孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ヤンゴン環状線に乗って・・・・

2013-12-31 23:52:18 | ミャンマー

(ヤンゴン環状線車内 軍政時代は撮影は禁じられていましたが、今はうるさくないようです。多分・・・・)

ミャンマー・ヤンゴン2日目。

格安ホテル
宿泊ホテルはHninn Si Budget Innという、1泊2千円あまりの安宿。
民主化で世界中から人・金が流れ込んでミャンマーのホテル代は以前とは比べ物にならないほど高騰しています。

そのなかで、こんなに安いのはトイレ・シャワーが共用のため。
ただ、部屋のすぐ隣がトイレ・シャワー室で、部屋の中にあるのとあまり差はありません。
もちろん、他人が入ってくる・・・ということはありますが、まあ、男性なのであまり気にもなりません。

窓ナシの部屋ですが、エアコンはあります。ただし、TVがありません。(言葉はわからなくても、CMなど観ていると結構面白いものがあります。CMは庶民の憧れを表したものでもありますので)

どういう訳か、部屋の壁をパイプが通っており、ときどき水が流れる音がしますが、これも、別に水が噴出す訳でもないので。小川のせせらぎと思えば・・・

数年前にミャンマー中部のマンダレーを旅行した際には、電気が使える時間帯より、使えない時間帯の方が長いというひどい状態でしたが、今回はヤンゴンでは停電はありません。
首都ヤンゴンの特殊性でしょうか。それとも事態が改善したのでしょうか。

一応、ホテルの前には大きなジェネレーターは設置してありますが、多分、そのせいではなく、まともに通電しているのではないでしょうか。
もっとも、建物に引き込む電線はくもの巣を更にごちゃごちゃにしたようなすさまじい状態です。これで漏電とかしないのか不思議です。

驚いたのは、朝食を食べる場所。
昨日午後にチェックインした際、2階のフロントで「朝食は1階で」と言われたのですが、1階はアクセサリーか宝石を扱うような店舗で、「どこで食べるのだろうか?」と不思議に思っていました。

今朝、1階に下りてみると、店舗の商品が消え、朝食場に早変わりしていました。
朝はホテルのレストラン、昼からはアクセサリー店として使っているようです。
ただ、外から店の写真を撮ると「写真は撮らないで!」とのこと。営業許可かなんかで問題があるのでしょうか。

バターを塗ったトーストに蝿取り紙のように蝿がはりつくのは、ホテルのせいではありません。

ヤンゴン環状線
今日は、ヤンゴンの鉄道、環状線に乗ってみます。
中央駅までタクシーで。チケット売り場みたいなところで、「さてどうしたものか・・・」と迷っていると、英語の分かる人が向こうから話しかけてくれ、行き先の駅名の“インセイン”、更に環状線の意味の“ミョバッ・ヤター”と言うと、「こっちへこい」と構内へ案内してくれ、「7番線に行け」とのこと。
チケットも向こうのホームで買えるようです。

案ずるより産むがやすしではありますが、示された方向には陸橋はありません。
それはアジアでは普通のことですが(反対側には陸橋があったようです)、6番線あたりに列車が止まっており、線路を横切ろうにも、どうやれば7番線に行けるのかわかりません。

通りがかりの女性に訊くと、止まっている列車にいったん乗って、反対側に降りろ・・・とのこと。なるほど。

7番線ホームで「チケット!」と騒ぐと、ホームにあるオフィスを教えてくれました。
外国人は名前・国籍を記入して、外国人料金の1200チャット(約120円)。

環状線なのでヤンゴン近郊を一周しますが、3時間近くかかるようなので、約1時間ほどのインセインまで。
もう10分待てば、エアコン付きの列車があるとのことでしたが、自然空調の方がミャンマーらしいので、そちらを選択。

昔、マンダレーを案内してくれたガイドが、「ミャンマーの汽車は、馬のように飛び跳ね、亀のように走ります」と言っていましたが、そこまでひどくもありません。

特に、亀どころかなかなかスピーディーです。
9時40分発のはずが、36分には出発。各駅にも止まったかと思うとすぐに動き出すという具合で、ほとんど停車時間がありません。

全部ではありませんが、各駅には英語表記の駅名が記されたものが設置してありますので、どのあたりを走っているのかも大体わかります。

無事インセインに到着。ここで列車はしばらく止まり、車掌なども交代するようです。
ガイドブックを見ると、近郊にいくつか観光ポイントがあるようなので、サイカー(自転車にサイド席をつけた3輪車)で向かいます。

お正月準備で賑やかな大きなお寺、大理石の大仏、幸運を呼ぶ白い象(アルビノ)を飼育しているところなどを、サイカーと徒歩でまわります。

観光の内容は、別途旅行記サイトにアップします。

バスを無賃乗車
帰りはタクシーでなく、バスでと決めたのですが、バス停がわかりません。
何人か尋ねながらようやくそれらしき場所に。

着たバスに飛び乗って(列車と同じで殆ど停車しませんので、行き先の確認などしている余裕はありません)中で確認すると、反対方向だったようです。

次のバス停で下ろしてもらいましたが、大きな三叉路になっており、反対方向のバス停がわかりません。
再び何人かに尋ね、ようやくそれらしき場所に。
親切な若い男性が、乗るバスを教えてくれました。

渋滞で1時間ほどかけてヤンゴン中心部の終点スーレーパゴダ付近に戻ってきました。
料金を払おうと思ったのですが、殆ど停車時間がないなかで大勢が下車し、大勢が乗り込む慌しさ。
料金係りの男性の横に、お金を握りしめて待っていたのですが、乗車が終わると、私には目もくれずそのまま乗車して行ってしまいました。という訳でバス代はタダでした。

慌しいなかで、言葉も通じない外国人相手に面倒なやりとりなどしたくなかったのか、単純に気付かなかったのか・・・。私もどこから乗ったかも説明できませんので、無視されて正解です。

渡し舟でヤンゴン川往復
バスを降りて、ヤンゴン川の渡し場まで歩きます。
この渡し舟(2~300人は乗り込む大きな船ですが)には、十数年前にも乗ったことがあります。

そのときと同じように、やはり外国人は一般客とは別扱いで、なんと料金は片道2000チャット、往復で4000チャットも取られました。日本円にすれば200円、400円といった金額ですが、ミャンマーの物価、片道10分ほどしかかからないことを考えると、ぼったくりの外国人料金です。
もっとも、バスを無賃乗車しましたので文句は言えませんが。

向こう岸で、サイカーやタクシーで観光・・・というのが定番ですが、十数年前にすませていますので、今回は船から下りずにそのまま戻ります。

船の後部にお茶など飲めるところがあり、対岸やカモメなど眺めながらお茶をいただきます。なかなか優雅な時間です。

イスラムの葬列
船着場に戻ると、サイカーで中心部へ。そこからブラブラ歩いていると、イスラムの葬列に出会いました。
よほどの大物だったようで、大規模な葬列でした。

ミャンマーでは、少数民族問題と並んで圧倒的多数派仏教徒と少数派イスラム教徒の対立という問題があります。
仏教僧のなかには対立を煽るやからもいて問題が大きくなっています。
市内ど真ん中でこんな葬列をおこなって、大丈夫なのか・・・とも思いましたが、周囲の人々(仏教徒)にもそんなとげとげしさもなかったようにも見えました。あくまでもそんな感じがした・・・というだけですが。

ミャンマーは3回目ですが、最初に旅行したときに食べた魚カレーが、油の中に魚が浮かんでいるような料理で、以来「ミャンマーの食事はまずい」という思いがありました。
ただ、昨夜から今日にかけては、どれもおいしく食べられる料理で、私の思い込みに過ぎなかったようです。

「女性というものは・・・」と言う者は、過去に会った特定の一人の女性につて語っているに過ぎない・・・と言われていますが、すべてそんなものでしょう。
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ミャンマー・ヤンゴンに到着しました

2013-12-30 23:38:43 | ミャンマー

(夕暮れのスーレーパゴダ)

今、ミャンマーのヤンゴンに来ています。
昨日(29日)福岡を中国東方航空で発ち、青島経由で北京へ。北京で乗り換えて昆明で一泊。
今日(30日)午後のフライトでヤンゴンに到着しました。

出発直前に身内の不幸があって葬儀を執り行うなど、いつもにも増してバタバタでした。

経由地の青島で入国手続きがあり、北京では荷物を引き取り昆明行きに再度チェックイン・・・という面倒なフライトでしたが、格安チケットなのであまり文句は言えません。
中国のフライトは、ときどきこうした面倒な形になっていることがあります。

昆明行きが遅れて、ただでさえ深夜到着予定だったのが、到着が深夜1時、ホテルに入ったのが深夜2時、なんだかんだでベッドに横になったのが深夜3時というのも、なんとかかんとかホテルで宿泊できたことでよしとしましょう。

3月にカトマンズにやはり昆明経由で行ったときは、両替をしておらず、深夜1時頃、真っ暗な街角にお金も無く、ホテルの場所もわからず、ひとり立ちつくす・・・という困った場面がありましたが、それよりは順調です。

安倍首相の靖国参拝で、中国の対日感情も心配したのですが、昆明の街中やホテル・機内などでは、特にそういうこともありませんでした。
みんな忙しく、そんなことに構っていられるほど暇ではない・・・といった感も。

今日、昆明の空港で、出国手続きに時間がかかり、ゲートまで走った・・・・実際は、走ろうとしたけど日頃の運動不足で全く走れなかったことは、やや問題です。

ヤンゴンへ向かう機内でガイドブックを読んでいて、「ミャンマーでは米ドル、ユーロ、シンガポールドルからしか両替ができません」とあり、「ええ!そうなの!米ドルは100ドルしか持っていないけど・・・」というは間抜けです。

最近、緊張感がないので、こうしたミスが多いです。
日本人を見つけて、日本円を余分の米ドルに変えてもらうことも必要だろうか・・・とも心配したのですが、結局、急速に変化するミャンマー情勢もあって、空港で無事日本円からの両替ができました。

ヤンゴンの空港で頼んであった送迎が見当たらず、タクシーでホテルに向かうことになったのは、かえって安くあがり、好都合でした。

いろいろ細かい想定外はありましたが、無事ヤンゴンに到着。多少の想定外は旅のスパイスです・・・・あくまでも“多少の”ですが。

ミャンマーは3回目で、主な観光地はひととおりまわっていますので、今回はヤンゴン近辺でグダグダする予定です。

道路わきに並ぶ簡素な屋台・出店など、アジアらしさを今も濃く残す街並みをホテルに向かう車中から眺めていると、頭のぜんまいがゆっくりほどけていくようです。

ホテルのチェックインをすませ、とりあえずヤンゴンのランドマークでもあるスーレーパゴダまで散策。
着く頃には夕暮れで、地元のひとと一緒に旅の無事を祈ったりしていると、すっかり夜になりました。

明日は、ヤンゴンの環状線(鉄道)などにも乗ってみようかと思っていますが、どうなりますか。
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“変わるインド” “変わらぬインド”

2013-12-28 22:27:04 | 南アジア(インド)

(ニューデリー郊外の広場で、デリー首都圏政府首相への就任を宣誓した後、10万人の支持者を前に演説する一般人党のアービンド・ケジリワル党首=2013年12月28日、杉尾直哉撮影 【12月28日 毎日】)

【「禁じられた恋」の駆け落ち婚
カースト制が今なお強い影響力を持つインド社会にあって、異なるカーストや宗教間の“禁じられた恋”のために駆け落ちに走る若者も増えているそうです。

****インドで“駆け落ち婚”急増 「禁じられた恋」貫く若者たち****
禁じられた恋に憂き身をやつし、駆け落ち同然で結婚するインド人カップルが増えている。

異なるカーストや宗教間での結婚を親や地域社会から反対され、市民団体やヒンズー教寺院の助けでひっそりと結婚式を挙げる人たちだ。

インドの伝統的な慣習を重んじる親世代に対し、権利意識が進んだ若者世代は個人の感情を重視する。インターネットや携帯電話の普及で出会いや交流の機会が格段に増えたことも背景にある。
(中略)
カーストが違うと、どうして両親は許さないのか。
(カーストが異なる)2人の結婚式を取り仕切ったヒンズー教僧のクリシャン・ダット・シャルマさん(46)は「2人はラニさんの両親に恥をかかせたことになる。親は村でのけ者にされ、親類は口をきいてくれないだろう。集会や結婚式にも呼ばれない。子供を従わせられない親は不吉なことをもたらすと思われるからだ。私自身はこうした結婚には反対だ」と説明した。

   ■ ■ ■
インドでは、両親が子供の伴侶を探す縁組結婚が一般的だ。この場合、生活習慣を同じくする同カーストから相手を選ぶ。新聞やインターネットには結婚相手を探すため、子供の経歴などを記した広告があふれ、通常カーストも書かれている。保守的な地域では、子供が恋愛結婚をしただけで、ふしだらとみなされることさえある。

しかし、旧来の社会習慣とは裏腹に、恋愛結婚は増加傾向にある。デリーには、異なるカーストや宗教、国籍を理由に結婚を反対されたカップルのために式を挙げるヒンズー教寺院が3つある。最大のアリヤサマジマンディル寺院は今年、820件以上のカップルを挙式させた。2年前の507件と比べ、その数は6割以上増えた。

その理由として、全インド民主女性協会ハリヤナ支部長の女性、シャクンタラ・ジャカールさん(46)は、(1)女性の就学率が高まり出会いの場が増えた(2)インターネットと携帯電話の普及で自由にメールや会話をできるようになった(3)メディアの影響で若者の権利意識が高まった(4)交通網の整備で女性の外出の機会が増えた-ことなどを挙げた。

市場調査サイトによれば、インドのインターネット普及率は2012年時点で11%にとどまるが、人数をみれば00年の約500万人から1億3700万人に急増した。交流サイトのフェイスブックの利用者は約6270万人にのぼる。

