孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  共産党結党100周年の節目にあたり、毛沢東・文革への回帰を強める習近平主席

2021-04-30 23:11:48 | 中国

(「奇襲白虎団」の中朝両軍団結勝利のシーン【4月13日 Foresight】 「四人組」筆頭の江青が手がけた文革時代を代表する作品のひとつですが、習近平政権下で「重点推奨作品」に)

 

【紅い史跡」巡り人気 文革を煽った革命現代京劇が「重点推奨作品」に】

今年7月で中国共産党は結党100周年の節目を迎えます。

 

そういう時期にありがちな流れですが、結党当時の精神に立ち帰るという発想が、毛沢東とも並ぶ「一元的支配」を確立した習近平国家主席のもとで、政治だけでなく文化面でも色濃く出ています。

 

****中国で「紅い史跡」巡り人気、結党100周年控え****

中国の習近平国家主席は、共産党の歴史を「再発見」するよう求めている。そして聖地であるここ江西省・井岡山市では、「巡礼者」がその呼びかけに応じている。

 

丘の上に位置する人口約20万人のこの町は「紅軍」誕生の地であり、「 中国革命発祥の地」として知られる。共産党結党100周年の節目を7月に控え、信奉者にとってはほぼ宗教的な重要性を持つ史跡の1つだ。

 

「中国全土から人々が井岡山を訪れ、ここを人生における神聖な地であり、精神的な安らぎの場だと考えている」。中国政府が手配した外国人記者団向けの現地訪問ツアーで隼学軍市長はこう説明した。

 

共産党はここ数十年、資本主義への傾倒を強める中国の姿勢とますますかい離しているかに思われた。だが、習氏は実権を握った2012年以降、党を再び人々の生活の中心に据えるとともに、「中国人の復興」や「社会主義の核心的価値観」といったスローガンを全土に定着させることを狙っている。

 

1921年7月の結党から100年に当たる今年は、習氏にとってこうした価値観を国民に再確認させるまたとない好機だ。そして井岡山や貴州省・遵義といった共産党ゆかりの地は、こうした目的に利用されている。

 

井岡山にとっても、新型コロナウイルス禍による観光業への打撃で、昨年は非常に厳しい年となった。当局者によると、同市の革命博物館の年間入場者数は89万人と、前年から半減した。

 

国内でウイルス封じ込めに成功し、100周年の節目が近づく中、中国全土で共産主義ゆかりの史跡を訪ねる「紅色旅遊(レッドツーリズム)」が再び盛り上がりをみせている。習氏は米中両大国の「新型大国関係」を提唱しており、国民に愛国心を鼓舞する。(後略)【4月26日 WSJ】

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*****習近平の「未来理想像」を映す建党100周年祝賀「京劇」が選出*****

家族を捨て武漢に向かう医師を描いた新作も。文革時代に洗脳・教育の柱となった京劇が、いままた浮かび上がらせる「正しい党史観」としての毛沢東思想。

 

毛沢東以来の歴代中国共産党政権は、国慶節など国を挙げての祝賀行事や記念行事、さらには国際会議などに際し、それに相応しい内容の京劇を公演し、内外に政治的メッセージを発信してきた。

 

この宣伝手法をより積極的に踏襲する習近平政権は、今年7月の共産党建党100周年に向けて、5000本を優に超える京劇演目の中から推奨作品を選び出した。

 

『中國京劇』(2020年12月号)によれば、中国政府(文化和旅游部)は2020年10月30日に新作、古典、小品のうちから各々100本を選び、「重点推奨作品」として発表した。 

 

その理由は、「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神を確実に貫徹し、中国共産党成立100周年祝賀舞台芸術創作工作をより高いレベルで推し進めるため」だという。

 

ということは、「重点推奨作品」は「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神」に沿った内容を十分に持ち、共産党成立100周年を祝うに適切な作品ということになる。

 

そこから、習近平国家主席が思い描いている「成立101年以降」の理想の共産党像が浮かび上がってくるに違いない。

 

一貫するテーマは「為人民服務」

選ばれた主な作品を見ると、『七個月零四天』は、チベット高原を横断する「青蔵公路」(1954年開通)の建設に当たった慕生忠将軍と旗下の2000余名の工兵部隊による7カ月と4日間の悪戦苦闘がテーマであり、共産党員の新中国建設への献身的で英雄的な姿を描き出す。(中略)

 

一貫するテーマは、毛沢東の演説から生まれたスローガン「為人民服務」(人民に奉仕する)であり、もちろんストーリーの背景には、毛沢東に収斂する共産党の絶対無謬性がある。以上が新作部門の代表作品である。

 

共産党のために死力を尽くす主人公

(中略)このように演目を挙げてみると、「愛国」、「救国」、「民族統一」もさることながら、やはり共産党の正統性と「為人民服務」が一貫したテーマとして浮かび上がってくる。「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神」もまた、それを求めているということだろう。

 

文革を煽った革命現代京劇模範劇も

それにしても複雑な思いに駆られるのは、革命現代京劇の代表作である『紅灯記』や『奇襲白虎団』も選ばれていることだ。

 

前者の舞台は抗日戦争で、敵役は日本軍。血は繋がらないが革命精神で結ばれた祖父・息子・孫娘の3代の抗日奮闘記である。一方、後者の舞台は朝鮮戦争。「白虎団」と名付けられた韓国軍最強部隊と米軍に挑む中国の義勇軍と朝鮮人民の連帯を讃える。

 

中国共産党は一貫して京劇を教育・洗脳の手段の柱に捉えて来た。その典型が文化大革命期における革命現代京劇である。国共内戦、抗日戦争、大躍進などをテーマにした様板戯(模範劇)によって、毛沢東思想の絶対無謬性を国民の頭の中に叩き込もうとしたわけだ。

 

文革は中国で「10年の大後退」と批判され、日本でも「中国の政治、経済、社会、文化のすべてにわたって重大な打撃を与えた」(『岩波現代中国事典』岩波書店 1999年)と見なされる。

 

その文革を大いに煽った「毛沢東式勧善懲悪劇」とでも呼ぶべき革命現代京劇模範劇も「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神」に合致するなら、習近平国家主席にとって現代革命模範劇は過ぎ去った激動の時代のホロ苦い思い出などではなく、文革は「大後退の10年」ではなかったということになる。

 

1953年生まれの習近平国家主席にとって「大後退の10年」は、13歳から23歳の少年期から青春期という多感な時期に重なる。毛沢東が絶対権力を掌握する時代に生まれ、毛沢東を神と崇めながら成長した、いわば「純粋・毛沢東世代」である

 

今年の2月20日に開催された「党史学習教育動員大会」で、「まさに今こそ、全党を挙げて党史学習教育を進めるべき時である」と訴えた習近平国家主席

 

建党以来の一切の革命活動の功績が自らに収斂する党史を描いた毛沢東に倣い、毛沢東と自らに価値基準を置く「正しい党史観の樹立」を目指すのであれば、京劇は格好の教育・洗脳の手段となろう。

 

中国共産党成立100周年は、共産党の正統性と「為人民服務」を讃え、愛国、救国、民族統一を内外に強く訴える機会になりそうだ。【4月13日 樋泉克夫氏 Foresight】

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“習氏は実権を握った2012年以降、党を再び人々の生活の中心に据えるとともに、「中国人の復興」や「社会主義の核心的価値観」といったスローガンを全土に定着させることを狙っている。”

 

“習近平国家主席にとって現代革命模範劇は過ぎ去った激動の時代のホロ苦い思い出などではなく、文革は「大後退の10年」ではなかった”“毛沢東と自らに価値基準を置く「正しい党史観の樹立」を目指すのであれば、京劇は格好の教育・洗脳の手段となろう”

 

習近平国家主席が、絶対的権威を有した毛沢東に、また、その毛沢東が権力闘争として劉少奇一派打倒のために発動して絶対的権威を確立した文化大革命(習近平氏は少年期から青春期という多感な時期をそのなかで過ごした訳ですが)に、強い共感を持っているのではないか・・・ということは常々言われていることですが、結党100周年を機に原点に立ち帰るという流れのなかで、更にその色合いを鮮明にしているようにも思われます。

 

【文革批判の温家宝前首相のエッセイが発禁扱い】

その毛沢東・文革の時代に回帰するような流れに棹さす者は許されません。たとえ前首相でも。と言うか、前首相だからこそ許されないと言うべきか。

 

****温家宝の「発禁」寄稿、習近平の逆鱗に触れたあの言葉****

最近、習近平政権にタブーとみなされている刊行物を国外や香港、マカオなどから中国内に持ち込んだとして、きびしい懲罰にあったり、党籍はく奪や刑事罰に遭うケースが増えているらしい。

 

そのタブー視されている刊行物の中には、温家宝が、自分の母親を偲ぶエッセイを寄稿した週刊紙「マカオ導報」も含まれているという。

 

すでに一部では報じられているが、温家宝が自分の亡き母親の思い出を清明節(中国のお盆に相当。墓参りをして故人を偲ぶ日。2021年は4月4日)に合わせて4回にわたって連載した内容が、どうやら習近平の逆鱗に触れて、ネット上では閲覧制限され、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

温家宝の「我が母親」というタイトルのエッセイは、「マカオ導報」に3月25日から4月15日にかけて4回に分けて掲載された。微信の媒体公式アカウントにも転載されたが、すぐに閲覧制限され、事実上の発禁扱いになった。理由は不明だが、文章が習近平の逆鱗に触れたのだ、と噂された。

 

「文革は再び起こり得る」と警告

中身は苦労した母への愛情があふれたものだが、その含むところは多層的で、温家宝自身と母親の名誉、紅二代(革命世代の子弟、共産党貴族)との矛盾・確執、中国が進む道と温家宝自身の理想が乖離していくことについての現政権への不満・・・などが読み取れる。

 

温家宝は胡錦涛政権時代、「親民宰相」と呼ばれた庶民派の総理だった。胡錦涛とともに胡耀邦を信望する党内開明派とみなされ、また共青団派(共産主義青年団出身派閥)の特徴である官僚気質が強い。

 

華字ネットメディア「多維ニュース」に掲載されたこのエッセイに対する論評では、温家宝と文革との関係を取り上げている。この論評記事のタイトルは「母を偲ぶ文章が発禁に 温家宝はなぜ文革を忘れられないのか?」だ。

 

温家宝は「我が母親」の中で、文革が今日に至るまでの政治運動に影響を与えているとし、温家宝一家自身、文革期間に災難に遭ったことを書いている。

 

たとえば温家宝の父親は1959年に歴史問題で教師の職を追われ、文革期には吊し上げを食らい、学校で軟禁され、給料も出なくなり、大字報と呼ばれる政治的壁新聞が家の門に貼られ、野蛮な“尋問”に遭い、造反派に殴られていつも顔が腫れていたという。

 

多維ニュースの論評記事はこう語る。「温家宝はおそらく文革に何度も言及した唯一の中共指導者だ」。温家宝はかつて公開の場で、「文革の錯誤がまだ完全に消えていない。政治体制改革は成功しておらず、文革は再び起こり得る」と警告していた。

 

具体的に思い出すのは、2011年、薄熙来が重慶モデルをぶち上げて絶好調だったとき、温家宝は中南海で香港の政治元老、呉康民と単独で会見し、「中国の改革が困難である主な理由は、封建制度の残滓(=残りかす)と文革の遺毒(=今も残る毒)である」と語っていたことだ。

 

温家宝のこの発言は呉康民を通じてメディアに暴露され、大きな反響を引き起こした。薄熙来が文革期に紅衛兵の一員だったこともあり、「文革の遺毒」とはおそらく薄熙来のことだと誰もが思った。(中略)

 

多維ニュースの論評によれば、温家宝がこれほど何度も政治改革を呼びかけ、文革に言及した大きな理由は、文革の遺毒がすでに中国の改革を阻害し、政治改革が進まなくなり、文革の再来の可能性がまだあると、温家宝自身が見ているからだろう、という。

 

「文革2.0」が発動されるのか?

2012年の温家宝最後の総理記者会見からしばらくたってから、私は党内事情に詳しい知人から、「温家宝の言う『文革の遺毒』とは、みんな薄熙来のことを指していると思っているようだが、本当は習近平に対する批判なのだ。温家宝は習近平が文革を再発させることを恐れている」と耳打ちされた。

 

このころはまだ、習近平がここまで毛沢東的な独裁者だと気づいている人は少なかったが、今思い返せば、温家宝たちは習近平の「文革脳」の危うさをすでに認識していたにちがいない。

 

もし温家宝の寄稿が、文革を批判したことで習近平の逆鱗に触れて削除対象になったというならば、習近平は第20回党大会で長期独裁政権を確立する手段として「文革」を発動するつもりなのではないか、という疑念が生じてくる。

 

文革は、毛沢東が政治的ライバルの劉少奇を打倒するために、若者を洗脳し動員して起こした政治闘争だ。なぜあのような異常事態が10年も継続したのか、今もってきちんと説明できる人はいない。あえていえば、その当時の中国人は無知蒙昧で、貧しく、情報も少なく、洗脳されやすかったのかもしれない。

 

ならば、世界第2位の経済体となりIT技術が発達し、グローバル経済の主役級の中国で、いかに習近平が「文革脳」であっても、その呼びかけに今時の若者たちが簡単に洗脳されて、階級闘争を発動させるようなことがあるだろうか? と誰もが思う。

 

だが昨年来、「文革2.0」という言葉が中国党内人士たちの間でささやかれているのは事実である。つまりバージョンアップされた文革だ。

 

文革時代のような相互監視、相互密告、相互批判による人民の分断と疑心暗鬼による混乱、その混乱に乗じて世論を誘導し、攻撃の矛先を政敵に向かわせて打倒する権力闘争。60年代の文革のような、街路で相手が肉の塊になる程の集団リンチを行う野蛮さは今の中国の若者にはないかもしれない。

 

だが、インターネットや最新のハイテク、システムを使って若い“ネチズン”を操り、同じような効果を得ることはできるかもしれない。いや、すでに始まっている、という見方もある。実際、ネット上で徒党を組み、ターゲットを定めて、他者に売国奴やスパイというレッテルを張って徹底的に攻撃する若者が、「ネット紅衛兵」として存在感を示すようになっている。

 

大学の思想教育を強化

また、習近平政権は最近、中共建党100周年記念出版物として『中国共産党簡史(1921〜2021)』を出版したが、この新版党史で文革10年の歴史を大幅に省略した。

 

(中略)これは、習近平が文革に対する大衆の悪い記憶を薄めようとしているのだと受け取られている。それは習近平自身が文革2.0を起こそうと考えている、あるいはすでに文革を仕掛けているからかもしれない。

 

ちなみに新版党史では、習近平の執政期間のわずか9年に全体の4分の1の紙幅が割かれている。自分こそが党史の主役であるといわんばかりだ。

 

また、建党100周年祝賀行事の出し物に「白毛女」「紅色娘子軍」など文革時代の紅色革命劇が準備されているし、清明節の間、北京の福田公墓にある、文革の旗手であった毛沢東の妻、江青の墓地が対外的に開放され、なぜか再評価のムードが盛り上がっている。

 

さらに最近打ち出されている「中国共産党普通大学基層組織工作条例」などをみると、大学の思想教育強化、監督管理統制の強化が進められている。(中略)

 

大学生、院生たちを洗脳し、管理監督統制を強化し、習近平に忠実な紅衛兵を育て上げるつもりなのかもしれない。実際、中国のSNSへの書き込みで世論誘導工作にあたっている2000万人前後のボランティアは、大学の党機関が募集する学生だという。彼らは就職斡旋などの見返りを求めて応募しているらしいが、ネット紅衛兵予備軍ともいえる。

 

習近平が恐れているのは誰か?

(中略)ほとんどの中央の政治家、官僚たちはおそらく習近平のやり方に不満を持っているが、習近平を権力の座から引きずり下ろすほどの気概はないように見える。なのに、なぜ習近平は文革を起こそうとしているのか。

 

それは、習近平が恐れているのは人民だからではないか。

 

新型コロナ肺炎が昨年武漢で発生したとき、庶民がいかに習近平政権に不満を抱えているかが垣間見えた。今後経済の減速がはっきりし、食糧問題やエネルギー問題が目に見える形でひっ迫していけば、いつ庶民の不満が爆発してその矛先が習近平に向かうかわからない。

 

その矛先を自分に向かわせないためには、誰でもいいから文革手法で大衆にとっての敵を作りあげ、世論を誘導して攻撃させなければならない、と考えているのではないだろうか。国内を混乱させ人民同士を分断させれば、すくなくとも世論が団結して自分に向かってくることはない。(後略)【4月29日 福島 香織氏 JBpress】

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【白昼夢と化した毛沢東の「中国の夢」 その再現を目指す習近平版「中国の夢」の結末は?】

しかしながら、文革を発動して絶対的権威を手にした毛沢東の中国がどうなったか?習近平主席はその轍を踏むことになるのか?

 

****中国共産党建党100年、「中国の夢」は実現するか?****

(中略)

建党50周年に上げた「偉大なる領袖毛主席万歳、万歳、万々歳」

建党50周年から100周年へ。この間の半世紀の中国の変化を振り返りながら毛沢東が掲げた「中国の夢」を考えると、それが潰えてしまった大きな要因に1972年のニクソン訪中をキッカケとする米中接近があったように思える。  

ニクソン訪中によって、毛沢東政治を支えた「竹のカーテン」の綻びが内外に明らかとなってしまった。「自力更生」は技術的立ち遅れを助長し、「為人民服務」の行き着いた先は貧乏の超大国――さながら巨大な北朝鮮――でしかなかった。毛沢東が目指した「中国の夢」は、結果として白日夢に終わってしまったのではなかったか。  

 

毛沢東に代って登場した鄧小平は、毛沢東政治に疲れ果てた国民に向かって、「社会主義市場経済」という新たな「中国の夢」を提示した。対外開放初期に唱えられた「先富論」を受けて、誰もが「ネズミを捕る好いネコ」を目指した。  

 

鄧小平路線を受け継いだ江沢民が指し示した「中国の夢」は「走出去」、つまり海外に打って出ることだった。

 

次いで登場した胡錦濤は「和諧社会の実現」の建設に「中国の夢」を託した。好意的に考えるなら、「足るを知ること」を国民に秘かに求めたのではなかったか。  

 

いま習近平政権が掲げる「中国の夢」は、毛沢東版「中国の夢」の新バージョンのように思えてしかたがない。毛沢東版の結末を振り返るなら、「中国の夢」を再考する時期に立ち至っているように思える。  

 

建党50周年に上げた「偉大なる領袖毛主席万歳、万歳、万々歳」の行き着いた先を、建党100周年に際して改めて思い起こしてみるべきではなかろうか。【3月31日 樋泉克夫氏 WEDGE】

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イスラエル  パレスチナ問題が選挙争点にすらならない状況で、再び連日の衝突

2021-04-28 23:20:28 | 中東情勢

(【4月26日 HUFFPOST】エルサレムで25日、抗議に参加したパレスチナ人を拘束するイスラエル警察)

 

【風化する「パレスチナ国家」 選挙の争点にもならないパレスチナ問題】

新型コロナワクチン接種が世界最速ペースで進むイスラエルですが、国内政治的には汚職疑惑のあるネタニヤフ首相をめぐって、その支持勢力と反対勢力に割れています。

 

3月に総選挙が行われましたが、結果は双方ともに決定的なリードを得られず、再び両勢力が拮抗する不安定な政治状況が続きそうです。組閣できずにやり直し選挙の可能性も。

 

最近のイスラエル政治は、このような「選挙をするが分断・拮抗・膠着状況が変わらない、そしてまた選挙に」ということを何回も繰り返しています。

 

ワクチン接種が最速ペースで進んだ背景にも、汚職疑惑で窮地にあるネタニヤフ首相がワクチン普及への国民支持を突破口にしたいという政治的思惑もあってのことです。

 

****ネタニヤフ首相に組閣要請 イスラエル大統領****

イスラエルで3月に行われた国会(一院制、定数120)選挙の結果を受け、リブリン大統領は6日、ネタニヤフ首相に次期政権発足に向けた連立協議を要請した。期間は最長で6週間。

 

過半数(61議席)の議席確保して他党と連立政権を組めるかは疑問視され、やり直し選挙の可能性が取り沙汰されている。

 

