孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフリカ諸国などの選挙にみる“形だけの民主主義”

2011-11-30 20:06:41 | アフリカ

(リベリアの大統領選挙 支持者の乗った車の後ろの車椅子は、内戦の犠牲者でしょうか? リベリア内戦では反政府勢力が住民の手足を切断する残虐行為が横行しました。 それとも地雷でしょうか? ノーベル平和賞のサーリーフ大統領が再選を決めたこの選挙も、支持者への現金ばらまきといった「金権選挙」から逃れることはできなかったようです。 “flickr”より By genna S http://www.flickr.com/photos/genna_s/6230467249/

【「ノーベル賞? 彼女のもので、我々のものじゃない。食べ物を運んでくれるのか」】
今月10日には、ノーベル平和賞を受賞する西アフリカ・リベリアのサーリーフ大統領が再選を決めました。

欧米・日本的な感覚すれば、その民主化の実績と受賞の話題性で恐らく圧勝するのだろう・・・とも思われるのですが、実際は一時苦戦も伝えられる状況でした。

“10月の第1回投票で43.9%を得票したサーリーフ氏に対し、2位のタブマン氏は貧困層の支持を受けて32.7%と迫り、決選投票に挑んだ。3、4位の候補を取り込めば勝機があるとみられていたが、2人の候補は相次いでサーリーフ氏の支持に回った。タブマン陣営は結局、直前になって投票ボイコットを宣言し、選挙プロセスに不正と欠陥があると主張”【11月8日 朝日】ということで、決選投票は対立候補がボイコットする形となっています。

欧米で高く評価された実績が、必ずしも国民の支持に繋がっていない背景には、内戦に疲弊したリベリアの厳しい現実があります。

****深い内戦の傷痕、失業率8割****
リベリアの現状は厳しい。
首都中心部は国際援助で4車線の幹線道路が整備されているが、少し外れると未舗装の道が続き、雨が降ればぬかるむ。空爆で外壁が壊れた建物も点在し、内戦の傷痕は深い。上下水道は未整備で、電気が通じていない地域も多い。失業率は約8割に上り、一日1ドル以下で暮らす人の割合も7割近い。(中略)

女性の社会進出のために政府要職に女性を登用したり、初等教育の無料化を進めるなどの改革を断行。ダイヤモンドなど紛争資金にも使われた資源の管理を徹底し、汚職の排除に努めてきた。ノーベル平和賞もこうした活動が評価された結果だった。

だが、無料のはずの学校で授業料が徴収されたり、警察官が車を止めて賄賂を要求したりと、末端の汚職はなくなっていない。
首都郊外にある同国最大のスラム街「ウエスト・ポイント」。悪臭が漂うなかで、7万5千人余りがひしめき合う。失業中のターバーさん(44)は「現政権は何もしていない。道路も外国がつくった。コネがないと職を得られないし、子供の奨学金ももらえない」。7人の子供を持つトーさん(42)は「ノーベル賞? 彼女のもので、我々のものじゃない。食べ物を運んでくれるのか」と話した。

男性には不満の声が多いが、女性からはサーリーフ氏支持の声が上がる。スラムで生まれ育ったヘイゼルさん(19)は、高校を卒業し、来年、医学部を目指すという。「女性が希望を持てる国にしてくれた。彼女はみんなの模範。彼女のようになりたい」

新聞やラジオを手にできない人も多いなか、貧困層には道ばたの「黒板新聞」が情報源だ。重要なニュースを2日に一度、チョークで手書きする。管理するジャーナリストのアルフレッドさん(37)は「貧困と教育の問題は簡単には解決できない。誰が大統領でも30年はかかる」と話した。
再選を確実にしたサーリーフ氏も、再建が途上であることを強調する。「まだ着陸していない。まだやるべきことがある」【11月8日 朝日】
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こうした厳しい現実があるため、ノーベル平和賞受賞のサーリーフ大統領の選挙戦ですら、民主主義の理念とはややそぐわない「金権選挙」の面もあったようです。

****リベリア再建へ長い道 ノーベル賞の大統領****
・・・・サーリーフ陣営は選挙戦最終日の6日夕にモンロビアで集会を開き、約5万人が集結。「選挙に行くぞ!」の大合唱で会場は歓喜に包まれ、勝利集会の様相だ。会場では無料の食事や水の配給所に長蛇の列ができ、ヘリコプターからビラがまかれた。

実は、(野党)CDCの選挙放棄の理由としてささやかれているのが資金不足だ。選挙戦が進むにつれ、両陣営の資金力の差が歴然となったという。CDCのグレイ事務局長は「貧困層の中でサーリーフ氏を支持する者がいるのは、資金提供を受けているから」と指摘する。

アフリカでは選挙運動中に、地域の代表に現金や食料、子供用のサッカーボールなどを渡すのが一般的な国が少なくない。サーリーフ陣営のブラウンネル報道官は「私も米国生活が長いからおかしな風習だと思うが、『郷に入っては郷に従え』だ。大統領も受け入れている」と話し、「金権選挙」を認めた。

そんな選挙戦に、サーリーフ氏の選挙前のノーベル平和賞受賞決定は影響したのか。タブマン氏は「識字率も低く、ノーベル賞が何かを理解していない人が多い。選挙への影響はほとんどない」と話した。【同上】
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強権・独裁を覆う民主的選挙のみせかけ
欧米的な民主主義をよく理解しているサーリーフ大統領ですらこうした状況ですから、他は推して知るべしというところでしょう。
アフリカでも多くの国で選挙・投票が行われますが、独裁・強権支配を覆うみせかけにすぎない場合も少ないようです。
ここ半月ほどに目にした記事にも、そうした事例が見られます。

****独裁国家で国民投票=大統領、世襲の準備か―赤道ギニア****
ヌゲマ大統領(69)による独裁が30年以上も続いている中部アフリカの産油国、赤道ギニアで13日、新憲法の是非を問う国民投票が行われる。新憲法は、大統領の任期を最大2期14年に制限、「民主化」を掲げているが、実は世襲に向けた準備とみられている。

ヌゲマ大統領は1979年、おじのマシアス大統領を処刑して権力を握った。独裁国家だが、大統領選は行われてきており、毎回圧勝だ。次の大統領選は2016年。そこからさらに14年「88歳になる30年まで続けることを担保する」(人権団体)ための改憲と疑われている。

しかし、一番の狙いは、副大統領職の新設にある。大統領が指名できる新副大統領に有力視されているのが、息子のヌゲマオビアンマンゲ農林相(40)だ。米仏での豪遊で「世界的に有名などら息子」(外交筋)を、段階を踏んで後継者に据えたい親心が背景にあるとされる。【11月13日 時事】 
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****ガンビア大統領選:現職のジャメ氏が4選****
西アフリカのガンビアからの報道によると、24日に行われた同国大統領選で独立選挙委員会は25日、現職ヤヤ・ジャメ氏(46)が得票率約72%で4選を果たしたことを明らかにした。任期は5年。
ジャメ氏は1994年のクーデターで権力を掌握、国際人権団体などから人権侵害や強権体質が批判されている。投票率は約83%だった。

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は自由で透明な選挙が行われる状況にないとして、選挙監視団を派遣しなかった。【11月26日 毎日】
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****現職カビラ氏が優勢=流血拡大、国連総長が警告―コンゴ大統領選*****
サハラ砂漠以南のアフリカで最大の国土を持つ中部アフリカのコンゴ(旧ザイール)で28日、大統領選の投票が行われた。チセケディ元首相(78)ら11人が出馬しているが、現職カビラ大統領(40)が優勢とみられている。

1997年まで30年以上続いたモブツ独裁体制とその後2003年までの内戦を経て、大半の国民は06年の前回大統領選で初めて民主的な選挙を体験した。内戦後2回目となる今回選挙は国連の全面支援があった前回と違って自力で行うため、民主主義の定着度が問われる。

しかし、内戦以来の各派、各地域の対立感情は根深く、選挙戦では衝突による死者も出ている。流血拡大が不安視される中、国連の潘基文事務総長は27日、声明を出し、平和な環境で選挙を行う「一義的責任」は政府にあると強調。実弾を使った警官隊による野党弾圧に警告を発した。【11月28日 時事】
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民主主義の理念とはかけはなれた厳しい現実があるため、選挙・政治においても民主主義は形ばかりのもとして扱われる。また、その結果、厳しい現実の改善は一向に進まず、ときに内戦といった悲惨な状況にもなる・・・・という悪循環のようです。

政権側が意図しない番狂わせ・・・無効・やり直し
こうした“形だけの民主主義”はアフリカに限った話ではありません。
ロシアの支援を受けて、グルジアからの独立を主張している南オセチアの大統領選挙では、政権側が意図した候補が当選しない番狂わせが起こった結果、最高裁が選挙を無効として、もう1回やり直すことになったそうです。

****来年3月に大統領選やり直し=番狂わせの結果受け―南オセチア****
グルジアから独立宣言している南オセチアで27日行われた大統領選の決選投票で、最高裁は29日、選挙結果を無効と決定した。これを受けて南オセチア議会はやり直しの選挙を来年3月25日に実施することを決めた。

中央選管の暫定結果では、ココイトイ大統領系のビビロフ非常事態相(41)の得票率40.0%に対し、女性のジョエワ元教育相(62)が56.7%でリードする番狂わせになり、ビビロフ陣営が「選挙違反があった」として裁判所に不服を申し立てていた。

2008年8月のグルジア紛争後、初めての大統領選だが、混乱に陥った格好。グルジアや欧米などは選挙の正統性を認めていない。【11月29日 時事】 
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ビビロフ氏は選挙前にロシアのメドベージェフ大統領と会談、事実上の信任を得ていたそうです。
対立候補を排除して勝つまでやる選挙など、無意味です。

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南スーダン  準備が進む陸自PKO派遣  今も続く国境付近での衝突

2011-11-29 21:36:12 | スーダン

(南スーダンで地雷除去にあたるノルウェーのNGO、Norwegian People 's Aid(NPA)の女性チーム ノルウェーは地雷廃絶のための活動に関して国際的に高い評価を得ていますが、それは、こうした危険を伴う地道な活動があってのことです。“flickr”より By UNMAS http://www.flickr.com/photos/unmas/5906498748/

国境では武力衝突、難民キャンプ空爆も
南スーダンPKOへの陸上自衛隊派遣については、宿営地の都合でやや遅れが出ることもあるようですが、大枠としては実行に向けて準備が進められています。

****南スーダンPKO、来月20日にも派遣閣議決定****
南スーダン国連平和維持活動(PKO)への陸上自衛隊の施設部隊派遣の実施計画について、野田政権は12月20日に閣議決定する方向で調整に入った。

閣議決定後に一川保夫防衛相が防衛会議を開いて自衛隊に派遣命令を出し、来年1月以降、陸自の中央即応連隊で構成される第1陣約200人がジュバに出発する。第1陣は活動拠点づくりを担い、その後に施設部隊を中心とした本隊約300人がジュバの道路建設などにあたる。

ただ、現地での自衛隊の宿営地は決まっておらず、派遣時期が遅れる可能性もある。当初、12月末に撤退予定だったバングラデシュ部隊の宿営地を使う計画だったが、国連南スーダン派遣団(UNMISS)本部が来年7月1日までの活動延長を要請したためだ。
このため自衛隊では、別の場所に宿営地を新設する案や、バングラデシュ部隊が撤退するまで、同じ敷地内に仮兵舎をつくる案などを検討している。【11月29日 朝日】
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自衛隊が派遣される首都ジュバ付近は治安も比較的安定しているとのことですが、北部スーダンとの国境エリアでは衝突も続いています。

****南スーダンで軍と武装勢力が交戦、18人死亡****
南スーダンからの報道によると、同国軍の報道官は11日、北東部の上ナイル州で10日、武装勢力が隣国スーダンから越境攻撃し、応戦した南スーダン軍兵士5人を含む18人が死亡したと述べた。
報道官は「スーダン政府は、南部の武装勢力に武器を供与している」と非難した。(後略)【11月12日 読売】
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スーダン政府は関与を否定しているとのことです。
また、上記衝突の前日には、避難民キャンプへの爆撃も報じられています。

****南スーダン:避難民キャンプ、スーダン軍が空爆****
国連平和維持活動(PKO)での日本の陸上自衛隊施設部隊の派遣が決まっている南スーダンからの報道によると、スーダン軍の戦闘機が10日、南スーダン北部ユニティ州の避難民キャンプを空爆し、同州当局者は12人が死亡、20人が負傷したと述べた。死傷者はなかったとの情報もある。

AP通信によると、スーダン軍は9日にも同州に隣接する上ナイル州を空爆、7人が死亡した。南スーダンのキール大統領は10日、スーダン側が侵略しようとしていると非難した。
米政府も空爆を強く批判する声明を出した。一方、スーダン軍側は関与を否定している。

