孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マレーシア  ナジブ首相の「1MDB」疑惑 マハティール、アンワルによる野党共闘の追及は?

2016-10-31 22:16:32 | 東南アジア

(夫婦で疑惑の追及を受けるナジブ首相とロスマ夫人 Stephen Morrison-REUTERS 【10月18日 大塚智彦氏 Newsweek】)

アメリカの不正調査に怒るナジブ首相は中国接近?】
マレーシア・ナジブ首相が代表を務めていた政府系投資会社「1MDB」(ワン・マレーシア・デベロップメント)を舞台にした巨額汚職疑惑については、これまでも何回か取り上げてきました。

“1MDBは、2009年にナジブ首相が主導して創設された投資会社であり、創設以来、同首相自身が顧問会議のトップとして経営に関与していた。マレーシアを先進国入りさせるプロジェクトの一環として期待されたこの投資会社は、14年3月末時点で約420億リンギットに上る巨額(GDPの3.9%、国家予算の16%に相当する金額)の負債を抱え込む状況に陥った。さらに、不正経理の疑惑も指摘されている。”【6月1日 石井順也氏 「苦境を乗り切るマレーシア・ナジブ首相のしたたかな統治術」 読売】

疑惑は、巨額負債のほか、マネーロンダリング、首相親族の関与、更には,ナジブ首相の個人口座に約7億ドル(約800億円)の不透明な資金が振り込まれた・・・という首相自身への資金還流など多岐にわたっています。

政府批判の中核となるべき野党連合が、取りまとめ役のアンワル・イブラヒム元副首相が同性愛問題という政治的策略とも思われるような形で政治生命を断たれたことで崩壊した一方で、与党側の中核にあったマハティール元首相がナジブ首相批判の先頭に立つ形で、両者の権力闘争的な側面も見せていました。

マハティール元首相の政権批判も国内的に圧倒的な権力を握るナジブ首相の壁を崩すには至らず「一件落着」の様相も見せていたとこへ、アメリカ司法省が7月20日、マレーシアのナジブ首相が主導して設立した政府系ファンド「1MDB」から資金が不正に流用された疑いがあるとして、米国にある不動産や美術品など総額10億ドル(約1070億円)の資産の差し押さえを求める訴訟を起こしたと発表、改めて国際的な不正疑惑として火の手があがった・・・という話は、8月8日ブログ“マレーシア 国内的に幕引きがなされた「1MDB」疑惑 アメリカ司法省の差し押さえ訴訟提訴で再燃”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160808で取り上げたところです。

アメリカ・ホワイトハウスは、マレーシア政府は良好なガバナンスと透明なビジネス環境を重視していることを示す必要があるとの見方を示しています。

アメリカ司法省が「1MDB」からの資金の受け取り手の一人と指摘した「マレーシア政府関係者」の氏名は公表されていませんが、ナジブ首相だとも見られています。

その後、目立った進展があったようには聞いていませんが、ナジブ首相は‟表立っては”アメリカの調査への協力を表明しています。

****マレーシア政府系ファンドの資金不正流用、首相が米調査に協力表明****
マレーシア政府系ファンドの資金不正流用問題で、ナジブ首相は27日、米国など国際当局の調査に協力する方針を表明した。

ドイツのメルケル首相と会談後、記者団に語った。ナジブ氏は「良好な統治と法の支配の範囲内で、マレーシアは協力し、必要なあらゆる措置を講じることに最善を尽くす」と述べた。

選挙の早期実施には反対する考えを示し、単一要因に基づいて実施を決めるべきでないと語った。【9月28日 ロイター】
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ただ、ナジブ首相が自身のスキャンダルそのものである「1MDB」に関するアメリカの対応に怒り心頭に発しているであろうことは、誰が考えても明らかです。

逆に言えば、アメリカが同盟国マレーシア首相に対し、随分と思い切った対応をとったものだ・・・とも思えます。

そうしたアメリカの対応に対するナジブ首相の答えが、中国への接近です。

****マレーシア首相が訪中、「中国から軍艦購入」に海外注目****
2016年10月31日、マレーシアのナジブ首相は同日から11月6日まで訪中するが、海外メディアでは期間中にマレーシアが中国から沿海域任務艦(LMS)を購入する見通しや、これにより米国に打撃を与えるとの指摘が聞かれている。環球時報が伝えた。

軍艦の購入に関してロイター通信は専門家の見解を紹介し、「マレーシアが中国から軍艦を買う背景には、今年7月に米司法省がマレーシアの政府系ファンドのワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)の資産差し押さえを求め提訴した騒動がある。米司法省は1MDBに巨額の資金流用・洗浄疑惑があったとしており、ナジブ首相が関与した疑惑も持たれている。マレーシアは米国に不満を抱いていると思われる」と報じ、英デイリー・スターは、「米国は南シナ海での影響力を強化しようとしているが、(マレーシアと中国の接近は)米国の打撃になる」と指摘している。

中国の専門家は、「金銭的な理由も考えられる。現在マレーシアの国防予算は大幅に削減され、高額な欧米の軍備を買い続けるのは困難。そこで、品質そこそこで値段が安い中国の軍艦に目を向けたのだろう」と分析。

このほか、「マレーシアが中国から軍備を購入することは、たとえマレーシアに意図がなくても『米国と距離を置き、中国に近づく』との印象を植え付けることになる」との声も海外で聞かれている。【10月31日 Record china】
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アメリカはフィリピン・ドゥテルテ大統領の超法規的処刑に関して人権上の懸念から批判したことで、結果、ドゥテルテ大統領の反米意識に火が付き、フィリピンの中国への急接近となっていることは、連日メディアが報じているところです。

形としては似たような話で、マレーシア・ナジブ首相の不正疑惑を追及することで、同盟国マレーシアの中国接近を呼ぶところともなっています。

こうした両国の動きは、外交面だけを見れば、「米国は南シナ海での影響力を強化しようとしているが、米国の打撃になる」ということになりますが、個人的には、アメリカは言うべきこと言い、行うべきことをやったのであり、それで両国が一時的に離れていくなら、それはそれで致し方ない・・・と考えます。

長い目で見たとき重要なのは、南シナ海情勢でも中国との覇権争いでもなく、不正や人権侵害はただすという価値観であり、日米などの強固な、信頼できる同盟は、そうした価値観を共有するところから生まれます。

価値観を共有するものではない同盟関係など、一時的・便宜的なものであり、情勢次第ではいかようにも変容する頼むに足りないものに過ぎません。

「1MDB」疑惑に関しては、アメリカのほか、シンガポールでも表面化しています。

****シンガポール当局、3銀行を処分 マレーシア流用疑惑****
シンガポール通貨金融庁は11日、汚職疑惑に揺れるマレーシアの政府系ファンド「1MDB」の取引に絡んで、シンガポールに拠点のあるスイスの銀行など3行を処分したと発表した。
 
処分対象は、スイス最大の銀行UBS、同じくスイスのファルコン・プライベート・バンク、それにシンガポールのDBS銀行の計3行。

ファルコンについては「経営幹部による不適切行為と資金洗浄統制に重大な欠陥があった」として銀行免許を取り消し、当局が支店幹部1人を逮捕した。UBSとDBSには資金洗浄の防止対策に不備があるとして制裁金を科した。
 
1MDBの資金疑惑をめぐって、シンガポール当局は5月にもスイスの銀行BSIの免許を取り消した。7月には疑惑に関係するシンガポール国内の資産(約181億円相当)を差し押さえたことを明らかにした。【10月11日 朝日】
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【「マレーシアのイメルダ」こと首相夫人のスキャンダル、疑惑も
「1MDB」疑惑を抱えるナジブ首相にとって、「マレーシアのイメルダ」との異名をとるロスマ・マンソール夫人のスキャンダルも頭痛の種となっているようです。

****ナジブ首相の足をひっぱるマレーシアのイメルダ夫人****
<マレーシアの首相夫人ロスマの豪勢な暮らしぶりがかつてのイメルダ・マルコス(フィリピン大統領夫人)並みと、アメリカのメディアを騒がせている。自らもスキャンダルを抱え、大物マハティール首相との対決も控えたナジブ首相には泣きっ面に蜂>

東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10か国首脳、元首の夫人たちの中で「最も美しいファーストレディ」を選ぶイベントがあり、見事2位を獲得したこともあるマレーシアのファーストレディ、ロスマ・マンソール夫人(64)が夫のナジブ・ラザク首相の新たな重荷、頭痛の種になっている。

国営投資会社ワン・マレーシア開発(1MDB)に関連した不正資金流用問題や治安維持で首相に強大な特権を与える「国家安全保障会議(NSC)法」制定、仇敵となったマハティール元首相による「ナジブ打倒」を掲げる新党結成などで人気と支持に陰りのでてきたナジブ首相に、追い打ちをかけるようにロスマ夫人の疑惑やスキャンダルが次々と浮上しているのだ。

夫人の立場でありながら政治に口出ししたり、不動産購入や宝飾品収集といった贅沢三昧の私生活などが暴かれ、その「マイナスイメージ」には夫のナジブ首相も口をさしはさめない状態のようで、内外から「マレーシアのイメルダ」と不名誉な異名を与えられている。(中略)

9月19日、マレーシアの中国語新聞などが国連教育科学機関(UNESCO)の受賞対象リストにあったロスマ夫人の名前が表彰式の直前になって除外されたことを伝えた。

2007年にマレーシア政府の支援で設立された貧困層の子供に対する社会支援を続けるマレーシアの組織「プルマタ」の活動が国際的に高く評価され、その代表としてロスマ夫人へのUNESCOの「リード・バイ・エグザンプル」賞の受賞が決まった。

ところがこの「プルマタ」の設立時にロスマ夫人が多額の寄付をしたことが指摘され、その資金源が不透明、不明確なことから受賞対象から除外されたというのだ。

この措置に対し、ロスマ夫人と大統領府報道官は「UNESCOの決定の背後にはウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とニューヨーク・タイムズ(NYT)という米2紙による圧力があった」とその公平性に疑問を投げかけた。その上では「この賞にプルマタは自ら応募したわけではなく、UNESCOが(一方的に)選んだだけだ」と指摘して、UNESCO側が勝手に選んでおいて一方的に除外したとUNESCOを批判した。

不動産、ブランド、宝石大好きの首相夫人
(中略)9月14日の地元マスコミネット版にはロスマ夫人の写真が大きく掲載され、その写真に写る腕時計とイヤリングが拡大され「腕時計=250万リンギット(約61万7000円)、イヤリング=50万リンギット(約12万3000円)」との大きな見出しがつけられて報じられた。

さらに米紙WSJの報道を引用する形で「最近数年間のクレジットカードの支払いが600万米ドルになった」「2008年から2015年までに洋服、靴、宝石をロンドンのハロッズ、ニューヨーク5番街のSaksなどで少なくとも600万ドルを支払っているその額と同じである」「この金額の一部には1MDBの資金が流用されている可能性がある」「夫人自身には定期的な収入はない」などと指摘して、ロスマ夫人にまつわる疑惑を報じた。そしてロスマ夫人のお気に入りブランドが「エルメス・バーキンのハンドバッグ」であるともNYTは伝えた。

このほかにNYTはロスマ夫人には米ニューヨークにあるタイムワーナーセンターのペントハウス(約3000万ドル)、ロスアンゼルスのLAヒルズにあるマンション(約3900万ドル)などを含む約10億ドルの資産があるとも報じている。

夫唱婦随のスキャンダル、疑惑
ナジブ首相が副首相時代の2008年6月にはネットニュースの編集者が「ナジブ副首相夫人のロスマ女史が殺人現場に居合わせた」と指摘、殺人事件への関与疑惑が浮上したこともある。しかし副首相側が政治的陰謀として全面否定したが、ロスマ夫人は警察の事情聴取を受けたとされている。

また2015年8月には「首相夫人がマレーシア中央銀行総裁の追放を画策」などと人事への口出し疑惑を報じたアジア・センティネルの記者に対し「ロスマ夫人に対する48時間以内の無条件、自発的全面謝罪」を求める警告が夫人の顧問弁護士から出される事件も起きた。これは首相夫人の地位を利用して政治に介入しようとしたロスマ夫人を追及する報道に「過剰反応」を示したことで、逆に疑惑を深める結果となった事例だ。

今年4月に開かれたバドミントンのマレーシア・オープン決勝戦でマレーシア・バドミントン協会の強力な後援者として優勝選手への賞贈与者としてロスマ夫人の名前が場内にアナウンスされると約1万人の観衆から盛大なブーイングが沸き起こった。

さらに8月にはクアラルンプール市内で開かれた政治腐敗追及のデモでは参加者から「ロスマ夫人の金銭疑惑の解明」を捜査当局に求める声があがるなど、世論は次第により厳しくなりつつある。

その一方で与党系のマスメディアでは連日のようにその公的活動が伝えられ「ファーストレディとして貧困対策、社会運動支援に活躍する姿」が大きく報じられている。10月10日の「ニュー・ストレート・タイムズ」は、ロスマ夫人が自閉症児の施設を訪問し約3時間にわたる施設訪問の様子を自閉症児やその親と笑顔で歓談する写真とともに掲載した。【10月18日 大塚智彦氏 Newsweek】
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マハティール、アンワルによる野党共闘とはいうものの・・・・
肝心の国内における「1MDB」疑惑追及については、マハティール元首相を軸にした取り組みがなされています。

****選挙前の辞任を目指し野党大同団結へ*****
マハティール元首相がかつてのライバル、アンワル元副首相と連携して「打倒ナジブ」に動き出し、反ナジブ運動が拡大の様相を見せる中、2018年に予定される次の総選挙の日程を前倒しするのかどうかが焦点となっていた。

ナジブ首相は、野党の足並みが揃いその勢力を拡大する前に議会を解散し、総選挙を前倒しすることを一時模索していたといわれる。しかし、自らのスキャンダルに加えてロスマ夫人の数々の疑惑が急浮上するなか、「総選挙の前倒しは逆に不利」と判断して方針を転換、政権維持にまい進する覚悟を決めたとされる。(中略)

これに対し、今や公然と反旗を翻し「ナジブ退任」を求めるマハティール元首相は、野党「人民公正党」の実質的指導者でかつての右腕、有力後継者でありながら「同性愛疑惑」で政界から葬り去ろうとしたアンワル元副首相との歴史的和解で連携を深めている。

さらにナジブ首相を批判して副首相を解任され、与党UMNOからも除名されたムヒディン前副首相を新党党首に迎えるなどマハティール元首相を軸にして「ナジブ包囲網」を着実に固めつつある。

マハティール元首相は野党勢力の大同団結で総選挙での政権交代を目指す、としているが、ナジブ首相やその夫人の次々と浮上するスキャンダル、疑惑を追い風にして、学生や人権団体、中華系組織、イスラム組織など社会のありとあらゆる階層、組織、団体をまとめることで社会的気運を盛り上げ、ナジブ首相に総選挙前の辞任を迫る方策を練っているとみられている。今後のマレーシア情勢からますます目が離せなってきたのは確実だ。【10月18日 大塚智彦氏 Newsweek】
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仇敵の関係にあったマハティール元首相とアンワル元副首相の連携については、以下のようにも報じられています。

****18年の怨念を超えて握手 マハティールと仇敵が目指す政権打****
<マハティール元首相と彼に追い落とされたアンワル元副首相が再会、親しげに握手を交わす姿に、世界中が驚愕。その後約30分間の密談を交わした2人の狙いはナジブ政権を倒すことだ>

9月5日、マレーシアの首都クアラルンプールにある高等裁判所は異様な雰囲気に包まれていた。この日はナジブ・ラザク政権下で8月1日から施行された「国家安全保障会議(NSC)法」に対してアンワル・イブラヒム元副首相が違法性を訴えた裁判の口頭弁論が開かれる予定だった。

その裁判所に予告なしに突然マハティール・モハマド元首相が現れたのだ。

2003年まで22年間マレーシアの首相を務めたマハティールは同国を代表する政治家。一方のアンワルはマハティール政権で副首相を務め、最有力の後継者と目されながらも1998年にマハティールから突然解任され、同性愛や職権乱用の容疑で追及を受けるなどマハティールによって政界の第一線から葬り去られた人物。

言ってみればこの2人は「蜜月から仇敵」と極端に変質した関係を18年間続けてきた関係なのだ。その2人が裁判所の一室で約30分間密談、関係者によると二人は笑顔で握手を交わし「18年に渡る怨念を消去させた」ように真剣に話し合ったという。(後略)【9月13日 大塚智彦氏 Newsweek】
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ただ、ナジブ首相は10月21日に行われた2017年予算案の国会説明において、“自分の選挙区プカンをはじめとして、去る5月のサラワク州選挙および6月のスンガイ・ブサールとクアラ・カンサーでの補欠選挙で与党連合が勝利したように、あらためてナジブ安泰を誇示した”【Onozawa Jun氏ブログ http://ampang301.blog.fc2.com/blog-entry-784.html】とのことで、権力の壁は未だ厚いようです。

“予算案は、低所得層や公務員(農業人口を上回る160万人)への現金支給などの大判振る舞いが目立ち、1MDB問題による政府不信を総選挙で乗り切ろうとするナジブ首相の“選挙予算”と言われても仕方がない色彩が濃い。”【同上】とも。

いかんせん、アンワル元副首相は禁固5年で服役中の身。一方、マハティール元首相は91歳。ギネス級の執念ではありますが、その権力闘争的な取り組みに頼っているようでは、限界があります。

“マハティール、アンワルによる野党共闘は中華系野党を巻き込みながら(1)IMDB疑惑の追及(2)イスラム刑法導入反対(3)NSC法による首相権限強化反対の3点を突破口にして反政府の国民的運動を盛り上げる展開になるとの見方が野党関係者の間では広がっている”【9月13日 大塚智彦氏 Newsweek】とのことですが、都市部はともかく、地方のマレー系住民への浸透がどれだけ実現できるかにかかっていると思われます。
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イラン  次期大統領はロウハニ再選の流れ、そして次期最高指導者は「死の委員会」メンバー?