一方インドでは、伝統的な縁組結婚が、社会問題も生んできた。カーストにかかわらず、花嫁が嫁ぎ先で持参財(ダウリ)が少ないことなどを理由に虐待されたり、口減らしのために子供のうちから結婚させられたりするケースだ。
(中略)
しかし、親に無断で結婚に踏み切った場合、危険にさらされることもある。恥をかかされたと怒った親が娘を取り戻して家に閉じ込め、場合によっては相手の男性ともども殺してしまう「名誉殺人」が起こることもあるからだ。

(カーストが異なる)フーダさんとラニさんが、式の後に向かった先はハリヤナ州の保護施設だった。もともとは虐待などを受けた女性を守る目的で作られたが、11年秋から危険が及ぶ恐れのある夫婦も受け入れてきた。

林の中にひっそりと立つれんが作りの建物の門扉は常に施錠され、警官が警備に当たっている。2人が訪れると、そこには別の夫婦2組が保護されていた。(後略)【12月28日 産経】
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上記のような“変わるインド”の一方で、“恥をかかされた”親が娘や交際相手を殺しすことが社会的に一定に認知されている「名誉殺人」も相変わらず起きています。

****インド:逃避行直前の男女、家族が殺害 同氏族の結婚禁止****
インド北部ハリヤナ州ロタック地区の村で18日、恋人同士の女子学生(20)と男子学生(22)が、伝統的な価値観から恋愛結婚を認めない女子学生の父親ら家族に相次いで殺害された。
うち男子学生の遺体は首を切られ、「見せしめ」のために自宅前に放置された。

警察は19日、女子学生の両親とおじを殺人容疑で逮捕したが、父親は「家族の名誉のために正しいことをした。後悔していない」などと話している。(中略)

州政府首相ら地元の政治家たちは事件について沈黙している。「殺害を非難すれば、伝統的価値観にこだわる住民たちの支持を失いかねないため」(ニューデリーの住民)とみられている。【9月20日 毎日】
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トイレ設置のために立ち上がる女性
“変わるインド”のもうひとつの話題はトイレ。

****トイレをつくれ!=野外排せつ6億人、女性立ち上がる―インド****
インドで野外排せつの根絶を目指す市民運動が大きなうねりになりつつある。政府は27年前に衛生向上計画を打ち出したが、いまだ約6億4000万人が日常的に野外で排せつする。業を煮やした女性らが各地でトイレ設置のために立ち上がった。

首都ニューデリー中心部、車道脇には「立ち小便」をする男性が並び、その脇では半裸の少年が用を足す。地方の状況はさらに劣悪だ。ネパール国境に近い北部バワニプール村に住むマノラニ・ヤダブさん(40)は「全住民が野外で用を足している」と話す。

世界保健機関(WHO)は11月、インドにはテレビがあってもトイレがない家庭が多いと指摘。人口の半分以上が日常的に野外で排せつ行為を行っており、コレラや腸チフスのまん延につながっていると警告した。

政府は2022年までの野外排せつ根絶を目指すが、その歩みは遅い。特に女性は排せつ時に性的被害を受ける危険におびえ続けてきた。「こんな状況は耐え難い」。12月上旬、ヤダブさんは自分の土地を政府に寄付し、公衆トイレの設置を要請した。

中部マディヤプラデシュ州に住む新婦アニータ・ナルレさん(30)は家にトイレがないことを理由に2年前、夫に別居を告げた。これが引き金となり、女性が各地の村でトイレ設置を求めるデモを展開。この運動は国連児童基金(ユニセフ)の目に止まり、8月に映画化された。

専門家は「若い世代の台頭で社会変革の波が起きつつある」と指摘するが、道のりは長い。ヤダブさんは「人々の熱意がインドの日常風景を変える日」を待っている。【12月28日 時事】 
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地方政府のなかには、このトイレ問題に前向きに取り組んでいるところもあります。

****結婚に「トイレの証明写真」を義務付け****
屋外排泄が一般的なインドでは「トイレ持ち」の男は結婚に有利。深刻なトイレ不足の解消にも一役買っている

自分たちと同じように、女性もトイレを使う必要があるなんて信じられない。それがインドの男たちの考えだ。
インドでは女性が公共トイレを使う場合、お金を払わなければならないことがほとんどだ。もちろん男性ならそんなことはない。ムンバイの中心部にある公共トイレは、女性用より男性用のほうがずっと多い。

昨年は、女性用トイレがないから屋外で用を足すように、と言われた若い妻が夫の家から逃げ出す事件があり、ニュースになった。

トイレ問題に気付いた一部の独身男性は、自分の家には安全で清潔な室内トイレがあることをアピールして、女性たちを引き付けようとしている。
英字日刊紙タイムズ・オブ・インディアによれば、インド中部マディヤプラデシュ州のセホーレでは、自治体主催の合同結婚式に参加する新郎は自宅トイレの横でポーズを取った写真を持参することが義務付けられている。

セホールにおける深刻なトイレ不足から生まれた強制措置だが、新郎たちはこの変わった解決方法を受け入れているようだ。「携帯電話やデジタルカメラで撮影した写真をうちのスタジオへ印刷に来るよ」と、セホールでカメラ店を経営するデベンドラ・マイティルは言う。(中略)

しかしセホールの政策から分かるように、最近のインドはこの問題に真摯に取り組んでいる。
ジャイラム・ラメシュ農村開発相の下、インド政府は10年以内に屋外排泄を撲滅するという目標を掲げる。農村開発省はトイレ敷設のための支出を大きく増やし、人々が自宅にトイレを作るよう促すさまざまな革新的制度を考え出している。

それでも状況の深刻さと悪化する水不足のせいで問題はなかなか改善されず、新たな排泄物処理技術の開発がどうしても必要だ。WHOが提案する一番単純な解決策は、コンクリートの大きな穴を使って排泄物を肥料に変えるというもの。これはNPOのスラブ・インターナショナルが採用している。

一時しのぎの手段として、農村部には適しているだろう。しかし大都市では、長期にわたって有効な解決策にはなり得ない。それにこうした設備を政府が設置したところで、使われずに終わることが多い。臭くて排泄物の飛び散ったコンクリートの穴を使うより、大自然の中でするほうがいいと村人たちは考えるだろうから。【5月22日 Newsweek】
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トイレをつくることができない貧困層が結婚機会から締め出されるという問題もありそうですが、人々の目をトイレに向けさせるためには有効でしょう。

【「性犯罪被害の状況は何も変わっていない」】
“変わらぬインド”を印象づけるのは性犯罪の横行です。

****インド集団レイプ事件から1年 おぞましい性犯罪減らず****
インドで大規模な反レイプデモの引き金となった女子学生=当時(23)=の集団レイプ事件の発生から約1年がたった。

ちょうど1年目となった16日には、女子学生の死を悼む集会が首都ニューデリーで開かれ、事件の再発防止を求める声が上がったが、女性に対する性暴力が相次ぐ事態は何も変わっていないのが現状だ。

 ■与党惨敗の一因に
(中略)州に相当するデリー首都圏では、今月8日に開票された地方議会選挙で、地方政府でも与党だった国民会議派が惨敗し、汚職対策やレイプ犯罪対策の強化を訴えた新党が国民会議派を抑えて第2党に躍進、市民の現政権への不満を象徴する結果となった。

 ■何も変らぬ被害状況
インドでは事件後も、新聞紙上に数々のおぞましい性犯罪事件が連日のように掲載されてきた。
タイムズ・オブ・インディア紙が行ったアンケートによると、「事件から1年たって町が女性にとって安全になったか」との問いに「イエス」と答えた人はわずか5%にとどまり、「ノー」が94%にも上った。

地元メディアによれば、ニューデリーで今年11月までに報告されたレイプ事件は1493件と前年より倍増。わいせつ行為は4倍以上の3237件となった。

法令の改正により、より多くの女性が被害を申告したことも件数増の要因になっているとはいえ、女子学生の父親は「大規模な抗議デモや法の改正があったのに、被害の状況は何も変わっていない」と嘆いている。

デリー政府は事件後、庶民の足であるオートリキシャと呼ばれる三輪車に衛星利用測位システム(GPS)を導入したり、女性専用のピンクの車両を導入したりすると表明していたが、いずれも実現を見ていない。

レイプ犯罪に対する罰則が強化されても、相変わらず法が適正に運用されていないとの批判も根強い。専門家は「法がきちんと順守されてこそ、その罰則の恐ろしさが効果を持つ。そうでなければ、あらゆる努力はうわべだけのごまかしに過ぎない」と批判している。【12月21日 産経】
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“昨年12月の女子学生暴行死事件を機に、性犯罪対策を求める大規模デモが起こったインドで、性的暴行の申告件数が急増、被害者女性が声を上げ始めている。
女性蔑視の傾向が強く、性的暴行が見過ごされてきた社会が変容する兆しとも言えるが、そうした女性は都市部に集中、人口の7割を占める農村部の女性はなお沈黙を強いられている。”【12月20日 読売】

【「デリーの政治が我々一般人の手に初めて渡った歴史的な日だ」】
【12月21日 産経】にある、デリー首都圏での選挙異変は“変わるインド”の一面でしょう。

****インド:新党のケジリワル党首 いきなり首都圏政府首相に****
インドのデリー首都圏(州)政府首相の就任式が28日行われ、今月4日投票の首都圏議会選挙で第2党となった新党・一般人党のアービンド・ケジリワル党首(45)が就任した。

選挙では、最大野党のインド人民党が第1党となったが過半数に届かず、他党との連立協議に失敗。代わりにケジリワル氏が、第3党に転落した前政権与党・国民会議派を取り込み、政権樹立に成功した。

「腐敗一掃」を訴え、昨年結成されたばかりの一般人党は今回、初めて選挙に参加。党首のケジリワル氏はいきなり首都圏で最高権力者の州政府首相となり、劇的な政界デビューを果たした。

一般人党は来年4〜5月ごろに実施されるインド下院選挙での勝利を次の目標としており、今後も国民会議派、人民党の2大政党を揺るがす存在となりそうだ。

28日、ケジリワル氏は首都郊外の広場に約10万人の支持者を集めて異例の就任式典を開いた。就任演説で「デリーの政治が我々一般人の手に初めて渡った歴史的な日だ」と語った。強力な腐敗防止法の制定や安定した電力供給などが公約。

来年の下院選挙では、過去10年間政権を維持してきた国民会議派の敗北と、人民党による政権交代の予測が強い。今回、国民会議派がケジリワル氏と組んだのは、首都圏でかろうじて政権にとどまるための苦肉の策と受け止められている。

ケジリワル氏は税金徴収官吏を経て社会活動家になった。一昨年、政府高官らの腐敗を批判する抗議デモを全国で展開し、「現代のガンジー」と呼ばれたアンナ・ハザレ氏(76)のブレーンとして有名になった。【12月28日 毎日】
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この新党・一般人党が国政で国民会議派、人民党の2大政党を揺るがす存在になれば、インドの変化も加速するのでしょう。
ただ、全体的な印象としては、中国と並ぶ膨大な人口を抱え、極度の貧困層も多く、またカーストなどの伝統も強いインドが変わるのは、そう簡単なことでもないように思えます。
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イラン  相互の不信感のなかでの核問題交渉

2013-12-27 22:50:01 | イラン

(12月23日、イランのロウハニ大統領は、アメリカやその他の西側諸国との関係改善を目指す意向を示しています。【12月23日 ロイター】)

羊の皮をかぶった狼」】
イランでの保守穏健派と言われるロウハニ大統領の就任、それを契機として動き出したイラン核問題の交渉、そして難航の末にまとまった「第1段階」の合意は、これまで国際情勢の不安定要因だったイラン問題解決に向けた重要なステップということで、間違いなく2013年の画期的・歴史的合意でした。

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第1段階の実行期間は6カ月。

米側発表では、イランは(1)5%超のウラン濃縮活動を停止(2)保有する20%の濃縮ウランを軍事転用が困難な形に加工(3)プルトニウム抽出につながるアラクの研究用重水炉建設を中断(4)国際原子力機関(IAEA)にナタンツ、フォルドゥの濃縮施設への徹底した査察を容認-する。

一方、6カ国側は、金・貴金属類や石油化学製品の取引制限を一部停止するほか、イランが石油販売関連収入のうち最大42億ドル(約4200億円)の送金を受けとることを認める。制裁緩和は総額約70億ドル(約7千億円)相当。イランが合意を順守する限り、6カ月間は追加制裁を科さない。【11月25日 産経】
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ただ、ウラン濃縮活動の「権利」については敢えて玉虫色にもされており、互いの相互不信、更には国内外の障害もあって、今後の交渉が一筋縄ではいかないものであることは、当初から予想されているところです。

****イラン核合意を脅かす相互不信****
核協議 核開発問題の包括的な合意を達成するには、アメリカもイランも自国内の抵抗勢力を統制する必要がある

・・・ただ進展があったとはいえ、今も核協議はいつ決裂してもおかしくない緊張感をはらんでいる。「羊の皮をかぶった狼」と祁楡されるロウハニを前にして欧米諸国は自問している。本当にイランは変わったのか・・・。

特にアメリカは、イランに対する警戒心をまだ解いていない。
合意後も米議会では、保守派がイランヘの新たな制裁法案の提出を推し進めようとしている。追加制裁を阻止したいジョン・ケリー国務長官は12月、米下院外交委員会で「イランヘの懸念は私も共有している」と複雑な心境を吐露した。 

イランもそんなアメリカの動きに敏感になっている。合意直後、米政府は現行の制裁措置に違反したとして19のイラン企業や個人に追加制裁を科した。これにイランのアッバス・アラグチ外務次官は「合意の精神に反している」と激怒。ケリーはすぐにジャバド・ザリフ外相に電話を入れてイラン側をなだめた。

米ランド研究所のアリ・ナダー上級研究員は、「そもそもすべての懸案事項において合意しているわけではない」と指摘する。「アメリカがこれ以上新たな制裁措置を科せば、核協議は台無しになる」

