたいところですが、もとより“薄氷の停戦合意”。60日間のイスラエル軍の撤退期限を前に暗雲が漂っています。

****イスラエル、ヒズボラがイランの支援で「再武装」と国連で批判****
イスラエルのダノン国連大使は13日の国連安全保障理事会で、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラが「イランの支援を受けて力を取り戻し、再武装しようとしている」とし、イスラエルと中東地域の安定にとっての「深刻な脅威」であり続けていると批判した。15カ国で構成する安保理向けの文書で指摘した。

ロイターが報じた昨年12月の米情報によると、イランに支援されたヒズボラは軍備と兵力を再構築しようとしている可能性が高く、米国および地域の同盟国にとって長期的な脅威をもたらすと警告していた。

イスラエルとヒズボラは1年を超える戦闘を経て、昨年11月27日から60日間の停戦に合意した。停戦の条件ではイスラエルとヒズボラによる軍の撤退に合わせ、レバノン軍がレバノン南部に展開することが求められている。

だが、イスラエル、ヒズボラは互いに相手がこの協定に違反していると非難している。

ダノン氏は、レバノン政府と国際社会が「シリアとレバノンの国境や空路、海路を通じた武器、弾薬、資金援助の密輸の抑制」に力を入れることが「不可欠だ」と強調。停戦協定が結ばれてから「ヒズボラに武器や資金を送ろうとする試みが何度かあった」とも指摘した。

ヒズボラと、イランの国連代表部にダノン氏の言及についてコメントを求めたが、すぐには回答がななかった。ヒズボラに近いレバノンの高官筋は疑惑について否定した。【1月14日 ロイター】
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停戦合意では60日の間にレバノン南部からイスラエル軍が徐々に撤退する一方で、ヒズボラが拠点を置くことも認められずレバノン軍に明け渡すのが条件となっていました。

昨年11月の停戦合意にはアメリカ・バイデン政権も関与しています。

****レバノン停戦、監視に米の関与強化 ヒズボラ再台頭阻止へ国軍育成狙う****
バイデン米大統領は(11月)26日、米国が主導したイスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの停戦合意について、「恒久的な敵意停止に向けて設計されたものだ」と説明し、ヒズボラなどの武装勢力がイスラエルの安全を脅かすことがないよう厳しく情勢を監視する考えを示した。停戦監視のために米軍部隊を現地へ派遣する考えはないとも強調した。

停戦合意は、戦闘行為の停止や60日以内にイスラエル軍がレバノン南部占領地域から撤退することなどに加え、米国が、レバノンの旧宗主国であるフランスと共に停戦維持に関与する内容。

イスラエル、レバノンの境界地帯に駐留する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)と両国政府からなる国際委員会に米仏が参加し、実効性を高めることを狙う。

またバイデン政権高官は26日、停戦維持に向け、米国をはじめとする国際社会が「レバノンの国軍や治安部隊の育成と同国の経済再建を支援する」と述べた。

レバノンでは長年、ヒズボラが軍事力で国軍を大きく上回り、押さえがきかない状態が続いてきた。ヒズボラは政府にも強い影響力を持った。

だが、ここ数カ月のイスラエルによる一連の軍事行動や工作活動で、ヒズボラは最高指導者ナスララ師ら最高幹部を失うなど「軍事・政治的に著しく弱体化した」(同高官)。バイデン政権はこの機にヒズボラの権力基盤を崩し、レバノン政府の権威を高めたい考えだ。

ただ、対イスラエルの〝手駒〟を失いたくないイランが、影響下にあるシリアを通じた支援などでヒズボラの再建を図る可能性は高い。

同高官によるとバイデン政権は、停戦合意までの交渉経緯などに関する情報をトランプ次期大統領の政権移行チームにも共有している。レバノン国軍の育成やヒズボラの再台頭を防ぐなどの課題は次期政権に引き継がれることになる。【2024年11月27日 産経】
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“課題は次期政権に引き継がれる”ということで、トランプ大統領の判断が注目されます。トランプ大統領はイスラエル・ネタニヤフ首相と“馬が合う”ことは周知のところですが、イスラエル側の主張を認めるのか・・・。

イスラエルはレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたとも報じられていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるとも。

****イスラエル ヒズボラとの60日間の停戦期限を前に軍撤退の延期を求める****
イスラエルとイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」との間で結ばれた60日間の停戦が期限を迎えるのを前に、イスラエルが軍の撤退に関して延期を求めていることが分かりました。

イスラエルメディアは23日、情報筋の話として、イスラエルがレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたと報じました。

アメリカとフランスがこの要求を受け入れるか協議しているとしていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるということです。

これに対してヒズボラは声明を出し、「期限を超えることは合意のあからさまな違反だ」と非難しています。(後略)【1月24日 テレ朝news】
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イスラエルは、停戦合意をレバノン側が完全に履行していないと指摘し、イスラエル軍のレバノン南部からの撤収は期限までに完了しないとの方針を発表しています。

****イスラエル軍、期限後もレバノン駐留へ 停戦合意「完全履行されていない」****
イスラエル首相府は24日、同国とレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを巡る停戦合意が完全に履行されていないとして、イスラエル軍が撤収期限後もレバノン南部に駐留し続ける方針を示した。

米仏の仲介で昨年11月27日に発効した停戦合意では、イスラエル軍とヒズボラが60日以内にレバノン南部から撤収すると定めており、26日午前4時(日本時間午前11時)が期限となっている。

イスラエル首相府は声明で、同国軍の撤収プロセスは「レバノン軍が南部に展開し、合意を完全かつ効果的に実施し、ヒズボラが撤退することが条件」とし、「レバノンが停戦合意を完全に履行していないため、米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける」と述べた。

ヒズボラは23日、イスラエル軍が撤収を遅らせるのは、容認できない合意違反だとし、レバノン政府に対し「国際憲章で保証されたあらゆる手段と方法」を通して圧力をかけるよう求めていた。【1月24日 ロイター】
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上記イスラエル首相府の発表がトランプ政権の同意を得たものかどうかは知りませんが、“米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける”とのことです。

アメリカと並んで停戦監視に関与している旧宗主国フランスは、マクロン大統領がイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めています。

****イスラエル軍、レバノン撤退加速を=仏大統領****
フランスのマクロン大統領は17日、レバノンの首都ベイルートで演説し、同国内の親イラン民兵組織ヒズボラと停戦合意したイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めた。

マクロン氏は、レバノンのアウン大統領が9日に就任して以来、初めて同国を訪れた外国指導者となった。アウン氏と並んだマクロン氏は「真の、正統なレバノンが戻ってきた」と語り、アウン氏の就任はレバノンが新たな道筋を進む可能性を示していると強調した。

マクロン氏は、レバノン軍だけが同国の武器を掌握すべきだとし、南部での軍強化に支援を表明した。アウン氏は大統領に選出されるまで軍司令官を務めており、同氏の大統領就任は、イスラエルとの戦争でヒズボラが弱体化した後のパワーバランスの移行を意味している。(中略)

一方、レバノン訪問中の国連のグテレス事務総長は17日、イスラエル軍がレバノン南部で占領と軍事行動を続けているのは、停戦合意の土台となった国連決議に違反していると指摘し、「中止しなければならない」と訴えた。【1月20日 ロイター】
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イスラエル軍が60日を過ぎても撤退を完了しないとなると、次はヒズボラがどう出るのか・・・戦闘が再燃するのか・・・ヒズボラにその余力があるのか、イランからの武器供給ルートとなっていたシリアのアサド政権も崩壊した状況で・・・・といったところですが、まだそのあたりに関する情報は目にしていません。

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シリア  コバニ攻撃準備のトルコとクルド人勢力の緊張 空爆で残存化学兵器破壊を目指すイスラエル

2024-12-23 23:38:45 | 中東情勢

(シリアの首都ダマスカスで警備に当たる戦闘員(2024年12月20日、ロイター=共同)【12月23日 JBpress】)

【女子教育尊重でタリバンとの違いをアピールするHTS指導者】
アサド政権崩壊後のシリアは、政権を追放して首都ダマスカスをおさえた「シャーム解放機構(シリア解放機構 HTS 旧ヌスラ戦線)とその指導者ジャウラニ氏を軸に動いています。(“シャーム”とはシリア地域の古代名)

HTSをテロ組織に指定しているアメリカも、テロ組織指定解除も視野に入れて接触を始めています。

****アメリカ国務省高官がシリア訪問 「シリア解放機構」と協議へ、米政府高官の訪問はアサド政権崩壊後初めて テロ組織指定解除も議論か****
アメリカ国務省の高官らがシリアの暫定政府を主導する「シリア解放機構」と協議するため、首都ダマスカスを訪問しました。アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、アサド政権の崩壊後初めてです。

ロイター通信などによりますと、アメリカ国務省の報道担当者は20日、中近東担当のバーバラ・リーフ国務次官補ら3人がダマスカスを訪問中だと明らかにしました。

AP通信によりますと、アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、2012年2月にアメリカ大使館が閉鎖されて以来、およそ13年ぶりで、アサド政権の崩壊後初めてです。

リーフ国務次官補らは、暫定政府を主導する「シリア解放機構」の代表団などと協議を行う予定で、政権移行やアメリカの支援、少数派の保護などについて話し合うということです。

アメリカ政府は「シリア解放機構」をテロ組織に指定していますが、この指定の解除についても議論されるとみられます。

また、2012年にシリアで行方不明になったアメリカ人ジャーナリスト、オースティン・タイス氏についても、主要な議題のひとつになるとみられます。【12月20日 TBS NEWS DIG】
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こうした動きの背景にあるのは、12月18日ブログ“シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?”でも取り上げたように、HTSおよびジャウラニ氏が“現時点では穏健・寛容で正しいことを言っている”ということがあります。

戦略的に見ても、HTS側に“その気”があるうちに、その考えを実行に導きシリアを穏健な形で安定させるというのは賢明でしょう。

****シリア、「アフガンと違い女子教育も」=旧反体制派トップ、穏健アピール****
シリア暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)指導者のジャウラニ氏は19日までに、シリアをイスラム主義組織タリバンが復権したアフガニスタンのような国にするつもりはなく、女子教育の機会を保障する考えを表明した。首都ダマスカスで英BBC放送のインタビューに応じた。

タリバンは2021年の政権奪取後、極端なイスラム法解釈に基づいて女性への高等教育を禁じるなどし、国際社会からの承認は進んでいない。

国際テロ組織アルカイダの流れをくむHTSは、イスラム過激派と見なされることも多い。ジャウラニ氏はタリバンとの違いを強調することで、穏健な印象をアピールした形だ。 

ジャウラニ氏はBBCで、シリアは部族社会のアフガンとは思考が全く違うと指摘。HTSが拠点としてきた北西部イドリブ県では「大学教育が8年以上行われ、大学での女性の比率は60%を超えると思う」と語った。 【12月20日 時事】
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当然ながら、「今はそう言ってるけど、そのうちに本性が・・・タリバンだって復権当時はまともなことも言ってたし・・・」という懸念もありますが、HTSの場合は指導者本人の言葉である点が異なるとも。

****シリアとアフガン 「テロ組織」権力掌握の行く末=松井聡(ワシントン)****
「政府軍はほぼ戦わずに逃げ出した」「国際社会は権力を掌握したテロ組織とどう向き合うべきなのか」――。

シリアのアサド政権崩壊に関する言及だと思う人も多いかもしれないが、2021年に南アジアを担当するニューデリー特派員として、アフガニスタンのイスラム組織タリバンの復権を取材した際に、タリバン幹部や国連関係者から聞いた言葉だ。

現在は北米総局員としてワシントンから米政府の動きを中心にシリア情勢を追う中で、アフガンを巡る情勢との類似性を感じている。国際社会が、権力を掌握した「テロ組織」とどう向き合うのかという課題は最も大きな共通点だ。

米政府はタリバンを「特別指定グローバルテロ組織(SDGT)」、シリアで反体制派を主導してきた「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を「外国テロ組織(FTO)」に指定している。

HTSは国際テロ組織アルカイダ系が源流だが、現在はキリスト教徒や少数派の保護など穏健な政策を強調している。

実は、タリバンも復権に前後して、「恐怖政治」だとして批判された旧政権時代(1996〜2001年)からの穏健化を強調していた。

ただ復権後も中学以上の女子教育を禁止するなど強硬路線は続いており、いまだにどの国からも国家承認されていない。これを引き合いに、「HTSは信用できない」と指摘する専門家もいる。

ただHTSとタリバンには違いもある。当時タリバンで積極的に「穏健化」を発信していたのは、各国との交渉窓口になっていた「政治事務所」のメンバーだった。国際社会と協調する重要性も理解しており、私も何度も取材したが、「タリバンは変わるだろう」と思う場面が少なからずあった。

だが復権後、実際に意思決定しているとみられるのは強硬派で最高指導者のアクンザダ師だ。タリバン内には同師に対して不満の声があるとも伝えられるが、国際社会は手詰まりのように見える。

一方、HTSで穏健路線を明言しているのは指導者のジャウラニ氏自身だ。内部の力学は不透明だが、タリバンに比べれば、その発言が実現される可能性は高いかもしれない。国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある。【12月22日 毎日】
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“国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある”・・・まさに、そういうことでしょう。HTSがその期待に応えてくれることを願いながら。

なお、本来HTSとアルカイダの関係は単なる「名義貸し」に過ぎず、HTSおよびジャウラニ氏は思想的にも、実際やってきたことも非常に寛容で穏健であるとの指摘も(12月23日 JBpress 黒井文太郎氏“「シリアで新たな独裁が始まる」は本当か? アサド政権を倒した反体制派組織「HTS」の意外な素顔”)

【トルコvs.クルド人勢力 クルド人にとって内戦の象徴的拠点コバニ トルコはコバニ攻撃準備】
シリア国内での戦闘再燃の火種としてくすぶっている問題のひとつがクルド人勢力とトルコの対立。

18日ブログでは“米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。”【12月18日 ロイター】との報道をもとに、“現時点ではコントロールされているようです”とも書いたのですが、トルコはその後、この報道を否定しています。

****トルコ、米支援クルド勢力SDFとの停戦否定 「米発表は誤り」*****
トルコ国防省関係者は19日、シリア北部で米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコが停戦合意に達したという米側の発表は誤りだと述べた。

米国務省は17日、トルコとの国境に近いマンビジュ周辺での停戦は今週末まで延長されると発表していた。

トルコ政府関係者は匿名を条件に「トルコとしては、いかなるテロ組織との協議もあり得ない。米国の発表は間違いだ」と記者団に述べた。

一方、SDFはトルコが停戦に向けた国際的な努力に反し攻撃を続けていると非難し、戦闘を続ける構えを示した。

シリアのアサド政権が崩壊し、各地で武装勢力による戦闘が勃発する中、米政府は先週、トルコが支援するシリアの元反体制派とSDFの最初の停戦を仲介した。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、トルコはその中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

トルコ政府高官は、シリア北部への地上作戦を再検討しているかとの質問に、依然としてシリア北部から国境への脅威を感じていると述べた。【12月20日 ロイター】
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一方のクルド人勢力「シリア民主軍(SDF)」側は、トルコに対し停戦と引きかえの一定の譲歩も提案しています。

****シリア民主軍、トルコと全面停戦なら非シリア系兵は撤退へ=司令官****
米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」のマズロウム・アブディ司令官は19日、ロイターに対し、トルコとの国境に近いシリア北部でのトルコとの紛争が全面的な停戦に至った場合、支援のために中東各地から来た非シリア系クルド人兵士らが撤退するとの見通しを示した。

アブディ氏の発言は、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)のメンバーを含めた非シリア系クルド人兵士がSDF支援のためにシリアに来たことを初めて認めた。トルコや米国などはPKKをテロリスト集団と見なしている。

アブディ氏は「シリアにはこれまでとは違った状況があり、政治的な段階を始めようとしている。シリア人は自分たちで問題を解決し、新しい政権を樹立しなければならない」とし、「トルコ軍および同軍の同盟勢力との間で全面的に停戦した後、この段階に加わる準備を進めている」と言及。

その上で「シリアで新たな動きがあるため、私たちの戦闘を支援してくれた兵士たちは誇りを持ってそれぞれの地域に戻る時だ」との認識を示した。

非シリア系クルド人兵士の撤退は、トルコ側の主要な要求の一つとなっている。トルコはSDFを国家安全保障上の脅威と見なし、シリア北部でのSDFに対する新たな軍事作戦を支援している。

アブディ氏は、トルコおよび同国の同盟勢力がトルコ国境に近いシリア北部の町アインアルアラブ(クルド名、コバニ)を攻撃する準備をしている中で、SDFは撤退を提案していることも表明。

提案によると、国内治安部隊と「全面的な休戦を条件としてこの地域を監督するために」米軍が駐留することになる。一方で「もしも攻撃があった場合には撃退する準備をしている」とも付け加えた。

