孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ヒズボラとイスラエルがレバノンで激しく戦うなかで、レバノン国軍はなぜ動かないのか?

2024-10-21 18:18:03 | 中東情勢

(レバノンへの地上侵攻を前に国境付近に集結したイスラエル軍の戦車(9月27日)【10月18日 Newsweek】 )

【ヒズボラ ネタニヤフ首相私邸攻撃 イスラエル報復か】
イスラエルのレバノン・ヒズボラへの攻撃で、中東(あるいは世界)最強の非国家軍事組織とも言われていたイスラム教シーア派組織ヒズボラは、多くの戦闘員を失っていることに加え、最高指導者ナスララ師を殺害されるなど甚大な被害を受け、弱体化していると見られています。

****ヒズボラ、約1500人の戦闘員を喪失=イスラエル軍参謀総長****
イスラエル軍のハレビ参謀総長は18日、イラン支援下にあるレバノンの武装組織ヒズボラ戦闘員の死者数は約1500人との推測を示した。この推測は控えめで、実際にはもっと多いとみられるという。

ハレビ氏はレバノン南部の地上部隊に対し「ヒズボラは甚大な被害を被っており、指揮系統全体が壊滅しつつある。ヒズボラは死者数や指揮官の死亡を隠ぺいしている」と述べた。【10月19日 ロイター】
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ヒズボラからは「停戦」への言及も出ていました。

****イスラエル 米の迎撃システム搬入 ヒズボラは「停戦」呼びかけ*****
イスラエルが、イランによるミサイル攻撃への対抗措置をとるとしている中、アメリカ国防総省はイスラエルをイランのさらなる攻撃から守る迎撃システムの搬入が始まったと発表しました。ただ、イラン側はイスラエルの対抗措置があれば反撃する構えで、抑止力となるかは不透明です。

アメリカの複数のメディアは、イスラエルのネタニヤフ首相がバイデン大統領に、今月1日のイランによる大規模なミサイル攻撃への対抗措置をとるとして、イランの軍事施設を標的とする計画を伝えたと報じています。

こうした中、アメリカ国防総省はイスラエルへの配備を決めた迎撃ミサイルシステム「THAAD」の一部と運用部隊が14日、現地に到着したと発表しました。

THAADは弾道ミサイルを高い高度で撃ち落とすことができるとされ、国防総省は今後数日間をかけて搬入を進め「近い将来、完全に運用可能になる」としています。

アメリカ政府はこれによってイスラエルをイランのさらなる攻撃から守るとしていますが、イラン側はイスラエルの対抗措置があれば反撃する構えで、事態のエスカレートを防ぐ抑止力となるかは不透明です。

また、イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは15日、指導者カセム師のビデオ声明を公開しました。

この中でカセム師はイスラエルに「停戦こそが解決策だ」と呼びかける一方で「戦争が続くならさらに多くの人が住まいを追われ、危険にさらされる。敵はレバノン全土を攻撃しているため、われわれにもイスラエル全土をねらう権利がある」と述べ、攻撃の範囲を拡大して抗戦すると強調しました。(後略)【10月16日 NHK】
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しかし、イスラエル・ネタニヤフ首相はヒズボラが武装解除するまで攻撃を続けるとの構えです。

****武装解除なしに「停戦あり得ず」 対ヒズボラでイスラエル首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は15日、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの停戦の可能性について、「再武装や再集結を防ぐ合意でなければ同意しない」と言明し、ヒズボラの武装解除なしに停戦合意はあり得ないとの考えを示した。フランスのマクロン大統領との電話会談の内容をイスラエル首相府が発表した。(後略)【10月16日 時事】
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そうしたなかで、追い込まれているとも見られるヒズボラ側が意外な抵抗を見せたのが、ネタニヤフ首相私邸への無人機攻撃です。

****ヒズボラが無人機攻撃、ネタニヤフ首相の私邸狙う けが人な****
イスラエル軍によると、イスラエル北部カイザリアで19日、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラからの無人機攻撃があり、1機が何らかの建物に命中した。カイザリアにはネタニヤフ首相の私邸があり、首相府は標的が私邸だったと認めた。
 
首相府によると、当時、首相らは周辺におらず、けが人はいないという。
 
イスラエルは、ヒズボラの掃討を目指し、レバノンでの地上侵攻を進め、空爆も各地で続けている。
 
これに対して、ヒズボラは、イスラエルへの攻撃範囲を国境付近から徐々に広げている。連帯するパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者シンワル氏の殺害後には、「戦争は新たな段階に突入した」と発表していた。【10月19日 毎日】
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ネタニヤフ首相は報復を示唆しています。

****ガザ北部空爆で死者・行方不明者87人=イスラエル首相、私邸攻撃で報復示唆****
(中略) 
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は19日、中部カイサリアにある私邸がドローン攻撃を受けた後の声明で、「私や妻を暗殺する試みは重大な過ちだ」と非難した。

攻撃を仕掛けたとされるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやその後ろ盾のイランを名指しし、「(ドローン攻撃が)敵に対する正当な戦争を思いとどまらせることはない」として報復を示唆した。
 
イスラエル軍は20日、レバノンの首都ベイルート南郊を立て続けに空爆。軍は、ヒズボラの情報部門の司令室と地下の武器製造施設を標的にしたと説明した。対してヒズボラは19日だけでイスラエルへ向けて約200発の飛翔(ひしょう)体を発射し、攻撃の応酬が激化している。【10月20日 時事】 
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攻撃の応酬がしばらく続きそうな様相です。

アイアンドームなどの鉄壁の防空体制を誇っているイスラエルが、どうして首相私邸という中枢への攻撃を許したのかという疑問、今回首相私邸攻撃のイスラエル国内の反応に関する報道はまだ目にしていません。

【イスラエルに攻撃されるなかでレバノン国軍はなぜ動かないのか?】
以上は、ここ数日のレバノン情勢ですが、イスラエルと戦っているのはあくまでもシーア派民兵組織ヒズボラであり、レバノン国家ではありません。(ただし、戦闘の被害を受けているのはレバノンの一般市民ですが)

しかし、一方でヒズボラは単なるシーア派民兵組織ではなく、レバノンの政治・社会に深く根をはった組織で、レバノンの政治・社会と一体化している面があります。

****【解説】レバノンの中に別の“国家” ヒズボラとは*****
(中略
・「モザイク国家」レバノンのもろさ
イスラエル軍の地上部隊によるレバノン南部への侵攻が拡大する中、イスラエルと敵対するヒズボラの攻撃能力はさらに打撃を受けているものと見られます。

しかしそれにも関わらず、ヒズボラ側は引き続きイスラエル側に向けて攻撃を続けていて、イスラエルが目指すヒズボラの弱体化の難しさも浮かび上がっています。背景には、ヒズボラが、レバノンの国土、政治、そして社会に深く根を張っている実態があります。 

まず、ヒズボラが大きな存在感をもつことを許しているレバノンという国の事情を見てみます。

レバノンは、地中海に面した南北に細長い国です。この一帯は、もともとはオスマン帝国の支配下でしたが、第1次世界大戦後にフランスが奪い取り統治されるようになり、1943年に独立国家となりました。

ここには、イスラム教のスンニ派、シーア派、キリスト教のマロン派、ギリシャ正教など、18の異なる宗教・宗派の人々が暮らしていて、「モザイク国家」とも呼ばれます。首都ベイルート中心部は美しい町並みで知られ、多様な文化と歴史があり、人々は親切で魅力にあふれた国です。

しかし、ひとたび政治のこととなると、「モザイク国家」のもろさが露呈します。バランスを図る目的で、大統領はマロン派、首相はスンニ派、議会議長はシーア派から選出すると決まっているのですが、こうしたこともあって、国としての統一した権力が確立しにくいのです。 

・政党としても活動するヒズボラ
こうした状況で台頭してきたのが、1982年に発足したシーア派の勢力のひとつヒズボラです。当時もレバノンにイスラエルは侵攻していましたが、それに抵抗する民兵組織でした。

しかし、イランの支援を受けながら、ミサイルやロケット弾などで武装していくうちに、その軍事力はレバノンの正規軍を上回るようになりました。

また、シーア派の住民に対して学校や病院を建設し、社会福祉も提供し、一部の住民にとっては、レバノン政府よりも政府らしい役割を果たしていると受け止められるようになりました。 

さらに、ヒズボラは「神の党」を意味しますが、文字どおり、ひとつの政党としても活動しています。2022年の議会選挙でも、128議席の内、過半数に近い62議席をヒズボラの陣営が占めました。 

こうしたことから、ヒズボラは、首都ベイルートの南部、国の南部と東部で、政府よりも強い権限を行使出来るようになっていて、レバノンという国家の中にまるで自分たちだけの別の国家を築き上げているようだと言われています。 

実際、私もこうした地域で取材するときには、ヒズボラとかけあって取材許可を取得する必要がありました。そうしなければ、ヒズボラの民兵に取材を阻まれることになり、こうした地域では、レバノン政府が発行する記者証は何も役に立たなかったのです。 

こうして見ると、イスラエルのネタニヤフ首相が、いくらレバノンからヒズボラだけを排除することを目指したとしても、パズルのピースをはずすようにはいかないのは明らかです。地上侵攻が拡大するにつれ、今後、この難しさがいっそう明らかになっていくことが予想されます。【10月9日 NHK】
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そこで生じる疑問は、今回のイスラエルのレバノンへの攻撃に対し、レバノンは国家としてどう対応しているのか、より具体的には、レバノン国家の正規軍(国軍)は戦闘にどう関与しているのかということ。

実際のところはレバノン国軍は戦闘に対し中立的立ち位置を続け、動いていません。

****ついにイスラエルが地上侵攻を開始...それでもレバノン軍が動かない理由****
<保有する戦闘機はゼロ、兵士の多くは2~3の仕事を掛け持ち──レバノン国軍は弱小だが、応戦しない理由には国が置かれた「微妙な立場」が関係している>

レバノンの首都ベイルートで、何本もの煙が上がっている。空には無人機(ドローン)が飛び交い、住民は怯えて逃げ惑う。病院はとっくに定員オーバーだ。近年の経済危機などで、既にレバノン社会はボロボロの状態にあるが、軍が応戦する気配はない。

一般に国土防衛は軍の最大の仕事の1つだが、レバノン軍は自国をのみ込みつつある紛争への対応を迷っている。

この紛争に関われば、イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラに味方することになり、強大なイスラエルを敵に回すことになる。これまでレバノンを軍事的に支援してきた欧米諸国との関係も危うくなる。

複数の関係筋によると、レバノン軍はこの紛争に関わるタイミングを、できるだけ先延ばしにする可能性が高い。第一、まともに関与する能力がないというのが、軍関係者の本音のようだ。

そもそもこの紛争は、イスラエル軍とヒズボラの軍事部門(ヒズボラは国民議会に議席を持つ大衆政党でもある)の衝突であって、国家としてのレバノンは無関係だと語る政府関係者も少なくない。だから国軍の関与は期待されるべきではないというのだ。

レバノンは、イスラム教やキリスト教などの多数の宗派が混在するモザイク国家で、激しい内戦で国土が荒廃した経験から、国内各派のバランス維持に尽力してきた。軍も、「国防ではなく、国内の安定維持に力を入れてきた」と、レバノン軍の訓練に協力する欧米諸国関係者は語る。

保有する戦闘機はゼロ
レバノンがイスラエルとの武力衝突を避けている背景には、圧倒的な力の差もある。各国の軍事力を評価するグローバル・ファイヤーパワーによると、レバノンの軍事力は145カ国中118位だが、イスラエルはトップ20に入る。

レバノン軍は戦闘機を持っていないし、戦車も旧式のものしかない。約7万人の兵士の多くは2〜3の仕事を掛け持ちしている。これに対してイスラエル軍の兵力は17万人で、さらに予備役が30万〜40万人いる。最先端の戦闘機や戦車や防衛システムもある。

兵力や火力の圧倒的な差は、問題の1つにすぎない。イスラエルとヒズボラの衝突に、レバノン軍は自らの存続に関わるジレンマを抱えている。

まず、多くの欧米諸国は、ヒズボラをテロ組織に指定しているから、ヒズボラに味方すれば、レバノンはテロ支援国家と見なされかねない。

それに2006年以降、レバノンはアメリカから計30億ドル以上の軍事援助を受けてきた。近年の経済危機で軍人への給与支払いが滞ったときも、アメリカが助けてくれた(世界銀行によると、23年2月の時点で、レバノンの通貨ポンドの価値は危機前の2%以下に落ち込んだ)。

アメリカの援助で得た武器を、アメリカの重要な同盟国であるイスラエルに対して使うのは難しいだろうと、専門家はみる。また、レバノン軍にとっては、この先もアメリカの援助が頼りだ。

「レバノン軍は、レバノン唯一の正当な防衛機関としての役割」をヒズボラに奪われることなく「維持・強化していくという難しい課題に直面している」と、中東問題研究所(ワシントン)のフィラス・マクサド上級研究員は語る。

ヒズボラは長年、イスラエルによるヒズボラ攻撃は、レバノンの主権を侵害する行為であり、撃退する必要があると主張してきた。また、欧米諸国は故意にレバノン軍を弱く維持していると非難してきた。

そして、ヒズボラはレバノン軍の競争相手ではなく戦友や同盟のような存在だとし、「人民、軍隊、抵抗」というスローガンを掲げてきた。

だが、多くのレバノン市民は、ヒズボラは1982年と2006年のイスラエルによるレバノン侵攻を利用して、自らの影響力を拡大してきたと考えている。1990年に収束したレバノン内戦後、国内の武装勢力が全て武装解除したときも、ヒズボラだけは武器を維持した。

このため現在のレバノン国内では、イスラエルのピンポイント攻撃によりヒズボラの幹部が次々と殺害され、その拠点が破壊されれば、レバノンでより公平な権力分配が実現するのではないかとひそかに期待する向きもある。

とはいえ、イスラエルによるレバノン南部とベイルート郊外ダヒヤへの爆撃は、120万人の避難民を生み出した。その大部分はシーア派で、彼らが避難してくることで、レバノン社会の安定のために意図的に維持されてきた、宗派による地域的な住み分けが危うくなっている。

近隣地域にしてみれば、あまりにも多くのシーア派(ましてやヒズボラ関係者)が流入してくれば、自分たちのコミュニティーがイスラエルの爆撃のターゲットになりかねない。このため多くの地域は、過度に多くの避難民を受け入れることには消極的だ。

イスラエルのターゲットになるのを避けるために、ヒズボラのメンバーが避難先の村から追い出されたケースも過去にはあった。

イスラム教ドルーズ派が大多数を占める町ショアヤでは、21年8月、ヒズボラがイスラエルに向けてロケット弾を発射するのを阻止するため、ヒズボラのトラックが押収された。

レバノン軍は、イスラエルとヒズボラの争いに直接関わるよりも、紛争後に停戦合意(的なもの)が各地できちんと守られるよう確保する役割を担うだろう。

レバノンでは、かつての内戦終結時に、大統領はキリスト教マロン派、首相はスンニ派、国会議長はシーア派から出すという権力配分が決められた。

そんななか軍は唯一の中立機関であり、宗派間の緊張が生じたとき唯一仲裁に入ることができるアクターと見なされている。

その役割を維持するためにも、軍は中立を保ち、今回の紛争でヒズボラに味方することを避けなければならない。

だが、紛争が長引けば、かねてから経済危機と貧困に揺れるレバノン国内の亀裂が一段と悪化する恐れがある。

「内戦の不安がささやかれることもあるが、今のところ皆、非常に賢明に振る舞っている」と、国会議員のアラン・アウンは語る。「だが、確かなことは言えない。紛争後の各政党の行動が重要になる」

ナジブ・ミカティ首相は、イスラエルとレバノンの事実上の国境であるブルーライン(撤退ライン)にレバノン軍を配備するとともに、ヒズボラがこのラインからさらに後退することを提案している。

軍は唯一の中立的な組織
だが、これが実現するためには、ヒズボラが撤退に合意するか、敗北するか、あるいはイスラエルが方針を転換して停戦に合意するしかない。

今回の紛争で、レバノン軍がどのような行動を取るかは、おそらく今後のレバノン政治にも影響を与えるだろう。というのも、レバノン軍のジョゼフ・アウン最高司令官はマロン派で、次期大統領として反ヒズボラ派の間で最大の支持を集めているのだ。

カーネギー中東センター(レバノン)のシニアエディターであるマイケル・ヤングは9月28日、ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師が暗殺された今、レバノンの頼りは「まだ機能している唯一の国家機関である軍であり、ジョゼフ・アウンの(大統領)選出の動きが拡大するだろう」と、X(旧ツイッター)に投稿している。

「なぜかって? それは軍が国内の安定を維持する上で重要な役割を果たすとともに、(ヒズボラの影響が強い)南部の治安確保でも重要な役割を果たすからだ」

この1年間、イスラエルとヒズボラは互いに爆撃を続けてきたが、レバノン軍が応戦したのは1度だけと、軍は10月3日の声明で主張している。

「イスラエルがビントジュベイル(レバノン南部)のレバノン軍駐屯地を爆撃し、兵士1人が死亡」したため、「この駐屯地の人員が爆撃の起点に向けて応戦した」ときだ。

どうやら今回の紛争で、レバノン軍の直接関与につながるレッドライン(越えてはならない一線)は、レバノン軍の拠点への攻撃と、全面的なレバノン侵攻・占領のようだ。

ただ、イスラエルの激しい攻撃が、国家としてのレバノンのプライドを刺激するようなことになれば、どうなるかは分からない。【10月18日 Newsweek】
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レバノン国軍の軍事力はイスラエルはもちろんヒズボラにも劣り、しかもアメリカ依存ということで、対イスラエルの戦闘へは動けないという事情もありますが、そもそも、ヒズボラを支援するいわれもありません。

レバノン政治はヒズボラと反ヒズボラ勢力の抗争が続いおり、国軍トップは反ヒズボラの有力者。
ヒズボラが敗退あるいは弱体化の後のレバノン国内の安定確保を主要な目的としているといったところのよううです。

うまくいけば、ヒズボラを抑えて国軍トップが国の実権を・・・


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レバノン南部への侵攻 イランのミサイル攻撃への報復 中東全面戦争のカギを握るネタニヤフ首相

2024-10-02 23:26:50 | 中東情勢

(イランのミサイル発射を受け起動した迎撃システム=1日、イスラエル中部アシュケロン(ロイター=共同)【10月2日 産経】)

【イスラエル レバノン南部で「限定的な地上作戦」 「限定的」にとどまるかは疑問】
レバノン各地を空爆するなど攻撃を激化させ、9月27日にはヒズボラの指導者だったナスララ師を殺害したイスラエル軍は、更にレバノン南部への「限定的かつ局地的」な地上作戦を開始しています。

****イスラエル軍がレバノン南部に地上侵攻を開始 2006年以来 イスラエル軍発表****
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラと交戦を続けるイスラエル軍は、レバノン南部への地上侵攻を開始しました。

イスラエル軍はさきほど、レバノン南部で「限定的な地上作戦を開始した」と発表し、レバノンへの地上侵攻を始めたことを明らかにしました。イスラエル軍は、レバノン南部のヒズボラの拠点を標的に、「限定的かつ局所的に地上襲撃を開始した」としています。

ヒズボラは、去年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、ハマスに連帯を示してイスラエル北部を中心にロケット弾を発射するなど攻撃を続け、イスラエル軍と交戦していました。

イスラエル軍は9月23日からレバノン各地を空爆するなど攻撃を激化させ、27日にはヒズボラの指導者だったナスララ師を殺害しました。

イスラエル軍がレバノンに地上侵攻するのは2006年の大規模戦闘時以来初めてのことで、この時はレバノンで民間人を含む1100人以上が犠牲になるなど甚大な被害を及ぼしました。【10月1日 TBS NEWS DIG】
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アメリカとの協議で「限定的」なもの留めたとも。ただ、いったん戦闘が始まってしまうと互いの攻撃の応酬のなかで戦闘が拡大する危険があります。

****イスラエル、レバノンに「限定的」侵攻 米政府の危惧に一定の配慮か****
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘を巡り、イスラエル軍は1日、「限定的かつ局地的」とするレバノン地上侵攻の開始を発表した。バイデン米政権は地上侵攻による紛争のさらなる拡大を危惧する。

米国の支援を受けるイスラエル側が一定の配慮を示した可能性もあるが、ヒズボラ側の反撃などによっては、戦火が広がる懸念もある。

米紙ワシントン・ポストは9月30日、イスラエルが米政府に対し、レバノンでの限定的な地上作戦の実施計画を伝えたと報じていた。米政府関係者の話としている。

また、米ニュースサイト「アクシオス」によると、大規模な地上侵攻を懸念する米政府がイスラエルと協議した結果、イスラエル側は国境沿いの軍事インフラの掃討に焦点を絞り、完了後の部隊撤収を約束したという。

ワシントン・ポストの報道によると、米政府に伝えられた計画では、イスラエルとの国境沿いにあるヒズボラの軍事インフラを標的にする。2006年にイスラエル軍がレバノンに地上侵攻した際より小規模の作戦を見込むという。

06年の両者の戦闘は約1カ月続き、レバノン側で約1200人、イスラエル側で約160人が死亡した。

米国務省のミラー報道官は30日の記者会見で、イスラエル側から「国境沿いのヒズボラのインフラに対する限定的な作戦について説明を受けた」と話した。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は30日、イスラエルの自衛権を支持すると強調した上で、「我々は緊張緩和を望む。イスラエル側と話し合っている」とも述べ、外交的な解決の重要性を強調した。【10月1日 毎日】
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戦力的に優勢なイスラエル軍に対し、ヒズボラはゲリラ戦で応戦しているようです。

