(中国・チベット自治区ラサの学校で、授業を受ける子ども。政府主催のメディアツアーで(2021年6月1日撮影)【2023年2月7日 AFP】)
(チベット亡命政権のあるインド北部ダラムサラの「チベット子ども学校」【1月20日 TBS NEWS DIG】)
【宗教の中国化】
中国・習近平指導部がウイグル、チベット、モンゴルなどで同化政策を進めていること(中国政府からすれば中国の一体化促進)は周知のところですが、民族のアイデンティティーの核心にある宗教・言語への規制・「中国化」が強まっています。
****中国・新疆ウイグル自治区政府 宗教活動規定、来月から厳格化へ モスクなど新設の際に“中国様式”義務付け****
中国の新疆ウイグル自治区政府は、宗教活動に関する規定を来月からさらに厳しくすると発表しました。イスラム教徒が礼拝するモスクなどを新設する際は、装飾などを中国様式にすることなどが義務付けられます。
新疆ウイグル自治区政府の発表によりますと、宗教に関する改正条例は来月1日から施行されます。改正条例には「宗教活動の場を新築・改築するなどの場合、建物や彫刻、絵画、装飾は中国の特色と様式を体現しなければならない」と明記されています。
また、愛国主義的な宗教教育を義務付けるほか、学校やモスクなどの場を除いては、宗教活動を行ってはならないとしています。
中国政府の宗教政策をめぐっては、これまでにも新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する抑圧が行われるなど、宗教活動が厳しく制限されていました。
習近平指導部は「宗教の中国化」を加速させていて、今回の改正によって、イスラム教徒のウイグル族への締め付けが、さらに強まりそうです。【1月8日 日テレNEWS】
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事情はチベットでも同じです。
****チベット仏教「法に基づいて寺院の管理強化」…報告書で「宗教の中国化」を正当化****
中国国務院(中央政府)は10日、チベット自治区統治の成果をまとめた白書を発表した。チベット族を含む少数民族政策に対する批判が米欧などで強まっているのに対し、統治の正統性をアピールする狙いがあるようだ。
白書では、チベット族が信仰するチベット仏教を巡り、「法に基づいて寺院の管理を強化、改善し、調和を促した」と強調した。政府が宗教を管理することで秩序が保たれたと誇示し、政策を正当化した。
習近平シージンピン政権は、宗教を中国共産党の指導の下に置く「宗教の中国化」を掲げる。今後もこの政策を推し進め、自治区で宗教を管理する必要があるとしている。
白書では、チベット族の言語・文化を保護する取り組みや所得増加もアピールした。習政権が発足した2012年以降、チベット族などに配慮し、自治区の発展を重視してきたと主張している。【2023年11月10日 読売】
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【「中国がやっていることは文化的ジェノサイドに等しい」チベット亡命政府首相】
こうした状況について、インドにあるチベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相は「中国がやっていることは文化的ジェノサイドに等しい」と批判しています。
****「中国がやっていることは文化的ジェノサイドに等しい」チベット亡命政府首相に単独インタビュー****
インドにあるチベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相はJNNの単独インタビューに応じ、中国政府のチベット政策や、88歳になったダライ・ラマ14世の後継問題について語りました。
(中略)
Q.中国政府は信仰よりも中国共産党への忠誠を優先させる「宗教の中国化」政策を推進していますが、この政策についてどう思いますか?
ツェリン首相:
宗教だけではありません。中国政府はチベットの人々のアイデンティティーそのものを変えようとしています。特にチベットにはチベット仏教があり、その基礎となるチベット語があります。チベット語はチベット人のアイデンティティーの基盤なのです。そしてその上にチベット仏教文化があり、他の仏教国と同じように、私たちはブッダの平和と非暴力のメッセージに従っています。
(中略)もし彼(習近平国家主席)が中国を間違った方向に導こうとするなら、中国国民全体にとって非常に破滅的な結果をもたらすでしょう。そこにはチベット人、ウイグル人、モンゴル人、香港人も含まれています。
中国は海外からの投資を必要としていますが、他国から干渉されることを望んでいません。そして、すべてがますます統制されてきています。それは良い兆候ではありません。私は中国の指導者がもっと良識的な対応をすることを期待しています。
Q.「宗教の中国化」はチベットの人々に何をもたらすのでしょう?