問題は制裁だけではない。アメリカと同じように、イラン国内でも関係改善にブレーキをかけようとする声が根強い。特に影響力を振るっているのが反米保守勢力だ。

79年のアメリカ大使館占拠事件の記念日を迎えた11月、強硬派がデモ隊を動員してここ数年で最大規模の反米デモを繰り広げたのはその最たる例だ。保守派は今もアメリカがイランのイスラム国家打倒を狙っているとの疑念を持つ。

それでもロウハニには本気で核協議を進展させたい理由がある。国際的な孤立を脱し、制裁措置で疲弊した経済を再建させるには核協議の進展しかない。

今のところ、最高指導者のアリ・ハメネイ師はロウハニを支持しているが、イラン国内の強硬派による圧力とアメリカの間でどう折り合いをつけるのか、ロウハニにとって14年は正念場になるだろう。

アメリカにも懸念がある。核協議を進展させたいオバマ政権には、国内の保守派以外にも「抵抗勢力」がいる。同盟国のイスラエルとサウジアラビアだ。これまで中東地域でイランの影響力が拡大するのを阻止してきた両国は、核開発問題の進展を望んでいない。

合意は「歴史的な過ち」
イスラエルは、イランが隣国レバノンのイスラム過激派勢力ヒズボラやシリアのアサド政権を支援していることを指摘。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は歴史的合意を「歴史的な過ち」と批判した。
またスンニ派国家のサウジアラビアはシーア派の大国イランの台頭を警戒し、自らも核武装すると息巻く。

ただ批判を続けることは両国にもマイナスに働く可能性がある。ランド研究所のナダーは、「核協議の進展に反対することで、気が付けば自分たちがアメリカや国際社会から孤立してしまう可能性がある」と指摘する。

14年に包括合意がなされるかは予断を許さないが、核開発問題が重要な曲がり角を迎えているのは間違い。【12月31日号 Newsweek日本版】
*****************

実際、交渉は一進一退という感もあります。

****イラン核:専門家協議を中断 来年初頭の合意履行困難に****
欧米など主要6カ国(米英仏中露独)とイランは22日、イランの核問題解決に向けた合意の履行時期や方法を決めるため、19日からスイスのジュネーブで行っていた専門家協議を中断した。

米政府による対イラン追加制裁やイランのウラン濃縮の権利を巡る意見の相違で溝が埋まらず、イラン側は「協議は悲観的だ」と表明。イランは来年初頭の履行開始を目指していたが、困難な見通しとなった。

6カ国側の調整役を務める欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)の報道官は「クリスマスを挟み中断した。年内に再開するだろう」とコメント。

一方、イラン国営通信によると、イランのアラグチ外務次官は21日、「6カ国側は、濃縮すべきでないと主張するが、これはイランの権利だ」と主張。22日には、米国の対イラン制裁の対象拡大を念頭に「信頼を欠く事態を目の当たりにし、彼らが約束を果たすか確証を持てない」と、6カ国側をけん制した。(後略)【12月23日 毎日】
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双方、国内に抵抗勢力
アメリカ国内には強いイラン不信感があり、イランへの厳しい対応を求める動きもありますが、オバマ大統領はこれを抑えて交渉を継続し、結果を出したい意向です。

****米上院:イラン制裁強化法案 大統領報道官「拒否権」明言****
米議会内で成立を目指す動きのある対イラン制裁を強化する新法案について、カーニー米大統領報道官は19日の記者会見で「法案が可決されれば、大統領は拒否権を行使する」と述べ、成立を阻む方針を明言した。

米上院外交委員会のメネンデス委員長(民主)ら超党派の上院議員26人は同日、イランが11月に米欧と締結した核開発凍結の合意を順守しない場合、制裁を強化する法案を提出した。

一方、上院の銀行、情報、軍事、歳出、司法、エネルギー天然資源の各委員長ら計10人の民主党議員は同日、対イラン制裁を強化するのは「本音では交渉による核問題の解決の失敗を望んでいるイランの思うつぼだ」として、新法の制定に反対する手紙を上院民主党トップのリード院内総務に送った。

野党共和党が過半数を占める下院は7月、対イラン制裁を強化する独自法案を可決。上院が新法案を可決すれば下院案と一本化され、新制裁強化法が成立する。

ただ、発効には大統領の署名が必要で、米憲法は大統領が法案を差し戻す拒否権を認めている。拒否権が行使された場合、上下両院がそれぞれ3分の2以上で再可決すれば、法律は発効する。

イラン核問題の交渉による解決を目指すオバマ政権は、制裁強化は障害になるとして、上院に法案審議見合わせを要請してきた。【12月20日 毎日】
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アメリカ国内の動きを受けて、保守強硬派を抱えるイラン国内でも対抗措置的な動きがあります。

****イラン議会、60%ウラン濃縮の新法案起草 追加制裁けん制****
イランの核開発問題で、同国議会は26日までに、米国などが新たな経済制裁を科した場合、自国政府に対し最大60%の濃度を目指すウラン濃縮活動に踏み切ることを要求する新たな法案を起草した。同国の国営プレスTVが報じた。

米上院で最近、イランが核開発問題に関する欧米との暫定合意などに違反した場合を想定し、追加制裁発動を求める動きが表出したことへ対抗措置とみられる。
60%のウラン濃縮は核兵器化に大きく前進するとの指摘がある。

プレスTVによると、法案起草に関与した国会議員100人のうちの1人は法案が可決された場合、政府はフォルドゥやナタンズにあるウラン濃縮関連施設の完成を迫られるだろうと指摘。新たな制裁が打ち出された場合、イランの核開発の権利は侵害され、平和的な核利用の権利は欧米に無視されることになると説いた。(後略)【12月26日 CNN】
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交渉事はすべて互いにブラフをかけながら行うものではありますが、その行き過ぎは悲劇的な結末にもつながります。
先ずは双方とも、交渉を深める方向での冷静な対応をとって結果を出してもらいたいものです。
小さくとも最初の結果が出れば、次のより大きな、本格的な結果が期待できるようになります。

****イランのロウハニ大統領、米国との関係再構築に意欲示す****
イランのロウハニ大統領は、米国やその他の西側諸国との関係改善を目指す意向を示した。プロジェクト・シンジケートへの寄稿を23日付南ドイツ新聞が掲載した。

大統領は、「われわれは欧州および北米諸国と、相互尊重に基づいて関係を再構築、改善したいと考えている」と表明した。
「われわれはイランと米国の関係に新たな困難が加わらないよう努力するとともに、われわれが引き継いだ緊張感を取り除くことにも努めている」とした。

ロウハニ氏が6月の大統領選で大勝して以来、イランと米国は定期的に接触しているが、イランの核問題をめぐる交渉に限られている。
イランと米国は1979年のイラン革命で国交を断絶している。

ロウハニ大統領は、過去60年にわたり米国との関係に影響を及ぼした全てのことを忘れることはできないとしながらも、「われわれは今こそ、現在に注意を集中し、未来に視線を向ける必要がある」とした。

イランの核問題に関して大統領は、緊張を拭い去るためにできることは何でも実施していると表明。
大統領は「核兵器を手に入れるという選択肢を検討したことはない」と強調した上で、「原子力の恩恵を受ける権利を放棄することは絶対ないが、全ての疑惑を取り除き、われわれのプログラムについて適切な質問には全て答えられるよう取り組んでいる」とした。

イランと欧米など6カ国は先月24日、イランがウラン濃縮活動を制限する見返りに欧米側が経済制裁を一部緩和することで合意している。【12月23日 ロイター】
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イタリアはイランに、フランスはイスラエル・サウジに接近
一方で、制裁緩和を見込んだ動きも始まっています。
イタリアはイランとの関係強化に乗り出しています。シリア問題についても、来年1月22日にスイスで開かれるシリア和平国際会議にイランが参加すべきだとしています。

****イラン核問題:伊 制裁緩和後見込み、関係を強化****
イランに対する国際社会の経済制裁の緩和を見込んで、イタリア政府がイランのロウハニ新政権に急接近している。ボニーノ伊外相は外交活動を国内経済の浮揚につなげる「成長外交」を掲げており、エネルギー分野などでのイランとの関係強化を景気回復のテコにする狙いがありそうだ。

ボニーノ外相は21、22の両日、イタリア外相として2004年以来初めてテヘランを訪れ、ロウハニ大統領らと会談した。大統領はイタリアを「欧州への門」と位置づけ、イタリアとの定期首脳会談を提唱。ザリフ外相はシリア内戦、アフガニスタン情勢への対応などで協力を推進する意向を表明した。

レッタ伊首相は23日、年末恒例記者会見で「中東の不安定要因の多くは(強硬派の)アフマディネジャド前イラン大統領と関係があったが、(穏健派の)ロウハニ大統領(の就任)によって好機が生まれた」と指摘。ロウハニ政権との関係を深める方針を強調した。

地中海をはさんで北アフリカと向き合い、欧州を目指す難民・移民の「玄関口」となっているイタリアにとって中東の安定は死活的に重要だ。シリア内戦の長期化を受け、地中海に浮かぶイタリア最南端ランペドゥーサ島などにはシリア難民が殺到している。

対イラン接近の原動力となっているのは女性のボニーノ外相。外相は「米仏の対シリア軍事攻撃への反対をレッタ政権閣僚の中でいち早く打ち出し、イラン問題でもさきがけ的な役割を果たしている」(外交筋)。イラン核開発を巡る11月24日の国際合意に先立ってザリフ外相をローマに招き、今回のイラン訪問への道筋を付けた。

背景にはイランのエネルギー資源への熱い視線もある。イタリアのエネルギー大手ENIのパオロ・スカロニCEO(最高経営責任者)は5日、ウィーンでザンガネ・イラン石油相と会談。「制裁が解除されればイラン事業を拡大する」と述べ、イランの石油・天然ガス開発計画に参入する用意を示している。【12月25日 毎日】
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興味深いことに、11月段階の交渉でもイランに対する厳しい姿勢を見せて交渉にブレーキをかけた感もあったフランスは、その姿勢の延長で、イラン敵対国であるイスラエルやサウジアラビアとの関係強化に乗り出しています。
ただこれは、イラン核協議が順調に進めばイラン市場を失うことにもなるハイリスクな賭けにも見えます。

****イラン核問題:仏イスラエル接近 市場参入でリスクも****
イランと主要6カ国が核問題を協議した11月の包括交渉で対イラン強硬姿勢を取ったフランスは、イランと対立するイスラエルやサウジアラビアなど中東諸国との経済連携を強める意向だ。
だが、各国が狙う経済制裁緩和後のイラン市場への参入で後れを取るリスクを指摘する声も出ている。

フランスは高度な技術力を持つイスラエルとの経済関係強化を不振の国内経済の向上につなげたい思惑だ。
オランド大統領はイラン核問題で国際合意に至る前の11月17〜19日にイスラエルを訪問。石油大手トタルや動画サービス「デイリーモーション」、国鉄など仏企業40社の幹部も同行した。ネタニヤフ首相にイランへの厳しい条件提示を約束し、鉄道分野での提携を結ぶなど成果を上げた。

また、サウジアラビアは近年、仏最大の武器輸出先となっており、兵器市場としての中東諸国の重要性も増している。米国がアジア重視の姿勢を強める中、「中東に戦略的空白ができるのを避けたい」(ファビウス外相)との危機感と、中東でフランスの存在感を拡大したい意向もある。

一方で、潜在力を持つイラン市場への参入に遅れるとの懸念の声も上がっている。イラン情勢の専門家、アルダバン・アミルアスラニ氏は仏日曜紙「JDD」で「イランの市場開放はソ連崩壊後の東欧諸国に次ぐ経済的に大きな出来事で、全世界がイラン市場に注目する中、フランスは大きな商機を失うかもしれない」と指摘した。【12月25日 毎日】
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したたかなフランスのことですから、みすみすイラン市場を見逃すようなことはしないでしょう。
交渉の成り行きを見て、どこかで新たな対応も見せるのではないでしょうか。
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イギリス  移民増加で深まる英社会の苛立ち キャメロン首相の移民規制策

2013-12-26 23:18:09 | 難民・移民


(「不法移民は帰国しろ」と書かれたイギリス内務省の宣伝カー その後、キャンペーンは中止されました。【10月24日 WSJ】http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304523904579154812025062456.html

【「どうして我々までがイスラムの信仰に従う必要があるのか」】
移民・難民に関する話題を取り上げる際に再三言っているように、異なる文化を持つ者が一緒に暮らすということは非常に難しい問題です。

ただ、だから移民・難民は受け入れるべきでないというのも短絡的であり、極端な外国人排斥的な言動は自らの品位を貶める行為に思えます。

外国人を受け入れる側からすれば、どこまで異文化を許容するかという話になりますが、事例にもよりますし、一概に線引きすることはできません。

****英M&S:イスラム従業員の豚肉販売拒否はOK****
英小売り大手「マークス・アンド・スペンサー(M&S)」はイスラム教徒の従業員に対し、酒や豚肉の販売に関わることを拒否することを許可した。

これに対し一部顧客が「なぜイスラムの信仰に従う必要があるのか」と反発し、購買拒否の呼びかけも始まった。他宗教に寛容とされてきた英国だが、移民の増加で国民にはいらだちが深まっているようだ。

英メディアによると、M&Sは従業員の信仰を尊重し、イスラム教徒が酒や豚肉、ユダヤ教徒が豚肉の販売に関与しなくてもいいことを決めた。

豚肉や酒を買おうとした客が、レジのイスラム教徒従業員に別のレジに並ぶよう指示されたことをきっかけに同社の内規が明らかになった。内規の作成時期は不明だが、英メディアは22日から報じた。

インターネットの交流サイトでこの情報が広まり「豚肉や酒に触るのが嫌なら、食料品担当から外すべきだ」「英国はキリスト教と非宗教的な市民が多数だ。どうして我々までがイスラムの信仰に従う必要があるのか」−−などの批判が出た。

