孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

PKK創始者、獄中から解散呼び掛け トルコでのクルド人迫害 シリア北部クルド人勢力への影響

2025-02-28 23:26:10 | 中東情勢

(警官に職質を受けた際に身分証明書を所持しておらず、警察に長時間殴打されたというクルド人のオメル・アルプさん=2022年4月 【2022年8月17日 毎日】)

【“国家を持たない最大民族”クルド人】
トルコがテロ組織に指定する武装組織クルド労働者党(PKK)指導者のアブドラ・オジャラン受刑者が2月27日、組織の武装解除と解散を呼びかけたとの報道がありました。

イラク、シリア、トルコ、イランなどに居住し、中東での様々な問題で触れられることも多い“国家を持たない最大民族”クルド人(約2500~3500万人)、最初に簡単にその概略を。

****クルド人とは何者か****
クルド人はイラク、シリア、トルコ、イラン、アルメニアなどに居住しています。その合計は約2500~3500万人にのぼり、中東一帯で4番目に人口の多い民族といわれます。

その多くはイスラームのスンニ派で、クルド語など独自の文化をもちます。しかし、国家をもたないクルド人は「国をもたない世界最大の少数民族」とも呼ばれます。

クルド人が暮らす地域はユーラシア大陸の要衝にあたり、古くから多くの帝国が勃興し、覇を競った土地でした。そのなかでクルド人は軍人として多くの帝国に召し抱えられる立場にあり、その居住地域の多くは16世紀以降オスマン帝国によって支配されました。

しかし、第一次世界大戦後、オスマン帝国は崩壊。その混乱のなか、中東進出を加速させていた英国の支援のもと、クルド人たちはイラクでクルディスタン王国(1922-24)、南トルコでアララート共和国(1927-30)の建国を相次いで宣言しました。

しかし、オスマン帝国の実質的な継承者であるトルコ共和国の軍事介入により、いずれも崩壊。それと並行して、近隣のイラクやシリアが独立するなかで、クルド人の居住地は分断されていったのです。

二級市民としてのクルド人
居住する各国において、程度の差はあれ、クルド人は差別的な扱いを受けてきました。

例えば、トルコ人中心のトルコで、人口(約8000万人)の15~20パーセントを占めるクルド人は「山岳トルコ人」と位置づけられ、独立以来トルコ政府はクルド語の使用やクルド名も禁じてきました。

アラブ人が多数派のシリアでは、クルド人は全人口(約2240万人)の10パーセント近くを占めます。しかし、1960年代からクルド人居住地域にアラブ人を移住させる「アラブ化」政策が進められるなど、シリアでもやはりクルド人は抑圧されてきました。

これに対して、イラクでは人口(約3720万人)の15~20パーセントを占めるクルド人が1958年に少数民族として公式に認定されました。この点だけみれば、イラクにおけるクルド人の扱いはやや「まし」だったといえます。ただし、その自治権は中央政府に一貫して拒絶され続け、さらにクルド人が多く、大油田を抱えるキルクーク一帯が「アラブ化」されるなど、主流派アラブ人の風下に立たされてきました。

このような背景のもと、各国でクルド人は抵抗運動を組織。なかでもトルコでは、冷戦期の1978年にソ連の支援で結成されたクルド労働者党(PKK)が、トルコ政府への攻撃を開始。PKKはトルコだけでなく、米国をはじめ西側先進国から「テロ組織」に指定されています。

その他、シリアやイラクでもそれぞれクルド人組織の武装闘争はみられましたが、いずれも政府から鎮圧の対象となり、イラクでは1988年にフセイン政権による毒ガス攻撃にさらされました。(後略)【2017年9月21日 六辻彰二氏 “なぜ今「クルド独立」か:対テロ戦争とIS台頭で加速した「国をもたない世界最大の少数民族」の挑戦”より YAHOO!ニュース】
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トルコにおいては、クルド人の伝統的な居住地はトルコ南東部および東部でしたが、その他地域に強制移住させれた者や迫害を逃れて大都市や国外に移住した者も多く、現在最大のクルド人口を抱える都市はイスタンブールで、2007年の時点で約190万人のクルド系住民が居住しています。

【トルコにおけるクルド人迫害とPKKの抵抗運動】
オスマン帝国の主たる後継国家であるトルコでは、共和人民党政権が単一民族主義をとったため、最近までクルド語をはじめとする少数民族の放送・教育が許可されてこなかったこともあって、クルド人独立を掲げるクルド労働者党(クルディスタン労働者党)(PKK)の激しい抵抗運動を惹起しています。

エルドアン大統領率いる公正発展党は、クルド語使用などでそれまでに比べると寛容なクルド人政策をとっていますが、おそらくクルド人を選挙の際の“票田”にする狙いや、EU加盟交渉でEU側から人権問題を指摘されていることなどがあってのことと思われます。

ただし、選挙でクルド系の国民民主主義党(HDP)が世俗派のトルコ市民、リベラル派、左派からも支持を集めて大きく議席をのばすと、これを厳しく弾圧したりも。

また、“テロ組織”PKKに対しては容赦ない強硬な姿勢です。

トルコにおけるクルド人差別、“二級市民扱い”については、公式の話と裏の実態の差ということもありますし、時代によっても差がありますので、外部の者にはよくわからないところも。

“2023年、トルコ人権財団(TİHV)は、クルド人が受ける拷問被害の割合は全国平均の約2.6倍に上ることを明らかにした。また、Human Rights Watchは2023年4月の選挙前に数十人のクルド人ジャーナリスト、政党関係者が逮捕されたことを公表している”【ウィキペディア】

****コンサート中止命令、警察官の暴力 トルコで弾圧されるクルド人****
トルコのエルドアン政権は総選挙・大統領選を来年に控え、少数民族クルド人への「弾圧」を強めている。現地で一体何が起きているのか。

「明日のコンサートは認められません」
今年6月上旬。クルド人アーティスト、ケマル・カフラマンさん(56)の元に、トルコ東部ムシュ県当局から電話がかかってきた。「明日のコンサート開催は認められません」。理由の説明は一切なかった。

カフラマンさんは2カ月かけて準備したコンサートの中止を余儀なくされ、チケットを払い戻した。「もう慣れてはいるが、ここ最近は圧力が強まったと感じる」と振り返る。

トルコの人口の15%以上を占め、主に東部や南部に住むクルド人。トルコは1923年の共和国設立当初から、国家の一体性を保つため、クルド人の同化政策を進めた。クルド語の使用は厳しく制限され、クルド人は「山岳トルコ人」とみなされた。

一部の過激派が78年、反政府組織「クルド労働者党」(PKK)を結成して本格的な武装闘争を始めると、一般のクルド人への圧力はさらに強まった。現在もクルド語での公教育は一部を除いて認められず、クルド語の看板を設置するのも難しい。
カフラマンさんは90年代から兄のメティンさん(59)とともに、音楽活動を続けてきた。クルドの民族音楽を独自にアレンジし、クルド語などで歌う。国のコンサートホールの使用は認められないが、自治体のホールを使ってきた。

それでも、県知事の意向などで突然、キャンセルを命じられる。今年はクルド人の世界的アーティスト、アイヌル・ドアンさんのコンサートなど複数の公演が中止となった。「音楽を止めてはいけない」。トルコ人を含めた音楽家1300人が当局に抗議書を出したが、何の反応もない。

警察官に殴られ視力低下
一般市民への差別も続く。「私がクルド人だから暴力を受けたのだと思う」。最大都市イスタンブールに住むオメル・アルプさん(22)はそう考えている。

4月中旬、弟(15)と目抜き通りに買い物に行き、クルド語で話していると警察に呼び止められた。身分証明書と携帯電話の提出を求められたが、証明書は手元になく、携帯は充電が切れていた。弟が自分の携帯を出すと、警察官は「お前には言っていない」と弟を殴った。

オメルさんが抗議すると、警察官はオメルさんを裏通りに連行。オメルさんによると、手をひもで縛られ、多数に取り囲まれ3時間程度、殴られ続けた。見かねた外国人観光客が止めに入り、ようやく暴力は止まったという。

父のリドゥアンさん(43)が警察署に駆けつけると、オメルさんは体中、あざだらけだった。警察が指定した病院では「けがはない」と言われたが、自分たちで探した別の病院に行くと、腕の骨にひびが入っており、片目の視力が低下していたことが分かった。

リドゥアンさんは嘆く。「我々は法も犯さず、一生懸命働いて地域のためにも尽力してきた。なぜ、息子は何の理由もなくここまで殴られなくちゃいけないのか」。事件は波紋を呼び、クルド系の国会議員が警察を訴える事態に発展している。【2022年8月17日 毎日】
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【最近の状況は微妙 「差別はあるが命の危険感じず」との指摘も PKK支持者と見なされると暴力や逮捕も 受け止め方・認識で苦痛が異なることも】
一方で、表だった政策的な差別はないとの指摘も。
“2024年3月にトルコのクルド人地域を現地調査した元国連難民高等弁務官事務所財務局長でUNHCR駐日代表、東洋英和女学院大学の滝澤三郎名誉教授は「トルコ国内でクルド人に対する政策的な差別は全くない」とし、「条約難民の定義である『迫害を受ける恐れ』があるとまでは言えない」と述べているが、MIDDLE EAST EYEの2024年11月の報告では親クルド派の市長3人が解任されたことが報じられている。”【ウィキペディア】

****「差別はあるが命の危険感じず」 トルコのクルド人、元UNHCR駐日代表が調査****
トルコの少数民族クルド人を巡り、欧米への密航を高額な手数料で手引きする違法なネットワークが現地で確立され、渡航費用が安い日本がクルド人の流入先になっていることなどが、日本の専門家による現地調査で明らかになった。

調査では、トルコで過去に激しい迫害を受けていたクルド人の立場が、今世紀に入り激変していたことも判明した。

「クルド人への差別はあるが、ルールに従えば命の危険までは感じない」。トルコ国内の建設業の30代男性はいう。

トルコでは長らく、クルド人が迫害を受け、人権団体がたびたび警告を発してきた。男性の父親もクルド人というだけで軍の警察に逮捕され、親族は過去に殺害された。

だが、2003年に首相として政権を掌握したエルドアン現大統領はクルド人との融和政策を推進。その後、副大統領にもクルド系を据えた。

例外が、トルコからの分離独立を求める非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」だ。トルコはPKKをテロ組織と指定。トップは今も収監されている。

男性はPKK支持を公言。地元警察に逮捕され「テロ活動には従事するな」との警告を受けた。クルド人だというだけで警察に因縁をつけられたこともあり、根強い差別は実感しているが、家族と平穏に暮らしており「私は自分の土地で死にたい」と、移民を選択するつもりはないという。

海外の認識も変わりつつある。英国はトルコ情勢報告書で、PKK支持者は迫害対象というよりテロ行為に関する訴追対象だと指摘。訴追時の差別的な扱いなどの状況が示されなければ迫害を認定できないとしている。【2024年5月8日 産経】
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このあたりの認識は、日本における難民認定の少なさを正当化する根拠ともなっています。

****迫害か、差別か…クルド人それぞれの状況に差異 トルコで聞いた現状****
トルコやシリアなどに暮らし「国を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人。埼玉県川口市やその周辺に2000人以上が暮らしているとみられ、トルコ政府による迫害を理由に難民申請をする人が多い。

在留資格を持ち就労許可を得た人もいるが、一時的に収容を免除されている「仮放免」の立場で暮らしている人が少なくない。仮放免者は就労できず、国民健康保険にも加入できない。(中略)

トルコ南東部出身のチョーラックさんは高校生だった約20年前、デモに参加し、クルド人のアイデンティティーを強調する行為と現地で見なされるVサインを掲げていたところ、警察署に一時連行されたという。徴兵令に従って軍隊に入った際は、同僚とクルド語で会話していたのを見つかり営倉に入れられたと話す。
そういった経験から国外脱出の意を強くしたチョーラックさんは2011年、妻と2歳の長男を連れ来日し、難民申請。仮放免状態で13年がたつ。

24年6月、3回目以降は難民申請中でも強制送還を可能にする改正入管法が施行され、チョーラックさんの一家は送還を恐れる日々だ。妻は「日本に受け入れてもらおうと10年以上ルールを守って生きてきた。私たち家族を追い出す必要があるのですか」と記者に問うた。

トルコでは「クルドの旗も危ない」
現地情勢が不安定を極めた1990~00年代初頭に来日した人の中には具体的な身の危険を訴える人が多い一方、近年は難民というよりは経済的な理由や労働目的で来日したとみられる人が目立つのも事実だ。現地では今もクルド人が大量に難民として国外脱出を強いられる現状があるのだろうか。

24年2月、記者はクルド人が多く暮らすトルコ南東部ガジアンテプ県を訪ねた。
街中で出会ったメフメットさん(22)に状況を尋ねると、「ガジアンテプなどでクルド語を話すのは問題ない」と言いながら、指でVサインを作って首を横に振り「こういうのはダメだ。クルドの旗も危ない」と述べた。

ただ、自身を含め知人の中にも逮捕された人はいないという。普通に暮らす分には問題ないがクルド民族主義を示す行動を取ると危ない――ということだろうか。

エネスさん(17)もクルド語を話すことについて「危険はない。西部トルコでどうかは知らないが東部では話せる」という。普通のクルド人が当局から迫害を受けるリスクについては否定し「憎しみは通常、言葉で表現されるだけ。クルド人に対してだけでなくトルコにやってくる難民や移民など多くの他の文化に対してね」と述べた。

クルド問題に詳しいアジア経済研究所の能勢美紀さんは「現在のトルコで、単にクルド人というだけで迫害を受けることはないでしょう。多くのクルド人が政財界で活躍し、街中でクルド語の路上ミュージシャンを目にすることもある」と話す。

一方、今なお弾圧を受けるケースもあり得ると指摘する。「国の根幹を揺るがす分離主義勢力への警戒感から、クルド民族主義やテロリスト(クルド労働者党=PKK=支援者)と見なされると、逮捕・訴追される場合がある。その際に根拠とされる法の運用が恣意(しい)的だとも指摘される」。

クルド人が感じる生きづらさや迫害の程度については「本人のアイデンティティーによるでしょう。トルコ語が公用語であり、自身の母語であるクルド語や文化・慣習のみでは、トルコ社会において生活することは難しい。こうした状況にどの程度の苦しみを感じるかは、人それぞれだと思います」。(後略)【1月12日 毎日】
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【PKK創始者 獄中からの解散指令 シリア北部のクルド人勢力へのトルコの軍事的圧力緩和の可能性も】
ここまではクルド人に関する“前置き”。前置きで尺をとってしまったので、本題は簡単に。

****クルド人組織指導者、トルコとの闘争終結訴え 「武器置くべき」****
トルコがテロ組織に指定する武装組織クルド労働者党(PKK)指導者のアブドラ・オジャラン受刑者は27日、組織の武装解除と解散を呼びかけた。40年にわたるトルコ政府との対立に終止符を打ち、地域の政治や安全保障に大きく影響する可能性がある。

PKKが武装解除すれば、エルドアン大統領にとって、これまで数千人が死亡し、地域経済が荒廃するトルコ南東部を発展させる歴史的な好機となる。

隣国シリアでは新政権が国家再建を目指す中、クルド人勢力の支配地域である北部で支配力を強める可能性があるが、和平が実現すれば、石油が豊富なイラク北部でも恒常的な火種を取り除くことができる。

オジャラン受刑者は、親クルド派トルコ野党の人民平等民主党(DEM)が公開した書簡で「私は武器を置くよう呼びかけており、この呼びかけの歴史的責任を引き受ける」と表明した。

イラク北部の山岳地帯にあるPKK本部はこれまで、オジャラン受刑者の呼びかけに反応していない。

一方、クルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」部隊のマズロウム・アブディ司令官は、オジャラン受刑者の呼びかけはPKKのみに適用され、「シリアのわれわれとは関係ない」と述べた。【2月28日 ロイター】
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PKK創始者オジャラン受刑者は1999年ケニアでトルコ情報機関に逮捕され、トルコに連行・収監されています。
エルドアン政権とPKKはこれまでも停戦と破棄を繰り返してきました。エルドアン政権は2013年からPKKと正式に和平交渉を始めましたが、PKKは2015年7月に停戦破棄を宣言し,PKKによるトルコ当局を狙ったテロが再び 始まったという経緯も。

注目されるのはシリアのクルド人勢力への影響。
トルコ国内でのエルドアン政権とPKKの対立が緩和すれば、トルコがPKKと同等視して軍事的圧力をかけているシリア北部のクルド人勢力への圧力も緩和される可能性も。

****PKK解散 実現ならシリア情勢に影響も クルド人勢力は「歓迎」****
トルコで武装闘争を続けてきたクルド労働者党(PKK)の創設者、オジャラン氏が促したPKKの解散と武装解除が実現すれば、昨年12月にアサド政権が崩壊したシリア情勢にも影響が及ぶとみられる。

シリア北部ではトルコが支援する武装組織とクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が衝突を続けているからだ。仮にPKKが解散すれば、こうした対立の緩和につながる可能性も出てくる。

ロイター通信によると、SDFの司令官は27日、オジャラン氏の声明は「シリアの我々とは無関係だ」としつつも、「トルコで平和的な政治が始まる」ことを歓迎する姿勢を示した。さらに「トルコで和平が実現すれば、(トルコが)シリアで我々を攻撃する口実がなくなる」とも語った。

SDFは内戦下のシリアで、米軍の支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討に当たってきた。一方、トルコはSDFをPKKとみなし、アサド政権崩壊後から攻勢を強めている。

トルコに近いシリアの暫定政権はSDFに対して「融和」を呼びかけているが、2月下旬に開催された各勢力の代表による「国民対話会議」には招待しなかった。トルコとSDFの対立が緩和されれば、暫定政権が目指す国内融和に向けて弾みがつく可能性がある。

