孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  トランプ大統領の仲介は? プーチン大統領との思惑のズレも

2025-01-31 23:24:02 | 欧州情勢

(【1月29日 NHK】 ロシア軍侵攻開始から3年弱 東部でロシア軍の支配を許しているとは言え、大国ロシア相手にウクライナはよく持ちこたえている・・・・という印象も。一方のロシアはこの間、北欧のNATO加盟、アルメニアなど同盟国の離反、シリア・アサド政権崩壊等々、世界戦略的に失ったものが大きいです。)

【トランプ大統領 「24時間で」云々からやや慎重姿勢に】
トランプ大統領就任で世界が注目している問題の一つが中国やカナダ・メキシコ、更には日本を含めたその他の国々へに対する関税の扱い・貿易戦争の行方。

これについては、トランプ大統領は不法移民や薬物の流入を理由として、明日2月1日からカナダ、メキシコからの輸入品に25%の関税を課すとしており、その成り行きが注目されています。

もう一つ、トランプ大統領就任で大きな動きがあるのでは・・・と思われていたのがウクライナ問題。大統領選挙中は「私なら24時間で停戦させる」と豪語していましたので。

もし、本当に早期決着させるというなら、ウクライナへの武器供与停止を圧力にして、ロシア側が望む内容を丸呑みさせるつもりでは・・・との懸念も。

ただ、就任前からトランプ氏にはやや慎重姿勢も見え始め、就任後の今現在も大きな動きは表には出てきていません。

そうした状況で、トランプ大統領側からプーチン大統領への交渉に向けた圧力も出ています。

****トランプ氏、ウクライナ早期停戦へ仲介外交始動 交渉拒否すれば追加制裁とロシアに圧力****
トランプ米大統領は就任2日目の21日、ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領が停戦に向けた交渉を拒否した場合、ロシアに追加制裁を科す可能性が高いと述べた。ロイター通信が伝えた。

プーチン氏との早期会談を目指す一方で、中国の習近平国家主席にも停戦へ協力を求めたという。侵略開始から丸3年となる2月を前に、圧力をちらつかせながら関係国に早期停戦を迫るトランプ仲介外交が始動した。

トランプ氏は「もうすぐプーチン氏と話す」とホワイトハウスで記者団に語った。追加制裁の詳細には言及しなかったが、トランプ氏に財務長官に指名されたベセント氏は、ロシアの石油産業を標的にしたものになる可能性を示している。

トランプ氏は同国に影響力をもつ中国に対しても、「(停戦への)取り組みが不十分だ」と習氏に直接圧力をかけたという。17日に習氏と電話会談している。

トランプ氏はまた、ウクライナに対する米国の武器支援の問題についても検討中だと指摘。武器支援を巡っては欧州連合(EU)がもっと努力すべきだと欧州にも注文を付けた。

当初、トランプ氏は昨年の米大統領選で、ウクライナ戦争について「私なら24時間で停戦させる」と豪語していた。これに対し、即時停戦はロシアによるウクライナの一部占領を固定化させるとの懸念が専門家から上がる中、今月7日になって「6カ月ほしい」と目標を修正。20日の就任演説でもウクライナについて言及しなかった。

ウクライナ戦争の長期化に伴うサプライチェーン(供給網)の混乱は、米国民が不満を募らせる物価高の一因で、来年に上下両院の中間選挙を控えるトランプ氏の懸念材料となっている。【1月22日 産経】
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【リークされた「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」なるもの】
トランプ大統領がどういう案を考えているのか・・・・“ウクライナにロシア側が望む内容を丸呑みさせる”のに等しいような「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」もリークされています。

****トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当ならロシアがほぼすべてを手に入れる****
<「停戦」だ「平和」だと言っても、トランプ2.0の世界では、やはり侵略者だけがトクをするのか>

ドナルド・トランプ米大統領がロシアとウクライナの戦争を100日で終結させるために検討中、とされる計画がリークされた。

1月26日、ウクライナの『Strana』紙が、数カ月で戦争を終結させるとする計画の詳細を発表し、ウクライナの「政治・外交界」で議論されてきたと書いた。

戦争終結に向けたトランプ大統領の100日計画とされるものをリークすれば、和平交渉の成功を危うくする可能性がある。ゼレンスキーかロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、交渉前から合意案の一部を拒否する可能性があるからだ。

トランプ大統領の「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」には、1月下旬〜2月上旬にプーチン大統領と電話会談を行い、2月か3月にプーチンとゼレンスキー両者と会談し、4月20日の復活祭までに停戦を宣言することが盛り込まれている。

その時点でウクライナ軍はロシア領のクルスクから撤退し、国連の国際平和会議(IPC)が戦争終結のための両国の仲介作業を開始する。

合意された戦争終結の条件に関する宣言は5月9日までに発表し、その後、ウクライナ政府には戒厳令の延長や動員を行わないよう要請する。

合意案はウクライナのNATO加盟を禁じ、中立を宣言すること、2030年までにウクライナがEUの一員となること、EUが戦後の復興を支援することなどが盛り込まれている。

ウクライナは自国の軍隊の規模を維持し、アメリカから軍事支援を受け続けることができる。さらに「ロシアによる占領地を奪還しようとする軍事的・外交的試みを放棄」し、「占領地に対するロシア連邦の主権を公式に承認」する。

西側の対ロ制裁の一部解除についても言及され、終戦協定の遵守状況によっては3年以内に解除される可能性もある。ロシアの石油・ガスのEUへの輸出制限は解除される代わりに特別関税を課し、その収入はウクライナの復興に充てられる。

ゼレンスキーの事務所は、この和平案が合法的なものであることを否定している。ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマク室長はテレグラムで、メディアが報じた100日間の和平計画は「現実には存在しない」と書いた。また、このような報道はロシア人によって流布されたものであることが多いと付け加えた。【1月28日 Newsweek】
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占領地に対するロシア連邦の主権を公式に承認、ウクライナ軍はロシア領のクルスクから撤退、ウクライナのNATO加盟を禁じる・・・・ほぼロシアの望むところでしょう。

こうした内容の「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」なるものが本当に存在するのか、トランプ大統領がこうした内容での停戦を考えているのか・・・そこらはわかりませんが、これであればロシア側が交渉を拒むこともないように思えます。

あとは、ゼレンスキー大統領にどうやってこれをのませるか・・・だけ。

【長期的解決を図りたいプーチン大統領 とりあえずの停戦にしか関心がないトランプ大統領 思惑のズレも】
一方で、プーチン大統領はトランプ大統領との早期会談を望んでいるものの、問題の長期的解決を図りたいプーチン大統領と、とりあえずの停戦にしか関心がないトランプ大統領の間には認識・対応に差があるとの指摘も。

プーチン大統領にとってはシリア・アサド政権崩壊も大きく影響しているとも。

****トランプ氏との会談を切望するプーチン大統領のジレンマ すれ違う着地点と盟友の失脚****
(中略)盟友アサド氏の失脚はプーチン氏の心境を揺さぶり、激変する中東情勢は、ウクライナ侵攻をめぐるプーチン大統領とアメリカ・トランプ新政権との交渉にも影響を与えている。
  
トランプ氏は大統領就任直後にもプーチン氏との電話会談を行うと見られていたが、まだ実現していない。プーチン大統領は繰り返しラブコールを送るが、2人の間で目指す「停戦」のあり方は、決定的に食い違ったままだ。(ANN取材団)

■トランプ氏の停戦プランは「とりあえず止めるだけ」
「チャンスは一度きりだと思ってほしい。失敗は、より深刻なエスカレーションを招くことになる」
トランプ氏のアメリカ大統領就任を控えた1月初旬、ウクライナ問題についての協議にあたっていた ある米ロ外交筋はそうトランプ・チームに伝えた。

トランプ氏は、プーチン大統領を交渉のテーブルに着かせるため、ロシアに対してこれまでの西側諸国のスタンスから大幅に譲歩する姿勢を見せる。現在占領しているウクライナ東部の大部分の実効支配を認め、プーチン氏が神経をとがらせるウクライナのNATO=北大西洋条約機への加盟についても一定期間保留するなど、ロシアにとって悪くない条件を並べる。

ただ、ゼレンスキー大統領によれば、当初からプーチン氏が求めているのは、東部4州全域とウクライナのNATO非加盟の約束、ウクライナ軍の極端な削減、そしてゼレンスキー大統領の辞任などだから、トランプ氏の提案でさえもプーチン氏が納得できるものではない。

「細かい条件を詰めていくような煩雑な交渉にトランプ氏は、興味はない。互いの攻撃を止めたら、あとはロシアとウクライナや関係国で好きに話をまとめてくれという態度だ」
大統領就任前からトランプ・チームと接触を続けるクレムリンに近い関係者は、トランプ氏の姿勢をこう指摘する。

プーチン大統領を何としても交渉テーブルに着かせるためトランプ氏は、今度は経済制裁を強め、中国やインドなどロシアの下支えとなっている第三国からも停戦圧力をかける。まさしくアメとムチだ。

前述の関係者は続ける。
「トランプ氏は、『解決』を目指してはいない。とにかく互いの攻撃が止まれさえすればいいという考え方だ」
交渉の間、短期間でも戦闘が止まりさえすれば良いと考えているというのだ。

■プーチン大統領は対話を急ぐも目指すは「長期的解決」
プーチン大統領は盛んにトランプ氏に対話を呼びかける。
トランプ氏の就任式を数時間後に控えた1月20日には国家安全保障会議を開き、冒頭でわざわざトランプ氏を持ち上げた。

「新しいアメリカの大統領とそのチームは、前任者(バイデン氏)によって中断されたロシアと直接的な接触を回復したいという」
「この姿勢を歓迎し、次期大統領の就任を祝福します。私たちは、ウクライナの紛争に関してもアメリカの新政権との対話に前向きだ」

トランプ氏とウクライナを巡り協議したいと前のめりの発言をする一方で、プーチン大統領はトランプ氏が想定している「短期的な停戦」については、強い拒否感を示す。

「最も重要なのは根本的な危機の原因を排除することだ。何度も話してきたが、それが最も重要だ。私はもう一度強調したい。目標は、短期間の停戦や、その後の紛争継続を目的とした軍備再編のための一時的停戦ではなく、長期的な解決であるべきだ」
「我々はロシアとロシア国民の利益のために戦い続ける。それが『特別軍事作戦』の目的だ」

■トランプ氏の“方針転換”―アサド政権崩壊で「ロシアは弱っている」
当初、トランプ氏は大統領就任したらウクライナへの支援を止め、ロシアの主張を全面的に認め、制裁も解除するのではないか、トランプ氏の「停戦」とは事実上ロシアの勝利を意味するという楽観的な(ウクライナにとっては極めて悲観的な)見方さえ一部であった。

しかし、そうではないことが明確になりだしたのは昨年末あたりからだ。

去年12月7日、ロシアのプーチン大統領が後ろ盾となってきたシリアのアサド政権の崩壊を目の当たりにしたトランプ氏は翌日、「ロシアは弱っている」とSNSに投稿した。ウクライナへの侵攻で「ロシアの兵士60万人近くが死傷した」とも指摘していて、弱ったプーチン氏にもう一押しすれば「短期的な停戦」を受け入れざるを得ない絶好のチャンスだと直感したのだろう。

アサド政権の崩壊にはクレムリンに近い関係者も焦りを見せる。
「トルコは、シリアの『トルコ化』を進めている。それだけではない。周辺国への影響力もますます強めていて、ロシアは中東から押し出されている」
シリアにあるロシア軍基地の行方も懸念される。「フメイミム空軍基地」と「タルトゥース海軍基地」はロシアにとってアフリカへの重要な拠点だ。

(中略)ロシアとしては仮にウクライナ東部を占領できても、同時に中東とアフリカへの影響力を失えば、総合的にはマイナスだ。

経済面でも今年に入ってすぐに「ガスプロム」や「ズベルバンク」といったロシアで最大規模のエネルギー会社や銀行が大量解雇を始めている。

クレムリンに近い関係者によれば、今後の経済情勢を憂うエリート層の多くはウクライナについては早期の交渉を望んでいるという。プーチン大統領も条件次第では、少しでも早く停戦に持ち込みたいのが本音だろう。

■国家はもろい…若きプーチン氏のトラウマ
では、追い込まれているにもかかわらず、なぜプーチン氏は頑なに「短期的な停戦」拒否するのか。
最大の理由は、ウクライナ軍によるロシア西部クルスク州の一部占領だ。

欧米の情報によれば、ロシア軍は、大量の北朝鮮兵士を投入しているが、ウクライナが高台を制圧しているため、容易には奪還できないとみられている。

この状況で交渉テーブルに着き、前線を凍結することは、プーチン氏にとってリスクが大きい。第二次世界大戦以来80年間ではじめてロシア領を外国に軍事占拠されるという事態を固定化しかねない。土地を追われた住民たちも、「ロシアは私たちのために何をしているのか?」と連日声を上げ、不満は限界に達しつつある。

また、プーチン氏はある「トラウマ」を抱えている。
KGBのスパイだった1989年に赴任先の東ドイツで「ベルリンの壁」の崩壊を目の当たりにし、「東ドイツがなくなることなど想像もしていなかった」と当時を振り返っている。(中略)

プーチン氏にとって「国家」はかじ取りを誤ればすぐに崩壊してしまうもろい存在だ。アサド政権の崩壊は、このトラウマを再び呼び起こしたようだ。(中略)

改めてシリアの現状を目の当たりにしたプーチン氏が「中途半端な停戦は命取りになる」と考えたとしてもおかしくない。だからこそ「根本的な危機の原因を排除すること」が重要だと繰り返し、「短期的な停戦」に拒否反応を示す。(後略)【1月31日 テレ朝news】
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上記記事の指摘があたっているなら、ウクライナ軍によるロシア西部クルスク州の一部占領は効果があったということにもなります。

ウクライナ軍のロシア領への侵攻当初、この作戦は非常に不評でした。「いったいいつまでウクライナが持ちこたえられるというのか?」「戦力分散でウクライナ国内の東部戦線が更に悪化するのでは?」と。私個人もそうした印象。

実際、後者の東部戦線は現在極めてウクライナ軍に不利になっています。
ロシア西部クルスク州の方は、自らの命を顧みない北朝鮮兵士の投入もありましたが、ロシア軍の奪還作戦で支配地を狭めながらもなんとか持ちこたえています。

このまま持ちこたえることができれば、ロシアとの今後の交渉で重要なカードにもなりえます。

プーチン大統領の「トラウマ」・・・そういう心の内、頭の中まではわかりません。シリア・アサド政権崩壊がロシアにとって手痛いものであるのは間違いないですが、「トラウマ」云々はどうでしょうか?

【本気でノーベル平和賞望む? そのためにはウクライナ停戦は必須】
ところで、オバマ元大統領への対抗意識もあって、トランプ大統領は本気でノーベル平和賞を欲しがっているようです。

パレスチナ・ガザ地区がとりあえずの停戦に至った今、次はウクライナ停戦。
実績を作るためには短期のとりあえずの停戦でも何でもかまわない・・・あとはロシア・ウクライナで話し合ってもらえば・・・といったところでしょうか。

****ノーベル平和賞を意識? トランプ大統領の「平和」への本気度は?****
23日、ダボス会議にオンラインで参加し、「ガザ地区の停戦は、我々なしには実現しなかった」と“自らの重要な役割”を強調したトランプ大統領。 

CNNによると、来月4日にホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相との会談が予定されているという。  これまで一貫してアメリカファーストを掲げてきたトランプ大統領だが、2期目を迎え、平和への意欲を見せ始めている。 

「非常に重要なことの一つはプーチン大統領とすぐに会って、(ウクライナとの)戦争を終わらせたいということ。それは経済やその他の観点からではなく、何百万人もの命が無駄になっているという観点からだ」(トランプ大統領) 

アメリカとロシアの間では核軍縮条約「新START」が結ばれていたが、2023年、ウクライナへの侵攻が長期化するなかでロシア側が履行停止を表明。2026年に失効を迎える中、トランプ大統領は「非核化が可能か見極めたい。十分可能だと思う」と意欲を見せている。  

一方、ロシアのプーチン大統領は24日、国営メディアのインタビューで、トランプ大統領とは「仕事上の事だけではなく信頼関係も築いてきた」と述べ、ウクライナ問題や経済問題などあらゆることを話したいと語っている。ノーベル平和賞を意識した動きではないかという声もある中、トランプ大統領の真剣さに注目が集まっている。  

アメリカ現代政治外交が専門の前嶋和弘教授はガザ地区の停戦について「『ガザ地区の停戦は“我々なし”には実現しなかった』というセリフは間違ってはいない。というのも、バイデン前大統領がお膳立てをして、その後、トランプ大統領の就任に合わせてネタニヤフ首相が停戦という“プレゼント”をしたからだ。とはいえ恒久的な停戦はなかなか難しいだろう」と説明。  

ロシアの思惑については「ロシアとしてはトランプ大統領とうまく話し合って、自分たちに有利なように進めたいのだろう。ゼレンスキー大統領のことは頭にないのでは」と分析した。  

核兵器削減については「中国がポイントになる」と指摘した。 「核兵器はアメリカ・ロシアが多いが、制限条約に入っていない中国が特に中型核兵器を増やしている。そのため、停止中の新STARTを戻し、さらに中距離核兵器の制限条約にも加入させる。これはぜひやってほしい」  

民主党政権では実現しなかったがトランプ大統領ならばできるのか? 「力技でやってほしい。ウクライナ侵攻でロシアとアメリカの関係は悪くなっているため難しいが、ウクライナがうまく動いていけば可能性はある。実はダボス会議ではウクライナと核の話がリンクしたのだ」  

トランプ大統領がノーベル平和賞を受賞する可能性については「ノーベル委員会はトランプ大統領のような人は大嫌いだが、核問題はどんどん進めてもらいたい。世界が平和になるのはすごく良いことなので、ノーベル平和賞でも何賞でもあげていい」と述べた。 【1月31日 ABEMA Times】
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アメリカ  「反リベラル革命」あるいは「連邦政府解体」とも言うべきトランプ改革がスタート

2025-01-30 23:24:00 | アメリカ

(トランプ新政権の対外支援一時停止方針発表後に閉鎖され、避難民の受け入れをストップしたタイにあるミャンマー難民キャンプの診療所【1月29日 TBS NEWS DIG】)

【200万人超の連邦職員に対し、異例の好条件で「早期退職」を呼び掛け】
トランプ大統領による「反リベラル革命」あるいは「連邦政府解体」とも言うべき改革がスタートしています。

一番驚いたのは、一部を除く200万人超の連邦職員に対し「早期退職」を呼び掛けたこと。

****連邦職員に「早期退職」呼び掛け=米政権、200万人に大なたか―報道****
米メディアは28日、トランプ政権が200万人超の連邦職員に対し、「早期退職」を呼び掛けたと報じた。2月6日までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給するという。

トランプ大統領は連邦機関を「ディープステート(闇の政府)」と敵視しており、自身に従わない公務員の追放を本格化させる。

報道によると、人事管理局が一斉送信したメールには、今後連邦機関が縮小され、職員の扱いが常勤雇用から「随意雇用」に移される可能性に触れられていた。さらに職員には「忠実さ」を測る新たな行動基準を課し、違反があれば解雇を含む懲戒処分の対象になると警告。「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」を選ばせるような内容となっている。

