孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ガザ地区  アメリカのイスラエルへの人道状況改善要請 その不合理な顛末

2024-11-13 23:43:40 | パレスチナ
(パレスチナ・ガザ北部で飢餓が差し迫っていると、国連が支援した調査が指摘している【11月13日 BBC】)

【アメリカ ガザ地区の人道状況を30日以内に改善させるイスラエルに要請 出来ない場合は一部武器支援停止も】
パレスチナ・ガザ地区の惨状は周知のところですが、アメリカがイスラエルに10月13日付けで書簡を送り、イスラエルが30日以内にガザの人道状況を改善させなければ、アメリカは対イスラエル軍事支援の一部を打ち切る可能性があると伝えていたことが10月15日に明らかになりました。

****アメリカ、イスラエルにガザ人道状況の改善要求 「30日以内」に対応なければ軍事支援停止も****
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナのガザ地区の人道状況をめぐり、アメリカがイスラエルに書簡を送り、同国が30日以内に改善させなければ、アメリカは対イスラエル軍事支援の一部を打ち切る可能性があると伝えていたことが15日、明らかになった。

13日付のこの書簡は、アメリカが同盟国のイスラエルに出した警告文としては最も強力なもの。イスラエルがガザ北部で新たな攻撃を開始し、多数の民間人が死傷していると報じられている中で出された。

書簡にはアメリカがガザの人道状況の悪化に深い懸念を抱いていると書かれている。また、イスラエルが先月ガザ北部と南部の間で、人道的な移動の90%近くを拒否または妨害したとしている。

イスラエルは書簡について検討中だとされる。同国はガザ北部での攻撃はハマス工作員を標的にしたもので、人道支援物資の流入を阻止してはいないとしている。

ガザ境界の検問所を運営するイスラエルの占領地政府活動調整官組織(COGAT)は14日、国連の世界食糧計画(WFP)からの援助物資を積んだトラック30台がエレズ検問所からガザ北部へ入ったと発表した。

国連によると、ガザ北部に食料援助が届けられず、40万人のパレスチナ人の生存に不可欠な物資が底を尽きつつあった。こうした状況は2週間続いたが、エレズ検問所経由の物資搬入でそれを脱した。

アメリカはイスラエルにとって最大の武器供給源。イスラエル軍はこの1年、ガザでのハマスとの戦闘をめぐり、アメリカから供給された航空機や誘導爆弾、ミサイル、砲弾に大きく依存してきた。

書簡の内容
アメリカがイスラエル政府に宛てた書簡の内容は、米ニュースサイト「アクシオス」が最初に報じた。その後、米国務省も書簡の存在を認めた。書簡にはアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が署名している。

書簡には、「ガザにおける人道状況の悪化に対して米政府が深い懸念を抱いていることを強調し、この軌道を方向転換させるために今月中にイスラエル政府が緊急かつ持続可能な行動を取ることを求めるため、この書簡を記す」とある。

また、イスラエルの避難命令を受け、イスラエル軍が人道地区に指定しているガザ南部アル・マワシ地区には170万人のパレスチナ人が密集していると指摘。この狭い地区は極度の過密状態にあり、致死的な感染症が広まる危険性が高まっているとしている。さらに、人道支援団体はこうした避難民が生き延びるためのニーズに応えられていないと報告していると書いてある。

「我々はイスラエル政府による最近の行動を特に懸念している。商業的な搬入の停止、9月にガザ北部と南部の間で人道的な移動の90%近くを拒否または妨害、民生と軍事の両方に活用できるデュアルユースに対する過重な制限の継続、人道スタッフや輸送品に対する新たな審査・重い責任・税関要件の設定は、不法行為や略奪の増加とともに、ガザの状況を加速度的に悪化させ続けている」

書簡は、イスラエルはガザへの援助物資の供給を促進するための一連の具体的な措置を「今すぐ、30日以内に開始しなければならない」、そうでなければ「アメリカの政策に影響を与えることになりかねない」としている。
書簡には、アメリカの人道援助物資の提供を妨げる国に軍事支援を禁止する、アメリカの法律が引用されている。

アメリカ側は、イスラエルは冬の到来までに「ガザ全域であらゆるかたちの人道支援を急増」させなければならないとしている。これには1日あたり最低350台のトラックが四つの主要検問所と五つ目の新たな検問所を通過し、アル・マワシ地区にいる人々が内陸に移動できるようにすることが含まれる。

ガザ北部から南部への「民間人の強制避難がイスラエル政府の政策に含まれない」ことを再確認し、「ガザ北部の孤立」を終わらせることも求めている。【10月16日 BBC】
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アメリカはこの書簡を公表するつもりはなかったとしています。当時最終盤を迎えていた大統領選挙を考えると、イスラエルに対し軍事支援の一部停止も辞さないような内容は不都合と考えたのでしょうか。
期間の設定も投開票日をまたぐ形になったのも大統領選挙への影響を考慮してのことでしょうか。

ただ、本気で非公表にするつもりなら、すぐに一部報道機関に内容が漏れるというのも・・・どうでしょうか。

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(上記【BBC】の続き)
米国務省のマシュー・ミラー報道官は15日、米ワシントンでの記者会見で、当該書簡は「非公開の外交的コミュニケーションであり、公表するつもりはなかった」と語った。

「(ブリンケン)長官はオースティン長官とともに、ガザへの援助レベルを回復させるために再び変更を加える必要があるとイスラエル政府に明確にすることが適切だと考えた」

イスラエル側が人道援助へのアクセスを改善しなかった場合にどのような結果が起こりうるかについては、ミラー報道官は推測を避けた。

「米軍の援助を受ける側が恣意(しい)的にアメリカによる人道援助の提供を拒否あるいは妨げるようなことはない。このことは法律で定められており、我々は当然、法律に従う。しかし我々が望むのは、我々が示したような変更をイスラエルが行うことだ」

30日間という期限については、11月5日に控える米大統領選とは関係がないとし、「異なる問題に取り組むための時間を与えるのがふさわしい」やり方だと述べた。

イスラエルは以前から、ガザへ届けられる援助物資や人道支援の量を制限してはいないと主張しており、それらが供給されていないのは国連機関に問題があるからだとしている。また、ハマスが援助物資を盗んでいるとも非難している。ハマス側はこれを否定している。

5月にイスラエルがガザ南部ラファで地上攻撃を開始する前、ジョー・バイデン米大統領は2000ポンド爆弾と500ポンド爆弾の輸送を初めて停止し、イスラエルに全面攻撃を思いとどまらせようとした。

しかし、バイデン氏は直後に、米議会共和党やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相からの反発に直面した。
この停止措置は7月に部分的に解除され、その後は実施されていない。(後略)【10月16日 BBC】
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これに関し、EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は17日、「今のペースで死者が出れば、1カ月の間にあまりにも多くの人々が死亡することになる」として、アメリカが1か月の猶予を設けていることを批判しています。【10月17日 ロイターより】

【改善の様子なく、悪化するガザ地区の状況】
10月13日付けの書簡でしたが、その後もガザの状況が改善したという情報は目にしていません。むしろその惨状を伝えるものだけです。

****ガザ、飢餓のリスク続く 「最悪のシナリオ」懸念=国連IPC分析****
国連の「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」は17日、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザでは地区全体が依然として飢餓の危機にさらされ、緊急レベルにあるとの分析結果を公表した。イスラエル軍の激しい軍事作戦が懸念を強め、人道支援活動が妨げられていることが要因にある。

ガザ地区約230万人の住民の184万人が深刻な食料不安に直面し、そのうち13万3000人が最も深刻な「壊滅的」レベルにあるとした。6月の報告からは減少したものの、今後数カ月の間に倍増するとみられている。5月以降、ガザ地区への食料の流入が増えたが、9月に人道支援が再び縮小し始めたと指摘した。

IPCは「ガザ地区全体で飢餓のリスクが続いている。最近の敵対行為の高まりを踏まえると、最悪のシナリオが現実となるのではないかという懸念が高まっている」と記した。

IPCによると、イスラエルがこのほど出したガザ地区からの退去命令で人道支援活動が中断され、度重なる避難によって食料や水、医薬品へのアクセスや対応が悪化している。24年9月─25年8月に小児の急性栄養失調が6万件発生すると推定されている。

今回の報告は9月30日─10月4日の分析に基づいており、足元で起きている最新状況を反映していない。

国連の人道支援機関は、10月2日─15日までにガザ北部には食料援助はほとんど入らず、配布できる食料は枯渇寸前だと指摘。燃料不足も深刻化しており、大半のパン屋は数日で閉店を余儀なくされる恐れがあるとしている。【10月18日 ロイター】
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****イスラエル、ガザ物資輸送路遮断 食料搬入手続きを停止=関係筋****
イスラエルは、パレスチナ自治区ガザへの食料搬入を行う業者による要請の処理を停止した。これによりガザ地区の食糧の大半を過去6カ月間にわたり供給してきた輸送経路が遮断されることになる。複数の情報筋が明らかにした。

イスラエルの公式データをロイターが分析したところ、今回の決定により、ガザ地区への物資の搬入量は戦争開始以来最低水準となっていることが分かった。

イスラエルの占領地政府活動調整官組織(COGAT)は、十分な支援物資がガザ沿岸地区に届き、イスラエルが人道援助の流入を阻止しないよう全力を尽くしていると説明。イスラエルが物資供給を妨害しているとの主張を否定している。

COGATの統計によると、10月1─16日にガザ地区への援助物資と商業物資を含む物資輸送量は、1日平均トラック29台分にまで減少している。

食糧供給に携わる2人の関係者によると、商業輸送を停止した理由は、イスラム組織ハマスが輸入品から収入を得ていることをイスラエルが懸念しているたためという。

ハマスの報道官は、同組織が食料を盗んだりそれを収入源にしたりすることはないとし、ガザ地区に援助物資を確実に配給しようと努めていると言明した。【10月18日 ロイター】
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かりに“ハマスが輸入品から収入を得ている”ということであったにしても、商業輸送を停止してガザ住民の飢餓状況を更に悪化させることが許されるのか?

イスラエルにとって「人命」というのはイスラエルユダヤ人のものだけであり、パレスチナ人の命はその範疇に入らないのか?

【「将軍たちの計画」】
この間、イスラエルはガザ北部への攻撃を強めています。
“ガザ北部で病院攻撃、イスラエル「テロ標的」 全域で72人死亡”【10月26日 ロイター】

このガザ北部への攻撃は、住民を強制退去させ、残った者はハマス及びその関係者として殺害し、北部へのイスラエル軍常駐を目指す・・・・という計画ではないかとも見られています。退役したイスラエル軍司令官らが提案した計画で「将軍たちの計画」と呼ばれていますが、イスラエル政府はそうした計画の実行を否定しています。

アメリカの要請については“イスラエル政府は半ば無視”とも。どうせイスラエル全面支持のトランプ氏が勝つので、バイデン政権の要請など無意味・・・ということでしょうか。

****ガザ北部再攻撃、死者千人 包囲1カ月、軍駐留視野か****
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ北部を再び集中攻撃している。北部ジャバリヤ周辺を1カ月以上、地上部隊で包囲し、支援物資の搬入を遮断。千人以上が死亡したとみられ、住民多数が避難を強いられている。今後のイスラエル軍の駐留も視野に、住民を強制的に退去させているとの見方も出ている。

米国は10月中旬、ガザの人道状況改善措置を30日以内に取るよう求めたが、イスラエル政府は半ば無視。危機的状況だ。

イスラエル軍は昨年10月の戦闘開始以降、ガザ北部で地上作戦を繰り返してきた。今回の作戦は今年10月6日に始め、ジャバリヤや北方ベイトラヒヤも包囲。10月中旬にイスラム組織ハマスの最高指導者シンワール氏を殺害後も攻撃の手を緩めず、国連によると約10万人がジャバリヤ周辺から南方のガザ市に逃れた。

イスラエル軍はガザ市以北への物資搬入を認めず、ロイター通信はジャバリヤ周辺に1カ月以上、物資が届いていないとする住民の話を伝えた。【11月8日 共同】
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****ガザ人道支援、北部住民に届いてないと米政府 包囲をけん制****
米国務省のミラー報道官は28日、パレスチナ自治区ガザ北部ジャバリアで人道支援が必要な人に届いていないとし、受け入れられない状況との見方を示した。

「ジャバリアの人々に必要な食料や水、医薬品が届いていない」とし、「状況が変わることを望む」と述べた。

パレスチナの緊急当局によると、ジャバリア、ベイトラヒヤ、ベイトハヌーンでは約10万人が医療や食料供給を受けられずに孤立している。3週間にわたるイスラエル軍のガザ北部攻撃で緊急サービスの活動が停止しているという。

ミラー氏はガザ北部を包囲したり、民間人を飢餓に陥れたり、ガザ全体から北部を切り離したりするようないかなる試みも明確に拒否すると断じた。

ブリンケン米国務長官は ガザ北部から避難するよう民間人に指示した上で、同地域を閉鎖された軍事区域に指定するという、退役したイスラエル軍司令官らが提案した計画について、イスラエルとの協議で問題提起した。ミラー氏によると、イスラエルはそうした計画は実施していないと述べたという。

ただ、米当局者によると、ブリンケン氏は米国がガザの人道状況改善に向けた措置を30日以内に講じるよう求めた先の書簡で示した条件をイスラエルが全て満たすには至っていないと警告したという。【10月29日 ロイター】
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【国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のイスラエル国内での活動禁止】
イスラエル議会は、ガザで人道支援を行っている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)についてハマスと関連があるとして国内での活動を禁じる法案を可決。これによりイスラエルと調整ができなくなり、事実上ガザへの物資支援がストップします。

*****ガザの人道危機、さらに深まる恐れ…イスラエルがUNRWAの活動禁じる法案可決****
イスラエル国会は28日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の国内での活動を禁じる法案を賛成92、反対10の賛成多数で可決した。90日以内に施行される。

UNRWAは、戦闘が続くパレスチナ自治区ガザで人道支援を行っている。支援にはイスラエル側との調整が欠かせず、活動禁止でガザの人道危機がさらに深まる恐れがある。

イスラエルは、昨年10月のイスラム主義組織ハマスによる越境攻撃にUNRWAの職員が関わっていたとして解体を求めていた。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「テロ活動に関与した職員は責任を負わなければならない」とX(旧ツイッター)に投稿し、活動禁止の正当性を強調した。

UNRWAが陸路でガザに物資を搬入する際には、隣接するイスラエル当局との調整が必要となる。イスラエルでUNRWAの活動が禁じられると事実上、物資支援が困難になる。イスラエル当局とUNRWA職員の接触も禁じられた。

UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長は「法案はガザの人々の苦しみを深めるだけだ」とXで非難した。【10月30日 読売】
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この法案については、国連安保理の全15理事国が法案の可決に懸念や非難を表明しています。
国連で中東和平を担うトル・ウェネスランド特別調整官は国連総会の決議に基づきUNRWAが設置されたことを踏まえ、イスラエルによる「一方的措置は国連を弱体化させ、国際法を後退させる恐れがある」と非難し、撤回を求めました。

アメリカはUNRWAとハマスの関与に関するイスラエルの判断を擁護しつつ、、「UNRWAは重要な使命を果たしている」として法案可決に懸念を示しました。【10月30日 読売より】

11月12日には、ガザ北部でイスラエルによる攻撃の激化により人道危機が深刻化している状況を受け、国連安全保障理事会が緊急会合を開催。イスラエル軍の妨害で救援物資が届けられず、「(飢餓より深刻な状況になる)飢饉が差し迫っている可能性が高い」と報告されました。イスラエルは「ガザに飢餓はない」と否定しています。

アルジェリアのベンジャマ国連大使は「文字通り人々を飢え死にさせている。餓死させることを戦争の手段として明確に用いており、戦争犯罪に値する」と糾弾。

イスラエルのダノン国連大使は、「飢饉が迫っている根拠はない。唯一あるのは政治的偏見だ」と述べ、イスラエルへの中傷だと反論しました。ガザには支援物資を積んだ数十台のトラックの運搬を日々許可していると強調。人々に物資が行き渡らないのはハマスなどが略奪しているためだとこれまで通りの主張を繰り返しています。

【アメリカ 状況は限定的ながら改善 武器供与もこれまで通り継続】
そして、猶予期間1か月が経過して・・・

****バイデン政権は最後に飢餓直前のガザを見捨て、人道支援よりイスラエルへの武器輸出を優先した****
(中略)
バイデン政権は11月12日、イスラエルがガザへの人道援助活動を許可したため、状況は限定的ながら改善したと発表した。状況が改善しなければ削減すると言っていたイスラエルへの武器供与も、これまで通り継続することにした。

一方、人道支援団体からの最新の報告書によれば、ガザの状況は、13カ月に及ぶ紛争のどの時点よりも悲惨なことになっている。

米国務省のベダント・パテル副報道官は記者団に対し、人道支援に対するイスラエルの姿勢は最近になって最近になって改善したとはいえまだ十分ではないし、継続しなければならないが、アメリカは「イスラエルがアメリカの法律に違反しているとは考えていない」と述べた。

「私たちはイスラエルに合格点を与えているわけではない」とパテルは述べた。「私たちは人道的状況の全面的な改善を望んでいる。こうした措置によって、今後も改善が進み続けることが可能になると考えている」

アメリカはイスラエルにとって最大の同盟国であり、最大の軍事援助国だ。国際人道支援団体がイスラエルはガザでの人道的アクセスの拡大を求めるアメリカの要求に完全に応えていないと述べているにもかかわらず、アメリカは武器輸出継続の決定を下した。

専門家は、ガザ北部の一部はすでに飢餓状態に直面している可能性がある、と警告している。(BBCの報道によれば、イスラエル軍が包囲するガザ地区で1日にトラック350台分が必要とされる支援物資も、まだ1日平均40台分ほどしか入っていない)。

バイデン政権は10月、ガザのイスラム組織ハマスとレバノンのイスラム過激派組織ヒズボラに対する攻撃を実施するイスラエルに対して、ガザへの食糧と緊急支援物資の輸送を大幅に増加させなければ、軍事援助を削減する可能性があると伝え、その期限を11月12日としていた。(中略)

オックスファム、ノルウェー難民評議会、セーブ・ザ・チルドレンなど8つの人道支援団体が11月11日に発表した報告書によると、イスラエルはアメリカが求めた基準を満たしていなかった。【11月13日 Newsweek】
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イスラエルは、ガザに運び込まれる支援物資の量を大幅に増やしたと主張しており、“1日平均40台分”云々の数字は不正確だとしています。また、支援物資の搬入が進まないのは武装組織が略奪しているためだとも。

“BBCのガザ特派員を2009~2013年に務めたジョン・ドニソン記者は、ジョー・バイデン米大統領の任期が残り少なくなり、パレスチナ人4万3000人以上の命が失われた現在の状況で、米政府がイスラエルへの武器の供給を打ち切ることはないだろうとみている。”【11月13日 BBC】

アメリカの要請は何だったのか? 大統領選挙におけるアラブ系有権者を意識したものだったのでしょうか? ハリス氏が勝っていたら、イスラエルへの対応も変化した?・・・それも民主党のイスラエル支持を考えるとありそうにないですが。

【トランプ2.0ではイスラエル全面支援 国際法より聖書が優先】
いずれにしても、今後のトランプ2.0の対応はバイデン政権に比べ“すっきり・明確”になります。イスラエル完全支持という形で。

