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(アルゼンチン IMFの「口出し」に反発する市民【9月4日号 Newsweek日本語版】
“アルゼンチンではIMFは広く嫌われている。IMFが融資を打ち切り、金融支援も拒否した後に起こった2001年の経済危機も、IMFの責任とされた。(中略)アルゼンチン政府は2001年に債務不履行に陥り、銀行システムも大きくまひした。
これがアルゼンチン国民に与えた影響は甚大で、多くの国民が、豊かさがあっという間に消失するのを目撃した。2001年の経済危機を経験した人々は、政府による規制の復活とそれによる銀行の操業停止を恐れている。”【8月30日 BBC】)
【保護主義の高まりや米中貿易戦争など新たな環境で「危機の伝染」は起きるか?】
現在、トルコ・リラやアルゼンチン・ペソなどが急落する、新興国の通貨危機が進行していることは周知のところです。
****通貨危機ドミノの恐れ トルコショック引き金 アルゼンチン、ブラジル、ロシア…軒並み下落 ****
新興国の通貨安が止まらない。直近の契機となったのはトランプ米政権が今月10日に表明したトルコに対する制裁関税方針でリラが2割も急落した「トルコショック」。
アルゼンチンペソも年初から対ドルで4割下落するなど、新興国の通貨危機がドミノ倒しのように連鎖する恐れが高まっている。
1997年のアジア通貨危機を経験した韓国経済も不安視されており、米国発・新興国経由の世界経済減速も現実味を帯び始めた。
軒並み下落
「国際情勢と国内物価上昇を踏まえ、緊急会合で利上げを決めた」
アルゼンチンの中央銀行は13日、政策金利を5%上げ、45%にすると発表した。5月に政策金利を40%にしたばかりのアルゼンチンが改めて利上げに追い込まれたのは、トルコショックでペソが急落したからだ。
好景気の米国でさえ政策金利が1.75~2.0%であることを踏まえれば際だった高金利だが、ペソは史上最安値の水準が続く。
新興国通貨ではブラジルレアル、ロシアルーブルなども軒並み下落。世耕弘成経済産業相は15日の記者会見で「影響を注視する」と話し、日本を含む世界経済への余波を警戒した。
FRB利上げも影響
トルコショックの契機はトルコ在住の米国人牧師の拘束をめぐり、トランプ米政権がトルコの鉄鋼への追加関税を打ち出したことだ。
トルコのエルドアン大統領は米電化製品の不買運動を呼び掛けるなど徹底抗戦の構えで、両国の経済関係悪化などへの不安がリラ売りを呼んでいる。
新興国通貨安の要因では米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを進めていることも大きい。今後も利上げが見込まれる中、新興国通貨売り・ドル買いの動きの加速が予想される。(中略)
外貨建て債務の重み
新興国経済の懸念材料のひとつとして挙げられるのはドルなど外貨建ての債務の大きさだ。通貨が売られている国はいずれも外貨建て債務が多く、自国通貨が下落すれば、返済時により多くの自国通貨を持ち出さなければならない。
トルコでは対外債務の7割が民間に集中し、返済負担増加は企業収益を悪化させる。トルコ企業にはスペイン、イタリアなどの銀行が融資しており、焦げ付けば金融システム不安を招くとみる投資家も多い。
アジアではやはり外貨建て債務が多い韓国に不安が波及する懸念もささやかれる。
大和総研の児玉卓経済調査部長は「同時に成長してきた世界経済は今年(新興国という)周辺部分が崩れ始めた。来年か再来年、(先進国を含め)足並みをそろえて減速するかもしれない」と警告している。【8月26日 SankeiBiz】
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新興国の通貨危機はこれまでも繰り返されてきたところで、今回の現象はこれまでと、同じなのか、違うのか?
