孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  アッサム州でイスラム系住民190万人超が無国籍化され、追放される懸念

2019-08-31 23:37:50 | 南アジア(インド)

(国民登録簿の最終版が発表される前に警戒するインドの治安当局者ら=インド北東部アッサム州で8月30日、ロイター【9月1日 毎日】)

 【経済は失速の懸念】

州首相時代の実績から経済的手腕が期待されたインドのモディ首相ですが、ここのところインド経済の減速があきらかになってきています。

 

****インド GDP プラス5% 6年ぶりの低水準*****

インドのことし4月から6月までのGDP=国内総生産の伸び率は前の年の同じ時期と比べてプラス5%となり、米中の貿易摩擦などを背景に6年ぶりの低い水準にとどまりました。

経済成長の持続を2期目の公約の柱に掲げるモディ政権にとって、経済の底上げが最大の課題となりそうです。

 

インド政府が30日発表した、ことし4月から6月までの四半期のGDPの伸び率は、前の年の同じ時期と比べて5%のプラスでした。

前の3か月と比べると、伸び率は0.8ポイント低くなり、2013年の4月から6月以来、6年ぶりの低い水準にとどまりました。

これは、自動車をはじめとした国内の消費が低迷しているのに加え、製造業や農林水産業など幅広い産業で落ち込んだことが要因となっています。

インド経済は、ここ数年7%前後の高い成長を続けてきましたが、ことしに入ってからは、米中の貿易摩擦などを背景に経済の減速が一層、鮮明になっていて、2期目をスタートさせたモディ政権にとって経済成長の持続が最大の政治課題です。

モディ政権としては今後、外国資本による投資の規制緩和などの対策を講じる方針で、今後、経済の持ち直しが実現するのか注目されます。【831日 NHK

******************

 

1%未満の低成長にあえぐ日本からすれば5%というのは非常に高い数値ですが、膨大な絶対的貧困を抱え、大量の失業者が存在し、年々爆発的に人口が増大しているインドにとっては、社会の安定を保つのが難しくなる「低成長」にもなるのでしょう。

 

【ヒンズー至上主義で求心力を維持しようとするモディ政権 190万のアッサム州のイスラム系移民を無国籍化へ】

どこの国の政権も、国民の生活に直結する経済の状況が悪くなると、外交的対立を加速させて民族主義を鼓舞するなどの方策で、国民の目をそらして求心力を高めようとしがちです。

 

もとより、モディ首相には経済的手腕への期待という側面以外に、ヒンズー至上主義の懸念が当初からありました。

 

上記のような国内経済の停滞を糊塗するためにも、国民多数派に受け入れられやすいヒンズー至上主義的傾向が強く前面にでてきていることは、国内のイスラム教徒迫害の問題、カシミールでの自治権はく奪の問題等の関係で、これまでもしばしば取り上げてきました。

 

そのひとつが、20181025日ブログインド 「本物のインド人」と認められないイスラム系住民400万人を無国籍化・追放する企て“で取り上げた、北東部アッサム州におけるイスラム教徒移民の無国籍化の問題です。

 

アッサム州にイスラム系移民が多い背景およびこれまでの経緯は、以下のようにも

 

****英領時代流入、70年代に急増****
アッサム州で国民登録が実施された背景には、隣国バングラデシュからの移民の存在がある。
 
ヒンドゥー教徒のアッサム人が多くいた土地に開拓農民や紅茶農園の働き手としてイスラム教徒が移住してきたのは、現在の国境線が引かれる前の英領時代にさかのぼる。1947年のインド建国時点で、相当数のイスラム人口があった。
 
さらに71年、イスラム教徒がつくったパキスタンからバングラデシュが分離独立を宣言すると内戦が勃発。多数のイスラム系難民が流入した。国民登録が71年以前に居住していた証明を求めるのはこのためだ。
 
当時のインド国民会議派政権は難民を積極的に帰還させようとはしなかったようだ。

移民排斥運動を主導する全アッサム学生連盟(AASU)のバッタチャルジャ最高顧問は「政権与党が難民に有権者証を乱発し、自分の票田にした」と指摘する。州内の有権者数は70年から79年にかけ、50%増えたという記録がある。
 
少数派になることを恐れたアッサム人は70年代末から抗議運動を始めた。83年には一部が暴徒化しイスラム教徒2千人以上を虐殺した。ネリー村は最も被害が大きかった現場の一つだ。
 
混乱を収拾するためインド政府は85年、AASUの要求をのむ形で国民を登録し直すと約束した。しかし、その後の政権は問題を先送りし続けた。【20181024日 朝日】

**************

 

モディ首相が、71年以前に居住していた証明ができないイスラム系住民を無国籍化しようとしているという件を20181025日ブログで取り上げましたが、その懸念がいよいよ現実のものとなっています。

 

****190万人が無国籍状態になるおそれ インド アッサム州****

インドのアッサム州で暮らす およそ190万人が隣接するバングラデシュからの不法移民だとして、住民登録簿から抹消され、無国籍状態になるおそれが出ています。

 

最悪の場合、国外退去処分となる可能性もあり、ミャンマーの少数派イスラム教徒、ロヒンギャの人たちと同じような状況になるのではないかと懸念されています。

 

インド北東部のアッサム州には、1971年のバングラデシュの独立戦争前後に数百万人ともいわれる少数派のイスラム教徒が移民として流入し、先住民との間で衝突が繰り返されてきました。

州政府は、独立戦争の前から家族で州内に住んでいたことを証明する文書を提出できない住民は不法移民にあたるとして4年前から調査を進め、31日、最終的な住民登録簿を公表しました。

それによりますと、およそ1906000人が登録簿から抹消され、今後、無国籍状態となる可能性があるということです。

州政府は、これらの住民に対し、今後120日以内に異議申し立てができるとしていますが、最悪の場合、国外退去処分となる可能性もありミャンマーの少数派のイスラム教徒、ロヒンギャの人たちと同じようなことが起きるのではないかと懸念されています。

ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ首相率いる与党・インド人民党は先の総選挙でバングラデシュからの不法移民に強硬な路線を打ち出し支持を獲得していました。

モディ政権は、今月、イスラム教徒が多く住む北部ジャム・カシミール州の自治権の撤廃を強行したばかりで今後、イスラム教徒からの反発が高まることも予想されます。【831日 NHK

****************

 

問題があるとはいえ、数十年にわたり積み上げられてきた秩序を、支持層の多数派ヒンズー教徒には受け入れられやすい形で一挙に整理しようという点では、カシミールの自治権はく奪とも共通した流れです。

 

【社会・治安当局に蔓延するイスラム系住民への人権侵害】

少数派イスラム教徒への不寛容・厳しい姿勢は、モディ首相ひとりのものではなく、多くの国民や軍・警察に支持され、共有されていることが、より重要な問題です。

 

****「殴るくらいなら撃ち殺してくれ」 カシミール住民がインド軍の拷問を訴え****

インドが実効支配するジャンムー・カシミール州の自治権剥奪をめぐり、同州の住民がインド軍から暴行や拷問を受けていると主張していることが分かった。

 

複数の住民がBBCに対し、けがの痕を見せ、棒で叩かれたり電気ショックを与えられたと証言した。BBCは、この訴えが事実かどうか、インド当局から確認を得ることはできなかった。

 

インド軍は、「事実無根で、根も葉もないもの」だと主張している。

 

州の閉鎖、通信手段の停止

ジャンムー・カシミール州に70年にわたり、独自の立法・行政・司法制度といった一定の自治性を認めてきた憲法370条が廃止された5日以降、同州には前例のない制限が課されている。

 

3週間以上にわたり州が閉鎖され、通信手段が停止された影響で情報は少しずつしか伝わってこない。

 

同州には、何万もの軍隊が追加配備された。さらに、地元の政治指導者や実業家、活動家を含む約3000人が拘束されていると報じられている。その多くは、州外の刑務所にすでに移送されている。

 

当局は、こうした動きは、この地域での法と秩序を維持することを目的とした先制措置だとしている。

 

人口の大半をイスラム教徒が占めるジャンムー・カシミール州は、現在では、インド連邦政府管轄下の2つの小さな領地に分割されている。

 

分離主義者との争い

インド軍は、過去30年以上にわたり、インドからの独立またはパキスタンへの編入を求める分離主義者との争いを続けている。

 

インドは、パキスタンが過激派を支援し、同地域での暴力行為を扇動していると非難している。カシミール地方の一部を実効支配するパキスタン側は、この訴えを否定している。

 

インド国内の多くの人は、憲法370条の廃止を歓迎し、「大胆な」決断を下したとして、ナレンドラ・モディ首相を称賛している。自治権廃止措置は、主流メディアからも幅広い支持を得ている。

 

インド軍による夜襲や拷問

過去数年で反インド闘争の中心地となった同州南部を私は訪れ、少なくとも6つの村に足を運んだ。そのすべての村の複数住民から、インド軍による夜襲や暴行、拷問行為といった、同様の証言を得た。

 

医師や保険当局は、症状に関わらず、患者についてジャーナリストに話すことを嫌う。しかし、複数の村民は、治安部隊から受けたというけがを私に見せてくれた。

 

住民の話によると、ひとつの村では、数十年にわたるインドとカシミールの取り決めを覆すこととなった、憲法370条廃止の決定からわずか数時間後に、インド軍が家から家へと回っていたという。

 

あるきょうだい2人は、眠っていたところを起こされ、屋外へ連れ出されたと話した。そこには、村の男性12人ほどが集められていたという。私たちが話を聞いた全員がそうだったように、きょうだいは報復を恐れ、身元を明かすことはなかった。

 

「あいつらは、私たちをめった打ちにした。『私たちが一体何をしたというんだ。私たちがうそをついたのか、何か悪いことをしたのか、村の人たちに聞けばいい』と訴えたが、あいつらは耳を貸さなかったし、何も言わずに私たちを殴り続けた」

 

「やつらは、私の体中を殴った。私たちを蹴り、棒で叩き、電気ショックを与え、ケーブルで打った。脚の後ろを叩いた。気絶すると、意識を取り戻させるために電気ショックを与えてきた。棒で叩かれて叫ぶと、泥で口をふさがれた。自分たちは無実だと訴えた。なんでこんなことをするのか尋ねたけど、話を聞いてくれなかった。殴るな、殴るくらいなら撃って殺せと訴えた。神に、命を奪ってくれと懇願していた。拷問に耐えられなかったので」

 

2時間近く拷問、意識失うと電気ショック

(中略)

インド軍は拷問を否定

インド軍は、BBCに宛てた声明で、「訴えにあるような、民間人を乱暴に扱った事実はない」と反論した。

インド軍報道官のアマン・アナンド大佐は、「この手の詳しい訴えは、私たちに通達されていない。こうした訴えは、悪意のある者たちによるものだろう」と述べた。

 

アナンド氏は、民間人を保護するための措置を講じているとし、「軍の対抗策による死傷者は出ていない」と付け加えた。(中略)

 

人権侵害は数百件

しかし今年初め、2つの有名なカシミール人権団体が公表した報告書によると、カシミールで過去30年間に発生した人権侵害は、数百件にのぼるという。

 

国連人権委員会(UNCHR)もまた、カシミールでの治安部隊による人権侵害をめぐり、包括的で独立した国際的調査を行うため、独立国際調査委員会(COI)の立ち上げを求め、49ページにわたる報告書を公表している。

 

インドは、こうした訴えや報告書の内容を拒否している。【830日 BBC

*********************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドイツ  大量移民で揺れる政治・社会 一方で、抵抗感が和らぐ兆しも 将来的には独経済を支える基盤

2019-08-30 22:20:02 | 欧州情勢

(写真は移民のための就職説明会。1月にベルリンで撮影【8月30日 ロイター】

8月29日、独ベルテルスマン財団が行った調査では、ドイツ国民が移民に対しておおむね好意的で、国の利益になると考えるなど、移民への意識が改善する傾向にあることが明らかになった。)

 

【危ういメルケル後継禅譲】

これまでEUを牽引してきたドイツ・メルケル政権に関しては、このところはあまり“いいニュース”は見聞きしません。

 

メルケル首相の求心力低下、与党キリスト教民主同盟(CDU)の支持率低下や後継者問題、連立埋没で低迷する社会民主党の連立離脱の動き、極右勢力の台頭など、あまり芳しくない話題が多くなっています。

 

****メルケル独首相、後継禅譲へ「危険な賭け」*****

ドイツのメルケル首相の有力後継候補である保守系与党、キリスト教民主同盟(CDU)の女性党首、アンネグレート・クランプカレンバウアー氏が試練に直面している。

 

指導力の弱さや失言で国民の支持が低下。巻き返しのため兼務することになった国防相は、不祥事の多い“鬼門”ポストとされる。メルケル氏が描く円滑な禅譲には「危険な賭け」(メディア)となりそうだ。

 

(中略)国防相を兼務することになったのは、前任のフォンデアライエン氏が欧州連合(EU)の次期欧州委員長に決まり、後任が必要になったからだ。それまでクランプカレンバウアー氏は入閣をきっぱり否定していため、この人選に国内では大きな驚きが広がった。

 

■「前方への逃避」

「状況が変わった」。自身は方針転換の理由をこう語る。政権は今、連立相手の中道左派、社会民主党が離脱する懸念が高まり、大きく揺れる。このためCDUとして、党首入閣で政権維持への意思を明確するのが適切との判断に「メルケル氏と私は至った」のだという。

 

だが、理由はそればかりでなさそうだ。独メディアはこの決断をクランプカレンバウアー氏の「前方への逃走」(経済紙ハンデルスブラット)だと指摘する。

 

クランプカレンバウアー氏は昨年2月、メルケル氏が意中に置く後継候補として地方の州首相から党幹事長に大抜擢。昨年12月には寛容な難民政策など「メルケル路線」に反対する保守派の対抗候補と大接戦の末、党首選を制した。

 

その後、党内の分断克服と党勢回復を担ったが、5月のEU欧州議会選で党は過去最低の結果に低迷。選挙前に若者がCDUの気候変動対策を批判したネットの投稿動画について、「世論操作」と反論して大きな批判を浴びるなど、誤解を招く発言でしばしば物議も醸した。

 

この結果、独メディアの政治家人気ランキングでクランプカレンバウアー氏は党首就任当時の2位(支持率58%)から、6月には12位(同33%)に転落。首相に「ふさわしくない」との回答が71%に上る世論調査の結果も報じられた。

 

「このままでは首相への野心にサヨナラすることになると気づいた」。CDU幹部はメルケル氏とクランプカレンバウアー氏の判断についてこう語る。重職の国防相として政府の経験を積みながら、新たなスポットを浴びることで支持回復を図る−との狙いだ。

 

■国防省は「地雷原」

だが、この人事には「冒険」(独紙フランクフルター・アルゲマイネ)との見方がもっぱら。国防省は連邦軍も含め、かねて不祥事が多く、歴代国防相が政治家としての将来を傷つけられた事例が少なくない。首相に上り詰めた国防相経験者は戦後1人だけだ。(中略)

 

党首としても修羅場が続く。9月1日には東部2州の議会選挙が行われるが、世論調査では移民・難民危機で台頭した右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)にCDUが敗北する可能性もあり、その場合、今後の首相候補を決める党内議論で保守派のライバルらに追い落とされる懸念も否定しきれない。【8月26日 産経】

*******************

 

【反移民右派政党の台頭と極右暴力の横行】

記事最後に触れられている東部2州の議会選挙における反移民を掲げるAfD台頭の可能性については、以下のようにも。

 

****右派ポピュリズム政党、首位うかがう 独東部2州で1日議会選挙****

ドイツの東部2州で9月1日に実施される州議会選挙で、右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が首位をうかがうなど大躍進する勢いを見せている。

 

メルケル首相の保守系政党、キリスト教民主同盟(CDU)、国政で連立を組む中道左派の社会民主党はともに苦戦。結果が連立政権の行方に影響を及ぼす可能性がある。

 

選挙が行われるのはブランデンブルクとザクセンの2州。公共放送ARDの最新の政党支持率によると、AfDはブランデンブルクで22%となり、第1党の社民党と同率トップ。ザクセンでは24%で、前回選の得票率9・7%を大きく上回り、CDU(30%)に次ぐ第2党になる可能性が高い。

 

排外主義的な主張を掲げるAfDはメルケル氏の寛容な難民・移民受け入れ策への批判票を集め、これまで支持を拡大してきた。国内16州・特別市ですでに議会進出を果たしているが、第1党になれば初めて。

 

AfDは特に旧東独地域の東部州で強く、5月に行われた欧州連合(EU)欧州議会選では今回選挙のある両州ともに首位だった。

 

旧東独地域ではドイツ統一から29年を迎える現在も、旧西独地域との経済格差が残り、既存政治に不満を抱える市民がAfDに引き寄せられている形だ。

 

一方、CDU、社民党ともに両州で得票を多く減少させると予測される。特に党勢低迷が深刻な社民党は10月に新党首を選出後、年内に連立政権の成果を中間評価する予定。今回選挙で大敗すれば党内の連立懐疑派が勢いを増し、政局が不安定化する可能性がある。

 

社民党が政権を離脱すれば、2021年の任期終了まで首相続投を目指すメルケル氏の方針も危うくなる。CDUではクランプカレンバウアー党首が国防相を兼務しながら選挙戦を展開するが、結果次第ではメルケル氏の有力後継候補としての手腕に党内で疑問が強まる可能性もある。【8月30日 産経】

*******************

 

メルケル首相・政権がこのような苦境に陥っている原因は、寛容な難民・移民受け入れ策によって洪水のような大量の難民・移民がおしよせたことへの国民不満にあるとされています。

 

その不満の受け皿として上記の反移民政党AfDの台頭もある訳ですが、より過激な暴力的極右勢力の動きにも懸念が深まっています。

 

****ドイツ、極右過激化へ懸念深まる 政治家殺害や脅迫行為****

ドイツの極右勢力が難民や移民の大量流入への抗議をエスカレートさせている。

難民支援を訴えた政治家が殺害されたほか、政界や言論界を標的にした脅迫行為が横行している。

 

