孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  野党を解党に追い込むプラユット政権の強権政治

2019-12-31 23:05:24 | 東南アジア

(14日、集会で支持者に応える「新未来党」のタナトーン党首【12月14日 共同】)

 

【「ボーイズラブ(BL)」 「酔ったらゆっくり運転」】

タイに関する最近見た面白い記事2本。

 

「タイではもう、男性同士の恋愛ドラマは『サブカル』ではなく、メインストリーム」だそうで、その背景には日本の「やおい」(何のことかわからない方は下記記事を 私も知りませんでした)があるとか。

 

****おっさんずラブの次は タイBLドラマ、アジアで大旋風****

男性同士の恋愛を描き、「ボーイズラブ(BL)」と呼ばれるジャンルのテレビドラマが、東南アジアのタイでキラーコンテンツ化している。

 

日本ではドラマ「おっさんずラブ」が映画化もされて人気だが、タイでは女性を中心とした熱狂的ファンが周辺の国や地域に広がっており、韓流もののような世界的流行になるとの見方も。人気の背景をさぐると、意外な事実も見えてきた。

 

10月7日、タイのツイッターのトレンドで一時、「ターン・タイプ」という言葉が1位になった。この日にテレビで放送が始まったBLドラマのタイトルだ。主人公の男子2人がキスすると、女性ファンらのつぶやきがネットを駆け巡った。

 

東南アジアや中華圏では、2000年ごろからずっと、Kポップをはじめとする韓国文化が人気の中心にありつづけてきた。

 

そんななか、タイでは5年ほど前から、テレビなどでBLドラマが放送されるようになった。今年は少なくとも17作品が公開され、すでに来年に放映される複数のBLドラマも明らかになっている。

 

ドラマだけではない。17年のリップクリームのテレビCMでは、教室で同級生にキスしようとした男子高校生が「寸止め」して、相手の唇の乾燥を指摘してリップクリームを渡す場面が話題になった。

 

「KポップよりTウィンド(タイの風)」。近年はそんな評価がされるようになり、BLドラマを核とするタイ文化はタイを越えて各地へ広がっている。

 

人気BLドラマを連発しているプロデューサー、ジャルポーン・カントーンオップクンさんは言う。

「タイではもう、男性同士の恋愛ドラマは『サブカル』ではなく、メインストリーム。タイがBLドラマの世界の中心地になる」

 

この流れはどこから来たのか?

その答えは、タイでBLを指す言葉として使われる「Y(ワイ)」にある。これ、なんと日本でBLと同義語とされる「やおい」の頭文字なのだ。

 

「やおい」は「やまなし、おちなし、いみなし」を意味する造語。漫画ファンらが自ら同人誌に描いたBL作品を自嘲して、そう呼ぶようになったとされる。

 

その日本の「やおい」漫画が、タイで海賊版でじわじわと人気となり、今の大流行の下地を作った。いまや、タイのBLドラマは字幕をつけてくれる有志ファンのおかげで日本に還流し、日本のファンの間で「激おすすめ」されるようにまでなっている。【12月20日 朝日】

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次は、「タイらしい」と言えば、いかにもそんな話題。笑えます、しかしねえ・・・・。

 

****「酔ったらゆっくり運転」 タイ東北の交通標語が物議****

24日のタイのテレビ報道によると、タイ東北部ナコンラチャシマ県ニコムサーントンエーン地区の道路沿いに「酔ったらゆっくり運転」と書かれた標語の看板が設置され、物議を醸している。

タイでは飲酒運転が横行しているが、法律上は禁止され、「飲んだら運転するな」が標語だ。「酔ったらゆっくり運転」の看板についてニコムサーントンエーン地区行政機構は「年末年始はほとんどの人が飲酒しているから」で、「飲酒運転を推奨しているわけではない」と弁明した。

一方、プラユット首相は24日、バンコクのタイ首相府で年末年始の安全運転を呼びかけるイベントに参加した。首相は「飲んだら運転するな。無事に家に帰ろう」と書かれたポスターの前で、「交通事故の多くは飲酒運転が原因」と指摘し、交通法規を守り安全運転を心がけるよう呼びかけた。

世界保健機関(WHO)によると、タイは2016年の人口10万人当たりの交通事故死者数が32.7人(WHO推計値)で、中国(18.2人)、インドネシア(12.2人)、日本(4.1人)などを大きく上回り、アジア最悪だった。

 

タイ当局は事故の削減に向け、バスやバンの車両点検、運転手の管理などを強化しているが、2018年の調査(タイ健康増進財団事務局調べ)でも、人口10万人当たりの交通事故死者数は29.9人と高止まりしている。【12月25日 newsclip.be】

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まあ、標識を目にしている時点ですでに運転している訳で、「飲んだら運転するな」と言っても意味がないということで、「現実的」対応ということでしょう。

 

信号があまりないタイですから、日本からの観光客は道路横断時には十分に気をつけて。

 

【注目される年明けの憲法裁判所判断】

でもって、政治の話題。

 

民政移管したとは言え、実質的には軍政を引き継ぐプラユット政権は、タクシン派に続き、先の総選挙で若者らの熱い支持を集めた反軍政党「新未来党」及びタナトーン党首を標的として潰しにかかっています。

 

****野党党首の議員資格剥奪=反軍象徴、選挙で躍進―タイ憲法裁****

3月に行われたタイの民政移管に向けた総選挙で、反軍事政権を掲げて第3党に躍進した野党・新未来党のタナトーン党首(40)に選挙違反の疑いが浮上した問題で、憲法裁判所は20日、憲法に違反したと認定し、当選を無効として議員資格を剥奪する判断を下した。反軍勢力の象徴としてタナトーン氏を支持する若者らの反発を招くのは必至だ。

 

選挙管理委員会は新未来党の比例代表名簿1位だったタナトーン氏について、メディア関連企業株を所有したままの出馬を認めない憲法に違反したとして、憲法裁に審理を要請。タナトーン氏は審理開始に伴い、議員資格を停止されていた。

 

タナトーン氏は、株は出馬前に手放しており、違法ではないと反論したが、憲法裁は株を売却したのは新未来党が比例代表名簿を届け出た後だったと判断した。

 

タナトーン氏は判決後、「政治的動機に基づいた判決だ」と非難。党首にとどまり、憲法改正など民主化に取り組む考えを示した。【11月20日 時事】 

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****タイ憲法裁、反軍野党の解党判断へ=立憲君主制転覆の疑い****

タイ憲法裁判所は25日、3月の総選挙で当時の軍事政権を批判して躍進した野党・新未来党について、立憲君主制の転覆を試みた疑いがあるとして、解党を命じるかどうかの判断を来年1月21日に下す方針を決めた。

 

新未来党は軍の政治への影響力維持に反発する若者に広く支持されており、解党されれば抗議行動が拡大する可能性もある。新未来党に対しては、弁護士が立憲君主制を否定し、憲法に違反していると訴えていた。【12月25日 時事】 

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タナトーン氏側は強く反発しています。

 

****タイ首都で抗議集会、14年のクーデター以降で最大規模****

タイの首都バンコクで14日、2014年のプラユット陸軍司令官(当時)によるクーデター以降で最大の抗議集会が開かれた。選挙管理委員会が野党「新未来党」に政党法違反があったとして、解党を申し立てたのを受け、タナトーン党首(41)が前日にデモを呼び掛けた。

当局はデモの阻止に動かなかった。

資産家のタナトーン氏は、バンコクのオフィス街の中心にある大型ショッピングモール「MBKセンター」の周辺に集まった群衆に対し「これは始まりに過ぎない」と強調。「今後、さらに多くの人が加われるよう、強さを誇示する狙いがある。プラユット氏が恐れるのはまだ早い。本当のデモは来月行われる」と述べた。

3月の総選挙後にプラユット新政権が発足して以来、タナトーン氏は政権批判の急先鋒となった。野党は選挙結果について、軍に有利な方法で議席が配分されたと批判している。(中略)

新未来党の広報官は、この日のデモに1万人以上が集まったと述べた。当局は推定人数を明らかにしていない。

来年1月12日にも「独裁反対」のデモが計画されている。

タナトーン氏は14日、野党連合の6つの政党と、選挙前に軍政が策定した憲法の改正を推進するための協定に署名。タクシン元首相派政党「タイ貢献党」を含む6党はこの日のデモにも支持を表明した。【12月16日 ロイター】

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こうしたタイの政治状況について、以下のようにも。

 

****タイ軍政続く強権 しぼむ民主主義の期待、王室との関係にも不安要素 ****

5年半に及ぶ事実上のタイの「軍政」の先行きを、懸念する声が広がっている。

 

政権基盤に揺らぎがあるというのではない。時に独善的とも受け取れる強権的な政治手法に対し、国の内外から疑義の指摘が広がっているのだ。

 

そもそも議会制民主主義とはそりの合わない軍支配ゆえに神経質になっているとの見方もあるが、それだけにはとどまりそうにない。それは何か、権力を手放したときに起こりうる軍そのものの地位転落を恐れているようにも見える。

 

怒れる800万人の若者

タクシン派と反タクシン派との政治対立に介入し、2014年5月に軍がクーデターに打って出たのは、機能しない警察力では対応しきれない国内の治安を維持・回復するためであった。それだけ当時の反タクシン派の街頭活動は破滅的であり、秩序や常軌を全く欠いたものであった。

 

権力を奪取したプラユット首相は当初、両派の和解を呼びかけたが、それが非現実的と分かると一気にタクシン派の排除に軸足を移した。

 

その後は、振り上げた拳をどこに下ろすかに腐心。国内外から軍支配への批判の声が上がると、正当化するための「民政復帰」に目標を変更した。

 

その後は既報の通りである。選挙に強いタクシン派が二度と政権を取らぬよう、周到な選挙制度を盛り込んだ新憲法を成立。三権分立をしのぐ強い権限を持った憲法裁判所や独立機関を整備した。

 

国民からの関心を失わないよう、経済回廊、鉄道、空港、港湾の各種開発など巨大利権を生むインフラの整備を国王の勅令にも相当する「平和秩序維持団布告」で進めた。

 

だが、そのような軍でも一筋縄にはいかないものがあった。一つは、無党派層から生まれた新党「新未来党」に象徴される、選挙権を持ったばかりの怒れる若者たちだった。

 

タイの自動車部品大手タイ・サミット・グループの創業家出身の御曹司、タナトーン氏が設立した新未来党は3月の総選挙で81議席を確保、第三党に躍り出た。

 

もっとも、財源を党首個人に頼ったことや功労者や年配者を顧みないスタンドプレー的な政治手法から信頼を落とし、かつての勢いは失われた。

 

タナトーン氏は憲法裁から議員資格剥奪の判決を受け、党も資金の出所を問題とされて解党手続きが進行中だ。

 

くすぶり続ける火種

そして、もう一つがこの間に逝去したプミポン前国王の後を受け即位したワチラロンコン国王並びに王室との関係だった。

 

現国王が暫定議会から即位の要請を受けた際に喪に服したいと回答を一時留保したことや、新憲法案に国王の権限強化を盛り込むよう求めたのは他ならぬワチラロンコン国王自身。軍はこれらを、強権に対する強い歩み寄りのサインと見るべきだった。(中略)

 

こうして迎えた19年の年末。タイの政治は、外に民主主義への期待と、内に不安要素を抱えて暮れようとしている。今のところ事実上の軍政に強権を改める気配はない。火種はくすぶり続けたままだ。【12月31日 SankeiBiz】

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ワチラロンコン国王が現在の軍部主流派とそりが合わないこと、以前からタクシン元首相と親しいことは周知のところですが、今後国王が政治的にどのように動くのか・・・よくわかりません。(大きなリスクを冒してまで軍・政権と対峙するようでもなさそうですし・・・)

 

タナトーン氏については、“財源を党首個人に頼ったことや功労者や年配者を顧みないスタンドプレー的な政治手法から信頼を落とし、かつての勢いは失われた”とのことですが、そのあたりの話はよく知りません。

 

以下のような記事で見ると(下記の調査の数字の信頼性はともかく)、相当に大きな支持を集めているようにも見えます。

 

****人気政治家トップ、失職したタナートーン氏がトップ****

世論調査NIDAポールが今月18~20日に18歳以上の有権者を対象に行った人気政治家に関する調査で、1位は反軍政派のタナートーン氏が31.42%となった。 

 

タイ地元紙によると、2位はプラユット現首相が23.75%、3位はタクシン派プアタイ党スダーラット党首が11.95%となった。17.32%が特にいないと回答した。

 

支持政党トップは反軍政派アナーコットマイ党(新未来党)の30.27%。以下プアタイ党の19.95%、タイ軍派パランプラチャーラット党の16.69%と続いた。【12月30日 Thai News】

 

来年1月21日に下される予定の、新未来党の解党を命じるかどうかのタイ憲法裁判所の判断が注目されます。

軍政時代からタイ司法は政権とベッタリですから、その点では解党命令が出ることが予想されますが、混乱を懸念するプラユット首相側の意向などがあるのか、ないのか・・・。

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アメリカ 多様な人種構成のなかで生じる積極的差別是正措置に関する問題、ヘイトクライム

2019-12-30 23:32:49 | アメリカ

(ホワイトハウスでハヌカを祝うイバンカさんの娘ローズちゃん【12月24日 Abema TIMES】)

 

【積極的差別是正措置の妥当性を問う訴訟】

日本も以前に比べると外国人が増えてきましたが、雇用や入試については “平等に扱う”ことが基本になります。

 

しかし、アメリカのように多様な人種が暮らし、かつ、人種間で経済的・社会的格差が存在するような社会では、形式的な平等よりも、現存する格差を是正する方向での対応(少数派の優遇)が求められることもあります。

 

しかし、そうした対応は、劣後する扱いを受ける多数派側からは“逆差別”の批判も生じます。

 

下記は、今年1月に報じられた名門ハーバード大学の入学差別に関する記事です。

表立っては「アジア系」の扱いに関する問題ですが、実質的には黒人などへの優遇策に対する白人保守派の反発があるとのこと。

 

****ハーバード大で入学差別か アジア系訴え、黒人にも波紋****

米大学の最高峰の一つ、マサチューセッツ州ボストン近郊のハーバード大学が入学選考をめぐって揺れている。アジア系米国人を差別していると訴えられているのだ。判決次第では、黒人ら少数派を優遇する「積極的差別是正措置」の撤廃にもつながりかねない。

 

「高校の成績は常にトップクラス。討論や数学の全国、州の大会で何度も入賞した。それなのにハーバードを含めた上位30校全てが入学を認めなかった」

 

ハーバード大を相手取った訴訟を支援する中国出身のジョージ・シェン氏(50)は米国生まれの長男が大学選びをした3年前の経験を振り返った。同大の入学選考を調べ始め、アジア系米国人への差別を確信するようになった。

 

大学を訴えたのはNPO「公平な入学選考を求める学生たち」(SFFA)。主張はこうだ。アジア系米国人は「大学進学適性試験」(SAT)などで好成績を収める傾向がある。だがアジア系への入学許可枠が少なく、ほかの人種より合格率が低い――。

 

米国の大学では選考で人種を考慮することは認められているが、人種枠の設定は違憲とされる。これに対しSFFAは、アジア系の受験者が増えているのに2006~14年の合格者に占めるアジア系の割合が18~20%とほぼ一定だと指摘。他人種の割合も変化がなく、実質的に人種枠があると追及する。

 

裁判では、学業成績だけで選べば入学者の43%がアジア系になるというハーバード大の内部試算も明らかになった。米国では積極的に発言する生徒の評価が高く、SFFAは「アジア系はおとなしい」との先入観でマイナス評価され、合格率が落ちると訴えた。

 

これに対し大学側は「人種を含めた志望者の全ての要素から柔軟に判定している」などと反論する。

 

学生や同窓生の25団体は裁判で大学擁護の意見書を提出した。その一つ、音楽グループ「21カラフル・クリムゾン」代表のジェームズ・マシューさん(20)はインド系米国人。白人が大半だったシカゴ郊外で生まれ育ち、周りとの違いを常に感じていた。「この国ではアジア系への偏見は間違いなくある」と話す。

 

だが、ハーバードは、肌の色や背景の異なる様々な学生が共に学び、刺激を与え合う。「ここは国のリーダーも輩出する学校だ。多様性のある環境での教育が極めて大事」。入学選考で人種への一定の配慮は必要、との考えだ。

 

黒人ら優遇に「逆差別」の声

この裁判が注目されるのは、大学入学選考にとどまらず、差別されてきた黒人らの待遇を改善する「積極的差別是正措置」(アファーマティブ・アクション)の存廃にかかわるとみられているためだ。白人保守派は白人への「逆差別」と捉え、撤廃を目指してきた。

 

今回もその延長線上で、原告側の真の狙いは、保守色を強める連邦最高裁まで持ち込み、積極的差別是正措置そのものを違憲とする判決を勝ち取ることではないか、とみられている。

 

こうした見方を裏打ちするのが、原告SFFAの実態だ。サイトには「学生や親ら2万人以上のメンバーを抱える」とあり、裁判ではアジア系米国人を代弁する。だが大学側は「SFFAは会長のエドワード・ブラム氏が自身のイデオロギー的目標のために作った装置」と切り捨てる。

 