2016-10-30 23:07:32 | イラン

(イラン在住のみきハヌーンさんのブログ「特派員ママ!@イラン」http://ameblo.jp/iranmama/entry-11928303259.htmlより
テヘラン市内に3か所ある女性専用公園の入り口 中に入ると、ほとんどの女性がスカーフや身体のラインを隠すマーント(コート)を脱ぎ去るそうです。)

来年5月の大統領選に向けて強硬派と穏健派のせめぎ合い
イランでは、制裁解除を目指して欧米との核開発問題合意を進めた穏健派のロウハニ大統領と、これに反発する保守強硬派との間で厳しい対立があるとされています。

そうした政治対立を反映したものでしょうか、今月、ロウハニ政権の3閣僚が辞任したと報じられています。

****イランの3閣僚が辞任、ロハニ政権に痛手****
イラン大統領府は19日、ジャンナティ文化・イスラム指導相ら3人の閣僚が辞任したと発表した。
 
穏健派のロハニ大統領と対立する強硬派は3閣僚を批判しており、路線対立が背景にあるとみられる。ロハニ政権が2013年に発足して以来、閣僚の辞任は初めてで政権には痛手だ。
 
ジャンナティ氏は9月に国内で開かれた音楽会の開催を許可した。音楽会で演奏者と聴衆の男女が握手をしたことなどが「イスラムの教えに反する」とやり玉に挙げられ、同氏の責任を追及する声が宗教界で強まっていた。
 
他に辞任したのはファニ教育相、グダルジ・スポーツ・青少年相。来年5月の大統領選に向けて強硬派が政権批判を強め、強硬派と穏健派の間で対立が深まりそうだ。【10月21日 読売】
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路線対立があるのは事実ですが、辞任の経緯などはよくわかりません。

ジャンナティ文化相についても、上記記事では、音楽会での“不祥事”を保守強硬派に責められて・・・・という話になっていますが、下記記事では、保守派の圧力に屈して音楽ライブを中止したことが穏健派ロウハニ大統領の不興を買って・・・という説明がなされています。

****イラン文化相が突然辞任 音楽ライブ中止が原因か ****
イランで10月中旬、ジャンナティ文化・イスラム指導相が突然辞任したことが23日までに明らかになった。

厳格なイスラム体制下、欧米文化の流入を嫌う保守強硬派の圧力に屈する形で音楽ライブが相次ぎ中止に追い込まれており、穏健派ロウハニ大統領の方針に反したとして不興を買ったことが原因とみられている。
 
昨年7月に欧米などと核合意を結んだロウハニ政権は、社会の自由拡大を掲げてきたが、保守強硬派の頑強な抵抗にさらされ、一向に進んでいない。ライブで公演予定だった著名歌手らが「音楽への侮辱だ」と批判するなど、不満が広がっている。
 
前後して、グダルジ・スポーツ・青少年相とファニ教育相も辞任。2013年8月のロウハニ現政権の発足以来、閣僚の辞任は初めて。来年5月の大統領選を見据えた動きとの見方もある。
 
ライブは今年5~8月、イラン北東部のイスラム教シーア派の聖地マシャドなどで実施予定だった。地元の有力聖職者らが「この街にふさわしくない」と猛反対したことで直前に中止が決定。ジャンナティ氏はこれを追認した。
 
ロウハニ師は8月下旬、「閣僚は法律に従って任務を全うすべきだ。いかなる圧力にも屈すべきではなかった」と不快感を表明。地元メディアはライブ中止と辞任に関連があると示唆している。【10月23日 共同】
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いずれにしても、来年5月の大統領選を控えて、強硬派・穏健派のせめぎあいがあるのは間違いないでしょう。

強硬派アフマディネジャド前大統領出馬自粛で、穏健派ロウハニ再選の流れ
ロウハニ大統領はアメリカ大統領選挙について、「お互いを責め、さげすみ合っている。そんな民主主義は必要なのだろうか」と酷評したそうです。

****さげすみ合っている」米大統領選を酷評****
イランのロウハニ大統領は23日、米大統領選の民主党クリントン、共和党トランプ両候補について「お互いを責め、さげすみ合っている。そんな民主主義は必要なのだろうか」と述べ、これまでの選挙戦を酷評した。西部アラクでの演説内容をイランメディアが伝えた。
 
AP通信によると、ロウハニ師が公の場で米大統領選に言及したのは初。昨年7月に欧米などとイラン核合意を果たすなど、同師は国際社会との融和路線も進めており、国内で反米の保守強硬派が強める反発に配慮を示した可能性もある。
 
今月19日にはイランの最高指導者ハメネイ師も、米大統領選の選挙戦を非難していた。【10月24日 毎日】
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ロウハニ大統領のご指摘はごもっともです。アメリカ大統領選挙の低次元ぶりにあきれているのはロウハニ大統領だけではありません。

ただ、皆が見えるところで争っている・・・というのは、“民主主義”のよいところとも言えます。
選挙などの政治的争いで“さげすみ合い”やドロドロしたものがあるのは、アメリカも日本もイランも同じです。そして、イランの場合は、それが見えないところで進行し、国民に多くが語られないという面があります。

次期大統領選挙での復権を目指して強硬派アフマディネジャド前大統領が選挙活動を始めたものの、最高指導者ハメネイ師から「国が二つに割れる」と不出馬勧告をされた・・・という話は、9月27日ブログ“イラン 最高指導者ハメネイ師がアフマディネジャド前大統領の大統領選出馬自粛を要請、しかし・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160927で取り上げました。

そのときは、最高指導者ハメネイ師との確執もあったアフマディネジャド前大統領が素直に従うだろうか・・・、政治バランに乗っかるハメネイ師に前大統領を抑え込むことができるのだろうか・・・・との疑問をあげたのですが、その後、アフマディネジャド前大統領は実にあっさりと身を引くことを表明しています。

****イラン前大統領、出馬辞退表明「国家のしもべでいます****
イランのアフマディネジャド前大統領は、来年5月の大統領選に出馬しないとする書簡を最高指導者ハメネイ師に送り、27日に公開した。同師は、前大統領に「国が二つに割れる」として辞退を勧告していた。

前大統領は「勧告に従い出馬しません。謙虚な革命の戦士、イラン国家のしもべでいます」とした。【9月28日 朝日】
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“イラン国家のしもべ”などという歯の浮くような言葉は皮肉にも聞こえます。
水面下のドロドロはわかりませんが、一応これでアフマディネジャド前大統領が引き下がり、次期大統領選挙については、ロウハニ大統領の再選も視野に入ってきました。

****<イラン大統領選>ロウハニ師、再選出馬へ 強硬派は反発****
来年5月19日投票のイラン大統領選に、保守穏健派ロウハニ大統領が再選を目指して立候補する見通しとなった。大統領選を統括するラハマリファズリ内相が25日、出馬を明言した。

現段階では保守強硬派の対抗馬は不在で、再選が有力だが、既得権益の打破を試みる政権に強硬派は圧力を強める。約半年後の選挙を見据え、両陣営の綱引きは激しさを増している。
 
「核合意の目標は世界に扉を開き、経済を促進させること。無用な論争をせず、国の発展に努めるべきだ」。昨年7月に米欧との核合意にこぎつけたロウハニ師は23日、政権批判を強める強硬派をけん制した。

政権は、関連ビジネスが国内総生産の最高4割を占めるとも言われ、聖域視されてきた革命防衛隊の経済活動にメスを入れる姿勢を示している。
 
9月初旬、防衛隊が経営する大手建設会社と同社関連企業の取引を大手銀行2行が拒否したことが表面化した。マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金の規制に携わる国際機関「金融活動作業部会(FATF)」に協調する政権の姿勢の表れだ。
 
だが、こうした動きに対し、最強硬派紙ケイハンは「国益に反する」と批判。FATFとの協調を続けるかは防衛隊出身者が幹部の国家安全保障最高評議会にゆだねられた。
 
強硬派の圧力は、公的機関の幹部らが不当に高給を得ていた問題でも表れた。
強硬派系メディアが、1カ月で20億リヤル(約640万円)を得ていた銀行頭取の給与明細書を5月に公開後、相次いで高給問題が発覚。批判の矛先は政権に向けられた。
だが、政権は今月初旬に公的機関の幹部ら約400人の訴追見通しを発表して批判をかわした。
 
さらに、ロウハニ師は23日、ジャンナティ文化・イスラム指導相ら3閣僚の交代を発表。ジャンナティ氏は8月に強硬派の圧力で聖地マシュハドなどでの音楽コンサートを中止したことで、ロウハニ師との不一致が顕在化していた。
 
評論家のダリユシュ・ガンバリ元国会議員は「(今春の)総選挙で支持勢力が拡大し、コンサート問題が噴出したタイミングを選んで行動に出た」と分析。大統領選を見据え、国民の支持を高める措置だと指摘した。
 
最高指導者ハメネイ師は9月下旬の演説で、保守強硬派のアフマディネジャド前大統領に大統領選出馬を断念するよう伝えたと示唆。「君が出れば、社会が二極化する」と述べたとした。

「二極化を望まない姿勢はロウハニ師の穏健路線を追認したも同然」(外交筋)ともみられている。改革派は独自候補の擁立を見送り、ロウハニ師支援を明確にしている。【10月26日 毎日】
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イランの穏健化は幻想か?】
アメリカ・オバマ政権など欧米側がイランとの核開発問題合意を進めた背景には、イランにおける“穏健派”政権を後押しして、人権・民主化での改善への期待があります。

その後、イラン側には、欧米側の経済制裁解除が一向に進まないという不満が、欧米側には、イランが合意を十分には守っていないという不満がありますが、イランに対し厳しい立場をとる向きには、そもそも、“穏健派”とは言いつつも、その本質はかつての弾圧政権と変わらず、“穏健派”への期待は幻想にすぎないとの指摘もあります。

****オバマ政権が期待したイランの穏健化は幻想だ****
<イラン・ロウハニ大統領の本質は3万人の反体制派を大量処刑した革命初期の指導者と変わらない>
(中略)
法相は大量処刑の責任者
エスカレートするイラン側の挑発は、国際社会に決断を迫っている。今こそ危険な行動を止めようとしないイランの「穏健派」と本気で対峙すべきだ。
 
ロウハニ政権に対する国際社会の対応が後手に回っている問題はほかにもある。ロウハニ政権には「穏健派」のイメージがあるが、イラン国内の人権状況は一貫してその評判を裏切るものだった。
 
だからこそオバマ政権と同盟国は、核合意と1月の人質交換(米政府も7人のイラン人を釈放)の「成功」を優先させ、人権問題をあえて積極的に取り上げようとしなかったのかもしれない。
だが現在、イランの穏健化が進行していないことは火を見るよりも明らかだ。
 
ロウハニについて、イスラム革命初期の指導者とは違うと考える根拠は何もない。88年、反体制派の政治犯3万人を処刑した当時の体制と現政権との間に本質的な違いはない。

最近になって明らかになった情報によれば、このとき反体制派の処刑やその他の人権侵害に反対した当局者は、例外なく権力の座を追われた。一方、積極的に加担した当局者は高く評価され、現在まで権力の中枢にとどまっている例も少なくない。
 
ロウハニ政権のプルモハンマディ法相もその1人だ。88年当時、プルモハンマディは情報省の代表として、処刑する政治犯を選ぶ「死の委員会」のメンバーに加わっていた。このような人物が現政権で大きな力を持っていること自体、「穏健派」への期待が幻想にすぎないことを雄弁に物語る。
 
イランの対外的な侵略姿勢と国内での暴虐に立ち向かう勢力が、現体制の内部から生まれることは期待できない。対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ないのだ。【10月4日号 Newsweek日本版】
*******************

欧米的価値観からすれば“穏健派”の本質については上記のような話にもなるのでしょうが、現実問題としては、国民の自由な活動への理解・対応については、強硬派との間に差もあるのも事実でしょう。

“対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ない”と言っても、それこそ“幻想”にしか過ぎません。

制裁措置でもっと強力に締め付けろ・・・ということであれば、イラン国内を反欧米の方向に追いやるだけのように思えます。

【“次期最高指導者候補”は「死の委員会」メンバー
イランの次期大統領をめぐるっては、先述のようにロウハニ再選の方向の流れがありますが、高齢の最高指導者ハメネイ師についても、“次期”が取り沙汰されています。

下記記事によれば、次期最高指導者には、上記記事にある「死の委員会」のメンバーでもあった、強硬派イブラヒム・ライシなる人物が有力視されているそうです。

****イランの次期大統領候補も仲間とは言えない****
(筆者注:内容的に“次期最高指導者候補”の間違いではないかと思われますが、原文のまま)

米外交問題評議会のレイ・タキー上席研究員が、9月26日付ワシントン・ポスト紙に、「イランの次の最高指導者になりそうな人は西側の友人ではない」との論説を書き、イランの次の指導者と目されているイブラヒム・ライシの経歴などを紹介しています。論旨、次の通り。

最も反動的な人物
イランが実利的になることへの最大の障害は最高指導者ハメネイであると言われてきた。(中略)
しかし、ハメネイと革命防衛隊が最高指導者になるように育てている人イブラヒム・ライシは、イランの支配エリートの中でも最も反動的な人物の一人である。
 
ライシは56歳で、ハメネイ同様、マシュハード市出身である。神学校に行った後、彼は検事総長、一般監察当局の長、聖職者特別法廷(聖職者を公式見解から逸脱しないようにする機関)の検事など、法執行部門で働いた。彼は1988年、でっち上げの容疑で数千の政治犯を処刑した「死の委員会」の一員であった。
 
最高指導者は尊敬される聖職者がなるものと考えられてきたが、ハメネイは宗教面では冴えない経歴しかなかった。それで、そうでもない人が最高指導者になる道を開いた。
 
ライシの経歴は、反政府派弾圧を使命とする革命防衛隊の好みに合う。革命防衛隊の司令官は最近、イランの政権への脅威は外部の圧力より国内での反乱にあると述べた。ハメネイの理想的な後継者は革命防衛隊と同じ見方を持ち、治安・司法当局と緊密な関係を持つ人ということになる。革命防衛隊はそういう人としてライシを支持している。(中略)

ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である。彼らはイランを中国――イデオロギーを捨て、商業利益を重視した――にしないと決心している。

2009年春の反乱は、いまや米では忘れられているが、イランの神政政治擁護者にとり分水嶺的出来事であった。ハメネイの下、イランは警察国家になった。その論理的帰結として、イランの抑圧機関からの人が最高指導者になろうとしている。
 
正式には専門家会議が次の指導者を選ぶが、現実には決定は今裏で行われている。

ロウハニ大統領は穏健政権への希望であるが、この権力劇には関係がない。ハメネイなどは、次の指導者は不安な時期に権力の座につくと考えている。この指導者は西側への軽蔑心を持ち、政権のために流血もいとわない人であるべきである。神政政治の抑圧を信じるとともに、その機構の一部であったライシほどそういう属性を持つ人はいない。(後略)【10月28日 WEDGE】
********************

ハメネイ師は1939年生まれで77歳、健康状態が悪いという話は時にはありませんので、まだまだ・・・という感じもありますが、専門家会議の選挙でも“次期最高指導者の決定に関与する”という点が注目されていました。

【「神政政治」と異質視することの弊害
イブラヒム・ライシなる人物については全く知りませんし、次期最高指導者に関する動きも知りません。
ただ、“ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である”として、イランの「神政政治」の面を強調する上記論調には違和感もあります。

イラン政治は国民の“民意”に左右され、穏健派・強硬派ともに“民意”を自分の側に引き寄せようと争っているという点で、欧米のそれと似通っているとも言え、「神政政治」というほどの仰々しいものではもはやないように思えます。

ハメネイ師の最重要問題は政治的バランスであり、強硬派と言われる革命防衛隊の最重要問題はイラン経済の中核をなす経済的既得権益ではないでしょうか?「革命の価値」も、そうした既得権益を守るために都合よく利用される面があるようにも思えます。

「神政政治」という異質なものとしてとらえると、話し合いの余地もなくなりますが、穏健派にしろ強硬派にしろ現実的利害を重視しているという観点から見れば、そこには交渉の余地が生じてきます。
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戦乱が続くアフガニスタンを逃れ、パキスタンで難民生活していた「アフガンの少女」の逮捕

2016-10-29 22:44:12 | アフガン・パキスタン

(1985年6月号の米誌ナショナル・ジオグラフィックの表紙を飾った「アフガンの少女」、シャーバート・グーラーさん(当時12歳)【10月27日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

【「アフガンの少女」逮捕 難民送還を強化するパキスタン
1985年6月号の米誌ナショナル・ジオグラフィックの表紙を飾った有名な写真「アフガンの少女(Afghan Girl)」をご存じでしょうか?

“写真家スティーブ・マッカリー氏がシャーバート・グーラーさんを撮影したのは1984年12月のこと。場所はパキスタンの難民キャンプ、彼女は12歳だった。一度目にすれば忘れられない緑色の瞳の少女は、難民やこの地域の政情不安、社会不安の国際的な象徴となり、20世紀でもっとも有名な一般人とさえ言われるようになった。”【10月27日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

“グーラーさんは、自分の写真が何百万人もの目に触れていたことなどまったく知らなかった。もちろん、それをきっかけにして多くの人が難民を助けるためのボランティアや寄付に参加していたこともだ。”【同上】

写真の被写体となった女性シャーバート・グーラーさんが、不正な身分証明書でパキスタンで生活していたとして、同国で逮捕されたことが報じられています。

*****写真「アフガンの少女」の女性、不正身分証で逮捕 パキスタン******
米誌ナショナル・ジオグラフィックの表紙を飾った有名な写真「アフガンの少女(Afghan Girl)」の被写体となった女性が26日、不正な身分証明書でパキスタンで生活していたとして、同国で逮捕された。
 
スティーブ・マッカリー氏が1984年にパキスタンの難民キャンプで撮影した当時12歳のシャーバート・グーラーさんの写真は、ナショナル・ジオグラフィック誌で最も有名な表紙写真となった。
 
パキスタン当局者によると、グーラーさんは2014年4月、ペシャワルでシャーバート・ビビと名乗り、パキスタンの身分証明書を申請した。パキスタン連邦捜査局は、情報登録当局の3人が、グーラーさんへの身分証明書の発行に関与している疑いがあるが、3人は不正発覚後行方をくらましているという。

パキスタンのコンピューター化された登録システムを巧に回避してグーラーさんと同様に身分証明書を取得したアフガニスタン難民は数千人規模に上るとされている。有罪となった場合、グーラーさんには最高で14年の禁錮刑が言い渡される。【10月26日 AFP】
******************

私は、「アフガンの少女」は全く知りませんでした。
1985年・・・・当時は、毎日終電で帰宅するような仕事とプライベートなことで頭はいっぱいで、新聞すらろくに読まないような日々だったようにも思います。

1979年にソ連軍がアフガニスタンに侵攻し、ソ連軍に支えられた政府軍とムジャーヒディーン(イスラム教の大義にのっとったジハードに参加する戦士 イスラム系民兵)との間で内戦が繰り広げられていた時期です。(現在のシリアのようなものでしょうか)ソ連軍は1989年に撤退完了、その後1996年にはタリバン政権が樹立されます。

****アフガンの少女」、逮捕の背景****
・・・・・「処罰は受けないだろうと言う専門家もいれば、7年から12年ほど収監されるかもしれないと言う者もいます」と(かつてナショナル ジオグラフィックの通訳を務め、グーラーさんとの交渉も行っていた)ユスフザイ氏は話す。

同氏によれば、現在、グーラーさんは警察によって拘束され、取り調べを受けている。政府が刑事告発するかどうかを判断するまで、拘留は最大14日続く可能性がある。(中略)
 
当局が難民送還を強化
1980年代のアフガニスタン紛争で、何百万人もの人々がアフガニスタンを出た。パキスタンに向かった人の数は250万人とも言われている。
 
しかし、難民は必ずしも歓迎されるわけではなく、差別や悪意を向けてくるパキスタンの住民や政治家もいる。
 
2014年、パキスタンは6万以上の身分証明書が外国の難民によって不正に取得されていると述べ、難民たちを送還する計画を発表した。国連によれば、35万人以上のアフガニスタンの難民がパキスタンを離れて祖国に向かっている。
 
ユスフザイ氏は、昨年だけで何千人ものアフガニスタン人が不正な書類を持っていた疑いで逮捕されていると話す。「世界的に知られるシャーバートがこういった事件に関わっていれば、話は大きくなります」
 
