(リベリアの大統領選挙 支持者の乗った車の後ろの車椅子は、内戦の犠牲者でしょうか? リベリア内戦では反政府勢力が住民の手足を切断する残虐行為が横行しました。 それとも地雷でしょうか? ノーベル平和賞のサーリーフ大統領が再選を決めたこの選挙も、支持者への現金ばらまきといった「金権選挙」から逃れることはできなかったようです。 “flickr”より By genna S http://www.flickr.com/photos/genna_s/6230467249/)
【「ノーベル賞? 彼女のもので、我々のものじゃない。食べ物を運んでくれるのか」】
今月10日には、ノーベル平和賞を受賞する西アフリカ・リベリアのサーリーフ大統領が再選を決めました。
欧米・日本的な感覚すれば、その民主化の実績と受賞の話題性で恐らく圧勝するのだろう・・・とも思われるのですが、実際は一時苦戦も伝えられる状況でした。
“10月の第1回投票で43.9%を得票したサーリーフ氏に対し、2位のタブマン氏は貧困層の支持を受けて32.7%と迫り、決選投票に挑んだ。3、4位の候補を取り込めば勝機があるとみられていたが、2人の候補は相次いでサーリーフ氏の支持に回った。タブマン陣営は結局、直前になって投票ボイコットを宣言し、選挙プロセスに不正と欠陥があると主張”【11月8日 朝日】ということで、決選投票は対立候補がボイコットする形となっています。
欧米で高く評価された実績が、必ずしも国民の支持に繋がっていない背景には、内戦に疲弊したリベリアの厳しい現実があります。
****深い内戦の傷痕、失業率8割****
リベリアの現状は厳しい。
首都中心部は国際援助で4車線の幹線道路が整備されているが、少し外れると未舗装の道が続き、雨が降ればぬかるむ。空爆で外壁が壊れた建物も点在し、内戦の傷痕は深い。上下水道は未整備で、電気が通じていない地域も多い。失業率は約8割に上り、一日1ドル以下で暮らす人の割合も7割近い。(中略)
女性の社会進出のために政府要職に女性を登用したり、初等教育の無料化を進めるなどの改革を断行。ダイヤモンドなど紛争資金にも使われた資源の管理を徹底し、汚職の排除に努めてきた。ノーベル平和賞もこうした活動が評価された結果だった。
だが、無料のはずの学校で授業料が徴収されたり、警察官が車を止めて賄賂を要求したりと、末端の汚職はなくなっていない。
首都郊外にある同国最大のスラム街「ウエスト・ポイント」。悪臭が漂うなかで、7万5千人余りがひしめき合う。失業中のターバーさん(44)は「現政権は何もしていない。道路も外国がつくった。コネがないと職を得られないし、子供の奨学金ももらえない」。7人の子供を持つトーさん(42)は「ノーベル賞? 彼女のもので、我々のものじゃない。食べ物を運んでくれるのか」と話した。
男性には不満の声が多いが、女性からはサーリーフ氏支持の声が上がる。スラムで生まれ育ったヘイゼルさん(19)は、高校を卒業し、来年、医学部を目指すという。「女性が希望を持てる国にしてくれた。彼女はみんなの模範。彼女のようになりたい」
新聞やラジオを手にできない人も多いなか、貧困層には道ばたの「黒板新聞」が情報源だ。重要なニュースを2日に一度、チョークで手書きする。管理するジャーナリストのアルフレッドさん(37)は「貧困と教育の問題は簡単には解決できない。誰が大統領でも30年はかかる」と話した。
再選を確実にしたサーリーフ氏も、再建が途上であることを強調する。「まだ着陸していない。まだやるべきことがある」【11月8日 朝日】
******************************
こうした厳しい現実があるため、ノーベル平和賞受賞のサーリーフ大統領の選挙戦ですら、民主主義の理念とはややそぐわない「金権選挙」の面もあったようです。
****リベリア再建へ長い道 ノーベル賞の大統領****
・・・・サーリーフ陣営は選挙戦最終日の6日夕にモンロビアで集会を開き、約5万人が集結。「選挙に行くぞ!」の大合唱で会場は歓喜に包まれ、勝利集会の様相だ。会場では無料の食事や水の配給所に長蛇の列ができ、ヘリコプターからビラがまかれた。
実は、(野党)CDCの選挙放棄の理由としてささやかれているのが資金不足だ。選挙戦が進むにつれ、両陣営の資金力の差が歴然となったという。CDCのグレイ事務局長は「貧困層の中でサーリーフ氏を支持する者がいるのは、資金提供を受けているから」と指摘する。
アフリカでは選挙運動中に、地域の代表に現金や食料、子供用のサッカーボールなどを渡すのが一般的な国が少なくない。サーリーフ陣営のブラウンネル報道官は「私も米国生活が長いからおかしな風習だと思うが、『郷に入っては郷に従え』だ。大統領も受け入れている」と話し、「金権選挙」を認めた。
そんな選挙戦に、サーリーフ氏の選挙前のノーベル平和賞受賞決定は影響したのか。タブマン氏は「識字率も低く、ノーベル賞が何かを理解していない人が多い。選挙への影響はほとんどない」と話した。【同上】