軍や郵政公社、移民対策、国家安全保障に携わる者は対象外。正確な数は不明だが、ホワイトハウスは全職員の5〜10%が募集に応じると見込む。

ニューヨーク・タイムズ紙は、実際に政府が約束した給与を支払う能力があるのかは不透明な上、政治的圧力からキャリア公務員を守る法律に違反する恐れもあると指摘。

最大労組「米政府職員連盟」は声明で、「公務員の追放は多大な影響と混乱をもたらす」と批判し、組合員に安易に応じないよう呼び掛けた。

トランプ氏は既に、非政治任用職の解雇を容易にする職務分類を設ける大統領令に署名。意に沿わない職員を一掃する準備を進めている。

先週には連邦政府の「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業廃止を命じ、担当部署を事実上閉鎖。連邦職員の在宅勤務を認めない大統領令も出し、子育て世帯などが仕事を続けられなくなる可能性が指摘される。いずれの措置も連邦機関縮小や反対派排除に向けた「大なた」の一環とみられている。【1月29日 時事】 
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200万人の5~10%でも10~20万人という膨大な人員整理になります。
“AP通信は「アメリカ政府を猛スピードで縮小させる前例のない措置だ」としたうえで、連邦政府が300万人以上を雇用していることから「ほんの一部が応じたとしても経済に衝撃が走り、社会全体に混乱を引き起こす可能性がある」と伝えています。”【1月29日 NHK】

日本では公務員の職務は政治的圧力・干渉などに脅かされないように強固に守られていますが、さすがアメリカは違う・・・。

「ディープステート(闇の政府)」にかかわるような、あるいはリベラルな思想にかぶれているような者を排除して、新たに大統領に忠実な者で連邦政府を再建しようというもののようです。

“こうした方針は、歳出削減に取り組む「政府効率化省(DOGE=ドージ)」トップで実業家のイーロン・マスク氏が提唱していた経緯があり、今回の方針に影響を与えた可能性もある。マスク氏は今回の方針に関して、Xに「分岐点だ」と投稿した。”【1月29日 毎日】と、影の大統領マスク氏の影響もしてきされています。

政府職員の大幅削減と連邦政府の解体はトランプ支持者の間ではかねてより計画されていたもののようですが、注目されているのは今回措置が“2月6日までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給する”という破格の好条件だったこと。

この条件なら応じる者も少なくないかも・・・と思われますが、民主党側は「履行される保障のない偽りの好条件にだまされてはいけない」と反発しています。

****異例の好条件で連邦政府職員に早期退職を迫るトランプの真意****
<政府職員の大幅削減と連邦政府の解体は、熱烈なトランプ支持者たちが大統領選前から温めてきた大陰謀論。トランプは自分は関与していないと嘯いていたが、大統領就任と同時に計画を実行に移し始めた>

トランプ政権は連邦政府職員に異例の好条件を提示して早期退職に応じるよう呼びかけたが、提示された条件は「空約束」にすぎないと、民主党議員は警告している。

米労働統計局のデータによれば、連邦政府の職員(軍の人員を除く)は3万人前後(原文のまま。 英文元記事を確認したところ“300万人”の誤記と思われます)。

連邦政府のスリム化は、ドナルド・トランプ大統領が就任後に真っ先に取り組むと誓ってきた政策課題の1つだ。トランプが新設し、イーロン・マスクを共同トップに据えた政府効率化省(DOGE)は、政府支出の無駄をなくすため、大幅な人員削減に踏み切ろうとしている。

トランプはDOGEに、行政管理予算局(OMB)及び連邦人事管理局(OPM)と協力して、4月20日までに「効率性の改善と人員削減を通じて、連邦政府の規模を縮小する」計画をまとめるよう命じた。

これに先立ち、就任初日の1月20日に連邦政府職員の新規雇用を凍結する方針を打ち出し、連邦レベルの全ての政府機関にリモートワークの禁止を指示した。

新政権発足早々の相次ぐ改変に動揺が広がるなか、OPMは1月28日、連邦政府の職員全員に宛てて「分岐点」と題したメールを送信。職場の環境・文化が大きく変わろうとしている今、どうするかはあなた方の決断しだいだと伝え、早期退職に応じるなら「尊厳のある公正な門出」が保証されると約束した。

早期退職者には「これまでの日々の仕事量にかかわらず、また職場への出勤を一切求められることなく、2025年9月30日まで給与と手当の全額が支給される」という。この条件で退職に応じるなら、OPMのメールにただresign(辞職する)と返信するだけでいい。

「大統領にはこうした条件を出す権限はない」── 28日に連邦上院議場でそう喝破したのは、ティム・ケーン上院議員(バージニア州選出・民主党)だ。「(議会が承認した)予算には、働かない人員に支給する給与という項目はないからだ」

「偽りの好条件にだまされてはいけない」と、ケーンは連邦職員に警告した。「あなた方は先週トランプにさんざん脅されたから、今すぐ辞職して優遇措置を受けたくなるだろう。だが言っておくが、この約束が守られる保証は一切ない」

OPMのメールはタイトルも内容も、イーロン・マスクが2020年10月にツイッター(現X)を買収した際にツイッターの従業員に送ったメール(「長時間の過酷な労働に耐えるか、辞職するか」を問うもの)に酷似しているとの指摘も聞かれる。

優遇措置に釣られて、早期退職に応じないよう、ケーン以外の民主党議員も次々に連邦職員に警告を発し始めた。
ジャスミン・クロケット下院議員(テキサス州選出・民主党)は28日にXに次のように投稿した。「トランプは連邦政府職員に偽りの早期優遇退職を持ちかけた。彼らがそれを受け入れたとたん、約束を握りつぶし、彼らが職場を去るが早いか、自分に忠実な無資格の未経験者を後釜に据えるだろう」

ジェリー・コノリー下院議員(バージニア州選出・民主党)も28日、「ドナルド・トランプは、自身と『プロジェクト2025』を策定した(右派の)仲間たちが思いつく限りの策略を駆使して、公務員の職を政治的乗っ取り屋で埋めようとしている」と、Xに投稿した。「これは茶番だ。このオファーにだまされるな。トランプはこれまで自分のために働いた全ての人間にそうしてきたように、あなたをゴミのように捨てるだろう」【1月30日 Newsweek】
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「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」・・・・トップの指示に異論をはさめない中国・ロシアの政治体制に近いものにも近づくような感じがあります。

政権に批判的なマスメディアへの締め付けも強まると思いますし・・・アメリカはどこへ行くのか?

【連邦政府の補助金・融資などの一時停止で混乱、裁判所は差し止め、2日で撤回】
連邦政府の人員削減、入れ替えに加え、その業務内容がトランプ政権の方針に合致しているかどうかを精査するため、連邦政府による補助金や融資を28日から一時凍結することも発表。

標的とされたのは、多様性、公平性、包括性(DEI)などに関連する前政権のリベラル色の強いもののようです。

****米、連邦政府の補助金・融資など支援プログラムを一時停止*****
トランプ米政権が行政管理予算局(OMB)の補助金や融資などの財政支援プログラムを一時停止したことが、ロイターが入手したメモで分かった。

メモはトランプ大統領が先週の就任以降に署名している、多様性、公平性、包括性(DEI)に関連するプログラムの廃止を求める大統領令などに言及している。

OMBのマシュー・J・バース局長代行は「当面の間、適用される法律で許される範囲で、連邦政府機関は全ての財政支援の義務や支払いに関連する活動のほか、対外援助や非政府組織、DEI、ジェンダー意識の高まり、グリーン・ニューディールへの財政支援など大統領令の影響を受ける可能性のあるその他の関連機関の活動を一時的に停止しなければならない」とメモで述べた。

停止措置は28日午後5時(日本時間29日午前7時)に発効する。議会民主党の有力議員はメモの報道を受け、OMBに決定を撤回するよう求める書簡を送った。

メモによると、政府機関は一時停止の対象となるプログラム、プロジェクト、活動に関する詳細情報を2月10日までに提出する必要がある。【1月28日 ロイター】
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こういう重要な施策が“メモ”(いわゆる日本語の“メモ”とはまた違うのでしょうが)で処理されるというのも日本的には驚きです。

しかし、こういう措置で生活の最低限の保障も脅かされると混乱が拡大。異議申し立てに基づき連邦裁判所は28日、2月3日まで拠出金凍結を差し止める命令をだしています。

****トランプ政権「全ての財政支援」停止で連邦政府混乱…公的保険サイト一時ダウン、治療薬配布も停止****
米国のトランプ政権が連邦政府による補助金や融資を28日から一時凍結すると発表し、混乱が広がっている。社会保障給付や医療援助などが止まるとの批判を受けて例外を設けるなど対応に追われた。前政権の施策を覆そうとする強引な政権運営に綻びが出てきた。

きっかけは、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)が27日に出した指示だった。トランプ政権の方針に合致しているかどうかを精査するため、28日夕方以降、州政府や民間活動団体(NGO)への拠出、対外援助など「全ての財政支援」を一時停止するよう連邦機関に命じた。

約7000万人が加入する低所得層向け公的医療保険「メディケイド」は連邦政府と州政府の資金で運営されており、凍結対象に含まれているのではないかとの見方が広がった。

各州が担う事務は混乱し、全米の事務的な運用サイトが一時ダウンする騒ぎとなった。米国際開発庁(USAID)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)やマラリアの治療薬の途上国向け配布を停止した。

OMBによると、連邦政府の補助金や助成金、融資は計3兆ドル(466兆円)以上に上り、一部は低所得者向け食料支援や医療助成、学校支援などの財源にもなっている。民間団体が「数十万人の助成金受給者に壊滅的な影響を与える」として異議を申し立てたところ、連邦裁判所は28日、2月3日まで拠出金凍結を差し止める命令を出した。

キャロライン・レビット大統領報道官は28日の記者会見で凍結措置は多様性を重視したバイデン前政権の施策が対象で、メディケイドや中小企業支援などを含まないと軌道修正。OMBや国務省は除外対象を記した文書を追加配布した。

野党・民主党は政権追及の好材料とみて勢いづいている。上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務は「無法、破壊的、残酷な決定だ」と政権を批判した。ニューヨーク州など民主党が強い州では、凍結措置を無効にする訴訟も検討されている。【1月29日 読売】
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結局、トランプ政権は29日、連邦政府による補助金や公的融資の支出を凍結する方針を撤回するに至っています。

****トランプ政権、連邦政府補助金の支出凍結を撤回 裁判所も差し止め****
トランプ米政権は29日、連邦政府による補助金や公的融資の支出を凍結する方針を撤回した。社会福祉や教育分野で公的支援が止まるとの懸念が拡大。政権は「年金や社会福祉分野に影響はない」と釈明していたが、わずか2日で撤回に追い込まれた。

ただ、連邦政府の政策を抜本的に見直す姿勢は変えておらず、将来的にバイデン前政権が決めた気候変動対策の補助金などが覆される可能性は残っている。

ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)は27日に補助金などの全面凍結を決定し、28日から施行する予定だった。しかし、「連邦議会が成立させた予算を凍結することは、前例のない広範囲にわたる違法行為だ」(民主党のマレー連邦上院議員)といった批判が噴出。連邦政府から支援を受けている非営利団体(NPO)の訴えを受けて、連邦地裁が28日に支出凍結の一時差し止めを命じていた。

ホワイトハウスのレビット報道官は29日の声明で「裁判所の判断や不誠実な報道によって、連邦政府の政策に関して混乱が生じた。こうした混乱を収束させるため、(支出凍結の)方針を撤回した」と説明。

一方で「支出の全面的見直しは、全ての省庁で実行される。今後、連邦政府のひどい無駄遣いを終わらせる施策を出していく」と述べた。

連邦上院歳出委員会で民主党トップを務めるマレー氏はXへの投稿で「抗議の声を上げた全ての国民にとって重要な勝利だ。トランプ政権は無能で、法律を軽視しており、深刻な混乱と損害を生じさせている」と政権を批判した。【1月30日 毎日】
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【対外援助の大幅削減に向けた動きで世界の現場で影響】
トランプ大統領は自身の「アメリカ第一」主義との整合性を評価するために対外開発援助を90日間停止する大統領令にも署名しており、その影響は世界に広がっています。

****米政府の対外援助削減、世界中の人道支援が危機に****
トランプ米大統領の対外援助の大幅削減に向けた動きにより、タイの難民キャンプの野戦病院、紛争地帯での地雷除去、エイズウイルス(HIV)などの病気に苦しむ数百万人を治療するための医薬品などが削減の危機に直面している。

トランプ氏は先週、自身の「米国第一」主義との整合性を評価するために米国国際開発庁(USAID)を通じた対外開発援助を90日間停止する大統領令に署名した。

人道支援団体や国連機関によると、もし資金拠出の凍結が恒久的になれば、食料や避難所、医療の提供能力が大幅に制約される恐れがある。

米国は世界の人道援助に対する最大の貢献国となっている。2024年には139億ドルを供給したと推計されており、これは国連がフォローしている援助全体の42%を占める。

ミャンマーからの難民約10万人が避難しているタイのキャンプの診療所は、米国が国際救済委員会(IRC)への資金提供を凍結後に停止を命じられた。

また、ロイターが確認したメモによると、米国の対外援助の削減は数百万人が依存している世界中のHIVやマラリア、結核の救命薬の供給にも影響を及ぼす。

USAIDから請け負っている業者やパートナーは28日、直ちに任務を止めるように命じたメモを受け取り始めた。

「これは壊滅的だ」とUSAID長官補を今月退任したアトゥール・ガワンデ氏は訴える。「寄付された医薬品によって2000万人のHIV感染者が生存している。それが今日で止まってしまうのだ」。さらに、米国の対外援助削減は23カ国の計650万人のHIV感染孤児と脆弱な子どものために活動している団体に打撃を与えると指摘した。

世界食糧計画(WFP)のアフガニスタン担当ディレクター、シャオウェイ・リー氏はロイターに対し、WFPがアフガニスタンへの援助に必要となる資金の既に約半分しか受け取っておらず、600万人超が「パンとお茶だけで」生き延びていることを考えると先行きを懸念していると語った。

国連によると、米国は2024年にWFPに対して47億ドルを拠出しており、全体の54%を占める。

<地雷対策と教育にも打撃>
地雷禁止国際キャンペーンによると、米国は2023年に総額3億1000万ドルを拠出した最大の地雷対策支援国となっており、世界全体の支援額の39%を占めた。除去されていない地雷が最も多くの人命を奪っている国にはシリアやミャンマー、ウクライナ、アフガニスタンなどがある。

米国務省は今月26日、米政府は納税者のドルの管理者としての役割に基づき、米国の国益に焦点を合わせる必要があるとして「トランプ氏は、米国はもはや米国民に見返りのないお金をやみくもにばらまくつもりはないと明言した。勤勉な納税者のために対外援助を見直し、再編するのは正しいことであるだけでなく、道徳的な要請でもある」とコメントした。

ウクライナの教育システムの改善のために教員を養成している非政府組織(NGO)、ティーチ・フォー・ウクライナのオクサナ・マティアシュ理事長は、ウクライナのNGO分野で混乱が起きていると明らかにした。

マティアシュ氏はリンクトインに「凍結されたのは資金だけではない。全ての助成金の背後には、想像を絶するような状況で働く実際の人々がいるのだ」と書き込んだ。【1月29日 ロイター】
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ミャンマー難民を治療していたタイの難民キャンプ診療所では、“入院患者はキャンプ内の住居に帰され、職員らは医療機器を持って出て行ったということです。”【1月29日 TBS NEWS DIG】

アメリカ国務省が人道支援を目的とした資金提供などの対外援助を一時的に停止すると発表したのが26日。
前出のホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)がすべての連邦機関に宛てた文書で、補助金や融資の執行を凍結するよう指示したのが、27日夕方。

両者の関係、行政管理予算局(OMB)の凍結指示の撤回に対外援助の一時的停止も含まれるのか、あるいは別物なのか・・・そのあたりはよくわかりません。

いずれにしても、「アメリカ第一主義の外交政策に一致するかどうかを検証するため」という話なら、一律に全部停止する必要もなく、運用しながら不要と判断するものは順次縮小・停止する措置を取れば済むようにも思うのですが。
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コンゴ  ルワンダ支援の反政府勢力M23の攻勢 注目される米トランプ政権の対応

2025-01-29 23:38:58 | アフリカ
(2025年1月26日/コンゴ民主共和国、北キブ州ゴマ、郊外に避難する人々(AP通信)【1月28日 KWP News】)

【ルワンダが支援しているとされるツチ族系反政府勢力M23 コンゴ東部主要都市を掌握】
各メディアで報じられているように、アフリカ中部コンゴの東部で隣国ルワンダの支援を受けているとされる反政府勢力M23(ルワンダのカガメ政権も、コンゴのM23もツチ族系)が攻勢を強め、東部主要都市ゴマ(人口200万人)を掌握したとも。

一方、これに対し首都キンシャサではM23・ルワンダに抗議するデモが激化し、各国大使館が襲撃されるなど緊張が高まっています。

****コンゴ民主共和国 反政府武装勢力が東部の主要都市を掌握 首都にも飛び火****
アフリカ中部コンゴ民主共和国で、反政府武装勢力が東部の主要都市を掌握したと宣言しました。首都ではデモ隊が大使館を襲撃するなど、各地で緊張が高まっています。

コンゴ民主共和国で、隣国ルワンダの支援を受けているとされる反政府武装勢力「M23」は27日、東部の主要都市ゴマを掌握したと宣言しました。

コバルトなど鉱物資源が豊かなコンゴ東部では100を超える武装勢力が乱立し、政府軍とおよそ30年にわたる紛争を続けてきましたが、今月に入り、「M23」が攻勢を強めています。

国連は、今月だけで新たに40万人が避難民になったと報告しています。

「M23」は、コンゴ東部と国境を接するルワンダからの支援を受けていると指摘されていますが、ルワンダ政府はこれを否定しています。

首都キンシャサでは28日、「M23」に対する抗議デモが激化し、ロイター通信によりますと、ルワンダ大使館やアメリカ大使館など、複数の外交施設が襲撃されました。

国連のグテーレス事務総長は声明で、「より広範囲な地域紛争に発展するリスクが高まった」と懸念を示した上で、「M23」に対し攻撃を直ちに停止するよう求めています。【1月29日 TBS NEWS DIG】
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【コンゴ 豊富な地下資源と民族問題から混乱と戦争の歴史】
コンゴにおける100を超えるとされる反政府勢力・武装勢力の跋扈は再三取り上げてきました。
更に遡れば、1996年~1997年の第一次コンゴ戦争、1998年~2003年の第二次コンゴ戦争といったように、コンゴでは戦争の混乱が絶え間なく続いています。

アフリカということで世界からはあまり注目されませんが、犠牲者数で言えば、第二次コンゴ戦争の1998年から2007年の間だけでも540万人以上ということで、第二次大戦後に起きた紛争としては世界最多の死者を出しています。

政権の統治能力の欠如と言えばそれまでですが、そうした状況は、“コバルトなど鉱物資源”が戦闘のための各勢力資金源ともなり、また、周辺国の介入を招きやすいという“資源の呪い”の側面があります。 更に、ルワンダの大虐殺の背景ともなったフツ・ツチの対立も絡んでいます。

****世界に知られていない悲劇:コンゴ民主共和国****
アフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国。人口は7,800万人に上り、その面積は西ヨーロッパに匹敵する。鉱物資源にも恵まれており、金、ダイヤモンド、銅のほかに、電化製品に欠かせないタンタル、スズ、タングステンなどを産出する。リチウムイオン電池に使用されるコバルトは世界生産量の5割以上を占める。

豊かであるかのように見えるこの国は、実は大きな混乱のなかにある。2年連続で避難民の数は世界第一であり、中東のシリアやイエメンなどの国々よりもひどい状況なのである。

