孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  ロイヤル・ウェディングの興奮と厳しい経済・社会の現実

2011-04-30 22:00:58 | 世相

(イギリスの栄光を彷彿とさせるロイヤル・ウェディング “flickr”より By Antonio_Tello http://www.flickr.com/photos/60464644@N07/5669717477/

【「この結婚式は国をひとつにしてくれる」】
イギリスでは“世紀の結婚式”に、沿道で100万人が喝さいを送ったとかで、先ずはおめでたい話です。
各国のTV報道を見ていると、イギリスより、君主制に縁のないアメリカの方が興奮度合いが高いように思えます。自分たちの持たないものへの一種の憧れでしょうか。
一方で、君主制を廃止したフランスは、やや皮肉交じりの分析調の報道で、これまた興味深いものがあります。

****100万人が喝采 バルコニーでキス 英挙式****
ロンドンのウェストミンスター寺院で29日に行われたウィリアム英王子とキャサリン妃の結婚式。国民に愛された故ダイアナ元妃の愛息と一般家庭出身の女性が育んだ愛に、沿道では約100万人が喝采をおくり、世界で推定20億人がテレビで見守った。(中略)

キャサリン妃は故ダイアナ元妃の時と同じく、伝統的に使われた「(夫に)従います」の言葉は使わなかった。大学で恋に落ち、別れも経験した現代的なカップルの対等な関係を印象づけた。歴代の王が眠り、ダイアナ元妃の葬儀も営まれた由緒ある寺院に、聖歌隊の賛美歌が響き渡った。
挙式後、王子夫妻は寺院の外に姿を現し、4頭立ての馬車でバッキンガム宮殿までパレード。沿道には赤、青、白の英国旗・ユニオンジャックが至る所にはためき、2人が手を振ると観衆から大きな歓声が上がった。

午後1時25分、宮殿のバルコニーに立った2人は、笑顔でキス。眼下の広場を埋め尽くした観衆の要望にこたえ、もう一度口づけを交わした。(中略)
寺院そばのトラファルガー広場では、多くの市民が巨大な画面で式の様子を見守った。ロンドンのビデオ編集者トム・クラークソンさん(22)は「この結婚式は国をひとつにしてくれるし、世界が我々を見てくれる。英国が景気後退から抜け出そうとしている時だからこそ、みんなを元気づけてくれる」と話した。【4月29日 朝日】
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王室人気は上昇
近年回復傾向にあったイギリス王室に対する国民の好感度、王室存続の予測も、今回のロイヤル・ウェディングで更に高まったようです。

****英ウィリアム王子挙式 ダイアナ元妃の夢、再び幕開け****
 ■スキャンダルの歴史超え「ウィリアム国王」に期待
エジプトのファルーク国王(1952年の革命で王政崩壊)はかつて「生き残ることができるのはトランプの王様4人と英国王」という名セリフを残した。
チャールズ英皇太子と故ダイアナ元妃の結婚式から30年。おとぎ話のような恋は不倫、離婚、元妃の事故死で幕を閉じ、元妃の悲劇に冷淡だった英王室に国民は反発した。ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚で王室人気は上昇したが、二人の円満な夫婦生活と王室の未来は切っても切り離せない。(中略)

現王室でもエリザベス女王とフィリップ殿下の結婚は64年目を迎えたが女王の妹、故マーガレット王女、長男のチャールズ皇太子、長女のアン王女、次男のアンドルー王子が離婚。離婚していないのは三男のエドワード王子だけだ。
チャールズ皇太子と元妃のダブル不倫が発覚、二人が別居、離婚した90年代、世論調査で「50年後も英王室は存続している」という回答が半数を下回るなど、英君主制は深刻な危機に立たされた。

しかし、英調査会社YouGovと英ケンブリッジ大が今月26、27日に行ったアンケートでは66%が「今後100年間英王室は存続する」と回答、76%が「ウィリアム王子は良い国王になる」と答えた。
王族の好感度ランキングは1位がウィリアム王子で78%。2位エリザベス女王71%▽3位キャサリン妃70%▽4位ヘンリー王子63%-の順。チャールズ皇太子は19%にとどまった。
ウィリアム、ヘンリー両王子の人気が高いのは、その気取らない人柄によるところが大きい。(中略)

 ■警備6億7800万、式に27億1300万円 英紙報道
今回の結婚式の費用は正式には発表されていないが、英紙報道によると推定2000万ポンド(約27億1300万円)。英王室とキャサリン妃の両親が負担する。これとは別にロンドン警視庁などによる警備費は500万ポンド(約6億7800万円)と報じられている。2009年度の英王室維持費は前年度比330万ポンド減の3820万ポンド(約51億8600万円)。英国民が緊縮財政を強いられる中、結婚式の支出にも厳しい目が注がれた。
招待客もチャールズ皇太子と故ダイアナ元皇太子妃の結婚式時の3500人から大幅に減らされたものの、挙式費用は報道ベースでも当初見込みの4倍に膨らんでいる。【4月30日 産経】
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チャールズ皇太子の不人気ぶりが、お気の毒です。

【「イギリスなんてもはや存在しない。あるのはかつて存在したものの痕跡だ」】
イギリス王室は追い風が吹いているようですが、イギリス経済、その国際的影響力の方は厳しいものがあります。
リビアのカダフィ大佐は、「イギリスなんてもはや存在しない。あるのはかつて存在したものの痕跡だ」と切り捨てたとか。

****光と影、2つのイギリスの物語****
秒読み段階に入った英王室のウィリアム王子とケイト・ミドルトンの結婚式。その様子はテレビを通じて世界20億人(つまり地球の人目の3分のI近く)が見守ると、イギリスのメディアは騒ぎ立てている。
ロンドンの土産物店には2人の写真をプリントした皿やマグカップが並び、政府は挙式の4月29日を祝日にすると発表。イギリス人にとっては、世界中がイギリスに憧れているという気分を満喫するお膳立てが整った。

ああ、もはやイギリス人に残された役割はその程度なのかと、嘆きたい気持ちでいっぱいだ。
リビアの独裁者ムアマル・カダフィは3月半ば、「イギリスなんてもはや存在しない。あるのはかつて存在したものの痕跡だ」と切り捨てた。
その後行われたリビア空爆には英軍も参加して、イギリスの爆弾も落とされたから、カダフィの発言は必ずしも的を射ていたとは言えない。だがイギリス人の中には、カダフィの「分析」をしぶしぶ認める者が少なくないのも事実だ。

イギリスでは現在、世界犬恐慌の余波に苦しんだ1930年代以来となる厳しい緊縮財政が行われている。公共部門では今年中に数十万人が職を失い、それ以外の部門でもインフレや増税、社会福祉手当の大幅な削減によって、家計は大きく圧迫されるとみられている。
軍事施設から公共図書館まで、さまざまな公的施設が閉鎖されるか売却される。英海軍で唯一残っていた空母アーク・ロイヤルも、国防省のウェブサイトで競売に掛けられている。

イギリス人にとって「国家の衰退」は今に始まった話ではない。むしろイギリス史研究では1つのテーマになっている(最近はアメリカもその傾向にある)。しかし現在のイギリスは、私の記憶にある限り最も「嫌な予兆」にあふれている。
確かに70年代は英国病とオイルショックでIMF(国際通貨基金)の融資を受ける破目になり、80年代にはマーガレット・サッチャー首相(当時)の行き過ぎた規制緩和のために労働組合が力を失い、製造業が壊滅的な打撃を受けた。

過去30年で製造業は消滅 
それでも、最近の莫大な財政赤字と公共事業の大幅削減に頼った景気回復策ほど、イギリス人にイギリス人らしさを失わせる政策は過去に例がない。
ウィリアムの両親であるチャールズ皇太子とダイアナ妃が結婚した81年、イギリスの状況はエリザペス女王が戴冠した53年と大して変わっていなかった。

ロイヤルカップルをひと目見ようと、結婚式が執り行われたセントポール寺院からバッキンガム宮殿までの沿道は、数え切れないほどの群衆で埋め尽くされていた(その大部分は白人だった)。
彼らの愛国心は実に素直なものだった。(中略)

実体経済の変化はもっと大きかった。チャールズとダイアナが結婚したとき、イギリスには炭鉱労働者が25万人いて、造船業も健在だった。鉄鋼や自動車、菓子、衣服、ビールを製造する工場もあった。それが今は炭鉱業と造船業、それに繊維業は消滅したと言っていい。

生き残った産業もほとんどが外国資本の傘下に入った。81年当時、イギリスの板チョコがスイスかアメリカの会社によって製造されることになるなんて誰が想像しただろう。ロンドンの水道はドイツ、電力はフランス企業が供給し、イギリスの製鋼所の未来はムンバイやバンコクの会社に握られるなんて……。

とはいえ、81年がイギリスの黄金時代だったわけではない。チャールズとダイアナの結婚式は、社会の分断と不穏に苦しむ国にとっての、いっときの安堵と気晴らしでもあった。
その年の夏、北アイルランドではIRA(アイルランド共和軍)の受刑者がハンガーストライキの末に死亡。サウスロンドンのブリクストン地区やリバプールのトクステス地区で起きた黒人の若者による暴動が、全国の貧困地区に広がった。
失業率は上昇しつつあり、82年末には第二次大戦後最悪の12.9%を記録し、87年まで11%を切ることはなかった。当時サッチャーは超不人気で、辛うじて82年の総選挙を乗り切れたのはフォークランド紛争で勝利したおかげだった。製造業は事実上消滅し、イギリスは83年までに初めて純輸入国に転じた。

当時と現在では、そっくり同じこともある。失業手当で生活している人が250万人いることと、それが北部で増えているということだ。しかし現在の兆候のほうが先行きは暗い。

礼儀や忍耐を忘れた国民
80年代は北海油田が英経済に大きく貢献した。80年代半ば、政府の税収の10分の1は北海油田によるもので、それが政府の比較的手厚い社会福祉手当を支えた。90年代にはサッチャーの規制緩和によって、ロンドンがニューヨークに並ぶ世界の金融センターに成長した。
しかし石油も債権も無限ではない。現在、北海油田の生産はとっくにピークを超えている。金融機関はある程度持ち直すかもしれないが、巨額の血税を役人して救済された以上、かつてのように国家経済の中心的輝きを取り戻せるとは思えない。

だとすれば、イギリスの政治家が30年近く無視してきた政策を再検討する必要がある。つまり再び輸出国となるべく、製造業を立て直すことだ。
実際、ジョージ・オズボーン財務相は先月の予算演説で、「『英国製』『英国産』『英国デザイン』によってわが国の未来を切り開きたい」と語った。しかし法人税の引き下げや経済特区の設置、徒弟制度の創設を別にすれば、計画らしい計画を聞くことはできなかった。

政府は公共部門を縮小して、民間企業にその隙間を埋めさせれば成長を刺激することができると思っているらしい。だが産業の空洞化が進み、公共部門が雇用の40%を占める北部では、隙間だけが残る可能性がある。

現在と81年の最も重要な違いは、経済よりも社会にある。チャールズとダイアナの結婚パレードに歓声を送った人々は、第二次大戦中に戦場で戦った男性であり、配給でどうにか生活を支えられた女性たちだった。彼らは国家や王室に従順な敬意や義務感を抱いていて、それを子供たちにも教えた。
国民性を定義するのは愚かな試みかもしれないが、少なくともイギリス人の振る舞いはあの頃と比べて大きく変わった。人々は以前よりも声高に自己主張するようになり、怒りやすく、既存のシステムを尊重する気持ちは乏しくなった。礼儀は軽視され、我慢や忍耐はほぼまったく重視されなくなった。