****急峻な地形知り尽くすヒズボラ、地の利を生かし反転攻勢の構え…ナンバー2「戦いは長い」****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは、地上侵攻を始めたイスラエル軍に徹底抗戦する構えだ。ここ2週間ほどの大規模空爆などで大打撃を受け、劣勢を強いられるが、地の利を生かして反転攻勢を目指す。

組織ナンバー2のナイム・カセム師は9月30日のテレビ演説で「あらゆる幹部の代わりがいる」と述べ、空爆で多数の幹部が殺害された影響はないと主張した。その上で、「我々の作戦は続く。戦いは長い」と消耗戦もいとわない姿勢を強調した。

イスラエル軍の猛攻で多くの司令官を失ったヒズボラは、保有しているミサイルとロケット弾の20〜25%を破壊されたとの見方もある。

だが、シリア内戦への参戦経験があり、レバノン南部の急峻きゅうしゅんな地形を知り尽くした熟練民兵は多数が健在とみられる。地下に築いたトンネル網も生かし、イスラエル軍に大きな打撃を与えたい考えだ。

イランの支援でレバノン国軍をしのぐとされる強大な組織となり、中東で影響力を拡大してきたヒズボラは、指導者ハッサン・ナスララ師を殺害され、築き上げた威光を失いかねない危機に直面している

。様々な宗教と宗派が混在するモザイク国家レバノンでは、キリスト教徒やイスラム教スンニ派の間でヒズボラの減退を歓迎する声もささやかれるといい、これ以上の権威失墜は避けたい状況だ。

ヒズボラは、全面紛争による壊滅的な被害を避けるため、これまでイスラエルの市街地などには抑制的な攻撃にとどめてきた。今後もこうした姿勢を維持するかどうかは不透明だ。【10月1日 読売】
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侵攻したイスラエル軍には増強の動きがあります。

****イスラエル、限定侵攻の規模拡大 レバノン南部、1個師団が参加****
イスラエル軍は2日、親イラン民兵組織ヒズボラ掃討を狙い「限定作戦」として進めるレバノン南部での地上侵攻に、三つの旅団や追加部隊を含む1個師団が参加したと発表した。

連日部隊の招集や派遣をしており、規模が大きくなっている。(後略)【10月2日  共同】
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【増加する難民・避難民 レバノンからシリアへ逆流も】
すでに空爆の時点で、レバノンから隣国シリアへの難民は10万人に及んでいます。地上戦が始まった現在は更に増加しているとも思われます。

もともとレバノンにはシリアからの難民が150万人規模で暮らしていましたが、今回の戦闘で今度はレバノンからシリアに逆流している形です。

ただ、シリア難民はシリアに戻れない事情もあり、レバノンでもレバノン人に劣後し、シリアにも戻れずと困難な状況にあります。

****避難者あふれるレバノン 内戦下のシリアに難民が「逆流」****
イスラエル軍が地上侵攻したレバノンで、多くの住民が避難民となっている。だが、首都ベイルートなどでは避難所に入りきれず、屋外で夜を明かす人も相次いでいる。内戦が続く隣国シリアへ逃れる人も後を絶たず、人道危機の懸念が強まっている。

「家を出るときもミサイル攻撃があった。40〜50発は飛んでいた」。レバノン東部で電話取材に応じた運転手、バクリー・アフメドさん(27)はこう語った。

イスラエル軍の空爆が激しさを増した9月下旬、家族とともにレバノン南部の自宅を逃れた。10月1日には地上侵攻も始まり、帰れる見通しは立たなくなった。「早く戦闘が終わってほしい。望むのはそれだけだ」

イスラエル軍は地上戦について「限定的」と説明している。だが、対抗するイスラム教シーア派組織ヒズボラは徹底抗戦の構えを崩しておらず、戦闘が長期化する恐れもある。

東部バールベックに住むアリ・ヤヒさん(26)はネット交流サービス(SNS)による取材に「国際社会は助けてくれないだろう。我々は(パレスチナ自治区)ガザ地区のように見捨てられている」と嘆いた。

ロイター通信などによると、ベイルートでは学校などが避難所として開放されたが、収容人数が限られており、ビーチや路上で寝泊まりする人も少なくない。混乱が続く中、人道支援を行き渡らせるのも難しい状況だ。

国外で難民となった人たちもいる。国連難民高等弁務官事務所などによると、数十万人の避難民のうち、すでに10万人以上が隣国シリアに逃れた。

シリアでは2011年以来、親イランのアサド政権と反体制派の内戦で600万人以上の難民を出した。レバノンにも政府の推計で約150万人のシリア難民が暮らしていたが、イスラエル軍の地上侵攻を機に難民が「逆流」した形だ。

ただ、内戦を機にシリアを追われた難民は、帰国すれば危険が及ぶ可能性もある。南部からベイルートに避難したシリア難民の主婦、サラ・ナハスさん(32)は電話取材に「ベイルートではレバノン人が優先され、アパートも借りられなかった。シリアに行くこともできない。レバノン人の方が簡単にシリアに行ける」と語った。【10月2日 毎日】
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【イランのミサイル攻撃 イランは「ここで打ち止め」にしたい思惑 ネタニヤフ首相は報復実施を示唆】
レバノン情勢と並んで全面戦争の危機が懸念されているのがイランとイスラエル。
イランは1日、複数の親イラン武装組織指導者殺害への報復として、イスラエルに向けて約180発のミサイルを発射しました。

イランはこれまで抑制的な対応をしてきましたが、ここにきてミサイル攻撃に踏み切った背景には、抑制的対応が効果をあげず、イスラエルが攻撃を拡大するなかで、国内に不満が高まっていることがあると推測されます。

今回の攻撃は4月の同様のイスラエル攻撃に比べると、内容的に強化されている面もありますが、基本的にはイスラエル側の被害が大きくならないように制御されたものとなっています。

イランとしても、これ以上、攻撃の応酬で戦闘が拡大するのは避けたい思惑があると思われます。

****増長するイスラエルにくぎを刺す、イランの報復攻撃 背景に国内事情****
イスラム教シーア派国家のイランが1日、敵対するイスラエルに対して180発以上の弾道ミサイルを発射した。中東全域を巻き込む紛争に拡大するリスクがありながら、なぜ攻撃に踏み切ったのか。中東情勢に詳しい慶応大の田中浩一郎教授に聞いた。

イランが4月にイスラエル本土をミサイルで攻撃して以降、イスラム組織ハマスやイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者らが相次いで殺害された。この間、イランは抑制的な対応を取ってきたが、イスラエルの行動は止まらなかった。イランはイスラエルを抑止できておらず、今回の攻撃には増長するイスラエルにくぎを刺す意図があったと言える。

イランが報復攻撃にかじを切った背景の一つには、国内事情もあったと考える。7月末にテヘランでハマスの最高指導者ハニヤ氏が殺害された後、イランの最高指導者ハメネイ師は厳しい言葉でイスラエルへの報復を宣言した。

一方で、米欧から抑制的な対応を求められる中、イラン指導部としてはガザ停戦を実現して外交で成果を上げようと、報復から流れを変えた経緯がある。

ただ交渉は実を結ばず、放置されている状況だ。国内では「抑制を働きかけたことがあだとなった」と指導部への不満の声も出ている。

今回のイランの攻撃は、市民の被害を出さないように市街地を標的から外すなどしている。事態がエスカレートするのを避けたい狙いがあるのは明白だ。

一方で、4月に在シリアのイラン大使館が空爆されたことに対する報復攻撃を行った時とは異なり、イスラエル本土に到達するまでに時間のかかる無人機(ドローン)は使用せず、十数分で到達する弾道ミサイルを使って攻撃能力を示した。相当数がイスラエルに着弾しており、防空網をかいくぐった可能性が高い。

イスラエルは米国の後ろ盾を得て紛争を拡大させ、歯止めがかからなくなっている状況だ。今回のイランの攻撃に対するイスラエルの出方が注目される。【10月2日 毎日】
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イランのアラグチ外相は、10月2日、イスラエルに対し「自衛」措置を講じたとし、イスラエル側がさらなる報復を招く決定をしない限り、イランの措置は終了したとⅩに投稿しいます。

イラン側はミサイルを撃ち込んで、「これで終了」と言ってはいますが、撃ち込まれたイスラエル・ネタニヤフ首相がこのまま矛を収めるとも思われません。

何らかの報復をすると思われますが、問題はそれがどの程度のものになるかです。

****報復の連鎖で全面戦争の恐れは?イランがイスラエルに大規模攻撃****
(中略)
■全面戦争になる?外報部デスク解説
報復の連鎖で全面戦争の恐れはあるのでしょうか。その答えは「イランが攻撃に踏み切った理由にある」と中東取材を続ける外報部・荒木デスクはそう指摘します。

テレビ朝日外報部 元カイロ支局長 荒木基デスク
「イランは直接攻撃を受けた訳ではありません。ただ、イランが直接支援するガザ地区のハマスやレバノンのヒズボラの指導者が相次いで殺害されました。

これは、イスラム教シーア派世界のリーダーを自認するイランとしては、主権が侵されたという意識を持っています。こうした国内の世論に対して、イランの指導部が何もしない訳にはいかなかった、それが報復として今回の攻撃につながったわけです」

そのイラン、イスラエルの反撃があれば「より破壊的で破滅的になる」と警告していますが、本音はそうでもないようです。

荒木基デスク
「本音ではイランも全面戦争など望んでいません。今回のイランの攻撃の程度を見ると、イスラエル側がある程度防ぐことができるくらいにとどめているようにも見えます。

つまりイスラエルの被害は最小限にとどめつつ、イランの側のメンツも立つ、ここで一度打ち止めにしたいとの思惑が感じられます。

この後。イスラエルの反撃が限定的なものにとどまれば、全面戦争という事態にまでは至らないと考えられます。しかし、イスラエルでは『イランの核施設に報復攻撃する計画』も伝えられ始めていて、攻撃の規模によっては事態がさらに悪化する可能性も捨てきれません」【10月2日 テレ朝news】
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戦争が終わるとハマスの奇襲を許した責任を問われ、政治生命が終わりかねないネタニヤフ首相は大統領選挙中のアメリカがイスラエル支援を続けざるを得ない事情も利用して、戦争の継続を狙っていると言われています。

そんなネタニヤフ首相には「ここで一度打ち止めにしたい」というイランの思いは通じないかも。これを機に、一気にイランに致命的な打撃を加えたいという方向に走るかも。

****イスラエル首相「イランは代償払う」 数日以内に石油関連施設攻撃か****
イランの精鋭軍事組織・革命防衛隊は1日夜(日本時間2日未明)、イスラエルに対して180発以上とみられる多数の弾道ミサイルでの攻撃を実施した。大半はイスラエル軍が迎撃した模様だが、一部はイスラエル領内に着弾した。現地の報道によると、1人が死亡、2人が軽傷を負った。

イランによるイスラエルへの直接攻撃は、今年4月に300発以上の巡航ミサイルなどを発射して以来。イスラエル軍による1日のレバノン南部への地上侵攻に続く事態で、中東の緊張はさらに高まっている。今回の事態を受け、国連安全保障理事会は2日に緊急会合を開く。

(中略)イスラエルのネタニヤフ首相は1日、「イランは大きな過ちを犯した。代償を払うことになる」と述べ、報復実施を示唆した。数日以内にイランの石油関連施設などを攻撃することを検討中との報道もある。

イスラエルでは1日夜、各地で警報が発令され、軍は国民に避難を呼びかけた。地元メディアは、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でガザ出身の男性が死亡し、商都テルアビブでも2人が破片で軽傷を負ったと報じた。

軍などによると、発射されたミサイルは180発以上で、うち「少数」がイスラエル中・南部に着弾。中部では学校が損壊した。迎撃には米海軍の駆逐艦も参加した。

一方、イランメディアは、国産の極超音速ミサイル「ファタ」が初使用され、イスラエルの迎撃ミサイルシステムを破壊したと報じた。革命防衛隊は声明で、敵軍のレーダー施設などを標的にしたと説明し、「90%が目標に命中した」と主張した。ただ、テルアビブ近郊などでは多くのミサイルが迎撃される様子が確認されている。

イランのペゼシュキアン大統領は1日、X(ツイッター)への投稿で「国益と市民を守るため」に攻撃したと説明し、「戦争は望んでいないが、いかなる脅威にも断固たる対応を取る」とけん制した。

ロイター通信によると、イラン政府高官は「(イスラエルを支援する)米国には攻撃の直前に外交チャンネルを通じて警告した」と主張。

一方、米国防総省などは事前通知を否定している。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は1日の記者会見で「この攻撃の効果はなかったように見える」と述べつつ、「事態の重大な激化だ」との認識を示した。

バイデン大統領は記者団に「米国は完全にイスラエルを支持している」と表明。ハリス副大統領も「イランは中東を不安定化させる危険な存在だ。イスラエルは我々の支援を受けて攻撃を撃退できた」と強調した。(後略)【10月2日 毎日】
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イスラエルの報復で、核施設が攻撃されたり、石油関連施設が大きな被害を被るということになれば、イランとしても「ここで打ち止め」とはならないでしょう。

イスラエルのレバノンへの地上侵攻がどこまで拡大するのか、イスラエルのイランへの反撃がどのようなものになるのか・・・・中東における全面戦争が起きるのかどうかにつながりますが、全てはいまネタニヤフ首相の決断にかかっています。

ただ、「危険」な人物に委ねられているようにも思われて怖いですが。ネタニヤフ首相にとっては絶好の機会かも。

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今後の中東情勢  強気のイスラエル 足元がふらつくヒズボラ 対応が難しいイラン

2024-09-30 23:22:53 | 中東情勢

(イスラエルの攻撃で指導者ナスララ師が殺害されたベイルート近郊の現場【9月30日 ロイター】)

【攻撃範囲を拡大するイスラエル 強気のネタニヤフ首相の理由は】
イスラエルによるヒズボラ指導者殺害で、今後の中東情勢はどうなるのか?

“今後はヒズボラがロケット弾攻撃などを激化させ、イスラエル軍がレバノンへ地上侵攻、戦火が一気に拡大し、イランや米国をも巻き込んだ中東戦争に発展する恐れさえ出てきた”【9月30日 WEDGE】というのがひとつの見方です。

確かにイスラエル・ネタニヤフ首相は“やる気満々”のようです。攻撃範囲をレバノン首都ベイルート、イエメン・フーシ派に拡大し、限定的なレバノン地上侵攻への準備を始めています。

****イスラエル軍が攻撃対象を拡大…レバノン首都ベイルート中心部を攻撃、フーシの攻撃にも報復****
中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラによると、イスラエル軍は29〜30日、イスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点レバノンの首都ベイルート中心部を攻撃した。

中心部への攻撃は、イスラム主義組織ハマスとの戦闘が始まった昨年10月以降で初めて。軍は29日、イエメンの反政府武装勢力フーシに対しても報復攻撃を行い、ヒズボラ以外の武装勢力に攻撃を拡大した。

軍はヒズボラ本部があるベイルート南郊を空爆してきたが、今回の攻撃対象は中心部で、空港と市内を結ぶ交通の要所だ。AFP通信によると、アパートの高層階が無人機で攻撃され、武装組織「パレスチナ解放人民戦線(PFLP)」の幹部3人が殺害された。

イスラエル軍は29日、ヒズボラの軍事施設など約120か所を攻撃したと発表したが、ベイルート中心部への攻撃には触れていない。

レバノン南部ではハマスの現地幹部が殺害された。レバノン保健省によると、29日に105人が死亡、359人が負傷した。中心部の攻撃が本格化すれば、死傷者数の拡大は必至だ。

攻撃対象は周辺国に広がっている。イスラエル軍は29日、イエメン西部ラスイサとホデイダの発電所と港湾施設を空爆した。フーシがヒズボラの後ろ盾のイランから武器・石油の輸送に使う施設を戦闘機など数十機で攻撃した。

アル・ジャジーラによると、少なくとも4人が死亡した。ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師の殺害を受け、フーシが28日、商都テルアビブの空港に向け弾道ミサイルを発射したことへの報復だ。

イスラエルへの攻撃も強まっている。イラクの親イラン民兵組織などでつくる連合体「イラクのイスラム抵抗運動」は29日、イスラエルをミサイルで攻撃した。

米国のバイデン大統領は29日、中東情勢を巡り全面戦争は回避しなければならないとして、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と近く協議する意向を示した。オースティン米国防長官は29日、「様々な不測の事態」に備え、いつでも米軍部隊を増派できるように即応準備を指示した。【9月30日 読売】
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****イスラエル軍、小規模作戦でレバノン侵入か****
米紙ウォールストリート・ジャーナルは30日、複数の情報筋の話として、イスラエル軍の特殊部隊がレバノン南部に侵入し、小規模作戦を実施したと伝えた。地上侵攻に向けた情報収集が目的という。【9月30日 共同】
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ネタニヤフ首相が強気で攻撃を拡大している背景には二つの事情があると指摘されています。

一つは、アメリカ・バイデン政権は停戦とか全面戦争回避とか言ってはいるが、大統領選挙における国内のイスラエル支持派の動きを考えると、結局イスラエルへの武器供与停止といった強い行動には出られないとバイデン政権の足元をみていること。

もう一つは、ネタニヤフ首相自身にとって、戦争継続がどうしても必要だからです。

****〈ためらい捨てたネタニヤフ〉ヒズボラ指導者殺害の一線を越えたイスラエルの思惑と無謀な賭け****
(中略)
ネタニヤフ氏がバイデン大統領を軽んじているのは、大統領の任期が4カ月を切り、すでにレームダック状態にあることが大きい。その背景には2つの思惑がある。1つは米国がイスラエルへの武器支援を止めることができないと高をくくっているからに他ならない。

停戦を拒むネタニヤフ氏に圧力を掛けるため武器の供給を停止すれば、イスラエル支持のユダヤ系や保守系キリスト教徒の怒りを買い、後継候補のハリス副大統領が選挙で不利になってしまう。

ネタニヤフ氏は大統領にこうした決断はできないと踏んでいる。「大統領選挙を人質に取っている」とも言えるだろう。
もう1つは首相にとって戦争続行がどうしても必要だからだ。首相はガザ戦争が終われば、ガザの武装組織ハマスの越境攻撃を防げなかった責任を追及されて辞任せざるを得ない状況。ガザ戦争に終わりが見えたいま、ヒズボラを新たな敵対勢力として戦闘を続けようということだ。

「ヒズボラの背後にはイランの存在があり、戦闘を拡大して米国を引きずり込むことを考えているのではないか。そうなれば、ヒズボラ壊滅ばかりか、宿敵のイランも叩くことが可能。ネタニヤフにとっては権力を維持できて一石三鳥だろう」(ベイルート筋)。(後略)【9月30日 WEDGE】
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この際、ヒズボラだけでなく背後のイランも巻きんでこれをい叩く、戦闘拡大となれば、ぐずぐずしているアメリカもイスラエル支持で動かざるを得ない、戦争継続で権力も維持できる・・・・・ネタニヤフ首相にとっては戦争拡大は一石三鳥、四鳥ともなります。ためらう理由もないかも。

【ヒズボラ 組織的混乱、軍事的損耗が大きく、イランの支援も厳しい状況】
一方の指導者を失ったヒズボラ。こちらは苦しい状況と推測されます。もちろん表だってはイスラエルへの報復を主張しています。

****ヒズボラ副指導者「聖戦は長期化する」 指導者死亡後初めて演説****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの副指導者、ナイム・カセム師は30日、テレビ演説を行い、「ヒズボラは聖戦を続ける。戦闘は長期にわたるだろう」と語った。

イスラエルがレバノン南部へ地上侵攻を検討していることにも触れ、「我々は(対抗する)準備ができている。イスラエル軍は目的を達成できないだろう」と警告した。

27日にイスラエル軍の空爆で指導者のナスララ師が殺害されてから、ヒズボラ幹部が公式に演説するのは初めて。カセム師はナスララ師について「聖戦の指導者であり、パレスチナの解放を最優先だと考えていた」とたたえ、「我々はパレスチナを支援するため、イスラエルとの対決を続ける」と宣言した。

一方、ナスララ師の後継者については「規定に従い選ぶ」と語った。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などによると、後継候補にはカセム師のほか、ナスララ師のいとこのサフィディン師の名前が取り沙汰されている。【9月30日 毎日】
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いつも“中東最強の民兵組織”と言われてはいますが、内情は厳しそう。

27日の空爆のとき、ナスララ師はヒズボラ幹部と会議をおこなっており、イスラエル軍はナスララ師のほか、ヒズボラ幹部ら20人以上の関係者を殺害したと主張しています。

幹部殺害だけでなく、通信機器爆発による組織的ダメージ・混乱もあります。イスラエルの攻撃による兵器の損耗も甚大です。イランからの支援も厳しくなっています。

****組織に内通者か、指導者殺害許したヒズボラ 猛攻受け弱体化****
親イラン民兵組織ヒズボラは、戦闘員らが所持する通信機器の一斉爆発からわずか1週間後に、指導者ナスララ師をイスラエルによる空爆で殺害された。同師の居場所は厳重に隠されてきただけに、今回の攻撃により、敵対勢力による組織への浸透が深いレベルに及んでいることが浮き彫りになっている。