南スーダンは20年以上続いた内戦を経て今年7月、スーダンから独立したが、両国の国境付近では双方の反政府勢力が活動し、断続的に戦闘が継続。両国とも自国の反政府勢力を相手方が支援していると非難し合っている。
ユニティ州の避難民キャンプは国境から十数キロ南にあり、反政府勢力掃討作戦が続くスーダン南部の南コルドファン州に隣接、1万5000人が暮らしている。スーダン側は、自国の反政府勢力がキャンプにかくまわれていると批判していた。
ユニティ、上ナイル両州は、陸自部隊が活動する首都ジュバから離れている。【11月11日 毎日】
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国連は、整備が遅れている北部での活動を日本側に要望
陸自部隊は、当初は治安が安定している南部の首都ジュバ周辺で道路補修などのインフラ整備を担う予定ですが、国連は、整備が遅れている北部での活動を日本側に要望しており、既にジュバから約150キロ北のボアなどでの活動を打診しています。

日本政府は、派遣する陸自部隊の安全を確保するため、アフリカで対テロ作戦を行っている米軍から治安情報の提供を求める方針を固め、米政府と調整に入っています。治安が悪化しているスーダン国境に近い北部情勢などについて、米軍との情報共有を図ることが目的です。

もとより、PKOが行われる地域は、治安面で危険が伴うエリアです。民間ではなく自衛隊などの“軍”が派遣されるのも、危険を前提としたことです。
危険を回避しては何もできませんので、治安面への配慮ともバランスをとりながら、現地住民の生活安定に寄与できるように取り組むべきでしょう。

ただ、将来的に危険度の高いエリアでの活動を行うのであれば、携帯する武器についても見直し検討が必要でしょう。
万が一の場合には、どこまで現地情勢に関与して、何を目標とするのか・・・腹をくくった意思統一も必要でしょう。ルワンダや、ボスニアのスレブレニツァの例もあります。

【「スーダンが国際基準と比べ極めて高額を求めてきている」】
現地情勢の今後を決定するスーダンと南スーダンの石油収入の分配交渉は難航しています。
両国ともに、原油依存の高い経済状態ですので止むを得ないところではあります。

***南スーダン:情報・放送相が石油収入分配でスーダン批判****
今年7月にスーダンから分離独立した南スーダンのベンジャミン情報・放送相が28日、東京都内で毎日新聞のインタビューに応じた。

スーダンとの間の石油収入の分配交渉について情報相は、スーダン領内の石油パイプライン使用料について「スーダンが国際基準と比べ極めて高額を求めてきている」と批判した。また、現在計画が持ち上がっているケニアへとつながる別のパイプラインなど、新たなパイプライン敷設の必要性を強調した。

南スーダン独立前の旧スーダンは産油国だったが、油田の多くが南側にある一方、輸出港につながるパイプラインはスーダン領内にしかない状態。石油収入の分配比率決定が大きな課題になっている。独立当初、両国は今年9月の合意を目指したが、交渉は難航している。

情報相は、スーダン側がパイプライン使用料について、1バレル当たり32ドルを要求していると述べ、「他国では1バレル当たり41セントか、それ以下の所もある」と指摘。その上で「別のパイプラインが必要」と明言し、日本企業も強い関心を示すケニアのインド洋沿岸につなぐパイプライン計画のほか、ジブチへとつなぐ可能性についても「検討している」と述べた。

今後産油量が減ることからパイプライン新設については実現性に疑問の声があるが、情報相は「計画を阻止しようとするプロパガンダだ」と一蹴し、「まだ産出が始まっていない油田がある」と力説した。【11月28日 毎日】*****************************

“1バレル当たり32ドル”と“1バレル当たり41セント”では雲泥の差があります。
素人にはよくわかりませんが、まだ両国の隔たりが大きいことはわかります。

北部からの帰還民の大量流入により、帰還民キャンプの生活環境は悪化
南スーダンの再建に向けた取り組みとしては、帰還民対策が難航していることが報じられています。

****南スーダン、帰還民の再定住進まず 「敵意」にも直面****
南スーダンの独立は北部のスーダンから数千人の帰還を促したが、新しいより良い生活への希望はついえようとしている。多くの帰還民たちが、いまだに、帰還民のための一時収容キャンプで日々生きていくのがやっとという生活を送っているのだ。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が帰還民支援のために中部レイク州ルンベクに建設したキャンプでは、れんがやビニールシートに覆われた小屋に60家族が暮らしている。3か月前にスーダンの首都ハルツームから再定住を求めて来たものの、南スーダン政府から土地が与えられず、キャンプでの滞在期間は延びる一方だ。また、帰還民の大量流入により、生活環境は益々悪化している。

国際移住機関(IOM)によると、2010年10月以来、南スーダンに帰還した南スーダン人は34万人以上にのぼる。レイク州だけで、この1年間に推定1万7000人以上が帰還した。
関係当局によると、北からの帰還民の多くは、雇用確保や法的地位への不安から帰還を決意した。スーダン政府は、7月9日に南部が南スーダンとして独立したのを機に、同国に住む南スーダン人に対し、9か月以内に帰還するか正規のスーダン国民になるよう通達を出していた。

■人口の半分が貧困層
スーダンと南スーダンの間では戦闘が勃発し、緊張が高まっていることもあり、各支援団体は帰還民の再定住に向けた取り組みを強化している。
今月10日には南スーダンの難民キャンプが空爆され、少なくとも11人が死亡する事件があった。国際社会はスーダン政府を強く非難したが、同政府は関与を否定している。

スーダンと南スーダンは、いまだに、国境線の画定や歳入・債務の配分で合意できていない。南スーダンは豊富な石油埋蔵量を誇るが、スーダン政府から長年顧みられてこなかったこともあり、公共サービスやインフラが整備されていない。世界銀行によると、南スーダンの人口800万人のうち半数以上が貧困生活を送っている。

■地元民からの敵意も
ルンベクの当局者は、帰還民の再定住を進めるために2年間は無償で土地を貸与する考えを示した。
南スーダンで生活を一から始める困難とは別に、地元民の反感に直面する帰還民もいる。20年以上続いた北部との内戦中に北部の軍や警察に所属していればなおさらだ。
ある帰還民は、「まずは居を定めて、国の発展に積極的に貢献していきたい」と話した。【11月29日 AFP】
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道ははるか・・・という感がありますが、一歩ずつ進むしかありません。
日本のPKO参加が、その一助となることを願います。
なお、言うまでもないことですが、スーダンは南スーダンとの問題のほかに、ダルフールも抱えています。

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イタリア  「政治家離れ」のテクノクラート内閣で危機回避できるか?

2011-11-28 22:45:46 | 欧州情勢

(11月17日 モンティ首相の「銀行家内閣」を批判して警官隊と衝突するデモ隊 “flickr”より By Vale Valentin http://www.flickr.com/photos/valex_5d/6358005567/

異例の救国キャンペーン
欧州の財政・金融不安の問題は、イタリア・ギリシャなど一部財政悪化国だけの問題ではなく、欧州経済全体への不安感に拡大しており、財政状態が健全な欧州の大黒柱、ドイツが新たに出した国債が、買い手がつかない「札割れ」の状態にもなっています。
ドイツ国債の札割れは、過去にもありますが、“23日の入札では、投資家に買ってもらえなかった分が全体の4割にのぼり、その大きさが目立った”【11月25日 朝日】とのことです。

そうしたなかで、もしユーロ圏3位の経済大国イタリアの財政が破たんすればユーロ圏全体の経済が崩壊、EU統合も頓挫する・・・との危機感では、独仏も共通認識があります。

****伊破綻で「ユーロも終わり」=仏独首脳が危機感****
イタリアが破綻すればユーロも終わる―。仏ストラスブールで24日行われた仏独伊首脳会談で、フランスのサルコジ大統領とドイツのメルケル首相がイタリアの債務問題に強い危機感を示していたことが25日、伊首相府が公表した閣議報告で分かった。

モンティ首相は25日の閣議で首脳会談の内容を説明。仏独首脳はモンティ新政権に全幅の信頼を寄せる一方で、イタリアが破綻すればユーロが崩壊するのは避けられず、欧州統合プロセスも頓挫すると、強い懸念を表明したことを明らかにした。【11月26日 時事】
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先週末25日の欧州債券市場は財政危機の行方に対する懸念から主要国債が売られ、イタリア国債(10年物)の流通利回りは一時、前日比0・2%高い年7・3%台まで上昇しました。
週明け28日午前の欧州金融市場では、欧州各国の国債利回りの上昇(価格の下落)が一服、イタリアの10年物国債利回りは7.1%台で推移しています。いずれにしても、IMFなどからの支援に追い込まれる危険水域とされる7%を超える水準にとどまっています。

市場には、モンティ新政権の政治的基盤の弱さを危惧して、イタリアの財政再建を不安視する見方が広がっているようです。
そのイタリアでは、国民にイタリア国債購入を呼び掛ける異例の救国キャンペーンも行われています。

****債務危機、救国精神で克服へ=伊が国債購入キャンペーン*****
債務危機で国債価格急落に見舞われている事態を憂慮し、イタリア銀行協会(ABI)は25日までに、11月28日と12月12日を「国債デー」と銘打ち、国民にイタリア国債購入を呼び掛ける異例の救国キャンペーンを始めた。国民の買い支えで相場の値崩れを防ぎ、国債の信頼性を少しでも高める狙いだ。

キャンペーンには約100の金融機関が参加。一般市民や企業など幅広い投資家に11月28日は既発債、12月12日は新発債の購入を促す。通常の国債購入時にかかる銀行手数料は無料にする。
イタリア国債は、巨額の政府債務残高を背景とした返済懸念から売り圧力が強まっている。ABIは「前例のないキャンペーンだが、厳しい状況にあるイタリアが国債を管理できることを国民全体で示したい」としている。【11月26日 時事】
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個人主義的な気質が強いようにみえるイタリア国民がこうした“救国キャンペーン”にどれだけ乗ってくるか・・・?

【「私たちの政権が間違ってなかったことは明らかだ」】
一方、財政危機の責任をとらされたベルルスコーニ前首相は地元紙に「私が辞めても金利は高いままだ。私たちの政権が間違ってなかったことは明らかだ」と、新政権を批判しているそうです。

****ベルルスコーニ前首相が新政権批判 国債金利高止まりで*****
イタリア国債の金利が「危険水準」とされる7%前後で高止まりしている。辞任したばかりのベルルスコーニ前首相が新政権への批判を展開する一方、イタリア銀行協会は「国債を買って国を救おう」というキャンペーンを始めた。

国債金利の急上昇で辞任に追い込まれたベルルスコーニ氏は地元紙に「私が辞めても金利は高いままだ。私たちの政権が間違ってなかったことは明らかだ」と語った。野党に転じた北部同盟のボッシ党首も「即席のひどい政権だ」「(任期の)2013年まで持たない」と批判している。(後略)【11月28日 朝日】
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イタリアの財政問題は、3回の政権で9年を超える長期にわたり首相の座にあったベルルスコーニ前首相に最大の責任があることは言うまでもなく、現在の国債利回り上昇も、ベルルスコーニ前首相辞任前後の政治的混乱を背景としたものですから、ベルルスコーニ前首相の言い草はいいささか悪い冗談ではあります。

ベルルスコーニ前首相の責任は、経済・財政政策のレベルだけでなく、「ベルルスコーニ首相の時代にイタリアのメンタリティーは堕落した。家族や仕事が軽視され、今さえ楽しければいいという風潮が強まった」といった社会全般にもたらした影響があります。もともとイタリア人はそういう気質なのかもしれませんが・・・。

“「女性は大好き」と公言し、売春婦とパーティーに浮かれた。少女買春、汚職・脱税などの疑惑で法廷闘争を逃れるため、首相の訴追免除などの立法を試み、野党や司法当局と激しく争い、議会を空転させた。
そんな首相が政権に居座った最大の要因は大衆迎合路線だ。2001年に相続税率を引き下げ、03年には有力企業の法人税率も期間限定で下げた。傍らでメディア関連法を頻繁に変え、自らのメディア経営に役立てた。「庶民の懐には手を突っ込まない」。こう減税を吹聴する首相に庶民も財界も甘かった”【11月10日 読売】

政治家は場外へ逃げ、テクノクラート内閣
後を継いだマリオ・モンティ新首相は、“ミラノにあるボッコーニ大学より経済と経営の学位を得た。イェール大学では後にノーベル経済学賞を受賞することになる経済学者、ジェームズ・トービンの元で大学院研究を終えた”“2期連続で欧州委員会委員を務め、ボッコーニ大学の学長及び総長を務めた”【ウィキペディア】という経済テクノクラートで、その内閣は、新内閣18人全員が非民選の民間人で、多くは「教授」の肩書を持つ学者や官僚出身という、政治家を排した陣容です。

モンティ首相は財政再建とともに構造改革を進めたいとの方針を示しており、政治的な思惑に左右されにくい内閣として、痛みをともなう緊縮策などを進めていく構えです。
しかし、政治家抜きで、痛みを伴う施策を国民に受け入れてもらえるか・・・懸念もあります。