また、PKKが武装解除すれば、イラク北部にあるクルド人自治区の治安情勢の改善にもつながるとみられる。自治区では長年、PKKが拠点を築いており、トルコ軍が空爆などを繰り返しているからだ。

地元メディアによると、自治区を統治する自治政府トップ、バルザニ議長も27日、「より良い結果は武器や暴力ではなく、平和で民主的な闘いから生まれる」と述べ、オジャラン氏の声明を歓迎した。【2月28日 毎日】
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シリア  国民融和を目指す国民対話会議 クルド人勢力、IS、イスラエル・・・課題山積、道遥か

2025-02-26 23:29:42 | 中東情勢

(会場に集まる「国民対話会議」の出席者=ダマスカスで2025年2月24日、AP【2月25日 毎日】
いかにもアラブ的な光景ですが、TVニュースで見たところ、会議の締めくくりの声明は女性が読み上げていました。そうした“女性を決して排除していない”という国際社会への配慮は持ち合わせているようです。)

【クルド人勢力は招かれなかった国民対話会議で国民融和を議論】
アサド政権が崩壊したシリアでは、旧反体制派の主力組織「シャーム解放機構(HTS)」の指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏がシリア暫定政権のトップに就任し、大統領選挙は4,5年先になるとの見通しとしていることなどは、2月7日ブログ“シリア 「新生シリア」に向けてHTS指導者のシャラア暫定大統領始動 影響力拡大を狙うトルコ”でも取り上げました。

もちろん課題山積。 北部のクルド人勢力とトルコの対立(トルコはHTSの支援国)、南ではイスラエルの攻撃、更にIS復活の動きなど。

そうしたなかで、国民融和に向けた「新生シリア」の基盤を話し合う国民対話会議が25日開かれました。ただし、クルド人勢力は招待されておらず、早くも国民融和の道が険しいことを示しています。

****シリアで国民対話会議、クルド人は招かれず 武力衝突と宗派対立も続き国民融和は見通せず****
昨年12月にアサド前政権が崩壊したシリアの首都ダマスカスで25日、国家再建策を話し合う国民対話会議が開かれた。

多民族・多宗派のシリアでは国民の和解が課題だが、北東部を実効支配する少数民族クルド人の地元当局者や、米軍と連携するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は招かれなかった。ロイター通信が伝えた。

会議にはシリア人約600人が出席した。現地に駐在する外交官は招待されなかったもよう。冒頭で演説したアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は、「(国の)強さは団結にある」と述べて国民融和の重要さを訴えた。各地の民兵組織は単一の軍の指揮下に入るべきだとも主張した。

出席者は司法制度や憲法、国家機構などテーマ別に6つのグループに分かれて討議した。討議結果に法的拘束力はないが、イスラム過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導する暫定政府は3月1日に期限を迎えることから、後継の新体制に基本政策を提言する役割を担ったようだ。

一方、国内の軍事衝突や宗派対立が沈静化するかは見通せない。シリア人権監視団(英国)は25日、暫定政府の軍部隊とトルコ軍が北部アレッポでSDFと武力衝突したと伝えた。トルコ軍は24日、戦闘機でアレッポを空爆したという。HTSはトルコとの結びつきが深いとも指摘される。

また、同監視団は25日、所属宗派を巡る事件などで今年に入り150人以上が殺害されたとする集計結果を公表した。中部のホムスでは約80人、ハマでは40人以上が犠牲になった。

軍事衝突や宗派対立が深刻化すれば、国内の全勢力が参加する政権樹立の時機を失うことになりかねない。欧米や周辺のアラブ諸国もシリアの内政を注視しているようだ。【2月26日 産経】
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暫定政府軍及びトルコの攻撃を受けるクルド人勢力(「シリア民主軍(SDF)  クルド人民防衛隊(YPG)を主体とする)としては、SDFを含む各勢力の武装解除は承諾しかねることでしょう。

*****シリア国民対話、軍以外の武装認めず=クルド人勢力が反発*****
シリアで各地の民族や宗教の代表らが参加して今後の国の在り方などを議論する「国民対話会議」が25日、閉幕した。国営通信によれば、閉幕後の声明では正規軍以外の武装組織は非合法として認めない方針を確認。

また、「民族や宗教宗派に基づく差別を拒み、全てのシリア人の平和的共存の原則をつくる」として、多様な国民の融和実現への決意を示した。

各勢力の武装解除や軍・治安機関の再編を進めるシャラア暫定大統領は、会議での演説で「国家が武器を独占することは義務だ」と主張。シリア北東部を実効支配するクルド人勢力を暗にけん制した。

AFP通信によると、クルド側は「会議は国民を代表しておらず、その結果は履行しない」と反発し、分断の解消は見通せない状況だ。【2月26日 時事】 
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これまでクルド人勢力はアメリカが進めるIS掃討作戦の地上部隊の役割を担ってきましたが、トランプ大統領は「シリアなど放っておけ」という基本姿勢ですから、これまでのようなアメリカのバックアップは期待できず、トルコと暫定政府の強い圧力を受けることになると予想されます。

【ISの勢い「再び活発」 クルド人勢力が管理する元IS戦闘員の存在】
一方、米軍が掃討作戦を続けてきたISは勢いを取り戻しつつあるとも報じられています。

****シリアでISの勢い「再び活発」 人権監視団、暫定政府に懸念****
シリア人権監視団(英国)のアブドルラフマン代表は11日までに、シリアで昨年12月のアサド政権崩壊後、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢いが「再び活発化している」とし、IS再興の恐れがあると述べた。

政権崩壊後の暫定政府は国内を部分的にしか支配できておらず、統治能力が不十分だと懸念を示した。訪問先のエジプト・カイロで共同通信の取材に応じた。

暫定政府は過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導。HTS指導者のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は全武装組織の解散を表明した。ただ、アブドルラフマン氏は約30の武装集団がシリアで活動中と指摘。ISと同様に過激思想を持つ一部集団がISに加わり、活動を拡大させているとした。

同氏は暫定政府に関し、人員不足と言及。首都ダマスカスと北西部イドリブ周辺を掌握するが影響力が及んでいない地域があり「国内情勢は依然、不安定だ」と述べた。

イスラム教アラウィ派や前政権関係者への「復讐」が横行し、市民らが宗派などを理由に殺害されたとも語った。【2月11日 共同】
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その1S捕虜1万人近くをクルド人勢力が域内の収容施設に管理しています。
このIS捕虜が再び戦闘に参加する事態となれば、シリアの状況に大きく影響しますし、世界のテロ状況にも関係してきます。

このことは以前からシリアについて議論する際に指摘されてきた重要なファクターですが、「どうしてクルド人勢力はそんな厄介なものを引き受けてきたのだろう?」と疑問に思っていました。

しかし、IS捕虜収容施設管理はクルド人勢力にとって取引のカードとして使えるもののようで、クルド人勢力とアメリカとの間でこれまでも“かけひき”がなされてきたとも。

****シリア国内乱戦と核の恐怖****
「(2024年)12月8日、トルコが支援するシリア国民軍が、トルコ国境に近いクルド人支配都市のマンビジュでクルド人武装組織YPG(前出SDFの中核)を攻撃しました。10日にもコバニという別の町でYPGに激しい攻撃を仕掛けています。両戦闘ではトルコ空軍戦闘機が、地上部隊の進撃を空爆支援しました。

YPGの戦略的な重要性、つまり米国が今もYPGを支援し続けている理由は、YPGがISのテロリストたちの収容施設を管理しているからです。

シリア北東部の中心には、ISのテロリスト9000名以上を収容する20ヵ所の施設があります。そこをYPGが警備、管理運営している。もちろん、その資金源は米国です。

今回、トルコがYPGを攻撃しましたが、YPGの司令官は米政府がトルコを止めないことに不満を表明しました。さらに、YPGとトルコが支援する武装グループとの戦闘が激化するなか、YPGの主要部隊は『ISの容疑者を収容している刑務所の警備から、戦闘員を前線に回さざるを得なくなった』と発表しました。

これはYPGが米政府に対し、『われわれを見捨てるのであれば、ISのテロリストを野に放つぞ』という脅しです」(菅原氏(国際政治アナリスト))

トルコはなぜ、クルドに対して攻撃したのか。
「シリアの内戦は2011年に勃発しましたが、その頃のクルド勢力はシリア北東部のトルコとの国境沿いの地域をコントロールしているだけでした。しかし、今やシリア全土の3分の1を支配している。トルコはこれを押し戻そうとしています」(菅原氏)

しかし、それは米国が嫌がるはずだ。
「そうです。だから、これまでオバマ政権の時からバイデン政権に至るまで、クルドとの関係を維持し続けていました。

ただし、状況が変わったのは前トランプ政権の時です。トランプはトルコのエルドアン大統領ととても親しく、彼の話を聞いて『わかった。お前に任すから、我々は退くよ』と言ってしまいました。

米軍はトランプに『クルド民兵に任せている元IS戦士の収容所の管理ができなくなるので大変だ』と説明しましたが、トランプには理解不能。そこで米軍は『石油の利権が獲られます』と説明すると、トランプは乗せられて『石油は押さえないとダメだ』と言ってYPGとの関係を続けることにしました」(菅原氏)

つまり、クルド人民兵組織YPGは、「元IS兵士9000人を野に放つ」という"核兵器"を所持しているのだ。
しかし、トランプ次期大統領はトルコのエルドアン大統領に、再び「任せたぜ」と言いそうである。(後略)【2024年12月22日 小峯隆生氏 週プレNEWS “「シリアの首都・ダマスカスはなぜ陥落したのか?」その理由と今後の展開を専門家が徹底解説!”】
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クルド人勢力にとっては、今後もこの元IS戦闘員の存在は暫定政権との間で「取引」のカードになるのでしょう。

それにしても、石油とかレアアースとかカネの匂いのするものにしか興味を示さないトランプ氏の存在は世界の様々な紛争に影響します。

トランプ大統領を動かすには、いくら道理を説いても無駄で、カネの匂いをチラつかせるしかない・・・石破首相の対米1兆ドル投資とか・・・ということのようです。

【暫定政権はイスラエル軍の南部からの撤退を求めるも、攻撃を続けるイスラエル】
話を25日の国民対話会議に戻すと、シリア南西部に侵攻しているイスラエルに対して撤退を求めています。

****「イスラエル軍は撤退を」 シリアが「国民対話会議」で共同声明****
シリアの各地域や宗教の代表らが国家像を協議する「国民対話会議」は25日閉幕し、「シリアの融和を維持し、どのような分断も拒否する」との共同声明を発表した。また、イスラエル軍がシリア南西部に侵攻していることを非難し、「無条件の即時撤退」を求めた。
 
イスラエル軍は昨年12月のアサド政権崩壊後に占領地のゴラン高原を越えてシリア側に入り、駐留を続けている。ロイター通信によると、ネタニヤフ首相は23日、シリア軍が「首都ダマスカスより南へ来ることを認めない」と語り、シリア南部を「非軍事化」すべきだと主張した。

国営シリア・アラブ通信などによると、共同声明では「イスラエルの首相による挑発的な発言を拒否する」と表明し、国際社会に対して侵攻を止めるよう訴えた。(後略)【2月26日 毎日】
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しかし、イスラエルにとっての利益しか念頭にないネタニヤフ首相は聞く耳持たないでしょう。

*****イスラエル軍、シリア南部や首都近郊を空爆 「軍事拠点標的」****
イスラエル軍は25日、シリアの首都ダマスカス近郊の町と同国南部を空爆した。シリアの治安筋や放送局が伝えた。

治安筋とシリアテレビによると、複数のイスラエル軍機がダマスカスの南約20キロの町を攻撃。治安筋は軍事拠点が標的になったと述べたが、詳細は明らかにしなかった。

また、シリアテレビと住民によると、イスラエル軍は南部ダラア県の町も空爆した。

イスラエル軍はその後、司令部や武器保管施設を含むシリア南部の軍事拠点を攻撃したと発表した。

イスラエルのカッツ国防相の報道官は声明で「空軍はシリア南部を平穏な状態に戻す新たな政策の一環として、同地域を激しく攻撃している。メッセージは明確だ。シリア南部がレバノン南部のようになることを許さない」と述べた。

イスラエルは、昨年12月に国際武装組織アルカイダ系の団体が前身の組織「シャーム解放機構(HTS)」が主導する反体制派がアサド政権を打倒したことを受け、国連が監視するシリア国内の非武装地帯に地上部隊を派遣した。【2月26日 ロイター】
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暫定政権の国内統治、国民融和への道は不透明で険しいです。

【EU 一部の制裁措置を停止】
明るい材料としては、EUがシリアに対する一部の制裁措置を停止したということが。

****EU、対シリア制裁を一部停止 エネルギー・銀行分野など****
欧州連合(EU)は24日、シリアに対する一部の制裁措置を直ちに停止した。エネルギー、銀行、輸送、復興に関連する制限措置が対象。

EUはシリアの個人や経済部門を対象にさまざまな制裁を実施しているが、昨年12月にシャーム解放機構(HTS)を中心とする勢力がシリアのアサド大統領を追放して以降、対リシア政策の見直しを進めている。

EUは24日にブリュッセルで開催した外相会合で、石油、ガス、電力に関する制限措置と輸送部門に対する制裁を停止することに合意。

また、銀行5行に対する資産凍結を解除したほか、シリア中央銀行に対する制限措置を緩和した。人道援助を促進する例外規定も無期限に延長した。

シリアのシェイバニ外相は「国民の重しになっている不当な制裁を緩和するため、この2カ月間、協議と外交努力を進めてきた」とし「特定分野の一部制裁を停止する今回のEUの決定を歓迎する」とXに投稿した。

EUは武器取引、軍民両用製品、監視用ソフト、シリアの文化遺産の国際取引など、アサド前政権に関連する他の一連の制裁は維持した。

EUは制裁の停止が適切であることを確認するため、シリア情勢の監視を続けると表明した。【2月25日 ロイター】
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シリア  「新生シリア」に向けてHTS指導者のシャラア暫定大統領始動 影響力拡大を狙うトルコ

2025-02-07 23:44:03 | 中東情勢

(【2月5日 ABEMA news】2月4日 トルコを訪問したシャラア暫定大統領を歓迎したトルコ・エルドアン大統領)

【HTSの指導者が暫定大統領に 選挙は「推定で4、5年先だろう」】
トランプ大統領に振り回されて忘れてしまいがちですが、シリアではアサド政権崩壊を受けて「新生シリア」建設が模索されています。

****シリア旧反体制派指導者、暫定政権トップに就任 現議会は解散へ****
シリア暫定政府を主導する旧反体制派の主力組織「シャーム解放機構(HTS)」は29日、HTSの指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏がシリア暫定政権のトップに就任することを発表した。これに伴い、新たな立法評議会の設立権限が与えられる。

HTSの作戦司令部報道官によると、シリア憲法は停止されるほか、現議会も解散となる。【1月30日 ロイター】
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何の権限があってHTSとシャラア氏が?という疑問もありますが、アサド政権打倒に中心的役割を果たしたということで、アサド政権に代わるべき統治システムが他に存在しないシリアにあっては現実的な流れでしょう。

シャラア氏は正式な大統領選挙について、「推定で4、5年先だろう」とも。

****シリア大統領選実施は4─5年先の見通し=暫定大統領****
シリアのアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は3日放送のシリアテレビのインタビューで、大統領選の実施時期の見通しを初めて明らかにし「推定で4、5年先だろう」と述べた。

シャラア氏は旧アサド独裁政権を駆逐した反政府イスラム勢力を率い、1月30日に暫定大統領に就任したばかり。

インタビューでシャラア氏は「大規模な選挙管理体制の再構築が必要で、そのために時間が必要だ」と指摘。有権者データを更新するため国内人口のデータをまとめる必要があると述べた。

さらにシャラア氏は、大統領選までの移行期間は大統領自身も含め国際規範を適用する方針も示した。ただ、選挙が4、5年先と見通した際にどの国際規範を検討したかは明らかにしなかった。【2月4日 ロイター】
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4─5年先・・・随分先の話にも思えますが、拙速な対応が混乱を惹起する危険性もあって、判断に迷うところです。

【懸念される独裁政権崩壊後の混乱】
そもそも独裁者アサド氏を追い出して民主化が進むのかどうか?・・・については、悲観的な見方が根強くあります。

****<独裁者を倒せば民主化へ進むのか?>シリアのアサド政権崩壊を素直に喜べない現状****
1月7日付けワシントン・ポスト紙は、20年以上同紙の特派員だったキース・リッチバーグ(プリンストン大学教授)の論説‘A dictator’s fall brings jubilation – that quickly turns sour’を掲載している。

同教授は、ハイチ、フィリピン、インドネシア等の例を取り上げて、往々にして独裁体制が倒れた後に民主化は進まず、暴力、無政府状態が横行し、結局、民衆は再び独裁政治を望むという現実を指摘して、アサド政権が倒れた後のシリアが民主化して安定するかについて悲観的な見方を示している。要旨は次の通り。

独裁者が失脚すると喜びに溢れる民衆が通りを埋め、独裁者の銅像は倒される。そして、政治犯は解放され、集団墓地が暴かれるが、この喜びが失望に変わるのに時間はかからない。体制が崩壊して治安が空白状態になると暴力が横行し、暫くすると人々は、独裁者の時代を懐かしむ。

私(リッチバーグ)は、1986年のハイチで独裁者ジャン・クロード・デュヴァリエの失脚を取材したが、シリアで人々が通りでアサド大統領の失脚を喜んでいる様子を見て、その時のハイチを思い出した。

独裁者アサド大統領は失脚したが、果たしてシリアの人々は、全ての勢力を含んだ新たな政治・社会体制を構築するチャンスを得たのであろうか。それともハイチや他の国々の様に新たな独裁者が現れるまで暴力と混乱が続くのであろうか。私は、ハイチでの経験からシリアの将来について悲観的にならざるを得ない。