ヒズボラはこれまで指揮官の素早い交代で組織的な危機を乗りこえてきたが、最近はイスラエルの猛攻による消耗が激しく、弱体化が進んでいる。

ロイターはナスララ師殺害の数日前から数時間後にかけてレバノン、イスラエル、イラン、シリアの10人を超える情報源を取材した。イスラエルの攻撃によりヒズボラが受けた損害、とりわけ補給線や指揮系統への打撃について具体的な情報を入手した。特別な配慮が必要な問題だとして、全情報源が匿名を条件に取材に応じた。

イスラエルの動向に詳しいある情報源は今回の攻撃前24時間以内の取材で、イスラエルは20年間にわたってヒズボラ情報の収集に力を入れており、ナスララ師をいつでも攻撃できると述べた。詳細には触れなかったが、イスラエルの情報活動は「卓越している」と胸を張った。

イスラエル当局者2人は、イスラエルのネタニヤフ首相と側近の閣僚がヒズボラ司令部に対する攻撃を承認したのは25日だったと明らかにした。

ナスララ師は2006年に起きた前回の大規模な戦闘以降、公の場にほとんど姿を現していなかった。同師の警備体制に詳しい関係者によると、常に警戒を怠らず、動静が外部に漏れないよう厳しい制限が敷かれ、面談する人物の範囲も非常に限られていた。この関係者は、ナスララ師暗殺はイスラエル内通者が潜入していたことを示していると述べた。

9月17日の通信機器一斉爆発以来、ナスララ師は一層慎重になり、イスラエルによる暗殺を懸念していたと、ヒズボラの内部事情に詳しい治安関係者が1週間前にロイターに語っていた。(中略)

スウェーデン国防大学のマグナス・ランストープ氏は今回の攻撃について「ヒズボラにとって大きな打撃で、情報活動の失敗を示している。ナスララ師が他の指揮官と会議に入っているという情報がもれ、一気に襲撃された」と指摘した。

イスラエル軍によると、ナスララ師を含め今年ヒズボラの最高幹部9人中8人を殺害し、そのほとんどが過去1週間に実行された。この中には精鋭部隊「ラドワン部隊」の隊長も含まれる。

イスラエル軍のショシャニ報道官は28日の会見で、ナスララ師や他の指導者が集まっていることを「リアルタイム」で把握していたと述べたが、情報の入手方法には触れなかった。

また、イスラエルのハツェリム空軍基地の司令官であるレビン准将は「この作戦は入り組んでおり、練り上げるのに長い期間をかけている」と述べた。

<大損害>
ヒズボラは指揮官の差し替え素早く、ナスララ師の従兄弟のサフィエディン師が後継者と目されている。欧州の外交筋はヒズボラの指揮体制の特徴について「1人が殺害されても次の指導者が現れる」と述べた。

米国とイスラエルの推定によると、ヒズボラは最近の事態緊迫化前の時点で戦闘員が約4万人に上っていた。豊富な武器備蓄を持ち、イスラエル国境付近に広大なトンネル網も築いている。1982年にレバノンで設立されたシーア派の民兵組織であり、イランが支援する反イスラエル勢力の中で最強とされる。

イランから数年にわたり支援を受け、米国の推定によれば計15万のロケット弾、ミサイル、ドローンを保有。イスラエルの推計によると、保有武器の規模は2006年の10倍に達している。

しかしこの10日間で物的にも心理的にも弱体化が進んでいる。

イスラエルの最近の攻勢によるヒズボラの武器備蓄の被害状況について具体的な推計はほとんどない。中東のある西側外交筋は今月27日のイスラエルによる攻撃前に、ヒズボラは最近ミサイル能力の20−25%を失ったと述べたが、推計の基になる資料等は示さなかった。

イスラエルの治安当局者は、ヒズボラのミサイル備蓄の「かなりの部分」が破壊されたと述べたが、具体的な内容には触れなかった。

<イランの関与>
ナスララ師への攻撃前にイランの情報筋3人がロイターに対し、イランがヒズボラにミサイルを追加で送る計画を立てていると明らかにしていた。

初出のイラン情報筋は、提供される予定の武器にはイランの短距離ミサイル「ゼルザル」の他に中距離弾道ミサイル、精度を高めた改良型「ファテフ110」が含まれていることを明らかにしていた。(中略)

イランの2人の情報筋は、イランはヒズボラに軍事支援を提供する方針ではあるものの、ヒズボラとイスラエルの対立に直接関与することには消極的だと述べた。

シリアの軍情報機関の幹部によると、ヒズボラは先週のイスラエルによる攻撃で破壊されたミサイルやドローン、ミサイル部品の補充が必要となっている可能性がある。

これまでイランからの物資は空路や海路でヒズボラに届いていた。しかしレバノン運輸省の関係者によると、イスラエルがベイルート空港の航空管制に対し、イラン機が着陸した場合には武力を行使すると警告したため、同省は28日、イラン機にレバノンの空域に入らないよう通知した。このイラン機の積み荷は不明だという。

イランの治安当局者はミサイルや部品、ドローンを輸送する最も良いルートはイラクとシリアを経由する陸路であり、両国の同盟勢力の支援もあると語っていた。

しかし、シリア軍関係者によると、イスラエルのドローンによる監視やトラックを狙った攻撃のため、このルートは危険になっている。ロイターは6月、イスラエルはヒズボラの弱体化を狙い、今年に入ってシリアでの武器庫や補給路への攻撃を強化していると報じていた。【9月30日 ロイター】
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【戦争に巻きこまれたくないイラン イスラエルへの報復の手段は限られている 何もしない訳ではないが】
後ろ盾イランも公式にはヒズボラ支援を主張しています。

****イラン最高指導者「ヒズボラ支援はイスラム教徒の義務」と声明****
イスラエル軍がイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者、ナスララ師を殺害したと発表したことを受け、後ろ盾であるイラン最高指導者のハメネイ師は28日の声明で、「(中東)地域のあらゆる(イスラエルへの)抵抗勢力は、ヒズボラを支援する。地域の運命は抵抗勢力とヒズボラによって決まる」と述べた。イランメディアが報じた。
 
イスラエルの周辺国には親イラン武装組織が展開しており、今後、イスラエルに対する攻撃を強める可能性がある。

(中略)さらに「ヒズボラに寄り添い、手段を選ばず支援することはイスラム教徒の義務だ」とも呼びかけた。声明では、ナスララ師の生死や、イランが報復するかどうかについては触れなかった。【9月28日 毎日】
*********************

しかし、“イランがイスラエルに報復できる手段は限られている”というのが実情のようです。

****イランがイスラエルに報復できる手段は限られているが「何もしないという意味ではない」****
<ハマスやヒズボラ、ホーシー派などの代理勢力を攻撃し、その指導者を数多く殺害したイスラエルに対し、元締めのイランは「報復」を誓う>

レバノンのイスラム教過激派勢力ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララを殺害したというイスラエルが発表したとき、イランの最高指導者アリ・ハメネイは、イランとその代理勢力はヒズボラ側に立つと述べた。 だが専門家に言わせれば、イランがイスラエルに報復できる手段は限られているという。(中略)

イランの最高指導者ハメネイは、ナスララの死後初の声明で、あえてナスララの名前には触れず、「この地域のすべての抵抗勢力はヒズボラを支持し、ヒズボラとともに立ち上がる」と述べた。

弱い報復は効果なし
イスラム革命防衛隊(IRGC)のアッバス・ニルフォロウシャン准将もイスラエル軍のベイルートへの攻撃で死亡した、とイランのメディアは報じている。ハメネイはイラン国内の安全な場所に移された、とイラン当局者はロイター通信に語っている。

ベルリンのシンクタンク、ドイツ国際安全保障問題研究所のハミドレザ・アジジ研究員は、今年7月にイランの首都テヘランで殺害されたハマスの指導者イスマイル・ハニヤの復讐を誓った後、イランにとって次の動きは難しいものになっている、と述べた。

「イランは、戦争に突入することなく、イスラエルがイランの利益を損なうのを阻止するために断固たる対応を示すというやり方を考えていたが、ヒズボラに起こったことを考えると、それはもう通用しないようだ」

イランは4月にイスラエルがシリアの首都ダマスカスにあるイラン領事館を空爆したときも復讐を誓い、イスラエルにミサイル攻撃や無人機攻撃を行ったが、その程度では抑止力にはならなかった、とアシジは付け加えた。

「それ以上の動きは戦争の引き金になりかねないということがイランにとってのジレンマとなっている。それがハニヤ暗殺に対する報復で何もできなかった理由であり、そもそもイスラエルに対する抑止の確立は遅きに失したようだ」。

「これは、イランが何もしないかもしれないという意味ではない。現時点ではどんな動きも、以前よりもエスカレートする危険性があるという意味だ」。

イランにとっての選択肢のひとつは戦争を始めることだが、それはイスラエルによる大規模な反撃を引き起こすだろう。国際的な取り組みでガザやレバノンの紛争が収まるのを期待すればいいのだが、戦闘の勢いは衰えそうもない。

イランが、イエメンの反政府武装勢力ホーシー派やシリアに駐留する民兵組織など、自らの代理勢力の残存戦力を動員しようとする可能性もあるが、ナスララの死後、ここには「指揮能力の不在」という深刻な問題がある、とアジジは言う。(中略)

シリアもイラン離れの可能性
イランはイスラエルやその同盟国との緊張をエスカレートさせることにほとんど関心がなく、最後に残ったわずかな抑止力も、自己保存を優先するうちに失ってしまう可能性がある、とイスラエルの元情報将校アビ・メラメドは主張する。

ヒズボラはアサド政権の主要な支持勢力であることから、27日の攻撃の影響はシリアにも及ぶだろう、とメラメドは言う。

「シリアの独裁者、アサドの立場は、反政府勢力に対してますます弱くなる可能性がある。アサドはイランの影響下から距離を置き、イランの野望を抑えようとする他のアラブ諸国との緊密な関係を模索するようになるかもしれない」【9月30日 Newsweek】
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イスラエル・ネタニヤフ首相は“やる気満々”、ヒズボラは組織的・軍事的に弱体化して足元がふらついている状態、アメリカ・バイデン政権は結局イスラエル支援を止められない、イランのヒズボラ支援は限られてくる・・・今後戦闘が拡大した場合、もちろんヒズボラ側の一定の抵抗はあっても、イスラエルのワンサイドゲームになりそうな状況です。
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レバノン情勢 イスラエルによるヒズボラ指導者殺害 今後はどうなる?

2024-09-28 22:01:06 | 中東情勢

(レバノン・ベイルート南郊から立ち上る煙。イスラエルの空爆の標的はヒズボラ指導者だと報じられている【9月28日 BBC】)

【地下貫通型爆弾「バンカーバスター」のような強力兵器で、地上の住民もろとも地下のヒズボラ指導者を殺害】
周知のように連日レバノンを大規模空爆していたイスラエル軍は、親イラン民兵組織ヒズボラ本部を空爆し、指導者ナスララ師(64)を「殺害した」と発表しています。

****ヒズボラ指導者の殺害発表 イスラエル軍、本部を空爆****
イスラエル軍は27日、レバノンの首都ベイルート南部にある親イラン民兵組織ヒズボラ本部を空爆したと明らかにした。28日、指導者ナスララ師(64)を「殺害した」と発表した。

レバノン国営通信によると、空爆で6人が死亡し、90人以上が負傷した。イスラエルとヒズボラの緊張はさらに高まり、交戦停止が難航するのは必至だ。

イスラエルメディアによると、治安筋は空爆時にナスララ師が本部にいたと述べた。空爆でビル6棟が全壊し、ナスララ師の娘が死亡したとの報道もある。イスラエル軍は、ヒズボラ本部が「意図的に居住用ビルの下に造られていた」と説明した。【9月28日 共同】
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27日の首都ベイルート空爆は、これまでになく激しいものだったようです。地下貫通型爆弾「バンカーバスター」が使用されたとの米報道も。

****「前例ない爆発」に衝撃=住宅地が無残、地面に巨大穴―レバノン*****
耳をつんざく無数の爆音に、黒煙が上空を覆う―。イスラエル軍が27日、イスラム教シーア派組織ヒズボラの指導部を狙い、再びレバノンで大規模空爆を行った。現場に駆け付けた中東の衛星テレビ局アルジャジーラの記者は「首都ベイルートでは前例のない爆発」で、各地でパニックが広がっていると伝えた。

現場は、ベイルート南郊ダヒエ地区の住宅地の一角。同地区に子供2人と住み、夫を20日の空爆で失ったばかりの主婦アミルさん(36)は、時事通信の電話取材に「建物が激しく揺れ、夫と同じように死んでしまうかと思った」と声を震わせた。

数棟の建物が倒壊し、コンクリートや鉄筋のがれきが散乱。救助隊が電灯を頼りに、不明者の捜索を続けた。遺体や負傷者が次々と搬送され、がれきの下にも多数が取り残されたとみられる。

ただ、イスラエル軍はこの地下に本部があるとするヒズボラが「人間の盾」にしているとして、住宅地での空爆を正当化した。

現場の映像では、地面が大きくえぐられて巨大なクレーターができていた。米CNNテレビは、地下貫通型爆弾「バンカーバスター」が使用されたと報じた。イスラエル軍報道官はさらなる空爆を警告したが、アミルさんは「怖いけど頼れる人もいない。ここから逃げられない」と力なく語った。
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地上の住民もろとも一挙の地下施設を破壊する爆撃のようです。

****首都衝撃、30キロ先で揺れ 「かつてない被害」****
ごう音が響き、夕焼け空に黒煙が次々と立ち上った。イスラエル軍が27日、親イラン民兵組織ヒズボラの本部を標的にレバノン首都ベイルート南部を空爆した。

衝撃は大きく、AP通信によると、現場から約30キロ離れたベイルート北部でも揺れが感じられた。現地入りした中東メディアは「かつてないほどの被害だ」と伝えた。

「自分のアパートが爆撃されたかと思った。衝撃で部屋の窓は全て割れた」。空爆現場から数ブロック先に住む女性アランダスさん(29)は電話取材に「恐怖で凍り付き、動けなかった」と声を震わせた。

4歳の娘は泣き叫び、自身も恐怖と衝撃でしばらく立ち上がれなかった。外に出るとあちこちから泣き声や叫び声が聞こえた。「ここは住宅街だ。民間人が被害に遭っている」と憤った。

空爆を受けたのは、ヒズボラが強い影響力を持つダヒエ地区。イスラム教シーア派住民が多数居住し、近くには国際空港もある。イスラエル軍はこの1週間、ダヒエ地区でヒズボラ幹部を狙った空爆を繰り返してきた。【9月28日 共同】
********************

【ネタニヤフ首相のヒズボラ攻撃は北部住民の帰還を実現するため 一方でレバノン住民がシリアに避難】
イスラエルがヒズボラとの全面戦争のリスクを負ってでも空爆を続ける理由としては、ヒズボラの攻撃能力を破壊し、批難を余儀なくされているイスラエル北部住民の帰還をじつげんすることとされてきました。

****対ヒズボラの空爆激化 イスラエル当局が明かす狙いは?****
イスラエル軍がレバノンの親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの攻撃を激化させている。23日にはレバノンへの大規模な空爆で500人を超える死者を出し、24日には首都ベイルートで複数の幹部を殺害した。全面衝突のリスクが高まるにもかかわらず、イスラエルはなぜこのタイミングで大規模な攻撃を仕掛けたのか。

「我々はヒズボラを攻撃し続ける。リビングにミサイルを置いているものたちの家は、なくなるだろう」。イスラエルのネタニヤフ首相は24日、情報機関の基地を訪れた後こう語り、ヒズボラを強くけん制した。

一連の大規模な攻撃は、ヒズボラ戦闘員らが持っていた通信機器が17、18日、イスラエルによるとみられる工作で一斉に爆発してから本格化した。イスラエル軍は20日、空爆で司令官を殺害。24日には1日で1600カ所を空爆したと発表。立て続けに攻撃を加えた。

通信機器の爆発でヒズボラに「衝撃」を与え、その機に乗じて波状攻撃を仕掛けることで、ヒズボラの士気を下げる狙いがあった可能性がある。イスラエル軍のハレビ参謀総長は24日「攻撃を加速させ、ヒズボラに休息を与えない」と述べた。

「ヒズボラの脅威を低下させ、戦闘員を国境から遠ざけることだ」。イスラエル当局者は、一連の大規模な空爆の狙いについて語った。

イスラエル北部では昨年10月のヒズボラとの戦闘開始後、レバノンとの国境付近に住む住民6万人以上が避難生活を余儀なくされている。

イスラエル軍はこれまでもヒズボラ幹部や戦闘員に対して攻撃を続けてきたが、ヒズボラの行動を変えるには至らず、避難民は不満を募らせてきた。

今回の空爆はヒズボラのミサイルやロケット弾の貯蔵施設を中心に爆撃しており、ヒズボラの攻撃力を弱体化させてイスラエルへの砲撃を減らす目的があるようだ。

また、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦闘が優位に進んでいることも背景にあるとみられる。ガザ地区ではイスラエル軍がほぼ全域を制圧し、ハマスのインフラ施設などを破壊した。その結果、北部の戦線に兵力を割く余裕が生まれ、ヒズボラとの紛争拡大に対応できる体制ができたと判断した可能性がある。

ヒズボラはガザ地区の戦闘が終われば停戦すると主張している。ただ、イスラエルにとってヒズボラは長年にわたる脅威となっており、この機に大幅に弱体化させられれば、安全保障上の利益は大きい。イスラエル当局者は米CNNテレビに対し、イスラエルの戦時内閣は軍事作戦のレベルを高めることで一致していると述べた。

ただ、イスラエルの思惑通りに行くかは不透明だ。ヒズボラはイランが支援する中東の武装勢力の中では最大規模の組織で、予備役を含めて4万5000人の兵力を抱えているとされ、軍事力はハマスを上回る。25日にはイスラエル中部テルアビブの対外諜報(ちょうほう)機関「モサド」の本部を狙い、弾道ミサイルを発射するなど、徐々に攻撃範囲を広げており、譲歩する姿勢は見せていない。

このまま互いに強硬姿勢を続ければ衝突がさらに拡大するのは避けられず、最終的には地上戦を含めた全面戦争に突入するリスクもある。【9月27日 毎日】
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ネタニヤフ首相は約束していた北部住民の帰還が出来ないことで、国内的に強い突き上げを受けていました。

ネタニヤフ首相は国連演説で「ヒズボラが攻撃を開始し、イスラエル北部の国境近くに住む6万人以上の国民が家を追われた。ヒズボラが戦争の道を選ぶ限り、イスラエルに選択の余地はない」「イスラエルには脅威を取り除き、国民を安全に帰還させる権利がある。我々はまさにそれを実行している」と強調しました。

一方で、イスラエル軍の攻撃でレバノン住民2万人がシリアへ批難する事態にもなっています。

****空爆でシリアへ2万人避難=国連は「新たな危機」警告―レバノン*****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は25日、イスラエル軍の大規模空爆が続くレバノンから隣国シリアへ数千人が避難を目指していると明らかにした。AFP通信は26日、既に2万2000人以上がシリア側へ逃れたと報じた。

ただ、内戦などで荒廃したシリアは社会インフラが十分とは言えず、グランディ国連難民高等弁務官は「中東に新たな危機の余裕はない」と警鐘を鳴らした。

UNHCRによると、両国の国境では数百台の車両や徒歩でたどり着いた人々が滞留。女性や子供、乳幼児らが屋外で夜を明かしながら国境越えのために待機しており、中には空爆による負傷者もいるという。(後略)【9月26日 時事】 
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【アメリカの停戦要求にネタニヤフ首相の対応は二転三転】
アメリカはイスラエルとヒズボラの全面戦争、更には中東全体での戦争といった形に戦争が拡大するのを嫌い、イスラエルに停戦を求めていました。

****イスラエルとヒズボラに「21日間の即時停戦」要求 米仏日など****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘でイスラエル軍による空爆の犠牲者が増える中、米国のジョー・バイデン大統領とエマニュエル・マクロン大統領は25日、21日間の即時停戦を求める共同声明を複数の国と共に発表した。

両大統領は、ニューヨークで開催された国連総会に合わせて会談を行った。両氏は1年にわたるパレスチナ自治区ガザ地区での紛争が、中東地域の全面戦争に発展することに懸念を示した。

米ホワイトハウスが発表した共同声明では、レバノンの状況は「容認し難く」「イスラエルの人々にとっても、レバノンの人々にとっても利益とはならない」と指摘。「外交的解決に向けた時間を確保するをため、レバノンとイスラエル双方に21日間の即時停戦を求める」

声明は、西側諸国と日本、ならびにカタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦といった主要なアラブ諸国と共同で発表された。 【9月26日 AFP】AFPBB News
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こうしたアメリカなどからの求めに対し、ネタニヤフ首相の対応は二転三転しています。

****イスラエル首相、停戦で二転三転=対ヒズボラ強硬派と米国に苦慮****
イスラエルのネタニヤフ首相は27日の声明で、米国や日本などが提案したレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの一時停戦を巡り、「米国主導の取り組みと目的は共有している」として、協議を続けていると明らかにした。

前日には「全力でヒズボラに対する攻撃を続ける」と強調していたが、停戦を求める米国と政権内の対ヒズボラ強硬派への対応に苦慮し、発言が二転三転している。

米国などは25日に21日間の停戦案を提示。地元メディアによると、ネタニヤフ氏は側近のデルメル戦略問題相と共に提案について説明を受け、いったんは同意したが、26日になって閣内の極右強硬派の反発を考慮して攻撃継続へ方針転換した。