社会的混乱が起きる危険があると言ったら誇張になるかもしれないが、その恐れはある。昨年12月、チャールズとカミラ夫人の乗った車がロンドンで暴徒に取り囲まれた。この事件で何より衝撃的だったのは、ショックを受けた車内の2人の姿だ。
そこにはいつもの落ち着き払った態度は見られなかった。無理もない。オーストラリアでなら共和制支持者が騒がしいデモを起こすのを見慣れているが、イギリスで王室のメンバーがイギリス人の暴徒に襲撃されたのは18世紀以来のことだ。(中略)
つまるところ、イギリス人もギリシャ人とさほど違わないのかもしれない。これからは暴動に慣れる必要がありそうだ。【5月4日号 Newsweek イアン・ジャック(ジャーナリスト)】
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やや辛口に過ぎる感もありますが、長年の停滞に苦しみ、更に3.11の被害を抱える日本は、イギリスのことをとやかく言う立場にないでしょう。
ただ、日本の場合、政治の迷走にもかかわらず、3.11で再確認され、世界からも称賛された“礼儀と忍耐”がある分、地道な回復は可能なのでは・・・と、大した根拠もなく楽観的に感じています。


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パキスタン  イスラム武装勢力との微妙な関係 高まる反米感情

2011-04-29 20:59:22 | 国際情勢

(4月22日のアメリカ無人機による攻撃で多数の民間人犠牲者がでたとして,星条旗を燃やして激しく抗議するパキスタン市民 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5644792433/

パキスタン・アメリカ軍部トップが批判の応酬
個人同士の私的な関係でも、表面的なものと実際との違いは普通にあるように、国家間、あるいは国家とある勢力の関係も表面的な関係だけでは判断できない複雑なものがあります。
アフガニスタン情勢のカギを握るパキスタン国軍とタリバンなどイスラム武装勢力との関係も、そうした“よくわからない関係”のひとつでしょうか。

アメリカがアフガニスタンでの対テロの戦いを遂行する上で、イスラム武装勢力の補給地、または本拠地ともなっているパキスタンの国境地帯でのイスラム武装勢力の掃討をパキスタンに強く要請しており、その要請に応じてパキスタン側が掃討作戦を実行していることも事実です。
イスラム過激派と戦うためにパキスタンがアフガニスタンとの国境付近に展開している兵力は、NATO軍がアフガニスタン全土に展開している兵力より多いと言われています。

その報復としてイスラム武装勢力側によるパキスタン軍を狙ったテロも頻発しています。
26日は、南部カラチで海軍当局者を乗せたバスを狙った同時爆弾テロがあり、現地情報によると海軍幹部を含む4人が死亡、50人以上が負傷しています。
更に、28日朝には同じ南部カラチで路肩爆弾によって再び海軍の通勤バスが爆破され、地元メディアによると、5人が死亡、18人が負傷したとのことです。
いずれの事件についても、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が犯行を認めています。

一方で、パキスタン国軍、特に軍情報機関(ISI)とイスラム武装勢力が強いつながりがあることも良く知られているところです。アフガニスタンのタリバン成立にもアメリカCIAとともにパキスタンISIが関与しています。
一般的には、宿敵インドに対抗して、アメリカ撤退後のアフガニスタンへの影響力を保持したいとの目論見で今でも武装勢力との関係を維持していると言われています。

アメリカの要請でイスラム武装勢力を攻撃しながらも、背後ではそうした武装勢力の後ろ盾として支援する・・・“よくわからない関係”です。
アメリカも、パキスタンのこうした曖昧な対応には苛立ちをつのらせており、先日も米軍トップのマレン統合参謀本部議長がISIと武装組織のつながりを強く批判しています。

****マレン米統合参謀本部議長の発言にパキスタン軍が反発****
2011年04月22日 20:21 発信地:イスラマバード/パキスタン
パキスタンを訪問した米軍制服組トップのマイケル・マレン統合参謀本部議長が20日、パキスタンの三軍統合情報部(ISI)はテロリストとつながっており、アフガニスタンの旧勢力タリバンとの戦いにおける取り組みが不十分だと批判したことに対し、パキスタン軍は翌21日、これを強く否定する声明を発表した。

パキスタン軍上層部との安全保障会談のために20日に同国入りしたマレン米軍統合参謀本部議長は、独立系放送局Geo TVのインタビューで、北西部アフガニスタン国境の部族地域に潜伏するタリバン勢力とISIについて、「ISIの全員がそうだというわけではないが、ISIはハッカニ・ネットワークと長年にわたって関係がある。これは事実だ」と批判した。
ハッカニ・ネットワークとは、アフガニスタンの軍閥の長、シラジュディン・ハッカニ氏が率いる国際テロ組織アルカイダ系の組織で、パキスタン側の部族地域にある北ワジリスタン地区を拠点としている。
アフガニスタン東部ホースト州で米中央情報局(CIA)要員7人が死亡した2009年の米軍基地自爆攻撃などを実行したとされる。

マレン議長の発言を受けてパキスタン軍は21日、アシュファク・キアニ陸軍参謀長は「パキスタンの取り組みが不十分で、パキスタン軍が透明さに欠けているとするネガティブなプロパガンダ」を断固として否定するという声明を発表した。またキアニ参謀長は「現在進めている作戦は、テロリズム打倒に向けたわが国の決意を証明するものだ」と述べたという。
またキアニ参謀長は、テロリズムとの戦いの勝利の鍵となるのはパキスタン国民の支持だが、波紋を呼んでいる米軍の無人機による攻撃は、「テロリズムに対するわが国の努力だけでなく、我々の努力に対する世論の支持も損なっている」と批判した。【4月22日 AFP】
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今年1月、CIA嘱託職員がパキスタン東部ラホールで地元の若者2人を射殺した事件がパキスタン国内の反米感情を強く刺激し、更に、この職員が遺族に和解金を払うなどして釈放された直後の3月、CIAが無人機でパキスタン北西部を空爆しています。
こうしたことから、パキスタンとアメリカの関係は最近悪化していますが、今回の両国軍部トップ同士の批判の応酬はこうした情勢が背景にあります。
パキスタン軍によると、20日キアニ陸軍参謀長はマレン統合参謀本部議長と会談し、無人機攻撃について「対テロ戦での我々の努力への国民の支持を失わせる」と批判したとのことです。

ただ、アメリカとしては、アフガニスタン国境地帯での武装勢力掃討、アフガニスタンへの物資補給路確保のためにはパキスタンの協力がどうしても必要であり、パキスタンの対応を批判はしつつも、懐柔策もとっているようです。
****米、パキスタンに小型無人機85機供与へ****
ロイター通信は22日までに、米軍当局者の話として、米政府が無人偵察機85機をパキスタンに提供すると伝えた。パキスタンは米国に無人機の技術提供を求めており、その要求にこたえる動きの一環。提供するのはカラー映像撮影機能を備えた小型無人機「レイブン」。【4月23日 産経】
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沸騰する反米感情、補給路遮断
キアニ陸軍参謀長がアメリカの無人機攻撃を批判した会談後の4月22日には、パキスタン北西部のイスラム武装勢力が拠点とする部族地域北ワジリスタン地区で、アメリカの無人機による攻撃があり、地元メディアによると、女性や子どもら民間人を含む25人が死亡したと報じられています。
パキスタン軍は従来、米CIAによるパキスタン国内の無人機攻撃を“黙認”していましたが、国内での反発が強まっています。【4月22日 朝日より】

パキスタン国内の反米感情は沸騰しつつあり、市民によるNATO補給路遮断という事態に至っています。
****パキスタン:無人機空爆に抗議の市民、NATO補給路遮断****
パキスタン北西部のペシャワル郊外で23、24の両日、米国による無人機空爆に反発する市民数千人が幹線道路に座り込み、アフガン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍に送られる補給物資の通過を遮断した。これまで武装勢力がタンクローリーなどを攻撃し、NATOへの補給を停止に追い込んだことはあるが、住民が補給路を断ったのは初めてだ。
現地からの報道によると、抗議行動は、パキスタンのクリケットチーム元主将として世界的に知られ、野党「正義のための運動」を率いるイムラン・カーン氏(58)が呼びかけた。物資輸送再開は25日以降になる見通しだ。

NATO側は、2日間の補給路遮断では、アフガンでの作戦展開に影響はないという。だが、米・パキスタン両軍の関係がぎくしゃくする中、住民が実力行使に出たことで、米国のアフガン戦略はますます困難となりそうだ。
カーン氏の党は08年の総選挙をボイコットしたため、議会に議席を持たないが、親米とみなされるザルダリ大統領・ギラニ首相の現政権が不人気を極める中、「反米」を強く打ち出したカーン氏が存在感を強めている。

パキスタン軍トップのキヤニ陸軍参謀長は3月、米中央情報局(CIA)がパキスタン北西部の部族地域を無人機で空爆し、民間人ら約40人が死亡したことを「許されない」と指弾していた。キヤニ氏は今月20日、パキスタンを訪問した米軍トップのマレン統合参謀本部議長と会談し、空爆停止を求めたとみられるが、その2日後には同じ地域で空爆が再度実施され、住民の怒りを招いていた。
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【「レーガン・ルール」、「アメリカ抜き」和平構想
パキスタン軍部の思いについては、次のような指摘もあります。
****米パの亀裂をアルカイダが笑う*****
対テロ パキスタンとの関係がいくら悪化してもアフガン問題を抱えるアメリカは強気に出られない
・・・・・陰で実権を握り続けるパキスタン軍も、ここ2年のアメリカの諜報活動に不安と怒りを募らせている。彼らにしてみればデーピスの一件や無人機の空爆によって、自分たちが領土を完全に掌握できていないという現実を日々突き付けられている。

パキスタンのアシュファク・キヤニ陸軍参謀長やアハメド・パシャー軍統合情報局(ISI)長官が望んでいるのは「レーガン・ルール」への回帰だ。
このルールは80年代にさかのぼる。当時、CIAとサウジアラビア当局はISIに資金と武器を提供し、アフガニスタンに侵攻したソ遂軍と戦うイスラム・ゲリラ組織ムジャヒディンを支援させた。CIAとISIはまさに盟友だった。
米政府は基本的に干渉せず、作戦や戦争の遂行はISIに任せていた。パキスタン側にも、主権や尊厳を脅かされているという感覚はほとんどなかった。
レーガン・ルールには、パキスタンの核開発を黙認するという暗黙の合意も含まれていた。しかし89年にソ連がアフガニスタンから撤退すると、アメリカはパキスタンの核開発に対する制裁を実施。90年にはF16戦闘機など、パキスタンが支払いを済ませていた武器の供給を突然中止した。パキスタン軍はあの裏切りを忘れていない。・・・・・【4月27日号 Newsweek】
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なお、アフガニスタンのカルザイ政権もアメリカの支援で成立している一方で、アメリカからはその汚職体質を強く批判されているという微妙な関係にあります。
対米不信感を強めるアフガニスタン、パキスタン両国が、タリバンと和解を目指す合同委員会の設置で合意するという、「アメリカ抜き」で当事国同士が和平構築を模索する動きも見られることも注目されます。

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パレスチナ  ファタハとハマス、和解と統一政府樹立で基本合意

2011-04-28 23:41:02 | 国際情勢

(3月15日ガザ ファタハとハマスの和解、統一政府樹立を求める若者のデモ “flickr”より By Sniper Photo Agency http://www.flickr.com/photos/sniperphotocouk/5540011399/ )

【「対立の代償は高くついた。我々は意思をそろえて(イスラエルの)占領を終わらせる」】
パレスチナ問題の進展を阻んできた原因のひとつに、パレスチナ側における穏健派ファタハ主導の自治政府とガザ地区を実効支配するイスラム過激派組織ハマスの対立があります。自治政府のアッバス議長は、この対立のためガザ地区への影響力を行使できず、ハマスとイスラエルの対立によって和平交渉も制約されてきました。

永く分裂状態にあったヨルダン川西岸地区を統治するファタハと、ガザ地区を実効支配するハマスですが、27日、両者が和解することで基本合意したと報じられています。

****ファタハとハマス和解合意 パレスチナ、挙国一致内閣へ****
2007年から対立を続けてきたヨルダン川西岸地区を統治するパレスチナの主要組織ファタハと、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが27日、和解することで基本合意した。近く挙国一致内閣をつくり、1年後をめどに選挙を行うという。

エジプトの仲介で交渉を行った両派が27日、カイロ市内で会見し、発表した。合意では、ファタハとハマスはともに自派の政府を解体し、パレスチナ自治政府のアッバス議長のもとで実務者による暫定挙国一致内閣をつくる。議長選と、国会にあたる自治評議会選を1年以内に行うため両派で委員会をつくり、選挙の進め方などを協議する。