グーラーさんは、身分証明書を受け取るために担当者に450米ドルほどの賄賂を渡したとされている。
身分証明書があれば簡単に移動したり、ビジネスを行ったりできるため、近年は、身分証明書が好まれる傾向にある。
 
(「アフガンの少女」を撮影した写真家)マッカリー氏が2002年に所在を確かめてからも、グーラーさんはずっとペシャワルで暮らしていた。5人の子供がいたが、数年前、出産時に娘の1人を亡くし、夫もその頃に病気で亡くした。

「彼女の子供たちも助けを求めています。彼らも逮捕されることを恐れているのです」とユスフザイ氏。「グーラーさんはアフガニスタンに戻ることは望んでいません。村は安全でないからです」(後略)【10月27日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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アフガニスタンが彼女が生まれる前も、有名な写真が撮影された1984年も、彼女がパキスタンに身を潜めていた頃も、そして今現在も、ずっと紛争・内戦が続いています。

イギリスとロシアが覇権を争う「グレートゲーム」の舞台として、19世紀から20世紀初頭にはアフガニスタンとイギリスの間で三次にわたる「アフガン戦争」が戦われ、その後も、併合しようとするパキスタンへの抵抗、王制から共和制へ、軍事クーデター、ソ連侵攻、軍閥が争う内戦、タリバン支配、アメリカの軍事介入、内戦再発・・・・。

“不正な身分証明書”による彼女の逮捕は、彼女一人の問題ではなく、上記のような紛争・内戦が続くアフガニスタンの人々の苦難の歴史、難民生活を余儀なくされている現実のひとつとしてとらえるべきものでしょう。

難民が生きていくうえで“不正な身分証明書”を得ようとすることが、どれだけだけの犯罪行為とみなされるべきものなのか?パキスタンの実情を知りませんので何とも言えませんが、必要に迫られてのものだったのでは・・・とも思えます。パキスタンがそれほど難民に優しい国とは到底思えませんから。

心無い誹謗中傷も
彼女の逮捕については、その容姿の変化について“別人のような超絶劣化”とか“裏切られた気持ち”といった、無神経・失礼極まる、書いた人間の人間性を疑うような記事もあるようです。

****悲報】逮捕された「アフガンの少女(ナショジオ)」の現在の姿に世界が衝撃! 32年間で別人のように超絶劣化していた****
2016.10.27 トカナ
「アフガンの少女」――それは米誌『ナショナル・ジオグラフィック』で、もっとも有名な表紙写真だ。あなたもきっと、どこかで一度は目にしたことがあるだろう。

内面の純粋さと強い意志が滲み出たような鋭い眼差し、そしてボロボロのスカーフや褐色の肌とのコントラストが、見る人に強烈な印象を残し、難民の苦境を世界に訴えかけた。写真家のスティーブ・マッカリー氏が、1984年にパキスタンの難民キャンプで、シャーバート・グーラーさん(当時12歳)を撮影したものだ。(中略)

あの純粋な眼差しで世界の人々の心を動かした少女が、犯罪に手を染めていた――それだけでも十分に衝撃的な話だが、さらに驚くべきは現在の彼女の姿だった。

パキスタンのペシャワールで公判を待つシャーバートさんの姿を捉えた写真が公開されたが、そこにいる女性の顔に、もはや過去の面影はまったく感じられないばかりか、別人のような超絶劣化ぶり。あまりの変わりように、再び世界に戦慄が走っているのだ。

現在44歳になると思しきシャーバートさんだが、彼女の表情はやつれ、完全に輝きを失った瞳はどんよりと濁り、まるで死んだ魚のよう。世界中の人々の心を動かした純粋さは、見る影もなく消え去っている。

「アフガンの少女」は、いまや完全に「アフガンの違法おばさん」に成り下がってしまった。まるで久しぶりに再会した昔の恋人が、過去とは別人のように変わってしまい、美しい思い出が(悪い意味で)更新されてしまった時のような、裏切られた気持ちを抱く人々もネットユーザーにはいるようだ。
 
いったい、シャーバードさんはどんな32年を送ってきたのか? 彼女の衝撃的な変貌は、私たちにまた新たな“難民問題”を突きつけたと言えるのかもしれない。たとえ一卵性双生児でも、生きてきた環境が異なると顔がどんどんと違うものになるという報告もあるが、やはり彼女は想像もできないほど波乱万丈な半生を送ってきたのだろうか?【10月27日 トカナ http://tocana.jp/2016/10/post_11306_entry_2.html
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自身の知らないところで苦難のアフガニスタンの象徴とされ、今度は“「アフガンの違法おばさん」に成り下がってしまった”とか“裏切られた気持ちを抱く人々も”とか・・・あまりにも心無い書きようです。

タリバンとの和平交渉の話もあるものの、問われるパキスタンの責任
アフガニスタンの現況については、タリバンとの交渉も報じられています。

****アフガン政府、タリバーンと非公式協議 米も同席****
アフガニスタンの政府代表者と反政府武装勢力タリバーンの幹部が、中東カタールで非公式の協議を始めた。タリバーン幹部やアフガン外交筋が明らかにした。米政府代表者も同席したといい、停滞する和平交渉の再開を模索する動きとみられる。
 
会談したのは、タリバーン創設者だった故オマール最高幹部の親族とアフガン情報機関の中枢幹部ら。タリバーンが外交窓口を置くカタールで9月と10月上旬の2度、話し合い、協議の継続で合意したという。
 
また、10月中旬にはタリバーン幹部3人が隣国パキスタンの首都イスラマバードを訪問。パキスタン治安当局に、今回の協議を事後説明したとみられる。
 
2010年に始まった和平交渉は、タリバーン内の意見対立や周辺国の思惑でたびたび決裂してきた。昨年7月の直接協議は、オマール幹部の死亡情報が暴露されて中断した。昨年12月にパキスタンが協議を促したが、タリバーン側が拒絶。米軍が今年5月、後継の最高指導者マンスール幹部を空爆で殺害したことで、亀裂が深まった。
 
一方、タリバーンは今夏以降、ロシアやイラン、中国、中央アジア諸国と接触。代表団を頻繁に派遣している。タリバーン関係者は「今回の協議は米政府が働きかけた。タリバーンのロシア接近を食い止めたい思惑がある」と指摘する。【10月25日 朝日】
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ただ、“(交渉の場を提供した)アラブ首長国連邦の当局者は、協議はこれまでと同様、時間と金を無駄にしただけで、何の成果もなかったとしている。”【10月19日 産経】とも報じられており、あまり期待しないほうがいいようにも。

また、このブログでも再三取り上げているように、アフガニスタンの混乱はパキスタンの自己都合で長引いている面が多々あります。

タリバーン幹部3人パキスタン治安当局に今回の協議を事後説明・・・というように、タリバンを支援しているパキスタン国軍、ISI(三軍統合情報局)に混乱を終わらせる気があれば、とっくにタリバンの活動は停止しているのでは・・・とも思えます。

パキスタンがアフガニスタン難民を送還すると言うのであれば、まずはアフガニスタンでの戦乱を終わらせてからの話でしょう。

ケシ大豊作に見るアフガニスタンの混迷
アフガニスタンはヘロインなどの原料となるケシの世界最大の生産国ですが、そのケシ栽培が今年は大幅増産・大豊作だそうです。

もちろん、アフガニスタン政府は国際協力のもとで(実入りの良い)ケシ栽培から他作物への転換を進めていますが、“今年これまでに破壊処分にしたケシ栽培面積は355ヘクタールで、昨年通年の3760ヘクタールからは91%減となった”【10月27日 CNN】とも

ケシ増産の主因は国内各地での治安悪化で対策事業が予定通り実施出来なかったことにある(アフガン麻薬対策省の報道担当者)とのことで、アフガニスタンの混迷・アフガニスタン政府の機能不全を象徴する現象です。

****<アフガン>ケシ産出量4割増****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は23日、ヘロインなどの原料となるケシの世界最大の生産国であるアフガニスタンで、今年のケシ産出量が昨年より43%増の4800トンに達する見通しだと発表した。
 
ケシは旧支配勢力タリバンの重要な資金源とされる。アフガンはタリバンの攻勢などで治安が悪化。ケシの栽培面積は前年比10%増で、今年は病虫害が発生しなかったことから1ヘクタール当たりの収穫量も3割以上増加する見込みだという。
 
アフガン政府やUNODCは、住民にケシから別の作物への転換を支援するなど栽培面積の減少に努めているが、治安悪化などで対策が追いついていない。

アフガンでケシから生産されたヘロインはトルコからバルカン半島を北上するルートで欧州などに密輸される。近年はイランなどから海上ルートで東アフリカに持ち込まれるケースも出ている。【10月23日 毎日】
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「完全自動運転車」や「空飛ぶタクシー」の時代を支えるエネルギーは、自然エネルギーか原子力か?

2016-10-28 22:18:25 | 原発

(ウーバーの描く「空飛ぶタクシー」【10月28日 Newsweek】

動き始めた変化は、案外早く現実のものとなるのかも
人工知能(AI)を駆使した新技術の研究・開発が急速に進んでいることは今更言うまでもない話で、いろんな場面でのロボット技術や、完全自動運転車などが私たちの生活の中に登場するのも、そう遠くない将来と思われます。

産業イノベーションの起爆剤という点もありますが、先ほどもTVニュースで高齢者ドライバーが運転する車に起因する事故を報じていましたが、今後急速に高齢化が進む日本にあっては、高齢者ドライバー問題をクリアする点でも、完全自動運転車は必要不可欠で、早期の実現が望まれる技術でしょう。

ただ、そうは言うものの、現実世界に暮らす身からすると、そんなに大きな変化がすぐに始まる・・・・という実感も湧かないのが正直なところです。

しかし、動き始めた変化は、私たちが感じているよりも案外早く現実のものとなるのかも。

自動運転車については、自動運転中だったテスラ車がアメリカ・フロリダ州で死亡事故を起こした事例など、今後もこうした事故が不可避で、どの程度現実性があるのだろうか?とも思ってしまいますが、テスラは強気のようです。

****早くも2017年が「完全自動運転」元年に****
今後登場するすべてのテスラ車が完全自動運転に対応  アプリ1つで車が迎えに来てくれる時代に
 
テスラモーターズは先週、移動中のクルマの操作に人間がまったく関与しない「完全自動運転車」の実現に近づきつつあることを明らかにした。今後生産するすべての車に、完全自動運転が将来的に可能となるカメラやセンサーなどの装備を搭載するという。
 
ソフトウエアを段階的に更新することで自動運転が可能な範囲を広げていき、最終的に完全自動運転を実現する予定だとしている。そうなれば専用のスマートフォンアプリを操作するだけで、車が迎えに来てくれる時代が到来する。
 
これでテスラは、自動運転車開発競争の先頭へと一気に躍り出たようだ。「来年末までに、ロサンゼルスからニューヨークまで完全な自動運転で走破できるようにする」と、イーロンーマスクCEOの鼻息も荒い。(後略)【11月1日号 Newsweek日本版】
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2017年が「完全自動運転」元年となるのは、あくまでもハード面の話で、“必要なハードウエアを前もって車に搭載し、実際の自動運転機能はソフトウェアの更新で提供する方法だ。”ということですが、“テスラがソフトウェア更新のボタンを押せば、あっという間に何十万台もの車が自動運転を始めるだろう。まるでハリウッド映画のボットの反乱のように。”という話にもなります。

地上の「完全自動運転車」どころか、空を見上げると、全自動ドローンを使った「空飛ぶタクシー」がビュンビュン飛び回る・・・という日も。

****都会の空を「空飛ぶタクシー」でいっぱいにするウーバーの未来構想****
<タクシー配車サービスのウーバーが、全自動ドローンを使った「空中交通システム」構想を発表。機体メーカーや関係当局を巻き込む野心的な構想だが、その現実味は?>

2030年までには、道路や建物を飛び越えて、客を乗せて目的地まで運ぶ全自動ドローンが都市部の空を飛び回ることになる――もしもウーバーの思い通りになれば、の話だが。

米配車サービス「ウーバー」の製品担当主任ジェフ・ホールデンは今週、垂直離着陸(VTOL)飛行機を使った「空中ネットワーク」の将来構想を、99ページの詳細な白書にまとめて公表した。

最近ウーバーは、タクシーに自動運転車を投入することを発表したが、それすらたいした話ではないように見えてしまう白書だ。

しかしウーバーがVTOL機を製造するわけではない。むしろ、「空中」交通システムがどのようなものになるか、機体メーカーがどうVTOL機の製造に取り組んだら良いかを提示した白書だ。もちろん最終的には、ウーバーが空中ネットワークを商業化して収益を上げるのが目標だ。

十数社が機体を開発中
白書が示した未来構想では、自動車で2時間かかる移動が15分に短縮され、道路や橋、トンネルといった既存の交通インフラは、地上を走る自動車による混雑から解放される。

「最新の技術進歩によって新しいタイプのVTOL飛行機の製造が現実的になった。十数社の企業が、多くの異なった機体デザインをベースに、VTOL機の実用化に熱心に取り組んでいる」と、白書は記している。

今日使われている技術で最もVTOL機に近いのはヘリコプターだが、ホールデンは、ヘリコプターは騒音がひどく、効率性が低く、大気汚染も引き起こすし、費用がかさむと指摘している。

VTOL機を実用化するうえで最大の障害となるのは、法規制やバッテリー技術、信頼性、費用、安全性だ。しかしホールデンは、こうしたすべての障害を克服する解決策が、近い将来見つかるだろうと記している。

「今回の白書は実現に向けた行程のスタートを意味する。ウーバーはこれから、関連企業やインフラ・規制関係当局をはじめ、都市自治体、自動車メーカー、サービス利用を見込める顧客代表、地域コミュニティなどにアプローチして、この都市型空中交通システムの意義を認識し、導入を検討するように働きかけていく」【10月28日 Newsweek】
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「完全自動運転車」よりもはるかに“絵空事”のようにも思えますが、空中には障害物があまりないことを考えると、技術的には地上の「完全自動運転車」よりは簡単かも・・・・。

もっともVTOL機の実用化は、オスプレイで大騒ぎする日本では当分無理そうですが。

アフリカでも進む自然エネルギー活用
こうした‟絵空事”や“夢物語”とは違って、自然エネルギーの活用は地道に進んでいます。

電力事情が悪いアフリカなどは、太陽エネルギーの面では、むしろ他の地域よりも有利な条件下にあります。

****モスクから始まる「エコ」=再生エネ普及の手本に―モロッコ****
北アフリカのモロッコで11月に開かれる国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)を前に、同国は再生可能エネルギー導入などを通じたモスク(イスラム礼拝所)の「エコ化」を進める方針を決めた。

AFP通信によると、まず主要6都市の64モスクで着手する。イスラム社会で大きな影響力を持つモスクでの取り組みは、専門家からも「再生可能エネルギー普及の手本になるのでは」と注目を集めている。
 
人口の99%がイスラム教徒のモロッコには、約1万5000のモスクがある。省エネルギーは発光ダイオード(LED)照明への切り替えや、太陽光発電、太陽熱を活用した温水システムの整備によって実施。神聖な祈りの場でもあるモスクの外観には影響を及ぼさない。
 
再生可能エネルギー導入を推進するため政府が設立したモロッコ・エネルギー投資会社によると、目標は全モスクのエネルギー費用の4割削減。首都ラバトにあるモスクでは、消費エネルギーを68%も減らせると試算された。

礼拝前に手足を清める際、太陽熱で温めた湯を使えるようになったり、余裕のできた電力を活用して空調を整備したりし、利用者にも恩恵がある。(中略)

エコ化に必要な技術は、いずれも地元で調達可能で、雇用拡大にもつながると期待されている。取り組みにはドイツ国際開発公社(GIZ)も参加しており、(北アフリカの都市計画史に詳しい筑波大の)松原准教授は「COP22に際し、先進国が途上国を支援する流れに乗っているのではないか」と話した。【10月11日 時事】 
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****アフリカ大陸初の太陽光発電空港、環境や経費に貢献 南ア****
南アフリカ南岸の都市ジョージ(George)には、太陽光発電を利用したアフリカ大陸初の「環境に優しい」空港がある。
 
管制塔やエスカレーター、チェックインカウンター、荷物運搬用コンベヤー、レストラン、ATMなど、ここでのサービスすべてに利用されているのは、数百メートル離れた滑走路に隣接した土地に設置された、小規模な太陽光発電所の電力だ。
 
2000枚の太陽光パネルが作り出す電力は、1日当たり750キロワットで、空港の運営に必要な400キロワットを上回る。(中略)この空港の年間利用者数は約70万人。太陽光を利用して運営される空港としては、インド南部コチン(Cochin)の空港に次いで世界で2例目。
 
こうした意欲的なプロジェクトは、早くも環境面で良い結果をもたらしている。太陽光が主要電力となって以降、この空港の二酸化炭素の排出量は1229トン減少。これは、燃料10万3934リットル分に相当する。
 
また電気料金は年間40%削減されたため、初期費用の1600万ランド(約1億1500万円)分はあと5~10年で採算が取れる見通しだと空港当局者は語っている。【10月14日 AFP】
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****セネガル、太陽光発電施設の運転開始****
再生可能エネルギー事業への参入を目指すセネガルで22日、サハラ以南のアフリカ地域で最大規模の太陽光発電施設が運転を開始した。
 
モーリタニア国境に近いセネガル北部のボクルに建設された太陽光発電施設「Senergy 2」は出力20メガワットで、16万人分の電力を供給する。セネガルは2017年までに電力需要の20%を再生可能エネルギーで賄う目標を掲げており、その達成にも貢献する見込みだ。
 
同国では現在、全世帯の45%で電力が不足している。
総工費2800万ドル(約29億円)のこの施設はセネガル政府の支援を受け、フランスの再生可能エネルギー企業グリーンウィッシュ(GreenWish)によって開発された。また英国とノルウェーから共同開発投資グリーン・アフリカ・パワー(Green Africa Power)を通じて資金援助を受けた。
 
グリーンウィッシュによれば、この施設により毎年、二酸化炭素(CO2)2万3000トンの排出を削減できるという。
 
また、来年1月末までにはさらに2つの太陽光発電施設が運転を開始し、新たに50メガワットが増加される予定だ。国営電力企業セネレックによると、同国の現在の総発電容量850メガワット。
 
ボクルの太陽光発電施設はモロッコや南アフリカに比べるとその規模は小さく見えるが、セネガルは再生可能エネルギーにおいて、アフリカのほかの地域よりも太陽光発電技術の活用で遅れをとっている西アフリカで手本となることを目指している。
 
アフリカ大陸には一年を通して太陽が降り注ぎ、未開発の土地が多いにもかかわらず、サハラ以南のアフリカ地域の電力需要に対する太陽光発電の割合はわずかにとどまっており、同地域の人口、約10億人のうち約6億人に電力が行き届いていない。【10月28日 AFP】
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****ドバイ、1000メガワットの太陽光発電所を建設へ****
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ電力水道公社(DEWA)は今月初め、2030年までに1000メガワット級の太陽光発電所を建設する計画を発表した。DEWAは2030年までに電力需要の25%を再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げている。
 
2021年4月までに、第1段階として集光型太陽光発電(CSP)施設で200メガワットの発電を目指すという。DEWAのサイード・テイヤー(Saeed al-Tayer)最高経営責任者(CEO)は「このプロジェクトは世界最大のCSP施設になる」と述べた。DEWAは現在、発電所を建設・運用し、送電公社に電力を販売する民間企業を探している。
 
