孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ共和党、イギリス労働党  既成政治に不満を抱える人々をとらえる極端な主張

2015-08-31 23:31:53 | アメリカ

(共和党候補者のなかでトップの支持率を誇るトランプ氏 【7月27日 Newsweek】 なお、「かつら疑惑」については否定、聴衆の女性をステージに上げて髪を触らせ、地毛であることを“証明”したとか。)

感情に訴えるトランプ氏 「手に負えなくなる」おそれも
「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」とはイギリスの元首相チャーチルの言葉ですが、“民主的な選挙によって代表・指導者を選ぶ政治形態”というものは“よりましな”“比較的安全な”“暴走への歯止めの効いた”形態であるにしても、“最悪”とは言わないまでも相当に問題も抱えています。

問題のひとつは、多数派の暴走を止める歯止めがないことですが、同時に、選挙で示される“民意”は往々にして、物事を単純化した“歯切れのいい”“明快で力強い”主張に引っ張られることがあります。

アメリカでは2016年11月8日に行われる次期大統領選挙に向けた超ロングラン選挙運動が始まっていますが、共和党候補をめぐる争いにおいて、過激な発言の言いたい放題で耳目を集める不動産王の大金持ちトランプ氏がレースのトップを走っています。

アメリカの選挙においてはヒスパニック票の行方が勝敗を分ける傾向になりつつあり、メキシコ系住民を敵に回すことは非常な不利になりますが、トランプ氏は6月の出馬表明の際に「メキシコは問題のある人間を(米国に)送り込んでいる。彼らは強姦犯だ」などと発言して、メキシコ移民を「麻薬や犯罪を持ち込んでくる」などと非難。

7月には、ベトナム戦争で長期間、捕虜になった共和党の重鎮・マケイン上院軍事委員長について「彼は捕らえられたから戦争英雄になった。私は捕虜にならなかった人が好きだ」と発言。
マケイン氏は「私は英雄ではない」と述べつつも、「トランプ氏は、戦争で犠牲になったり、従軍中に捕らわれたりした人々の家族に謝らなければならない」と批判。

8月の討論会では、「彼女の目から血が流れ出ていた。彼女のどこであれ血が出ていた」と、女性司会者が自分に厳しい態度だったのは生理中だったためとにおわす発言をして批判を浴び、共和党の集会への招待を取り消されたことも。

既成政治の常識を覆す発言を繰り返すトランプ氏が高い支持率を得ていることについて、当初は、選挙戦序盤に注目を集めるもののやがて消えていく“泡まつ候補”と見られていましたが、その高い支持はまだ続いており、「ひょっとすると、共和党候補になるの可能性も・・・」とも言われています。

****トランプ氏、勢い加速 対日強硬発言にも支持 米大統領選****
来年11月の米大統領選に名乗りをあげた共和党のドナルド・トランプ氏(69)の勢いが止まらない。今月上旬の世論調査では、有力視されるジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)の倍近い支持率を獲得。人気を下支えしているのが、日本を含む国々に対する強硬な発言だ。

「どこかの国が日本を攻撃したら我々は助けなければならない。だが、我々が攻撃されても日本は助ける必要がない。それがよい協定だと思えるか」

21日に米アラバマ州で行われたトランプ氏の支持者の集会で同氏がこう訴えると、会場からは一斉に「ノー」と罵声が飛んだ。

メキシコからの不法移民を「強姦(ごうかん)犯」などと決めつける過激な言動を繰り返し、強硬姿勢が保守派から支持を集めてきたトランプ氏。決まって同時にやり玉にあげるのが、中国と日本だ。

20日のテレビ番組でも「我々がすべきことは仕事を取り戻すこと。中国、日本、メキシコを止めなければいけない」と主張。「これまでで最大の船を見たが日本の車を積んでいた。だが、日本は我々が牛肉を売ろうとしても受け取ろうともしない」などと、強い不満も表明した。

オバマ政権が進める環太平洋経済連携協定(TPP)も「日本による通貨操作を止められない。あしき交渉だ」と反対する。対外関係や移民の受け入れに穏健な姿勢を示すブッシュ氏を「弱腰」と批判した。

出馬表明前の5月の世論調査ではわずか3%で本命でない候補とみられていたトランプ氏だが、CNNが8月中旬に実施した調査では、ブッシュ氏(13%)を引き離し、2倍近い24%の支持を集めて首位を独走している。【8月23日 朝日】
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当然ながらトランプ氏への批判は多々あります。

****ワシントン・ポスト(米国) 米国版プーチン、長く続かず****
米紙ワシントン・ポストは22日付の社説で、不法移民を侮辱するトランプ氏の言葉遣いを理性ではなく感情に訴えるもので、「手に負えなくなる」おそれがあるとした。

同紙は暴言によって高い支持率を維持している「トランプ旋風」に批判的な目を向けており、コラムニストの一人はそのポピュリストぶりをロシアのプーチン大統領になぞらえた。

社説はトランプ氏がメキシコからの不法移民を「強姦犯」と決めつけて侮辱したことを挙げて、こうした発言によって「政治的に有利になるよう意図的に世論の激情を刺激している」と指摘した。

その上で、トランプ氏の発言は大衆による不法移民への暴力をあおるものではないものの、「政治的な怒りを駆り立て、共和党予備選(での候補指名争い)に勝つことを意図するもの」であるとし、トランプ氏による「侮辱に満ちた誇張」には有権者の感情を刺激する問題があるとしている。

一方、ポスト紙のコラムニスト、デイビッド・イグネーシャス氏は19日付の論評で、トランプ氏を「米国版プーチン」と名付けて強く批判した。

トランプ、プーチン両氏の共通点として、具体的な計画を示すことなく国家の偉大さを復活すると約束していることや、短所を抱えているにもかかわらず非常に人気があることを挙げた。そして、「権力とショーマンシップが不可分のものであることを理解している」ことが2人に一致している点であるとした。

トランプ旋風については「遠慮のない発言が政治の曖昧な言葉遣いにうんざりしている国民に訴えている」と分析した。

ただ、プーチン氏のように、弱い者いじめをするような権威主義的な人格は米国では受け入れられてきていないと断言。「(トランプ氏が支持を維持した)この夏は例外だったが、長くは続かないであろうことは歴史が示唆している」と強調した。【8月31日 産経】
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文化的にも経済的にも疎外されている白人のブルーカラー労働者からの支持
しかし、大統領候補になる可能性も出てきたとしてトランプ氏の発言を正面切って論評する記事も現れています。

****フィナンシャル・タイムズ(英国) 大統領候補あり得る****
米大統領選挙の共和党候補指名争いで、トランプ氏がリードしていることについて、23日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は、コラムニスト、エドワード・ルース氏の「ドナルド・トランプ(が米大統領候補になること)は、あり得ないことではない」と題する記事を掲載した。

同氏はまず、トランプ氏が不法移民の強制退去や、米国で生まれた子供に市民権を与えるとした法の廃止など、米国の「建国の精神」にも抵触する可能性がある問題にまで踏み込み、反発を呼んでいるとしながらも、「それでも彼は真剣に受け止められるべきだ」と論じた。

その理由として、▽今月の共和党の討論会の視聴者数が、2011年の前回討論会時の4倍以上の2400万に上り、記録的な数になっている▽数週間におよび共和党内での支持率がトップとなっている事実は一時的なものではない−などを挙げた。

さらに、「何を言うかわからない」トランプ氏は「意識的に不快に思われることで人気を得ている」とも分析。

共和党の大統領候補指名争いから「簡単に外れることもありうる」としながらも、「政治資金は豊富にある。強い自己もある。彼は暴言癖のある保守中道だといわれたりするが、選挙を戦いながら、自分自身をつくっている」と強調した。(後略)【同上】
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経済政策面では、トランプ氏は「貿易協定で、アメリカが最後に中国に勝ったのはいつか? 私は常に中国をたたきのめしてきた」と、TPP推進の共和党にあって「反自由貿易」論を掲げていますが、これを支持しているのが白人ブルーカラー層であると指摘されています。

****台風の目」トランプの意外な実力****
・・・・だがトランプが台風の目になる最大の理由は、共和党に訪れた大きな変化と関係がある。それは、共和党を支持する白人労働者層の急増だ。

アメリカでは製造業の雇用者数が減少し、白人のブルーカラー労働者に打撃を与えている。失業の危機に直面する彼らは、トランプが掲げる「反自由貿易」論に魅力を感じやすい。

白人ブルーカラー層の民主党離れは今に始まった話ではないが、近年その勢いは増している。

彼らが、従来の支持政党である民主党を見限り始めたのは60年代後半のこと。

80年代には、多くが共和党のロナルド・レーガン大統領支持に転じ、民主党との溝が広がった。90年代に民主党離れに歯止めがかかったのは、ビル・クリントン大統領が福祉改革や犯罪対策強化など、保守派寄りの政策を打ち出したおかげだ。

00年以降は、銃規制や石炭火力発電所への規制が引き金となり、民主党を見捨てる白人労働者層が増えている。
非大卒の白人有権者のうち、12年の大統領選でバラク・オバマを支持した人の割合はわずか33%、昨年の中間選挙で共和党候補者を支持した人は64%に上った。

「彼らは文化的にも経済的にも疎外されている存在だ」と、政治アナリストのロナルド・ブラウンスティーンは指摘する。

共和党支持に転じたブルーカラー層は、従来の共和党支持者よりも自由貿易に対して懐疑的だ。この事実が共和党を変化させている。

ピュー・リサーチセンターが5月に実施した調査によると、自由貿易協定は自分の雇用を奪うものだと考えている人は、民主党支持者よりも共和党支持者に多かった。これはトランプには好都合だ。共和党の主要候補は、おおむね自由貿易を支持しているからだ。(中略)

低学歴の白人ブルーカラー層は、当然ながらメディケア(高齢者医療保険制度)や公的年金の縮小に反対だ。この点でもトランプは、共和党支持者の多くと同じように、社会保障の縮小に反対する姿勢を示している。(中略)

アメリカでは92年に、やはり大富豪のロス・ペローが大統領選に出馬。保護貿易を唱え、大成功したビジネスマンとしてアメリカ経済を立て直すと主張したあたりは(選挙費用を自腹で負担したことも)、トランプにそっくりだ。

ペローは民主党でも共和党でもなく、いわゆる第3党の候補として出馬したが、11月の一般投票で約19%もの票を得た。

だとすれば、共和党に一定の支持基盤を築きつつあるトランプが、予備選でかなりの票を集めたとしてもおかしくない。事実、トランプは現在、ブッシュやウォーカーを抑えて断トツの支持率ナンバーワンにある。

たとえ大統領になれなくても、彼には痛くもかゆくもないだろう。自由貿易を攻撃して、共和党予備選に一波乱起こしたのだ、目立ちたがり屋のトランプは大満足に違いない。【8月19日 Newsweek】
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アメリカの影響を大きく受ける世界の国々の国民としては、アメリカ大統領選挙が“目立ちたがり屋”に振り回されるようなことでは困るのですが・・・。

一方の民主党の話題(メール問題でのクリントン氏の人気低迷、バイデン副大統領への期待感など)は今回はパスして(“たかがメール問題ごとき”で大統領戦から排除されるというのも、困った話ですが)、イギリスの労働党の話。

緊縮財政のしわ寄せを受ける人々に支持される「時代遅れの社会主義者」】
政権奪還を目指す最大野党・労働党の党首選挙で党内でも最左派のジェレミー・コービン氏が勝利する可能性が高まり、「強硬左派」「時代遅れの社会主義者」では政権は取れないとの危機感が右派などから上がっています。

****強硬左派」党首濃厚=予想外のリードに危惧と期待―英労働党****
5月の総選挙で大敗した英最大野党・労働党の党首選が現在行われており、郵便などによる投票結果が9月12日に発表される。当初の予想を裏切り「強硬左派」のジェレミー・コービン氏(66)の勝利が濃厚で、党は危惧と期待が交錯する混乱状態にある。

コービン氏は1983年に下院議員初当選のベテランだが、党内では終始異端で、要職に就いたことがない。下院の議決でも、党の方針に従わなかったのは500回以上という。

緊縮財政の中止、鉄道の再国有化、英国の核戦力放棄などを掲げ、党内でも最左派と位置付けられる。

ところが、8月初めの世論調査では支持率53%と、本命視されていたバーナム「影の保健相」(45)ら他候補を30ポイント以上引き離した。

新党首は2020年の次回総選挙での政権奪還に向け、党を立て直す重責を担う。

今回の総選挙敗北をめぐっては、ブレア元首相らが長期政権を築いた右寄りの「ニューレーバー(新労働党)」路線をミリバンド前党首が放棄し、左傾化したことが原因だとの声が強かった。

それだけに「時代遅れの社会主義者」とみられていたコービン氏がトップに躍り出たことに、驚きは大きい。

右派には当然、危機感が強い。ブレア政権でメディア対策を取り仕切ったマンデルソン元民間企業相は、フィナンシャル・タイムズ紙上で「英労働党は最終章を迎えたのかもしれない」と悲観し、政権を取れない万年野党への転落を警告した。【8月29日 時事】 
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****英労働党、反緊縮に支持 党首選、最左派候補が人気 路線に逆行、重鎮反対****
・・・・「平等で民主的な社会を作っていきたい」とコービン氏が語ると、満場の聴衆が総立ちで拍手を送った。

党員のハンナ・クロフトさん(23)は「私たち若者や移民は、平等な社会がほしい。彼は画期的な社会の選択肢を示してくれた」と称賛した。(中略)

コービン氏は、労働組合出身。地方議員を経て1983年に下院議員に初当選した。身内の労働党政権下でも400回以上も造反したという「頑固さ」が売りの一方、政府や党の要職とは無縁だった。

訴えは80年代から変わらず、反緊縮や反戦、反核。自ら「コーベノミクス」と称する経済政策では、鉄道の再国有化や、高所得層への増税を掲げる。大学の学費を無料に戻すことや、核戦力の放棄も訴える。

コービン氏の主張が支持を広げる背景には、好調な経済の裏で、緊縮財政のしわ寄せが国民生活に及んでいることがありそうだ。

自治体予算の大幅削減で高齢者の福祉が減らされたり、若者が学費ローンを抱えて大学を卒業しても不安定な職しか見つからなかったりという実情がある。(中略)

ロンドン大学のティム・ベイル教授(政治学)は、「コービン氏の理想主義的な主張が、若者やニューレイバー路線に反発を覚える人々に希望を与えている」と分析した。【8月31日 朝日】
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“コービン氏の主張が支持を広げる背景には、好調な経済の裏で、緊縮財政のしわ寄せが国民生活に及んでいることがありそうだ”というのはわかりますが・・・。

不満を抱え、既成の政治から疎外されていると感じる国民は、ときに極端な主張、単純明快な主張に大きな期待を寄せがちです。

しかし、現実社会は白でも黒でもないグレーで、曖昧模糊として、あちらを立てればこちらが立たずというべきもので、その対応も必ずしも明快なものにはならないことが多いのですが。
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混乱が拡大する欧州難民問題

2015-08-30 23:24:16 | 難民・移民

(ハンガリーがセルビア国境に設置した有刺鉄線をくぐり抜ける女性 【8月30日 AFP】)

海でも陸でも増え続ける犠牲者
欧州を目指して押し寄せる中東・アフリカなどからの難民・不法移民、海でも陸でも増え続ける犠牲者、対応に苦慮する各国政府の話題が連日報じられています。

****<リビア沖地中海>密航船沈没 200人死亡の恐れ****
リビア西部ズワラ沖の地中海で27日、同国からイタリアを目指していたとみられる密航船が沈没した。

ロイター通信によると、リビアの沿岸警備当局が救助作業に当たっているが、密航者最大200人が死亡した恐れがあるという。

地中海では近年、中東やアフリカから欧州へ向かう密航が活発化しているが、仲介業者が利益を確保するために定員以上の密航者を乗せる例が多く、沈没事故が後を絶たない。

ロイターなどによると、沈没した密航船には、サハラ砂漠以南のアフリカ各国やシリア、パキスタン、モロッコなどの出身者ら約400人が乗っていたとみられる。

リビア当局は約200人を救助したが、ズワラの病院には既に100人の遺体が搬送された。【8月28日 毎日】
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****トラックから71遺体、シリア人か ハンガリーで4人拘束****
オーストリアの高速道路に乗り捨てられていたハンガリーのナンバープレートが付いたトラックの貨物室から移民の遺体が多数見つかった事件で、ハンガリーの警察当局は28日、4人の身柄を拘束したと発表した。
オーストリア警察当局によれば、収容された遺体は71体に上り、シリア人とみられるという。

ハンガリー当局は、拘束されたうちの3人はブルガリア人、1人はアフガニスタン人だとしている。

一方、オーストリア警察当局のハンス・ペーター・ドスコジル氏は、トラックの所有者と運転手2人を拘束したと発表。「ブルガリア人とハンガリー人で構成された人身売買組織の一員」とみられると述べた。

■シリア難民か、幼児も
ドスコジル氏は記者会見で、収容された遺体について「71人のうち男性が59人、女性が8人、子どもが1~2歳とみられる女児と8~10歳とみられる男児3人の計4人だった」と語った。

同氏によると「シリアの渡航文書が発見されたことから、遺体はシリア難民の可能性が高いとみている。アフリカ人ではなかった」という。死亡した時間や死因は現在調査中だが、窒息した可能性があるという。【8月28日 AFP】
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「地中海ルート」より安全とみられている「バルカンルート」ですが、“難民受け入れ態勢の整わないハンガリーなどで警察に拘束されるのを恐れ、闇業者に頼ることが少なくない”【8月29日 朝日】とも。