****トランプ氏、駐イスラエル大使にハッカビー氏 ヨルダン川西岸入植を擁護****
トランプ次期米大統領は12日、マイク・ハッカビー元アーカンソー州知事を駐イスラエル大使に選出したことを明らかにした。

トランプ氏は声明で「マイクは長年にわたる偉大な公僕、知事であり、信仰の指導者でもある。彼はイスラエルとイスラエル国民を愛し、イスラエル国民も同様に彼を愛している。中東に和平をもたらすため、精力的に取り組むだろう」と述べた。

現アーカンソー州知事のハッカビー氏の娘、サラ・ハッカビー・サンダース氏は第1次トランプ政権で大統領報道官を務めた。

ハッカビー氏はキャリアを通じてイスラエルを強く擁護しており、ヨルダン川西岸地区に対するイスラエルの主張についても認める姿勢を示している。

イスラエルのネタニヤフ首相は長年、米国の福音派キリスト教徒との関係強化に努めてきた。ハッカビー氏の起用はそうした取り組みの歓迎すべき集大成になる。

ハッカビー氏はヨルダン川西岸へのイスラエルの入植を支持しており、2017年には、ヨルダン川西岸のエルサレム東郊にあるイスラエル最大規模の入植地で定礎式を行ったこともある。

当時、ハッカビー氏はCNNの取材に、「入植」という言葉の使用を拒絶する考えを表明。ヨルダン川西岸を示す聖書の言葉を使い、「ユダヤ・サマリア地区に対するイスラエルの権利は証明されていると思う」「ヨルダン川西岸地区などというものは存在しない。ユダヤ・サマリア地区だ。入植地も存在しない。これはコミュニティーであり、地域であり、街だ。占領などというものは存在しない」と述べていた。【11月13日 CNN】
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21世紀の国際関係において、最も影響力が大きい国家アメリカが、イスラエルの入植を違法とする国際司法裁判所の判断、それに基づく国連決議よりも、聖書の記述を重視するとは・・・・頭がクラクラする感も。

キリスト教福音派など宗教保守派が動かすアメリカ政治の在り様を見る思いも。
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ガザでの戦闘開始から明日で1年 拡大する戦火 イスラエルに対し国際社会の意思を行動で示すべき

2024-10-06 22:34:33 | パレスチナ

(イスラエルによる攻撃が激化し、ガザ地区ジャバリヤから避難する人たち=6日【10月6日 共同】)

【ガザでの戦闘開始から1年 拡大する戦火 増え続ける犠牲者】
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから7日で1年になりますが、戦闘は止まず、レバノンへの地上侵攻及び大規模空爆、更にはイランへの報復をめぐる緊張と戦火は拡大の様相を呈しており、それにともなって犠牲者も増加の一途をたどっています。

****ガザ戦闘1年、死者4万人 レバノンも侵攻、戦火拡大****
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから7日で1年。ガザ保健当局によるとガザ側死者は1年間で4万1800人を超え、ガザ人口の9割に当たる190万人以上が避難生活を続ける。

停戦交渉が難航する中、イスラエルは9月30日、ハマスと共闘する親イラン民兵組織ヒズボラ掃討を掲げ隣国レバノンに地上侵攻。

イランはイスラエルをミサイル攻撃するなど戦火は中東各地に拡大し、出口は見えない状態だ。

ガザ戦闘は昨年10月7日、ハマスによる奇襲で始まった。イスラエル側死者は約1200人。ネタニヤフ政権は直ちにガザ空爆を開始。昨年10月下旬、イスラエル軍はガザ北部から地上侵攻して徐々に南下し、今夏までにほぼ全域を掌握した。

女性や子どもも含めた犠牲者はガザ人口の約2%に当たり、国際社会から非難の声が高まった。

ガザは境界封鎖によって食料不足が深刻化し、餓死者も出た。感染症も広がった。軍は「人道地区」を設定して住民に退避要求したが、人道地区への攻撃も相次ぐ。【10月6日 共同】
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*****ガザ建物59%損壊、農地も激減 「生き地獄」と国連総長*****
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘は7日で1年。軍はガザ全域をほぼ掌握した。9月下旬時点での衛星画像のデータ分析では、建物の59%が損壊され、農地も68%が被害に遭った。

食料不足で餓死者も出ており、国連のグテレス事務総長は「住民が生き地獄にいる」と警鐘を鳴らす。

米オレゴン州立大のジャモン・バンデンホーク氏らが地球観測衛星の画像データで建物被害を分析した。軍は昨年10月下旬に地上侵攻を始め、北部から徐々に南下。ガザ地区の約28万7千棟のうち59%が破壊され、北部ガザ市に限ると損壊された建物は74%に上る。最南部ラファも47%。【10月6日 共同】
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【攻撃の手を緩めないイスラエル・ネタニヤフ首相】
こうした状況でもイスラエルは攻撃の手を緩めていません。

****ベイルート、一晩に25回空爆 イスラエル軍、人口密集地を攻撃*****
イスラエル軍は5日深夜から6日にかけ、レバノンの首都ベイルート南部を約25回にわたり空爆した。レバノン国営通信が伝えた。空港近くの医療用倉庫やガソリンスタンドなどに大きな被害が出た。

軍は住宅の地下に親イラン民兵組織ヒズボラの武器製造施設や武器庫があるとして、人口密集地への攻撃を正当化した。

レバノン当局によると、5日は23人が死亡、90人以上が負傷した。1年間の死者は2千人以上になった。

イスラエル軍は5日、レバノン南部の病院に隣接したモスク内にあるヒズボラの拠点も空爆したと表明した。軍報道官はレバノンに地上侵攻した9月30日以降、ヒズボラ戦闘員ら約440人を殺害したと述べた。

イスラエルのネタニヤフ首相は5日の声明で、イランによる1日の弾道ミサイル攻撃に対し「イスラエルには自衛や反撃の義務と権利があり、われわれは実行する」と宣言した。軍は「深刻で重大」な対応を検討中と表明。

米中央軍のクリラ司令官が5日イスラエル入りし、軍幹部らと攻撃先を協議したもようだ。【10月6日 共同】
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****イスラエル首相がイランに“報復宣言” レバノンへの攻撃も続く 中東全域が緊迫化****
イスラエルのネタニヤフ首相がイランへの報復を改めて明言しました、イスラエルはレバノンへの攻撃も続けています。

ネタニヤフ首相は、5日、イランから受けた攻撃について、「史上最大の弾道ミサイル攻撃で、このような攻撃を容認できる国はない」とした上で「自国を防衛し、これらの攻撃に対応する義務と権利がある」と述べ、報復を明言しました。

地元メディアは、アメリカ軍の幹部がイスラエルを訪問し、イランへの報復攻撃について協議したと伝えています。(後略)【10月6日 TBS NEWS DIG】
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アメリカではトランプ前大統領がイラン核施設攻撃を主張してイスラエルの攻撃を煽っています。

****米トランプ前大統領、イランの核施設「攻撃すべき」 バイデン大統領はイラン石油施設の攻撃に否定的****
アメリカのバイデン大統領は、イスラエルがイランへの報復措置として石油施設を攻撃することについて否定的な考えを示しました。一方、トランプ前大統領は4日、イランの核施設への攻撃に反対したバイデン氏の考えを否定しました。

バイデン大統領「イスラエルはイランをどのように攻撃するか、まだ結論を出していない。議論中だ。私なら油田への攻撃よりも、他の選択肢を考えるだろう」

バイデン大統領は4日、イスラエルはイランからのミサイル攻撃に対する報復措置について、まだ結論は出していないとした上で、石油施設への攻撃に否定的な考えを示しました。バイデン氏は2日には、イランの核施設を攻撃することにも反対だと明言しています。

トランプ前大統領「彼(バイデン大統領)はイランについて聞かれたときに、まず核施設を攻撃し、その他のことは後で考えると答えるべきだった」

一方、トランプ前大統領は4日、選挙集会の中で「核兵器は最大のリスクだ」とした上で、「まず核施設を攻撃し、その他のことは後で考えると答えるべきだった」と述べ、核施設への攻撃に反対したバイデン氏の考えを否定しました。【10月5日 日テレNEWS】
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核施設はもちろん、国家収入の根幹の石油施設攻撃もイランとの全面戦争の引き金を引きかねないということでバイデン大統領はこれに反対はしていますが、イスラエル支持の立場は変えず、武器支援も続ける構えです。

【フランス・マクロン大統領 ガザで使用される武器についてイスラエルへの輸出を停止を提唱】
こうしたなかでフランス・マクロン大統領がガザで使用される武器についてイスラエルへの輸出を停止すべきとの考えを示しています。

****仏大統領、ガザで使用の武器禁輸呼びかけ イスラエル反発****
フランスのマクロン大統領は5日、パレスチナ自治区ガザで使用される武器について、紛争の政治的解決に向けた取り組みの一環として、イスラエルへの輸出を停止すべきとの考えを示した。

イスラエルのネタニヤフ首相は強く反発し、マクロン氏やイスラエルへの武器禁輸を求める他の西側首脳は「恥ずべきだ」と非難。「イスラエルは彼らの支援があろうとなかろうと勝利する」と述べた。

マクロン氏は仏ラジオで、優先事項は「政治的解決に戻り、ガザでの戦闘に使用される武器を停止することだ。フランスは出荷していない」と発言。

また「紛争拡大の回避がわれわれの優先事項だ。レバノンの人々が犠牲になってはならない。レバノンがもう一つのガザになってはならない」と述べた。【10月6日 ロイター】
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****ネタニヤフ首相、マクロン仏大統領を「恥知らず」と非難…軍事支援なくても戦闘継続を強調****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は5日の声明で、イスラエルへの武器供与停止を呼びかけたマクロン仏大統領を名指しして、「恥知らずめ」と非難した。

各国からの軍事支援がなくても、戦闘を続ける方針を強調した。

AFP通信によると、マクロン氏は5日、仏ラジオのインタビューで、「政治的解決に戻るため、パレスチナ自治区ガザで使われる武器の提供をやめるべきだ」と発言した。ネタニヤフ氏はこれを非難し、「支援がなくても我々は勝利する」と述べ、戦闘を継続する姿勢を鮮明にした。【10月6日 読売】
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ネタニヤフ首相は「自国を防衛し、これらの攻撃に対応する義務と権利がある」という立場で、ガザそしてレバノンを攻撃し、イランとも対峙していますが、「自国を防衛し、これらの攻撃に対応する義務と権利」があるとしても、そのために、逃げまどう住民を、避難先に身を寄せる避難民を、現状に何もかかわっていない子供たちを爆弾で吹き飛ばしていい権利はありません。

イスラエル国民の命が重いのと同じように、パレスチナ住民やレバノン住民の命も重いものです。

もしイスラエル国民を守るためなら、ハマスやヒズボラ攻撃のためには、パレスチナ住民やレバノン住民を吹き飛ばしてかまわないと考えるなら、それはパレスチナ住民やレバノン住民の命を軽視するものであり、かつてユダヤ人が経験したジェノサイドにも通じる考えです。

復讐の炎に焼かれるとき人の理性は失われます。

本来であれば同盟国アメリカのバイデン大統領がネタニヤフ首相の頬をひっぱたいても、その目をさまさせるべきところですが、大統領選挙におけるユダヤ社会からの支持を失いたくないという事情で、それはできない模様。

であれば、マクロン大統領が言うように、アメリカ抜きでも国際社会の意思をネタニヤフ首相とイスラエル国民に、厳しい具体的行動をもって、はっきりと伝えるべきでしょう。

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イスラエル  人質6人の遺体発見で強まる停戦・人質解放に向けた国内外の圧力

2024-09-07 23:48:21 | パレスチナ

(イスラエル最大の労組「労働総同盟(ヒスタドルート)」が2日、ゼネストを開始した。人質殺害に反発し停戦合意を求めるデモ、テルアビブで1日撮影。【9月2日 ロイター】)

【人質6人の遺体発見でイスラエル国内の怒りの矛先は・・・】
パレスチナ・ガザ地区で人質6人の遺体が発見されたとのニュースを見たとき、正直なところ、この件がガザ情勢に大きく影響してくるとは思いませんでした。

****ガザで人質6人の遺体発見 イスラエル軍****
イスラエル軍は1日、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)で人質6人の遺体を発見したと発表した。

軍の声明によると、遺体は8月31日に南部ラファ(Rafah)の地下トンネルで見つかり、収容された。イスラエルに搬送され、身元が正式に確認された。

6人のうち1人は、イスラエル系米国人のハーシュ・ゴールドバーグポリンさんだった。
ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は、人質の死亡に「打ちのめされ、憤っている」と述べた。

昨年10月7日のイスラム組織ハマス(Hamas)によるイスラエル南部への越境攻撃では、251人が人質となった。約100人が依然拘束されており、イスラエル軍はそのうち数十人が死亡したとみている。【9月1日 AFP】
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人質遺体発見は、その死亡がハマスによるものか、イスラエル軍の空爆によるものか判然としないものを含めて、これまでもときどき報じられていますので、ハマスによる米国人を含む6人の人質殺害ということで、イスラエル・ネタニヤフ政権は国内世論のハマスへの怒りを背景にガザ攻撃を強化するのだろう・・・イスラエルを支援するアメリカの動きも強まるのだろうな・・・ぐらいに漠然と思っていました。

しかし、イスラエル国内の批判の矛先はハマスよりむしろ人質救出よりハマス壊滅を優先するネタニヤフ首相に向けられました。

****イスラエルで30万人規模のデモ 人質6遺体発見で政府に抗議****
パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、イスラエル国内で1日、イスラム組織ハマスとの停戦合意や拉致された人質の解放を求める大規模デモがあった。8月31日にガザで人質6人が遺体で見つかり、イスラエル国内ではネタニヤフ首相の停戦交渉の進め方に不満が高まっている。

地元メディアによるとデモには約30万人が参加。イスラエル最大の労働組合のトップは2日、ストライキを呼びかけ、反発は大きなうねりとなっている。

「戦争をやめろ」「(救えなかった)私たちを許してほしい」。1日、商都テルアビブの中心部には約30万人が集まり、人質の早期解放を求めた。

夫が人質で、自身もハマスに一時拘束されたアビバ・シーゲルさん(63)は「ネタニヤフ氏が人質を見殺しにした」。ITエンジニアのオル・セラさん(46)は「最も大切なのは人質の生還だ。ネタニヤフ氏は選挙で負けることを恐れて戦争を続けている」と非難した。

今回、遺体で見つかったのは、20〜40代の男女6人。イスラエル軍が発見する直前に殺害されたとみられる。イスラエル紙ハーレツによると、6人のうち3人は、今回、停戦が成立すれば第1段階で解放される予定だった。

反発の背景にはネタニヤフ政権が8月29日の閣議で、ガザとエジプトとの境界地帯に軍の駐留継続を決めたことがある。武器の密輸を防ぐ目的とされたが、ハマスは猛反発し、停戦交渉が停滞する原因になってきた。

一方、ガラント国防相は「人質の命を犠牲にしてまで、駐留を優先させることは道義的に恥ずべきことだ」として、政権内で唯一決定に反対。人質の遺体発見後には「今すぐ、境界地帯の駐留の決定を撤回すべきだ」とX(ツイッター)に投稿した。

これに対して、ネタニヤフ氏は「ハマスは交渉成立を望んでいない。ハマスを追いかけ、決着をつける」との声明を出し、ハマスの「壊滅」を優先させることを強調した。

国民の間ではハマスとの戦闘より、人質交渉を優先すべきだという声が多数派になっている。地元民放が7月上旬に公表した世論調査では、ガザでの紛争において「最も重要なことは何か」との問いに対して、67%が人質の解放と答え、戦闘の継続は26%にとどまった。

ただ今回の遺体発見前まで、ネタニヤフ氏の支持率は回復傾向にあった。イスラエル紙マーリブが8月9日に公表した世論調査では、政敵のガンツ前国防相とネタニヤフ氏の「どちらが首相に適任か」との問いに、ネタニヤフ氏が42%、ガンツ氏が40%で、昨年10月の戦闘開始後、初めてガンツ氏を上回った。

30日公表の調査では再びガンツ氏が上回ったものの、ハマスの最高指導者がイランで暗殺され、イランが報復を宣言する中、安全保障上の緊張が追い風になった可能性がある。【9月2日 毎日】
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停戦が成立すれば第1段階で解放される予定だった人質が、停戦交渉の停滞のために殺害される結果となったことが、ネタニヤフ首相の停戦交渉に消極的な対応への批判として高まったようです。

デモには約30万人が参加・・・イスラエルの人口は955万人程度ですので、そのことを考えると相当規模のデモです。
一時はゼネスト状態に。

****イスラエルでゼネスト開始、交通網・港湾など混乱 経営者も支持****
イスラエル最大の労組「労働総同盟(ヒスタドルート)」が2日、ゼネストを開始した。

パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスに拘束されていた人質6人が遺体で見つかったことを受けて、ネタニヤフ首相に人質解放に向けた合意を結ぶよう圧力をかけることが狙い。1日にゼネストの実施を呼びかけていた。

スモトリッチ財務相はゼネストを許可しないよう労働裁判所に求めており、現地時間午前に審理が始まる予定だが、すでにさまざまな産業でストの影響が出ており、製造・ハイテク業界など多くの経営者団体もゼネストを支持している。

空輸ハブであるベングリオン空港が一部のサービスを中止しているほか、多くの地域でバスや路面電車の運行が停止・縮小されている。主要商業港のハイファ港でも労働者がストを実施。病院も業務を縮小し、銀行の業務は停止されている。

多くの民間企業は営業しているものの、経営者は従業員がストに参加することを認めており、さまざまなサービスで混乱が生じている。【9月2日 ロイター】
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ストの方は、裁判所の違法判断ですぐに中止されましたが、国を揺さぶる大きなうねりとなりました。

ネタニヤフ首相の政敵でもあるガンツ前国防相は、ネタニヤフ首相のガザ・エジプト境界地帯(フィラデルフィ回廊)への軍駐留に固執する姿勢を批判。

****ガザ境界の軍駐留必要なし、停戦交渉反対理由にならず=ガンツ前国防相****
イスラエル戦時内閣を6月に離脱したガンツ前国防相は3日、パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で最大の争点となっているガザ・エジプト境界地帯(フィラデルフィ回廊)への軍駐留について、駐留継続の必要はなく、人質解放に向けた停戦合意の反対理由にすべきでないとの考えを示した。

ネタニヤフ首相は2日の会見で、フィラデルフィ回廊への軍駐留は不可欠だとの見解を改めて強調している。

しかしガンツ氏は、イスラエルにとって一番の脅威はフィラデルフィ回廊ではなくイランだと指摘。回廊はイスラム組織ハマスやその他のパレスチナ武装勢力がガザに武器を密輸するのを防ぐ上で確かに重要だが、軍駐留によって完全に止めることはできないと付け加えた。

またネタニヤフ氏がいったん回廊から撤退すれば、国際的な圧力で再駐留が難しくなると訴えたことについても「必要ならばフィラデルフィ回廊に戻ることはできる」と反論した。

その上でガンツ氏は、ネタニヤフ氏が国際的な圧力に耐えて再駐留に動けるほどの強さがないのであれば、野に下ってもらわなければならないと述べ、総選挙の実施を求めた。

ガザ停戦交渉を巡るネタニヤフ氏の姿勢には、米国などから不満が強まっている。

ガンツ氏は「この話はフィラデルフィ回廊ではなく、本当の戦略的判断が欠如しているということだ」と語り、ネタニヤフ氏の対応を批判した。【9月4日 ロイター】
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【バイデン米大統領はネタニヤフ首相に不満表明 英も武器輸出を一部停止】
国際的にも、イスラエルの後ろ盾となっているアメリカ・バイデン大統領がネタニヤフ首相の交渉への姿勢に不満を明らかにしており、ネタニヤフ首相との溝が深くなっています。

