孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ラッカ奪還作戦の一方で、強まるシリア政府軍の攻勢 IS後の主導権獲得へ

2017-06-30 22:27:59 | 中東情勢
2017年6月28日現在の勢力図


2017年5月末の勢力図

【6月28日 青山弘之氏 Newsweek「米国はシリアでイスラーム国に代わる新たな「厄介者」に」】

ラッカ奪還は時間の問題 増大する民間人犠牲者
「イスラム国(IS)」が“首都”とするシリア・ラッカについては、アメリカなど有志連合が支援するクルド人勢力を主体とする部隊が完全に包囲して補給路も絶ち、奪還は時間の問題ともなっています。

ラッカ市内に残るIS戦闘員は3000人程度とみられていますが、10万人以上の民間人が取り残されているとも言われ、「人間の盾」として利用されることで犠牲者の増大も懸念されています。

****ラッカ奪還作戦、10万人の民間人身動き取れず 国連****
国連(UN)の人権高等弁務官は28日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が「首都」と位置付けるシリア北部ラッカ(Raqa)で10万人もの民間人が身動きの取れない状況になっているとして警鐘を鳴らした。同市内では米軍支援部隊がIS掃討作戦を進めている。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の調査によると、ラッカ市内での空爆および地上攻撃により、6月1日以降に少なくとも173人の民間人が死亡。しかし、この数字は控えめな見積もりで、実際の犠牲者の数はもっと多い可能性があるという。
 
OHCHRは声明で、ラッカでは「空爆や地上からの攻撃が激化し、最大で10万人の民間人が身動きの取れない状況にある」と説明。ISが避難を阻止しているとみられ、民間人が避難しようとしても、地雷や銃撃で死亡する危険があると述べている。
 
ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は声明で、「ラッカではこの3週間、爆撃が激化し、ISIL(ISの別称)の残虐行為とそれを打破しようとする激烈な戦闘のはざまで住民は恐怖に震え、避難先を求めて混乱のさなかにあると伝えられている」と報告した上で、同市内でIS掃討作戦に参加している国際部隊を含めたすべての勢力に対し、作戦の見直しと、「民間人の犠牲を避けるためにあらゆる適切な予防措置を講じるとともに、国際法を徹底的に順守」するよう求めている。
 
クルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」は数か月にわたってラッカ包囲作戦を進めてきた後、6月6日に同市内に進攻し、これまでに4分の1を制圧している。【6月29日 AFP】
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アメリカなど有志連合による空爆も激しさを増しており、“シリア人権監視団によりますと、今月23日までの1か月間で空爆に巻き込まれて死亡した人は470人余りと、3年前に統計を取り始めて以来、最も多くなったということで、ISへの攻勢が強まるなか、犠牲となる市民がさらに増えることが懸念されています。”【6月28日 NHK】とも。

民間人犠牲を減らすために空爆を緩めると、今度はISの抵抗でクルド人などの攻撃部隊の犠牲が増大する・・・ということでしょう。

“戦争なので犠牲者もやむを得ない”と言えばそれまでですが、すでに包囲も完成していますので、時間をかけながら、なるべく犠牲者が少なく済む作戦でことを進めてもらいたいところです。

攻勢を強めるシリア政府軍 ラッカ奪還後のIS掃討の主導権を
“時間の問題”となっているIS崩壊後のシリア情勢については、6月20日ブログ「シリア ラッカ奪還で本格化するポストISの“グレート・ゲーム”最後の勝利者は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170620でアメリカ、ロシア、イラン、トルコなど関係国の動向などを含めて取り上げたところです。

ここのところの傾向としては、アメリカ支援のクルド人勢力によるラッカ奪還作戦が本格化するなかで、ロシア・イランの支援を受けるアサド政権政府軍が支配領域を拡大する動きが顕著に見られます。

冒頭に示した5月末と6月28日時点の勢力図を見比べると、ほんのひと月ほどで赤紫色の政府軍支配エリアが大きく拡大していることがわかります。

シリア軍と「外国人シーア派民兵」(イラン革命防衛隊が支援するイラク人からなるヌジャバー運動、アフガニスタン人(ハザラ人)からなるファーティミーユーン旅団、そしてレバノンのヒズブッラーの武装部隊など)は、IS及びアメリカが支援する反政府勢力を掃討して南東部イラク国境方面に侵攻しました。

これに対し、タンフ国境通行所付近を拠点とするアメリカは、“「自衛権」を発動するとして、6月6日にシリア軍と「外国人シーア派民兵」の車列や拠点を空爆、8日と20日にも「外国人シーア派民兵」が使用する無人航空機を撃墜し、同地に接近しないよう警告”【6月28日 青山弘之氏 Newsweek「米国はシリアでイスラーム国に代わる新たな「厄介者」に」】しました。

しかし、シリア政府軍等はイラク国境に到達し、更にユーフラテス川流域に向けて進軍しています。

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シリア軍と「外国人シーア派民兵」は10日、タンフ国境通行所を迂回して国境に到達(中略)。

また18日には、イラン革命防衛隊の支援を受けるイラクの人民動員(ハシュド・シャアビー)隊がイラク軍とともに国境に到達し、シリア軍と「外国人シーア派民兵」と対面、両国を結ぶ街道が再開した。

さらに、シリア軍と「外国人シーア派民兵」は、国境沿いをユーフラテス川流域に向けて進軍、戦略的要衝T2(第2石油輸送ステーション)から12キロの地点にまで到達した。”【同上】
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更に、政府軍はロシア・ヒズボラの支援で北部のIS拠点・マスカナ市を攻略、中部でもスフナ市に迫っています。

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シリア民主軍と有志連合がラッカ市解放に向けて戦力を集中させるなか、シリア軍は、ロシア軍とヒズブッラーの精鋭部隊の支援を受け、ユーフラテス川西岸を南下し、6月4日にアレッポ県東部のイスラーム国最後の拠点マスカナ市を陥落させ、また8日にはラッカ県内に進軍し、イスラーム国の支配下にあった村・農場を次々と制圧していった。

同時に、タドムル市(ヒムス県)とダイル・ザウル市を結ぶ幹線道路に沿って東進し、スフナ市(ヒムス県)に迫った。【同上】
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この政府軍攻勢の過程で、6月18日には、ラッカ市南西部に位置する交通の要衝ラサーファ交差点一帯でISと戦う地上部隊を航空支援していたシリア軍戦闘機をアメリカ軍戦闘機が撃墜する“衝突”も起きています。

ラッカを追われたISは今後は東部ダイル・ザウル県のダイル・ザウル市、マヤーディーン市、ブーカマール市などを拠点とすると思われます。

シリア政府軍は、上記のような支配アリア拡大によって、南東部反政府勢力をタンフ国境通行所周辺に、また、シリアでの有志連合の戦いを地上で支え得る唯一の「協力部隊」であるクルド人勢力をラッカ周辺にくぎ付けにする形で、東部ダイル・ザウル県に点在するIS拠点への最終決戦の主導権を握る態勢を固めつつあります。

ラッカ攻略後のクルド人勢力の関心は、東部に拠点を移したIS追撃よりは、クルド人勢力を敵視するトルコにどのように対処するか、できればトルコが反政府勢力を支援して押さえているエリアを奪って、飛び地状態にある北西部アフリーン市と支配エリアをつなぎたい、最終的にはクルド人自治地域を確立したい・・・・というところに向くのではないでしょうか。

そうしたこともあって、おそらく東部ダイル・ザウル県周辺のIS支配エリア(灰色部分)は、今後、政府軍支配エリア(赤紫色)に変わっていくことが予想されます。

南部でも政府軍と反政府勢力の戦闘が続く
緑色の反政府勢力が残っているのは、上記でも触れた南東部の米軍が支援するタンフ国境通行所周辺、北部のアレッポから撤退した反政府勢力が移動したイドリブ周辺と、もう一つが南部のイスラエル・ヨルダン国境に近いエリアです。

その南部でも政府軍の攻勢が続いています。その衝突はゴラン高原を占領するイスラエルをも巻き込んだ形になっています。

****シリア南西部での戦い(クネイトラとダラア****
シリアのクネイトラ方面で政府軍と同盟の民兵が反政府軍と激しい戦闘を続けていて、その飛来弾がイスラエル占領地に落下し、イスラエルが確か4回にわたって、政府軍陣地を砲撃したことは何度か報告しましたが、どうやら反政府軍と政府軍、革命防衛隊、ヒズボッラーの戦いは、このクネイトラと、それに近いダラアで激しく続いているようで、アラビア語メディアは、双方の戦場で、政府軍側は大きな損失を被ったと報じています。

(反政府軍の損失は不明ですが、航空優勢で・・というか独占し…大火力を有する政府軍との戦いで当然反政府軍も大きな損失をこうむっているかと想像します)(後略)【6月30日 「中東の窓」】
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この南部地域で政府軍と戦っている反政府勢力は、アルカイダ系旧ヌスラ戦線のようです。

イスラエル軍はイスラエル領内に撃ち込まれた発射体について、シリア内戦で発射された砲弾が誤ってイスラエル側に飛来したとの見方を示しており【6月25日 ロイターより】、報復の砲撃・空爆は行っていますが、それ以上の関与を拡大する意図もないようです。

米軍はIS後のシリアには深入りせず
ラッカ奪還後のシリア勢力図がどうなるかは、アメリカの意向にも大きく左右されますが、米軍幹部からは、ISさえ潰せれば、あとはアサド政権支配となってもかまわない旨の発言も出ているようです。

****シリア東部はアサドとイランのものにすればいい・・・・米中央軍****
<有志連合を率いる米中央軍から重大発表。ISISさえやっつければ土地はアサドのもの。米軍は速やかに撤退する──戦後復興はまたしないらしい>

ISIS(自称イスラム国)掃討作戦を進める有志連合の米中央軍報道官ライアン・ディロン大佐は先週、アメリカのシリア政策に関する重大発表を行った。

彼はイラクとの国境に面したシリア東部の町アブカマル(冒頭地図では“ブーカマール”と表記されているイラク国境沿いの町)に言及し、次のように語った。

アブカマルでISISと戦う意欲と能力がバシャル・アサド大統領とシリア政府軍にあるのなら、歓迎する。有志連合の目的は土地を争奪することではない。

我々の使命はISISを撲滅することだ。もしアサド政権が我らと協調し、アブカマルやデリゾールなどの町でこの使命を果たしてくれるなら、我々が同じ地域に出ていく理由はなくなる。

この発言の重大性は見過ごせない。アサド政権とそれを支援するイランは、シリア東部のどこでも好きな土地を取ってよい、と言っているのだから。(中略)

米中央軍にとっては、ラッカでISISを掃討することがすべてなのだ。ISISが二度と復活しない環境を整えることは、たぶん他の誰かの仕事だと思っている。

軍司令部が本能的に自らの任務を限定したがるのは理解できる。だが米中央軍の司令官たちは、2003年のイラク戦争や2011年のリビア内戦の後、復興安定化計画を欠いたために起きた混乱をあまりによく知っている。

米中央軍は、2017年のシリアは当時のイラクやリビアとは違うと考えているようだ。米軍は対ISIS掃討作戦の地上戦の「パートナー」であるクルド人主体の反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」を支援しているだけなので、内戦後のシリアを統治する責任はSDFにあるという考え方だ。

もしイスラム教スンニ派が大半を占めるシリア東部を統治するのが、クルド人やアラブ人の外国人部隊には無理というなら、アサド政権やイランがまとめて支配すればよい、という考えなのかもしれない。

反政府勢力と協力し、シリア東部に持続可能な非アサド政権を作ってテロの再燃を防ぎ和平協議を取り持つのは、「我々の仕事ではない」と、米中央軍は言っている。(後略)【6月28日 Newsweek】
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この米中央軍報道官ライアン・ディロン大佐の発言が、どこまでアメリカ・トランプ政権内でオーソライズされたものなのかは知りませんが、もともとシリアに深入りしたくないトランプ大統領の本音に近いもののようにも思えます。

シリア政府軍の攻勢と、アメリカの上記のような考えからすれば、現在のIS支配地域(灰色)は早晩政府軍支配に変わるでしょうし、緑色の反政府勢力支配地域もやがては赤紫色に・・・と思われます。

クルド人勢力とトルコの対立をアメリカがどのように調整するつもりかはわかりません。
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ドイツ  ベルリン警察、羽目を外して騒いだ警官に意外な対応 メルケル首相、同性婚容認に方針転換

2017-06-29 23:06:33 | 欧州情勢

(パーティーで大騒ぎするベルリン警察の警官【6月28日 ビルド】)

ドイツ人気質とは? 日本人と似ている?】
個人の性格などについても、「あなたはこんなイメージ」と言われると、「そんな簡単に言ってほしくないな・・・」と思うものです。

ましてや、“国民性”とか“社会のイメージ”となれば、それほど簡単に言い表されるものでもないでしょうし、当たっていると思われるものについても、当然ながら規格外の人は大勢います。

日本人についても、勤勉とか、真面目とか、きれい好き・・・とか言われますが、そうでない人は周囲を見渡しただけでもはいて捨てるほどいます。あるいは、自分自身を見ても・・・・。

欧米系のなかでは比較的日本人に似ている・・・といったイメージ評価をよく目にするのがドイツ人です。
そのイメージは、超簡単に言えば「勤勉で、真面目で、きれい好き、論理的」といった類でしょう。

もう少し膨らませば、以下のようなイメージでしょうか。

****日本人が意外に知らない、ヨーロッパ主要8か国の国民性とは ****
ドイツ人
よく「日本人と似ている」と話題にのぼるのがドイツ人。確かに、真面目で時間厳守、周囲の目を気にするところは日本人と似ています。

一方で、日本人と大きく違うのは、ドイツ人が「世界一のケチ」という評判さえあるほどの倹約家であること。日本人と違って高価なブランド物には興味を示さず、あくまでも機能性重視。ファッションに必要以上に手間やお金をかけず、女性はあまりメイクをしないのがドイツ流です。

ドイツのスーパーでは、各商品のグラムあたりの単価が表示されており、値段を比較しやすいようになっています。日本人のように「高いからいい物なのだろう」とは考えず、高い理由に納得できなければ購入しません。

決まりごとが大好きでルールに厳しいドイツ人は、仕事にせよ家事にせよ、しっかりと計画を立ててその通りにこなすのが得意。長く厳しい冬を乗り切るため、食料などを計画通りに消費する必要があった時代が長いためだといわれています。掃除や整理整頓もお手の物で、インテリア雑誌から飛び出してきたかのような住まいも珍しくありません。

住まいに手をかけても食にはこだわらないのがドイツ人。特に北ドイツは土地がやせていて食材に乏しく、料理が発展しなかったため、ドイツの伝統的な食文化は保存食が中心。グルメでファッションにこだわる日本人とはまるっきり違うところもあるのです。【1月7日 赤松春奈氏 msnニュース】
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ベルリン警察:われわれはただのパーティー好きな警察ではなく、プロフェッショナルな首都の警察だ!】
そんなイメージからすれば、「おやおや・・・」という感もあるニュース。

****G20警備で応援の独警官一団、どんちゃん騒ぎで帰任 公然とセックスも****
20か国・地域(G20)首脳会議が来週開催されるドイツ北部の港湾都市ハンブルクで、首都ベルリンの警察官200人以上が、パーティーで酒に酔ってどんちゃん騒ぎを繰り広げ、公然とセックスするなどしたため、帰任を命じられた。
 
ベルリンに配属されていた警官220人は、来月7日から8日にかけて開催されるG20の期間中における治安維持のための応援でハンブルクに派遣されていた。G20の間、同地には反グローバリゼーションを掲げるデモ隊数万人が集まると見込まれている。
 
だが地元メディアが27日に報じたところによると、警官たちは職務に臨む前に、宿泊施設でどんちゃん騒ぎを開いてしまった。一部の警官は公然とセックスを行ったり、フェンスに向かって集団で小便をしたり、武器を手にストリップダンスを繰り広げたりしたという。
 
地元紙「B.Z.」は、「ある女性警官がバスローブ1枚を羽織っただけという格好で武器を手にテーブル上で踊っているところが目撃された」と報じ、午前6時半に終了したというパーティー後、散らかった食堂で酒を手にポーズを取る警官たちの写真を掲載した。
 
公共放送「RBB」が報じたところによると、少なくとも警官1人が同国西部ブッパータールから派遣された警官との殴り合いのけんかに関与したという。
 
ベルリン警察はツイッター上で今回の騒ぎを認め、ハンブルクに送られた応援部隊が、任務完了を待たずして任務を解かれたとの報告があったと投稿。「その理由は現地の宿泊施設での不祥事だ」と述べた。【6月28日 AFP】
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AFPが世界配信するぐらいですから、「おやおや感」はそれなりにあるのでしょうが、これだけであれば、「まあ、たまにはそんなこともあるだろう・・・」で終わります。この話の面白いところは、帰任を命じられたベルリン警察当局の「それがどうした!」と言わんばかりの反応です。

****ベルリン警察「われわれも人間」 どんちゃん騒ぎの警官ら擁護****
ドイツ北部ハンブルクで来週開催される20か国・地域(G20)首脳会議の警備のため首都ベルリンから派遣された警察官たちが、どんちゃん騒ぎのパーティーを開いて帰任を命じられた問題で、ベルリン警察当局は28日、警察官も「ただの人間」だと擁護した。世界的に有名なベルリンのクラブシーンでは、警察官らを称賛する声が上がっている。
 
問題を起こしたのは、来月7、8日に開催されるG20の警備の応援でハンブルクに派遣されていたベルリンの警察官の一部。公然とセックスをしたり、フェンスに向かって集団で小便をしたりしたほか、バスローブ1枚を羽織り武器を手にストリップダンスを繰り広げた女性警察官もいた。
 
この騒ぎを受け、ハンブルク当局はベルリンから派遣された警察官約220人の職務を解き、帰任させた。
 
ベルリン警察当局は、フェイスブックに発表した声明で「そうだ、われわれはパーティーを開いた」と認めた上で、同僚の警察官2人の誕生日を祝うため、フェンスに囲まれた仮設宿舎の敷地内で行われたものだと説明。「飲酒し、踊り、小便し、警察発表にあったようにセックスした者もいたようだ」と述べた。
 
だが、声明は続けて「われわれの制服の中は、ただの人間にすぎない」と指摘。騒いだ警察官らについて、勤務中には重大な責務を背負っている若い男女で、普段は「大変プロフェッショナル」だと擁護した。
 
さらにベルリン警察当局の声明は、今回の予期せぬ注目を警察官の新規採用につなげ、「このプロフェッショナルな仕事について、ぜひ自分の目で確かめてみてほしい。われわれはただのパーティー好きな警察ではなく、プロフェッショナルな首都の警察だ」と勧誘している。
 