ツェリン首相:
チベット国内の状況について、国連は「100万人の子どもたちが寄宿学校に入れられた」という報告書を発表しました。ジャーナリストが中国の指導者や報道官にこのことを尋ねると、彼らは「アメリカは先住民族をどう扱ったか」などと発言し、論点をすり替えようとしています。これが中国が、チベットやウイグル、モンゴルで、国家ぐるみで大規模にやっていることです。つまり、チベットに住む6歳から18歳までの100万人を寄宿学校に入れているのです。
中国式の教育を受けることで彼らは家に帰ってもチベット語が話せなくなってしまいます。中国が行っている教育システムが人々の心や考え方、生き方、すべてを変えることを目的としているのであれば、それは文化的ジェノサイドに等しいと思います。中国政府の愛国教育の目的は、誰もが中国語しか話せない、中国人的思考を持つ人を育成することです。
宗教の自由について言えば、かつて、すべての寺に多くの僧侶がいましたが、今は少なくなっています。中国はすべてを管理したがっています。特に中国はチベット仏教の高僧の「生まれ変わり」を管理したがっている。
特に、今のダライ・ラマの14世の「生まれ変わり」、ダライ・ラマ15世を支配することを目的としているのです。彼らは今のダライ・ラマ14世については気にしていませんが、ダライ・ラマ15世に関心を寄せています。
中国のシステムは、経済発展をもたらすことを証明しました。しかし残念ながら、中国の指導者たちが理解できなかったのは、民衆の願望は他にもあるということなのです。
彼らは経済発展すれば問題は解決すると思っている。彼らは人々の心の自由や、人々が何を望んでいるのかを考えていない。お金を手に入れたら、次は何をするのですか?お金があっても、死に向かう歩みを止めることはできない。死後の世界が本当にあるのかないのか、精神世界は存在するのか。
中国人は心の中で常にこのような葛藤を抱えていますが、中国の共産主義はこのような問題に対する答えを出すことはできず、嘘で塗り固めることしかできていない。
Q.ダライ・ラマ14世は今、88歳です。彼が死去したあと、何が起きるのでしょう?
ツェリン首相:
(中略)ダライ・ラマが2年後、90歳になった時、いくつかの決定を下すことになります。2年後にはダライ・ラマがどう考えるのか、わかるでしょう。
ダライ・ラマは1969年以来一貫して、次のダライ・ラマがいるかどうかはチベットの人々が決めることだとおっしゃっています。「ダライ・ラマが必要なのであれば、彼は戻ってくるだろう。必要とされないなら、戻ってこない」。そう冗談めかして言うこともあります。
モンゴルやロシアにも、チベット仏教を信仰している人がいます。世界中にいる信者のため、私たちは彼らの意見をまとめるための手立てを考えるつもりです。しかし、法王の選出に関しては、その時の指導者が誰であろうと、私たちチベット政府でさえ、その選出プロセスに干渉することはありません。
なぜなら、それはすべてダライ・ラマが決めることだからです。なぜなら、それは純粋にスピリチュアルで宗教的な儀式であり、私たちのような一般人には関与できないことだからです。
もちろん、より大きな問題は、ダライ・ラマの死後、中国政府がチベット側とは違う、別のダライ・ラマを選んだ場合です。
中国は今のダライ・ラマ14世よりも次のダライ・ラマ15世を重視しています。なぜなら、非常に信心深いチベットの人々を支配するには、次のダライ・ラマをコントロールできれば、チベットをいとも簡単に支配できることを中国政府は知っているからです。
だから私は中国政府に、「パンチェン・ラマの物語から何も学んでいないのか」と言い続けている。今、(ダライ・ラマに次ぐ高僧の)パンチェン・ラマは2人います。中国が選んだパンチェン・ラマとチベットが選んだパンチェン・ラマです。
チベットが選んだパンチェン・ラマは姿を消し、生きているのかいないのかも、今どこにいるのかもわからない。中国が選んだパンチェン・ラマは誰も尊敬しません。チベットで、中国が選んだパンチェン・ラマの写真を見ることはありません。それがチベットの人々のせめてもの抵抗だからです。ダライ・ラマについても同じことが起こるでしょう。
だから私は中国政府に言いたいのです。あなたたちには頭痛のタネが必要なのですか、と。ダライ・ラマが2人いる状態を、中国政府は望むのでしょうか?
ダライ・ラマの立場は一貫しています。「私は自由な世界に生まれる。チベットが自由になれば、私はチベットで生まれるかもしれない。しかし、チベットが自由になるまでは、私がチベットで生まれることはない」と。これは中国政府が決めることではなく、ダライ・ラマだけが決められることなのです。
Q.今、中国政府との対話はありますか?