****政治家は場外へ逃げた****
イタリアでは93年以降、専門家中心の政権が2度あったが、政治家が一人も入らないのは戦後初めてだ。「私自身が政治家になる」と語るモンティ氏の試みは、大きな政治実験となる。

だが、政治家の不参加はモンティ氏の狙いというより、実は各政党の事情が反映した側面が強かった。当初、ベルルスコーニ氏が率いる与党「自由国民」の重鎮、レッタ前官房長官や最大野党「民主党」のアマート元首相を閣内に招く案があり、モンティ氏も12日の就任会見では「政治家の力を借りる」と述べていたからだ。

これに対し、野党側が「ベルルスコーニ氏に近すぎる」とレッタ氏の入閣に反対。結局は両党が手を引いたのだが、その背景について、ローマのイル・テンポ紙のガッロ副編集長は「市場不安という難しい局面で、各党はモンティ氏と責任を分かつのを嫌い、場外に逃げた」と分析する。【11月17日 毎日】
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妥協することを批判する世論、そして世論に迎合するだけの政治家がもたらした民主主義の混迷については、11月22日ブログ「韓国(催涙弾のなかの対米FTA批准案強行採決)、アメリカ(財政赤字削減協議決裂)に見る衆愚政治」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111122)でも取り上げたところです。
そうした政治の危機的状況へのひとつの対応が、イタリアやギリシャのテクノクラート首相・内閣でしょうか。

【「政治家離れ」は両刃の剣
一方、国民の側には「モンティ氏は私たちが選んだ指導者じゃない」といった反発もあります。
“世論調査によると、新内閣の支持率は53%だが、ミラノやトリノなど各都市で数千人の学生が「モンティ内閣は解決策ではない」と抗議活動を展開、警官隊と衝突した”【11月18日 産経】

****新政権は「銀行家内閣」=イタリア各地で反対デモ****
イタリアからの報道によると、北部ミラノやトリノ、ローマなど全国各地で17日、前日に事実上発足したモンティ新政権に対し「銀行家内閣」と反発するデモが発生、一部で警官隊が催涙ガスで対抗する騒ぎが起きた。
新首相に任命された経済学者のモンティ氏をはじめ、新内閣には元銀行経営者ら経済や金融のプロが入閣。学生らのデモ隊は、こうした専門家が金融や経済混乱を招いたと批判し、警官隊や銀行支店、税務署に石や爆竹、卵などを投げ付けた。【11月18日 時事】 
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イタリアのようなテクノクラート首相では危機は回避できない、必要なのは“有権者を説得して厳しい政策を受け入れさせるだけの気概と聡明さ、カリスマ性を備えた指導者だ”との指摘もあります。

****テクノクラート首相は国家を救えない*****
各国は危機回避のため実務型政治にシフトし始めた。だが厳密に計算された緊縮財政より重要なものがある

巨大な野獣・・・・アメリカ「建国の父」の1人で初代財務長官を務めたアレグザンダー・ハミルトンは、当時の米国民をそう評したという。国民は「騒がしくて落ち着きがない。正しい判断や決定はめったにしない」という発言も残っている。
現代ならハミルトンは高度な専門知識を持つテクノクラート(実務家)と呼ばれたはず。本音では、銀行家が世の中を動かし、金持ちが大衆を支配すればいいと考えていた。

今のヨーロッパも同じらしい。ギリシャとイタリアは深刻な財政危機を乗り切るため、政治家を見限って学者やビジネスマン、官僚に頼ろうとしている。
そうすることで市場を落ち着かせ、過熱気味の投機筋を抑え、各国の金融機関を安心させたいからだ。国民の機嫌を取るために予算をばらまき、国債を発行しまくった政治家は引っ込んでいろ、今は大衆に迎合する必要のないテクノクラートの出番だ、という次第である。

この変化は予想できた。金融危機が起こる前の07年、ルクセンブルクのジャンクロード・ユンケル首相は、自国の政治家が厳しい経済政策に賛同しない理由を簡潔に説明した。いわく、「なすべきことは分かっている。
しかし、それをやったら再選が危うくなるからだ」。
この「ユンケルの呪縛」の意味するところは明快だ。困難な時代には、有権者の意向を気にしないで済む実務家を呼び入れろ、である。(中略)      

しかし「政治家離れ」は両刃の剣だ。どんなに立派な財政・経済改革案も、政治家抜きでは死産になりかねない。
危機だからといって、「巨大な野獣」たる国民が静かになるわけではない。むしろ普段より凶暴で反抗的になる。テクノクラートが導き出した厳しい計算式を国民に受け入れさせるには、政治の力が必要だ。

欧州やアメリカをはじめ、多くの国が抱えている問題は、経済の帳尻が合わないことではない。有権者を説得して厳しい政策を受け入れさせるだけの気概と聡明さ、カリスマ性を備えた指導者がいないことだ。
(中略)
モンティの緊縮策が国民に支持されないことは確実だ。イタリアでは勤労者の推定20%が税金逃れをしているが、彼はこの部分への徴税強化を打ち出している。公務員の削減や、ベルルスコー二時代に廃止された財産税の復活もほのめかした。

こうした方法のすべてが、イタリア人の日常生活に直接的な打撃を与えるだろう。国民の多くは、選挙の洗礼を受けることなく、大統領による指名と議会の承認だけで生まれたモンティ政権に不満を抱いている。
「今の政府に国民の代表はいない」と、ローマでカフェを営むマリオ・パチェッリは言う。「国民はこの政府に距離を感じ、無視された気分でいる。私たちが投票で選んだ人間なら、間違いを犯せば次の選挙で責任をとらせてやる。でも今の内閣は、誰に対して責任をとるんだ?」

イタリアでも、民という名の「巨大な野獣」が暴れだすのは時間の問題だろう。【11月30日号 Newsweek日本版】
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ただ、“カリスマ性を備えた指導者”というのは、一歩間違うと“独裁者”にもなりうる危うさがあります。
別に、日本のどこかのダブル選挙の話をしている訳ではありませんが。
既存の政治システムは機能不全、テクノクラートでは国民を説得できない、カリスマ性を備えた指導者には危うさも・・・と言っていては解決策がありません。どれかを選ばないと・・・。

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パレスチナ  国連正式加盟は困難なものの、ファタハ・ハマスの協議の動き

2011-11-27 19:46:17 | 中東情勢

(2007年3月当時の写真 ファタハのアッバス議長(左)、ハマス指導者のメシャル氏(中央)、ハマスのハニヤ首相(右) 同年6月にはハマスがガザ地区を武力占拠し、ファタハとハマスの連立政権は崩壊しました。 “flickr”より By khilafaah1924 http://www.flickr.com/photos/7235645@N02/413556490/

【「今回、正式加盟が成功するとは期待していない」】
パレスチナ自治政府・アッバス議長は、一向に進展しないアメリカ主導のイスラエルとの交渉に一時見切りをつける形で、アメリカの強い制止を振り切って国連正式加盟を申請しています。

これにより、国際世論の目を改めてパレスチナの現状に向けさせることができ、また、ユネスコ正式加盟という結果も得られました。
しかし、国連正式加盟自体については、アメリカを拒否権発動という最終手段に追い込む、安全保障理事会(15カ国)での9カ国の支持獲得は難しい情勢です。11日に安保理審査委員会が議論を終え、今後の舞台は安保理本体に移る段階ですが、安保理での採決を求めるのかどうかはパレチチナの意思次第という状況です。

アッバス議長もこの難しい情勢を認めています。
****アッバス議長、「国連加盟、成功は期待していない****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は11日、訪問先のチュニジアで会見し、国連安全保障理事会で審議が続く国連への正式加盟問題について「今回、正式加盟が成功するとは期待していない」と述べ、困難であることを認めた。パレスチナ解放通信が伝えた。

また、国連加盟を巡るパレスチナの動きは、イスラエルとの和平交渉を拒否するものだとの批判については「国連に加盟しても和平交渉には戻る。国連では我々とイスラエルの間の問題は解決できない。交渉のテーブルにつくしかない」と述べ、和平交渉に戻る意思を強調した。

一方で「米国には、真剣に我々とイスラエルの間に立つよう呼びかけたい」と述べ、国連加盟問題を巡ってもイスラエル寄りの姿勢を崩さないオバマ政権を批判した。【11月12日 朝日】
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次善の策 オブザーバー「国家」への格上げ
国連正式加盟に次ぐ次善の策としては、パレスチナが国連オブザーバーとしての地位を現在の「機構」から「国家」に格上げする国連総会決議案を提出するということが検討されています。
この決議は、国連正式加盟に伴う安保理での拒否権もなく、総会における過半数の支持で認められます。

現在、オブザーバー「国家」としてはバチカンがありますが、かつての正式加盟以前のスイスもオブザーバー「国家」でした。
オブザーバー「機構」としては、パレスチナの他、アラブ連盟、アフリカ連合、イギリス連邦のような組織、国際赤十字、国際オリンピック委員会のような団体があります。

余談ではありますが、このオブザーバー「機構」のひとつに、マルタ騎士団(聖ヨハネ騎士団)があります。
中世・十字軍時代の活躍は承知していますが、現在もその組織は存続しているようです。
ローマにある騎士団本部ビル内は、イタリアにより治外法権が認められているとか。

****パレスチナ「国家」扱いに…国連総会議長*****
ナシル・アブドルアジズ・ナセル国連総会議長は16日、都内で読売新聞と単独会見し、パレスチナが国連オブザーバーとしての地位を現在の「機構」から「国家」に格上げする国連総会決議案の提出を模索していることについて、「パレスチナは(採択に)十分な数の加盟国の支持を持つ。一歩前進になると思う」と述べ、肯定的な見解を示した。

パレスチナは先に国連加盟を申請したが、加盟を審査する国連安全保障理事会の常任委員会は一致した見解を出せず、安保理は申請を「門前払い」する見込みだ。オブザーバーは総会での投票権はないが、発言権は認められており、地位格上げは国連加盟断念の場合の次善の策となる。ナセル氏は、パレスチナは安保理の決定後、オブザーバーの地位格上げに関する総会決議案の提出について判断するとの見通しを語った。【11月17日 読売】
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ハマス指導者と会談 「パレスチナの歴史に新しいページを開いた」】
アッバス議長は今後について、「(米国に)拒否権を行使されても、改めて申請する」と述べ、国連正式加盟はあきらめない考えを語っています。

****国連加盟、拒否権行使されても再申請 アッバス議長会見*****
パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長(76)は19日、ヨルダン川西岸ラマラの議長府で朝日新聞記者との単独インタビューに応じた。焦点の国連正式加盟問題で「(米国に)拒否権を行使されても、改めて申請する」と述べ、あくまでも正式加盟を目指す考えを示した。
アッバス氏が外国メディアとの単独会見に応じるのは極めて異例。

パレスチナは9月に国連加盟を申請したが、米国が拒否権行使を明言し、絶望視されている。その一方で、10月には国連教育科学文化機関(ユネスコ)加盟を果たした。アッバス氏は「1月までは働きかけを差し控える」としたが、国連加盟へのステップとして、ほかの国際機関にも加盟を求める姿勢を示した。

一方、アッバス氏率いる主流派ファタハと、イスラム組織ハマスが今年5月の和解合意に基づき目指している新内閣発足について、「組閣より、選挙の実施を優先したい」と述べた。ハマスとの組閣に米国などが警戒感を示すなか、来年5月をめどに大統領(議長)選、自治評議会選挙を実施し、諸勢力の再統一を目指す意向を示したものだ。

新内閣を樹立する場合でも「ハマスとの連立内閣ではなく、無所属の実務者を私が任命する。過去の一連の合意を順守し、武力闘争の放棄など、従来の方針は変わらない」と説明した。【11月21日 朝日】
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最近動きが見られるのは、上記記事にあるハマスとの関係です。
アッバス議長としては、国連正式加盟問題はともかく、任期中(正確な任期はすでに終えていますが)にハマスとの関係に決着をつけたい意向のようです。

****アッバス議長、ハマス指導者と会談****
パレスチナ主要組織のファタハを率いるパレスチナ自治政府のアッバス議長と、イスラム組織ハマス政治部門最高指導者のメシャール氏が24日、エジプトの首都カイロで会談した。

アッバス氏は記者団に「われわれは、すべてのテーマについて議論をし、意見の違いは全くなかった」と述べ、「この日の合意の成果は近く表れるだろう」と説明。メシャール氏は「パレスチナの歴史に新しいページを開いた」と同調し、両者は、友好関係を深めていることを強調した。

穏健・和平派のファタハと、対イスラエル闘争を続けるハマスは、今年5月に和解案に最終合意。無所属の実務者による暫定内閣のもとで選挙をすることを決めたが、その人選が難航してきた。自治政府議長、自治評議会選の詳細を決めると目されていたが、両者とも詳しくは明らかにしなかった。【11月24日 朝日】
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パレスチナのメディアによると、両者は12月後半にパレスチナ各派を招いて和解に関する会合を開くことで合意したと報じられています。
また、自治政府議長、自治評議会選については、、来年5月までに実施することを確認したそうです。