排他主義的な動機による銃乱射事件が米国で相次いだこともあり、ドイツでも憎悪犯罪が誘発されることに、警戒感が広がっている。

 

ドイツではメルケル首相が2015年から、難民や移民に寛容な受け入れ策を進めているが、一方で反移民感情も高まっていた。

 

今年6月には、メルケル氏の政策を支持した中部ヘッセン州の政治家、ワルター・リュプケ氏(65)が、自宅で極右活動家に射殺される事件が起きた。

戦後ドイツで、政治家が極右に殺害されたのは初めてとされ、衝撃が走った。

 

当局は、かつて極右活動に参加していた地元の男(45)を逮捕。政治的動機による犯行として、捜査中だ。男は欧州で相次いだイスラム過激派テロも背景に、憎悪の矛先をリュプケ氏に向けたようだ。

 

「民主主義を破壊しようとする風潮に立ちはだかるのはわれわれの義務だ」

メルケル首相は7月中旬、第2次世界大戦末期のナチス・ドイツで起きたヒトラー暗殺未遂事件の75周年式典でこう述べた。さらにリュプケ氏の殺害事件にも触れ、極右勢力の過激化に強い警鐘を鳴らした。

 

ドイツ内務省が6月に公表した報告書では、国内の「極右過激派」は近年増加傾向にあり、総数は2万4100人に上るとしている。このうち暴力的な行為を志向する者が、半分以上を占めるという。

 

捜査当局はイスラム過激派への対応に追われ、極右勢力の抗議活動を甘く見ていたとの批判も強い。

 

さらに、リュプケ氏の殺害事件に対する一部の「反応」も懸念材料だ。

容疑者の逮捕後、難民支援に積極的な西部ケルンの市長ら自治体関係者、大手企業トップ、公共放送のジャーナリストといった難民支援に積極的な人物も標的となり、「第2のリュプケにする」などとした殺害脅迫が届き始めた。

 

難民や移民に反発する反イスラム団体のデモ参加者は、「(殺害は)人道的反応だ」などとテレビのインタビューで発言してい。

 

こうした動きに対し、シュタインマイヤー大統領は「危険は極右の暴力だけではなく、その行為を正当化する雰囲気だ」と戒めている。【8月26日 産経】

******************

 

【移民受け入れによる労働人口増大】

大量の移民・難民はこうした深刻な問題を惹起し、メルケル政権を揺さぶる形になっていますが、一面では移民増加によってドイツの人口は増大し、人口減少による国力低下が懸念される日本とは異なる可能性も見せています。

 

****2018年のドイツの人口が過去最高、東欧などの移民が押し上げ****

ドイツ連邦統計庁の16日発表によると、ドイツの人口が昨年、東欧を中心とする諸国からの移民により、過去最高の8300万人超を記録した。

 

移民の純流入数は前年の41万6000から40万人に減少。主な出身国は依然欧州連合(EU)域内で、合わせて20万2000人だった。内訳はルーマニアの6万8000人を筆頭に、クロアチアの2万9000人、ブルガリアの2万7000人、ポーランドの2万人などとなった。

 

ドイツでは、高齢化と出生率低下で今後数十年に労働力が縮小する公算が大きいことから、増加する定年退職者を年金で支えていく企業にとって、移民は人材確保に不可欠な存在とみなされている。

 

一方、戦争で荒廃した国からの移民は減少しているもようで、純流入数はシリアが2017年の6万人から18年には3万4000人に、アフリカは同3万5000人から3万4000人に減少した。【7月17日 ロイター】

******************

 

【大量移民への拒否感を示したドイツ社会にも変化の兆し】

いくら労働人口が移民によって補充されても、そのことによって社会が不安定化しては元も子もありませんが、大量移民に拒否感を示したドイツ社会も、ここにきてようやく流入した移民をうまく“のみ込める”ようになっている・・・そんな気配もあります。

 

****ドイツ国民、移民への意識が改善、経済に貢献と評価=調査****

独ベルテルスマン財団が行った調査では、ドイツ国民が移民に対しておおむね好意的で、国の利益になると考えていることが明らかになった。2015年の大規模な移民流入で高まった反移民感情が和らいでいることが示された。

調査では、移民受け入れに比較的積極的な旧西ドイツ出身者と、より消極的な旧東ドイツ出身者の間の溝が埋まりつつあることも明らかになった。ただ、経済への影響については、依然見解の相違がみられる。

移民がドイツ経済に貢献するとの回答は3分の2近くに達した。また、生活や人生が移民の人達によって興味深いものになると考えている人は67%だった。若い人達の間で特に移民対する肯定的な意見が目立った。

同財団の理事会メンバー、Joerg Draeger氏は「ドイツは移民が大量に流入した2015年のストレステストに合格し、実質的な移民受け入れ国としての立場を安定させた」と指摘した。

移民の受け入れ負担を訴える人は49%で、2017年の54%から低下した。

移民を歓迎するとした西ドイツ出身者の割合は59%で、2017年の65%から低下。東ドイツ出身者ではこの割合は33%から42%に上昇し、双方の差が縮小した。

一方、東部では、移民が社会保障制度などの負担になるとの回答は83%に達した。【8月30日 ロイター】

*****************

 

今回の東部2州の選挙結果はともかく、将来的には、上記のような東独地域での反移民感情緩和の傾向が全国的に進めば、移民に関する諸問題の解消にも道筋が開け、労働人口増大による果実も手にすることが可能となります。

 

現在は移民受け入れに失敗した・・・との評価が大きいメルケル政権ですが、社会の移民受入れが進めば、30年後には「あれがドイツの沈下を救う契機となった」という異なる評価に変わるかも。

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イギリス  議会閉会で離脱実現を図るジョンソン首相 「政治的中立」を守るエリザベス女王

2019-08-29 23:14:49 | 欧州情勢

(バッキンガム宮殿で(7月)24日、ジョンソン氏(左)と握手するエリザベス女王。その後、英国の首相に任命した=ロイター【7月25日 朝日】)

 

【「非民主主義的」「独裁者」の批判も】

EU離脱期限の10月31日が目前に迫るイギリス。

ボリス・ジョンソン首相は持論の「合意なき離脱」に向けて、反対の多い議会を期限直前まで閉会して議論を封じ込めることで強行突破しようとの構えです。

 

****ブレグジットと英議会の閉会 ― 何が起きた?****

28日朝、イギリスでは劇的な展開を迎えた。

 

7月24日に首相に就任したボリス・ジョンソン氏が、議会を1カ月間、閉会することを決めた。つまり下院議員は、さらに限られた時間の中でブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を協議することとなる。

 

議会は、EU離脱期限の10月31日が目前に迫る中、5週間にわたって閉会される。ジョンソン首相は、新たな会期を10月14日に始めたい考えだ。

 

例年、各党が党大会を開催することから、議会は9月から10月にかけて約3週間の休会に入る。しかし今秋は、9月10日ごろに議会が閉会することとなる。

 

時間がほとんど残されない中、議員にとって、合意なしのEU離脱を食い止めることは難しくなるだろう。

今回の決定について、EU残留派はクーデターだと反発しているほか、一部の離脱派も批判している。

 

ちょっと待って、何があった?

今回、議会を開かないのは、通常の休会ではない。ジョンソン氏は、EU離脱期限まで約9週間しか残されていない肝心なこの時期に、今会期を切り上げるというのだ。

 

イギリスは3月29日にEUを離脱する予定だったが、議会が離脱協定を3度にわたり否決したため、EUは離脱期限を10月31日まで延長した。

 

ジョンソン氏は「やるか死ぬか」だと述べ、合意ありなしに関わらず、ブレグジットを実現すると誓っている。

 

一方、残留派の下院議員のほとんどや、与党・保守党議員の多くは、合意なしの離脱を望んでいない。物価上昇など、イギリス経済へ打撃を与えるかもしれないと恐れているからだ。

 

彼らは合意なし離脱の回避を求めているが、それが失敗に終わった場合、内閣不信任案を提出する可能性がある。

 

議会閉会は合法なのか?

議会の閉会は合法だ。通常、会期末と次の会期までの間に起こるものだ。しかし、今回は状況が異例だった。

 

政府は法律を破っているわけではないため、異議申し立てを行うことは難しいだろう。議会手続きにのっとり、ジョンソン氏は、EUからイギリスを離脱させるという、自身の選挙公約を実現しようとしている。

 

下院議員は、この閉会に従い、合意なしブレグジットのリスクを負うこともできるし、内閣不信任案を提出することもできる。

 

ジョン・バーコウ下院議長は、今回の閉会決定は、議員にブレグジットを協議させないことを狙った「憲法侵害」行為だとしている。(後略)【8月29日 BBC】

********************

 

政治制度についてイギリスに範をとった日本でも、与野党間で妥協が見込めない議論については、審議日程をどうするかが現実的な駆け引きの場となることが日常的に見られます。

 

ただ、常識的には、極めて重要な国家の進むべき道の選択にあたって、民意を反映する議会を無視するような議会運営は「憲政の常道」に反するという話になるでしょう。

 

議会審議に委ねていてはいつまでたっても離脱はできない・・・と考えるジョンソン首相ですが、「合意なき離脱」に反対する議会を封じて離脱を強行する権限が首相にあるのかという問題にもなります。

 

形式的には合法な議会運営であっても、実質的にそうした議会無視の意図が明らかであれば、憲法上の疑義が生じるでしょう。

 

****ジョンソン英首相、EU離脱前に議会を閉会 各地で抗議デモ****

イギリスのボリス・ジョンソン首相は28日、9月第2週から5週間にわたって議会を閉会すると発表した。

 

英議会は現在夏休み中で、9月3日に再開される。イギリスは10月31日に欧州連合(EU)離脱を予定しており、9月と10月は離脱をめぐる重要な審議の期間と目されていた。

 

こうした中でのジョンソン政権による「閉会」発表に、ブレグジット(イギリスのEU離脱)反対派や合意なしブレグジットに反対する与党は、十分な審議の余地を与えない「非民主主義的」な方策だとして反発を強めている。

 

「議論の時間は十分ある」

また、イギリス各地で抗議デモが開かれており、閉会の取り止めを求める署名にこれまで100万人以上が参加した。

 

ジョンソン政権は、5週間の閉会後もEU離脱について議論する時間は十分にあるとしている。

ジョンソン首相はかねて、EUとの合意のあるなしに関わらず10月31日にブレグジットを決行すると述べている。

 

議会の閉会は通常、会期の初めなどに審議や投票の予定がない場合に行われ、期間も短い。閉会にはエリザベス女王の承認が必要で、女王は28日に今回の閉会を承認した。

 

これにより、議会は9月9〜12日のいずれかの日に閉会となり、10月14日に再開される。議員は閉会を阻止することはできないという。

 

10月17日には、ブレグジットをめぐる最後のEU首脳会議が予定されている。

 

ジョンソン首相は議員への書簡で、現在の議会は340日以上にわたって続いており、過去400年で最も長い部類に入ると説明。閉会の必要があると訴えた。

 

その上で、議会再開の際には「ブレグジットに関する重要な法的プログラム」を用意するとし、政府がEUと「新たな協定を結ぶ機会を」得るため、議会には「一致と決心」をしてほしいと伝えた。

 

また、マイケル・ゴーヴ内相はBBCの取材で、閉会について、合意なしブレグジットに反対する勢力を妨害する政治的動きでは「もちろんあり得ない」と強調した。

 

政界の反応は? 米大統領は支持

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、閉会は議員に法案を審議する十分な時間を与えず、合意なし離脱を強行するもので、「イギリスの民主主義を強奪」していると批判。閉会をやめさせるよう働きかけると約束した。(中略)

 

閉会支持の声も

一方、閉会を支持する政治家もいる。

保守党のEU離脱派、ピーター・ボーン議員は、閉会は「まったくもって標準の手続き」だと発言。ブレグジット以降まで閉会すると言わない限りは支持すると話した。(中略)

 

また、アメリカのドナルド・トランプ大統領はツイッターでジョンソン首相の判断を支持すると表明。首相が「イギリスがまさに求めていることを行っているという事実」をみれば、コービン氏が不信任案を議会で通すのは「非常に難しいだろう」と語った。

 

ウェストミンスターで抗議デモ

28日夜には議会のあるロンドン・ウェストミンスターに市民が集まり、「クーデターをやめろ」と声を合わせた。ブレグジットに反対するプラカードや、EU旗を掲げるデモ参加者もいた。

議会前で始まったデモはその後、首相官邸のあるダウニング・ストリートまで広がった。(中略)

 

一方、政府ウェブサイトに開設された、閉会をやめるよう求めるインターネット署名では、1日足らずで100万筆以上が集まった。

 

提訴は可能なのか

ジョン・メージャー元首相など政界の重要人物はかねて、ジョンソン首相が合意なし離脱のために議会を停止させた場合は提訴に踏み切ると話していた。

 

28日の発表を受けてメージャー氏は、ジョンソン氏は「自分のブレグジット政策に反対する議会を無視する」ために閉会に踏み切ったことは「明白」だとして、法的手段を模索すると話した。

 

スコットランドではすでに、スコットランド国民党(SNP)の主導で提訴の手続きが進んでいる。

 

イギリスでは、閉会を含む女王の特権行使について、法的に争うことはできない。

しかし、反EU離脱活動家のジーナ・ミラー氏によると、「閉会が議会の主権を制限する意図で行われ、そうした効果を持つなら、それは違法かつ違憲だと思う」と指摘した。【8月29日 BBC】

********************

 

ジョンソン首相は閉会したとしても、議会で離脱について議論する時間的余裕は「たっぷりとある」と主張していますが、10月17〜18日にEU首脳会議も控えており、現実的に10月末まで時間はほとんど残されていません。

 

そうしたことから「離脱の審議を妨害しており、民主主義と国民の代表である議会への攻撃だ」(バーカウ下院議長)など、野党議員からは「ジョンソン氏は独裁者だ」との声が上がっています。

 

ただ、法廷闘争とはいっても、判決が速やかにでないと意味がありません。そうした速やかな判決が可能なのかは不透明です。

 

もし閉会するまでの9月10日以前に内閣不信任決議が可決されれば、10月に解散総選挙となる可能性もあります。

総選挙が行われた場合の予想は・・・わかりません。

 

“保守党は、先週の世論調査での支持率が約31%となり、野党を上回っている。最大野党・労働党は前回調査から2ポイント上げて、21%だった。(中略)

しかし、保守党の勝利が、必ずしも確実というわけではない。中道左派・自由民主党やスコットランド国民党といったほかの党は、いかなる条件のブレグジットにも、かたくなに反対している。” 【8月29日 BBC】

 

【「政治的中立」を遵守するエリザベス女王 ただ、政界の混迷には失望】

エリザベス女王にも飛び火しています。

 

*******************

今回の問題は、政治的中立を保つエリザベス女王にも飛び火している。

 

議会の停会を決める権限は首相ではなく、国家元首の女王にある。ただ、女王は今回、王室が首相の助言に従う英国の慣習により、ジョンソン氏の停会の要求を認めたとみられている。

 

労働党のコービン党首は、認可した女王に抗議するために、女王との面会を求めているという。【8月29日 産経】

******************

 

形式上、政府は議会閉会の承認を求める必要がありましたが、これは形式的なものにすぎません。

女王は、政治とは切り離された立場にあり、仮に承認を拒否したとしたら前代未聞でしたが、女王は拒否しませんでした。【8月29日 BBCより】

 

ただ、日本でも天皇の「お言葉」の真意をめぐっていろんな議論がかわされるように、イギリスにあっても「政治的に中立」とはいうものの、女王陛下の真意に関心が集まります。

 

イギリス政治の混迷について女王が失望していることは最近報じられたばまりです。

 

****エリザベス女王が政界失望、EU離脱混迷で英紙報道****

英国が欧州連合(EU)からの離脱を選んだ2016年の国民投票以降、英国政治の混迷が続く中、エリザベス女王が政界の統治能力の欠如に対して非公式に失望を示していたと、11日付サンデー・タイムズ紙が伝えた。

 

国民投票で離脱が決まり、当時のキャメロン首相が辞任した直後の非公式行事で、女王が失望を表明したとされる。政界はEU離脱派と残留派などの間で対立が深まり、王室筋によると、政治家のリーダーシップに対する女王の「怒りや失望」はその後も一段と強まっているという。

 

女王は政治的に中立とされ、公の場で見解を示すことはない。【8月11日 共同】

********************

 

更に一歩踏み込んで、離脱に関しどのように考えているのか、残留派なのか離脱派なのか・・・さすがに、そのあたりは明かしていません。

 

****エリザベス英女王、国民に「共通点」を見つけるよう求める ブレグジット懸念か****

エリザベス女王は(1月)24日、イギリス婦人会のサンドリンガム支部を訪問した際の発言で、国民に「共通点」を見出すよう求めた。さらに、互いに「異なる視点」を尊重するよう呼びかけた。

 

エリザベス女王は国家元首だが、政治問題については中立の立場を保っている。しかし、このメッセージはイギリスの欧州連合(EU)離脱をめぐる下院の紛糾に言及したものだとの見方が強い。(中略)

 

今回の発言は2018年12月のクリスマスにTV放送したあいさつとも関連するとみられる。

 

クリスマスのあいさつで女王は「どれほど深刻な違いがあっても、相手を尊重し、同じ人間として接することは常に、より良い理解への有効な一歩です」と語った。【2019年01月25日 BBC】

********************

 

この趣旨からすれば、今回のジョンソン首相の強引な手法にはエリザベス女王も納得はされていないようにも想像しますが・・・。

 

もっとも、2016年には、「エリザベス女王が離脱を支持している」との報道がなされ、王室がこれに抗議する異例の展開もありました。

 

****英王室、「女王がEU離脱支持」報道に抗議****

英王室は9日、英大衆紙サンが「英国の欧州連合(EU)離脱をエリザベス女王が支持している」と報道したことに抗議し、新聞業界の自主規制審査機関「独立新聞基準組織」(IPSO)に不服を申し立てた。

 

サン紙は9日付一面で、「女王はブレグジットを支持」という見出しを掲載。

EU支持派のニック・クレッグ前副首相と女王が2011年に昼食をとりながら「大ゲンカ」するのを目撃したという、

匿名の消息筋の話を報道した。(中略)

