孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  抗議行動が続発、高まる緊張

2012-01-31 22:14:47 | チベット

(1月30日 ドイツ・ベルリン 春節に行われた中国への抗議行動 “flickr”より By Joscha Be http://www.flickr.com/photos/51812575@N03/6794905885/

【「中国の人権状況は史上最高の時期にある」】
ここ数日、中国四川省のチベット族居住地域で住民の抗議行動が相次ぎ、治安部隊の発砲で少なくとも3人(【1月29日 毎日】では6人)が死亡したと報じられています。

中国共産党政権は、抗議に加わった住民を「暴徒」と非難し、統制強化を徹底する構えです。現地では治安部隊が多数投入され、道路が封鎖されるなど緊張が高まっていますが、インターネット遮断など情報も統制されているとみられ、一部地域への電話は通じない状況です。

****チベット族の抗議拡大3人死亡 中国「人権状況は最高*****
来月副主席訪米 平行線は必至

旧正月を祝う春節に入ってから、中国四川省のチベット族自治州で住民による抗議行動が続発している。治安部隊の発砲で少なくとも3人が死亡。国際社会からの批判が集まる中、中国当局が現地の統制を強化する一方、中国共産党機関紙は連日、人権状況の改善をうたって反論している。

英国を拠点とする人権団体などによると、同省カンゼ・チベット族自治州炉霍県で23日、チベット族住民数人の拘束に抗議する群衆に治安部隊が発砲し、1人が死亡した。24日には同州色達県に飛び火し、治安部隊の発砲で1人が死亡。26日にもアバ・チベット族チャン族自治州壌塘県で1人が犠牲になった。

国営新華社通信も、衝突で死者が出たことを報じ、治安部隊が発砲したことも認めるなど異例の対応を取った。しかし、僧侶の焼身自殺などに関する情報に扇動された住民が、刃物を手に警察署を襲撃したことに対する「正当防衛」と強調。襲撃は「計画的かつ組織的」と主張して、亡命チベット人勢力や外国勢力の関与を示唆した。

抗議行動が拡大の様相を見せる中、オテロ米国務次官(チベット問題担当特別調整官)が中国政府のチベット政策を批判し、治安部隊の自制を要求。人権団体は除夕夜(旧暦の大みそか)の22日を選んだかのように年度報告を発表し、中国側の感情を逆なでした。
欧米サイドとしては、2月に訪米予定の習近平国家副主席とオバマ米大統領との会談で、中国の人権問題を議題に上げる心づもりとみられるが、人権侵害の認識がない中国を相手に話がかみ合うはずもない。

一方、党機関紙、人民日報は連日「中国の人権状況は史上最高の時期にある」などとしてチベット族に対する優遇政策の成果を強調、人権問題の政治化を牽制(けんせい)する論文を掲載している。
住民の通信網を監視・遮断し、武装警察に加え人民解放軍を投入して統制を強めているとの情報もある。これらの措置も、中国当局から見れば「国情に合った管理」であり、国際社会の批判はすべて「偏見」によるものだという姿勢に、議論の余地はなさそうだ。【1月31日 産経】
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チベット問題に限らず、「中国の人権状況は史上最高の時期にある」という主張の空虚さは、今更言うまでもないところです。食うや食わずの時代を脱した・・・という意味では、一定の評価はできるでしょうが(そうした飢餓を招いたのも中国共産党の政策の誤りでもあった訳ですが)、一言で言えば「人はパンのみにて生くる者に非ず」ということでしょう。

今回の騒動の背景として、“チベット自治区では、中国の春節(旧正月)直前の22日、国旗を掲揚する式典があり、これに合わせ各地の寺に国旗や胡錦濤国家主席ら国家指導者の写真が大量に送られ、掲げられた。これに一部のチベット族が強く反発したことが抗議の背景にあるとみられる” 【1月29日 毎日】との指摘もあります。

****指導者肖像画・国旗100万枚を配布、狙いは寺院の共産党化か?―チベット自治区****
2012年1月22日、チベット自治区共産党委員会や同自治区政府が入居するビル「党政大楼」の正面入り口上部の外壁に巨大な肖像が登場。中国国旗の五星紅旗をバックに毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦濤の歴代指導者が描かれた巨大肖像画の除幕式が盛大に開催された。24日付で中国新聞社が伝えた。

チベット自治区では、現在「中国国旗と指導者肖像を村の各世帯、寺院に送ろう」キャンペーンを展開中。すでに100万枚の国旗と肖像画が送られているという。さらに昨年12月8日、同自治区共産党委員会統一戦線部は自治区内の寺院に対し「九有(国家指導者の肖像、国旗、道路、水道、電気、テレビとラジオ、映画、書庫、人民日報と西蔵日報の新聞の9つを有すること)」政策を推し進めると発表。その予算は自治区政府が負担するという。

このニュースが報じられると、中国のマイクロブログ・新浪微博にはユーザーからの辛らつなコメントが相次いだ。「寺の中で無神論者の毛沢東を拝むのか?ありえない!」「チベット自治区で文化大革命を起こすのか?」「自治区の民から信仰の自由を徹底的に奪うつもりだ!」など、党の民族政策に疑問を抱く内容のものがほとんどだった。【1月26日 Record China】
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国旗や指導者肖像・写真の強要は、個々人の権利や多様な考えよりは国家の意向・一体性を重視するような、威圧感を感じさせます。ましてや、チベットのような国家帰属に問題を抱える地域にあってはなおさらでしょう。

【「文化的ジェノサイド」に直面している
チベット僧の焼身自殺も昨年から続いています。
今月6日には、四川省アバ県でも元僧侶2人が焼身自殺を図って1人が死亡、8日には、青海省果洛ベット族自治州の吉邁でチベット人僧侶1人が焼身自殺しています。
過去1年にチベット人居住区域で起きた焼身自殺・自殺未遂事件は15件となっています。

****チベット人僧侶また焼身自殺、1年で15件に****
・・・・ダライ・ラマ14世は、一般的に仏教信仰に反するとみなされている焼身自殺に批判的だ。だが、最近になって、相次ぐ焼身自殺の原因はチベット人が中国の強硬な統治下で「文化的ジェノサイド(大虐殺)」に直面していることだと発言した。

中国では多数派の漢民族がチベット人の歴史的居住地域に移住を進めており、国内の多くのチベット人が政府による宗教弾圧や文化抹消の行為だと批判している。だが中国側は、チベット人は信教の自由を享受しており、また巨額の投資によって近代化がもたらされ、生活水準が向上したと主張している。【1月9日 AFP】
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宗教的最高指導者は国外亡命を余儀なくされており、“巨額の投資”による利益は移住してきた漢族とそれにつながる一部の者によって占められている現状にあっては、中国当局側の言い分はうつろに響きます。
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ミャンマー  進むテイン・セイン大統領の改革 スー・チーさんとも協調 これからが正念場

2012-01-30 21:59:01 | ミャンマー

(茶店の壁に貼られたスー・チーさんのポスター 彼女のポスターや彼女に関する本が街角のスタンドで売られています。数か月前には想像できなかった光景です。 “flickr”より By J_P_D http://www.flickr.com/photos/j_p_d/6614750181/

スー・チーさんの地方遊説、当局規制なし
ミャンマー民主化運動指導者のスー・チーさんは、自身も4月1日投票の議会補欠選挙に立候補、また、彼女が率いる「国民民主連盟」(NLD)は補選の行われる全国48の選挙区すべてに候補者を擁立していますが、29日には選挙戦に向けた地方遊説を開始しています。当局による規制は一切なかった模様です。

****ミャンマー:スーチーさん地方遊説 議会補選に向け****
ミャンマー民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)を率いるアウンサンスーチーさんは29日、南部の都市ダウェーを訪問。4月1日投票の議会補欠選挙へ向けた地方遊説を開始した。地元市民は熱狂的にスーチーさんを出迎え、地方でもスーチーさんの人気が高いことを見せつけた。

NLDはダウェーなど補選が実施される全国48の選挙区すべてに候補者を擁立する。スーチーさんが最初の遊説地としてダウェーを訪れたのは、外国企業主導の巨大経済開発が計画され、その功罪が国民の関心を集めるダウェーで第一声を上げ、全国に存在をアピールする狙いもある。

スーチーさんは数千人の支持者を前に「私たちが選挙に出てもすぐに国が変わるとは思わないが、(民主化へ向けた)活動をさらに広げていくために、選挙に参加すべきだと決断した。国民誰もが平等な1票を持っている。どうか私たちに投票してください」と訴えた。また、議会定数の25%を自動的に軍推薦議員に割り振る現行憲法について「国民の利益にならない部分は改正する必要がある」と述べ、当選後に憲法改正に取り組む姿勢を明確にした。

米欧は対ミャンマー制裁解除の条件として、今回の補選の「自由・公正な実施」を求めている。テインセイン政権は選挙の自由な実施を強調しており、この日も当局による規制は一切なかった。【1月30日 毎日】
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スー・チーさんの国民的人気は衰えていないようです。
ミャンマー政府の恩赦で今月釈放された民主化運動グループ「88年学生世代」のメンバーも、21日、最大都市ヤンゴンで記者会見し、スー・チーさんの4月1日実施の国会補選への立候補を支持し、支援していく方針を示しています。
なお、メンバーからは、スー・チーさんの国会参加について「危険な選択」と指摘する声も上がり、政府主導で進む急速な民主化への不信感もあるようです。【1月22日 毎日より】

大統領:少数民族との完全和平実現に楽観的な見通し
スー・チーさんは選挙区内の貧困層の多い地区の少数民族住民の家に住民登録しての出馬です。
多分に、貧困層や少数民族へのアピールを意識してのことでしょう。

****スー・チーさん、カレン族宅に住民登録=補選出馬で―ミャンマー****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが4月の補欠選に出馬するため、選挙区のヤンゴン南部コムー地区郊外に住む少数民族カレン族の姉妹宅に住民登録を移していたことが29日、分かった。スー・チーさんはこの姉妹と面識はないが、補選の前日はこの家に宿泊し、投票に向かう予定だ。

スー・チーさんはヤンゴン中心部に自宅があるが、立候補するには選挙区内に住所を登録する必要がある。国民民主連盟(NLD)関係者によると、今月下旬に党本部で住所移転に関する会議を開催。地図を広げて検討していたところ、スー・チーさんが貧困層が多いコムー地区の外れにあるワティンカ村を指定した。
後日、党関係者が同村を訪れて、村民に相談。姉妹は60歳前後の独身女性2人暮らしで、スー・チーさん受け入れを強く希望したことなどから決定した。スー・チーさんも了承した。【1月30日 時事】 
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1947年の発足以来60年以上、独立などを求めて政府軍と内戦を続けてきたミャンマー東部カイン(カレン)州を拠点とする少数民族カレン族の反政府組織「カレン民族同盟」(KNU)は今月12日、政府との間で初めて停戦合意に署名しています。
また、国境も近い中国雲南省の瑞麗市では、戦闘状態が続くカチン族の武装勢力「カチン独立軍」(KIA)と政府との停戦交渉も行われています。
少数民族との和解は、政治犯釈放と並んで、欧米諸国がミャンマー民主化の真偽を見極める基準としているものですが、テイン・セイン大統領の進める少数民族との対話路線も成果を見せてきています。

****ミャンマー:大統領、6武装組織と和平合意****
ミャンマーのテインセイン大統領は26日、連邦議会(国会)に書簡を送り、「これまでに六つの少数民族武装組織と和平で原則合意した」と明らかにした。大統領は「残る5組織とも交渉を続けている」とし、少数民族との完全和平実現に楽観的な見通しを示した。

米国や欧州連合(EU)は、少数民族との和平実現を対ミャンマー経済制裁解除の条件に挙げている。昨年後半から少数民族勢力との交渉を始めた大統領は、声明で国際社会に和平への積極姿勢を強調する狙いがあるとみられる。
大統領は和平合意した6組織と未合意の5組織の具体名は挙げなかった。

ミャンマーではこれまでに、少数民族武装組織としては最大規模の「ワ州連合軍」や、政府と停戦を結んだことがなかった東部カイン(カレン)州を拠点とする「カレン民族同盟」、北東部シャン州を拠点とする「南部シャン州軍」などが相次いで政府と停戦合意した。一方で北部カチン州を拠点とする「カチン独立機構」(KIO)などとは依然戦闘状態が続いている。

政府の少数民族との交渉団最高幹部は26日、毎日新聞に対し、停戦合意に至っていない「シャン州進歩党」との交渉が28日、「新モン州党」との交渉が31日に開かれると明らかにした。【1月27日 毎日】
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スー・チーさん:「テイン・セインがトップに立ったからこそ改革が進んでいる」】
情報公開も進展しており、国会審議の様子もメディアに公開されています。
****国会第3会合が開会=国外メディアにも議論公開―ミャンマー****
ミャンマーの首都ネピドーで26日、国会の第3回通常会合が開会し、国外メディアにも公開された。同国では民主化に向けた改革が急速に進んでおり、国会でも出席議員から積極的な発言が相次いだ。(中略)

取材に応じた野党新国民民主党のテイン・ニュン議員は「国会での活動で特に制約を受けることはない。野党議員も平等に扱われていると思う」と話した。同議員は国会に5案件を提案し、このうち汚職問題などに関する2案件が議題として採用されたという。【1月26日 時事】
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連日のように民主化に向けた進展が報じられるミャンマー情勢ですが、なかでも政府の柔軟姿勢をリードするテイン・セイン大統領と民主化運動指導者スー・チーさんの“二人三脚”とも“蜜月”とも言えるような関係が目を引きます。