シリアではアサド政権が約2週間前に崩壊して以来、内戦がエスカレートしている。トルコおよび同国と組むシリアの武装勢力は今月9日、SDFからシリアの都市マンビジュを奪取した。【12月20日 ロイター】
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現在トルコ側が攻撃を準備しているとされるコバニはシリア北部のトルコに接するクルド人居住地域の拠点都市ですが、2014年から2015年年明けにかけて、ISに包囲されたものの、一時は陥落したとも言われながらもクルド人側が多大な犠牲を払いつつも死守しました。

“コバニをめぐる攻防は、当時シリア内戦で最も注目される戦いだった”“周囲はISによって包囲され、住民はどこへも逃げられない状況が続いていた”“クルド人にとってはこの町が陥落することは住民の虐殺が起きることを意味していた”“クルド人はこの戦いを通じて団結したと言われている”【ウィキペディア】という経緯があるこのコバニをクルド人勢力としてはどうしても失いたくない思いがあると推測されます。

アメリカ、国連もクルド人勢力を支持、クルド人勢力と敵対していたトルコ・アエルドアン大統領もトルコ国内のクルド人情勢が悪化するおそれもあるため、コバニ支援に向かうイラクのクルド人がトルコ領内を通過するの許可する異例の対応も。

クルド人勢力とアメリカの「対IS」協力関係は現在まで続いています。

【アサド政権の残した化学兵器争奪戦 イスラエルは破壊のため容赦ない空爆実施 汚染リスクは?】
一方、今もシリアを空爆しているのがイスラエル。アサド政権が残した武器がイスラム過激派の手に渡るのを阻止する狙いと言われています。

1週間前の16日時点で“シリア人権監視団(英国)は16日、アサド政権崩壊後のシリアでイスラエル軍が行った空爆は470回を超えたと伝えた。”【12月17日 産経】とも。

****イスラエルのシリア空爆は主権侵害、直ちに停止を=国連事務総長****
 国連のグテレス事務総長は19日、イスラエルによるシリア空爆は主権と領土の一体性への侵害であり「中止しなければならない」と述べた。

グテレス氏は記者団に「シリアの主権、領土の統一と一体性は完全に回復されなければならず、全ての侵略行為は直ちに停止されなければならない」と述べた。

アサド政権が今月崩壊して以来、イスラエルは戦略兵器と軍事インフラの破壊を目的に数百回の空爆を実施。1973年のアラブ・イスラエル戦争後に創設され、国連平和維持軍が巡回しているシリアとイスラエル占領下のゴラン高原の間の非武装地帯に進軍した。

イスラエル当局はこの措置について国境の安全確保のための限定的かつ一時的なものと説明しているが、撤退時期は示唆していない。【12月20日 ロイター】
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アサド政権の残した武器の行方はイスラエル以外の関係国・関係機関も気になるところで、特にアサド政権が使用していた化学兵器が注目されています。

****アサド政権が残した化学兵器の「争奪戦」が始まった****
シリアのアサド政権が突然崩壊したことで、残された化学兵器の所在を突き止め、確保する競争が始まった。長年にわたり内戦と強権支配が続いてきたこの国では、さまざまな武装勢力やテロ組織が対立し合ってきた。

かつてシリアは世界最大級の化学兵器保有国だった。内戦中にアサド政権が東グータで猛毒の神経ガス・サリンを使用し、1400人が死亡すると、国際的な圧力が高まり、シリアは2013年に化学兵器禁止条約(CWC)に加盟した。

当時のアサド大統領は国際社会と協力して国内の化学兵器を解体することに同意したが、アメリカと同条約を管轄する化学兵器禁止機関(OPCW)は長年、アサドが致死性の高い一部の兵器を備蓄し続け、新たな兵器の開発も進めているのではないかと疑っていた。内戦中にアサド政権が化学兵器を使用し続けたことで、懸念はさらに高まった。

シリアは現在、アメリカなどがテロ組織と見なすイスラム系組織シャーム解放機構(HTS)が主導する勢力の管理下にあり、アメリカは残された化学兵器を捜索していると、匿名の米当局者は外交誌フォーリン・ポリシーに語った。

OPCWもシリア情勢を協議する緊急会合を非公開で開催した。
「シリアの政治・治安情勢は依然として不安定だ。化学兵器関連施設の状況に影響を与え、拡散リスクを生み出しかねない」と、OPCWのフェルナンド・アリアス事務局長は会議の冒頭で警告した。

シリアの反体制派指導者アフマド・アッシャラア(別名モハマド・ジャウラニ)は12月11日、HTSは化学兵器の潜在的な貯蔵場所を押さえるため、国際社会と協力しているとロイター通信に語った。

2011年の内戦開始以来、アサド政権が塩素、サリン、マスタードガスを使用した事例は何百件も記録されている。国際社会が残された化学兵器の所在確認を急ぐ多くの理由の1つは、シリア国内で活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の残党の手に渡る危険性があるからだ。

ISは不完全な粗製の化学兵器をイラクとシリアで何十回も使用したとみられている。ただし、シリアの化学兵器はISの残党が活動する地域から遠く離れた西部の旧政権支配地域に保管されている可能性が高い。

それ以上に懸念されるのは、新たな内戦やアサド家が属するアラウィ派の組織的反乱の際に、旧政権の当局者や科学者が化学兵器に手を伸ばす事態だと、化学・生物兵器に詳しいジョージ・メイスン大学のグレゴリー・コブレンツ准教授は言う。「私に言わせれば、ISよりも心配だ」

同様に化学兵器がテロ組織の手に渡ることを懸念するイスラエルは、早速動き出している。イラスエル軍は国連がゴラン高原沿いに設置したシリア領内の緩衝地帯に入った。

「私たちは多くの情報を持っている。自国民を守るため、必要なことは何でもする」と、オフィル・アクニス総領事(在ニューヨーク)はフォーリン・ポリシーに語った。

イスラエル軍はアサド政権崩壊直後から、化学兵器の貯蔵施設と疑われる場所への空爆を実施している。OPCWのアリアスは12日、「汚染のリスクがある」と空爆に懸念を示し、国際的調査の妨げになりかねないと警告した。

アクニスはこうも強調する。「もはや危険はないと確信できるまで、必要なことをやり続ける」【12月23日 Newsweek】
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対象が化学兵器ですから空爆による「汚染のリスクがある」というのは誰しも考えるところですが、「自国民を守るため、必要なことは何でもする」というイスラエル現政権にとってはシリア住民の生命ごときは眼中にないようです。
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シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?

2024-12-18 23:26:28 | 中東情勢

(8日、群衆に向かって演説を行う「シャーム解放委員会」(HTS)の指導者ジャウラーニー氏【12月9日 CNN】)

【各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているものの、イスラエルのゴラン高原緩衝地帯侵攻は長期化の様相】
シリアの反体制派が首都ダマスカスに進軍し、首都を「解放」したと宣言した8日から10日間が経過。
日常生活は戻りつつありますが、一方 各地で治安悪化、武装集団の市民襲撃が相次いでいるとも。

****シリア アサド政権崩壊から1週間 戻りつつある日常生活、一方 各地で治安悪化 武装集団の市民襲撃相次ぐ****
(中略)記者 「市民は日常生活へと戻り始めていまして、お店も開いていまして、ショッピングに繰り出す市民の姿も多く見られます」

シリアの首都ダマスカスでは、すでに夜間外出禁止令が解除され、日常生活が戻りつつあります。一方で、各地で治安の悪化が懸念されています。

イギリスに拠点を置く「シリア人権監視団」は、中部ハマの郊外で武装した集団が民家を襲撃し、合わせて5人が殺害されたと伝えました。ハマ郊外では、別の場所でも11人が殺害されるなど、武装集団による市民襲撃が相次いでいるということです。

また、「シリア人権監視団」は、北部のアレッポや南部のスワイダなどでも市民が銃撃され死亡したと伝えています。【12月15日 TBS NEWS DIG】
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懸念されているシリア国内の各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているようです。

****トルコと米支援クルド勢力SDFの停戦、今週末まで延長=国務省****
米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。

ミラー氏は、米政府は停戦が可能な限り長く延長されることを望んでいるとした。その上で「シリアの今後の道筋について、引き続きSDFやトルコと協議していく」と述べ、シリアでの紛争が激化することはどの当事者にとっても利益にならないとした。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、その中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、トルコは国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

SDFのマズルム・アブディ司令官は17日、米国の監視下で治安部隊を再配置し、北部の都市コバニに非武装地帯を設置する案を提示する用意があると表明した。Xへの投稿で、提案はトルコの安全保障上の懸念に対処し、地域の恒久的な安定を確保することが目的だと説明した。

しかし、両者の戦闘は継続しており、SDFの別の声明によると、17日にはトルコが支援する部隊がコバニ南部の地域を攻撃した。【12月18日 ロイター】
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一方、イスラエルはこの機に乗じてゴラン高原緩衝地帯に進軍し、懸念材料になっています。ただ、イスラエルも「シャーム解放機構」(HTS)も互いに対決を起こす考えはないとはしています。

****「シリアとの対決に関心なし」=ゴラン高原入植拡大を承認―イスラエル首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は15日に公表した動画で、アサド政権崩壊後の対シリア政策について「変化する現場の現実によって決定する。シリアとの対決に関心はない」と強調した。

シリアの旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は14日、シリアとの間に設けられた緩衝地帯に軍を展開させたイスラエルを批判。一方で、「シリアは長年の戦争で疲弊し、新たな紛争を起こすことはできない」と述べていた。

イスラエルのメディアによると、同国政府は15日、イスラエルが1967年の第3次中東戦争でシリアから奪った占領地ゴラン高原で入植者を倍増させる計画を承認した。4000万シェケル(約17億円)を投じ、インフラ整備を促進する。ネタニヤフ氏は「ゴランの強化は国家の強化だ」と訴えた。 【12月16日 時事】
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イスラエルの今回軍事作戦は長期化の様相も。

****イスラエル首相シリア視察 要衝の山、軍占領長期化か****
イスラエルのネタニヤフ首相は17日、シリア首都ダマスカスを望む要衝ヘルモン山の山頂のシリア側を視察し「安全が保証される別の取り決めが見つかるまで、この地にとどまる」と発言した。イスラエル軍はシリアのアサド政権崩壊の混乱に乗じてシリア側を制圧。「一時的な防衛措置」と強調していたが、占領を長期化させる可能性がある。(後略)【12月18日 共同】
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【「今のところ正しいことを言っている」HTS指導者】
こうした状況で、今後のシリアに最大の影響力を持つのは、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)、およびその指導者アフマド・アッシャラア氏がどのような統治を目指しているのか・・・という点です。

****シリア新政権樹立へ、反体制派アッシャラア氏が大きな影響力か…過去にアル・カーイダ参加も穏健姿勢を前面に****
シリアのアサド政権崩壊を受け、新政権の樹立に向けた動きが始まった。大きな影響力を持つとみられているのが、反体制派を主導し、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)の指導者アフマド・アッシャラア氏だ。

中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラなどによると、アッシャラア氏は1982年、サウジアラビアで生まれ、シリアで育った。2003年に米英軍のイラク攻撃が始まると、米国を敵視してイスラム教スンニ派の過激派組織「イラクのアル・カーイダ」に加わったが、後に米軍に拘束され、5年間収監された。

00年に始まった第2次インティファーダ(反イスラエル蜂起)や01年の米同時テロが過激思想に向かわせたとの指摘もある。

11年にシリアで内戦に火が付くと帰国し、イスラム過激派組織「イスラム国」の前身組織の支援を受けて「ヌスラ戦線」を設立した。強権を振るうアサド政権の打倒を掲げて自爆攻撃や拉致を繰り返し、米国からテロ組織に指定された。

14年のアル・ジャジーラのインタビューでは「シリアはイスラム法に基づき統治されるべきだ」と述べ、アサド政権の中核を占めたシーア派の一派・アラウィ派やキリスト教徒ら少数派を認めない強硬姿勢を示した。16年に路線の違いからアル・カーイダと決別すると、他組織との統合の末、ヌスラ戦線をHTSに改組した。

この頃から軍服姿での露出を控え、自身や組織についた過激派のイメージ払拭ふっしょくを図り始め、穏健姿勢を示すようになったとされる。21年には米メディアのインタビューにも応じ、ブレザー姿で「HTSは西洋に脅威を与えない」と主張した。

首都ダマスカスを制圧した8日頃から、自身の名前も、アル・カーイダ加入後に使っていた通称の「アブムハンマド・ジャウラニ」から切り替え、本名を名乗り始めた。

8日には国営テレビを通じて「シリアは全ての人々のものだ」と述べ、宗教宗派を問わずに共生する融和姿勢を示した。国民や国際社会の支持を得る狙いがあるとみられる。

一方で、首都の著名なモスク(礼拝所)で8日に行った演説では「『イスラム国家』全体の勝利だ」と述べ、イスラム国家樹立への思いものぞかせた。

穏健姿勢への転向を「表面的」と見る向きは根強く、国連や米欧は今もHTSをテロ組織に指定している。シリアには旧アサド政権のほか、HTSなど複数の反体制派やクルド人勢力が支配する地域があり、各勢力を束ねて統治するには困難が伴うと予想される。

エジプトの研究機関「アラブ政治戦略学センター」のムフタル・ゴバシ副所長は「アッシャラア氏の出自を知った上で、今後の振る舞いを見ていく必要がある」と指摘した。【12月11日 読売】
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まだ10日間・・・ということで、今後の方向性はわかりません。
現時点での発言は「穏健」なものになっていますが、アフガニスタンで政権を打倒したタリバンも復権当初は比較的穏健な発言もあって、「以前のタリバンとは少し変わったのかも・・・」と期待もさせましたが、現状はかつてのタリバンと大差ありません。

“平和的協力を望むという武装勢力の主張をうのみにするのは間違いだろう。だが同時に、完全に無視していても戦争終結にはつながらない。”【12月18日 Newsweek】

【HTSの今後の動きを見守る欧米】
アメリカ、欧州は当面は注意深く見守り、その「穏健な」発言を実行に移すなら協力も・・・というところ。

****米軍はシリア駐留継続へ、IS壊滅目指す=ホワイトハウス高官****
米ホワイトハウス高官は10日、過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させるために、シリアのアサド政権崩壊後も米軍は同国に駐留を続けると表明した。(中略)

アサド政権を崩壊に導いた反体制派の主力組織シャーム解放機構(HTS)は国際武装組織アルカイダの流れをくみ、米国はテロ組織に指定している。

ファイナー氏は「このような組織については、政策の正式な変更はない」と述べ、テロ組織の指定は組織の発言や意図ではなく活動に基づいて決定するため行動を注視していくと説明した。

一方で、これらの組織が過去数週間に発言している内容の一部は「非常に建設的」だと評価した。その上で、そうした発言に「シリアに信頼できる包括的な統治」をもたらす行動が伴うかどうか見守ると述べた。

また、バイデン政権はトランプ次期大統領の政権移行チームメンバーと連絡を取り、シリアに関する情報を提供していると語った。【12月11日 ロイター】
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****シリア政権移行への干渉けん制=国民主導なら「承認」―米国務長官****
ブリンケン米国務長官は10日、反体制派がアサド政権を打倒したシリアについて声明を出し、政権移行作業への干渉を控えるよう各国をけん制した。シリア国民主導で新政権が発足すれば「承認し、全面的に支持する」と表明した。

ブリンケン氏は、2015年の国連安保理決議が定めたシリア国民主導の新憲法制定や選挙実施を目指す政権移行プロセスに言及。この移行作業を「信頼に足る、包括的で宗派によらない政府へとつなげるべきだ」と強調した。【12月11日 時事】 
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****EU、シリア制裁緩和の用意 前向きな措置実施なら=カラス上級代表****
欧州連合(EU)の外相に当たるカラス外交安全保障上級代表は16日、アサド政権崩壊後のシリアについて、新政権の下で包括的な政府が樹立され、女性や少数派の権利の尊重などの「前向きな措置」が講じられれば、EUは対シリア制裁の緩和を検討する用意があると述べた。

カラス氏はまた、シリア暫定政府を主導する「シャーム解放機構(HTS)」の幹部と会談するため、EUが高官をシリアに派遣したと明らかにした。

EUはこの日、ブリュッセルで外相会合を開催。カラス氏は会合後に記者団に対し、アサド政権の後ろ盾となっていたロシアとイランのほか、過激主義的な勢力はシリアの将来に関与すべきでないとの考えを示し、「(会合で)多くの外相が、シリア新政権はロシアの影響力排除を条件にすべきだと強調した」と述べた。

その上で「(シリアでの)過激主義や急進化は望んでいない」とし、「シャーム解放機構は今のところ正しいことを言っている」と言及。同時に、今後の行動に基づき判断していくとの考えを示し、「シリアの発展を支援するため、前向きな措置が見られた際に積極的に行動できるよう計画を準備しておく必要がある」と語った。【12月17日 ロイアー】
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「今のところ正しいことを言っている」・・・実行に移されるといいのですが。
12月17日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、来年1─6月に約100万人のシリア難民が帰国するとの見通しを示しています。
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シリア  大量に押し寄せる帰還難民 欧州は再度の難民流入を警戒 帰還先での生活は?