バイ首長国は2013年10月に13メガワットの発電所を建設しており、2017年4月からは別の200メガワット級の発電所が操業可能になる見通しとなっている。

原油が豊富な隣のアブダビ首長国と異なり、ドバイ首長国の原油埋蔵量は減少しており、ドバイは貿易や運輸、観光へと経済の多様化を目指している。【6月24日 AFP】
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中国のエネルギー事情
お隣・中国の事情を見ると、“買い取り価格を高額に設定するなど再生可能エネルギーへの優遇策を背景に、中国では過去5年で風力と太陽光の発電能力が予想を超える伸びを見せている。”【10月22日 ロイター】ということで、2016年の再生可能エネルギー事業者に交付する補助金が、600億元(90億ドル)不足する可能性があると明らかにされています。

また、深刻な環境汚染に配慮して、火力発電所30基の建設を中止することを発表し、「世界的にも前例がない規模の措置だ」とも評されています。【10月25日 Record chinaより】

もっとも、“10月25日、世界原子力協会(WNA)は、中国が今後10─15年に、米国を抜き世界最大の原子力発電所保有国となる見通しだと明らかにした。大気汚染対策として、原子力発電所の建設を急いでいることがその理由という。”【10月26日 ロイター】と、原子力発電への転換を急いでいるようです。

現在は問題も大きい再生可能エネルギーではあるが・・・・
再生可能エネルギーの問題点としては、その不安定性が挙げられ、そこが原子力発電を重視する立場の根拠ともなっています。

****オーストラリア南部の州全土が停電、再生エネルギーに過度の依存へ疑問符****
激しい嵐に見舞われ、州全土で大規模な停電が発生した豪サウスオーストラリア州で29日、電気がほぼ復旧した。停電の影響で、資源大手BHPビリトンは操業を停止し、公共交通機関は運休した。

当局によると、29日朝までに州の90%で電気は復旧したが、強風や豪雨が予想されるため、さらなる混乱が起きる可能性があるという。
 
この停電を受け、風力発電の比率が40%という同州の再生可能エネルギーへの過度な依存が、事態を悪化させたのではないかとの疑問が生じている。
 
気候変動に懐疑的なジョイス副首相は29日、「再生可能エネルギーへの過度の依存が問題を悪化させたのではないか、再生可能エネルギーに安定した電力供給能力があるのか、疑問を呈する必要がある」と、オーストラリア放送協会(ABC)ラジオで述べた。
 
石炭火力発電所が主力のオーストラリアは、一人当たりの二酸化炭素排出量が世界で最も多い国の一つ。再生可能エネルギーの比率増加に取り組んでいる。【9月29日 ロイター】
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ただ、漠然とした素人考えですが、これだけ技術進歩が著しい現代ですので、効率的な蓄電技術なども本腰をいれれば可能なのでは・・・・。

また、経済的コストにおける原子力発電の優位性という話は、どこまで廃炉や廃棄物処理、事故時の対応などをシビアに見込んでいるのか・・・いささか怪しい感もあります。

何よりも、事故時の被害の大きさ、廃棄物処理をどうするのかという点で技術的に完成していないといった問題があることは言うまでもありません。

個人的に言えば、原発が立地する場所で“共存”しており、あまり原発を目の敵にするつもりもありませんし、地域経済が原発に大きく依存している面も無視できません。

ただ、再生可能エネルギー利用が進むなかで、厄介な面がぬぐえない原子力発電というのは、いつのまにか、安全性とか将来的負担などはあまり重視しない“途上国タイプ”の“過去の技術”になりつつあるような気もします。(「不要だ」とか「今すぐやめろ」とは言いませんが)

地上を「完全自動運転車」が走り、空を見上げると、全自動ドローンを使った「空飛ぶタクシー」がビュンビュン飛び回る・・・という日には、自然エネルギーが現在抱えている問題は技術的対応が可能になるように思えますが、原発の問題が解消されるとは思えませんので。
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イラク・モスルの戦況 シリア・ラッカ奪還作戦も準備 両地域で関与を強めるトルコ、新たな火種にも

2016-10-27 21:56:38 | 中東情勢

(イラクのトルコ大使館の前で、トルコ軍の撤収を求める人々=バグダッドで18日、AP【10月25日 毎日】)

徹底抗戦のIS 「最後の一人になっても抵抗」するのか?】
イラク・モスルの「イスラム国(IS)」からの奪還作戦は、ISの自爆攻撃を含めた抵抗や、住民を「人間の盾」とする市街戦などで、難航するだろう・・・と予想されています。

実際のところ、作戦がどの程度の時間を要し、どのくらいの犠牲者が出るかは、IS戦闘員の士気によります。
これまでの事例から、IS指導部からは「最後の一人になっても抵抗せよ」との指令が出ているであろうと思われる一方で、撤退準備が既に始まっているという話もあるようですし、これまでも実際には「撤退」しています。

****最後の一人になっても死ぬまで抵抗せよ****
徹底抗戦を命じるISIS指導部の手紙を独占入手 モスルの攻防ではどこまで粘り強さを見せるのか

・・・8月にシリア北部のマンビジでISISが包囲された際に送られた手紙を、本誌は独占入手した。
専門家によればこれを元に、イラク北部のモスルで抵抗を続けるISIS司令官に下される命令も推測できるという(中略)

手紙の日付は8月8日で、マンビジがシリア民主軍に奪還されるわずか4日前。アラビア語で手書きされた手紙は、挑発的で残酷な指示を容赦なく伝えている。最後まで戦え、逃亡兵を殺せ、敵軍の協力者は皆殺しだ、と。

「包囲された同志全員に告ぐ。最後の一人になっても抵抗せよ」
 
この手紙からは、逃亡兵だけでなく、敵軍に投降したい兵士の存在もISIS指導部が認識していたことが分かる。米軍主導の掃討作戦を受けて、ISISの兵士たちの士気が低下していた証しだ。 

そうした兵士たちを司令官は「背教者」と呼び、処刑せよと命令。敵軍に協力する住民たちもまた背教者だから殺してしまえと命じている。(中略)

この手紙に関して重要々のは、「死ぬか、神が勝利を与えるまで戦え」という命令が結局は無視されたことだろう。8月12日にシリア民主軍がマンビジを奪還した際、残っていたISIS兵は街を捨てて逃げたのだ。
 
「問題はモスルでも同じことが起きるかどうかだ」と、米プリンストン大学の研究者コール・ブンゼルは言う。
「拠点としてはモスルのほうが重要だから、彼らはマンビジのときよりもずっと粘り強く戦うと思う。でも結局は撤退するかもしれない」
 
撤退準備は既に始まっている。イラクとアメリカの高官らによれば、ISISはモスルの地下に逃亡用の抜け穴を掘りながら、敵軍の侵攻を遅らせるために爆弾を仕掛けているという。(後略)【11月1日号 Newsweek日本版】
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戦闘激化に伴って残虐行為も拡大
徹底抗戦命令がどうなるかはわかりませんが、「敵軍に協力する住民たちもまた背教者だから殺してしまえ」という命令はすでに実行されているようです。

****IS、モスル周辺で残虐行為か 障害のある女児殺害の情報も****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は25日、イラク軍がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」のイラクでの最後の主要拠点モスル(Mosul)奪還作戦を進める中、ISが民間人数十人を殺害したとの情報提供を受けたことを明らかにした。(中略)

提供された情報によると、残虐行為はイラク軍がモスルへと進攻していた19日~23日にIS戦闘員によって実行されたという。
 
モスルの南約45キロにあるサフィナ村では民間人15人が処刑され、遺体が川に投げ込まれた。他の住民に恐怖心を広めるためとみられる。

サフィナ村では民間人6人が19日に手を車につながれて村中を引きずり回されたとの情報もある。6人はISと敵対している部族長と関わりがあったというだけでそのような目に遭ったとみられている。
 
23日にはモスルの南にあるルフェイラ村でISが住民を強制的に行進させた際に、ついて行けなかった女性3人と女児3人の計6人を射殺したという。6人が行進について行けなかったのは、殺された女児の1人が身体障害者だったためだとみられている。
 
またコルビル報道官は、ISの人質となっていた元警察官50人が23日にモスル近郊の建物で処刑されたとの情報があることも明らかにした。【10月26日 AFP】
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また、モスル市内ではIS戦闘員が「軍への密告者の舌を切る」と脅しながら、はさみを持って市内を巡回しているとも。“携帯電話で話している市民は、スパイの可能性があるとして、摘発の対象となり、実際に舌を切られた若者もいたという”【10月23日 読売】

ラッカ奪還作戦も「数週間以内に開始する」】
これまでの戦闘による犠牲者については、以下のようにも。

****IS900人殺害か=モスル奪還作戦―米司令官****
米中央軍のボテル司令官は27日、AFP通信に対し、イラクで17日に始まった過激派組織「イスラム国」(IS)が拠点とする北部モスルの奪還作戦で「IS戦闘員800〜900人が殺害されたのではないかと見積もっている」と述べた。
 
イラク軍はこれより先、イラク部隊が24日までに「テロリスト772人を殺害した」と表明し、戦果を強調していた。連日100人前後のペースで死亡している計算となり、モスル周辺で日々続く交戦の激しさが示唆されている。
 
イラク側の被害は明らかではないが、IS系メディアの「アマク通信」は24日、ISが17日以降「819人を殺害した」と伝えている。【10月27日 時事】
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この種の「戦果」発表は、大本営発表的に誇張される傾向がありますので、実際のところはわかりません。
もし、実際にも「IS戦闘員800〜900人が殺害された」ということであれば、モスルのIS戦闘員は数千人レベルと推測されていますので、その1~2割にもなり、市街戦に入る前の現段階で既に相当規模のダメージを受けていることにもなります。

一方、米軍主導の有志国連合は、ISのイラクの拠点であるモスルの攻略と並行して、ISが「首都」とするシリア・ラッカの奪還作戦を並行して進める方針を明らかにしています。

****<対IS>米連合軍、ラッカ奪還作戦「数週間以内****
米国のカーター国防長官と英国のファロン国防相は26日、過激派組織「イスラム国」(IS)が首都と称するシリア北部ラッカの奪還作戦を「数週間以内に開始する」との見通しをそれぞれ示した。(中略)

イラク軍などは今月中旬からモスル奪還を目指した大規模な軍事作戦を開始し、有志国連合も空爆や作戦指揮で支援している。(中略)

対IS作戦を巡っては、NATOも今月20日から大型レーダーを備えて味方機の指揮管制を担う空中警戒管制機(AWACS)をシリア上空に飛ばし、有志国連合に情報提供を始めている。また、これまで隣国ヨルダンで行っていたイラク軍の訓練をイラク国内でも近く始める見通しだ。
 
NATOのストルテンベルグ事務総長は25日の記者会見で「イラク軍への支援を強化する」と述べたが、モスルなどの奪還作戦への直接的な関与については明言を避けた。【10月27日 毎日】
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関与を強めるトルコ 「締め出されたままではいられない」】
“先が見え始めた”ISに対する軍事的圧力は加速度的に強まることが予想されますが、イラクでも、シリアでも、ここにきて俄然“存在感”を示そうとしているのがトルコです。

トルコはこれまでも、スンニ派民兵支援のためとして部隊をイラク領内に駐留させており、イラク政府と対立していました。

「われわれは作戦もその後の協議にも参加する。締め出されたままではいられない」(10月17日 エルドアン大統領)という“非常に正直でわかりやすい”発言にもあるように、今後更に本格的にモスル奪還作戦に関与する姿勢を示しており、主権侵害とするイラク政府との対立が激化しそうです。

****<イラク>トルコと対立 モスル奪還作戦、参加を拒否****
過激派組織「イスラム国」(IS)の実効支配下にあるイラク北部モスルの奪還作戦を巡り、イラク政府とトルコ政府との対立が深まっている。

国境を接するイラク北部で影響力を保持したいトルコは、作戦に積極的に参加しようとしているが、イラク側は拒否。両国の対立は「IS後」のイラク安定に悪影響を及ぼす恐れがある。
 
トルコのユルドゥルム首相は23日、モスルの北東約20キロのバシカで、トルコ軍がクルド自治政府の支援要請に基づいてISの拠点を砲撃したと発表した。イラク北部への介入を「国土の一体性を守る措置」と位置付け、「今後も必要な対応をとる」と述べた。
 
トルコ軍は昨年からバシカ近郊などに駐留。衛星テレビ局アルジャジーラによると、約2000人の兵士がいるとみられる。イラク政府は「無許可の駐留は主権侵害行為」として撤収を求めたが、トルコ側は、友好関係にあるクルド自治政府の治安部隊やイスラム教スンニ派民兵の訓練が目的で、「イラク政府も承知済みの計画だ」と反論した。
 
イラクのアバディ首相は22日、「トルコが(モスル奪還)作戦に参加したいことは知っている。だが、これはイラク人の問題だ」と不快感を表明したが、23日のユルドゥルム首相の発表はそれを無視した形だ。

トルコはこれまでも、ISやイラク北部に逃げ込む反政府武装組織「クルド労働者党」(PKK)を念頭に置いた「テロ組織対策」などの「大義名分」を次々と持ち出しており、作戦参加を既成事実化する狙いがあるとみられる。
 
一方、イラク政府は、クルド自治政府や北部に集住するスンニ派がトルコの後ろ盾を得て、独立や自治拡大を求める展開を懸念。

イラクに強い影響力を持つシーア派国家イランのスンニ派を下支えするトルコの動きを非難しており、AP通信によると、イラン外務省のガセム報道官は24日、「テロとの戦いを口実に他国の主権を侵害する行為は受け入れられない」と強調した。
 
対ISでイラク、トルコ両国と連携する米国が仲裁に動いたが、奏功していない。【10月25日 毎日】
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イラク政府が主権侵害だと批判しているのに「イラク政府も承知済みの計画だ」というのも、エルドアン大統領も相当に強引です。

なお、トルコはシリアのクルド人勢力はPKK関連組織して敵視していますが、イラクのクルド自治政府とは協力関係にあります。

トルコはシリア北部でも、IS掃討を名目に、実質的にはトルコ国境に近いエリアでのクルド人勢力の拡大を阻止するために、反政府勢力を支援・軍事介入する「ユーフラテスの盾」作戦を展開しています。

アサド政権のこれまでの関心がアレッポ周辺の戦闘に向けられていたことなどで(あるいは、プーチン・エルドアン会談でなんらかの合意ができていたのか)、これまでアサド政権側は表立った行動は起こしていませんでしたが、トルコ側の作戦拡大で対立が表面化しています。

****<シリア>政権、親トルコ派空爆か 軍事介入以降で初****
トルコ軍は26日、シリア北部アレッポ県で親トルコの反体制派がシリア軍所属とみられるヘリコプターに空爆されたと発表した。ロイター通信が報じた。

シリア軍の関与が事実ならば、トルコが今年8月に軍事介入して以降、シリア軍が親トルコの反体制派を攻撃するのは初めて。アサド政権はトルコの介入を「侵略行為」と非難しており、両国の緊張がさらに高まる恐れがある。
 
トルコ軍の発表によると、アレッポの北35キロのアフタリン周辺で26日、円筒形の容器に火薬や金属片を詰めた「たる爆弾」が反体制派の拠点に投下され、戦闘員2人が死亡、5人が負傷した。
 
トルコ軍は過激派組織「イスラム国」(IS)と少数民族クルド人民兵の掃討を名目にシリア北部で軍事介入を始めた。戦車部隊や特殊部隊が越境して反体制派を支援しているが、当初の活動地域はアサド政権の支配地域から離れていたため、政権側は静観していた。
 
親トルコ派は東西約80キロにわたって国境地帯を制圧した後、アレッポ北方に南下し、政権側支配地域まで約10キロに迫っている。政権側の包囲下にあるアレッポの反体制派と共にシリア軍を挟撃する可能性もあり、政権側は懸念を強めている。【10月26日 毎日】
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「これ以上アレッポに近づくな!さもないと・・・」というシリア側のトルコへの警告でしょう。


トルコの“積極関与”が予見させる「IS崩壊後」の難題
イラク・シリアにおけるトルコの現地政権の意向を無視した積極関与・軍事介入がIS打倒を早めるのか、あるいは、現地での混乱を拡大させるのか・・・。

「IS崩壊後」の影響力拡大を狙ったトルコの関与が拡大すれば、利害が反するイランもこれまで以上に関与を強めることが想像されます。

混乱を防止すべく、アメリカはトルコをとりなそうとしていますが・・・。

****IS掃討で連携確認=米・トルコ首脳が協議****
オバマ米大統領は26日、トルコのエルドアン大統領と、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討について電話で協議した。ホワイトハウスによると、オバマ大統領はシリアでISに引き続き圧力をかけるため、緊密な連携の必要性を確認した。
 
オバマ大統領は、トルコがシリア北部の対トルコ国境地帯からISを排除する作戦を展開したことを踏まえ、IS掃討戦をさらに進展させるため、両国協力の必要性を指摘した。また、イラクでの対IS作戦にトルコがどのような形で参加するかについて、両国による対話が続いていることを歓迎した。【10月27日 時事】
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ISがモスル・ラッカを失い崩壊しても、イラクにおけるシーア派、スンニ派、クルド自治政府の対立、シリアにおけるアサド政権と反政府勢力の対立、それぞれの思惑で介入するトルコ、イラン、ロシア、アメリカなど関係国の存在で、対IS軍事作戦以上に困難な問題が控えていることは、10月18日ブログ“イラク モスル奪還作戦開始 ISの軍事的排除よりも難しい問題が山積 解放後は平和か混乱か”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161018でも取り上げたとおりです。

もちろんISも、面的な領土支配を失っても組織自体が消滅する訳でもなく、テロ活動をこれまで以上に過激化させることも予想されます。
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中国政治の現況 北京区議選の独立候補 烏坎村騒動の「その後」

2016-10-26 23:03:28 | 中国

(「独立候補」の家の前にたむろし、選挙活動に出られないよう妨害する当局者=関係者提供【10月26日 朝日】)

北京区議選 18人の独立候補 当局の妨害で「民主的な選挙」には程遠い状況
中国が共産党による事実上の一党支配の政治体制にあることは今更言うまでもありませんが、選挙制度のうえでの形式で言えば、規模の小さな市や県、区(日本の町村に近い)の地方選挙においては共産党推薦以外の候補(独立候補)の立候補も認められており、直接選挙で代表者が選ばれることになっているようです。(全国(中央)、省・自治区・直轄市などのレベルは間接選挙になっています)

****県と県以下の人民代表選挙****
中華人民共和国の県と県以下の人民代表の選挙においては、1980年から直接選挙、差額選挙が導入されている。

かつては、都市と農村間における選挙権格差が存在した。2010年の選挙法の改正で、この格差は解消された。候補者の選挙活動も一定の範囲で拡大されている。【ウィキペディア】
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上記“差額選挙”とは、定数以上の立候補者が立ち、実質的な選挙が行われる形式です。これに対し、定数と同数の立候補者しか立たず、事実上の信任投票になるのが“等額選挙”という形です。

日本でも、定数と同数の立候補者しか立たず無投票となる選挙が、うんざりするぐらい多数ありますが、一応形式上は中国地方選挙では“直接選挙、差額選挙”が行われているとのことです。

当然ながら、問題は中身です。
共産党の推薦を受けない候補が、自由な選挙戦を行えるような環境があるか・・・・という話になれば、そういう状況にはなく、当局による妨害が多く「独立候補」が当選する例はほとんどない“事実上の”一党支配体制ということになります。

そういう厳しい状況のなかでも、共産党推薦ではない「独立候補」の挑戦は行われています。

****中国の民主化のため」 北京の区議選 弾圧覚悟で18人が立候補表明****
中国全土で五年に一度の地方議員の直接選挙が行われる中、北京市の区議選で共産党の推薦を受けない「独立候補」十八人が一斉に立候補を表明した。当選の可能性は低く、弾圧の可能性まであるが、「自分たちが犠牲になっても中国の民主化を推し進めたい」と訴える。
 
十八人は、民主化を長年求める市民や強制立ち退きを受けた農民などで、北京市各区の人民代表大会代表(議員)を目指す。十四日夜に中国版LINE「微信(ウェイシン)」を通じて立候補を表明した。
 
その一人で人権活動家の野靖環さん(64)は「十八人が順番でそれぞれの選挙区を回り、ビラ配りや演説をしたい」と意気込む。民主主義国では当たり前の選挙活動だが、中国では異例だ。
 
中国では国や省の議員は党管理下の間接選挙で決められ、日本の区町村などにあたる末端行政の議員は直接選挙が行われる。有権者十人以上の推薦で誰もが立候補できる建前だが、通常は党推薦の候補だけが出馬。その中で近年は権利意識の高まりから、都市部などで独立候補が増えてきた。
 
ただ、独立候補には常に当局の妨害がつきまとう。役人や警察官が推薦人を脅迫して推薦を取り下げさせたり、候補者の選挙活動を妨害したりする。さらに各地の選挙委員会による「事前審査」で正式な候補者から除外され、投票用紙に名前が記載されなくなる。
 
野さんは五年前の選挙も立候補したが事前審査で除外され、仲間の候補は警察に一時拘束された。それでも野さんは「中国社会を少しでも改善するため、犠牲になる覚悟」と主張。候補者も推薦人も危険を承知しながら、選挙に臨む。
 
北京市の投票日は十一月中旬。同市では他にも独立候補が準備しており、全国各地で同様の動きがある。【10月16日 東京】
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“通常は党推薦の候補だけが出馬。その中で近年は権利意識の高まりから、都市部などで独立候補が増えてきた。”とのことですが、本当にそうなのか?・・・・実態については知りません。

習近平政権が新公民運動や人権・民主化運動活動家に対し、従来政権以上の厳しい弾圧を行っていることは周知のところですが、そうした状況で「もの言う独立候補」が増えているのでしょうか?