【「第2次大戦後最大の難民危機に直面している」バルカンルート各国
最近の傾向としては、危険度が高い地中海ルート(政情が混乱しているリビアなどからイタリアなどを目指す)より、バルカンルート(トルコから対岸のギリシャ領の島に渡り、ギリシャ本土からバルカン半島を北上する)が増加しています。バルカンルートにしても危険なことは上記記事のとおりですが。

****<難民移民>地中海渡り欧州入り・・・・今年早くも30万人超*****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官は28日、中東やアフリカなどから地中海を渡って欧州入りした難民・移民の数が今年1月からこれまでに30万人を超えたと発表した。昨年1年間の約21万9000人を既に大きく上回っている。

シリア、イラク、アフガニスタンなどを脱出した難民・移民のうち約20万人がギリシャに上陸し、約11万人がイタリアに到着した。

シリア近隣国が難民の受け入れを制限し始めていることから、遭難の危険を冒してでも欧州に向かう人が増えているという。

今年は既に推定約2500人が地中海を渡る途中に海難事故などで死亡・行方不明になっている。昨年は約3500人だった。(後略)【8月29日 毎日】
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最大の玄関口となっているギリシャで難民申請する人は少なく、多くの場合、臨時の短期滞在許可を与えられ、船でギリシャ本土に渡り、ドイツや北欧などの目的地へ向かいます。

こうした急増するバルカンルート難民への対応で、各国からは悲鳴のようなものもあがっています。

****財政難のギリシャに難民や移民流入続く****
・・・・トルコに近いコス島では、内戦が続くシリアからの難民を中心に島の人口の20%以上に当たるおよそ7000人の難民らが海岸にテントを張るなどして島にとどまっています。

このため「難民の島」というイメージから、この夏、島を訪れる観光客が減り、ホテルで宿泊客のキャンセルが相次いだり飲食店でも利用客が例年より大きく落ち込んだりと深刻な影響が出ています。

ギリシャ政府は、専用の船を出して、難民たちを首都アテネ郊外の港に順次、移送していますが、財政難から使える船は1隻だけで、難民が流入するペースに追いついていないのが現状です。(後略)【8月28日 NHK】
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・・・・マケドニアでは20日、南隣ギリシャからの越境増加を受け、非常事態を宣言して国境封鎖を図った。だが、警官隊と移民らが衝突するなどして越境は止められず、移民らをセルビア付近に向かわせる方針に転じた。

その結果、セルビアには先週末だけで約1万人が入国し、移民らはさらに北へと移動。国境沿いにフェンスを建設中のハンガリーは24〜25日、それぞれ2千人超の移民らを拘束したものの、多くが監視などをかいくぐり入国したもようだ。

国連難民高等弁務官事務所は、ギリシャからマケドニアに流入する移民らは1日最大3千人の規模で続くと予測。ハンガリーは国境地帯の警官増員やフェンスの損壊を犯罪とする法整備を検討し、ブルガリアもマケドニアとの国境地帯に軍を派遣する方針を示した。(後略)【8月26日 産経】
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【「シリアで私たちが経験したことに比べたら、大したことじゃありません」】
ハンガリーは越境を防ぐために高さ4メートルのフェンスを国境沿いに建設する作業を行っていますが、第1段階として有刺鉄線を設置する作業を完了しました。

しかし、“毎日のように、爆弾、暗殺、流血、死に直面していた”人々を止める効果は上がっていません。

****シリアでは死に直面・・・有刺鉄線など怖くない」 ハンガリーに入る難民たち****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は、大量の難民が国内に流入するのを防ぐ唯一の解決策はセルビアとの国境沿いに設置した有刺鉄線のフェンスだと豪語している。

しかし、AFPの取材で明らかになったのは、祖国の内戦や、地中海 を渡る危険な航海、数百キロの徒歩移動で無感覚になった人々を追い返したいなら、オルバン首相は、もっと厳しく当たる必要があるだろうということだった。

「私たちは、ハンガリー警察もフェンスも恐れていません」と、セルビア側からフェンスをよじ登り、安全な欧州連合(EU)圏内に向かっていたシリア人女性のナスリーンさん(29)はAFPに語った。

「シリアで私たちが経験したことに比べたら、大したことじゃありません」とナスリーンさんは言う。「シリアは破壊され、私たちは毎日のように、爆弾、暗殺、流血、死に直面していたのですから」

ハンガリー当局が手続きした移民の入国者は、26日だけで3000人という過去最多を記録し、そのうち、700人が子どもだった。

わずか数日前までの移民の1日当たりの平均入国者数は1000~1500人。今年上半期に手続きをした人数は1日当たり250~500人だったことを考えると、急増している。今年に入ってからすでに14万人以上の移民がハンガリーに入国した。

27日の朝、ハンガリー南部ロスケの近くでは、主にシリアとアフガニスタンからの難民の家族たちが有刺鉄線の下を這って進む姿がはっきりと見て取れた。男性が持ち上げた有刺鉄線の下をくぐる際に髪が引っ掛り泣き声を上げた女児が母親に助けられていた。その若い家族は一目散に近くの森に入って行った。

国境付近には、難民たちが持っていくことを諦めたベビーカーやリュックサック、毛布、衣服までもが散乱していた。

■ハンガリー滞在希望者はゼロ
ハンガリーはEU加盟国だが、AFPの取材に対して同国にとどまりたいと答えた難民は1人もいなかった。西ヨーロッパに行きたいのだという。

「私はドイツに行きたいんです。仕事のチャンスがあるから。医療が充実しているし、知り合いに会いに行きやすい」と、イラク人の男性教師、カシムさん(35)は語った。

カシムさんは、数か月前からずっと移動を続けている。エジプトでは仕事が見つからず、トルコでは敵意をあらわにされただけだったという。「それで、欧州行きを決意したんです」

国境を越えた移民は、ハンガリー警察にトウモロコシ畑そばの道路沿いの合流点まで連れていかれる。そこにはバスが何台も集まっている。北へと蛇行する次の短い行程の行先は、近くの難民センターだ。【8月29日 AFP】
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ハンガリーは今年、セルビアから入国した14万人余りを拘束していますが、拘束した難民らをその後どうしているのかよく知りません。

“首都ブダペストの鉄道駅が難民キャンプのような状態になりつつある。戦争や苦難を逃れてきた難民の家族たちが布などを敷いた上に座り込んでおり、乳児も含まれている。”【8月30日 AFP】

拘束後に解放された人々でしょうか?拘束を逃れた人々でしょうか?

【「EUが答えを出さない限り、問題が解決される幻想を抱いてはならない」】
難民急増に直面した各国は難民資格審査の事務処理が遅滞しており、通過ルート上のEU非加盟国マケドニア・セルビアなどはEUへの支援を求めています。

また、受け入れにについてもEUとしての統一的な対応ができていません。

****EU、移民問題で結束困難=バルカン各国悲鳴、支援要請****
中東から西欧を目指す移民が増え続ける中、移民の通過ルートに当たるバルカン半島のセルビア政府などが「負担に耐え切れない」と悲鳴を上げ、欧州連合(EU)に支援と対策を訴え始めた。

ドイツやフランスは理解を示すが、「それぞれの都合」を主張して譲らないEU加盟国もあり、結束は難しい。

AFP通信などによると、セルビアのダチッチ外相は27日、ウィーンでのバルカン諸国と一部EU加盟国との会合に際し「第2次大戦後最大の難民危機に直面している」と強調。移民が目指すのはあくまでEUであり「これはEUの問題。EUが行動計画を考えないといけない」と訴えた。

同じ会合でマケドニアのポポスキ外相も「EUが答えを出さない限り、問題が解決される幻想を抱いてはならない」とEUに強く対応を迫った。

シリアなどからの移民の多くはEU加盟国のギリシャに入った後、非加盟のマケドニアやセルビアを通り抜け西欧に向かう。マケドニアには1日平均で移民約3000人がギリシャから入国しているもようだ。

EUでは本来、移民の最初の到着国で保護申請処理を行うルールだ。英独仏は、これを盾にしてきた側面があるが、「盾」のギリシャは債務危機で移民にまで手が回らない。独仏両政府はEU主導の移民対応センターをギリシャなどに設置する案を検討中だ。

EUは6月の首脳会議で各加盟国への「移民の分担義務化」を断念した経緯がある。移民受け入れを嫌う東欧諸国の反対は根強い。

ポーランドのドゥダ大統領は、独紙ビルトに「われわれには(隣国の)ウクライナ問題という特殊事情がある」と訴えた。「戦闘が激化すれば、多くの難民がポーランドに来る」と指摘し、ウクライナ問題を理由に移民受け入れを拒む姿勢を示した。【8月28日 時事】
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二分されるドイツ世論
多くの難民らが目指すドイツでは、反発する動きも強まっており、難民受け入れ施設の襲撃事件が相次いでいます。
一方で、難民の受け入れを支援する動きもあり、世論を二分する形となっています。

****<ドイツ>難民急増「申請80万人」ネオナチ反発、先鋭化*****
中東・アフリカ地域を逃れ、ドイツで難民申請する人が急増している。独政府は今年の難民申請者が昨年比4倍の80万人に達すると予想。

収容施設がある東部ザクセン州ハイデナウでは今月下旬、難民受け入れに反対する極右ネオナチらが警官隊と衝突した。それでも欧州一の経済力を誇るドイツを目指す難民は増える一方で、ドイツでは国内の治安悪化や国民の負担増が懸念されている。(中略)

26日にハイデナウの施設を訪問したメルケル独首相は「他人の尊厳を疑問視する人間は断じて容赦しない」と外国人排斥思想を非難した。24日に現地入りしていたガブリエル副首相もデモに参加したネオナチを「ならず者」と異例の強い言葉で批判した。

だがネオナチのデモは続き、一方で難民の受け入れを支援する人たちの反ネオナチ・デモも起きた。小さな町は難民政策で二分されるドイツ世論を象徴する存在として注目されるようになり、メルケル氏は連邦警察の応援部隊を現地に派遣すると表明した。

独政府によると、ドイツを目指す難民の約70%がバルカン半島を陸路北上する「バルカンルート」を利用する。ギリシャ国境からマケドニアに入る難民の多くは「豊かで仕事もあるドイツに行く」と話しているという。

ドイツは憲法で難民申請の権利が認められているなど手厚い保護政策で有名だが、内戦が続くシリアやイラクからの難民申請者は本人確認が難しい。
マケドニアやセルビアなどは難民認定の前提となる政治迫害がないとされ、認定の事務手続きが長期化する要因になっている。

連邦議会(国会)の与党キリスト教社会同盟のシュトラウビンガー議員は毎日新聞の取材に「今後は難民政策が課題だ」と述べ、審査の厳格化や申請対象外の国の追加、申請が却下された人の即時国外退去など、強硬な政策の実現を目指す方針を示した。

だが、与党内でも強硬策への懸念は強く、9月上旬に再開される議会では難民問題を巡る激しい議論が交わされそうだ。

メルケル氏は難民資格審査の効率化などを早急に行う方針だが、ドイツ単独での対応では難民の流入は止められないのも事実だ。ドイツのガウク大統領は「欧州は今、困難な挑戦の時を迎えている」と述べ、欧州連合(EU)全体での包括的な対応が不可欠との認識を強調している。【8月29日 毎日】
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困難な状況のなかで、ドイツ政府はシリア難民の亡命申請を事実上簡略化することを明らかにしています。
このあたりは、最大の受入国としての「責任ある対応」のように思われます。

****独、シリア難民の受け入れ要件緩和 EUで初****
ドイツ政府は25日、シリア人による亡命申請の受け入れ要件を緩和したと発表した。欧州連合(EU)内に入ろうとする難民が殺到している南欧諸国の負担軽減につながることが期待される措置だ。

第2次世界大戦以降最大の難民危機に対するEUの対応に批判が集まる中、ドイツ政府は、シリア人の亡命希望者についてはEU内に最初に到着した国への送還を取りやめたと発表。

EU加盟国の中で、シリア内戦を逃れた人々の亡命申請を事実上簡略化したのはドイツが初めて。

欧州委員会のナターシャ・ベルト報道官は、ドイツの措置は「対外国境に面した加盟国だけに欧州を目指す多数の亡命希望者の対応を任せておくわけにはいかないという事実の認識」を示すものだとしている。【8月26日 AFP】
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日本では、“スリランカ国籍の男性が、難民の認定を求めた裁判で勝訴したにもかかわらず、その後も法務省から認定されないのは不当だとして、再び難民の認定を求める、異例の裁判を起こすことになりました。・・・・去年、申請を行った外国人は過去最多の5000人に上りました。このうち難民と認定された人は11人で、申請者全体の0.2%でした”【8月23日 NHK】とのこと。

もちろん、各国の置かれた状況は異なりますし、個々のケースにおける事情もあります。
単純な比較はできませんが、難民に向き合う姿勢というか、覚悟の度合いには差があるようにも見えます。

まずはシリアを・・・
難民・不法移民増加の原因は戦乱と貧困です。
ここをなんとかしない限り、たとえ「フェンス」で流入を止めたとしても、それは戦乱と貧困の場に追い返したというだけの話であり、問題の解決にはなりませんし、誇るべき話でもありません。

戦乱と貧困も容易に改善できる問題ではありませんが、短期的な視点で言えば、まだ戦乱の方が打つ手はあるでしょう。戦乱がおさまれば、やがて経済状態も回復します。

そういう話でいけば、まずはシリアです。

****シリア、内戦で人口の約20%が国外脱出****
4年半にわたる内戦が続いているシリアで、全人口の約半数が家を離れ、国外に脱出した人は内戦前の人口の20%近くに迫っている。

内戦勃発時の人口が約2300万人だった同国では、少なくとも760万人が国内で避難し、400万人以上が難民化したという。(後略)【8月29日 AFP】
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アサド大統領をどうする云々ではなく、とにかく戦いを止めることをIS以外の各勢力に強制する方向で関係国が働きかければ改善の余地があります。
ただ、和平・停戦を望まない国・勢力があり、シリア国民の苦境より関係国の国益が優先されるのが現実であるとすれば・・・救いがありません。
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インド・パキスタン関係 “改善の兆しが見えるとテロなどこれに反対する動きが活発化”

2015-08-29 22:24:10 | 南アジア(インド)

(インド・パキスタン両国の砲撃の応酬から身を隠す住民 https://www.youtube.com/watch?v=wp4WamQsy0w )

朝鮮半島南北関係は「南北対話に弾みがつく可能性」も
つい先日「準戦時状態」とか「軍事境界線に隣接する住民ら1万5000人に避難命令」とかで極度に緊張が高まった朝鮮半島の南北関係は、一転して「南北対話に弾みがつく可能性」も取りざたされるようになっています。

****金正恩氏「和解と信頼の転機に」 南北合意に初めて言及****
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記が25日に発表された南北の共同報道文について、「北南関係を和解と信頼の道に戻した重大な転換的契機になった」と述べた。

朝鮮中央通信が28日、朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議での発言として報じた。報道文をめぐり、金正恩氏の評価が伝えられるのは初めて。

共同報道文では、南北関係を改善するための当局者会談の早期開催や、朝鮮戦争で生き別れた離散家族の再会、民間交流の活性化などが盛り込まれた。

朝鮮中央通信によると、金正恩氏は「今回の合意を大切にし、豊かな結実に育てていかなければならない」と前向きに対応する考えを示した。

一方で、合意の背景には「自衛的核抑止力」をはじめとする強力な軍事力があったとも指摘。今後も「国家防衛のための軍事力強化に最優先の力を注ぐべきだ」と強調した。

韓国統一省報道官は28日の記者会見で、離散家族の再会事業をめぐり、韓国赤十字社が北朝鮮の赤十字側に9月7日に実務協議を行うことを提案したことを明らかにした。【8月28日 朝日】
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金正恩第1書記にしてみれば、北側が「遺憾表明」で譲歩したともとられる一連の経緯を正当化する思惑もあるのかもしれませんが、もし「南北対話」につなげることができれば、金正恩第1書記は世間で揶揄されるほど狂気の人物ではないのかもしれません。

印パの安全保障部門協議は中止
朝鮮半島の南北関係や中台関係と並んで、アジアの不安定で危険を孕んだ関係がカシミール地方の帰属をめぐる核保有国インド・パキスタンの対立です。

****カシミールめぐりインドとパキスタンは3度の戦争****
カシミール地方は、インド北部からパキスタン北東部にかけての山岳地域。イギリス領時代は従属下で一定の支配権を認められる藩王国だった。

住民の約5分の3がムスリム(イスラム教徒)だったが藩王がヒンドゥー教徒で、1947年8月のインド・パキスタンのイギリス領からの分離独立時に帰属が決まらず宙に浮いた。

独立から2カ月後、イスラム教徒による暴動が発生。藩王はインドへの帰属を表明し、暴動の鎮圧にインド軍派兵を要請。ムスリム国家のパキスタンはこれを認めず、第1次印パ戦争が勃発した。


1949年に国連の調停で停戦ラインが設けられ、両国に中国を加えた3カ国が実効支配地域を分け合うことに。

1965年9月の第二次印パ戦争を経て、1971年12月には第三次印パ戦争が発生し、カシミール地方は戦場になった。1999年には再び印パ間の衝突(カルギル紛争)も発生した。

インド側カシミールでは1989年以降、イスラム過激派がテロ活動を中心とする運動を展開し、2010年までに約5万人が犠牲になっているとされる。

1990年代後半からは、「ラシュカル・エ・タイバ」(LeT)などの過激派が参加。LeTはパキスタンのCIAと称されるISI(三軍統合情報局)が背後で糸を引いているとも、タリバンやアルカイダと関係するともいわれ、2008年11月には、約170名が殺害されたムンバイ・テロ事件を起こすなどしている。