ドイツ政界では今回の騒動を問題視する声が上がっているが、ナイトクラブで知られる地元ベルリンでは、業界団体が「世界の政治家が会議を開くわずか10日前に、ベルリンの警察官たちは模範を示すという職務を果たし、素晴らしいパーティーを開いた」と冗談交じりに称賛。「ベルリンに戻ったら好きなクラブに招待する」と表明した。【6月29日 AFP】
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お堅いイメージのドイツの首都警察当局(日本で言えば警視庁でしょうか)にしては、ずいぶんとくだけた対応です。ふっきれた対応に思わず“いいね!”を送りたくなりました。
(フェイスブックに発表されたベルリン警察当局の声明”というのは本当に当局の公式見解でしょうか?警官組合とかそういうものではなくて・・・)

本当に公式見解なら、日本では到底考えられない対応で、“日本とドイツは似ている”云々があてにならないことも示しています。(警視庁なら懲戒処分でしょう)

【“お堅い”メルケル首相も総選挙をにらんでソフトイメージへ
お堅い話に戻すと、ドイツでは3か月後に総選挙を控えています。

一時、中道左派の社会民主党に支持率で肉迫されたメルケル首相率いる保守系のキリスト教民主・社会同盟ですが、その後再びリードを大きくしていることは報道のとおりです。

メルケル首相としては、ベルリンの警察官たちが帰任を命じられた7月上旬のG20を無難にこなせば、ゴールも見えてきます。

****独総選挙まで3カ月 首相陣営、再び勢い 社民、挽回へ“違い”アピール躍起****
ドイツの連邦議会(下院)選挙は9月24日の投票まで3カ月を切った。4期目を目指すメルケル首相の陣営は一時、ライバルの中道左派、社会民主党に支持率で肉迫されたが、再び勢い付く。

連立相手でもある社民党はメルケル氏との“違い”をアピールし、対決姿勢を一段と前面に打ち出すなど巻き返しに躍起だ。
 
公共放送ARDが伝えた最新の世論調査では、メルケル氏の保守系、キリスト教民主・社会同盟の支持率が39%に対し、社民党は24%。両党は3月まで約30%で並んでいたが、この約3カ月で15ポイントも差が開いた。
 
同盟は難民流入やテロで支持率を落としたが、メルケル氏がトランプ米大統領と渡り合うなど外交で存在感を改めて示したこともあって回復。社民党は首相候補のシュルツ党首の下で党勢を急回復させたが、シュルツ氏には「政策があいまい」との批判が付きまとった上、地方選でも連敗して勢いに乗れなかった。
 
社民党はこのため25日に決めた選挙公約で、中低所得者への減税など「公正」重視の政策を掲げたほか、同盟が反対する同性婚合法化を主張。

外交でもトランプ氏が求め、同盟も前向きな国防支出拡大を「軍拡政策に服従しない」と拒む一方、マクロン仏大統領が主張し、同盟に慎重論が強いユーロ圏共通予算を支持。争点化する構えを示した。
 
ただ、同盟も減税を検討しており、メルケル氏とマクロン氏の良好な関係が定着する中、社民党の主張がどれだけ争点として浸透するか不透明だ。社民党はメルケル氏が優勢を保つため政策論争を避けているともみており、シュルツ氏はその姿勢を「民主主義への攻撃」「権力の傲慢」と異例の厳しい表現で批判した。
 
メルケル氏にとってはトランプ氏も出席し、7月上旬に北部ハンブルクで行われる20カ国・地域(G20)首脳会議が当面の焦点。取りまとめに失敗すれば、社民党につけ込む余地を与えかねない。

独誌シュピーゲルは「社民党はこれまでになく団結しており、メルケル氏にはなお危険になりえる」と指摘している。【6月27日 産経】
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もっとも、記事にもあるように社会民主党も党勢挽回を狙っています。

独社会民主党、富裕層増税を提案 支持率回復目指す【6月20日 ロイター】
独社民党、労働市場改革見直しを公約 メルケル氏に対抗【6月26日 朝日】

メルケル首相としても、無策でいい訳でもありません。

冒頭のイメージ云々の話にもなりますが、メルケル首相というと、どうしても“お堅い・生真面目”イメージも。
そんなメルケル首相と国民世論とのズレが出ているのが“同性婚”問題。

そこで、“お堅い”メルケル首相も、印象操作として同性婚容認に転じたようです。

****ドイツ、同性婚合法化へ 9月の総選挙見据え今週にも****
ドイツで早ければ今週にも同性婚が合法化される見通しとなった。各党が相次いで同性婚に賛同する姿勢を示す中、反対しているのはアンゲラ・メルケル首相が党首を務める与党の中道右派キリスト教民主同盟(CDU)などにとどまっており、9月の総選挙で不利になることを避けるため、ここにきてメルケル氏が方針転換したとみられる。
 
同性婚が合法化されると、同性カップルによる養子の受け入れなどが可能となり、結婚によって得られる権利が全面的に認められる。ドイツの同性カップルには現在、いわゆるシビル・ユニオン(結婚に準じた権利を認める制度)しか認められていない。

これまでメルケル首相は同性婚の合法化について、「子どもの幸せ」への懸念から個人的な見解は差し控えると表明してきた。
 
しかし、連立政権を組みながら総選挙ではCDUのライバルとなる中道左派の社会民主党(SPD)は25日、今後は同性婚の合法化を求めていくと主張し、連立合意の要求水準を引き上げていた。
 
この他にも、野党の緑の党や極左の左派党、財界寄りの自由民主党(FDP)が同性婚の合法化に賛成している。そのため反対しているのはCDUと右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のみという状況になっていた。
 
ただメルケル首相は26日、ドイツの女性誌「ブリギッテ(Brigitte)」による公開インタビューで方針の転換を示唆。最近、バルト海沿岸の自身の選挙区で8人の養子を愛情込めて育てるレズビアンのカップルに出会い、「心に残る経験」をしたため、考えが変わったと述べていた。【6月28日 AFP】
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赤ちゃんの「尊厳死」 未成年者の「安楽死」 医師処方薬による「死ぬ権利」 日本では・・・

2017-06-28 23:08:28 | 疾病・保健衛生

(ベルギーで販売される、一般医が患者の自宅で安楽死を行うための「安楽死キット」(2005年4月18日撮影、資料写真)【2016年9月18日 AFP】)

イギリス 10か月の赤ちゃんの「尊厳死」】
高齢化社会の進行、延命“技術”の進歩もあって、治癒の見込みがない終末期医療の在り方、端的に言えば、いわゆる「死ぬ権利」をどのように社会的・法的に扱うかということは、日本でも今後大きな問題となっていくかと思います。

最初に言葉の整理をしておくと、「安楽死」と「尊厳死」については以下のように説明されています。

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尊厳死は、延命措置を断わって自然死を迎えることです。
これに対し、安楽死は、医師など第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早めることです。
どちらも「不治で末期」「本人の意思による」という共通項はありますが、「命を積極的に断つ行為」の有無が決定的に違います。【日本尊厳死協会HP】
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いかにも手に余る重い話題を取り上げたのは、今日「死ぬ権利」の関する2件の記事を見たからです。

1件目は、イギリスで脳に損傷を負っている生後10か月の男児について尊厳死が認められた・・・という話題。

両親が延命を求めているのに対し、医師が裁判所に延命停止を求めて訴える・・・・という、日本的な“常識”からは想像しがたい側面がある話ですが、先ずは今日の記事の前提となる4月段階の記事から。

****英裁判所、8か月の乳児に尊厳死を認める判決 両親は治療継続を希望***
難病の「ミトコンドリア病」を発症し脳や筋肉に損傷があるため、生命維持装置なしでは生存できないと診断されている8か月の英国の乳児に対し、尊厳死を迎えさせるべきだと治療を担当する医師らが求めていた裁判で、2017年4月11日に英国の上級裁判所である高等法院が「尊厳死を認める」とする判決を下した。AFPやガーディアン紙など海外メディアが伝えた。

両親は米国での治療を希望しており、上訴する予定だという。

治療に意味がなければ尊厳死を認めるべきか
4月11日付のデイリーメールによると、乳児はロンドンにあるグレート・オーモンド・ストリート病院で治療を受けていたチャーリー・ガードちゃん。

治療を担当していた医師たちは現在検討できる治療法でチャーリーちゃんの脳の損傷を元に戻すことはできず、生命維持装置につながれたまま意識のない状態で延命を続けることになるため、装置を停止させ延命治療を終了させることを両親に提案していた。

しかし、両親は米国で研究中の治療法を試したいと主張し意見が対立。尊厳死を求める医師側が裁判所に訴え出たという。

高等法院は複数の専門家に聞き取りを行い、米国での研究者にも確認を行ったが脳の損傷を元に戻すことはできないとの結論に達し、「医学的な実験には有益かもしれないが、ひとりの人間には何の恩恵もなく死に至る時間を延ばすだけ」と判断。尊厳死を認めるとの判決を下したという。

両親ではなく裁判所がチャーリーちゃんの尊厳死の判断を下すことについては英国内でも議論となっており、判決を下したフランシス・ジャスティス裁判官は「両親は子どもの支配者ではなく常に最善と思える客観的な判断を下すべきだが、それが難しい場合は裁判所が判断する例もある」とコメント。

両親の代理人である弁護士は「少なくとも治療を試したうえで尊厳死の判断をすべきではないのか」と疑問を呈している。

英国では尊厳死を求める医師や医療機関が患者の家族から同意を得られない場合、高等法院に訴え出る例がある。【4月17日 J-CAST】
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医師が延命停止を拒み、家族が停止を求めて訴える・・・というケースならまだ想像しやすいのですが、今回のケースは逆です。医師側が延命停止を求めて訴え、両親の意思に反して裁判所が尊厳死を認めるというケースです。

“両親は、チャーリーちゃんを米国へ連れて行き、チャーリーちゃんが発症している型のミトコンドリア病の治験を受けさせることを希望していた。チャーリーちゃんの治療資金として、インターネット上で8万人以上から計120万ポンド(約1億6000万円)以上の募金が集まっていた。”とのことで、“裁判官から判決が下された瞬間に「ノー」という悲鳴が上がり、母親のコニー・イエーツさんと父親のクリス・ガードさんは判決が言い渡されている間、すすり泣いていた。”【4月12日 AFP】とも。

このケースに関し、欧州人権裁判所(ECHR)は2週間前、「適切な」治療を継続するようイギリス政府に命じる暫定的な判断を下していましたが、最終的にイギリス裁判所の判断を認めた・・・というのが今日の記事です。

****欧州人権裁判所、遺伝子疾患の赤ちゃんの「尊厳死」認める判断 英判決を支持****
欧州人権裁判所(ECHR)は27日、まれな遺伝子疾患を発症している赤ちゃんの延命治療を終わらせるべきとした英高等法院の判決をめぐり、最終的にこの判決を支持する判断を下した。
 
フランス北東部ストラスブールにあるECHRは2週間前、まれな遺伝子疾患を発症し、脳に損傷を負っている生後10か月の男児チャーリー・ガードちゃんに対し「適切な」治療を継続するよう英政府に命じる暫定的な判断を下していた。
 
一方でこれに先立ち、両親は治療のためにチャーリーちゃんを米国に連れて行きたいと希望していたが、英高等法院は「尊厳死」が認められるべきとの判決を下していた。
 
チャーリーちゃんの治療を行う英ロンドンの病院の広報担当者は「今日のECHRの決定は、とても困難な訴訟プロセスに終わりを告げるもので、当院が優先するのは、次の段階に向けた準備を行いながら、チャーリーちゃんの両親を可能な限りの支援を提供することだ」とコメント。

「急いでチャーリーちゃんの治療を変更する必要はないし、今後の治療計画について、慎重なプランニングと議論を行っていく」と述べた。【6月28日 AFP】
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このケースに関する記事以上の情報も、尊厳死に関する一般的知見もありませんので、“ノーコメント”で。

アメリカの「死ぬ権利」 カリフォルニア州ブラウン知事の苦渋の判断
もう1件の話題は、アメリカ・カリフォルニア州における「死ぬ権利」に関するもの。
具体的には、医師の処方する薬で命を絶つという“自殺ほう助”に関する記事です。

****死ぬ権利」法で111人が絶命 米カリフォルニア州で施行後半年、「がん」が6割****
米カリフォルニア州で昨年6月に施行された安楽死や尊厳死をめぐる「死ぬ権利」法で、最初の半年間で111人が医師に処方された薬剤で命を絶ったことが27日、州当局が公表した資料で分かった。
 
同法は、病状末期(余命6カ月未満)と宣告され、正常な判断ができる状態の患者が、医師の処方する薬で命を絶つことを認めている。2人の医師の承認や患者が自筆で処方を求めることなどが条件。
 
州当局によると、昨年6月から同12月までに、患者191人が薬の処方を受け、111人が薬を使用した。21人は使用する前に死亡し、59人は不明という。
 
111人の年齢は60〜89歳が75.6%を占め、60歳以下は12.6%、90歳以上が11.7%だった。45.9%が男性。病名はがんが58.6%で最多だった。
 
同州で「死ぬ権利」法が成立したのは、2014年に末期の脳腫瘍で余命半年と宣告されたブリタニー・メイナードさん=享年29=の死がきっかけだった。

苦痛に耐え続けたが、最後は末期患者への医師による薬剤の処方が州法で認められていたオレゴン州に転居し、自ら死を選んだ。

この死をめぐり、全米で「死ぬ権利」議論が起き、カリフォルニア州のブラウン知事は熟慮の結果、法案に署名した経緯がある。【6月28日 産経】
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この件についても“ノーコメント”ですが、“59人は不明”というのは“それでいいのか?”という感も。

なお、2015年に法案を認めたカリフォルニア州ブラウン知事はキリスト教の神学校に通っていたそうで、その苦渋の決断については以下のようにも。

****安楽死・尊厳死を認める「死ぬ権利」法が成立 カトリックのカリフォルニア州知事はどう決断したのか****
アメリカ・カリフォルニア州で10月5日、安楽死・尊厳死を合法とする「死ぬ権利」法が成立した。同州のジェリー・ブラウン州知事がサインした。オレゴン、ワシントン、モンタナ、バーモントの4つの州に続き、安楽死・尊厳死を認める5番目の州となる。

法律は、末期患者が医師の処方で命を絶つ権利を法制化するもの。2人の医師から余命6カ月未満の宣告を受け、少なくとも15日後に要求書を作成するとともに患者自らが口頭で2回要請すること、そして自分で「死ぬ権利」の選択を決める能力があることが条件になる。

法案には、カトリック教会や障害者団体などが反対。9月11日までに同州議会で法案が可決されたが、カトリック教徒であり、キリスト教の神学校に通っていたブラウン知事が、法案に署名するかどうかに注目が集まっていた。

知事は決断までに数週間をかけ、「最後は、私自身が自分の死に直面した時に、どうしたいかを検討できるようにした」と告白。

「もし私が、長期にわたるる耐え難い痛みで死に向かっているときに、どうするかはわからない」と続けた。そのうえで、「この法律によって安心する人もいるだろうと思う。その権利を、私は否定しない」と述べた。(後略)【2015年10月6日 The Huffington Post 】
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日本 厚生労働省ガイドライン
安楽死、尊厳死に関する各国及び日本の状況については、以下のようにも。

*****死に方を選ぶ、尊厳死が合法な国と日本の状況。治療中止とリビングウィル****
尊厳死が認められている国
まず尊厳死の前に、薬を自分で飲む自殺幇助を含めた「安楽死」が認められている国はオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スイス、米国の一部だけ。かなり少ない事が分かります。

しかし、自殺幇助を除いた治療中止による「尊厳死」が認められている国はと言うと、米国全土・英国・デンマーク・フィンランド・オーストリア・オランダ・ベルギー・ハンガリー・スペイン・ドイツ・スイス・シンガポール・台湾・タイ・カナダやオーストラリアの一部となっており、実質的には欧米の殆どが尊厳死を認めていると言っても良いでしょう。

他にも法的に明文化していないだけで、尊厳死に近いものが認められている、黙認されている国は非常に多いです。

そもそも、尊厳死について真剣に考える機会があるのは医療制度が整っている先進国だけです。そうでない後進国などでは「医療費が払えない」というケースも多く、尊厳死以前に「自然な死を迎えるのが当たり前」という状態です。ある意味、尊厳死について議論出来るというのは非常に贅沢なのかもしれません。

安楽死については、安楽死が認められている国でも承認プロセスが非常にややこしく、気軽に安楽死が出来るような状態ではありません。

しかし、尊厳死については「治療を止める」だけですので、予め「リビング・ウィル」と呼ばれる尊厳死を望む宣誓書のようなものを用意しておけば、スムーズに尊厳死を迎えることができます。

尊厳死のプロセスはさほど難しくないので、日本の病院では心配だという方は海外の病院に入院することも検討してみるのも良いかもしれません。ですが、意外と知られていませんが、日本も捨てたものではないのです。

日本における尊厳死の状況
日本では、「尊厳死」が法的に認められるという状況にはありません。このため、日本で病気になったら植物人間のようにして生きるしか無いと思われがちです。しかし、これには誤解があります。

厚生省が2007年に発行した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」に、死に貧した患者に対する治療についての指針が示されています。

このガイドラインでは、本人・家族・医療チームによってきちんとした議論が行われていれば治療の中止を含めた判断を行えると明示されています。

さらに、患者本人の苦痛を和らげるような処置も可能な限り行えるとされており、「生命を短縮させる意図を持つ積極的安楽死は対象としない」と明示されているものの、苦痛を和らげる目的で投与した薬物によって死に至ってしまうケースは十分に起こり得ます。

これは意図せずして安楽死の形になってしまった「間接的安楽死」と解釈されますが、判例で認められた事例があり、ある意味でガイドラインの中に「安楽死に近いプロセスが可能な逃げ道が用意されている」という解釈もできるでしょう。

死を目的とした治療は行えませんので、「死なせて下さい」「わかりました」なんてやり取りは絶対に出来ません。しかし、「もっと痛みを和らげて欲しいです」「これ以上投与すると危険です」「それでもお願いします。耐えられません」「わかりました。ご家族と相談の上で考えてみましょう」というやり取りは可能なのです。

「死に方」についての議論はタブー視されているということもあり曖昧なまま放置されていましたが、結局日本では曖昧なまま逃げ道を作るという形で進めているのですね。

もちろん、これはただのガイドラインです。法的な免責事項などについては全く語られていませんので、このガイドラインを認識していない医師や参考にしていない医師もいるのですが、このガイドラインの発行以降は治療の中止によって医師が訴えられるというケースは激減しました。

全ての病院がガイドラインに従っているわけではないですし、終末期医療は医師の一存で決められるものでもありません。場合によってはひたすら延命を図る昔ながらの病院もあるはずです。

「安楽死させてくれますか?」なんて聞いても「大丈夫ですよ」と答えてくれる病院はありません。しかし、「十分な緩和ケアが受けられますか?」とか、「終末期医療の方針はどうなっていますか?」という質問であれば、きっと望む答えが返ってくるでしょう。

病院を選ぶ際にはこうした終末期医療の方針についても考えてみると良いかもしれません。【StoneWasher's Journal】
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法的な位置づけは曖昧な日本ですが、自分の「死に方」はともかく、家族・親族の「死に方」をどうするのか・・・という判断は、高齢者を抱えた家族が多い現状では、ごく日常的な問題にもなっています。