2024-12-10 23:48:57 | 中東情勢

(【12月10日 TBS NEWS DIG】トルコの国境検問所に押し寄せる帰還難民)

【HTSを主軸に政権移譲が進むものの、どのような統治がなされるのかは不透明】

諸勢力の群雄割拠状態、そこへの関係国の思惑、前回書けなかった、ロシア・イラン・イスラエルの動き(イスラエルはゴラン高原緩衝地帯に進軍し、国連は「停戦協定違反だ」と批判しています)などもありますが、今日は主に難民帰還の話。

アサド政権の突然の崩壊、大統領のロシア亡命・・・今後のシリアは誰がどういう形で統治するのか?
いまのところ、アサド政権崩壊で中心的役割を果たしたイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)を軸に権限移譲が進んでいます。

****反体制派に権限移譲へ=主力組織指導者、首相らと会談―シリア****
シリアのアサド政権崩壊を受け、同国のジャラリ首相は9日、中東のテレビ局アルアラビーヤに対し、2017年に反体制派が設立した「シリア救国政府」に権限を移譲することで合意したと明らかにした。

ただ、実際の移譲には時間を要する可能性があるとも指摘した。権力の空白が生じないよう、スムーズな政権移行ができるかが課題となる。

ロイター通信によれば、反体制派の主力「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は、シリアに残っているジャラリ氏のほかメクダド副大統領とも会談し、政権移行プロセスを協議した。ジャウラニ氏はシリアの再建を公言している。

救国政府は、反体制派が拠点とし、前政権の支配が及ばなかった北西部イドリブ県で統治を担っている。ロイターは中東メディアの報道として、救国政府を率いてきたムハンマド・バシル氏が暫定政権のトップを務める見通しだと報じた。【12月10日 時事】
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アサド大統領の支持基盤であったアラウィ派も反体制派を支持するとのこと。ただし、「報復」など今後の対応次第というところも。

****アサド大統領故郷のアラウィ派、シリア反体制派への支持表明****
シリアのアサド政権を打倒したイスラム教スンニ派主導の反体制派は9日、アサド大統領の故郷を訪れ、同氏と同じアラウィ派の長老による支持を得た。

アサド氏を支持していたアラウィ派を反体制派がどのように扱うかは、政権崩壊が同氏に忠実だったグループに対する暴力的な報復につながるかを占う上で注目される。

複数の住民によると、反体制派の代表団はアサド氏の故郷である北西部ラタキア県カルダハを訪れ、数十人の宗教家や長老らと面会した。アラウィ派の有力者らはその後、反体制派を支持する声明に署名したという。

住民によれば、代表団にはいずれもスンニ派の「シャーム解放機構(HTS)」と「自由シリア軍」のメンバーが含まれた。

シーア派の一派であるアラウィ派はシリアの人口の約1割を占め、トルコ国境に近いラタキア県に集中している。人口の約7割はスンニ派で、キリスト教徒、クルド人、ドルーズ派などのコミュニティも存在する。

ロイターが確認した声明はシリアの宗教的・文化的多様性を強調するとともに、新たな統治者の下で国家のサービスや警察を早期に回復することを求める内容。カルダハの住民が持つ全ての武器を引き渡すことにも同意している。

町の有力者約30人が署名し、カルダハが「新たな道と愛国的で自由なシリアを支持し、(HTSや自由シリア軍と)全面的に協力する」ことを確認した。反体制派は署名していない。【12月10日 ロイター】
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「自由シリア軍」・・・・アサド政権への抵抗が始まった頃は反体制派の中心的存在で欧米の支援も受けていましたが、その後主導権をイスラム過激派に奪われ、また、イスラム過激派との共闘も行っていることが明らかになりました。
その後はいろいろ変遷もあって、現在どの程度の規模を持つのか、イスラム過激派に対しどういうスタンスに立つのか・・・良く知りません。

いずれにしてもHTSを主軸した新たな体制がどのような統治になるのか、HTSの指導者ジャウラニ氏が現在主張しているように宗教的・文化的多様性が容認されるのか、あるいはアフガニスタンのタリバン政権のようにひとつの価値観を押し付けるような政治になるのか・・・今は不透明です。

【戦闘の停止を喜び、帰還を始める難民】
いろいろ今後への懸念は山積みですが、とにもかくにもアサド政権が崩壊し政権と反体制派の戦闘は終わったということで、国内外に逃れていた人々の大量帰還が始まっています。

国外に逃れた難民の数は480万人(UNHCR)とも。また国内に避難した避難民はそれを上回る720万人とも。正確な数字はよくわからないのが実情ですが、とにかく膨大な数字であることはは間違いないところです。

****アサド政権崩壊で シリア難民の帰還始まる****
シリアのアサド政権の崩壊で戦闘を逃れて国外に避難していたシリア難民は、祖国への期待を抱き帰還を始めています。

隣国ヨルダンの国境近くにあるキャンプでは、難民として避難生活を送る100世帯が暮らしています。 避難した後に生まれ、祖国を知らずに育った子どもたちも多くいます。

シリア難民の女性
「(Q.シリアで子どもたちに見せたい場所は?)昔、住んでいた場所『ハサカ』です。内戦が始まった時に避難してきたから」

この家族はアサド政権の崩壊によってシリアに帰れるという希望を抱いたということです。

現在、シリアと行き来ができるヨルダンで唯一の検問所でも早速、家族のもとに帰る人たちの姿が見られました。
しかし、新しい政権が安定した運営を出来るのかなど、課題も残されたままです。【12月10日 テレ朝news】
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****アサド政権崩壊で多くのシリア難民が帰還****
アサド政権が崩壊した中東シリアの隣国トルコでは、内戦から逃れた多くの難民が国境にぞくぞくと押し寄せています。

記者
「長い間、難民としてトルコで生活してきた人たちが大きな荷物を持って、シリアとトルコの検問所に向かっていきます」

国境検問所には、2011年のシリア内戦が始まって以降、トルコに逃れてきた難民がアサド政権の崩壊を受けて母国に帰還しようと押し寄せています。

「故郷に帰りたい。家を造りたい」
「シリアは自由だ。私たちはこれから国をつくるんだ」

ただ、今回の反体制派勢力の電撃的な攻勢では、異なるいくつものグループが「打倒アサド政権」で一致することはできたものの、全く別の主義主張にたつ勢力も多くあり、新たな政権づくりに向けて、これからが正念場となりそうです。【12月10日 TBS NEWS DIG】
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【欧州 シリア情勢は混沌としており、新たな大量難民発生を懸念】
難民受入国にとって難民の存在は重荷にもなっていましたので、その帰還は歓迎すべき事態でしょう。

数百万人と言われる最大のシリア難民を抱えるのがトルコですが、国境検問所の開放を決定して難民帰還を促しています。

****トルコ、シリア難民の帰還に向け国境検問所開放へ****
トルコのエルドアン大統領は9日、シリアと接するヤイラダギ国境検問所を開放することを明らかにした。シリアのアサド政権崩壊を受け、現在受け入れている数百万人のシリア難民の安全かつ自主的な帰還に対応する。

エルドアン大統領はアンカラでの閣議後、国境付近での戦闘を背景に2013年以降閉鎖されていたヤイラダギ国境検問所を「渋滞防止と交通緩和のために開放する」と表明。難民の帰還については「受け入れ国としてふさわしい方法で自主的帰還の手続きを管理する」と述べた。【12月10日 ロイター】
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欧州も大量のシリア難民で各国の政治が揺らぎ、反移民勢力の台頭を惹起し、そのうねりは今も続いていますので、基本的に難民の帰還は関歓迎すべき事でしょう。

しかしシリアの今後は不透明で、状況が悪化すれば、再び難民が逆流するとの懸念も。

****アサド政権崩壊で欧州に新たな移民危機の恐れ-ラミー英外相が警鐘****
英国のラミー外相は9日、シリアのアサド政権崩壊により、欧州全般に新たな移民危機が発生する恐れがあるとの警戒感を示した。英国はシリア難民申請に関する決定を留保した。
  
ラミー外相は英下院でアサド政権の崩壊について、「危険と機会が同時に訪れる瞬間だ」と指摘。アサド大統領を追放した反体制派の武装組織「シリア解放機構(HTS)」に関して英政府は「慎重な姿勢を維持している」と付け加えた。

HTSは英国では依然として非合法のテロ組織とされており、HTSや紛争に関わる他の勢力が支配地域で民間人をどう扱うかを英政府は厳しく注視していくと外相は述べた。
  
外相は「多くの人々がシリアに戻り始めていることは、アサド大統領が退陣した今、より良い未来を望む彼らにとって明るい兆しではある。

だが、今後の展開は多くのことに左右される」とし、「シリアへのこうした流れが、すぐに逆回転し、危険で違法な移民ルートを使って欧州大陸や英国を目指す人々の数を増やす恐れもある」と付け加えた。
  
英国への移民流入が過去2年間に記録的な数に達したことを示す統計を受け、スターマー首相は移民流入抑制の取り組みを強化している。英内務省は、現状を評価する間、シリアからの難民申請を一時保留すると発表した。
  
2015年の欧州における移民危機は、アサド政権による残虐な弾圧から逃れるためにシリア市民数十万人が国外に避難したことが一因だった。【12月10日 Bloomberg】
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2015年の欧州における移民危機への思いから、シリア情勢に警戒感を抱いているのはイギリスだけでなく欧州各国に共通しており、欧州各国は状況が混沌としている今は難民受入れを一時停止する措置をとっています。

****シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ 2015年の流入危機で警戒****
2015年の欧州における移民危機シリアのアサド政権崩壊を受けて9日、ドイツやフランス、英国など欧州約10カ国がシリア人の難民申請受け入れや審査を一時停止する方針を発表した。

「シリアの状況が流動的で審査が困難になった」のが主な理由だとしている。2015年、シリア内戦による難民流入で欧州が大混乱に陥った「教訓」が背景にある。

申請受け入れ停止は、ドイツが最初に決定した。政府は声明で、難民申請者の審査も延期し、「状況が安定すれば、再開する」と表明した。

現状ではシリアから難民が流出するのか、あるいはドイツ在住シリア人の帰還が進むのかの予測ができないとしている。

ドイツでは11月までに、シリア人の難民申請が約7万5千件にのぼった。国別では最多で、申請全体の3割を占める。

来春予定の総選挙では、移民問題が争点のひとつになっており、保守系の最大野党「キリスト教民主同盟」(CDU)からは、シリアへの帰国希望者に1千ユーロ(約16万円)を支給し、出国を後押しするべきだという主張も出た。

フランスではルタイヨー内相が「シリア人の難民申請受け入れの停止に取り組んでいる。数時間で決める」と発言。

イタリアやベルギー、ギリシャ、スウェーデンなど北欧諸国も続いた。

オーストリアではカルナー内相が公共放送ORFで、難民申請の受け入れに加え、定住した難民の家族呼び寄せも停止すると述べた。さらに、「シリア人の秩序ある帰国や送還」に向けて準備を進めると表明した。

一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は9日の声明で、難民の安全で自発的帰還には「忍耐と警戒」が必要だとして、各国の性急な動きを牽制した。

欧州には15年のシリア難民危機で、100万人以上が流入。寛容な受け入れ政策が不法移民を増加させ、イスラム過激派の侵入も招いたという不満が広がった。現在は、各国で移民排斥を訴える右派政党が支持を伸ばしている。【12月10日 産経】
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“(シリア難民の)出国を後押しするべき”・・・難民自身の自主的な判断ではなく、難民を追い出したいような風潮に繋がらないか心配もあります。

【疲弊したシリア経済 帰還した難民の生活が成り立つのか?】
帰還を喜ぶ難民が多い中で、実際に帰還して生活が成り立つのかどうかの不安も。

****アサド政権崩壊で中東のパワーバランス激変か シリア難民480万人の進路は?****
(中略)
■9割が貧困ライン以下で生活 帰還阻む国内経済
内戦で大量の難民が発生
シリアでは2011年の内戦勃発以来、多くの人々が難民として国外で不安定な生活を続けている。
 
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によると、先月時点でおよそ480万人がシリアから国外へ避難していて、トルコは最多のおよそ294万人を受け入れ。また、ドイツの国際放送局ドイチェ・ヴェレによると、ドイツも7月時点で90万人以上を受け入れたという。

こうしたシリア難民は、アサド政権崩壊でどうなるのか?
HTSのリーダー・ジャウラニ氏はCNNのインタビューで、アサド政権から解放した地域に難民・避難民を帰還させる考えを示した。しかし、難民の帰還は簡単には進まない可能性もある。

難民の帰還は進むのか
世界銀行によると、シリアのGDP(国内総生産)は2011年にはおよそ675億米ドル、現在のレートでおよそ10兆円だったが、2021年にはおよそ89億米ドル、およそ1.3兆円に。10年で7分の1以下になった。

また、WFP(国連世界食糧計画)によると、シリア国民の9割が一日あたり2.15米ドル(およそ320円)の貧困ライン以下で生活していて、人口の4分の3にあたる1670万人が人道支援を必要としているという。

さらに、シリアの失業率は2023年時点の推定で13.54%。15歳から24歳の若者に限れば33.5%にも上る。

大規模な難民帰還の実現可能性は?
アメリカメディア・GZEROは、大規模な難民帰還の実現可能性について「シリア経済の安定、将来の政府の形、復興努力にかかっている。HTSが主導する政権は、帰還を望む難民にとって魅力的ではないかもしれない」と伝えている。(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年12月10日放送分より)【12月10日 テレ朝news】
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新たな統治体制がどのようなものになるのか、実際に帰還して生活が成り立つのか・・・今はその行方を見守るしかありません。
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シリア  アサド政権のあっけない崩壊 各勢力・関係国の思惑が交差 内戦第2幕への幕が上がった?

2024-12-09 23:44:55 | 中東情勢

(8日、シリアの首都ダマスカスで、アサド政権の崩壊を祝う人たち【12月9日 共同)】

【アサド政権の圧政から解放され喜びの声をあげる市民 報復を恐れて身をひそめる市民も】

“こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも”とは書いたのですが、ブログアップして数時間後には反体制派がダマスカスに入り、アサド政権は崩壊・・・ブログ更新が追いつかない、想定外に早い展開でした。

アフガニスタンでもそうですが、空洞化した政権はあっという間に崩壊するようです。

シリア情勢について一言で言えば、アサド政権は崩壊したけど、シリアの内戦・混乱が終わった訳ではなく、これから第2幕が開く危険もある・・・といったところでしょうか。

シリアの内戦・・・アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに起きた内戦・・・トルコの海辺に打ち上げられ、うつ伏せに横たわる男児の写真が世界の注目を集め、多くの難民が流出し、欧州世界を揺るがすことに。その影響は移民・難民の受入れに反対する勢力を勢いづかせる形で今も続いています。

これからのシリアを考えるためには、これまでのシリアの総括が必要ですが、ロシアが公式に亡命受入れを認めたアサド大統領については簡単に。(詳しくやっていると、それだけで終わってしまうので)

****シリアのアサド政権、自国民ないがしろにし一族は麻薬密輸で利益追求…父子2代の恐怖政治終焉****
シリアのアサド政権は、父子2代で50年超の恐怖政治によって国内を支配した。敵対勢力は暴力で徹底的に抑え込み、一族の利益を追い求めた。

バッシャール・アサド氏(59)の父ハフェズ氏は1970年、クーデターで実権を握った。イスラム教スンニ派が大多数の国内で、約10%を占めるイスラム教アラウィ派出身だったハフェズ氏は、権力の中枢を同じ宗派で固める一方、諜報ちょうほう機関による国民監視で強固な統治体制を築いた。82年に中部ハマで反体制派のイスラム主義者数万人を虐殺した。

その後を継いだのが次男バッシャール氏だ。元々は眼科医。94年に後継者と目されてきた兄の交通事故死で、留学先の英国から呼び戻された。父の死去を受け、国民投票で97%の信任を得て2000年7月、大統領に就任した。

当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手し、国民の間で改革への期待感も膨らんだが、与党バース党による事実上の一党独裁体制を守り、形だけの選挙を通じて強権支配を維持した。

11年に民主化運動「アラブの春」で反体制デモが始まると、参加者らを徹底弾圧し、内戦を招いた。大量殺害、拷問、処刑に加え、化学兵器を使った自国民の攻撃もいとわなかった。内戦による死者は50万人を超え、2200万人だった人口の約6割は国内外で避難生活を強いられてきた。

長引く内戦や制裁で経済危機が深刻化し、自国民の命はないがしろにしても、麻薬の密輸を取り仕切ることでアサド一族や取り巻きは潤っていたとも指摘される。自分たちの利益のみを追い求めた政権が、国民の信頼を失って終焉しゅうえんに追い込まれたのは必然だったといえる。【12月9日 読売】
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なぜ“当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手”というアサド氏が独裁体制へと移行したのか・・・ひと頃は「砂漠の薔薇」「中東のダイアナ」などと呼ばれたこともあるイギリス生まれ、ロンドン大卒の夫人の自由化に対する影響力への期待もありました・・・いろいろ知りたいことはありますが、先に進みます。