 

こうした報道内容に対して王室は女王が「政治的に中立だ」と反論。クレッグ氏も「まったくのでたらめだ」と一蹴したが、サン紙は報道内容に自信があると強く主張している。

 

サン紙は記事で、クレッグ氏と「口論」する様子から「欧州に対して女王がどういう思いを強く抱いているか、もはや疑いようがない」と書き、女王はクレッグ氏を「長々と叱責し、他の客を茫然とさせた」と続けた。

 

また「数年前」の別の機会にもバッキンガム宮殿で複数の議員に対し、「私はヨーロッパが分からない」と「憎々しげに思いを込めて」告げたと書いている。(後略)【2016年03月10日 BBC】

*****************

 

この2016年の件はさておいても、スコットランド独立をめぐる住民投票のときも、エリザベス女王の「お言葉」がスコットランドのイギリス残留支持する発言と受け止められたことがあります。

 

****「将来を慎重に考えて」 英女王が異例発言****
イギリス北部のスコットランド独立の賛否を問う住民投票を前に、エリザベス女王が「人々は将来のことを慎重に考えてほしい」という発言をし、ふだんは政治的な問題には関わらない女王による異例の発言として注目されています。

 

この発言は、エリザベス女王が14日、スコットランド北東部の教会で日曜の礼拝に出席したあと、訪れていた人々に対して述べたものです。この中でエリザベス女王は、スコットランドで行われる住民投票に関連して、「人々は将来のことをとても慎重に考えてほしいと思います」と発言しました。

エリザベス女王は中立の立場を取らなければならないため、政治的な問題に関する発言をするのは極めて異例で、15日付のイギリスの新聞各紙は「女王がスコットランド独立の議論に介入した」などと伝えています。

 

このうち、有力紙デーリーテレグラフは「女王は独立に反対であるというサインだ」と伝えるなど、王室の政治的な中立性を損ねることなく反対派の支持を暗に表明する発言だという受け止めが広がっています。【2014年9月16日 NHK】

********************

 

このスコットランド独立の賛否を問う住民投票の際の発言をめぐる騒動もあって、今回のEU離脱に関しては、エリザベス女王も一層慎重になっているものと推察されます。

 

ちなみに、ジョンソン首相の方はエリザベス女王とは違って慣例にはとらわれず、7月24日にエリザベス女王に謁見して首相に就任した際、君主との会話は終生、外部に漏らしてはならないとの掟を簡単に破り、「どうしてその仕事をしたいと欲する人がいるのか理解できない」という女王の言葉をメディアに披露しています。

 

このあたりの奔放さが、多くの人に愛される理由でもありますが、今回の強引な手法がどうなるのか・・・・?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  アメリカとタリバンの合意間近 そのあとに待ち受けているものは・・・・

2019-08-28 21:48:30 | アフガン・パキスタン

(カブールの美容サロンを訪れた女性(奥)にネイルを施す美容師(2017年3月23日撮影)【2017年5月31日 AFP】 タリバン政権復活となれば、こういう「小さなオアシス」も消えてしまい、女性たちはまたブルカの影に隠れてしまうのでしょう)

  

【アメリカ・タリバンの停戦「合意」間近】

トランプ大統領が再選に向けて、アフガニスタンからの米軍撤退を成果とすべく動いていることは7月30日ブログ“トランプ大統領 パキスタンの協力を得てアフガニスタンでの和平、大統領選前の撤退を目指す”でも取り上げました。

 

そうしたアメリカ側の前のめりな姿勢もあって、このところアメリカとタリバンの協議が進んでいる、あるいは合意も近いといった報道を目にします。

 

“米政権、アフガニスタン和平に向けタリバンとの交渉大詰め 米軍撤収に強い懸念”【8月20日 産経】

“米国とタリバンが協議再開 「戦争」終結目指し9度目”【8月23日 共同】

“タリバーン幹部「合意は近い」”【8月24日 朝日】

“米とタリバンのアフガン協議、今週中にも停戦合意か”【8月27日 ロイター】

 

そして今日も・・・

 

****米とのアフガン和平協議、合意近い=タリバン****

アフガニスタンの反政府武装勢力、タリバンは28日、同国の和平実現に向けた米政府側との交渉で合意に近づいていることを明らかにした。

18年にわたる戦闘の終結を目指し、タリバンと米政府は昨年終盤からカタールの首都ドーハで断続的に協議。駐留米軍の撤退など巡り前週から9回目の協議を行っていた。

タリバンの報道官は「わが国に朗報をもたらすことができると期待している」と述べた。米政府側のコメントは現時点で得られていない。

交渉について知る2人の関係筋は、米国の代表団を率いるハリルザド・アフガン和平担当特別代表がカブールでガニ大統領に合意内容を説明する予定だと述べた。

カブールの治安当局の高官によると、タリバンと米政府は、駐留米軍の撤退期間を14─24カ月程度とすることで合意したという。【8月28日 ロイター】

********************

 

ポンペオ米国務長官は27日、中西部インディアナ州で演説し、アフガニスタン駐留米軍について「できるだけ早急に、大規模に撤退させたい」と述べ、反政府武装勢力タリバンとの協議で早期に和平合意にこぎ着けたい考えを強調しています。【8月28日 共同より】

 

現在進められている交渉はアメリカとタリバンの間のものであり、アフガニスタン政府は排除されています。

 

“西側の外交筋によると、タリバンとアフガン政府軍との内戦停止については別個に交渉する必要があり、ノルウェーでの交渉に向けた準備が進められている。”【8月27日 ロイター】

 

今回協議されている合意のポイントは以下のようにも。

(【8月20日 産経】)

 

【米軍撤退後は内戦激化、最終的にはイスラム原理主義のタリバン政権復活か】

戦乱に明け暮れたアフガニスタンで停戦が実現するというのは、喜ばしいことです。

ただ、もろ手を挙げて喜べない、釈然としない感じもあります。

 

それは、米軍が撤退すればアフガニスタン政府はもたないだろう・・・今後のアフガニスタンにおいては、おそらくタリバンが主導権を握る形になるだろう・・・というのが、大方の見方だからです。

 

*****穴だらけのアフガン撤退合意、テロが浮き彫りにした暗黒****

アフガニスタン・カブールで発生した結婚式の自爆テロは同国が直面する暗黒の未来を浮き彫りにした。

 

再選のため公約を最優先するトランプ大統領は来年の選挙後までにアフガン駐留軍を何が何でも撤退させる方針で、米軍の存在が消えれば、イスラム原理主義組織タリバンと政府との和平はならず、内戦の激化やテロの多発など混乱が拡大することが確実視されるからだ。

 

「ホラサンのIS」が犯行声明

それにしてもすさまじい爆発だった。8月17日夜、カーブルの結婚式の披露宴で発生した自爆テロにより63人が死亡、約200人が負傷した。

 

事件が起きたのは午後11時ごろで、ちょうど食事が始まった時だった。1000人の招待客の1人を装った男が大きな音楽が響く中、式場の舞台近くで身に着けた爆弾を爆破させた。結婚式は少数派でシーア派教徒のハザラ人によるもので、シーア派を憎悪する犯行だった。

 

事件後、過激派組織「イスラム国」(IS)の分派組織「ホラサンのIS」が実行犯のパキスタン人の写真とともに、犯行声明を出した。

 

アフガニスタンではこのところ、テロが多発。10日前にもこの結婚式場の近く警察署前で車爆弾が爆発し65人が死亡、先月末にも、政府施設でトラック爆弾と襲撃により28人が犠牲になった。今回のテロはIS系組織の犯行だったが、前2回はタリバンのテロだった。

 

こうしたテロは駐留米軍撤退後のアフガニスタンの暗い未来を差し示しているかのようだ。

 

しかし、トランプ大統領はそうした同国の内情を意に介さず、しゃにむに米軍の撤退を推し進めようとしている。その真意は、中東などの紛争地から米部隊を撤退させるという選挙公約を実現し、その実績を誇示して再選に利用したいとの政治的な思惑があるからだ。昨年、シリアからの一方的な部隊撤退を突然表明したのも同じ理由である。

 

アフガニスタンには最盛期、10万人を超える米軍が駐留し、政府軍を支援し、タリバンと交戦を続けてきた。開戦から18年という「最長の戦争」により、米軍は2400人の戦死者を出し、数千億ドルの戦費を費やす結果になったが、これほどの犠牲を強いられながら、タリバンを駆逐することはできなかった。それどころか今では、国土の半分以上をタリバンに支配され、東部では「ホラサンのIS」が勢力を拡大している。

 

米軍は現在、約1万4000人が駐留、主に政府軍の訓練や助言の任務に就き、一部の特殊部隊は国際テロ組織アルカイダやISなどの対テロ作戦を展開している。(中略)

 

見捨てられたガニ政権

大統領が言うように、タリバンを「合意」の当事者として信頼できるのかと問えば、自爆テロを繰り返し、米国と敵対してきた同組織を全面的に信用できるわけがない。

 

「仮に合意文書に双方が調印しても、米軍が姿を消せば、容易に約束は破られるだろう。反故にされたからといって、米軍がアフガンに再び戻ってくることは考えられない」(ベイルート筋)。「合意」はあくまでも「撤退の口実」(同)にすぎない。

 

米ワシントン・ポストなどによると、「合意」として伝えられている内容には重要な問題が先送りされたり、タリバン側の同意が確認されないものも多い。

 

まず、駐留米軍の撤退に関してだが、5000人が第1陣として年内にも撤退。残りの部隊9000人は1年半かけ、来年の大統領選後までに撤退するシナリオだ。

 

しかし、タリバンが1年以内の全面撤退を主張しているのに対し、テロ組織の台頭を懸念する米国は小規模の対テロ部隊を残留させることを要求し、決着が付いていない。

 

またタリバンがアルカイダとの関係を絶縁し、テロ組織の活動を容認しないことを公式に発表するかどうかについてもあいまいなままだ。

 

内戦の停戦については、タリバンは米軍との停戦については同意したものの、政府軍との停戦については明確に同意していない。何よりも停戦の日程が全く固まっていない。米側はアフガニスタン人同士の協議に委ねるとの姿勢で、事実上、合意を放棄した格好だ。

 

米軍撤退後の内戦の和平協議はノルウェーのオスロで開催されることまでは決まっており、ガニ政権はタリバンとの交渉団15人の人選をすでに終えている。

 

だが、政府との交渉を一切拒否してきたタリバン側は和平協議を行うとの言質を与えているのかどうかあいまいだ。しかも、タリバンはイスラム原理主義に基づく統治を目指しており、世俗派のガニ政権とは水と油。和平協議の先行きは悲観的だ。

 

ガニ政権が9月28日に予定している大統領選挙についても、タリバンはあくまでも反対の姿勢で、米国もアフガニスタンの内政問題として、この問題から距離を置いている。

 

タリバン側も米国との協議について、組織が一体となって賛成しているわけではない。強硬派の一部は協議を続けている指導部を“裏切者”と非難、米国との合意に従わない方針で、タリバンが内部分裂し、組織のコントロール効かなくなる恐れさえある。

 

トランプ政権はタリバンとの協議を進める一方で、ガニ政権を無視する傾向を強めてきた。政権当局者は「アフガンの民主主義と平和を犠牲にした撤退」と米国を批判しているが、トランプ大統領としては、「汚職にまみれたガニ政権にかまっていては、いつまでたっても撤退できない。ガニ政権を見捨てるしかない」(ベイルート筋)と腹を決めたということだろう。

 

だが、米軍なき後のアフガニスタンに明るい未来を想像するのは難しい。政府軍は米軍の訓練を受けたとはいえ、戦力と士気はタリバンの方が上回っている。待っているのは内戦の激化と、その後のタリバン支配という「イスラム原理主義国家」の創出だろう。18年間も介入し、結局見限った米国の責任は重い。【8月20日 WEDGED】

*******************

 

米軍撤退について「後は野となれ山となれ」ということであれば、これだけ時間を要しているのが不思議なくらいです。

 

しかし実態は「後は野となれ山となれ」に相当近いものでしょう。あとはどれだけ体裁を整えるかといったところでしょう。

 

********************

これによりタリバンと米国が支援するアフガン政府との内戦が終わるかは不透明だ。

あるタリバン高官は「われわれはアフガン政府との戦いを続け、力で権力を握る」と述べた。

別のタリバン関係者らは、停戦合意に至れば米軍がアフガン政府への支援も止めると述べたが、米国のハリルザド・アフガン和平担当特別代表はこれを否定。「われわれは今も、そしてタリバンとのいかなる合意後もアフガン軍を守る」とツイートした。【8月27日 ロイター】
********************

 

「タリバンとのいかなる合意後もアフガン軍を守る」とは言っても、撤退してしまえば、二度と米軍がアフガニスタンに帰ってくることはないでしょう。

 

【それが国民の選択なら・・・・】

もとより、アメリカがアフガニスタンに侵攻したのはアルカイダ勢力を一掃するためで、決してアフガニスタンに民主的な政権を確立するためではありません。

 

アメリカがアフガン民主化に向けてもっと明確なアプローチをとっていれば・・・という感もありますが、アフガニスタン政府側にそうしたものを受け入れる余地がなかったとも言えます。

 

そのことからすれば、アメリカがアフガニスタン政府の行く末を案じる必要はないとも言えます。

 

実際には、タリバン政権復活となれば、アメリカが目的としていたテロ勢力一掃も怪しくなりますが。タリバン自身がテロ勢力です。ただ、基本的にタリバンは国内への関心のみで、アルカイダのような国外テロ活動には無関心です。まあ、トランプ政権としては、9.11のようなアメリカに害をなすような組織が拡大しなければ、タリバンだろうが何だろうが構わないということでしょう。

 

腐敗にまみれ、非効率なアフガニスタン政府がタリバンの攻勢の前に崩壊するのも、自業自得といえばそうでしょう。

 

ただ、やっとアフガニスタンで芽生え始めた「女性の権利」に代表されるような自由な市民生活の側面が再びイスラム原理主義タリバンによって潰されてしまうというのは残念です。

 

別に、アフガニスタン政府が女性の権利拡大に理解があった訳でもなく、むしろ後退させる傾向もありました。2014年2月10日ブログ“アフガニスタン  不十分な女性の権利保護が更に後退する懸念

それでもイスラム原理主義政権に比べたらまだましでしょう。

 

それがアフガニスタン国民の選択であるというなら、致し方ないところですが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラン問題  マクロン仏大統領、首脳会談を仲介 実現可能性は不透明 イスラエルの“影の戦争”

2019-08-27 22:02:00 | イラン

(イランのジャヴァド・ザリフ外相(左)はツイッターに、ビアリッツでエマニュエル・マクロン大統領(右)やジャン=イヴ・ル・ドリアン外相(右から2番目)らと会談した様子を投稿した【826日 BBC】)

 

【マクロン仏大統領 意表を突く米・イラン仲介】

膠着状態のアメリカとイランの対立ですが、G7のマクロン仏大統領の仲介もあって、動く可能性の兆し・・・といった程度ではありますが、アメリカ・イランが会談に言及するところとなっています。

 

もちろん、可能性について言及したといったレベルの話で、どこまで現実化するかは一切不透明ですが。それでも、その類の話が全くなくて非難の応酬に明け暮れているよりはましでしょう。

 

****仏大統領 イラン制裁一部解除を米大統領に提案****

フランス南西部で開幕したG7サミット=主要7か国首脳会議の議長国、フランスのマクロン大統領はイラン情勢の緊張緩和に向けアメリカのトランプ大統領に対し、イランに対話を促すため制裁の一部を解除することを提案しました。G7サミットはフランス南西部のビアリッツで24日、開幕しました。

開幕に先立ちフランスのマクロン大統領はアメリカのトランプ大統領と昼食をとりながら首脳会談を行い、フランスの外交筋によりますと、2時間にわたってイラン情勢のほか世界貿易や南米アマゾンの森林火災などについて協議したということです。

このうちイラン情勢についてマクロン大統領はトランプ大統領に対し、イランが核合意を順守し弾道ミサイルの問題を含むより幅広い対話に応じるよう促すため、イランの原油の輸出を対象にした制裁を一定期間、解除することを提案したということです。

外交筋によりますと、これに対しトランプ大統領はイランとの対立は望まず合意を求めていると述べたということです。

首脳会談のあとトランプ大統領はツイッターに「多くのよいことが両国に起きている」と投稿しましたが、アメリカ政府はイラン情勢についてどのような協議が行われたのか明らかにしていません。

イラン情勢は今回のG7サミットの重要議題になっており、マクロン大統領の提案がイラン情勢の緊張緩和につながるか、議論の行方が注目されます。

 

イラン外相「正しい方向」と評価

イランのザリーフ外相は、この前日の23日、パリでマクロン大統領と会談したあと、フランスの通信社AFPの取材に対して、「マクロン大統領はイランのロウハニ大統領にいくつかの提案をした。まだ至らぬ部分はあるが、正しい方向に向かっていると思う」と述べ、提案の具体的な内容は明らかにしなかったものの、マクロン大統領の提案を評価する発言をしています。【825日 NHK】

*******************

 

マクロン仏大統領は、このイラン問題を提起するにあたり、意表を突く形でイランのザリフ外相をフランスに招き、G7サミット開催中の同国南西部ビアリッツで、G7と並行して会談するという異例の対応をとっています。

 

****G7閉幕 仏大統領が型破りな外交手腕を発揮****

フランス南西部ビアリッツで開催された先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が26日に閉幕した。

 

恒例の首脳宣言は出さず、予告なしにザリフ・イラン外相を招くなど、マクロン仏大統領による型破りな外交手腕が際立つサミットとなった。

 

昨年はカナダでのG7サミットを途中で退席したトランプ米大統領も、今回は最後まで滞在し、各国首脳と談笑したり、握手を交わしたりする姿がみられた。

 

サミットでは毎回、世界の課題を列挙した包括的な首脳宣言が採択されてきたが、前回はトランプ氏が署名を拒否。今回ホスト役を務めたマクロン氏は、開幕前から宣言見送りの意向を示していた。

 