インド政府は、ムンバイ・テロ事件などに対するISIなどの関与を指摘しているが、パキスタン政府はこれを否定。カシミール問題は、核問題とともに両国関係の改善を妨げる大きな要因となっている。

現職のインドのモディ首相とパキスタンのシャリフ首相は、カシミール紛争の終結に道筋を付けて経済交流を進めたい意向を持っているとされる。

しかし、両国の関係に改善の兆しが見えるとテロなどこれに反対する動きが活発化するという堂々巡りがこれまで繰り返されてきてきた。一筋縄ではいかないようだ。【8月25日 中野渉氏 The Huffington Post】
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インドのモディ首相とパキスタンのシャリフ首相は7月の会談で、安全保障部門の協議などで合意していましたが、“両国の関係に改善の兆しが見えるとテロなどこれに反対する動きが活発化”。

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カシミール地方では7月27日、インド北部のパキスタン国境に近いパンジャブ州グルダスプールで、3人からなる武装グループが警察署などを襲撃、警官と市民計8人が殺害されるテロが起きた。

8月15日には、インド・パキスタン双方から銃撃や砲撃があり、インドからの報道などによると、少なくとも市民4人が死亡、約20人が負傷。
インドは、同国内でのテロ攻撃にパキスタン軍の関与を指摘、一方のパキスタン側はこれを否定している。【同上】
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こうしたテロやインドのカシミール分離独立派を巡る対立もあって、安全保障部門の協議は中止に追い込まれています。

****印パ、安保責任者の会談を中止 カシミール地方巡る対立で****
インドのアジット・ドバル国家安全保障担当補佐官とパキスタンのサルタージ・アジズ国家安全保障・外務担当首相顧問が23日、ニューデリーで予定していた会談が、直前になって中止された。

両氏の会談は先月、インドのモディ首相とパキスタンのシャリフ首相がロシアで会談した際に発表。同日から2日間の日程で計画されていた。

アジズ氏はニューデリー訪問を機に、インドのカシミール分離独立派指導者とも会談する予定だったが、インド側がこれに強く反発した。

インドは両氏の会談の議題について、テロ対策に限定するべきだと主張。同国のスワラジ外相は22日の記者会見で、アジズ氏が会談前に分離独立派と会うことになれば「会談はなくなる」と警告していた。

パキスタンはこれに対し、インドが会談に「前提条件」を設けていると反発を示した。
外務省は声明で「インドとの対話の主な目的は、国交正常化に向けた緊張の緩和と信頼の回復だ」「会談の目的をテロ対策に限定すれば、非難合戦が激化するばかりだ」と主張した。

印パ両国はカシミール地方の領有権をめぐって長年対立してきた。最近も同地方で銃撃戦が続発し、双方が責任を追及し合っている。

インドはさらに、同国内でのテロ攻撃にパキスタン軍が関与しているとの批判を強めているが、パキスタン側はこれを否定している。【8月24日 CNN】
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28日にも両国はカシミールで衝突、9人が死亡しています。

****印パ、カシミール地方で砲撃や銃撃戦 9人死亡、負傷者多数****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で28日、両国軍の間で砲撃や銃撃戦が発生し、民間人9人が死亡、数十人が負傷した。両国とも相手が最初に攻撃したと非難している。

パキスタン軍は声明で、国内で6人が死亡、46人が負傷したとの被害を発表。インド軍は、自国の死者は3人、負傷者は8人としている。ただ、両国とも兵士の死者はいないとしている。

パキスタン側はパンジャブ州シアルコット市近くの村落が交戦の被害を受けたと指摘。インド側はジャム・カシミール州に着弾被害が出たと主張した。(後略)【8月29日 CNN】
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互いの国是・国家理念にかかわる問題ではあるものの・・・・
イスラム教徒の国として建国したパキスタンにすれば、イスラム教徒が多いカシミールは自国に属すべき地域ですが、多宗教国家を国是とするインドにすれば、宗教的理由による分離は国の基本理念を否定するものになります。
カシミール帰属問題は、印パ双方とも互いの国家理念から一歩も引けない問題でもあります。

そのため、これまで3回の戦争を含め、絶えず緊張と緩和を繰り返しています。
(2013年8月7日ブログ「印パの緊張がたかまるカシミール」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130807など)

ヒンズー至上主義の側面もあるインド・モディ首相ですが、経済発展を重視する点ではパキスタン・シャリフ首相と利害が一致します。

しかし、特にパキスタン側では軍や軍情報機関ISIはインドとの対話に批判的で、 更に、インドを敵視するイスラム過激派も強い勢力を持っています。

そうしたことから、“両国の関係に改善の兆しが見えるとテロなどこれに反対する動きが活発化”という話にもなり、テロなどが起きるとインド側の国民感情も一気に悪化します。

部外者からすれば、「いつまで同じようなことを繰り返すのか・・・?」とも思えますが、当事国がそこから抜け出すのはなかなか難しいようです。

一方、インドとバングラデシュは独立以来の懸案事項であった「飛び地」を交換することで、国境を安定化させています。

****インドとバングラデシュが領土交換 162カ所の飛び地****
英領からの独立以来、インドとバングラデシュの国境地帯に残っていた162カ所の飛び地を整理・解消する領土交換が1日午前0時、両国の間で発効した。

母国から隔絶されてきた5万人以上の住民は、それぞれ新たな国籍を選択。村々で喜びの声を上げた。

タイムズ・オブ・インディア紙などによると、これまでバングラデシュに囲まれたインド領の飛び地111カ所に約3万7千人が居住。このうち約千人がインド国籍を希望して移住を選択した。

インドに囲まれたバングラデシュ領51カ所に住む1万4千人は全員がインド国籍への移籍を希望している。【8月1日 朝日】
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ギリシャ  辞任・総選挙に打って出たチプラス首相の賭けは?

2015-08-28 23:18:54 | 欧州情勢

(8月20日、辞意を表明しオフィスを出るチプラス首相(ロイター/アフロ)【8月23日 東洋経済online】)

当面の財政破綻を回避したものの、「独力では持続不可能」(ラガルドIMF専務理事)】
ギリシャ財政危機については、これまで緊縮策に抵抗してきたギリシャ・チプラス首相が一転して年金改革や課税の強化、銀行の不良債権処理、国有施設の民営化、エネルギー市場の規制緩和などを柱とする財政改革案を認めたことを受けて、EU側も14日のユーロ圏財務相会合で、ギリシャへの最大860億ユーロ(約11兆8700億円)に上る3年間の金融支援について正式合意、とにもかくにも現時点でのギリシャ財政破たんは回避されました。

最近では、押し寄せる移民という欧州の抱えるもうひとつの難題の影に隠れた形にもなっていますが、ギリシャ財政危機の将来を不安視する見方も根強くあります。

****財政破綻遠のいたが・・・・重すぎる借金、将来に不安****
欧州連合(EU)内で単一通貨ユーロを導入している19か国は14日、財務相会合を開き、ギリシャに最大860億ユーロ(約11・9兆円)の金融支援を行うことを正式に決めた。

期間は3年。これにより、ギリシャの財政が早期に破綻する懸念は遠のいたが、重すぎる借金を背負うことで、将来に不安が残る形となった。

2012年から稼働を始めたユーロ圏の救済基金「欧州安定メカニズム(ESM)」を通じて融資する。EUによるギリシャへの金融支援は、10年と12年に続き、3度目となる。

これまでEUと足並みをそろえる形でギリシャを支援してきた国際通貨基金(IMF)は、追加支援に条件を付けた。
IMFは、今回の3次支援を受ける前の時点で、政府債務が国内総生産(GDP)の177%に達しているギリシャの財政状況について、「独力では持続不可能」(ラガルド専務理事)とし、いつかは破綻すると見なしている。【8月16日 読売】
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IMFの対応については、“ドイツなどはIMFに支援額の一部拠出を求めているが、IMFは、ユーロ圏各国がギリシャの債務負担を軽減しなければ、融資には応じない考えだ。このため、ユーロ圏各国は10月に、返済期限の延長などの負担軽減の具体策を協議する予定だ。”【8月20日 朝日】とのことです。

EUを主導する立場のドイツには、チプラス首相の改革実行力への不信感から、ギリシャ支援への抵抗が根強くあります。

ドイツ連邦議会は19日、ギリシャに対する最大860億ユーロの新たな金融支援について審議し、賛成多数で可決しましたが、“ギリシャとの支援交渉再開の是非を巡る先月17日の独議会では、メルケル首相の所属会派から60人が反対票を投じた。さらなる造反への警戒感を強める同会派のカウダー院内総務は、主要委員会人事から造反議員を外す方針を示すなど、強硬姿勢で引き締めを図っていた。”【8月19日 毎日】という状況です。

ギリシャが今後ともやっていけるかどうかは、負担軽減が認められるかどうかにかかっていますが、ギリシャ支援反対派を多く抱えるなかで、ドイツがギリシャの負担軽減をどこまで認められるかは不透明です。

チプラス首相 辞任・総選挙で安定政権樹立を目指す
一方、ギリシャ・チプラス政権も、緊縮策を容認したことへ与党内から強い反対が出ました。
ギリシャの国会(定数300)は14日、EU側からの金融支援の条件である財政改革の法案を採決し、賛成多数で可決しましたが、反緊縮を公約としてきた最大与党・急進左翼進歩連合(SYRIZA・149議席)は32人が反対、11人が白票を投じて造反しました。

チプラス首相は採決に先立つ演説で「妥協を選んだことを後悔してはいない」と述べ、ギリシャが生き残るためにはやむを得ない選択だったとして、議員らに理解を求めています。

財政破綻をなんとか回避できたことを受けて、チプラス首相は辞表を提出し、国会を解散して総選挙の前倒し実施に踏み切るという「賭け」に出ています。

“EUのユーロ圏との金融支援合意に反対した与党内強硬派を追放し、再選を果たして改革断行に向けて政権基盤を強化するのがチプラス氏の狙い。だが、政局が流動化すれば、金融支援の条件である財政緊縮策の履行の停滞を招く恐れもある。”【8月21日 毎日】

****造反者一掃を狙う強気ツィプラスの辞任****
債権者のEUに強気で盾突いてきたギリシヤのツィプラス首相が先週辞任を表明し、早期の総選挙を要請した。だが今回の狙いは、「身内」の敵と一戦交えることにあるらしい。

ここ数日、ギリシヤ議会はツィプラス率いる急進左派連合(SYRIZA)内の大規模な造反で紛糾してきた。

ユーロ圈諸国は8月半ば、ギリシャヘの最大860億劈の支援策を決定した。その条件である財政改革法案は可決したものの、与党内でも特に強硬な反緊縮派40人以上が造反。法案は政党の理念に対する裏切りだと主張している。

総選挙は早ければ9月20日に実施。ツィプラスはいまだ高い人気を保っており、再選される可能性が大きい。与党内の反対派を一掃し、政権基盤を立て直して再出発する狙いのようだ。

ツィプラスは辞任表明後のテレビ演説で、EUとの妥協について「現状では最善のものだ」と訴え、国民の理解を求めた

それでも与党分裂で政局が流動化する恐れもある。今度の強気の賭けは、ギリシヤにさらなる混乱を呼ぶかもしれない。【9月1日号 Newsweek日本版】
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造反組議員も与党を離党して新党を結成して、総選挙で民意を問う構えです。

****<ギリシャ>強硬派が新党 元急進左派、首相らと決別****
ギリシャの与党・急進左派連合を離党した強硬派が21日、アテネで新党「民衆統一」の結成記者会見を開いた。与党はチプラス首相率いる主流派と、強硬派の新党に分裂して総選挙に臨むことになった。

新党党首のラファザニス前エネルギー相は記者会見で、財政緊縮策の履行を条件にチプラス氏が欧州連合(EU)のユーロ圏と結んだ金融支援合意の撤廃と債務削減を主張し、「必要であればユーロ圏から離脱する」と語った。

7月5日の国民投票で6割強が緊縮策の受け入れを拒否したことから、新党議員の一人は「緊縮策にノーを突きつけた人々に発言権を与えたい。(チプラス氏に)裏切られたと感じている人々の支持を得ている」と述べた。

新党には当初、強硬派議員25人が参集した。だが、現地からの情報によると、新たに4人が加わり、計29人になる見通し。

一方、チプラス氏は21日、急進左派連合の会合で「現実から逃避し、仮想現実を作り出そうとしている」と述べ、ユーロ圏離脱と旧通貨ドラクマの復活を説く強硬派の動きを批判した。

ギリシャのメディアによると、チプラス氏は総選挙を9月20日に実施するようパブロプロス大統領に提案していたが、手続きに時間がかかるため、同月27日になる可能性もあるという。【8月22日 毎日】
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パブロプロス大統領は27日、チプラス首相の辞任表明を受け、サヌ最高裁長官(女性)を暫定首相に任命し、各党は選挙戦へ突入しています。

チプラス首相の目論見どおり、強硬派を一掃して安定した政権基盤が得られるかどうかは不透明な状況です。

****<ギリシャ>総選挙へ各党の運動が本格的に 暫定政権が発足****
 ◇焦点は改革履行へ安定政権樹立の可否
財政危機下のギリシャで28日、来月20日に実施される見通しの議会(定数300)総選挙まで国政を担当する暫定政権が発足し、各党の選挙運動が本格的に始まった。

緊縮策に反対する与党内強硬派の造反を受けて今月20日に辞任したチプラス前首相(41)が求心力を回復し、欧州連合(EU)のユーロ圏が求める改革履行のための安定政権を樹立できるかどうかが焦点だ。

チプラス氏の辞任後、議会第2、第3党による連立工作が不調に終わったため、バシリキ・サヌ最高裁長官が27日、パブロプロス大統領の指名を受け、暫定首相に就任した。ギリシャメディアによると、来月20日の投開票が有力視されている。

選挙は、緊縮策の受け入れと引き換えにユーロ圏から新規金融支援を取り付けたチプラス氏に対する事実上の信任投票。チプラス氏は地元テレビのインタビューで、親EU派の主要野党とは連立を組まない考えを示しており、与党・急進左派連合がどこまで単独過半数に肉薄できるかが注目されている。

28日付地元紙が掲載した世論調査によると、急進左派連合の支持率が23%で首位だが、中道右派の野党・新民主主義党(19.5%)の急追を受けている。7月時点では両党の差は10ポイント以上開いていた。

連立与党の保守政党・独立ギリシャ人は2%で低迷。野党からは「チプラス氏が政権を樹立できず、11月か12月の再選挙となる可能性もある」と懸念する声が漏れている。

暫定ながらギリシャ初の女性首相となったサヌ氏は1950年生まれ。財政緊縮策に強く反対してきたことで知られている。27日、チプラス氏から事務の引き継ぎを受けたサヌ氏は「暫定政権の主な任務は公正で円滑な選挙の実施だが、移民問題などの緊急課題にも取り組まざるを得ないと思う」と述べた。【8月28日 毎日】
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EU側は、“チプラス首相率いる急進左派連合の主流派が強化されても、野党の新民主党が返り咲いても、いずれの場合も改革は実行されることになり、現状よりかえって障害がなくなる”【8月21日 毎日】との考えで、より幅広い政治的支持が得られる可能性があるとして事態を静観する構えです。

緊縮策をあくまでも拒否する強硬派による新党が、どれほどの支持を得られるか注目されます。
新党が伸びれば、その分与党・急進左派連合が沈みます。

チプラス首相の与党が安定多数を得られず、連立協議の混乱などで選挙後の新政権発足が遅れるような事態となれば、金融支援策の履行にも支障が出てきます。

****ギリシャ、総選挙で安定政権はできるのか チプラス首相は辞任し賭けに出たが・・・****
・・・20日に総額860億ユーロの第三次支援の初回融資130億ユーロがギリシャ政府の手に渡り、ギリシャは同日 に償還期日を迎えたECBが保有する32億ユーロの国債償還を履行した。

これにより9月のIMF向けの 15億ユーロの融資返済、10月のEU向けの72億ユーロのつなぎ融資返済など向こう数カ月の財政資金の不足分を賄うことが可能となった。

ただ、9月20日に予定される総選挙とその後の政権発足までは(連立交渉次第で10月中旬にずれ込むことも考えられる)、政策協議が中断する可能性がある。

ギリシャ政府は第三次支援の再開時に、10月までに年金改革と民営化計画の具体策をまとめることを約束しているが、両者は何れもギリシャ国内で反発の大きい分野で、検討が遅れる恐れがある。

また、IMFの救済参加の鍵を握るギリシャの債務負担軽減協議は初回融資のレビューが終了する10月頃に開始されるとみられ、 政局の行方と相俟って政策協議への影響も懸念されよう。【8月23日 東洋経済online】
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難民問題への取組を必要とされる暫定政権
また、前出のサヌ暫定首相発言にもあるように、難民の玄関口となっているギリシャは、選挙期間中も難民・不法移民の問題に取り組む必要があり、単なる「選挙管理内閣」ではすまされない情勢にあります。

“国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ギリシャにたどり着いた難民申請希望者は7月の1カ月で5万人を超え、昨年1年間の総数4万3500人を上回った。ギリシャで難民申請する人は少なく、多くの場合、臨時の短期滞在許可を与えられ、船でギリシャ本土に渡り、ドイツや北欧などの目的地へ向かう。”【8月27日 朝日】

難民申請を求める人々の流入は財政難に陥った自治体の負担が増すだけでなく、主要産業である観光業に打撃を与えかねません。

****財政難のギリシャに難民や移民流入続く****
エーゲ海に浮かぶギリシャの島々では、内戦が続くシリアなど中東からの難民や移民の流入が続き、財政難のギリシャにとって頼みの綱となっている観光業に深刻な影響が出ています。

ヨーロッパに次々と押し寄せている中東やアフリカからの難民や移民は、60%以上がギリシャから、ヨーロッパに入っています。

このうちトルコに近いコス島では、内戦が続くシリアからの難民を中心に島の人口の20%以上に当たるおよそ7000人の難民らが海岸にテントを張るなどして島にとどまっています。