****パレスチナ:議長と評議会選、来年5月までに実施****
パレスチナ自治政府のアッバス議長とイスラム原理主義組織ハマス指導者のメシャル氏は24日、カイロで会談し、来年5月までに自治政府議長と評議会(国会に相当)の選挙を実施することを確認した。AP通信によると、アッバス議長率いる穏健派ファタハとハマスの治安部隊を将来的に統合することでも合意したという。

パレスチナはヨルダン川西岸と、ハマスが実効支配するガザ地区で分裂状態が続いている。ファタハとハマスは今年5月に和解で合意したが、選挙までの暫定政府の首相人選を巡り意見が対立、和解の障害になってきた。今回の会談で首相選出で合意できたかどうかは不明だ。【11月25日 毎日】
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ハマス 「民衆による非暴力の抵抗」を重視
この会談を受けて、ハマスの最高幹部メシャル氏は、武装闘争路線の見直しをも示唆しています。
****「非暴力の抵抗」を重視=闘争放棄には言及せず―ハマス幹部*****
パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの最高幹部メシャル氏は25日までにAFP通信のインタビューに答え、「民衆による非暴力の抵抗」を重視する考えを示した。ハマスの掲げる武装闘争路線の見直しを示唆した形だ。

ただ、メシャル氏は「武装闘争の正当性を信じている」とも発言。米欧が求める暴力放棄に応じたわけではなく、イスラエルとの和平交渉の進展に結び付くかは不透明だ。【11月25日 時事】 
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装闘争路線・イスラエル否定のままのハマスが政権に加わることは、イスラエルの反発を招き、和平交渉を更に困難にする恐れもありますが、ハマスが装闘争路線を一定に見直すということであれば、ヨルダン川西岸地区を支配するファタハとガザ地区を実効支配するハマスとの和解でパレスチナ側が一本化することで交渉の前進も期待できます。
ただ、2006年1月のパレスチナ評議会選挙でハマスが定数132の議席中で76議席を獲得して圧勝したような事態になれば、どうでしょうか・・・・。
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パキスタン “メモゲート”、ISAF越境攻撃で対米関係更に悪化の様相

2011-11-26 21:38:18 | アフガン・パキスタン

(パキスタン北西部のペシャワル郊外 今年5月23、24日、アメリカによる無人機空爆に反発するパキスタン市民数千人が幹線道路に座り込み、アフガニスタン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍に送られる補給物資の通過を遮断しました。“drone”とはミサイル・無人機などの無人飛行物体のことだそうです。親米とみなされるザルダリ大統領・ギラニ首相の現政権は軍部ともうまくいっていませんが、国民にも極めて不人気です。 “flickr”より By velvetwink  http://www.flickr.com/photos/cosmowink/6215523546/ )

謀略か?政権揺るがす“メモゲート”】
これまでも再三取り上げてきたように、アメリカのアフガニスタン戦略にとって隣国パキスタンは、アフガニスタン国境地域がイスラム過激派の温床となっていること、及びアフガニスタンに展開する米軍・ISAFへの物資補給路となっていることから、その協力が不可欠な存在です。

しかし、もともとパキスタンは反米感情が強い国ですが、度重なるアメリカの越境無人機攻撃による民間人犠牲者の増加、更にはアルカイダのビンラディン容疑者殺害を巡る問題もあって、アメリカとパキスタンの関係は良好とは言い難いものになっています。

パキスタン国内にあっては、特に、実権を握る軍部がアメリカによる“主権侵害”に批判的ですが、その軍部と基盤が弱いザルダリ政権の関係を揺るがす怪事件“メモゲート”が先日発覚しています。
ザルダリ大統領が軍のクーデターを恐れて、米軍制服組トップにクーデター阻止や軍部刷新などの協力を要請したとするメモの存在が明らかになったものです。

****パキスタン政権、米軍にクーデター阻止要請*****
パキスタンで、ザルダリ大統領が軍のクーデターを恐れて、米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長(当時)にクーデター阻止や軍部刷新などの協力を要請したとするメモの存在が明らかになり、“メモゲート”と呼ばれる大騒動に発展している。
軍は強く反発し、政府はメモ作成の関与に疑いがもたれるハッカニ駐米大使を本国に召還。ザルダリ政権と軍の亀裂を象徴する出来事といえそうだ。

発端は先月中旬、英紙に掲載された米国在住のパキスタン人男性による投稿だった。
この男性は今年5月、ザルダリ氏が軍や情報機関を迂回(うかい)して米政府にメッセージを伝達したいとの連絡を、ザルダリ氏の名代という外交官から受けたと主張。国際テロ組織アルカーイダの指導者だったウサマ・ビンラーディン容疑者が米軍に殺害された1週間後のことで、この外交官とのやりとりの末、メモが作成され、同月10日にマレン氏に届けられたという。

最近になってマレン氏がメモの受理を認めたことから騒動が拡大。男性が「外交官はハッカニ駐米大使」と証言し、一部メディアでメモが公開されたことも追い打ちをかけている。「極秘メモ」と題された文書は、「政権が失脚すれば、パキスタンはアルカーイダの狂信的言動やテロの拠点になるかもしれない」と指摘。その上でマレン氏から直接、キヤニ陸軍参謀長らに政権失脚を狙った瀬戸際戦術をやめるよう伝達を求めている。

ハッカニ氏は関与を一切否定している。同氏は、軍政に批判的で親米派と目されるだけに軍部からの批判の対象となってきた。今回の騒動も、同氏の失脚を狙ったものとの指摘もある。
政府は軍の圧力を受けて同氏に本国に戻るよう指示。同氏は政府に辞意を伝えたものの、政権が軍との摩擦を回避するため、軍の要求通りに同氏を更迭するとの見方が強まっている。

ただ、ハッカニ氏を失えば、政権がぎくしゃくした関係にありながらも、頼りにする米国との関係に影響を及ぼしかねない。パキスタン人ジャーナリストのナジャム・セティ氏は、パキスタン紙でハッカニ氏を「ザルダリ氏と米国をつなぐ最も雄弁で友好的な存在」と表現し、そのハッカニ氏を駐米大使ポストから追い出すことは、「ザルダリ氏自身をさらに弱体化させるだけだ」と批判した。【11月20日 産経】
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“メモは「軍からの圧力が強まれば文民政権は耐えきれない」と危機感を示し、キアニ陸軍参謀長を抑えるようマレン氏に要請。米国の介入があれば、国防幹部チームを刷新し、対テロ戦での米国への協力を強化すると約束した”【11月20日 朝日】とのことで、マレン氏側も「受け取ったが信用性が疑わしかったため無視した」とメモの存在を認めています。

パキスタン国軍としては容認できない内容ですが、ハッカニ駐米大使はアメリカ側との太い人脈があり、そんな重要なメモを、何故自分自身ではなく怪しげな“米国在住のパキスタン人男性”に託したのか・・・という疑問もあり、軍部との折り合いが悪いハッカニ駐米大使失脚を狙った陰謀との憶測もあるようです。

軍の意向を尊重せざるを得ない立場にある政権側は、結局ハッカニ駐米大使を解任しましたが、ザルダリ政権の基盤は更に弱まったと思われます。

****パキスタン:駐米大使を解任 米軍介入求めた疑惑で****
パキスタン政府は22日、フセイン・ハッカーニ駐米大使を解任。後任にジャーナリスト出身の女性政治家であるシェリー・ラフマン元情報放送相を任命した。

ハッカーニ氏は、今年5月に国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者が米軍特殊部隊に殺害された直後、「パキスタン軍が民政政権を乗っ取る可能性がある」との内容のメモを米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長(当時)に渡し、米国の介入を求めたとの疑惑が持ち上がっていた。
ハッカーニ氏は疑惑を否定したが、辞意を表明し、ザルダリ大統領や軍トップのキヤニ陸軍参謀長との協議後、大使任免権を持つギラニ首相が解任した。【11月23日 毎日】
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報復として補給路を閉鎖
この“メモゲート”はザルダリ政権を揺さぶるだけでなく、ただでさえ関係悪化が懸念されているアメリカとパキスタン国軍の関係をも更に難しくするものでした。
悪い時には悪いことが重なる・・・というのか、それが米軍の実態だと言うべきなのか、パキスタン側を激怒させる事件がきょうまた起きています。NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)のヘリコプターがパキスタン領内の検問所を越境攻撃し、20名超のパキスタン兵士が死亡したという事件です。

****パキスタン兵25人死亡=NATOが越境攻撃―アフガンへの補給停止****
パキスタンからの報道によると、アフガニスタンに駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍のヘリコプターが26日未明(日本時間同早朝)、アフガン国境に近いパキスタン領内にある軍の検問所を越境攻撃し、兵士25人が死亡した。パキスタン政府はこの攻撃を「最も強い表現で非難する」と表明、事実上の報復措置として米軍中心のアフガン駐留NATO部隊の「生命線」であるパキスタンを通じた補給を止めた。

米国とパキスタンの関係は、5月の国際テロ組織アルカイダ首領ビンラディン容疑者殺害以来、悪化したまま修復できていない。米紙は10月、アフガン領内に展開する米軍を狙いパキスタン領内からのロケット弾攻撃が激増していると両軍の緊張関係を伝えていた。両国関係はさらに険悪化する恐れがある。

ロイター通信によると、攻撃を受けたのは対アフガン国境から2.5キロパキスタン領内に入った部族地域モフマンド地区にあるサララ検問所。反政府勢力タリバンとの戦闘の最前線に位置する。【11月26日 時事】
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“攻撃があったのは部族地域モフマンド地区の国境地帯にある村で、今年に入り激化していた武装勢力のアフガン側からの攻撃に備えるため、検問所が設けられた。ISAFは最近になりアフガン側での掃討作戦を始めており、今回は誤って越境したとみられる”【11月26日 朝日】

アフガン駐留NATO部隊の「生命線」であるパキスタンを通じた補給を止めた・・・ということで、今後アメリカとしては非常に難しい対応を迫られています。

TTPとパキスタンの和平交渉協議
なお、パキスタン側がイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」と和平交渉のための協議を行っていることが報じられています。

****パキスタン、タリバン勢力と和平交渉****
AP通信は21日、パキスタン政府が仲介者を通じて、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」と和平交渉の可能性を模索するために半年以上にわたって協議を行っていると報じた。

TTP側は、TTPが拠点とする同国北西部部族地域の南ワジリスタン地区からのパキスタン軍撤退や、同地区で2009年から始まった軍事作戦で生じた被害への補償のほか、パキスタン政府に米国との関係を断つことを求めている。

TTPは、複数の武装勢力による連合体で、最近は新たな武装勢力が形成されていることから、合意形成がどこまで可能かは不明。また、米国が和平交渉に難色を示す可能性が強い。パキスタン政府はこれまでも一部地域で武装勢力と和平合意を結んだことがあるが、長く続いたことはなく、武装勢力の再結成や強化につながっている。【11月22日 産経】
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パキスタン政府にアメリカとの関係を断つこと・・・というのはアメリカとしては呑めない条件ですが、“クリントン米国務長官は10月のパキスタン訪問の際、TTPやハッカニ・ネットワークなどの武装勢力を名指しし、交渉に引き込む努力が必要と強調。こうした米国の圧力を受け、パキスタンは武装勢力への働き掛けを強めているもようだ。”【11月22日 時事】ということで、アメリカにとっては内容次第というところでしょうか。

しかし、“メモゲート”、更に今回のパキスタン検問所越境攻撃によって、アメリカにとっては望ましくない方向で協議が進む可能性があります。
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ミャンマー  NLD、政党登録 スー・チーさん政界復帰の意向 いつまで続く政権側の“余裕”?