M&S広報担当者はデーリー・テレグラフ紙に対し「あらゆる宗教の信仰を尊重すべきだと考えている」と説明した。ただ、英国の他スーパーの多くは、従業員に対し、信仰を理由に特定の品物の販売に携わることを拒否する権利を与えていない。【12月26日 毎日】
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詳しい状況がわかりませんので推測・仮定の話になりますが、“豚肉や酒を買おうとした客が、レジのイスラム教徒従業員に別のレジに並ぶよう指示された”とのことで、もしレジの列に並んでいて、やっと自分の番になったと思ったときにこうした対応を受けたら、やはり不快に思うでしょう。

イスラム教徒が豚肉や酒を忌避するのはかまいませんが、「豚肉や酒に触るのが嫌なら、食料品担当から外すべきだ」というのが常識的でしょう。

移民規制を強めるキャメロン政権
“英国は伝統的にアジア、カリブ海、アフリカなどの旧植民地出身の移民に寛容だった。冷戦後はポーランドなど旧東欧からも多くの移住者を受け入れ、08年のリーマン・ショック後、その数は年間20万人を超えた。”【8月11日 読売】というイギリスですが、“移民の増加で国民にはいらだちが深まっている”のが現状です。

そうした社会不満を背景に、2010年の総選挙で、当時、最大野党だった保守党党首のキャメロン氏は、移民の数を年間10万人未満に制限すると移民規制を公約して勝利しました。

実際、キャメロン政権は移民規制を強化する姿勢を見せています。

****なぜ非白人狙う…英移民政策に批判「差別的****
キャメロン英政権が、移民の数を年間10万人未満に制限するとした公約実行に本格的に乗り出した。

2015年の次期総選挙を視野に、「反移民」を掲げる右派政党に奪われた支持層を取り戻すことが狙いだ。歴史的な移民への寛容政策を転換しようとする首相に、最大野党・労働党などは反発を強めている。

英内務省は今月1日、ロンドン、マンチェスター、ダラムなど都市部で不法移民の一斉摘発を行った。不法就労などの疑いがある139人を摘発し、マーク・ハーパー移民担当相は「脱税や劣悪な労働環境を生む不法移民を許さない」と成果を強調した。

ところが、この後、捜査官が有色人種だけを選び、職務質問したと、人権団体などが問題提起した。実際、摘発された人の多くは黒人や南アジア系だった。

最大野党・労働党のドリーン・ローレンス下院議員は「移民には白人もいる。なぜ非白人だけ狙うのか」と人種差別があったと指摘。

これを受け、行政機関に是正措置を命ずる権限を持つ国の独立機関「平等人権委員会」が実態調査に乗り出した。英国は、1976年の人種関係法や2006年の平等法で人種に基づいて人に不利益をもたらす行為を禁じており、同委が是正を求める可能性がある。

同委は、内務省が移民の多いロンドン郊外の6地区で「不法滞在者は出国しなければ捕まる」と移民を脅すかのような広告を掲載した車両2台を7月下旬に走らせたことも問題視する。
(中略)
首相は秋には不法滞在者を雇った事業者への罰則を強化する新法案も下院に提出する方針だ。「英国人から雇用を奪う移民の排斥」を打ち出し、右派政党・独立党が支持を拡大していることが念頭にある。
これに対し、労働党は、首相の政策は「人種差別的」として政権攻撃の材料とする構えだ。【8月11日 読売】
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上記記事にもある「不法移民は帰国しろ。さもなければ、逮捕する」と書かれた宣伝カーをロンドン市内で走らせる公共広告キャンペーンについては、滞在する権利のない人たちに国内にとどまれないと告げることには何の問題もない・・・とは言うものの、表現があまりに露骨だとの批判があり、中止されています。

****英国、「不法移民は帰国しろ」キャンペーンを断念 -厳しい批判受け****
英国政府は22日、「不法移民は帰国しろ。さもなければ、逮捕する」と書かれた宣伝カーをロンドン市内で走らせる公共広告キャンペーンを取りやめると発表した。
この活動は、人権擁護団体などから大きな批判を浴びていた。

政府は中止の理由について、表現があまりに露骨である上、その効果も疑わしいためと述べた。

当局は7月、物議を醸すメッセージが表示された2台のバンをロンドン市内6つの地区で1週間試験的に走らせた。これは、キャメロン首相が掲げる不法移民取り締まり強化策の一環として行われたもので、その政策は2015年の次期総選挙を前に政治論争の重要な的となっている。

しかし、この宣伝カーに、人権擁護団体や広告業界の監視機関、連立パートナーの自由民主党から相次いで批判が寄せられた。一部の人権団体は、「帰国しろ」というフレーズは、70年代の人種差別団体のスローガンをほうふつとさせるものだと指摘。

また、自民党のケーブル民間企業・技術革新・技能相は、愚かで侮辱的なやり方だと批判した。

宣伝カーには、当局に出頭した不法移民は支援が得られることや、その際の連絡先が書かれていたほか、手錠の写真やその地域における逮捕者数も掲示されていた。

また、キャメロン首相率いる保守党と連立を組む自民党が、このキャンペーンについて相談を受けていないと不満を訴えたことで、連立政権内の亀裂もあらわになった。(後略)【10月24日 WSJ】
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【「貧乏な移民は来ないで」】
イスラム教徒やインド人のような異文化ではないEU域内からの移民についても、職を奪われるという不満や、貧困移民への社会保障費用がかさむという財政問題が生じます。

“欧州債務危機を受けて、ますます多くのヨーロッパ人がイギリスへ就労に行き、これらの移民は主にスペイン人やポルトガル人である。

また、2012年、イギリスへ移民したスペイン人は2万7000人となり、2011年の1万7000人を遥かに超えた。EU諸国からの純移民流入数が2012年に7万2000人増の10万600人に達した。イギリス国家統計局の報告書で明らかになった。

目下、イギリス政府は、来年1月、ルーマニアとブルガリア移民の就労自由化を実現すれば、イギリスの移民数が急増すると懸念を抱いている。これに対し、キャメロン首相は新たな制限策を制定した。”【12月3日 日本新華夏株式会社】

そのキャメロン首相による新たな制限策が「貧乏な移民は来ないで」というものです。

****英の新措置法「貧乏な移民は来ないで****
英国のキャメロン首相が11月末、他の欧州連合(EU)諸国からの移民に対する失業手当など社会保障費の支給制限を来年1月1日から実施すると英BBCテレビに語ったことが、英国などEU内で波紋を呼んでいる。

キャメロン氏が明らかにした“新措置法”は、不就労のEU移民は英入国から3カ月は社会保障支給の対象とならない▽明確に就労できる証明がない場合、6カ月で社会保障サービスの提供を打ち切る▽新規移民は住宅手当の申請ができない▽路上生活者や物ごいは強制送還する▽最低賃金を支払わない雇用者には4倍の罰金を科す-というもの。

同氏は「これはしっかりと働き、正しいことをしている人たちと公平に扱うための措置だ」と述べ、新措置法の導入を正当化。「EUが保証する移動や移民の自由の理念は大切だが、手当が目当ての移民に厳しく対処できるよう、EUは変わらなければならない」と強調した。

しかし、EUの政策執行機関である欧州委員会の委員の一人が「英国は厄介な国だ」とかみついた。
キャメロン氏はこれに「委員たちは、彼らの給料が英国の納税者からも支払われていることを忘れてはいけない」と反論した。

ただ、英国と同じように貧しい移民流入の問題を抱えているドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領は英国に理解を示していると伝えられており、今後もこの問題をめぐる論争は収まりそうにない。

自由や民主主義、平等、人権の尊重などの価値観を高らかにうたうEU加盟国はいまや28カ国。
しかし、「EU域内の移動は自由でも、お金のない貧しい移民には来てほしくない」という英国人のホンネを反映した新措置法は、EUの理念と現実の難しさを浮き彫りにしている。【12月8日 産経】
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中国人移民についてはwelcome
ところで、イギリスで現在一番多い移民は、イスラム教徒でもインド人でもEU域内移民でもなく、留学生を中心とする中国人だそうです。

****イギリス人口統計:中国がイギリス最大の移民送り出し国に浮上****
イギリスへ留学に行く中国人留学生数の増加に伴い、中国はインドを抜いて初めてイギリス最大の移民送り出し国に浮上し、その数は60万人に達した。

2日付の仏紙 「Nouvelles D´Europe」によると、イギリス国家統計局が行った「国際旅客動態調査」では、2012年、イギリスに入国した中国人は4万人とイギリスに入国した外国人総数の8.7%を占めた。インド、ポーランド、アメリカとオーストラリアは順に2~5位となったことが分かった。環球網が伝えた。

イギリスに入国した中国人4万人のうち、多くは留学生であった。イギリス国家統計局の調査報告書によると、大多数の中国人留学生は学業を終えた後、中国へ帰国する。この点はイギリスから出国した旅客を対象とした調査から確認できる。昨年、1万6000人の中国人がイギリスを離れ、中国に帰国し、これはイギリスから出国した外国人総人数の5%を占めた。

関係統計では、今までイギリスでパスポートを所持している中国人の総人数が60万人に達した。そのうち、留学生数は12万人だ。

訪中を前に、イギリスのキャメロン首相は「華人がイギリス社会の発展に積極的な役割を果たしている。統計データから見て、イギリスで華人は失業率と犯罪率が最も低く、最も高い教育を受けてイギリス社会と経済、文化などの発展に貢献している」と語り、「現在、イギリスへ留学に行く中国人留学生が増え続けている。イギリスの大学の募集条件を満たせば、イギリス政府は留学生の上限人数に制限を設けない。これは中英両国の関係発展及び教育、文化と経済分野の交流に役立つ」と強調した。(後略)【12月03日 日本新華夏株式会社】
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移民規制に熱心なキャメロン首相も、経済力を背景にした中国人移民についてはwelcomeのようです。

****英首相の低姿勢の中国訪問が示す手痛い教訓 ****
キャメロン英首相は今週の中国訪問中、これ以上ないほどに低姿勢で、英国人にとっては恥ずかしいほどだった。そんな態度は何も変えなかった。

経済危機から抜け出せない欧州は、世界第2位の経済大国である中国への輸出を増やそうと必死だ。しかし、これと欧州の価値や利益の維持とどのように折り合いを付ければよいのだろうか。(中略)

キャメロン氏は人権問題を持ち出すことにも消極的なようだった。中国政府は昨年、キャメロン氏がチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と面会したことを受け、両国間のハイレベル交渉を凍結した。今回の訪問を失敗させるわけにはいかなかった。(中略)

興味深いことに、政府はこうした戦略から得るものがほとんど、または何もないと頭では分かっている。
ドイツのビジネスが中国でうまく行っているのは、中国人が買いたいと思うものをたくさん作っているからだ。

キャメロン氏は今回の訪問の結果、数十億ポンド相当の取引が成立したと言う。だが、英企業は適切な価格で提供できるものがないと成功できないというのが現実だ。(後略)【12月6日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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中国 毛沢東生誕120周年 “毛沢東”を利用しながらも、過熱抑制も必要な習近平総書記

2013-12-25 21:56:58 | 中国

(大きな毛沢東の肖像が掲げられている“毛沢東主義共同体”河南省南街村の老人ホーム 【2010年6月30日号 Newsweek】

85.1%が毛沢東の「功績大」を支持
中国建国の父、毛沢東の生誕から26日で120年となる中国では「毛沢東ブーム」とも呼ばれるような現象がおきているようです。

毛沢東の遺体が安置されている北京の天安門広場・毛主席記念堂には今も人々の長い列ができています。

“市場原理を無視して、3年間で米英を追い越すほどのノルマを人民に課し、ずさんな管理の元で無理な増産を指示したため却って生産力低下をもたらした”【ウィキペディア】と評される「大躍進政策」の失敗による2000万人とも5000万人とお言われる膨大な餓死者の発生。

その失政により国家主席の座を追われた毛沢東の復権のための権力闘争である「文化大革命」による社会の大混乱。

更には個人崇拝の弊害・・・など、巨大な負の側面がある一方で、なんといっても中国建国の父であり、人民の平等を掲げた理念は、経済的には著しい成長を遂げたものの、その代償として格差が拡大する現代中国の人々には郷愁とも言える引力があるようです。

中国共産党の公的な毛沢東評価は「功績第一、誤り第二」というものですが、一般国民にあっては、より“功績”に引かれるところが大きいようです。

****85%が「毛沢東の功績大きい」=7割超が「文革は誤り」―中国紙****
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は25日、毛沢東生誕120周年を26日に控え、「功績第一、誤り第二」とした毛に対する党の歴史的評価に対し、78.3%が「同意」、6.8%が「低過ぎる」と回答したアンケート調査結果を伝えた。計85.1%が毛沢東の「功績大」を支持した形だ。

調査は北京、上海、広州など七つの大都市で18歳以上を対象に行われ、有効回答は1045人。毛沢東に対して計91.5%が「尊敬」「尊重」していると答え、「批判的態度」は6.9%。また計90.9%が「毛時代が現在の中国に影響を与えている」との認識を示した。

毛沢東の主要な誤りとしては、複数回答可で77.2%が「文化大革命の開始」、60.2%が「大躍進」など経済政策、46.3%が「個人崇拝を行い、民主集中制原則を破壊した」を選んだ。【12月25日 時事】 
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中国人民の思考・行動への毛沢東の影響については、良きにつけ悪しきにつけ、「毛沢東はすでに中国人のDNAに根付いている」とも指摘されまほど根深いものがあります。

****一種の洗脳、毛沢東「中国人のDNAに根付く****
中国建国の父、毛沢東の生誕から、26日で120年となる。共産党を率いて国造りを指導した一方、文化大革命などで社会、経済を大混乱に陥れ、功罪が混在する毛。

だが、支持、反発を問わず、中国社会の底流には、毛時代の行動様式や思考が根強く残存しているようだ。 習近平 ( シージンピン )総書記は毛の「DNA」を、政権の求心力向上に利用している。