このため「難民の島」というイメージから、この夏、島を訪れる観光客が減り、ホテルで宿泊客のキャンセルが相次いだり飲食店でも利用客が例年より大きく落ち込んだりと深刻な影響が出ています。

ギリシャ政府は、専用の船を出して、難民たちを首都アテネ郊外の港に順次、移送していますが、財政難から使える船は1隻だけで、難民が流入するペースに追いついていないのが現状です。

島のホテル組合の代表は「業界全体で数百万ユーロの損失が出ている。難民を乗せる船を増やしてほしい」と訴えていますが、政府から具体的な解決策は示されていません。

リゾートの島々に殺到する難民や移民は、財政難のギリシャにとって頼みの綱となっている観光業に打撃を与える事態になっています。【8月28日 NHK】
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また、難民問題は選挙戦の行方にも影響します。

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・・・難民問題は、ナショナリズムをあおる極右政党・黄金の夜明けにとっては追い風だ。同党議員らは今月、コス島を訪問し、「観光の島が見る影もない。できる限りのことをする」と島民らに約束した。

今年1月の総選挙で第3党に躍進した勢いが、9月に予定される総選挙でも再現される可能性がある。

チプラス首相は「ギリシャ国民が難民の存在を問題だととらえれば、黄金の夜明けが勢いづく」と警戒感をあらわにした。(後略)【8月27日 朝日】
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南スーダン  和平協定署名 8回目の停戦? 先行きは不透明 安全保障関連法案と日本のPKO

2015-08-27 22:13:55 | アフリカ

(写真は【8月27日 AFP】 和平協定の先行きもさることながら、写真の美しい女性は何者だろうか?・・・とつまらないことが気になったりします。)

【「独立後は希望にあふれていたが、もう過去のことだ」】
2011年7月に希望に燃えて独立をはたしたにもかかわらず、民族対立を背景にした大統領派(政府軍)と元副大統領派の内戦状態が続く南スーダンについては、6月30日ブログ「南スーダン 止まない内戦状態 少女たちをレイプした上、生きたまま火をつけて殺害・・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150630)で、表題にもあるような悲惨な事例などを取り上げました。

その後も、悲惨な出来事が報じられています。

****南スーダン兵、「戦車で市民ひき殺す」 人権団体報告****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は22日、内戦状態が19か月続いている南スーダンで、政府軍の兵士らが市民を戦車でひき殺し、公衆の面前で集団レイプを行い、人々を生きたまま焼き殺しているとする報告書を発表した。

HRWは報告書で、南スーダン政府軍の衝撃的な残虐行為を列挙し、戦争犯罪にあたる「民間人に対する意図的な攻撃」が行われていると非難。民間人への攻撃は、政府軍と政府軍側につくヌエル人の一氏族「ブル・ヌエル」の戦闘員が行っていると述べた。

HRWは戦地と化している北部ユニティ州で被害者や目撃者ら174人を対象に行った聞き取り調査の結果として、「子どもや高齢者を含む一般市民の男女が、首つりや銃撃、火あぶり」などによって殺害されていると報告。

ある女性は「(政府軍は)人々を戦車で追いかけ、戦車でひいた後、確実に殺すために引き返してもう一度ひいた」と証言し、別の被害者は、政府軍兵士が村から住民を追い出すために、見せしめとして男性と15歳の少年の性器を切断している場面を目撃したと話したという。

報告書では63件のレイプが報告されているが、HRWは、これは「ほんの一部」に過ぎないだろうと述べ、「事件の中には残忍な集団レイプや、公衆の面前でのレイプ、殺すと脅した上でのレイプなどが含まれている」と報告した。

被害者の一人は、男に後頭部に銃を突き付けられ、「おまえの娘をレイプする様子を見ろ」と脅され、娘が目の前で強姦される様子を見せつけられた。事が終わると男は、次に年上の娘を強姦したという。【7月22日 AFP】
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戦場の狂気と言えばそれまでですが、「人間性」の存在に疑問を抱かせるような残虐さです。

2013年12月から1年半以上続く内戦状態により、国内避難民・難民の数は225万人以上になったと推計されています。

****<南スーダン>独立4年 内戦状態で難民225万人超****
アフリカ東部の南スーダンは9日、独立から4年を迎えた。2013年12月以降、事実上の内戦状態が1年半以上も続いており、事態収拾のめどは立っていない。困窮する国民は放置されたまま、政府と反乱軍の対立は深まっている。

「キール大統領が人々への権力移譲を拒むなら、市民が蜂起し、政権を転覆するのは当然のことだ」。ロイター通信によると、反乱軍を率いるマシャール前副大統領は8日、隣国ケニアの首都ナイロビで発表した声明でこう述べ、政権への対抗意識を鮮明にした。

キール氏の任期が同日で切れるのに先立ち、南スーダン議会はキール氏の任期の3年延長を承認、マシャール氏はこれに異議を唱えた形だ。今後、政府軍と反乱軍の戦闘が活発化する可能性もある。

南スーダンは住民投票を経て、11年7月9日にスーダンから分離独立した。キール氏が13年7月、マシャール氏の副大統領職を解任して対立が深まり、同年12月14日に両者の話し合いが最終決裂。翌15日に首都ジュバで政府軍とマシャール氏を支持する反乱軍との戦闘が勃発した。

権力闘争はやがて、キール氏の出身民族ディンカ人とマシャール氏のヌエル人との民族対立に転化され、各地に戦闘が拡大、国連難民高等弁務官事務所によると、避難民・難民の数は225万人以上になったと推計される。

政府と反乱軍は周辺国の仲介で和平交渉を行い、これまでに複数回停戦に合意しているが、毎回直後に新たな戦闘が発生し、一向に戦闘は収束しない。

この間、市民生活は窮乏し、人口の4割に当たる約460万人が食料不足に陥る危険性も指摘されている。【7月10日 毎日】
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国民は、困窮するままに放置されるだけでなく、先述のような残虐な行為にも直面しています。

内戦の混乱によって、子どもたちは通学できないだけでなく、学校が武装勢力に占拠されたり、子どもが兵士として徴集されたりしています。

****初等教育、紛争で崩壊 南スーダン*****
・・・内戦状態の中で、児童80万人の所在が一時わからなくなった。40万人を避難民キャンプなどで発見したが、残り40万人は不明のままだという。大臣は「追跡できないのだ」とため息をついた。武装勢力に占拠された学校については「あきらめた」と話した。

国連開発計画(UNDP)南スーダン事務所の現地職員ダニエル・リアク・キルさんは「独立後は希望にあふれていたが、もう過去のことだ」と嘆いた。【7月8日 朝日】
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教育を受けず、戦うことしか知らない環境で育った子供は、やがて戦場の狂気に身を投じることにもなります。

和平協定署名 ただし、和平が実現するかどうかには疑問も
こうした事態に、南スーダン独立を支援したアメリカのオバマ大統領は、和平に向けた政府軍・反政府軍双方への圧力を強めていました。

****オバマ氏「南スーダンの状況は悪化****
アフリカを訪れているオバマ米大統領は(7月)27日、2番目の訪問国エチオピアの首都アディスアベバでハイレマリアム首相と会談した。

会談後の会見でオバマ氏は、事実上の内戦が続く隣国の南スーダンについて「状況が悪化している」と懸念を表明し、紛争当事者と周辺国などによる解決を強く促した。

オバマ氏と周辺国の指導者らは会談後、アディスアベバで南スーダン問題を協議した。

オバマ氏は会見で、8月中旬までに和平が実現しない場合、南スーダン政府と反乱軍双方に対し、制裁強化などの圧力を加える意向を示唆した。(後略)【7月27日 毎日】
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そうしたアメリカの圧力もあって、とにもかくにも和平協定が成立しました。
しかし、これまでも7回の停戦合意が交わされたがましたが、いずれも数日で崩壊していることから、今後和平が実現されるかどうかを危ぶむ向きも少なくありません。

****南スーダン内戦、大統領が和平協定に「条件付き」署名****
20か月にわたり内戦状態にある南スーダンのサルバ・キール大統領は26日、リヤク・マシャール前副大統領率いる反乱軍との和平協定に署名した。ただ、キール大統領は首都ジュバで行われた署名式典に際して複数の「条件」を挙げており、和平が実現するかどうかには疑問が残る。

マシャール氏は既に署名を終えており、国際連合がキール大統領に対し署名を拒むならが制裁も辞さないと警告していた。

2011年にスーダンから分離独立し世界で最も若い国家となった南スーダンでは、13年7月にキール大統領がマシャール氏を副大統領職から解任。同年12月にマシャール氏がクーデターを企てたとキール大統領が非難したことから、激しい内戦に発展した。これまで7回の停戦合意が交わされたが、いずれも数日で崩壊している。

今回の和平協定では反乱軍側に第1副大統領の座を約束しており、マシャール氏が復職するとみられている。

ただし政府側は、和平協定の維持を担う監視委員会を設立する条項と、反乱軍の権限拡大につながりかねない首都ジュバの非武装化に関する条項について、懸念を表明している。【8月27日 AFP】
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何回かの停戦合意と破綻はこれまでも報じられていますが、今回が8回目にあたるというのは驚きです。
これが最後になることを期待します。

日本のPKO ハイリスクな治安維持活動は安全保障関連法案成立でも実施せず
南スーダンの戦闘が収まるかどうかは、この地のPKOに自衛隊を派遣している日本にも関係してきます。
日本は、2011年から司令部要員、2012年から道路整備などを行う施設部隊を派遣していますが、活動は延長継続されています。

****南スーダンPKO、自衛隊派遣6カ月延長****
政府は(8月)7日の閣議で、今月末に派遣期限を迎える南スーダンの国連平和維持活動(PKO)を、来年2月末まで6カ月間延長することを決めた。

国連安全保障理事会が南スーダン派遣団(UNMISS)の活動期間を11月末まで延長したことに伴い判断した。

中谷元(げん)防衛相は記者会見で「今後も積極的平和主義のもと、国際社会と協力しながら活動を継続していく」と述べた。【8月7日 産経ニュース】
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単に、これまでどおりの活動が継続されるだけではなく、国内で議論を呼んでいる安全保障関連法案が成立した場合、宿営地を他国軍と共同で防衛することや、外国部隊らを救援する「駆けつけ警護」も可能とするように内容を変更する方向で検討されています。

****自衛隊、他国軍と宿営地防衛 南スーダンPKOで政府検討****
政府は自衛隊を派遣している南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)で、首都ジュバにある宿営地を他国軍と共同で防衛する検討に入った。

参院で審議中の安全保障関連法案に盛りこんだ新たな任務で、法案が成立すれば来年春にも開始する。同じく法案成立で可能になる治安維持任務については、隊員の安全を確保できないとみて見送る。

自衛隊は2012年から南スーダンPKOに参加し、現在は約350人が幹線道路の整備や避難民への医療支援にあたっている。

宿営地は国連が管理するジュバのトンピン地区にあり、インド、ネパール、バングラデシュ、ルワンダの各国軍もそれぞれ拠点を置く。

現行のPKO協力法では、自衛隊が防衛できるのは自らの拠点がある区域だけ。安保関連法案に含まれる同法改正案は、同じ宿営地内なら他国軍の区域も守れるようにする。
成立後、自衛隊はインド軍などと協力して宿営地全体を共同で防衛することを視野に入れる。

改正案は離れた場所で武装集団に襲われた外国部隊らを救援する「駆けつけ警護」や、住民の保護など治安維持といった任務も認めている。防衛省は南スーダンでの駆けつけ警護の実施を検討しており、派遣部隊の訓練などを経て来春にも始める見通しだ。

治安維持は隊員のリスクが高いとみて実施しない。南スーダンは大統領派と前副大統領の衝突が続いており、ジュバがある南部の治安は比較的安定しているが、中北部の治安は悪いとされる。【8月16日 日経電子版】
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他国軍との宿営地防衛や駆けつけ警護は自衛隊員の安全・生命を守るための活動になりますが、「ルワンダ大虐殺」やボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での「スレブレニツァの虐殺」などを経験して、国連PKOにも住民保護・治安維持活動への積極関与が求められています。

当然、隊員の生命は保証できないハイリスクな活動になります。

“現地では不安定な治安情勢を背景に住民保護のニーズが高まっているが、政府関係者は「日本に対してインフラ整備以外の要請は来ていない」と指摘した。”【7月29日 毎日】

“要請は来ていない”ということで、ハイリスクな活動には参加しない方針のようです。
ただ、もし自衛隊の目の前で住民が虐殺されるような事態となったとき、宿営地への攻撃はないということで虐殺を放置、見殺しにして撤退するのでしょうか?

個人的には、安倍政権のもとで安保関連法案によって日本周辺で「国益」の名のもとに戦闘可能性が拡大していくことへの警戒感はありますが、一方で、国連PKO活動に参加するのであれば、「ルワンダ大虐殺」やボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での「スレブレニツァの虐殺」を座視するようなことは、「国益」云々を超えて、人間として許されないことのように思えます。

その際のリスクについては、あらかじめ覚悟する必要があるとも考えます。

ルワンダ大虐殺の混乱当時にルワンダ愛国戦線(RPF)を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているとき動かなかった(動けなかった)UNAMIR(PKOである国連ルワンダ支援団)司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と評しています。

なお、ダレール将軍もただ大虐殺を座視した訳ではなく、“ダレールの着任前、国連はルワンダでジェノサイドの可能性がある報告書を出していたが、その報告書は彼に届けられなかった。ダレールは1994年1月に匿名の情報者によってフツの過激派による虐殺計画を知り、国連に平和維持軍の増強や過激派の武器の押収を提案するが、UNAMIRには権限がないという理由で不許可となる。次いでアメリカ、フランス、ベルギーの大使へ情報を伝えるが状況は改善されず、ダレールは要人の暗殺や民兵(インテラハムウェ)の武装を静観することになる。”【ウィキペディア】とのことで、相当に苦悩したようです。
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韓国・北朝鮮の緊張 北朝鮮の「遺憾表明」で事態改善へ 外交上の微妙な言葉

2015-08-26 23:14:04 | 東アジア

(高官会談を終え、握手する北朝鮮の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)・朝鮮人民軍総政治局長(左)と韓国の金寛鎮(キム・グァンジン)・大統領府国家安保室長(右)ら=2015年8月25日、板門店の韓国側施設「平和の家」(AP)【8月26日 SankeiBiz】

北朝鮮の「遺憾表明」で決着
緊張が高まっていた北朝鮮・韓国関係ですが、周知のように、今回緊張の発端となった地雷事件に関して北朝鮮側が「遺憾表明」したことで、一応の緊張緩和に向かっています。

****<南北会談>北朝鮮が遺憾の意、韓国が宣伝放送中断で合意****
 ◇6項目の共同報道文 北朝鮮は「準戦時状態」も解除
韓国と北朝鮮の高官会談は25日午前0時55分(日本時間同)に合意に達し、6項目の共同報道文が発表された。北朝鮮側は地雷爆発で韓国軍人が負傷したことに遺憾の意を表明し、韓国側は報復措置として再開した拡声機による宣伝放送を中断する。

北朝鮮側は布告していた「準戦時状態」も解除する。高まっていた緊張が緩和され、南北関係が改善に向かう可能性も出てきた。

北朝鮮側が示した「遺憾表明」について、25日午前2時過ぎに青瓦台(大統領府)で記者会見した金寛鎮(キムグァンジン)国家安保室長は「北朝鮮側が地雷による挑発について謝罪し、再発防止と緊張緩和に努力すると約束したことは非常に意義深い」と述べ、遺憾表明を事実上の謝罪だと受け止めていることを明らかにした。

韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は25日、「わが政府が北朝鮮の挑発に断固として対応する原則を一貫して守る一方、対話の窓を開いておき、問題解決のために努力した結果だ」と評価した。青瓦台報道官が明らかにした。朴大統領は「今回の会談では謝罪と再発防止が最重要事項だ」と強調していた。

共同報道文は、ほぼ同時刻に北朝鮮の朝鮮中央通信も報じた。今月4日に南北軍事境界線沿いに設けられた非武装地帯の韓国側で起きた地雷爆発事件について、北朝鮮の国防委員会政策局は「捏造(ねつぞう)された謀略だ」と関与を否定する談話を発表していた。だが、朝鮮中央通信は「遺憾表明」を含む報道文はそのまま伝えた。

高官会談は8月22日午後6時半から、中断を挟み25日未明まで計約43時間にわたって続けられた。特に韓国側が求める「謝罪と再発防止」をどのような形で盛り込むかで、立場の違いがなかなか埋まらず長時間の会談となったとみられる。

再発防止については、北朝鮮が求める拡声機の中断に関し「非正常な状態が起きない限りにおいて中断する」と盛り込み、北朝鮮側によるさらなる挑発に一定の歯止めをかけた。

南北は関係改善のため、ソウルや平壌で当局者間の会議を開くことでも合意。朝鮮戦争(1950〜53年)で南北に生き別れになった人々のために「離散家族再会事業」も今年秋の旧盆(9月27日)の時期に再開されることが決まった。準備のための南北赤十字の協議を9月初めに実施する。【8月25日 毎日】
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韓国側は謝罪を強く求めていましたが、北朝鮮の「遺憾表明」をもって謝罪とみなしています。
今回の「遺憾表明」については、「北側は」という形で主体が明示されています。