****バイデン氏「イスラエルの取り組み不十分」、ネタニヤフ氏は反発****
バイデン米大統領は2日、パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスに拘束されている人質の解放に向けた合意の最終案をまもなく提示すると述べた。同時に、イスラエルのネタニヤフ首相は合意確保に向け十分に取り組んでいないとの考えを示した。

バイデン氏は、ネタニヤフ首相は人質解放に向けに十分な努力をしているかとの記者団の質問に対し、「ノー」と回答。ただ、詳細については語らなかった。

また、イスラエルとハマスの双方に最終的な合意案を提示するかとの質問に対し、まもなく提示すると答えた。

交渉が成功するかどうかとの質問に対しては「希望が尽きることはない」とした。

イスラエル軍は1日、ガザ最南部ラファの地下トンネルで人質6人の遺体を収容したと発表。発見される直前に殺害されたという。人質のうち1人は米国人男性だった。

ホワイトハウスによると、バイデン大統領とハリス副大統領は米国の人質交渉チームとも会談。その中で大統領は人質殺害に対する「衝撃と憤り」を表明し、残りの人質解放に向けた次のステップについて話し合ったという。

一方、ネタニヤフ首相は、圧力をかけるべきはイスラエルではなくハマスだと反発。記者会見で、「今、われわれは真剣さを見せろと要求されているのか、譲歩を要求されているのか。これはハマスにどんなメッセージを送っているのか。もっと人質を殺せと言っているのだ」と反発した。

また、バイデン氏を始め真剣に和平実現に取り組む人物がイスラエルにさらなる譲歩を求めるとは考えておらず、むしろそうする必要があるのはハマスだと述べた。

イスラエルの関係筋も、バイデン氏が人質交渉を巡りハマスのヤヒヤ・シンワル指導者ではなくネタニヤフ氏に圧力をかけたことは「留意すべき」と語った。

バイデン氏が、ネタニヤフ氏の対応が不十分と発言したことも、ハマスが人質6人を殺害した直後に出されたというタイミングからみて危険な見解だとした。

こうしたイスラエルのコメントに対し、米国当局者は、バイデン大統領は人質死亡についてハマスに責任があると明言していると反論。「行方不明の人質の解放を急ぐよう、イスラエル政府に求めている」と述べた。【9月3日 ロイター】
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アメリカと並んでイスラエルに武器支援を行っているイギリスも武器輸出の許可を一部停止すると発表。イスラエル支持の外交姿勢に変化が出ているとも見られています。

****英、イスラエルへの武器輸出を一部停止 外交シフト示唆****
英国は2日、イスラエルに対する武器輸出の許可を一部停止すると発表した。固い絆で結ばれた西側同盟国でさえ、イスラエルから自国防衛に必要な武器を奪うことなく、パレスチナ自治区ガザの戦争終結に向けて圧力をかける方法を模索している様子を示している。

英政府は、イスラエルへの約350件の武器輸出許可のうち、30件を禁止すると発表した。F16戦闘機やドローン(無人機)の部品も含まれている。一部の武器が国際人道法に違反して使用される「明確なリスク」があると説明した。

ただ、英国からイスラエルへの武器輸出は比較的少なく、今回の停止措置は概して象徴的なものだ。

だがアナリストらは、イスラエルにとって後方支援や軍事支援よりも重要な、英国の外交的な後ろ盾の変化を示すものだと指摘する。また、他の同盟国も追随する外交的な余地をもたらし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって頭痛の種となる可能性がある。【9月4日 WSJ】
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【強気姿勢は変えないネタニヤフ首相だが、停戦・人質解放を求める内外の声は強まる】
こうした国内外の圧力の中でもそれに屈しないのが強気ネタニヤフ首相の真骨頂・・・・というか、屈して停戦となれば、国内的には総選挙要求が強まり、総選挙となれば自身の政治生命が終わるため、どうしても後に引けないとも言えますが。

人質6人の遺体が見つかったことを謝罪しつつも、ハマスとの停戦交渉での「譲歩」を拒否する姿勢を重ねて強調しています。

****イスラエル軍の駐留を主張…ネタニヤフ首相「圧力に屈しない」****
イスラエルのネタニヤフ首相は「圧力には屈しない」として、エジプトとパレスチナ自治区ガザ地区の国境沿いにイスラエル軍を駐留させ続けることをあらためて主張しました。

エジプトとガザ地区の境界は「フィラデルフィア回廊」と呼ばれ、戦略上、重要であることからイスラム組織ハマスとの主な対立点となっています。

人質解放と停戦をめざす交渉は、イスラエル側が「フィラデルフィア回廊」への駐留継続を要求したことで再び停滞しています。

ネタニヤフ首相は2日、「圧力には屈しない」として「フィラデルフィア回廊」にイスラエル軍を駐留させ続けることをあらためて主張しました。

イスラエルでは6人の人質が遺体で見つかったことを受け、大規模な抗議デモがおこなわれていて、即時停戦を求める声が強まっています。こうした中、アメリカのバイデン大統領は人質解放をめぐり、ネタニヤフ首相の努力が不十分だとの認識を示しました。

──ネタニヤフ首相は(人質解放) 問題についてもっとやるべき?十分に行動している?
アメリカ バイデン大統領「ノー」

また、今週中に人質解放に向けた合意案をイスラエルとハマス双方に提示するかと問われ、「非常に近づいている」と述べました。【9月3日 日テレNEWS】
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強気姿勢を続けるネタニヤフ首相ですが、アメリカ・バイデン政権の停戦交渉に向けた切迫感は強まっています。

****ガザ停戦に向けた米国の仲介、人質殺害で切迫感強まる****
米国系イスラエル人など人質6人が処刑されたことを受け停戦合意の実現が急がれる

パレスチナ自治区ガザで人質となっていた米国系イスラエル人が殺害されたことを受け、米政府は、イスラエルとイスラム組織ハマスとの停戦合意に向けた新たな案を早急に取りまとめる必要に迫られている。

だが政府当局者らは、ハマスが拘束している人質には7人の米国市民も含まれていることから、新たな案が最終案とはならない可能性もあると認めている。

ハマスはカリフォルニア生まれのハーシュ・ゴールドバーグポリン氏(23)を含む6人の人質を処刑した。これによりジョー・バイデン米大統領やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相には、停戦とハマスによる人質解放実現に向けた圧力がさらに高まった。人質の殺害は、米政府が週内にも各当事者に示す予定だった合意案の文章を巡り、中東の仲介国と調整を続けている中で起きた。

米当局者らは、数週間にわたる交渉で最終枠組みに少し近づいたとし、新たな案は、8月に示された「橋渡し案」より踏み込んだ内容になると述べた。

新たな案は、ハマスに拘束されている人質とイスラエルで収監されているパレスチナ人囚人の交換を具体的にどう行うか、ガザとエジプトの境界地帯「フィラデルフィ回廊」でいつまでイスラエル軍の駐留が認められるか、などの詳細が含まれる見込み。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は3日、新たな合意案は、戦闘を停止して「残りの人質の解放を確実にする」ものであり、「ガザ住民に対して大規模な支援が直ちに届けられる」ことにつながる内容だと記者団に述べた。

またカービー氏によれば、バイデン氏も2日、交渉状況についてブリーフィングを受けるためシチュエーションルーム(危機管理室)入りするなど、今回の動きに個人としてもかなり力を入れている。
カービー氏は「週末の殺害を受け、この件を終結させるために必要な切迫感はさらに強くなった」とも述べた。【9月4日 WSJ】
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なお、イスラエル国内では人質解放のためには「フィラデルフィ回廊」駐留を諦めなければならないとする声が反対派より多い状況になっています。

****ガザ境界駐留、半数否定的 人質解放を重視、世論調査*****
イスラエル紙マーリブは6日、世論調査の結果を公表し、パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で最大の争点となっているガザ・エジプト境界でのイスラエル軍駐留に関し「人質解放のために諦めなければならない」と回答した人が48%に上った。

ネタニヤフ首相は安全保障上の理由から駐留継続を主張しているが、人質解放を重視する国民との間で認識の差があることが明らかになった。

マーリブ紙は4〜5日、約500人を対象に調査を実施。「人質が解放されなくても駐留を諦めてはならない」との回答は37%、「分からない」が15%だった。【9月7日 共同】
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パレスチナ・西岸地区  イスラエル軍による大規模「対テロ作戦」 入植者のパレスチナ人への暴力

2024-08-29 22:26:34 | パレスチナ

(ヨルダン川西岸から壁を越え、イスラエル側に入る労働者(13日)【8月27日 読売】)

【停戦交渉 合意に至らず エジプト・ガザの境界管理が主争点】
パレスチナ自治区ガザの保健当局は8月15日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘による死者が4万人を超えたと発表しています。

住民の避難先となっている病院・学校も、ハマス戦闘員が潜んでいるとするイスラエル軍の空爆にさらされており、住民は逃げ場を失っています。

停戦交渉はアメリカ主導でエジプト・カタールも加えて仲介する形で続けられていますが、ガザ・エジプト境界地帯でのイスラエル軍駐留についてイスラエル・ハマスの対立が解消されず、合意が得られない状況です。

****ガザ停戦協議、合意至らずとエジプト筋 米は取り組み継続表明****
エジプトの首都カイロで行われたパレスチナ自治区ガザの停戦協議は25日、イスラム組織ハマスもイスラエル側も仲介国が示した妥協案を受け入れず、合意には至らなかった。エジプトの治安筋2人が明らかにした。

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は訪問先のカナダで行った記者会見で、米政府は停戦と人質解放での合意に向けて引き続きカイロでイスラエルや仲介国のエジプトとカタールと共に懸命に取り組んでいると述べた。

協議では「フィラデルフィア回廊」と呼ばれるガザ・エジプト境界地帯でのイスラエル軍駐留などが主な対立点となっている。

エジプト治安筋によると、仲介国はフィラデルフィア回廊とガザ中部の「ネツァリム回廊」について、イスラエル軍駐留に代わる幾つかの代替案を示したものの、いずれも当事者には受け入れられなかった。

イスラエル側はハマスが釈放を求めているパレスチナ人の一部についても懸念を示し、これらの人物を釈放した場合はガザから退去することを要求したという。

ハマスはイスラエル側がフィラデルフィア回廊から軍を撤退させるとしていた方針を撤回し、停戦開始時にガザ北部に戻る避難民を検査するなどの新たな条件を提示したとしている。【8月26日 ロイター】
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「フィラデルフィ回廊」と呼ばれるガザ・エジプト境界地帯は全長約14キロで、イスラエルとエジプトが1979年に結んだ平和条約を受け、緩衝地帯の役割を担っています。

イスラエルはガザとエジプトの境界でハマスが多数のトンネルを作り、戦闘員の移動や武器の密輸に使っているとし、イスラエル軍による境界管理を「譲れない一線」だとしています。逆に言えば、ハマスにとっては生命線ともなります。

ただ、この地域への軍の駐留は条約違反との指摘があり、エジプトも反対しています。5月にイスラエル軍が掌握するまで境界のガザ側はハマスが管理していました。

イスラエルが国連監視団の常駐を提案したとか、バイデン米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相と21日に電話会談した際、ガザ・エジプト境界の一部からイスラエル軍を撤収させるよう求め、ネタニヤフ氏が要求の一部を受け入れた・・・といった妥協案も模索されましたが、“生命線”維持のためにハマスの抵抗も強く、上記のように合意に至っていません。

【西岸地区・東エルサレム 生活の糧のために壁を越えるパレスチナ人「出稼ぎ者」】
ガザ地区での戦闘の影響はもう一つの自治政府エリアであるヨルダン川西岸地区にも及んでいます。

東エルサレムではイスラエル側へのパレスチナ人の通行がストップしていますが、パレスチナ側には生活のために働く場所が必要という差し迫った問題があり、非合法な形で越境が行われています。イスラエル側にもパレスチナ人労働者を必要としているという経済的事情があります。

****6mの壁越えイスラエル側へ、「出稼ぎ」4万人…パレスチナ人男性「危険だが妻子を養うには仕方がない」****
「さあ行くぞ」。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸とイスラエルが占領する東エルサレムを隔てる高さ6メートルの分離壁。西岸側の壁近くに座っていたパレスチナ人男性(29)は13日昼前、壁越えを手引きする「業者」に促され、コンクリート壁にかけられた木製のはしごを上り始めた。

壁の上にたどり着くと、男性は業者が破った鉄条網をくぐり、壁の向こう側を見渡す。業者からロープを受け取り、イスラエル側にスルスルと下りて姿を消した。建設現場で1か月ほど寝泊まりし、再び壁を越えて帰ってくる予定だ。

西岸とイスラエル側は高い壁で隔てられている。東エルサレムとの間を合法的に行き来するには、3か所ある検問所を通る必要がある。

しかし、パレスチナ自治区ガザで昨年10月に戦闘が始まって以降、イスラエルは治安維持を理由に許可証を持ったパレスチナ人の通行も原則として認めていない。

先進国のイスラエルと西岸の経済格差は大きく、イスラエル有力紙イディオト・アハロノトによると昨年10月以降、約4万人のパレスチナ人労働者が非合法的にイスラエル側へ入った。男性は「壁を越えるのは危険だが、妻子4人を養うには仕方がない」と声を落とした。【8月27日 読売】
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【ヨルダン川西岸地区 イスラエル軍による大規模「対テロ作戦」】
そのヨルダン川西岸地区でイスラエル軍による大規模「対テロ作戦」が28日、29日に行われています。

****イスラエル軍 ヨルダン川西岸で大規模「対テロ作戦」 10人死亡****
イスラエル軍は28日、占領下にあるパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニンやトルカレムなどで「対テロ」軍事作戦を開始したと発表した。イスラエル軍は兵士数百人を動員。ドローン(無人機)で難民キャンプなどを空爆し、少なくともパレスチナ人10人が死亡した。

西岸では、パレスチナ自治区ガザ地区を拠点とするイスラム組織ハマスや過激派組織「イスラム聖戦」などが活動。イスラエル軍は度々掃討作戦を実施している。

軍報道官は過去1年間で、ジェニンなどに住むパレスチナ人戦闘員が150回以上の銃撃、爆撃事件を起こしたと主張した。作戦は数日間続く見込みだという。

パレスチナ通信によると、イスラエル軍はトルカレム近郊のヌール・シャムス難民キャンプの住民に対し、退避命令を出した。イスラエルのカッツ外相は「住民の避難も含め、ガザにおけるテロと同様に対処する必要がある」と指摘した。

一方、パレスチナ自治政府の報道官は「ガザに加えて、西岸での戦争のエスカレートは、悲惨で危険な結果になる」と非難した。またイスラエル軍が「戦闘員の避難場所になっている」として一部の病院を包囲しており、市民の治療が妨げられる懸念も示した。

昨年10月にガザでの戦闘が始まって以降、西岸ではイスラエル当局による行政拘束や、ユダヤ人入植者によるパレスチナ人への攻撃も相次ぐ。自治政府によると、昨年10月以降、西岸では650人以上のパレスチナ人が死亡した。【8月29日 毎日】
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死亡者数についてはもっと増えるでしょう。下記記事では17人。
ハマス側は対応を硬化させています。

****ハマス「自爆攻撃の再開」警告 西岸作戦の死者17人に****
イスラエル軍が27日夜から始めたヨルダン川西岸での大規模作戦で、パレスチナ通信は29日、これまでの死者は17人になったと伝えた。イスラエル軍は西岸トルカレムで戦闘員ら5人を殺害したと発表した。イスラム組織ハマスの元指導者マシャル氏は「自爆攻撃」の再開を警告、攻撃を拡大したイスラエルを強くけん制した。

マシャル氏は、イランで7月末に暗殺されたハマス最高指導者だったハニヤ氏の前任指導者。28日の演説で「われわれが戦おうが戦うまいが敵は追いかけてくる。自爆攻撃は的確な戦い方だ」と主張した。【8月29日 共同】
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ハニヤ氏が今のハマスにおいて、どういう力を持っているのかは知りません。

【かねてより問題となっている入植者の暴力 イスラエル治安当局は傍観との指摘も】
一方で、西岸地区ではユダヤ人入植者によるパレスチナ人への暴力が問題になっています。

****イスラエル人の入植者、ヨルダン川西岸でパレスチナ人の村に放火****
イスラエル占領下にあるヨルダン川西岸地区で15日夜、数十人のイスラエル人入植者が村の家屋や車に放火した。パレスチナ自治政府の保健省によると、少なくとも1人が殺害された。

イスラエル国防軍(IDF)によると、覆面などをしたイスラエル人入植者はナブルスに近いジト村を襲撃し、石や火炎びんなどを投げつけた。

15日夜にジト村で車や家屋が炎上する様子とされる映像が、ソーシャルメディアで共有されている。村の上空に黒煙が上る様子も見える。

パレスチナ保健省は、パレスチナ人住民の20代男性が殺害され、もう1人が胸に重傷を負ったと発表した。IDFは、死者が出た事態について調べていると発表した。

一方で、イスラエル国籍の1人がジトで拘束されたとIDFは述べている。

IDFは声明で、暴力の通報を受けて「数分以内に」部隊を村に派遣し、群衆を解散させるために空中に警告射撃をしたと発表。その後、村を襲った入植者たちを連行したという。

IDFはさらに、「重大な事件」を受けて、IDFとイスラエル総保安庁(シンベト)とイスラエル警察が合同で捜査に着手したとも発表した。

イスラエルの政界関係者は、入植者によるこの攻撃を非難し、実行犯たちを厳罰に処すると約束した。イスラエル首相府は声明で、「あらゆる犯罪行為の責任者は拘束し、起訴する」と述べた。

イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領はソーシャルメディアに、「法に従う入植者のコミュニティーや入植地全体を損なう、ごく一部の少数者によることだ。しかも、特に難しく厳しい状況のこの時期に、世界におけるイスラエルの評判と地位を損なうものだ」と書いた。

大統領はさらに、責任者に法の裁きを受けさせるため「捜査機関は直ちに行動しなくてはならない」と強調した。
アメリカ政府は、イスラエル人入植者によるパレスチナ人の集落攻撃は「容認できないことで、やめさせなくてはならない」とコメントした。

ホワイトハウスの安全保障会議(NSC)報道官は、「イスラエル当局はすべてのコミュニティーを被害から守るため、対策をとらなくてはならない。これには、こうした暴力を阻止するための介入も含まれ、こうした暴力の加害者全員を処罰することも含まれる」とコメントした。

パレスチナ人は、イスラエル治安当局が暴力的な入植者による集落攻撃を容認していると、繰り返し非難している。
国連の人道問題調整事務所(OCHA)によると、昨年10月以来、イスラエル人入植者がパレスチナ人を攻撃する事件は1000回以上発生している。このため、子供660人を含む少なくとも1390人のパレスチナ人が、住む場所を失っている。

入植者によるこうした暴力は、殺傷力を伴うものが多い。OCHAによると、107件の攻撃がパレスチナ人の死傷につながり、859件がパレスチナ人の土地建物など資産への損害につながっている。