****新興国は新しい危機の時代へ****
ホセ・アントニオ・オカンポ(コロンビア元財務相)
トルコのリラ急落は新興国全体に激及するのか
この10年で『危機の常識』は変わり、保護主義のリスクもかつてなく高まっている
新興国は危機には慣れっこだ。これまで何度も同じ新パターンを繰り返し往々にして壊滅的な結果を招いてきた。しかし、そのパターンはもはや過去のものかもしれない。
ここ数十年、新興国はマネーがどっと流れ込む時期と、流人が減る、もしくは流出に転じる時期を周期的に繰り返してきた。
外国資本が大量に流人する時期には、経常収支、財政、民間部門の赤字が拡大する。国内の投資の活
発化も赤字拡大に拍車を掛ける。
だがやがて債務の膨張で信用が低下、資本の流人に突然ストップがかかる。それにより国際収支・財政・金融の3
つの危機が発生する。
次いで「危機の伝染」と呼ばれる現象が起きる。投資家がリスク回避に走り、危機が発生した国ばかりか他の国々からも資金を引き揚げ始めるのだ。その結果、危機は国境を越えて地域全体、さらには新興国全体に広がる。
1980年代に中南米で起きた現象がまさにそれだ。82年にメキシコが対外債務の返済繰り延べを申請したことに端を発した危機が連鎖的に広がった。
90年代にはアジアでも危機の連鎖が起きた。発端は97年7月のタイの通貨パーツの暴落。危機はすぐさま地域全体に波及し、さらに98年8月にはロシアが民間の対外債務の一時的な支払い停止を宣言するに至った。
08年の危機は少し事情が異なる。発端は同年9月の米証券大手リーマンーブラザーズの経営破綻。つまり先進国発の危機だった。当初は新興国もあおりを食らったが、わずか1年で風向きが変わる。先進国が金融緩和に踏み切ったため、だぶついたマネーが新興国にどっと流人し始めたのだ。
この大量流入が新興国の新たな危機のタネをまいたのではないか・・・・これはいま盛んに論じられている問題だが、間もなく答えが出るかもしれない。
過去の教訓から言えば、1つの国が倒れれば、後はドミノ倒しで危機が広がる。今はトルコが1つ目の牌だろう。
トルコの通貨リラは8月中旬に急落した。南アフリカとアルゼンチンの通貨も大幅に下落。中南米のその他の国々、チェコ、ポーランド、ロシア、インドや中国などアジア諸国の通貨にも影響は及び、危機発生時に特徴的な現象としてリスクプレミアム(危険資産の期待収益率と安全資産の収益率の差)は拡大し、株価は下落した。
この危機が新興国全体に「伝染」するかは予断を許さない。経済分測は外れるのが常とはいえ、過去のパターンが通用しそうにない今は特に先行き不透明だ。8月8~15日の最悪の局面でアルゼンチン、南ア、トルコの通貨の対ドル相場は8~14%下落したが、他の新興国の通貨下落は4%以下だった。
この事実から、今回はこれまでほど急速には危機が広がらず、新興国への外資流人が軒並み急停止する心配はさはどないようにも思える。
最大の痛手を受けた国々でさえ、通貨急落の副次的な影響をある程度防げている。トルコはリラ急落に迅速に対応。アルゼンチン中央銀行も大幅な利ヒげに踏み切り、市場の不安をいく分沈静化できた。
過去10年ほどで、新興国は危機の伝染に対処する力を付けたようだ。ユーロ危機が深刻化した11~12年にも、13
年にFRB(米連邦準備理事会)が量的緩和の縮小に向けて動き出したときも、新興国への資金流人はほとんど止まらなかった。
14年に原油をはじめ商品価格が軒並み下がり、一部の商品輸出国の通貨が下落したときも、外資流人の急停止は起きなかった。15年から16年前半にかけて起きた中国からの資本逃避の波も新院ハ国全体に広がることはなかった。
なぜか。これは仮説だが、投資家が各国のリスクをより慎重に見極めるようになったためではないか。新興国を十把一絡げにせず、それぞれの国の経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)や政治的な安定度、他国との関係などに目配りするようになったようだ。
だからといって新興国は安心していられるわけではない。保護主義の高まりや米中貿易戦争など、新興国を取り巻く状況は厳しさを増している。各国の政府と中央銀行の賢い舵取りが今ほど求められているときはない。【9月4日号 Newsweek日本語版】