宣言の取りまとめに向けた各国の事前調整が不要になったことで、マクロン氏は議事進行の主導権を握り、25日にはザリフ氏を急きょ招待して周囲を驚かせた。

 

トランプ氏は26日朝、ザリフ氏招待についてはマクロン氏から事前に承認を求められ、これに応じていたと主張した。しかしマクロン氏はトランプ氏との共同会見で、同氏には事前に状況を知らせたものの、招待は自身の判断だったと説明した。招待はG7が目的ではなく、自国への招待だったとも言い添えた。(中略)

 

トランプ氏は会議を振り返り、意見の対立もなく和やかな雰囲気だったと述べて「一体感」を強調した。

 

トランプ氏の友好的な姿勢を各国首脳がどう受け止めたのか、はっきりとは分からない。しかしこれまで同氏に冷淡な視線を向けてきたメルケル独首相も、今回は笑顔を見せる場面があった。【827日 CNN】

********************

 

首脳宣言については、最終段階になって、サミットの合意内容を1ページの宣言文書にまとめる形がとられました。

(各国からの要請に応じてマクロン大統領が最後に方針転換したとの説明【時事】と、マクロン大統領自身が宣言作成にこだわったとの説明【毎日】の二通りの報道がありますが、宣言なしに自由な討議を目指していた経緯からすれば前者ではないでしょうか。ペーパーはマクロン大統領が自ら作成したようです。)

 

【トランプ大統領 「適切な状況が整えば(首脳会談に)応じる」】

マクロン大統領の手腕もさることながら、トランプ大統領も、今回は前回に比べると穏やかな対応を見せたようです。

 

マクロン大統領の提起したイランとの首脳会談についても「適切な状況が整えば応じる」と。これまでに比べると柔軟な姿勢を見せています。

 

****米イラン「状況整えば」首脳会談=トランプ氏、数週間内でも―仏提案も実現不透明****

フランスのマクロン大統領は26日、仏南西部ビアリッツでの先進7カ国首脳会議(G7サミット)閉幕後に記者会見し、トランプ米大統領とロウハニ・イラン大統領の会談を数週間以内に実現させたいと述べた。

 

マクロン氏と並んで会見に臨んだトランプ氏も「適切な状況が整えば応じる」と語った。9月下旬の国連総会に合わせた会談を想定しているとみられる。

 

米イラン首脳の直接会談が実現すれば、1979年のイラン革命後初めてとなる。一触即発の状態が続く米イラン関係の緊張緩和に向け、フランスや英独などが仲介しつつ、トランプ政権の要求を満たす「新たな核合意」を目指す方針。

 

だが、イラン側がより厳しい条件を受け入れるかは不透明で、会談が計画倒れに終わる可能性もある。

 

マクロン氏は、サミット参加国がイランの核兵器保有と地域の不安定化を許さないことで一致したと強調。「既存の核合意を大幅に改善するか、新たな合意を形成するための具体的方策を議論した」と語った。

 

条件については「詳細は言えない」と述べつつも、イランがより多くの核関連施設に査察を受け入れることなどの見返りとして、融資を含め「何らかの経済的補償」を提案。「ロウハニ師は会談に前向きな姿勢を示した」と明かし、実現に期待を寄せた。

 

一方、トランプ氏は核兵器と弾道ミサイルを禁止する長期間の合意が必要だと主張した。制裁下で不況に苦しむイランへの貸付資金については「米国は出さず、他の国々が拠出する」と強調した。

 

その上で「イランは素晴らしい可能性を秘めた国だ」と持ち上げた。マクロン氏の提案が「うまくいくような気がしている」と楽観する姿勢も示した。

 

マクロン氏は25日、イランのザリフ外相をビアリッツに招待し、参加国首脳を驚かせた。米側との電撃会談は実現しなかったが、トランプ氏は「時期尚早だと思った」と説明していた。【827日 時事】 

********************

 

北朝鮮との突然の会談を考えれば、イランとの会談もないことはないでしょう。

ただ、これも北朝鮮との会談からすれば、会談したから実質的成果がすぐに出るというものでもないでしょう。

それでも、日本にとっては、ホルムズ海峡有事の緊張状態よりはましでしょう。

 

【イラン・ロウハニ大統領は、「国益にかなうならば、会談をためらわない」 ハメネイ師の判断次第】

一方のイラン側の対応もまんざらではなさそうです。

 

****イラン大統領「国益にかなうならためらわず」 米との会談示唆****

アメリカとイランの緊張が高まる中、イランのロウハニ大統領は、「国益にかなうならば、会談をためらわない」と述べ、名指しこそしなかったものの、条件次第では、トランプ大統領との会談に臨む可能性を示唆しました。

 

イランのロウハニ大統領は、26日、首都テヘランで、経済政策について演説しました。この中で、敵対するアメリカのイランに対する経済制裁に言及した上で、「誰かとの会談を通して、この国の問題が解決され、国益にかなうならば、会談をためらわない。交渉や外交のための扉は開いている」と述べ名指しこそしなかったものの、条件次第では、トランプ大統領との会談に臨む可能性を示唆しました。

一方で、フランスのマクロン大統領が、トランプ大統領に対して、イランが弾道ミサイルの問題を含む幅広い対話に応じるよう促すため一定期間、イランに対する制裁を解除するよう提案したとされることについて、イランの国営テレビは26日、関係者の話として、「イラン側はミサイル開発については交渉できないとすでに回答した」と伝えました。

 

イランとしては、硬軟織り交ぜた態度を示しながら、みずからに都合の良い条件を引き出したい思惑があるものとみられます。【827日 時事】

******************

 

ただ、イラン国内向けとしては強気の姿勢を崩していません。

 

****イラン大統領、米に「最初の一歩」として制裁解除を要求****

イランのハッサン・ロウハニ大統領は27日、米国がイランに対するすべての制裁を解除することで「最初の一歩を踏み出す」よう要求した。この前日、ドナルド・トランプ米大統領は、ロウハニ大統領と会談する用意があるとの見解を示していた。

 

ロウハニ大統領はテレビで中継された演説の中で、「一歩とは制裁を引っ込めることだ。イランに対して科した、違法で、不当で、誤った制裁をすべて解除する必要がある」と述べた。 【827日 AFP】

****************

 

最終的には、最高指導者ハメネイ師の判断となります。

 

****最高指導者どう判断 イラン、米との首脳会談で*****

トランプ米大統領が2015年のイラン核合意をめぐる対立を打開するため、ロウハニ大統領との首脳会談に積極的な姿勢を示したことで、イラン指導部は米との緊張が当面は和らぐとして歓迎しているもようだ。

 

ただ、米側が求める「核・弾道ミサイル開発の停止」はイランの生命線を断つに等しい安全保障の根幹であり、和解への道筋は容易に描けないのが実情だ。

 

ロイター通信によると、ロウハニ師は公式サイトで「誰かと会談することで問題が解決されるとわかれば、ためらいはしない」と述べ、トランプ氏との会談も排除しない考えを示唆した。2人はともに9月の国連総会に出席する予定とされる。

 

しかし、イランの国政全般の決定権を握るのはロウハニ師ではなく、反米で知られる最高指導者ハメネイ師だ。同師は米側との対話は「毒」だなどと一貫して否定してきた。

 

オバマ前米政権との間で締結した核合意を離脱したトランプ政権に対する抜きがたい不信感もある。核・ミサイル開発の余地がない合意には応じず、米側とは折り合えない可能性は否定できない。(中略)

 

核、ミサイルをともに開発する余地がある限り、核爆弾の搭載可能な弾道ミサイルが製造できる可能性は残り、米の同盟国イスラエルを含む周辺の親米国家は不安に悩まされることになる。この「潜在的脅威」がイランの安全保障を支えている。

 

イランは60日ごとに核合意の履行義務を段階的に放棄すると表明しており、次の期限は9月前半に設定されている。

また、英領ジブラルタルで拿捕(だほ)されたイランのタンカーは8月中旬に解放され、イランが報復として拿捕した英タンカーをいつ解放するかにも注目が集まっている。

 

こうした問題にどう反応するかが、今後の米との対話に向けたイランの姿勢を占う試金石となりそうだ。【827日 産経】

******************

 

【イスラエル・ネタニヤフ首相が仕掛ける影の戦争

イランをめぐってもうひとつ注目される動きは、総選挙を控えたイスラエル・ネタニヤフ首相の強硬姿勢です。

イスラエルは、このところ連日シリア、イラク、レバノンのイランおよびヒズボラ関連施設への攻撃を行っています。

 

****イスラエル、3カ国で相次ぎ攻撃、イランとの影の戦争激化****

イランの同盟国であるイラク、シリア、レバノンの3カ国がこの数日、相次いで無人機やミサイルによる攻撃を受けた。イスラエルがイランとの影の戦争を激化させていると見られている。

 

レバノンのシーア派武装組織ヒズボラの指導者ナスララ師が報復を誓うなど中東情勢は新たな緊張に包まれている。

 

「やられる前に殺せ」

激化したのは824日のシリア攻撃からだ。ダマスカス南東アクラバにあるシリア駐留のイラン革命防衛隊の拠点がミサイル攻撃を受け、人権監視団体によると、少なくとも5人が死亡した。死者の中に、革命防衛隊員1人とヒズボラの戦闘員2人が含まれているという。

 

イスラエル軍は一連の攻撃の中で唯一、このシリア攻撃についてのみ認める声明を発表、「革命防衛隊のコッズ隊とシーア派民兵組織のテロリストの標的を攻撃した。彼らがイスラエルに自爆ドローンの攻撃を仕掛けようとしていたからだ」と明らかにした。コッズ隊は革命防衛隊の中で海外戦略を担うエリート部隊。神出鬼没と知られるソレイマニ将軍に率いられている。

 

この直後の25日未明。今度はレバノン・ベイルートの南郊にあるヒズボラの事務所近くで無人機1機が墜落、続いてもう1機が爆発した。この攻撃でヒズボラのメディアセンターの一部が破壊された。

 

同じ日にイラク西部アンバル州でも、イラン支援のシーア派民兵組織「カタエブ・ヒズボラ」の拠点が無人機による攻撃を受け、指揮官ら2人が死亡した。

 

この一連の攻撃に先立って7月から、イラクの4カ所でシーア派民兵組織の武器庫などが標的になる攻撃が発生しており、これもイスラエルの攻撃と見られている。

 

イスラエルのネタニヤフ首相は明確には認めなかったものの、「イランはどこにいても隠れることはできない。必要な時はいつでも、彼らに対して行動を起こす」と述べ、イラン関連施設を狙った攻撃であることを示唆した。

 

同首相はその後のツイッターでも「イスラエルを抹殺しようとする奴らがいれば、やられる前に彼らを殺せ」と先制攻撃の必要性を強調した。

 

イスラエルはこれまで、シリア駐留のイラン革命防衛隊やヒズボラなどの拠点を再三攻撃してきたが、イラクまで手を伸ばし始めたことは注目に値する。

 

イスラエルによるイラク攻撃は1981年以来初めてであり、イスラエルの行動がいかに一線を超えたものであるかが分かる。戦線を拡大しても、イランの脅威の芽を徹底的に摘み取るという断固とした決意の表れともいえるだろう。

 

だが、こうしたイスラエルの強硬方針はペルシャ湾で米国とイランが対決を激化させる中、中東情勢を一段と不安定なものにするのは必至だ。

 

報復誓うヒズボラ

今後はとりわけヒズボラの動きが焦点だ。強硬なアジテイターとしても知られるヒズボラの指導者ナスララ師がベイルートのメディアセンターが攻撃を受けた25日夜、ベカー平原で演説、イスラエルによる攻撃だと非難するとともに、レバノンからイスラエルに報復すると警告したからだ。

 

同師は緊張する現状について、イスラエルによって作られた新たな段階と指摘、「レバノンとの国境に配備されているイスラエル軍に通告する。今夜からわれわれに備えて待っていろ」と恫喝した。イスラエル国民に対しても、ヒズボラが侵略を見過ごすほど寛容ではないなどと強調した。

 

ベイルートの情報筋によると、ヒズボラはイランの意を受けて、シリアの内戦でアサド政権支援のため、最盛期には2万人の戦闘員をシリアに送り込んだ。しかし、戦死者も数千人に上ったうえ、アサド政権が内戦の勝利を確定的にしたことなどから一部が撤収、シリア派遣部隊は現在、8000人程度にまで減っていると見られている。

 

だが、ヒズボラはシリア内戦の実戦で戦闘力を一段と高めたといわれており、イスラエルにとっては大きな脅威だ。シリアに拠点を築いたヒズボラはシリア、レバノン双方からイスラエルに攻撃を仕掛けることが可能になっており、戦争になれば、イスラエルは2正面作戦を強いられることになるだろう。

 

イスラエルがこうした対外的な攻撃に出ている一方で、パレスチナ自治区ガザからも先週末、3発のロケット弾がイスラエルに向け発射され、うち1発が高速道路近くに着弾、この報復としてイスラエル軍機がガザのイスラム過激派組織ハマスの拠点などを空爆した。

 

イスラエルでは917日にやり直し総選挙が実施される予定だが、選挙に向けて周辺国やハマスに対する攻撃が一段と激化する恐れがある。

 

ネタニヤフ首相が敵対勢力から国家を防衛するという強硬姿勢を示すことで、選挙を有利に運ぼうとしかねないからだ。「そうした火遊びが大戦争を招くかもしれない」(ベイルート筋)

 

米国とイランが対決するペルシャ湾だけではなく、イスラエルを取り巻く状況も緊迫の度を強めてきた。【827日 佐々木伸氏 WEDGE Infinit

********************

 

アメリカとイランの表舞台の交渉が取りざたされるなかで、イスラエルとイラン関連勢力との影の戦争が進行しており、この両者が絡み合って今後どのように展開するのか見通せません。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グリーンランド  トランプ大統領の購入話の背景には、北米に「親中国家」誕生の危機感も

2019-08-26 22:04:21 | 環境

((グリーンランド購入という)現実離れしたような構想を復活させたのは、北米に親中国家が誕生するかもしれないとの危機感だ【826日 朝日】)

 

【いかにもトランプ大統領らしい展開】

トランプ大統領がデンマーク領のグリーンランド購入に関心を示していることが報道され、デンマーク首相が「冗談だろうけど、グリーンランドは売り物じゃない。ばかげている。」と即座に拒否、これにトランプ大統領がいたく不機嫌になり、ヘソを曲げた・・・という話は周知のところです。

 

****「グリーンランド売らないなら行かない」トランプ訪問中止の非礼にデンマークで驚きと怒り****

<グリーンランド買収話を「ばかげている」と中道左派の女性首相に一蹴され、へそを曲げたトランプにデンマーク政界はあきれ顔>

ドナルド・トランプ米大統領が92日に予定していたデンマーク訪問をキャンセルし、これがデンマーク王室に対する侮辱だと怒りの声が上がっている。

トランプはデンマークの女王マルグレーテ2世の招待を受けて、同国を訪問することになっていた。だが、トランプがデンマークの自治領である世界最大の島グリーンランドの購入に関心を示していることに対し、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相が「グリーンランドは売り物ではない」と釘を刺すと、すぐさま訪問中止を発表した。

事の発端は、ウォールストリート・ジャーナルが先週、トランプがグリーンランドの購入を示唆したと報道したこと。フレデリクセン首相はこの話を「ばかげている」と一蹴した。

トランプは20日、「デンマークは素晴らしい人たちが住むとても特別な国だ」とツイート。「だがメッテ・フレデリクセン首相の発言によると、彼女はグリーンランドの売買について話し合うことに関心がないようなので、2週間後に予定されていた訪問は延期する」

デンマーク王室はノーコメント
トランプはさらに皮肉を込めて、「首相のストレートな発言のおかげで、アメリカとデンマーク双方が膨大な費用と労力を無駄にせずに済んだ」と、ツイートを続けた。「その点では首相に感謝する。いつかまた訪問の予定を組むのを楽しみにしている」

トランプのツイートでは「延期」という表現が使われたものの、ホワイトハウスは訪問を中止したと発表し、BBCの報道によれば、デンマーク王室も中止と受け止めている。デンマーク王室の広報責任者レーネ・バレビーは「驚きだった」と認めつつ、「この件についてはこれ以上申し上げることはない」と報道陣の質問を突っぱねた。

デンマークとグリーンランド自治政府の政治家は、突然の訪問中止と、トランプが本気で購入を考えていたことに呆れ返り、怒りを露わにしている。

野党・保守党のラスムス・ヤルロフ議員はこうツイートした。「デンマーク人として(また、1人の保守主義者として)、これは信じがたいことだ。トランプは何の理由もなく、わが国の一部である自治領を売り物とみなし、誰もが準備していた訪問をぶしつけにもキャンセルした。アメリカの一部も売り物なのか。アラスカを売るのか? 頼むから、もう少し敬意を払ってほしい」

デンマーク国民党の共同創設者で、デンマーク国会の議長も務めたピア・グラスゴーは、トランプの訪問中止は、デンマーク王室への「敬意を完全に欠いた」決定だとツイートした。(中略)

グリーンランド自治政府のキム・キールセン首相は以前に、「グリーランドは売り物ではないが、アメリカを含め他の国々との貿易と協調には、喜んで話し合いに応じる」と述べている。

デンマーク政府は売買話をすぐさま一蹴したが、グリーンランドにおける米軍のプレゼンスをめぐっては、米政府との連携を密にするため協議を行うつもりだった。

大西洋と北極海の間に位置するグリーンランドは戦略的に重要な島だ。島の西北部にある米空軍のチューレ基地からは、北米に向かう大陸間弾道ミサイル(ICBM)を早期に探知できる。

今後、米軍のグリーンランドにおけるプレゼンスの拡大は「避けられない」と、フレデリクセン首相は語っている。

「(地球温暖化で氷の融解が進む)北極海ではここ数年、幸いにも平和的な開発が行われている。あらゆる理由から、世界は今後もこの動きを支持すべきだ。しかし一部の国々が北極海に関心を示し始め、安全保障面に影響がおよんでいる。これに対しては断固たる対応が必要だ」と、フレデリクセンは地元放送局TV2のニュース番組で語った。【822日 Newsweek
**********************