ガザ地区での戦争に国際社会の注目が集まる一方で、ヨルダン川西岸などで入植者によるパレスチナ人の暴力も悪化している。このためアメリカ、イギリス、欧州連合(EU)は一部の入植者リーダーに制裁を科しているほか、入植者の前哨地1カ所が初めて丸ごと、制裁対象になっている。【8月16日 BBC】
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今回放火についてはイスラエル軍・政府も厳しく対応していることをアピールしていますが、かねてより“イスラエル治安当局が暴力的な入植者による集落攻撃を容認している”と言われており、入植者の暴力をイスラエル軍は傍観しているとも。

結果、“昨年10月以来、イスラエル人入植者がパレスチナ人を攻撃する事件は1000回以上発生している。このため、子供660人を含む少なくとも1390人のパレスチナ人が、住む場所を失っている。”という状況になっています。

【アメリカも入植者への制裁は行うものの・・・】
アメリカも、イスラエルの暴力は容認していないということを国際的にアピールするためか、入植者への制裁措置を発表しています。

****米、ユダヤ人入植者に制裁 パレスチナ人住民に「過激な暴力行為」****
米国は28日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸でパレスチナ人に対する過激な暴力行為を行ったとして、イスラエルの非営利団体とユダヤ人入植者1人に対し制裁を科した。 制裁により、対象者の米国資産が凍結されるほか、米国人との取引が原則的に禁じられる。

米国務省のマシュー・ミラー報道官によると、対象となった入植者は、今年2月に武装集団を率いて道路にバリケードを設置したり、パレスチナ人を居住地から追放しようとしたという。

ミラー氏は声明で「ヨルダン川西岸地区における過激派入植者の暴力は、人々に大きな苦しみをもたらし、イスラエルの安全を損ない、地域の平和と安定を弱体化させる」と述べた。

今回の制裁は、バイデン米大統領が2月に発令した、ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人を攻撃したユダヤ人入植者に制裁を科す大統領令に基づく。【8月29日 ロイター】
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ただ、このような措置は所詮政治的パフォーマンスに過ぎません。もし、アメリカ・バイデン政権に本当に違法な入植活動を止めさせ、入植者の暴力を止める気があるなら、圧力をかける相手は武器供与停止措置などネタニヤフ首相でしょう。

アメリカ国内では近年パレスチナ支持の声も大きくなっており、バイデン政権も一定に考慮せざるを得なくなってはいますが、やはり基本はイスラエル支持であり、選挙対策を考えるとイスラエルへの武器供与停止などの施策は取れない・・・というのがアメリカの対応であり、パレスチナ問題がいつまでも続く大きな一因です。

【対イラン強硬策で国内支持を回復するネタニヤフ首相】
一方、ネタニヤフ首相はひと頃政治的窮地が言われていましたが、結局、対パレスチナ・対イラン強硬策が国民にしじされたのか、支持を回復しているとか。

****ネタニヤフ氏、支持率回復 対イラン強硬で押し上げ****
イスラエルのネタニヤフ首相が世論調査で支持率を回復させている。昨年10月7日のイスラム組織ハマスの奇襲で支持率は低迷していた。専門家は、敵対するイランとの緊張が高まるのに伴い、強硬姿勢を示すネタニヤフ氏の支持を押し上げたと指摘する。ただガザの停戦交渉を望む民意も強く、交渉に後ろ向きな同氏の立場は盤石ではない。

ガザ側の死者数が4万人に近づいていた8月7〜8日にマーリブ紙が実施した世論調査では「どちらが首相に適任か」との問いに、ネタニヤフ氏は42%、戦時内閣を離脱したガンツ前国防相は40%だった。

両氏を比較したネタニヤフ氏の支持率は奇襲前の昨年9月下旬の調査ではガンツ氏を上回る44%だったが、奇襲直後の同10月中旬は29%に急落。その後は30%台を中心にじわじわ上がった。

イランでハマスの最高指導者が暗殺され、イランはイスラエルの犯行として報復を宣言。
イスラエル紙ハーレツによると、世論調査の専門家は、国民がこれらの出来事でネタニヤフ氏を評価した可能性があると分析している。【8月29日 共同】
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国民は結局“力の誇示”を好む・・・ということでしょうか。
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パレスチナ・ガザの停戦交渉の行方は、イスラエルとイラン及びヒズボラとの戦闘にも直結

2024-08-17 23:25:53 | パレスチナ

(イスラエル軍の空爆により立ち上る黒煙=パレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニスで2024年8月16日、ロイター【8月17日 毎日】  黒煙もさることながら、そうした状況でも特に慌てるでもない住民の様子が、空爆が日常と化したガザの状況を物語っているようにも見えます。)

【「これまでになく合意に近づきつつある」(バイデン大統領)】
パレスチナ・ガザ地区に関しては、カタールの首都ドーハでイスラエル、カタール、アメリカ、エジプトの当局者が参加して停戦に向けた交渉が行われています。ハマスは直接は参加していませんが、協議を受けて調停団がハマスと交渉する形をとっています。

交渉のベースになっているのは、5月末にバイデン大統領が発表した3段階からなる停戦や人質解放を含む提案ですが、アメリカはイスラエルとハマスの「隔たりを埋める」新たな提案を示したとも。詳細は明らかにされていません。

15,16日の協議を受けて、来週エジプト・カイロで協議が行われる予定です。

****米など 停戦合意に向けた提案をイスラエルとハマスに示す****
アメリカ政府などは16日、ガザ地区での停戦の合意に向けた提案を、イスラエルとイスラム組織ハマスに示したと明らかにしました。関係国の政府高官は合意をまとめることを目指し、来週末までに改めて協議を行うとしています。

ガザ地区での停戦と人質の解放に向けた協議は15日からイスラエルも参加して行われ、アメリカと仲介国カタール、エジプトの3か国は16日、共同声明を発表して、イスラエルとハマスに合意に向けた提案を示したと明らかにしました。

提案はアメリカが提示し、詳細は明らかにされていませんが、ことし5月末にバイデン大統領が発表した3段階からなる停戦や人質解放を含む提案などに沿っていて、イスラエルとハマスの溝を埋めるものだと主張しています。

そして、関係国の政府高官が合意をまとめることを目指して、エジプトのカイロで来週末までに改めて協議を行うとしています。

イスラエルの首相府は16日「ハマスが人質解放の合意を拒否するのを思いとどまらせるための、アメリカと仲介国の努力に感謝する」などとする声明を発表する一方、ハマスの報道官はロイター通信に対し、アメリカが合意に向け前向きな雰囲気を偽ろうとしているとして慎重な姿勢を示しました。

アメリカのバイデン大統領は記者団に対し「これまでになく合意に近づきつつある。まだ合意に至ってはいないが、祈りながら待とう」と述べました。

戦闘の犠牲者が4万人を超える中、今後の協議で合意が実現できるのかが焦点となります。【8月17日 NHK】
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交渉は“正念場を迎えている”といったところでしょうか。
“バイデン米大統領は16日、共に仲介するエジプト、カタールの首脳とそれぞれ電話会談した。ブリンケン米国務長官は17日にイスラエルを訪問。ネタニヤフ首相と会談する見通しだ。国務省は訪問に際し、全当事者に「最終合意を妨げる行動」を控えるようけん制した。再協議を前に、米国は外交圧力を強めた。”【8月17日 共同】ということで、アメリカ・バイデン政権は相当に力を入れ、当事者への圧力をかけているようです。

【イラン 停戦合意ならイスラエル報復抑制 交渉失敗ならイスラエル攻撃実行】
ハマスの最高指導者だったハニヤ氏がイランで暗殺されたことを受け、イランはイスラエルへの報復を宣言していますが、ガザの停戦交渉で進展があれば、直接攻撃を自制する姿勢を示しています。

逆に言えば、交渉が不調に終われば、イランのイスラエルへの報復が実行され、中東情勢の緊張が一気に高まることにもなります。

****ガザ交渉に「時間与える」 イラン、報復自制示唆****
パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で、イスラエルとイスラム組織ハマスの仲介役である米国などに対し、イラン政府が「時間を与える」と伝えていたことが17日、分かった。

イランがハマス幹部暗殺に対するイスラエルへの報復を一時自制すると示唆した形。イラン政府高官が共同通信に明らかにした。

ただイラン政府は「適切な時期に報復する」とも伝達した。イランが報復する姿勢を示し続けることで、ガザ戦闘が中東の地域紛争を拡大させることを懸念する米国やアラブ諸国に圧力をかけ、ガザ停戦実現を目指す狙い。

イラン政府高官は「和平のために時間を与えることが優先で、イランは和平を支持する」と述べた。【8月17日 共同】
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今月4日には、ブリンケン米国務長官が主要7カ国(G7)の外相に対し、イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方を伝えたと報じていましたが、攻撃は未だ実施されていません。

国外から招いた賓客を自国の首都で殺害されたイランとしては、何もしないままでは済まされない状況にあって、強硬派の革命防衛隊はもちろん報復攻撃を主張していますが、改革派とされる新任のペゼシュキアン大統領も、この問題で弱腰を見せると政権批判につながりますますので、安易な妥協はできません。

****イラン、自制求める西側の働きかけを拒絶 イスラエルへの報復攻撃めぐり****
(中略)イギリスのキア・スターマー首相は12日、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領との異例の電話協議で、「軍事攻撃に関する現在の威嚇をやめる」よう求めた。イギリス、フランス、ドイツの首脳も同日夜、共同声明を発表し、イランとその支援国に対し、「地域の緊張をさらにエスカレートさせるような攻撃を控える」よう強く促した。

しかしイランの国営通信(IRNA)は13日朝、ペゼシュキアン氏がスターマー氏との電話で、「侵略者に対する懲罰的な対応は国家の法的権利であり、犯罪と侵略を阻止する方法だと強調した」と伝えた。

IRNAによると、ペゼシュキアン氏は、西側諸国によるイスラエル支援が「残虐行為の継続」を促しており、平和と安全を脅かしていると主張。イランから見れば「世界のどの地域の戦争もいかなる国の利益にもならない」と述べたという。

これとは別にイラン外務省も、英仏独からの自制の要請を、「政治的論理に欠け、国際法の原則と規則にも完全に反しており、行き過ぎだ」としてはねつけた。(後略)【8月14日 BBC】
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とは言うものの、イランとしてはイスラエルとの関係を大ごとにしたくない・・・というのも本音で、振り上げた拳をおろせる理由を探している・・・・といったところでしょうか。

イスラエルはイランの報復攻撃に備えています。

****イスラエル外相、同盟諸国に「反撃への加勢」期待 イランの攻撃あれば****
イスラエルのイスラエル・カッツ外相は16日、中東エルサレムで行われた英仏外相との会談で、イスラエルがイランから攻撃を受けた場合、同盟諸国に「反撃への加勢」を期待していると述べた。だが、フランスのステファヌ・セジュルネ外相はこの発言を「不適切」と見なした。(中略)

イスラエル外務省によると、カッツ氏はイスラエルを同時訪問したフランスのセジュルネ外相、英国のデービッド・ラミー外相に対し、「イランが攻撃してきた場合、わが国は同盟国に対し、防衛だけでなく、イラン国内の重要目標に対する攻撃への加勢も期待している」と語った。

だが、セジュルネ仏外相は会談後、記者団に対し、「われわれは現在、外交的解決へ向けた取り組みを進めている。そうした中で(イランがイスラエルを攻撃した場合の)イスラエルの対応について話すのは不適切だ。われわれはイランの報復を防ぐために努力している」と語った。

一方、イスラエルは、米国のロイド・オースティン国防長官から、「イスラエル防衛の準備はできている」と改めて言質を取ったと述べた。(後略)【8月17日 AFP】
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西側諸国としても、イスラエルとイランが事を構える事態は避けたいところでしょう。
ただ、戦闘継続が自身の政治生命延命に繋がっているネタニヤフ首相はどうでしょうか・・・

【停戦交渉中も攻撃の手を緩めないイスラエル ガザではポリオ感染確認 国連は停戦・ワクチン接種を求める】
そのイスラエルは停戦交渉中もガザ地区への攻撃の手を緩めていません。

****停戦交渉再開も イスラエル軍がガザに空爆 17人死亡*****
パレスチナ・ガザ地区南部ハンユニスなどでイスラエル軍の空爆があり、少なくとも17人が死亡しました。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどによりますと16日、ガザ地区南部ハンユニスにある避難テントにイスラエル軍の攻撃があり、子どもを含む6人が死亡したということです。ほかの地域でも負傷者が出ていて、死者は少なくとも17人にのぼるとしています。

イスラエル軍はイスラム組織ハマスが活動をしていると主張して、ハンユニスなどに退避勧告を出していて、中には軍が「人道地区」に指定した場所も含まれていました。

15日には停戦交渉の協議が仲介国のカタールで再開していた最中でしたが、イスラエル軍が今後も激しい攻撃を継続する可能性もあります。(ANNニュース)【8月17日 ABEMA TIMES】
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ガザでは空爆被害、食糧不足に加えて保健衛生上の問題も大きくなっています。

****ガザでポリオ感染、25年ぶり確認…国連事務総長が子どもへのワクチン接種と即時停戦呼び掛け***
パレスチナ自治区ガザの保健当局は16日、発症すると手足のまひなど後遺症が残ることもあるポリオの感染が確認されたと発表した。

国連のアントニオ・グテレス事務総長はこの日、国連本部で記者団に、流行阻止には子どもたちへのワクチン接種が必要だと訴え、ガザで戦闘を続けるイスラエルとイスラム主義組織ハマスにワクチン接種のための即時停戦を呼び掛けた。

世界保健機関(WHO)によると、ガザでは過去25年間、ポリオの感染が確認されていなかった。WHOは7月下旬、ガザの下水からポリオウイルスが検出されたと発表していた。国連は、10歳未満の64万人以上を対象にワクチン接種を始める準備を進めている。

グテレス氏は記者団に「流行を食い止めるには、大規模な緊急対策が必要だ」と述べた。

ガザでは水道や衛生施設は長引く戦闘で壊滅状態となっており、定期的な予防接種も中断されている。グテレス氏は、はしかやA型肝炎も流行していると指摘し、感染症対策の重要性を強調した。【8月17日 読売】
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【逼迫するヒズボラとの緊張 イスラエルにはヒズボラとの戦闘を求める声も】
停戦をめぐる交渉の行方は、上記のようなガザ地区住民の生命、イラン・イスラエルの衝突に繋がっていますが、更にもうひとつ。停戦交渉の行き詰まりはイスラエルとレバノン・ヒズボラの戦闘拡大にもつながります。

以前も取り上げたようにイスラエル・ヒズボラの関係が緊迫しており、特に7月30日にイスラエルのベイルート攻撃でヒズボラの司令官が死亡したことで、いつ本格的戦闘に拡大しても不思議ではない状況です。

****ヒズボラ単独でイスラエル報復も=イランとの連携見通せず―米メディア****
米CNNテレビは7日、複数の情報筋の話として、イスラエル軍に最高幹部を殺害されたレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが、単独でイスラエルに報復を仕掛ける可能性が高いと伝えた。

ヒズボラは後ろ盾のイランと共にイスラエルを攻撃するとみられていたが、イランより準備が早く、数日以内に攻撃する公算が大きいという。

パレスチナのイスラム組織ハマスのトップだったハニヤ氏がイランの首都テヘランで殺害されたことを受け、イラン最高指導者ハメネイ師は報復を宣言。CNNによると、米軍当局者は、イランは攻撃の準備をある程度整えているが、計画の詳細をいまだ立案中とみられると語った。米紙ワシントン・ポストは先に、イランが大規模攻撃計画を再検討している可能性があると報じていた。

ヒズボラの指導者ナスララ師は6日、報復が「強力で効果的になる」と予告した。CNNは、イランとヒズボラがどのように連携して報復に踏み切るかは見通せず、ヒズボラがイランと異なり事前通告なしに攻撃する可能性が高いと伝えている。【8月8日 時事】 
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****ヒズボラ、テルアビブ標的に報復か イランより大規模に=専門家****
イスラエルに対する報復攻撃の懸念が高まる中、イスラエル紙ハアレツの軍事専門記者は、イラン支援下にあるレバノンの武装組織ヒズボラによる報復はイランよりも大規模なものになり、テルアビブのイスラエル国防省などが標的になる可能性があるとの見方を示した。

7月30日、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルートを空爆し、ヒズボラのフアド・シュクル司令官が死亡。翌31日にイランの首都テヘランでイスラム組織ハマスのハニヤ最高指導者が死亡した。

ハアレツのシニア軍事コレスポンデント、アモス・ハレル氏はカーネギー国際平和基金が7日に開いたオンライン対談で、シュクル司令官が殺害された数時間後にハニヤ氏が死亡した事態を受け、中東全体が新たな方向に向かったと述べた。

想定されるイランによる報復について、テヘランで犠牲になったのはパレスチナ人で、イラン人ではなかったことを踏まえると、4月14日のイスラエルへの報復攻撃と同程度か、それ以下になると予想。一方、殺害されたヒズボラのシュクル司令官はヒズボラの重鎮で、指導者のナスララ師と親しかったことを踏まえると、ヒズボラはイランよりも厳しく対応するとの見方を示した。

その上で、ヒズボラは全面戦争を回避するために人口が集中する地区への攻撃は避け、軍事施設を標的にするとの見通しを示した。イスラエルが首都ベイルートを攻撃したため、報復の対象はテルアビブになる可能性があるとし、テルアビブのハキリヤにあるイスラエル国防省のほか、北部グリロットの軍事施設などを想定される標的として挙げた。

イランから発射された弾道ミサイルがイスラエルに着弾するまで約12分かかるのに対し、レバノンから発射されたロケット弾、もしくはミサイルは1分半から2分半でテルアビブに着弾するため、ヒズボラが2、3時間という短時間に集中して攻撃を行えば、「壊滅的」な被害が出る恐れがあるとした。

ヒズボラが過去10カ月で約400人の戦闘員を失ったことを踏まえ、ナスララ師は戦闘停止を願っているとの見方も一部で出ているとしながらも、現在の状況は4月時点と比べはるかに深刻で、イスラエルは「かなり大きな」動きに備えていると述べた。【8月9日 ロイター】
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イスラエル国内では、この機にヒズボラを叩くべきとの主張が強まっているとか。

****イスラエルの対ヒズボラ攻撃論、国内で支持高まる****
安全保障当局者から、今こそヒズボラに対して攻勢に出るべきとの声

イランとイスラム教シーア派組織ヒズボラからの攻撃に備えているイスラエルでは、今こそヒズボラに対して攻勢に出るべきか、あるいは中東全域に戦争が拡大しないよう緊張緩和に乗り出すべきかが議論されている。

米政府は事態がエスカレートして中東全域に戦火が広がらないよう、水面下で熱心な取り組みを続けている。バイデン政権は今週、高官級代表団を中東に派遣する見通し。

イスラエル国内の世論は二分しており、ヨアブ・ガラント国防相などはガザでの停戦を実現すべきと主張。人質を解放し、イスラエル北部国境での緊張も緩和させ、避難している国民が帰還できるようにすべきだと述べている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、戦争は望んでいないとしながらも、攻撃に対しては「重い代償」を科すと述べている。

だが、安全保障担当の現・元当局者に加え、中道・右派・極右の議員の間では、ヒズボラに攻撃的姿勢を取る機は熟したとする声が増えている。ヒズボラはイスラエル北部国境沿いに10万発以上のロケット弾、ミサイル、ドローン(無人機)などを蓄積しているという。