イスラエルでは単独政党が過半数を制することはなく、大統領が選挙後、議席を獲得した各党と話し合い、連立政権が組める可能性が最も大きい政党の党首に協議を要請する仕組み。

 

リブリン氏との協議の結果、ネタニヤフ氏を支持したのは同氏が率いる右派政党リクードのほか、ユダヤ教の戒律を厳格に守る超正統派の宗教政党など52議席。

 

反ネタニヤフを掲げる中道政党、イェシュアティドのラピド元財務相への支持は45議席にとどまった。

 

右派の反ネタニヤフ勢力や、アラブ系政党は誰も支持しなかった。イスラエルの国会選は2年間で4回目。【4月6日 産経】

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外部の人間からすると、イスラエル政治からはパレスチナ問題がすぐに想起されるのですが、ネタニヤフ支持勢力と反ネタニヤフ勢力が激しく争う政治構図と、「パレスチナ国家」樹立が幻となりつつあるなかで、実際の選挙においてはもはやパレスチナ問題は争点にもならない状況のようです。

 

****イスラエル政治が大混乱...その陰で「争点ですらなくなった」パレスチナ問題****

<連立政権協議が難航して再選挙もささやかれる一方でパレスチナ問題は争点にさえならなくなった>

イスラエルでは2年間で4回目となる総選挙が3月23日に実施されたが、政治的な麻痺状態が解消されるのではないかという期待は裏切られた。(中略)

 

4月6日にルーベン・リブリン大統領はネタニヤフに組閣を指示したが、一方で、誰が首相候補でも組閣は成功しそうにない、とも語っている。

 

要するに、今回の選挙に勝者はいない。しかし、敗者が誰なのかは明らかだ。

「今回の選挙で、パレスチナ人はほとんど注目されなかった」と、人権団体ICAHD(パレスチナ人家屋の破壊に反対するイスラエル委員会)に協力している人類学者のジェフリー・カプランは言う。

 

パレスチナ人の権利や、ヨルダン川西岸地区の占領とガザ地区の封鎖について、「左派はもちろん、アラブ系の政党も選挙活動では取り上げなかった。占領とパレスチナ人と平和の問題全体が軽んじられている。パレスチナ人はイスラエル国内でも国際的にも、政治の地図から消された」。

 

西岸地区とガザ地区に暮らす約500万人のパレスチナ人はイスラエル国民ではないため、今回の選挙で投票権はなかった。

 

しかし、イスラエル国民の選択は、パレスチナ人社会に大きな影響を与える。彼らの生活は、イスラエルの国としての行動に多くの形で支配されるのだ。

 

「イスラエルの次期政権は史上最も右派的になるだろう」と、米ブルッキングス研究所のナタン・サックスは言う。今回の選挙の主な争点はイデオロギーではなく、ネタニヤフ政権の是非だった。その支持・不支持は分かれたが、右派に賛同する有権者の票が過半数を占めた。

 

さらに、極右の宗教的シオニスト党が6議席を獲得しており、リクード主導の連立政権に加わる可能性がある。同党のべツァレル・スモトリッチ党首は「誇り高きホモフォーブ(同性愛嫌悪者)」を自称。党員はカハネ主義のイデオロギーを継承している。

 

カハネ主義とは、ユダヤ人至上主義を公然と唱え、神政国家イスラエルの建設を掲げるものだ。メイル・カハネ師が創設した極右政党「カハ」はイスラエルで90年代に非合法化され、米国務省から国際テロ組織に認定されている。

 

「リクード党のさらに右に位置する政治勢力の台頭によって、パレスチナ人の生活と居住権がいっそう危険にさらされている」と、人権団体「アダラ正義プロジェクト」のサンドラ・タマリ事務局長は言う。「パレスチナ人は、イスラエルにおける過激な暴力の標的になり続けるだろう」

 

極右の宗教的シオニスト党に投票したのは、有権者の中でも少数派にすぎない。その多くは、いずれ西岸のユダヤ人入植地に住むだろう。

 

パレスチナ側は、今年に入り入植者による攻撃が増えていると主張しており、選挙結果を受け、入植者の過激な行動に拍車が掛かる恐れがある。

 

極右勢力の伸長は、対パレスチナ強硬派である議会多数派を相対的にソフトに見せる恐れもある。「極右は、パレスチナ自治区を全て編入して、イスラエルの主権を宣言したがっている」と、サックスは語る。

 

しかし「中道右派も、パレスチナに対するさらなる領土割譲や自治権拡大は認めたくない。タカ派に至っては、パレスチナ自治政府との一切の取引を嫌がっており、今やほとんどが2国家共存策に明確に反対している」という。

 

パレスチナの国家樹立に向けた動きは、ここ数年大きな逆風を受けてきた。2018年に当時のドナルド・トランプ米大統領が、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転したほか、これに抗議するパレスチナ人200人近くがイスラエル治安部隊の鎮圧で命を落とした。

 

2020年には、ネタニヤフ政権が西岸の一部併合について発言しだした。ただ、8月に一連の「アブラハム合意」の第1号となるアラブ首長国連邦(UAE)との国交正常化が実現すると、入植地併合の主張はトーンダウンした。イスラエルはその後、バーレーン、スーダン、モロッコとも国交を正常化している。

 

だが、アブラハム合意は、それまでのアラブ諸国のコンセンサス、すなわち「イスラエルがパレスチナ占領に終止符を打ち、パレスチナ国家樹立を認めない限り、国交正常化には応じない」という姿勢が揺らいでいることを露呈することになった。明らかな方向転換となったのだ。

 

アラブ勢の足並みの乱れは、今回のイスラエル総選挙でも垣間見られた。アラブリスト連合をはじめとするアラブ系政党は、イスラエルの市民権を持つアラブ系住民の教育や医療といった福祉増進と平等の実現を訴えていて、パレスチナ問題にはほとんど関心を示していない。

 

アラブリスト連合を率いるマンソール・アッバス自身は、2国家共存案の支持を表明してきたが、もはやパレスチナ国家樹立が非現実的な夢であることは、暗黙の了解となりつつある。「イスラエルのアラブ系住民は、基本的に2国家共存案を諦めている」とカプランは指摘する。

 

そんななか、イスラエルはヨルダン川西岸で分離壁建設を進めている。国際法では違法行為だが、アラブ諸国の足並みが乱れている今、諸外国もこの問題に首を突っ込むことに消極的になりつつある。

 

ネタニヤフは4月5日、自らの汚職疑惑裁判に出廷。リクードを最多議席に導いても、その政治的求心力は着々と低下していることを印象付けた。

 

結局のところ、今回の選挙はパレスチナ国家支持派と反対派の戦いでも、左派と右派の戦いでもなく、ネタニヤフ支持派と批判派の戦いだったのだ。その構図はしばらく変わりそうにない。【4月14日 Newsweek】

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「パレスチナ国家樹立」「2国家共存」は、トランプ前政権のもとで風化が進みましたが、バイデン政権は軌道修正はしています。ただ、風化状況を変えられるかは・・・・どうでしょうか?バイデン大統領も、アメリカ大使館をテルアビブに戻すといったことはできないでしょう。

 

****米、パレスチナ支援再開 「2国家共存」推進へ前政権の路線転換****

バイデン米政権は7日、トランプ前政権が停止したパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を含め、計2億3500万ドル(約274億円)規模のパレスチナ支援を再開すると発表した。

 

ブリンケン国務長官は声明で「(パレスチナとイスラエルの)交渉を通じた2国家共存への前進を図るものだ」と述べ、露骨にイスラエル寄りの姿勢をみせたトランプ政権の路線からの転換を強調した。

 

またホワイトハウスによるとバイデン大統領は7日、ヨルダンのアブドラ国王と電話会談し、「イスラエルとパレスチナの紛争解決に向けた2国家共存案への支持」を改めて表明した。

 

国務省の声明によると、再開されるのはUNRWAへの拠出金1億5千万ドルのほか、ヨルダン川西岸とガザ地区の経済開発支援7500万ドルなど。

 

米国はもともと、パレスチナ難民の生活や教育の支援を担うUNRWAへの最大の資金拠出国だったが、トランプ政権が2018年に拠出を停止。また同政権は、国際法に違反するヨルダン川西岸のユダヤ人入植地をイスラエルが併合することを認めるなど、2国家共存案を実質的に骨抜きにする政策を進めていた。【4月8日 産経】

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【争点にはならなくても、問題自体は未解決なまま】

イスラエル国内政治では争点にもならない「パレスチナ問題」ですが、争点にならないことと、問題がないことは別物です。

 

エルサレムでは、再びイスラエルの治安当局とパレスチナ人の衝突・対立が起きています。

 

****エルサレム、治安当局とパレスチナ人衝突 報復攻撃も****

ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地があるエルサレム旧市街付近で、イスラエルの治安当局とパレスチナ人の対立が続いている。緊張緩和を模索する動きも出ているが、パレスチナ側は反発を強めており、対立の激化も懸念されている。

 

緊張が高まっているのは、イスラム教のラマダン(断食月)が始まった今月中旬以降。エルサレム旧市街入り口の門近くに、イスラエルの治安当局がバリケードを設置してパレスチナ人の出入りを制限し、反発が出ていた。

 

さらに今月22日には、極右のユダヤ人グループらがエルサレム市内で「アラブ人に死を」と叫び、パレスチナ人排斥を訴えて行進した。

 

抗議に集まったパレスチナ人とイスラエルの治安当局が衝突。パレスチナ側によると、100人以上がけがをし、50人以上が拘束された。

 

AFP通信によると、対立の激化を受けてイスラエル当局は25日夜、旧市街近くのバリケードを撤去した。事態を沈静化させるためとみられる。

 

ただ、イスラエルへの反発はエルサレム以外にも広がっている。パレスチナ自治区ガザ地区でもイスラエルに対する抗議活動があった。

 

24日未明には、ガザ地区からイスラエルに向けてロケット弾が36発発射された。イスラエル軍も報復措置としてガザ地区を攻撃した。これまでけが人は確認されていない。【4月26日 朝日】

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上記の“エルサレム旧市街入り口の門近くに、イスラエルの治安当局がバリケードを設置してパレスチナ人の出入りを制限”ということを受けて、下記のような「報復合戦」の様相を呈していたようです。

 

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パレスチナ人は強く反発し、その後すぐに、路面電車内でパレスチナ人の少年が超正統派ユダヤ教徒の若者の顔を平手打ちする動画がティックトックに投稿され、拡散された。

 

それ以降も、パレスチナ人がユダヤ人にコーヒーをかけたり、逆にユダヤ人がパレスチナ人を暴行したりする動画などが次々と投稿され、双方の怒りをあおった。ユダヤ人の極右グループはこれらの動画に反発したとみられている。【4月24日 毎日】

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ますます強まるイスラエル支配の閉塞感も背景にあるようです。

 

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対立がエスカレートする他の要因も挙げられている。5月下旬にパレスチナ自治政府の評議会選が15年ぶりに実施される予定だが、イスラエルが占領している東エルサレムでは、イスラエル政府がパレスチナ人の投票を認めないとの観測が流れていることだ。

 

パレスチナ側では長年蓄積している「占領者」への不満が、ここに来て若者を中心に噴出している。【同上】

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部外者にとっては“相変わらずの”といったところですが、当事者にとっては出口が見えないなかでの、やりきれない抵抗でもあります。

 

人権団体からは「アパルトヘイト(人種隔離)」政策との批判もありますが、イスラエル政府は「馬鹿げたうそだ」と反発しています。

 

****人権団体、イスラエルによる「アパルトヘイト」を非難*****

エルサレム(CNN) 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は27日、イスラエル政府によるパレスチナ人への「アパルトヘイト(人種隔離)」政策と迫害を非難する報告書を発表した。

 

HRWは213ページに及ぶ報告書で、アパルトヘイトという言葉はイスラエルの対パレスチナ政策をめぐり、比ゆ的な表現や警告として広く使われてきたと指摘。

 

そのうえで、イスラエル政府がユダヤ人によるパレスチナ人支配を維持する意図を示し、パレスチナ人を組織的に抑圧し、非人道的に扱っていることは、実際に人道犯罪としてのアパルトヘイトに相当すると結論付けた。

 

一方イスラエル外務省は、この報告書を「架空」の話と呼び、HRWの主張はばかげたうそだと述べて強く反発。報告書はHRWが長年掲げてきた反イスラエル運動の一環で、事実無根だとする声明を出した。

 

今年1月にはイスラエルの人権団体「ベツェレム」も、同国を「アパルトヘイト」国家と批判していた。

 

国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)では数週間前に、イスラエルの入植活動などを戦争犯罪として捜査できるとの判断が下されている。【4月27日 CNN】

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リビア・イエメン  内戦状況下での市民による新しい取り組み 女性起業家も

2021-04-26 22:22:07 | 北アフリカ

(イエメン首都サヌア北西のアブスで太陽光発電所を運営するイマン・ハディさん率いる女性グループ(2021年3月9日撮影) 【4月25日 AFP】)

 

【多難な暫定統一政府】

内戦が続くリビアでは、対立してきた東西両勢力の合意のもと、デイバ暫定首相率いる暫定統一政府が3月中旬に成立しています。

 

暫定首相は西から、暫定統一政府を監督する執行評議会議長は東からという権力分担のようです。

しかし、西を支援するトルコ、東を支援するロシアによるそれぞれの傭兵が残存しており、いつ戦闘が再燃してもおかしくない状況でもあります。

 

****内戦終結なるか? リビアでデイバ暫定統一政府が始動****

内戦が続くリビアで、対立してきた東西両勢力が認めるデイバ暫定首相率いる暫定統一政府が3月中旬に始動した。任期は12月に予定される大統領選、議会選までとなる。

 

一部の戦争捕虜が解放されたほか、これまで別々の勢力を支援してきた地域大国のトルコとエジプトの間では関係改善の動きもあり、何度も頓挫してきた内戦の終結に結びつくかが注目される。

 

北アフリカ随一の石油大国リビアでは2011年のカダフィ独裁政権崩壊後、複数の武装勢力が割拠。15年以降は西部のシラージュ暫定政権と東部を拠点とする民兵組織「リビア国民軍」(LNA)の勢力争いが続き、20年前半には西部の首都トリポリを巡る攻防戦が一時激化した。

 

しかし20年10月に停戦合意が結ばれ、国連が仲介する対話が進展。21年2月にはリビア西部・東部・南部の代表75人がスイスで会合を開き、暫定統一政府メンバーが投票で選出された。

 

デイバ暫定首相は西部ミスラタ出身で、暫定統一政府を監督する執行評議会は東部トブルク出身のメンフィ議長が率いるなど、地域間のバランスも考慮されている。西部勢力は3月、和解の意思表示として東部LNAの捕虜100人以上を解放した。

 

こうした中、西部勢力を軍事支援してきたトルコと東部LNAを支えてきたエジプトには接近の動きもある。エジプト外交団は20年12月にトリポリを訪問し、トルコが支援する西部陣営幹部らと会談した。

 

イスラム組織「ムスリム同胞団」と近いトルコのエルドアン政権は、エジプトで同胞団系のモルシ大統領(当時)が13年に軍の介入で失権させられて以降、エジプトと対立。これがリビアにも飛び火し、東西対立を助長する一因となってきた。

 

だがトルコは近年、東地中海での資源開発を巡る周辺国との摩擦などによって孤立し始めており、外交方針の転換を模索しているとみられる。

 

ただ、リビアでの内戦終結には懸案も残る。停戦合意には「外国戦闘員の排除」が盛り込まれたが、西部にはトルコ軍、東部にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊などが駐留を続けている。

 

エジプトのリビア専門家、アブデル・サッター・ヘテイタ氏は「トルコとエジプトの主導権争いは続いており、民兵組織や外国部隊の存在も危険要素だ」と指摘。「暫定統一政府が12月の選挙を実施し、新たな政府と議会を誕生させることが危機を終わらせる最初のステップとなる」と分析している。【4月6日 毎日】

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でもって、最近の状況は・・・あまり順調に機能しているようにも思えません。

 

****相も変らぬリビア情勢****

リビアでは新しい統一政府ができ、12月には大統領と議会の選挙の実施が合意される等、リビア問題の政治的解決に向けて重要な動きがあったように見えますが、その後はシルトでの停戦も必ずしも安定していない等、その実情は相変わらずのようで、アラビア語メディアから見る限り、問題は軍閥の長たるhaftar将軍と議会議長にあるように見えますが、複雑すぎて、何が実相かよくわかりません
とりあえずアラビア語メディアから

・内戦開始から初めて、リビア政府の会合がベンガジ(東部リビアの中心都市でリビア議会議長やhaftar将軍等の本拠地)で26日開催されることとなり、統一政府首相がこれまた内戦後初めてベンガジに入ることとなった

・然るhaftar 指揮下のリビア民兵が、25日、dabiba首相を暗殺すると警告した。

・政府のベンガジ開催については、その準備にあたる関係者が空路到着したが、このような状況を受けて26日に予定されていたベンガジでの閣議は延期された

・他方米国の新政権誕生を受け、これまでリビア問題に消極的であった米国がその政治的解決に熱心となり、中リビア米大使が議会議長と接触する等動き出した。
その背景は一つにはリビア議会議長が、政府の提出した新しい予算案の審議を拒否していることにある【4月26日 「中東の窓」】

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暫定首相を暗殺云々、予想された暫定統一政府と執行評議会の対立・・・12月に大統領と議会の選挙が行えるかどうか、日本の東京五輪と同程度でしょうか。

 

【市民による起業の取り組みも 塩セラピーに水耕栽培】

今日書きたかったのはそういう話ではなく、リビアというと内戦・東西対立のこと、難民の悲惨な境遇などがいつも話題になりますが、(もちろん、それらは極めて重要な視点ですが)そういう状況下でも、市民の新しい生活を求める動きもあるということです。

 

****塩セラピーのスパ、リビア革命の聖地を癒やす新ビジネス****

反カダフィ革命の聖地として知られる、リビア東部の主要都市ベンガジ。戦火で引き裂かれたこの国で思いもよらなかった癒やしのビジネスが、この地に登場した。

 

10年前、独裁者ムアマル・カダフィ大佐の打倒を目指して市民が立ち上がった港湾都市に昨年10月、リビア初の塩セラピーのスパがオープンした。

 

2人の女性起業家が立ち上げたスパの名前は「オパール」。静かな音楽と控え目な照明に包まれた瞑想(めいそう)的な雰囲気の中で、心地よい施術が行われる。それぞれの部屋は、塩でできた人工洞穴のようだ。

 

「塩の粒子を吸い込むことで呼吸器が浄化され、肌にも良い効果がある」と説明するのは、共同設立者で代替医療の専門家イマン・ブガイギスさんだ。

 

彼女はシャベルを使って、30代の男性客の両脚を塩に埋める。客は目を閉じ、塩の塊を両手で握り、ゆっくり呼吸を続けた。

 

別の部屋には、ヨウ素が添加された塩の粒子を散布している装置があった。

 

1回の施術は45分ほどで、料金は80〜120リビア・ディナール(約1900〜2900円)。効果を得るには数回通う必要があるとブガイギスさんは述べた。

 

■「痛みが和らいだ」

ベンガジの流行地区の真ん中にあるオパールが提供する塩セラピーは、ぜんそくなど呼吸器系の症状や湿疹・乾癬(かんせん)を含む皮膚疾患の治療に有望だという。

 

この都市は内戦中、東部勢力のハリファ・ハフタル司令官の牙城だったため、爆発の跡や破壊されたビルが目立つ。

 

(中略)ブガイギスさんは他のアラブ諸国を旅行中に、塩を使う治療法を知ったという。その後、隣国チュニジアで代替医療を学んだ。

 

慢性病に対する塩セラピーの効能を確信したブガイギスさんは、帰国すると知人のザイナブ・アル・ワルファリさんとともに新ビジネスを立ち上げた。

 

■平穏な日常

オパールの開業はちょうど昨年10月、東部勢力と首都トリポリの国民統一政府の間で停戦合意が結ばれた時期と重なった。新たな暫定統治評議会が2月に発足し、12月の国政選挙に向けて体制を整えている。長年不安定な状態にあるリビアでは、ビジネスの見通しはつけにくい。

 

ワルファリさんは、塩セラピーの考え方をまずベンガジ市内の医療関係者に広めるところから始めるつもりだ。「そうすれば一般の人々にもできる限り行き渡る」と考えている。オパールでは、あらゆる年齢の患者を診る用意ができている。