「共産党は許せない。だが、毛主席は別だ」
中国西北部の新疆ウイグル自治区カシュガル地区で住民と警官計16人が死亡した衝突事件から2日後の17日。区都ウルムチでは、銃を手にした警官が各所で目を光らせていた。喫茶店の向かいの席に座った少数民族ウイグル族の男性(46)は、革ジャンの内ポケットから小さな丸いバッジをそっと取り出した。
「人民に奉仕せよ」の標語をあしらった、赤地に金色の毛沢東の肖像を描いた「毛沢東バッジ」だ。

男性は、自治区内で毛沢東思想を学習するウイグル族グループの有力メンバー。だが、口をついて出てくるのは、同胞を抑圧する共産党政権への不満だ。「我々は党から差別され、敵視されている。中国からの独立を主張するのは当然だ」

10月末、ウイグル族の男女3人が北京・天安門前に車で突入、炎上した事件は、党の少数民族政策に不満を抱き、党の象徴である巨大な毛の肖像画を標的にしたとみられている。毛はウイグル族居住区を中国に併合した指導者でもある。

だが、男性の胸中には、党への敵意と、毛沢東への崇拝の念が同居していた。
男性は小学校から大学まで無料で進学し、毛が進めた少数民族優遇政策の享受者の一人。毛の過去の「罪」に触れた歴史教育を受けていないことも一因だ。
 
しかし、2009年7月、ウルムチで起きたウイグル族大暴動で、同胞が次々と警官に射殺される光景を目の当たりにした。ウイグル族への就職差別も進むなか、党への信頼はみるみるうちに、薄らいでいった。

そんな時、知人の薦めで手にした毛の著作で、毛がかつて「大漢民族主義を採ってはならない」と語っていたことを知り、救われた。誰もが平等だったという毛時代の再現を目指し、漢族とも連携して「新共産党」を作ろうとしている。

一部とはいえ、毛崇拝は少数民族にも浸透している。河南省の毛研究者は、この現象について、「毛沢東はすでに中国人のDNAに根付いているからだ」と解説した。

市場経済推進を主張する右派(改革派)の重鎮、茅于軾・天則経済研究所名誉理事長は、毛時代に迫害された体験もあり、厳しい毛批判で知られる。しかし茅氏も、毛が使用した独特の政治用語を「無意識で使ってしまう」という。「青春時代、社会に毛用語があふれていた。一種の洗脳だ」【12月25日 読売】
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【“毛沢東”利用で、自らの求心力を高めることをもくろむ習近平総書記
上記記事にもあるように、習近平総書記はこうした中国人に染みついた毛沢東を思わせるような言動をとることで、自身の政治的立場を強めることに利用しているようにも思えます。

****習主席、毛沢東への憧れ 反腐敗と節約展開「残った飯はチャーハンに」****
 ◆反腐敗と節約展開
北京の人権活動家は最近の毛沢東ブームについてこのように解釈している。

「拝金主義が広がる今の中国は金持ちの天国だが、貧しい人たちにとっては地獄だ。不公平さを毎日味わっている弱者は、貧富の差がなかった毛沢東時代を懐かしんでいる」

昨年秋、共産党総書記となった習近平国家主席はこうした弱者たちの支持獲得を意識し、毛沢東時代の多くのやり方を復活させている。最も注目されたのは、毛沢東が建国直後の50年代に始めた政治運動をまねし、反腐敗、反浪費のキャンペーンを全国で展開したことだ。党の規律検査部門を使って、たった1年で閣僚級約20人、局長級では100人以上の高官を拘束した。

失脚した高官に習主席と同じエリート2世(いわゆる「太子党」)はいないという。腐敗撲滅に名を借りた「政敵の粛清だ」との指摘はあるものの、貧しい人々の間では「腐敗問題に本気で対応してくれた」として支持する声が多い。

習主席が推進する節約キャンペーンでは、毛沢東時代のスローガンを使って「野菜の切れ端は漬物に、残った飯はチャーハンに」との指示が、なんと人民解放軍の全部隊に通達された。

「こんな主婦の生活の知恵のようなものは党中央の言うことではない」と国内メディアの関係者には嘲笑されたが、一般庶民の間では「指示が具体的でわかりやすい」と意外にも評判は悪くない。

 ◆求心力アップ狙い
日本と対立した尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐっても、習政権は冷戦時代さながらの強硬姿勢を貫く。
改革派の国際関係学者らが「国際環境を悪化させる愚かな行為」と批判する一方で、強いリーダーを期待する若者たちは喝采を送る。

ある共産党古参幹部は習主席の毛沢東路線回帰の理由について、「習氏は不正官僚や金持ちに対する労働者、農民の不満を利用して政治運動を展開し、自らの求心力を高めることをもくろんでいる」と分析した上で、こう付け加えた。

「文化大革命時代に青春を過ごした習氏は毛沢東のような絶対的なリーダーになりたいという個人的な願望もあるのかもしれない」【12月25日 産経】
******************

中国中部、河南省南街村はいまも毛沢東時代の集団所有制を実施しています。
「変わった村」として扱われていたこの村が、毛沢東によって求心力アップを狙う習近平政権のもっとで、脚光を浴びているそうです。

****毛沢東思想は神様より勝る」中国各地で毛沢東ブーム****
12月上旬のある日の早朝。中国中部、河南省南街村の空は薄い霧に包まれ、あたりはまだ暗い。6時15分、電信柱に取り付けられた村中の拡声器が突然、大音量で歌を流し始めた。

「東の空が赤く染まり 太陽が昇る 中国に毛沢東が現れた…」
1960年代の文化大革命当時、中国全土で広く歌われ、その後すっかり聞かれなくなった毛沢東賛歌「東方紅」である。村民たちはこの音楽に合わせて起床し、村の広場や公園で整列、朝の体操を始めた。

人口約3500人のこの村は、いまも毛沢東時代の集団所有制を実施している。村民の住宅から家具、食糧、衣類などの日用品は全て支給される。水道、電気も無料だ。子供が進学する場合、大学院の博士課程までの授業料・生活費も村が支給する。

その代わりに私有財産を認めていない。村幹部の月給はわずか250元(約4250円)。主に酒やたばこ代などに費やされるという。村営工場で働く一般村民の収入は幹部より多い。残業代がつくため2千元(約3万4千円)を超えることもある。

「それでは誰も幹部になりたがらないのではないか」との質問に対し、村営の新聞、南街村報の盛幹宇編集長は「私たちは毛沢東思想の教育を受けているから、外の人間とは考え方が違う。幹部になれば、より多く人民に奉仕できるから喜びも大きい」とまじめな顔で話した。

村中心部の広場には、高さ6メートルの毛沢東像がある。村トップの王宏斌(こうひん)・南街村共産党委員会書記(62)は定期的に、村幹部を率いて毛沢東像の前で村の発展状況を報告するという。2人の民兵が毛沢東像の両側に直立不動の姿勢で立ち、24時間警備している。

「毛沢東は神様ではなく人間だ。しかし、毛沢東思想は神様より勝る」。村の至るところでこのような毛沢東を褒めたたえるスローガンを見かけた。タイムマシンに乗って約40年前の中国に戻ったかのようだ。

■集団所有制に回帰する村々
中国河南省の南街村はもともと、貧しい寒村だった。トウ小平が主導して1978年に始まった改革開放政策に伴い、地方にも改革の波が押し寄せた。南街村も一時集団所有制をやめて土地を農民に分配した。
しかし、貧困から抜け出すことはできなかった。

◆心酔する指導者
毛沢東思想に心酔する王宏斌(こうひん)・南街村共産党委員会書記は「生産効率を上げるには集団所有制しかない」と考え、村民たちを説得して土地を再び村が回収した。資金を集中させ、周りの村よりいち早く工業化に着手する。

80年代前半、日本の技術を導入して始めた即席めん工場が成功を収め、村の経済が安定した。その後、ビール工場、製薬工場などを次々と建て、南街村は数年で河南省有数の“企業集団”と化した。村民の生活は豊かになったが、集団所有制はやめなかった。

現在、南街村の約30の村営企業で働く従業員は約1万人。その8割はほかの村からの出稼ぎ労働者だ。

村民たちの労働意欲を維持するため王書記が力を入れたのが、毛沢東思想の教育だった。いつしか、王書記には「小毛沢東」とのあだ名がつき、一部メディアがそのワンマンぶりを批判するようになった。

保守派は南街村を「モデル村」として高く評価したが、一般メディアでは「変わった村」として扱われた。「時代錯誤」「ほかの村の労働者を搾取している」といった批判も絶えなかった。
南街村に銀行からの借金が多い点を指摘し、「いつか破綻する」とみる改革派の経済学者もいた。

 ◆習体制下で一変
しかし、習近平体制が発足した昨年秋以降、流れが変わった。習主席は農村問題に言及する際、トウ小平よりも毛沢東の言葉を多く引用するようになったため、改めて南街村が脚光を浴びたのだ。

今年になってから、中国メディアが南街村を持ち上げる記事が急増。南街村の経験を学ぶため視察に訪れる全国の村幹部もどっと増えた。

同村の統計によると、今年7月1日の共産党創設記念日の1日だけで、湖北省、安徽省、福建省などから500人以上がやってきたという。

南街村の近くにある河南省北徐荘村は今年、集団所有制を始めた。村の中心部に南街村と同じ毛沢東像を建てた。
南街村幹部は「全国約60万の村のうち、約7千の村が集団所有制に戻ったと聞いている。これからもっと増えるだろう」と胸を張る。「トウ小平のやり方でうまくいかなかったのだから、毛沢東に戻るのは当たり前なのだ」

改革開放政策に取り残され、都市部との格差が開く一方だった中国の農村部。習体制発足を機に、毛沢東の集団所有経済に活路を見いだそうとしているかのようだ。

そして今の中国で、毛色に染まりつつあるのは農村部だけではない。
今月26日は毛沢東の生誕120年。習近平国家主席が毛沢東回帰路線を鮮明にしていることもあって、中国各地で毛沢東ブームが起きている。
さまざまな分野で“毛沢東”がよみがえる中国の今を報告する。【12月24日 産経】
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諸刃の剣
“毛沢東”を政権の求心力アップに利用しているように見える習近平総書記ですが、「トウ小平のやり方でうまくいかなかったのだから、毛沢東に戻るのは当たり前なのだ」という言葉からもわかるように、毛沢東を前面に押し出すことは現在の中国を支える改革開放政策を否定することにもつながり、現政権への不満の表れともなります。

共産党指導部にとっては毛沢東を掲げられると、政権批判が裏にあってもこれを抑え込むのが難しいという意味でも、毛沢東利用は“諸刃の剣”です。

まさにそのために、毛沢東を全面に掲げた薄熙来(共産党中央政治局委員兼重慶市党委員会書記)は党中央から疎まれ、権力闘争に敗れ、失脚することにもなっています。

習近平政権は、一方で“毛沢東”的な言動をとりながらも、他方では、毛沢東礼賛が高まることを警戒もしています。

****「毛沢東生誕記念」に警戒心=習総書記、行事簡素化を指示―26日120周年・中国****
新中国を成立させた毛沢東主席(1893~1976年)の生誕から26日で120周年を迎える。

習近平共産党総書記(国家主席)は、今も庶民の人気が高い毛沢東を利用し、その政治スタイルをまねているが、文化大革命(1966~76年)など「誤り」も犯した毛沢東に対する評価をめぐり、党内部や社会が分裂する現実にピリピリしている。

北京・人民大会堂で26日夜、毛沢東生誕を記念した大音楽会が開催される予定だったが、当局の許可が下りずに突然、中止となった。

毛沢東の故郷・湖南省では23日夜、記念音楽会が開かれ、同省トップの徐守盛党委書記らが参観したものの、11月に同省を視察した習総書記は、記念行事を「盛大」に行うと同時に「簡素」「実務的」にするよう指示するなど、賛美の温度は下がっている。

共産党・政府の管理できない民間レベルの記念行事が盛り上がり、平等だった毛沢東時代への郷愁が高まり、深刻な格差や腐敗を解決できない現政権に対する庶民の不満が広がることを警戒しているためだ。【12月24日 時事】
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利用しながらも過熱は抑えるという、なかなか難しい舵取りが必要とされます。
習近平総書記がその舵をうまくとれるのか注目されます。
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トルコ  閣僚親族らを汚職容疑で逮捕 イスラム穏健派内部での確執 エルドアン体制にほころび

2013-12-24 23:19:23 | 中東情勢

(若き日のエルドアン首相(左)とギュレン師(右)この頃は両者は協調関係にありました。 【2012年02月24日付 Radikal紙】 http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20120225_073740.html

【「その手をへし折ってやる」】
イスラム穏健主義を掲げるエルドアン首相が強固な統治体制を築くトルコにあって、エルドアン政権閣僚の親族らによる汚職事件に対する警察摘発が大々的に行われています。

エルドアン首相は、この警察による摘発を政敵による政権への攻撃ととらえ、「その手をへし折ってやる」と怒りをあらわにしています。

****汚職疑惑に揺れるトルコ・エルドアン政権、与党と警察が対立****
政府閣僚の間に広がる汚職疑惑に揺れるトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン首相は22日、疑惑を利用して政権を攻撃するなら「その手をへし折ってやる」と述べ、政敵に真っ向から対決する姿勢を示した。

エルドアン首相は黒海地方のギレスンで、公正発展党(AKP)支持者らを前に「誰もが身の程を知ることになる」「わが国に危害を及ぼし、扇動し陥れようと企む者たちは誰であれ、その手をへし折ってやる」などと述べた。

一方、イスタンブールでは同日、内閣総辞職を求める数千人規模の反政府デモ隊が機動隊と衝突した。デモの主な目的は巨大都市開発プロジェクトへの反対だが、靴箱を掲げて閣僚の汚職に怒りを表す参加者もいた。

■汚職捜査に警察幹部更迭で対抗
トルコの政界は今、大規模な汚職捜査をめぐり、警察や司法当局などの中枢に強い影響力を持つ有力なイスラム教聖職者、フェトフッラー・ギュレン師と、与党・公正発展党(AKP)との確執が表面化している。

