(アフガニスタン中部ワルダク州で、丘の上に座り込む米兵(2019年6月6日撮影)【2月9日 AFP】)
【「米国はアフガンの警察ではない」】
2001年9月11日の同時多発テロ、首謀者のウサマ・ビン=ラーディンをかくまうアフガニスタン・タリバン政権への攻撃で始まった「アメリカ史上最長の戦争」、「終わりなき戦争」にようやく出口が・・・アメリカにとっての出口ですが。
****トランプ政権、米軍を段階的撤収も予断許さず タリバンと和平合意へ****
トランプ米大統領は、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンとの和平合意について、就任前からの公約だったアフガンでの「終わりなき戦争」の終結に向けた第一歩と位置づけ、駐留米軍の段階的な撤収を進めていく方針だ。
ただ今後、タリバンが米兵を殺害する事態が起きれば、トランプ氏が直ちに合意を破棄する事態も想定され、和平実現の行方は全く予断を許さない。
米政権は和平合意に基づき、現在約1万2千人規模の駐留米軍について、「第一段階」としてトランプ氏が就任した2017年1月当時と同水準の約8600人規模に縮小する。撤収は数カ月〜半年かけて行われる見通しだ。
この数字は、アフガンの治安状況に影響を与えない形で撤収し得る当座の人数として国防総省と駐留米軍が算出したとされる。
ただ、ホワイトハウスや国防総省の高官は、撤収を進めていくかはタリバンとアフガン政府との対話の進展具合などの「現地情勢次第だ」と強調する。
もともと、米国がアフガンに米軍を駐留させる最大の目的は、アフガンが再び米本土および外国の米権益に対するテロ攻撃の拠点と化すのを食い止めることだ。
タリバンが今後、国際テロ組織アルカーイダやイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)を呼び込み、アフガンを「テロの温床」にすることを図った場合、米政権は撤収方針そのものを見直す考えだ。
米政権は同時に、イラクで米国人が殺害されたのを受けてイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の殺害に踏み切るなど、反米勢力に対し「米国人の殺害は、越えてはならない一線(レッドライン)だ」との立場を明確に打ち出している。
米軍の駐留将兵がタリバンのテロ攻撃で殺害されるような事態が起きれば、米政権が和平合意を白紙に戻す事態も想定される。
一方で、仮に和平に向けたタリバンとアフガン政府との対話が進んだとしても、米政権はただちに米軍の完全撤収に踏み切るわけではない。
対米テロ攻撃の芽を摘むため現地の情報を収集し、アフガン治安部隊と共同での対テロ作戦を実行する米軍特殊部隊の駐留は続ける方針だ。
また、アフガン政府の自衛能力の向上も、米軍の撤収を実現させる前提条件の一つだ。米政権は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国などの駐留軍(約8千人規模)に対しても、性急な撤収の自制を促し、引き続き米軍と一緒にアフガン治安部隊の訓練と育成への協力を求めていく。【2月29日 産経】
***********************
米軍撤退が予定どおり進むか否かは現地の情勢次第ですが、“引き続き米軍と一緒にアフガン治安部隊の訓練と育成への協力を求めていく”と、アフガニスタンお今後の安定にも留意している・・・ようにも見えます。
ただ、下記記事など見ると、まずは米軍撤退ありきで、トランプ政権がアフガニスタンの今後にどの程度配慮・留意していうるのかはやや疑問にも思えます。
****米タリバン和平、ドーハで29日署名 米最長の戦争、最終局面****
(中略)米国とタリバンは22日から和平の前提となる「暴力の削減」を開始。
アフガン・メディアによると、暴力削減の開始以降もタリバンは全土で政府施設などへの攻撃を続け、28日までに市民や警察官ら計20人以上が死亡した。
だが、米軍など外国部隊に被害は出ておらず、米国やアフガン政府は暴力削減はおおむね達成されたと判断している。
トランプ米大統領は25日、訪問先のインドで暴力削減が順調に推移しているとの認識を示した上で「米国はアフガンの警察ではない」と改めて主張し、米軍撤収に意欲を見せた。(後略)【2月28日 産経】
***************
そもそも、紛争の当事者であるアフガニスタン政府抜きで、タリバンとアメリカが進めている「和平」であり、アメリカのて撤退を実現するものであっても、アフガニスタンの和平を実現する保証はありません。
「暴力の削減」にしても、米軍への攻撃がなかったというだけで、アフガニスタン市民や警察官への攻撃は続いています。
この状況で“暴力削減はおおむね達成されたと判断”するアフガニスタン政府の心中は?