5年前の選挙の際も、北京では多くの「独立候補」が立候補しましたが、当局の厚い壁に阻まれています。
(2012年2月6日ブログ“中国 温家宝首相、改めて改革開放の必要性強調 安定維持重視の保守派との路線対立か”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120206)
 

今回も、“中国北京市の各区で11月に行われる人民代表大会代表(区議会議員)選挙に、共産党候補ではない「独立系候補」として出馬を目指していた民主活動家ら18人が24日、公安当局によって自宅軟禁状態に置かれたことが分かった。”【10月24日 東京】との報道が。

実際のところは、完全な“自宅軟禁”というほどの厳しい措置ではないものの、選挙活動のための外出を阻止されたり、外出できても警察の尾行がついて取材などには応じられない・・・といったもののようです。

****中国「独立候補」に妨害 自宅周辺に警察、外出阻止 地方選めぐり当局****
中国の地方議会にあたる人民代表大会(人代)の選挙をめぐり、共産党の後押しを受けずに立候補を表明した北京の「独立候補」18人が当局から妨害を受けている。自宅から外出できなかったり、強制的に旅行に連れて行かれたり。当局がうたう「民主的な選挙」には程遠い状況が続く。
 
25日午後、北京市東城区で開かれた区人代選挙の候補者演説会。11月の投票を前に、自らの立候補をアピールしようとした独立候補の劉秀貞さん(62)は、当局に「あなたは有権者名簿に名前がない」と参加を拒否された。自宅のリフォームのため最近、区域外に住んでいたことを理由にされた。だが、現住所地では「選挙は前の住所で」と言われたという。
 
応援に訪れた仲間も会場には入れなかったが、演説会には地元住民の姿はなく、出席者は「ボランティア」の腕章を着けた20人ほど。住民らも当局から外出を止められていたという。
 
劉さんら18人は、十数年前からともに市民運動や人権活動に取り組んできた。「従来の代表は庶民の声を政府に届けてくれない」と、独立候補として立候補することにした。だが、海外メディアに注目され始めると、妨害が始まった。
 
自宅周辺に警察が待機し、選挙活動のために外出させない。外出はできるが、警察が常に後をつけて取材などを阻む。強制的に旅行に連れて行く――。当局は候補者らに「あなたを守るためだ」「海外メディアが取材すれば、生活に支障が出る」などと説明しているという。
 
5年前の前回に続いて立候補した野靖環さん(63)にも警察の尾行がつく。「選挙権は市民の最も基本的な権利のはずだ。ある程度の妨害は予想していたが、度を超えている」と憤る。「でも、いつかは他の国と同じようになる時が来る。まずは市民としての権利を行使していきたい」と話した。
 
わずかだが、5年前より進歩した点もあると言う。「候補者や記者へのあからさまな暴力がなくなり、電話取材なら受けられるようになった」【10月26日 朝日】
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“あからさまな暴力がなくなった”ということであれば、“進歩”ではあるでしょう。
それにしても、いったいどういう法的根拠で当局は独立候補の外出を阻止したり、強制的に旅行に連れて行ったりできるのでしょうか?

****法の支配」ランキング、中国は80位、前年から順位落とす****
2016年10月25日、米独立機関のワールド・ジャスティス・プロジェクトがこのほど発表した、各国・地域の「国家権力の制限」「汚職の程度」「政府の開放度」「基本的人権」「秩序と治安」などを評価する今年度の法の支配ランキングで、中国は世界113カ国・地域の中で80位となり、前年の71位から順位を大きく落とした。米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

世界113カ国・地域の11万世帯と専門家2700人へのアンケート調査結果をまとめたもので、法治が最も行き届いているとされたのはデンマークで、以下、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、オランダと欧州の国が上位を占めた。

中国は「秩序と治安」の評価が高かった一方で、「基本的人権」は108位、「国家権力の制限」は104位と極めて低かった。中国では習近平(シー・ジンピン)国家主席の就任後、法の支配の順守状況が著しく後退したとの見方が出ている。【10月26日 Record china】
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広東省烏坎村「その後」 村長は汚職で逮捕・有罪 抗議行動リーダーらも拘束
中国の農村部では、上記の人民代表代議員の選挙(最終的には全人代議員の選挙)とは別に、農村特有の問題解決のための村民委員会主任(いわゆる「村長」)を選出する「村民委員会選挙制度」が存在し、ここでも「一応」直線選挙も行われているようです。

****村民委員会主任選挙****
中華人民共和国憲法上、村民委員会は住民自治の基層組織と定められている。村民委員会は、住民によって選挙された主任と副主任および委員数名で構成される。

この村民委員会の主任(「村長」と呼ばれている)の選挙について、1989年の天安門事件以降は、党の政治的中核論を指導するために、村における党の幹部が「村長」となるように委員数を同人数の候補者が党によって示される「等額選挙」が行われていた。ただし、1987年の「村民委員会組織法(試行)」では、村民委員会の直接選挙を定めていた。

天安門事件を挟んだ1991年、吉林省梨樹県双河郷平安村を皮切りに有権者が自由に村民委員会の候補者を推薦する「海選選挙(中国語版)」が行われるようになった。

「海選」とは、大海から真珠をすくい上げるという意味からこのような名前がついた。さらに、一つのポストに複数の候補者を立てる「差額選挙」、有権者の投票によって正式な候補者を確定する「予備選挙」のほか、選挙演説、秘密投票、開票作業の公開等の改革も模索された。

この選挙改革によって、総人口の60パーセントを占める8億人(2003年度の統計による)の農民が民主主義の実践に参加し、そのことを通じて、政治意識がいくぶん向上してきたと評される。
また、優秀な若者等が民主的に「村長」に選出されることも珍しくないとされる。

国内外の専門家は村民委員会の直接選挙を「草の根」民主主義の萌芽として積極的に評価している。農村での進展を受けて、直接選挙の拡大への期待と要求が一時期高まった。

中央弁公庁・国務院弁公庁による2000年12月の通達は、都市部の社区委員会(従来の居民委員会を再編したもの)の直接選挙を指示したことがある。

ただ、近年選挙改革は停滞状態に陥っている。
統制力の低下を恐れた中国政府が、直接選挙の拡大に消極的な姿勢を見せ、様々な手段で村民委員会選挙にも介入している。また、村民委員会選挙への宗教や暴力団の介入や、選挙買収といった深刻な問題も発生している。
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“「中華人民共和国村民委員会組織法」の第11条と第13条によれば、「村民委員会主任、副主任および委員は、(全ての選挙権を持つ)村民による直接選挙によって選ばれる」となっている。
ただし、ひとたび選ばれれば、「いかなる組織も人も、村民委員会のメンバーを取り換えてはならない」という、厳しい但し書きが付いている。任期は3年だ。”【7月26日 遠藤誉氏 Newsweek】

この村民委員会の土地強制収用に絡む不正に住民が抗議行動を展開し、当局の弾圧をはねのけて旧村長らを追い出し、「初めて村民委員会のやり直し選挙」を当局に認めさせ、直接選挙で党の傀儡ではない新たな村長を選出したことで世界的にも有名になったのが、2012年に起きた「村民委員会メンバーをめぐる広東省烏坎(ウーカン)村抗議事件」です。

しかし、烏坎(ウーカン)村での土地問題はなかなか進展せず、今年に入って6月17日、土地問題を解決するため住民が上級政府に陳情しようとした直前、上記“やり直し選挙”で選出された住民側リーダーの村長が当局に拘束されました。

この村長拘束に反発する住民らは、「腐敗した政府が住民運動をつぶそうとした」として抗議行動を展開。
一方、当局側は、新村長が取り調べで汚職容疑を認めたと発表。

住民らは、「ありえない」として抗議を続けていましたが、9月13日、村長の拘束に抗議してきた村民ら13人が、公共の秩序を乱したなどとして、地元警察当局に拘束されました。“当局は3カ月近く村民のデモを黙認してきたが、姿勢を転換したとみられる。”【9月13日 朝日】とも。

****<中国>前村長解放求めるデモのリーダーら13人拘束****
収賄容疑で拘束された前村長の解放を求めるデモが続いていた広東省烏坎(うかん)村で、デモのリーダー役の村民13人が地元公安当局に身柄を拘束された。

香港メディアによると拘束の際に村民と警察が衝突し、複数の村民が負傷。3カ月近く続くデモを黙認してきた当局が、抑え込みに転じた。
 
報道によると13日早朝、警察がリーダーの自宅を急襲。石を投げて抵抗する村民に催涙弾などを発射した。村に通じる道路は封鎖され、情報も遮断された状態だという。
 
村を管轄する陸豊市公安局は「うわさを流したり、脅したりして不法にデモを組織した」と拘束理由を発表した。
 
同村では2011年、土地の使用権を勝手に売っていた村幹部の腐敗に村民が強く反発。中国では異例の直接選挙で、林祖恋氏が村長に当たる村民委員会主任に選ばれた。
 
土地問題の進展に向け地元政府への陳情を計画していたが、林氏は6月に拘束された。その後、村では解放を求めるデモが続いていた。地元の裁判所は8日、懲役3年1月、罰金20万元(約300万円)の実刑判決を言い渡した。【9月14日 毎日】
******************

“取り締まりには警官300─400人が動員され、多数の負傷者が出たと話した。また、村は現在封鎖され、インターネットも利用できないという。”【9月13日 ロイター】

一審で「懲役3年1月」の有罪とされた村長の林氏は事実誤認などを理由に上訴していましたが、広東省仏山市の中級人民法院(地裁)は10月20日、懲役3年1月とした一審判決を支持、林氏と検察側双方の控訴を棄却し、判決が確定しました。

これまでは奏功した共産党統治 これからは?】
北京の区議選や広東省烏坎村騒動の「その後」を見ても、中国政治における「変化の兆し」は見られません。

更に言えば、一応は直接選挙での独立候補が認められている状況で、当局の妨害行動が有効に機能して、事実上の一党独裁体制が維持されているということは、国民の不満が体制を揺るがすほどには高まっていないこと、その意味で、経済的に国民を富ませることで政治的不満は抑制する中国共産党の統治が、これまでは奏功していることの証左とも考えられます。

もっとも、急速な経済成長が止まった感もある中国経済の現況からすると、今後もこうした中国共産党のやり方が通用する保証はありません。
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児童労働  根絶できない現実 一部には合法化の試みも

2016-10-25 22:12:50 | 人権 児童

(ミャンマー 5年に及ぶ強制労働から救出されたサン・ケー・カインさん(17歳) 雇用主に痛めつけられて曲がった指 【10月7日 AFP】)

途上国児童労働による商品を享受する先進国消費者
先進国大企業が途上国の劣悪な労働環境のもとで安価な商品を生産し、私を含めた先進国消費者がそれらを消費している・・・という話は、グローバル化した経済の一面であり、残念ながら間違いない事実です。

“劣悪な労働環境”のひとつが児童労働です。

****シリア難民の子供、トルコで英ブランドの衣服を製作=BBC調査****
シリア難民の子供たちがトルコの工場で、英小売大手マークス・アンド・スペンサー(M&S)<MKS.L>やオンラインストアASOS(エイソス)<ASOS.L>のための衣服を製作している。英BBC放送のテレビ番組「パノラマ」の調査で明らかになった。

調査によると、15歳前後のシリア難民が低賃金で長時間、英国に出荷される洋服の製作やアイロンがけを行っていたという。

BBCのジャーナリストらは、マークス・アンド・スペンサーのラベルを工場で撮影。ファッションブランド「Mango(マンゴ)」や「Zara(ザラ)」のダメージ加工のジーンズ製作工場で12時間働き、不適切な保護の下、化学薬品を使用していたシリア難民もいたという。

M&Sの広報は「これまで、シリア人労働者が私たちに製品を供給する工場で雇われている証拠はなかった」とした上で、今回の「非常に深刻で受け入れがたい」発見に大変失望していると述べた。

同社によると、工場で雇われているシリア人の日雇い労働者らに、合法的で安定した雇用を提供できるよう、トルコ側と協議中だという。

一方、マンゴの広報担当者は、番組で紹介されたような「行為は一切容赦しない」と表明。BBCからの通知後、関係工場で緊急の抜き打ち検査を行ったが、「いかなる環境下でも、シリア人の子供の児童労働は発見されなかった」と述べた。

ASOSの広報は「非常に深刻に受け止める」とした上で、番組をまだ見ていないのでコメントは差し控えると語った。

トルコには、紛争が続くシリアから逃れた約300万人が生活しているとみられている。

ロイターの今年の調査でも、シリア難民の子どもたちがトルコの縫製工場で不法な条件の下で働いている証拠が見つかっている。【10月25日 ロイター】
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(人権などの価値観を重視していると考えている)先進国消費者にとっては「不都合な真実」の一端は、ときおりニュースで話題となります。

2013年4月24日にバングラデシュ・ダッカでおきた縫製工場の入ったきた8階建てビル崩壊事故のときも、この問題が指摘されています。
(2013年4月25日ブログ“バングラデシュ 縫製工場入居ビル倒壊で犠牲者多数 ないがしろにされる労働環境・安全”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130425

このような問題はバングラデシュだけでなく、広く途上国において存在しており、ブログでも何度か取り上げてきました。最近では、2016年5月31日ブログ“現代の奴隷労働 「私たちが飲む紅茶の陰では、多くの涙が流されている」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160531など。

こうした問題が明るみにでるたびに、関係したとされる企業は「知らなかった」と弁明しますが、仮に知らなかったとしたら、それは“(確認すれば、いろいろと不都合なことが出てくるので)敢えて知ろうとしなかった”ということでしょう。

そしてその利益を最終的に享受しているのが私たち先進国消費者・・・という構図です。

今年に入ってからは、携帯・スマホで使用されるリチウムイオン電池生産において、アップル、サムスン、ソニーといった名だたる世界企業の児童労働への関与が指摘されています。

****アップル、サムスン、ソニー 児童労働を使用しているとして非難される****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは19日、アップル、サムスン、ソニーが児童労働を使用しているとして、非難する報告書を発表した。

アムネスティ・インターナショナルによると、アフリカのコバルト採掘で児童労働が使用されている。コバルトは、各社がスマートフォンを製造する際に用いられている。

アムネスティ・インターナショナルの報告書では、次のように述べられている- 「アップル、サムスン、ソニーなどの電子機器の製造に特化した主なブランドメーカーは、各社が使用しているコバルトの採掘で児童労働が用いられていないこと、そしてこのコバルトが自社製品で使用されていないことを確認するための基本的な調査を実施できない状態にある」。

アムネスティ・インターナショナルはまた、リチウムイオン電池の製造で使用されているコバルトは、アフリカ中部のコンゴで、危険な環境の中採掘されており、そこでは7歳以上の子供も働いていると主張している。

報告書ではまた、ブローカーたちは児童労働が圧倒的に多い地域でコバルトを入手し、世界の大手企業が使用しているリチウムイオン電池の製造メーカーに転売していると指摘されている。【1月20日 SPUTNIK】
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“国連児童基金(UNICEF)によると、児童らは重い貨物を運ぶなどして鉱山で12時間過ごし、一日に1~2ドルを稼ぐ。2014年は約4万人の児童がコンゴの主にコバルト鉱山での労働に従事していた。”【https://jcc.jp/globali/id/1435/】とも。

強制労働で虐待を受けた児童は、「家に居たい」とささやくだけ
児童労働一般の話では、民主化・経済成長著しいミャンマーにおける児童労働の実態について、以下のように報じられています。

****殴られ、やけどを負わされ・・・・児童強制労働の実態 ミャンマー****
ミャンマーのサン・ケー・カインさん(17)は、やけどや傷の痕が残る両手と曲がった指を見るたびに、強制労働させられていた5年間を思い出す──。彼女は、同国にいるとされる、搾取や虐待の危機にさらされた無数の児童労働者の一人だった。

サン・ケー・カインさんは先月、ヤンゴンの洋裁店から救出された。彼女はそこで同じ村出身のもう1人の少女と一緒に、5年間「メイド」として働かされていた。
 
店主一家は2人を殴り、刃物で切り付け、睡眠や食事も十分に与えていなかった。2人は時折投げ与えられるわずかな金銭のために、これら全てを耐え忍んでいた。
 
ミャンマーでは、豊かで都会的な中流階級の家庭が増えつつあるが、その一方で、彼女たち2人と同様にメイドとして働かされる、貧しい地方出身の子どもたちが何万人もいる。
 
人権団体は、家族を養っていける仕事があるとの口車に乗せられる子どもたちの多くが虐待のリスクにさらされていると指摘する。しかし、司法が富裕層を優遇する貧困国にあっては、問題の調査が十分に行われていないのも事実だ。
 