汚職捜査で起訴された24人の中には、エルドアン内閣のムアメル・ギュレル内相の息子とザフェル・チャーラヤン経済相の息子、国有ハルク銀行の頭取が含まれている。

報道によれば警察は、ハルク銀行のスレイマン・アスラン頭取の自宅で、靴箱に隠された450万ドル(約4億6000万円)相当の現金を押収したという。

これに対しエルドアン首相は、大規模な汚職捜査は3月の地方選挙を控えた政権に対する中傷工作だと批判。
イスタンブール市警トップなど数十人の警察幹部を令状なしに捜査を行ったとして更迭した。地元メディアは22日、さらに25人の警察幹部が解任されたと伝えている。【12月23日 AFP】
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ギュレン運動と与党AKP 協調から確執へ
警察が3閣僚の息子や著名財界人ら少なくとも37人を拘束したのは17日のことですが、このときの第1報を聞いて、イスラム主義を強めているとの批判があるエルドアン首相に対する警察内の世俗主義勢力の挑戦だろうか・・・と思いました。

エルドアン首相はかねてより、軍部や司法に根強い世俗主義勢力に対し、“エルゲネコン事件”(8月16日ブログ「軍に排除されたエジプト・モルシ政権  軍部をも抑え込むトルコ・エルドアン政権」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130816)などでその牙を抜き、与党AKPによる支配体制を固めてきました。

そうしたなかにあって、警察に残る世俗主義勢力の挑戦か・・・と思ったのですが、上記【AFP】にもあるように、いわゆる世俗主義勢力ではなく、同じイスラム穏健主義を掲げるフェトフッラー・ギュレン師が代表する「ギュレン運動」と首相・与党AKPとの対立抗争のようです。

フェトフッラー・ギュレン師は、米ペンシルベニア州に拠点を置くトルコの有力イスラム教指導者で、“アタテュルク以来の国家方針である世俗主義とイスラームが矛盾しないことを訴える比較的穏健な立場をとる。彼の支持者達は「ギュレン集団(運動)」「フェトフッラー派」などと呼ばれている。ギュレンは寛容の精神を掲げており、テロを非難し[3] 、バチカン市国やいくつかのユダヤ人団体との対話など宗教間の対話をサポートしている [4]。ギュレン集団はテレビ局や有力紙『ザマン』紙なども保有している。”【ウィキペディア】とのことです。

穏健なイスラム主義と言う点ではエルドアン首相率いる与党AKPと同じ立場で、実際、従来はAKPと「ギュレン運動」は世俗主義に対抗す形で協力関係にありました。

両者の関係については、“ギュレン運動とAKPの双方は西側に対し、自分たちが「過度にイスラム主義的である」と見られないよう努力している。このため、双方は互いに距離を置く道を公に採り始め、また、そうした亀裂を利用して、一方が他方より一層プラグマティックであるように見せようとしている。”【「ユーリの部屋」 2010年10月11日“トルコのギュレン運動”http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20101011】とも指摘されています。

エルドアン首相の強引な政治手法やイスラム化を強行する姿勢を強めるにつれ、両者の関係に亀裂が生じています。
AKP・エルドアン首相と「ギュレン運動」の共通の敵であった軍・司法の世俗主義勢力が後退するなかで、両者とも相手の存在が疎ましくおもえるようになったともとれます。

「ギュレン運動」は、AKPのなかでもエルドアン首相より穏健なギュル現大統領に接近していると指摘されています。
ギュル大統領は来年夏に任期満了で、エルドアン首相が大統領、ギュル大統領が首相を目指すとの報道があります。

上記【「ユーリの部屋」】によれば、AKPと「ギュレン運動」の確執が表面化したのは、エルドアン首相が2010年5月にイスラエルの封鎖を破るためガザ地区に向かう支援船団の出航を許可した決定に対し、「ギュレン運動」側が公然と反対した時だったと指摘されています。

****トルコ、大規模汚職が表面化 3閣僚の親族ら逮捕****
来年1月に訪日を控えたトルコのエルドアン首相の足元が揺らいでいる。政権を支える3閣僚の親族を巻き込んだ大規模な汚職事件が表面化したからだ。

背景には、イスラム色を強める政権と、それに反対するグループの対立があるとされる。来夏の大統領選に向けて混乱は長期化しそうだ。(中略)

捜査当局の動きに対し、管轄する内務省はイスタンブール、アンカラなどの警察署の主要幹部を次々に更迭。エルドアン氏は18日の会見で、捜査を「政治的な陰謀」と非難した。

背景には、エルドアン政権と、世俗主義とイスラム教は矛盾しないとする穏健な思想を持つ米国在住の宗教学者ギュレン氏を中心とする「ギュレン運動」との摩擦があるとされる。

検察や警察内部にはギュレン運動の支持者が多いと言われている。

ギュレン運動はこれまで、世俗主義の「守護者」を自任する軍に対抗するため、政権と共同歩調を取ってきた。
しかし最近は、公的機関でのスカーフの着用や酒類販売の規制強化など宗教色を強めつつある政権と距離を置き始めた。

5月末以降の大規模デモでみせた政権の強硬姿勢を、ギュレン運動側が批判したことも要因の一つと言われる。

来年には、春に地方選挙、夏にはエルドアン氏の出馬も確実と言われる大統領選挙がある。すでに混乱による信用不安から株価や通貨リラが下落した。両者のつばぜり合いが長引けば、政権が先導してきた好調な経済にも暗い影を落としかねない。(【12月23日 朝日】
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エルドアン首相:来年夏の大統領選前が正念場
ギュレン師は、ハイレベルな教育で知られる予備校やマスコミなどを経営する富裕層を中心に人脈が広く、世俗派との協力姿勢も見せていますが、エルドアン首政権は11月、“国内3600カ所以上に上る大学予備校を閉鎖する意向を表明。多くの予備校はギュレン運動の資金源となり、運動の支持者も生み出してきた。”【11月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】ということで、今回汚職事件が発覚する以前から両者の緊張関係が高まっていました。

****トルコ首相、支持層と亀裂で大統領選に暗雲 *****
国民投票による初の大統領選を来年に控えたトルコで、10年以上政権を維持してきたイスラム保守層の内部対立が表面化している。

エルドアン政権の発足以降、トルコを語ろうとすれば政界で無敵を誇る首相を語るのとほぼ同義だった。エルドアン首相は再出馬しない意向を表明し、初の民選大統領への就任を目指している。(中略)

首相とギュレン師の対立の火種はいくらでもある。
ギュレン派はエルドアン氏の強硬姿勢を非難。
これに対して、昨年ギュレン派が後押しする犯罪捜査でエルドアン政権の情報機関トップを容疑者として事情聴取しようとした際には、政権支持層は首相に対する挑戦だと反発した。
ギュレン派はエルドアン氏の反政府デモへの対応を過剰反応だと主張。双方とも相手側が権限を強めようとしすぎていると批判しあう。

エルドアン氏は今週、ギュレン派と緊張関係にあることを認めた。同氏は「ギュレン派はネガティブキャンペーンをやめるべきだ」と批判し、教育制度問題でギュレン運動に譲歩するわけにはいかないと強調した。
エルドアン氏が大統領選を控えて権力を誇示しているとの見方もある。首相に反発すれば、ギュレン師の権益にもリスクが及びかねないと警告しているというのだ。

■大統領選挙前が正念場
一方、ギュレン派の大半は穏健なギュル大統領が自ら首相に就き、エルドアン氏から一部の権限を奪取してほしいとの期待を隠そうともしない。

もっとも、ギュレン派との対立が続けば、エルドアン氏が大統領選の第1回投票で勝つのは難しくなり、大統領に就任できたとしても求心力が低下する。

これは由々しき事態だ。エルドアン氏には憲法を改正して大統領の権限を強めることに失敗しており、大統領として国を統治しようとするならば、名声や有権者の負託、ほとんど行使されていない大統領としての法的権限がよりどころになるからだ。

エルドアン氏はさらに絶大な影響力を発揮できる地位を目指しているが、つまずけば権力の支えを失う可能性もある。世論調査ではAKPの支持率は2011年の議会選で記録した50%とほぼ同じとはいえ、残る半数の国民は不満を強めつつある。

エルドアン氏はこれまでにも大きな試練を切り抜けてきたが、来年夏の大統領選前がまさに正念場となる。カギとなるのは首相がかつての盟友たちと手を握り、服従させることができるかだ。

これに失敗すれば、ギュレン派との対立はエルドアン氏の衰退の始まりの前兆となるかもしれない。【11月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
***************

現職閣僚の親族らを逮捕するという「ギュレン派」の挑戦、「その手をへし折ってやる」というエルドアン首相の怒り・・・エルドアン首相が剛腕で「ギュレン派」をねじ伏せるのか・・・今後の推移はまだわかりません。

ただ、盤石にも見えたエルドアン首相の支配体制にも、今年5月のイスタンブール中心部の再開発を巡るデモが反政府・反エルドアン首相デモに発展した件、そして今回の同じイスラム穏健派内部の確執ということで、ほころびが見え始めているのも事実です。
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タイ  反政府デモの「選挙の否定」に透ける“危うさ”

2013-12-23 21:47:48 | 東南アジア

(12月22日 バンコク 「インラックは出ていけ!我々は民主主義に反対しているのではない。ただ、不正・汚職選挙を容認できないだけだ!」とのことですが・・・ “flickr”より By Thana Thaweeskulc http://www.flickr.com/photos/32782357@N03/11513013556/in/photolist-ixncPJ-ixnrrd-ixnD6c-ixnu2S-ixnQTc-ixnmmU-ixnz6S-ixo9C8-ixngpQ-ixmJS6-ixnKDV-ixmFwt-ixnQha-ixmLwN-ixnPeu-ixnSQu-ivzhgr)

【「人民クーデターを呼び掛ける」】
タイを二分するタクシン元首相を支持する勢力と、これに反対する反タクシン派の対立は、これまでも何回か取り上げてきたように、タクシン元首相の妹であるインラック首相が海外逃亡生活中の兄タクシン氏の帰国に道を開く恩赦法を成立させようとしたことで泥沼化しています。

インラック首相は恩赦法をあきらめ、また、反政府運動への譲歩として議会の解散総選挙を行って民意を問うことを決定していますが、ステープ元副首相が率いる反政府デモは総選挙では問題は解決しないとして、首相の辞任および選挙によらない“良き人々”による「人民議会」設置を求めて抗議活動を継続しています。

****首相辞任求め大規模デモ=反タクシン派、首都に30万人―タイ****
反政府運動を展開するタイの反タクシン元首相派は22日、首都バンコクで大規模なデモを行った。来年2月に予定通り総選挙を実施する構えのインラック首相に対し、総選挙を延期して政治改革を先行すべきだと訴える反タクシン派は動員力を誇示することで首相に辞任への圧力をかける狙いがある。

反タクシン派は民主記念塔前など従来の3カ所の拠点に加え、新たに15カ所に拠点を設けるなどして抗議行動を展開。地元メディアが政府当局者の話として伝えたところでは、デモ参加者は少なくとも約31万人に達し、約25万人(警察推計)を集めた9日のデモを上回り、一連のデモでは最大となった。

デモ隊の一部はバンコク郊外のインラック首相の自宅前で抗議活動を行い、警官隊と小競り合いも起きたが、負傷者はいなかった。首相は不在だった。

デモを主導するステープ元副首相は22日夜の演説で、政府当局者が現体制のために働き続けるなら「人民クーデターを呼び掛ける」と述べ、「タクシン体制」打倒への決意を改めて表明。総選挙を阻止するため、23日から始まる立候補受け付けの会場付近で抗議行動を行う方針を示した。

汚職事件で有罪判決を受け国外逃亡中のタクシン氏の帰国に道を開く恩赦法案をめぐる対立をきっかけに、反タクシン派による抗議行動が本格化してから約1カ月。インラック首相は事態打開のため下院解散に踏み切り、来年2月2日に総選挙を行うことが決まった。

これに対しステープ氏ら反タクシン派は首相の辞任をあくまで要求。同時に、暫定議会として各職業団体の代表らから成る「人民議会」を設置し、1年半程度をかけて政治改革を実現した後に総選挙を行うよう主張している。【12月22日 時事】
********************

反政府デモ参加者を支持基盤とする最大野党・民主党は、このまま選挙に参加しても支持者の理解をえられず惨敗が予想されることもあって、総選挙のボイコットを決定しています。

****タイ野党、選挙不参加へ 政治的緊張、常態化の恐れ****
タイで続く政治危機で、最大野党の民主党は21日、来年2月2日投開票の総選挙を党としてボイコットすることを決めた。選挙に向けて収束が期待された混乱はさらに深まり、政治危機が常態化する恐れがある。タイ政治は最悪に近いシナリオを進んでいる。

同党はこの日午後、特別会議をバンコクの党本部で開き、ボイコットを決定。会議後の会見で党首のアピシット前首相は「現政権が民主主義をゆがめ、人びとは政党政治や選挙への信頼を失った」と理由を語った。ただ、選挙を妨害する考えはないとした。

今回の政治危機を呼んだ反政府デモは民主党の主導で始まったもので、参加者の中核には同党支持基盤のバンコクやタイ南部の支持者がいる。だが、党として選挙参加を決めても支持者が離反してデモを継続する可能性が高い。このため、約160人の元下院議員のうち70人以上が参加しない意向を党に伝えていた。

民主党の総選挙ボイコットは、2006年に続き2回目。1946年結党の同党はタイ最古の政党で、ボイコットは政党としての責任の放棄だという批判も強くあることから、党幹部らは直前まで「議会制民主主義の原則は堅持する」と話していた。