2017年には一日に平均5,500、合計170万もの人々が家を捨てざるを得なかった。世界最大の避難民を生み出す原因は紛争にとどまらず、他にも国内に問題を抱えているコンゴ民主共和国だが、なかなか注目されることがないのだ。

コンゴ民主共和国が歩んできた厳しい道のり
現在のコンゴ民主共和国は、1885年のアフリカ分割に関するベルリン会議においてベルギーの領有が認められ、コンゴ自由国と呼ばれるようになった。

しかし、その実態はベルギー国王レオポルド2世の私有地であり、そのもとでゴム、象牙、土地などをめぐり現地人への過酷な収奪が行われたため、国際的な非難を受け、1908年にはベルギー政府直轄のベルギー領コンゴへと形を変えた。

その後、他のアフリカ諸国と同じように独立運動が始まり、1960年にコンゴ共和国として独立を達成した。しかし、南部カタンガ州の分離運動からコンゴ動乱に突入し、5年にわたる紛争が続いた。

この紛争は、独立を認めたはずのベルギーが、南部の豊かな鉱山地帯であるカタンガ州を分離独立させて影響力を残そうとして兵力を残し、分離独立に肩入れをした。ベルギーとアメリカの後押しを受けた軍部のモブツがクーデターにより当時の首相ルムンバを逮捕し、後にルムンバが殺害されたことで動乱が拡大した。

1965年にモブツが大統領となり軍政を敷き、一応動乱は収拾されたものの、モブツは国名をザイールに変更したのち、アメリカに支えられて独裁体制を強め、国の資源・財源を私物化したため経済成長が止まり、貧困が続いた。モブツの長期政権の中で腐敗が進行しただけでなく、人権抑圧も続き、国家としての機能が退廃した。

1994年の隣国ルワンダのジェノサイドから発生した多くの難民や武装勢力が東ザイールに滞在するようになり、それがきっかけで、ルワンダ、ウガンダなど数カ国による侵攻で1997年にモブツ政権が倒された。そしてローラン・カビラが大統領となりコンゴ民主共和国という国名に改名された。

しかしこの政権への不満を募らせたルワンダは反政府勢力を組織、国内の豊富な天然資源に対する利権も絡み、ウガンダ、ブルンジとともにコンゴ民主共和国に侵攻した。これが2回目の侵攻で、今回は政府側にアンゴラ、ジンバブエなどが応援に入り、合計8カ国による紛争となった。これが「アフリカの第一次世界大戦」とも呼ばれるものである。

カビラが暗殺され息子ジョゼフ・カビラが大統領に就任した後、2003年の和平合意が結ばれ、外国兵の撤退は実現したが、形を変えた武力紛争が部分的に続いた。

鉱物の採掘権や民族間のアイデンティティ対立、隣国の関与などの問題を抱え、武装勢力による襲撃や食料の略奪により、住民たちは不安定な生活を余儀なくされている。

このように続くコンゴ民主共和国の紛争は、1998年から2007年の間に540万人以上もの犠牲者を出しており、1950年代の朝鮮戦争以来世界最大だ。(後略)【2018年3月8日 GLOBAL NEWS VIEW】
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“M23は現在、電子機器の製造に不可欠なコルタンの採掘事業を支配している。”【1月27日 SPUTNIK】とも。

【22年末以来のM23の動き ルワンダは関与を否定】
近年では「3月23日運動」(M23、ツチ族系のルワンダ系反政府武装勢力)【外務省 海外安全HP】の攻勢が強まっており、約1年前の2023年12月24日ブログ“コンゴ 20日の大統領選挙、トラブル多発で延長 ルワンダが支援と言われるM23をめぐる動き”でも取り上げました。

ですからM23の攻勢はここ1,2か月のものではありません。更に言えば、M23は2012年にもゴマを制圧したことがあります。

下記は2023年12月24日ブログでも引用した2023年2月の記事です。

****コンゴ東部でM23をめぐる紛争続く****
(2023年)1月26日、M23は北キヴ州マシシ県のキチャンガを制圧した。昨年(2022年)10月末に本格的な攻撃を再開したM23は、ウガンダ国境の街ルチュルからゴマに向けて南下し、コンゴ軍との間で戦闘が続いてきた。

12月初めの虐殺事件を契機に、M23、そしてルワンダへの圧力が高まり、M23は占領地からの撤退を表明したのだが、それ以降ゴマ西方のマシシ方面での軍事的プレゼンスを強めている。コンゴ軍の攻撃に反撃する形で、キチャンガを制圧したと報じられている(3日付ルモンド)。

M23をめぐる紛争については、アンゴラのロウレンソ大統領がアフリカ連合(AU)および南部アフリカ開発共同体(SADC)から委任を受けて仲介役を務めており、同時にケニヤッタ元ケニア大統領が東アフリカ共同体(EAC)のファシリテーターとして調停にあたっている。

昨年(2022年)7月、(アンゴラ大統領)ロウレンソが(コンゴ大統領)チセケディと(ルワンダ大統領)カガメを首都ルアンダに招き、和平に向けた合意を得たが、停戦は続かなかった。9月以降、ケニアのイニシャティブでコンゴ東部にEAC(東アフリカ共同体)軍が展開されたが、抑止力としては機能していない。

この間、コンゴとルワンダの関係は悪化を続けている。M23の攻勢はルワンダの支援によるものだというコンゴ側の主張と、コンゴの国内問題だというルワンダ側の主張が平行線をたどっており、チセケディとカガメは相互に非難を繰り返すだけで、直接対話もできなくなっている。

国際社会のスタンスは、ルワンダにM23への支援を止めるよう求めるものだ。それに対してカガメ大統領は、M23はコンゴ国内の問題であり、問題はコンゴのガバナンスだと繰り返し、国際社会へのいらだちを隠していない。

ルワンダが何らかの形でM23への支援を行っていることは、国連専門家委員会が認めるところである。一方、コンゴ側のガバナンスに深刻な問題があること、そして紛争の中で民兵組織を利用してきたこともまた事実である。

ルワンダを締め上げれば問題が解決するわけではない。こうした状況下、戦闘の意思と能力を持つM23に引きずられる形で、紛争が拡大している。【2023年2月4日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター】
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【国連平和維持部隊 「第3次内戦」の恐れを警告】
今回の衝突に関しては
“AFP通信によると過去数日間の戦闘で100人以上が死亡し、1000人近くが負傷した。【1月29日 時事】
“国連によりますとゴマやその周辺の病院は戦闘でけがをした人たちであふれ、治療が追いつかなくなっているほか、略奪や性暴力なども横行しているということです。”【1月29日 NHK】
“(28日の)銃撃戦により南アフリカの平和維持部隊員4人が死亡した。”【1月28日 ロイター】
英BBCは26日、M23の攻撃で200人以上の民間人が死亡したと伝えています。

平和維持部隊に関しては、25日までに要員13人が戦闘で死亡したという南アフリカ軍の発表もあります。
政府軍とM23の衝突における平和維持部隊のスタンスはよくわかりませんが、政府軍とともに空港などの維持にあたっていたようです。

今後、衝突は更に拡大する懸念を国連平和維持部隊は警告しています。

****コンゴ、「第3次内戦」の恐れ=東部で衝突激化、国連が警告****
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)で政府軍と反政府勢力「3月23日運動(M23)」の衝突が激化している事態を受け、現地で活動する国連平和維持部隊の幹部は28日、「第3次コンゴ内戦の脅威が差し迫っている」と述べ、戦闘がさらに深刻化する恐れがあると警告した。国連安保理の緊急会合で語った。

M23は隣国ルワンダ軍の支援を受けているとされ、今月に入って攻勢を拡大。東部の主要都市ゴマに侵攻し、AFP通信によると過去数日間の戦闘で100人以上が死亡し、1000人近くが負傷した。

国連コンゴ安定化派遣団(MONUSCO)の幹部はゴマからオンラインで報告を行い、「街では略奪が発生し、多くの避難民を保護しているが、われわれも安全ではない」と強調。ゴマは孤立状態にあるとして、市民の安全な退避や支援物資の搬入を可能にする「人道回廊」を早期に設置するよう国際社会に訴えた。【1月29日 時事】 
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首都キンシャサにおけるデモの参加者からは“「ルワンダと戦うべきだ」との声も上がっていて、混乱が広がる中、周辺国を巻き込んだ地域紛争に発展する懸念が高まっています。”【1月29日 NHK】とも。

M23とルワンダの関係については紆余曲折がありますので省略しますが、ルワンダの大虐殺後、虐殺に関与したフツ族系組織がコンゴで活動、それに対抗するツチ族系組織をルワンダが支援・・・といったあたりが最初のM23前身組織とルワンダ・カガメ政権の関係だと認識しています。

【アメリカ・トランプ政権はどのように対応するのか? ルワンダにはトランプ政権が認めるのではないかとの期待も】
こうした状況でルビオ米国務長官とルワンダのカガメ大統領が会談(おそらく電話会談)を行っています。

****ルワンダ大統領、米国務長官と会談 コンゴ停戦の必要性で一致****
ルワンダのカガメ大統領はルビオ米国務長官と会談し、コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部での停戦の必要性について一致したことを29日に明らかにした。

ルワンダが支援するコンゴの反政府勢力「M23」は東部最大の都市ゴマに進軍したが、カガメ大統領はルワンダ軍とM23にゴマからの撤退を求める圧力に屈する姿勢は示さなかった。

カガメ大統領は「ルビオ長官とコンゴ東部の停戦を実現し、紛争の根本原因にきっぱり対処する必要性について生産的な会話をした」とXに投稿。

米国務省は「長官はこの地域の即時停戦を促し、全ての当事者に対し主権国の領土の一体性を尊重するよう呼びかけた」と述べた。

米政府は28日、国連安全保障理事会に対し、M23の攻撃停止に向けた措置を検討するよう要請した。

現地住民によると、ゴマでは数日間にわたって激しい戦闘が続き、店舗などが略奪されていたが、29日は散発的に銃声が聞かれた以外、総じて平穏な状態が続いている。

コンゴと国連の平和維持部隊によると、ルワンダ軍はゴマでM23を支援。ルワンダはコンゴの武装勢力から自国を守っていると主張しているが、コンゴ領内に進軍したかについては直接コメントしていない。【1月29日 ロイター】
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今後に展開についてはルワンダの方針にかかっていますが、“トランプ政権が自分たちの行動を承認するのではという期待がルワンダ側にある”との指摘もあるようです。

****M23がコンゴ東部の主要都市ゴマに侵入****
27日、反政府武装勢力M23は、東部の主要都市ゴマに侵入した。M23やそれと共闘する「コンゴ川同盟」(AFC)はゴマを制圧したと発表したが、27日時点で事態は混乱しており、完全に制圧したわけではなさそうだ。
 
これに先立つ26日、国連安保理で緊急会合が開かれ、グテーレス事務総長は、ルワンダ軍にM23への支持を止め、コンゴから撤退するよう要請した。事務総長がルワンダを名指ししたのは、これまでにないことだった。同会合では、米国、英国、フランスも、ルワンダに撤兵を呼びかけた(27日付ルモンド)。

『名前を知らない戦争』の著者スターンズは26日付ファイナンシャルタイムズ紙に論説を寄せ、紛争終結にはルワンダに圧力をかけるしかないと強調した。

M23は2012年にもゴマを制圧したが、この時は国際社会がルワンダに援助停止などの制裁措置をとり、ルワンダが支援を控えたことでM23の崩壊につながった。今回、欧米諸国はルワンダにコンゴから撤兵するよう呼びかけているが、制裁に向けた動きは今のところない。

この時期にM23がゴマを制圧した理由として、世界の関心がトランプ政権誕生に集まっているうえに、トランプ政権が自分たちの行動を承認するのではという期待がルワンダ側にあるとの指摘もある(27日付ルモンド)。

ルワンダ側のメディアは、コンゴ軍が、民兵組織ワザレンドゥ、ヨーロッパ人傭兵、ブルンジ軍、南部アフリカ共同体軍と協働し、かつてない脅威をルワンダに与えていると強調している(27日付New Times)。

1月に入ってから40万人が避難民となり、戦闘で国連平和維持部隊、南部アフリカ共同体軍にも合わせて13名の犠牲者が出ている。紛争は、大湖地域全域を不安定化させつつある。【1月28日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター】
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ウクライナに侵攻したロシアも、ガザを破壊したイスラエルも、相手側の脅威をあげて自国この軍事行動を正統化しています。

トランプ大統領はアメリカの利益にならないアフリカの紛争など関心はないでしょうが、こうした紛争・地域混乱にアメリカとしてどういう姿勢で臨むのかも注目されます。

ついでに言えば、国連・欧米諸国はルワンダの大虐殺を止められなかったことで、ルワンダ・カガメ大統領に“負い目”みたいなものがあります。
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アメリカ  不法移民強制送還で受入国への「脅迫外交」が奏功 長期的には南米の中国傾斜加速も

2025-01-28 22:16:08 | アメリカ

(【1月25日 TBS NEWS DIG】)

【トランプ大統領 不法移民、1日1500人を逮捕するよう指示】
アメリカではトランプ大統領が公約した「米史上最大の不法移民の強制送還作戦」が始まっています。

“連日行われている不法移民の摘発。これまでに2300人以上が逮捕されているといいますが、トランプ氏はその数に不服だそうで、1日1500人を逮捕するよう指示を出したと報じられています。”【1月28日 テレ朝news】

****トランプ大統領の不法移民対策で「教会」「学校」なども摘発対象に…移民多いシカゴで反発広がる****
アメリカのトランプ大統領が不法移民対策で「教会」なども摘発対象と認めていることから、移民の多いイリノイ州シカゴで反発が広がっています。

ICE=移民・関税施行局が重点的に摘発に乗り出すとされるシカゴには、メキシコなどからの不法移民を支援してきたリンカーン・メソジスト教会があります。

トランプ大統領は、これまで摘発対象外とされていた「教会」や「学校」などについても一転、摘発対象にできるとしました。

教会のエマ・ロサーノ牧師は撤回を求めています。
「教会は人々が神を崇拝するために集まる場所です。学校は子供たちが学び、病院は病気になったら行く場所です。特に教会は怖がる場所になってはならないのに、この判断は非常に残念です。この過ちは撤回すべきです。」摘発から不法移民の信者を守るため、ここ4回は「バーチャル」で礼拝に参加できるようにしているといいます。」

ロサーノ牧師はまた、「彼らはアメリカの文化や経済に貢献してきました。いきなり何百万人も強制退去させることは労働力を失うことになり、国力を弱めます」と指摘しました。

こうした中、トランプ大統領は「不法移民が違法薬物を持ち込んでいる」と取り締まり強化の根拠にする一方で、違法薬物の売買などに使われた闇サイト「シルクロード」の創設者で、終身刑を受け、服役していたロス・ウルブリヒト氏に恩赦を与えました。

これについてロサーノ牧師は「私は牧師ですが、事実は事実として言わなければなりません」とした上で、「非常に偽善的です。そういう犯罪者に恩赦を与える一方で、罪を犯していない者を摘発対象にするなんて」と非難しました。(後略)【1月23日 FNNプライムオンライン】
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アメリカ国内では混乱も報告されています。
“(移民に寛容的とされる「聖域都市」のひとつニュージャージー州ニューアークの)ラス・バラカ市長は、ICEの捜査官が令状を提示せず不法滞在者と市民も拘束したと非難した。拘束者の中には、軍の文書の正当性を疑われた退役軍人もいたという。”【1月24日 ロイター】

“不法移民の一斉検挙で、先住民のナバホ族らが誤って拘束される事例が報告されている。先住民は一般的な身分証を持たないケースがあるほか、肌の色など身体的特徴から中南米系と混同されやすい。”【1月28日 時事】

家族離散など懸念される国内の混乱が拡大するのは今後でしょう。長期的には労働力の逼迫、物価上昇への悪影響なども。

それらについては後日別機会に取り上げるとして、今回は強制送還される不法移民の受入国とアメリカの間の問題。

【「見せしめ」として狙い撃ちにされたコロンビア トランプ大統領の「脅迫外交」が奏功】
南米などの受入国側は今回のトランプ大統領の措置に不満を抱えていますが、受入れを拒めば高い関税を課すというトランプ大統領の「脅迫外交」とも言える強い姿勢に従わざるを得ないという状況です。

南米コロンビアも一時は報復関税で対抗する姿勢も見せましたが、結局アメリカ側の要求をのむ形で結着しています。

不満はメキシコやブラジルからも上がっていますが、先ずは“親米路線から(左派政権に)転換したコロンビアを「見せしめ」として狙い撃ちにした。”とも。

****トランプ氏の「脅迫外交」が奏功 コロンビアが最初の「標的」に****
トランプ米大統領は26日、南米コロンビアが軍用機による不法移民の強制送還を拒否したとして、25%の制裁関税を課すと表明した。

約9時間後にコロンビアが送還の無条件受け入れに同意したと発表して撤回したが、トランプ氏は他国にも関税引き上げを武器とした「脅迫外交」で譲歩を迫る構えで、貿易戦争の激化も懸念されている。

「緊急的に断固とした報復措置をとるよう指示した」。トランプ氏は26日、自身のソーシャルメディアへの投稿で、突如としてコロンビアに制裁関税を課すと表明した。米国に不法滞在していたコロンビア人を乗せた米軍機の着陸を拒んだというのが理由だった。

トランプ氏は当面の措置として、コロンビアからの全ての輸入品に25%の緊急関税▽1週間後に関税を50%に引き上げ▽コロンビア政府当局者に対する入国禁止とビザ(査証)取り消し▽コロンビア人や貨物の入国審査・税関手続き強化――を列挙。「こうした措置は始まりに過ぎない」と強硬姿勢を見せた。

ロイター通信によると、コロンビアのペトロ大統領もX(ツイッター)への投稿で、米軍機を使った送還措置について「コロンビアからの移民を犯罪者のように扱うべきではない」と批判。対抗措置として米国製品に25%の輸入関税をかける方針を明かし、「貿易戦争」に発展する構図になりかけた。

しかし、トランプ氏の当初の投稿から約9時間後、ホワイトハウスは声明で「コロンビア政府が軍用機による送還も含め、米国から送還するコロンビア人の不法移民を制限なく受け入れることに同意した」として制裁関税の見送りを表明。

ビザ規制や税関手続きの強化は、航空機によるコロンビア人の強制送還が再開された後に解除するとした。ただし、コロンビアが合意に反した場合、制裁関税の導入も示唆した。

ロイターによると、コロンビアの外相も「米国との難局は克服された」と述べ、コロンビア人の輸送のために大統領専用機を派遣する用意があるとした。

トランプ政権は20日の発足直後に不法移民の大規模な国外追放に着手した。通常使う民間機に加え、米軍機も投入して移送を進めていたが、中南米諸国からは不満も出ていた。

ロイターによると、メキシコも米軍機の着陸を拒否。米国への移民希望者に、亡命申請手続きが終わるまでメキシコにとどまるよう求める政策にも不満を示した。ブラジルも送還された自国民が手錠をかけられるなど「恥ずべき扱いを受けた」と非難していた。

これに対し、トランプ政権は2022年に左派政権が誕生し、親米路線から転換したコロンビアを「見せしめ」として狙い撃ちにした。

貿易戦争は双方に痛みを伴うが、巨大市場を持つ米国への輸出のハードルが上がるのは各国にとって痛手だ。トランプ政権は脅迫が効いたことについて「米国が再び尊敬されるようになったことを世界に明確に示した」と誇った。