さらに、西岸のファタハ系組織とガザのハマス系組織で分裂している治安権限も、合同委員会をつくって協議するという。近く、ファタハを代表するアッバス議長と、ハマス政治部門の最高指導者メシャール氏がカイロで合意の調印式を開き、その後、挙国一致内閣を発足させるという。

イスラエルが封鎖を続けるガザでは政治・経済が機能不全に陥り、西岸でもアッバス議長の指導力不足が指摘されるなか、アラブ諸国の民主化要求デモに触発された若者らを中心にパレスチナ内部の対立解消を求める声が高まり、デモが起きていた。ファタハのアフマド議員団長は27日の会見で「対立の代償は高くついた。我々は意思をそろえて(イスラエルの)占領を終わらせる」と述べた。

一方、和解という枠組みはできあがったものの、これまでの交渉で両派が対立を重ねてきた治安権限や選挙などの詳細を巡っては、将来に積み残すかたちとなっており、今後も話し合いには曲折が予想される。ハマスへの警戒心が強いイスラエルや米国の反発や干渉を招く可能性もある。【4月28日 朝日】
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統一政府でパレスチナを代表する正統性をアピール
ファタハ・アッバス議長側はガザに支配権が及んでいないこと、また、議長・評議会選を9月までに実施すると発表しながらガザでは投票できない恐れがあり、パレスチナを代表する正統性が疑問視されていることなどの問題を抱えています。

ガザ地区を実効支配してきたハマスも、ガザ封鎖の出口が見えず、住民の不満は高まっており、最近その支配力に陰りが見られる事件もおきていました。
****パレスチナ:イタリア人活動家、遺体で 過激派が殺害予告****
パレスチナ自治区ガザ地区のアパートで15日未明、パレスチナ支援活動家のイタリア人男性が遺体で発見された。ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとは別のイスラム過激派組織「一神教聖戦団」を名乗るメンバーが前日、男性の殺害を予告していた。外国人の拉致・殺害事件はハマスが07年にガザを実効支配してから初めて。ハマスに反発する過激派が勢力を伸ばしていることを象徴する事件で、緊張が高まっている。(中略)

「聖戦団」はハマスと同じ原理主義者の集まりだが、日常生活では宗教的により厳格なサラフィ主義に従い、国際テロ組織アルカイダの思想と共鳴する。ガザでは、占領による生活苦を改善できないハマスへの不満を吸収する形で、複数のサラフィ主義武装集団が台頭。ハマスの力は相対的に落ちたとされ、イスラエルへのロケット弾攻撃が増えたのもこうした事情がある。ハマスは取り締まりを強化し、闘争が激化している。
パレスチナ自治区では、ヨルダン川西岸でも今月4日、パレスチナ人とユダヤ人を父母に持つ平和活動家で劇場代表の男性が射殺される事件があった。自治政府警察は、保守的なイスラム主義者による犯行の可能性もあるとみて捜査している。【4月15日 毎日】
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ファタハ、ハマス両者の事情から、和解への機運が高まったというところでしょうか。
もちろん、“激しい路線対立を続けてきた両者が、権力分担や対イスラエル政策など細部で協力できるかは不透明だ”【4月28日 毎日】というように紆余曲折はありそうです。

アッバス議長・自治政府は、イスラエルとの和平交渉が行き詰る中、今年9月に国連で被占領地(ヨルダン川西岸とガザ)を国土とする国家樹立の承認を求める戦略を進めています。
この動きは、国連加盟192カ国のうち中東や南米などを中心に100カ国以上が賛成し、承認される見通しと言われていますが、イスラエルに大きな影響力のある欧米の賛成をどれだけ得ることができるかが注目されています。
パレスチナ統一政府が樹立されれば、この動きにもはずみがつくものと思われます。

イスラエル・アメリカはハマスを警戒
イスラエルと激しく対立してきたハマスがパレスチナ自治政府に加わることについては、イスラエルは反発を強めており、イスラエル・ネタニヤフ首相は、「自治政府は、イスラエルとの和平か、ハマスとの和平か、どちらかを選ばねばならない」と自治政府を非難しています。【4月28日 毎日より】

また、アメリカもハマスの動向に懸念を示しています。
***パレスチナ:統一政府樹立合意 米国、ハマス台頭を警戒****
中東和平を後押ししている米政府は、イスラム原理主義組織ハマスの存在を警戒しながら、パレスチナ新統一政府樹立の動きを見極めようとしている。

国家安全保障会議(NSC)のビーター報道官は27日、「パレスチナ内の和解を支持はするが、ハマスは市民を標的とするテロ組織だ」と発言。「和平実現のためにパレスチナ政府は、暴力を放棄し、イスラエルの生存権を認めなければならない」と述べ、ハマスの台頭にくぎを刺した。
米政府は、ハマスが自治政府の主導権を握れば、イスラエルとの和平交渉は困難となり事態が複雑化すると懸念。穏健派ファタハのアッバス議長が引き続き実質的に統率する政府に期待している。米政府はイスラエル・パレスチナ和平の早期遂行を望み、オバマ大統領が近く中東政策を改めて発表するとの観測もある。【4月28日 毎日】
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イスラエルやアメリカのハマス警戒感はありますが、現在の分裂状態ではパレスチナ側の実効ある行動ができませんので、統一政府樹立はパレスチナ和平に向けて必要不可欠な条件であると思われます。
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チベット  僧侶焼身自殺でチベット僧拘束、外国人立ち入り禁止

2011-04-27 21:22:22 | 国際情勢

(チベット亡命政府のカロン・トリパ(首相)に当選したロブサン・サンゲ氏(43)。 投票時の様子のようです。ダライ・ラマの政治引退表明によって、今後の新しい政治指導者としての手腕が期待されます。
“flickr”より By thepoeticdream http://www.flickr.com/photos/poeticdream/5547331890/ )

過去の亡命政府の政治との決別
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が、権限を「自由な選挙で選ばれた指導者」にたくして政治的指導者の地位から退きたいと表明したことから、選挙の行方に注目が集まっていたチベット亡命政府の首相選挙については、3月21日ブログ「チベット ダライ・ラマ14世の政治引退表明のなかでの新首相選挙」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110321)でとりあげましたが、予想されたように米ハーバード大学で国際法を研究しているロブサン・サンゲ氏(43)が新首相に当選しました。

****チベット亡命政府の新首相にハーバード大のサンゲ氏*****
2011年04月27日 18:35 発信地:ダラムサラ/インド
インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府の首相を選ぶ選挙は27日、米ハーバード大学の研究員、ロブサン・サンゲ氏(43)が当選した。
亡命政府の選挙管理委員会によると、国際法が専門のサンゲ氏は55%の得票を得て、2人の対立候補を大差で破り当選した。インドおよび海外在住の亡命チベット人8万3400人のうち、4万9000人以上が投票に参加したという。

インド北東部生まれで、生涯で一度もチベットを訪れたことがないサンゲ氏の当選は、年配の宗教関係者が占めてきた過去の亡命政府の政治との決別を意味する。
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が、政治的指導者の地位から退く意向を表明していることから、政治的な権限は新首相に移譲される見通しだ。
このため、チベットの精神的指導者の地位は引き続きダライ・ラマにあるが、サンゲ氏には、これまでの首相以上に重要な役割を担うことになる。

サンゲ氏は、チベットの独立ではなく、ダライ・ラマの中道路線を継承した「意義ある自治」を求めていくことを明言している。【4月27日 AFP】
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一度もチベットを訪れたことがないサンゲ氏が、どのようにチベットの人々をリードしていくのかには懸念も感じられますが、膠着して身動きがとれない中国とダライ・ラマの関係とは別の動きが出てくることを期待します。

【「寺院での法制宣伝教育の実施は正常な宗教秩序を維持するためのものだ」】
一方、中国の対チベット政策は相変わらず強硬で、最近でも中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州アバ県で3月16日におきた若いチベット僧侶焼身自殺をめぐって、チベット僧の拘束、その混乱に伴う住民死亡などが報じられています。

****中国:チベット僧300人以上を拘束****
亡命チベット人のニュースサイトや国際支援団体によると、中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州アバ県で21日夜、治安部隊がチベット仏教寺院「キルティ僧院」の僧侶300人以上を拘束したほか、僧侶の連行を阻止しようとしたチベット族の住民と部隊が衝突し、住民2人が死亡した。
支援団体は、死亡したのは60歳代の男性と女性としている。拘束された僧侶はトラック10台に乗せられたが、どこに連行されたかは不明という。

中国国営新華社通信は23日、地元当局が僧侶に対する法律教育を実施するとの通知を出したと伝えた。当局が僧侶を別の施設に移し思想教育を強化するものとみられる。英語版でのみ配信された記事は「一部の僧侶による反社会的な活動」を理由に挙げており、中国当局が国際社会に向け、僧侶に対する締め付けの正当性を主張する狙いもありそうだ。

キルティ僧院では3月16日に若い僧侶が焼身自殺をしたことから緊張が高まっていた。08年3月にチベット自治区ラサで起きた大規模暴動から3年になるのに合わせ、中国当局のチベット締め付けに抗議したとみられる。
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は今月15日に声明を発表。「僧院には約2500人の僧侶が暮らしているが、武装警察部隊に完全に包囲され、食料や物資を運び込むことができない」と指摘していた。これに対し、中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は19日の定例会見で、「僧侶の生活や宗教活動、現地の社会秩序はすべて正常だ」と述べていた。

同自治州では、08年のチベット自治区での暴動を受け、僧侶や住民らがデモ行進し、治安部隊の発砲で少なくとも15人が死亡したと亡命チベット人組織が指摘している。【4月23日 毎日】
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焼身自殺した若いチベット僧については下記のように報じられています。
“事件は3月16日、チベット仏教の重要寺院であるキルティ僧院で起きた。直後に現地で僧院の僧に聞き取りした関係者によると、同日夕、同僧院から1人で歩いて街に出た「ルオサン」という僧名の青年僧が、突然「チベットに自由を」「ダライ・ラマ万歳」と叫び、ガソリンをかぶって火をつけた。”
“僧侶に聞き取りした関係者によると、青年僧は遺書も遺言も残さなかったが、以前から中国当局の民族政策に不満を持ち、チベット語で勉強できる民族学校が閉鎖されたり、ダライ・ラマ14世側が認定したチベット仏教の指導者パンチェン・ラマ11世が失踪したりしている現実を嘆いていた。2008年3月の騒乱にも加わり、犠牲になった仲間の法要のたびに激しく泣いていたという。”【4月22日 朝日】

中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は26日の定例会見で、アバ県で治安部隊が僧侶を拘束し、巻き添えで住民2人が死亡したと伝えられたことについて「寺院での法制宣伝教育の実施は正常な宗教秩序を維持するためのものだ」と強調しています。

外国人を締め出して何をするのか・・・
こうした緊張の高まりを受けて、四川省アバ・チベット族チャン族自治州などへの外国人の立ち入りが禁止されています。
****四川省チベット自治州、外国人の立ち入り禁止****
中国当局とチベット族住民の緊張の高まりで、四川省アバ・チベット族チャン族自治州などへの外国人の立ち入りが禁止されたことが分かった。同自治州にある人気観光スポット九寨溝は禁止区域から除外されている模様だが、地元旅行会社に受け入れ自粛の動きが出ている。一方、同自治州でチベット僧300人が拘束されたとの情報もある。

禁止区域は、同自治州と同省甘孜チベット族自治州。省内の複数の旅行会社によると、数日前に同省旅遊局が外国人の立ち入り禁止を通告した。「現地で騒乱があったため」との説明だったという。解禁時期は不明で、ある旅行会社の担当者は「メーデーの連休も厳しいと思う」と話した。(後略) 【4月24日 朝日】
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中国有数の観光スポットである九寨溝については、23日の段階で九寨溝へのツアーは禁止されていないが、四川の業者の多くは「外国人の受け入れはやめている」とのことです。
九寨溝へのツアーはともかく、外国人を締め出して何をするのか・・・という根本的な疑問がありますが、中国当局はチベット問題に関しては譲る気配はありません。