2011-11-25 21:21:53 | ミャンマー

(1990年総選挙前のスー・チーさん さすがに若いです。右隣の男性は反政府コメディアンのPa Pa Lay 90年総選挙でNLDは485議席中の392議席(81%)を獲得しましたが、軍事政権側はこれを認めず、国民議会も開かずNLDの活動を禁止しました。勝ちすぎるのも怖い・・・。 “flickr”より By chacharzac http://www.flickr.com/photos/55554640@N05/5165687393/

平和的な政治集会やデモを認める法案を可決
3月に「民政移管」したテイン・セイン政権による変革の進展は、11月14日ブログ「ミャンマー  スー・チーさん国会議員補選出馬の可能性も  政治犯釈放第2弾も予定」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111114)でも取り上げましたが、その後も変革は継続しているようです。

****ミャンマー:デモ認める、集会の自由も許容…法案可決****
ミャンマー国営紙「ミャンマーの新しい灯」によると、ミャンマーの上下両院合同議会(連邦議会)は22日、市民に平和的な政治集会やデモを認める法案を可決した。テインセイン大統領の署名を経て成立する。旧軍事政権は学生が主導した88年の民主化運動や07年の反政府デモを武力で厳しく弾圧してきた。政治的な集会やデモの自由が公式に認められれば、民主化へ向け大きな進展となりそうだ。

議員の一人が24日、AFP通信に語ったところによると、法案では集会やデモを行う場合、5日前までに当局に報告する義務があると規定。参加者は旗や政党のシンボルマークを掲げることは許されるが、集会やデモの実施には政府機関や学校、病院、大使館を避けなければならない。

テインセイン政権は民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんとの対話に乗り出し、国内メディアへの検閲制度を緩和するなど、国民の政治的権利の確保に取り組む姿勢を強めている【11月24日 毎日】
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集会・デモへの規制はありますが、多くの国でそのあたりは大同小異であり、軍政時代に比べれば隔世の感もあります。

ASEAN議長国 「この決定は、国内のさらなる政治改革を促すことになる」】
こうした政権側の変革へ向けた動きは、ミャンマーのASEAN議長国就任決定、スー・チーさんの国政選挙参加という変化を生みだしています。

ASEANの議長国は、1年ごとに加盟国がアルファベット順に就任するのが原則で、ミャンマーは06年に就任予定でしたが、民主化の停滞を欧米諸国が批判。外交上の混乱を回避するため、他の加盟国が辞退を促した経緯があります。
テイン・セイン政権にとっては国のイメージアップ・威信高揚につながる悲願のひとつですが、噂されていた政治犯釈放第2弾がまだ実施されていないなか、更なる民主化につながるか注目されています。

****ミャンマーの議長国就任を決定 ASEAN首脳会議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は17日、インドネシア・バリ島のヌサドゥアで加盟国10カ国による首脳会議を開き、ミャンマー(ビルマ)を2014年の議長国とすることを正式に決定した。ミャンマーの議長国就任は、97年の加盟以来、初めて。(中略)今後、政治犯の釈放など一層の民主化の進展につながるか注目される。

議長国就任が決まったことについて、ミャンマーのチョー・サン情報相は同日、会場内で記者団に対し、「今回の決定をうれしく思う。ミャンマーは変わりつつある。議長国就任で民主化を一層進めていきたい」と話した。

■さらなる改革求める声
2014年のASEAN議長国就任決定で、3月に「民政移管」したテイン・セイン政権は、政権発足時からの目標の一つを実現させた。軍事政権下の「閉ざされた国」というイメージからの脱却を国内外に示す絶好の機会となるからだ。

さらに目標としているのは、欧米の経済制裁の解除を実現し外国投資の呼び込みにつなげることだ。だが、そのためには民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんや欧米諸国が求めてきた全政治犯の釈放の課題が残る。
政権は10月に政治犯約300人を釈放したが、スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は今も591人が獄中にいると主張し、米国のオバマ大統領も17日、オーストラリアでの演説でミャンマーの改革を認めた上で「人権侵害は今も続いている」と指摘。制裁と関与の両方で改革を促し続ける意向を示した。(中略)

一方、NLDの報道官ニャン・ウィン氏は17日、ロイター通信に「政府の改革の勢いに弾みをつける」と議長国就任を歓迎した。スー・チーさんは6月の段階では「国民生活の改善など他にやるべきことがある」と議長国就任に反対していた。
NLDが議長国就任を歓迎するのは、スー・チーさんとの協力姿勢やメディア規制緩和、NLDの政党再登録への道を開く政党登録法改正など政権側が改革を進める中で、「すべてに反対してもNLDに利益はない」(ヤンゴンの外交筋)との判断があるとみられる。

亡命ビルマ人でつくるメディア「ミジマ」のセイン・ウィン編集長は「民主化の完成を待って議長国になるのではなく、議長国になることが民主化を進展させることを期待している」と話す。【11月18日 朝日】
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ミャンマーのコー・コー・フライン大統領首席顧問はメディアとのインタビューで議長国就任や政治犯釈放について次のように語っています。

****初の議長、国の誇り ミャンマー大統領首席政治顧問*****
【東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国】
1997年の加盟以来、初めて議長を務めることは国にとっての誇りだ。ミャンマーが国際社会で重要な役割を果たす責任と能力があると認められたことはうれしい。この決定は、国内のさらなる政治改革を促すことになる。

【政治犯の釈放】
政治犯が罪を問われたのは前政権時代。新たな憲法のもとで発足した政権が釈放を決めることはさして難しくない。すでに一部については家族の住む所に近い刑務所に移送した。追加の釈放は毎週開かれている政府安保会議が治安情勢などを勘案し、判断する。おそらく近く実現するだろう。
今後は集会やデモなども法律を守る限り、認められる。米ニューヨークのウォール街の集会を見ても、法を破れば検挙される。どこの国でも同じだ。(後略)【11月19日 朝日】
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【「選挙参加は私の尊厳を損なうと考える人がいるが、政治を志す人は尊厳など考えていてはいけない」】
民主化運動の象徴でもあるスー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は昨年3月、当時の軍事政権が制定したスーチーさんの政党参加を拒む政党登録法に反発して総選挙参加拒否を決め、法の規定で解党処分となっていました。
テインセイン政権は、スーチーさんやNLDを体制内野党に取り込む狙いで、登録法からスーチーさんの参加を拒否する条文を削除する形で10月27日に登録法を改正し、スーチーさん側に再登録を求めていましたが、スー・チーさん側はこれに応じて、NLDは政党登録を行っています。

****政党登録を届け出=NLDが選管に―ミャンマー*****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は25日、首都ネピドーで政党登録の届け出をした。NLD幹部が明らかにした。手続き完了までには1週間程度かかる見通しで、昨年5月の解党以来、約1年半ぶりに合法政党として政治活動が可能となる。

NLDの代表者が同日午前、ネピドーの選挙管理委員会を訪問し、書類を提出した。NLDは近く行われる国会補欠選で48の選挙区すべてに候補を立てる予定。スー・チーさんも党幹部に対して出馬の意向を示している。 【11月25日 時事】
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上記記事にもあるように、スー・チーさん自身も出馬を意向を示しています。
****ミャンマー:スーチーさん、選挙出馬の意向…NLD報道官****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん率いる民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)のニャンウィン報道官は21日、AFP通信に「スーチーさんは選挙に参加するつもりだと述べた」と語った。
近く実施される国会補欠選挙にスーチーさん自らが立候補する意向を固めたとみられる。国民和解や、米欧などによる経済制裁解除に向けた動きが加速する可能性がある。

(中略)再登録に関してはNLD内部で「前回90年総選挙でNLDが圧勝したにもかかわらず、結果受け入れを拒否した当時の軍事政権の横暴を認めることにつながる」との懸念があったが、スーチーさんは「選挙参加は私の尊厳を損なうと考える人がいるが、政治を志す人は尊厳など考えていてはいけない」と話していたという。
国会補選は総選挙当選者の閣僚就任などに伴い、欠員となっている48議席について争われる見込み。【11月21日 毎日】
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【「国の発展のため力を合わせたい」】
テイン・セイン大統領も、スー・チーさんの国政参加に期待を示しています。

****スー・チーさんの復帰に期待 ミャンマー大統領が初会見****
ミャンマー(ビルマ)のテイン・セイン大統領は19日、インドネシア・バリ島のホテルで、朝日新聞など国内外の一部メディアと会見し、前日に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる政党が国政参加を決めたことについて「大変喜ばしいことだ。国民は彼女が選挙で選ばれることを望んでいる」と述べ、スー・チーさんの国政参加に期待を示した。

大統領は8月にスー・チーさんに「国の発展のため力を合わせたい」と協力を呼び掛け、同意を得ていたことを明らかにした。
またオバマ米政権がミャンマーの民主化の進展があると言及したことを「歓迎する」と述べ、来月のクリントン米国務長官の訪問などを通じて、米国との関係改善に意欲を示した。
日本との関係では、途上国援助(ODA)の再開決定を歓迎するとともに「今後、投資が増えることを期待している」と述べた。
テイン・セイン大統領が国内外のメディアと会見するのは初めて。【11月20日 朝日】
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新政権が進める改革の中で、存在意義が問われているNLD
スー・チーさん側のこうした判断の背景には、“「民主的」な改革はテイン・セイン政権や国会から生まれ、議席を持たないNLDは活動の場が限られていた”という現実があります。
また、テイン・セイン政権としては、“NLDが補欠選挙で全議席をとったとしても、国会の大勢に影響はなく、スー・チーさんが議会に加わることで国会の正統性をアピールできるという利点がある”という“余裕の対応”のようです。

****スー・チーさん「再び活動*****
 ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)が18日、国政参加へ向けてかじを切った。慎重な態度を示してきた米国も動きを見せ、半世紀ぶりに国務長官の派遣を決めるなど、後押しの姿勢を示す。一方日本は、野田佳彦首相がテイン・セイン大統領と会談。経済支援により影響力の強化をめざす。

 「NLDは再び政党として活動すべきです」
スー・チーさんの演説に、全国の支部や青年部、女性部から集まった106人の参加者から何度も拍手が湧いた。ミャンマー最大都市ヤンゴンにあるNLD本部。再登録は、満場一致で決定した。
1990年の総選挙で8割の議席を獲得しながら、軍事政権によって結果を無視され、弾圧を受けてきたNLDにとって、昨年11月の総選挙とその結果に基づいて生まれた現在の国会は認められない存在だった。

それでも政治参加の道を選んだのは、新政権が進める改革の中で、存在意義が問われていたからだ。
メディア規制の緩和や批判が大きかったダム建設の凍結、平和的デモ集会法の承認……。「民主的」な改革はテイン・セイン政権や国会から生まれ、議席を持たないNLDは活動の場が限られていた。

建国の父である故アウン・サン将軍の娘で、89年から21年間のうち計3回15年にわたり軍政に拘束・軟禁されながらも民主化運動をやめなかったスー・チーさんのカリスマ的な人気は今も衰えていない。補欠選挙は約50議席で争われる。政府関係者が大部分の首都ネピドーや少数民族地域以外では「NLDが圧勝する」との声は大きい。

現政権の前身の軍事政権は、1年前の総選挙で20年前の「悪夢」の再現を避けるため、スー・チーさんを排除する規定を徹底的に積み重ね、最終的にはNLDのボイコットを引き出した。そこまで恐れたNLDの政治参加について、今回はむしろ余裕の構えを見せる。18日、朝日新聞の取材に応じたチョー・サン情報相は「互いの違いを乗り越えて、一致団結する時だ」と話した。

自信の背景には、NLDが補欠選挙で全議席をとったとしても、国会の大勢に影響はなく、スー・チーさんが議会に加わることで国会の正統性をアピールできるという利点がある。
また前日に承認された東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任と合わせ、国際社会に対し、民主化で大きく進展していることを大きく印象づけることができた。

だが軍政が長期化し、経済制裁などで国民や社会がじわじわと疲弊する中、新しい国造りに向けた構造的な改革は、ある意味、待ったなしの情勢だった。
その先には、日本や欧米諸国などによる開発援助(ODA)の再開や経済制裁の解除などが不可欠との認識がある。40年以上前には東南アジアの経済や文化の中心国だったミャンマーは、国際的な孤立を深めた結果、周辺国との経済格差が広がった。その差を縮めるためにも、民営化や市場開放を通じた外資導入による経済発展しか選択肢は残されていないという危機感がある。

これらは偶然、重なったわけではなく、周到に準備されてきた。テイン・セイン大統領をはじめ、政権側はスー・チーさんと会談を重ね、条件のすりあわせを続けてきたと見られる。閣僚の一人は18日、朝日新聞の取材に「NLDから非公式に政治復帰することを聞いている」と述べた。
双方ともに思惑を抱えながらの歩み寄りだが、すべてが解決したわけではない。数百人の政治犯は依然として拘留され、為替に代表される経済の諸制度の改革はまだ多くが手つかずだ。【11月19日 朝日】
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当然、テイン・セイン政権側にも思惑があっての変革ですが、単純素朴な話として、テイン・セイン大統領をはじめとする政権指導層に、前軍事政権時代とは異なる、ある程度の民主化を容認する姿勢・理解があってのことではないでしょうか。
ただ、3月とも言われる補選でほぼ全議席NLDが独占となったとき、本当に政権側が余裕を保てるのか・・・かなり心配ではあります。

アメリカの経済制裁一部解除は?】
経済制裁については、ローズ米大統領副補佐官(戦略広報担当)は22日の記者会見で、クリントン国務長官のミャンマー訪問に関し、同国への制裁解除を検討するのは「時期尚早」との見方を示しています。
同副補佐官は「人権尊重や政治改革の動き、国民和解の流れの中での少数民族の尊重に向けた弾みを維持するのが目標だ」と強調。「制裁を解除する計画はない」と述べています。【11月23日 時事より】 

そうは言っても、アメリカ国務長官としては56年ぶりとなるクリントン米国務長官のミャンマーを訪問で、制裁について具体的な前進が何もないというのも、テイン・セイン政権の変革に水を差すように思われます。
ここは、変革を後押しする施策が必要ではないでしょうか。
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ロシア  対米強硬姿勢を強めるメドベージェフ大統領 与党支持率低下でも底堅いプーチン人気