大統領はインタビューで、“スー・チーが選挙で善戦したら閣僚に起用するか”との問いに、“選挙の結果次第だ。当選したら彼女は議員になる。現在の閣僚は全員が議会の承認に基づいて任命されている。彼女が議会の任命や承認を得たら、閣僚として受け入れることになる”と、スー・チーさんの閣僚起用も拒まない発言をしています。

一方、スー・チーさんは、やはりインタビューで、テイン・セイン大統領を評価・信頼する、以下のような応答をしています。

-大統領とインタビューしたとき、あなたの入閣を考えているかと聞いたら、彼はそれは議会次第だと答えた。
 そのとおり。もしわれわれ国民民主連盟(NLD)の候補者が連邦議会の補欠選挙ですべて勝利して48議席確保したとしても、600議席以上ある上下院の中ではわずかにすぎない。あらゆることを一度に実現することはできない。議会の中で徐々にわれわれの活動を広げていく。

-今回の改革はタン・シュエ(前国家平和発展評議会議長)が描いた青写真に沿って実行されているのか。
 違う。新政府が誕生し、テイン・セインがトップに立ったからこそ改革が進んでいる。彼は変化と改革の必要性を理解し、最善を尽くしている。政府内の改革派はほかにもいるが、彼なしに実現できたとは思わない。

-大統領と軍の関係は。
 彼は軍から尊敬されている。大統領は現政権の中でもまれな、汚職に手を染めていない人物の1人。彼だけでなく彼の家族も同様で、これはとても珍しいことだ。【2月1日号 Newsweek日本版】

さすがに閣僚云々については、自ら率いる国民民主連盟(NLD)の幹部らに対し、「政府からの就任要請がないので」と直接の返答を避けながらも、閣僚は在任期間中政党活動ができないとする憲法の規定を念頭に「(閣僚になるために)NLDを去るつもりはない」と述べ、入閣の意思がないことを明らかにしています。【1月28日 時事より】 

マコネル米共和党上院院内総務:「改革は本物だ」】
もちろん、こうしたテイン・セイン政権の柔軟姿勢にもかかわらず、依然ミャンマーの軍部支配体制という基本的枠組みは全く変わっていない・・・との批判もあります。
もっともな指摘ではありますが、これだけの変革が短期間に実現されるとは、民政移管前は誰も予想していなかったのも事実です。
国際社会としては、この改革路線が後戻りすることがないように、支援していくのが現実的対応かと思われます。

アメリカの経済制裁解除は米議会との関係もあって、急速には難しい状況です。
「少数民族との和平進展などを見守る必要がある」と述べ、早急な制裁解除や緩和に慎重姿勢を示していた米共和党のミッチ・マコネル上院院内総務は、ミャンマー訪問での政府幹部との会談後、「改革は本物だ」「初めて(ミャンマーの)将来について本当に楽観的になれた」と述べ、改革が進めば米国の経済制裁を見直すべきだとの考えを示しています。
なお、オバマ政権は今月13日の政治犯釈放を受け、大使交換に着手することを発表しており、両国関係の正常化に前向きな姿勢をみせています。【1月17日 読売より】

EUもテイン・セイン政権の改革を支援して、制裁緩和を検討しています。
****ミャンマー制裁、一部緩和=民主化を評価―EU****
欧州連合(EU)は23日の外相理事会で、ミャンマーが民主化に向けた改革を進めていることを評価し、同国のテイン・セイン大統領や閣僚、国会議員らに対する渡航禁止措置を停止することを決めた。引き続き、一層の制裁緩和を検討するとしている。

外相理は声明で、ミャンマー政府による政治犯の釈放や、少数民族カレン族の反政府武装組織との停戦合意などを評価。民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが立候補する4月の国会補欠選挙が自由・公正に実施されれば、同月末までに制裁の大幅緩和に踏み込む可能性もあるとの方針を示した。【1月23日 時事】
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【「問題は不一致にどう対処するかだ」】
今後については、スー・チーさんも登場する補選後の議会において、軍部に一定議席を割り当てた現行憲法の改正問題など、政府側と野党側の主張が対立する問題での議論がどのように行われるかが注目されるところです。
執拗に現行枠組みの変更を求める野党側、要求に応じない政権側・・・膠着した議論のなかで、体制内の既得権益層の反応、結果を出せない野党側の対応がどうなるか・・・・。

****ミャンマー 進む民主化・開放路線*****
政権・野党 これからが正念場
・・・・内外の予想を上回るテンポで民主化を進める同大統領だが、保守派は軍部にも政権内にもいるとされる。いわば民主化勢力と保守派との間で段階的前進を模索している。軍政でナンバー4だった同大統領は後継候補1位でもなかった。
改革派のキン・ニュン元首相が逮捕・失脚したのは絶頂期の04年だ。大統領職は一歩間違えば倒すか倒されるかである。「反対勢力」が具体的に何を指すかは分からないが、用心深さに改革派大統領のもう一つの顔が見えるようだった。
            
これからのミャンマーの命運を握るのは大統領と野党、とくにスー・チーさんとの関係でもある。
昨年8月、大統領との初会談後にスー・チーさんが「信頼できそう」と評価したとき、それまで「名ばかりの民政」と懐疑的だった欧米は初めて同政権を相手として考え始めた。
経済制裁もスー・チーさんが「イエス」と言わない限り、欧米は解除しないだろうとは大方の予測だ。スー・チーさんの責任もまた重い。
(中略)
これからのミャンマーの命運を握るのは大統領と野党、とくにスー・チーさんとの関係でもある。
・・・・両者にとって大きな試金石が間もなく来る。4月1日の連邦議会補欠選挙だ。スー・チーさんは当選確実だが、NLDが全議席(48議席)を獲得しても、現行憲法下では議会の軍・与党優位は揺るがない。

結局は体制に取り込まれるだけとの批判は、NLD内にもあるらしい。スー・チーさんが政治家として力量を問われるのはまさにそこからだ。一方、テイン・セイン大統領も民主化を求める内外の期待と成果との落差に直面したときに、どう乗り越えるか指導者としてやはり正念場である。
「これまで両者は意見の不一致は置き、一致するものから一緒にやってきた。問題は不一致にどう対処するかだ」(外交筋)
 軍を担保する憲法の改正問題一つとっても隔たりは大きい。しかし早晩、同問題は避けられまい。・・・・【1月30日 産経】
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リビア  未だ混乱収まらず 続く民主化への試練

2012-01-29 21:35:55 | 北アフリカ

(1月14日 スイスの組織によって、リビア東部トブルクの軍事基地跡で行われた地雷・爆発残存物除去作業 こうした危険で地道な作業も平和な生活を取り戻すためには不可欠です。日本も、紛争地域におけるこうした分野での技術力を生かした協力の余地があるのでは。 “flickr”より By JMACT Libya http://www.flickr.com/photos/jmactlibya/6695181089/

対立の根強い各地域・部族
カダフィ政権を倒したリビアでは、昨年10月23日に全土の解放を宣言、各地域・部族間の対立によって難航しましたが11月22日にはアブドルラヒム・キーブ暫定首相を首班とする暫定政府が発足しています。
今後は、8カ月以内に移行国民議会選挙を実施する予定となっています。

****リビア暫定政府が発足、地域バランスに配慮****
リビアを暫定統治する「国民評議会」は22日、アブドルラヒム・キーブ暫定首相を首班とする内閣を承認、暫定政府が発足した。

「アラブの春」と呼ばれる民衆蜂起によるカダフィ独裁政権の崩壊から3か月を経て、リビアは国家再建という新たな一歩を踏み出す。新政府が、対立の根強い各地域・部族の意向をとりまとめ、統一した方針を打ち出せるかどうか注目される。

主要閣僚ポストでは、国防相に、西部ジンタンの反カダフィ派部隊司令官オサマ・ジュアリ氏、内相には西部ミスラタの司令官ファウジ・アブドラル氏を起用。外相には、東部デルナ出身の外交官アシュール・ビンハヤル氏、石油相はイタリアのエネルギー大手ENIの元幹部アブドルラフマン・ビンヤザ氏をあてるなど、地域バランスに配慮した人事となった。【11年11月24日 読売】
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民主化への行程は不透明さを増す
しかし、未だ親カダフィ派の抵抗も収まっていない不安定な状況のようです。

****リビア:親カダフィ派健在 一部都市で自治宣言****
北アフリカのリビアでカダフィ独裁体制の崩壊から約5カ月が経過したが、政府系部隊を実力排除した親カダフィ派の都市が25日には事実上の「自治宣言」をするなど、混乱が続いている。
暫定統治機構「国民評議会」が予定していた選挙法案発表も、21日に起きた抗議活動で延期され、民主体制への移行は停滞。国際人権団体からは捕虜の拷問で批判されており、前途は多難だ。

ロイター通信などによると、首都トリポリ南東約150キロのバニワリードで、23日に武装住民が評議会系部隊を排除、双方に12人の死者が出た。25日には有力部族幹部による「自治委員会」が結成され、ジュワリ国防相もこれを受け入れたという。
バニワリードは親カダフィ派の拠点で、昨年8月のトリポリ陥落後、最高指導者だったカダフィ大佐が昨年10月、反体制派に殺害される直前まで抵抗を続けた。

国民評議会は、昨年2月に始まった騒乱後に各地で組織された民兵組織の国軍への統合を目指すが進展していない。

政治民主化も遅れている。21日にはベンガジの評議会本部に抗議デモ隊が乱入し、カダフィ政権関係者の排除や意思決定過程の透明化を求めた。アブドルジャリル議長は半年後に予定される暫定議会の選挙法案を発表予定だったが、延期に追い込まれた。

国民評議会には、カダフィ派捕虜の取り扱いに対しても批判が集まっている。26日には国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」が「拷問や虐待が行われ、死者も出ている」と批判。「国境なき医師団」も北西部ミスラタで収監者の拷問を継続するため治療を行わされたとして、刑務所での活動中止を発表した。

さらに、騒乱中の混乱で軍施設から持ち出された武器弾薬類が、ナイジェリアのイスラム過激派「ボコハラム」や国際テロ組織「アルカイダ」に渡った可能性を指摘する国連報告もある。
いずれも国民評議会の統治能力に対する疑問を深める事例で、民主化への行程は不透明さを増している。【1月28日 毎日】
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反カダフィでは連携した民兵組織間の対立も報じられています。
****リビア首都で民兵同士が戦闘、4人死亡****
リビアの首都トリポリ市内で3日、反カダフィ派だった民兵同士の戦闘が起き、白昼の銃撃戦で4人が死亡した。
衝突したのはトリポリ中心部を拠点とする民兵組織と、反カダフィ派の西部の拠点だったミスラタ出身の民兵組織。

目撃者証言や現場のAFP記者によると、カダフィ前政権の情報機関本部に近いザウィヤ通りとサイディ通りの間で、数百人の民兵が地対空砲や機関銃を撃ち合った。ミスラタの民兵らが、トリポリの民兵に拘束された仲間の解放を要求したことがきっかけという。

トリポリ市内では現在も、反カダフィ派として戦った民兵が部隊として集団で残っている姿が目に付く。トリポリ以外から集まり、故郷への帰還を拒んで居着いている民兵も多く、中には前政権の庁舎を拠点として制圧しているグループもある。

正式な治安部隊の存在が空白の中、これら民兵によって一見、治安が保たれている面もあるが、民兵同士の衝突も少なくない。カダフィ政権崩壊から時間が経つにつれ、トリポリに残る民兵たちは新たな懸念を引き起こしつつある。

こうした中、暫定統治する国民評議会(NTC)は3日、新生国軍トップの参謀長にミスラタ出身の元将官ユセフ・マングーシュ氏を任命した。民兵らを統制下に置き、治安部隊に統合させることが責務のひとつになるとみられる。【1月4日 AFP】
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こうした混乱は予想されたことではありますが、大量に保持されている武器を回収し、民兵を国軍に統合して治安を回復していくのは非常に困難な作業でもあります。

内戦という暴力の余韻が残る中では、捕虜虐待などの人権無視が横行することも想像に難くないところです。
カダフィ派が黒人雇い兵を使用したことから、アフリカ系黒人に対する虐待も内戦中から指摘されていました。

****リビア、カダフィ派雇い兵7千人拘禁?拷問も****
国連の潘基文事務総長は28日、リビア情勢に関する報告書を公表し、旧カダフィ政権の雇い兵と疑われた黒人ら約7000人が適正な法手続きなしに拘禁されているとの懸念を示した。
報告書によると、雇い兵と疑われて捕らえられているのはサハラ以南のアフリカ地域出身の人々で、反カダフィ派民兵諸組織の手中にある。拷問を受けたとの情報もあり、国連は反カダフィ派組織「国民評議会」に対し、虐待防止や釈放を促しているという。【11年11月29日 読売】
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こうした状況ですから、今のところは、まともな行政もあまり期待できないとも言えます。
行政の遅滞は、ムバラク政権崩壊で同様に不安定な隣国エジプトにも影響しています。

****ビザ発給遅れ抗議 リビア大使館前****
エジプトの首都カイロにあるリビア大使館で24日、同国のビザ発給手続きが滞っていることに腹を立てたエジプト人労働者数百人が大使館側に抗議、一部が「50日も待っているんだぞ!」などと叫びながらリビア国旗を引きちぎったり建物に投石したりする騒ぎがあった。