ブリンケン米国務長官は26日にデルメル氏とニューヨークで会談。一時停戦合意の重要性と外交的解決によるイスラエル・レバノン双方の民間人帰還を訴え、「紛争のさらなる激化はこの目的を一層困難にする」と指摘した。

イスラエルは北部から避難した住民の安全な帰還を実現するためとして、北部に接するレバノンへの地上侵攻も辞さない構え。26日には地上戦を想定した演習を完了させ、イスラエル空軍幹部は「地上作戦の可能性に備え、北部の部隊と連携して準備を進めている」と述べた。【9月27日 時事】 
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ネタニヤフ首相の対応が二転三転しているのは上記のように国内強硬右派とアメリカの板挟みになっているためなのか、最初からアメリカなどの停戦要求には適当に時間稼ぎの答えをしておけばよいと軽く考えているせいか・・・・そこらはわかりません。 おそらく今回攻撃がアメリカへの答えでしょう。

【アメリカは今回かい攻撃への関与否定 イランは「レッドライン越えた」】
今回のヒズボラ指導者ナスララ師殺害に至った首都ベイルート攻撃にはアメリカは関与していないと説明しています。

****「関与なく事前通知なかった」 米国防長官、ヒズボラ本部空爆で****
オースティン米国防長官は27日、イスラエル軍によるレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラ本部への空爆に関し「米国は関与しておらず、イスラエルからの事前通知はなかった」と述べた。メリーランド州で記者団に「全面戦争は避けるべきだ」と強調した。

空爆の作戦中にイスラエルのガラント国防相と電話会談したと明らかにした。国防総省のシン副報道官によるとオースティン氏はレバノンへの地上侵攻は「正しい道ではない」と伝えた。両国防相は近く再び協議する。

空爆はヒズボラ指導者ナスララ師が標的だったとされる。シン氏は同師の安否について「情報がない」と回答した。【9月28日 共同】
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一方、ヒズボラの後ろ盾イランは「レッドラインを超えた」と批難しています。

****イラン、イスラエルのヒズボラ本部空爆を非難 「レッドライン超える」*****
イラン最高指導者のラリジャニ顧問は27日、イスラエル軍がレバノンの親イラン派武装組織ヒズボラの本部を空爆したことを受け、イスラエルがイランの「レッドライン(超えてはならない一線)」を超えており、状況は深刻という認識を示した。

イスラエル軍によると、攻撃の標的はヒズボラの指導者ナスララ師だったという。

ラリジャニ氏はイランの国営テレビに対し「暗殺ではイスラエルの問題は解決しない。指導者が暗殺されれば、他の者がその代わりを務めることになるだろう」と語った。

国営メディアによると、イランのペゼシュキアン大統領は「明白かつ否定しようのない戦争犯罪」と非難した。

在レバノンのイラン大使館はXへの投稿で、情勢を一変させる危険なエスカレーションで、「攻撃の主体には適切な処罰が下されるだろう」とした。

イラン外務省の報道官は、米国が供与した爆弾によって今回の攻撃が実行されたとし、イスラエルと米国の両国が責任を問われるべきと非難した。【9月28日 ロイター】
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【ナスララ師殺害でどう変わるのか イスラエルは一気に地上作戦? ヒズボラ大規模反撃?】
ここまでの話はヒズボラ指導者ナスララ師殺害以前の話ですが、ヒズボラ指導者ナスララ師が殺害されたとなると状況はかなり変わってきます。ナスララ師についてヒズボラも死亡を認めたようです。

イスラエルとしては、この機に乗じて一気に地上作戦に拡大し、ハマスに続いて長年の懸案だったヒズボラを壊滅に追い込もう・・・とする考えもあるでしょう。

****イスラエル軍がヒズボラ最高指導者・ナスララ師を空爆で殺害…地上侵攻の可能性も示唆、緊張高まる****
イスラエル軍は28日、レバノンの首都ベイルート南郊のイスラム教シーア派組織ヒズボラ本部を空爆し、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師を殺害したと発表した。ヒズボラも声明で死亡を認めた。

ヒズボラの後ろ盾のイランや、反イスラエル武装勢力による報復攻撃が懸念され、中東地域の緊張がいっそう高まった。

イスラエル軍の発表によると、空爆は27日、ベイルート南郊の人口過密地帯で、住宅ビル地下のヒズボラ本部を標的に行われ、地下にいたナスララ師を殺害した。長期間、慎重に準備した上で遂行したという。レバノン保健省によると、少なくとも6人が死亡、91人が負傷した。

イスラエル軍のヘルツィ・ハレビ参謀総長は28日、ナスララ師殺害の発表後、ビデオ声明で「これで終わりではない。次の段階への準備を進めている」と述べ、地上侵攻の可能性も示唆した。【9月28日 読売】
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ヒズボラ側は報復を明確にしてこれまで以上のイスラエル攻撃に出る・・・・というのが一般的な見方ですが、指導者を失い、ポケベル等の連続爆破で組織的にも心理的にも動揺している状態で、どこまで有効な反撃ができるのか・・・やや疑問も。

これまでもイスラエルの激しい攻撃に対しヒズボラ側の反撃は抑制的だったようにも感じます。これは、ヒズボラ側に戦争拡大したくない、そこまでの準備・能力が今はないといった考えがあったのかも。

ヒズボラは中東最強の民兵組織とされていますが、ここ数年、後ろ盾のイランが制裁を受けるイラン自身の苦境からヒズボラへの支援を減少させている・・・とも言われています。

イラン大統領は「指導者が暗殺されれば、他の者がその代わりを務めることになるだろう」とは言っていますが、それほど簡単な話なのか。

もちろん、いろんな問題はあっても指導者を殺害された以上、ヒズボラが全力で反撃に出るというのは常識的な考えでしょう。

アメリカがイスラエルのレバノン地上侵攻といったこれまで以上の戦闘拡大を許すのか? 許さないと言っても、もはやアメリカにそれだけの指導力はないのか?

イランはイスラエルによる自身への攻撃への報復も留保する対応をとってきましたが、最大の協力組織であるヒズボラ指導者殺害で、どこまで自制を続けるのか? おそらくイランは何とか戦争に巻き込まれたくないという思いがあるのでしょうが。国内強硬派が自制でおさまるのか。

ヒズボラ、イスラエル、そしてアメリカ、イランがヒズボラ指導者ナスララ師殺害でどのように動くのか・・・私もわかりませんが、現段階では誰も明確な予測は難しいところでしょう。書いている間にも新たな情報が入りますので、明日になれば状況は一変するかも。

なお、イランは今回事態を受けて、最高指導者ハメネイ師を“安全な場所”に移動させたとのこと。

****今後どうなる****
今後は大きな決断が待ち受けている。まず、ナスララ師の生死にかかわらず、ヒズボラは残された手持ちの兵器をどう使うか、決めなくてはならない。イスラエルに、大々的な反撃を仕掛けるのだろうか。ロケット弾やミサイルを倉庫に残したままにしておけば、イスラエルがそれをも破壊しに来るかもしれない――。ヒズボラはそう考えるかもしれない。

イスラエルもまた、非常に重大な決断を迫られている。同国はすでに、レバノンに地上作戦を行う可能性に言及している。今のところ、それに必要になると思われる予備役をすべて動員しているわけではないが、レバノン侵攻はイスラエル軍のアジェンダに含まれている。

レバノン国内では、地上戦になればヒズボラはイスラエルの軍事力をいくらか無効化できるかもしれないという見方もある。

イスラエルを強力に支える国々を含め、西側の外交官たちは、イスラエルに外交的解決策を受け入れるよう促し、事態を沈静化させようとしていた。その彼らは今や、無力感と共に、暗澹(あんたん)たる思いで、今の事態を見つめていることだろう。【9月28日 BBC】
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イスラエルによるハマス最高指導者・ヒズボラ幹部殺害 イランの報復は必至

2024-08-03 23:27:17 | 中東情勢

(7月31日、イランの首都テヘランのパレスチナ広場で、イスラム組織ハマスのハニヤ氏の写真を手に、その殺害を非難する参加者=AP 【8月2日 日経】)

【ハニヤ氏など、相次ぐイスラエルによるハマス・ヒズボラ幹部殺害】
中東ではイスラエルによる相次ぐハマス、ヒズボラ幹部殺害によって、緊張が高まっています。

****ハマス最高指導者ハニヤ氏、イスラエルの攻撃で殺害 テヘランで****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは31日、同組織の最高指導者イスマイル・ハニヤ氏がイランの首都テヘランでイスラエルの攻撃により殺害されたと発表した。

ハマスは「兄弟であり指導者であり戦士であるイスマイル・ハニヤは、(イランの)新大統領の就任式に出席後、シオニスト(イスラエル)によるテヘランの拠点への攻撃で死亡した」と発表した。

イランの革命防衛隊も同日、テヘランにあるハニヤ氏の住居が「攻撃」を受け、警護員1人と共に死亡したと発表した。 一方、「事件」の詳細は不明とし、現在「調査中」だとしている。

ハニヤ氏は30日に行われたイランのマスード・ペゼシュキアン新大統領の就任式に出席するため、テヘランを訪れていた。
ハニヤ氏死亡の報道についてイスラエル軍にコメントを求めたが、現時点で回答を得られていない。 【7月31日 AFP】
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発生時間的にはハニヤ氏に先立つ形になりますが・・・

****イスラエル、ハマス軍事トップ・デイフ氏殺害を確認 ハニヤ氏に続き****
イスラエル軍は1日、イスラム組織ハマスの軍事部門トップ、ムハンマド・デイフ氏の殺害を確認したと発表した。軍は7月13日、パレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニスでデイフ氏を狙った空爆を行い、同氏が死亡したかどうか分析を進めていた。

デイフ氏は昨年10月の越境攻撃の首謀者の一人とされ、イスラエルが最重要の標的としていた。実際に殺害されたとすれば、ハマス壊滅を掲げるネタニヤフ政権にとっては大きな「戦果」となるものの、停戦交渉が停滞するのは必至だ。ハマスはコメントを出していないが、空爆が行われた際、イスラエルの主張を「虚偽」と主張していた。

デイフ氏は1987年にハマスに加入し、第1次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)に参加。95年以降、イスラエルに対する自爆テロを主導し、2002年に軍事部門トップに就任すると、地下トンネル網の整備などを進めた。

ハマス幹部を巡っては、最高指導者のハニヤ氏も7月31日、イランの首都テヘランで、ミサイル攻撃を受けて殺害されている。【8月1日 毎日】
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また、本格的戦争への危険が懸念されているレバノン・ヒズボラについても。

****ヒズボラ、司令官の死亡確認 イスラエルのベイルート空爆で****
レバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラは31日、イスラエル軍の攻撃により、首都ベイルート南部郊外の建物にいたフアド・シュクル司令官が死亡したと確認した。

ヒズボラの指導者ナスララ師が、31日に行われる司令官の葬儀で演説する予定という。

これに先立ち、レバノン治安当局筋2人は、空爆後にシュクル司令官の遺体ががれきの中から発見されたと明らかにしていた。

イスラエル軍は30日、ベイルートの南部郊外を空爆し、ヒズボラの司令官を殺害したと発表。27日に起きたゴラン高原へのロケット弾攻撃の報復と説明していた。【8月1日 ロイター】
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【停戦交渉停滞は必至】
これらの殺害のなかで政治的影響が大きいのがハマス最高指導者ハニヤ氏の殺害。
イスラエル・ネタニヤフ首相はその成果を誇示しています。

****親イラン組織に「打撃」 イスラエル首相、成果誇示****
イスラエルのネタニヤフ首相は7月31日、テレビ演説し、パレスチナのイスラム組織ハマスやレバノンの民兵組織ヒズボラなどの親イラン勢力に「壊滅的な打撃を与えた」と強調した。ハマスのハニヤ最高指導者の暗殺を念頭に、直接の言及を避けながら「われわれへの攻撃は重い代償を支払うことになる」と述べ、成果を誇示した。

ハニヤ氏の暗殺後、ネタニヤフ氏が公に発言するのは初めて。イスラエルは暗殺を認めていないが、イランやハマスはイスラエルの仕業と断定し報復を宣言。中東情勢は緊迫の度を増している。

ネタニヤフ氏は国民に対し「困難な日々が待ち受けているが、あらゆるシナリオに備えている」と主張。いかなる脅威にも断固として対応すると呼びかけた。

ハマス政治部門幹部のハイヤ氏は31日、イランの首都テヘランで記者会見し、ハニヤ氏の暗殺を受け、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡るイスラエルとの停戦交渉に意味がなくなったと訴えた。(後略)【8月1日 共同】
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ハマスが対決姿勢を強めるのは当然として、停戦交渉仲介国からも反発が。交渉停滞は必至と見られています。

****ハマス最高指導者暗殺に中東の仲介国反発 ガザ停戦交渉は停滞必至****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイスラエルによるとみられる攻撃で殺害されたことを受け、ガザの停戦交渉を仲介していたカタールやエジプトが反発を強めている。

今回の事態で、イスラエルとハマスの停戦交渉が停滞するのは必至で、これまでの仲介がないがしろにされたも同然だからだ。ガザでの人道危機が深まる中、打開策は見えていない。

「一方の当事者が相手の交渉者を暗殺しておきながら、どうやって仲介を成功させようというのか」。カタールのムハンマド首相兼外相は7月31日、X(ツイッター)にこう投稿し、「平和(の実現)には真剣なパートナーが必要だ」と訴えた。

ハマスとイスラエルの停戦に向けた交渉では、3段階で休戦し、人質解放などを進める案が協議されている。7月には、ハマスが従来求めてきた「恒久的な停戦」の実現を一時棚上げし、休戦開始後に改めて交渉することで譲歩したと報じられ、合意への期待が高まった。だが、その後の交渉でも大きな進展はみられなかった。

こうした中、ハマス側で交渉の中心的な役割を担っていたハニヤ氏が暗殺されたことに仲介国は強く反発する。エジプトは31日の声明で「イスラエルに紛争拡大を抑える意思がないことを示しており、ガザでの停戦に向けた努力を台無しにしている」と批判した。

ただ、カタール外務省によると、ムハンマド氏は31日、ブリンケン米国務長官と電話協議し、ガザ停戦を実現する必要性を強調して、仲介を続ける意向を示した。カタールやエジプトが交渉の仲介をやめれば、紛争が中東全域に拡大する懸念が強まるため、仲介国も交渉努力を続ける以外に道はないのが実情だ。【8月1日 毎日】
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【イランの報復は必至、問題はいつ、どのような報復がなされるか? イスラエルの反応は?】
ハニヤ氏殺害の具体的方法についてはミサイル攻撃と部屋に設置された爆弾の二つの説があってはっきりしませんが、イスラエル情報機関モサドが実行部隊としてイラン部隊を雇ったとの報道も。

****ハニヤ氏殺害に関与か 20数人が逮捕 イスラエルが爆弾設置にイラン治安部隊雇ったか****
イスラム組織「ハマス」の最高指導者・ハニヤ氏の殺害に関与したとして、訪問先だったイランで少なくとも二十数人が逮捕されたことが分かりました。

ニューヨークタイムズは捜査に詳しい2人の情報として、テヘランでのハニヤ氏の殺害に関わった疑いで少なくとも二十数人が逮捕されたと報じました。

逮捕されたのはイランの情報機関の幹部や軍の関係者に加え、ハニヤ氏のいた建物のスタッフなどが含まれるといいます。

また、イギリスのテレグラフ紙はイスラエルの諜報機関「モサド」が建物に爆弾を仕掛けるためにイランの治安部隊を雇ったと伝えています。

当初はヘリコプターの墜落で死亡したイランのライシ前大統領の葬儀にハニヤ氏が参列した際に殺害する計画だったとしています。

しかし、この時は建物内に人が多くいたことから実行されず、雇われた治安部隊は国外に逃亡したということです。【8月3日 テレ朝news】
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イラン革命防衛隊は上記を否定する「建物の外から飛翔体で殺害された」とする捜査結果を発表しています。

イスラエル・モサドが敵対国イランで二度にわたり多くの協力者を得られたとしたら、イランの内情を考えるうえで興味深いところ。イラン革命防衛隊としては認めたくないかも。

それはともかく、新大統領就任式の賓客であるハニヤ氏をイラン首都で殺害され、その実行にイラン治安部隊が使われたということになると、イランの面子は丸潰れです。面子だけの話ではなく、今後のハマスやヒズボラとの信頼関係を考えても相当のアクションが必要とされます。

イランによる報復は必至で、問題はいつ、どのような規模で行われるのか、どこを狙うのか? それにイスラエルがどのように反応するかです。

4月にシリアにあるイラン大使館が攻撃されたことへの報復では、イランはイスラエルへの直接攻撃を行ったものの、ミサイル到達前に攻撃実施を発表し、敢えてイスラエル到達までに時間を要するドローンを多用するなど、イスラエル側の防御を可能にし、その実害を極力抑える配慮がなされました。今回は?

すでに、4月の時よりも大規模攻撃の準備が行われているとも。

****“イランの報復 数日から1週間の間に”の見方 中東の緊張続く****
ガザ地区でイスラエルとの戦闘を続けるイスラム組織ハマスの最高幹部が訪問先のイランで殺害され、イランなどが報復を行うとする中、アメリカのメディアはイランがどのような報復を行うか決めた兆候はないものの、数日から1週間の間に行われるとする見方があるとの当局者の話を伝えていて、中東での緊張が続いています。

パレスチナのガザ地区でイスラエルと戦闘を続けるハマスのハニーヤ最高幹部が7月31日、訪問先のイランで殺害されたことを受け、イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルが攻撃したとして報復を行う考えを示しています。

また、ハマスに連帯を示すレバノンのシーア派組織ヒズボラもイスラエルの空爆で幹部が殺害されたことを受けて報復する構えです。

これについて、アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、イランがどのような報復を行うか決定した兆候はないものの、数日から1週間の間に行われるとする見方があるとの当局者の話を伝えています。

また、アメリカのCNNテレビは複数のアメリカ当局者の話として、報復は数日のうちに行われる可能性があると伝えました。

イランはことし4月にもシリアにあるイラン大使館が攻撃されたあと、多数のミサイルや無人機による報復を行いましたが、当局者はイランが、後ろ盾になっている武装勢力と連携することで、より大規模で複雑な攻撃になる可能性があるとも指摘しています。

アメリカ国防総省は、イスラエルへの支援を強化するため、国防長官が巡洋艦などの追加派遣を指示したことを明らかにしていて、イランなどからの報復をめぐり中東の緊張が続いています。

専門家「あと1日か2日の間に」
イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授はイランの出方について「ことし4月のイスラエルに対しての報復攻撃よりも大規模な動きが軍に見られる。報復は確実に行う、しかもあと1日か2日の間に起きるだろうという兆候に見える」と分析しています。

イランはことし4月、シリアにあるイラン大使館が攻撃を受けた報復として、イスラエルへの多数の無人機やミサイルによる大規模な攻撃に踏み切っています。

田中教授は、より大規模な報復が予測される理由として「前回の攻撃ではイスラエルに対して十分な警告が届いていないということで、より激しい形での報復を行うことが不可欠であると結論づけた。

今回、賓客として招いた要人が首都で重要な政治イベントの流れのなかで殺害された。イスラエルへの怒りだけでなくイランが沈黙すると、ハマスなどとの信頼関係が損なわれる危険性があり、積極的な行動を示す結論が導きだされた」との見方を示しました。

どのような報復攻撃を行うかについては「イランからの直接攻撃は不可欠で、弾道ミサイルなどの飛しょう体の数は前回を確実に上回る。イスラエルの軍関係施設を中心に狙うと見られる」としています。

そのうえで「今回はヒズボラの司令官も殺害されている。イランも撃つ、ヒズボラも撃つ、イエメンのフーシ派やイラク国内の民兵組織の一部も加勢し、飽和攻撃のような形で、最終的にイスラエルの防空能力を損なう形にもっていくのが狙いだと見られる」と分析しています。【8月3日 NHK】
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イスラエルはアイアンドームという優れた防空システムを有していますが、多数のミサイルを同時に撃ち込む飽和攻撃にあうと防ぎきれない可能性もあります。

イランがそうした飽和攻撃を行うのか? その結果イスラエル側に被害が出た場合、イスラエルはどのように反応するのか?