また、イスラエルの現・元当局者によれば、同国北部の軍司令部は、ヒズボラに対してこれまでよりも攻撃的な姿勢を取るべきだと主張している。

安全保障担当のある高官は、ヒズボラが過度の攻撃を実施した場合、「イスラエルによる攻撃で北部国境に新たな現実がもたらされる」可能性もあると述べた。

ネタニヤフ内閣では、極右のイタマル・ベングビール国家治安相がヒズボラとの戦争を支持している。ネタニヤフ氏率いる右派政党リクードの議員らも同様の考えを示している。さらに、中道として知られるベニー・ガンツ氏も、レバノンのインフラを攻撃するよう政府に求めており、これが実施されれば戦争に発展する可能性が高まる。

イスラエルとヒズボラの戦争は長年にわたり不可避と考えられており、安全保障専門家は時間の問題だと指摘している。ベイルートやテヘランでの殺害を受けてヒズボラとイランが報復攻撃に出ると予想されるため、イスラエルは、強力な措置によって今後数年間の攻撃を封じる口実を得られるかもしれない。【8月15日 WSJ】
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かくして、ガザでの戦闘の停戦交渉不成立は、イラン・イスラエル、ヒズボラ・イスラエルの戦闘開始のゴングとなりかねません。それだけに交渉の成り行きが注目されますが、ネタニヤフ首相に停戦の意思がないということで、あとはアメリカがどれだけ圧力をかけられるかでしょう。
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イスラエル  なぜ過剰なまでの暴力に走るのか? 根深い被害者的な被包囲意識

2024-07-18 23:37:17 | パレスチナ

(空爆があった学校周辺で、負傷した子どもを抱く人=パレスチナ自治区ガザ地区中部ヌセイラットで2024年7月14日、ロイター【7月16日 毎日】)

【学校への攻撃激化】
イスラエルのパレスチナ・ガザ地区への攻撃が激しさを増しています。最近は施設内から軍事作戦を行っているハマスなど「テロリスト」への攻撃として、学校が攻撃対象となっています。

****UNRWA、学校の7割が被害 イスラエルがハマス攻撃強化示唆****
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は16日、パレスチナ自治区ガザで運営する学校の7割近くがイスラエル軍の攻撃などで被害を受けたと明らかにした。

軍は今月に入り、「テロリストが活動していた」として学校や周辺施設を相次いで攻撃。避難先として学校に身を寄せる民間人の犠牲が拡大している。

イスラエルのネタニヤフ首相はエルサレムで開かれた政府の式典で、イスラム組織ハマスが拘束する人質を奪還するため「圧力をさらに強める時だ」と強調し、さらなる攻撃強化を示唆した。

UNRWAによると、多くの学校が住民の避難場所となっており、これまでに539人が死亡した。【7月17日 共同】
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*****1時間に爆撃3回、ガザで48人死亡 学校また標的に*****
イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの民間防衛当局は16日、イスラエルによる爆撃が1時間に3回行われ、48人が死亡、数十人が負傷したと発表した。うち1件は学校が標的となった。(中略)

イスラエル軍は「テロリスト」がヌイセラトの学校から自軍を攻撃していたと主張。またマワシ地区への攻撃についてはハマスの「部隊指揮官」が標的だったと明かした。

ガザ地区では、ここ10日間で少なくとも学校7施設がイスラエルの攻撃を受けた。その多くは国連が運営していたが、昨年10月のガザ侵攻開始以降ほとんどが避難民の収容施設となっている。

マワシ地区では13日にも大規模な空爆があり90人以上が死亡している。この時の攻撃についてイスラエル軍は、イスラム組織ハマスの軍事部門トップ、モハメド・デイフ氏らが標的だったと発表した。

当時、マワシ地区はイスラエル軍によって「安全地帯」に指定されており、避難民数万人がキャンプに身を寄せていた。

ガザ地区の病院事業を統括するムハンマド・ザクト氏はAFPに、イスラエル軍は「安全地帯に指定したマワシ地区で虐殺を実行した。人口密度が高く、小型のミサイルでも多数の死傷者が出ることは明白だった」と話した。 【翻訳編集】
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イスラエル軍は“民間への被害を防ぐ手段を取っていると主張している”【7月17日 産経】とのことですが、避難民の収容施設となっている施設を爆撃すれば、結果はおのずと明らかでしょう。

“ラザリニ事務局長は15日、ガザのUNRWA本部施設が戦闘の現場になったとし、大半が破壊された建物の写真をXに投稿した。「国際人道法が無視されていることを示すもう一つの事例だ。いかなる戦争にもルールがある」と非難した”【7月17日 産経】

アメリカも民間人犠牲拡大を問題視してはいます。
“ブリンケン国務長官「民間人犠牲に懸念」...イスラエルがガザに新たな攻撃”【7月16日 Newsweek】

しかし、その一方で・・・
“米政府、イスラエルへの500ポンド爆弾の輸送再開へ=米高官”【7月11日 ロイター】
大統領選挙対策の観点で、若者らのイスラエル批判には配慮しなといけないが、ユダヤ人団体の政治的影響力を考えると従来からのイスラエル支持を崩す訳にもいかない・・・腰がすわらない対応に終始しています。

相手は多くの人質をとっているテロリストで、住民を「人間の盾」として、その後ろから攻撃を続けている・・・というイスラエル側の言い分も一定に配慮する必要はあるでしょうが、「人間の盾」もろとも委細構わず吹き飛ばしてしまう圧倒的軍事力の行使にはたじろいでしまします。

ハマス側は(その本音がどこにあるかは別として)こうした民間人被害を厭わないイスラエルの攻撃を理由として、停戦交渉離脱を警告しています。

****ハマス、停戦交渉を離脱と警告 民間人「虐殺」受け****
イスラム組織ハマスの当局者は14日、パレスチナ自治区ガザ(での戦闘をめぐるイスラエルとの停戦交渉を離脱すると警告した。ハマスの軍事部門トップを標的にした空爆で多数が死亡したり、学校が繰り返し攻撃されたりしていることなどを理由に挙げた。(中略)

ハマス当局者は、カタールを拠点とする最高指導者イスマイル・ハニヤ氏の話として、「イスラエルの真剣さの欠如、継続的な引き延ばしと妨害の方針、非武装の民間人に対する継続的な虐殺」が交渉離脱を決めた理由だと述べた。(後略) 【7月15日 AFP】
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【政治的延命のため交渉を妨害しているとの批判があるネタニヤフ首相】
“イスラエルの真剣さの欠如、継続的な引き延ばしと妨害の方針”・・・イスラエル国内にも、早期の人質解放を優先すべきで、ネタニヤフ首相は政治的延命のため交渉を妨害しているとの批判があります。

戦闘が終息すれば、ネタニヤフ首相はハマスのテロ攻撃を防げなった責任だけでなく、以前からある自らの訴訟を有利に運ぶための司法改悪への批判などで、その政治生命は危うくなります。

また、交渉のためにハマス攻撃の手を緩めることで極右勢力の支持を失うと政権が維持できず、同様の結果となります。

ネタニヤフ首相が政治的に生き残るためにはハマス攻撃を続け、「成果」を誇示するしかない・・・という政治状況です。

****ネタニヤフ首相、ガザ交渉妨害か=保身狙い新要求―イスラエル紙報道****
イスラエル紙エルサレム・ポストは16日、パレスチナ自治区ガザでの停戦と人質解放に向けたイスラム組織ハマスとの間接交渉に関連し、同国のネタニヤフ首相が政権維持のため、合意に至らないよう妨害していると報じた。

これが事実なら、国内各地で人質解放を求めるデモが続く中、ネタニヤフ氏が保身を優先し人質解放を後回しにしているとの批判が出そうだ。

同紙が関係筋の話として伝えたところでは、ネタニヤフ氏は、ハマスが密輸武器の入手拠点としているガザ・エジプト境界の緩衝地帯を引き続きイスラエルが管理することを要求。また、武装したハマスのメンバーが再びガザ北部に戻らないことも求めているという。

ただ、これら二つの要求はイスラエルの治安とは無関係で、ネタニヤフ氏は連立政権の一角を占める極右政党党首のベングビール国家治安相が「ネタニヤフ降ろし」に動かないことだけを気にしているとされる。

関係筋は同紙に、ハマスが先に、これまで固執していた「恒久停戦」確約の要求を取り下げる譲歩を行ったことで、今週か来週には停戦合意が実現し、多数の人質が帰還していた可能性があったと述べた。極右政党はハマスとの停戦に強く反対している。【7月17日 時事】 
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【ネタニヤフ連立政権に極右が入閣して悪化が加速する西岸地区の状況】
極右勢力の影響は、ガザ地区への攻撃だけでなく、西岸地区のイスラエル入植者による暴力激化、国際法違反の入植地拡大にも及んでいます。

****イスラエル人の入植者が水源奪い、パレスチナ住民の追い出し図る…ヨルダン川西岸で16集落消滅****
パレスチナ自治区のヨルダン川西岸で、イスラエル人の入植者が、水源を奪うことでパレスチナ住民の追い出しを図っている。ガザ地区での昨年10月の戦闘開始後、人権団体のまとめで16の集落が消滅した。ベンヤミン・ネタニヤフ政権の一翼を占める極右勢力が主張する「西岸の併合」に沿った現状変更の動きだ。(ヨルダン川西岸ラスアイン・アウジャ 福島利之)

ヨルダン川西岸のオアシスの町エリコから北10キロのラスアイン・アウジャ集落には、西岸有数の水量が湧く泉がある。降水量が少ない砂漠での水は貴重で、家畜のほかバナナやナツメヤシの栽培に使われてきた。生活には不可欠だ。

今月5日、パレスチナ人の家族連れが水浴びをしていると、小銃や大型ナイフを持った入植者の若者数人が大声で騒ぎ、露骨に嫌がらせを始めた。他都市から家族8人で遊びに来たパレスチナ人の教師アリフ・シャワラさん(43)は「安心して子どもを遊ばせられない」と敷物を畳み、引き揚げた。

アウジャ集落には約150家族、400人ほどのパレスチナ人の遊牧民が住み、子羊やミルクを売って生活する。しかし、数年前から近くの入植地の入植者の襲撃で倉庫を破壊されるなどした。

今年4月、泉近くにテントを建てた非公認の入植地(アウトポスト)がつくられると、襲撃は激化し、住民は泉に行くのも阻まれるようになった。

集落に40年以上住むムハンマド・ラシャイドさん(50)は昨年、500頭の羊を飼っていたが、入植者に盗まれ、今は50頭程度という。羊に水を与えるのも容易ではない。パレスチナ自治政府に介入する権限のない地域で、治安を担うイスラエル軍や警察に連絡しても対応しないという。ラシャイドさんは「誰も守ってくれない」と嘆く。

入植者による嫌がらせは、集落からの住民追い出しが狙いだ。銃を手に泉に現れた20歳代の入植者男性は「西岸の全ては神が我々に与えた土地だ」と主張した。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、西岸では昨年10月以降、入植者の暴力は1050件発生し、107人が死亡した。財産被害は828件に上る。人権団体ベツェレムのまとめでは、今年4月までに入植者の襲撃などで157家族、1056人が家を追われ、16集落が消滅した。

イスラエル政府は支配地域の拡大に向け、入植者を事実上の先兵として利用している側面がある。

軍や警察が駆けつけても、入植者を保護することが多いとされる。入植者は極右政党の支持母体で、2022年に発足したネタニヤフ連立政権に極右が入閣して以来、襲撃は激化したという。入植者が奪った土地やアウトポストは、後に政府が「イスラエルの土地」と宣言し、入植地となるとみられている。

イスラエル人の人権活動家アミル・パンスキさん(60)は、「入植者は西岸の全てをイスラエルの土地にしようとしている。軍隊も入植者の横暴を見ているだけだ」と指摘する。

◆入植者=イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領したヨルダン川西岸や東エルサレムで建設された入植地に住む住民。NGO「ピース・ナウ」によると、西岸の入植者は人口の約5%にあたる47万8000人で、入植地は146か所。非公認の入植地はアウトポストと呼ばれ、191か所に上る。入植地は占領地への自国民の移住を禁じるジュネーブ条約に反する。【7月16日 読売】
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【過剰な暴力に走るイスラエル人の意識にあるのは被害者的な被包囲意識】
「西岸の全ては神が我々に与えた土地だ」・・・・“神”や聖書を持ち出されては、理解のしようもありません。

理解のしようはありませんが、なぜ過剰なまでの暴力に走るのか・・・その意識を探ると被害者的な被包囲意識が垣間見えます。

****自分たちは「いつも被害者」という意識...なぜイスラエルは「正当防衛」と称して、過剰な暴力を選ぶのか?****
<イスラエルが抱える「被包囲意識」について>
(中略)ベン・グリオンがトイレット・ペイパーに書いたという建国の宣言文は、「ユダヤ人国家」(下巻152頁)であり、「アラブ人住民が平等かつ完全な市民権をもつ」(下巻153頁)国家でもあり続けると定める。

それは「ユダヤ人の国」という民族主義と、「アラブ人にも平等」にという民主主義の両立を掲げたものだ。だがその実践は容易ではない。

保守化が進む近年のイスラエル政権は、アラビア語を公用語から排除するなど露骨な民族主義に偏重している。イスラエルは、建国の瞬間から根本的な矛盾を抱えて船出した国家なのだ。(中略)

私は現地にいた6年半、専門家を訪ね歩いて同じ質問を繰り返した。 「なぜイスラエルは『正当防衛』と称して過剰な暴力を繰り返すのですか」

最も説得力を感じたのは、紛争心理学の研究で世界的に知られるテル・アヴィヴ大学名誉教授のダニエル・バル・タルの答えだった。

「イスラエルのユダヤ人は、自分たちは敵対的な人々に囲まれている、という被害者的な被包囲意識を持っている。パレスチナはアラブ諸国の大軍の一部であり、小さいとも弱いとも思っていない。自分たちこそがアラブの憎悪の海に浮かぶ孤島だと感じている」

この意識は東欧からロシア、そしてナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と脈々と続いた差別と迫害の歴史の中で、ユダヤの民の「血となり肉となってきたもの」だという。

そして自分たちは「いつも被害者だ」という意識が「正当防衛」としての暴力をエスカレートさせていくというのだ。

被害者意識は個人のアイデンティティに組み込まれ、やがてそれは集団的なアイデンティティを形成する。それが被害者物語となって社会全体を動かして行くのかもしれない。

ハマスによる攻撃が近年、残虐性を増す背景にもこうした被害者物語が生み出す暴力のメカニズムが潜んでいるように思える。(後略)【7月11日 大治朋子氏(毎日新聞編集委員、元エルサレム支局長) Newsweek】
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****“隠れた報復”進むヨルダン川西岸占領地 聖地で探ったユダヤ人入植者の本音、なぜ土地に固執、過激化するのか?****
イスラエル軍の掃討作戦が続くガザ地区での悲劇に世界の注目が集まる中、パレスチナ人に対する“隠れた報復”が、ガザから東へ40キロほど離れたもう一つの占領地、ヨルダン川西岸で進行している。

昨年10月に起きたイスラム組織ハマスによる越境攻撃以来、入植者による暴力が急増し、4月上旬までに700件を超えた。犯人が罰せられることはまれで、西岸は無法地帯化しつつある。

ガザを拠点とするハマスは、1200人ものイスラエル市民らを虐殺した。イスラエル側の衝撃と怒りは想像も同情もできる。しかし入植者はなぜこの土地にかくも固執し、過激化するのか?現地で本音を探った。

 ▽厳戒の聖地
(中略)占領地への入植は国際法違反だが、ヘブロンを含め西岸には約70万人のユダヤ人が住んでいる。イスラエルの法律にも違反するのを承知で、勝手に家屋を建ててしまう確信犯も少なくない。

 ▽歴史的正義
そんなヘブロンの旧市街でインタビューに応じたのが、「ヘブロン入植者協会」の幹部で国際広報担当、イシャイ・フレイジャーだ。年齢は40代後半で「ヘブロン・ユダヤ人協会」の幹部、広報担当も務める。イスラエル北部ハイファ出身で米国育ちのフレイジャーは、流ちょうな英語でユダヤ側の心情を語った。

彼はまずユダヤ人が抱く「恐怖」を強調した。
「イスラエルは、20を超えるアラブ国家の4億人超のアラブ人に囲まれ、おびえて生きている。これがわれわれの世界観だ。そして彼らはユダヤ人がイスラエルという国家を持つ権利すら否定、この土地から追い出そうとしている」。

イスラエルの人口は900万人程度で、40倍以上の人口を持つアラブ側にはイスラエルを敵視する勢力が少なくない。さらにホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)という悲劇の歴史や、計4回にわたるアラブ諸国などとの戦争を振り返れば、フレイジャーの言う恐怖心は、決して被害妄想ではない。

一方で、西岸のパレスチナ人(もちろんガザでも)は保健衛生から就業、土地の所有まで人生のあらゆる面で差別されて生きている。人権団体からは「アパルトヘイト(人種隔離)」と批判される状況が続いているのだ。人権団体の調査では、暴力事件急増の裏で立件されるのは、わずか6%だ。

こうした現実を前提に記者が「入植は国際法違反とされている」と指摘すると、フレイジャーは口角を少しばかり上げて鼻で笑った。
「そんな話は、ユダヤ人の立場を悪くするための冗談に過ぎない。ユダヤ人は(ユダヤ人の郷土建設をうたった)バルフォア宣言や国際連盟のパレスチナ委任統治に基づきここにいる」と話す。

さらに遠い歴史も重要だと言う。
「ユダヤ人は古代からこの地に住み、ヘブロンにも3000年以上前から住んできた。われわれはここに戻って、本来われわれの物(土地)を取り戻しただけなのだ。この地に住むのは歴史的正義なのだ」

今日のパレスチナ問題の元凶である大英帝国の二枚舌、三枚舌外交が絡む近代史を根拠にする部分は傾聴に値する。だが、旧約聖書を持ち出して入植を正当化する理屈には、到底納得できない。

これを認めてしまうと、時計の歴史の針を千年単位で巻き戻し現代の法的な“土地所有”を決めることになる。世界地図を破り捨てるがごとき、乱暴な理屈だ。

 ▽垣間見た本音
こうした歴史観に支えられた入植者の行動で目立つのが、パレスチナ人の生活の糧を標的にしていることだ。例えば農家のオリーブ畑や家畜、かんがい施設。これらを失えば生活はたちまち立ち行かなくなる。なぜそこまでするのか?