 

カダフィ大佐殺害から10年、繰り返された戦闘を経て、リビアの人々は平穏な日常を取り戻そうとしている。 【3月13日 AFP】

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東部勢力のハフタル司令官の牙城ベンガジで塩セラピーのスパ、しかも立ち上げたのは女性起業家・・・内戦や難民だけでなく、こういう動きもあるのかと驚いたのですが、驚く方が物事の一面しか見ていないということなのでしょう。

 

次は首都トリポリでの水耕栽培事業。

 

****国土9割が砂漠のリビアで「緑のパラダイス」 食料自給率向上に奮闘****

黄色い防水シートに覆われたトンネル形の温室で、シラジュ・ベチアさんとパートナーのムニルさんは水耕栽培のレタスの出来を調べていた。国土の9割が砂漠で、伝統的な農業が困難なリビアでは先駆者だ。

 

この「グリーンパラダイス」で貴重な作物を支えているのは、プラスチックのカップに穴を開けた鉢と、ホームセンターで購入した合成樹脂管、結束バンド。間に合わせの園芸用品ではあるが、作物はぐんぐん成長し続け、栄養分と酸素濃度の高い水を送り込まれたレタスが白い根を長く伸ばしている。

 

ベチアさんとムニルさんは首都トリポリの東40キロの小さな町で何か月もこのプロジェクトに打ち込んでいる。

ベチアさんはAFPに、水量が少なくて済み、農薬も要らない水耕栽培を広めていくのが願いだと語った。

 

国土の大半を不毛な砂漠が占めるリビアで、水耕栽培は食料の自給自足率を高めることにつながるというのがベチアさんの考えだ。

 

アフリカ最大の原油埋蔵量を誇るリビアでは、経済は炭化水素関連の分野を中心に回っており、農業は脇に追いやられている。耕作に適した土地は国土のせいぜい3%しかなく、地中海沿岸の肥沃(ひよく)な土地にも都市化が急速に広がっていることから、残されたわずかな土地もこの先どうなるか分からない。

 

農業をさらに難しくしているのが、農作業に最も必要な水が不足していることだ。

 

南部の地下水面からくみ上げられた飲料水は、リビアの大規模なパイプラインを通じて国民の大半が暮らす北部の各都市に運ばれている。だが、水資源には限りがあり、この供給網も、独裁者だった故ムアマル・カダフィ大佐の失脚以来10年間続いた内戦による損壊が激しい。

 

■「リビアの消費者は有機野菜を求めるようになった」

水耕栽培は、理論上は従来の農法に比べると収穫量も収益も多い。従来の農法は、天候や水不足の影響を受ける一方で、野放図な農薬散布による汚染のリスクもある。

 

ベチアさんは、「リビアの消費者は農薬まみれの野菜にそっぽを向き、有機野菜を求めるようになった」と指摘する。

 

水耕栽培の野菜は農薬まみれではないにしても、味が水っぽいとけなされることもある。また一般的には有機野菜には分類されないが、専門家は、リビアの水不足を補う新たな農法として、水耕栽培に期待を寄せている。

 

とはいえ、普及するにはまだ多くの障害がある。手間がかかり、リビアで必要な材料を調達するには費用がかかり過ぎると専門家は指摘する。

 

それでもベチアさんはくじけない。「根気強く続けて、信念を貫くしかありません」 【4月24日 AFP】

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おそらく一般庶民向けではない、高級食材でしょう、今は。

それでも、リビアの土地・水資源を考えると、将来が期待されます。

 

【内戦のイエメンでも女性起業家による太陽光発電事業】

一方、4月18日ブログ“サウジアラビア イランとの直接対話 アメリカの戦略変更、軍事・財政事情でイエメン停戦を協議か”でも取り上げたイエメン。

 

内戦の状況については新たな情報を見ていませんが、リビア同様、内戦に負けない市民の新たな動きも。

 

****女性だけの太陽光発電所 イエメン内戦に苦しむ家々に光****

イエメンで10人の女性が、周囲から冷ややかな目で見られながら、ひるむことなく地元の村に電気をもたらすという先駆的な取り組みを実現した。

 

イマン・ハディさんと仲間の女性たちは今、戦禍で荒廃した国内各地に太陽光発電を利用したマイクログリッド(小規模発電網)を拡大する夢を抱いている。

 

イエメンは、壊滅的な内戦によって大半のインフラが破壊され、国民は飢えと貧困に苦しんでいる。

 

ハディさんは2019年から、首都サヌア北西に位置し、反政府武装勢力が掌握するアブスで「フレンズ・オブ・エンバイロメント発電所」を女性のみで運営している。太陽光パネル6基を備えたこの発電所は、村の数十世帯にとっては唯一の電力供給源だ。

 

事業のアイデアは、アラビア半島の最貧国イエメンで、戦争の影響を少しでも和らげるために自分たちで何かできないかと模索した時に生まれたとハディさんは言う。

 

■地元への融資で市民を援助

イエメンでは、2014年以降、紛争による死者は数万人に上る。同国では、イランから支援を受けた反政府武装勢力フーシ派と、国際社会が支持し、サウジアラビア主導の連合軍が援助する政府が内戦を続けている。

 

紛争前に公共電力供給網を利用していたのは、国民の約3分の2だけだったが、内戦によって発電所をはじめ、病院や事業所も破壊されるか休業に追い込まれた。深刻な燃料不足もあり、多くの市民がろうそくの火を頼りに働くことを余儀なくされている。

 

絶望の底にあるイエメンで希望の光となっているのは、都市部や農村の住宅の屋上に設置され始めた太陽光パネルだ。

 

ハディさんの発電所は、国連や欧州連合に資金と研修を受けて運営されているが、こうした事業は市民が収入を得る一助にもなっている。

 

ハディさんは毎月約2000ドル(約22万円)の純利益から小口融資を行い、地元の人々が食料品店やパン店などの小規模事業を始める援助をしている。

 

■以前はばかにされ、今は尊敬されるように

とはいえ、起業家としてのハディさんの道のりは険しいものだった。

 

コンクリートの壁に囲まれた小さな発電所が位置するのは、反政府勢力と政府軍との戦闘がたびたび発生する前線地域だ。しかも、農村社会では女性が家庭の外で働くことが受け入れられていない。

 

「試練はたくさんありました。この種の仕事は男性がやるものと思い込んでいる家族や地元の社会からは笑われ、反対されました」とハディさんは言う。「でも私たちはこうした困難に粘り強く対処してきました。ばかにされていましたが、今では女性たちは感謝され、尊敬されるようになりました」

 

ハディさんの事業は、気候変動と闘う人々をたたえる「アシュデン賞」(人道支援のためのエネルギー部門)を獲得している。国連開発計画は、同事業を現3か所から全国100か所に拡大する取り組みを行っている。ハディさんは、英BBCによる2020年の「世界で最も影響力のある女性100人」の一人にも選ばれている。

 

ハディさんの長期計画は、地元地域の3060全世帯に太陽光発電の供給を広げることだ。「この国の全ての女性に対する私のメッセージは、立ち上がり外に出て、自分の夢を実現しようということです」とハディさんは語った。 【4月25日 AFP】

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全くの素人感想ですが、イエメンなど大規模発電のインフラが不十分な地域では、太陽光発電というのは有効活用ができるツールなのでは。

 

そういう視点での資金的・技術的サポートがもっと望まれます。

 

リビアの塩セラピー同様、こちらも女性による起業。

 

リビアにしろイエメンにしろ、内戦状況という厳しい環境に加え、女性の社会進出に厚い壁のあるイスラム社会での女性起業家の奮闘、なんとか今後も頑張って「新しい社会」の1ページを作って欲しいものです。

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台湾進攻能力を増す中国、そうしたなかでの「台湾問題」 より確実な脅威も、出生率世界最低予測

2021-04-25 22:45:18 | 東アジア

(【4月25日 ABEMA TIMES】海軍に主力艦艇3隻を引き渡す式典に出席した習近平国家主席)

 

【中国の台湾進攻が不可能ではなくなった現状における台湾問題】

日米首脳会談の共同声明で半世紀ぶりに「台湾」への言及が行われたことで、これまで「一つの中国」という中国への配慮から表に出にくい事案でもあった「台湾問題」が改めて正面から扱うべき問題として顕在化しています。

 

****日米共同声明「台湾海峡」言及:東アジア安保の焦点となった中国の核心的利益*****

菅義偉首相の訪米に伴う日米首脳会談の共同声明で、半世紀ぶりに「台湾」への言及が行われた。歴史的な転換である。緊張した台湾海峡情勢のなかで、日米を「巻き込んだ」ことによって一定の後ろ盾を得たことに、台湾では安堵が広がっている。

 

今回の共同声明は、台湾問題について米国や日本の関与をとことん嫌い、「内政問題」と位置付けようと努力してきた中国の試みがセットバック(後退)したことを意味しており、台湾問題の位置付けがアップグレードされて「全球化(グローバル化)」した、というのが台湾側の受け止めだ。

 

今回、共同文書での文言は「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」というものだ。米国の重点は「台湾海峡の平和と安定の重要性」にあり、日本側は「両岸問題の平和的解決」を加えることで中国に配慮したと言われる。

 

しかし「平和的解決」が入ろうが入るまいが、中国にとってはこうした前例破りは「深刻な現状変更」と認識されるだろうし、台湾は「現状のブレークスルー」と受け止め、政治的な波及を生むことは避けられない。

 

台湾メディアは一様に肯定的

台湾の蔡英文政権や世論も、総じて、今回の日米首脳会談には歓迎の意を示している。何しろ、日本では詳しくは報じられていないが、昨年の後半以降、台湾は連日のように中国軍機による防空識別圏を越えた台湾近海への威嚇的接近に悩まされ、1996年の台湾海峡危機以来と言われる緊迫に包まれていたからだ。

 

蔡英文総統自身は現時点でコメントを出しておらず、外交部のコメントのみにとどめているのは、中国をこれ以上刺激しないという配慮から来ている。(中略)

 

日米は何にコミットするのか

少なくとも、1970年代の台湾の国連脱退、日台断交、米台断交などで形成された国際関係の構図は、これまで固い岩盤のように思われてきたが、そこに深いヒビが入ったことは間違いない。今後日米それぞれが従来の台湾政策の見直しを始めることになる。


台湾問題を「核心的利益」と位置付ける習近平政権は、米中関係、日中関係、中台関係見直しの作業を迫られるだろう。ただ、注意が必要なのは共同声明では、「台湾」ではなく、「台湾海峡」や「両岸」という言葉が使われているという点である。

 

両岸というのは、台湾海峡を挟んだ両岸を指す。つまり、台湾海峡を挟んで、大陸側の中華人民共和国と、台湾側の中華民国という対立構図が基本的にあることを意味している。日米でコミットするのは「台湾防衛」ではなく「台湾海峡の安定」ということを念頭に置くことが、今回の共同声明を考えるうえでのポイントであると言えるだろう。

 

中台分断の長期化を招いた地理的条件

台湾海峡は、台湾の南北とそれに向き合う対岸の福建省との間にある海域で、その幅は130〜180キロメートルある。水深は50〜100メートルほどと浅く、それでいて海上の波はかなり荒い。台湾にとっては「防波堤」であり、中国にとっては台湾統一を阻んできた「障害物」である。(中略)

 
つまり、台湾海峡は、台湾を守ると同時に、大陸も守る諸刃の剣であり、中台分断の長期化を招いた最大の地理的条件だった。

 

東アジアの軸は再び「台湾」に?

その台湾海峡による地理的制約が崩れつつある、というところに現在の問題の本質がある。中国軍の圧倒的物量とその海軍・空軍の増強によって、台湾の制圧が決して不可能だと言い切れない状況になっているからだ。

 

もちろん、台湾軍も決して弱い軍隊ではなく、米軍からの武器購入によって装備は充実し、兵士の練度も低くない。台湾社会も結束して中国の武力侵攻には立ち向かう可能性がある。中国が台湾の武力統一で払う代価は、国際的名声の失墜とともに、決して安くはないだろう。

 

だが、それでもいったんあらゆる犠牲を払うことを習近平が決意しさえすれば、米軍の到着前に台湾を制圧できる実力を中国軍が身につけつつある、ということである。

 

その点を含めて、今回の共同声明の外交的および安全保障面でのインパクトは今後次第に見えてくることになり、首脳会談は出発点にすぎない。

 

中国も黙ってはいない。台湾、日本、米国に、いろいろな形で圧力をかけ、挽回に努めるだろう。日本と米国が台湾の有事にどう行動するのか。共同作戦の策定が必要だとする意見もある。当然、水面下で台湾の国防当局とのやりとりも活発化するはずだ。


これから東アジア情勢は台湾を軸に回り始める。そんな予感が漂い始めている。【4月21日 Foresight】

********************

 

当然ながら、中国はこうした流れに苛立ちを募らせています。

 

“台湾問題明記、中国に「譲れない一線に近づいた」警戒感…圧力と協調で「包囲網」弱体化目指す”【4月17日 読売】

 

台湾問題がこのように顕在化した背景には、もちろん米中の激しい対立がありますが、より具体的には上記のように「あらゆる犠牲を払うことを習近平が決意しさえすれば、米軍の到着前に台湾を制圧できる実力を中国軍が身につけつつある」という現実です。

 

この現実を誇示するかのように、中国は台湾への圧力を強めてきており、そうした中国への危機感が今回の共同声明の前提にあります。

 

中国の台湾へ圧力をかける姿勢は、日米首脳会談の前も後も変わっていません。

 

“中国空母訓練 台湾関与のバイデン政権に対抗”【4月6日 産経】

“中国軍機25機、台湾防空識別圏に侵入=昨年9月以来最多―国防部”【4月12日 時事】

“中国爆撃機10機超、9時間にも及ぶ爆撃訓練…台湾への攻撃力アピールか”【4月20日 読売】

“中国・習主席、海軍に主力艦艇3隻を引き渡す式典に出席 台湾への上陸作戦も想定か”【4月25日 ABEMA TIMES】

 

アメリカ側も圧力を強める中国に対抗して、台湾への積極関与を強めています。(中国からすれば、一連の中国の対応は“内政たる台湾問題へ干渉しようとするアメリカに対抗して”ということで、どっちが先かは立場で見解が分かれます)

 

“米駆逐艦が台湾海峡を通過 中国軍機の台湾防空圏侵入に対抗か”【4月8日 産経】

“米大統領、アーミテージ氏ら元高官を台湾に派遣 「非公式」代表団”【4月14日 ロイター】

 

****米、台湾当局者との交流を促進 国務省が新たに内規策定****

米国務省は9日、米国と台湾の当局者同士の交流を促進させる新しい内規を策定したと発表した。米中対立激化する中、中国の反発は必至とみられる。

 

米国は1979年の中国との国交正常化以来、中国を正当な国家と認めて「一つの中国」を支持し、台湾の当局者との接触を内規で自主規制。

 

しかし、米国務省のプライス報道官は9日、「台湾は力強い民主主義国家であり、安全保障や経済でも重要なパートナーだと新しい内規では強調している」と指摘した。

 

内規の詳細は明らかにされていないが、米国務省によると、米台当局者の実務者会合が連邦政府の建物内でできるようになる。また、台湾の在米大使館に相当する駐米台北経済文化代表処の建物内でも同様の実務者会合の開催が認められるようになる。いずれもこれまでの内規では禁じられていた。

 

バイデン政権は、中国の外交・軍事的な圧力にさらされる台湾を支援する姿勢を鮮明に打ち出し、3月には駐パラオ米大使が台湾を訪問。今回の新しい内規の策定は、米台当局者同士の交流の活発化させる目的があるとみられ、一連の台湾支援策の延長線上にある。【4月10日 朝日】

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【明確さを求められる日本の立場】

台湾問題がクローズアップされてくると、先の共同声明のように、日本も旗幟を鮮明することが求められてきます。

より具体的には、台湾有事の際に、日本の自衛隊はどのように対応するのか・・・という話にもなります。

 

****日本は台湾のために戦うのか―台湾メディア****

日米首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」に言及したことが中国の反発を招く中、台湾メディアのNewtalkは21日、「日本は本当に台湾のために戦うのか」とする記事を掲載した。


日米の共同声明で52年ぶりに「台湾」が明記されたことについて、蔡英文総統は「台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認してくださったことを評価します」とコメントした。


一方で、記事は「米国が日本に強要した結果、日本はあいまいさを維持できなくなった」という背景を指摘。

 

日本政府が中国を唯一の合法的な政府と認めていること、台湾は中国の不可分の一部とする中国の主張について「十分に理解し、尊重する」としていることなどに言及し、ここ数年は中国と緊密な関係を構築していたことについて「米国や台湾を不安にさせた」とした。


記事は、「台日関係は良好で、東日本大震災の支援に感謝したり、中国の高圧的な行為に反感を抱いたり、パイナップルを購入したりしてくれる」とする一方、一般の日本人は戦争が起こることを警戒していると説明。

 

「(戦争に)巻き込まれたくない」「子どもや若者を戦場に送りたくない」という意見が大半だとし、「日米安保で日本は守られているが、多くの日本人は中国と仲良くすれば戦争せずに済むと考えている。普段は台湾が好きな日本人でも、その時(台湾有事)になって果たして台湾のために戦うだろうか」とした。


その上で、NHKの番組内で「日本政府も国民も、現行の憲法や安保法制で台湾問題についてどこまでのことができるのかを真剣に考えてこなかった。これについて社会全体で整理し直さなければならない」との指摘が出たことを挙げ、「日本社会が中国に十分な警戒心を持っていたかということと関係がある。

 

もし多くの国民が、台湾が危ないなら日本も危ないという認識を持っていれば、自然と戦うだろう。もし、社会にこのような認識がなければそれは難しい。もっとも、中国は日本に対しても領海や領空に侵入する回数を増やしており、脅威になっている」とした。


記事はまた、台湾有事の際に在日米軍基地が攻撃される可能性があるとし、中国西部に横須賀米軍基地そっくりの実験場が建設されたとの報道があったことを指摘。

 

米軍基地への攻撃は日本への攻撃であり、そうなれば直ちに判断を迫られる状況に直面することになるとし、「日本も自らの役割について明確化せざるを得なくなる」とした。

 

そして、「日本の多くのメディアでは外交手段を通じて中国と向き合うべきとの論調だ。日本人が戦場に駆り出されることはないが、台湾が陥落すれば日本の安全も保証されない。日本人は台湾も日本も(区別は)ないことを認識しなければならないようだ」と主張した。【4月23日 レコードチャイナ】

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自衛隊云々の前に、憲法改正が必要になるでしょう。

 

****日米首脳会談によって埋められる憲法改正の外堀****

コロナに沈む菅政権と活動を再開した安倍前首相、そして憲法改正

 

(中略)首脳会談後の日本のメディアやネットでは、インド・太平洋構想、台湾問題、ウイグル問題、半導体問題、サイバー問題など、百家争鳴と言わんばかりの様々な説明が繰り返されている。

 

だが、共同声明には欠けているものがあることを誰も指摘しない。

 

それは、日本が憲法9条を改正しない限り、共同声明で謳っているほとんどのことが実現不可能だと言える点だ。あえて言えば、菅政権の閣僚があたかも実現可能な発言をし、法解釈上ぎりぎりのところまで自衛隊が行動することで、「私は頑張っていますよ」とパフォーマンスをすることができる程度だ。(後略)【4月23日 小川 博司氏 JBpress】

**********************

 

憲法改正にしても、ましてや、その先にある台湾有事の際の自衛隊対応にしても、国民世論の多くはあまり現実味のある問題とは認識してきていませんが、これからはそういう訳にいかない・・・との指摘も。

 

【中国の進攻より確実な少子化の脅威】

台湾有事は、現実味を増したとは言っても「いくら習近平でもそこまでは・・・」と、近い将来の出来事としてはあまり可能性としては大きくない(と思いたい)ですが、台湾を着実に追い詰めるであろう問題があります。

 

****台湾、出生率世界最低の予測 少子化深刻****

米国の中央情報局(CIA)が22日までに発表した年次報告書の「2021年の国・地域別の合計特殊出生率予測」の項目で、台湾は世界で最も低い1・07となった。台湾メディアは「うれしくない世界一」「少子高齢化はいよいよ危機的状況」などと大きく伝え、蔡英文政権に対し、早急に対策を取るように促している。

 