サン・ケー・カインさんの指は、雇用主に痛めつけられてあり得ない角度に曲がっている。心に負った傷が大きく、自身に何が起こったかを語ることもできない。「家に居たい」とささやくだけだ。
 
彼女の代わって詳細を明らかにしたのは、同じ店で同じ苦しみに耐えたタジンさん(16)だ。ヤンゴンから車で数時間の場所にある故郷の村でAFPの取材に応じたタジンさんは、「脚にはアイロンを押し付けられた痕がある。頭にも傷がある」と語った。
 
鼻の上にも傷があった。「これはナイフで切られた時の傷です、私の料理がまずかったとの理由からだった」と当時を振り返った。
 
サン・ケー・カインさんとタジンさんも、他の多くの子どもたち同様、村の友人から良い仕事を紹介するとの約束でヤンゴンに連れて行かれた。
 
少女らの家族は何年にもわたって救出を試み、雇用主に2度掛け合ったが相手にされることはなかった。その後、地元のあるジャーナリストが、国家人権委員会に通報し、ようやく自由を取り戻すことができたのだという。洋裁店の店主と、その成人した2人の子どもは逮捕され、人身売買の罪で訴追された。

■「最も弱い立場」にある子どもたち
非情な軍政が半世紀にわたって続いたミャンマーでは、このたび民主的に選出された新政権が改革を目指す上で、児童労働の撲滅は重要な課題となる。
 
危機管理コンサルティング企業「ベリスク・メープルクロフト」はミャンマーを、児童労働問題がインドやリベリアなどに次いで世界で7番目に深刻な国だとしている。
 
国連(UN)が実施した2014年のデータ分析によると、ミャンマーでは10~17歳の子どもの5人に1人、約170万人が労働に従事しているという。
 
過去に強制労働を経験した子どもたちを支援するNGO「イコーリティー・ミャンマー」のアウン・ミョー・ミン代表は、「彼らは最も弱い立場にある」と指摘する。そして、「そうした子どもたちの多くが恐怖におののきながら生きている。自分は価値のない人間だと感じている。奪われた子ども時代は、二度と取り戻せない」と付け加えた。
 
サン・ケー・カインさんとタジンさんの家族は、警察に2人の救出を繰り返し要請したが、何ら対応してもらえなかったと話した。
 
サン・ケー・カインさんの母親は、娘を働きに出すことは二度とないとしながら、「もうどこへも行かせたりはしない。家に居させるつもり」と語った。
 
一連の事件を受け、ミャンマー国家人権委員会(MNHRC)の委員ら4人が6日、辞意を表明している。同委員会は、委員11人で構成されているが、中には前軍事政権時の公人も含まれているという。【10月7日 AFP】
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暴力による虐待、強制監禁などは論外です。

児童を強制的に、あるいは詐欺的に集めて搾取・虐待している・・・という問題であれば、そうした児童を救い出し、事態を一刻も早く改善すべきということで、話はすっきりします。(実現可能性の問題はまた別ですが)

【「禁止」だけでは話は済まない現実も 一部の国では合法化の試み
話がすっきりしなくなるのは、児童が(“家族が”と言うべきでしょうか)労働の機会を求めている場合です。多くの途上国の貧困家庭にあっては児童は貴重な労働力であり、単に「児童労働を厳しく禁止する」というだけでは、こうした貧困家庭の生活がたちゆかなくことも懸念されます。

冒頭にトルコにおけるシリア難民児童もそうしたケースのひとつではないでしょうか。
シリア難民受け入れに抗している欧州諸国に対し、トルコが膨大なシリア難民を受け入れているのは事実です。

その点でトルコは欧州の欺瞞性を批判しますが、それはともかく、トルコにおけるシリア難民の生活が非常に苦しい(だからこそ、命がけで欧州に渡ろうとするのでしょう)のも事実であり、シリア難民児童の就労はそうした生活苦を救う手立てのひとつとなっていることが推測されます。

そういう状況下にあって、単に「児童労働を厳しく禁止する」というだけでは問題は解決しません。
トルコが、児童労働なしでも生活できるような支援をシリア難民にしてくれるとは到底考えられませんし、その余裕もないでしょう。

では、どうすればいいのか・・・・

ひとつの選択肢は、児童労働を合法化し、法律の規制のもとで児童の安全と適正な労働環境を保護しようという方策です。根絶が事実上困難なマリファナなど薬物使用についてもとられる方策です。

児童労働問題が深刻なインドでも、こうした“合法化”が模索されています。

****児童労働を一部認める法案可決 インド****
インド下院は26日、家業などで一部の児童労働を認める新しい労働法案を可決した。国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)からは、子どもの発達などに悪影響を及ぼすと懸念する声が上がっている。
 
可決された法案は14歳未満のすべての子どもの労働を原則禁止しているが、家業やスポーツ界、娯楽産業に限っては労働を認めるとした。
 
現行法では危険を伴う仕事に限って14歳未満の労働を禁止しているが、それすら順守されていないと、子どもの人権擁護を訴える活動家らは指摘している。
 
政府は、伝統的な技術の習得が必要な子どももおり、家族も働き手を必要としているとして、放課後や休暇中に一部の労働を可能にした今回の法案可決を支持した。
 
ユニセフは声明を発表し、家業の手伝いを合法化したことは貧困家庭の子どもに一層不利益な状況をもたらすと非難し、「子どもの保護と発達に対しても影響を及ぼす可能性があり、深刻な懸念だ」と述べた。【7月27日 AFP】
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2014年にパキスタンの少女マララさんと共にノーベル平和賞を受賞したインドの人権活動家カイラシュ・サティヤルティさんは、児童労働の撲滅のために長年取り組んできたことが評価されての受賞でしたが、今回の“一部の児童労働を認める新しい労働法案”をどのように考えているのでしょうか。

現状追認に終わってしまう・・・との批判は当然にあるところで、その運用実態のチェックが必要になりますが、「家業」という家庭内に入ってしまうと、なかなか監視も行き届かないことにもなります。

こうした児童労働合法化が世界の国々でどれだけ認められているのかは知りませんが、以前、南米ボリビアの事例が話題になりました。(話題になったということは、世界でもあまり事例がないということでしょう)

****ボリビア、10歳児の就労を合法化 南米最貧国 ****
南米最貧国ボリビアのガルシア副大統領は17日、就労可能年齢を10歳に引き下げる法案に署名し、法案は発効した。

同国では児童労働がまん延しており、法制化により労働者としての権利を擁護する狙い。児童労働を規制する世界の潮流と逆行する政策で、国際社会からは批判も出そうだ。
 
法律は、親の監督下で10歳以上の就労を認め、12歳以上には労働契約の締結を認めた。一方、通学を義務化し、児童虐待を厳罰化した。政府は「ボリビアの実態に即した法律だ」としている。これまでの就労可能年齢は14歳だった。
 
国連児童基金(ユニセフ)によると、ボリビアでは家計を助けるために約50万人の子どもが路上の靴磨きや露店などで働いており、農場や鉱山などでの強制労働も問題となっている。【2014年7月18日 日経】
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南米ボリビアは、先住民出身のモラレス大統領が率いる左派政権で、欧米とは一線を画した政治を目指しています。


上記の児童労働合法化とちょうど同時期、議会議事堂に正面に掲げられた「反時計回り」に時を刻む新しい時計が話題ともなりました。

****議事堂の時計が「反時計回り」に、南半球の住人に敬意 ボリビア****
南米ボリビアの議会議事堂にこのほど「反時計回り」に時を刻む新しい時計がお目見えした。通常の時計と異なり、文字盤には左回りに数字が並ぶ。針も左回りに進む。南半球に暮らす人々に敬意を表したものだという。

政府所在地のラパス中心部にある議事堂にはこれまで、通常の時計が設置されていた。

新しい青銅製の時計についてマルセロ・エリオ議長は24日、「この逆転時計はわれわれにとって、北が南になることを示している」とコメント。「北半球における不公平を、南半球に出現するであろう新たな世界秩序によって終わらせる」必要があることを、新時計の導入を通じて提起したいと説明した。

だが、「逆転時計」にラパス市民は驚き、野党議員からは説明を求める声が上がっている。

ボリビア議会は、先住民アイマラ人で中南米の極左勢力の指導者でもあるエボ・モラレス大統領率いる左翼与党MASが議席の過半数を占めている。(後略)【2014年6月26日 AFP】
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児童労働を規制する世界の潮流と逆行する“合法化”政策が功を奏したのか、現実追認に終わったのか・・・そこは知りません。

下記は、合法化から1年以上経過した時点での、韓国アイドルのオク・テギョンのリポートです。

****ボリビアの有名観光地ウユニ塩湖****
その有名な塩湖の裏側では、5歳から15歳未満の子供が塩工場に閉じ込められて仕事をしているそうです。

火花が飛び散るガスボンベを横に置き燃えるかまどの上の塩の乾燥作業をし、機械のように塩を包装する労働により子供たちが受け取るお金は塩袋1つでW3

一日10時間塩を格闘しながら働くノラちゃん 飢えないために毎日工場を転々としているそうです。【http://2pm.info/2015/12/11/taecyeon-bolivia-kids/
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フランス  カレーの難民キャンプ「ジャングル」解体 イスラムフォビアが影響する次期大統領選挙

2016-10-24 23:09:10 | 欧州情勢

(仏南西部アレスで8日に開かれた難民・移民の受け入れに反対する集会。1週間前には同じ場所で受け入れ賛成派が集会を開いた=イザベル・コントレーラス撮影 【10月24日 朝日】)

【「ジャングル」解体 受入先には反対論も
EUを離脱してでも難民・移民流入を阻止しようというイギリス、英語が通用し、経済的に好調で、かつては社会保障面で移民らにメリットが大きいと思われていたイギリスに渡ろうとする難民・移民・・・・6000〜8000人とも言われるそうした難民らがイギリスを目前に滞留するフランス北部のカレーの難民キャンプ、通称「ジャングル」は、行き場を失った難民らと、彼らへの対応に苦慮する欧州の象徴ともなっていました。

フランスは「ジャングル」の解体、難民らの他施設への分散移送に着手しています。

****仏、移民キャンプ「ジャングル」の解体開始****
フランス当局は24日、同国北部の港町カレーで英国を目指す移民や難民が集まるキャンプの解体を開始した。6000〜8000人に上るとされる移民らを国内各地の一時収容施設に移送。1週間程度で作業を完了させる計画としている。
 
移民らは「家族連れ」などのグループに選別された後、各地の収容施設に搬送され、仏国内で保護申請を行うかを決める。

英国に親類を持つ未成年者はカレー付近に残り、英側の受け入れ可否の判断を待つ。現場には移民らの抵抗など混乱回避のため、警官約1200人が動員された。
 
「ジャングル」と称されるキャンプでは、移民らがテントで暮らすなど劣悪な環境が問題視される一方、移民らが英国に密航するためにフェリーやトラックに潜り込むなどしてトラブルが続出。オランド仏大統領は年内に解体する意向を示していた。
 
移民らには寒い季節を控え、移送を歓迎する声も上がる一方、一部が移送を免れるためキャンプを抜け出したとも伝えられる。

解体後に再びキャンプができる可能性があるほか、移送先の一部自治体では受け入れへの不安も強い。【10月24日 産経】
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移送を拒む一部の難民・移民らと当局の間のトラブルもあるようですが、大方は当局の移送計画に従っているように見えます。

“バスを待っていた難民の一人は地元メディアに「フランスのどこであっても、ここよりひどいところはない」と政府の対応を歓迎した”【10月24日 時事】というように、不衛生・劣悪な「ジャングル」での生活、何よりも明日への希望が持てない「ジャングル」での生活は、難民・移民らにとっても厳しいものだったようです。

作業は3日間行われ、難民がすべて移動した後にキャンプは解体されます。退去した人々は移設先で正式に難民申請を届け出ることができます。

そうは言っても、フランス語ができない多くはフランスでの生活に馴染むのは大変です。帰国できない事情がある者(いわゆる難民)も多数います。

“難民らの多くはフランスを理想の地とは考えていない。仏紙ルモンドは「ドイツやスウェーデン、英国がより豊かだと信じる移民らにとってフランスは『通過国』だ」と報じている。「フランスでは難民申請はせず、英国がだめならドイツを目指す」。今年7月、「ジャングル」で毎日新聞の取材に応じたパキスタン人のモハメド・カーンさん(35)のように、他国への渡航希望者が、再び仏北部などの国境を目指す可能性もある。”【10月24日 毎日】

もちろん、社会に受け入れる意思・用意があれば社会に馴染むことも可能ですが、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏が大きな支持を得るようなフランス社会、この夏の“ブルキニ騒動”に見られるようなイスラム嫌悪・拒否症(イスラムフォビア)が顕在化しているフランス社会にあっては、困難も予想されます。

疎外された者の一部は犯罪に走り、社会の憎悪が更に高まる、そして一部はテロに走り、排斥運動を刺激する・・・・そうしたこれまでも繰り返してきた悪循環に陥ることがなければいいのですが・・・

“パリ市は、イダルゴ市長の肝煎りで進めてきた一時収容施設を月内に開所する。パリでは路上生活する難民らが問題化。イダルゴ市長は「人道的な観点」から迎え入れる義務があるとして設置に踏み切った。フランスへの難民申請希望者を対象としており、受け入れ期間は最大10日程度と短い。”【10月24日 毎日】

しかし、フランス国内の受入側には、「人道的な観点」よりは不安・拒否感の方が先立つところも少なくないでしょう。

****難民キャンプ解体、きしむ仏 受け入れ予定地、住民対立****
フランス政府は24日、英仏海峡に臨むカレーに広がった難民キャンプの解体に乗り出す。「スラム街」「ジャングル」などと呼ばれた劣悪な環境に住む数千人を家族単位など少人数のグループに分け、仏各地で一時滞在してもらう「人道的対応」という。受け入れ予定の自治体では賛否が割れる。(中略)
 
 ■反対デモに300人 施設で放火騒ぎ
受け入れ先に名前が挙がった自治体は揺れた。
 
ワインの産地ボルドーの西、大西洋の入り江に面した人口6千人足らずの町アレスで8日、約300人がデモ行進した。男性50人ほどを迎える計画を阻むためだ。

年金暮らしの男性(72)は「ドイツみたいに難民のはずが刃物で襲ってきたり、テロ集団に関わったりしないか」。参加者は「節約して暮らしているのに、難民1人に毎日25ユーロ(約2900円)かかると聞いた」などと口々に語った。
 
デモに先立ち、町長は「住民は静かな暮らしを望んでいる。子どもの遊び場も近い」と指摘。議会は反対決議を賛成多数で可決した。ふだんは静かな傍聴席に30人ほどが集まった。
 
受け入れ賛成派で左派のクロディーヌ・セシー議員(55)は「多様な人がいるのがフランス。戦火を逃れた人に手を差し出すのは当然だ」と考える。だが議会では「やじられ、侮辱された」。髪を引っ張られた同僚もいたという。
 
受け入れ派は「アレスの別の顔を示したい」として2千人超の署名を集め、集会も開いた。
 
町は二つに割れ、しこりも生まれた。「反対派の人とは、ほおを寄せる親しいあいさつをしなくなった。遠くから最低限、ボンジュールだけ」(セシーさん)。受け入れ先とされる電力公社(EDF)系の保養施設で放火騒ぎも起きた。
 
アレスに限らない。地中海のリゾート地サントロペ近郊のピエールフー・デュ・バールでは、町議会が全会一致で「ノン」を表明。AFP通信によると、アレスと同じ8日、反対、賛成、反対と三つのデモがあった。右翼・国民戦線(FN)系の人たちは「送り返せ」と気勢をあげた。
 
南部モンペリエでは反対と賛成との集会が同じ広場で向き合った。「難民や移民が侵入してくる」「ファシストめ。俺たちもみんな移民の子孫じゃないか」。非難の声もとびかった。
 
フランスは連帯や人権を重んじる国だが、難民・移民の歴史に詳しいニース大のイバン・ガストー教授(51)は「相次ぐテロもあって、『よそもの』への恐怖感が募っている。国境の管理を強めて治安を保とうとするような政治家の発言が、国民の寛容さを損なわせてもいる」と指摘する。【10月24日 朝日】
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中道・右派の候補者指名争いの勝者次第の次期大統領選挙
その政治家の話ですが、フランスでは来年4〜5月に行われる大統領選に向けて、各陣営、各候補が動き出しています。

フランスの近代史上、最も人気のない大統領と言われる社会党・オランド大統領ですが、世論調査によれば、自身が所属する社会党を含む左派の予備選すら勝てない見通しだととも。【10月4日 ロイターより】

社会党は、たとえオランド大統領以外を候補として立てても、第1回投票をクリアするのは難しい情勢です。

****仏大統領選、現時点で社会党候補が勝利する見込み薄い=第1書記****
フランスの与党・社会党のカンバデリ第1書記は、現在の情勢では、同党のどの候補も2017年5月の大統領選挙で勝利することはおろか、第2回投票に進むこともできないとの見通しを示した。

週刊紙ジュルナル・デュ・ディマンシュによると、社会党出身のオランド現大統領の支持率は10月時点で1ポイント低下し、14%と6月以来の低水準。最近出版された書籍に掲載された大統領の発言が物議を醸す中、オランド氏が再選を果たす可能性はますます低くなっている。

社会党は分裂状態にあり、オランド大統領は二期目を目指すかどうかまだ表明していない。10月初めの世論調査では、有権者が選ぶ大統領候補のリストでオランド氏は12位だった。

カンバデリ第1書記は仏紙ヌーベル・レピュブリックに対し、「現段階では右派を打ち負かせる候補はいない。第1回目の投票を通過することもできないだろう」と語った。

第1書記は党員に対し、予備選で選ぶ1人の候補を支持するよう呼び掛けた。【10月24日 ロイター】
*********************

一方、右派・共和党サイドでは、穏健派と目されるジュペ元首相と復活を目指すサルコジ前大統領を中心としたレースになっています。

サルコジ前大統領は、先述のような国民に広がるイスラム嫌悪・拒否症(イスラムフォビア)を刺激する形で、支持を集めようとしています。

****フランス大統領返り咲き狙うサルコジ氏 全身覆う女性水着ブルキニ禁止訴える****
来年4〜5月に行われるフランス大統領選で、中道・右派は13日、統一候補を決定する11月の予備選を控え、候補者7人による初の討論会を開いた。
 
返り咲きを狙うサルコジ前大統領(61)は全身を覆う女性水着「ブルキニ」の全国的な着用禁止など、イスラム教徒への対応やテロ対策で厳しい措置を訴えたのに対し、世論調査で優勢なジュペ元首相(71)は穏健姿勢を強調。両有力候補の違いが鮮明になった。
 
予備選では11月20日に第1回投票を行い、上位2候補による同月27日の決選投票で統一候補を決める。【10月14日 産経】
**************

9月末段階では、サルコジ氏の支持には陰りが出ており、ジュペ元首相がリードしている・・・とも報じられています。

****仏大統領選、サルコジ前大統領への支持低下=世論調査****
2017年のフランス大統領選に向けた中道・右派の候補者指名争いで、サルコジ前大統領への支持がライバルのジュペ元首相よりも低いとする2つの世論調査結果が28日、公表された。選挙資金疑惑などが影響したとみられる。