トランプ氏は、不法移民や合成麻薬の米国流入を防ぐための対応が不十分として、2月1日にもカナダとメキシコに25%、中国に10%の追加関税を課す構えを見せている。

日本や欧州連合(EU)などに対しては、多額の貿易赤字を批判。対立国、友好国を問わず高関税政策を導入する考えも示しており、各国との摩擦が懸念されている。【1月27日 毎日】
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メキシコ・シェインバウム大統領はメキシコ以外の他国籍の強制送還者の受け入れには同意していないとしていましたが、こちらもトランプ政権に押し切られた形。コロンビアへの「見せしめ」が奏功したようです。

****メキシコ、他国出身の不法移民も受け入れ トランプ氏「脅迫」で一転****
メキシコのシェインバウム大統領は27日、隣国の米国が国外追放する不法移民に関して、メキシコ人以外も受け入れていると明らかにした。ロイター通信が報じた。

外国人の受け入れには難色を示していたが、トランプ米大統領が26日に制裁関税を振りかざしてコロンビアに不法移民対策への協力をのませたことを受けて、発言のトーンを一転させた。

報道によると、シェインバウム氏はトランプ米政権が発足した20日以降、米国から追放された4000人以上を受け入れたと説明。大多数はメキシコ人だが、第三国の出身者も交じっているという。

トランプ政権は南部からの越境を図る不法移民に関して、亡命申請が承認されるまでメキシコにとどまるよう求める政策をとった。従来は亡命申請の手続き中は、米国内で仮放免されることがあった。

トランプ政権による政策変更に対して、シェインバウム氏は「同意していない」と不満を表明。不法移民を移送する米軍機の着陸を拒否したとも報じられていた。

トランプ氏は不法移民や合成麻薬の密輸に関するメキシコの対応に不満を表し、2月1日に25%の制裁関税を導入すると脅している。シェインバウム氏は「移民問題などに関して両国間で協議を続けている」としている。【1月28日 毎日】
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ブラジル外務省は不法移民強制送還時の「屈辱的な扱い」について、アメリカ上級外交官を呼び出し「協議」【1月28日 ロイター】したとも。

****米国防総省、不法移民“強制送還”の映像公開 手錠、腰や足にチェーン…ブラジル政府などが抗議****
アメリカ国防総省は27日、不法移民を強制送還させた際の映像を公開しました。移民とみられる人には手錠がかけられ、腰や足はチェーンでつながれていてブラジル政府などが抗議しています。

アメリカ国防総省は27日、不法移民を強制送還した際の映像を公開しました。移民とみられる人々には手錠がかけられ、腰と足にもチェーンが巻かれています。

こうした移民の扱いについてコロンビアのペトロ大統領は「尊厳を持って帰還させるべきだ」と改善を求めたほか、ロイター通信によりますとブラジル政府も「屈辱的な扱い」についてアメリカ側に説明を求める方針だということです。

ブラジルに到着した移民らは、手錠をかけられた状態で帰国し、飛行機の中では身体的虐待やトイレの使用禁止など不当な扱いを受けたと話しているということです。【1月28日 日テレNEWS】
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【長期的には中南米諸国のアメリカ離れ、中国への傾斜を強めることにも】
これまでのところトランプ大統領の圧倒的「力」を背景にした「脅迫外交」が奏功しています。
アメリカ・ホワイトハウス報道官は「今日の出来事はアメリカが再び尊敬される国であることを世界に示し、トランプ大統領はすべての国が不法移民の強制送還に協力することを期待している」と勝ち誇っています。

ただ、これがアメリカにとって国益となるかは別問題。

中南米諸国はこれまでの歴史的経緯からアメリカの「裏庭」での身勝手な力の行使に強い不満を持っています。また、近年は中国との関係を強化しています。

今回のような「脅迫外交」は中南米諸国を更にアメリカから遠ざけ、中国との関係強化に向かわせることも考えられます。

****【トランプ“強硬”外交が南米の中国寄り転換に】着実に低下する「存在感」、アメリカは鞭でなくニンジンを与えられるか****
米外交問題評議会ラテンアメリカ研究フェローのウィル・フリーマンが、1月3日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘A new Monroe doctrine is unlikely to work for the US in South America’で、「トランプは、『モンロー・ドクトリン』(米国は地政学的な敵対勢力を西半球から締め出すという考え方)を繰り返し述べているが、米国は、中米諸国およびカリブ諸国には影響力を維持しているものの、今や南米の主要諸国にとって最大の貿易相手国、主要投資国は中国であり、米国が強硬策を取れば、一層中国寄りになる可能性がある」と警告している。要旨は次の通り。

トランプは、ラテンアメリカで増大する中国の影響力を後退させたいと考えている。そのためには強硬手段も辞さないだろう。

しかし、圧力をかけて、ラテンアメリカ全体が同じような反応を示すことはない。イデオロギーよりも地理により分断され、北半分は米国との結びつきが強いが、南半分は圧力が強まれば中国に傾く可能性があることに備えておく必要がある。

多くの人は、「米国が中国に対抗するためには、『鞭』ではなく、米国市場へのアクセス拡大やより豊富な開発資金といった『ニンジン』が必要」と考えている。彼らは正しい。

米国の影響力はこの地域に均等に及んでいるわけではない。メキシコ、中米、カリブ海諸国では、米国は依然として強みを有している。例えば、メキシコの輸出の80%は米国向けである。

しかし、南米に目を向ければ、状況は一変する。中国は南米大陸の最大の貿易相手国であり、ラテンアメリカ諸国のうち中国に最も債務を負っている国は5カ国ある。5カ国の内4カ国は南米にあり、中国の直接投資を最も多く受け入れている。南米の指導者たちは、米国に簡単におだてられ、丸め込まれるわけではない。

南米の主要経済国は、米中どちらかの側を選ぶことに抵抗するだろう。圧力が強まっても、彼らが中国から距離を置くとは考えにくい。米国の圧力が裏目に出て、南米がさらに東方に振れれば、太平洋における安全保障、重要な鉱物やレアアースのサプライチェーンなどに影響が及ぶだろう。

米国からの最大援助受け取り国の一つであったコロンビアは、圧力が裏目に出る危険性が最も高い国である。左派ペトロ大統領は、「一帯一路」やBRICS銀行へコロンビアを参加させると期待されている。任期はあと2年あり、内部制約もほとんどないがゆえに、米国からの強い圧力に反応して、ペトロの中国傾斜がさらに進み、米国は最も近い地域の同盟国を失う可能性がある。

トランプと共和党の指導者たちは、「モンロー・ドクトリン」(米国は地政学的な敵対勢力を西半球から締め出すという考え方)について繰り返し語ってきた。しかし中国は、「ドクトリン」の最後のターゲットであったソ連とは違う。特に、南米における中国の存在感は、ソ連よりもはるかに大きい。

中国は別の意味でもソ連とは異なる。中国は戦略的優位性に焦点を当て、体制にとらわれず、誰とでも喜んで協力する。「彼らは何も要求しない」とアルゼンチンのミレイ大統領は中国について、好意的に語っている。

ラテンアメリカにとって最も深刻なリスクは、米国が対中競争に勝利するために見当違いの努力をして、中国と同じ態度をとることである。つまり中国に熱烈に対抗し、民主主義や「法の支配」はどうでもよくなることである。

トランプは、彼が計画している強硬策がうまくいくかどうか、そしてそれが裏目に出る可能性について心配すべきである。
*   *   *
ラテンアメリカ政策を強化するトランプ
論説が指摘するように、米国は、政治経済両面で「裏庭」と言われた中南米地域に、30年以上の間、十分な時間もエネルギーも注力してこなかった結果、その「存在感」は低下している。

この間、中国は南米諸国(特にブラジル、チリ、アルゼンチン、ペルー、ウルグアイ等の資源・食料輸出国)との関係強化に努め、中国への経済依存度を高めてきた。

また、中国は、政治的スタンスを差別せず、キューバやベネズエラ、ニカラグアのような「権威主義的国家」や人権侵害で国際的に非難されている国とも「絆」を強化してきている。

さらに、2017年以降、パナマ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラスの中米・カリブ海5カ国は、台湾との外交関係を絶ち、中国との国交樹立を選んだ。中国とラテンアメリカ諸国は、「共存の時代」に入っているとも言える。

トランプ大統領は「モンロー主義」に言及し、国務長官にキューバ系のマルコ・ルビオ上院議員を指名する等、ラテンアメリカ政策を強化すると予想されている。実際、ルビオ氏は、左派への潮流(ブラジル、メキシコ、コロンビア等)に対抗するため、保守的な指導者達(アルゼンチン、パラグアイ、エクアドル、エルサルバドル、コスタリカ、ガイアナ等)との連合を提唱している。

その一方で、プーチンや金正恩のような独裁者に対するトランプの「友好的姿勢」は、ワシントンの道徳的権威を損なうかもしれないし、ベネズエラやキューバの独裁者への支援を正当化するための口実を、メキシコのような国々に提供することが懸念される。

さらに、論説が指摘しているように「米国が中国に対抗するためには、『鞭』だけではなくではなく、米国市場へのアクセス拡大やより豊富な開発資金といった『ニンジン』が必要」であるが、何を具体的に提供できるかは、市場経済の米国にとって容易でない課題であろう。

中国は「信頼」されているのか
中南米における中国の今後の影響力に関連して、2点指摘しておきたい。
 第一に、昨年より一層顕著になりつつある中国の経済的困難と社会不安の増大、トランプ就任後の米中貿易争い激化に起因する「外需減少」が及ぼす中国国内経済への影響、大豆やトウモロコシの国内生産増と「輸入減」は、中長期的に中南米諸国における中国の存在感低下につながると思われる。

第二は、日本の外務省が23年11月~12月にかけて、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、メキシコ、ボリビア、ウルグアイ、トリニダードトバゴで実施したアンケート調査(18~65歳、各国300~400人)の結果である。「現在重要なパートナーはどこか」との質問に対し、ウルグアイおよびボリビアでは、中国が米国より重要と答えた人が多かった。他の国においては、米国重視の人が多数であったものの、中国をあげる人も多くいた。

それと比較し、「もっとも信頼できる国はどこか(一つ選ぶ)」との質問に対しては、全ての国で米国が圧倒的に一番であり、中国は10%台ないし一桁台であった。中国は多くの国において経済的存在感は増したが、国としての「信頼」を勝ち得ていないことは明白である。【1月28日 WEDGE】
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【トランプ大統領の「アメリカ第一主義」は米外交基本のモンロー主義への回帰】
モンロー主義は「アメリカはヨーロッパ諸国に干渉しないが、同時にアメリカ大陸全域に対するヨーロッパ諸国の干渉にも反対する」という思想で、アメリカ外交の基本路線であった孤立主義を示すものですが、アメリカ勢力圏のアメリカ大陸においてはアメリカの意に沿わない国々への武力行使も是認する「棍棒主義」の側面も。

長らくアメリカは1823年のモンロー大統領以来の「モンロー主義」を基本としていましたが、第一次大戦後の国際連盟、第二大戦後の国際連合設立、その後の「世界の警察官」といった形で「モンロー主義」から決別することに。

しかし今はトランプ大統領の「アメリカ第一主義」・・・トランプ大統領の異質性をのぞけば、伝統的「モンロー主義」への回帰とも理解できます。

なお中国は、“中国は27日、トランプ米大統領が米国からの移民送還に非協力的な国に関税や制裁を科すと警告したことを受け、中国の国籍を持つと確認された者について米国からの送還に応じる意向を示した。”【1月28日 ロイター】と、今はトランプ大統領との無用の争いは避ける構えです。
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ドイツ  負の遺産にどう向き合うか 極右AfD政治集会でマスク氏「独は過去の罪悪感にとらわれすぎ」

2025-01-27 22:34:08 | 欧州情勢

(解放から80年 アウシュビッツ強制収容所の囚人たちが銃によって処刑された、「死の壁」と呼ばれる場所で花をたむける追悼の催し【1月27日 NHK】)

【アウシュビッツ強制収容所解放から80年 進む生存者の高齢化 記憶をどう受け継ぐか】
今日1月27日は、80年前の1945年1月27日、旧ソビエト軍によってアウシュビッツ強制収容所は解放された日です。

ユダヤ人に対するナチス・ドイツの戦争犯罪ホロコーストが行われた場所として有名ですが、収容所そのものはポーランド領内に位置しています。

*****アウシュビッツ強制収容所とは*****
ホロコーストで中核的な役割
アウシュビッツ強制収容所はナチス・ドイツが、ポーランド南部に建設した最大規模の強制収容所です。収容所は3つの主要な施設で構成され、最初のものは1940年に建設されました。

ガス室を備えた「絶滅収容所」とも呼ばれ、ヨーロッパのユダヤ人の絶滅を目指したホロコーストの中核的な役割を担いました。

強制収容所にはヨーロッパ各地のユダヤ人が連行され、高齢者や病人、子連れの女性は到着してまもなくガス室で殺害されました。

ナチス・ドイツは、収容したユダヤ人にガス室で殺害された遺体から金歯などを取り除く作業や焼却処理も強制しました。

収容所の入り口にはドイツ語で「働けば自由になる」と書かれた看板が掲げられましたが、働けるとみなされた人は工場の建設などの強制労働に従事させられ、満足な食事もなく日常的に虐待を受け尊厳を奪われていきました。

犠牲者 約110万人 “死の行進”の犠牲も
アウシュビッツでの犠牲者はおよそ110万人に上り、そのうちおよそ100万人がユダヤ人です。

またナチス・ドイツは1945年の1月、旧ソビエト軍の進軍を受け、多くのユダヤ人をほかの収容所へ移動させます。移送の列車に乗るため数十キロ離れた街へは徒歩で移動させられ、真冬の行進から脱落した人はその場で銃殺されたことなどから「死の行進」と呼ばれています。

その後、1945年1月27日、旧ソビエト軍によってアウシュビッツ強制収容所は解放されました。当時、強制収容所にはおよそ7000人がいて、多くの人が衰弱してひん死の状態だったということです。

アウシュビッツ強制収容所は第2次世界大戦後は博物館となり、世界各地から大勢の人が見学に訪れています。博物館によりますと去年は183万人が訪れました。【1月27日 NHK】
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現地では欧州各国首脳も参加して記念式典が行われましたが、生き延びた人たちの高齢化が進んでいて、当時の記憶をどう受け継いでいくかが課題となっています。

****アウシュビッツ強制収容所 解放から80年 記憶の継承が課題*****
第2次世界大戦中、ナチス・ドイツがユダヤ人を中心におよそ110万人を虐殺したアウシュビッツ強制収容所が解放されてから27日で80年となりました。生き延びた人たちの高齢化が一段と進んでいて、当時の記憶をどう受け継いでいくかが課題となっています。(中略)

27日は、強制収容所の跡地で追悼式典が開かれる予定で、生き延びた人やその家族のほかドイツのシュタインマイヤー大統領、フランスのマクロン大統領、それにイギリスのチャールズ国王などおよそ50か国の代表が出席する予定です。

これに先立って、日本時間の27日午後5時すぎからは強制収容所の囚人たちが銃によって処刑された、「死の壁」と呼ばれる場所で花をたむける追悼の催しも行われました。

第2次世界大戦の終結からことしで80年となり、アウシュビッツ強制収容所などでのホロコーストを生き延びた人の平均年齢は、86歳と高齢化が一段と進んでいます。

強制収容所の跡地を管理する博物館は、今回の式典が生き延びた人たちが参加する最後の式典になりかねないとの見方も示していて、記憶をどう受け継いでいくかが課題となっています。

アウシュビッツ強制収容所の跡地には、ベルリン支局長・田中顕一記者がいます。田中さん、解放からきょうで80年。現地を取材して感じたことは?

(中略)アウシュビッツは、差別や暴力が行きつく最も残虐な結末を今に伝える負の遺産です。

いま、アウシュビッツから生き延びた人たちは、ヨーロッパで排他的な主張を掲げる極右や右派政党がより過激化すれば、特定の人種や宗教への差別につながりかねないと不安を感じています。

生存者の1人は「忘れさせないために語り続ける必要がある。不正義や差別を目撃したら沈黙してはいけない」と訴えていました。

他者への寛容さ、そして、対立を対話で乗り越える重要性を忘れてはならないと感じます。

ゼレンスキー大統領「決して繰り返してはならない」
アウシュビッツ強制収容所が解放されてから80年となるのにあわせて、自身もユダヤ系であるウクライナのゼレンスキー大統領は27日、SNSにメッセージを投稿しました。

このなかでゼレンスキー大統領は「ホロコーストの犯罪は決して繰り返してはならないが悲しいことに、その記憶は徐々に薄れつつある。民族全体を破壊しようとする悪は、今もなお世界に存在する」と述べ、ロシアの侵攻を受けるウクライナの状況を念頭に、罪のない人々が犠牲になった歴史は過去のものではないと強調しました。

そのうえで「われわれは命を守るために戦わなくてはならず、無関心が悪の温床であることを忘れてはならない。われわれは、残虐な行為と殺人につながる憎しみを克服しなければならない。悪が勝利するのを防ぐために力を尽くすことは、すべての人々の使命だ」と訴えました。

ウクライナでは1941年、ナチス・ドイツの占領下にあった当時、首都キーウで女性や子どもを含むおよそ3万人のユダヤ人が殺害され、ゼレンスキー大統領は26日、キーウで開かれた追悼の式典に出席し、記念碑に、火をともしたろうそくをささげて、犠牲者を悼みました。【同上】
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【マスク氏「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎ」】
日本でも同じですが、自国の負の遺産に関しては、当時の記憶を受け継いで行こうという動きの一方で、そこから目をそむけたいという思い、「いつまで、そんなことを。もう昔の話」とか「過去に引きずられることなく“普通の国”になろう」といった声も出てきます。

欧米全体に広がる右傾化のながれにも乗って、2月23日に総選挙を控えたドイツでも極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持率で20%と2番手につけています。

極右政党AfD自体がナチス・ドイツの負の遺産に関しては距離を置く立場ですが、そこに更に「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎ」とのメッセージを送ったのが、このところAfDを強く支持し、また、イギリスなどでも物議を醸しているイーロン・マスク氏。

マスク氏はイギリスでは反移民を掲げる新興右派政党「リフォームUK」を支持し、スターマー首相を「犯罪の加担者」と激しく批難しています。

そしてドイツでは「ドイツを救えるのはAfDだけだ」と支援し、シュルツ首相を「無能なバカ」とも呼んでいます。

****マスク氏「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎ」と発言。極右政党AfDの集会で支持者を称賛****
ナチス式敬礼そっくりのポーズが物議を醸したイーロン・マスク氏が1月25日、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の政治集会で「ドイツは過去の罪悪感にとらわれすぎだ」と発言した。

ドイツ東部の都市ハレで開かれた集会にオンラインで参加したマスク氏は、集まったAfD支持者に「あなた方はドイツの一番の希望だ。ドイツやドイツ人であることに誇りを持つことが重要だ」と語りかけた。

マスク氏は、「ドイツ文化やドイツの価値観を誇りに思うこと、そして、全てを薄めてしまう多文化主義の中でそれら(の誇り)を失わないことが大切だ」とも発言した。

また、「ドイツの人々は何千年も続く古代からの文化を持っている」と称賛した上で、「過去の罪悪感にとらわれなくていい」という考えを示した。

「率直に言って、ドイツは過去の罪悪感にあまりにもとらわれすぎていると思います。乗り越える必要があります。子どもたちは親、ましてや曽祖父母の罪に罪悪感を抱くべきではありません」

マスク氏は、「過去の罪悪感」が何かについては具体的には触れなかったものの、ドイツが戦後一貫して取り組み続けてきた、ナチスドイツ政権によるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」を指していると見られる。

