【「文明の十字路」中央アジア】
日頃、東南アジアや中国・インド方面へ観光旅行に行くことが多いのですが、さすがに4回目・5回目となると新鮮味という点では薄れてきます。
なるべく近場で、少し訪問先を広げて(フライト時間が10時間を超えるような遠方はちょっとしんどいので)・・・となると、中央アジアのいわゆる「スタン系」があります。
観光的に一番ポピュラーなのは、サマルカンドやブハラ、ヒワなどがあるウズベキスタンでしょう。ツアーも多数あります。逆に言えば、一般的ツアーではウズベキスタン以外はぐんと少なくなります。
ウズベキスタン観光などは、これまでもしばしば検討したことはあるのですが、イスラムのモスクみたいなものがメインになりがちなこと、乾燥した地域で東南アジアのような潤いには欠けることなどで、見送ってきました。
ただ、そういうのは偏見・独断・無知であり、中央アジアの観光資源としてはイスラム関係以外にも遺跡や風光明媚な山岳地帯とか、あるいは温泉があったりと、探せばいろいろと興味深いものがあるようです。なにせ、かつてのシルクロードにおける「文明の十字路」です。
来年あたりは、「スタン系」のどこかに足を運んでみようか・・・とも考えたのですが、3月末にパキスタンの北部フンザに行く予定で手配済みですので、中央アジアの「スタン系」と方面・イメージ的にかぶってしまうところが難点です。(行くとしたら、冬は寒いので夏ですが、そうなるとパキスタンと連続します)再来年かな・・・・。
【画一的イメージ、あるいは、米中ロといった大国の影響下の国というイメージで見られがちな中央アジア諸国】
国際ニュースで中央アジア関係のものを目にすることは、あまりありません。
最近では、タジキスタンの巨大ダムの話ぐらいでしょうか。
****世界最大級となる巨大ダムで発電開始 タジキスタン****
高さ7000メートル級の山々に囲まれた中央アジアのタジキスタンで、世界最大級になると見込まれる巨大なダムを利用した水力発電が始まり、周辺諸国を含めて安定した電力供給につながることが期待されています。
タジキスタン政府が建設を進めているログンダムは、完成すれば、ダムの底から堤防までの高さが335メートルと、世界最大級になることが見込まれています。
ダムに併設された水力発電所では16日、最初の発電機の稼働を祝う式典が開かれ、ラフモン大統領は「歴史的な出来事だ。ここで生み出された電力が国の隅々に届けられるだろう」と演説しました。
ログンダムは1970年代に建設が始まり、ソビエト崩壊に伴う混乱で中断していましたが、その後、2万人を超す労働者と3600台の建機を投入して建設が進められてきました。
タジキスタン政府は10年後の完成を目指すとともに、巨大なダムが生み出す余剰電力をウズベキスタンやアフガニスタンといった隣国に輸出したい考えで、周辺諸国を含め、安定した電力供給につながることが期待されています。【11月17日 NHK】
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タジキスタンには現在も、304mの堤防が高さにおいて世界最大であるヌレークダム(ソ連時代の1961年完成)がありますので、ログンダムが完成すれば高さでは1位、2位独占ということにもなります。
資金の出所は、「ロシアだろうか、それとも、また中国だろうか・・・?」と考えてしまうのですが、“ログンダム発電 所(発電設備能力3,600メガワット)の建設について、 14年6月に第三者機関である世界銀行から評価報告書が発表され、タジキスタン政府は16年7月、イタリアの建設大手サリーニ・イムプレジロと発電所建設に関する包括契約を締結。同年10月には起工式が行われた。”【JETRO エリアリポート 芝元英一氏】ということからすると、ロシア・中国ではなさそうです。
中央アジア諸国については、日本における情報が不足していることもあって、とかく「旧ソ連」とか、近年中国の進出が著しい地域といった画一的イメージ、あるいは、米中ロといった大国の影響に翻弄される国々というイメージで見てしまい、「スタン系」各国の独自の取り組み・動き、主体性といったものを見落としてしまいがちです。
【中央アジアを大国の草刈り場と見るのは誤りだ】
そうした傾向を戒めるような記事がたまたま2本ありましたので、並べて紹介します。
****イスラム勢力と中国が衝突?****
「世界を制する要衝」は米中ロの草刈り場にはならない
「地政学」なる怪しげな響きを持つ学問の大家にハルフォード・ジョン・マッキンダーというイギリスの学者がいた。
