孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南米ペルーで開催のAPEC 中国主導の大型深海港「チャンカイ港」 中南米は今後「中国の裏庭」へ

2024-11-15 22:30:39 | 人権 児童

(14日、チャンカイ港の開港式にオンラインで出席した習近平主席とボルアルテ・ペルー大統領。【11月15日 新華網】)

【アメリカが今後保護貿易主義に走るなかで開催される自由貿易を掲げるAPEC】
アメリカで「タリフマン(関税男)」を自任するトランプ氏が復権し、アメリカが保護貿易に傾斜する予測がある状況で、自由で開かれた貿易を掲げるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の会議が南米ペルーで開催されています。 首脳会議に先だって行われていた閣僚会議は14日に閉幕しました。

****APEC、自由貿易の重要性確認=閣僚会議閉幕、声明で調整続く―保護主義対抗、意見隔たりも****
日本や米国、中国など21カ国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議は14日(日本時間15日午前)、閉幕した。

関税の大幅な引き上げを主張するトランプ次期米大統領の返り咲きで保護主義拡大への警戒感が強まる中、自由貿易の重要性を確認した。

ただ、閣僚共同声明を巡っては意見に隔たりがあり、事務レベルで調整を続ける。
日本からは武藤容治経済産業相と岩屋毅外相が出席した。

会議では、域内経済の成長に向けた貿易・投資などを議論。岩屋氏は会議終了を前に記者団に「自由で公正な貿易環境、投資環境を促進し、持続的成長を実現すべく連携していくことを確認できた」と話した。
武藤氏は閉幕後の記者会見で「世界貿易機関(WTO)の機能強化や経済連携協定(EPA)の推進、拡大を通じ、ルールに基づく自由貿易体制を強化する意見が多かった」と述べた。

声明のとりまとめが難航している理由へのコメントは避けた一方、「新しい世界に入ろうとしている中、国際協調は非常に大事な観点だ」と強調した。【11月15日 時事】
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日米と中国が、更には新興国・途上国が参加する会議ですので、“意見の隔たり”は当然にあるでしょう。

【最も大きな存在感を見せるのは中国・習近平国家主席】
首脳会議にはバイデン大統領も出席し、習近平国家主席と最後の会談も予定されていますが、アメリカが政権交代の最中にあるということもあって、最も大きな存在感を見せるのは中国・習近平国家主席のようです。

****習氏、南米歴訪開始 中国出資のペルー大型港式典に出席****
中国の習近平国家主席が14日、1週間にわたる南米歴訪を開始した。初日は中国が13億ドルを出資したペルーの大型深海港「チャンカイ港」の開港式典にオンラインで参加。南米で通商や影響力の拡大を目指す。

習氏はペルーの首都リマで開幕するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する予定。来週にはブラジルのリオデジャネイロで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に参加するほか、ブラジルへの公式訪問も行う。

習氏はペルーのボルアルテ大統領とともに、リマの北方80キロに位置し太平洋に面するチャンカイ港の開港式典にオンラインで参加。既存の自由貿易協定(FTA)を拡充する文書にも調印した。【11月15日 ロイター】
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【中国主導の巨大港湾「チャンカイ港」 「南米のハブ港」の機能が期待される一方で、アメリカは軍事利用を警戒】
「アメリカの裏庭」南米のペルーにおける大型深海港「チャンカイ港」は近年の南米における中国の存在強化を示すものでもあります。

「一帯一路」に沿った中国資本主導で建設された巨大港湾「チャンカイ港」は「南米のハブ港」の機能が期待される一方で、アメリカは軍事利用を警戒しています。

****ペルーに中国主導で巨大港湾 南米に「一帯一路」―米、軍事利用を警戒****
ペルー中部の太平洋岸チャンカイに中国資本主導で建設された巨大港湾が完成し、14日に開港式典が開かれた。

南米とアジアとの海上輸送が直接結ばれ、中国の巨大経済圏「一帯一路」構想が進展。中南米地域を勢力圏と見なす米国は軍事利用を警戒しており、米中の覇権争いが激しさを増しそうだ。

港湾は首都リマの北約80キロにある。中国海運最大手の中国遠洋海運集団が権益の6割を保有。ペルーだけでなく、中国との貿易関係を強める周辺国の利用も想定され、「南米のハブ港」の機能が期待されている。

式典は、ペルーで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に先立ち行われた。リマからリモートで出席した中国の習近平国家主席は「(港が)ペルーや中南米、カリブ海諸国の繁栄と幸福への道」になると期待を表明。同席したペルーのボルアルテ大統領も「ペルーにとって歴史的な瞬間だ。世界クラスの物流、技術、産業の中心として国が強化される」と訴えた。

総事業費は約34億ドル(約5300億円)。今回は第1段階として13億ドルを投じ、約140ヘクタールの敷地に埠頭(ふとう)などを整備した。港の水深は17.8メートルと世界最大級のコンテナ船も寄港が可能だ。ペルー太平洋岸とアジアを結ぶ海上輸送は平均25日となり、従前に比べ約10日間短縮される。

ペルーや隣国チリは銅の主要産出国。周辺ではリチウムも埋蔵量が豊富で、電気自動車(EV)に欠かせないこうした戦略物資の円滑な輸入を中国は狙う。

一方、中南米を担当する米南方軍のリチャードソン前司令官は7日の退任前に一部メディアに、中国海軍も港を利用する恐れがあると警告。「中南米だけでなく他の場所でも繰り広げられた戦略だ」と述べ、米国や同盟国に対して中国の影響力拡大に対応するよう促した。【11月15日 時事】
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【強まる中国の影響力】
中国は今回APEC開催にあったってもペルーを支援。“中国の肩入れぶり”を示すものとも。

****ペルーに10億円相当寄贈 中国、APEC警備で****
ペルー政府は24日、11月半ばに首都リマで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の警備のためとして、中国政府から車両110台など700万ドル(約10億円)相当の物品が寄贈されたと発表した。

中国は警察の安全装備を購入する費用として別途、100万ドルを拠出。近年ペルーで存在感を増す中国の肩入れぶりが浮き彫りとなった。

寄贈されたのはバイクやバスなどの車両のほか、スキャナーや情報機器。ボルアルテ大統領は大統領府で行われた式典で「ペルーと中国の良好な2国間関係の明確な例だ」と指摘した上で「APECの成功が保証される」と強調した。【10月25日 時事】
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一方で中国は台湾関連でペルーに圧力も。上記のような中国との緊密な関係がありますので、ペルーとしては断る術もないようです。

****ペルーの首都リマの空港、中国の圧力で台湾の半導体広告を撤去 APEC首脳会議直前****
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が15日に始まる南米ペルーの首都リマの空港で、台湾の半導体をアピールする看板広告が中国の圧力で撤去されていたことが分かった。台湾の中央通信社が同日伝えた。

同通信社が台湾当局者の話として報じたところでは、10月中旬、空港の税関手続き用の通路に電照看板が設置された。「TAIWAN」の大きな文字に半導体チップのデザインをあしらい、「世界の繁栄のために台湾と協力しよう」と英語で呼び掛ける内容だった。

ところが広告の掲出から約1週間後、中国側の圧力を受けて現地の広告会社が撤去を余儀なくされた。台湾の広告はリマ市内の大通りにも6カ所設置されているが、これらについては「(中国の)圧力は成功していない」という。

頼清徳政権はAPEC首脳会議に台湾代表として、自動車メーカーの元経営者で元行政院副院長(副首相に相当)の林信義氏を派遣した。頼政権は当初、副総統や行政院長(首相)を歴任した陳建仁氏の派遣を希望していたが、ホスト国のペルーが受け入れなかった。

リマ近郊に完成したチャンカイ港には、中国国有海運大手の中国遠洋海運集団(COSCO)が60%出資しており、「ペルーは中国の意向を尊重せざるを得ない」(台北の外交筋)事情がある。【11月15日 産経】
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カネも出すけど、しっかり要求も・・・・という中国の“強面(こわもて)”の一面です。

【「アメリカの裏庭」は今後は「中国の裏庭」と化す予測も】
従来南米は「アメリカの裏庭」と呼ばれてきましたが、ペルーに限らず、近年は中国の影響力が強まっています。
欧米は中国との関係を警戒しデリスキング(リスク軽減)を志向していますが、中南米諸国にはそうしたものはあまりなく、中国との相互依存関係が強まっており、将来的には「中国の裏庭」と化す可能性も。

****中南米における「中国の裏庭化」論の実態と 今後の展望 ****
1.中南米における「中国の裏庭化」論とは? 

1-1.中国の中南米進出に対する欧米諸国の焦燥感
2000年代以降、中国は経済関係の緊密化を軸として中南米諸国との関係強化を進めてきた。コロナ禍ではワクチン外交を通じて社会面においてもそのプレゼンスを発揮した。2017年以来、中米5カ国が台湾と断交して中国との外交関係を樹立している。

こうした状況に対する焦りを背景とし、欧米諸国のメディアやシンクタンクは、かつて「米国の裏庭」と呼ばれた中南米が「中国の裏庭」に変容しつつあるとの脅威論を唱えるようになった。

ここで注目すべきは、この中国脅威論が中南米側から発生したのではないという点である。

中南米は1990年代まで米国の圧倒的な覇権に特徴づけられていたが、2001年の同時多発テロ以来、中南米に対する米国の影響力(とくに開発援助)が急速に衰えたことにより、中南米はかならずしも米国の覇権下にあるとはいえない状況が生じた。

こうした中、ジョージ・W・ブッシュ政権下の独善的な外交姿勢に対する反発も相まって、中南米各国で反米左派政権が台頭した。

この隙間を埋めるように、貿易・融資・投資といった経済ツールを駆使して中南米への進出を始めたのが中国である。経済関係の拡大を通じた中国のプレゼンスの高まりは、中南米諸国の米国離れを加速させた。

こうした米国の影響力と関与の低下や反米左派政権の台頭といった要素は、中国の中南米進出にとって有利な条件を生み出していた。 
(中略)
3.今後の展望
中南米は今後も中国にとって資源・食糧の有力な供給元であり続ける。地政学的観点からいえば、欧米諸国が中国デリスキングを進めるほど、中国は一次産品を獲得する上でのリスクを回避するべく、グロー バル・サウスの一翼を担う中南米諸国への接近を強化する動機が高まる状況にある。

中南米側からすれば、経済成長にとって重要な輸出と対内直接投資の増加をもたらす中国との間で良好な経済関係を継続させていくことが合理的選択となる。

つまり、中南米側から中国切り離しへ向かう動向はほぼ皆無に等しいことから、諸外国が中南米へのアプローチを再強化させない限り、中国との相互依存は進む一方となる。

こうした中、EUは中国のBRIに対抗するインフラ投資計画「グローバル・ゲートウェイ」の一環として、中南米向けに450億ユーロの投資を予定している。この中にはリチウム開発案件も含まれていると報じられている。 

近年、中南米地域に「左傾化の波」が再来しているとの議論について、1990年代後半以降に訪れた第一の左傾化に照らし合わせると、中南米左派政権と中国がおもに政治外交面で再接近を試みる可能性を否定できない。

ただし、環境・先住民保護の観点から中国との間で摩擦が生じることや、中国側の行動に修正が求められることが見込まれる。

また、今後の対中関係を展望する上では、このような国内政治的な要素に加え、10年以上にわたって中南米各国にビルトインされた対中経済依存のさらなる深化や、米国主導の経済安全保障枠組みである「経済的繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)」に対する中南米諸国の関心の低さについても考慮する必要があるだろう。【2023年8月 三井物産戦略研究所 国際情報部北米・中南米室 高橋亮太氏】
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1年以上前の上記記事においても、結局のところ中南米における中国の影響力は今後更に強まる印象ですが、アメリカはトランプ復権で「自国第一主義」が強まりますので、アメリカの影響力が低下する空白を埋めるように中国の影響力が更に強まることが予想されます。
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中絶規制  エルサルバドルでは中絶、流産等は「加重殺人」 日本では死産時の死体遺棄事件の問題も

2024-01-18 23:29:08 | 人権 児童

(エルサルバドルの控訴裁判所は2019年8月19日、レイプ被害によって妊娠し、胎児が8カ月の時に死産したエベリン・エルナンデスさん(中央)(21)に対し、無罪を言い渡した【2019年08月21日 HUFFPOST】)

【アメリカ キリスト教保守派の影響で中絶規制強化の流れ】
アメリカで中絶の是非をめぐって国に二分する(ときに暴力行為を伴う)激しい議論が行われており、大統領選挙や議会選挙を大きく左右する問題にもなっていることはこれまでも何回も取り上げてきました。

中絶反対派のコアには(特に共和党において)政治的影響力を増しているキリスト教保守派の思想があります。
その中絶反対派の主張は、胎児であれ何であれ、どんな命も尊重されなければならず、それがたとえレイプや近親相姦による妊娠であっても、あるいは、胎児に重篤な障害あって、誕生後にどれほどの期間生存できるか分からない・・・といった場合でも、とにかく出産を行うべきとするものです。

一見、「生命尊重」という反対しづらい正論に思える主張ですが、母体の安全性、レイプや近親相姦によって生まれた子供を育てる母親の苦しみ、それが子供にどう影響するのか・・・そこまでの問題ではなくても、母親が産み育てることが非常に困難な状況にあるときに出産によって生じる諸問題・・・・そうした現実問題の観点が抜け落ちている・・・と言うか、意図的にそうした問題に目を閉じています。

下記は以前も取り上げたものですが、厳しい中絶規制を行っている州では下記のような事例も生じます。

****米テキサス州最高裁、先天性疾患胎児の中絶認める地裁判断覆す*****
米テキサス州で、妊娠中の胎児に先天性疾患が見つかったとする女性が、人工妊娠中絶の許可を求めて同州を相手取って起こした訴訟で、州の最高裁判所は11日、緊急中絶を認めるとした地方裁判所の判断を覆した。原告の代理人弁護士によると、女性は最高裁判断が出る数時間前に、中絶処置を受けるため同州を離れたという。

ダラス・フォートワース都市圏在住の2児の母、ケイト・コックスさんは妊娠20週目を過ぎている。胎児は染色体異常による先天性疾患「フルエドワーズ症候群」で、出産前に死亡する確率が高く、生まれても数日しか生きられないとされる。

医師らは、人工中絶処置を行わなければ、子宮摘出や命にかかわる危険があると判断。コックスさんは先週、中絶の許可を求めてテキサス州を提訴し、トラビス州地裁は中絶を認める判断を下していた。

しかし、これを受けてテキサス州のケン・パクストン司法長官が、直ちに州最高裁に上訴するとともに、コックスさんの中絶処置を行った医師を訴追すると警告していた。

コックスさんと夫、医師の代理として訴状を提出した「性と生殖に関する権利センター」のナンシー・ノーサップ代表は、コックスさんが他州に移ったことについて、「母体の健康が危険にさらされている。緊急治療室への出入りを繰り返してきた原告は、これ以上待てなかった。これが、裁判官や政治家が妊婦に関する判断を下してはならない理由だ。医師ではないのだ」と非難した。

一方、テキサス州最高裁の判事らは、本件は司法が介入すべき問題ではないとの所感を示し、今回の判断は、本件について医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断した場合には中絶処置を禁じるものではなく、もし原告が(同州における中絶禁止の)例外に当たるのならば、「裁判所命令は必要ない」と述べた。

同権利センターの専属弁護士、モリー・デュアン氏は「もしテキサス州でコックスさんが中絶処置を受けられないなら、誰が受けられるのか。本件は、例外が機能せず、中絶禁止法がある州での妊娠は危険だということを証明している」と指摘した。

ノーサップ氏も、「コックスさんには州外に行く手立てがあったが、大半の人にはなく、こうした状況は死刑宣告になりかねない」と非難した。

米最高裁は2022年6月、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決を覆す判断を下した。

テキサス州は、レイプや近親姦(かん)による妊娠でも中絶を認めない厳格な中絶禁止法を施行。また中絶手術を受けた本人だけでなく、中絶に協力した人を市民が告発できる州法がある。中絶手術を行った医師に対しては、99年以下の禁錮と10万ドル(約1500万円)以下の罰金が科された上、医師免許が剥奪される可能性がある。 【12月12日 AFP】
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【中絶規制をめぐる世界の状況】
アメリカに限らず、カトリック教の影響が強い国など、多くに国で中絶が厳しく制約されています。

****中絶と人口政策の古今東西 ****
人の命は受胎から始まり、中絶はすなわち殺人であり、安全な中絶というものはありえない、というのが、国連にオブザーバーとして参加するローマ法王庁の立場であり、カイロ国際人口開発行動計画の実行は、米国が2001年から2009年まで共和党政権であったことと結びついて、大きく遅れを取ることとなった。

キリスト教が中絶を殺人とみなしたのは、在位1585-90年のローマ教皇シクストゥス5世以来であり、キリスト教の2000年の歴史のなかでは新しい。

とはいえ、フランスでは1791年刑法より、ビクトリア女王時代の英国で1861年に、米国で1870年代に、中絶を禁止する法律が制定され、欧米、すなわちキリスト教圏では中絶禁止が一般的であった。

そしてそこからの「解放」が、人権、とりわけ女性の決定権の確保という形を取り、強く求められるようになった。またその流れは20世紀後半以来の国際社会を形作ったのである。 

国連人口部がとりまとめた世界各国の中絶政策一覧では、中絶が法的に可能となる条件を、母親の命を守るため、母親の健康のため、母親の精神衛生のため、強姦・近親相姦の際、胎児の先天異常のため、経済・社会的状況、随時(on request)、に分けて国別に示している。

そのうち、母親の命を守るためでも中絶を認めていない国はバチカン市国、マルタ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、チリの6ヶ国で、いずれもカトリックの影響が強い国であるが、強姦・近親相姦による妊娠に対しても中絶を認めない国は96ヶ国にのぼり、世界全域にひろがっているが、とりわけ中南米、アフリカ、イスラーム圏に多い。

逆に、随時可能なのは58ヶ国で、日本を除く東アジア、欧米、中央アジア、コーカサス諸国、キューバなどの社会主義国などに多いが、トルコ、チュニジア、南アフリカ共和国なども含まれる。

イスラームではハディースにより受胎後4カ月後に胎児は人間となるとされているので、それ以前の中絶については宗教的には許容されているが、宗教以外の各国の事情・慣習により、法制は異なっている。

サブサハラアフリカでは宗教というよりは民族など固有の伝統が中絶禁忌の文化を生んでいる。(後略)【林玲子氏(国立社会保障・人口問題研究所)】
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母親の命を守るためでも中絶を認めていない国としてバチカン市国、マルタ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、チリの6ヶ国があげられていますが、その後、チリでは2017年に法律が改正され、レイプによって妊娠した場合や、母親の命が危険にさらされている場合、胎児に致命的な先天性障害が確認された場合などに限り、中絶を認めています。

【エルサルバドル 流産で死産した場合でも「加重殺人」として逮捕され何十年も服役】
2021年5月20日ブログ“アメリカ 人工中絶禁止の最高裁判断の現実味 司法を舞台にしたトランプ氏の「リベンジ」幕開けか”などでも取り上げたエクアドルでは、流産で死産した場合でも、妊娠中に適切な対応をとらなかった母親に責任があるとして「殺人」、しかも重罪である「加重殺人」として逮捕され何十年も服役することになります。

****レイプ被害で妊娠、死産して収監された女性に逆転無罪判決。エルサルバドルで続く「中絶禁止法」とは****
人権団体はこの無罪判決を「画期的」と評価。一方、中絶禁止法によりいまだに約20人の女性が流産によって刑に服しているという。

中米のエルサルバドルで、「中絶禁止法」によって収監されていた女性に対し、逆転無罪の判決が言い渡され、世界から注目を浴びている。

AFP通信などによると、エルサルバドルの控訴裁判所は8月19日、レイプ被害によって妊娠し、胎児が8カ月の時に死産したエベリン・エルナンデスさん(21)に対し、無罪を言い渡した。