********************************
【強権・独裁を覆う民主的選挙のみせかけ】
欧米的な民主主義をよく理解しているサーリーフ大統領ですらこうした状況ですから、他は推して知るべしというところでしょう。
アフリカでも多くの国で選挙・投票が行われますが、独裁・強権支配を覆うみせかけにすぎない場合も少ないようです。
ここ半月ほどに目にした記事にも、そうした事例が見られます。
****独裁国家で国民投票=大統領、世襲の準備か―赤道ギニア****
ヌゲマ大統領(69)による独裁が30年以上も続いている中部アフリカの産油国、赤道ギニアで13日、新憲法の是非を問う国民投票が行われる。新憲法は、大統領の任期を最大2期14年に制限、「民主化」を掲げているが、実は世襲に向けた準備とみられている。
ヌゲマ大統領は1979年、おじのマシアス大統領を処刑して権力を握った。独裁国家だが、大統領選は行われてきており、毎回圧勝だ。次の大統領選は2016年。そこからさらに14年「88歳になる30年まで続けることを担保する」(人権団体)ための改憲と疑われている。
しかし、一番の狙いは、副大統領職の新設にある。大統領が指名できる新副大統領に有力視されているのが、息子のヌゲマオビアンマンゲ農林相(40)だ。米仏での豪遊で「世界的に有名などら息子」(外交筋)を、段階を踏んで後継者に据えたい親心が背景にあるとされる。【11月13日 時事】
***************************
****ガンビア大統領選:現職のジャメ氏が4選****
西アフリカのガンビアからの報道によると、24日に行われた同国大統領選で独立選挙委員会は25日、現職ヤヤ・ジャメ氏(46)が得票率約72%で4選を果たしたことを明らかにした。任期は5年。
ジャメ氏は1994年のクーデターで権力を掌握、国際人権団体などから人権侵害や強権体質が批判されている。投票率は約83%だった。
西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は自由で透明な選挙が行われる状況にないとして、選挙監視団を派遣しなかった。【11月26日 毎日】
***************************
****現職カビラ氏が優勢=流血拡大、国連総長が警告―コンゴ大統領選*****
サハラ砂漠以南のアフリカで最大の国土を持つ中部アフリカのコンゴ(旧ザイール)で28日、大統領選の投票が行われた。チセケディ元首相(78)ら11人が出馬しているが、現職カビラ大統領(40)が優勢とみられている。
1997年まで30年以上続いたモブツ独裁体制とその後2003年までの内戦を経て、大半の国民は06年の前回大統領選で初めて民主的な選挙を体験した。内戦後2回目となる今回選挙は国連の全面支援があった前回と違って自力で行うため、民主主義の定着度が問われる。
しかし、内戦以来の各派、各地域の対立感情は根深く、選挙戦では衝突による死者も出ている。流血拡大が不安視される中、国連の潘基文事務総長は27日、声明を出し、平和な環境で選挙を行う「一義的責任」は政府にあると強調。実弾を使った警官隊による野党弾圧に警告を発した。【11月28日 時事】
*****************************
民主主義の理念とはかけはなれた厳しい現実があるため、選挙・政治においても民主主義は形ばかりのもとして扱われる。また、その結果、厳しい現実の改善は一向に進まず、ときに内戦といった悲惨な状況にもなる・・・・という悪循環のようです。
【政権側が意図しない番狂わせ・・・無効・やり直し】
こうした“形だけの民主主義”はアフリカに限った話ではありません。
ロシアの支援を受けて、グルジアからの独立を主張している南オセチアの大統領選挙では、政権側が意図した候補が当選しない番狂わせが起こった結果、最高裁が選挙を無効として、もう1回やり直すことになったそうです。
****来年3月に大統領選やり直し=番狂わせの結果受け―南オセチア****
グルジアから独立宣言している南オセチアで27日行われた大統領選の決選投票で、最高裁は29日、選挙結果を無効と決定した。これを受けて南オセチア議会はやり直しの選挙を来年3月25日に実施することを決めた。
中央選管の暫定結果では、ココイトイ大統領系のビビロフ非常事態相(41)の得票率40.0%に対し、女性のジョエワ元教育相(62)が56.7%でリードする番狂わせになり、ビビロフ陣営が「選挙違反があった」として裁判所に不服を申し立てていた。
2008年8月のグルジア紛争後、初めての大統領選だが、混乱に陥った格好。グルジアや欧米などは選挙の正統性を認めていない。【11月29日 時事】
**************************
ビビロフ氏は選挙前にロシアのメドベージェフ大統領と会談、事実上の信任を得ていたそうです。
対立候補を排除して勝つまでやる選挙など、無意味です。