(今は)圧政と監視から解放された市民は歓喜の声をあげています。

****アサド政権崩壊のシリア 反体制派勢力を主導したリーダー「新たな歴史の1ページ」と勝利宣言****
アサド政権が崩壊した中東シリア情勢です。反体制派勢力を主導した組織のリーダーは「新たな歴史」だと述べ、勝利を宣言しました。

市民 「シリア万歳!アサドは倒れた!」
8日、「アサド政権崩壊」の一報が入り、喜びの声を上げる市民たち。
市民 「(アサド)政権が倒れるまでこの日を待ち続けてきました。そしてついに政権は倒れたのです」

陥落した首都ダマスカスでは、反体制派勢力を主導した「シリア解放機構」のリーダーが10年以上に及んだ内戦での勝利を宣言しました。

「シリア解放機構」 ジャウラニ指導者
「この勝利はイスラム世界にとって新たな歴史の1ページとなる。私たちはこの勝利によって13年間の苦しみから抜け出せるのだ」

アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに内戦に発展したシリア。そこから13年の間にアサド政権が反体制派側に化学兵器を使用したとの指摘やシリアを脱出した難民の船が転覆し、トルコの海岸に3歳の男の子の遺体が打ち上げられるなど、凄惨な出来事も繰り返されてきました。(中略)

ロシア外務省は声明で、(亡命した)アサド大統領は“平和的な手段で権力移譲を実行するよう指示した”と明らかにしました。

ただ、今回の攻勢を主導した「シリア解放機構」がテロ組織に指定されていることもあり、今後、政権移譲がスムーズに行われるかどうかは不透明です。【12月9日 TBS NEWS DIG】
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ただ、イスラム過激派とされる反体制派「シリア解放機構」(ハヤト・タハリール・シャム HTS)支配のもとで報復を恐れる人々も。

****シリア「自由」「心配」思い交錯 崩壊アサド政権の施設で略奪も****
「自由だ」「解放された」「将来が心配」。シリアのアサド政権が8日崩壊し、市民の間で喜びや不安が交錯した。異なる民族や宗教宗派が共存するシリア。各地で祝砲が鳴り響く一方、反体制派の弾圧を恐れて身を潜める人もいる。政権側施設では略奪も起きた。先行きは見通せない。

交流サイト(SNS)の投稿によると、首都ダマスカスの大統領府は反体制派が占拠し、政権側施設の略奪とされる映像が出回った。空港には多くの人が押し寄せた。刑務所から拘束されていた女性や子どもが救出され、首都に帰還する人々による大渋滞も起きた。

「強権的な政権が崩壊し、とてもうれしいが、同時に非常に恐れている。何が起きるか分からない状況だ」。首都中心部に住む銀行員ハーレド・タレブさん(50)が電話取材に対し、不安げな様子で語った。

今回の攻勢を主導するのは国際テロ組織アルカイダ系組織が前身の「シリア解放機構」。タレブさんは、イスラム主義組織タリバンが制圧した「アフガニスタンのような厳しいイスラム統治は望んでいない」と訴えた。【12月9日 共同】
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【首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とするHTS “キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”とのことだが・・・】
先ずは首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とする「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)がどういう統治を行うのか?というところです。アルカイダとは関係を断ったとは言っていますが・・・・アフガニスタンのタリバンのような存在になるのか?

****シリア内戦で大規模攻勢 反体制派を率いる組織「HTS」とは?****
シリア内戦で大規模攻勢を仕掛けている反体制派は、米国がテロ組織に指定している「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が主導している。

国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派「ヌスラ戦線」を前身とする組織だが、近年はアルカイダとの関係を絶ち、アサド政権打倒に集中してきたとされる。一体、どんな組織なのか。

「この政権(アサド政権)を打倒することが目標だ」。HTSを率いるジャウラニ指導者は5日、米CNNテレビのインタビューにこう強調した。

CNNや中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などによると、ジャウラニ氏はイラクでアルカイダ系の戦闘員として反米武装闘争に身を投じた経験があり、2011年にシリア内戦が始まってからは、ヌスラ戦線を設立して参戦した。

 だが、16年ごろにアルカイダとの関係を絶ち、17年には複数の武装組織を吸収する形でHTSを結成。拠点とするシリア北西部イドリブ県で「シリア救国政府」も設立し、支配地域での統治を強めた。

HTSは最大3万人規模の戦闘員を擁するとみられ、北西部の支配地域では石油などの資源も管理しており、一定の経済力もあるとされる。

HTSは米国や国連などがテロ組織に指定している。だが、ジャウラニ氏はCNNに「イスラム統治を恐れる人たちはきちんと理解していない」と語り、キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせると強調。

「他の集団を消す権利は誰にもない。多くの宗派がこの地域で何百年も共存してきた」と語った。政権打倒後は「国民に選ばれた議会」を設立する考えも明らかにした。
 
シリアでは長年、アサド政権による強権的な支配が続き、内戦が始まってからは各地で政府軍による激しい空爆も相次いだ。政治犯として収容された人たちの多くが厳しい拷問にかけられ、そのまま行方不明になった人も数多い。
 
それだけに、HTSが制圧した北部アレッポや中部ハマでは、アサド政権の支配からの解放を祝う市民の姿も報じられている。

ただ、シリアではクルド人組織を含む多様な反体制派が各地で勢力を維持しており、過激派組織「イスラム国」(IS)も今月、東部で一部地域を支配下に置いたとの報道もある。仮にアサド政権を打倒したとしても、反体制派がまとまるのは容易ではないとみられる。【12月8日 毎日】
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“キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”・・・今はその言葉を信じましょう。不安を抑えて。

【HTS以外にトルコ支援をうける組織、クルド人武装勢力、IS、更にトルコ、アメリカなど関係国の思惑が入り乱れる】
次に心配されるのは上記記事最後にあるように、各武装勢力間のせめぎあいが今後どうなるのか?という点です。

****シリア各地に割拠する反体制派 イスラム過激派、親トルコ、クルド人…政権崩壊で混乱必至****
アサド政権が崩壊したシリアは2011年に始まった内戦の結果、各地にさまざまな反体制派が複雑な形で割拠する事態となった。それぞれ利害が異なる上、イスラム過激派は離合集散を繰り返すなどしており、政権崩壊後の情勢が混乱するのは必至だ。

シリア北西部イドリブには、アサド政権側との戦闘を主導したイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)などが根を張る。HTSは内戦開始直後に活動を活発化させた「ヌスラ戦線」を前身とする。16年に忠誠を誓った国際テロ組織アルカーイダとの決別を宣言し、他組織と合併して改名した。米国などはテロ組織に指定している。

北部のトルコ国境に面する一帯は、トルコのエルドアン政権が肩入れする「シリア国民軍」(SNA)の支配地域だ。HTSとともに政権側への攻撃に加わった。エルドアン大統領はアサド政権の退陣を求め、反体制派を通じてシリアへの影響力浸透を図ってきた。

また、北東部は少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が支配している。エルドアン政権はトルコ国内の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)の分派だとして、過去にSDFに対する越境攻撃を行った。

さらに、東部の一部地域では小規模ながらイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が暗躍する。かつてシリアとイラクにまたがる広い範囲を制圧したが、米軍と連携したSDFなどの攻撃を受け、19年に支配地域を全て失った。東部にはISの勢力回復を警戒する米軍が兵士約900人を駐留させている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、クルド人勢力は北東部に施設を設けてIS戦闘員ら数万人を拘束している。過去にISがこれらの施設を襲撃したこともあり、仮に戦闘員らが大量脱走すれば治安の悪化がシリアにとどまらず、周辺地域に飛び火する恐れもある。【12月8日 産経】
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【アメリカと共闘し、トルコと対立するクルド人勢力の今後は? トランプ新政権に見捨てられた後は?】
HTSとともに政権側への攻撃に加わったトルコが支援する「シリア国民軍」(SNA)は、トルコの影響力でHTSと一定にうまくやるのかも。

しかしクルド人勢力や、ましてやISは、HTSと協調するのはなかなか難しいかも。
すでにトルコ支援の勢力とクルド人勢力の間で衝突が起きています。

****トルコ支援のシリア反体制派、北部の町を米支援組織から奪取****
トルコ治安筋によると、トルコが支援する複数のシリア反体制派組織がシリア北部の町マンビジュを米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」 から奪取した。

シリアでは反体制派が首都ダマスカスを掌握し、アサド大統領を追放したが、北部での衝突は続いている。

SDFは「シリア国民軍(SNA)」などトルコが支援する組織と激しい戦闘を繰り広げ、ここ数日マンビジュを占拠していた。

ロイターが確認した動画によると、マンビジュでは住民が反体制派組織を歓迎する様子が映っている。マンビジュはトルコとの国境の南30キロの地点に位置する。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS) の掃討で米国の支援を受けているが、トルコはSDFについて、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)とつながりのあるテロリスト集団が指揮していると主張している。

米国はSDFが制圧するシリア東部でプレゼンスを維持し、ISの復活を阻むために必要な措置を講じる意向を示している。

これとは別にオースティン米国防長官は、米軍がここ数日、シリアを攻撃したことについて、ISが混乱に乗じて活動を拡大することを阻止する狙いがあると説明した。【12月9日 ロイター】
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各勢力のせめぎあいには、バックにいる関係国の支援のあり方も問題になります。

トルコ・エルドアン大統領はこの機に、影響下の「シリア国民軍(SNA)」を使って、クルド人勢力を叩きたいという考えでしょう。

クルド人勢力にはIS掃討で共闘しているアメリカの支援があります。

****米、シリア情勢安定へ支援 政権移行巡り反体制派注視****
バイデン米大統領は8日、シリアのアサド政権崩壊について「長期にわたり抑圧されてきた人々にとって歴史的なチャンスだ」と述べ、情勢安定化に向けて支援する考えを示した。首都ダマスカスを掌握した反体制派の一部が「残忍なテロの記録」を有しているとし、政権移行を巡る動向を注視すると強調した。ホワイトハウスで記者団に語った。
 
バイデン氏は、米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針を表明。内戦で荒廃したシリアの復興のため人道支援を実施する意向も示し、数日以内に中東地域の首脳らと協議すると説明した。【12月9日 共同】
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“米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針”・・・・ということはクルド人勢力との共闘も続く、つまりトルコと利害がぶつかるということになります。

ただし、来年になれば状況は変わります。

****米国はシリアに関与すべきでない トランプ氏が投稿****
トランプ次期米大統領は7日、自身の交流サイト(SNS)で、アサド政権軍が反体制派の攻勢を受けているシリア情勢を巡り「米国は関与すべきではない。私たちの戦いではない」と主張した。(後略)【12月8日 共同】
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トランプ政権になればクルド人勢力はアメリカの後ろ盾を失い、トルコに売られるでしょう。そのときクルド人勢力がどうするのか?

アサド政権の枠組みもなくなった今は悲願の国家樹立の機会です。クルド人は国家を持たない最大の民族として、シリア、トルコ、イラク、イランに分散して暮らしてきました。

心情的には分離独立でしょうが、それは国内(シリアが国家と言える状態かどうかはわかりませんが)の反発・攻撃だけでなく、関係国トルコ。イラク、イラン全ての反発・介入を招くでしょう。

2017年にイラクのクルド人自治政府は独立を問う住民投票を行ったことで、イラク中央政府の軍事的攻撃を受け、それまでの支配地域も失うことになりました。

【ロシア・イラン・イスラエルの思惑 超簡単に】
関係国としては軍事基地を持つロシア、イランからイラクをへてレバノンに至る「シーア派の弧」を有していたイラン、そのイランと敵対するイスラエルの話がありますが、もうこれ以上記事が長くなるのは無理ですね。また別機会に。

ひとことで言えば、ロシアにとってシリアの軍事基地は中東、地中海、アフリカへの展開の要であり、絶対に手放したくないところ。一応反体制派と存続で合意したとの情報もありますが、今後は「どうかな?」といったところ。

イランは「シーア派の弧」の一画を失い、レバノン・ヒズボラも叩かれ、その再建が問題。すでに反体制派と接触しているとの情報も。

イスラエルは「残存する(アサド政権が有していた)化学兵器や長距離ミサイル、ロケット弾のような戦略兵器が過激派の手に渡らないようにするためという目的でシリアへの激しい空爆を行っています。また、イスラエルが占領するゴラン高原とシリア国境の非武装地帯に地上部隊を派遣したとのこと。

いろんな勢力・関係国の思惑が交差して、シリア内戦第2幕の危険をはらんだ状況です。

あと、シリア難民の帰還の問題もあります。
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シリア  “死に体”との表現、出国勧告の話もでる崩壊目前のアサド政権 新たな力関係は?

2024-12-07 23:04:08 | 中東情勢

(【12月6日 日経】)

【中部要衝ホムスに迫る反体制派HTS 東部ではクルド人勢力、南部でも地元武装勢力の攻勢も 更にISも】
シリア情勢に関する11月30日ブログで反体制派(HTS)がアレッポを制圧したことについて、“「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)にシリア全土に戦線を拡大する力があるとは思えませんが、北部拠点都市アレッポを失うというのはアサド政権にとっては大きな痛手でしょう。”と書きましたが大間違いでした。

反体制派はあっというまに中部ハマを制圧し、更に中部ホムスへと迫っています。

ウクライナとの戦いで手一杯のロシア、イスラエルとの戦闘で大打撃を受けているヒズボラ、ヒズボラ支援やイスラエルとの対峙で身動きが取れないイラン・・・とこれまでアサド政権を支えてきた各勢力が動けない「力の空白」を狙った反体制派の読みは見事に当たったようです。

というか、政府軍の空洞化、士気の低下が露呈しており、アフガニスタンでタリバンの攻勢に有効な反撃を行えず崩壊した政府軍の再現を見る感もあります。

この間、反体制派に対するロシアの空爆などは行われてはいますが、政府軍は反体制派の勢いを止められていません。

反体制派はホムスから首都ダマスカスをうかがう「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)の他に、東部デリゾールは少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が制圧。東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もあります。

更に、南部ダルアーも地元武装勢力が支配下に・・・と、シリア全土で各組織が政府軍を追いやって勢力を拡大しており、アサド政権は首都ダマスカス防衛に追い込まれています。

****シリア内戦激化 37万人避難、死傷者は数百人 反体制派が攻勢****
内戦が再び激化しているシリアで6〜7日、各地の反体制派勢力が東部デリゾールや南部ダルアーを制圧した。ロイター通信などが報じた。シリアでは11月下旬以降、反体制諸派の攻勢が強まり、情勢は一気に不安定さを増している。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は6日、戦闘激化で少なくとも37万人が避難したと発表した。民間人にも数百人規模の死傷者が出ている模様だという。

ロイターなどによると、デリゾールでは6日、米国が支援するクルド人主体の反体制派組織「シリア民主軍」(SDF)が市内へ進攻。政府軍やアサド政権を支援する親イラン武装組織はほとんど交戦せずに撤退し、SDFが支配下に置いた。

SDFは、デリゾールから南東約120キロにあるイラクとの国境検問所も制圧したという。
イラクには、アサド政権を支えるイランの影響下にある武装組織が存在し、一部はシリア政府軍を支援するため越境している。SDFによる検問所の制圧で、こうした組織の増援に影響が及ぶ可能性もある。

また、シリアの別の反体制派組織は7日、南部ダルアーを制圧したと表明した。政府軍は首都ダマスカスへの安全な撤退を条件に、ダルアーを明け渡したという。この反体制派は6日にはダルアー近郊の政府軍基地やヨルダンとの国境検問所の一部を占領していた。

一方、米国がテロ組織に指定する「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を主体とする反体制派は勢いづいている。シリア第2の都市・北部アレッポや中部ハマの制圧に続き、6日にはハマの南方約40キロに位置する第3の都市・中部ホムスへと迫った。ホムスでは5日夜から多くの住民が避難を始め、治安部隊の拠点は放棄されたとの報道もある。政府軍はこうした情報を否定している。

ホムスは主要各都市へ通じる交通路の要衝だ。反体制派が制圧すれば、首都を目指す攻勢が始まる可能性もある。その場合、近年はイランやロシアの軍事支援で確保されていたアサド政権の軍事的優位が大きく揺らぐことになる。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避させたという。

親イランの民兵組織をダマスカスに集結させているとの情報もあり、首都での攻防激化を見据えている可能性がある。【12月7日 毎日】
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クルド人勢力が制圧した東部デリゾールは油田地帯。

地元武装勢力が押さえた南部ダルアーは“「アラブの春」と呼ばれる民主化要求運動が中東で拡大した2011年、シリアで反体制デモが広がる震源地になったことで知られる。アサド政権側は当時、全土に拡大したデモを徹底的に弾圧して内戦に発展した。”【12月7日 産経】という因縁の地

「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)が進撃する中部ホムスは“国内交通の十字路に当たり、反体制派が制圧すれば南部ダルアーとの間にある首都ダマスカスを挟み撃ちにし、孤立を図ることも可能になる。また、ロシア軍の駐留基地などがある西部と首都の往来が遮断される恐れがある。”【同上】