青海省地震復興計画でもチベット住民の不満
チベット問題に関連しては、昨年4月に起きた青海省地震の被災者の当局に対する不満も表面化しています。
****中国:復興計画に不満の声…青海省地震から1年****
約2700人の死者と約24万人の被災者を出した中国青海省玉樹チベット族自治州の地震は、昨年4月14日の発生から1年が経過。住宅建設などの復興事業は一定程度進んだが、復興計画に基づく立ち退きなどを巡って被災者から不満の声が高まっている。チベット族が大半を占め、分離独立運動がくすぶる地域だけに、中国政府は神経をとがらせている。

新華社によると、中国政府は昨年末までに50億元(約643億円)を投入。農民用の住宅約1万1700戸、都市住民用住宅約1万3700戸を建設した。今年はさらに200億元を投入する計画だ。
ただ、復興計画では倒壊した市街地の住民らを別の区域に移動させることになっている。住民の間には政府に対する不信感が根強く、香港メディアなどによると、4月には1000人以上の住民が補償金支払いの公平性などをめぐってデモを行い数十人が拘束されたという。被災地に住むチベット族の僧侶、ロージャンさんは「実行段階で問題が起きている」と不満を述べた。【4月16日 毎日】
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チベット問題やウイグル族問題は中国政治を硬直化させており、中国の政治改革に対する足かせとなっています。
当分は変革は期待できないように見えます。



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イラン・エジプト急接近 それぞれの思惑

2011-04-26 22:08:12 | 国際情勢

(4月12日、カイロ以内を警備する治安部隊 “flickr”より By *themba* http://www.flickr.com/photos/themba/5616204936/ )

エジプト政変が、中東不安定化の新たな火種に
親イスラエル路線をとっていたエジプト・ムバラク政権の崩壊、バーレーンのスンニ派王制に対するシーア派住民の抵抗、それに対するスンニ派サウジアラビア・湾岸諸国の介入とシーア派イランの反発、中東各勢力の結節点ともなっているシリア・アサド政権の動揺、サウジアラビア隣国イエメンのサレハ政権の窮地など、中東・北アフリカの民主化ドミノによって、中東地域のパワー・バランスは大きく変化する可能性が注目されていますが、こうした混乱の中でシーア派を代表する国家でもあるイランの存在が大きくなっています。

ムバラク政権崩壊後のエジプトとイランが急接近しており、エジプトのこれまでの親イスラエル路線が変化するかも・・・という観測がありますが、下記記事はイランの視点からこの動きを見たものです。

****イラン:エジプトに急接近 イスラエル、サウジ反発も*****
今年2月にムバラク政権が崩壊したエジプトに、イランが急接近している。イランは80年以降途絶えた国交の回復に向け、外務省幹部が繰り返しカイロ入りするなど本腰を入れている。これに対し、エジプトと友好関係を維持するイスラエルやサウジアラビアが反発を強めるのは確実だ。中東民主化の動きがもたらしたエジプト政変が、中東不安定化の新たな火種になる可能性が出ている。

国営イラン通信によると、イランのアフマディネジャド大統領は今月4日、エジプトとの関係修復の動きについて「シオニスト政権(イスラエル)を除くすべての国との良好な関係構築に強い関心がある」と述べた。
イラン革命防衛隊系のファルス通信によると、政府は半年以内に、国交断絶以来の駐エジプト大使を指名する意向で、今月18日には国交再開を見据え両国の観光業界による協力協定を結んだ。イランのサレヒ外相は21日、「双方が関係改善を切望している」と強調し、近くカイロを訪問する意向を示した。

イランは、79年のイスラム革命に際しエジプトがパーレビ国王の亡命を受け入れ、イスラエルと平和条約を結んだことに反発し国交を断絶。80年代のイラン・イラク戦争でエジプトがイラクを支援したため対立を深めた。
だが、今年2月にムバラク大統領は退陣に追い込まれ、両国に対立解消の機運が生まれた。エジプト新政権は同月下旬、イラン軍艦のスエズ運河通過をイスラム革命以降初めて認めた。

中東では、「アラブの盟主」とも呼ばれるエジプトやサウジアラビアなどアラブ諸国(体制はイスラム教スンニ派)に対し、ペルシャ人主体のイラン(同シーア派)が対立してきた構図がある。
エジプトのイスラム教スンニ派最高権威タイエブ師は先日、「イランはアラブ諸国に介入すべきでない」と批判した。エジプトでは「反イラン・親イスラエル」という従来の政策を新政権が見直すことに警戒感は根強い。

イラン・エジプト接近に関しては、イスラエルがいら立ちを募らせているほか、現在バーレーン情勢を巡りイランと激しく対立するサウジアラビアも反発を強めそうだ。
イスラエルの大手ニュースサイト「yネット」は、「(イランの脅威に対抗し)イスラエルはサウジアラビアと暫定戦略同盟を結ぶべきだ」との論説を掲載。イランとエジプトの動きをけん制した。【4月25日 毎日】
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【「米国の代理人」から「地域大国」への復帰
一方、同じ動きをエジプト側から見ると、従来の「米国の代理人」から積極外交を通じた「地域大国」への復帰という思惑が窺えます。

****エジプト:「地域大国」復帰に意欲 対イラン関係修復*****
エジプトにとりイランとの関係修復は、ムバラク前政権が「米国の代理人」と見られて低下した中東での外交的影響力を回復する取り組みの一環だと言える。アラビ外相は最近「すべての重要な外交上の権益を見直し中だ」と発言、積極外交を通じた「地域大国」への復帰に意欲をみせている。

イランとの過度の接近がアラブ諸国の懸念を招くことはエジプト政府も承知で、シャラフ首相の湾岸アラブ諸国歴訪を25日から設定するなど配慮をみせている。
政府系紙アハラム・オンラインによると、エジプト外交当局者は、イランを敵視するサウジアラビアなどの湾岸諸国に「イランとは関係正常化を図っているだけで、戦略的同盟を結ぶつもりはない」と説明したと語った。19日にイラン国営メディアが「イランが30年ぶりに駐エジプト大使を任命」と報じた際も、エジプト外務省は即座に「不正確な報道」と指摘。関係修復をアピールしたいイラン側をけん制した。

エジプトにとり最大の外交懸案の一つは、イスラエル占領地ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府と、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスを和解させ、中東和平実現に貢献することだ。そのためにも、ハマスに強い影響力を持つイランとの関係改善は必要になる。
アラビ外相は、過去にイスラエルのパレスチナ政策を厳しく批判。今月上旬にはハマス代表団とカイロで会談し、自身もガザ訪問を検討中と報じられる。米国の意を受けたムバラク前政権の融和的な対イスラエル政策を転換する意向を持っているとみられる。【4月25日 毎日】
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パレスチナ国家樹立の承認をめぐる動き
エジプトが意欲を見せる中東和平に関しては、パレスチナ自治政府が今年9月に国連で被占領地(ヨルダン川西岸とガザ)を国土とする国家樹立の承認を求める戦略を進めており、これを巡る関係国の駆け引きも活発化しています。

****中東和平:主導権争い再び活発化 イスラエル・パレスチナ*****
パレスチナとイスラエルの中東和平問題を巡り、両者の主導権争いが再び活発になってきた。パレスチナ自治政府のアッバス議長は21日、パリでサルコジ仏大統領と会談し、9月に国連総会で国家樹立の承認を求めた場合に賛成するよう要請したとみられる。同議長は先月、英国、デンマーク、ロシアで各国首脳と会談し、来月5日には訪独するなど、支持を求め欧州行脚をしている。これに危機感を強めるイスラエルのネタニヤフ首相は、5月下旬に独自の和平案を発表する見通しだ。

和平交渉はイスラエルの入植活動を巡り昨年9月に途切れた。自治政府は、交渉が再開されなければ今年9月に国連で被占領地(ヨルダン川西岸とガザ)を国土とする国家樹立の承認を求める戦略を進めている。
国連加盟192カ国のうち中東や南米などを中心に100カ国以上が賛成し、承認される見通しだ。
イスラエルが主張する「係争中の領土」でなく「国家」が占領されている実態を明確にすることで、国際的な圧力を高め、交渉を有利な状況で再開するのが主眼。イスラエルに大きな影響力のある欧米の賛成を得ることに力を入れている。

欧州主要国は、国家承認には反対しないとしても時機などについて態度は未定だ。ロイター通信は仏大統領府筋の話として、21日の会談でサルコジ大統領がアッバス議長に「明確な支持」を伝えたと報道。フランスのアロー国連大使も「交渉再開に向け、欧州各国と仏は国家承認を選択肢として検討している」と発言した。しかしメルケル独首相は、現状では国連での承認に反対の姿勢だと報じられている。

ネタニヤフ首相は、国境などは交渉で画定するものと主張し、自治政府を「一方的」と批判。交渉再開に積極的な姿勢を示すことで欧米を味方につける狙いで、5月下旬に米議会で和平案を発表する意向とみられている。中身は明らかでない。
オバマ米大統領も9月までに交渉を再開させたい意向で、たたき台となる和平案を首相よりも先に発表する可能性が取りざたされている。【4月25日 毎日】
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不安定な状況が続くエジプト国内事情
イランに話を戻すと、欧米諸国の制裁を受ける包囲網のなかにあって、周辺国への影響力はむしろ増大するようにも見え、なかなかにしたたかな外交を展開しているとも言えます。

エジプトの方は、実権を握る軍と民主化を要求する勢力との関係が緊張しており、まだ不安定な要素を残しています。
****デモ隊・軍本格衝突 エジプト****
軍最高評議会が全権を掌握するエジプトの首都カイロ中心部タハリール広場で9日未明、退陣したムバラク前大統領の訴追を求めるデモ隊に対し、軍や治安当局が催涙弾を撃ち込むなどして強制排除を試み、ロイター通信によると少なくともデモ参加者2人が死亡した。1月25日の反政府デモ発生以来、軍とデモ隊が本格衝突したのは初めて。エジプトでは最近、軍が民主化に消極的だとの不満が強まっており、今後はデモ隊との緊張が高まるのは必至だ。

同広場には9日朝、なおもデモ隊数百人がとどまり、燃やされた軍車両やバスが放置されていた。デモ隊の男性(25)は「軍は実弾を使った。やつらは革命を潰そうとしている」と軍への反感をあらわにした。これに対し、軍側は実弾使用を否定、デモ隊を夜間外出禁止令を無視する「無法者」と非難した。
「浄化の金曜日」と銘打たれた8日のデモには数万人が参加。事実上の最大野党であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団の説教師が、ムバラク氏の蟄居(ちっきょ)先である東部シナイ半島の保養地シャルムエルシェイクへのデモを呼びかけるなどしたほか、軍の一部の下級将校が最高評議会議長のタンタウィ陸軍元帥への批判を展開し、「軍の浄化」を訴えていた。
目撃者によると、軍は衝突の混乱の中でデモ隊側にいた複数の将校を拘束したもようだ。

軍は3月、国民投票を通じ大統領選出馬要件の緩和を柱とする憲法改正の承認を実現するなど、民主化に積極的だとの態度をみせてきた。だが、デモを主導する若者グループは「強大な大統領権限の制限に踏み込んでおらず不十分だ」などと反発。軍が旧体制の温存を図っているとの疑念を強めている。【4月10日 産経】
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こうした不安定な状況の中で、軍部は、ムバラク前大統領とその二人の息子の拘束・訴追、ムバラク前政権の与党・国民民主党(NDP)の解党、、ナジフ前首相ら前政権時代の主要閣僚3人の公金不正使用の罪などでの起訴・・・といった形で、国民の不満を抑え内政を安定させようと図っています。
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インド  世界最大の原発計画推進 「フクシマ」で反対運動も高まる

2011-04-25 21:35:15 | 世相

(3月25日、インド・デリーでの反原発デモ “flickr”より By Joe Athialy http://www.flickr.com/photos/joeathialy/5559159368/

世界最大の「原発パーク」構想
世界各国における「フクシマ」を契機にした原発行政の“見直し”や、“従来どおり推進する”といった影響・反応については、これまでも取り上げてきましたが、今後大幅な電力需要増加が見込まれるインドでも、世界最大のジャイタプール原発建設計画をめぐって論議が高まっており、建設反対運動で死者も出ています。

****インド:反原発デモで1人が死亡 福島第1事故で高まり****
インド政府が世界最大の原発建設を予定する同国西部ラトナギリで18日、計画に反対するデモ隊が一部暴徒化し、警察の発砲で住民1人が死亡、数人が負傷した。反対運動は数年前から起こっているが、福島第1原発事故をきっかけに運動は高まりをみせ、死者が出たのは初めて。

住民が反対するのは、ジャイタプール原発(原子炉6基、出力計990万キロワット)計画。完成すれば東京電力の柏崎刈羽原発を抜き、世界最大となる。原子炉はフランスが提供する。
デモ参加者が19日、毎日新聞に語ったところによると、予定地近くに18日、住民ら約700人が集まり、一部が重機などを破壊した。警察が警告射撃し、警棒で女性や子供の参加者を殴ったため、デモ隊が暴徒化し、投石などで警察側にもけが人が出たという。デモ隊の数十人が拘束された。19日も商店などが閉められ緊張が続いているという。

ムンバイの反原発活動家らによると、現地は良好な漁港でマンゴーの特産地としても知られる。原発予定地が海岸に近く、福島第1原発の事故以降、地震・津波を恐れる声が高まっているという。
計画では、約700ヘクタールの敷地に職員の居住区などを含めた「原発パーク」を築く構想。約2300世帯が立ち退きを要求されたが、反対の住民が多く、補償金を受け取ったのは約30世帯にとどまっている。営業運転開始時期などは未定。【4月19日 毎日】
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【「ノーモア・チェルノブイリ、ノーモア・フクシマ」】
騒動・混乱の様子については、下記ルポがあります。
****インド:「子供らのため阻止」 西部の原発建設予定地ルポ*****
・・・・18日に起きた反対デモで住民1人が警察に射殺された現地を訪ねると、住民たちは、東京電力福島第1原発の事故に不安を募らせ、「子供たちの未来のために必ず阻止する」と言った。日本や米国など原発先進各国が本格参入を狙うインドだが、政府は「世界最大の民主国」をうたうだけに、原発推進策の見直しを求められる可能性が出てきた。(中略)

18日の抗議デモは、4月中旬、地元住民に通告なく重機やセメントなどの資材が予定地に持ち込まれたのがきっかけだった。福島第1原発から海に放出された汚染水や土壌汚染の問題が関心を集めており、予定地に近いマドバン村の農民らが工事を阻止しようと立ち上がった。
参加者の中には女性や子供も多くいたが、警察が警棒で殴ったという話が周辺住民の間に広がり、漁師ら数百人が警察署を襲撃、車両に放火する騒ぎに発展。ナテ村の漁師タブレズ・アブドル・サタールさん(30)が警察に射殺された。(中略)
 
ジャイタプール原発では、冷却水をくみ上げる電力節約のため、高台を海抜7メートルまで掘り下げて設置する計画で、漁師たちは「(東日本大震災のような)ツナミには耐えられない」と訴えた。
デモに参加したマドバン村の女性ランジェナさん(61)は、「私たちは、フクシマの事故とその後の悲惨な状況を知り、『これでインド政府も計画を見直すだろう』と安心していた」と話す。そこに突然、重機が入ったことで住民を動揺させ、混乱に発展したというのだ。(後略)【4月24日 毎日】
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逼迫する電力需給
インドのシン首相は今回の騒乱の直前、「温暖化問題などを冷静に考えるべきだ」と述べ、福島の事故にかかわらず原発を推進する姿勢を見せていました。そうした中でラメシュ環境相が建設計画の見直しを否定したことが引き金となったと見られています。

インドの原発推進姿勢の背景には、現在の電力不足、将来の大幅な電力需要増加の見通しがあります。
“インドは深刻化する電力不足に悩まされている。電力不足率は10%前後に上り、全世帯の半数近くが電気のない生活を送る。その一方で、工業化と収入増加によって、電力需要は年平均10%以上の伸びを見せている。”【4月20日号 Newsweek】

昨年末にカンクンで開催された地球温暖化に関するCOP16で、対立する先進国と途上国の橋渡し役として調整に活躍したインドのラメシュ環境相は、国内大規模開発に環境保護の立場から多くの規制を課し、インド政界にあって異色の政治家として注目されている人物ですが、その彼が原発建設にゴーサインを出したのは、そうしたひっ迫する電力事情があります。

国際的にも、アメリカ・ブッシュ政権は高成長国のインドと民生用原子力協定に合意し、フランスやロシア、日本も「原発新市場」インドへの進出を狙っています。

2050年には現在の100倍へ
しかし、インドの原発推進については、その拡大計画のスピードが、50年までに現在の発電量の100倍に増やすというようにすさまじいこと、これまでもインド原発はたびたび事故を起こしているように管理上の懸念があること、導入予定のフランス原発に設計上の疑問があること、規制機関も独立性が疑問視されることなどの問題点が指摘されています。

****インド流「デタラメ」原発の悪夢****
インド 政府は世界最大の原発に意欲を燃やすが、管理体制も規制機関も問題だらけ
・・・・住民が反発するのには、それなりの訳がある。そして事態に不安を感じるべきなのは、地元の農家や漁師だけではない。
08年、インドとアメリカは民生用原子力協定に調印し、世界に論議を巻き起こした。当時アメリカ側が最も懸念していたのは、インドが核拡散防止条約(NPT)の批准を拒否しているにもかかわらず協定を結んだことで、ほかの国も核兵器開発に意欲を燃やすのではないかということだった。

だが日本の福島第一原発が危機的状況にある今、真のリスクは原発そのものにあるという見方が出始めている。「(日本と)対照的に、管理や備えに問題があるインドは深刻度が低い緊急事態にも対応できない」と、インドの原子力規制委員会(AERB)のA・ゴパラクリシュナン元議長は指摘する。(中略)
 
インド原子力発電公社(NPCIL)は昨年、ジャイタプールに建設予定の欧州加圧水型炉(EPR)6基のうち最初の2基の建設契約を、フランスの原子力大手アレバと結んだ。1基当たりの出力は165万キロワット。すべて完成すれば、世界最大の原子力発電所が誕生する。
これは壮大な計画の手始めにすぎない。インドは08年、原子力発電の目標値を「20年までに20ギガワットから「50年までに275ギガワット」に引き上げた。原子力供給業界による民生用原子力技術や核燃料の輸入を認めるためだ。輸入解禁後は目標値を再度引き上げ、現在の発電量の100倍に相当する「50年までに455ギガワット」とした。

事故の前例と怪しい技術
この拡大スピードには、恐ろしさを感じる。インドの原発で何度か「ニアミス」が起きている事実を考えれば、なおさらだ。
国立シンガポール大学の助教で、エネルギー技術などに詳しいベンジャミン・ソバクールの報告によれば、「タラプール原発は79年に部分的なメルトダウンを起こし、ナローラ原発1号炉は93年に火災で全電源を喪失した。95年には、ラジャスタン原発が2ヵ月にわたって湖に放射能汚染水を放出していたと判明した。06年12月には、ジャドゥゴダのウラン鉱山のパイプラインが破裂し、有毒廃棄物が100キロ先まで広がった」。

(中略)福島第一原発事故の前から、ジャイタプールの計画は国内の反核団体の疑問の声にさらされてきた。核軍備縮小・平和連合(CNDP)は「実地に試されていない」技術だとして、アレバが関発した加圧水型炉そのものに疑いの目を向けている。
問題の原子炉はイギリスやアメリカの原子力規制機関から、事故防止システムに問題があると指摘されている。アレバがフィンランドやフランスで手掛ける同様の原子炉建設計画は延期が続く。原因は基本的な建設ミスにあるようだ。
「アレバが(90年代末にフランスで建設した)旧世代型原子炉には設計上の欠陥があったが、それが判明したのは完成後だった」と、英グリニッジ大学のスティーブン・トーマス教授エネルギー政策)は言う。「アレバの建設実績や運用実績が確実になるまで待てばいいのに、なぜインドはリスクを冒すのか」
アレバ側が電子メールで寄せた回答によれば、設計上の問題について各国の当局者は「EPR自体の総合的な安全性に疑問を差し挟む」ものではないと明言したという。(中略)

独立性のない規制委員会
(中略)ジャイタプールの住民にしてみれば、なぜ自分たちの土地がアレバの原子炉の「試験場」にされるのか、納得がいかない。
原発建設予定地にある町や村は経済的に潤っている。地元の土壌は建材として国内各地へ送り出され、ブランド品のマンゴーの栽培も盛んだ。自然な経済発展を遂げている地域だからこそ、地元農家2000軒強のうち112軒しか、資産接収に対する政府の補償金を受け取っていないと、地元の原発建設反対運動家のミリンド・デサイは言う。

NPCILは、ジャイタプール原発が環境に深刻な打撃を与えることはないとしている。建設地の地理的条件や技術革新のおかげで、旧世代型の原子炉を持つ福島第一原発より自然災害に強いと、アレバも主張する。
だが強硬に原発建設を推し進める当局やNPCILのやり方を見る限り、計画に当たってコストや地元住民の権利、環境への影響や原子炉の安全性を考慮したとは思えない。

AERBには、独立機関としての機能が欠如していると見る向きは少なくない。ジャイタプール原発建設に反対する地元のNGOによれば、ある会議の際に当局者が「AERBはフランス政府から圧力をかけられている」と発言した。(後略)【4月20日号 Newsweek】
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日本の原発論議
なお、アメリカ・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授は22日、今後の日本における原発論議について、次のように語っています。

****原発議論が民主主義深める」サンデル教授インタビュー****
 ――福島第一原発の問題をどう見ているか。
危機が起きる前、米国は原発推進に向かっていたが、再考を迫られた。他のすべての国も、エネルギー政策の安全性やリスクを新たな枠組みで議論することが避けられないだろう。
だが、根本的には、膨大なエネルギー消費に依存する物質的に豊かな生活様式をどうするか、我々がどんな社会に住みたいかという価値観の問題になる。

 ――日本での原発の賛否をめぐる議論は激しいものになるかもしれない。
私のアドバイスは、思慮深く、丁寧な議論をすること。絶対に議論を避けてはならない。社会が直面する最も困難な課題について、賛否両派が相互に敬意を持って、公然と討議できれば、民主主義は深まる。だからこそ、建設的に議論するための枠組みの設定が非常に重要となってくる。

 ――誰が枠組み設定を担うべきか。
政治指導者に責任があるが、しばしば機能しない。有権者が望まないからだ。民主主義に不可欠な、自ら考えて議論する市民を育む教育の責任が大きい。メディアも意味ある議論を提起する義務がある。 (後略)【4月24日 朝日】
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パキスタン  村議会の指示で集団レイプ・・・最高裁で無罪

2011-04-24 20:27:31 | 世相

(写真右の水色のスカーフが下記産経記事にある事件被害者のMukhtar Maiさん。彼女は事件後、泣き寝入りも(家族の名誉を守るために周囲から期待される)自殺もせず、告訴を選択しました。写真は、2005年6月28日、最高裁法廷を弁護士・支持者と退出するときの様子ですが、このとき最高裁は高裁判決を覆して関係者の再逮捕を命じたようです。しかし、今年2月の最終判決は高裁判断を支持するものでした。 “flickr”より By jmcannon2286 http://www.flickr.com/photos/jmcannon2286/1707267991/

なお、パキスタンでは、16歳で誘拐され1年間に及ぶ暴行から抜け出し警察に訴えた女性が、今度は警官から輪姦を受けるという事件もありますが、こうした事例も珍しくないようです。この事件の被害女性が警察に訴え出たのは、Mukhtar Maiの行動から影響受けたからとのことです。)

ライバル部族の女性と関係を持った弟の罪で集団レイプ
報道されるニュースを“いいニュース”と“悪いニュース”に分ければ、その性格上“悪いニュース”が殆んどを占めています。そうした“悪いニュース”の中でも、下記のようなものはとりわけ気分が悪くなります。