ブラム氏は白人女性が08年、「人種を選考基準にすべきではない」とテキサス大を訴えた裁判の仕掛け人だった。この裁判では負けたが、今度はアジア系を前面に立てて揺さぶっているというわけだ。少数派優遇に批判的なトランプ政権はSFFAを支持する意見書を提出している。

 

このため「アジア系がブラム氏に利用されている」との批判もある。だがSFFAと協力する中国系中心の「教育のためのアジア系米国人連合」(AACE)のユーコン・ジャオ会長は「我々はブラム氏に会う前から運動している。こちらがブラム氏の影響力を利用しているようなもの」と意に介さない。

 

AACEはイエール、ブラウン、ダートマスなどの名門大にも入学選考で差別があるとして教育省司法省に調査を求めている。

 

一方、高等教育の構造的不平等を研究するコロンビア大学法学院のスーザン・スターム教授は「裁判が積極的差別是正措置との関係だけで語られるのは大きな問題」とする。

 

エリート校には恵まれた家庭出身の学生が多い。教育機会が得られない層をどう取り込むかがより重要で、積極的差別是正措置は「最も弊害の少ない方法」とみる。

 

スターム氏は「テストで順位づけをするから『自分の方が優秀で入学資格がある』といった考えになる。むしろ標準テストを選考要素から外すべきだ」とも提案する。(中略)

 

〈積極的差別是正措置〉 

少数派の人種や女性など歴史的、社会的に不利な処遇を受けてきた集団を優遇することで状況を改善する措置。米国では1961年、ケネディ大統領が連邦事業受注者の人種差別を禁じる大統領令を出したのが最初とされる。

 

その後少数派人種の優遇枠として導入が進んだが、「白人への逆差別」との批判が出て、入学選考をめぐる78年の連邦最高裁判決では人種枠設定は違憲とされた。一方、同レベルの候補者がいる場合に人種を考慮することは認められた。カリフォルニアなど取りやめた州もある。【1月16日 朝日】

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この裁判、10月にハーバード大学側の勝訴の判決は出ましたが、上記にも “保守色を強める連邦最高裁まで持ち込み、積極的差別是正措置そのものを違憲とする判決を勝ち取ること”が目的ではないか・・・とあるように、原告側は“必要であれば最高裁まで争う”と表明しています。

 

****米ハーバード大、入学者選考のアジア系差別訴訟で勝訴****

米国の連邦裁判所は1日、ハーバード大学がアジア系米国人の志願者を差別していると訴えられた民事裁判で、同大が入学者選考で人種を考慮に入れているのは適切だとして原告の主張を退けた。

 

(中略)大学側はアジア系学生への差別を否定する一方、個人の属性を含め、学業の優秀さ以外の幅広い選考基準を用いることの正当性を主張。人種は選考過程で考慮される多くの要因の一つにすぎないとしている。

 

また、大学側は昨年10月、3週間にわたり陪審なしで行われた裁判で、アジア系学生の比率は2010年以降大幅に増加していると説明していた。

 

この裁判の判決はかねて注目を集めてきた。アリソン・デール・バローズ判事は、ハーバード大の選考手続きは完璧とは言えないものの、現時点では、同大が多様な学生層を形成するために志願者の人種を考慮に入れるのは適切であるとの判断を示した。

 

ブラム氏は控訴する意思を示し、必要であれば最高裁まで争うと表明した。(後略)【10月2日 AFP】

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たとえ下級審で敗訴しても、“保守色を強める連邦最高裁まで持ち込み、最終的に違憲とする判決を勝ち取る”ことを目的とするということでは、同様の動きは中絶禁止を求める訴えなどでもみられます。

 

トランプ大統領が最高裁判事に保守派を送り込んだことは、リベラルに過ぎる現状を是正したいと考える保守層にとっては非常に大きな(おそらく政権最大の)功績となっています。

 

【多様性が重視されるなかで、人種・性的指向についてどう答えれば有利?】

いずれにしても、人種を選考過程で考慮することが認められているアメリカの場合、自分がどの「人種」に該当するとアピールすれば一番有利になるのか・・・・問題が存在します。

 

****あなたの人種は? 米大学願書の悩ましい質問 *****

どう回答すれば有利になるかを気にする志願者

米国の一流大学が多様性を推進するなか、共通願書のある項目が複雑な意味を持つようになっている。志願者のアイデンティティーについて聞く項目だ。

 

カウンセラーや家族によると、学生たちは入学がかつてないほど難しいと知っており、少しでも自分に有利になるように回答しなければならないと感じている。これに対して大学側は、学生から提供される情報を確認する方法がないことにいら立っている。

 

大学のカウンセラーは学生や親から以下のような質問を受けている。「少しでも先祖の血が入っていれば当てはまるか」「父親はキューバ人だが本人はスペイン語を話せない場合、ヒスパニックにチェックを入れるべきか」「実際は違ってもゲイまたはバイセクシャルだと申告すれば有利か」

 

(中略)共通願書は約900の大学に受け入れられている。年に100万人を超える学生が約500万通の送付に使う。属性のセクションへの回答は任意だが、共通願書の広報担当者によると回答率は90%だ。学生は自分が属する人種や民族ではなく、「自分をどう認識するか」をたずねられる。

 

大学の入学事務所内では、学生が本当に特定のグループのメンバーなのか、それとも制度に乗じようとしているのかを巡り議論や疑問が飛び交っている。

 

志願者の人種はほとんど影響せず、学校が検討する多くの要素の1つにすぎないと入学選考の担当者らは話している。だが、合格率が1桁の一流大学を目指す一部の志願者とその家族は、いくら小さな強みであってもことさら大きな意味があるかのように考える。

 

ここにきてアイデンティティーを詳しく聞くようになった背景には、一流校が米国の人口構成の変化を反映しようと努めていることがある。

 

連邦政府の統計によると、例えばハーバード大学では自分が白人だとする1年生が2010年の739人から18年には601人に減った。ラティーノの学生は144人から176人に、黒人は99人から167人に増えた。全体の人数は横ばいだった。

 

人種について虚偽の申告をする入学詐欺事件もあった。ある大学カウンセラーは、一部の顧客に黒人かラティーノだと申告するよう勧めた件で3月に有罪を認めた。弁護士はコメントを控えた。(中略)

 

一部の大学は入学に際して性的指向や性同一性を考慮している。大学でのトランスジェンダー方針に関する権利擁護団体「キャンパス・プライズ・トランス・ポリシー・クリアリングハウス」のコーディネーターによると、少なくとも28の大学が性的指向について志願者にたずねている。【12月24日 WSJ】

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“28の大学が性的指向について志願者にたずねている”というのも驚きですね。日本では絶対に考えられないことです。

 

【増加する反ユダヤ主義的ヘイトクライム トランプ大統領は批判するも・・・・】

「人種を考慮することは認められているが、人種は選考過程で考慮される多くの要因の一つにすぎない」という曖昧な話とは違って、「絶対にあってはならない」のが人種に関するヘイトクライム。

 

****米 ユダヤ教徒 刃物で切りつけられ5人けが ニューヨーク州 ****

アメリカ東部のニューヨーク州で28日、ユダヤ教の聖職者の家に男が押し入り、ユダヤ教の祭りを祝っていた人たちを刃物で切りつけ5人がけがをしました。

 

州知事は人種や宗教に対する偏見に基づいた犯罪「ヘイトクライム」の可能性があるとして警察の専門チームに捜査を命じました。

 

28日午後10時ごろ、ニューヨーク州南部のモンシーでラビと呼ばれるユダヤ教の聖職者の家に刃物を持った男が押し入り、ユダヤ教の祭り「ハヌカ」を祝うために集まっていた人たちを次々と切りつけました。
地元警察によりますと、5人がケガをして病院に運ばれたいうことです。(中略)

事件が起きた地域はユダヤ教の教義を忠実に守る「正統派」と呼ばれる人たちが多く住む地域で、先月も正統派の男性が暴行を受ける事件が起きています。

ニューヨーク市内ではユダヤ教の人たちをねらった嫌がらせなどの犯罪が相次いでいることから警察は27日からパトロールを強化しています。【12月29日 NHK】

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当然ながら、トランプ大統領も反ユダヤ主義への厳しい批判をツイートしています。

 

****「反ユダヤ主義根絶」と米大統領 事件受け投稿****

28日夜に米ニューヨーク市近郊でハヌカ(光の祭り)を祝っていたユダヤ教ラビ(指導者)の自宅で5人が刺された事件を受け、トランプ米大統領は29日、「反ユダヤ主義の邪悪に立ち向かい、根絶しなければいけない」とツイートした。(後略)【12月30日 共同】

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また、アメリカ史上最も“親イスラエル派”を自負するトランプ大統領は11日、ユダヤ教を宗教としてだけでなく国籍として再定義するとした大統領令に署名。反ユダヤ主義とみなす大学キャンパスでのイスラエル批判運動に対抗する狙いとみられています。

 

ただ、自身のポリティカルコレクトネスを無視した人種差別的言動、白人至上主義への寛容ともとれる言動が、隠れた存在だった白人至上主義をパンドラの箱から引き出すことになり、その流れで反ユダヤ主義も拡大しているということをどのように認識しているのでしょうか。

 

****ユダヤ人へ憎悪犯罪相次ぐ 米NY州、今月だけで13件****

米ニューヨーク州で、反ユダヤ主義的思想に基づくとみられる事件が相次いでいる。(中略)

 

クオモ知事によると、ニューヨーク州では12月初旬以降だけで反ユダヤ主義的な思想が背景にあると疑われる事件が13件発生。

 

男(28)が「ユダヤ教徒のクソ野郎」とののしって男性信者(65)を殴るなどのヘイトクライム(憎悪犯罪)が確認されている。男は暴行罪で起訴されている。【12月30日 朝日】

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トランプ大統領が最高裁判事に保守派を送り込んだことが保守派にとって政権最大の功績なら、人種差別・白人至上主義が拡散するパンドラの箱を開けたことは、社会全体にとって政権最悪の弊害でしょう。

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ハンガリー  強権支配で民族主義を重視する「非自由民主主義」を主張するオルバン首相

2019-12-29 23:38:23 | 欧州情勢

(【5月14日 ロイター】 互いに称え合うオルバン・トランプ両氏)

【「非自由民主主義」を掲げEU批判の急先ぽうに立つオルバン首相】

ほとんど話題にもなりませんでしたが、今月初めにハンガリーのオルバン首相が来日しました。

 

安倍首相はオルバン首相との会談で“ハンガリーが推進する質の高い経済発展を後押しし続けていく”【12月6日 日経】と・・・・・ただ、これまでも再三取り上げてきたように、ハンガリーはEU内にあって、ポーランドと並んで難民政策や温暖化対策などでEU指導部に批判的な立場です。

 

それは単に難民政策などにとどまらず、西欧的「自由主義的民主主義」への評価にもおよび、オルバン首相は強権支配で民族主義を重視する「非自由民主主義」を主張。具体的にはロシアや中国的なモデルを念頭に置いているとも指摘されています。

 

****シリーズ「揺れるEUの結束」(2)ハンガリー ~EU批判の急先ぽうオルバン政権「安定」の裏~****

「あなたもブリュッセル(EU本部)が何をたくらんでいるのか、知る権利がある」これは、ハンガリーのオルバン首相が、反EU・難民の受け入れ拒否のキャンペーンで打ち出したキャッチフレーズです。

 

とりわけ標的にしたのがEUのユンケル委員長。オルバン政権は、「ユンケル氏が難民をヨーロッパに引き入れている」と中傷を繰り返しました。

当然、ユンケル氏は激怒。今年3月、ヨーロッパ議会の最大会派で中道右派の「ヨーロッパ人民党」は、オルバン首相の率いる「フィデス・ハンガリー市民同盟」に対して、会派での資格を停止するという処分を決めました。(中略)

EUへの憧れと失望

ハンガリーは、ソビエトの影響下で社会主義体制が長かった国です。ソビエト崩壊後に市場経済に転じ、2004年に念願のEU加盟を果たした時、国民は発展への道が開けたと確信しました。

 

しかし、現在、EUに加盟する28か国の平均賃金を比較しますと、ハンガリーはEU平均の3分の1という低水準。低賃金を生かした工場誘致も思うように進んでいません。その結果、人口の推移をみますと、EU加盟後も人が減り続けているのです。

 

首都ブダペストに行ってみると、新しい道路や橋といったインフラから小児科病院などまで、EUからの財政支援で数多くの施設が整備されたことを示す看板が目につきました。間違いなく、EU加盟の恩恵にはあずかっています。

 

しかし、5月1日、加盟を祝って毎年開かれているという行進を取材したところ、去年は約3000人が参加したものの、今年はその10分の1ほど。盛り上がりに欠けていました。

 

市民からも、「発展は期待したほどではなかった」、「もうEUから出て行った方がいい」といった声が多く聞かれました。加盟から15年がたち、失望している人も多いようです。

 

EUの共通政策、その功罪

不満の背景には何があるのか。ブダペストから車で2時間ほど、過疎化が進む農村部に向かいました。プスタメルゲシュという村で見かけたのは高齢者ばかり。

 

ヨーゼフ・カルマ―さん

生まれた時から村に暮らしているというヨーゼフ・カルマ―さん(66)は、4人の子どものうち、長女はイギリス、長男はオーストリアへとよりよい生活を求めて国を出たと話してくれました。妻のマルギットさんは、「ここには、みんな戻ってこないでしょう」と寂しげにつぶやきました。

 

ハンガリーでは、有名なワインの生産地として栄えたこの村ですが、EU加盟によってフランスやドイツなどのワイン生産地との厳しい競争にさらされました。

 

さらに、EUが掲げたワインの減産政策に応じて、村では補償金をもらってぶどうの栽培をやめる農家が続出しました。この結果、ぶどう畑の面積はピーク時の4分の1にまで減ったといいます。

 

EU全体でのワイン生産量を抑えて、価格を維持するのが狙いだったのでしょうが、共通政策は、各国、各地域まで全て効果がある万能薬ではなかったのです。

 

ハンガリー・オルバン首相

過疎化が進んだという現実など、EUに対する強い不満を吸い上げることでオルバン首相は支持を拡大しました。とくに首相がやり玉に挙げるのが、難民や移民の問題。

 

4年前に40万人を超える難民らがハンガリーに流入して混乱が起きたことから、首相は、ことあるごとに「ヨーロッパは侵略されるのに、EUは守ってくれない」などと痛烈に批判します。EUは、加盟国で分担して難民を受け入れる制度を決めていますが、ハンガリーは分担を拒否し続けています。

 

難民がかつて流入したセルビアとの国境地帯に行くと、高圧の電流が流れている2重のフェンスがありました。全長500キロにも及ぶこのフェンスは、難民への強い不安を背景に、オルバン首相の人気向上に大いに貢献したといいます。

 

実は、現在では、国境を越えようとする難民や移民は、ほとんどいません。それでも、オルバン政権は、「またいつやって来るか分からない」とあおり、厳重な警備を続けています。

 

政権の安定の裏では腐敗も

反EUの姿勢が功を奏して政権基盤は安定しているオルバン首相ですが、その陰で腐敗と強権政治が進んでいるという指摘が絶えません。

 

その象徴が、首相の側近の1人、ルーリンツ・メイサロシュ氏。かつてメイサロシュ氏はガス管工事を行う小さな会社を営んでいるに過ぎませんでした。

 

しかし、同郷のオルバン首相の自宅で配管工事を請け負ったことで、一大転機が訪れます。首相の後押しを受けて町長に就任。それとともに、個人資産が急速に膨れあがっていったのです。(中略)アメリカの経済誌「フォーブス」は、メイサロシュ氏の総資産は日本円で1100億円を超えたと報じています。その富の源泉は、公共工事の受注です。

 

ブダペストに建設される国立競技場の建設など、この4年で2700億円分の工事を請け負ったとみられているのです。さらに、メイサロシュ氏は大手銀行や電力会社などを次々に買収しています。ほぼすべての産業にわたり、300社以上を手中に収めたとされます。

 

オルバン首相が、自分の息のかかったメイサロシュ氏にカネを流しているとみられる構図。その実態を調べているNGOのレダラー代表は、「オルバン首相は50年先のことを見据え、友人にカネを流して経済界で強大な権力を握ることで、自分が首相から退任しても、自分しか国を運営できないように、国の構造を変えようとしている」と分析します。つまり、「院政」を考えているのだと。

 

批判も封じ込め

ハンガリーでのこうした疑惑の数々も、メディアが相次いでオルバン首相の側近に買収されたために、批判はさして盛り上がっていません。

 

政権を追及してきた大手新聞社は、3年前にメイサロシュ氏の企業に買収され、政府に批判的な記事を書いてきた記者たちは、全員解雇されました。

 

専門家は、ハンガリーのメディアの大半が「御用メディア」と化したと指摘します。

 

司法当局の要職も、首相率いる与党の関係者がほぼ独占し、さらに、政権が憲法や法律を次々と改正したために、そもそも、首相は訴追されない状況を作り出したといいます

 

元閣僚は、オルバン政権について、「ヨーロッパで最も安定した政権となるための手段を全て握ってしまった」と嘆きます

 

さすがに看過できないとして、EUは、ハンガリーに制裁を科すことを可能にする手続きを開始していますが、全加盟国の同意は得られない見通し。オルバン首相のEU批判が収まることは、当分、なさそうです。

 

ブダペストの人たちにマイクを向けたところ、多くの人がオルバン首相を支持していると答える中、「普段は国外で暮らしている」というハンガリー人は、概して、首相に批判的なことが印象に残りました。