しかしアピシット執行部は、足元で元議員の集団離反が起きるなかで現状を追認せざるを得ないと判断した模様だ。

 ■首相、日程変えぬ構え
インラック首相はこの日午後のテレビ演説で、選挙を予定通り実施し、新政府のもとに設置する「国家改革評議会」で2年以内に長期的な政治改革案を策定すると発表した。
選挙の延期を求めていた民主党を拒絶するメッセージで、民主党のボイコット最終決定に影響を与えた可能性がある。

だが、ステープ元副首相が率いる反政府派は選挙を妨害する構えを見せ、22日にはバンコクで大規模なデモ行進を計画。再び緊張が高まる可能性がある。

民主党がデモを制御できなくなったのはなぜか。デモが1カ月半余り続く中でステープ氏の要求がエスカレートし、党がそれに引きずられる形に陥ったためだ。
同氏は、選挙ではなく任命による「人民議会」への政権移譲という非民主的な主張を繰り返し、反タクシン元首相感情を刺激しながら民主党支持者を「選挙の否定」へとあおり立てた。その支持者の意向を、政党として無視できなくなったとみられる。

民主党が選挙をボイコットするとどうなるのか。
選挙が実施されれば、与党・タイ貢献党の大勝は確実だ。だが、選挙期間中・選挙後を通して反政府デモは続く。選挙妨害への懸念のほか、多数の棄権者が出れば結果の正当性を疑問視する声も出そうだ。

選挙後に発足する新政府は、初日から政権打倒を叫ぶデモへの対応を迫られる。政府としての仕事はまともにできず、経済や外交にも影響が出るのは避けられない。
バンコクの日本外交筋は「政策的な話ができない状態がすでに起きている」と話す。日系企業への影響も出てきそうだ。【12月22日 朝日】
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最大野党の総選挙ボイコットで、タイ政治の混迷・漂流はますます深刻化します。
ステープ元副首相の「選挙の否定」という“暴走”に引きずられる形で民主党もボイコットに踏み切った訳ですが、アメリカのティーパーティーの過激な要求に引きずられるて強硬路線に走った共和党にも似たような感じがあります。

政党にとって、「選挙の否定」は自殺行為にもつながりかねない最後の手段です。
選挙の公正さが著しく侵害されているような場合ならともかく、このままでは勝てないから、選挙を認めると支持者の意向と離反するから・・・という理由での選挙ボイコットは容認しがたいものがあります。

【「民主主義の根幹は選挙のはずだ」】
そもそも、ステープ元副首相らの求める“各職業団体の代表らから成る「人民議会」を設置”の要求の背景には、選挙を行っても、北部・東北部農民層や都市貧困層から支持されるタクシン派には勝てないということがあります。

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・・・ステープ氏はインラック首相退陣後に暫定政府を設立し、選挙制度を改革したうえで総選挙を実施すべきだと訴えている。

デモに参加した弁護士、ハッサリン・ラッドルーさん(52)夫妻は「タクシン派はばらまき政策や選挙買収で票を集め、このまま総選挙をしても意味がない」と指摘。農村部や貧困層の多くはタクシン派を支持するが、「政権がいかに問題だらけか正しい情報を得ていないからだ」と主張した。

総選挙を巡っては、反タクシン派の最大野党・民主党もボイコットを決めデモ隊と同調するが、背景には連敗中の総選挙を避けつつ、政権打倒を果たしたいとの打算が透ける。

東北部ウドンタニ県のタクシン派グループメンバー、ジャンピー・ポーティサンさん(54)は「それぞれに主張があり、自分たちが正しいと思うが、私たちの知る限り、民主主義の根幹は選挙のはずだ」と話した。【12月22日 毎日】
*********************

選挙を否定する考え方は、“教育水準の低い東北人”がカネで買収されている、あるいは彼らには正しい判断ができない・・・というものであり、やはり非民主的な“蔑視”と言わざるを得ません。

タクシン以前の政治を支えたエリート層・既得権益層や、タクシン流のばらまき政治の対象外となっている都市中間層には我慢できないことでしょうが、以前は政治的に大きな力を持ちえなかった多くの農民層・都市貧困層がその1票を行使して自分たちの利益になると判断した政治の実現を目指すようになったというのは民主主義の表れであると言うべきでしょう。

“教育水準の低い東北人”の選挙権を制約するような方向での政治改革というのは、民主主義の根幹を揺るがすものです。
もし、議会内に選挙によらない指定枠みたいなものを設けるというのであれば、それこそ先ず選挙によって民意を問うべきものです。

また、テープ元副首相ら反政府デモを行う人々の間には、選挙で選ばれた政党以外の存在、つまりは軍部や国王ですが、そうした政党以外の介入による政治対立解消を期待する意向があります。

実際にこれまでタイの政治史においては、しばしば軍部や国王の介入・仲介によって混乱を解消するという手法がとられてきました。
しかし、そのことが、政党間の妥協で物事を決められないタイ政治の現状を温存してきたとも言えます。

確かに政党政治・議会制民主主義がいつも正しい結果を導く保証はありません。
往々にして人気取り的なポピュリズムに動かされたり、過激な思想に扇動される危険も多々あります。

しかし、政党政治・議会制民主主義以外のものに“力”を求めることは、国民の意思を無視した最悪の強権支配を生むことがあります。選挙に基づく民主主義というのは、そうした最悪の結果を避けるための保険のようなものでしょう。

そうした選挙に基づく民主主義が機能するためには、選挙の敗者は勝者による政権運営を受け入れ、勝者の政権は敗者の声に一定に配慮する・・・ということしかありません。

ボイコットを決めた民主党・アピシット前首相は選挙を妨害する考えはないとしていますが、反政府デモは妨害の行動に出ています。

****立候補届け出を妨害=反タクシン派―タイ総選挙****
インラック首相の辞任や来年2月に予定される総選挙の延期などを要求するタイの反タクシン元首相派デモ隊は23日、首都バンコクにある総選挙の立候補受け付け会場を包囲し、立候補の届け出を妨害した。

下院選の比例代表立候補受け付け初日のこの日、会場の「タイ日スポーツスタジアム」周辺には数千人のデモ隊が集まり、出入り口を封鎖。与党タイ貢献党など9党の代表者は封鎖をかいくぐって会場入りし手続きしたが、他の25党は会場に入れなかった。

会場入りできなかった各党代表者らは近くの警察署を訪れ、この事態について申し立てた。デモ隊はこの警察署も取り囲み抗議行動を続けた。【12月23日 時事】 
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仮に選挙が行われて、タクシン派が圧勝しても、反政府勢力は「選挙は認めない」として街頭行動を続けるのでしょう。
いったいいつになったら出口がみつかるのか・・・・。
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南スーダンで広がる部族対立による殺戮  ルワンダではジェノサイドを教育で克服

2013-12-22 22:05:08 | スーダン

(首都ジュバの国連施設に身を寄せる親子(2013年 ロイター/Goran Tomasevic)http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9BI09420131219

南スーダン:「水もないが一歩も出られない。出れば殺される」】
2011年7月にスーダンから分離独立して2年半、南スーダンの混乱が拡大しています。
日本の陸上自衛隊も参加している国連PKOの現地混乱への関与の仕方については、12月19日ブログ「南スーダン 首都で武力衝突 紛争拡大時のPKOの対応は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131219)でも取り上げました。

その後、現実に国連PKO施設への襲撃、PKO兵士の犠牲も発生しています。

****南スーダンの国連施設襲撃、PKO要員ら殺害****
国連は20日、政情不安が続く南スーダンの東部ジョングレイ州アコボで19日に国連施設が襲撃され、国連平和維持活動(PKO)要員のインド兵2人と、施設に避難していた住民少なくとも11人が死亡したと発表した。

南スーダンでは、政府軍とマシャール前副大統領派との戦闘が拡大し、同州は18日に前副大統領派に制圧されていた。

国連南スーダン派遣団(UNMISS)によると、襲撃したのは、前副大統領の出身部族のロウ・ヌエル族とみられる約2000人の若者。銃などで武装し、施設に避難したディンカ族の住民約30人を狙った可能性がある。
ディンカ族はキール大統領の出身部族だ。

施設はPKOのインド兵43人が警備していたが、武装集団は施設から武器や弾薬などを奪った。【12月21日 読売】
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アメリカ国民の救援に向かった米軍CV22オスプレイ3機も狙撃され、米兵の負傷者も出ています。
****南スーダン:米軍機狙撃され 米兵4人が負傷****
政府軍と武装集団の戦闘が続くアフリカ南スーダンの東部ジョングレイ州で21日、米国民の救出支援活動のため州都ボルに向かっていたとみられる米軍機が狙撃され、AFP通信などによると、米兵4人が負傷した。

米軍機はボルの飛行場に着陸する直前に地上から狙撃され、燃料タンクに穴が開いた。急きょ隣国ウガンダに行き先を変更した。負傷兵はC−130輸送機でケニアのナイロビの病院に搬送された。【12月21日 毎日】
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日本の陸自宿営地付近は比較的落ち着いているようで、現在は活動を自粛しているようです。

****南スーダンPKO、陸自は宿営地外の活動は自粛****
国連平和維持活動(PKO)の一環として南スーダンに派遣されている陸上自衛隊員約400人は、戦闘開始以降、首都・ジュバの国連敷地内にある宿営地内にとどまり、道路整備などの活動を自粛している。

防衛省幹部は21日、「宿営地付近では大規模な銃撃戦は起きていない」と述べた。政府は、首相官邸の危機管理センターに「情報連絡室」を設置し、情報収集を続けており、「国連を含め、現地の各国と情報共有しながら対応する」(小野寺防衛相)方針だ。

陸自の派遣部隊は交代時期で、任務を終えた陸自第5施設団(福岡県)約180人のうち、現地に残っていた約50人が21日、ジュバからチャーター機で福岡空港に帰国した。

南スーダンPKOでの自衛隊の活動は昨年1月に始まり、比較的治安が良いとされるジュバで道路や滑走路などの整備をしてきた。来年10月末まで活動を行う予定になっている。【12月21日 読売】
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“陸上自衛隊の宿営地付近では、避難民の間で風邪の症状が広がり、隊員が医療支援や給水支援を行っている”【12月21日 読売】とも報じられています。


混乱は当初のキール大統領とマシャール前副大統領の争いという枠を超えて、それぞれの出身部族であるキール大統領のディンカ族とマシャール前副大統領のヌエル族の間の部族抗争の様相を呈し、部族が異なるという理由だけでの殺戮・暴力が横行しています。

****民族対立、渦巻く憎悪 南スーダン、戦闘・略奪続く*****
反乱軍が各地で蜂起し、内戦の危機にある南スーダンで、民族同士の憎悪が渦巻いている。反乱軍側は政府との対話を拒否しており、収拾のめどは立っていない。

反乱軍と政府軍の激しい戦闘が起きた首都ジュバ郊外のニューサイト地区。市場と民家が密集する。
21日に訪れると、1千以上ある店の多くで略奪の跡があった。

政府軍のマジャック大佐は「住民は皆、逃げ出した」。数千ある民家の周辺には兵士以外、見渡す限り住民はほとんどいない。焼かれた家も目立つ。住民らしき男性の遺体が道端に放置され、無数のハエがたかり異臭を放っていた。

この地区で雑貨店を営むアコルさん(29)は「遺族が遺体を引き取りに来るのも怖いのだろう」と話した。アコルさんはこの日、意を決して店と住居の様子を見に来たが、すべて略奪された後だった。

戦闘があった15日夜、妻と幼い子供3人を抱えて脱出。反乱軍に甥(おい)が撃たれ死んだ。多くの住民が殺されたという。

 ■国連施設も被害
マシャル前副大統領が主導したとされる15日のクーデター未遂に端を発する混乱は、キール大統領のディンカ族とマシャル氏のヌエル族の間の民族紛争に形を変えつつある。

保護を求めて各地の国連施設に逃げ込む市民は3万5千~4万人に上る。19日には、東部にある国連施設まで襲撃され死者が出ており、極めて不安定な状況にある。
乱軍が制圧した中部ボルへ続く道は、政府軍が封鎖。

ボル在住で、国連の施設内に避難しているディンカ族のマルリさん(30)は、朝日新聞の電話取材に「施設が数千のヌエル族に囲まれ、水もないが一歩も出られない。出れば殺される。昨日と今日、町の家々がすべて焼かれたらしい」と語った。毎晩、銃声が聞こえるという。

 ■取材中にも暴力
約2万人の市民が流入しているとされるジュバの国連施設内でも、民族同士の憎悪が渦巻いていた。
取材に同行したディンカ族のダウさん(29)が、「ディンカか」と数十人のヌエル族の若者らに囲まれ、木の棒などで激しい暴行を受けた。

その間も加わる若者が増える。記者が持っていたダウさんの私物も奪われそうになった。近くにいたインドの国連部隊に助けを求めたが、見て見ぬふりだった。

記者たちは若者から自力で走って脱出した。
ダウさんは「復讐(ふくしゅう)が復讐を生んでいる。出身の民族だけの理由で、簡単に殺される。これが我々が背負う危険だ」と話した。(後略)【12月22日 朝日】
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マシャール前副大統領を支持するグループとみられる武装勢力に制圧されているボルでは、“南スーダン情報放送省によれば、ボルでは21日朝から交戦が始まり、武装勢力によって市民が無差別に攻撃され、「遺体が町中に散乱している」状態という”【12月22日 毎日】とも。

現地報道によれば、政府の要請で介入したウガンダ軍が21日、ボルに空爆を開始したと報じていますが、BBCによればウガンダはこれを否定しているとか。

****南スーダン:ウガンダ軍派兵…南スーダン政府の要請受け****
ウガンダの政府系紙「ニュー・ビジョン」は20日、政府軍と武装勢力との戦闘が続く南スーダンに、ウガンダ軍が派兵されたと報じた。南スーダン政府の要請で首都ジュバに展開、治安維持などに当たるという。

ウガンダは南スーダンの現政権と太いパイプがあり、派兵が事実なら、全面的な内戦状態に陥るのを防ぐ狙いがあるとみられる。

一方、米国のオバマ大統領は19日、「南スーダンは危機の瀬戸際にある。戦いは即座にやめるべきだ」と述べ対話による早期事態収拾を呼び掛けた。また、米大使館の警備を増強するため18日に米兵約45人を現地に派遣したと明らかにした。