【自制要請が無視されたアメリカ イスラエル防衛姿勢は維持、中東に米軍追加派遣】
アメリカ・ブリンケン国務長官は、ハニヤ氏殺害について「米国は関与しておらず、事前通告も受けていない」と説明しています。

アメリカはハリス副大統領が、7月下旬に訪米したイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、強いトーンで停戦協議の早期妥結を求めるなど、イスラエルに攻撃の自制・停戦交渉促進を求めていましたが、それが無視された形にもなっています。

****バイデン大統領がネタニヤフ首相に不満か ハマス指導者暗殺巡り****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が滞在先のイランで暗殺されたことを巡り、バイデン米大統領が暗殺に関わったとみられるイスラエルのネタニヤフ首相に不満を募らせている模様だ。仲介してきたイスラエルとハマスとの停戦案の合意の障害になりかねないためで、イスラエル側に自制を求めている。

米ニュースサイト「アクシオス」によると、バイデン氏は1日にネタニヤフ氏と電話協議した際、想定されるイラン側からの攻撃に対する防衛支援を伝える一方、イスラエルがその後再び緊張を高める行動を取った場合には、米国の支援を期待しないよう警告。停戦合意に向けて早急に取り組むよう求めた。

バイデン氏は5月に人質の解放などを含む包括的な停戦案を発表し、イスラエルとハマスの合意に向けてカタールやエジプトと仲介に取り組んできた。11月の大統領選への出馬を断念したバイデン氏は、来年1月までの任期中に停戦と人質の解放を実現し、「レガシー(遺産)」としたい意向も透ける。

ネタニヤフ氏は暗殺事件前の7月下旬にホワイトハウスでバイデン氏と会談し、停戦について協議していた。アクシオスは関係者の話として、バイデン氏が1日の電話協議でネタニヤフ氏に対して、「会談で停戦合意について話したにもかかわらず、暗殺に踏み切った」と不満を示したという。

ネタニヤフ氏を巡っては自身の政治的な保身のために、戦闘を続けているとの見方が根強くある。バイデン氏は1日に記者団に、「(ハニヤ氏の暗殺は)停戦交渉の役には立たない」と述べ、いらだちを隠さなかった。

一方で、バイデン政権は現状では、イスラエルの防衛に関与する姿勢を変えていない。イランやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラからの「報復」が懸念される中、米国防総省は2日、中東に艦艇や戦闘機を追加で派遣すると発表した。弾道ミサイルの迎撃能力を持つ巡洋艦や駆逐艦を追加配備し、戦闘機部隊も追加で派遣する。また、空母「セオドア・ルーズベルト」に代わって、空母「エーブラハム・リンカーン」の派遣も決めた。【8月3日 毎日】
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米軍の艦艇や戦闘機の追加派遣は、イスラエルの防衛に関与するアメリカの基本姿勢堅持を示すものであると同時に、イラン側の報復に対する牽制でもあるでしょう。

かねてよりイスラエル・ネタニヤフ首相は自らの政権・政治生命延命のために戦闘拡大を望んでいると言われていますが、そうだとしたら、その思惑によって中東は危険な状況に引きずり込まれます。その影響は日本を含む世界に及びます。
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イスラエル  数週間内にヒズボラとの本格戦争でレバノン領に地上侵攻も・・・米国防当局者らの見方

2024-07-01 23:32:59 | 中東情勢

(イスラエル軍は29日、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の軍事施設などを標的とした空爆をレバノン南部で実施したと発表しました。【6月30日 TBS NEWS DIG】)

【関係国も危機感を強めるイスラエル・ヒズボラの開戦】
イスラエルとレバノンのヒズボラの緊張が高まっていることは、6月23日ブログ“ヒズボラ  イスラエルとの戦闘が激化 全面戦争の危険性も 両者は互いに相手を威嚇”で取り上げたばかりですが、その後も流れは変わらず、全面戦争の危険も言及されています。

関係国も神経を尖らせており、発言が相次いでいます。
ホロコーストの負い目もあってイスラエルを支持するドイツは、イスラエルに自制を求めています。

****中東紛争の本格拡大を懸念、「全面戦争のリスク高まる」=独外相****
ドイツのベーアボック外相は24日、イスラエルとレバノンの国境沿いでの衝突が激化し、中東の紛争が本格的に拡大するリスクが高まっていることを大きく懸念していると述べた。

ベーアボック氏は安全保障関連の会合で「意図しないエスカレーションと全面戦争のリスクは日を追うごとに高まっている」とし、「われわれはパートナーと共に、解決策を探るべく懸命に取り組んでいる」と述べた。

同地域を訪問中のベーアボック外相は、翌日に再度ベイルートに向かうという。

また、イスラエルがイスラム組織ハマスとの戦いの中で自らを見失えば、パレスチナ自治区ガザの民間人が受けている被害に対する怒りが高まる中、イスラエル自身の安全が脅かされる恐れがあると、「友人」としてイスラエルに警告すると語った。

イスラエルのネタニヤフ首相は23日、テレビのインタビューで「ガザでの激しい戦闘が終われば、親イラン武装組織ヒズボラとの戦闘が激化しているレバノンとの北部国境沿いにさらに部隊を展開できるようになると述べた。【6月25日 ロイター】
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一方、パレスチナ支持で存在感を示したいトルコ・エルドアン大統領は・・・

****トルコ大統領、レバノンとの連帯表明 近隣諸国にも支援呼びかけ****
トルコのエルドアン大統領は26日、イスラエルとの緊張が高まる中、トルコはレバノンと連帯していると述べた上で、近隣諸国もレバノンを支援するよう呼びかけた。

与党・公正発展党(AKP)議員向けの議会演説で「イスラエルはパレスチナ自治区ガザを破壊し焼き払った後、今度はレバノンに目を向けているようだ。西側諸国が舞台裏でイスラエルを支援している」と指摘。「この地域に戦争を拡大するというネタニヤフ首相の計画は大惨事につながる」とし、イスラエルに対する西側諸国の支援は「哀れだ」とした。

その上で「トルコはレバノン国家および国民を支持する。この地域の他の国々にもレバノンと連帯するよう呼びかける」とした。【6月26日 ロイター】
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イスラエルに強い影響力を持つアメリカも警戒を強めています。

****イスラエル、ヒズボラと全面衝突も=米当局者が分析―報道****
米政治専門紙ポリティコは27日、パレスチナ自治区ガザで交戦するイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意が実現しなければ、今後数週間でイスラエルと隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが全面衝突する可能性があると報じた。どちらか一方が大規模攻撃を予告なしに行うことがあり得ると米当局者が分析しているという。【6月28日 時事】 
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****ヒズボラ拠点への攻撃強化 イスラエル、米は軍艦派遣****
イスラエル軍は28日、レバノン南部にある親イラン民兵組織ヒズボラの拠点少なくとも5カ所を攻撃したと発表した。戦闘本格化への懸念が高まる中、地上侵攻も視野に攻勢を強めているもようだ。ヒズボラもイスラエルに向けて多数のロケット弾やミサイルを発射し、応酬は激化の一途をたどっている。

AP通信によると、事態悪化を懸念する米国は今週、強襲揚陸艦ワスプを東地中海に派遣。レバノンからの米国市民の避難準備に加え、抑止力を高める狙いがある。

米メディアは複数の米国防当局者らの見方として、イスラエルが数週間内にレバノン領に地上侵攻する恐れがあると指摘している。【6月29日 共同】
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【当初から本格的戦争には消極的なヒズボラ】
前出記事でエルドアン大統領は「レバノン」と言っていますが、「レバノン」と「ヒズボラ」は同義ではありません。
ヒズボラは「政党」としてレバノン国政に大きな影響力を有していますが、ヒズボラと対抗勢力のせめぎあいで22年10月に退任した大統領の後任を決められない政治空白がずっと続いています。

明確な主体性も持った「レバノン政府」というものが存在するのかも疑問です。

ハマスとイスラエルの開戦当初は、レバノン政府にしても、ヒズボラにしてもイスラエルとの大規模な戦争には消極的とされていました。

****「戦争」に消極的なヒズボラ、レバノンの経済破綻が重荷****
イスラエルと敵対するイスラム教シーア派組織ヒズボラを抱えるレバノンは、4年前の金融危機以来、経済が破綻し、国家が崩壊状態に陥っている。このためヒズボラとイスラエルが戦争状態に陥れば、持ちこたえることは不可能だ。

関係筋によると、イランの影響下にあるヒズボラはこうしたレバノンの危機的状況を承知しており、この点を念頭に置きつつ、対イスラエル戦における次の一手を練っている。

ヒズボラの盟友ハマスとイスラエルとの戦争の波紋が中東全域に広がる中、ヒズボラとイスラエルが戦争に陥るリスクは2006年の前回の大規模な紛争以降、最も高い状態が続く。

中東情勢に詳しい専門家によると、レバノンから200キロの位置にあるガザ地区でハマスが窮地に陥った場合、ヒズボラが動きをエスカレートさせる可能性があり、レバノンの指導者はイスラエルがヒズボラとの大規模な紛争に突入するのではないかと不安を抱いている。

イスラエルはヒズボラに対し、ヒズボラが戦線を開けばレバノンに「壊滅的な打撃 」を与えると警告している。既に1975─90年の内戦以来、最も不安定な局面にあるレバノンにとって、いかなる戦争も大きな代償を伴う。

ヒズボラの内情に詳しい関係筋は「ヒズボラは戦争に熱心ではないし、レバノンもそうだ」と明かした。レバノンからは既に数千人が国外に脱出しており、ヒズボラはこれ以上の国土の破壊や国民の流出を望んでいない。

レバノンは財源が枯渇しており、復興費用を誰が負担するのかも疑問だ。レバノンにおけるヒズボラの影響力の大きさを考えると、06年に復興資金を提供したスンニ派の湾岸アラブ諸国が今回も急ぎ支援に動くかどうか疑わしいとの声もある。(中略)

ただ、ヒズボラはイスラエルと米国に対抗するイランの支援を受けたグループの急先鋒としての立場を背景に、戦争に乗り出す用意があることも表明している。

レバノンの政治家は、ヒズボラに戦闘を激化しないよう働き掛けているが、ほぼ影響力はない。(中略)

レバノンは独立以来、安定した時期がほとんどない。1978年と82年のイスラエルによる侵攻など戦争に耐えてきた同国にとって、この数年は特に困難な時期だった。

数十年にわたる与党政治家の汚職と政策ミスにより、2019年には金融システムが崩壊。外貨準備が払底し、通貨は暴落、貧困に拍車がかかった。

さらに翌年、首都ベイルートの港湾で起きた化学薬品の大爆発で壊滅的な被害が発生した。ヒズボラがこの事件を巡る捜査を妨害し、緊張状態が激しい暴力につながった。

国家はかろうじて機能しているが、派閥争いのため大統領は不在で、完全な権限を備えた行政機構もない。地元紙アンナハルのナビル・ブーモンセフ副編集長は、レバノンには危機を管理できる政府がないと指摘。「本当に恐ろしいシナリオに直面することになる。インフラが破壊され、経済回復の見通しが立たなくなる」と戦争拡大に懸念を示した。

2006年、ヒズボラがイスラエル兵2人を拉致したことに端を発する戦争では復興に何年も要した。この戦争の後、ヒズボラの指導者であるサイエド・ハッサン・ナスララ氏は、ヒズボラは戦争を予期しておらず、もし、このような紛争につながると知っていたら作戦を実行しなかっただろうと述懐した。

<ヒズボラが主導権>
それから17年、ヒズボラの攻撃力は大幅に拡充され、レバノン国内でのパワーバランスはヒズボラ有利な形で固定されている。

強硬な反ヒズボラ政党、レバノン軍団党のガッサン・ハスバニ氏は「ヒズボラが主導権を握っている。全く容認できない」と述べた。「レバノンがヒズボラによって破壊的な対立に引きずり込まれることに深刻な懸念がある。社会的・経済的状況は脆弱で、これ以上、不安定な状態が続くことには耐えられない」と述べた。

カーネギー中東センターのモハナド・ハゲ・アリ氏は、ヒズボラは戦争後に復興資金が調達できるか否かを真剣に考えるだろうと予測する。湾岸アラブ諸国が支援に動くか、イランがどれだけの資金を提供できるかなど、疑問があるからだ。

「復興しなければ、ヒズボラは間違いなく政治的な代償を払わされる。そうなれば人々は疑問を口にし、怒りが広がるだろう」と同氏は語った。【2023年10月31日 ロイター】
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表向きの強気発言は別にして、イスラエル軍の兵力を分散させるハマスへの側面援護以上の本格的な戦争には消極的・・・というヒズボラの姿勢は、基本的には今も変わってはいないでしょう。

【避難を余儀なくされている北部住民の圧力から、開戦にむけてヒズボラを挑発するイスラエル】
ただ、ヒズボラの意思決定にはイランの意向が強く影響しますが、そのイランでは大統領が死亡し、選挙戦が続くという状況。

そのイランの大統領不在もあって、イスラエル側がヒズボラを挑発しているとの指摘もあります。

****【ガザの激化とエスカレートする敵対行為】イスラエルとヒズボラの全面戦争を避ける手だてはないのか***
(中略)
繰り返されるイスラエルによる挑発
イスラエルがヒズボラを攻撃するという観測記事が米国で度々報道されている。去年10月、ガザに侵攻する前にイスラエル側が後顧の憂いを断つためにまずヒズボラを攻撃しようとし、米国に止められたとか、今年の3月、イスラエルは6月にヒズボラ掃討作戦を行うとか報じられた。

最近、イスラエルはガザでの作戦に今年一杯かかるという見通しを出しているが、にもかかわらずネタニヤフ首相が「イスラエルはヒズボラに対して非常に強い行動を取る用意が出来ている」と述べたように、ヒズボラ掃討作戦を行う可能性が高まっている。

その事情としては、まず、ネタニヤフ首相に対する辞任要求がますます高まる中で、ガザの作戦が思うように進まず、同首相は政権を継続するために危機的状況を続けなければならないだけではなく、ヒズボラの攻撃で6万人の避難民が生じていて国内政治的にもこの様な状況を放置できないということがあろう。

実際、4月1日にダマスカスのイラン大使館が空爆されヒズボラとの連絡役だった革命防衛隊の准将が暗殺され、さらに、イスラエル側は、今年に入って以来、既に44回もシリア領内のヒズボラ関係施設を空爆していることを考えるとネタニヤフ首相が積極的にヒズボラを挑発して反撃させ、大規模衝突を正当化しようとしているのではないかと考えざるを得ない。

一方、ヒズボラ側は、イスラエルと全面衝突すれば敵わないのは目に見えているので、抑制的に対応しているように見える。(中略)

イラン大統領の事故死も影響か
問題は、仮に、近々、イスラエルが大規模なヒズボラ掃討作戦を行い、ヒズボラ側に大きなダメージが生じる場合、イランがあらゆる方法でヒズボラを支援しようとするはずであり、最悪、再びイランとイスラエルの間で直接戦火を交える可能性も排除されないことだ。

イランにとりヒズボラは、イスラエルと対峙する上での最強の代理勢力だが、同時に世界中で唯一、イラン式のイスラム革命のイデオロギーを受け入れている団体(例えば、ヒズボラの指導者は聖職者のナスラッラー師で、イランと同じく聖職者による支配体制を取っている)であり、イランはヒズボラが大きなダメージを受けることは絶対に容認できないであろう。

また、最近、上記ネタニヤフ首相の発言をはじめとしてイスラエル側のヒズボラに対する強硬な発言が急に増えているのは、ライシ大統領の事故死でイランの最高指導者の後継者問題が再燃しており、イランが内部の権力闘争でスムーズに動けないだろうというイスラエル側の読みがある可能性もある。【6月28日 WEDGE】
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****「戦争準備できている」=対ヒズボラ―イスラエル国防相****
イスラエルのガラント国防相は28日、北部の防空施設を視察し、大規模衝突の懸念が高まっているレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに関し「戦争は望んでいないが、その準備はできている」と表明した。ただ、ヒズボラと事態沈静化に向けて合意する方が「好ましい」とも語った。イスラエルのメディアが伝えた。

パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスと連帯するヒズボラは昨年10月からイスラエル北部を連日のように攻撃し、イスラエル軍も応戦。米国がイスラエルとレバノンに事態悪化を避けるため圧力をかけているが、数週間以内に本格衝突に発展する可能性が報じられている。【6月29日 時事】 
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ネタニヤフ首相にとっては、ヒズボラからの攻撃を避けるために北部で発生している6万人の避難民の存在が、ヒズボラへの大規模作戦に向かわせる大きな圧力になっています。

****イスラエルがハマスと同時にヒズボラにも戦争を仕掛けたがる理由****
<レバノンのイスラム教過激派勢力ヒズボラによるミサイル攻撃を受け、イスラエルはヒズボラへの攻撃の意思を明らかにしている。ガザ地区でのハマスとの戦いも続くなか、本気で二正面戦争に突入するのだろうか>

元英国首相ウィンストン・チャーチルが残した多くの名言の中に、「歴史から学ばない者は、歴史を繰り返して滅ぶ」というものがある。

イスラエルがレバノン南部で、レバノンの過激派組織ヒズボラと本格的な戦争に乗り出す準備をしている可能性があることも、まさにその例であるようにみえる。(中略)

激怒する北部住民
イスラエルには、ヒズボラの脅威を排除したいもっともな理由がある。昨年10月8日にガザ紛争が始まって以来、ヒズボラは後ろ盾のイランから供与されたミサイルやロケット、無人機を、国境越しにイスラエル北部に撃ち込んでいる。しかもその目的は、イスラエル国防軍の注意をガザ作戦からそらせ、ハマスを支援するためだと、ヒズボラは明言している。

ヒズボラの攻撃は比較的限定的で、今のところイスラエル北部に限られている。それでも、国境付近の住民約6万人が避難を余儀なくされている。うんざりした住民は、ネタニヤフ政権にヒズボラを国境から撤退させろと要求している。

その怒りはここ数日でさらに増大した。ヒズボラが低空飛行の偵察機で撮影したイスラエル北部の都市ハイファの軍事施設や民間施設の映像を公表したからだ。

つまり、ヒズボラはこの地域で新たな標的を設定する準備にかかっていたのだ。ハイファは人口30万人近い都市だが、ヒズボラの攻撃はまだ受けていない。

ネタニヤフ内閣で最も右寄りの閣僚ベザレル・スモトリッチ財務相とイタマール・ベン・グヴィル警察相は、イスラエル軍のレバノン南部への侵攻を公然と要求している。

このような圧力がなくても、イスラエル北部の住民は与党リクード党の強力な支持者であることから、ネタニヤフ首相としては、ヒズボラの脅威をなんとしても無力化したいのだ。

アメリカとイランの利害関係
アメリカは明らかに、イスラエルが紛争で第二の戦端を開くリスクを懸念している。ジョー・バイデン大統領はイスラエルとレバノンにアモス・ホッホシュタインを特使として派遣し、緊張緩和を図っている。(中略)

現時点のイスラエルとヒズボラの戦争の可能性におけるイランの利害関係は複雑だ。イスラエルが二正面から軍事的圧力を受けるのが喜ばしいことは明らかだ。だが、イランの指導者たちはヒズボラを、イランの核施設を攻撃したがっているイスラエルに対する抑止力だと考えている。

ヒズボラは推定15万発のミサイルとロケット弾を保有しており、その中にはイスラエル領の内部まで届くものもある。これまでのところイランは、ヒズボラとイスラエルとの大規模な戦闘拡大は望んでいないようだ。

イスラエルのミサイル防衛システム「アイアン・ドーム」は、ガザからのロケット弾攻撃を無力化することには目覚しい成功を収めているが、より高性能なミサイルの集中砲火に対しては、それほど有効ではないかもしれない。
現に今年4月、イランがイスラエルにミサイル150発と無人機170機を直接撃ち込んだときは、イスラエルはアメリカ、イギリス、フランス、ヨルダンからの支援を必要とした。(中略)

歴史は繰り返すのか
(中略)ほとんどの軍事専門家は、二つの正面で戦争を構えることには警告を発するだろう。ジョージ・W・ブッシュ元米大統領は、アフガニスタン戦争にまだ決着がつかない2003年にイラク侵攻を開始した。その結果、米軍は大きな犠牲を払い、国も壊滅的な損失を被った。

19世紀のアメリカの作家マーク・トウェインは、「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」と言ったと伝えられる。イスラエルの指導者たちは過去からの響きに耳を傾けるだろうか。【6月29日 Newsweek】
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ヒズボラ  イスラエルとの戦闘が激化 全面戦争の危険性も 両者は互いに相手を威嚇

2024-06-23 23:36:29 | 中東情勢

(レバノン地域のヒズボラ兵。(ウィキメディア・コモンズ-タスニム通信社)【6月19日 VOI】)

【激しさを増すイスラエル・ヒズボラの戦闘 全面戦争の危険も】
パレスチナ・ガザ地区におけるハマスとイスラエルの衝突が始まった当初から注目されていたのは「(レバノンの)ヒズボラは参戦するのか?」ということ。

かつてイスラエルと戦って負けなかった実績があることが示すようにハマスを上回る戦闘力を有し、イスラエルと戦う意思があり(周辺アラブ諸国にはそのような考えはないでしょう)、実際に動ける(イスラエルと敵対するイラン本国が動く訳にはいきませんので)・・・・そうした条件を兼ね備える(イランの支援をうける)ヒズボラが参戦すればイスラエルは両面作戦を強いられ、紛争は新たな展開を迎えます。

もちろんヒズボラにとってもイスラエルとの本格的な戦闘となれば、組織の存亡がかかってきますので、現実問題としては軽々に動けるものでもありません。

イスラエルとヒズボラの間では小競り合いは続いていたものの、これまでのところ「ヒズボラの本格参戦はなさそうだ・・・」というのが大方の見方でした。

しかし、ここにきて両者の緊張が高まっています。

“ヒズボラの攻撃で兵士死亡=レバノン境界で高まる緊張―イスラエル”【6月6日 時事】
“イスラエル、ヒズボラ司令官殺害 昨年10月以降で最高位か―レバノン”【6月12日 時事】

****ヒズボラ、イスラエルに最多のロケット弾 幹部殺害で報復****
レバノンの親イラン武装組織ヒズボラは12日、イスラエル軍による空爆で現場司令官が死亡したことへの報復として、イスラエルをロケット弾で攻撃した。昨年10月に国境付近で交戦が始まって以降、1日として最多のロケット弾を発射した。

イスラエル軍は11日、レバノン南部の村を空爆し、ヒズボラの司令官と戦闘員3人が死亡した。関係筋によると、同司令官は昨年来の交戦で殺害された最高位の幹部だという。

ヒズボラは12日、イスラエルに対し少なくとも17の作戦を実施したと表明。このうち半数は司令官「暗殺」への報復だとした。イスラエルの軍事工場に誘導弾を発射したほか、軍の司令部や航空監視施設を攻撃したという。