エルナンデスさんは、当初、中絶をしたとして殺人罪で禁錮30年の判決を受け、2年9カ月もの間、収監されていた。(中略)

エルナンデスさんは18歳だった2016年4月、妊娠8カ月のときにクスカトラン県にある自宅のトイレで子どもを出産。彼女は出産するまで妊娠に気が付いていなかったという。

エルナンデスさんはトイレで腹痛を覚え、出産したものの胎児は死産していたと主張していた。
だが検察側は彼女が出産前のケアを受けることを怠ったとして有罪を求めていた。裁判所は2017年、エルナンデスさんに対し殺人罪で禁錮30年の判決を言い渡した。

エルナンデスさんが妊娠したのは、レイプ被害を受けたためだった。しかし、家族が脅迫されていたために恐怖を感じ、警察には被害届を出せなかったという。

控訴審で弁護側は、一審では胎児が出産前に死亡していたとする法医学的証拠が見逃されていたと主張。検察側は一審判決より重い禁固40年を求刑していた。検察側が期限である8月29日までに上告するかが注目されている。

エルサルバドルで問題となっている「中絶禁止法」とは
カトリック教徒の多いエルサルバドルでは1998年以来、あらゆる状況で中絶を禁じている。
中絶禁止法と呼ばれるこの法制度では、違反した場合に禁固2~8年となるが、さらに重罪である加重殺人で有罪となる場合が多く、最大で刑罰は禁錮50年となる。

2013年には、出産直後に死亡する可能性の高い胎児を妊娠しており、自らも難病を抱え、妊娠の継続が困難だった女性が特例的な堕胎許可を求めていたが、裁判所が不許可とした。

当時の保健相も、裁判所に中絶の特例許可と、堕胎手術を行う医師に対する刑事免責を求めていた。女性は妊娠27週で帝王切開し、女児は数時間後に死亡した。

1992年の内戦終結後、内政不安のなかでカトリック教会がキャンペーンを開始し、そのなかで中絶禁止が盛り込まれた法律が1998年に成立。

2016年には、野党が最大禁固8年としている中絶禁止罪の刑罰を50年に引き上げるよう法改正を提案している。

AFP通信によると、2019年3月には、流産したことで加重殺人で有罪となり、禁錮30年の刑となり収監されていた女性3人が釈放された。しかし、同様の罪で約20人の女性が今も刑に服しているという。

米州人権委員会はエルサルバドル政府に対し、中絶によって女性に対し実刑判決を下す制度について見直しを求める報告を、2019年1月に公表している。【2019年08月21日  Shino Tanaka氏 HUFFPOST】
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(現在はだいぶ治安が改善したようですが)ギャングによる殺人・暴力が横行していた当時のエルサルバドルにおいて、死産まで「加重殺人」とする「偽善」にはあきれます。(一般にギャングの横行は、治安当局・権力との癒着・黙認がその温床となっています)

上記記事では“同様の罪で約20人の女性が今も刑に服している”とのことでしたが、さすがにエクアドルでも状況改善が図られたようです。

服役中の女性はすべて釈放されたようです。ただし、裁判中の事例が20件ほど残っているとも。

****出産直後の乳児死亡、「殺人」で服役の母親釈放 エルサルバドル****
エルサルバドルで2015年に出産直後に乳児が死亡したことをめぐり殺人罪で有罪判決が下され、8年間服役してた女性が17日、記者会見を開いた。昨年12月に釈放されて以来、女性がメディアの取材に応じたのは初めて。

弁護士によると女性は2015年、エルサルバドル西部の公立病院で出産した。生まれた女児は合併症のため保育器に入れられ、72時間後に死亡した。

その後、女性は妊娠中の健康管理が不十分だったとして「養育の放棄・怠慢」を問われ、「加重殺人」の罪で有罪となった。当初は30年の刑期を言い渡されたが、裁判所は昨年、判決を見直し、女性の釈放を命じた。

「リリアン」とだけ名前が明かされている女性は17日、「非常に長い道のりだったが、無実が証明されたことに対する満足感は極めて大きい」とAFPに語った。

エルサルバドルの女性権利団体「妊娠中絶の非犯罪化を求める市民グループ」によると、同国では過去に中絶、流産、その他出産時の緊急事態を理由に73人の女性が「加重殺人」で有罪とされた。リリアンさんでようやく全員が釈放されたことになる。

そうした女性たちの釈放を求め、2014年から国際的なキャンペーンを行ってきた同団体のマリアナ・モイサ氏は「一つの流れを終わらせることができて非常に幸せだ」と語った。ただし、まだ裁判中の事例が20件ほど残っているという。

エルサルバドルの刑法では、いかなる状況下であっても妊娠中絶には2〜8年の実刑が科される。しかも検察官や裁判官は、妊娠中絶だけではなく流産でも30〜50年が科される「加重殺人」と判断することが少なくない。 【1月18日 AFP】
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【日本 病院以外の場所で不意に流産したことが、死体遺棄容疑に問われる例は後を絶たない】
死産について妊娠中の健康管理が不十分だったとして「加重殺人」の罪で有罪・・・・日本的常識ではいかにも理不尽に思えますが、日本でも出産に関する「事件」で「いかがなものか」と思わざるを得ないような事例もあります。


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ベトナム人技能実習生レー・ティ・トゥイ・リンさん(23)は2020年11月15日、熊本県の自宅で双子を死産しました。

技能実習生として農園で働いていたリンさんは「妊娠がわかれば帰国させられる」と考えて周りに相談せず、病院も受診していませんでした。

遺体をタオルに包み、赤ちゃんの名前や「天国で安らかに眠って」などと書いたおわびの手紙を添え、部屋にあった段ボール箱に入れました。

翌日に病院で死産を明かし、3日後に逮捕。一、二審では「死体遺棄」で有罪。

死体遺棄罪が成立するには土の中に埋めるなどの違法行為を行う「作為」と葬祭義務に反して遺体を放置する「不作為」があります。

作為は土の中に埋めるなどの違法行為を行うこと。不作為は、家族らが弔うための埋葬を行わず、葬祭義務に反して遺体を放置することです。

二審の福岡高裁判決(懲役3カ月執行猶予2年)は不作為を否定しましたが、遺体を段ボールに隠したことが作為の死体遺棄にあたると判断しました。

しかし、箱に入れたとはいえ場所は自宅の室内で、彼女は遺体のそばから離れなかった。遺体をタオルでくるみ、手紙を入れた・・・・などを考えると、敢えてこれが「死体遺棄」として罰するべきものなのか疑問です。

まして、相談する者もいない、妊娠が明らかになれば仕事ができなくなり帰国させられる・・・そういった技能実習生の境遇を考えると、むしろ問題とすべきは彼女を「孤立出産」に追い込んだ日本社会の現状のように思われます。

注目されていた最高裁判断は逆転「無罪」でした。【2023年3月24日ブログ】
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問われるべきは彼女の「死体遺棄」云々ではなく、彼女をそのような状況に追い込んだ日本社会の現状の方でしょう。更に言えば、個々の状況を斟酌せず法律条文を絶対視する日本検察・警察の法律原理主義みたいな対応も。

****病院以外で流産して死体遺棄容疑に問われる例は後を絶たない…必要なのは孤立した女性に寄り添う支援****
死産した双子の遺体を自室に置いていたことが死体遺棄罪に問われ、最高裁が逆転無罪を言い渡したベトナム人元技能実習生を巡る事件は、望まない妊娠、出産で孤立した女性とどう向き合えばよいのかを問いかけた。支援体制の充実を求める声が上がる。(中略)

◆「自宅で流産したこと自体は罪ではない」
病院以外の場所で不意に流産したことが、死体遺棄容疑に問われる例は後を絶たない。こうしたケースで女性が行政機関や病院に相談しても、まず警察に連絡が行くのが通例だ。現場検証や事情聴取で、産後で疲弊する女性にさらに負担がのしかかる。

「自宅で流産したこと自体は罪ではない。産婦人科を受診せず、母子手帳がない女性に病院が不信感、加罰意識を持って対応するのが問題だ」。身元を明かさない「内密出産」などに取り組む慈恵病院(熊本市)の蓮田健院長はそう指摘する。

孤立出産に追い込まれる女性の多くは、虐待やDV、貧困などの問題を抱えている。蓮田院長は、事例を集めた上で「病院と行政、警察の対応についてガイドラインを作るべきだ」と提言する。

相談への不安から、かえって遺棄行為を招く事態も出ている。妊娠を家族に言えないまま自宅で死産し、タオルなどに遺体をくるんで公園に埋めた20歳の女性は2月、横浜地裁で有罪判決を受けた。公判で女性は、当初病院などに相談したが、警察に行くように言われて「逮捕されるかも」と怖くなったと証言した。

同種の事件で女性を弁護してきた佐藤倫子弁護士は「必要なのは医療や精神的サポートなのに、逆に支援から遠ざけることになりかねない」と懸念を示す。(後略)【2023年3月25日 東京】
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グリーンランド、アマゾン、オーストラリア・・・土地もアイデンティティも奪われた先住民

2023-10-03 23:26:39 | 人権 児童

(【Netflix(ネットフリックス)配信のデンマークTVドラマ「コペンハーゲン/首相の決断」】 左女性がデンマーク首相、右男性がグリーンランド自治政府首相)

【グリーンランド 「若者の自殺は何も誇れないせいだ」】
Netflix(ネットフリックス)で配信されているデンマークのTVドラマに「コペンハーゲン/首相の決断」という作品があります。

予想外の展開でデンマーク初の女性首相となった架空の政治家とその周囲の人々の政治的駆け引きや私生活の葛藤を描くもので、“全世界70か国以上で放送されている大人気ドラマとなり、デンマークを代表する政治ドラマとなった。様々な国々でリメイクが予定されている。”【ウイキペディア】と世界的に好評のようです。

連立政権を支える与党、野党、外国政府、更にマスメディアの間で繰り広げられる生々しい政治的駆け引き、主人公の信念を貫きたい思いと現実の葛藤など、また、多忙な女性首相と家庭内の妻・母親という立場の両立に苦しむ主人公・・・といったあたりがメインテーマになりますが、その中にグリーンランドにある米軍基地を舞台にしたアメリカとの間の政治問題が発生し、その状況をグリーンランド自治政府首相に説明する場面があります。

多忙の中、デンマーク首相のグリーンランド訪問、彼女としては最大限の誠意を示したつもり。しかし自治政府首相との会談は1時間。

周知のようにグリーンランドはデンマーク領です。
“かつてはデンマークの植民地で、現在はデンマーク本土やフェロー諸島と対等の立場でデンマーク王国を構成しており、独自の自治政府が置かれている”【ウィキペディア】

しかし、政治的現実にあってはグリーンランド自治政府・住民の声はあまりデンマーク中央には届いていない・・・というのは容易に想像できるところです。

グリーンランドを訪れた主人公のデンマーク女性首相とグリーンランド自治政府首相がグリーンランドの現状をめぐって言い争いになります。

デンマーク首相「あなたたちに非はないの?」
グリーンランド自治政府首相「支配されている方が悪いと?」

デンマーク首相「状況を悪化させているのはあなたがた。縁故採用、汚職、初等教育が十分に行われず、高校中退率が4割を超える・・・」
グリーンランド首相「改善を試みている」
デンマーク首相は「本当? 氷が融けて石油が出るのを待っているだけじゃないの?」

「何様のつもりだ!」 怒りを爆発せたグリーンランド自治政府首相は「せめて1日あれば状況を見せられるのに・・・」と悔やむ。そこで主人公は1時間の会談予定を急遽変更し、1日かけて島内を視察することに。

グリーンランド自治政府首相は住民の暮らしぶりを見せた最後に墓地に首相を案内する。そこには自殺した若者が眠っている。

グリーンランド自治政府首相「一番の問題は住民の苦しみだ。 出生率は減少、若者は出ていく。更に自殺率が増える一方だ。特に若者が命を立つ。5人に一人が自殺を試みる。最悪の世界記録だ。」
デンマーク首相「理由は何だと?」
グリーンランド自治政府首相「若者の自殺は何も誇れないせいだ」

中央政府とグリーンランドの関係性、氷と雪に覆われた島の暮らしの現状、温暖化で石油・資源活用の可能性も・・・印象的な場面でした。私はまだ観ていませんが、グリーンランドの石油採掘はドラマ後半で再び問題になるようです。

【失われつつあるコミュニティで生き延びようと必死に悲鳴をあげる先住民】
****北欧で先住民は未だに抑圧されている サーミとイヌイットの尊厳を取り戻せ****
「先住民」を主題とした映画の公開が北欧で相次いでいる。デンマーク・グリーンランド・カナダ合作の『Twice Colonized』(2023)はイヌイットの基本的な人権を求めて闘う活動家のドキュメンタリー映画だ。

アーユ・ピーターはグリーンランドで遊牧民のイヌイット一家で育った弁護士・活動家だ。幼い頃にグリーンランドの家族から引き離されデンマークに送られ、言葉も文化的帰属も失った。成人後はカナダの北極圏に移り住み、イヌイットの植民地化を経験した。

映画タイトルにもあるように「二度、植民地化された」自らの体験に基づき、孫や未来の世代のためにより良い世界を作りたいと彼女は活動している。

植民地主義的な構造は今も先住民の暮らしやメンタルヘルスに影響を与えており、彼女の息子も突然命を絶った。自ら命を絶つ若者が絶えない背景には抑圧されてきた歴史がある。

苦しみの連鎖が孫の世代で減るように、アーユ・ピーターは先住民の権利と可視性のために闘うことに人生を捧げている。本作では先住民のための常設のEUフォーラムを作ろうと奮闘する姿を見ることになる。これは先住民の権利を取り戻そうと闘いながら、白人社会と同化されたことによって傷ついたピーター自身の傷を癒す旅でもあるのだ。

エッラ・マリエ・ヘッタ・イサクセンは環境保護とサーミの権利のための闘いにおけるノルウェーでは有名な女性だ。筆者は彼女を「ノルウェーのグレタ」と讃えたいほど、今革命を起こしている。

サーミ人はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの先住民族だ。ノルウェーでは「劣った民族」として再教育が必要だとされ、1800年代の同化政策により、子どもは親から引き離され、寄宿学校で強制的にノルウェー語を勉強させられた。

サーミ語を話すことを禁じられ、サーミ人であることは「恥」であると教えられ、アイデンティティを奪った抑圧政策。その影響ともたらされた低い自己肯定感は、現代のサーミ人にも受け継がれている。低い身長などの「外見差別」も受け、カラフルな民族衣装を着ていると冷たい眼差しを浴びせられ続けた。

ノルウェーのドキュメンタリー映画『RAHCAN - Ellas oppror』(2022)では、フィンマルクのレッパルフィヨルドでの鉱山投棄に反対するサーミ人と地元の環境団体の活動を追っている。音楽、愛、連帯がどこまで人や自然を救えるかという物語でもある。(

自国の抑圧の歴史を反省する動き
ノルウェーの映画祭Oslo Pixには「北欧映画」「ドキュメンタリー」などの複数のカテゴリーがあり、両作品とも「先住民族」というカテゴリーに振り分けられている。そもそも、日本では映画祭などで「先住民族」や自国の歴史の反省にフォーカスすることがあるだろうか。

グリーン・コロニアリズム という現代の植民地支配
両作品にはいくつもの共通点がある。サーミ人はトナカイ放牧やサーモン漁業を生活の糧としてきたが、ノルウェー政府によるトナカイの放牧数の規制、養殖サーモンの発展で生態系が変わり、野生サーモンが減少するなど、サーミの従来の仕事の場は失われつつある。

石油・ガス採掘の国から再生可能エネルギーの国に移行したい政府の意向に対して、風力発電の促進による風車の増加はトナカイ放牧を難しくさせている。

再生可能エネルギーなどの活動によって、すでに社会から疎外されている先住民のようなコミュニティが犠牲になる「グリーン・コロニアリズム」は大きな問題となっている。

イヌイットの経済は、毛皮の取引で長い間支えられてきた。しかし欧州による規制とアザラシの殺害が残酷だとする環境活動家たちの反対により、漁師の歴史とコミュニティの維持ができなくなっている。

欧州と環境活動家の規制と反対運動が、いかにイヌイットの生きる手段を奪っているかをアーユ・ピーターが国際社会で訴え続ける姿が本作では描かれている。

「あなたたちは私たちの土地もアイデンティティも可能な限り全てを奪ってきた。身勝手な理由の押し付けで、収入源や土地をさらに奪おうというのか。いい加減にして」という怒りが両作品からは伝わってくる。

親子の時間と言葉を奪うという残酷な「おせっかい」
両方の先住民に対して、ノルウェーやデンマークがしてきたことは「劣った民族のあなたたちを教育してあげる」というおせっかいと傲慢さの押し付けだ。

かつて親と子どもを引き離し、白人の言葉を無理やり教え、母国語を奪った歴史は、今の世代のアイデンティティにも大きな影響を与えている。

「言葉を奪われることはアイデンティティを失う」ことだとエッラ・マリエ・ヘッタ・イサクセンは言い続けており、彼女のバンドISAKでもサーミ語で歌っている。

アーユ・ピーターもデンマーク語を話すことを嫌がり、英語に切り替える場面が映画には登場する。デンマーク語を話すことで自らを失っているようなアイデンティティ・クライシスに陥っていた。

北欧の福祉制度の網から抜け落ちる先住民
北欧社会はかつて親から子どもを引き離して子どもを再教育した。先住民として背負う抑圧のルーツ、恥として教えられた血筋、社会に見つけられない自分の居場所。

北欧では福祉制度が豊かと言われているが、先住民の言葉や悩みを理解する医療従事者やカウンセラーは少ない。そのため先住民は現地の人と同じようには福祉制度を利用できておらず、若い世代ではメンタルヘルスの悪化で特に男性の自殺が絶えない。アーユ・ピーターのように子どもの死を嘆く親は今もおり、抑圧の歴史は今も親と子を引き離しているのだ。

北欧で先住民が受けてきた抑圧の歴史、そして今も続いている抑圧の遺産を知れば知るほど、人間と言うのはいかに残酷で身勝手なのかを再認識させられる。過去の反省から対話で歩み寄ろうとする現代社会と、同時に経済発展や動物愛護の観点でぶつかる両者の主張。

共存の道を今も悩みながら探っているが、失われつつあるコミュニティで生き延びようと必死に悲鳴をあげる先住民の姿を見ていると、人類はいったい何をやっているのだと、困惑と悲しみを筆者は感じるのだ。【9月4日  鐙麻樹氏 YAHOO!ニュース】
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【グリーンランド議会 独自憲法制定の動き】
かつてはグリーンランドはデンマークにとっては単なる氷と雪に覆われた島に過ぎなかったでしょうが、温暖化で石油などの資源活用が現実になってきていますし、ロシアをめぐる地政学的重要性も高まっています。

そうした状況でグリーンランド自身はどこを目指すのか?