リビアは、カダフィ前政権時代、エジプトから200万人ともいわれる出稼ぎを受け入れていたが、昨年2月以降の内戦でエジプト人労働者の多くが帰国。昨年10月にカダフィ大佐が殺害されて内戦が終結してからは、多くの労働者が再び労働ビザを取得するため、連日、大使館前に長蛇の列を作っていた。
エジプトでは、出稼ぎ労働者の大量帰国が治安悪化の一因となるなど社会問題化していた。【1月25日 産経】
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とにもかくにも移行国民議会選挙を・・・というところでしょうが、選挙を巡っての更なる混乱も懸念されます。
「アラブの春」とは言いますが、これまで民主主義を経験したことがなく、自らの主張は力で勝ち取るという習わしのこの地で民主化が定着するまでには紆余曲折があるでしょう。
独裁政権さえ崩壊すればすべてが解決するがごとき過度の期待感も、地道な民主化への歩みの足を引っ張ることになるでしょう。
だから独裁政権のままの方がよかった・・・とは言いませんが、これからの試練を何とか乗り越えていってもらいたいものです。

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シリアでの衝突激化  アサド政権批判拡大、パレスチナ・ハマスへも影響

2012-01-28 20:21:43 | 中東情勢

(1月21日 パレスチナ・ヨルダン川西岸地区のラマラ シリア反体制派の抵抗運動を支持するパレスチナ活動家  “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/6737687497/

2日間の死者は118人
離反兵士を中心とする反政府勢力とアサド政権側の衝突が続くシリアに関しては、1月22日ブログ「シリア  離反兵士らの「自由シリア軍」、首都ダマスカス攻略の足掛かり?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120122)でも取り上げたように、反政府勢力「自由シリア軍」が首都近郊での活動を活発化させています。
ただ、この動きが直ちにアサド政権を窮地に追い込むものなのかどうかは、よくわかりません。

衝突の激化は間違いないようで、“27日、政府軍と反体制派との衝突が激化し、AFP通信が伝えた人権団体の情報によると、死者は双方で計56人に上った。人権団体では、26日にも62人が死亡したとしており、2日間の死者は118人に達した”【1月28日 読売】と、犠牲者が拡大しています。

この事態に、アラブ連盟から派遣された監視団のダビ団長(スーダン軍大将)は27日、「シリアで24日以降、急速に暴力が増えており、特に北部イドリブと中部ホムス、ハマで深刻だ」とする声明を出しています。【1月28日 朝日より】

****シリア:離反兵士、首都で攻勢 アラブ連盟、仲介案提示へ****
アサド政権が反体制派の武力弾圧を続けるシリアで、離反兵士団体「自由シリア軍」が首都ダマスカス近郊での作戦を強化し、一部地域を勢力下に置き始めている模様だ。同軍幹部が26日、毎日新聞の電話取材に明らかにした。

一方、アラブ連盟のアラビ事務局長は、来週にも国連安全保障理事会でシリアの状況を説明し、アサド氏から副大統領への権限移譲を求める連盟の仲介案を提示する意向を表明した。

自由シリア軍のマリク・クルディ副司令官によると、離反兵士らはダマスカス近郊のドゥーマやイルビン、ザバダニなどを事実上、勢力下に置いた。首都中心部の北東約10キロのドゥーマでは21日ごろから、軍・治安部隊との衝突が断続的に続いており「シリア軍は何度も奪還を図ったが撃退されている」と語った。3日前から停戦交渉が始まったという。

ドゥーマ在住の反体制活動家男性アブドルラフマン氏によると、自由シリア軍は市内の約8割を支配下に置いている状況という。26日も軍・治安部隊との銃撃戦が発生した。
アラブ連盟が派遣した和平監視団とダマスカス近郊のハラスタを訪問したロイター通信記者によると、同行のシリア治安関係者は「安全が保障できない」として一部地域への立ち入りを拒否した。

一方、アラビ事務局長は、週明けにもカタールのハマド首相兼外相と安保理に出席し、シリア情勢を説明すると発表した。アサド大統領から副大統領への権限移譲▽反体制派も含めた挙国一致内閣の設立▽早期の総選挙と大統領選挙の実施--を柱としたアラブ連盟仲介案の承認も求める。

仲介案は21日に連盟外相級会合で決定されたが、シリアのムアレム外相は24日の会見で受け入れを拒否。反体制派を「テロリスト」と決めつけ、「断固とした措置を取る」と弾圧継続を明言した。一方、国営通信によると、アサド政権は連盟和平監視団の滞在期間1カ月延長に同意した。

安保理では、シリアへの主要武器供給国である常任理事国のロシアや中国がアサド政権の制裁を拒否しており、アラブ連盟案の承認は困難と見られる。【1月27日 毎日】
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アサド政権を見限る湾岸諸国
アサド大統領に権限移譲を求めているアラブ連盟の中では、カタールが軍事介入に言及するなど、湾岸諸国がアサド批判を強めていますが、サウジアラビアは反体制派をシリア「代表機関」として承認する方向であることが報じられています。

****シリア反体制派承認へ サウジ、アサド政権打倒加速****
デモ弾圧を続けるシリア問題で、同国のバッシャール・アサド政権への強硬姿勢を強めるサウジアラビアのサウド外相が、在外反体制派組織「シリア国民評議会(SNC)」側と会談、SNCをシリアの「代表機関」として承認する用意があると伝達していたことが27日、分かった。会談に同席した複数のSNC幹部が明らかにした。サウジが実際に承認に踏み切れば、他の湾岸諸国も追随する可能性があり、アサド政権打倒に向けた国際社会の動きが加速しそうだ。

SNC幹部の反政府活動家ハイサム・マーレフ氏によると会談はアラブ連盟の外相級会合が開かれた今月22日、カイロ市内のホテルで行われた。SNC側は、市民への暴力停止にはアサド政権打倒が不可欠だと指摘、移行期間を担う組織として承認するよう求めた。

これに対し外相は、時期は明示しなかったものの、近い将来、SNCを承認すると約束。SNCは近く、サウジで同国政府との詰めの協議を行う。SNCは、カタールやクウェートとも同様の協議を進めている。

在外反体制派の集まりであるSNCは現在、シリア国内に確固とした組織を持っておらず、サウジのSNC承認が実現しても、アサド政権が即座に崩壊に向かう可能性は低い。ただ、域内だけでなく米欧にも影響力を持つサウジがアサド政権を見限る意味合いは大きく、今後の国連安全保障理事会での議論にも影響を与える可能性もある。【1月28日 朝日】
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エジプトでも、シリア・アサド政権への批判が表面化しています。
****群衆がシリア大使館襲撃=アサド政権に抗議―エジプト****
エジプトの首都カイロ中心部にあるシリア大使館に27日、アサド政権の民主化デモ弾圧に抗議する群衆200人以上が乱入、窓ガラスや扉を壊した。休日だったため、大使館職員は不在でけが人はいなかった。
アハメド大使はAFP通信に対し、「大使館を保護するよう(エジプト政府に)正式な文書を発送する」と語った。大使公邸も最近、襲撃を受けたという。大使館は29日に通常業務を再開する。【1月28日 時事】
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ロシア:「リビアのシナリオを繰り返そうとしている。断じて容認できない」】
こうしたアサド政権へアラブ連盟・欧米からの批判が強まる一方で、ロシアはアサド政権を擁護する姿勢を崩していません。

****対イラン・シリア:圧力強化の米欧 外交解決主張の中露****
・・・・一方、欧米が検討している対シリア制裁についてロシアのリャプコフ外務次官は26日、「(カダフィ政権を崩壊に導いた)リビアのシナリオを繰り返そうとしている。断じて容認できない」と批判した。ロシアはソ連時代からシリアと友好関係を維持しており、対外武器輸出の約7%をシリアが占める。

ロシア紙コメルサントは24日、ロシアが軍用練習機「ヤク130」36機を約5億5000万ドルでシリアに売却する新たな契約を結んだと報じた。欧米側の懸念にロシア側は「シリアへの武器供給を禁止する国際的な制裁は存在しない」と正当化している。今月上旬には露海軍の空母艦隊がシリア西部のタルトスに寄港し、存在感を誇示した。

ロシアは昨年10月、対シリア制裁警告決議案を中国とともに拒否権で阻止した。ロシアは独自の対シリア決議案を提出し、「他国と協議を継続する」(ルカシェビッチ外務省報道官)としているが、対シリア武力行使に道を開く決議案には拒否権を行使する構えだ。【1月27日 朝日】
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アサド政権弱体化が、ハマス組織内でのメシャル氏の求心力低下を招く
話はシリアからパレスチナに変わりますが、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの政治部門最高指導者メシャル氏が、次の選挙には出ず、退任する意向を表明しています。

****ハマス最高指導者交代へ メシャール氏退任の意向表明****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの政治部門最高指導者ハレド・メシャール氏が、次の選挙には出ず、退任する意向を表明した。ハマス報道官が21日、声明で明らかにした。任期満了での退任だが、ハマス幹部はメシャール氏に再考を求めており、次期指導者の選出の時期は不明だ。

メシャール氏はシリアの首都ダマスカスに亡命中で、2004年からパレスチナ自治区内の政治・軍事部門に基本方針を示す立場にある。ハマスの内規では指導者の任期の上限は2期8年。ハマス在外政治局は、シリア情勢の混乱を懸念しており、チュニジアやエジプトなど他のアラブ諸国に拠点を移すことも検討している。【1月21日 朝日】
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メシャル氏退任の背景として、在外指導者のメシャル氏とガザ地区のハマス幹部らとの路線対立があったことも報じられています。【1月21日 時事】
ハマスにおける海外亡命幹部とガザ地区指導部の間の軋轢は以前から言われているところですが、混乱するシリア情勢も大きく影響しているとの報道もあります。

****ハマス最高幹部が退任へ、シリア政権の弱体化で****
パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの指導者、ハレド・メシャル氏が、現在の任期限りで組織トップの地位から退任する意向を示した。
ハマスは、反体制デモ弾圧を続けるシリア・アサド政権の支援を受けており、メシャル氏の退任表明は、中東の民衆蜂起「アラブの春」がもたらしたパレスチナの変化だ。

ハマスが今月21日に出した声明によると、メシャル氏は「(組織内部で行われる)次期選挙に出馬を望んでいない」と表明した。ロイター通信は27日、外交筋の話として、メシャル氏がすでに、拠点であるシリアの首都ダマスカスを離れ、再び戻らない意思を固めたと報じた。

メシャル氏は長年、対イスラエルで強硬路線を取るシリアに滞在、同国のアサド政権の支援を受けながら組織の指揮をとってきた。
アサド政権の反体制派弾圧で5000人以上の死者が出る中、アサド政権を後ろ盾にするメシャル氏への風当たりが、パレスチナ住民の間で強まった。反体制デモを弾圧するアサド政権からハマスへの財政支援も減っているとされ、他のメンバーのシリア脱出も相次いだ。アサド政権の弱体化が、組織内でのメシャル氏の求心力低下をもたらした形だ。【1月28日 読売】
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アサド政権の今後の状況は、シーア派武装勢力ヒズボラを中心とする親シリア勢力が政権を担う隣国レバノンにも大きく影響します。
シリアと友好関係にあり、欧米と鋭く対立するイランを含めて、シリア・アサド政権の今後は、中東情勢全般に大きく影響します。

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ドイツ:トラー著書『わが闘争』出版問題  イスラエル:「ホロコースト」の矮小化

2012-01-27 21:29:12 | 欧州情勢

(『わが闘争』 “flickr”より By Michael Dawes http://www.flickr.com/photos/tk_five_0/2229836777/

【「タブー特有のオーラが神秘化につながる」】
先の戦争の責任問題について曖昧な形で放置(あるいは、意図的に残存)されることもある日本に対し、同じ枢軸国ドイツでは、ナチス・ヒトラーの責任を厳しく追及(あるいは、全責任を負わせる)する点で、対応が異なっているというイメージがあります。

そのドイツで、ヒトラーの著書『わが闘争』の出版が企画され、話題になっています。
著作権はバイエルン州が有していますが、2015年末で「期限切れ」を迎えるという事情があります。
出版する側の言い分は、隠せば神秘化するだけで、オープンにした方がいい・・・というものです。
学術目的には必要との擁護論もありますが、カネ目当て、極右のネオナチが喜ぶだけ・・・といった批判も強いようです。
なお、ドイツでは基本法(憲法)で「出版の自由」を保障する一方、刑法ではナチス賛美につながる書物の配布を禁じています。

****ヒトラー『わが闘争』をいまさら出版する訳****
世界中で忌み嫌われるナチスの独裁者アドルフ・ヒトラーの著書『わが闘争』。反ユダヤ思想に満ちたこの本の抜粋に解説を付けて、英出版社アルバルクスがドイツで出版するという。週刊誌「新聞の目撃者」の付録として26日から3回にわたり16ページずつ発行。1ページごとに解説を付けて、10万部を印刷する。話題性は抜群だが、その動機は何なのか。

「負の魅惑があるのは承知しているが、それは誰も読んだことがないせいだ。タブー特有のオーラが神秘化につながる」と、アルバルタス社のピーター・マギー代表は独誌に語った。ドイツの人々に原文に触れる機会を与えたいだけだという。

とはいえ世間は納得しない。シャルロッテ・クノブロッホ前ドイツ・ユダヤ人中央評議会議長は、カネ目当てではとの見方を示した。「ドイツで書かれた扇動的プロパガンダの中で最も邪悪な部類」の本で、ここまで注目される価値はないという。
 