ツェリン首相:
いいえ、バックチャンネルはありますが、公式な対話はありません。中国が言うことは非常に疑わしいので、それ以上のことは言えません。よく、チベット人が勝てないのは、希望を持ちすぎるからだといわれます。
しかし、我々は希望を持ち続けなければならない。今はそのバックチャンネルを継続することなのです。私たちは再びコンタクトを築かなければならないでしょう。 (後略)【1月20日 TBS NEWS DIG】
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【「100万人の子どもたちが寄宿学校に入れられた」との批判に中国反論】
「100万人の子どもたちが寄宿学校に入れられた」という件に関して、2023年2月6日に国連の特別報告者がそのような報告を行っています。
私が知る範囲では、2021年12月に(チベット系の活動組織)チベット・アクション・インスティテュート(Tibet Action Institute)が発表した報告書「Separated From Their Families, Hidden From the World(家族と別れ、世界から隠された)」において、“チベットにおける教育のほとんどが寄宿制学校で行われている。6~18歳のチベット人の子供80万人が寄宿制学校に入れられている。実に、78%の子供が寄宿制学校に連行されている計算になる。”と報告しているあたりが議論の発端ではないでしょうか。
その後、アメリカ政府もこの件を問題視して中国関係者のビザ発給制限措置などをとっています。(2023年8月22日 ブリンケン国務長官発表)
これに対し、中国は下記のように反論しています。
****チベットで「子どもは強制的に寄宿学校に入れられる」批判に中国政府が反論****
中国政府は、チベット族の子どもを寄宿学校に入れ、同化政策を行っているとの指摘があることに対し「寄宿学校に入るかは親の選択にゆだねられている」と反論しました。
中国政府は10日、会見を開き「中国共産党のチベット政策に関する白書」を発表。
チベットに関しては宗教の自由が制限され、弾圧の対象になっていると国連などが報告していますが、会見では「憲法のもとチベットでは宗教の自由が保障されている」と強調しました。
中国政府が運営する寄宿学校に100万人以上のチベット族の子どもたちを強制的に入れ、「漢族との同化政策」を行っているとするアメリカ政府の指摘については、「チベットは自然条件が厳しく、人口が分散しているため、通学に便利なように寄宿学校に入れている」と反論。「特に遠隔地の子どもに質の高い教育を提供するものであり、寄宿学校に入るかどうかは親の選択にゆだねられている」と強制ではないと説明しています。
一方、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を念頭に、「宗教が社会主義社会に適応するよう積極的に指導し、全ての民族が団結を守り、分離主義に反対する」としたほか、信仰よりも中国共産党への忠誠を優先させる「宗教の中国化」の方向性を今後も堅持する、としています。
チベットをめぐっては、過去たびたび中国政府への抗議活動が起きていることから、中国政府はチベット族への監視を強化していますが、今回の白書では欧米などからの指摘に反論した形です。【2023年11月10日 TBS NEWS DIG】
中国政府は10日、会見を開き「中国共産党のチベット政策に関する白書」を発表。
チベットに関しては宗教の自由が制限され、弾圧の対象になっていると国連などが報告していますが、会見では「憲法のもとチベットでは宗教の自由が保障されている」と強調しました。
中国政府が運営する寄宿学校に100万人以上のチベット族の子どもたちを強制的に入れ、「漢族との同化政策」を行っているとするアメリカ政府の指摘については、「チベットは自然条件が厳しく、人口が分散しているため、通学に便利なように寄宿学校に入れている」と反論。「特に遠隔地の子どもに質の高い教育を提供するものであり、寄宿学校に入るかどうかは親の選択にゆだねられている」と強制ではないと説明しています。
一方、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を念頭に、「宗教が社会主義社会に適応するよう積極的に指導し、全ての民族が団結を守り、分離主義に反対する」としたほか、信仰よりも中国共産党への忠誠を優先させる「宗教の中国化」の方向性を今後も堅持する、としています。
チベットをめぐっては、過去たびたび中国政府への抗議活動が起きていることから、中国政府はチベット族への監視を強化していますが、今回の白書では欧米などからの指摘に反論した形です。【2023年11月10日 TBS NEWS DIG】
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「チベットは自然条件が厳しく、人口が分散しているため、通学に便利なように寄宿学校に入れている」というのは一定に説得的な主張です。問題は、「親の選択」の実態でしょう。
