(2月にイタリア・ビアレッジョで行われたカーニバルの出し物 巨大なベルルスコーニ首相の顔面が割れると骸骨が現れるという趣向です。 政府批判も笑いの種にしてしまう国民性が“幸福度79%”の背景でしょう。“flickr”より By jborzikphoto http://www.flickr.com/photos/7539938@N04/5488572371/ )
【イタリアの政治的指導力の欠如に危機感を募らせる欧州主要国】
欧州の信用不安は、ギリシャやポルトガル・スペインもさることながら、経済大国イタリアの動向が注目を集めています。万一、イタリア財政が破たんという事態になれば、その経済規模の大きさからして、ユーロ圏だけでなく、世界経済全体が大波をかぶることになります。
しかしながら、イタリアのリーダーは、“メディア王としての贅沢な暮らしに派手な女遊び、それに政治家とは思えない放言・暴言など、良く言えば型破り、悪く言えば著しく非常識なことで知られる”【8月24日号 Newsweek日本版】あの ベルルスコーニ首相です。
****欧州債務危機 大国イタリア、じわり「主役」 各国首脳奔走も…首相はリゾート****
未曽有の金融危機を引き起こした3年前の悪夢が再現するのか。欧米に拡大する債務危機の“台風の目”は、先進7カ国(G7)の一角であるイタリアだ。危機対処能力が問われるベルルスコーニ首相は、未成年者買春疑惑で求心力を失い、他の欧州首脳らが「8月ののろい」を払拭しようと奔走する中、どこ吹く風で海辺の夏を楽しんでいるという。
イタリアの政府債務残高が国内総生産(GDP)比で約120%に達し、欧州単一通貨ユーロ(17カ国)圏ではギリシャに次いで2番目に多い。イタリアの10年債利回りが一時6・2%を突破し、同首相は5日、財政赤字の解消時期を2014年から1年前倒しすると表明。憲法を改正し、均衡財政を義務化する規定を盛り込む考えも示した。
メルケル独首相とサルコジ仏大統領は7日夜、共同声明を発表し、「発表した事項を早く実行に移すことが不可欠だ」と要求した。
8日付の英紙フィナンシャル・タイムズは「ベルルスコーニ首相は長女の45歳の誕生日を祝うため、サルデーニャ島の海岸リゾートの豪華別荘に行った」と伝え、「しかし、彼の不在はほとんど問題にならないと批評家はみている」と揶揄(やゆ)した。同国の経済・財政政策はユーロ圏と米国の手中に委ねられ、「同首相は他者の操り人形」との見方が強まっているためだ。
経済規模でユーロ圏3位のイタリアは国内貯蓄率が高く、国債購入者も国内投資家が多いため、ギリシャなど債務危機の国とは事情が異なるとみられていた。
しかし、ギリシャ国債の格付けが一部デフォルト(債務不履行)扱いとなり、2008年9月の米リーマン・ブラザーズ破綻前との酷似性を指摘する声が市場に広がり、政治不信と10年以上の低成長が続くイタリアに市場の標的は移りつつある。
これまで3回首相職に就いているベルルスコーニ首相は未成年者買春疑惑で支持率が過去最低の29%に下落。出身地の北部ミラノ市長選で与党現職候補が敗れ、原発再開の是非を問う国民投票でも反対票が9割を超えて再開断念に追い込まれた。7月には次期総選挙への不出馬を表明した。
しかも同首相は、財政再建を指揮するトレモンティ経済・財務相を「自分だけが頭が良いと思ってチームプレーができない」と批判し、市場を混乱させた。
ユーロ圏はスペインを救済できるよう「欧州金融安定化基金」の融資枠を今年秋までに2500億ユーロから4400億ユーロに引き上げる方針だが、それだけではイタリアを破綻から救済できない。「リーマン・ショック」の第2幕を恐れる他の主要国は、イタリアの政治的指導力の欠如に危機感を募らせている。【8月9日 産経】
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【イタリア・ベルルスコーニ首相らしからぬ厳しい財政再建策】
さすがのベルルスコーニ首相も、これではまずい・・・と思ったか、12日の閣議で、2012~13年に増税と歳出削減で財政赤字を455億ユーロ(約5兆円)減らし、13年に財政赤字を解消する緊縮財政策を決めました。
具体的には、公務員削減、年金給付開始年齢引き上げ、富裕層への連帯税、祝日の削減などです。