ベルギー 未成年者の安楽死
なお、上記のとおり、安楽死を法的に認めている国はまだ多くありませんが、ベルギーは2014年、医師による安楽死を未成年にも認める法律を施行。年齢制限がない点で世界初の法律とされています。隣国オランダも未成年の安楽死を認めていますが、12歳以上に限定しています。

そのベルギーでは昨年、17歳の末期患者が未成年者として初めて安楽死の処置を受けたことが報じられています。

****17歳の子どもが安楽死、未成年で初 ベルギー****
2014年に安楽死の年齢制限が撤廃されたベルギーで、17歳の末期患者が未成年者として初めて安楽死の処置を受けた。現地紙が17日、報じた。
 
ベルギーの日刊紙ヘットニウスブラットが報じたところによると、同国の安楽死を監督する委員会は、末期疾患に冒された子どもの例外的なケースと発表するにとどめ、未成年者の詳細について明かさなかった。
 
同委員会のウィム・ディステルマンズ委員長は同紙に「幸いにも、(安楽死の)検討対象となる子どもはほとんどいないが、だからといって、子どもが尊厳を持って死ぬ権利を認めないということにはならない」とコメントしている。
 
2014年の法改正以来、ベルギーは末期症状にあるいかなる年齢の子どもにも安楽死が認められている世界でただひとつの国となっている。ただし安楽死の処置を受けられるのは、意識があり、合理的な意思決定が可能な場合に限られる。【2016年9月18日 AFP】
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いずれの話題についても“ノーコメント”ですが、前出【StoneWasher's Journal】にもあるように、経済的事情あるいは社会的事情で、きわめて初歩的な治療すら受けられずに「自然な死を迎えるのが当たり前」という国が多い中で、“尊厳死について議論出来るというのは非常に贅沢なのかもしれません”と言う指摘には同意します。

もっとも、“内戦が続く中東のイエメンで、コレラの感染が急速に拡大し、国連はこれまでに1300人以上が死亡し、感染した疑いのある人も20万人を超えて最悪の状況に直面している”【6月26日 NHK】といった状況は、“自然な死”ではなく、“人類社会の犯罪による死”と言うべきでしょうが。
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香港  返還から20年 習主席訪問で厳戒態勢に 台湾以上に展望が開けない香港

2017-06-27 22:20:13 | 東アジア

(建設が進む「港珠澳大橋」 橋で本土とつなぐことは容易ですが、香港住民の心をつなぎとめることは・・・・【https://udn.com/news/story/7331/2482769】)

返還から20年 習主席訪問で香港統治を強化
香港と中国本土の珠海、マカオを結ぶ世界最長クラスの海上橋「港珠澳大橋」は年内完成を目指しています。

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年内の完成をめざして、真っ黒に日焼けした男たちが黙々と作業していた。香港と中国本土の珠海、マカオを結ぶ世界最長の海上橋「港珠澳大橋」(全長55キロ)。総工費は1千億元(約1兆6千億円)超。「大経済圏がいよいよ形成される」。同橋管理局の韋東慶・行政総監は胸を張る。
 
香港から建設構想が生まれたのは80年代。だが、香港と中国の経済関係が深まれば、返還交渉で不利になるとの警戒感が英国にあり、着工は返還後の09年にずれこんだ。

投資に見合う経済効果を疑問視する声があったが、珠海学院の陳文鴻・名誉教授は橋の建設に「香港を本土に融和させるという政治的意図が中国にあった」と語る。【6月27日 朝日】
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“年内完成”に関しては、コンクリート圧縮試験のデータ改ざんの疑いが発覚しており、2017年完成は難しいのではないか・・・との声も出ているようですが、そこは中国の威信をかけた国家プロジェクトですから、何としても押し切るのではないでしょうか。

また、これまで港珠澳大橋に関する問題は工事延期に限らず、予算超過、死亡事故、賄賂など多岐にわたっていますが、そこは中国の威信をかけた国家プロジェクトですから・・・・。

もとより香港は九龍半島側で中国・深圳に接していますが、「港珠澳大橋」によって珠海、マカオともつながり、いよいよ中国との一体化が進むようにも思われます。そのあたりが橋建設の“政治的意図”でしょう。

その香港はイギリスから返還されて20年を迎えるということで、29日には記念式典集積のため習近平国家主席が香港を初訪問します。

****7月1日」控え、香港ピリピリ…習近平主席“威圧”狙い初訪問 返還20年式典、空母「遼寧」も初寄港****
1997年に英国から中国に主権が返還されて7月1日で20年を迎える香港が“ピリピリ”している。

習近平国家主席が29日にも香港を初訪問し、返還後に駐留を始めた人民解放軍部隊を閲兵するほか、中国の空母「遼寧」が香港に初寄港する見通しだ。

「独立」議論が起きた香港社会を威圧する狙いがある。一方で、中国による政治介入に反発する独立派や民主派の団体は相次ぎデモを計画。香港警察は警戒態勢を強めている。
 
香港では7月1日、返還20周年記念式典に加え、3月の行政長官選挙で当選した林鄭月娥氏の就任式が行われる。習氏はいずれの式典にも立ち会うほか、式典前日に人民解放軍部隊を閲兵し、香港の治安維持を改めて命じる見通しだ。習氏の香港訪問は2013年3月の国家主席就任後、初めて。
 
香港紙、星島日報によると習氏は空母「遼寧」の香港寄港を指示した。市民に空母を公開することで「国家の海軍力を理解させ、民族の誇りを強めさせる」狙いがある。軍事力を見せつけ、新疆ウイグル自治区やチベット自治区並みに「香港独立派」を牽制(けんせい)する。
 
一方、「香港独立」を掲げて昨年旗揚げした政党の香港民族党は30日、市内中心部で「香港陥落20周年追悼式典」と題する反中デモを行う。党代表の陳浩天氏は取材に対し、「誰かが反中意思を示さなければ、香港人が全員、中国統治を歓迎していると国際社会が誤解する」と話している。
 
ほかにも民主派団体が1日に数十万人の大規模デモを計画しており、香港警察は少なくとも9千人態勢で警備に当たる。さらに隣接する広東省では、中国本土から習氏への抗議目的で香港を訪れる人物を警戒。鉄道駅などでの身分証と所持品チェックを強化した。
 
香港中文大学が行った最新の世論調査で、「返還後の20年で香港の社会状況が悪くなった」とする回答が62.9%に上った。習氏による訪問が強圧的な印象を残せば、親中派の新長官の施政下で、香港社会の混乱はさらに拡大しそうだ。【6月24日 産経】
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香港当局は抗議行動封じ込めへ
すでに抗議活動も報じられています。

****香港返還モニュメント、黒い布で覆う 民主派が抗議活動****

7月1日に中国への返還20周年を迎える香港で26日、香港の民主化を訴える政治団体などが、返還を記念するモニュメントを黒い布で覆う抗議活動を行った。駆けつけた警察側が、すぐに撤去した。
 
金色のモニュメントは高さ約6メートルあり、香港を象徴する「バウヒニア」の花をかたどっている。中国政府から香港に贈られ、1997年に返還式典が開かれた海辺の広場に設置されている。

地元メディアによると、民主派の政党「香港衆志」など3団体のメンバーが26日早朝、モニュメントに登り、黒い布をかぶせたという。
 
団体側は「黒い布で覆われた金色の花は、議員資格を取り消すなど政治がコントロールされる『一国二制度』の危うさを示している」などとする声明を公表した。
 
モニュメントのある広場や隣接する施設では、毎年7月1日に記念式典が開かれている。今年は習近平(シーチンピン)・中国国家主席が出席する予定だ。【6月26日 朝日】
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香港当局は、警官の大量動員や抗議集会締め出しなどで、“デリケートな問題に言及した内容が習主席の目に触れる事態を阻止する”構えとか。

****香港返還20年、習主席訪問へ 厳戒の市内で大規模デモも****
・・・・習主席の訪問中、市内は厳戒態勢が敷かれる見通しで、抗議デモ参加者が習主席に近付けないよう、一部地区は封鎖される。

香港警察は数カ月前から、隣接する広東省の警察と合同訓練を実施していた。地元紙の報道によると、一線に配備される警官は、天安門事件や「真の普通選挙」といったデリケートな問題に言及した内容が習主席の目に触れる事態を阻止するよう指示されているという。

中国政府のナンバー3、張徳江氏が昨年香港を訪問した際には、警察が歩道に張り付き、巨大な障壁を設置して一般人の接近を阻んだ。

民主化運動の指導者が結成した政党「香港衆志」の広報によると、今回は張氏の訪問時を上回る厳戒態勢が予想される。

20周年の記念式典が行われる7月1日は、伝統的に抗議の日でもあり、市民数千人の人出が予想される。しかし、これまで毎年民主化運動の会場となってきた市中心部のビクトリア公園では、今年は中国寄りの組織が記念式典を行う。

デモ行進は実行される予定だが、活動家の1人は「中国政府が香港で我々を締め出そうとしている。我々の自由と民主主義が脅かされている」と危機感を示した。【6月26日 CNN】
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【“息苦しさ”を増す香港社会 台湾移住も
今更のことではありますが、香港の「一国二制度」は形骸化を強めています。

****香港返還20周年、中国の締め付け強まり揺らぐ「一国二制度****
2017年6月23日、香港が1997年に英国から中国に返還されて7月1日で20年の節目を迎える。返還時には社会主義の中国とは異なる「一国二制度」が認められたはずだが、中国政府の締め付けが強まり、制度は揺らいでいる。これに伴い、香港住民の対中感情は悪化し、本土との亀裂も深まっている。

英国の植民地だった香港が返還された際、中国政府は引き続き50年間は特別行政区として資本主義を採用し、社会主義の中国と異なる「一国二制度」を維持することを約束。外交と国防を除き、香港には「高度な自治」が保障された。

香港の憲法に当たる基本法には、中国本土では制約される言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由などが明記されている。

「一国二制度」に暗雲が立ち込めたのは、2017年の行政長官(香港のトップ)選挙をめぐり14年8月、中国政府が自由な立候補を阻む措置を決定したのがきっかけ。これに反発し、民主化を求める学生らが中心部に座り込む「雨傘運動」が繰り広げられた。

翌15年10月から12月には、中国共産党批判や指導者のスキャンダルなど本土で販売できない書籍を扱ってきた「銅鑼湾書店」親会社の出版社の株主ら5人が中国当局に連行されるなどして相次いで失跡。「言論の自由」が脅かされたとして、香港社会に大きな衝撃を与えた。

昨年9月の議会選挙(定数70)では「雨傘運動」後に台頭した香港独立を視野に入れる「本土派」議員2人が当選したが、香港政府は就任宣誓時に中国を侮蔑する発言などをしたとして、議員資格取り消しの司法審査を高等法院(高裁)に請求。2人は最終的に議員資格を取り消された。

香港メディアによると、中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の張徳江委員長は5月末、北京で開催された「香港基本法実施20周年座談会」で講演。「中央と香港特区の関係は授権する側と授権される側の関係で、分権関係ではない。いかなる状況下でも高度な自治を盾に中央の権力に対抗することは認めない」と指摘した。

その上で民主派の動きを「香港に対する国家の主権回復を認めず、香港を国家から分離し独立か半独立の政治実体にする企て」と批判した。

これに対し、香港住民の中国に対する不信感は高まる一方。香港大学が住民を対象に5月に実施した香港を含む世界16カ国・地域の好感度調査によると、1位台湾、2位カナダ、3位シンガポール、4位日本などの順で、中国は最下位だった。「いい印象を持っている」との回答は1%にすぎなかった。

7月1日には中国の習近平国家主席が出席する返還20周年記念式典や盛大な花火大会などのイベントが予定されている。習主席の訪問に合わせ、民主派などは10万人規模の抗議デモも計画しているという。【6月24日 Record china】
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好感度調査で1位の台湾への移住も増加しているようです。

****自由な未来、描けぬ香港 来月、中国返還20年****
香港が英国から中国に返還されて7月1日で20年を迎える。1世紀半ぶりに祖国に戻った高揚感は消え、中国と距離を置こうという動きが拡大。中国がめざした融合は進んでいない。

 ■「息苦しい」 増える台湾移住
中国の影響の下で変わる社会に見切りをつけ、台湾に新天地を求める香港人が増えている。
 
「中国にコントロールされた香港で暮らしていくと思うと、息苦しい」。9月に夫(44)と台湾に移る決心をした貿易会社勤務の女性(43)はこう漏らした。
 
中国企業による香港の土地の「爆買い」が進み、不動産が高騰。「庶民はマイホームなんて買えない」。中国の異質な価値観が香港社会に入り込み、自由な空気が失われることも心配した。移住先として米国なども考えたが、最後は費用の安い台湾を選んだ。
 
返還前、共産党の統治を恐れ、多い年は6万人超が米豪などに移住したが、近年は7千人前後に落ち着いている。その中にあって移住先として台湾人気が急上昇。この5年で倍増し、昨年は約1千人が渡った。
 
背景には、自由やチャンスといった輝きを失いつつある香港の現状がある。

この春、林栄基さん(61)は台湾を訪れ、書店を見て回っていた。中国共産党の批判本が売り物だった香港の「銅鑼湾書店」の元店長。知人が台湾に第2の銅鑼湾書店を開くのを手伝っている。
 
林さんは2015年10月、香港に隣接する広東省に入った際、中国当局に取り押さえられ、約8カ月間拘束された。香港の「一国二制度」の柱である言論・出版の自由が中国に侵されたと、社会に衝撃が広がった。
 
中国は香港政府に、反体制活動を取り締まる法の制定を求めている。林さんは「今は『香港独立』と言っても問題ないが、法律ができたら発言さえ許されなくなる」。国際NGO「国境なき記者団」の報道の自由度ランキングで香港は02年は18位だったが、今年73位に沈んだ。

 民主化も進まない。
「香港人はなぜリーダーを自分で選べないのか」。香港のテレビ局でディレクターをしていた羅鎮祺さん(39)は不満を隠さない。
 
返還の際、中国は香港トップの行政長官選で民主的な選挙を実現させると約束したが、14年、中国に批判的な人が事実上、立候補できない仕組みを決めた。若者たちの反発は「雨傘運動」と呼ばれたデモに発展し、羅さんも若者と路上で五十数日寝泊まりした。
 
雨傘運動の元リーダー、黄之鋒さん(20)は「運動は終わったが、その精神は続いていく」と強調する。雨傘運動後は香港の民主化が優先との意識が若者の間で強まっている。

倉田徹・立教大教授は「中国の民主化を求める基地が香港から台湾にシフトする可能性がある」と指摘する。

 ■投資依存、暮らし圧迫も
(中略)03年以降、中国本土から香港への直接投資の合計は4500億ドル(約50兆円)を超える。00年代半ば、香港の実質GDP(域内総生産)の成長率は6~8%まで伸びて03年の新型肺炎SARSであえいでいた香港を救った。
 
だが、中国マネーは香港社会を大きく変えた。住宅価格は跳ね上がり、一般家庭向けの物件は平均年収の35倍まで高騰。資産を持つ富裕層は潤う一方、低所得層の暮らしを圧迫する。
 
九竜半島・深水ホの古いアパート。販売員の女性(42)が娘と2人で暮らす自宅は10平方メートル(約3坪)。ベッドと棚が半分を占め、「鳥かごで暮らしている気分」。これでも家賃は3200香港ドル(約4万5千円)で、月給のほぼ半分を占める。公営住宅を申請したが、競争率は高い。
 
強まる本土への経済依存は複雑な対中感情を生む。
香港中心部にある結婚紹介所「聚縁坊」。中国本土の男性と結婚したいという女性からの相談が相次ぐ。
 
15年、本土の男性と結婚した香港女性は返還前の96年の4倍に増えた。本土に好条件の男性が増えたためとみられる。女性の気持ちを代表の鄭莉莉さんが解説する。「多くの中国人と仕事をしたり、友人になったりしている。政治的な理由で彼らを遠ざけられない」

 ■高まる「香港人」意識

若者たちの間では、自分は香港人であるという「香港人意識」が高まっている。

「小学校で、一国二制度は50年間変わらないと習ったのに現実は違う。先生、私をだましたの?」。香港の学生、周可愛さん(20)は中高生のころ、こんな疑問を抱くようになった。
 
きっかけは12年。中国政府の意向を受け、香港政府は小中学校で中国人としての愛国心を高める「国民教育科」の導入をめざした。これに市民が「洗脳教育だ」と反発し、大規模な反対運動に発展。周さんは自分に近い世代が参加する姿に引き込まれ、行動を共にするようになった。
 
それから2年後の冬、周さんは警察署にいた。デモ隊の一員として雨傘運動に参加。警察の退去命令を最後まで拒み、逮捕された。就職にも影響は出そうだが、後悔はしていない。
 
返還の年に生まれ、香港メディアから「97少女」とも呼ばれる周さん。自分は何人だと思っているかと尋ねると、「香港人です」ときっぱり答えた。
 
中国による香港経済のてこ入れが効いた約10年前、自分は中国人という香港人が半数を超えた。だが、国民教育科反対運動や雨傘運動などで流れは変わった。香港大の最新の調査では、自分を香港人と考える人は63%まで上昇。中国人という人は35%に落ち込んだ。
 
香港人意識は、政治運動に関わらない若者にも広がっている。返還前に英国が発行した英国海外市民(BNO)旅券を手放したくないとして、昨年、香港でBNO旅券の更新手続きをした人は前年比44%増と大幅に増えた。香港の大学生、朱喬雋さん(21)もその一人。「外国で中国人だと思われたくない」と語る。
 
自分が何人であるかという自己認識の変化は、90年代後半以降の台湾にもあった。香港の若者は台湾のたどった道に傾いているようにも見える。香港の政治に詳しい元外交官は言う。「中国が香港人の人心掌握に失敗したのは明らかだ」
 
香港の若者は、中国が一国二制度を「不変」とする期限が切れる30年後、香港を率いる世代だ。そのとき、香港の香港らしさは維持されているのだろうか。香港は今、その分岐点に立たされている。【6月27日 朝日】
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「一国二制度」が守られたとしても、あと30年間の話であり、その先にあるのは共産党一党支配体制です。「一国二制度」にすがってみても将来的な希望は描けません。

「本土派」と言ってはみても、現実的に中国の政治的・経済的圧力の前に道があるのか・・・・。台湾以上に展望が開けない香港です。

台湾移住が選択肢になるのも理解できますが、それが可能なのは経済的に総統の余裕がある階層だけではないでしょうか。

「自由」をあきらめて、中国支配のもとでの経済的利益のみを追求して生きていくのか・・・もとより「自由」とは縁がなく、その価値も十分に認識し得ていない本土の住民ならそれも“楽な道”ではありますが、いったん「自由」を味わった人間には厳しい選択です。

中国からすれば、香港を取り込みたいのであれば、今必要なのは長大な海上橋よりは香港住民の心に架ける橋のはずですが、「中華民族の偉大な復興」に突き進む習主席の耳には届きようもない話でしょうか。