****グリーンランド議会、憲法草案めぐり第1読会****
デンマーク領グリーンランドの自治議会は28日、憲法草案をめぐる第1読会を開いた。独自憲法の制定は、将来の独立交渉に際し、よりどころとなるものだ。

憲法草案は、憲法制定委員会が4年かけて起草。グリーンランド語で書かれており、49段落で構成されている。

グリーンランドの人口は約5万5000人。1979年に広範な自治権を獲得した。独自の旗、言語、文化、自治政府機関を有する。ただ、域内総生産の4分の1、予算の半分以上をデンマークからの補助金に依存している。

2009年に施行された自治政府法の下、権限はさらに拡大したが、通貨の発行、司法制度、外交・安全保障などの分野は依然、デンマークが担っている。地元メディアによると、憲法草案には、グリーンランド独自のパスポートの発給、司法権限をどうするかといった点については明記されていない。

王室に関する言及もなかった。デンマークの元首である女王もしくは王を引き続き元首としていただくのか、未解決の問題として残されている。

デンマーク国際問題研究所のウルリック・プラム・ガド研究員はAFPに、「(憲法草案は)現時点ではグリーンランド内の問題を扱っている。デンマークとの交渉が始まり、それを担当する政治家が決まった段階で、デンマークとの関係も浮上してくるだろう」と語った。 【4月29日 AFP】
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【過去に対する謝罪はあるものの・・・】
最近になってカナダやオーストラリア政府は先住民に対して過去の歴史を謝罪するようになっています。
教会も。

****ローマ教皇が謝罪=先住民虐待問題―カナダ****
フランシスコ・ローマ教皇は25日、訪問先のカナダで演説し、カトリック教会が運営していた寄宿学校で先住民の子供が虐待を受けていた問題をめぐり「先住民の人々に対する多くのキリスト教徒による悪行について、謙虚に許しを請う」と述べ、謝罪した。

教皇はこの日、カナダ国内で最大級の寄宿学校があった西部アルバータ州エドモントン南方の跡地を訪問。先住民の墓地で祈りをささげた後、演説会場に移動し、寄宿学校の元生徒や羽根の頭飾りなど伝統衣装を身にまとった多くの先住民らから、歌や踊りでの歓迎を受けた。

教皇はその後の演説で「許しを請い、後悔の念を伝える『悔悟の巡礼』の第一歩としてここにいる」と宣言。寄宿学校での「文化の破壊と強制的な同化計画」に関与したとして「深くおわびする」と語ると、会場に集まった人々から拍手が湧き起こった。

カナダでは19〜20世紀、政府による同化政策の一環として、15万人以上の先住民の子供が親元から引き離され、寄宿学校に送られた。現地の言葉を話して暴行を受けるなど、学校では暴力や病気がまん延し、数千人が亡くなったとされる。寄宿学校の約7割をカトリック教会が運営していた。【2022年7月26日 時事】 
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ただ、現在の先住民の暮らしはなかなか好転していないようにも見えます。

ブラジルでは・・・

****ブラジル最高裁 アマゾン先住民の土地の権利を保護する判決 違法採掘や開発相次ぎ****
ブラジルのアマゾンで暮らす先住民などが昔からの土地の所有を認めるよう訴えていた裁判で、最高裁判所が訴えを認め、先住民の権利を保護する判決を下しました。

ブラジルのボルソナロ前大統領はアマゾン先住民の土地の所有権について、1988年の新憲法公布までに申告したものに制限しようとしていました。

アマゾンの土地開発や農業ビジネスなどを擁護する一方で、先住民の権利が制限される内容だったため、裁判となっていました。

最高裁は21日、判事11人が投票を行い、うち9人が「憲法が保障する先住民の権利に反する」と違憲の判決を下しました。

画期的な判決に、先住民は昔ながらの格好で踊ったり、涙を流して抱き合ったりと喜びを分かち合いました。

アマゾン地域ではブラジルの発展に伴い、土地の収奪や水銀汚染をもたらす違法な採掘などが先住民の暮らしを脅かしています。【9月24日 テレ朝news】
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【オーストラリア 先住民の地位を憲法に明記する改憲案の国民投票 反対派が優勢】
一方、オーストラリアでは6月21日ブログ“オーストラリア 先住民アボリジニの地位を憲法に明記する改憲案を発議 野党は反対”で取り上げた、先住民アボリジニの地位を憲法に明記する改憲案の国民投票が14日に行われますが、当初は賛成が多かったのですが、時間を追うごとに反対が増加しています。

****改憲巡り期日前投票開始=先住民地位、反対が優勢―豪****
オーストラリアで2日、先住民の地位確立に向けた憲法改正の是非を問う国民投票の期日前投票が一部地域で始まった。14日に投開票が迫る中、世論調査では反対が優勢となっている。

改憲案は、アボリジニなど先住民を「最初の豪州人」と明記し、議会や政府に意見具申できる代表機関を創設するという内容。期日前投票はビクトリアなど3州と北部準州で2日に始まり、ニューサウスウェールズなど残る3州と首都キャンベラでも3日から行われる。【10月2日 時事】 
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改憲案は先住民アボリジニとトレス海峡諸島民を「最初の豪州人」と認め、議会や政府に意見具申できる代表機関を創設するという内容。

野党・自由党など反対勢力は「一部国民に特権を与え、分断を招く」と批判しており、反対意見の伸長につながったもようです。
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キング牧師「私には夢がある」演説から60年 未だいたるところに、いろんな形で存在する差別

2023-08-27 22:49:32 | 人権 児童

(【HISTORY CHANNEL】)

【アメリカ公民権運動の記念碑「私には夢がある」演説から60年】
私が子供の頃、アメリカではまだ「有色人種はお断り」「白人専用」といった張り紙が公然と店に貼られている時代でした。

1963年8月28日、「ワシントン大行進」の一環として25万人近い人々がワシントンDCに集結し、ワシントン記念塔からリンカーン記念堂まで行進しました。

デモ参加者たちは、すべての社会階層の人々が公民権を得ること、皮膚の色や出身などに関係なくあらゆる市民が平等に保護されることを求めました。

この日最後の演説者となったのがマーティン・ルーサー・キング・ジュニア博士でした。キング牧師の行った「私には夢がある」(I Have a Dream)の演説にこめられた、あらゆる民族、あらゆる出身のすべての人々に自由と民主主義を求めるメッセージは、アメリカ公民権運動の中で記念碑的な言葉として記憶されることとなりました。【AMERICAN CENTER JAPANより】

****「私には夢がある」*****
1963年8月28日  マーティン・ルーサー・キング・ジュニア

今日私は、米国史の中で、自由を求める最も偉大なデモとして歴史に残ることになるこの集会に、皆さんと共に参加できることを嬉しく思う。

100年前、ある偉大な米国民が奴隷解放宣言に署名した。今われわれは、その人を象徴する坐像の前に立っている。この極めて重大な布告は、容赦のない不正義の炎に焼かれていた何百万もの黒人奴隷たちに、大きな希望の光明として訪れた。それは捕らわれの身にあった彼らの長い夜に終止符を打つ、喜びに満ちた夜明けとして訪れたのだった。

しかし100年を経た今日、黒人は依然として自由ではない。100年を経た今日、黒人の生活は悲しいことに依然として人種隔離の手かせと人種差別の鎖によって縛られている。

100年を経た今日、黒人は物質的繁栄という広大な海の真っ只中に浮かぶ、貧困という孤島に住んでいる。100年を経た今日、黒人は依然として米国社会の片隅で惨めな暮らしを送り、自国にいながら、まるで亡命者のような生活を送っている。

そこで私たちは今日、この恥ずべき状況を 劇的に訴えるために、ここに集まったのである。(中略)

1963年は、終わりではなく始まりである。黒人はたまっていた鬱憤を晴らす必要があっただけだから、もうこれで満足するだろうと期待する人々は、米国が元の状態に戻ったならば、たたき起こされることになるだろう。

黒人に公民権が与えられるまでは、米国には安息も平穏が訪れることはない。正義の明るい日が出現するまで、反乱の旋風はこの国の土台を揺るがし続けるだろう。

しかし私には、正義の殿堂の温かな入り口に立つ同胞たちに対して言わなければならないことがある。正当な居場所を確保する過程で、われわれは不正な行為を犯してはならない。

われわれは、敵意と憎悪の杯を干すことによって、自由への渇きをいやそうとしないようにしよう。われわれは、絶えず尊厳と規律の 高い次元での闘争を展開していかなければならない。

われわれの創造的な抗議を、肉体的暴力へ堕落させてはならない。われわれは、肉体的な力に魂の力で対抗するという荘厳な高みに、何度も繰り返し上がらなければならない。

信じがたい新たな闘志が黒人社会全体を包み込んでいるが、それがすべての白人に対する不信につながることがあってはならない。

なぜなら、われわれの白人の兄弟の多くは、今日彼らがここにいることからも証明されるように、彼らの運命がわれわれの運命と結び付いていることを認識するようになったからである。また、彼らの自由がわれわれの自由と分かち難く結びついていることを認識するようになった からである。

われわれは、たった一人で歩くことはできない。
そして、歩くからには、前進あるのみということを心に誓わなければならない。引き返すことはできないのである。公民権運動に献身する人々に対して、「あなたはいつになったら満足するのか」と聞く人たちもいる。

われわれは、黒人が警察の言語に絶する恐ろしい残虐行為の犠牲者である限りは、決して満足することはできない。われわれは、旅に疲れた重い体を、道路沿いのモーテルや町のホテルで休めることを許されない限り、決して満足することはできない。
われわれは、黒人の基本的な移動の範囲が、小さなゲットーから大きなゲットーまでである限り、満足することはできない。
われわれは、われわれの子どもたちが、「白人専用」という標識によって、人格をはぎとられ尊厳を奪われている限り、決して満足することはできない。

ミシシッピ州の黒人が投票できず、ニューヨーク州の黒人が投票に値する対象ではないと考えている限り、われわれは決して満足することはできない。

そうだ、決して、われわれは満足することはできないのだ。そして、正義が河水のように流れ下り、公正が力強い急流となって流れ落ちるまで、われわれは決して満足することはないだろう。(中略)

ミシシッピ州へ帰っていこう、アラバマ州へ帰っていこう、サウスカロライナ州へ帰っていこう、ジョージア州へ帰っていこう、ルイジアナ州へ帰っていこう、そして北部の都市のスラム街やゲットーへ帰っていこう。きっとこの状況は変えることができるし、変わるだろうということを信じて。

絶望の谷間でもがくことをやめよう。友よ、今日私は皆さんに言っておきたい。われわれは今日も明日も困難に直面するが、それでも私には夢がある。それは、アメリカの夢に深く根ざした夢である。

私には夢がある。それは、いつの日か、この国が立ち上がり、「すべての人間は平等に作られているということは、自明の真実であると考える」というこの国の信条を、真の意味で実現させるという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、不正と抑圧の炎熱で焼けつかんばかりのミシシッピ州でさえ、自由と正義のオアシスに変身するという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である。

今日、私には夢がある。
私には夢がある。それは、邪悪な人種差別主義者たちのいる、州権優位や連邦法実施拒否を主張する州知事のいるアラバマ州でさえも、いつの日か、そのアラバマでさえ、黒人の少年少女が白人の少年少女と兄弟姉妹として手をつなげるようになるという夢である。

今日、私には夢がある。
私には夢がある。それは、いつの日か、あらゆる谷が高められ、あらゆる丘と山は低められ、でこぼこした所は平らにならされ、曲がった道がまっすぐにされ、そして神の栄光が啓示され、生きとし生けるものがその栄光を共に見ることになるという夢である。

これがわれわれの希望である。この信念を抱いて、私は南部へ戻って行く。この信念があれば、われわれは、絶望の山から希望の石を切り出すことができるだろう。
この信念があれば、われわれは、この国の騒然たる不協和音を、兄弟愛の美しい交響曲に変えることができるだろう。
この信念があれば、われわれ は、いつの日か自由になると信じて、共に働き、共に祈り、共に闘い、共に牢獄に入り、共に自由のために立ち上がることができるだろう。

まさにその日にこそ、すべての神の子たちが、新しい意味を込めて、こう歌うことができるだろう。「わが国、それはそなたのもの。うるわしき自由の地よ。そなたのために、私は歌う。わが父祖たちの逝きし大地よ。巡礼者の誇れる大地よ。あらゆる山々から、自由の鐘を鳴り響かせよう。」

そして、米国が偉大な国家たらんとするならば、この歌が現実とならなければならない。
だからこそ、ニューハンプシャーの美しい丘の上から自由の鐘を鳴り響かせよう。
ニューヨークの雄大な山々から、自由の鐘を鳴り響かせよう。
ペンシルベニアのアレゲーニー山脈の高みから、自由の鐘を鳴り響かせよう。
コロラドの雪に覆われたロッキー山脈から、自由の鐘を鳴り響かせよう。カリフォルニアのなだらかで美しい山々から、自由の鐘を鳴り響かせよう。
だが、それだけではない。ジョージアのストーン・マウンテンからも、自由の鐘を鳴り響かせよう。
テネシーのルックアウト・マウンテンからも、自由の鐘を鳴り響かせよう。
ミシシッピのあらゆる丘と塚から、自由の鐘を鳴り響かせよう。そしてあらゆる山々から自由の鐘を鳴り響かせよう。

自由の鐘を鳴り響かせよう。これが実現する時、そして自由の鐘を鳴り響かせる時、すべての村やすべての集落、あらゆる州とあらゆる町から自由の鐘を鳴り響かせる時、われわれは神の子すべてが、黒人も白人も、ユダヤ教徒もユダヤ教徒以外も、プロテスタントもカトリック教徒も、共に手をとり合って、なつかしい黒人霊歌を歌うことのできる日の到来を早めることができるだろう。

「ついに自由になった!ついに自由になった!全能の神に感謝する。われわれはついに自由になったのだ!」【AMERICAN CENTER JAPAN】
*******************

言葉の持つ力を感じるスピーチです。
「われわれは決して満足することはできない」「私には夢がある」「自由の鐘を鳴り響かせよう」
繰り返される短いフレーズが、聴衆の心を波のように揺さぶり、高めていきます。

その後、“ジョンソン大統領による精力的な働きかけの結果、世論の高まりもあり議会も全面的に公民権法の制定に向け動き、1964年7月2日に公民権法(Civil Rights Act)が制定され、ここに長年アメリカで続いてきた法の上での人種差別は、ついに終わりを告げることになった。”【ウィキペディア】

しかし、キング牧師は1968年に暗殺され、“指導者の不在、そしてベトナム戦争下で混乱する国内情勢の影響を受けて、非暴力主義を貫いたキング牧師が代表する平和的・合法的な反差別運動から、暴力などの非合法的な手段を用いることを否定しない過激な運動(1965年に暗殺されたマルコムXの影響が強いとされる)が大きく支持を受けるなど変化していく。”【ウィキペディア】

【「この国は前進せずに後退している気がする」(キング牧師長男)】
****キング牧師演説から60年で行事 人種間融和の「夢」、道半ば****
米公民権運動の黒人指導者マーチン・ルーサー・キング牧師が1963年のワシントン大行進で行った歴史的演説から60周年を祝う行事が26日、首都ワシントンで開かれ、各地から数千人が集まった。

差別の是正は一定程度進んだが、白人と黒人の経済格差は大きいままで、人種間融和という牧師の「夢」は道半ばだ。

黒人初の下院民主党トップ、ジェフリーズ院内総務はこの日、キング牧師が「私には夢がある」と訴えたリンカーン記念堂前で演説し「私たちは長い道のりを歩んできたが、すべきことはまだある」と述べ、差別解消に向け努力を続けなくてはならないと強調した。

白人警官による黒人への暴力行為が相次ぎ、共和党のトランプ前政権下で保守化した連邦最高裁が大学入学選考で黒人らを優遇する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を違憲と判断するなど逆風も吹いている。

牧師の長男で市民団体を率いるマーチン・ルーサー・キング3世は演説で「この国は前進せずに後退している気がする」と懸念を表明した。【8月27日 共同】
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この日を意識した犯行なのか・・・

****米フロリダ州で黒人3人が銃撃され死亡 白人の20代男の容疑者「黒人狙う」犯行声明 かぎ十字の銃も***
アメリカ南部フロリダ州の小売店で20代の白人の男が銃を乱射し、3人が死亡しました。犠牲者は3人とも黒人で、警察は「人種差別が動機」としています。

AP通信などによりますと、フロリダ州ジャクソンビルの小売チェーン店で現地26日午後、男が銃を乱射し、3人が死亡しました。現場は黒人が多く住む地域で、亡くなった3人はいずれも黒人です。

容疑者は20代前半の白人の男で、ナチス・ドイツのシンボルマーク「かぎ十字」が描かれたライフルと銃で武装していたということです。

男は、黒人への憎悪をもとに襲撃する旨を記した声明を残していて、犯行後、店内で銃を使って自殺しました。

事件があった26日は、公民権運動の黒人指導者マーチン・ルーサー・キング牧師による歴史的な演説の60周年を祝う行事が首都ワシントンであり、登壇者が有色人種に対するヘイトクライムが増加していると警鐘を鳴らしたばかりでした【8月27日 TBS NEWS DIG】
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このわずか半世紀あまりにおきた黒人やマイノリティーの権利を擁護するという大きな転換、そして今も加速する流れを考えれば、熱狂的トランプ支持者など、そうした変化を受け入れられない人々が多数出てくる・・・というのも、無理からぬところではあります。

【いたるところで、様々な形で存在する差別】
しかし、表の世界では大きな転換は起きているものの、依然として隠れた差別は存在します。
60年前、最前線で人種差別と闘っていた81歳になるジョアン・トランパウアーさんは・・・

****キング牧師「私には夢がある」演説から60年 “すべての人に対して敬意と愛を” 最前線で差別と闘った白人女性の思い****
あれから60年。キング牧師が夢見た理想の社会は実現したかを聞いてみると…

ジョアンさん
「私たちの世代で法的な差別は無くなりましたけど、隠れていた差別が今多く見られます。すべての人に対して敬意と愛を持たないといけませんね」【8月27日 TBS NEWS DIG】
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差別はアメリカだけでなく、人種間だけでなく、日本を含めた、自分自身の周囲を含めたいたるところで、様々な形で、ときに公然と、ときに隠れた形で存在します。

****タリバン、美しい湖連なる「バンデ・アミール国立公園」への女性の立ち入り禁じる****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバン暫定政権は26日、中部バーミヤン州にあるバンデ・アミール国立公園への女性の立ち入りを禁止すると発表した。本紙通信員によると、同州を訪れていたモハンマド・ハリド・ハナフィ勧善懲悪相が演説で明らかにした。

2021年8月に実権を掌握したタリバン暫定政権は、女性抑圧政策を次々と進めている。標高約3000メートルにあるバンデ・アミール国立公園は、美しい湖が連なり、アフガン人にも人気の観光地。

最近、国立公園で男女が一緒に楽しんでいる様子がインターネット上で紹介され、タリバンが問題視したという。【8月27日 読売】
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****小学校教師、教え子にイスラム教徒の男児をたたかせる インド****
インド当局は26日、小学校教師がイスラム教徒の男児を順番にたたくよう教え子に指示した事件を受け、捜査に乗り出した。事件の映像はインターネットで出回り、怒りの声が広がっている。

事件は24日、ウッタルプラデシュ州の私立小学校で発生。映像には、教師が表向きは掛け算を間違えたことを理由に、7歳の男子児童をたたくよう他の児童に指示する様子が映っている。

教師は泣きながら立つ男児を横目に他の児童に対し、「どうしてそんなに軽くたたくの? もっと強くたたいて」と命じた。
さらには「顔は赤くなっているから、代わりに腰をたたいて」と指示した。

警察のサティヤナラヤン・プラジャパット警視はソーシャルメディアに投稿した動画で、映像について検証済みだとして、この教師に対して当局が措置を講じると述べた。
治安判事によると、男児の父親がムザファルナガル地区の警察に告訴した。

この生々しい映像を受け、インターネット上では失望の声が広がった。野党・国民会議派のラフル・ガンジー氏は、がヒンズー教徒が多数派であるインドで、与党・インド人民党が宗教的不寛容をあおっていると非難した。

人権団体は、ヒンズー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相が2014年に就任して以降、少数派のイスラム教徒に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)や暴力が増加したと指摘している。 【8月27日 AFP】
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****イスラエル閣僚、入植者の権利主張し物議 首相は擁護****
イスラエルのイタマル・ベングビール公共治安相が占領地ヨルダン川西岸におけるユダヤ人入植者の権利を声高に主張し、物議を醸している。そうした中、25日にはベンヤミン・ネタニヤフ首相がベングビール氏に支持を表明し、火に油を注いだ格好となっている。

人種差別主義者のベングビール氏は23日、国営テレビで、「ユダヤ・サマリア地区(ヨルダン川西岸の意)の通りを私や妻子が行き来できる権利は、アラブ人の移動の自由よりも重要だ」と述べ、パレスチナ人を対象とした移動制限措置を正当化する立場を示した。

これを受け、パレスチナ系米国人のスーパーモデル、ベラ・ハディッドさんはインスタグラムに非難するコメントを投稿。ベングビール氏もXで、ハディッドさんは「イスラエル嫌い」だと反論した。

一方、ネタニヤフ首相は声明で「ユダヤ・サマリア地区における移動の自由についてはイスラエル人にもパレスチナ人にも最大限認めている」と指摘。「不幸なことにパレスチナ人テロリストがこうした移動の自由に付け込んでイスラエルの女性や子ども、その家族を殺害している」とし、ベングビール氏を擁護した。 【8月27日 AFP】
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児童婚  新型コロナパンデミックで増加 インド・アッサム州で一斉摘発 新たな悲劇も 背景は?