いずれも、政権にとっては重要な地域ですが、次々と落ちています。
“東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もある。【同上】とIS復活の動きも。

【首都陥落も目前 関係国はダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動き】
“親イランの民兵組織をダマスカスに集結させている”とのことですが、“ほとんど交戦せずに撤退”“治安部隊の拠点は放棄”“イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避”・・・こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも。

関係国もダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動きを見せています。

****シリア首都陥落の可能性=イスラエルが米に懸念伝達―報道****
米ニュースサイト「アクシオス」は5日、反体制派が攻勢を強めているシリア情勢を巡り、イスラエル政府高官が、アサド政権軍が崩壊し首都ダマスカスが陥落することもあり得るとの見方を示したと報じた。

反体制派は既にほぼ掌握した北部アレッポに続き、5日には中部の要衝ハマ制圧を宣言した。アクシオスによれば、米当局者もアサド政権軍の防御線が急速に崩壊していると指摘。「政権にとって過去10年間で最大の試練」と見なしていると語った。

米当局者によると、イスラエル側は米国に対し、イスラム過激派勢力がシリアで権力を掌握することへの懸念を伝達。混乱に乗じてイランがシリアに兵士を追加派遣し、同国での影響力を強める事態も危惧しているという。12月6日 時事】 
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****トルコ大統領、国連総長と電話会談 「シリア紛争は新段階に」****
トルコのエルドアン大統領は5日、国連のグテレス事務総長と電話会談し、シリア紛争が「冷静に管理される」新たな段階に入ったとの見解を伝えた。トルコ大統領府が明らかにした。

シリア反政府勢力は5日、中部の要衝ハマを制圧し、同国のアサド政権およびその同盟国であるロシアとイランに新たな打撃を与えた。

エルドアン氏はグテレス氏に対し、シリア政府は政治的解決を達成するために、国民との対話を迅速に行う必要があると指摘。トルコは緊張緩和と民間人保護、政治的解決の下地を整えることに取り組んでいると語った。【12月6日 ロイター】
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もはや「死に体」との表現も出始めたアサド政権ですが、亡命の話も。

****シリア大統領に出国勧告か=中東諸国、支援に消極的―米紙****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は6日、エジプトやヨルダンの当局者が内戦下のシリアで反体制派の大規模攻勢にさらされているアサド大統領に対し、出国して亡命政府を樹立するよう勧告していたと報じた。シリア治安当局者らの話として伝えた。アサド氏の反応は伝えられていない。

同紙によると、アサド氏は、反体制派との関係が深いトルコに攻勢を止めるための働き掛けを要請。エジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクには情報提供や武器供与を求めたが、いずれも拒否されたという。

アサド氏との関係が冷え込んでいるトルコのエルドアン大統領は6日、「アサド氏にはシリアの将来を話し合うため訪問を求めてきたが、前向きな回答が得られなかった」と指摘。反体制派の進攻については「問題なく続くことを願う」と述べ、容認する姿勢を示した。【12月7日 時事】 
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【かつてはアルカイダ系ヌスラ戦線とも呼ばれたHTS、クルド人勢力・・・・新たな力関係は?】
ここまで反体制派の攻勢が急激に進行している最大の理由は冒頭でも触れたロシア・イラン・ヒズボラがシリアに注力できない状況にあることですが、それ以外の要因を指摘する向きも。

****「米制裁がアサド政権崩壊の要因」 シリア人権監視団代表***
内戦が続くシリアで反体制派の武装勢力が攻勢を強める中、シリア人権監視団の代表がANNの取材に応じ、「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の要因となった」と明かしました。

「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」(シリア人権監視団ラミ・アブドルラフマン代表、以下同)

イギリスに拠点を置く反体制派NGOシリア人権監視団は、武装勢力の兵士たちが9月から訓練を受け、準備を進めてきたと明かしました。「アサド政権は事実上崩壊した」とし、要因として軍事支援を受けてきたヒズボラの弱体化のほかに次の点を指摘します。

「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の主な要因だ」「経済面では国家は崩壊し、電気が通っていないなどインフラも整っていない。なのに、政権内にはヨーロッパの富裕層よりも金を持つ腐敗した人々がいて政権の弱体化につながっている」

反体制派の勢力はアサド政権が支配していた要衝を次々と制圧していて、シリア第3の都市ホムスにも迫っています。

アブドルラフマン代表は、政府軍がすでにホムスの街の外まで退避しているとしたうえで将校らに戦闘の意欲はなく、軍の中でクーデターが起きる可能性があるとしています。【12月7日ABEMA Times】
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アメリカの制裁というよりは、アサド政権内部の問題のようにも。

反撃作戦の実行時期については、「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」とありますが、その背景については以下のようにも。パレスチナやレバノンの情勢と密接に関係していたようです。

****シリア反体制派のアレッポ制圧作戦、レバノン停戦を待って開始=幹部****
シリアの反体制派統一組織「シリア国民連合」のハディ・バフラ議長は2日、反体制派によるシリア北部の要衝アレッポ制圧に向けた軍事作戦について、レバノンにおける親イラン民兵組織ヒズボラとイスラエルの停戦を待って開始したと明かした。 

反体制派軍司令官らも、もっと早く作戦を始めていれば、ヒズボラと戦闘中だったイスラエルの味方をしていると見なされるのを懸念していたと語った。

 バフラ氏は、反体制派は1年前から作戦準備に入っていたと説明。「しかしパレスチナ自治区ガザとレバノンでの戦闘(発生)で作戦が先送りされた。レバノンで戦いが続いている時期にシリアで戦うのは得策ではないと考えた。その後レバノンで停戦が実現し、作戦開始のチャンスと受け止めた」と述べた。

 実際、反体制派が作戦を始めたのは、まさにヒズボラとイスラエルが停戦に合意した11月27日だった。 

一方でバフラ氏は、いざ作戦に乗り出すと、アサド政権を支援するヒズボラやその他の親イラン勢力がイスラエルへの対応にかかりきりだったこともあり、すぐに反体制派側がアレッポやその他の地域を掌握できたと指摘した。【12月3日 ロイター】
*********************

こうした流れでいくと、おそらく首都ダマスカスを落とすのは「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シリア解放機構」)でしょう。

同組織はかつてヌスラ戦線とよばれていたアルカイダ系イスラム過激派の流れをくむ組織です。
アルカイダとは関係を断ったと主張はしていますが、ロシア・イランに支援されたアサド政権に変わってイスラム過激派がシリアで主要な勢力を持つという事態にも。

国際社会にとっては新たな問題です。

****シリア反体制派「アサド政権は“死に体” 難民帰還を」 CNN取材****
シリアで攻勢を強めている反体制派のリーダーがCNNテレビの独占インタビューに応じ、今の独裁的な政権を倒して難民らを帰還させると訴えました。

シャーム解放機構 ジャウラニ氏
「最も大事なことは制度を作ることだ。個人の気まぐれで統治されるのではなく、制度だった統治を我々は求めている」

インタビューに応じたシリア反体制派「シャーム解放機構」の指導者、ジャウラニ氏は、アサド政権について「すでに死に体だ」と述べる一方、依然、政権側との戦いは楽観していない姿勢を示しました。

また反体制派が過去に「イスラム国」や「アルカイダ」など過激派組織と関係していた点については、「いまはシリア再建だけが目的」とし、政権の支配から解放した地域には、国内外の難民を帰還させる考えを示しました。

「シャーム解放機構」は北部のシリア第2の都市アレッポや中部のハマなど主要都市を制圧し、アサド政権への攻勢を強めています。【12月7日 テレ朝news】
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「いまはシリア再建だけが目的」・・・・どういう統治を考えているのでしょうか。

他の勢力、特にアメリカの支援を受けるクルド人勢力との関係はどうなるのでしょうか?
クルド人勢力にすれば、この機に分離独立して「クルド人国家」建設・・・という思いはないのでしょうか?

これまで、北東部の空軍基地などには露軍が駐留し、北部国境沿いはトルコが支配。東部には小規模ながら米軍も駐留する。HTSが支配する北西部に加え、北東部一帯は民兵組織を持つ少数民族クルド人の勢力下にある。・・・・という複雑な力関係にあったシリアですが、アサド政権が崩壊した場合、新たな力関係を模索して新たな対立・戦闘の懸念も。

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シリア  戦闘再燃 アルカイダ系イスラム過激派の反体制派がアレッポ制圧 絶好の反撃の好機

2024-11-30 23:14:21 | 中東情勢

(30日、シリア北部の要衝アレッポ中心部に進出した反体制派勢力の戦闘員ら【11月30日 時事】 戦勝気分ですね)

【反体制派は北部イドリブに封じ込まれ、国土の大半をアサド政権が抑える形で、ほぼ「アサド政権勝利」の状況だったシリア情勢】
以前はシリア内戦の様子が連日報じられていました。

単にアサド政権の政府軍と反体制派の争いというだけでなく、ISなどイスラム過激派、北部のクルド人勢力、更にこれらの勢力を支援する外国・・・アサド政権を支援するイラン及びヒズボラ、そしてロシア、反体制派を支援しつつクルド人勢力に敵対するトルコ、IS掃討でクルド人勢力と共闘するアメリカ、イラン及びヒズボラに敵対するイスラエル、アラブ湾岸諸国・・・等々が絡みあって複数の軸を持った戦いが2011年から続きました。

****シリア内戦****
シリアで起きたアラブの春から続く、シリア政府軍とシリアの反体制派及び外国勢力を含むそれらの同盟組織などによる多面的な内戦である。この内戦は2011年から現在まで続いており、1960年以降の世界史において最も難民が発生した戦争と言われている

概要
シリアにおける内戦は、2011年にチュニジアで起きたジャスミン革命の影響によってアラブ諸国に波及したアラブの春のうちの一つであり、シリアの歴史上「未曾有」のものといわれている。

チュニジアのジャスミン革命とエジプトの民主化革命のように、初期はデモ行進やハンガーストライキを含む様々なタイプの抗議の形態をとった市民抵抗の持続的運動とも言われた。

初期の戦闘はバッシャール・アル=アサド政権派のシリア軍と反政権派勢力の民兵との衝突が主たるものであったが、サラフィー・ジハード主義勢力のアル=ヌスラ戦線とシリア北部のクルド人勢力の間での衝突も生じている。

その後は反政権派勢力間での戦闘、さらに混乱に乗じて過激派組織ISILやアル=ヌスラ戦線、またクルド民主統一党 (PYD) をはじめとしたシリア北部のクルド人勢力ロジャヴァが参戦したほか、アサド政権の打倒およびISIL掃討のためにアメリカ合衆国やフランスをはじめとした多国籍軍、逆にアサド政権を支援するロシアやイランもシリア領内に空爆などの軍事介入を行っており、内戦は泥沼化している。

また、トルコやサウジアラビア、カタールもアサド政権打倒や自国の安全・権益確保のために反政府武装勢力への資金援助、武器付与等の軍事支援を行った。

アサド政権の支配地域は一時、国土の3割程度(但し、依然として支配地域に西部の人口集中地域が含まれていた)に縮小したが、ロシアやイランの支援を得たことに加え、反政権諸勢力の中でISILやクルド系武装勢力が台頭する中で、反政権諸勢力間での戦闘も激化した事に伴い「アサド政権打倒」を掲げていた欧米がISILとの戦闘を優先する方向に舵を切った事や、クルド系武装勢力とはISILやアルカイダなど対イスラム過激派系反政権勢力打倒を優先する双方の戦略上ある程度の協調関係を構築するなど、情勢の変化も追い風となり、反政権諸勢力のうちISILが外国や他の非政権軍の攻撃対象になって壊滅したことで勢力を回復。2019年春~2020年夏時点でシリア領土の7割前後を奪還した。【ウィキペディア】
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戦闘はイラン・ヒズボラ及び空爆担当のロシアの支援を受けた政府軍が勢力を強め、2016年12月にはシリア第2の都市で商業の中都市アレッポを制圧。

2020年には政府軍を支援するロシアと反政府勢力を支援するトルコの間で停戦が合意されました。

それ以降は、基本的にはイスラム過激派を中心とする反体制派は北部イドリブに封じ込まれ、国土の大半をアサド政権が抑える形で、ほぼ「アサド政権勝利」の状況でした。

【反体制派がアレッポ制圧 ロシア・ヒズボラ・イランに政権支援の余力がない今は反撃の絶好の好機】
最近シリアが話題になるのは、シリア国内でイランの支援を受けるヒズボラなどに対しイスラエルが攻撃をくわえるといったものでした。
“シリア中部を空爆=「武器密輸経路」が標的―イスラエル軍”【11月14日 時事】
“イスラエル、シリア中部の古代都市攻撃 36人死亡=国営メディア”【11月21日 ロイター】

それが急変。
政府軍とイドリブに封じ込まれていた反体制派の間で戦闘が再燃しています。

****シリア反体制派、政府軍に大規模攻撃 2020年以来の衝突再燃****
シリア反体制派が同国西部アレッポで、政府軍に対する大規模攻撃を行った。自由シリア軍の関係者や地元住民が明らかにした。大規模衝突の再燃は2020年以来だった。

反体制派は27日、テレグラムを通じて「侵攻の抑止」と位置付ける攻撃を発表。シリアのアサド政権による砲撃に対抗したと主張した。(後略)【11月28日 CNN】
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****シリア第2の都市を砲撃=反体制派攻勢、240人超死亡****
(中略)反体制派は、アサド政権とロシアがイドリブ県内へ攻撃を強化していることに反発。政権が支配するアレッポ周辺の集落を多数制圧した。現在、反体制派はアレッポの数キロ郊外まで迫っているという。【11月29日 時事】
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どっちが先に仕掛けたのか・・・定かではありませんが、上記のような報道においては、まず政府愚のイドリブへの攻撃があって、それに反撃して反体制派がアレッポに攻撃を仕掛けた・・・という説明が多いようです。反体制派サイドの説明ですが。

いずれにしても反体制派にとっては反撃の絶好の好機。
政府軍を支えていたロシアはウクライナで手一杯、ヒズボラは壊滅一歩手前状態、イランもイスラエルとの対立及びヒズボラ支援で手一杯・・・と、どこもシリア・アサド政権支援どころではない状態、

そんな状態のアサド政権政府軍であれば反体制派に充分な勝機が・・・という千載一遇の反撃チャンス

2016年にあれだけ激戦が繰り広げられたアレッポの大半を、あっさりと反体制派が制圧したようです。

****シリア反体制派、北部要衝の大半掌握か=アサド政権軍と攻防激化****
在英のシリア人権監視団は30日、内戦下のシリアでアサド政権と対立する反体制派勢力が北部の要衝アレッポへ進攻し、市内の大部分を掌握したと明らかにした。

政権軍は30日、「防衛線強化のための部隊再配置」を発表。政権側兵士が多数死亡し、反体制派がアレッポの広範囲に進入したことを認めた。
 
人口約200万人を擁する商業の中心地アレッポは、シリア第2の都市。2011年から続く内戦の勃発後、反体制派が一時支配したが、16年12月に激戦の末にアサド政権が制圧した。反体制派がアレッポを占拠すれば、8年ぶりとなる。攻防激化により、シリアの周辺国を巻き込む形で中東の混乱が一段と拡大する恐れがある。
 
反体制派はアレッポに隣接する北西部イドリブ県を拠点とする。イドリブ県では20年にアサド政権を支えるロシアと、反体制派を支援していたトルコが停戦で合意。

ただ、最近は政権側が攻撃を強化しており、反体制派も27日に逆攻勢を開始した。今回の攻撃は停戦発効後で最大規模という。
 
ロイター通信によると、政権軍とロシア軍は30日にアレッポ郊外で反体制派に空爆を加えたが、劣勢とみられる。人権監視団は「アレッポはもはや政権の支配下にはない」と伝えた。

一連の衝突で民間人を含む310人以上が死亡したとしている。 【11月30日 時事】
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反体制派と言ってもいろんな勢力がありますが、“ロイター通信などによると、今回の攻撃は国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が主導している。”【11月30日 毎日】とのこと。

ハヤト・タハリール・シャム・・・以前は「ヌスラ戦線」と呼ばれていたアルカイダ系イスラム過激派で、2019年にイドリブ県を完全制圧したと見られています。

「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)にシリア全土に戦線を拡大する力があるとは思えませんが、北部拠点都市アレッポを失うというのはアサド政権にとっては大きな痛手でしょう。

ロシアはそれなりに空爆支援はまだ行っているようですが、ヒズボラ、更にはイランはシリアに介入する余力はないでしょう。

イスラエルと停戦合意したヒズボラがどんな状況かはシリアにもかかわることですが、シリア情勢とはまた論点が異なってきますので別機会に。
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イスラエル  国内外に多くの問題を抱えるネタニヤフ首相 来年になれば援軍トランプ氏が復権

2024-11-22 23:49:47 | 中東情勢

(【11月17日 ABEMA news】)