****北朝鮮の「遺憾表明」 南北合意文書では初めて****
韓国と北朝鮮が25日に発表した共同報道文で北朝鮮が地雷事件について遺憾を表明したことめぐり、南北の合意文書で遺憾との表現を使ったのは初めてであることが分かった。

韓国と北朝鮮は22日から25日まで断続的に南北高官協議を開催。25日未明に高官協議を終了させ、6項目の共同報道文を発表した。合意文第2項には「北側は軍事境界線の非武装地帯の南側地域で発生した地雷爆発により南側軍人が負傷したことに対し遺憾を表明した」と記された。

韓国政府は外交文書で「遺憾」の表明は謝罪の意味として使われるため、この条項は北朝鮮が謝罪したことになると説明した。

また韓国政府によると、南北合意文で北朝鮮が謝罪の主体を明確にしたのは今回が初めてという。北朝鮮はこれまで、特定の懸案に対し遺憾を表明する場合にも主体を明らかにしなかったり、「南と北は」という表現を用いるなどして、主体を曖昧にしたりしてきた。

1950年以降、これまで約2000回にわたり越境による挑発を行ってきた北朝鮮が遺憾を表明した事例があるが、北朝鮮当局が出した声明などだったという。【8月25日 聯合ニュース】
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玉虫色決着、それはそれで・・・
ただ、地雷事件を起こしたのが誰かについては明確にされておらず、北朝鮮側は「根拠のない事件」「捏造された謀略だ」という立場を変えていません。

****地雷事件「根拠ない」=国内向け、従来の立場変えず―北朝鮮****
南北高官会談に出席した北朝鮮の黄炳瑞軍総政治局長は25日、朝鮮中央テレビに登場し、合意内容を説明した。北朝鮮は合意で、地雷爆発事件に遺憾の意を表明したが、黄氏は「根拠のない事件」と述べ、「韓国のでっち上げ」という従来の立場に沿った見解を示した。韓国の聯合ニュースが伝えた。

合意の文言は、地雷事件を起こした主体を明示していない。韓国は事実上、北朝鮮が責任を認めて謝罪したと受け止めているが、北朝鮮には国内向けに「譲歩していない」と強調する意図があるとみられる。【8月25日 時事】 
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日本での「遺憾に思う」という表現は辞書的には「残念に思う」との意ですが、その使用例はかなり曖昧で、必ずしも自らの非を認めた謝罪とは言えないケースでも使用されます。

*****遺憾の意を表明*****
特に何とも思ってないし何もする気はないが、何か言わなければならない時に発される言葉。【Hatena Keyword】
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上記のような皮肉な解釈もあるように、政治的には便利な言葉でもあります。

地雷事件そのものを「根拠のない事件」「捏造された謀略だ」とするのであれば、そのうえでの「遺憾表明」は、単に“こうした事件が起きたことを残念に思う”と言ったに過ぎないとも取れますが、“韓国政府は外交文書で「遺憾」の表明は謝罪の意味として使われるため、この条項は北朝鮮が謝罪したことになると説明した。”とのことです。

もっとも敢えて玉虫色にして、各自が都合のいいように解釈するというのが、利害が対立して譲れない外交関係の常套手段でもありますので、今回は“うまく収めた”という感があります。

北朝鮮側も、自国内向けには「譲歩していない」ことを強調しながらも、韓国が謝罪と解釈していること自体には直接的には反論しないことで一定に容認する・・・という線で落ち着いたように見えます。

意図的「誤解」は別にして、外交上の微妙な表現は、互いの言語が異なりますので意図せざる誤解を招くことも少なくありません。あとから「話が違う」ということになることも。

よく、日米繊維交渉と沖縄返還交渉を話し合った1969年11月の佐藤・ニクソン会談が例に挙げられます。
佐藤栄作首相が「善処します」的な、日本語としては“努力はするが、できない場合もあるかも・・・”といった曖昧な部分がある表現をしたのが、英訳では実行を約束したというように訳され、後々「話が違う」というトラブルになったという事例です。

ただ、これも実際に佐藤首相がどういう表現をしたかはっきりしないようで、かなり踏み込んだ発言だったとの指摘もあります。もし、そうであれば、英訳で真意が伝わらず云々は、“責任逃れ”のために流した国内向けの言い訳ということにもなります。

今回は、韓国・北朝鮮とも同言語ですから、そうした心配もなく、微妙な言葉の綾を利用する形で互いのメンツを守って“落としどころ”を得た・・・というところです。

玉虫色決着を否定すれば、武力による衝突しかありませんので。

****玉虫色決着で南北ともに失点なし」 関西学院大学教授 平岩俊司氏****
今回の合意で、北朝鮮は「遺憾」を表明したが自分たちの責任を認めたわけではない。一方、韓国側はそれを謝罪と受け止めるという玉虫色の決着だったので、南北ともに失ったものはない。

逆に北朝鮮が得たものは、南北関係を進展させられれば、朝鮮労働党創建70周年に際しての金正恩政権の成果としてアピールできることだろう。

韓国にとって良かったのは、朴槿恵大統領が北朝鮮に対して譲歩しないという姿勢を強く打ち出し、妥協せずに合意できたという印象を残せたことだ。

北朝鮮が今回の合意において譲歩したとは思わない。実利主義の国なので、必要であれば「遺憾」を表明することもあるだろう。金正日体制でもそうだった。今回の北朝鮮の対応で、目新しいものは一切感じない。金正恩体制になっても、金正日時代から続く「瀬戸際政策」の枠の中で、十分説明できる。

北朝鮮は、2年前から対話路線に転じたとみている。今回の合意で、韓国側もそれに応じることになれば、国際社会に対しても良い雰囲気が醸成でき、自分たちにも都合が良いのではないか。(談)【8月25日 産経】
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中国の苛立ちの相手は?】
韓国・朴大統領は、南北緊張が緩和したことで中国が開催する「抗日戦争勝利70周年記念行事」の軍事パレード欠席の理由がなくなったこともあって、出席を要請する中国と反対するアメリカの板挟みで苦慮していましたが、結局「中国との友好・協力関係」などを考慮し(大統領府報道官)軍事パレード出席を決めたと先ほど報じられています。

パレード出席に先立ち9月2日には、習近平国家主席との中韓首脳会談に臨むそうです。

この間、中国は苛立ちを募らせていました。

****中国紙、抗日パレードで朴大統領を再恫喝「妨害で支障が出た場合、座視しない****
中国が9月3日に開催する「抗日戦争勝利70周年記念行事」には、ロシアのプーチン大統領ら30カ国の元首、首脳級指導者が参加する。習近平国家主席の威信がかかるだけに、同国は、軍事パレードへの参加を明言しない韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領に、再び圧力をかけたようだ。
 
「すべての外国の指導者だ」
中国外務省の張明外務次官は25日の記者会見で、軍事パレードを含む一連の行事への出席者について、こう語った。

朴氏のパレード参加が決まったとみられたが、韓国大統領府の報道官は同日、「細部の日程を含め中国側と協議中」といい、否定した。中国はしびれを切らせているようだ。

中国が東・南シナ海で軍事的拡張路線をあらわにするなか、欧米諸国の首脳や安倍晋三首相は記念行事自体への出席をとりやめている。韓国の同盟国である米国は事実上、朴氏にも出席を見合わせるよう求めていた。

米中間で「二股外交」を続ける朴氏は記念行事への出席は決めたが、軍事パレードの参加については決断していないようだ。

キャンセルの口実になり得た北朝鮮との軍事的緊張も解消し、朴氏の最終判断が注目されるが、中国はこんなアピールもしている。

中国共産党機関紙の人民日報の国際版『環球時報』は24日の社説で、朝鮮半島の軍事的緊張に触れて、こう記したという。
「緊張を高めている勢力の中には、朴大統領のパレードへの出席を不満に思っている勢力がいる」「悪意のある妨害で軍事パレードに支障が出た場合、中国は座視しないだろう」(ハンギョレ新聞、24日より)

恫喝というしかない。【8月26日 夕刊フジ】
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なお、軍事パレードへの部隊派遣については、中国は70人以上の部隊派遣を求めていましたが、韓国軍は数人の参観団を送るという形で部隊派遣は見送った・・・と報じられています。【8月24日 産経】

韓国をめぐる中国とアメリカの綱引きはともかくとして(大国の無理難題は小国にとっては宿命であり、両大国の対抗心を利用して、いかに自国の利益を引き出すかが小国の生きる知恵です)、“抗日パレードで朴大統領を再恫喝”とありますが、『環球時報』記事は今回の南北合意前のものですから、「緊張を高めている勢力」云々は北朝鮮を指すようにも見えます。

そうであれば、「中国は座視しないだろう」という恫喝の対象は、朴大統領やアメリカではなく金正恩第一書記では・・・?
今回の南北緊張における北朝鮮の行動には、中国の影響からの脱却を意図したものがある・・・との指摘もありました。

****北朝鮮、韓国砲撃を中国に通告せず・・・狙いは「中国排除、影響からの脱却」か=米華字メディア****
北朝鮮と韓国双方による軍事境界線付近への砲撃により自体が緊迫化した朝鮮半島情勢について、米国の華字メディア・多維新聞は22日、北朝鮮が中国を差し置いて行動に出ているとし、中国とのしがらみから脱却しようとする北朝鮮の姿勢が見られるとする評論記事を掲載した。

記事はまず、北朝鮮の池在龍(チ・ジェリョン)駐中大使が21日に北京で記者会見を実施し、韓国に対して「最後通牒(最後通告)」を出すという「重大な行動」にでたことを「異常」と評したうえ、中国の政府系メディアに対して通知を行わずに国外メディアを中心に集めたことについても「大きな意味を持っている」と論じた。

そして、今回の砲撃事件について韓国が迅速に米国や中国などに連絡を取る一方で、北朝鮮は中国には連絡を取らず、ロシアにはすぐに知らせるという行動に出たと解説。

その狙いは「中国を片隅に追いやることの一点に尽きる」とし、北朝鮮が「中国が北朝鮮を支援しなくなったことに対する恨み」、「いつでも中国に巻き添えを食らわせられることのアピール」、「自分自身の力で問題解決できることのアピール」であると分析した。

また、北朝鮮側が砲撃を行った背景の1つとして、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が20日、9月2日に中国入りをして翌3日の抗日戦勝70周年軍事パレードに出席することを発表した点を挙げ、「韓国に対する警告とともに、故意に中国の体裁を悪くさせようとした」と解説した。

そのうえで、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記が「最大の脅威は米国でも日本でも韓国でもなく、両国関係で主導的な立場にあり、北朝鮮の行動を制約する要因となっている中国だ」と認識しているとの分析が出ていることを紹介。

さらに、昨今中国が国際社会における地位向上とともに韓国を引き寄せていること、朴大統領が米国の影響を顧みずに中国の軍事パレード出席を決めるという積極的な外交姿勢を見せたことから、「朝鮮半島問題において韓国ではなく自らが支配的な役割を担うこと」を望む北朝鮮が焦りを見せているとも論じた。(後略)【8月24日 Searchina】
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毎度の言い訳になりますが、中国と北朝鮮の実際の関係はよくわかりません。
“北朝鮮は中国には連絡を取らず、ロシアにはすぐに知らせるという行動に出た”云々の真相もわかりません。

金正恩第一書記が張成沢氏などの親中派を一掃・処刑したことで、従来以上に中国は、属国のように考えている北朝鮮への不快感を持っているのは間違いないでしょうが。
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温暖化  アメリカ西部が「メガ干ばつ」へ ロシア・シベリアでは永久凍土融解でメタン放出

2015-08-25 23:15:10 | 環境

(台風15号で、家の前の街路樹が根元から・・・・)

久々に怖かった台風15号
台風15号が今朝未明の3時~4時頃、私の住んでいる鹿児島県薩摩川内市をかすめる最悪コースで過ぎていきました。

うなりをあげる強風のなかで家が揺れて軋む・・・家の前の大きな広告塔が割れて電気関係がショートしたのか、窓の外の暗闇に一瞬閃光が走る・・・停電の暗闇の中で久しぶりに台風の怖さに身を固くして、ただ通り過ぎるのを待つだけでした。(飼っている猫は、さほど気にしていない様子でしたが)

幸い速度が速く、また、台風通過後の吹き返しがほとんどなく、強風が吹き荒れた時間はそれほど長くはありませんでした。(子供の頃経験した台風はなぜかいつも夜中にやってきて、しかも鹿児島付近では速度が遅く、一晩中吹き荒れることがよくありました。)

外が明るくなった頃、窓から通りをうかがうと、なんと、家の前の街路樹が根元から横倒しに倒れています。直径25cmほどある結構大きな街路樹です。

やはり広告塔は割れて、中の配線がむき出しになっていました。
外に出てみると、隣の空き家は窓が割れて風が建物内を吹き抜けたらしく、おもてのシャッターがグシャグシャに壊れていました。

沖縄県石垣島では、この地点では観測史上最高となる最大瞬間風速71メートルを記録したそうですが、あとで確認したところ、薩摩川内市では45メートルを記録したそうです。

感覚的には、もっと強かったのでは・・・という感もありますが、石垣島のように乗用車が吹き飛ぶようなことにはなっていませんので、そんなものかもしれません。

ただ、朝になっても電気が止まり、給水のためのポンプが止まって水も出ません。ということは、トイレも使えません。冷蔵庫の中のものもやがて解け出します。電動シャッターを動かせないので、建物内に取り込んだ唯一の足であるバイクも出せません。

何より、TVもパソコンも使えないので、情報が全く入らないことが困りました。
台風がどこを通り、どこに行ったのか・・・それすらわかりません。情報は、水や食料と同じくらい重要です。

電気も水も使えない状況で、いつ復旧するかもわかりませんので、携帯電話で身内と連絡をとり、今後のことなどを相談。
幸い、電気の復旧が7時半頃と早く、ようやく「やれやれ・・・」といったところでした。

今年上半期は過去最高の平均気温
そんな「自然の猛威」を改めて実感した日だったので、今日は温暖化、気候変動の話。

温暖化とはいっても、当然ながら異常寒波もあれば冷夏もある訳ですが、そういうなかでも今年は気温が高いようです。

****世界の上半期の平均気温 過去最高に****
国連の世界気象機関やアメリカ海洋大気庁によりますと、ことし1月から6月までの上半期の世界の平均気温は、調査を開始した1880年以降で最も高くなったということです。

ことし上半期の世界の平均気温は20世紀の平均よりも0.85度高く、これまでで最も高かった2010年よりも0.09度上回りました。

月別にみると、3月、5月、6月がこれまでの月間の平均気温の最高を更新し、1月と2月がそれぞれ2番目、4月が4番目の高さだったということです。

また、地域別に見てもユーラシアやアフリカなど多くの陸地で平均気温を上回っています。

一方、暑さ以外にも異常気象とみられる現象が世界各地で確認されています。

インドでは5月下旬から気温が急に上昇し40度を超える地域が相次ぎ、2000人以上が死亡しました。
その一方で、スカンディナビア半島では多くの地域でことし6月の平均気温が例年を下回り、ノルウェーでは1900年に統計を取り始めて以降、18番目に寒い月になったということです。

また、アメリカのカリフォルニア州では、3年前の2012年から雨や雪が少ない状態が続き、ことしも水源となる山間部の積雪が平年を大きく下回ったことなどから、ことし4月には初めて州全体に25%の節水が義務づけられました。

さらにタイでも去年1月からほとんどの地域で降水量が平年を下回っていて干ばつの影響で農作物にも被害が出ています。【8月10日 NHK】
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イランでは“体感温度74度”を記録したとか。
水源でもある氷河の融解も早まっているようです。

****世界各地を熱波襲う イランで体感温度74度、インド2300人死亡、アルプスの氷河ピンチ****
日本で猛暑日が続く中、世界各地も記録的な熱波に見舞われている。イランでは体感温度74度という「天文学的」(米紙ワシントン・ポスト)な暑さを記録したほか、欧米では山火事が相次いだり氷河の解けるペースが速まったりしている。

イラン南西部のペルシャ湾に面したバンダルマズハーでは7月31日に気温が46度となり、湿度などを加味した体感温度は74度に達した。同紙によると体感温度に関する公式記録はないが、2003年7月にサウジアラビアで観測された81度に次ぐ数値とみられる。

AP通信などによると、イラクの首都バグダッドでは7月30日、気温が52度に達した。政府は酷暑の予想を受け、同日から4日間を公休日とすることを急遽(きゅうきょ)決定。03年のイラク戦争以降、同国では発電設備の破壊などで電力不足が深刻化し、クーラーや扇風機が満足に使えない状態だ。

ただ4日には南部アマラで、暑さと電力不足に不満を募らせた市民らが街頭でアバディ政権を批判するなど反政権デモが頻発。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の支配地域奪還を目指す政権にとり頭の痛い問題となっている。

一方、インドでは1年で最も気温が高くなる4〜6月、熱波による死者数が記録のある1990年以降最悪となり、インド政府は5日、2037が熱中症などのため死亡したと発表した。パキスタンでは6月、南部シンド州を熱波が襲い、州当局によると1200人以上が死亡する過去最悪の事態となった。

欧米でも熱波の影響は深刻だ。米ニューヨークでは7月29日、同日の気温としては過去3位タイとなる35.6度を記録。オーストリアでは気象当局が「過去248年の観測史上で最も暑い7月」と認定した。

スペインでも7月上旬、気温が記録的な水準に上昇。国内各地では山林火災が発生し、焼失面積は少なくとも計1万5千ヘクタールとも報じられている。

欧州の専門家は最近の調査の結果、世界各地で近年、氷河が解けるペースが加速していると指摘。アルプス地方では「氷河が数キロも後退している」とし、特に深刻な現象とも警告した。【8月5日 産経】
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【「北米大陸西部の自然界と人類は、現代史上の経験をはるかに超えた乾燥状態に見舞われるだろう」】
【8月10日 NHK】にもある、アメリカ・カリフォルニアの水不足については、5月18日ブログ「アメリカ・カリフォルニア 深刻化する水不足 もし来年も雨が降らなかったら・・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150518)でも取り上げました。