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上記記事は“新しい危機の時代”という表題に反して、内容は“過去10年ほどで、新興国は危機の伝染に対処する力を付けたようだ。・・・・投資家が各国のリスクをより慎重に見極めるようになったことで、かつてのような単純な連鎖はここ10年で観られなくなった”と、比較的楽観的にも見えます。
問題は、最後のパラグラフにある、保護主義の高まりや米中貿易戦争といった新たな環境がどのように得行けようするのか・・・という点ですが、そのことへの回答は言及されていません。
【トルコ “敵”の“作戦”を強調し 自らの失政を隠ぺいするエルドアン大統領】
“各国の政府と中央銀行の賢い舵取りが今ほど求められているときはない”という点では、トルコ・エルドアン大統領とアメリカ・トランプ大統領の衝突は「悪い見本」でしょう。トルコ・リラが他の通貨から抜きんでて悪化しているのもそのせいです。
****恐慌の引き金を独裁者が引く****
(中略)どんな外交問題の解決にも巧妙かつ継続的な調整が必要だ。しかしトランプは足元に火が付いているし、ゼロサム思考の持ち主であり、地道な努力をするようなタイプではない。
対するエルドアンは法の支配を破壊し、「イスラム的」な経済政策を採用して自国経済の長期的な安定と成長を損なってきた。
彼は(政策金利を引き上げてインフレを抑制すべき場面で)利上げがインフレにつながると誤解して適切な手を打たなかった。そして通貨の下落を招いてしまった。
それだけではない。エルドアンは政権内から経済のプロを追い出し、代わりに無能だが忠実かつ従順な人間を据
えてきた。そして経験に裏打ちされた経済学の知識より、信仰を重んじた経済政策を打ち出している。
その証拠に、今の財務相はエルドアンの娘婿だ。専門的な知識や経験ではなく、大統領への忠誠心と大統領の娘への愛ゆえに抜擢された男である。(後略)【9月4日号 Newsweek日本語版】
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エルドアン大統領は、さかんに今回危機はアメリカの“作戦”によるものだ・・・と主張しています。
****トルコリラ、作戦の標的にされた=エルドアン大統領****
トルコのエルドアン大統領は31日、軍の式典で演説し、同国の通貨リラは作戦の標的にされたとの考えを示した。ただ、トルコは攻撃を克服すると述べ、通貨の乱高下は終わるとも予想した。(中略)
作戦はトルコに対するものだと指摘し、為替相場乱高下の背後に誰がいるかを理解するのに天才である必要はないと語った。(後略)【8月31日 ロイター】
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自らの失政を隠し、困難を“敵”のせいにするのは権力者の常套手段ですが、トルコの場合も“法の支配を破壊し、「イスラム的」な経済政策を採用して自国経済の長期的な安定と成長を損なってきた”大統領の“失政”が根本的な原因だとする見方が多いようです。
トルコの経済状況に関しては、8月12日ブログ“トルコ・アメリカの関係 米国人牧師問題で急速に悪化 通貨急落でトルコ経済に大きな負担”でも取り上げましたので、今回はパスします。
【アルゼンチン 従来政権とは異なるマクリ政権の改革路線 成功すれば反ポピュリスムの道を示すことにも】
一方、トルコ・リラと並んで下落が大きいのが、アルゼンチン・ペソ。
8月29日、アルゼンチンのマクリ大統領は国際通貨基金(IMF)に対し、500億ドルのスタンドバイ取り決めに基づく融資の早期実施を求めていることを明らかにしています。
アルゼンチンの中央銀行は30日、通貨ペソの急落を食い止めるため、政策金利を45%から世界最高水準の60%に引き上げる緊急利上げを実施しました。しかしペソは下げ止まらず、対ドルで史上最安値を更新しています。
しかし、「トルコとアルゼンチンは大きく異なる。トルコの債務はドル建てで、外貨準備の後ろ盾が必要だが、トルコは十分な外貨準備を持っていない。トルコには債務不履行(デフォルト)の兆しが見えている。一方アルゼンチンには十分な外貨準備がある。人々は先走り過ぎている」(米シンクタンクのピーターソン国際問題研究所の上級フェロー、モニカ・デボル氏)【8月31日 Newsweek】との見方も。