一方、ドルトムントエ科大学教授(ジャーナリズム学)で解説の一部を担当したホルスト・ベトカーは出版を擁護する。「できる限り広範な読者の目に触れさせるべきだと思う。ナチスが何を考えていたのか、この思想のどこが魅力的だったのかを知るには、それが一番だから」と、ペトカーは語った。

『わが闘争』はヒトラーが1923年のミュンヘン一揆に関与した罪で投獄中に口述筆記された。45年までにドイツ国内で約1000万邦が出版され、36年からは結婚するすべてのカップルにナチス政府からの結婚祝いとして贈られた。

著作権を保有するバイエルン州当局は出版差し止めを求めて提訴する構えだ。ドイツでは著者の死後70年間(『わが闘争』の場合は2015年まで)著作権が保護される。
マギーがナチス政権当時の党機関紙の抜粋を含む「新聞の目撃者」を09年に創刊した際も、州当局は出版阻止を試みた。しかしミュンヘンの裁判所は、人種的憎悪をあおろうとしているわけではないので違法とはいえない、との判断を下した。

メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)のシュレーダー家庭相も出版に反対している。「ドイツには惨劇の地がいくらでもある」と独地方紙に語った。「ナチスの罪の残忍さを理解するのに、『わが闘争』を売店に並べるまでもない」【2月1日号 Newsweek日本版】
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結局、抜粋部分を黒塗りなどする形で、実質的に公開は断念されることになったと報じられています。

****わが闘争」、黒塗りで出版=反発受け公開断念―ドイツ****
ドイツでナチス総統ヒトラーの著書「わが闘争」の抜粋を雑誌の付録として発行する計画を進めていた英国の出版社は25日、反発が広がったのを受け、抜粋部分を黒塗りなどして隠す措置を施した上で、販売すると発表した。26日に予定通り発行されるが、解説部分だけ読めるようにする。

著作権を保有するバイエルン州は発行計画に対し、差し止めを求めて提訴する構えを見せていた。同社は、黒塗りの措置について「問題が大きくなるのを避けるため」と説明。ただ法的に問題がないと確認されれば、「完全に読める形にして改めて発行する」としている。【1月26日 時事】
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イスラエルに反感を持つ中東地域で、一定の人気
“黒塗り”というのも、戦後日本の教科書みたいで異様です。
『わが闘争』については、公立現代史研究所(ミュンヘン)が10年2月、「重要な歴史資料」との理由で、著作権が切れた後に注釈付きの新刊を出版したい意向を表明し、同様の賛否両論が出たこともあります。

その際、ナチスの被害を受けたユダヤ人の組織「独ユダヤ人中央評議会」の事務局長は「今も危険な本だが、禁書扱いはかえって魅力的に映ってしまう。既にインターネット上では非合法に出回っている。ネオナチの勝手な解釈を許さないためにも、むしろきちんと学術的解説を加え、世に出した方がいい。正しい歴史理解や研究のためには必要な資料だ」と出版に理解を示しています。
しかし、「ネオナチが(勢力拡大に)本を利用する可能性もある」「研究目的であれば今でも図書館で読める」などの批判も強かったのも今回同様です。

****ドイツ:ヒトラーの「わが闘争」再出版 国内で論争に****
・・・・ドイツでは昨年、戦後初めてヒトラーを真正面から取り上げた大規模な特別展「ヒトラーとドイツ人」がベルリンで開催されるなど、タブー視する風潮も徐々に薄れている。
「わが闘争」は本国ドイツ以外では翻訳が入手可能。日本では角川書店が73年から文庫版で翻訳本を刊行。08年にはイースト・プレス社(東京)から漫画版も出版された。
05年にはトルコの若者の間でベストセラーになるなど、ユダヤ人が多いイスラエルに反感を持つ中東地域で、一定の人気を保っている。このため反ユダヤ感情をあおる危険を懸念する声もある。【11年9月27日 毎日】
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ドイツ人の約5人に1人は隠れ反ユダヤ主義者
理屈からすれば、「禁書扱いはかえって魅力的に映ってしまう。既にインターネット上では非合法に出回っている。ネオナチの勝手な解釈を許さないためにも、むしろきちんと学術的解説を加え、世に出した方がいい」という意見の方が筋がとおっているようにも見えますが、現実の社会情勢を見ると、やはり心配されるのも分かります。

****ドイツの若者、5人に1人が「アウシュビッツって何?」 ****
27日の「国際ホロコースト記念日」を前に公表された調査結果で、ドイツの若者の5人に1人は、かつてアウシュビッツがナチス・ドイツの「死のキャンプ」だったことを知らないことが明らかになった。

25日に公表された独シュテルン誌による調査は19、20両日に、1002人を対象に行われた。
その結果、全体の90%はアウシュビッツが強制収容所だったと正しく答えられたが、18~29歳の若年層では21%が「知らない」と答えた。
なお、回答者の約3人に1人は、アウシュビッツが現在のポーランドにあることを知らなかった。

ドイツ議会が専門家に独立調査を依頼し、今週初めに発表された報告書によると、ドイツ人の約5人に1人は隠れ反ユダヤ主義者だという。【1月26日 AFP】
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問題は、『わが闘争』そのもより、それを一定に受け入れることが懸念される社会的土壌にあるようです。

反ユダヤ主義の土壌、若者における歴史の風化・・・という現実社会において、『わが闘争』出版がどのような影響をもたらすか・・・という心配は考慮すべきでしょう。

昨年末には、極右ネオナチによる外国人・移民の連続殺人が判明し、社会に衝撃を与えています。
****ドイツ:ネオナチが連続殺人の疑い…首相「ドイツの恥だ****
外国人や移民を敵視するドイツの極右ネオナチの男女3人組が00~07年に、トルコ系移民ら計10人を次々に殺害していた疑いが強まり、ドイツ社会に衝撃が走っている。90年の東西ドイツ統一以来、ネオナチによる移民襲撃は散発的に起きているが、これほど大規模な連続殺人が明るみに出たのは初めて。メルケル首相は「ドイツの恥だ」と強く非難した。

独メディアによると、射殺されたのは軽食スタンド経営などのトルコ系男性8人、ギリシャ系男性1人と、ドイツ人女性警察官1人。現場は北部ハンブルクや南部ミュンヘンなどドイツ全土の7都市にわたり、これまでは「トルコ系マフィアの抗争」との見方が有力とされていた。
だが今月4日、銀行強盗の疑いで警察に追われていた38歳と34歳の男2人が中部アイゼナハで自殺し、この2人と同居していた36歳の女が警察に出頭したことで事件が急展開。3人が住んでいた東部ツウィッカウの民家の家宅捜索で、被害者の遺体を撮影したDVDや、射殺に使用されたとみられる銃が見つかり、一連の事件は3人の犯行だった可能性が一気に高まった。

3人は「国家社会主義地下組織」を名乗るネオナチで、捜査当局は90年代から爆発物所持容疑で行方を追っていた。だが長年身柄を確保できず、その間に捜査対象をマフィアなどに集中していた当局への批判の声も上がっている。【11年11月17日 毎日】
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今のイスラエルでホロコーストの記憶が不気味なほど軽くなっている
歴史の風化・変容を憂うる声は、「ホロコースト」を抱えるユダヤ人社会のイスラエルからも報告されています。

****ホロコーストをネタにする醜悪さ****
時間の経過と知識不足が相まって、ナチスの蛮行が不適切な比喩に使われるように

昨年の夫みそか、イスラエル人がエルサレムでデモを行った。子連れのデモで、子供たちはナチスの強制収容所でユダヤ人が着せられたのと同じような服を着ていた。それはある意味、今のイスラエルでホロコースト(ユダヤ人夫虐殺)の記憶が不気味なほど軽くなっていることの象徴だった。

デモを行ったのは、ユダヤ教正統派の中でも超保守的な一派。
乗り合いバスなどでの男女隔離の慣行を廃止しようとする世俗派の動きに反対する抗議行動だった。
その隊列に何十人かの子供たちがいて、黄色い星を縫い付けたしま模様の服を着せられていた。世俗派の「攻撃」にさらされる自分たちを、あのホロコーストの犠牲者になぞらえたつもりなのだろう。

これには左右両派の政治家はもちろん、国内外のユダヤ人グループからも、ホロコーストを矯小化する醜悪な試みだという怒りの声が上がった。
そのとおりだ。だが、イスラエルの人たちが日頃の政治的な議論で、皮肉めかしてホロコーストに言及するのは今に始まったことではない。

もちろん、イスラエルはホロコーストの記憶を決して忘れないし、EUやヨーロッパ諸国の一部はホロコーストの矯小化を法的に禁じている。
それでもホロコースト追悼記念館ヤド・バシェム(エルサレム)の学術顧問イェフダ・バウアーに言わせると、「イスラエル人はホロコーストを、政治をはじめとするあらゆる場面で乱用している」。

例えば1982年にイスラエルがレバノンに侵攻し、ベイルートでパレスチナ解放機構(PLO)のヤセル・アラファト議長を包囲した際のこと。イスラエルのメナヒム・ベギン首相(当時)は、アラファトをヒトラーに例えることで自国の行為を正当化しようとした。そんな比喩は「ホロコーストの真の意味をゆがめかねない」と、バウアーは危惧している。

同胞をナチス呼ばわり
だが、イスラエル人が同胞のイスラエル人をナチス呼ばわりすることさえ珍しくないのが現実だ。パレスチナ自治区のヨルダン川西岸に勝手に住み着いたユダヤ人人植者たちは、退去を遣るイスラエル兵をナチス呼ばわりする。
交通違反で摘発されたドライバーが、警官をナチスと呼ぶことも珍しくない。

アメリカのユダヤ系団体である名誉毀損防止連盟(ADL)のエーブラハム・フォックスマン会長は、こうした不適切な例えは世界的に見られることであり、無知と時間の経過が原因だと指摘する。(中略)

そんな傾向がユダヤ人の国イスラエルでも見られるのは、実に嘆かわしいことだ。何しろイスラエルには、ホロコーストを生き延びた人たちが今なお約20万人も暮らしている(もちろん世界最多だ)。
それでもヤド・バシェムの学術顧問であるバウアーは、イスラエル人特有の心情を理解してほしいと言う。「この国はいつも、ホロコーストのトラウマを抱えている。だから対立する相手や敵と見える者を、すぐに自分たちの知る最悪の敵と同一視してしまうのだ」【1月25日号 Newsweek日本版】
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ソマリア  海賊ビジネス 国連事務所開設 米海軍特殊部隊の人質救出作戦

2012-01-26 22:25:46 | ソマリア

(ソマリア海賊の活動範囲と自衛隊活動海域 【2011年7月18日 朝日】)

海賊はなくてはならない地域の“主要産業”】
事実上の無政府状態が続くアフリカ東部ソマリアでは、「海賊」による外国船舶乗っ取りが続いていますが、これといった産業もない地元では海賊行為による身代金がひとつの“ビジネス”として確立しており、海賊で大金を稼ぐことが地元民の憧れにもなっているという話はよく聞きます。

下記記事もそんな状況を伝えるものですが、欧州経済危機の影響で、EUのソマリア海賊対策が困難になっているとも報じています。

****身代金で住宅開発 ソマリア海賊 欧州危機影響、EUの艦船派遣半減****
ソマリアの海賊が2010年に計2億5千万ドル(約192億円)の身代金を稼ぎ、拠点のある北東部の自治政府「プントランド」などで住宅開発が急ピッチで進められていることが英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)の報告書でわかった。
海賊対策には年間最大120億ドルもかかり、債務危機に苦しむ欧州連合(EU)が派遣する艦船は半減、対策の見直しが急務になっている。

英ブルーネル大のショートランド教授が衛星写真で住宅の建設状況などを調査、海賊が手にした身代金の経済効果を分析した。それによると、プントランドの中心都市ガロエでは住宅が倍増し、大きなビルが建設されていた。交通量が増え、遠距離通信用の塔が3つも新設されていた。
海賊の出撃拠点のひとつ、エイル港でも新しいビルや住宅が建てられ、自家用車の数が増えていた。ガロエや北部ボーサーソなどの夜間照明は07~09年にかけ、明るさを増していた。

こうした成長を支えているのが身代金収入だ。
昨年2月、インド洋でソマリアの海賊に乗っ取られたイタリア船籍の石油タンカーが12月に解放された。乗組員22人の身代金は1150万ドルだったとされる。
海賊1件当たりの身代金は08年当時は69万~300万ドルだったが、10年に最大900万ドルに急騰。これに対して、プントランド自治政府の年間予算は1760万ドル。海賊はなくてはならない地域の“主要産業”になっている。

EUは海賊対策のためソマリア沖周辺で初の海軍作戦「アトランタ」を発動、08年には常時10隻の艦船を派遣していた。しかし、欧州債務危機が深刻化して昨年は同6隻に減少、今年は同5隻に減る見通しだ。
一方、ソマリア海賊はアラビア海やインド洋まで活動範囲を広げ、11年1~9月期199件と08年同期の63件から急増した。このため「北大西洋条約機構(NATO)や日本などと協力して全体で25隻の艦船を確保している」(EUアトランタ作戦のハリソン司令官)のが実情だ。

