(カブールの秘密の訓練校で、メイクの講習を受ける少女たち(11月25日)【12月17日 読売】)
【女子医療教育も禁止に 女性患者を誰が診るのか?】
アフガニスタンのタリバン暫定政権が教育機会を奪うなど女性への締め付けを強めていることは何回も取り上げていますが、その流れは変わっていません。
教育機会だけでなく、8月には女性が公共の場で大声を出すことを禁止し、全身や顔を布で覆うことを義務づけた新たな法律「道徳法」が制定されました。
****アフガン、暫定政権の女性締め付け強まる 公共の場で「大声禁止」****
イスラム主義組織タリバンが実権を握るアフガニスタンで、暫定政権が女性への抑圧を強めている。8月には女性が公共の場で大声を出すことを禁止し、全身や顔を布で覆うことを義務づけた新たな法律が制定された。
締め付けが強まる中、女性たちの暮らしや社会の状況について、11月中旬に来日した国連開発計画(UNDP)アフガニスタン常駐代表のスティーブン・ロドリケス氏に聞いた。
――2021年にタリバンが復権してから3年以上が過ぎました。アフガニスタンの女性を取り巻く状況を教えてください。
◆アフガニスタンでは女性と少女が非常に厳しい制約を受けています。少女たちは中等・高等教育を受けられなくなり、11〜12歳になるとその先の進路はありません。公園に行くことも一定の距離を移動することも禁止されており、制限は年々厳しくなっています。
今年、女性への規制をさらに強化する「道徳法」と呼ばれる新しい法律が制定されました。公共の場で女性が声を発するべきではないとされており、多くの人々が「女性の声が社会から消えつつある」と考えています。
――活動を通じてアフガンの人々とどのような話をしますか。
◆かつて公務員や弁護士として活動していた女性たちに会う機会がありました。彼女たちは懸命に勉強して仕事を得たのですが、今は家に閉じ込められて身動きが取れない状況だと聞きました。収入を得られず、家庭内で虐待を受けるケースも少なくありません。「非常に重たい気持ちだ」という話をよく耳にします。
アフガンの女性は移動する際に男性家族の同伴を義務付ける「マハラム制度」が課せられています。法律や命令に従っているか常にチェックされ、タクシーに乗る場合でも男性家族と一緒か確認されます。絶え間ない監視が大きな不安を与えています。
――UNDPは女性主導の企業の支援をしていますね。社会にどのような影響を与えるでしょうか。
◆アフガニスタンの女性は、民間企業で働くことは許されており、UNDPは女性が経営を主導する会社の支援に携わっています。これまでに約7万5000社の支援に関わってきました。
先日、生理用品を製造している女性の経営者と会いましたが、彼女は35人の女性を雇用していました。女性が女性のために機会を創出し、ネットワークを築きます。安心感を与え、孤独感を和らげることにもつながると信じています。
――課題はありますか。
◆私たちが支援している人々の多くは農村部に住み、首都カブールやイラン、パキスタンなどの大都市に向けて、製造したカーペットやドレスなどを販売しています。
しかし、女性がビジネスをする上でもさまざまな課題があり、例えば移動する際に、(同行する男性も含めた)2人分のチケット代を払わなければなりません。差別も深刻で、商品を大幅に値下げしない限り、取引に応じようとしないという例もあります。
――女性主導の企業に対する、タリバンのスタンスはどのようなものですか。
◆タリバン(暫定)政権や商工省から私たちが聞いたメッセージは「女性が所有する企業を支援する」というものでした。しかし、女性にとっては多大なコストがかかり、困難な状況です。国際社会はアフガニスタンで起きている状況を忘れてはなりません。
UNDPは、国内のさまざまな州や地域で活動の余地を見つけ、当局と交渉して活動を可能にするよう働きかけています。一方で、人道支援についてはいかなる干渉もあってはならないと一貫して主張しています。これからも中立で独立した立場で仕事を続けたいと思っています。【11月30日 毎日】