CIAの予測では、台湾の今年の合計特殊出生率は1・07で、韓国の1・09とシンガポールの1・15を下回り、227カ国・地域の中で最も低かった。日本は1・38で218位、世界で最も高いのはナイジェリアの6・91だった。

 

全体的にアジアが低く、アフリカが高い傾向にある。合計特殊出生率は「1人の女性が一生の間に生む子どもの数の平均値」で、2を超せば人口は増加に、2未満なら減少に転じる計算になる。

 

台湾当局の統計によると、2016年までの出生数は年間20万人を超えていたが、その後は徐々に減少。昨年は約16万5000人で、死者数の約17万3000人を初めて下回り、統計史上初めての人口減少を記録した。今年の1〜3月の出生数は昨年と比べて1割以上減っており、人口減少に拍車がかかっている。

 

出生率が近年、低下した理由について、台湾産婦人科医学会の黄閔照氏は台湾メディアの取材に対し、「結婚しない人、結婚しても子供を産まない人が増えるなか、昨年から今年にかけて、コロナ禍で結婚、出産を控えた人が多かった」と指摘した。

 

また、別の専門家は「台湾で未婚の母による婚外子は約4%しかなく、欧米諸国の約10分1に過ぎない。『結婚してから子供を産む』という儒教的な考え方がいまだに根強く、シングルマザーに対する社会の支援体制も弱い」と指摘した。

 

台湾誌「今週刊」が2〜3月、15〜49歳の市民1068人を対象に行った世論調査によると、約67%が「経済的圧力」などを理由に「子供を産みたくない」と答えた。「育児休暇による収入減」や「教育費の高さ」を心配する人が特に多かったという。

 

蔡政権はこれまで、少子化対策として教育費を一部減免するなどの施策を講じ、今年8月から毎月の育児手当を2500台湾元(約9500円)から3500台湾元(約1万3000円)に引き上げ、来年はさらに5000台湾元(約1万9000円)にすると発表している。

 

だが、同世論調査では「政府の支援が不十分だ」と答えた人が半分を超え、さらなる支援策を期待する人が多かった。【4月22日 産経】

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台湾少子化の原因は「高い住宅価格、高い物価、低い賃金、公的支援の不足、長時間の労働」の5つだとの指摘(政治家劉仕傑氏)も。【4月25日 Searchinaより】

 

しかし、台湾だけでなく、日本・韓国・シンガポール、そして中国も、東アジア圏で軒並み低水準になっていることを考えると、何か共通の背景があるようにも。

 

所得上昇に伴って出生率が下がるのは欧米も共通した減少ですが、東アジア、あるいは中華系の影響力の強い地域で欧米以上に低下するのは、女性の社会的立場が従来からの男性中心の時代のままにとどまっており、女性にしわ寄せされた出産・育児の負担が大きいためではないでしょうか。

 

結婚・出産・育児などに関する社会のあり方・個人の考え方を根本的に変えない限りは、いくら制度をいじっても「小手先」の対応に終わるようにも。

 

習近平主席は今無理をしなくとも二、三十年待てば、やがて台湾の少子化の歪は耐えられないほどに大きくなり、その過程で中台統一というものも自然と現実味を帯びてくるのかも。

 

まあ、そのときは日本も同様でしょうが。

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ラオス  中国「一帯一路」で建設が進む「中国ラオス鉄道」は「債務の罠」か?

2021-04-24 23:18:56 | 東南アジア

(中国国有企業が建設する「老中(ラオス中国)鉄道」の橋。時速160キロ仕様の中国製車両が走る予定だ=2020年1月3日、ラオス・ルアンプラバン、吉岡桂子撮影【2020年5月16日 GLOBE+】)

 

【「債務の罠」批判とインフラ整備による恩恵】

中国の世界各地における影響力拡大の推進役を担って展開されている「一帯一路」については、日本や欧米からは、中国の利益のために実施されており、現地国は結局「債務の罠」に陥るとの批判が目立ちます。

 

****中国に土地を取られる…融資返済できないモンテネグロがEUに助け求める―仏メディア****

2021年4月13日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、モンテネグロが中国から借り受けた10億ドル(約1090億円)を返済できず、欧州連合(EU)に助けを求めていると報じた。

記事は、英フィナンシャルタイムズの報道を引用し、モンテネグロが高速道路建設プロジェクトで中国から融資を受けた10億ドルの返済期日が迫る中、道路が完成せず返済の見通しも立っていないことから、すでにEUに対して援助を求めたと伝えた。

そして、同国が抱える「借金」について、2014年に中国輸出入銀行から融資を受けたものであり、融資期限が7月までになっていると紹介。融資合意書には同国の土地を担保とすることが記載されており、同国側に違約があった場合に中国が現地の相応の土地を使用する権利を持つことになっていると説明した。

高速道路建設プロジェクトは中国路橋公司が請け負っているが、道路は現時点でなお完成していないという。記事は、このプロジェクトについて「EUの外周地域における影響力を奪い合う地政学的闘争の一部になっている」と解説し、EUにとっては当該地域との関係を再構築する契機になり得ると報じている。

その上で、同国の財務相がすでに欧州委員会、欧州投資銀行などに助けを求めており、EU側も支援の意向を暗に示したとする一方で、現時点では適切な手段が見つかっていないと伝えた。【4月14日 レコードチャイナ】

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しかしながら、一方では、上記モンテネグロと同じ「EUの外周地域」バルカン諸国の一つ、クロアチアは「一帯一路」を称賛しています。しかも米国務長官の前で。

 

****クロアチア首相、ポンペオ米国務長官の前で中国の「一帯一路」称賛―米華字メディア****

米国の中国語ニュースサイトの多維新聞は4日、クロアチアのプレンコビッチ首相が同国を訪問したポンペオ米国務長官の前で中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を称賛したと報じた。

米国務省のホームページに2日付で掲載された情報を引用して伝えたもので、それによると、プレンコビッチ首相は2日、ポンペオ氏との記者会見で、「ポンペオ氏は一帯一路を『帝国を購入する』計画と見ているが、この地域への北京の投資は略奪的であることに同意するか」と問われ、「中国は国際的な行動力を行使できる組織体だ。中国は非常に賢明に、この中東欧諸国との関係、政治的対話、経済的枠組みの形式を考案した」と述べた。

そして、「クロアチアの首相としての最初の任期中に、中国の李克強(リー・カーチアン)首相と6回会談した。この形式がなかったとしたら、少なくとも25年から30年の時間を必要としただろう。このことは、中東欧で中国の関与と存在感が高まっている理由を説明している」と述べた。【2020年10月5日 レコードチャイナ】

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個人的な経験で言うと、一昨年パキスタンのフンザ地方への旅行でカラコルムハイウェイを利用しました。「一帯一路」以前に中国の援助で建設された道路で、現在も中国企業によって改修工事が行われています。

 

長時間の悪路ドライブの後、中国企業によって修復・拡張された道路に入ると、正直なところ「中国、あんたはえらい!」と感謝したくなります。

 

それはともかく、カラコルムハイウェイの建設、そして整備は、現地産業・社会にとって多大な利益をもたらしているものと思われます。

 

しかしながら、一方では・・・。

 

****中国大使が標的か、パキスタンの高級ホテルで爆発…イスラム武装勢力が犯行声明****

パキスタン南西部クエッタの高級ホテルの駐車場で21日、車に仕掛けられた爆弾が爆発し、地元病院によると、5人が死亡、12人が負傷した。現地を訪れていた中国の農融ノンロン駐パキスタン大使を狙った犯行との見方が出ている。

 

大使は爆発当時、宿泊先だったこのホテルにはおらず、無事だった。地元のイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が「高官を狙った」と犯行声明を出した。

 

大使は、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」で中核に位置づけられている「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)の協議のため、投資家や企業関係者らと訪れていた。現地では中国に反発する武装勢力が、中国人や関連施設の襲撃を繰り返している。

 

中国外務省の汪文斌ワンウェンビン副報道局長は22日の記者会見で、「今回のテロ攻撃を強く非難する」と述べた。【4月22日 読売】

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【中国ラオス鉄道 今年のラオス建国記念日の完成目指し、コロナ禍でも建設が進む】

ものごとにはいつも両面があります。・・・・というのが前置きで、今日の話題は「中国ラオス鉄道」 「一帯一路」による鉄道建設事業で、今年には完成の予定です。

 

中国側では「中老昆万(中国・ラオス、昆明・ビエンチャン)鉄道」とも言うようです。

その名前のとおり、中国雲南省の中核都市・昆明とラオス首都ビエンチャンを結ぶ鉄道で、更にタイにつながります。

(【2020年5月16日 GLOBE+】)

 

****中国・ラオス鉄道、1日で2本のトンネル貫通、開通後は昆明からシーサンパンナまで3時間****

(2020年)8月31日、中老昆万(中国・ラオス、昆明・ビエンチャン)鉄道の重点統制型工事である大尖山トンネルと太達村トンネルが相次いで順調に貫通しました。

 

2つのトンネルの貫通により、中国・ラオス鉄道の国内区間のトンネル93カ所のうち79カ所が貫通し、国内区間のトンネル工事は97%完了し、来年の全線開通に向けた基礎が固まりました。

全長1000キロ超の中老昆万鉄道は、中国の「一帯一路」イニシアチブとラオスの「陸鎖国から陸接続国への転換」戦略の連動プロジェクトです。

 

開通後は、雲南省の昆明市からシーサンパンナ・タイ族自治州景洪市までの所要時間はわずか約3時間となり、ラオスのビエンチャンまでは夕方に出発して翌朝に到着できることになります。【2020年9月1日 レコードチャイナ】

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昆明からシーサバンナ、更にラオスのルアンプラバンやビエンチャン、タイのバンコクが鉄路で短時間で移動できる・・・・旅行好きにはたまらなく魅力的です。

 

新型コロナの影響で、ラオス国内も、鉄道建設に従事する中国人労働者も影響を受け、工事に遅れは出ているものの、2021年12月2日、ラオスの建国記念日の完成記念を目指して工事は進められたようです。

 

****コロナ禍の一帯一路 ラオスと中国を結ぶ「老中鉄路」 はどうなる****

(中略)「中老鉄路」を構想時から追うラオス専門家の山田紀彦さんは言う。「高速鉄道はラオス政府にとっても優先順位の高い事業です。開業日は建国記念日の重要なイベントとして、ラオス側から強く希望して設定されました。工事を円滑に進めるために労働者の移動などにあたって、ラオス側が便宜を図った可能性もあります」

 

ただ、コロナ禍で世界全体がマイナス成長に転じる見通しとなるなか、ラオス経済への影響は必至だ。

 

「成長は減速し、税収が減るいっぽうで、対策による支出は増える。財政が悪化するなかで、鉄道建設費用に限らず、政府が抱える債務はより大きな問題になるでしょう」と山田さんは危ぶむ。

 

ラオス政府はすでに、中国に限らずお金を借りている相手に対して、今年の返済分について期限の繰り延べを打診している模様だ。(後略)【2020年5月16日 GLOBE+】

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【ラオスに重くのしかかる債務負担】

当然の如く。「債務の罠」云々が指摘されています。

 

****ラオス、重い対外債務 中国と減免交渉、「債務のわな」懸念****

東南アジアの内陸国ラオスが対外債務の返済に苦しんでいる。中国主導による巨大経済圏構想「一帯一路」に参加し、巨額の融資を受けてダムや鉄道などのインフラ整備を進めたが、主に中国に対する債務返済で負担が重くのしかかってきた。

 

途上国が返済の代わりに、完成後のインフラ施設を中国に明け渡す「債務のわな」に、ラオスも陥る懸念が指摘されている。

 

「厳しい対外債務の状況に直面している」。格付け機関大手のフィッチ・レーティングスは23日、ラオスの長期債務の格付けを「Bマイナス」から「トリプルC」に2段階引き下げた。

 

ラオスの外貨準備高が約13億ドル(約1370億円)なのに対し、年内に約5億ドル、来年からの4年間に毎年、約11億ドルの債務返済義務があることが理由だ。ラオスの対外債務は累積100億ドル以上とされ、国際通貨基金(IMF)によると、このうち約4割は中国からの融資だという。

 

中国南部と国境を接するラオスも一党支配による社会主義体制で、中国から支援を受けている。ダム建設などのほか、中国側と首都ビエンチャンを結ぶ鉄道も、来年12月の開業を目指して建設が進む。

 

だが、今年に入って新型コロナウイルス流行で観光業が打撃を受けたことなどから、ラオスの歳入が急減。通貨安も追い打ちをかけ、財政事情が逼迫(ひっぱく)してきた。英紙フィナンシャル・タイムズは、ラオスが債務減免について「中国と協議した」と報じたが、中国側の対応はなお不透明だ。

 

チャイナマネーに頼ったインフラ整備は世界的に懸念の声が強く、米シンクタンクは、ラオスをパキスタンなどと並ぶ「一帯一路の債務負担に対して脆弱(ぜいじゃく)な8カ国」の一つに挙げた。

 

ただ、中国によるラオス浸透策は加速している。ラオス国営電力会社と中国電力大手は1日、送電事業などで新会社を設立した。

 

負担を軽減したいラオス側は経営権を中国に譲ったとされ、ロイター通信は「こうした協定がラオスを巨大な隣国(中国)にこれまで以上に近づける」と警告した。【2020年9月28日 産経】

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【中国・ベトナムを相手にしたラオスのバランス感覚】

ただ、中国が「バラ色の計画」を吹き込んで、相手国を「債務の罠」に絡めとっている・・・という単純な話でもないでしょう。

 

中国ラオス鉄道も採算性から事業をしぶる中国にラオスが強く働きかけて実現した事業であり、ラオスは、中国・ベトナムという影響国の間でバランスをとりながら、国家の命運を握る事業に取り組んでいると思われます。

 

****不採算確実な「中国ラオス鉄道」、それでも敷設を進める事情****

「一帯一路」大解剖 知れば知るほど日本はチャンス

 

(中略)中国ラオス鉄道は、中国国境沿いのルアンナムター県ボーテンと、首都ビエンチャンを結ぶ414㌔メートルの単線鉄道で、国内に鉄道網をもたないラオスにとっては建国以来の悲願を叶える国家事業だ。約60億㌦の総事業費は国内総生産(GDP)の約3割に達する。

 

この中国ラオス鉄道について、ラオスにとっての「債務の罠」になるのではという見方も多い。しかし、実際には中国が事業採算性に疑問を呈し、慎重な姿勢で臨んだとの見方がある。

 

(中略)ラオスは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で、日本の本州ほどの国土に700万人が暮らす、インドシナ半島に位置する内陸国である。

 

また、マルクス・レーニン主義を掲げる人民革命党を唯一の指導政党とする社会主義国でもあり、その成り立ちの経緯から、1975年の建国以来、ベトナムとは指導政党間の連帯を基礎に兄弟関係とも呼ぶべき絆で結ばれている。(中略)

 

ラオスは80年代半ばまでソビエト連邦からの支援に依存していた。中国との関係は、79年の中越紛争時にラオスがベトナム陣営を選び、一時断絶した。

 

しかし、ソ連圏が崩壊し、中国の社会主義市場経済化が加速するとラオスは中国に頼る方向に舵を切る。貿易・投資・援助関係は拡大の一途をたどり、最近では輸出の3割、輸入の2割、直接投資の7割、対外債務の5割を中国が占めている。

 

ラオスにとって中国は、社会主義理念を共有する同志で、経済的にも圧倒的な存在である。しかし、これは中国に対しての「属国」化を意味しない。

 

ラオスは、ベトナムと特別な関係を堅持したうえで経済開発のため中国との実利的関係を深めている。一帯一路が打ち出されると、中国との一致した利害が関係緊密化を加速した。

 

その中で進んだのが中国ラオス鉄道である。(中略)起工式は、15年12月の建国40周年記念式典に合わせ、党・国家指導者臨席のもと行われ、16年末に着工した。21年12月の建国46周年を記念した運行開始を目指し、すでに9割以上が完成している。

 

筆者は、18年から20年3月にかけて、国際協力機構(JICA)とラオス国家経済研究所によるラオス財政安定化共同政策研究対話プログラムに加わり、ラオス政府への政策提言とりまとめに携わった。ラオス財政当局との意見交換の中心テーマは、膨大な対外債務と、財政健全化であった。

現在に至るまでラオスはGDPの6割に達する対外債務を抱えるなど、厳しい財政状況にある。その原因について筆者はラオス政府に対し、世界的な過剰流動性を受けたタイ債券市場での安易な起債、一帯一路に沿った投融資の拡大、BtoB(企業間)取引とも称される合弁事業モデルへの依存などによる、財政規律の緩みだと指摘した。

もっとも、中国との合弁事業の最たるものである中国ラオス鉄道については、建設が急ピッチで進む中、長年にわたるラオス悲願の国家事業を否定的に論じることははばかられた。

 

貨物輸送も期待できず 不採算が定められた鉄道 

しかし、中国ラオス鉄道の採算性には懐疑的な見方が多い。メコン域内の交通網に詳しいタイ人専門家に尋ねると、輸送コスト・時間の削減には資するものの、採算性は低いという。

 

中国ラオス鉄道と同様に、中国との合弁事業として並行して建設中の中国ラオス高速道路は、20年12月に一部開通している。将来的に全区間が開通すれば、需要を食い合うのは避けられないだろう。

 

旅客輸送ではなく貨物輸送として考えた場合はどうか。仮にビエンチャンから国境のボーテンを経由して雲南省の省都昆明をつないだとしても、生産拠点を結ぶ大規模物流は期待できそうにない。

 

現在、首都ビエンチャンの中心部から15㌔メートル北東、中国ラオス鉄道貨物駅に隣接する広大な敷地では、経済特区「サイセター総合開発区」の整備・開発が進む。雲南省海外投資有限公司が75%、ビエンチャン都が25%を出資するラオス・中国共同投資有限公司が、「産業開発区+ビエンチャン新都市」との理念を掲げ開発・運営を担う。日本企業では、すでにHOYAがハードディスクドライブ用ガラス基板の製造を始めている。

 

これまでASEAN諸国は、外国企業誘致を梃子に輸出志向の労働集約型製造業を発展させてきた。これらがサイセター総合開発区のモデルである。この他にもラオス国内には10の経済特区が設定されている。ここから、中国ラオス鉄道を生かした雲南省向けの輸出も期待されているだろう。

 

しかし、700万人がまばらに分布するラオスでは、ベトナムなどとは違い労働力の安定確保は容易でない。中国人労働者の流入は、社会的反発・軋轢リスクを孕む。中国ラオス鉄道を貨物輸送に活用するには、課題が山積しているのが現状だ。

 

また、中国からインドシナ半島を縦断してタイ、マレーシア、シンガポールと結ぶ壮大な構想は、遠い将来への期待にすぎない。

 

同じく一帯一路の中でタイ高速鉄道の建設計画が進行中だが、ラオスまでの延伸計画に動きはない。仮に延伸したとしても、規格が違うタイ高速鉄道と接続するには追加コストがかかる。

 

こうした採算性への懐疑にもかかわらず、風向きを変えたのは一帯一路の存在だ。筆者は数年前、ある中国人外交官から中国ラオス鉄道建設の経緯について「中国は当初慎重であったが、ラオス側からハイレベルの働きかけもあって政治的決定がなされた」と聞かされた。(中略)

 

中国に迫る「債権の罠」 日本が一帯一路と向き合うには

こうして採算の目途が立たぬまま建設が強行された中国ラオス鉄道だが、債務に脅かされているのはなにもラオス政府だけではない。

 

中国ラオス鉄道は、中国が7割、ラオスが3割を出資するラオス中国鉄道有限公司(LCRC)が建設・営業を担う合弁事業である。国有企業出資による合弁事業は、形式的にはBtoB取引であるが、実質的なリスクは株主たる政府が負う。

 

万が一にも事業が破綻すれば融資元の中国輸出入銀行は不良債権を抱える。そうなれば、債務・株式交換などによる中国主導の債務救済に向かう可能性が大きい。不採算事業は、中国にとっては「債務の罠」ならぬ「債権の罠」になりかねない。(中略)

 

では、今後のラオス・中国関係はどうなるのか。1月15日、ラオス人民革命党は党大会でトンルン・シースリット首相を書記長に選出した。その翌週、同書記長は習近平氏との電話会談で、中国・ラオス経済回廊構想推進を確認した。

 