と言うか、「一国二制度」とか高度な自治といった代物は、中国の現体制を否定する考えであり、一党支配の現体制を絶対のものとする中国指導部には到底容認できるものではないでしょう。
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中国・パキスタン経済回廊(CPEC) 中国人拉致事件を受けてパキスタン政府が軍部隊を展開

2017-06-26 22:12:56 | アフガン・パキスタン

(パキスタン北部の都市ラホールにあるパール・コンチネンタル・ホテルのロビーに掲げられた「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」計画を促進するための会議を告知する横断幕には「パキスタンと中国の友情よ、永遠なれ」 「我々の友情はヒマラヤよりも高く、世界最深の海よりも深く、蜂蜜よりも甘い」と。【5月29日号 日経ビジネスより】)

【「一帯一路」構想の中核「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」 その重要拠点グワダル港
中国・習近平国家主席が「中華民族の偉大な復興」を掲げて推し進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」、その中核事業のひとつが「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」です。

****中国・パキスタン経済回廊(CPEC****
中パ経済回廊は、中国北西部の新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタン南西部のグワダルまでの約3000キロに沿う地域をいいます。

これは、両国間をつなぐ、道路、鉄道、石油・天然ガスパイプライン、光ケーブルなどを含む貿易回廊で、「一帯一路(1ベルト1ロード)構想」を構成する重要な一部となっています。

本地域で、中国は、道路・鉄道・工業地帯などのインフラ建設を支援し、印パ両国が領有権を争うカシミール地方を縦断するカラコルム・ハイウエーやグワダル港などを開発する計画となっています。(中国はインド洋への玄関口を得ることになり、パキスタンは経済開発の足掛かりを掴むことができる)【iFinance】
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昨年11月には、中国から中パ経済回廊を通ってパキスタン・グワダル港に運ばれた積み荷が初めて貨物船で輸出され話題ともなりました。

****中国、パキスタン・グワダル港から貨物初輸出 「一帯一路」経済回廊運用で存在感****
中国の支援で建設されたパキスタン南西部バルチスタン州のグワダル港で(2016年11月)13日、中国から中パ経済回廊を通ってパキスタンに運ばれた積み荷が初めて貨物船で輸出された。

中国の新シルクロード(一帯一路)構想で一帯と一路の合流点と位置づけられるこの回廊の本格運用が始まったことになり、中国はインド洋周辺での存在感を強めている。
 
中パ両政府や現地報道によると、コメや中国製機械を載せたトラックは、中国西部カシュガルを10月29日に出発し、30日にカシミール地方のパキスタン支配地域の町フンザに入った後、軍の警護を受けて中パ経済回廊を通り、今月12日にグワダル港に到着した。コンテナ66個を載せた貨物船は、スリランカのコロンボ経由でアラブ首長国連邦のドバイへ向けて出港した。
 
グワダル港ではパキスタンのシャリフ首相らが出席して記念式典が行われ、孫衛東中国大使は、グワダル港から大量のコンテナが輸出されたことや、中パ両国がパキスタン国内を通ってグワダル港へ至る通商車列を編成したのは初めてだと強調し、「2つの兄弟国にチーム精神と、両者に有利な協力をもたらした」と宣言した。
 
ただ、バルチスタン州では12日、イスラム教の聖廟を狙った爆弾テロで55人が死亡し、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出すなど治安状況は悪い。地元紙ドーンはグワダル港の需要に疑問を呈している。【2016年11月14日 産経ニュース】
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グワダルは“もともとパキスタン西部のバローチスターン州にある小さな漁村で、パキスタンとイランの国境まで約120キロメートル、南はインド洋のアラビア海に面し、ペルシャ湾の喉元に位置し、アフリカやヨーロッパから、紅海・ホルムズ海峡・ペルシャ湾を経て、東アジアや太平洋エリアに向かう海上の重要な航路を押さえる位置にある。”【2016年8月4日 莫 邦富氏 DIAMOND online】という戦略的に極めて重要な位置にあります。

回廊の将来を左右する治安問題
この「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の中国・パキスタン両国にとっての重要性などは後述するとして、実際にこのルートが物流としてどこまで活用されるのか? また、今後の回廊開発が順調に進むのか?ということに関して、この回廊一帯(特に、入口のカシミール地方と、出口のバルチスタン州)の治安に関する問題が指摘されています。

中国の支援で開発されたグワダル港のあるパキスタン南西部バルチスタン州では、先月中国人2人が武装した男たちに拉致され殺害される事件が起きています。

****パキスタンで拉致された中国人2人、ISが殺害と声明****
パキスタン南西部バルチスタン州で先月に中国人2人が武装した男たちに拉致された事件で、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」は8日、2人を殺害したとする犯行声明を出した。(中略)
 
この声明に先立ちパキスタン軍は同日、今月初めにIS掃討作戦を実施し、ISと連携してバルチスタン州に拠点を築こうとしているイスラム過激派組織「ラシュカレ・ジャンビ・アルアルミ」の戦闘員ら15人ほどを殺害したと発表していた。
 
駐パキスタン中国公使によると、中国人2人はバルチスタン州の州都クエッタで拉致された。2人は現地の語学学校でウルドゥー語を勉強していたという。
 
中国政府は2015年、新疆ウイグル自治区のカシュガルとパキスタン・バルチスタン州のグワダル港を結ぶ「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」構想を発表。構想の一環として対パキスタン投資を増額して、電力網や交通網をはじめとするインフラ改修を進めている。
 
一方、ISは「ラシュカレ・ジャンビ」や「ジャマートゥル・アフラル」など地元の武装勢力と連携することでパキスタン国内に浸透しているが、同国政府は概してこれら武装勢力の存在を軽視している。【6月9日 AFP】
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この中国人2人は5月24日に拉致されていますが、5月13日には、“グワダル港近郊で13日、道路建設に従事していた作業員10人が武装グループの銃撃を受けて死亡した。地域の分離独立派の犯行とみられる。(中略)道路建設は、回廊整備の対象事業ではなかった。”【5月13日 産経ニュース】という事件も起きています。

更に、今月23日にはバルチスタン州クエッタで爆弾テロも。

****パキスタン南西部でテロ、警官含む11人が死亡****
パキスタン南西部クエッタで23日、爆弾テロがあり、地元警察によると、警官5人を含む少なくとも11人が死亡し、20人以上が負傷した。
 
警察署長事務所近くで車に仕掛けられた爆弾が爆発したといい、犠牲者のうち5人は警官だった。
 
クエッタがあるバルチスタン州では地元のイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」や、イスラム過激派組織「イスラム国」が活発に活動している。【6月23日 読売】
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なお、イスラム過激派による爆弾テロはバルチスタン州だけでなく、パキスタン全土で頻発しており、クエッタでテロが起きた23日には、パラチナル市の市場で2度の爆発があり、37人が死亡、150人以上が負傷しています。ラマダンの終了を祝う「イード・アル・フィトル」のための買い物客を狙ったテロです。

また、同日、南部の港湾都市カラチでもバイクに乗った男4人が道路沿いのレストランに座っていた警察官4人を射殺して逃走する事件も起きています。パキスタンではテロは“日常的”なものになっている・・・と言うと言いすぎでしょうか。

こうした状況で、中国人拉致事件を受けてパキスタン政府は「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」関連中国人を保護するための大規模な軍部隊展開を発表しています。(おそらく、中国側の強い要請によるものでしょう)

****パキスタン、中国人保護に兵士1万5000人動員 拉致事件受け****
パキスタンのマムヌーン・フセイン大統領は25日、国内のエネルギー、インフラ部門で働く中国人を保護するため、総勢1万5000人の軍部隊を展開したと明らかにした。同国では中国人男女の拉致事件が発生し、安全への懸念が高まっていた。
 
大統領府の声明によると、フセイン大統領はパキスタンの首都イスラマバードを訪問中の中国の王毅外相と会談し、国内で働く中国人を守ることは政府の「最優先事項」だと述べた。(後略)【6月26日 AFP】
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CPECをめぐる中パ両国、インドの思惑 さらにイランも・・・
中パ両国の「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の狙いに加えて、カシミール地方とバロチスタン州の治安問題、それへのインドの関与、グワダル港に対抗してイランの港湾を開発するインド、しかしイランは中国との関係を強めていること・・・等々の関係国の絡み合いについては下記【South Asian Review http://kitagawa.hatenablog.com/entry/2017/03/04/141519】が詳しく論じています。

****南アジア分析(上)中国パキスタン経済回廊CPECは勢力関係の縮図****
・・・・CPECにおいて中パの思惑はエネルギー政策の一点で合致しています。

近い将来、米国を抜き世界第三位の人口に躍り出るパキスタンが待ち受けている深刻な電力・エネルギー不足をCPECによって解消し、一方、中国側はマラッカ海峡、南シナ海を経由せずに中東や中央アジアのエネルギー資源を確保出来るという両国のメリットが強調されたものとなり、英国からの独立以降、域内での影響力を誇示するインドを孤立させるために、中国は長期間に渡り、パキスタンとの有効な外交関係を築き、また、特に2000年代に入ってから多額の外国直接投資を行ってきました。

総投資額(予算)460億ドルのうち、約330億ドルを石炭・火力、水力、太陽光、風力発電等のエネルギー分野に投下資本され、また、今回開通したのは、なかでも治安が比較的良いとされる最東ルートとなり、首都イスラマバードからラホールを経由し、パキスタン最大の都市カラチ近郊を通るものとなります。
今後はアフガニスタン国境沿いルートでの建設も進むことになるでしょう。

同時に注目されるのは約60億ドルを鉄道建設計画に当てられていること。2016年12月2日のthe Diplomatの記事"Trans-Himalayan Railroads and Geopolitics in High Asia"によると、ヒマラヤ横断鉄道の計画が検討されており、CPECの一部となる世界で最も標高が高いカラコルム・ハイウェイが開通している地点に併設にされるものとなります。

既にパキスタン鉄道がその鉄道路線計画図の発表を行っており、最終的には、先日、中国と英国を結ぶ貨物列車が運行したアジア横断鉄道と新疆ウイグル自治区にて支線化され、中国、南アジア、中央アジア、ユーラシア、欧州と張り巡らされる鉄道網の一部となるでしょう。(中略)

その他、南アジアでは東西を結ぶインフラとしてBCIM経済回廊(BバングラデシュC中国IインドMミャンマー)とBBIN経済回廊(BバングラデシュBブータンIインドNネパール)の創設が構想されており、後者は巨大経済圏との融合を恐れる人口75万人のブータンが拒否の姿勢を貫いているものの、インドへの水力発電での売電を経済成長の柱としている同国は中国に対抗するインドに説得される形で最終的に協定に締結することになるでしょう。

1947年の英印の解体及びインド、パキスタンの独立以降、域内では印パを軸にした二項対立のもと、多くの民族・宗教紛争が見られ、長期に渡り、経済開発が着手出来ない状態にありました。

一方、中パ経済回廊CPEC構想が持ち上がった2000年代以降、中国は域内構成国に対し、開発ドナーとして、また貿易パートナーとして多くの投資を行い、影響力を高めてきた背景があります。

経済的観点では、外国直接投資及び貿易額でその内容を見ることが出来ます。上記グラフ(省略)は中印の外国直接投資残高比となりますが、残高比ではほぼ均衡するバングラデシュでさえ、貿易額では中国優位の状況になり、南アジアにおけるその高い影響力を伺い知ることが出来ます。

その中国にも不安視していることがあります。総投資額(予算)460億ドルとなるCPEC沿いにおける治安悪化であり、それは特に中国側の入口に当たるカシミール地域、そして出口に当たるバロチスタン州におけるイスラム過激派によるテロ活動や分離独立運動の高まりであり、それは安全保障への脅威のみならず、投資の減退予測が見込まれるものとなります。

またバロチスタン州においてはインドがその分離独立運動に手を貸しているとされ、その観点から、パキスタンが牽制する「カシミール」とインドが牽制する「バロチスタン」は中国にとってトレードオフの関係にあります。

中国新疆ウイグル自治区カシュガルを起点とするCPECは、インドの「ジャンム・カシミール(J&K)州」に程近いパキスタンの「ギルギット・バルティスタン州」を通過するルートを取り、それら地域はアザド・カシミールと合わせてパキスタン実効支配地域(POK)と呼ばれ、インドの実効支配地域であり尚且つ、カシミール分離独立運動が1947年以降絶え間なく続くJ&K州でのカシミール紛争の影響を強く受けます。

また、グワダル港があるバロチスタン州はパキスタン国土の4割を占めるものの、人口は5%に過ぎないためパキスタン政府から冷遇されており、グワダル港での収益やアフガニスタンとの国境沿いにある石炭や天然ガス等の豊富な資源の権益を州により還元するよう反政府運動が活発になっています。

また、同州北部最大の部族であるパシュトーン人は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて英国との間で行われたアフガン戦争の結果、その居住地がアフガニスタンとパキスタンの2つに分断され、それは主にパシュトーン人を支持組織とするタリバンのテロ活動温床地域となっています。

2016年には州都クエッタにおいて、反政府勢力「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」による連続テロ行為があり、合計数百名の死者に上りました。

複数ルートが存在するなかで、CPECが最東ルートを取った理由はこの地域の治安悪化の影響を最小限に留めるためであり、然しながら、グワダル港がある以上、同州の治安正常化は中国・パキスタン両国にとって至上命題になるでしょう。

中国が租借したパキスタンのグワダル港に対抗するため、インドはイランのチャバハール港の港湾開発への大型投資の協定を昨年締結し、インド洋における中印の対立は一層激しいものになっています。

域内投資や開発ドナーとして中国が優位に進めているなかでインドがその動きに強く対抗する理由はエネルギー供給源となる中央アジアに隣接しているアフガニスタンへの市場アクセスのルートを確立するためであり、国境を面していない以上、海上ルートしか存在しません。

2050年までにはパキスタンが現在の1億8000万人から倍増の3億5000万人に、インドは12.5億人から16億人に到達し、また、中国を抜いて世界最大の人口となり、同時に、絶対的なエネルギー不足に陥ることが現時点で危惧されています。

しかしながら、僅か72kmの距離の差に過ぎないグワダル港とチャバハール港でのアフガニスタン市場アクセスに関する中印対立も中国優勢が伝えられています。

その鍵を握っているのはイラン。
欧米が経済制裁を課すなか、将来的なエネルギー不足を見込み同国の石油や天然ガス資源の供給ルートに投資を継続してきた結果、いま現在、イランの最大の貿易相手国は中国となっているなか、イランとインドの協定は港湾開発の投資を主としており、相互依存を深めるイランが中国との実利経済を反故にしてまでインドに貿易上、加担する理由を見つけることが困難であるためです。(中略)

先日、パキスタン政府が中国が租借しているグワダル港をロシアにも開放する旨の発表を行いました。

2001年、中国、ロシア、中央アジアによる国際機関としてスタートした上海協力機構はその後、規模を拡大し、2017年にはインド・パキスタンの加盟が見込まれています。またオブザーバー国となるイランも近い将来加盟することになるでしょう。

一方、ロシアと中央アジアの経済同盟であるユーラシア経済連合は、上海協力機構と「大ユーラシア・パートナーシップ」構想を掲げ、その南アジアでの試験的な取り組みをグワダル港の中露共同での港湾開発に置きました。

インドが主導してきた南アジアは中国の「一帯一路」構想とロシアのエネルギー政策によって、将来的には中露の枠組みに取り入られることになる形でその経済連合であるSAARC(南アジア地域協力連合)は形骸化していくことになるでしょう。【South Asian Review http://kitagawa.hatenablog.com/entry/2017/03/04/141519
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グワダル港は中国にとって、今後の軍事基地やパイプライン建設も視野にあります。

****カシュガルが中国西部の世界的な物流センターに****
グワダル港の委譲は中国・パキスタン経済回廊が「一帯一路」戦略のテンプレートとして軌道に乗り始めたことを意味している

もし中国がグワダル港に海軍基地でも建設すれば、中国のエネルギーや貿易の海上輸送上の安全は大幅にアップし、将来的に中国の遠洋艦隊がインド洋に入って国際水路の安全を守るのに大いに寄与することが可能となる。

中国・パキスタン両国は中国西部に通じる陸上パイプラインをこの地に建設しようと考えている。そうなれば、中国にとっては中東から輸入する石油をマラッカ海峡を避けて運ぶ近道が増えることになり、中国のエネルギーの安全と安定を確保することができる。

また、中国海軍がスエズ運河・地中海・アデン湾一帯での海賊討伐に加わる際に、グワダル港は大型艦隊に対して補給・修理を行う後方支援基地となる。さらに言うまでもなく、これによって中国の遠洋艦隊はインド洋やペルシャ湾を出入りするための拠点を得ることになる。(中略)

中国内陸部からヨーロッパやアフリカに輸送する貨物も、列車でまず上海に運んでから船で遠回りするのではなく、列車で直接グワダルまで運んで船に積み替えることができ、輸送距離を80%近く縮められる。

中国・パキスタン経済回廊によって、新疆ウイグル自治区のカシュガルが中国内陸部と中央アジア・中東・ヨーロッパ・アフリカを結ぶ交通の要衝となった暁には、カシュガルは中国西部の世界的な物流センターとなる。

将来的に中国には、「南部に香港、東部に上海、西部にカシュガル」と三者が鼎立する新たな経済の構図が形成されるだろう、と性急に将来の青写真を描く人も登場している。【2016年8月4日 莫 邦富氏 DIAMOND online「中国が確保したパキスタン港湾運営権の戦略的重要性」】
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しかしながら、中国のそうした思惑どおりに運ぶかは、回廊一帯の治安安定が大前提となりますが、現状では厳しい情勢にもあります。中国国内のカシュガル近郊ですら、ウイグル族問題で不穏な状況が続いています。

中国にとっても世界の安定が重要に
中国が世界戦略を展開するにつれ、中国にとっても世界の安定ということが非常に重要になってきます。
インド・パキスタンの対立激化、アフガニスタンの戦闘拡大、イスラム過激派の浸透などによる地域の不安定化は、中国の国益を害するものともなります。“内政不干渉”と傍観できなくもなります。

その意味で、中国が国際問題へ“安定化”の方向でより積極的に関与してことになれば、それは基本的には歓迎すべきことでしょう。もちろん“関与”の中身が問われることは言うまでもありませんが。
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ロシア  広がる反汚職運動とプーチン大統領の高支持率 米世論鎮静化に配意するプーチン大統領

2017-06-25 22:41:04 | ロシア

(デモの参加者を拘束する治安当局者=モスクワで6月12日、AP【6月12日 毎日】)

広がる反汚職運動と存在感を増す活動家ナワリヌイ それでもプーチンが支持される
高支持率を維持するロシア・プーチン大統領は、5月23日ブログ“ロシア プーチン大統領、“管理選挙”で高投票率・高得票率再選?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170523でも取り上げたように、次期大統領選挙では単に圧勝するだけでなく、欧米につけこまれないような形で勝利したい、つまり“不正を疑われず、高い投票率の選挙で圧勝することで、政権の「正統性」を示したい”という思いがあるようです。