07年から12年に大統領を務めたサルコジ氏は、移民に対してより厳しい、新たな欧州連合(EU)の条約を強く求め、イスラム過激派からフランスを守ると訴えている。

カンター・ソフレス・ワンポイントの調査によると、11月20日の予備選第1回投票におけるサルコジ氏への支持は1%ポイント減の33%、穏健派のジュペ元首相への支持は5%ポイント増の39%だった。

IFOPの調査では、ジュペ氏が35%で、サルコジ氏は2%ポイント減の31%だった。

両調査とも、11月27日に行われる決選投票では、少なくとも10%以上の差をつけてジュペ氏が勝つとの結果を示した。

中道・右派の候補者は、大統領選で勝つ確率が高いとみられている。【9月29日 ロイター】
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おそらく大統領選挙の第1回投票を勝ち抜くのは、中道・右派の候補者と極右・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏と思われています。

そして、中道・右派の候補者が穏健派のジュペ元首相であれば、決選投票では左派からの抵抗感が強いマリーヌ・ルペン氏の勝利は難しく、ジュペ元首相が勝利する・・・ということになるでしょう。(随分気の早い予想ですが)

ただ、中道・右派の候補者がサルコジ前大統領になって、サルコジ氏とマリーヌ・ルペン氏の決選投票になると、“サルコジ氏が微差で勝利するとの予測が多い。だが、サルコジ氏は大統領時代の係争事件などのマイナス要素を抱えているため、予断を許さない。”“ルペン氏は決戦投票の相手として、サルコジ氏が相手なら「十分に勝ち目がある」(FN幹部)と見ている。”【10月3日 山口 昌子 氏 JB Press】とのことです。

サルコジ前大統領とジュペ元首相の中道・右派の候補者指名争いが次期大統領を決めそうな展開ですが、イスラム教徒によるテロが再発するとか、今回の難民・移民移送計画で反発が各地に広がるとか・・・そうしたことが大きく左右しそうです。

【「フランス国への愛」を語るマリーヌ・ルペン氏ですが・・・
第1回投票の勝ち抜けが予想されている国民戦線(FN)・マリーヌ・ルペン氏については、以下のようにも。

****極右政党党首が初の女性仏大統領になる確率は****
・・・・三女のマリーヌ氏が2011年に党首に就任してから、FNは路線を変更する。テロや難民の増大を背景に、「シェンゲン協定」(ヨーロッパの国家間を国境検査なしで行き来することを許可する協定)や単一通貨「ユーロ」圏からの脱退を主張するなど、「反欧州」や「反移民」を全面的に打ち出すことで、人種差別的な“危険な政党”“悪魔の政党”のイメージから脱却した。

ただし、排外主義的な党の本質は変わっていない。

FNはバカンス明けの8月半ばに南仏フレジュス市で党のセミナー(一種の親睦大会)を開催した。ルペン氏は約5000人の支持者を前に、大統領選に向けての実質的なキャンペーン第一声を発した。

その演説の中でルペン氏は、「フランス人」とは「フランス国への愛、フランス語やフランス文化への愛着によって一致団結している何百万もの男女」であると定義。フランス国民でありながらフランス語の習得を嫌い、イスラム教徒の風俗習慣に固執するイスラム(アラブ)系フランス人を暗に非難した。(後略)【10月3日 山口 昌子 氏 JB Press】
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ルペン氏のフランスへのこだわりは、“フランス”を“日本”に置き換えれば、日本でも昨今多く見聞きする主張でもあります。

私も日本で生まれ、日本に暮らす日本人ですから、当然に日本社会・文化への愛着は持っています。
ただ、そうした自然発生的な感情はさりげなく心の中に持っていればいい話であり、努力も工夫も必要とされる他者との関係をいかに円滑にやっていけるかということに意を払うべきだと思っています。

ことさらに日本社会・文化への愛着を叫ぶような者は、現実問題としては“日本が一番”“日本以外は認めない”という排外主義、差別主義に堕していく者であり、かつて日本至上主義に反するものに‟非国民”“売国奴”といったレッテルを貼ったような偏狭さ・非寛容さに堕していく存在のように感じています。
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国際刑事裁判所(ICC) アフリカ諸国に脱退の動き プーチン大統領、ドゥテルテ大統領の名前も

2016-10-23 22:32:20 | 国際情勢

(緑色:締約国、黄緑色:批准国、黄土色:署名国 【http://blog.goo.ne.jp/jnicc_org_tk_06/e/b293dbea1e99dfb3e2da3bde4be008a8】)

ICCはアフリカばかりを対象にしているとのアフリカ首脳の不満
政治指導者の戦争犯罪や人道に対する個人の罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)は、国際刑事裁判所ローマ規程(ローマ規程または、ICC規程)に基づき2003年3月11日、オランダのハーグに設置されましたが、外務省HPで下記のように説明されています。

****ICC(国際刑事裁判所)~注目されるその役割****
■ICCが扱うのは、個人が犯した国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪
ICCが扱う犯罪には国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪、すなわち「集団殺害犯罪」「人道に対する犯罪」「戦争犯罪」「侵略犯罪(未定義)」があります。

これらの罪を犯した個人を、国際法に基づいて訴追・処罰することにより、犯罪の撲滅と予防を目指し、世界の平和と安全に貢献することがICCの目的です。

ICCローマ規程は、それを実現するために裁判の仕組みなどを詳細に定めています。よく、国連の主要な司法機関であるICJ(International Court of Justice=国際司法裁判所)との違いが挙げられますが、ICCが個人の犯罪を扱うのに対し、ICJの当事者は「国家のみ」、つまり国家間の紛争を扱うという部分に、大きな違いがあります。

■役割は「補完」
ただし、ICCの役割は、あくまで各国の国内刑事司法制度を「補完するもの」。関係国が被疑者の捜査・訴追を行う能力や意思がない場合のみ、管轄権が認められます。

■管轄権が発生するケース
ICCに事態を付託できるのは、締約国又は国連安保理に限られますが、ICC検察官が自らの考えにより捜査を開始することもできます。ある事態が付託された場合、犯罪行為の実行地国又は被疑者の国籍国のどちらかが締約国ならば、ICCに管轄権が発生します。

また、実行地国と国籍国、両者ともICCに加盟していないときでも、どちらか一方がICCの管轄権を認めれば、これを行使することができます。このほかに、国連安保理が憲章第7章に基づいた決議で付託した場合は、ICCの管轄権が認められます。【外務省HP「わかる!国際情勢」】
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なお、上記説明にある「侵略犯罪」については、2010年の再検討会議で定義がなされています。

日本は2007年に加盟していますが、105ヵ国目の締約国ということで、批准には時間を要しました。

同盟国アメリカがICCに消極的であり、アメリカ絡みの事案がおきたときの対応への懸念、あるいは国内関連法の調整なども背景にあったのでは・・・・と推察されます。

アメリカはクリントン政権時代に一旦行った署名を、ブッシュ政権時代に“撤回”する異例の対応をとっています。
アメリカがICCに消極的なのは、自国軍将兵が戦闘区域での不法行為(主として非戦闘員の殺害など)により訴追される事を防ぐためと見られています。

なお、最近はアメリカもICCに協力的に変化しつつあるとも。【ウィキペディアより】

ただ、アメリカをはじめ、ロシア・中国も加盟しておらず、安保理常任理事国の加盟国は英仏のみです。
また、地域的には、欧州・アフリカ・中南米諸国の多くが加盟しているのに対し、アジアの加盟国が非常に少ないという偏りもあります。

犯罪行為の実行地国又は被疑者の国籍国が加盟していなくても、国連安保理が付託すればICCの管轄権が認められますが、その安保理常任理事国の多くがICCに未加盟の状況では、そうした方法も大きく制約されます。

その多くのが加盟しているアフリカには、ICCがアフリカばかりを対象としている・・・という不満があることが以前から指摘されています。

2005年にはウガンダなどで活動するジョゼフ・コニーらテロ組織神の抵抗軍幹部、2007年にはダルフール関連でスーダン政府関係者、2008年には同じくスーダンのバシル大統領、2011年には安保理決議に基づいてリビアのカダフィ大佐、、2011年にはコートジボワールのバグボ前大統領に逮捕状が出されています。

最近では6月に、2002年に中央アフリカ共和国に派遣した自身の部隊による「残虐非道な」レイプや虐殺行為により有罪とされたコンゴ(旧ザイール)のジャンピエール・ベンバ元副大統領に、禁錮18年の量刑が言い渡されています。

こうして並べると、確かにアフリカ関連ばかりです。
その最大理由は、紛争・内戦が絶えないアフリカで非人道的犯罪行為が横行しているという現実がもちろんありますが、非人道的犯罪行為・戦争犯罪はアフリカだけではないだろう・・・という不満がアフリカ首脳にはあるようです。

****国際刑事裁判所(ICC)を脱退するアフリカの戦犯たち*****
<政治指導者の戦争犯罪や人道に対する罪を裁くICCに訴追されたブルンジが世界で初めて脱退を可決。ヌクルンジザ大統領は暴動に乗じて国民を殺した罪を償なわずに逃げる構え。他の独裁的アフリカ諸国も後に続けば、ICCの権威は地に堕ちる> 

アフリカ中部ブルンジのピエール・ヌクルンジザ大統領は18日、国際社会の異端の道を突き進むべく新たな行動に打って出た。

ブルンジの国会は10月上旬、国際刑事裁判所(ICC)から脱退することを定めた法案を賛成多数で可決、18日にヌクルンジザが署名し成立した。これにより、ブルンジはICCの設立規定を定めた国際条約「ローマ規定」から脱退したことになる。脱退の時期について、ローマ規定は国連事務総長への通知から1年後と定めているが、ブルンジ政府は法律がただちに施行されると発表した。

ICCは大量虐殺や人道に対する罪を含む重大な犯罪を国際法に基づいて裁く目的で、1998年にオランダのハーグに設立された。今回ブルンジが脱退すれば、初のケースとなる。

対象はアフリカばかり
ICCの主任検察官でガンビア出身のファトゥ・ベンスダは今年4月、ブルンジにおける人権侵害の予備調査に着手した。対象になったのは、ヌルンジザが大統領選への3選出馬を発表した2015年4月以降の状況だ。

出馬に抗議する市民に対する治安当局の激しい弾圧や軍幹部によるクーデターの失敗で、多数の死傷者が出た。ベンスダは当初、430人以上が殺害された模様だと述べた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、衝突が始まってから30万人以上の住民が隣国などへ逃れて難民になった。

本格調査に乗り出すというICCの決定は、ヌクルンジザを苛立たせた。
さらに国連は9月、ブルンジで2015年4月以降に564件の処刑が実施された事実を立証できたと主張、その多くは治安部隊が反対派とみなした勢力を弾圧するために行なわれたとする報告書を公表した。こうした動きに激怒したブルンジ政府は報告書の受け入れを拒否し、それ以降は国連調査団の受け入れも拒否している。

ブルンジはICCから脱退する最初の国だが最後の国ではなさそうだ。アフリカの独裁者たちは以前から、ICCが自分たちを標的にしていると不満を抱いてきた。

これまで人道に対する罪や戦争犯罪でICCに裁かれ有罪になった4人の被告人は、全員がアフリカ出身だ。

9月にはマリ出身のイスラム過激派の元戦闘員アフマド・ファキ・マフディが、西アフリカのマリ北部を一時制圧していた2012年に世界遺産都市トンブクトゥの文化財を破壊した戦争犯罪に問われ、ICCが禁固9年の判決を言い渡した。

6月にはアフリカ中部コンゴ(旧ザイール)の副大統領だったジャンピエール・ベンバが、2002年に中央アフリカに派遣した自身の部隊が犯した戦争犯罪と人道に対する罪で、ICCに禁固18年の量刑を言い渡された。ベンバは判決を不服として上告している。

ICCが進行中の3件の裁判すべてにアフリカ出身者が関わっており、裁判に向けて予備調査が進んでいる10件のうち9件もアフリカ諸国に関連する事案だ。

アフリカからの反発が強まる中、ブルンジの次にICCを脱退する可能性があるのはどの国だろうか。(後略)【10月20日 Newsweek】
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記事は脱退の可能性がある国として、ダルフールでの大量虐殺でバシル大統領に逮捕状が出ているスーダン、2007年12月の大統領選挙の結果をめぐって起こった暴動に乗じて人道に対する罪を犯した容疑でケニヤッタ(当時副首相)とルト(当時高等教育相)を含む6人が召喚されたケニア(ケニア政府が重要な証拠の提出を拒み、その後起訴は取下げとなっています)、早くからICC脱退を訴えているアフリカでも最高齢の指導者であるウガンダのムセベニ大統領などをあげています。

しかし、現実のICC脱退の動きは、上記の“問題国”ではなく、アフリカの地域大国である南アフリカで始まっていることが報じられています。

****南アフリカ 国際刑事裁判所からの脱退手続き開始****
南アフリカ政府は21日、国際刑事裁判所から脱退するための手続きを開始したと発表しました。

南アフリカは去年、戦争犯罪などの疑いで国際刑事裁判所から逮捕状が出ていたスーダンのバシール大統領が、AU=アフリカ連合の首脳会議に参加するため現地を訪れた際に、大統領を逮捕しないまま出国させたとして国際的な批判を受けました。

イギリスのBBCなどによりますと、マスサ法相は脱退の理由について「国際刑事裁判所が加盟国に義務づけている国家元首の逮捕を求める訴追手続きが、外交特権を認める南アフリカの法律と相いれない」と説明しているということです。

今回の発表について、国際的な人権団体からは「訴追手続きの国際的な協力を損なうものだ」として批判の声が上がっています。

一方、アフリカ諸国の間には、国際刑事裁判所に対して「アフリカの指導者ばかり狙って訴追している」として根強い不信感があり、最近もブルンジが脱退を検討していることを明らかにしたばかりで、ほかの国にも同調する動きが広がる事態が懸念されています。【10月22日 NHK】
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地域大国・南アフリカが脱退すれば、不満が鬱積している(あるいは脛に傷をもつ指導者が多い)アフリカ諸国で追随する国がありそうです。

オランド大統領:ロシアを戦争犯罪でICCに提訴・・・・
アフリカばかり対象となっている理由は先述のとおりですが、アフリカ以外でも非人道的犯罪・戦争犯罪が疑われる行為が絶えないことも事実です。

誰しも、思浮かべるのはシリア・アレッポで大量の住民を巻き込む形で行われているシリア政府・ロシアによる大規模空爆でしょう。

実際、シリア内戦開始当時から、アサド大統領をICCに訴追すべし・・・という声は、欧米やエジプト(ムシル政権当時)から出ていましたが、シリアが加盟国でないこと、国連安保理でもロシアが賛同しないことで、現実の動きとはなっていません。

最近また、アレッポ空爆を止めないロシアのプーチン大統領に対し苛立つフランス・オランド大統領がICCへの提訴に言及しています。

****仏大統領、アレッポ空爆のロシアを戦争犯罪で提訴示唆****
ロシアはアレッポ空爆停止を求める安保理決議に拒否権を行使した フランスのフランソワ・オランド大統領は10日、シリア北部アレッポへの空爆を続けるロシアを戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)に提訴する可能性を示唆した。

オランド大統領は仏テレビ局TMCに対し、来週フランス訪問予定のウラジミール・プーチン露大統領との会談を拒否するかもしれないと述べた。(中略)

ロシアはアレッポ空爆で民間人を攻撃していない、テロリスト集団を標的にしていると繰り返し主張している。
ロシアとシリアはICCに加盟していない。

オランド大統領はシリアの人々が「戦争犯罪の被害者になっている」と延べ、「ICCの場を含め、戦争犯罪を犯した者は責任を取らなくてはならない」と述べた。

大統領は、「もし(プーチン大統領)と会うことになったら、(空爆は)受け入れられないと伝える。ロシアのイメージに深刻な影響を及ぼす可能性がある」と語った。

これに先立ち、フランスのジャン=マルク・エロー外相は、反政府勢力が支配するアレッポ東部への攻撃について、ICC検察官が捜査着手できるよう取り組んでいると話した。

ジョン・ケリー米国務長官も先週、ロシアとシリア両政府による病院への攻撃は、「事故を超え」、意図的な戦略の下で行われたと非難。戦争犯罪として訴追するよう呼びかけた。(中略)

複数の主要国は、ICC判断には従わないと決意を固めている様子だ。米国、中国、インド、パキスタン、インドネシア、トルコなどは条約締結さえしていない。

エジプト、イラン、イスラエル、ロシアなどは締約国だが意思は不明確で、批准していない。
これらの国における人道に対する犯罪が訴追される可能性は低い。【10月11日 BBC】
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プーチン大統領は大物すぎて、ICCの手には負えないでしょう。
オランド大統領も実現できるとは思っていないでしょうが、とにかく欧米側の苛立ちを“プーチン大統領の戦争犯罪を問う”という形で表明したというところでしょう。

そういう欧米側の苛立ちを多少斟酌したのでしょうか、プーチン大統領がアレッポ攻撃を20日からしばし停止して、住民避難と食料搬送の人道的配慮をアピールしたのは報道のとおり。

しかしながら、短い停止期間を終えて、再びアレッポ攻撃が再開されています。

****アレッポの停戦、期限切れ 空爆再開 軍事衝突も****
シリア北部アレッポで22日遅く、政府軍を支援しているロシアが一方的に宣言した一時停戦が期限切れとなり、政府軍と反体制派の激しい戦闘が再燃した。
 
ロシア政府は「人道支援」を理由とする一時停戦を、停戦開始から3日目のグリニッジ標準時(GMT)22日午後4時(日本時間23日午前1時)まで延長していた。

国連(UN)は負傷した民間人を避難させるため停戦の延長を要請していたが、ロシアが新たな停戦延長は発表することはなかった。

在英のNGO「シリア人権監視団」によると、アレッポを分断している前線に沿った複数の地域で新たな戦闘が発生した。(中略)

アレッポの反体制派地域は約3か月にわたって政府軍に包囲され、数週間激しい爆撃を受けた。住民や戦闘員はシリア政府軍やロシア政府から一時停戦中の退避を促されていたものの、従わなかった。【10月23日 AFP】
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多くのアレッポ住民が退避しないのは、反体制派に阻止されているなどで、事実上逃げることもできない状況にあるためでしょうか、それとも、退避後の政府軍による対応に不安があるからでしょうか、あるいは、住民も反政府勢力にシンパシーを有しており、最後まで一体となって抵抗する意思があるということでしょうか・・・そのあたりはよくわかりません。

****国連人権理事会、アサド政権とロシア非難 アレッポ空爆****
シリアのアサド政権軍が反体制派を攻撃している北部アレッポで民間人約27万人が取り残されている人道危機を巡り、国連人権理事会の特別会合が21日、スイス・ジュネーブで開かれ、同政権と政権を支援するロシアを非難する決議案を賛成多数で採択した。
 
決議案は、欧米諸国が主導。たる爆弾や空爆などを含む兵器の無差別使用や、食料や水、医薬品などの供給が断たれている状況を強く非難。アサド政権と「同盟者たち(ロシア)」に、空爆をただちにやめるよう求めた。
 