 

オルバン政権が国内のメディアを掌握しても、外国メディアは政権の問題点を遠慮なく伝えていることの表れでしょう。メディアの独立性がいかに重要か、日本から遠く離れた中欧で改めて認識した次第です。【5月20日 NHK】

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【互いに称え合うオルバン首相とトランプ大統領】

強硬な難民政策で支持を集め、メディアの批判を封じ込め、非リベラル的強権支配で政権基盤を固めるオルバン首相は、アメリカ・トランプ大統領とは非常にウマが合うようで、トランプ大統領はオルバン首相を高く評価しています。

 

****トランプ氏がハンガリー首相を称賛、強硬な移民政策に親近感****

トランプ米大統領は(5月)13日、首脳会談のためにホワイトハウスを訪れたハンガリーのオルバン首相を歓待し、自身と共通するオルバン氏の強硬な移民政策を高く評価した。

 

トランプ氏はオルバン氏について「恐らく私と同じように少しばかり議論を巻き起こしがちだが、問題はない。素晴らしい仕事をしてハンガリーを安全に保っている」と称賛。

 

オルバン氏がハンガリーの民主主義の基盤を弱めているのではないかと質問されても「私は彼がタフな男だと分かっているが、彼は尊敬を集めている人物だ」と語り、そうした懸念を一蹴した。

 

さらに「彼は移民問題で多くの人々(の要望)に応じて正しいことをしている」と明言した。

 

オルバン氏はナショナリストで、これまでしばしば反移民の姿勢や司法改革を巡って欧州連合(EU)と衝突し、米国のオバマ前政権とも対立してきた。ただトランプ氏はメキシコ国境沿いの壁建設を打ち出すなど移民問題では強硬なため、オルバン氏に親しみを持っているようだ。

 

オルバン氏も不法移民対策などで米国と同じ立場に立っていることを誇りに思うと発言。また自身の政権が何度も選挙を経てきた点を強調。「国民の国民による国民のための政治、これこそがハンガリー政府の土台になっている」と述べ、政策の正当性を訴えた。【5月14日 ロイター】

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【ポピュリスト・オルバンを支える地方の不満】

選挙に強い、国民の支持を得ているというのがオルバン首相やトランプ大統領の自信にもなっていますが、それは排外主義・民族主義を煽るポピュリストとしての性格がなせるものでもでもあります。

 

****浜矩子「ポピュリストたちの排外主義と戦う、自由都市の4人組にエールを」****

「ヴィシェグラード4」というグループがある。東欧の四つの国々の集まりだ。チェコ共和国、ポーランド、ハンガリー、スロバキアの顔ぶれである。1991年に結成された。

ヴィシェグラードはハンガリーの古都だ。ここで、1335年に当時のボヘミア・ポーランド・ハンガリーの3カ国が会議を開いた。現代のヴィシェグラード組も、それにならって結成場所を選んだ。この現代版ヴィシェグラード組に異変が起きている。

4カ国は、いずれもEU加盟国だ。だが、いずれの国でも、右翼排外主義タイプの政治家たちが「愛国」の反旗を翻して、人々のEU離れを煽り立てている。

 

彼らには、西欧型民主主義のお仕着せが気に食わない。司法の独立や言論の自由をもみ消そうとする。移民難民を排斥する。イスラム教徒を差別する。国粋主義の暗雲がヴィシェグラード4の空に垂れこめている。

それに対して、もう一つのヴィシェグラード組が抵抗ののろしを上げた。4カ国それぞれの首都の知事さんたちである。チェコのプラハ、ポーランドのワルシャワ、ハンガリーのブダペスト、スロバキアのブラティスラヴァ。これらの4都市は「自由都市協定」を結ぶ。4人の知事さんたちがそう宣言した。

彼らは高らかにうたい上げる。ポピュリストたちの排外主義には従わない。民主主義を守り抜く。言論の自由を確保する。国の方針がどうあれ、我ら自由都市グループは法の支配を尊重していく。人権を擁護し、多様性と包摂性を尊重する。独裁体制には屈しない。

素晴らしいことだ。彼らの勇気と魂の健やかさに心から敬意を表する。だが、気になることが一つある。自由都市の4人組がその旗印を高く大きく掲げれば掲げるほど、彼らと地方都市の住人たちとの間に溝が出来てしまうことにならないか。

いずれの国でも、ポピュリスト政治への支持は地方において高い。都市部のエリート族に何が分かるか。あなたたちの辛さは我らが一番よく知っている。国粋主義者たちの魔のささやきが、深く強く人々の心にしみとおってしまわないだろうか。そうならないことを祈りつつ、自由都市の4人組にエールを送る。【12月26日 AERAdot.】
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前出【NHK】にあるような地方ワイン農家の不満などを、オルバン首相はEU批判で巧みにすくい上げています。

トランプ大統領も同様です。

 

【政策よりアイデンティティー】

政策の内容より、国民の多くが共感しやすいアイデンティティーに訴えることで求心力を高めていきます。

 

****冷戦後30年、世界はいま 強権政治がモデル化、民主主義脅かす****

(中略)

 ■行き詰まりの象徴?

不安をあおるポピュリズムは、社会の変化が大きいほど支持も集めやすい。旧東欧諸国がその舞台となったのも、急激な民主化と市場経済の波に洗われ、近年は人口減や難民危機に苦しんだからだった。

 

ポーランドでは保守政党「法と正義」の政権が司法や報道への介入を強化。チェコやブルガリアの政権も強権的な姿勢をとる。中でも、権威的ポピュリズムを体現するといわれるのが、ハンガリーのオルバン政権だ。

 

ベルリンの壁が崩壊する前年の1988年、ハンガリーで社会主義体制に批判的な若者らが、政治団体「フィデス」を立ち上げた。その運動を主導した一人がオルバン・ビクトル氏。2010年に首相に返り咲いた同氏は、多数派の支持を背景に憲法裁判所の弱体化、メディア規制、大学への介入などを進める。(中略)

 

民主化の闘士から、強権的ポピュリスト政治家へ。オルバン氏の変節ぶりは、民主主義の行き詰まりを象徴するように見える。

 

もっとも、支持者にとっては逆に、同氏は首尾一貫して国家統合に向け奮闘する人物と映る。かつてはソ連、今はグローバル化やEUと、闘う相手が代わっただけだ。

 

民主化後、ハンガリーは他の旧東欧諸国と同様に欧米の政治経済や生活のモデルを追い求めた。その結果、それなりの自由と繁栄を得たものの、多額の対外債務を背負うことになった。若者たちは大挙して旧西欧に流出した。

 

「首相になったオルバンは、人々のこうした意識を変えようと試みました。ハンガリーの生活スタイルと伝統、キリスト教に基づいたアイデンティティーを確立しようとしたのです」

ブダペスト・コルビヌス大学のランチ・アンドラス学長(63)はこう説明し、同氏の手法を擁護する。

 

 ■暴走の危険をはらむ

ただ、多数派のアイデンティティーから外れる人々は疎外される。少数民族ロマ人を支援するエトベシュ・ロラーンド大学(ブダペスト大学)のマイテニ・バラジュ政治国際研究所長(46)は「彼らを社会的に排除する傾向が強まり、民主化以前よりも状況は悪化している」と危機感を抱く。

 

人々がアイデンティティーを通じて国家や社会に帰属意識を持つこと自体は、決して悪いことではない。アイデンティティーの共有は、対立や格差を時に和らげる。

 

一方で、東西冷戦や上下格差とは異なる分断をもたらすこともある。英国では、EU離脱派の間でイングランド人としての意識が高まった結果、そうした発想についていけない残留派との溝が修復不可能なレベルに広がった。

 

選挙そのものも今や、政策よりもアイデンティティーに左右される。それは、民主主義への信頼を低下させることにもなっている。

 

宗教や民族に依拠するアイデンティティーが制御を失い、紛争や虐殺に発展した例も、枚挙にいとまがない。ポピュリズムがもてあそぶアイデンティティーも、いつか暴走を始めないか。私たちは今、冷戦時代以上に複雑で予想しにくい世界にいるのかも知れない。【12月16日 ヨーロッパ総局長・国末憲人 朝日】

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【「大ハンガリー主義」】

オルバン首相が重視するのが他国に住むハンガリー系住民の支援。

 

****「非自由民主主義」掲げるハンガリー首相の狙いは*****

(中略)首相に就任したオルバン氏は選挙結果を「投票所革命」と呼び、新しい国造りに着手した。第二次大戦後に旧ソ連が導入した共産主義、そして冷戦終結後、西欧が導入した自由、平等などを重視する民主主義の価値観をともに否定。強権支配で、民族主義を重視する第三の道に進んだ。オルバン氏はそれを「非自由民主主義」と呼ぶ。

 

オルバン氏が真っ先に取り組んだのは、他国に住むハンガリー系住民の支援だった。

 

オーストリアなどに支配されながら数百年間、広大な領土を維持したハンガリー。だが第一次大戦の敗北で領土の5分の3を失い、ハンガリー系住民約1500万人のうち、約300万人がウクライナ、セルビアなどの隣国に住むことを余儀なくされた。

 

隣国との摩擦を生むため、これまでタブーだった民族問題にオルバン氏は切り込んだ。「国境を越えたハンガリー(人国家)の復活をオルバン氏は目指している」。フィデスのジョルト・ネメス元副外相(56)は力を込める。

 

だが、一部では「大ハンガリー主義」とも呼ばれるオルバン氏の手法に、ウクライナは強く反発する。オルバン氏の首相就任後、ハンガリー系住民の居住地域で自治権獲得を目指す動きが出ているからだ。

 

(中略)「オルバン氏の狙いは、ザカルパチア州をクリミアのように支配下に置くことだ。ウクライナはそう疑っている」。英シンクタンク・サストレのアンドラーシュ・ラドノーチ研究員は指摘する。【12月29日 産経】

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こうしたもろもろの話があるなかで、安倍首相は来日したオルバン首相に何を語り、何を伝えたのでしょうか?

 

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「少子化」を競う日中韓 日本では男性国家公務員の育休取得支援を管理職の人事評価に

2019-12-28 22:06:03 | 人口問題

(ローマ教皇フランシスコが投稿した画像=インスタグラムから。聖母マリアが眠る脇で、夫ヨセフがイエスをあやしている【12月28日 読売】)

 

【破滅への道「少子化」を競う日中韓】

なにかと問題が多い日中韓の三か国ですが、共通の課題は「少子化」

 

先ずは韓国。合計特殊出生率が今年7〜9月期で0.88(少子化の日本でも2018年で1.42)とのことですから、事態は深刻です。

 

****世界の出生率最低記録、韓国が今年、再び更新か―中国メディア****

2019年11月28日、中国メディアの澎湃新聞は、「世界の出生率最低記録は今年、韓国によって再び書き換えられるかもしれない」と報じた。

記事はまず、米ブルームバーグの27日付報道を引用し、韓国統計庁が27日発表した「人口動向」によると、今年7〜9月期の韓国の出生数は前年同期比8.3%減の7万3793人で、7〜9月期としては最も少なかったこと、また女性1人が生涯に産む子どもの推定人数である合計特殊出生率も前年同期比0.08ポイント下がった0.88で、7〜9月期として最低となったことを取り上げた。

その上で、「韓国統計局が以前発表した統計によると、2018年の韓国の合計特殊出生率は0.98で、韓国は同年に世界で唯一の出生率1人未満の国になった」と紹介。

 

「韓国KBSテレビによると、この背景には晩婚化と高齢出産化が進んでいることがある。ブルームバーグによると、韓国政府は、助成金付きの育児休暇、無料の保育所、政府の訓練を受けたベビーシッター、現金給付などの出産奨励政策に年間数十億ドルを費やしている。だが、これまでのところ、出生率の下落傾向を逆転させることにほとんど成功してない」と伝えた。【11月29日 レコードチャイナ】

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文在寅大統領が南北統一にこだわるのも、民族的悲願という話の他に、不足する労働力を北から・・・という現実的必要性があってのことでしょうか。ただの戯言です。

 

一人っ子政策の廃止で出生数が急増するはずだった中国でも、女性の出産意欲は著しく低いようです。

 

公式の合計特殊出生率は1995年頃から1.6強で横ばいとなっていますが、“米ウィスコンシン大学マディソン校の教授イー・フーシエンは、中国政府は「一人っ子」政策の破滅的な結果を覆い隠すために実際の出生率をぼやかしてきた、と指摘している。同教授の計算によると、2010から18年の合計特殊出生率は平均1.18だ。”【2月20日 GLOBE+】ということで、“ぼんやりと見えてきた中国の人口動態における危機は、この国が過去40年間に成し遂げた驚異的な経済変容のアキレス腱(けん)となる可能性がある。”【同上】とも。

 

****日中韓が共に直面する「少子化」、中国は韓国よりも危機的状況だ!=中国メディア****

(中略)中国の場合は一人っ子政策が2016年に撤廃されたが、それでも出生率は日本より低い1.1%程度にとどまっており、韓国より少し高い程度だと指摘し、日中韓ともに人口減少の問題を抱えていると主張した。

続けて、日中韓のなかで中国がもっとも危惧すべき状況に置かれているとし、それは「国民の出産意欲がもっとも低いからだ」と強調。

 

それぞれの国でほぼ同時期に行われた調査を比較すると、「韓国人女性の理想とする子供の数は2.45ー2.55人、日本人女性の理想は2.41ー2.6人だったが、中国人女性は1.75人だった」と指摘し、中国人女性の出産意欲は著しく低かったことを強調した。

さらに記事は、中国人女性が第2子の出産が「解禁」されても2人目の子を望まない理由として、家の購入や教育費など「養育にかかる費用の高騰」があると指摘し、女性は出産後も仕事を続けるのが一般的な中国では「出産と昇進」という難しい選択を迫られると指摘。

 

総合すると「中国は子どもを育てることが世界でもっとも苦痛となる国だ」と主張。結論として、どのような政策を推進しても、女性が子を望まないのであれば出生率はなかなか向上しないとし、その点で言えば「中国の人口危機が一番深刻である」と訴えた。【12月26日 レコードチャイナ】

*************

 

もちろん日本も“負けていません” 今年の出生数は明治32年に統計を取り始めて以降、最も少なくなる見通しで、少子化のペースは想定を上回っています。

 

****ことしの出生数 90万人下回る見通し 少子化想定上回るペース ****

ことし1年間に生まれた子どもの数を示す「出生数」は全国で86万人余りと、はじめて90万人を下回る見通しとなったことが、厚生労働省のまとめでわかりました。

 

出生数が86万人まで減少するのは国の予測よりも2年早く、少子化が想定を上回るペースで進んでいる実態が明らかになりました。(中略)

 

「令和婚」が出生数に影響か 厚労省

出生数が国の予測よりも早いペースで減少する見通しとなった理由について、厚生労働省は「若い女性の人口が減っていることなど、いくつかの要因が考えられるが、ことしは『令和』という新しい時代になってから結婚しようと、婚姻の機会を先延ばしにしていた人が多くいたことも、出生数の減少に影響を与えたのではないか」としています。(中略)

 

進む人口減少

(中略)平成17年(2005年)に初めて出生数が亡くなった人の数を下回り、自然減となりました。

 ことしは自然減の数が51万2000人と、初めて50万人を超える見通しとなり、人口減少も加速している実態が浮き彫りとなっています。

 

出生数減少の要因は

なぜ出生数が減り続けるのか。そこにはいくつかの要因が指摘されています。1つは「未婚率」の上昇です。

 

50歳の時点で結婚を経験していない人の割合は、平成27年の時点で男性が23.37%で全体のおよそ4人に1人、女性は14.06%で、7人に1人と、男女とも、これまでで最も高くなっています。

 

また、結婚する年齢が高くなる「晩婚化」も要因の1つとされています。

 平成30年の初めて結婚した人の平均年齢は男性が31.1歳、女性が29.4歳で、いずれももっとも高くなっています。

 

さらに収入が少なく生活が厳しいと感じる人が多くいることや、子どもを産む年齢が上がっていることなども少子化の要因になっているという指摘もあります。

 

平成27年に国の研究所が行った調査では希望する人数の子どもを持てていない夫婦に理由を聞いたところ、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えた人が最も多く56%、「高年齢で産むのはいやだから」と答えた人は40%にのぼっています。

 

専門家「今までと同じ発想では経済成長難しい時代に」

出生数の将来推計を行う国立社会保障・人口問題研究所の前所長で津田塾大学総合政策学部の森田朗教授は(中略)出生数の減少が医療や介護、それに年金といった社会保障制度に大きな影響を与えると考えています。

 

具体的には「少子化が進むと15歳から65歳程度と言われている生産年齢人口が減る。国の富を作り出して社会保障制度を支える世代が減り、高齢者の数が増えてくるので、社会保障を取り巻く環境は将来的にかなり厳しくなってくる」と指摘しています。

 

また経済に与える影響も大きいと指摘し、「少子化が進めば労働力も不足し、1人当たりの生産性を維持できても国内総生産が減少するおそれがある。今までと同じ発想では経済成長を遂げることが難しい時代になってくる」としています。

 