また、結果として子供たちがチベット語を話せなくなり、家族のコミュニケーションが困難になるようなことが起こっているなら、それはすぐに是正すべき問題でしょう。
【チベット問題を左右するダライ・ラマ14世の死去、15世の選定】
ダライ・ラマ14世の死去、15世の選定がどうなるのか・・・・が今後のチベット問題の転換点となるであろうことは衆目の一致するところです。
ツェリン首相がダライ・ラマの立場としてあげている「私は自由な世界に生まれる。・・・・チベットが自由になるまでは、私がチベットで生まれることはない」というのは、中国の影響力が及ぶ土地で(生まれ変わりの)後継者を選ぶと、すでにパンチェン・ラマで起きているように、中国側に拉致されてしまい、中国側が勝手に別の後継者を選定するという懸念からでしょう。
昨年11月にダライ・ラマ14世は、高僧ジェブツンダンバ10世の生まれ変わりとして、チベットではなくモンゴルの少年(8歳)が転生(生まれ変わり)であると発表しています。
モンゴルという中国が勝手に拉致などできない土地に転生したこと、更に、10世の少年は双子であり、兄弟のどちらが10世かは未公表で、米国生まれで米国籍も持つことなど、中国に介入されにくい少年が認定されたことがうかがわれます。【2023年11月15日 東京より】
なお、転生したとされる少年は“学校に通いつつ、放課後などに僧院で仏教の修行に励む。18歳になった時点でジェブツンダンバ10世として生きるかを本人に選択させるという。”【同上】とのことです。
【中国 交通・経済面での一体化も推進】
一方、中国側はチベット統治への外国の干渉を排除する姿勢を見せています。
****中国「チベット」英語表記を変更 統治への外国干渉けん制****
中国政府は10日、チベット自治区に関する白書を公表し共産党統治を正当化した。英語版で自治区の地名をこれまでの「TIBET」ではなく、チベットの中国語「西蔵」の発音に当たる「シーザン(XIZANG)」と表記した。
中国は欧米諸国と自治区の人権問題などを巡り対立しており、中国語読みに変更することで外国の干渉をけん制する狙いがある。
中国の習近平指導部は2008年に大規模暴動が起きたチベット自治区で抑圧を強め、チベット族に対する中国語や共産党思想の教育を徹底。信仰よりも党・政府への忠誠を優先させる「宗教の中国化」を進めている。(後略)【2023年11月10日 共同】
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チベットの交通・経済面での一体化も着々と進んでいるようです。
****雲南・チベット鉄道の麗江・シャングリラ区間本日開通―中国****
中国南西部の雲南省とチベット自治区を結ぶ雲南・チベット鉄道の麗江・シャングリラ区間が26日に正式に開通し、最初の列車がシャングリラを発車しました。この列車の発車により、雲南省迪慶チベット自治州に鉄道が通じないという歴史に終止符が打たれました。
雲南・チベット鉄道の麗江・シャングリラ区間は麗江駅から始まり、シャングリラ駅に接続し、全長139キロ、設計時速140キロで、国家1級単線電気鉄道となります。
同鉄道は雲貴高原とチベット高原の間に位置し、麗江古城やシャングリラなど多くの有名観光地を結ぶ「美しい雲嶺天路」と呼ばれています。雲南・チベット鉄道の麗江・シャングリラ区間は、標高2400メートルの麗江駅から3274メートルのシャングリラ駅まで上がる典型的な高原鉄道です。
同プロジェクトは着工以来、9年かけて34の橋を架け、20のトンネルを建設しました。そのうち、金沙江特大橋の主径間は660メートルに達し、橋面と川面の垂直距離は約250メートルで、80階を超えるビルの高さに相当します。玉竜雪山、哈巴雪山などのトンネル建設の過程で、高地応力や大変形などの地質的難題を克服し、世界トップレベルの大変形制御技術を革新・開発しました。
雲南・チベット鉄道の麗江・シャングリラ区間の開通運営初期、鉄道部門は毎日8本の旅客列車を運行し、昆明駅、大理駅、麗江駅からシャングリラ駅までを最速でそれぞれ4時間30分、3時間58分、1時間18分で結びました。【2023年11月27日 レコードチャイナ】
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雲南省とチベット自治区を結ぶ雲南・チベット鉄道・・・完成はまだ先ですが、観光的には極めて魅力的な路線です。また、中国の鉄道建設技術の高さを示すものでもあります。
こうした「一体化」によって、人的・物的交流が進み、経済的一体化が促進されることを狙ったものですが、チベットに経済成長をもたらすものにもなります。
成長の恩恵が誰の手にもたらされるのか? 漢族か? 地元チベット住民か? それによって住民の暮らしはどう変わるのか? そうした疑問が偏ったものなのか? 答えは簡単ではありません。