2023-03-07 23:07:14 | 人権 児童

(2023年2月5日/インド、北東部アッサム州、児童婚で逮捕された男性と警察官(ロイター通信)【2月7日 KWP News】)

【アメリカ 児童労働増加 取締り強化】
児童に関する問題は、主にアフリカ・アジアなどの途上国やイスラム世界、インドなどの問題のようにも思われますが、アメリカでも児童労働が増加しているとのこと。

****米政府が児童労働取り締まり強化へ、実態調査や罰金引き上げなど****
バイデン米政権は27日、児童労働の取り締まり強化に向け、一連の措置を講じていることを明らかにした。

複数の政府高官によると、労働省が2018年以降に把握した児童労働を巡る違反行為は70%近くも増加。昨年度だけでも835社で法律違反が見つかった。

こうした中で政権は個別のケースとして、有名スナック菓子などのパッケージ製造を手がけるハースサイド・フード・ソリューションズと、現代自動車のサプライヤーなどでの児童雇用の実態調査を進めている。

また既に児童労働問題に関する省庁横断型作業チームを立ち上げ、今後は最も違反が起こりやすそうな業界への調査を計画中。さらに児童労働関連法違反に対する罰金引き上げや、法執行・監視向け予算増額も目指す。

ある高官は「これは19世紀でも20世紀でもなく、現在発生している問題だ。われわれは米国中でそもそも雇うべきではない状況で児童が働かされている状況を目にしている」と強調した。

米国の法律では、16歳未満はほとんどの工場施設で働くことが禁じられている。18歳未満も工場内での危険な作業の大半に従事させてはならない。【2月28日 ロイター】
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【新型コロナパンデミックで増加した児童婚】
児童労働と並んで問題になるのが児童婚

****パキスタンは児童婚の廃絶を 国連専門家****
国連の人権問題の専門家は16日、パキスタンの宗教的少数派の間で、女児の拉致や強制結婚、改宗が横行しているとの報告を非難するとともに、政府に対しこうした慣行を直ちに廃絶し、徹底的な調査を行うよう求めた。

専門家らは「13歳の少女が家族から引き離され、遠く離れた場所で売られ、時には2倍も年が離れた男性と結婚させられ、イスラム教に改宗するよう強制されていると知り、心を痛めている」としている。

人権問題の専門家である特別報告者は国連人権理事会によって任命されるが、同理事会を代表する立場にはない。

専門家らは、パキスタンの司法当局も警察も「まともな捜査を行わず、偽りの証拠を受け入れる」ことで宗教的少数派の少女や若い女性への違法行為を野放しにしていると指摘。

「家族によれば、被害を訴えても警察はほとんど取り合わず、被害届を受理しないか、拉致され結婚を強制されているにもかかわらず、『恋愛結婚』と決め付け犯罪と見なしていない」と非難した。

さらに、実態調査は「客観的に国内法および国際的な人権問題への取り組みに沿って」行われるべきだと強調した。 【1月17日 AFP】AFPBB News
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もちろん、こうした問題はパキスタンに限った話ではありません。(と言うか、国連がなぜパキスタンを取り上げたのか・・・そこが不思議でもありますが)

児童婚は多くの国で法律上は禁じられていますが、実際には伝統的風習によって・・・という世界です。
加えて、近年は新型コロナの影響で少女・若者が学校に通えなくなったことによって増加しているとも。

下記はアフリカ・ケニアの事例

*****新型コロナで学校閉鎖、「意図しない妊娠」・・・結婚へ ケニアの事例*****
ケニア南部カジアド郡にあるNGO「ナイス・プレイス財団」の保護施設の一室で、少女が赤子を抱いていた。チャリティと名乗るマサイ族の少女は赤子の姉にしか見えなかった。

チャリティさんが16歳で男児を出産したのは2021年末のこと。問題はその後に起きた。児童婚(18歳未満での結婚)は違法だが、伝統的な価値観に生きる父親が、知らない男に嫁がせようとしたのだ。

チャリティさんの実母は彼女がまだ10歳のころに亡くなり、その後は一夫多妻制に生きるマサイの父と、3人の義理の母のもとで暮らした。

生活が大きく変わったのは、20年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大だった。ケニアでは同年3月~翌21年1月、ほとんどの学校が閉鎖された。

ケニア大統領政策・戦略ユニットの報告書によると、学校再開時に復学できなかった少女は推計約25万人。最大の要因は保護者が学費を支払えなくなったこと、続く要因は意図しない妊娠だった。パンデミックが始まった1年で計32万8千人超の少女が妊娠した。

この報告書によると、ケニアでは15~19歳の女性の2~4%が結婚しており、妊娠をきっかけとするケースが4割以上を占める。結婚時期は約3割が新型コロナの発生以降だった。学校閉鎖中、時間をもてあました若者が性交渉をする機会が増えたことなどで妊娠が増えたとみられる。

チャリティさんも、近所に住む年上の少年に求められ、断れずに一度だけ性交渉に応じてしまった。そして、妊娠した。「初めての経験で、妊娠するなんて思いもよらなかった」

妊娠を知った父は、夫探しを始めた。一夫多妻のマサイの文化では、年配である程度経済的余裕がある人が若い女性を新たに妻に迎えることは珍しくない。父親が見つけてきた夫候補も初老の男性だった。(後略)【2月27日 日系メディア】
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新型コロナの児童婚への影響は、学校へ通えず、時間を持て余し、結果的に「意図せざる妊娠」に至る上記のようなケースの他、学校に行けないのであれば結婚を・・・と、親によって強制的・人身売買的に結婚を迫られるケースもあるでしょう。

【インド・アッサム州 一斉摘発 残された女児の悲劇も イスラム教徒狙い撃ちとの批判も】
インドでも法律上は結婚年齢は18歳以上ですが、昔から児童婚の「悪習」が続いています。

****インドで児童婚取り締まり開始、初日に2044人逮捕****
インド北東部アッサム州で3日、児童婚の取り締まりが開始され、2044人が逮捕された。警察が明らかにした。
ヒマンタ・ビスワ・サルマ州首相は、児童婚を「悪習」と呼び、州民に廃絶への協力を呼び掛けている。

サルマ氏によると、アッサム州の女性のおよそ8人に1人は18歳未満での出産を強いられており、乳児および妊産婦の死亡率を押し上げている。

同州のGP・シン警察長官は、初日に逮捕した2044人のうち52人は結婚を取り仕切った聖職者や司法当局者だったと説明。州内では、12歳で今も婚姻状態にある子もおり、4074件について捜査するという。

インドでは18歳にならなければ結婚できないが、貧しい農村部を中心に大勢の子どもがそれよりも幼い年齢で結婚させられている。

多くの親は経済的な安定を確保するために子どもを結婚させ、その結果、少女が夫に尽くして家事をするために学校を中退し、幼すぎる出産で健康を害するといった悲惨な事態を招いている。

国連の統計によると、インドでは2億2000万人の女児が結婚させられているが、児童婚の件数は今世紀に入って急減している。

インド最高裁は2017年、未成年の妻との性行為はレイプに当たるとする画期的な判決を下した。 【2月4日 AFP】****************

インド・アッサム州が摘発・取締りに乗り出した理由は知りませんが、この問題は女児と結婚した男性を逮捕すればいいというものでもありません。

適切なケア・フォローがなければ、子供を抱えた女児が収入も途絶し世間に放り出されるという新たな悲劇にもなりかねません。

****違法児童婚の摘発進めるインド、新たな貧困生む悲劇も****
インド北東部アッサム州ナガオン県の村、ラダナガーに暮らすピンク・ダス・サーカーさんは、まだ15歳。だが、既に赤ちゃんを身ごもっている。それなのに、一家の稼ぎ手である26歳の夫が2月2日に児童婚の容疑で逮捕され、途方に暮れる毎日だ。

今年2月にアッサム州で行われた当局の一斉摘発では、男性や宗教関係者ら3000人余りが児童婚を禁止する法律に違反した容疑で身柄を拘束された。

「夜の11時でした。寝ようとしていたら警官4人がやって来て、夫を引っ立てていきました。何が起きたのは分からなかった。夜通し泣いていました」とサーカーさん。家計は夫が荷車で売るサトウキビジュースからのわずかな収入が頼み。「どうしたらいいのか全く分からない」と述べていた。

インドでは、18歳未満の結婚が法律で禁止されている。しかし、実際にはこの年齢に達しない児童婚が珍しくない。

2019―21年のデータによると、18歳未満で結婚した女性は全体の約4分の1に上る。ただ、この比率は05―06年の47%から低下しており、近年は児童婚を減らす取り組みが大きく進展している。

女性の権利保護を訴える団体によると、未成年の女性の教育機会の改善や、早婚の慣習が文化的に受け入れられているコミュニティーでの意識向上に向けた取り組みが効果を上げた。

警察が児童婚の摘発に動くことは少なく、最新の公式統計によると、21年にインド全土で児童婚を手配、あるいは児童婚を行ったとして逮捕されたのは2000人弱に過ぎない。

一方、アッサム州の児童婚摘発は、女性保護や反貧困に取り組む団体から非難も受けている。経済的な理由から未成年の娘を結婚させた貧しい家庭を不当に罰し、多くの家庭が重要な稼ぎ手を失うというのが理由だ。

非営利団体HAQセンター・フォー・チャイルト・ライツの共同創設者であるエナクシ・ガングリー氏は「元々貧しい人々を犯罪者にしてしまい、社会的な問題への最善の対処方法ではない。若い妊娠中の少女たちは稼ぎ頭を失い、寄る辺ないまま放置されている」と訴える。

女性の権利保護に取り組む活動家らは、州都グワーハーティーの高等裁判所に嘆願書を提出。取り締まりを行う代わりに未成年女性の性と生殖に関する情報や教育へのアクセスを改善し、児童婚の防止を支援するよう求めた。

<無一文>
サーカーさんの自宅からほど近くに住むグルソナ・ベグムさんは結婚からわずか2週間後の2月7日、警備員として働いていた夫が警察に身柄を拘束された。一家は無一文の状態に陥り、先の見通しが立たなくなった。

「義父は体に障害があり、夫が刑務所にいる今、どこからも収入がない」という。

ベグムさんは、自分は18歳だと主張した。しかし、警察によると彼女は18歳未満で、年齢を証明する文書はない。

「夫は逮捕されたのだから、職を失うでしょう。今は近所の人や親戚の助けでなんとか食べているけれど、先のことは分からない」と不安な気持ちを隠さない。

村の住民によると、逮捕を恐れた男性数人が、10代の妻を残して近隣の州へ逃亡した。

アッサム州のヒマンタ・ビスワ・サルマ州首相は2月28日の記者会見で、警察による摘発開始以来、児童婚の報告はないと述べ、取り締まりを擁護する姿勢を示した。これまでに3047人が拘束され、そのうち251人は保釈が認められたという。

一方、今回の摘発では州人口3400万人の約3分の1を占めるイスラム教徒が狙い撃ちされているのではないか、との疑惑も浮上している。弁護士のタニヤ・スルタナ・ラスカール氏によると、イスラム教徒が多く住む地区で多数の逮捕者が出ている。

サルマ氏はヒンドゥー至上主義を掲げるモディ政権与党、インド人民党の有力者だが、摘発において対象者の信仰は関係なかったと主張した。

<複数の家族の支えに>
ラダナガー村に住むサーカーさんの義父は息子が逮捕され、両家双方のためになると思って結婚を勧めた判断に疑問を感じざるを得なくなった。「サーカーの母親は家事手伝いをしていて、若くして夫を亡くした。私が妻を失ってから、家には女性がいなくなった。だから(自分の息子とサーカーさんの)結婚が2つの家の問題を解決する方法だと思った」と言う。

「児童婚が良くないことは分かっているし、サーカーが一日中悲しんでいるのを見ると、今は無力感に襲われている。この年になれば、なかなか仕事はもらえない。子どもが生まれたらどうなるのか心配だ」と嘆く。

サーカーさんは、今は病院通いなどで近所の人の手助けを受けている。しかし、夫がいない寂しさはどうしもうようない。「夫の存在は私の支えでした。彼は私の力(の源)です」と言い切った。【3月5日 ロイター】
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“イスラム教徒が狙い撃ちされている”・・・ヒンドゥー至上主義を掲げ、イスラム教徒の人口増加を懸念するモディ政権のもとでは“あり得る”話でようにも思えます。

****印アッサム州で児童婚一斉取り締まりに抗議するデモ****
インド北東部アッサム州で児童婚の一斉取り締まりに反対するデモが行われ、夫を逮捕された女性数百人が参加した。

州警察は3日以降の取り締まりで2400人以上を逮捕。4000件以上の刑事事件を捜査し、その対象は8000人以上にのぼる。逮捕者の中には児童婚を取り仕切ったとされるヒンズーおよびイスラム教の司祭も含まれている。

野党議員はこの取り締まりを「茶番」と呼び、イスラム教徒が不当に狙われていると主張した。
ンドの結婚可能年齢は女性が18歳、男性は21歳である。しかし、多くの女性がそれ以下での結婚を強いられ、妊産婦の事故率を押し上げている。

アッサム州政府は児童婚を犯罪と糾弾し、法律に基づいて取り締まりを行っていると反論した。
連邦政府の統計によると、既婚女性の2割以上が18歳未満で結婚している。国会は現在、女性の結婚可能年齢を21歳に引き上げる法案を検討している。

しかし、シャリア(イスラム法)は「少女は思春期になれば結婚できる」と定めている。国会の女性委員会はイスラム教徒を含むすべてのインド国民に法律に従うよう求め、最高裁に提訴している。

3日に取り締まりが始まって以来、州警察本部の前では抗議デモが続いている。
地元メディアは抗議に参加した女性の話を引用し、「稼ぎ頭が逮捕され、多くの女性と子供が路頭に迷っている」と報じた。

州政府は影響を受けた女性に支援を提供すると約束したが、不満解消には至っていない。
ある女性は現地紙インディアン・エクスプレスに、「これからどうやって生活していけと?」と憤慨した様子で語った。「私は夫に完全に依存しています...」

別の女性は初等教育しか受けておらず、法的支援を受ける方法がわからないと訴えた。

タイムズ・オブ・インディア紙によると、警察は4日、州警察本部前に集まったデモ隊に催涙ガス弾を撃ち込み、解散させたという。

州警察は「14歳以下の少女と結婚した容疑者は児童性犯罪防止法で起訴される」と警告している。
14~18歳の少女と結婚した者は児童婚禁止法に基づいて逮捕・起訴される。有罪判決を受けた者は2年以下の禁固刑と罰金刑に処される。児童性犯罪防止法はこれよりさらに厳しい刑罰を規定している。

州政府は声明の中で、「児童婚を取り仕切った司祭を含む8100人以上が捜査対象となり、警察に手加減無用で捜査に当たるよう求めた」と述べている。また州政府は「児童婚は犯罪であり、いかなる理由があろうと容認されない」と強調した。

しかし、野党議員はモディ首相率いるインド人民党(BJP)が気まぐれで児童婚を取り締まり、多くの女性と子供を窮地に追いやっていると非難した。
ある野党議員はツイッターに、「アッサム州のBLPは気まぐれで何年も前に結婚した男性を逮捕し、女性と子供を苦しめている」と投稿した。

別の議員は地元メディアのインタビューでこの取り締まりを「広報活動」と呼び、「警察は適切な捜査や手続きなしに、何十年も前に結婚した男性を逮捕し、成果をアピールしている」と非難した。

しかし、州政府は少なくとも2026年の州議会選までは取り締まりを続け、児童婚ゼロを達成すると約束した。【2月7日 KWP News】
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LGBT関連法案で対応が分かれたアメリカとロシア その両国の囚人交換が物議を醸す

2022-12-14 23:34:15 | 人権 児童
(「結婚尊重法案」に署名したバイデン大統領(2022年12月13日)【12月14日 HUFFPOST】)

【米バイデン政権 同性婚権利を擁護する結婚尊重法案を成立させる】
国家間でも、あるいはアメリカ国内でも、価値観の分断・対立が顕著になっていますが、そうした対立軸のひとつとして前面に出る機会が多くなったのが、性的マイノリティーに対する寛容・不寛容の問題です。

欧米では性的マイノリティー、LGBTに対する寛容は大きな流れとして定着しつつありますが、そうした考えを受け入れない人々も多く存在します。

国家間でも、欧米に対し、欧米以外の国々では性的マイノリティーに対して不寛容な国々が多く存在します。

イスラム文化圏では今もLGBTに対しては厳しい対応が取られており、イランなどでは同性愛は死刑の対象ともなります。中東カタールでのW杯開催についても、同国のLGBT不寛容から、開催の正当性を疑う声も多くあります。

アジアではインドネシアがイスラム的価値観を重視する流れから、より厳しい対応に舵を切っていることは以前のブログでも取り上げました。一方で台湾のように同性婚を認める国もあります。

イスラム圏だけでなく、欧州でもハンガリーやポーランドは反LGBTの立場にあって、EU主流の西欧諸国との軋轢の種になっています。

ときに性的マイノリティーに対する考え方はリベラルな価値観、欧米的価値観の象徴ともみなされ、国内でも国家間でも単にLBGTの問題というレベルを越えて、対立の象徴として前面に押し出されることも多々あります。

そうした状況にあって、アメリカのバイデン大統領は12月13日、同性同士および異なる人種同士の結婚を連邦政府が保護する「結婚尊重法案」に署名しました。

****アメリカ 同性婚の権利を連邦レベルで保護する法律が成立 バイデン大統領「結婚尊重法案」に署名***
(中略)アメリカのバイデン大統領は13日、同性婚の権利を連邦レベルで保護する「結婚尊重法案」に署名し、法律が成立しました。

今回の法律では、仮に連邦最高裁が同性婚を憲法上の権利と認めた2015年の判断を覆し、一部の州で同性婚が禁止された場合でも、同性婚を認める州から来たカップルの権利は維持されます。

この法律をめぐっては、現在の連邦最高裁は保守派の判事が多数派を占めていて、同性婚についてのこれまでの判断を覆す可能性が指摘されていました。【12月14日 TBS NEWS DIG】
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単に「同性婚を認めます」という話ではなく、アメリカ特有の連邦と州の関係、そして昨今の最高裁の保守化が絡んだ問題のようです。下記記事は、そのたりをもう少し詳しく論じています。