2011-11-24 23:05:31 | ロシア

(10月19日 支持者との会合でなごむメドベージェフ大統領 12月4日投開票のロシア下院選挙の結果次第では、プーチン首相に切り捨てられる可能性も・・・ “flickr”より By tikandelaki4 http://www.flickr.com/photos/68508062@N06/6262645115/

リセット停止
ロシアのメドベージェフ大統領は23日、アメリカが東欧でのミサイル防衛(MD)システム配備計画を進めるならば、ロシアは対抗措置として欧州との国境地域に新型ミサイルを配備すると警告、さらに、2010年4月にオバマ米大統領と調印した戦略兵器削減条約「新START」からの脱退をも示唆しています。

****ロシア:大統領、新型ミサイル配備を検討 米MDに対抗*****
ロシアのメドベージェフ大統領は23日のテレビ演説で、米国が欧州で配備を進めるミサイル防衛(MD)計画に対抗し、国内の欧州隣接地域に新型ミサイルの配備を検討する考えを表明した。
また米国とMDに関する協議が決裂した場合、今年2月に発効した新戦略兵器削減条約(新START)から脱退する可能性も示唆した。

メドベージェフ大統領はオバマ米政権が誕生した09年以降、対米関係の改善に力を注いできたが、MDに関する協議が停滞していることから、強硬姿勢に転じたともみられる。また政権与党「統一ロシア」が来月4日の下院選で苦戦が予想されている情勢を踏まえ、強気の外交方針を示した側面もありそうだ。

大統領は演説で、西部の飛び地カリーニングラード州や南部での新型ミサイル「イスカンデル」などの配備を検討し、ロシアの戦略弾道弾が米国のMDを撃破できるように開発を進めるよう命じた。一方で「米国と北大西洋条約機構(NATO)とMDに関する対話は続ける」との考えも明示した。

メドベージェフ氏は米露関係が冷却化していた08年にも、イスカンデルの配備を進めるよう指示したが、対米関係の改善に伴い、取りやめていた。
ロシアとNATOは昨秋、欧州におけるMD分野で協力を進めることで合意。しかしロシアが共通の防衛システムを求める一方で、NATOが限定的な協力を提案するなど、双方の溝が埋まっていない。

米国のMDをめぐっては、ロシアが自国を対象にしていないことを文書に明記するよう要求しているが、米国が受け入れていないことも対立点となっている。
NATOとロシアは来年5月に米シカゴで開くNATO首脳会議までにMDの協力体制をまとめたい方針を掲げている。【11月23日 毎日】
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メドベージェフ大統領は、アメリカがロシアとの連携なしにMD計画を推進していることへの対抗策として以下の4点に言及しています。
(1)欧州にあるロシアの飛び地カリーニングラードでレーダー基地を稼働
(2)自国の戦略核を守る航空宇宙防衛システムの強化
(3)MDを突破するための戦略核ミサイルと核弾頭の性能向上
(4)MDシステムを破壊する軍事的措置の準備を進める
さらに、この4点で不十分な場合は、新型の戦術ミサイル「イスカンデル」を飛び地カリーニングラードとロシア南部に配備するほか、新STARTからの脱退も検討すると警告しています。

オバマ大統領は09年、ブッシュ前政権のMD欧州配備を変更し、海上型と地上型の迎撃ミサイルを段階的に配備し、イランの弾道ミサイルに対処する構想を発表しました。この計画変更は、ロシアへの配慮も考慮に入れたものでした。これにより米ロ関係は「リセット」されたとも言われました。

しかしアメリカが昨年2月、迎撃ミサイルの配備先をルーマニアと発表、ルーマニアも同国南部への関連施設受け入れを正式表明したことに、ロシアが強く反発。MDがロシアからの攻撃を想定したものでないことを法的に保証するよう米側に求めています。そして、すでに5月段階で、アメリカが一方的にMDを強化すればロシアの新戦略兵器削減条約(新START)脱退もあり得ると警告しています。

G8首脳会議に合わせて5月26日に行われた、オバマ米大統領とメドベージェフ大統領の会談でも進展しませんでした。

****新START脱退警告****
オバマ政権のMD計画は現在、イランの短・中距離弾道ミサイルを対象に進められているが、2018~20年には大陸間弾道ミサイルに対応できるように強化される。米国のMDがロシアの大陸間弾道ミサイルに向けられた場合、ロシアの核抑止力が損なわれるため、ロシアは16日、米国が一方的にMDを強化すればロシアの新戦略兵器削減条約(新START)脱退もあり得ると警告した。

ロシアが要求する「法的な保証」については米上院の承認が必要なため、オバマ大統領が同意する見込みはほとんどない。メドベージェフ大統領は「最終的には2020年ごろに、そのときの政治家によって解決されるだろう」と、MD計画が大陸間弾道ミサイルへの対応段階に移るまで問題を事実上、先送りしたことを認めた。【5月27日 産経】
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また、北大西洋条約機構(NATO)とロシアは昨秋に欧州版ミサイル防衛(MD)で連携することで合意していますが(いわゆる「欧州版MD」)、NATOは双方が個別のMDを開発したうえで、何らかの連携を取る形を提案、一方ロシアはMDの開発段階から協力し、飛来する弾道ミサイルを迎撃する分担地域を定める「セクター式」などを主張して合意が得られていません。

ロシアが開発段階からの「対等な参加」を求めているのは“ミサイルの飛来を発見するロシアの早期警戒システムは優れているが、ミサイルを迎撃する技術では米国に10年以上の後れを取っている。このため、ロシアはMD計画への「対等な参加」を求めているという”【5月27日 産経】という事情がありますが、最先端のMD技術の流出を警戒するアメリカは慎重姿勢を崩していない・・・ということのようです。

官僚的な体質が嫌悪され、与党「統一ロシア」苦戦
5月の首脳会談では「最終的には2020年ごろに、そのときの政治家によって解決されるだろう」と先送りの姿勢も見せるなど、2008年の大統領就任以降、冷え込んでいた米露関係の修復に努めてきたメドベージェフ大統領がアメリカとの対決姿勢に転じた背景には、外交や軍事面で強硬路線をとりながら大統領復帰を狙うプーチン首相の存在があるとの指摘があります。【11月24日 AFPより】

そのプーチン首相の狙いは、冒頭【毎日】にもあるように、政権与党「統一ロシア」が来月4日の下院選で苦戦が予想されている情勢を、ロシアを「大国」として処遇することを求める強硬姿勢で突破しよう・・・というものでしょうか。

選挙情勢については、与党「統一ロシア」は過半数は維持するものの、全体の7割を占めた前回議席を大きく減らしそうだとの世論調査が出ています。

****ロシア下院選:与党が苦戦…12月4日投票****
12月4日投票のロシア下院選で、政権与党「統一ロシア」が苦戦している。
9月末の党大会で党首であるプーチン首相の大統領返り咲きを打ち出したが、支持率の低迷に歯止めがかからず、議席減は必至だ。
党比例代表名簿トップのメドベージェフ大統領は選挙情勢への危機感から、オバマ米大統領とともに初参加となるはずだった東アジアサミットへの参加を見送った。

統一ロシアは4年前の前回下院選で、定数(450)の7割にあたる315議席(得票率64%)を獲得して圧勝したが、官僚的な体質が嫌悪され、最近は国民の支持が離れている。
世論調査機関「全ロシア世論調査センター」は、今回の選挙で統一ロシアは過半数は維持するものの、269議席(同54%)にとどまり、憲法改正に必要な3分の2(300)に届かないと予測している。
同党は27日に再び党大会を開き、プーチン氏を党の大統領候補に正式決定する方針だが、支持率のV字回復につながるか疑問視されている。

プーチン首相は来年大統領に復帰した場合、メドベージェフ氏を首相に任命する意向を示しているが、下院選での統一ロシアの圧倒的な「勝利」を前提条件にしているとの見方がある。首相ポストを確実にしたいメドベージェフ大統領は、外交より国内事情を優先せざるを得ないのが実情のようだ。

米ハワイのホノルルで12~13日にあったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議には、ロシアが来年の会議を主催することもあって出席したが、その前後に極東・シベリアを訪問し、事実上の「選挙運動」に駆け回った。【11月19日 毎日】
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プーチン首相の想定以上に議席を減らした場合は、メドベージェフ大統領は首相にはつけない場合もあるようです。

プーチン首相がブーイングを浴びるという異例の出来ごとが報じられています。
****プーチン首相に異例のブーイング、ロシアの格闘技大会で****
ロシアで行われた格闘技大会で20日、リングに登場したウラジーミル・プーチン首相に観客がブーイングと口笛を浴びせ、その様子が生中継されるという異例の出来事があった。反プーチン派からは称賛の声があがっている。(後略)【11月21日 AFP】
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プーチン首相のテレビ出演は厳密に演出されるのが通例で、見ず知らずの観客を前に即興で演説することはほとんどありません。
“腐敗告発ブログで知られるアレクセイ・ナバルニー氏はブログに動画を掲載し、「一時代の終焉(えん)」と書いた。露ウェブサイト「gazeta.ru」も、「公共のイベントでプーチン氏に対する嫌悪感が発露されたことなど、いまだかつてなかった」と伝えた。”【同上】とのことですが、格闘技大会のリングというかなりイレギュラーな場面での話ですから、どうでしょうか?

それでもやはり“プーチン”】
与党の支持率に陰りが・・・とも言われていますが、プーチン首相については、ソ連崩壊の混乱からロシアを救い、安定をもたらしているとの根強い評価もあります。

****安定志向、プーチン氏支持の源〈20歳のロシア*****
ロシアのプーチン首相が来春の大統領選で返り咲きを目指すとの表明に、内外から反発や冷たい視線もある。与党の支持率も下降気味だが、それでも勝利は堅いとされる。なぜなのか。

モスクワ中心部で、アレクサンドラさん(21)はモダンダンスを週3回教えている。雑誌「照明工学」の副編集長も務め、今月、ロシアのラジオ局「ヨーロッパ・メディア・グループ」に転職した。「本業」は女子大生だ。
「プーチンさん、愛してる」。そんなタイトルで1年前、モスクワ大の女子学生のセミヌードカレンダーが売り出され、話題を呼んだ。アレクサンドラさんは7月のページを飾った。

ソ連末期の1990年夏に、シベリアのイルクーツクで生まれた。父は軍に属し、寮の一室で暮らした。トランクがベビーベッド代わり。一つのリンゴを分け合って食べたと、母から聞かされた。「今は、ないのは戦争だけ。なのに周りの若い人は不満ばかり。自分の部屋も車もあるのに、ガソリン代が足りないと『プーチンが悪い』。彼がいなければ、もっとひどくなっていたはず」

今はチタン輸出の仕事に携わる父(42)とは意見が合わない。汚職や官僚主義でビジネス環境が整わないと政権を批判する父は、外国に出たいとさえ言うが、自分はこう思う。「汚職は昔からあり、政権はそれをなくそうとしている。プーチンが長く政権を担うのは無意味ではない。この間、生活がよくなったことを人々は忘れている」 (中略)

9月にプーチン氏が大統領選出馬を宣言すると、知識層にはうんざり感が漂った。24年までの君臨が可能で、社会が停滞するのではとの懸念も出た。
だが、「世論財団」によると58%が出馬決定を「肯定的」に受け止め、「否定的」なのは23%。世論調査機関「レバダ・センター」の10月の調査では「出馬を聞いてどう感じたか」との質問に「何も感じなかった」が41%、「同意・安心」が37%で、「怒り・不安・失望」は20%にとどまった。
「小さな自由と社会の安定」を求める層の受動的な支持も、プーチン氏の強みだ。(後略)【11月22日 朝日】
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“プーチン氏は10月、ロシア主要テレビ局とのインタビューで「ナットを締めざるを得ない時期はあったが、今は違う」と語った。「強権」路線をやんわり否定し、「民主制度と現代的な土台に基づいた経済の多様化をはかる」”【11月21日 朝日】・・・だそうです。
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カンボジア特別法廷、ポト派元最高幹部の本格審理開始 “時間との戦い”

2011-11-23 20:52:58 | 東南アジア

(特別法廷でのヌオン・チア被告 旧ポル・ポト政権でナンバー2の地位にあった幹部です。“flickr”より By Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia  http://www.flickr.com/photos/krtribunal/5403291235/ )

求められる“「上」からの指示”の解明
カンボジアの旧ポル・ポト政権時代(1975~79年)に起きた大量虐殺を裁くカンボジア特別法廷(ECCC)で、ジェノサイド(大量虐殺)や人道に対する罪、戦争犯罪などに問われている、政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表会議議長(84)、ナンバー3のイエン・サリ元副首相(85)、その妻のイエン・チリト元社会問題相(79)、対外的な顔だったキュー・サムファン元幹部会議長(79)の元最高幹部4人の公判が今年6月27日に始まったことは、6月27日ブログ「カンボジア特別法廷  ポル・ポト派元最高幹部4人の初公判始まる」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110627)で取り上げたところです。(年齢は今年6月時点)

カンボジアの旧ポル・ポト政権(クメール・ルージュ)時代には、当時の人口の3分の1、あるいは4分の1にもあたるとされる150万~200万人の国民が虐殺されたと言われています。しかも、この大量虐殺は同じカンボジア人同士で行われました。
また、西洋文化はもちろん、都市生活や家族制度、貨幣経済など現代社会の根幹が否定され、極端な原始共産制的な社会が強制されるという異様さは前回ブログでも触れたところです。

多数の収容者が虐殺されたトゥールスレン政治犯収容所のカン・ケ・イウ元所長(68 通称ドッチ)は、自らの罪を認め謝罪していましたが、公判では“「上」からの指示によるやむを得ない犯行だった”と弁明、昨年7月に禁錮35年の有罪判決を言い渡されています。(その後上告し、今年3月30日に結審 最終判決はまだではないでしょうか?)