ソマリアでは20年以上も内戦が続き、自治政府などが海賊を抑えるのは難しい。チャタムハウスのミドルトン元研究員は「海賊対策費は身代金被害総額の50倍近くに達しており、海賊に代わる地域産業の育成など抜本的な対策の見直しが必要だ」と指摘している。【1月19日 産経】
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米:日本が単に海賊対策にとどまらず東アフリカ・中東地域に広く関与することに期待感
ソマリアの海賊対策には、日本も隣国ジブチを拠点に、護衛艦とP3C哨戒機による活動を継続しています。
****海賊対策で飛行600回=ソマリア沖派遣のP3C―自衛隊****
アフリカ・ソマリア沖に海賊対策で派遣されている海上自衛隊のP3C哨戒機が1日、600回目となる任務飛行を達成した。
海賊対策は2009年3月に始まり、当初は護衛艦2隻が民間船舶の警護に当たったが、同年6月からは2機のP3Cも参加。上空から不審船に関する情報を護衛艦などに伝えている。【1月1日 時事】 
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海自による海賊対策については、アデン湾海域で行われており、大音響や射撃による警告に従わず、不審船が商船に接近を続けた場合、当初正当防衛や緊急避難の場合しか認められていなかった不審船への船体射撃が可能とされています。また、日本船舶に限らず外国籍船もすべて護衛可能となっています。

このジブチの拠点(基地)は、南スーダンでの陸自のPKOにも関与するのでしょうか?エチオピアを挟んで、距離的には比較的近いようですが。
“ホルムズ海峡封鎖”など何かと問題の多い中東からも、そんなに遠くは離れていません。
将来的には、自衛隊の中東・アフリカにおける活動拠点でしょうか。
なお、ジブチには、アメリカのアフリカ唯一の基地もあるようです。

****ソマリア海賊対策、手詰まり 自衛隊はジブチに新拠点****
役割拡大、他国から期待
日本政府は開所式の翌日、P3C哨戒機2機、護衛艦2隻という現在の態勢のまま、自衛隊の派遣をさらに1年延長することを閣議決定した。しかし、芦田氏は「海上警備の広域化」を求め、補給艦の追加派遣を要望している。海上自衛隊は「その余裕はない」という立場で、「脅威の拡散」に対応する態勢はできそうにない。

いずれにしろ、日本は事実上の「基地」までつくって海賊問題に本格的に関与する姿勢を示した以上、簡単に撤退するわけにはいかなくなった。
新美潤・駐ジブチ日本大使も「撤収する『大義』は当面見つからないのが実情だ。問題解決の即効薬も万能薬もない現状では『根治療法』として対ソマリア支援を行いつつ息の長い努力を続けていくしかない」と話す。

さらに「問題が長期化する可能性が高いことを考えれば、自衛隊の海賊対処活動を強化・拡充することには慎重な判断が必要だ」と指摘。「出口」が見えない現状では自衛隊の役割拡大に乗り出すべきではないとの考えを示した。

一方、米軍のフランケン司令官は「特定地域に限定して活動を考えることが許される時代はすでに過去のものとなった。日本の国民も今回開設した基地を考えるにあたって、そういう視野をもった方が良いかもしれない」と語り、日本が単に海賊対策にとどまらず東アフリカ・中東地域に広く関与することに期待感を示した。ユスフ外相も、独立間もない南スーダンへの自衛隊派遣について「それは良いことだ」と歓迎する考えを明らかにした。【11年7月18日 朝日】
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ソマリアの未来に新しい希望を開く・・・
海賊対策の基本が、事実上の無政府状態にある“陸上”を何とかすることにある・・・ということは誰も認めるところです。
その“陸上”では、イスラム武装組織が首都モガディシオから撤退したこと、隣国ケニア・エチオピアの軍事介入が行われていることは、1月14日ブログ「ソマリア  イスラム武装組織シャバブ掃討に一定の進展は見られるものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120114)でも取り上げたところです。

そうした情勢で、若干は安定化の方向に進んでいるのか、国連が首都モガディシオに、17年ぶりに事務所を開設したことが報じられています。

****国連、ソマリア首都に事務所 17年ぶり本格拠点****
国連は24日、内戦が続くソマリアの首都モガディシオに事務所を開設した。国連が首都に本格的な拠点を置くのは17年ぶり。治安情勢は依然不安定だが、和平実現に向け暫定政府を支援するため、開設に踏み切った。

国連によると、ソマリア担当のマヒガ国連事務総長特別代表が24日、モガディシオの空港に到着、出迎えた暫定政府幹部らに対し、「国連の事務所開設が、ソマリアの未来に新しい希望を開くことを心から望む」と語った。

1991年から内戦状態に陥っているソマリアでは、治安悪化のため95年に国連平和維持活動(PKO)の参加部隊と当時の事務総長特別代表が撤退した。その後、国連はソマリアを所管する事務所を隣国ケニアに設置していた。【1月26日 朝日】
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【「米市民の安全確保のためなら、あらゆる手段を辞さない」】
また、海賊だかイスラム武装組織だかよくわかりませんが、武装グループによって誘拐・拘束されていた米国人とデンマーク人の地雷除去活動家を、アメリカ海軍特殊部隊が急襲し、人質を救出したことが報じられています。

****ソマリアで人質2人救出、米特殊部隊が武装勢力を急襲****
米海軍特殊部隊シールズが25日未明、アフリカ東部ソマリアの武装勢力を急襲し、3か月にわたって人質となっていた米国人女性とデンマーク人男性を救出した。

救出されたのは、ソマリアで地雷撤去などの活動を行っていた米国人のジェシカ・ブキャナンさん(32)とデンマーク人のポール・ティステズさん(60)で、ともにデンマークの人道支援団体職員。前年10月25日にソマリア中部ガルムドゥグ州で武装グループに誘拐され、身柄を拘束されていた。

ブキャナンさんの健康状態が悪化しているとの情報を受け、バラク・オバマ米大統領が23日夜、救出作戦決行を指示。ヘリコプター6機余りによる急襲作戦が実行されたという。武装グループ側は9人全員が死亡した。
ブキャナンさんとティステズさんは2人とも無事で、報道によれば現在はアフリカ唯一の米軍基地がある隣国ジブチで治療を受けているという。

オバマ大統領は声明で、「米国は断じて自国民の拉致を容認しない。米市民の安全確保のためなら、あらゆる手段を辞さない」との声明を発表し、救出作戦について「米国民への脅威に対し米国は毅然と対応するという世界へのメッセージ」だと述べた。

「アフリカの角」とも称されるソマリアは、20年間に及ぶ内戦で無政府状態が続き、各地でイスラム武装集団や海賊が勢力を奮っている。【1月26日 AFP】
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救出作戦にあたった米海軍特殊部隊シールズ(SEALS)は、パキスタン潜伏中のアルカイダのオサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことでも知られています。オバマ大統領は24日夜の一般教書演説で、SEALSによるビンラディン容疑者殺害をたたえたそうですが、今回の成果も、とかく“弱腰”批判のあるオバマ大統領にとっては、再選に向けての得点となることでしょう。

映画「ブラックホーク・ダウン」で描かれたように、ソマリアでは93年、民兵の攻撃により作戦遂行中の米軍2機のヘリコプター、ブラックホークがロケット弾RPG-7によって撃墜され、その救出に向かった米軍兵士と民兵の間で激しい市街戦が行われました。その結果、米兵18人とマレーシア兵の国連軍兵1人が死亡し、73人が負傷する大きな犠牲を出しました。
更に、戦闘後、死亡した米兵の遺体が裸にされて住民に引きずり回される映像が公開され、アメリカ社会に衝撃を与え、これを契機にアメリカはソマリアPKOから撤退することになります。

この事件がトラウマとして残り、アメリカはその後のソマリアへの介入に消極的だとも言われていましたが、今回の米海軍特殊部隊シールズなどを見ると、そのトラウマも克服しつつあるのでしょうか。
良きにつけ悪しきにつけ、アメリカのように軍事介入を辞さない国がないと、紛争などの問題が進展(あるいは、悪化)しないのが現実です。

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エジプト  非常事態令解除 新憲法で軍の権限、宗教と国家の関係は?

2012-01-25 22:54:56 | 北アフリカ

(1月24日 カイロ・タハリール広場 軍政批判に集まった人々 しかし、若者達の激しい抵抗・衝突は一般市民の支持を失いつつあるとも “flickr”より By sherief.  http://www.flickr.com/photos/65183857@N06/6756296047/

【「急速な変革」を目指す民主化勢力と、「暮らしの安定」を望む市民が離反
昨年2月にムバラク政権が崩壊したエジプトでは、暫定統治する軍によってその後も非常事態令が継続していましたが、ムバラク政権崩壊につながった反体制デモが起きてから丸1年に当たる25日に、約30年ぶりに解除されることが発表されました。

****エジプト、反政府デモから1年 非常事態解除へ 市民、民主化勢力と距離****
エジプトは25日、昨年2月にムバラク前政権を崩壊に追い込んだ反政府デモの発生から1年を迎える。
これに先立ち同国を暫定統治する軍最高評議会のタンタウィ議長は24日、約30年続いた非常事態令を25日に解除すると発表した。暴徒の取り締まりなどは例外とする。

ただ、デモの火付け役となった民主化勢力はなおも反軍政を掲げて運動を続けており、疲弊する経済に不満を募らせる民衆から孤立し始めている。

「革命は終わっていない。政治から軍を追い出して古い体制を一掃するまで闘い続けるんだ」
昨年1~2月の反政府デモで連日、数万人のデモ隊で埋め尽くされた首都カイロ中心部のタハリール広場。テントの中で仲間との議論に明け暮れる大学生のボラ・リヤドさん(20)は、こう力を込めた。
約1年後の今、同じ場所には、デモというよりは、たむろしているという表現がふさわしい若者ら数百人が、暫定統治を担う軍最高評議会に即時の民政移管を求めて座り込みを続ける。

今も続く反軍政キャンペーンには、昨年1~2月のデモ動員に大きな役割を果たした民主化グループ「4月6日運動」も参加。旧政権高官の裁判迅速化や、軍部から議会への権限移譲などを主張する。
「国民が圧力をかけ続けることが大事なんだ」。創設者の一人、アハマド・マーヘル氏はこう訴えるが、デモ隊は昨年後半以降、治安当局と衝突を繰り返し、ときには暴徒化した。衝突をゲーム感覚で楽しむためにデモに参加する若者も少なくない。

そんな彼らを見る市民の目からは今や、かつてのような称賛の色は消えた。
エジプトでは2月の政変後もインフレ率約10%の物価高騰が続き、失業率は高止まりしたまま。政情不安と治安悪化の影響で、主要な外貨収入源である外国人観光客も激減し、経済はますます疲弊している。
タクシー運転手の男性は「デモ隊が暴れると仕事が減る。はっきり言って迷惑だ」と吐き捨てる。「デモの時は危険で交通もマヒするので、仕事に行けない」とタハリール広場近くに勤務する30代女性は漏らす。

「急速な変革」を目指す民主化勢力と、「暮らしの安定」を望む市民。両者の距離は、混乱が長引くにつれて開いている。非常事態令解除が市民に安心感を与え、強硬な民主化勢力への嫌悪を強めそうだ。このことが軍部の狙いでもある。

人民議会が招集された今月23日、カイロ中心部の同議会周辺では、数百メートル離れたタハリール広場とは対照的に、各党の支持者ら数千人が集まり、議会選の成功を祝った。曲がりなりにも民主的な選挙が実現し、軍主導の民主化プロセスが進む中、民主化グループは、求心力を失いつつある。【1月25日 産経】
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軍による暫定統治を批判して「急速な変革」を目指す民主化勢力が一般市民からの支持を失いつつあることが、非常事態令解除に向けて軍を後押ししたと思われます。

“軍に対する民主化要求デモなどが縮小するなど、国内情勢が安定したと判断したのも要因とみられる。非常事態令はムバラク前大統領が81年、大統領に就任した直後に発令した。令状なしでの市民の拘束が可能で、言論の自由を制限する道具として使われてきた。暫定統治中の軍最高評議会はイスラエル大使館襲撃事件などを受け、非常事態令の適用強化を打ち出し、「民主化の流れに逆行している」という批判にさらされていた。”【1月25日 毎日】

イスラム勢力は軍刺激を避け、民政移管後を照準に
エジプトでは、昨年11月から今年1月まで実施された人民議会選挙を受け、今後、民主国家の基礎となる新憲法制定手続きが本格化し、6月までに大統領選が行われる予定となっています。
人民議会選挙では、穏健派イスラム原理主義団体「ムスリム同胞団」系政党が第1党となり、イスラム系の2大政党で議席の4分の3近くを獲得しており、新憲法制定に向けた動向が注目されています。

****民政移行へ、人民議会を初招集 エジプト****
エジプトで23日、ホスニ・ムバラク政権の崩壊を導いた民衆蜂起後初めて、選挙で選ばれた人民議会(下院、公選議席498)が招集された。
これまでの人民議会はムバラク政権与党が議席をほぼ独占していたが、新たな議会ではイスラム系の2大政党が議席の4分の3近くを獲得、政治の中心舞台に躍り出た。

初議会では、選挙で第1党となった穏健派イスラム原理主義団体「ムスリム同胞団」系の「自由公正党」のカタトニ幹事長を議長に選出し、副議長には厳格なイスラム原理主義を掲げる「ヌール党」とリベラル政党のワフド党から各1人を選んだ。

カタトニ新議長は、「われわれは新しいエジプト、憲法に基づき民主的で現代的なエジプトを建設したい」と述べた。
国民の多くは、新しい人民議会を民政移行の最初の印ととらえている。【1月24日 AFP】
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全議席の47%を占めて第1党となった穏健派イスラム主義の「自由公正党」は、副党首にキリスト教徒を迎えて「市民政党」の体裁を取り、「イスラムの価値観を重視するが、宗教国家は目指さない」とするのに対し、約25%で2位となった急進派イスラム主義の「光の党」は、観光客への酒類提供禁止など、より厳格な形でのイスラム法の導入を求めているとされています。【1月23日 朝日より】