ハイチでは、独裁者を倒した歓喜が暴力の横行に取って代わられるのに時間はかからなかった。群衆はデュヴァリエ派を追い回し、建物は略奪され、火が放たれた。

ハイチは、典型的な「破綻国家」となり、何十年間もクーデターを繰り返し、暗殺が横行し、米軍の軍事介入まで起きた。今日でもハイチでは、ギャングに苦しめられ、暴力が横行している。

このような事態は、他の国々でも起きている。86年、フィリピンで独裁者マルコス大統領が追放されて民主的な選挙が復活したが、同時に政治的混乱、腐敗、経済的不振が続き、フィリピン国民は強い指導者の復活を望んでドゥテルテが民主的に大統領に選ばれた。しかし、彼の強引な麻薬対策で2万人が死んだ。

2022年には追放されたマルコス大統領の息子が、父親の安定した統治へのノスタルジアを訴えて大統領に就任した。インドネシアでは98年にスハルト大統領の独裁体制が打倒されたが、国民の間で暴力が横行し、分離独立主義が脅威となり、インドネシアは、再び民主的ではない独裁者の支配に傾きつつある。

ソ連の崩壊後、アフリカではソマリア、エチオピア、チャド、そしてザイールの独裁者達が追放されて民主主義が広まると思われた。しかし、独裁者の失脚により暴力、無政府状態、専制政治がより酷くなっただけだった。

ソマリア、エチオピア、チャド、コンゴ民主共和国(元ザイール)は、国際的に最も脆弱な国家と見なされている。果たしてシリアは、このような運命を免れる事ができるのだろうか。
*   *   *

シリアの現状
アサド体制崩壊後のシリアは、シリアの主要部を掌握したHTS(シャーム解放機構)を中心としたイスラム原理主義勢力と北部と南部に拠点を有するクルド人勢力との衝突が不可避ではないかと懸念される。

これは、イスラム原理主義勢力のスポンサーはトルコだが、トルコは、シリアのクルド人勢力をトルコから分離独立しようとしているPKK(クルド労働者党)と同一視して過去に何回も越境攻撃を行っているからで、当然、トルコがこの千載一遇の機会を逃す訳がなく、既に、シリア国内の親トルコ勢力が北部のクルド人勢力との戦闘を続けており、「シリアの全ての勢力を含んだ民主的な体制」の構築は困難となっている。

既にシャラアHTS指導者は、トルコ外相に会った際、クルド人勢力に武装解除を求めたと伝えられている。

なお、仮にシリアの主要部でイスラム原理主義勢力が中心となった新体制が成立しても、彼らは、「穏健なイスラム原理主義勢力」を目指すと言っているが、女性や非イスラム教徒の扱い等で西側と温度差が生じると思われる。

例えば、イスラム帝国の時代にはイスラム教の優位を認めれば非イスラム教徒は、ジズヤ(人頭税)を払って信仰の自由は保証されたが、このような制度の復活を西側は受け入れられないであろう。

現在起草中のシリアの新憲法では、「イスラム教を国教とし、他の宗教の信仰は尊重される」と書かれているが、この様な事態を懸念させる。【1月31日 WEDGE】
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一般論としては独裁政権打倒後に混乱が広まるのはよくある話で、上記記事でリッチバーグ氏があげているハイチの他、イエメンなども典型例でしょう。

ただ、(問題はあるものの、まがりなりにも民主主義が実践されている)フィリピンやインドネシアをその同列で扱うのは、アジアの一員としては疑問も。

【全武装組織の解散を発表 クルド人勢力の対応は不透明】
それはともかく、シリアがどういう未来に進むのか? 先ずは国内武装組織の問題があります。

****シリア過激派指導者が暫定大統領 全武装組織の解散を発表****
シリア暫定政府の軍報道官は29日、暫定政府を主導する過激派「シリア解放機構(HTS)」のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)指導者が暫定大統領に就任したと発表した。HTSを含む全武装組織を解散し、国家機関に統合すると表明した。国営通信が伝えた。

HTSを中心とした統治が強まるとみられるが、シリア各地は複数の組織が入り乱れており、融和が進むかどうかは不透明だ。北部ではクルド人勢力主体の民兵組織と、HTSとは別の旧反体制派組織との衝突が続いている。各組織が解散を受け入れているのかどうかも不明だ。

報道官はアサド政権時代の2012年に改正された憲法の破棄を強調した。【1月30日 共同】
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前出【WEDGE】でも指摘されているクルド人勢力との関係は不透明です。
他にも、過激派組織「イスラム国」(IS)残党も存在します。

****シリア北部で自動車爆弾が爆発、20人死亡 周辺で同様の事件相次ぐ****
シリア北部マンビジュで3日、自動車爆弾が爆発し、女性14人を含む少なくとも20人が死亡した。ロイター通信などが報じた。犯行声明は出ていないが、シリア大統領府はテロ事件だとして「実行者を罰さないではおかない」と表明した。

報道によると、昨年12月にアサド政権が崩壊して以降、テロ事件としては最悪規模。被害者の多くは農業従事者だったという。周辺では同様の事件が相次いでおり、1日にも自動車爆弾による爆発で死傷者が出ていた。

マンビジュはシリア内戦で過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下に置かれたが、米国が支援するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が2016年に制圧した。

アサド政権崩壊後は、クルド人勢力と敵対するトルコが支援している別の旧反体制派組織「シリア国民軍」がSDFと衝突し、マンビジュを支配下に置いていた。【2月4日 毎日】
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【ロシアはウクライナで手一杯 トランプ大統領は関心なし 米ロの空白で影響力拡大を目論むトルコ】
混乱期に外国が干渉して混乱が拡大・・・というのはよくあるパターンですが、幸か不幸か、今はかつてシリア政権で大きな影響力を持ったロシアはウクライナで手一杯で、シリアにある軍事基地を何とか維持するのに汲々としている状況、アメリカ・トランプ大統領もシリアには関心がありません。

****「シリアなんて放っておけ」なトランプ 利権確保へ苦慮するロシア、暫定大統領をモスクワに“招待”も「トランプ頼み」は否めない*****
ロシアはシリア新政権との関係強化に躍起になっている。シリアにはロシアの対中東、対地中海戦略上、死活的に重要な2つの軍事基地があり、これを失うことの損失を十分認識しているからだ。

だが、ロシア軍の爆撃で市民や戦闘員多数を殺害された新政権側はロシアに亡命したアサド前大統領の引き渡しを要求、プーチン政権が対応に苦慮している。(中略)

ロシアはアサド政権崩壊で、2つの軍事基地の守備隊を除き、シリア駐留軍の大部分を本国に撤収させた。

2つの軍事基地はなぜ重要なのか
1月末、ボグダノフ外務次官やラフレンティエフ・シリア担当大統領特使らロシア代表団がダマスカスを訪問、アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領ら新政権の指導者らと会談した。昨年12月のアサド政権崩壊以来、ロシア高官がシリア入りするのは初めてのことだ。

(中略)ロシアはアサド政権崩壊で、2つの軍事基地の守備隊を除き、シリア駐留軍の大部分を本国に撤収させた。
 軍事基地の1つはソ連時代から保有する西部の地中海沿岸タルトスの海軍基地。もう1つは軍事介入後に新設した北西部フメイミムの空軍基地だ。

両基地とも2066年まで駐留できる合意となっているが、新政権の間でこの合意の有効性は不透明になった。両基地はシリアだけではなく、中東や地中海沿岸の欧州諸国、アフリカをも視野にいれたロシアの橋頭保だ。

とりわけ中東では、米国のプレゼンスが弱体化するのを尻目にロシアの威信が高まり、両基地はロシアにとって世界戦略上、なんとしても維持しなければならない存在になった。だからこそ今回、大型代表団を送り込んでシャラア氏らを説得しようとしたわけだ。(中略)

ただ、暫定政府側にも弱みがある。それはシリアが保有する兵器のほとんどがロシア製だということだ。シリアから全面撤退したイランに頼るわけにもいかず、武器や弾薬の補給はロシアに依存するしかない。(中略)

「シリアなんて放っておけ」なトランプ
(中略)トランプ大統領は「シリアなど放っておけ。われわれの戦争ではない」などと不介入の方針を鮮明にしており、米・シリア関係が好転するかどうかは不明だ。

米国は現在「IS復活阻止とイランの動きを監視する」という名目で2000人の部隊をシリア東部などに駐留させているが、トランプ氏が全面撤退を命じる可能性もある。

第一次政権でもトランプ氏はシリアからの全軍撤収を主張したが、国防総省の反対で約900人を残留させざるを得なかった。しかし今回、同氏は二度と最高司令官の命令に反抗させないとの考えといわれ、駐留軍の残留も含めシリア新政権との関係の行方が焦点だ。

ロシア側は米軍の完全撤退はシリアにおけるロシアの影響力を高める上ではプラスとみなし、トランプ氏の撤退決断が軍事基地存続に有利に働くと考えているようだ。「トランプ頼み」という側面も強い。【2月4日 WEDGE】
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ロシア・アメリカの影響力が低下するのを絶好の好機と考えるのはトルコでしょう。
かねてよりトルコはシリア北部のクルド人勢力を敵視し、軍事進攻も行っています。

クルド人勢力はアメリカと共同でIS掃討にあたってきましたが、トルコはアメリカに代わってIS掃討作戦を引き継ぐ構えで、結果的にクルド人勢力の存在感を低下させる狙いがあると見られています。

****トルコ、シリアでイスラム国の掃討作戦実施へ ロイターなど報道****
トルコのフィダン外相は5日、シリアの暫定政権と連携し、シリア国内で過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を実施する方針を明らかにした。ロイター通信などが報じた。

トルコには、敵視するクルド系武装組織の影響力をそぐ意図がある模様だ。作戦には、近隣のイラクとヨルダンも協力する。

ISは、2011年からのシリア内戦の中で勢力を拡大し、一時はシリアとイラクの広域を支配した。内戦を巡り、昨年12月にシリアのアサド政権が崩壊した一方、IS残党は存在し続けている。

これまで、シリア北部では、トルコと敵対するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が米軍の支援でIS掃討作戦を行ってきた。これをトルコが担うことで、SDFの存在感低下を狙っているとみられる。

SDFはシリア北部の一部地域を支配しており、アサド政権崩壊後はトルコの影響下にある武装組織との衝突が激化している。

報道によると、トルコなどの4カ国は外交や防衛、諜報(ちょうほう)の分野で緊密に協力することで原則的な合意に達した。

シリア暫定政権のシャラア大統領は4日、トルコの首都アンカラでエルドアン大統領と会談し、ISやSDFへの対応などを協議。エルドアン氏は記者会見で、これらの組織との戦闘を支援する用意があると表明した。

一方、米NBCニュースは5日、関係者の話として、米国防総省がシリアに駐留する米軍の撤退計画を準備していると報じた。米軍はシリア南部タンフに駐留し、IS掃討作戦を続けている。報道によると、トランプ米大統領は1月下旬、「我々はシリアに関与しない」などと語っていた。

トランプ氏は政権1期目の18年に、シリアからの米軍撤収を決定したが、マティス国防長官(当時)が抗議して辞任。トランプ氏はその後、規模を縮小して残すことに同意した経緯がある。【2月5日 毎日】
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“2011年に勃発したシリア内戦で、トルコは反体制派側を支援してきた。国境の管理を通じて、反体制派が陣取ったシリア北西部イドリブ県への人道支援や貿易の調整も実施。さらに、トルコ軍が17年からイドリブ県内に駐留し、この地を拠点とするHTSなどを政府軍の攻撃から守った。”【12月26日 毎日】と、HTSとトルコは緊密な関係にあり、“HTSのスポンサーが隣国トルコであるのは明らか”【1月16日 WEDGE】とも。

トルコの圧力が強まるなかで、クルド人勢力が暫定政府が求める武装解除に応じるかどうか・・・

【宗教的複雑な国内事情 社会不安を煽る偽情報】
更に、シリア国内はスンニ派、シーア派、アラウィ派、クルド人、キリスト教徒、ドールズ教徒が存在し、中東の縮図と言える複雑さがあります。

アサド政権の支持基盤のアラウィ派、政権に協力したキリスト教徒には報復を恐れる不安があります。その不安と対立を煽る偽情報も拡散しやすい状況です。

****アサド政権崩壊のシリア、社会不安あおる偽情報が拡散...WhatsAppと中国の影響も****
昨年12月にアサド政権が崩壊したシリアでは、親アサド派や自称「反アサド派」が宗派間の対立をあおり、新生シリアの体制を不安定化させようとデジタル空間で偽情報をまき散らしており、政権移行にとって障害になるとの懸念が広がっている。

専門家によると、ロシア、中国、イラン、イスラエルなどを含めた国内外の勢力が偽情報の拡散や「ナラティブ(物語)の兵器化」に関与していると見られる。(中略)

HTSは2016年にアルカイダとの関係を断ち、政権掌握後は宗教的少数派の保護を打ち出している。しかし宗派間の緊張は依然として強く、アサド氏を支持していたイランやロシアのほか、中国やイスラエルといった外国勢がオンラインで恐怖をあおっていると見られる。(中略)

例えば広く拡散した動画の一つに北部アレッポのアラウィ派施設が炎上している様子を写したものがあり、動画公開された時期はアサド政権崩壊後で最も社会不安が高まっていた時期に一致していた。動画を視聴した多くの人々がアラウィ派は脅威にさらされていると受け止め、中部ホムス市ではアラウィ派やシーア派の少数派住民が主導したとされる抗議活動が発生し、アラウィ派の住民が多い沿岸地域でも同様の動きが起きた。

しかし内務省によると、この動画はHTSが首都ダマスカスを制圧する前に撮影されており、このタイミングで拡散されたのは宗派間の対立をたきつけるのが狙いだという。(後略)【2月6日 Newsweek】
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不安要素をあげればきりがない「新生シリア」ですが、シャラア暫定大統領は2日、初外遊でサウジアラビアを訪れ、事実上の最高権力者ムハンマド皇太子と会談、“サウジからの財政支援や国際社会による制裁の解除への協力なども要請した可能性が高い。”【2月3日 時事】とも。

また、エコノミスト誌とのインタビューで、アメリカとの早期の関係回復を目指していると述べ、地域安定のためシリアへの制裁を解除することをトランプ大統領に求めています。
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レバノン  「薄氷の停戦」 イスラエル軍の南部からの撤退延期発表で更に不透明に

2025-01-25 23:15:53 | 中東情勢

(24日、イスラエル軍の攻撃を受けてレバノン南部で上がる煙(AFP時事)【1月25日 時事】)

【ヒズボラの弱体化、国内の圧力で「薄氷の停戦」】
19日に発効したパレスチナ・ガザ地区のイスラエル・ハマス停戦は2回目の人質・捕虜交換が行われ、解放人質が民間人ではなく女性兵士だったという問題はあるものの、今のところ停戦が維持されています。

一方、一足先の昨年11月27日に発効したレバノンのヒズボラとイスラエルの停戦合意は、イスラエル軍は60日以内にレバノン南部から撤収する。南部には代わってレバノン軍が展開するという内容でした。

一昨年10月以来の、特に昨年9月のイスラエル軍のレバノン南部への地上侵攻以来の戦闘によって指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害されるなどヒズボラは大きな打撃を受け、レバノン国軍より強力と言われる軍事力だけでなく、主要政党としての政治における影響力も低下しました。

“ある情報提供者は、ヒズボラが最大4000人の犠牲を被った可能性があると述べた。2006年に1カ月にわたってイスラエルと戦ったときの死亡者数の10倍を軽く上回る。レバノン当局は今のところ、今回の衝突での犠牲者を約3800人としており、戦闘員と市民の内訳は明らかにしてない。”【11月30日 ロイター】

大きな被害を受けたレバノン国内にはヒズボラに対する批判・不満も強まり、ヒズボラが停戦に応じたのはそうした世論があってのこととされています。

ただ、ヒズボラは「抵抗を続ける」としており、南部にイスラエル軍に代わって展開するレバノン軍の能力不足もあって、停戦合意は極めて不安定とも見られています。

****「パレスチナの代償払わされた」 レバノン停戦、住民には怒りも****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエル軍の停戦発効を受け、レバノン南部では27日、帰還する住民たちの車列ができた。だが、停戦合意違反があれば再びイスラエル軍が攻撃する恐れもあるだけに、住民からは双方に対して合意の順守を求める切実な声が上がった。(中略)

昨年(2023年)10月に始まった一連の戦闘では、レバノンで民間人ら3800人以上が死亡し、100万人以上の住民が自宅を追われた。首都ベイルートやレバノン北部など、地上戦の舞台から離れた場所でも激しい空爆が相次ぎ、多くのインフラや建物が破壊された。

ロイター通信のまとめでは、一連の戦闘で9万9000戸以上の住宅が損壊し、被害額は推定28億ドル(約4200億円)に上る。農業などの産業も打撃を受け、2024年の実質GDP(国内総生産)は戦闘により前年比5・7%減のマイナス成長と予想されている。

レバノンは今回の戦闘が始まる前から政治や経済の混乱が続き、通貨価値の暴落や物価高に苦しんでいた。国際社会の支援がなければ復興が滞り、国内の混乱が深まる可能性もある。

それだけに、住民には怒りの声も渦巻いている。ベイルートから郊外に避難したタクシー運転手、ナメル・タラブルシさん(50)はレバノンの戦闘のきっかけがパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘だったことに触れ、「レバノンが戦争に巻き込まれたことに怒りを感じる。パレスチナ解放のコストとしてレバノンが破壊され、多くの人が死に、避難民になった」と嘆いた。