トゥールスレン政治犯収容所の所長という“目立つ立場”にはありましたが、カン・ケ・イウ元所長は組織的には中枢にはなく、彼の言う「上」の判断が明らかにされる必要があります。
ポル・ポト本人が死亡している現在、その「上」にあたるのが、政策決定に関与する立場にあった元最高幹部4人です。

【“「粛清」に抵抗しベトナムへ逃れた東部地域部隊の司令官”などの調査要求
しかし、元最高幹部4人は罪を認めない姿勢を崩していません。
死んでしまったポル・ポトに全責任を押し付ける構えにも見えます。
また、過去の恩赦と時効、更に証人の選定を巡って、特別法廷で裁かれることの「不当性」を主張しています。

****ポト派元最高幹部の特別法廷 初公判終了 裁判の正当性めぐり応酬****
ヌオン・チア元人民代表議会議長(84)ら、元ポル・ポト派最高幹部の4被告に対するカンボジア特別法廷の初公判は(6月)30日、4日間にわたる審理を終えた。審理は主に弁護側が、過去に被告が有罪判決と恩赦を受けた事実などを持ち出し、特別法廷で裁かれることの「不当性」を論じ、これに検察側が反論するという構図で推移した。

 ◆恩赦と時効
人道の罪、戦争犯罪などに問われた被告の弁護側は、ベトナムがポル・ポト政権(1975~79年)を倒した後に樹立された親ベトナム政権下で79年、イエン・サリ元副首相兼外相(85)が、大量虐殺の罪で死刑判決を受けたことを指摘。「国際人権規約に照らし、同じ罪で2度裁かれるべきではない。そのことは本法廷にも適用される」と主張した。

これに対し、検察側は79年の裁判は欠席裁判であったことなどから「公平性といった、裁判の最も基本的な基準に合致したものではなかった」と特別法廷の訴追は正当だと反論した。

弁護側はまた、同被告が96年に恩赦を受けており、「一事不再理の原則に反する」と主張。検察側は「恩赦は将来の訴追をも妨げるものではない」とした。
弁護側はさらに、カンボジア刑法が定める10年の時効が成立していると強調。検察側は、時効を30年と規定した特別法廷設置法や、国連で68年に採択された戦争、人道犯罪に対する時効不適用条約の存在を指摘し、反駁(はんばく)した。

弁護側の結論は「根本的に不公正な裁判であり、公判を中断すべきだ」というもの。検察側は「被告は国際法を侵害し、カンボジア社会全体を破壊した。被告の犯罪を裁くことが特別法廷の義務だ」と訴えた。

 ◆証人の選定
30日の証人選定をめぐる審理では、ヌオン・チア被告の弁護士が(1)ポル・ポト政権時代とその前後におけるベトナム、米国の役割(2)米軍のカンボジア爆撃(70年代)(3)「粛清」に抵抗しベトナムへ逃れた東部地域部隊の司令官-などを調べるよう要請した。
その理由を「民主カンボジア(ポル・ポト政権)時代の決定の多くは、ベトナムと米国の役割を調査したときに理解される」と説明。「見せ物ではない真の裁判を望んでいる」と付け加えた。

キュー・サムファン元国家幹部会議長(79)は「すべてを知っているわけではないが、何が起こったのか理解するために協力する。このときを待っていた」と初公判で初めて発言した。一方で「私にとり最も重要な証人が認められていない。法廷は適切、公正さを欠いている」と非難した。

4被告はいずれも高齢で、数年を要する裁判は時間との戦いでもある。キュー・サムファン被告のかつての弁護士、サ・ソバンさんは「もし彼が犯罪に関与していたのであれば、真実を語ってほしい。私はそれを冥土のみやげに持っていく」と話した。【7月1日 産経】
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ヌオン・チア被告側が調査を求めている“「粛清」に抵抗しベトナムへ逃れた東部地域部隊の司令官”というのは、現在の首相であるフン・セン首相を念頭に置いたものでしょう。
かつてはクメール・ルージュの一員だったフン・セン首相は、こうした形ですねの傷を探られるのを嫌い、特別法廷が拡大することに消極的だとみられています。

4被告はいずれも高齢のため裁判は時間との闘いとなる
認知症を訴えているイエン・チリト被告を除く3名の公判が、今月21日から本格化しています。

****ポト派元最高幹部の本格審理開始、カンボジア特別法廷****
2011年11月21日 20:21 発信地:プノンペン/カンボジア
カンボジアの旧ポル・ポト政権時代(1975~79年)に起きた大量虐殺を裁くカンボジア特別法廷(ECCC)は21日、元最高幹部3被告の公判を開き、冒頭陳述を行った。

政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表会議議長、ナンバー3のイエン・サリ元副首相兼外相、キュー・サムファン元幹部会議長の3被告は、多数の傍聴人が入ったプノンペンの法廷で語られる言葉を、真剣な面持ちで聞いていた。3被告はジェノサイド(大量虐殺)、戦争犯罪、人道に対する罪の起訴事実を否認している。

特別法廷の広報担当者、ラルス・オルセン氏は「ついに本格的な審理が始まったことを告げる重要な節目だ」と語った。「多くの人が、(裁判が)行われることはないだろうと思っていた」

同法廷に起訴された唯一の女性幹部で、ポル・ポト政権の「ファーストレディー」と呼ばれていたイエン・チリト元社会問題相は前週、認知症のために公判に耐えられないと判断され、判事らはチリト被告の釈放を命じていた。しかし検察側が不服申し立てを検討していることから、チリト被告の勾留は続いている。検察側の不服申し立ての検討には2週間かかるとみられている。【11月21日 AFP】
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“裁判は21日から本格審理入りし、22日は弁護側が冒頭陳述。ヌオン・チア被告は裁判が対象とするポル・ポト政権時代だけでなく、ポト派が倒した親米ロン・ノル政権時代や、ベトナムの侵攻によるポル・ポト政権崩壊以後にも目を向ける必要があると強調、ベトナムや米国に対する非難を2時間近くにわたり繰り返した。
首都からの住民強制移住については、首都の食料不足やベトナムのスパイを監視するためだと主張。貨幣廃止は外部の敵対勢力による買収の防止などが理由だったと述べた。”【11月22日 産経】とのことですが、首都からの住民強制移住が食料不足のためとは考えられないことは、6月27日ブログでも触れたところです。

“元最高幹部4人に対する今回の裁判は国内外の関心も高いが、現場で収容者虐待に直接関わり罪を認めた元所長に比べ、政権中枢にいた4人の有罪の立証は困難を伴う。判決までに数年はかかる見通しで、4被告はいずれも高齢のため裁判は時間との闘いとなる”【6月27日 毎日】ということで、“時間との闘い”が予想されています。
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韓国(催涙弾のなかの対米FTA批准案強行採決)、アメリカ(財政赤字削減協議決裂)に見る衆愚政治

2011-11-22 22:19:08 | 東アジア

(10月9日 ソウル アメリカとのFTAに抗議する人々  抗議するのは当然の権利ですが、そうした世論を一定に収れんさせていくシステムがなければ民主主義は単なる衆愚政治に堕します。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6226318678/

タハリール広場の人々が希求するものは・・・
多くの国々で民主化・民主主義を求める命がけの行動が行われています。
エジプト・カイロのタハリール広場では、軍政の継続を批判し、早期の民政移管を求める人々が治安部隊と衝突、死者は20人を超え、負傷者は1700人以上に上っています。
しかし、民主主義を実現していると自負している国々の政治の有り様は、その弊害・問題点も露呈しています。

強行採決に抗議して、議長席そばに催涙弾
日本でもTPPが大きな政治問題となっていますが、自由貿易協定では日本より先を行っていると思われる韓国では、アメリカとの自由貿易協定(FTA)が思いがけず難航し、きょうようやく与党が批准同意案を野党の反対を押し切り強行採決して一応の決着をつけましたが、採決直前に野党議員が催涙弾を破裂させるという混乱を呈しています。

****韓国国会:与党が対米FTA批准案強行採決、可決****
韓国与党ハンナラ党は22日、緊急の国会本会議で、米国との自由貿易協定(FTA)の批准同意案を野党の反対を押し切り強行採決、成立させた。同FTAをめぐる米国側の批准手続きは10月に終了しており、韓国国会での同意案可決を受け、両国が目指していた来年1月の発効が実現する見通しになった。
ただ最大野党の民主党などは強行採決に激しく反発し、李明博(イ・ミョンバク)政権との対決姿勢を一段と強めるのは確実で、李大統領は一段と厳しい国政運営を迫られそうだ。

韓国国会の議員総数は現在、295人で、ハンナラ党は過半数の169人。本会議には与野党議員170人が出席し、採決では賛成151、反対7、棄権12だった。
聯合ニュースによると、採決前には与野党関係者がもみ合い、同FTAに反対する野党の民主労働党議員が本会議場に催涙弾を持ち込み破裂させる騒ぎが起きた。

同FTAをめぐり民主党などは、投資家が相手国の制度で損害を被ったとして相手国政府に賠償を求める投資家保護条項の撤廃を要求。李大統領が15日に異例の国会訪問を行い、FTA発効から3カ月以内に米国に再協議を求める妥協案を提示したが、民主党は拒否した。このためハンナラ党は、民主党が歩み寄る可能性はないと判断、強行採決に踏み切ったとみられる。【11月22日 毎日】
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“採決前には、強行採決に抗議して、議長席そばに催涙弾が投げ込まれた。議員らがせきこみ、目をこする中、催涙弾を投げ込んだ野党議員は取り押さえられ、抗議の声を上げながら警備員に議場の外へ連行された”【11月22日 AFP】とのことです。激高しやすいお国柄・・・ではありますが。

【「政治の季節」で、与野党間の対立激化
李明博大統領の目論見では、10月に批准して、11月のハワイ・ホノルルのAPEC首脳会議に乗り込む・・・というシナリオでしたが、野党側の抵抗で遅れ、APEC直前の国会訪問でも事態を打開することができませんでした。
結果、目処がたたないままのAPEC参加となり、すでに10月21日に大統領の署名まで終えているアメリカに対し面子を失った形となりました。

与野党間で問題となっているひとつは、日本同様、農業問題で、農業団体などは当初から強硬に反対しています。
また、上記記事にもある「ISD条項」への批判も強くあります。
同条項は、企業などが不利益を被ったとき、相手国を国際投資紛争センターに提訴できるというものですが、同センターが世界銀行のもとで設置されアメリカの影響が強い、韓国には一方的に不利だと野党などは批判しています。

しかし、こうした批判は以前からあったもので、もともとFTA合意は現在批判している野党が政権を担っていたときになされたものです。なぜここにきて急にそうした個別の問題がクローズアップされるのか?という疑問があります。

その背景として、「政治の季節」に入った与野党間の対立激化があるとの指摘がなされています。

****2012年の総選挙、大統領選が影響****
・・・最大の理由は第1に、「米韓FTA」が政治問題化してしまったことだ。
韓国では2012年春に総選挙、12月に大統領選挙が実施される。2つの選挙が同じ年に実施されるのは20年に1度のことで、韓国は早くも「政治の季節」に入って与野党間の対立が激しくなっている。

国会議員にとっては、何よりも来年春の選挙が最大の関心事だ。
国会で多数を占める与党だが、米韓FTA批准を強行採決すれば、国会で乱闘劇が繰り広げられるのは必至だ。そうなれば、若者を中心に与党離れがさらに加速し、「ソウルなど首都圏では与党議員が全滅する」という恐怖感が広がっている。だから野党の無理な要求にも、なかなか強く出られないのだ。

一方の野党も複雑だ。野党や進歩派勢力の間ではこのところ「左バネ」が強まっている。強硬派労働組合を支持基盤とし、「米韓FTA絶対反対」を掲げる民主労働党は最近の選挙で、全国の主要都市で10%前後の支持率を得ている。1人区の国会議員選挙で勝つためには、こうした「左寄り」政党の支持が不可欠だ。