****同性同士の結婚を保護する法案にバイデン大統領署名「必要不可欠な一歩を踏み出した」****
(中略)バイデン大統領はホワイトハウスに集まった人々に「今日は良い日です」と語りかけ、法律は国にとって大きな前進だと強調した。

「アメリカは、一部ではなくすべての人の平等、自由、正義にとって必要不可欠な一歩を踏み出しました。良識や尊厳や愛が認められ、尊重され、保護される国に向かう一歩です」

さらに、「結婚するかどうか、そして誰とするかは、1人の人間にとって最も重大な決断の一つです」とした上で、次のように述べた。

「結婚はシンプルな判断です。あなたは誰を愛しているのか?その愛した人に忠実か?それ以上に複雑なものではありません」「そして結婚尊重法は、すべての人に政府の介入なしにその質問に答える権利があるべきだ、と認めています。そして、結婚に伴う保護を連邦政府が保証します」

結婚尊重法案、どんな内容か
結婚尊重法案には民主党だけではなく、一部の共和党議員も賛同し、上院で61-36、下院で258-169で可決された。

この法律は、1996年に制定された「結婚防衛法」を廃止するもので、一つの州で認められた同性同士の結婚が、連邦政府や他の州でも認められるようになる。異人種間のカップルにも同様の保護が与えられる。

結婚防衛法は、連邦法での結婚を「男女」だけに限定していた。そして一つ州で認められた同性カップルの結婚の法的有効性を他州では認めなかった。

そのため、結婚した同性カップルが、他州に移動すると税金や社会保障上の優遇措置を受けられなくなるなどの問題が生じていた。

結婚防衛法は2013年に最高裁によって違憲と判断され、効力を失っていたものの、今回の結婚尊重法案成立で正式に無効となった。

なぜ今結婚尊重法案が必要なのか
アメリカでは、2015年の最高裁の「オーバージフェル対ホッジス判決」により、同性カップルの結婚が憲法で保障された権利と認められている。しかし、これに疑問を呈したのが「ロー対ウェイド判決」を覆した最高裁の判断だ。

保守派の判事が多数を占める最高裁は2022年6月、連邦レベルで中絶の権利を保護していたロー対ウェイド判決を覆す決定をし、これによって複数の州で中絶禁止法が施行された。

この判決の多数意見で、クラレンス・トーマス判事は「ロー対ウェイドの法的な論拠が間違っているのであれば、オーバージフェル対ホッジス判決も含む、他の判断も見直す必要がある」という見解を示していた。

万が一最高裁でオーバージフェル対ホッジス判決を覆された場合、アメリカの複数の州で、同性間の結婚が認められなくなる可能性が高い。このことに危機感を抱いた下院の超党派議員会が結婚尊重法の可決に向けて動き出し、今回の成立に至った。

ただし、結婚尊重法はオーバージフェル対ホッジス判決のように、アメリカ全体で同性同士の結婚を保障するものではない。

そのため、もし最高裁判所がオーバージフェル対ホッジス判決を覆した場合は、州は独自に同性同士の結婚を禁止する法律を導入できる。

しかし、結婚尊重法により、一つの州で成立した同性カップルの結婚は、連邦政府と他州でも認められることになる。

バイデン大統領は1996年、上院議員時代に結婚防衛法に賛成票を投じており、今回の署名は、LGBTQ+の権利を巡るバイデン氏自身の大きな変化を表すものにもなった。

バイデン氏は13日のスピーチで、法案成立に尽力した議員やLGBTQ+コミュニティに感謝し、その勇気を讃えている。

「私たちは彼らの勇気を祝うため、そしてこの日を可能にしたすべての人たちのためにここにいます。その勇気が、私たちがこの何十年で目にしてきた前進を率いてきました。その前進は、すべての世代がより完璧な合衆国に向かって進むという希望を私たちに与えてくれます」【12月14日 HUFFPOST】
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【ロシア・プーチン政権 反LGBT法を成立させる】
一方、ウクライナ侵攻で欧米との対立が深まっているロシアでは、ロシアの伝統的価値観を重視するとの立場から、同性愛を小児性愛などとまとめて「非伝統的な性的関係」だとし、反LGBT法が成立しました。

****ロシアでLGBT「宣伝」禁止法が成立、プーチン大統領が署名****
ロシアのプーチン大統領は5日、LGBTら性的少数者などに関する情報の拡散や「宣伝」、「示威行為」などを禁止・制限する法律に署名した。これにより、LGBTに関連するいかなる情報も、公共の場やオンライン、映画、書籍、広告などで拡散することが禁止される。

違反した場合は重い罰金刑が科される可能性がある。

ロシア政府は少数派やプーチン大統領に反対する人々への圧力を強めているほか、長年にわたって「伝統的」価値観を擁護する取り組みを続けている。【12月6日 ロイター】
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ロシアでは2013年、未成年に同性愛などの宣伝を禁止する「反同性愛法」が成立。「差別を助長しかねない」として、欧米の多くの首脳が翌年のソチ冬季五輪の開会式を事実上、ボイコットしました。

今回の法案は更に対象を成人に拡大するもので、性的マイノリティーを象徴として、欧米的な価値観への「対抗」を訴える狙いがあるとされています。

【物議を醸す米ロ囚人交換 ロシアが釈放したのは“愛国的”白人海兵隊スパイではなく薬物で捕まった黒人女性LGBT 米国内に批判も】
欧米への「対抗」の象徴としてLGBTへのしめつけを強めるロシア・プーチン政権
一方で、同性婚の権利保護に動くアメリカ・バイデン政権、ただし、LGBTの問題は最高裁保守化にみられるアメリカ国内の厳しい「分断」の象徴ともなっており、保守的価値観を重視する共和党支持者を中心に同性婚に強く反対する人々も多数存在します。

(民主党・バイデン政権としては、LGBTの問題が対立の象徴として政治問題化することは、中絶問題が民主党の中間選挙敗北阻止で大きな力を発揮したように、次期大統領選挙に向けて野党共和党を攻撃するうえで“都合がいい”政治環境となる・・・とも推察されます)

そうした性的マイノリティーをめぐる立場の違いが目立つ米ロの状況のなかで、米ロ間で行われた囚人交換がアメリカ国内で物議を醸しています。

****米ロ囚人交換、米国が英雄より黒人レズビアン選手を選んだ真意****
ウクライナ侵攻後、2回目の囚人交換
ウクライナ戦争をめぐって対立する米国とロシアが受刑者の身柄を交換した。ロシアによるウクライナ侵攻以降、米ロが囚人交換を行ったのは、2回目だ。(中略)

米国のジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2021年6月16日、ジュネーブでの対面首脳会談で、受刑者交換で原則合意していたとされる。(中略)

米ロともに、この合意が副次的な効果を狙ったものではないと強調している。だが「ウクライナ問題で全面対決しているさなか、囚人交換を実現させたことが他の分野に一定の好影響を与える可能性は十分あるかもしれない」(ワシントン外交筋)。

今回、プーチン氏が釈放したのは、麻薬密輸などの罪で禁固9年の実刑判決を受け、収監されていた米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のブリトニー・グリナー選手(32)。

WNBAでは最も背の高い選手の一人(2メートル5センチ)で、両腕は入れ墨だらけ。WNBAでも人気のスター選手で高額の収入を得ている億万長者だ。

五輪では2回金メダルに輝いた米女子バスケットボール代表チームのメンバーで、逮捕時にはフェニックス・マーキュリーのセンターだった。妻のシュラルさんは弁護士だ。

かつて人種差別反対を唱えて、試合前の国旗掲揚の際に宣誓を拒否したこともある。女子バスケットボール界では“問題児”だった。

WNBAのオフシーズンにロシア・リーグでプレーするためロシアに出かけ、空港に着いた途端に大麻保持が発覚、拘束されてしまった。(中略)

一方、バイデン氏がその見返りに差し出したのは、ビクトル・ボウト服役囚(55)だ。禁固刑15年の判決を受けて収監中だった。

ウズベキスタン出身で、当初は軍の通訳をしていたが、ソ連邦崩壊事のどさくさに紛れて始めた武器密輸が高じて、所有するプライベート機で中近東や中南米のテロリスト集団に地対空ミサイルやロケット砲を売る世界的な「死の商人」となった。(中略)

2005年公開の米映画「ロード・オブ・ウォー」(Lord of War)に登場する武器商人のモデルの一人とされる。ニコラス・ケイジ主演だ。

英雄よりも麻薬常習の黒人レズビアン選手
いくつかの疑問が浮かんでくる。
一つは、なぜプーチン氏が応じたのか。メディアの中には、「ウクライナの戦況が芳しくないから国民の目をほかに向ける必要があった」とコメントする者が少なくない。

ではバイデン氏はなぜ囚人交換に応じたのか。ほかに引き渡してほしい服役囚がいたはずなのに、なぜグリナー選手を選んだのか。

勝ったのはどっちか。米国か、ロシアか。ロシア側は、官民あげて「プーチンの勝利」を謳い上げている。

国営テレビのコメンテーター、マルガリータ・シモニャン氏はこう言い切っている。
「バイデン氏は、初めはポール・ウィラン元海兵隊員が欲しかったはずだ。ところがグリナー選手を選んだ」
「ウィランは、祖国のために貢献してきた英雄的なスパイ、グリナーは麻薬常習の黒人レズビアン。それでもグリナーは最も評価の高いバスケットボールの選手だ」(中略)

別のテレビ・キャスターのウラジーミル・ソロビエフ氏はこうコメントした。「この囚人交換でわれわれは素晴らしい勝利を収めた。ロシアの情報機関は外務省とともに驚くべきオペレーションを敢行し、ボウト氏を釈放させた」(中略)

歓喜の黒人、LGBTQ、愕然とする保守派
米側は二分している。

黒人は大歓迎だ。(中略)WNBAファンもLGBTQコミュニティも大喜びだ。

一方で保守派は激しく批判している。
共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務(次期下院議長が有力だが、反対する者もおり投票が予定されている)はツイッターに書き込んだ。
「これはプーチンへのプレゼントだ。こんなことをすると、米国民の生命が脅かされる」

自分がやろうとしてできなかったドナルド・トランプ前大統領は自前のSNSにこう書きなぐった。
「馬鹿もんが。これほど非愛国的な辱めはない。グリナーは米国を嫌っている女だろ。なぜ(海兵隊だった)ポール・ウィランを交換リストに入れなかったのか」

 トランプ氏はかつて「グリナー釈放」説が流れた時、ラジオ番組でこう述べている。
(中略)「彼女は金をたんまり稼いでいる。その彼女を釈放してもらうためにあの疑う余地のない殺人鬼、死の商人(ボウト服役囚を指している)を逃がすらしい」(中略)

「この男は多くの米国人を殺害した張本人だ。この囚人交換はグッドディール(お得な買い物)とは到底思えない」

トランプ政権で大統領安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトン氏はこうコメントした。
「米国はこんな囚人交換をやってロシアに降伏した」

保守派サイトの「ワシントン・フリー・ビーコン」は、「恥ずかしき囚人交換」と題するオピニオンを流した。
「アンチレイシズム(Antiracism)という概念がある。歴史上の人種差別に遡って現代の人種差別を糾弾し、白人を逆差別する概念だ」
「バイデン氏が、白人で生まれながらの性別が一致している海兵隊を犠牲にして、レズビアンで億万長者の女を選んだ」(中略)

2人のうち1人か、ゼロか、苦渋の選択
バイデン政権の面々も諸手を挙げて歓迎しているわけではない。おそらく交渉に加わったと思われるアントニー・ブリンケン国務長官は、こうコメントした。言い訳がましかった。
「2人のうち1人を返してもらうか、1人も返してもらえないか、苦渋の選択だった」
「バイデン大統領は少なくともグリナー氏だけは返してもらい、ウィラン氏の引き渡し交渉は続けるという決断を下したのだ」(中略)

ロシア側が指摘するように、今回の身柄引き渡しは「人種と性別」を念頭に入れたものだった。しかもLGBTQ(性的マイノリティ)に気を遣っている。

 主要メディアの外交記者R氏(白人)はこう見る。
「グリナーは素晴らしいアスリートだが、彼女を嫌う白人は少なくない」(中略)
「多くの米国民は米最古の軍隊を起源とする海兵隊を一番尊敬している。それにウィラン氏は国家のために身を挺してきたスパイ工作員だ」

「スパイは国外では敵だが、母国では愛国者であり、隠れた英雄だ。バイデン氏が国家のために身を捧げてきた英雄ではなく、大麻保持で捕まった黒人レズビアンをなぜ優先したのかという論理は、白人の間では通りがいいわけだ」

「となると、バイデン氏は大統領選をにらんでの黒人票やLGBTQ票を狙って、プーチン提案を受け入れたという解釈もできる」「プーチンがウィランではなく、グリナーに固執したのもこのへんを読んだ高等戦術だったのかもしれない」

プーチン大統領は12月9日、囚人交換についてこう述べた。「さらに交換ができるかと言えば、可能だ。合意による副次的な効果は狙っていないが、一定の雰囲気を醸成するのは事実だ。この交渉で(ウクライナ問題など)他の問題は何も協議していない」 新たな囚人交換には含みのある発言だ。【12月13日 Repress】
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“露政府は、自国民(武器商人のボウト服役囚)を外国で捕らえて米国で裁判を受けさせた米政府の行動に反発し、対抗手段としてグライナー選手を拘束して取引材料に使ったとみられている。”【12月9日 産経】という経緯があります。

そもそも、“二人のうち一人だけ”となった場合、どっちを選んでも「どうして・・・」という問題は起きます。
今回はそれに人種やLGBTが絡んでいるだけに炎上必至の選択でした。

仮に、白人の海兵隊スパイを選んで黒人LGBTをロシアに残した場合でも大炎上でしょう。
支持基盤から批判が出るだけに政治的にはもっと深刻かも。(共和党サイドの批判は、いつでも、何をやってもありますので)

アメリカ側にどちらを選ぶかの選択の余地があったのか・・・・そのあたりの事情はよくわかりません。どっちに転んでも大炎上なら、「選択」の話には深入りしないのが賢明でしょう。

なお、ロシアのリャプコフ外務次官は13日、新たな囚人交換について米国と協議が行われる予定は承知していないと述べています。
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中国  「世界人権デー」に逆に監視を強化 習主席サウジ訪問で人権問題の「政治化を拒否」

2022-12-10 22:47:38 | 人権 児童
(サウジアラビアの首都リヤドで、中国の習近平国家主席(左)を迎えるムハンマド・ビン・サルマン皇太子。サウジ王室提供(2022年12月8日撮影)【12月8日 AFP】  最近、習近平主席は以前の仏頂面ではなく、笑顔をふりまくことが多くなったようです。 イメージ戦略でしょう。 中身は変わっていませんが。)

【中国 「世界人権デー」に監視を強化】
今日12月10日は「世界人権デー」・・・・だそうです。
世界人権宣言が、1948年12月10日の第3回国際連合総会で採択されたことを記念して、1950年の第5回国際連合総会において、毎年12月10日に記念行事を行うことが決議されたとのこと。

残念なことに人権問題は日本国内にも、世界各地にもいくらでも存在しているのが実態で、「浜の真砂は尽きるとも・・・」という感も。

日本国内の問題は棚上げして、外国、特に中国の状況を見ると、「世界人権デー」に合わせて当局は締め付けを強化するという逆行する動きがあります。

****「世界人権デー」に中国監視強化 民主派や人権派弁護士に圧力****
中国当局は「世界人権デー」の10日、人権派弁護士や民主派の活動への監視や圧力を強化した。例年この日に抑圧を強めており、法的根拠が不明なまま軟禁されて1年になる弁護士もいる。

中国では「ゼロコロナ」政策への抗議活動が続発したばかり。強権体制そのものへの批判もはらんでいたため、当局は再燃を警戒する。

人権派弁護士、王全璋氏の北京の自宅は9日夜から当局者らに包囲された。別の民主活動家も10日、監視されていると明かした。人権派弁護士、唐吉田氏は昨年12月10日に失踪。家族によると1年間、当局に軟禁され続けている。【12月10日 共同】
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【ウイグル・チベットの状況】
欧米から人権問題で批判されるウイグル、チベットの状況に関しては・・・

国連人権理事会は10月6日の定例会合で、中国新疆ウイグル自治区での人権侵害問題について、来年2月に始まる次期定例会合で討議するよう求めた欧米主導の動議を反対多数で否決しました。

****国連人権理、新疆めぐる討論開催否決 中国が反対働き掛け****
国連人権理事会は6日、中国・新疆ウイグル自治区での人権侵害の疑いに関する討論の開催を否決した。開催を求めていた西側諸国にとっては大きな後退となった。

同自治区の人権問題をめぐっては先月、国連のミチェル・バチェレ前人権高等弁務官が長らく待たれていた報告書を発表し、ウイグル人らイスラム系少数民族への人道に対する罪があった可能性を指摘。

米国とその同盟国はこれを受け、新疆に関する討論を求める草案文書を国連人権理事会に提出した。中国を対象とした討論の提案は史上初だった。

だが中国政府の積極的な働き掛けにより、スイス・ジュネーブで行われた投票では47理事国のうち17か国が賛成、19か国が反対、11か国が棄権し、討論開催は否決された。

反対票を投じたのは、ボリビア、カメルーン、中国、キューバ、エリトリア、ガボン、インドネシア、コートジボワール、カザフスタン、モーリタニア、ナミビア、ネパール、パキスタン、カタール、セネガル、スーダン、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン、ベネズエラ。

棄権したのは、アルゼンチン、アルメニア、ベナン、ブラジル、ガンビア、インド、リビア、マラウイ、マレーシア、メキシコ、ウクライナだった。

ある西側の外交官は、結果がどうであれ、新疆に焦点を当てるという「第一の目的は達成された」と強調した。 【10月7日 AFP】
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中国は、今後この「否決」を“国際世論”として利用するものと思われます。

****中国、「米国などのたくらみは失敗」 ウイグル人権討論提案の否決で****
中国外務省は6日夜、国連人権理事会で新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権侵害をめぐる討論の開催を求めた米国などの提案が否決されたことを受け、「幅広い発展途上国の激しい反対を受け、米国など西側諸国のたくらみは再び失敗した」とする報道官談話を発表した。中国は今後、新疆問題を巡る自国の正当性を主張する材料として提案否決を活用していくとみられる。

談話は、米国などの提案について「国連の人権機関を利用し、中国の内政に干渉しようと企てた」と批判。新疆問題について「人権問題ではなく、反暴力テロ、脱過激化、反分裂の問題だ」と主張した。

米国など西側諸国に対し、「新疆問題を口実にデマを繰り返し飛ばして紛糾を起こしている」と非難。その上で、米国や英国などで人種差別や移民の権利侵害、銃暴力の頻発といった人権侵害が起きていると主張し、「人権理事会は重大な関心を払い、討議すべきだ」と求めた。【10月7日 産経】
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賛否の詳細では、世界最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアが反対したことが目につきますが、中国からのインドネシア国内イスラム団体への強い働きかけがあったとも報じられています。

また、欧米からの支援を受けているウクライナが棄権したことも驚きでした。やはり中国の強いアプローチの成果でしょうか。後日、ウクライナは棄権から賛成に訂正したとのことですが・・・。

中国の働きかけもあっての採決結果でしょうが、それ以外にも、全体的に「国内人権問題に、欧米から上から目線の指摘・批判を受けたくない」という思いが各国にあるのかも。

そのあたりは、また後ほど。

ウイグル自治区は従来からの抑圧に加えて、コロナ規制による二重の封鎖状態にもあり、そのウイグルでの火災事故犠牲者の発生がゼロコロナ政策の実質的転換をもたらした「白紙運動」のきっかけともなりました。