マスク氏は1月20日に、ワシントンD.C.で開かれたトランプ米大統領の就任イベントで「ナチス式敬礼」とそっくりのポーズをとり、物議を醸した。

敬礼は大きな批判を招いたものの、マスク氏は「ありとあらゆる人を『ヒトラーだ』とする攻撃は、本当に飽き飽きする。もっとマシな卑劣な手段を考えた方がいい」とXで反論した。

ドイツでは2月23日に総選挙が行われる。移民排斥やEU離脱などの政策を掲げ、気候変動は人間の行動によるものという考えに懐疑的なAfDは現在、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)に次ぐ2番目に高い支持率を得ている。

マスク氏はAfDを積極的に支持しており、12月には「AfDだけがドイツを救える」とXに投稿している。1月25日の集会でも「AfDに投票することが大事だ」と発言した。

一方、AFPによると、25日にはドイツ各地でAfDに反対する抗議活動が行われた。【1月27日 HUFFPOST】
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【マスク氏のナチス式敬礼そっくりのポーズに狂喜する極右】
ナチス式敬礼そっくりのポーズ(右手で左胸をたたいた後、真っすぐ突き出すジェスチャーを2回)については、マスク氏がどういう意図だったのか冷静に判断する必要もあるでしょう。ただ、アメリカの極右・白人至上主義者などは極右思想への支持表明として受けいれられているとのこと。

****極右、マスク氏敬礼に「狂喜乱舞」****
(中略)
憎悪と過激主義に対抗する団体「Global Project Against Hate and Extremism」の共同創設者、ハイディ・ベイリッヒ氏は、「白人至上主義者は、マスク氏がナチス式敬礼をしたと確信している」と指摘。

極右は「狂喜乱舞」し、「マスク氏が腕を上げたのは、極右思想への支持表明だと大半が思い込んでいる」と続けた。
バージニア大学で修辞学と過激主義を研究しているT・ケニー・ファウンテン氏はブルースカイへの投稿で、マスク氏の「意図も重要だが、受け止められ方も重要だ」と指摘。

「熱心な聴衆がこのジェスチャーを意味のある承認と解釈するなら、われわれは危険な領域にいる」「当然ながら、極右の多くはそのように解釈しているようだ」と続けた。

SNSのGabの創設者、アンドリュー・トーバ氏はマスク氏の写真を投稿し、「すでに信じられないことが起きている」と書き込んでいる。

ネオナチ団体「ブラッド・トライブ」のリーダー、クリストファー・ポールハウス氏はテレグラムで、ジェスチャーをしているマスク氏と、かぎ十字(ハーケンクロイツ)の旗を掲げてナチス式敬礼をしている覆面をかぶった同団体のメンバーを並べた動画を共有した。

これに対してフォロワーは、ナチス親衛隊の隊章を想起させる稲妻の絵文字を相次いで投稿した。

マスク氏が所有するX(旧ツイッター)では、ヒトラーの演説を最上部に固定表示している匿名のアカウントが、マスク氏のジェスチャーとヒトラーの動画を比較する別のマッシュアップ動画を投稿。「ジーク・ハイル?? つまり、われらの時代が再び?」とのコメントが添えられていた。この投稿の閲覧数は22日時点で既に400万回を超えている。 【1月22日 AFP】
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【「ドイツのための選択肢(AfD) ナチスのユダヤ人追放を想起させる選挙ビラ配布】
一方、「ドイツのための選択肢(AfD)」については、ナチスのユダヤ人追放を想起させる選挙ビラ配布も。

****ナチスのユダヤ人追放を想起させる選挙ビラ、ドイツ右派政党AfDが配布か…市長「一線越えた」****
2月に総選挙を控えるドイツで、急進右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、南西部カールスルーエの移民系世帯に「国外追放チケット」と称した選挙ビラを配布した疑いが浮上し、物議を醸している。

第2次世界大戦中のナチスによるユダヤ人国外追放を想起させるもので、警察が扇動の容疑で捜査を始めた。

公共放送ARDなどによると、ビラは航空券を模したもので、搭乗者名に「移民」、発着地に「ドイツ発、安全な出身国着」と書かれていた。AfDカールスルーエ支部のQRコードも載っていた。移民排斥を掲げるAfDはシリアのアサド政権崩壊後、シリア難民の強制送還を訴えている。

同地区選出のAfD議員はビラ配布を認めた。移民系だけではなく幅広い層を対象に自宅に投函とうかんしたと説明している。カールスルーエ市長は「恐怖を引き起こすもので、一線を越えている」とAfDの選挙活動を批判した。【1月15日 読売】
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移民による無差別殺傷事件が相次いでいるなかで、移民排斥を掲げるAfDがどこまで票をのばすのか注目されています。
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トランプ大統領  ガザ住民をヨルダン・エジプトに「一掃」する「ガザ再建案」

2025-01-26 21:48:57 | パレスチナ

(破壊された街並み=パレスチナ自治区ガザ地区北部ジャバリアで2025年1月21日、ロイター)

【イスラエル 60日の停戦期限も、レバノン南部から軍撤退せず】
昨日に続き中東情勢で「またか」と言われそうですが、昨日ブログで取り上げたレバノンについては、やはりイスラエル軍はレバノン側の停戦合意履行が不十分として期限までには撤退しないようです。

****イスラエルとヒズボラ60日の停戦期限も軍撤退せず…レバノン南部に帰還の住民3人死亡****
イスラム教シーア派組織「ヒズボラ」との間で停戦合意したイスラエルが撤収の期限を過ぎてもレバノン南部に軍を駐留させ、住民を攻撃しています。

レバノン保健省は26日、南部の地域に戻ろうとした住民がイスラエル軍の攻撃を受け、これまでに3人が死亡し、44人がけがをしたと明らかにしました。

イスラエル軍の報道官は、レバノン南部の住民に対して「通知があるまでは自宅に戻ることを禁止する」と警告しています。

去年11月から始まったイスラエルとヒズボラの60日間の停戦を巡っては、1月26日までに双方がレバノン南部から撤退し、代わりにレバノン軍が監視にあたることになっていました。

イスラエルはレバノン政府が合意の内容を実行していないと主張し、交渉を仲介するアメリカに30日間の猶予期間を設けるよう求めていました。【1月26日 テレ朝news】
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【イスラエル支持を鮮明にするトランプ大統領 2000ポンド爆弾のイスラエル供与停止を解除】
30日間の猶予期間を要請されたトランプ大統領がどのように答えたのかは知りませんが、かねてより、また1期目でもイスラエル支持の立場のトランプ大統領は、2期目でもイスラエル支持を鮮明にしています。

****トランプ政権 イスラエルへの大型爆弾供与停止措置を解除 米メディア報道、バイデン政権から方針転換*****
アメリカのトランプ政権がイスラエルに対する大型の爆弾の供与停止措置を解除したと報じられました。バイデン政権からの方針転換です。

アメリカのニュースサイト「アクシオス」は25日、トランプ政権がイスラエルに対する大型で威力の強い「2000ポンド爆弾」の供与停止措置を解除したと伝えました。

この爆弾は前のバイデン政権が去年5月、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ南部・ラファへの侵攻に反対姿勢を示すため、供与を停止していましたが、イスラエル寄りのトランプ政権の誕生で方針転換となります。

「アクシオス」はアメリカで保管されている「2000ポンド爆弾」1800発が近く、イスラエルに船で運ばれる予定だと伝えています。【1月26日 TBS NEWS DIG】
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イスラエル軍はこれまでもガザ地区の病院周辺で2000ポンド(約900kg)爆弾を使用していると報じられています。「直接病院を攻撃したわけではない」という弁解のためでしょうか。

****ガザ攻撃のイスラエル軍、ほぼ全病院の至近距離に2000ポンド爆弾投下 米研究****
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区で戦争を始めてからの数週間で、強い破壊力をもつ2000ポンド(約900キロ)爆弾をほぼ全病院の至近距離に投下していたという検証結果が9日、査読付きの学術誌に発表された。

米ハーバード大学などの研究チームが爆発の衝撃でできたクレーターを分析した結果、2023年10月7日から11月17日にかけ、イスラエル軍がガザにある全病院の25%で「殺傷範囲」に2000ポンド爆弾を配備していたことが分かった。

さらに、ガザの36病院のうち83%にあたる30病院では、施設の損壊やけが人が発生する範囲内で、爆弾クレーターが見つかった。

検証結果は学術誌プロス・グローバル・パブリック・ヘルスに発表された。イスラエル軍は今もガザ北部の三つの病院に避難命令を出し、軍事作戦を再開している。ガザ保健省は全ての医療機関の保護を訴えている。

論文を発表したハーバード大学のデータアナリスト、デニス・クニチョフ氏は、病院の至近距離で2000ポンド爆弾が使用されたことについて「米国の供与したツールを使った明らかな国際人道法違反」と指摘した。

同氏は2000ポンド爆弾について、「地面に着弾すると、約1000ポンド(約450キロ)の破片をとてつもないスピードで放つ」「その威力と破片で数百メートル離れた人々を殺し、コンクリートを破壊できる」と話している。

これに対してイスラエル国防軍は、「前例のない努力を行って軍事施設や目標、工作員を正確に攻撃している」と述べ、国際法に従って「民間施設や民間人は標的としていない」と強調した。【2024年10月10日 CNN】
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今後の使い道としては、後述のようにガザ地区から住民を退去させ、残ったハマス戦闘員と推定去れる者を一網打尽にするため、あるいは、地下のトンネルや軍事利用可能な施設を破壊するため・・・・でしょうか。

【多大な時間を要するガザ復興】
ガザ地区はまだ瓦礫の中からの遺体捜索が行われている状況ですが、ほぼ全ての住民の住宅が破壊されたという状態で、今後の復興が大きな難題となっています。

****ガザ230万人のほぼ全員が家を失った 21歳女性「何もかも足りない。教育を受けることだけが支え」****
爆弾の雨が降り、パレスチナ自治区ガザの街並みは荒廃した。シェイマ・アブアラッタさん(21)にとって、15カ月続いた攻撃のトラウマを乗り越える唯一の手段は、「教育を受ける」ことだった。

コンピューターサイエンスとコンピューターエンジニアリングを学ぶアブアラッタさんは、得た知識をガザの復興に役立てたいと考えている。基本的なライフラインさえ途絶えたガザで、人々はあらゆるものが不足する中で生活している。

「私はこの国に、自分が今いる場所に留まりたい。親族や愛する人と一緒にいたい」とアブアラッタさんは言う。
綱渡りのような停戦が実現した今、パレスチナの人々は恐る恐る復興を見据え始めた。230万人の住民全体が家を失い、複数回にわたり避難を強いられただけに、一筋縄ではいかない大仕事だ。

ガザ侵攻の間、アブアラッタさんにとって唯一自分でコントロールできたのは勉強を続けることだった。攻撃開始後の最初の3カ月は何もできず、ようやくノートパソコンを開いたとき、感極まって涙がこぼれた。

北部への空爆から逃れ、ガザ中心部で電話インタビューに応じたアブアラッタさんは、「何かを達成できる機会があるというのは、これほどにも恵まれたことなのか、と感じた」と話す。

イスラエル軍の作戦でガザの大半が瓦礫の山となり、ガザ医療当局によれば、少なくとも4万7000人が命を落とした。ガザ医療当局は、がれきの下にはまだ多くの遺体が埋まっている可能性が高いとしている。

停戦合意では、ハマスに拘束されたイスラエル人と外国人98人のうち33人を解放することが決まっている。また、イスラエルは毎日600台のトラックによる支援物資の搬入を6週間許可するという。
アブアラッタさんは「国境を制限なしに開放する必要がある。何もかもが足りない」と言う。

彼女にとって懸案の1つは「電気の確保」だ。毎日テントから充電拠点まで歩き、ネットに接続する。戦火が止めば、この地域にも太陽光発電パネルが増えることを期待している。

「がれきを片付け、その上にテントを張らなければならない」と彼女は言う。「テント生活から始め、ゆっくりと発展させていく」。だが、口で言うほど簡単ではない。

<「想像を絶する」規模の人道危機>
慈善団体「セーブ・ザ・チルドレン」のアレクサンドラ・サイエ氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し、人道上の危機は、「およそ想像を絶する」と語った。「複数の差し迫った危機が進行していて、それぞれがお互いに深く絡み合っている」

セーブ・ザ・チルドレンは、子どものための食料と水、医薬品を送ることが優先だとする。
「飢餓の影が忍び寄る中で、空腹と病気に直面している子どもたちを一刻も早く救わなくてはいけない」とサイエ氏は言う。

国連では、4200万トンに及ぶガザのがれきを撤去するには、10年以上の時間と12億ドル(1872億円)の費用がかかるだろうと述べている。

また、支援団体「アクション・アゲインスト・ハンガー」の運営トップを務めるビンセント・ステーリ氏は、淡水化プラントを動かすための燃料も不可欠だと指摘する。上水道網を修復するには金属製パイプなどの物資が必要になるが、イスラエルは今のところ、こうした品目のガザ搬入を禁止している。

「がれきの撤去を10-15年も待っていられない」とステーリ氏は言う。「復興を始め、重要な施設の復旧に着手する必要がある」

アブアラッタさんも同意する。彼女はガザを本拠とする大学がオンライン講義を中断したため、学費無料の「ユニバーシティ・オブ・ピープル(UoPeople)」でコンピューターサイエンスを学び始めた。来年には卒業できると考えている。

UoPeopleのシャイ・レシェフ総長はトムソン・ロイター財団に対し、ガザの学生への奨学金支給のために30万ドルを集めたと語った。「さらに募金が集まったとしても、ガザの学生のために、できるだけ多くの資金を集めたい」と総長は言う。

しかし、学校や大学が再建されるのを待っていては、学生たちの教育には間に合わない。
「今の子どもたち、学生たちはどうする。オンラインで教えるしかない」【1月26日 Newsweek】
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【トランプ大統領 ガザ住民をヨルダン・エジプトへ「一掃」する再建案 新たな「ナクバ」と混乱を生む懸念】
今後のパレスチナ統治については、(イスラエル・トランプ政権意外の)国際的にはパレスチナを国家承認してイスラエルとパレスチナ国家が共存する「二国家共存」「二国家解決」しかないと考えられています。

しかし、トランプ大統領は「全く異なる方法」でのガザ再建(?)を考えているようです。
現在のガザ住民(210万人とも150万人とも)をヨルダンやエジプトに移し、ガザ地区はイスラエル支配下の入植地にするというもののようです。

****トランプ氏、ガザ「一掃」計画提示 周辺国はパレスチナ人受け入れを****
ドナルド・トランプ米大統領は25日、パレスチナ自治区ガザ地区を「一掃する」計画を提案し、中東和平を実現するためにエジプトとヨルダンにガザのパレスチナ人を受け入れるよう呼び掛けた。

トランプ氏は現在のガザを「解体現場」と表現。この問題についてヨルダンのアブドラ国王と話し合ったとし、26日にはエジプトの大統領と協議する予定だと述べた。 

トランプ氏は大統領専用機「エアフォースワン」の機内で記者団に、「エジプトに(ガザの)人々を受け入れてほしい。ヨルダンにも受け入れてほしい」「(ガザには)おそらく150万人ほどがいるが、われわれはそのすべてを一掃する。その場所は何世紀にもわたって多くの紛争を抱えてきた。そして何かが起こらなければならない」と語った。 

ガザの人口240万人の大多数は、2023年10月7日のイスラム組織ハマスの対イスラエル越境攻撃を発端とした戦闘により、繰り返し避難を余儀なくされている。 

トランプ氏は、ガザの住民を移動させることは「一時的かもしれないし、長期的かもしれない」と述べた。 

その上で、「そこは今、文字通り解体現場だ。ほとんどすべてが破壊され、人々がそこで死んでいる」「だから、いくつかのアラブ諸国と協力して、彼らが平和に暮らせるかもしれない別の場所に住宅を建てる方がいい」と語った。 

イスラエルの報復攻撃により、ガザの大部分は廃虚と化した。インフラが破壊され、国連(UN)は、再建に何年もかかるとみている。【1月26日 AFP】 AFPBB News
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不動産業者的な再開発の発想でしょうか。 確かに、現地で再建するより「効率」はいいかも。
 
しかし、ずいぶんとイスラエル・アメリカに都合のいいような「再建」のようにも思えます。

ヨルダン・エジプトには「力」と「カネ」でガザ住民受入れ要求をのませるのでしょうか。
ガザ住民は? 自分たちが破壊しておいて、「平和に暮らせるかもしれない別の場所に住宅を建てる方がいい」と言われても・・・

そもそも現在のパレスチナの混乱は、1948年のイスラエル建国時にパレスチナ住民75万人を故郷から追い払ったことから起きています。パレスチナ側ではこれを「ナクバ(大惨事・大破局)」と呼んでいます。

あらたなヨルダン・エジプトへの強制移住はその「ナクバ」の拡大版再現であり、さらなる混乱を惹起するようにも思えるのですが。

似たような発想は以前からイスラエルにもあります。

****イスラエル、ガザ住民をシナイ半島に強制移住 文書流出****
イスラエルの情報省がパレスチナ自治区ガザの住民をエジプトのシナイ半島に強制的に移住させる計画案を作成していたことが判明し、物議を醸している。1948年のイスラエル建国と第1次中東戦争によってパレスチナ難民が生まれたことを想起させるためだ。

ガザには200万人以上のパレスチナ人が居住している。移住案はパレスチナ人やアラブ諸国の強い反発を呼ぶ可能性がある。(後略)【2023年10月31日 日経】
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なお、トランプ大統領は大統領令で、イスラエル占領下のヨルダン川西岸でのパレスチナ人に対する暴力に関与したユダヤ人至上主義者入植者やシオニスト団体に対する制裁を停止しました。
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レバノン  「薄氷の停戦」 イスラエル軍の南部からの撤退延期発表で更に不透明に

2025-01-25 23:15:53 | 中東情勢

(24日、イスラエル軍の攻撃を受けてレバノン南部で上がる煙(AFP時事)【1月25日 時事】)

【ヒズボラの弱体化、国内の圧力で「薄氷の停戦」】
19日に発効したパレスチナ・ガザ地区のイスラエル・ハマス停戦は2回目の人質・捕虜交換が行われ、解放人質が民間人ではなく女性兵士だったという問題はあるものの、今のところ停戦が維持されています。

一方、一足先の昨年11月27日に発効したレバノンのヒズボラとイスラエルの停戦合意は、イスラエル軍は60日以内にレバノン南部から撤収する。南部には代わってレバノン軍が展開するという内容でした。

一昨年10月以来の、特に昨年9月のイスラエル軍のレバノン南部への地上侵攻以来の戦闘によって指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害されるなどヒズボラは大きな打撃を受け、レバノン国軍より強力と言われる軍事力だけでなく、主要政党としての政治における影響力も低下しました。

“ある情報提供者は、ヒズボラが最大4000人の犠牲を被った可能性があると述べた。2006年に1カ月にわたってイスラエルと戦ったときの死亡者数の10倍を軽く上回る。レバノン当局は今のところ、今回の衝突での犠牲者を約3800人としており、戦闘員と市民の内訳は明らかにしてない。”【11月30日 ロイター】

大きな被害を受けたレバノン国内にはヒズボラに対する批判・不満も強まり、ヒズボラが停戦に応じたのはそうした世論があってのこととされています。

ただ、ヒズボラは「抵抗を続ける」としており、南部にイスラエル軍に代わって展開するレバノン軍の能力不足もあって、停戦合意は極めて不安定とも見られています。

****「パレスチナの代償払わされた」 レバノン停戦、住民には怒りも****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエル軍の停戦発効を受け、レバノン南部では27日、帰還する住民たちの車列ができた。だが、停戦合意違反があれば再びイスラエル軍が攻撃する恐れもあるだけに、住民からは双方に対して合意の順守を求める切実な声が上がった。(中略)