そのうえで、「ことし人口の自然減がはじめて50万人を超えたが、鳥取県の人口が55万人なので、1つの県とほぼ同じくらいの人口が毎年減っていくことになる。少子化対策に力を入れることはもちろん必要だが、これまで経験したことの無い少子化や人口減少が起きることを前提に、国の在り方を考えなければならない時期に来ている」と指摘しています。【12月24日 NHK】

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【必要な意識改革 先鞭をつける形となるか、公務員の育休取得促進策

日本政府も何も対応していない訳でもありません(当然のことですが)。

 

****未婚ひとり親、税軽減検討 寡婦控除と同程度に 政府・与党****

政府・与党は、未婚のひとり親の税負担を軽くする新制度を来年度から設ける方向で調整に入った。

 

配偶者と死別・離婚したひとり親には税額控除を受けられる「寡婦(夫)控除」があり、不公平だとの指摘があった。子どもの貧困に対応する狙いで、所得が低いひとり親に支給される児童扶養手当の受給者を対象に、寡婦控除と同じ税負担の軽減を受けられるようにすることを軸に検討している。(後略)【11月24日 朝日】

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伝統的な家族観を重視する自民党は「未婚を助長しかねない」などとして、これまで慎重な姿勢を示していましたが、さすがに危機感が勝ったのでしょうか。

 

日本の少子化を進めている背景は、伝統的な家族観云々といった議論にみられるように、家族・子育てに関する意識が現実の変化についていけてないところにあるように思われます。

 

したがって、少子化を根本的に改善するためには、税制などもさることながら意識の改革が最も重要でしょう。

 

その点で非常に今日的なメッセージとなっているのが、ローマ教皇の画像投稿でしょう。

 

****聖母マリアも育児で「休息」、ローマ教皇が画像投稿****

ローマ教皇フランシスコの画像共有サービス「インスタグラム」への投稿が話題になっている。

 

聖母マリアが横になってぐっすり眠っている脇で、夫ヨセフが生まれたばかりのイエス・キリストを抱きかかえ、あやしている画像で、男性が育児に積極的に関わるよう呼びかけるメッセージとなっている。

 

画像は25日に投稿されたとみられ、「母親に休息させましょう」とのコメントが添えられている。世界各地の約39万人のフォロワーが共感し、「教皇が推奨してくれれば現実になる」などのコメントが寄せられている。(後略)【12月28日 読売】

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この線に沿った日本の対応としては、以下のような措置も。

 

****育休支援、管理職の人事評価に 男性国家公務員、来年度から―政府****

政府が男性国家公務員の育児休業取得を促そうと、子どもが生まれた部下に管理職がどのような支援をしたかを人事評価に反映させる方向で検討していることが25日、分かった。

 

育休取得計画を作り、休んでいる間の業務分担を適切に行えるようにすることも検討している。職場全体で子育てしやすい環境づくりを進めるのが狙い。

 

2018年度の男性国家公務員の育休取得率は12.4%。過去最高を更新したが、女性の98.5%には遠く及ばない。育休期間も1カ月以下が68.7%と大半で、短期の取得が目立つ。

 

こうした状況を踏まえ、政府は20年度から、子どもが生まれた全ての男性職員に1カ月以上、育児に伴う休暇や休業を取得するよう促す方針だ。【12月25日 時事】

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よろしいんじゃないでしょうか。

部下が育休を取得しない管理職、育休を取得しない職員は、社会人としての責務を果たしていない、責務を果たせる環境をつくれていないとして人事評価を厳しく下げる環境にもっていければ。

 

仕事は組織でやっていますので、誰かが何とか穴は埋めます。そういう体制をつくるのが組織・管理職の役目です。

 

公務員だからできる・・・といった議論もあるでしょうが、まずはできるところから始めないと。

 

もっとも、こうした対応にはあまり期待できないとの指摘も。

 

****男性国家公務員の育休促進策が「絵に描いた餅」になりそうな理由****

政府は、男性の国家公務員について、原則として1ヵ月以上の育児休業取得を促すための具体策をまとめ、2020年度からの実施を目指すとした。

 

これは公務員が率先して取り組むことで、男性全体の育児休業取得率を向上させる目的がある。この背景には、核家族の比率の高まりで、両親の支援が得られ難い子育て世帯が増える一方で、子育てが夫婦の共同責任という意識も高まっていることがある。

 

他方で、平均的な男性の育児休業取得率は、2018年度で女性の82%に比べて6%と著しく低い。かつ、その内でも5日未満が36%、2週間以内が71%と、ごく短期間にとどまっているのが大きな特徴である。

 

これは子育てが基本的に女性の責任であり、男性はその補助的な役割にとどまるという考え方が、経営者や職場の管理職等では普遍的なためと考えられる。

 

こうした中で導入されるのが今回の促進策だが、国家公務員なら、その育休取得率を無理にでも引き上げられるのだろうか。また、仮に公務員で目標が達成できれば、民間企業でも同じことが実現可能なのか。

 

2018年には10%の大台に乗った国家公務員男性の育休取得率

男性の国家公務員の育休取得率は、2015年には3.1%と民間企業の社員と大差ない水準であったが、その後急速に高まり、2018年には10%の大台に乗った。(中略)

 

育休取得に必要な業務の効率化残業を強いる「国会待機」問題も背景に

それにもかかわらず、国家公務員についても長期の育休取得へのハードルは高い。これは「同僚に迷惑をかけること」が、公務員の育休の取得を妨げている大きな理由である点で民間と変わりはないためである。

 

この点については、1ヵ月以上の育休取得計画を事前に作り、業務体制を見直す案を作成することや、管理職の取り組み姿勢を人事評価に反映させるとあるが、そうした小手先の対策だけで十分だろうか。

 

国家公務員には、2020年度から5年間で3万人強(約10%)の人員削減計画という大きなリストラが控えている。こうした制約の下で、民間企業のように人員増加や派遣労働者等、外部人材を活用することもでき難い。

 

結局、業務の大幅な合理化を通じた長時間労働の是正なしには、長期の育児休業者の増加に対応することは困難といえる。

 

公務員の慢性的な長時間労働をもたらしている主因のひとつに、使用者にとって残業コストの低さがある。民間企業での残業代不払いは明確な労働基準法違反であるが、それが適用されていない国家公務員では、サービス残業をさせても罰則はない。

 

残業時間に応じた割増賃金を支払い、予算で定められた総額人件費の範囲内で働くという制約条件が効かなければ、慢性的な長時間労働の状況はいつまでも改善されない。

 

この典型例が、多くの公務員が深夜までの残業を強いられる国会待機である。野党の質問の提出時間の遅さが問題になっているが、本来、答弁者を困らせることが目的の野党に対して、事前に明確な質問内容を求めることは容易ではない。

 

大臣は、政策の基本的な内容や考え方についての質問のみに対して答え、細部は翌日までに文書で回答する等のルールに改革することで、より建設的な国会論争となろう。また、そうなれば、各省で大臣答弁を作成するコアの人員だけが待機することで、多くの労力が節約できる。

 

こうした改革を促す、最も単純な手段は、警察や消防、自衛隊等のストライキ権を除き、国家公務員にも労働基準法を原則適用することである。

 

現行の働き方を所与したままで、単に運用上の改善で長期の育児休業を奨励するという安易な方法では限界がある。残業手当を節約することが至上命令となり、そのために公務員の業務効率化を勧めざるを得ないような、強力なメカニズムが働くための効果的な手段を講じなければならない。

 

また、育休の取り方にも、部分就業の選択肢を設ける必要がある。男女に関わらず、たとえ限られた育休期間でも、完全に仕事から切り離されると、自分でしか対応できない案件が生じた場合に同僚に大きな迷惑がかかることへの危惧が、育休の長期化を妨げる大きな要因となる。

 

これを防ぐためには、育児休業期間中に、一定の範囲内で短時間勤務をしても、育休取得者に不利にならないような仕組みも必要となる(参照:「男性の育休取得、義務化の前にやるべき規制緩和の中身」)。

 

(中略)

日本の育児休業は先進国のなかでも画期的な制度であるが、それが制定された1992年当時と比べて、男性の育休取得の促進が新しい課題となっている。

 

これを促進させるために、民間よりも先行している国家公務員について、育休期間を1ヵ月以上に長期化させることで、民間企業についてもその底上げを図るという政策の意図は正しい。

 

しかし、その実現のためには、単なる管理職の意識改革等、運用上の対応だけではなく、男性の育休取得を妨げている長時間労働等の是正も、まず公務員側から始める必要がある。

 

そのためのひとつの手段が、民間企業の労働者と同様に、労働基準法を原則として公務員にも適用することである。男性の育休取得への制約という長年の課題を、働き方の制度改革なしに実現できるという甘い考え方では、その実現は絵に描いた餅となろう。【11月6日 昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏氏 DIAMOND online】

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“人事評価に反映させる”ということの実態如何でしょう。“管理職の意識改革”を促すレベルにとどめれば、上記のような結果にあるでしょう。

もっとシビアに、部下が育休を取得しない管理職、育休を取得しない職員は昇進できないという環境にすれば、目の色も変わるのでは。そのくらいやらないと意識なんて変わりません。

 

 

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ロシア  モスクワの記録的暖冬と依然として厳しいロシア政治の“冬”

2019-12-27 23:06:36 | ロシア

(【12月26日 CNN】 雪のないモスクワ)

 

【「天然雪、売ります」】

ロシア・モスクワでは記録的な暖冬になっているそうです。

 

****記録的暖冬のモスクワ、ホリデーシーズンに降雪なし****

モスクワ(CNN) ロシアの首都モスクワの気温が、12月としては過去最高の水準に達している。クリスマスや新年を祝う装飾に彩られた街路に雪はなく、今後も月末まで降雪はないと予測されている。

 

24日のモスクワの気温は6.2度を記録した。この日付の気温としては史上最も高い数字となった。

 

12月といえば例年なら雪が降り積もっている時期。季節外れの暖かさに見舞われ、人々の間では気候危機に関する議論が巻き起こっている。

 

ロシアは石油・天然ガスをはじめとする炭化水素エネルギーの輸出への依存度が非常に高く、これまで気候変動などの環境問題が積極的に論じられることは少なかった。

 

先週には記者会見に臨んだプーチン大統領に対し、気候変動がロシアにもたらすリスクについて質問が飛んだ。プーチン氏は世界中で気温が上昇していると認めつつも、こうした気候の変化が人間の活動に由来するものなのかどうかに関しては疑念を示した。

 

ロシアは地球温暖化の国際的なルール「パリ協定」の批准国だが、これまでのところ気候変動への対策をスムーズに進めているとは言い難い。今夏は北極圏で大規模な森林火災が発生し、そこから流れ込んだ煙がロシアの10以上の都市を覆う出来事もあった。

 

一方でモスクワ市民には、まだホワイトクリスマスを楽しむチャンスが残されている。ロシア正教会がクリスマスと定める1月7日には、東欧からくる強い低気圧の影響で気温が下がるとみられるからだ。ロシアの気象当局は、同国中央部に「冬」が戻ってくる期待が持てるとの見解を示している。【12月26日 CNN】

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ロシアのクリスマスが1月7日だというのは知りませんでした。

 

“気候変動がロシアにもたらすリスク”・・・・シベリアの永久凍土の融解、極北地域の利用可能性の拡大等々、メリット、デメリット双方とも極めて大きなものがあるでしょう。

 

“「冬」が戻ってくる期待”・・・暖冬を喜んでいるというのではなく、ロシアの人々にとっては冬はやはり寒い方がいいのでしょうか?

 

****133年ぶり暖冬、雪の降らないモスクワ ネットに「雪売ります」の広告も****

ロシアの首都モスクワは18日、12月としては133年ぶりに暖かい一日となった。12月に降雪がないのは珍しく、冬のレジャーが中止されたり季節外れの花が咲いたりしている。

 

気象センター「フォボス」は、モスクワ北部の観測所1か所で18日に気温5.4度を観測したと発表。1886年に記録した5.3度を上回る「12月18日の最高気温を更新した」と述べた。

 

例年モスクワでは12月半ばには雪が積もるが、今年はまだ降雪がなく、曇り空が続いている。ロシア気象当局は18日、今後さらに気温が上がる可能性もあると警鐘を鳴らした。

 

市内の植物園は今週、春の訪れを知らせる花として知られるスノードロップが「春と勘違いして」開花したとウェブサイトで発表。「もうすぐ桜も咲くかもしれないと植木職人らが心配している」とのコメントを添えた。

 

冬はスキーやスケートを楽しむ人々でにぎわうソコルニキ公園では、暖冬の影響で人工降雪機を使って営業していたスキー場が一時閉鎖に追い込まれた。

 

インターネット上では、シベリア・オムスクの住民が「天然雪、売ります」と人気通販サイトに冗談交じりの広告を出す例も。1立方メートルあたり1000ルーブル(約1750円)で、「モスクワ市民なら15立方メートル以上の注文で7%値引き」のサービスが受けられるという。 【12月19日 AFP】AFPBB News

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気温5.4度が“133年ぶりに暖かい一日”・・・・鹿児島に住む私にとっては信じがたい寒さです。

暖かさを伝えるはずのニュースですが、ロシアの寒さがむしろ際立ちます。

 

【秘密警察に支えられた「ハイブリッド政権」 反体制派のプーチン批判】

ロシアでプーチン批判の最前線にたつのが反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏ですが、同氏が率いる汚職追及団体「反汚職基金」関係者は以下のようにプーチン支配の実情を告発しています。

 

****プーチン支配の落日を告げる国民の怒り****

ロシア 秘密警察に支えられた「ハイブリッド政権」の危うさ リュボフ・ソボル(「反腐敗財団」弁護士)

 

ウラジーミル・プーチン大統領はロシアの顔ではない。ロシアは1億4600万人の名もなき人々の総体。その大半は、市民の自由と人権が尊重され法の支配がまともに機能する社会で暮らしたいと願っている。

 

ロシアの本当の声は国内でも国外でも往々にして無視される。外部の人の目にはプーチンは国民の圧倒的な支持を得ているように見えるかもしれない。

 

だが現実は違う。2019年夏に首都モスクワをはじめ各地で行われた大規模な抗議行動が明らかにしたように、ロシアの人々は民主化を求めて声を上げ始めた。

 

プーチンは国際舞台で私たちの名をかたって、いわゆる「ハイブリッド戦争」、つまり正規軍と共に秘密警察やサイバー部隊が暗躍する戦争を仕掛けてきた。

 

だが正式な宣戦布告はしておらず、ロシア政府はウクライナ東部で軍事作戦を展開していることを一貫して否定してきた。国際法違反だと知っているからだ。

 

プーチン政権そのものが秘密警察に支えられた「ハイブリッド政権」とも言える。ロシアの憲法は法の支配と三権分立、国民主権を保障しているが、現実には国民の声は政治に全く反映されず、政府機関はプーチンとその取り巻きの言いなりになっている。

 

プーチン政権は手段を選ばず公正な選挙を妨害してきた。

例えば、野党候補の立候補届けを却下する、野党の主張を伝えないようメディアに圧力をかける、あからさまな選挙違反を行うなどだ。

 

18年3月の大統領選では、最有力候補とみられていた反政府派の実質的指導者で弁護士のアレクセイ・ナワリヌイは立候補届けを受理されず、プーチンは出来レースで圧勝し、政権の座を維持した。

 

抗議の高まりに戦々恐々

ただし同年9月の統一地方選挙では野党が大躍進し、現政権に対する有権者の不満が明らかになった。西部のウラジーミル州の知事選では、現職の与党候補スペトラーナ・オルロワが極右の体制内野党・自由民主党のウラジーミル・シピャーギン候補に敗れる大番狂わせがあった。

 

19年の統一地方選では、ロシア政府は前年の「失敗」に懲りて、与党の苦戦が予想される地域では民主派ばかりか体制内野党の候補者の出馬まで妨害しようとした。

 

私もモスクワ市議選に出馬するつもりだったが、私を含む無所属の候補者は立候補に必要な有権者の署名を「偽造した」などという事実無根の理由で届け出を却下された。

 

投票日を6週間後に控えた7月下旬、民主派の候補者を支持する多数のモスクワ市民が当局の立候補妨害に抗議して大規模なデモを繰り広げた。

 

警察はデモ参加者を拘束。無許可のデモを呼び掛けたとして民主派の捜査に乗り出した。ナワリヌイが設立した調査機関「反腐敗財団」は外国の支援を受けた組織に指定され、銀行口座を凍結された。

 

プーチンはモスクワ市議選での敗北を異常なまでに恐れていた。なぜか。首都で野党が勝利すれば、国民は現政権を支持しており野党支持者はごく少数にすぎない、という神話が崩れるからだ。

 

だが9月8日に行われたモスクワ市議選ではリベラル系も含め野党勢力が支持を伸ばし、与党は大敗を喫した。

 

なりふり構わぬ民主派排除とデモ弾圧、そしてこの選挙結果がプーチン政権の終わりの始まりを暗示している【12月31日号 Newsweek】

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【拉致して“北極送り” 政権側の厳しい弾圧】

これだけの明快なプーチン批判が許されているなら、ロシアの政治状況にもまだ救いの余地があるのかも・・・とも感じてしまいますが、実際のところは批判が野放しに許されているわけでもなく、体制側の圧力も半端ないもののようです。

 

****露反体制団体幹部が“北極送り” 政権側の報復か***** 

ロシアの反体制派指導者、ナワリヌイ氏は25日までに、自身が主宰する「汚職との戦い基金」幹部の男性が、「徴兵」を理由に露連邦保安局(FSB)に身柄を拘束され、北極海の島「ノーバヤ・ゼムリャ(新しい大地)」に送られて実質的な拘束下にあると明らかにした。