****ゼロコロナ実態、動画で発信 ウイグル全体が「収容所」****
中国新疆ウイグル自治区で深刻な弾圧を受けているとされるウイグル族が、中国政府による「ゼロコロナ」政策の実態を伝えようと動画投稿アプリで発信を続けている。

住宅地に通じる道路の門扉や住宅の扉が外部から施錠された様子が写り、現地に家族を残す人は「ウイグル全体が巨大な収容所のようだ」と指摘。「命を軽んじる政府と政策を知って」と訴える。

中国では新型コロナウイルス対策で厳しい行動制限を強いる「ゼロコロナ」政策への抗議活動が拡大。契機となったのは自治区ウルムチで起きた火災で、防疫対策による封鎖で救助が遅れたとされ10人が犠牲になった。【12月8日 共同】
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チベットに関しては最近ニュースは多くないですが、以下のような記事も。

****チベットで住民のDNA強制採取 国際人権団体が中国非難****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は5日、中国当局がチベット自治区で、幼稚園の子どもを含めた住民から強制的にDNA採取を進めていると非難する声明を発表した。

声明によると、犯罪抑止などを名目に自治区全域で採取を推進、住民は拒否することができない。自治区への一時的な滞在者も対象となり、当局は地域レベルのDNAデータベース構築に取り組んでいるという。

HRWは「当局は監視能力向上のため住民の同意なしに(DNAを得るための)血液を採取している」と批判。「DNA採取を地域全体に強制するのは深刻な人権侵害」と非難した。【9月5日 共同】
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【在中国EU代表部 人権状況の改善を求めるものの・・・】
上記のような人権状況の中国にあって、在中国EU代表部が世界人権デーに合わせて声明を出し、元人権派弁護士の無条件即時釈放などを中国に求めています。

****在中国EU代表部 世界人権デーに合わせて声明 元人権派弁護士の無条件即時釈放などを中国に求める****
中国にあるEU=ヨーロッパ連合の代表部は10日の世界人権デーに合わせて声明を発表し、中国に対し不当に拘束されている人権派の元弁護士らの無条件での即時釈放などを求めました。

声明の中で中国のEU代表部は、国連人権高等弁務官事務所が8月、新疆ウイグル自治区の人権状況について「人道に対する犯罪にあたる可能性がある」との報告書を発表したことを歓迎すると表明しました。

そのうえで、中国に対し新疆のほか、チベットや内モンゴル自治区のすべての民族の権利を尊重し、保護する義務を果たすよう求めるとしています。

また、EU議会が人権活動などに貢献した人に贈る「サハロフ賞」の受賞者、イリハム・トフティ氏や人権派の元弁護士、常イ平さん、唐吉田さんなど不当に拘束されている人たちの無条件での即時釈放を求めました。

声明では表現の自由や報道の自由、国際法を遵守し、平和的に抗議する権利を含む人権を尊重することも求めていて「ゼロコロナ」政策に反対し、中国全土で起きた抗議運動も念頭にあるとみられます。

人権問題に関する相違点については中国、EUの双方が対話を通じて議論すべきだとして、今月1日にEUのミシェル大統領と中国の習近平国家主席との首脳会談の中で、中国側が人権をめぐる対話を再開する意思を示したことを歓迎するとも表明しています。【12月10日 TBS NEWS DIG】
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“今月1日にEUのミシェル大統領と中国の習近平国家主席との首脳会談の中で、中国側が人権をめぐる対話を再開する意思を示した”云々は、どれほどの実質的意味があるのか・・・、まあ、対話を拒否するよりはましでしょうが。

【習近平主席 サウジ訪問で人権問題の「政治化を拒否」 人権問題を抱える多くの国に欧米からの批判を疎ましく感じる空気も】
外国からの人権批判を受け付けない習近平主席の本音は、サウジアラビア訪問での言動にほうによく示されています。

中国同様にカショギ氏殺害などの人権問題を抱え、アメリカとの関係がギクシャクしているサウジアラビア・ムハンマド皇太子と習近平主席の思惑が一致して、アメリカに揺さぶりをかける恰好にも。

****サウジ、対中接近鮮明…米国の隙をついた習氏****
中国の習近平国家主席のサウジアラビア訪問で、両国はエネルギーに限らない幅広い分野で協力を進めることで一致した。

中東の大国・サウジと米国との関係がぎくしゃくする中、中国がその隙をついた形だ。習氏が重視するエネルギー安全保障の強化に加え、米・サウジ関係にくさびを打ち込み、米国の影響力が強い中東への関与を深める狙いがうかがえる。

「中国はサウジを多極化した世界での重要な勢力とみなしている」
中国外務省によると、習氏は8日のサルマン国王との会談でサウジ重視の姿勢を示した。サウジに対し「戦略的意思疎通を引き続き強化し、各分野での協力を深め、世界の平和と安定を守りたい」とも訴えた。

世界最大の原油輸入国である中国にとって、最大の原油輸出国であるサウジとの関係強化は、エネルギー安保にとって大きな意義がある。香港紙、星島日報(電子版)は9日、中国とアラブ諸国との関係について「相互補完性と、ウィンウィン(相互利益)の性質がある」という識者の見方を伝えた。中東は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の要衝でもある。

中国側は、習氏のサウジ訪問を「新中国建国後、アラブ世界に対する最大規模、最高ランクの外交行動だ」と強調。10月の中国共産党大会を経て総書記3期目入りを果たした習氏は、サウジなどアラブ諸国との関係強化を進める姿勢を今回の訪問で鮮明にした。

一方のサウジも習氏を手厚くもてなし、友好国である米国との関係冷却化を印象付けた。サウジは同じ産油国として、ウクライナに侵攻したロシアと協調する姿勢も示しており、米サウジ関係は当面、改善が見通せない情勢となった。

サウジなど石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど主要産油国で作るOPECプラスは4日、閣僚級会合で日量200万バレルの大幅減産という現行の態勢を維持することを決めた。

ロシアの侵攻でエネルギー市場は混乱が続いているが、サウジにはロシア同様、国庫収入確保のために石油の高値を保ちたいとの思惑がある。

米国はサウジの人権侵害を問題視し、武器供与を制限する意向も示しており、サウジの対米不信はぬぐえていない。一方、主要な貿易相手の中国は内政干渉を排する立場で付き合いやすいという側面がある。

8日の習氏歓迎式典では、反体制記者殺害への関与が疑われたムハンマド・ビン・サルマン皇太子(37)が習氏を接遇し、復権をアピールした。サルマン国王は86歳の高齢で、実子である皇太子は9月、国王が兼務していた首相職を譲り受けた。米国との溝が深まるなかで皇太子の王位継承に向けた準備が進む。

中東情勢に詳しいエジプトの評論家サミ・ハミディ氏は産経新聞の電話取材に、「習氏は訪問により、皇太子に不快感を抱くバイデン大統領をいらだたせることが目的だった」との見方を示した。サウジが中露にさらなる接近を図る事態も否定できない。

ただ、中国が中東接近を進めれば、米国の警戒と反発を招く可能性がある。将来、中東が米中関係の新たな対立点となることも予想される。【12月9日 産経】
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人権問題に関する習近平主席の考えは、サウジアラビア・リヤドで開催されたアラブ諸国の首脳会議において明確に示されています。

****人権問題「政治化を拒否」 中国アラブ、米欧念頭に****
サウジアラビアの首都リヤドで開かれた中国とアラブ諸国の初の首脳会議は9日、双方の戦略パートナーシップ強化をうたった声明を発表した。

人権問題を政治化させ、他国の内政に干渉する道具として使うことを拒否するとも声明で明記した。中国やサウジなどに人権批判を行う米欧を念頭に置いたものとみられる。

アラブ諸国が「一つの中国」の原則を維持し、台湾の「独立」をいかなる形でも拒否するとも記した。ウクライナ危機への政治解決の努力を支持することも盛り込んだ。

首脳会議には、中国の習近平国家主席やアラブ各国の多数の首脳が出席した。【12月10日 共同】
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習近平主席は「内政不干渉の原則を守りつつ、真の多国間主義を実践していきたい」とも語っています。

こうした習近平主席の考えが受け入れられる背景としては、サウジアラビアにしても、中東湾岸諸国にしても、あるいは世界の多くの国々にしても、何らかの人権問題を抱えており、前述のように「国内人権問題に、欧米から上から目線の指摘・批判を受けたくない」という思いがあるのでしょう。

しかし、一般的な国内・外交政策と異なり、人権弾圧に関する事柄は、「よその国のことだから・・・」と口をつぐむべきものではないでしょう。ケースバイケースによって“ものの言い方”という話はあるでしょうが。
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世界各国の人身売買に関する報告書(米国務省)が指摘する中国・韓国、そして日本の問題

2022-07-20 22:07:23 | 人権 児童
(制度廃止を求めるデモ行進に参加する技能実習生や支援者ら=東京都内、6月12日【6月13日HUFFPOST】)

【中国「一帯一路」事業 労働者の人権侵害】
アメリカ国務省は19日、世界各国の人身売買に関する2022年版の報告書を発表しました。
毎年の定期報告ですが、この中で指摘されている東アジア地域の問題をいくつか。

まず中国、。「一帯一路」事業で強制労働などの人権侵害が横行していると指摘されています。

****「農村出身の中国人男性」が辿った壮絶な末路。中国の「一帯一路」で人権侵害を指摘 アメリカ政府****
中国の習近平・国家主席が提唱した国家プロジェクト「一帯一路」で、強制労働などの人権侵害が横行していると、アメリカ国務省の報告書が指摘した。

中国の農村部からインドネシアに出稼ぎをしに行った男性が受けた数々の人権侵害を例に挙げ、「こうした例は一帯一路の対象国では珍しくないことだ」と評価している。

■海に投げ捨てられ、銃撃される
(中略)一帯一路の人権侵害を指摘したのは、アメリカ国務省が7月19日に発表した人身売買に関する報告書の2022年版だ。「強制労働:一帯一路の隠れたリスク」と題した部分で、中国人やインフラ整備の実施国の労働者が人権侵害に遭っているとしている。

具体的には、騙されて借金漬けにされたり、恣意的に賃金を差し押さえられたりするほか、パスポートの没収や身体的な暴力なども起きているという。

報告書は実例として、インドネシアで鉄鋼生産の仕事に就いた中国人男性の例を挙げている。この男性は家族のためにお金を工面しようと、求人広告に応募して出国。しかし現地に到着するや否やパスポートを取り上げられ、当初の条件よりもはるかに低い給料で、長時間働くことを強いられたという。

数ヶ月ののち、この男性は人目につかないようにネットに自身の写真をアップ。家に帰れるよう助けて欲しいと手書きのメモを添えた。しかし救いの手は届かず、男性は4人の仲間とお金を出し合い、中国籍ブローカーに出国の手助けを依頼した。だが連れていかれたのは故郷ではなくインドネシア国内の別の現場で、再び劣悪な環境で働くよう強いられた。

最終的にこの男性は、密輸業者に金を出すことでマレーシアへ抜け出る。しかし沖合で海に投げ出され、泳いで到着した先で現地当局から銃撃を受け、逮捕されることになる。

報告書はこの男性の例について「一帯一路に参加する数十の国々では珍しいことではない」と評価する。また、インフラ整備などの工事現場だけでなく、その周辺地域でも売買春や児童を対象にした強制労働、それに搾取的な結婚が増加傾向にあるとも指摘している。

■米主導で「対抗」枠組みも発表
一帯一路をめぐっては、アメリカのバイデン大統領が6月のG7(主要7カ国)首脳会合で、途上国を対象に日本円にして80兆円超の投資を目指す「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」を発表した。一帯一路に対抗する経済圏構想とみられている。

中国外交部の趙立堅・報道官はこれに対し「一帯一路が債務の罠を作り出したというのはデマだ。予定されている交通インフラの整備が全て実行されれば、2015年から2030年で世界の760万人が極端な貧困状態から脱却できる。インフラ整備を口実に地政学的な計算を働かせ、一帯一路に汚名を着せる言動に反対する」などと反発していた。【7月20日 HUFFPOST】
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「一帯一路」批判に対する中国の反論は上記にもありますが、そもそもアメリカが“上から目線”というか、教師面して他国の人権状況についてもの言うことへの反発もあります。

中国に言わせれば、銃が街に溢れ大勢が銃でなくなっているような国、人種差別絡みに事件も多発している国から人権云々をとやかく言われる筋合いはない・・・ということにも。おそらく、その批判には幾分の真実があるでしょう。

(アメリカの2020年の銃による死亡者は4万5222人で、前年比14%増、5年前と比較すると25%増えている。とくに銃による殺人事件は近年、急激に増加して10年前から75%増、そして、自殺者も増加の傾向にあるという。【6月23日 HUFFPOST】)

ちなみに世界各国の人身売買に関する報告書では、アメリカはもっとも状況が良い「第1階層」に分類されているのに対し、中国はロシア、北朝鮮、カンボジア、ベトナムなどとともに最悪の「第3階層」に含まれています。
日本は、その中間の「第2階層」。

【韓国 20年ぶりの降格】
アメリカの話は横に置くとして、人身売買に関する報告書の続き。
韓国は20年ぶりに「第1階層」から「第2階層」にランクが引き下げられています。

****韓国の人身売買に関するランクを2級に降格 米国務省****
アメリカ国務省がまとめた世界各国の人身売買に関する報告書で、2022年版では、韓国のランクが1級から2級に降格したことがわかりました。

関連の報告書が初めて発表された2001年当時、3級に指定された韓国は、その後1級を維持してきましたが、20年ぶりに1段階下がりました。

アメリカ国務省は、各国の人身売買に関する監視と取り締まりのレベルを、1~3級に分けて評価しており、今回韓国が指定された2級は、人身売買の防止と関連したすべての基準を満たしているわけではないものの、持続的に努力している国が該当します。

文在寅(ムン・ジェイン)政権だった去年4月からことし3月までを評価した今回の報告書は、韓国政府が人身売買と関連した新たな教育課程を追加で取り入れたほか、被害者の保護に向けた新たなガイドラインを設けるなどの取り組みはあったものの、以前に比べて確かな成果が出ていないと指摘しました。

特に、韓国政府が人身売買の対象となった女性や、移住労働者など被害者を差別したり、追放する一方で、加害者に対する処罰は、1年以下の懲役や罰金、執行猶予にとどまったため、犯罪の根絶に向けた努力が不十分だったということです。

世界188か国のうち、フランスとドイツなど30か国が1級、日本など133か国が2級でした。もっとも低い3級には、北韓、中国、ロシアなどが指定され、人道支援と交流において不利益を受けることになります。

これに加え、アメリカ国務省は、アメリカ人を不当に抑留するリスクがある国をあらわす「D指標」を新設し、北韓、中国、ロシア、ミャンマーなど6か国を指定しました。【7月20日 KBS】
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今回“格下げ”に対し、“韓国外交部の当局者は20日、「これまで人身売買を根絶するため多角的に努力してきたわが政府としては大変残念に思う」と述べた。新政権発足を機に、人身売買の防止と根絶に一層積極的に取り組む考えを示した。”【7月20日 聯合ニュース】

【日本 繰り返し問題視される外国人技能実習制度での強制労働】
中国「一帯一路」の、実際の条件が応募時と異なり、到着するや否やパスポートを取り上げ・・・という話なら、日本でも外国人技能実習生でよく指摘される問題です。
ということで、日本は例年の「第2階層」

なお、下記記事で“4段階評価”というのは、今回新設されたアメリカ人を不当に抑留するリスクがある国をあらわす「D指標」を加えてのことでしょうか。「D指標」の国は「第3階層」にも分類されています。

****「日本の外国人技能実習で強制労働」 米報告書、日本政府を批判****
米国務省は19日、世界各国の人身売買に関する2022年版の報告書を発表した。日本で外国人技能実習制度の参加者が「強制労働」をさせられているとの報告があると指摘。人身売買に関与した悪質な仲介業者や雇用主の責任を日本政府が追及していないと批判し、4段階評価で上から2番目のランクに据え置いた。

国務省は過去の報告書でも日本の外国人技能実習制度を繰り返し問題視。22年版は、技能実習制度の下での強制労働の報告が、日本政府が把握している数を大幅に上回っているとした。

人身売買への対処や被害者保護に関する「政治的な意思」が欠如し、軽微な処分で済まされるケースも多く、抑止効果が弱いとして厳罰化を要求した。(後略)【7月20日 産経】
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また、児童の性的搾取についても「法執行機関が、商業的性産業で搾取を受けた何百人もの児童を正式に人身取引の被害者として指定しなかったため、保護や司法手段へのアクセスが妨げられ、性的人身取引の業者は処罰を受けることなく活動できた」と批判しています。

外国人技能実習制度の問題はアメリカ報告書も“繰り返し問題視”していますが、これまでも当ブログでも何度も取り上げてきたように、日本国内でも多くの批判・指摘が以前からある問題です。

****<技能実習生人権問題>「産業研修制度」を廃止した「変われる国・韓国」に学ぼう****
仏フィガロの「フランス・ジャポン・エコー」編集長のレジス・アルノー氏は「日本の技能実習制度はそれ自体が人権侵害だ。技能実習制度は、雲が雨を呼ぶように人権侵害を広げている。〜日本の実習制度が、世界中の外国人労働者から嫌われることを目的としているのであれば、それは非常に効果的といえるだろう。」と技能実習制度の決定的欠陥を喝破しフランス流で日本(政府)を揶揄している。

◆改正技能実習制度が欠陥を維持強化
技能実習生人権侵害の根本原因は「非熟練労働者」の「移民」は受け入れていないという「タテマエ」を維持しながら 非熟練労働者を受け入れるという「カラクリ」にある。

技能実習制度への批判を受けて2016年11月成立2017年11月施行の改正法の名称は「外国人技能実習の“適正な実施“および“技能実習生の保護”に関する法律」というそれまでの制度が「不適正」で「技能実習生の人権侵害」を招いていることを認める異例な名称の法律となっている。不適正な法律なら廃止すれば済むはずだが、改正法は逆に人権侵害を招いた構造的欠陥を維持強化している。

同法1条は目的を「国際貢献」とし、第3条基本理念は「途上国への技術移転」であり

「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」としている。
そのうえで屋上屋を課する規制を施し、実習生と受け入れ先の負担を増しそれが実習生の借金を増やし日本での手取り額を減らし、受け入れ先のコスト増となり人権侵害発生要因となっている。

たとえば非熟練労働者に必ずしも必要のない高卒要件を課すと偽造の卒業証書購入のため実習生の借金が増える。過剰な「技能研修計画」とその認定制度はお役所仕事を増やし受け入れ企業の負担・コストを増す。

実習生は転職の自由がなく受け入れ先から負担に見合う戦力になっていないとするいじめ虐待の人権侵害を招いており、本年1月の岡山県での技能実習生への集団いじめ虐待事件がこのことを示している。

以上の「カラクリ」は安倍政権下でさらに強化された。閣議決定「未来投資戦略2017」は「外国人材の活用が“移民政策と誤解されない仕組み”〜の検討を政府横断的に進める」とし、閣議決定「未来投資戦略2018」は「“移民政策とは異なるものとして”、外国人材受け入れを拡大する」とし、「カラクリ」を維持しながら外国人労働者受け入れ拡大が図られた。

◆韓国の移民政策
韓国は1993年に日本を見習い「外国人産業研修制度」をスタートした。しかし市民団体が「奴隷制度」だと批判し「産業研修制度」廃止と「外国人労働者の合法的受け入れ」を主張した。

使用者団体も既得権を克服し双方が折り合い、2004年「産業研修制度」廃止決定2007年完全廃止に至った。2004年の「産業研修制度」廃止決定と同時に「雇用許可制度」による非熟練労働者の合法的受入をスタート、「出身国別割当制」と期間4年10か月までの「ローテーシヨン原則」とした。