昨年(2023年)10月に始まった一連の戦闘では、レバノンで民間人ら3800人以上が死亡し、100万人以上の住民が自宅を追われた。首都ベイルートやレバノン北部など、地上戦の舞台から離れた場所でも激しい空爆が相次ぎ、多くのインフラや建物が破壊された。

ロイター通信のまとめでは、一連の戦闘で9万9000戸以上の住宅が損壊し、被害額は推定28億ドル(約4200億円)に上る。農業などの産業も打撃を受け、2024年の実質GDP(国内総生産)は戦闘により前年比5・7%減のマイナス成長と予想されている。

レバノンは今回の戦闘が始まる前から政治や経済の混乱が続き、通貨価値の暴落や物価高に苦しんでいた。国際社会の支援がなければ復興が滞り、国内の混乱が深まる可能性もある。

それだけに、住民には怒りの声も渦巻いている。ベイルートから郊外に避難したタクシー運転手、ナメル・タラブルシさん(50)はレバノンの戦闘のきっかけがパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘だったことに触れ、「レバノンが戦争に巻き込まれたことに怒りを感じる。パレスチナ解放のコストとしてレバノンが破壊され、多くの人が死に、避難民になった」と嘆いた。

南部出身の自営業、アフメド・アザムさん(45)も「生計手段や家や家族を失ったのに、イスラエルもレバノンもヒズボラも責任を取らない。我々は政治のために犠牲になった」と怒りをぶちまけた。【2024年11月27日 毎日】
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****レバノン、薄氷の停戦 ヒズボラは国内の圧力に配慮 レバノン軍の任務遂行能力に疑問符****
レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエルとの停戦に合意した背景には、攻撃で大きな損害を被った国内世論の圧力があったもようだ。

ヒズボラ自体も指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害され、多数の軍事施設も破壊された。当面は停戦に応じて態勢を立て直すのが得策だと判断したとみられる。

イスラエル軍は北部から避難している6万人の住民を帰還させるとし、9月以降はレバノン南部への地上侵攻を含めて攻撃を強化した。ヒズボラの支配地域である首都ベイルート南郊のダヒエなどで地下施設も狙える特殊貫通弾(バンカーバスター)も投入して爆撃し、民間人にも多数の犠牲者が出たとされる。

南部を中心にイスラエル軍による避難勧告も相次ぎ、国民生活が寸断された。「レバノンではヒズボラ支持者であっても停戦を求める声が出ている」(英BBC放送)という。民兵組織のほか有力政党も併せ持つヒズボラとしては、レバノンの政界や世論の支持は欠かせない。

当面は後ろ盾であるイランと連携しつつ軍事力の回復を目指す方針とみられ、いずれイスラエルと衝突する可能性は否定できない。

イスラエル軍の撤収に伴い、レバノン南部に展開して停戦監視に当たるレバノン軍の能力にも疑問符が付く。
2006年のイスラエル軍によるレバノン攻撃後に採択された国連安全保障理事会決議1701でも、レバノン軍は同様の任務を担ったが、ヒズボラはイスラエルとの国境に近い南部に浸透して勢力を広げた。

当時と同じ経過をたどらない保証はなく、ヒズボラがレバノン軍と衝突すると懸念する声もある。

停戦合意はイスラエルでも批判を浴びた。同国の有力紙ハーレツ(電子版)によると、ヒズボラの攻撃に悩まされた北部の行政当局者らが「ヒズボラに軍備再増強の機会を与えた」「住民を(帰還させるどころか)遠ざけるだけだ」などと不満を漏らしている。【2024年11月27日 産経】
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【2年ぶりに大統領就任】
ヒズボラの政治への影響力低下もあって、2022年10月から空席になっていた大統領も、今年1月ようやく選任されました。

****レバノン新大統領に軍司令官、米などが支援 ヒズボラ影響力低下****
レバノン国民議会は9日、レバノン軍のジョセフ・アウン司令官(60)を大統領に選出した。米国などが支援する司令官が大統領に就くことで、レバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラの影響力の低下が示された。

アウン氏は2017年に米国が支援するレバノン軍の司令官に就任。米国はレバノンの国家機関を支援することでヒズボラの影響力を抑制する政策を取ってきたが、アウン氏の下でレバノン軍に米国からの支援が行き渡っていた。

アウン氏は大統領選出後に初めて議会で行った演説で、国家のみが排他的に兵器を保有することに尽力すると表明した。

多数の宗教や宗派が混在するレバノンでは権力が分担されており、大統領はキリスト教マロン派から選出される。前大統領の任期が2022年10月に終了して以降、諸派閥の分断を背景に議会で十分な票を獲得できる候補者で合意できず、大統領職は空席になっていた。

レバノン関係筋によると、ヒズボラが支持する候補者が立候補を取り下げ、アウン氏への支持を表明したことで、8日になってアウン氏への支持が高まった。フランスとサウジアラビアの特使がベイルートを頻繁に訪問し、アウン氏の選出を働きかけていたという。

また、サウジアラビア関係筋によると、フランス、サウジ、米国の特使がヒズボラと近い関係にあるレバノン国民議会のベリ議長に対し、サウジなどからの財政支援はアウン氏の大統領選出にかかっていると伝えていた。

アウン氏の大統領選出は、イランとヒズボラが長年にわたり影響力を持っていたレバノンで、サウジの影響力が再び高まったことを示しているとの見方も出ている。

昨年11月に米仏の仲介で合意されたヒズボラとイスラエルの停戦の条件には、双方の部隊撤退に伴いレバノン軍が南レバノンに展開することが含まれている。アウン氏はこの停戦合意を強化に重要な役割を担っていくとみられる。【1月10日 ロイター】
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【イスラエル 「合意履行が不十分」レバノン南部からの撤退を延期 今後の情勢は?】
ようやく復興への足がかりが築けた・・・と言いたいところですが、もとより“薄氷の停戦合意”。60日間のイスラエル軍の撤退期限を前に暗雲が漂っています。

****イスラエル、ヒズボラがイランの支援で「再武装」と国連で批判****
イスラエルのダノン国連大使は13日の国連安全保障理事会で、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラが「イランの支援を受けて力を取り戻し、再武装しようとしている」とし、イスラエルと中東地域の安定にとっての「深刻な脅威」であり続けていると批判した。15カ国で構成する安保理向けの文書で指摘した。

ロイターが報じた昨年12月の米情報によると、イランに支援されたヒズボラは軍備と兵力を再構築しようとしている可能性が高く、米国および地域の同盟国にとって長期的な脅威をもたらすと警告していた。

イスラエルとヒズボラは1年を超える戦闘を経て、昨年11月27日から60日間の停戦に合意した。停戦の条件ではイスラエルとヒズボラによる軍の撤退に合わせ、レバノン軍がレバノン南部に展開することが求められている。

だが、イスラエル、ヒズボラは互いに相手がこの協定に違反していると非難している。

ダノン氏は、レバノン政府と国際社会が「シリアとレバノンの国境や空路、海路を通じた武器、弾薬、資金援助の密輸の抑制」に力を入れることが「不可欠だ」と強調。停戦協定が結ばれてから「ヒズボラに武器や資金を送ろうとする試みが何度かあった」とも指摘した。

ヒズボラと、イランの国連代表部にダノン氏の言及についてコメントを求めたが、すぐには回答がななかった。ヒズボラに近いレバノンの高官筋は疑惑について否定した。【1月14日 ロイター】
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停戦合意では60日の間にレバノン南部からイスラエル軍が徐々に撤退する一方で、ヒズボラが拠点を置くことも認められずレバノン軍に明け渡すのが条件となっていました。

昨年11月の停戦合意にはアメリカ・バイデン政権も関与しています。

****レバノン停戦、監視に米の関与強化 ヒズボラ再台頭阻止へ国軍育成狙う****
バイデン米大統領は(11月)26日、米国が主導したイスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの停戦合意について、「恒久的な敵意停止に向けて設計されたものだ」と説明し、ヒズボラなどの武装勢力がイスラエルの安全を脅かすことがないよう厳しく情勢を監視する考えを示した。停戦監視のために米軍部隊を現地へ派遣する考えはないとも強調した。

停戦合意は、戦闘行為の停止や60日以内にイスラエル軍がレバノン南部占領地域から撤退することなどに加え、米国が、レバノンの旧宗主国であるフランスと共に停戦維持に関与する内容。

イスラエル、レバノンの境界地帯に駐留する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)と両国政府からなる国際委員会に米仏が参加し、実効性を高めることを狙う。

またバイデン政権高官は26日、停戦維持に向け、米国をはじめとする国際社会が「レバノンの国軍や治安部隊の育成と同国の経済再建を支援する」と述べた。

レバノンでは長年、ヒズボラが軍事力で国軍を大きく上回り、押さえがきかない状態が続いてきた。ヒズボラは政府にも強い影響力を持った。

だが、ここ数カ月のイスラエルによる一連の軍事行動や工作活動で、ヒズボラは最高指導者ナスララ師ら最高幹部を失うなど「軍事・政治的に著しく弱体化した」(同高官)。バイデン政権はこの機にヒズボラの権力基盤を崩し、レバノン政府の権威を高めたい考えだ。

ただ、対イスラエルの〝手駒〟を失いたくないイランが、影響下にあるシリアを通じた支援などでヒズボラの再建を図る可能性は高い。

同高官によるとバイデン政権は、停戦合意までの交渉経緯などに関する情報をトランプ次期大統領の政権移行チームにも共有している。レバノン国軍の育成やヒズボラの再台頭を防ぐなどの課題は次期政権に引き継がれることになる。【2024年11月27日 産経】
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“課題は次期政権に引き継がれる”ということで、トランプ大統領の判断が注目されます。トランプ大統領はイスラエル・ネタニヤフ首相と“馬が合う”ことは周知のところですが、イスラエル側の主張を認めるのか・・・。

イスラエルはレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたとも報じられていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるとも。

****イスラエル ヒズボラとの60日間の停戦期限を前に軍撤退の延期を求める****
イスラエルとイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」との間で結ばれた60日間の停戦が期限を迎えるのを前に、イスラエルが軍の撤退に関して延期を求めていることが分かりました。

イスラエルメディアは23日、情報筋の話として、イスラエルがレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたと報じました。

アメリカとフランスがこの要求を受け入れるか協議しているとしていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるということです。

これに対してヒズボラは声明を出し、「期限を超えることは合意のあからさまな違反だ」と非難しています。(後略)【1月24日 テレ朝news】
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イスラエルは、停戦合意をレバノン側が完全に履行していないと指摘し、イスラエル軍のレバノン南部からの撤収は期限までに完了しないとの方針を発表しています。

****イスラエル軍、期限後もレバノン駐留へ 停戦合意「完全履行されていない」****
イスラエル首相府は24日、同国とレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを巡る停戦合意が完全に履行されていないとして、イスラエル軍が撤収期限後もレバノン南部に駐留し続ける方針を示した。

米仏の仲介で昨年11月27日に発効した停戦合意では、イスラエル軍とヒズボラが60日以内にレバノン南部から撤収すると定めており、26日午前4時(日本時間午前11時)が期限となっている。

イスラエル首相府は声明で、同国軍の撤収プロセスは「レバノン軍が南部に展開し、合意を完全かつ効果的に実施し、ヒズボラが撤退することが条件」とし、「レバノンが停戦合意を完全に履行していないため、米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける」と述べた。

ヒズボラは23日、イスラエル軍が撤収を遅らせるのは、容認できない合意違反だとし、レバノン政府に対し「国際憲章で保証されたあらゆる手段と方法」を通して圧力をかけるよう求めていた。【1月24日 ロイター】
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上記イスラエル首相府の発表がトランプ政権の同意を得たものかどうかは知りませんが、“米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける”とのことです。

アメリカと並んで停戦監視に関与している旧宗主国フランスは、マクロン大統領がイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めています。

****イスラエル軍、レバノン撤退加速を=仏大統領****
フランスのマクロン大統領は17日、レバノンの首都ベイルートで演説し、同国内の親イラン民兵組織ヒズボラと停戦合意したイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めた。

マクロン氏は、レバノンのアウン大統領が9日に就任して以来、初めて同国を訪れた外国指導者となった。アウン氏と並んだマクロン氏は「真の、正統なレバノンが戻ってきた」と語り、アウン氏の就任はレバノンが新たな道筋を進む可能性を示していると強調した。

マクロン氏は、レバノン軍だけが同国の武器を掌握すべきだとし、南部での軍強化に支援を表明した。アウン氏は大統領に選出されるまで軍司令官を務めており、同氏の大統領就任は、イスラエルとの戦争でヒズボラが弱体化した後のパワーバランスの移行を意味している。(中略)

一方、レバノン訪問中の国連のグテレス事務総長は17日、イスラエル軍がレバノン南部で占領と軍事行動を続けているのは、停戦合意の土台となった国連決議に違反していると指摘し、「中止しなければならない」と訴えた。【1月20日 ロイター】
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イスラエル軍が60日を過ぎても撤退を完了しないとなると、次はヒズボラがどう出るのか・・・戦闘が再燃するのか・・・ヒズボラにその余力があるのか、イランからの武器供給ルートとなっていたシリアのアサド政権も崩壊した状況で・・・・といったところですが、まだそのあたりに関する情報は目にしていません。

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アフガニスタン  政権内部からの女性教育擁護発言 ICCの逮捕状 置き去りにされる米軍協力者

2025-01-24 22:44:50 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタン・カブールの市場で、自転車を押して歩く風船売りの人たち(2025年1月8日撮影)【1月18日 AFP】 とても美しい光景ですが、アフガニスタン社会の現実は厳しいものが)

【女性の姿を見るとわいせつ行為につながる恐れがある・・・中庭など見える窓を禁止】
アフガニスタンにおける女性の教育や就労、行動などにおける権利制限については再三取り上げています。
昨年8月には、女性が公共の場で大声を出すことを禁止し、全身や顔を布で覆うことを義務づけた新たな法律が制定されました。
昨年12月には、例外的に許可していた看護師や助産師を育成するための女子教育が禁止されたことも判明。

ただ、タリバンとしては女性は家庭の中にいればいい、女性というのはそういうものだといった発想が前提にあって、女性の権利を侵害しているという意識は希薄で、むしろ自分たちは女性を守ってやってる・・・という考えなのかも。

昨年末の12月28日、タリバン暫定政権は、民家を建設する際に、隣家の台所など女性が過ごすことが多い場所に面した窓の設置を禁止する布告を出しましたが、その理由は「女性が台所や中庭で働いている姿や、井戸で水くみをしている姿を見ると、わいせつ行為につながる恐れがあるため」とか。

****タリバン、中庭など見える窓を禁止 女性の姿見えないように****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の最高指導者は、女性が使用するエリアを見下ろす住宅の窓を禁止し、既存のそうした窓はふさぐよう命じた。

女性の姿を見るとわいせつ行為につながる恐れがあるからだという。タリバン暫定政権のザビフラ・ムジャヒド報道官が12月28日夜、明らかにした。

ムジャヒド報道官がX(旧ツイッター)に投稿した法令によれば、新たに建てる住宅に「中庭や台所、隣家の井戸など女性が普段使用する場所」が見える窓を設けることは禁止される。
「女性が台所や中庭で働いている姿や、井戸で水くみをしている姿を見ると、わいせつ行為につながる恐れがあるため」だとされる。

自治体の当局や関連部署は、建設現場を監視し、近隣の家々をのぞき見できないことを確認する必要がある。
法令によれば、そのような窓が存在する場合、「近所に迷惑をかけないように」壁を建てるなどして視界をさえぎることが奨励される。

タリバン暫定政権は2021年8月に復権して以降、女性を公共の場から徐々に締め出しており、国連からは「ジェンダー・アパルトヘイト」だと非難されている。

タリバン当局は女性について、初等教育以降の教育を禁止し、雇用を制限し、公園などの公共の場所への立ち入りも禁止している。

タリバン暫定政権はイスラム法を極めて厳格に解釈しており、最近の法律では女性が公共の場で歌を歌ったり詩を朗読したりすることさえ禁止。家の外では女性が声や体を「ベールで覆う」ことを奨励している。

同国の地方ラジオ局やテレビ局の一部は、女性の声での放送も停止している。
タリバン暫定政権は、イスラム法がアフガンの男女の権利を「保証」していると主張している。 【1月1日 AFP】********************

余計なお世話だ・・・と言うか、のぞき見して迷惑をかけるとか、わいせつ行為に及ぶような男性を厳しく罰するべき問題のように思えます。

【女性教育擁護の外務副大臣発言】
そうした女性の権利侵害が深刻なアフガニスタン社会にあって、外務副大臣が、中学生以上の女子教育禁止を批判し「道を開くよう指導者たちに求める」と発言したことが報じられています。

****女子教育禁止に異例の批判 タリバン副大臣が再開要求****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のスタネクザイ外務副大臣は18日、暫定政権による中学生以上の女子教育禁止を批判し「道を開くよう指導者たちに求める」と明言した。地元メディアが19日報じた。

東部ホスト州のマドラサ(イスラム神学校)卒業式での発言。政権幹部が公然と政策を批判するのは異例で、政権内の不一致が浮き彫りとなった。

タリバンは2021年の復権後、教育に加え、女性の服装や就労も制限。国際社会は人権抑圧を問題視して政権を承認していない。最高指導者アクンザダ師ら強硬派は独自のイスラム法解釈による統治徹底を図っている。今回の発言が政策変更につながるかどうかは予断を許さない。

スタネクザイ氏は女子教育禁止についてイスラム法に沿っていないとして政権の主張を否定。正当化できず「弁解の余地はない」と表明した。

女性は強制的に結婚させられ、学ぶことも許されていないとの見解を示し、女性に対し「不正をしている」とも述べた。【1月20日 共同】
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いよいよ政権内部からも改善の声が出始めたのか・・・と期待もしたのですが、スタネクザイ氏は以前も同様の発言をしている人物で、新たにこういう声が出てきた・・・というものでもないようです。

****タリバンの人物:アフガニスタンに女性のための教育を禁止する理由はない****
(中略)
スタニクザイは、アフガニスタンからの外国軍の完全撤退につながった交渉でタリバンチームの長であったことが知られています。

スタニクザイがアフガニスタンの女性が教育を受ける権利について声を上げたのはこれが初めてではない。
彼は、学校が女性のために閉鎖されてから1年後の2022年9月と、最終的に女性が大学で勉強することを禁止される数ヶ月前に、同様の声明を出しました。【1月20日 VOI】
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全面的に女性教育が禁止されている現状におけるマドラサ(イスラム神学校)卒業式という公的な場での発言ということで、これまでとは発言の重みが違う、あるいは、一個人の考えにとどまらず、政権内部に彼のような意見を支持する勢力が存在する・・・といったあたりを期待はしますが。

以前からタリバン内部にも女性教育を認めるべきという声はあるものの、最高指導者アクンザダ師が女性教育については否定しているということですから、あまり楽観はできません。

【最高指導者に対しICC検察官が逮捕状を請求 逆効果かも】
その最高指導者アクンザダ師に対し、女性抑圧を理由に国際刑事裁判所(ICC)検察官が逮捕状を請求しています。

****最高指導者の逮捕状請求 ICC、タリバン女性抑圧****
オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は23日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性抑圧に関与しているとして人道に対する罪の疑いで、タリバンの最高指導者アクンザダ師ら2人の逮捕状を請求したと明らかにした。