 

ちなみに、フレデリクセン首相とトランプ大統領がどういう言葉で応酬しているかについては、“トランプ大統領は、デンマークのフレデリクセン首相に対して「ノーならノーとだけ言えばいいのに、バカげた(absurd)考えだなどと言う言い方をしたのは、底意地が悪い(nasty)な女だ」と激しく罵倒しています。”【823日 冷泉彰彦氏 Newsweek

 

アメリカはこれまでもルイジアナやアラスカなど、「買収」によって国土を拡大してきていますので、今回のグリーンランド買収の話は、唐突のようにも思えますが、決して絵空事とかトランプ大統領の妄言という訳でもありません。

 

****米国による外国の土地買収****

米国は過去に外国からの土地買収を通じて領土を拡張してきた。

 

ジェファソン大統領は1803年、現在の南部ルイジアナ州から北部モンタナ州にまたがる地域をフランスから購入。アンドリュー・ジョンソン大統領は67年、西部のアラスカをロシアから買い取った。

 

ウィルソン大統領は1917年、現在の米領バージン諸島をデンマークから購入した。

 

グリーンランドをめぐっては、トルーマン大統領が46年に1億ドル相当の金塊と引き換えに買収を図ったが失敗している。【823日 産経】

*********************

 

この騒動は、一応は収拾がついたようです。

 

****デンマーク首相は「素晴らしい女性」 トランプ氏が姿勢転換****

ドナルド・トランプ米大統領は23日、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相について、「素晴らしい女性」などと称賛した。

 

トランプ氏はこの2日前、来月に予定していたデンマーク訪問を取りやめ、グリーンランドを購入するという自らのアイデアを拒否した同首相を「意地が悪い」と批判していた。

 

しかし23日、トランプ氏は「素晴らしい女性」と称賛し、同首相に対する姿勢を転換する形となった。

 

主要7か国首脳会議(サミット)出席のためフランスへ向かう準備を進める中、トランプ氏は報道陣に対して「われわれは素晴らしい会話ができた」と発言。「デンマークとはとても良い関係を持っており、後ほど話し合うことで合意した。だが、彼女はとても良い人だった。彼女が私に電話をしてくれて、とても感謝している」と語った。(後略)【824日 AFP】AFPBB News

*******************

 

このあたりの変わり身の早さは、トランプ大統領の得意技というか真骨頂です。

 

この騒動について、デンマーク訪問をキャンセルするなど“いかにもトランプ大統領らしい”という感じがして、また、不動産業を本業とするトランプ大統領らしい発想という印象もあって、「面白い話」として眺めていたのですが、現在の国際情勢を考えると、もう少し真面目に考えた方がいい案件のようです。

 

【温暖化とともに利用価値が高まる一方で、中国の存在感拡大 将来の独立時には・・・】

世界最大の島グリーンランドについては、これまでも温暖化に伴う環境変化でその利用価値が急速に高まっていることなどを取り上げてきました。

212日ブログ“温暖化の「恩恵」を受けるグリーンランド  自治政府が進める空港建設をめぐる米中のせめぎあい”など)

 

また、北極海におけるアメリカ、中国、ロシアの争いについては、522日ブログ「温暖化に背を向けるトランプ米政権が、中ロの北極海進出を警戒・けん制するという支離滅裂」でも取り上げました。

 

****グリーンランド****

8割以上が氷に覆われ、人口約5万6千人の約9割は先住民系で、1万8千人が中心都市ヌークに集中する。

 

1721年にデンマークからキリスト教宣教師が派遣され、植民地になった。1979年に自治政府が発足。85年に欧州共同体(EC)から脱退した。住民投票を経て2009年に自治権が外交・安全保障を除くほぼ全ての領域に拡大された。

 

コペンハーゲン大とグリーンランド大による昨年の調査では、67%が「将来のどこかの時点で独立すべきだ」と回答した。【826日 朝日】

*******************

 

こうした事情を踏まえると、以下のような話にも。

 

****氷の島に打ち込まれたくさび 極地の覇権争う米中の思惑****

北極圏にある世界最大の島グリーンランドを米国がデンマークから買収する――。こんな構想が米政権内で検討されていることが明らかになった。

 

「戦略的に興味深い」。トランプ大統領は18日、報道陣にそう語った。

 

日本の約6倍の土地に人口5万6千人ほど。地理区分では北米に属する。米国はトルーマン大統領が1946年に買収話を持ちかけたが成立しなかった。今回もデンマークのフレデリクセン首相は「ばかげている」と一蹴した。

 

現実離れしたような構想を復活させたのは、北米に親中国家が誕生するかもしれないとの危機感だ。

 

6月下旬、島の中心都市ヌークは活気づいていた。

「滑走路が延長され、欧州からジェット機の直行便が飛べるようになるんだ」

タクシー運転手の男性は声を弾ませた。目抜き通りのホテルの壁には、飛行機の絵に新滑走路の長さ「2200メートル」と書かれたポスターが掲げられていた。

 

空港の拡張は、多くの島民が願う独立への一歩になりうる。2009年に自治権が拡大されたが、自治政府の歳入の半分はデンマーク政府の補助金頼みで、経済的自立が課題だった。

 

それが温暖化の影響で氷が溶け始め、資源開発がしやすくなった。島内で大型機が発着できる空港は遠隔地にある旧米軍基地に限られる。ヌーク空港が拡張され、人や投資が直接流れ込めば、突破口が開ける。

 

グリーンランド議会がヌークを含む3空港の拡張計画を決定したのは15年。総事業費36億クローネ(約570億円)は島の域内総生産(GDP)の約2割に当たり、デンマーク政府は負担に消極的だった。

 

自治政府が頼ったのが中国だった。17年、自治政府のキールセン首相が北京を訪問。中国国有の建設大手・中国交通建設や、中国輸出入銀行などを回り、空港計画に協力を求めた。

 

待ったをかけたのが米国だった。米国は島の北部のチューレに空軍基地を置く。米本土に飛んでくる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を検知するレーダーがある重要な防衛拠点だ。

 

米軍当局者によると、18年5月、マティス米国防長官(当時)は米国を訪問したデンマークの国防相に「中国に北極圏での軍事力を広げさせてはいけない」とクギを刺した。デンマーク政府は空港拡張への慎重姿勢を一変させ、7億クローネを出資し、4・5億クローネを低利融資すると申し出た。残りは主にグリーンランド自治政府が負担することで決着した。

 

だが、この動きは独立派を刺激した。グリーンランド議会のビビアン・モッツフェルト議長(47)は「米国とデンマークのふるまいは傲慢(ごうまん)だ。中国が私たちに投資をしたいなら、今後も排除しない」と話す。

 

中国はパンダの貸与や投資でデンマークに接近し、レアアース鉱山などへの投資で次第に島へ直接進出するようになった。投資額は島のGDPの1割を超す。空港拡張計画から締め出されたとはいえ、中国への期待は高い。

 

デンマーク王立防衛大軍事作戦研究所のヨン・ラーベック・クレメンセン准教授(36)は「中国には軍事的、戦略的な関心がある。中国の進出を許した場合、いざ独立という時に、グリーンランドが西洋の同盟から押し出される事態もありうる」と指摘する。

 

中国がグリーンランドに打ち込んだくさび。その波紋が北極の静寂を破り始めた。(後略)【826日 朝日】

*****************

 

なお、上記朝日記事の紙面上の記事見出しは“北米に「親中国家」 危機感”でした。

 

北米に「親中国家」・・・・最初はピンときませんでした。「北米? 南米の間違いじゃないの? 北米っていったらアメリカの他はカナダしかないじゃない。カナダが「親中国家」に?・・・」

 

しかし、冒頭地図を見れば納得です。

普段見ている地図ではグリーンランドは北欧・アイスランドのかなた・・・というイメージですが、実際はまさに北米です。

 

今後、温暖化の進展とともにますますグリーンランドの地下資源利用等の経済的価値は高まり、それとともに「独立」ということが現実的な政治課題ともなってくるでしょう。

 

そのとき、中国の影響力が更に強まっていれば、なるほど“北米に「親中国家」”誕生ともなります。

 

トランプ大統領が「今のうちに・・・」と考えるのも、無理からぬところです。

ただ、「親中国家」になるかどうかは別にして、温暖化進行ですでに動き始めているグリーンランドを買い取るというのはもはや無理でしょう。不動産業に精通したトランプ大統領なら百も承知のところとも思うのですが。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラジル  アマゾン熱帯雨林火災への消極対応に国際批判 ボルソナロ大統領、消火活動に方針転換

2019-08-25 23:16:17 | ラテンアメリカ

(24日、ブラジル北部アマゾン地域の火災で消火活動に当たるC130輸送機【8月25日 日経】 こうした消火活動の有効性はわかりませんが、一番重要なのは普段の環境保護に対する姿勢でしょう。その点で、ボルソナロ大統領は考えを変えたのか?多分変えていないでしょう。)

 

【アマゾンが燃えている】

アマゾン熱帯雨林で続発する火災については、国連のグテレス事務総長もツイッターで「深く憂慮している」、「酸素と生物多様性の主要な源を、これ以上傷つけることは許されない」と表明しているように、「ブラジルのトランプ」とも称され、熱帯雨林保護に消極的で開発を重視する右翼ボルソナロ大統領の後ろ向きな対応を含めて国際問題となっています。

 

問題が国際的に広がったことを受けて、ボルソナロ大統領もようやく消火に向けた行動に方針転換しています。

****「地球の肺」に最悪危機=アマゾン熱帯雨林で大火災-ブラジル****

世界の原生林の3分の1を占め「地球の肺」と称されるアマゾン熱帯雨林が、続発する火災で過去最悪とも言われる危機にさらされている。アマゾンの開墾・開発に前向きなブラジルのボルソナロ政権の対応は後手に回っており、環境NGOのみならず、国際社会からの批判が高まっている。

 

地元の環境NGO「IPAM」などによると、今年1月から8月半ばまでのアマゾンの火災は、過去3年平均の6割増の3万2728件。乾期に当たり、農地や鉱山を開くため人為的に起こされた疑いがあるものも多い。
 

ボルソナロ大統領は当初「私や政府への反発を招こうとするNGO関係者の仕業とみられる」と主張。火災は政府の支援打ち切りで資金難に陥るNGOによる「放火」と決め付け、予算不足などを理由に対応に後ろ向きな姿勢を見せた。しかし、かねて同氏の環境保護軽視に不信感を抱いていた欧州諸国は厳しく反応し、一気に国際問題に発展した。
 

フランスやドイツなどは「私たちの家が燃えている」(マクロン仏大統領)と憂慮。マクロン氏はフランスでの先進7カ国首脳会議(G7サミット)でアマゾンの火災を議題にする方針を表明した。

 

欧州連合(EU)内では、6月に妥結した南米南部共同市場(メルコスル)との自由貿易協定(FTA)の批准阻止や、ブラジル産品の禁輸を求める声まで上がり始めた。
 

「盟友」トランプ米大統領からも支援の申し出を受けるなど、予想外の事態に慌てたボルソナロ氏は23日、火災の背景に「異常な乾燥」があると方向転換。

 

「国民には生活向上の機会を与えなければならないが、環境への犯罪は許されない」として、軍を投入して消火と焼き畑などの防止に当たると宣言した。
 

ただ、広大なアマゾンで軍に消火活動をさせても、効果があるかは不明。鎮火には国際社会の人的・物的支援が必要な情勢となっている。【8月25日 時事】

*********************

 

話は上記記事が網羅的に取り上げているところに尽きるのですが、以下、若干の補足等を。

先ずは、今回の森林火災の規模について。

 

****アマゾンの森林火災、どれくらいひどいのか****

ブラジルのアマゾン熱帯雨林で、何千件もの森林火災が猛威を振るっている。その規模は、過去10年で最大とされる。

 

特に北部のロライマ州、アクレ州、ロンドニア州、アマゾナス州、そして南部のマットグロッソ・ド・スル州などで大きな被害が出ている。(中略)

 

今年は森林火災が特に多い

ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、同国ではアマゾン地域を中心に、森林火災の発生件数が2018年の同時期と比べて85%増加している。

 

INPEの人工衛星データによると、今年1〜8月21日の間に7万5000件以上の森林火災が発生し、2013年の観測開始以降で最大を記録。昨年の同期間の3万9759件を大きく上回っている。

 

アマゾンではそもそも、7〜10月の乾季に森林火災が起きやすい。落雷などで自然発生する場合もあるが、森林を焼いて家畜の放牧地や畑を作るため、人為的に起こされている部分もある。(中略)

 

火災で大量の二酸化炭素(CO2)と煙が発生

火災による煙は、アマゾン地域から周辺地域へと広がっている。

 

欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービス(CAMS)によると、煙は大西洋岸まで到達している。また、アマゾンから3200キロ以上離れたブラジルの最大都市サンパウロの空を覆い、街が暗闇に包まれる被害も出ている。

 

CAMSはまた、今年に入ってからアマゾンの森林火災で1億1700万トン相当の二酸化炭素(CO2)が排出されていることを明らかにした。これは、2010年以降で最も多いという。

 

火災では有毒な一酸化炭素(CO)の排出も確認されており、CAMSの地図によると、COが南米の海岸を越えて流れていることが分かる。

 

世界最大の熱帯雨林を擁するアマゾン盆地は、CO2を吸収するため、地球温暖化の緩和に大事な要となっている。また、300万種もの動植物が生息し、100万人の先住民族が暮らしている。

 

しかし森林が焼かれたり伐採されたりすると、CO2の吸収率が悪くなるだけでなく、吸収されていたCO2が大気中に放出されるという。

 

ブラジル以外の国でも火災が多発

740万平方キロメートルの面積に及ぶアマゾン盆地は、ブラジル国境を越えて広がるため、周辺国でも今年は森林火災が多発している。

 

ブラジルに続いて多いのはヴェネズエラで、これまでに2万6000件超の火災が発生。これにボリヴィアの1万7000件超が続く。(後略)【8月23日 BBC】

********************

 

【情報の混乱も】

「地球の肺」という表現には異論もあるようです。もちろん、森林火災の重大性を否定するものではありませんが。

 

****アマゾンは「地球の肺」ではない。森林火災にどう向き合うべきか****

(中略)

酸素を出さず二酸化炭素も吸収しない

情報が錯綜しているので、あまり推測の上に推測を重ねることを論じたくない。ただ一つ気になるのは、「アマゾンは地球の肺」「森林は酸素供給場であり、二酸化炭素の吸収源」といった指摘だ。

 

森林の大切さを訴えるためによく使われる言説だが、これは科学的にはおかしい。なぜなら成熟した森林は、酸素を供給しないし、二酸化炭素も排出しないからだ。

 

簡単に説明すると、森林の大部分を占める植物は、たしかに二酸化炭素を吸収して光合成を行うが、同時に呼吸もして二酸化炭素を排出しているからだ。植物単体として見ると光合成の方が大きいこともある(その分、植物は生長する)が、森林全体としてみるとそうはいかない。

 

なぜなら森林には動物も棲んででいるから……ではない。たしかに森林にいるサルやシカやネズミ、あるいは昆虫も呼吸して二酸化炭素を出すが、全体としては微々たるものだろう。

 

もっとも大きいのは菌類だ。いわゆるキノコやカビなどは、枯れた植物などを分解するが、その過程で呼吸して二酸化炭素を排出する。

 

地上に落ちた落葉や倒木なども熱帯ではあっと言う間に分解されるが、それは菌類の力だ。目に見えない菌糸が森林内に伸ばされており、そこから排出される二酸化炭素量は光合成で吸収する分に匹敵する。つまり二酸化炭素の増減はプラスマイナスゼロ。

 

だから、森林を全体で見ると、酸素も二酸化炭素も出さない・吸収しないのだ。酸素を供給し二酸化炭素を吸収する森は、成長している森だ。面積を増やす、あるいは植物が太りバイオマスを増加させている森だけである。

 

アマゾンは森林としては成熟している(面積を増やさず、バイオマスも上限まで蓄積している)から、おそらく二酸化炭素は吸収はしていないだろう。

 

だから、今回の森林火災の頻発は地球温暖化に影響ない、と楽観視するつもりはない。地中に埋もれていた有機物を燃やして二酸化炭素を増加させているかもしれないし、何より生物多様性の危機だ。

 

そこには有用な遺伝子資源も多くあるだろうから、人間にとっても損失だろう。また森で暮らす先住民のことを考えると心配でならない。(後略)【8月25日 田中淳夫氏 Yahoo!ニュース】

********************

 

“情報が錯綜している”ということでは、ネット上で不正確な情報も拡散しているようです。

 

****アマゾン火災、無関係の写真がネットの怒り煽る****

ブラジル北部のアマゾン熱帯雨林でここ数週間にわたり広がる火災を写したとされる写真がソーシャルメディア上で拡散しているが、写真の大半は数十年前に撮影されたものや、さらにはブラジル以外の国で発生した火災を写したものであることが、AFPの検証により明らかになった。(後略)【8月23日 AFP】

******************

 

【キャプテン・チェーンソーからネロへ】

そうした混乱はあるものの、今回のアマゾン熱帯雨林大規模火災で一番重要な問題はボルソナロ大統領の熱帯雨林保護に消極的な姿勢です。

 

“INPE(ブラジル国立宇宙研究所)は7月、6月のアマゾンでの森林減少が前年同月比で88%増加したとのデータを発表した。

 

これに対しボルソナロ氏は、INPEのリカルド・ガルヴァン所長がうそをつき、政府に損害を与えようとしていると非難。ガルヴァン所長は解任させられた。

 

INPEは、発表したデータの正確性は95%にのぼるとしている。ブラジル科学協会など複数の科学機関も、INPEのデータの正当性を擁護している。”【8月21日 BBC】

 

****アマゾン森林火災はNGOの仕業?=ブラジル大統領が主張****

ブラジルのボルソナロ大統領は21日、アマゾン熱帯雨林で拡大している火災について、環境NGOがボルソナロ政権をおとしめるために行った放火の可能性があると主張した。同政権はアマゾンの開墾を優先して森林保護に後ろ向きだとして、NGOからの批判にさらされている。

 