「米国はアフガンの警察ではない」・・・・オバマ前政権時代から言われていることですが、アメリカは別にアフガニスタンに民主的な政権が根付くことを目的としているわけでなく、テロリストとの闘いを行っているだけで、アフガニスタンがテロの温床とならないことをタリバンが約束するなら、米軍がアフガニスタンにいる必要もない。あとは当事者同士でお好きに・・・ということでしょう。
民主化とか、アメリカ以外のことに関心を示さないトランプ政権の場合、そうした考えがよりストレートにでてきます。
【米国社会に広がる厭戦気分と非介入主義】
そのあたりの「アメリカは世界の警察官ではない」という考えは、トランプ政権だけでなく、ベトナム、アフガニスタン、イラクと長年の戦争に疲れたアメリカ国内に共通する気分でもあるのでしょう。
それだけに、トランプ大統領としては再選に向けて、アフガニスタン撤退という「成果」を国民に示したいという話にもなるのでしょう。
****米国社会に漂う、非介入主義 米軍死者7千人超、対テロ戦争疲れ****
QI代表のアンドルー・ベイスビッチ氏=米ボストン大ウェブサイトから
「クインシー研究所」(QI=Quincy Institute)が昨年12月、米国ワシントンに設立され、注目されている。
「終わりなき戦争を終わらせる」という目標を掲げ、リベラル派の投資家ジョージ・ソロス氏、右派の実業家チャールズ・コーク氏が共同出資する。
背景にあるのは、対テロ戦争で米国社会に広がる厭戦(えんせん)気分と非介入主義への支持だ。
「我々は米外交の根本的な方向付けをやり直す」。26日、米議会で開かれたQIのフォーラム「世界における米国の新ビジョン」で、QI議長のスザンヌ・ディマジオ氏はこう語った。
「(米国は)退治するべき怪物を探すために海外に出て行くことはない」がQIのモットー。名称の由来でもあるジョン・クインシー・アダムズ(1767~1848)の言葉だ。
アダムズはモンロー大統領のもとで国務長官を務め、米国の孤立主義を印象づけた「モンロー宣言」の起草者でもある。
「QIは米国が軍国主義化して外交手段を軽視している、と考える人々によって結成された。我々の目的は軍事力の抑制という考えを促進し、世界での米国の役割に関するワシントンの人々の考えを変えることだ」。代表を務めるアンドルー・ベイスビッチ氏(ボストン大名誉教授)は朝日新聞のインタビューでこう強調した。
歴史学者で元陸軍大佐でもあるベイスビッチ氏は保守派のリアリストとして知られ、軍事力を使う介入主義に反対の立場をとる。
ベイスビッチ氏は「QIは孤立主義と批判されるが、完全な間違い」と反論する。「我々は米国の国際的な関与を支持している。ただし永続的な戦争を行うのではなく、平和構築における関与だ」
主流派のシンクタンクでは国際主義の立場から米軍の前方展開戦略に肯定的な意見が多く、非介入主義を訴えるQIは異色の存在だ。
ソロス、コーク両氏という左右両陣営の大富豪が政治理念の相違にもかかわらず非介入主義で共闘したことが手伝い、ワシントンで衝撃が走った。
ソロス氏は民主党に多額の献金をするリベラル派である一方、コーク氏は共和党や草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」を支援したリバタリアン(自由至上主義者)。米メディアによれば両氏はQIの設立に計100万ドル(約1億1千万円)を寄付した。
同じ「戦争を終わらせる」という目標を掲げるトランプ氏に対するQIの評価は厳しい。前回の大統領選でトランプ氏が当選することで、介入主義に対する米国民の疑念が表面化した点をベイスビッチ氏は評価するものの、トランプ氏本人の政策については「一貫性がない。イランのソレイマニ司令官の殺害が良い例だ」と非難する。