治安筋によると、ヒズボラが12日に発射したロケット弾は約250発と、現在の衝突開始以降、1日として最多に上った。

ヒズボラ幹部は殺害された司令官の葬儀で、報復としてイスラエルに対する作戦の強度と威力、数を増やすと述べた。【6月13日 ロイター】
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【互いに相手を威嚇する両者 アメリカはイスラエル支援を明示】
イスラエル側も軍・政府がヒズボラの動きを警戒して、「これ以上やるなら、こっちも容赦しないぞ!」といった牽制する対応。

****ヒズボラの砲撃激化、衝突拡大も イスラエル軍が警告****
イスラエル軍は16日、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラによる国境を越えた砲撃が激化しているとし、衝突拡大の恐れがあるとの見方を示した。

イスラエル軍のハガリ報道官は「ヒズボラの攻撃激化により、われわれはレバノンや地域全体に壊滅的な結果をもたらす可能性のある、より広範なエスカレーションの瀬戸際に向かっている」と述べた。(中略)

米仏はレバノン南部国境付近の敵対行為を巡り、交渉を通じた解決策に取り組んでいるが、ヒズボラはイスラエルがパレスチナ自治区ガザへの軍事攻撃を停止しない限り砲撃を続けるとしている。【6月17日 ロイター】
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****レバノンへの軍事計画承認 イスラエル軍発表、ヒズボラと全面衝突の懸念****
イスラエル軍は18日、隣国レバノンに対する軍事作戦計画が承認されたと発表した。レバノンと国境を接する北部の軍部隊の戦闘準備をさらに増強するとしている。イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織「ヒズボラ」の交戦は最近激しさを増しており、全面衝突への懸念が高まっている。

イスラエルのカッツ外相は18日、「全面戦争になれば、ヒズボラは壊滅してレバノンは手痛い打撃を受けるだろう」と警告した。

一方、ヒズボラはレバノン国境から約25キロの距離にあるイスラエル第3の都市ハイファの港などを上空から偵察機で撮影したとする映像を公表した。ハイファ市街は攻撃可能だと示唆する狙いとみられ、市当局者が「市民に対する心理的なテロだ」と非難するなど駆け引きが活発化している。(中略)

一方、米国のホックスティーン特使は17日、イスラエル入りしてネタニヤフ首相と会談したのに続き、18日にはレバノンでミカティ暫定首相らと会談し、イスラエルとヒズボラの緊張緩和に努めた。

ヒズボラとイスラエルは2006年、約1カ月にわたる大規模交戦を展開し、レバノン・イスラエル両国で総勢1200人以上が死亡した。ヒズボラの戦闘能力はハマスを上回るといわれる。【6月19日 産経】
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****イスラエル外相、レバノンのヒズボラに「決断の時は間近だ」と警告…近く大規模攻撃か****
イスラエルのイスラエル・カッツ外相は18日、北部への攻撃を強めるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに対し、SNSで「ルールを変更する決断の時は間近だ」と述べ、大規模攻撃の決定が近付いていると警告した。

北部の国境地帯ではヒズボラとイスラエル軍との攻撃の応酬が激化している。カッツ氏は「全面戦争でヒズボラは壊滅し、レバノンは深刻な打撃を受ける」と訴えた。イスラエル軍は18日、「レバノン攻撃の作戦を承認し、現地部隊の増強継続を決めた」と明らかにした。(後略)【6月19日 読売】
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ヒズボラ側も、本音はともかく表向きの強気姿勢を崩していません。

****イスラエルに「逃げ場ない 」 ヒズボラ最高指導者が警告****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師は19日、イスラエルが対レバノン攻撃作戦を承認したのを受け、ヒズボラの対イスラエル攻撃を回避できる場所は「どこにもない」と警告した。昨年10月のパレスチナ自治区ガザ地区での戦闘勃発(ぼっぱつ)以来、イスラエルとヒズボラは毎日のように交戦しているが、本格的な戦闘に発展する恐れもある。

ナスララ師はビデオ演説で、ヒズボラの「ロケット弾攻撃」を逃れられる場所はイスラエルには「どこにもない」と述べた。

また、地中海東部の島国キプロスについても、イスラエル軍によるレバノン攻撃のため空港や基地が使用されるなら報復の対象になり得ると警告した。

キプロスには英軍基地が2か所ある。うち1か所は空軍基地。ただ、基地は英国の主権領域で、キプロス政府の管轄権は及ばない。

キプロスのニコス・フリストドゥリディス大統領は、同国はガザへの海路での人道支援で「国際社会に広く認知された」役割を果たしているとしながら、イスラエルとヒズボラとの間の戦闘への関与については否定した。 【6月20日 AFP】
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国連事務総長は事態の沈静化を求めています。

****国連事務総長が事態の沈静化訴え イスラエル軍と「ヒズボラ」の間で攻撃の応酬続く****
イスラエル軍と隣国レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」との間で連日、攻撃の応酬が続く中、国連事務総長は21日、事態の沈静化を訴えました。

イスラエル軍とヒズボラの間では、連日、攻撃の応酬が続いていて、事態のさらなる悪化が懸念されています。こうした中、国連のグテーレス事務総長は21日、緊張が高まっていることに「深い懸念」を示した上で、事態の沈静化を訴えました。

国連・グテーレス事務総長「中東の紛争が拡大するリスクは現実のものであり、絶対に避けなければならない」(後略)【6月22日 日テレNEWS】
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ガザ情勢では弾薬供給停止措置などイスラエルとの溝も明らかになっているアメリカは、もしヒズボラとの全面戦争になればイスラエルを支援することを明らかにしています。もちろん「イスラエル頑張れ」という話ではなく、「アメリカがイスラエルを支援しないといった幻想を抱くな!」とヒズボラを牽制したものでしょう。

****イスラエル支援を確認=ヒズボラと全面戦争なら―米高官****
米CNNテレビは21日、米国とイスラエルの高官が20日に行った会談で、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエルが全面戦争に突入した場合、米国がイスラエルを支援することを確認したと報じた。

ただ、米国は地上部隊は派遣しないという。米国とイスラエルはパレスチナ自治区ガザで続くイスラム組織ハマスとの戦闘を巡り、関係がぎくしゃくしていた。

訪米したイスラエルのハネグビ国家安全保障顧問とデルメル戦略問題相は、ブリンケン米国務長官らと会談。ヒズボラへの対応を協議し、米国の支援方針が確認されたという。【6月22日 時事】 
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【鉄壁のイスラエル防空態勢が破られる危険も】
イスラエル世論はヒズボラとの本格戦闘に肯定的なようです。

****ヒズボラと本格戦闘、6割が支持 イスラエル国民、最新世論調査****
イスラエル軍とレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラとの交戦で、イスラエル国民の6割超がレバノン地上侵攻を含めた対ヒズボラ本格戦闘を支持していることが最新の世論調査で分かった。

背景にはヒズボラの攻撃強化による被害の拡大がある。軍幹部からも本格戦闘に前向きな発言が相次ぎ、緊張が高まっている。

ヒズボラは昨年10月のパレスチナ自治区ガザの戦闘開始後、パレスチナ人を支援するとして、イスラエル北部へロケット弾やミサイル、無人機で攻撃を開始した。その頻度は増し、イスラエルのシンクタンク「アルマ研究教育センター」によると、5月は計325回に達し月間最多だった。【6月12日 共同】
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ただイスラエルにとって気掛かりなことは、ヒズボラ指導者ナスララ師が“ヒズボラの「ロケット弾攻撃」を逃れられる場所はイスラエルには「どこにもない」”と言及しているように、イスラエル自慢のアイアンドームを中心とした防空態勢が破られる危険性があることです。

驚異的な精度でミサイル・ロケット弾をとらえるアイアンドームですが、数には限りがあります。一方、ヒズボラは推定15万発のミサイルやロケット弾を保有しているとされ、これを集中的に使用されるとアイアンドームでも防ぎきれません。

****ミサイル15万発を保有のヒズボラ、イスラエルの対空システム「アイアン・ドーム」破る可能性****
米CNNは20日、米高官の話として、イスラエルと、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラが全面的な紛争を始めた場合、ヒズボラの攻撃にイスラエル北部の防空網が対処しきれない可能性があると報じた。

ヒズボラは15万発とされるミサイルを持っており、イスラエルの対空防衛システム「アイアン・ドーム」も対応できない事態が懸念されているという。

CNNは、米高官3人が「深刻な懸念」を示しており、こうした懸念はイスラエル側に伝えられているとしている。イスラエル軍は18日、ヒズボラへの作戦を承認したが、米国は全面紛争を懸念しているようだ。

アイアン・ドームは、イスラエルが誇る世界で最も優れているとされる対空防御システムだ。ただ、ヒズボラがミサイルや無人機(ドローン)を大量に同時投入する「飽和攻撃」を展開した場合、迎撃しきれない恐れがある。山など高台から撃ち下ろす砲撃に対処できない弱点もある。

ヒズボラは、パレスチナ自治区ガザで昨年10月に始まった戦闘に呼応し、イスラエル北部にロケット砲など5000発以上を撃ち込み、29人の市民や兵士が死亡した。これに対し、イスラエル軍はヒズボラ拠点の空爆を続け、戦闘員346人を殺害したとしている。【6月21日 読売】
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“イスラエル側もこうした懸念を持っており、イスラム組織ハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ周辺からイスラエル北部へ装備を移す方針を米政府に示した。”【6月21日 共同】

更に、ヒズボラ・イラン側は全面戦争になればミサイルだけでなく、人員面でも集中的に投入する構えを見せています。

****対イスラエルで戦闘員数千人ヒズボラ支援か****
AP通信は23日、親イラン武装組織関係者の話として、イスラエル軍とレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラが本格戦闘に入った場合、中東各地の親イラン組織の戦闘員数千人がレバノンに向かう準備ができていると伝えた。【6月23日 共同】
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実際にミサイル・人員が言われているように機能するのかはわかりませんが、いまはチキンレースでの段階で、互いに相手側を威嚇して有利にことを運ぼうとしています。

ただ「チキンレース」は不測の事態によって、“後に退けない”状況にもなる危険性があります。
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サウジアラビア  「サウジ・ファースト」の観点から中ロとの関係も維持 UAEとの競合関係

2024-06-22 22:12:45 | 中東情勢

(2021年12月にサウジアラビアのムハンマド皇太子を迎えるUAEのムハンマド大統領。2人の敵対関係が取りざたされている【2023年10月3日 WEDGE】)

【アメリカと同時に中ロとも関係を持つ「サウジ・ファースト」】
長年アメリカにとって中東戦略の拠点でもあったサウジアラビアとの関係は、バイデン政権のもとで、カショギ氏殺害事件やサウジのイエメン介入などでギクシャクしたものになりました。

しかし、石油価格の面でも、中東情勢安定化でも、サウジアラビアの協力は不可欠であり、バイデン政権は関係修復に動いています。

サウジアラビアとしては、例えアメリカとの関係を修復したとしても、一方でロシア・中国とも関係を保ち、「サウジ・ファースト」の立場からその利益を最大化するという戦略は続くと思われます。

****「東と西、南と北の架け橋へ」地政学上の鍵を握るサウジアラビアが目指す「サウジ・ファースト」の論理*****
<アメリカと協力関係を続け、その一方で中ロに接近、屈指の経済成長率で巨大な影響力を手にしたサウジアラビアが構想する「ビジョン2030」の未来とは>

ジョー・バイデン米大統領が11月の大統領選に向けて国内各州で激戦を繰り広げるなか、ホワイトハウスも世界で重要性を増すプレーヤーと影響力を争っている。

その1つが、実は長年にわたるアメリカのパートナー、そして国内外の政策で大きな転換を図ろうとしている国、サウジアラビアだ。

サウジアラビアは地政学的に大きなカギを握るだけでなく、アメリカの選挙で重視される問題でも多大な役割を担っている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が選挙戦の大きな論点である今、中東では極めて重要な位置を占めている。さらには、世界最大の原油輸出国として原油価格を決定する強力なプレーヤーでもある。

インフレはアメリカの有権者の最大級の関心事だから、サウジアラビアはこの点でも重要な存在になり得る。(中略)

頭文字を取って単に「MbS」と呼ばれることも多いムハンマドの主導する変革は、国内に大きな変化をもたらしている。グローバル化の傾向がさらに強まり、石油依存からの脱却が進み、ムハンマドが掲げる野心的な「ビジョン2030」計画に沿った取り組みも行われている。

こうした変化は、アメリカのライバルである中国やロシアを含むほかの主要国とのより強固な関係の追求にもつながる。サウジアラビアとアメリカの政府当局者は、両国のパートナーシップの重要性を強調し続けている。

だが最近の対立や、協力関係の将来をめぐって行われている面倒な交渉から、中東でアメリカの戦略的な足がかりとなってきたサウジアラビアとの関係の行く末について、強い疑念が生じていることも確かだ。

「注目点の1つは、サウジアラビアにとって最大の石油輸入国であり、武器や技術を無条件で供給してくれる中国の重要性が増していることだ」と、サウジアラビアの政治専門家アリ・シハビは本誌に語った。

シハビはシンクタンク「アラビア財団」の設立者で、現在は「ビジョン2030」に盛り込まれた未来志向の巨大プロジェクトであるNEOMの顧問を務める。

「もう1つは、対米関係が当てにならないと考えられていること。ワシントンの政治情勢によって大きく変わり得るからだ」(中略)

両国の関係は第2次大戦中に戦略的パートナーシップへと拡大し、冷戦期にはさらに発展した。(中略)サウジアラビアは、中東全域でイランの影響力に対抗するアメリカの取り組みの中心だった。

同盟国を増やすという選択
世界有数の原油輸出国であり、メッカとメディナというイスラム教の2大聖地を抱えるサウジアラビアの特別な影響力から、アメリカは長く恩恵を受けている。サウジアラビアも地域的な紛争では、米国防総省の支援を受けてきた。だが近年は、両国の利害が分かれ始めている。

分裂はバイデン政権下で特に顕著になった。台頭する皇太子と親密な関係を築いた前任者のドナルド・トランプとは異なり、バイデンは強硬路線を取っている。(中略)

バイデンへの冷遇とは対照的に、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は22年12月、初の中国・アラブ諸国サミットをサウジアラビアで開き温かい歓迎を受けた。

その数カ月後、サウジアラビアは北京の仲介でイランと国交を回復し、中国とロシアが大きな影響力を持つ2つの多国間ブロックに参加する。上海協力機構とBRICSだ。

いまバイデンは、ガザ戦争に関連してサウジアラビアとの関係修復を再び試みている。

ホワイトハウスが目指すのは、いわゆる「メガディール」をまとめること。具体的には、アメリカとサウジアラビアの安全保障協力を強化する、イスラエルとサウジアラビアが国交を正常化する、そしてパレスチナ国家の樹立に向けた道筋をつくる、といったものだ。

しかし、サウジアラビアはアメリカとの交渉に強い姿勢で臨んでいる。自国の地政学的な影響力が強まっている状況を生かして、国益を最大化しようとしているのだ。

OPECプラス、アラブ連盟、イスラム協力機構(OIC)の有力メンバーであり、G20諸国の中でも屈指のペースで経済成長を遂げているサウジアラビアは、そうした戦略を追求しやすい立場にある。

ほかには、ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコといった国々も同様の外交姿勢を実践している。これらの国々は、国際政治でどの陣営と連携するかが流動的で、地政学上の勢力図の大きなカギを握っている。 米シンクタンク「ジャーマン・マーシャルファンド(GMF)」は、こうした国々を「グローバルなスイング・ステート」と呼ぶ。 

「このような国々にとって世界秩序がより不安定に、より複雑に、より多極化するなかで、連携する国を増やすことは理にかなった選択」だと、GMFの研究員であるクリスティナ・カウシュは本誌に語っている。 

「サウジアラビア政府は、例えて言えば結婚ではなく、複数の相手と流動的な関係を育むことこそ、世界の不安定化がもたらすダメージを抑え、自国の強みを最大限生かすための方策だと考えている」 (中略)

グローバルな「懸け橋」に?
バイデン政権は「外交的対話を強化し、サウジアラビアを公然と批判することを減らし、地政学的な違いを考慮し、両国の利害の違いに配慮する」とともに「経済・安全保障問題での歩み寄り」によってサウジアラビアとの関係を改善できると、サウジアラビアの著名なジャーナリストで研究者のアブドゥルアジズ・アル・ハミスは感じている。

(中略)バイデン政権の取り組みが成功しても、サウジアラビアはアメリカの利害と対立しかねない国へのシフトを続けるだろう。ほかの大国との連携強化にはさまざまなメリットがあると、ハミスは指摘する。

同盟を多様化して国際社会でのサウジアラビアの足場を強化し一国依存を減らす、貿易相手・投資先を多様化してサウジ経済を強化する、複数の主要国との関係を強化して地域の「力の均衡(バランス・オブ・パワー)」の確立に寄与するなどだ。

「ほかの主要国との関係構築において、この路線はムハンマドが王位に就いても変わらない」と、ハミスは言う。「こうした関係には戦略的・経済的メリットがあるからだ」

アメリカがサウジアラビアの「スイング・ステート」的立場を受け入れることが関係安定化・強化のカギだと、サウジアラビアの地政学アナリスト、モハメド・アルハメドは指摘する。(後略)【6月21日 Newsweek】
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【目指す脱石油においても中ロ含めた幅広い国際関係がメリット】
サウジアラビアも、同じく湾岸諸国の産油国アラブ首長国連邦(UAE)も、国の将来を見据え、過度な石油依存からの脱却を図っています。

その点でも、アメリカだけでなく、ロシア・中国とも関係を保つことは大きなメリットとなります。

****サウジとUAE「ポスト石油時代」に向けた鉱業参入****
<EV普及で世界の石油需要は鈍化、サウジやUAEは鉱業分野への参入を図っている>

中東ではたいていの国が石油(と天然ガス)に頼って生きている。だが一部の裕福な国は先を見越して、同じエネルギー部門でも別の資源に目を向け始めた。クリーン・エネルギーへの転換にも電動車両用バッテリーにも欠かせないリチウムやコバルト、希土類などの重要鉱物だ。

石油で稼いだ資金をため込んできたサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などは、過度な石油依存から脱却して将来への布石を打つため、重要鉱物の採掘とそのサプライチェーンへの投資を増やしている。

なにしろ今は、そうした鉱物の産出・精製で中国が過大なまでのシェアを誇り、そのせいで地政学的な緊張が高まっている。西側諸国は、もちろん中国を迂回したサプライチェーンを確保したい。中東諸国も、この機に乗じて「ポスト石油」時代への道を切り開きたい。

米中ロと同時に商売ができる
「この分野で、ぐっと存在感を増してきているのがサウジアラビアとUAEだ」と言うのは米シンクタンクの戦略国際問題研究所に所属するグレースリン・バスカラン。「両国とも、クリーン・エネルギーへの転換で世界の石油需要が先細りとなり、石油頼みの経済モデルでは成長を維持できないことを理解している」

だからサウジアラビアは石油依存からの脱却を目指す成長戦略「ビジョン2030」で、鉱物資源の開発事業に約1億8200万ドルの資金を振り向けた。ちなみに政府の試算によれば、同国には2兆5000億ドル相当の鉱物資源が眠っている。

「わが国は経済大国への転換期にある」と、鉱業資源省のハリド・アルムダイファ次官は現地メディアに語っている。「第1段階で国内の鉱物資源を開発し、第2段階で国外の資源をわが国に集め、第3段階でサウジを(資源流通の)ハブとする」

この壮大なビジョンの実現には多くの国の協力が必要になる。既に同国はコンゴ民主共和国やエジプト、モロッコ、さらにはロシアやアメリカとも鉱業部門での協力に関する覚書を交わしており、米政府と組んでアフリカ諸国での採掘権を取得する交渉を始めているとの報道もある。

UAEもコンゴ民主共和国での採掘事業に関する総額19億ドルの契約を結び、銅資源の豊富なザンビアとも同様の合意に近づいている。

前出のバスカランによれば、サウジもUAEも資金力に不安はない。「今はリチウムやニッケル、コバルトの価格が下がっていて、たいていの欧米企業が新規投資に慎重になっているなか、この2つの国は札束をちらつかせている」

とはいえ、こうした事業へ外資を呼び込むには環境への配慮を含め、いくつもの課題を解決しなければならないだろう。重要鉱物に詳しい英ウォルバーハンプトン大学のハミド・プーランに言わせれば、「採掘の倫理性・持続可能性を確保するには環境的・社会的に厳格な規制が必要であり、特に大量のエネルギーを消費する精製の工程では省エネ化の推進が不可欠となる」。

そのとおりだが、サウジのような国には他国にない強みがある。裏の事情に通じたあるアナリストが言っている。「ああいう国はロシアとも中国とも、アメリカとも同時に商売ができる。これはすごい財産だ」【6月21日 Newsweek】
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【方向性を同じくするサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の競合】
国際情勢でも存在感を示し、、脱石油の方向性でも一致するサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は、緊密な関係にあり、指導者間には以前からの友好関係もありますが、同時に(性格・方向性が似通っているだけに)競合的なライバルともなっています。

****「サウジアラビア v アラブ首長国連邦」中東地域の主導権をめぐる静かなる地政学争い****
<ガザ紛争と地域の平和的共存を目指す動きの水面下で、アラブ世界は今後、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の地理経済的競争に焦点が移って新しい時代を迎える>