地元の環境NGO「IPAM」などによると、今年1〜8月半ばまでのアマゾンの火災は、過去3年平均の6割増の3万2728件。ほとんどは農地や鉱山を開くに当たり木を焼き払うため人為的に起こされたとみられる。国全体の森林火災件数もこの7年で最悪とされており、一部の州は非常事態宣言を出している。

 

これについて、ボルソナロ氏は「断定はしないが、私や政府への反発を招こうとするNGO関係者の仕業とみられる」と指摘。政府の支援打ち切りなどで資金難に陥っているNGOの意趣返しとの考えを示した。

 

さらに、人里離れた各地の火災映像が拡散していることを挙げ「火は戦略的に付けられているようだ」と強調。「私の直感は、誰かが撮影のために現場に行き、着火したことを指し示している」と述べた。

 

ボルソナロ氏の極端な主張は、国内外の環境NGOだけでなく、アマゾンの森林保全を支援してきた欧州諸国政府からも強い反発を呼びそうだ。【8月22日 時事】 

******************

 

“ボルソナロ氏はこれまで、アマゾン地域を鉱業や農業、林業などの事業利権に開放すべきだとの考えを繰り返し示してきた。同氏が1月に大統領に就任して以来、政府は農家が森林に火を付けることを少なくとも暗黙に奨励している可能性がある。”【8月23日 ロイター】

 

ロイター通信によると、ボルソナロ大統領は「私はかつて(森林を伐採する)キャプテン・チェーンソーと呼ばれていたが、今はアマゾンに火をつける(古代ローマ皇帝)ネロ呼ばわりされている」と話したとのことですが、“キャプテン・チェーンソー“にしろ“ネロ”にしろ、あながち的外れでもないようにも思えます。

 

ボルソナロ氏は大統領選中には、熱帯雨林を傷つける行為への罰金を引き下げ、環境省の影響力を縮小するつもりだと公約していました。

 

ボルソナロ大統領の環境保護に関する認識を示すエピソードとしては、以下のような話も。

 

****環境保護へ「大便控えろ」=ブラジル大統領が妙案?****

ブラジルのボルソナロ大統領は9日、環境保護のためには人間が大便を控えるべきだと「妙案」を示した。

 

ボルソナロ政権は「経済開発と環境保護の調和」を提唱している。しかし、アマゾン熱帯雨林消失のペースは加速しており、環境団体からは「保護をないがしろにしている」と批判を受けている。

 

ボルソナロ氏は、環境保護に関する記者団からの問い掛けに「(環境のためには)少し食べるのを控え、大便を毎日ではなく1日置きにとどめるだけでいい。そうすれば生活もずっと良くなる」と返答。農地開発のための森林伐採と、ふん尿汚染の問題解決につながると冗談めかした。【8月10日 時事】 

*********************

 

もちろん冗談ですが、こうした冗談を嬉々として話すあたりに、大統領の環境保護の軽視というか反感とも言えるようなものがうかがえます。

 

【大統領を動かす欧州からの激しい批判 その先頭に立つマクロン仏大統領】

そうした大統領の消極姿勢を反転させることになったのが、欧州を中心にした厳しい批判でした。

 

****フィンランド、ブラジル産牛肉禁輸をEUで提起へ アマゾン火災の対応非難****

フィンランドのミカ・リンティラ経済相は23日、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林で発生している大規模な火災をめぐる同国のジャイル・ボルソナロ大統領の対応に対する抗議として、同国産牛肉の輸入禁止措置を欧州連合で提起すると発表した。

 

リンティラ経済相は、森林破壊について強く非難し、「EUとフィンランドは、ブラジル産牛肉の輸入を禁止する選択を至急検討する」と述べた。フィンランドは現在、輪番制の欧州理事会議長国。

 

リンティラ氏は、「今、EUから効果的な行動を起こす必要がある。EU各国の経済相が9月にヘルシンキを訪問するまでに何も進展がなければ、経済相らとこの問題を提起する用意がある」と主張した。 【8月24日 AFP】****************

 

****南米とのFTA、批准難航も=アマゾン火災踏まえ―EU大統領****

欧州連合(EU)のトゥスク大統領は24日、訪問先のフランス南西部ビアリッツで記者会見し、EUと南米南部共同市場(メルコスル)との自由貿易協定(FTA)について、「ブラジル政府が地球の『緑の肺』の破壊を許す限り、欧州各国の円滑な批准を想像するのは難しい」と語り、ブラジルにアマゾン熱帯雨林火災拡大への早急な対応を迫った。

 

FTAは地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の履行を明記。フランスやアイルランドは、ブラジルがアマゾン保護へ態度を改めなければ反対する姿勢を示している。【8月24日 時事】 

*****************

 

環境保護に後ろ向きな点では似通っている盟友トランプ大統領ですら23日「アマゾン熱帯雨林の火災について米国は手を貸せると伝えた。支援の用意はできている!」とツイートする事態に。

 

とりわけ批判が厳しかったのがフランス・マクロン大統領。

 

“アマゾン森林火災は「国際的危機」、マクロン仏大統領が警告”【8月23日 BBC】

“仏大統領の思考は 「植民地主義者」 ブラジル大統領が非難、アマゾン火災めぐり”【8月23日 AFP】

 

****互いを「うそつき」呼ばわり ブラジル・仏の首脳が舌戦****

アマゾンの熱帯雨林で深刻化する大規模火災をめぐって、ブラジルのボルソナーロ大統領とフランスのマクロン大統領の舌戦が過熱している。互いに相手を「うそつき」とののしる泥仕合になっている。

 

きっかけは23日のマクロン氏の発言だ。仏AFP通信によると、マクロン氏はボルソナーロ氏について、6月に大阪で開かれた主要20カ国・地域(G20)で「私にウソをついた」と非難した。

 

マクロン氏によると、ボルソナーロ氏はG20中の両者の首脳会談で「(温暖化防止の国際ルールの)パリ協定から離脱しない」と述べて、温暖化防止に取り組むことを約束したという。

 

ところが、ボルソナーロ氏はアマゾンの乱開発を容認し続け、火災が起きても当初は「火事を消す資金がない」と消極姿勢だったことから、今回の「ウソ」発言につながった。

 

これに対し、ボルソナーロ氏は猛反発。特にマクロン氏が22日に「我々の家が燃えている」とツイートし、添付した森林火災の写真が、03年に死亡した写真家によるものと判明したためだ。少なくとも今回の火災と無関係とわかったことで、ボルソナーロ氏は23日、「ブラジルへの憎しみをあおるため、我々は前世紀の写真を投稿したりしない」とツイートして皮肉った。

 

24日から仏で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)で議長を務めるマクロン氏は、アマゾン火災をG7の議題にすると決定。23日に出した声明で「アマゾンのよい統治方法をサミットで見つけたい」と強調した。これを受けて、ボルソナーロ氏が再び反発するのは必至とみられる。【8月25日 朝日】

*****************

 

こうした国際的議論の広がりを受けて、フランスで開かれているG7サミット(主要7か国首脳会議)でも意見が交わされ、各国首脳は、南米アマゾンの熱帯雨林で大規模な火災が多発していることに対し、G7として、消火を含めた必要な支援を行うことで一致しました。

 

欧州からの批判は、国内農家からの批判・不安も惹起します。

 

“森林火災はアマゾン地域での農業を促進する。農家もその政策を支持するだろうと思うかもしれないが、ブラジル農業界の有力者の間には、ボルソナロ氏がブラジルの対外イメージを損なうことで、大豆や牛肉の輸出に影響が出るのではないかという懸念が出ている。”【8月23日 BBC】

 

そんなこともあって、さすがのボルソナロ大統領も軍に出動を命じ、対応を変えることにもなったようです。

軍は消火活動のほか違法伐採などの環境破壊行為の防止や監視をするとのことです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  ロヒンギャ帰還に向けた環境整備への意思見えず “寄り添う”日本外交の成果は?

2019-08-24 23:09:24 | 東南アジア

 (バングラデシュ・テクナフにあるロヒンギャ難民のキャンプで、ミャンマーへの帰還のために用意されたバス(2019822日撮影)【822日 AFP】 国軍の責任が問われないなかでは帰還希望者は一人もおらず、帰還作業を行っているというミャンマー政府のパフォーマンスに終わっています。)

 

【女性蔑視に見られる人権意識の希薄さはロヒンギャ問題にも通じる】

ミャンマーにはこれまで観光で4回旅行してしていますが、当然ながら「観光」では全く見えてこない現実もあります。

 

厳しい女性への差別意識もその一つでしょう。

 

“ロンジーとは、現在も多くの人がミャンマーで日常的に身につけている巻きスカートのような民族衣装である。しかし、男性用ロンジーと女性用ロンジーは一緒に洗濯されることがタブーとされている。それは男性の運気を下げるだけではなく、権限すら失われると言われてきたからであり、男性は女性用ロンジーに触れることすら毛嫌いするそうだ。”【74日 「ミャンマー、男女格差の現実」 Japan In-depth

 

ロンジー云々はまだ文化・社会的習慣としてすまされる部分もあるかもしれませんが、家庭内暴力となると・・・。

 

****ミャンマー人権侵害は家庭でも「骨が折れるほど妻を殴る」****

ミャンマー南部の自宅で1歳の娘をあやしながら、Nu Nu Ayeさんは、夫が自分を殴打した理由を語った。「飼っているおんどりの面倒を見なかったため」である。性交の求めにも応じなかった。

 

村の長老が仲介した話し合いの場で、夫は「必要に応じて」また妻を殴ると言った。

「彼の暴行はその後さらにひどくなった」と、Nu Nu Ayeさんは語る。ついには、彼女が寝ている間に絞め殺そうとするところまでいった。

 

米国の資金で実施された「人口・保健調査」によれば、ミャンマーでは少なくとも5人に1人の女性が配偶者から暴力を受けている。複数の人権活動家は、報告されていない事例も多く、この数字も過小評価だとする。家庭内暴力(DV)を禁止する明確な法律はない。

 

Nu Nu Ayeさんの証言についてロイターは裏付けを取れていないが、彼女のような事例は地元の有力者に仲介を頼むのが普通であり、配偶者による暴力はたいていの場合、私的な問題とみなされる。

 

ノーベル平和賞受賞者のアウン・サン・スー・チー氏率いる現政権は、女性を暴力から守る法律の制定に取り組んでいる。人権問題に取り組む活動家らは、DVを含めた暴力から女性を保護できるようになると期待している。

 

だが、法案は2013年に提案されたものの、今も草案の段階で足踏みしている。その規定について賛否が分かれ、夫婦間のレイプを違法とすることなどについて見直しが行われている。

 

立法化の遅れに人権活動家らは焦燥感を募らせている。ミャンマーの文民政府は軍部と権限を分け合う複雑な制度のもとで統治に当たっており、こうした明らかに文民政府の管轄下にある分野でさえ、改革は遅々として進まず、失望を招いている。

 

「法律の制定に十分すぎるほど時間がかかっているが、まだ待たされている」と、人権活動家の1人、Nang Phyu Phyu Lin氏は言う。

 

ロイターはミャンマーの社会福祉・再定住省に質問を送ったが返答はない。電話でもコメントを求めたが、回答を得られていない。

 

女性の保護措置が皆無

保守的で男性優位社会のミャンマーは、半世紀にわたって軍政下にあり、2015年の選挙でようやく文民政府が誕生した。

 

スー・チー氏を明らかな例外として、公的な指導者に女性の姿はほとんどない。スー・チー氏以外に女性の閣僚はいないし、2015年の選挙で当選した国会議員のうち、女性の比率は10%にとどまった。

 

半ば冗談、半ば本気で口にされる地元の格言は、「骨が折れるほど妻を殴れば、心から愛してくれる」だ。(後略)【823日 Newsweek

********************

 

上記記事の表題にある“人権侵害は家庭でも”の“でも”に込められているのは、国軍による“民族浄化”が批判されているイスラム系少数民族ロヒンギャへの暴力を念頭に置いてのことでしょう。

 

女性に対する上記のような希薄な人権意識、殴ろうがレイプしようが自分のものだといった意識は、国内で毛嫌いされているイスラム系少数民族に対する暴力に通じるものでしょう。

 

また、改革が遅々として進まない政治状況も、ロヒンギャ問題に対する取り組みと共通するものがあります。

 

【国際批判への弁明としての形式的対応に終始しているロヒンギャ難民帰還作業】

隣国バングラデシュへ避難している70万人を超えるロヒンギャ難民の帰還が大きな問題となっていますが、ミャンマー政府が「政府としてはやるべきことはやっている」といった国際社会への“弁明・言い訳”づくりのように行っている帰還作業は全く進展していません。

 

大統領府報道官は会見で、バングラデシュ政府や国連機関との間で身元の確認のできた難民について22日以降、第1陣として3450人、その後も引き続き計約3万3千人を受け入れると説明していましたが、ミャンマー政府の帰還への呼びかけに応じたロヒンギャ難民は一人もいませんでした。

 

****バングラに避難のロヒンギャ、ミャンマー帰還拒否 車を用意も誰も乗らず****

バングラデシュで22日、同国に避難しているミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャを自国に帰還させるため、当局がバス5台とトラック10台を用意したものの誰一人集まらず、ロヒンギャの人々に帰還を改めて促そうとする取り組みは失敗に終わった。

 

バングラデシュには、2017年のミャンマー軍による攻撃を逃れた74万人を含む、多くのロヒンギャが避難している。避難した人々は、安全の保証と、ミャンマーから市民権が与えられるとの約束がない限り、自国に戻ることを拒否している。

 

ロヒンギャの指導者は「ミャンマー政府はわれわれをレイプし、殺した。だからわれわれには安全が必要だ。安全性がない限り絶対に帰らない」とのコメントを発表。

 

バングラデシュ南東部に設けられ、約100万人のロヒンギャが身を寄せているキャンプの一つに暮らす男性は「市民権と安全、自分たちの元の土地が確約される必要がある」「だからわれわれは帰還する前に、ミャンマー政府と話し合わなければならない」と訴えた。

 

帰還予定となっていた3450人のうち、最初の一団を移送するための車両が、同日午前9時(日本時間正午)にテクナフのキャンプに到着。しかしそれから6時間たっても誰一人姿を見せず、乗客がいないまま車両は出発。当局者によると、23日に再び戻ってくるという。

 

バングラデシュ側の担当者は報道陣に対し、「295世帯に聞き取り調査を行ったが、帰還に関心を示した人はまだいない」と明かした。 【822日 AFP】

*********************

 

一人もいなかったということについては、難民社会において、ミャンマー政府の帰還作業に協力する者に対する圧力が存在するのでは・・・という疑念も抱かさせますが、基本的には、ラカイン州での虐殺・暴力・放火・レイプを行った国軍関係者の責任が問われることもなく、再発防止の保証もなく、市民権付与も明示されていないという、ミャンマー政府側の帰還を現実のものとする作業が全く行われていない、そうしたことを行おうとする姿勢も見えないことが主因でしょう。

 

【国連調査団 ミャンマー国軍・政府を厳しく批判】

国連人権理事会の設置した独立調査団はロヒンギャ迫害に関し、「ロヒンギャを壊そうとするジェノサイド(大量虐殺)の意図を示している」と厳しく批判しています。

 

****ロヒンギャへの性暴力「虐殺の意図」=ミャンマー軍の責任追及要求―国連調査団****

ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害をめぐり、国連人権理事会の設置した独立調査団は22日、性暴力に関する報告書を公表し、軍によるロヒンギャの女性に対する性暴力について「ロヒンギャを壊そうとするジェノサイド(大量虐殺)の意図を示している」と指摘した。

 

報告書によると、性的暴行被害に遭った女性や少女は数百人に上る。調査団が確認できた性的暴行のうち8割は集団レイプで、このうち82%は軍の犯行だった。

 

報告書は軍が妊娠可能な女性を性暴力の対象に組織的に選び、妊婦や乳児も攻撃していたと指摘。ロヒンギャによる「出産を防ぐ措置」を取っていたと批判した。

 

加害者の責任追及を行うようミャンマー政府に要求している。【823日 時事】 

*******************

 

調査団は「国軍幹部は、戦争犯罪や人道に対する罪で取り調べられる必要性があるが、権力の座にとどまっている」とも批判しています。

 

これまでのところ、スー・チー氏率いるミャンマー政府は、こうした国際社会からの批判を無視して、事態改善への努力をサボタージュしています。

 

【“ミャンマーに寄り添う”独自外交の日本 ミャンマーの姿勢を変えられるのか?単なる市場確保で終わるのか?】

その背景には、国軍とスー・チー政権の力関係、ロヒンギャを毛嫌いする国内世論があることは、これまでも再三取り上げてきました。

 

スー・チー政権は国際社会の批判・国連調査団の報告を無視しながら、独自の調査でつじつまを合わせようとしています。

 

昨年7月末に発足した独立調査委員会は、議長であるフィリピンのロサリオ・マナロ元外務副大臣と日本の大島賢三・元国連大使、ミャンマー人の元憲法裁判所長官、国連児童基金(ユニセフ)元職員の4人からなっています。

 

委員として大島氏を出しているように、日本はこのスー・チー氏の“独自の取り組み”に深く関与しています。

 

発足時には、1年以内に報告書を出すとのことでしたが、その類が報告されたとは聞いていません。

 

****河野外相、ロヒンギャ帰還に「協力」 スーチー氏と会談****

河野太郎外相は31日、訪問先のミャンマーの首都ネピドーでアウンサンスーチー国家顧問兼外相と会談し、約70万人が難民となっている少数派イスラム教徒ロヒンギャのミャンマーへの帰還について「できる限り協力する」と約束した。

 

しかし、難民の間に広がるミャンマーの治安への不安などから、帰還の見通しは立っていない。

 

河野氏はミャンマーを訪れる直前、バングラデシュ南東部コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプを訪問。日本外務省の説明などによると、河野氏は会談でキャンプの状況を伝えて早期の帰還実現を促し、必要な支援を続けると語った。

 

ロヒンギャへの人権侵害について調べるためにミャンマー政府が設置した独立調査委員会については、「信頼性、透明性のある調査が重要だ」と述べた。【731日 朝日】

******************

 