 

露政権側は、9月のモスクワ市議会選で与党側の議席減を導いたナワリヌイ氏や周辺への圧力を強めており、ナワリヌイ氏は「政治的な報復だ」と政権側を批判している。

 

男性は、同基金マネジャーのルスラン・シャベデディノフ氏。

 

ナワリヌイ氏やインタファクス通信によると、シャベデディノフ氏は健康上の理由で徴兵に行けないことを示す診断書に基づいて10月、徴兵免除を求める訴訟を裁判所に起こした。しかし訴えは12月23日に棄却。同日にFSBはシャベデディノフ氏の自宅を捜索し、同氏を拘束。同氏はそのままノーバヤ・ゼムリャの軍事施設に送られたという。

 

ノーバヤ・ゼムリャは極寒の地として知られるほか、旧ソ連時代から核実験場として使用されてきた。

 

ナワリヌイ氏は、同地ではシャベデディノフ氏は電話の使用を禁じられるなど実質的な拘束下に置かれているとしている。ナワリヌイ氏は「正規の手続きを経ていない違法な徴兵で、実質的な政治犯の投獄だ」と政権側を批判。25日にはモスクワで、シャベデディノフ氏の解放を求めるデモが行われた。

 

ナワリヌイ氏は9月のモスクワ市議会選で、有力な非与党系候補に票を集める「賢い投票」戦術を呼びかけるなどし、与党側候補の議席を減少させた。政権側は今秋以降、資金洗浄容疑で同基金の関係先の捜索や資産凍結を行うなど、締め付けを強化していた。【12月26日 産経】

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ナワリヌイ氏本人に関しては、当局側は拘束・解放を繰り返しているものの、決定的な弾圧にまでは至っていないのは、影響の大きさを考慮してのことでしょうか。

 

****ロシア当局、反体制派指導者の団体本部を強制捜査****

ロシア当局は26日、反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が率いる汚職追及団体「反汚職基金」のモスクワ本部を強制捜査し、パソコンなどの機材を押収した。

ナワリヌイ氏や同氏の関係者は強制捜査について、連邦執行機関が行ったもので、メドベージェフ首相と富豪のアリシェル・ウスマノフ氏の汚職を指摘した動画を削除しなかったことに関連していると説明した。

連邦執行機関はロイターに対し、刑事捜査の一環としてナワリヌイ氏の団体を調べていると明らかにした。今回の捜査で拘束された人はいないとした。

ウスマノフ氏は2017年にナワリヌイ氏を名誉棄損で訴え、勝訴した。裁判所はナワリヌイ氏に対し、自身の動画の中でメドベージェフ氏とウスマノフ氏の汚職疑惑に言及した部分を10日以内にすべて削除するよう命じていた。メドベージェフ、ウスマノフ両氏は疑惑を否定している。

26日の捜査の様子をとらえた防犯カメラの映像には、覆面姿などの当局者らが電動工具を使って反汚職基金の正面扉を切断する様子が写っている。ナワリヌイ氏は建物の中から強制的に引きずり出された。【12月27日 ロイター】

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ロシア政治の“冬”は未だ厳しいようです。

締め付けは反体制派活動家だけでなく、一般国民にも。

 

****ロ政府、ネットの「主権」確保へ試験実施 活動家は検閲・隔離を懸念****

ロシアは23日、国外からのサイバー攻撃に備えてネットワークインフラの「安全性」を確保し、インターネットの「主権」を守るための試験を実施した。

 

人権活動家らは今回の試験を含む一連の施策について、検閲強化や国内ネットワークの隔離につながりかねないと懸念している。

 

ロシアのウラジミール・プーチン大統領は今年5月、国外サーバーから送信されるデータを遮断できるようにする法案に署名。同法は先月施行された。

 

新法には批判もあるが、デジタル発展・通信・マスコミ省は、政府がロシア国内のインターネットを世界のネットワークから隔離する準備をしているとの見方を否定。一般のネット利用者が試験に気付くことはないと説明している。

 

同省は今回の訓練について、インターネットの「完全性」を確保することが目的だと説明。アレクセイ・ソコロフ次官は記者団に対し、試験の結果はプーチン大統領に報告される予定で、訓練は今後も続けられると述べた。

 

国営ニュース専門チャンネル「ロシア24」が伝えた事実関係によれば、試験は2週間前から実施されていた。

 

ソコロフ次官によると、試験はサイバー攻撃に対する国内ネットワークの安全性のほか、携帯電話利用者の安全確保や、送信中のデータやテキストメッセージの傍受の可否について行われた。

 

新法はロシアのインターネット接続業者(プロバイダー)に対し、通信制御の集約を可能にするため、当局が提供した機器を導入するよう義務付けている。この機器はまた、公開が禁止されたウェブサイトへのアクセスを防ぐフィルタリング機能も備えている。

 

プーチン大統領は先週、年末恒例の記者会見で自国のインターネット政策を擁護し、ロシアは「インターネット鎖国に向かっている」わけではないと主張。「自由なインターネットと主権あるインターネットのどちらも、互いを排除する概念ではない」と述べた。

 

ロシアでは政治的議論や反体制的主張、抗議行動の組織化がインターネットを中心に行われている。人権活動家らは新法について、ビジネス向け交流サイト「リンクトイン」やメッセージアプリ「テレグラム」のサービス遮断といった過去の措置に続く新たな検閲だと主張している。 【12月26日 AFP】AFPBB News

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ロシア・プーチン大統領は、かつて東欧中央アジアの旧共産圏諸国で起こった一連の政権交代「カラー革命」(アメリカ(CIA)が関与していたとも言われています)を極度に警戒しているようです。

 

ただ、外からの関与を警戒して統制・管理を強めるほどに、内なる不満が膨らんでいくようにも。やがてその不満は抑えきれないものになるのではないでしょうか。

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パイプライン建設をめぐる関係国のし烈な駆け引き 「ノルドストリーム2」と東地中海ガス油田

2019-12-26 22:42:28 | 国際情勢

(ドイツ北東部ラーゲ沖の敷設船上で進む、ロシアとドイツを結ぶパイプライン「ノルドストリーム2」の敷設工事(2018年11月15日撮影)【12月22日 AFP】)

 

【エネルギーの安定確保を図りたいドイツ 自国シェールガスを売り込みたいアメリカ】

ロシアからドイツなど欧州に天然ガスを送るパイプラインは、2011年11月に稼働を開始した「ノルドストリーム」がすでにありますが、ウクライナなどの政治情勢に左右されないガスの安定供給を図りたいドイツが中心になって「ノルドストリーム2」が増設されています。

 

EU内には、ただでさえロシア依存が強いガスについて、更にロシア依存を強める、あるいは、ウクライナに関する制裁をロシアに科しているとき、ウクライナにとって経済的不利益となる「ウクライナ抜きのパイプライン」建設は好ましくない等々の批判はあります。

 

しかし、ドイツにとってエネルギー政策という国家の根幹をなす事業だけに、普段協調性の高いと見られるメルケル首相も、そうした批判に構うことなくパイプライン建設を押し進めてきました。

 

*****ロシアの欧州ガスパイプライン、年内にも完成か****

デンマークのエネルギー当局は30日、ロシアから欧州諸国に天然ガスをパイプラインで送る「ノルドストリーム2」計画のうち、自国の管轄海域を通る部分の建設を認めると発表した。

 

完成に必要な最後の手続きで、2年以上停滞した全長約1200キロのパイプライン計画は年内にも完成する可能性が出てきた。

 

同計画は、ロシア政府系の天然ガス大手ガスプロムの子会社が手がける。ロシアからバルト海を通ってドイツまで延びるパイプライン建設には、途中で通るフィンランドスウェーデンデンマークの建設許可が必要で、デンマークが最後の一国だった。

 

パイプライン建設は9割近く終わっている。ガスプロムの子会社幹部は30日、「デンマークの許可が得られてうれしい」の声明を出し、数週間以内に基礎工事に移れるとの見方も示した。

 

デンマークが慎重だったのは、ウクライナ危機を受けてEUが経済制裁を続けるなかで、許可を出すことには国内外から批判的な意見が出ていたためだ。

 

EU内には「欧州のエネルギーのロシア依存を高めてしまう」との懸念もあり、17年12月には議会が外交、安全保障問題を理由に管轄海域でのパイプライン建設を却下できる法律を成立させていた。

 

ただ一方で、ドイツなどは安価な天然ガスを安定需給できるとして計画に協力的だった。これに対し、欧州にシェールガスを売り込みたい米国のトランプ政権は、関係企業への制裁もちらつかせて強く批判してきた。

 

バルト海経由のパイプラインが完成すれば、従来のパイプラインが通るウクライナのガス通過料収入が大幅に減ることが予想されている。このため、ドイツメルケル独首相はロシアのプーチン大統領に対し、「ウクライナ経由のガス供給は続ける」との確約を求めた。

 

プーチン氏は30日、訪問先のハンガリーで記者会見し、パイプライン建設を認める決定をしたデンマーク政府を「自らの主権と、欧州市場へのロシアからの多角的なガス供給を望む欧州諸国の利益を守った」と称賛した。【10月31日 朝日】

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【アメリカの経済制裁で、建設スケジュール大幅遅延】

しかし、“欧州にシェールガスを売り込みたい米国のトランプ政権は、関係企業への制裁もちらつかせて強く批判してきた”というアメリカが、実際に精彩に乗り出し、建設スケジュールが大きく影響を受けそうです。

 

*****独ロ結ぶパイプライン建設、参加企業に制裁科す法案 トランプ氏が署名し成立****

ドナルド・トランプ米大統領が20日、ロシア産天然ガスをドイツに運ぶパイプライン建設プロジェクトの参加企業に対する制裁が盛り込まれた国防権限法に署名し、同法は成立した。

 

このプロジェクトは、(中略)欧州一の経済大国ドイツへのガス供給倍増が目標だ。だが米議会は、欧州同盟国に対するロシアの影響力を増大させるものだと危機感を募らせている。

 

2020会計年度の国防予算の大枠を定めたNDAAの一部に盛り込まれた制裁は、ノルドストリーム2およびロシアとトルコを結ぶパイプライン「トルコストリーム」建設の参加企業が対象。

 

制裁の内容は、工事請負業者の資産凍結や米国ビザ(査証)取り消しなど。全容はまだ明らかにされておらず、60日以内に制裁対象企業と個人の名前が公表されるという。

  

(中略)米国による制裁の動きにドイツとロシア、欧州連合が直ちに反発。中でもドイツは21日、ウルリケ・デンメア首相報道官が「こうした種類の域外制裁は認められない」との声明を発表。「ドイツおよび欧州企業が痛手を受ける。制裁はわが国に対する内政干渉だ」と主張した。

 

ノルドストリーム2の総工費110億ドル(約1兆2000億円)は、半分をロシア国営天然ガス企業「ガスプロム」、残りの半分を欧州企業5社が出資しており、既に海底パイプラインの80%超が完成している。 【12月22日 AFP】

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EU全体の利益よりも、自国利益を優先させるドイツのしたたかさも目立ちます。

 

アメリカ・トランプ政権も“ロシアの影響力を増大させる”云々を掲げていますが、本音では、前出のように“欧州にシェールガスを売り込みたい”という思惑があってのこととみられています。

 

本来の話をすれば、そういう経済的目的のために同盟国欧州の企業に制裁を科す、しかも完成間近という段階で・・・というのは、ありえない話にも思えるのですが、トランプ以降はこうした“ありえない話”がゴロゴロしています。

 

さすがにアメリカの影響力は絶大で、“完成が来年後半にずれ込む可能性も取りざたされている”とも。

“露のガスパイプライン、完成大幅遅れ…米制裁で作業停止”【12月22日 読売】

“ノルドストリーム2、米制裁で完工遅れコスト増加へ=独与党議員”【12月23日 AFP】

 

ロシアのメドベージェフ首相は23日、「(米制裁の影響が)壊滅的になることはない」【12月24日 ロイター】との姿勢を見せていますが、プーチン大統領も、自国が保有するパイプ敷設船で完成させることが可能との認識しています。

 

****ノルドストリーム2、ロシア大統領が自力建設を示唆 米制裁で****

ロシアのプーチン大統領は25日、ドイツに天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム2」建設事業について、自国が保有するパイプ敷設船で完成させることが可能との認識を示した。ロシア紙コメルサントが26日、複数の匿名の情報筋の話として伝えた。

米国では今月、ノルドストリーム2敷設事業に参加する企業に制裁を科す法律が成立。これに伴い、スイス・オランダ系のオールシーズが制裁を回避するためパイプ敷設船による敷設作業を中止した。

コメルサントによると、プーチン大統領は25日夜、財界要人らに対し、ロシアがパイプ敷設船を有すると述べるとともに、米国の制裁により完成は数カ月「延びる」見通しを示した。(後略)【12月26日 ロイター】

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ロシア・ガスプロムが有するパイプ敷設船「アカデミック・チェルスキー」の能力次第というところですが、どうでしょうか?

 

エネルギーを通じて国際関係に長期間影響することになるパイプライン建設は、国際関係・外交の縮図ともなりますが、上記のような展開をみていると、よく言えば“実にダイナミックな外交戦”、悪く言えば“何でもありの、切った張ったの世界”のようにも。

 

誠実さを旨とする日本外交の出る幕でもないような・・・。

 

【キプロス沖のガス油田開発に、リビア「暫定政府」とのEEZ合意で割り込むトルコ】

パイプラインに関するもうひとつの話題がトルコから。

 

キプロス・イスラエル近海の東地中海では大規模なガス油田が発見され、開発が進んでいますが、「トルコと北キプロスの権利を侵害している」とする(これまで仲間はずれになってきた)トルコとの軋轢が増しています。

 

そんなトルコが、内戦が続くリビアの(有名無実とは言わないまでも)一方の勢力である「暫定政府」との間で排他的経済水域(EEZ)の境界に合意、今後トルコの了解なしにパイプライン設置はできない・・・と、エルドアン大統領は主張しています。

 

トルコ側の強みは、難民問題で欧州の防波堤となっているという現実です。

 

****東地中海、新たな火種 天然ガス資源争奪 トルコ・リビア、広大なEEZ策定****

天然ガス資源の争奪が激化している東地中海をめぐり、トルコが東西分裂状態のリビアの暫定政府との間で排他的経済水域(EEZ)の境界に合意した。

 

欧州へのガス輸送計画を阻まれかねないギリシャやキプロスは猛反発。地域の新たな火種となっている。

 

地中海では2009年からガス田の発見が相次いでいる。沖合で見つかったキプロスとイスラエルは、ガスを欧州に輸出するため、ギリシャなどと協力して「東地中海パイプライン」計画に取り組んでいる。

 

トルコも沿岸国だが、キプロス島の南北分断が影響し、思うようにガス田開発に参画できていない。

 

キプロス島では、1983年にトルコ系住民の多い島北部が、トルコだけが承認する北キプロス・トルコ共和国として独立を宣言。島南部のキプロスをトルコは承認していない。

 

トルコはキプロスによる資源開発を「トルコと北キプロスの権利を侵害している」と反発。5月にはトルコの掘削船がキプロスのEEZ内で作業を開始し、緊張が高まっている。

 

孤立を打開したいトルコが目をつけたのが、東西で分裂し混乱しているリビアだ。トルコは11月末、西部の暫定政府との間で両国間のEEZを定める覚書に合意。東地中海で主張する広大なEEZの範囲を公表した。さらに双方は軍事協力に関する覚書も取り交わし、関係を強化した。

 

キプロス側の「東地中海パイプライン」は、トルコとリビアが合意したEEZを通らざるを得ない。エルドアン大統領はトルコメディアに、「この覚書でキプロス、ギリシャイスラエルともにトルコの同意なしには、ガスの輸送ラインは設置できなくなった」と牽制(けんせい)した。

 

マルテペ大学(トルコ)のハサン・ウナル教授はトルコの狙いについて、「東地中海からトルコを排除しようとする沿岸国の同盟にくさびを打ち込み、トルコとの交渉のテーブルにつかせることだ」と分析する。

 

 ギリシャは猛反発

キプロスとパイプライン計画を進めるギリシャは、同国南部のクレタ島などの存在を無視したEEZの主張に猛反発。合意がギリシャの主権を侵害し、国際海洋法条約に反するとしている。来月4日には、フランスエジプトとともに会合を開き、トルコへの対応を協議する。(中略)

 

だがEUは、東地中海でのトルコのガス田掘削を「違法行為」と認めるものの、今回のEEZの設定に対して、具体的な制裁に踏み切れずにいる。

 

背景には、難民の受け入れ問題がある。トルコとEUは16年、ギリシャ不法入国したシリア難民をトルコに送ることで合意。これで欧州へのシリア難民の波が収まった。

 

最近はシリア北西部で戦闘が激化し、トルコ国境に新たな避難民が押し寄せている。エルドアン氏は今月22日、「トルコだけでは新たな難民の負担に耐えられない」と牽制。EUとしても、トルコを刺激し、再び「難民危機」を招くのは避けたい事情がある。

 