南部出身の自営業、アフメド・アザムさん(45)も「生計手段や家や家族を失ったのに、イスラエルもレバノンもヒズボラも責任を取らない。我々は政治のために犠牲になった」と怒りをぶちまけた。【2024年11月27日 毎日】
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****レバノン、薄氷の停戦 ヒズボラは国内の圧力に配慮 レバノン軍の任務遂行能力に疑問符****
レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエルとの停戦に合意した背景には、攻撃で大きな損害を被った国内世論の圧力があったもようだ。

ヒズボラ自体も指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害され、多数の軍事施設も破壊された。当面は停戦に応じて態勢を立て直すのが得策だと判断したとみられる。

イスラエル軍は北部から避難している6万人の住民を帰還させるとし、9月以降はレバノン南部への地上侵攻を含めて攻撃を強化した。ヒズボラの支配地域である首都ベイルート南郊のダヒエなどで地下施設も狙える特殊貫通弾(バンカーバスター)も投入して爆撃し、民間人にも多数の犠牲者が出たとされる。

南部を中心にイスラエル軍による避難勧告も相次ぎ、国民生活が寸断された。「レバノンではヒズボラ支持者であっても停戦を求める声が出ている」(英BBC放送)という。民兵組織のほか有力政党も併せ持つヒズボラとしては、レバノンの政界や世論の支持は欠かせない。

当面は後ろ盾であるイランと連携しつつ軍事力の回復を目指す方針とみられ、いずれイスラエルと衝突する可能性は否定できない。

イスラエル軍の撤収に伴い、レバノン南部に展開して停戦監視に当たるレバノン軍の能力にも疑問符が付く。
2006年のイスラエル軍によるレバノン攻撃後に採択された国連安全保障理事会決議1701でも、レバノン軍は同様の任務を担ったが、ヒズボラはイスラエルとの国境に近い南部に浸透して勢力を広げた。

当時と同じ経過をたどらない保証はなく、ヒズボラがレバノン軍と衝突すると懸念する声もある。

停戦合意はイスラエルでも批判を浴びた。同国の有力紙ハーレツ(電子版)によると、ヒズボラの攻撃に悩まされた北部の行政当局者らが「ヒズボラに軍備再増強の機会を与えた」「住民を(帰還させるどころか)遠ざけるだけだ」などと不満を漏らしている。【2024年11月27日 産経】
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【2年ぶりに大統領就任】
ヒズボラの政治への影響力低下もあって、2022年10月から空席になっていた大統領も、今年1月ようやく選任されました。

****レバノン新大統領に軍司令官、米などが支援 ヒズボラ影響力低下****
レバノン国民議会は9日、レバノン軍のジョセフ・アウン司令官(60)を大統領に選出した。米国などが支援する司令官が大統領に就くことで、レバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラの影響力の低下が示された。

アウン氏は2017年に米国が支援するレバノン軍の司令官に就任。米国はレバノンの国家機関を支援することでヒズボラの影響力を抑制する政策を取ってきたが、アウン氏の下でレバノン軍に米国からの支援が行き渡っていた。

アウン氏は大統領選出後に初めて議会で行った演説で、国家のみが排他的に兵器を保有することに尽力すると表明した。

多数の宗教や宗派が混在するレバノンでは権力が分担されており、大統領はキリスト教マロン派から選出される。前大統領の任期が2022年10月に終了して以降、諸派閥の分断を背景に議会で十分な票を獲得できる候補者で合意できず、大統領職は空席になっていた。

レバノン関係筋によると、ヒズボラが支持する候補者が立候補を取り下げ、アウン氏への支持を表明したことで、8日になってアウン氏への支持が高まった。フランスとサウジアラビアの特使がベイルートを頻繁に訪問し、アウン氏の選出を働きかけていたという。

また、サウジアラビア関係筋によると、フランス、サウジ、米国の特使がヒズボラと近い関係にあるレバノン国民議会のベリ議長に対し、サウジなどからの財政支援はアウン氏の大統領選出にかかっていると伝えていた。

アウン氏の大統領選出は、イランとヒズボラが長年にわたり影響力を持っていたレバノンで、サウジの影響力が再び高まったことを示しているとの見方も出ている。

昨年11月に米仏の仲介で合意されたヒズボラとイスラエルの停戦の条件には、双方の部隊撤退に伴いレバノン軍が南レバノンに展開することが含まれている。アウン氏はこの停戦合意を強化に重要な役割を担っていくとみられる。【1月10日 ロイター】
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【イスラエル 「合意履行が不十分」レバノン南部からの撤退を延期 今後の情勢は?】
ようやく復興への足がかりが築けた・・・と言いたいところですが、もとより“薄氷の停戦合意”。60日間のイスラエル軍の撤退期限を前に暗雲が漂っています。

****イスラエル、ヒズボラがイランの支援で「再武装」と国連で批判****
イスラエルのダノン国連大使は13日の国連安全保障理事会で、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラが「イランの支援を受けて力を取り戻し、再武装しようとしている」とし、イスラエルと中東地域の安定にとっての「深刻な脅威」であり続けていると批判した。15カ国で構成する安保理向けの文書で指摘した。

ロイターが報じた昨年12月の米情報によると、イランに支援されたヒズボラは軍備と兵力を再構築しようとしている可能性が高く、米国および地域の同盟国にとって長期的な脅威をもたらすと警告していた。

イスラエルとヒズボラは1年を超える戦闘を経て、昨年11月27日から60日間の停戦に合意した。停戦の条件ではイスラエルとヒズボラによる軍の撤退に合わせ、レバノン軍がレバノン南部に展開することが求められている。

だが、イスラエル、ヒズボラは互いに相手がこの協定に違反していると非難している。

ダノン氏は、レバノン政府と国際社会が「シリアとレバノンの国境や空路、海路を通じた武器、弾薬、資金援助の密輸の抑制」に力を入れることが「不可欠だ」と強調。停戦協定が結ばれてから「ヒズボラに武器や資金を送ろうとする試みが何度かあった」とも指摘した。

ヒズボラと、イランの国連代表部にダノン氏の言及についてコメントを求めたが、すぐには回答がななかった。ヒズボラに近いレバノンの高官筋は疑惑について否定した。【1月14日 ロイター】
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停戦合意では60日の間にレバノン南部からイスラエル軍が徐々に撤退する一方で、ヒズボラが拠点を置くことも認められずレバノン軍に明け渡すのが条件となっていました。

昨年11月の停戦合意にはアメリカ・バイデン政権も関与しています。

****レバノン停戦、監視に米の関与強化 ヒズボラ再台頭阻止へ国軍育成狙う****
バイデン米大統領は(11月)26日、米国が主導したイスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの停戦合意について、「恒久的な敵意停止に向けて設計されたものだ」と説明し、ヒズボラなどの武装勢力がイスラエルの安全を脅かすことがないよう厳しく情勢を監視する考えを示した。停戦監視のために米軍部隊を現地へ派遣する考えはないとも強調した。

停戦合意は、戦闘行為の停止や60日以内にイスラエル軍がレバノン南部占領地域から撤退することなどに加え、米国が、レバノンの旧宗主国であるフランスと共に停戦維持に関与する内容。

イスラエル、レバノンの境界地帯に駐留する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)と両国政府からなる国際委員会に米仏が参加し、実効性を高めることを狙う。

またバイデン政権高官は26日、停戦維持に向け、米国をはじめとする国際社会が「レバノンの国軍や治安部隊の育成と同国の経済再建を支援する」と述べた。

レバノンでは長年、ヒズボラが軍事力で国軍を大きく上回り、押さえがきかない状態が続いてきた。ヒズボラは政府にも強い影響力を持った。

だが、ここ数カ月のイスラエルによる一連の軍事行動や工作活動で、ヒズボラは最高指導者ナスララ師ら最高幹部を失うなど「軍事・政治的に著しく弱体化した」(同高官)。バイデン政権はこの機にヒズボラの権力基盤を崩し、レバノン政府の権威を高めたい考えだ。

ただ、対イスラエルの〝手駒〟を失いたくないイランが、影響下にあるシリアを通じた支援などでヒズボラの再建を図る可能性は高い。

同高官によるとバイデン政権は、停戦合意までの交渉経緯などに関する情報をトランプ次期大統領の政権移行チームにも共有している。レバノン国軍の育成やヒズボラの再台頭を防ぐなどの課題は次期政権に引き継がれることになる。【2024年11月27日 産経】
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“課題は次期政権に引き継がれる”ということで、トランプ大統領の判断が注目されます。トランプ大統領はイスラエル・ネタニヤフ首相と“馬が合う”ことは周知のところですが、イスラエル側の主張を認めるのか・・・。

イスラエルはレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたとも報じられていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるとも。

****イスラエル ヒズボラとの60日間の停戦期限を前に軍撤退の延期を求める****
イスラエルとイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」との間で結ばれた60日間の停戦が期限を迎えるのを前に、イスラエルが軍の撤退に関して延期を求めていることが分かりました。

イスラエルメディアは23日、情報筋の話として、イスラエルがレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたと報じました。

アメリカとフランスがこの要求を受け入れるか協議しているとしていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるということです。

これに対してヒズボラは声明を出し、「期限を超えることは合意のあからさまな違反だ」と非難しています。(後略)【1月24日 テレ朝news】
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イスラエルは、停戦合意をレバノン側が完全に履行していないと指摘し、イスラエル軍のレバノン南部からの撤収は期限までに完了しないとの方針を発表しています。

****イスラエル軍、期限後もレバノン駐留へ 停戦合意「完全履行されていない」****
イスラエル首相府は24日、同国とレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを巡る停戦合意が完全に履行されていないとして、イスラエル軍が撤収期限後もレバノン南部に駐留し続ける方針を示した。

米仏の仲介で昨年11月27日に発効した停戦合意では、イスラエル軍とヒズボラが60日以内にレバノン南部から撤収すると定めており、26日午前4時(日本時間午前11時)が期限となっている。

イスラエル首相府は声明で、同国軍の撤収プロセスは「レバノン軍が南部に展開し、合意を完全かつ効果的に実施し、ヒズボラが撤退することが条件」とし、「レバノンが停戦合意を完全に履行していないため、米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける」と述べた。

ヒズボラは23日、イスラエル軍が撤収を遅らせるのは、容認できない合意違反だとし、レバノン政府に対し「国際憲章で保証されたあらゆる手段と方法」を通して圧力をかけるよう求めていた。【1月24日 ロイター】
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上記イスラエル首相府の発表がトランプ政権の同意を得たものかどうかは知りませんが、“米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける”とのことです。

アメリカと並んで停戦監視に関与している旧宗主国フランスは、マクロン大統領がイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めています。

****イスラエル軍、レバノン撤退加速を=仏大統領****
フランスのマクロン大統領は17日、レバノンの首都ベイルートで演説し、同国内の親イラン民兵組織ヒズボラと停戦合意したイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めた。

マクロン氏は、レバノンのアウン大統領が9日に就任して以来、初めて同国を訪れた外国指導者となった。アウン氏と並んだマクロン氏は「真の、正統なレバノンが戻ってきた」と語り、アウン氏の就任はレバノンが新たな道筋を進む可能性を示していると強調した。

マクロン氏は、レバノン軍だけが同国の武器を掌握すべきだとし、南部での軍強化に支援を表明した。アウン氏は大統領に選出されるまで軍司令官を務めており、同氏の大統領就任は、イスラエルとの戦争でヒズボラが弱体化した後のパワーバランスの移行を意味している。(中略)

一方、レバノン訪問中の国連のグテレス事務総長は17日、イスラエル軍がレバノン南部で占領と軍事行動を続けているのは、停戦合意の土台となった国連決議に違反していると指摘し、「中止しなければならない」と訴えた。【1月20日 ロイター】
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イスラエル軍が60日を過ぎても撤退を完了しないとなると、次はヒズボラがどう出るのか・・・戦闘が再燃するのか・・・ヒズボラにその余力があるのか、イランからの武器供給ルートとなっていたシリアのアサド政権も崩壊した状況で・・・・といったところですが、まだそのあたりに関する情報は目にしていません。

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シリア  コバニ攻撃準備のトルコとクルド人勢力の緊張 空爆で残存化学兵器破壊を目指すイスラエル

2024-12-23 23:38:45 | 中東情勢

(シリアの首都ダマスカスで警備に当たる戦闘員(2024年12月20日、ロイター=共同)【12月23日 JBpress】)

【女子教育尊重でタリバンとの違いをアピールするHTS指導者】
アサド政権崩壊後のシリアは、政権を追放して首都ダマスカスをおさえた「シャーム解放機構(シリア解放機構 HTS 旧ヌスラ戦線)とその指導者ジャウラニ氏を軸に動いています。(“シャーム”とはシリア地域の古代名)

HTSをテロ組織に指定しているアメリカも、テロ組織指定解除も視野に入れて接触を始めています。

****アメリカ国務省高官がシリア訪問 「シリア解放機構」と協議へ、米政府高官の訪問はアサド政権崩壊後初めて テロ組織指定解除も議論か****
アメリカ国務省の高官らがシリアの暫定政府を主導する「シリア解放機構」と協議するため、首都ダマスカスを訪問しました。アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、アサド政権の崩壊後初めてです。

ロイター通信などによりますと、アメリカ国務省の報道担当者は20日、中近東担当のバーバラ・リーフ国務次官補ら3人がダマスカスを訪問中だと明らかにしました。

AP通信によりますと、アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、2012年2月にアメリカ大使館が閉鎖されて以来、およそ13年ぶりで、アサド政権の崩壊後初めてです。

リーフ国務次官補らは、暫定政府を主導する「シリア解放機構」の代表団などと協議を行う予定で、政権移行やアメリカの支援、少数派の保護などについて話し合うということです。

アメリカ政府は「シリア解放機構」をテロ組織に指定していますが、この指定の解除についても議論されるとみられます。

また、2012年にシリアで行方不明になったアメリカ人ジャーナリスト、オースティン・タイス氏についても、主要な議題のひとつになるとみられます。【12月20日 TBS NEWS DIG】
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こうした動きの背景にあるのは、12月18日ブログ“シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?”でも取り上げたように、HTSおよびジャウラニ氏が“現時点では穏健・寛容で正しいことを言っている”ということがあります。

戦略的に見ても、HTS側に“その気”があるうちに、その考えを実行に導きシリアを穏健な形で安定させるというのは賢明でしょう。

****シリア、「アフガンと違い女子教育も」=旧反体制派トップ、穏健アピール****
シリア暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)指導者のジャウラニ氏は19日までに、シリアをイスラム主義組織タリバンが復権したアフガニスタンのような国にするつもりはなく、女子教育の機会を保障する考えを表明した。首都ダマスカスで英BBC放送のインタビューに応じた。

タリバンは2021年の政権奪取後、極端なイスラム法解釈に基づいて女性への高等教育を禁じるなどし、国際社会からの承認は進んでいない。

国際テロ組織アルカイダの流れをくむHTSは、イスラム過激派と見なされることも多い。ジャウラニ氏はタリバンとの違いを強調することで、穏健な印象をアピールした形だ。 

ジャウラニ氏はBBCで、シリアは部族社会のアフガンとは思考が全く違うと指摘。HTSが拠点としてきた北西部イドリブ県では「大学教育が8年以上行われ、大学での女性の比率は60%を超えると思う」と語った。 【12月20日 時事】
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当然ながら、「今はそう言ってるけど、そのうちに本性が・・・タリバンだって復権当時はまともなことも言ってたし・・・」という懸念もありますが、HTSの場合は指導者本人の言葉である点が異なるとも。

****シリアとアフガン 「テロ組織」権力掌握の行く末=松井聡(ワシントン)****
「政府軍はほぼ戦わずに逃げ出した」「国際社会は権力を掌握したテロ組織とどう向き合うべきなのか」――。

シリアのアサド政権崩壊に関する言及だと思う人も多いかもしれないが、2021年に南アジアを担当するニューデリー特派員として、アフガニスタンのイスラム組織タリバンの復権を取材した際に、タリバン幹部や国連関係者から聞いた言葉だ。

現在は北米総局員としてワシントンから米政府の動きを中心にシリア情勢を追う中で、アフガンを巡る情勢との類似性を感じている。国際社会が、権力を掌握した「テロ組織」とどう向き合うのかという課題は最も大きな共通点だ。

米政府はタリバンを「特別指定グローバルテロ組織(SDGT)」、シリアで反体制派を主導してきた「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を「外国テロ組織(FTO)」に指定している。

HTSは国際テロ組織アルカイダ系が源流だが、現在はキリスト教徒や少数派の保護など穏健な政策を強調している。

実は、タリバンも復権に前後して、「恐怖政治」だとして批判された旧政権時代(1996〜2001年)からの穏健化を強調していた。

ただ復権後も中学以上の女子教育を禁止するなど強硬路線は続いており、いまだにどの国からも国家承認されていない。これを引き合いに、「HTSは信用できない」と指摘する専門家もいる。

ただHTSとタリバンには違いもある。当時タリバンで積極的に「穏健化」を発信していたのは、各国との交渉窓口になっていた「政治事務所」のメンバーだった。国際社会と協調する重要性も理解しており、私も何度も取材したが、「タリバンは変わるだろう」と思う場面が少なからずあった。

だが復権後、実際に意思決定しているとみられるのは強硬派で最高指導者のアクンザダ師だ。タリバン内には同師に対して不満の声があるとも伝えられるが、国際社会は手詰まりのように見える。

一方、HTSで穏健路線を明言しているのは指導者のジャウラニ氏自身だ。内部の力学は不透明だが、タリバンに比べれば、その発言が実現される可能性は高いかもしれない。国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある。【12月22日 毎日】
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“国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある”・・・まさに、そういうことでしょう。HTSがその期待に応えてくれることを願いながら。

なお、本来HTSとアルカイダの関係は単なる「名義貸し」に過ぎず、HTSおよびジャウラニ氏は思想的にも、実際やってきたことも非常に寛容で穏健であるとの指摘も(12月23日 JBpress 黒井文太郎氏“「シリアで新たな独裁が始まる」は本当か? アサド政権を倒した反体制派組織「HTS」の意外な素顔”)