左派系の市民団体の動きも活発だ。もともと組織力のあるうえ、最近は、「米韓FTAに賛成した野党議員には落選運動で対応する」などと議員を圧迫している。ネットやツイッターをフル活用した威力はすさまじく、「米韓FTA批准」に柔軟な姿勢を見せた野党議員にはネット上で批判が噴き上がり、議員の活動に大きな影響を与えている。・・・・【11月22日 玉置 直司 日経ビジネスONLINE】
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デマに混乱する世論
玉置氏は、第2の理由として、「米韓FTA」が、李明博政権が掲げてきた「大企業重視」の経済政策の象徴とのイメージが特に雇用難に苦しむ若者間で浸透していることを挙げています。
更に、批判的な若者の間で、ツイッターなどで、「米国で人間が狂牛病に感染しても、牛肉の輸入を止められなくなる」「盲腸の手術台が900万ウォンに急騰する」といった“デマ”が飛び交っている状況が事態を混乱させているとか。
確かに、狂牛病絡みの輸入牛肉解禁問題の際も、デマが飛びかい批判を大きくした経緯があります。

誤った情報に踊らされる世論、過激な「大きな声」に引きずられる世論、そうした世論に迎合するだけで理性的な判断が下せない政治家・・・日本でもお馴染みの状況です。こうした事態を目にすると、民主主義の機能不全を感じてしまいます。

与野党譲らず、トリガー条項発動へ
民主主義の機能不全は、韓国・日本だけでなく、民主主義国のリーダーを自負するアメリカでも同様です。
アメリカでは、過激な草の根保守主義「ティー・パーティー」の主張に引きずられる形で、共和党の迷走が続いていますが、ねじれ状態の政局、やはり選挙を意識して“弱腰批判”を受けたくない議員心理などもあって、今後10年間で1.2兆ドル(約92兆円)の財政赤字削減策を詰めるはずだった議会の超党派委員会が、23日の期限を前に、決裂しています。

****米議会:財政赤字削減協議が決裂 金融市場に影響懸念****
財政赤字削減策を協議してきた米議会の超党派特別委員会(民主党6人、共和党6人)は21日夕、「合意は不可能」とする声明を発表し、協議が決裂したことを明らかにした。
オバマ大統領は引き続き協議を続けるよう議会に求めたが、来年11月の大統領選を前にした与野党の対立は深刻で、金融市場や米経済への影響が懸念される。

委員会の最終期限は23日だが、法律上は21日に10年間で最低1.2兆ドルの財政赤字削減策を提示する必要があった。
しかし、富裕層向けの増税を主張する民主党と、増税に反対し社会保障給付などの削減を重視する共和党の対立は最後まで解けなかった。
委員会の共同委員長2人は21日夕、「数カ月の厳しい作業と集中的な協議の結果、期限までに有効な両党の合意を得るのは不可能との結論に至った」との声明を発表した。

特別委員会は今年8月、政府の債務上限引き上げ法の策定に伴い設置された。財政赤字削減策で議会の合意ができなかった場合、13年1月から1.2兆ドルの歳出を強制的に削減するトリガー(拳銃の引き金)条項が設定されている。
削減分の半分は国防・安全保障費が占めており、パネッタ米国防長官は21日、「巨額の国防費の強制削減は国防をあやうくする」との声明を出した。

共和党の一部には強制削減の回避を画策する動きもあるが、オバマ大統領は協議決裂を受けて「自動的な歳出削減を回避する試みには拒否権を発動する」と発言。12年中に議会が赤字削減計画をまとめる努力を続けるよう求めた。【11月22日 毎日】
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利害が対立する問題に対処するためには妥協は不可欠です。
妥協を“弱腰”と批判する風潮が強い昨今の世論、その世論に迎合する政治家・・・という構図は、民主主義というよりは衆愚政治と言うべきでしょう。
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フィリピン  アロヨ前大統領逮捕 アキノVSアロヨの新旧攻防

2011-11-21 21:29:59 | 東南アジア

(治療目的の出国が認められず、病室で逮捕されたアロヨ前大統領 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6359279425/

【「(アロヨ氏は)クリスマスを監獄で過ごすことになる」】
フィリピンのアロヨ前大統領(現在は下院議員)が、治療のための出国を拒否され、07年の上院中間選挙で不正を行ったとして逮捕されました。

****フィリピン:アロヨ元大統領を逮捕…選挙妨害容疑****
フィリピンのマニラ首都圏パサイ地方裁判所は18日、07年の上院中間選挙で不正を行ったとして、当時の大統領で現下院議員のアロヨ氏(64)に対し選挙妨害容疑で逮捕状を発行。
国家警察がアロヨ氏が入院しているマニラ首都圏の病室内で逮捕した。
しかし、アロヨ氏は健康の問題を抱えているため、身柄拘束を見合わせ、地裁の判事が週明けの21日、病院を訪れて尋問し、身柄を拘束するかどうか改めて決定する。

アロヨ氏は頸椎(けいつい)疾患を抱えており、海外での治療を求め、フィリピンと犯罪人引き渡し条約を締結していない中米ドミニカ共和国などへの渡航を計画。この日夕のマニラ発シンガポール行きの便で出国する予定だった。

司法省によると、アロヨ氏は07年の上院中間選挙で、フィリピン南部ミンダナオ島のマギンダナオ州知事らに与党議員を当選させるため、野党議員の得票を少なくするよう、不正投票を指示した疑い。選挙管理委員会から告発を受けたパサイ地方裁判所が即日、逮捕状を発行した。
選挙の不正は組織的に行われ、集計用紙の書き換えや、野党支持者が投票所に入れないよう妨害したとされる。全国区で行われる上院選では、当時上院議員だったアキノ現大統領など当選した野党上院議員4人の同州での得票は0だった。

司法省は、選挙妨害容疑のほか、アロヨ氏が大統領の任期中に公金を自分の選挙に流用した容疑などでも捜査を進めている。
汚職の一掃を公約に昨年5月の大統領選で当選したアキノ大統領は「(アロヨ氏は)クリスマスを監獄で過ごすことになる」と話していた。【11月18日 毎日】
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アロヨ前大統領は07年の選挙妨害とは別に、国家警察のヘリコプター購入の際の不正などで告発されているほか、04年大統領選の得票水増し疑惑も浮上しています。
任期中から、いろいろな疑惑があったアロヨ前大統領ですので、叩けばいくらでも埃は出そうです。
なお、アロヨ前大統領の側近によると、同氏は頚椎の病気のため今年に入ってから3回手術を受けていますが、いずれも失敗に終わったとのことです。

アキノ現大統領は、昨年5月に行われた大統領選挙戦で、汚職疑惑が絶えなかったアロヨ政権を徹底的に批判し、大統領就任後はアロヨ氏や周辺の汚職の調査に真っ先に手をつけることを宣言、「汚職がなくなれば貧困もなくなる」と主張していました。
そして、当選後はアロヨ前大統領の汚職・不正を厳しく追及してきましたが、今回逮捕という公約実現で、失速気味の人気の回復につなげる狙いがあるとみられています。

アロヨ氏の権力維持対策
アロヨ前大統領は任期末期に、退任後の不正疑惑追及をかわすため、首相制度を導入して自分が首相に就くことを企てている・・・という噂もありましたが、大統領選と同時に行われた下院選に自ら立候補し、また、親族・側近を立候補させて権力維持を図っていました。

****フィリピン大統領:権力維持狙う…親族とともに下院選出馬****
フィリピンで(10年)5月の大統領選と同時に行われる下院選の選挙運動が26日に始まる。
下院選には、任期切れで退任するアロヨ大統領やその親族らが多数出馬し、アロヨ派は下院を制することで権力維持を画策しているとの見方が強い。これに対し、反アロヨ陣営は反発を強め、大規模な抗議行動も辞さない構えを見せている。

◇議長就任の観測
287議席を争う下院選には、任期(1期6年)満了で退任するアロヨ大統領のほか、長男や夫の兄妹など4人、側近の官房長官ら前閣僚6人が立候補する。現下院は269議席中、アロヨ氏の与党が過半数の144議席を占める。アロヨ派は選挙で勢力をさらに拡大させたい考えで、アロヨ氏が下院議長のポストに就くのでは、との観測もある。

今回の選挙では、初めて電子投票システムが導入されるが、テストのたびにトラブルに見舞われており、多くの地域で選挙が不成立となる懸念がある。一部地域で選挙が無効となった場合、正副大統領や同時に選挙が行われる上院議員が選出されない可能性がある。憲法では、正副大統領、上院議長が不在の場合、下院議長が大統領代行に就任すると規定されており、アロヨ氏が大統領代行に就任する可能性もある。

また、アロヨ氏の権力維持の布石と指摘されているのが、軍や司法機関への腹心の起用だ。アロヨ氏は今月、国軍の参謀総長に腹心で元大統領警護隊長を、国軍士官学校の卒業年次の序列を無視して抜てき。国軍の主要ポストにも次々と腹心を送り込んでいる。大統領府の副報道官は19日、「選挙が不成立の場合は暫定軍事政権も考えられる」とコメントし、不測の事態が現実味を帯びてきている。(後略)【10年3月25日 毎日】
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アロヨ前大統領は予想どおり下院選に当選しましたが、アロヨ氏側近の元閣僚6名のうち3名は落選しました。そして、アロヨ氏の不正追及を掲げるアキノ氏が当選した大統領選挙直後から、アキノ大統領とアロヨ前大統領の熾烈な戦いの第2ラウンドが始まりました。

****フィリピン:新旧攻防 アキノVSアロヨ政治生命かけ****
(10年)10日実施されたフィリピン大統領選で当選を確実にしたアキノ上院議員と、6月末で退任するアロヨ大統領の間で政治生命をかけた攻防が始まっている。
腐敗の一掃を掲げるアキノ氏は、アロヨ氏を名指しして不正疑惑の捜査を行うと表明。これに対し、アロヨ氏は司法トップの最高裁判所長官に腹心を据え、疑惑追及に抗戦する構えだ。

アキノ氏は選挙戦で、アロヨ氏を中心とする政権の汚職摘発を公約に掲げて圧倒的な支持を受け、勝利を確実にした。その後の会見でも、汚職の一掃を強調している。
一方、アロヨ氏は選挙直後の12日、最高裁長官の後任人事で腹心の判事を任命。汚職での訴追を逃れるための布石だとして、アキノ陣営を支援する市民団体は「新長官人事はアロヨ政権の行き過ぎた行為(汚職)に対する責任を隠そうとしている」と抗議している。(中略)

一方、フィリピンでは大統領の再選は禁じられているため、アロヨ氏は権力維持に向け大統領選と同時実施の下院選に出馬し、当選した。下院の過半数を自派で占め、自らは下院議長ポストを狙っているとみられている。
しかし、今回出馬したアロヨ政権の6閣僚のうち、中心人物のエルミタ前官房長官ら3人が落選した。これに対し、アキノ氏が事実上率いる政党は、他党との連携を模索すると同時に、アロヨ派の切り崩しを行い、下院でのアロヨ派支配に対抗している。(後略)【10年5月25日】
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フィリピン下院の勢力分布はよく知りませんが、今回、アロヨ前大統領が逮捕されたことからすると、アロヨ氏が目論んだ下院での勢力維持はうまくいかなかったということでしょうか。

前任のエストラダ元大統領に続く逮捕
なお、アロヨ前大統領の前任のエストラダ元大統領も巨額の公金横領罪で終身刑判決を受けていますが、6年半の拘束生活の後、07年10月、当時のアロヨ大統領によって恩赦が決定しています。
このときの恩赦は、アロヨ氏自身の不正疑惑追及からの保身を図るため、政治的影響力が大きいエストラダ氏と妥協したものと見られていました。

“恩赦は、自らの不正疑惑で揺れるアロヨ大統領の「保身策」とも指摘される。最近浮上した中国企業と政権幹部の癒着疑惑、大統領府から州知事らへの贈賄疑惑に加え、04年の大統領選の不正疑惑もくすぶる。
一方のエストラダ氏は、逮捕・軟禁下でも政界に影響力を持ち、5月の上院選では野党候補を大量に当選させた。10年の大統領選は再び、エストラダ氏の政治力が焦点となる。アロヨ氏は、エストラダ氏に恩赦を与えることで政治的な妥協の道を探った、との見方が強い。”【07年10月25日 朝日】

民主主義の根幹
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レイラ・デリマ法相は、マニラの裁判所がアロヨ氏に逮捕状を発行したことを受け、アロヨ氏はフィリピン国内で選挙妨害の容疑と向き合わねばならないと述べたとともに、事件はフィリピンの選挙制度だけでなく民主主義の根幹に関わるもので、フィリピン国民に正義がもたらされることを望むと語っていた。【11月19日 AFP】
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“民主主義”と“正義”は、単にアロヨ前大統領の処遇だけでなく、社会全体にはびこる汚職・不正体質の一掃にかかっていることは言うまでもありません。実現は困難な目標ですが・・・。

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