2月1日にベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長の続投が正式発表されると、その翌日には電話会談で、指導政党間の特別な関係を確かめ合った。中国の圧倒的な経済的存在感とベトナムとの特別な絆との間でラオスは絶妙なバランス感覚を発揮する。

 

日本では、外交・安全保障の観点からの対中警戒、一帯一路の文脈での「債務の罠」批判が合言葉のようだ。しかし、こうした紋切り型の現状認識では、ラオスが直面する課題や周辺国との複層的な関係を見落とし、思考停止に陥る。勧善懲悪に色分けして踏み絵を迫るのは外交ではない。むしろラオスのバランス感覚としたたかさに学びたい。(後略)【3月26日 西沢利郎 WEDGE Infinity】

*************************

 

中国・ラオスの国境、ラオスのボーデンには、鉄道に先行して経済特区の中核をなす巨大ビル群が中国資本によって、今な何もない場所に続々と建設されているとか。

“中国ラオス国境に突如現れた巨大都市開発の謎”【4月22日 KAZUKI氏 JBpress】

“中国がラオスに建設する巨大都市、驚きの将来計画”【4月23日 KAZUKI氏 JBpress】

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ブラジル  「あの」ボルソナロ大統領が「アマゾン違法伐採を2030年までに根絶」 真意は不明

2021-04-23 23:11:54 | ラテンアメリカ

(【2020年2月12日】 焼かれたアマゾン)

 

【ボルソナロ大統領 アマゾン違法伐採を2030年までに根絶】

バイデン大統領が主催してオンライン形式で開催された気候変動に関する首脳会議(気候変動サミット)は、22,23日に40の国・地域の首脳らが参加して行われました。

 

アメリカ・バイデン大統領は、2030年に05年比で50〜52%減とする意欲的な新目標を発表。

バイデン大統領は「自ら解決できる国はない」と各国にも行動を求め、中国の習近平国家主席は「アメリカを含む国際社会と共に地球環境の管理推進に努力したい」と表明。

 

温暖化対策そのものよりは、米中の主導権争いという側面が大きく取り上げられる形にもなっています。

 

ただ、中身に関しても、アメリカ、EU、日本などが野心的な目標を公表し、何より、アメリカが国際社会に復帰し、CO2の最大排出国である米中が協力して対応にあたることを表明する・・・といったことは、今後へ大きな影響を与えることかと思います。もちろん、実効性などの問題も多々あります。

 

そのあたりの話は、また別機会で取り上げるとして、一連の各国首脳の発言で一番驚いたのは、ブラジル・ボルソナロ大統領の発言でした。

 

ブラジルのトランプとも称されるボルソナロ大統領は、本家トランプ前大統領以上に“型破り”な言動が多く、アマゾンに関しても、これまで開発を優先し、環境保護をないがしろにする発言を行っています。

 

そのボルソナロ大統領が・・・

 

****「30年までにアマゾン違法伐採ゼロ」ブラジル大統領*****

南米ブラジルのボルソナーロ大統領は22日、オンラインで出席した気候変動サミットで、「2030年までにアマゾンの違法な森林伐採をゼロにする」との方針を示した。ボルソナーロ政権が「環境保護に消極的だ」とする国際社会の評価を覆したい狙いがあるとみられるが、実現には疑問符がついている。

 

サミットでボルソナーロ氏は、「気候変動と戦う国際的な取り組みにブラジル政府も関与する」と演説。「予算を2倍にし、環境犯罪の取り締まりを強化することを決めた」と表明した。

 

また、温室効果ガスを排出ゼロにする期限を10年前倒しし、50年までとすると述べた。ただ、具体的な削減方法については触れなかった。

 

ボルソナーロ氏はこれまで、アマゾンの開発規制の緩和を主張し、監視機関の人員や予算を削減。欧米からの批判には「アマゾンはブラジルの主権だ」などと述べ、対応を後回しにしてきた。

 

だが、米国が地球温暖化に懐疑的なトランプ前政権から、気候変動対策に積極的に取り組むとするバイデン政権に代わったことで、開き直りを続けられなくなった形だ。

 

ただ、ボルソナーロ政権が目標達成に向けて、本当に取り組むのかは、演説前から疑問視されている。

 

同政権はアマゾン熱帯雨林の保護対策には、国際社会などから10億ドルの支援が必要だと主張してきた。今回のボルソナーロ氏の演説でも額こそ明示しなかったが、国際的な支援の必要性を訴えた。欧州諸国は、違法伐採を減らしたという実績を先に示すよう求めており、米バイデン政権も同調すると報じられている。

 

アマゾンで環境犯罪の取り締まりを担当するブラジル政府機関の職員は、「ボルソナーロ政権のせいで、捜査が難しくなっている」と告発。欧米が支援金の条件とする、伐採削減の実現は困難な状況だとしていた。

 

ブラジルのメディアでは、ボルソナーロ政権が支援金をめぐる駆け引きを続け、本格的な環境保護対策に取り組まない可能性も指摘されている。【4月23日 朝日】

******************

 

どこまで本気の発言でしょうか?宗旨替えしたようには思えませんが・・・。

「何でもいいから、適当に言っておけば・・・」ということであれば、そして、そういう発言がまかり通るのであれば、会議における米中や日本などの他の発言の信頼性も怪しく思えてきます。

 

****アマゾン脅かすブラジル大統領(The Economist)****

人類揺籃(ようらん)の地は樹木もまばらなアフリカの草原地帯サバンナだったが、ヒトは長い間森林から食料や燃料、木材から崇高な霊感までも得てきた。今も森林は世界の15億人にとって生活の糧であり、大小の生態系を維持している。それ以外の62億人にとっては脆弱で軋(きし)んでいるとはいえ、気候変動から自分たちを守ってくれるバッファー的存在だ。

 

(中略)政府の努力で7年間は森林破壊のペースは落ちたが、政策遂行力の低下や過去の違法伐採を不問に付したため2013年から再び加速した。不況と政治危機で政府の森林破壊抑制策を実行する能力はさらに弱まった。そしてボルソナロ氏は今、喜々として伐採を禁じる規制の緩和に着手している。

 

熱帯雨林の保護規制を廃止しようとする同氏の試みの一部は議会と裁判所が阻んだ。だが、法と秩序を回復させるために当選したはずのボルソナロ氏は、違法に伐採をする者は何も恐れる必要はないとの立場を鮮明にしている。

 

もともとアマゾンでの伐採の70~80%は違法伐採なので、今や森林破壊は記録的なレベルに達している。同氏が大統領に就任して以来、ニューヨークのマンハッタン2つ分以上の面積に匹敵する森林が毎週消失している。

 

森林アマゾンの減少は気温の上昇も招く

アマゾンは、水資源の多くが循環している点で他の森林と異なる。熱帯雨林が縮小すれば再生、循環する水も減る。そのためどこかの段階で、つまり今後何十年かで、その水を再生する力が弱まれば、森林は一層縮小していくという悪循環に陥ることになる。

 

気候変動で森林の気温は上昇しており、臨界点は年々近づいている。ボルソナロ氏は、事態を限界へと押しやっている。悲観主義者らは熱帯雨林がさらに3~8%消滅すれば(同氏の下では近いうちに起こり得る)、制御不可能な森林破壊のサイクルが始まると恐れている。彼らが正しいかもしれないと示す兆候がある。アマゾンは過去15年で3度の深刻な干ばつに見舞われ、森林火災も増えている。

 

ボルソナロ氏は科学全般に懐疑的なこともあり、こうした見方を否定し、外部の人々を偽善者と呼ぶ。先進国も森林を伐採してきたではないか、と。先進国は、ブラジルを貧しいままにしておくために環境保護をお題目に利用してきたとも非難する。

 

最近も同氏は「アマゾンは我々のものだ」と怒りを込め叫んだ。ブラジルのアマゾン熱帯雨林で起きることはブラジルの問題だと彼は考えている。

 

だが、アマゾンの問題はブラジルだけの問題ではない。アマゾンの森林破壊は周辺7カ国にも直接被害を及ぼす。熱帯雨林から放出され、アンデス山脈沿いにはるか南のブエノスアイレスまで流れる湿気を減らすだろう。上空の水蒸気の流れだけでなく、ブラジルがダムを造って川をせき止めれば、下流にある国々は、それを戦争行為とみなすかもしれない。

 

アマゾンの熱帯雨林は大量の炭素を蓄積しているため、燃えたり腐敗したりすれば、世界の平均気温は2100年までに0.1度上昇する可能性がある。大したことはないと思うかもしれないが、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」では将来の気温上昇を0.5度程度に抑えるのが望ましいとされている。(後略)【2019年8月6日 2:00  日経】

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【国際批判にもかかわらず、「アマゾンは我々のものだ」との主張は、国内的には国民も共有】

ボルソナロ大統領がどこまで本気で違法伐採を根絶するつもりかは大いに疑問ですが(伐採規制を緩和したうえでの「違法」伐採を・・・ということでしょうか)、何事につけ、国際世論と国内評価は異なることもあります。

 

「あの」トランプ大統領もアメリカ国内では4割ほどの国民が熱烈支持しているように、また、深刻な感染拡大の一因ともなっているボルソナロ大統領の新型コロナ軽視姿勢・経済活動規制への反対姿勢が一部の国民には支持されているように、アマゾンについても、開発優先の大統領の姿勢、「アマゾンは我々のものだ」ということで外国の干渉を嫌う考えは、ブラジル国内的には共感もあります。

 

一昨年夏、アマゾン森林火災の消火活動に消極的だった同氏への激しい国際的批判がありましたが・・・

 

****アマゾン火災、ブラジル国内では大統領批判少なく****

ブラジルのボルソナロ大統領は、アマゾン森林火災への対応をめぐり、国際舞台では欧州の指導者たちや環境保護グループから激しい批判を浴びている。しかし、国内で大統領の対応の鈍さに怒る国民は少ない。

 

熱帯雨林の保護と開発のバランスを巡り、国民の多くは、外国の干渉に対する大統領の嫌悪感を共有している。アマゾンは国内では重要な国家資産と受け止められているが、国際社会では気候変動への決定的な防波堤と見なされている。(中略)

 

ブラジリアのコンサルタント会社キャピタル・ポリティコの責任者、レオナルド・バレット氏によると、今週実施した世論調査ではボルソナロ政権が「非常に良くやっている」、「良い」、「普通」とする回答は合わせて約60%に上り、国民が現時点では大統領を好意的に見ていることが明らかになった。

 

ロビイストでブラジル政府の元通商担当高官だったウェルバー・バラル氏は、「アマゾンの支配権を外国人に奪われかねないとのボルソナロ氏のナショナリズム的思考のために、皮肉にも、森林火災は同氏の支持率を上げたかもしれない」と述べた。

 

ブラジル国民の多くは、アマゾンには金からニオブに至る膨大な鉱物資源が眠っており、それらが諸外国から狙われていると信じている。(後略)【2019年8月31日 ロイター】

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【WHO 「ブラジルは感染拡大で荒れ狂う地獄のような状況になっている」】

ブラジルの新型コロナ感染状況は、世界ワーストの座こそインドに譲りましたが、未だに深刻な状況が続いています。

 

****感染拡大続くブラジル、夜勤従業員も動員し墓掘り 埋葬追いつかず****

ブラジル・サンパウロの墓地ではこれまで、夜間に埋葬が行われることはほとんどなかった。しかし、新型コロナウイルス感染の第2波によりこの数か月で死者が急増し、同市は対処不能な事態を避けるため、現在22の市営墓地のうち4か所で夜勤の従業員を増やして墓掘りに当たっている。市内では毎日600もの墓が掘られている。

 

そのうちの一つ、中南米最大の墓地であるビラ・フォルモサ共同墓地は、新型コロナウイルスによる死者がすでに36万人を超えているブラジルの被害の実情を如実に示している。

 

午後6時、夜勤で働く従業員の出勤時間だ。発電機につないだ2台の大型ライトが墓をこうこうと照らし、ディーゼルエンジンの排気臭が辺り一面に漂う。

 

感染拡大の第1波の真っただ中だった2020年5月、この墓地では3台のパワーショベルを使って1日に60の墓を掘っていた。今は、6台の重機で1日に200の墓を掘っていると、夜10時までのシフトで働いている従業員らは話す。

 

サンパウロ市内では先月30日、過去最多の426人が埋葬された。現在1日当たりの死者は平均391人、埋葬される人の数は平均325人となっている。 【4月17日 AFP】

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しかし、ボルソナロ大統領は経済活動を規制することには反対し、規制を強化する州知事と対立しています。(このあたりは、再選を目指すボルソナロ大統領に対し、サンパウロ州知事が次期大統領選挙の有力候補であるため、次期大統領選挙を睨んだ動きの側面もあります。)

 

****ブラジル大統領、州知事のコロナ抑制策を批判 WHO「地獄」と警告****

ブラジルで新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからず、世界保健機関(WHO)のブルース・エイルワード上級顧問が「地獄」のような状況になっていると警戒を呼び掛ける中でも、ボルソナロ大統領は9日、対応への批判に反論し、州知事によるロックダウン(都市封鎖)の動きを批判した。

ブラジルの新型コロナ感染による死者数は34万5000人を超え、米国に次いで世界で2番目に多い。感染拡大で医療機関が逼迫し、このところの1日の死亡者数は4000人を超えている。

WHOのエイルワード上級顧問は「ブラジルは感染拡大で荒れ狂う地獄のような状況になっている」と警告。こうした中でもボルソナロ大統領は、ロックダウンのほか、これよりも緩やかな感染拡大抑制措置を導入しようとした州知事を非難。ウイルスよりも抑制措置でより多くの人を殺したと批判した。

医療機関の対応体制が限界に近づく中でも、サンパウロ州は抑制策の一部を来週緩和すると発表している。【4月10日 ロイター】

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これだけの感染拡大のなかにあっても“ボルソナーロ大統領は新型コロナウイルスの流行について、メディアによるでっち上げだと示唆し、政府による補助金を報道機関に提供することによって解決が可能だとの見方を示した。”【4月8日 CNN】とも・・・・いささか常軌を逸しているようにも・・・。

 

【政権内部の軋み 次期大統領選挙にルラ元大統領復活】

ボルソナロ大統領の強引な政権運営・コロナ軽視対応に、政権内部にも軋みがあるようです。

 

****陸海空軍のトップ3人が交代へ、主要閣僚らに続き ブラジル****

ブラジル国防省は30日、軍の陸海空軍を率いる司令官3人の退任を発表した。ボルソナーロ政権では29日に発表された主要閣僚らの交代に続き、軍の指導部も一斉に入れ替わる異例の事態となった。

 

発表によると、陸軍のプジョル司令官、海軍のバルボザ司令官、空軍のベルムデス司令官が退任する。この決定は29日に辞任したアゼベド前国防相、後任のブラガ国防相と3司令官の会合で伝達されたという。

陸海空軍の司令官が一斉に交代するのは同国史上初めて。(中略)

 

ボルソナーロ氏は最近、新型コロナウイルス感染対策のロックダウン(都市封鎖)措置を導入した各州知事らと対立して非常事態宣言の発令を示唆した際に連邦軍を「私の軍」と呼ぶなど、強権的な言動が目立っている。

 

現地メディアによると、軍司令官らはボルソナーロ氏の計画に支持を表明するよう圧力を受けていたという。

アゼベド氏は29日の声明で、「私は国家機関としての軍を守った」と述べていた。【3月31日 CNN】

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軍のエリート首脳には、「元軍人」の変わり者(陸軍時代は、軍人の低賃金を批判する記事を書いて15日間逮捕拘留されたり、軍に爆弾を仕掛けたと裁判沙汰になったりしたことも)をトップに戴くこと、「私の軍」呼ばわりされることに(間違いなく)抵抗感もあるでしょう。

 

次期大統領選挙に関しては、サンパウロ州知事だけでなく、ルラ元大統領という強力ライバルが復活したようです。

 

****人気健在の元ブラジル大統領、出馬可能に 最高裁で確定****

南米ブラジルの連邦最高裁大法廷は15日、収賄の罪で有罪としたルラ元大統領(75)の判決を取り消す判断を確定させた。これにより、ルラ氏は22年10月の大統領選への立候補が可能となった。

 

左派・労働党のルラ氏の人気は健在で、直近の世論調査では、再選を狙うボルソナーロ大統領との決選投票になる可能性が高いとみられている。

 

ブラジルでは、二審で有罪判決を受けると当選できない。建設会社からマンションなどを受け取ったなどとして収賄の罪に問われたルラ氏は18年1月、南部クリチバの連邦地裁での二審で禁錮12年1カ月の有罪判決を受けた。このため、18年大統領選に出馬が認められず、ルラ氏側は異議を申し立てていた。

 

今年3月、最高裁判事が「クリチバ地裁には管轄権がなく、首都ブラジリアで審理されるべきだ」として有罪判決を取り消し、裁判のやり直しを命じる判断を示していた。最高裁は15日、判事11人による大法廷でこの判事の判断を審理した。8人が賛成し、有罪判決取り消しが確定した。

 

次期大統領選の立候補届け出は22年8月が期限だが、やり直し裁判の二審判決がそれまでに出る可能性は低い。事実上、ルラ氏は立候補できることになった。

 

03年から2期8年大統領を務めたルラ氏は、好景気とも重なり、貧困層を中心に絶大な支持を集めた。今月実施された世論調査では、ルラ氏とボルソナーロ氏が決選投票に進んだ場合、34%がボルソナーロ氏に投票すると回答したのに対し、ルラ氏に投じると答えたのは52%だった。

 

ルラ氏の裁判をめぐっては、有罪判決を下した地裁のモロ判事が、ボルソナーロ政権で法相に就任したことから、「政治的な判決」だと批判が起きていた。【4月16日 朝日】

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ルラ元大統領との争いはこれからの話ですが、これだけ物議をかもす言動がありながらもボルソナロ大統領が決選投票に進むと予想されているあたり、国内評価・人気というのは外からはわからないものです。

 

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日本の「報道の自由度」評価が低い背景  政府・総理におもね、実像を伝えないメディア

2021-04-22 23:19:05 | 日本

(菅義偉首相の「ぶら下がり」会見。メディアが官邸サイドの機嫌を損ねることを恐れているのも過剰に尊敬語を使う背景だという 【4月21日 AERAdot.】)

 

【報道の自由度、67位】

世界には北朝鮮・中国のように「報道の自由」など最初からない国も少ないですし、香港やミャンマーのように急速な悪化が懸念されている国もあります。

 

****警察批判番組制作者に有罪、香港 記者協会「報道の自由への弾圧」****

香港で2019年に抗議デモ参加者が襲撃された事件を巡り警察を批判的に報じた公共放送RTHKのドキュメンタリー番組制作者が、事件関係車両の所有者を割り出そうとナンバー照会をしたことが「道路交通条例」違反に問われた問題で、裁判所は22日、制作者に罰金6千香港ドル(約8万円)の有罪判決を言い渡した。

 

香港記者協会は、ナンバー照会は通常の取材手法だとして、制作者の摘発は「報道の自由への弾圧だ」と批判している。

 

有罪判決を受けたのは、フリーの番組プロデューサー、蔡玉玲氏。昨年11月にこの問題で逮捕された後、番組制作から外されている。【4月22日 共同】

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****ミャンマーで邦人記者拘束 軍政批判、自宅近くで連行****

国軍がクーデターで全権を握ったミャンマーで18日夜、同国在住のフリージャーナリスト北角裕樹さん(45)が最大都市ヤンゴンの自宅近くで治安当局に拘束された。地元メディアが報じた。北角さんはクーデターに抗議するデモの取材を続け、SNSで情報を発信し、日本のメディアにも寄稿していた。

 

国軍は2月1日のクーデター以降、外国人記者を含めジャーナリストを相次いで拘束し、メディアに対する告発や免許剥奪で言論弾圧を強化。インターネットの利用も大幅に制限している。北角さんは元日本経済新聞記者。2月26日にもデモ取材中に拘束されたが、同日中に解放されていた。【4月19日 共同】

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そうした国々に比べて、日本は「報道の自由」が保証されている・・・・というのが、私を含めて一般的日本人の感覚だと思いますが、国際NGO「国境なき記者団」が毎年発表しているランキングでは、日本の報道自由度はあまり芳しい評価ではありません。

 

****報道の自由度、67位 「菅氏は改善へ何もしていない」****

国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は20日、2021年の「報道の自由度ランキング」を発表した。調査対象の180カ国・地域のうち日本は67位(前年66位)だった。

 

日本の状況について、政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」と批判した。

 

クーデターで国軍が権力を握り、批判的なメディアの免許が取り消されているミャンマー(140位)については、治安部隊による大規模な拘束を逃れるため、事実を伝えようとする記者が隠れて働くことを強いられていると指摘した。

 

1位は昨年と同じノルウェーで、4位までをフィンランドなど北欧諸国が占めた。米国は44位(昨年45位)で、日本は主要7カ国(G7)の中で最下位。中国は昨年と同じ177位だった。【4月20日 朝日】

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この手の指標は、「幸福度」にしても「ジェンダー格差」にしても、複雑な事象が絡み合い、いろんな側面がある現実に対し、あくまでも一定の基準で構成された「指標」ですから、その数値・順位がどこまで全体像を反映しているかは、当然ながら限界はあります。

 

ただ、その指標による評価が低いということであれば、その原因について検討し、改善の参考にすべきものでしょう。

 

「国境なき記者団」は例年、記者クラブ制度が「フリーランスや外国人の記者を差別し続けている」ことを指摘していますが、この点は、一般人にはいまひとつピンとこない問題にも思えます。

 

上記記事があげている、“政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」”ということに関しては、わかる部分も。

 

【欧米の先進諸国と同水準だった時期も 福島第一原発事故以後、「発表ジャーナリズム」の問題が顕在化】

日本のランキングは、もとからこんな低かった訳ではなく、以前は欧米の先進諸国、アメリカやイギリス、フランス、ドイツと変わらない中堅層やや上位を保ち、最高順位は11位だったそうです。

 

それが低下したのは、東日本大震災と福島第一原発事故の発生後の報道事情の変化を受けたもののようです。更に特定秘密保護法の成立が。

 

下記記事は、そのあたりを解説した2015年の記事です。

 

*****「報道の自由度」ランキング、日本はなぜ61位に後退したのか?*****

(中略)

日本の評価は?