【トルコvs.クルド人勢力 クルド人にとって内戦の象徴的拠点コバニ トルコはコバニ攻撃準備】
シリア国内での戦闘再燃の火種としてくすぶっている問題のひとつがクルド人勢力とトルコの対立。

18日ブログでは“米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。”【12月18日 ロイター】との報道をもとに、“現時点ではコントロールされているようです”とも書いたのですが、トルコはその後、この報道を否定しています。

****トルコ、米支援クルド勢力SDFとの停戦否定 「米発表は誤り」*****
トルコ国防省関係者は19日、シリア北部で米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコが停戦合意に達したという米側の発表は誤りだと述べた。

米国務省は17日、トルコとの国境に近いマンビジュ周辺での停戦は今週末まで延長されると発表していた。

トルコ政府関係者は匿名を条件に「トルコとしては、いかなるテロ組織との協議もあり得ない。米国の発表は間違いだ」と記者団に述べた。

一方、SDFはトルコが停戦に向けた国際的な努力に反し攻撃を続けていると非難し、戦闘を続ける構えを示した。

シリアのアサド政権が崩壊し、各地で武装勢力による戦闘が勃発する中、米政府は先週、トルコが支援するシリアの元反体制派とSDFの最初の停戦を仲介した。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、トルコはその中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

トルコ政府高官は、シリア北部への地上作戦を再検討しているかとの質問に、依然としてシリア北部から国境への脅威を感じていると述べた。【12月20日 ロイター】
*********************

一方のクルド人勢力「シリア民主軍(SDF)」側は、トルコに対し停戦と引きかえの一定の譲歩も提案しています。

****シリア民主軍、トルコと全面停戦なら非シリア系兵は撤退へ=司令官****
米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」のマズロウム・アブディ司令官は19日、ロイターに対し、トルコとの国境に近いシリア北部でのトルコとの紛争が全面的な停戦に至った場合、支援のために中東各地から来た非シリア系クルド人兵士らが撤退するとの見通しを示した。

アブディ氏の発言は、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)のメンバーを含めた非シリア系クルド人兵士がSDF支援のためにシリアに来たことを初めて認めた。トルコや米国などはPKKをテロリスト集団と見なしている。

アブディ氏は「シリアにはこれまでとは違った状況があり、政治的な段階を始めようとしている。シリア人は自分たちで問題を解決し、新しい政権を樹立しなければならない」とし、「トルコ軍および同軍の同盟勢力との間で全面的に停戦した後、この段階に加わる準備を進めている」と言及。

その上で「シリアで新たな動きがあるため、私たちの戦闘を支援してくれた兵士たちは誇りを持ってそれぞれの地域に戻る時だ」との認識を示した。

非シリア系クルド人兵士の撤退は、トルコ側の主要な要求の一つとなっている。トルコはSDFを国家安全保障上の脅威と見なし、シリア北部でのSDFに対する新たな軍事作戦を支援している。

アブディ氏は、トルコおよび同国の同盟勢力がトルコ国境に近いシリア北部の町アインアルアラブ(クルド名、コバニ)を攻撃する準備をしている中で、SDFは撤退を提案していることも表明。

提案によると、国内治安部隊と「全面的な休戦を条件としてこの地域を監督するために」米軍が駐留することになる。一方で「もしも攻撃があった場合には撃退する準備をしている」とも付け加えた。

シリアではアサド政権が約2週間前に崩壊して以来、内戦がエスカレートしている。トルコおよび同国と組むシリアの武装勢力は今月9日、SDFからシリアの都市マンビジュを奪取した。【12月20日 ロイター】
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現在トルコ側が攻撃を準備しているとされるコバニはシリア北部のトルコに接するクルド人居住地域の拠点都市ですが、2014年から2015年年明けにかけて、ISに包囲されたものの、一時は陥落したとも言われながらもクルド人側が多大な犠牲を払いつつも死守しました。

“コバニをめぐる攻防は、当時シリア内戦で最も注目される戦いだった”“周囲はISによって包囲され、住民はどこへも逃げられない状況が続いていた”“クルド人にとってはこの町が陥落することは住民の虐殺が起きることを意味していた”“クルド人はこの戦いを通じて団結したと言われている”【ウィキペディア】という経緯があるこのコバニをクルド人勢力としてはどうしても失いたくない思いがあると推測されます。

アメリカ、国連もクルド人勢力を支持、クルド人勢力と敵対していたトルコ・アエルドアン大統領もトルコ国内のクルド人情勢が悪化するおそれもあるため、コバニ支援に向かうイラクのクルド人がトルコ領内を通過するの許可する異例の対応も。

クルド人勢力とアメリカの「対IS」協力関係は現在まで続いています。

【アサド政権の残した化学兵器争奪戦 イスラエルは破壊のため容赦ない空爆実施 汚染リスクは?】
一方、今もシリアを空爆しているのがイスラエル。アサド政権が残した武器がイスラム過激派の手に渡るのを阻止する狙いと言われています。

1週間前の16日時点で“シリア人権監視団(英国)は16日、アサド政権崩壊後のシリアでイスラエル軍が行った空爆は470回を超えたと伝えた。”【12月17日 産経】とも。

****イスラエルのシリア空爆は主権侵害、直ちに停止を=国連事務総長****
 国連のグテレス事務総長は19日、イスラエルによるシリア空爆は主権と領土の一体性への侵害であり「中止しなければならない」と述べた。

グテレス氏は記者団に「シリアの主権、領土の統一と一体性は完全に回復されなければならず、全ての侵略行為は直ちに停止されなければならない」と述べた。

アサド政権が今月崩壊して以来、イスラエルは戦略兵器と軍事インフラの破壊を目的に数百回の空爆を実施。1973年のアラブ・イスラエル戦争後に創設され、国連平和維持軍が巡回しているシリアとイスラエル占領下のゴラン高原の間の非武装地帯に進軍した。

イスラエル当局はこの措置について国境の安全確保のための限定的かつ一時的なものと説明しているが、撤退時期は示唆していない。【12月20日 ロイター】
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アサド政権の残した武器の行方はイスラエル以外の関係国・関係機関も気になるところで、特にアサド政権が使用していた化学兵器が注目されています。

****アサド政権が残した化学兵器の「争奪戦」が始まった****
シリアのアサド政権が突然崩壊したことで、残された化学兵器の所在を突き止め、確保する競争が始まった。長年にわたり内戦と強権支配が続いてきたこの国では、さまざまな武装勢力やテロ組織が対立し合ってきた。

かつてシリアは世界最大級の化学兵器保有国だった。内戦中にアサド政権が東グータで猛毒の神経ガス・サリンを使用し、1400人が死亡すると、国際的な圧力が高まり、シリアは2013年に化学兵器禁止条約(CWC)に加盟した。

当時のアサド大統領は国際社会と協力して国内の化学兵器を解体することに同意したが、アメリカと同条約を管轄する化学兵器禁止機関(OPCW)は長年、アサドが致死性の高い一部の兵器を備蓄し続け、新たな兵器の開発も進めているのではないかと疑っていた。内戦中にアサド政権が化学兵器を使用し続けたことで、懸念はさらに高まった。

シリアは現在、アメリカなどがテロ組織と見なすイスラム系組織シャーム解放機構(HTS)が主導する勢力の管理下にあり、アメリカは残された化学兵器を捜索していると、匿名の米当局者は外交誌フォーリン・ポリシーに語った。

OPCWもシリア情勢を協議する緊急会合を非公開で開催した。
「シリアの政治・治安情勢は依然として不安定だ。化学兵器関連施設の状況に影響を与え、拡散リスクを生み出しかねない」と、OPCWのフェルナンド・アリアス事務局長は会議の冒頭で警告した。

シリアの反体制派指導者アフマド・アッシャラア(別名モハマド・ジャウラニ)は12月11日、HTSは化学兵器の潜在的な貯蔵場所を押さえるため、国際社会と協力しているとロイター通信に語った。

2011年の内戦開始以来、アサド政権が塩素、サリン、マスタードガスを使用した事例は何百件も記録されている。国際社会が残された化学兵器の所在確認を急ぐ多くの理由の1つは、シリア国内で活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の残党の手に渡る危険性があるからだ。

ISは不完全な粗製の化学兵器をイラクとシリアで何十回も使用したとみられている。ただし、シリアの化学兵器はISの残党が活動する地域から遠く離れた西部の旧政権支配地域に保管されている可能性が高い。

それ以上に懸念されるのは、新たな内戦やアサド家が属するアラウィ派の組織的反乱の際に、旧政権の当局者や科学者が化学兵器に手を伸ばす事態だと、化学・生物兵器に詳しいジョージ・メイスン大学のグレゴリー・コブレンツ准教授は言う。「私に言わせれば、ISよりも心配だ」

同様に化学兵器がテロ組織の手に渡ることを懸念するイスラエルは、早速動き出している。イラスエル軍は国連がゴラン高原沿いに設置したシリア領内の緩衝地帯に入った。

「私たちは多くの情報を持っている。自国民を守るため、必要なことは何でもする」と、オフィル・アクニス総領事(在ニューヨーク)はフォーリン・ポリシーに語った。

イスラエル軍はアサド政権崩壊直後から、化学兵器の貯蔵施設と疑われる場所への空爆を実施している。OPCWのアリアスは12日、「汚染のリスクがある」と空爆に懸念を示し、国際的調査の妨げになりかねないと警告した。

アクニスはこうも強調する。「もはや危険はないと確信できるまで、必要なことをやり続ける」【12月23日 Newsweek】
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対象が化学兵器ですから空爆による「汚染のリスクがある」というのは誰しも考えるところですが、「自国民を守るため、必要なことは何でもする」というイスラエル現政権にとってはシリア住民の生命ごときは眼中にないようです。
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シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?

2024-12-18 23:26:28 | 中東情勢

(8日、群衆に向かって演説を行う「シャーム解放委員会」(HTS)の指導者ジャウラーニー氏【12月9日 CNN】)

【各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているものの、イスラエルのゴラン高原緩衝地帯侵攻は長期化の様相】
シリアの反体制派が首都ダマスカスに進軍し、首都を「解放」したと宣言した8日から10日間が経過。
日常生活は戻りつつありますが、一方 各地で治安悪化、武装集団の市民襲撃が相次いでいるとも。

****シリア アサド政権崩壊から1週間 戻りつつある日常生活、一方 各地で治安悪化 武装集団の市民襲撃相次ぐ****
(中略)記者 「市民は日常生活へと戻り始めていまして、お店も開いていまして、ショッピングに繰り出す市民の姿も多く見られます」

シリアの首都ダマスカスでは、すでに夜間外出禁止令が解除され、日常生活が戻りつつあります。一方で、各地で治安の悪化が懸念されています。

イギリスに拠点を置く「シリア人権監視団」は、中部ハマの郊外で武装した集団が民家を襲撃し、合わせて5人が殺害されたと伝えました。ハマ郊外では、別の場所でも11人が殺害されるなど、武装集団による市民襲撃が相次いでいるということです。

また、「シリア人権監視団」は、北部のアレッポや南部のスワイダなどでも市民が銃撃され死亡したと伝えています。【12月15日 TBS NEWS DIG】
******************

懸念されているシリア国内の各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているようです。

****トルコと米支援クルド勢力SDFの停戦、今週末まで延長=国務省****
米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。

ミラー氏は、米政府は停戦が可能な限り長く延長されることを望んでいるとした。その上で「シリアの今後の道筋について、引き続きSDFやトルコと協議していく」と述べ、シリアでの紛争が激化することはどの当事者にとっても利益にならないとした。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、その中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、トルコは国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

SDFのマズルム・アブディ司令官は17日、米国の監視下で治安部隊を再配置し、北部の都市コバニに非武装地帯を設置する案を提示する用意があると表明した。Xへの投稿で、提案はトルコの安全保障上の懸念に対処し、地域の恒久的な安定を確保することが目的だと説明した。

しかし、両者の戦闘は継続しており、SDFの別の声明によると、17日にはトルコが支援する部隊がコバニ南部の地域を攻撃した。【12月18日 ロイター】
********************

一方、イスラエルはこの機に乗じてゴラン高原緩衝地帯に進軍し、懸念材料になっています。ただ、イスラエルも「シャーム解放機構」(HTS)も互いに対決を起こす考えはないとはしています。

****「シリアとの対決に関心なし」=ゴラン高原入植拡大を承認―イスラエル首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は15日に公表した動画で、アサド政権崩壊後の対シリア政策について「変化する現場の現実によって決定する。シリアとの対決に関心はない」と強調した。

シリアの旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は14日、シリアとの間に設けられた緩衝地帯に軍を展開させたイスラエルを批判。一方で、「シリアは長年の戦争で疲弊し、新たな紛争を起こすことはできない」と述べていた。

イスラエルのメディアによると、同国政府は15日、イスラエルが1967年の第3次中東戦争でシリアから奪った占領地ゴラン高原で入植者を倍増させる計画を承認した。4000万シェケル(約17億円)を投じ、インフラ整備を促進する。ネタニヤフ氏は「ゴランの強化は国家の強化だ」と訴えた。 【12月16日 時事】
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イスラエルの今回軍事作戦は長期化の様相も。

****イスラエル首相シリア視察 要衝の山、軍占領長期化か****
イスラエルのネタニヤフ首相は17日、シリア首都ダマスカスを望む要衝ヘルモン山の山頂のシリア側を視察し「安全が保証される別の取り決めが見つかるまで、この地にとどまる」と発言した。イスラエル軍はシリアのアサド政権崩壊の混乱に乗じてシリア側を制圧。「一時的な防衛措置」と強調していたが、占領を長期化させる可能性がある。(後略)【12月18日 共同】
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【「今のところ正しいことを言っている」HTS指導者】
こうした状況で、今後のシリアに最大の影響力を持つのは、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)、およびその指導者アフマド・アッシャラア氏がどのような統治を目指しているのか・・・という点です。

****シリア新政権樹立へ、反体制派アッシャラア氏が大きな影響力か…過去にアル・カーイダ参加も穏健姿勢を前面に****
シリアのアサド政権崩壊を受け、新政権の樹立に向けた動きが始まった。大きな影響力を持つとみられているのが、反体制派を主導し、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)の指導者アフマド・アッシャラア氏だ。

中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラなどによると、アッシャラア氏は1982年、サウジアラビアで生まれ、シリアで育った。2003年に米英軍のイラク攻撃が始まると、米国を敵視してイスラム教スンニ派の過激派組織「イラクのアル・カーイダ」に加わったが、後に米軍に拘束され、5年間収監された。

00年に始まった第2次インティファーダ(反イスラエル蜂起)や01年の米同時テロが過激思想に向かわせたとの指摘もある。

11年にシリアで内戦に火が付くと帰国し、イスラム過激派組織「イスラム国」の前身組織の支援を受けて「ヌスラ戦線」を設立した。強権を振るうアサド政権の打倒を掲げて自爆攻撃や拉致を繰り返し、米国からテロ組織に指定された。

14年のアル・ジャジーラのインタビューでは「シリアはイスラム法に基づき統治されるべきだ」と述べ、アサド政権の中核を占めたシーア派の一派・アラウィ派やキリスト教徒ら少数派を認めない強硬姿勢を示した。16年に路線の違いからアル・カーイダと決別すると、他組織との統合の末、ヌスラ戦線をHTSに改組した。

この頃から軍服姿での露出を控え、自身や組織についた過激派のイメージ払拭ふっしょくを図り始め、穏健姿勢を示すようになったとされる。21年には米メディアのインタビューにも応じ、ブレザー姿で「HTSは西洋に脅威を与えない」と主張した。

首都ダマスカスを制圧した8日頃から、自身の名前も、アル・カーイダ加入後に使っていた通称の「アブムハンマド・ジャウラニ」から切り替え、本名を名乗り始めた。

8日には国営テレビを通じて「シリアは全ての人々のものだ」と述べ、宗教宗派を問わずに共生する融和姿勢を示した。国民や国際社会の支持を得る狙いがあるとみられる。

一方で、首都の著名なモスク(礼拝所)で8日に行った演説では「『イスラム国家』全体の勝利だ」と述べ、イスラム国家樹立への思いものぞかせた。

穏健姿勢への転向を「表面的」と見る向きは根強く、国連や米欧は今もHTSをテロ組織に指定している。シリアには旧アサド政権のほか、HTSなど複数の反体制派やクルド人勢力が支配する地域があり、各勢力を束ねて統治するには困難が伴うと予想される。

エジプトの研究機関「アラブ政治戦略学センター」のムフタル・ゴバシ副所長は「アッシャラア氏の出自を知った上で、今後の振る舞いを見ていく必要がある」と指摘した。【12月11日 読売】
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まだ10日間・・・ということで、今後の方向性はわかりません。
現時点での発言は「穏健」なものになっていますが、アフガニスタンで政権を打倒したタリバンも復権当初は比較的穏健な発言もあって、「以前のタリバンとは少し変わったのかも・・・」と期待もさせましたが、現状はかつてのタリバンと大差ありません。

“平和的協力を望むという武装勢力の主張をうのみにするのは間違いだろう。だが同時に、完全に無視していても戦争終結にはつながらない。”【12月18日 Newsweek】

【HTSの今後の動きを見守る欧米】
アメリカ、欧州は当面は注意深く見守り、その「穏健な」発言を実行に移すなら協力も・・・というところ。

****米軍はシリア駐留継続へ、IS壊滅目指す=ホワイトハウス高官****
米ホワイトハウス高官は10日、過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させるために、シリアのアサド政権崩壊後も米軍は同国に駐留を続けると表明した。(中略)