河野外相は「(ロヒンギャ帰還に)できる限り協力する」としていますが、日本の姿勢は、厳しくミャンマー政府を批判する欧米・国連とは異なります。

 

そのあたりの日本独自のミャンマーへの姿勢について、スー・チー氏とは携帯電話で連絡を取り合える関係と言われる、外務省きってのミャンマー通で、外交官人生を通してミャンマーと関わってきた丸山市郎・駐ミャンマー大使は次のように語っています。

 

****丸山市郎・駐ミャンマー大使に聞く****

(中略)

野嶋 日本にはミャンマーファンを称して「ビルキチ」という言葉がありますね。総じて日本人はミャンマーをとても好きになり、ミャンマー人も日本を好きなようです。どうしてお互い惹かれ合うのでしょうか。

 

丸山 不思議なことですが、「日本人の常識がミャンマー人の常識」のような部分があると思います。私の感覚ですが、決定的な文化の違いやカルチャーショックが両者の間にはほとんど存在しません。(中略)

 

ミャンマー重視を鮮明にする安倍政権

野嶋 ODAの話になりましたが、ODA全体が削減されるなか、日本のミャンマーへの重点配分はかなり際立っていますね。

 

丸山 いまのODAは単年度ですと円借款が1200億円から1300億円、無償援助で150-200億円。確かにこれは相当な金額です。いろいろな理由はありますが、一番はミャンマーが徹底的な親日国であり、ASEANのメンバーでもあり、中国やインドとも国境を接する重要な国だからです。

 

経済的な権益面でも、手付かずの5200万人の人口を抱える未来のマーケットがあり、日本の企業にも重要な市場です。日本政府がODAを出してしっかり基礎インフラづくりを支援していく意味は大きいと考えています。(中略)

 

ロヒンギャ問題での過度な圧力は逆効果も

野嶋 ロヒンギャ問題などで欧米各国が引き気味になる中、日本はミャンマーで独走しているのかという批判はありませんか。

 

丸山 この国は1988年から2012年まで軍事政権でした。その間は、民主化、人権の改善をミャンマーの国民が希望し、国際社会の願いも一致していた。しかし、ロヒンギャ問題では、国民のほとんどが国際社会の批判に反発しています。圧力をかけるほど、ミャンマー政府は国際社会に背を向けて、ますます解決が遠のきます。制裁は逆効果の面があるのです。

 

2015年に初めて公正で自由な総選挙を行い、一滴の血も流さずに政権がNLD(国民民主連盟)に渡りました。その事実だけでも歴史的な偉業です。ミャンマーがさらに前に進めるように支えることが大事で、やっと始まった国づくりのプロセスを壊すことはできない。

 

過度な圧力で内政が不安定化した場合、日本企業は投資にちゅうちょし、ODAを出すのも難しくなるかもしれない。それはこの国の将来にはプラスではない。日本はミャンマーに寄り添っていくべきです。

 

重要な日米の連携

野嶋 しかし、日本単独では限界もあるのではないでしょうか。

 

丸山 日本は米国と十分、ミャンマー問題を含めて、東南アジアで組んでいけると思います。米国も議会、人権団体にいろいろな声があり、厳しい立場を取らざるを得ない場合もありますが、政策としてNLD政権を支援し、ミャンマーの国づくりを助けていく方針には一切変更がないと思います。ですから、ミャンマー政策ではいかに米国と組むのかが重要になってきます。

 

野嶋 ロヒンギャ問題が起きたラカイン州は、すでに人権問題という良識を超えて、アラカン民族主義を掲げた過激派組織が台頭し、治安維持が困難になりそうな事態です。

 

丸山 ミャンマー政府がバングラディシュに逃げた人々の帰還を受け入れるための準備を、外からも見える形で加速化させることが重要です。ラカイン州に対する国連のアクセスをより認めさせていくべきだとミャンマー政府に働きかけています。日本政府はスー・チー氏、国軍司令官、国連機関とも関係が良好で、できるだけ仲介の役割を果たしていきたい。

 

野嶋 ミャンマーでこれぐらいフリーハンドで動ける国はないのではないでしょうか。

 

丸山 ないと思いますね。スー・チー氏も日本からの協力に期待していると思います。

 

不透明な「スー・チー後」の姿

野嶋 丸山さんはスー・チー政権のこの3年の統治をどう評価しますか。

 

丸山 パフォーマンスについては、政権樹立当初の経済政策でもたもた感があったのは事実です。去年56月以降、閣僚の組み替えを行い、投資委員会のトップを代えて分かりやすくなったので、これから良くなっていくのかなと。

 

少数民族和平やラカイン州(ロヒンギャ)問題などの政治面は、うまく進められていない感じです。われわれも見ていて心配なところがありますね。

 

2020年(の次回選挙)でも、議会は25%が軍人議員と決まっているので、NLDは得票率67%を獲得しないとNLDでの単独過半数は取れない。現在の人気では、そのハードルは高いかもしれません。ただ、相対多数を維持することは間違いないと思います。その場合、少数民族勢力などとの連立の組み方が問題になりますね。

 

野嶋 それにしても、ポスト・スー・チーになれる人材がまったく浮かんできませんね。

 

丸山 スー・チー氏はいま73歳。20年の選挙に勝利したとして、次期の5年間で経済、国内和平、ラカイン問題といった主要な課題に道筋をつけられるのかどうかが重要だと思います。【822日 nippon.com

*******************

 

“圧力をかけるほど、ミャンマー政府は国際社会に背を向けて、ますます解決が遠のきます。制裁は逆効果の面がある”というのは、わからないではありません。日本が北朝鮮に関して主張していることとは真逆ですが。

 

“日本はミャンマーに寄り添っていくべき”というのもいいでしょう。ただ、寄り添った結果、ミャンマー政府が国際常識に沿った方向に顔を向けるようになるのであれば・・・という条件が付きます。

 

寄り添った結果、ミャンマー政府の弁明に利用され、ミャンマー政府の姿勢はまったく変わらず、日本はミャンマーのご機嫌をとることで中国に対抗して市場確保のメリットを得る・・・・という話に終わるのであれば、人権・民主化を無視して独裁政権への支援を厭わず、その影響力拡大を図っていると批判される中国外交と同じ“目クソ・鼻クソ”レベルになります。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランス  食品ロス削減に向けての法規制、アプリも活用

2019-08-23 22:08:00 | 欧州情勢

(【20160229日 BLOGOS20162月に、デンマーク・コペンハーゲンにオープンした、賞味期限切れの食品を専門に扱うスーパーマーケット「WeFood」 ホームレスを支援する団体が運営しています)

 

【関心が高まる食品ロス削減】

「世界は増大する人口に対応する食糧を確保できるのか?」という問題については、88日ブログ“食糧供給  人口増大、温暖化の影響に世界はどう対応するのか?”でも取り上げました。

 

食糧供給の増大、多様化とともに重要なのは、「無駄にしない」という発想の徹底でしょう。

膨大な食品廃棄物の問題は世界共通の課題です。

 

日本について個人的な経験を言えば、もう十年以上前でしょうか、深夜街を歩いているとドーナツの全国的チェーン店に灯りがついていて、店内では大きなゴミ袋に余った商品をザザーッと流し込む閉店作業が行われていました。

 

もちろん店側にはいろんな理由があってのことですが、「これはアカンやろ・・・」と、基本的なところが間違っているような印象を強く感じました。

 

****食品ロス削減へ官民一体の取り組み加速 賞味期限、1/3ルールにもメス****

超党派の議員連盟による「食品ロスの削減の推進に関する法律案(食品ロス削減推進法案)」が今国会で成立する見通しとなっている。

 

年間約646t(平成27年度推計)とされる国内の食品ロスの削減に向け国民運動として展開する狙い。

 

こうした動きに呼応するように、農水省は賞味期限年月表示への取り組み拡大に向けた動きを見せる一方、小売大手のヤオコー4月から、専用センターでのドライグロサリー(コメをのぞく)の入荷許容期限の緩和を明らかにするなど、食品ロス削減に向けた官民の取り組みが加速してきた。

「食品ロス」とは本来食べられるのに捨てられる食品646tの内訳は、事業系廃棄物由来(規格外品、返品、売れ残り、食べ残し等)が約357t、家庭系廃棄物由来(食べ残し、直接廃棄等)約289t646tという数字は、日々10tトラック1770台分の食糧を廃棄している計算だ。

「食品ロス削減推進法案」では、政府、事業者、消費者ごとに取り組むべき役割を整理した。まず政府が食品削減の基本方針を策定。

 

同方針を踏まえ、都道府県や市町村が削減推進計画を策定し、対策を実施するとともに、消費者や事業者に対する普及啓発を行うほか、食品ロス削減に貢献した事業者等の表彰、フードバンク活動の支援。

 

事業者に対しては、商慣習の見直しなど、製配販三層で生じる食品ロス削減のための事業の取り組みを支援するとともに、政府や自治体に協力し、食品ロス削減に積極的に取り組むことを求めた。

また、食品ロスの約半分が家庭から排出されていることから、消費者には食品の購入や調理方法の改善などによる自主的な食品ロス削減への取り組みを呼びかけていく。

商慣習については、小売店などが設定するメーカーからの納品期限と店頭での販売期限が製造日から賞味期限までの期間を3等分して設定する“3分の1ルールの見直しに加え、賞味期限の年月表示化や賞味期限延長も併せて推進していく。(中略)

小売による“3分の1ルールの見直しは、東日本大震災(20113月)直後、一時的に緩和されたが、現在はほとんどが元に戻っている。

 

背景には消費者の過度の鮮度志向や、賞味期限そのものに対する理解不足があるものと見られるため、賞味期限の理解促進に向けた啓発活動も課題となりそうだ。【327日 食品新聞】

*******************

 

3分の1ルールとは、製造日から賞味期限までの合計日数の3分の1を経過した日程までを納品可能な日とし、3分の2を経過した日程までを販売可能な日(販売期限)とする商慣習的なルールで、近年はこのルールが「期限に合理的根拠はなく、食品や資源のムダにつながる」という理由から見直しが検討されています。

 

****米国の食品廃棄物、1日に約15万トン 研究****

米国では1日に15万トン近くの食品廃棄物が発生しているとの調査結果が(4月)18日、発表された。国民1人当たり約422グラムの食品を毎日廃棄している計算になる。廃棄される量が最も多いのは青果物だった。

 

米科学誌「プロスワン」に掲載された研究論文によると、最終的に廃棄される食用植物を栽培するために毎年使用される土地の総面積は約12万平方キロで、これは米国内の農作物栽培好適地の約7%に及ぶという。また、無駄に費やされているかんがい用水は16兆リットルに上るとされた。

 

青果物は構成比で食品廃棄物全体の39%を占めており、次いで乳製品17%、肉類14%、穀類12%となっている。一方、廃棄処分されることが少ないのは、塩気の強いスナック菓子、食卓油、卵料理、砂糖菓子、清涼飲料水などだ。

 

2007年〜2014年の食品廃棄物に関する政府の調査データに基づく今回の研究では、廃棄される食品の総量が全米国人の1日の平均カロリー摂取量の約30%に相当することが明らかになった。

 

こうした結果を受け、論文は環境と農業従事者にかかる負担は「重大だ」と指摘しており、また食品廃棄物が「年間約35万トンの農薬と約82万トンの窒素肥料を用いて生産される収穫物に相当する」ことも記された。

 

解決策としては、果物や野菜のより適切な下ごしらえと保存の方法について消費者を教育する、食品の賞味期限を見直す、訳ありの生鮮食品を購入するよう消費者に勧める、食品廃棄物を抑制する取り組みを政府の持続可能性計画に組み入れるなどが考えられる。

 

論文の主執筆者で、米農務省農業研究局のザック・コンラッド氏は「食品廃棄物の問題は、さまざまなレベルで表面化している」と話す。

 

「増加を続ける世界人口の要求を満たす持続可能な方法を模索する上で、これらを総体的に検討することがますます重要になる」 【419日 AFP】

********************

 

【フランス 法律で「賞味期限切れ食品」の廃棄を禁止 貧困対策団体へ寄付】

事情はフランスでも同様ですが、2016年から大手スーパーに対して「賞味期限切れ食品」の廃棄を禁止する法律が施行されています。

 

****フランスで「食品廃棄禁止法」が成立、日本でも導入すべき意外な理由 ****

フランスで20162月初めに「賞味期限切れ食品」の廃棄を禁止する法律が成立したのをご存じだろうか。類を見ない画期的な施策であると世界各地のメディアで取り上げられ話題になっている。(中略)

 

そもそもこの法律は、貧困対策やチャリティーなどを支持する人権派の議員らが中心となって活動し、成立にこぎつけた。

 

フランスのスーパーマーケットは、賞味期限切れ、または賞味期限に近づいている食品を廃棄すること(「食品ロス」と呼ばれる)はできなくなり、その代わりに、普通なら廃棄する食品をボランティア組織やチャリティー団体に寄付することが求められる。現物の寄付を受け取った団体は、貧しい人々のために食品を分配することになる。

 

比較的多くの廃棄食品が出る大規模店(法律によると400平方メートル以上の店)は必ず、貧困対策を行っているようなチャリティー団体と契約を結ぶ必要がある。さもないと罰則を受けることになり、最大で約84000ドル(約970万円)の罰金または最大2年の禁固刑を課される可能性がある。

 

「食品廃棄禁止法」の波紋

またスーパーマーケット側には、廃棄食品を「破壊」してはいけないという義務も課される。どういうことかというと、これまでスーパーマーケットは、賞味期限切れの食品を人々がゴミ箱から奪っていくのを防ぐために、廃棄処分の食品を意図的に化学薬品などで「破壊」して捨てていた。店側は、廃棄食品を拾って食べることで腐った食品を口にしてしまうこともあるとして食べられないように「破壊」していると主張していた。

 

だがそれは表向きの理由であり、現実には廃棄処分の食品を拾われたら商売あがったりだと考えた店側の対応策だと言われている。ゆえに、フランス政府は破壊を違法にし、再分配するよう規定した。

 

今フランスでは年間710万トンの食料が廃棄処分されている。その内訳は、67%が一般から、15%はレストランから、そして11%はスーパーマーケットなどから廃棄される。

 

チャリティー関係者らによれば、寄付される食料が15%増加すれば、年間1000万食を追加で提供できるという。スーパーマーケットからの寄付が増えればそれだけ提供できる食品も必然的に増える。

 

いいことづくめの話に見えるが、もちろん課題も多い。

この法律によれば、慈善団体などと契約を交わさないことで罰則が適応されるのは、大店(400平方メートル以上の店)のみであり、中小規模のスーパーマーケットにその義務はない。

 

というのも、個々の店による食品ロスが比較的少ないということもあるが、財政的にも体力の劣ることが多い中小規模の店にはこの法律は大きな負担となるからだ。例えば廃棄処分の食料を仕分けし、無償で提供するのにはさらなる時間と労力が必要になる。

 

この点についてフランスの商業流通連盟は、「この法律はターゲットも目的も間違っている。大手の店が出すのは廃棄食品全体のたった5%に過ぎない」と、今回の法律を痛烈に批判している。

 

さらに「大手のうち4500店以上は以前から援助団体と食料寄付の契約をしており、食料寄付者としてはすでに突出している」とも述べている。つまり大手を法律で縛るだけではあまり効果がないということらしい。

 

フランス国内では「必要ない」との意見も

また法律によれば、寄付される廃棄食品の仕分けをするのはスーパーマーケット側だ。腐ったものやつぶれた食品などを排除するのは店側の責任になり、食べられないゴミが寄付に紛れ込まないようになっている。

 

だが逆に、必要以上の食品が慈善団体などにどんどん流れて溢れ返り、「体のいいゴミ箱」に化す可能性も指摘されている。

 

さらには、廃棄処分にしない食品を誰が集めて、分配するのにいくらかかるのか、という問題もある。明らかにフランスのチャリティー団体などはさらなる人手が必要になるし、法律では、チャリティー側が食品を保管する冷蔵庫やスペースを確保する必要があるとしている。

 

フランスでも、これまで何も対策が行われていなかったわけではない。さまざまな食品関連業者から、困窮者に食料を配給する民間の組織やチャリティーに対して、これまでをまとめると10万トンの寄付が行なわれている。そのうち、35000トンがスーパーマーケットからの寄付食品である。(中略)

 

以上のように、フランス国内では「必要ない」との意見も出ているのである。

 

フランスの取り組みは参考になるのか

だが先に述べた通り、そもそもこの法律が可決された背景には貧困問題があり、貧困問題を解決するために食品ロスを活用しようとする試みだった。

 

フランスでは最近、無職の人々やホームレス、貧乏学生などがスーパーのゴミ箱から破棄された食品を漁って生活している実態が報じられたり、ゴミ箱を漁って窃盗罪で捕まった人のニュースもあった。ちなみにフランスでは、失業率が10.6%に達し、若者にいたっては26%にもなる。欧州加盟国の中でも失業率は高い部類に入る。

 

そんな状況を見かねたフランス・クールブボアの地方議員アラシュ・デアランバルシュ氏が、20151月に反貧困の草の根運動として、オンライン署名サイトで活動を開始。賞味期限切れ食品の廃棄禁止を訴えるキャンペーンを始めたのだ。そしてすぐに21万人以上の署名を得たことで勢いづき、デアランバルシュ氏は国会議員にも働きかけを行った。そして5月には下院が廃棄禁止の法案を一旦可決するに至った、という経緯がある。(後略)【20160212日  山田敏弘氏 ITmedia

*******************

 

フランスでは、売れ残り品の廃棄禁止は食品以外にも拡大しています。

 

****フランス、売れ残り品の廃棄禁止へ****

フランスで、在庫や売れ残り品の廃棄を禁止する法案の準備が進められている。環境保護や循環経済の実現を目指したものだが、施行された場合はラグジュアリーブランドにも影響があると見られている。(中略)

 

仏政府は以前から循環経済への移行を掲げており、2018年にはエドゥアール・フィリップ仏首相が、再利用可能な製品に対して21年までにロゴをつけるなどのロードマップを発表している。ポワルソン仏環境連帯移行副大臣が主導する今回の法案準備は、そうした枠組みにも合致する。なお、これは今夏の議会提出が予定されているが、広く国民の意見を募るため、正式な期日は設定されていない。