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状況は更に悪化。例外的に許されていた看護師や助産師を育成するための女子教育も禁止されることに。
このことは、単に女性の教育・就業の問題にとどまらず、女性の患者は女性医療者にしか診てもらいえないアフガニスタンにあっては、女性患者の生命に直結する問題ともなります。
****アフガニスタンで女子医療教育が禁止に…男性医師は女性の診察できず深刻な影響必至、医学校の女性「皆泣いていた」*****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバン暫定政権が3日、例外的に許可していた看護師や助産師を育成するための女子教育を禁止したことが、複数の学校関係者や学生らの証言でわかった。
厳しいイスラム法の適用で、男性医師は女性の診察ができないため、現状が固定化すれば、女性の受診機会に深刻な影響が出るのは必至だ。
禁止は3日朝、各医学校で個別に通告された。女子学生は帰宅を命じられ、「追って通知があるまで」自宅待機となった。全国一斉の措置とみられ、本紙の取材に各地の複数の医学校関係者が同様の対応がとられたと証言した。タリバン暫定政権は公式に発表しておらず、理由は不明だ。
タリバン暫定政権は2021年の実権掌握後、中学以上の女子教育を禁止した。男性医師による女性の診察ができないことから、看護、助産、歯科の3分野に限って女子教育を認めてきた。
しかし、中学以上の女子教育を禁じたことで、医学校への進学に必要な高校卒業の資格が取得できず、将来は女性の医療・保健従事者が不足することが懸念されていた。医学校での女子教育禁止で、女性の教育機会は一層、限定されることになる。
首都カブールの私立医学校で看護を学ぶ女性(20)は「いつまで待てばいいのか。クラスの皆が泣いていた」と語った。【12月5日 読売】
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【秘密の美容師訓練校や美容院の地下営業も】
そうした厳しい状況にあっても、秘密の美容師訓練校や美容院の地下営業もあるようです。
****アフガンに「秘密美容学校」…タリバン政権の営業禁止下で極秘開校****
イスラム主義勢力タリバン暫定政権が美容院の営業禁止を命じたアフガニスタンの首都カブールで、美容師の訓練校が極秘開校し、少女たちが技術の習得に励んでいる。将来、美容院が解禁されることを期待しながら、秘密の講義が続いている。
ヒビ割れた鏡
カブールの某所。塀と鉄扉に閉ざされ、道路から中が見えない敷地の中に、水も電気もない平屋の建物があった。その一室は施錠され、大きなヒビが入った中古の鏡台が隠されていた。
「きょうは目のメイクの説明です」。集まった生徒から一人を選び、鏡台の前でお手本を見せる講師の話に生徒は熱心に耳を傾けた。
地元の支援団体が今年8月に開校した訓練校では14〜18歳の少女と32歳の女性の計10人が、メイク4か月、ヘアスタイル2か月の半年コースで学ぶ。
国語や数学も
訓練校は、タリバンが就学を禁止した中学以上の女子たちの地下学校でもある。国語や数学を学び、下級生の先生役も務めた後、毎日午後2〜3時の間、美容師の基礎技術を身につける。
「タリバンが女子教育を禁止し、学校に通えなくなったから家にいるしかなかった」。こう語る講師の年齢は17歳。美容院で働きながら技術を学んだ経験があり、他の少女たちの指導にあたる。コースが終了すれば、地下営業をする美容院に就職できる可能性がある。
講師の少女は「信用できる人と接触して美容院を紹介してもらう」と地下美容院とのパイプの重要性を強調する。支援団体の男性は「美容院が禁止されても結婚式はあるし、女性は普段からおしゃれもしたい。需要はある」と話す。
悩みは訓練に使う化粧品などの費用の捻出だ。鏡台は中古が1台だけ。ファンデーションは日本円で1000円前後で、結婚式で使うブランド品は約5500円と高額だ。現在は中東のある国の政府による援助などでまかなっているという。
結婚式で
危険を冒して美容師を目指す理由について、少女たちは「収入のため」と口をそろえる。タリバンが女性の就業機会も制限する中、美容師の報酬は格段に高い。