日本のランキングは2002年から2008年までの間、20位代から50位代まで時代により推移してきたが、民主党政権が誕生した2009年から17位、11位とランキングを上げた。

 

2008年までの間は欧米の先進諸国、アメリカやイギリス、フランス、ドイツと変わらない中堅層やや上位を保っていたが、民主党政権誕生以降、政権交代の実現という社会的状況の変化や、政府による記者会見の一部オープン化もあり、2010年には最高の11位を獲得している。

 

しかしながら、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の発生の後、2012年のランキングでは22位に下落、2013年には53位、2014年には59位を記録した。

 

そして今年2015年にはついに過去最低の61位までランキングを下げる結果となった。自由度を5段階に分けた3段階目の「顕著な問題」レベルに転落した状況である。

 

なぜ日本の順位は後退したのか?

世界報道自由度ランキングのレポートでは、日本の順位が下がった理由を解説している。ひとつは東日本大震災によって発生した福島第一原発事故に対する報道の問題である。

 

例えば、福島第一原発事故に関する電力会社や「原子力ムラ」によって形成されたメディア体制の閉鎖性と、記者クラブによるフリーランス記者や外国メディアの排除の構造などが指摘されている。

 

戦争やテロリズムの問題と同様に、大震災や原発事故などの危機が発生したときにも、その情報源が政府に集中することにより、「発表ジャーナリズム」という問題が発生する。

 

政府が記者会見で発表した情報をそのまま鵜呑みにして報道する姿勢である。

 

また、同様に戦場や被災地など危険な地域に自社の記者を派遣しないで、フリー・ジャーナリストに依存する「コンプライアンス・ジャーナリズム」の問題も重要である。メディアとしての企業コンプライアンスによって、危険な地域に自社の社員を派遣できないという状況から、危険な地域に入るのはフリー・ジャーナリストばかりになるという構造的問題である。

 

このような日本のメディアの状況下で一昨年に成立した特定秘密保護法の成立が日本の順位下落に拍車をかけた形である。

 

特定秘密保護法の成立により、戦争やテロリズムに関する特定秘密の存在が自由な報道の妨げになるという評価である。

 

日本が置かれる国際状況や、日本国内の政治状況が大きく変化している現在こそ、日本のメディア、ジャーナリズムに自浄作用と改革が求められている。【2015年7月15日 日本大学大学院新聞学研究科】

***********************

 

【政府や総理の機嫌を損ねることを極端に恐れているメディア】

政府が記者会見で発表した情報をそのまま鵜呑みにして報道する姿勢「発表ジャーナリズム」が生んでいる、政権とジャーナリズムが癒着し、ジャーナリズムが政権におもねる空気感を示すものが、下記記事が指摘するような日本的雰囲気でしょう。

 

****「総理がおっしゃる」テレビの過剰な尊敬語に違和感 メディアと「対等」なのになぜ?****

テレビの報道番組や情報番組では政府や総理大臣に尊敬語がよく使われる。背景にはメディア側の萎縮のほかに、ツイッターなどSNSの影響もある。AERA 2021年4月26日号で掲載された記事を紹介。

*  *  *

「『総理がおっしゃっている』って、平気でテレビで言うようになったのはなぜだろう」

 

今年1月、ツイッターにこう投稿したのはテレビユー福島の記者、木田修作さん(35)だ。このところ、テレビの報道番組や情報番組でキャスターや司会者、コメンテーターなどの出演者が政府や総理大臣に言及する際、「尊敬語」を使うことが常態化していることに大きな違和感があるという。

 

確かに多い。たとえば、「総理がご判断されるのでは」「大臣はこうお考えになっておられる」などの言い回しがテレビからよく聞こえてくる。これは以前にはなかったことだ。木田さんは言う。

 

「私たちメディアの大事な仕事は『権力の監視』です。政治家に過剰に尊敬語を使う必要はなく、『総理が話していました』で十分なはずです」

 

これはメディア側の問題にとどまらず、視聴者である私たちにも無関係ではないと、木田さんは懸念する。

 

「総理大臣や政府を尊敬の対象にしてしまうと、政治や政策に対する意識、声を上げる姿勢にも当然、影響があります。コロナ禍で特別定額給付金について番組で言及する際の『給付金をもらう』も同じ意味で気になります。税金が財源ですから、『もらう』ではなく『受け取る』が正しいはず。私たちの意識への負の影響という点で、過剰な尊敬語と根っこはつながっていると思いますね」

 

メディアの尊敬語に同様の違和感を持つのは、戦史研究家の山崎雅弘さん(54)だ。

「総理と『対等だ』という認識がメディアにないと、そもそも権力監視なんてできません。怖いのは、私たちの側も尊敬語に慣れてしまい、『国民は政府や総理よりも下なんだ』と刷り込まれてしまうことです」

 

■戦う前から負けている

権力の監視どころか、メディアが戦う前から負けている──。そんな状況は2012年12月に始まった第2次安倍政権からだと、山崎さんは考えている。

 

14年6月、NHKのニュースでキャスターが「政府がおっしゃいましたけど」と話すのを聞き、「40数年この国で生きてきて、政府に敬語を使うニュースキャスターを初めて見た」とツイッターに投稿している。

 

「驚きました。感じるのは、政府や総理の機嫌を損ねることをメディアが極端に恐れているということです。メディアは第2次安倍政権以降、『権力と対等』でなく、『殿様と下僕』のような主従関係に安住するようになりました。官邸側に完全に仕切られてしまっている現在の総理会見もその象徴です」

 

これに加え、山崎さんが「気持ち悪い」と話すのが、「させていただく」という言葉の氾濫(はんらん)だ。本来そこまで言う必要はないのに、「上の人の機嫌を損ねてはいけない」「自分が謙虚であることをアピールしないと」という「萎縮の心理」が社会全体に広がっていると、山崎さんは見る。

 

「そんな萎縮の状況と、政府に尊敬語を使うことは根っこがつながっています。加えて、『権力を監視するための批判は、与党への攻撃だ』という勘違いをする人が増え、本来の仕事を果たすメディアに対し、『偉そうだ』などと筋違いの批判をしてしまう。メディアの萎縮には、国民の側にも責任の一端があるんです」

 

■怖いSNS上での批判

それはツイッターなどSNSの影響も大きいのではと考えているのが、政治記者として30年以上の経験があり、テレビの報道番組などでコメンテーターとしての出演も多い毎日新聞専門編集委員の与良正男さん(63)だ。自身はテレビでコメントする際、政府や総理に尊敬語は使わず、かつ必ず「菅さん」と呼ぶ。

 

「私もたまにエゴサーチ(インターネット上で自分の名前を検索)すると、『なんで与良は一国の総理にさん付けなんだ。何様だと思ってる!』と。そういう声はテレビ局にも山ほど来るんです。それをアナウンサーやコメンテーターがすごく気にする結果、『尊敬語を使って、リスペクトしているふりをしておいたほうが無難だ』となる。そんな意識は間違いなくあると感じています」(後略)(編集部・小長光哲郎)※AERA 2021年4月26日号より抜粋【4月21日 AERAdot.】

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【実像を伝えていない政治メディア】

“政府や総理の機嫌を損ねることをメディアが極端に恐れている”“、『権力と対等』でなく、『殿様と下僕』のような主従関係に安住する”という政権とメディアの関係は、“政治メディアは実像を伝えていない”ことにも。

 

“政治メディアは実像を伝えていない”ということ自体、ものごとには公にできないこと、されないこともあるというのは昔からあることでしょうが、メディアが萎縮・忖度する状況で、その弊害が増幅されているようにも。

 

****『菅義偉とメディア』著者は元菅長官番の現役記者 永田町で感じた違和感、赤裸々に****

元新聞記者で、いま大学でジャーナリズムとアフリカ研究を教える筆者による新連載。第1回は記者会見での突っ込みが足りないなどと批判が絶えない政治取材の現場について、楽屋裏を明かす本を著した現役記者に直撃インタビューしました。

 

菅政権の発足から3カ月後の2020年12月、日本政治に関する1冊の本が出版された。『菅義偉とメディア』(毎日新聞出版)。筆者は毎日新聞の秋山信一記者。

 

2017年4月から3年半にわたって政治部に在籍し、このうち2019年10月からの1年間は、安倍政権の官房長官だった菅氏に「番記者」として張り付いた。

 

(中略)私はこのほど秋山氏にインタビューし、出版の背景や日本の政治メディアについての考えを聞いた。秋山氏の言葉から見えてきたのは、現場で取材している記者の「個」が欠落した日本の政治報道の病弊である。(中略)

 

■政治部を「取材」した

白戸 取材対象の政治家との癒着、番記者の横並び体質、生ぬるい批判精神――。近年、国政を取材する日本の政治メディアに対し、そうした批判が数多く寄せられています。しかし、批判の多くは政治部の外の世界から寄せられているものであり、政治部の記者、しかも官房長官番のような政治部の中心に位置する記者自身の肉声が実名で公にされることはまれです。なぜ、このような本を書こうと思ったのですか。

 

秋山 エジプトから帰国し、政治部に配属された初日から、政治部の仕事の仕方に強い違和感を抱きました。記者になって14年目にして初めて政治部に配属されたのですが、それまでの地方支局、社会部、海外特派員の仕事では感じたことのないストレスでしたね。

 

それで、以前政治部に在籍したことのある記者たちに「政治部っておかしくないですか」などと愚痴を言っていたのですが、実は多くの元政治部記者が、私と同じような違和感を政治メディアに抱いていたことを知りました。

 

そこで、希望して政治部に配属されたわけでもなかったので、政治家を取材するだけではなく、政治記者そのものを観察対象にすることにしたのです。政治部は観察対象としては大変興味深い組織でした。

 

白戸 どのような違和感、ストレスでしたか?

 

秋山 一番の問題は、取材をした現場の記者が自分の言葉で記事を書けないことです。社会部での事件取材でも海外特派員の仕事でも、自分で歩き、人に話を聞き、自分で考えて記事を書いてきました。

 

ところが、政治部では、記者として当たり前だと思っていた、そういうことが全くできなかった。現場の若い記者は取材して膨大な情報を持っているにもかかわらず、それを積極的に書かないし、また、上の人間は彼らに書かせようともしない。

 

記者は膨大な情報を集めているのですが、いざ記事を書いてアウトプットしようとすると、とにかく政治部内にハードルが多過ぎて、結局、読者の目に触れる段階では、ありきたりの内容で構成された定型的な記事になってしまうのです。

 

政治部の記者たちは、どのタイミングでどのような記事を書くかということまでも自分たちで決めてしまっており、その結果、自縄自縛に陥り、取材した政治家や政界の出来事の実像を世の中に十分に伝えきれていないと思いました。

 

■取材したことを伝えていない?

白戸 政治メディアは実像を伝えていない、ということですか。

 

秋山 政治部の世界では、若手記者が永田町の現場で政治家を取材していますが、彼らは原稿を書くのではなく、政治家の言ったことをメモにしてキャップやデスクといった上司に報告し、キャップやデスクは、そのメモを基に作文します。

 

キャップやデスクといったベテラン記者は、記事の中で使う語句や言い回し、記事の書き方のパターンを知っているので、メモの中から言葉を選んで定型的な文章を作文し、それが読者の目に触れているわけです。(中略)

 

秋山 政治部の取材では、キャップやデスクが、現場の若い記者から上がってきたメモに基づき、定型的な作文を書くようなことを続けているので、記者が現場で感じたことや生々しい体験が、記事になった段階では全く反映されなくなることが日常化しているのです。

 

現場の記者が取材を通じて「これを書きたい」「これは書かなければならない」との思いを抱き、その思いに基づいて記事を書かなければ、現場で起きている本当のことは読者に伝わりません。(中略)

 

■集めた情報、もっと国民に発信を

白戸 政治メディアはこれからどうしたらよいと思いますか。

 

秋山 いま、政治部記者の記者会見での質問の仕方が生ぬるい、などという批判があります。追及の甘さは問題ですが、きつい口調で政治家を問い詰めていけば真実が出てくるのかというと、そんな単純な話ではない。問題は、先ほどお話しした通り、情報をアウトプットしていくプロセスにあると思います。ジャーナリズムは取材して情報を積み上げて、それを伝えていくということの繰り返しですが、政治部は国民に向けて、あまりにも情報を出していません。記者はそもそも報道するために情報を集めているはずです。

 

永田町という狭い空間に、これほど大勢の記者が密着している日本メディアの政治部のような組織は、世界にも例がないように思います。政治部記者たちは実に様々な情報を持っており、面白いことをたくさん知っています。もっと取材した現場の人間に原稿を書かせないとだめだと思います。現場で取材している若手記者の裁量を増やすとともに、若手記者が取材したことを上手に表現できる力量を向上させることも大事だと思います。【4月22日 白戸圭一氏 GLOBE+】

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インド  コロナ1日30万人 「ワクチン大国」も国内需給ひっ迫 英・日首相、訪印中止

2021-04-21 23:18:40 | 南アジア(インド)

(【ロイター】 インドでは、天井を突き破るような勢いで感染が急拡大しています。)

 

【1日30万人 ワクチンが効きにくい恐れもある「二重変異株」も 医療体制は「限界に来ている」】

新型コロナ感染者のこれまでの累計を国別にみると、もっとも多いのがアメリカで3186万人、2位がインドの1561万人、3位がブラジルの1404万人。(今日のテーマではありませんが、アメリカの数字は突出しており、理由・事情はともあれトランプ前政権のもたらした被害は甚大です)

 

1日あたりの新規感染者(4月20日)では、ピークを越した(ただし、3月中旬からやや増加傾向に転じていますが)アメリカが約6万人、ブラジルは3月25日の10万人からは減少して約7万人、これに対しインドは2月中旬の1万人強を底にその後急激に増加、30万人に迫る勢いとなっています。【ロイター集計より】

 

上記新規感染者でわかるように、世界の感染の中心は現在はインドです。

 

****インドの感染最多、30万人迫る 二重変異株も、医療逼迫****

インド政府は21日、新型コロナウイルスの1日当たりの感染確認者数が約29万5千人、死者が2023人になったと発表した。いずれも同国では過去最多。感染急拡大に医療体制は逼迫している。

 

インドでは一つのウイルスで二つの変異が起きる「二重変異株」が見つかり、強い感染力や免疫をかいくぐる可能性も指摘される。しかし政府は「証明されていない」と強調。急拡大の原因が不明のまま各地で外出制限が出され、人々は不安な暮らしを強いられている。

 

首都圏政府は19日、医療体制が「限界に来ている」として、同日から約1週間の外出禁止令を出した。【4月21日】

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感染急拡大の背景としては、ワクチン接種開始による「気の緩み」や人が密集する大規模な「お祭り」も指摘されています。

 

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インドでは、1月中旬にワクチン接種が始まり、市民に気の緩みが生じた。また、ヒンズー教の春の祝祭「ホーリー」や、3年に1度の祭り「クンブメラ」で厳しい規制を取らなかったことも、感染再拡大の要因とみられる。

 

インド各地では病床不足などが深刻化。1億人以上が1度目のワクチン接種を終えたものの、供給体制の不備から、希望者にワクチンが行き渡らない状態も続いている。【4月19日 時事】 

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なお、これまでの死者数では、アメリカの約57万人、ブラジルの約38万人に比べ、インドは18万人と比較的少ない数字に収まっています。

 

これがなんらかのインド的事情(年齢構成の違いなど)によるものか、あるいは、単に正確に把握されていないだけなのかは知りません。(後出記事によれば、統計の漏れも専門家から指摘されているようです)

 

いずれにしても、新規感染者0.4~0.5万人の日本が医療体制がひっ迫云々と騒いでいるぐらいですから、新規29万人のインドの医療体制が「限界に来ている」のも当然でしょう。(なお、日本については、この程度の数字でひっ迫するのなら、それは医療システムに基本的な欠陥があるせいではないかとも推測されます)

 

下記の事故も、そうした「限界に来ている」ことがもたらしたものでしょうか。

 

****インドの病院で酸素漏れ 治療中コロナ患者ら22人死亡****

インド西部ナーシクの新型コロナウイルス患者の治療にあたる政府系病院で21日、病院敷地内のタンクに貯蔵されていた医療用酸素が漏れ、患者への供給が約30分間止まった。これにより、酸素吸入や人工呼吸器を使った治療を受けていた患者ら少なくとも22人が死亡した。

 

地元メディアによると、酸素吸入が必要な患者80人のうち、31人を別の病院に搬送したという。タンクから酸素が漏れた原因はわかっていない。

 

新型コロナの感染が急拡大しているインドでは、感染者が1日当たり約30万人増えている。各地の病院では医療用酸素が不足しており、感染者への治療に支障が出ている実態が指摘されていた。【4月21日 朝日】

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【各地でロックダウンがとられるものの・・・】

この状況を受けて、インド各都市でロックダウン(外出禁止措置)が取られています。

 

****インド、コロナ死者が過去最多 多くの地域で都市封鎖****

インド政府は20日、新型コロナウイルス感染による1日当たりの死者が1761人と、過去最多を記録したことを明らかにした。

国内の多くの地域でロックダウン(都市封鎖)が導入されている。

保健省によると、新規の感染者は25万9170人で、世界最多。1日当たりの感染者は6日間にわたって20万人を超えている。累計の感染者は1532万人で、米国に次いで世界で2番目に多い。

感染者が急増しているデリーは、19日遅くから6日間のロックダウンを導入。

デリーや、人口が最も多いウッタルプラデシュ州では、家族の入院先を探してほしいとの投稿がツイッターで相次いでいるほか、酸素や治療薬の「レムデシビル」が極端に不足しているとの報告も出ている。

累計の死者は18万0530人で、米国の56万7538人を大幅に下回っているが、専門家は統計から漏れている死者がいると警告。医療体制が逼迫(ひっぱく)しており、今後、死者が急増する恐れがあるとの見方を示している。

関係者や地元メディア、政府統計によると、すでに複数の主要都市で、公式統計の死者を大幅に上回る火葬・埋葬が行われている。

モディ首相は19日、ワクチン接種の対象を5月1日から18歳以上にするよう指示。政府によると、同国では1億0850万人が1回目のワクチン接種を受けているが、同国の人口は13億人で、接種率は低い。【4月20日 ロイター】

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もっとも、ロックダウンを前に、酒店のまえには買い求める人々の長蛇の列で、ぎゅうぎゅうの押し合い状態とか。【4月21日 日テレNEWS24より】

 