また、EU内でもリビアの暫定政府との関係が「一枚岩」ではない。EUは暫定政府を認めているが、リビアでの油田開発に自国企業が関わるフランスは、リビア東部を支配する「リビア国民軍(LNA)」側に近いとされる。仏メディアによると、仏軍が所有していた対戦車ミサイルがLNAの拠点から見つかった。

 

EEZをめぐって暫定政府に反発するギリシャもLNAに接近しており、事態が複雑化している。【12月26日 朝日】

*****************

 

【リビアへの「暫定政府」応援部隊派遣も ロシアとの調整が必要】

トルコ・エルドアン大統領はリビア「暫定政府」とのEEZ合意だけでなく、応援部隊をリビアに派遣するとしています。

 

実行されれば、関係国の利害が入り乱れて泥沼化しているリビア情勢が更に混沌とすることにもなります。

 

****トルコ、リビアの要請に応じ部隊派遣へ=エルドアン大統領****

トルコのエルドアン大統領は26日、リビアから要請があったため、同国にトルコ軍の部隊を派遣すると発表した。部隊派遣のための法律を1月に議会に提出する方針も示した。

トルコとリビアは11月、リビアと地中海東部の境界線と軍事協力に関する協定を結んだ。

リビアでは暫定政府と同国東部を拠点とするハフタル氏が対立しており、トルコは暫定政府を支援している。

暫定政府はリビア東部で数カ月にわたり、ロシアやエジプト、アラブ首長国連邦(UAE)が支援するハフタル氏の部隊と戦闘を繰り広げている。(後略)【12月26日 ロイター】

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ハフタル氏を支援するロシアと利害が対立することになり、調整が必要です。シリアも同様の構図です

 

****ロシアとトルコがシリア・リビア問題で協議、妥協点探り3日間=新聞****

モスクワを訪問したトルコ政府の代表団とロシアの外交当局者らが予想を超える3日間にわたって会談し、シリアとリビアを巡る問題について妥協点を探った。26日付のロシアの日刊紙、ベドモスチが報じた。

シリアの反体制派の拠点である北西部イドリブ県で、ロシアを後ろ盾とするアサド政権の空爆により避難を強いられた数万人の市民がトルコに向かっているとの報告を受け、トルコの代表団は23日にモスクワ入りした。

トルコ大統領府のカリン報道官は24日、モスクワでのトルコ代表団との会談後、ロシアはイドリブ県での攻撃をやめさせる努力をすると約束し、トルコ政府はこの約束が守られることを期待していると述べた。

トルコとロシアは、東西に分裂して戦闘が続くリビア情勢についても協議した。リビアでは暫定政府と同国東部を拠点とするハフタル氏が対立しており、トルコは暫定政府を支援している。トルコのエルドアン大統領は20日、ハフタル氏を支援するロシア系を含む雇い兵を黙って見過ごすことはないと発言した。

一方、ロシア政府は同日、トルコがリビアに派兵する可能性について懸念を表明した。【12月26日 ロイター】

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シリアでもロシア・トルコは(ウィン・ウィンで)結構うまくやっているようですので、リビアでも・・・といったところでしょうか。

 

 

 

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アフガニスタン  国民からもアメリカからも期待されない政府  撤退希望のトランプ氏 米軍再編も

2019-12-25 22:32:01 | アフガン・パキスタン

(【1129日 BBC】1128日、トランプ大統領は感謝祭に合わせてアフガニスタンの米軍基地を訪れ、タリバンとの和平協議を進めていると明らかにしました。)

 

【国民の期待の小ささを示す低投票率】

9月に投票が行われ、「あの選挙の結果は一体どうなったのだろうか?」との疑問もあった、あるいは、選挙が行われた自体が忘れ去られていた感もあるアフガニスタンの大統領選挙。ようやく「暫定結果」が発表されました。

 

****現職ガニ氏、過半数獲得=アフガニスタン大統領選暫定結果―不服申し立て紛糾も*****

アフガニスタンの選管は22日、大統領選(9月28日投票)の暫定結果を公表し、現職のガニ大統領が当選に必要な過半数の票を獲得したと発表した。選管は今後、最終結果を発表予定で、その時点でガニ氏の得票が過半数に達しなければ決選投票が実施される。

 

選管によると、ガニ氏は全体の50.64%を獲得。政権ナンバー2のアブドラ行政長官が39.52%で続いている。投票率は20%弱とみられ、治安への不安から、6割弱だった前回より大幅に低下した。候補者は今後3日間、不服を申し立てることができる。

 

暫定結果は当初、10月19日に発表が予定されていた。しかし、選挙の公正さを疑う声が相次ぎ、票を数え直した影響などで2度も延期された。ガニ氏は22日、暫定結果発表を受け「われわれは国家の結束に向け前進している」と演説した。

 

アブドラ氏は投票日直後の9月30日、一方的に「わが陣営の得票が一番だ。決選投票にはならない」と宣言、選管がこれを否定して緊迫した。不信感は今も解消されていない。

 

アブドラ氏は22日の声明でも「暫定結果を拒絶する」と表明した。不服申し立てを行うとみられ、事態は紛糾する恐れがある。

 

ガニ氏とアブドラ氏は、2014年の前回大統領選で決選投票を争ったが、アブドラ氏が不正を理由に選挙結果を認めず、アフガンは一時、国家分裂の危機に陥った。ガニ氏が、新設したナンバー2の行政長官にアブドラ氏を任命して権力を分け合う形で混乱を収束させた経緯がある。

 

国連アフガン支援団(UNAMA)トップの山本忠通事務総長特別代表は声明で、暫定結果が公表に至ったことを歓迎。最終結果公表を前に「アフガンのすべての当事者は、選挙を完遂する責任を行動で示さなければならない」と強調した。【1222日 時事】

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50.64%”・・・・決選投票なしで決まる過半数ギリギリ。微妙な数字ですね。

上記にもあるように、前回、そして今回の投票直後のアブドラ氏の対応からして、すんなり了承するとは思えません。

 

まあ、「もし不正をするなら、こんなギリギリの数字ではなく、もっと都合のいい数字にするだろう・・・」という勘繰りもあり得ますが・・・・

 

誰が当選したかより重要なのは、投票率が20%弱(暫定で18.8%)だったという点でしょう。

タリバンの妨害で選挙がまともに行えない状況にあること、国民も選挙結果に殆ど期待していないことの現れです。

 

****アフガン政府、続く苦悩 ガニ氏2期目に前進も投票率過去最低****

アフガニスタン大統領選(9月投票)で現職のガニ大統領が暫定結果で過半数を得票した。再選が正式に決まれば、2期目の政権は治安や経済など国内の混乱をいかに収束させるかが課題となる。

 

イスラム原理主義勢力タリバンは攻勢を強めており、安定実現は見通せない。再開された米国とタリバンの和平協議に立ち合いすらできない状況も変わらず、苦悩は続きそうだ。(中略)

 

ただ、待ち受けるのは苦難の道だ。投票率は暫定的ながら18・8%で過去最低。2004年の第1回大統領選では70%を超えており、低下が続く。

 

「和平が実現するかが国民の最大の関心事。政府への期待は低く、(有権者は)選挙に関心がなかった」とは政治評論家のモハメド・ハキヤール氏の分析だ。タリバンが大統領選を「国民を欺くもの」と批判し、投票所への攻撃を宣言したことも低投票率の一因となった。

 

国内ではタリバンなど武装勢力の伸長で政府の支配領域が減少を続け、国土全体で政府の支配や影響力がおよぶ地域は6割に満たない。4日には日本人医師、中村哲さん(73)が殺害される事件も起きたように、治安の悪化は深刻だ。

 

政治家や公務員の腐敗も批判の的で、国際NGO(非政府組織)が汚職の状況を指数化した「腐敗認識指数」によると、アフガンは180カ国・地域の中で172位だ。「こうした課題に政府は打つ手立てがない」と外交筋は話す。

 

“国民の最大の関心事”である和平についても、ガニ氏は「政府抜きにはありえない」と主張するが、米国とタリバンの協議に参加できない状態に変化はない。

 

タリバンの報道担当者は20日、政府を含めアフガン国内の勢力との和平協議については「米軍の完全撤退が完了するまで行われない」との姿勢を改めて表明した。

 

ソ連のアフガン侵攻から24日で40年を迎え、続く混乱に国民の疲労は蓄積している。「それでも政府が平和と安定をもたらすという期待は小さい」(ハキヤール氏)といい、求心力拡大は容易ではなさそうだ。【1225日 産経】

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【「アフガニスタン・ペーパーズ」・・・・アフガニスタンに強力な中央政府を作ろうとしていたが、それは愚かな政策だった】

これまでアフガニスタン政府を支援してきたアメリカの歴代政権も「アフガニスタンは失敗だった」との認識を持ちながら、そのことを隠蔽しつつアフガニスタンに関与し続けてきた実態が、内部文書でも明らかにされています。

 

*****アフガン文書公失敗を隠蔽実態解明求める声強まる *****

アメリカの有力紙が、アフガニスタンでの軍事作戦や復興支援をめぐり、アメリカ政府高官らが失敗を認識しながら、国民に隠蔽していたとする内部文書を公表したことを受け、議会は文書をまとめた特別監察官に証言を要求するなど、実態の解明を求める声が強まっています。

 

この文書は、アメリカ政府の特別監察官室が18年にわたって続く、アフガニスタンでの軍事作戦や復興支援に関わった政府高官や軍の幹部らに聞き取り調査した際の2000ページにわたる証言記録をアメリカの有力紙、「ワシントン・ポスト」が入手し、公表したもので、ベトナム戦争の内実を記録したアメリカ国防総省の機密文書、「ペンタゴン・ペーパーズ」になぞらえて、「アフガニスタン・ペーパーズ」と呼ばれています。

文書には多くの当局者が作戦が失敗だったことを認識し、成果が上がっているように装うため、意図的に不利な統計データの隠蔽や改ざんが繰り返し行われていたことが記されています。

国防総省は「文書はいずれ公表される予定で、国民に隠蔽するつもりはなかった」と釈明していますが、議会からは文書に登場する政府高官らを議会に呼んで証言させるべきだとの声が上がっています。

議会下院の外交委員会は、来年の初めに、文書をまとめた特別監察官を議会に呼んで公聴会を開催することを明らかにしていて、アメリカ国内では、実態の解明を求める声が強まっています。

 

失敗認識しながら見せかけの成果を強調

アフガニスタンでの軍事作戦と復興支援をめぐって、アメリカの歴代大統領や政府高官は、長年にわたり成果はあがっていると強調してきましたが、アフガニスタン・ペーパーズには、多くの当局者が失敗だったと認識していたにもかかわらず、見せかけの成果ばかりが誇張されてきたことが赤裸々に記録されています。

 

<失敗の認識>
▽ブッシュ政権とオバマ政権で、ホワイトハウスの軍事顧問を務めたダグラス・ルート退役陸軍中将は2015年に行われた聞き取り調査に対し「アフガニスタンに関する根本的な理解が欠けていた。われわれは何をやろうとしているのか分かっていなかったし、何の考えも方向性もなかった」と証言しています。

▽また、国務省でアフガニスタン政策を担当したジェームス・ドビンズ元特別代表は、2016年の調査で「われわれは紛争の絶えない国家に侵攻し、平和的な国家につくりかえようとしたが、アフガニスタンでは明らかに失敗した」と述べ、失敗を率直に認めています。

▽アフガニスタンの復興支援が失敗した理由について、国務省の当局者は「われわれはアフガニスタンに強力な中央政府を作ろうとしていたが、それは愚かな政策だった」と述べ、各地の部族が大きな力を持つ現地の実情を無視した国造りを進めた結果だと指摘しています。

18年間に及ぶ軍事作戦と復興支援のために、およそ1兆ドルが投じられたとの研究機関の分析を念頭に、ブッシュ政権とオバマ政権でアフガニスタン担当上級部長を務めたジェフリー・エッガー氏は、2015年の聞き取り調査で「1兆ドルを投じてわれわれは何を得られたのだろうか? 果たして1兆ドルの価値があったのだろうか? オサマ・ビンラディンは、アメリカがどれだけの資金をアフガニスタンに投じたのかを考えて、きっと墓の中で笑っているだろう」と述べ、巨額の資金に見合う成果は得られなかったと指摘しています。

<データ改ざんや隠蔽>
また、文書には軍事作戦の成果があがっているように装うため、意図的に不利な統計データの隠蔽や改ざんが繰り返し行われていたと記録されています。(後略)【1214日 NHK】

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「われわれはアフガニスタンに強力な中央政府を作ろうとしていたが、それは愚かな政策だった」・・・大統領選挙の投票率が20%弱という実態は、こうした認識を裏付けるものでもあります。

 

ただ、ではどうすればいいのか・・・・という問いかけには、答えがわかりません。

 

【米タリバンの和平交渉を妨害する勢力】

アメリカの対応はある意味簡単です。なんとか理由をつけて撤退すればすむ話ですから。

 

もはやアフガニスタン政府に期待もしていないアメリカは、アフガニスタン政府抜きのタリバンとの直接交渉を断続的に続けてきました。

 

そうしたアメリカ・タリバン交渉を妨害するように、9月に続き、再びタリバンによる米兵殺害が。

 

*****タリバンの襲撃で米兵1人死亡 アフガニスタン*****

アフガニスタンで22日夜、駐留米軍の車列が旧支配勢力タリバンの攻撃を受け、その後発生した戦闘で米兵1人が死亡、数人が負傷した。米軍が明らかにした。

 

タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は23日、メッセージアプリ「ワッツアップ」で、タリバン戦闘員らが「北部クンドゥズ州で米軍車両を爆破した」と述べ、犯行を認めた。

 

今回の襲撃は、現在進行している米国とタリバンの和平交渉に影響する可能性が高い。9月にアフガニスタンの首都カブールでタリバンが実行した爆破攻撃で米兵1人が死亡した際には、ドナルド・トランプ米大統領が交渉は「死んだ」と述べて協議を打ち切っている。

 

その後、協議はカタールの首都ドーハで再開されたが、今月カブール北方にあるバグラム空軍基地で新たに爆破攻撃が発生して以降「一時中止」されていた。

 

今回の襲撃の前日には、今年928日に実施されたアフガニスタン大統領選の暫定結果を選挙管理委員会が発表し、現職のアシュラフ・ガニ氏が半数を超える票を獲得したと明らかにしていた。タリバンはこれまで、ガニ氏が米国の言いなりになってきたとの見解を示している。 【1223日 AFP】AFPBB News

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交渉がまとまりそうになると起きる米軍への攻撃・・・・おそらくタリバン内部に和平をめぐる路線対立があり、和平を望まない勢力が和平交渉の進展を妨害するために行っているのでは・・・・とも想像されます。

 

そうした勢力に打撃を与えるためには、交渉を中断することではなく、和平を実現することであるようにも思うのですが。

 

****トランプ米政権、タリバンとの和平思惑通りにいかず アフガン情勢****

トランプ米政権は、アフガニスタン大統領選でガニ大統領が再選の運びとなったのを受け、引き続きガニ政権とアフガン和平に向けた取り組みを進めていく考えだ。しかし、アフガン北部クンドゥズ州では23日、駐留米軍の兵士1人がイスラム原理主義勢力タリバンとの戦闘で死亡するなど、和平協議が米政権の思惑通り進展する保証はない。(中略)

 

アフガニスタンなどでの「終わりなき戦争」の終結を公約に掲げるトランプ大統領は、タリバンとの和平を模索。昨年7月からの和平協議では、駐留米軍の大規模撤収や「包括的停戦」で合意寸前に達していたが、今年9月にタリバンが米兵を殺害したことを理由に協議を打ち切った。

 

だが、トランプ氏は11月28日、アフガンを初訪問し、「タリバンは停戦を求めている」と述べ、和平協議を再開させた。

 

米政権が9月に和平協議を打ち切ったのは、当時のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ら一部のホワイトハウス高官が合意内容はアフガン情勢の不安定化につながる恐れが高いなどとして合意締結に反対したためでもある。

 

しかし、ボルトン氏はその後間もなくして辞任。来年の米大統領選で再選を目指すトランプ氏としては、米軍撤収の公約を果たして有権者の支持の上積みを図るため協議再開に踏み切った可能性がある。

 

しかし、米政権は今月13日、タリバンがアフガンの首都カブール北郊にあるバグラム米空軍基地に攻撃を仕掛け、70人以上を死傷させたとして、協議の一時中断を表明。米政権としてはタリバンのペースで和平協議が運ばれることのないよう慎重に対応していくとみられる。【1225日 産経】

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【アフガニスタンを含めて世界規模で進む米軍再編】

16日には“米政権、アフガン駐留米軍4000人撤収を今週発表か 報道”【1216日 AFP】という報道がありましたが、その後一部撤退のニュースは見ていません。

 

“早ければ今週にも”撤収発表があるのでは・・・との記事でしたので、少しずれこんでいますが、これから・・・ということでしょうか。

 

単にアフガニスタンだけの問題ではなく、米軍の世界戦略としても、見直しが進むようです。

 

****米軍、世界規模で再編を検討か 対中ロ、西アフリカ削減****

米紙ニューヨーク・タイムズは24日、国防総省が西アフリカに駐留する米軍の大幅な削減・撤退を検討していると報じた。

 

トランプ政権が大国間競争の相手と位置付ける中国、ロシアに対抗するための措置で、世界規模での米軍再編の第1段階となる可能性があるとしている。

 

削減した兵力を中ロ対応に充てるとみられる。同紙はアフリカでの駐留見直しに続き、中南米、その後、イラクやアフガニスタンでの駐留軍の削減が進むとの見通しを伝えた。

 

トランプ大統領は再選がかかる来年11月の大統領選に向け海外駐留米軍の縮小を進めたい考えで、大規模再編と同時並行で進める可能性がある。【1225日 共同】

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フィリピン  政権基盤を盤石とするドゥテルテ大統領が目指す親子で正副大統領?