ガザでは昨年10月の戦闘開始から半年ほどで建築物の約50%が被害を受けている。ネタニヤフ政権は、ハマス壊滅や人質の全員解放を戦闘の目的とするが、それが達成された後、200万人を超える人々の生活をどう再建するつもりなのか―という問いには、一切答えていない。

フレイジャーら極右の人々に耳を傾けるうちに“本音”が見えた気がした。そもそも再建する(させる)つもりが、ないのではないだろうか。

「ハマスを支持する住民たちはハマスと同じだ。ガザから追放し、隣国エジプトが受け入れればいい」。フレイジャーは自信に満ちた声で言い放った。「もっと激しくやっていい。水も食料もガザにやる必要はない。連中を飢え死にさせていい」

パレスチナの生存権の否定と言ってもいい。イスラエルの極右閣僚アミハイ・エリヤフ(エルサレム問題・遺産相)は、ガザでの核兵器使用すら「選択肢だ」と発言する。

いわゆる国際社会は、米国のバイデン政権を筆頭に、相変わらずイスラエルとパレスチナの「2国家共存」が和平の道だと唱える。しかし現場にあるのは、そうした理想論がうつろに響くほどの相互の憎悪と不信だ。

共存について、別のヘブロン入植者は「平和を守るならパレスチナ人と共存できる。しかしむこう側は、学校やモスクでユダヤ人を殺せと教えている」と疑心暗鬼を募らせていた。

フレイジャーも「もちろん平和を好み、法律を守るアラブ人とは共存できる。だが、できないのであればどこか他所へ行くべきだ」と語った。

共通するのは、イスラエル政府が押しつける差別的な監視社会を受け入れるのならば、という条件付きだ。それはハマスのテロを生み出した抑圧的な平穏を前提とした、偽りの共存に過ぎない。【7月11日 47NEWS】
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被害者的な被包囲意識、敵に囲まれているという意識・・・ウクライナに侵攻したプーチン大統領・ロシア人の意識に共通するものです。
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パレスチナ・ガザ地区  約50万人が「壊滅的な」食料不安に直面 商業的な食料搬入の実態

2024-07-09 22:47:27 | パレスチナ

(5月、ヨルダン川西岸のヘブロンの検問所で、ガザへの入境を待つ民間トラックの車列。食料を運んでいる【7月9日 Newsweek】)

【進まない停戦交渉 増えるガザ住民の犠牲】
「恒久的停戦」を求めるハマスと、「ハマス壊滅」を目指すイスラエル・ネタニヤフ政権。

両者の停戦交渉については、下記のような若干前進を期待させる情報もありますが、ハマスにしても、イスラエル・ネタニヤフ政権にしても、パレスチナ住民の生命や苦難にはほとんど関心もないようですから、早期に停戦が実現できる可能性は低いように思えます。

****ガザ和平交渉、ハマスが軟化か 「恒久的停戦」要求を一時棚上げ*****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエルの停戦交渉を巡り、ロイター通信は6日、ハマスが「恒久的な停戦」の条件を一時棚上げしたと報じた。

まず一時休戦を実現した上で、本格的な停戦交渉に入ることを認める内容で、態度を大きく軟化させた。ただ双方の間には依然として溝があり、合意に達するかは不透明だ。

協議されている停戦案には3段階あり、第1段階の6週間の休戦期間中に恒久的な停戦やイスラエル軍の完全撤収に向けた交渉を行う内容。

これに対し、ハマスはイスラエルが休戦後に戦闘を再開させることを警戒し、最初から恒久的な停戦を保証するよう主張。一方、「ハマス壊滅」を掲げるイスラエルは受け入れず、交渉は停滞していた。

だが、ロイター通信によると、ハマス幹部は6日、休戦が始まってから恒久的な停戦に向けた交渉を始めることを了承したと明らかにした。恒久的な停戦に至るかどうかが曖昧になったことで、イスラエルの交渉関係者からは、休戦が実現する「現実的な可能性」があるとの声も出ている。

ただ、米ニュースサイト「アクシオス」によると、ハマスは休戦後の交渉期間については期限を設けないよう仲介国に要求。仲介国が書面で、最終的に停戦合意に至ることを保証することも求めている。

これに対してイスラエルの対外諜報(ちょうほう)機関モサドのバルネア長官は5日、仲介国カタールでの協議で、仲介国の書面による保証に難色を示したとも報じられている。イスラエル当局者は、ハマスの要求が書面に含まれた場合、ハマスは交渉を無期限に引き延ばすことができると警戒している。(後略)【7月7日 毎日】
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こうした停戦がいつになるかわからない交渉がとぎれとぎれに続くなかで、
“ガザ中部、市民避難の学校に空爆 少なくとも16人死亡 イスラエル軍は攻撃の正当性主張”【7月7日 TBS NEWS DIG】
“ガザ住民に新たな避難命令 ハマス掃討作戦、各地で継続”【7月4日 AFP】
といった無慈悲な戦闘も続いています。

ハマスもイスラエルも交渉が進まない原因は相手側にあると主張し、妥協してまで交渉をまとめようという考えはありません。

****停戦交渉「振り出しに」=イスラエル軍、ガザ北部で攻勢―ハマス警告****
イスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏は8日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ北部のガザ市で攻勢を強めていることを受け、「(停戦に向けた)交渉が振り出しに戻る」と警告した。ハニヤ氏は交渉仲介国に緊急で連絡を取ったという。ハマスが声明で発表した。

イスラエル軍は8日、ガザ市の複数地域に2日連続で退避勧告を出した。住民はロイター通信に、7日夜から8日早朝にかけて激しい爆撃があったと証言。軍は8日の声明で、ハマスが司令センターなどに利用していたとする学校や診療所を急襲したと発表した。【7月9日 時事】 
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基本的に主戦論を掲げるハマスも極右勢力依存のネタニヤフ政権も、戦闘が続いていてこそ、脅威となる「敵」が存在してこそ自らの存在意義があり、戦闘が終息するとその存在意義が危うくなりますので、両者に妥協・停戦を求めることに無理もあるのかも。

その代償を命で支払うのがガザ住民です。
戦闘開始から7日で9か月を迎えましたが、これまでに3万8153人が死亡し、うち7割が女性と子どもだということです。【7月8日 TBS NEWS DIGより】

ガザ地区住民のほとんどが避難生活を余儀なくされています。

****ガザ人口、推計210万人と発表 国連機関、9割が避難生活続ける****
国連人道問題調整室(OCHA)は3日、イスラエル軍による攻撃が続くパレスチナ自治区ガザの現在の人口は約210万人だとする推計を発表した。9割に当たる190万人が避難生活を続けている。戦闘状況に振り回され、複数回の避難を余儀なくされた人も多いと分析した。

昨年10月の戦闘開始時の人口は230万人弱だった。国境は厳しく管理されており、記録上はガザから脱出できた人は11万人にとどまる。

イスラエル軍により北部と南部が分断され、住民だけでなく国連関係者も行き来できない状況だとした。激しく破壊された北部には最大35万人が残っており、早急な支援が必要としている。【7月4日 共同】
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【約50万人が「壊滅的な」食料不安に直面】
空爆や戦闘による直接的脅威に加えて、真綿で首を締めるようにガザ住民を苦しめるのが食糧危機、飢餓の脅威です。

****ガザ、深刻な食料危機リスク続く 北部はやや改善=国連****
イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦争が続くパレスチナ自治区ガザでは支援へのアクセスが限られているため飢餓の危険が高い状況が続いているが、北部地域では支援物資が届き、予想された極度の食料危機の拡大は抑制されている。25日に発表された国連の「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」報告書で分かった。

最も深刻なレベルである「壊滅的な」食料不安に直面している人の数はガザ全体で49万5000人超と、3カ月前の前回更新時に予想された110万人は下回ったものの、なおガザ人口の20%を超えている。

「壊滅的な」食料不安は、家庭で食料が極度に不足し、小児の急性栄養失調、差し迫った飢餓の危険、死亡につながる状況。

IPCによると、調査対象となったガザの家計の半数以上が食料を買うために衣服を売らなければならず、3割がゴミを集めて売っていた。また、20%以上が何日も何も食べずに過ごしたと回答した。

3月と4月に行われた食料と栄養補給サービスの提供で、IPCが食料危機の可能性を予想していた北部では状況の深刻さが軽減されたとみられている。

しかし、最南部ラファ周辺で5月初めに始まったイスラエルによる攻撃や避難により、ここ数週間は再び状況が悪化しているという。【6月26日 ロイター】
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【「地獄の配送業」】
それにしても、ガザ住民210万人がどうやって食いつないでいるのか・・・食料はどのように運ばれているのか・・・よくわかりません。そのあたりの事情の一端を垣間見ることができるのが(長いですが)下記記事。

****銃弾・爆弾・賄賂の「地獄の配送業」...命がけでガザに食料運ぶ商人たち****
モハメドさんいわく、その仕事は「地獄の配送業」だ。

パレスチナ自治区ガザで輸入業を営むモハメドさんは、「運ぶたびに無理をしている」と、ロイターに語った。包囲されたガザ地区にトラック1台分の食料を運び込むたびに、急騰する輸送費や仲介業者への賄賂、略奪者に備えた警護費用として1万4000ドル(約225万円)以上も払わねばならない。昨年10月に戦争が始まるまでは、1500ドルから4000ドルで済んでいた。

「ほとんど稼ぎにならない。とはいえ、私も近所の人も食べ物が必要だ。ガザ地区全体が食べるものを必要としている」

モハメドさんは、気は進まないものの、乳製品や果物、鶏肉といった生鮮食品の一部については採算を取るために通常価格の10倍に値上げせざるを得ないという。だが、そうすれば飢えに苦しむ多くのガザ住民には手の届かない価格になってしまうことも分かっている。

ロイターは、モハメドさんの他、17人に話を聞いた。そのほとんどはガザ地区の輸入業者か支援関係者で、物資の供給状況について熟知している。飢餓のリスクが高まっているという支援機関の警告がある一方で、供給システムが混乱しているため、食料を輸入するには危険度もコストも高すぎる状況だという。

取材に応じた人の多くは、フルネームを伏せたいと話した。モハメドさんのような輸入業者は、本名で取材に応じれば、現地の犯罪組織からの報復やイスラエル軍のブラックリストに載る懸念があるという。

取材した人々によれば、食料の輸入に費やされる金額の大部分は、急騰する輸送費に使われる。
イスラエル国内の運転手は、委託費を最大で3倍に引き上げている。ガザに向かうトラックに対してイスラエル人の抗議者からの攻撃があるというのがその理由だ。

また、イスラエル占領下にあるヨルダン川西岸地区やケレム・シャローム検問所などの越境地点では、イスラエル兵士による検査を受けて入域許可を得るために何日も待機せざるをえないことも多く、それがさらに輸送コストを押し上げているという。

そして、物資を何とかガザに運び込んだとしても、旅路の最も危険な部分はまさにそこから始まる。
やはり輸入業者であるハムダさんは、野菜のピクルスや鶏肉、乳製品を西岸地区から輸入している。地元の犯罪組織に金を払って見逃してもらうか、武装ガードマンを独自に雇って貨物に張りつかせ、略奪者を撃退しているという。

「これに200ドルから800ドルかかる。1回分の貨物が最高で2万5000ドルになるから、金を払う意味はある」といハムダさん。「雇うのは友人か親戚だ。トラック1台あたりだいたい3─5人は必要になる」

一方、支援組織によると飢餓の状況はガザ北部で一段と厳しいが、民間セクターの物資はまったく搬入できない。取材に応じた輸入業者8人全員が、イスラエル軍がこの地区を封鎖しており、商業用の物資輸送を締め出していると指摘した。

支援関係者2人も、ガザ地区北部で手に入る食料は人道支援によるものだけで、商業用の物資は販売されていないことを確認した。ガザ市及びその郊外を主体とするガザ地区北部で販売用の食料を入手できるかどうか、イスラエル軍はコメントしなかった。

ガザ地区での人道支援の調整を監督するイスラエル軍は、住民全体に行き渡るだけの食料をイスラエルとエジプトから入れさせているとしている。ケレム・シャロームなどの越境地点を経由してガザ地区に運び込まれた後、支援機関による食料の輸送に「困難」が生じていることを軍は認めたが、どのような障害があるか具体的には明らかにしなかった。

広報担当者の1人はロイターに対し、ガザにおける支援物資の配布は「戦闘が進行中の地域なだけに、困難な作業」になっているとした上で、「イスラエルは、一般住民の利益のために人道支援物資のガザ搬入を認めると約束している。現地での作戦上の都合に配慮しつつ、搬入を促進している」と述べた。

イスラエル軍は、ガザを支配するイスラム組織ハマスが「人道目的のインフラを軍事目的に流用」していると主張するが、詳細は明らかにしていない。

ハマスは人道支援の流用を否定し、食料の流通に介入していないとしている。ハマスは、商業関係者が貨物を守るために武装ガードマンを雇っていることを確認しているが、こうした護衛とハマスとのつながりはないと述べている。

「私たちの最大の目標は、人々の苦悩を緩和することだ」と、ハマス行政部門広報官は話した。

「法と秩序の完全な崩壊」
昨年10月7日、ハマスがイスラエル南部の街を襲撃したことに端を発した今回の戦争では、イスラエル側が報復として空爆と地上侵攻を行い、ガザ地区に壊滅的な損害を与えた。230万人ものガザ住民のほとんどが住居を失い、彼らへの食料供給は、官僚主義と暴力のために八方塞がりとなっている。

食料を運び込むには主として2つの手段がある。1つは国際支援だ。主体は国連またはその関連機関によるコメや小麦粉、缶詰など保存食の供給で、戦時下での食料輸入の大半を占める。もう1つは民間による供給で、栄養不良を回避するために重要な生鮮食品が含まれる。
 
イスラエル軍は5月、イスラエル及びヨルダン川西岸地区からの商業的な食料供給の再開を認めた。エジプトからの入域経路として重要なガザ最南端ラファに対するイスラエル軍の攻撃により、国連による支援が大幅に減少したためだ。

ロイターはこうした商業的な食料供給の再開について既に報道した。その後、ガザの商業関係者がコスト高騰や混乱に悩まされ、ガザ地区内の市場や店舗向けに生鮮食品を輸入しようという試みが阻害されている状況についても、今回報道機関として初めて詳細に報じることになった。

食料トラックに対する攻撃は、5月7日にイスラエルがラファ攻撃を開始したことをきっかけで急増した。輸入業者や支援関係者によれば、この攻撃で、ラファでテント暮らしを送っていた150万人の避難民が散り散りになり、ガザ地区の混乱がさらに深まったという。

国連が提供する食料は、ケレム・シャロームや北部の越境地点を経由して今もガザに運び込まれている。だが、食料供給の調整に関与している支援関係者6人によれば、国連機関は武装ガードマンによる護衛の費用を出せないため、武装組織に対する脆弱性ははるかに高いという。ある関係者によれば、食料輸送トラックの約70%が攻撃を受けている。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長はロイターに対し、「トラック運転手は日常的に脅迫や襲撃を受けており、私たちは、法と秩序のほぼ完全な崩壊という事態に直面しているといえる」と語った。

「あまりにも多くのトラックが略奪された」
援助機関が困難に直面しているため、商業トラックがガザに運ぶ食料の割合は増え始めているものの、その流れは依然として不安定だと、関係者8人がロイターに語った。

彼らによると、ラファ攻撃が開始されて以来、民間ルートによる輸送は1日あたりトラック20台から100台で、1台あたり最大20トンの食料を運んでいるという。この間、イスラエル軍のデータによれば、1日平均150台の援助トラックと商業食料トラックが入国している。

これは、米国際開発庁が飢饉の脅威に対処するために必要とする1日600台のトラックにははるかに及ばない。
また、6人の援助関係者によれば、入ってくる市販の食料は高価で、援助国や援助団体により代金を支払い済みの国際援助の代わりにはならないという。

ノルウェー難民評議会のガザ担当のマジド・キシャウィ氏は、「いくつかの品目は、少なくとも15倍の値段になっている。基本的な品目は、援助や商用トラックの到着が激減したため、市場から姿を消した」と話した。

イスラエルのデモ隊
イスラエルやヨルダン川西岸で食料を積み、ガザの目的地まで届けるのは最大でも160キロの距離だが、その道のりは危険に満ちている。ガザに入る前から、トラブルに見舞われがちだという。
5月には、ガザに向かっていたトラックがイスラエルの抗議デモ隊に道を阻まれ、襲撃された。ドライバーにはイスラエル人のほか、イスラエルで働く許可を持つパレスチナ人だった。抗議者たちは、ハマスへの物資の供給を妨げる目的だと主張したが、一連の襲撃行動を受け、米政府はイスラエル人入植者らとつながりのあるグループに制裁を科した。

「特にイスラエルの運転手は、襲撃のせいで輸送料金を値上げした。1,000ドルの輸送費が3,000ドルになることもありる」と、サミールと名乗る輸送業者は話した。

ガザに入る前にトラックの大行列に引っ掛かり、長い待ち時間で輸入業者はトラック1台につき1日約200ドルから300ドルの負担を強いられている、と彼は付け加えた。
パレスチナや欧米の政府関係者を含む関係者18人によれば、この遅れは、ガザへの食料輸送が全体的に滞っていることが原因だという。

輸入業者や援助関係者によると、6月初旬の2週間、イスラエル軍は人道援助物資の滞留を解消するためとして、すべての商業物資のガザ入りを停止した。ある輸入業者は、6月9日にイスラエル軍のガザへの物資搬入調整官から、商業貨物は「追って通知があるまで保留」だとするテキストメッセージを受け取ったという。

6月15日に始まるイスラム教の祝祭日の連休の頃には、商業トラックの通行が再開したという。

賄賂と護衛
ようやくガザに搬入された食料は別のトラックに積み替えられ、地元のドライバーによって域内の小売商に届けられるという。

そこは、戦闘地域だ。
ラファ攻撃開始以前は比較的安全と思われていたラファや南部の街ハンユニスの道路は、今では攻撃されやすい場所として知られている。

援助関係者3人はトラックの略奪は日常茶飯事だと言い、輸入業者のハムダさんは、ラファ侵攻前に比べて、略奪されるトラックの数は約6倍になったと推定している。

ハムダさんによれば、肉や新鮮な果物といった希少な食品を積んだトラックが狙われることもある。他の多くの場合、食品に紛れこませてタバコの密輸を手配したギャングに襲われている。
あるガザの商人は、スイカをくりぬいた中にタバコを隠して密輸している写真を共有したが、ロイターはその真偽を確認できなかった。

イスラエルが継続中の軍事作戦も、食料輸送の妨げとなっている
ある貿易商は、トラックがガザ内にいる間、リアルタイムで連絡できる軍関係者がいないと話した。戦闘や砲撃によって道路が閉鎖されている場合、安全な代替手段を見つけることも、仲間のドライバーにその情報を伝えることもできないという。携帯電話は圏外になることが多いためだ。

3人の貿易商は、広いコネを持ちイスラエル軍とも定期的に連絡を取るガザの商人に先月からカネを払い、貨物の搬入と目的地までのトラックの保護を得るようになったという。

3人はこの商人の名前は明かさなかったが、商品を安全に目的地まで運ぶのに、このサービスだけで1万4000ドルもかかるという。

輸入業者の一人であるアブ・モハメッドさんは、積み荷をいくらで売ることができるか、再計算しなければならなかったと語った。

「輸送費を補うために値上げすれば、数百ドルの儲けかもしれない。もしかしたら、収支が合うかもしれない。でもすべてを失うリスクもある。もし荷物が襲われたら、私の払ったカネは無駄になってしまう」【7月9日 Newsweek】
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全体像はわかりませんが、国際人道支援以外に、こういう商業用の「地獄の配送業」などもあって、ガザ地区210万人の命がつながっているのでしょう。
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イスラエル 政府と軍の間、政権内部で対立・混乱 人質解放優先を求める声も

2024-06-17 23:13:12 | パレスチナ

(イスラエル・テルアビブで15日に行われた反政府デモには、人質の家族など数千人が参加しました。【6月16日 ANNニュース】)