【ネタニヤフ首相 今年限りのバイデン大統領を辛辣に批判】
イスラエルを支持するアメリカ・・・という構図は今も変わっていません。

****ガザ即時停戦決議案、米の拒否権で否決 停戦めぐり米の拒否権行使は5回目****
パレスチナ自治区ガザ地区で人道危機が深刻化する中、国連の安全保障理事会は20日、即時停戦を求める決議案を採決しましたが、アメリカが、またしても拒否権を行使し、否決されました。

イスラエルとイスラム組織ハマスによる戦闘が続くガザ地区をめぐり、日本を含む非常任理事国10か国が共同提案した安保理決議案は、すべての当事者に即時かつ永続的な停戦を求めています。また、無条件での人質の解放や人道支援の確保を呼びかけています。

採決では、理事国15か国のうち日本を含む14か国が賛成しましたが、イスラエルの後ろ盾となっているアメリカが拒否権を行使し、否決されました。投票後、アメリカは、「人質の解放を伴わない無条件の停戦は支持できない」と反対の理由を説明しました。

米・ウッド国連代理大使「この決議案はハマスに対して『交渉のテーブルに戻る必要はない』という危険なメッセージを送ることになる」

去年10月以降、ガザ地区での停戦などを求める決議案にアメリカが拒否権を行使するのは、今回で5回目です。【11月21日 日テレNEWS】
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ただ、アメリカ国内にはアラブ系市民や若者の反イスラエルの動きが先の大統領選挙でも注目されましたし、戦闘を終息させたいバイデン大統領と戦闘を継続したいイスラエル・ネタニヤフ首相の間には溝もあります。

来年の政権交代を控え、もはや「死に体」となったバイデン大統領に遠慮する必要がなくなったネタニヤフ首相は辛辣な発言も。

****イスラエルのネタニヤフ首相、米バイデン大統領の判断を的外れと批判 ガザ地区の戦闘について****
イスラエルのネタニヤフ首相は18日、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘について、アメリカのバイデン大統領の判断は的外れだったと批判しました。

イスラエルメディアによりますと、ネタニヤフ首相は18日の演説で、ガザ地区での戦闘を巡り、分岐点におけるバイデン大統領の判断を繰り返し批判しました。

ネタニヤフ首相は、ガザ市やハンユニス、とりわけエジプトとの境界があるラファへの地上部隊の投入に、アメリカが反対したと発言。

イランがイスラエルに大規模攻撃を行った際にも「報復する必要はないと言われたが、我々は行った」とし、助言は的外れだったと主張しています。

一方、トランプ氏が大統領に就任した後、イランの核開発計画に対抗するイスラエルの軍事力をアメリカとともに見直すだろうとも語っています。

ネタニヤフ首相は、先月のイランへの攻撃により、核開発計画に関する一部施設に打撃を与えたことも明らかにしました【11月19日 日テレNEWS】
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ネタニヤフ首相が期待していたトランプ氏が復権することで、アメリカとイスラエルの間の溝は完全に埋まり、両国は一体となって行動することになります。

イスラエル側は、完璧にイスラエル支持のトランプ氏復権に花を添える「贈り物」を用意しているとも報じられました。

****イスラエル、レバノンでの停戦案準備か トランプ次期大統領へ““贈り物”****
アメリカの有力紙「ワシントン・ポスト」は13日、イスラエルが、アメリカのトランプ次期大統領への「贈り物」となるよう、レバノンでの停戦案を準備していると報じました。

レバノンの首都ベイルート近郊などでは13日、イスラエルから複数のミサイルが着弾し、6人が死亡、15人がケガをしました。

イスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラとの間で戦闘が続く中、ワシントン・ポストは13日、イスラエル当局者の話として、レバノンでの戦闘終結に向けて、イスラエルが停戦案を準備していると報じました。

アメリカ大統領選でイスラエル寄りの姿勢を示すトランプ氏が勝利しましたが、就任する来年1月に向けて、レバノンでの停戦合意という「外交成果」を用意することで、イスラエル高官は「トランプ氏に対する『贈り物』となる」との認識を示したということです。【11月14日 日テレNEWS】
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レバノン・ヒズボラに関しては、現在アメリカ提案の停戦案をヒズボラ側が同意し、あとはイスラエルがこれに同意するのかどうか・・・イスラエル有利に事を運んでくれるトランプ氏就任を待つのかどうか・・・国内事情から戦闘をなるべく長く継続したネタニヤフ首相が停戦に語彙するのかどうか・・・という段階にありますが、そのあたりはまた別機会に。

【国内には、保身のための司法改革、人質解放の遅れへの強い批判が】
イスラエルの国内事情に目を向けると、対ハマス・対ヒズボラで強気姿勢を貫くネタニヤフ首相ですが、国内では強い批判もあります。

ハマスとの戦闘が始まる以前から、ネタニヤフ首相は収賄や詐欺、背任などの罪に問われて起訴されており、自分の裁判が有利に運ぶように司法制度を変更しようとしているとして、強い批判にさらされていました。

ハマスとの戦闘が終わると、裁判が再開され、政治的にも上記司法改革への批判、ハマス襲撃を許したことへの批判が強まり、総選挙で権力の座を失うということになるので、なるべく戦闘が長く続くように停戦を拒否してきた・・・また、停戦・人質解放より「ハマス壊滅」を掲げての戦闘継続を優先させている・・・・との批判があります。

*****イスラエル・ネタニヤフ首相自宅に照明弾 反政府活動家3人逮捕 首相不在でけが人なし****
イスラエルで16日夜、ネタニヤフ首相の自宅の庭に照明弾2発が着弾し、反政府活動家3人が逮捕されました。当時、ネタニヤフ首相や家族は自宅におらず、負傷者は出ていません。

イスラエルの警察の発表によりますと、16日午後7時半ごろ、イスラエル中部カイザリアにあるネタニヤフ首相の自宅の庭に照明弾2発が着弾しました。 当時、ネタニヤフ首相や家族は自宅におらず、けが人はいないということです。

地元メディアによりますと、この事案に関与したとして反政府活動家3人が逮捕され、うち1人は軍予備役の上級将校だということです。

今回の事件は先月19日のレバノン武装組織ヒズボラの無人機(ドローン)攻撃以来およそ1カ月ぶり。 

イスラエル政界からは「暴力的で無政府的な行為」(レビン法相)、「レッドラインを越えた扇動」(ベングビール国家治安相)という批判が出てきた。

現在イスラエルではネタニヤフ首相が主導する戦争と司法府権限縮小の動きに反発する反政府デモが続いている。7月の反政府デモにはテルアビブなど主要都市から約50万人(主催側推算)が集まった。 

16日には政府の徴集命令に抗議する超正統派ユダヤ教派「ハレディー」の数百人が高速道路を占拠するデモも発生した。ハレディーは1948年の建国以降、ホロコースト(ナチのユダヤ人虐殺)で抹殺されるところだった文化と学問を守るという名分で兵役が免除されてきた。 

しかし15日、イスラエルのカッツ国防相はハレディー約7000人の入営命令を承認した。ハレディーに対する兵役免除が不当だという裁判所の判決に基づくものだ。

今回の徴集命令は今月初めにガラント前国防相が解任される前日に決定された。ガラント前国防相は超正統派政党の連立政権脱退の動きに兵役免除のための追加立法を推進してきたネタニヤフ首相と異なる意見を出し、更迭された。 

一方、イスラエル現地ではネタニヤフ首相側が反政府デモに対する反発世論を形成するために軍事機密文書を流出させたという疑惑が提起された。

ハアレツなど現地メディアによると、首相室のフェルドスタイン報道官と3人の高官が不法に予備役から受けた「ハマスの指導者シンワル氏が人質解放と停戦会談合意を拒否した」という内容の機密文書を独メディアのビルトに流布した。その後、フェルドスタイン氏は自国メディアに報道を要請したという。 

メディアはフェルドスタイン氏が文書を確保した時点は6月だったが、報道は反戦ムードが高まった8月末ごろ出てきたと伝えた。これに対し「ハマスとの人質交換と停戦会談推進を要求するデモ隊に対する反発世論を形成するためのもの」(ハアレツ)、「ハマスに対する強硬路線を正当化するために選択的に情報を流した」(タイムズ・オブ・イスラエル)などの指摘が出ている。(後略)【11月19日 中央日報】
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【首相周辺からの機密文書漏洩 戦闘継続のための世論操作が目的】
上記記事の後段に書かれている機密文書漏洩問題は、首相周辺の者がハマス側から押収した機密文書を、人質交渉より戦闘継続を優先させる政権に有利になるように一部改ざんし、有利なる時期にメディアに漏洩したというもの。

****イスラエル軍の機密文書流出で首相報道官ら逮捕 政権に打撃か****
 パレスチナ自治区ガザ地区での停戦と人質解放を巡る交渉を妨げる機密文書が海外メディアに流出し、波紋を呼んでいる。

イスラエルのネタニヤフ首相周辺が意図的に情報を漏らした疑いがあり、首相報道官ら5人が逮捕された。ネタニヤフ氏の愛称「ビビ」にちなみ「ビビリークス」問題として、イスラエル政界を揺るがすスキャンダルとなっている。

問題となっているのは、イスラエル軍がガザ地区で押収したイスラム組織ハマスの関連文書。文書の一部は、戦闘継続を求めるネタニヤフ氏の意見に都合の良い形で改ざんされていた疑いがあり、英国とドイツの2紙に漏えいした。
 
流出したのは8月末にハマスに拘束されていた6人の人質が殺害されたことが明らかになり、人質解放を求めるデモが広がった直後のタイミングだった。

英紙「ジューイッシュ・クロニクル」は9月5日、ハマスがガザとエジプトの境界地帯を通じ、人質をイランやイエメンに移送させる計画があると報じた。しかし、同紙は文書が改ざんされた可能性があり、誤報だったとして記事を削除。記事を書いたフリー記者との契約を打ち切った。

独紙「ビルト」も翌日、別の機密文書に基づき、ハマスが停戦交渉に関心がないなどと報道。ビルト紙はイスラエル軍が文書を本物だと認めたとしているが、ネタニヤフ氏の主張を補強する内容だった。

ネタニヤフ政権は8月29日、ハマスによる武器の密輸を防ぐため、ガザとエジプトの境界地帯で軍の駐留を継続させると閣議決定した。これに対しハマスが反発し、交渉は停滞。その直後に人質6人が殺害され、イスラエル全土では「人質が見殺しにされた」などとして、大規模なデモが連日行われた。

文書流出を受けて、イスラエル軍は調査に着手。裁判所は11月1日、流出に関与した疑いで首相報道官らを逮捕したことを明らかにした。

ネタニヤフ氏は報道官について「安全保障の会議には参加していない」と主張。しかし、イスラエル紙ハーレツは、昨年10月のハマスとの戦闘開始以降、報道官が軍事基地などの訪問に同行し、機密情報に触れる会議にも参加していたと報じている。

首相の政敵で元国防相のガンツ氏は、機密文書が「(ネタニヤフ氏の)政治的な生き残り工作」のために利用されたなら、国家に対する犯罪だと指摘。最大野党党首のラピド前首相も、ネタニヤフ氏が漏えいを把握していたとすれば「最も深刻な安全保障を脅かす共犯者だ」と非難した。

ガザではいまだ100人以上の人質が拘束されている。イスラエル国内では人質解放の優先を求める声が強いが、ネタニヤフ氏はハマスの壊滅を優先し、戦闘を続けている。一方で、ネタニヤフ氏は汚職疑惑で起訴されており、裁判を遅らせるために、戦闘を長引かせているとの見方がある。【11月17日 毎日】
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裁判所は情報漏洩の目的について、人質解放交渉に対する世論に影響を与えようとしたとの見方を示しています。

情報漏洩の直前の9月1日には、イスラエル軍が、パレスチナ自治区ガザ地区で人質6人が死亡したと発表していましたが、死亡した人質のうち4人は人質解放交渉の第1弾で解放されることになっていました。

こうした状況で、人質解放のための停戦を求める声が強まる時期に、戦闘を続けるネタニヤフ首相に有利なるような形で機密文書をメディアに漏洩した・・・ということです。

【ICC ネタニヤフ首相らの逮捕状 「飢餓を戦争手段にした」】
上記のように、保身のための司法改革、人質解放より戦闘継続を優先させていることへの批判、更には首相周辺からの機密文書漏洩と国内的に問題を抱えるネタニヤフ首相ですが、国際的にも国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフ首相の逮捕状を出すという問題も。

***ICC、イスラエル首相らに逮捕状 人道に対する罪の疑い「飢餓を戦争手段にした」****
国際刑事裁判所(ICC)は21日、パレスチナ自治区ガザに対するイスラエルの攻撃をめぐり、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に対し、人道に対する罪と戦争犯罪の容疑で逮捕状を出したと発表した。

ICCの発表によると、パレスチナ自治区ガザへの人道支援活動を制限し、食料や水、医療品供給を阻んだことで、2人容疑者は「飢餓を戦闘の手段にした」と信じるに足る根拠があるとしている。イスラエル側は容疑に対して異議を申し立てていたが、ICCは退けた。

ICCには日本を含めて124カ国・地域が加盟しており、自国に容疑者が来た際には逮捕の義務を負う。

また、ICCは21日、イスラエルと交戦するパレスチナのイスラム原理主義組織ハマス軍事部門のデイフ指導者に対しても逮捕状を出した。デイフ容疑者については死亡情報が流れたが、ICCとして確認に至らなかったとしている。

3容疑者に対しては、ICCのカーン主任検察官が今年5月に逮捕状を請求していた。この時、ハマスのハニヤ最高指導者とガザ地区トップだったシンワール指導者に対しても逮捕状が請求された。この2人はその後、イスラエルに相次いで殺害された。【11月21日 産経】
*******************

ネタニヤフ首相は「反ユダヤ主義の決定だ」と反発する声明を発表しています。

****ネタニヤフ首相「この決定の妥当性を認めない」ICCから戦争犯罪などの疑いで逮捕状を発行されたことをうけ反論****
イスラエルのネタニヤフ首相は、ICC=国際刑事裁判所から戦争犯罪などの疑いで逮捕状を発行されたことをうけ、「この決定の妥当性を認めない」などと反論しました。

イスラエル ネタニヤフ首相
「イスラエルはこの決定の正当性を認めない。我々は国民と国家を守るためにやるべきことはすべて続ける」

ネタニヤフ首相は21日、ビデオ声明を出し、「イスラエルがガザで行っている戦争ほど正義のある戦争はない」などと主張したうえで、ICCによる「決定の妥当性は認めない」として、今後もガザでの戦闘を継続する姿勢を示しました。

ネタニヤフ氏はイスラエル軍の戦闘について、「民間人の犠牲を避けるために全力を尽くしている」と主張しましたが、ガザでは去年10月の戦闘開始以降、4万4000人を超える人が死亡し、このうちの多くは女性や子どもを含む市民だとみられています。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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アメリカ・バイデン大統領も「言語道断」と逮捕状発行を批判しています。

****ネタニヤフ氏らへの逮捕状発付は「言語道断」 バイデン米大統領****
米国のジョー・バイデン大統領は21日、国際刑事裁判所がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアブ・ガラント前国防相らに逮捕状を出したことを、「言語道断」だと批判した。

バイデン氏は声明で、「ISSがイスラエルの指導者らに逮捕状を出したことは言語道断だ」「もう一度はっきりさせておきたい。ICCが何をほのめかそうが、イスラエルと(イスラム組織)ハマスは決して同等ではない。われわれは常にイスラエルと共にその安全保障の脅威に立ち向かう」と述べた。 【11月22日 AFP】
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「イスラエルがガザで行っている戦争ほど正義のある戦争はない」「民間人の犠牲を避けるために全力を尽くしている」・・・・そうでしょうか?

もちろん実際に逮捕されることはありませんが、多くの国に訪問できないということで、外交活動には支障がでます。

国内外に多くの問題を抱えるネタニヤフ首相ですが、年末をもちこたえたら来年1月にはトランプ大統領という強力な援軍があらわれ、状況は一変します。
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ヒズボラとイスラエルがレバノンで激しく戦うなかで、レバノン国軍はなぜ動かないのか?