 

フランスでは162月に食品廃棄禁止法が施行され、(中略)食品廃棄に関する意識が高まったが、それが衣料やその他の分野にも広がってきているのだという。

 

セールをしない多くのラグジュアリーブランドは、ブランド価値を毀損しないため、売れ残り商品を処分している。「バーバリー(BURBERRY)」は、売れ残り商品を毎シーズン焼却処分していたことを批判され、189月にこれを廃止した。

 

「バーバリー」は現在、そうした商品の再利用やリサイクル、寄付などを行っているほか、193月には英慈善団体スマートワークスと提携し、従来の寄付に加えて困窮している女性が仕事の面接に行けるようにスタイリングアドバイスも提供している。(後略)【423日 WWD】

********************

 

【食品ロス削減にアプリ活用】

食品ロスを減らす取り組みの一環として、「TooGoodToGO」(捨てるにはまだ早い)というアプリが活用されているとか。期限切れ間近商品の「福袋」販売みたいなもののようです。

 

****フランス発のアプリで「食品ロス」から世界を救う**** 

(中略)

TooGoodToGO」アプリが貢献

フランスでの食品ロス法の可決を受け、あるベンチャー企業が食品ロスを無くすべくアプリを開発。その名も「TooGoodToGO」(捨てるにはまだ早い)。

 

2016年にフランスで登場してからわずか3年で、11ヵ国でサービスを拡大し、今では1200万回のダウンロードを突破した人気急上昇のアプリだ。

 

利用者は安く食品を購入でき、店側は廃棄するはずの物を販売できる「WinWin」なコンセプトだ。

アプリを開くと、位置情報を元に近場で賞味期限間際の売れ残りを1/3の値段で提供している店のリストが表示される。

 

「簡単で気楽に使えるのがこのアプリの強み」と話してくれた利用者の一人、クリストフさんは「何が出てくるかわからないのも一つの楽しみ」と話す。

 

ワンクリックで予約したのち、回収時間が提示され、「びっくり箱」(Paquet surprise)としてあらかじめ中身が分からない仕組みとなっている。

 

普段買わない食品も含まれることから、発見や楽しみも味わえるのが特徴で、環境問題に関心のない人々でも安く買うことができ、結果的に食品ロス対策に貢献できるのだ。クリストフさんは「環境問題に関心を持っていなくても、利用したい気持ちにするこのアプリはいいコンセプトだ」と話してくれた。

 

青果店やパン屋も、アプリのおかげで食品ロス削減に貢献をしている。これまで、法律上で廃棄することが決められていた食品を売ることができ、しかも歓迎される。(中略)

「モンブラン」で有名なパリのパティスリー「アンジェリーナ」が、実はアプリを活用している。「お持ち帰り用で」850円のケーキが、アプリを使うと250円で買うことができ、かなりお得になる。

 

「食品ロス」だけでなく「製品ロス」も禁止へ

アプリの認知度が高まる一方、果たして十分に成果はでているのか?

 

アプリの開発者は「3年で1700万食を救うことができた。今後より多くの食品ロスを防げる」と期待感を示した。重要なのは、店側が正直に、まだ食べられる食品を明らかにすることだという。

 

そのため、もし腐ったものが販売されている場合は、管理者が利用者の報告をいち早く察知し、店側に問い合わせることが可能なシステムになっている。

 

利用者が安全に食べられてこそ、食品ロスへの継続的な貢献が可能なのだ。

 

フランス政府はさらに、「食品ロス」だけではなく、食べ物以外の「製品ロス」を2年から4年以内に禁止する方針を発表した。売れ残りを廃棄することを禁止し、寄付またはリサイクルを義務付ける内容だ。

 

果たして、先進国フランスが、無駄の削減に成功するのか今後を見守りたい。【822日 FNN Prime

******************

 

このアプリ「TooGoodToGO」については、フランス在住の方のブログなどで紹介もされています。

https://ameblo.jp/latablequotidienne/entry-12430968972.html

http://ma-douce-france.net/2019/06/17/toogoodtogo/

 

「福袋」的な要素がありますので、面白いのですが、素材を使いきる調理技術も必要になります。(購入した商品を余らせ、捨てることになっては元の木阿弥ですから)

 

ちなみに、私はスーパーには閉店も近い時間帯に行って、期限切れが近い3割引き・半額商品をよく買います。

単に「格安品」を買いたいというだけのことですが、結果的には食品ロス削減に貢献もしています・・・ってね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエル  トランプ大統領と一蓮托生のネタニヤフ首相 来月17日に再選挙

2019-08-22 22:27:58 | 中東情勢

(トランプ米大統領やプーチン露大統領と握手するネタニヤフ首相の「外交力」をアピールする与党陣営=7月、テルアビブ(ロイター)【8月19日 産経】)

 

【トランプ大統領 民主党を支持するユダヤ系米国人はイスラエルやユダヤ民族に対する「不忠者だ」】

アメリカ・トランプ大統領が中東パレスチナ政策において、中立的な立場を捨てて、露骨にイスラエル寄りの姿勢を示していることは周知のところです。

 

背景には、宗教右派のキリスト教福音派へのアピールがあると解されています。

 

****福音派****

(中略)基本的には聖書の教えどおりに生きることに価値を置くため、旧約聖書の一節を「神がイスラエルをユダヤ人に与えた」と解釈し「世界が終末を迎えるとき、エルサレムの地にキリストが再来する」などとする。

トランプ大統領自身はその遍歴や生活態度から深い信仰心を有しているとは思われていないが、選挙公約に米大使館のエルサレム移転などを掲げ、当選後まもなくエルサレムをイスラエルの首都と認めるとしたのは、有力な支持層である福音派への配慮だとされる。【「知恵蔵」】

******************

 

では、アメリカのユダヤ人社会は・・・と言えば、共和党より民主党への支持が大きいとされています。

 

トランプ大統領としてはユダヤ人社会の民主党支持が、「こんなにイスラエル・ユダヤ人のためにいろいろ配慮しているのに・・・」と、お気に召さないようです。

 

****民主党支持のユダヤ系は「不忠」 トランプ大統領が批判****

来年の米大統領選で再選を目指すトランプ大統領は21日、ユダヤ人国家イスラエル寄りの政策をアピールした上で、対立する民主党を支持するユダヤ系米国人はイスラエルやユダヤ民族に対する「不忠者だ」と批判した。

 

伝統的な民主党支持層とされるユダヤ系に離反と自身への支持を迫る狙いがあるが、反発も強い。

 

トランプ氏は「他のどんな大統領よりもイスラエルに対し偉大なことをやってきた」と自賛し、国際的に認められていないエルサレムの首都認定や、エルサレムへの米大使館移転、イスラエルが占領するゴラン高原の主権認定などの“実績”を強調した。【8月22日 共同】

*******************

 

まあ、気持ちは推測できますが、 “「不忠者」・・・そこまで言うかな・・・”という感も。

むしろ、恩着せがましさへの反発の方が大きいようにも思うのですが。

 

とにかく、トランプ大統領がなりふりかまわず再選に向けてすべてのエネルギーを注いでいることだけは確かです。

(国際社会に大きな影響を有するアメリカの政策決定が、トランプ再選の観点から決まるというのも、困った問題ではあります。もともと政治はそういったものでもありますが、そこを隠そうとしないところがトランプ流でもあります。)

 

【接戦が予想されているイスラエル再選挙】

一方、トランプ大統領が支援するイスラエル・ネタニヤフ首相も、連立交渉が失敗したことで来月17日に再選挙が控えており、こちらももアメリカ次期大統領選挙同様、接戦が予想されています。

 

****イスラエル再選挙まで1カ月 ネタニヤフ首相の続投が焦点****

イスラエルで国会(一院制、定数120)の再選挙が行われる9月17日まで1カ月を切った。ネタニヤフ首相が続投を決めるかが、最大の焦点だ。

 

世論調査では同氏率いる右派・宗教勢力と中道・左派勢力の接戦が予想されている。選挙の結果はトランプ米政権が策定中の包括的な中東和平案や対イラン包囲網など、国際政治にも影響を与えそうだ。

 

イスラエルでは4月の総選挙で右派・宗教勢力が勝利したものの、ネタニヤフ氏が主導した政権樹立のための連立交渉が決裂し、再選挙に持ち込まれた。

 

最新の世論調査では、ネタニヤフ氏率いる右派の与党「リクード」と、野党勢力を牽引する中道政党連合「青と白」がともに30議席前後を獲得する見込み。右派・宗教勢力も中道・左派勢力も過半数に届かない可能性が指摘されている。

 

4月の総選挙後の連立交渉では、5議席を獲得したリーベルマン前国防相の極右政党「わが家イスラエル」が、ユダヤ教超正統派の若者に対する徴兵免除の撤廃を求めて超正統派の政党と対立、連立入りを拒否した。

 

「わが家」は今回も同様の姿勢を取るとみられ、これがネタニヤフ氏の続投を阻むハードルとなっている形だ。前回選と同じくパレスチナ問題は主要な争点には浮上していない。

 

ネタニヤフ氏の首相在任期間は7月、通算で13年4カ月余りに達し、「建国の父」と称されるベングリオン初代首相を超え、史上最長となった。パレスチナやイランに対する強硬姿勢が自国の安全保障に敏感な右派の支持を集めてきた。

 

ただ、イスラエル検察は収賄罪などでネタニヤフ氏を訴追する方針を示しており、10月にも同氏の事情聴取を行う見通しとされる。首相の座を維持できなければ、政治生命の危機に追い込まれる可能性がある。

 

トランプ米政権は4月の選挙に先立ち、イスラエルが1967年に占領したシリア南部のゴラン高原に対するイスラエルの主権を承認するなど、ネタニヤフ氏を側面から支援した。米政権の動向も選挙戦の行方を左右しそうだ。【8月19日 産経】

*******************

 

前回選挙では、トランプ大統領の親イスラエル政策がネタニヤフ首相の追い風になったと言われていますが、今回はどうでしょうか?

 

【トランプ追随、一蓮托生のネタニヤフ首相】

いずれにしても、ネタニヤフ首相はトランプ大統領との二人三脚というか、一蓮托生を選択しています。

 

そのことを如実に示したのが、トランプ大統領と敵対する民主党下院議員2名について、トランプ大統領の“要請”によって、イスラエル入国を禁止した案件でした。

 

****トランプに逆らえない「お友達」ネタニヤフの命運****

イスラエル首相が米民主党議員2人を入国禁止に トランプからの圧力に屈した決断は危険な賭け

 

米民主党のラシダ・タリーブ、イルハン・オマル両下院議員が15日、イスラエル政府から同国への入国禁止を言い渡された。

 

イスラエルを批判したからではない。2人がトランプ米大統領の「敵」だからだ。

 

パレスチナ系のクリープとソマリア難民のオマルはトランプが「国へ帰れ」と名指しして物議を醸した非白人系女性下院議員4人組、通称「スクワッド」のうちの2人。

 

イスラエル政府は当初、両議員の訪問を認める方針だったが、トランプは「入国を許せばイスラエルは大変な弱さを示すことになる」とツイートで警告。イスラエル政府は当然のことながら、その日のうちに入国禁止を発表した。

 

イスラエルのネタニヤフ首相にとって、トランプからの支持は最優先事項。約1ヵ月後の9月17日に総選挙を控え、トランプの機嫌を損ねる事態は何としてでも避けたい。

 

ネタニヤフはこの決定を、2人がイスラエルのパレスチナ政策に対する抗議運動(英語の頭文字からBDS運動と呼ばれる)を支持しているからだと説明した。

 

確かにイスラエルは、BDS運動を支持する外国人の入国を法律で禁じている。タリーブとオマルはBDSの支持者だが、ロン・ダーマー駐米イスラエル大使が「米議会への敬意を表し」入国を許可すると発表したばかりだったことを考えれば、トランプの一声で方針転換したことは明らかだ。

 

この法律は17年に制定され、過去にはノーベル賞を受賞したアメリカ・フレンズ奉什団なども「ブラックリスト」入りしている。ヘブライ大学で学ぼうとしていたパレスチナ系アメリカ人がBDS支持者と見なされ国外退去を命じられたこともある(のちに撤回)。

 

ただ、イスラエル政府は時に柔軟性も見せてきた。当初は2議員の入国を受け入れるつもりだったのがその証しだ。

 

トランプ追従は命取りか

今回はそこにトランプが唐突に介入したわけだが、その政治的意図は明らかだ。何としてでもアメリカ初の女性ムスリム議員の2人を民主党の「顔」に仕立て上げ、同党が「反イスラエル」であるという印象を植え付ける。そうして自らの支持層である右派やキリスト教福音派にアピールし、ユダヤ人の民主党離れを狙っているのだろう。

 

 

このトランプのもくろみに同調するのは、イスラエルにとって危険度が大きい。かつてアメリカは超党派的にイスラエルを全面支持してきたが、最近の民主党はイスラエル政府、とりわけネタニヤフに批判的だし、イスラエルに対するアメリカの立場は今まで以上に党派的に割れつつある。

 

イスラエルのある外交官は地元紙ヤー・レツに、2議員の入国拒否は民主党との関係を傷つけ、「政権の座に返り咲いたとき、民主党はこの件を忘れはしないだろう」と語った。

 

強力な米ユダヤ系ロビー団体で中立的立場の維持に腐心してきた米・イスラエル広報委員会でさえ、今回の入国禁止には失望を表明した。

 

今回の問題の大部分はネタニヤフ白身が招いたものだ。トランプ政権誕生のはるか以前から彼は共和党寄りで、形だけは民主党も尊重する立場だった。民主党が政権を取れば関係改善に動くっもりだろうが、今回の件はそれを大いに難しくした。

 

ネタニヤフは今や、民主党とイスラエルの間にくさびを打ち込むことに夢中のトランプと一蓮托生にならざるを得ないが、それが吉と出るか、凶と出るか。【8月27日号 Newsweek日本語版】

*******************

 

今回の入国禁止措置は、その後二転三転しました。

 

イスラエル政府は16日、入国を拒否すると発表した2人の米議員のうち、パレスチナ系のクリープ氏は人道的観点から「訪問中はイスラエルに対するボイコットを呼び掛けない」という条件で入国を認めると表明。クリープ議員はパレスチナに住む祖母との面会を理由に訪問許可を求めていました。

 

しかし、これが祖母に会える最後の機会となるかもしれないクリープ議員はいったんは了承したものの、数時間後に「このような圧制的な条件の下で祖母を訪ねることは、私が信じるすべてのもの──人種差別、圧制、偏見との闘いに反するものだと判断した」と表明、イスラエルの占領下にあるパレスチナ自治区ヨルダン川西岸に住む祖母の訪問を中止するとしています。【8月17日 AFPより】

 

ネタニヤフ首相のトランプ追随が吉と出るか、凶と出るか・・・わかりませんが、結果は今後のパレスチナ情勢にも影響します。

 

【トランプ大統領の「世紀の取引」公表はイスラエル再選挙後になる模様】

パレスチナの状況は、相変わらず緊張が続いています。

 

****エルサレム聖地でイスラエル治安部隊とパレスチナ人ら衝突、祝日重なり緊張高まる****

中東エルサレムの旧市街にあるユダヤ教とイスラム教、双方の聖地で11日、イスラエルの治安部隊と礼拝に訪れていたパレスチナ人やイスラム教徒らが衝突し、赤新月社によるとパレスチナ人61人が負傷、うち15人が病院に搬送された。イスラエルの警察当局は、警官4人が負傷したと発表している。

 

AFP特派員によると、ユダヤ教徒が「神殿の丘」と呼ぶ聖地にあるイスラム教の礼拝所「アルアクサ・モスク」の敷地内でパレスチナ人の抗議デモが激化し、イスラエル警察が音響弾を発射した。

 

警察は、パレスチナ人らが石などを治安部隊に対して投げ付け、警官4人が負傷したため、暴徒を解散させる手段を取ったと説明。7人を逮捕したとしている。

 

11日はちょうどイスラム教とユダヤ教の祝日が重なり、聖地には双方の信者が大勢訪れて緊張が高まっていた。

 

緊張緩和のため警察は当初、11日のユダヤ教徒による聖地訪問を禁止していた。しかし、イスラム教徒らがユダヤ教徒の立ち入りが許可される事態を懸念して抗議を開始。その後、警察との衝突に発展した。

 

イスラエル軍によると、この日はパレスチナ自治区ガザ地区とイスラエルの境界付近でも、パレスチナ人がイスラエル兵を銃撃し、反撃を受けて死亡する事件が起きた。ガザ境界ではこの数日間に同様の事件が相次いでおり、今回で3件目。 【8月12日 AFP】

**********************

 

かねてより、トランプ大統領はパレスチナに関する「世紀の取引」を打ち出すとしてきましたが、ネタニヤフ首相の再選挙勝利の支障にならないよう、選挙後に公表を延期しています。

 

****中東和平案、公表はイスラエル総選挙後の公算大=米大統領****

トランプ米大統領は18日、クシュナー大統領上級顧問が策定した中東和平案の公表について、9月17日のイスラエル総選挙後まで待つ公算が大きいと述べた。

クシュナー氏は、中東地域の和平実現に向けた、500億ドル規模のパレスチナ、ヨルダン、エジプト、レバノン向け経済開発プランの主な立案者。【8月19日 ロイター】

*******************

 

選挙中には出さないとうことは、多少はイスラエルに譲歩を求める内容なのでしょうか。

 

ただ、イスラエル寄りを鮮明にしているトランプ大統領の「世紀の取引」にパレスチナ側が応じる可能性は低いと思われます。

 

また、イスラエルにおいてはどんな政権が生まれても、パレスチナに対する厳しい姿勢は基本的には変わりません。

 

しかし、そうは言っても、トランプ政権と一蓮托生で2国共存を否定するネタニヤフ政権が続くのか、新政権に交代するのか・・・その結果によっては、入植地問題などのイスラエルの現行パレスチナ政策、トランプ大統領のパレスチナへの姿勢も変わってきます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする