(アゼルバイジャンが攻撃に使用したとみられるトルコ製ドローン「バイラクタルTB2」【3月28日 HUFFPOST】
【ロシア仲介で停戦後も小競り合いがおさまらないアゼルバイジャンとアルメニア】
旧ソ連のウクライナにロシア軍が侵攻し戦争が続いていますが、2020年9月27日から2020年11月10日にかけて、旧ソ連国同士、アルメニアとアゼルバイジャンの係争地であるナゴルノカラバフ(アゼルバイジャン領土内に囲まれたアルメニアの飛び地)を巡る戦争があり、アゼルバイジャンの勝利に終わりました。
この戦争では、トルコとイスラエル製のドローンを活用したアゼルバイジャン軍がロシア製兵器を有するアルメニア軍を撃破したということで、「戦争の様相を変えた」として今もしばしば取り上げられる戦いでもあります。
停戦はロシアが仲介し、ロシアが平和維持軍をナゴルノカラバフに派遣しています。
停戦後もアゼルバイジャン・アルメニアの衝突は起きていますが、大きなものでは昨年11月に起きています。このときもロシアが仲介に入っています。
****アルメニアとアゼルが停戦合意、昨年の戦争以来最悪の戦闘受け****
アルメニアとアゼルバイジャンは(2021年11月)16日、国境での停戦に合意した。アルメニア国防省が発表した。ナゴルノカラバフを巡る昨年の戦争以降で最悪の戦闘がこのほど起きたため、ロシアが双方に自制を求めていた。
昨年の44日間にわたる戦争では少なくとも6500人が死亡した。
アルメニアの国防省は「ロシア側の仲介による合意に基づき、アルメニアとアゼルの国境の東側で戦闘が停止した。状況は比較的安定している」と発表した。アゼル国防省からは今のところコメントを得られていない。
ロシア大統領府によると、これに先立つ16日、ロシアのプーチン大統領とアルメニアのパシニャン首相は、電話で国境の状況について話し合った。インタファクス通信によると、ロシアのショイグ国防相もアルメニアとアゼルの国防相と電話で協議した。
アルメニア国防省は、自国の軍隊がアゼルから攻撃を受け、12人の兵士が捕らえられたほか、アゼルとの国境付近の2つの戦闘陣地が失われたと発表した。
アルメニア議会外交委員会のEduard Aghajanian委員長は、15人のアルメニア兵が死亡したと述べた。
アゼル国防省は、アルメニア軍からの大規模な「挑発」に対応したとし、独自の作戦は成功したとした。【2021年11月17日 ロイター】
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【2月には、ロシアとアゼルバイジャンの間で「同盟的協力宣言」】
これまでの国際関係で言えば、宗教的にもロシアに近いアルメニアがロシアを後ろ盾とするのに対し、イスラムのアゼルバイジャンは、同じイスラムで、かつ、アルメニアとの間で「大虐殺」の歴史問題を抱えるトルコが支援する関係にあります。
ただ、アゼルバイジャンは旧ソ連ですからロシアとも関係があり、ロシアによるアゼルバイジャン取り込みの動きも報じられていました。
****軍事協力含む宣言署名 ロシア・アゼルバイジャン首脳****
ロシアのプーチン大統領は22日、モスクワを訪問した旧ソ連アゼルバイジャンのアリエフ大統領と会談し、軍事面での関係強化を含む「同盟的協力宣言」に署名した。
インタファクス通信によると、宣言は相手国に安全保障上の脅威が生じた場合の緊急協議や軍事、政治分野での協力を規定。アゼルバイジャンと隣国アルメニアの係争地ナゴルノカラバフを巡る紛争の解決に向けた協力なども定められている。
アゼルバイジャンはロシアやアルメニアが加わる集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟していない。ロシアは宣言署名により、旧ソ連圏での安保協力の枠組みを拡大した形になった。【2月23日 共同】
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【ロシアがウクライナに向けて軍を動かした“隙”をついて、アゼルバイジャンが再び攻撃?】
上記「同盟的協力宣言」の1か月後にロシアはウクライナに軍事侵攻して現在に至っていますが、そのさなか、再びアゼルバイジャンとアルメニアの間で衝突が起きています。
****ナゴルノ・カラバフ紛争が再燃。ウクライナ侵攻の余波か。アゼルバイジャンがドローン攻撃****
ロシア軍のウクライナ侵攻が膠着状態に陥る中で、旧ソ連の別の地域でも紛争が再燃した。2020年に停戦していたナゴルノ・カラバフ紛争だ。
2020年の停戦後はロシア軍が平和維持部隊として駐留していたが、ウクライナを攻撃する戦力を補充するために部隊を移動させたという情報が出ている。
その隙をぬって、アゼルバイジャンがアルメニア側に無人攻撃機などで攻撃をした。
■ナゴルノ・カラバフにはロシア軍約2000人が駐留していたが、ウクライナに移動か
アゼルバイジャン西部でアルメニア側が実効支配するナゴルノ・カラバフでは、隣国アルメニアの支援を受ける自称「アルツァフ共和国」が1992年以降、実効支配を続けている。
2020年9月から11月にかけて、アゼルバイジャンとアルメニアの間で激しい紛争となった。アルツォフ共和国は大幅に支配地域を減らした上で、ロシアのプーチン大統領の仲介で停戦した。「アルツァフ共和国」にはロシア軍約2000人が平和維持軍として駐留することになった。
しかし、2022年2月24日からロシア軍はウクライナに侵攻。ウクライナ軍の猛反撃を受けて戦線は停滞している。ウクライナの地元メディア「キエフ・インディペンデント」によると、同国参謀本部は3月13日、「ロシアはナゴルノ・カラバフから戦闘員を連れてきて、ウクライナ戦の軍隊を補充している」と述べていた。
■ドローン攻撃で3人死亡と「アルツァフ共和国」が発表