韓国は2007年「外国人基本法」を制定し政府が5年ごとに外国人基本政策を策定するとし、第一次基本計画(2008~20012年)では①積極的な移民許容による競争力強化、②質の高い社会統合、③秩序ある移民行政、④外国人人権擁護、を基本とした。その後も5年ごとに政策の見直しを図っている。

◆日本は何故変われないのか
日本人は細部の仕上げは得意だがグランドデザインの設計は苦手だ。いったん「技能実習制度」という「カラクリ」ができるとその細部には眼が行くがグランドデザイン自体を変えることができない。グランドデザインがいびつなまま細部を積み上げると諸々の弊害が発生し蓄積する。

特に技能実習生を斡旋し保護する役割のはずの民間の「監理団体」が全国に約5000もできているが、企業等に実習生を斡旋し派遣先から監理料を得る事実上の奴隷商人となり人権侵害を行う受け入れ先の共犯となっている。「監理団体」の巨額脱税や不明朗な支出も報道されている。

日本人が就職するなら「監理団体」は不要である。多くの実習生受け入れ先で労働法違反事例が発生しているが労働基準監督署が実習生の雇用者を「法の下の平等」で監督指導すれば良いだけである。技能実習生固有の管理のためにはすでにある「外国人技能実習機構」の任務を再定義すれば良いだけである。本来不要な「監理団体」に利益が生じる仕組みを変えなければならない。

仏教の「不妄語戒律(嘘をつかない)」の精神で隣国韓国に見習ってグランドデザイン自体を変えないと大きな国家的損失が積み増される。

新型コロナ下で「エッセンシャル・ワーカー」という用語が使われるようになったが、日本に必要な非熟練労働者はまさに「エッセンシャル・ワーカー」である。

この方々が正当に報われる制度設計ができないのであれば外国からの「エッセンシャル・ワーカー」受け入れはいったん止め、国民全体で「外国人労働者」の受け入れについて議論すべきである。【2月28日 大村多聞氏 レコードチャイナ】
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別に韓国の制度が完全という訳でもないでしょうが、日本の現行制度が大きな問題を抱え、現実に人権侵害を多く惹起していることは従前から繰り返し指摘されています。

それでも政府も制度を変えない、国民もそれを強く批判しないということは、日本という国が外国人労働者の人権など重視していない、単に便利に使えて使い捨てできる存在と考えているということでしょう。

その結果、劣悪な状況から犯罪に手を染めるケースも当然に増えますが、すると「やっぱり外国人は怖い」というリアクション。もはや日本社会が彼らの存在なくしては機能しなくなっていることなどお構いなし。

若者が多い東南アジアは高齢化が進む先進国にとっての人材の供給地になっており、新型コロナウイルスの感染拡大などを機に、医療・福祉分野の人材をめぐるグローバルな獲得競争が激しさを増している、そして日本の労働条件はどんどん他国に比べ劣後するようなっているのが現状ですが、相変わらず「東南アジアの人々は皆先進国日本に来たがっている」という寝ぼけた過去の幻想に浸ったまま。

****論点整理を提示へ=技能実習生制度見直しで―古川法相****
古川禎久法相は30日、訪問先のベトナム・ハノイのホテルで記者会見し、有識者らと進めている技能実習生制度などの見直しについて、「論点を7月に発表する」と語った。日本では、技能を学びながら働くベトナム人の若者へのいじめ事件が発覚するなど、技能実習生制度の改善を求める声が高まっている。

法相は「持続可能な制度にしなければならない」と強調。実習生を派遣する送り出し機関の在り方を含めた論点を整理し、制度の抜本的な改正につなげたい意向だ。【6月30日 時事】 
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今更、何を言っているのか・・・。
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外国人の政治参加の問題 米ニューヨーク市と東京都武蔵野市の事例

2022-01-05 23:02:23 | 人権 児童
(新潟県見附市の織物工場で働くベトナム人技能実習生(2019年)。コロナ後は技能人実習生の多くが解雇され帰国もできず行方不明になっている【12月17日 Newsweek】)

【外国人労働に依存する日本社会の現実】
日本は基本的に「移民は認めていない」という前提にたつものの、現実には多くの職種で外国人労働者に依存する社会となっていることは、とやかく言うより、コンビニやファストフード店の現状を観れば一目瞭然です。

(今日の話題ではありませんが)「社会に必要だがあまり日本人がやりたがらない分野」において技能実習生などの名目で働くそうした外国人労働者の労働環境に関して多くの深刻な問題があることは常々指摘されるところです。

****(未来のデザイン:3)仕事 食が、職が、おびやかされる****
 ■生活に重要な働き手、低賃金 安さ求める消費行動が、はねかえってくる悪循環
コロナ禍では、日常生活を支える働き手の重要性が再認識された。でも、賃金は低く抑えられていることが少なくない。なぜか。
 
山本勲・慶応大教授(労働経済学)は「安いものや便利さを求める消費行動が、労働者としての自分にはねかえる悪循環が続いている」と指摘する。安くないと物が売れないので、企業はコスト削減のため、労働者の賃金を抑える。賃金が伸びないと安いものしか買えず、さらに企業の「安売り合戦」が加速する、という構図だ。
 
さらにもう一つ、山本教授が指摘する要因が、外国人労働者の存在だ。「社会に必要だがあまり人がやりたがらない分野で、低賃金でも働いてくれる外国人を雇うことで、目先の人手不足を補っている」
 
既に日本は実質的な「移民大国」とも言われる。厚生労働省の「外国人雇用状況」によると、日本で働く外国人は2020年時点で172万人(特別永住者などのぞく)。ここ5年で倍近くに増えた。
 
食料品製造業では、約14万人が働いており、他産業と比べて外国人の割合が高いといわれる。「15年くらい前から外国人が増えて、今は9割。常に人手不足だからね」。

千葉市の鶏肉加工工場で働く中国生まれの女性(60)は話す。週6日、午前7時~午後5時すぎまで鶏の内臓を取ったり解体したりして、月収は17万円程度。昨春、50人以上が感染し、操業を一時停止した。
     *
日本だけではない。欧州では農業の担い手だった外国からの労働者が入国できなくなり、農産物の収穫が滞った。
 
米国では、移民が多く働く食肉工場で大規模感染が起き、スーパーから一時、牛肉が消えた。世界各地の労働環境に詳しいNPO法人「アジア太平洋資料センター」の内田聖子共同代表は指摘する。

「米国の食肉工場では、移民や貧困層が長時間、過密な労働環境で、低賃金で働いている。先進国の消費をこうした人たちが支えているのは、世界共通の構図」
 
ただ、今後も外国人が来る保証はない。阿部正浩・中央大教授(労働経済学)は、「アジアで労働力の奪い合いが激化しており、日本の働く場としての魅力を磨かないと、今後は選ばれない懸念がある」と見る。
 
阿部教授は18年、パーソル総合研究所と共同で「30年、人手は644万人不足する」とのリポートを発表した。不足分を補う策としたのが、働く外国人・女性・高齢者を増やすことと、人工知能(AI)やロボットによる生産性向上だ。(後略)【1月4日 朝日】
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【ニューヨーク市 合法的な永住者で30日以上同市に在住する人は、市民権がなくても市長や市政監督官、市議会などの自治体の公職選挙で投票権が認める】
今日の話題は、そうした労働環境ではなく、外国人と政治参加の問題。

冒頭に書いたように、日本は「移民は認めていない」という前提なので、政治参加の問題は表面化しにくい面がありますが、移民を前提にしたアメリカなどでは様相が異なるようです。

アメリカ国内住む権利としての永住権と、政治参加が許される市民権は異なります。
米国市民になると、その個人には選挙権と公的な職業に就く権利が与えられますが、米国市民になるには2つの方法があります。1つは米国に生まれる、もう1つは帰化による方法です。

外国生まれの者が米国市民になるためには、まず永住権取得者になることです。次に5年間永住権取得者でいることで市民になるための基本的な要求を満たすことになります。そして、市民権の請願前の30ヶ月米国に滞在することです。【イデア・パートナーズ法律事務所HPより】

移民に対する対応はアメリカ国内でも様々で、メキシコ国境に押し寄せる移民はバイデン政権を揺るがす問題ともなっています。

そうした状況にあって、いわゆるリベラル色の強いニューヨーク市は、市民権のない者(つまり外国人)に自治体選挙での投票権を与えることを決定しています。

****市民権を持たない人に投票を認める理由****
ニューヨーク市議会に喝采だ。多様性の受け入れや代議制に向けた意義ある一歩を踏み出した。

12月9日、ニューヨーク市は市民権のない人に自治体選挙での投票権を与える全米最大の都市となった。ニューヨーク市は「Our City, Our Vote(我々の都市、我々の投票)」条例案を3分の2を超える賛成多数で可決した。

この条例では、合法的な永住者で30日以上同市に在住する人は、市長や市政監督官、市議会などの自治体の公職選挙で投票権が認められる。条例は2023年1月に施行される。

市民権を持たない人々に自治体選挙で投票権を認めるのは法的に健全で賢い政策だ。これは地域社会を強化し、より多くの住民に対し自分の生活に影響を与える政治への投資を認めることになる。そして市民権を持たない人に投票権を認めることは、米国の伝統と理想に根ざしたものとなる。

誤解のないように言っておくが、ニューヨーク市の動きは不法滞在者に投票を認めるものではない。この条例が主に対象とするのは、グリーンカード(永住権)や就労許可証の保持者、不法入国した若者を救済する制度「DACA」の適用を受ける者などの合法的な移民だ。また、この新条例は市民権を持たない人に連邦選挙の投票権を認めるものでもない。

市民権のない人々の投票を認める最も強い根拠は、理解が最も簡単なものだ。米国では市民権のない人々約1500万人が合法的に暮らし、ニューヨーク市には約80万人が存在する。こうした我々の隣人は税金を払い、子どもを学校に通わせ、商売を始め、地域社会に貢献している。彼らも他の人々と同様に、リーダーを選び、自治体政治での発言権を得ることができてしかるべきだ。

市民権のない人に投票権を与えれば、市民活動への参加を促すこととなり、結果それを認めた都市を強化することにつながる。投票する人が増えるほど、リーダーや政策はその選挙区を正確に反映したものとなる。

ニューヨーク州の共和党はこの条例に対抗措置をとると誓い、「条例案が法令となるのを阻止するために必要なあらゆる法的措置」をとると述べてきた。

だが、合衆国憲法は市民権のない者による投票を禁じていない。連邦最高裁は1874年、マイナー対ハッパーセットの裁判で「市民権は、すべての場合において投票権を持つための前提条件とされているわけではない」と確認している。

市民権のない人に投票を認めることは、新しいことでも、急進的なことでもない。そう知ったら人々は驚くかもしれない。市民権のない人々による投票は米国の建国にまでさかのぼる歴史がある。サンフランシスコ州立大学のロン・ヘイダック教授によると、1776〜1926年まで、米国の自治体や州、一部の国の選挙で市民権のない人が投票でき、中には公職に就ける人もいた。

今日でも、ニューヨーク州の憲法は「すべての市民はすべての選挙で投票する権利がある」と定めているものの、市民権のない人は投票することができないとは言っていない。この区別は、今後予想されるニューヨーク市の条例に対する法廷闘争で重要となるだろう。

有権者の拡大に向けた、ゆっくりとしながらも成長しつつあるうねりがあり、同市の動きはその一部を形成するものだ。

米国で市民権のない人に投票を認めているのはメリーランド州の9つの市、サンフランシスコ市などわずかな法域だ。マサチューセッツ州やイリノイ州、コロンビア特別区でも市民権のない人の投票に関する条例が検討されている。今回ニューヨーク市が投票を認めたことは、もっと多くの自治体が同様の措置を進める上で道を切り開く可能性がある。

市民権のない人に投票を認める根拠には実務的な部分もある。もし永住権保持者が国籍を取得して市民になろうとしたら、手数料や法的費用の金銭がかかるほか、時間を要する点が特に重要となる。

米紙ニューヨーク・タイムズは2019年、国籍の取得希望者がそのプロセスにかかる時間は平均で10カ月だと報じた。それはグリーンカード保持者が国籍取得の申請にかかる最低5年間の期間に上乗せするものになるという。市民となりうる人々の案件が、滞留する我々の移民システムを通過する間、一切市民としての声を上げられないという状況は公正ではない。

米国が「代表なくして課税なし」という考えや、「政府は人々の間に樹立され、その正当な権力は統治される人々の同意に由来する」とする独立宣言の考えに基づいて建国されたことを考えてみよう。市民権を持たない人の投票を禁止することは、どちらの原則にも反しているように見える。

予想できたように、共和党はニューヨーク市の条例に素早く反対を表明してきた。共和党全国委員会のロンナ・マクダニエル委員長は「外国人の市民に我々の選挙を決めさせることは容認できない。共和党全国委員会はあなたの投票を守る闘いを続ける中で、法的な手段を入念に検討する」と声明で述べた。

彼女の言葉はほとんど笑い草だ。なぜなら共和党が全米で主導している立法は一貫して、投票へのアクセスを制限する方向に向いているからだ。ニューヨーク大学の非営利機関「ブレナン司法センター」の分析によると、今年に入り19の州が投票をより困難にする33の新法を通過させた。共和党が任命した保守派判事が多数を占める米最高裁は、何年もかけて投票の権利を少しずつ崩してきた。法律上も、道徳上も、共和党に投票権の保護で愚痴をこぼすゆえんなどないのだ。

ニューヨーク市は、市民権のない人に投票権を認める方向に向かう正しいことをした。これは同市にとって、そして民主主義にとって良いものとなるだろう。【12月31日 CNN】
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【東京都武蔵野市 全国的に注目された住民投票条例案の顛末】
日本でも年末に外国人の政治参加の話題が注目されました。東京都武蔵野市が市議会で議論された、18歳以上で、市の住民基本台帳に3カ月以上登録されていれば外国人にも住民投票資格を認めようとの条例の審議です。

日本はアメリカとは制度も実情も全く異なりますがし、NY市の事例とは中身は全く異なりますが、発想の面で共通するものも多いとも思われます。

****外国人も住民投票、武蔵野で火花 全国初じゃない条例案、なぜ今****
東京都武蔵野市が市議会に提案した住民投票条例案への反対運動が激しさを増している。多様な声を市政に反映したいとして、外国籍の住民の参加を認める内容だ。反対派は「外国人参政権の代替になり得る」と主張する。同様な条例が既にある中、なぜ過熱するのか。
 
「民意そのものがゆがみかねない」。同市を含む選挙区が地盤の長島昭久・衆院議員(自民)が9日朝、JR吉祥寺駅前でこう訴えた。自民系会派の市議も条例案への反対を訴えた。(中略)
 
反対派が問題視するのは、18歳以上で市の住民基本台帳に3カ月以上続けて登録されている者という参加要件に外国籍住民が含まれている点だ。市長選などでの参政権がないのに住民投票に参加を認めれば、民意がゆがむというのだ。
 
長島氏は「外国籍の住民は少なくとも3年以上、市内に住む人という要件は必要」と訴える。
 
松下玲子市長は「条例案は多様性を認める社会につながる」と意義を強調する。今年3月のアンケートでは外国籍の住民を投票資格者に含めることに73・2%が賛成だった。
 
さらに、市役所周辺では街宣車が大音量で反対を訴え、排外主義的な団体も「自治体乗っ取り条例」などと声を張り上げてきた。

一方、賛成派は上野千鶴子・東大名誉教授らが名を連ねた声明を11月に発表し、「威圧的な宣伝や脅迫まがいの行動が跋扈(ばっこ)している」と指摘している。
 
市内の男性(35)は「こういう制度がなければ外国籍の方が意見表明する場はない。むしろ必要な制度」。パート勤務の女性(64)は「長く住まないと地域のことは分からない」と反対だった。

 ■10年前、自民が反対
武蔵野市によると、外国籍の人が住民投票に参加できるのは約40自治体。「在住期間3年以上」など条件を設ける自治体もあるが、2006年施行の神奈川県逗子市と09年施行の大阪府豊中市は武蔵野市と同じ条件で認める。
 
武蔵野市の住民投票条例案は、自治基本条例に基づく。自治基本条例は、自治体運営の基本理念などを定め、地方分権一括法が施行された00年以降、全国で制定が相次ぎ、約400自治体が定める。

だが、野党時代の自民党がその動きにブレーキをかけた。11年、「国家の否定が根底にある条例」とする資料を都道府県連に配布。憲法改正をめざす日本会議も同調。自民党のプロジェクトチームの参謀役だった八木秀次・麗澤大教授(憲法)は「それ以降、潮目が変わった」と語る。制定阻止の運動が盛り上がる中、自治基本条例や住民投票条例を作る動きは鈍化した。
 
明戸隆浩・立教大助教(多文化社会論)によると排外主義的な団体による自治基本条例への反対も約10年前から活発化しており、「他の自治体の動きが沈静化していた中、武蔵野市が条例案を提出し、標的にされてしまった」と話す。

 ■反対派の論理、飛躍
山元一・慶大教授(憲法学)の話 「外国人参政権の代替になり得る」という反対派の主張は論理が飛躍している。

憲法はたしかに国政選挙での選挙権を日本国籍のある人に限っているが、市長や市議を選ぶ選挙権を外国籍の住民に与えることは禁じていない。

住民投票でも同様だ。投票を認める外国籍の住民の要件について「自治体との特段に緊密な関係を持つ人」との裁判例はあるが、「3カ月以上在住」がただちに問題だとはいえないだろう。外国籍の住民にどこまで投票権を与えるか、各自治体が判断すればよい。それこそが憲法の保障する住民自治だ。【12月11日 朝日】
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昨今の日本のいわゆる右傾化・保守化の流れのなかにあっては「難しい」と予想された条例案でしたが、12月13日の総務委員会では可決されました。

****武蔵野市議会、委員会で可決 外国人に住民投票資格、条例案****
外国籍の住民にも開かれた住民投票条例案について、東京都武蔵野市議会の総務委員会が13日審議し、賛成多数で可決した。

条例案は日本での在留期間に条件をつけず、18歳以上で、市の住民基本台帳に3カ月以上登録されていれば投票資格がある内容。21日に予定される本会議で成立すれば、神奈川県逗子市、大阪府豊中市に次いで全国3例目となる。
 
この日の委員会では、条例案の廃案か継続審議を求める陳情が提出された。市内外から5千筆以上を集めたという。審議では、自民と公明の会派が「市内に長く暮らす日本人と、住んで3カ月の外国人とを同じレベルで考えるのはナンセンス」「市民の間で理解が進んでいない」などと今議会での条例案成立に反対する討議をした。
 
一方、立憲や共産などが賛成の立場をとった。「今や外国籍市民はコミュニティーの一員。受け入れるのにふさわしいかを議論すること自体に違和感がある」と述べる市議もいた。【12月14日 朝日】
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しかし、本会議での採決はやはりハードルが高かったようです。舞台裏では非常に厳しい状況もあったようです。

****武蔵野市の外国人住民投票案否決の舞台裏は“地獄”だった! 重圧で涙ぐむ市議も続出***
東京都武蔵野市で、外国籍の住民も住民投票に参加できるようにする住民投票条例案が21日、市議会で否決された。その舞台裏では、市議たちにさまざまなプレッシャーがかけられていたという。

この条例案をめぐっては反対のため街宣車が市内を走り回り、賛成派も〝ファクス攻勢〟で応戦。重圧で涙ぐむ市議もいたほどだった――。

日本人と同じ条件で外国籍の人に投票権を認める市の住民投票条例案を松下玲子市長が11月、議会へ提出すると、外国人参政権や安全保障問題と結び付けた批判など、インターネット上を含め議論を呼んだ。