****集団レイプは無罪 パキスタン、最高裁判決に批判相次ぐ****
パキスタン東部パンジャブ州の村で起きた集団レイプ事件で、被告の男6人のうち1人を除く全員が無罪となる判決が、最高裁であった。被害者の泣き寝入りが常となっている社会の因習を破り、勇気を持って法的手段に訴えた被害女性の行動は国内外の関心を集めていただけに、人権団体は最高裁の判決を非難している。

被害女性は、同州南部の村に住むムクタラン・マイさん(40)。2002年6月、村議会の指示により、公衆の面前で6人の男性からレイプされた後、裸で街頭を歩かされた。当時12歳の弟がライバル部族の女性と関係を持ったことに対する相応の行為として、姉のマイさんをレイプする判断が下された。

この後、マイさんはレイプ犯や指示を出した男らを訴えた。ラホール高裁は「証拠不十分」で、直接レイプに関わったとされる6人のうち5人に無罪、1人に終身刑を言い渡した。事件に関わったのは計14人。1人を除いて全員が自由の身となった。これを不服としてマイさんは05年に最高裁に上告。しかし、約6年を経て今月21日に出された判決は高裁の判断を支持するものだった。

判決について、パキスタン人権委員会は、「レイプが横行し、犯罪が報告されずに終わる国で、この判決は被害者に声をあげるのをとどまらせ、女性への犯罪を増加させるものだ」と非難した。「これが私たちの娘の扱い方だ」といった怒りの声が地元紙(電子版)に掲載されるなど、批判が相次いでいる。
一方で、読み書きもままならず、地方の農村から声をあげたマイさんの勇気ある行動は、これまで国内外の称賛を集めてきた。マイさんはいま、各地から寄せられた支援金で女子学校を設立して運営している。【4月24日 産経】
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言い様のない不快感
こうした女性の人権が無視される出来ごとは、別に珍しくも何ともなく、現在も世界中に山のように溢れていることは承知しています。
今回の件も、被害者が訴訟に持ち込んだため話題になっただけで、話題にもならずすまされている同様の出来ごとは巷にあふれています。

アフリカやアジアの国々だけでなく、女性の権利が当然のこととして認められている欧米社会であっても、例えば、イタリアの首相は“ブンガブンガ”(リビアのカダフイをまねたというハーレム風セックスパーティー)を楽しんでいるようですし、そのイタリアの男女平等度は世界経済フォーラム発表で74位ですが、日本はその下の94位です。
産経記事のような明らかな人権無視から、“ガラスの天井”まで、いろんな差別が存在していることも承知しています。

別に私はフェミニストでもありませんし、むしろ日常生活では、その他男性同様に、家事や育児を女性に任せきりにすることもごく普通に行うような人間です。
それでも、記事のような男性の欲望を一方的な“社会正義”で覆い隠したような行為には、通常のレイプ事件より不快な陰湿さを感じます。

価値観・文化は地域で異なる・・・とは言うものの
人間の感情はより具体的なもの、特に性的なものに反応しますので、メキシコで麻薬絡みの遺体が177人見つかった・・・といったニュースにはそれほどの不快も感じないのに、上記記事に強い不快を感じるというのは、そうした事情もあるのでしょう。本来は、177人それぞれの殺され方を見れば、上記記事の事件は177分の1であり、しかも殺されずに済んでいるので更に悲惨さは少ない・・・とも言えるのかも。

一般論として、それぞれの地域には独自の文化なり価値観があり、自分たちの社会の価値観でそれを断罪するのはおかしい・・・という議論はわかります。
しかし、そうしたことを考え合わせても、どうしても上記記事のような出来事を、「そんなこともあるだろう・・・」と飲み下すことが困難です。

今回事件は女性の人権無視ですが、何らかの信念・価値観・宗教・因習・その他で、あるグループ・ある人の人権を認めないという社会においては、同様の理由で、他の民族・思想グループの人権をも無視することも容易にありうるでしょう。

今回事件はパキスタンでのものですが、隣接するアフガニスタンにも同様の部族社会の因習があり、宗教的なものも合わさって、女子学生の顔に酸を浴びせたりするタリバンの極端な女性蔑視にもつながります。
価値観はそれぞれ・・・とは言いつつも、どうしても認めがたいものもあります。

なお、被害女性が“各地から寄せられた支援金で女子学校を設立して運営している”と、強く生きているとのことで、救われるところがあります。


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シリア  抗議行動激化、犠牲者増大 揺らぐアサド政権に関係国の思惑

2011-04-23 20:40:57 | 国際情勢

(当然ながら、政府を支持する勢力もあります。 写真は首都ダマスカスで3月30日に行われたアサド政権支持のデモ 動員がかけられたのかはともかく、かなり大規模なデモのようです。 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5576431732/

無差別発砲の「虐殺」】
民主化ドミノの嵐が吹きまくる中東・北アフリカにあって、シリアでも、当初盤石とも思われていた強権支配のアサド政権が激しい抗議運動にさらされ大きく揺らいでいます。
前回、シリアの状況を取り上げたのは3月31日ブログ「シリア 拡大する混乱 アサド政権の先行き不透明」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110331)でしたが、その後の状況は更に悪化しています。

****シリア:死者は88人に 反体制デモへの治安部隊の発砲****
シリアで23日、前日の大規模な反体制デモへの治安部隊の発砲による死者が88人に達した。ロイター通信が伝えた。死者は今後も増える模様。参加者が撮影したビデオなどによると、治安部隊は警告もなく無差別に発砲している。死者には70歳代の老人や7~10歳の少年も含まれる。シリアに飛び火した中東の民衆革命は大量の死者を出す「虐殺」に発展した。

デモは22日のイスラム教金曜礼拝後、首都ダマスカスなど全土でくまなく発生し、参加者は十数万人規模に達した。シリアの人権活動家によると、なお20人が消息不明になっており、死者数は100人を超える恐れもある。先月から始まったデモの死者数は累計で300人を超えた。
参加者の証言によると、南部イズラでは治安部隊が無差別にデモ隊に発砲。弾丸が「雨のように」注がれたという。他の都市では秘密警察がデモ参加者をビルなどから狙撃したとの証言もある。

シリアからの亡命者がロンドンで組織する「人権委員会」は今回の弾圧を「虐殺」と非難した。一方、国営シリア・アラブ通信は、イズラで「覆面をした男たちが政府施設の護衛に発砲し、通行人が巻き添えになった」などと伝え、デモの死者がテロ集団の襲撃の結果だとの情報を伝え、国内の鎮静化を図っている。
中部のホムスでは今週初め、デモに対する治安部隊の発砲による死者の葬儀に数千人が集まり、さらなる弾圧を招いた。今回も死亡したデモ参加者の葬儀で、市民と治安当局の新たな衝突が起きることが予想される。【4月23日 毎日】
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デモ→弾圧→犠牲者→葬儀のデモ→弾圧・・・・という連鎖で混乱が拡大しています。
治安部隊の隊長が「一人も残すな」と指示したとの証言も報じられています。【4月23日 読売】

非常事態解除でも事態悪化
アサド政権は48年間続き強権支配の象徴として批判されてきた非常事態法を解除することで、一定の譲歩を示していますが、その効果は疑問視されていました。
****シリア:非常事態解除を発令 48年ぶり、自由拡大は疑問****
シリアのアサド大統領は21日、63年から48年間続き強権支配の象徴として批判されてきた非常事態法を解除する大統領令を発布した。国営のシリア・アラブ通信が報じた。国内各地に広がった民主化要求を受けた措置だが、政治的な自由の拡大につながるか疑問視する向きがある。
今回の措置は19日に閣議決定された。政治囚訴追に使われてきた最高治安法廷を廃止し、禁止されていたデモを一定条件下で許容する大統領令も出たが、民主化勢力からは「デモを規制する運用がなされる可能性がある」との懸念も出ている。(後略)【4月21日 毎日】
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人権団体は、22日へのデモへの対処が、非常事態法解除後のアサド政権の「テストになる」と注視していましたが、結果は「虐殺」ということで、更に国民の怒りが拡大しそうです。

中東各勢力の利害の“結節点”】
3月31日ブログでも取り上げたように、中東情勢におけるシリアの存在は大きく、現在のパワーバランスを維持したいイスラエルやアメリカなどの意向もあって、これまではアサド政権への国際的批判は強くなされてきませんでした。

*****政権転覆」に警戒感 シリア 周辺国、地域不安定化を懸念*****
反体制デモに武力弾圧を強めるシリアのアサド政権について、アラブ諸国だけでなく敵対関係にあるイスラエルや米国さえも「体制転覆」シナリオの封印にかかっている。イランやレバノン、パレスチナ問題に深く関与し、各勢力の利害の“結節点”となってきたアサド政権が崩壊すれば、地域が一気に不安定化しかねないとの警戒感があるためだ。

「アサド大統領は改革者だ」。クリントン米国務長官は27日、こう述べて現時点でのシリアへの介入を否定した。そこには、リビアに軍事介入したばかりで、戦線を拡大したくないとの思惑のほか、同盟国イスラエルの事情も見え隠れする。
シリアは1980年代以降、イスラエルとの正面からの対立を避けるため、隣国レバノンでイスラム教シーア派組織ヒズボラを支援。その半面、ヒズボラが自らの統制下を離れることがないよう、勢力伸長に歯止めをかけてきたとされる。(中略)
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの関係も同様の構図で、ヒズボラやハマスを脅威ととらえるイスラエルにとってシリアは、自国の安全保障の「安全弁」(28日付イスラエル紙ハアレツ)の役割も果たしてきたといえる。(後略)【3月31日 産経】
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ただ、さすがにここにきて、アメリカ・オバマ政権もアサド批判を明確にしています。
****シリア:オバマ米大統領 アサド政権の武力弾圧を強く非難****
シリア政府の反体制派デモに対する武力弾圧について、オバマ米大統領は22日、「常軌を逸した暴力的な鎮圧法で、直ちにやめねばならない」と強く非難する声明を出した。
声明は「米国は最も強い言葉で非難する」と記し、これまで以上にアサド政権をけん制する内容となった。

大統領は新たな武力弾圧を「非常事態法を廃止し平和的なデモを許すとしたシリア政府の動きが本気でなかったことが示された」と指摘。米国が再三、アサド大統領に対し改革の履行を求めてきたにもかかわらず、政権側が「シリア国民の権利を尊重することを拒絶し、弾圧の道を選んだ」と非難した。
さらに、アサド大統領が市民弾圧に際し、同様の手法をとってきたイラン当局の協力を求めたとも指摘。アサド大統領に対し「直ちに対応策を変え、国民の声に耳を傾けるべきだ」と求めた。
一方、ヘイグ英外相は22日、「デモ参加者の殺害は受け入れがたい」と強く批判。シリアの治安当局に自制を求め「平和的に抗議活動する市民の権利を尊重すべきだ」と要求した。【4月23日 毎日】
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レバノン、サウジ、アメリカそしてイラン
もっとも、こうした公式の発言とは別に、関係国の水面下での動きには複雑なものもあるようです。
下記は、レバノン、サウジアラビア、アメリカの動きを報じたものです。
****シリア:アサド政権と米国などで「情報戦*****
民主化要求デモの拡大と当局による弾圧が続くシリア情勢で、アサド政権と米国などが対立する「情報戦」の様相が強まっている。当局が「外国勢力の支援を受けた武装集団が混乱を起こしている」と主張する一方、米国などが「治安当局による弾圧だ」と非難する構図。反体制派の蜂起で内戦状態に陥っているリビアや、大統領退陣要求デモの弾圧で混乱が続くイエメンと同様の状況に陥っているといえそうだ。

国営シリア・アラブ通信は19日、国内各地で発生しているデモを「保守的イスラム主義者による武装蜂起」と断言する内務省声明を配信した。(中略)当局側は「外国に操られた武装集団の犯行だ」と反論し、治安部隊側に死傷者が出ていることを強調している。
同通信は14日には、「テロリストグループの告白」を配信。(中略)レバノンの国会議員の指示で行動し、資金や武器、移動用車両の提供も受けたという3人の「告白」の詳細は英語でも配信された。
だが、名指しされた国会議員は関与を否定。この議員が所属するハリリ前レバノン首相の会派「未来運動」も「我が派に対する組織的な情報工作が行われている」と反発した。