さらに、国連のシリア独立調査委員会に国際刑事裁判所(ICC)での訴追も視野に、国際人道法違反の疑いで調査して、来年前半の人権理に報告するよう求めている。
 
ザイド国連人権高等弁務官は会合冒頭の演説で、無差別空爆などについて、戦争犯罪や人道に対する罪に当たる可能性を示唆した。
 
これに対し、シリアは、英国などに対して「戦争犯罪についての根拠ない罪状を捏造(ねつぞう)し、反シリアのプロパガンダを広めている」と反発。ロシアは決議案でアサド政権などを名指しした記述の削除を求めたが、反対多数で否決された。【10月22日 朝日】
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ICC フィリピン・ドゥテルテ大統領へ警告
最近、ICCの名前があがったもうひとつの事例が、フィリピン・ドゥテルテ大統領の麻薬犯罪取締りに係る「超法規的処刑」です。

****フィリピン・ドゥテルテ政権 国際刑事裁から警告! 「麻薬容疑者の超法規的殺害は訴追対象だ****
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のベンスダ主任検察官は14日までに、フィリピン当局による強権的な麻薬犯罪対策について、容疑者を超法規的に殺害することはICCの訴追対象となる可能性があると警告する声明を発表した。
 
状況を数週間注視し、ICCが管轄する犯罪があったかどうか調べる予備調査の要否を判断すると明らかにした。
 
声明は、過去3カ月に同国で超法規的に殺害された麻薬の売人や使用者は3千人を超える可能性があると指摘。「当局の高官らが公に殺害を容認する発言をし、継続を促しているとみられることに深刻な懸念を抱いている」と表明した。【10月14日 産経ニュース】
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フィリピンはアジアでは珍しくICC加盟国です。“状況を数週間注視”して、何か動きがあるのでしょうか?
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世界に広がる自由貿易協定反対論 

2016-10-22 22:11:54 | 国際情勢

(EU・カナダの経済貿易協定「CETA」への反対運動 【http://www.topnews365.com/ceta-talks-last-ditch-bid-to-save-eu-canada-trade-deal/】)

ベルギー南部ワロン地域議会の反対でとん挫したEUとカナダとの包括的経済・貿易協定(CETA)】
日本でもTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に関する議論が、今国会における焦点のひとつとなっています。

“TPP協定の国会承認を求める議案などを審議している衆議院の特別委員会は、21日地方公聴会を来週26日に開くことで与野党が合意しました。民進党などは、地方公聴会後も審議時間を十分確保するよう求めており、与党側が目指す月内の衆議院通過は難しい情勢です。”【10月22日 NHK】

直接に関係する分野の携わる方々にとっては死活問題ですが、私を含め一般の国民にとっては正直なところ、そんなに関心が高い話でもありません。(自分を含めた生活・経済にいずれ大きく影響することは間違いない重要な問題ではあるのですが・・・)

普段、国際関係のニュースを見ていても、国際経済の問題というのはとっつきにくいと言うか、紛争や弾圧、人権侵害といった話題に比べて、生死に今すぐ直結する訳でもないという意味で地味なところもあって、つい読み飛ばしてしまいます。

ですから、TPPの中身に関して云々する知見も持ち合わせていませんので、今日はこうした問題に関する議論の在り方とか国民の反応といった側面の話です。

このところ欧州で問題になっているのが、TPP同様の包括的貿易協定でもある、EUとカナダとの包括的経済・貿易協定(CETA)です。EU側において非常に難航していることが報じられています。

****カナダとの経済貿易協定「CETA」に反対、EU各地で大規模デモ****
欧州連合(EU)とカナダが締結を目指す包括的経済貿易協定(CETA)をめぐり、フランス、スペイン、ポーランドで15日、協定の調印に反対する大規模な抗議デモが行われた。
 
今月27日に開催されるEU・カナダサミットでCETAの調印にこぎつけるには、18日のEU貿易相会合でEU加盟28か国すべての支持を得る必要がある。
 
しかしCETAの調印はベルギー南部ワロン地域の議会が14日、CETAの批准に反対する動議を可決したことで問題にぶつかった。
 
使用言語ごとにいくつかの地域に分かれているベルギーの複雑な政治制度の下で連邦政府が正式に承認するには、まず7つの地域議会が、協定に署名する権限を連邦政府に与えなければならないことになっている。
 
ポール・マニェット(Paul Magnette)ワロン地域政府首相は地域議会の緊急会議で「私は連邦政府に権限を与えない。ベルギーは10月18日にCETAに署名しない」と述べた。「私は(CETAを)葬り去るつもりはない。再交渉の要求だと思ってほしい」
 
ワロン地域議会での議決は、カナダのジャスティン・トルドー首相の出席の下、今月ブリュッセルで予定されているCETAの調印を頓挫させる恐れがある。
 
CETAは5年にわたる協議を経て2014年に交渉が妥結した。CETAは、デリケートな問題を抱えるいくつかの農産物を除き、EU・カナダ間の関税を事実上全廃する。カナダはEU側の要求を受け入れ、これまで基本的に自由貿易協定の対象外とされてきた自国の公共調達分野をEU各国の企業に開放することに同意した。
 
推進派はCETAによって欧州・カナダ間の財とサービス分野の貿易は20%以上、EUの国内総生産(GDP)も120億ユーロ(約1兆3700億円)増加すると見込んでいる。
 
その一方でCETAは、現在交渉中でCETAよりも異論が多いEU・米国間の自由貿易協定を推し進めるためのテストケースになる恐れがあるとして、さまざまな団体が反対している。【10月16日 AFP】
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****EU理事会、カナダとの貿易協定承認を見送り ベルギーなど不支持****
欧州連合(EU)は18日に開かれた通商担当理事会で、カナダとの包括的経済・貿易協定(CETA)の承認を見送った。ベルギーのフランス語共同体が反対する姿勢を崩しておらず、必要とされる全会一致の支持が得られなかった。

理事会後にドイツのガブリエル経済・エネルギー相は記者団に「ルーマニア、ブルガリア、ベルギーが引き続きためらっているため、正式な合意はできなかった」と説明。数日内に問題は解決する見通しだと続けた。

EUとカナダは27日の調印を目指している。

ルーマニアとブルガリアはそれぞれの国民に対して査証(ビザ)を免除するようカナダに求めている。
ベルギー連邦政府はCETAを支持しているが、地域・言語共同体すべての支持がなければ正式に賛成はできない。(後略)【10月19日 ロイター】
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上記のように、(利害が伴う話ですから、当然のごとく)各地での反対運動がありますが、喫緊の課題としては、ベルギー南部ワロン地域の議会をどう説得するかにかかっていましたが、失敗したようです。

EUとの長年の交渉がベルギーの一地方の反対でとん挫したことへのカナダ側の憤りは、はんぱないものがあります。

****CETA 「協定結ぶ能力なし」とEUを非難 カナダ貿易相****
欧州連合(EU)とカナダが締結を目指す包括的経済貿易協定(CETA)に署名する権限をベルギー連邦政府に与えるよう、ベルギー南部ワロン地域を説得する交渉が21日、失敗に終わった。これにより7年かけて交渉してきたCETAの調印が不可能となり、カナダはEUを激しく非難した。
 
仏語圏のワロン地域政府首相との交渉を終えて出てきたとき、カナダのクリスティア・フリーランド国際貿易相は今にも泣きだしそうだった。
 
フリーランド国際貿易相は「私の、そしてカナダの立場から見て、いまのEUには、カナダのように欧州的な価値観を有し、カナダのように親切で忍耐強い国との間でさえ国際的な協定を結ぶ能力がないのは明らかであるように思えます」とコメントした。
 
ワロン地域の首府ナミュールでの交渉を終えたフリーランド国際貿易相は、何度も言葉を切って心を落ち着けながら「カナダは失望しています。私自身について言えば非常に失望しています」と述べた。

「私は精一杯、懸命に取り組んできましたが、(ワロン地域の説得は)不可能だと思います。わたしたちは帰国すると決めました。とても、とても残念です。本心からそう思う。良いことといえば明日の朝になれば私の3人の子どもたちに会えることくらいです」 
 
カナダのジャスティン・トルドー首相は来週、CETAに調印するためベルギー・ブリュッセルを訪問する予定となっているが、この予定が中止になるのはほぼ確実とみられる。
 
ポール・マニェット・ワロン地域政府首相はAFPに対し、ワロン地域にはもっと時間が必要だが、協定締結の余地はまだ残っていると述べた。
 
ワロン地域政府は今週、CETAに署名する権限をベルギー連邦政府に与えないと決議していた。CETA調印にはEU加盟28か国すべての支持を得る必要があるが、使用言語ごとにいくつかの地域に分かれているベルギーの複雑な政治制度の下で連邦政府が正式に承認するには、まず7つの地域議会が、協定に署名する権限を連邦政府に与えなければならないことになっている。
 
グローバリズムに反対するグループが、CETAよりも異論が多く交渉が行き詰まっているEU・米国間の自由貿易協定TTIPを推し進めるためのテストケースになる恐れがあるとしてCETAに反対しており、複数の都市で両協定に対する抗議を行っている。
 
マニェット地域政府首相は21日、CETAとTTIPに含まれる投資保護スキームが特に物議を醸し、活動家らの怒りを呼んでいると指摘した。
 
このワロン危機はEUに多大な影響を及ぼす可能性があり、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(EU大統領)は20日、カナダとの協定締結に失敗した場合、他の協定を締結することもできなくなる恐れがあると警鐘を鳴らした。【10月22日 AFP】
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EUの意思決定システムの問題
ベルギーにおける言語地域の対立は極めて根深いものがあり、2010年頃は南部フランス語圏と経済的に優位な北部オランダ語圏の政治対立によって1年半ほど新内閣が決まらない“政治空白”が続き、国家分裂の危機も言及されたほどです。(2011年12月6日ブログ“ベルギー 新政権発足で1年半の政治空白に終止符 今後は、言語圏対立に加え、原発閉鎖問題も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111206など)

部外者の目からすれば、そんなにいがみ合うのなら、いっそのこと国を分けてもいいのでは・・・、どうせ外交・防衛等については国家を超えた組織としてのEUに委ねるという方策もあるのだから・・・と思えるほどです。(このEUの存在が、スコットランドやカタルーニャの分離・独立運動を支える要素ともなっています。)

そうした筋金入りの頑なな地域対立を抱えるベルギーの地域議会を説得して、協定に署名する権限を連邦政府に与えるというのが非常に困難なことは部外者にも容易に想像できます。

一地域を説得できなければEU全体・28か国の行動が止まってしまうというのは、非常に“民主的”とも言えますが、現実問題としては著しくEUの行動を制約することにもなります。

日本でも、原発問題や基地問題などで、地方の考えと政府の考えが一致せず、取り組みが一向に進展しないといった問題は多々あります。

かつて革新勢力の顔でもあった美濃部東京都知事は「一人でも反対する限り、橋はつくらない」とも語っていましたが、微妙なバランス感覚が必要とされる問題でもあり、軽々にどうあるべき・・・と言うのも難しい問題ではあります。

日本という単一国家内でも難しい問題を、28か国全体の中でやっていこうというのは・・・・何かと批判が多いEUですが、EUの苦労も大変です。

ただ、地域、国家、EU全体の各段階における意思決定権限の在り方をどう調整するのか・・・という、EUのような共同体にとって根源的な問題の表れとも言えます。利害対立を調整する共同体として機能するためには、そこは避けて通れない問題でもあります。

現行基準の改悪、失業増大・・・「TTIPではなく民主主義を」】
EU・カナダのCETAの先には、“本丸”のEU・アメリカ間の自由貿易協定TTIPが控えています。
CETAがダメなら、ましてやTTIPはもっと難しいものがあります。

****EUはTTIPのために米国の前にひざまずことはしない-欧州委員会委員長****
EUは大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)の締結のために米国の前にひざまずくつもりはない。木曜、欧州委員会のジャン=クロード・ユンカー委員長が述べた。

「交渉は行われているが、我々は米国の前にひざまずことはしない。欧州の成功を支えてきた原理をすべて放棄するようなことはしない」。ベルガ通信が伝えた。

TTIPについてEUは米国と2013年7月から交渉を行っている。米国の計画ではオバマ大統領の任期が切れる今年11月までに交渉を締結することになっていた。

米国は交渉妥結への意欲を捨てていないが、EU側はこの目標は不可能であると公式声明で言っている。 欧州ではエコロジー、法と雇用の分野における標準が侵害されるとの懸念からTTIPに対して多数の抗議が行われている。【10月14日 SPUTNIK】
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EU側の強い姿勢の背景には、自由貿易協定へ反対する世論が存在することがあります。

****ドイツ各地で米EU貿易協定TTIPに抗議、参加者16万人超****
ドイツの主要7都市で17日、米国と欧州連合(EU)が締結を目指している「環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)」への抗議デモが行われ、計16万人以上が参加した。
 
現地のAFP記者らによると首都ベルリンやミュンヘンでは雨天にもかかわらず、TTIP反対組織やNGO、政党、労働組合から多数の人々が「TTIPではなく民主主義を」「共有しよう、分断するな」などと書かれた横断幕やプラカード、旗を掲げてデモ行進した。(中略)

米国とEUは2013年、域内人口8億5000万人で世界最大となる二者間貿易協定を目指したTTIPの締結に向けた交渉を開始した。しかし保健や福祉、環境、労働市場などの主要分野においてEU基準がおろそかにされたり、海外への外注が増え失業増加につながったりするのではといった懸念が欧州側に広がり、交渉は暗礁に乗り上げている。
 
とりわけドイツでTTIPへの疑念が高まっている。世論調査会社イプソスの最近の調査では、回答者の約28%TTIPによって実際に恩恵がもたらされることに疑念を抱いており、半数以上の52%がEU基準が弱体化して劣悪な製品が大量に出回るだろうと答えている。(後略)【9月18日 AFP】
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なお、EUと日本とのEPA(経済連携協定)も同時並行して協議が進められていますが、こちらについては21日、EU首脳会議は年内の政治合意に向けて交渉の加速を支持することなどで一致したようです。【10月22日 NHK】

全体的な流れとしては、“ヨーロッパでは、雇用や地場産業を守るため第三国に市場を開放する自由貿易協定に後ろ向きな世論が高まっていて域内の通商政策を率いるEUは厳しい局面に立たされています。”【10月22日 NHK】とも。

アメリカでも立ち往生するTPP
そのあたりは、アメリカ国内も同様です。日本を含めたTPP。これを推進するオバマ大統領は四面楚歌状態にあります。

****TPP推進はオバマだけ、米の惨状****
・・・・TPPはアジアへの軸足移動の必須条件である。TPPは成長を加速させ、米国の同盟を強化し、中国に強力なシグナルを送ることになるが、最も重要なのは米国流のやり方で21世紀のルールを書くということだ。
もしTPPがなければ、中国が我々とは大きく異なる形のルールを描いていくことになってしまうだろう。
 
だが、TPPはあらゆる方面から攻撃を受けている。サンダースとトランプはTPPに真っ向から反対し、クリントンもライアン下院議長もTPPが基準を満たしていないと述べている。

貿易取り決めで米国が損をしているとのトランプなどの主張は、何もこれについて知らない人のみが主張できる。単純な事実として、米国は世界で最も大きな市場を持っており、それをテコに例外扱いなどを求めている。TPPも例外ではない。アジア諸国が諸々の譲歩をした。交渉の結果、彼らの市場がもっと開放される。
 
サンダースが、世界中の何億もの人々を貧困から救った貿易政策を批判するのは不思議である。トランプが、何を本当に信じているのかは誰も知らない。

最も重要なのはクリントンとライアンだ。彼らは間違っていることを知っている立場を、恥知らずにも採用している。オバマは、アジア・ピボットとともに、米国の国益を追求し続けている。しかし、ポピュリズムと保護主義、孤立主義で満ちているワシントンで、オバマは今一人ぼっちになっている。【10月5日 WEDGE】
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愛国主義を掲げる政治家たちは複雑な背景を無視し、自由貿易に対する国民の不満をあおり立てる
“米国流のやり方で21世紀のルールを書く”というあたりが、各国で反発をまねく要素にもなるのでしょう。
それとともに、自由貿易に支えられたグローバリズムが格差の拡大をもたらしたとも批判されています。

****世界に広がる自由貿易協定反対論の衝撃****
「壁」を築いて自国経済を守るべきという論調が各国で支持を集め、グローバル化の理念が危機に瀕している

イギリスには、異民族の侵入を防ぐために築かれた防塁が数多く存在する。そして今、イギリスは欧州大陸に対して新たな「壁」を築こうとしている。(中略)

彼女(移民制限の方針に傾くメイ首相)だけではない。アメリカでは自由貿易を強力に推進してきたはずの共和党が、移民を追い出し、TPP(環太平洋経済連携協定)から脱退すると明言するドナルド・トランプを大統領候補に選んだ。

長年、欧州の片隅にくすぶっていた経済的自由主義への反発が世界全体に広がっているのだ。 

しかも、これは一時的なトレンドではない。先進国の工場を閉鎖に追い込んできた自由貿易の恩恵を被るのは富裕層ばかり。自由貿易によって貧困から脱した国は少なくないが、そんな指摘は、メキシコや日本、中国が「俺たちの」仕事を奪ったというトランプの訴えで簡単に吹き飛んでしまう。

イギリスでも、ラッド内相が「外国人の雇用が多過ぎる企業」をあぶり出す方針を表明し、EU諸国の怒りを買っている。

米のTPP批准は望み薄
90年代以降、世界中で格差が拡大したのは事実だが、自由貿易に責任はない。エコノミストらは、この10年ほどの低成長やテクノロジーの急速な進化、消費の低迷などグローバル化と無関係の要因が複雑に絡み合った結果だと指摘する。
 
だが愛国主義を掲げる政治家たちは複雑な背景を無視し、自由貿易に対する国民の不満をあおり立てる。「グロー
バル化かこの数十年間で最大の政治的試練に直面しているのは間違いない」と、英フィナンシヤルータイムズの
ショーンードナンは指摘する。(後略)【10月25日号 Newsweek日本版】
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国際経済論の分厚いテキストの第1ページに登場するのが、19世紀初頭のイギリスの経済学者であったデヴィッド・リカードが提唱したシンプル・素朴な「比較生産費説」です。

‟自由貿易において各経済主体が(複数あり得る自身の優位分野の中から)自身の最も優位な分野に特化・集中することで、それぞれの労働生産性が増大され、互いにより高品質の財やサービスと高い利益・収益を享受・獲得できるようなることを説明する概念である”【ウィキペディア】

もちろん、第2ページ以降のいろんな問題・条件で制約をうけるものではありますが、第1ページに登場する「大原則」を否定するものでもないでしょう。

格差拡大への批判は、自由貿易・グローバリズムそのものの問題というより、そこで得られる利益をどのように分配するのかという国内政治の問題でしょう。

“比較優位は、全体で利益は向上するが、一部で仕事をあきらめるなどの犠牲を払う必要がある理論であるとする指摘がある。比較優位の考え方は、固定的に考えたり押しつければ強者の理論になる・・・・”【ウィキペディア】も、やはり国内政治の問題でしょう。

わかりやすい、国民が反応しやすい“敵”を作り出し、攻撃することで社会を扇動するポピュリズムには注意する必要があります。もちろん、現在の社会がそうした不満を作り出してきたことへの真摯な反省と対応が必須であることは言うまでもないことですが。
コメント (1)
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