そのためには、選挙戦を盛り上げてくれる対抗馬も必要になりますので、プーチン大統領サイドで、適当な“対立候補”を物色しているとも。

しかし、メドベージェフ首相を標的にした最近の反腐敗抗議行動で大きな影響力を発揮しているアレクセイ・ナワリヌイ氏では政権がコントロールできなくなる恐れもあるということで、選挙戦から排除する動きを見せています。

****野党指導者、大統領選出られず=中央選管が発表―ロシア****
ロシア中央選管は23日、反プーチン政権デモを主導し、来年3月の大統領選に立候補を表明している野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(41)について、2月に有罪判決を受けているため、出馬できないと発表した。

ナワリヌイ氏は横領罪で執行猶予付き禁錮5年の有罪判決を受けた。大統領選に関する法律によると、禁錮刑を受けた被告は一定期間、立候補ができない。そのため中央選管は「現時点でナワリヌイ氏には被選挙権がない」と説明した。
 
大統領選にはプーチン大統領が続投を目指して出馬するとみられている。プーチン政権は今月にモスクワなど各地で起きた反政権デモで、ナワリヌイ氏を含む1500人以上を拘束するなど同氏支持の動きを封じ込める姿勢を鮮明にしている。【6月24日 時事】 
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“2月に有罪判決を受けている”というのは、地元の国営木材加工企業から資金を横領したとして、横領罪で執行猶予付き5年の有罪判決を言い渡されている件です。

また今回発表に先立ち、モスクワの裁判所は13日、12日に行われた大規模反政府デモに関し、ナワリヌイ氏が「違法デモを呼びかけた」として、30日間の身柄拘束(行政罰)を言い渡してもいます。

アレクセイ・ナワリヌイ氏が主導する反腐敗抗議運動が大きな広がりを見せている背景には、4月27日ブログ“ロシア 「不正蓄財」疑惑の首相への批判収まらず 背景に格差・貧困などの若者の閉塞感”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170427でも触れたように、格差・貧困に苦しむ若者らの共感を得ていることがありますが、その世代はソ連崩壊の混乱も殆ど経験していないことから、“安定を実現したプーチン大統領”の威光もあまり通用しないようです。

政権批判の自由を求めるナワリヌイ氏ですが、その主張はいわゆるリベラル派ではなく、「ロシアのドナルド・トランプ」と言われることもあるように、孤立主義と反移民の立場にあります。

5月23日ブログでも触れたように、“ナワリヌイは12年まで、モスクワで毎年行われるナショナリストと極右の示威行動「ロシア行進」の常連だった。13年にはチェチェン人追放を求めるデモを支持し、北カフカスや中央アジア出身者への侮蔑発言もした。”【5月23日号 Newsweek日本語版】とも。

人々が好むような主張を展開するのに長けたポピュリスト的側面も強いようです。

また、反腐敗・汚職を掲げていますが、“反プーチン”の主張はしていません。(だからこそ、有罪判決など受けるにしても、“抹殺”されることなくこれまでやってこられたのでしょう)

反腐敗・汚職の抗議が広がるなかでも、プーチン大統領が高い支持率を維持し続けるのは、ロシア人の「公的」と「私的」の2つに分裂したアインデンティティーに基づくものだとの指摘も。

****大規模デモは反プーチンか****
広がる反汚職運動と存在感を増す活動家ナワリヌイ それでもプーチンが支持される「矛盾」を読み解けば

ロシア国内の約200都市で先週、汚職に抗議する大規模な反政府デモが行われた。治安当局は1500人以上の参加者を拘束。ウラジーミル・プーチン大統領の最大の政治的ライバルとされる、野党指導者で反汚職活動家のアレクセイ・ナワリヌイも拘束された1人だ。
 
デモの規模と広がり、そして若い参加者の多さは驚きを持って受け止められた。この国で、これほど大きな抗議行動が展開されたのは久しぶりだ。
 
今回のデモは何を意味するのか。プーチンに対抗するナワリヌイをリベラルな人物と見なしていいのか。国民がプーチン政権打倒に動かない真の理由は何か。ロシア政治を専門とする米在住のロシア人ジャーナリストで、プーチンに関する著書があるマーシャ・ゲッセンに、スレート誌記者アイザック・チョティナーが話を聞いた。

-デモに大勢が参加したこと、これほど多くの都市で行われたことに驚いたか。

 驚いたし、衝撃的だった。地理的にここまで広がったのは今回が初めてだ。11~19年の(下院選の不正疑惑を契機とし、大統領選をめぐって高まった)反政府デモは最大99都市で行われた。今回のような規模になったのはものすごいことだ。
 
 ナワリヌイにとっては、政治生命と文字どおり生き残りを懸けた戦いだ。
 デモが行われた6月12日は、11~12年の反政府運動の弾圧開始から5周年に当たる。私を含めて当時のデモの主催者は国外へ逃げたか、投獄されたか、あるいはもう生きていない。ナワリヌイがただ1人の例外だ。彼はロシア国内で目立った動きをしている唯一の反政府活動家で、命の危険にさらされている。

-デモの広がりをどう捉えているか。反プーチンの動きは、首都モスクワの中間層を中心とするものではない?
 
 中間層中心、モスクワ中心だったことは一度もない。それはロシア政府のプロパガンダにすぎないのに、残念なことに欧米メディアはうのみにした。

-私みたいに。
 
 そう。先ほど言ったように、11~12年の反政府運動の際には99都市でデモが行われた。ロシア各地で、さまざまな階層の人々が参加した。ロシアの中開層は実際にはとても規模が小さく、デモという文脈で大きな意味を持つ存在ではない。
 
 今回のデモは、インターネットをメッセージの発信手段とするナワリヌイの能力を証明している。彼は動画やブログを駆使して、自前の「メディア」を確立してきた。政府系の報道機関を除けば、これほど効果的なロシア語メディアはほかにない。
 
 だがその半向、それほど期待が持てない点もある。ナワリヌイの主張が多くの人を引き付けるのは、実のところ反プーチンの主張でないことが一因だ。
 
 ナワリヌイは汚職に抗議するが、ウクライナヘの介入には反対しない。政治的弾圧にも反対せず、民主主義の擁護を主張せず、反汚職活動をするだけだ。そこにリスクがある。
 
 ロシア政府から汚職をなくせと訴えることは、デモの動員に役立つ。と同時に、正統性がない政府でもいい統治ができると言うようなものでもある。
 
 プーチンが正当な手段で選ばれた大統領でないことを、ナワリヌイは口にしない。「彼が私たちのカネを盗むのをやめさせろ」と言うだけだ。

 この2つは別物で、だからこそ反汚職デモの訴求力は高まる。しかしそのせいで政治性が薄まり、革命的な動きとは言い切れなくなる。(中略)
 
 彼は、単純かつ極端にポピュリスト的な考え方に引き寄せられる傾向がある。デモ動員に発揮する創造性や勇敢さ、自由がない国で自由を要求する姿勢はとても尊敬している。でもそうした点を除けば、決してリベラルとは呼べない人物だ。

-プーチンの支持率は今も非常に高いという。政府の汚職にうんざりしているロシア国民の間でも、プーチン人気が持続しているのは本当か。
 
 (中略)ロシアの偉大な社会学者である故ユーリー・レバダと、その弟子に当たるレフ・グドコフの研究によれば、「ソビエト的人間」はアイデンティティーを「公的」と「私的」の2つに分裂させる。私的なものが本物で、公的なものは偽りというわけではない。どちらも本物で、その人の一部になっている。
 
 公的なアイデンティティーにとって極めて重要なのは、「強い国家」を自己同一化の対象とすること。プーチンは他国への軍事的介入によって、そうした心情に訴え掛けてきた。支持率が85%前後で推移し、下がる気配がないのはそのためだ。
 
 一方で国民は、公的アイデンティティーと無関係に、自分は不当な扱いを受けている、政府はいつも自分たちをだますという私的な感情を抱く。そこに訴えているのがナワリヌイだ。

 この2つのアイデンティティーを1つにできた者はこれまでいない。それが可能かも分からない。(後略)【6月27日号 Newsweek日本語版】
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従来の対決姿勢は封印して、アメリカ世論の鎮静化に努めるプーチン大統領
アメリカ財務省は20日、ロシアによるクリミア半島の併合を支援したとして、ロシア当局者2人と36の個人・団体を制裁リストに追加したと発表しています。財務省は「クリミア半島に関連する米国の制裁は、ロシアが同半島の占領を終えない限り解除しない」とも。

「ロシアゲート」疑惑の渦中にあるトランプ政権としては、今この時期にロシアに対して甘い顔は見せられない・・・ということもあるでしょう。

当然にロシアは反発しており、ロシアのリャプコフ外務次官は21日、露北西部サンクトペテルブルクで23日に予定されていた米露次官級協議を中止すると発表しています。

ただ、アメリカで「ロシアゲート」疑惑が取りざたされ、選挙戦に干渉したロシア要人を対象とする対露制裁強化法案が可決されるなかでのプーチン大統領の言動は、アメリカ批判を強めるというよりは、アメリカ世論の鎮静化にのために従来の対決姿勢は封印しているようにも。

****プーチンが対米「低姿勢外交」にひた走るワケ****
米政権や世論に配慮する言動を頻発

米国の「ロシアゲート」疑惑追及が本格化する中、ウラジーミル・プーチン大統領がこのところ、米露関係やロシアゲートで積極的に発言し、米世論の鎮静化に努めている。疑惑が泥沼化すれば米露関係改善は遠のき、孤立が長期化するとの懸念がありそうだ。

米上院は新たに、選挙戦に干渉したロシア要人を対象とする対露制裁強化法案を98対2の圧倒的多数で可決し、議会の反露感情の強さを示した。

米露首脳は7月7、8両日ハンブルクで開かれるG20首脳会議の際に初会談を行う予定で、ロシアは首脳会談の成果に向けてダメージ・コントロールに乗り出した形だ。

プーチン大統領が米男性に語りかけたこと
毎年恒例のプーチン大統領の国民対話「大統領との直通回線」は、政権が万全の準備で臨む最も重要な対外発信装置だが、6月15日の対話は、200万件以上の質問の中から米アリゾナ州に住む米国人男性が登場した。

男性は、「私はあなたの大ファンで、ロシアのシンパだ。米国では国を挙げて反露ヒステリーが起きている。ロシアは敵ではないというメッセージを米国人に送ってほしい」と述べた。

大統領は「あなたの発言に感謝する。ロシア大統領として、われわれは米国を敵とみなしていないことを強調したい。それどころか、過去2回の大戦で米国は同盟国だった。帝政ロシアは米国の独立を支援した。反露ヒステリーは米国内の政治闘争の結果だ。世論調査では、ロシアに好意的な米国人は多いし、ロシアにも米国に好意的な人が多い。米露関係が軌道に乗るよう強く望んでいる」と答えた。(中略)

トランプ政権にすり寄る姿勢
「国民対話」でプーチン大統領は、7月の米露首脳会談の展望に関する専門家の質問にも、「米国とは協力できる分野が少なくない。何よりも大量破壊兵器の不拡散問題がある。米露は最大の核保有国であり、この分野で協力するのは当然のことだ。北朝鮮だけでなく、他の地域についてもだ。貧困問題や環境破壊対策、イラン核問題、ウクライナ問題もある。シリアや中東情勢では、両国の建設的作業なしに進展は考えられない」と述べ、「われわれは米国と建設的対話を行う用意がある」と強調した。

トランプ大統領が脱退表明した温暖化対策の国際化枠組み「パリ協定」についても、「米国抜きでこの分野で何か合意するのは意味がない」とし、トランプ政権に配慮した。

ロシアゲート疑惑でも、トランプ政権にすり寄る姿勢がみられた。(中略)

こうした対米融和姿勢の背景には、欧米の対露制裁強化への焦りが見て取れる。

「ロシアは制裁にいつまでも耐えていけるのか」との質問に、大統領は「ロシアは何度も各国の制裁に耐えてきた。西側はロシアをライバルとみなす時、制裁に打って出る。100年前のロシア革命の時もそうだった」としながら、「米上院が新たな制裁強化法案を策定したのには驚いた。何も起きていないのに、何が理由というのか。米国の内政問題が理由とすれば、ロシア封じ込め政策は常に適用される」と指摘した。

上院の新法案がロシアゲートを理由にしていることに衝撃を受けた模様だ。(中略)

「土下座外交」のような低姿勢発言も
プーチン大統領は6月2日、サンクトペテルブルクでの経済フォーラムで演説し、参加した米国の実業家らを前に、「現在の米露関係は冷戦後記録的な低レベルで推移している」「両国関係の冷却は経済関係に打撃を与えずにはいられない。米露貿易は過去3年で30%減少した」「米国のビジネスマンに言いたい。米露政治関係の正常化を支援してほしい。トランプ大統領を支援してもらいたい。米露関係の正常化は必ず両国の国益に合致すると確信する」などと訴えた。

強気の反米発言を繰り返してきたプーチン大統領だったが、この2~3週間は「土下座外交」のような低姿勢の発言が目立つ。

トランプ新政権誕生で米露正常化が進むと歓喜したのも束の間、想定外のロシアゲートが米議会や世論を硬化させ、対米外交が裏目に出たショックの大きさがうかがえる。

ただし、ロシアがウクライナやシリア問題で具体的な対米譲歩に乗り出す形跡はない。「米政界の反露ヒステリーは、来年の大統領選でのプーチン再選に向け求心力を高める効果がある」(6月6日付『モスクワ・タイムズ』紙)との見方もある。対米融和発言は、欧米の攪乱を狙ったレトリックにとどまりそうだ。【6月23日 名越 健郎氏 東洋経済online】
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敵対国ランキングではアメリカがトップ 昨年調査よりは減少 トランプ大統領への期待も
最後に、ロシア人が「敵」、「友」と考える国のランキング。

****ロシアの盟友ランキング、中国の順位は?****
ロシアのレバダ・センターは5日、本国の「敵」と「友」をテーマとした世論調査を実施した。それによると、ロシアは世界で孤立していると考える人は減少した。2014年11月の調査では、回答者の47%が「孤立している」と答え、その比率は翌年に54%に増加したが、今年5月に46%に減少した。

主な敵対国のランキングでは、上位3国は米国(69%)、ウクライナ(50%)、ドイツ(24%)。そのほかにラトビア(24%)やリトアニア(24%)、ポーランド(21%)、エストニア(16%)、英国(15%)、グルジア(9%)、フランス(8%)が上位にランクイン。

ロシア人の米国に対する好感度の変動は大きく、2010年に米国を「邪悪帝国」と答えた人はわずか26%だったが、2015年の調査では73%が米国を敵視している結果となった。

今年はトランプ氏の大統領就任により、回答者の21%が露米関係は改善されていると考えている。ドイツについては、2006年から2014年までロシア人に敵視されたことはない。

盟友のランキングでは、ベラルーシ(46%)で11年連続でトップを維持した。次は中国(39%)、カザフスタン(34%)、シリア(15%)、インド(14%)、アルメニア(12%)、キューバ(11%)となっている。中国は2012年の16%から39%に順位を上げた。

ウクライナとドイツは、数年前は盟友ランキングに挙がっていたが、現在は敵対国になっている。【6月14日 Record china】
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ロシアのトランプ大統領への期待はまだ大きいようです。

友好関係を強める中国とロシアは、必ずしも利害が一致しないとの指摘もありますが、それでもかなり高い好感度を示しています。

日本は、敵対国でもありませんが、盟友でもない・・・・という位置づけのようです。要するに影が薄いということか。
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オーストラリア  経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれないジレンマ

2017-06-24 22:37:22 | 中国

【2016年11月2日 NHK】

中国へのジレンマから「中国恐怖症」】
中国の国際的存在感が増すにつれ、中国との関係に苦慮する国も多くあります。
日本もその一つですが、オーストラリアも“経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれない”というジレンマを抱えています。

中国メディアは、そのようなオーストラリアの状況を“中国恐怖症”にかかっているとも皮肉っています。

****この国は「中国恐怖症」を患っている****
2017年6月20日、参考消息網は記事「中国製携帯すら恐ろしい?!この西側国家はなぜ“中国恐怖症”にかかったのか」を掲載した。

先日来、オーストラリアでは「中国」にまつわるさまざまな政治問題が取り沙汰されている。議会では「中国海軍のインド洋における活動が活発化しており、海軍は西海岸及び北部海岸でのプレゼンスを強化する必要がある」との提案が審議されたが、オーストラリア外務省は中国に配慮し、「活発化する外国海軍の活動に対応するため」と中国という言葉を出さない方向に修正するよう求めて話題となった。

また、20日には中国企業がオーストラリアのデータセンターの親会社を買収したことが報じられたが、オーストラリア国防省はその後、同社との取引中止を発表した。買収された企業はデータの安全は保持されるとの声明を出したが、まったく意味を持たなかったようだ。

それだけではない。オーストラリア議会発表の資料によると、今年3月までに少なくとも40台の中国製携帯電話が政府によって購入され、オーストラリア外務省及び国防省の官僚に支給されたことが明らかとなった。野党議員は「奇妙な決定だ」と強く批判している。

なぜオーストラリアにはこれほどまでに中国恐怖症が広がっているのだろう。中国現代交際関係研究院南太平洋研究室の郭春梅(グゥオ・チュンメイ)主任は、オーストラリアが戸惑いの時期にあるためだと分析する。経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれないという状況にあるためだという。【6月24日 Record china】
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“経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれない”というジレンマは、世論調査の結果にも示されています。

****豪世論調査、半数が中国の軍事的脅威に懸念、米国への信頼度は低下****
2017年6月21日、オーストラリアのシンクタンク、ローウィ国際政策研究所の世論調査結果によると、オーストラリア人のほぼ半数が「今後20年間に中国はオーストラリアにとって軍事的脅威になる」と考えていることが分かった。

中国のライバルである米国への信頼度は2011年当時のほぼ半分にまで低下している。調査は3月1日から21日までオーストラリアの成人1200人を対象に行われた。米ボイス・オブ・アメリカが伝えた。

オーストラリア人の間で、潜在的な軍事的脅威としての中国に懸念が高まっている。だがそうした懸念の一方で、多くのオーストラリア人(79%)が中国を重要な経済的パートナーと考えている。

米国との関係については、60%がトランプ大統領を好ましくないと考えているが、オーストラリアの安全保障にとって米国との同盟が重要だと考えている人は大多数を占めている。

同研究所のアレックス・オリバー氏は、「オーストラリア人は米国との同盟を中国を含むこの地域の潜在的脅威に対応するための『保険』とみなしている」と指摘している。【6月21日 Record china】
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アメリカ・トランプ大統領は気に入らないが、経済的な中国依存に対する不安感もあって、安全保障面でアメリカとの関係も重視せざるを得ない・・・といいたところです。

【「豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかりになっている」】
日本は2012年12月に始まったアベノミクス景気が、バブル期を超えて戦後3番目の長さになったそうですが、“一体どこが好景気なのだろうか?”とも思える実感に乏しい面もあります。

一方、オーストラリアは“26年間、103四半期連続でリセッション(景気後退)を経験していない”という超長期の成長路線を継続していますが、これをけん引している大きな要因は中国の経済成長や天然資源への需要の高まりです。