■706兆円、第2次大戦超す支出
QIの主張を後押しするのは民意だ。
米シンクタンク「シカゴ地球問題評議会」の昨年6月の調査で「他国への軍事介入で米国はもっと安全になるか、それとも安全にならないと考えるか」と尋ねたところ、「安全にならない」が46%、「安全になる」は27%だった。
2001年9月11日の米同時多発テロをきっかけに始まった対テロ戦争は、米国社会に大きな影響を与えた。
米ランド研究所の調査によれば、アフガニスタン戦争やイラク戦争など一連の対テロ戦争には277万人(15年現在)の米軍人が派遣された。イラク戦争は11年12月に正式に終結宣言が出されたが、01年開始のアフガニスタン戦争はベトナム戦争を超える「史上最長の戦争」となり、今も1万3千人の米軍部隊が現地に派遣されている。
米
ブラウン大ワトソン国際・公共問題研究所の「戦争のコスト」プロジェクトによれば、対テロ戦争での米軍の死者は7千人を超え、地元民間人などを含めた死者の総計は77万~80万1千人に上る。計6・4兆ドル(706兆円)の支出は第2次大戦を超え、史上最も高額な戦争だという。
同プロジェクトディレクターのキャサリン・ラッツ・ブラウン大教授は、米国社会を覆う戦争疲れの理由について「多くの米国人は一連の戦争に税金を払い続けることに飽き飽きしている。自分たちの手元には何も残っていないからだ」と指摘。
「トランプ氏も同様に金の無駄ととらえ、『なぜ我々の金をほかの国々のために使うのだ? これは我々の金だ』と本能的に感じているのだろう」と語る。(後略)【2月28日 朝日】
*******************
「(米国は)退治するべき怪物を探すために海外に出て行くことはない」・・・・それはわかりますが、では国民を苦しめる怪物を誰が退治するのか、外交だけで実現できるのか・・・国際社会は難しい課題を担うことにもなります。
なお、アフガニスタン政府については、大統領選挙のゴタゴタが続いていますが、とりあえずはガニ大統領の大統領就任は、これ以上の混乱を避けたいアメリカの要請で延期されたようです。
****アフガン、大統領就任式を延期 米国が要請 タリバン和平への影響懸念****
米国務省は25日、アフガニスタン大統領選で再選したガニ大統領が、米国の要請で27日に予定していた2期目の就任式の延期を決めたと発表した。
次点のアブドラ行政長官が選挙結果に反発しており、米国は政局の混乱がイスラム原理主義勢力タリバンとの和平プロセスに悪影響を及ぼすことを懸念していた。
昨年9月実施のアフガン大統領選は今月18日に最終結果が発表されたが、アブドラ氏は選挙結果の受け入れを拒否して、独自の政権の樹立を宣言。既に自ら州政府知事を任命しており、ガニ氏とは別の自身の大統領就任式を計画している。(後略)【2月26日 産経】
*****************
もっとも、ガニ氏側は、延期は新型コロナの関係と国内に説明しているようですが。
*****アフガン、来月に大統領就任式 肺炎で延期?*****
アフガニスタン大統領府は26日、再選したガニ大統領の就任宣誓式を3月9日に行うと明らかにした。当初予定していた今月27日から延期した理由について「アフガンでの新型コロナウイルス感染に関する情報」と、世界各国の指導者への通知が遅れたことを挙げた。ロイター通信が伝えた。
米国務省の報道官は25日、ガニ氏が米国の要請に応じて延期したと明らかにしていたが、矛盾する説明となった。アフガン大統領府は内政の混乱が延期の原因ではないことを国内向けに強調する狙いがありそうだ。【2月27日 共同】
*****************