【犠牲祭 「今は、自分たちを犠牲として捧げている」】
パレスチナ・ガザ地区の状況は相変わらず。アメリカなどが仲介する停戦交渉の進展は伝えられていません。

****ガザで犠牲祭始まる 家畜なく「今は自分たちを犠牲として捧げている」****
戦闘の続くガザ地区でも、イスラム教の重要な宗教行事、「犠牲祭」が始まりました。ただ今年は避難生活が続くなか、捧げる家畜もないため、お祝いムードはありません。

他のイスラム諸国と同じく、ガザ地区でも16日から「犠牲祭」の期間に入り、南部ハンユニスでは朝から多くの人が集まり祈りを捧げました。

例年ですと、牛や羊が生贄(いけにえ)として捧げられ、肉を貧しい人々へ分け与えるのが習わしですが、今年は戦闘が続くなか捧げる家畜がなく、人々の表情にもお祝いムードはありません。

礼拝に参加した男性は「捧げるべき動物もありません。今は、自分たちを犠牲として捧げている」と語りました。

地元の保健当局によると、ガザ地区では16日までに3万7337人の死亡が確認されています。【6月17日 テレ朝news】
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【イスラエル軍 人道物資搬入のため地域限定で軍事活動停止】
そうした状況で、少しでもましなニュースも。
イスラエル軍は16日、当面、毎日午前8時から午後7時までの11時間、ガザとの境界にあるケレム・シャローム検問所から北部へ通じる幹線道路沿いの地域で軍事活動を停止すると発表しました。

****イスラエル、ガザ南部で軍事活動停止発表 国際批判受け日中に毎日、物資搬入増目指す****
イスラム原理主義組織ハマスと戦うイスラエル軍は16日、支援物資の搬入増量のため、パレスチナ自治区ガザ南部の一部で日中の軍事活動を一時停止すると発表した。

南部にはエジプトと境界を接する物資供給の拠点ラファがあるが、イスラエル軍が5月初めに攻撃を開始して搬入が滞り、国連などが批判していた。

AP通信によると、軍は現地時間午前8時から午後7時までを「戦術的な一時停止」の時間帯とし、毎日の軍事活動を控える。物資搬入のため、イスラエルが管理するケレムシャローム検問所からガザ南部を経由し、北部に向かう主要道の安全を確保するとした。(後略)【6月16日 産経】
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【政府と軍で食い違い ネタニヤフ首相「受け入れられない」】
ところが、この軍の一部軍事活動停止措置について、ネタニヤフ首相は「聞いてないよ!」「受け入れられない」って。 そんなことがあるのでしょうか。

****政府と軍で食い違い=ガザ南部の軍事活動停止―イスラエル*****
イスラエル軍が16日、イスラム組織ハマスと交戦するパレスチナ自治区ガザへの支援物資を増やすため、ガザ南部の主要道路沿いの一部区間で毎日時間を決めて軍事作戦を停止すると発表したことを巡り、イスラエル政府と軍の間で食い違いが生じている。政府は決定を知らなかったと主張し、軍は通知したと強調している。(中略)

イスラエルのメディアは情報筋の話として、ガラント国防相が今回の決定を知らず、政府としても承認していないと報じた。ネタニヤフ首相も、活動の一時停止は「受け入れられない」と反発したとされる。【6月17日 時事】 
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ネタニヤフ首相は「受け入れられない」などと述べ、批判したとのことですが、現時点で決定は取り消されていないとのことです。

本当に聞いていなかったのか、妥協・軟化を拒否する極右勢力への配慮から「知らなかった」ことにしているのか・・・・

もし、本当に知らなかったということなら、軍の文民統制の一大事です。今回と逆のケース、政府は停戦を指示するも、軍が「聞いていない」と戦闘を継続するような事態もあり得ます。

なお、今回の軍事活動停止はあくまでも地域を限定したものです。

****イスラエル、軍事活動の一時停止中も「ラファでの戦闘は継続」…人道支援物資搬入****
イスラエル軍報道官は16日、パレスチナ自治区ガザの情勢について「ラファでの戦闘は続いている」とX(旧ツイッター)に投稿した。

これに先立ち、軍は人道支援物資の搬入拡大のために南部の幹線道路沿いでの軍事活動の一時停止を発表したが、対象外の場所や時間帯での戦闘を排除しない考えを示したとみられる。
 
軍報道官は戦闘の一時停止について、物資の輸送目的に限り、国際機関との連携の下で日中に行われると強調した。軍は毎日午前8時〜午後7時、幹線道路沿いでの戦闘を一時停止すると発表していた。
 
米紙ニューヨーク・タイムズによると、国連人道問題調整事務所(OCHA)報道官は軍の発表を歓迎したものの、「壊滅的な飢餓の解消には、ガザ全域に援助を安全に届けることが重要だ」と指摘した。
 
イスラエル軍が5月上旬にガザへの物資搬入ルートのラファ検問所を制圧して閉鎖して以降、ガザに入る物資は大幅に減少した。AP通信によると、国連は4月に1日平均トラック168台分の物資を受け取っていたが、5月6日からの1か月では1日68台分となった。ガザへの支援物資は、最低でも1日500台分が必要とされている。【6月17日 読売】
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【戦時内閣解散】
軍と政府の間はギクシャクしていますが、政権内部も。

****イスラエル戦時内閣が解散 戦闘継続、極右の発言力増か****
イスラエルのメディアは17日、ネタニヤフ首相が16日の会合で戦時内閣を解散することを明らかにしたと報じた。

連立内閣は維持し、パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘を継続するとみられる。戦時内閣の解散で対パレスチナ強硬派の極右勢力の発言力が増す可能性がある。
 
戦時内閣で一定の歯止め役を担ってきたガンツ前国防相が9日、辞任を表明していた。
 
連立内閣に参加する極右2政党はハマスとの停戦案合意に反対している。そのうち極右「ユダヤの力」党首ベングビール国家治安相は9日夜、ガンツ氏の後任として自身を戦時内閣に加えるよう要求した。【6月17日 共同】
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戦時内閣は、連立内閣の外につくられたもので、ネタニヤフ氏、ガラント国防相、中道右派野党のガンツ前国防相らで少人数で議論し、対ハマスの重要方針を決める場として機能してきました。

戦時内閣解散の目的については、以下のような見方も。

****イスラエルが戦時内閣を解散 極右閣僚の参加阻止が狙いか****
イスラエルのメディアは17日、同国のネタニヤフ首相が戦時内閣を解散したと報じた。戦時内閣への参加を要求していた極右政党所属の閣僚の参加阻止が狙いとみられる。

戦時内閣を巡っては、中道政党の党首で元軍参謀総長のガンツ前国防相が9日に離脱を表明し、既に機能不全に陥っていた。【6月17日 毎日】
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ネタニヤフ首相もこうでもしないと強硬論の極右勢力を抑えきれないということでしょうか。

【人質解放を軍事作戦より優先させるべきとの世論も】
世論も、軍事作戦と人質解放のどちらを優先させるかで割れています。

****イスラエルで大規模な反政府デモ 数千人が参加 人質解放と総選挙の実施求める****
AP通信などによりますと、イスラエル・テルアビブで15日に行われた反政府デモには、イスラム組織ハマスに拘束されている人質の家族など数千人が参加しました。
 
早期の人質の解放を求めているデモの参加者は、政府のハマスへの対応を批判しました。また、ネタニヤフ首相の退陣と早期の総選挙の実施も要求しています。このデモの数時間前にはガザ地区ラファで装甲車が爆発し、イスラエル兵8人の死亡が発表されました。

現地メディアは、2024年1月に建物の爆発でイスラエル兵21人が死亡して以降、ガザでの1回の攻撃の死者数としては最も多かったと伝えています。【6月16日 ANNニュース】
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****イスラエル国民の56%、軍事作戦より人質解放が最優先 世論調査****
パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘に関連しイスラエルのユダヤ系国民の56%がガザで捕らわれている人質の解放のための合意成立がガザ最南部ラファ市での軍事作戦より優先すべき課題と受け止めていることが世論調査で9日までにわかった。

ラファへの地上攻撃がより大事としたのは37%だった。

今回の世論調査は同国のシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」(IDI)が実施。ラファでの軍事作戦と人質解放の合意達成のどちらが国家的利益の面で最優先課題かを二者択一の方式で問うた。(後略)【5月9日 CNN】
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これまで、対パレスチナ・アラブでは一枚岩とも見られていたイスラエル国内ですが、今回は相当に大きな亀裂・混乱が見られます。
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パレスチナ  アメリカ主導の停戦案に当事者の「前向き」報道はあったものの、溝は未だ埋まらず

2024-06-12 19:45:32 | パレスチナ
(ブリンケン米国務長官とネタニヤフ首相【6月11日 NHK】)

ハマス 民間人の犠牲拡大はハマスに有利 「犠牲は必要」】
6月9日ブログ“イスラエルの人質救出作戦で多大な住民犠牲 バイデン大統領の言う「レッドライン」は?”で、イスラエル軍の人質救出作戦でガザ保健当局は274人のパレスチナ住民が犠牲になったとしている件について取り上げました。

****ガザの死者274人に イスラエルの人質奪還作戦、EUは「虐殺」と非難****
イスラエル軍が8日、パレスチナ自治区ガザ中部でイスラム原理主義組織ハマスに拘束されていた人質4人を救出した作戦を巡り、ガザ保健当局は9日、死亡した住民らが274人に上ったと発表した。

英BBC放送(電子版)によると、イスラエル軍は作戦に伴う住民らの死者数は100人以下だと推計していた。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表が「民間人虐殺の報道にがくぜんとする」とX(旧ツイッター)に書き込むなど、犠牲の大きさに批判が出ている。

米国務省によると、ブリンケン国務長官は今週、エジプトとイスラエル、ヨルダンとカタールを訪問する。イスラエルが米国に提案したとされる新たな停戦案を軸に、イスラエルとハマスに停戦受け入れを求めるとみられるが、影響は避けられないもようだ。【6月10日 産経】
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この「虐殺」を無視して、「非常に感動的な日だ」「全員帰還までどんな手段でも使う」と作戦成功を誇るネタニヤフ首相、「レッドライン」に相当しないのか明らかにしないアメリカ・バイデン大統領に対して怒りを感じますが、一方でハマスはこうした住民犠牲を交渉を有利に運ぶために「必要だ」としているとか。

十分に想像できる話ではありますが、誰も住民の命など気にしていないというのが現実のようです。 

****民間人の犠牲拡大はハマスに有利 ガザ指導者が伝達と米紙報道****
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は10日、イスラム組織ハマスのパレスチナ自治区ガザのトップ、シンワール指導者が、イスラエル軍の攻撃による民間人の犠牲拡大はハマスに有利に働くとの考えをガザ地区外の幹部らに伝えていたと報じた。イスラエルとの間接交渉で妥協せず強硬姿勢を維持するよう要請したという。ハマスは恒久停戦を求めている。

同紙が入手したシンワール指導者のメッセージには、民間人の犠牲は「必要だ」と書き込まれていた。犠牲者の増加で国際社会の批判が高まり「失うものはイスラエルの方が大きい」と分析しているとみられる。

ガザ保健当局によると、昨年10月の戦闘開始後のガザ側死者は3万7千人超。うち約7割は女性や子どもとされている。

一方、イスラエル軍は11日、ガザ最南部ラファなど各地でハマス掃討作戦を続け、上空から武器保管庫など35ほどの攻撃目標を破壊したと発表した。パレスチナ通信は、北部ガザ市で軍の空爆を受けて壊れた住宅から多数の民間人の遺体が見つかったと報じた。【6月11日 共同】
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【国連安全保障理事会でアメリカ主導の新停戦案受け入れを求める決議】
冒頭記事では停戦交渉に“影響は避けられないもようだ”とありますが、何事もなかったように・・・

****国連安全保障理事会でアメリカ主導の新停戦案受け入れを求める決議 14か国が賛成 ロシアは棄権****
パレスチナ自治区ガザで続く戦闘をめぐり、国連安全保障理事会は、アメリカが主導した新たな停戦案の受け入れをイスラエルとイスラム組織「ハマス」の双方に求める決議を採択しました。

国連安保理で採択された決議はアメリカが主導したもので、イスラエルとハマスに対しバイデン大統領が公表した新たな停戦案を受け入れ、速やかに履行するよう求めています。

採決では15の理事国のうち日本を含む14か国が賛成、ロシアは棄権しました。

アメリカの国連大使は…
アメリカ国連大使 トーマスグリーンフィールド氏 「イスラエルはすでに同意していて、ハマス次第で今日にも停戦できる」

ロイター通信などによりますと、ハマスは決議の採択を歓迎する声明を発表。「仲介国と協力する用意がある」との考えを示しているということです。

こうしたなか、中東を歴訪しているアメリカのブリンケン国務長官は仲介国のひとつ、エジプトでシシ大統領と会談。中東地域の指導者がハマスに圧力をかけるべきだと訴えました。

アメリカ ブリンケン国務長官 「ガザのパレスチナ人のひどい苦しみを和らげたいのであれば、ハマスが(新停戦案に)賛成するように圧力をかけてほしい」

この後、ブリンケン長官はイスラエルを訪れネタニヤフ首相とも協議し、新たな停戦案が「イスラエルの平穏と地域諸国とのさらなる調和の可能性を開く」などと伝えました。

一方、アメリカNBCテレビはイスラエルとハマスの間接交渉が不調に終わった場合、バイデン政権がハマスとの単独での交渉を検討していると報じました。

5人のアメリカ人の人質の解放について、イスラエルを関与させずに仲介国のカタールを通じハマスと話し合う案だとしています。【6月11日 TBS NEWS DIG】
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【ハマスは決議を「歓迎」、合意に「前向き」 ネタニヤフ首相も停戦案支持・・・とも報じられていたが・・・・結局はハマス・イスラエルの溝は埋まっておらず】
紛争当事者のハマスとイスラム聖戦、更に停戦後に主体となるパレスチナ自治政府は、アメリカ主導の停戦案を支持する国連安全保障理事会の決議を歓迎する声明を発表しています。

****国連安保理のガザ停戦決議、ハマスとパレスチナ自治政府が歓迎*****
イスラム組織ハマスとイスラム聖戦、パレスチナ自治政府は、パレスチナ自治区ガザにおける停戦案を支持する国連安全保障理事会の決議を歓迎する声明を発表した。

ハマスは10日、履行を巡り仲介者と協力する用意があると表明。「ガザでの恒久的停戦、完全撤退、拘束者交換、復興、避難民の居住地への帰還、ガザ地区の人口構成変更やエリア縮小の拒否、住民への援助提供を支持する安保理決議の内容を歓迎する」とした。

イスラム聖戦は11日、「包括的な敵対行為停止とイスラエル軍の完全撤退に扉を開くという点」をはじめ、決議に盛り込まれた内容を「前向き」に見ていると表明した。

パレスチナ自治政府のアッバス議長も、ガザでの即時停戦を求め、パレスチナの土地の一体性を維持するいかなる決議も支持するとして歓迎した。【6月11日 ロイター】
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本当に「イスラエルはすでに同意している」、ハマスとイスラム聖戦も停戦案を歓迎・・・・ということであれば、「今日にも停戦できる」(アメリカ国連大使)ということになりますが、実際は表向きの発言、あるいは停戦案を進めたいアメリカの解釈・発言と当事者ハマス・イスラエルの本音・発言にはかなり差があります。

ハマスもイスラエルも、今の時点で停戦交渉決裂の責任を負わされたくないので、表向きは“前向き発言”をしている面もあるようです。

しかし、「恒久停戦」を求めるハマスに対し、あくまでもハマス壊滅・戦闘継続を主張するイスラエルの間の溝はそう簡単に埋まるものでもないようです。

****ハマスとイスラエル、停戦交渉進むか 強い相互不信 安保理決議*****
パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、国連安全保障理事会が10日、停戦案の受け入れを求める決議案を採択した。ただイスラム組織ハマスとイスラエルの相互不信には根深いものがあり、停戦に向けた具体的な交渉に進むかが焦点となる。
 ハマスは一貫して「恒久的な停戦」を求めてきた。バイデン米大統領が5月末に発表した新たな停戦案は、第1段階の休戦中に人質の一部を解放した後、第2段階で「恒久的な敵対関係の解消」を実現するとしており、内容的にはハマスの要求に近い。

ただ、ハマスはイスラエルの「合意破り」を警戒して交渉には慎重で、停戦した場合の実効性を担保するよう要求。これに対してブリンケン米国務長官は10日、訪問先のエジプトで「ハマスが承諾するよう圧力をかけてほしい」と中東諸国に呼びかけた。

今回、米国の和平案が安保理で追認されたのはハマスにとっても追い風で、受け入れを決めて交渉の席に着くかが注目される。

一方、イスラエル側も交渉に臨む姿勢はあいまいだ。
ネタニヤフ政権内でも、極右閣僚から停戦案に批判的な声が上がっていた。さらに9日には「穏健派」とされるガンツ前国防相が戦後統治を巡りネタニヤフ首相と対立し、戦時内閣からの離脱を表明した。

今回の停戦案はイスラエルの戦時内閣が承認しており、バイデン氏も「イスラエルの提案」だとして発表したが、ネタニヤフ氏はその後も「ハマス壊滅」を繰り返し強調。交渉に応じるとしつつも、ガザ地区での軍事作戦を激化させている。

ただイスラエルとしても後ろ盾の米国が提案した今回の安保理決議は軽視できず、一定の外交的圧力になる。

またイスラエル軍が8日にガザ地区で人質4人の奪還作戦を行った際、ガザ側では空爆などにより女性や子供を含む270人以上が死亡したとされ、イスラエルへの国際的な非難はさらに高まっている。

ブリンケン氏は10日、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ氏と停戦案について協議した。会談では、イスラエルが提案したとされる停戦案を支持することを強調。米国がイスラエルの安全保障に関与することも約束した。その上で、バイデン米政権が繰り返し求めているガザ地区での戦後統治の計画の重要性も訴えており、イスラエルがどこまで納得するかも焦点となる。【6月11日 毎日】
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“イスラエルが提案したとされる停戦案”というのも、アメリカがネタニヤフ首相の同意なしに公表したものとか。
ブリンケン米国務長官はネタニヤフ氏と10日にエルサレムで会談し、ネタニヤフ首相は、停戦案支持を明言したとい言っていますが、はなはだ怪しい。

****バイデン大統領のガザ停戦案、ネタニヤフ首相は認識に「違いがある」と主張…合意の有無には触れず****
(中略)決議を提出した米国はイスラエルが既に停戦案に合意したと説明したが、イスラエル側は沈黙しており、停戦案の実現は見通せない状況だ。

 停戦案は、〈1〉即時停戦や人口密集地からのイスラエル軍撤退〈2〉全ての人質解放や恒久的な敵対行為の停止〈3〉ガザ再建――の3段階で構成され、先進7か国(G7)やアラブ諸国が支持している。決議には、イスラエルは「停戦案を受け入れている」として「ハマスも承認するよう要求する」と明記された。採決では15理事国のうちロシアだけが棄権し、14か国が賛成した。

しかし、イスラエル国内では停戦案を巡り、連立政権に加わる極右政党を中心に強い反発が出ている。地元メディアによると、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は3日、米国との間で停戦案に関する認識に「違いがある」と主張し、9日の声明では「全人質の解放とハマス壊滅の目標を達成するまで戦い続ける」と改めて強調した。この日の安保理会合で、イスラエルの代表者は停戦案の合意の有無に触れなかった。

一方、ハマスは10日、安保理決議の採択を「歓迎する」との声明を出し、停戦交渉について「仲介国に協力する用意がある」と表明した。

米国のブリンケン国務長官は10日、訪問先のエルサレムでネタニヤフ氏らと会談し、停戦案について協議した。ブリンケン氏は11日、「ネタニヤフ氏は(停戦)案を責任を持って引き受けると再び確約した」と記者団に述べた。【6月11日 読売】
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ハマスの方も“ハマスがイスラエルの停戦案に回答 「合意へ前向きに対処」”【6月12日 毎日】といった前向き記事が報じられていましたが、時間がたつにつれてネガティブな情報が増え、結局のところは・・・・