今後の憲法制定を巡っては、特権維持を図りたい軍部と、イスラム主義を盛り込みたいイスラム勢力の間でせめぎ合いが予想されていますが、「自由公正党」は当面は全面に出ることを避けて軍をあまり刺激せず、大統領選後の民政移管に照準を合わせているとも報じられています。ムスリム同胞団は長年、強権政権の弾圧に耐えてきただけに、その選択は非常に現実的です。

ムバラク政権を崩壊させた「アラブの春」は、そうした現実政治とは一線を画した若者を中心とした人々の怒りでしたが、ムバラク政権崩壊後も依然として残存する軍部支配体制という現実に向き合っていくためには、やはり現実的な対応が必要とされる・・・というところでしょうか。

****エジプト、選挙後緊迫 第1党イスラム系、民政化後照準****
・・・・反ムバラク政権デモに加わった青年らによる新党や世俗・左派政党は伸び悩み、福祉活動などを通して草の根組織を作り上げてきたイスラム系政党の強さが浮き彫りとなった。

過半数にやや足りない自由公正党は各派に連携を呼びかける一方、全権を握るエジプト軍最高評議会が昨年11月に任命したガンズーリ首相の退陣は求めない構えだ。
長引くデモや経済の混迷などで内政の混乱が続いており、当面は「だれがやってもうまくいくはずがない」(地元記者)という状況だ。議長ポストは握るが、6月末までの実施が予定される大統領選までは現行の内閣に任せ、新憲法制定と、軍部が大統領選後としている民政移管を待ち、改めて自派中心の内閣を発足させる戦略とみられる。

自由公正党は、光の党に対しては副議長ポストを提示して連携を求める一方、恒常的な統一会派の結成は否定している。
エジプトのシンクタンク、アハラム戦略研究所のハサン・アブターリブ研究員は「自由公正党は現実主義で、欧米との関係も重視している。光の党は政治経験に乏しく急進的で、立場が異なる。各党が課題ごとに是々非々で連携し『議会制民主主義の訓練』を行うことになる」とみる。 【1月23日 朝日】
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軍は、従来の統治構造を維持したいとの思惑
一方、軍部は、民政移管後も従来の統治構造を維持したいとの思惑があり、新憲法制定にその影響力を行使しようとしています。

****人民議会開会 新憲法議論 エジプト民主化、試金石 軍部、影響力保持を画策****
昨年2月のムバラク前政権崩壊後初の民主選挙で選ばれたエジプト人民議会(下院、508議席)が23日、開会した。同議会は6月末までに実施される大統領選と民政移管に向け、新憲法制定に関与するなど重要な役割を担う。制憲プロセスでは暫定統治を行う軍最高評議会との摩擦も予想される中、議会が事実上の翼賛体制だった前政権時代と完全に決別できるかが、同国の民主化を占う鍵となる。
(中略)
議会は、今月29日から選挙が行われる諮問評議会(上院)とともに、憲法起草委員会を選出する。軍部は「新議会の議員100人の委員会に起草にあたらせる」としていた当初の方針を変更。地元メディアによると、現在では委員の大部分を軍が任命し、一部だけが議会から選ばれる方式が検討されている。

軍が新憲法制定に影響力を残そうとするのは、従来の統治構造を維持したいとの思惑があるためだ。
前政権までのエジプトでは、予算から立法まで強大な権限を持つ大統領を軍が歴代輩出し、議会審議なしで予算承認を得るなど多くの恩恵を享受してきた。
軍は軍需工場や民生品用の工場を多数保有、「軍関連産業だけで国内総生産(GDP)の約4割」(アナリスト)といわれ、それらの経営で議会からチェックを受けることもなかった。軍としては、新憲法で大統領権限が弱まり、既得権益にメスが入るのを恐れている、というわけだ。

しかし、強大な権限を持つエジプトの大統領制はこれまで迅速な意思決定を可能にしてきた半面、不正の温床にもなってきた。このため民主化勢力の中には、新憲法では大統領権限を大幅に縮小し、議会や首相の権限を拡大すべきだとする主張も少なくない。

自由公正党のカタトニー氏も産経新聞の取材に、「将来的には議会中心の政治が好ましい」と話している。ただ、現段階では軍部を刺激しないよう、同党を含む多くの政治勢力が、軍の特権的地位に配慮した発言をしているのが実情だ。軍と付かず離れずの関係を保ちつつ、徐々に本格的な内閣樹立を狙うのが同党の戦略との見方もある。【1月24日 産経】
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今後の情勢としては、軍の権限、宗教と国家の関係が注目される新憲法制定に向けて、既得権益維持を狙う軍部と、あまり軍を刺激せず民政移管後を視野に入れたイスラム政党の駆け引きを軸に、そうした“生ぬるい”駆け引きや軍政継続・軍の特権維持を批判し、即時の「民主化」を要求する、若者を中心とする民主化グループの抵抗が絡んで展開する形が予想されます。

軍を批判して、エルバラダイ氏が不出馬を表明
新憲法制定後、6月末までに行われる予定のエジプト大統領選については、国際的には著名なIAEA前事務局長エルバラダイ氏が、民政移管後も軍の統治構造が変わらないことを批判して撤退を表明しています。

****エジプト大統領選、波乱含み****
6月末までに行われる予定のエジプト大統領選は民政移管の最大のゴールだ。しかし、最近、出馬に意欲を示していた国際原子力機関(IAEA)前事務局長エルバラダイ氏が不出馬を表明、波紋を広げている。

今月14日、エルバラダイ氏は、報道向け声明で、エジプトは現在も「旧体制」によって支配されている、との持論を展開。現状のままでは、新大統領に権限が移されても、実質的に軍部が権力を握る従来の統治構造に変化はないだろう、と暫定統治を担う軍最高評議会を強く批判した。

外交官出身で海外暮らしが長い同氏は、エジプト国内に強固な基盤を持っておらず、大統領選での勝利は難しいとみられていた。ただ、その抜群の知名度から、氏の発言は一定の影響力を持つとみられる。エルバラダイ氏が、軍主導の民主化プロセスを拒絶する形で選挙から撤退したことで、他の立候補予定者からは「反軍政デモが活性化するかもしれない」といった指摘が出ている。

一方、大統領選には、軍出身でムバラク前政権で最後の首相となったアハマド・シャフィク氏も意欲を示している。正式な出馬表明はしていないものの、すでに支持組織とともに各地で政治集会を開いている。同氏は軍と関係が深いだけに、財界人らの支持を得る可能性がある。半面、軍の影響力排除を狙う民主化勢力は反発するとみられ、選挙の混乱要因ともなりかねない。【1月25日 産経】
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上記以外の有力視される大統領候補者は、アラブ連盟の事務局長も務めていたアムル・ムーサ元外相とテレビの宗教番組をいくつも持つ著名弁護士のハゼム・サラハ・アブ・イスマイル氏と言われています。
ムーサ元外相は外交面の経験は申し分ない一方で、前政権とのつながりも指摘されています。
イスマイル氏はムスリム同胞団と連携する厳格なイスラム教徒です。【1月4日号 Newsweek日本版より】

「アラブの春」を民主化として具体化させるまでには、まだ多くのハードルがあるようです。
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香港と中国本土  地下鉄内騒動から感情的対立が過熱 「香港の人たちは犬だ」

2012-01-24 20:48:02 | 東アジア

(写真は香港の街角に置かれた犬の排泄物を捨てる専用箱だそうです。なるほど、中国本土とは違います。
中国旅行者の間では、人間用のトイレの汚さ、日本とのトイレに関する風習の違いがよく話題になりますが、最近では都市部のトイレ事情は随分改善されているようです。ただ、犬用はどうでしょうか?
“flickr”より By byerlytw  http://www.flickr.com/photos/65219161@N00/418208038/ )

退潮する“民主派”、伸長する“親中派”】
台湾総統選挙では、「ひとつの中国」という枠組み、中国との距離の取り方が、改めてクローズアップされましたが、中国側が台湾の将来像に関するひとつのモデルケースと考えているのが、97年にイギリスから主権移譲された香港における「一国二制度」のシステムです。

“香港の政治の特徴は香港主権移譲後に施行された一国二制度にある。これはイギリス時代の行政・官僚主導の政治から、一定の制限の下での民主化および政党政治への移行期にあたり、また社会主義国である中華人民共和国の中で2047年まで資本主義システムを継続して採用されることになっている”【ウィキペディア】

中国の政治体制への拒否感も強かった香港ですが、中国経済への依存のなかで、政治的には、いわゆる“民主派”が退潮し、“親中派”が勢力を伸ばす形になっています。

****香港、薄れる民主化 区議会選で親中派大勝 経済依存高まり意識変化****
 ■長官直接選挙実現に影
6日に投開票が行われた香港区議会(地方議会)選挙は7日、全議席が確定した。中央政府に批判的な民主各派は軒並み惨敗し、親中各派が大勝した。経済の対中依存が高まったことを受け、中国政府と良好な関係を求める香港人の意識の変化が選挙の結果に表れている。民主派勢力の退潮が鮮明となったことで、2017年の香港行政長官の直接選挙が実現できない可能性が高くなったとの指摘もある。

 ◆8年間で半減
 民主派の最大政党、民主党は前回2007年の選挙時の59議席から47議席に減らし、同党にとって2回連続の区議会選挙の敗北となった。前々回(03年)の選挙では95議席を得ており、8年間で議席数をほぼ半減。他の民主各派もすべて議席を減らし、前回6議席を得た急進派の社会民主連線の当選者はゼロだった。

一方、最大の親中勢力である民主建港協進連盟(民建連)は前回から21議席伸ばして136議席となり、民選合計議席(412)の約3分の1を占めた。民建連は03年の選挙時に獲得した議席数は62で、2回の選挙で議席倍増を実現した。

近年、香港で民主派が退潮している原因は複数ある。08年の米国発の金融危機以降、中国政府による一連の支援策と中国人観光客の大量流入で香港は好景気を維持することができたほか、1997年の中国への返還後、中央政府が香港で実施した愛国主義教育により、多くの若者の中国への帰属意識が高まった。

 ◆言論統制影響
また、香港に進出した中国国有企業は中央政府に批判的なメディアに広告を出さないなど間接的な言論統制も奏功し、香港メディアが「民主化や人権問題について取り上げることが少なくなった」(香港紙記者)という。
こうした中、行政長官の直接選挙の早期実現や天安門事件の再評価などを訴える民主各派の候補は、経済発展の継続や福祉の充実などの“実績”を強調する親中各派の候補に埋没し、支持は広がらなかった。

香港の民主派は2017年に実施する香港トップの行政長官選挙で、現在の選挙委員(うち1割は区議会議員)による間接選挙ではなく、有権者全員が参加できる直接選挙の導入を求めている。中央政府は直接選挙に原則的に同意したが、具体的な実施方法などについては何も決まっておらず、香港問題に詳しい中国人研究者は「香港での民主化要求機運が今後も低下し続ければ、中国政府は直接選挙の約束をほごにするだろう」と話している。【11年11月8日 産経】
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【「なぜ香港人は本土人より一段上の人間だと思っているのか?」】
上記記事にあるように、中国経済に依存し、愛国主義教育により若者の中国への帰属意識が高まったとされる香港ですが、住民の意識には微妙なものがあるようです。
また、中国本土側の香港に対する感情も同様です。

最近話題になっているのが、地下鉄内での中国本土からの女性観光客と地元乗客の間で激しい口論に関するものです。

****地下鉄車内で本土女性と地元乗客が口論、子どもの制止も聞かず…―香港****
2012年1月18日、香港の地下鉄車内で中国本土からの女性観光客と地元乗客の間で激しい口論が発生、その様子が動画投稿サイトで公開され、大きな話題を呼んでいる。南方都市報が伝えた。

香港では駅の改札内は飲食禁止となっており、違反者には最大で罰金2000香港ドル(約2万円)が科せられる。口論があったのは15日午後3時(現地時間)ごろで、地下鉄車内で中国本土からの女性観光客が娘にお菓子を食べさせていたため、地元乗客が注意したことがきっかけだった。

本土女性が「私たちは本土から来た」「子どもなんだから…」と反論したため、口論が始まった。地元乗客は「とにかく謝ればいいじゃないか」と諭したが、さらに火を注ぐ結果に。本土女性の同行女性や他の乗客も加勢し、騒ぎは大きくなる一方。女児が「ママ、私たちが悪かったんだよ」と制止したが、すでに収拾がつかない状況となっていた。

結局、乗客が駅職員に通報。職員から本土女性らに「車内では飲食禁止」であることを説明すると、「すみません。言葉がよく分からなくて。すぐに帰ります」と答えた。女性が今後は地下鉄車内で飲食しないと約束したため、罰金は科せられなかった。

口論の様子が動画サイトに投稿されると、ネット上で大きな話題に。中国本土客のマナーの悪さを指摘する声が目立ったが、「本土の人間は全員がこんな風だ」と決めつけるのもよくない、といった声も聞かれた。【1月18日 Record China】
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中国本土のネット上には中国本土人のルール違反を批判する意見が多く寄せられていますが、香港人の中国本土人への差別意識を指摘する声もあるようです。