****豪経済、26年間景気後退なし 世界最長記録に並ぶ****
オーストラリア統計局が7日に発表した2017年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.3%増となった。26年間、103四半期連続でリセッション(景気後退)を経験していないことになり、オランダの持つ世界最長記録に並んだ。
 
一方で前年同期比では、1~3月期の成長率は1.7%増と、前期の2.4%増から鈍化。ただ3月末にオーストラリア北東部に上陸したカテゴリー4 の猛烈なサイクロン「デビー(Debbie)」による経済的な被害、貿易収支の数字が弱かったこと、さらには賃金の伸びが低調だったこともあり、多くのアナリストらは成長ペースの減速を予想していた。
 
オーストラリアの長期にわたる経済成長について、多くのエコノミストは同国が1980年代から90年代にかけて行った、変動相場制への移行、労働市場の柔軟化、金融部門や資本市場の規制緩和、関税の引き下げなどの経済改革が後押ししたと述べている。
 
また中国の経済成長や天然資源への需要の高まりも、資源が豊富なオーストラリアの経済に恩恵をもたらした。同国では鉱山部門への前例のない投資ブームが起こり、商品価格も記録的な水準となった。(後略)【6月7日 AFP】
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オーストラリアの輸出の3分の1が中国向けで、これは他のG20諸国のいずれよりも高い割合となっています。
また、中国のオーストラリアへの投資も増加しています。

日本同様、オーストラリアでも中国人観光客の急増、大量消費が需要を支える要因になっているようです。

****中国人観光客の爆買いに期待するなら、この一群を軽視してはならない****
2017年6月14日、環球網によると、オーストラリアの統計当局が13日発表したデータで、4月末までに同国を訪れた中国人観光客の数が120万人に達したことが分かった。

外国人観光客全体の数は前年同期比9.5%増の850万人で、中国人の伸び率は全体を上回る10.2%だった。国・地域別で最多だったのはニュージーランドからの観光客だが、年末には中国がニュージーランドを追い抜くとみられている。

中国人観光客の消費額は3月末時点で97億ドル(約1兆630億円)に上っており、現地の観光シンクタンクの責任者を務めるDon Morris氏は「中国人観光客の中で消費の主力となっているのは女性たち」と指摘、行政や関連業界がこの点を重視すべきとの考えを示す。

デロイト・アクセス・エコノミクス(DAE)の分析によると、短期滞在でオーストラリアを訪れる中国人観光客に占める女性の割合は2005年の40%から16年3月には57%に上昇。

Morris氏は「旅行目的地を選ぶ時に女性の意見が大きなポイントとなってくる。女性たちが好むのはハイセンスなホテルでの滞在や地元の人たちとのコミュニケーション。SNSへの投稿に備えたwifiサービスの提供も必要」と指摘している。【6月16日 Record china】
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現在、オーストラリアには中国系住民が100万人暮らしており、さらに14万の留学生がいるということで、そうした面でも中国の存在が大きくなっています。

****豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかり、豪メディアが警鐘****
2016年10月31日、中国紙・参考消息(電子版)によると、豪紙ヘラルドサンは28日、「豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかりになっている」との記事を掲載した。

政府も企業も何とかして中国の歓心を買い、チャイナマネーを呼び込むことに力を注いでおり、何らかの決定を下す際には常に中国を念頭に置いている。

どの経済フォーラムでも「中国はどうだ」「中国はそうではない」と議論され、企業は「中国に何をどう売るか」、観光業は「中国人客をどう呼び込むか」、大学まで中国人学生に頼り、不動産開発業も中国のバイヤーに期待をかけている。

中国から豪州への投資や企業買収は増加の一途をたどっている。2015年には150億豪ドル(約1兆2000億円)もの資金が投じられ、米国に次ぐ規模となっており、豪州国内の農業やエネルギー、医療、商業不動産、通信など、さまざまな分野に及んでいる。

豪州という籠は中国の卵でいっぱいになっており、それらはふ化を待っている。そして、誰もそのリスクに注意を向けようともしていない。【2016年11月1日 Record china】
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オーストラリアが最近移民政策を厳しくしている・・・という話は、5月7日ブログ“オーストラリア・ニュージーランド 「自国第一」の流れでビザ・永住権取得の厳格化”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170507でも取り上げましたが、それとの関係はよくわかりませんが、昨年、中国人観光客受け入れ拡大に向けて、中国人を対象にしたビザ制度緩和を行っています。

****豪州が中国人対象に10年マルチビザ発行へ****
在オーストラリア中国使館はこのほど、オーストラリアのピーター・コスグローブ総督が、「1994年移民規制法」の改正法案に署名し、中国人を対象に有効期間10年の数次査証(マルチビザ)の発行が可能になったことを明らかにした。

オーストラリアが外国人を対象に有効期限が10年のマルチビザを発行するのはこれが初めて。現段階では、中国人だけが対象となるとしている。中国放送網が伝えた。(後略)【2016年11月24日 Record china】
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中国の国際秩序無視、内政干渉の疑いに対する強い警戒も
“(中国依存について)誰もそのリスクに注意を向けようともしていない”と、中国依存を警戒する前出記事にはありますが、実際のところは、オーストラリア政治・社会において中国に対する強い警戒感があるのは冒頭記事のとおりです。

安全保障面ではむしろ、強い調子の中国批判が目立ちます。

****中豪の舌戦ヒートアップ、豪外相や前駐米大使も中国を攻撃****
2017年6月5日、米華字メディアの多維新聞によると、アジア太平洋地域の安全保障について各国の国防相などが意見を交わす「アジア安全保障会議」でのターンブル豪首相の発言に端を発した中国との舌戦がさらにヒートアップしている。

オーストラリアのビショップ外相はこのほど、「中国は国際秩序を『直接無視』している」と述べ、週末のアジア安全保障会議で中国の拡大主義に警告を発したターンブル首相を支持した。

ターンブル首相は2日の基調講演で「中国がこの地域を支配するために、この半球にモンロー・ドクトリンを課し、他の国、特に米国の役割と貢献を疎かにしようとしていることに懸念が広がっている」「大国は、より小さな国に自分の意志を押しつけるべきではない」などと述べた。

これに対し、中国代表団の何雷(ホー・レイ)団長は3日の記者会見で「中国と中国政府は国際ルールと地域ルールを支持し、守る国だ」と反発した。

中国国営の環球時報も3日の社説で「ターンブル氏の発言は中国への説教に満ちている。彼はそうした発言がいかに滑稽なものであるかを理解していないようだ。最大の貿易相手国である中国にあれこれと口出しをしている。中国の度量が大きいことを祝うべきだ」などと論じた。(後略)【6月5日 Record china】
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南シナ海だけではなく、オーストラリア国内政治に及ぼす中国の影響にも懸念が強まっています。

****中国の「愛国」ビジネスマン、豪州で巨額の政治献金****
2017年6月9日、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(中国語電子版)は、「中国の『愛国』ビジネスマンがオーストラリアで多額の政治献金を行い、南シナ海問題などが中国に有利に動くよう画策している」と伝えた。

豪メディアは「中国人ビジネスマン2人がオーストラリアの政治家に多額の政治献金を行っている」と伝えた。南シナ海問題などを中国に有利な状況に導くためとみられる。ジェームズ・クラッパー前米国家情報長官はこのほど、訪問先の豪キャンベラで「オーストラリアは中国による政治的な影響に警戒すべきだ」と警告している。(後略)【6月12日 Record china】
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また、オーストラリアメディアでは、“オーストラリアの学生への脅迫や嫌がらせを中国政府が支持し、オーストラリアで諜報活動のネットワークを有しており、オーストラリアの国家の安全を脅かしている”といった報道もなされ、中国外交部の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官がこれに反論するようなやりとりもありました。【6月6日 Record chinaより】

こうしたオーストラリア側の懸念もあって、ターンブル首相は、中国による内政干渉の対抗すべく、スパイ法の見直しをおこなうことを表明しています。

****豪、中国対策にスパイ法見直し 政治献金による内政干渉に危機感****
オーストラリアのターンブル首相が、中国による内政干渉の対抗へ、スパイ法の見直しを表明した。

中国共産党とつながるとされる在豪の中国人実業家が、巨額献金で政治介入している実態が、豪メディアの調査報道で判明。経済面で関係を深め“親中派”ともされるターンブル氏だが、「主権」をめぐり中国への警戒を強めている。
 
「中国は自国だけでなく、豪州の主権も常に尊重すべきだ」。ターンブル氏は6日こう述べ、スパイ法など豪州内での外国政府の活動に関する関連法見直しを司法長官に指示したと明らかにした。年内にも報告書がまとまる見通しだ。(中略)

中国外務省の華春瑩報道官は6日、一連の報道を「悪意の憶測」と批判した。【6月7日 産経】
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中国からの留学生受け入れについても、見直しの動きも。

****豪州の大学に中国人学生の募集減らす動き、中国への過剰な依存を懸念****
2016年10月6日、中国紙・参考消息(電子版)によると、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドは5日、豪州の主要大学が中国人留学生の割合を徐々に減らそうとしていると伝えた。

オーストラリア国立大学は主要8大学の中で最も中国人学生の割合が多く、2016年に募集した留学生に占める割合は約60%。ある学生新聞が入手した資料では、大学執行部は中国の学生市場に過度に依存することは運営上リスクを抱えることになるとして、2015年から徐々に学生の多様化を図り、中国人学生の募集数を減らしているという。(後略)【2016年10月8日 Record china】
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中国の存在感が増すにつれ、人種的軋轢も出てきているようです。

****オーストラリアの中国系若者、9割が人種差別を経験****
2016年12月6日、オーストラリアのティーンエイジャーの3人に1人が、人種による差別や不公平な扱いを受けたことがあるとする調査結果がこのほど公表された。特にマンダリン(中国語の標準語)を話す若者が人種差別を経験した割合は90%と最も高かった。中国新聞網が伝えた。

ミッション・オーストラリアが15歳から19歳までの計2万2000人から回答を得た調査によると、4000人は家庭では英語以外の言語を話しており、中国語、ベトナム語、アラビア語の順で多いことが分かった。

人種差別を経験した割合は、マンダリン話者の若者が90%と最も多く、広東語話者とフィリピン語話者は80%だった。アボリジニとトレス海峡諸島の若者は、非先住民族の若者に比べて2倍の人種差別を経験している。(後略)【2016年12月8日 Record china】
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冒頭記事では中国製携帯電話の政府購入に対する野党からの批判が取り上げられていますが、昨年10月には、オーストラリア国防省が中国企業と軍服製作の契約を結んだことも、「発注した軍服に追跡可能な素材が使われる恐れがある」と批判と対象となっています。【2016年10月22日 Record chinaより】

同化せず外国(本国)に忠誠を誓う人間の集団
それがどこの国であれ、特定の国のマネー・コミュニティーが突出することへの懸念は起こりやすいものですが、中国の場合は中国政府の意向に同調する形で中国マネーと中国人コミュニティーが動くという特殊性があり、受入国側の不安を大きくしています。

****豪州に存在する中国系移民100万人と14万の留学生****
豪州国立大学名誉教授のポール・ディブが、9月6日付のオーストラリアン紙で、中国マネーと中国人コミュニティーの存在について警告する一文を書いています。要旨は次の通りです。

中国人コミュニティによる深刻な影響
豪州に対する中国の投資と豪州における大きな中国人コミュニティの存在が中国の影響力に関して深刻な問題を提起している。
 
豪州における中国の投資の累積額は英国、米国、日本に遠く及ばない。しかし、中国の投資の焦点と速度が安全保障上の懸念を惹起する。(中略)

多くの中国系住民の間で親中の態度がますます明らかになっており、また中国語のメディアはほぼ全て親中のグループに支配されている。(中略)

この関連で問題となるのが、中国人コミュニティの中国政府寄りの見解である。彼らの態度がこれ程までに圧倒的に人民共和国寄りであったことはないと聞く。

キャンベラの中国大使館が後ろで糸を引き、中国に残している家族に対する報復で脅かしていることに疑いはない。(中略)
中国ビジネスによる政党への献金が指摘されている。人民共和国と共産党にノスタルジアを抱く多くの中国系住民と学生がいることは事実である。そうであれば、我々は同化せず外国に忠誠を誓う人間の集団という危険なケースを抱えていることになる。(後略)【2016年10月12日 WEDGE】
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コンゴの住民虐殺 中央アフリカの民兵組織衝突 イエメンではコレラが蔓延・・・世界の現状

2017-06-23 22:17:58 | アフリカ

(コレラが猛威をふるうイエメン 首都サヌアの病院を受診する家族 【5月16日 CNN】

日本から遠く離れており日本との関係も薄く、また、国際政治に与える影響も比較的小さいことから、普段あまりメディアに大きく取り上げられることもないアフリカ中部のコンゴ、中央アフリカ、および中東イエメンの惨状について。

コンゴ・中央カサイ州:治安部隊と地元の民兵組織が約3400人の民間人を虐殺
アフリカ中央に位置する資源大国コンゴでは、カビラ大統領が任期切れを過ぎても“居座り”を続けていますが、そうした政治混乱に加えて、中部・東部では多くの武装勢力が跋扈する状況が続いています。

そのひとつが、4月24日ブログ“コンゴ 中央カサイ州で暴力が横行 住民100万人以上が避難 政府高官・大統領の責任”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170424でも取り上げた中央カサイ州での政府軍と反政府勢力の衝突です。

“政府軍と反政府勢力の衝突”と言うよりは、正確には“両勢力による住民虐殺”と言うべきでしょう。
現地カトリック教会は、3383人が殺害されたと報告しています。

****コンゴ治安部隊と民兵組織、民間人3000人以上虐殺か ****
(2017年6月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
コンゴ民主共和国のカトリック教会が、同国中部のカサイ地方で治安部隊と地元の民兵組織が約3400人の民間人を虐殺し、20の村を破壊したと告発した。

昨年8月に勃発し、世界最悪の難民危機の一つを引き起こした紛争の実態に関する同教会の報告書は20日、国連のゼイド人権高等弁務官により部分的に事実関係が裏付けられた。

戦闘を繰り広げる治安部隊と民兵組織の双方による残虐行為の一部に関して、ゼイド氏はジュネーブで開かれた国連人権理事会で詳細を報告した。
 
広大な国土に豊富な資源を持つコンゴで最も尊敬される組織の一つであるカトリック教会は、首都キンシャサで公表した報告書の中で、3383人が殺され、20の村が「完全に破壊された」ほか、3698棟の家屋が壊され、34の礼拝所が損壊または閉鎖されたとしている。これまで国連は死者数を400人としていた。

■カトリック教会が情報源
そのうち10の村は治安部隊、4つの村は民兵組織、残り6つは「未確認の主体」によって破壊されたという。

また、こうした数字は「信頼できる教会の情報源」に基づくが、昨年10月13日以降のものだけであり、「完全ではない」と付記されている。報告書について、コンゴ政府や軍関係者のコメントは得られなかった。
 
コンゴは政治危機にも陥っている。昨年12月に憲法上の任期が切れたカビラ大統領が居座ったことが発端だ。
 
戦闘は昨年8月、自身の名を付けた民兵組織を率いるカムウィナ・ンサプ氏が政府軍兵士に殺害されたことから始まった。国連スタッフは、カサイ地方の42カ所で多数の遺体が埋められていたのを発見している。国連の推計では、戦闘の影響で約130万人が避難民となり、毎日数百人が隣国アンゴラに流出している。
 
ゼイド氏は、政府当局がカムウィナ・ンサプと戦うために民兵組織「バナ・ムラ」を創設して武装させたが、この組織は「ルバ族とルルア族の民間人に恐ろしい攻撃」を行ったと述べた。
 
同氏は、民間人の保護も加害者の責任追及もしていないとコンゴ政府を非難し、第三者による暴力の実態調査を要求。「コンゴ民主共和国が、治安部隊や武装集団、民兵組織の要員が人を殺しても罰せられない無差別砲撃地帯になることは許されない」と述べた。【6月21日 日経】By John Aglionby
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中央カサイ州の混乱は、カビラ大統領に対する武力闘争を続ける部族勢力のカムウィナ・ンサプ首長(別名ジャンピエール・ムパンディ)が政府軍に殺害されたことを機に始まりました。
以後、政府軍側及び反政府軍側双方のみさかいのない住民虐殺が続いています。

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ンサプ(別名Jean-Pierre Pandi)は昨年6月に、自らを公式に国家元首として認知させる運動を開始。これに呼応する蜂起が相次ぎ、政府はこの地域から撤退を余儀なくされた。

2カ月後、ンサプが治安部隊に殺害されると、その支持者が警察や対立する組織と衝突。BBCニュースによれば、両組織とも民間人を残虐したと相手を非難している。

国際機関は、今月初めに国連人権理事会のチームが発見した集団墓地から推測し、コンゴ治安部隊によって民間人が約99人殺害されたと報告した。

また、ンサプの民兵組織が、近隣に位置する南東部ロマミ州で子どもを含む、少なくとも30人を処刑したことを非難した。

さらに今月21日、国連の専門家組織のメンバーのアメリカ人とスウェーデン人が現地人通訳とともに拉致され、27日に全員が遺体で見つかった。スウェーデン人のメンバーは首が切断されていたという。【3月30日 Newsweek】
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中央アフリカ:「ミッション成功」後も続く衝突 “「ささいな」不一致”で約100人が死亡
そのコンゴの北に隣接する中央アフリカでは、介入していた旧宗主国フランスは「ミッション成功」として撤退しましたが、2013年以来のカトリック系民兵とイスラム系民兵の衝突がおさまりません。

2016年11月12日ブログ“中央アフリカ 「アフリカの憲兵」フランス軍の撤退完了 “見捨てられた”との懸念も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161112

****中央アフリカ*****
中央アフリカでは、イスラム過激派が中心の複数の反政府組織が「セレカ」と呼ばれる連合を結成し、2012年12月に国内の広域を掌握。13年3月には当時のフランソワ・ボジゼ大統領政権を打倒した。

その報復として、反政府組織と戦う「反バラカ」(バラカは長刀のなたを意味する)と呼ばれる武装集団が結成された。キリスト教徒を中心に構成される民兵組織で、報復としてイスラム教徒が中心のセレカに攻撃を開始し、これまでに数千人が殺害されている。

13年後半には、旧宗主国のフランスやアフリカ連合が治安維持を目的に軍事介入をし、14年2月に首都バンギの市長であったカトリーヌ・サンバ・パンザ氏が、同国初の女性元首として暫定大統領に就任。16年4月からは、フォースタン・アルシャンジュ・トゥアデラ元首相が大統領を務めている。(中略)

中央アフリカは、アフリカ中央部に位置する内陸国で、面積は日本の約1・7倍の大きさ。人口は約480万人(2014年)。

1960年にフランスから独立するが、その後不安定な情勢が続いている。

宗教は、土着宗教が35パーセント、プロテスタントが25パーセント、カトリックが25パーセント、イスラム教が15パーセントとされている。キリスト教が多数派となっているものの、アニミズムの影響も大きいという。【6月12日 CHRISTIAN TODAY】
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****中央アフリカで武装集団が衝突、100人死亡 「停戦」あえなく破綻****
紛争が続く中央アフリカで武装集団間の衝突が起き、地元当局者によると21日までに約100人が死亡した。イスラム教徒主体の反政府組織の内部抗争とみられる。