2024-10-21 18:18:03 | 中東情勢

(レバノンへの地上侵攻を前に国境付近に集結したイスラエル軍の戦車(9月27日)【10月18日 Newsweek】 )

【ヒズボラ ネタニヤフ首相私邸攻撃 イスラエル報復か】
イスラエルのレバノン・ヒズボラへの攻撃で、中東(あるいは世界)最強の非国家軍事組織とも言われていたイスラム教シーア派組織ヒズボラは、多くの戦闘員を失っていることに加え、最高指導者ナスララ師を殺害されるなど甚大な被害を受け、弱体化していると見られています。

****ヒズボラ、約1500人の戦闘員を喪失=イスラエル軍参謀総長****
イスラエル軍のハレビ参謀総長は18日、イラン支援下にあるレバノンの武装組織ヒズボラ戦闘員の死者数は約1500人との推測を示した。この推測は控えめで、実際にはもっと多いとみられるという。

ハレビ氏はレバノン南部の地上部隊に対し「ヒズボラは甚大な被害を被っており、指揮系統全体が壊滅しつつある。ヒズボラは死者数や指揮官の死亡を隠ぺいしている」と述べた。【10月19日 ロイター】
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ヒズボラからは「停戦」への言及も出ていました。

****イスラエル 米の迎撃システム搬入 ヒズボラは「停戦」呼びかけ*****
イスラエルが、イランによるミサイル攻撃への対抗措置をとるとしている中、アメリカ国防総省はイスラエルをイランのさらなる攻撃から守る迎撃システムの搬入が始まったと発表しました。ただ、イラン側はイスラエルの対抗措置があれば反撃する構えで、抑止力となるかは不透明です。

アメリカの複数のメディアは、イスラエルのネタニヤフ首相がバイデン大統領に、今月1日のイランによる大規模なミサイル攻撃への対抗措置をとるとして、イランの軍事施設を標的とする計画を伝えたと報じています。

こうした中、アメリカ国防総省はイスラエルへの配備を決めた迎撃ミサイルシステム「THAAD」の一部と運用部隊が14日、現地に到着したと発表しました。

THAADは弾道ミサイルを高い高度で撃ち落とすことができるとされ、国防総省は今後数日間をかけて搬入を進め「近い将来、完全に運用可能になる」としています。

アメリカ政府はこれによってイスラエルをイランのさらなる攻撃から守るとしていますが、イラン側はイスラエルの対抗措置があれば反撃する構えで、事態のエスカレートを防ぐ抑止力となるかは不透明です。

また、イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは15日、指導者カセム師のビデオ声明を公開しました。

この中でカセム師はイスラエルに「停戦こそが解決策だ」と呼びかける一方で「戦争が続くならさらに多くの人が住まいを追われ、危険にさらされる。敵はレバノン全土を攻撃しているため、われわれにもイスラエル全土をねらう権利がある」と述べ、攻撃の範囲を拡大して抗戦すると強調しました。(後略)【10月16日 NHK】
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しかし、イスラエル・ネタニヤフ首相はヒズボラが武装解除するまで攻撃を続けるとの構えです。

****武装解除なしに「停戦あり得ず」 対ヒズボラでイスラエル首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は15日、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの停戦の可能性について、「再武装や再集結を防ぐ合意でなければ同意しない」と言明し、ヒズボラの武装解除なしに停戦合意はあり得ないとの考えを示した。フランスのマクロン大統領との電話会談の内容をイスラエル首相府が発表した。(後略)【10月16日 時事】
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そうしたなかで、追い込まれているとも見られるヒズボラ側が意外な抵抗を見せたのが、ネタニヤフ首相私邸への無人機攻撃です。

****ヒズボラが無人機攻撃、ネタニヤフ首相の私邸狙う けが人な****
イスラエル軍によると、イスラエル北部カイザリアで19日、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラからの無人機攻撃があり、1機が何らかの建物に命中した。カイザリアにはネタニヤフ首相の私邸があり、首相府は標的が私邸だったと認めた。
 
首相府によると、当時、首相らは周辺におらず、けが人はいないという。
 
イスラエルは、ヒズボラの掃討を目指し、レバノンでの地上侵攻を進め、空爆も各地で続けている。
 
これに対して、ヒズボラは、イスラエルへの攻撃範囲を国境付近から徐々に広げている。連帯するパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者シンワル氏の殺害後には、「戦争は新たな段階に突入した」と発表していた。【10月19日 毎日】
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ネタニヤフ首相は報復を示唆しています。

****ガザ北部空爆で死者・行方不明者87人=イスラエル首相、私邸攻撃で報復示唆****
(中略) 
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は19日、中部カイサリアにある私邸がドローン攻撃を受けた後の声明で、「私や妻を暗殺する試みは重大な過ちだ」と非難した。

攻撃を仕掛けたとされるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやその後ろ盾のイランを名指しし、「(ドローン攻撃が)敵に対する正当な戦争を思いとどまらせることはない」として報復を示唆した。
 
イスラエル軍は20日、レバノンの首都ベイルート南郊を立て続けに空爆。軍は、ヒズボラの情報部門の司令室と地下の武器製造施設を標的にしたと説明した。対してヒズボラは19日だけでイスラエルへ向けて約200発の飛翔(ひしょう)体を発射し、攻撃の応酬が激化している。【10月20日 時事】 
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攻撃の応酬がしばらく続きそうな様相です。

アイアンドームなどの鉄壁の防空体制を誇っているイスラエルが、どうして首相私邸という中枢への攻撃を許したのかという疑問、今回首相私邸攻撃のイスラエル国内の反応に関する報道はまだ目にしていません。

【イスラエルに攻撃されるなかでレバノン国軍はなぜ動かないのか?】
以上は、ここ数日のレバノン情勢ですが、イスラエルと戦っているのはあくまでもシーア派民兵組織ヒズボラであり、レバノン国家ではありません。(ただし、戦闘の被害を受けているのはレバノンの一般市民ですが)

しかし、一方でヒズボラは単なるシーア派民兵組織ではなく、レバノンの政治・社会に深く根をはった組織で、レバノンの政治・社会と一体化している面があります。

****【解説】レバノンの中に別の“国家” ヒズボラとは*****
(中略
・「モザイク国家」レバノンのもろさ
イスラエル軍の地上部隊によるレバノン南部への侵攻が拡大する中、イスラエルと敵対するヒズボラの攻撃能力はさらに打撃を受けているものと見られます。

しかしそれにも関わらず、ヒズボラ側は引き続きイスラエル側に向けて攻撃を続けていて、イスラエルが目指すヒズボラの弱体化の難しさも浮かび上がっています。背景には、ヒズボラが、レバノンの国土、政治、そして社会に深く根を張っている実態があります。 

まず、ヒズボラが大きな存在感をもつことを許しているレバノンという国の事情を見てみます。

レバノンは、地中海に面した南北に細長い国です。この一帯は、もともとはオスマン帝国の支配下でしたが、第1次世界大戦後にフランスが奪い取り統治されるようになり、1943年に独立国家となりました。

ここには、イスラム教のスンニ派、シーア派、キリスト教のマロン派、ギリシャ正教など、18の異なる宗教・宗派の人々が暮らしていて、「モザイク国家」とも呼ばれます。首都ベイルート中心部は美しい町並みで知られ、多様な文化と歴史があり、人々は親切で魅力にあふれた国です。

しかし、ひとたび政治のこととなると、「モザイク国家」のもろさが露呈します。バランスを図る目的で、大統領はマロン派、首相はスンニ派、議会議長はシーア派から選出すると決まっているのですが、こうしたこともあって、国としての統一した権力が確立しにくいのです。 

・政党としても活動するヒズボラ
こうした状況で台頭してきたのが、1982年に発足したシーア派の勢力のひとつヒズボラです。当時もレバノンにイスラエルは侵攻していましたが、それに抵抗する民兵組織でした。

しかし、イランの支援を受けながら、ミサイルやロケット弾などで武装していくうちに、その軍事力はレバノンの正規軍を上回るようになりました。

また、シーア派の住民に対して学校や病院を建設し、社会福祉も提供し、一部の住民にとっては、レバノン政府よりも政府らしい役割を果たしていると受け止められるようになりました。 

さらに、ヒズボラは「神の党」を意味しますが、文字どおり、ひとつの政党としても活動しています。2022年の議会選挙でも、128議席の内、過半数に近い62議席をヒズボラの陣営が占めました。 

こうしたことから、ヒズボラは、首都ベイルートの南部、国の南部と東部で、政府よりも強い権限を行使出来るようになっていて、レバノンという国家の中にまるで自分たちだけの別の国家を築き上げているようだと言われています。 

実際、私もこうした地域で取材するときには、ヒズボラとかけあって取材許可を取得する必要がありました。そうしなければ、ヒズボラの民兵に取材を阻まれることになり、こうした地域では、レバノン政府が発行する記者証は何も役に立たなかったのです。 

こうして見ると、イスラエルのネタニヤフ首相が、いくらレバノンからヒズボラだけを排除することを目指したとしても、パズルのピースをはずすようにはいかないのは明らかです。地上侵攻が拡大するにつれ、今後、この難しさがいっそう明らかになっていくことが予想されます。【10月9日 NHK】
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そこで生じる疑問は、今回のイスラエルのレバノンへの攻撃に対し、レバノンは国家としてどう対応しているのか、より具体的には、レバノン国家の正規軍(国軍)は戦闘にどう関与しているのかということ。

実際のところはレバノン国軍は戦闘に対し中立的立ち位置を続け、動いていません。

****ついにイスラエルが地上侵攻を開始...それでもレバノン軍が動かない理由****
<保有する戦闘機はゼロ、兵士の多くは2~3の仕事を掛け持ち──レバノン国軍は弱小だが、応戦しない理由には国が置かれた「微妙な立場」が関係している>

レバノンの首都ベイルートで、何本もの煙が上がっている。空には無人機(ドローン)が飛び交い、住民は怯えて逃げ惑う。病院はとっくに定員オーバーだ。近年の経済危機などで、既にレバノン社会はボロボロの状態にあるが、軍が応戦する気配はない。

一般に国土防衛は軍の最大の仕事の1つだが、レバノン軍は自国をのみ込みつつある紛争への対応を迷っている。

この紛争に関われば、イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラに味方することになり、強大なイスラエルを敵に回すことになる。これまでレバノンを軍事的に支援してきた欧米諸国との関係も危うくなる。

複数の関係筋によると、レバノン軍はこの紛争に関わるタイミングを、できるだけ先延ばしにする可能性が高い。第一、まともに関与する能力がないというのが、軍関係者の本音のようだ。

そもそもこの紛争は、イスラエル軍とヒズボラの軍事部門(ヒズボラは国民議会に議席を持つ大衆政党でもある)の衝突であって、国家としてのレバノンは無関係だと語る政府関係者も少なくない。だから国軍の関与は期待されるべきではないというのだ。

レバノンは、イスラム教やキリスト教などの多数の宗派が混在するモザイク国家で、激しい内戦で国土が荒廃した経験から、国内各派のバランス維持に尽力してきた。軍も、「国防ではなく、国内の安定維持に力を入れてきた」と、レバノン軍の訓練に協力する欧米諸国関係者は語る。

保有する戦闘機はゼロ
レバノンがイスラエルとの武力衝突を避けている背景には、圧倒的な力の差もある。各国の軍事力を評価するグローバル・ファイヤーパワーによると、レバノンの軍事力は145カ国中118位だが、イスラエルはトップ20に入る。

レバノン軍は戦闘機を持っていないし、戦車も旧式のものしかない。約7万人の兵士の多くは2〜3の仕事を掛け持ちしている。これに対してイスラエル軍の兵力は17万人で、さらに予備役が30万〜40万人いる。最先端の戦闘機や戦車や防衛システムもある。

兵力や火力の圧倒的な差は、問題の1つにすぎない。イスラエルとヒズボラの衝突に、レバノン軍は自らの存続に関わるジレンマを抱えている。

まず、多くの欧米諸国は、ヒズボラをテロ組織に指定しているから、ヒズボラに味方すれば、レバノンはテロ支援国家と見なされかねない。

それに2006年以降、レバノンはアメリカから計30億ドル以上の軍事援助を受けてきた。近年の経済危機で軍人への給与支払いが滞ったときも、アメリカが助けてくれた(世界銀行によると、23年2月の時点で、レバノンの通貨ポンドの価値は危機前の2%以下に落ち込んだ)。

アメリカの援助で得た武器を、アメリカの重要な同盟国であるイスラエルに対して使うのは難しいだろうと、専門家はみる。また、レバノン軍にとっては、この先もアメリカの援助が頼りだ。

「レバノン軍は、レバノン唯一の正当な防衛機関としての役割」をヒズボラに奪われることなく「維持・強化していくという難しい課題に直面している」と、中東問題研究所(ワシントン)のフィラス・マクサド上級研究員は語る。

ヒズボラは長年、イスラエルによるヒズボラ攻撃は、レバノンの主権を侵害する行為であり、撃退する必要があると主張してきた。また、欧米諸国は故意にレバノン軍を弱く維持していると非難してきた。

そして、ヒズボラはレバノン軍の競争相手ではなく戦友や同盟のような存在だとし、「人民、軍隊、抵抗」というスローガンを掲げてきた。

だが、多くのレバノン市民は、ヒズボラは1982年と2006年のイスラエルによるレバノン侵攻を利用して、自らの影響力を拡大してきたと考えている。1990年に収束したレバノン内戦後、国内の武装勢力が全て武装解除したときも、ヒズボラだけは武器を維持した。

このため現在のレバノン国内では、イスラエルのピンポイント攻撃によりヒズボラの幹部が次々と殺害され、その拠点が破壊されれば、レバノンでより公平な権力分配が実現するのではないかとひそかに期待する向きもある。

とはいえ、イスラエルによるレバノン南部とベイルート郊外ダヒヤへの爆撃は、120万人の避難民を生み出した。その大部分はシーア派で、彼らが避難してくることで、レバノン社会の安定のために意図的に維持されてきた、宗派による地域的な住み分けが危うくなっている。

近隣地域にしてみれば、あまりにも多くのシーア派(ましてやヒズボラ関係者)が流入してくれば、自分たちのコミュニティーがイスラエルの爆撃のターゲットになりかねない。このため多くの地域は、過度に多くの避難民を受け入れることには消極的だ。

イスラエルのターゲットになるのを避けるために、ヒズボラのメンバーが避難先の村から追い出されたケースも過去にはあった。

イスラム教ドルーズ派が大多数を占める町ショアヤでは、21年8月、ヒズボラがイスラエルに向けてロケット弾を発射するのを阻止するため、ヒズボラのトラックが押収された。

レバノン軍は、イスラエルとヒズボラの争いに直接関わるよりも、紛争後に停戦合意(的なもの)が各地できちんと守られるよう確保する役割を担うだろう。

レバノンでは、かつての内戦終結時に、大統領はキリスト教マロン派、首相はスンニ派、国会議長はシーア派から出すという権力配分が決められた。

そんななか軍は唯一の中立機関であり、宗派間の緊張が生じたとき唯一仲裁に入ることができるアクターと見なされている。

その役割を維持するためにも、軍は中立を保ち、今回の紛争でヒズボラに味方することを避けなければならない。

だが、紛争が長引けば、かねてから経済危機と貧困に揺れるレバノン国内の亀裂が一段と悪化する恐れがある。

「内戦の不安がささやかれることもあるが、今のところ皆、非常に賢明に振る舞っている」と、国会議員のアラン・アウンは語る。「だが、確かなことは言えない。紛争後の各政党の行動が重要になる」

ナジブ・ミカティ首相は、イスラエルとレバノンの事実上の国境であるブルーライン(撤退ライン)にレバノン軍を配備するとともに、ヒズボラがこのラインからさらに後退することを提案している。

軍は唯一の中立的な組織
だが、これが実現するためには、ヒズボラが撤退に合意するか、敗北するか、あるいはイスラエルが方針を転換して停戦に合意するしかない。

今回の紛争で、レバノン軍がどのような行動を取るかは、おそらく今後のレバノン政治にも影響を与えるだろう。というのも、レバノン軍のジョゼフ・アウン最高司令官はマロン派で、次期大統領として反ヒズボラ派の間で最大の支持を集めているのだ。

カーネギー中東センター(レバノン)のシニアエディターであるマイケル・ヤングは9月28日、ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師が暗殺された今、レバノンの頼りは「まだ機能している唯一の国家機関である軍であり、ジョゼフ・アウンの(大統領)選出の動きが拡大するだろう」と、X(旧ツイッター)に投稿している。

「なぜかって? それは軍が国内の安定を維持する上で重要な役割を果たすとともに、(ヒズボラの影響が強い)南部の治安確保でも重要な役割を果たすからだ」

この1年間、イスラエルとヒズボラは互いに爆撃を続けてきたが、レバノン軍が応戦したのは1度だけと、軍は10月3日の声明で主張している。

「イスラエルがビントジュベイル(レバノン南部)のレバノン軍駐屯地を爆撃し、兵士1人が死亡」したため、「この駐屯地の人員が爆撃の起点に向けて応戦した」ときだ。

どうやら今回の紛争で、レバノン軍の直接関与につながるレッドライン(越えてはならない一線)は、レバノン軍の拠点への攻撃と、全面的なレバノン侵攻・占領のようだ。

ただ、イスラエルの激しい攻撃が、国家としてのレバノンのプライドを刺激するようなことになれば、どうなるかは分からない。【10月18日 Newsweek】
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レバノン国軍の軍事力はイスラエルはもちろんヒズボラにも劣り、しかもアメリカ依存ということで、対イスラエルの戦闘へは動けないという事情もありますが、そもそも、ヒズボラを支援するいわれもありません。

レバノン政治はヒズボラと反ヒズボラ勢力の抗争が続いおり、国軍トップは反ヒズボラの有力者。
ヒズボラが敗退あるいは弱体化の後のレバノン国内の安定確保を主要な目的としているといったところのよううです。

うまくいけば、ヒズボラを抑えて国軍トップが国の実権を・・・


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レバノン南部への侵攻 イランのミサイル攻撃への報復 中東全面戦争のカギを握るネタニヤフ首相