****香港地下鉄で本土女性と地元乗客が口論、「本土客に対する差別意識の表れ」との声も―中国メディア****
・・・・その様子が動画投稿サイトで公開されると、ネット上で大きな話題に。
その多くは「『郷に入れば郷に従え』ができない中国本土客は十分に反省すべき」といったもの。「現地のルールが守れないんだから、ののしられて当然」「(香港人と本土人の)こうした素養の差は長年の積み重ねによるもの」「ルールが分からなかったのは仕方ないが、指摘されたらすぐに謝るべきだった」といった声が上がった。

一方、これを「中国本土の人間に対する差別意識の表れ」とみるユーザーも。「なぜ香港人は本土人より一段上の人間だと思っているのか?」「しょせんは子どもがしたこと。ここまで執拗(しつよう)に責め立てる必要があったのか」「マナーが守れない人間はどこにでもいる」「単なる文化の差」「中国本土の人間全体を指して批判するのはおかしい」といった擁護意見も出た。

なお、環球時報(電子版)がウェブサイト上で実施した「この問題をどう見るか?」についてのアンケート調査(3択)では、20日午前10時現在、「女性観光客が悪い。確かに一部の本土観光客は素養の向上が必要だ」(670票、15.2%)、「地元乗客が悪い。ささいなことを大げさに騒ぎ過ぎ。本土人に対する差別だ」(1374票、31.2%)、「双方が悪い。どちらも反省すべき」(2359票、53.6%)という結果となっている。【1月20日 Record China】
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自らを中国人と考える香港人はわずか17%
上記記事にある反応は中国本土側のものですが、この騒動には後日談があり、毒舌家の北京大学教授が「香港の人たちは犬だ」と発言し、香港人の集中砲火を浴びているそうです。

****香港人を「犬」呼ばわりの北京大教授、香港で怒り爆発****
口の悪さから、しばしば物議を醸してきた北京大学の孔慶東教授が、今度は「香港の人たちは犬だ」と発言し、香港人の集中砲火を浴びている。(中略)

(地下鉄内の)騒動は、中国本土と香港の文化衝突の一例と評された。また、かつては英国の植民地だった香港の人々が中国本土の人びとに対して抱いている優越感が象徴的に表れたとの指摘も多い。

この騒動について、孔子の子孫を名乗る孔教授が苦言を呈した。孔教授は動画サイト「v1.cn」に前週投稿されたインタビューの中で、「(標準)中国語で話すことを、全ての人に義務付けるべきだ」と力説。地下鉄車内の口論で香港人らが地元の広東語を話していたことに対し、「意図的に中国語を話さないとは、一体どういった種類の人間なのだろうか?それは、ろくでなしだ!」と非難した。

孔教授の毒舌は、まだ終わらない。「私の知る限り、多くの香港人は自分たちを中国人だと思っていない。こういった種類の人びとは、植民地時代に英国からの犬扱いに慣れた人たちだ。つまり、彼らは人間でなく犬だ」とののしった。

■犬呼ばわりに香港人の怒り爆発
孔教授の発言に、香港ネットユーザーの怒りが爆発。ネット上で中国本土批判を展開し、時には悪意のこもった口調で非難している。
「太った犬が吠えてるね。頼むから、他人についてあれこれ言う前に、自分自身の国をもう一度よく見てよ」。あるネットユーザーはこのように述べた後、中国本土の問題点を列挙した。
怒りはネット上だけに収まらない。香港警察当局によると22日夜、中国外務省の香港駐在代表部前に、およそ150人が集まり孔教授の発言に抗議した。

こうした香港住民の怒りについて、香港議会の李卓人議員は、香港と本土間に緊張が高まっていることを示すものだと指摘する。「まさに時限爆弾だ。香港人は中国政府を快く思っていない。民主主義の欠如が不満なのだ。香港人が本土の人たちとの衝突は日常的に見られる」
中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは、香港大学が前月発表した調査によると、自らを中国人と考える香港人はわずか17%で、2000年以降最も低い数字だったと伝えている。【1月24日 AFP】
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自らを中国人と考える香港人が17%と最低というのは、冒頭産経記事の“愛国主義教育により若者の中国への帰属意識が高まった”云々とは反するようですが、意識は多面的なものですから、そんなものでしょう。

本土から妊婦が大量に香港へ
中国本土側の香港に対する感情も、その差別意識を非難するものと同時に、香港へのあこがれ的なものも垣間見えます。
香港で出産する中国本土の女性が多数存在します。一人っ子政策に対する抜け道という側面もありますが、香港で出産すれば“比較的自由な香港に住んで香港で教育を受ける権利が得られる”ということも、その理由です。

****中国で人気の辰年出産、香港のママたちには悪夢に****
辰年を吉兆ととらえる中国人は、辰年に赤ちゃんを産むことを夢見る。だが、香港の一部の母親たちにとってはまさに悪夢となっている。
中国本土からは毎年数万人の妊婦が香港を訪れ、出産している。昨年、香港で生まれた赤ちゃん8万131人のうち、中国本土から来た妊婦の赤ちゃんは3万8043人に上った。

香港で赤ちゃんを出産すれば、子どもは英国の元植民地で半自治権を有し、比較的自由な香港に住んで香港で教育を受ける権利が得られるからだ。また中国本土の一人っ子政策に対する抜け道にもなっている。

そのため香港の産科の限られたベッドは満杯になり、出産費用を押し上げている。最近香港では、本土から妊婦たちが大量に押し寄せてくることに抗議するデモ行進も行われた。
この問題は辰年に最高潮に達する見込みだ。12年に1度の辰年はたいていベビーブームの年になる。公式統計によれば、前回の辰年である2000年には、出生者数は前年比で5.6%増加した。

■当局が対策に乗り出すものの…
今年ベビーブームが起きると予測されることから、中国当局は香港に入るための規則を厳しくし、境界管理を強化し、本土の妊婦のためのベッド数に制限を設けた。
これに対し、報道によると、中国本土の妊婦たちは大きめの服を着て妊娠を隠して香港入りしようとしたり、妊娠初期に香港での生活を始めることで妊娠の発覚を防ごうとしているという。

どうしても香港で出産したい一部の女性は、ぎりぎりまで我慢して、香港の救急病棟に無理矢理かけ込むという手段に出ている。病院関係者によれば昨年の緊急病棟での出産は3倍増だった。

香港の産科問題グループの広報を務める医師は、中国本土の女性たちは自分と赤ちゃんの命を危険にさらしていると懸念する。同医師は、公共病院では産科のベッドの予約が今年は15%増加していると述べ、香港での出産人数は10万人に迫るだろうと予測した。【1月24日 AFP】
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中国国内でも、上海人のプライドの高さに対する他の地域の住民の批判・やっかみがありますが、本土と香港となれば、過去の歴史、「一国二制度」の現状もあって、両者の感情に屈折したものがあっても不思議ではないところです。

なお、台湾でも中国本土観光客の増大とともに、そのマナーの悪さが問題となり、台湾側に“「我々とは違う」との意識”を強めているとの指摘もあるように、マナー向上は中国にとって急務です。
中国人のマナー意識の欠如は、拝金主義的な社会問題、自己中心的な外交・軍事問題とも相通じるものがあります。
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アフガニスタン  和平協議への、タリバン“指導部”と一般兵士の温度差

2012-01-23 21:29:19 | アフガン・パキスタン

(米海兵隊員によるタリバン遺体放尿事件に限らず、また、アメリカ・タリバンを問わず、戦場では狂気が支配することは想像に難くありません。
ただ、遺体冒涜よりは殺戮行為そのものの方が、より憂うべきことではないか・・・とも思うのですが、戦場にあってはそうした疑問は論外です。
写真は、北部同盟兵士によるタリバン兵士処刑のシーン アフガニスタン部族間ではこれまで夥しい殺戮が繰り返されてきました。仮に、アメリカとタリバンの間で“和平”に関し一定の成果が得られても、また、外国勢力が撤退しても、やはり多くの血が流され続けるのでは・・・という思いがあります。
“flickr”より By sakyant http://www.flickr.com/photos/28245984@N02/4212920625/ )

【「これらの交渉が継続し、良い結果を得られることを期待している」】
アフガニスタンの反政府勢力タリバンとアメリカが、中東のカタールに和平交渉の窓口となる事務所を設けることで合意したことは、1月4日ブログ「アフガニスタン タリバン、国外事務所開設で米と暫定合意 それでも和平交渉に期待できない理由」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120104)で取り上げたところですが、そのなかでも触れたように、アフガニスタン政府・カルザイ大統領は蚊帳の外に置かれた感もあり、アメリカへの反発もありました。

アメリカとしても、当事者たるアフガニスタン政府・カルザイ大統領を無視する訳にもいきませんので、関係修復を図っています。

****米特別代表、カルザイ大統領と会談 アフガン和平協議****
米政府のアフガニスタン・パキスタン担当のグロスマン特別代表が21日、カブールを訪れてカルザイ大統領と会談し、和平プロセスについて協議した。アフガン政府と反政府勢力タリバーンとの和平交渉の再開に向けた動きにつながる可能性がある。

AFP通信によると、グロスマン氏は「米国はアフガニスタン主導の和平交渉を何としても支える」と話し、仲介役であることを強調した。タリバーンは今月初め、中東のカタールに和平交渉の窓口となる事務所を設ける方針を示しており、カルザイ氏はこの日の国会演説で「政府としては、和平のために事務所を開く計画を受け入れる」と述べた。

カルザイ氏は、タリバーンとは別の反政府勢力ヒズベ・イスラミ(イスラム党)の代表と最近も会談したことも明らかにし、「これらの交渉が継続し、良い結果を得られることを期待している」と話した。【1月21日 朝日】
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【「映像は大きな問題にならないだろう」】
しかし、この交渉をぶち壊してしまいかねない、4人の米海兵隊員が3人のタリバン兵士の遺体に放尿している衝撃的な映像がネット上で流れ、アメリカが事態収拾に追われていることは、1月13日ブログ「アフガニスタン タリバン遺体に米軍兵士放尿 事態収拾に追われるオバマ政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120113)で取り上げました。

恐らくタリバン側は怒り心頭に発し、交渉どころではないのでは・・・とも思ったのですが、意外とタリバン指導部は抑制された対応をとっているそうです。

****タリバンの自制は和平に逆効果?****
米軍の放尿ビデオに怒らない指導部に兵士の反発が高まっている

衝撃的な映像だった。4人の米海兵隊員が3人のアフガニスタン人の遺体に放尿している。しかしこの問題について、アフガニスタンの反政府勢カタリバンはあたかも見識が高い政治家のような反応を示した。

タリバンの広報担当者の中には、米兵の「恥ずべき行為」を糾弾し、アメリカ人への襲撃を続けると語った者もいた。だがザビフラ・ムジャヒド報道官は慎重な発言にとどめている。
「協議も捕虜交換プロセスもまだ初期段階にあるため、映像は大きな問題にならないだろう」
協議というのは、アメリカとタリバンがカタールで進めている和平予備交渉のことだ。

タリバンの後方支援担当者も穏やかな口調で本誌に語った。「われわれは分別のある正しい反応をした。卑しむべき行為を非難しながらも、協議には影響しないと表明した」

とはいえ彼も今回の映像には失望している。「アフガニスタンには『敵を殺せ、しかし遺体を放置して腐らせるな』という言葉がある。私たちの伝統を踏みにじるような出来事があまりにも微妙なタイミングで明らかになった」

タリバンの自制は一見、和平にはプラスになりそうだ。だが大半のタリバン兵は怒りに駆られているし、アフガニスタン人の間でも反発が高まっている。抑制を利かせた「公式」見解は、タリバン兵と指導部の問に亀裂を生じさせかねない。

問題の映像が昨年撮影された場所とされるヘルマンド州のタリバン幹部は、電話取材に応えてこう語った。「狂っている。殉教者の遺体を冒涜するほどわれわれを憎んでいる連中と、なぜ協議などするのか」
彼の怒りはカタールでの交渉に臨むタリバンの代表にも向けられた。「協議でアフガニスタン・イスラム首長国の代表を名乗る人々は、われわれが流してきた血の川を汚している」(後略)【1月25日 Newsweek日本版】
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もっとも、“タリバン指導部”とは言っても、最高指導者オマル師の生存さえ定かではなく、指揮系統がはっきりしないタリバンですので、どういう資格でアメリカとの交渉に臨む“指導部”だかは疑問があります。

放尿事件への怒りから犯行に及んだ
一般のタリバン兵士、アフガニスタン人が怒っている・・・というのは、当然のところです。
20日、東部カピサ州でアフガニスタン軍兵士が国際治安支援部隊(ISAF)傘下の仏軍兵士4人を射殺した事件がありましたが、この事件の動機も米兵放尿事件への怒りだそうです。

*****米兵放尿事件に怒り」仏兵士射殺のアフガン兵*****
アフガニスタン東部カピサ州で20日、アフガン軍兵士が国際治安支援部隊(ISAF)傘下の仏軍兵士4人を射殺した事件で、兵士が調べに対し、旧支配勢力タリバン兵の遺体に米兵が放尿した事件への怒りから犯行に及んだと供述していることが分かった。AFP通信が22日、アフガン軍関係筋の話として報じた。

事件を受け、仏軍はアフガンでの活動を一時停止すると発表。急きょアフガン入りしたロンゲ仏国防相は、国軍兵がタリバンの内通者だったとの見方を示している。【1月23日 読売】
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もともと戦争しか知らない人生を送ってきた多くのタリバン兵士にとっては戦いこそが人生であり、和平など考えてもいないと思われます。ましてや、遺体を冒涜する憎むべき相手と・・・といったところでしょう。
「彼らは戦闘が好きなだけだ。それが終わりのない無意味な戦いだとしても」(旧タリバン政権の元大使)

基地にはアフガン兵を近づかせないようにしていた
下記は、この仏軍兵士殺害を伝える記事です。
****仏兵4人、撃たれ死亡=国軍兵が銃乱射―アフガン****
アフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)は20日、首都カブールに近い東部カピサ州で同日、アフガン国軍兵士1人がISAF部隊に銃を乱射し、兵士4人が死亡、16人が負傷したことを明らかにした。AFP通信によると、死亡したのはフランス軍兵士。

軍当局者によると、犯人は拘束され、尋問を受けている。事件の詳しい状況は不明。同通信によれば、アフガン駐留仏軍は約3600人で、主にカブールやカピサ州に展開。同州内の基地にはアフガン兵を近づかせないようにしていた。
事件を受けサルコジ仏大統領は、駐留仏軍のアフガン部隊に対する訓練活動や合同作戦への参加を停止したことを明らかした。同軍の撤退前倒しも検討するとしている。【1月20日 時事】
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アフガニスタン兵士の中にタリバン内通者が多く存在していることは、以前から言われているところで、こうした事件が起きたこと自体には驚きませんでしたが、いささか驚いたのは“同州内の基地にはアフガン兵を近づかせないようにしていた”というISAF側の対応です。

アメリカなどの外国勢力が撤退のスケジュールに入っているなかで、撤退後の治安維持の中核となるべきアフガニスタン軍への信頼が全くないことが如実にわかります。それだけアフガニスタン軍の状況が憂慮すべきレベルにあるということでしょう。

このようなアフガニスタン軍の状況では、仮にタリバンとの交渉が何らかの成果を生んだとしても、アフガニスタン政府の将来はあまり期待できません。
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シリア  離反兵士らの「自由シリア軍」、首都ダマスカス攻略の足掛かり?