アサド政権を崩壊に導いた反体制派の主力組織シャーム解放機構(HTS)は国際武装組織アルカイダの流れをくみ、米国はテロ組織に指定している。

ファイナー氏は「このような組織については、政策の正式な変更はない」と述べ、テロ組織の指定は組織の発言や意図ではなく活動に基づいて決定するため行動を注視していくと説明した。

一方で、これらの組織が過去数週間に発言している内容の一部は「非常に建設的」だと評価した。その上で、そうした発言に「シリアに信頼できる包括的な統治」をもたらす行動が伴うかどうか見守ると述べた。

また、バイデン政権はトランプ次期大統領の政権移行チームメンバーと連絡を取り、シリアに関する情報を提供していると語った。【12月11日 ロイター】
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****シリア政権移行への干渉けん制=国民主導なら「承認」―米国務長官****
ブリンケン米国務長官は10日、反体制派がアサド政権を打倒したシリアについて声明を出し、政権移行作業への干渉を控えるよう各国をけん制した。シリア国民主導で新政権が発足すれば「承認し、全面的に支持する」と表明した。

ブリンケン氏は、2015年の国連安保理決議が定めたシリア国民主導の新憲法制定や選挙実施を目指す政権移行プロセスに言及。この移行作業を「信頼に足る、包括的で宗派によらない政府へとつなげるべきだ」と強調した。【12月11日 時事】 
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****EU、シリア制裁緩和の用意 前向きな措置実施なら=カラス上級代表****
欧州連合(EU)の外相に当たるカラス外交安全保障上級代表は16日、アサド政権崩壊後のシリアについて、新政権の下で包括的な政府が樹立され、女性や少数派の権利の尊重などの「前向きな措置」が講じられれば、EUは対シリア制裁の緩和を検討する用意があると述べた。

カラス氏はまた、シリア暫定政府を主導する「シャーム解放機構(HTS)」の幹部と会談するため、EUが高官をシリアに派遣したと明らかにした。

EUはこの日、ブリュッセルで外相会合を開催。カラス氏は会合後に記者団に対し、アサド政権の後ろ盾となっていたロシアとイランのほか、過激主義的な勢力はシリアの将来に関与すべきでないとの考えを示し、「(会合で)多くの外相が、シリア新政権はロシアの影響力排除を条件にすべきだと強調した」と述べた。

その上で「(シリアでの)過激主義や急進化は望んでいない」とし、「シャーム解放機構は今のところ正しいことを言っている」と言及。同時に、今後の行動に基づき判断していくとの考えを示し、「シリアの発展を支援するため、前向きな措置が見られた際に積極的に行動できるよう計画を準備しておく必要がある」と語った。【12月17日 ロイアー】
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「今のところ正しいことを言っている」・・・実行に移されるといいのですが。
12月17日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、来年1─6月に約100万人のシリア難民が帰国するとの見通しを示しています。
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シリア  大量に押し寄せる帰還難民 欧州は再度の難民流入を警戒 帰還先での生活は?

2024-12-10 23:48:57 | 中東情勢

(【12月10日 TBS NEWS DIG】トルコの国境検問所に押し寄せる帰還難民)

【HTSを主軸に政権移譲が進むものの、どのような統治がなされるのかは不透明】

諸勢力の群雄割拠状態、そこへの関係国の思惑、前回書けなかった、ロシア・イラン・イスラエルの動き(イスラエルはゴラン高原緩衝地帯に進軍し、国連は「停戦協定違反だ」と批判しています)などもありますが、今日は主に難民帰還の話。

アサド政権の突然の崩壊、大統領のロシア亡命・・・今後のシリアは誰がどういう形で統治するのか?
いまのところ、アサド政権崩壊で中心的役割を果たしたイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)を軸に権限移譲が進んでいます。

****反体制派に権限移譲へ=主力組織指導者、首相らと会談―シリア****
シリアのアサド政権崩壊を受け、同国のジャラリ首相は9日、中東のテレビ局アルアラビーヤに対し、2017年に反体制派が設立した「シリア救国政府」に権限を移譲することで合意したと明らかにした。

ただ、実際の移譲には時間を要する可能性があるとも指摘した。権力の空白が生じないよう、スムーズな政権移行ができるかが課題となる。

ロイター通信によれば、反体制派の主力「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は、シリアに残っているジャラリ氏のほかメクダド副大統領とも会談し、政権移行プロセスを協議した。ジャウラニ氏はシリアの再建を公言している。

救国政府は、反体制派が拠点とし、前政権の支配が及ばなかった北西部イドリブ県で統治を担っている。ロイターは中東メディアの報道として、救国政府を率いてきたムハンマド・バシル氏が暫定政権のトップを務める見通しだと報じた。【12月10日 時事】
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アサド大統領の支持基盤であったアラウィ派も反体制派を支持するとのこと。ただし、「報復」など今後の対応次第というところも。

****アサド大統領故郷のアラウィ派、シリア反体制派への支持表明****
シリアのアサド政権を打倒したイスラム教スンニ派主導の反体制派は9日、アサド大統領の故郷を訪れ、同氏と同じアラウィ派の長老による支持を得た。

アサド氏を支持していたアラウィ派を反体制派がどのように扱うかは、政権崩壊が同氏に忠実だったグループに対する暴力的な報復につながるかを占う上で注目される。

複数の住民によると、反体制派の代表団はアサド氏の故郷である北西部ラタキア県カルダハを訪れ、数十人の宗教家や長老らと面会した。アラウィ派の有力者らはその後、反体制派を支持する声明に署名したという。

住民によれば、代表団にはいずれもスンニ派の「シャーム解放機構(HTS)」と「自由シリア軍」のメンバーが含まれた。

シーア派の一派であるアラウィ派はシリアの人口の約1割を占め、トルコ国境に近いラタキア県に集中している。人口の約7割はスンニ派で、キリスト教徒、クルド人、ドルーズ派などのコミュニティも存在する。

ロイターが確認した声明はシリアの宗教的・文化的多様性を強調するとともに、新たな統治者の下で国家のサービスや警察を早期に回復することを求める内容。カルダハの住民が持つ全ての武器を引き渡すことにも同意している。

町の有力者約30人が署名し、カルダハが「新たな道と愛国的で自由なシリアを支持し、(HTSや自由シリア軍と)全面的に協力する」ことを確認した。反体制派は署名していない。【12月10日 ロイター】
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「自由シリア軍」・・・・アサド政権への抵抗が始まった頃は反体制派の中心的存在で欧米の支援も受けていましたが、その後主導権をイスラム過激派に奪われ、また、イスラム過激派との共闘も行っていることが明らかになりました。
その後はいろいろ変遷もあって、現在どの程度の規模を持つのか、イスラム過激派に対しどういうスタンスに立つのか・・・良く知りません。

いずれにしてもHTSを主軸した新たな体制がどのような統治になるのか、HTSの指導者ジャウラニ氏が現在主張しているように宗教的・文化的多様性が容認されるのか、あるいはアフガニスタンのタリバン政権のようにひとつの価値観を押し付けるような政治になるのか・・・今は不透明です。

【戦闘の停止を喜び、帰還を始める難民】
いろいろ今後への懸念は山積みですが、とにもかくにもアサド政権が崩壊し政権と反体制派の戦闘は終わったということで、国内外に逃れていた人々の大量帰還が始まっています。

国外に逃れた難民の数は480万人(UNHCR)とも。また国内に避難した避難民はそれを上回る720万人とも。正確な数字はよくわからないのが実情ですが、とにかく膨大な数字であることはは間違いないところです。

****アサド政権崩壊で シリア難民の帰還始まる****
シリアのアサド政権の崩壊で戦闘を逃れて国外に避難していたシリア難民は、祖国への期待を抱き帰還を始めています。

隣国ヨルダンの国境近くにあるキャンプでは、難民として避難生活を送る100世帯が暮らしています。 避難した後に生まれ、祖国を知らずに育った子どもたちも多くいます。

シリア難民の女性
「(Q.シリアで子どもたちに見せたい場所は?)昔、住んでいた場所『ハサカ』です。内戦が始まった時に避難してきたから」

この家族はアサド政権の崩壊によってシリアに帰れるという希望を抱いたということです。

現在、シリアと行き来ができるヨルダンで唯一の検問所でも早速、家族のもとに帰る人たちの姿が見られました。
しかし、新しい政権が安定した運営を出来るのかなど、課題も残されたままです。【12月10日 テレ朝news】
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****アサド政権崩壊で多くのシリア難民が帰還****
アサド政権が崩壊した中東シリアの隣国トルコでは、内戦から逃れた多くの難民が国境にぞくぞくと押し寄せています。

記者
「長い間、難民としてトルコで生活してきた人たちが大きな荷物を持って、シリアとトルコの検問所に向かっていきます」

国境検問所には、2011年のシリア内戦が始まって以降、トルコに逃れてきた難民がアサド政権の崩壊を受けて母国に帰還しようと押し寄せています。

「故郷に帰りたい。家を造りたい」
「シリアは自由だ。私たちはこれから国をつくるんだ」

ただ、今回の反体制派勢力の電撃的な攻勢では、異なるいくつものグループが「打倒アサド政権」で一致することはできたものの、全く別の主義主張にたつ勢力も多くあり、新たな政権づくりに向けて、これからが正念場となりそうです。【12月10日 TBS NEWS DIG】
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【欧州 シリア情勢は混沌としており、新たな大量難民発生を懸念】
難民受入国にとって難民の存在は重荷にもなっていましたので、その帰還は歓迎すべき事態でしょう。

数百万人と言われる最大のシリア難民を抱えるのがトルコですが、国境検問所の開放を決定して難民帰還を促しています。

****トルコ、シリア難民の帰還に向け国境検問所開放へ****
トルコのエルドアン大統領は9日、シリアと接するヤイラダギ国境検問所を開放することを明らかにした。シリアのアサド政権崩壊を受け、現在受け入れている数百万人のシリア難民の安全かつ自主的な帰還に対応する。

エルドアン大統領はアンカラでの閣議後、国境付近での戦闘を背景に2013年以降閉鎖されていたヤイラダギ国境検問所を「渋滞防止と交通緩和のために開放する」と表明。難民の帰還については「受け入れ国としてふさわしい方法で自主的帰還の手続きを管理する」と述べた。【12月10日 ロイター】
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欧州も大量のシリア難民で各国の政治が揺らぎ、反移民勢力の台頭を惹起し、そのうねりは今も続いていますので、基本的に難民の帰還は関歓迎すべき事でしょう。

しかしシリアの今後は不透明で、状況が悪化すれば、再び難民が逆流するとの懸念も。

****アサド政権崩壊で欧州に新たな移民危機の恐れ-ラミー英外相が警鐘****
英国のラミー外相は9日、シリアのアサド政権崩壊により、欧州全般に新たな移民危機が発生する恐れがあるとの警戒感を示した。英国はシリア難民申請に関する決定を留保した。
  
ラミー外相は英下院でアサド政権の崩壊について、「危険と機会が同時に訪れる瞬間だ」と指摘。アサド大統領を追放した反体制派の武装組織「シリア解放機構(HTS)」に関して英政府は「慎重な姿勢を維持している」と付け加えた。

HTSは英国では依然として非合法のテロ組織とされており、HTSや紛争に関わる他の勢力が支配地域で民間人をどう扱うかを英政府は厳しく注視していくと外相は述べた。
  
外相は「多くの人々がシリアに戻り始めていることは、アサド大統領が退陣した今、より良い未来を望む彼らにとって明るい兆しではある。

だが、今後の展開は多くのことに左右される」とし、「シリアへのこうした流れが、すぐに逆回転し、危険で違法な移民ルートを使って欧州大陸や英国を目指す人々の数を増やす恐れもある」と付け加えた。
  
英国への移民流入が過去2年間に記録的な数に達したことを示す統計を受け、スターマー首相は移民流入抑制の取り組みを強化している。英内務省は、現状を評価する間、シリアからの難民申請を一時保留すると発表した。
  
2015年の欧州における移民危機は、アサド政権による残虐な弾圧から逃れるためにシリア市民数十万人が国外に避難したことが一因だった。【12月10日 Bloomberg】
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2015年の欧州における移民危機への思いから、シリア情勢に警戒感を抱いているのはイギリスだけでなく欧州各国に共通しており、欧州各国は状況が混沌としている今は難民受入れを一時停止する措置をとっています。

****シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ 2015年の流入危機で警戒****
2015年の欧州における移民危機シリアのアサド政権崩壊を受けて9日、ドイツやフランス、英国など欧州約10カ国がシリア人の難民申請受け入れや審査を一時停止する方針を発表した。

「シリアの状況が流動的で審査が困難になった」のが主な理由だとしている。2015年、シリア内戦による難民流入で欧州が大混乱に陥った「教訓」が背景にある。

申請受け入れ停止は、ドイツが最初に決定した。政府は声明で、難民申請者の審査も延期し、「状況が安定すれば、再開する」と表明した。

現状ではシリアから難民が流出するのか、あるいはドイツ在住シリア人の帰還が進むのかの予測ができないとしている。

ドイツでは11月までに、シリア人の難民申請が約7万5千件にのぼった。国別では最多で、申請全体の3割を占める。

来春予定の総選挙では、移民問題が争点のひとつになっており、保守系の最大野党「キリスト教民主同盟」(CDU)からは、シリアへの帰国希望者に1千ユーロ(約16万円)を支給し、出国を後押しするべきだという主張も出た。

フランスではルタイヨー内相が「シリア人の難民申請受け入れの停止に取り組んでいる。数時間で決める」と発言。

イタリアやベルギー、ギリシャ、スウェーデンなど北欧諸国も続いた。

オーストリアではカルナー内相が公共放送ORFで、難民申請の受け入れに加え、定住した難民の家族呼び寄せも停止すると述べた。さらに、「シリア人の秩序ある帰国や送還」に向けて準備を進めると表明した。

一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は9日の声明で、難民の安全で自発的帰還には「忍耐と警戒」が必要だとして、各国の性急な動きを牽制した。

欧州には15年のシリア難民危機で、100万人以上が流入。寛容な受け入れ政策が不法移民を増加させ、イスラム過激派の侵入も招いたという不満が広がった。現在は、各国で移民排斥を訴える右派政党が支持を伸ばしている。【12月10日 産経】
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“(シリア難民の)出国を後押しするべき”・・・難民自身の自主的な判断ではなく、難民を追い出したいような風潮に繋がらないか心配もあります。

【疲弊したシリア経済 帰還した難民の生活が成り立つのか?】
帰還を喜ぶ難民が多い中で、実際に帰還して生活が成り立つのかどうかの不安も。

****アサド政権崩壊で中東のパワーバランス激変か シリア難民480万人の進路は?****
(中略)
■9割が貧困ライン以下で生活 帰還阻む国内経済
内戦で大量の難民が発生
シリアでは2011年の内戦勃発以来、多くの人々が難民として国外で不安定な生活を続けている。
 
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によると、先月時点でおよそ480万人がシリアから国外へ避難していて、トルコは最多のおよそ294万人を受け入れ。また、ドイツの国際放送局ドイチェ・ヴェレによると、ドイツも7月時点で90万人以上を受け入れたという。

こうしたシリア難民は、アサド政権崩壊でどうなるのか?
HTSのリーダー・ジャウラニ氏はCNNのインタビューで、アサド政権から解放した地域に難民・避難民を帰還させる考えを示した。しかし、難民の帰還は簡単には進まない可能性もある。

難民の帰還は進むのか
世界銀行によると、シリアのGDP(国内総生産)は2011年にはおよそ675億米ドル、現在のレートでおよそ10兆円だったが、2021年にはおよそ89億米ドル、およそ1.3兆円に。10年で7分の1以下になった。

また、WFP(国連世界食糧計画)によると、シリア国民の9割が一日あたり2.15米ドル(およそ320円)の貧困ライン以下で生活していて、人口の4分の3にあたる1670万人が人道支援を必要としているという。

さらに、シリアの失業率は2023年時点の推定で13.54%。15歳から24歳の若者に限れば33.5%にも上る。

大規模な難民帰還の実現可能性は?
アメリカメディア・GZEROは、大規模な難民帰還の実現可能性について「シリア経済の安定、将来の政府の形、復興努力にかかっている。HTSが主導する政権は、帰還を望む難民にとって魅力的ではないかもしれない」と伝えている。(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年12月10日放送分より)【12月10日 テレ朝news】
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新たな統治体制がどのようなものになるのか、実際に帰還して生活が成り立つのか・・・今はその行方を見守るしかありません。
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シリア  アサド政権のあっけない崩壊 各勢力・関係国の思惑が交差 内戦第2幕への幕が上がった?