アルゼンチンはこれまでも“デフォルト”を繰り返している“常連”で、経済政策も批判されることが多かった国ですが、現在のマクリ政権に関しては“よくやっている”との高評価もあります。
今回のアルゼンチンの危機は、トルコ・リラの急落という状況で、投資家も政策当局も過去の“前科”に引きずられている側面もあるようです。
****アルゼンチンに通貫危機再び****
アンドレス・ベラスコ(元チリ財務相)
米金利の上昇が引き金となって通貨安とインフレが加速 マクロ政権の財政再建路線は脆弱経済を変えるのか
(中略)最近も再び、通貨アルゼンチンペソの急落が国際社会を震憾させている。
4月下旬、10年物米国債利回りが2014年以来初めて3%台に上昇すると、ドル買いペソ売りが一気に加速。(中略)
そこに今度はトルコリラの急落が襲い掛かった。(中略)
アルゼンチン経済はなぜこれほど脆弱なのか。通貨危機を繰り返さないために、当局はどのような対策を講じるべきなのか。
15年12月、アルゼンチンに新たな大統領が誕生した。実業家出身で中道右派のマウリシオ・マクリだ。
大衆迎合的な政策で放蕩財政に明け暮れた前任者たちと比べれば、マクリと彼の経済チームは劇的に有能だ。国
政の経験者が不在だったため、アナリストらは当初、政権の手腕を評価していなかったが、マクリはここまでのと
ころ、有能な指導者と抜け目ない政治家の顔を両立させてきた。
信用不安が真つ先に飛び火
しかし通貨危機は、そんな善良な政権にも容赦なく襲い掛かる。(中略)
過去の政権が数々の「ショック療法」を繰り出しながら効果を上げられなかった歴史を踏まえて、マクリは前政権から引き継いだ経済的混乱を時間をかけて修正する道を選んだ。
彼はエネルギー価格への助成削減などの歳出削減策を進める一方で、成長を加速させるために農産物価格の安定を目的とした輸出税の軽減に踏み切った。その結果、財政赤字は減少傾向にあるものの、政府は今も外国からの巨額の借り入れを強いられている。
アメリカの長期金利が上昇してドル高が一気に進むまでは、マクリ政権の緩やかな財政再建策は合理的な戦略に
思えた。
だが、ひとたび新興国市場への信用不安が再燃し始めると、その矛先は真っ先にアルゼンチンとトルコに向かった。
トルコ政府がまずい対応によって最悪の事態を引き起こしたのに比べれば、アルゼンチン当局は困難に向き合い、断固たる措置を取ったといえる。
反ポピュリスムの道を示せ
IMFへの支援要請は政治的なダメージにつながるが、避けられない選択だった。(中略)
当局は政策金利を徐々に引き下げることが妥当であり、また持続可能であると市場を納得させる必要がある。中央
銀行は今後、政策金利の段階的な引き下げを模索していくことになるだろう。
一方、IMFにも慎重な対応が求められる。あまりに急激な財政調整は政治的反動を引き起こしかねない。(中略)
マクリ政権が進めるリベラルな改革路線が成功を収めるか否かは、単にアルゼンチンだけの問題ではなく、中南
米全体の今後を占う上でも重要になるだろう。(中略)
アメリカのドナルド・トランプ大統領に加えて、欧州やアジア諸国でもポピュリストが相次いで権力を握っている。その上、ラテンアメリカ有数の巨大国家ブラジルとメキシコでポピュリスト指導者が誕生すれば、世界全体に深刻な影響を及ぼしかねない。
アルゼンチンの改革が成功すれば、ポピュリスムに走らない新たな道が可能であることを世界に示せるかもしれない。
ただし、そのためには国際社会による正しい方策と強力なサポートが不可欠だ。【9月4日号 Newsweek日本語版】
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マクリ政権の施策への評価は随分と高いようです。
“投資家が各国のリスクをより慎重に見極めるようになった”【前出 Newsweek】ということであれば、また、IMFがあまりに早急な調整を強要しない、慎重な対応をとれば、アルゼンチンはこれ以上の危機は回避できる・・・・のかも。
ただ、マネーの流れには勢いがあり、危ない通貨には容赦なく襲いかかり、危機を現実のものにしてしまいます。いったん標的にされると持ちこたえるのはどんな政権でも困難です。