2019-12-24 22:11:14 | 東南アジア

(フィリピン南部ダボア市のサラ・ドゥテルテ市長(ドゥテルテ大統領の長女)が(2011年7月)1日、市長の延期要請を無視してスラム街の強制撤去に訪れた裁判所の執行官に激怒し、顔などに連続パンチを見舞った。【2011年7月4日 ロイター】 

 

この体格・腕の太さですから“女性の平手打ち”の類ではありません。「サラ氏と互角のライバルになり得るのはパッキャオ氏(国民的ボクサーで上院議員)ぐらい」との声もあるとか)

 

【超法規的殺人を生む社会的土壌?】

フィリピン・ドゥテルテ大統領のもとで進められる麻薬問題に関する「超法規的殺人」については、7月19日ブログ“フィリピン 「超法規的殺人」が続くドゥテルテ政権 国際批判も意に介さず「王朝」へ”でも取り上げました。

 

殺害された者の数については“麻薬の密売などに関わったとされる5500人以上が警察官に殺害されてきた”【11月25日 朝日】とも。

 

一応「逮捕に抵抗した」というのが殺害理由ですが、どうでしょうか・・・“誤って殺害された者”あるいは“警察にとって都合の悪い者”の口封じも含まれていると推察されます。

 

“活動家らは、実際にはこれより多い約2万7000人が殺害されたと指摘している。”【7月8日 ロイター】という数字もありますが、今では記録報告もされなくなったといった状況で、さだかな数字はわかりません。

 

警官だけでなく、謎の組織が超法規的殺人(警官でなければ、単なる“殺人”ですが)を行っているという面も指摘されています。

 

この件に関しては賛否両論あります。

私は、「超えてはならない一線を越えている」と考えますが、ドゥテルテ大統領の強硬施策で治安がようやく改善したと評価する向きも多く、実際、大統領は高い国民からの支持を維持しています。(個人的には、それこそが問題だと思いますが)

 

最近報じられた、10年前のある事件の裁判に関する記事が下。

 

****58人虐殺で禁錮40年=「主犯」は被害者の政敵―フィリピン****

フィリピン南部ミンダナオ島マギンダナオ州で10年前、政治家の家族や報道関係者ら58人が虐殺された事件の判決公判が19日、首都圏ケソン地裁支部で開かれた。被害者の政敵ら計28人が「主犯として疑う余地はない」と認定され、禁錮40年を言い渡された。

 

事件は2009年11月23日に発生。政治家一族のエスマエル氏の家族と同行記者団が州知事選の立候補届け出に向かっていたところ、約100人の武装集団に拉致、殺害された。

 

死者58人のうち32人を報道関係者が占め、単独の事件で犠牲になったジャーナリストの人数としては史上最多とされる。

 

翌10年2月、別の政治家一族でエスマエル氏の政敵だったアンダル元知事や、その息子ら計197人が起訴された。被告のうち80人が捕まらないまま、審理は長期化。元知事ら8人が勾留中に死亡した。

 

この日の判決では、禁錮40年の息子を含め、計43人が有罪と認定された。【12月19日 時事】 

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政敵の家族や報道関係者ら58人を殺害・・・・なかなか想像しがたい事件です。

 

この記事を読んで感じたのは、ドゥテルテ大統領の「超法規的殺人」も、こうした「邪魔者は殺せ」という社会風土のなかで起きており、また、国民に受容されているのだろう・・・ということ。

 

「殺人」ということに関するハードルの高さが、日本とでは異なるようにも思えます。

 

【意にそぐわない企業への威圧 暴力的手法がいつ誰に向けられるか・・・】

「まっとうな市民は関係ない」という考えもありますが、まっとうかどうか判断するのは国家権力であり、いつその暴力的手法の対象にならないとも限りません。

 

****比大統領、次々に企業威圧 経済活動萎縮の恐れも****

フィリピンのドゥテルテ大統領が、意にそぐわない企業への威圧を続けている。

 

訴訟で政府に勝った水道会社に賠償請求権を放棄させ、自身に批判的な民放には営業認可を更新しない考えをちらつかせた。さらに締め付けを強めれば、経済活動が萎縮する恐れもある。

 

「水道会社の連中を逮捕して、経済的に破滅させてやる」。ドゥテルテ氏は3日の演説で、民間の水道会社2社への怒りをあらわにした。

 

水道料金の引き上げ申請が当局に却下され損害を被ったとして、2社がシンガポールにある仲裁裁判所に政府を訴えた。政府は敗訴し、計約108億ペソ(約233億円)の支払いを命じられた。【12月19日 共同】

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水道料金の話がどういう事情なのかはしりませんが、数千人あるいは2万数千人を殺害しているボスに「破滅させてやる」とすごまれたら、それは怖いでしょう。身の危険も感じることでしょう。

 

【マルコス独裁の再現も懸念されていたミンダナオ島一帯の戒厳令 延長せず、政権基盤の更なる強化を図る】

そんな強面ドゥテルテ大統領のもとで、2017年にイスラム過激派が武装占領したミンダナオ島一帯では戒厳令が敷かれていましたが、マルコス独裁政権のような国民弾圧へ拡大するのでは・・・との危惧もあって、撤廃が求められていました。

 

****フィリピン、戒厳令を解除へ****

12月末に期限を迎えるフィリピン南部ミンダナオ島一帯に布告されている戒厳令について、延長することなく解除される可能性が極めて高くなった。

 

これは11月4日、フィリピン国家警察、国軍などからの進言を受けて内務自治省も延長しない方向でドゥテルテ大統領に「戒厳令解除」を提案することを明らかにしたことからそうした観測が強まっているのだ。

 

ミンダナオ島一帯の戒厳令は2017年5月25日に地元の過激組織「マラテグループ」が同島南ラナオ州の州都マラウィを武装占拠した事態を受けてドゥテルテ大統領が布告した。

 

マラウィ市武装占拠には中東のイスラム系テロ組織「イスラム国(IS)」と関連があるイスラム教徒のテロリストやフィリピン南部を活動拠点とするイスラム系テロ組織「アブサヤフ」のメンバーらが合流してフィリピン治安部隊と激しい市街戦を繰り返し、多くの魏犠牲者が出た。

 

同市は2017年10月に武装勢力が一掃されて解放されたものの残党テロリストなどが同島の他の地域などで活動を継続しているとの情報があり、軍や警察の進言もあり戒厳令はこれまでに複数回延長を繰り返し、現在も継続されている。

 

戒厳令下では治安部隊に令状なしの捜索や容疑者検挙を可能にするなど超法規的措置が許されていることからミンダナオ島では反政府組織やテロ組織の活動封じ込め、掃討作戦に一定の効果をあげていたとの評価も出ていた。

 

■ マルコス時代の悪夢への警戒

その一方でフィリピンでは戒厳令はマルコス独裁政権が1972年9月21日に戒厳令をフィリピン全土に布告して憲法を停止して学生や活動家などによる反政府活動への弾圧に利用、独裁政権の地歩を固めたことへの反省などから人権団体などを中心に「戒厳令の早期解除」を求める声も一部とはいえ強く残っているのも事実。

 

マルコス時代の戒厳令布告の記念日でもある9月21日にはレニ・ロブレド副大統領が「マルコス暗黒時代の日々を忘れてはならない。当時を知らない若者は戒厳令が単に政治的なものだけでなく国民生活の隅々まで影響を及ぼすものである」との声明を出して戒厳令に反対する立場を示していた。(後略)【12月9日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

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結局、ミンダナオ島一帯の戒厳令は延長されないことに。

“フィリピン大統領府は10日、武装勢力との衝突によって南部ミンダナオ島などに出されている戒厳令について、ドゥテルテ大統領が延長しないことを決めたと明らかにした。有効期限の今月末に解除される。”【12月11日 産経】

 

政権基盤を更に盤石にしたいとのドゥテルテ大統領の思惑に沿った決定とも。

 

****中間選挙の勝利で政権基盤盤石に****

フィリピンではドゥテルテ大統領の2022年までの大統領任期の折り返しとなる今年5月の中間選挙(国政・地方選)でドゥテルテ大統領支持勢力が勝利をおさめた。

 

麻薬関連犯罪への超法規的殺人を含めた強硬な対応策や硬軟を使い分ける対中外交、さらに対米一辺倒だった前大統領時代からの修正、連邦制導入の検討などの多くの課題を抱えながらも中間選挙の結果で示された国民からの圧倒的支持を背景に現在も独自路線を貫いている。

 

戒厳令もこれまでの治安当局の努力で一定の成果をあげたと評価しており、戒厳令を解除することで「国内外からの投資」を促進し「マルコス時代回帰という批判」を回避してさらに政権基盤を盤石にしたいとの思いがドゥテルテ大統領には強いといわれている。(後略)【前出Japan In-depth】

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【政権基盤を盤石にして目指すのは・・・親子でフィリピン正副大統領に?】

フィリピンでは大統領の再選は禁じられていますので、ドゥテルテ大統領自身が次期大統領選挙に出ることはありません。

 

では、政権基盤を更に盤石にして何を目指すのか・・・長女(現在、地盤であるダバオ市の市長)を大統領候補に・・・と言う話は以前からありますが、ドゥテルテ氏自身も副大統領候補となって、親子で「ドゥテルテ王朝」を目指すという話もあるようです。

  

****親子でフィリピン正副大統領に? ドゥテルテ氏、22年選挙で****

2022年、フィリピンの正副大統領にドゥテルテ親子が就任も―。最近の世論調査でこんな可能性が浮上してきた。

 

副大統領候補の人気首位は現大統領のドゥテルテ氏(74)。大統領候補の1番人気は長女サラ氏(41)で、「ドゥテルテ王朝」の勢いを見せつけている。

 

調査は政治コンサルタント会社「パブリカス・アジア」が11月15〜19日に実施。22年の正副大統領選で誰に投票するかを中南部の有権者2千人に尋ねた。

 

大統領候補では、南部ダバオの市長を務めるサラ氏がトップで約35%。2位は約11%のポー上院議員、3位はモレノ・マニラ市長。【12月24日 共同】

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実際にこれまでも、ダバオ市長職について親子で回してきましたので、同じことを大統領職でも・・・という推測です。

 

“サラ氏は07年、同市長だった父のもとで副市長に当選。10~13年はドゥテルテ氏が副市長となり、入れ替わりでサラ氏が市長になった。13年からは再び父が市長に、サラ氏が副市長に。さらに16年、ドゥテルテ氏が大統領選に出馬すると、あらためてサラ氏が市長に当選して今に至っている。” 【6月27日 朝日】

 

なお、7月19日ブログでも紹介したように、長女のサラ氏は、父親ドゥテルテ大統領も真っ青のコワモテのようです。

 

“サラ氏の市長1期目の11年のこと。裁判所が命じた建物の解体現場で住民の反対運動が起きると、サラ氏は解体を数時間遅らせるよう求めたうえで現場に急行。話を聞き入れない裁判所の執行官にパンチを数発浴びせて、住民から喝采を浴びた。”【6月27日 朝日】

 

サラ大統領ということになれば、超法規的殺人もこれまで同様・・・ということいにもなるのでしょう。

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シリア  イドリブへの政府軍攻撃激化で避難民急増 2015年の欧州難民危機再現の危険性

2019-12-23 23:22:12 | 中東情勢

(シリア北西部イドリブ県南部のマーラトヌマンで、トラックの荷台に乗って北へ逃げる負傷した男性と子どもたち(20191222日撮影)【12月23日 AFP】)

 

【戦闘激化で急増する犠牲者・避難民】

シリアの反体制派は政府軍・ロシアによってイドリブ周辺に封じ込まれています。

 

反体制派最後の拠点となったイドリブへの政府軍の攻撃は当然のスケジュールですが、昨年10月にはいったんは停戦が成立しました。

 

しかし、その後も戦闘は続き、特に最近は激しさを増しています。

 

****シリア内戦 政権側が「たる爆弾」で空爆 子ども含む20人死亡****

内戦が続くシリアで17日、アサド政権の軍が反政府勢力の拠点に対し、「たる爆弾」と呼ばれる無差別に被害を及ぼす兵器を使うなどして激しい空爆や砲撃を加え、子どもや女性を含む20人が死亡しました。

 

シリア北西部にある反政府勢力の最後の拠点イドリブ県で17日、アサド政権側の軍がロシア軍とともに複数の町や村に激しい空爆や砲撃を加え、現地の情報を集めている「シリア人権監視団」によりますと、これまでに女性や子どもを含む市民20人が死亡したということです。

この攻撃では、ドラム缶などの容器に大量の爆薬と金属片を詰めて投下する「たる爆弾」も使われたということです。たる爆弾は金属片が広範囲に飛び散り、無差別に被害を及ぼすとして国連などが使用を強く非難しています。

反政府勢力が拠点とするイドリブ県やその周辺地域をめぐっては、去年10月、アサド政権の後ろ盾のロシアと反政府勢力を支援するトルコが非武装地帯を設けましたが、停戦は事実上崩壊し、ことし4月末以降激しい空爆が続いています。

学校や市場、医療施設などへの攻撃も繰り返され、この7か月余りの間に命を落とした市民は1294人に達しているということで、市民の犠牲に歯止めがかからない状況が続いています。【12月18日 NHK】

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10月の停戦が機能しなかった理由として政府軍側は、非武装地帯から反体制派の過激派が引かなかったことをあげています。

 

学校や市場、医療施設などへの攻撃は誤爆ではなく、そうした施設を攻撃することで市民生活ができなくなることを狙ったものと思われます。

 

激しさを増す戦闘を避ける避難民も数万人規模に膨らんでいます。

 

****シリア北西部で再び空爆激化=数万人避難、深まる人道危機****

シリア反体制派の最後の牙城である北西部イドリブ県で、奪還を目指すアサド政権と後ろ盾ロシアによる空爆が再び激しくなり始めた。

 

既に数万人規模の市民が避難を余儀なくされている。冬の寒さが厳しさを増す中、国連は「住居や食料など支援を必要とする人々の脆弱(ぜいじゃく)性をさらに悪化させている」と人道危機の深まりを懸念している。

 

攻撃は16日ごろから強まり、在英のシリア人権監視団によると、21日の空爆では市民12人が死亡した。政権側は地上からの進軍に加え、容器に爆薬や金属片を詰めた殺傷力の高い「たる爆弾」を過去5日間ほどで200発近く投下したとされる。【12月22日 時事】 

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上記記事にもあるように、戦闘に加えて冬の寒さが避難民を苦しめています。

 

****避難生活、寒さ深刻****

現在、避難者の多くはトルコ国境付近に集まっている。国境近くのキャンプに家族14人で住むハリド・ドゥリさん(39)は、4カ月前にイドリブ県南部から避難してきた。

 

オリーブ摘みの日雇い仕事が唯一の収入源だが、1カ月に25ドル(約2800円)にしかならず、支援団体からもらえるわずかな食料が頼みの綱だ。

 

最低気温は零下近くまで下がることもあるが、テントには暖房器具や、料理に使えるガスがない。最近は雨が多く、農地がぬかるんで、浸水するテントも目立つという。

 

電話取材にドゥリさんは、「私たちは家に帰って普通の暮らしがしたいだけ。動物のように屋外で寝泊まりする生活を終わらせるために国際社会に力を貸してほしい」と話した。【12月17日 朝日】

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【機能しない国連】

しかし、国際社会はアサド政権と反体制派のそれぞれを支援する国の対立が固定化し、シリアに対し国連も殆ど機能していない状況です。

 

****シリア人道決議案否決=ロシアが14回目拒否権―国連安保理****

国連安保理は20日、内戦下のシリアへの越境人道支援を1年間延長するベルギー、ドイツ、クウェート作成の決議案を採決した。

 

15理事国中13カ国が賛成したが、シリアの後ろ盾ロシアと中国が拒否権を行使し否決された。支援対象者は400万人に上り、安保理は来年1月の期限まで、延長に向け調整する。

 

2011年に始まったシリア内戦をめぐるロシアの拒否権行使は14回目。

 

交渉を経て決議案は人道支援機関が越境できる地点を現在より少ない3カ所で認めたが、ロシアは情勢変化を理由に2カ所にするよう求めていた。【12月21日 時事】

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【「どこも安全ではない。家の中にとどまろうが、外に逃げ出そうが、どのみち死ぬしかない」】

そうした状況で犠牲者と避難民だけが増えていきます。

 

****シリア・イドリブで政府軍攻勢、避難民急増 ロシア空爆で民間人9人死亡****

シリア反体制派の最後の主要拠点となっている北西部イドリブ県で、バッシャール・アサド政権側の部隊が攻勢を強め、避難民が急増している。

 

在英のシリア人権監視団によると、ロシア軍の空爆も続き、戦闘を避けて避難しようとしていた民間人9人が死亡した。

 

イドリブ県は、国際テロ組織アルカイダの元傘下組織を前身とする反体制派連合「タハリール・アルシャーム機構」が大半を支配している。県内には約300万人が暮らすが、内戦で家を失ってこの地に逃れてきた人々も多い。