2024-12-09 23:44:55 | 中東情勢

(8日、シリアの首都ダマスカスで、アサド政権の崩壊を祝う人たち【12月9日 共同)】

【アサド政権の圧政から解放され喜びの声をあげる市民 報復を恐れて身をひそめる市民も】

“こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも”とは書いたのですが、ブログアップして数時間後には反体制派がダマスカスに入り、アサド政権は崩壊・・・ブログ更新が追いつかない、想定外に早い展開でした。

アフガニスタンでもそうですが、空洞化した政権はあっという間に崩壊するようです。

シリア情勢について一言で言えば、アサド政権は崩壊したけど、シリアの内戦・混乱が終わった訳ではなく、これから第2幕が開く危険もある・・・といったところでしょうか。

シリアの内戦・・・アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに起きた内戦・・・トルコの海辺に打ち上げられ、うつ伏せに横たわる男児の写真が世界の注目を集め、多くの難民が流出し、欧州世界を揺るがすことに。その影響は移民・難民の受入れに反対する勢力を勢いづかせる形で今も続いています。

これからのシリアを考えるためには、これまでのシリアの総括が必要ですが、ロシアが公式に亡命受入れを認めたアサド大統領については簡単に。(詳しくやっていると、それだけで終わってしまうので)

****シリアのアサド政権、自国民ないがしろにし一族は麻薬密輸で利益追求…父子2代の恐怖政治終焉****
シリアのアサド政権は、父子2代で50年超の恐怖政治によって国内を支配した。敵対勢力は暴力で徹底的に抑え込み、一族の利益を追い求めた。

バッシャール・アサド氏(59)の父ハフェズ氏は1970年、クーデターで実権を握った。イスラム教スンニ派が大多数の国内で、約10%を占めるイスラム教アラウィ派出身だったハフェズ氏は、権力の中枢を同じ宗派で固める一方、諜報ちょうほう機関による国民監視で強固な統治体制を築いた。82年に中部ハマで反体制派のイスラム主義者数万人を虐殺した。

その後を継いだのが次男バッシャール氏だ。元々は眼科医。94年に後継者と目されてきた兄の交通事故死で、留学先の英国から呼び戻された。父の死去を受け、国民投票で97%の信任を得て2000年7月、大統領に就任した。

当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手し、国民の間で改革への期待感も膨らんだが、与党バース党による事実上の一党独裁体制を守り、形だけの選挙を通じて強権支配を維持した。

11年に民主化運動「アラブの春」で反体制デモが始まると、参加者らを徹底弾圧し、内戦を招いた。大量殺害、拷問、処刑に加え、化学兵器を使った自国民の攻撃もいとわなかった。内戦による死者は50万人を超え、2200万人だった人口の約6割は国内外で避難生活を強いられてきた。

長引く内戦や制裁で経済危機が深刻化し、自国民の命はないがしろにしても、麻薬の密輸を取り仕切ることでアサド一族や取り巻きは潤っていたとも指摘される。自分たちの利益のみを追い求めた政権が、国民の信頼を失って終焉しゅうえんに追い込まれたのは必然だったといえる。【12月9日 読売】
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なぜ“当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手”というアサド氏が独裁体制へと移行したのか・・・ひと頃は「砂漠の薔薇」「中東のダイアナ」などと呼ばれたこともあるイギリス生まれ、ロンドン大卒の夫人の自由化に対する影響力への期待もありました・・・いろいろ知りたいことはありますが、先に進みます。

(今は)圧政と監視から解放された市民は歓喜の声をあげています。

****アサド政権崩壊のシリア 反体制派勢力を主導したリーダー「新たな歴史の1ページ」と勝利宣言****
アサド政権が崩壊した中東シリア情勢です。反体制派勢力を主導した組織のリーダーは「新たな歴史」だと述べ、勝利を宣言しました。

市民 「シリア万歳!アサドは倒れた!」
8日、「アサド政権崩壊」の一報が入り、喜びの声を上げる市民たち。
市民 「(アサド)政権が倒れるまでこの日を待ち続けてきました。そしてついに政権は倒れたのです」

陥落した首都ダマスカスでは、反体制派勢力を主導した「シリア解放機構」のリーダーが10年以上に及んだ内戦での勝利を宣言しました。

「シリア解放機構」 ジャウラニ指導者
「この勝利はイスラム世界にとって新たな歴史の1ページとなる。私たちはこの勝利によって13年間の苦しみから抜け出せるのだ」

アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに内戦に発展したシリア。そこから13年の間にアサド政権が反体制派側に化学兵器を使用したとの指摘やシリアを脱出した難民の船が転覆し、トルコの海岸に3歳の男の子の遺体が打ち上げられるなど、凄惨な出来事も繰り返されてきました。(中略)

ロシア外務省は声明で、(亡命した)アサド大統領は“平和的な手段で権力移譲を実行するよう指示した”と明らかにしました。

ただ、今回の攻勢を主導した「シリア解放機構」がテロ組織に指定されていることもあり、今後、政権移譲がスムーズに行われるかどうかは不透明です。【12月9日 TBS NEWS DIG】
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ただ、イスラム過激派とされる反体制派「シリア解放機構」(ハヤト・タハリール・シャム HTS)支配のもとで報復を恐れる人々も。

****シリア「自由」「心配」思い交錯 崩壊アサド政権の施設で略奪も****
「自由だ」「解放された」「将来が心配」。シリアのアサド政権が8日崩壊し、市民の間で喜びや不安が交錯した。異なる民族や宗教宗派が共存するシリア。各地で祝砲が鳴り響く一方、反体制派の弾圧を恐れて身を潜める人もいる。政権側施設では略奪も起きた。先行きは見通せない。

交流サイト(SNS)の投稿によると、首都ダマスカスの大統領府は反体制派が占拠し、政権側施設の略奪とされる映像が出回った。空港には多くの人が押し寄せた。刑務所から拘束されていた女性や子どもが救出され、首都に帰還する人々による大渋滞も起きた。

「強権的な政権が崩壊し、とてもうれしいが、同時に非常に恐れている。何が起きるか分からない状況だ」。首都中心部に住む銀行員ハーレド・タレブさん(50)が電話取材に対し、不安げな様子で語った。

今回の攻勢を主導するのは国際テロ組織アルカイダ系組織が前身の「シリア解放機構」。タレブさんは、イスラム主義組織タリバンが制圧した「アフガニスタンのような厳しいイスラム統治は望んでいない」と訴えた。【12月9日 共同】
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【首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とするHTS “キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”とのことだが・・・】
先ずは首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とする「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)がどういう統治を行うのか?というところです。アルカイダとは関係を断ったとは言っていますが・・・・アフガニスタンのタリバンのような存在になるのか?

****シリア内戦で大規模攻勢 反体制派を率いる組織「HTS」とは?****
シリア内戦で大規模攻勢を仕掛けている反体制派は、米国がテロ組織に指定している「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が主導している。

国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派「ヌスラ戦線」を前身とする組織だが、近年はアルカイダとの関係を絶ち、アサド政権打倒に集中してきたとされる。一体、どんな組織なのか。

「この政権(アサド政権)を打倒することが目標だ」。HTSを率いるジャウラニ指導者は5日、米CNNテレビのインタビューにこう強調した。

CNNや中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などによると、ジャウラニ氏はイラクでアルカイダ系の戦闘員として反米武装闘争に身を投じた経験があり、2011年にシリア内戦が始まってからは、ヌスラ戦線を設立して参戦した。

 だが、16年ごろにアルカイダとの関係を絶ち、17年には複数の武装組織を吸収する形でHTSを結成。拠点とするシリア北西部イドリブ県で「シリア救国政府」も設立し、支配地域での統治を強めた。

HTSは最大3万人規模の戦闘員を擁するとみられ、北西部の支配地域では石油などの資源も管理しており、一定の経済力もあるとされる。

HTSは米国や国連などがテロ組織に指定している。だが、ジャウラニ氏はCNNに「イスラム統治を恐れる人たちはきちんと理解していない」と語り、キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせると強調。

「他の集団を消す権利は誰にもない。多くの宗派がこの地域で何百年も共存してきた」と語った。政権打倒後は「国民に選ばれた議会」を設立する考えも明らかにした。
 
シリアでは長年、アサド政権による強権的な支配が続き、内戦が始まってからは各地で政府軍による激しい空爆も相次いだ。政治犯として収容された人たちの多くが厳しい拷問にかけられ、そのまま行方不明になった人も数多い。
 
それだけに、HTSが制圧した北部アレッポや中部ハマでは、アサド政権の支配からの解放を祝う市民の姿も報じられている。

ただ、シリアではクルド人組織を含む多様な反体制派が各地で勢力を維持しており、過激派組織「イスラム国」(IS)も今月、東部で一部地域を支配下に置いたとの報道もある。仮にアサド政権を打倒したとしても、反体制派がまとまるのは容易ではないとみられる。【12月8日 毎日】
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“キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”・・・今はその言葉を信じましょう。不安を抑えて。

【HTS以外にトルコ支援をうける組織、クルド人武装勢力、IS、更にトルコ、アメリカなど関係国の思惑が入り乱れる】
次に心配されるのは上記記事最後にあるように、各武装勢力間のせめぎあいが今後どうなるのか?という点です。

****シリア各地に割拠する反体制派 イスラム過激派、親トルコ、クルド人…政権崩壊で混乱必至****
アサド政権が崩壊したシリアは2011年に始まった内戦の結果、各地にさまざまな反体制派が複雑な形で割拠する事態となった。それぞれ利害が異なる上、イスラム過激派は離合集散を繰り返すなどしており、政権崩壊後の情勢が混乱するのは必至だ。

シリア北西部イドリブには、アサド政権側との戦闘を主導したイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)などが根を張る。HTSは内戦開始直後に活動を活発化させた「ヌスラ戦線」を前身とする。16年に忠誠を誓った国際テロ組織アルカーイダとの決別を宣言し、他組織と合併して改名した。米国などはテロ組織に指定している。

北部のトルコ国境に面する一帯は、トルコのエルドアン政権が肩入れする「シリア国民軍」(SNA)の支配地域だ。HTSとともに政権側への攻撃に加わった。エルドアン大統領はアサド政権の退陣を求め、反体制派を通じてシリアへの影響力浸透を図ってきた。

また、北東部は少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が支配している。エルドアン政権はトルコ国内の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)の分派だとして、過去にSDFに対する越境攻撃を行った。

さらに、東部の一部地域では小規模ながらイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が暗躍する。かつてシリアとイラクにまたがる広い範囲を制圧したが、米軍と連携したSDFなどの攻撃を受け、19年に支配地域を全て失った。東部にはISの勢力回復を警戒する米軍が兵士約900人を駐留させている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、クルド人勢力は北東部に施設を設けてIS戦闘員ら数万人を拘束している。過去にISがこれらの施設を襲撃したこともあり、仮に戦闘員らが大量脱走すれば治安の悪化がシリアにとどまらず、周辺地域に飛び火する恐れもある。【12月8日 産経】
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【アメリカと共闘し、トルコと対立するクルド人勢力の今後は? トランプ新政権に見捨てられた後は?】
HTSとともに政権側への攻撃に加わったトルコが支援する「シリア国民軍」(SNA)は、トルコの影響力でHTSと一定にうまくやるのかも。

しかしクルド人勢力や、ましてやISは、HTSと協調するのはなかなか難しいかも。
すでにトルコ支援の勢力とクルド人勢力の間で衝突が起きています。

****トルコ支援のシリア反体制派、北部の町を米支援組織から奪取****
トルコ治安筋によると、トルコが支援する複数のシリア反体制派組織がシリア北部の町マンビジュを米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」 から奪取した。

シリアでは反体制派が首都ダマスカスを掌握し、アサド大統領を追放したが、北部での衝突は続いている。

SDFは「シリア国民軍(SNA)」などトルコが支援する組織と激しい戦闘を繰り広げ、ここ数日マンビジュを占拠していた。

ロイターが確認した動画によると、マンビジュでは住民が反体制派組織を歓迎する様子が映っている。マンビジュはトルコとの国境の南30キロの地点に位置する。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS) の掃討で米国の支援を受けているが、トルコはSDFについて、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)とつながりのあるテロリスト集団が指揮していると主張している。

米国はSDFが制圧するシリア東部でプレゼンスを維持し、ISの復活を阻むために必要な措置を講じる意向を示している。

これとは別にオースティン米国防長官は、米軍がここ数日、シリアを攻撃したことについて、ISが混乱に乗じて活動を拡大することを阻止する狙いがあると説明した。【12月9日 ロイター】
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各勢力のせめぎあいには、バックにいる関係国の支援のあり方も問題になります。

トルコ・エルドアン大統領はこの機に、影響下の「シリア国民軍(SNA)」を使って、クルド人勢力を叩きたいという考えでしょう。

クルド人勢力にはIS掃討で共闘しているアメリカの支援があります。

****米、シリア情勢安定へ支援 政権移行巡り反体制派注視****
バイデン米大統領は8日、シリアのアサド政権崩壊について「長期にわたり抑圧されてきた人々にとって歴史的なチャンスだ」と述べ、情勢安定化に向けて支援する考えを示した。首都ダマスカスを掌握した反体制派の一部が「残忍なテロの記録」を有しているとし、政権移行を巡る動向を注視すると強調した。ホワイトハウスで記者団に語った。
 
バイデン氏は、米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針を表明。内戦で荒廃したシリアの復興のため人道支援を実施する意向も示し、数日以内に中東地域の首脳らと協議すると説明した。【12月9日 共同】
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“米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針”・・・・ということはクルド人勢力との共闘も続く、つまりトルコと利害がぶつかるということになります。

ただし、来年になれば状況は変わります。

****米国はシリアに関与すべきでない トランプ氏が投稿****
トランプ次期米大統領は7日、自身の交流サイト(SNS)で、アサド政権軍が反体制派の攻勢を受けているシリア情勢を巡り「米国は関与すべきではない。私たちの戦いではない」と主張した。(後略)【12月8日 共同】
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トランプ政権になればクルド人勢力はアメリカの後ろ盾を失い、トルコに売られるでしょう。そのときクルド人勢力がどうするのか?

アサド政権の枠組みもなくなった今は悲願の国家樹立の機会です。クルド人は国家を持たない最大の民族として、シリア、トルコ、イラク、イランに分散して暮らしてきました。

心情的には分離独立でしょうが、それは国内(シリアが国家と言える状態かどうかはわかりませんが)の反発・攻撃だけでなく、関係国トルコ。イラク、イラン全ての反発・介入を招くでしょう。

2017年にイラクのクルド人自治政府は独立を問う住民投票を行ったことで、イラク中央政府の軍事的攻撃を受け、それまでの支配地域も失うことになりました。

【ロシア・イラン・イスラエルの思惑 超簡単に】
関係国としては軍事基地を持つロシア、イランからイラクをへてレバノンに至る「シーア派の弧」を有していたイラン、そのイランと敵対するイスラエルの話がありますが、もうこれ以上記事が長くなるのは無理ですね。また別機会に。

ひとことで言えば、ロシアにとってシリアの軍事基地は中東、地中海、アフリカへの展開の要であり、絶対に手放したくないところ。一応反体制派と存続で合意したとの情報もありますが、今後は「どうかな?」といったところ。

イランは「シーア派の弧」の一画を失い、レバノン・ヒズボラも叩かれ、その再建が問題。すでに反体制派と接触しているとの情報も。

イスラエルは「残存する(アサド政権が有していた)化学兵器や長距離ミサイル、ロケット弾のような戦略兵器が過激派の手に渡らないようにするためという目的でシリアへの激しい空爆を行っています。また、イスラエルが占領するゴラン高原とシリア国境の非武装地帯に地上部隊を派遣したとのこと。

いろんな勢力・関係国の思惑が交差して、シリア内戦第2幕の危険をはらんだ状況です。

あと、シリア難民の帰還の問題もあります。
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シリア  “死に体”との表現、出国勧告の話もでる崩壊目前のアサド政権 新たな力関係は?

2024-12-07 23:04:08 | 中東情勢

(【12月6日 日経】)

【中部要衝ホムスに迫る反体制派HTS 東部ではクルド人勢力、南部でも地元武装勢力の攻勢も 更にISも】
シリア情勢に関する11月30日ブログで反体制派(HTS)がアレッポを制圧したことについて、“「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)にシリア全土に戦線を拡大する力があるとは思えませんが、北部拠点都市アレッポを失うというのはアサド政権にとっては大きな痛手でしょう。”と書きましたが大間違いでした。

反体制派はあっというまに中部ハマを制圧し、更に中部ホムスへと迫っています。

ウクライナとの戦いで手一杯のロシア、イスラエルとの戦闘で大打撃を受けているヒズボラ、ヒズボラ支援やイスラエルとの対峙で身動きが取れないイラン・・・とこれまでアサド政権を支えてきた各勢力が動けない「力の空白」を狙った反体制派の読みは見事に当たったようです。

というか、政府軍の空洞化、士気の低下が露呈しており、アフガニスタンでタリバンの攻勢に有効な反撃を行えず崩壊した政府軍の再現を見る感もあります。

この間、反体制派に対するロシアの空爆などは行われてはいますが、政府軍は反体制派の勢いを止められていません。

反体制派はホムスから首都ダマスカスをうかがう「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)の他に、東部デリゾールは少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が制圧。東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もあります。

更に、南部ダルアーも地元武装勢力が支配下に・・・と、シリア全土で各組織が政府軍を追いやって勢力を拡大しており、アサド政権は首都ダマスカス防衛に追い込まれています。

****シリア内戦激化 37万人避難、死傷者は数百人 反体制派が攻勢****
内戦が再び激化しているシリアで6〜7日、各地の反体制派勢力が東部デリゾールや南部ダルアーを制圧した。ロイター通信などが報じた。シリアでは11月下旬以降、反体制諸派の攻勢が強まり、情勢は一気に不安定さを増している。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は6日、戦闘激化で少なくとも37万人が避難したと発表した。民間人にも数百人規模の死傷者が出ている模様だという。

ロイターなどによると、デリゾールでは6日、米国が支援するクルド人主体の反体制派組織「シリア民主軍」(SDF)が市内へ進攻。政府軍やアサド政権を支援する親イラン武装組織はほとんど交戦せずに撤退し、SDFが支配下に置いた。

SDFは、デリゾールから南東約120キロにあるイラクとの国境検問所も制圧したという。
イラクには、アサド政権を支えるイランの影響下にある武装組織が存在し、一部はシリア政府軍を支援するため越境している。SDFによる検問所の制圧で、こうした組織の増援に影響が及ぶ可能性もある。

また、シリアの別の反体制派組織は7日、南部ダルアーを制圧したと表明した。政府軍は首都ダマスカスへの安全な撤退を条件に、ダルアーを明け渡したという。この反体制派は6日にはダルアー近郊の政府軍基地やヨルダンとの国境検問所の一部を占領していた。

一方、米国がテロ組織に指定する「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を主体とする反体制派は勢いづいている。シリア第2の都市・北部アレッポや中部ハマの制圧に続き、6日にはハマの南方約40キロに位置する第3の都市・中部ホムスへと迫った。ホムスでは5日夜から多くの住民が避難を始め、治安部隊の拠点は放棄されたとの報道もある。政府軍はこうした情報を否定している。