もっと深刻なのは、首都の感染拡大や封鎖を恐れ、故郷に戻ろうと大勢の人々が鉄道の駅に集まっているという状況で、結果的に首都圏の感染状況を地方に拡散する危険性があります。

 

【「ワクチン大国」インド 感染急拡大で「ワクチン外交」停止 国内需給もひっ迫】

ワクチンに関しては、“あの”インドがワクチン接種1億回なのに、どうして日本は・・・という当然の疑問もありますが、インドはワクチン製造で世界一を誇るワクチン大国です。ワクチンに限らず医薬品(特に、ジェネリック)に関してはインドは世界の「薬局」的存在です。

 

そうした「ワクチン大国」の立場を活用して、これまで中国に対抗するような「ワクチン外交」を展開してきましたが、国内事情の急激な悪化でそうした「ワクチン外交」も一時停止となっています。また、途上国にワクチンを供給する枠組み「COVAX(コバックス)」にも影響が出ています。

 

****インド、感染急増でワクチン輸出停止 隙狙う中国に危機感****

インドで新型コロナウイルス感染者が急増している。政府はワクチンの国内接種を優先させるため、輸出を一時停止。

 

インドが大口供給元となる予定だった、ワクチンを共同購入して途上国に供給する枠組み「COVAX(コバックス)」にも影を落としている。

 

ワクチン輸出を通じて国際的な影響力拡大を狙うモディ政権の「ワクチン外交」は方針転換を迫られた形だ。(中略)

 

インドは国内需要を優先させるため、3月下旬ごろからワクチン輸出を制限した。英アストラゼネカが開発したワクチンを製造する地元企業セラム・インスティテュート・オブ・インディア(SII)は生産が逼迫(ひっぱく)し、政府に生産設備増強への資金援助を求めている。

 

政府は今月13日、ロシアのワクチン「スプートニクV」の緊急使用を承認するなど、輸出どころか逆に輸入推進にかじを切った。

 

影響を受けているのが、2月に分配を開始したコバックスで、5月までにSIIから1億回分以上のワクチンを受け取る予定だったが、輸出制限でまだ約1900万回分にとどまる。

 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は9日、「課題はコバックスを通じてワクチンを出すことではなく、コバックスに入れることだ」と述べ、インドの輸出制限を念頭にワクチンの供給不足を指摘した。

 

インドは世界のワクチンの6割を生産する「製薬大国」。モディ首相は「インドは世界の薬局」と話し、ワクチン輸出を通じ、インドの国際的な存在感を高めたい意向だ。

 

日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国は3月の首脳会合で、インド太平洋地域での新型コロナ対策としてインドでワクチン製造を拡大させる方針も決めていた。

 

インドは約13億人の人口を抱えるため国内の需要拡大は続くとみられ、インド政府関係者によると輸出制限は解除の見通しが立たない。

 

隙を突くように中国がワクチン外交を加速させる可能性もあるため、モディ政権は国内の感染を早急に押さえ込みたい考えだ。【4月19日 産経】

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ワクチン外交、コバックスだけでなく、国内ワクチン事情もひっ迫しています。

 

****ワクチン製造大国のはずが国民には「在庫切れて接種できない」…海外へは6400万回分輸出****

新型コロナウイルスワクチンの製造大国であるはずのインドが、一転してワクチン不足に陥っている。3月から感染第2波に見舞われて国内需要が急増する一方、海外向けの供給を絞るのが遅れたことが原因だ。

 

国内では先週以降、接種会場の閉鎖や接種制限が相次ぎ、国民には不安が広がる。

 

「在庫が切れたので接種はできないと言われた」

北部ウッタルプラデシュ州の接種会場前で9日、ナレンドラ・シンさん(64)は、整理券を握りしめながら困惑していた。会場に届くワクチンの数が減っているといい、シンさんは、「政権と地方政府の管理ミスだ」と憤る。

 

インドの新規感染者数は12日、過去最悪となる16万人超を記録した。それでもマスクをしない国民はいまだに多い。新たな変異ウイルスも見つかった。(中略)

 

一方で海外への供給は、約6400万回分に上っている。政府は先月下旬、輸出を制限して国内に回そうとしたが、手を打つのが遅く、8日頃から在庫不足が一気に表面化した。

 

ハルシュ・バルダン保健家庭福祉相は、「ワクチン不足は根拠がない」と否定するが、民放NDTVによると、新規感染者が最も多い西部マハラシュトラ州では、70以上の接種会場が閉鎖された。南部や北部の州も「在庫がなくなる」と訴えている。

 

ワクチン製造最大手の関係者は、「国内需要に対し、生産は月約3000万回分足りない」と分析する。

 

ワクチンの原料が、米国と欧州連合(EU)の輸出制限措置で不足していることも不安材料だ。早急に確保できなければ、ワクチン製造にも影響し、問題が深刻化する恐れがある。【4月13日 読売】

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【英首相に続いて菅総理も訪印中止】

インドの感染状況に関しては、以下のような話も。

 

****インド発の香港便、乗客少なくとも53人コロナ陽性****

香港当局は20日、インド首都ニューデリー発の航空便の乗客少なくとも53人が、新型コロナウイルスの検査で陽性と判定されたと発表した。香港は新たな感染拡大を懸念し、インドからの航空便の乗り入れを急きょ禁止した。

 

乗客らは4日、インドの航空会社ビスタラ便で到着。世界的に見ても特に厳しい入境制限が設けられている香港で、乗客らは3週間の強制隔離に入り、この期間中に陽性が判明した。同機の定員は188人だが、搭乗者数は公表されていない。(後略)【4月20日 AFP】

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百数十名の乗客のなかで53人が陽性・・・・これではインドへの入国はためらわれます。

ということで、外交にも影響が。

 

“英首相官邸によると、ジョンソン首相は19日、来週予定していたインド訪問を中止した。インドで新型コロナウイルスの感染が拡大していることが理由。”【4月19日 ロイター】

 

イギリス・ジョンソン首相に続いて、日本の菅総理も。

 

****菅総理がGW中のインド・フィリピンへの訪問中止 感染拡大受け****

新型コロナウイルスへの対応のため、菅総理大臣が外遊を取りやめることになった。

菅総理は、今月末からゴールデンウィークの機会を利用してインドとフィリピンを歴訪する方向で調整していた。しかし、国内で東京、大阪、兵庫に緊急事態宣言を出すことを検討しているほか、インドでも新型コロナウイルスの感染が拡大していることなどから取りやめる方針を固めた。

今回の訪問には、先週のアメリカのバイデン大統領との首脳会談を踏まえ、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた連携を深める狙いがあった。【4月21日 ANNニュース】

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“インドでは、変異が2カ所同時に起こる「二重変異ウイルス」が確認されていて、現地メディアによると、4月2日以前の60日間に採取されたウイルスの24%を占めていた。「二重変異ウイルス」は、ワクチンの効果が下がるおそれが指摘されている。”【4月20日 FNNプライムオンライン】

 

上記の「二重変異ウイルス」を考えると、訪印して帰国したら、ワクチン接種済みの菅総理といえど2週間の厳重な隔離措置が必要になりますので、現時点での訪印は無理でしょう。

 

外交の停滞はともかく、衛生状態も良くない、また、マスク着用も徹底されていない13億人インドでの爆発的感染拡大による犠牲者の増加が懸念されます。

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ロシア  チェコ弾薬庫爆発、米へのサイバー攻撃、ウクライナ国境の緊張、ナワリヌイ氏健康悪化で批判・制裁

2021-04-20 23:40:35 | ロシア

(【4月19日 ロイター】 ロシアのプーチン大統領(68)が2036年まで大統領の座にとどまることを可能にする改正大統領選挙法が4月5日成立しましたが、多くの国際批判、国内では「プーチン宮殿」批判などを抱えて、権力トップにいることにうんざりすることはないのでしょうか?)

 

【2014年のチェコ弾薬庫爆発めぐる外交バトル ロシア版007か?】

最近、ロシアに対する批判・制裁などの記事を多く目にします。

 

批判にさらされている事柄は幾つかありますが、一つ目は「2014年のチェコ南東部の弾薬庫爆発」がロシア人によるものだったという案件。

 

正直なところ、「そんな事件があったかな・・・・?」って感じですが、6年半たった今、チェコとロシアの間の激しいバトルになっています。

 

****チェコとロシア、互いに外交官追放 2014年のチェコ弾薬庫爆発めぐり*****

2014年10月にチェコ南東部の弾薬庫が爆発し2人が死亡した事件をめぐり、チェコとロシアが互いに外交官を国外追放にしている。

 

さらに、2018年に英南部ソールズベリーで有毒の神経剤ノビチョクが使われた事件の実行犯とされたロシア軍情報機関の工作員2人の名前が、チェコの事件でも浮上した。

 

チェコ政府は17日、2014年10月16日に南部ヴルベティツェの森で弾薬庫が爆発した事件について、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の特殊工作部隊「29155」が関与したと捜査結果を発表。それに伴い、ロシアの外交官18人を、情報機関の工作員だとして国外追放にした。

 

これを受けてロシア政府は18日、チェコの外交官20人を追放すると発表。チェコ政府の判断は「前例のない」「敵対的行為」だと反発した。「アメリカがこのところ対ロ制裁を連発していることを背景に、アメリカに気に入られようとした」チェコ政府によるスタンドプレーだと批判している。

 

チェコのヤン・ハマチェク外相代行は、19日の欧州連合(EU)外相会議で弾薬庫爆破について報告するほか、北大西洋条約機構(NATO)にも同様に報告する方針を示している。

 

米国務省は、「チェコ国土におけるロシアの破壊工作に対してきっぱり行動」したチェコ共和国を支持するとコメントしている。

 

米政府は今月15日、米テキサス州のソーラーウィンズ社が開発したネットワーク管理ソフトへの大規模攻撃にロシアが関与していたほか、ウクライナを威圧したり、2020年米大統領選に介入したりしたと主張し、ロシア外交官10人を国外追放にしたほか、ロシア政府関連の団体などに経済制裁を科している。

 

弾薬庫爆発と毒殺未遂

2014年に起きたチェコ南部ヴルベティツェの弾薬庫爆発では、近隣の建物の窓が割れ、周辺の学校では生徒たちが避難した。弾薬庫で働いていた56歳と69歳の男性2人の遺体は、爆発から1カ月以上たって発見された。

 

爆発の原因は当時、事故だとされていたが、捜査当局はロシアGRUの工作員、アレクサンドル・ミシュキンとアナトリー・チェピゴフ両容疑者が関与したと発表した。

 

両容疑者は2018年3月に英南部ソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)が有毒の神経剤「ノビチョク」による毒殺未遂に遭った事件をめぐり、英当局が殺人未遂容疑で指名を公表したロシア人2人と一致するとされる。(後略)【4月19日 BBC】

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2014年のチェコ南東部の弾薬庫爆発の犯人と2018年に英南部ソールズベリーで有毒の神経剤ノビチョクが使われた事件の犯人が同一人物・・・まるでスパイ映画のような「その世界」で暗躍する工作員がいるんですね・・・ロシア情報機関の007的存在でしょうか。

 

なぜ今になってこの事件が浮上しているのかは知りませんが、流れ的には、ロシアが反発しているように、相次ぐアメリカや欧州の対ロシア制裁と軌を一にしています。

 

【米政府機関などが昨年に大規模なサイバー攻撃を受けた問題で、アメリカの対ロシア制裁】

ロシア批判の二つ目は、そのアメリカによる「ロシアのサイバー攻撃」に対する制裁。

 

****「サイバー攻撃犯はロシア」と初断定 米政府、制裁発動****

米政府機関などが昨年に大規模なサイバー攻撃を受けた問題をめぐり、ホワイトハウスは15日、ロシア対外情報庁(SVR)が「犯人」であると初めて断定し、発表した。関連する企業などへの制裁も発動した。SVRは関与を否定している。

 

問題のサイバー攻撃は昨年12月に発覚し、米国を中心に大きな問題となった。

 

米IT企業ソーラーウィンズ社がハッキングを受けたことを契機に、同社が顧客に送っている更新プログラムを通じて被害が広がった。製品を通じて顧客を標的とする「サプライチェーン型」と呼ばれる手法だった。

 

米メディアによると、国務省や財務省、米航空宇宙局(NASA)など幅広い政府機関や企業でサイバー攻撃が確認された。

 

米国では当初からロシアの関与が疑われてきたが、ホワイトハウスは今回、一連のサイバー攻撃についてSVRを「広範にわたるサイバースパイ活動の犯人」だと公式に発表。調査結果には「強い自信を持っている」とした。

 

発表によると、ソーラーウィンズ社のソフトウェアを通じて、SVRは世界1万6千以上のコンピューターシステムへの諜報(ちょうほう)が可能になっていたと分析している。「ロシアがサプライチェーンを利用して世界規模に企業を標的にするリスクが浮き彫りとなった」と指摘した。

 

SVRはロシアで国際スパイ活動を担う機関として知られる。インタファクス通信によると、SVRは米国の発表について「ナンセンスだ」とコメントした。

 

この問題をめぐっては、英国も同日、英国立サイバーセキュリティーセンターによる分析の結果から、ソーラーウィンズ社へのサイバー攻撃にSVRが関与した可能性が極めて高いと判断していると発表。ラーブ外相は声明で「英国は、ロシアが我々の民主主義を弱体化するために何をしているかを知っている」と述べた。

 

ロシア反発、首脳会談実現は視界不良に

バイデン米大統領は15日、対ロシア制裁を発動したことを受けてホワイトハウスで記者会見し、サイバー攻撃や米大統領選への介入について「ロシアが関与したと結論づけた」と述べ、ロシアに対して「安定した予測可能な関係を望む」と呼びかけつつも、強く牽制(けんせい)した。

 

今回はバイデン政権下でて初めての大規模な制裁で、トランプ政権と比べてロシアに対する厳しい姿勢の表れとなった。バイデン氏は会見で「ロシアとの対立を深刻化させるつもりはない」とは述べたものの、「我々の民主主義に介入しつづけるのなら、さらなる行動を取る用意がある」と警告した。

 

バイデン氏はこの日、対ロ制裁の大統領令に署名した。ロシアの外交官10人を追放するほか、サイバー活動に関連した企業や米大統領選への介入を試みた組織、個人などを制裁対象とすることを発表した。

 

また、バイデン氏は13日にロシアのプーチン大統領と電話会談をした際に、夏に欧州で首脳会談をすることを提案したと明かし、「我々2人が直接対話することは、より効果的な関係のために重要だと伝え、(プーチン氏は)その点において同意した」と語った。

 

ただ、その後の対ロ制裁を受けてロシアは激しく反発しており、バイデン政権になって初の米ロ首脳会談の実現は見通せない状況にある。【4月16日 朝日】

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バイデン大統領による対ロ制裁の大統領令は、上記サイバー攻撃の他、大統領選挙への介入も理由としてあげられています。

 

****米国、ロシア外交官10人の国外退去を発表 バイデン政権で初制裁****
米政府は15日、連邦政府などを対象にしたサイバー攻撃や2020年の大統領選介入などにロシア政府が関与したとして、米国で活動するロシアの外交官10人に国外退去を命じるなどの制裁を科すと発表した。

 

バイデン政権下でロシアに対する初めての包括的な制裁発動で、アフガニスタンで米兵を殺害した武装勢力にロシアが報奨金を出しているとの疑惑も理由に挙げた。

 

ホワイトハウスによると、30以上の団体・個人も制裁対象に指定。米国内の資産が凍結され、米国人との取引が禁止される。

 

サイバー攻撃は昨年12月に発覚し、国務省や国防総省など主要省庁のほか民間企業に対するハッキングも判明している。大統領選介入では米情報機関が3月、ロシアが共和党候補のトランプ前大統領の再選を手助けしようと、民主党候補だったバイデン大統領に不利な情報を流したと断定した。(後略)【4月15日 毎日】

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こうした制裁の常で、嫌疑を否定するロシア側も対抗措置をとっています。

ロシア国内で活動するアメリカの外交官10人に国外退去を迫る方針を明らかにし、アメリカの連邦捜査局(FBI)長官をはじめとした政府高官の入国を禁じるとしています。

 

【ウクライナ国境でのロシア軍増強への欧米の批判】

ロシア批判の三つ目はウクライナ情勢の緊迫化に関するもの。

ロシアはウクライナ国境・クリミアに2014年のクリミア併合時を上回る軍部隊を配置しているとされています。

 

***ロシア、ウクライナ国境に軍部隊15万人超を集結=EU代表****

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は19日、ロシアがウクライナとクリミアの国境付近に15万人を超える軍部隊を集結させていると述べた上で、「状況がさらにエスカレートする危険性が明白だ」と危機感を示した。数字の根拠には触れなかった。

ウクライナ国境での軍備増強は過去最大規模であるとしながらも、当面は新たな経済制裁やロシア外交官の追放などは予定していないとした。

こうした中、ウクライナのクレバ外相はEUに対し、ロシアに新たな制裁を加えるよう求めた。

一方、米国防総省はロシアの軍増強規模が2014年時を上回るとし、演習目的かどうか定かではないと指摘。

ある米当局者は匿名で、軍増強は数万人規模として15万人以上という情報は知らないと述べた。【4月20日 ロイター】

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この問題に関しては、ウクライナを支援するアメリカ・独仏がロシアに部隊撤収を求め、緊張が高まっています。

“米独首脳、ロシアにウクライナ国境からの部隊撤収を要求”【4月15日 ロイター】

“ロシア、ウクライナが軍事訓練 米軍も艦船派遣、クリミアめぐる緊張高まる”【4月15日 Newsweek】

“ロシアに軍増強停止要求=仏独ウクライナが首脳会談”【4月17日 時事】

“ロシア、黒海で艦艇増強 ウクライナ巡る緊張の中で”【4月19日 ロイター】

 

常識的には、ロシアがウクライナに軍事進攻するということは、そう可能性は高くないと思われます。

 

ロシアとしてはクリミアは本来自国領だという認識ですし、ウクライナ東部の紛争・緊張で親ロシア勢力を通してウクライナに一定の影響力を確保することは目論んでいますが、それ以上のウクライナ進攻といったものは必要性もありませんし、国際的孤立というリスクも大きすぎます。

 

エスカレートの危険性があるとしたら、次の取り上げる四つ目の国内情勢混乱で、プーチン政権として国民の目を外にそらしたい、そして対外危機を作り出すことで求心力を高めたいという、クリミア併合のときの成功体験再現を狙ったときでしょう。

 

【収監中のナワリヌイ氏健康悪化をめぐる国内外の批判】

ロシアがさらされている批判の四つ目は収監中のナワリヌイ氏の容体悪化の問題

 

****収監中のナワリヌイ氏の容体悪化懸念 死亡すれば「報い」とアメリカはロシアに警告****

深刻な体調悪化が懸念されているロシア野党勢力の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(44)について、アメリカは18日、収監されている刑務所で死亡すれば「報い」を受けることになるとロシアに警告した。

 

ナワリヌイ氏の医師団は、背中の激しい痛みと足の感覚喪失を早急に治療しなければ、同氏は「数日内に死亡する」としている。

 

血液検査の結果から、ナワリヌイ氏が腎不全を患い、いつ心不全になってもおかしくない状態のようだという。

16日には医師4人が、ナワリヌイ氏はカリウム濃度が「危機的レベル」に達したとして、緊急面会の許可を当局に要請した。

 

ナワリヌイ氏の担当医の1人で、同氏の収監に抗議して逮捕されたこともあるアナスタシア・ワシリエワ氏は18日、医師3人とともに「2時間立って(面会を)懇願した」が、刑務所内に入るのを断られたとツイートした。

 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を批判しているナワリヌイ氏は、かつて言い渡された横領罪での有罪判決を理由に今年2月、刑務所に収監された。(中略)医師団との面会が認められないことに抗議するとして、3月31日にハンガーストライキに入った。

 

一方、ロシアのアンドレイ・ケリン駐英大使は、18日に放送されたBBCのアンドリュー・マー司会者のインタビューで、ナワリヌイ氏は危険な状態にはないと述べた。

 

「もちろん、彼が刑務所で死ぬようなことは認められない。ただ、ナワリヌイ氏は定められた規則すべてに違反しようとフーリガンのように振る舞っている」ケリン大使はまた、ナワリヌイ氏は「注目を集めようと」していると話した。

 