その支持勢力が政府軍と衝突中とされるマシャール前副大統領はキール大統領の辞任を要求。アフリカ連合(AU)派遣団が調停中だ。【12月20日 毎日】
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油田が集中するユニティ州の政府軍司令官が反政府側に寝返り、同州が反政府側の管理下に置かれたとの報道【12月22日 毎日】もあり、事態はまだ流動的です。

ルワンダ:無教養が差別を助長したという反省から、義務教育を充実
しかし、どうしてこんなにも殺戮が野火のごとく広まってしまうのか・・・暗澹たる気持ちになります。

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産油国でありながら貧しい南スーダンは2011年、北スーダンからの分離と新国家樹立の是非を問う国民投票で圧倒的支持を得て独立。しかし民族間対立や腐敗が後を絶たず、ここ数週間は政治的緊張が特に高まっていた。

マシャール氏や、南スーダン建国の父故ジョン・ガラン元最高司令官のレベッカ・ガラン夫人を含む、同国与党内の反体制組織「スーダン人民解放運動(SPLM)」の中心人物らは、キール大統領を「独裁的」と公に批判していた。【12月17日 AFP】
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上記なような政情はありますが、独裁批判がどうして無差別殺戮の部族抗争になるのか・・・。

もちろん南スーダンだけの話ではありません。
ナイジェリアではイスラム武装勢力によるキリスト教徒や対立部族への攻撃が止みません。
シリアの内戦は言うまでもなく、イラクでもスンニ派とシーア派の宗派対立的な一般市民を狙ったテロが頻発しています。

およそ生物には自分と異なる種族への攻撃本能がインプットされていると言えばそれまでですが、民族・部族、宗教、宗派が異なることによる一般市民殺戮が世界各地で起きています。

かつて住民同士の殺戮、ジェノサイドを経験したルワンダでは、“無教養が差別を助長したという反省”から教育に力を入れ、小中学生にPCを配る政策を進めています。

****ルワンダ、未来託すPC 広がる「子どもに1人1台****
未舗装の脇道に入ると、土造りの民家もまばらな農村が広がる。
東アフリカの人口約1千万人の小国、ルワンダ。首都キガリから車で約1時間半。カマバレ小中統合学校の古びた平屋建ての校舎が見えた。

 ■電気不通でも太陽光で発電
校舎の脇に真っ青なコンテナ。電気が通っていない地域なのに中は明るく、冷房もきいている。ノート型パソコン(PC)やプリンター、電子黒板もあった。

「インターネットも整備され、子供が見たこともない乗り物や動植物を教えられる」。バージニー・ムカガテテ校長は声を弾ませる。

韓国・サムスン電子が開発し、ルワンダ政府の要請を受けて無償提供したコンテナ教室の第1号だ。屋根の太陽光パネルで発電。PCは今は15台だけだが今後コンテナを増やし、1人1台の配備を目指すという。

同国政府が小中学生にPCを配る「1人1台」政策を打ち出したのは2008年。都市部では授業での活用も広がる。キガリ旧市街のギテガ小学校では児童1520人のうち、高学年804人に無料で配られた。
PCには計算問題や英語教材などが内蔵され、授業や宿題で使うという。

 ■大虐殺を反省、教育充実に力
この国では1994年、多数派部族が少数派を襲う民族大虐殺が起き、約100万人が犠牲になった。
無教養が差別を助長したという反省から、義務教育を充実させる必要に迫られた。

さらに人材育成に力を入れようと、政府は00年、金融や情報通信など知識集約型の経済への転換を目指す計画を作る。

カガメ大統領が目をつけたのが「1人1台」。米NPOが販売する子供用の格安品を知り、1台あたり200米ドル(約2万円)、計約4200万ドルを投じて5年間で20万台以上を配布。200校で無線LANやサーバーも整備した。

教育省のプロジェクトリーダー、ヌクビト・バクラムツァ氏は「PCがあれば教師や教材がなくても勉強できる。ルワンダはICT(情報通信技術)立国になる」。近く、同様の格安PCの生産を国内メーカーで始め、アフリカ各国に輸出する計画もある。

世界銀行のICT教育専門家ミシェル・トルカノ氏によると、PCやタブレット端末の「1人1台」は00年代後半から広まり、20カ国以上が着手。「急速に増えすぎて誰も全体を把握しきれない」のが実情だ。

「ICT活用力の育成、学力向上、産業育成など各国の思惑が企業側の利益と一致した。国民へのパフォーマンスになるので政治家の人気も高い」という。【12月22日 朝日】
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民族・部族、宗教、宗派が異なっても、その生命・権利は尊重しなければならない。その違いを超えて協力することができる。意見の違いでむやみに暴力をふるってはならない。汝、殺すなかれ・・・・そうした教育が行きわたれば、現在のような殺戮は影をひそめることでしょう。

しかし、多くの混乱の現場では、そうした教育を行う環境もなく、進める指導者もいません。
異教徒、対立部族民は殺して排除すべし・・・と、“汝、殺すなかれ”に共感しない勢力が多く存在します。
なんともやりきれない話です。
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パレスチナ  “紅海ー死海パイプライン”プロジェクト  “終わってはいない”中東和平交渉

2013-12-21 23:02:07 | パレスチナ

(地図中央の縦に長い湖が死海、そこから南に下るとエジプトとアラビア半島にはさまれる紅海にいたります。
イスラエルもヨルダンも紅海に接しているのは、湾の一番奥の僅かばかりのエリアですが、ヨルダン領の紅海沿岸の都市が“アカバ”、あの“アラビアのロレンス”がラクダで攻撃をしかけたオスマン・トルコの要塞があったところです。
中央の死海からヨルダン・パレスチナ自治区(地図では斜め線のエリア)の境界をなすヨルダン川を北へ遡ると、ガリラヤ湖(別名:ティベリアス湖)、その北東部に位置するイスラエルが占領するシリア領ゴラン高原(地図の上の端)に至ります。

前向きな一歩
下記は、もう10日以上前のニュースです。

****紅海から死海にパイプライン=水位低下防止、水供給で協力****
イスラエル、ヨルダン、パレスチナ自治政府は9日、米ワシントンの世界銀行本部で、紅海と死海を結ぶパイプライン設置を含む水資源の分配計画に署名した。水位低下が続き、干上がる恐れのある死海に塩水を注入するのに加え、水不足に悩まされている3者が、水供給での協力を通じて信頼醸成を図る狙いもある。

パイプラインは全長180キロで、ヨルダン領に設置される。完成には3年かかる見通しで、3億~4億ドル(約309億~412億円)の建設費は世銀からの融資などで賄う。【12月10日 時事】
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宿敵同士のイスラエルとパレスチナ自治政府、更にはヨルダンまで加わっての共同プロジェクトということで、“中東外交に絡む明るい話が浮上しても、にわかには信じ難いもの。だがこのニュースは前向きな一歩と言ってよさそうだ。”【12月24日 Newsweek日本版】との評価もあります。

上記【Newsweek日本版】によれば、“紅海の海水をヨルダン南部の施設で淡水化し”“ヨルダンとイスラエルはこの施設から真水を安定的に入手し、パレスチナはイスラエルから格安で水を購人できる計画”とのことで、その際に排出される塩水を死海に注入することで、死海の水位低下も食い止める・・・という計画です。

水不足に悩まされている3者にとっては“水は血より濃い”といったところでしょうか。
もともと、30年以上前からある話ですが、実現に向けては疑問もあるようです。

****死海が消滅危機で紅海とパイプライン「中東和平」になる****
毎年水位が1mづつ低下
塩分濃度が高く、人が浮くことで有名な死海が、近年著しい水位低下によって消滅の危機にあります。
毎年1m程度水位が下がっており、5年前に水際に造成した建築物が、今や10m以上先まで水辺が遠のきました。

主な原因として、流入する河川から農業や水道のため取水し、流入量が大幅に減少していることや、隣接する工場群が死海から大量に取水していることが挙げられます。

30年越しに対策実現
30年以上前から大作の議論が続けられてきましたが、西側のイスラエル、さらにパレスチナ暫定政府管轄の土地も隣接、東側にはヨルダンと複雑にまたがる湖となっており、政治的宗教的背景も絡んで、なかなか有効な手立てを打てませんでした。

ところが、ついにイスラエルとヨルダン、パレスチナ暫定自治政府が対策に合意しました。
200kmほど離れた紅海からパイプラインを引いて淡水化させ、それを死海に流入するという方法です。

イスラエルとしてはヨルダンとの共同プロジェクトを成功させ、不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出ができると考えました。
一方のヨルダンは、水力発電所や淡水化工場の建設で、多くの利益を生むと考えた訳です。
残ったパレスチナは条件付きで賛成に回り、長年の夢が現実になりました。

環境保護者からは反対の声も
ただ、この大規模かつ最先端の世界的な共同プロジェクトですが、一部の環境専門家からは疑問視する声もあります。

生態系への懸念、水質が違うため石膏に化学変化してしまい死海が石膏に覆われてしまうという懸念、パイプラインの安全性などです。

もともと塩分濃度が高い地盤のため、地面空洞化が発生し、3,000箇所も陥没や崩落が発生している地域の上、近年では地震が頻発している影響が大です。

当初はこのプロジェクトには最大17兆円もの費用がかかることも及び腰の原因になっていました。

費用負担についての報道はありませんが、せっかく手を携えた一大プロジェクトなので成功を願わずにはいられません。【12月10日 ニュースわいわいトレンド情報館】
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費用について、冒頭【12月10日 時事】では3億~4億ドル、上記記事では最大17兆円と、まったく数字が異なりますが、よくわかりません。

【“不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出”?】
この“紅海-死海パイプライン”計画については、5年以上前にも取り上げたことがあります。
(2008年9月9日ブログ“パレスチナ 「平和の渓谷」“死海-紅海運河”プロジェクト”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080909

このときは“運河”ということでしたが、その後の調査で“パイプライン”に変わったのでしょうか?

ヨルダン、イスラエル、パレスチナ自治政府は06年12月、実現可能性に関し予備的な検討始めることで合意していましたが、域内の緊張が高まったため頓挫、08年5月にようやく調査が開始されました。

いずれにしても、前回ブログで取り上げたように、イスラエルの水源となっているガリラヤ湖をめぐるイスラエル・シリアの対立、ヨルダン川の水利用をめぐるイスラエル・パレスチナの対立・・・など、この地域において“水”の問題は極めて重要な意味があります。

今回プロジェクトでそうした水を巡る緊張が少しでも和らぐのであれば、意味合いは小さくありません。
また、イスラエルが“不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出”を本気で考えているなら、中東情勢は劇的に改善するとも思いますが・・・・。

アッバス議長「われわれは約束した。丸9か月をかけた後、適切な決断を下す」】
その中東情勢の方は、このところあまり大きな動きがありません。
アメリカ・ケリー国務長官の懸命の仲介もあって、9か月の期間限定ですが、7月に約3年ぶりに交渉が再開されたにもかかわらず、イスラエルの入植計画発表などで、交渉の機運は低下しています。

ただ、まったく終わってしまった訳でもないようです。

****中東和平交渉:米国務長官、安保問題で提案****
中東を訪問中のケリー米国務長官は5日、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長と相次いで会談し、中東和平を仲介する米国として、交渉課題の一つである安全保障問題に関して提案したことを明らかにした。

関係者によると、今年7月に約3年ぶりに再開した和平交渉で、米国側が重要課題について具体案を提示したのは初めて。

ケリー長官がネタニヤフ首相との会談後の記者会見で明らかにした。
長官は「安全保障上の課題について、いくつかの考えを提示した」と述べたが、詳細は語らなかった。

また、アッバス議長との会談後の会見では、安全保障に関し、国家の樹立を目指すパレスチナ側が「主権の問題」、イスラエル側が「深刻なセキュリティーの問題」をそれぞれ抱え、交渉が難航しているとの見方を示した。

ヨルダン川西岸パレスチナ自治区には現在、イスラエル軍が駐留し、将来パレスチナ国家が樹立された後も、安全保障上の必要性から駐留継続を求めている。これに対しパレスチナ側は、国家の主権を侵害するものとして反対し、意見の隔たりが大きい。

地元メディアによると、ケリー長官の提案に対し、双方とも難色を示している模様という。【12月6日 毎日】
*****************

****中東和平交渉:パレスチナ担当者「枠組み合意目標*****
7月に再開した中東和平交渉に関し、パレスチナ側を代表するパレスチナ解放機構のエラカト交渉局長は18日、来年4月末までに主要な課題で「枠組み合意」を目指していると明らかにした。AP通信などが伝えた。

パレスチナ側が「枠組み合意」を目標とする方針を明確にしたのは初めてで、来年5月以降も交渉が継続される可能性が高まった。イスラエル側の意向が注目される。【12月19日 毎日】
*****************

なんとか交渉は継続してはいるようです。

****パレスチナのアッバス議長、「9か月かけ和平交渉に臨む****
パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は17日、中東和平問題について、現実に何が起ころうとも、米政府と合意した通り9か月間をかけてイスラエルとの和平交渉を続けていくと語った。(中略)

インタビューのなかでアッバス議長は、イスラエルによる入植地での住宅建設を遺憾としながらも、「われわれは約束した。丸9か月をかけた後、適切な決断を下す」と述べ、米国が仲介する和平交渉を遂行するとの意志を改めて示した。(後略)【11月18日 AFP】
****************

この会見においてアッバス議長は、アラファト前議長の放射性物質による毒殺の問題について、「裁判が行われないかぎりイスラエルを責めることはできない」と述べ、証拠なしにイスラエルを非難することはできないとの慎重な考えを示しています。
このあたりも、イスラエルとの交渉を継続させたい意向の表れでしょうか。

あとは、イスラエルが“不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出”を本気で考えてくれれば・・・というところですが・・・・。
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