衝突が発生する直前に、政府と複数の反政府組織が停戦協定を結んだばかりだった。
 
中央アフリカでは2013年以降、キリスト教徒の民兵組織「反バラカ(anti-balaka)」と、イスラム教徒主体の反政府民兵組織「セレカ(Seleka)」に属していた集団が対立してきたが、組織内でも分裂が進み、過激化する分派が乱立する状態となっている。

激しい戦闘が発生したのは中部の町ブリア。主任司祭も務める町長によると、19日の停戦協定署名からわずか数時間後の20日未明に銃撃が発生。約6時間にわたる全面的な衝突につながったという。町長はAFPの電話取材に「人道状況が憂慮される」と危機感をあらわにした。
 
衝突はセレカ系の「中央アフリカ復興人民戦線(FPRC)」の対立する派閥間で起きた。FPRCの幹部は指導者らの間で「ささいな」不一致があったと述べ、一種の権力闘争だと説明した。
 
国連(UN)と政府の調査によると、一連の衝突で5月末までに300人が死亡、10万人が避難を余儀なくされている。【6月22日 AFP】
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“「ささいな」不一致”で約100人が死亡・・・なんとも軽い命です。

イエメン:猛威をふるうコレラ 「35秒間に1人の子供が感染している。制御不能だ」】
一方、中東アラビア半島先端に位置するイエメンでは、これまでも何度も取り上げてきたように、イランが支援しているされる反政府勢力フーシ派及びサレハ前大統領派と、サウジアラビアが軍事支援するハディ暫定大統領派の戦いが一向に収まりません。

そうしたなかで、戦闘以上に住民の命を奪っているのは、紛争に伴う衛生環境と栄養状態悪化によるコレラの蔓延です。
2017年5月26日ブログ“イエメン 戦闘・飢餓、更にコレラ感染拡大で世界最悪の人道危機が深刻化”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170526

日を追うごとに、コレラ犠牲者が増大しています。

****イエメン、コレラの死者1000人に近づく****
国連(UN)のイエメン人道調整官を務めるジェイミー・マクゴールドリック氏は15日、内戦が続く同国で流行しているコレラによる死者が1000人に近づいていると明らかにしさらに、援助が思うように集まらない現状について、「人道が政治に負けようとしている」と強く非難した。

ヨルダンの首都アンマンで記者会見したマクゴールドリック氏は、「殺されるか飢えるかしかない人びとを救える時間はなくなりつつあり、今ではコレラの問題まで加わっている」と述べ、「物資の不足でわれわれは厳しい状況に置かれている。早急に行動が必要だ」と訴えた。
 
マクゴールドリック氏によると、現在コレラの感染が疑われる人々は13万人以上に達し、死者は970人を超え、その約半数は女性と子どもが占めているという。
 
マクゴールドリック氏は、(国連は)2017年のイエメンへの人道的対応のために21億ドル(約2300億円)の拠出を呼び掛けているが、これまではそのうちのわずか29%しか集まっていないと明かし、「イエメンについて心が張り裂けそうな気持ちになるのは、人道が政治に負けようとしていることだ」と語った。【6月16日 AFP】
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****コレラ死者1000人超す=感染者の半数が子供―イエメン****
世界保健機関(WHO)は18日、内戦が続くイエメンで4月以降流行しているコレラによる死者が17日までに1100人に達したと明らかにした。感染が疑われる患者数は15万8960人。感染者は最終的に30万人に上る恐れがあり、国連は「憂慮すべき速さで感染拡大が続いている」と警鐘を鳴らしている。
 
国連によると、感染者の約半数は子供で、大半が栄養失調。国際NGOセーブ・ザ・チルドレンは「35秒間に1人の子供が感染している。制御不能だ」と指摘した。【6月19日 時事】 
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****イエメンのコレラ流行、発症例19万件超 8月末には30万件超も****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は23日、コレラの流行が拡大する内戦下のイエメンで、発症例がおよそ19万3000件近くに達しているとし、8月末までに感染者は30万人を超える見通しだと発表した。
 
ユニセフのメリトセル・レラーノ報道官はスイス・ジュネーブで記者会見し、8月末までに発症例は30万件に達するとの懸念を表明した。同報道官によると、コレラの流行が宣言された今年4月以降、イエメンで1265人が死亡したという。【6月23日 AFP】
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日本や欧米にあっては、数人が犠牲となる事件があっても大騒ぎとなりますが、その一方で、日常的に数千人の命が奪われていく世界もあります。

そうしたなかにあって、自国だけの安全・平和を語ることは欺瞞でもあり、その欺瞞・無関心への失望は容易に怒り・憎しみに変わります。そして難民問題やテロとして自国の安全を揺るがすことにも。
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中国  信号を守り、ごみをポイ捨てすることもなく、きちんとゴミ分別する・・・・そんな日が来るのか?

2017-06-22 23:13:06 | 中国

(乱雑な扱いがされるシェア自転車【4月4日 WSJ】)

【「馬跳び(Leapfrog)」型発展をとげる中国社会
“都市に住む一般の中国人はこの2、3年、タクシーを呼ぶのにスマホを使うのが当たり前になっている。このため、客を乗せていないタクシーもスマホで呼ばれた客のところに向かっていることが多く、手を挙げても止まってくれない。流しのタクシーをつかまえるのは非常に難しくなった。”【6月19日 瀬口 清之氏 JB Press】

その結果、中国金融機関に決済口座をもたず、スマホ決済が使えない外国人旅行者にとっては困った事態にもなっているようです。個人的には中国で訪れたい所はまだまだたくさんあるのですが、これまでのように一人でふらふら・・・というのは難しくなっているのかも。

上記のタクシー配車アプリはほんの一例で、中国ではスマホの決済機能の発達やeコマースの普及を背景に経済活動のIoT化が老若男女を問わず、社会全体に急速に浸透しています。

****日本の方が遅れているIoTベースの各種サービス****
(中略)
●名刺を持たない(スマホをかざし合って情報交換)
●インターネットメールを使わない(スマホのSNSで代替)
●現金を持ち歩かない(スマホ決済で代替)
●クレジットカードを使わない(スマホ決済で代替)
●農村部では商店がなくてもeコマースで買い物(代金はスマホ決済)
●食事代の割り勘は一瞬にしてスマホで決済
●スマホ決済を前提としたレンタル自転車乗り捨てサービス(モバイク)の普及
●スマホ決済履歴を通じた個人信用力審査に基づく消費者ローンの提供
 
中国でこれらのサービスが急速に普及した主因は、以下のような元々の経済活動上の不便さにあると考えられる。
 
第1に、中国ではかつて、固定電話が普及する前に携帯電話が普及したため、固定電話のない家庭が多い。このため、老若男女を問わず、携帯電話の利用が急速に広がった。
 
第2に、中国では、都市郊外や農村部には商店があまり発達していないため、買い物が不便だった。そこにeコマースが登場したため、商店があまり多くない地域の消費活動の利便性が大幅に向上し、eコマースをベースとしたものへと一気に移行した。
 
第3に、中国では金融機関の利便性が低く、現金も偽札が多く、日常的な資金決済の利便性が日本ほど高くなかった。そこにスマホアプリを介した便利で安心な決済手段が登場したため、スマホによる決済が急速に普及した。
 
このように、元々各家庭に固定電話がなかったために携帯電話やスマホが普及し、便利な商店がなかったためにeコマースがそれにとって代わり、便利な金融機関が存在していなかったため、フィンテックが急速に発展した。
 
利便性の高い新技術の登場により、ある段階の技術を飛び越えて、次世代の先進技術が一気に普及する現象は「馬跳び(Leapfrog)」型発展と呼ばれている。
 
Frogはカエルを意味するので、Leapfrogを直訳すると「カエル跳び」であるが、英語では「馬跳び」(前かがみした人の背中を跳び越す子供の遊び)を意味する。日本でも小切手があまり普及せず、金融機関決済が普及したのはこの一例である。
 
「巨龍」と呼ばれる中国が「馬跳び」というのはややしっくりこないが、巨龍の馬跳びが技術力を誇る日本企業ですら、追いつけない世界を生み出している。【同上】
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こうした社会変化の結果、個人情報は細部に至るまで国家に管理される社会ともなっている訳で、そのことによる懸念もまたありますが、その問題には今日は触れません。

戻ってこない?シェア自転車
“スマホ決済社会”浸透の代表例が“レンタル自転車乗り捨てサービスの普及”です。
2年前に西安を旅行した際も街中でよく見かけ、「どうやったら使えるのだろうか?」と眺めていた記憶があります。

しかし、“借りたものは返す”という社会における最低限のルールが守られないことで、うまく回らないケースもあるようです。

****中国で自転車レンタルビジネスは成り立たない?9割戻らず倒産―中国メディア****
2017年6月19日、観察者網によると、中国重慶市でシェア自転車サービスを展開する「悟空単車」がこのほど倒産した。貸し出した自転車1200台のうち9割が持ち去られたためという。

北京や上海など大都市を中心にシェア自転車サービスが広がる中国では、大手の「摩拜単車(mobike、モーバイク)」がこのほど、6億ドル(約666億4000万円)の融資を得たと発表したばかり。一方で、サービス開始から5カ月を迎えた悟空単車は、資金繰りが悪化し業界初の倒産を発表した。

悟空単車を創業した雷厚義(レイ・ホウイー)氏によると、初期投資は300万元(約4887万円)で、自転車1200台を用意してサービスを開始。自転車は大学のキャンパスや繁華街などに配置したという。

しかし、電子キーを壊されるなどして持ち去られるケースが続発。戻ってきた自転車は1割前後で、すぐにサービス継続に支障が出た上、運転資金にも事欠くようになった。

雷氏は業界大手のモーバイクや「ofo」などについて「世界規模のサプライチェーンと協力しているから強い。私たちのような中小業者は、品質の良い自転車をそろえるのも難しい。自転車は壊れやすく維持費もかかる」と話している。【6月21日 Record China】
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事業として成り立っている企業も多々あることから、“電子キーを壊されるなどして持ち去られるケースが続発”したことだけが倒産の理由なのかどうかはわかりませんし、9割が戻ってこないというのもシステム上の問題があるのかも。

安価でロック・セキュリティが比較的簡便な「ofo」でも紛失率は1%、高価でロック・セキュリティが厳重なMobikeでは「喪失率は無視し得るほど小さくなっている」とのことです。【4月4日 WSJより】

ただ、不正に使用されたシェア自転車が散見される・・・という話はよく聞くところで、貸した傘がもどってくる、落し物が届けられる日本社会と比較して中国社会の現状を嘆く、あるいは日本社会のすばらしさを称賛する声もよく聞くきます。

改善されるのか信号無視、ポイ捨て ゴム分別は?】
このあたりの、個人的利益追求のためにマナー・社会ルールがないがしろにされがちなことは中国社会の抱える大問題であり、領土や歴史認識など政治的に大きく取り上げられる問題よりも、個人的には民主・人権といった価値観に関する問題と並んで、中国との関係を考える際に気になるところです。

中国社会の中にも礼節と言った精神性を重要視する向きもあるということは、6月8日ブログ“中国 文革期の批林批孔運動 現在は“儒教ブーム” 共産党は儒教概念を国家支配に利用しつつも警戒”でも取り上げたところです。

中国指導層・当局も改善の必要性は認識しているようで、ここ数日だけでも社会ルールの徹底に関する話題をいくつか目にしました。

****信号無視すればスクリーンに大写し 中国、取り締まりに顔認証活用****
信号無視した人は街頭スクリーンで「さらし者」に──。中国の4省の都市で、交差点に設置した顔認証システムによって赤信号を無視した歩行者を特定し、近くのスクリーンに画像を即座に表示する新手の取り締まりが始まった。

公共の場で恥をかかせることによって交通ルール違反を抑制する狙い。国営新華社通信が20日伝えた。
 
顔認証システムは中国でファストフード大手ケンタッキーフライドチキン(KFC)が客の注文を推測するために導入しているほか、公衆トイレでのトイレットペーパーの盗難防止などにも活用されている。
 
新華社によると、顔認証を通じた信号無視の取り締まりに乗り出した都市のうち、山東省の省都・済南では5月初めの導入以降、6000人以上の違反者を摘発したという。
 
このシステムでは違反者の画像と15秒の動画を撮影。それをすぐ街頭スクリーンに映し出し、違反行為がばれていることをその場で本人らに分からせる仕組みだ。
 
画像は省の警察のデータベースとも照合され、違反者の写真に加え「身分証番号や住所といった個人情報も20分以内に交差点の街頭スクリーンに表示される」(新華社)という。(後略)【6月21日 AFP】
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****中国の市のトップを怒らせた男性3人組、カメラの前で公開謝罪****
2017年6月18日、中国海南省海口市で公共場所にごみを散乱させた男性3人がカメラの前で謝罪し、話題を集めた。海南省の地元紙・南国都市報が伝えた。

男性の若者3人は11日、同市の海沿いにある市営公園「万緑園」のテラスエリアで飲み食いし、ビールの缶やつまみの残りかす、たばこの吸い殻などのごみを放置してその場を立ち去った。

同園の清掃員はよくあることと話していたが、惨状を写真付きで報道したことが同市のトップである共産党委員会書記の目に留まり、男性3人に謝罪させるよう調査を行うよう指示した。市の関連部門が18日に男性3人を見つけ、警告したうえで市の条例に基づき50元(約800円)の罰金を科した。

一方の男性3人は、詰め駆けた多くのメディアの前で「近くの商店でごみを入れる袋をもらおうとしたが、大きな袋がなかった。考えが甘く酒に酔っていたこともあり、片付けることなくその場を去った」と説明し、深く反省していると謝罪した。【6月19日 Record china】
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まあ、違反者の個人情報を公開とか、カメラの間で謝罪させるとか、いかにも中国的ではありますが、社会ルールを徹底させたいという問題意識はあるようです。

日本を訪れた中国人の多くが驚嘆するのが日本の清潔さですが、ゴミの分別については「そこまでやるか?」といった疑問の声も多く見受けられます。(個人的にも、あまりゴミ分別をうるさく言う人は苦手です)

そんな中国でも一応ゴミ分別のルールはあるようですが、無視されていることが多いようです。
その件についても、改善の試みが。

****中国政府、3兆円投じてごみ分別の徹底に乗り出す****
2017年6月20日、シンガポール英字紙ザ・ストレーツ・タイムズによると、中国は2000億元(約3兆2000億円)を投じてごみの分別回収推進に取り組んでいる。

広東省深セン市では先月、ごみの分別制度を奨励から強制へと変更することが発表された。ごみを分別しないで捨てた場合に罰金が科されることになる。

中国政府は同市を含む全国45都市に対して年内にごみの分別制度に関する法規を制定するよう命じており、現在20%にとどまっているごみのリサイクル率を2020年までに35%以上にすることを目指している。この計画には2000億元が投じられ、ごみの収集、処理体系を含む必要なインフラ整備に用いられる。

中国では2000年から大都市でごみの分別がスタートし、色の異なる分別ごみ箱が設置されるとともに市民の意識向上が図られた。

しかし、期限を設けた達成目標が十分に定められていなかったことや、中間層の拡大や電子取引の爆発的発展によって生じた大量のごみにより、分別制度はなし崩し状態に。このため、中国政府による今回の措置に対しても一部で疑問視する声が出ている。

一方で、新たな措置に対して前向きな見方をしている専門家もいる。今回は中央政府が地方政府に対してより大きな圧力を掛けているからだ。

中国の環境に詳しい専門家は、「中国政府はこのプロジェクトを5年以内に全国展開するかもしれない。リサイクルプロジェクトの成否のカギは、実施範囲の拡大にある。人びとはルールを学ぶと同時に、努力を続ける必要がある。ごみのリサイクルは市民の責任だ」と語っている。【6月21日 Record china】
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数年後には、信号をきちんと守り、ごみをポイ捨てすることもなく、きちんとゴミ分別する・・・・そんな社会が中国でも実現するのでしょうか。

「無理でしょ」という答えしかないとは思いますが、問題意識が共有され、改善の取り組みが繰り返されれば、今よりはかなりましな状態になる“可能性”はあるでしょう。

そうなれば、国家間の付き合いも、今とは違ったものもあり得るのでしょうが・・・。

人助け美談が“普通に”評価される日がくれば・・・
社会道徳に関して、中国社会の話で非常に驚くもののひとつに、助けを必要としている人がいても関わり合いを避けて無視する・・・という風潮があります。

今月も、“横断歩道を歩いていた女性がタクシーにひかれた上、さらに別の車にひかれる様子を捉えた動画がソーシャルメディアに投稿され、現場を通りかかった歩行者や車の運転手が誰も女性を助けようとしなかったことに強い怒りの声が上がった。女性はその後死亡している。”【6月21日 AFP】といった話も。

“怒りの声が上がった”ということですから、助けるべきだという認識はあるのでしょう。
しかし、現場では誰も助けない・・・・この風潮を生んだのは、理不尽な判決がなされた10年前のある事件だと言われています。

****誰が中国の道徳を殺したのか、きっかけはあの事件―米メディア****
2017年6月15日、米華字ニュースサイト多維新聞は、「誰が中国の道徳を殺したのか、すべてのきっかけはあの事件」と題する記事を掲載した。

中国河南省で最近、路上で女性が突然倒れ、通りかかった人が誰一人助けようとせず、車にひかれて死亡した事件が起きた。人々の間では再び10年前の「彭宇事件」が話題になっている。

江蘇省南京市で06年、道で転んだ老人を助けた彭宇(ポン・ユー)さんが、逆に老人に「彭さんに突き飛ばされて転んだ」と主張される。裁判所が「本当の正義心からの行動なら、老人を助け起こす前にまず犯人を捕まえるはず」と推測。彭さんを突き飛ばした犯人と認定し、7万9000元(当時約105万円)の支払いを命じた事件だ。

中国の最高裁は河南省で起きた女性死亡事故を受け、短文投稿サイトの微博(ウェイボー)で彭さんの事件に触れ、人々の注目を集めた。「助けられた人が、助けた人が『突き飛ばした』ことを証明できないのであれば、助けた人は何の責任を負う必要もない」としている。

最高裁はまた、人々に「人を助ける行為は他人の権利を侵害する証拠にはならない。彭さんの事件は、市民が他者を敬遠したり、相互扶助の気持ちや道徳心が消えたりしていることの言い訳にはならない」と呼び掛けている。【6月17日 Record china】
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いくら中国とは言え、こんな滅茶苦茶な判決があるだろうか?・・・とも思うのですが、この「彭宇事件」に関しては5年後に、世間に流布されているような話ではなかった・・・という“新たな真相”が明らかにされています。

“中国「道徳崩壊」の象徴、彭宇事件の意外な「真相」=捏造の連鎖は続くよどこまでも”【2012年01月16日 KINBRICKS NOW http://kinbricksnow.com/archives/51768499.html

ことの真相はともかく、「善行を行った若者が無実の罪を着せられた」と伝えられ、人助けには関わらない方がいいとの風潮を助長した事件でした。

そうした風潮にあっても、ちゃんとした人はちゃんとするという話も。

****感動!心肺停止のおじいさんを、通りすがりの女性2人が救助―中国****
2017年6月19日、網易によると、甘粛省蘭州市で80代の男性が心臓発作で倒れ、現場を通りかかった女性2人が心肺蘇生を行って救助した。

17日午前8時ごろ、同市内の路上で80代の男性が突然倒れた。近くにいた女性がすぐに救急車を呼び、到着を待っていたところ、通りがかった看護師だという女性2人が男性のそばに。2人は男性の脈拍がないことを確認すると、衣服を緩めて心肺蘇生を開始。人工呼吸と心臓マッサージを繰り返した。

約10分ほど応急措置が施されると、男性の舌が動き出し顔色が良くなったという。男性は駆け付けた救急車で病院に搬送されたが、2人の応急処置のおかげもあって、危険な状態を脱したという。

中国では近年、路上で倒れている人を市民が助けないことが社会問題となっている。親切心から助けたのに加害者扱いされ、賠償金や治療費を請求されるケースが後を絶たず、要らぬトラブルを恐れる市民が救助を敬遠するようになってしまったからだ。

看護師という職業上の使命を果たしたと言えばそれまでだが、女性2人による救助劇はなおのこと「正義の力」として中国の人びとの心に響いたようである。

中国のネットユーザーからは「この女性2人に『いいね』を送ろう」「自分だったらできないかもしれない」「今年一番『美しい』女性だ」「いい人があまりにも少なすぎる。貴重な正義の力だ!」といった賛辞が送られた。

また、上述のようなトラブルが多いことから、「仮にだけれど、もしお年寄りが助からないで死んでしまったら、遺族は女性たちに賠償を求めるのだろうか」と懸念する声も。そして、「社会や学校で人工呼吸や心肺蘇生の方法をもっと普及させるべきだ」とする声も寄せられた。【6月20日 Record china】
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こうした話が“普通の美談”として扱われる日がくれば、日中関係も大きく進展するのでしょう。
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台湾への外交圧力を強める中国 しかし、台湾社会の対中国硬化は中国にとって得策か?