シリア側の主張には、イスラム教スンニ派であるハリリ氏の後ろ盾とされるサウジアラビアをけん制する意図もにじむ。
シリアでは国民の7割を占めるスンニ派を、アサド大統領も所属する少数派アラウィ派が支配している。デモ参加者は政治的自由の制限や当局者の腐敗に不満を持つスンニ派国民が中心だ。スンニ派国家のサウジがレバノンのスンニ派を使ってシリアに揺さぶりをかけているとの見方は、シリア当局内に根強いようだ。

一方、米国務省のトナー副報道官代行は19日、ホムスの事件は「兵士が平和的デモに発砲した」と指摘。武力弾圧を止めるようシリア政府に求めた。
ただ、米ワシントン・ポスト紙によると、内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した09年4月の米公電で、米政府が在英シリア反体制派のテレビ局に資金援助をしていたことが判明。米側もシリア民主化の情報戦をしかけていた疑いがある。(後略)【4月20日 毎日】
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ウィキリークスによるアメリカの反体制派TV局への資金援助は、06年から総額6百万ドル(約49億円)規模とのことです。
****米、シリア反体制派を極秘援助 ウィキリークスで判明****
米紙ワシントン・ポストによると、米国務省が2006年から総額6百万ドル(約49億円)規模の資金援助をシリア反体制派にしていることが、告発サイト「ウィキリークス」の公電で判明した。

資金はロンドンを本拠とするシリア反体制派の衛星テレビ局「バラダテレビ」や、シリア国内の反体制派に渡っていたという。バラダテレビは09年4月に開局し、シリアの民衆デモを中心に報じている。
同紙によると、シリア反体制派への資金援助は、アサド政権とほぼ断絶状態にあったブッシュ政権(当時)が決めた。だが、シリアとの関係修復を始めたオバマ政権に代わっても資金の流れは続き、少なくとも昨年9月まで援助があったという。一方、シリア側も資金援助に気づいたとみられ、09年4月には駐ダマスカスの米国外交官が「援助を再考する必要がある」との公電を出している。【4月19日 朝日】
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一方、イランのアサド政権支援の報道もあります。
“米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、米政府当局者は先週、シリアでのデモ隊の鎮圧や監視に使われている装備をイランが提供しているとの見方を示したという。”【4月27日号 Newsweek】

アメリカの本音は・・・
アメリカ、レバノン、サウジアラビア、イラン・・・など入り乱れての奇々怪々ですが、恐らく実態はもっと複雑なのでしょう。
いずれにしても、世界の厄介者カダフィがどうなるか・・・という問題より、中東のカギを握るシリア情勢の今後は中東情勢にとって遥かに大きな影響があります。
デモ弾圧批判にもかかわらず、やはりアメリカ・イスラエルの本音は、これ以上の混乱でアサド政権が揺らぎ、中東のパワーバランスに不確定な空白が出来ることは困る・・・というところではないでしょうか。


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キューバ  ひとつの時代の終わり・・・カストロ完全引退 厳しい改革への道のり

2011-04-22 20:24:50 | 国際情勢

(19日、党大会に出席したジャージ姿のフィデル・カストロ、中央が弟のラウル・カストロ、右女性は61年のピッグス湾事件犠牲者のようです。 “flickr”より By fotoscubahoy http://www.flickr.com/photos/fotos_cuba_hoy/5634761589/

【「フィデルはフィデルだ」】
16日から13年半ぶりに開催されたキューバの第6回党大会で、病気療養中のフィデル・カストロ第1書記(84)が正式に退任することが明らかにされたことが報じられています。

****カストロ氏、公職から完全引退 党トップも退任****
キューバ共産党は党大会最終日の19日に開いた全体会議で、病気療養中のフィデル・カストロ第1書記(84)が退任し、弟のラウル・カストロ第2書記(79、国家評議会議長)が昇格する人事を発表した。党大会は同日閉会した。
フィデル氏は国家元首である国家評議会議長も2008年に退任しており、革命後のキューバを半世紀にわたって率いたカリスマ指導者が、公の職務から完全に退くことになる。

ただ今回の党大会で、革命が生んだ社会主義体制の維持は確認されており、精神的支柱としての存在感が今後も残るのは間違いない。ラウル氏も、これまで同様にフィデル氏の助言を得ながら国家運営を続けていくとみられる。ラウル氏の後任には党序列で2人に次ぐ古参政治局員のホセ・ラモン・マチャド氏(80)が選ばれた。

フィデル氏は党大会初日の全体会議は欠席したが、19日にジャージー姿で出席。会場に姿を見せると、満場の拍手で迎えられ、涙ぐむ代議員もいた。ラウル氏を第1書記に選ぶ人事が発表されると、フィデル氏はひな壇上で左隣のラウル氏に満面の笑みで拍手を送った。
フィデル氏は1956年、チェ・ゲバラとともに革命闘争を始め、59年にバチスタ独裁政権を倒した。61年、米国の後押しを受けたカストロ政権転覆作戦(ピッグス湾事件)が失敗に終わると、ハバナで「社会主義宣言」を発表、冷戦体制を背景に、米国との対決姿勢を決定的にした。
06年7月に腸の緊急手術を受け、評議会議長などの権限を一時的にラウル氏に譲った。昨夏以降、国会など公の場に再び姿を見せ始め、健康の回復を内外に印象づけた。

キューバ共産党は18日の大会で、ラウル氏が提案した経済社会計画を満場一致で承認した。全国民に食糧を配給する制度を廃止し、市場主義や成果主義を部分的に取り入れて社会主義の延命を図る路線が、今後5年間の国家運営の基本と正式に定められたことになる。経済改革の実務責任者であるマリノ・ムリリョ前経済企画相(50)が新たに党政治局員に選ばれ、経済改革を推進するラウル氏の意志を印象づけた。
配給制度やさまざまな補助金で国民を手厚く保護するフィデル氏の「平等主義」路線は国家財政を圧迫し、見直しが不可避だった。この点でも、キューバは「フィデル後」に向けて大きくかじを切ったことになる。【4月20日 朝日】
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すでに弟ラウル氏によって、「平等主義」路線の改革は実施に移されており、今回党大会の人事・決定はこの改革路線の追認ではありますが、アメリカを相手に1歩も引かず、その目と鼻の先で経済制裁に耐えながら社会主義社会を維持してきたカリスマ指導者フィデル・カストロの完全引退となると、ひとつの時代の区切りを感じます。

キューバ・モデルの限界
キューバ経済の行き詰まりは、“キューバは08年のハリケーン被害に加え、主要輸出品のニッケル価格の下落やコーヒーの世界的な消費低迷の影響を受け、対外債務が急増した。62年から全国民に与えてきた配給品からイモ(09年)、たばこ(10年)、せっけん(11年)を削減するほど財政が悪化。09年の平均賃金は月約430ペソ(約1500円)で、物価上昇を考慮した実質賃金は89年の4分の1レベルだ。”【4月16日 毎日】と指摘される状況ですが、ソ連が崩壊し、中国が“赤い資本主義”に邁進するなかで、配給制、平等主義的な賃金体系、医療・教育の無料制度などを最近まで維持してきたことが驚異的でもあります。

行き詰まりを打破するため、昨年9月には、国営部門の労働者の大リストラ計画も発表されていました。
****キューバ、50万人を大リストラ 国営部門圧縮し民営へ****
キューバ政府は13日、国営部門の労働者を50万人以上、約半年かけて削減する方針を打ち出した。非効率な国営部門を大幅圧縮して民営企業を拡大、経済の立て直しを目指す。全公務員の1割超を民間に振り向ける大手術となる。
キューバ唯一の労組であるキューバ労働組合総同盟(CTC)が発表した。公務員のリストラと民営化推進は、ラウル・カストロ国家評議会議長が今年8月の国会演説で方針を示しており、その具体的規模が明らかにされた形だ。

キューバでは労働者の9割近くが国営部門に属し、毎月定額の給与が払われてきた。2008年に就任したカストロ議長は「生産性の向上」を呼びかけてきたが、国が雇用を保障する体制下で労働者の遅刻や早退が常態化しており、生産性向上は成果を上げていない。今回のリストラは議長がやむなく選んだ「ショック療法」と言える。

CTCは声明で「労働者に給与を永久に保障し続ける仕組みはもはや適用不可能だ」と明言した。リストラ対象の具体的な業種は示していないが、「国営部門に残るのは、農業や建設、警察、製造業など、重要度が高く、労働力が常に不足している分野に限る」としている。すでに一部民営化が進んでいる小売業は、国営部門から切り離される可能性が高い。【10年9月14日 朝日】
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また、同時期、フィデル・カストロ氏自身がキューバ・モデルの限界を認める発言をした・・・と、話題にもなりました。
****カストロ前議長、社会主義経済の限界認める発言*****
米月刊誌「アトランティック」は8日、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(84)と行ったインタビューの内容を公表。
前議長はその中で、国家が経済活動を統制するキューバ・モデルは「もううまくいかない」と発言した。
社会主義経済の限界を認めたのは、実弟のラウル・カストロ国家評議会議長が進める資本主義的経済路線を是認する意図もあった可能性があり、注目される。(後略)【10年9月9日 読売】
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ただ、この発言については、フィデル・カストロ氏は直後のハバナ大学での講演で、「(私の意図は)まったく逆だ」と語り、誤訳であることを指摘しています。

18日の大会でラウル氏が提案し、承認された経済社会計画は、公共部門の民間開放、公務員の削減、国の支出削減など、300余りの項目から成り、このうちの多くは既に実施段階にあります。この改革で、国民は50年ぶりに、家や車を売買したり、銀行ローンを組むことが可能になります。

【「平等主義」路線見直し改革は「国民の意思」】
しかし、“ラウル・カストロ国家評議会議長(79)は、閉幕スピーチで、「第1書記の使命は社会主義を擁護し、維持し、発展させていくこと。そして資本主義が返り咲かないようにすることだ」と述べた。さらに経済改革については、「国にまん延する無気力を今こそ打破しなければならない」と強調した。” 【4月20日 AFP】とのことで、中国やベトナムのような資本主義を目指している訳ではないとされています。ただ、「平等主義」路線を見直しに大きく舵を切ったことは間違いありません。

****ラウル氏昇格 「平等主義」見直す****
キューバのラウル・カストロ新第1書記は共産党大会で、兄フィデル氏の「平等主義」路線を見直し、「フィデル後」に向けて大きくかじを切った。

公務員はリストラし、働けば働いただけもうかる仕組み・・・ラウル氏のこの改革方針はしかし、共産党と社会主義イデオロギーを信奉する革命世代には受け入れにくい。09年に開かれるはずだった党大会が延期されたのは、改革を打ち出す環境を整えるのに時間が必要だったことを物語る。
この間、ラウル氏は改革案を国民と討議ずる場を設けるよう指示、全国で聞かれた集会は計16万回に達した。この経過をラウル氏は党大会初日の報告で公表し、「国民の声を反映した改革案」の形を整えた。

人事面では、自身の後任の第2書記に、党創設メンバーの1人のマチヤド氏(80)を起用。政治局員人事でも若手の登用は最小限にとどめた。主導権は革命世代に残しつつ、改革は「国民の意思」だとして実行に移させる。ラウル氏の周到さがうかがえる。

ただ、キューバは中国やベトナムを目指してはいない。キューバ人が「資本主義」と聞いて想起するのは、先進国の繁栄ではなく革命前の搾取の時代だ。
冷戦終結から20年余がたっても、キューバにとって資本主義は戦う敵であることに変わりはない。市場主義に傾きすぎれば、革命の否定につながりかねない。党大会で承認された改革メニューは、少しずつ慎重に実行に移されるだろう。

ただラウル氏も79歳。残された時間は多くはない。来年には南米ベネズエラで大統領選がある。キューバ経済を支えてきたチャベス政権が倒れれば、キューバの経済危機は深刻になる。
党大会では政治改革は議論されなかった。米国を敵視してきたフィデル氏の完全引退が決まったが、政治的自由を求める米国との関係に大きな変化はなさそうだ。(ハバナ=堀内隆)【4月21日 朝日】
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TV報道によれば、価格設定が自由にできる自由市場には商品が溢れており、肉などはこうした市場でないと手に入らないとか、価格は商品によっては公定価格の10倍にもなるとも。一方で、公定価格の市場には商品はまばらで、痛んだ野菜などが置かれています。家庭に配給される食糧はまったく足りない量に過ぎないとも。
すでに平等主義は実態として破綻しているようです。