カーン氏は声明で、アフガンの少女や女性、LGBTQ(性的少数者)がタリバンによる「非情な迫害に直面している」と指摘。アクンザダ師ら2人は「刑事責任を負うべきであると考えるに足る根拠がある」と強調した。【1月23日 共同】
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十分すぎる根拠はありますが、こういう逮捕状が事態改善に資するかと言えば疑問も。
アフガニスタンから一歩も国外に出ない最高指導者アクンザダ師がどこかで逮捕される可能性はゼロですし、同師をはじめとする政権強硬派を一層頑なにさせる懸念もあります。

ICCはプーチン大統領やネタニヤフ首相の逮のモンゴル訪問時には、モンゴル政府は執行しませんでした。
ましてや最高指導者アクンザダ師はそもそも国外に出ません。

もし、政権内部に女性教育をめぐり意見の対立があるのなら、逮捕状への反発から、むしろ女性教育支持派の足を引っ張る危険も。国際的には欧米への反発から中ロへの接近を更に加速させるのかも。

【テロの対象となる中国人】
昨年12月29日ブログ“アフガニスタン 人権弾圧が続く中でタリバンに接近するロシア・中国 パキスタンとは武力衝突も”でも取り上げたように、タリバン暫定政権と中国が接近していますが、一方で中国人が反タリバン勢力のテロ対象にもなっています。

****アフガニスタンで中国人が殺害される 反タリバン武装勢力が犯行声明****
アフガニスタンを支配するイスラム主義組織タリバン暫定政権の警察当局は22日、北部タハル州で21日夜に中国人1人が殺害されたと発表した。タリバン側は実行グループを名指ししなかったが、反タリバンの武装勢力が犯行声明を出した。

警察当局によると、亡くなった中国人は、治安当局に目的地を告げずに移動中に何者かに襲われた。同行していた通訳にけがはなかったという。

タリバンと敵対する「国家動員戦線」(NMF)と名乗る武装勢力が、「中国人のスパイ」を殺害したとする声明を出した。NMFは声明の中で、中国人が「タリバンの情報機関を訓練していた」と主張している。

中国紙グローバル・タイムズ(電子版)によると、中国外務省の報道官は、事件について明言を避けた上で「アフガンの中国大使館が中国市民の権利と利益を守るために最善を尽くし、状況をフォローアップしているはずだ」と話した。

アフガンでは2022年12月にも首都カブールで中国人客が多いホテルが武装勢力に襲撃された。このときは、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。【1月22日 毎日】
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【トランプ大統領の施策により行き場を失う米軍協力のアフガニスタン難民】
タリバン暫定政権とアメリカとはそれなりのコンタクトがあるようです。

****米とタリバン暫定政権、拘束者交換****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は21日、米国との間で拘束者の交換に合意したと発表した。AP通信によると、米国人2人とアフガン人1人が解放された。【1月21日 共同】
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1月21日というと、トランプ大統領就任後です。

トランプ大統領は、かねてより、アフガニスタンからの米軍撤退について「出て行くのは良いことだが、バイデンほどひどい撤退の仕方をした者はいない。米国史上最大の恥だ」とバイデン大統領の対応を批判していました。

その“ひどい撤退の仕方”で、アフガニスタン国内には多くの米軍協力者が置き去りにされていますが、彼らはトランプ米大統領の難民受入一時停止措置で行き場をなくしています。

****「死の危険」、アフガン難民窮地 トランプ氏難民受け入れ一時停止で****
トランプ米大統領が難民の受け入れを一時停止すると発表し、アフガニスタン難民の支援団体から批判の声が上がっている。アフガン駐留米軍が2021年8月に撤収した後も、通訳などのアフガン人協力者の一部は置き去りにされたままで、支援団体は受け入れの継続を求めている。

イスラム主義組織タリバンの復権前に米国や同盟国に協力したアフガン人の多くは、タリバンの報復を恐れて国外退避を希望している。しかし、厳格な移民対策を進めるトランプ氏は、米国の難民受け入れプログラム(USRAP)について「国益を損なう」として27日から一時停止する大統領令に署名した。

AP通信によると、隣国パキスタンで米国行きが認められるのを待つアフガン人は推計1万5000人に上る。また、既に入国が認められていた人々の渡航も中止されたという。

アフガン人協力者を支援する米国のボランティア団体代表のショーン・バンディバー氏は20日、「例外なく難民の入国を停止すれば、米軍に協力し、いまもアフガンで大きな危険にさらされている何千人もの人々を見捨てることになる」とする声明を発表した。

支援団体「アフガンUSRAP難民」も、タリバンはアフガン人協力者を「裏切り者」とみなしているとし、「アフガンに戻れば逮捕や拷問、死の危険にさらされる」とトランプ氏らに再考を求めた。

タリバン暫定政権は21年8月の復権直後の記者会見で「報復はしない」と明言したが、首都カブールの国際空港には国外に退避しようとするアフガン人らが殺到した。【1月23日 毎日】
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米軍協力者を置き去りにすることは「恥」の上塗りになると思いますが。

【ドイツで起きたアフガニスタン出身者の幼稚園児襲撃事件 総選挙にも影響】
アフガニスタン難民は欧州にも大勢が逃れていますが、欧州では移民・難民に対する世論が厳しさを強め、極右的な排斥を求める声が強まっています。

そうした流れを更に加速させると思われる事件が、メルケル時代に難民に寛容な政策をとったドイツで。

****ドイツで園児らが刃物で襲われる、2人死亡 アフガン出身の男性拘束****
ドイツ南部バイエルン州アシャッフェンブルクで22日、男が公園にいた幼稚園児らを刃物で襲い、男児(2)と通行人の男性(41)が死亡し、女児(2)を含む3人が負傷した。同州内相が明らかにした。

警察は現場近くで容疑者のアフガニスタン出身の男(28)を拘束した。精神疾患の治療歴があり、動機は明らかになっていない。

ドイツで2月23日に実施される総選挙では、移民・難民政策が主な争点となっている。

内相によると男は2022年にドイツに入国。難民申請していたが、自ら出国を希望したため、手続きを停止した。これまでにも暴力行為があり、当局は把握していた。

ショルツ首相は「信じ難いテロ行為だ」と非難。男の暴力行為を巡り「なぜ男がドイツにまだ滞在していたのか、当局は早急に明らかにしなければならない」と訴えた。

東部マクデブルクでも昨年12月、クリスマスマーケットに車が突っ込み6人が死亡、200人以上が負傷する事件があり、サウジアラビア出身の男が逮捕された。【1月23日 毎日】
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12月のクリスマスマーケットの事件の記憶が鮮明な時期に再び・・・ということで、総選挙に影響を与えるのは必至でしょう。総選挙では世論調査で支持率2位につける極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がどこまで伸長するか注目されていますが、今回事件は移民・難民排斥を掲げる同党の追い風になるでしょう。

ショルツ首相の社会民主党(SPD)をはじめ、その他の政党も移民・難民への厳しい対応を強めるでしょう。

容疑者のアフガニスタン難民は精神疾患の治療歴があり、2回精神科に入れられたものの、すぐに退院しているようで、このあたりの経緯も問題視されています。

紛争の母国で辛い経験をした難民の多くがトラウマ・PTSDを抱えていると言われており、難民受け入れにあたってそうした心のケアをどう行うかも議論されるところです。
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アメリカ  トランプ大統領のパリ協定再離脱 同盟国の脱炭素にも横ヤリ 米国内石油・ガス業界は反対

2025-01-23 22:58:06 | アメリカ

(【1月21日 NHK】)

【パリ協定再離脱 「掘って掘って掘りまくれ」】
予想されていたことではありますが、トランプ大統領は就任と同時に地球温暖化の国際枠組み「パリ協定」から再び離脱する大統領令に署名し、また、就任演説では「国家エネルギー緊急事態を宣言する」と述べ、「掘って掘って、掘りまくれ」と化石燃料の生産を推進する意向を示しました。

****トランプ政権、パリ協定再離脱を表明 風力発電向け土地貸与も禁止へ****
米トランプ政権は20日、地球温暖化の国際枠組み「パリ協定」から再び離脱すると表明した。トランプ大統領の就任直後にホワイトハウスが発表した。

「バイデン政権の急進的な気候変動政策を終わらせる」とし、化石燃料や鉱物などの開発をめぐる規制緩和を進める。また、風力発電のために連邦政府が管理する土地の貸与を停止する。世界一の経済大国で脱炭素推進に大きなブレーキがかかりそうだ。

トランプ氏は就任演説で「国家エネルギー緊急事態」を宣言。石油や天然ガスの増産を通じて、エネルギー価格を大幅に引き下げ、物価上昇(インフレ)を抑える考えを示した。

暗に批判の声も
パリ協定は、世界の平均気温の上昇を2度より十分低く、できれば1・5度に抑える目標を掲げ、すべての参加国に温室効果ガスの排出削減を求める。トランプ氏は政権1期目にも「米国にとって不利」だとしてパリ協定を離脱し、バイデン前大統領が就任初日に復帰した経緯がある。

国連気候変動枠組み条約のスティル事務局長は声明で、クリーンエネルギーへの投資は世界各国で急成長し、大きな利益や雇用をもたらしていると強調。「これを無視すれば、莫大な富が競合国経済に流れるだけだ」として、気候変動対策に背を向ける米国の再離脱を暗に非難した。

世界気象機関(WMO)によると、2024年の世界平均気温は観測史上最も暑く、産業革命前の水準と比べて1・55度上回った。【1月21日 毎日】
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****トランプ大統領「掘って掘って掘りまくれ」…「エネルギー緊急事態」を宣言、化石燃料増産へ****
米国のトランプ大統領は20日、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から再び離脱する内容の大統領令に署名した。就任演説では「国家エネルギー緊急事態を宣言する」と述べ、再生可能エネルギーの導入に前向きだったバイデン前政権の政策を転換し、化石燃料の生産を推進する意向を示した。(中略)

トランプ氏は、石油や天然ガスなど化石燃料の増産によってエネルギー価格を引き下げ、インフレ(物価上昇)の抑制につなげる狙いだ。演説では「インフレの危機は、過剰な支出とエネルギー価格の高騰によって引き起こされた」との見方を示し、「(化石燃料を)掘って掘って、掘りまくれ」と呼びかけた。

演説では、バイデン前政権が気候変動対策の一環として進めた電気自動車(EV)の普及策の撤回を表明した。トランプ氏は「(環境分野に大規模投資する)グリーン・ニューディール政策は終了し、EVの義務化は取り消される。自動車産業を救う」と主張した。【1月21日 読売】
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【日本など同盟国にも米国産石油・ガスの購入を求める動き 欧州に対して「買わなければ関税」】
「掘って掘って、掘りまくった」石油・ガスで国内インフレを抑制し、更にその石油・ガスを同盟国に供給することでロシア・中国に対抗する「エネルギー・ドミナンス(支配)」戦略とのことのようですが・・・

****トランプ大統領「再エネ」撤回、石破政権に〝踏み絵〟か すでに他国の「脱炭素」に横ヤリ 化石燃料を同盟国に供給し中露に対抗****
(中略)トランプ氏はすでに他国の脱炭素政策にも横ヤリを入れている。再エネの導入や二酸化炭素(CO2)削減に意欲を示す石破茂政権も政策変更を突き付けられる恐れもある。
トランプ氏は大統領就任演説で「米国はどの国よりも大量の石油と天然ガスを持っている。ドリル・ベイビー・ドリル(資源を掘りまくる)」と強調した。

エネルギー非常事態宣言で、国家・経済安全保障のために、西海岸や北東部、アラスカでのエネルギー供給などの促進に利用可能な全ての合法的な緊急権限を使用するとした。

同日に署名した大統領令では、連邦政府の管理下にある大西洋や太平洋などの海域で原油や天然ガスの新たな掘削を禁止した前政権の覚書も取り下げた。

トランプ政権は次期エネルギー長官に石油や天然ガスの採掘会社を経営するクリス・ライト氏を起用した。化石燃料の増産を主導する役割を担うとみられている。

エネルギー政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は「トランプ氏は1期目は必ずしも思い通りにできず、閣僚にも反対する人がいた。2期目は次を考える必要もないので、やりたいことをやるだろう」とみる。

また、電気自動車(EV)普及策を撤回し「自動車産業を救う」とも主張した。「数年前には夢にも思わなかったペースで、再び米国で自動車を生産する」と話した。豊富な資源を後ろ盾に競争力を高めて「再び製造業の国になる」とも語った。

トランプ政権のエネルギー政策をめぐっては、安価で安定したエネルギー供給によって敵対国に対する優勢を築く「エネルギー・ドミナンス(支配)」戦略を打ち出している。

杉山氏は「化石燃料を掘削し同盟国に供給することで、米国経済も発展し、ロシア、中国に負けないようにするという狙いだろう。原子力も推進するはずだ。トランプ氏は再エネがあまり好きではなく、風力もコストが高くなるため嫌っている。EVに関しても、国家レベルでの補助金を大幅に削減する方向性になる」と予測する。

バイデン政権時に復帰した気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」を再び離脱する大統領令にも署名したが、さらに踏み込んでくる可能性があるという。

杉山氏は「パリ協定の元になる国連気候変動枠組み条約自体から離脱し、二度と戻れなくする可能性もある。仮に次の政権が民主党になっても、条約への復帰は共和党が多数を占める議会の承認が必要となる」と語る。一度条約から離脱すると復帰は難しいというわけだ。

問題は日本だ。菅義偉政権以来のグリーントランスフォーメーション(GX)政策は岐路に立たされる。
石破首相は6日の年頭記者会見で、再エネや原子力など「脱炭素電源」に言及し、「『地方創生2・0』の重要な柱」と明言した。原子力はともかく、再エネについてはトランプ路線と逆方向だ。

杉山大志氏「安全保障で日本にメリットも」
杉山氏は「トランプ氏は日本に政策転換を求めてくるかもしれない。日本側は、米国に油田の掘削や炭鉱の投資など官民一体で取り組むと告げるのも一手だろう。先進7カ国(G7)で米国が孤立しないよう歩調を合わせたり、再エネの大量導入や、CO2排出量取引制度、再エネ賦課金をやめることもできなくはない」と強調する。

トランプ氏はX(旧ツイッター)で英政府に北海の石油・ガス田を「開放」し、風力発電施設を撤去するよう要求するなど海外のエネルギー政策にも干渉している。

日本にも要求を突き付けてくる可能性があるが、必ずしも悪いことばかりではないようだ。
杉山氏は「石油やシェールガス、石炭などを購入するよう日本に求めてくるだろう。米国が化石燃料を世界に供給することで、資源国のロシアを締め付ける効果も見込まれる。中東に依存する日本にとっては安定供給になるし、『台湾有事』の際に中国が日本のシーレーン(海上交通路)を封鎖しようとしても、米国の船舶なら攻撃できない。安全保障の観点からもメリットになる」と指摘した。【1月22日 夕刊フジ】
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トランプ政権の脱“脱炭素”が世界の地球温暖化対策の足を引っ張るという本筋の問題はいったん棚に置くにしても、“石油・ガスを同盟国に供給し・・・”ということの現実は“無理やり買わせる”に近いもので、日本を含む同盟国のエネルギー政策の転換を求めるという類のものです。

実際に欧州に対しては「なぜアメリカの石油・ガスを買わないのだ!買わなきゃ関税をかけるぞ!」との対応を示しています。

****トランプ氏 EUに“米の石油天然ガス購入しなければ 関税課す”****
アメリカのトランプ次期大統領は、EU=ヨーロッパ連合に対して、アメリカ産の石油と天然ガスを大量に購入しなければ、輸入品に関税を課す考えを示しました。トランプ氏は、アメリカのEUに対する貿易赤字を問題視してきていて、来月、大統領に就任するのを前に、EUに圧力をかけました。

アメリカのトランプ次期大統領は20日、SNSへの投稿で「EUに対して、われわれの石油と天然ガスを大量に購入することでアメリカとの巨額の貿易赤字を解消するよう伝えた」と明らかにしました。

そのうえで、EUが応じなければ「ずっと関税を課す」として、アメリカ産の石油などを大量に購入しなければ、EUからの輸入品に関税を課す考えを示しました。

トランプ氏はこれまで、アメリカのEUに対する貿易赤字を問題視してきていて、来月、大統領に就任するのを前に、EUに対して赤字削減に向けて圧力をかけました。

EUのフォンデアライエン委員長は、先月、トランプ氏と電話で会談し、ロシアから輸入しているLNG=液化天然ガスをアメリカ産に切り替えることを検討する考えを示していました。

今回の投稿は、トランプ氏がアメリカのエネルギー資源を武器に、各国に貿易赤字の削減を迫る考えがあることを、改めて明確にしています。【1月21日 NHK】
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トランプ大統領の「守ってやるからカネを出せ」という考えは、価値観の絆で結ばれた同盟国というより“用心棒”の発想に近いと以前から思っていましたが、更に「アメリカの石油・ガスを買え!さもないと・・・」と迫る様は、みかじめ料をとってる飲食店に自分のところが卸すおしぼりの購入を迫る暴力団のやり口のようにも見えます。要するに「アメリカ第一」に他の国も従えということのようですが、どうして?

もっとも、トランプ大統領の施策にもかかわらず、当面はバイデン政権時代の措置によってアメリカの温室効果ガス排出量は抑制されるようです。

ただ、アメリカが今後の世界の気候変動問題対策を牽引することは出来ませんので、その役割を果たすのは・・・中国でしょうか?