また、西部ワシントン州で発生した一連の森林火災が同州史上最大規模にまで拡大しているほか、西部各地で山火事が広がっています。

****山火事消火に軍も出動 干ばつ続く米西部で多発****
干ばつの続く米西部各地で大規模な山火事が発生し、軍が200人出動する事態となっている。

全米省庁合同火災センター(NIFC)によると、18日現在でカリフォルニアやオレゴン州など7州、95カ所で山火事が発生し、約44万7千ヘクタールを延焼中だ。

CNNによると、これまでに2万5千人の消防士が消火にあたっているが、猛威を振るう火事を抑え切れず、軍も出動。山火事の消火への軍の出動は、2006年以来という。

当局によると、カリフォルニア州では、1月から8月までで、4382件の山火事が発生した。昨年の同時期に比べて、1335件以上多い。

アイダホ州では、50件の家が焼けたほか、27頭の馬が焼け死んだ。オレゴン州では26件の家が焼け、約300人が避難している。【8月21日 朝日】
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ただ、カリフォルニアなど西部各地の乾燥は今年にとどまるものではなく、これから始まる「メガ干ばつ」を示すものだとか。

****アメリカに迫り来る未曽有の「メガ干ばつ****
今世紀後半に米南西部と大平原地域を、過去1000年で最悪の干ばつが襲うとの衝撃の研究が

この数年、カリフォルニア州を含む米西部は記録的な干ばつに襲われ、水不足と農作物の不作に悩まされている。

NASA(米航空宇宙局)は「州内の水源に残された水はあと1年分」と警告。同州産のオレンジやアーモンドの価格は既に高騰し、州政府は4月、州内全域を対象に25%の節水を義務付ける初の行政命令を出した。

しかし新たな研究によると、真の危機が訪れるのはこれからだ。米西部には、より「乾燥した未来」がやって来る。

今年2月、NASAとコーネル大学、コロンビア大学の研究チームが発表した論文によれば、米南西部と大平原地域には過去1000年で最悪の干ばっが迫っているという。そうした「メガ干ばつ」はおそらく今世紀後半に起こり、10~数十年続く可能性もあるとのことだ。

「われわれの研究によれば、北米大陸西部の自然界と人類は、現代史上の経験をはるかに超えた乾燥状態に見舞われるだろう。それに適応するのは、極めて困難かもしれない」と、研究チームは論文で記している。

そうなれば、人々の暮らしが今以上に過酷になることは避けられない。まず、水不足で食料生産が打撃を被るだろう。そして最も手ごわい問題は、飲み水の確保。既に米西部では、飲み水不足に陥っている地域がある。

「再生不可能な資源である地下水の枯渇が幅広い地域で進んでいる。これまでは地下水を活用することにより、自然に繰り返される干ばつの影響を和らげられていた」と、研究チームは指摘している。
「この地域の主要な貯水池であるミード湖とパウエル湖の合計に匹敵する量の地下水が枯渇したケースもある」

研究チームは、将来の温室効果ガス排出量に関する複数のシナリオに基づき17通りの気候変動モデルを検討した。それによると、将来の温室効果ガス排出量が「緩やか」にとどまると仮定しても、中世の温暖期(1100~1300年頃)の「最も乾燥した時代をも上回る」乾燥期が訪れる見通しだという。(後略)【8月25日号 Newsweek日本版】
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アメリカ北西部の環境が悪化しても、逆にこれまで農業に適さなかった土地が使えるようになるといった話も出てくるのでは・・・というのは、あまりに楽観的過ぎるでしょうか。

いずれにしても、世界規模での人口・産業の再配置は必要となるでしょう。そのとき日本がどうなっているのかは知りませんが。

ツンドラに巨大クレーター
“これまで農業に適さなかった土地”と言う意味では、ロシアのシベリアなどもそうした地域でしょう。
ただ、シベリアの永久凍土でも困った事態となっているようです。

****シベリアに謎のクレーター出現 メタン放出、恐れる学者****
それはまるで、地球の表面にぱっくりと開いた口のように見えた。

先住民族ネネツ人の言葉で「世界の果て」を意味するロシア・西シベリアのヤマル地方。8日、高度100メートルを飛ぶヘリコプターから見下ろすと、地平線まで広がるツンドラの平原に、月面のクレーターのような巨大な穴が現れた。ロシアメディア以外では最初の現地取材だ。

輸送用ヘリの操縦士が2014年6月、初めて見つけた。最寄りの拠点となる街から約400キロ離れ、トナカイ遊牧民がわずかに行き交う北極圏にある。

地元政府の緊急要請でロシアの科学者が調査を始めた。穴は直径約37メートル、深さ約75メートルあった。その後、同様の穴の報告が相次ぎ、4個が確かめられている。

では、穴はどのようにして生まれたのか。隕石(いんせき)の衝突、不発弾の爆発、宇宙人の襲来――。出来た瞬間を見た者はおらず、さまざまな臆測がされた。

真冬には気温が零下40度まで下がる厳寒の地。地中には永久凍土が数百メートルの厚さで広がっている。メタンが多く含まれ、近くには世界有数の天然ガス田もある。

研究者の間では「永久凍土が溶け、メタンガスの圧力が地中で高まって爆発した」との説が有力だ。

ロシア科学アカデミー石油ガス調査研究所のワシリー・ボゴヤブレンスキー教授は「ここのところの異常に高い気温の影響を受けた可能性がある」と話す。

将来地球温暖化が進み、凍土全体から、温室効果の高いメタンの大量放出が始まれば、さらに温暖化を加速させかねない。【7月19日 朝日】
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メタンはCO2以上に厄介です。

****メタンの温室効果、CO2の25倍 温暖化進む恐れ****
永久凍土はシベリアだけでなく、カナダやアラスカなど、北半球の大陸表面の24%に存在する。

温暖化による極地の気温上昇は、世界平均の2倍の速さで進むとされる。国連環境計画(UNEP)が2012年にまとめた報告書によると、今から2100年までに全地球の気温が3度上がれば北極では6度上昇し、地表付近の永久凍土の30~85%が失われる可能性がある。

特に心配されているのが、温室効果ガスの大量放出だ。全世界の永久凍土にあるメタンや二酸化炭素(CO2)の炭素量は、現在の大気に含まれる量の2倍。メタンの温室効果はCO2の25倍ある。どれほどの影響がでるのか、専門家でもまだ見通せていない。

名古屋大学地球水循環研究センターの檜山哲哉教授は「永久凍土の融解が進めば温暖化は加速し、大地や植物だけでなく人間社会にも大きな影響を及ぼす。100年後、1千年後を見通すための研究が必要だ」と話す。【7月19日 朝日】
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温暖化のバロメーター 氷河融解
ついでに、温暖化の影響を敏感に反映する氷河融解の話も。

****氷河融解縮小、観測史上最低水準に 研究****
世界の氷河は、過去120年の観測史上、最低の水準にまで縮小しているとの研究報告が3日、発表された。氷河融解のペースについては、21世紀の最初の10年間での加速が確認されたという。

学術誌「Journal of Glaciology(氷河学)」に掲載された論文によると、氷河の厚みは現在、平均で年間50~150センチのペースで減少しているという。

論文主執筆者で、スイスにある研究機関「世界氷河モニタリングサービス」のミヒャエル・ゼンプ所長は「これは、20世紀における氷河の厚みの平均減少速度の2~3倍に相当する」と語る。

世界10億人以上の、特にアジアや南米で暮らす人々は、飲料水の半分以上を雪や氷河氷の季節融解によって得ていることが、これまでの研究で明らかになっている。

世界の氷河の現在の融解速度は、科学的観測の対象となった過去120年間、あるいはおそらくもっと長い期間において、前例のないレベルに達しているとゼンプ所長は指摘した。

さらに、消失ペースが加速されていることにより、たとえ地球温暖化による世界気温の上昇が続かなかったとしても、多くの地域では氷河の縮小が止まらない動向が発生している。

今回の論文では取り上げられていないが、過去5年間の予備分析データは、氷河質量の急速な減少が現在も続いていることを示唆している。

氷河氷の消失量について、1998年に観測された20世紀の最高記録は「2003年、2006年、2011年、2013年と続けて更新され、また2014年にも更新される可能性が高い」とゼンプ所長は話している。【8月4日 AFP】
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老い先短い私にとっては「どんな世界になるのだろう・・・」という怖いもの見たさ的な話ですが、若い人たちにとっては深刻な話です。
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ネパール  進まない震災復興 新憲法案がようやく制憲議会へ 従来政治から疎外されてきた勢力の反対も

2015-08-24 23:21:13 | 南アジア(インド)

(今年1月の制憲議会での混乱 椅子を投げつけるネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)の議員 【1月21日 AFP】 ただ、現在の混乱は、従来の政治枠組みから疎外されてきた南部居住民族が中心で、議会外の暴動になっているようです。)

国際支援不足で進まない震災復興 目立つ中国の存在感
4月25日にマグニチュード(M)7.8の大地震に見舞われたネパールでは犠牲者が約9000人にものぼり、住宅も深刻な被害を受けました。

“ネパール技術者協会は4月末以降、首都周辺を中心に4万5千戸を調べた。修繕も無理であることを示す「赤色」の家は18%、修繕しないと住めない「黄色」は31%、居住可能な「緑色」は51%にとどまった。完全に倒壊した建物は数%もないが、柱や基礎が損傷した建物が多いという。”【5月25日 朝日】

地震から4か月が経過しましたが、道路事情の悪い山間部が多いというネパールの特性もあって、復興は進んでいません。

下記は1か月前の記事ですが、状況は今も変わっていないと思われます。

****ネパール、進まぬ復興 山間部にがれき・雨で支援遅れ 地震3カ月****
周辺国も合わせて8900人以上の死者を出したネパールの大地震は25日で発生から3カ月。復興ペースは遅く、6月から始まった雨期も状況を悪化させている。

一時帰国した国連児童基金(ユニセフ)ネパール事務所の穂積智夫代表(53)に現況を聞いた。
 
穂積代表によると、カトマンズ市内では、散乱していたがれきが道の端に集められ、通行を妨げる状態は解消された。だが、傾いた建物は残され、危険な状態が続く。山間部は重機が入れず、がれきが放置されたままの集落もあるという。

ユニセフのまとめでは、3万2145の学校の教室が倒壊などで大きな被害を受け、100万人以上の子どもが学びの場を失った。国連や人道援助団体などの支援で1793の仮設教室が建てられ、約17万9300人が勉強の機会を取り戻した。

元々、未舗装の道路が多く、雨期には都市部から地方に行きにくくなる。地震の影響で地盤が緩み、4月25日以降で5600件以上の地滑りが発生。悪天候ではヘリコプターが飛べる時間も限られ、支援が届きにくい地域が生まれている。雨期は9月まで続く見込みだ。

穂積代表は「復興へは長い道のりになりそう。国際社会は現地への関心を失わず、支援を続けて欲しい」と呼びかけている。【7月28日 朝日】
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国際支援が頼りのネパールですが、その支援も不足しており、復興に支障が出ているようです。

****<ネパール地震>支金不足でヘリ飛ばせぬ 物資輸送中断も****
4月に起きたネパール大地震の被災地支援を巡り、地元の国連事務所は10日、支援金不足でヘリコプターを使った支援物資の輸送が8月末に中断する可能性があると発表した。

被災地では雨期が本格化しており、土砂崩れなどで139カ所の集落が孤立している。ヘリによる支援が止まれば、少なくとも14万6000人の被災者に物資が届かなくなる恐れがあるという。

発表によると、国連は少なくとも10月末までヘリで食料などの支援物資の輸送を続ける計画だが、支援継続に必要な1800万ドル(約22億4000万円)の約半分880万ドルしか集まっていない。

雨期のため支援物資の需要が高まっているが、650トン分の要求に応えられていないという。

ネパール政府によると、大地震による死者数は国内だけで8922人(10日現在)で、建物の被害は約90万棟に及んだ。首都の経済活動は再開しているが、山間部では依然として支援頼みの生活が続いている。【8月11日 毎日】
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滞りがちな国際支援のなかで、存在感を高めているのが中国のようです。

***中国プレゼンス,震災支援で急拡大****
ネパールにおける中国のプレゼンス(存在感)が,急拡大している。小中学校に行くと,以前は「こんにちは!」などと声をかけられたが,いまでは「ニーハオ」だ。街には中国製品があふれ,あちこちで中国企業が工事をしている。

そして,それにダメ押ししたのが,震災救援活動。どこにいっても中国政府援助の青テントや「中国紅十字」の白テントが張られている。公園はむろんのこと,路地にも民家の庭にも中国援助テントはある。(個人購入中国製テントもあるかもしれないが,見ただけでは区別できない。)とにかく,ものすごい数。

援助国,援助団体などの間で援助地域割りがなされているのかどうか知らないが,首都圏を見るかぎり,メッセージは一目瞭然。中国は,目に見える形で,被災したネパールの人々を全力で支援している,ということ。

震災後のテント緊急援助は有効で,中国の支援は高く評価される。

と同時に,その中国の震災救援作戦は,政治的にみても実に見事であり,羨望を感じざるをえない。なにはばかることなき大国のおおらかなふるまい――日本にはとうてい真似はできまい。【8月3日 谷川昌幸氏 「ネパール評論」】
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日本においてはとかく批判を受けがちな中国の対外攻勢・支援ですが、着実に実績を積み重ねつつあるようです。
もちろん、中国には中国の思惑があってのことでしょうが、それは何も中国に限った話でもなく、何より、必要な物資を実際に提供してくれる国は現地では貴重です。

子供の人身売買も
人的被害、建物被害以外でも、ネパール経済の約1割を占める観光業も、世界遺産の被害や現地受け入れ態勢への不安などから観光客が激減し、深刻なダメージを受けています。

また、国民の6割以上が従事しGDPの3割超を占める農業についても、主食の米の種もみを失ったケースや、田にひく湧き水がかれた場所もあり、被害は大きく、今後の食糧不足にもつながります。

更に、地震後の混乱のなかで、貧しさにつけ込んだ子どもの人身売買の動きが目立っているとも報じられています。
“困窮した被災者家族が「ケア施設で預かる」「働きながら勉強できる」などと言われ、子供が連れ去られる事案が多発している。”【7月24日 毎日】

ただ、単に地震による混乱だけでなく、もともとネパールはインドなどへの人身売買の供給源となってきたという事実があり、その原因は言うまでもなく「貧困」です。

****子らに人身売買の危険 245人保護****
地震後の混乱のなかで、ネパールでは貧しさにつけ込んだ子どもの人身売買の動きが目立っている。少なくとも245人が、人身売買の被害に遭いかけたり、不必要に児童養護施設に入れられようとしたりしたところを保護されたという。

国連児童基金(ユニセフ)ネパール事務所は19日付で、地震発生以降、子どもの人身売買の危険性が高まっていると警告する声明を出した。

同事務所によると、ネパールでは以前から、貧困などを理由に親が子どもを手放し、周辺国などに労働力として売る人身売買が問題となっている。

2001年の国際労働機関(ILO)の調査では、年1万2千人が売春や家庭内労働などのために、インドなどに売られていると報告された。

ユニセフは地震後、こうした動きが増えることを危惧。ネパール政府に対し、国境や空港での不審な動きをチェックするための検問の強化や、人身売買の隠れみのとなる国際養子縁組の認可を一時停止することを働きかけたという。こうした取り組みの結果、少なくとも245人が途中で保護されたという。

ユニセフ・ネパール事務所の穂積智夫代表は「地震後、生活の困窮などから事態が悪化することを懸念していた」と話す。【6月25日 朝日】
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ようやく憲法案が牽制議会へ 一方で、マデシ/タルー系など反対勢力による混乱も
進まないのは地震からの復興だけではありません。
2008年5月に王制を廃したのちの国の在り様を定める憲法は、政争に終始する政治の混乱から未だ定まらず、憲法制定作業は遅々として進んできませんでした。

ただ、憲法起草委員会は8月21日,憲法案を採択し制憲議会議長に提出、遅まきながら新憲法制定に向け大きく前進、手続きどおりに進めば、早ければ9月中旬にも新憲法制定の運びとなっています。

しかし、草案発表以来、これに反対する動きが相次ぎ混乱も拡大しています。

****憲法制定、大詰めで混乱=暴動で死者、震災復興に遅れ―ネパール****
ネパールが新憲法の草案をめぐって混乱し、暴動で死者が出る事態に陥っている。

6月には主要政党が全土を8州に分割する連邦制で合意したが、少数民族などの反対運動が暴動に発展。6州制、さらに7州制に変更するなど、迷走が止まらない。

ネパールでは4月の大地震で8800人以上が死亡した。政治の混乱が復興の歩みを遅らせている。

2008年の連邦共和制移行後のネパールは、新憲法における州の区分をめぐって与野党が対立。国の在り方を定める憲法のない状態が続いている。

しかし、大震災を機に、主要政党4党が8州制を基本とすることで一致。長年滞っていた起草作業が前進するかに思われた。

だが、草案が公開されると、一部の野党支持者らが各地で抗議デモを行い、自動車などに放火。警官隊との衝突で200人以上が逮捕された。

こうした混乱を受け、主要政党は8月上旬、6州制への変更を発表した。コイララ首相は「小さな違いにこだわらず、国家再建に尽くしてほしい」と訴えた。

しかし、少数民族マデシなどが「民族が分断される」と反対して再び暴動に発展。警官隊の発砲で死者が出る事態となり、わずか10日余りで7州制への再変更を余儀なくされた。