****イタリア、増税など追加財政再建策 信用不安受け *****
イタリア政府は12日、緊急閣議を開き、追加的な財政再建策を決定した。増税や公務員の削減などを通じ、2012~13年の2年間で財政赤字を455億ユーロ(約5兆円)減らす。ギリシャ危機に端を発した信用不安がイタリアに波及し、同国財政への警戒感が強まっていることから具体策を早期に打ち出した。
歳出削減策としては、まず中央と地方で公務員の定員を合わせて5万人減らし人件費を圧縮する。さらに細分化されている自治体の統合を促すことで公的部門の業務効率を高める。年金財政健全化のため、給付開始年齢の引き上げ時期を一部前倒しする。
一方、歳入増対策としては富裕層に対し新たに5~10%の連帯税を課す。金融取引に伴う利益への課税率も引き上げる。このほか祝日を減らすことで就労日数を増やして生産性を高め、税収増をはかる。
イタリアでは脱税がはびこり、税の捕捉率の向上が課題となっている。今回の再建策では税の申告を厳格にし、レシートなどを発行しない取引を厳しく取り締まる方針も打ち出した。
こうした改革を通じ、イタリアは13年には財政均衡を達成できるという。トレモンティ経済・財務相は「緊急性を考慮し、厳しい再建計画を短期間で決定した」と語った。閣議決定した財政再建策は60日以内に上下両院で承認する必要がある。
イタリアの債務残高は国内総生産(GDP)の約120%に達し、財政赤字のGDP比は10年は4.6%。同国債の利回りは高止まりし、金融市場の標的となっている。7月には財政赤字を700億ユーロ減らす計画を議会が承認している。【8月13日 日経】
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およそイタリア・ベルルスコーニ首相らしからぬ厳しい内容です。
「胸が張り裂けそうだ。わが政権は、国民の財布に手を出さないことを自慢にしてきたのに」と、ベルルスコーニ首相は嘆いたそうです。「しかし世界の情勢は変わった。イタリアはこれまでにないグローバルな問題に直面している」とも。【8月24日号 Newsweek日本版より】
【議会で骨抜き】
“しかし”と言うべきか、“やっぱり”と言うべきか、今朝のTVニュースによれば、政府の決めた富裕層への連帯税は議会で早くも骨抜きにされたそうで、かわりに脱税防止強化で歳入を補填するということです。
このニュースを伝えるドイツのTV局は、当然ながら批判的な論調でした。
ドイツにしてみれば、ギリシャやイタリアなど遊び呆けている国を、真面目に働いているドイツがなぜ救済しなければならないのか・・・という不満があります。
【アリはキリギリスを助けるべきか・・・】
そのドイツでどのように報じられたのかは知りませんが、欧州13カ国の世論調査によれば、「私の人生は幸せだ」と答えた人の割合はギリシャが2位(80%)、イタリアが3位(79%)に対し、ドイツは11位(61%)だったそうです。
****ギリシャ人:8割が「幸せ」 デンマークに続いて欧州2位****
財政危機があろうとも、ギリシャ人は8割が幸せ--。独ハンブルクの未来研究財団とブリティッシュ・アメリカン・タバコ社が実施した「幸福度」に関する欧州の世論調査で、こんな結果が浮かび上がった。
欧州13カ国計1万5000人が対象。
「私の人生は幸せだ」と答えた人の割合は、福祉国家デンマークが96%で1位だったが、2位はギリシャ(80%)、3位は同様に財政危機の渦中にあるイタリア(79%)が続いた。逆に欧州一の経済大国ドイツは61%と下から3番目。生活水準の高さとは逆に「悲観的」な姿が浮き彫りになった。
国別で幸福度に差があるが、どの国でも共通して男性より女性、都市住民より地方住民、独身者より既婚者の方が幸福度が高かった。研究財団代表のラインハルト氏は「不透明な時代だが、各国とも世代が若いほど幸福度が高いのは明るい材料だ」と分析している。【8月22日 毎日】
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“キリギリス”よりは“アリ”タイプということでは、日本もドイツと同じです。
“そんなに幸せなら、財政危機も自分たちでなんとかしろよ!”とも言いたくなるところです。
しかし、放置して“キリギリス国家”の危機が深刻化すると、火の粉が自分にも降りかかるということで、“アリ国家”ドイツも悩ましいところです。