*****停戦案“ハマス側が事実上拒否” イスラエル報道****
イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦案をめぐりイスラエルのメディアはハマス側が事実上拒否したと報じました。停戦交渉をめぐる双方の溝は埋まっていないとみられます。

ガザ地区での戦闘終結にむけた新たな停戦案についてハマス側は11日、声明を発表し、仲介国のカタールなどに正式な回答を伝えたと明らかにしました。

この回答についてロイター通信は、「ハマスがイスラエル軍の撤退に向けた新たなタイムラインを提示し恒久的な停戦を求めた」と伝えています。

そのうえでハマスの幹部は声明で合意にむけての道は開かれているとの考えを示したということです。

一方でイスラエルのメディアは当局者の話として「回答を受け取ったがハマスは交渉条件の重要な部分を変更し、事実上、拒否する内容だ」と伝えています。

双方の溝は埋まっていないとみられ停戦交渉の先行きは依然不透明な情勢です。【6月12日 日テレNEWS】
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*****ハマス、「侵略の完全停止」要求 新停戦案に回答****
イスラム組織ハマスとイスラム聖戦は11日、共同声明を発表し、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘をめぐるイスラエルの停戦案に回答し、同国による「攻撃の完全停止」を求めたことを明らかにした。
 
声明は、「回答はパレスチナ人の利益を優先し、ガザで続いている攻撃の完全停止の必要性を強調している」とする一方で、「戦争終結に向けた合意に前向きに取り組む」用意があるとしている。
 
休戦交渉を仲介していたカタールとエジプトは同日夜、回答を受理したことを確認。合意に達するまで米国とともに仲介を続ける意向を示した。
 
交渉に詳しい情報筋はAFPに、「回答には恒久停戦への行程表やガザからのイスラエル部隊の完全撤収に関し、イスラエル案を修正する項目が含まれている」と語った。
 
米ホワイトハウスのジョン・カービー大統領補佐官もこの日、ハマスとイスラム聖戦の回答を受け取ったとし、「精査中だ」と述べた。
 
国連安全保障理事会は10日、ジョー・バイデン米大統領が先月公表した、6週間の停戦や、人質と拘束されているパレスチナ人の交換などを含む新提案に支持を表明するとともに、米国が起草したガザ停戦を求める決議案を採択した。 【6月12日 AFP】
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結局のところ、「恒久停戦」を求めるハマスと「ハマス壊滅」をおろさないイスラエルの間の溝は全然埋まっていないように見えます。

いかにも期待をもたせるようなブリンケン米国務長官の発言やハマスの「前向き」発言などで、「ひょっとしたら、停戦交渉が動くのかな・・・」とも期待して今回話題を取り上げたのですが、あまり期待しない方がいいみたいです。
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イスラエルの人質救出作戦で多大な住民犠牲 バイデン大統領の言う「レッドライン」は?

2024-06-09 22:38:16 | パレスチナ

(【6月9日 HUFFPOST】 6月8日 ホワイトハウス周辺で行われたイスラエルへの抗議デモ 参加者たちは「バイデン、あなたは隠れることはできない。私たちはあなたを大量虐殺で告発する」などと声を上げた。)

【多大な住民犠牲も、ネタニヤフ首相「非常に感動的な日だ」「全員帰還までどんな手段でも使う」 人質救出に歓喜する国民】
周知のようにイスラエルはガザ地区で大規模な人質救出作戦を行い4人を救出しました。
しかし、一方で多数(ハマス側の数字では210人、あるいはそれ以上)のパレスチナ人住民に死者が出ています。

****イスラエル人質救出作戦 激しい銃撃戦 空爆で住民に多数死者か****
イスラエル軍はガザ地区の中部で人質4人を救出した作戦について数週間にわたって入念に準備を重ねた上で実施されたとしていますが、ハマス側と激しい銃撃戦となり空爆なども行ったことで、住民に多数の死者が出たとみられています。

ハマス側は反発を強めていて、停戦や人質解放に向けた交渉にも影響を与える可能性があります。

イスラエル軍は、8日にガザ地区中部で行われた女性1人と男性3人の合わせて4人の人質を救出した作戦について情報機関が人質の居場所を突き止め、特殊部隊などが数週間にわたって入念に準備を重ねた上で実施されたとしています。

作戦は午前11時に開始され、女性が拘束されている建物と男性たちがいる別の建物を同時に襲撃したということです。

アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、夜間ではなく、あえて日中に作戦を開始したのは、ハマス側の隙を突くためだったと伝えています。

イスラエルの有力メディアハーレツによりますと、女性の救出は比較的順調に進んだものの、男性3人を救出する際に、ハマスの戦闘員と激しい銃撃戦となり、空軍の支援も受けて周囲に空爆も加えながら人質を脱出させたということです。

イスラエル軍は、作戦によるパレスチナ人の死者は100人以下だとしていますが、ハマス側は住民210人が死亡したと主張し、反発を強めていて、停戦や人質解放に向けた交渉にも影響を与える可能性があります。

ガザ地区の保健当局は、今回の人質救出作戦が行われる前の時点でこれまでに3万6654人が死亡したとしていて、交渉に進展が見られない中、住民の犠牲が増え続けています。【6月9日 NHK】
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仮にイスラエル側の言うように“100人以下”であったとしても、多大な犠牲であることには変わりありません。
ガザ保健当局は、死亡した住民らは274人、負傷者は698人としています。

イスラエル・ネタニヤフ首相は「(人質の)全員帰還までどんな手段でも使う」とも。

****ガザ人質奪還で274人死亡 ハマス「残虐な犯罪」非難****
パレスチナ自治区ガザ中部ヌセイラトでイスラエル軍が8日に実施した人質4人の奪還作戦で、ガザ保健当局は9日、死亡した住民らが274人に上ったと発表した。負傷者は698人。

イスラム組織ハマスは8日の声明で残虐な犯罪行為だと非難した。イスラエルのネタニヤフ首相は記者会見し、ハマスが人質解放に応じなければ「全員帰還までどんな手段でも使う」と述べ、軍事作戦の継続を主張した。

ガザ保健当局は9日、昨年10月の戦闘開始後のガザ側死者は3万7084人になったと発表した。

ハマスは声明で「イスラエルが犯した罪を問うよう国際社会に求める」とし、多くの人質を依然拘束しているとして対抗する姿勢を示した。

イスラエルとハマスを仲介するエジプトは「最も強い言葉で非難する」との声明を発表。ヨルダンも「戦争犯罪」だとし、アラブ諸国にイスラエルへの反発が広がった。

イスラエルメディアによると、救出された人質4人は200メートルほど離れた二つの民家で拘束。軍は周囲に多数の民間人がいる中で奪還作戦を実行した。【6月9日 共同】
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“ネタニヤフ首相は「非常に感動的な日だ」とし、人質全員の解放に向け今後も尽力していくと強調しています。”とも。【6月9日TBS NEWS DIG】
人質の家族会は救出について「奇跡の勝利」「英雄的な作戦」とたたえています。

*****イスラエル軍、ガザで人質男女4人救出 家族会「英雄的な作戦」とたたえる*****
イスラエル軍は8日、パレスチナ自治区ガザ中部ヌセイラトで、イスラム原理主義組織ハマスに拘束されていた人質4人を救出したと発表した。軍が作戦で人質を救出するのは2月以来で、救出者は計7人になった。

ロイター通信によると、救出されたのは昨年10月7日にガザ境界付近の野外コンサート会場から連れ去られた20代の女性1人と20代〜40代の男性3人。いずれも健康状態に問題はないとみられる。

大統領府が公開した映像では、ヘルツォグ大統領からの電話に救出された人質の女性ノア・アルガマニさんが「ここにいられて、とても幸せです。ありがとうございます」と笑顔で答えた。人質の家族会は救出について「奇跡の勝利」「英雄的な作戦」とたたえた。(後略)【6月8日 産経】
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人質の家族だけでなく、TVニュースによればイスラエル一般国民も歓喜に湧いており、街はお祭りのような雰囲気も。

公平を期すために言えば、ハマスがイスラエルを急襲して多数のイスラエル人を殺害し、人質を連れ去った際にも、ガザ地区では同様の歓喜・お祭り騒ぎがありました。

しかし、部外者の目で見ると、4人の人質救出のために200人以上の住民犠牲者というのは、あまりにもバランスを欠いているように思えます。

現在のガザ地区の状況は、ハマスによる急襲によって始まった訳ではなく、双方の相手側への憎しみ、共感の欠如が長年続く中で生まれてきたものでしょう。

【国連 イスラエル軍が拘束したパレスチナ人に暴行 拷問との報告書 児童への暴力犯罪者リストにも】
イスラエル側の対応については、国連はイスラエル当局が拘束したパレスチナ人に対し暴行や拷問を行っているなどとする報告書を公表しています。

****“イスラエル 拘束したパレスチナ人に暴行 拷問”国連など報告****
イスラエル軍はガザ地区での軍事作戦を続ける一方で、ハマスとの関連を調べるためなどとして、これまでに数多くのパレスチナ人を拘束しています。地元の人権団体によりますと、イスラエルとハマスの戦闘が始まった去年10月7日以降、ガザ地区ではこれまでに推定で4000人、ヨルダン川西岸では、9000人以上のパレスチナ人が拘束されたということです。

これについて国連などは先月釈放された人たちや医療関係者の証言などから、イスラエル当局が拘束したパレスチナ人に対し暴行や拷問を行っているなどとする報告書を公表しました。

報告書では拘束された人たちが、外部から隔離され、非人道的な状況に置かれているとしたうえで性的な暴行や激しい殴打、さらに犬にけしかけられる脅迫や水責めなどを受けていると指摘しています。

国連はパレスチナの人々に対する暴行や拷問などについて、徹底的な調査と再発防止のための措置を求めています。

左足を負傷 切断を余儀なくされた拘束者も
イスラエルの人権団体によりますと、ガザ地区ではこれまでに推計で4000人が一時、拘束され、今も一部の人が施設で拘束されたままだということですが、詳しい状況は明らかになっていません。

ガザ地区南部のハンユニスに住むソフィアン・アブサラさんは、ことし2月から2か月近くにわたりイスラエル軍に拘束されました。

家族6人で暮らしていたアブサラさんは、イスラエル軍の地上侵攻でハンユニスの自宅を追われ、たどりついた先の避難所の学校にもイスラエル軍が侵攻し、ほかの住民とともに拘束されたといいます。

そして両手を縛られ目隠しをされ、トラックの荷台に乗せられてイスラエル国内にあるとみられる施設に送られました。

その際にイスラエル軍の兵士から棒や銃で殴られたり、蹴られたりといった暴行を受けたということで、アブサラさんは左足に傷を負いました。

当時の状況についてアブサラさんは「兵士たちは私たちを銃や棒で殴ったり、蹴ったりし、拘束されている中で最悪の時間でした。私は足にけがを負いましたが、トラックに4時間も乗せられ、足の感覚もなくなっていたので、その時はけがに気付きませんでした」と話していました。

拘束された施設でもアブサラさんは毎日のように暴行を受けたということで、劣悪な衛生環境で左足の傷は化のうし、次第に腫れていったといいます。

アブサラさんは薬を求めましたが、受け入れられず、けがをしている足を棒で殴られたこともあったということです。

症状を訴え続け、ようやく病院に運ばれた時には治療するには手遅れで、左足を切断することを余儀なくされました。

アブサラさんは「命のためには足の切断を選択しなければならないと医師は言いました。私は孤独で家族もいない中で、とても難しい決断を迫られました」と話していました。

アブサラさんは15年以上タクシーの運転手として働き、政治とは無縁でハマスとの関わりがないことを訴えて釈放されましたが、ハンユニスの自宅は破壊され、いまはテントでの生活を強いられています。

アブサラさんは「足を失ってから家族の面倒を見ることも食料や水を探しに行くこともできません。すべてが180度変わり、状況は本当に悪くなりました」と訴えていました。

イスラエル軍は収容施設の状況についてNHKの取材に対し「施設では1日に1回、健康状態を確認し、必要であれば十分な医療を提供している。イスラエルの法律と国際法に従っている」とコメントしています。

拘束問題 ヨルダン川西岸のパレスチナでも急増
イスラエル当局によるパレスチナ人の拘束はヨルダン川西岸のパレスチナでも急増していて、地元の人権団体によりますと去年10月以降だけで9000人以上のパレスチナ人が拘束されたということです。(中略)

パレスチナ人の拘束をめぐってはイスラエル国内でも問題視する声があがっていて、イスラエルの人権団体は問題が指摘されている複数の施設のうち1か所の閉鎖などを求めて最高裁判所に訴えを起こしています。

訴えを起こした人権団体の1つで法務部門を担当するダニエル・シェンハルさんは「10月7日以降の刑務所の状況は深刻で非常に悪いです。人々をこのような非人道的な環境で拘束し、拷問することは許されません。イスラエル当局や軍が法を破っていることが問題で、その違法行為を止めるために私たちは活動しています」と話していました。【6月9日 NHK】
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また、国連事務総長は7日、イスラエル軍を児童に対する暴力を犯した犯罪者の国際リストに加えたことを明らかにし、イスラエル側は激しく反発しています。

****国連、イスラエルを児童への暴力犯罪者リストに イスラエル反発****
イスラエルのエルダン国連大使は、国連のグテレス事務総長がイスラエル軍を児童に対する暴力を犯した犯罪者の国際リストに加えたことを明らかにした上で、この決定を「恥ずべきこと」と批判した。ソーシャルメディアに動画を投稿した。

イスラエルのネタニヤフ首相は、国連は「イスラム組織ハマスを支持する側に加わったことで、歴史のブラックリストに載った」と非難。ただ外交筋によると、国連はハマスのほか、パレスチナ自治区ガザの過激派「イスラム聖戦」も同リストに掲載する予定。

エルダン氏は7日にこの決定に関する正式な通知を受けたと述べた。国連報道官も、グテレス事務総長の事務局が7日にエルダン氏に電話で通知したと確認した。

このリストは、14日に国連安全保障理事会に提出される予定の児童と武力紛争に関する報告書に含まれている。イスラエルのカッツ外相も、この決定はイスラエルと国連の関係に影響を与えるとの認識を示した。

エルダン氏は投稿した動画で「事務総長のこの恥ずべき決定に、私はショックを受けている」と述べた上で 「イスラエル軍は世界で最も道徳的な軍隊だ。この決定はテロリストを助け、ハマスに利益をもたらすだけだ」と強調した。【6月8日 ロイター】
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【高まるイスラエル批判のなかでネタニヤフ首相を超党派で議会に招くアメリカ】
イスラエルに対しては国際的に批判が高まっていますが、例外がアメリカ。
米議会は超党派でネタニヤフ首相を議会に招いています。

****ネタニヤフ氏、米議会での演説は来月24日に****
米議会指導部は6日、イスラエルのネタニヤフ首相が来月24日に上下両院合同会議で演説すると発表した。
ネタニヤフ氏には先月31日、共和党のジョンソン下院議長、民主党下院トップのジェフリーズ院内総務、民主党上院トップのシューマー院内総務、共和党上院トップのマコネル院内総務が連名で書簡を送付し、合同会議に招いていた。(中略)

訪米の日程にホワイトハウスでの首脳会談が含まれているかどうかは明らかでない。
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が続くなか、バイデン氏とネタニヤフ氏の間では戦闘の行方やガザの人道状況をめぐって不協和音が生じている。

米議会では4月にウクライナやイスラエルを支援するための法案が可決されたものの、民主党内部ではイスラエルの対応をめぐって意見の対立が続く。一部の民主党議員は、ネタニヤフ氏の演説をボイコットする構えを示している。【6月7日 ロイター】
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【バイデン大統領の「レッドライン」はどこにあるのか?】
バイデン大統領は、米国内の若者らにおけるイスラエル批判の高まりといった状況での大統領選挙対策もあって、ネタニヤフ首相の頑な姿勢には苛立っているとも報じられており、また、イスラエルへの武器供給の停止を判断する「レッドライン」にも言及してはいますが、伝統的な「イスラエル支持」の大枠からは抜けだしてはいません。

今回の人質救出作戦についても、“アメリカのバイデン大統領は「人質が救出されたことについて歓迎する」とコメントしました”【6月9日 TBS NEWS DIG】とのこと。

知りたいのは、多大な住民犠牲者が出たことを踏まえてどのように評価するのか・・・ということですが、今現在はその点に関する報道は目にしていません。

5月26日、ラファの避難民密集地気の学校へのイスラエル軍の空爆で、少なくとも45人が殺害され、数百人が負傷したと報じられている件でもホワイトハウスは「レッドライン」は越えていないとの認識を示しています。

国際社会が今のイスラエル・ネタニヤフ首相に何を言っても無駄ですが、唯一イスラエルを動かせるのがアメリカです。

200名超の住民が犠牲になっても「レッドライン」は越えていないのなら、「レッドライン」とは一体何なのか?

****「もうたくさんだ」殺害されたパレスチナ人たちの名前掲げて「レッドライン」引く。米ホワイトハウス前で大規模な抗議デモ****
ガザ攻撃を続けるイスラエルに軍事支援するバイデン政権に抗議する大規模なデモが現地時間の6月8日、米ワシントンのホワイトハウス周辺で行われた。

赤い服を着たデモ参加者たちはバイデン政権に対し、イスラエルへの全ての軍事援助を停止することや、即時停戦を要求。ホワイトハウスの周辺約1.6キロに輪をつくり、イスラエルの攻撃で殺害されたパレスチナ人たちの名前を書いた赤い横断幕などを広げた。

デモ団体が掲げた赤い布や横断幕は、米政府がイスラエルへの武器供給の停止を判断する「レッドライン(越えてはならない一線)」を想起させることを意図したものだ。

カービー米大統領補佐官は5月、イスラエル軍が同26日にガザ地区南部ラファを空爆したものの、「レッドライン」は越えていないとの認識を示した。この空爆で、少なくとも45人が殺害され、数百人が負傷したと報じられている。
デモ参加者のプラカードには、「バイデンのレッドラインは嘘だ!」と書かれたものもあった。

デモを呼びかけた団体のメンバーは、「イスラエルによるガザでのジェノサイドに対し、バイデンが引かないレッドラインを引くのがデモの狙い。私たち市民が今日一線を引いて、もうたくさんだと示すのです」と述べている。

ホワイトハウス近くのラファイエット広場にある複数の像は、スプレーでペイントされたり、「ガザを解放しろ」と書かれたりした。

抗議活動は警察も出動する事態となっている。ニューヨーク・タイムズによると、デモ参加者に対し、警察官が催涙スプレーを使用する場面もあったという。

バイデン氏本人は現在、フランスに滞在中でホワイトハウスにはいない。

ガザ保健当局の発表によると、2023年10月7日からの約8カ月間にガザ地区では3万6000人以上が殺害された。6月6日には、ガザ地区で国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営する学校がイスラエル軍により空爆され、子どもを含む40人が殺された。【6月9日 HUFFPOST】
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ネタニヤフ首相を議会に招くような政治情勢にあっては、バイデン大統領は「レッドライン超え」を認める訳にはいかないでしょう・・・しかしそれではアメリカの掲げる人道尊重はどこへ行くのか?
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