イスラエルとハマスの戦争は、平和的共存が地域の新しい潮流になりつつあるなかで始まった。
こうした中東の変化を象徴するのが、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の同盟関係がかつてないほど緊密に見えることであり、それぞれの国で実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相とムハンマド皇太子の友好的に見える関係だ。

2017年にサウジアラビアとUAEは、アラブ世界でソフトパワーを拡大しようとするカタールに対抗して断交に踏み切った(21年に和解)。

14年から続くイエメンの内戦では15年に両国が軍事介入を行い、親イランのシーア派武装勢力のフーシ派と対立している。そして、それぞれが中国とロシアに接近し、アメリカとの同盟関係から距離を置いた、より独立した政策を取っている。

ただし、この友愛的に見える同盟関係の水面下で、アラブ世界の主導権をめぐる地政学的争いが静かに繰り広げられている。

まず、外国投資をめぐる大規模な競争だ。09年に湾岸協力会議(GCC)の中央銀行の本部をサウジアラビアの首都リヤドに置くという決定にUAEが反発し、GCCの通貨統合は今も実現していない。
12~22年のUAEの投資流入額の対GDP比はサウジアラビアの約3.5倍に達し、主な多国籍企業の中東本部の約7割がドバイにある。

一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で22年に原油価格が高騰し、サウジアラビア経済は8.7%の成長を達成。国内への大規模な資本流入を生んだ。
また、サウジアラビアはペルシャ湾地域に進出している外国企業に対し、自国領内に本社を移転するよう強く迫っている。

サウジアラビア(世界最大の石油輸出国)とUAE(同5位)のエネルギー政治の綱引きは、両国の競争をさらに激化させている。

21年夏には、OPEC(石油輸出国機構)とロシアなど主要産油国で構成されるOPECプラスの減産措置の延長をめぐって両国が公然と対立した。その後、サウジアラビアが主導権を握っていることにUAEが異議を唱え、OPEC脱退を検討するかもしれないという噂が流れた。

経済多角化のビジョン対決
国際社会における威信をめぐる競争では、権威ある国際会議の開催を通じてソフトパワーを増強するために戦略的な投資を重ねている。

サウジアラビアは17年に未来投資イニシアチブ(FII)を設立し、UAEは23年にUNCTAD(国連貿易開発会議)の世界投資フォーラム(WFI)を首都アブダビで開催した。

21年にはUAEがドバイで中東初となる国際博覧会(万博)を開催。サウジアラビアは30年にリヤドで開催する。また、昨年12月にドバイで国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が、今年2月にアブダビでWTO(世界貿易機関)閣僚会議が開催された。

最も重要な競争は、それぞれの国が追求する「ビジョン」戦略に関連するものだ。UAEは10年に国家開発計画「ビジョン2021」を掲げ、多角化を進めてきた。
ハリファ港とジュベル・アリ港を軸とする戦略的イニシアチブを通じて世界的な交通とビジネスのハブとしての地位を獲得し、国営航空会社エミレーツ航空の成功がそれを支えている。

一方、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンも16年に、経済多角化の野心的なロードマップ「ビジョン2030」を打ち出した。
目玉は紅海沿岸の砂漠地帯に建設する未来都市「NEOM」構想で、地域で傑出したインフラ、交通、テクノロジー、ビジネス、金融のハブを目指す数千億ドル規模の取り組みだ。

サウジアラビアはさらに、23年に政府系ファンドが100%出資するリヤド航空を設立(就航は25年の予定)するなど、海と空の物流のハブに変貌するために1000億ドル以上を投じている。

なかでも、中東・北アフリカ地域で最大規模かつ最も交通量の多い港湾になるとされるジッダ・イスラミック港への巨額の投資を通じ、港湾におけるUAEの優位に挑戦しようとしている。

興味深いことに、イランとの関係改善が、一連の競争を激化させるかもしれない。中国の主導によるイランとサウジアラビアの和解は、サウジアラビアとUAEが地域で共有する主要な脅威を効果的に排除し、ペルシャ湾北部と南部の長年にわたる地政学的対立を緩和した。

この地域は今後、イランとGCCの地政学的競争から、サウジアラビアとUAEの地理経済的競争に焦点が移って新しい時代を迎えるかもしれない。

通商政策では、サウジアラビアが21年7月に、国内の工業生産を強化するために保護主義的な政策を導入。外資奨励のために優遇措置が取られているフリーゾーンで製造された製品やイスラエルからの輸入品を使った製品を、特恵関税の対象外とした。

こうした規制はUAE経済の根幹をなすフリーゾーンに真っ向から挑戦するもので、UAEとイスラエルの貿易関係が発展することに対する明確な反論である。

アメリカの中東政策に打撃
その対イスラエル政策でも、両国の距離が開く可能性がある。UAEは20年にアメリカの仲介でアブラハム合意に署名し、イスラエルと国交正常化を果たしたが、サウジアラビアは署名を見送った。イスラエルとUAEは包括的な経済協定を結ぶなど、2国間関係を強化している。

イスラエルとハマスの戦争は、サウジアラビアとの国交正常化のプロセスを減速させている。しかし、サウジアラビアはアブラハム合意の礎になるべき存在であり、対話は復活するだろう。

ムハンマド・ビン・サルマンがイスラエルとの国交正常化に向けて、特に核開発や安全保障面でさらなる譲歩を探っても不思議ではない。そうした動きは、UAEのムハンマド皇太子の対イスラエル政策に圧力をかけるだろう。

サウジアラビアとUAEの溝が広がるにつれて、互いの「重り」として、ロシアや中国、さらにはイランとの関係改善が加速することが考えられる。その結果、アメリカの中東戦略の有効性が弱まり、アメリカは中東の重要性を再評価することになるかもしれない。

イスラエルとハマスの戦争が勃発したように、サウジアラビアとUAEの地政学的な競争激化が、中東はより平和になるという単純な見方を覆す可能性は十分にある。【6月19日 Newsweek】
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サウジアラビア  ムハンマド皇太子が進める新しいサウジ「NEOM」 国王の健康悪化で王位継承問題

2024-05-26 23:29:22 | 中東情勢

(THE LINE 【TECTURE MAG】

【超未来的な巨大都市「NEOM」 その中核「THE LINE」】
以前にも取り上げたことがありますが、サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子が進める超巨大プロジェクトNEOM(ネオム)・・・砂漠の中に最先端技術を駆使した未来都市を建設しようというものですが、あまりに斬新かつ巨大過ぎて私のような凡庸な想像力ではイメージを把握しかねてもいます。

****サウジアラビアの超未来的な巨大都市「NEOM」とは一体なんなのか? 構成する4つのプロジェクトを紹介****
NEOM:サウジアラビアの未来都市
超スリムな超高層ビルがどこまでも続くメガシティー・プロジェクト「THE LINE」は、2年前の発表以降、その極めて野心的なデザイン(と、物議を醸す政治)で話題を呼んでいるが、このメガシティーは、サウジアラビアが思い描く未来都市NEOMを構成する4地域の一つにすぎない。

サウジアラビア北西部のタブーク州で進行しているこの壮大な計画は、首相でもあるムハンマド・ビン・サルマン皇太子と、英国を本拠とする構造工学コンサルタント、ビューロ・ハッポルドの元CEO、ロジャー・ニッケルズ氏が主導している。(中略)

NEOMという名称は、「新しい未来」を表現する2つの言葉に由来する。最初の3文字は、古代ギリシャ語で「新しい」を意味する接頭辞ネオ(neo)。最後の1文字は、アラビア語で「未来」を意味する「モスタクバル(mostaqbal)」の頭文字だ。

NEOMを構成する4つの「地域」は、SINDALAH、TROJENA、OXAGON、そして、THE LINE。

プロジェクトに関わる国際チームは、スマートシティー技術を取り入れ、未来的な都市計画を実現することで、「都市生活を再構築」したいと考えている。NEOMの都市計画責任者タレク・カドゥミ氏は2022年のインタビューで、この未来志向のビジョンについて語った際、超効率性とカーボンニュートラルというチームの目標を詳述している。

SINDALAH

SINDALAHは、NEOMで最初に設計された地域で、「島がもつリラックスした雰囲気と、新時代のラグジュアリーが融合したハイテクな観光地」だ。(中略)

このリゾートの特色はラグジュアリーツーリズムで、3つのホテルを合わせて750室近い客室とアパートメントを提供する。86の係留所を備えるマリーナと、75の沖合ブイがあり、スーパーヨットの寄港先になることが期待されている。島に到着したら、高級小売店、ビーチ、ヨットクラブ、スパ、ウェルネスセンターなどを利用できる。

TROJENA

TROJENAは、タブーク州の山岳地帯に計画されている。面積は約60平方キロで、アカバ湾から50キロ、標高1500~2600メートルの場所につくられる。

まだ建設が開始されてはいないが、2029年のアジア冬季競技大会の会場になることがすでに決まっている。5000億ドルの資金を投じ、2026年に砂漠の都市が完成する予定で、一年中滑ることができるスキー場、人工の淡水湖、シャレー、ヴィラ、超高級ホテルなどを備え、2045年までに最大900万人の居住が見込まれている。(中略)

OXAGON

OXAGONは、世界最大の浮体構造物になる予定だ。アジア、ヨーロッパ、米国東海岸を結ぶ貿易の約13%が通過するスエズ運河のすぐ南に、紅海に突き出すようにつくられる。このような戦略的立地から、この巨大港湾都市は「最先端のクリーン技術」の拠点になることが期待されており、「2030年までに9万人」が居住することを目指している。インフラも先進的で、OXAGONは100%クリーンエネルギーで運営されるとチームは主張している。

THE LINE

ギガシティーNEOMで最も有名な地域は、おそらくTHE LINEだろう。海抜500メートルという高さで、幅200メートルという、背が高く細長い都市になる予定だ。

「都市生活の革命」をうたい、車や道路を必要としないコミュニティーがベルト状に築かれる。居住者は、徒歩5分圏内で日常のニーズをすべて満たすことができ、自然と触れ合うこともできる。人工知能(AI)を活用し、すべてがネット接続されているこのコミュニティーの発展は、100%クリーンエネルギーで実現されるとチームは述べている。(後略)【2023年1月29日 pen】
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斬新かつ巨大なプロジェクトのなかでも、ひときわ奇抜なのが全長170km・高さ500mの直線型高層都市「THE LINE」

“垂直性による3次元的な移動と、他の都市に類を見ない密度による効率性を実現し、100%再生可能エネルギーにより稼働するサステナブルな都市構想”・・・・だそうです。

全長170kmに及ぶ直線型高層都市がどのようなものになるのか、どうしてそういう形状が必要になるの、そんなものが機能するのか・・・個人的には未だに理解できていません。

ネオムは単にムハンマド皇太子の「世界を驚かせるものを作りたい」といった欲望(おそらく、それもかなり大きなウェイトを占めているのではないかと思っていますが)だけでなく、脱石油を目指して未来のサウジアラビアの礎を築きたいという皇太子の熱い思いが込められています。

建設は始まっているようですが、膨大な費用を要するプロジェクトということで、さすがに資金問題も表面化しているようです。

【資金的な問題から「THE LINE」の第1段階の規模を縮小 全体規模には変更なし】
****サウジ巨大都市構想「ネオム」 立ちはだかる現実の壁****
全長170キロメートルの超高層ツインビル構想、コスト高と建設問題の浮上で勢い失う

エンジニアたちは問題を山ほど目にした。
何千台ものトラックと掘削機が毎日24時間の稼働を数週間続け、サウジアラビアが進める世界最大の建設プロジェクト「ネオム」の予定地で何十万立方メートルもの砂をどかした。捨てられた砂は巨大な山となり、幅は数十メートルに伸びていた。だがそこは、紅海へ通じる水路の工事予定地だった。

トラックと掘削機は再び作業に取り掛かり、捨てたものを再びすくって近くに新たな砂の山を築いた。高くついたこのハプニングは、サウジのプロジェクトが大胆なコンセプトとして始まり、無秩序に膨張する前途多難な事業へと変貌していく波乱に満ちた道のりを象徴している。

懐疑派を尻目に、サウジは何千億ドルもの資金を注ぎ込んでネオムのプロジェクトを進めている。大きさは米マサチューセッツ州に匹敵し、SFばりの建築物や乾燥地帯でありながらスキーリゾートも備え、ニューヨーク市の人口を上回る人を呼び込むための派手なプロジェクトの数々を一から作り上げようとしている。

目玉となる「ザ・ライン」は威容を誇る数兆ドルの構造物で、ニューヨークのエンパイアステートビルより高いツインビルが約170キロメートル伸び、900万人を収容できる予定だ。指揮を執るサウジの事実上の統治者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、このプロジェクトをエジプトの三大ピラミッドになぞらえている。

サウジは数カ月前にザ・ラインの第1段階の規模を縮小した。同国が現在、大幅な歳出超過状態にあるという現実を直視したためだ。計画を知る複数の関係者によると、当初は2030年までにまず約16キロメートル分を建設する予定だったが、約2.4キロメートル分に修正した。このサイズでも断トツで世界最大のビルで、面積はエンパイアステートビル60棟分をしのぐ。

サウジのファイサル・アル・イブラヒム経済・計画相は4月の米CNBCとのインタビューで、計画の第1段階の縮小に関するブルームバーグの報道について聞かれると、ザ・ラインの長期的な展望は変わっていないことを示唆。「規模に変更はない。これはモジュール方式で計画された長期プロジェクトだ」とし、「現在サウジの経済成長は加速しているが、過熱はさせたくない」と語った。

サウジにとってこれはムハンマド皇太子の野心並みに大きな賭けだ。経済を改革して石油依存から脱却し、世界から資金と人材が集まる国にするという同氏の計画をネオムが象徴している。

だが同氏は、前例がなく実現困難な実験になるかもしれない都市建設に、国庫の多くを浪費するリスクを冒している。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの客員研究員で、サウジの民主化を支援する団体に所属するマダウィ・アル・ラシード氏は、「ムハンマド・ビン・サルマンはギャンブルをしている」と話す。「これだけの大金を使えば、理論上、サウジ経済は目に見える形で飛躍するはずだ」という。だがこれまでのところ、資金の多くは外国のコンサルタントや建築家に費やされている。

課題は山積している。どの大都市からでも車で2時間かかる広大な砂漠の一角に、建設労働者を10万人以上収容する必要がある。必要な鉄鋼や外装ガラスなどの資材はあまりに膨大で、世界的に価格を押し上げる可能性があり、調達は困難になるかもしれない。

米デラウェア州と同じ長さの超高層ツインビルに収まった垂直都市という、ザ・ラインの一風変わったコンセプトについて、魅力的な住環境ではないと思われはしないかと立案者は危惧している。【5月17日 WSJ】
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【ムハンマド皇太子の改革路線 外交でもイスラエル・イランとの関係を模索】
NEOMに限らず、ムハンマド皇太子は女性の自動車運転を認めるなどの(人権軽視・あくまでも皇太子の意に沿う“上からの改革”に過ぎない・・・等の批判はあるものの)野心的な改革を進めていますが、国際政治においても、宿敵イランと(表面的には)手を結び、同時に技術的・経済的に実利が大きいイスラエルとの関係改善を模索しています。

イスラエルとの関係は、パレスチナでの紛争再燃を受けてとん挫した形にはなっていますが(アラブの盟主を自任するサウジとしては、パレスチナがイスラエルの攻撃を受けている状況でイスラエルとの関係改善を図るのは立場上困難)、先ずは仲介国アメリカとの防衛協定締結を目指す動きもあるようです。

****米・サウジ、防衛協定で最終合意に近づく=米高官****
米政府高官は21日、サウジアラビアとの2国間防衛協定で最終的な合意に近づいたと明らかにした。民生用原子力に関する協力などが含まれるという。

ただ、イスラエルとサウジの関係正常化に向けたより広範な地域的な取り決めについては障害が残っている。

同高官は2国間協定は「ほぼ完了した」としつつ、パレスチナ国家樹立への信頼できる道筋や、パレスチナ自治区ガザの情勢安定化に向けた措置などについて依然として完了する必要があると指摘した。

サリバン米大統領補佐官の中東訪問を受け、記者団に説明した。サリバン氏はサウジのムハンマド皇太子やイスラエルのネタニヤフ首相と会談した。

関係者によると、協定はサウジが中国製兵器の購入を停止し、中国からの投資受け入れを制限する見返りに、米国がサウジ防衛を正式に保証するとともに、サウジがより先進的な米国製兵器にアクセスできる内容になる見通し。

米当局者によると、合意の一環として米国からサウジに対するF35戦闘機などの武器売却も協議している。【5月22日 ロイター】
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一方、ライシ大統領が亡くなったイランについても、イラン国営通信は25日、ムハンマド皇太子がイランを訪問すると報じています。イラン側との電話協議で訪問を要請され、承諾したとのことですが、具体的な時期には触れておらず、その実現可能性は不透明です。

【父親である国王の健康悪化 王位継承はスムーズに進むのか?】
良きにつけ悪しきにつけ、サウジアラビアの実力者として内外の問題に取り組んでいるムハンマド皇太子ですが、先日、来日予定が、父親である国王の健康悪化で直前にキャンセルされました。

****サウジ皇太子が来日を延期 国王の健康悪化で 日程再調整へ*****
林芳正官房長官は20日午前の記者会見で、同日から予定されていたサウジアラビアのムハンマド皇太子の来日を延期すると発表した。

ムハンマド氏の父、サルマン国王の健康状態が肺炎により悪化し、サウジ政府から19日深夜、訪日延期の申し出があったため。林氏は訪日の日程について「改めて調整する」とした。

日本政府は10日、ムハンマド氏を公賓として20日から招き、天皇陛下との会見や岸田文雄首相との会談を実施すると発表していた。【5月20日 毎日】
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ムハンマド皇太子が進める内外の改革は父サルマン国王の信任があっての話であり、高齢のサルマン国王に万一のことがあり、その後継問題がこじれると、全ては白紙に戻ります。中東情勢・石油価格にも大きな影響が出ます。

これまでのサウジの慣例からすると父から子への王位継承はイレギュラーな形でもあります。

****原油に新リスク…イラン大統領死去より深刻なサウジアラビア王位継承問題、皇太子の訪日ドタキャンの裏に権力闘争か****
(中略)20日に日本を訪問する予定だったサウジアラビアのムハンマド皇太子(39歳)が直前になってその中止を通告してきたが、そこにリスクの兆候が潜んでいると考えている。ムハンマド氏は2022年11月にも訪日をキャンセルしており、今回が2度目だ。

「日本軽視の表れだ」との憶測が流れているが、ムハンマド氏はなぜこのような決断をしたのだろうか。

サウジアラビア皇太子の訪日ドタキャンはなぜ起きた?
中止の理由は「サルマン国王の健康状態」にあるとされている。88歳のサルマン氏は肺炎に罹り、高熱と関節痛の症状を和らげるために王立診療所で抗生物資の投与を受けているという。サルマン氏は2020年にも胆のうの摘出手術を受けている。

高齢の父親の健康が心配なのはわかるが、それだけが理由だとは思えない。むしろ「王位継承がカウントダウンに入ったからではないか」と筆者は考えている。

ムハンマド氏は2017年に皇太子となり、2022年には本来国王が務める首相にも就任した。莫大な権力を掌握していることから、「ミスターエブリシング」と呼ばれているが、サルマン氏から国王の座を譲られているわけではない。

サウジアラビアではこれまで初代国王のアブドラアジズの息子の間で王位が受け継がれてきた。ムハンマド氏が次期国王に就任すれば、初めて初代国王の「孫世代」に王位が渡ることになる。

だが、王位継承は年功序列が慣行となっていることから、「孫の世代でも若い部類に入るムハンマド氏がすんなり王冠を手に入れられるかどうかわからない」との指摘がある。つまり、王位継承をめぐる激しい権力闘争が勃発する可能性がある。

ムハンマド氏には「敵」が少なくないことも気がかがりだ。王位継承の有力者を強引に排除してきた経緯がある。

サウジで権力闘争が勃発すれば原油価格高騰
2017年、当時皇太子だったナイフ氏が更迭され、2020年にはムハンマド氏に批判的だったサルマン氏の弟であるアフメド氏らが逮捕されている。これらの“事件”の背景には、ムハンマド氏による政敵排除の動きがあるとの見方が根強い。

いよいよ国王の健康状態が悪化し王位継承のカウントダウンが始まったとすれば、ムハンマド氏は差し迫った王位継承を盤石なものにするため、国内にとどまらざるを得なかった……。それが、訪日ドタキャンの真相ではないだろうか。

ひとたび中東最大の産油国で王位継承をめぐる権力闘争が勃発すれば、直接的な供給不安にすぐに結び付かなくとも原油価格を高騰させる圧力になりかねない。日本の原油輸入に占めるサウジアラビアの比率は40%を超える。サウジアラビアをめぐる今後の動静について、より一層の注意を払うことが必要なのではないだろうか。【5月24日 藤和彦氏 JBpress】
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これまでムハンマド皇太子は政敵・ライバルを剛腕というか、かなり強引な方法で排除してきましたので、後継問題で直ちに立ちはだかる存在はないと思いますが、“敵も多い”皇太子だけに何が起こるかわからないところも・・・。

*****サウジ国王、肺炎で健康悪化…実権者ビン・サルマン皇太子の継承が有力*****
サウジアラビアのサルマン・ビン・アブドルアジズ国王(88)が肺炎と診断され、病院で治療中という報道があった。サルマン国王の健康が悪化し、王位継承序列1位の息子ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(39)に世間の耳目が集まっている。(中略)