そしてナゴルノ・カラバフを実効支配する「アルツァフ共和国」防衛軍の公式Twitterは、3月25日にアゼルバイジャンからドローン攻撃を受けたことで軍人3人が死亡、15人が負傷したと発表。
さらに「26日午前11時ごろ、アゼルバイジャン軍が再び様々な口径の銃器を使用し、ロシアの平和維持軍の管理下の地域の東方向に前進しようとした」と投稿している。
■アゼルバイジャンは「停戦協定違反はアルメニアだ」と逆に非難
エルサレム・ポストなどによると、ロシア国防省は3月26日、アゼルバイジャンを「停戦協定違反」と非難する声明を発表した。
それによると、アゼルバイジャンは24日から25日にかけて、トルコ製の攻撃偵察ドローン「バイラクタルTB2」で4回に渡ってロシア軍が平和維持活動をするファルク村を攻撃。監視所を設置したという。
アゼルバイジャン国防省はロシアの声明を「真実を反映していない」と批判。停戦協定に違反しているのは、アルメニア軍だと主張した。
ナゴルノ・カラバフから離れるはずだったアルメニア軍が違法に駐留していることが原因だとした。その上で、ロシアに対して「アルメニア軍をアゼルバイジャン領から完全に撤退させること」を求めている。【3月28日 HUFFPOST】
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ロシアは上記のようにアゼルバイジャンを「停戦協定違反」と非難していますが、アゼルバイジャン側は反論しています。
****アゼルバイジャン、ロシアからの「合意違反」との非難に返答****
アゼルバイジャン国防省は、ロシア連邦に対して、国際的に認められたアゼルバイジャン領からのアルメニア軍の撤退の保障と、「ナゴルノ=カラバフ」という表現の今後の不使用を要求している。
26日、アゼルバイジャン国防省が声明を発出した。
アゼルバイジャン国防省は、ロシアによる、アゼルバイジャンがあたかもいわゆる「ナゴルノ=カラバフ」に関する合意に違反しているとする非難は、事実に反すると主張している。
アゼルバイジャンの声明には、「ロシア連邦国防省のその声明は、二国間関係の性格と2022年2月22日に二国間で署名された同盟的連携に関する宣言に反するものである」と書かれている。
その上でアゼルバイジャン国防省は、ロシア国防省に対して、3者間の同盟連携宣言における「残ったアルメニア軍と違法なアルメニア武装集団の国際社会によってアゼルバイジャン領として認められた領土からの完全撤退を保障」するよう要請した。
さらに、同省は、同国主権領土内におけるアゼルバイジャン軍の移動を「歪んだ形で」紹介することを止め、さらに「ナゴルノ=カラバフ」という表現を使用せず、アゼルバイジャン領の正しい地名を用いるよう要求している。同省は、同国には「ナゴルノ=カラバフ」という名前の行政区画はないとし、ロシアが言及する村の名前はフルフではなく、ファルフだと指摘している。【3月27日 ウクルインフォルム】
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現状がどうなっているのか定かでないですが、ロシアはアゼルバイジャン側は軍を引いたとしているのに対し、アルメニアはそれを否定し、ロシアに「具体策」を要求しています。「具体策」というのは、ロシアの平和維持部隊の実力行使でアゼルバイジャン軍を追い出せということでしょう。
****アルメニア、ロ軍に対応要請 アゼルバイジャンが係争地「侵入」****
アゼルバイジャンはこのほど、アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフに侵入し、戦略的要所の村を制圧した。これを受けてアルメニアは28日、同地に駐留するロシアの平和維持部隊に対し「具体策」を講じるよう要請した。
アゼルバイジャン軍は24日、ナゴルノカラバフのファルーフを制圧した。
ナゴルノカラバフをめぐっては、2020年にアゼルバイジャンとアルメニアの間で軍事衝突が発生。ロシアが停戦を仲介し、現在は同国の平和維持部隊約2000人が駐留している。
ロシア国防省は27日、アゼルバイジャンはファルーフから部隊を引き揚げたとの見方を示した。一方、アゼルバイジャン側は、軍は村にとどまっているとしている。
アルメニア外務省は28日の声明で、アゼルバイジャン部隊の侵入に対し、ロシアの平和維持部隊がいかなる対応をしたか調査するよう要請したと明らかにした。アゼルバイジャン軍が依然、村にとどまっていることも認めた。
「ナゴルノカラバフに駐留するロシアの平和維持部隊が、管轄地域へのアゼルバイジャン軍の侵入を終わらせるため、具体的な措置を講じることを期待する」としている。
ナゴルノカラバフをめぐる緊張が再び深刻化すれば、ウクライナに多数の部隊を投入しているロシアは難局に直面する可能性がある。 【3月29日 AFP】
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アゼルバイジャンが“(ロシアが)ウクライナを攻撃する戦力を補充するために部隊を移動させたという情報が出ている。その隙をぬって、アゼルバイジャンがアルメニア側に無人攻撃機などで攻撃をした”ということなのかどうかは定かではありませんが、ロシアとしてはウクライナで手一杯のところに、更にナゴルノカラバフでアゼルバイジャンと事を構えるというのは出来ない相談でしょう。
また、ジョージアやモルドバの親ロシア勢力実効支配地域においても同様の懸念があり、うかつに軍をウクライナに向けて動かせない・・・ということにも。
ジョージアの南オセチア自治州に駐留していたロシア軍は、すでに今月初めにウクライナに再配備されたとも報じられていますが・・・。
ウクライナ情勢で苛立ちを募らせているプーチン大統領を更に苛立たせる事態にもなっています。