アメリカがロシアに警告

アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は18日、「もしナワリヌイ氏が亡くなれば(ロシアは)報い」を受けることになるとし、「国際社会から責任を問われる」だろうと米CNNに述べた。

 

また、「ナワリヌイ氏は直ちに解放されるべきだ。彼の命を狙ったとんでもない襲撃の実行犯らは責任を追及されなくてはならない。ロシア政府によるナワリヌイ氏への襲撃は人権侵害にとどまらず、声を上げているロシアの人々を侮辱するものだ」とツイートした。

 

ジョー・バイデン大統領も、ナワリヌイ氏が受けている医療措置について「まったく不公正でまったく不適切だ」と話した。

 

アメリカは、ナワリヌイ氏が神経剤ノヴィチョクで襲われて生命の危機に直面した昨年の事件をめぐり、ロシアと対立している。

 

ナワリヌイ氏はプーチン大統領が襲撃を指示したと訴えているが、ロシア政府はそれを否定している。米情報当局は、襲撃にロシア政府が関わっていたと結論づけており、ロシア当局幹部らを対象とした制裁を発動している。

 

欧州諸国も懸念

ナワリヌイ氏の処遇をめぐっては、イギリス、フランス、ドイツ、欧州連合(EU)も懸念を表明している。

 

EUは19日にこの問題を協議する予定。EUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表はツイッターで、ナワリヌイ氏の健康悪化を「深く懸念している」とし、同と医師団の面会が直ちに認められるよう求めた。(後略)

【4月19日 BBC】

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EUは19日、オンライン形式で外相会議を開き、ナワリヌイ氏の健康状態悪化について協議、ロシアの責任を追及していく姿勢を確認しています。

 

こうした欧米からの批判に加え、21日には国内で、釈放を求める大規模デモが予定されていることもあって、ロシアはナワリヌイ氏を収監者用の病院に移送すると発表しています。

 

****釈放要求デモ前にナワリヌイ氏病院移送へ…露当局、体調「『満足』な状態」****

ロシアの刑務当局は19日、モスクワ近郊の刑務所に収監されている反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏について、収監者用の病院に移送することを決定したと発表した。ナワリヌイ氏を支援する医師団が17日に「生命の危機にある」と緊急治療の必要性を訴えていた。

 

ナワリヌイ氏は背中の激痛などの症状を訴え、3月末から適切な治療を求めてハンガーストライキを続けてきた。刑務当局は、ナワリヌイ氏の体調について、「満足」のいく状態だとしたうえで、病院では本人の同意を得てビタミンを投与するとしている。

 

ナワリヌイ氏の支援者は、釈放を求めるデモを今月21日に緊急で実施すると発表していた。特設サイトでは、国内各地で計46万人超が参加の意思を示した。21日はプーチン大統領の年次教書演説が行われる予定になっており、当局としては、混乱を回避するためにナワリヌイ氏の病院移送を認めた可能性がある。

 

ナワリヌイ氏の扱いを巡っては、米政府が新たな制裁発動も辞さない構えを示すなど、国際社会も懸念を強めている。【4月19日 読売】

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ただ、ロシアはナワリヌイ氏支持勢力を「過激派」認定して徹底的に封じ込める強硬姿勢を示しています。

 

****ロシア、反体制派を過激派認定へ 政権、組織の壊滅目指す****

ロシアのモスクワ市検察は20日までに、反体制派ナワリヌイ氏が率いる汚職追及組織や各地の事務所を「過激組織」と認定するよう求め、モスクワ市の裁判所に提訴した。

 

政権批判の急先鋒、ナワリヌイ氏を敵視するプーチン大統領の意向を受け、司法当局が反体制派の組織や支持者を「過激派」と認定し、9月の下院選を前に壊滅に追い込むのが狙いとみられる。

 

ナワリヌイ氏陣営は、刑務所で健康が悪化している同氏の救出を要求し、プーチン氏が年次報告演説を行う21日に全国規模の抗議行動を計画。政権側は各地で事務所を捜索し、関係者を拘束、激しい弾圧に動いている。【4月20日 共同】

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以上のように、厳しい、かつ、多くの批判にさらされているロシアですが、クリミア併合以来続く制裁で、プーチン政権としては一定に「制裁慣れ」しているところはあるのかも。

 

なお、“ロシア大統領府は19日、米国が主催するオンラインの気候変動サミットに、プーチン大統領が22日に出席し、演説を行うと発表した。米ロはこのところ制裁の応酬により対立が激化しているものの、プーチン氏のサミット出席は両国の対話の余地を残すものとみられる。”【4月19日 ロイター】とも。

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急増する移民・難民、特に「子どもだけ」への対応に苦慮するバイデン政権 復権を狙うトランプ前大統領

2021-04-19 22:44:15 | アメリカ

(移民が殺到するメキシコ国境(C)AFP=時事【4月19日 フォーサイト】)

 

【急増する保護者がいない「子どもだけ」の移民】

アメリカ・バイデン政権が直面している移民問題については、3月27日ブログ“アメリカ 人権重視の民主主義を掲げるバイデン政権 押し寄せる移民・難民への対応は?”でも取り上げましたが、政権は対応に苦慮しています。

 

メキシコ国境で3月に拘束された不法移民の数は15年ぶりの高水準になっています。

 

野党共和党は、不法移民に寛容なバイデン政権の姿勢が越境者増加を招いたと批判。これに対しCBP(米税関・国境警備局)は「(中米諸国の)治安悪化や自然災害、貧困などが要因で、(バイデン政権発足前の)2020年4月から増加傾向に入った」と説明しています。 

 

****米国境の不法移民拘束、3月は70%増 15年ぶり高水準に****

米国のメキシコ国境で3月に拘束された不法移民の数が、前月比70%増の17万2331人と、15年ぶりの高水準となった。税関・国境警備局が8日発表した。ジョー・バイデン政権は移民問題をめぐり増大する課題に直面している。

 

CBPによると、保護者が同伴していない子どもの保護数は3月、前月から倍増し、1万8663人となった。さらに227人の子どもが国境検問所で入管当局に保護され、政府が再定住のため受け入れざるを得ない未成年者の数は計1万8890人に増加。収容・処理施設がひっ迫する状況となっている。

 

移民の多くはメキシコや、中米の「北部三角地帯」と呼ばれるホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの出身。CBPによれば、大規模な集団での越境が増えている。

 

CBPは、移民増加の背景には「メキシコと中米の北部三角地帯諸国での暴力と自然災害、食料不安、貧困」があると説明。CBPのトロイ・ミラー局長代行は発表文で「これは新しいことではない。(不法移民との)遭遇は2020年4月から増加し続けている」と述べた。

 

3月には、単身の成人を中心とした不法入国者約10万4000人が、新型コロナウイルス対策に基づく規則によりメキシコに送還された。だが、保護者が同伴しない子どもと、幼い子どもを含む家族連れ数万人は米国在留が認められ、バイデン政権にとって政治的・社会的な難題となっている。 【4月9日 AFP】

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【揺れるバイデン政権の対応】

バイデン大統領は、トランプ前大統領の不寛容な移民・難民対策を批判し、難民受入れを拡大することを公約に掲げていましたが、こうした事態を受けて、当面受入れを前政権と同じ水準に据え置くことを発表。

 

バイデン大統領は2月、今年度の受け入れ枠をトランプ前政権が設定した1万5000人から6万2500人に拡大し、10月からの次年度は12万5000人とすると表明していました。

 

****米政権、難民受け入れ拡大計画を棚上げ 前政権の1.5万人維持****

バイデン米大統領は16日、今年の難民受け入れ数をトランプ前政権が設定した歴史的低水準の1万5000人に据え置く命令に署名した。

一方、ホワイトハウスは、バイデン氏が5月中旬までに今年度の残り期間についての最終的な難民上限引き上げを発表すると述べた。

バイデン氏は2月、9月30日に終了する2021年度中に難民受け入れの上限を6万2500人に引き上げる計画を示唆していたが、これまで実施を控えている。

米政府関係者によると、バンデン氏が慎重な姿勢を示したのは、米メキシコ国境に到着する移民がここ数カ月で増える中、難民をさらに受け入れるという印象を持たれることに懸念したようだ。

これに対し、民主党上院ナンバー2のダービン議員は「最大の難民危機に直面しているのに、1万5000人に制限する理由はない」とし、大統領の決定を非難した。

ホワイトハウスのサキ報道官はその後、最終的な上限は5月15日までに決めると釈明。当初目標の6万2500人という数字について、「現政権が引き継いだ壊滅的な難民受け入れプログラムを踏まえると」年度末までに引き上げるのは難しいとの考えを示した。【4月17日 ロイター】

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しかし、この「据え置き」方針には難民支援団体や民主党内から批判が噴出。

“民主党のオカシオコルテス下院議員はツイッターで、公約撤回を「全く受け入れられない。バイデン氏は移民を歓迎すると約束し、人々はそれを信じて投票したのだ」と批判した。”【4月17日 時事】

 

批判を受けて、ホワイトハウスは急きょ、受け入れ数を拡大する方向で見直す考えを示しています。

 

****バイデン氏、難民受け入れ拡大を表明 据え置き巡る批判受け****

バイデン米大統領は17日、今年の難民受け入れ数の上限を引き上げると表明した。

バイデン氏は16日、トランプ前政権が設定した歴史的低水準の1万5000人に上限を据え置く命令に署名、9月30日に終了する2021年度中に6万2500人に引き上げるという2月に発表した計画を棚上げにした。これを受け、民主党議員らから批判の声が上がっていた。

バイデン氏は17日、記者団に対し、1万5000人を超える水準に上限を引き上げると述べた。【4月19日 ロイター】

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【移民問題を復権の突破口にしたいトランプ前大統領】

移民・難民受入れに関しては、基本的な寛容・不寛容の問題にかかわらず、一時的な大量流入は大きな社会混乱を招き、政権基盤を揺るがす事態にもなることは欧州の事例でもあきらかです。

 

まして、アメリカの場合は、トランプ前政権への評価で社会は分断されており、この移民・難民受入れ問題はその分断を先鋭化させる極めてデリケートな問題でもあります。

 

逆に言えば、政権を失ったトランプ前大統領・野党共和党にとっては、格好の「攻めどころ」ともなります。

 

****バイデン政権「移民危機」に復権のチャンスを伺うトランプ派****

アメリカ南部のメキシコとの国境に、子どもだけの移民が殺到する異常事態が続いている。3月は前月から倍増し、史上最多の約1万9000人に達した。「移民危機」は、対応が後手に回ったジョー・バイデン米政権の急所になりつつある。

 

定員の16倍の子どもが密集

夜陰に紛れ、高さ4.3メートルの国境フェンス上にまたがった男が、抱えた少女を米国側にゆっくりと降ろしていく。地面まで高さ約2メートル。ボトリと落ちた少女は衝撃で前のめりに突っ伏し、約15秒間もうずくまっていた。2人目の少女を米国側に落とすと、男は奥にいたもう1人とともにメキシコ側に走り去った――。

 

ニューメキシコ州で3月30日夜、米国境警備隊の暗視カメラがとらえた密入国の瞬間だ。すぐに警備隊が駆けつけて少女たちは無事保護されたが、現場は最寄りの住宅まで数キロも離れた砂漠地帯だった。少女たちは南米エクアドル出身の5歳と3歳で、逃げ去った2人組は密航手引き人とみられている。

 

テキサス州でも4月1日、警備隊の車両に10歳の中米ニカラグアの少年が泣きながら助けを求めた。ワシントンポスト紙などによると、少年は3月、母と一緒に国境を越えたものの、警備隊にメキシコ側に追い返され、その直後に母とともに誘拐された。

 

米国に住む親族が身代金の要求額の半分を支払ったことで少年だけ解放されて米国側で放置され、砂漠地帯を1人で4時間さまよったという。

 

テキサス州と国境を隔てるメキシコ北部は、麻薬カルテルが激しい縄張り争いを繰り広げ、米国務省がシリアやアフガニスタン並みとも位置付ける危険地帯だ。カルテルが「コヨーテ」と呼ばれる密航手引き人を囲い込み、身代金目的で移民を誘拐する事件も相次いでいる。

 

米税関・国境警備局(CBP)の統計によると、3月に見つかった密入国者は約17万2000人。今年1月までは4カ月連続7万人台だったが、バイデン政権発足直後の2月に10万人台に乗り、そこからさらに跳ね上がった。 

 

なかでも際立つのが、保護者がいない「子どもだけ」の移民だ。1月は5852人だったが、2月に9431人と急増し、3月にはさらに倍増して1万8890人と史上最多となった。

 

すでに当局の対応能力を超えており、3月30日に米メディアに公開されたテキサス州の移民収容施設は、アルミホイルの緊急用ブランケットに身を包んだ小中学生くらいの子どもたちが足の踏み場もない状態でたたずんでいた。

 

CBSニュースによると、新型コロナウイルス対策に基づく収容定員250人の16倍を超す約4100人が収容されていた。

 

子どもは72時間以内に環境のよい保護施設に移送される決まりだが、約2000人が刑務所のようなこの収容施設に超過滞在している状態で、15日以上留め置かれている子もいるという。

 

保護者のいない子どもに限って受け入れ

子どもの移民が国境に殺到する事態の引き金を引いたのは、バイデン政権自身だった。

 

ドナルド・トランプ前政権は昨年3月からコロナ対策を名目に密入国者を即時国外退去処分としてきたが、バイデン政権は保護者のいない子どもに限って、人道的対応として受け入れを再開した。

 

移民の目線で見れば、親と一緒なら退去させられるが、子どもだけなら確実に受け入れてもらえるうえ、最終的に米国にいる親族の元まで送り届けてくれる、ということになる。

 

警備隊幹部はCNNの取材に「多くの家族がメキシコで自ら離れ離れになっている」と指摘した。家族で密入国していったん国外退去になった後、子どもだけを再び送り出すケースが増えているのだという。

 

親たちが子どもだけでも米国に行かせようとする背景には、母国・中米諸国の窮状がある。

 

もともと治安悪化と貧困で多くの移民を送り出してきた地域だが、昨年は新型コロナ流行で経済に急ブレーキがかかったうえ、11月に2つの大型ハリケーンが直撃した。グアテマラやホンジュラスなどで200人以上が死亡し、730万人が被災した。

 

そこに登場したのが人道的対応を掲げ、トランプ前政権時代の移民排除策の撤回を公約したバイデン政権だった。

 

切羽詰まった中米貧困層の間で期待が高まり、バイデン氏就任直前の1月中旬には、ホンジュラスから出発した移民キャラバンに数千人が加わった。隣国グアテマラ当局が催涙ガスで追い返したものの、その後は集団行動を避け、動きはより把握しにくくなっている。

 

届かなかったバイデン氏のメッセージ

バイデン政権の分かりにくい情報発信が誤解を生んだ側面もある。

 

バイデン氏は1月20日の就任初日、国境の壁建設を中止する大統領令に署名するなど、移民政策の大転換をアピールした。貧困や暴力など移民が母国を離れる根本的な原因に対処することを約束し、40億ドル(約4400億円)の支援を表明。メキシコ側で審理を待たされてきた難民認定申請者の入国を認め、彼らが歓喜する様子がメディアで報じられた。

 

その一方、排除策の柱だった即時国外退去は子どもを除いては維持しており、政権幹部は「今は来ようとしないで」と呼びかけていた。

 

バイデン氏も就任前の昨年12月の会見で「就任初日にすべての規制を撤廃するわけにはいかない」と段階的に取り組む方針を示し、拙速に進めれば「突発的な危機が起き、我々の取り組みが困難に陥ってしまう」との懸念を示していた。

 

ハードルは徐々に下げるし、手も差し伸べるから、今すぐは来ないで欲しい――。そんな込み入ったメッセージは期待を膨らませた移民の耳には届かず、バイデン氏が恐れていた懸念が的中した。

 

米メディアは「移民危機」「人道危機」として連日報じるが、バイデン政権は人道的対応を掲げているだけに、前政権のように米軍を派遣して威嚇したり、催涙ガスで追い払ったりするわけにもいかない。

 

バイデン氏は3月16日、米テレビで「私がナイスガイだから来ていると聞くが」と、移民の「誤解」に触れ、「来るな、とはっきり言う」と強調。翌週にはカマラ・ハリス副大統領を移民対策の責任者に任命してメキシコや中米3カ国との調整に当たらせたり、移民を思いとどまるよう促すラジオCMを中南米で流したりしているが、移民の通り道にあたるメキシコやグアテマラに食い止めてもらうしかない状況だ。

 

勢いづくトランプ派

「危機」が長引いたり、対応に失敗したりすれば、来年11月の中間選挙に向けた政権のアキレス腱になりかねない危うさをはらむ。

 

実際、移民問題は近年、選挙の年に政治問題化して時の政権を揺さぶってきた。

 

大きな社会問題になったのが、バイデン氏が副大統領だったバラク・オバマ政権下の2014年。今回と同様に子どもや家族連れが殺到して収容能力を超え、「人道危機」と批判された。

 

2016年の大統領選では、共和党候補だったトランプ氏の壁建設の主張が大きなうねりを巻き起こした。2018年の中間選挙前には、大統領になったトランプ氏の「親子引き離し政策」が猛反発を受けて撤回を余儀なくされ、その後、移民集団キャラバンの到来で大騒ぎになった。

 

移民問題がコロナ禍、経済危機、黒人差別問題の陰に隠れた2020年の大統領選は、むしろ例外だったといえる。

コロナ対策などで順調な滑り出しを見せたバイデン政権にとっては、すでに移民問題が急所になりつつある。

 

AP通信などが3月25〜29日に行った世論調査では、政権の移民政策について56%が「支持しない」と回答し、コロナ対策や経済など9項目で最も低評価だった。子ども移民への対応を個別に聞いた質問では、支持は24%にとどまった。

 

バイデン氏が3月25日に就任後初めて開いた記者会見でも、質問は移民問題に集中。「移民が冬に急増するのは毎年のことだ」「トランプ政権に壊された対応能力の立て直しには時間がかかる」などと釈明に追われた。

 

不法滞在者に市民権獲得の道を開くバイデン氏肝いりの法案は下院を通過したものの、野党共和党は一段と批判を強めており、上院で成立する見込みは立っていない。

 

野に下ったトランプ氏も3月21日に声明を出し、「史上最も安全な国境を引き継いだのに、国家的な大災害に変えてしまった」とこき下ろした。

 

実はトランプ氏は、こうした事態を「予言」していた。

連邦議会議事堂への襲撃事件の渦中にいた1月12日、テキサス州の国境付近までわざわざ足を運び、壁を前にこう語っていたのだ。

「もし我々の国境安全策が覆されたら、不法移民の津波の引き金になるだろう。いまだかつて見たことないような波だ」

 

トランプ氏は最近、自らに近い政治家を「推薦」する声明を次々と出したり、フロリダ州パームビーチの邸宅「マール・ア・ラーゴ」で共和党議員や大口献金者らと相次いで会合を開いたりと、動きを活発化させている。

 

トランプ氏の退任早々に「マール・ア・ラーゴ」を訪れ、中間選挙への協力を取り付けた共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務は連日、ツイッターを封じられたトランプ氏を代弁するかのように「バイデンの国境危機は、国家安全保障の脅威だ」などと非難を続けている。

 

トランプ氏が「壁建設」で熱狂をさらった2016年の大統領選の再現を狙って、復権を懸けた来年の中間選挙で再び移民問題の争点化を仕掛け、子飼い議員の大量当選を狙う可能性もある。【4月19日 フォーサイト】

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バイデン大統領にとっては、なんとも厄介な問題です。強硬策に転じれば、急進派を多く抱える身内の民主党内の混乱にもなります。

 

祖国で命の危機にさらされている人々が、僅かな光明にもすがりつこうとしてアメリカを目指す・・・というのは仕方ないことでしょう。

 

また、そうした流入をネガティブに見る人々が多数存在するのも現実です。

 

しかし、軍を派遣して威嚇したり、催涙ガスで追い払ったりするのが正しいことなのか?子供だけの場合も、シリアやアフガニスタン並みとも言われる危険地帯に追い返すのか?

 

もちろん、長期的にはホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラなどの国内統治改善の問題ですが、当面の対応をどうするのか・・・バイデン大統領の方針が揺れるのもわかりますが、そうも言っておられません。

 

ホンジュラスなどの協力が得られれば打つ手もあるのでしょうが。

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