支援団体によると、女性の平均的な月収は日本円で2万〜2万6000円。一方、美容師は1回のメイクで2200円、ヘアスタイルも整えれば6500円の収入になり、結婚式の花嫁のメイクはその10倍だという。平均月収以上の額を1度の結婚式で稼げる計算だ。
18歳の少女は「ここで学んでいるのは家族だけの秘密。誰にも話さない」と話す。家族は心配しつつ、応援もしてくれるという。16歳の少女は「政府の方針も将来は変わると思う。変わらなければ、地下営業で働くだけ」と口を結んだ。
◆美容院の営業禁止=タリバン暫定政権の「勧善懲悪省」が2023年7月25日、イスラム法に反するとして全国で実施した。業界団体によると、約1万2000店で主に女性の経営者と従業員が職を失ったとみられる。監視の目をかいくぐり、地下営業をする美容院も多いとされる。【12月17日 読売】
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「秘密美容学校」・・・外国メディアがある程度把握できるものをタリバンが全く知らないというのも考えにくいように思えます。一定に黙認の領域があるのでしょうか?
来年も無事に続けられるといいのですが。もちろん“秘密”でなくなることが一番です。
【イスラム過激派対策もあってタリバン暫定政権に接近するロシア・中国】
こうしたタリバン暫定政権による女性の人権弾圧に対し欧米社会は厳しい目を向けていますが、一方で、ロシア・中国にとっては反欧米陣営にアフガニスタンを取り込む好機ともなっており、ロシア・中国はタリバン暫定政権とのつながりを強化しています。
****ロシア、タリバンのテロ組織指定を解除可能に プーチン氏が署名****
ロシアのプーチン大統領は28日、アフガニスタンを支配するイスラム主義組織タリバンについて、テロ組織の指定解除を可能にする法律に署名した。インタファクス通信が報じた。
インタファクス通信などによると、テロ組織の指定の解除は、「テロに関するプロパガンダや正当化、支援」に向けた活動を停止したと判断できる証拠があれば、検事総長の申請に基づいて、裁判所が決定するとしている。
タリバン以外の組織にも適用され、シリアの暫定政権を主導する旧反体制派の「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)も指定解除の対象として浮上している。
ロシアは2003年にタリバンをテロ組織に指定。ただ、近年は関係改善に転じ、関係を深めていた。ロシアとしては中央アジアを通って過激派組織「イスラム国」(IS)が流入するのを抑え、テロ対策で共闘したい狙いもある。旧ソ連諸国では、これまでにカザフスタンとキルギスがすでにタリバンのテロ組織指定を解除している。【12月29日 毎日】
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****タリバン、中国に行政官をのべ1400人派遣 官僚養成で体制の盤石化狙う 「中国傾斜」鮮明に****
アフガニスタンで実権を握るタリバン暫定政権が昨年来、中国に多数の行政官を送り込んでいることが28日、国連関係筋への取材で分かった。
2021年夏、米国を後ろ盾とした共和政権が崩壊した後、国家運営を担うメンバーに実務経験を積ませるのが狙い。反米色を強めるタリバン政権の「中国傾斜」が鮮明となっている。
国連関係筋によれば、タリバンは昨年、600人の行政官を中国に派遣した。対象は主に、省庁の課長や局長クラス。今年の派遣は800人規模に上るという。
タリバン政権は第1次政権期(1996〜2001年)とは異なり、比較的そつのない行政を全国規模で展開。中国で本格養成された〝エリート〟たちを今後、積極活用することで、復権から3年経った支配体制を盤石化させたい考えとみられる。
女性の人権抑圧に対する懸念から、国際社会は現在、タリバン政権を正統な政府とは認めていない。こうした中、同筋によれば、タリバンは今月初旬ごろ、中国に閣僚も派遣した。日本など西側諸国とアフガンとの間で〝閣僚外交〟が行われない中、「中国との関係深化を象徴する動き」(同筋)といえる。