ロイター通信によると、サルマン国王は2020年に胆嚢除去手術を受けてから不調が続き、最近は高熱と関節痛に苦しんでいた。 このためサウジの実権者ビン・サルマン皇太子の権力がより一層強まるという分析が出ている。

2015年に王位に就いたサルマン国王はすでにサウジの国政の相当部分を息子に任せている状態だ。 ビン・サルマン皇太子はサウジの長い慣行を破って王位序列1位になった人物だ。サウジは兄弟間の王位継承が原則だったが、サルマン国王はこうした王位継承序列を破って息子を皇太子とした。(中略)

ビン・サルマンは国王の3人目の妻から得た6人目の息子であり、王座とは距離が遠かった。王室の後継者の一人にすぎなかったビン・サルマンは留学をした他の兄弟と違ってサウジで大学を卒業し、いつも国王のそばにいた。またいくつかの事業で頭角を現し、父の信頼を得たという。 

◆ホテル監禁、粛清…国庫に1070億ドル還収
特にビン・サルマンは王位継承有力者を順に粛清しながら自身の地位を固めた。ビン・サルマンは皇太子となった2017年、王室の有力者数十人を不正・公権力乱用などの容疑でホテルに監禁した。そして財産献納の約束と忠誠誓約を受けた後に解放した。「宮中クーデター」と呼ばれたこの粛清は2019年初めまで続いた。 

ビン・サルマン皇太子が財産献納約束を受けて国庫に還収した金額は1070億ドル(約16兆7000億円)。この時期からビン・サルマン皇太子は何でもできる「ミスターエブリシン」と呼ばれた。

2020年にもビン・サルマン皇太子はサルマン国王の弟アフメド・ビン・アブドル・アジズら王家の3人が「反逆謀議」をしたとして逮捕した。ビン・サルマンの叔父といとこの3人は王位継承の大きな障害だった。

ビン・サルマン皇太子の慈悲のない粛清に国際社会の目は厳しかったが、サルマン国王は息子に大規模な国家建設事業を任せるなど力を与えようとした。皇太子の「粛清」に国王が目をつぶったという評価もある。英ガーディアンによると、皇太子が発付した王室有力者逮捕状に直接署名したのもサルマン国王だ。 

これに先立ち2022年、サルマン国王は伝統的に国王が務めてきた首相に皇太子を任命するなど自身の死後に備えて息子に権力を集中させてきた。ロイター通信は、高齢者のサルマン国王が自身が生きている間に息子の王位継承作業に着手したと分析した。 

ビン・サルマン皇太子は2018年、米経済雑誌フォーブスが選定した「世界で最も影響力のある人物トップ10」に入って注目された。ビン・サルマン皇太子の財産は約2兆ドルと推算される。【5月22日 中央日報】
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中東情勢  イランの攻撃に際し中東諸国がイスラエルに協力 米はイスラエル・サウジ関係を再仲介

2024-05-03 23:16:49 | 中東情勢

(バイデン米政権とサウジアラビアが安全保障や民生用原子力に関する協定で合意に近づいていることが、事情に詳しい複数の関係者の話で分かった。写真はジッダに到着したブリンケン米国務長官。3月代表撮影【5月3日 ロイター】)

【「全面戦争」は回避しつつ面子は保つ・・・緻密に練られた報復の応酬】
4月1日、イスラエルによると思われるミサイルで、シリアの首都ダマスカスにあるイランの大使館施設が攻撃され、イラン革命防衛隊の司令官が死亡。

これを受けての13~14日のイランによるイスラエル本土攻撃、更に、19日のイスラエルによるイランの核開発の中心地域への精密攻撃という報復の応酬は、これまでの支援組織などを使った「影の戦争」が「国家間の戦争」にエスカレートする危険を世界に知らしめました。

しかし一方で、「国家間の戦争」のリスクは当事者であるイラン・イスラエルが一番真剣に認識しているところで、今回の報復の応酬は、そうした全面戦争に発展するリスクを極力排除しつつ、国内外に対し自国の面子を保てる攻撃を行うという、“緻密に練られた”シナリオを基づくものでもありました。

*****【緻密に練られたチキンレース】イランとイスラエルの報復合戦でも「全面戦争」は回避****
米国と秘密接触し事前通告
イランの動きはイスラエルとの全面戦争も辞さないというギャンブル的な振る舞いのように見えるが、実際には水面下で周到な根回しとしたたかな計算をしているのも事実だ。それはイスラエルの後ろ盾である米国との秘密接触を重ねていたことに表れている。

ベイルート筋などによると、イランはカタールやオマーンで行われているパレスチナ自治区ガザの停戦交渉を利用、米側と秘密接触を続けていたもようだ。イスラエル攻撃の数日前には、攻撃に踏み切ることを米側に伝え、攻撃直前にも最終通告していたという。

大半の攻撃は砂漠など過疎地域を狙ったもので、時間のかかる無人機を弾道ミサイルの前に先行発射し、迎撃の準備を与えた。米側は秘密接触について否定している。

イスラエルはイランのミサイルや無人機の99%を撃墜したと発表したが、その裏には米英仏軍とヨルダンも参加した防衛作戦があった。サウジアラビアなども米国を通してイスラエルに情報提供したようだ。

米軍だけで70発以上を撃墜したが、イラン側の事前通告がなければ、イスラエルの防空網がいかに優れていても、これほどの成果は挙げられなかっただろう。

イスラエル、精密攻撃で警告
イスラエルはイランのミサイル攻撃にどう反撃するか、迷いに迷った。戦時内閣では、ガンツ元国防相らがイランへの速やかな反撃を主張、これにガラント国防相らが米国との調整が必要だとして反対し、対イラン最強硬派のネタニヤフ首相はなかなか決断できなかった。

イスラエルはイスラム組織ハマスとのガザ戦争を抱え、住民ら約150万人が避難する南部ラファへの侵攻準備を進めている。北方のレバノン国境ではヒズボラとの交戦が激化しており、いまイランと全面戦争に突入する余裕は事実上ない状況だ。頼みの綱は米国のバイデン政権だった。

だが、パレスチナ住民の犠牲を顧みないイスラエルのやり方を批判してきたバイデン大統領はネタニヤフ首相との会談で、イラン攻撃に「米国が加担しない」ことを通告、自制を強く要求した。首相は米国から支援が得られないこともあって大規模攻撃を断念、限定的な攻撃にとどめる決断を余儀なくされた。

イスラエルが選択したのはイランの“虎の子”の核施設周辺を攻撃し、「いつでも破壊できる」と警告することだった。イラン側の再報復を招かないよう損害を最小限に抑えながら、イランにイスラエルの高度な軍事力を見せつけ、直接攻撃を繰り返させない戦略だ。イスラエルはナタンズの核施設を守る防衛システムを精密攻撃して実証した。

イスラエルはこの攻撃については一切発表していない。米国もブリンケン国務長官が「米国は攻撃には一切関与していない」と発言しただけで、ホワイトハウスは政府内に厳重なかん口令を敷いた。イランを刺激しないためだ。ガザ戦争で国際的に孤立していたイスラエルのイメージは改善、米下院は20日、約4兆円に上るイスラエル支援の緊急予算案を可決した。

攻撃をないものにしたイラン
現地メディアなどによると、イスラエルは4月19日未明、14日のイランのミサイル攻撃の反撃として、イラン中部イスファハン州の「第8シエカリ空軍基地」にミサイル3発を撃ち込んだ。ドローン(無人機)も攻撃に参加した。ミサイルのうち少なくとも1発は空軍機から発射されたという。

この攻撃でイラン側のS300対空レーダーシステムが破壊された。イスファハン州はイランのミサイルなどの兵器生産の拠点であり、ナタンズにはイラン核開発の中核施設がある。このレーダーシステムはこうした重要施設を防衛するためのものだったが、攻撃を全く探知できなかった。

特筆されるべきはイスラエルの攻撃に対するイラン側の対応だ。国営メディアはイスファハン近郊で侵入した「不審物」を迎撃したと報じただけで、イスラエルの攻撃であることには言及していない。革命防衛隊に近いタスムニ通信はイスラエルの攻撃を「虚偽」だと否定さえした。(中略)

「イラン側はイスラエルの反撃をなかったものにしたいのだ。経済的な苦境の中、これ以上イスラエルと事を構えるのを避けたいのが本音。ハメネイ師ら指導部にとってはイスラエル本土を直接攻撃してみせることがなにより必要だった。目的を達成した今は幕引きを図るのに必死だ」(ベイルート筋)。

中東最大の軍事大国であるイスラエルを国家として攻撃したのは1991年の湾岸戦争時のイラク以来であり、イランがイスラエルや米国と対決する「抵抗枢軸」の旗頭として、軍事力の誇示に成功したのは確かだ。イランの「代理人」であるレバノンのシーア派組織ヒズボラやイエメンのフーシ派などはあらためてイランへの信頼感を高めるとみられる。

なによりも「イランにはうかつに手は出せない」という抑止力をイスラエル側に植え付けた意味は大きい。短期的には「勝利者はイラン」と言えるのではないか。

だが、攻撃を受け、イランの通貨リアルは対ドルレートで最安値を付け、インフレも30%を超えたまま。経済的苦境はさらに深まった格好だ。

イスラエルとアラブの和解の流れ加速も
イランとイスラエルは今回、互いの国土を直接攻撃したことで、これまでの「影の戦争」を国家同士の戦争へと変質させた。衝突拡大には至っていないが、偶発的なきっかけで全面戦争に突入しかねない「ガラスの均衡」と言える。ガザ戦争が終結しない限り、イスラエルとヒズボラの交戦は当面続くだろう。

一方でアラブ世界には負の副産物も生まれた。イランへの恐怖心である。
ペルシャ湾岸諸国はイランの革命輸出を恐れ、それがイスラエルとの和解の一因となった。ガザ戦争の長期化でイスラエルへの忌避感が高まっていたが、イランのミサイル攻撃で潮目が変わった。

アラブの盟主であるサウジがイスラエルとの和解の気運を加速するかもしれない。【4月24日 WEDGE(文章の順序を変更して再構成しました)】
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【ヨルダンやサウジアラビアなど中東諸国がイスラエルに協力】
イランはイスラエル本土攻撃を決行するものの、時間のかかる無人機を使用、過疎地域を狙う、アメリカの事前通告しておくということで、イスラエルが確実に迎撃して被害は最小に抑えられることを前提としたものでした。

イスラエルは大規模攻撃は控えるものの、イラン中枢部を狙って、いつでも防空体制を突破できることを知らしめるという限定作戦を実施。

こうした“緻密に練られた”シナリオと同時に興味深いのは、ヨルダンやサウジアラビアなど中東諸国がイスラエルに協力したことです。

****イラン無人機を迎撃したヨルダン、「自衛のため」強調 疑問の声も****
イランによるイスラエル攻撃を巡り、ヨルダンの動きが議論を呼んでいる。パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、アラブ国家としてイスラエルに対する批判を強めていたにもかかわらず、イランの無人機を領空で迎撃し、イスラエルを支援する形となったためだ。

ヨルダンはイスラエルと中東戦争を戦った経緯があるだけに、イスラエルでは歓迎ムードが漂うが、イスラム圏の市民の間には疑問を呈する声もあるようだ。

「ヨルダンはイランの無人機や航空機が領空に侵入すれば、撃ち落とす用意がある」。ロイター通信などによると、イランが多数の無人機を発射したと報じられた直後の13日夜、中東の治安関係者はこう語り、ヨルダン軍が迎撃態勢を取っていることを明らかにした。

一方、イラン軍関係者は「ヨルダンの動きを注視している。(イスラエルを防衛する)行動があれば、彼らが次の標的になる」とけん制。だが、ヨルダンは領空を通過したイランの無人機の一部を迎撃した。ヨルダンのサファディ外相は14日、ヨルダンを標的にするとのイラン側の発言が報じられたことを受け、イラン大使を呼び出して抗議したという。

ヨルダンはイスラエルと4度にわたる戦争を戦い、1967年の第3次中東戦争ではヨルダン川西岸と東エルサレムをイスラエルに占領された。200万人を超えるパレスチナ難民を含め、人口の約7割がパレスチナ系住民とされる。

ただ、94年にはアラブ諸国としてはエジプトに続き2番目にイスラエルと国交を正常化。米国とも友好関係を維持しており、米軍も過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を支援するために駐留を続けている。

今回、迎撃に参加したのは、米国などとの関係を重視したほか、イスラエルで被害が拡大すれば紛争が拡大し、自国も巻き込まれる恐れがあったためとみられる。米紙ニューヨーク・タイムズによると、ヨルダン政府は14日の声明で、迎撃した無人機やミサイルについて「人口密集地の住民を危険にさらさないために実施した」とし、あくまでも自衛のためだったと強調した。(後略)【4月16日 毎日】
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今回のヨルダンの対応については、あくまでも「自国の領空保護が目的」であり、(対イスラエル対応の変更など)それ以上の“深読み”はしないほうがいいとの指摘も。
それにしても、中東ヨルダンがイスラエルへの攻撃を迎撃阻止するというのは興味深いことです。

サウジアラビア・UAEについては・・・

****サウジやUAE、イスラエルなどにイランの攻撃情報共有****
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルや米国に対し、イランから得た攻撃情報を事前に共有していたと、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが15日報じた。イランがイスラエルに向けて発射したドローン(無人機)やミサイルの効果的な迎撃につながったとみられるという。

WSJによると1日に起きたシリアのイラン大使館周辺への空爆を受け、米国が中東各国にイランの報復に関する情報共有や迎撃への協力を要請。中東の国々は当初は対立に巻き込まれることを懸念して消極的だったものの、最終的に同意したという。

サウジとUAEは機密情報の共有に同意したほか、ヨルダンは米国やその他の国の戦闘機の領空使用を許可し、迎撃も支援するとした。イランはサウジなどの湾岸諸国に対し、イスラエルへの攻撃2日前に計画を説明した。(後略)【4月16日 日経】
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【アメリカの中東戦略再開 サウジアラビアとイスラエルの国交正常化を再び仲介】
こうしたヨルダンやサウジアラビアの“イスラエル支援”は、パレスチナ情勢を受けてとん挫していた感のあるアメリカの中東戦略の転換点ともなりうるとの見方もあります。

****イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイスラエル支援「中東におけるバイデン外交の転換点へ」****
<イランのイスラエル攻撃の撃退に、ヨルダンやサウジなど湾岸諸国が協力した戦略的な理由とは? 中東での大展開に、バイデン外交の方向転換はあるか?>

長年にわたる「影の戦争」が、ついに直接攻撃になった。イランが4月13~14日、イスラエルに向けて300機以上のドローン(無人機)や複数のミサイルを発射。イスラエルの領土を標的にしたのは、これが初めてだ。

イスラエルが4月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を空爆したことへの報復だった今回の攻撃では、もう1つの前代未聞の出来事が起きた。アラブ諸国がイラン撃退に協力したのだ。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、ヨルダンはイランのドローンやミサイルを多数迎撃し、アメリカなどの戦闘機に領空使用を許可した。アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアはイランから得ていた攻撃情報を、アメリカやイスラエルと事前に共有したという。

パレスチナ自治区ガザで続く戦争は、中東各地でイスラエルへの怒りをかき立てている。それでも今回の出来事は、ふらつきながらも芽生え始めた「対イラン中東同盟」の最初の試金石になった。

「湾岸諸国の行動は国益を最優先する姿勢を維持していることの表れだ」と、複数の米政権で中東和平交渉に携わったアーロン・ミラーは指摘する。「重要なのは協力自体ではなく、協力があり得ない状況でそれが実現したことだ」

ガザでのイスラエル軍の焦土作戦や人道危機の悪化に、欧米がいら立ちを募らせるなか、イランの攻撃はイスラエルが直面する脅威に改めて注目を集めた。イスラエル政府はこれを機に、イランの孤立を深めようと動いている。(中略)

アラブの現実主義ゆえ?
今回のアラブ諸国の協力を深読みしてはならないと、元米当局者はクギを刺す。現実主義の所産である可能性が高いからだ。「ヨルダンの行動は主に地域的計算に基づき、自国の領空保護が目的だ」と、米国防総省の元上級顧問ビラル・Y・サーブは語る。

サウジアラビアは自国の関与が目立たないようにしているようだ。サウジアラビア系のニュース専門衛星テレビ局アルアラビアは4月15日、匿名の情報提供者の発言として迎撃に参加したことを否定し、同国の微妙な立場が浮き彫りになった。

「ガザ戦争は終わっていない」と、ミラーは言う。「イランに敵対していると受け取られかねない連携を正式化することには、多くの国が慎重になるはずだ」

アメリカは1月、サウジアラビアとの防衛協定に向けた協議を再開した。協定の実現は、イスラエルとサウジアラビアの関係正常化を仲介しようとするジョー・バイデン米大統領の取り組みの大前提だ。

今回の出来事は、バイデン外交の転換点になるかもしれないと、オバマ政権でイスラエル・パレスチナ交渉特使上級顧問を務めたダビド・マコフスキーは話す。

「バイデン政権が(サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と)新たな道を探っても驚きではない。『中東で大展開があった。この際、方向転換してはどうか?』と」【4月23日 Newsweek】
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実際にサウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉が、アメリカの仲介で再び動き出しています。ただ、ガザでの戦闘開始以前に比べて、サウジアラビアにとって「パレスチナ国家樹立」がより優先的なものとなっており、イスラエルがそこで譲歩しない限りは進展は難しいかも。

****サウジ・イスラエルの国交正常化交渉、米の仲介で再始動…「パレスチナ国家樹立」巡りなお溝****
サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉が、米国の仲介で再び動き出している。正常化の見返りをめぐるサウジと米国間の協議が合意間近との観測もある。

パレスチナ自治区ガザでの戦闘を受け、サウジは「パレスチナ国家樹立」への道筋を示すよう強く求めているが、イスラエルとの隔たりは大きく、和解への道のりはなお険しい。

サウジの首都リヤドで4月末に開かれた世界経済フォーラム特別会合。急きょ追加されたセッションに登壇した米国のブリンケン国務長官は、「米国とサウジの合意はもうすぐだ」と強調した。サウジのファイサル・ビン・ファルハン外相も別の場で「協議はほとんど終わった」と語った。

米国はサウジがイスラエルとの国交を正常化する見返りとして、サウジとの安全保障協力強化や原子力発電所開発の支援に加え、パレスチナ国家樹立に向けた交渉の後押しを提案しているとされる。

最大の焦点となるパレスチナ問題について、ブリンケン氏は会合で「正常化の進展にはガザの平穏とパレスチナ国家への確かな道筋が必要」と述べた。ファイサル氏も「パレスチナ国家樹立への確実で不可逆な道が欠かせない」と訴えた。

ブリンケン氏は4月末のサウジ訪問で、実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子やファイサル氏と会談し、詰めの議論を行ったとみられる。

アラブ諸国は近年、イスラエルに接近し、2020年にアラブ首長国連邦などが国交を正常化した。そこで優先されたのは、パレスチナ国家樹立の「大義」よりも安全保障や経済面での実利だった。

長年イスラエルと対立してきたイスラム教スンニ派の盟主サウジも、最大の脅威であるシーア派大国イランを封じ込めて地域の安定を図り、脱石油依存に向けた経済多角化を推進するため、イスラエルとの関係を強化したいという思惑があった。ムハンマド皇太子はイスラエルを「潜在的な同盟国」とまで評した。

だが、ガザの戦闘で情勢は一変した。アラブ圏で反イスラエル感情が噴き出すと、交渉は凍結されたとみられていた。その中で再び動き出した背景には、秋の大統領選に向け、外交で得点を稼ぎたいバイデン米政権の思惑がある。交渉が成立すれば、中東の対立の構図を根底から変える「歴史的和平」となるからだ。

ただ、サウジの政治評論家ムバラク・アラアティ氏は「ガザ戦争で状況は複雑になった。サウジも国交正常化による経済面などでの期待は大きいが、今はパレスチナ国家樹立を優先せざるを得ない」と指摘する。

イスラエルとの和解に対し、サウジ国内での反対は根強い。22年の米研究機関の調査では、国交正常化に「賛成」との回答は5%にとどまった。サウジの会社社長(45)は「パレスチナ国家実現まで和解するべきでない」と言い切った。

ガザで戦闘が続く限り、イスラエルへの反発は収まらず、最南部ラファに侵攻すれば、交渉はさらに難しくなるとみられる。それでも、アラアティ氏は「中東では物事が突然動く。イスラエル次第で一気に進む可能性もある」との見方を示した。【5月3日 読売】
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先ずは、アメリカとサウジアラビアの間の安全保障協定合意の方向で動いているようです。

****米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関係正常化の一環*****
バイデン米政権とサウジアラビアが安全保障や民生用原子力に関する協定で合意に近づいていることが、事情に詳しい複数の関係者の話で分かった。

関係者によると、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘勃発を受けて頓挫したサウジとイスラエルの関係正常化計画を再び軌道に乗せることを目的とした提案などが草案に記されている。

ただ、米国とサウジは現時点で2国間の安全保障協定を巡る交渉を優先しており、この協定はイスラエルに提示する、より広範なパッケージの一部になるという。

米国務省のミラー報道官は2日、パッケージの米・サウジ部分について「合意が非常に近い」と述べ、「非常に短期間で」詳細がまとまる可能性があるとした。

湾岸諸国の外交官やワシントンの関係筋によると、この計画はサウジが中国製兵器の購入を停止し、中国からの投資受け入れを制限する見返りに、米国がサウジ防衛を正式に保証するとともに、サウジがより先進的な米国製兵器にアクセスできるようにする内容になる見通し。(後略)【5月3日 ロイター】
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