2012-01-22 21:02:55 | 中東情勢

(1月20日 反政府行動の中核ホムス近郊のフラ “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6739520599/in/photostream

首都近郊に迫る反体制派
シリアでは、反政府デモを支持する離反兵士らによる「自由シリア軍」と政府軍との間で、殆んど内戦状態とも言える攻防が続いています。

シリアの中東地域において占める存在感、ロシアの支援、欧米側の国内事情などから、国際的な軍事介入が難しい情勢では、なんだかんだ言ってもアサド政権が続くのでは・・・と思っていましたが、ここ数日、必ずしもそうも言えないのかも、かなりアサド政権側も追い込まれているのだろうか・・・と思わせる報道がいくつかありました。

首都ダマスカスと北部の第2の都市アレッポでは、これまで大規模な反政府デモもなく、政権側が掌握していますが、そのダマスカス近郊で「自由シリア軍」との「停戦」による「解放区」が出来たり、「自由シリア軍」が支配下に置くような地区が出来たりしているようです。

「停戦」によって「解放区」状態となったのは、首都ダマスカス北西約30キロの町ザバダニです。
政府軍が撤退する代わりに反体制派も街頭から退去するとの合意が成立したそうです。

****首都北西に「解放区」誕生=独裁の恐怖消え住民歓喜―停戦下ザバダニに潜入・シリア****
反体制デモ弾圧を続けるシリア政府軍と、離反兵らが結成した「自由シリア軍」など反体制派の「停戦」が成立した首都ダマスカス北西の町ザバダニに19日、入った。外国報道機関の現地入りは初めて。シリア軍が撤退して「解放区」が誕生、反体制派や住民にはアサド独裁政権への恐怖が消え、不安が入り交じりつつも喜びに沸いていた。

昨年3月の反体制運動開始後、中西部ホムスや南部ダラアなどの一部で反体制派の支配地域が生まれているが、停戦に至ったのはザバダニが初めて。ただ、現在も政府軍が町を包囲しており、戦術的な撤退と受け止められ、反体制派は軍の再攻撃に備えている。(中略)

反体制派によると、停戦は17日夜に発効し、19日までに戦車など軍部隊は郊外の陣地に撤退した。反体制デモが続いてきたザバダニは、先週から軍の激しい攻撃にさらされ、12日から3日間は電気や水道が全面的に停止した。町の壁には反体制の落書きが書き込まれ、毎夜、デモが行われている。

治安機関の目が光る首都などで市民の口は固い。ザバダニにも大統領を支持する住民はいるが、多くは「怖いものはない。待ち焦がれていた自由がやってきた」と実名で喜びを訴えた。商店や民家に弾痕や破壊の跡があるほか、19日も散発的な銃声が響く。住民は「包囲する軍が存在を誇示しているだけだ」と語った。【1月20日 時事】 
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政府軍側は“戦術的な撤退”ということですので、この先、また激しい戦闘が再燃するのでしょう。
ただ、反体制派からすれば、首都攻略の足掛かりを得たとも言えます。

また、ダマスカス北東のドゥーマをも「自由シリア軍」側が抑えたと報じられています。
****首都近郊の要衝支配下に=治安部隊と激戦―シリア反体制派*****
ロンドンを拠点とするシリアの人権団体「シリア人権監視団」のラミ・ラフマン代表は21日、AFP通信に対し、シリア軍を離反した部隊が同日に首都ダマスカス北東近郊の要衝の町ドゥーマを支配下に置いたと語った。ロイター通信も反体制派情報として、ドゥーマの複数の地区を同派が掌握したと伝えた。

ラフマン氏は「離反兵の集団が治安部隊との激戦後、ドゥーマの全地区を掌握した」と述べた。事実とすれば、反体制派が首都に迫ったことになり、民主化要求デモで揺らぐアサド政権は存亡の機に直面する。
ドゥーマの活動家は、ロイター通信にインターネット電話「スカイプ」を通じ、「反体制派は道にバリケードを構築し始めた。数分間隔で銃声と爆発音が響いている」と語った。【1月22日 時事】 
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北西の町ザバダニ、北東近郊の要衝の町ドゥーマと、首都包囲網が出来つつあるのでしょうか。
ただ、ザバダニは「(政府軍の)戦術的な撤退」ということですし、ドゥーマについても“離反兵は政府軍の全面的な反撃を警戒。支配地区の保持は困難と判断し、潜伏拠点に引き揚げたもようだ”【1月22日 時事】ということで、これを持って反体制派の首都包囲網云々は早過ぎるような感があります。

一方、アサド政権の支持母体であるイスラム教アラウィ派内部からも、アサド政権批判が表明されています。

****アラウィ派100人も反体制に=政権崩壊の動き加速か―シリア****
シリアのアサド大統領が属するイスラム教少数派アラウィ派の知識人ら約100人は19日までに、アラウィ派やキリスト教などの少数派に向け、アサド政権打倒へ結束するよう呼び掛ける声明を発表した。
アラウィ派からもアサド政権を見放す動きが顕在化したことで、政権崩壊プロセスが加速する可能性もある。【1月20日 時事】 
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アサド支配体制の綻びが出てきつつあるとは言えそうです。

カタール:「軍隊が行くしかない」】
国際的には、リビアでも軍事介入を支持したカタールのハマド首長がアサド政権批判を強めており、軍事介入の可能性に言及しています。

****シリア、強まる軍事介入論 アラブで初の言及 カタール「殺戮止めるには軍隊****
バッシャール・アサド政権による市民弾圧が続くシリアに対し、外国による軍事介入の必要性を指摘する声が強まっている。同政権に批判的なカタールのハマド首長は15日までに、アラブの元首としては初めて、アラブ諸国からの軍隊派遣の可能性に言及。シリア反体制派の多くも武力介入を求め始めており、米欧が今後、どう反応するかが焦点となっている。

「このような状況で殺戮(さつりく)を止めるには、軍隊が行くしかない」
米CBSテレビ(電子版)によると、ハマド首長は同テレビのインタビュー番組でこう述べ、シリアでの弾圧が一向にやむ気配がないことへのいらだちをあらわにした。

シリアでは昨年12月から、政権が約束した市民への暴力停止の履行状況を調査するアラブ連盟の監視団が活動しているが、その間も政権側の攻撃で数百人が殺害されたとされる。アラブ連盟内では対シリア強硬派と慎重派とで態度が割れており、政権側に強い態度に出ていないのが実情だ。

そんな中での今回のハマド首長の発言は、カタールが、アサド政権打倒を模索しつつあることを示したものだ。同国は昨年、北大西洋条約機構(NATO)による対リビア軍事作戦を早くから支持しアラブ連盟を介入容認でまとめ上げたほか、反カダフィ派部隊を資金・物資面で支援した“実績”があるだけに、他のアラブ諸国への影響も少なくないとみられる。

近年、域内外交を活発化させているカタールとしては、シリア問題でもアラブ諸国をリードし、存在感をいっそう高めたいとの意図もありそうだ。

一方、アサド政権からの離反兵らで作る反体制派武装組織「自由シリア軍」はすでに、武力が「政権打倒への唯一の道」(幹部)だとして明確に米欧などの軍事介入を要求、今後はカタールが同軍への支援を強化する可能性もある。

ただ、軍事介入までのハードルは高い。現実的には、介入には国連安全保障理事会の決議が必要となるが、拒否権を持つロシアなどは政権寄りの姿勢を崩しておらず、「安保理に提起されても、結論が出るには数カ月はかかる」(外交筋)との見方が一般的だ。
エジプトの首都カイロに滞在する反体制派グループ幹部によれば、シリアでは現在もデモは拡大している。自由シリア軍による政権側へのゲリラ戦も衰えておらず、両者の戦闘が泥沼化する懸念は強い。【1月16日 産経】
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カタールなど湾岸諸国にとっては、いつまでもシリアで衝突が続けば、自国内の民主化運動にも波及しかねない・・・・との思いもあるのではないでしょうか。

シリア:「我々にはこうした試みを食い止める強い軍隊がある」】
こうしたカタールのアラブ軍派遣を求める動きに対し、シリア側は「我々には強い軍隊がある」と、強く牽制しています。

****アラブ軍派遣、強く牽制 シリア副外相「強い軍ある****
シリアのファイサル・メクダド副外相は17日、ダマスカスで朝日新聞記者と会見した。政権側による市民殺傷を止める目的でカタールなどが提唱しているアラブ軍派遣構想について「我々には強い軍隊がある」と述べ、強く牽制(けんせい)した。

アラブ軍構想に対し、シリア政府高官が明確に反対を表明したのは初めて。
同構想については、地域大国のエジプトやイラクが難色を示しているが、湾岸諸国が支持する動きもあり、22日のアラブ外相会議で協議される見通し。メクダド氏は「提案は正式に通知されていないが、我々にはこうした試みを食い止める強い軍隊がある」と語った。
軍事同盟関係にあるイランは、外国軍が介入した場合、シリア軍を支援すると表明している。

メクダド氏はイランが、欧米の制裁次第で石油輸出の動脈であるホルムズ海峡封鎖を示唆していることにも言及。「(イランと米国の)軍事衝突は望んでいないが、イランとシリアは互いの安全保障に責任がある」と述べ、ホルムズ海峡有事の際には、イランを支援する考えを示した。
 
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が「シリア政府は殺害をやめろ」と要求していることについて「我々は市民を殺害しておらず、保護している。潘氏は、シリア国内の武装勢力の存在を無視するなど、現実が見えていない。彼の見方は(欧米など)一部の国々の立場を反映したものだ」と強く反論した。昨年3月以来、10カ月に及ぶシリア騒乱で、国連は、市民5千人以上が殺害されたとしている。

事態収拾については「改革が唯一の出口だ。選挙法の改正や新憲法の起草によって、民主的な方法で権力を移行することが可能になる」と主張。「シリア国民評議会」など在外反政府勢力については「国内の野党勢力とは結びついておらず、支持は広がっていない。彼らは周辺国から軍事、財政的な支援を受けて動いている」と述べた。アサド大統領が提唱した野党勢力を含む「国家統一政府構想」は「相手側の出方次第だ」と語った。

市民デモに対する武力行使の停止などを求めたアラブ連盟仲介案の履行状況を確認する約160人規模の連盟監視団の活動について「どこに行くのも誰に会うのも自由であり、完全な行動の自由を保障している」と説明。活動の延長も認める考えを示した。19日にも出る報告書について「前向きなものであることを望んでいる」と語った。

メクダド氏は、国連大使や対イスラエル和平交渉を歴任したシリア外交ナンバー2。アラブ連盟監視団との交渉も担当している。【1月18日 朝日】
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難しい軍事介入
軍事介入については、ただでさえ一触即発の状態にあるイランとの連動、シリアが支援するヒズボラ・ハマスといったレバノン・パレスチナにおけるイスラム過激派の動き、更にはシリアを支持するロシアの動向などもありますので、容易ではありません。

****ロシア艦隊がシリア基地入港 アサド政権支持示す****
シリア国営通信などは8日、同国西部の地中海岸タルトスのロシア海軍基地に、空母など複数の艦船からなるロシア艦隊が入港したと伝えた。6日間ほど寄港するという。ロシアが改めてアサド政権支持の姿勢を示し、政権打倒に傾く米仏やトルコなどを牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。

ロシアは旧ソ連時代からシリアと友好関係にあり、タルトスの基地はロシアが地中海で持つ唯一の基地だ。反体制デモでアサド政権が倒れて基地を失えば、世界戦略に大きな影響が出るため、ロシアは同政権への支持を続けている。【1月8日 朝日】
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話は最初に戻りますが、そんな状態で反政府勢力側が首都攻略の足がかりを得つつあるのか・・・と思わせる報道が散見されている状況です。
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