 

シリア人権監視団のラミ・アブドルラフマン代表は22日、県南部のマーラトヌマン奪還を目指して政府軍が19日から攻勢を強め、これまでに29町村を掌握したと発表した。4日間の戦闘で反体制派110人と政権側77人が死亡し、マーラトヌマン周辺から3万人以上が避難を余儀なくされているという。

 

同監視団によると、イドリブ県南部ではこの1週間に民間人40人以上が死亡した。

 

5人の子を持つ住民男性はAFPの取材に、救助隊や地元支援団体は住民の避難に苦慮していると語った。「誰もが全力を尽くしているが、(避難が必要な)人が多すぎて手が回っていない」と話すこの男性も、家族と一緒に県北部へ避難したいが車の手配ができなかったという。「どこも安全ではない。家の中にとどまろうが、外に逃げ出そうが、どのみち死ぬしかない」

 

シリア北部では8月に停戦が合意されたものの、空爆が続き、これまでに民間人の死者は290人に上っている。国連は、マーラトヌマン周辺では今月16日から政府軍とロシア軍による空爆が激化していることを明らかにするとともに、戦闘の「即時縮小」を求めている。

 

国連安全保障理事会は20日、イドリブ県を中心に暮らすシリア人400万人への越境人道支援を1年間延長する決議案を採決したが、ロシアと中国が拒否権を行使し、否決された。反体制派地域では来年1月以降、国連の人道支援がとだえる恐れが出ている。 【12月23日 AFP】AFPBB News

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【トルコだけでは難民受け入れは無理】

問題はシリア国内にとどまりません。

トルコ国境沿いに集まった避難民は、より安全なトルコへ入国を求めるでしょう。

 

その規模は、戦闘が更に激化すれば数万を超えて数十万人規模にも。

そうなるとトルコだけでは支えきれないということで、数年前の欧州の難民危機の再現も。

 

この話は目新しい話も何でもなく、以前から想定されていた問題ですが、解決策が見いだせないまま問題の方が現実化しそうな状況です。

 

****「シリア難民の流入、トルコだけでは対処できない」 エルドアン大統領*****

シリア北西部イドリブ県で激化している戦闘に伴い、シリア難民が新たに増加していることを受けて、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は23日、欧州諸国に対しトルコだけでは難民の受け入れには対処できないと訴えた。

 

反体制派の拠点となっている同県南部のマーラトヌマンでは今月16日以降、シリア政府軍との戦闘が激化。政府軍を支援するロシア軍の空爆が度重なり、住民数万人がトルコとの国境に向けて避難を開始した。

 

エルドアン大統領はイドリブ県から8万人以上がトルコ国境周辺に押し寄せていると説明し、「トルコはシリアから新たに流入する難民の波に対処できない」と訴えた。

 

また、難民の数が今後さらに増えるなら、「トルコは単独で負担を引き受けることはしない」と述べ、「わが国が被る悪影響は、欧州各国、特にギリシャが経験していることと同様の問題だ」と語った。

 

トルコと欧州連合は2016年、欧州への移民流入をくい止めるために、ギリシャに密航してきた移民をトルコに強制送還する合意を交わした。エルドアン氏は、欧州が再びこの合意以前の状況に直面する恐れがあると警告している。

 

合意以前の2015年には第2次世界大戦後最悪規模の難民危機が発生し、欧州に100万人以上の難民があふれていた。

 

2016年の合意では、トルコが欧州に向かう移民や難民の管理を強化する見返りとして、EUがトルコに66億ドル(7200億円)の財政支援を約束した。 【翻訳編集】

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トルコは、シリア北部・トルコ国境沿いのクルド人支配地域に軍事侵攻したことで、欧州からは批判されています。

また、EU加盟が棚ざらし・後回し状態になっていることへのトルコ側の不満もあります。

 

エルドアン大統領としては、国境沿いに安全地帯をつくって、そこにシリア難民を送り込むという自分の主張を欧米も認めろ・・・といったところでしょう。

 

アメリカとは、ロシアからのミサイル購入を巡って制裁を科すかどうかが喫緊の課題となっています。

 

****米が制裁なら報復とトルコ大統領、ロシア製ミサイル購入めぐり****

-トルコのエルドアン大統領は20日、ロシア製ミサイルの購入やロシアからの天然ガスパイプラインを巡って米国がトルコに制裁を検討していることについて、報復も辞さないと述べた。

米議会はロシア製ミサイル「S400」をトルコが購入したことや、ロシアからのパイプライン「トルコストリーム」計画について、制裁導入を働き掛けている。

エルドアン氏は、S400の購入案件は既に完了していると改めて表明。米国の制裁の動きは「われわれの権利を完全に踏みにじるものだ。もちろん、こうした動きに対抗する独自の制裁を導入する」と述べた。【12月23日 ロイター】

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そうした国際環境が悪化しているなかで、エルドアン大統領としては難民問題を“カード”として使うことで、トルコの立場を有利にしたい・・・という思惑もあるでしょう。

 

そうしたエルドアン大統領の思惑は別にしても、トルコはすでに各国のなかで最も多いおよそ370万人のシリア難民を受け入れており、これ以上の受け入れは困難だというのは事実でしょう。

 

2015年の欧州の難民危機の再来の危険性は現実のものです。

 

トルコは“23日にはロシアに高官を派遣してアサド政権にイドリブ県への攻撃をやめさせるよう働きかけることにしています。”【12月23日 NHK】とのことですが、難民問題がさく裂するまえに関係国間での国際協調を図ることが急務となっています。

 

 

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中国のウイグル族弾圧への批判が出てこないイスラム諸国 アーセナルのエジル選手、痛烈批判

2019-12-22 22:33:18 | 国際情勢

 

(アーセナルのエジル選手【1215日 モーゲンスタン陽子氏 Newsweek】)


【香港問題とウイグル問題の連動】

香港の中国批判に対して中国側が、現在新疆ウイグル自治区で行っているような強権的な封じ込め策に乗り出すのでは・・・という懸念が高まっています。

 

そうしたなかで、香港とウイグル族が連動する集会が開催されました。

 

****香港の「新疆化」拒否 ウイグル支援集会で訴え****

中国共産党などへの抗議活動が続く香港で22日、新疆ウイグル自治区のウイグル族住民らが中国当局に人権を著しく侵害されているとして、ウイグル族への連帯と支援を呼びかける集会が行われた。

 

集まった数千人の参加者らは「香港でも自由が侵されている」と中国を糾弾、「“香港の新疆化”を許してはならない」などと訴えた。

 

新疆ウイグル自治区では「テロ対策」と称して、多数のウイグル族らイスラム系住民が再教育施設に収容されている。中国への抵抗運動を続ける香港でも、同様のことが起きかねないとの懸念が強い。

 

この日の集会では「今日の新疆は明日の香港だ!」などのプラカードが掲げられ、ウイグル族への連帯を表明するとともに、人権や自由を侵害する中国当局を非難する声が相次いだ。ウイグル独立派が主張する「東トルキスタン」の旗を振る参加者も多かった。(中略)

 

香港民主派の重鎮、李柱銘・元民主党主席は香港紙への寄稿で、共産党は「反テロの名目の下、100万のウイグル人を強制収容所で洗脳している」と強調した。その上で「香港でも(抗議活動の)参加者らを強制収容所に押し込み、『教育』を進めようというのか」「香港社会の核心的な価値を徹底的に洗い流し、(香港で一般に使われている)広東語や繁体字の使用を禁止して、愛国・愛党思想をたたき込もうというのか」などと警鐘を鳴らしている。【12月22日 産経】

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中国側が「香港の新疆化」に乗り出す口実になりそうなものがすでに存在しているだけに、懸念には切実さもあります。

 

****香港で相次ぐ爆弾押収 「IRAを手本に」報道も****

反政府デモが本格化してから半年が過ぎた香港で、爆弾や起爆装置、爆弾関連物質の押収が相次いでいる。政府に近い香港紙は、デモ参加者の一部が「(爆弾テロなどの反英武装闘争を繰り広げた)アイルランド共和軍(IRA)の襲撃方法」を参考にしていると報じた。

 

一方、市民の間では「当局が故意に若者の過激化を演出しようとしている」などと反発の声も出ている。(中略)

ネット上では「爆弾摘発は当局の自作自演だ」などと警察を批判する書き込みも少なくない。【12月15日産経】

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“当局の自作自演”かどうかはわかりませんが、何事についても過激派は存在しますので、爆弾闘争を考える勢力があっても不思議ではありません。

 

香港民主派が「香港の新疆化」を懸念している一方で、中国からすると国際批判も強い香港と新疆の問題が連動する事態には神経質になっています。

 

****香港でウイグル族支援集会 警察が強制排除、会場混乱****

香港の金融街セントラル(中環)で22日、中国当局による少数民族ウイグル族への人権侵害を非難する集会が開かれ、主催者らがウイグル族と共に中国の圧政に立ち向かうよう香港市民に訴えた。参加者が中国国旗を破いたところ、香港警察が催涙スプレーを放つなどして強制的に排除。参加者から怒号や悲鳴が上がり会場は混乱した。

 香港当局は集会の開催を許可していたが、2時間ほどで突然排除した。中国の習近平指導部は香港の抗議活動とウイグル族を巡る問題が結び付くことに神経をとがらせており、集会を中止させるよう香港政府に強く求めた可能性もある。【12月22日 共同】

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【ウイグル問題批判の先頭に立つアメリカの思惑】

新疆ウイグル自治区の問題に関して、国際批判の先頭に立っているのがアメリカ・トランプ政権。トランプ政権が人権問題にそれほどの関心をもっているとも思われませんので、おそらく貿易交渉を有利に進めるためのカードとしての位置づけがあるのでしょう。

 

そうしたアメリカの批判・対応に中国側は苛立ちを募らせています。

 

****中国外務省 対ウイグル族政策めぐり「米は超うそつき」****

アメリカが中国のウイグル族に対する政策を人権侵害だと非難していることをめぐって、中国外務省の報道官は事実と異なるとして、「アメリカは世界の超大国というだけでなく超うそつきだ」などと激しい口調で非難しました。

 

中国外務省の華春瑩報道官は10日の記者会見で、アメリカ政府の関係者から中国のウイグル族に対する政策を非難する声が出ているなどと質問されたのに対し事実と異なるとしたうえで、「アメリカ側の発言は『アメリカが世界の超大国というだけでなく超うそつきでうそをまき散らしている』という事実を気付かせてくれる」と、激しい口調で非難しました。

そのうえで華報道官は、アメリカのトランプ大統領が中東などイスラム圏からの入国を制限する大統領令を出したり、アメリカがイスラム教徒の多い中東地域に軍事的な関与を行い大勢の犠牲者を生んだりしているなどと指摘し、「アメリカのイスラム教徒への政策こそ国際社会が重大な関心と憂慮を抱くべきことだ」と反論しました。

中国政府や中国メディアは、アメリカ議会下院が先週、ウイグル族の人権侵害にかかわった中国の当局者に対し制裁の発動を求める「ウイグル人権法案」を可決して以降、連日、アメリカ側を激しく非難していて、華報道官は改めてアメリカを強くけん制した形です。【12月10日 NHK】

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アメリカ議会はともかく、トランプ政権のウイグル問題への言及は、貿易交渉が軌道にのれば、消えてしまうものなのかも。

 

【ウイグル問題で声をあげないイスラム諸国 アーセナルのエジル選手、痛烈批判】

国際政治というのはそんなものなのでしょうが、中国の新疆での弾圧に最初から声をあげていないのが、イスラム諸国。

 

これまた、中国の存在感が増した国際政治の現実でもありますが、そんなイスラム諸国を痛烈に批判したのが、イングランド・プレミアリーグの強豪アーセナルに所属する、トルコ系の元ドイツ代表MFで、自身もイスラム教徒のメスト・エジル選手。

 

****アーセナルのエジル選手、ツイッターでウイグル人弾圧への沈黙を批判****

サッカーの英イングランド・プレミアリーグのアーセナルに所属するメスト・エジル選手が14日、新疆ウイグル自治区における中国政府のウイグル人弾圧を批判するコメントを自身のツイッターに投稿し、波紋が広がっている。

 

トルコ系ドイツ人のエジル選手は、「コーランが焼かれ、モスクが閉鎖され、イスラム神学校が閉校させられ、聖職者たちが次から次へと殺され、兄弟(イスラム教徒)たちが強制的に収容施設へ送られている」とトルコ語で書き込み、「それなのにイスラム教徒たちは沈黙している。彼らの声が聞こえてこない」と、イスラム教の国々が行動を起こさないことを批判した。

 

コメントの背景には青地に白い三日月が描かれた東トルキスタンの旗が用いられている。東トルキスタンは新疆ウイグル自治区のウイグル名称だ。

 

中央アジアから移住したチュルク人を国名の由来とし、民族的にもウイグル人に近いトルコは、ウイグル自治区の状況に対する懸念を繰り返し表明している。

 

エジル選手のコメントについて、中国資本から巨額の商業利益を得ているアーセナル側は「エジル個人の意見」として距離を置いている。(後略)【12月15日 AFP】

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もともと、ピッチ外での言動が波紋呼ぶことも多かった選手ですが、2440万人のフォロワーのうち400万といわれる中国のファンを怒らせる可能性、中国との関係に神経を使うエルドアン大統領(エジル選手は大統領と非常に親密な仲とか)と軋轢を生む可能性も覚悟しての発言ではないか・・・・との指摘も。

 

一方、アーセナル(エジル選手と指揮官の不仲とか、移籍問題とかもあるようです)の対応については批判も。

 

****「中立」から露見した金満主義*****

一方アーセナルは、エジル選手のコメントはあくまでも同選手の「個人的な見解」と強調、また「クラブとして、アーセナルは政治からは常に距離を置いている」と表明した。

 

しかし、英ガーディアンのコラムニストはこれを「人権侵害についてコメントしないと発表したことで、アーセナルは非常に明快に政治に介入している -- 反対側の政治に」と揶揄している。

 

そもそも、各紙が指摘しているように、エジルの発言は厳密には「個人的な見解」と言えるのだろうか。中国によるイスラム系ウイグル族の弾圧や人権侵害に対するエジルの批判は、アメリカ、イギリス、カナダ、日本など23カ国を含む国連の見解に基づいている。

 

また、国際サッカー連盟FIFAとそのメンバーは2017年、国際的な人権規範を尊重することを公に表明しており、アーセナルの「中立」を装った無関心はこれと矛盾する。

 

「理由は簡単だ。中国一国におけるプレミアリーグの放映権は年間5億6千万ポンドに値する」(ガーディアン) 

これに加え、シャツやグッズなどの収益金を考えたら、中国から流れ込む金は莫大だ。(後略)【12月15日 モーゲンスタン陽子氏 Newsweek】

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いずれにしても中国側はこの問題に敏感に反応しています。

 

****中国、英サッカー中継を中止 アーセナル・エジルのウイグル弾圧非難で*****

サッカー、イングランド・プレミアリーグの強豪アーセナルに所属するメスト・エジル選手が、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区での少数民族弾圧を自身のSNSで批判し、中国のサッカーファンが「主権の侵害だ」などと反発を強めている。

 

国営中央テレビ(CCTV)は16日未明に放送予定だったアーセナルの試合中継を別の試合に差し替えた。(中略)

 

中国国内の反発を受けてアーセナルは14日、中国版ツイッター微博で「エジル個人の観点であり、アーセナルは政治には関わらない原則を堅持する」との声明を発表。

 

だがファンからは「エジルを追放するまで試合は見ない」などと不満の声が上がっている。中国サッカー協会も一部メディアに「極めて大きな憤りと失望」を表明した。【12月15日 産経】

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中国では10月にも今回と同じような出来事が起こっています。

アメリカ・プロバスケット協会(NBA)ヒューストン・ロケッツのダリル・モリーGM(ゼネラルマネージャー)が香港の反政府デモに対し支持する内容をツイッターに投稿し、CCTVがロケッツ戦の試合を放送しませんでした。

 

エジル選手の発言に影響されたのかどうかはわかりませんが、トルコではウイグル問題に関して、中国批判の抗議デモが行われています。

 

****トルコでウイグル人問題めぐり抗議デモ、中国国旗燃やす参加者も****

トルコ・イスタンブールで20日、中国・新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の処遇に対する抗議デモが行われ、1000人超が参加した。現地のAFP特派員が明らかにした。(中略)

 

今回のデモは、トルコの人道支援団体「人道支援復興基金」が主催した抗議活動の一環として実施。参加者らは、イスタンブールの欧州側にあるファティモスクからベヤズット広場まで行進した。

 

 参加者の一部は、青地に白い三日月が描かれた東トルキスタンの旗を掲げていた。東トルキスタンは、多くのウイグル人分離派らが使用する新疆ウイグル自治区の名称。

 

また「強制収容施設を閉鎖しろ」と書かれたポスターを掲げたり、中国の国旗を燃やしたりする参加者もいた。

 

言語や文化の面でウイグル人とつながりを持つトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を除き、イスラム教を信仰する国の指導者らの多くが、中国によるウイグル人への対応を公には非難していない。(後略)【12月21日 AFP】

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もともとトルコでは、これまでもウイグル問題への批判がありました。トルコ以外のイスラム諸国は今回もスルーのようです。

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