2017-06-21 22:33:17 | 東アジア

(国交樹立を祝うパナマのイサベル・サインマロ副大統領兼外相(左)と中国の王毅外相(2017年6月13日撮影)。【6月14日 CNN】)

【「決められない政治」と中国への弱腰で支持率が低下した蔡英文政権
昨年1月に行われた台湾総統選挙で56%の票を獲得して、国民党候補(31%)、親民党候補(13%)に圧勝した民進党・蔡英文氏は大きな期待を担って昨年5月に台湾総統に就任しましたが、1年あまりの間に大きく支持率を落としていることが報じられています。

****蔡政権、内憂外患 沈む支持率「改革の過渡期」 台湾、(5月)20日で1年****
(5月)20日に就任1年を迎える台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統が、支持率の低迷に苦しんでいる。

昨年の総統選で改革を掲げて圧勝したものの、慎重な政権運営や野党側の抵抗もあって目に見える成果を示せずにいるためだ。懸案の中台関係も停滞が続く。蔡氏は「今は改革の過渡期」と訴え、市民の期待をつなぎ留めようと懸命だ。
 
「市民の改革への期待は非常に差し迫っている」
17日午後、蔡氏は自ら主席を務める与党・民進党の会合で、政策推進に向けて幹部らに発破をかけた。
 
この日朝、地元紙1面に掲載された世論調査では、蔡氏に「満足」と答えた割合は30%。就任時の52%から落ち込んだ。一方で「不満足」は50%となり、就任時の10%から大幅に膨らむ。調査機関によって設問は異なるが、多くの調査で蔡氏の支持率はこの1年で大きく下がっている。
 
来年は統一地方選を控えており、危機感を抱く蔡氏は3月以降、地方を行脚し、インフラ計画のアピールにいそしむ。(中略)

世論の厳しい視線の背景には政策の足踏みがある。

破綻(はたん)の恐れが指摘され、改革の本丸とされる年金改革では、減額対象となる元軍人や元公務員など野党・国民党の支持者らが立法院(国会)前でデモや騒動を続け、審議がずれ込む。画期的とされた同性婚の法制化は世論が割れ、成立のめどが立っていない。
 
世論調査を行う台湾民意基金会の游盈隆理事長は「不満を抱く層の中には、もともと改革を望まない人々がいる一方、改革を期待していたのに進まず、幻滅した人々もいる。蔡氏が今後、大なたを振るえるかが注目点だ」とみる。
 
蔡政権誕生の背景には、14年に若者らが立法院を占拠した「ひまわり運動」のうねりがある。同基金会の調査では、20代~30代前半で、今なお蔡氏を支持する割合が不支持より高い。改革への期待は続いている。
 
地元紙に今月掲載されたインタビューで、蔡氏はこう語っている。「この1年は最も苦しい1年だった。改革には『陣痛期』が必要とされる。今後は実行を加速させていく」

 ■対中「冷たい平和」
中国と関係改善を進めた馬英九(マーインチウ)・前総統に代わり、蔡氏が就任して以降、中国は態度を硬化させ、両岸関係は膠着(こうちゃく)状態にある。
 
内政同様に低姿勢で対応してきた蔡氏は、今月に入り「(中国は)情勢の変化に応じて思考を改めるべきだ」など、やや強気に転じた発言を繰り出し始めた。
 
蔡氏が主席を務める民進党は、綱領の冒頭に台湾の「独立」を掲げる。中国が受け入れを求める、中台が「一つの中国」に属するとする原則を、蔡政権は認めていない。
 
だが、前回の民進党政権だった陳水扁(チェンショイピエン)氏時代に対中関係が悪化した反省もあり、蔡氏は昨年の総統選では中台関係の「現状維持」を訴えて当選した。

同党関係者は「蔡総統は『独立』を口にせず、中国に善意を示して譲歩している。次は中国側が歩み寄れるかだ」と蔡氏の思いを代弁する。
 
中国は公式の対話窓口を閉ざしており、22日に始まる世界保健機関(WHO)総会への参加問題で、台湾は中国に参加を認めるよう書簡を送ったが、返事はないという。圧力が強まるなか、党内や支持者の一部には蔡氏に対し「弱腰」だという不満も出ており、蔡氏はいつまでも低姿勢ではいられない状況にある。
 
台湾の中央警察大の董立文教授(中台関係)は「(中国では)習近平(シーチンピン)政権が新態勢に移る秋の党大会を控えている。当面は『冷たい平和』と言えるような状態が続くだろう」とみる。【5月18日 朝日】
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内政に関しては「決められない政治」、外交に関しては中国の攻勢に有効に対応できていないとの評価が支持率低下の原因となっています。

****嗚呼がっかりの台湾「蔡英文」 民心離反で早くも「後継探し」へ****
・・・・経済面で中国依存からの脱却を目指して打ち出した「イノベーション推進策」も「新南向政策」も宙に浮き、景気は馬前政権の時より悪化した。蔡氏に投票した民進党支持者は、彼女の「決められない政治」に愛想を尽かしている。
 
政権発足直後、蔡氏は国民党が独裁時代に違法に取得した「不当財産」を没収する方針を打ち出したが、国会で抵抗されると放置。

民進党が推進する台湾本土化運動の一つで、企業や公的な場で使用されている中国、中華という呼称を「台湾」へ置き換える正名運動には支持者から高い期待を寄せられたが、これも手つかず。
 
外交の成果も乏しい。民進党の支持者は、日本に親しみを持つ人が多い。蔡氏は選挙前の一五年十月に訪日して安倍晋三首相と会談し、蔡政権で日台関係が前進すると報じられた。

ところが彼女は就任後、日本に冷淡になった。日本側の関係者は、蔡政権で福島など五県の食品の輸入解禁に期待を寄せていたが「食の安全を守るべきだ」と台湾メディアに反対され、解禁の検討を中断した。
 
日台の関係者が憤慨したのは、日本統治時代の台湾でダム建設など水利事業に貢献した日本人技師、八田與一の銅像が破壊された事件を蔡氏が無視したことだ。(中略)

対中関係でも失点が続く。WHO(世界保健機関)年次総会への出席は中国の圧力で断念し、蔡氏の選挙スタッフを務めた元民進党職員の男性が中国で拘束されても手をこまねくばかり。

民進党筋は「台湾のリーダーという自覚があるなら、日米欧に特使を送って外交を展開し、中国と対峙する姿勢を見せるべきだ」と不満を漏らす。

蔡氏のこの一年で唯一の仕事は、トランプ氏が米大統領選に当選後、お祝いの電話をかけたことだけ」と揶揄する声も聞こえてくる。【「選択」6月号】
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中国:馬英九前総統時代には控えていた外交圧力を再開
内政はともかく、外交における中国への対応は、現在の中台の国際政治における力関係を考えると、蔡総統一人を責めるのはいささか酷な感もあります。

比較的中国に宥和的な国民党・馬英九前総統時代は、中国は中台統一に向けて台湾を引き寄せるべく、過度な圧力を行使することを控えていましたが、「一つの中国」を認めず、独立志向も強い民進党・蔡英文総統になってからは、中国の圧力は容赦ないものに変わっており、台湾・蔡総統の力では如何ともしがたいものもあります。

中国の圧力で台湾は国際会議の場から締め出されています。
前回はゲスト参加ができた昨年9月の国際民間航空機関(ICAO)総会には出席できませんでした。続く11月の国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の総会は、オブザーバー参加を申し込んだものの断られています。

2009年からオブザーバーの立場で参加してきた世界保健機関(WHO)総会の招待状も届きませんでした。

台湾の窮状もさることながら、こうした国際会議で自国の意思を押し通すことができる中国の影響力の強さを改めて認識もさせられます。

また中国は、馬英九前総統時代には控えていた国交をめぐる外交競争を再開させています。
昨年12月のサントメ・プリンシペ(日本では殆ど耳にすることがない国名ですが、西アフリカのナイジェリアやカメルーンの沖合に位置する島国です)に続き、中米パナマも台湾との国交を断絶し、中国に“寝返る”ことが明らかになっています。

サントメ・プリンシペとは異なり、パナマ運河を擁するパナマは国際物流の要衝で、アメリカの影響力も強いだけに、中国は「外交の勝利」と位置づけています。

台湾からすれば、長年の支援を“食い逃げ”されたとの悔しさも。
蔡総統は総統就任直後の昨年6月、パナマを訪れて台湾企業が関わったパナマ運河の拡張工事の完成式典に出席。バレラ大統領と会談し、「友好強化」を確認したばかりでした。

“断交は長年の経済協力を「食い逃げ」する形で、李大維外交部長(外相に相当)は援助の即時停止を発表。「台湾が長く発展に協力してきたことを無視した」とパナマを非難した。”【6月13日 産経】

今回のパナマとの断交で台湾が外交関係を持つ国は20か国となっています。
内訳は、エルサルバドル、グアテマラ、パラグアイなど中南米(11カ国)、パラオ、マーシャル諸島、ソロモン諸島など太平洋(6カ国)、ブルキナファソ、スワジランドのアフリカ(2カ国)、そしてバチカン。

パナマに続いて台湾と断交する可能性のある国として、ニカラグア、パラグアイ、セントルシアの3カ国の名もあがっています。

また、現在外交関係を有する国の中でも国際的影響力が大きいのはバチカンですが、中国は近年、司教の任命権などをめぐり対立してきたバチカンとも外交関係樹立を視野に水面下の交渉を続けているされ、台湾は「断交ドミノ」を憂慮しています。

台湾には厳しい言い様ですが、パナマが国際的影響力を有する中国に乗り換えたのは国益を考えれば当然の話で、台湾が中国と力勝負をしても勝ち目はありません。

パナマを含めて、台湾がこれまで220各国余りと外交関係を維持できていたのは、中国が圧力を控えていたからにすぎません。パナマはもっと早い段階から中国との国交を望んでいたようです。

******************
・・・だが2009年、いざパナマ側が中国との国交樹立を望んだとき、おりしも台湾は親中派の馬英九が総統。2011年にウィキリークスが暴露した駐パナマ米大使の外交電文によれば、中国側はこのパナマの申し出を拒否したという。
馬英九のメンツを優先させたからだという。

ちなみに、ロイター通信によれば、この当時、中国が外交関係樹立を持ちかけられて、馬英九政権のために拒否した国は五カ国に上るとか。【6月21日 日経ビジネス 福島香織氏「中国がパナマと国交樹立、その意味を考える」】
******************

台湾の苦境 アメリカ・日本の視線も中国へ
台湾としては、勝ち目のない資金援助合戦などで中国と争うより、国家・社会の質の違いをアピールしたいところです。

****中台の違いは民主と自由」 台湾・蔡総統が談話****
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は4日、中国・北京で1989年6月4日に起きた天安門事件から28年になるのに合わせ、自身のフェイスブック上に談話を公表し、中国と台湾の「両岸の間にある最大の違いは民主と自由だ」と訴えた。
 
蔡氏は更に中国国内に民主化を期待する人々がいると指摘し、「北京当局は天安門事件に新たな意義を与えることができる。その意味で、台湾は自らの民主化の経験を対岸と共有することを願う。台湾の経験の力を借りれば、大陸は民主的改革の陣痛を短縮できる」と呼びかけた。(後略)【6月4日 朝日】
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しかしながら、“民主と自由”という価値観を共有し、台湾への支援が期待されているアメリカ、そして日本も、中国の国際的影響力という現実に配慮せざるを得ない・・・というのが現実です。

****日本の反応から見る台湾の苦しい外交的立場****
2017年6月19日、中国メディアの四月網は台湾メディアの記事を引用し、台湾に対する日本の態度から、台湾政府は外交的に苦しい立場に置かれていることが分かるとする記事を記載した。

記事は、先日パナマが台湾と断交し中国と国交を樹立したことについて、米国政府から特別な反応はなく、中台は対話によって緊張が高まるのを避けるべきと呼び掛けるにとどまったことを紹介した。

そして、日本も米国同様、注目はしているがコメントは差し控えるとの「冷たい態度」であったと記事は指摘。この反応は、これより前の世界保健総会(WHA)への台湾参加を強く支持した態度とは大きく異なっているとした。

記事では、日本の態度にこのような大きな違いが出たのには、米国トランプ政権が中国に対する態度を変えたことと関係があると分析。不安を感じた日本は、中国との関係改善に乗り出すことで、外交政策の自主性を主張するようになったとした。

具体的には、トランプ政権誕生後、日米同盟は「漂流状態」となり、米国に対する不信感が強くなっているため、一帯一路構想を支持するなど中国との関係改善に動いている日本にとって、台湾とパナマの断交にそれほど注意を向けないのは当然だと論じた。

また、先月行われた第4回日中ハイレベル政治対話で、中国側から日台関係についての不満が伝えられ、台湾問題で日本側は決まり通りに事を処理するべきと注文をつけられたことや、7月の日中韓首脳会議を通して安倍首相は、来年の日中首脳の相互訪問実現を目指しており、日中関係改善に忙しい安倍首相は、台湾の外交的危機に力になりたくともなれないのだとした。(後略)【6月20日 Record china】
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中国メディアの見方ですから、日本として承服しかねる部分もあるでしょうが、価値観に関心がないトランプ政権も、米中関係の行方に影響される日本も、台湾より中国に目がいく・・・というのは一面の真実でしょう。

圧力をかけるほどに中国から離れていく台湾
ただ、中国としても、パナマとの国交樹立のような外交圧力は台湾に対する“いやがらせ”としては効果的ですが、本来の目的である中台統一という点においては、台湾の対中国感情を悪化させ、台湾をさらに遠くへ押しやる結果にしかなりません。

*****中国がパナマと国交樹立、その意味を考える****
・・・・ただ、蔡英文政権に圧力をかけても、今のところは台湾の国民党自体に、執政党になり得る実力や求心力がないので、国民党に対する追い風にはあまりなっていない。

中国はWHO(世界保健機関)に総会(WHA)参加の招待状を台湾に送らないように圧力をかけたが、この事件にしても、むしろ台湾世論の蔡英文批判は「中国になめられている」という方向に流れる。

もし、中国の圧力に弱腰の蔡英文政権がダメだと台湾有権者に判断されれば、おそらく次に登場するのは、民進党のより反中的な、例えば頼清徳(台南市長)あたりが総統候補として台頭してくるのではないか、と見られている。

仮に彼が台湾総統になれば、おそらく、中国にとって蔡英文よりも扱いづらい相手となろう。(後略)【6月21日 福島香織氏 日経ビジネス】
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三年後の総統選挙には蔡英文氏に代えて・・・との声が民進党内で出ている頼清徳氏(台南市長)は“八田像破壊事件後、日本の関係者に「台日の友好関係は、親中嫌日の感情的行為が破壊できるものではない」との内容の日本語の手紙を送った。親中メディアに「媚日派」と批判されたが、本人は意に介さない。”【「選択」6月号】という人物です。

そうした“副作用”もあるパナマとの国交樹立を中国が敢えて実施したのは、パナマ運河というパナマも持つ特殊性・国際戦略上の重要性を重視した結果ではないか・・・というのが、上記記事の主旨にもなります。(中国が手がけるするニカラグア運河の先行きはまだ不透明です)

前出【5月18日 朝日】でも“(中国の)圧力が強まるなか、党内や支持者の一部には蔡氏に対し「弱腰」だという不満も出ており、蔡氏はいつまでも低姿勢ではいられない状況にある。”とも。

****パナマ断交で台湾に波紋 独立へ余地広がると「歓迎論」も****
・・・・一方、「台湾独立」派長老で総統府資政(上級顧問)の辜寛敏氏(90)は同日の会見で、パナマとの断交で「主権独立国家を宣言する余地が広がった」として「歓迎する」と述べた。

辜氏は「国交国」が将来なくなる可能性も指摘。「北京(中国)を批判するのではなく、国家を正常化させる方法を考えるべきだ」とした。

辜氏は憲法制定委員会を設置し住民投票を行うべきだとの持論を展開。「中華民国」ではなく「台湾」名義での国連加盟申請も念頭にあるとみられる。【6月14日 産経】
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“失うもの”が少なくなれば中国の圧力を気にする必要もなくなり、台湾は台湾としての主張を掲げて進むだけだ・・・という話にもなります。

もちろん経済関係や“中華民族”としての血のつながりを考えれば、話はそう単純ではありませんが、中国としてもそうした台湾側の感情・意識を配慮する必要があるのではないでしょうか。

中台間の対立・緊張を極限まで高めて、一気に軍事力で解決する・・・というなら別ですが。
それはそれで、アメリカ・日本の対応、国際社会の反応を考えると簡単な話ではありません。

過度に台湾を追い込まず、当面は『冷たい平和』を維持するというのが、中国にとっても得策ではないでしょうか。
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