彼は20世紀初頭、「中央アジアを制する者がユーラシアを制し、ユーラシアを制する者が世界を制する」と提唱した。当時、中央アジアではインド洋を目指して南下を策すロシア帝国と、それに抵抗する大英帝国の問で「グレ
ートゲーム」と呼ばれる勢力争いが繰り広げられていた。
そして今、ソ連時代の勢力圏維持を図るロシア、世界のどこにでも割り込むアメリカ、「一帯一路」経済圏構想を掲げる中国の3大国間で、中央アジアを舞台にしたグレートゲームが再来・・・・との議論が定説化した。
かつて中央アジアに外交官として勤務した筆者には、大げさな話に思える。中央アジア5力国には十分な統治能力がある。特にウズベキスタンは十分な人口(3212万人)と経済力(GDP672億ドル)を持ち、カザフスタンは国家・官僚機構を整備して国際的なイニシアチブも取っている。
中央アジアを大国の草刈り場と見るのは誤りだ。
ロシアは二言目には、「アメリカが中央アジア進出を狙っている」と言う。確かに91年にソ連が崩壊して独立した中央アジア諸国に対して、アメリカは素早く連携を図ろうとした。
01年に9.11同時多発テロ事件が起きると、アメリカはアフガニスタンに進軍。補給のために中央アジアの数力所に基地を置き、積極的に経済援助を行った。
その後アフガン駐留米軍の縮小に伴い、14年までに中央アジアからも米軍は撤退した。筆者が接触する現地の米大使などアメリカ人専門家は皆「アメリカは中央アジアに死活的な関心がない」と言う。
石油・ガス資源はあるが、人目と経済力の面で巨大市場ではない。しかも中央アジアは内陸国で、軍事的な補給のためにはロシア、インド、中国などの領土を通らなければならない。
中国を警戒するカザフスタン
むしろ野心的なのはロシアのほうだ。19世紀に中央アジアを征服して以来、宗主国気分が抜けず、今も相互の経済関係は緊密だ。また、タジキスタンにロシア兵が5000人、キルギスには中隊規模の航空兵力が常駐するなど、ロシアは唯一の軍事的パートナーだ。
米ロに比べて、中国が中央アジアに積極的な進出をしたのはこの15年程度。タジキスタンではインフラ投資を一手に担い、首都ドゥシャンベに建築・建設ブームを起こした。
カザフスタンでは石油企業に大々的な資本参加をしている。中国はトルクメニスタンの輸出天然ガスもほぼ独占する。
ただカザフスタンでは中国警戒論が強まっており、トルクメニスタンは金払いが悪い中国に代わって、ロシアなどに天然ガス輸出を振り替えようとする動きがある。
中国は一帯一路の旗印の下、中央アジアを横切る鉄道を現状の1路線に加えて何本も新設すると豪語していたが、まだ経路も確定していない。中国・ヨーロッパ間の鉄道輸送は運賃が海路の2倍かかる。大風呂敷を広げてみたが、採算面で二の足を踏んでいるようだ。
今、中央アジアでは地域大国のウズキスタンとカザフスタン主導で、ASEANのような諸国の団結強化の動きがある。
この2か国が自立姿勢を見せるたびにロシアは不快感を示し、なぜか両国でテロが起きる。またカザフスタン北部の工業地域に集住するロシア人の扱いをめぐって、ロシアが政治的・経済的圧力を強めるかもしれない。
ウズベキスタンでは16年に死去したイスラム・カリモフ大統領の後継者シヤフカト・ミルジョエフ大統領がいまだ権力確立の途上にある。
カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は78歳と高齢だが後継者の用意ができていない。
中央アジア南方に接するアフガニスタンからは、イスラム原理主義勢力タリバンの脅威が忍び寄る。
こうした地域内の不安定が大規模紛争に発展するかどうかのカギは、大国の介入だ。その点で要注意なのが東方に隣接する中国新疆ウイグル自治区の動向。
対米貿易戦争で中国経済や統治能力が不安定化する可能性は否定できない。そうなればウイグル住民が多数流出し、中央アジアのイスラム勢力との連携を強めかねない。中国がウイグル人の後を追う形で軍事介入すれば、ユーラシアに激震が走るだろう。【河東哲夫氏 11月13日号 Newsweek日本語版】
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【もはや「旧ソ連圏」ではない 独自の国家建設に取り組む中央アジア各国】
“この2か国が自立姿勢を見せるたびにロシアは不快感を示し、なぜか両国でテロが起きる”・・・・表立っての言動はともかく、中央アジアでロシアに対する反感が強まっていることは想像に難くないところです。