中国は巨大経済圏構想「一帯一路」へのアフガン取り込みを加速させたい考え。アフガンには、石油や重要鉱物といった豊富な天然資源が眠っていると指摘され、今年夏には、中国国有企業が主導するアフガン史上最大規模の銅鉱山開発事業がスタートした。
中国はアフガンに隣接する新疆(しんきょう)ウイグル自治区への過激派流入を恐れており、治安対策でタリバンから協力を得たい思惑もある。
アフガン浸透を狙う中国は昨年9月、駐アフガン大使を派遣した。タリバンが実権を握って以降、外国の大使が任命されたのは初めてとなった。タリバン側もこれを受けて同年末、駐中国大使を派遣するなど交流が活発化している。【12月28日 産経】
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ロシア・中国ともに、タリバン暫定政権が安定することで、イスラム過激派の活動・中ロへの流入を阻止してくれることを期待しています。来年には人権抑圧状況の改善がないまま、タリバン政権の正式承認レベルに至るのかも。
【イスラム過激派をめぐってアフガニスタン・パキスタンの間で衝突も】
イスラム過激派の活動・流入ということでは、タリバンに忠誠を誓うイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」をめぐって、かつてのタリバンの生みの親・育ての親でもあるパキスタンと武力衝突も起きています。
****パキスタン軍が空爆、アフガンで46人死亡 タリバン暫定政権が声明****
アフガニスタンを支配するイスラム主義組織タリバン暫定政権は24日、この日の夜に東部パクティカ州が隣国パキスタン軍の空爆を受けたとする声明を出した。
暫定政権のムジャヒド報道官は25日、毎日新聞の取材に対して、子供や女性を含む46人が亡くなったと述べた。死傷したのは地元住民やパキスタン北西部から流入した難民だという。
タリバンの国防省は「卑劣な行為を見過ごすことはできない」との非難声明を出し、緊張が高まる恐れがある。パキスタン政府はコメントしていないが、パキスタン治安当局筋はテロ組織の拠点を狙った越境攻撃だったとしている。
パキスタン当局筋は各国メディアに対し、「テロリストの潜伏場所だけを狙った」と説明した。パキスタン軍は今年3月にもアフガン国内のテロ組織を標的にしたとする越境攻撃を実行している。
背景には、アフガンでタリバンが復権した2021年8月以降、タリバンに忠誠を誓うイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が勢力を拡大し、パキスタン当局を狙ったテロ事件を繰り返していることがある。
パキスタン側は、TTPなどのテロ組織がアフガン国内を拠点に自国への攻撃を仕掛けていると主張。タリバンは否定しており、テロ対策を巡って両国の関係が悪化している。【12月25日 毎日】
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****タリバンが報復攻撃 対パキスタン、応酬懸念****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は28日、隣国パキスタンの複数地点を攻撃したと発表した。AP通信が伝えた。パキスタン軍が24日にアフガン東部のイスラム武装勢力の拠点を空爆したことへの報復としており、応酬の激化が懸念される。
タリバン暫定政権によると、アフガンへの攻撃を計画、調整する勢力の拠点や潜伏場所を標的にした。攻撃方法や死傷者の有無は明らかにしていないが、親タリバンとされるメディアはパキスタン軍の兵士19人とアフガンの民間人3人が死亡したと伝えた。【12月29日 共同】
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前述のように中国はタリバン暫定政権と接近しています。 一方、パキスタンも中国にとって「一帯一路」の要になる国であり、中国が最も緊密な関係を持つ国でもあります。
そうしたことで、中国が表世界か水面下かはともかく、パキスタン・アフガニスタン両国の関係がこれ以上悪化しないように働きかけることが想像されます。