全国的な注目度の高さを受けて、21日に開かれた市議会の傍聴席はほとんど埋まった。報道陣も殺到し、用意された記者席では足らず、立ち見が出たほどだ。

注目の採決は賛成11票、反対14票で否決。同条例案を推進していた松下氏は「否決という結果になりました。重く受け止めたい」と報道陣に話す一方で、「さらに検討を進める」と再提案の意志を示した。

また松下氏は、反対派によるヘイトスピーチにも言及。「ヘイトスピーチとも取れることがたびたび起こったことは残念だ」と指摘し、「私が見聞きした内容を言語化するのははばかられる。『外国人の方は自分の国に帰りなさい』という内容のものがあった」と明かした。

反対派の過激さばかりが取り上げられるが、賛成派も〝ファクス攻勢〟を展開していた。作家・志茂田景樹氏の息子である下田大気武蔵野市議は「どの議員もそうだと思うが、ファクス、メール、電話が何百件とありました。会派室にあったロール式のファクスは、紙がなくなったままです」と振り返った。

下田氏は事前に反対と表明していた。
「賛成派がツイッターでキャンペーンを呼び掛けたことで一気に賛成派からのファクスやメールが増えました。脅しはなかったけど、『差別主義者だ』とか『次の選挙は票を減らす』とかはありました」

それでも下田氏は反対を貫いた。「やはり市民の理解が得られていないのが一番大きい。混乱の中で進める意義が見いだせなかった。外国人への投票権付与は置いておいて、まずはケンケンガクガクの議論が必要。(住民投票する)案件があるわけじゃないので、そんなに急ぐことはない。再来年の4月に市議選があるのでそこで争点になるのではないか」

下田氏以上に注目されたのが、キャスティングボートを握っていた会派「ワクワクはたらく」の2人だ。この日の本会議で同会派の本多夏帆市議が涙声で反対を表明。事実上、この瞬間に否決が決まった。

下田氏は「彼ら2人にかかっていたので、僕以上の圧というか、いろんなところから連絡があったんじゃないですか。ここ1週間は相当なプレッシャーがあったと思いますよ」と思いやった。(後略)【12月22日 東スポ】
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日本  入管法改正案の再提出に向けて、収容中に死亡したスリランカ人女性の監視映像開示

2021-12-26 22:32:36 | 人権 児童
(映像では当初、入管側が「なかった」としていたウィシュマさんが点滴など訴える音声もはっきり記録されていた【12月24日 TBS NEWS】)

【入管法改正案の再提出目指すも、スリランカ人女性死亡問題で曲折が予想】
在留外国人の長期収容が国際的にも問題視されるなかで提出された収容や送還の規則を見直す入管法改正案が、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)の入管対応への批判が高まる中で廃案になった件は、5月18日ブログ“入管法改正案は廃案へ 難民認定、入管制度のあり方の議論は今後も必要”で取り上げました。

****入管法改正案が廃案へ、「人権侵害」と野党や国内外から批判****
在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案を巡り、野党の反対や国内外の批判を受け、政府は18日、今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。

同法案は、難民申請をしている外国人でも強制的に母国に送還されることや、退去命令に従わない人に罰則を設けるなどの点が難民条約違反、人権侵害であるとして弁護士団体や学者など国内外から批判を浴びていた。

入管法に詳しい児玉晃一弁護士は「たくさんの声が集約され、入管法の改悪が阻止された。SNSやネットニュースを通じていろいろな人に声が届き、みんなの声が勝ち取った成果」と述べた。

国会では、法務委員会で野党議員が法案の問題点を指摘、修正協議も行われていた。しかし、入管施設で3月、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)に関し、遺族に監視カメラ映像を開示するよう野党が求めたのに対し、出入国在留管理庁がこれを拒否、野党側は法務委員長の解任決議案を提出して与野党間の対立が深まった。

このため与党は18日、今国会での成立を断念することを決めた。ある与党幹部は「国際社会の批判もあり、強行採決はメリットがない」と語った。

昨年8月から不法滞在で名古屋出入国在留管理局に収容されていたウィシュマさんは、今年になって体調を崩し1月下旬から嘔吐を繰り返し吐血もしたが、入院などの措置はとられず3月6日、職員が死亡しているのを発見した。

支援団体と遺族は5月16日午後、名古屋市でウィシュマさんの葬儀を行い、約80人が参列した。支援団体は国会前で断続的に抗議活動を行い、法案の廃案とウィシュマさんの死亡についての真相究明を訴えてきた。

上川陽子法相はウィシュマさんの遺族と18日午後に面会することを明らかにした。

2019年末時点で、全国で収容されていた外国人は1054人。本来、収容所は退去強制令書を発出された人が退去するまでの間一時的に収容される場所だが、実際には1054人のうち約400人が6カ月超収容されていたという実態がある。

国連の「恣意的拘禁作業部会」は20年9月に、日本の入管収容制度における長期収容について、申し立てを行った被収容者2人の事案は国際法に違反し「恣意(しい)的」であるとし、日本政府に意見書を送付し必要な措置をとるよう求めた。

こうした長期収容の問題を改善するために政府は同改正法案を策定したが、内容について理解を得られなかった。【5月18日 ロイター】
**************************

廃案となった入管法改正案について、法務省は来年の通常国会に改めて提出する準備を進めていますが、収容中に亡くなったスリランカ女性の問題が未だ解消されていません。

****スリランカ人遺族、名古屋入管幹部を刑事告訴 殺人容疑で****
名古屋出入国在留管理局(名古屋市)に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が3月に死亡した問題を巡り、ウィシュマさんの妹、ポールニマさん(27)らが9日、当時の局長など幹部に対する殺人容疑の告訴状を名古屋地検に提出した。
 
告訴状によると、ウィシュマさんは生前、体調不良を訴えて点滴治療や外部への通院を求めていたが、入管職員らは適切な医療を提供する措置を講じず、保護する責任と義務を怠り、「ウィシュマさんが死んでも構わない」という未必の故意があったとしている。

告訴状の提出後、報道陣の取材に応じたポールニマさんは「名古屋入管の中で姉の件に携わったすべての人に責任があり、ちゃんとした措置をしなかった職員に責任がある」と語った。地検に対しては「大事な書類を提出した。きちんと目を通して真剣に取り組んでもらいたいと強く願う」と話した。
 
遺族代理人の指宿昭一弁護士は「助けなければならない強い法的義務があるのに、それに反しているので殺人罪だ」と説明。10月に確認したウィシュマさんが死亡する直前の映像については「助けられたのに何もしないで見殺しにしたことがよく分かった」と判断し、保護責任者遺棄致死ではなく殺人罪で告訴したことを明らかにした。

(中略)出入国在留管理庁は8月に医療体制や情報共有、職員への教育が不十分だったとする最終報告書を発表し、当時の名古屋入管局長と次長を訓告、警備監理官ら2人を厳重注意の処分にした。
 
ウィシュマさんの死亡を巡っては、愛知県の大学教員が6月、名古屋入管職員を名古屋地検に告発し、保護責任者遺棄致死傷容疑で受理されている。同局は「お答えする立場にない」として、コメントを控えている。【11月9日 毎日】
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****入管法改正案、再提出急ぐ 法務省準備、くすぶる収容死問題****
今年の通常国会で成立が見送られた出入国管理法改正案について、法務省が来年の通常国会に改めて提出する準備を進めている。14日には自民党に法改正の必要性を説明した。

強制退去処分となった外国人の収容長期化の解消が狙いだが、スリランカ国籍の女性が収容施設で亡くなった問題もくすぶり、法案提出には曲折も予想される。
 
現行法では、強制退去処分が決まっても、難民認定を申請すれば何度でも理由を問わず一律に送還が停止される。送還まで原則施設に収容され、その期間に上限はないため、収容の長期化が問題になっている。
 
今年の通常国会に提出された入管法改正案では、難民認定手続き中の送還停止規定の適用を、新たな相当の理由がなければ2回までに制限する一方、入管当局が選定する「監理人」の監督のもと施設外での生活を可能にする「監理措置」を設けるなどとしていた。(中略)

先の国会中には自民党と立憲民主党の間で修正協議が行われ、逃亡の恐れがなければ監理措置▽収容は上限6カ月とし、その後は監理措置か収容継続か個別に判断――などの内容で合意しかけた経緯があり、こうした点を踏まえることも検討されている。

 ■「審査の改善が先」 専門家
法務省が出入国管理法の改正を急ぐのは、強制退去処分となった外国人を法の不備により送還できず収容の長期化を招いていると考えるからだ。
 
在留期間を超えて不法に滞在している外国人は約8万3千人。近年は年平均約1万7千人が摘発されたり出頭したりしているが、強制退去処分が決まっても3103人(昨年末時点)が送還に応じていない。

うち1938人が難民認定を申請しており、申請が2回目は744人、過去に難民に認定された例がない3回目以上も481人いる。
 
一方、改正には厳しい目も向けられる。
「ウィシュマさんの死によって市民の反対の声が高まった。なぜ法案が通らなかったのかしっかり検証がされていないのでは」。外国人政策に詳しい鈴木江理子・国士舘大教授は、廃案になった法案に収容判断への司法の関与や収容期間の上限が盛り込まれなかった点に触れ、「収容の恣意(しい)的な運用が是正されない限り、人命にかかわる重大な事態が再び起きかねない」と批判する。
 
NPO法人「難民支援協会」の石川えり代表理事は、「難民と認められるべき人が認められていない」と指摘。送還停止規定の制限より「適切な認定ができるよう審査を改善するのが先だ」と訴える。
 
こうした意見があることなどから、与党内からは来夏に参院選を控えて影響を懸念する声も上がる。【12月16日 朝日】
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【死亡前の悲惨な状況 「入管という組織はいったい人間の命を何だと思っているのか」】
亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの悲惨な状況について、身元引受人となる予定だった眞野明美さん(68)は以下のように語っています。

****《今日カメラ映像開示》「私をここから連れていって…」ウィシュマさんの“最後の3カ月”を目撃した人が語る入管の壮絶な実態*****
(中略)ウィシュマさんが入管に収容されるきっかけになったのが、同じスリランカ人の同居男性からのDV被害を警察に届け出たこと。スリランカに戻れば夫に追いかけてこられる危険があったため、日本での仮放免(日本滞在が適法化するわけではないが、一時的に収容を停止し身柄の拘束を解くこと)を目指していた。

その際に、ウィシュマさんの身元引受人となる予定だったのが、今年10月に『ウィシュマさんを知っていますか? 名古屋入管収容場から届いた手紙』(風媒社)を上梓した眞野明美さん(68)だ。

第一印象は「あまりにも痩せていて」
(中略)「ウィシュマさんはすでにだいぶ衰弱していて、大きな声は出せない状態でした。私たちは必死に耳をアクリル板に近づけて彼女の声を聞き取っていました。

それでも、救急車が通るときの『ご注意ください』というアナウンスが『50円ください』にしか聞こえなかったという話で私たちを笑わせてくれたり、まだ明るい表情を見せてくれました。人が面会に来たことに安心したのだと思います」(中略)

しかし2021年が始まると、手紙に綴られる内容は徐々に暗転していった。
「1月10日付の手紙では、年末に体調を崩して3日間個室で過ごしたと書かれていました。さらに1月13日付のものには『あなたが入管に来る日付は早くこないから、時間も長――いです。待っている…待っている…待っている…だけです』と。精神が不安定になっていると感じました」

そして入管収容者の支援をしている男性から「ウィシュマさんが食事ができなくなっているようだ」と聞かされた眞野さんは、1月14日に2回目の面会へと赴いた。

「初回よりも憔悴していましたが、私たちが面会に来たことをとても喜んでいたように思います。入管に収容されると人間的な会話はほとんどできませんから、孤独感が募っていたのでしょう。私が作った曲を歌ってあげたら、彼女は目を初めて大きく見開いて嬉しそうな表情をしてくれました。あの顔が今でも忘れられません」(中略)

「1月18日付の手紙に、『わたしは12.5kgぐらいやせています。ほんとうにいまたべたいです』とひらがなで記されたポストカードが添えられていたんです。体調が気がかりだったので、2回目の面会から6日後の1月20日に再び入管へ行くことにしました。

バケツを両手で抱えさせられ
しかし面会室に現れたウィシュマさんは、明らかに何か異変が起きていました。足取りはフラフラだし、『喉に髪の毛が絡まっている感じがする』『髪の毛が抜ける』と体調不良を訴えていて、負担をかけないために40分を待たずに面会を切り上げることになりました」

ウィシュマさんの異変に不安を感じた眞野さんは、入管に対して必要な治療をするよう電話で強く申し入れた。しかし、担当職員は『電話では話せない』というばかりで、聞き入れてはもらえなかったと言う。そして4度目の面会となった2月3日、眞野さんの前に、ウィシュマさんはさらに弱りきった姿で現れた。

「入管の職員がウィシュマさんを車椅子に乗せて連れてきたんです。しかも、ウィシュマさんは青い大きなバケツを体の前に両手で抱えさせられていました。職員は、すぐに吐いてしまうから持たせていると言うんです。もう自力で身体を起こしていることも辛いようで、バケツにぐったりと寄り掛かるようにして、なんとか座っているような状態でした」
 
ウィシュマさんの口はぽっかりと開き、呼吸もしづらくなっているようだった。「話し方からも、明らかに脱水症状が進んでいました」と眞野さんは語る。

「このときが命を救うギリギリのポイントだった」
その場で面会は打ち切りになり、眞野さんが帰宅すると自宅にはウィシュマさんからの手紙が届いていた。そこには「食べることも飲むこともできません」「食べなきゃいけないのに食べられない。どうしていいかわからない」と綴られていた。

「ひらがなで綴られていた文章もローマ字や英語になり、字も乱れていて、やっとの思いで書いたんだろうというのが見て取れました。2日後の2月5日に再び入管へ行った際にはウィシュマさんが検査を受けていて面会ができず、そのことを謝る2月8日付の手紙が後に届きました。それが、彼女から届いた最後の手紙になりました」

入管のケア体制に不信感を覚えた眞野さんは、ウィシュマさんの体調をチェックするために面会の頻度をさらに増やした。2月10日の面会では、ウィシュマさんの“手”に異変が起きていることに気がついたという。

「指が曲がったまま固まってしまっていたんです。身体の他の場所も思うように動かせなくなっていたようで、『トイレに行こうとしてベッドから落ちたけど、誰も助けてくれなかった』と悲しそうに話していました。

2月15日からの仮放免を申請していたのですが不許可になったのも同時期でした。いま思えば、このときが彼女の命を救うギリギリのポイントだったのだと思います」
 
眞野さんは2月17日と26日にも面会を行なったが、この頃になるとウィシュマさんは常に吐き気に襲われているような状態で、ほとんど会話にならなかったという。

それから3日後の3月6日、ウィシュマさんは息を引き取った。入管から眞野さんら支援者に連絡はなく、眞野さんはニュースを見た知人からの連絡で彼女の死を知った。「もしかすると『彼女が死ぬまで放っておくはずがない』と、ギリギリのところで入管を信じていたのかもしれません。

彼女の死を聞いて、自分の想像力が全く足りていなかったことに気がつきました。もっとできたことがあったはず、彼女の命を救えたはずなんです」と眞野さんは悔いを滲ませる。そして入管職員の対応には、今も憤りを隠さない。

「入管という組織はいったい…」
「私は何度も何度も、職員にウィシュマさんが脱水症状であること、適切な治療を施すことを申し入れました。それを無視し続けた結果、ウィシュマさんは命を落としてしまった。それをどう考えているのか。

2月5日の面会にウィシュマさんが現れず、『大丈夫なの?』と尋ねたとき、笑いながら『生きてますよー。大丈夫ですって』と言われました。調査で明らかになったウィシュマさんへの虐待まがいの行為や、遺族の方への『鼻から牛乳は日本のジョーク』という説明など、入管という組織はいったい人間の命を何だと思っているのでしょう……」(後略)【12月24日 文春オンライン】
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【監視カメラの映像 衆議院法務委員会の理事と遺族に公開】
ウィシュマさんが亡くなる直前の約6時間半に及ぶ監視カメラの映像が、24日に国会で理事らに開示されました。

****入管施設でのスリランカ人女性死亡 法務委理事らに映像を開示****
入管施設に収容されていたスリランカ人女性が死亡した問題をめぐり、衆議院法務委員会の理事らに女性の施設内での様子を写した映像が開示されました。(中略)

出入国在留管理庁によりますと、映像は女性が亡くなる直前の2週間の様子について就寝時間などを除いておよそ6時間30分に編集したものだということです。

映像を見る議員はメモを取ることは認められましたが録音や録画は禁止され、映像の開示は午前9時から休憩を挟んで午後4時すぎまで行われました。

このあと開かれた理事懇談会で与野党は、今回の開示を踏まえて出入国在留管理庁の体制などについて来年の通常国会で引き続き議論していくことを確認しました。

古川法相「求められた範囲と方法のもとで閲覧」
古川法務大臣は閣議のあとの記者会見で「ビデオ映像については保安上の理由や亡くなった方の名誉や尊厳という観点から情報公開法に基づいて不開示情報という扱いをしていた」と述べました。

そのうえで「衆参の法務委員会理事会の判断として、ビデオ映像の一部について保安上の問題にも配慮したうえでの閲覧の求めがあったことを踏まえて検討した結果、求めがあった範囲と方法のもとで閲覧していただくことにした」と述べました。

自民 葉梨氏「最終報告とのそごはない印象」
衆議院法務委員会で与党側の筆頭理事を務める自民党の葉梨康弘氏は「映像を見た結果、出入国在留管理庁の最終報告とのそごはない印象を受けた。ただ、入管施設の医療などの体制で非常に弱い面があり、しっかりと強化していかなければならない。来年の通常国会で建設的な質疑を行いたい」と述べました。

立民 階氏「法務委で集中審議を」
衆議院法務委員会で野党側の筆頭理事を務める立憲民主党の階猛氏は「映像を見てよかった。出入国在留管理庁の最終報告にうそは書いていないが、なるべく事実をわい小化しようという意図が透けて見え、最終報告だけではとても実態に迫れなかった。入管施設の抜本改革の必要性をより強く認識した。施設の在り方について法務委員会で集中審議を行うべきだと考えている」と述べました。【12月24日 NHK】
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映像は24日、名古屋地裁でもウィシュマさんの遺族に開示されました。

****「点滴を」ウィシュマさん映像 遺族・国会に開示****
遺族代理人 指宿昭一 弁護士
 「画面があって、左のほうにベッドがあります。ウィシュマさんが寝ている、毛布がかかっている。この日の最後の方で私が印象的だったのが『ちょっと待って、私死ぬ』という風にウィシュマさんが言っていました」

映像では当初、入管側が「なかった」としていたウィシュマさんが点滴など訴える音声もはっきり記録されていたといいます。

遺族代理人 指宿昭一 弁護士
 「『嘘じゃない。点滴お願い、点滴お願い』、『お願いします、お願いします』という風に言っていました」

ウィシュマさんの妹 ポールニマさん(27)
 「『私を病院へ連れて行って下さい』と何度もお願いしている。『お腹が痛い』とも。でも職員は全然聞いてくれていない」

一方、24日は国会でも、遺族が見たビデオと同じものが初めて開示されました。映像を見た議員は・・・

立憲民主党 階猛 衆院議員
 「無理やり口の中に食べ物や薬を押し込むのを繰り返していた。とてもじゃないけど正視できない、そんな場面も多くありました。この組織は常識からあまりにも逸脱しているのではないか」

遺族は「まだまだ分からないことがたくさんあり、これで終わりではない」と訴えました。

ウィシュマさんの妹 ポールニマさん(27)
 「スリランカにいるお母さんも見なくてはならないし、(もう1人の)姉も見なくてはならない。日本の全ての人にも見てもらいたいです」【12月24日 TBS NEWS】
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