****中央アジアの国々はもはや「旧ソ連圏」ではない****
時間が止まったイメージとは裏腹に、ソ連離れと独自の国家建設は着実に進んでいる
ソ連崩壊から30年近くたつのに、かつて植民地だった国々に対して「旧ソ連」という言葉を使うのは変だI。10月29日、ウクライナのジヤーナリストがツイッター上でそう批判した。
「私たちの現在のアイデンティティーを決めるのは植民地だった過去ではない」
91年のソ連崩壊から今年で27年。一部のジャーナリストや著述家はいまだに旧ソ連圏の国々とソ連の歴史をなかなか切り離せずにいる。
中央アジアについて論じる場合は特に顕著だ。カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5力国は、旧ソ連圏の他の国々とは違う。
第1に、バルト3国などではキリスト教徒とヨーロッパ系住民が多数派だが、中央アジアの国々ではイスラム教徒とテュルク語系住民(タジキスタンは除く)が圧倒的多数を占める。
第2に、中央アジアの国々は独立後の経緯も他の旧ソ連圏諸国とは比較的異なっている。他の国々が徐々に民主主義とリベラリズムを受け入れてきたのに対し、中央アジアの5力国は実質的には今も権威主義だ。
第3に、中央アジア各国は海のない内陸国。そのためロシア、インド、中国など大国の陰でかすみがちだ。
民主主義や安定が課題
それでも「旧ソ連」という呼称は私たちの目を曇らせ誤解を生む。中央アジアは決して変化していないわけではない。特に国家建設に関しては、ゆっくりとだが変化してきた。
ソ連崩壊以降、中央アジア各国はそれぞれ独自のアイデンティティーづくりに取り組んできた。
中央アジア最大の国カザフスタンは「ユーラシア国家」を自負している。地理的にアジアとヨーロッパの中間にあることから、94年にナザルバエフ大統領が提唱した考えだ。
ナザルバエフは14年の演説で、カザフスタンは「ソ連の旧弊」からはるか遠くまで前進したと語り、ソ連的なアイデンティティーに逆戻りする可能性を一蹴。民主化はお粗末な状態とはいえ、自由貿易を受け入れ、市場経済に分類されている。
一方キルギスは「中央アジアにおける民主主義の孤島」と広く見なされ、10年4月のバキエフ政権崩壊後、中央アジアで初めて民主的な議会選挙を実現。
民主主義の質はまだ安定しているとは言えないが、ソ連時代の古い中央集権制度から大きく様変わりし、周辺国よりオープンになっている。
タジキスタンやトルクメニスタンでは文化面で「旧ソ連」離れが進む。中央アジアで唯一ペルシヤ語系住民が多数派を占めるタジキスタンは16年、タジク語式の姓を復活させるべくロシア語式の姓を法律で禁止。
一方トルクメニスタンではニヤゾフ初代大統領が自らを「トルクメニスタンの父」と称し、その威光によるアイデンティティー再建を目指した。ニヤゾフは06年に死去したが、個人崇拝モデルは今も健在だ。
中央アジア最大の人口を有するウズベキスタンでは、独立以降、政治的安定と民族間の融和が最大の懸案だ。そのため91年に初代大統領に就任したカリモフは野党と宗教団体に対し強硬策を取ったが16年に死去。ミルジョエフ現政権は相変わらず独裁体制とはいえ、経済の自由化に取り組んでおり、外交面でも開放的だ。
中央アジアをソ連時代の遺物扱いするのはもうやめよう。独自のアイデンティティーを持つ新興国家群と考えるべきだ。【12月4日号 Newsweek日本語版】
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中央アジア各国において、(大国から支援を引き出しながら)それぞれ独自の国家建設の歩みがあり、また、独自の問題を抱えている(独裁・権威主義的という共通性はありますが)という、「当たり前」の話です。
中央アジア諸国が画一的なイメージで見られる原因として、「スタン」という国名の類似性も大きいように思われます。
周知のように「スタン」は、ペルシア語由来の言葉で、一般的に、その地方の多数派を占める民族の名称の語尾に接続して、地名を形成する語尾です。
当該国においても、この「スタン」イメージからの脱却の動きもあり、キルギスは93年にキルギスタンから国名を変更しています。
カザフスタンのナザルバエフ大統領も、「スタンの付く国が多い地域でカザフの知名度が埋没している」との認識で、国名を変更する考えを2014年に表明したことがありますが、その後は?
もちろん名前より中身が重要(特に、ソ連時代やロシアとは異なる民主主義を確立することが重要)・・・ではありますが、意気込みを名前で示すという考えもあります。