ネパールの地震被災地では仮設住宅の建設も進んでいない。被災者約280万人の多くがトタンを張り合わせた仮の住居で雨露をしのぐ。

国際社会が総額約44億ドル(約5400億円)規模の復興支援を表明する中、地元紙記者は「政治家は政争を優先して国民の生活再建を後回しにしている。情けない限りだ」と話している。【8月23日 時事】 
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ネパールはヒマラヤに連なる山岳地帯のイメージがあり、実際、首都カトマンズなどはそうした山岳地帯に位置しているのですが、南部は東西に低地が広がり、インド国境に接しています。

この南部低地に生活する「少数民族マデシ」は、従来の政治的枠組みから疎外されてきましたが、2008年の総選挙でマデシを基盤とする政党が躍進するなど、権利主張が高まっています。

****マデシ***
マデシ(英: Madhesh)はネパール南部に東西に広がる細長い平原地帯、「マデス」「テライ」または「タライ」ともいわれる地域に住む人々。

国土面積の17%、人口の48%を占め、1100万人が住む。土地は肥沃である。南はインドに接する。

文化的には北インドのそれに近い。(中略)また、カースト制度も丘陵部のそれと違って、インドの制度に近い。【ウィキペディア】
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マデシ系諸政党は一つのマデシとしてインド国境地帯全体に細長い一つの自治区をつくることを強く主張していますが、これまでのネパール政治を独占してきた主要政党はこれを認めていません。

6州制にしても7州制にしても、マデシは分断された形になっています。

南部低地にはマデシ以外にも先住民族タルー族が暮らしています。タルー族はマデシの要求には反対していますが、一方で、タルー族の分断されることのない「タルー州」を強く要求しているようです。

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・・・マデシ/タルー系諸勢力が,CA(制憲議会)を見限り院外闘争で結集し,実力行使を激化させていくと,そしてそれを三大政党内のマデシ/タルー系の人々が陰に陽に支援し始めると,ネパールは,マオイスト紛争とは別の,いわば本物の民族紛争に陥る恐れがある。むろん,インドの出方によるところが大きいが。【8月24日 谷川昌幸氏 「ネパール評論」】
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ネパールは長くマオイスト(ネパール共産党統一毛沢東主義派)の反政府武装闘争に苦しんできましたが、今はなんとか議会内の政治闘争に取り込むことが出来ています。

しかし、マデシなどの従来政治の枠外に置かれてきた人々が声を上げ始め、これに政治が応えることができないと、新たな、マオイストより根深い紛争を招く危険も考えられます。

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台風15号
台風15号が北上しています。

薩摩川内市にとっては、西側をかすめる最悪コースになりつつあります。台風が多い鹿児島ですが、ここ10年、20年はあまり強い台風の接近・直撃はなかったような・・・。

50年ほど前も同じようなコースをとった台風があり、住んでいた家が傾いてしまいました。
その夜の恐ろしい記憶は今も消えません。
当時と比べると、家のつくりは少しはましになってはいますが。

現在11時。先ほどから雨が激しくなりました。中心が接近するのはあと4~5時間でしょうか。
気象庁予測の「最大瞬間風速60m」もありえるかも。60mの風が吹くと、相当の被害がでます。
何事もないといいのですが。
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中国  「東洋のマンハッタン」挫折を明らかにした天津爆発事故 今後への影響は?

2015-08-23 22:23:19 | 中国

(写真は【8月17日 WSJ】 今回爆発は、すでにゴーストタウン化していた天津の開発特区にとどめを刺し、天津市の財政破綻を表面化させることになるかも)

政府も企業も人の命を何とも思っていない・・・
少なくとも121人が死亡、54人が行方不明となった天津市で起きた大規模爆発が12日にあったばかりの中国で、それも天津市も近い山東省で、再び工場の大規模爆発が起きています。

****中国:化学工場、また爆発 5キロ先でも揺れ 山東省****
中国山東省淄博(しはく)市桓台県の化学工場で22日午後8時50分(日本時間同9時50分)ごろ、大規模な爆発があり、火災が発生した。

共産党機関紙・人民日報の中国版ツイッター「微博」などによると、同市警察当局の情報として、9人が負傷して病院に搬送されたが、死者はおらず、火災の勢いもすでに弱まったとしている。爆発原因は伝えていない。

中国メディアによると、化学工場には有機化合物のアジポニトリルがあった。アジポニトリルはナイロンの生成などに使われるが、工場が何を生産していたかも判明していない。

工場から最も近い住宅は1キロ以内にあり窓ガラスが割れたほか、5キロ離れた場所でも揺れが感じられたという。空中に浮遊物が漂っているとの情報もあり、化学物質が飛散した可能性もある。消防車20台と消防隊員150人が現場に急行している。(中略)

中国共産党の習近平総書記(国家主席)は20日、党最高指導部の意思決定機関である政治局常務委員会会議を開き、「安全に関わる重大事故が相次ぎ、問題が際立っている」と強い危機感を示したばかりだった。【8月23日 毎日】
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犠牲者については、従業員1人が死亡、9人が負傷との報道もあります。

“天津の爆発を受け、中国政府が全国化学工場などに対し安全管理を徹底するよう求める通達を出しており、山東省の幹部もこの工場の安全管理状況を視察していた。
インターネットには「すべてがポーズにすぎない。政府も企業も人の命を何とも思っていないから、このようなことが連続して起きる」といった書き込みがみられた。”【8月23日 産経】とも。

ゴーストタウンと化していた「東洋のマンハッタン」】
天津の爆発事故は、法令違反を許した安全管理の問題や未だ詳細がわからない有害物質の問題、更には、事故に関するネット規制といった中国政府の隠蔽体質など多くの問題がありますが、景気後退が懸念されている中国経済の抱える大きな課題とを明らかにした事故でもあり、今後への影響も懸念される事故でもあるようです。

そのあたりの事情については、下記の橘 玲(たちばな あきら)氏の記事が簡潔明瞭に指摘しています。

話の発端は、あれだけの事故にしては犠牲者が随分少ないのでは?という疑問です。
実際はもっと多くの犠牲者が出ており、例によって中国政府が隠蔽している・・・という向きも少なからずあります。

“爆発は半径3キロに及び、その範囲に15ヵ所以上の居民区があった。正式に登録されていない出稼ぎ者のバラックなども灰になっている。死者・不明者・負傷者合わせて1000人未満というのはあり得ないと多くの人が思っている。”【8月23日 福島香織氏 現代ビジネス】

隠蔽云々はわかりませんが、橘氏が指摘しているのは、そういう話とは別側面で、そもそも事故が起きた地区は“ゴーストタウン”だったから犠牲者があんなに少なかったという点で、そのことが中国経済の苦境を示しているというものです。

****中国・天津の爆発事故。少ない死傷者、鬼城化した街…。報道では伝わらない実態とは?[橘玲の日々刻々****
8月12日、天津市沿海部の浜海新区で大規模な爆発事故が起きた。

浜海新区は渤海湾に面した天津港を中心とした総面積2270平方キロの広大な開発区で、敷地面積は東京23区より大きい。今回の事故が起きたのは天津港に近い中心部で、東京でいえば東京湾から銀座・丸の内にかけての一帯になる。(中略)

だが、ここでこんな疑問を持つひともいるのではないだろうか。

天津は中国の直轄市のひとつで、域内人口は1500万人を超える。その新開発区の中心で大事故が起きたわりには、あまりに死傷者の数が少ないのではないか。

私は『橘玲の中国私論』の取材で昨年5月、この浜海新区を訪れている。そこで、報道では伝わらない実態を紹介してみたい。

爆発現場は浜海新区。「天津」からは40キロ離れている
天津市の中心部から浜海新区は40キロほど離れており、東京と横浜の位置関係だから、これを「天津」爆発というのは若干の語弊がある。実際、天津のひとたち浜海新区を「天津」とは思っていない。

天津市と浜海新区は高架鉄道・津浜軽軌で結ばれている。今回、事故が起きたのはこの鉄道の終点にあたる東海路駅のすぐ近くで、その南側一帯がビジネス特区だ。

天津新都心の開発は1986年、中央軍事委員会主席・小平がこの地を訪れ、「開発区大有希望(開発区には大いなる希望がある)」の書をしたためたことから始まった。このことからわかるように、天津経済技術開発区は小平が領導し、国家と共産党の威信をかけた一大事業だ。

2002年、同市出身の温家宝が首相(国務院総理)に就任すると天津の開発は加速する。そして2006年、天津市は600億元(約1兆円)を投じ、「東洋のマンハッタン」を生み出すべくビジネス特区の建設に着手した。

この「東洋のマンハッタン」は、今回の事故の2キロ圏内に収まっている。(中略)
この一帯は建築途上の高層ビルが放棄されゴーストタウン(鬼城)と化している。国家の威信をかけたビジネス特区のプロジェクトは、わずか2棟が完成しただけで、2年間の建設ラッシュのあとにすべて止まってしまったのだ。(中略)
爆発の規模にもかかわらず死傷者の数が少なかったのは、もともとここには誰も住んでいなかったからだ。

被害がトヨタなどの工場や商業施設、高層アパートなどに集中しているのも当然で、ビジネス特区のビルも甚大な損傷を被ったのだろうが、最初からなんの価値もないのだから、爆発で吹き飛ぼうが、化学物質で汚染されようがどうでもいいのだ。

逆にいえば、倉庫業者は周辺の会社や住民の苦情を気にする必要がなく、ずさんな管理で危険な化学物質を貯蔵しても問題ないと考えたのだろう。

浜海新区は、全体がほぼ“鬼城”化している
天津の浜海新区は驚くべきことに、その全体がほぼ“鬼城”化している。そのなかの数少ない例外が、事故現場となった東海路駅のひとつ手前の会展中心駅だ。

ここには国際会展中心(コンベンションセンター)があり、私が訪れたときはアニメのイベントが行なわれていて、平日にもかかわらず若者たちですごい熱気だった。

会展中心駅の周辺にはイオンのショッピングセンターのほか、サッカー場や体育館、シネコン(複合映画館)などがつくられ、伊勢丹のある泰達(テダ)駅周辺と並んで、ビジネス新区のなかではもっとも開発が進んでいる。

爆発現場から南西2キロほどのこの地区の高層アパートが被災し、住民たちが避難を余儀なくされた。報道でこの地区だけが取り上げられるのは、ここにしかひとが住んでいないからだ。

爆発を起こした倉庫には、水分と反応すると青酸ガスになるシアン化ナトリウム700トンをはじめ、計3000トンもの危険化学物質が貯蔵されていたとされる。

今回の事故の最大の衝撃は、飛散した有毒物質の影響でこの一帯が居住できなくなる恐れがあることだ。天津市は会展中心を基点に開発を軌道に乗せようと苦慮してきた。その努力が無になれば、浜海新区全体が完全な鬼城と化して、市政府には巨額の債務がのしかかるだろう。

報道によると、天津市の直接負債は同市の年間財政収入(2013年)の1.28倍に上る2246億元(約4兆3572億円)に上り、融資平台などを使って調達した資金を加えるとその総額は5兆元(約97兆円)を超えるという。

国務院の会議で、汪洋副首相が「天津市は実質上破産している」と発言したとも報じられた。

上海市場の株価暴落や人民元の切り下げなどで中国経済の減速が明らかになったが、この国の経済の“時限爆弾”は地方政府が抱える膨大な債務だ。

中華人民共和国審計署(日本の会計検査院に相当)の発表では、2013年6月末時点の政府債務残高の合計は国内総生産(GDP)の50%程度に相当する約30兆2700億元に達し、そのうち地方政府の債務残高が17兆9000億元(GDP比約30%)で全体の約6割を占めた。

10年末の10兆8000億元(同27%)に比べて約7兆元も増えており、その資金の多くは「地方政府融資平台」を通じて借りられている。こうした債務は償還時期が迫っており、15年末までに債務残高の約半分、16年末には約65%が期限を迎える。(内藤二郎「中国経済の行方 地方債務問題 解決程遠く」(2015年8月19日「日経新聞」朝刊「経済教室」)。

今回の事故をきっかけに天津市政府の破綻状態が表面化することになれば、中国経済に与える影響は甚大なものになるだろう。【8月21日 DIAMOND online】
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上記記事にある「地方政府融資平台」は、中国の地方政府傘下にある、資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた投資会社のことです。

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中国の中央政府は財政規律を維持するため、地方政府に対して債券の発行を原則的に禁止し、銀行融資に事実上の総量規制を敷いている。よって地方政府は基本的には、税収や中央政府からの交付金、銀行からの限られた融資で予算を策定する。

しかし、地方自治体は経済成長の維持のため、GDPを無理にでもかさ上げしようとして、インフラや不動産の開発を積極的に行った。

その財源確保のために、法の抜け穴として融資平台と呼ばれる地方政府傘下の投資会社を設立し、銀行や信託会社から地方政府に資金を調達する影の銀行としての役割を果たしている。【ウィキペディア】
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地方政府の財政危機、膨らむシャドーバンキングという中国経済の抱える大問題を象徴するのが「地方政府融資平台」の存在です。

天津のようなゴーストタウンは、すでに中国各地に存在する
国家プロジェクトでもある天津経済技術開発区が“鬼城”(ゴーストタウン)化しているという話は、昨年4、5月頃も話題になっていました。

このため北京・上海と並ぶ直轄市でもある天津市が財政破綻状態にあるとも言われていました。

****事実上破綻状態」にある中国・天津市****
ここ10~20年で目覚ましい発展を遂げてきた中国経済だが、一方で最近数年は「バブル崩壊」の噂も少しずつ広がっている。そんな中、中国第5の都市である天津市が「事実上破綻状態」にあるという衝撃的なニュースが流れている。

開発計画が不況のため頓挫
まず天津市という都市の場所と役割を再確認しよう。天津は中国の首都・北京のすぐ南東にあり、海に面している港湾都市である。そして天津は都市としての経済規模で言えば、上海、北京、広州、深センに次いで中国全土でも第5位の規模を持つ

ところが中国の汪洋副首相は2月の国務院の会議で「天津は事実上破綻している」と述べていた。一体どうしてこうなってしまったのか?

こうなった経緯は、少し前の2006年頃にさかのぼる。2006年に中国は天津において「東洋のマンハッタン」建設を目指した、大規模プロジェクトを開始した。

このプロジェクトには中国は約600億元(日本円で1兆円弱)も投資されることとなった。日本円で1兆円弱だが、中国のお金の価値を考えると、日本で言えば数兆円にも匹敵するであろう巨額の数字だ。
600億元ものお金を投資し、39のプロジェクトによって49棟の超高層ビルを建設する予定であった。

しかし「東洋のマンハッタン」プロジェクトは、2008年のリーマンショック後の世界的不況、そして地価の伸び悩みの末に、頓挫することになる。

天津には建設途中で放棄された多くのビルなどが残っており、さながらゴーストタウンのようになっているという。しかしこのようなゴーストタウンは、すでに中国各地に存在する。(中略)

天津はプロジェクトの失敗によってすでに多額の債務を抱えており、直接的な債務だけでも2246億元(約3兆6600億円)に上るというデータがすでに出ている。さらに前述の汪洋副首相の話では、その他の債務も含めると天津市の債務総額は約5兆元(約81兆6000億円)にもなるとのことだ。

しかしさらに問題なのが、このような開発プロジェクトの失敗が天津市に留まるものではないことだ。中国はここ数年無鉄砲な大規模開発プロジェクトを全国的に行っており、その多くが「東洋のマンハッタン」プロジェクトのように、リーマンショック後の世界不況や地価の下落で利益を出せずに頓挫してしまっている。

このようなプロジェクトの多くは地方が行っているので、その債務は地方財政にのしかかってくる。

そして、それらを全て把握できている人間などほとんどいない。すでに知られていることだが、中国の統計は正確さにかなり欠けるものであるからだ。(後略)【2014年5月5日 鳥羽賢氏 iFOREX】
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今回の天津爆発事故はこうしたゴーストタウンでおきたから犠牲者も少なかった、また、ゴーストタウンだから杜撰な安全管理にもつながったと言えます。

共産党政権の中心施策の中核で起きた事故
そして今回事故は、なんとかこのゴーストタウンを再建しようという試みを頓挫させるものだったとも言えます。
その結果、天津市の財政破綻が表面化することになると、経済はもちろん、習近平政権を政治的に揺るがすことにもなります。(実際は、どんな手段を使ってでも直轄市・天津の財政破綻が表面化しないようにするのでしょうが、その無理・しわ寄せが周辺に及ぶことになるのかも)

というか、濱海新区開発がゴーストタウン化している問題はすでに共産党内で問題になっていたところで、今回事故を契機に、恒例“権力闘争”と結びついた動きがあるのでは・・・とも指摘されています。

****疑惑④事件と権力闘争の関連****
習近平は、この事件を権力闘争に利用しようとしているのではないか、という疑いがある。

事故現場となった浜海新区開発は政治局常務委・張高麗が天津市党委書記時代に推進したプロジェクト。だが、2014年早々、この浜海新区がゴーストタウン化し、事実上頓挫していることが党内部で問題になっていた。

内部会議で、天津市は5兆元の債務不履行に陥り実質財政破綻しており、その責任が張高麗にあるのだと、副首相・汪洋から批判されたという話も漏れ伝わっている。張高麗は習政権の副首相で、経済政策の柱の一つである「北京・天津・河北省一体化政策(京津冀一体化)」の責任者だ。

実のところ習近平は、政敵である江沢民派(上海閥)に属し、石油閥でもある張高麗を信頼しておらず、天津の経済政策失敗のツケを払わせる心づもりだった、という見方もある。