****トランプ政権でも温室効果ガスは減少へ―気候変動問題、米のパリ協定離脱で中国はどう動く?****
(中略)これまで多国間での温暖化対策を主導していた米国の退場に伴い、世界最大の温室効果ガス排出国である中国にリード役を期待する声も出ているようだが、果たして…。

バイデン政権の遺産が効果発揮
世界最大の経済大国である米国は、温室効果ガスの排出量も中国に次いで世界第2位。トランプ氏は「(石油や天然ガスを)掘って掘って掘りまくれ!」と檄を飛ばすなど化石燃料を積極活用する姿勢を見せており、パリ協定離脱と相まって米国の排出量が増加に転じるのではないかと不安視されている。

ただ、上野貴弘著「グリーン戦争」(2024年中公新書)などによると、前政権の遺産というべき「インフレ抑制法(IRA)」の効果で、温室効果ガスの減少傾向は維持される見通しだ。

IRAは、名称だけ見れば気候変動対策とは無縁の経済政策のようだが、実際はインフレを抑制しつつ再生エネルギーや電気自動車(EV)などの脱炭素技術を減税により後押しする制度。バイデン前政権は2050年までに温室効果ガスのネットゼロ排出を達成するとの目標を掲げたが、IRAがその実現に向けた政策の柱となる。

前政権の政策を180度転換しようとしているトランプ氏が、IRAの廃止または修正に動く可能性はある。しかし同書によると、IRAの恩恵を受けているのは、バイデン氏の民主党ではなく、与党共和党が強い地域が多いという。

連邦議会は上院、下院とも共和党が多数派を握っているが、民主党との差はわずか。このため、トランプ政権がIRAの廃止をもくろんだとしても、共和党から造反者が出て、阻止される可能性が高い。

また、米国の地方政府・議会や民間企業、NGOなどの間には、連邦政府の意向にかかわらず、パリ協定の精神を尊重して行動しようとするグループがあり、彼らは政権交代後も温暖化対策を強力に推進する方針を表明している。こうしたことから、ペースは落ちるかもしれないが、米国の温室効果ガス削減の流れは今後も続くと予想される。

国際的なけん引役不在に
ただ政権交代により、気候変動対策における米国の国際的なリーダーシップが大幅に後退、もしくは事実上消滅する可能性がある。

バイデン政権は発足3カ月後の2021年4月に気候変動サミットを開催し、それに合わせて各国がこれまでより踏み込んだ削減目標を提示した。米国が気候変動対策のけん引役を担った格好だ。しかしトランプ政権には、そうした対応はまず期待できないだろう。

では、誰がけん引役を務めるのか。このほど日本記者クラブで記者会見した地球環境戦略研究機関の田村堅太郎上席研究員は、欧州連合(EU)と英国は「(リーダーシップをとる)意欲はあるものの、力不足」と指摘。そうなると、中国に注目が集まる。

なにしろ中国の二酸化炭素排出量は全世界の32.0%を占め、米国の13.7%を大きく上回って断トツの首位(2021年実績)。1人当たり排出量も年間7.5トンで、日本やドイツとほぼ同水準だ。もはや、ある時は超大国として傲慢にふるまい、ある時は開発途上国の一員として先進国より甘い削減目標を要求するような使い分けは許されず、最大の排出国として責任ある行動が求められる。

しかし田村氏は、「中国が開発途上国をクリーンエネルギーの導入で支援する、いわば『クリーン一帯一路』に乗り出す可能性はある」としながらも、他国に削減目標の引き上げを働きかけるようなことはしないのではないかと予測。

米国がパリ協定から抜けた後の多国間の取り組みは、けん引役不在の状況下、多元的で多様な主体が参加する「多中心的なガバナンス」で推進されるとの見通しを示した。(後略)【1月22日 レコードチャイナ】
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中国が実際にどこまで気候変動対策のけん引役を果たす意思があるかは疑問ですが、少なくとも国際会議などの表舞台ではアメリカに代わって中国が世界をリードする姿勢を強め、その存在感が高まるでしょう。

****トランプ氏の「パリ協定離脱」大統領令署名に中国が批判****
アメリカ大統領に就任したトランプ氏がパリ協定を離脱する大統領令に署名したことを受け、中国外務省の報道官は「どの国も独りよがりになることはできない」と批判しました。

中国外務省の報道官は21日、「アメリカがパリ協定から離脱することに中国は懸念を示す」と述べたうえで、「気候変動は全人類が直面する共通の試練であり、どの国も独りよがりになることはできない」と批判しました。(後略)【1月21日 テレ朝news】
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実際、近年の中国の再生可能エネルギー分野における実績、脱炭素の動きは注目に値するものです。

****中国の太陽光・風力発電の新規導入容量、24年も記録更新****
中国国家能源局が21日発表した統計によると、2024年は国内に新たに設置された風力および太陽光発電設備容量が23年に続き、過去最高を更新した。中国は30年までに炭素排出量のピークアウトを目指している。

24年の太陽光・風力発電設備の新規導入容量はそれぞれ45.2%と18%増加。太陽光の容量は現在、886.67ギガワットになった。

トランプ米大統領が2度目のパリ協定離脱を発表する中、中国は7月に30年の目標を6年前倒しで達成したことになり、クリーンエネルギーへの移行の速さが目立った。(中略)

環境保護団体グリーンピースのアナリストらは、25年には再生可能エネルギーが中国の新規電力需要を全て満たす可能性があると予想。北京に拠点を置くグリーンピース・東アジア支部のプロジェクトリーダーは「中国の電力業界に25年までに排出量のピークアウトを達成する道が開かれる」と述べた。【1月22日 ロイター】
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【意外にも、アメリカ国内の石油・ガス業界はパリ協定再離脱に反対】
トランプ大統領のパリ協定再離脱「掘って掘って掘りまくれ」は国際的には懸念されるものであっても、国内石油・ガス業界は大喜びだろう・・・と考えていたのですが、そうでもないようです。

*****パリ協定再離脱、米石油・ガス業界は反対 トランプ政権と異例の不協和音****
米国が気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」から再離脱することを巡り、国内の石油・ガス業界が反対の声を上げている。

トランプ大統領は就任初日にパリ協定の再離脱を指示する大統領令に署名し、パリ協定を中国との競争で米国を不利な立場に追いやる取り決めだと切り捨てた。

しかし石油・ガス業界からは、再離脱によって投資計画にマイナスの影響が出るなどの異論が噴出。これまで最も有力な支持基盤とみなされてきた同業界とトランプ政権の間で異例の不協和音が醸し出されている。

ロイターが取材した業界幹部の話では、大手石油各社は再離脱について、世界的なエネルギー移行の動きに対する米国の影響力を限定してしまうほか、業界が米国と他の地域で整合性の取れない規制環境に置かれかねないとの懸念を持っているようだ。

米商工会議所傘下のエネルギー業界団体トップ、マーティー・ダービン氏は、加盟企業はトランプ氏がパリ協定にとどまるのを望んでいると明かした上で「民間セクターは気候問題を解決しながら世界経済を成長させるためのエネルギー需要を満たすのに必要な解決策を打ち出すことを強く決意している」と述べた。

エクソンモービルやシェブロンが加盟する米国石油協会(API)の広報担当者は、APIとしてはパリ協定の目標をずっと支持してきたと説明した。

エクソンをはじめとする大手石油各社は現在、新たな石油・ガス探査方針を決めつつも、グリーン水素や二酸化炭素貯留・回収といった気候変動対応の技術に長期的な投資を計画しているところだ。

独立系掘削事業者の団体AXPCのアンヌ・ブラッドベリー最高経営責任者(CEO)は「いかなる気候変動対策に関する話し合いも本質的に世界全体でなければならず、米国はエネルギー生産と排出量削減の両面で世界のリーダーと認識するのが大事だ」と訴えた。【1月23日 ロイター】
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すでに世界が脱炭素の流れにあり、企業もその流れに適応しようとしているなかで、アメリカだけ「掘って掘って掘りまくれ」と言われても世界の流れから取り残されてしまう、企業としても身動きがとれなくなってしまう・・・という不満のようです。 これは意外でした。
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パレスチナ  停戦発効 帰還を始める住民 イスラエル右派は戦闘継続要求 西岸地区では攻撃開始

2025-01-22 23:17:14 | パレスチナ

(がれきの街と化したガザ北部ジャバリアには、住民らが戻って来ている。

パレスチナ・ガザ地区の住民らは、停戦が実施されると、通りに出て喜びを表現した。しかし、自宅のあった場所に戻り、破壊の厳しい現実を目の当たりにする人が増えるにつれ、その喜びは薄れている。【1月20日 BBC】)

【組織大打撃、多大な住民犠牲も“抵抗の勝利”と主張するハマス ハマス壊滅を求め、停戦不承知のイスラエル右派 ガザ住民は?】
アメリカでのトランプ大統領就任のニュースの影に隠れた形になっていますが、パレスチナ・ガザ地区ではイスラエルとイスラム主義組織ハマスが合意し42日間(6週間)の停戦が、ハマスが解放する人質リストの提出が遅れた影響で停戦開始は当初予定から約3時間ずれ込んだものの、19日午前11時15分に始まりました。

イスラエル軍はこの遅れの間にもガザ北部などを空爆し、ロイター通信によると少なくとも13人(BBC報道では19人)が死亡したとされます。

****ガザ停戦、ハマスが人質3人解放 イスラエルも90人釈放へ****
パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦が19日に発効し、ハマスに拘束されている人質のうちイスラエル人の女性3人が解放され家族と再会した。

ガザでは通りに出て停戦を祝うパレスチナ人の姿が見られた。住民らは攻撃でがれきと化した自宅に戻り始めた。

イスラエル軍が公開したビデオでは解放された3人の健康状態は良好に見えた。

イスラエル占領下のヨルダン川西岸では、イスラエルの収容施設から釈放されるパレスチナ人を待つバスが待機していた。ハマスによると、人質と引き換えに釈放される最初のグループには、69人の女性と21人の10代の少年が含まれている。

停戦は19日、予定より3時間近く遅れて発効した。

バイデン米大統領は「ガザの銃声が鳴りやんだ」と述べ、停戦を歓迎。「長い道のりだった。しかし、イスラエルが米国の支援を受け、ハマスに圧力をかけたおかげで、今日ここに到達することができた」と語った。

停戦はトランプ次期米大統領の就任前日に発効した。トランプ氏が国家安全保障担当の大統領補佐官に起用するマイク・ウォルツ氏は、ハマスが合意を破れば、米国はイスラエルが「やるべきことをやる」のを支援すると述べた。

「ハマスがガザを統治することはない。それは完全に受け入れられない」と語った。【1月20日 ロイター】
**********************

双方の合意では、停戦の第1段階でハマスが女性や高齢者、病人ら人質33人を解放し、引き換えにイスラエルが収監しているパレスチナ人を釈放することになっており、仲介国エジプトによると、釈放者は1890人以上に上るとされています。

ガザではこの停戦を歓迎しており、帰還の準備も始まっています。

****響く祝砲と歌声=帰還準備始まる―ガザ****
パレスチナ自治区ガザでは19日の停戦発効を受け、市街地に祝砲が響いた。路上に出た住民はパレスチナの曲を歌い、「神は偉大だ」と叫んで喜びを分かち合った。

現地の住民によると、停戦発効に先立ち避難先で暮らしていた人々は自宅に帰還するため荷造りを始め、避難しなかった住民らも壊れた建物の修理に取りかかった。

午前11時15分に停戦が正式に発効すると、中部ブレイジの難民キャンプでは、イスラム組織ハマスの戦闘員が小規模な行進を行った。(後略)【1月19日 時事】
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2023年10月以来の戦闘の印象としては、ハマスは壊滅的・・・に近いような大きな打撃を被り、イスラエルは多大な民間人犠牲を出しながらハマスを徹底的に叩いた・・・・というものですが、少なくとも表向きの当事者の主張はそうした印象とは異なるものもあります。

TVニュースで見ると、ハマス構成員は自分たちの抵抗がついに勝利した・・・と総括しています。上記記事の“ハマスの戦闘員が小規模な行進”というのもそうした主張のあらわれでしょう。

一方、多大な犠牲を強いられたガザ住民がどのように考えているのか・・・以前からハマスの支持率はガザ地区ではヨルダン川西岸地区より低いといったこともありますが、TVニュースでの住民インタビューではハマス支持の声もあります。

日本的な感覚では、これだけの犠牲を出したことの批判がなぜハマスに向かわないのか不思議でもありますが、そこは長年のイスラエルによって強いられてきた苦難もあっての話でしょうから、なかなか外部の人間には難しいところでもあります。

もう少し時間がたてば、ガザ住民のハマスへの「評価」も明らかになってくると思われます。

イスラエルにあっても、人質の家族、ハマス奇襲犠牲者の遺族など、立場によって今回停戦への評価は異なりますが、国内右派にはハマスを根絶やしにすることなく停戦に応じたことへの批判が強く、極右政党「ユダヤの力」を率いるベングビール氏は「ハマスへの降伏」と評し、政権を離脱しています。(ネタニヤフ政権の崩壊には至っていません)

****プラカードには「大虐殺」…道路に座り込み 停戦合意反対デモ エルサレム****
エルサレム中心部。座り込んで道路をふさぐ若者たちを警官隊が抱えて運び出す。

イスラエルとイスラム組織「ハマス」が停戦合意したことに対し抗議するため、若者を中心におよそ300人が集結した。

掲げるプラカードには「テロリストの解放 大虐殺」と書かれている。停戦合意にはハマスの人質解放と引き換えにイスラエルが拘束しているパレスチナ人の釈放が含まれている。【1月18日 ABEMA Times】
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****ガザ「6週間の停戦合意」歓喜の中、右派や遺族は屈服同然と抗議****
<イスラエルとイスラム組織ハマスが停戦で合意した。人質解放に各地で人々が歓喜に沸くなか、エルサレムでは右派や犠牲者遺族、残る人質の家族らが抗議活動を展開>

(中略)ガザとイスラエル各地で人々が歓喜に沸くなか、エルサレムでは右派や犠牲者遺族、残る人質の家族らが「屈服同然」「犠牲者の命を軽んじるな」と抗議し、警察に取り押さえられる場面も。【1月20日 Newsweek】
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****イスラエル極右閣僚、停戦合意発効前に辞任 残りの人質の解放は「武力」で****
イスラエルとイスラム組織ハマスとの間で成立したパレスチナ自治区ガザ地区に拘束されている人質の解放と停戦をめぐり、イスラエルのベングビール国家安全保障相は19日、停戦合意が発効する直前に辞任を表明した。

ベングビール氏は残りの人質について「武力行使」によって解放すべきだと述べた。 ベングビール氏はイスラエル人3人の解放を歓迎しつつ、人質の解放につながった取引を「降伏」に例えた。 

ベングビール氏はX(旧ツイッター)への投稿で、イスラエル人3人の解放を喜びつつ、「我々は降伏ではなく、武力行使や燃料供給の停止、人道援助の停止によって、残りの人質が戻ってくることを期待する」と述べた。 

ネタニヤフ政権からはベングビール氏のほかにも2人の閣僚が離脱した。こうした動きは、ネタニヤフ首相の連立政権を著しく弱体化させるとみられるが、必ずしも政権崩壊につながるわけではない。 

これとは別に、やはり極右のスモトリッチ財務相は、人質解放と停戦をめぐる合意には反対する姿勢を示してきたものの、人質3人の帰還については「喜びでいっぱいだ」と述べた。 

スモトリッチ氏は辞任していないものの、停戦合意の第1段階が終わった後に戦闘を再開しない場合には辞任すると強硬な姿勢を維持している。【1月20日 CNN】
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アメリカ・トランプ大統領は就任前からイスラエルに停戦を求めていましたが、停戦でパレスチナを安定させ、そのうえでイスラエルとサウジアラビアの関係を正常化させ、対イランの戦線を強化する・・・という目論みでしょう。

ネタニヤフ首相は、停戦を求めるアメリカのトランプ大統領と、反発する政権内の極右勢力との板挟みになり、苦しい状況が続きます・・・その停戦後のパレスチナ情勢の不安定さについては、1月16日ブログ“パレスチナ  19日から6週間の停戦合意 今後については不透明”でも取り上げたところです。

“ネタニヤフ氏は治安閣議で、安全保障の要求が満たされず、第2段階の交渉が決裂した場合、米国の協力の下で戦闘を再開できると述べた。”(米ニュースサイト「アクシオス」報道)【1月18日 毎日】

【救援物資搬入が本格化 遺体捜索もこれから】
とりあえず現状ではガザ救援が本格化しています。

****「ガザを助けろ」 トラック数百台、イスラエルとハマスの停戦合意で支援物資搬入が本格化****
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの停戦合意が発効した19日、パレスチナ自治区ガザに人道支援物資を搬入する動きが本格化した。ガザとエジプトの境界にあるラファ検問所には物資を積んだトラックが長蛇の列を作った。運転手らは「早くガザの人々に届けたい」などと、入域許可を待ちきれない様子で話した。

産経新聞助手が19日、エジプト政府主催のプレスツアーに参加してラファ検問所を訪れ、取材した。

首都カイロからバスで8時間超走り、検問所の前に到着した。ゲートの前には確認できただけでも150台以上のトラックが並び、みな燃料や毛布、食料、おむつなどを満載していた。

「エジプトの非政府組織(NGO)による支援物資の小麦粉40トンを積んで、10日前から待っている」。検問所の近くで会った運転手のアハメドさん(26)はそう話し、「1年以上も流血の侵略に苦しめられ、困窮しているパレスチナ人に必要な物資を運べることを、エジプト人として誇りに思う」と続けた。

ガザと境界を接するエジプトはイスラム教スンニ派が人口の9割を占め、ガザの人々への同胞意識が強い。イスラエルのガザ攻撃を受け、米国企業の製品に対する不買運動も起きた。

エジプト政府によると、この日は330台のトラックが、ラファからイスラエルの管理するケレムシャローム検問所に向かった。ロイター通信によると、バイデン米大統領は「トラック数百台が市民を助けるためにガザに入った」と述べた。

ガザの人口は推定220万人。報道によると、戦闘期間中には10日間でトラック9台しか入域できないときもあった。国連は一時、必要な物資の9%しか届いていないと推計した。

ガザに向かった運転手は電話取材に、「イスラエルは以前、車体や積載物資をすべて検査していたが、きょうは簡易になっている」と話した。

負傷してエジプトの病院で治療を受けていたというガザ出身のカメラマン、アリさん(30)は「両親と2人の兄弟はイスラエル軍に爆撃されて死亡した。ハマスは今もガザでは人気がある。ハマスに拘束されていた人質の居場所を住民が漏らさなかったことが、それを証明している」と話した。【1月20日 産経】
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最後の話は、ハマスを支援しているからか、ハマスの報復が怖いためかはわかりません。

停戦合意では1日当たりトラック600台分の支援物資を搬入するとされていますが、ロイター通信は21日、19日からの3日間で人道支援物資を積んだ2400台以上のトラックが入ったと伝えています。

食糧に加え、住宅、医療、インフラ・・・問題は山積です。そもそも、遺体の捜索すらこれからです。

一連の戦闘で約4万7000人が死亡したとされていますが、停戦が成立して捜索が始まれば数字は更に増えると予想されます。

****ガザ、約4万7000人死亡 2092世帯が家族全員殺害 現地当局****
パレスチナ自治区ガザ地区の広報当局は21日、2023年10月に始まった一連の戦闘での被害をまとめた統計を発表し、約4万7000人が死亡したほか、約1万4000人が行方不明だと明らかにした。犠牲者の7割は女性と子供で、2092世帯は家族全員が殺害されたとしている。

発表によると、戦闘が始まってから生まれた子供のうち214人が死亡した。栄養失調では子供44人が死亡したほか、3500人の子供が今後、死亡する恐れがある。また、子供7人を含む計8人が凍死した。両親もしくは片親がいない子供は3万8495人に上るという。

死者のうち1155人は医療関係者で、報道関係者も205人に上った。ガザ地区の88%が破壊され、被害額は380億ドル(約6兆円)以上と推定している。

ガザ地区では19日、42日間の停戦が始まり、がれきに埋もれた行方不明者の捜索も始まっている。戦闘継続中は探せなかった遺体が続々と見つかっており、死者数は今後も増える可能性が高い。(後略)【1月22日 毎日】
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【イスラエル軍、ヨルダン西岸地区での攻撃開始】
ここにきて「事態の不安定さ」が露見しているのが、ヨルダン川西岸地区です。

****イスラエル軍がヨルダン川西岸で「大規模作戦」50人近く死傷 西岸での軍事作戦激化か****
イスラエル軍は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で大規模な軍事作戦を行い、これまでに少なくとも9人が死亡しました。イスラエル軍は今後、ヨルダン川西岸での軍事行動を強めるとの見方も上がっています。

イスラエルの首相府は21日声明を出し、「テロ撲滅のため」としてパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニンで「大規模かつ重要な軍事作戦を開始した」と発表しました。

中東アルジャジーラによりますと、これまでに少なくとも9人が死亡、40人がけがをしたということです。

ジェニンには、イスラム組織ハマスやイスラム聖戦などの拠点があるとみられ、イスラエル軍は今後、こうした拠点の掃討に向けて軍事行動を強める可能性が指摘されています。

イスラエル軍はこれまでも占領するヨルダン川西岸全域で軍事作戦を行っていて、おととし10月のハマスによる奇襲攻撃以降、800人以上のパレスチナ人が死亡したとみられています。【1月22日 TBS NEWS DIG】
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“西岸での作戦開始に際し、イスラエルのネタニヤフ首相は各地の親イラン勢力に対し、「組織的に断固として立ち向かう」と述べた。ハマスは西岸にも戦闘員を有しているとされ、西岸でのイスラエルとの闘争拡大を呼びかけた。(後略)”【1月22日 産経】

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