2024-10-02 23:26:50 | 中東情勢

(イランのミサイル発射を受け起動した迎撃システム=1日、イスラエル中部アシュケロン(ロイター=共同)【10月2日 産経】)

【イスラエル レバノン南部で「限定的な地上作戦」 「限定的」にとどまるかは疑問】
レバノン各地を空爆するなど攻撃を激化させ、9月27日にはヒズボラの指導者だったナスララ師を殺害したイスラエル軍は、更にレバノン南部への「限定的かつ局地的」な地上作戦を開始しています。

****イスラエル軍がレバノン南部に地上侵攻を開始 2006年以来 イスラエル軍発表****
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラと交戦を続けるイスラエル軍は、レバノン南部への地上侵攻を開始しました。

イスラエル軍はさきほど、レバノン南部で「限定的な地上作戦を開始した」と発表し、レバノンへの地上侵攻を始めたことを明らかにしました。イスラエル軍は、レバノン南部のヒズボラの拠点を標的に、「限定的かつ局所的に地上襲撃を開始した」としています。

ヒズボラは、去年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、ハマスに連帯を示してイスラエル北部を中心にロケット弾を発射するなど攻撃を続け、イスラエル軍と交戦していました。

イスラエル軍は9月23日からレバノン各地を空爆するなど攻撃を激化させ、27日にはヒズボラの指導者だったナスララ師を殺害しました。

イスラエル軍がレバノンに地上侵攻するのは2006年の大規模戦闘時以来初めてのことで、この時はレバノンで民間人を含む1100人以上が犠牲になるなど甚大な被害を及ぼしました。【10月1日 TBS NEWS DIG】
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アメリカとの協議で「限定的」なもの留めたとも。ただ、いったん戦闘が始まってしまうと互いの攻撃の応酬のなかで戦闘が拡大する危険があります。

****イスラエル、レバノンに「限定的」侵攻 米政府の危惧に一定の配慮か****
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘を巡り、イスラエル軍は1日、「限定的かつ局地的」とするレバノン地上侵攻の開始を発表した。バイデン米政権は地上侵攻による紛争のさらなる拡大を危惧する。

米国の支援を受けるイスラエル側が一定の配慮を示した可能性もあるが、ヒズボラ側の反撃などによっては、戦火が広がる懸念もある。

米紙ワシントン・ポストは9月30日、イスラエルが米政府に対し、レバノンでの限定的な地上作戦の実施計画を伝えたと報じていた。米政府関係者の話としている。

また、米ニュースサイト「アクシオス」によると、大規模な地上侵攻を懸念する米政府がイスラエルと協議した結果、イスラエル側は国境沿いの軍事インフラの掃討に焦点を絞り、完了後の部隊撤収を約束したという。

ワシントン・ポストの報道によると、米政府に伝えられた計画では、イスラエルとの国境沿いにあるヒズボラの軍事インフラを標的にする。2006年にイスラエル軍がレバノンに地上侵攻した際より小規模の作戦を見込むという。

06年の両者の戦闘は約1カ月続き、レバノン側で約1200人、イスラエル側で約160人が死亡した。

米国務省のミラー報道官は30日の記者会見で、イスラエル側から「国境沿いのヒズボラのインフラに対する限定的な作戦について説明を受けた」と話した。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は30日、イスラエルの自衛権を支持すると強調した上で、「我々は緊張緩和を望む。イスラエル側と話し合っている」とも述べ、外交的な解決の重要性を強調した。【10月1日 毎日】
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戦力的に優勢なイスラエル軍に対し、ヒズボラはゲリラ戦で応戦しているようです。

****急峻な地形知り尽くすヒズボラ、地の利を生かし反転攻勢の構え…ナンバー2「戦いは長い」****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは、地上侵攻を始めたイスラエル軍に徹底抗戦する構えだ。ここ2週間ほどの大規模空爆などで大打撃を受け、劣勢を強いられるが、地の利を生かして反転攻勢を目指す。

組織ナンバー2のナイム・カセム師は9月30日のテレビ演説で「あらゆる幹部の代わりがいる」と述べ、空爆で多数の幹部が殺害された影響はないと主張した。その上で、「我々の作戦は続く。戦いは長い」と消耗戦もいとわない姿勢を強調した。

イスラエル軍の猛攻で多くの司令官を失ったヒズボラは、保有しているミサイルとロケット弾の20〜25%を破壊されたとの見方もある。

だが、シリア内戦への参戦経験があり、レバノン南部の急峻きゅうしゅんな地形を知り尽くした熟練民兵は多数が健在とみられる。地下に築いたトンネル網も生かし、イスラエル軍に大きな打撃を与えたい考えだ。

イランの支援でレバノン国軍をしのぐとされる強大な組織となり、中東で影響力を拡大してきたヒズボラは、指導者ハッサン・ナスララ師を殺害され、築き上げた威光を失いかねない危機に直面している

。様々な宗教と宗派が混在するモザイク国家レバノンでは、キリスト教徒やイスラム教スンニ派の間でヒズボラの減退を歓迎する声もささやかれるといい、これ以上の権威失墜は避けたい状況だ。

ヒズボラは、全面紛争による壊滅的な被害を避けるため、これまでイスラエルの市街地などには抑制的な攻撃にとどめてきた。今後もこうした姿勢を維持するかどうかは不透明だ。【10月1日 読売】
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侵攻したイスラエル軍には増強の動きがあります。

****イスラエル、限定侵攻の規模拡大 レバノン南部、1個師団が参加****
イスラエル軍は2日、親イラン民兵組織ヒズボラ掃討を狙い「限定作戦」として進めるレバノン南部での地上侵攻に、三つの旅団や追加部隊を含む1個師団が参加したと発表した。

連日部隊の招集や派遣をしており、規模が大きくなっている。(後略)【10月2日  共同】
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【増加する難民・避難民 レバノンからシリアへ逆流も】
すでに空爆の時点で、レバノンから隣国シリアへの難民は10万人に及んでいます。地上戦が始まった現在は更に増加しているとも思われます。

もともとレバノンにはシリアからの難民が150万人規模で暮らしていましたが、今回の戦闘で今度はレバノンからシリアに逆流している形です。

ただ、シリア難民はシリアに戻れない事情もあり、レバノンでもレバノン人に劣後し、シリアにも戻れずと困難な状況にあります。

****避難者あふれるレバノン 内戦下のシリアに難民が「逆流」****
イスラエル軍が地上侵攻したレバノンで、多くの住民が避難民となっている。だが、首都ベイルートなどでは避難所に入りきれず、屋外で夜を明かす人も相次いでいる。内戦が続く隣国シリアへ逃れる人も後を絶たず、人道危機の懸念が強まっている。

「家を出るときもミサイル攻撃があった。40〜50発は飛んでいた」。レバノン東部で電話取材に応じた運転手、バクリー・アフメドさん(27)はこう語った。

イスラエル軍の空爆が激しさを増した9月下旬、家族とともにレバノン南部の自宅を逃れた。10月1日には地上侵攻も始まり、帰れる見通しは立たなくなった。「早く戦闘が終わってほしい。望むのはそれだけだ」

イスラエル軍は地上戦について「限定的」と説明している。だが、対抗するイスラム教シーア派組織ヒズボラは徹底抗戦の構えを崩しておらず、戦闘が長期化する恐れもある。

東部バールベックに住むアリ・ヤヒさん(26)はネット交流サービス(SNS)による取材に「国際社会は助けてくれないだろう。我々は(パレスチナ自治区)ガザ地区のように見捨てられている」と嘆いた。

ロイター通信などによると、ベイルートでは学校などが避難所として開放されたが、収容人数が限られており、ビーチや路上で寝泊まりする人も少なくない。混乱が続く中、人道支援を行き渡らせるのも難しい状況だ。

国外で難民となった人たちもいる。国連難民高等弁務官事務所などによると、数十万人の避難民のうち、すでに10万人以上が隣国シリアに逃れた。

シリアでは2011年以来、親イランのアサド政権と反体制派の内戦で600万人以上の難民を出した。レバノンにも政府の推計で約150万人のシリア難民が暮らしていたが、イスラエル軍の地上侵攻を機に難民が「逆流」した形だ。

ただ、内戦を機にシリアを追われた難民は、帰国すれば危険が及ぶ可能性もある。南部からベイルートに避難したシリア難民の主婦、サラ・ナハスさん(32)は電話取材に「ベイルートではレバノン人が優先され、アパートも借りられなかった。シリアに行くこともできない。レバノン人の方が簡単にシリアに行ける」と語った。【10月2日 毎日】
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【イランのミサイル攻撃 イランは「ここで打ち止め」にしたい思惑 ネタニヤフ首相は報復実施を示唆】
レバノン情勢と並んで全面戦争の危機が懸念されているのがイランとイスラエル。
イランは1日、複数の親イラン武装組織指導者殺害への報復として、イスラエルに向けて約180発のミサイルを発射しました。

イランはこれまで抑制的な対応をしてきましたが、ここにきてミサイル攻撃に踏み切った背景には、抑制的対応が効果をあげず、イスラエルが攻撃を拡大するなかで、国内に不満が高まっていることがあると推測されます。

今回の攻撃は4月の同様のイスラエル攻撃に比べると、内容的に強化されている面もありますが、基本的にはイスラエル側の被害が大きくならないように制御されたものとなっています。

イランとしても、これ以上、攻撃の応酬で戦闘が拡大するのは避けたい思惑があると思われます。

****増長するイスラエルにくぎを刺す、イランの報復攻撃 背景に国内事情****
イスラム教シーア派国家のイランが1日、敵対するイスラエルに対して180発以上の弾道ミサイルを発射した。中東全域を巻き込む紛争に拡大するリスクがありながら、なぜ攻撃に踏み切ったのか。中東情勢に詳しい慶応大の田中浩一郎教授に聞いた。

イランが4月にイスラエル本土をミサイルで攻撃して以降、イスラム組織ハマスやイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者らが相次いで殺害された。この間、イランは抑制的な対応を取ってきたが、イスラエルの行動は止まらなかった。イランはイスラエルを抑止できておらず、今回の攻撃には増長するイスラエルにくぎを刺す意図があったと言える。

イランが報復攻撃にかじを切った背景の一つには、国内事情もあったと考える。7月末にテヘランでハマスの最高指導者ハニヤ氏が殺害された後、イランの最高指導者ハメネイ師は厳しい言葉でイスラエルへの報復を宣言した。

一方で、米欧から抑制的な対応を求められる中、イラン指導部としてはガザ停戦を実現して外交で成果を上げようと、報復から流れを変えた経緯がある。

ただ交渉は実を結ばず、放置されている状況だ。国内では「抑制を働きかけたことがあだとなった」と指導部への不満の声も出ている。

今回のイランの攻撃は、市民の被害を出さないように市街地を標的から外すなどしている。事態がエスカレートするのを避けたい狙いがあるのは明白だ。

一方で、4月に在シリアのイラン大使館が空爆されたことに対する報復攻撃を行った時とは異なり、イスラエル本土に到達するまでに時間のかかる無人機(ドローン)は使用せず、十数分で到達する弾道ミサイルを使って攻撃能力を示した。相当数がイスラエルに着弾しており、防空網をかいくぐった可能性が高い。

イスラエルは米国の後ろ盾を得て紛争を拡大させ、歯止めがかからなくなっている状況だ。今回のイランの攻撃に対するイスラエルの出方が注目される。【10月2日 毎日】
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イランのアラグチ外相は、10月2日、イスラエルに対し「自衛」措置を講じたとし、イスラエル側がさらなる報復を招く決定をしない限り、イランの措置は終了したとⅩに投稿しいます。

イラン側はミサイルを撃ち込んで、「これで終了」と言ってはいますが、撃ち込まれたイスラエル・ネタニヤフ首相がこのまま矛を収めるとも思われません。

何らかの報復をすると思われますが、問題はそれがどの程度のものになるかです。

****報復の連鎖で全面戦争の恐れは?イランがイスラエルに大規模攻撃****
(中略)
■全面戦争になる?外報部デスク解説
報復の連鎖で全面戦争の恐れはあるのでしょうか。その答えは「イランが攻撃に踏み切った理由にある」と中東取材を続ける外報部・荒木デスクはそう指摘します。

テレビ朝日外報部 元カイロ支局長 荒木基デスク
「イランは直接攻撃を受けた訳ではありません。ただ、イランが直接支援するガザ地区のハマスやレバノンのヒズボラの指導者が相次いで殺害されました。

これは、イスラム教シーア派世界のリーダーを自認するイランとしては、主権が侵されたという意識を持っています。こうした国内の世論に対して、イランの指導部が何もしない訳にはいかなかった、それが報復として今回の攻撃につながったわけです」

そのイラン、イスラエルの反撃があれば「より破壊的で破滅的になる」と警告していますが、本音はそうでもないようです。

荒木基デスク
「本音ではイランも全面戦争など望んでいません。今回のイランの攻撃の程度を見ると、イスラエル側がある程度防ぐことができるくらいにとどめているようにも見えます。

つまりイスラエルの被害は最小限にとどめつつ、イランの側のメンツも立つ、ここで一度打ち止めにしたいとの思惑が感じられます。

この後。イスラエルの反撃が限定的なものにとどまれば、全面戦争という事態にまでは至らないと考えられます。しかし、イスラエルでは『イランの核施設に報復攻撃する計画』も伝えられ始めていて、攻撃の規模によっては事態がさらに悪化する可能性も捨てきれません」【10月2日 テレ朝news】
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戦争が終わるとハマスの奇襲を許した責任を問われ、政治生命が終わりかねないネタニヤフ首相は大統領選挙中のアメリカがイスラエル支援を続けざるを得ない事情も利用して、戦争の継続を狙っていると言われています。

そんなネタニヤフ首相には「ここで一度打ち止めにしたい」というイランの思いは通じないかも。これを機に、一気にイランに致命的な打撃を加えたいという方向に走るかも。

****イスラエル首相「イランは代償払う」 数日以内に石油関連施設攻撃か****
イランの精鋭軍事組織・革命防衛隊は1日夜(日本時間2日未明)、イスラエルに対して180発以上とみられる多数の弾道ミサイルでの攻撃を実施した。大半はイスラエル軍が迎撃した模様だが、一部はイスラエル領内に着弾した。現地の報道によると、1人が死亡、2人が軽傷を負った。

イランによるイスラエルへの直接攻撃は、今年4月に300発以上の巡航ミサイルなどを発射して以来。イスラエル軍による1日のレバノン南部への地上侵攻に続く事態で、中東の緊張はさらに高まっている。今回の事態を受け、国連安全保障理事会は2日に緊急会合を開く。

(中略)イスラエルのネタニヤフ首相は1日、「イランは大きな過ちを犯した。代償を払うことになる」と述べ、報復実施を示唆した。数日以内にイランの石油関連施設などを攻撃することを検討中との報道もある。

イスラエルでは1日夜、各地で警報が発令され、軍は国民に避難を呼びかけた。地元メディアは、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でガザ出身の男性が死亡し、商都テルアビブでも2人が破片で軽傷を負ったと報じた。

軍などによると、発射されたミサイルは180発以上で、うち「少数」がイスラエル中・南部に着弾。中部では学校が損壊した。迎撃には米海軍の駆逐艦も参加した。

一方、イランメディアは、国産の極超音速ミサイル「ファタ」が初使用され、イスラエルの迎撃ミサイルシステムを破壊したと報じた。革命防衛隊は声明で、敵軍のレーダー施設などを標的にしたと説明し、「90%が目標に命中した」と主張した。ただ、テルアビブ近郊などでは多くのミサイルが迎撃される様子が確認されている。

イランのペゼシュキアン大統領は1日、X(ツイッター)への投稿で「国益と市民を守るため」に攻撃したと説明し、「戦争は望んでいないが、いかなる脅威にも断固たる対応を取る」とけん制した。

ロイター通信によると、イラン政府高官は「(イスラエルを支援する)米国には攻撃の直前に外交チャンネルを通じて警告した」と主張。

一方、米国防総省などは事前通知を否定している。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は1日の記者会見で「この攻撃の効果はなかったように見える」と述べつつ、「事態の重大な激化だ」との認識を示した。

バイデン大統領は記者団に「米国は完全にイスラエルを支持している」と表明。ハリス副大統領も「イランは中東を不安定化させる危険な存在だ。イスラエルは我々の支援を受けて攻撃を撃退できた」と強調した。(後略)【10月2日 毎日】
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イスラエルの報復で、核施設が攻撃されたり、石油関連施設が大きな被害を被るということになれば、イランとしても「ここで打ち止め」とはならないでしょう。

イスラエルのレバノンへの地上侵攻がどこまで拡大するのか、イスラエルのイランへの反撃がどのようなものになるのか・・・・中東における全面戦争が起きるのかどうかにつながりますが、全てはいまネタニヤフ首相の決断にかかっています。

ただ、「危険」な人物に委ねられているようにも思われて怖いですが。ネタニヤフ首相にとっては絶好の機会かも。

コメント (1)
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