社会主義を発展させていきながら、資本主義が返り咲かないようにする改革
しかし、ラウル氏が目指す社会主義を擁護しながらの経済改革というのは非常に難しい、自己矛盾とも言えるような路線でもあります。
ソ連崩壊後のロシア経済の混乱のように、部分的な市場経済の導入は“劇薬”でもあり、これまでの秩序を崩壊させる危険があります。時流に乗れる人とそうでない人の間に大きな格差も生じます。これまでの平等主義に慣れてきた人々にとって耐えがたいものもあるでしょう。

人事面での若手の登用は限定的で、“革命から半世紀が過ぎ、現社会主義体制のひずみが限界に達しつつある中で、なお改革の実行を革命の第1世代に頼らざるを得ない現実を映し出した”【4月22日 産経】とも指摘されています。
“米紙ウォールストリート・ジャーナルは「問題は、レーニンやスターリンでありながら同時にゴルバチョフになることは不可能ということだ」と、旧ソ連の指導者を例に、旧世代のこわもての指導者がそのまま残るなかでの変革の試みを茶番と評する専門家の談話を伝えた。”【同上】

当然ながら、今後アメリカがキューバ制裁をどうするのかというアメリカの対応によってもキューバ経済は大きく左右されます。
中国やベトナムとも異なる社会主義を堅持したキューバ・モデルというものがどういうものになるのか、そんなものがはたしてあるのか・・・興味深いところですが、ラウル氏の舵取りは相当に困難なものに思えます。

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ナイジェリア  大統領選挙後の暴動 南北対立を背景に、死者200人超の報道も

2011-04-21 21:45:37 | 世相

(投票に際して登録するジョナサン大統領 “flickr”より By urbancn http://www.flickr.com/photos/urbancn/5635402708/

地域の安定と民主主義定着の試金石
16日に、西アフリカのナイジェリアで大統領選挙が行われ、現職のグッドラック・ジョナサン氏が当選しました。
ナイジェリアは石油や天然ガスの産出国で、アフリカ有数の軍事力を有する地域大国ですが、北部イスラム教徒と南部キリスト教徒の間の宗教対立、油田が存在する南部デルタ地帯での武装組織のゲリラ活動など、政治的・社会的に問題が多く、また、巨額の石油収入にもかかわらず8割近い国民が1日2ドル以下の貧困生活に苦しんでいる国でもあります。

西アフリカでは、コートジボワール大統領選を巡る混乱があったばかりで、地域大国ナイジェリアの大統領選の成否は、地域の安定と民主主義定着の試金石として注目されていました。
結果は、冒頭にも書いたように、軍事政権から民政移管した1999年以来、政権を握る与党・国民民主党のグッドラック・ジョナサン大統領(53)が、戦前の予想どおり勝利しました。

****ナイジェリア大統領選、現職のジョナサン氏当選*****
ナイジェリアの選挙管理委員会は18日、16日に行われた大統領選で現職のグッドラック・ジョナサン氏が当選したと発表した。
選管によると、ジョナサン氏は2250万票を獲得して得票率は57%、北部出身で最有力対抗馬のムハンマド・ブハリ元最高軍事評議会議長は1220万票で得票率は31%だった。

ジョナサン氏は、初の南部の産油地域ニジェールデルタ出身の大統領。一方、ブハリ陣営は選挙結果を認めておらず、北部では選挙結果に抗議する暴動が起こっている。【4月19日 AFP】
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【「なたで斬りつけられた」「こん棒で殴られた」】
選挙自体は、EUなどの選挙監視団が、過去数十年で最も公正な選挙が実施されたと評価しているように、比較的公正に行われたようですが、選挙結果発表直後から、対立候補ブハリ陣営の地盤である北部において、結果を認めない暴動が発生し、多数の死傷者が出ています。

****ナイジェリア北部の暴動激化で死者多数、避難民2万5000人****
16日に行われた大統領選の結果をめぐり、ナイジェリア北部では暴動が激化しており、多数の死者が出ているもようだ。死体が井戸に投げ捨てられているとの目撃談もある。

18日に当選が確定したグッドラック・ジョナサン大統領は翌19日、政治および宗教の指導者らに対し、暴力を非難する声明を出すよう要請。さらに、暴動に参加しているのは主に「失業中の若者たち」だとして、「そうした若者たちが民衆の道具にならないよう」新政府は雇用対策などに力を入れると明言した。

北部出身で最有力対抗馬とされたムハンマド・ブハリ元最高軍事評議会議長を支持する住民らが、票が操作されたとして起こした暴動は、18日までに14州に拡大した。政府は暴動により多数が死亡したと発表しているが、正確な死者数は公表していない。
ナイジェリア赤十字社は19日、暴動による避難民は2万5000人に達したとの推定を明らかにした。関係者はAFPに対し、「状況は比較的落ち着いてきているが、昨夜はカドゥナ州、カツィナ州、ザンファラ州などで暴動が発生した」と話した。
なお警察は、暴動に関連してこれまでに数十人を逮捕したと発表している。

■ブハリ氏、暴動を非難する短い声明
南部の産油地域ニジェールデルタ出身のジョナサン氏の当選は、イスラム教徒が多数を占める北部とキリスト教徒が多数を占める南部間の緊張を露呈させ、暴動へと発展させた。
選挙結果を拒絶し、暴動については沈黙を守ってきたブハリ陣営は19日、BBCハウサ語放送を通じて、暴動を非難する短いコメントを出した。【4月20日 AFP】
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今回の暴動について、ロイター通信は20日、主要都市だけで少なくとも80人が死亡したと伝えています。
地元赤十字によると、約400人が負傷し、7州で4万人が避難民とされています。
また、ナイジェリアの有力な人権団体「Civil Rights Congress(人権会議)」は、暴動により死者は200人以上に達したもようだと20日明らかにしています。
“病院で手当てを受けている負傷者らは、「なたで斬りつけられた」「こん棒で殴られた」など、被害の状況を語っている。”【4月21日 AFP】

民主的政治手続きであるはずの選挙がきっかけとなって、結果認めない側が暴力行為に至る事例は、残念なことにごく一般的に見られることですが、“死者は200人以上”とか“4万人が避難民”というのはいかにも桁違いに多すぎる数字です。“混乱”とか“衝突”というものではなく、“住民虐殺”です。

南北対立
こうした背景には、従来からの南北間の宗教対立があり、すでに選挙前から多数の死者を出す混乱が続いていました。
****ナイジェリア北部・中部で衝突再燃、6週間で死者300人*****
欧州連合(EU)は10日、ナイジェリア北部と中部で宗教・民族対立などを背景とした衝突が再燃し、死者が6週間で少なくとも300人にのぼったとして、暴力を非難する声明を出した。

EU諸国の駐ナイジェリア大使らによると、同国では、前年のクリスマスイブにプラトー州の州都ジョスなどで相次いで爆弾攻撃が発生して以来、プラトー州、バウチ州、ボルノ州で衝突が激化しており、この6週間で少なくとも300人の犠牲者が出ている。
4月の州知事選が迫っていることもあり、大使らは声明で、すべての関係者に対し、平和で不正のない選挙を実施すること、選挙期間中のヘイトスピーチ(憎悪に基づいた発言)と暴力を阻止することを求めた。

関係当局によると、2009年に暴動を起こしたイスラム過激派「ボコ・ハラム(Boko Haram)」(西洋の教育は罪)が、北部で、これまでに治安部隊や地域社会の重要人物、政治指導者を標的とした銃撃事件を数十件起こした。犠牲者の中には州知事選の候補者も含まれている。
なお、イスラム教徒が多い北部とキリスト教徒が多い南部のちょうど中間地点にあたるプラトー州では近年、宗教間衝突が多発しているが、州知事選を前にここ最近衝突が急増しているという。【2月11日 AFP】
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昨年末から年明けにかけて爆弾テロも相次ぎました。
今回大統領選挙の混乱には、南北出身者が2期ごとに交代するという大統領に関する慣行も絡んでいることが指摘されています。

****ナイジェリアで相次ぐテロ、97人死亡 大統領選関係か*****
ナイジェリアで昨年末から、爆弾テロや武装勢力による攻撃が相次ぎ、2日までに少なくとも97人が死亡した。イスラム武装勢力の仕業とされる一方、4月に予定されている大統領選との関係も指摘され、情勢悪化が懸念されている。

中部の都市ジョスでは12月24日、爆弾が爆発、80人が死亡。同日と29日には別の中部の都市でも、キリスト教会が放火されるなどして、計13人が犠牲になった。さらに、31日夜、首都アブジャの市場で爆発があり、4人が死亡、26人が負傷した。ジョスの事件では、イスラム武装勢力ボコ・ハラムが犯行を認めた。

ナイジェリアはアフリカ随一の産油国だが、恩恵が国民に行き渡らないことへの不満が強く、イスラム過激派暗躍の背景になっているとされる。
同国では大統領は南北出身者が2期ごとに交代するしきたり。ところが、北部系の前大統領ヤラドゥア氏が昨年、1期目途中で病死し、南部系のジョナサン氏が後を継いだ。このため北部ではジョナサン氏続投への警戒感が高まっている。【1月3日 朝日】
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ソーシャルメディアを武器に選挙の不正と闘う若者も
ため息のでるような記事ばかりですが、明るい話題も。
****ナイジェリアの選挙がツイッターで変わる*****
ナイジェリアの若者たちがツイッターやフェースブックなどのソーシャルメディアを武器に選挙の不正と闘っている。独立以来、約50年も繰り返されてきた不正選挙と軍事クーデターの連鎖に終止符を打つためだ。

ナイジェリアでは4月9日に連邦議会選挙、16日に大統領選が行われた(17日時点で現職のジョナサン大統領が優勢)。26日には州知事・州議会の選挙が実施される予定だ。
情報技術の専門家でもある活動家グベンガ・セサン(33)はスマートフォン向けアプリケーション「レボダ」を開発。有権者から直接、選挙の不正に関する情報を受け取れるようにした。選挙用資材の配送が遅れたとか、有権者が投票所で脅されたといった報告があると、その内容を1日分まとめてナイジェリア当局と欧米の選挙監視団に伝達。ウェブサイトにも掲載する。
セサンは9日の議会選挙の際、各地の投票所から有権者が送信してくる画像をフェースブックやYouTubeに投稿した。
「見るからに酔っぱらった警官が市民を脅す映像もある」とセサンは言う。「裁判で証拠に使えるだろう」
ツイッター活動家と呼ばれる市民も増えてきた。彼らは選挙関連施設の爆破のもくろみや不正行為に常に目を光らせている。活動家のアマラ・ンワンクパによると、北部の選挙管理事務所を狙った攻撃に関する情報の伝達にツイッターは大いに貢献したという。

石油と天然ガスのアフリカにおける主要産出国であるナイジェリアのエリート層は、政治的影響力を利用して蓄財に励んできた。ほんの少数の者が国家の富を握り、国民の8割は1日2ドル以ドで生活する貧困層だ。
今回の一連の選挙は99年の軍政終結以来、最も信頼性が高いものになるとみられている。有権者の問にも公正な選挙を望む機運が高まっている。
現時点では、スマートフォンやインターネットを利用できるほど経済的に豊かな国民はまだ少ない。それでも、人口1億5000万人の70%が30歳未満なので、今後ツイッターなどソーシャルメディアの普及はさらに進みそうだ。
「多くの情報を集めて直ちに公開できるのはなぜかと、不思議に思っている政治家も多いが」とセサンは語る。「僕に言わせれば、若者の多い国なんだから当然のことだ」 シャマンサ・アソカン(グローバルポスト・ラゴス特派員)【4月27日号 Newsweek】
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ソーシャルメディアを武器に選挙の不正と闘っている若者もいれば、なたや棍棒を手に住民を襲う若者もいます。
前者が多くなってくれればいいのですが。

コメント
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