2015年7月24日、河北省党委書記で周永康の元秘書・周本順が「重大な規律違反」で失脚したことで、京津冀一体化政策はますます停滞している。

浜海新区開発の頓挫、京津冀一体化政策の遅延、そして今回の天津大爆発の政治責任の矛先を、上海閥で石油閥の張高麗に向けることで、天津の財政破綻問題を「爆発事件の影響」としてカモフラージュするのではないか。【8月23日 福島香織氏 現代ビジネス】
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一方、そうした“権力闘争”に矮小化された話ではなく、習近平政権あるいは共産党支配の根幹にかかわる問題であるとの指摘も。

“2014年3月16日、中国政府は「国家新型城鎮化計画(2014年~2020年)」なるものを発表した。
これは都市にいる3億に近い農民工(農村から都市への出稼ぎ労働者)の人権に配慮し暴動発生率を減少させるため、都市にいる農民工の都市市民化や農民工を出身地に戻し、内陸の都市化を進め、都市で戸籍のない農民工に新たな戸籍(住民票)を与えて郷鎮程度の小都市に定住させ、そのための就職先を創出させる、といった構想に基づくものだ。”【8月17日 遠藤誉氏 YAHOOニュース】

首都・北京と直轄市・天津を含む「京津冀一体化計画」は、この「国家新型城鎮化計画」の中核をなすもので、そして天津において「京津冀一体化」の中心をなしているのが、今回爆発事故を起こした濱海新区です。

天津の爆発事故は共産党政権が国家の命運をかけて取り組んでいる施策の中核において起きた事故であり、事故の背景に許認可における長年の腐敗・汚職があったことを含め、習近平政権を揺るがしかねない・・・と、遠藤氏は指摘しています。

最近の人民元切り下げについては“習指導部は経済成長を低めに抑えながら、痛みの伴う経済構造改革を先行させる「新常態(ニューノーマル)」路線にかじを切ってきた。しかし、改革が本格化する前に実体経済が落ち込む症状が進行。このまま景気低迷を放置すれば雇用情勢に影響し、中国共産党政権が最も恐れる社会不安に結びつく、と強い懸念を抱き始めたとみられる。”【8月12日 産経】と指摘されていますが、そうした経済情勢にあって、天津爆発事故は共産党指導部の舵取りを更に難しくする問題と言えます。
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「第2次世界大戦終結以来最悪の難民危機」に揺れる欧州

2015-08-22 22:48:15 | 難民・移民

【8月22日 AFP】

7月だけで10万人超
これまでも何回も取り上げてきた欧州を目指す難民・不法移民の問題はまったく改善しておらず、悲惨な結末を伝える報道が相次いでいます。

****欧州の難民問題「戦後最悪の危機」、伊沖で新たに40人死亡****
イタリア・ランペドゥーサ島沖の地中海で15日、難民や移民希望者が多数乗った過密状態の船から、少なくとも40人の遺体が発見された。

危険を顧みず地中海を渡り、イタリアやギリシャにたどり着いた人々は数十万人に上っており、欧州連合(EU)は「第2次世界大戦終結以来最悪の難民危機」への対応に苦戦を強いられている。

イタリア海軍はツイッターで、「大勢の難民が救出されたが、少なくとも40人が死亡した」と述べた。また、全国紙コリエレ・デラ・セラは、遺体が甲板下の貨物室で発見され、窒息したとみられると伝えた。

生存者は女性45人と子ども3人を含む312人で、ノルウェー船籍の「シエム・パイロット」に移された。この日は他にも、EUが地中海で実施している国境管理作戦「トリトン」で捜索救助活動に参加していた他の船により、400人前後の難民が救助された。

リビアなどから地中海を渡る危険な航海を生き延びた難民たちは、密航のための支払い金額が少ない難民、特にアフリカ系の人々を、人身売買業者が船倉に閉じ込めているとたびたび指摘している。

狭い空間に押し込まれると、壊れそうな船が転覆した場合に溺れるリスクばかりではなく、船の燃料である軽油の煙が命取りになる可能性もある。

EUは、紛争や災害、貧困が要因で欧州に押し寄せている難民や移民希望者が、第2次世界大戦の終結以来、類を見ない規模に膨らんでいるとの見解を示している。【8月16日 AFP】
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今年7月は、確認されたEU側への難民や移民希望者がひと月で10万人を超えています。

****7月の難民、過去最多=10万人超で「緊急事態」―EU****
欧州連合(EU)加盟国と非加盟国の国境警備を担う欧州対外国境管理機関(FRONTEX、本部ワルシャワ)は18日、7月に確認されたEU側への難民や移民希望者が10万7500人に上り、2008年の統計開始後、初めて10万人を超えたと発表した。

難民らの数は3カ月続けて最多記録を更新している。年初から7月までの総数は約34万人となり、昨年1年間の28万人を上回った。

戦闘やテロが続くシリアとアフガニスタンからが多く、FRONTEXは難民らが押し寄せているギリシャやイタリア、ハンガリー当局に「前例のない圧力」がかかっていると指摘した。

FRONTEXは「欧州にとっての緊急事態」と強調し、負担の大きい国への支援をEUの全加盟国に呼び掛けた。【8月19日 時事】 
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EUでは、今年4月にリビア経由でイタリアに入国しようとした難民を乗せた船が地中海で転覆し、約700人が死亡した事件をきっかけに、EU各国に一定数の受け入れ枠を設定しようとしていますが、反対国もあって義務化には至っていません。

7月には自発的な取り組みとして、3万2000人を超える難民を加盟各国で分担して受け入れることを決め、12月までにさらに8000人が割り当てられる予定です。

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・・・・しかし、割り当てに明確に反対する国が出てきたため、事実上、自発的な取り組みになってしまった。

スウェーデン、オーストリアは割り当てに賛成しているが、フランスやスペイン、その他の中欧、東欧諸国は強硬に受け入れを拒んでいる。

イギリスとデンマークはEU共通の難民政策自体から距離を置いているため、今回は1人も受け入れないと拒否している。【8月21日 Newsweek】
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イギリス:英仏海峡密入国阻止を強化
難民受け入れを拒んでいるイギリスですが、アフリカや中東諸国などから集まった移民が、仕事が得やすいと考えられているイギリス入りを目指し、運搬用列車に乗せられて英仏海峡トンネルを通過するトラックなどに隠れて密入国しようと試みており、車両にひかれて死亡する者が出るなど問題が深刻化しています。
(7月31日ブログ“英仏海峡に押し寄せる不法移民 ドイツでは国内割当制で軋轢も 財政難のギリシャでは・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150731

難民・不法移民増加への世論の批判がEU離脱論議にも影響するイギリス・キャメロン政権は、フランスと共同で密入国阻止に取り組んでいます。

****<英仏海峡>密入国阻止 両国で指揮統制センター設立****
英国のメイ内相は20日、英仏海峡トンネルの入り口があるフランスの港町カレーでカズヌーブ仏内相と会談し、トンネルを通って英国に密入国を図る移民問題を巡り、両国の警察がカレーに指揮統制センターを設立、協力して密入国を阻止することで合意した。

カレーには、約3000人の不法移民が集結しており、トンネルに通じる幹線道路が規制され、貨物の輸送などに影響が出ていた。

合意文書によると、指揮統制センターを設立するほか、英国側の資金でトンネルの入り口に通じる道路を覆うフェンスを強化し、夜間でも監視できる赤外線装置や監視カメラなどを増設することで合意。

カレー周辺には数千ユーロで英国への密入国を請け負うブローカーがいるとされ、両国で協力して摘発する。

合意文書では、欧州全体で今年6月までに34万人という過去に例がない規模の難民が中東やアフリカ各国から押し寄せてきたと説明。「(本来自国に戻るべき)経済難民も含まれており、地中海を経由する密航者が欧州に定住する流れを止めなければならない」として、アフリカ各国への支援も行うとした。

仏カレーには昨年9月ごろから英国への密入国を試みる移民・難民が増え、約3000人がテントなどで暮らしている。トンネルから密入国した人数について「誰もわからない」(メイ内相)としている。内務省によると、英国全体では今年の第1四半期だけで、2万5020人の難民申請があったという。

トンネルは列車専用で、車両を運送する貨物列車や国際列車ユーロスターが通行する。【8月21日 毎日】
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急増するバルカン半島北上ルート マケドニアでは警官隊が難民を押し返す
難民・不法移民の欧州へのルートとしては、冒頭記事にもある北アフリカ・リビアなどから地中海を渡ってイタリアを目指すルートより、比較的安全なトルコから近いギリシャの島(コス島など)に渡り、陸路でバルカン半島を北上するルートが最近増加しています。

後者のルートでは、ギリシャからマケドニア、セルビア、ハンガリー、スロバキアなどを経て多くがドイツを目指します。

このバルカン半島北上ルートの急増によって、ギリシャ政府が「わが国の能力を超えている」と、EUへの支援を求めていることや、ハンガリーがセルビアとの国境沿いに高さ4メートルのフェンスの建設していることなどは、8月12日ブログ“難民・不法移民増加 ギリシャ「わが国の能力を超えている」 欧州各国にも広がる波紋”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150812 でも取り上げました。

ギリシャでは登録手続きの遅延や劣悪な環境に苛立つ難民と警官の衝突、更には移民同士の衝突も起きています。

****ギリシャ 支援不足で移民どうしの衝突も****
中東などからヨーロッパに渡る移民や難民が相次いでいる問題で、財政難が続くギリシャの島では、支援が追いつかないため、滞在許可などを求めて移民どうしが衝突するという新たな問題が起きています。

ギリシャには、ことしに入って中東のシリアなどから、13万人を超える移民らが押し寄せていて、このうち人口3万人余りの南東部のコス島には、7000人の移民らが流入しています。

こうしたなか、コス島の警察署の周辺で、15日、滞在許可や限られた食料などを求める数百人の移民らどうしが衝突し、少なくとも1人がけがをしました。

現地では、ギリシャ政府や自治体が、サッカーなどが行われるスタジアムを開放して滞在許可の申請を受け付けたり水や食料などの支援を行ったりしています。

しかし、移民らが急増していることや財政難が続いていることから支援が十分に行き届いていない現実が事態の背景にあるとみられています。(後略)【8月16日 NHK】
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ギリシャの北、マケドニアでは20日に「国家非常事態」を宣言、警官がギリシャからの難民を強制的に追い返す混乱も生じています。

****マケドニア機動隊が難民に閃光弾、8人負傷****
マケドニアの機動隊は21日、同国とギリシャ国境の中間地帯に足止めされた、シリア人中心の難民らに向けて閃光弾を発射するなどして、少なくとも8人が負傷した。欧州では難民問題が危機的状況に陥っている。

ギリシャとの国境に近いエドメニの村付近で、暴動鎮圧用の装備をつけた警官隊は、国境に押し寄せる難民を追い返すためにこん棒で殴ったり、閃光とごう音を発して標的を混乱させる閃光弾を投げたりした。煙を発した閃光弾に驚いた難民たちは逃げ回り、倒れて負傷した人や、顔を血だらけにした青年もいたという。

この件を受け、国際人権団体「アムネスティインターナショナルは警官が空に向けて発砲したとの報告もあり、「難民を押し返すのは国際法に違反しており、受け入れがたい行為だ」と同国警察の対応を非難した。

マケドニアは20日、非常事態を宣言し、国境を封鎖した。同国を通過して欧州北部に移動し、新たな生活を始めることを希望する3000人の主にシリア人の難民たちが足止めされた。

マケドニア政府は21日の一件後、子ども連れや妊婦など「脆弱な」難民の入国を許可し、約500人が国境を越えた。

ギリシャとマケドニア国境地帯では、ここ数日間で難民の数が増加し、21日の一件は難民が警察の非常線に向かい「助けてくれ」と叫びながら押し寄せたことで発生したという。

エドメニでは、数百人の難民が仮設テントや列車内、さらには線路上で寝泊りするなどしている。付近にはポータブルトイレが5つしかなく、ボランティア数人が難民を援助している。

アムネスティは、難民の多くが医療支援を必要としており、中には内戦で負傷した人もいると警告した。【8月22日 AFP】
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スロバキア イスラム難民の受け入れを拒否
バルカン半島北上ルートに位置するスロバキアは、先述のEUの難民割当制には反対している国ですが、20日、難民の受け入れはキリスト教徒に限定したい意向を明らかにしています。

この“イスラム教徒難民は受け入れない”というスロバキア政府の対応にはEU内部から批判の声も上がっています。

****欧州難民危機で、スロバキアがイスラム難民の受け入れを拒否****
スロバキアが受け入れるのはキリスト教徒の難民だけで、イスラム教徒は受け入れない──スロバキア内務省広報官はウォールストリート・ジャーナル(WSJ)にこう語った。

「スロバキアにはモスクが足りないので、イスラム教徒の難民は落ち着かないだろう」というのが、その理由だ。

スロバキアは現在、トルコ、イタリア、ギリシャの難民キャンプで暮らす難民や移住希望者のうち200人を受け入れることになっている。

これは欧州の「玄関口」として難民が集中しているイタリアとギリシャの負担を軽減するためにEU(欧州連合)が加盟各国に割り当てた数。最終的には、EU全体で4万人の受け入れを目指す。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、今年7月の1カ月間にシリア内戦から逃れてきた難民など5万242人がギリシャに押し寄せていると発表した。これは昨年1年間にギリシャに来た難民の総数4万3500人よりも多い。

スロバキア内務省の広報官イバン・メティクはBBCの取材に対して、「その気になればイスラム教徒を800人受け入れることだってできるが、モスクもない土地には適応できないだろう」と語った。

「難民が押し寄せるヨーロッパを助けたいのは山々だが、スロバキアは難民の通過点でしかない。ここでの生活は望まないだろう」

さらにメティクはWSJに対し、「スロバキアにはモスクがない。だからキリスト教徒だけを受け入れたい」と、語った。

結局は自発的な取り組み頼り
この一連の発言は、他のヨーロッパ諸国の怒りを買った。今年の難民流入数が最大80万人にも上るとみられるドイツの外交問題評議会のノルベルト・レットゲン議長は、スロバキアの態度は「ヨーロッパの機能不全」を加速させ、EUの対応をぶち壊しにしている、と非難した。

スロバキア政府は「難民の到着時に宗教について尋ねる予定だ」と表明したが、UNHCRは、各国政府に対して、難民受け入れの際に「差別的でないアプローチ」を取るよう求めている。

EUの行政府にあたる欧州委員会の広報官アニカ・ブライトハードはこう語った。「EU加盟国は、基本的人権を定めた欧州憲法と、難民を保護する共通ルールを尊重し、遵守する義務がある」(中略)

スロバキアのメティクは、自分の発言は宗教差別ではなく、スロバキア社会の結束を維持する意図だったと弁明している。【8月21日 Newsweek】
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スロバキアの報道官の発言については、下記のようにも報じられています。

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ネティク報道官は「宗教が問題なのではないし、差別でもない。スロバキアに住みたくないと思っている人々を1000人以上受け入れるとすれば、それは偽りで不誠実な連帯だということだ」と言う。

「住む場所を強制することはできない。大半の人が数日のうちにドイツや英国、北欧諸国に向けて出国するだろう。これでは何の解決にも助けにもならない」

ただ、もしイスラム教徒がスロバキアに来ることを選び、難民申請をするならば、通常のプロセスで対応するという。【8月21日 CNN】
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どうせイスラム教徒難民はスロバキアに住む意思がないし、スロバキア側にその用意もないので・・・という話のようです。
“宗教差別ではない”とは言っていますが、やはり非常に危ういものが感じられます。

ドイツ 州政府が「もはや限界」と悲鳴
多くの難民が目指すドイツでは、7月31日ブログでも取り上げたように、国全体で受け入れた難民を各地方に割り振る制度になっているようですが、割り当てられた地方では難民希望者保護施設への襲撃事件などの軋轢が生じています。

また、8月12日ブログ冒頭で取り上げた、メルケル首相と国外退去を迫られているパレスチナ難民少女のやり取りのエピソードが示すように、その対応に苦慮しています。

****欧州目指す難民、ドイツに集中=EU全体の対策不可欠に****
戦乱や貧困を逃れて中東などから欧州に入る難民や移民希望者が増加の一途をたどっている。

その多くが押し寄せる経済大国ドイツでは、対応に当たる州政府が「もはや限界」と悲鳴を上げており、欧州連合(EU)全体での対策が不可欠となっている。

独内務省は19日、難民など保護申請者が今年1年間で最大80万人に達し、過去最多を大幅に更新するとの見通しを公表。地中海を渡ってギリシャやイタリアに向かう難民の数もかつてない水準で、その多くは陸路ドイツを目指している。

独国内では、保護申請者の収容施設不足などの問題が顕在化。グテレス国連難民高等弁務官は独紙ウェルトに対し、一部の国に負担が集中する事態は「長期的に見て無理がある」と述べ、他の欧州諸国も難民保護で責任を果たすよう求めた。【8月20日 時事】 
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寛容さと問題の根源へのアプローチ
難民・不法移民の増加が社会に与える影響を考えると、英仏海峡トンネルでの水際作戦を強化するイギリスや、国境にフェンスを建設するハンガリー、あるいは受け入れにくい者を排除するスロバキアなどの対応を一概に否定することもできません。

ただ、いつも言うように「ここはお前らの国ではない!出ていけ!」では、これまで大切にしてきた価値観を踏みにじり、異質な世界に踏み込んでいくような不安を感じます。

戦乱や政治的迫害を逃れための「難民」と、より豊かな生活を求める「経済難民」を区別する考えも、現在の国家の枠組みを前提とした世界にあっては自然にも思えるものではありますが、現在の世界が抱える重大な問題のあらわれとも言え、フェンスを建設してすまされる問題ではないように思えます。

難民問題で問われるのは、自分たちの生き方の問題でもあります。
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