ホムスは主要各都市へ通じる交通路の要衝だ。反体制派が制圧すれば、首都を目指す攻勢が始まる可能性もある。その場合、近年はイランやロシアの軍事支援で確保されていたアサド政権の軍事的優位が大きく揺らぐことになる。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避させたという。

親イランの民兵組織をダマスカスに集結させているとの情報もあり、首都での攻防激化を見据えている可能性がある。【12月7日 毎日】
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クルド人勢力が制圧した東部デリゾールは油田地帯。

地元武装勢力が押さえた南部ダルアーは“「アラブの春」と呼ばれる民主化要求運動が中東で拡大した2011年、シリアで反体制デモが広がる震源地になったことで知られる。アサド政権側は当時、全土に拡大したデモを徹底的に弾圧して内戦に発展した。”【12月7日 産経】という因縁の地

「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)が進撃する中部ホムスは“国内交通の十字路に当たり、反体制派が制圧すれば南部ダルアーとの間にある首都ダマスカスを挟み撃ちにし、孤立を図ることも可能になる。また、ロシア軍の駐留基地などがある西部と首都の往来が遮断される恐れがある。”【同上】

いずれも、政権にとっては重要な地域ですが、次々と落ちています。
“東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もある。【同上】とIS復活の動きも。

【首都陥落も目前 関係国はダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動き】
“親イランの民兵組織をダマスカスに集結させている”とのことですが、“ほとんど交戦せずに撤退”“治安部隊の拠点は放棄”“イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避”・・・こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも。

関係国もダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動きを見せています。

****シリア首都陥落の可能性=イスラエルが米に懸念伝達―報道****
米ニュースサイト「アクシオス」は5日、反体制派が攻勢を強めているシリア情勢を巡り、イスラエル政府高官が、アサド政権軍が崩壊し首都ダマスカスが陥落することもあり得るとの見方を示したと報じた。

反体制派は既にほぼ掌握した北部アレッポに続き、5日には中部の要衝ハマ制圧を宣言した。アクシオスによれば、米当局者もアサド政権軍の防御線が急速に崩壊していると指摘。「政権にとって過去10年間で最大の試練」と見なしていると語った。

米当局者によると、イスラエル側は米国に対し、イスラム過激派勢力がシリアで権力を掌握することへの懸念を伝達。混乱に乗じてイランがシリアに兵士を追加派遣し、同国での影響力を強める事態も危惧しているという。12月6日 時事】 
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****トルコ大統領、国連総長と電話会談 「シリア紛争は新段階に」****
トルコのエルドアン大統領は5日、国連のグテレス事務総長と電話会談し、シリア紛争が「冷静に管理される」新たな段階に入ったとの見解を伝えた。トルコ大統領府が明らかにした。

シリア反政府勢力は5日、中部の要衝ハマを制圧し、同国のアサド政権およびその同盟国であるロシアとイランに新たな打撃を与えた。

エルドアン氏はグテレス氏に対し、シリア政府は政治的解決を達成するために、国民との対話を迅速に行う必要があると指摘。トルコは緊張緩和と民間人保護、政治的解決の下地を整えることに取り組んでいると語った。【12月6日 ロイター】
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もはや「死に体」との表現も出始めたアサド政権ですが、亡命の話も。

****シリア大統領に出国勧告か=中東諸国、支援に消極的―米紙****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は6日、エジプトやヨルダンの当局者が内戦下のシリアで反体制派の大規模攻勢にさらされているアサド大統領に対し、出国して亡命政府を樹立するよう勧告していたと報じた。シリア治安当局者らの話として伝えた。アサド氏の反応は伝えられていない。

同紙によると、アサド氏は、反体制派との関係が深いトルコに攻勢を止めるための働き掛けを要請。エジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクには情報提供や武器供与を求めたが、いずれも拒否されたという。

アサド氏との関係が冷え込んでいるトルコのエルドアン大統領は6日、「アサド氏にはシリアの将来を話し合うため訪問を求めてきたが、前向きな回答が得られなかった」と指摘。反体制派の進攻については「問題なく続くことを願う」と述べ、容認する姿勢を示した。【12月7日 時事】 
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【かつてはアルカイダ系ヌスラ戦線とも呼ばれたHTS、クルド人勢力・・・・新たな力関係は?】
ここまで反体制派の攻勢が急激に進行している最大の理由は冒頭でも触れたロシア・イラン・ヒズボラがシリアに注力できない状況にあることですが、それ以外の要因を指摘する向きも。

****「米制裁がアサド政権崩壊の要因」 シリア人権監視団代表***
内戦が続くシリアで反体制派の武装勢力が攻勢を強める中、シリア人権監視団の代表がANNの取材に応じ、「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の要因となった」と明かしました。

「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」(シリア人権監視団ラミ・アブドルラフマン代表、以下同)

イギリスに拠点を置く反体制派NGOシリア人権監視団は、武装勢力の兵士たちが9月から訓練を受け、準備を進めてきたと明かしました。「アサド政権は事実上崩壊した」とし、要因として軍事支援を受けてきたヒズボラの弱体化のほかに次の点を指摘します。

「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の主な要因だ」「経済面では国家は崩壊し、電気が通っていないなどインフラも整っていない。なのに、政権内にはヨーロッパの富裕層よりも金を持つ腐敗した人々がいて政権の弱体化につながっている」

反体制派の勢力はアサド政権が支配していた要衝を次々と制圧していて、シリア第3の都市ホムスにも迫っています。

アブドルラフマン代表は、政府軍がすでにホムスの街の外まで退避しているとしたうえで将校らに戦闘の意欲はなく、軍の中でクーデターが起きる可能性があるとしています。【12月7日ABEMA Times】
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アメリカの制裁というよりは、アサド政権内部の問題のようにも。

反撃作戦の実行時期については、「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」とありますが、その背景については以下のようにも。パレスチナやレバノンの情勢と密接に関係していたようです。

****シリア反体制派のアレッポ制圧作戦、レバノン停戦を待って開始=幹部****
シリアの反体制派統一組織「シリア国民連合」のハディ・バフラ議長は2日、反体制派によるシリア北部の要衝アレッポ制圧に向けた軍事作戦について、レバノンにおける親イラン民兵組織ヒズボラとイスラエルの停戦を待って開始したと明かした。 

反体制派軍司令官らも、もっと早く作戦を始めていれば、ヒズボラと戦闘中だったイスラエルの味方をしていると見なされるのを懸念していたと語った。

 バフラ氏は、反体制派は1年前から作戦準備に入っていたと説明。「しかしパレスチナ自治区ガザとレバノンでの戦闘(発生)で作戦が先送りされた。レバノンで戦いが続いている時期にシリアで戦うのは得策ではないと考えた。その後レバノンで停戦が実現し、作戦開始のチャンスと受け止めた」と述べた。

 実際、反体制派が作戦を始めたのは、まさにヒズボラとイスラエルが停戦に合意した11月27日だった。 

一方でバフラ氏は、いざ作戦に乗り出すと、アサド政権を支援するヒズボラやその他の親イラン勢力がイスラエルへの対応にかかりきりだったこともあり、すぐに反体制派側がアレッポやその他の地域を掌握できたと指摘した。【12月3日 ロイター】
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こうした流れでいくと、おそらく首都ダマスカスを落とすのは「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シリア解放機構」)でしょう。

同組織はかつてヌスラ戦線とよばれていたアルカイダ系イスラム過激派の流れをくむ組織です。
アルカイダとは関係を断ったと主張はしていますが、ロシア・イランに支援されたアサド政権に変わってイスラム過激派がシリアで主要な勢力を持つという事態にも。

国際社会にとっては新たな問題です。

****シリア反体制派「アサド政権は“死に体” 難民帰還を」 CNN取材****
シリアで攻勢を強めている反体制派のリーダーがCNNテレビの独占インタビューに応じ、今の独裁的な政権を倒して難民らを帰還させると訴えました。

シャーム解放機構 ジャウラニ氏
「最も大事なことは制度を作ることだ。個人の気まぐれで統治されるのではなく、制度だった統治を我々は求めている」

インタビューに応じたシリア反体制派「シャーム解放機構」の指導者、ジャウラニ氏は、アサド政権について「すでに死に体だ」と述べる一方、依然、政権側との戦いは楽観していない姿勢を示しました。

また反体制派が過去に「イスラム国」や「アルカイダ」など過激派組織と関係していた点については、「いまはシリア再建だけが目的」とし、政権の支配から解放した地域には、国内外の難民を帰還させる考えを示しました。

「シャーム解放機構」は北部のシリア第2の都市アレッポや中部のハマなど主要都市を制圧し、アサド政権への攻勢を強めています。【12月7日 テレ朝news】
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「いまはシリア再建だけが目的」・・・・どういう統治を考えているのでしょうか。

他の勢力、特にアメリカの支援を受けるクルド人勢力との関係はどうなるのでしょうか?
クルド人勢力にすれば、この機に分離独立して「クルド人国家」建設・・・という思いはないのでしょうか?

これまで、北東部の空軍基地などには露軍が駐留し、北部国境沿いはトルコが支配。東部には小規模ながら米軍も駐留する。HTSが支配する北西部に加え、北東部一帯は民兵組織を持つ少数民族クルド人の勢力下にある。・・・・という複雑な力関係にあったシリアですが、アサド政権が崩壊した場合、新たな力関係を模索して新たな対立・戦闘の懸念も。

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シリア  戦闘再燃 アルカイダ系イスラム過激派の反体制派がアレッポ制圧 絶好の反撃の好機

2024-11-30 23:14:21 | 中東情勢

(30日、シリア北部の要衝アレッポ中心部に進出した反体制派勢力の戦闘員ら【11月30日 時事】 戦勝気分ですね)

【反体制派は北部イドリブに封じ込まれ、国土の大半をアサド政権が抑える形で、ほぼ「アサド政権勝利」の状況だったシリア情勢】
以前はシリア内戦の様子が連日報じられていました。

単にアサド政権の政府軍と反体制派の争いというだけでなく、ISなどイスラム過激派、北部のクルド人勢力、更にこれらの勢力を支援する外国・・・アサド政権を支援するイラン及びヒズボラ、そしてロシア、反体制派を支援しつつクルド人勢力に敵対するトルコ、IS掃討でクルド人勢力と共闘するアメリカ、イラン及びヒズボラに敵対するイスラエル、アラブ湾岸諸国・・・等々が絡みあって複数の軸を持った戦いが2011年から続きました。

****シリア内戦****
シリアで起きたアラブの春から続く、シリア政府軍とシリアの反体制派及び外国勢力を含むそれらの同盟組織などによる多面的な内戦である。この内戦は2011年から現在まで続いており、1960年以降の世界史において最も難民が発生した戦争と言われている

概要
シリアにおける内戦は、2011年にチュニジアで起きたジャスミン革命の影響によってアラブ諸国に波及したアラブの春のうちの一つであり、シリアの歴史上「未曾有」のものといわれている。

チュニジアのジャスミン革命とエジプトの民主化革命のように、初期はデモ行進やハンガーストライキを含む様々なタイプの抗議の形態をとった市民抵抗の持続的運動とも言われた。

初期の戦闘はバッシャール・アル=アサド政権派のシリア軍と反政権派勢力の民兵との衝突が主たるものであったが、サラフィー・ジハード主義勢力のアル=ヌスラ戦線とシリア北部のクルド人勢力の間での衝突も生じている。

その後は反政権派勢力間での戦闘、さらに混乱に乗じて過激派組織ISILやアル=ヌスラ戦線、またクルド民主統一党 (PYD) をはじめとしたシリア北部のクルド人勢力ロジャヴァが参戦したほか、アサド政権の打倒およびISIL掃討のためにアメリカ合衆国やフランスをはじめとした多国籍軍、逆にアサド政権を支援するロシアやイランもシリア領内に空爆などの軍事介入を行っており、内戦は泥沼化している。

また、トルコやサウジアラビア、カタールもアサド政権打倒や自国の安全・権益確保のために反政府武装勢力への資金援助、武器付与等の軍事支援を行った。

アサド政権の支配地域は一時、国土の3割程度(但し、依然として支配地域に西部の人口集中地域が含まれていた)に縮小したが、ロシアやイランの支援を得たことに加え、反政権諸勢力の中でISILやクルド系武装勢力が台頭する中で、反政権諸勢力間での戦闘も激化した事に伴い「アサド政権打倒」を掲げていた欧米がISILとの戦闘を優先する方向に舵を切った事や、クルド系武装勢力とはISILやアルカイダなど対イスラム過激派系反政権勢力打倒を優先する双方の戦略上ある程度の協調関係を構築するなど、情勢の変化も追い風となり、反政権諸勢力のうちISILが外国や他の非政権軍の攻撃対象になって壊滅したことで勢力を回復。2019年春~2020年夏時点でシリア領土の7割前後を奪還した。【ウィキペディア】
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戦闘はイラン・ヒズボラ及び空爆担当のロシアの支援を受けた政府軍が勢力を強め、2016年12月にはシリア第2の都市で商業の中都市アレッポを制圧。

2020年には政府軍を支援するロシアと反政府勢力を支援するトルコの間で停戦が合意されました。

それ以降は、基本的にはイスラム過激派を中心とする反体制派は北部イドリブに封じ込まれ、国土の大半をアサド政権が抑える形で、ほぼ「アサド政権勝利」の状況でした。

【反体制派がアレッポ制圧 ロシア・ヒズボラ・イランに政権支援の余力がない今は反撃の絶好の好機】
最近シリアが話題になるのは、シリア国内でイランの支援を受けるヒズボラなどに対しイスラエルが攻撃をくわえるといったものでした。
“シリア中部を空爆=「武器密輸経路」が標的―イスラエル軍”【11月14日 時事】
“イスラエル、シリア中部の古代都市攻撃 36人死亡=国営メディア”【11月21日 ロイター】

それが急変。
政府軍とイドリブに封じ込まれていた反体制派の間で戦闘が再燃しています。

****シリア反体制派、政府軍に大規模攻撃 2020年以来の衝突再燃****
シリア反体制派が同国西部アレッポで、政府軍に対する大規模攻撃を行った。自由シリア軍の関係者や地元住民が明らかにした。大規模衝突の再燃は2020年以来だった。

反体制派は27日、テレグラムを通じて「侵攻の抑止」と位置付ける攻撃を発表。シリアのアサド政権による砲撃に対抗したと主張した。(後略)【11月28日 CNN】
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****シリア第2の都市を砲撃=反体制派攻勢、240人超死亡****
(中略)反体制派は、アサド政権とロシアがイドリブ県内へ攻撃を強化していることに反発。政権が支配するアレッポ周辺の集落を多数制圧した。現在、反体制派はアレッポの数キロ郊外まで迫っているという。【11月29日 時事】
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どっちが先に仕掛けたのか・・・定かではありませんが、上記のような報道においては、まず政府愚のイドリブへの攻撃があって、それに反撃して反体制派がアレッポに攻撃を仕掛けた・・・という説明が多いようです。反体制派サイドの説明ですが。

いずれにしても反体制派にとっては反撃の絶好の好機。
政府軍を支えていたロシアはウクライナで手一杯、ヒズボラは壊滅一歩手前状態、イランもイスラエルとの対立及びヒズボラ支援で手一杯・・・と、どこもシリア・アサド政権支援どころではない状態、

そんな状態のアサド政権政府軍であれば反体制派に充分な勝機が・・・という千載一遇の反撃チャンス

2016年にあれだけ激戦が繰り広げられたアレッポの大半を、あっさりと反体制派が制圧したようです。

****シリア反体制派、北部要衝の大半掌握か=アサド政権軍と攻防激化****
在英のシリア人権監視団は30日、内戦下のシリアでアサド政権と対立する反体制派勢力が北部の要衝アレッポへ進攻し、市内の大部分を掌握したと明らかにした。

政権軍は30日、「防衛線強化のための部隊再配置」を発表。政権側兵士が多数死亡し、反体制派がアレッポの広範囲に進入したことを認めた。
 
人口約200万人を擁する商業の中心地アレッポは、シリア第2の都市。2011年から続く内戦の勃発後、反体制派が一時支配したが、16年12月に激戦の末にアサド政権が制圧した。反体制派がアレッポを占拠すれば、8年ぶりとなる。攻防激化により、シリアの周辺国を巻き込む形で中東の混乱が一段と拡大する恐れがある。
 
反体制派はアレッポに隣接する北西部イドリブ県を拠点とする。イドリブ県では20年にアサド政権を支えるロシアと、反体制派を支援していたトルコが停戦で合意。

ただ、最近は政権側が攻撃を強化しており、反体制派も27日に逆攻勢を開始した。今回の攻撃は停戦発効後で最大規模という。
 
ロイター通信によると、政権軍とロシア軍は30日にアレッポ郊外で反体制派に空爆を加えたが、劣勢とみられる。人権監視団は「アレッポはもはや政権の支配下にはない」と伝えた。

一連の衝突で民間人を含む310人以上が死亡したとしている。 【11月30日 時事】
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反体制派と言ってもいろんな勢力がありますが、“ロイター通信などによると、今回の攻撃は国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が主導している。”【11月30日 毎日】とのこと。

ハヤト・タハリール・シャム・・・以前は「ヌスラ戦線」と呼ばれていたアルカイダ系イスラム過激派で、2019年にイドリブ県を完全制圧したと見られています。

「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)にシリア全土に戦線を拡大する力があるとは思えませんが、北部拠点都市アレッポを失うというのはアサド政権にとっては大きな痛手でしょう。

ロシアはそれなりに空爆支援はまだ行っているようですが、ヒズボラ、更にはイランはシリアに介入する余力はないでしょう。

イスラエルと停戦合意したヒズボラがどんな状況かはシリアにもかかわることですが、シリア情勢とはまた論点が異なってきますので別機会に。
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